約 3,071,502 件
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/2702.html
『涼宮ハルヒのプリン騒動』 ―2日目― くそっ、昨日は古泉のせいでえらい目にあったぜ。 ま、まぁ二人でデートみたいな感じになって楽しくなかったことはないんだが。 が、それとこれとは話が別だ。俺をハメた罰は受けてもらわないとな。 授業が終わり、周りを見回すと、ハルヒの姿はすでになかった。 もう部室に行ったのか?まぁいい。俺もとりあえず行くとするか。 いつものようにおそらくはハルヒがすでにいるであろう部室のドアをノックすると、 「はぁぁい、どうぞぉ」 可愛らしい朝比奈さんのボイスが部屋の中と俺の頭の中に響き渡ったが、部室にハルヒの姿はなかった。 「あれ?ハルヒまだ来てませんか?」 「え、まだ来てませんよぉ?」 あいつ、一体どこ行ったんだ?また変なことやってんじゃないだろうな。 「ところで朝比奈さん、今日はメイド服じゃないんですね?」 「え、あ、えぇ、そうなんですよぉ」 今日の朝比奈さんは何故だかメイド服ではなく、制服のままだった。 「着替えます?なら外に出てますけど」 「あ、いいんです。今日はこのままで」 ん?どういうことだ?すぐ帰ったりでもするのか? 「ところでキョンくん、これ作ってきたんですけど、食べてもらえますかぁ?」 そういって差し出されたのは、これまた可愛らしくデコレーションされた手作りプリンだった。 って、まさか、朝比奈さんが俺のためにわざわざ作ってきてくれたってのか!? なんということだ。頂きますよ。もちろん頂きます。朝比奈さんありがとうございます! 「どうですかぁ?美味しいですか?」 「ええ、そりゃもう。めちゃめちゃ美味しいですよ!さすが朝比奈さんですね」 「え、あ、う、ああありがとうございますぅ。……えっと、……苦労して作ってきたかいがありま――」 バタンッ!! 今日も激しい音をたててドアが開かれる。だから優しく開けろっての。 「あら、みくるちゃん、もう来てたのね?……って!」 ん?なんだ?どうしたハルヒよ。この朝比奈さんプリンが羨ましいのか? 「あんた!それあたしが作ってきたプリン、なに勝手に食べてんのよ!」 「え、これ!?朝比奈さんが作ってきてくれたんじゃ――」 「なに言ってんのよ!それは昨日あたしが、あ、あ……ために……作ってきたのに!!」 なんだって?ちょっとよく聞き取れなかったんだが?何て言った? 「な、なんでもないわよ!それよりみくるちゃん?これどういうこと?」 「あ、えと、さぁ……?私が部屋に来たらキョンくんがプリンを美味しそうに食べてて」 ってなんで!?朝比奈さん、そんな。嘘言わないでくださいよ。 「あんた、か、隠してたのに何でわかったのよ!……あ、えっと、……おいしかった?」 「あ、ああ。そりゃかなりうまかったぞ」 「……ひょっとして、あれも読んだ?」 「ん?あれ?って何のことだ?」 「あれれぇ?こんなところに何か落ちてますぅ」 と、朝比奈さんがテーブルの下から紙の様な物を拾い上げる。 「ええっと、『キョンへ。いつもありがとう。いつもお世話になっているキョンのため――』」 「みくるちゃん!!!」 ハルヒの凄まじい声が部室内に響き渡る。 なんて音量だ。……鼓膜が破れそうだぜ。朝比奈さんなんか涙目になってるし。 「みくるちゃん、渡しなさい」 「キョンくんにです――」 「あたしにに決まってるでしょ!!」 ハルヒの剣幕に圧されて、おどおどと紙を渡す。 「キョン……あんた、今の聞いた?」 「ん?ああ、でもほとんど聴こえなか――」 「全部忘れなさい!」 「まぁ、それは構わんが。……ハルヒ、プリンうまかったぜ。ありがとよ」 「べ、別にあんたのために作ったんじゃないわよ。……ほんとよ!」 そうかい。なんかすごい照れてるように見えるんだが。 「それより、あたしのプリン勝手に食べたんだから今日もプリンおごってもらうわよ」 「はいはい、わかってるよ。それじゃ朝比奈さん、あとお願いしますね」 「はぁい、楽しんできてくださいね」 そうして昨日と同じようにケーキ屋へと向かう。 後ろで「うまくいきましたぁ」と微かに聴こえた気がするが気のせいだろう。 ◇◇◇◇◇ 『涼宮ハルヒのプリン騒動』 ―2日目(裏)― 「ど、どうでしたかぁ……?」 「少し危ないところもありましたが、まぁ問題はなかったと思いますよ。ご苦労さまでした」 「……グッジョブ」 「ふぇぇ、とりあえず無事に終わってよかったです。疲れましたぁ」 「おっと、お二人がお店に入ってきましたよ?」 『あんた、早く来なさいよ!』 『わかってるっての。そんなに引っ張るなよ……』 『今日はどれにしよっかな……。あんたはどれにするの?』 『お、今日は食べていいんだな。……じゃあ俺は、これかな?』 『ふーん、あたしもそれもいいかな、と思ってたのよね。じゃああたしはこっちのにするわ』 『じゃあ持ってくから席とっといてくれ』 『わかったわ』 「……ちょっとなれてきたみたいな感じですねぇ」 「そうですね。これじゃあ見ててドキドキがありませんね」 「……山場はこれから」 「ほほう、これから盛り上がってくるってことですか?それは楽しみです」 「あ、また二人が話し始めたみたいですよぉ」 『これもおいしいわね。そっちはどう?』 『ああ、これもうまいぞ。それにしてもこの値段でこれとはたいしたものだな』 『そうね。近頃はこんな良心的なお店あんまりないもんね。……あ、それちょっとちょうだい』 『ん、ほらよ。何かおかしいよな。こんな店ならもうちょっと話題になってもいいのにな』 『できたばっかだからじゃない?こんな穴場を見つけてきた古泉くんはさすがね』 『古泉か。……まさか機関?……ありえるな』 「ばれた」 「ばれましたねぇ」 「まぁしょうがないですよ。それにばれてもたいして問題ありませんしね」 『何?変な顔して?古泉くんのこと褒めたから嫉妬してるの?』 『そんなわけあるか。……それ返してくれよ』 『いいじゃない。あんたこのあたしの作ったプリン食べたんだから。おいしかったでしょ?』 『ああ、すごくうまかったぜ。ここのプリンよりも遥かにうまかった』 『べ、別にあんたのために作ってきてあげたわけじゃないのよ。……そんなにおいしかった?』 『ああ、凄まじくうまかった。できればまた食べたいものだ』 『そ、そう。……じゃあ次は、あんたのために作ってきてあげるわ』 『まじか!?じゃあ楽しみに待ってるよ』 「……普通にラブラブみたいになっちゃいましたねぇ」 「……面白くない」 「同感です。これは少し邪魔をしないといけませんね」 「次の手を打つべき」 「……二人とも当初の目的ちゃんとわかってますよね?よね?」 「当初から目的は二人で遊ぶこと」 「そうですよ。何もおかしいところなどありません」「そ、そうですね。おかしいのは二人の頭の中みたいですぅ」 「とりあえずこのままくっつくという最悪な事態を避けなければなりません」 「そのとおり」 「最悪かどうかはわからないですけど、確かにこのままじゃちょっとおもしろくないですよねぇ」 「長門さん。今からこの空気を全てぶち壊しにする手はありませんか?」 「ぶち壊しって、ちょっと古泉くん?」 「ないことはない。ただし推奨はしない」 「と、言いますと?」 「これからの計画もぶち壊しになる危険性がある」 「それはまずいですね。色々と。……仕方ないです。明日に任せましょう」 「あ、そういえば明日ってどういう予定なんですかぁ?」 「それが最善だと思われる」 「それにしても今日は完敗ですね。口惜しいかぎりです」 「あ、あれ?やっぱり私の疑問はスルーなんですねぇ……」 「仕方ない」 「そうですね。それじゃあ今日はここで解散にしましょうか」 「また明日」 「え、あ、あれ?もう帰るんですかぁ?そ、それじゃあまた明日」 プリン騒動2日目 ―完― ―0日目―へ
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/1089.html
終章 分断された部室の先は、長門のおかげで時が止まってる。 長門も朝比奈さんも古泉も朝倉までもが硬直したように動かない。 俺に危害が加わる事は無いが、介入も出来ない。この膜が俺を阻む。 ドアから外に出ようとしたがドアも開かない。 体当たりや足蹴でドアを破壊しようとするが、鋼鉄のようにビクともしない。 「閉じ込められた。」 直ぐに諦め、近くの椅子に座る。 もう一度長門を見る。無表情な横顔。 いつも俺は何も出来なかった。 いつもそうだ。自分から何かしたことなんか、あの時だけ? あの時も長門や朝比奈さんのヒントのおかげで動く事が出来たっけ。 結局、他人の力無しじゃ動けないのか。 動かない向こう側をに話す。 「ゴメンな。何も出来なくて。」 「あなたは十分頑張った。全て背負うことはない。」 そこには、2人の少女がいた。1人は、礼儀正しそうなお嬢さん。もう1人は寡黙な少女。 「長門。喜緑さん。」 「すみません。手間取りました。色々と邪魔が入ってしまいまして。」 「いえ、感謝しますよ。」 愛想笑いでも付け加えようと思ったが、笑えない。 朝倉が作った偽物の仲間と分かっても、俺自身この状況は流石にこたえたようだ。 長門は、膜で隔てた向こう側を見つめいた。 「ごめんなさい。」 ポツリと漏らす。 それに気付いた喜緑さんは気まずそうに、 「つらい目に会ったようですね。わたしがしっかりしてれば………」と言う。 「自業自得ですよ。」 何故か可笑しさが込み上げる。くくくと笑ってしまう。 目が潤んで何も見えない。泣いているのか俺は。 何故泣く。可笑し過ぎるからか? 『罰』 そう罰だ。何も出来ない罪深い自分への罰なのだ。 くくく あぁ 疲れた。 天井が見える。 ここ、どこだ?学校ではない。 妙にしんみりとしているのは、今が夜だからだろう。 白いベッドの上、服装、花瓶。 直ぐにそこが機関の病院だと気付く。前に来た事もあったしな。 「ハルヒ!!」 横には、黄色のカチューシャを付けた女が椅子に座り、眠っていた。その寝顔は凛として可愛らしい。 寒そうにうずくまっていたハルヒに、俺は毛布を一枚被せた。 さて、また眠くなってきた。 お休み。 「起きろ!!」 あ゛? 俺のスウィートな安眠を妨げる不届き者は誰だ。 「やっぱり。これ掛けたのあんたね。」 目の前には、灼熱の太陽を従える女王が仁王立ちしている。 「ここは何処だ。いや、俺はどうなった。」 「どうって、ここは病院で、あんたは殺されかけたのよ……あたしに。 その後あたしも気を失って、あたし達は病院に運ばれたの。 あたしは直ぐ目覚めたんだけど……あんたは昏睡状態で、医者が…………」 とりあえず、俺は元の世界に帰って来たようでホッとする。 ハルヒの声が震えていたのが分かったが、構わず俺は続きをせかしてしまった。 バカだな、俺は。 「医者が?」 「もう………二度と…………目…が……覚め……ないかもって。 あたしのせいよ………全部あたしの…………」 ハルヒはぶわっと泣き出してしまった。このままだと泣き止まない。 どうしようか悩んでいると、棚の上に置いてある俺の携帯に焦点があった。 携帯を引っ張り出し、キーホルダーを見る。 キーホルダーの中央に縦に亀裂が入ってしまっている。よく見ると、携帯にもキズが…… キーホルダーの切れ目を中心に、力を加える。 ペキッとキーホルダーは半分に割れる。 「ハルヒ。」 「うん………何?」 俺はキーホルダーの半分を差し出す。 「これが俺達の絆の印だ。」 「え……嘘…………夢じゃ……」 「正夢なんて、ザラにあるさ。一生お前を支える。SOS団の団員として、1人の男として。いいか?」 ようやくハルヒの顔に笑みが戻る。涙と鼻水でぐちゃぐちゃだぞ。 「…………もちろん!!一生あんたはあたしの奴隷だからね!!!」 やれやれ、一生奴隷とは、なんとも悲しい人生だろうか。だが、その返事が一番心安らぐ。 ふとドアを見ると回診に来ていた先生が驚いていた。 「奇跡だ。」 いいや先生、これは必然なんですよ。ハルヒの厄介な能力が生んだ必然なんです。 その後、色々と問診を受け、明日検査を受けると聞かされた。 会社から駆けつけて来た親父と母親に何があったと聞かれたが、知らないと答えた。 担任の岡部も菓子織りを持って来て男泣きしていた。気持ち悪い。 ハルヒは岡部にバレて、学校に連行された。今日は平日だったのか。 午後にはハルヒ以外のSOS団の仲間と国木田が揃って来た。 朝比奈さんが泣きついてくれた時、古泉から殺気が漏れたのは気のせいだろう。 「谷口はどうした。まだ学校に来てないのか。」と国木田に問う。 「もう学校には来ているけど、気まずいみたいだよ。結構心配してるみたいだけど。」 「首洗って待ってろとでも言ってくれ。」 「分かったよ。じゃあ僕はこれで。」 国木田は俺にリンゴ1つ手渡し、帰って行った。 さて、 「谷口を使った凶行は機関のせいか。」 「Exactly(そのとおりでございます)」 それはまぁどうでも良い。 「長門。ハルヒが今後暴走する確率はあるのか?」 正直な話、朝倉の話はあまり信用は出来なかった。 約一年前ならば起きてもおかしくはないが、現在のハルヒは有り得ないような気がした。 「分からない。今の所その前兆は見られない。」 「そうか……」 「申し訳御座いません。」 初めて古泉の土下座を見た。続いて朝比奈さんと長門も謝った。 古泉に「謝るならケツを出せ。」と言いたかったが、俺には理性が有るため、なんとか堪えた。 「いいさ。お前らは上に反抗してまで俺達を守ってくれたんだろ。それで充分だ。」 「おかげで始末書どころの問題じゃありませんよ。 これで我々は、一生あなた達についていかなくてはなりません。」 聞いたか?故人よ。あの言葉、言う必要は無いみたいだ。 「では、復活の記念に僕との愛を深めましょう。」 ……どうやら、尻のピンチは続きそうだ。 「やっほー。お待たせ!!」 ハルヒが大きな袋を持って病室に入って来た。 「わぁー。何ですか?それ。」 朝比奈さんが興味深々に袋を見る。 「ふっふーん。これはね……」 やれやれ、病院が騒がしくなりそうだ。まあいい。今日はとことん付き合ってやる。 ふと、窓の外を見る。 空には七色の虹が架かっていた。 \(^o^)/Fin. エピローグへ
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/573.html
雪山で遭難した冬休みも終わり3学期に突入し、気付けばもうすぐ学年末テストの時期になった なのに相変わらず、この部屋で古泉とボードゲームに興じている俺ははたから見ればもともと余裕のある秀才か、ただのバカか2つにひとつだろう どちらなのかは言わなくてもわかるだろ? 先程、俺と古泉に世界一うまいお茶を煎れてくれた朝比奈さんもテスト勉強をしている 未来人なんだから問題を知ることぐらい容易であるように思えるがその健気さも彼女の魅力の一つだ この部屋の備品と化している長門も今日はまだ見ていない 最近はコンピューター研にいることが多いようで遅れて来ることもしばしばだ 観察はどうした?ヒューマノイド・インターフェイス 「最近涼宮さんに変化が訪れていると思いませんか?」 わざわざ軍人将棋なんてマイナーなものを持ってきやがった、いつものにやけ面がもう勝てないと踏んだのか口を開いた 「その台詞、前にも聞いたぞ、今度はなんだ?」 半ば勝ちが決まったゲームの駒をすすめながらこたえる 「いや、失礼。表現があまりよくなかったようですね。あなたが最近…というかクリスマスイブ以降、長門さんに無意識に目がいくようになったのを目ざとく最初に見つけたのは涼宮さんです。」 「質問の答えになってない」 俺の言葉は自分で思ったよりぶっきらぼうだったらしく古泉は微笑のなかで眉をひそめた 「最後まで聞いてください。あなたには話していませんでしたが、それ以来閉鎖空間の頻度が少しだけあがっているのです」 「ほお、それで?」 聞き役に撤するのは得意ではないが、ここは言葉を続けさせるべきだろう 「あなたが長門さんを気にするのを涼宮さんは気に入らないのですよ」 にやけ面が含み笑いを取り入れ、いつもの数倍は苛立つ顔になる あまり続きを聞きたくなくなったので手元のボードゲームの勝ちを決めることにした 「あなたも、もし僕が朝比奈さんと仲睦まじげに話していたらイライラするでしょう?…それとも、この例えは涼宮さんの方が的確でしたか?」 やめろ、古泉 忘れたかった記憶が戻ってきそうだ 「ありません」 勝ちが決まったゲームを投了するのはいささか不快だが話を終わらせる手段はこれしか見つからなかった 「投了ですか?確実に負けたと思っていましたが、あなたには何手先が見えたんです?」 今しか見えていないさ 話を中断する理由がほしかっただけだ とも言えないので俺は黙ってお茶を飲むことに集中した うん、うますぎる 「そんなことはどうでもいいですね、今回は僕の勝ちです」 そう言いながら古泉は対戦成績表に丸をつける ながら丸付けか、小学校の教師ならやりそうだ 「では話を戻しましょうか」 思わずお茶を吹き出しそうになるがもったいないことこのうえない しかし、ごまかしたと一瞬でも油断した俺がバカだった 俺がバカなのは冒頭で述べたばかりなのでいまさらだが 「涼宮さん風に言うと、一種の精神病ですね、彼女はまさに今その状態です」 やめろ、そこまで記憶がさかのぼると閉鎖空間での悪夢を思い出す そんな俺の危惧を知ってか知らずか古泉は続ける 「閉鎖空間から涼宮さんと二人で戻って来れたのですからあなたもまんざらでもないのでしょう?」 …近くに44オートマグがあったなら自分の頭を打ち抜いていただろう 銃刀法に感謝しろ、古泉 「おやおや、そんな顔をするなんて予想外でした。続きを話すのが少し億劫になってきましたね」 そんなことを言いながらもちっとも表情を崩さない古泉に殺意すらおぼえた どういう言葉で殺意を表してやろうか考えていると、いつものようにどでかい音をたてて我らが団長が飛び込んできた 「やっほー!みんないる?」 銀河系の星達がすべてちりばめられたような笑顔を振りまきながら入ってきたハルヒ やばいな、これは何かろくでもないことを思いついた時の顔だ 「…あれ?有希はまだ来てないの?」 寡黙な宇宙人の指定席であるパイプイスに目をおき、疑問をなげかける 「長門なら、多分コンピ研じゃないか?」 疑問にこたえたのは俺だった 朝比奈さんはハルヒのお茶を煎れに行ってしまったし、古泉は微笑を浮かべるだけなので自動的にこたえるのが俺の役割になっていた 「ふぅん、じゃああたし連れ戻してくるから、それまでに会議の準備しといて」 それだけ言うとハルヒはスピードスケートの清水のようなスタートダッシュで駆け出した やれやれ、おっとこれは禁句だったか だが、口に出してはいないので大目にみることにしよう やれやれ、また会議か 時期的に今度は春休みか? 「あなたの席はここ一年ずっと涼宮さんの前でしたよね?」 急に何の脈絡もないような話を振ってきた古泉 「ああ、そうだ」 「それは恐らく、彼女が望んだからそうなったのです。涼宮さんはあなたのそばにいたいのです」 指で前髪を遊ばせながら古泉が語る 誉め言葉ではないがこういう仕草がこいつにはむかつくほど似合う 「単刀直入に言います。涼宮さんと付き合ってみてはいかがですか?」 いつもの糸のようなが見開かれ、その視線は真っすぐ俺の目を見ている どうしてお前の真面目な顔はこうも不気味なんだ 「お断わりだ、付き合う付き合わないは人に言われてどうこうの問題じゃないだろ」 俺がそう言うと古泉は口をへの字には曲げてはいたが、顔に笑みを戻した 「そうですね、失礼しました。それではあなたにお任せしますよ」 だから付き合わないと言っているだろう 任せるもへちまもあったもんじゃない 「たっだいま~!」 話が終わるのを見計らったようなタイミングでハルヒが長門をともない戻ってくる ハルヒは朝比奈さんの煎れたお茶を飲み干すとこう叫んだ 「我がSOS団は春休み、花見をするわよ!」 第1章
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/1059.html
第七章 俺たちは30分ほどで学校に着いた。 そしてやっぱり神人が暴れていて校舎もめちゃくちゃだったし、校庭には神人に投げ飛ばされたと見られる校舎の残骸が投げ捨てられていてこの世の風景とは思えないようだった。 ハルヒはもうどうしていいのかわからないようにこう言った。 「ねえ、キョン。いったい学校に来てどうするつもりなの?」 「わからん。とりあえず校庭のど真ん中に行こうと思う。」 ど真ん中とはお察しの通り俺とハルヒが昔キスをした場所だ。 そこに着けば恐らく何らかのアクションが起きるはずなのだ、そうでなければあの未来人や朝比奈さんが止めるはずである。 俺はハルヒを半分無理やりど真ん中に連れて行った。 そのとき、ポケットに入っていた金属棒が金色に柱のように光りだし、ハルヒと俺を光の中に入れた。何がどうなってるんだ。 俺は慌ててポケットから金属棒を取り出した。 これでハルヒが普通の人間に戻ったのか? もちろんそんなわけは無く、その金属棒にひびが入った。 ピキピキ…割れていく。 中から茶色い棒が出てきた。 俺の嫌な予感は的中し、金属棒の中からポッ○ーが… やはりそうか。 ポッ○ーゲームか、それでキスしろってのか。 ハルヒは察したのか俺からポッ○ーを奪い取り口に加えて目を閉じた。 俺も目をつむりポッ○ーをくわえたそのとき、前のときのような光が世界を包み俺たちを元の世界に返した。 たまたまグラウンドはどの部活も使用してはいなかった。 あれ?朝比奈さんやら古泉やら長門やらはどこに行ったんだ? 閉鎖空間に閉じ込められたのか?だとしたら神人が全部消滅するまで空間は消滅しないはずである。 だとしたら朝比奈さんたちはどうなる。 いやハルヒの能力が消えたのだから閉鎖空間も消滅したのか?古泉は何も言ってはいなかった。 その時、後ろで俺を呼ぶ声がした。 「キョン君!」 朝比奈さんである。あの未来人と(小)方もいる、気絶したまま(大)にかつがれてるが…。 「朝比奈さんたち、どうしてここに?」 「古泉君に言われたんです。学校に向かってくださいと。これも規定事項ですし。」 「そうですか。」 この時ハルヒがあることに気付いた。 「有希は?」 そうだ長門は?朝倉と交戦中のはずのやつはどこに言ったんだ。 その問いには朝比奈さんが答えた。 「長門さんはあと1分ほどでここに現れるはずです。朝倉さんって人を倒して。」 よかった。 じゃあ古泉はどうなったんだ。 まさかあのとんでも空間に閉じ込められたままなのか? 長門がやってきた、古泉の事を聞いてみる。 「古泉一樹は閉鎖空間に残り、自爆して全て倒すつもり。」 自爆?自爆ってあれか?ボーンってなって死んじまうあれか? 「そう。」 古泉はどうなるんだ。 「死ぬ。」 どうにかならないのか。 「ならない。そうしなければ世界が滅ぶ。古泉一樹は世界を守るために死を選んだ。」 くそっ、俺の許可なしで死にやがって。 ハルヒは悲しい顔で「私のせいよ、私が転校生が来て欲しいなんて思ったから。だから古泉君は…」 落ち着けハルヒ。お前は何も悪くないし古泉のことは悲しいが今はこの状況を何とかすることが先決だ。俺たちを助けてくれた古泉のためにもな。 長門。朝倉はどうなった。 長門はいつぞやのカマドウマのとき同様、校門を指を刺した。 「すぐそこ。すぐ倒す。もう余裕は無いはず。」 その直後、校門から高速で何かが走ってきた。勿論。朝倉である。 朝倉は長門めがけて突っ込んできた。 不謹慎かもしれんがターゲットが長門でよかった。 ターゲットが俺なら一瞬でことは終わっていたからな。 長門は校庭のど真ん中で戦闘をおっぱじめた。 轟音が鳴り響く。 轟音で朝比奈さんが目を覚ました。 「ふえ?ここどこですか?あれ?この人私にそっくり。誰なんですか?そっちの男の人も。古泉君はどこいったんですか?」 なんというか、どっから説明していいのか。 とりあえずここで目を覚ますのは朝比奈さん(大)にとって来てい事項なんだろうか。朝比奈さん(大)に目配せしてみる。 朝比奈さん(大)が頷いた。 俺はいまいち状況を理解できていない朝比奈さんに説明した。 「この人は今の朝比奈さんよりも未来から来た朝比奈さんです。恐らく今まで朝比奈さんに命令を出してたのもこの人です。」 「え?そんな、まさか。」やっぱりと言うかなんと言うか、やはり混乱した。一応孤島のときのこともあるので古泉のことは伏せておいた。 朝比奈さん(大)が口を開く「そうです、私は未来のあなたです、いろいろな指令をいつも出していたのも私です。それからキョン君、この騒動が終わったらこの子にこの子がするべきことを全て教えてあげてください。」 「え?わかりました。」どういう意味だろう。七夕のときや一週間後の朝比奈さんが来たときの手紙のことを教えてあげればいいのだろうか。 長門が交戦中にも関わらずこっちを向いて叫んだ。「ダメッ!!」 すると「確かに頼みましたよ。」といって朝比奈さんの後ろで盾になるように大の字になった。 その瞬間である。鉄砲か何か、もしかしたら光線銃のようなものかも知れない。 一線。 俺の盾となってくれた朝比奈さんは倒れた。飛んできたであろう方向からは何も見えない。 血まみれになって倒れた朝比奈さん(大)を支えてあげる。「これも規定事項ですから…」 そう言って朝比奈さんは目を閉じた。 俺はハルヒに叫んだ。「朝比奈さんに見せるな!!!」 ハルヒは急いで朝比奈さんに抱きつき視界をふさぐ。 だが何もかも遅い。朝比奈さんは泣きじゃくり倒れこんでしまった。 ここで突っ立って傍観していた未来の俺が地団駄を踏み口を開いた。 「まさか!クソっ!それで未来を守ったのか。クソっ!」 そうか。朝比奈さんが朝比奈さん(大)を認識することで現在と未来がつながったのか。 それなら俺と未来人の時でも同じことが言えるのだが恐らくハルヒが生み出した不安定な未来なので朝比奈さんが朝比奈さん(大)を認識することで上書きされたのか。 恐らくこの未来人の規定ではここで朝比奈さんが死に、朝比奈さん(大)の存在に矛盾を出すためだったのであろう。 と言うことは未来人戦はこちらの勝利である。大きな犠牲を払ったが。 とち狂ったように未来人が言った。「もうお前ら全員殺してやる。」 おいおい未来の俺よ。なに言ってやがんだ。 その時、突然空が無数の点により暗くなった。 なんだありゃ。いろいろありすぎてわけがわからん。 第八章
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/3662.html
4.窮地 ハルヒが倒れてから6日が経った。 長門によると、決戦は明日の13時前後らしい。 「13時5分の前後10分間」 これが長門の予測だった。長門には本当に頭が上がらないな。 これが終わったら図書館&古本屋ツアーだ。ハルヒに文句は言わせん。 明日にはハルヒに会える。 俺はそう思っていた。 世の中上手く行かないもんだ。 いや、俺がこいつらの存在を忘れていたのが悪いのかもな。 今、俺の目の前で、朝比奈さん(みちる)誘拐犯、橘京子が微笑んでいる。 「ああ、早く病院行かなきゃならんな」 とりあえず何も見なかったことにしよう。 「んもうっ、待ってくださいよ!」 何か言ってるな。聞こえん。 「涼宮さんのことですよ!」 「……ハルヒだと?」 佐々木じゃないのか。 「ふぅ、やっと止まってくれた」 足を止めて橘を見る。正直、関わりたくはない相手だ。 ハルヒは大丈夫だ、明日には目覚めるさ。 そう思っても、こいつがハルヒの名前を口に出すと反応せざるを得ない。 信用は絶対にできないが。 「で、ハルヒがどうした。サッサと言え」 「あなたは涼宮さんが明日目覚めると思ってるんでしょう」 何でこいつがそんなことを知ってるか、何て今更どうでもいい。 『機関』と同じような組織だ。調べる伝手なんかいくらでもあるんだろう。 しかし、何で今更俺にそんなことを言ってくるんだ? ハルヒがこのまま情報生命素子とやらに乗っ取られるのは、こいつらにとっても不都合なはずだ。 こいつらに俺たちを邪魔する理由は思い当たらない。 まだ邪魔しに来たと決まったわけではないが。 「それがどうした。お前には関係ない」 「そんな言い方酷い。……まあ、それはいいですけど。 それより、涼宮さんは明日になっても目覚めない、と言ったらどうしますか?」 何を言っているんだこいつは。ハルヒが明日目覚めない? 長門は明日、ハルヒの情報生命素子を消去すると言い切った。 こいつと長門、俺がどちらを信じるかなんてことは言うまでもない。 「あ、信じてないでしょう。無理もないか。今は伝えるだけでいいです。 明日、涼宮さんは目覚めません。手遅れになる前に手を打たないと」 「お前が未来人だとは思わなかった」 まともに相手してやる気はない。だが、こんな予言めいたことを言う理由は気になる。 「まさか。未来人ならこんなはっきり明日のことは言わないはず」 それは確かにそうだ。未来のことをはっきり言うのは禁則事項らいしからな。 「まあ、簡単に気が変わるとは思ってなかったけど……」 簡単でも複雑でも、俺がお前らに協力することはねぇよ。 「いつまでそう言っていられるかしら? まあいいわ、またすぐに会うことになるんだから」 そう言うと、笑顔のままひらひらと手を振って去っていった。 何しに来たんだ? 俺を不安に陥れようとしたなら大失敗だぜ。 しばらく悩んだ俺は、古泉の携帯に電話してみた。 あいつらの行動とその目的を機関が把握しているか確認したくなったからだ。 電話が通じるところにいない可能性が高い。 だが、予想に反して携帯は通じた。 『もしもし』 ……俺は思わず携帯を離してまじまじと見てしまった。 かけ間違えたか? 出たのは女性だった。 『もしもし? 大丈夫です、これは古泉の携帯で間違いありません』 受話器から聞こえてくる声で俺は冷静になった。 驚かせてくれたな、古泉め。 「その声は森さんですか?」 電話越しでも聞き覚えのある声は、完璧なメイドにして怒らせると恐ろしい機関のエージェント、森さんだった。 『はい、お久しぶりです。古泉が閉鎖空間にいるときと就寝時、機関の人間の内 あなた方がご存じの人間がこの携帯を預かることになっています』 なるほど。いつでも連絡が取れるようにという機関の配慮だろう。 「ああ、すみません、びっくりしてしまって。それで、用件なんですが……」 『橘京子があなたと接触したことですね』 ……やれやれ、さすがにわかっていたのか。俺は尾行でもされているのか? 『結果的には尾行になりますが、目的はあなたの安全です。今は緊急事態ですから』 森さんはあっさり認めた。 『それに、橘京子の方にももちろん監視がついています。 今回あなたと接触しようとしていることも掴んでいました』 本当にやれやれだ。そこまでわかっていたなら教えておいてくれてもいいだろうが。 機関も未来人同様、秘密主義をモットーとしているのか? 「で、あいつは何で俺のところに来たんですか? ハルヒが目覚めないなんて戯言をほざいていましたが」 『……そんなことを言っていたようですね』 ん? この言い方だと今の俺たちの会話で初めて知ったようだが? 知らなかったのかよ おい! これが古泉相手なら嫌味の2つや3つ言ってやりたくなるが、相手は森さんなので素直に聞く。 「把握されてなかったんですか」 『申し訳ございません。我々としましても何とか把握したいとは思っていたのですが、 不自然な邪魔ばかり入りまして』 不自然な邪魔? 『ええ、おそらくは人外の、と言っていいと思います』 人外ってことは…… 「宇宙的な力で邪魔されたと言うことですか」 あっちにも長門たちとは別の宇宙人がいたからな。 『証拠があるわけではありませんが、そのように推測しております』 そりゃ、普通の人間が太刀打ちはできないよな。 『橘京子の発言について、こちらもこれから検討に入ります。 周防九曜は監視をすり抜けて活動しています。何かあるかもしれません。 事実だとすると時間がなさ過ぎます。急がないと』 周防の活動、と聞いて寒気が走った。橘の警告。まさか何かたくらんでやがるのか。 だが、俺は長門を信じる。古泉がらみで今回は機関も信じてやってもいい。 絶対に、何とかなる。 病院に着くと、ハルヒの母親がいた。 初日に会って以来、俺は初めてあった。 ほとんど午前中に来ているらしい。 1日中ついていると言い張ったらしいが、病院の方でなだめたと聞いた。 長門が1日ついていることは隠しているらしい。 「あなたがキョンくんでしょ」 いきなり言われて戸惑った。 「あ、はい、そうですが……」 「いつも娘がお世話になってるみたいね。ありがとう」 「えっ いえ、そんなことは……」 一体ハルヒは家で俺のことをどういう風に話しているんだろう。 「こんなにお友達が心配しているの1週間も起きないなんて……」 ハルヒ母は、悲しげな目をハルヒに向けて言った。 特に異常はないが何故か目覚めない、そう聞かされているはずだ。 原因がわからないのでますます不安になるだろう。 「中学のときだったら、お見舞いに来てくれる友達なんていなかったと思うの」 ハルヒを見つめながら独り言のようにハルヒ母は続ける。 「それが今はずっとついてくれているお友達がこんなにいるものね。この子は幸せ物だわ。 ──あんまりお友達に心配かけてないで、早く起きなさい、ハルヒ」 言いながら涙目のハルヒ母を見て、俺は何も言えなかった。 本当のことを知らされないってのも辛い物だよな。 ハルヒ、お袋さんも心配してるぜ。頑張ってくれ。 そのとき、ドアがバタンと大きな音を立てて開いた。 おいここは病院だぞ。こんなドアの開け方をする奴はハルヒ1人で十分だ。 「きょ、キョンくん!! た、たた大変です!!!!」 「朝比奈さん!?」 朝比奈さんがこんなドアの開け方をするなんて珍しい、というかありえねえ。 何かあったのは顔を見れば一目瞭然だ。これ以上ないくらい焦っている。 「な、長門さんが、長門さんが……!!!」 大きな目からボロボロ涙をこぼし始めた朝比奈さんは、それ以上説明できなくなってしまった。 「落ち着いてください、長門がどうしたんですか?」 聞いても既に号泣してしまっている朝比奈さんは何も説明してくれない。 「長門はどこにいるんですか? とりあえず案内してください」 そう言うと朝比奈さんは泣きながらうなずいて病室の外に出て行ったので、俺もついていくことにした。 「お騒がせしてすみません、失礼します」 ハルヒ母に頭を下げると、病室を後にした。 ここまで来て、長門に何があった!? 「すみません、落ち着いたらでいいから説明してくれると嬉しいんですが」 泣きじゃくりながら俺を案内する朝比奈さんに聞いてみた。 無理っぽいけどな。 俺の中の不安がだんだん形になってくる。 『明日、涼宮さんは目覚めません』 橘の言葉がよみがえってきた。くそっ あいつらが何かしやがったんじゃないだろうな。 「うっ ぐすっ……す、涼宮さんのお母さんが、みえたんです、だから席を外して……」 泣きじゃくりながら何とか説明をし始めたところで、ハルヒの病室とは少し離れた部屋に着いた。 ドアを開けると、ベッドに長門が寝ていた。休憩しているのか? いや、そんなわけはない。だったら朝比奈さんが泣き出すわけがない。 「そ、そしたら……ぐすっ……突然、長門さんが……た、倒れて」 状況は把握した。だが、長門が倒れる? 過去に長門が倒れたのときには必ず関わってる奴がいやがった。 雪山のとき。そして今年の春。 「畜生、あいつか……」 情報統合思念体が「天蓋領域」と名付けたやつ。 いまいち、というか全然何考えてるかわからない存在だ。 長門の親玉にすらわからないんだ、俺になんかわかるはずもない。 あいつらにも、長門がいないとハルヒを助けられないことくらいはわかってると思うが。 だったら何故? 「わ、わたし、何もできなくて……ぐすっ 長門さんが、大変なのに……」 朝比奈さんが泣いている。 泣かないでください、俺も同じです。 何もできねぇよ、畜生! 何とかしないと……どうする? 焦って思考がまとまらない。 長門──情報統合思念体によるインターフェース。 二度と会いたくないが、朝倉がいたらこの際代わりに頼りたいくらいだ。 朝倉? そうか! 俺は携帯を取り出して古泉に電話をかけた。 『もしもし』 今度は古泉が出た。 「古泉か。長門が倒れた」 時間があまりない。単刀直入に話す。 『ええ、聞いています。僕も今そちらに向かっているところです』 「原因は天蓋領域か」 『おそらく。周防九曜の動きが全くつかめていません。何かしたのではないかと』 やはりな。 「そこでだな、今気がついたんだが、喜緑さんに連絡を取れないかと思ったんだが」 この際喜緑さんじゃなてく、他のインターフェースでもいい。 機関は複数のTFEIとコンタクトを取っている、と言っていた。 長門以外の宇宙人でも、長門と同じことができるはずだ。 「情報統合思念体の派閥が違っても、ハルヒの今の状態が面白くないのは同じなはずだ。 情報生命素子とやらを何とかするのに異論はないはずだろ」 俺は古泉に言った。 『それに気付くとはさすがですね』 嫌味かよ。 『いえいえ、純粋に賞賛の言葉ですよ。ですが、残念ながら無理です』 「無理? 何でだよっ!」 電話越しに突っかかる。目の前にいたら襟首を掴んでいるところだ。 『今朝から、機関が把握しているTFEIと連絡が取れなくなりました。 原因は長門さんと同じと思われます』 「なんだって?」 つまり情報統合思念体製インターフェースは、すべて活動停止に追いやられているってことか。 『そういうことです。長門さんは、最後まで動いていました。 状況はわかっているようでしたし、注意する、と言ってくださっていたのですが……』 なんてこった。長門は気がついていたのか。 気がついて、何とかしようと努力してダメだった。 まるで1年前のあのときのように。 また何も言わずに1人で抱えてたのかよ、長門! 『あなたには言うなと言われていましたが、状況が状況ですので。それでは、後ほど』 電話が切れた。 ちょっとショックだった。俺に隠したかったのか? 「違いますよぉ」 いつの間にか泣きやんでいた朝比奈さんが、まだ涙の浮かぶ目で俺を見て言った。 「長門さんは今のキョンくんに、涼宮さんだけを心配していて欲しかったんです」 そんなこと言われたって、この状態で長門を心配するなっていうほうが無理だ。 「長門さんはキョンくんに余計な心配かけたくなかっただけなんです」 言いたいことはわからないでもない。 それでも、やはりショックは抜けなかった。 そりゃ、俺は何もできないが、少しは頼って欲しかったよ、長門。 「すみません、少し頭冷やしてきます」 なんと言っていいかわからず、俺は部屋から逃げ出した。 外に出ると、古泉が到着したところだった。 「どうしたんです? わざわざ出迎えてくれるとは」 俺を見つけると、古泉が声をかけてきた。 「そんなわけないだろ。頭冷やしに出てきただけだ」 「あなたがショックを受けているのはわかりますよ」 古泉が真顔で言った。 「僕だってそうですから」 お前も? 少なくともお前は長門から話を聞いていただろうが。 「いえ、ただ一言『注意する』とだけ。具体的に何が起こっているかは何も聞いていません」 そうか。やはり1人で何とかしようとしていたのか。 「しかし、今回は正真正銘の緊急事態です。 長門さんはこちらの唯一のカードにして切り札だった。それを奪われたわけですからね」 その通りだ。長門がいなきゃ、ハルヒは助からない。 意識が戻っても、既に中身は違う人間だ。実際、どういう人間になるのかもわからない。 そんなことは絶対に避けなければ駄目だ。 「俺たちはどうすりゃいい?」 古泉に聞いた。こいつなら、何かいい案を出してくれるかもしれない。 だが、古泉は首を横に振った。 「機関の上の方は恐慌状態ですよ。こちらは何の手も打てないのですから」 そりゃそうだろう。機関と言っても、所詮はただの人間の集まりだ。 「でも、少なくとも僕たちは諦めるわけにはいきません」 いつになく真剣な目で古泉は俺を見つめた。 この『僕たち』というのはSOS団のことだ。 「そうだな、諦めるわけにはいかねぇよな」 ──俺たちだけは、な。 5.選択へ
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/3487.html
5.選択 翌朝、俺は重い足取りで学校に向かっていた。 意味もなく早朝登校を続けているので、まだ他の生徒は見あたらない。 学校を休んでハルヒについてやりたいとも思った。 しかし、ハルヒの目覚めに立ち会う勇気がなかった。 目が覚めたとき、ハルヒは俺をわかってくれるのか? それを考えると、とてもハルヒのそばには居られない。 前日、古泉と「諦めるわけにはいかない」と話し、家でもずっと考えた。 しかし、いい案が浮かぶ訳もなく、良く眠れないまま朝が来てしまった。 諦めたくはないさ。 でも、もうできることなんかないんじゃないか。 絶望にも似た気持ちで、学校へのハイキングコースを上っていった。 「今なら話を聞いてくれるかしら?」 「消えろ」 橘京子が再び現れた。俺は目を合わす気すらない。 うるせぇ。お前と話すことなんかこれっぽっちもねぇ。 「涼宮さんを助けたいんじゃないんですか?」 「消えろと言っている」 「もうっ 話くらい聞いてくれてもいいじゃないですか!」 橘は俺の後を追ってくる。うっとうしい。 「わたしは涼宮さんを助ける方法を知っているんです!」 そのセリフに俺はぶち切れた。 「ふざけんじゃねぇ!! そもそもハルヒが倒れたのはお前らの仕込みだろうが!!!」 気がつくと橘の襟首を掴んで怒鳴りつけていた。 しかし、橘は笑みをたたえたまま、余裕の表情で続けた。 「それは誤解です。私たちは涼宮さんに何もしていません」 「それを俺に信じろと言っても無駄だ」 どう考えたってこいつらの仕業だ。 「仮にそうだったとしても、今となっては涼宮さんを助ける方法は1つだけです」 「……言ってみろ」 こいつの言うことを聞くのは癪だった。 ハルヒを、俺たちをここまで苦しめやがったこんな奴らの手は借りたくない。 だが、今はハルヒを助けることが先決だ。どんな借りを作ったとしてもな。 「簡単なことです。涼宮さんの力を使えば助かりますから」 相変わらずの笑顔でしれっと言う橘を殴ろうとする、俺の右手を必死で押しとどめた。 ハルヒの力だと? そりゃ、長門をして情報統合思念体を消させるハルヒの力だ、 ウイルスレベルの宇宙的存在を消すのは簡単だろう。 だが、ハルヒ自身がそれを知らない。 もしかしたら無意識に自分の緊急事態を察して使うかもしれないが、あてにはできない。 かといって、自覚させるわけにも行かない。 そもそも、誰の声も届いていない今のハルヒに自覚させることすらできないだろう。 「だが、ハルヒは意識的に力を使える訳じゃない」 そんなことはこいつだってわかっているだろうが。何なんだよ一体。 「ええ、ですから意識的に力を使える人に使ってもらえばいいんです」 ……機関のような組織の人間は回りくどい表現が好きなのか? 「はっきり言え」 「判ってるんでしょ? 涼宮さんの力を佐々木さんに渡せば、佐々木さんが助けてくれます」 「ふざけるな」 やはりそれが目的か。畜生、ぶん殴ってやりてぇ。 目で殺せるなら殺してやるくらいの憎しみを込めて、橘を睨み付けた。 橘は俺の視線を平然と受け止めて言った。 「でも、今となっては他に方法がないですよ。時間もありません」 悔しいが橘の言うとおりだ。 さっき思った通り、ハルヒを助けることが先決だ。 ハルヒさえ助かれば……。 「佐々木はこの話を了承しているのか」 聞くと橘は目を伏せて言った。 「いえ、今回の話を佐々木さんは知りません。でも、言えば了承してくれるはずです。 佐々木さんはそういう人。あなたも知ってるでしょ?」 そうだ、佐々木は人が苦しんでいるのを放っておく奴ではない。 だが、以前佐々木はこんな力を持つことは望まないと言っていた。 それを押しつけてまで佐々木に頼るわけにもいかない。 そんな俺の心を見透かしたように橘は続ける。 「佐々木さんが力を持つことを望まないなら、佐々木さんは涼宮さんに力を返すでしょう。 すべてが終わった後にね」 相変わらずの笑顔で俺を見続けている橘。 俺は悩んだ。それしかないのか? はっきり言って、1から10までこいつに踊らされている気がして癪にさわる。 だが、俺はハルヒを助けたい。 佐々木が力を受け取った後にハルヒに返すかどうかはわからんが、それでもいいんじゃないか? ハルヒの力がない方が、世界も安定するんじゃないのか? ふいにそんな考えまで浮かんできた。 いや、俺はどうかしてるぞ。それでいいはずがないじゃないか。 しかし、どうすればいい? 今日にもハルヒは目覚める。目覚めたとき、ハルヒは何者かに変わっているかもしれない。 俺はどうする? ハルヒに会いたい。 教えてくれ、ハルヒ。 俺はどうすればいい? 心を決められないまま、俺は口を開いた。 「……お前の言うことはわかった。俺は……「ダメですよっ!!!!」 いつもなら力の抜けるような高い声に、今日は鋭く遮られた。 「朝比奈さん!?」 我がエンジェル朝比奈さんが、目にいっぱい涙をためて俺を睨み付けていた。 「ダメです、ダメだったらダメです!!!」 マンガのように俺をぽかぽか殴りつけてくる。 俺は状況を理解できなくて戸惑っていた。 「えーと、朝比奈さん、何でこんな早くにここに居るんですか?」 「それは今日この時間に……いえ、何でもないですっ! 禁則事項ですぅ!」 なるほど、朝比奈さん(大)あたりから指令が来たのだろう。 そこまで言えばわかってしまうんですけどね、朝比奈さん。 俺は苦笑しながらも言った。 「俺はまだ何も言ってないんですが、何がダメなんですか」 俺が言うと橘が口を出した。 「朝比奈みくるさんは、涼宮さんを助け出す良い案を持っているんですか?」 相変わらず余裕の笑みだ。むかつくぜ。誘拐犯のくせに。 「そんなのありません! でもダメです!」 朝比奈さんは必死に言う。いや、だから俺はこれからどうするつもりなのか言ってないんですが。 「キョンくんは橘さんたちに協力するんですか! そんなのダメですっ!」 ダメの一点張りだ。 「いや、俺はまだ協力するとは言っていませんよ」 何とかなだめないとな。第一、俺はまだ協力する気にはなっていない。 実を言うと、佐々木に会ってみようと思っただけだ。 そう言うと、朝比奈さんは激しく首を横に振った。 「だからそれもダメです! キョンくんは涼宮さんのそばに居ないとダメなんですっ!」 俺は呆気にとられた。ここまで強硬に言い張る朝比奈さんは初めて見た。 一体どうしてここまで言い張るんだ? 「あら、それで涼宮ハルヒが乗っ取られるのを黙って見てろって言うんですか?」 橘がむかつく笑顔で言った。だが、橘の言うとおりだ。黙って見てるだけ何てできない。 「まだ、できることがあるはず。キョンくんならできますっ」 そう言うと、それまでこらえていたのだろう涙がボロボロとあふれてきた。 それは買いかぶりです、朝比奈さん。 しかし、何で今日はここまで強情なのだろう? もしかして…… 「それは既定事項だからですか?」 朝比奈さんがここまでこだわるなんて、それ以外に考えられない。 だが、それは瞬時に否定された。 「違いますっ! ひっく……も、もし、そうだとしても、わたしには、し、知らされて、ません」 そうだった。朝比奈さんの持ってる情報なんて、俺と大して変わらない。 だが、それなら何故。 「ご、ごめんなさい、わたしのわがままです……」 まだ泣きながら朝比奈さんはそう言う。 「でも、キョンくんは、ほ、本当に、佐々木さんに、ち、力を移したいんですか?」 そのとき、目の端で橘の表情が変わるのを感じた。 それまで余裕の笑みでいたのに、少し顔をしかめていた。 ──余計なことを言わないでください。 その表情はそう語っているように見えた。 それを見て、急速に俺の頭は回り始めた。 バカか俺は!! 今まで何をやっていたんだ!! 最初から橘は俺をはめる気でいたんだ。佐々木に能力を移すために。 何故かしらんが、それには俺の協力が必要らしい。 だが、俺はそのままでは協力しないだろうことは奴らにもわかっているはずだ。 だから、今回の件を仕組んだ。 仕組んだのは橘の組織ではなく、天蓋領域かもしれない。 少なくとも隕石は、橘の組織では無理だ。でもどっちでも一緒だ。 ハルヒの力を佐々木に移したいかって? そんなことは決まっている。答えはNOだ。 そりゃ、ハルヒの変態パワーがなければいいとも思うさ。 でも、そうしたらSOS団はどうなる? 俺以外の3人は、ハルヒの力があるから集まっている。 ハルヒの力がなくなれば、去っていく可能性が高い。 古泉は自分の意志で残ることも可能かもしれないが、長門と朝比奈さんは無理だろう。 そして、それが朝比奈さんをあそこまで強情にさせた理由だ。 朝比奈さんはSOS団の一員でいたいんだ。俺と同じように。 ハルヒもそうだ。SOS団がなくなるなんてことは許さないはずだ。 俺の判断でそんなことになったら、一生罰ゲームをやらされるに違いない。 全財産賭けてもいいね。 それに、佐々木自身、自覚してそんな力を持つことは辛いんじゃないのか? 世界に対する責任を持たされるも同義だ。まだ10代の、高校生の身で。 橘の機関にも、常に監視されることになるだろう。自由もなくなるかもしれない。 佐々木にそんな思いを味あわせるのも嫌だ。 ここで橘に協力しないで、ハルヒを助ける方法があるのか? 今はまだわからない。だが、今までにヒントはあった。 古泉の言葉を思い出して、俺は心を決めた。 賭けてみるさ。やっと俺にできることが見つかったんだからな。 だったら時間がない。さっさと動くとするか。 ハルヒが助かるのは既定事項に違いない。 そうでしょう? 朝比奈さん(大)。 やっとわかりましたよ。 俺は俺の気持ちに正直に動きます。 それがハルヒを助ける方法なんでしょう? 「朝比奈さん、すみません、そんなに泣かないでください」 「ほぇ? キョンくん?」 そんな涙目で見つめられたら抱きしめたくなるじゃないですか。 「俺が悪かったです。本当にすみません」 良かったら一発殴ってください、と言おうと思ったが、困らせるだけだろう。 しかし、早朝登校を続けていて良かったぜ。 こんな状況を登校中の北高生徒に見せていたら、男子生徒の半数から殺されるところだ。 「ちょっと、どうする気ですか?」 心なしか青ざめた橘が俺に問いかけてくる。 だが、俺はそれを無視した。 「ちょっと電話かけます」 朝比奈さんにそう言うと、電話を取り出して古泉を呼び出した。 「ちょっと無視しないでくださいよ!」 何か喚いているやつがいるが知るか。 『もしもし』 古泉が出た。今は閉鎖空間が出ていないのか。 「朝早くから悪い。頼みがあるんだが」 『なんでしょう?』 「俺を見張っているらしいから、近くに車があるだろう? 俺のとこに回してくれ」 歩いて行ってもいいんだが、時間が惜しい。 『どちらへ行かれるんですか?』 「お前のところだよ」 『えっ! 何ですか?』 「じゃあよろしくな」 驚いている古泉という珍しい物を見たかった、と思いつつ電話を切った。 「朝比奈さん」 「はっはい!?」 「一緒に行きましょう!」 「へっ? え、えーと、どこへですか??」 まん丸に見開いた目で聞き返してくる。 そんなの決まってるさ。 「ハルヒのところにですよ!」 車が現れ、俺たちが乗ろうとするのを橘が腕を引っ張って邪魔をした。 しかし、運転手の新川さんが下りて行くと、橘は引き下がった。 森さんもだが、新川さんも相当怖い。こうなると、古泉の本性が気になるところだ。 「古泉のところへ行くと伺っておりますが」 新川さんが俺に言った。 「ええ、お願いします。古泉に頼むのが一番早いでしょうから」 「かしこまりました。古泉は機関の本部におります。ご案内しましょう」 何を頼むのか、と聞かないのは訓練されているからだろうか。 新川さんは何も詮索せずに車を出してくれた。 しかし、朝比奈さんは当然聞いてきた。 「涼宮さんのところに行くんじゃないんですか?」 そりゃそうだ。さっき俺は朝比奈さんにそう言った。 「ええ、そうですよ。ただ、ハルヒに声が届きそうなところです」 「えっ? どこですか?」 頭の上に5個は?マークが飛んでいるだろう。 「今、病院にいるハルヒに話しかけてもまず届かないでしょう。 だったら、ハルヒの精神世界に入り込むしかないんです。確証はないですが」 「どういうことですか??」 「閉鎖空間に行くんですよ」 「ええええええ!?」 俺はあっさりネタ晴らしした。 確証はない。ただ、古泉はハルヒが俺を呼んでいると言った。 そして、それは閉鎖空間に入るとはっきりすると。 だったらあそこはハルヒの精神世界の一部でもあるはずだ。 俺を呼んでいるってのなら行ってやるよ。待ってろ、ハルヒ。 6.《神人》へ
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/831.html
あの人になってみたい、という経験は、誰でも1回はあると思う。 相手の容姿や身体能力、頭脳はもちろん自分にはない特技を持っていたり、 「この人のことをもっと知りたい」という恋愛感情からくるものもあるだろう。 確かに夢見がちではあるが、決して変なことではない。 これで変というなら我が団長は変態を通り越して とっくに天然記念精神異常者として博物館に鎖で繋がれているところであろう。 俺だって無責任かつ非常識な横暴を受けて、幾度となくロープの向こう側の奴にハイタッチをかましたいと思ったさ。 だが俺は、重要視するところは 他人と替わりたいか ということではなく 誰が誰と替わりたいか だと思っている。 そりゃクラスメイトAがクラスメイトBに替わりたい、と言うだけならば俺は何も言わないが、 物静かで上品なお嬢様がオタクに憧れてたら誰だって目を丸くするし、 某奇妙な冒険漫画家が「あぁ、○×Hの○樫になりてえ」 とか言いだしたら日本漫画会に衝撃を与えるだろう。 それくらい、 誰 が 誰 になりたいかというのは重要だと自信を持っていえる。 とまあ、ここまで長々と語ったのは 今この学校で繰り広げられる状況の説明をしているからであって、 決して現実逃避をしているわけではない、多分。 が、偉大なる逃避世界の住人となるかもしれん前に、 この状況に至るまでの経緯をお伝えしよう。 それに気づいたのは今日の朝だが、事の始まりは昨日の放課後かららしい。 春らしさに磨きがかかってきたある日のことである。 俺はいつもの部室でもはや後光が見えつつあるメイド女神様の出される聖水を飲んでいたところだった。 ああっ女神さま!もはやお茶だけで国内紛争を止められそうな域にまで達しております。 と、そんな感想を漏らしながら、いつもの古泉と俺による白星生産ゲームをしている最中に、 PCの画面とにらみ合っていたハルヒが急に顔を上げて、こう言い出した。 「ちょっと皆、もし1度だけ他人と替わることができたら誰になってみたい?」 ……どこのWebページを見てたのかしらんが、今度は何に影響されたんだ。 大方、「オレがアイツでアイツがオレで」といった人格入れ替わりSSでも見てたんだろう。 「みくるちゃんっ!あなたならどうする?誰になってみたい?」 「ふぇっ? え、ええと………その、先生になってみたいです。 人に何かを教えるのって素晴らしいじゃないですか。」 朝比奈さんが眼鏡をかけチョークを持って黒板にまるっこい字を書いている場面を想像した。 貴方ならそのスカートからチラホラ見えている足と胸元の谷間のおかげで 保険の授業ではないのにも関わらず下半身がやばいことになりそうです。 「そういう希望職業を聞いてるんじゃないのよ! 有希は?誰になりたい?」 「……私は現状のままで満足している、不満はない」 「……まあいいわ、ところでキョン!アンタは一体誰に───」 と、俺に話を振る前に、ドアから一人の闖入者によってセリフを遮られた。 「おいーっす、キョンいるか?」 無論、俺をこのあだ名で呼び、なおかつ成功しないナンパ道を突き進んでいる男と言えば、当然谷口しかいない。 「ちょっと、今大事な会議中なのよ、何か用があるなら部活が終わったあとにしなさい」 大事か?これ。 「そう言うなって、すぐ終わる。 ……キョン、お前あの新作RPG買ったんだってな、 国木田から聞いたぞ。 もうどうせヘビーゲーマーのお前の事だから終わってるだろ?俺を優先的に貸してくれ」 新作RPGというのは俺が先月SOS団の財布となりつつある財布から なんとか捻り出してその日にもらった小遣いを足し、ようやく買った今話題のゲームである。 あの独自の世界観と斬新なストーリーが多くのユーザーの心を惹きつけている、 というか俺もその一人である。 いえいえ、決してヘビーゲーマーではありませんよ、 偉大なる16連射の達人の戒めを守ってゲームは1日5,6時間までにしております。 どちらも無視してよかったが、俺は別に独占欲が極端に強いわけでもないし、 理由もなく貸さないというのはこいつはともかく 他の奴らのイメージを悪化させることになってしまうので 「仕方ねえ、明日持ってきてやるよ」 と、まあ友達らしい返事をしてやった。 「流石キョン、男の友情ってもんを分かってる!持つべきものは心の友だ!」 どこの年中横暴小学生だお前は、おい肩組むな、暑苦しい。 「んじゃ、邪魔したなキョン。その大事な会議とやらを続けてくれ。 WAWAWAワンダフル~」 と、谷口が出て行くまでのやりとりを見届けた団長は、 何故か少し不機嫌になりながらこちらを睨んでいた。 そして、俺に向かって口を開く── パタンッ。 ──前に部活動が終了した。 何か言いたげだったハルヒは、やがて「ふんっ」と鼻を鳴らしさっさと下校してしまった。 「おやおや、聞かれなかったようですね。 ……ところで僕も気になります、貴方は誰に──」 ニヤケ仮面の貴公子を無視し、さっさと部室から出た。 ……と、まあこれが今回の事件の発端らしい。 確実に俺のせいではないことは確かだ、いやマジで。 だが、ハルヒの変態パワーに”何か”が引っかかったことは紛れもない事実である。 繰り返す、俺のせいではない。 いつもの坂を上がり、教室のドアを開いた俺の目に飛び込んできたのは、 「……おい谷口、そこハルヒの席だぞ。 席ごと窓から放り投げられない内にさっさとどいたほうがいい」 俺の後ろの席に座って窓の外を眺めている谷口だった。 大方、ゲームを早く受け取りたいというアホな考えだろう。どうせ家に帰るまでできやしないのに。 だが、振り向いた谷口は、いつものバカ面ではなくどこか不機嫌な顔つきだった。 「はあ?谷口?まだアイツは来てないわよ」 ……確か谷口の一人称は”オレ”だったはずだ、それに”アイツ”というのは第三者を指すべき言葉である。 「いや、お前何言ってんだ。 おふざけにしちゃ度が過ぎ──」 「おーぅおはよう我が心の友よ!ゲームは持ってきてくれたか!」 るぞ、と言おうとした俺の背後で、谷口らしい口調の声が聞こえた。 だが、この聞きなれた声は……。 「……ハルヒ?なんでお前がゲームを待望してんだ?あとそれ谷口の鞄じゃ……」 「はあ?オレがオレの鞄持ってちゃおかしいか? それより約束忘れたわけじゃないだろうな」 何が何だかさっぱり分からんため、 とりあえず谷口よりは権限が高いであろうハルヒにそれを渡してみた。 「サンキュー!やっぱりお前は心の友だ!」 と、ゲームを受け取ったハルヒがオーパーツでも発見したかのような笑みで 昨日の谷口のように肩を組んできた。 おいっ、ちょっと待て!ハルヒお前はこんな事をするやつだったのかいやそれよ りも今俺のわきのあたりに当たっているのは朝比奈さんサイズとまではいかないが結構ボ リュームのあるそれで俺は健康な高校生であってそんなことをやられると───!!! と、頭の中を駆け巡る脳内物質が列を崩された蟻みたいになっていると、 「アンタ達、朝から暑苦しいわよ。もうすぐ授業なんだからさっさと席に着きなさい」 何故か命令口調の谷口が俺たちにそう言った。 「チッ、相変わらず偉そうな奴だ。 おいキョン、この礼はまた必ずしよう。それじゃな!」 と、ハルヒが谷口の席に着いた。 ……そうか、ドッキリか。いやあおじさん見事に呆気に取られちゃったよアッハッハ。 と、ハルヒと谷口が手を組むなどチーターとヒポポタマスが 共同戦線を張るくらいありえないことなので、この考えを頭から放出した。 「なあ、谷口。これは一体どういう──」 ガラッ、というドアの開く音で、今から始まる授業に備えるため俺の会話は強制終了した。 だが 「起立、礼! ……よーし、それじゃあ今日は教科書53ページからだ。おい国木田、読んでくれ」 現れたのは、ハルヒ曰くハンドボールバカの岡部ではなく、 「あ、朝比奈さん……?」 そこには見つめているだけで何かを見出してしまいそうな可憐な上級生がいた。 その姿は、昨日のハルヒの発言により俺の脳内に自動作成されたまさに理想系の…… 「ちょっと、何変なこと考えてるのよ。 斜めから後ろからちょっと見ただけで分かるような間抜け面よ」 おもっきり不機嫌そうな谷口に指摘された。 ……こういう理解不能な現象が起きているときに有効なのは、 そう、現状維持で下手に手を出さず大人しく時が過ぎるのを待つことである。 放課後になれば、あの俺の悩み会話相談室の会長であらせられる万能宇宙人が説明してくれるさ。 時々チラホラ見えてしまう朝比奈先生の谷間や生足にニヤニヤしながら、 放課後まで待てばなんとかなると信じ待機状態を保っていた。 そして、昼飯だ。 「──んでよぉ、女ってのはやっぱり鎖骨だよな、鎖骨」 「……相変わらず谷口はマニアックなところをつくね」 と、どこの小学校の5年2組だと思うようなトークを繰り広げているのは、 俺の横に机を並べて弁当を食っているハルヒだ。 結局ずっと後ろの席に座っていた谷口は、チャイムがなるとさっさと教室を出て行ってしまった。 というかハルヒ、頼むからガニ股はやめてくれ。 京兄ちゃんでさえ守り続けてきた絶対領域神話が崩壊するぞ。 「だから、女ってのはそういう ──おっと」 コロコロと俺の足元あたりに箸が転がってきた、話に夢中で落としてしまったのだろう。 「あぁもう、しゃーねーなぁ」 と、少し舌打ちしながら俺の足元の落下物を拾おうとして ガタッ 「のぁっ!?」 イスに座ったまま拾おうとしたのが災いしたのか、ハルヒはバランスを崩して…… 「うおっ! ……いっつ、手捻っちまった。 おお、すまん大丈夫かキョン」 俺に覆いかぶさるように倒れてきた。 当然受けようとした俺は仰向けになって、ちょうどハルヒが押し倒したような位置関係になっている。 で、当然ハルヒの胸元の強調部分が俺の胸板と…… うん、柔らかいな。まあ朝比奈さんには劣るがそれなりの盛りはある。 俺の触覚は胸板にかかる微弱な圧力を捕らえ、 俺の嗅覚は眼下にあるハルヒの髪から漂う少しいい匂いを……いいにお…… 「──ってうおぁあああああっ!!! ははははっ、早くどけぇっ!」 俺は半ば突き飛ばすようにハルヒの体を遠ざけた。 「いてっ、な、何慌ててんだ?」 「どうしたのキョン。卵焼きでも潰しちゃった?」 谷口と国木田が、不思議そうに俺の顔を覗き込む様子が声の調子で分かる。 だが今の俺はそんなことに応答している余裕はなかった。
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/1810.html
なによ。何をいまさら謝ってるのよ。遅いのよ、このバカ! 衝動のまま、あたしはよっぽどそう怒鳴りつけようとした。振り払おうと思えば、あいつの手を振り払う事だって出来た。でも――。 「確かに、俺はバカだった…バカげた勘違いをして、そのせいでお前をひどく傷つけちまって…すまん、本当にすまん…」 キョンの奴、いつになく真剣に謝るんだもの…。自分で先にバカとか言われちゃったら、こっちだって怒りづらいじゃないのよ。 「本当はな? 本当は俺、お前の心遣いが嬉しかったんだ。 昨日の友達の葬式からずっと、俺はなんだかモヤモヤした不安を抱えながら過ごしてた。今日の不思議探索も、家でじっとしてたら今よりもっと気が滅入っちまいそうだから、ただそれだけの理由で参加しに来たんだ」 うつむいたまま、消え入りそうな、か細い声で呟く。あたしには今のキョンが、なぜだかやけに小さく見えた。 「気持ちが沈んでるのは分かってても、自分ではどうする事も出来なくて。お前の言った通り、俺は心の病気とやらに罹ってたんだろうな。 だからハルヒ、お前が俺の事を気に掛けてくれたのが嬉しかった。いきなりホテルに連れ込まれた時はそりゃもちろん驚いたけど、本心じゃすごく嬉しかったんだよ。 けどな――。もしも、もしもだ。 ここにいるのが俺じゃなかったら? そう思ったら、その嬉しさが逆に、心をキリキリ締めつけ始めたんだよ」 そうして再び口を開いたキョンの独白には、明らかに自嘲の色が混ざっていた。 「もしも今日のクジ引きでコンビを組んでたのが、俺じゃなくてハルヒと古泉だったら? もしも落ち込んでたのが俺じゃなくて、古泉の野郎だったら? ハルヒの奴は同じような手段で慰めたりしたのか?ってな」 「ちょ…なに言ってんのよ、キョン! そんな事あるわけが」 「俺だって分かってたさ、そんなのは邪推だって! だけど、それでも…」 一瞬、語気を鋭くしたかと思うと、キョンの奴はあたしの手に重ねていた手を、自ら離してしまった。その手で自分の顔を覆って、うめくように呟いた。 「それでも一度心にまとわりついた疑念を、俺は振り払う事が出来なかったんだ。 お前に優しくされるたびに、俺は逆に、針で突つかれたような気分になって…お前の善意を、わざとひねくれて受け止めて。正直、ビックリしたよ。俺ってこんなに卑屈な人間だったんだな、ってさ」 乾いた笑いを洩らして、それからキョンは、疲れた顔であたしを見上げた。 「すまなかったな、ハルヒ。お前に投げられて、逆になんだかスッとしたよ。自分がどれだけバカだったか、ようやく実感できた。 それだけ伝えたかったんだ。もうどこへでも行っていいぜ? 俺なら大丈…」 「どこが大丈夫なのよ、このバカっ!」 くだらないセリフを聞き終えるまでもなく、あたしはキョンの脳天にチョップを振り下ろしてやったわ。そしてあいつがひるんだ隙に耳たぶを引っ掴み、今度こそ大声で怒鳴りつけてやったの。 「自己陶酔はそれで終わり? だったら、今度はこっちの番ね!」 宣告するなり、有無を言わさず。 あたしは引っ張り上げたキョンの頭を、空色のブラウスの胸の中に、ギュッと抱きしめてやったのだった。 「まったく! あんたはいつも斜に構えてばっかだから、感情表現ってのが下手くそなのよ。だから心に余計な重荷を抱え込んじゃうのよね」 「お、おい。ハルヒ、これは…?」 「なによ。どうせ言葉で何を言ったって、あんたはひねくれた受け取り方をしちゃうんでしょ? だから態度で示してあげてんの。 言ったはずよ、あたしがあんたを治療してやるんだって。言ったからには、あたしは断固としてあんたを治すの! どんな手段を使ってもね!」 ぴしゃりとキョンの反論を押さえ込み、それからあたしは、最上級の微笑みであいつに語りかけた。 「だから、キョン。病気の時くらい、あたしを頼りなさいよ。 これもさっき言ったはずでしょ、今この時、この場所でだけは、あたしの事をあんたの好きなようにさせてあげるって。 分かった? 分かったなら今は、あたしの胸に不安でも卑屈さでも、何でも委ねちゃいなさい。全部受け止めてあげるから」 「ハルヒ、お前…怒ってないのか?」 「団長様を舐めんじゃないわよ。心が苦しい時とか、つい思ってもない事を口走っちゃったり、そういう気持ちくらいお見通しなんだからね!」 あたしの、自分で言うのも何だけど天使のような慈愛の言葉に、キョンの奴はしばらく戸惑いの表情を浮かべていた。けれども、やがて両の目蓋を閉じ、あたしの胸に深く顔をうずめてくる。 「ん、素直でよろしい。 それじゃ、これは団長としての命令ね。さっさと普段のキョンに戻りなさい。下っ端のあんたがそんなんじゃ、みくるちゃんや有希や古泉くんに迷惑が掛かるんだから」 「………ああ」 そうして小刻みに震えるあいつの背中を撫ぜ、胸の中から響いてくる小さな嗚咽を聞きながら、あたしは心の内で、いつものあいつの口癖を真似ていたのだった。 やれやれ、本当に世話の焼ける団員なんだから――ってね。 それにしても、まあ。 いつもはあれだけ減らず口ばかり叩いてるくせに、一度タガが外れたらこんなものなのかしら男の子って。図体ばかり大きくっても、こいつも中身はまだまだ子供ね。 「ハルヒ…」 「うん? なあに、キョン」 「お前の身体って、なんだかいい匂いが(バシッ!)」 訂正! 訂正訂正! こいつの中身はエロエロ大王だわ! 「どさくさに紛れてなに言いだすのよあんたはッ!?」 「いってーな! なんだよ、褒め言葉だろ?」 「ほ、褒め方がヘンタイっぽいのよっ! いきなりそんなコト言われる方の身にもなってみなさいよ、このバカっ!」 予想してなかった所に不意打ちを喰らって、あたしは思わずキョンの奴に手を上げてしまっていた。もうほとんど条件反射。パブロフの犬も爆笑ね、これは。 そんなに強く引っぱたいたつもりはなかったんだけど、中腰の姿勢であたしの胸にすがっていたキョンは、よろけた拍子に後頭部をしたたか壁にぶつけてしまった様子だった。う~っ、そんな恨みがましい目でこっち見なくたっていいじゃない。今のは事故よ事故! 事故なんだから! そりゃ『今だけはあたしのこと好きなようにしなさい』って言い出したのはこっちの方だけど、でもあたしだって初めてでやっぱり緊張してるんだし。あんただって、少しはムードを盛り上げる努力とかしなさいよ! ほら、その、キ、キ、キスとか、さ!っていうかキョン、あんた、まだあたしに――。 などと、あたしが形容しがたい感情の変転に心を振り回されていると。キョンの奴はその表情を、唐突に苦笑いに変えた。 「やれやれ、今のも本気で褒めたつもりだったんだが。どうも人生ってのはままならないもんだ」 「なによ、キョンったら大げさね。こんな事くらいで人生語っちゃって」 「いや、まあ何というかだな…」 言いづらそうに語尾を濁して、キョンは頬を掻きながら視線を逸らした。 「これ、本人からは『内緒ですよ?』って言われてたんだけどな。実は俺、午前の探索の時に忠告を受けてたんだよ、朝比奈さんに」 「へっ? みくるちゃんから、忠告?」 ええと、それからこいつが語った所によると。 午前の間に、みくるちゃんからキョンにアドバイスがあったそうなのよ。いわく、 「あのね、キョンくんの事も心配なんだけど、わたしとしては涼宮さんの事も心配なの。キョンくんがいつもの調子じゃない事を、彼女、すごく気にしてるように見えたから。 だからキョンくん、本当に元気出してくださいね? それと、もしかしたら涼宮さん、ちょっと強引な方法でキョンくんを励まそうとしたりするかもしれないけど…広い心で受け止めてあげてね? お願い」 という事らしい。 へえ、あのみくるちゃんがそんなお姉さん的発言をねぇ。まがりなりにも先輩、って事なのかしら。外見からは、とても年上とは思えないんだけど。 うーむ、でもあたしがキョンの事を気にしてる間に、みくるちゃんはあたしとキョンの両方を心配するだけの余裕があったわけだから、ここは素直に敬服しておくべきかしら。うん、そうね。次のコスは女教師物なんかが良いかも………って、えっ? ええっ!? という事は? ロボットみたいにぎくしゃくした動きでキョンの方へ首を向けたあたしは、おそるおそるあいつに訊ねかけてみた。 「じゃ、じゃあキョン、あんたひょっとして…気付いてたの?」 「やれやれ、やっぱそうだったのか。長門が午後のクジ引きの爪楊枝を差し出してきた時点で、妙な感じはしてたんだけどな」 少し困ったような顔で、キョンの奴は大きく肩をすくめてみせた。 つまりまあ、そういう事だ。 午前の探索の間に、あたし、有希、古泉くんの3人は、キョンを元気付けるための作戦を立てた。その際、古泉くんは 『彼の場合、変なお膳立てをしてしまうと、かえって反発しかねません。ここはあくまで偶然を装うとしましょう』 というアドバイスをくれて、あたしと有希もそれに同意。午後の班分けの時に有希に協力して貰って、作戦は決行されたわけよ。 ところが一方、同じく午前の探索の間に、みくるちゃんはキョンに 『もしかしたら涼宮さん、ちょっと強引な方法でキョンくんを励まそうとしたりするかもしれないけど――』 とアドバイスしていたわけで。キョンの奴には、あたし達の“お膳立て”はバレバレだったらしい。 はー、道理でキョンの奴、あたしの言葉をひねくれて捉えてたわけだわ。 あたしだって時々、親の気遣いなんかを「余計なお世話っ!」とはねのけてしまう事があるもの。心を病んでいたキョンが、みんなの心配を逆に、自分が弄ばれてるように錯覚して受け止めてしまったとしても無理はないわね。 けど、それにしたってこれは…ねえ? さっきまでキョンの治療をしてあげるとか言っていたあたしだけど、今はむしろ、自分の方が虚無感とやらに襲われてる気分よ。 「なんだかなあ…。あたし達SOS団全員、お互いに良かれと思って、その実は足の引っ張り合いをしてたわけか…」 「俺も結局、せっかくの朝比奈さんの忠告を生かせなかったし。結果的にはそういう事になるかもな」 だからって、もちろんあたしは、みくるちゃんを責めたりする気にはならないわよ。みくるちゃんはみくるちゃんで、あたし達のためにいろいろと気を使ってくれたわけだしね。 ただ、何と言うか…廊下で向こうからきた人をよけてあげようとしたら、あっちも同じ方向に動いてきたみたいな? そんな苛立ちと虚しさを、さすがのあたしもひしひしと感じざるを得なかったわね。さっきまであれやこれやと、さんざん気を揉んできただけに。 「なんか、急に疲れがどっとわいてきちゃったわ。もしかしてあたし達って、ずっとこんな風にうまく行かないのかしら」 「おいおい、さすがにそれは…ん、いや待てよ? だとしたら、あー…」 あたしの嘆息に苦笑しかけて、キョンは急に真剣な顔になると、なにやら考え込み始めた。ちょっと、いったい何なのよ? 「なあハルヒ、お前は普通じゃない体験をしたいんだよな?」 「はぁ? 何よいまさら」 「そいつは一言で言うと、映画や小説の主人公みたいになりたいって事か?」 「ええ、そうね! あたしにはやっぱり、主役級の大活躍こそがふさわしいもの!」 鏡を見るまでもなく、この時のあたしは宝石みたいに瞳をキラキラ輝かせてたはずよ。そんなあたしに向かって、キョンの奴はどこか呆れたような表情を見せた。ちょっと、自分で振っといてその態度は何よ!? 「それじゃ仕方がないな。お前の行く手には、常に何らかの障害が立ちはだかるってこった」 「えっ? どういう事よ、それ!?」 「だってそうだろ。俺が映画で見た冒険家は、お宝にたどり着くまでにゴロゴロ転がる大岩に嫌ってほど追い回されてたし、名探偵は後ろから角材で殴られたり、覚えのない冤罪の汚名を被せられたりしてたもんだ。 逆の視点から見れば、映画やら小説やらの主人公ってのは、そういうトラブルをどうにかして乗り越えていくからこそ魅力的なんじゃないのか?」 愉快じゃないけどキョンの指摘は確かで、あたしは頷かざるを得なかった。 「それはまあ…そうかもしんないけど」 「つまりだ、お前が主役級の大活躍って奴を追い求めてる以上、必然的に何かに妨害されて、どうにも思うように事が運ばないって状況が訪れるわけだな」 そのセリフから一拍置いて、すっと目を細めたキョンは、なにやら挑戦的にあたしに問いかけてきたのだった。 「さて、どうするんだ団長さんよ? これからもいろいろと邪魔が入るとして、それでもまだスーパーヒロインを目指すのか?」 ああ、この顔だ。少し皮肉っぽい口元。諦観の混じった眼差し。小首を傾げて、どこか挑発するようにあたしに訊ねかけてくる。 あたしに向かって、こんな顔をする奴はそうはいない。あたしの大っ嫌いで、そして大好きな――いつもの、キョンの小憎たらしい表情だ。 「ずいぶん大層なご口上ね、キョン。あたしを試してるつもりかしら?」 キョンの奴が復調したからには、何も遠慮する事はない。あたしは腕組みをして、キョンの頭の真横の壁にドン!と片足を踏みつけると、大上段から丁寧に答えてさしあげたわ。 「妨害? 邪魔? 望む所よ、来るなら来たいだけ来ればいいわっ! この涼宮ハルヒ様の前を塞ぐような連中はね、たとえ緑色の火星人だろうが青っちろい海底人だろうが、みんなまとめてボッコボコにして…あげ…」 そう、あたしは大見得を切るつもりだった。それにやれやれとキョンが呟くのが、いつものあたし達の小気味良いパターンのはずだった。のに。 「…ハルヒ?」 けれどもその時、キョンの顔を見た瞬間。 あたしはなぜかセリフを途中でノドの奥に詰まらせて、ホテルの一室に、馬鹿みたいに呆然と立ちつくしてしまったのだった。 次のページへ
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/19.html
ハルヒ「週末にスキヤキパーティーするわよ」 古泉「いいですね、僕は鍋を用意しますよ」 みくる「私はお野菜もってきますね」 キョン「野菜は多いですからね俺と分担しましょう、朝比奈さん」 長門「…肉、もって来る」 ハルヒ「じゃあ、私はたま…」 古泉「卵も僕が持ってきましょう」 ハルヒ「えっと、マロ…」 みくる「マロニーと蒟蒻は私が用意しますね」 ハルヒ「やっぱり白…」 長門「米…持ってくる」 キョン「やっぱ友達同士で持ち寄るってのはいいな」 一同「ハハハ」 ハルヒ「……」 ハルヒ「キョン、すき焼きするからお肉買ってきて」 キョン「…………」 ハルヒ「キョン!あんた人の話聞いてるの!?もういいわ、古泉君よろしく」 古泉「マッガーレ」 ハルヒ「…………有希、頼める?」 長門「だまれ」 ハルヒ「うっ…み、みくるちゃん頼める?」 みくる「なんであなたのいうことを聞かなくちゃいけないんですかー?」 ハルヒ「わかったわよ。私が行くわよ…ぐすっ」 バタン 古泉「マッガーレ」 ハルヒ 「ねえキョン、昨日私が言ったテレビの心霊特集見た? ほんと子ども騙しにも程があるわ! あんなの誰が見たって……」 キョン 「え、あ……いや、悪いな……見ようと思ったんだけど、妹怖がるから見れなかったんだ」 ハルヒ 「え……あ、ああ……そう……仕方ないわよね……」 キョン 「悪いな」 ハルヒ 「ん……別に」 キョン 「…………」 ハルヒ 「…………」 キョン 「…………」 ハルヒ 「…………………………………それでね」 キョン「あれ……? 古泉まだか……?」 ハルヒ「古泉君、なんか急にバイト入ったからこれないらしいわよ」 キョン「そうか、じゃあ暇だな…………そうだ、たまにはオセロしないか? お前とはやったことないよな?」 ハルヒ「……仕方ないわね、やってあげるわ、じゃあ負けたほうは罰ゲームね」 キョン「……キツイのは無しだぞ、いいな?」 ハルヒ「あら、キョンは負けるの怖いの? そりゃそうよね、キョンの頭で私に勝つなんて……」 キョン「フンッ、俺の秘技【四方返し】を見てもそんなこといってられるか? ……ちょっと待ってろ、用意するから……」 ハルヒ「ふーん、なかなか楽しませてくれそうね……!」 キョン「楽しむなんて生易しいもんじゃ……アレ……? ……あっ、オセロ昨日持って帰ったんだった」 ハルヒ「へ……?」 キョン「悪い、オセロねえや」 ハルヒ「…………」 キョン「……暇だな~」 ハルヒ「…………(ワナワナ)」 ハルヒ「あ~も~暇ね~……」 キョン「珍しく賛成だ」 ハルヒ「ん~……そうだ、キョン何か面白い話してよ」 キョン「……急に言われてもなあ……」 ハルヒ「別にいきなり面白いのじゃなくてもいいわよ、ちゃんと笑ってあげるから」 キョン「……」 キョン「……昔さ、俺んちの隣のおじいちゃんが死んじゃって……」 ハルヒ「アハハハッ!! それサイコー!!」 キョン「…………」 ハルヒ「アハ…………ハ」 キョン「…………」 ハルヒ「…………」 キョン「……ダメだ……」 ハルヒ「うっ……ひっく……ごめんなさい……ぐすっ……」 ハ「キョン、すき焼きするからお肉買ってきて」 キ「ああ…分かった」 ハ(珍しく素直ね…) キ「長門、行くぞ」 ハ「!?」 長「………(無言で頷く」 出て行く二人 ハ「………」 ハ「キョン、ガスコンロのガス切れちゃったから買ってきなさい」 キ「あぁ、分かった。長t ハ「有希は連れてかなくていいわよ!」 キ「………チッ」 ハ(露骨に舌打ち!?) ハ「キョン、スレ落ちそうだから保守してきなさい」 キ「あぁ、分かった。長t ハ「有希は連れてかなくていいわよ!」 キ「………チッ」 ハ(露骨に舌打ち!?) 長「……チッ」 ハ(こっちも!?) ハルヒ「ねえキョン、スキヤキしたあとご飯いれる派?」 キョン「ああ、うちは餅とかうどんも入れるな」 ハルヒ「あ! お餅入れるとおいしいわよね! 分かる分かる!!」 キョン「ああ、そうだな」 ハルヒ「………」 キョン「………」 ハルヒ「………」 キョン「………」 ハルヒ「…………………………………………………それでね」 キョン「ん……でも、やっぱりハルヒって料理うまいな」 ハルヒ「えっ……! あ……と、当然よ、当然! 私はキョンと違って万能型だからなんでもできて当たり前なのよ!」 キョン「………そういうトゲのある言い方やめろよ、せっかく人が誉めてんのにさ……あ~あ……誉めて損した」 ハルヒ「え……? あ……あ、その……」 キョン「………じゃあそろそろ帰るわ、長門、手伝ったほうがいいか?」 長門「大丈夫」 キョン「そっか、悪いな、じゃあな」 ――パタン ハルヒ「あ……」 長門「……もっと素直になったほうがいい……」 ハルヒ「…………そう……よね……ハァ……」 ハルヒ「ねえキョン、なんでみんな部室に来ないのかしら?」 キョン「・・・・・IEの履歴は消しといたほうがいいぞ」 「それじゃあな、ショタコン」 ハルヒ「ねぇキョン!卵の黄身と白身どっちが好き?」 キョン「何だいきなり」 ハルヒ「いいから答えなさいよ!」 キョン「・・・キミが好きだ」 ハルヒ「ごめん聞こえなかったわ、もう一回言ってくれる?」 キョン「キミが好きだ」 ハルヒ「私も好きよ!キョン!」 キョン「そうか、あの口の中の水分を根こそぎハンティングする感が大好きなんだよ」 ハルヒ「いや・・・そうじゃなくて・・・」 キョン「ん?じゃあなんなんだよ。お、長門~今帰るのか~?丁度良い、茶でも奢るからちょっと付き合えよ」 長門「コクリ」 ハルヒ「・・・・・・・」 長門「・・・・私は白m」 ハルヒ「聞いて無いわよ!」 キョン「俺はSOS団を辞めるぞーハルヒー!!」 ハルヒ「そんな!?あんたのいないSOS団なんて意味ないわ思い直してキョン!」 キョン「じゃあ、お前も止めろよ。そうすれば一緒だろ」 ハルヒ「それもそうね。あんた頭いいわね。 それじゃあ、早速生徒会に知らせてくるわ」 キョン「やったな!これでこの部室は文芸部のものだ。 あの訳の分からない同好会以下の部ともおさらばだぜ!」 長門「…ブイ」 古泉「まったくあなたも人が悪いですね」 みくる「古泉君も止めなかったじゃないですか」 古泉「それもそうですね」 キョン・長門・古泉・みくる「アハハハハハハハハッ」 ハルヒ「待ってててね。キョン今帰るからね!」 鶴屋「今日は私のおごりさ、がっつり食べてくれにゃ」 ハルヒ「ほら、キョンこれ焼けてるわよ!はやく食べなさい!」 キョン「かってに俺のさらに乗せるな、汚らわしい」 「あ、朝比奈さん、それハルヒがひっくり返したやつです、食べない方がいいですよ」 「おい古泉、それは俺が愛情こめて焼いてるやつだ、勝手に食うな」 古泉「だから食べるんじゃないですか、ああ長門さん、それ、涼宮さんが触ったやつですよ」 長門「・・・ありがとう」 ハルヒ「らんららんららーん♪キョン食べてくれるかしら、私のおにぎり」 ハルヒ「あっれー?おかしいな?にけやの袋しかないや、ま、いっか」 学校で ハルヒ「キョン、おにぎり作ってきたから一緒に食べなさい!」 キョン「どうしたんだめずらし・・・・おちょくってんのかお前」 ハルヒ「え、な、なに?」 キョン「脇で握られたちぢれ毛入りおにぎりなんて食えねーだろ」 ハルヒ「え、いや、脇でなんて、それに、いま冬だしえ、いや」 ハルヒ「さあ、出来たわよキョン。たらふく食べなさい」 キョン「…何だこれは」 ハルヒ「何って見て分からないの?蕎麦よ、そ・ば。 今日は暑いからざる蕎麦よ。あまりの美味さに昇天するわよ」 キョン「…お前の気持ちはよく分かったよ」 ハルヒ「??」 キョン「俺が蕎麦アレルギーだってことを知って蕎麦を用意したのか。 昇天か、あやうく殺されるとこだったぜ」 ハルヒ「え、ちが」 キョン「黙れ殺人鬼!もう金輪際俺にちかづくんじゃねえ!あばよ!!」 ハルヒ「あっ、キョン待って!」 ズルズルズル 長門「刻み海苔がない。わさびの風味も足りないこれは蕎麦じゃない」 古泉「さあ、出来ましたよキョンタン。たらふく食べてください」 キョン「…何だこれは」 古泉「何って、見て分からないんですか?蕎麦です。 今日は暑いからざる蕎麦です。あまりの美味さに昇天しますよ」 キョン「…お前の気持ちはよく分かったよ」 古泉「・・・」 キョン「俺が蕎麦アレルギーだってことを知ってそばを用意したのか。」 古泉「はい。知ってます。」 キョン「?」 古泉「キョンタンが蕎麦アレルギーということで、そば粉を使わずに蕎麦を作りました。 苦労したんですよ。」 キョン「古泉・・・・・・俺の為に・・・・・・」 古泉「さぁ、たらふく食べてください!」 キョン「うう・・・・・・ありがとう古泉・・・・・・」 ズルズルズル 長門「白くて蕎麦にしては太い。むしろうどん」 ハルヒ 「もぅ!男同士でこすったり、さわったりして!!何が楽しいの!!ニンテンドーDSいっしょにやろうよ!」 キョン 「それ以上大声で叫ぶな。お前がいう言葉はすべて卑猥に聞こえる」 古泉 「それに、われわれはニンテンドーDSなんかしてませんよ。キョンたんをこすったりさわったりして遊んでいるんですよ」 ハルヒ「!! ちょっと・・・私の机とイスがないじゃない!」 ハルヒ「ねぇ朝倉さん、私の机がないんだけどどうにかしてよ。」 朝倉「うん、それ無理。」 ハルヒ「無理って・・・、あんた学級委員長でしょ!」 朝倉「死になさい。」 ハルヒ「・・・・・・」 ハルヒ「シャミセン~~~、ほれほれ~」 シャミセン「にゃ~」 ハルヒ「こっちこっち~~」 シャミセン「にゃーにゃー」 ハルヒ「やっはりあげなーいっ!」 キョン「おい、あんまいじめんなよ」 シャミセン「シャー!!」 ハルヒ「キャー!」 キョン「おい、ぱ、パンツ見えてるぞ…///」 一応いじめもののつもりだ ハルヒ「みんな!今度の日曜日に探索に向かうわよ! もしかしたら宇宙人とか何か出るかもしれないわ!」 みくる「こいつはくせぇッー!電波のにおいがプンプンするぜッーー! こんな電波には出会ったことがねえほどなァーーーッ 七夕で電波になっただと?ちがうねッ!!こいつは産まれてついての電波だッ! キョンくん 早えとこ病院に渡しちまいな!」 ハルヒ「な、そこまでいう必要ないじゃない!有希ちゃんは来るでしょ」 長門「これは試練だ 電波に打ち勝てという試練を受け取った」 ハルヒ「ひ、酷い みんなして酷いこと言わなくてもいいじゃない」 キョン「おい!これじゃあまりにもハルヒが可哀想だろう! 確かにハルヒは電波だがここまでいう必要がないじゃないか!」 ハルヒ「キョン…、それじゃ来てく【キョン】「だが断る」 部室から出て行く部員達、残されたハルヒ ハルヒ「私が何をしたっていうのよ・・・」 古泉「なんていうか……その… 下品なんですが…フフ…… 勃起………しちゃいましてね…………」 みくる「おめーなにキョン君たぶらかしてんだよーああ?!」 ハルヒ「すいません、私は恋しちゃだめってことですか?・・・・」 みくる「恋するなとは言ってないだろうが!!だったらキョン君以外でしろ!!わかったな!!」 ハルヒ「・・・・・・・はい」 みくる「明日も虐めてこいよ!!か弱い女の子に男は弱いんだからな!!」バタバタバタ ハルヒ「はい・・・・」 ハルヒ「キョン・・・・・・・・」 ハルヒ「やめて!電源コードを鼻にささないで!!」 みくる「ふふふ、いくわよ?スイッチ…」 ハルヒ「やめてえええぇぇぇ」 みくる「オン!!」 かちっ みくる「あばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばば」 ハルヒ「ひ、ひゃあぁぁあああ」 キョン「ハルヒ・・・お前に言っておくことがある」 ハルヒ「なによ」 キョン「オレは阪中さんのことが好きだ」 ハルヒ「!?と、ととと突然なに言い出すのよ!」 キョン「オレは本気だ。2番目は朝倉だ。それはどうでもいいんだが、 どうしたら彼女と付き合えると思う?」 ハルヒ「あ、あんたなんかがあの子と釣り合うワケないでしょ! なんたって相手はお嬢様よお嬢様!顔だってかなりかわいいし!」 キョン「わかった。お前はアテにならなさそうだ。他をあたってみる」 ハルヒ「ちょ、ちょっとキョン!どこ行くのよ!」 キョン「ちなみにハルヒ、お前は12番目に好きだ」 ハルヒ「・・・・・・・・」 ハルヒ「ちょっとキョン!あたしの日記見た!?」 キョン「黙れよ切れ痔女( ´,_ゝ`)」 ハルヒ「き、ききききき切れ痔じゃないわよ!キョンのバカあぁぁぁぁっ!」 ハルヒ「うわあぁぁ~ん!」 キョン「じゃあ俺が痔を治してやるよ」 ハルヒ「へっ?何を言って…きゃあ!ちょ…やめ…」 キョン「へへへ…なかなか綺麗なケツしてるな」 ハルヒ「アナルだけは!アナルだけは!」 ハルヒ「ちょっとキョン!あたしの日記見たでしょ!? …見たんでしょ? 白状しろ~~~」 キョン「……いや…(お前に)興味無いし…帰るわ」 ハルヒ「ちょっとキョン!あたしの日記み、見た!?」 キョン「えぇ、机に置いてあるあれ朝比奈さんの日記じゃなかったのか!?」 ハルヒ「やっぱ見たのね。この覗き魔」 キョン「プッ、お前の日記だったのあれクククッ…アハハ」 ハルヒ「何よ?笑われる内容は書いてないわよ、団長日誌なんだから」 キョン「ハハハ、だって乙女チックな文字にクマやウサギの手書きイラストだぜ」 ハルヒ「なっ、何よっ!!私だって女の子なんだからねっ、バカキョン!!」 長門「…かかと落とし!」 みくる「ふみゅ~~、ぃたいです~~」 古泉「ははは、空中モトヤチョープ!」 ハルヒ「ちょっ、ちょっと何すんのよ!!!」 ………… キョン「ハルヒ、空気読めよ…って言うだけ無駄か」 みんな「あはははははははは!!」 ハルヒ「うぇ~ん、腫れてるよ…」 ハルヒ「キョン、私の気持ちに気付いてくれるかな?」 長門「…それはない」 みくる「何ねぼけたこと言ってるんですかぁ?」 古泉「今日は差し入れを持ってきました。フンモッフベーカリーのカレーパンですよ。」 みくる「わぁ、知ってます。あそこのカレーパンって並ばないと買えないほど人気なんですよね。」 古泉「あそこのパン屋の主人とは古い付き合いでしてね、特別にとっておいてもらったんですよ。 さぁキョン君、どうぞ。」 キョン「あぁ、悪いな。」 古泉「朝比奈さんもどうぞ。」 みくる「はい、ありがとうございます。」 ハルヒ「気が利くじゃない古泉君!」 古泉「長門さんも。」 長門「・・・・・・」コクッ キョン「あれ?古泉、お前の分は?」 古泉「ちゃんと人数分買ってきたんですけどね・・・あ、気にしないでください。」 キョン「たぶんこの中にあつかましい奴が一人いるんだろうな。」 みくる「・・・・・・チラ」 長門「・・・・・・チラ」 ハルヒ「・・・・・・・あの、古泉君、私お腹いっぱいだから・・・・。」 ハルヒ「東中出身、涼宮ハルヒ。ただの人間には興味ありません。 このなかに宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたら あたしのところに来なさい。以上。 あ、あと水虫です。」 一同「触んなや。」
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/5695.html
火曜日、朝。 ただの夢なのかそれとも悪夢なのか、そもそもこれは夜に見ているものなのだろうか、もしかしたら白昼夢のただ中にいるのではという感じの夢を見たあげく、妹の容赦ない目覚まし攻撃で俺はどうやらあれは夢であり、こっちが現実らしいという自覚を得た。内容は気持ちのよろしくない夢を見たという輪郭程度しか残っていないが、こちらで目覚めても俺はまだ夢の中にいるような気分だった。 朝食を喰って鞄をひっさげ家を出て、北高に続く地獄坂を登る俺の足取りは、ここ一年で最悪級の重さだった。どうせなら今日一日くらい仮病を使いたかったのだが、考えてみれば仮病は先週の金曜日に強行したばかりであるのでそうも言っていられず、俺はせめて不快感と疲労感を顔の全面に押し出して山登り集団に混ざった。 さて、学校に到着して最初に向かったところと言えば部室棟に他ならない。どうせ受け入れなければならん事実は早々に知っちまったほうがいいのだ。たぶんこう考えていられるうちは、俺は大丈夫だろうよ。 古泉のボードゲームがなくなっていたりした場合、俺はどういう反応を取るだろうかという何の役にも立たない想像をしながら、順当に部室に辿り着いた。こういうときばかり谷口や国木田とも会わない。仕方がないので俺はしばし呼吸をととのえ、注射器を目の前にした子供のように目を閉じて扉を開いた。 「あれっ?」 とまあ、のっけにそんな言葉が出たのも無理はないと思って欲しい。あとは絶句である。 いや、そう言うと語弊があるかもしれない。ただ言葉がでなかったのだ。隅々まで目をやっても、俺は三点リーダ状態から抜け出すことができなかった。 何が起こったのか。俺の頭はようやく稼働し始めた。 まず、俺は時間遡行でもしちまったんじゃないかと疑った。しかしそれはホワイトボードに書かれている文字によって否定できる。「明日合宿用品買い出し、費用各自持参」とハルヒの字で書いてある。昨日、俺とハルヒと古泉の三人の部室でハルヒが宣言した通りだ。つまり今日は昨日の明日であって、時間遡行ではないらしい。 次に俺は世界が変わっちまった可能性を考えた。しかしそれもどうかと思う。世界改変をやってのけるようなヤツは今、周防九曜ぐらいしか存在しないのだ。ただしあいつがそんな芸当をできるという保証はないし、それも今日のこのタイミングで今さら、とも思う。 最後の可能性として、俺はすべてが終焉を迎えてしまったということを考えた。俺の代わりに誰かが事件を解決してくれたとか、あるいは犯人――周防九曜が侵攻を中止したとか。 だってなあ。そうじゃなけりゃ、説明がつかんだろ。 部室には、長門の本、朝比奈さんのハンガーラック及びコスプレ、古泉のボードゲーム各種がすべてあったのだ。 何だそりゃ、と思ったね。気抜けしたと言えばその通りである。古泉のボードゲームが消えていたらどうしようなどと悲観的なことばかり考えていたから、さすがに元通りになっているというのは考えも及ばなかった。いまだに俺の頭の中と外にはハテナマークが飛び回っているが、力の篭もっていた肩からは力がどんどん抜けていった。 改めて部室を見回す。インスタントコーヒーのパックは茶葉の缶に戻っているし、立方体のようなハードカバーは十年も前からそこにあったかのように整然と本棚に並んでいる。古泉の持ち込んだボードゲームは昨日と同じ場所にあるし、中央の机には団長の三角錐がある。鶴屋山原産の七夕の笹には叶うかどうかも解らない五つの願いがぶら下がっている。まるで元通りである。俺は何か悪い夢でも見ていたのだろうかと疑いたくもなってくるね。もしかすると、先週の金曜日から催眠術か暗示にかけられて幻覚を見ていただけだったのかもしれん。思い出せばそんなもんだ。俺の中学校三年間並にあっけなく、そのあっけなさを疑いそうである。 「しかし、ほんとに元通りだよな……」 だが、疑うべきところは一つもないのだ。デスクトップパソコンはしっかり鎮座していて何代も前のものではないし、ここに人員が集まればそれで間違いないと思えるくらいに不自然な点はない。しかし俺の内部に魚の小骨が喉にひっかかって取れないようなわだかまりみたいなのが残っているのは、これがあまりにも唐突すぎたからなのだろうか。 なぜか元に戻った部室。俺が相応のことをしていれば納得もするだろうが、俺は本当に特に何もしていないのだ。それなのに、何故? 昨日の夜から今朝にかけて「何か」があったことは確かなのだが……。 まあいい。どうせ長門や古泉はいるんだろうから、昼休みか放課後にでもゆっくり話を聞かせてもらおう。 俺はどうも釈然としない気持ちのまま、気分を浮つかせることもできずに部室を後にした。 * いかんな。 冷静に考えなければならないだろう。長門の本があったり急須があったりボードゲームがあるだけでは本人が戻っているという確たる証拠にはならない。ここで全員元通りだと思いこんではアウトである。都合がよすぎることの裏には高確率で怪しいことがあるし、視覚情報による思いこみは最初っから疑ってかからなければならん。探偵が推理を行うときの基本事項である。 部室のあらゆるアイテムが元に戻ったように見えた。少なくとも俺の記憶、俺の目を信じるとするならば。 しかし俺は探偵などではない。古泉ほど思慮深い頭を持っているわけでもないから、せいぜい俺は探偵のパシリ止まりさ。考えすぎるのは性に合わん。行動に移すほうが案外、何倍も楽なのだ。 そしてその行動の予定なら立っている。別段難しいことではない。長門や古泉のクラスに行ってみればいいのだ。そこに奴らがいたら何が起こったんだと問いつめればいいし、いなかったらいなかったで対抗策を打つ必要がある。 俺はそんなことを一限二限を聞き流しながら考えていた。次の休み時間になったら行けるかと思っていたが、その計画はあえなく破錠した。 後ろのハルヒが俺を離さなかったからである。 「キョン、夏合宿に必要なものって、何だと思う?」 こいつの目の輝きは夏が近づくにつれて増していくようだった。考えていることはどっかの田舎の小学生とたいして変わらん。 「さあな。合宿を楽しむ心の余裕なんじゃないかな」 俺の適当な解答にハルヒはしかめっ面をして、 「そんな抽象的なことを言ってるんじゃないの。もっと現実的で具体的なことよ。バーベキュー用の木炭とか紙コップとか紙皿とかね。いいキョン? 心意気なんてのは後からついてくるものなのよ。合宿を楽しもうとしても肝心の合宿地がなければ合宿は楽しめないでしょ?」 そうかい。俺なら部室で合宿でもいっこうに構わんぜ。それに木炭ならガスコンロで代用可能だし、紙コップや紙皿だって向こうにはもっと豪華なグラスや食器類がいくらでもあるだろ。 「そんなんじゃ雰囲気が出ないでしょ。考えてみなさいよ、屋外のバーベキューで陶器の皿使って食事するヤツがどこにいるのよ。こういうのは雰囲気と心持ちが大切なんだから」 「さっきはそういうのは後からついてくるものなんだとか言ってなかったか?」 「いいのっ。とにかく今日はどっか大型のホームセンターとかに行かないとダメよ。木炭を買わないといけないし、紙コップも部室にあるやつだけじゃ足りないしね。行ってみたら他に欲しいものも見つかるわよ」 そういうのを無駄遣いと言うのだ。 「キョン、あんた他に夏合宿でやるのに必要なものとか思いつかない?」 「あー、UFO召喚の儀式」 と言ってから我に返った。ついワケの解らんことが口をついて出た。何を言ってるんだ、俺は。 「うーん。それもやってもいいけどさ。キョンに団員としての自覚が芽生えてきたのはいいことだけど、あいにくスケジュールが埋まっちゃってるのよ」 「構わねえよ」 投げやりに言って俺は前を向いてほおづえをついた。窓ガラスに映る俺は不機嫌なツラをしていた。 何を俺は今さら団員の自覚なんぞを獲得しているのだ。まったくもってどうでもいい。 ハルヒが俺の提案を却下したことが、俺の胸の奥に魚の小骨のようにチクチクと突き刺さっていた。なぜハルヒはそんなにもあっさりと非日常を捨てやがるんだ。 俺にはできない。 古泉に諭されて、ハルヒと話して、佐々木と語って、俺もようやく認める気になった。どうしようもない、自然の摂理みたいな不条理さによる葛藤の渦が俺の中にできあがっちまっていたのだ。俺の心理は今や非日常の基盤の上に成っている。中学生の頃とは違う。そして、それの崩壊は論理基盤の崩壊、ゲシュタルト崩壊と同意なのだ。しかもマジで壊れようとしている……。 俺は、憂鬱だった。 * 昼休みになった。 昼休みになったので俺はようやく動く気力を得た。というか、動かねばならなくなった。堂々巡りの俺の思考を断ち切るために俺は勢いよく立ち上がった。 「あ、おいキョン。俺昼飯は学食にしようと思ってるんだけどよ」 「そりゃいい。国木田も連れていってやれ。俺は部室で喰う」 谷口を一秒で処理すると鞄の中から弁当を取り出して教室を飛び出した。 長門がいるのだとしたら昼休みは部室にいるに違いない。もし教室にいたとしても俺が望めばそうしてくれるのが長門流なのだ。さんざん世話になった。 階段は一段とばしである。鬱屈して暗くなった頭を振り回して、廊下も駆け抜けた。 文芸部というプラカードがぶら下がっている部室の前で俺は立ち止まり、一応のことノックして、中から「どうぞ」と男の声がしたのを確認してから俺はドアを開いた。足を踏み入れるとともに、妙にどろっとした空気に包まれた気がした。 「どうしました」 そこには――、 「どうしたの、キョンくん」 古泉が、そして朝比奈さんがいた。 まるで俺が来るのを待っていたかのように。 * 「朝比奈さん……」 俺の口から声が洩れた。 パイプ椅子に座ってこちらを見ているそのお方は朝比奈さんで間違いなかった。栗色の髪の毛に可愛らしい顔、他の何者に真似できるものではない。視線をずらせばハンガーラックやコスプレ一式も朝に見たままの状態でちゃんとある。本当に戻ってきたのか。 「長門は」 窓辺にある長門の特等席に目をやる。しかし、そこに長門の姿を発見することはできなかった。本棚には長門本があり、七夕の短冊も長門の分が復活しているというのに。肝心の長門はどこにいったんだ。 俺が次に発する言葉をどうするか迷っていると、 「長門さんならいましたよ。廊下を歩いているのを見ましたから。珍しく部室には来てませんけど」 古泉が平淡な口調で言った。 「本当か!」 「本当です。どうしたんですか、そんなに驚くべきことでもないでしょう」 バカな。これが驚かずにいられるか。お前も金曜日から長門がいなくなってるらしいのは知ってるだろ。土曜日曜月曜とさんざん考え倒したあげくに、今日になったら突然長門が復活してるんだ。これは驚かないほうがおかしい。とすると、お前の頭はおかしいんじゃないのか、古泉。 「何を言ってるんでしょうかね。長門さんなら金曜日から今日までずっといますよ。おかしいのはあなたの頭のほうじゃないんですか?」 「なっ」 古泉にバカにされるのは稀以上に珍しいことだが、そんなことはどうでもいい。仕返しなら後日いくらでもしてやる。 「まさか、朝比奈さんもそうなんですか? 朝比奈さん、昨日も部室にいましたか?」 「いたけど、それがなあに?」 「古泉」 俺は嫌な予感を押し殺して再度古泉に問う。 「お前は昨日、この部室で何をやってた。パソコンをいじったりしてないか?」 「さて。昨日はあなたとオセロをしていましたけどね。ついでに、僕が全勝しましたよ」 最後の情報はどうでもいい。 「部室でオセロしてたってのは本当か?」 古泉は薄気味悪い笑いを浮かべて、 「はい」 俺は後ずさりして、今さっき入ってきたばかりの扉にもたれかかった。 何てこった。 刃物を手にした殺人犯に追いつめられた、悲劇の主人公のような心境である。全身の力が抜けて、そのまま床に尻餅をついた。古泉と朝比奈さんは俺の存在を無視するかのようにこちらには目もくれない。 違ったのだ。決定的な食い違いがあった。そうそう都合のいいことなんてありゃしない。皮肉にも、すべてが元に戻ったみたいな錯覚を受ける物品だけを設置しやがったのだ。そしてそれはやはり錯覚に過ぎず、砂上の楼閣のようにあっさりと崩れ落ちた。絶対に必要なものは、この部室には一つもない。戻ったかと思ったら古泉も朝比奈さんも、昨日や一昨日の記憶を持ってやがらない。 「まだだ」 しかし、古泉や朝比奈さんの記憶が正しくなかったとしても俺にはまだできることがある。後悔している暇などない。俺は床に手をついて立ち上がると、団長机にあるデスクトップパソコンに向かった。SOS団サイトに誰かのメッセージが残っていてくれればそれだけで心強い。古泉や朝比奈さんに証拠としてそれを示すこともできる。 パソコンが起動するまでのわずかな時間に、俺は二人に訊いた。 「古泉、お前は何者だ。ただの人間じゃないだろ。『機関』という言葉に聞き覚えはないか?」 俺の質問に古泉はまったく動じず、将棋の駒を二、三手動かしてから振り返った。 「さあ、何を言ってるんでしょうかね。僕はただの人間です。機関という言葉なら知っていますが、それがどんな意味を持つのかは知りません」 そう言った。俺は舌打ちして制服姿でパイプ椅子に腰掛けている上級生に向き直り、 「朝比奈さん、あなたは何者ですか。未来人ですか?」 朝比奈さんも全然動揺する様子を見せなかった。編み物の手を止めないまま、 「未来? 何のことでしょう。あたしはあたしですよ?」 「TPDDは? 時間平面とか禁則事項とか知らないんですか?」 「知りませんけど」 「STC理論はどうだ。全部あなたが教えてくれたことなんですよ」 「……キョンくん、どうしたの?」 朝比奈さんにまで頭を疑われた。ハルヒが消えたときに味わった恐怖が、全身を撫でるように走り抜けていく。 これは何だ。世界改変か? 俺を残して世界が変わったなんてのは金輪際ごめんだぜ。ハルヒも長門も朝比奈さんも古泉も、味方がいなくなって一人になったときどんなに大変かを、俺は知っている。 「おい古泉、長門は何者だ。あいつは宇宙人じゃないのか? 俺を朝倉から守ってくれたり、幽霊モドキを退治したりしてくれただろ。違うか?」 しかし古泉は面倒くさそうに首を横に振った。 「何を言っているのか解りませんね」 「じゃあ説明してやる。お前や長門がどんな人間だったのかを、すべてだ。古泉、お前はこういう話が好きなんだろ? ファンタジックで興味深い話だと思うぜ。どうだ、聞く気はないか?」 いくら記憶がないと言っても古泉のことだ、てっきり乗ってくるものと思ったが、 「けっこうです。そういうことなら勝手に一人語りでもしててください。僕は将棋をしていますので」 何ということだ。俺は驚いた。性格まで変わってるのか。古泉は微笑オフの状態で、ほおづえをついてつまらなさそうに将棋盤と対峙している。 やっぱりこいつは古泉ではない。昨日、ここで俺と一緒にいた正常な古泉は、消えちまったのだ。 おそらく、周防九曜によって。 消されちまったのか? いや、じゃあ目の前のこいつらは……。 パソコンが立ち上がった。 目的のページはすぐに見つかった。マウスをロゴマークに重ねると、やはりどこかのページにリンクされていた。クリックしてパスワードに『涼宮ハルヒ』と入力し、そこに昨日のままの文章があることを確認する。ひょっとしたらメッセージが変わってやしないか、と思ったがダメだったか。 俺は古泉と朝比奈さんをパソコンの前に呼んで、 「古泉、それに朝比奈さん、この文章に見覚えはありませんか? あるいは、長門がこんなページを作っていたのを見たとか」 「さあ、僕は知りませんね」 「あたしもです」 それだけを業務連絡でもしているかのような淡々とした口調で答えて、俺が他に何か聞くことはないかと考えているうちに二人ともパソコンの前から去ってしまった。 おかしい。二人ともまるで性格が変わっちまってる。感情が薄くなってるというか冷たいというか。確かにこいつらは本当の朝比奈さんや古泉ではない。性格が違うのは当然だ。こいつらは朝比奈さんや古泉ではないのだから……。 そこまで考えて、俺は何か引っかかりを感じた。 待てよ。じゃあこいつらはいったい何なんだ。 世界改変か。別の世界の古泉や朝比奈さんか。 ありえん。こいつらは性格まで変わっちまってるのだ。世界改変で長門の性格が変わったのを一度だけ見たことがあるが、それはその必要があったからで、こいつらの性格を変えたところで何の利益も生まれん。性格を変える必要などない。 じゃあ、こいつらは何者なんだ。俺の目の前で一人将棋を、編み物をしているこの二人はいったい誰なんだ。 朝比奈さんではない朝比奈さん。古泉ではない古泉。 俺の記憶の奥底で何かが騒ぎ立てている。以前、俺はこんな経験をしたことがある。 そうだ。朝比奈さんではない朝比奈さんと、俺は会った。 年末の雪山の夢幻の館で、算式の解読のために長門が俺たちに見せた幻影。 あの朝比奈さんには、左胸のホクロがなかった――。 「朝比奈さん、左胸を見せてくれませんか?」 俺がとっさに言うのと同時に、背後で部室の扉が開く気配がした。長門かハルヒか、まあどちらでもいい。 朝比奈さんはふふんと妖しく笑うと、ためらいもなしにセーラー服を脱ぎだした。その横では、古泉が何事もないかのように将棋を指している。やはりこれは朝比奈さんではないし古泉でもないのだ。こんなことはありえん。 朝比奈さんがセーラー服を脱ぎ終わり、ブラジャーの状態で豊かな胸を俺に見せつけてくる。失神モノではあるが、今は失神している場合ではない。抱きつきたい欲望を抑えて、胸を凝視する。 その左胸にはホクロが――。 なかった。 俺は言葉を失い、顔を引きつらせて後ずさりした。朝比奈さんが、そして古泉がこちらを見て不気味に笑っている。 こんなところにいてはいかん。 本能だ。朝比奈さんの胸を間近でもう少し眺めていたいなどという願望はカケラもなかった。早く逃げ出したほうがいい。この二人にどんな魔法が使えるのか知らんが、一般人の俺が太刀打ちできるようには思えない。 振り返って扉に手をかけようとしたところで、何かにぶつかった。部室に入ってきたハルヒか長門にぶつかったのだろうと思ったが、違った。俺はそいつの顔を見て驚愕し、戦慄が体を駆け抜けたのを感じた。気持ち悪い汗が滲んだ。 「お前――」 絶対零度の雰囲気をまとっているそいつは、衝突した俺に目もくれずに無言でたたずんでいた。 光陽園学院であるはずの制服が、北高のセーラー服に変わっている。 「やあ、長門さん」 古泉がそいつに声をかけた。長門だと? こいつが? 俺の思考は混乱しながらも、ようやく一つの答えをはじき出した。 犯人がようやくはっきりしたのだ。 「そうか……。やっぱりてめえが……」 「――わたしは――――観測する。力を――――わたしが」 観測する、じゃねえ。しらばっくれんな。長門を、朝比奈さんを、古泉をどこにやったんだ。代わりとばかりにこんなバケモノみたいな朝比奈さんと古泉を作りやがって。そして自分は長門になったつもりか。いい加減にしろ。 俺が罵詈雑言を並べ立てるのも無視して、そいつはひたすら突っ立っている。モップみたいな髪の毛で、大理石のような双眸で。 周防九曜が、ここにいた。 俺は弾かれたように部室を飛び出した。後ろを振り返らずに走り出す。 俺のたいしてアテにならない直感が、あいつと一緒にいるのは危険だとしきりに叫んでいたからである。あの幽霊以下の存在感を誇る九曜の後ろで、偽朝比奈さんと偽古泉が俺を見て嘲笑うような表情をしていたのも正直怖かった。相手は地球上の礼儀と一般常識が一切通用しない連中だ。あの朝比奈さんと古泉が何者なのかはっきりとは解らないが、九曜の手下的存在であることは間違いない。だとしたら、雪山で長門が見せた幻の朝比奈さんよりも遥かにタチが悪いだろう。 部室はひたすら遠ざかる。俺が人並みの速度で逃走したところで九曜が相手では逃げようもなさそうだが、俺の目がとらえる限りでは部室の扉が開いて中から誰かが出てくるようなことはなかった。 一安心か。 「おわっ」 後ろを振り返りつつ走っていたら、前方不注意でまた人にぶつかった。悪いな、と手を合わせて立ち去ろうとしたが、俺はその顔を見て立ち止まらざるを得なかった。 九曜が先回りしていたのでも、ハルヒが俺の腕をつかんでいたのでもない。まったく予想外な人物だった。北高のセーラー服をまとった女子。俺は牽制すべきかと一瞬思って距離を取ろうとしたが、今さら牽制してどうにかなるものではないと思い直して足を引っ込めた。 なぜお前が北高のセーラー服を着てるんだなど訊くべきことは山ほどあったが、意外なことに俺の口をついて出たのは疑問ではなかった。 「遅え」 絞り出すような声が出た。憎悪が破裂した水道管のごとく、止めどなく溢れ出した。 「遅えんだよっ!」 ドラマなんかでよくある、襟首を掴む力なんてのは俺には残っていなかった。そいつの肩に手を置いて俺は俯いた。その肩を突き放せば、そいつは窓ガラスに体当たりすることになったのだが、俺はしなかった。 ヤツは何も言わなかった。まるで俺に怒れと命令でもしているかのように、である。皮肉なもんで、俺は相手に言い訳する気がないのを知ると憎悪や怒りの類が醒めちまったのを感じた。 しばらくして俺は顔を上げた。 「橘京子。お前は何か知ってるんだろ。だからここに来たんだ」 その女――北高セーラー服仕様の橘京子はうっすらと微笑んだ。古泉のような超能力者と一緒にこいつまで消えてなかったのはなぜか。まあそんなもんはさしたる問題ではないが。 橘京子は廊下の壁にもたれかかったまま、 「ええ。空間座標と侵入コードをようやく解析できました。コードが複雑になっていたのでずいぶんと時間がかかってしまいましたけど。今日はあなたにそれを伝えるために来たんです」 だから、それってのは何のことだ。てめえは人をじらすのが趣味なのか。 「まさか」 橘京子は苦笑し、 「けど行けば解ると思うわ。そこにはあたしよりもずっと説明上手な人たちがいますからね。詳しい説明ならその人たちから聞いてください。あたしはそこまでの案内役です」 「馬鹿。遅えんだ。早く来やがれ」 橘京子は黙って頭を下げた。その頭頂をかかと落としで叩き割ってやりたかったが俺はやらなかった。とっとと案内して欲しかった。 橘京子が俺をどこかに案内するらしい。こいつが案内役になるというと、あそこしか思い浮かばないのは俺の頭が変なのか。そんなことはないだろう。超能力者、とりわけ橘京子の専門はあそこしかないのだから。 俺は充分に息を吸って、 「佐々木の閉鎖空間にでも連れていくつもりか?」 春の喫茶店で連れて行かれたクリーム色の空間を思い出す。ハルヒの閉鎖空間に比べれば平和的だったが、行こうと誘われて行きたい場所ではないね。 橘京子は胸のうちを読まれてしまったような表情をして、 「ええ。そんな感じの場所です。勘が鋭いんですね。ただし制作者は佐々木さんではなくて、別の人ですよ。だけど、なぜかあたしの持つ能力で入れるように作られていたの」 まさかハルヒと佐々木以外で意図的にあんな空間を作りたがる奴がいるとは思ってもみなかったが、今の焦点はそこではない。わざわざ橘京子が入れるようにしたのもとりあえず無視だ。 「それはどこにあるんだ。俺を連れてく気なんだろ? 前置きはいいから、とっとと案内してくれ」 「案内するまでもないんですけどね」 橘京子は俺が走ってきた廊下の向こうを指さし、 「その空間が発生しているのは部室です。もちろん、あなたがたSOS団の部室ね」 俺はハッとして息をのんだ。 『橘京子を連れてこの場所へ。わたしはここにいる……』 そういうことだったのか――。 部室に発生した異空間。橘京子が侵入できるのに佐々木が作った閉鎖空間ではなくて、創造主は別の人間らしい。そしてこの長門のメッセージ。わたしはここにいる。ここというのはピンポイントで部室のことなのだ。 間違いない。その空間には長門がいる。 「じゃあ行きましょうか。あなたもあちらの人も、早く会いたいでしょうからね」 「待てや」 橘京子が何でしょうと振り返る前に、俺はヤツの頭をはたいた。ヤツが驚きの色を隠せずにこちらを見ると、俺は言ってやった。 「お前が遅いせいで消されちまった二人と、それから俺の心配料をまとめて一発でいいにしてやる。ありがたく思うといいぜ」 とか言いながらも、俺は本当は顔を三発ぐらいぶん殴ってやりたかった。これでも、レディーに気を遣ってやったんだよ。 橘京子はまた黙って頭を下げると、俺が走ってきた廊下を引き返し始めた。