約 3,071,231 件
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/623.html
涼宮ハルヒの出会い 『アイツノソンザイ』 「おまたせー!皆朗報よ!聞いてちょうだい!」 またか…何度も何度も自分に言い聞かせるようだがいつ聞いてもいやだな… いつからだろうな…朗報という言葉に嫌気を感じるようになったのは… 「今度はなんだ?」 「あっキョンいたの?聞いてちょうだい!」 いたの?じゃないだろ!俺がいるから言ってきたんじゃないのか? 今日は俺だけの参加のはずだぞ? 「お前な…朝比奈さんたちは今日は不参加って聞いてなかったのか?つまりだな…」 「分かってるわよ!もうちょっとした冗談じゃない!いちいちつっこまない!」 俺がつっこまないなら誰がつっこむんだ… なんて事は言わない方がいいよな、まぁなんだ話だけは聞いてやるか 「で何だ?」 「あっそうよ!聞いて頂戴!本当は皆がそろってるときがいいんだけど今日は仕方ないわ」 「我がSOS団が結成されてからどれくらいたったか覚えてるかしら?」 そういやこんなふざけた団体はまだこうして活動しているんだよな となると半年くらいか、ずいぶん長い間無茶もしたもんだ 「で、それが朗報と何が関係あるんだ?」 「もう、ここまで言って気がつかないなんて本当に使えないわね!」 「記念パーティーよ!パーティー、もう半年になるのよ!?めでたいと思いなさい!」 おめでたいと思うのはお前の頭の中身だよハルヒ…とまぁなんにせよパーティーだと? どこでするつもりやら…どうかまともな場所でありますように… 「それで場所なんだけどね、やっぱりSOS団の記念ってことだし部室でっていうのはどうかしら?」 …我が家じゃなかったことには感謝しよう、だが部室? そりゃ問題ありまくりだろ…とまぁつっこんでもしかたないがいちを言っておくか 「学校は流石にまずいだろ?もっと他の場所しないか?」 「じゃあどこがいいのよ?」 そうなりますよね…とまぁ一通り考えたが誰かの家くらいしか思い浮かばないな… うーむ、まぁ今回はまともな朗報だったことだし少しくらい無茶に付き合ってやるか 「そうだな、誰かの家だとその人の家に迷惑もかかるかもしれないし今回は学校でもいいかもな」 おい、意外そうな顔をするな、そんなに俺がお前の意見に同意したのが気に食わないのか? といいたくなるくらいの驚きの表情を見せたハルヒなんだが… 「以外ね、熱でもあるんじゃないのかしら?」 「まっいいわ、じゃあ決定ね!明日みんなに話しましょう!もちろん放課後まで皆には内緒よ!」 といってハルヒは部室から出て行った つーこは解散か?まぁ帰るとしますか てなわけで今日は珍しく早く帰れることになった、まぁ明日のことを考えると… えぇい!やめやめ、今日はゆっくり休むことにしよう…考えるだけで疲れる あいつ喜んでくれたかな?いっつも無茶につき合わせてたからたまにはこういうのもいいわよね うん、きっと楽しんでくれるわよ! 明日は皆にも伝えて準備もしないとだから忙しいわ!今日はやめに寝ときましょう ………………ジリリリリリ バンッ 「うぉっ!」 「おっはよーキョン君!」 妹よ…おはようという表現はいささか間違いかもな… 下手したらおやすみだぞ… 「なぁ?何度言えば分かってくれるんだ?せめてもう少し優しく起こしてくれてもいいだろ?」 「えへへ、でもこうしないとキョン君おきてくれないよ?」 反論できないな…うーん自分の目覚めの悪さを恨むぞ と悠長なことはいってられないな、さっさと朝飯を食って準備した俺はいつもの ハイキングコースにいくことにした、この坂はどうにかならないかね… もう秋かと思わせる足はやな紅葉 これが唯一の救いだな とかとか考えているうちに学校だ、さーて今日の団長さんは何を考えてることやら… とまぁ教室にはいったら人目もくれずに 「キョン!今日は放課後付き合いなさい!いいわね!」 それはどっちの意味ですか? 「何がよ?」 いやデートか果し合いなのか 「バカ、昨日のこと忘れたの?」 覚えてますよ、分かった、だからそうふてくされるな 「悪い悪い、冗談だよ、で今日必要なものでも買いにいくのか?」 「もう、いっつもそうなんだから、そうよ!善は急げって言うでしょ?」 「そりゃそうだが昨日の今日ってちょっと急ぎすぎじゃないか?」 「いいの!あんたは黙ってついてきなさい!」 はぁ…まぁ分かりきっている答えなんだがこうなんでいつもなれないものか… 俺の免疫組織はきちんと働いてるのかね?ご主人様のピンチなんだぞー とバカなことを考えているうちにチャイムがなった 急いで席にすわってからは後ろの団長様はさぞ満足したかのように大人しかった 「…珍しいな」 「ん?何かいったかしら?」 「いやなんでもないぞ」 「そう」 今日はちょっと眠いわね…昨日夜中まで起きてたのがまずかったかしら… まぁキョンに用件は伝えたしちょっと寝ようかしら 「……ぉぃ、ハルヒ!ぉぃ…」 ん?キョン? 「あっおはよう、どうしたの?」 「どうしたのじゃないだろ、もうとっくに授業は終わったぞ」 えっ!1時間も寝ちゃったの?まずいなーまぁいいわ 「そう、でどうしたのかしら?」 「ん?自分で言ったことも忘れたのか、何か俺に用事があるんだろ?」 え?まさか!? 「はぁ…お前あれからいくら起こしても目をさまさないから大変だったぞ、今は放課後だ」 「だー今日は仕方ないわ!たまにはそういうこともあるのよ!」 「そうかい…」 笑うなバカ!でもそんなに私寝てたんだ…あぁキョンに寝顔みられたかな? ちょっと恥ずかしいな、変な顔してなければいいんだけど 「じゃ、早速だけどいくわよ!」 「おいおい、いくって何処にだ?場所は決まってるのか?」 「えぇ、材料は当日買うとして今日は小物買いにいくから街までいこうって思ってたの」 「そうか、じゃあ早速いくか」 キョンは準備が終わってるみたい、私も急がないと! そんなこんなで電車にのって街まできたのはいいけどこれってデートなのかな? ちょっと恥ずかしいな、制服っていうのがな~雰囲気でないけどまぁいっか! キョンも意識してるのかしら?ちょっと恥ずかしそうね 「ねぇあそこのお店どうかしら?」 「いいんじゃねーか?」 「もう気の抜けた返事ね、まぁいいわ、いくわよ」 中はいい感じに古ぼけたお店だった、どうやら個人店らしく仲がよさそうな老夫婦が経営してるらしい 物は良心的な値段でどれもいいもの安くって感じね 「これなんてどう?これもいいわね!あっキョンアレとって頂戴!」 「もう少し落ち着けよ…で、これか?」 なんだかこんなの始めて、すごく楽しい! 色々買えたし満足だな~ちょっと買いすぎちゃったかな? 「ありがとうございました、荷物多いようだけど大丈夫かい?」 「あっ大丈夫ですよ!こいつにもたせますから!」 「そう、彼氏さんも大変そうだね、今荷物をまとめてあげるからちょっとまってね」 えっ!カップルに見えたのかな?否定し…とかないであげるわ キョンもちょっと気まずそうにしてるし、今日は特別なんだからね! そんなこと考えてるうちに荷物がまとまとまったみたい 「「ありがとうございます」」 お礼をしてお店をでた、うまくおじいさん達が荷物をまとめてくれたから キョンも持ちやすそうね、あんた感謝しなさないよ?なんて思ってたらキョンから話かけてきた 「なぁ、さっきのおじいさん達いい人達だったな」 以外、カップルに間違われたことを言われるかと思ったけどそうじゃなかったみたいね 「そうね、これだけ買ったのに3000円ですんだのもびっくりよね、サービスしてくれたのかしら?」 「はは、だといいな、なぁハルヒ…そのあれだ、また一緒にこような?」 えっ?以外だった、キョンからそんなこと言われると思ってもなかったし それよりキョンにまたデートしようって言われたのがうれしかった いや、デートなのかな?これは…でも二人でまた一緒に遊べるならいいかな 「そうね!まぁどうしてもっていうなら付き合ってあげるわよ!」 「はは、じゃあどうしてもって事にしておいてくれ」 はぁ…私って素直じゃないな、でもキョンにはこれくらいで丁度いいかな? あっもう駅か、しかたない電車賃くらい出してあげるわ! 荷物持ちのお礼って事にしておいてあげる 「まってなさい、いま切符買ってくるから」 「えっいや「いいの!そこでまってなさい!」 「じゃあお言葉に甘えとくよ」 急いで切符を買ってキョンに渡したあと電車は以外とすぐにきた なんだろう、電車の中では会話できなかった… 最寄り駅が近いのもあるかもしれないけど あっおりないと! 「おりるわよ!ほら、もうあぶなっかしいわね!」 「悪い悪い、っとよし行くか」 「あぁハルヒ!そういえば荷物どうするよ」 あちゃー考えてなかった…今から学校に行くわけにもいかないしな…どうしよう… 「しゃーない、家で預かっておくよ」 「あっあんたにしちゃー気がきくわね、じゃあお願い」 「おう、あっ日程はもうきまってるのか?」 「うん、明後日にするわ、次の日が土曜日だから遅くまでなっても平気でしょ?」 「うーむ、あんまり関心しないがまぁそうだな、わかった、じゃあまた明日な」 「あっ…うん、ちょっとまって!」 あっ…勢いで呼び止めちゃった…どうしよう… 「ん?どうした?」 ほら…もう、いくっきゃないわね 「荷物重そうだし…途中まで手伝ってあげるわ!感謝しなさいよね!」 あっなによ!以外って顔すんな!バカ 「うーん今日はやけに優しいな?どうした?」 「ばか、いつも優しいわよ!」 「そうでした、じゃあよろしく頼む」 「うん」 軽い荷物を受け取って私が持つことにした、そういえばキョンの家と私の家って 少し遠いのよね、帰りどうしようかしら… まっ今日はいいわよね、少しでも長く一緒にいたいし 「おい~ここまででいいぞ~」 えっ?あっぼーっとしてた、もうついちゃったのか… 「うん…」 何か話せばよかったな… 「んーアレだ、今日はなんか俺ばっかり優しくされて不公平だな、家くるか?お茶くらいはだすぞ」 えっ?キョンの家?行きたいけど…どうしよう… 「いく!」 あっバカ!何素直にいちゃってるのよ 「おう、んじゃここからすぐだから、荷物はもういいぞ、助かった」 「うん」 それから少し歩いてすぐに家についた、結構いい家にすんでるのね 「ただいま~、おいハルヒ部屋はこっちだ」 「あっ、おじゃまします」 「今日は誰もいねーぞ、なんか母親は妹つれて友達と遊びにいったしな」 「あっあんたまさか!」 「ばっばか言うな!7時には帰ってくるとか言ってたし何もしせんわ!」 まぁキョンが相手なら…って何私考えてるんだろ! 「ちょっとからかってみただけよ、あんたにそんな勇気あるはずないしね!」 「後が怖いからな、っとお茶入れてくる、適当に座ってていいぞ~」 そういわれてリビングに通された 「ねぇ、キョンの部屋どこ?」 何言ってるんだろ私 「ん?部屋?なんでだ?」 「キョンの部屋がいい」 ほらまた… 「んー変なもの探すなよ?こっちだ」 「ばか!探さないわよ!それとも何かあるのかしらね?」 やった!キョンの部屋にはいれる! 「アホ、ないわ、ここだ~今お茶もってくるからまってろ」 そういってキョンは下にいった 「これがキョンの部屋か~以外ね、綺麗じゃない」 あっベットだ………… バフッ、キョンの匂い…いいにおいだなー…ガチャ 「おーいお茶もってきたぞ、っておい」 あっしまった! 「あっちょっと疲れたから横になりたかったの!」 うぅーしまった、見られた… 「ん、まあ飲め、冷めるぞ」 「うん」 うー気まずいな、早く飲んじゃえ 「あつっ!」 「おい!大丈夫か!みせてみろ」 うぅーばかした、舌やけどしてないかな… 「ほれ、はやくベロだせ」 「うん」 「大丈夫そうだな、あんま無理すんな」 「うん」 うん、としかいえないよ…きまずい… 「ばか…あんまり人のベロじろじろ見るな」 「あっ悪い悪い、っともう40分か」 「うん…」 どうしちゃったんだろう今日の私…なんか素直になれないな… 「送ってくよ」 「えっ?」 今送っていくって言ってくれたの? 「もう外も暗いしな、ほれいくぞ」 「あっ、うん」 今日はやけにキョンも優しいわね、どうしたのかしら? まさかキョンも…?だといいな…エヘヘ 準備も終わって家をでた 「おじゃましました」 もう秋だな~って思うくらい外は暗くて涼しかった ちょっと寒かったかな そうおもってたらキョンが 「今日はちょっと寒いな、上着きてくりゃよかったな」 「バカ…じゃあ手繋ごうよ…」 何言ってんだろう…カップルじゃないんだよ? これで断られたらきまずいよ…いつも見たく勝手に繋げばよかったのに… 「んーそうだな、でもいいのか?」 あっキョンもまんざらじゃなかったのね?よかった! 「今日は特別って言ったじゃない!明日からは無しよ!」 「へいへい、じゃあ今日だけ甘えておきますよ」 どっちからとも言わずに私達は手を繋いだ… お互いちょっと無言だったのはお互い気まずいからかな? とか考えてたらもうすぐ家だ 「キョン、ここまででいいわよ」 「ん?家まで送ってくぞ」 「大丈夫、もうそこの角まがったらすぐだし、親も心配してるからさ」 「んーそうだな、こんな時間に俺がいったら親もいらぬ心配するしな」 「ばーか、まっそういうことよ、今日はご苦労様」 「おう、んじゃまた明日な」 「うん」 少し名残惜しかったけど手を離した… キョンを見送って背中が見えなくなった… なぁハルヒ?今日のお前はどうしちまったんだ? そりゃ俺としてはだな、まぁうれしくないって言ったらウソになるが あいつもずいぶん丸くなったな、にしても俺はなさけないな… 普通男からすることをほとんどあいつからか… もう少し古泉を見習うか にしても俺ってやっぱりアイツのこと意識してるのか? 今日はやけに緊張したな、そりゃ普通にまともなデートとかは初めてだが 俺もしかしてあいつのこと… キョンに対しての気持ちっていつからだったんだろ… もしかしたら始めから?でも気持ちが確かなものだって分かったのは 今日改めてかな…たぶん好きになったのは夢の後あたりからかな… ねぇキョン… 「キョンにとっての私は?…」 「ハルヒにとっての俺は?…」 「俺にとって」 「私にとって」 「「アイツノソンザイって…」」
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/4204.html
物語とは突然にして唐突に始まる。というのはみなわかりきったことだと思う。しかし当事者となった場合わかりきっていたとしても、それは大変迷惑な事だ。 何が言いたいかって?そうだな。現在俺がどんな状況かを説明すれば俺が何を言いたいかわかるだろう…… 俺は今雪山をあいつとともに、明らかに雪山に相応しくない恰好で登っている。 あいつ、というのは俺の混沌なる日常の原因、その元凶たる涼宮ハルヒその人だ。 相応しくない格好、というのはこの頃支給されはじめた学生服装備というやつだ。ホットドリンクがなきゃ凍死してるぜ。そりゃあコック姿やメイド服姿で行くやつもいるって話しだが そんなことを考えている間に吹雪は激しさを増し視界は白一色。こんな時ギアノスに襲われたらたまったもんじゃない。 「あ~あこんなに吹雪がすごいなんて思ってなかったわ。これじゃあラージャンを見つけられないじゃない!」 「おいハルヒ。俺達はまだイャンクックも倒してないんだぞ!?いきなりそんな化け物相手に出来るか!」 まったくいつもながら俺の予想より数段上のことをしようとするやつだ。 この前なんて一人でレウス狩りに行ったし、さらに前には無理矢理俺を連れてフルフルに行ったし。まあ初めての狩りでグラビに特攻したやつだからなぁ。 村長には迷惑をかけた。 「ラージャンどころか。ドドブランゴも出ないなんてどうゆうことよ!」 「俺はそんなものには出てほしくない。大体俺達はポッケ村に移動してるだけだ」 「ついでにでかいの仕留めておきたいのよ。私達の名前を轟かせるためにね」 これ以上涼宮ハルヒの名前を轟かせる必要もなかろう。目を輝かせても出ないものは出ない。諦めてくれ。 そんなハルヒの期待を俺が受け流すのもいつも通りのこと。しかしこのやり取りはたまに思わぬハプニングを引き起こす。 今回がそのたまにだったようだ。聞きたくもない咆哮が雪山に響いた。 「キョン何今の?ドドブランゴ?ラージャン?それともクシャルダオラ?」 「ちっ。残念ながらすべてハズレ。…あの咆哮は…」 厄介だ。ラージャンやクシャルダオラよりはまだマシだが まだクックも倒してない俺達に倒せる訳無いだろ。 「何言ってんのよ。私はやるわよ。相手にとって不足なしだわ」 死にたいのか?まだあっちはこっちに気付いてないはずだ。今ならまだ逃げられる。 だが神はそんな俺を馬鹿にするのが好きなようだ。地震かと思うほどの衝撃とともにやつが現れた。神が本当にいたら一発ぶん殴りたいね。 橙色と青色の、虎のような縞模様が特徴の飛竜…ティガレックス…。 「どうするんだハルヒ!?」 「どうする?もちろん倒すのよ!私に続きなさいキョン」 背中の大剣を両手でしっかり持ち、ハルヒは構えた。ちなみにハルヒの装備は大剣、俺の装備は片剣だ。普通は逆とか言うなよ。あんな重いもの俺は振り回せない。 ハルヒは特別なんだ。ってそんな説明するより早く俺も構えねば 「行くわよキョン」 「ええぃ、こうなったら自棄だ」 こちらに気付いたティガは咆哮をあげ、戦闘体制に入る。そんなことせずにどっか行ってくれれば良いのに…。 ティガはいきなり突進してきやがった。はっきり言ってあんなものに当たったら死ぬ。冗談抜きで。 「避けるわよキョン」 「くっ言われなくても」 やつの突進は広範囲とはいえ避けられないわけじゃない。動きをよく見て横に跳ぶ。 しかしそれがだめだったんだろうな。俺達には経験というものが決定的に欠けている。突進後の回転。当然ながら跳んだ後さらに跳ぶなんて芸当俺には出来ない。 ハルヒも大剣でのガードが辛うじて間に合った程度。後ろは崖。吹っ飛ぶのは目に見えてる。ならせめて 「ハルヒーー!」 結局俺達はやつに一撃も与えられず崖から落とされてしまった。突進のガードはハルヒがした、なら落下の衝撃は俺が…… 続く
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/574.html
第1章 ―春休み、終盤 結局俺たちは例の変り者のメッカ、長門のマンションの前の公園で花見をしている …はずだったのだが、俺の部屋にSOS団の面々が集まっているのはなぜだ? よし、こういうときはいつものように回想モード、ON 「我がSOS団は春休み、花見をするわよ!」 ハルヒの高らかな宣言を聞き、俺は少し安心した 春といえばハルヒの中では花見らしい もっと別のものが出てきたらどうしようかと思った ま、原因はさっきの古泉が付き合う付き合わないとか言っていたせいだろう 春は恋の季節と歌った歌があったからな 「お花見…ですか?」 ハルヒの言葉に北高のアイドルにして俺のエンジェル、そしてSOS団専属メイドの朝比奈さんが反応した 「そ、お花見。言っとくけどアルコールは厳禁だからね!!」 アルコール厳禁を宣言するだけなのに何がそんなに楽しいのか、ハルヒの笑顔は夜空に栄える隅田川の打ち上げ花火のようにまばゆい光を放っていた 「わぁ…あたしお花見って初めてで…すごく楽しみ」 対抗意識を燃やしたわけではないだろうが、それに負けじと朝比奈さんの笑顔も春の花畑を優雅に舞う蝶が羽休めのためにチューリップに静かにとまったかのような清楚な微笑みだった 「このメンバーでお花見とは、楽しくなりそうで僕も楽しみです。」 ハルヒに従順なイエスマン、古泉も相変わらず微笑をうかべたまま反対しようとはしない もちろん長門はというと寡黙なその視線を分厚い文庫本に注いでるだけだ と、いうわけでSOS団お花見計画は満場一致で開催が決定された しかし、春休みに楽しい予定が入ったからといって時間の流れというのはその時間を頭出ししてくれたりはしない 目の前に立ちはだかるでっかい問題をどうにかするのが先だった そう、すべての学生の不倶戴天の敵 ―もうわかるだろう、奴の名は学年末テストだ どうにかしようとは思っていても結局至極当然のように放課後になると俺はここ、文芸部の部室にいるわけで、それは鳥が空を飛ぶように、魚が水の中を泳ぐように足が部室をめざすのだから仕方ない このままだと俺がリアルにハルヒの力によってではなく、俺の力不足によって1年生をループすることになるのですべてのプライドを捨て、部室でネットサーフィンしてばかりの我らが団長様に教えを請うことになった ハルヒはこんなのもわからないのといった表情で、それでいて勉強しているというのにどこか楽しそうで、それでも親切丁寧に俺に勉強を教えてくれた しかも、教えるのがやたらうまい 俺のバカ頭で、見ただけで頭が痛くなりそうな数式を頭を痛めつつだが、なんとか解けるまでにしてくれた なるほど、だからあの眼鏡の少年は将来タイムマシンに準ずるものを開発してしまえるのか だから画家にはならないでくれ もう二度と俺のモンタージュを書かないように、と思ったのは余談だ なんやかんやで学年末テストでは学年でとまではいかないがクラスで5本の指に入るくらいの点数を叩きだすことができた 担任の岡部もびっくり仰天だっただろう ハルヒ様様だ テストが終わればあとは春休みを待つばかりで俺はwktk…じゃなかった、期待して到来を待った 春休みまでの数日で俺が古泉にボードゲームでかなり勝ち越したことも付け加えておこう ―そして 春休み初日 天気予報で今年の桜開花予想を聞いたハルヒは終業式の日のうちに本日の集合を決めていた その場で話し合えばいいのにハルヒはいちいちみんなで集まりたいらしい その点に関しては俺も異論はないが なので俺がめずらしく一念発起し、たまには俺以外の―そうだな、古泉辺りが理想だが、 他の団員に喫茶店代を出させてやろうと思っても俺含むすべての団員がハルヒの願いによって操られるためいつでも最後に到着するのは俺だ なぜハルヒが俺におごらせたいのかは謎だが というわけで結局いつもの喫茶店に俺たちはいるわけだが1ついつもと違うことといえば長門が2つの合宿以外で見せなかった制服ではない私服姿でいることだ 淡い水色のワンピース その寒涼系のコーディネートはひどく似合っていて何かあるのかと勘ぐった俺の思考を一瞬止めた しかし、勘ぐったのは束の間、長門から特に特別な表情は読み取れなかったため特異な理由があるわけではなく、 ただたんに長門が‘そうしたかったから’このワンピースを着ていると悟った俺は「よく似合っている」の一言で片付けることにした ハルヒはというと春というより夏に近い格好で、ノースリーブシャツにキュロットといった服装 愛しのマイエンジェル、朝比奈さんはタートルネックにスリットの入ったロングスカートとこれまた何ともそそる格好をなされていた 蛇足だが古泉はワイシャツにジーパン、そのうえにスプリングコートを羽織っていた それが道行く女性の視線を集めたのはいうまでもない 「今年の開花予想は4月3日だって。例年より早いらしいけど、地球温暖化の影響によって東京の桜はかなり早く咲くらしいの。 それを考えると騒ぐ程のことではないってテレビでいってたわ」 温暖化云々と地球環境問題のことを聞くと危惧するべきだろうが、俺は正直、ホッとしていた 学校が始まってからの開花だったらどうしようかと考えていたからだ これもハルヒの力によるものかもしれないのだが 「と、いうわけでキョン、場所取りお願いね、ちゃんと前の晩から徹夜するのよ」 さらりととんでもないことをぬかしたハルヒは穏やかな笑顔で俺を見つめた 仕方なく反論を用意した 「確かに場所取りは重要だがいくらなんでも一人で徹夜はひどいだろう、せめて…」 せめて古泉も道連れにと言い掛けたところでハルヒが口を開いた 「誰も一人で行けなんていってないでしょ?大丈夫」 そのあと、ハルヒは南極に白くまが、北極にペンギンが住み、地球の自転、公転が逆になっても耳を疑うようなことを言った 「あたしもいくわよ」 と、いうわけで何度かの市内探索パトロールを経て、4月2日夜、ハルヒに呼び出された俺は変り者のメッカの例の公園でハルヒとともにブルーシートを広げ、場所を確保している さすが変り者のメッカというべきか他にも数ヶ所で場所取りの人材が場所を確保している ちなみにハルヒが場所取りを立候補したのは「あんただけに今年の1番桜を見せるわけにはいかない、むしろあたしが見るべきよ」というものだった 次の日の昼頃に他の連中が来てドンチャン騒ぎをしたのだがハルヒが「やっぱり花見は満開のときがいいわね」と言ったため本日4月5日にもう一度花見が割り当てられたのだったが ―雨 一言で片付く事象で花見は中止 なぜかSOS団は俺の家に集まっているといった状況になっている 回想モード、終わり 第2章
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/2411.html
まぶしい。目の奥がきゅっと締まるような痛みに、俺は苦痛ではなく懐かしさを感じた。 同時に全身の感覚が回復し始める。手を動かし、指を動かし、足を動かす。やれやれ。どうやらどこか身体の一部が無くなっている ということはなさそうだ。 俺はどうやらベッドに寝かされているらしかった。右には――あー、映画か何かでよく見る心電図がぴっぴっぴとなるような 機械が置かれ、点滴の装置が俺の腕に伸びている。 「病院……か、ここは?」 殺風景な病室らしき部屋に俺はいるようだ。必要な医療器具以外は何もなく、無駄に広い部屋が俺の孤独感を増幅する。 窓から外を眺めると、空と――海のような広大な水面が広がっていた。ただ、その窓自体が見慣れたような四角いものではなく、 船か何かにありそうな丸いものだった。 「ここはどこだ……?」 寝起きの目をこすりつつ、俺は立ち上がる。幸い点滴の器具は移動式のようで、それとともに移動すれば 点滴の針を抜かずにすみそうだった。本当はこんな得体の知れない液体を体内に注入されているなんて 精神的に良くないから引っこ抜いてしまいたくなるが、万一のことを考えてこのままにしておくことにする。 俺は円い窓のそばまで行き、そこから外をのぞき込む。青空の下に広がっているのはやはり海だった。 広大な海原におとなしめの波が沸き立っている。 ――と、背後で扉の開く音が聞こえた。俺が反射的に身構えながら振り返ると、 「……やあ、どうも。ひさしぶりですね」 そこにいたのは、妙に大人びた古泉一樹らしき人物。少し顔つきが引き締まり、背も高くなっている。 「古泉……だよな?」 「ええ、そうです。あなたが憶えている僕に比べて少々成長しているでしょうけどね」 くくっと苦笑を浮かべる。その口調と苦笑でようやくそいつが古泉であることに確信を持てた。 しかし、その成長した姿は何だ? 朝比奈さん(大)みたいに未来の古泉が現れたなんていう話は勘弁だぞ。 「まあ、話せば大変長くなるわけでして。とりあえず、医師による検査を受けてもらえませんか? 積もる話はその後でも十分にできますから。なにせ、あなたは2年もずっと眠っていたんです。身体のどこにもおかしなところが 無いという方が無理があるでしょう?」 「2年……だって?」 あまりに唐突な話に俺は視界が再び暗転しそうになる。確かにさっきまで眠っていたようだが、俺はそんなに寝ていたのか? まるで三年寝太郎だな。それだけ長い間眠っていたらさぞかしたくさんの夢を見ていたんだろうと思うが、 いまいち思い出せん。夢って言うのはそんなものだろうけどな。 気がつけば、白い服を纏った医者らしき人間数人が病室の入り口から俺の方を見ている。 どうやら結構注目を浴びている存在のようだ。ならとりあえず、お言葉に甘えておくかね。 おっと、でも一つだけ聞いておきたいことがある。 「ここはどこだ? 外には海原が広がっているが、まさか三途の川を渡っている最中って事はないよな?」 俺の言葉に古泉は肩をすくめて、 「ご安心を。あなたは死んでいません。僕が保証します。で現在僕らがいる場所ですが……」 わざとらしく古泉は一拍置いてから、あのニヤケスマイルを浮かべ、 「ここは米海軍空母ジョージ・ワシントンの中ですよ」 古泉の言葉に、俺は「はあ、そうですか」としか答えられなかった。 ◇◇◇◇ 結局、医師に囲まれて数時間に上る検査を受けさせられたあげく、ようやく解放された俺は寝ていた病室で 黙々と夕食のスープをすすっていた。隣には古泉がパイプ椅子に座り、俺の検査結果の容姿をパラパラとめくっている。 「驚きましたね。ずっと寝たきりの生活だったというのに身体的にも精神的にも全て良好。 それどころか、2年前のあの日から何一つ変化がないとは。通常、成長的な変化は存在しているはずなんですが、 それもない。医師たちもこれは奇跡だとうなっていましたよ」 「へいへい」 俺はさっきから医師達に同じ台詞をバカになるまで聞かされたおかげでうんざり気分100%だ。 奇跡と崇めてくれるのは結構だが、人を人外の化け物のようにいじくるのは止めてくれ。 「不愉快にさせてしまったのであれば謝罪します。ですが、これが医学的にどれだけとんでもないことであるか その辺りにもご理解をいただきたいですね」 わかっているさ。俺がこうやって2年ぶりに目を覚ましたとか、気がついたらアメリカの空母の中にいるとか、 普段では考えられないような奇跡が連発しているだ。もう一つや二つ起きても今更驚かん。 しばらく、俺たちは各々の作業――俺は飯を食って、古泉は書類を眺める――を続けていたが、やがて同時にそれが終わる。 俺は肩をもみほぐして、これから始まるであろういろいろとめんどくさそうな話に備えた。 「あまり肩に力を入れなくても良いですよ? 結構長い話になりますからね、リラックスして聞いて貰わないと」 「わかったよ。で、まず何から話してくれるんだ?」 その問いかけに古泉はすっと俺の方に手を伸ばして、 「僕の方から説明し始めると、あなたを混乱させてしまうかもしれません。この2年でとても世界は変わりましたからね。 まずあなたが知りたいことを言ってください。それに僕が可能な限り答えていきますから」 そうこっちにボールを投げ返してきた。そうかい、なら遠慮無くきかせてもらうぞ。 「まず最初にだ。SO――」 俺のその言葉に古泉の表情が一気に曇った。そして、俺の心にも強烈な引っかかり感が生まれる。 ……どうやら、それを聞くのはまだ早そうだ。もっとどうでもよさそうなことから聞いていくか。 「あー、えっとだな、機関ってのはある意味秘密の組織じゃなかったのか? それが堂々とアメリカ軍の空母の中にいて いいのかよ? それとも身分を偽って入り込んでいるのか? でもそれじゃ、俺がここで寝ていた理由にはならないが」 「機関の立場はあなたが寝ていた2年で大きく変わりました。以前のように水面下で動く組織ではなく、 今では国連の承認を得た公式組織ですよ。名目は国際連合の一部とされていますが、実際には独立していて、 国連はその支援をしているという状態ですが」 「また大出世じゃないか。おまえのアルバイトも国際的公務員の仲間入りだ」 「怪我の功名みたいなものですから、手放しには喜べませんけどね」 そう寂しげな表情を浮かべる古泉。俺は構わずに続ける。 「で、何でまたそんな大躍進を遂げたんだ?」 「そうなる必要があったからです。閉鎖空間というものが、もう機関という一部の非公開組織だけの中の存在として 扱えなくなった。やむ得ず、僕たちはその存在を世界へ公表し、同時に閉鎖空間というものについて情報を提供しました。 そうでなければ、全世界の混乱は収まらなかったでしょう。原因のわからない異常事態が拡大する一方では 人々はより猜疑心を抱き、混乱が助長されます。そこで僕らがその原因についての情報を伝え、また対処法を伝えることによって 安心感を与えました。おかげで元通りとは到底言えませんが、世界情勢はある程度の平静さを保ち続けています」 「……何があったんだ?」 俺は核心に迫った質問をぶつける。古泉はすっと目を細めて俺の方を見ると、 「あなたはどこまで憶えていますか? 眠りにつく前のことです」 その逆質問に俺は後頭部を掻き上げながら、しばらく脳内の記憶をほじくり返し、 「ハルヒの奴に、ジュースを買ってこいと言われたことまでは憶えている。その後、横断歩道を渡って――そこからはわからねえ」 「……わかりました。では、時系列で何があったのかを説明しましょう」 古泉はパイプ椅子に背中を預け、目をつぶって話し始める。 「あの日、あなたは大型のダンプカーに追突されました。ちょうど横断歩道を渡っているときにです。 一応、あなたの名誉のために言っておきますと、信号はきちんと青でしたよ。トラックの運転手が居眠りをしていたのが 原因みたいですね。そのトラックはそのまま近くの電柱に激突し、運転手の方も亡くなっています」 「マジかよ……」 俺は全身をぺたぺたとさわり始める。実は指が一本ないとか、身体の一部が機械仕掛けになっているとかという オチはないよな? 「ご安心ください。あなたは全くの無傷でした。いえ、現実的にそんなことはあり得ないんですが。 実際にあなたはこれ以上ないほどに血まみれになっていましたからね。しかし、その後やってきた救急隊員も 首をかしげていました。どこにも大量出血するような傷がない。この血はどこから出てきたんだと混乱していました。 一時は僕らによるイタズラなんていう疑惑もかけられたほどです」 「そりゃそうだろ。というか、相手が大型トラックなら全身がバラバラになって即死していそうなもんだが」 「長門さんが何かをしたと思いましたが、彼女は何もできなかったと言っていました。となると、後は涼宮さんしかいません。 衝突した瞬間は重傷を負っていたんでしょうけど、その後傷ついたあなたを修復したんでしょうね」 「全くハルヒ様々だ。危うくこの若さで天に召されるところだったぜ」 「ですが、問題が発生していました。涼宮さんの修復に何らかの問題があったのかわかりませんが、 あなたが一向に目を覚まさないのです。あらゆる検査をしましたが、全く異常なし。以前階段から落ちて 意識不明に陥ったことがありましたが、あれと同じ状態でした。当然、原因がわからないので対処の仕様もなく、 ただ僕たちは見守ることしかできません。最初は涼宮さんもあの時と同じようにすぐに起きると思っていたみたいでしたが、 一週間経っても目を覚まさないあなたに少しずつ罪悪感を募らせていきました。自分の責任だと。 自分があなたにジュースを買ってこいと言わなければこんなことにはならなかったと」 「んなことで悩んでも仕方ないだろ。どうみても不幸な事故だったとしか言いようがない。 それがどこかの悪の組織の仕業でもない限りだれのせいとも言い切れない」 「あの事故は本当に偶然起こったものでした。どこかの誰かが仕組んだものではありません。ただの事故。 だからこそ、何の対処もできていなかったのですが」 そう嘆息する古泉。ハルヒの奴、そんなに悩んでいたのか……ん、何だっけ? どこかでそんなハルヒの言葉を聞いたような…… ダメだ。思い出せねえ。 「どうかしましたか?」 「いや……何でもない。続きを話してくれ」 額に手を当てて思い出そうとしたが、結局思い出せず、古泉の話を続けさせる。 「事故が発生してから一週間が過ぎたころ、涼宮さんの様子がおかしくなり始めました。授業出ず家にも帰らず、 ずっとSOS団の部室にとじこもるようになったんです。同じ団員である僕たちも部室から閉め出されてしまいました。 それまではずっとあなたの病室に泊まり込んでいたんですが、それ以降見舞いにも行かなくなっています。 その間、僕や長門さん、朝比奈さんでどうにかあなたを目覚めさせようと努力しました。 しかし、僕がどんなに優秀な医者を連れてきて検査して貰っても、朝比奈さんの未来の技術を使っても、 長門さんのTFEI端末としての全能力を使っても、あなたは決して目覚めなかったんです。理由はわかりません。 長門さんに言わせれば、涼宮さんがあなたを修復した際に何らかのバグのようなものが混じってしまったのではないかと。 涼宮さんの能力は情報統合思念体でも解析できていませんからね。対処できなくて当然なのかもしれません」 「……いろいろ手をかけさせちまったみたいだな。すまねえ」 「いえ、これも――SOS団の仲間として当然のことしたまでです」 にこやかな古泉の笑顔に、俺は感謝と気色悪さが入り交じった微妙な感覚に困ってしまった。 そんなことにはお構いなしに古泉は続ける。 「そして、事故発生から2週間後、ついに恐れていた事態――いえ、恐れていた以上の事態が発生してしまいました。 閉鎖空間の発生です。ただの閉鎖空間ではありません。いつもは通常空間とは異なった灰色の世界で神人が勝手に暴れるだけですが 今回はその通常空間に神人が現れたのです。もちろん、そこには一般人が多く住んでいますが、そんなことはお構いなしに 神人は暴れ回りました。それも数十体もの数で。しかも、北高周辺だけではなく全世界規模でね」 古泉の言葉に俺は心臓がつかみ出されたような痛みを憶えた。ハルヒがそんな大量虐殺のようなマネを? 嘘だ。いろいろ変なことをやる奴ではあるが、人が目の前で死にまくるようなことを望むはずがない。 「なぜ、閉鎖空間ではなく通常の空間で暴れたのか。これに関しては機関内でも意見が分かれています。 僕としましては、涼宮さんに長らく触れていますからね、閉鎖空間を発生させるつもりが何からの問題により、 神人だけができてしまったという不慮の事故という解釈を持っていますが」 ――古泉はここでいったん口を止めて、肩がこったというように腕を回す―― 「その時の光景はもう特撮映画の世界でしたよ。最初は警察が応戦していましたが、やがて歯が立たないとわかると、 今度は自衛隊が投入されました。航空機やら戦車やらが神人と武力衝突です。滅多に見れるものではありませんでしたね。 しかし、やはりあの化け物には歯が立ちません。そこでついに正体が知れることを覚悟の上で、機関の能力者達が 神人を撃退するために動きました。さすがにあれだけの数を片づけるのに数週間を要しましたが、何とか制圧しています。 そのことがきっかけとなって機関は全世界に公表されることになりました。同時にその存在意義と神人というものについて 情報を公開しました。そのおかげか、一時大パニックに陥った世界情勢が平静さを取り戻したことは先ほども話しましたよね」 古泉の説明で俺ははっと気がつく。 「おい、まさかハルヒのことも言ったんじゃないだろうな? まだあいつがやったと決まったわけじゃないってのに」 俺は思わず古泉の肩をつかんでしまう。万が一、そんな大惨事を引き起こしたのがハルヒだと公表すれば、 犠牲になった人々やあの白い怪物に恐怖した人々の恐れや憎しみを全てぶつけられることになるんだぞ。 古泉は俺の問いかけにしばらく黙ったままだったが、やがてすっと視線を落として、 「……言い訳に聞こえてしまうかもしれませんが、これだけは言っておきたい。僕は最後まで涼宮さんの名前を出すことに 反対し続けましたし、今でも間違った判断だと思っています。あなたの言うとおり、これは涼宮さんの起こしたものかどうか まだわかりません。しかし、機関の大半は涼宮さんが引き起こしたものであると断定していました。 それに次に言われた言葉はもっと僕を失望――そうですね、はっきりと言いますが失望させました」 古泉は両手を握り、そこに額を預け、 「こういったんです。一連の破壊行動に対して明確な責任を持った人が存在すると名言しなければ、世界は納得しない。 対処すべき原因を公表しなければ、人々は憶測を重ねて混乱するだけ。明確な『敵』が必要だと。 あ、ご安心ください。あなたの存在については伏せています。『鍵』の存在を公表すればあなたにかかるプレッシャーは 大変なものになるでしょうから」 寝たまま何もしていなかった俺のことなんざどうでもいい。問題はハルヒだ。なんだよそれは。 まるで仕方が無くハルヒに原因を押しつけただけじゃねえか。ひどすぎるだろ、いくらなんでも。 古泉は苦悶の表情を浮かべたまま、 「あなたの言うとおりです。しかし、僕はその時それ以上の反論ができませんでした。世界中規模で起きている政情不安、 略奪、紛争勃発を見てそれを収まらせるために他の良い案が浮かばなかった。そして、そのまま全世界に公表されます。 原因は涼宮ハルヒという日本人の一人の少女が引き起こし、彼女は現在北高の部室に閉じこもっていると。 彼女の存在をどうにかすれば、この異常事態は収まるとね」 「全部ハルヒのせいかよ……。いくら混乱を収まらせるためとは言え、あんまりじゃねえか……」 俺はがっくりと肩を落とす。と、ここで長門と朝比奈さんのことを思い出し、 「長門と朝比奈さんはどうしたんだ? 二人とも宇宙人・未来人であると公表したのか?」 「それはしていません。神人と機関はその力を間近に発揮したからこそ、受け入れられたんです。 実体も不明な宇宙人・未来人ですと言っても、胡散臭さが増すだけですから」 そりゃそうか。そのタイミングでそんなことを発表したらかえって信じてもらえなくなりそうだからな。ならその二人は? 「長門さんと朝比奈さんは現在行方不明です。二人ともSOS団の部室に向かっていったきり、何の音沙汰もありません。 僕だけは神人の対処に追われたため、涼宮さんの元へはいけませんでした。今では北高周辺は危険すぎて侵入できない状態です。 二人がどうなったのか、涼宮さんが今どうしているのかさっぱりわかりません」 ここで古泉はようやく顔を上げ、続ける。 「それから2年間、神人は現れなくなりましたが閉鎖空間の浸食は続いています。現実の世界が閉鎖空間のように 無機質な世界に作り替えられていっているんです。一番大きな発生ポイントは北高周辺を中心とした地域。 それ以外にも世界中のあらゆるところで虫食いのように発生し、すでに世界の三分の一が閉鎖空間に飲み込まれました。。 そこではどんな資源も採掘できず、食物も育たない不毛な世界で、そこに入った人間はひたすら消耗を続けやがて死に至る。 この地球上を全て覆い尽くせば人類滅亡は必死ですね。機関がもっとも恐れていた事態が現実に進行しているんですよ」 「もうスケールがでかすぎてついて行けなくなってきた……」 俺は疲労感から来るめまいに身体が揺すられる。突然閉鎖空間が発生し、全世界であの化け物が大暴れ。 しかも、それを全部ハルヒのせいにされ、問題が解決することなく地球滅亡のカウントダウンは続いている。 もうね、一体どうしろってんだと怒鳴り散らしたくなる気分さ。 と、古泉が急に俺の前に顔を突き出してきたかと思えば、 「ですが! 僕たちはようやく解決の糸口を見つけたのかもしれません。なぜならば、あなたがようやく目を覚ましたから。 この異常事態の発生は、あなたがあった事故による昏睡状態が原因だと言えます。ならば、あなたの目覚めにより 何らかの情勢が動く可能性が高い」 「俺が目を覚ましてから半日以上経つが、何か変わったのか?」 「いえ、何も」 「だめじゃねえか」 俺の失望の声に古泉は困った表情を浮かべて、 「あなたが起きた=即座に解決になるとまでは思っていません。しかし、あなたの存在は確かに閉鎖空間に影響を与えていることも 事実なのです。実はもともとあなたは日本の医療機関に入院していたんですが、より精密な検査を受けるために 欧州へ移動させようとしたことがあるんですよ。その時は肝を冷やしましたね。あなたが北高から離れれば離れるほど、 閉鎖空間拡大の速度が速まるんですから。あわてて日本国内に戻したほどです。ちなみに、今米海軍空母内に移転したのは、 それが理由でして。できるだけ涼宮さんのいる場所の近くにあなたを置くためには、即座に移動できて、 なおかつ医療設備や生活環境が維持できる場所が必要だったんです。それでもっとも適切な施設がこの空母だったと。 おかげで予定よりも人類滅亡までの時間が大幅に長くなりましたよ」 俺一人のために、こんなばかでかいものを動かしたのか。やれやれ。VIP待遇にもほどがある。 言っておくがあとで使用料を請求されても払えないからな。 「ご安心を。その辺りはきちんと国連内で処理しますから」 そんな俺の不安に古泉はインチキスマイルで答える。 「で、これからどうするつもりなんだ? ただ、ここで黙って見ているわけじゃないだろう?」 「まだ機関内で検討中ですが、やれることは一つしかないでしょう」 古泉は気色悪いウインクを俺にかまして、 「北高に乗り込むんです。機関の超能力者としての僕の力を使えば、閉鎖空間にも普段と変わらずに入れますからね」 ……どうやら、とんでもないことになっちまいそうだ。やれやれ。 ◇◇◇◇ 翌日オフクロたちが俺の見舞いに来た。ついでにミヨキチも来てくれたんだが、 我が妹とますます差が開いていることに驚きを隠せない。このまま大人になったら一体どんな超絶美人になるんだ? それに比べて我が妹の幼いこと。もう中学生になっているのに、俺が憶えている妹の姿と寸分の違いもないぞ。 一部の人たちには歓迎されるかもしれないが、そんな人気は兄として却下だ却下。 しかし、ヘリコプターで送迎とは豪華だね。全く家族そろって某国大統領にでもなった気分さ。 とりあえず、オフクロ達が無事だったことには安心した。俺の住んでいた町も神人にど派手に破壊されたようだったので その安否が気がかりで仕方なかったが、国の方が機関と連携し、素早く住民達を非難させていたようだ。 現在は被害のあった場所に住んでいた住民は政府の用意した指定地域に避難している。そのおかげといっては何だが、 妹も友人たちと離ればなれになることもなくそこそこ今まで通りの生活を送れているとか。 ただ、今済んでいる場所は仮設住宅みたいなものだから、近いうちに引っ越しも考えているらしい。 どのみち、長くは住めないようなところなのだろう。俺もとっとと帰って家のことについて手伝ってやりたかった。 ◇◇◇◇ その次の日、俺はようやく医療的束縛から解放されて自由の身となった。ただし、オフクロ達のいる場所への移動は認められず、 あくまでもこのナントカって言う空母の中だけの移動に限られてはいるが。古泉曰く、下手に出歩かれて、 また事故にでも遭ってしまえば取り返しがつかないんですよ、だそうだ。警戒しすぎじゃないかと思うし、 それだけの期待を俺みたいな凡人まるだし男にかけられていることに、いささかの違和感と窮屈感を憶える。 で、ようやく今後についての話し合いが始まったわけだが、 「さて、これからの予定についてですが、ようやく機関内で決定されたのであなたに伝えておこうと思います」 古泉の野郎にどこかの会議室に連れ込まれた俺に数枚の資料が渡された。他には森さん・新川さん・多丸兄弟と 機関おなじみの面々がそろっている。しかし、古泉は結構成長したように見えたが、この4人は全く変化がないな。 変な改造手術でも受けているんじゃないだろうな? 古泉が続ける。 「以前、あなたに話したように涼宮さんがいると思われる北高へ向かいます。 そして、そこの状況に応じて涼宮さんを解放し、事態の解決を図るというものです」 「おいおい、肝心な部分が曖昧すぎるんじゃないか?」 俺の指摘に、古泉は困ったように頬を書きながら、 「その辺りはご勘弁を。現在、北高周辺が一体どうなっているのかさっぱりわからない状況なんですから。 ついてからは全てあなたにお任せしますよ。それこそ、以前にあの世界から戻ってきた方法を使って貰ってもかまいません」 だから、それを思い出させるなと言っているだろうが。 そんな俺の抗議に構わず古泉は話を続ける。 「僕たちはまず北高から100km離れた地点までヘリコプターで移動し、そこから目的に向かってひたすら歩きます。 予定では一週間程度かけて中心地点である北高に到達できると予想しています」 「100kmって……どうして一気に北高に行かないんだ? いくらなんでもそんな距離を歩く自信はないぞ」 古泉はすっと森さんの方に手をさしのべると、ぱっと会議室の明かりが落ち、正面のモニターが映される。 そこには北高を中心としてとして大きな赤い円が描かれている地図があった。 円の中には何重にも円が重ねられ、円とその中の円の間に、%を表す数値が書き込まれている。 ここからは古泉に変わって森さんが説明を引き継ぐ。 「この高校を中心に大規模な閉鎖空間が広がっています。大体半径100km前後の距離ですね。 この中には古泉のような能力がなくても侵入可能ですが、著しく体力・精神的に消耗することが確認されています。 そのため、機関のサポート無しでは長時間の作戦行動を取ることは不可能でしょう」 「その何重に描かれている円は何ですか?」 俺が地図に向かって指さすと、森さんは指し棒を持ちだし、円の部分を指しながら、 「閉鎖空間といっても地域によってその危険度が違っていて、警戒度別に円を引いています。 今まで機関のサポートの元、何度も特殊任務として閉鎖空間に侵入していますが、この%は生還率を示したものです。 基本的に円の中心に近づくごとに危険度が高いことがわかっています」 「ってことは、古泉みたいな連中はもう何人もやられてしまっているって事か?」 「その通りです。僕の同志もすでに3人失いました。しかし、彼らの尊い犠牲によりこれだけの情報が得られています」 悲しげな声で古泉が答える。古泉たちも相当な負担を強いられているって事か。ん、ちょっと待った。 「さっき森さんは中心に近づくほど危険といったが、一番外側の部分の生還率がその内側よりも低いのは何でだ? ゲームチックに第一関門が用意されているってわけでもないだろ?」 「これはいろいろと原因がありましてね……」 古泉がリモコンらしきものを押すと、映像が切り替わる。そこに映し出されたのはどこかの戦争映画のワンシーンみたいに 戦車やら飛行機やらがたくさん並び移動している光景だった。 「今から8週間前に、一向に事態が進展しないことに業を煮やした国連安保理はついに武力行動の決議を出しました。 規模は世界大戦勃発といえるほどのものです。国連軍10万人近い兵士が出撃し、一路北高に向けて進撃を開始しました。 当初の予想では、最初は抵抗も緩く、中心部に近づくにすれて激しくなると考えていましたが、 完全に予想を覆されます。閉鎖空間に侵入したと同時に正体不明の攻撃が国連軍に襲いかかりました。 突然、兵器という兵器が崩壊し兵士達はバタバタと倒れていく。いかに最新兵器で武装しても戦っている相手が 何なのかわからない状態では反撃のしようもありません。結局、損害だけが積み重なり、敗走することになりました。 その時の結果がこの生還率に反映されてしまっているんです。このときの戦いで機関の超能力者一人失いました」 苦渋の表情を浮かべる古泉。相手は神人みたいな常識はずれな奴らだ。現実に存在している軍隊じゃ歯が立たないだろうよ。 誰か止めればよかったんだと憤る自分がいるお一方で、こんな無謀な強硬策をとるしかないほどまでに もう他に打つ手が無くなっているんだろうと理解してしまう自分もいる。 と、無謀な強硬策でちょっとしたことをひらめき、冗談めいた口調で、 「そんなにせっぱ詰まっているんじゃ、その内ミサイル――いかも核ミサイルとかが撃ち込まれたりするんじゃないか?」 「それはとっくに実施済みです」 ……おい古泉さん。俺は冗談のつもりで言ったんだが、まじめに返すなよ。さすがにそのジョークは笑えないぞ。 だが、古泉は首を振って、 「残念ながらジョークではないんですよ。某国が独断で核ミサイルを発射しまして」 そんなバカなことをやった国があるのか。あきれてものも言えん。しかし、その割には北高周辺は無事のようだがどういう事だ? 「それがですね。ミサイルは正確に北高に落ちたように見えたんですが、次の瞬間、まるでビデオの巻き戻しをしているかのように 北高に飛んできたのと全く同じ軌道で、某国のミサイル発射基地に直撃したんですよ。まるで途中でUターンしたみたいに」 「なんだそりゃ。あの閉鎖空間の主はドクター中松だったのか?」 俺の言葉に古泉は苦笑するばかりだ。 森さんはぱんと一つ手を叩くと、話を進めましょうと言い、 「わたしたちは最後の希望と言っても過言ではありません。そのため、少しでも危険のある地域には徒歩で入ります。 ヘリコプターでは撃墜されてしまえば、助かる見込みはほぼありませんので。同理由により車輌などもしようしない予定です」 死ぬ可能性を少しでも下げるために、みんなでハイキングか。全くここは戦場か? 森さんは国連軍基地とするされている位置を指し、 「そのため、まず航空機でここまで移動し、さらにそこからヘリコプターで閉鎖空間との境界線ぎりぎりまで移動し、 そこから徒歩で閉鎖空間内に侵入します。あとは一直線に目的地までに進むのみになります」 そこからでもかなりの距離になる。森さん達みたいなエキスパートならさておき、俺みたいな一般高校生が 歩いていけるのか? しかも、正体不明の敵の攻撃をかわしながらだ。 古泉はくくっと苦笑すると、 「あなたの体力は一般的な高校生以上のものですよ。あれだけ涼宮さんに引っ張り回されていたんです。 一年で動いた運動量は運動部ほどとは言えませんが、それなりの量になっているはずですよ。僕が保証します」 「だがよ、そんな毛の生えた程度じゃ明らかに足手まといになるだろ」 「確かにそれも事実です。だから、そのための訓練を受けて貰います。あなたの友人達と協力してね」 古泉が俺の視線を促すように、首を動かした。俺が振り返ってみると、そこには谷口と国木田の面影を持つ人物が居た。 古泉と同じように成長しただけで本人なんだろうが。 「よぉ、キョン」 「ひさしぶりだね、キョン」 二人の声と口調は俺が知っているものと全く変わっていなかった。どこまでも軽い谷口とどこか丁寧な印象を受ける国木田。 二人とも見慣れた北高の制服だったが、何でこの二人がここにいる? 「ずっと前からあなたが目覚めたときのために準備していたんですよ。できるだけあなたに近い人間を集めて、 そして、あなたとともに涼宮さんの居るところへ向かう。今のところ、それが唯一閉鎖空間に障害なく侵入できるはずです。 あの閉鎖空間を作り出したのは涼宮さんであるかどうかわからないですが、そこに涼宮さんがいることは確かです。 ならば少しでも彼女に近い人間であれば、少なくとも涼宮さんは僕たちを受け入れてくれる。 拒絶する理由なんて無いはずですから。とくに事故の後遺症から立ち直ったあなたをね」 古泉の言葉に、俺はようやくこのばかげた現状を受け入れる気分になった。そして、同時に決意もできた。 やれやれ、行くか。ハルヒのいるあのSOS団の部室へ。 ◇◇◇◇ 翌日から俺の訓練が始まった。主に谷口と国木田が指導してくれた。二人とも結構しごかれているみたいで 以前とは別人のように強靱な肉体ぶりを見せつけてきやがる。 「ほら情けねえぞ、キョン! このくらいの壁、とっととのぼっちまえよ!」 「無茶を言うな! まだ病み上がりなんだぞ、俺は!」 鬼教官、谷口のしごき毎日だ。一方の国木田はそんな俺たちを生暖かく見守るだけ。少しはこのアホをセーブしてくれよ。 訓練は一ヶ月間、この空母内に特設された場所で行われている。とは言っても、一ヶ月で劇的に体力がつくわけもなく、 ならこの訓練の意味は何だと古泉に確認したところ、体力をつけるのではなく、いかに体力を使わずに効率よく動けるかを 身体に憶えこませるためとのこと。おまけに、銃の扱いや手榴弾の使い方、軽傷ぐらいなら自分で直せる程度の医療知識まで 頭の中に押し込めてくるんだからたまらん。全く傷病兵や病人まで戦場につぎ込む羽目になった戦争末期のドイツじゃあるまいし こんな突貫訓練で大丈夫なのか俺は? ちなみにそういった軍事知識まで詰め込まれるのは、そういった対応方法が 必要になった事例が多他にあるからだそうだ。気分は戦争だね、もう。 結局、そんな調子で一ヶ月間散々絞り上げられる羽目になった…… ◇◇◇◇ いよいよ作戦実行の前日。俺は今までの疲れを癒すための全日休暇を満喫していた。 まずオフクロ達に今後の予定について話したわけだが、危険地帯に行くといったとたんに妹含めて泣いて泣いて こっちが涙ぐんでしまったぐらいだ。ただ、それでも行くなと引き留めなかったのは、現状を理解しているからだろう。 物わかりの家族で本当に助かる。 その日の夜、俺はせっかくだからと水平線の上に浮かぶ満月の鑑賞を満喫していた。 周辺に繁華街とかがあるおかげで、俺の自宅――元自宅からはいまいちぼやけ気味に見えていた月だったが、 辺り一面が真っ暗で障害物も何もない満月は、この世のものとは思えないほどに美しかった。 願わくば、もう一度これが見れればいいと本気で思うよ。 「よっ、キョン。なに黄昏れているんだ?」 せっかく人がしみじみとした気分を味わっているってのに、無粋な声をかけてきたのは谷口の野郎である。 「なんだよ、せっかくの満月がお前のアホ声で色あせちまったぞ」 「……ひでぇことを平然といいやがるなぁ。でも……確かにきれいだな。みとれちまう気持ちはわかるぜ」 そう言って谷口も空に浮かぶ満月を眺める。 と、俺はずっと機構としていたことを思い出し、 「なあ谷口、一つ聞いておきたいんだが」 「なんだよ?」 「……何で古泉からの要請を受け入れたんだ? こういっちゃなんだが、イマイチお前らしくないと思って仕方がないんだが」 俺の言葉に谷口ははぁ~とため息を吐いて、 「キョンよー。おまえは俺をそんなにへたれと認識していたのか?」 「違うのか?」 「……おまえな」 あっさりと断言する俺に、谷口は口をとがらせる。まあ、そんなことよりもどうしてやる気になったんだ? 谷口は俺の方にぐっと手を突き出し、親指を立てる仕草をすると、 「世界平和のために決まっているだろ! そして、救世主となってみんなから尊敬のまなざしを向けられ、 女の子にもモテてウハウハっていう素晴らしき未来が俺を待っているのさ!」 「…………」 あきれて開いた口がふさがらない。やっぱり谷口は谷口か。そっちの方が安心できるけどな。 が、谷口はすぐにそんないつものTANIGUCHI印のアホテンションを引っ込めると、 「冗談だよ。理由はこれさ」 そう言ってポケットから一枚の写真を指しだしてきた。それにはお下げでめがねのかわいらしい少女が写っている。 歳は俺と――谷口よりも少し年下ぐらいか? 清楚な感じが好印象だが、俺に紹介でもしてくれるのか? 「お前のは涼宮がいるだろ?」 何でそこでハルヒの名前が出てくるんだ。言うなら俺の癒しのエンジェル、朝比奈さんだろうが。 そんな俺の抗議に谷口はハイハイと流して、 「聞いて驚け。この写真の女の子は俺の彼女さ!」 「なにィっ!?」 その大胆発言には俺もびっくり仰天で満月までジャンプしそうになる。以前に付き合っていた奴とはあっさり破局したってのに すぐにこんな可憐な女性を手に入れていたとは。くそー、俺がのんきに寝ている間に先を越されちまった。 「あの化けモンが暴れ回って街に住めなくなっただろ? その後、避難キャンプに移ったんだが、そこで知り合ったのさ。 きっかけは炊き出しの手伝いだったんだが、俺の献身的な働きに彼女が一目惚れしてしまってな」 絶対に、おまえが彼女の献身的な働きに一目惚れしたんだろ。 「そのまま意気投合って状態だ。もう意思の疎通もバッチリだぜ! 絶対に手放したくねえ。だから――」 谷口はすっとその写真に目を落とすと、 「……守ってやりたいんだよ。彼女をさ。そのためにはあの灰色の空間をなんとかしなけりゃならん。 だから、あのいけすかねえ美形野郎の申し出を受けたのさ。お前相手だから言っちまうが、この混乱状態が収まったら 結婚しようと約束しているんだ。平和な新婚生活を送るためにも何としてでも世界を正常にしなけりゃならねぇ」 「そうか……」 何だかんだですっかり男らしくなっている谷口だ。全く……守るべき人間がいるってのは、 あのアホをここまで変えてしまうのかね? 「で、キョンはどうして行く気になったんだ?」 今度は谷口は同様の質問を俺にぶつけてきた。俺はしばらく答えに困りつつも、 「世界崩壊の危機で、しかも全人類が俺に期待しているんじゃやらないわけにいかないだろ?」 「あのな、キョン。これから生死を共にする仲なんだぞ。こんなときぐらい素直に本音を言っても良いだろ?」 俺は痛いところをつかれて、ぐっと声を上げてしまう。やれやれ、今の谷口には建前は通じないみたいだな。 「……二つある。まず一つはSOS団の日常を取り戻したい。ハルヒもそうだが、長門も朝比奈さんも取り戻して、 またバカみたいに楽しい日々を送りたいのさ。外側にいた連中にはわからんだろうが、俺はすごく幸せ者だったんだよ。 無くして――本当に無くして今それを実感している」 そして、もう一つ。これが最大の理由…… 「ハルヒの無実を証明してやりたい。どんなにぶっとんだ発想と行動力を持っていても、あいつはこんな世界滅亡なんて 心から願うはずがないんだ。きっと何かおかしなことが起きている。俺はそれを見つけ出したい」 「……そうか。なら大丈夫そうだな。中途半端な理由じゃなさそうだし……あ」 と、ここで谷口が何かを思い出したように手を叩き、 「わりい! お前に用事があったのをすっかり忘れていたぜ!」 おいおい、本当に今更だな。 谷口はすまんすまんと手をひらひらさせつつ、 「お前に用があるっていう奴が来ているぞ。しかもとびっきり魅力的な女性だ」 そう谷口はうひひと嫌らしい笑い声を上げて去っていった。女性? 今更俺に会おうとするなんてどこのどいつだ? ◇◇◇◇ 「やあ、キョン久しぶり」 「……なんだ佐々木か」 俺の前に現れたのは、古泉と同じように+2年された佐々木の姿だ。こちらもすっかり女っぽさに磨きがかかっているな。 「なんだとはずいぶんな言い方だね。これでも結構心配したんだよ」 いやすまん。全く予想していなかったんでな。少々面食らってしまったんだ。 「まったく……前から思っていたがキミは結構薄情なところがあると思うんだ。 高校に進学してからというもの、全く音沙汰が無くなり、ようやく連絡が来たかと思えば、 年賀状という文面のみで受け取り側にその意味合いを依存するような意思の伝達方法を採用しているんだから。 そして、今度は事故の後遺症から目覚めて一ヶ月だというのに全く連絡をよこさない。正直、君の出発が明日と聞いて 突然地動説を主張された宗教学者達みたいに驚いてしまったよ。会いたいならヘリを手配してくれると言うんで、 そのご厚意に甘えさせて貰ってここまで来た次第だ」 「本当にすまん。そっちの方まで頭が回らなかったんだ……ん? その話は誰から聞いたんだ?」 「キミの家の方に電話した際に教えてくれたよ。向こうとしてはいろいろと……いや、止めておこうか。 すでにキョンはご家族の方と話を終えているようだからね。今更蒸し返すのは、国際的歴史問題をいつまでも引きずっていることと 同じ愚行だろうから」 そう佐々木は空母の壁にすっと背中を預ける。しかし、月明かりに照らされるその姿は見れば見るほど大人っぽくなっているな。 古泉が以前非常に魅力的だと表現していたが、2年眠った後でようやく実感できる俺の美的センサーにも問題があるぞ。 そのまま二人の間に沈黙が流れる。 どのくらい経っただろうか。やがて佐々木が口を開く。 「キョン、行くなとは言わない。だが、聞かせて欲しい」 ――佐々木は俺の方に目を合わせずに―― 「……本気でキミは、本心から望んであそこに行きたいのか?」 佐々木の口調はいつもと変わらないはずだった。だが、それはまるで俺の内部に突き刺すように問いつめている言葉に聞こえた。 俺はしばらくどう答えようか迷っていたが、ま、正直言うしかないだろ。こんなシチュエーションじゃな。 「ああ、行きたいと思っている。誰からも強制されているわけではないぞ。120%俺の確固たる意志だ」 正真正銘の本音。2年あまりの眠りから目覚めた時は正直余りぴんと来なかった。 しかし、この一ヶ月間で集めた情報やオフクロ達から聞かされた話。谷口と国木田が遭遇した体験だ。 それらを聞く内に、俺の意志が固められていった。無論、世界を救う救世主という役割なんかよりも、 あのSOS団としての日々を取り戻したいと言うことと、ハルヒの無実を証明したいという気持ちを、だ。 気がつけば佐々木は俺の方をじっと見ていた。まるで俺の全身を品定めするかのように見ていたが、 やがて軽くため息を吐くと、 「そうかい。わかった。キミの意思ははっきりと確認させて貰ったよ。ありがとう。 では、おじゃまものはそろそろ引き上げようかね」 「何だよ。それだけを確認したかったなら電話でも十分だったんじゃないか?」 俺の指摘に佐々木はやれやれと首を振って、 「あのね、キョン。人間ってのは声だけで判断できるような安っぽい作りはしていないんだよ。 宗教にさして興味はないが、本当に神が人間を創造したって言うなら、神様というのは実に陰険で神経質だったと思うね。 キョンの声だけ聞いても判断できないから――声帯を振るわした生声を直接鼓膜に当てて、全身の身振りを確認した上で その意思を確認したかったのさ。わがままとか欲張りといって貰っても結構。せっかくのご厚意だ。とことん甘えさせて貰ったさ」 それで佐々木が満足だって言うなら、別に俺はこれ以上どうこう言うつもりはねえよ。 しかし、せっかく来たって言うのに滞在時間数十分では遠出してきた意味が無いじゃないか。 「そうだ。ここから見える月はすごくきれいなんだ。せっかくだから堪能して行けよ。こんなチャンスは滅多にないんだからな」 「キョン。キミって奴は本当に……」 佐々木の声に少しいらだちが入ったことに気がつく。 「良いか、キョン。人間ってのはやっかいな精神構造をしているもので、たまに間違いを犯すんだ。 それが正解だと思ってやってみたら間違いだったというのはまだいい。しかし、問題なのは間違いとわかっているのに、 それを犯さなければ気が済まないという感情が発生することがあるんだ」 言っていることがよくわからないんだが…… 佐々木は困惑する俺に構わず続ける。 「……そうだな。確かにキミの言うとおりこのまま帰るだけじゃ、後悔するだけかもしれない。 ならば、これはキョンからのご厚意として受け取らせてもらうよ。最初に謝っておく。ちょっと間違いを犯すが許して欲しい」 ――佐々木は一呼吸置いてから―― 「僕はね、キョン。ふとこんな事を考えてしまうんだ。キミと一緒にエアーズロックの一番高いところで、 沈んでいく夕日の如く終わる世界をただ眺めているってのも悪くないんじゃないかってね」 おいそんな人灰を巻かれてしまうような場所で、俺は若い内に人生の終わりを迎えたいとは思わないぞ。 縁起でもないことは言わないでくれ。 俺の反応に、まるでそれを楽しんでいたかのように佐々木はくくっと笑うと、 「そうだろうね。済まない。少し冗談が過ぎたようだ。許してくれたまえ」 そう言うと佐々木はくるりと俺に背を向けて、 「さて、そろそろ本当に帰らせてもらうよ。これでも大学生の身でね。高校時代に頭の中に押し込まれた鬱屈した気分を 解放するので大変なんだ。あとは周りの人たちに対する対応もしないとね。それに――何よりもこれ以上間違えるつもりもない」 そう言ってさっさと俺の前から立ち去ろうとする。 正直、ここで引き留めるのも何だか気が引けたが、どうしても言っておきたいことがあった。 「佐々木」 俺の問いかけに、振り向きはしないものの足を止める佐々木。俺は続ける。 「せっかくだ。世界が正常になったらSOS団に入ってみないか? おまえとはちょうど話が合う奴もいるし、 団長様も――こればっかりは話してみないとわからないが、多分OKしてくれるんじゃないかと思う。 いい加減SOS団にも新しい風も必要な頃合いだ」 佐々木は俺の言葉をただ黙って聞いていただけだったが、やがて振り返ることなく答える。 「……そうだね。せっかくのお誘いだ。でもいきなりっていうのも難しいから体験入団という形にとどめて欲しいな」 「それでもいいさ。あとは佐々木が判断すればいい」 これにて俺の話は終了。あとは佐々木の見送りでお別れだ……ったが、佐々木は足を止めたまま動かない。 そして、大げさにため息を一つついてから、腕を上げて指を一つということを表すかのよう人差し指を上げ、 「帰る気になっていたのに、それを呼び止めたことへの報いだ。もう一つだけ。間違えさせてもらうよ。 キョン、キミに言いたかったことは、それはキミがグースカ眠りこけている間に言わせてもらったよ。 その様子じゃ、きっと憶えていないんだろうけど、この場でもう一度言おうという気持ちにはどうしてもなれないんだ。 おっと卑怯者とか言わないでくれ。別に教えたくない訳じゃない。ただ、この場ではどうしても言う気になれないってことさ。 じゃあ、いつ言うのか、という質問をしたくなるだろ? それはキミが帰ってきてからと答えよう。だから――」 そこで佐々木はすっと振り返り、軽い感じで俺の方を指差す。 その時見せた佐々木の表情、全身を見たとたん、俺はかつて無いほどに佐々木の魅力を見せつけられたと思った。 いつか見せてもらった朝比奈さん(大)の表情にも負けないほどの魅力。 「僕のかけがえのない親友に対する要望だ。必ず帰ってきてくれ」 ◇◇◇◇ 佐々木を見送った翌日。ついに俺の出撃の日がやってきた。目標は――北高。 俺は甲板から飛び上がる白いヘリコプター――シーホークって名前らしい――の中で緊張しきっていた。 これから行く場所は見慣れた街のはずだ。だが、あの記憶に残る灰色の空間の中に、それも命を狙われることは確実とされる世界に 足を踏み入れようとしているんだから、緊張ぐらいは許してくれ。おお、懐かしきマイタウンよ。 空母から飛び立って数十分。この時には緊張感なんてすっかり無くなっていた。なぜなら、 「ヘリコプターって結構揺れるんだな……うぷっ」 「エチケット袋なら完備していますよ。遠慮なさらずにどうぞ」 他の面々はまるで平気そうだ。ちくしょう、こんなに揺れるなら酔い止めを飲んでくれば良かった。 さて、ここらでメンバーを確認しておこうか。 まず部隊長に森さん。あの何でもこなしてしまいそうなプロフェッショナルな女性である。 次に副隊長に新川さん。こっちも森さんに負けず劣らずプロの空気をビンビン醸し出している。 あとは、多丸兄弟・古泉・谷口・国木田、そして俺の総勢7名の部隊だ。人数の面で少々頼りなさを感じてしまうが、 以前の10万人大侵攻で何もできずに逃げ出す羽目になったことを考えると、多ければいいってもんじゃないと思っておく。 そして、全員迷彩服を着込み、手には自動小銃やら機関銃が握られている。 俺たちは閉鎖空間近くに作られている国連軍基地へいったん降りて、そこから別のヘリで閉鎖空間の目の前まで移動する。 あとは俺たちが100kmに及ぶ道のりを行進しながら北高に向かうわけだ。やれやれ。 それから数十分後、古泉がヘリの外を指差し、 「見えてきましたよ。あれが閉鎖空間です」 はっきりいってゲロゲロな俺はそんなものを見る余裕もなかったんだが、これから向かう場所ぐらい見ておくべきだと 気合いを入れて外を見回す―― 「……こりゃぁ――すごい――」 その瞬間、俺の酔いはどこかにすっ飛んでいってしまった。透き通るような青空に、そして、その下に存在する海と陸。 ちょうどその中間に位置するかのように黒いドーム上の空間が存在している。 視界にはいるだけで強烈な拒絶感を感じるところを見ると、あの中にいる奴はあの領域に誰一人として入れたくないようだ。 よっぽど人間不審な奴がいるみたいだな。 俺はしばらくその光景を睨んでいたが、やがてヘリが緩やかに降下を始める。 「もうすぐ、国連軍基地に到着します。着陸に備えてください」 森さんの声とともに、俺は閉鎖空間の観察はいったん中止して着陸態勢を整え始めた。 ◇◇◇◇ 国連軍基地に到着後、次のヘリに乗り換えるまでしばしの休息を得ることができた。 到着後、俺が真っ先に言ったのは酔い止めの薬の確保である。またヘリに乗って移動する以上、 閉鎖空間に酔っぱらって侵入するのでは格好が付かない。 何とか酔い止め薬をゲットして、胃を落ち着かせることに成功。それでももうしばらく時間があったので、 国連軍基地内を散策することにした。地方の空港を接収して再利用しているらしく、空軍基地としても活用しているみたいで、 たまにやかましい音を立てて戦闘機やら偵察機やらが離発着している。事実上の前線って事で、 かなり基地内にいる人間はピリピリと緊張感をあからさまにしていた。古泉の話では、閉鎖空間の拡大に伴って 近日中に撤収し、数百キロ離れた場所へ移設する予定だそうだ。確かにここから閉鎖空間までは15kmぐらいしかない。 あと数ヶ月で飲み込まれることになるだろう。もちろん、基地周辺にある民家も全てだ。 「ん?」 国連軍指揮所の建物の壁にやる気なさそうに寄りかかっている人物が目にとまった。 どこかで見たことがあると目をこらして確認した結果、はっきり言ってそのまま無視しておこうかとても迷うような 人物であることが判明した。とはいっても、あの野郎がいる以上、何らかの目的があることは明白であり、 そいつを問いただしておかなければ、後々面倒なことになるかもしれないので、 「おい、こんなところでなにやってんだ」 そこにいたのはあのいけ好かない否定後連発の未来人――自称:藤原だった。退屈そうに空を黒々と浸食している 閉鎖空間を眺めている。 その未来人野郎はちらりと俺の方に視線を向けると、 「ふん、やっと来たみたいだな。いつまで待たせれば気が済むんだ?」 ……敵意むき出しの発言に、やっぱ話しかけなけりゃよかったと後悔する。 あまり長い間話すと別の意味で俺の胃がムカムカしてきそうだったので、とっとと本題をぶつけることにする。 「で、こんなところでなにをやっているんだ? まさかとは思うが、俺たちに協力しようってんじゃないだろうな?」 「自分たちにそれだけの価値があると思っている時点で、傲慢に値すると評価してやるよ」 ますますむかつく野郎だ。ここまで挑発的な物言いばかり沸いてくるなんて、さぞかしゆがんだ環境で育ったんだろうよ。 藤原はまた閉鎖空間の方を見つめると、 「僕はただ見に来ただけだ。この事態の行く末を見る。それが今の僕の仕事だ。介入するつもりはない」 ああ、そうかい。それなら好きにすればいいさ。じゃあな。 俺はとっとと未来人野郎の前から立ち去ろうとする。が、一つだけ確認すべき事を思い出し、 「朝比奈さん――ああ、成長したでっかい方の朝比奈さんだ。あの人は今どうしているんだ? やっぱりお前と同じようにただ事態を見守っているだけなのか?」 俺の問いかけに、藤原はしばらくきょとんとしていたが、やがて苦笑するような笑みを浮かべ、 「あんたの思考能力の薄さには敬意を表したいよ。少しは考えてみればどうだ? あんたと一緒にいた小さい方の朝比奈みくるが 消失しているんだぞ? だったら、あんたのいうでっかいほうの存在がどうなっているのかすぐに答えが出るだろ?」 俺は――俺はしばらくその意味がわからなかった。だが、何度か未来人野郎の言葉を脳内リピートしてようやく気がつく。 この時代の朝比奈さん(小)は消えたままだ。そうなれば当然朝比奈さん(大)の存在も消える。 つまり、今起きている事態は朝比奈さん(大)にとって規定事項ではない、明らかな想定外の状況であるということ。 なんてこった。事態は俺が考えている以上にひどいのかもしれない。少なくともこのままでは確実に世界が崩壊し、 未来にも影響を与えている。どうにかしなくては…… 「おおーいキョンー! もうすぐ出発だよー! 早くこっちに集合してー!」 唐突に耳に入る声。見れば国木田が手を振って俺を呼んでいる。いつの間にやら出発時間を過ぎてしまっているらしい。 俺は焦りに似た気持ちを引きずりながら、出発場所へと走った。 ◇◇◇◇ 俺たちを乗せたヘリが飛び立つ。今度はさっきのヘリの黒いバージョンだ。そのまんま、ブラックホークというらしい。 どのみち、あと10分以内で降りるんだから憶える必要もないだろうが。 ヘリは山岳地帯の森の上をなめるように跳び続ける。辺りは快晴。雲一つ無い。こんな日に戦争か。 やれやれ、やりきれない気持ちでいっぱいだな。 酔い止めの薬の効果は偉大なようで、国連軍基地に来るまでに味わされた車酔い――じゃないヘリコプター酔いも起きずに それなりに快適に外の様子を眺めることができた。相変わらずの威圧感の強い閉鎖空間の黒い領域が目の前に迫るたびに その迫力で身震いさせられる。もうすぐあそこの中に突入するんだな。 気分を変えようと、下に広がる下界の様子を見回す。森の間に畑が広がっているのが目に入ったが、 同時に農作業に従事する人たちや、作業用の軽トラックが走っていくのも見えた。なにやってんだ? もう閉鎖空間は目の前に来ているって言うのに、早く逃げろよ。 俺は国木田を捕まえて、 「おい、何で逃げていない人がいるんだ? 時機にこの辺りも閉鎖空間に飲み込まれるんだろ?」 「確かにそうだけど、それでも避難を拒否する人たちって結構いるみたいなんだ。何でも自分の生まれ育った土地を 離れたくないんだって。どうせ死ぬなら、そこで一生を終えたいっていうインタビューをテレビで見たよ」 郷土愛って奴だろうか。確かに生まれ故郷を離れたくない気持ちはわかるが……死んでしまったらどうにもならねえだろうが。 俺はやりきれない気持ちを胸に、ただその過ぎ去ってゆく光景を眺めることしかできなかった。 ◇◇◇◇ 国連軍の最前線基地に降り立った俺たちの頭上を、ヘリがバタバタと飛び去っていく。 閉鎖空間から一キロ。まさに敵地と接した最前線だ。先ほどの国連軍基地とは桁違いの緊迫感に包まれていることが 手に取るようにわかった。ただ、すでに撤収命令が下っているようで俺たちを送り出した後、この基地は即時閉鎖されるとのこと。 無理もない。目の前には襲いかかる津波のように閉鎖空間の黒い領域が広がっているんだからな。 ちょっと目を離したすきに俺たちに襲いかかってくるんじゃないかと不安になる。 しばらくすると、森さんが手続きを終えたようで指揮所から出てくる。 「準備できました。これから目的地に向けて移動を開始します」 「さあ、出発しますぞ。まだ閉鎖空間の外ですが警戒を怠らないようにお願いしますな」 新川さんも森さんに続いて歩き出す。それに続いて他のメンバーも歩き始めた。 ずんずんと俺たちが歩くたびに近づいてくる黒い空間。実際には俺たちの方が近づいているんだが、 立場がひっくり返されるほどの威圧感だ。本当に入って大丈夫なのか? 「大丈夫ですよ。今までも何度もやっていますから問題ありません。ここで閉鎖空間内に入ったことがないのは あなただけです。他のみなさんは全て経験済みというわけです」 見れば谷口が得意げに親指を立てている。国木田もひょうひょうとした表情でうなずいていた。やれやれ。 じゃあ、経験者のみなさんを信じて勢いよくあの灰色空間に飛び込みますか。 数分後、ついに閉鎖空間から数メートルの位置に俺たちは立った。数歩先は未知の世界となる。 そういや、古泉の力を使わなくても、入れるらしいが…… 「ええ、その通りです。ちょっと試してみますか?」 イタズラっぽく言ってくる古泉に俺は即座にNOのサインを返した。そんな火山の噴火口に素っ裸で飛び込むようなマネは したくないね。これから100kmのウォークラリーが始まるならなおさら無駄な体力を使いたくない。 「冗談はここまでです。さあ……では行きましょうか。みなさん、僕の手に捕まってください」 古泉の指示通り、俺たちは一斉にその腕を手に取る。一人の人間に一斉にとりついている光景は端から見れば すごく異様な光景なんだろうなと余計なことを考えている間に、 ――特になにも感じずに俺たちは閉鎖空間の中に足を踏み入れた。古泉の方に見ると、もう話しても良いというサインを 返してきたので、俺は古泉から離れてみる。 特になにも感じない。心身ともに閉鎖空間侵入前と変わっていないようだ。ほっ、とりあえず第一歩は完了だな。 俺の視界にはあの薄暗く灰色の世界が続いていた。以前に見たあの閉鎖空間と全く同じものであることがすぐにわかった。 しかし、何度入ってもこの鬱屈した空気になれることはないだろう。 「さあ、ぐずぐずしていられません。前に進みましょう」 そう森さんの合図が飛び、俺たちは目的地に向かって歩き出し―― ――キョン―― 一瞬、本当に一瞬だがはっきりと聞こえた。ハルヒの声だ。間違いない。 俺は立ち止まって、また聞こえないか耳を澄ませる。しかし、それ以上ハルヒの声が聞こえてくることはなかった。 「どうかしましたか?」 様子がおかしいことに気がついたのか、古泉が俺のそばによってくる。その表情を見る限り、どうやらこいつの耳には ハルヒの声は届いていないらしい。 「ハルヒの声がしたんだ。空耳じゃない。確かにあいつの声だ。やっぱりこの中にいるんだ……」 「……行きましょう。まだ先は長いんです。立ち止まっている余裕はありません」 そう古泉に背中を押されるように、俺は歩き出した。 ハルヒ。やっぱりこの中にいるんだな。そうなれば、長門と朝比奈さんもきっといるはずだ。 待っていろよ。すぐにこんな薄暗い世界から出してやるから。 ~~その2へ~~
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/1817.html
例年に比べて少しくらい気温が高かったらしい夏も終わり 通学路の坂、キョンに言わせるとハイキングコースにも涼しさが到来してきた。 季節は秋。 キョンの奴は「うだるような夏がようやく終わってくれた…」なんて呟いてたけど 私に言わせれば夏の方がよっぽど面白い気がする。イベントが多いからね。 まぁ、秋は秋でイベントがあるからいいんだけど。 今日は古泉くんとみくるちゃんは実家の用事、有希は遠い両親に会いにいくらしく休み。 キョンは馬鹿だから先生に呼び出されてるらしい。 つまり私は今一人。理由も言わずに部室の鍵を閉めて帰ったら キョンが混乱するだろうし仕方がないから残ってあげてるって訳。 「あぁつまんない…何で団長のアタシが待たされなきゃいけない訳? 全部キョンのせいなんだから…来たらどう罰を科してやろうかしら? …そうだ、あの馬鹿面見るために隠れていきなり驚かしましょう!!」 そんな事を考えて私は部屋を見渡した後、みくるちゃんのコスプレ衣装の裏に隠れた。 衣装ならたくさんあるし、黙っていればバレないからね。覚悟しなさいよキョン!! その後10分くらいしてようやくキョンが部室に来た。 本当はすぐ出て行こうと思ってたけどキョンが一人の時は何をしているのか気になったし 少し隠れてキョンの観察をすることにした。変態なことしてたら許さないんだから!! 「ん?何だ、今日は皆来てないのか…俺が一番最後かと思ってたんだが…」 なんて阿呆みたいに呟いた後、何とあろうことか団長席に座ったの。信じられない。 後でとっちめてやろうなんて考えてるアタシの耳にその後とんでもない言葉が飛んできたわ。 「ハルヒまで来てないとはな…最近気になって仕方ないし話せなくなるからな。助かった…」 気になる?私を?どんな風に? 「アイツ可愛いよな…」 な……嘘…キョンが私を? 「抱きしめたくなるの何度我慢した事か…偉いぞ俺…」 信じられなかった。いつも振り回しているのに。 そう思ったら嬉しくなったと同時に身体が熱くなった。そう、今まで感じた事の無いような熱さ。 いや、正確に言えばキョンが気になり始めた時に感じた時の熱さと似ている。 でも今度の熱さは私にもしっかり分かった。 性欲。 キョンは私を異性として見てくれている。 恋愛なんて一種の気の迷い、精神病なんて思ってたけど違うのかもしれない。 アタシもキョンを抱きしめたい…それ以上も… そう考えた私は動きが早かった。いい?感謝しなさいキョン。 今からアンタは妄想の中でだけでもアタシに抱かれるの。 アタシはスカートの下から手を入れパンツ越しに秘部を撫でた。 ぐっちょり濡れているのが分かる。これが愛液…キョンを思って出た愛液… アタシの初オナニーの相手はキョンになった…嬉しくてたまらない… 気持ちよくてたまらない…秘部が熱い…ウズウズする… どこかで聞いた覚えのあるオナニーの仕方を思い出しながら必死に指で秘部を刺激する。 そしてもう一方の手で胸を触る…乳首が起っていてまるで自分の身体ではないような感じだった。 しかしアタシはうかつだった。初オナニーだったからかもしれない。 興奮していつしかキョンのいる部室だってことを忘れて一心不乱にしていたせいで 声が漏れて… 「ハルヒ?」 手を元に戻して「隠れてたのよ!!顔が熱いのは熱かったから!!」って言えばいいのに… でも狂ったアタシは止められなかった。 キョンの前で、キョンの顔を見ながら必死に秘部を刺激していた。 よりよい快感。キョンはアタシの前で顔を赤らめて顔を背けている。 止めないと。分かってるのに。アタシの理性じゃ快感には勝てない。 「キョン…キョン…キョン~…もっと…んぁ…」 衣類は乱れ、目の前で愛する人に見られ、二人きりの部室。 そんな状態の中で喘ぎ声なんか止められなかった…ただもう感じるしかなかった… 嫌われたくない…でも…止められない… そしてアタシはとうとう最大まで火照った体をさらけ出しながらキョンにこう言った。 「いい?アタシはね、アンタが好きなの!! アンタを考えながら今生まれて初めての自慰をしてしまったの!! だから…責任を取りなさい!!アタシが好きならだけど… もし好きならだけど…今回だけはアンタの好きにさせてあげるから…」 「本気か?」 え? 「本気でハルヒは俺のことを思って?」 そうよ… 「…嬉しいよハルヒ…俺もお前が好きだ!!だから…好きにしていいか?」 うん… 「初めてだから下手だけど勘弁してくれよ?」 「大丈夫よ…アタシはアンタってだけで大満足なんだから…ん…胸…そんなに強く…」 キョンはアタシを抱きしめると床に寝かせ、キスを一通りした後アタシの両胸を揉んでいた。 「んぁ…いい…キョン…ん…あぁ…」 乳首を指で弾かれる。それだけの行為でアタシの欲求は高まる。 胸を舐められる。それだけの行為でアタシの全てをキョンに委ねたくなる。 「キョン…下も…」 アタシがそう言うとキョンはアタシのパンツに手をかけそっと脱がした。 「凄ぇ…めちゃくちゃ濡れてる…俺が…」 「濡れてるとか言わないでよ…ねぇ…早く…」 分かったよ、と呟くとキョンはアタシのアソコを指で刺激した。 「んん…ぁあ…ヒィ…」 指入れるぞ、そう言うとゆっくりアタシのアソコに指をくねらせていった。 「ぃ…あぁ…ぁん…指…アタシの中に…」 キョンはアタシの一通りの喘ぎ声を聞き終えると自分のモノを出し 「なぁ、入れて…いいか?」 「ん…いいわよ…今日安全日だから……生でも…でも赤ちゃん生まれたら責任取りなさいよね…」 「責任って…」 そう言いながらもキョンはアタシのアソコに軽くモノを触れさせると少しずつ入れていった…」 「ん…痛ッ…や…駄目…ん…血…痛いよ…」 「わ、悪いハルヒ!!大丈夫か?今日はやめ…「やめないで…ちょっと待ってて…」 「分かった…」 その後数十分の間動かさず硬直状態だったけどアタシの「そろそろ…大丈夫そう…」って声で キョンは少しずつ腰を動かした。少し痛かったけどそれ以上にキョンのモノがあるってだけで。 それだけでアタシは満足できた。 「ハルヒ…しまりが…凄い……」 「馬鹿ッ…何言ってんのよ…んぁ…駄目……もうイキそう…」 「俺もだ…抜いた方がいいか?」 「駄目…アタシの中で…中で出して!!」 その声を合図に二人とも同時にイッた。 「キョンの…こぼれたのおいしい…」 「おいハルヒ、床舐めることないだろ…」 「いいじゃない…おいしいんだし…」 こうしてアタシたちの初体験は終わった。 いまでもたまにアタシたちは部室・教室で、普段はキョンの家でしている。 最初夏の方が好きって言ったっけ?あれ、撤回ね。 キョンさえ居ればどの季節だって最高なんだから!!
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/4457.html
待ってろ、今行くからなハルヒ。 俺は再び大地に降り立った。なんてカッコイイシーンを演出してみたが、 周りには誰かがいるわけでもなく、少し自分の行動に後悔を感じたりもしていたが、 とりあえず、やることはやらないとなっと辺りを見渡した。 「閉鎖空間…か」 何度あの空間に入った事か。そういえば一番最初は古泉とだったな。 俺が初めてこの空間に連れられた時、初めてあいつの変態的能力を見せられた。 僕は超能力者です、なんてどこのSFオタクだよと思っていたが。 そんな俺の否定的かつ論理的な思考をいとも容易く打ち砕きやがった。 まぁどこが論理的なのかは今考えてみても思い当たらないのは何故でしょう。 しかし、人が球体になって空を飛ぶなんてどこぞのスーパーマンかと思っていたが、 古泉曰く、「僕達はニキビ治療薬みたいなものです」 実にお似合いだ。 そんな事を考えてる暇なんてなかったみたいだ。 閉鎖空間の広がる速度が以上だ。もう俺が見える範囲を全て覆い尽くしている。 しかし、ここは閉鎖空間のはずなんだが、違う気もしてきた。 何故かって?ハルヒの閉鎖空間は色のない世界。 以前、橘に連れて行かれた佐々木の閉鎖空間は色のある穏やかな世界。 この閉鎖空間はどちらにも該当しない。 なにか、二つが混ざったような、色がまばらについている。 だが穏やかな色ではない。血のような赤い色だ。 ここでそんな杞憂を抱いていても仕方ない。俺にはやることがある。 それだけだ。 俺はとりあえず北高に向かった。何故とりあえず其処にいくのかというと、 解っちまうもんは仕方ないさ。あいつならあそこにいる。 俺は何故かそう確信して動いちまうんだよな。 俺は心臓破りの坂を、その字の如く心臓が破れそうになりながらも必死に駆け上がった。 辛い、苦しい、気持ちい。あ、なんでもない只の妄言だ。 俺は息を切らし、今にも倒れそうになったがここで倒れてしまっては意味が無い。 だが、頑張った甲斐はあるってことだ。 見たこともない神人が目の前にいるからだよ。 やっぱりここに居たか、ハルヒ。 俺は校門を通りグランウンドに向かって走った。 「そんなに急がなくてもいいじゃない?」 足止め、そうこんなありきたりな展開が待っているとは。 やれやれ、予想外だな。 俺は声のほうを振り向いた。俺はその声の主に見覚えがあった。 それもそのはず、俺に刃物は本当に危ない物というトラウマを植えつけたあいつがいた。 「朝倉涼子…か、お前は長門に消されたはずじゃなかったのか」 朝倉涼子は笑みを崩さず、答えてきた。 「確かに私を構成していたインターフェイスは長門さんに情報連結を解除されて消えてしまったわ。 だけどね、私の情報生命体は分解されることなく情報統合思念体に回収されていたのよ。 勿論、急進派の、ね?」 とこいつが普通の女ならころっと騙されてしまいそうな笑顔でウィンクをされた。 しかし、俺にはそんなものは効きはしない。じゃぁ今考えたのはなにかって? そんな野暮なことを聞くもんじゃない。 俺だって健全な男児という訳だ。 そんな事を頭に巡らせていた俺は確実に、焦っていた。それもそうだ。 こいつは長門と一緒であの宇宙的なパワーの情報操作とやらが使える。 「急進派とやらはお前一人しかいないのか、よほど人望がないんだな」 と俺は余裕をみせるように、両手を広げ方を竦めて見せた。 「ここにいるのは私一人、だってこの空間に入るのは並大抵の情報処理じゃ追いつかないから、 他の人は私のバックアップに回ったって事」 あぁそんなことだと思ったよ、 だがそれさえ聞き出せればなんとか勝てる見込みがあるかもしれん。 「そうか、ならお互い忙しいみたいだし、また後でゆっくり話そう」 と苦し紛れに誤魔化すという奇策でもないが、試しにそういってみた。 思いのほか、朝倉涼子は黙ってこちらを見ている。 まさか、成功した? そんなわけなかった。 「用事ならあるわよ、私達はねこれほどまでにない情報爆発が予測できるこの状況を懇願していたの。 だからこんなところで失敗するわけにはいかないのよね。 だから、死んで。お願い」 おい、朝倉、お願いするところを間違えてるぞ。 なんてつっこみを入れている余裕はなかった。 ナイフを片手に駆け寄ってきた朝倉の攻撃を俺は寸での所でかわし、 足を払いのけた。 朝倉は驚いた表情をしていた。 「あら、いつのまにそんな動きができるようになったの? 教えて欲しいなぁ」 と甘い声で言ってきたが俺はそんなのに一々反応せず、 こちらから仕掛けた。それでも余裕を見せる朝倉は、 俺の攻撃を交わし、俺の背中に回し蹴りを放った後、 ナイフを持つ手を俺に向かって伸ばしてきた。 さすがにこれは反則だろう。 ナイフを持つ朝倉の手を左腕を使って受け流した。 それと同時に朝倉の腕に力を使った。 その瞬間、朝倉の腕が音を立てて消えていった。 「驚いたわね、まさかあなたがこんな事も出来るようになるなんて。 はやく殺しておくべきだったわ」 驚いているのは俺のほうだ、しかし唐突に理解し使えるようになったもんは仕方ない。 俺は確実に消耗している体力を温存しながら戦わなくてはならない、 という現実を突きつけられていたが、こいつ相手に温存できるわけが無い。 心臓破りの坂は、心臓破りではなく見事に心臓の串刺しになりうだった。 走らなければよかったなどと、後悔していると。 朝倉は腕を既に再生させていた。 「あら、自分の力に戸惑っているのかしら、残念ね」 朝倉は不適な笑みを浮かべ、なにやら呟いていた。あれか、長門の良くやる高速呪文か。 さすがにそれはまずい、俺は一気に距離を詰め朝倉の胸倉に力を使った。 その衝撃で後方に激しく吹き飛んだ朝倉だったが、 「最初からこうしてればよかった」 と俺のトラウマを掻き立てる言葉を吐いた。 それもそのはず、俺の体はピクリとも動かない。 これは非常にまずい状況だ。 「あなたがここまで出来ると思わなかったわ、少し残念だけど。 さよなら」 そういってナイフを俺の胸に向かって突いてきた。 俺は死を覚悟した瞬間、ナイフが目の前で止まっていた。 そのナイフを握っているのは紛れも無い。長門だ。 「長門!」 俺は久しぶりに長門に会った歓喜を喜ぶ暇など無いことは解っていたが、 それでもこの長門に会える事は俺にとっては最高に嬉しいことなんだ。 「あなたがここに来ることは予測していなかった、 その為反応が遅れてしまった。ごめんなさい」 気にするな、それより体が動かないんだ。 なんとか出来ないか、というと長門は情報連結解除開始。 といった、まさか俺を消さないよな。 朝倉の持つナイフが砂のように消えていった。 この光景は昔にみたなぁと思ってると、長門が俺を蹴り飛ばした。 これは痛い。 「それで動けるはず、あなたは私が守る。 だから、今はあなたは涼宮ハルヒの所にいって」 そういう長門の小さな背中はこの世界で一番頼りになるんじゃないか、 というくらいに心強く見えた。実際その通りだが。 「また、長門さんに邪魔されちゃったかぁ、でも次は私が勝つわよ」 朝倉はいつもより強張った表情をしていた、 それもそのはず、相手は長門だ。 長門の援護をしてやりたいが、今はあいつの所に行くのが先か。 すまん、長門。 俺はその場から立ち去った。 後ろから轟音がなっているのは、あいつらが戦っている証拠だ。 必ず会えるよな、長門。 俺はグラウンドに着いた、其処にはさっき見た神人が佇んでいた。 暴れるわけでもなく、ただそこに居た。 神人のから離れた位置に人影が見えた、そこにはハルヒ、佐々木、古泉、朝比奈さん、 そして橘がいた。ここからじゃ声が聞こえるか解らないが、 試しに叫んでみた。どうやら聞こえていないみたいだ。 くそ、もっと近くにいかなくては。 俺があいつらの側に駆け寄っていくと、 なにやら古泉達とハルヒが言い合ってるようだ。 ここで、俺は思いついた。 ここで格好良く登場するのが主役の華ってもんだ。 俺がゆっくり側に寄っていくと、古泉の声が聞こえてきた。 「涼宮さん、どうか落ち着いてください。 このままではこの世界は終わってしまいます」 おいおい、古泉暴露しちゃまずいんじゃなかったのか。 「だって、キョンが…キョンはもういないのよ…。 古泉君は涼宮さんが願えばきっと叶うはず、って言ったわよね。 それでもキョンは帰ってこない。 だからね、いらないの。キョンのいない世界なんていらないの!」 やれやれ、相変わらず我侭な団長さんだ。 俺はおちおち死ぬことも許されないらしい。 だが、そんなハルヒの言葉は俺にとっては嬉しかった。 そろそろ出て行くか。 「ハルヒ、待たせたな」 その場にいた全員が驚愕の色を顔に浮かべていた。 特に酷かったのはハルヒだ、間違いない。 「キョン…?キョン、キョン!」 ハルヒが駆け寄ってきた、俺はその猪突猛進な団長様を受け止めてあげた。 ハルヒは、喜びと困惑の表情を混ぜた顔をしていた。 「本当にキョンなの?これ…夢なんかじゃないよね?」 ハルヒが俺の体を力強く抱きしめる。 あぁ、夢じゃないさ。俺はここにいる。 お前に会いたくて帰ってきちまったんだ。 歯が浮くような台詞を言ってしまった自分に赤面しつつ、 俺はハルヒの頭を撫でてやった。 「よかった…。もう二度と会えないと思ってたんだよ。 このバカキョン…もう離れないって約束したじゃない」 ハルヒの大きな瞳から大粒の涙が流れる、 俺はそんなハルヒの頬に手を添えて、 軽く口付けをした。 勿論、ハルヒは顔面から火を噴くのではないかと思うくらい、 真っ赤にしていたが。俺もたぶん真っ赤だ。暑い。 何で、俺はキスしたかって?そりゃ大抵の人は、 俺がこの閉鎖空間から抜け出す為だと思うかもしれない。 だけど、俺はこんな我侭でうるさくて、優しいハルヒが好きなんだ。 「あ…あたしは先に言ったから、も、もう言わないわよ」 少し俯きかげんで俺の胸辺りを見ていたが、 少し上目使いでハルヒは俺に「でも、好き」と100万Wの笑顔で笑った。 ようやく帰ってきた実感が沸いた。 俺はハルヒの手を引き、古泉と朝比奈さんのところに向かった。 「お久しぶりです」 「キョンくん…キョンくん!」 そうだな、と古泉に答えた瞬間朝比奈さんが抱きついてきた。 朝比奈さん、まずいです。ハルヒがいるのに。 ハルヒの表情を恐る恐る覗いてみると、穏やかな表情だった。 変わったなハルヒ。 とりあえず朝比奈さんを落ち着かせ、 「もう会えないかと思った…でもよかった。 キョンくんがいればなんとかなる気がするの」 と言っていた朝比奈さん、俺はそんなに凄い人間じゃないですよ。 とりあえずまずは状況把握だ、古泉に問いかける。 「この神人はなんだ?」 俺の問いに答える前に、古泉が意外なことをいってきた。 「それより、言わせてください。僕もあなたに会いたかった」 これにはさすがの俺も驚いた、こいつから本音が聞ける日がくるとは。 でも、さすがに他意はないよな。俺にはそっちの趣味はないぜ。 「そんなつもりは、さすがに涼宮さんの前では言えませんが」 とニヤケ面を浮かべていた、おい、冗談はやめてくれ。 俺ははぁ…と溜息をついた。 「勿論冗談ですよ、しかしこの神人は僕にもよく解らない。 というのが今の現状です。佐々木さんをなんとか説得し、 動きを止めてもらっているのですが、それもいつまで続くか解りません」 そうかい、しかしハルヒがいるところでその話は禁句じゃなかったのか? 「涼宮さんにはもう話してあります。混乱していたみたいですが。 それでもあなたが戻ってくるならと必死に願っておられました」 なるほどな、だからさっきあんな口論をしていた訳か。 それにこの状況じゃ隠し通せないだろう。 俺は座り込んでる佐々木に目をやった。 俺と目が合った佐々木は、急いで目を逸らし背を向けた。 そうしたのはきっと俺に対しての罪悪感からだろう。 俺は、肩を震わせて座り込んでいる佐々木に声を掛けた。 「佐々木、ありがとうな。まだ俺達がここに立っていられるのは、 お前のおかげなんだ。礼をいう」 俺は佐々木の肩をぽんと叩いた。 振り向いた佐々木は大粒の涙をぼろぼろと流し、俺に抱きついてきた。 「キョン…僕は、僕は君を…」 俺はこんな姿の佐々木を見るのはじめてだったから、少し驚いてはいたが。 頭を軽く撫でてやり、背中をさすってやった。 「あぁ、解ってる。だがお前のことを俺は恨んだりはしない。 それはお前が一番よく解ってるだろ? 俺がお前を許す、それでいいか」 佐々木は何回も頷き俺に抱きついてきた。 この状況をハルヒが見ていれば必ず拗ねているはずだ。 俺が恐る恐るハルヒの表情を見ると、意外や意外。 穏やかな顔がそこにあった。 大人になったなお前も。でもやっぱり少し無理してるだろ。 さて、この事態の当事者の橘は俺の姿を見て未だに硬直していた。 俺は力強く睨みつけると、橘は腰を抜かしたようにその場に座り込んだ。 「なんで…なんであなたがここにいるのよ…。おかしいじゃない。 あなたは死んだはずなのに」 俺はどうやらまだ死ねないらしい、と肩を竦めた。 そんな俺を橘が見上げていた、そこで何故か意を決したかのような顔をして、 「私はあなたに謝らなければいけません。それでも到底許されることではないと理解しています。 だけど、私は佐々木さんの為になにかしてあげたかった。 それが、人として間違ったやり方でも、佐々木さんにはずっと笑っていて欲しかった。 だから私は…」 もういいんだ、俺はそういって橘の言葉を遮った。 確かに俺はこいつにされたことを許そうとは思わない。 だが、人は憎しみに縛られて生きていれば、また人に憎まれる。 その連鎖から抜け出すことが出来なくなる。 だから、俺はお前のことは許したい。 時間はかかるかもしれないが。 「本当ですか…?あなたは…あなたって言う人は、本当にお人好し過ぎます」 橘は今までの緊張から解かれたかのように、泣き崩れた。 しかし、気になることがある。天蓋領域、周防九曜がいないということだ。 橘に聞いても知らないというし、古泉のほうを見ても肩を竦めるだけだった。 俺はあのなにを考えているか解らない宇宙人のことを考えながら神人を見上げ、 これをどうしたらいいものかと思い耽っていると、 長門が小走りでこちらに向かってきた。 「長門、大丈夫か?」 長門はコクリと頷き、 「朝倉涼子の情報連結を解除した」 といってはいたが、そのぼろぼろの姿に胸が痛くなる。 長門、すまなかった。そしてありがとう。 長門はコクリと頷いて、 「いい、私があなたを守りたいだけ」 と言ってくれた。こいつはいつからこんなに人間らしくなったのかな。 俺達にはそれ以上再開に浸る時間は残されてはいなかった。 神人が動き出したのだ、ハルヒと佐々木が抑えていたはずなのに。 俺達はとりあえず、ハルヒ、佐々木、橘、朝比奈さんを安全な場所に移動させた。 戦えるのは俺、古泉、長門だけだ。 俺が戦うというと古泉は、 「おや、あなたもこれで僕と一緒になれますね」 とニヤけ面で気持ち悪いことを言い出したので放っておく。 俺は長門にアイコンタクトを取った、こいつはこれで解るはず。 長門はコクリと頷き、 「平気、いける」 といっていた、こいつは心強い味方だ。 そういうと、古泉が横から割り込んできた。 「僕も勿論いけますよ。 しかし、あなたがどのような力をお持ちなのかは解りませんが。 頼りにさせてもらってもいいんですよね?」 あぁ、と俺は答えた。しかし、アイコンタクトの盗み見はよくない趣味だぞ古泉。 古泉はすこし肩を竦めて、 「それはあなたと僕が繋がっ」 と危ないことを言い出したので途中で俺は、 「いこう!」 と俺の言う言葉に二人は頷き、俺達は神人の元に駆け出した。 俺の不安は的中した。神人の動きが前に俺が見たときとは段違いで、 速い、つよい、でかい。 というまるでどこぞの店が看板に構えているような言葉が当てはまる程やばかった。 周りを見ると校舎がほぼ半壊している。 こいつ1体でこれかよ。勘弁してくれ。 と俺はいつもの定型句をまたこぼしていた。 やれやれ。 「こいつを壊すのは骨が折れそうだ」 俺が両手を広げ肩を竦めた。それに答えるかのように、 「僕はあなた達と一緒なら負ける気はしません。 元気100倍ですよ」 と自分では格好良いと思っているのか知らないが、変なポーズを取るな。 それではあれになっちまうぞ。 いっそ、パン工場で働いて来い。そっちのほうが機関よりましかもしれんぞ。 そんなやり取りを隣で見ていた長門が、 「バックアップップ」 と意味の解らないところで噛んだのは愛嬌だろうか。 まぁ可愛いからいいけどさ。 さて、そろそろ行こう。 そして、再び世界に光が差した。
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/4374.html
そうだ。俺は《あの日》が起きて以降、ずっと長門を気にかけてきた。こいつに何かあったら助けてやろうと、もう何も、長門が思い悩むことはなくしてしまおうと。そう考えてた俺は、少しずつ感情を露にしていく長門をみて安心していたんだ。 だが、今はどうだ? こいつはまた感情を爆発させて……今度は、一人で苦しんじまってるじゃねえか。言わなきゃ気付かないだって? アホか。こいつはずっと前にサインを出してたんだよ。それに俺が気付かなかっただけだろうが。 そう。何かが起きてからじゃ遅かったんだ。そして、俺はこれを起こさないようにすることは出来たはずなんだ。 だが、俺はその機会を無視してしまった。 俺は二回目の《あの日》、さっさと世界を修正しちまった。そして、もうやり残しはないと胸を撫で下ろしていた。とんだ大間違いだ。俺はあの時に眼鏡付きの長門を見て、あいつの確かな感情の存在に気付いたよな。それは間違いじゃない。そこからが問題なんだ。 ――俺は、それからどうした? 俺は……変わっていくあいつを守っていこうとしただけだ。それじゃダメなんだよ。俺は自分からもっとあいつに干渉しなければならなかった。それぞれの生き方ってのは大事にすべきだが、それ以前に俺たちは仲間じゃないか。もっと深く繋がって、支えあっても良かった。そうすべきだったんだ。今なら、昨日古泉が言っていた言葉の意味が痛いほど分かる。 そうだよ。俺は《あの日》があったお陰で、自分の気持ちを認めることが出来たんだろうが。そして、それから生き方も変わっていったんだろ。 けどな、それは俺が自分で変えたんじゃない。俺の心底に潜むものを長門が教えてくれて、長門が俺を変えてくれたんだ。なのに、俺は変わっていくあいつを見守っていただけだった。なんでだよ。あの日、長門は自分も変わりたかったんじゃなかったのか? それは、俺が変えるべきものじゃなかったのか? 「…………くっ」 ……あいつは俺に世界の選択を委ねた。 でもな。 俺がその決断を任されようとも、俺は長門に聞くべきことがあったんだ。ああ、あのとき、朝倉が消えていく間際に呟いていた疑問だよ。 ――長門の……望んだものについてだ。 世界を改変したキッカケは感情の爆発だったんだろうが、じゃあ長門は何を望んであの世界を作ったのか……俺は分かっているつもりだった。でも俺は、本当はなにも分かっちゃいなかったんだ。その願いをあの場所に置き去りにしてきちまったから、今長門は苦しんでる。そうなんだよ。俺が世界改変の瞬間に飛ばされたのは、実はあいつが自分の気持ちを訴えていた……SOSのサインだったんだ。 今わかった。これから《あの日》に向かってどうなるかなんて……そんなの、考えるべき問題になどなりはしない。 《あの日》はまだ……終わらせちゃいけない――。 そう思うと俺は喜緑さんに礼を言うことも忘れ、無心に長門と古泉の待つ文芸部室へととって返した。 教室内にはパーフェクトに無表情な長門が変わらぬ姿で鎮座しており、無表情というよりは青ざめた顔を浮かべた古泉は帰ってきた俺を認めるやいなやこちらへと近づき、 「長門さんは……どうなされたのです?」 俺は長門をチラリと見やると、喜緑さんから聞いた話を古泉に伝えた。このとき、喜緑さんになんの挨拶もしてなかったことに気付いた俺は、彼女に対して申しわけない気持ちを抱いたのだった。 「……そうですか。一度、死の概念が入ってしまった長門さんのパーソナルデータ……長門さんの人格とも言えるべきものは、情報統合思念体にイレギュラーを起こす懸念材料として……」 視線を落とし、顎を指で支えながら古泉が呟く。 「とにかく、俺は今から大人の朝比奈さんに会いに行く。《あの日》に行くかどうかを判断するためじゃない。行くために、なにがどうなのかってのを説明して貰わなけりゃならないからな」 午後の授業を受けている場合じゃないことは古泉も理解しているようで、 「……では、僕と長門さんは具合を悪くしたとして、保健室で待機しておきます」 無理に作ったスマイルでそう言う古泉に俺は、 「いや、二人にも来て欲しいんだ。多分、そのまま《あの日》に行くことになると思う。もしかしたら古泉、お前もあの瞬間に立ち会うことになるかも知れないんだよ」 「………?」 疑問符を浮かべる古泉。無理もない。俺はまだこいつに話してないことがあったんだ。それは俺の記憶が混濁していたから覚えたんだろうと思い、曖昧な意識の中で見たものだったから特に言わなかった。それは何か。 それは、俺が朝倉に刺されて意識を失う瞬間に見た……北校とも、光陽園学院のそれとも違う制服のハルヒの姿だ。 これが俺の真実見たものであれば、《あの日》に古泉がいなかったから行けないという理由は薄弱となる。そして俺が世界を修正した際、ハルヒの姿さえ見あたらなかったってことは……やはり《あの日》には、俺たちの知らない部分が大いにあるんだ。 しかも大人の朝比奈さんは、今度の規定事項には全員の力が必要だと言っていた。つまり、これからやる行動には古泉の力も絶対に必要なんだ。それがどんな形で必要になるのかは、朝比奈さん(大)に聞かなければ解らないが。 「……なるほど。《あの日》に僕が行けるかも知れない、というのは仮説として成立し得るでしょうね」 と言った古泉は沈鬱な表情を作り、 「ですが……僕が今からあの朝比奈さんの所へと行けるかどうかについては、また別の問題があるのです。僕の機関が、それをさせてくれるでしょうか?」 「古泉」俺は少しもどかしく思いながら「重要なのはそこじゃない。機関がお前にさせないと言ったとしてどうなる? お前はやらねえのか。重要なのは……お前が、やるかやらないかだろ」 「…………」 顔に影を落とす古泉。……こいつを動かすのは至難の業だと思っていると、 「……ちょっといいかなっ」 突然の闖入者の声に俺と古泉は意表を突かれ、声が聞こえてきた方へ覿面と振り向き返った。 「んと……キョンくんが走り回ってたからさっ、ひょっとしてみくる探してんじゃないかなーって思ってねっ」 鶴屋さんは笑顔の中に若干の気まずさを滲ませながら、開け放たれたままだった部室の扉から姿を覗かせていた。 「朝比奈さん……ですか?」俺は鶴屋さんに聞き返すように「いまから呼びに行こうかとは考えてましたが、何でそう思ったんですか?」 ひょっとして鶴屋さんは予知能力者なのかと思っていたら、 「みくるなんだけどね、今あたしん家にいるよん。ずっと前にみくる……から、うっとこの会社に注文されてたもんがあるんだけどさ、今日必要になったから取りに来るって言ってね」 「注文……ですか? そりゃなんの?」 「……それがちょっとワケありの代物なんだっ。古泉くんのバイト先のお偉い方と合同で作ってたんだけど、こっちは何作ってんだかちょろんとも分からなかったんだよねっ。開発コードネームはウラシマだったかな? ま、それが要るんだってんなら……キョンくんたちは今なにかやってるんじゃないかなって考えたわけだっ」 ……浦島? 未来人関係なら、時間の伸び縮みがどうのって理論のウラシマ効果となにか関係があるのだろうか。 「それにね、田丸さん御兄弟だったかなっ? あの人たちも、みくるを手伝いにトラックでうちに来るって言ってたにょろ!」 トラック? なんでトラックなんかが……? ――もしや荷台には工作員がうじゃらに潜んでて、『機関』が朝比奈さんの邪魔をしようと田丸さん兄弟を仕向けたのか? って、『機関』もそれを一緒に作ったんだし、それじゃ行動が支離滅裂だろう。うん? ……機関が合同で作った? 機関は未来人をあまり良く思っていなかったんじゃなかったか? 古泉もなにやら状況が飲み込めていないようだが……。 などと俺が思索していると、 「古泉くん!」SOS団名誉顧問である彼女は力強い視線を副団長に向けて、「なにが起こってんのかは知らないけどさっ、ハルにゃんのSOS団にはキミが必要なはずだっ。それは、古泉くんにしか出来ないことがあるからじゃないっのかなっ?」 このとき古泉はハッとしたような瞳の色を呈し、 「だからさっ、出来るか出来ないかでも……やるかどうかでもないと思うよっ。みんなには、古泉くんが必要なんだ! 古泉くんには……みんなが必要じゃないのかい?」 鶴屋さんは左手を腰に置きつつ顔の横に人差し指を上へ伸ばした右手を添え、ウインクしながら快活と言い放った。俺が古泉に目をやると、そこにはやんわりとした微笑を浮かべた古泉がいて、 「……そうですね。問題などありはしなかった。今の僕にはみんなが必要であるように、誰が欠けてもSOS団は成立しないのですから」 そして古泉は言った。 「行きましょう。あの場所へ。そこはもちろん……」 ああ。もちろんだとも。 「……公園へ急ごう」 そして現在、俺たちは公園にいる。 ここに来るまでも色々あった。どうせ『機関』には行動が筒抜けであるし、みだりな場所から学校を抜けると正当な理由で他者から捕縛されるだろうという理由から、俺たち三人は正面から堂々と学校をサボタージュしたのだ。 門を出ると直ぐに森さん(今回はカジュアルな服装だった)が緑のワンボックスカーからまろび出て、それはもう全速力で逃げようとする俺たちを諭し、森さんたち――運転手は新川さんだった――は協力する姿勢であると懸命に訴えてきた。古泉はずっと懐疑的な視線を送っていたが、実際問題徒歩の俺たちが森さんたちから逃げおおせるわけもなく、長門に何か頼むにも人目が多すぎた。 それで森さんの話を聞いていたのだが、彼女らと言わず『機関』はこちらの行動を阻む気など毛頭なく、むしろ支援の方向で助力してくれるということだった。どうやら機関の上層部に何か動きがあったようで、鶴屋さん邸にいる朝比奈さんを田丸氏御両人がサポートに向かっているのもそのためだったようだ。そして、森さんは古泉に関してこうも言っていた。 「古泉は、どうやら機関が自分の命の是非を問わず阻害してくると考えていたようです。そのようなことは、どう考えても起こりようがありませんのに」 さらに続けて、 「我々の特務機関は、言うなれば彼女(ハルヒだろう)が創設した組織です。身の危険に関しては、これほど安全が確保されている集団はありません。現に閉鎖空間での神人討伐の際、負傷者どころかかすり傷一つ負った者は御座いませんので」 ――ハルヒが、人が傷つくようなことを願やしないからか。 「はい。神人討伐が大変な労役であることには変わりありませんが、それは致し方ありません。そして『機関』はその規模ゆえ厳正に規則が設けられているのですが、組織の本質は彼女の思想と表裏一体なんです。内部には多様な思想が存在しておりますが、本流は彼女の望むところ……あなた方の赴くままへと指針は保たれているんですよ。それが世界の安定へと繋がっていると信じていますので」 なんだ。じゃあ古泉が憂慮してたことはまさに杞憂だったってことじゃないか。と俺が言うと、森さんはクスクスと秀麗な笑顔を浮かべ、 「古泉は若干特撮的展開への思考が強いですから。ですが、古泉の葛藤はそれだけSOS団の皆さんを思っていたゆえのことでしょう。まあ、そのため今日は突飛な行動を起こす可能性がありましたので、わたしたちはここで監視をしていたんです。機関の車だと衆目を集めてしまいますので、このワンボックスカーでね」 この語り口から、俺には森さんたちが信用の置ける人々だと感じ、そして公園まで送って貰ったという運びになったわけだ。正直走り出したは良いものの、公園まで走らなきゃならんのかという他愛のない考えもあったし。 「ホントに……来てくれて良かった。あのときは動転して、ロクなことを伝えられなくてごめんなさい」 「お母さんが謝ることなんてないっ。先輩、お母さんね、あの後泣いてたんだよ。なにがあったの?」 詫びる言葉も見つからない程にひどいことを言ってしまったのさ。……朝比奈さん(大)、泣いてたのか。古泉、俺を殴ってくれ。 「意味がありませんね」 との一言で古泉は俺を一蹴し、俺に棒立ちで気まずい思いをさせるという精神的ボディーブローをかまし、 「それより……初めまして、みゆきさん。そして初めましてというよりは、お久しぶりですと言ったほうが良いでしょうか。可憐な少女の未来に相応しい艶姿ですね、朝比奈みくるさん」 「ふふ。お久しぶりです。古泉くん」「フフ。あたしもお久しぶりって感じです。古泉先輩」 あらためて比べると、ホントに良く似た家族だと思うね。 「キョンくん……昨日はごめんなさい。わたしはあなたの気持ちについてもっと良く考えるべきでした」 おずおずとした雰囲気で言い放つ朝比奈さん(大)に、 「そんな、俺こそスミマセン。今日こうなることは当たり前だったと、自分で気付かなかったのが悪いんだ。……でも、もしかして俺の昨日の行動も規定事項じゃなかったんですか?」 「いえ、キョンくんに手紙を渡せなかったのは予想外の出来事だったわ。ビックリしちゃった。それと、あの手紙の内容はもう済んでます。ここにあなたたち三人で来てもらうことと、涼宮さんには内緒にして欲しいってお願いでしたから。昨日のあの後は……正直、気が気じゃありませんでした。もし涼宮さんに話が伝わってしまっていたら、アウトでしたから」 だとしたらちょっと前に世界終了一歩手前だったが、朝比奈さん(大)も朝の状態の俺にまた手紙を渡そうものなら何を起こすわからないために連絡出来なかったんだろうね。……それはとにかく、現在は無事に過不足なく進行しているようだ。 「長門おねえちゃん……?」 と……朝比奈みゆきは虚に沈んだ長門の顔を訝しげに覗きこみ、長門の周囲をキョドキョドと動き回っている。 ――そういえば、この子は長門から朝比奈さんへの託し子だったんだよな。長門の子供って……父親は誰なんだろうか、いや、あまり深く考えるのはよしとこう。色々と連想しちまう……って俺はなにを考えてるんだろうね? まあ、本人には秘密っぽいのでうかつな話は出来ないな。 俺が朝比奈さん(大)に進展を求める目線を向けていると、神妙な面持ちで頷いた大人の朝比奈さんは、 「みゆきちゃん。長門さんは今……とっても疲れているの。あまり迷惑かけちゃだめよ。こっちにおいで」 「やだっ、先輩のところがいいっ」 そう言いながらドスンと俺に抱きついてくると、顔なじみの野良猫がもつような愛嬌の良さで俺の顔を見上げてきた。妹にお兄ちゃんと呼ばれない分がこれで帳消しになった気がするね。 「もう」 笑みが混じった感じのやれやれといった顔を大人の朝比奈さんはへ浮かべる。 そして古泉は朝比奈さん(大)へと真面目な視線を向けると、 「……時間が余分にある状況ではないと思いますので、失礼ですが話を進めさせていただきます。あなたには色々お聞きしたいことがありますのでね。今日は答えてくれるのでしょう?」 「……ええ。わたしはそのためにここにいますから」 俺は朝比奈みゆきを体から少し離しつつ、 「本題に入る前に、一つ聞きたいことがあるんですが」 どうぞ、と笑顔で答える朝比奈さん(大)に、 「藤原が言ってた本来の歴史ってのは、あいつらにあの事件を起こさせるための嘘だったんですか? 佐々木と俺の関係がどうだってのも……」 朝比奈さん(大)はふるふると髪をなびかせ、 「いいえ。佐々木さんの気持ちが嘘なんかじゃないっていうのは、キョンくんが一番良く知っているはずです。そして、現世界の構成から矛盾を排除した場合……というより、キョンくんと涼宮さんが出会わなかったら、彼が話した通りの世界が存在していたと予測されます」 それも腑に落ちないんだ。ハルヒの能力発現時、俺は全くの他人だったというのに、なんでそれに俺が関係してるんだろうか。 「それは……今からキョンくんに、能力発現以前の中学生の涼宮さんを迎えに行ってもらうことが関係しているの」 「……涼宮さんが時空を改変する前へと時間遡行する、ということでしょうか? それはTPDD……いや、未来人にとって不可能なことで、そのためにあなた方は現代へと舞い降りたのでは?」 古泉の言う通り、そうだよな。大人の朝比奈さんが言ってるのは、時空の断層を超えて過去に行けるってことだ。 「確かに時間平面破壊装置では、能力発現以前の世界の姿である次元構造を渡ることは不可能です。だけど、それが不可能な理由を思い出してみて?」 藤原は、無限のエネルギーがないからだって言ってたっけ。 「ええ。そして、その問題は物質的なTPDDのエネルギーをもって解決出来るんです。これはつまり、物質的なTPDDをまるごと時間平面破壊装置で飛ばすってこと」 ……なるほど。と思っていると横から古泉が、 「……もしそれが可能ならば、何故藤原さんたちはそのTPDDのハイブリッド方法で過去に向かわなかったのですか?」 もっともなことを言い出した。朝比奈さんは、 「それについてはTPDDの詳細についてお話しするといいかな」 一呼吸置いて、 「まず二つのTPDDは、ハカセ君が遺した二大理論を基に構成されています。時間平面理論からは時間平面破壊装置が、そして時量子理論からは時粒子転換探知装置……タイムパーティクルスダイバージョンディテクターが作られたの。この時粒子転換探知装置は小さいわたしが現在取りに行っているもので、古泉くんの『機関』と鶴屋さんたちに制作を依頼した機械になります。そして藤原さんたちが使っていたTPDDは、実はその二つを混合させた完成形のTPDDで、わたしの組織の上層部がそのTPDDの動作を制限して藤原さんがこの時間平面にやってくるようにしたんです。そしてハイブリッドされたTPDDは……みゆき。あなたが今から完成させるの」 「ふえ、あたしが?」 キョトンとした顔で目をパチクリさせる朝比奈みゆきに、 「これから過去に行って涼宮さんを連れてくるために、みゆきには二つのTPDDを同時制御で操作してもらうわね。これはとても難しくって、みゆきにしか出来ないことなの。そして、みゆきの情報処理制御パターンをある基盤に焼きこんで、みんなが運転できるようにする部品も作るから……頑張って」 そう言って朝比奈さん(大)は俺と古泉へと向き返すと、 「では、今からSTC理論について少しだけ補足します」 ……古泉。お前の出番が来たみたいだぞ。 「うふ。そう構えないで大丈夫です。実は現状の世界を形成しているSTC理論は、音楽理論と一緒なんです」 「……なるほど。それならば、全ての現象が非常に分かりやすい」 「どういうことだ?」 古泉は手の平を俺に向けながら、 「STC理論、つまり時間平面理論による世界とは、単一では意味を成さない音符を連続させ、それによって紡ぎ出される『旋律』だという理屈ですよ。そして世界の歴史は、それまでの旋律が記された『楽譜』であり、朝比奈みくるさんは未来の『楽譜』なのです。こうやって考えれば、エンドレスエイトが簡単に説明出来ますね」 「へえ」と俺が言うと、 「そう。エンドレスエイトとは、コード進行のみを決めてあとはアドリブで演奏するジャズだったのです。そしてエンドレスエイトの繰り返しは、あの二週間分を反復して演奏していたのですよ。譜面上では最初に戻ったとしてもそれは曲が逆行するわけではなく、一回目に続いて二回目を演奏するだけなので、あのエンドレスエイトは一列に繋がった一つの曲であると言えます。だから僕たちは、以前のシークエンスの影響を受けていたのでしょうね」 朝比奈さんはこくりと頷き、 「その通り。そして規定事項は、未来の『楽譜』と『旋律』を等しくするための行動なんです。時間遡行は、未来人という『音』が過去の『旋律』に紛れるということ。そこでは未来人は只の雑音なので、基本的に『旋律』を変えてしまうことはないんです。ですが、イレギュラー的に『音』が加わって『旋律』が変わってしまうという事態や、自分の楽譜と過去の旋律が不一致しているなど矛盾した結果も発生してしまうの。……次は、これからの行動についてお話します」 これからの行動……ハルヒの中学時代と、《あの日》に行くことだ。 「能力発現以前の涼宮さんを迎えに行くことには、二つの意味があるんです。一つは、《あの日》での行動に涼宮さんの力が必要だからということ。そしてもう一つは……彼女にかけられた呪いを変えるため」 「……ハルヒに呪いが? 中学生のハルヒに、どんな呪いがかかってるっていうんですか?」 呪いっていうのはものの例えなんだけど、と続けて、 「……わたしが以前話したことを思い出して下さい。自分の知っている過去とは違っている過去、そして、本来生きていなければならない人が死んでしまう過去のこと。……今からキョンくんには、それを変えてもらうんです」 「それって……ハルヒが死んじまうのを変えるってことですか?」 ……ここで朝比奈さん(大)は暗い顔を浮かべ、少し沈黙した後、 「涼宮さんの呪いについては……簡単にいえばね、中学生の彼女は『いばら姫』なの」 いばら姫……つまり、眠り姫か。たしかその話は諸説あったが、お姫様が預言者たちから順番に贈り物をされていると一人の預言者から死の呪いをかけられてしまい、残りの預言者がその呪いを『眠り』の呪いに変える話だ。 「うん。それでね、物語の預言者が未来人だと考えてください。そして、『呪い』について今からお話します。まず……中学生の涼宮さんがキョンくんと出会わず、能力の発現が起こらなかった場合、将来キョンくんは佐々木さんと親密な関係になります。これは二人が中学時代に両想いで、キョンくんが涼宮さんと親しい関係ではなかったから。そしてSOS団を結成しなかった涼宮さんは将来、一人で道を歩いていたときに――えっと、その……」 朝比奈さん(大)は悲しそうな表情を作って「……禁則です」と呟いた。それが本当に禁則である感じはしなかったが、いばら姫の『呪い』を考えると……あまり詳しく聞きたいことじゃないな。俺がそう考えていると古泉が、 「……つまり、それが涼宮さんにかかっている『いばら姫』の呪いであり、その呪いを『眠り』に変える預言者が……朝比奈さん。あなたというわけですね」 「そんなところです」 そう朝比奈さん(大)は答え、俺は……一つ考えていた。 彼女の話によると、ハルヒが世界を変えちまうのは、俺の今からの行動が原因なんだろう。 つまり……。ハルヒに神様じみた能力を付加させたのは――俺なのか? すると公園の前に一台のトラックが停止し、後を追従していた黒塗りのタクシーから二人の人影が乗り出してきた。 「すっすみませんっ! ……遅れちゃいまし――」 その人は朝比奈みくるさん(小)で、後には喜緑さんの姿があった。 「……あ、」朝比奈さん(小)は目を丸くして大人姿の自分を目に入れると「上の……人ですよね? ってゆーか、やっぱり……」 「……お疲れさま。あなたが感じていた通り、わたしは朝比奈みくるです」 「あ、朝比奈先輩だっ。フフ。あとは涼宮先輩だけですねっ」 「ほえ? ……あ。もしかして、この子がみゆきちゃん……?」 これはスリーカードになるのかなと思いつつ朝比奈さん(小)に抱きつく朝比奈みゆきを見ていると、朝比奈さん(小)は長門を見て、 「――そっか。あの子がこんなに大きくなったんですね、安心しました」 この言葉を聞いたみゆきは不思議そうに、 「あの子って何ですか? あたしは先輩の……」 朝比奈さん(小)は自分の口を手で覆って、 「そ、そうでしたっ。みゆきちゃんは、あたしの将来の子供なんですよね。とにかく、可愛く育ってくれて嬉しいです」 えへへ、と笑いながら朝比奈さん(小)に頭を撫でられているみゆきと、それを微笑ましく見つめる大人の朝比奈さん。俺は喜緑さんに、 「……さっきは失礼しました。身勝手な行動をしてしまって」 「いえ、構いません。事態は急を要するので」 喜緑さんは大人の朝比奈さんに体を向けて、 「長門さんに生じた問題を解決するために、情報統合思念体も出来る限りの協力をする意向です。わたしがここに呼ばれたのも、そのことについてなのでしょう?」 「……はい。次元の世界を渡るためには、情報統合思念体の協力が必要なんです」 朝比奈さん(大)は集まった俺たちを見回し、 「これで役者は揃いました。それでは……今から、それぞれの行動についてお話致します」 「まず、キョンくんとみゆきには中学生の涼宮さんを迎えに行ってもらいます。みゆき、昨日教えた魔法の使い方はしっかり覚えてる?」 「うん、大丈夫っ。機械を操縦するときに使うんだよね?」 ……魔法、ね。恐らく情報操作能力のことだろう。大人の朝比奈さんはみゆきに頷くと喜緑さんへと顔を向け、 「そして二人が過去に向かうために、喜緑さんには思念体へアクセスしてもらって、時空改変以前の涼宮さん以外の世界の時を止めて貰います。よろしいですか?」 「了解しました。それだけでいいのでしょうか?」 やんわりとした笑顔で答える喜緑さんに、 「いえ、もう一つ。……長門さんの思念体を、凍結状態から復帰させてください。そして――」 大人の朝比奈さんは振り返り、今度は古泉に向かって、 「キョンくんとみゆきが過去へ行っている間、古泉くんには、長門さんの思念体と共に四年前の七夕の、長門さんの部屋へ行ってもらいます。そこでは、わたしとキョンくんが《あの日》へ行くために訪ねてくる予定ですから、わたしたちがやってくる前にリビングの隣の部屋へと隠れていてください」 それって、俺が長門の作り変えた世界から脱出プログラムで過去の七夕に飛んだ後、長門から話を聞くためにあいつの部屋へ行ったときの話だよな? あそこで長門は、隣の部屋は俺と朝比奈さん(小)のために丸ごと時間を止めたから開かないって言ってたはずだが……。 「そうなんですか?」 朝比奈さん(大)が俺に聞いてきた。 「ええ。っていうか、あなたも居たじゃないですか」 「そっかぁ」と何やら考える様子で、 「じゃあ、扉を開けられないように気をつけないといけませんね」 「……どういうことです?」 「……えっと、」少し思案顔を浮かべた後、俺に微笑みながら「このわたしは、まだその七夕でキョンくんを導いてはいないの。それはわたしが、これから行うことです」 ……つまり、あの七夕の日に来ていた大人の朝比奈さんは、この朝比奈さん(大)だったってことなのか? 「そういうことです。今のわたしは、世界の歴史を整えるために、上層部からの指令をみんなに説明をするよう頼まれているだけなの。わたしもこれからあの七夕へと向かって、世界を修正するために頑張ります」 パチリとウインクをかまし、そして朝比奈さん(大)の放ったハートマークが俺の顔に当たるまでの束の間、俺の生体活動は停止していたかのように思われた。 ――なんてこった。じゃあ、長門と俺と朝比奈さん(大)があのアパートで《あの日》について話していたとき、隣の部屋には……古泉が居たってことじゃないか。なんとゆーか、あいかわらず眩暈がするね。 朝比奈さん(大)は古泉へと面を返し、 「古泉くんには、あなたにしか出来ないことをお願いします。そしてそのまま、小さいわたしがこの規定事項を終えて迎えに来るまで待っていて下さい」 古泉は真剣な顔で首肯すると、 「……なんとなく、僕がやるべきことは感じています。つまり僕は、副旋律を担当するのだと言うのでしょう?」 「……副旋律? なにがだ?」 俺がそう聞くと前髪をピッと弾き、 「これから行う規定事項で、僕たちはそれぞれ自分のパートを受け持つということですよ。音楽的にいえばつまり僕らは演奏者であり、《あの日》へと直接赴くあなた方は主旋律を担当し、そこへ行かない僕は副旋律を担当するようなもの。そして、長門さんが変えてしまった世界から続くこの世界は、この規定事項を完遂させた結果……言わば一つの楽曲なのです。あなたの行動によってあの三日間が発生し、僕のこれからの行動には……恐らく、長門さんの小説が関係しています」 「あいつの小説が? どうしてだよ」 古泉は少し悩んだような顔を浮かべ、 「……僕はずっと、思念体が長門さんを疎遠にしていた問題の答えは、彼女の小説の三枚目の中にあると考えていました。あれに書かれている内容ですが……まず、棺桶というワードに『死』という隠喩があるのは間違いないでしょう。次に、その小説の中で長門さんらしき人物はその『死』を望んでいて、そしてその『死』を阻む存在として、僕や朝比奈さんらしき存在が示されていました。そして物語は顛末を見ないままに終えられている。僕は長門さんに後のストーリーについて聞いてみたのですが、彼女は、この小説は殆ど無意識に近い状態で書き綴ったために答えることが出来ないと仰っていました。そして今……長門さんは『死』を願った代償として思念体から制限を受け、記憶をなくしてしまっています。――これから僕がやることは、あの小説の中で表現されている……彼女が忘れてしまった自らの発表するものを思い出させることです」 「つまり、お前は何をするんだ?」 古泉は大人の朝比奈さんに意味ありげな目配せをして、 「……とにかく、僕は長門さんが抱える問題を解消します。ですが、僕の行動にもあなたの協力が必要不可欠です。なので……」 古泉は決心に満ちた視線で、 「――許可を」 もちろん良いに決まってる。何をするのかはわからんが、わざわざ許可を得る必要なんてないぜ。 「そう言ってくれると信じていました」 古泉は目を細くしながら言い、 「あの小説を読解しましょう。長門さんの忘れている自分が発表するものとは、僕たちも知らない『長門さんが望んだもの』だったのです。そして発表会とは、《あの日》のこと。……僕は、長門さんが発表の舞台へと戻ってこれるように尽力します。あの物語を紡ぐのは、長門さん自身なのですから」 ……ってことは、あの長門の小説は何かしらのヒントだったのか? じゃあ、他の一枚目と二枚目にはどんな意味があるんだろうか。 「ええ。経緯はまだ不明ですが、恐らくあの小説は、長門さんの識閾下から綴られた僕たちへのメッセージだった。そして、二枚目については何となく見当が付いています。あの二枚目こそが長門さんの思い出であり、長門さんの歴史なのでしょう。現在の長門さんはそれを失ってしまっているので、僕はこれから、あなたの協力を得てその失われたページを取り戻すのです」 「……そっか」俺は長門を見る。「……こいつは、こんな風になっちまっても、俺たちを助けてくれるんだな。――次は、こっちが長門を助ける番だ」 ここに集まった全員が一致して頷き、意思の固まりを確認する。大人の朝比奈さんは俺へと微笑み、 「……では、行動を開始します」 さて。俺が今からやるのは、みゆきと一緒に中学ハルヒを連れてくることだ。 俺とみゆきが大人の朝比奈さんに率いられてトラックへと向かっていると、 「中学生の涼宮先輩、どんな感じなんでしょうね? フフ、楽しみです」 みゆきが無邪気に話掛けてきた。なに、俺は一度会ったことがあるが、中学のハルヒは身体的特徴が若干小さいだけで、全く今と変わらんさ。 「フフ。涼宮先輩らしいです」 クスクスと笑みをこぼし、前を向く。そしてトラックの荷台の後部へと着くと朝比奈さん(大)は扉を開け、 「……これが時粒子転換探知装置、タイムパーティクルスダイバージョンディテクターです。一般的な概念から言えば、このTPDDこそがまさにタイムマシンと言えますね」 「ん、」 俺は呟く。中に入っていたのは、一般乗用車程度のサイズのお椀を伏せたような形状の半球から、車ならタイヤがあるべき四方の位置に三十センチメートルほどの突起物が等しい形で付いており、こちらへと向いている正面には、それらよりも二倍ほど長い突起物が……ええい、説明が面倒だ。それにこれはどっからどう見ても……、 「亀じゃないですか」「うわあ、大きいカメさんですね」 そのフォルムはまさに亀であった。 「これは、時量子理論が基になったTPDDなの。この形に意味はないんだけど、ハカセくんがあのとき、川の流れの中を泳ぐ亀を見たことによって生み出されものだから……ふふ、単なる遊び心です」 えらく茶目っ気の効いた科学者たちだなと思いながら、俺は藤原の言葉を思い出していた。 なるほど、物質的なTPDDの形は浦島太郎ね。あいつは俺をおちょくりやがったわけじゃなかったのか。ってことは、もしかしたら浦島太郎の話は実話なのかな。 「うふ。禁則事項です」 大人の朝比奈さんはそう言ってみゆきに、 「じゃあ、今から時空間の座標を教えるね。みゆき、手を出して」 みゆきが差し出した小さな手のひらに朝比奈さん(大)がちょんと触れると、 「りょーかいっ。フフ、失敗しないように頑張ります」 頑張ってね、と言いながらみゆきの頭をナデナデしつつ、 「……じゃあ二人とも、これから直ちに出発して下さい。キョンくん……健闘を祈ります」 「了解しました、朝比奈さん。あのじゃじゃ馬娘を、縄ででも繋いで引っ張ってきますよ」 ――よし。今から……中学生を拉致しに行くとするか。 第四楽章・再
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/1086.html
第五章 「喜緑です。覚えていますか?」 「忘れる筈がありませんよ。」 それにしても、どうやって此処へ入って来たのだろうか。 「あばら骨にひびが入っていますね。今治してあげます。」 喜緑さんは俺の胸をさする。すると、不思議なことに、痛みが退いてきた。 「有難う御座います。」 「次は古泉君を。」 喜緑さんは古泉の方へ行って治療する。 「大丈夫か?古泉。」 「えぇ、なんとか。それより、気付いてますか?」 何が? 「長門さんが押されてきました。」 「あのままでは、マズいですね。」 「なんとかならないのですか?喜緑さん。」 「今から、情報統合思念体とデータリンクします。5分程時間を下さい。」 「分かりました。なんとか時間稼ぎをしますよ。」 「5分もつのか?10秒保たなかったお前が。」 「やらないで後悔するより、やって後悔した方がましですよ。 今は、僕が少しでもやらねばならないのです。」 いつの日かどこかで聞いた言葉だな。 「死ぬなよ。(嘘)」 古泉はグッと親指を立て、赤い玉になり、飛び発った。 「それでは、わたしも準備をします。」 喜緑さんは、何かを唱え始める。 「WORKING-STORAGE SECTION. 01 EOF…………」 全く理解出来ない呪文を唱える。しかも、だんだん早口になる。 周りから見れば、頭のおかしい人みたいだ。 俺は何をしようかな。 「ちっくしょぉぉぉぉぉぉぉー!!!!」 いきなり奇声が聞こえた。 びっくりして空を見上げると、古泉が幾つもの赤い玉を放っている。 頭が一番おかしいのはあいつだな。呑気にこの状況を眺める俺も十分おかしいが。 「まだですか?そろそろやばいですよ。」 「今データのサーチとダウンロードを同時にやっています。 MOVE SIN-CODE(IDX) TO K-CO………」 なんか、腰が抜けてきた。 足がふらふらして、地面にぺたりと尻をつく。これでダメなら、どうしよう。 「ハルヒ………」 不意に、口から漏れた言葉に恥ずかしくなる。 「END-SEARACH END-READ END-PERFORM CLOSE SIN-FL KI-FL STOP RUN. 終わりました。」 「そうですか。」 「朝倉さん。降りて下さい。」 朝倉は手を止め、降りてくる。 長門と古泉は、じっと朝倉を見つめて動かない。 「来てたの。」 「来ちゃいました。」 「これが、情報統合思念体の意思ということ?」 「そうです。」 「わたしが抵抗しても、無駄ね……潮時か。」 「大人しく、消えますか?」 「おでん、食べたかったな。」 「情報構成抹消開始。」 「さようなら。みんな。もう、多分もう会わないけど。」 朝倉が消えていく。 「何をしたんですか?」 「彼女を構成している情報自体を削除しました。修復はほぼ不可能です。」 周りの風景が砂のように崩れ、俺が最初に見た荒れ地が姿を表す。 「時間がありません。わたし達もこの空間から帰りますよ。」 「わたしにつかまって。」 俺は長門の小さな手を掴んだ。 古泉は喜緑さんの手を掴む。 「それでは、行きますよ。」 喜緑さんがそう言うと、空間が歪む。 目眩がしてきた。 あぁ、気持ち悪い。 「………え?」 「やっぱり、やめた。」 夕日が差し込む。 通い馴れた部室。 長門の本が詰まった本棚や、 朝比奈さんの身に着けたコスプレ衣装。 古泉の持ってきた卓上ゲームと ハルヒが強奪したパソコン達。 全てが紅に染まる時。 その中に、俺とハルヒは包まれる。 生暖かい鮮血のような紅。 いや、 それは紛れもない血であった。 「キョン……ごめん……ごめんなさい。」 「何……故……?」 「分からない。分からないのよぉ。」 痛ぇ。 状況を把握したいが、意識がもうろうとする。 終わったな。俺。 最後に見えたのは、ハルヒの切腹だった。 唇にそっと何かが触れる。 「今、あたしも行くからね。」 くそったれ………バカハルヒ。 「大好き。………バカキョン。」 視界が真っ赤になる。ハルヒの血だろう。 そして、意識が途絶えた。 ……b……o…… …バ……ロ!! バーロー? 「バカ、起きろ!!!」 耳をつんざくような声がした。煩いぞハルヒ。 「全く、仏になっても寝るとは、いい度胸ね。」 仏が眠ってはいけないという規則は、聞いたことがない。 そんな事より、人を仏呼ばわりするのは早過ぎではないか? すると、ハルヒは大きな溜め息を吐く。 「呑気なものね。あんた、鈍感というより、マヌケよ。下見なさい。」 「おぉ!?」 下には俺とハルヒがいた。良く出来た人形だな。 「これが人形に見えるなら、あんたの目はふしあなよ。」 なら、ドッペルゲンガーか? 「んな訳ないでしょ!!もういい。やめて。こっちが恥ずかしい。」 こういう時は、状況整理が必要だ。 今日の事から思い出そう。 起きる。 寝る。 起こされる。 朝は、パンに味噌汁がベスト。 学校行く。 手紙ある。(5時に教室) 足し算を間違える。 就職を漢字で書けない。 5時に教室へ行く。 ハルヒに襲われる。 長門が止める。 夢の中へ 朝倉やっつける。 ハルヒに刺される。 パトラッシュ。僕もう、だめぽ。 と、いう訳で、俺達は死んでしまった。 不思議と悲しくはなかった。ハルヒと一緒だからだろうか。実感が湧かない。 もし一人なら、死んだことに気づかず、地縛霊になったのだろうに。 しかし、疑問が残る。何故、長門がいない。前回(夢の中)朝倉が言った事と関係があるのだろうか? 気は乗らないがハルヒに聞いてみるか。 「長門は?」 「今日は一度も会ってないわ。」 「夢を見たよな。」 「は?見てないわよ。それってなんの話よ。」 「だけどよ………」 それで俺は口を止めた。これ以上、話をしても多分無駄だろう。 「ごめん、キョン。」 「謝る必要ないさ。」 「ごめんなさい。あんな事して。」 今日のハルヒは謝り過ぎだ。 喜怒哀楽が激しい人間だな。こいつの場合ほとんど「怒」の割合が多いが。 しかしおかしい。何か変だ。どこかに矛盾があるような。 その時、ドアが開く。 「有希!?」 長門が入ってくる。 「…………。」 部屋に入ると。辺りを見回す。どうやら、俺達には気づかないようだ。 「…………。」 長門は何か呟くと、その場から立ち去った。 「何て言ったのかしら?小さすぎて聞こえなかったけど。」 「分からん。」 長門のことだ。もしかしたら、何か知ってるはずだ。 しかし、さっきの様子は明らかに俺に気づいていない。 期待と不安が入り混じる。あいつを使えばもしかしたら……… 「きゃぁぁぁぁー!!」 な、何だ!? 「バド部の連中だわ。部活帰りに立ち寄ったのね。」 その後、救急・警察が来て、俺達の死亡が世間へ広まった。 警察は俺達の事を、無理心中と判断した。 どこぞの名探偵が来たが、お手上げらしい。 世間もそれで納得したらしく、「可哀想」の一言で片付けられた。 その後、ハルヒとこれからどうするかを話ていると、目の前に誰かが現れた。 「こんばんは。」 20代の女性だろうか。日本人に見える。この人も幽霊なのだろうか。 「見えてるようね。あたし達のこと。」 どちら様です? 「簡単にご説明すると、あの世の者です。単刀直入に申し上げます。今すぐあの世に逝きますか?」 いきなりそんな事言われても困ります。 「大概の方がそうおっしゃられます。 ですので、こちらの時間で、えーっと………49日程の死亡猶予期間が与えられています。 それを過ぎると罰則が加担されます。」 「待て。何故俺達が、あなた達の規則に合わせねばならないのです。 死んでも、誰かに縛られるのは嫌ですよ。」 「ごもっともな意見です。しかし、本来死亡なされたあなた方は、下界に干渉する権利も御座いません。 また、下界に霊がごちゃごちゃいても、困りませんか?」 頷くしかなかった。 「逝きましょう。キョン。あたし達がこの世にいても、邪魔なだけよ。 死んだことは事実だし、それを受け入れるのが礼儀よ。」 「宜しいのですか?」 「だが断る。」 「何で?」 「俺の家族への挨拶はどうでも良いが、俺はお前の両親への挨拶くらいはしたい。」 「それって……」 ハルヒは顔を赤らめる。 「うふふ、分かりました。では、また49日後に迎えに来ます。」 「すみません。有難う御座います。」 「お幸せに。」 そう言うと、彼女はどこかへ消えて行った。 「キョン……こんな…あたしで良いの?」 「あぁ勿論。」 「うぅ……あ゛り゛がどう゛。」 泣くのか? 「な゛、泣いだりじない゛。ぢてないわよ。」 「行こう。」 「……うん。」 そっとハルヒの肩を抱き、両親へと挨拶に向かった。 「あったかい。」 「おばけなのにか?」 「気分だけよ。」 翌日、学校ではこの事を公表する。泣く人あれば、知らん顔ありだった。 クラスで岡部が泣いたのには笑った。 自分のために泣いてくれているというのに、不謹慎だな。俺は。 女子の方々は、大体の人が泣いていた。 男は、担任の岡部しか泣いていなかった。 谷口の姿はまだ見えない。国木田は、どこか上の空だった。 「あんまり面識の無い奴までが泣いてるなんて、変な気分ね。」 「同情してるんだろうよ。バカなカップルが将来を苦にして、自殺。 ロミオとジュリエットとは似て非なる話だ。 だが、お涙頂戴な悲劇には、相当するんじゃないか?」 「カップルに見えてたのかな……あたし達。」 おばけのくせに頬を赤らめてハルヒは言った。 どう返答すれば良いか分からず、ぶっきらぼうな返事を返すと、 ハルヒは「ごめんなさい」などと、謝る。今更謝られても仕方ない。 「気にするな。」と頭を撫でると、今度は泣く始末。 かなりの大音量だったので、誰か気付くのではと思ったが、 やはり、おばけの声は気付かないらしい。この1時間後、ハルヒはやっと泣き止んだ。 「今日は家に帰る。あんたも自分の家族に最後の別れくらい言ってあげなさい。 それと、明日は10時に駅前ね。SOS団のみんなに会うわよ。じゃあ解散。」 俺の返事を待たず、ハルヒは帰ってしまった。俺が断る訳は無いけどね。 前日は、家に帰らなかったから、久しぶりに見える。 家に入ると家族全員が揃ってた。 母親は洗濯、親父と妹はテレビ。 休日と変わらないような生活。 しかし、どいつもこいつも湿気た顔をしていた。 見ていて、こっちまで陰気臭くなる。 おっと、こんな事している場合じゃない。 ………いたいた。 「みゃー。」 よう、シャミ。見えてるみたいだな。 シャミセンはじっとこちらを見つめている。 悪いが、体借りるぞ。 第六章へ
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/4441.html
暑い、何故こんなに蒸し暑いのだ。まだ6月半ばだというのに、 この焼けるように暑い日差し、まだ梅雨独特のまとわりつく湿気。 唯一の救いは衣替えが済んでいるという事だけだ。 そんな憂鬱な気分を抱きながらいつものハイキングコースを歩 いていると、太陽より暑苦しい奴が側に駆け寄ってきた。 「おはよう、キョン!」 あぁ、おはよう。しかし、なんでこいつはこんなに元気なんだろ うね。いつもなら机に突っ伏して、暑いといいながらダウナーな 雰囲気をかもちだしつつ、不機嫌な面でいつも後ろの席にいるの に何か良い事でもあったのだろうか。 「なによ、元気ないじゃない。SOS団の一員ならこんな暑さに負 けるんじゃないわよ!」 いつも暑さに負けてる奴がいっても説得力はないんだがな。っと 心の中でつっこみを入れながら、はいはいと軽く受け流しておこ う。まぁ、しかし怒りながら笑うという器用な真似をするこの団 長様、傍若無人唯我独尊猪突猛進女の涼宮ハルヒは、いつも悪巧 みを思い付いた時の顔でニヤけていた。 「実はね、いいこと思い付いちゃったのよ!」 あぁそうかい。っと軽く流したのが俺の過ちだった。 「なによ!せっかく良いこと思い付いたのに、あんたも少しは喜 びなさいよ!」 やれやれ。などと俺のお決まりの常套句が口からこぼれた。 こいつは思い付いたが吉、エンジン全開で駆け抜ける。 俺はそんなことにいつも振り回されて、結局一番苦労する羽目に なるのは、お決まりなんだ。 「うるさい!あんたは雑用なんだから当たり前よ!あ・た・り・ ま・え!」 おっと、声に出ていたか。俺は、はぁ…っとわざと大きく溜息を ついた。そんなやりとりをしていたら、校門が目前に迫ってきて いた。しかし、朝から何だろうね。 ともかく、この頃の俺にはこれから起きる事なんてまったく知る よしもなかった。知ることが出来ても、知りたくないんだが。
https://w.atwiki.jp/negipedia/pages/58.html
涼宮ハルヒ