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涼宮ハルヒの憂鬱Ⅰ(2006年放送版第02話、構成第01話・DVD版第02話/2009年放送版・時系列第01話) スタッフ 脚本:石原立也 絵コンテ:石原立也 演出:石原立也 作画監督:池田晶子 原作収録巻 第1巻:長編『涼宮ハルヒの憂鬱』よりプロローグから第2章の66Pまで。61ページ分をアニメ化。 DVD収録巻 『「涼宮ハルヒの憂鬱」第1巻』に収録。 紹介 放送順では第2話、時系列では第1話。ここから全ての話が始まるが、原作に登場し、後になると気付く重要な伏線とアニメで解決する伏線が登場するのもこの話。 OPは冒険でしょでしょ?で、番組全体のスタッフが表示。EDは2006年放送版1話でスタッフクレジットがスクロールでダンスの画面も縮小だったが、この話からフル画面・固定に。 この回は監督演出回、キャラクターデザイン総作画監督が作画監督を担当、原画マンも各話の演出家や作画監督が多く参加しており、相当力を入れていることが伺われる。 この回の作画クオリティは2006年放送版全14話中最高クオリティとも言われている(放送終了当時のログより)。 2006年放送順の提供バックのねこマンは『女学生ねこマン』。(DVD第02巻に収録) 次回予告 TV版(『涼宮ハルヒの憂鬱』第1巻に収録): ハルヒ:次回、涼宮ハルヒの憂鬱第2話! キョン:違う!!次回、涼宮ハルヒの憂鬱第3話『涼宮ハルヒの憂鬱 II』。少しは人の話、聞きなさい!!お楽しみに。 DVD版: 有希:次回、『涼宮ハルヒの憂鬱 II』。見て。 放送版とDVD版との違い 放送では1話の次回予告にあった生徒手帳を眺めるシーンやキョン、谷口、国木田と話すシーン・カットがいくつか追加されている。(東中の校庭落書き事件など) パロディ・小ネタ ハルヒが一つの萌え要素として持ち出したのは、雑誌コンプティークと雑誌コンプエース。(石原監督によるとプロデューサーからの推薦だとか) 中学時代のハルヒをデートに誘って5分で断られたのは本人は違うと言っているが、谷口と見られている。(担当声優の白石稔は新らっきー☆ちゃんねる第12回のクイズコーナーで認めている。)デートに誘った場所のモデルは神戸市のハーバーランドのモザイクガーデンとのこと。 キャスト・スタッフ(詳細) キャスト 1段目 キョン:杉田智和 涼宮ハルヒ:平野綾 長門有希:茅原実里 朝比奈みくる:後藤邑子 2段目 谷口:白石稔 国木田:松元恵 朝倉涼子:桑谷夏子 岡部先生:柳沢栄治 スタッフ 脚本:石原立也 絵コンテ:石原立也 演出:石原立也 作画監督:池田晶子 動画検査:中野恵美 美術設定:田村せいき 美術監督補佐:平床美幸 色指定検査:石田奈央美 制作マネージャー:富井涼子 原画 北之原孝将 高橋博行 米田光良 浦田芳憲 坂本一也 西屋太志 紫藤晃由 大藤佐恵子 堀口悠紀子 高雄統子 山田尚子 小松麻美 松尾祐輔 動画 中峰ちとせ 黒田久美 栗田智代 大川由美 仕上げ 宮田佳奈 宇野静香 川合靖美 相沢朝子 背景 鵜ノ口穣二 細川直生 篠原睦雄 袈裟丸絵美 加藤夏美 丸川智子 川内淑子 松浦真治 撮影 中上竜太 田中淑子 高尾一也 山本倫 石井和沙 浜田奈津美 梅津哲郎 (ポストプロダクションなどは省略) 放送日程 2006年(野球中継などは考慮せず) チバテレビ:2006年4月9日24時00分-24時30分 テレ玉:2006年4月9日25時30分-26時00分 tvk:2006年4月10日25時15分-25時45分 KBS京都:2006年4月10日25時30分-26時00分 テレビ北海道:2006年4月10日26時00分-26時30分 サンテレビ:2006年4月11日24時00分-24時30分 TBC東北放送:2006年4月11日26時00分-26時30分 東京MXテレビ:2006年4月12日25時30分-26時00分 テレビ愛知:2006年4月12日26時28分-26時58分 広島ホームテレビ:2006年4月15日26時05分-26時35分 TVQ九州放送:2006年4月15日26時40分-27時10分 2009年 サンテレビ:2009年4月2日24時40分-25時10分 テレ玉:2009年4月2日25時00分-25時30分 新潟テレビ21:2009年4月2日25時45分-26時15分 東京MXテレビ:2009年4月3日26時30分-27時00分 tvk:2009年4月3日27時15分-27時45分 TVQ九州放送:2009年4月4日26時40分-27時10分 テレビ和歌山:2009年4月5日25時10分-25時40分 テレビ北海道:2009年4月6日25時30分-26時00分 KBS京都:2009年4月7日25時00分-25時30分 広島テレビ放送:2009年4月7日25時29分-25時59分 チバテレビ:2009年4月7日26時00分-26時30分 奈良テレビ:2009年4月7日26時00分-26時30分 仙台放送:2009年4月7日26時08分-26時38分 メ~テレ:2009年4月14日27時25分-27時55分 (1,2話連続放送) Youtube:2009年4月15日22時00分-2009年4月22日21時59分(1週間限定配信) RKK熊本放送:2009年10月18日25時50分-26時20分 DVDチャプター 使用サントラ 0 00~1 37 『いつもの風景』サントラ02収録 1 37~1 55 SE 1 56~2 30 『激烈で華麗なる日々』サントラ05収録 2 30~4 00 OP 4 01~4 40 『ザ・ミステリアス』サントラ02収録 4 40~4 52 SE 4 53~6 35『何かがおかしい』サントラ02収録 6 36~7 11 SE 7 12~8 43『コミカルハッスル』サントラ06収録 8 44~10 46 SE 10 47~12 03『憂鬱の憂鬱』サントラ02収録 12 04~13 36 SE 13 37~15 20『うんざりだ』サントラ03収録 15 21~15 27 SE 15 28~16 07『ザ・強引』サントラ05収録 16 08~17 16 SE 17 17~18 44『好調好調』サントラ03収録 18 45~19 45 SE 19 46~20 55『悲劇のヒロイン』サントラ03収録 20 56~21 07 SE 21 08~22 18『おいおい』サントラ02収録 22 19~22 52 SE 22 53~23 36『SOS団始動!』サントラ05収録 23 37~24 40 ED 24 41~24 57『冒険でしょでしょ?予告アレンジ』サントラ02収録 一覧 新アニメ 1期時系列 1期放映順 DVD 原作小説(巻) コミック収録巻 アニメサブタイトル #01 第01話 第ニ話 第01巻 憂鬱(1) 第01巻 涼宮ハルヒの憂鬱 I #02 第02話 第三話 第01巻 憂鬱(1) 第01巻 涼宮ハルヒの憂鬱 II #03 第03話 第五話 第02巻 憂鬱(1) 第01巻 涼宮ハルヒの憂鬱 III #04 第04話 第十話 第02巻 憂鬱(1) 第01巻 涼宮ハルヒの憂鬱 IV #05 第05話 第十三話 第03巻 憂鬱(1) 第02巻 涼宮ハルヒの憂鬱 V #06 第06話 第十四話 第03巻 憂鬱(1) 第02巻 涼宮ハルヒの憂鬱 VI #07 第07話 第四話 第04巻 退屈(3) 第03巻 涼宮ハルヒの退屈 #08 - - 新第01巻 退屈(3) 第03巻 笹の葉ラプソディ #09 第08話 第七話 第04巻 退屈(3) 第04巻 ミステリックサイン #10 第09話 第六話 第05巻 退屈(3) 第04巻 孤島症候群(前編) #11 第10話 第八話 第05巻 退屈(3) 第04巻 孤島症候群(後編) #12 - - 新第02巻 暴走(5) 第05巻 エンドレスエイト #13 - - 新第02巻 暴走(5) 第05巻 エンドレスエイト #14 - - 新第03巻 暴走(5) 第05巻 エンドレスエイト #15 - - 新第03巻 暴走(5) 第05巻 エンドレスエイト #16 - - 新第04巻 暴走(5) 第05巻 エンドレスエイト #17 - - 新第04巻 暴走(5) 第05巻 エンドレスエイト #18 - - 新第05巻 暴走(5) 第05巻 エンドレスエイト #19 - - 新第05巻 暴走(5) 第05巻 エンドレスエイト #20 - - 新第06巻 溜息(2) 第05巻 涼宮ハルヒの溜息 I #21 - - 新題06巻 溜息(2) 第05巻 涼宮ハルヒの溜息 II #22 - - 新第07巻 溜息(2) 第05-06巻 涼宮ハルヒの溜息 III #23 - - 新第07巻 溜息(2) 第06巻 涼宮ハルヒの溜息 IV #24 - - 新第08巻 溜息(2) 第06巻 涼宮ハルヒの溜息 V #25 第11話 第一話 第00巻 動揺(6) 未制作 朝比奈ミクルの冒険 Episode00 #26 第12話 第十二話 第06巻 動揺(6) 第06巻 ライブアライブ #27 第13話 第十一話 第06巻 暴走(5) 第07巻 射手座の日 #28 第14話 第九話 第07巻 オリジナル 未制作 サムデイ イン ザ レイン
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さすがのハルヒもめまぐるしい出来事に疲れを見せていたが 俺にはもう1つだけやる事があった 通りがかったタクシーを呼び止め、鶴屋さんの家に向かった 車の中で初めて知ったのだが、もう夜の11時を回っていた ハルヒがうとうとしかけた頃、タクシーは鶴屋邸の前に止まった 俺は代金を払ってハルヒを車から降ろし、悪代官の象徴のような玄関に立った チャイムを鳴らしてしばらく待つと、着物姿の鶴屋さんが出てくれた 「やっほーハルにゃんにキョンくん、ずいぶん遅かったにょろね」 はい、遅くなってしまいました これ何とか見つけましたのでお返しします 俺はハルヒが握っていたオーパーツを鶴屋さんに返した 「ほーっ、探してくれたんだーありがとうねキョンくんっ!」 いえあの、探してたって言うか偶然見つかったって言うか 「まあいいさっ!無事に見つかったんだし、これで一件落着だねっ」 あの鶴屋さん 「なんだい?」 このオーパーツですが、その・・・本当の持ち主が見つかったって言うか どう説明すりゃいいんだろ 鶴屋さんの理解力に賭けるしかないか 「いいさっ、こんなのうっとこに置いといても何の意味もないしね ちゃんと使い道の分かってる人が使ってくれた方がいいからさっ でもこのまま預かっててもいいのかな?」 はいもちろんです そのうち本当の持ち主が取りに来ると思いますから 「委細承知っ!さっ早く上がりなよ!」 いやもう遅いですから、ハルヒも眠そうだし 「おんやーハルにゃん?何だか世界を救ってきたみたいな顔してるねー いい顔だよっ!キョンくんも」 「え?あ、ああ・・・そうね」 「いいから気にせず泊まっていきなよ!部屋も布団もあるし」 本当にいいんですか? 「もっちろんだよっ、ただし部屋は別々なのさ!まだ高校生だからねっ!」 俺も疲れ果てて朦朧としていたので、考える暇もなく鶴屋さんに部屋に案内された 「キョンくんはこっちでハルにゃんはその隣、すぐに布団敷くから それからお風呂は男女別で後で夜食持ってくるからねっ でもその前にちゃんと家に電話しなさいっ あたしは自分の部屋にいるからさ、何かあったら内線の2番に電話するがいいにょろ」 部屋に通された俺はとりあえず家に電話をかけた 突然の俺の外泊に母は怒り狂い、妹は電話の向こうで誰と一緒なのかを必死で叫んでいる 俺は正直に鶴屋邸に泊まる事を申告した すると突然母の態度が変わり、丁寧な口調に変わった ちゃんと敬語で話しなさいとか鶴屋さんに迷惑かけないようにとか やはり鶴屋さん、さすがと言うか何と言うのか いったいどれほどの悪事を働けばこんな名士になれるのか 電話を切ってから風呂に入り、戻るともう布団が敷かれていた ボロ雑巾のようにぐったりと眠りこもうとすると、部屋の襖が開いた 「ちょっとキョン、こっちに夜食が届いてるわよ」 ハルヒの部屋に呼ばれて入り、おにぎりと漬物の軽食をいただいた 風呂上がりのハルヒは鶴屋家の浴衣に着替えており ほんのりピンクに上気したほっぺたが以外とかわいい 2人とも疲れきっているのでほとんど会話もなく、食い終わった俺はおやすみを言って立ち上がった するといきなり浴衣の帯を引っ張られた ハルヒの馬鹿力に引き倒され、俺は布団に崩れ落ちた 何するんだよハルヒ 「・・・・・・」 布団の上に転がされた俺をハルヒの目がじっと見下ろしている それは、俺が初めて見る優しい目だった 「キョン」 ハルヒ・・・・・・ 「・・・・・・しょに・・・て」 はい? 「いっしょに・・・て」 はぁ? 「もう!バカキョン!」 ハルヒは俺の頭に腕を巻きつけ、ヘッドロックで締め上げてくる これだけ疲れてるのにまだ暴れたいのかこのアホゥは 素早くハルヒを振りほどいて抜け出す 身構えているとハルヒがまた優しい目に変わった 小さい頃の母を思い出すような優しい目を俺は見つめ ハルヒが言いたい事をすぐに理解した ハルヒ・・・ 「キョン・・・」 結局用意された俺の布団は使われずしまいだった 翌朝になって飛び込んできた鶴屋さんはすぐに状況を察知して 「うんうん・・・・それでいい、それでいいのさ。世界平和が一番だよっ」 と悟りを開いた僧侶のようにありもしない顎鬚をなで ニコニコしながら朝食を用意してくれた 白いご飯に豆腐の味噌汁、アジの干物にだし巻き、海苔と梅干という 素晴らしきかな和風の朝食を平らげた俺とハルヒは、鶴屋家差し回しの車でそれぞれの自宅に送ってもらった ハルヒは朝からほとんど口を利かかなった ありがたい事に昨日は金曜日、つまり今日と明日は休みだ 俺はこの2日間は全力で眠ることにした さっそくのように妹が昨夜の俺の行動について詳細な報告を求めてくるが 悪いが妹よ、お前が大人になるまでは倫理上話す事はできない すでに妹と変わらないぐらいに大きく成長したシャミセンを抱かせ、俺は部屋のドアを閉めた 階下では母親が大騒ぎしながら鶴屋家に出すお礼状の書体について頭を悩ませている まだ朝の時間帯だし、体は疲れているのに眠気は訪れない 俺は昨日の事をぼんやりと考えていた あの誘拐未遂事件から始まって、空から降ってきたハルヒを助け あの異世界で古泉と朝比奈さんのすさまじい戦いをこの目で見た 復活した長門の超高速攻撃を目の当たりにし、最後に長門の涙も見た そして鶴屋家でのハルヒとの一夜 目を閉じたハルヒの美しい顔 無防備な姿で俺の全てを受け入れてくれたハルヒ 俺の背中にしがみついて爪を立てたハルヒ くそっ なぜここで長門の涙が浮かんでくるんだ あの時長門は二度、涙を見せた 初めはハルヒに頬を叩かれた時 そして二度目は長門の部屋でだ 長門・・・・・・ お前の涙は この俺に向けたものなのか? 肉体再生にエラーが頻発すると言ったのは、俺がハルヒとこうなってしまったからなのか? だとすると長門・・・ もしかしたらお前はやっぱり 俺の事を? ・・・・・・・・・・・・ 「キョンくーん!ごはんだよー!ごっはん!ごっはん!」 うるさい妹に飛び乗られて目が覚めた まさしく世界で一番悪い目覚めだ もし長門ならどんな起こし方をしてくれるだろうか ハルヒだったら・・・・・・いややめておこう 結局土日をずっと眠ったままで過ごした 飯を食う時とトイレ以外、俺はほとんど布団を離れなかった そして日曜の深夜になり、突然携帯が鳴りだした 「やあどうも古泉です ちょっと今から出られませんか?」 俺は深夜の街を自転車で飛ばしていた 古泉からの電話はそう複雑な用件ではなかった 「いろいろ整理するためにお話ししましょう」 ずっと寝ていたので眠気もほとんどなく、あいつらから話も聞きたかったし、朝比奈さんにも会いたかった そしてもちろん、長門の様子も気になっていた いつもの公園、SOS団御用達の変人の集合場所についた すでに古泉と長門が待っていた 長門の傷はもう回復したのか、いつもの水色のセーラー服がなぜか哀愁を感じる 「どうも、お呼び立ていたしまして」 相変わらずニヒルな古泉のスマイルだが、あの時のすさまじい戦闘を目の当たりにしているだけにやけに頼もしく感じてしまうのはなぜだろう? 「お疲れは取れましたか?」 ああおかげさんでな。ずっと寝てたから目が冴えてきたんでちょうど良かった 「実は僕もなんですよ。涼宮さんに帰れと言われてから、ずっと気にはなっていたのですが さすがにもう起き上がる体力はありませんでした ベッドにひっくり返って、さっきまで眠っていました」 お前もすごい活躍だったな。かなり見直したぞ 「それはどうも。まさかあなたからお褒めの言葉をいただけるとはね、恐縮です」 ふん 長門はもういいのか?傷の具合は 「……」 長門はいつものようにゆるゆると首を持ち上げ、またゆるゆると元の状態に戻った この当たり前の反応がとても嬉しくもあり、そして悲しくもある ん?朝比奈さんは? 「朝比奈さんも無事です。さっき電話で確認しました ただちょっと混乱しておられるようなので、この場はご遠慮いただきました」 そうか、無事なら何も言うことはない 「前半戦でもっとも活躍したのは朝比奈さんですからね 彼女には本当に助けられました」 本当か古泉? 「ええ 序盤は防戦一方でしたからね。朝比奈さんの力がなければ僕一人で防ぎきれたかどうか」 どんな風だったんだ? 「まあ初めからゆっくりおさらいしましょう 今回は初めて、SOS団が分断された状態で始まった出来事でしたから あなたと涼宮さんが2人の時の状況と、残された我々の様子を確認していきたいんですよ」 長門がピクリと体を震わせた 相変わらず理論派だなお前は まあいいか俺も知りたい事がたくさんあるしな それから長いお互いの話をした 俺は鶴屋邸に行ってからの話をし、古泉からは長門のマンションから始まる長い話を聞いた 時折り長門に話が振られ、その都度長門は首だけを動かして有音無音の返答をした 「まさか戦う前から分断工作が始まっていたとは思いませんでしたね あなたが単独行動した時点で気付くべきでした 森さんたちがよく反応してくれたものだと思います」 そうだ 森さんの具合はどうなんだ? 「大丈夫ですよ。少々の打撲と転んだ時の擦り傷、そして着弾のショックで肋骨にヒビが入った程度です。彼女は一応独身女性ですから、お嫁に行けなくなるような最悪の事態は免れたと思います」 お前、自分の上司にそんな言い方してもいいのか? 「まあいいでしょう。今回僕はかなり株を上げましたからね 僕がもたらせた情報は今後の大いに参考になると思います」 そう言って古泉は俺の耳元に口を寄せてきた 「実はあの夜、森さんも鶴屋邸に泊まっていました。ひと晩安静にするために。これは秘密にしておきますが」 うへっ って事は 俺とハルヒの一夜が機関には筒抜けになっているのか? 「機関はこれをいい傾向だと考えています と言うよりも機関の全員がとても喜んでいるのですよ」 古泉はそこでチラリと長門を見た 「一部の人たちを除いて、ね」 それ以上言うな古泉 お前を殺さなくてはいけなくなる 「分かりました」 それはいいから、今回の総括をしてくれ 古泉はおもむろに前髪をさらりとかき上げ 「では最初から行きましょう 事件の発端はあの転校生とオーパーツです オーパーツには不思議な力があるようです 何かのエネルギーを貯め込む機能のようなものです 電気エネルギーとか核エネルギーなどというものではなく 目に見えない何かのエネルギーです」 「生体エネルギー…に近いもの。でも少し異なる」 「生体エネルギーですか?」 「そう。言語では概念を説明できない また統合情報思念体にも説明できない不可思議なもの」 「例えて言うと、怒りとかそんなものですか?」 「可能性はある」 なんて物騒なエネルギーだよそれは ハルヒの所にに来なくて本当に良かったな 「なるほどね とにかくそれが鶴屋山に埋まっていました はたして本当に3百年前のものなのか、それは分かりませんが それにあの新入生が引き寄せられてきたのです」 「あの女子は、新入生ではない」 「新入生ではない?」 「そう。彼女は私たちだけにしか見えない存在」 「私たちと言うと?」 「涼宮ハルヒ以下、SOS団のメンバー、及び佐々木率いるチームSOS」 おい長門、その名前はやめようぜ あいつらにSOSの名前はふさわしくない 「……そう」 「まあとにかく、あの新入生がオーパーツを使って、自分の世界の再生に利用しようとしたようです ところがなぜか彼女はSOS団ではなく、佐々木さんの方に話を持ちかけたようです 向こうでどんな話になったのかは分かりませんが、乗り気になったのは周防さんのようですね」 周防ね あの壊れた小さいダンプカーか 「ええ。考えてみればその時からすでに彼女の暴走は始まっていたのかもしれませんね。自ら進んで戦いのエネルギーを放出しようだなんて。これがSOS団に来ていたら、涼宮さんが絶対に阻止していたことでしょうけど」 古泉、お前本気でそう思うのか? 「当然ですよ。まさかあなたからそんな質問が来るとは思えません あなたは涼宮さんがオーパーツを手にしたら、ここぞとばかりに大激怒エネルギーを異世界中にまき散らすとでもお思いですか?」 …… 「とてもあなたとは思えない発言ですね。悲しい事です 涼宮さんを一番よく知るあなたが、冗談でもそんな事を仰るとはね」 分かった分かった そんなに本気で怒るなよ古泉 訂正いたします 「失礼しました。別に本気で怒るつもりもありません オーパーツが先に向こうの手に渡ってしまったことが大きかったですね それと結果論ですが、あなたが鶴屋邸に行く事もなかったのではないかと」 ああ あれは軽率でした 「橘京子の組織はそこまで予想していたのでしょうね オーパーツが紛失すれば鶴屋さんはまずあなたに連絡をとる 責任感の強いあなたは絶対に鶴屋邸に来る 長門さんが動けない状況であなたも閉じ込めてしまえば、戦わずしてもう負けが決まっているようなものです ここはただひたすら、森さんの機転に感謝すべきです」 確かにそれは言えるな まさか銃まで出てくるとは 「銃はあくまで脅しのつもりだったのでしょう あの住宅街で発砲すればそれこそ大騒ぎです 鶴屋家まで巻き込むことになってしまいますから それは重大な規則違反ですからね」 おい古泉 鶴屋さんは橘京子の組織にも絡んでるのか? 「そこは限りなくグレーゾーンです。我々にもはっきりしたことは分からないのです。ただ、鶴屋さんの様子を見る限りはその可能性は高いですね」 俺はひそかに鶴屋さんとの会話を思い出していた 鶴屋さんは面白ければそれでいいと言っていた どっちの味方をするわけでもなく、ただ面白い事をしている人間に金を出して傍観する、そんなのが楽しいんだよとか言ってたっけ 罪な事をしますね、鶴屋さんも 「結局鶴屋家も巻き込む騒動になってしまったのですけどね 怪我の功名というか、事件の後始末は極めてスムーズでした 鶴屋家からも相当な圧力がかかったのでしょう 暴力団同士の小規模な縄張り争いということで、マスコミにもほとんど漏れていません そうしてあなたが脱出していた頃、長門さんのマンションに佐々木さんたちが乗り込んで来ました 藤原氏の時間操作なのか、周防さんの能力か、世界一セキュリティの高い長門さん宅に無断侵入してくるとはね まだその時点では僕もそう焦ってはいませんでした 長門さんが寝ていても、そしてあなたがいなくても こちらにはまだ涼宮さんがいます 涼宮さんがいる限り、本当のピンチにはならないと確信していましたから ですから涼宮さんがどこかに飛ばされたのには心底驚きましたよ しかも我々も異世界に移動している 眠っている長門さんと、慌てる朝比奈さんをどうしようか、かなり焦りましたね」 まさに分断工作だな 実にややこしい事をしてくれたもんだ 「ええ あなたから話を聞くまでは、どうしてこうも複雑な過程なのかと頭を悩ませました 序盤は全く厳しい戦いでした 朝比奈さんは泣きそうになっているし、長門さんは起きないし 正直僕一人でどこまで防げるのか、全く自信がありませんでした」 「……ひたすら申し訳ない」 「長門さんを責めるつもりはありませんよ 予想しても防げるものではありませんから まさかこれほど複雑な作戦になっているとは 誰も予想できませんでしたからね」 おいちょっと待て古泉 だからと言って何で戦闘になったんだ? ハルヒも言ってただろう? クールなお前が率先して戦い出すなんて 俺にも信じられないぞ 「これは言い訳にまってしまいますが、どうしようもありませんでした 問答無用で周防九曜が攻撃を仕掛けてきたからです 朝比奈さんの裏技がなかったら、朝倉涼子の登場まで持ちこたえられたかどうか」 その朝比奈さんの裏技も解説してくれ 「あの異世界に呼び寄せられてから、僕の能力が発揮できるようになりました つまりあそこも閉鎖空間に近いものがあったのでしょう 朝比奈さんも同様です TPDDの使用制限が解除され、彼女は自由に行動できるようになりました あなたはきっと喜ぶと思いますが、朝比奈さんの活躍は素晴らしいものでした 周防九曜の攻撃が当たる寸前に時間移動を発動して、光線が通過した後にまた元に戻します。それを1秒間に何度も繰り返すのですから、もう奇跡としか思えませんね。藤原氏が漏らしていたのですが、TPDDをあのような戦闘に使用したのはおそらく朝比奈さんが世界で初めてではないかと かくいう僕も何度も時間移動しました 160回目ぐらいまでは数えていたのですが、それからはもう」 お前も余裕があるというのか暇だというのか、ご丁寧なヤツだ 「それを朝比奈さんは長門さんにも自分自身にも発動していたのですから おそらくあの時間だけで千回以上は繰り返していたのではないかと」 俺は朝比奈さんが活躍するシーンを思い浮かべてニヤついていた 「ふぇっ!」とか「わたたっ!」とか叫びながら、必死でこいつらを守っていたのか SOS団専属、いや俺専用の癒しマスコットがそんな活躍をしていたとは 「顔が蒸しすぎた蒸しパンみたいになってますよ」 古泉に言われて慌てて顔を引き締める 何だかこいつもハルヒ流の比喩が使えるようになってきたな 気のせいか、長門の視線までもが冷たく感じるのはなぜだ ん?ちょっと待てよ古泉 朝比奈さんは最後に7億年前に遡ってきたと言わなかったか? 確か4年前より昔には行けないって言ってなかったか? 「僕はそんなものは初めから信用いてはいませんよ 誰が朝比奈みくるの仮説を証明できますか?」 そうか、お前らは一応敵同士でもあるんだな 「別に敵というわけではありませんよ。ただその件に関しては意見を異にしているというだけで 彼女は最初からもっと過去に遡行できたのかもしれませんし、涼宮さんの力が働いたのかもしれません それに出発したのがあの異世界ですから、もしかしたら次元断層を通らずに遡行できたのかもしれません」 ふん、どうとでも都合よく解釈できるってわけか。まさにハルヒさまさまだな 「その件に関しては同行した藤原氏も認めているのですから 間違いなく7億年前に行ったのだと解釈してよろしいんじゃないでしょうか」 まあいいけど、ちゃんと戻って来れたんだからな 「では話を元に戻しましょう その頃あなたは涼宮さんと合流した これが敵の最初の大誤算でしたね」 ああびっくりしたよ全く ハルヒが空から降ってきたんだからな 「あなたを戦闘圏外に拉致し、涼宮さんをあの場から放り出せば向こうは一気に有利になります。まさに森さんに感謝すべきですね」 はいはい くれぐれも森さんや新川さん、多丸兄弟によろしく 「そこでついにジョン・スミス発動ですね」 いや本当はもう少し先延ばしにしたかったんだけどな 佐々木まで出てきたんで仕方がなかった ハルヒにはできないとか脳なしだとか言われて さすがのハルヒが凹んじまったからな 元気を出させるために仕方なくそうした 「すんなり言えたのですか?涼宮さんはすぐに納得したのですか?」 そこはちょっと禁則にしてくれ古泉 いろいろあったからな 突然物が言えなくなったりした 「したんですか?あの時のあれを?」 古泉、頼む 今は言いたくない 「長門さんの前では、でしょう?」 ……禁則だ 「分かりました。それは置いておきましょう 朝倉涼子を呼び出したのは涼宮さんですね?」 それは間違いないと思う 朝倉が自分でそう言ったんだろう? 「ええ、確かに彼女がそう言いました あの時まだ長門さんは封印されていました そして涼宮さんは、朝倉さんとあなたの間にあった事は知らないはずです かくいう僕や朝比奈さんも、朝倉涼子の事はほとんど知りませんからね 涼宮さんはなぜ朝倉さんを呼び出せたのでしょうか?」 おい古泉 お前の誘導尋問にはほとほと飽きた いいからさっさと続けろ 「つまり涼宮さんはあなたの思考を読み取ったのだと思いますよ 手の届かない異世界で、情報統合御思念体すら存在しない世界で 長門さんが動けない状態で周防九曜と互角に戦える存在 あなたの潜在意識のどこかに朝倉涼子の存在を感じたのでしょう 涼宮さんは絶体絶命のピンチの時にあなたを頼っていたのです まさに僕の分析通りでしょう?」」 俺は無意識に古泉の胸ぐらを掴んでいた やめろ古泉 ここでその話をするな 少なくとも、長門の前ではやめろ 「本当にそれでいいのですか?」 古泉が俺の手首を掴んでいた 振りほどこうとしたが無理だった 古泉は盤石の力で、俺を押さえていた 「あなたは少し、自分中心に物事を考え過ぎです それでは悪い状態の時の涼宮さんと同じではないのですか? 全ての人間が、全ての女性が自分を中心に行動しているとでも?」 初めて見る古泉の剣幕に、俺はちょっとひるんでしまった 古泉の目は本気だった ケンカならいつでも受けて立ちますよ そう訴えかける古泉に無謀にも戦いを挑むほど、俺の戦闘経験値は高くはない いや、人生円満が信条だった俺にケンカの経験などあるはずがない 俺が手を放すと、古泉はニヤリと微笑して胸元を整えた 「まあいいでしょう。話を続けます 朝倉涼子の出現で再び戦局が変わりました 実はこの時もかなりのピンチでした 朝比奈さんの裏技を藤原氏が察知してからはね 彼は先を読んで時間移動し、朝比奈さんを混乱させました 藤原氏と周防九曜の間にコミュニケーションがとれていれば、かなりの難敵だったでしょう。つまり、あらかじめ攻撃する相手を決めてから藤原氏が時間移動させる。そして元に戻った直後、朝比奈さんが反応する前に攻撃をかけたら、こっちはお手上げです。守ろうにも相手がいないのですから 僕の能力もあの世界ではかなりパワーアップしていました 周防さんの矢が何本か刺さりましたが、不思議とダメージはありませんでした 朝比奈さんにも何度か命中したように見えたのですが、不思議ですね。彼女が傷ついていたようには思えませんでしかたら」 それはあれだよ古泉くん 朝比奈さんのあの癒しオーラはどんな攻撃も受け付けないって事だ 「ほらまた 長門さんに言いつけますよ」 ぐっ すまん古泉 長門がむっくりと首をもたげ、宙の一点を見つめていた 「朝倉涼子は長門さんを守りながら攻撃もしていました 1年前のあなたの気持が少し分かったような気がしますね 同じTFEI端末でも長門さんとはまるで違っていました やはり彼女は戦う事を楽しんでいるようにも見えましたから 今回の敵でなくて良かったと思いますよ しかし敵もさるものです 周防九曜は第2形態に移行しました それまでは指先から小さな光線を放つだけだったのですが ここに来て髪の毛で槍を作るという攻撃に切り替えてきました その槍が何本も同時に飛んでくるのですから 朝倉涼子の登場で数の上では同等になりましたが、それでも攻勢に転じることはできませんでした 僕は橘京子の相手に精一杯で、朝比奈さんは相変わらず朝比奈さんでした その時あなたは何をしていたのですか?」 ああその頃はたぶん パズルを解いてた 「パズル?」 パズルっていうかクイズだな 算数クイズ そうそう長門さん 俺に問題出す時はこれからは文系問題でお願いしたいのだが おかげで俺はハルヒに説教される始末だったんだぞ 相変わらず宙の一点を見つめていた長門は、UFOキャッチャーのクレーンのようにゆっくりと首を回転させ、ゆっくりと視線を上げた 「……検討する」 「それはもしかして、長門さんが作った鍵だったのですか?」 そうだろ長門? お前が残してくれた抜け道なんだよな 「そう。あなたの知能に合わせてレベルを考慮したつもり」 やれやれ それはどうも痛み入ります ハルヒはすぐに分かって嬉しそうにしてたけどな 俺がなかなか分からないからイライラしてた 何度も頭ペチペチ叩かれて、まだ分からないのかこのバカってな 「こちらが大変な時に、仲むつまじくて結構ですね」 すまん古泉 言い訳のしようがない 「問題を教えてもらえませんか?」 額縁の枠に数字がずらずら書いてあった その数字を読んで、額縁を正しい向きに直すって問題だ 俺は一応あの問題は自力で解けたので、胸を張って古泉に報告した 「それだけですか?」 ああそうだよ古泉くん 「そんな簡単な問題ですか?」 えっ? 「それは小学校低学年レベルでしょう 誰だって3141529の数字を見ればすぐに理解しますよ」 そっそうか? 俺は長門の顔を見た 思いついた時ぐらいしか瞬きをしない長門の目が、俺を蔑んでるような気がした 「………」 まあいいや古泉 話を続けよう 「はいはい 我々は防戦一方でした あなたと涼宮さんが時空の壁を越えてきた事にも気付きませんでした いつあの世界にきたのですか?」 たぶんそれぐらいの時だと思うぞ 俺たちが行った時はもう朝倉がいた お前は赤い光になっていて、朝比奈さんはチカチカ点滅していた 「それは、激しすぎるタイムトラベルのせいでそう見えたのでしょう」 長門はまだ寝ていた 「……」 ハルヒが突入しようとしてバリヤーに体当たりして鼻を思いっきり打った それで手でこじ開けようとしてる時にまた佐々木が現れた 「手で開けたんですか?」 ああハルヒのバカ力だ 封印されてた長門のマンションのバリヤーもハルヒが手でこじ開けた 「実に涼宮さんらしい問題の解決方法ですね」 だけどあっちのバリヤーはそうはいかなかった 佐々木はハルヒに変な霧みたいなのを吹きかけて、ハルヒを無力にさせた 「佐々木さんにそんな能力があったのですか?」 それを俺に聞くな古泉 こっちが聞きたいぐらいなんだからな 「最初に飛び込んできたのはあなた1人でしたね どうやって入ってきたのですか?」 えっと…確か…… 閉じ込められたハルヒがふにゃふにゃ言い出してどうしようもなかったから とりあえず俺が突入した 「全然説明になってませんね。また何かあったのでしょう?」 やれやれ全く 霧みたいなのに包まれて動けなくなったハルヒは、自分の力の無さに悲しんでいた。今まで何も気付かずにごめんとか、助けに行けなくてごめんねとか ぶつぶつ言ってたから俺が突っ込んだ 「もう少し詳しくお願いします」 うるさいな古泉 「僕の詮索好きはとうにご存じのはずです 話せる範囲で構いませんから、お願いします」 ハルヒがそう言って泣き出したんだよ 長門の事も、朝比奈さんの事も、そして古泉、お前たちを助けに行けなくてごめんって、そう言って涙を流していた 「涼宮さんがですか?僕たちのためにそこまで?」 ああそうだよ 鶴屋さんにも森さんにも言われた ハルヒはああ見えてもそんな女なんだ 自分で全ての責任引っかぶってメソメソ泣いてる あんなハルヒは正直見たくなかったね 「そうだったんですか…涼宮さんが…」 古泉はそうつぶやいてそっと目頭を押さえた 塑像のように動かなかった長門すら、前髪を直すふりをして目元に手を当てた 「それであなたは逆上してしまったんですね」 逆上とか言うな古泉 「その先は十分すぎるほど想像できますね めったに見れない涼宮さんの涙を見たあなたは逆上して、佐々木さんに襲いかかった。しかしあっさりとかわされて勢い余ってこちらに突入した」 くっ 言いたくないけどその通りだ 「それだけで通り抜けられるほど弱いバリアーだったとも思えませんけどね 涼宮さんにはできなくてあなたにはできた それももしかすると涼宮さんの力かもしれませんね 自分はできないけど、あなたにならできる。そんな涼宮さんの思いがあなたにバリヤーを通過させた」 ふん 何でも適当に言ってくれ 「後は僕たちも見た世界ですから、飛ばして行きましょう 突入してきたあなたにすぐに周防九曜が反応した 襲いかかる槍にあなたは対処できない」 ああ 悪い事をしちまったぜ まさかあそこで朝倉に助けられるとは思わなかったよ 「朝倉涼子と何か話はしましたか?」 えっと、ごめんねとか、自分の事を悪い思い出にしないでほしいとか言ってた 「あなたはそれを許したのですか?」 許すも許さないも、もう1年も前の話だ それに俺の命を救ってくれたのだから、もうそれでいいだろう 「長門さん?」 「…?」 「朝倉さんとは今も連絡は取れるのですか?」 「……取れていない。あれ以来」 「あれ以来と言うのは1年前からと言うことですか?」 「違う。金曜日の夜以来」 「ほう…これは非常に興味深い」 何が興味深いんだよ古泉 また何かたくらんでるのか? 「いえ、そんな事はありませんよ」 その時突然、ぼんやりした目を宙にさまよわせていた長門が バネ仕掛けのおもちゃのように急に俺に視線を向けた 「……忘れないで」 ああもちろんだとも長門 あいつに助けてもらった恩はずっと忘れない そして・・・お前に助けてもらった事も 「違う。そういう意味ではない」 え? じゃあどういう意味だ長門? 「それは……禁則事項です」 長門が実に珍しく、ボディアクションまでした まさに朝比奈さんの真似をするような動きで、軽く自分の唇に触れ、そして不器用に片目をつぶった 長門?それはいったい? 「いずれ分かる」 古泉がコホンと空咳をした 「さ、さて、話を続けましょうか。そろそろ終盤です 朝倉涼子は消滅しましたが、あなたは無事です オーパーツを持ったあなたに再び周防さんの槍が襲いかかります そして…」 「……」 そこで長門が背筋をピンと伸ばした 胸を張るように、その薄い胸板を突き出している 「……お待たせして申し訳なかった」 「不謹慎ですが、団長がいないので思い切って告白します 長門さんが眠りから覚めた時点で、我々は勝ったと思いましたね。僕らしくない事ですが まだあの時は涼宮さんは登場していませんでしたが、明らかに涼宮さんの力の影響は感じていました。すぐ近くまで来ているのだと確信しました ここからは攻勢だと思ったら、長門さんはバリヤーを強引に突き破って涼宮さんをこちらに引きずり込みました。まさに涼宮さん流です 長門さん?」 「…?」 「眠っていた時の記憶はありますか?」 「ほとんどない」 「少しは?」 「ある」 「目覚めた時に何かを感じましたか?」 「いろいろ」 「それはもしかして、怒りという感情だったのではないですか? 長い時間眠らされていた相手に対する怒りとか?」 「……」 おい古泉 もうやめてやれ 長門の感情を操作しようとするな とにかく目覚めてくれて、助けてくれたんだからそれでいいじゃないか 「もちろんですよ 長門さん、失礼な発言をしてしまいました。お詫びします ただあの強引な涼宮さんの引っ張り方がちょっと不思議だったもので」 「…別にいい」 「これでついにSOS団全員が登場したというわけです それまでは実に厳しい戦いでした モンスターからの先制攻撃でいきなりマホトーンとバシルーラを同時にかけられたようなものですからね」 その例えは実にナイスだぜ古泉 ついでに甘い息と馬車の扉閉めと しかもパーティーに残ったのは盗賊と遊び人だけだ。いやせめて踊り子にしておこうか 「まあいいじゃないですか それにしても最後の涼宮さんの行動には意表を突かれましたね まさか叩かれるとは思いませんでした あなたは涼宮さんが力を自覚して、最初に何をすると思いましたか?」 そうだよそれそれ まさかハルヒが全員を叩くとはな 俺なんか2回もグーで殴られたぞ ハルヒが登場した時、あいつは間違いなく怒りのオーラに満ち溢れていた 俺が今まで見たことないぐらい、怒髪天を衝くってやつだったからな それがいきなり『やめなさい』だったからな 「ええ 僕も一番それを恐れていました その時はもうあなたがジョン・スミスをもう発動していると思っていましたので 開口一番世界を作り直すのではないかと、まさかそこまではしないとも思いましたが あんな結末になるとはね」 ああ あの時は確かに思った さすがは俺たちのSOS団団長だってな 「全くその通りですね 団長の面目躍如です 結局周防九曜と朝倉涼子は除いて、誰1人欠けることなく全員が戻って来れたのですから」 あの新入生もな 「…あの子は帰ってくる」 そうか、そう言ってたな長門 「……」 その時の長門の沈黙の理由は、後で知ることになるのだが それはまた別の話 「長門さん?」 「…?」 「周防九曜の事についてもう少し説明していただけませんか?」 「周防九曜は限りなく異質な存在。我々にも理解できない 天蓋領域がなぜあのようなインターフェイスを送ってきたのかさえ不明 ただし、周防九曜には致命的なエラーがあった」 「エラーですか?」 「そう。周防九曜と天蓋領域の間には永続的な接触手段が存在していない 私や朝倉涼子は常に情報統合思念体と接続している 何らかのアクシデントで仮に接続が断たれた場合のみ 私たちは自分の判断で行動する。でもこれは極めて例外 可及的速やかに情報統合思念体との再コンタクトが要求される でも周防九曜は別 初めに存在条件だけを入力された周防九曜は 全て自分の判断で行動していたものと思われる その間に蓄積された知的経験値やエラーの概要などは天蓋領域には全く伝わっておらず 分析もできなければ修正を施す事もできない 周防九曜はそうして暴走を始めたものと思われる」 すまん長門 覚悟はしていたんだけどやっぱり理解できん 「つまり言いかえるとこういうことですね 現代のGPSと昔の慣性航法の違いのようなものですね?」 おい古泉 お前分かって言ってんのか? 「あなた用に分かりやすく言い換えてるんですよ こういう事です 現在の航空機や船舶その他の交通機関はほとんど全てGPSを使用しています この地球上で自分の位置を知るために衛星からの信号を受信します その位置情報は常に更新されており、誰でも最新の現在位置を知ることができます それが発明されるまではどのような仕組みだったかご存知ですか?」 ああそれは 確か星を見て角度を測って 「それは天測航法ですよ いつの時代の話をしているのですか? それまではジャイロ原理を利用した慣性航法を使用していました 出発前に現在位置を掌握してその情報を入力し、後は移動するたびにジャイロが加速度を検出して現在位置を予想していきます しかしこれはあくまで予想ですから、実際の現在位置とはある程度のずれが出ます 陸上を移動する交通手段とは違って船や航空機ではそれは大きな問題になりました 目的地と実際に到着する場所が数百kmも離れていたなんて、初期の頃にはしょっちゅうあった出来事です つまり周防九曜にインプットされた情報は最初に入力されていたもののみで、長門さんや朝倉さんのように常時アップデートができない環境に置かれていた彼女は、実際のデータと照合してくれる対象がなく、その結果エラーを誘発してしまい、当初の目的の行動にたどり着けなくなってしまったと、こんな感じですか?」 「…かなり近い…補足説明に感謝する」 このあたりで気付くべきだったのかもしれない 俺に対する長門の反応と古泉に対するものが 若干の変化の兆しを見せ始めている事に 「となると天蓋領域もそのままで終わるとは思えませんね長門さん 今回の失敗で学習して、次からはアップデート可能なインターフェイスを用意してくるとか」 「可能性はある」 「対処はできますか?」 「できる。必ずする」 長門 もうちょっと教えてくれ 周防九曜とあの新入生はどうなったんだ? ついでに朝倉涼子も それからあの世界はいったい何だったんだ? 「あの異世界はこちらからは観測不能。実際に存在するものなのかも確認できない 情報統合思念体も困惑している わたしからの誤情報ではないかと懸念している」 だけど朝倉も実際あそこにいたんだし 「あの異世界にいた朝倉涼子と情報統合思念体にいた朝倉涼子は別物 混同はできない」 でも俺を襲った記憶はちゃんと持っていたぞ 「それに関しては涼宮ハルヒの行動を解析するしか方法はない つまり不可能 朝倉涼子がどうなったのかは現在でも不明 この時間平面にも存在していない」 ということはハルヒに呼び出されるまでは存在していたのか? 情報統合思念体の中で? 「そう」 つまり故郷に帰ってたってことだな? 「そう……でもあなたの気分を害すると思ったので報告しなかった」 俺に気を使ってくれたのか 小さな頭がコクリとうなずく 「朝倉涼子は消滅してはいない。私はそう信じる」 またひょっこり情報統合思念体に帰ってくると 「…………」 長門の沈黙はいつもより長く続いた 俺は話題を変えた方がいいと思った じゃ、じゃああの新入生と周防九曜は? 「新入生はまだあの世界にいる。しかし彼女は困惑している 涼宮ハルヒはオーパーツを彼女に渡すべきだった しかし涼宮ハルヒがそれを持って帰ってきてしまったので 彼女は自分の世界を再生する事ができず また自力ではこの世界に来ることができない あの時の涼宮ハルヒの行動は全く意味不明 分かりやすく言うと、ただの新入生いじめ」 長門にしては分かりやすい比喩表現だが ということは向こうで周防と一緒に暮らしている可能性もあるっていう事か? 「その可能性はない。周防九曜は消滅した」 消滅? 「そう。暴走した周防九曜は非常に危険な存在。だから私が殺した」 長門さん、良い子も見てる可能性がありますから あまり暴力的な表現は自粛しましょうね 「私が息の根を止めた」 おい長門 「首をへし折って殺した」 …… 「いかなる高度な生命体でも、たとえ人工生命体であっても、情報の処理器官である脳との伝達器官を遮断されると生命維持機能は停止する。それはわたしも同じ。 周防九曜を生かしたまま、あの場所に放置するわけにはいかなかった だから首をへし折って息の根を止めた あの場所では天蓋領域が情報を回収することもできない よって、周防九曜は完全に消滅した」 俺はその時、長門がとてもダークな存在に見えた 古泉までもが口をパクパクさせている 長門・・・ お前もしかして…やっぱり怒ってたのか? 「……私にも……少しぐらいのプライドはある」 分かったぞ長門 何か言われたんだなあいつに 「………そう」 それは…やっぱり禁則なんだろうな 「その通り」 分かりました 長門が怒ったシーンは今までに何度か見たことはある しかし、普段面倒がって言葉にする事の少ない長門がこれほどまでに口汚く罵るとは、周防九曜はいったい何を言って長門をここまで怒らせたのだろうか いつか長門さんのご機嫌が最高にいい時があれば、後学のためにぜひご教授願いたいものだ かなり長い間話しているうちにもう空がうっすら明るくなっていた やばいなこれは せっかくたっぷり眠ったのにこれじゃまた寝不足だ 少しでも寝ておかないと 話も終わりが見えてきたので俺は立ち上がった じゃあな古泉 「ご苦労様でした 長々とお引き止めして申し訳ないです」 いいってことよ いろいろ聞けてよかった 「こちらこそ。涼宮さんがどれだけ僕たちの事を真剣に考えていて下さっていたのかが分かりましたから。ちょっと涙ぐんでしまいました」 それはよかった 長門・・・いろいろありがとう また命を助けてもらったな 「こちらこそ面倒をかけた」 えっと、その…… 済まなかった 「……さようなら」 長門… 「…わたしは大丈夫」 そうか じゃあまた明日、っていうか今日か また部室でな 俺は古泉と長門に別れを告げ、自転車にまたがった ひんやりした夜の空気が顔の前を流れて過ぎていく 自分の取った行動に後悔なんかはしていないけど 長門の寂しそうな表情をこれ以上見ていられなかった でももう一言だけ、言いたい言葉があった さようならの意味が知りたかった リンク名 その5に続く
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Ⅱ 「最近、涼宮さんとはどうなんですか?」 「どうって、何がどうなんだ」 「とぼけないでくださいよ、仲がよろしいそうじゃないですか。僕としても、とても助かります」 別段、仲良くしてるつもりはない。ハルヒはいつも通りだし、俺もいつも通りだ。しかし古泉曰く、最近は閉鎖空間もほとんど発生しなくなったし、発生したとしても小規模なもので、神人もそんなに強くないという。これは涼宮ハルヒの精神がとても穏やかなことを意味してるんだそうだ。 「特に良かったのは、涼宮さんが悪夢を見なくなったことです。おかげでこちらの睡眠が妨げられるなんてこと、もう無いですよ。全くね」 ハルヒの開催した読書大会週間終了まで今日含めてあと1日。つまり今日終わるわけだが、俺は部室でパソコンをいじりながら昼飯を食っていた。インターネットから哲学書を読んで、どう思ったかを載せている人から、そういった感想文を参考にしようと思ったからだ。 「それは参考ではなく、丸写しです」 黙れ古泉。こちとら切羽詰まってるんだよ。 「というより、なんでお前までここにいるんだ」 「ふふ、一応貴方に近況報告をしておこうと思いましてね。多分感想文を1枚も書いていないでしょうから、きっとここに来るだろうと」 やっぱりお前は嫌な奴だ。そんなんだから俺の中でのお前の株がどんどん下落していくんだよ。どこかの航空会社のようにな。 俺と古泉が話している最中、長門は部室で科学の本を読んでいた。長門はもう昼食が済んだのか、あるいは宇宙人は昼食べなくても平気なのか。でもこんな細い体をしながら、案外大盛りカレーを3人前くらいペロリと食べてしまうかもしれない。まあ、さすがにそれはないか。 「長門、今何冊目だ?」 「72冊目」 なんかもう長門だけ別の大会開いてないかこれ。1日10冊読んでも達しないぞ。 「長門も本を読みすぎて、ハルヒみたいにならないようにな」 「‥‥‥‥」 ハルヒは本の読みすぎで、睡眠不足まで陥った。でもあの部室での快眠以来、家でもちゃんと寝てるようだ。目のクマはもうないし、元気だってバリバリだ。いつも通りのハルヒに戻ったというわけだ。塩をかけられて干からびそうなナメクジのようなハルヒもそう見られるようなものじゃないが、やはりこちらの方がハルヒらしい。 「いつも通りのハルヒ‥‥か」 「ん? どうかなさいましたか?」 「いんや。お前は大人しく弁当を食ってろ」 フフ、とにこやかに弁当を食べている古泉にも、3度の飯より本、といった長門にもまだ言ってないが、ハルヒは少しだけ何か変わった気がする。具体的に何、とは言えないし、その変化も顕微鏡で覗いても分かるか分からないかの微々たる物なんだが、何故だかハルヒは何かが変わったと確信を俺は持っていた。 性格、ではない。ハルヒとのやり取り、でもない。いつも通りのハルヒなんだが、何かが違う。 その答えは結局、有難い哲学の本を読んだ感想文を写している間にも出なかった。ハルヒがあの日素直に感謝を述べたというのがどうもむずかゆいのだ。何故だ。 「コイですかね」 「なんだって?」 「いえ、この魚はコイかな‥‥って」 紛らわしいことを言う奴だ。だからお前はいつまでたっても平均株価30円なんだよ。 パタンと長門が本を閉じ、もうそろそろ昼休み終了の合図5分前だ。書けた感想文は2枚。これはもう駄目かもしれんね。 「ではまた後で」 「‥‥‥‥」 長門も古泉も自分のクラスへと向かい、俺もクラスへと戻ることにした。さてさて読書感想文どうするかな。国木田とかそういう本を読んだ経験とかないだろうか‥‥‥。 健全たる高校生が悟りの境地に入り、ましてや俺の友人の中にそのような人物が紛れこんでいるなんてことはなく、俺は授業中の時間を削って読んでもいない哲学書の感想文を書こうとしたがやはりペンは進まず、あれから全然進んでいない形でハルヒに提出することになった。 「補習よ!!」 団長がいつの間にか図書管理職に変わっており、管理職様は俺にそう言い渡した。ハルヒ、俺が言うのもなんだが、10冊しか読んでいないお前は、あれからさらに1冊読み計73冊を読破した長門に図書管理職の座を引き渡すべきじゃないか? 「みくるちゃん12冊! 古泉君10冊! 有希は73冊! で、あたしが10冊!!分かる、キョン? 皆ノルマの2倍は読んでるのにあんただけ0冊よ!」 ちょっと待て。よく見ろハルヒ。感想文は2枚出してるじゃないか。俺としては上出来な方だぞ。 しかしハルヒは俺の感想文をまじまじと見つめ、 「キョンがこんな知的溢れる文章を書けるわけないでしょ」 と、一言。至極ごもっともだが、それを他人に言われると腹立つのは何故だ。ホワイ? 「大体な、俺に哲学なんてはなから無理なんだよ。せめて物語とかにしてくれ」 小説だって無理だろうが、一応の抗議だ。まあ哲学書よりはページは進むだろう。 「クジ引きで決めたことなんだから、それに従いなさい! キョンは放課後、必ず哲学書を毎日ここで読んでいくこと! 10冊!!」 「10冊!?」 俺の記憶が宇宙人に改造されてなければ、ノルマは5冊のはずだが。 「当然でしょ。皆2桁読んでるんだから。有希なんて、あと3日あれば100冊なんてあっというまよ。だからあんたは10冊読みなさい! 延滞料よ!」 延滞料ってなんの延滞料だ。1週間で5冊読まないと10冊に増える延滞料なんて初耳だ。延滞量の間違いだろ。 しかし抗議したところで、もはや最後の審判を下し終わったかのようなハルヒの耳には届かず、俺は古泉とボードゲームをする時間を毎日削って本を読む羽目となった。 「相手がいないと寂しいものですね」 こんなことを言い、俺が死ぬような思いで哲学書を読んでいる隣で朝比奈さんとオセロをやってる奴の平均株価は、30円から0へと下落していった。 喜べ。もう何倍しても0だぞ。 長門が本を閉じても、補習は終わることはなかった。長門、いつもなら下校時刻30分前に本を閉じるのに、最近はやたら閉じるのが早くなったな。頼むからチャイムが鳴るギリギリまで読んでくれよ。でないと‥‥‥ 「お先に失礼します」 「頑張ってね、キョン君」 「‥‥‥‥」 「ほら、キョン! まだ半分以上あるわよ!」 ハルヒと2人きりになってしまうだろうが‥‥‥。 「なあ、ハルヒ。俺が苦しんで本を読む様はそんなに面白いか?」 「頭良くなるには苦痛が必要なのよ。アホになりたいなら楽すればいいわ。一瞬でそうなるから」 俺はこの時ほど一生アホのままでもいいと思った瞬間はない。 しかしハルヒも暇な奴だ。長門達が帰り、秋だからか日が落ちるのが早くなってきたこの時間帯に、わざわざ電気つけて俺の隣で一緒に本を読んでやがる。団長席はあっちだぞ、ハルヒ。 「うるさいわね。席なんてどこでもいいじゃないの」 そう言って、でも一応か席を立ち、団長と書かれている三角錘を持ってきて、机の上にバンと大きな音を立てて置いた。 「あたしがルールよ」 なんとまあ利己主義なルールだ。よく地球はまともに回転してるな。 「ハルヒ」 「何よ。本読みなさい」 「悩みは解消したか?」 「悩み?」 「ほら、いつだか言ってたろ。1週間前だったか、それぐらいの時に。人の中の人が表にどうやらこうやらってやつだ」 「‥‥‥‥」 ハルヒは考えるように、手で顎をなぞり、うーんと唸った。まあ無理もないか。あの時ハルヒは睡眠不足で頭が働いていなかったようだし、多分自分でも何を言ってるのか分からなかったんだろう。 「‥‥‥あー、あれ。解決したわよ」 「そうかい。そりゃ良かった」 「ねえ、キョン」 「ん?」 「その時、あたし他に何か言ってた?」 「いや。他には特に何も言ってなかったと思うが」 「そう」 もうそろそろチャイムが鳴るかと思って時計を見ると、まだ下校時刻まで40分以上あった。全然時間経ってないじゃないか‥‥‥。 「こら、キョン! よそ見してる暇はないわよ! 」 俺は情けないが、まだ1冊も読破していない。読んだ振りをして済めばいいが、感想文を書かなきゃならん。でたらめを書こうにも、どういうわけだが先にハルヒがこの本を読んでしまっているから、的はずれな内容は書けないのだ。 「あと35分よ! 今日こそ1冊読破だからね」 ハルヒが毎回そう意気込むが、結局今回も読破出来なかったのは言うまでもない。 「しかし、キョン。お前もよくやるなー」 「なんのことだ?」 「何って、最近あの涼宮とラブラブらしいじゃねーか。一体どんな手を使ったんだ?」 「へえ、キョン凄いなあ。たったの半年ちょいで、そこまで関係を進めていたなんて」 そう話をする相手は谷口と国木田だ。3人で机を囲み、弁当を食いあっている時の話題で必ずこういった話が出てくるものだが、まさか俺の番がくるとはな。谷口、一体誰がそんなことを言ってるんだ? 「オレも人づてに聞いただけだから曖昧なとこもあるけどよー、なんでも、涼宮のあの変な部活をやっている最中にキョンと涼宮以外の奴が途中で帰っちまうだとかなんとか。他にも、ここ最近ほぼ毎日一緒に帰ってるんだろ? 2人で。そういうの見てるのって結構多いんだぜ」 しかしあの涼宮とキョンが、プススと気色悪い笑い声を出しながらニヤニヤしてる谷口もあれだが、健全な顔をしながらも興味がかなりありそうな国木田が 「もう付き合ってるの?」 と聞いてくるのも頂けない。でもここ最近2人で帰っていたのは事実だ。だからそんな噂が立つのも無理ないかもしれん。 「なあなあ、どこまでいったんだ? Aか? Bか?お前まさか、スィー‥‥」 「いっとくがな、谷口と国木田。俺はあそこで本を読んでるだけだぞ。しかも哲学書だ。おかけでもう5冊目に突入している」 哲学書と聞いて谷口はさらに笑い出し、どんなシチュエーションだよ、さすが2人とも変わってるだけのことはある、と妙に声を張り上げて周りのクラスメイトから不審者を見るような目付きで谷口が見られていたことは、俺の心の中の1つのストレス解消となっていた。 しかし、そうか。噂になってるとはな。涼宮の変人ぶりは入学1ヶ月でかなり広まり、校長の名前を知らなくても涼宮ハルヒの名を知らぬ者はいないとされるほどだ。そんなハルヒと、訳の分からん部活を行なっている部室内で2人きりでここ最近ずっと居て、挙句の果てに一緒に帰っているのだ。手こそ繋いでないものの、それを目撃した人や聞いた者は 「ああ、なるほど」 と、自分勝手に解釈し、妄想を広げているかもしれない。谷口のように。 「というわけなんだが、誰が噂を広げたか分からないか?」 「不明」 だよな。大体、知った所でどうするわけでもない。 「貴方の思っている不明と私の言ってる不明には解釈に齟齬がある」 「‥‥どういうことだ?」 「噂を広げている人間を確認するのは容易。でも、今回の貴方と涼宮ハルヒの噂は、自然発生し各個人の視覚、聴覚を司る脳の部分にダイレクトに植え付けられたもの。誰かが噂話を流し、全員が信じたわけではない」 「‥‥‥えーと、それは長門。どういうことだ?」 「全員が貴方と涼宮ハルヒが相互良関係に務めていると勝手に解釈をした。直接見たわけでも、聞いたわけでもない」 つまりだ。 普通噂は、誰かが目撃したものを知人、あるいは先輩後輩に話したりするわけだ。その聞いたものがまた同じことを別の人間に繰り返し、その情報が広がっていくというのが本来の在り方だ。しかし長門が言うのを聞いてると、誰も俺とハルヒが一緒に部活をしてたり、下校してたりするのを見ていないのにも関わらず噂が広まったということになる。まるでその噂を最初から知っていたみたいに。 「誰も見てない、言ってないのに噂を皆が知ってるなんてあり得ないじゃないか」 「そう。起こりえない状況。」 「じゃあ‥‥なんでそんなことが‥‥」 俺が長門にそう聞くと、ようやく長門は俺を見上げるような形で視線を向けた。 「最も高い可能性として‥‥」 そう前置きを置いた。そして無機質な瞳とは裏腹に、出てきた言葉は俺を驚愕させるものだった。 「‥‥涼宮ハルヒがそう望んだから」 「さあ、今日もSOS団活動するわよ!キョン、あんたは読書だからね!!」 ハルヒの何かが違う、と強く思っていたが、ここ最近それは気のせいだろうと思ってた。 だが今再び俺はひどくそう痛感している。 「なあ、ハルヒ」 「何よ」 「これでもう5冊目だな」 「そうね」 「もう大健闘したんだ。これ読んだらもう勘弁してくれ」 「却下よ」 ですよねー。 何故ハルヒは、そんな噂が広まることを望んだのだろう。まさかハルヒが俺に好意を抱いてるとは考えにくい。いや、しかし、じゃないと理由が‥‥ 「何1人で赤くなってるの。そんなにヤハウェが良かったの?」 「答えはきっと、イエスですよ涼宮さん」 「キリストだけにかっ! って上手いわね古泉君。さすが副団長だけのことはあるわ」 ハルヒと古泉がしょうもないギャグで笑い合い、朝比奈さんはちらちらとこちらを窺い、長門はおそらく200冊目くらいの本を読んでいると思われる中、俺は苦悩していた。あのハルヒが!あり得ないだろ! しかし実際噂は広まっている。ハルヒが来る前、部室に来て朝比奈さんに会ったら 「あ‥‥良かったですね」 と言われてしまった。朝比奈さん、貴方はここでの事情を知っているじゃないですか。なのに何故そんな言葉を‥‥。 「さあキョン! あと少しで完結ね。そしたらようやく半分か。まだまだ道は長いわね」 なあ、頼むからそう嬉しそうに言わないでくれ。どう反応していいか分からんくなるだろうが。 いや、変に意識してるのは俺の方じゃないか。見ろ、あのハルヒを。いつも通り豪快に、身勝手な行動をしているじゃないか。それにさっきの言い方だって思い出してみろ。別に嬉しそうじゃなかったろ。いつも通り、いつも通りだ。あれがハルヒボイス。モチベーションを一切崩さない団長様の声は、常にあんな感じだっただろ?そうだろ俺? 本は全然進んでないのに、長門がパタンと本を閉じる時間はもうやってきた。今日の長門は遅い方だ。何故なら下校時刻まであと1時間だからな。そう‥‥あと1時間も‥‥。 「では、お先に失礼しま‥‥」 「古泉、3回‥‥いや、1回でいい。久しぶりに五目並べしないか」 「キョン! 何言ってるのよ。まだ本は残ってるの。そういうのは、読み終えてからやりなさい!」 お前はどっかの母ちゃんか。 「貴方から誘いを受けるなんて、珍しいこともあるもんです。ですが、僕は今日用事がありまして、またの機会ということでよろしいですか?」 お前、用事なんてないだろ。用事がある奴はな、用事なんて言わずに、その用事の具体名を言い出すもんなんだよ。パーティー行かなあかんねん、みたいなのをな。 「では失礼します」 「キョン君、涼宮さんと仲良くね?」 「‥‥‥‥」 バタン、と扉が閉まり。 「さあ、今日も気合い入れて読むわよ! いいわね!」 俺はいつもより読むスピードが愕然と落ちながら、愛の神とはなんぞやを本とチャイムがなるまで語りあっていった。 「頼む、長門! こんことを頼めるのはお前しかいない!!」 俺はハルヒと別れた後、長門の家に来ていた。噂話のこともあってか、最近のハルヒは以前と何かが違うということを、俺はプロレスラーが技をくらう時に信じられないくらいでかい声を出すくらいのオーバーさに捲し立てて説明した。その話を聞いていた長門も、俺にお茶を出しはしたものの、俺が話している間は何も反応はしてくれなかった。 話し終わった後、長門はこうポツリと言葉を漏らした。 「貴方は、涼宮ハルヒが貴方について何を考えているのかを知りたいということになる」 「‥‥‥そ、そうなる‥‥のか?」 「出来る」 「本当か長門!?」 「でもしない」 「‥‥ハルヒの精神を脅かしちまうからか?」 「それもある。でも私がそれをしないのは、もっと別にある」 「それは‥‥‥一体」 「私はしない。貴方のためにも、彼女のためにも」 そう最後に言った時の長門の目は、何故だか無機質色ではなかった。ほんの少し口調もちょっと強かったな。気のせいではない。 結局、俺は万能宇宙人の力を借りれぬまますごすごと帰路に立たなければならなかった。まあ、そりゃそうだろう。 家につき、 「キョン君おかえり~」 と言ってくる妹をよそに、俺は考えなければならなかった。いや、考えなければならない義務などない。しかしどうしたことか、俺に限ってそんなことはないだろうと思うのだが、そういった考えとは裏腹に勝手に考えてしまうのだ。いつも大して頭を使わないのに、どうしてこんな時ばかり活発に脳とやらは動くのか。俺はベッドに腰かけ、その後仰向けになる形で天井を見つめた。そして、ようやく、避けられないパターンの考えを考慮にいれなければならない羽目となった。長々と喋ってきたが、つまりだ、そのだな‥‥。 俺がハルヒに更なる好意を抱 「キョン君~、ご飯だよ~」 ……ナイスだ。ナイスだ妹よ。いつもくだらない用事でしか俺にちょっかいをかけないが、今回ばかりは最優秀妨害賞にノミネートするくらいの素晴らしいことをやってくれた。危なかった。俺はなんてことを考えていたんだ。危うく1人で悩み苦しみ、悶絶するところだった。そうだ、飯だ飯。俺にとって大事なことってなんだ? ハルヒのことについて考えることか?己が思考を深く追求することか? 違う。断じて違う。俺の最優先事項は飯を食うことだ。そう、そのために生まれてきた。多分、空腹だからさっきのような訳の分からない考えをしそうになったんだろう。危ない危ない。いや、というよりさっきの思考ってなんだ。別に特別なこと考えてないし。谷口の話す自分のモテ度や、他人の話す夢の話やペットの自慢と並んでどーでもいいことを考えていたんだ。そうだろ、俺?今はともかく飯だ。飯を食べよう。今日のご飯は何かな~っと。‥‥‥ 「‥‥どうしたんだ、キョン。なんか目の下にクマがついてるぜ?」 「いや、放っておいとくれ谷口。いやいやいや、やっぱり放っておくな谷口」 「何言ってるんだ、キョン。ボケたか?」 結局夕飯をたらふく胃にぶちこんでも、俺の脳は何かと働き続けていた。ベッドで寝たのは11時のはずだったが、おそらく実際に寝たのは3時間にも満たないんじゃないかと思うくらい、俺は思惑していた。 教室に着き、なるべくハルヒの方を見ないようにして席を着いたのにもかかわらず 「どうしたの、キョン? なんかクマがあるわよ」 と心配そうに声をかけてきた。心配そうに? ハルヒに限ってそれはない。いつも通りの音域でそう聞いてきた。 「まさか哲学書読んでた、なんて言わないでしょうね。あんただとしたら最高にアホ。アホよ。体壊したら、SOS団に参加出来ないじゃない!ま、無理にでも参加させるけど」 本を読みすぎて寝不足の体験をしたお前には言われたくないがな、ハルヒ。 しかし俺は心でそう突っ込んでおきながら、あることに気付いた。 今のこの俺の状況、前のハルヒの状況と似てないか? 実はハルヒの寝不足の原因も、本のせいじゃないのではなかろうか。確か長門が、ハルヒの睡眠不足の原因は‘人格と精神’の熟読と言っていたが、あれはあくまで推察だ。記憶を読もうとしても深くは読めないから、実際のところ本のことなんて関係ないかもしれない。今の俺だからこそ分かることがある。もしかしたらハルヒも何か考え事をしていたのかもしれない。何を?何をだハルヒ? 「多分、恋ですよ」 「なんだと!?」 「あ、いえ‥‥‥貴方の食べているお弁当のその魚、きっとコイですよっていう意味です」 谷口達と食べると、また噂話について聞かれるかと思い、ここでひっそり食べようかと思っていたら、先客が2名いた。1名は無論長門だ。もう1人はこいつだ。 にしても、そういう意味ですってなんだよ古泉。普通そんなこといちいち付け加えないぞ。 「と、言われましても‥‥そういう意味なんですから。貴方が誤解しないように、ね」 「誤解ってなんだ。まさかお前まで例の噂を信じてるわけじゃないだろうな」 フフと誤魔化し笑みを浮かべる古泉は、今回は弁当を持っていない。お前、今度は何しに来たんだ。 「今回は貴方が来るだろうと思ってここに来たわません。長門さんに話を聞いてもらいたかったのです」 「長門に?」 ええ、と頷く古泉に対し、長門はいつものように本を読んでいる。長門とは昨日の一件があってか、少し話しかけ辛いように俺は思えた。長門は無表情だから、そんな風に思ってるかどうかがさっぱり分からんのだが。 「最近、また閉鎖空間が発生していましたね」 「‥‥いつものことだろ」 「いえ、それが妙なんです」 古泉は俺と長門を交互に見てから、ハルヒの席を見た。そして目をしっかりと開き、いつもの微笑みを消してからこう続けた。 「閉鎖空間の規模が、どんどん大きくなってきてるんです」 それは、ハルヒがストレスをまた溜めているということか? 「ええ。でも、今まではこんなことありませんでした。閉鎖空間は涼宮さんの精神が不安定になると発生するものです。つまり、あの神人や空間は、涼宮さんのイライラそのものなんですよ。だとしたら、毎回僕達が必死で神人や空間を食い止め、倒し、元通りにしているのですから、閉鎖空間発生後はそうそうストレスが堪らないわけです。しかし‥‥」 古泉は俺の方をじっと見据えた後 「どういうわけだが、閉鎖空間の規模が回数を増す度に膨れ上がっていくのです」 「なんだ、その目は。まさか俺が原因か?」 待てよ古泉。俺はハルヒに嫌だ嫌だいいながらも、ちゃんとここまで付き合ってきたはずだ。読書の件のことだぞ。おかげでハルヒの機嫌も最近良いし、俺が原因となるようなことはしていない。 「おさらいしてみましょう」 古泉は微笑みを浮かべてから、そう口にした。 「涼宮さんは本が読みたかった」 そうだな。 「医学の本が読みたかった」 そうだな。 「そして読書大会なるものを開き、それを終え、今に至る」 まさしくそうだ。ハルヒが医学の本が読みたいがために、こんな読書キャンペーンまがいなのをする羽目になったんだろ。 「でもそれはおかしくないでしょうか?」 「何がだ」 「医学の本を読みたかったら、自分で勝手に読めばいいということですよ」 「独りで読むのが嫌だったんだろ。だからSOS団を巻き込んで、俺はこんな羽目に」 俺がそう言うと、古泉の俺の顔に人差し指を向けた。ズビシッ、と音が出るような勢いで。 「それですよ」 「何がだ」 「SOS団を巻き込んで、がポイントなんです」 古泉は推理小説で、読んでる最中に犯人が分かった読者のような顔をしていた。いつものうっとうしさが200%増しだぞ古泉。 「僕たち、どうやって本を選びましたか」 「クジだろ」 「涼宮さんは自分の神がかり的な能力に気づいていらっしゃいません。ここが大事なんです。涼宮さんが医学の本に当たる確率は5分の1。涼宮さん自身、人の精神なるものに興味を持ったのに、それが読みたくても読めない確率が8割なんです。いくら涼宮さんがSOS団を巻き込みたかったといっても、あまりに非効率すぎはしませんか?」 「確かにそうだが‥‥じゃあ、ハルヒはなんでこんなことを言い出したんだ?」 「真相が違ったんです」 真相なんて言葉、薬で小さくなった小学生探偵の番組以外で聞いたことないぞ。 「涼宮さんは人間の精神が学びたかったのではないんです。この読書大会は、貴方に本を読ませる環境を作り出すのが目的だったのです」 「なっ‥‥古泉。どういう意味だ」 「簡単ですよ」 長門も興味があるのか、活字から目を離して古泉を見つめている。 「涼宮さんはテレビで医学関係の番組をやっているのを見て、ふと思いついたのです。読書大会を開くことをね」 「関係ないだろ」 「大ありなんですよ。何故なら、その番組を見て、医学というのは何て難しいのだろうと涼宮さんは感じとった。そして、もしこれを本で貴方に読ませたらどうなるだろうと」 読めるわけないだろ、そんなもん。 「その通りです。あ、いえ、その通りというのは失礼でしたね。でも涼宮さんはそう思ったわけです。そして、ある作戦を思いついた」 「もったいぶらずに早く言え」 「了解しました」 「涼宮さんはSOS団を巻き込んだ読書大会を開きました。1週間に5冊という、2日に1冊読んでも間に合わない若干無理な条件でね。読む本は自由ではなく、選択式。医学、科学、哲学、エッセイ、小説。ちなみに聞きますが、貴方はこの中のどれだったら1週間で5冊いけそうです?」 「いや‥‥どれも無理だな」 「涼宮さんもそう目論んだ。そして涼宮さん内心、きっと貴方に哲学か医学か科学に当たることを願ったのです。そして願い通り、貴方は哲学に当たった」 ‥‥‥おい、まさか。 「当然貴方は読めるはずもなく、補習を言い渡されます。僕らが全員2桁以上読んでいるので、貴方も2桁読めと、最も納得いきそうな理由で、貴方は10冊読むことに決定した。仮に僕が5冊でも、貴方は10冊読むはめになっていたでしょう。延滞料で」 「じゃあ‥‥なんだ。それだとまるで、最初からハルヒは俺と2人きりになりたかったみたいじゃないか」 ニヤニヤと笑った古泉は 「その通りです」 と自信満々に言った。まさか‥‥そんなことはないだろ‥‥。 「長門さんが例えチャイムギリギリになって本を閉じることをしていても、貴方は残されていたでしょう。居残りで」 「な、なんでハルヒはそんなことをするんだ‥‥?」 我ながら情けない声色になっていたが、ハルヒがここにいないというのに、心臓は激しくビートを刻んでいた。静まれ、俺のビート! 「さあ‥‥何故でしょうね?」 古泉はトドメと言わんばかりにウインクを俺にした。止めろ、気持ち悪い。 「涼宮さんは貴方と2人きりになることを望んだ。証拠は貴方もご存知の通り、例の噂ですよ。涼宮さん自身が、そういった噂が広がればいいのにと望んだあの噂です」 俺はまだ弁当を半分しか食べていないのに、もう胃はギブを宣言していた。むしろ逆に、胃の中のものが外に出そうといわんばかりに俺は緊張していた。まさかハルヒが‥‥‥。 「待て待て。ハルヒが睡眠不足なのはなんでだ!?」 「それは、貴方に示しがつかないからでしょう。どんなに難しい医学の本でも、ノルマの倍はいっておいた方が、補習の際に説得力増しますし」 「確かあの時、閉鎖空間が発生してなかったな。あれはどうなんだっ!」 「閉鎖空間は精神の不安定からきます。だが、あの時の彼女は不安などなかった。確実に貴方なら読んでこないだろうという自信があったのですよ。眠いのも我慢したのも、全て自分で分かってのことです」 「じゃあ、じゃあだな‥‥‥」 そう口にして、何も出てこなかった俺はようやく痛感した。なんてことだ。まさか、古泉の推察に反論出来ない日が来ようとは。 「問題は、ここからなんですよ」 俺が独り悶絶していた矢先、古泉は声色を変えて長門を見据えた。顔からもいつの間にか、微笑みが消えていた。 「先ほども申しましたように、閉鎖空間はここ毎日発生しています。大きさを重ねてね。我々が四苦八苦して止めているのに、涼宮さんのイライラは増すばかり。今までの話を聞いて、長門さん、どう思いますか?」 「涼宮ハルヒは待っている。彼はそう言いたい」 長門、頼むから俺を見ながら言うのを止めてくれ。大体待つって、何をだ。ハルヒは何を待っているというんだ。 「決まってるじゃないですか」 古泉は真剣な表情を崩して、また笑みを浮かべながら 「告白を、です」 と言った。お前も表情をコロコロ変えて世話忙しい奴だな。 それにしても、長門。昨日はそう意味なのか。俺やハルヒのためにもって、そういう意味なのか? 「世界は、貴方が言うか言わないかにかかってます」 古泉がそう言った際、俺は何て口にすればいいか分からなかった。嫌だ? 分かった? 黙れ? 「嘘じゃありません。このままの規模でいったら、世界が飲み込まれるのもそう時間はありませんよ。あと‥‥そうですね、約1週間です」 ……読書の時もそうだったが、今度の1週間はもっと酷になりそうだ。 「でも、貴方は涼宮さんのことそんなに嫌いではないのでしょう? むしろ最近は、好」 「うるさい!!」 何を切れてんだ、俺。 あれから気まずい雰囲気となり、チャイムが鳴るまで俺は弁当箱を眺めていた。まだ中身はあるが、とても胃に入りそうにない。 ‥‥しかし、ハルヒもハルヒだ。何故こういう時ばかり状況だけを作って、あとは受け身モードなんだ。あの閉鎖空間での出来事もそう。キスの次は告白か。順序が逆で、笑えるぞ。 予鈴が鳴り、古泉達は部室から出て行ったが、俺は出て行かなかった。というより、足が動かない。 もし俺がハルヒに対して何の感情も抱いていなかったから、逆にあっさりと告白をしていたかもしれない。いや、でもやはり最終的にハルヒの心を傷つけるようなことをしたくはないから、古泉達になんとかしろと言っていただろう。 あの閉鎖空間の中での出来事は、ちょっとした強制でもあったのだ。世界が滅亡する瞬間に急に呼び出され、さあ早くしないと皆消えるぞという時だった。でも全く好きじゃなかったら、俺はしていただろうか?やっぱり答えはさっきと一緒で、きっとしていない。 「昔からキョンは変な女が好きだからねぇ」 いつだったかの国木田の言葉が思い出される。国木田、お前は佐々木のことを言っているのか? だとしたらハズレだ。やっぱり俺は、佐々木も好きかどうか分からなかったからな。 一緒に居て楽しい。 ハルヒも佐々木も、そういった部分で重なり合う。 「お待たせー!! 皆揃ってるわね。キョン、あんたなんで5時間目サボったのよ!」 「青春のサボタージュだ。多めに見てくれ」 「何よそれ。変なの。でもSOS団には来てるから、死刑じゃなくて罰金にしといてあげるわ! 今度の活動の時は、あんたが1番に来ても払うのよ。いいわね!」 このハルヒのどこがストレスが爆発しそうなんだ。どこからどう見たって健康良子だろうが。古泉の推理が外れてるという可能性は多いにあるぞ。 だが俺はそれを口に挟まず、黙って哲学書を読むことにした。今更になってだが、この本の言っていることが、それこそ遮光メガネを通して見た太陽のように明瞭に、頭に文字が入りこんでくる。この人達も考えて考えて考えて考えて、考えすぎてこうなったのだろう。今の俺とおんなじだな、預言者さんよ。 俺が食い入るように本を読んでいると、ふと誰かが横に立った気がした。目線を上げれば、そこにはメイド姿の朝比奈さんがいた。 「あ‥‥き、キョン君。お茶をどうぞ」 「すいません朝比奈さん‥‥って、ん?」 お茶の受け皿を見ると、何か紙が折り畳んである。ハルヒの方をそっと窺うと、今はパソコンに夢中らしい。朝比奈さんの様子から見ても、これは早く隠した方がよさそうだ。 「‥‥‥おいしいです。ありがとうございます」 「いえいえ」 お茶は本当に上手い。そして、この手紙をくれたことにはありがとうだ。俺は手紙をブレザーのポケットに閉まった。 紙には場所が指定されていた。俺はハルヒと踏切で別れた後、真っ先にその地へと向かった。夏に朝比奈さんの膝でぐっすりと眠ってたあのベンチだ。 「キョン君、良かった。思ったより早く来れたんですね」 その場所にはすでに未来人が待機していて、制服姿のまま俺を待っていてくれていた。長門の話を聞き、古泉の話を聞き‥‥。 朝比奈さんは、一体俺に何を伝えようとしているのだろうか。電灯の明かり以外何も照らすものがないその元へ、俺は駆け寄った。 →涼宮ハルヒの分身 Ⅲへ
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わたしは涼宮ハルヒが苦手だ わたしは涼宮ハルヒが苦手だ 「そりゃあ、あの女が苦手じゃない人なんていませんよ」 と、今にも鏡に映ったわたしが言いそうな今日この頃。 そんなわたしは今、新体操部で、リボン回しの練習をしている。 わたしがこんなにも涼宮ハルヒに苦手意識するようになったのは、あの新体操部に入部したばかりのときに遡る。 その日はわたしが新体操部に入部した初日であった。 わたしは昔からバトンを習っていたし、運動神経もそれなりにあるので、こんなの楽勝だと思っていた。 だけど、これが意外とむずかしい。 リボンは思ったように動いてくれないし、ボールは腕をスーと通ってくれないし。 で、そのころはまだ仮入部してくる人も多く、その中にあの奇人変人で有名な、わたしと同じクラスの女の子もいた。 涼宮ハルヒ 話によると、いろんな部活に仮入部してるらしいので、ここもその一つなんだろう。 多分、この部活も今日1日だけ。 で、涼宮ハルヒは先ほどからわたしの顔をジロジロ見てくる。 何?わたしの顔に何かついてるって言うの? 一応、触ってみたけど、何もついていない。 それを見た涼宮ハルヒは少し笑った。 無愛想なのに笑うな!なんだっていうのあんた! で、仮入部だから、とりあえず基本を覚えさせるところから始まるんだけど。 なぜか・・・そう、なぜか・・・ 「柳本さん、あなた確かずっとバトン習ってたのよね?じゃあ、この子に教えてあげて、同じクラスの子でしょ?」 と、先輩に言われてしまった。仮入部に来た人数が多くて他の子を見なきゃいけないという理由で。 先輩、わたし今日、初日ですよ・・・ でも、習ってたのは事実。てきとうに教えてあげよう。 ただ、本格的に涼宮ハルヒを苦手になったのは、この後の出来事だが、このときも少しは苦手だった。 だって、人と話をするのが苦手らしいし、話されたら無視を貫き通す性格だ。 「何やってんのよ。早く教えなさいよ」 言われなくたっても、教えるわよ。 まずは基本、バトンを右手に持ってくるくるくるくる。 おっ!なかなかやるわね。 まあ、これぐらいは初心者でもできる人はできるけど、これはどうかしら。 エーリアル(空中にバトンを上げる操法) あっ!わたしが失敗しちゃった。 「何これ?簡単じゃない。あんた、本当に習ってたの?」 ・・・・ こ、これぐらいは初心者でも運がよければできるわ。 エンジェルロール(腕の部位だけを使ってバトンをまわす操法) よし、今度はわたしも成功した。これは、初心者にはできない技よ。 「・・・さっきより簡単なの教えてどうすんのよ」 何ですと! そんな・・・わたしでもこの技習得するのにかなり長い時間かかったのよ。 じゃあ、これはどう? コンタクトマテリアル(とにかく何度もまわすのよ) わたしのやり方が早くて分からないかしら? って、できてるーーー!! もっと早くまわしてやるーーー って、そっちも早くするのーーー!! いててていててて、指が痛い、腕が痛い。 で、結局、それをわたしは10分間しかできなく、涼宮ハルヒは15分ぐらい続けて、自分からやめた。 「もっとむずかしいのないんですか?」 それを覚えるために、わたしはこの部に入部したのよ! で、その後は、 「あたしやっぱりやめます」 と、言ってくれた。 すぐにやめてください。あなたとはもう関わりたくありません。 で、最後に全く関係ないことをわたしに言ってきた。 「あんたの前髪、変だね」 ・・・・・・ もう、何も言わないで。 それから、わたしはできるだけ涼宮ハルヒに近づかないでいようと心がけているのだけど、 なぜか、そうすればそうするほど、涼宮ハルヒがこっちを見てくるような気がする・・・ 嫌がらせ? わたしは、あんたの好む宇宙人でも未来人でも異世界人でも超能力者でもないわよー。 終わり
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「キョン君、少しよろしいですか?」 ん…古泉? 「話があるのですが。」 俺は古泉に呼び止められ部室に残る事になった。 …で、話とはなんだ?またハルヒの事か? また厄介事でも起きたのか? 古泉はいつもの笑顔で 「いえ、今回は涼宮さんの事ではありません。」 …ハルヒの事では無い?なんだ? 「キョン君…あなたの妹さんの事ですが…」 妹? 「はい、キョン君の妹さん…可愛いですよね」 …何を言っているんだこいつは? …ああ、可愛いな。歳が離れているから尚更な。 「いえ!そういう意味では無く一人の女性としてと言うか…何と言うか…」 …実は気付いていた…いや、気づきたくなかった… 「…古泉…お前は…」 コクン 古泉は頬を赤らめ頷いた。 『古泉はロリコンだった』 …神…神よ… …もしやとは思ったが…まさか…落ち着け…俺、俺は普通の人間よりも超常現象には耐性がある…そうだ…OK。 それにいくらロリコンとは言え同じ人類だ。コミュニケーションはとれるはずだ。 …まずは本物かどうか確かめなくては…古泉! 俺は近くの野球ボールに 【妹】 と書き古泉に突きつけた。 このボールを俺の妹としよう 「キョン君の妹…」 次に筆箱から消しゴムを取り出し 【上戸彩】 と書き同じ様に突きつけた。 この消しゴムを上戸彩としよう。 「上戸彩…」 古泉は妹と上戸彩を持ち戸惑っている。 俺は古泉に告げた。 「この上戸彩をお前の好きにしても良いぞ。」 「な!…好きにしても良いとは!?」 「口に含もうが乳を揉もうが自由にしろ」 「!!!…そんな事しても良いのですか!?…事務所的に許されるのですか!?」 …古泉は驚愕の顔でつぶやいた。 事務所など気にしなくて良い…ただし! 「???」 妹を選ぶか上戸彩を選ぶかこの場で決めてもらおうか! 「なっ!?」 …どう出る、古泉? 古泉はしばらく考えたのち答えを出した。 「えいっ!」 古泉は消しゴムを投げ捨てた! ああ…彩ちゃん …古泉はボールに頬ずりしている。 「…本物か…」 ただでさえ超能力者という属性を持っているのにさらにロリコンの属性まで求めなくても… 「、と言う事で今日はキョン君のお家にお邪魔して晩御飯をご馳走になり、お父様とお母様に挨拶をしようかと…」 断る! 「即答ですか…」 当然だ… 「そうですか…参りまたね…」 ん、暗い顔して…どうした? 「いや、実は…」 …話を聞くと銀行の手違いで仕送りが遅れていて、明日にならないとお金を下ろせない、さらに昨日から何も食べてない…という事らしい…。 …そうだったのか。 「はい、恥ずかしながら…」 これで無視する程俺は冷たい人間では無い …しかし、ハルヒの罰金で俺も手持ち金は無いし…でも家に連れて行くと妹が危ないし… ん!そうだ、ハルヒだ!あいつにもたまには団長として飯でもおごらせよう! よし、古泉! 「はい?」 ハルヒに飯をたかりに行くぞ 「…正気ですか?」 正気だ。 「涼宮さんの性格はご存知でしょう?」 もちろんだ。痛い程知ってる。 「あの天上天下唯我独尊、目の無い巨大台風、世界の中心でわがままを叫ぶ第六天魔王…等、の異名を持つあの涼宮ハルヒにですか!?」 …お前本人が居ないと思って言いたい放題だな。 「本人が居ないから言えるのです。…所でその自信…何か勝算でも…」 もちろんだ。これを聞いてみろ。 カチャ ……… 「こ、これは!?…これがあなたの武器ですか…たしかにこれならば…」 勝てる…しかし問題が一つある。 「…閉鎖空間ですね。」 それだ。これを実行すれば巨大な奴が出来るかもな… 「…たまには良いでしょう。」 は!? 「最近バイト代が減っていた所です。…稼がせてもらいましょう…」 良いのか…それで…わかった。お前の覚悟は受けとった 「…はい。」 そこにはいつもの古泉一樹は居ない。 一人の戦人がいた。 …これより我らは修羅に入る! 「…鬼に会っては鬼を切り、仏に会っては仏を切る…ですね?」 さすが古泉。よく知ってるな。 まぁ、それくらいの覚悟がいるってことだ。 「はい」 …二人は戦場に向かう気持ちで涼宮ハルヒの元へ向かうのだった。 さてどうなるのか… 今一人の少女が帰宅した。 涼宮ハルヒ これからこの少女に悲劇が訪れる…。 「ただいま~…って誰も居ないんだけどね…。」 彼女の両親は深夜まで帰宅しない。当然誰も居ないはずだった…が ガチャ 「お帰りハルヒ。」 「お帰りなさい涼宮さん。」 「…」 ガチャ 再びドアを閉めた。 「…キョンと古泉君?…幻覚ね…疲れているのかな?」 ガチャ 再びドア開けた。 「何やっているんだハルヒ?」 「お茶煎れますよ。座ってください。」 「…な…な…な…なんで居るのよあんた達!!」 「…ハルヒ、夜だぞ。近所迷惑を考えろ。」 「ちょ…どこから入ったの!?」 キョンは無言でそれを掲げた。 「人の家の合い鍵を勝手に作るなぁぁぁぁぁ!!!!!」 ハルヒは素早くそれを奪い取った。 「まぁまぁ涼宮さん、落ち着いて下さい。どうぞお茶です。」 古泉はハルヒにお茶を差し出す。 「ああ、ありがと、古泉君…」 ゴクっゴクっ 「…ふぅ~…じゃなくて!何で古泉君まで此処に居るの!?」 「ハルヒ、落ち着いて話しを聞け…」 キョンはハルヒに古泉の事情を話した。 「…んな訳なんだ。だから団長として俺と古泉に飯を奢ってくれ。」 ハルヒも少し落ち着いたようだ。 「…話しは分かったけど…別にキョンが古泉君に奢ってやっても良いんじゃない?」 「あいにく俺はお前が課す罰金で貧乏だ。」 「んっ…でも家に招待して晩御飯ご馳走するぐらい大丈夫でしょ?」 「至極もっともな意見だな。しかし切実な理由があって奴に家の敷居をまたがせる訳にはいかないんだ。」 「…切実な理由って?」 「それは禁則事項だ」 「…何よそれ…あいにくだけど家には何も無いわよ。わたしも外で済ませて来たし。」 「それは確認済だ。見事に何も無いな…」 「勝手に家捜しするなぁぁぁぁ!!!!!」 「夜だ。近所迷惑を考えろ。」 「あんたは私の迷惑を考えなさい!!…何にも無いのは分かっているんでしょ?無駄足だったわね」 「大丈夫だ。今から外でお前に奢ってもらうつもりだから」 「な!…嫌よ。わたしは奢ってもらうのは好きだけど奢るのは大嫌いなの。」 「…これを聞いても嫌と言えるか?…古泉。」 「はい。」 古泉はカセットレコーダーを取り出した。 「な…何よそれ…」 「…ハルヒ、一昨日の放課後の部室。覚えているか?」 「一昨日の放課後の部室?…たしかあの日はわたしが一番に着いてしばらく誰もこなかっ…まさか!」 キョンは邪悪な笑みを浮かべて言った。 「人と言うのは悲しいな…。暇になるとつい自作の歌を即興で作り歌ってしまう…しかもその大半がかなり恥ずかしい物だ。」 …卑劣な… 「(本当卑劣ですね…僕もキョン君を少し舐めていたようです。)」 「ハルヒ…お前に選択肢は無い。」 ハルヒはキョンを睨みつけて言った。「…わかったわよ!奢れば良いんでしょ、奢れば!ライスでもライス大盛でも好きに自由にどうぞ!」 「…まだ自分の立場が理解出来て無いようだな…古泉。」 「…はい。」 カチャ ♪~♪~ 陽気な声のかなり恥ずかしい歌が流れた。 「あああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!わかった!わかりました!何でも好きな物をお食べ下さい。成長期の二人は美味しいものを沢山食べないと駄目なの!」 「…古泉。」 カチャ 歌が止んだ。 うなだれるハルヒに笑顔の古泉が近づき言った。 「涼宮さん、ご馳走になります。」 「うぅ~(泣)」 キョンも近づき 「ハルヒ、素直なお前が一番カワイイぞ。」 「この鬼ぃぃぃぃ~」 …閑静な住宅街に少女の絶叫が響いた… …夜道を三人の男女が歩いている。 「ここの高級レストランに入るわよ」 「高級レストランって…唯のファミレスじゃないですか。」 「まぁ、もう歩くのも疲れた。今回は此処で勘弁してやろう。次回はもっとましな所に連れて行けよ。」 「じ…次回って…」 そんなこんなで三人はファミレスに入って行った。 … 「ご注文はお決まりですか?」 「…コーヒー…」 「俺は高い順番に上から10品。」 「良いですね。では僕も彼と同じ物を…」 「…もう好きにして(泣)」 …その後の彼ら、一人はシクシクと泣きながらコーヒーを飲み、二人は成長期らしい食欲で膨大な料理を食い尽くしていった。 (…なんでこんな事に…覚えてなさいよ、二人共…) そろそろ食事も終わりそうだ。 (あ~あ、いくらかなぁ~) ハルヒは財布を探した…が…無い。 「あ…」 ハルヒは思い出した。自宅のテーブルに置いた財布の存在を… (ヤバっ…どうしよう…) チラッ 二人の様子を見る…満腹になったせいかいつもの顔になっている。 (…怒んないよね…) 「ねぇ、キョン、古泉君…」 「なんだ?」 「なんですか?」 (あ…笑顔だ。大丈夫) 「…あのね」 「うん」 ハルヒは自分で出来る最高にカワイイ笑顔を作って言った。 「財布忘れてきちゃった…テヘッ…。」 …すると笑顔だった二人の顔が…みるみると… 「ああ!?(怒)」 「ひっ!(泣)」 「古泉!今すぐ例のテープを流せ!大音量でだ!!」 「はい!大至急!」 「嫌ぁぁぁぁ止めてぇぇぇわざとじゃ無いの~本当にぃぃぃ~」 ハルヒの必死の制止により惨事は免れた。 …が問題が一つ。 支払いをどうするか… 「…沢山食べてしまったな…」 「…食べてしまいましたね…」 「…食べたわね…」 お金がありません。ごめんなさい。 では済まない量だと三人共理解していた。 「…」 「…」 (キョンも古泉君も困っているわね…ここは一つ団長として…) 「ねぇ、ここは素直にあやま… ここでハルヒの言葉を遮り古泉が口を開いた。 「やはりこの方法しかありませんね…」 「!?…何とかなるのか?」 「…はい。」 (方法があるの!?) 「あれを見て下さい。」 そう言って指差した先を他の二人も見た。 「…幸いにも今店員は一人しか居ません。 まずキョン君…あるいは涼宮さんが店員の前に立ちます。」 「それで…」 「それでどうするの?」 「次にその店員にボディーブロウを入れるのです。…その隙に逃亡…どうですか?」 (ちょ!?それって食い逃げ…いや、この場合強盗よ!) 「ちょっと、古泉君、それは…」 「…その手があったか…」 (キョン!?) 「はい、しかしそれしか思い浮かびません。」 「上等だ…その役俺がやろう。」 「…漢ですね、キョン君流石です…」 (…正気…この二人…大体おかしいでしょ?いつものあなた達の役割は私が暴走するのを止める事…まるで逆じゃない!) …涼宮ハルヒは知らない…彼らが修羅に入っている事を。 鬼や仏をも斬る覚悟の彼らにとって店員にボディブロウを食らわすぐらい朝飯前である。 この時ハルヒの頭に最悪の光景が浮かんだ。 回る赤色灯 掛けられる手錠 「団長の…団長の命令で仕方なくやったんです!」 「そうです。僕たちは嫌だといったのに無理やり…逆らったら死刑なんです!」 (…君が団長だね?) 刑事の声 (…少年院でゆっくり反省しなさい) ガチャ(牢屋の閉まる音) ………… 嫌ぁぁぁぁ!! 涼宮ハルヒは一種のパニック状態に陥っていた。 逮捕の恐怖だけでは無い。 いつも周囲に 異常 変人 暴走機関車 等と言われ自分でも否定せずそれを受け入れ生きてきた涼宮ハルヒが、今、三人の中で一番常識人だということに気づいたからである。 二人は真剣に話しあっている。 「ボディーブロウはえぐり込むように…」 「…えぐり込む様にだな…」 一方ハルヒは 「あはは…あは…」 壊れかけていた。 (なるほど…キョンはいつもこんな感じなのね…) (…しっかりしろ!涼宮ハルヒ!あんたが壊れたら最悪の結果が待っているのよ!) (がんばれ!) 自分で自分にエールを送り気持ちを奮い立たせた。 「待って二人共!」 「ん?」 「何ですか?」 「…もう少し待ちましょう。きっと穏便にすむ方法があるはず…せめて後30分待ちなさい。」 「わかった。」 「わかりました。」 「…よし!」 涼宮ハルヒ、復活! …しかしそう都合良く見つかるはずも無く、まもなく30分たとうとしていた。 「やっぱりあれしか無い。」 「駄目よ!キョン!」 「…しかし!」 そこに古泉の声が響いた。 「…かれこれ20分ほど不愉快な視線を僕たちに向けています…もう限界です。」 「なるほど…そう言う事か…」 「…」 「はい、これは向こうから喧嘩を仕掛けたも同然!詫び料として支払い分巻き上げましょう。」 「…流石古泉だな、俺が行こう。」 「…」 「大丈夫ですか?結構強そうですよ。」 「心配するな。伊達にハルヒに付き合ってきた訳じゃ無い…体力だけは無駄についた。」 「…ご武運を。」 キョンはその男の元へ向かおうとした…そこに… 「…待ちなさい。」 ハルヒだ…。 「何だ…まさか止めようって訳じゃないだろうな?」 「いいえ、あの手の奴はここできっちり締めとくのがよいわ。 払わないなんてぬかしたら骨の一本でも折ってあげなさい。 「あ…ああ。」 …ハルヒ…やっぱりあんたも同類だよ… キョンは向かった。 「流石キョン君、早速胸ぐらをつかみましたよ!」 「がんばれキョン!」 …いや、違うの。違うの。…あのね… 「…まずいですね。素直に謝りそうな気配です…」 「キョン…失敗したら死刑よ!」 …はははは、そうだったのか… 「…打ち解けてしまった様ですね…」 「何やってんのよキョン!」 …キョンは笑顔で戻って来ました。 「…キョン君…あなたには失望しました…。」 「…もう一度行きなさいよ。このチキン野郎。」 「違う違う。古泉が行けば良いんだよ。」 「…へ?僕が?」 「…古泉君が?」 「そうだ。行ってこい。」 「???」 古泉は訳わからない様にして向かった。 「…ど~ゆ~事なの、キョン?」 「…ああ、あの男は ホモ なんだ。」 「…ホモ?」 「ああ、どうやら古泉に一目惚れしたみたいで…あの視線は熱い視線だった訳だ。」 キョンは手品の種明かしをするかの様に語った。 「…で支払いはどうするの?」 「大丈夫だ。事がすんだら古泉に渡すらしい。」 「…事って…まさか!」 …そして古泉は。 「…僕に用ですか?」 「…かわいい。」 「…何故僕の股間を弄るんですか?」 「…さぁ、トイレに」 「キョン君!、涼宮さん!助けて下さい!この男何かを狙っています!」 「(お前の肉体なんだよ(泣))」 「(あなたの肉体なのよ(泣))」 「キョン君!…何電話掛けるフリしているんですか!?それどう見ても電話じゃ無くてあなたが今履いてた靴でしょう!」 「…ああ、つぎの商談は…ああ、そうだ。」 「涼宮さん!テーブルの下に頭突っ込んで何やってるんですか!」 「プーさんでしゅ。プーさんでしゅ。蜂蜜食べたいでしゅ」 「助けて~…」 …古泉はトイレに消えて行った。 「許せ!古泉(泣)」 「許して!古泉君(泣)」 …なんて薄情なやつらだこいつらは… ~30分後~ 「コーヒーおかわりください。」 「わたしも。」 …二人は古泉をまっていた。 コーヒーを飲みながら… ガチャ …トイレからフラフラになった古泉が出てきた。 「古泉!」 「古泉君!」 …古泉がゾンビの様に近づいてきた。 「…キョン君…涼宮さん…」 「遅かったな。」 「心配したのよ。」 …二人は額に汗をかいています。 「……僕…汚れて…しまいました…」 … (古泉(泣)) 二人は涙を流しながら古泉に近づいた。 「痛みに耐えて良く頑張った!感動した!」 「あなたはSOS団の誇りよ。終身名誉副団長の称号を与えるわ」 「…ところであの男から何か受け取らなかったか?」 「…ああ…これを…」 古泉はそれをキョンに渡した。 テレホンカード…一枚 「…テレホンカードか…しかも50度数…(涙)」 「…こんな物の為に古泉君は…(涙)」 …古泉一樹… テレホンカード(50度数)一枚で純潔を失った男となる。 「…しかし…僕は悟りました…大切な物はお金ではありません…本当き大切な物は…」 「?」 「?」 古泉は頬を赤く染めながら言った 「…太くて大きい物…です。」 「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」 「いやぁぁぁぁぁ!いぁぁぁぁ!!!!」 古泉はクラスチェンジした…ロリコンからホモになった。 「駄目だ!!行くな!!」 「そっちにいったら駄目ぇぇぇ~」 …何て事だ…まさかこんな事になるとは…古泉!お前はホモじゃ無い…ロリコンだ! 「…ロリ…コン?」 そうだ、心配するな。俺にまかせろ。必ず何処に出しても恥ずかしくないロリコンに戻してやる。 「…古泉君…ロリコンだったんだ…」 …ハルヒは少し引いてしまったようです。 「古泉、美人OLの脱ぎたてパンストと小学四年生の脱ぎたてブルマ…どっちが良い?」 「…ブルマ…」 「そうだ!…次、ビキニの水着とスクール水着…どっちだ?」 「…スクール水着…」 「最後だ!…上戸彩と俺の妹…どっちだ?」 「キョン君の妹…です。」 「古泉ぃ~」 キョンは古泉に抱きついた。 「思い出せ!お前は俺の妹(11)が好きなロリコンんだ!…思い出せ…」 「僕が好きなのは…キョン君の妹…」 …古泉の瞳に段々と光が戻ってきました。 「…キョンくん…」 「…何も…何も言うな!…くぅ~涙が止まらない。」 ふと隣をみるとハルヒも涙でクシャクシャです。 「…ひっく…古泉…君…お帰り…なさい。」 …いつまでもこうしていただろうか… 事象をよく知らない周りの人達がもらい泣きを始めそうなころ再びキョンは口を開いた。 「古泉、最後にもう一度お前の好きな人の名前を聞かせてくれ」 古泉は照れながらいいました。 「キョン君の…妹…」 キョンは涙を流しながら再び 「声が小さい!もっと大きな声でだ!」 彼はうなずき大きな声で言った。 「キョン君の妹…の」 の? 「の?」 「の?」 「…お兄ちゃん」 キョンの妹(キョン→妹) の お兄ちゃん(キョン←妹) 「…い……いゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」 キョンの絶叫が響きました。 「…古泉君…戻ってこれなかったのね…(涙)」 古泉は頬を赤くそめキョンにちかづいていった… 「キョン君…」 「ひっ…ひぃ~」 「キョン君…」 「…やめろ…俺を恋する乙女の目で見るな…」 どんどん追い込まれていきます。 (…このままでは…犯られる…) その時です。 「古泉君!あっちにふんどし締めた美少年の集団が居るわよ!!」 「なんですって!!」 古泉がハルヒの言葉に騙された。 (今よ!キョン!!) (…すまないハルヒ…お前がくれたこの一瞬…無駄にはしない!!) キョンは素早く古泉の後ろに回り込み…これは…これは… ジャーマンスープレックスホールドだぁぁぁぁ!! グキ 「はぁ、はぁ、」 キョンは完全に気絶した古泉に向かい呟いた。 「すまない…こうするしか…こうするしか無かったんだ…」 「しかし…ロリコンからホモになるとは…」 「超サイヤ人3もびっくりな変身ね…目覚めた時またいつもの古泉君に戻っていると良いわね…」 「ああ…心から…心からそう願うよ…」 …その後店の店長から 「お代は結構ですから二度と来ないでください。」 といわれ三人は追い出された。 「…結局払わないで良かったな。」 「…結果オーライってやつね。」 二人は堅く手を握りあった。 「ところで…」 「うん…これどうしようか?」 もちろんこれとは古泉の事である。 「キョンのうちに泊めてあげれば?」 「馬鹿言うな!記憶が戻っていたら妹が、戻ってなかったら俺が危ない。」 「…放置しとく?でもここらへん野犬が出るとか…」 「…古泉なら多少野犬にかじられても大丈夫だろう。」 「…そうね。ところでキョン、送ってくれるんでしょうね?」 キョンは苦笑いをして答えた。 「お姫様がお望みなら…」 ……って所で夢から覚めたのよ。 放課後、ハルヒは昨夜見た奇妙な夢のはなしをしていた。 朝比奈さんはポカーンとし、キョンは苦笑いをし、古泉は笑顔をひきつらせて聞いていた。 「んで感想は?…みくるちゃん?」 「え…感想ですか?…古泉くんはどうですか?」 「…この話で僕に振りますか…」 こめかみのあたりがピクピクしています。 「有希、どうだった?」 「…ユニーク」 おしまい。
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基本情報表紙 タイトル色 その他 目次 裏表紙のあらすじ 裏表紙のあらすじ(付け変えカバー) 出版社からのあらすじ 内容 あらすじ第四章 挿絵口絵 挿絵 登場人物 刊行順 基本情報 涼宮ハルヒシリーズ第10巻。長編作品。 2007年6月1日に発売が予定されていたが、諸般の都合により発売延期となり、発売未定となる。 しかし、2010年4月30日発売のザ・スニーカー6月号にて一部先行掲載され、年内発売予定が発表されたが、年度内発売に変更、その後、同年12月27日発売の ザ・スニーカー2月号にて、『涼宮ハルヒの驚愕(前)』というタイトルで、2011年5月25日、発売することが決定(初回限定版)、 6月15日には通常版が発売される。 「初回限定版」には『驚愕(後)』とセットで、64ページのオールカラー小冊子がついてくる。 当初は一冊のみの刊行で『涼宮ハルヒの驚愕』のタイトルでの発売予定だった。 表紙 通常カバー…涼宮ハルヒ 付け替えカバー…朝比奈みくる タイトル色 付け替えカバー…緑 通常カバー…橙 その他 形式…長編・上中下巻(第9巻『分裂』は上巻、第11巻『驚愕(後)』は下巻にあたる) 目次 第四章…P.5 第五章…P.68 第六章…P.189 裏表紙のあらすじ SOS団の最終防衛ラインにして、その信頼性の高さは俺の精神安定に欠かさざる存在であるところの長門が伏せっているだと? 原因はあの宇宙人別バージョン女らしいんだが、そいつが堂々と目の前に現れやがったのには開いた口も塞がらない心持ちだ。 どうやら、こいつを始めとしたSOS団もどきな連中は俺に敵認定されたいらしいな。 上等だ、俺の怒髪は天どころか、とっくに月軌道を越えちまってるんだぜ? 待望のシリーズ第10巻! 裏表紙のあらすじ(付け変えカバー) SOS団の面々が学年を上げたといって俺の魂に安寧が訪れることもなく、春らしい話題であるはずの旧友との再会についてはやっかいな事態の 来訪を告げただけだったが、これらが引き起こすであろう事件は不確定な未来でしかありえなく、かつ過去に起きたことも盤石の一枚岩ではないという 疑惑を振り払えず、つまり何が言いたいかというと面倒な立場に追い込まれてこんな独り事をぼやいてる俺の身になってほしいとのことだの第10巻! 出版社からのあらすじ 長門が寝込んでいるだと? 原因は宇宙人別バージョンの女らしいが、どうやらSOS団もどきのあの連中は俺に敵認定されたいらしい。 やれやれ、勘違いされているようだが、俺もいい加減頭に来ているんだぜ? 内容 第9巻『分裂』の続刊。第11巻『驚愕』(後)に話が続いている あらすじ ※ネタバレ記述があるので注意。 第四章 +... 『α』(α-7) 部活動を終え、SOS団のメンバーと帰宅したキョン。しかし、ハルヒ達と別れてから、キョンはうら寂しい心持ちになっていた。 ”SOS団の面々と一緒にいるのが俺にとってオーソドックスモードになってしまっている”。 キョンは、非日常な世界を楽しんでいることをさらに強く意識していた。 その日はいつもと変わらず、いつも通りに帰宅。特筆すべき出来事は今日はもうなかった。 『β』(β-7) 長門が熱を出して寝込んでいると知り、長門のマンションへと向かうSOS団のメンバー。だが、長門の熱は一向に下がる気配は無い。 どうやら、天蓋領域とコンタクトするために眠っていたらしい。 長門を危機に陥れた周防九曜が近くにいるのではないか。そう思ったキョンは怒り任せに走って長門のマンションを後に、近くの踏切の前で九曜と出会う。 しかし、背後から女の声が。さらには突然キョンの首めがけて背後からナイフを突き付けられる。突き付けた人物は九曜ではなく…… 挿絵 口絵 SOS団(第四章) キョン、周防九曜(第四章) 涼宮ハルヒ、長門有希(第五章) 挿絵 「第四章」 P.19…長門有希 ⇒ P.39…キョン、朝倉涼子 ⇒ 「第五章」 P.95…キョン、朝比奈みくる、古泉一樹 P.109…涼宮ハルヒ P.145…藤原、周防九曜 P.173…キョン、佐々木、谷口、国木田 「第六章」 P.217…涼宮ハルヒ P.267…佐々木、キョンの妹、シャミセン 登場人物 涼宮ハルヒ キョン 長門有希 朝比奈みくる 古泉一樹 朝倉涼子 喜緑江美里 谷口 国木田 キョンの妹 佐々木 橘京子 藤原 周防九曜 渡橋泰水 刊行順 <第9巻『涼宮ハルヒの分裂』|第11巻『涼宮ハルヒの驚愕(後)』>
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ここは文芸部部室こと我らがSOS団の溜まり場だ 朝比奈さんは今日もあられもない姿で奉仕活動に励み、長門は窓際の特等席で人を殺せそうな厚さのハードカバーを読んでいる。 俺はというと古泉と最近お気に入りのMTGを楽しんでいた――ちなみに俺のデッキは緑単の煙突主軸のコントロール、古泉は青単のリシャーダの海賊を主軸にしたコントロールだ――ここ最近は特に目立った動きもなく静かな毎日を送っていた。 ……少なくとも表面上は。だがな。 何故こんな言い回しをするかって?正直に言おう。オレ達は疲れていたんだ。ハルヒの我が侭に振り回される毎日に。 そりゃ最初のうちは楽しかったさ。宇宙人、未来人、超能力者と一緒になって事件を解決する。そんな夢物語のような日常になんだかんだ言いながらも俺は胸を踊らせたりもした。 だって、そうだろ?宇宙人と友達になれるだけでもすごいのに未来人や超能力者までもが現実に目の前に現れて俺を非現実な世界に連れていってくれるのだ。まさに子供の頃の夢を一辺に叶えたようなものだ。 これをつまらないと言う奴はよほど覚めた奴か本当の意味での大人くらいなものだろう。 そして俺は本当の意味での大人ではなかった。だからなんだかんだと文句を言いながらも心の底から楽しむことができたのだ。 では何故冒頭で否定的とも取れる意見述べたか?理由は単純、ハルヒの我が侭がオレ達のキャパシティを大きく上回ったことにある。 例えば閉鎖空間。SOS団を結成してからというものその発生回数は減ったもののその規模が通常のそれより遥かに大きくなったのだそうだ。 しかもその原因のほとんどが俺にあるというから責任を感じずにはいられないね。 そして俺に最も精神的苦痛を負わせた事件がある。それはこんな内容だった。 それは些細なことで始まったケンカだった。あの時は俺が折れるべきだったのだ。 悪いのはハルヒだからハルヒが謝るべき。 なんてつまらない意地を張らずにハルヒに土下座をして許しを請うべきだった。 しかしあの時の俺は強気だったしバカだった。 あろうことか俺はハルヒにお前が長門や朝比奈さんを少しは見習って女らしさというもをうんたらかんたらと説教を始めてしまった。 それがいけなかった。 前々から俺と長門の関係を怪しんでいたハルヒは激昂し、「なんでそこで有希が出てくるのよ!!」と怒鳴ると怒って帰ってしまったのである。 朝比奈さんはおろおろと怯え、長門は無表情だがどこか責めるような目線を送ってきた。 そしてこの件について一番の被害者になるであろう古泉はいつもの0円スマイルではなくまっこと珍しいことに真顔だった。 真顔の古泉が怖くて仕方なかった俺は古泉に平謝りしその日は解散となった。 明日ハルヒに謝ろう。そうすればまたいつも通りのSOS団が帰ってくるさ。俺はそんなことを考えていた。 だから翌日昼休みに消耗しきった古泉に呼び出されたことに少なからずも俺は動揺していた。古泉のあんな顔を見るのは始めてだった 「昨夜閉鎖空間が発生しました」 「そうだろうなあ…いや本当にお前には迷惑をかけた。すまんこの通りだ許しくれ!」 古泉は気にしてないと言わんばかりに微笑し淡々と話しを続けた。 「僕よりも涼宮さんに謝ってあげてください。なんせ昨夜の閉鎖空間の規模は今までの比ではなく我々《機関》だけでは対処できずに長門さんの勢力に協力してもらいやっとのことで鎮めることができたのですから」 古泉は淡々と話す――本当にすまん 「そして我々《機関》の中から始めての犠牲者もでました。あなたもご存知の新川さんが森さんをかばいが殉職しました。その森さんも背骨を折られ車椅子生活を余儀なくされました」 俺は絶句した。そりゃ人はいつか死ぬのだ。その事実は受け止めなければならない。 しかしこんなかたちで知人の不幸を知らされるとは夢にも思っていなかったからである。 真夏だというのに小刻みに震え、冗談だよなと言う俺を見て古泉は首を左右に振り否定。 また微笑し淡々と話し始める――なんでそんなにあっけらかんとしているんだよ…いっそのこと罵利雑言を浴びせ思いっきり殴ってくれ… 「僕は、僕達は別に貴方を責めているわけではありません。貴方はただ巻き込まれただけの一般人ですからね。ですが貴方の軽率な行動が簡単に僕達の命を刈り取ってしまう…この事実を忘れないでください。 では、後ほど」 そういって古泉は教室に戻っていった。 俺はというと食堂で昼食をとっていたハルヒに詰め寄り恥じも外聞も捨て泣きながら土下座した。 この時ばかりは周りの視線が気にならなかった。それくらい俺は焦っていたんだ。 とまあ、こんなことがありしばらく俺は古泉よろしくハルヒのイエスマンに成り下がっていたのだがこれにもちょっとしたエピソードがある。 なんでもかんでもはいはい肯定する俺にハルヒが不満を持ったのである。本当に難儀なあ、奴だこいつは… 古泉曰く俺は否定的立場を取りつつも最後にはハルヒを受け入れる性格でないといけないらしい。つまり新川事変(朝比奈さん命名)以前の俺だな。 新川事変以来ハルヒにビビっていた俺には無茶な注文だったがまた下手に刺激して閉鎖空間を発生されても困るので努めて俺は昔の俺を演じることにした。 おかげで自分を欺く術に異様にたけてしまった。全く嬉しくないネガティブな特技である。 ついでなので俺の肉体に最も苦痛を与えたエピソードもお話ししよう。 その日はいつものように文芸部部室で暇を持て余していた俺は古泉指導のもと演技力に磨きをかけていた。 そこに無遠慮なまでにバッスィィィィィン!!とドアを蹴破り現れたのは我らが団長涼宮ハルヒその人である。 ハルヒは何か悪巧みを思いついた時に見せる向日葵の様な笑顔――俺にはラフレシアの様な笑顔に見えたのは秘密だ――で開口一番 「アメフト大会に出るわよ!」 と、宣った。せめてビーチフットにしていただきたかったぜ。 大会はいつなんだ?という問いに満面の笑みで 「明後日よ!!」 と答えるハルヒ。まったくこいつは…… 「無理だ。アメフトのルールは野球とは違って複雑だぜ?」最初は否定的立場にいながら―― 「大丈夫よ!図書室でルールブック借りてきたしいざとなったらあんたの友達の中川くんに助っ人になってもらえばいいわ!!」 俺はハルヒの持ってきたルールブックにいちべつし、軽いため息を吐くと 「“中河”だ。わかった…中河には俺から連絡しておくさ」 ――最終的にハルヒの我が侭を受け入れる。どうだ?完璧な演技だろ?アハハハハっ、よし、今日も古泉にレキソタンわけてもらおう。 以外と効くんだ。アレ。 中河にアポを取り、快く承諾してくれた中河に感謝しつつ決戦当日である。 ちなみにハルヒが借りてきたルールブックとはアイシールド●1である。 いっそ事故かなんかで死んでくんないかなあ、あいつ。 試合内容は散々たるものだった。 相手チームが原因不明の腹痛を訴え棄権したり交通事故で棄権したり実家が燃えて人数が足りないチームと戦い、とうとう決勝戦である。 彼らには悪いがこちとら世界の命運がかかっている。多少の犠牲はつきものと割り切って試合に挑もと思う。 ここでとりあえず我がチームの選手とポジションを紹介する。 まずはラインの谷口、国木田、コンピ研部長、ランの俺とハルヒ、クォーターバックの長門、なんでも屋の古泉、その他雑用の鶴屋さん、朝比奈さんに妹 そしてリードバッグ(ボール持った奴を守るポジションらしい)の経験者中河だ。 これで優勝を狙ってるんだから正気の沙汰じゃない。本当に志しなかばで散っていった方々のご冥福を祈る。 いい加減まともに試合が出来ていないことにハルヒがイライラしてきたのでこの試合は小細工無しの真っ向勝負だ。 オレ達は経験者中河の指示にしたがい順調に点差を広げられていった。 ちなみに中河の提出した作戦は「いのちをだいじに」だ。 さすがの中河もまさか女子供と混じってアメフトをするとは夢にも思わなかったのであろう。 いろんな意味でアップアップだ。 そんな時に限って古泉の携帯が鳴り、長門は空を睨み、朝比奈さんは耳を澄ましてやがる。あぁ、忌々しい…
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涼宮ハルヒの共学 何か胸騒ぎがする それもものすごくイヤなヤツが ゆっくりと窓の外を流れる見慣れた景色を眺めながら 俺は安易に単独行動をしてしまった 相変わらず行き当たりばったりの自分の行動力を悔んでいた 俺は今、鶴屋家差し回しの車の助手席に乗っていた 運転しているのはあまりよく顔を知らない、鶴屋家の使用人だった これが新川さんならば ものの1分もかからずに到着できるぐらいの近距離なのだが 鶴屋家の運転手さんはひたすらゆっくりと まるでリムジンでも運転するような丁寧さで車を走らせていた 鶴屋邸から長門のマンションまでは車ならそう遠い距離ではない なだらかな下り坂を下りていると、見慣れたレンガ造りのマンションが見えてきた もうすぐだぞ長門 ハルヒに古泉、朝比奈さん 早くみんなの顔が見たくて焦る 横道に逸れてしばらく走れば長門のマンションの入り口だ 少し安心してシートに座り直すと突然 全体にフィルターでもかけたように、長門のマンションがぼやけだした ????? これはいったい? 運転手さんもその状況に気付いたようで 「あれ?」とつぶやいてブレーキを踏んだ その直後だった バアーン! 激しい音がして車のボンネットに何かが叩きつけられた 思わず自分の顔を両手で覆ってしまう 狭い道なのでそんなにスピードが出ていなかったこと 既にブレーキを踏んでいたこともあって ボンネットに叩きつけられてそのままゴロンと転がり落ちたその物体を車は跳ね飛ばさずに済んだ 慌ててドアを開けて外に飛び出した俺の前で倒れていたのは 北高のセーラー服を着て髪に黄色いリボンを巻いている女子 短いスカートがまくれ上がり、死んだようにピクリとも動かないそれは・・・ 涼宮ハルヒだった ハルヒ? 何でお前がこんな所にいるんだ? どこから落ちてきたんだお前??? 話は少しだけ過去にさかのぼる 俺たちが無事に2年生に進級し 我がSOS団は無謀にも新入部員募集などという不届きなイベントを繰り広げていた ハルヒの豪放磊落というのか、それとも傍若無人というのか 相変わらずコイツを現す四字熟語には不自由しないある日 部室にいつもいるはずのメンバーが一人足りないことに気付いたのもやっぱりハルヒだった SOS団の初期メンバーでもあり、唯一のまともな文芸部員で 元眼鏡っ子で無口で色白の薄幸の美少女、しかしその実態は この銀河を統括する統合情報思念体が調査のために派遣した対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインターフェイスである(ちょっと一息) 要するに宇宙人が作ったアンドロイドの長門有希が欠席していた 慌てて長門に電話をかけるハルヒ 古泉も朝比奈さんも不安な表情で俺の顔を見ていた 「キョン!行くわよ!」 ああもちろんだとも 言われなくてもそうするさ あの長門が発熱して寝込むなんてあり得ない いや、あるとしたら理由ははっきりしている 例の天蓋領域とやらの侵略がまた始まったのだ メイド姿の朝比奈さんを大急ぎで着替えさせ 長門を除くSOS団一行は、足音も激しく北高を後にした 先頭をずんずん歩く団長の後を、俺たちが一団になって追いかける かわいそうな朝比奈さんはなかなか追いつけずにフゥフゥと息を荒げているが それでも泣き事などは全く言わない 朝比奈さんにもこの異常事態は十分分かっているはず そんな朝比奈さんの携帯がプルルルと鳴った 走りながら携帯を開いた朝比奈さんは小声でボソボソと話していたが すぐに電話を俺に渡してきた 「キョン君、電話です・・・」 ん?俺にですか? いぶかしく思いながらも携帯を受け取って何ですかと聞く 「ああキョンくん?ごめんだよっ忙しい所を! キョンくんの番号を知らないんでみくるにかけたわけさっ 手短に用件だけ言うね あのさ、例の超合金があったろう?うっとこの山に埋まってたヤツさ あれが今日なくなってるんだよっ!使用人が見つけたんだけど どうしようかなって思ってたんだけどさっ キョンくんにまずは連絡した方がいいと思って」 例の超合金?まさかオーパーツの事ですか? 「そうだよっ!あれあれ でも様子が変なんだよねっ 土蔵の鍵は開いてたけど別に壊された形跡もないし 他の物には一切手も触れてないみたいだしさっ 最初からあれだけを狙ってたような感じなのさっ だから警察に届ける前にキョンくんに知らせたってわけだ」 分かりました、俺がすぐ行きます その・・・警察に届けるのは少し待ってもらえますか? 「うん!いいよっ!最初からそのつもりだったからさっ」 俺は電話を切って朝比奈さんに返し 古泉に話しかけた ちょっと気になるんで鶴屋さんの家に行くから長門の事を頼む 「緊急事態ですか?」 いやまだ分からん それを確かめてくる 「僕もご一緒しましょうか?」 いやお前はハルヒと一緒にいてくれ まだ何が起こるか分からんし 起こるとしたらまずは長門の所だ 「分かりました。何かあったらすぐに連絡を下さい」 もちろんさ おいハルヒ 「あ?」 ちょっと俺は後から行くから 「どうしたの?」 ちょっと野暮用だよ すぐに合流するから 「あんた!有希よりも大事な急用なの?」 そんなことはない 長門も心配だけど、もしかしたら関係があることかもしれないから 「1人で大丈夫なの?」 ああ ちょっと見てくるだけだ 鶴屋さんの所だから1時間で往復できる それまで長門をよろしく頼む 「ふーん。よし分かったわ、早く行ってきなさい」 おいハルヒ 「何よ?」 SOS団を頼んだぞ 「あったりまえじゃないの!バカじゃないの?」 頼むぞ 「キョン!早く戻ってきてね」 思い返せば、このハルヒの一言もまた、何かの予感をしていたのだろうか 珍しく眉を伏せて、今駆け下りてきた道をまた走り出した俺の背中を見つめていた アップダウンの多いこの街の地形にもずいぶん慣れたつもりだったが イレギュラーな出来事にはすぐには対応できない 北高までの登り道を半分ほど登り、途中で折れてまっすぐ行った所にある 相変わらず犯罪的なお屋敷の長い塀を回り込み ようやく鶴屋邸の玄関に着いた時には俺の息は上がり、びっしょりと汗をかいていた 「ごめんねーこんな時に電話しちゃってさ、長門っちが熱出してるんだって?大 丈夫かなー」 俺はハアハアと荒い息をつきながら、とりあえず状況を聞いた 「さっき話したとおりなんだけどさっ、犯人はまるで最初からそれだけを狙って たみたいなんだよねっ。他の物には手も触れてないし、何であんなものに興味 があったのかなー」 鶴屋さんに案内されて、鶴屋家先祖代々の貴重な品が眠っている大きな土蔵の前に立った。 「何も動かしてないよっ、全部そのままにしてあるからっ」 確かに鶴屋さんの言うとおり、一見しただけでは泥棒が入った後とは思えない 乱雑に積み上げられた木箱やつづらなどがこじ開けられた形跡はなかった しかし入口付近にある小さな木箱だけが開けられていた 目撃者とかいなかったんですか? 「うん、使用人に聞いてみたんだけど、このあたりはあんまり誰もうろうろしな いからさ、鍵はおやっさんの金庫の中だし、おやっさんは夜まで帰って来ない から、誰かが鍵を持ち出す事もないと思うのさっ」 俺はしばらく考えたのちに鶴屋さんに頼んだ 心当たりはない事もないんですが、今はまだ話せないです でももしかしたら、何かの手がかりが見つかるかもしれないんで 俺が戻るまでは警察には知らせないでもらえますか? 「うん、分かったよっ!」 じゃあ後で電話します 必ず今日中に連絡入れますから 「うん。キョンくん」 はい? 「ハルにゃんをよろしくねっ!」 は? 「ハルにゃんはああ見えてもすっごく心配性なんだよっ みんなが元気でいられるように、ハルにゃんは必死なんだ そんなハルにゃんを元気にさせてあげられるのはキョンくんだけなんだからさっ」 はい 「頼んだにょろっ!」 いきなりの鶴屋さんの不思議発言だが この人にはある程度の予知能力のようなものが備わっているみたいだ 顔は明るく笑っているが、口調は真剣だった それが分かるので、俺も正直に答えた しばらく現場の状況をざっと確認してから、俺は鶴屋邸を後にした だんだん悪い胸騒ぎがしてくる 犯人は明らかにオーパーツだけを狙っている そしてオーパーツを狙うってことは、それがどんな機能を持っているかが分かっているはず そんな犯人の心当たりと言えば・・・ 長門が危ない 俺は直感的にそう思った 長門を寝込ませて力を封じ、その隙にオーパーツを使ってとんでもない事をやらかそうとしている そんな事をしそうな輩は地球上にそんなに多くはいない 俺はあの奇妙な長い髪をした不気味な少女 周防九曜の事を思い出していた さっき駆け上ってきた道を再び走り出してしばらく ようやく鶴屋邸の長い塀を抜けて住宅地を走っていると 人気の少ない交差点に止まっていたシルバーのワンボックスカーが静かに俺に近寄ってきた ただ長門のマンションに急ぐことだけを考えて他に頭脳が回らなかった俺は そのワンボックスカーが目の前に停まってスライドドアが開くまで、まさか自分の身に危険が迫っているとはよもや考えてもいなかった (同時刻、別の場所で) 「有希!有希!起きてるの?ねえ有希!開けてってば!」 涼宮ハルヒは鉄製のドアをガンガン叩き、近所迷惑な大声でわめいていた 玄関のオートロックの暗唱番号はあらかじめ聞いておいたものの、ドアを開けるには鍵が必要だ ドアを叩きながらわめくハルヒと、その横でオロオロする朝比奈さん そして少し遅れて古泉がエレベーターから出てきた 「今日は本当の緊急事態です、事情を説明して管理人から鍵を借りて来ました」 「古泉くん、早く開けて!」 古泉が長門の部屋の鍵を開け、ハルヒを先頭にドッとなだれ込んだ 「有希!有希!いるの?」 いつもの居間には長門の姿はなく、ハルヒは迷わずに奥の和室の襖を開けた そこには長門がいた ちゃんと布団を敷いて、静かに眠っている 「有希!大丈夫?熱はどうなの?ちゃんと薬飲んだ?」 「・・・・・・・問題ない、一過性のもの。寝てれば治る」 「みくるちゃん」 「ハイっ!」 「氷枕とか何でもいいから探して来て。それと古泉くん、もっとたくさん布団出 して」 「承知しました」 「有希、どうなの?つらくない?」 「・・・・・・・」 長門は力なく横たわったまま、布団の胸の部分だけが静かに上下している すぐに古泉が何枚かの布団を引っ張り出し、小さな長門に積み上げた 朝比奈さんはビニール袋に冷蔵庫の氷を詰め、濡らしたタオルも持ってきた 「有希、しっかりしなさいね。みんなここにいるから」 長門は薄く目を開き、ゆっくりと左右を見た 「・・・・・・」 その仕草でハルヒはすぐに、長門が探しているものを理解したようだ 「キョンならすぐに来るわ。ちょっと寄り道してるだけだから」 「・・・危険・・・彼が危険・・・」 「有希?」 「・・・・・・行かないと」 「有希!ダメよ動いちゃ!キョンはすぐに来るから もうしばらく寝てなさい!」 「・・・・・・」 長門は無理やり体を起こそうとしたが、すぐに力なく崩れ落ち ハルヒの手で再び寝かされた 「古泉くん、どう思う?」 「かなりの高熱ですね、救急車を呼んでもいいのじゃないでしょうか?」 「そうね、みくるちゃん、119番して」 朝比奈さんが居間にとって返し、受話器を持ち上げてプッシュボタンを押した (再びキョンの時間に) 俺のすぐ脇に停車したワンボックスカーのスライドドアが開き 声を上げる暇もなく、何本かの腕が俺を車内に引きずり込んだ 何事かをわめこうとしたがすぐに口をタオルのようなもので抑えられた 精一杯の抵抗のつもりで肘を張って暴れてみるが、その腕は誰にも当たらなかった 「じっとしてな。危害は加えん。ただちょっとおとなしくしてくれたらいいんだ」 俺の足がまだ空中にあるうちに車は再び走り始め、その後でスライドドアが閉められた 何だ?この展開は? 誘拐?この俺が誘拐だと? 今年の冬に朝比奈さんが誘拐されかけた、あのおぞましい経験がよみがえっていた まさかこの俺が誘拐されるとは? 俺に押し付けられたタオルはただの猿轡で 麻酔薬がしみこませられたりはしていない 走っている車の外の景色がすさまじい速さで流れていく その時、ドバーンと大きな音がして、俺は前方に投げ出された 前の座席のシートに叩きつけられ、肺じゅうの空気が一気に絞り出された 車の足元にゴロゴロと力なく転がっていると、2回目の衝撃が来た 今度は後ろから何かが追突し、俺を襲った誰かの足に体当たりした 「村上だけ残れ、後は出て応戦しろ」 誰かのそんな声が聞こえ、再びスライドドアが開いた 俺は座席の足元にうずくまり、外の様子が全く理解できない 苦労して起き上がろうとすると、誰かに頭を押さえつけられた 「いいからじっとしてろ」 ドスのきいた声でそう言われ、固い靴の底で頭をグリグリと転がされる いったいどうなってるんだ? この状況は? アドレナリンが強烈に噴出する頭の中で必死で考える 俺は誘拐されかけていた その車に何かが衝突した そして何人かが飛び出して行った ようやく自体が飲み込めてくる 俺を誘拐するグループと言えば心当たりは少ない いつぞや朝比奈さんを誘拐してカーチェイスをした時の連中だ と言うことは、衝突した車に乗っているのは俺を助けようとしてくれている連中 まさか? 混乱する状況を必死でまとめようとしていると、突然外から声が聞こえた 「彼を放しなさい!」 この声は・・・やっぱり・・・ 俺を見張るように言われていた村上と名乗る男がすかさず反応した 固い金属の棒のようなものを俺の後頭部に押し当て 「動くとこのガキを撃つぞ」 撃つってまさかおい 俺の頭に突きつけられているのは・・・銃? 外からの声はさらに続く 「撃ちたいのならお好きにどうぞ。でもその後どうなるかを理解していますか ?こちらも武装はしています。彼を守るためなら発砲は辞しません」 「くそっ」 村上という男は俺の頭を引きずり上げ、おかげで俺は外の情景を見ることができた 開け放たれたドアの前に立っているのは 予想通り古泉の所属する機関のグループ そのリーダー格と思われるスーツ姿の美しい女性 森園生さんだった やはりあの時の艶然とした微笑でひたと村上に視線を据え その手に持っているのは拳銃だった 「撃たないのですか?」 俺の頭を鷲づかみにしている村上の手はぶるぶると面白いように震えている やはりこんなチンピラと森さんでは全く格が違う 森さんは無造作に車内に踏み込んで来て村上の銃を奪い取った 最後の抵抗とばかりに村上は手を振り上げるが すさまじい笑みを浮かべたままの森さんは軽くその手を捻り グギッという鈍い音とともに村上を車の外に投げ飛ばした 合気道か何かの奥義なのか、右手で拳銃を構えたままで 森さんは村上を一瞬で気絶させてしまった 「さあ早く、まずは脱出です」 森さんに手を取られて俺は必死で車から降りた 車3台による壮絶な衝突事故の現場で、数人が取っ組み合いをしていた おそらくこいつらは機関のメンバーと、そして俺を誘拐しようとした橘京子の所属する集団だろう 多丸兄弟とおぼしき2人もいた 「ひとまず鶴屋邸へ」 そう言って森さんは俺の手を取ったままで走り出す 俺より速い森さんの俊足に必死でついて行ったが、すぐに俺の背後でダアーンと鋭い銃声が響いた 俺の耳元を熱い空気がかすめ、1発の銃弾が森さんの背中に命中した もんどりうって森さんは倒れ、俺も釣られてゴロゴロと地面を転がった も、森さん! 倒れ込んだ2人の後ろからタタタタと駆けてくる足音が聞こえる 俺は起き上がろうと必死でもがく 森さんは倒れたままピクリとも動かない 迫る足音が目前に迫った時、頭上から鋭い声がした 「ちょい待ち!そこまでなのさっ!」 それは鶴屋さんの声だった 事故の音を聞きつけたのか、それとも銃声を聞いたのか まだ北高の制服を着たままの鶴屋さんが走って来る賊をにらみつけていた 追いかけてきた2人は鶴屋さんを見てピタリと足を止めた 「ここで騒ぎを起こすとはいい度胸だね、それなりの覚悟はしてるのかなっ? それとも私を知らないにょろか?」 「・・・・・・」 「車は放っといていいからさっさと失せた方が身のためだよっ すぐに警察がやってくるのさっ」 男2人は顔を見合わせていたが、やがて来た方に走って逃げた ようやく起き上がった俺の目に、新たに近づく人影が見えた 「あなたも早く逃げるがいいさっ」 その人は機関の人間、新川さんだった 「すでに全員撤退の指示は出しました 森の様子を見たいのですが」 「じゃああんただけ許そうっか ここに置いとくわけにもいかないしね うちまで運ぶの手伝って」 鶴屋さんと俺、そして新川さんの3人で、動かない森さんを担いで運んだ ようやく鶴屋邸に入り、新川さんがすぐに処置を始めた すでにパトカーのサイレンが狂ったように走り回っている 新川さんは森さんのスーツの上着を脱がせ、無造作にブラウスも引きちぎった 森さんの真っ白な柔肌がむき出しになり、 おびただしい出血とともにむごたらしい傷跡が・・・・・・残っていない 森さんは防弾チョッキを身に着けていた 上着とブラウスを簡単に突き破った銃弾だが、防弾チョッキにはかなわなかった 平べったく潰れた銃弾は紺色の繊維質に阻まれて 森さんの素肌は青いアザができているだけだった 「ただの打撲ですね、もしくは骨にヒビが入った程度でしょう」 すぐに森さんが大きく息を吐き、意識を取り戻した 「無事・・・でしたか」 すみません森さん 俺のせいでこんなことに 新川さんに助け起こされた森さんは 透き通るような微笑を浮かべたままで言った 「大丈夫です。万一に備えてありますから 私たちはあなたと涼宮さんを守るためならいつでも覚悟はできています さあ、もうここには用はないはずです 涼宮さんを守ってあげて下さい 古泉とともに・・・」 分かりました 俺が立ち上がると森さんは最後にこう言った 「涼宮さんはあんな性格だからあなたにはまだ理解できないでしょうけど、 あなたをとても頼りにしているはずです 今あなたと離れて一番心細いのは涼宮さんです 早く行ってあげて下さい そして、大事にしてあげて下さい」 ちょっとドキッとする森さんの言葉だったが 今はその意味について深く考えている場合ではない 鶴屋さんと森さん、そして新川さんに頭を下げると、俺は走り出そうとした 「ちょい待ちキョンくん!うっとこの車に乗っていくといい さっきみたいなことはもうないと思うけどね、でもその方が早いからさっ」 鶴屋さんはてきぱきと使用人に指示を出し 森さんを部屋に運ぶことと車を用意すること そしてさっきの銃撃戦についてきつく緘口令を言い渡した 玄関の前に現れた高級車に乗せられた俺はもう一度鶴屋さんに頭を下げた 「キョンくん、ハルにゃんをよろしくねっ! それと・・・言っていいのかどうか分からないけどね・・・ ハルにゃん、結構いろんな事知ってるよっ」 えっ? 「みんなの事だよ 何か不思議な事がめがっさ起こってるって ハルにゃんの知らない所で みんなが何かしてるんだろうなって」 本当ですか?鶴屋さん? 「後は直接確かめたらいいさっ!ハルにゃんにねっ!」 鶴屋さんはそう言ってドアを閉め、車は走り出した (再び同時刻、別の場所で) 「涼宮さんっ」 「どうしたのみくるちゃん?」 「電話が・・・電話が通じません・・・」 「ん?それはどういうことでしょう?」 古泉が素早く立ち上がり、朝比奈さんから受話器を受け取った 通話ボタンを押しても発信音がしない 「これは・・・?」 その時、部屋の中が一瞬真っ黒になり、まるで夜の闇のようになった 部屋の内外で聞こえていた雑音も消え、長門の部屋は沈黙に閉ざされた 「ふわぁぁぁっ」 「ななな何よこれは?古泉くん?どういう事?」 古泉が口を開くよりも早く、暗闇に何かが浮かび上がった ぼんやりとした影はすぐに凝集し始め、やがて4つの人間の形を作った 素早く古泉が前に出て、ハルヒと朝比奈さん、そして眠っている長門をかばうように立った いつものニヒルな笑顔の面影は全くない 古泉のこめかみからタラリと汗が流れ落ちた 現れた4人はもちろん あの時突然出現した集団だった 「・・・・・・・・・ここは・・・・・・暗い・・・・・・気持ちが悪い」 いち早く口を開いたのは周防九曜だった 実体化するが早いか、長門が寝ている和室に踏み込み、ひたと視線を長門に据えた 「かわいそうな寝顔・・・・・・こんな世に生まれなければ、1人の姫として暮らせたものを・・・・・」 「それ以上近づかないで下さい」 古泉が素早く割って入る 「周防さん、まずは話し会いましょう」 そう声をかけたのは4人組のリーダー、勝手に神に祭り上げられてしまった佐々木だった 「・・・・・・かわいそう・・・食べてあげたい・・・・・・」 周防九曜は長門から視線を放さずにそうつぶやき 他のメンバーの横に戻った 「ちょ、ちょ、ちょっと何なのよあんたら どうやってここに入って来たのよ?」 「お久しぶりです涼宮さん、いつぞやは突然現れてすみませんでした あれ?キョンは?」 「まずは私の質問に答えなさいよ 無礼でしょう?」 「ごめんなさい。実は私たちにもよく分からないんです 周防さんが突然ここに行かないとって言って 何かに運ばれてきたみたいなの」 「全然説明になってないわよ あんたたちいったい何者なの?」 ハルヒが鋭い視線で闖入者たちを睨みつける 穴でも開けてしまいそうなぐらいの激しい視線だった 「私が代わりに説明するわ」 そう言ったのは古泉と敵対する組織の一員、橘京子だった 「周防さんはね、時が満ちたと言っているの つまり我々と佐々木さんの力があなたたちのものを上回る 今日のいま、この場所で何かが起こると」 「あわわわ・・・・・・」 あたふたする朝比奈さんをかばいながら、ハルヒは口から泡を飛ばして叫んだ 「ふざけんじゃないわよっ!ここはあんたたちがいる場所じゃないの! 見て分かるでしょう、病人がいるのよ! さっさと出ていきなさいっ!!」 「ふん・・・まるでボス猿みたいだな」 そう口を尖らせてうそぶくこの男は 朝比奈さんの組織と対立している未来人組織から派遣されてきた 自称藤原という男だった 「ボ、ボ・・・・・・」 古泉がハルヒの横に立った 「涼宮さん、今怒ってしまえば向こうの思い通りになります ここはひとまず冷静に、まずは話を聞きましょう」 「古泉くん、悪いけどね あたしは人の家に土足で踏み込んでくる野蛮人の話なんか聞く耳持ってないの」 ハルヒは両の拳を握りしめている 最初は誰に殴りかかろうかと品定めしているようだ 「・・・・・・あなたは・・・汚ない・・・」 「何ですって?」 「その顔、その声、全てが汚らしい・・・・・・」 「ハァ???」 ハルヒは最初にぶちのめす相手を決めたようだ 握り拳を振り上げて周防九曜に突進しようとした 慌てて古泉が止めに入る 「古泉くん!放しなさい!」 「涼宮さん、ひとまず落ち着きましょう」 古泉はハルヒを無理やり引きずって闖入者から少し遠ざけ 声を潜めて囁いた 「・・・僕たちの戦力はいささか不足しています 全員揃うまではとにかく様子を見ましょう 今のところは、何が目的でやって来たのかも分かりませんので」 「古泉くん」 「はい」 「あんた、何か知ってるのね」 「何かと申しますと?」 「私の知らない事よ こいつらが何者で、何が目的なのかをね」 「それを説明してくれる方が現れるまで、ここは1つ、穏便に」 「キョンの事ね」 「はい」 「・・・・・・分かったわ」 ハルヒはようやく拳を緩め、闖入者たちと対峙した 「んで、話を聞こうじゃないの」 「ようやく落ち付いてくれましたか やはり調査通りの人ですね、あなたは」 橘京子が楽しそうに言った 「実は私たちにもまだここに来た理由は分からないのです こちらの周防さんが言った通り、まもなくここで何かが始まります それを確かめるために来たのです」 「それでは全然説明になっていませんね 皆さんのやっている事は明らかな住居不法侵入です 警察を呼ばれたくなかったら、今すぐ退散すべきです ここには病人がいます、わきまえて下さい」 「・・・・・・来る」 「何が?」 「・・・・・・終わりの世界が来る・・・・・・それは私たちを待っている・・・・・・もうすぐ」 ハルヒがまたブチ切れそうになった 「もう我慢できないわ!今すぐここを出ていきなさい!さもないと」 「お待たせしましたー」 突然部屋につむじ風が巻き起こり、目を開けてられないほどになった 激しい旋風はあたりをなぎ払い、全てを持ち上げてぐるぐると回転した 「あひゃぁあああーっ!」 朝比奈さんのか弱い悲鳴とともに、全てが吸い込まれていった (再びキョンの世界) 俺を乗せた鶴屋家の車は静々と走り、やがて長門のマンションが見えてきた頃 視界が急にぼやけてきた 長門の高級マンションがぼんやりかすみ、俺は目をごしごしこすった 「おかしいですね」 運転していた鶴屋家の男性がそう言ってブレーキを踏んだ直後、激しい音がして車のボンネットに何かが叩きつけられた 見慣れた水色のセーラー服、そんな気がした セーラー服はボンネットの上を弾んで転がり落ち、急ブレーキをかけた車の前方に倒れた ハルヒ! 俺はドアをもぎ取るように開け、車から飛び出した 予想した通り、空から降って来たのは涼宮ハルヒだった いったいどこから落ちてきたのか、まさか長門の部屋のある7階から落ちたのか? 急いでハルヒを助け起こし、その顔を覗き込んだ 「ったあぁーっ」 見ると車のボンネットは大きく凹んでいる 7階かどうかは分からないが、かなりの高さから落ちてきたようだ 運転していた男性も、車から降りてハルヒを見ていた おいハルヒしっかりしろ 何が起こったんだ? ハルヒはしばらく目を白黒させていたが、ようやく焦点が定まってきたのか、俺に気付いて大声を上げた 「キョン!キョンじゃないの!どうやってここに来たの?」 えらい元気そうだなハルヒ 車をこれだけ凹ませるほどの高さから落下したのに 何かのフォースでも働かせたのかそれともただ尻が異常に固いのか どうやって来たのかは俺が聞きたいぞハルヒ いったい何で空から降ってきたんだ? 「空から?え?あれ?ここはどこなのよ?有希の部屋じゃないの?」 おいハルヒ 長門の部屋でいったい何が起こったんだ? 長門はどうなんだ?体の具合は? それに朝比奈さんと古泉は? 「そうだ!キョン!大変よ!有希が・・・変な4人組が入ってきて それからあの、あの子が入ってきて」 もういいぞハルヒ とにかく長門の部屋に行こう 長門が心配だ 他のみんなもな 俺はハルヒを抱き起こして立ち上がった 鶴屋家の運転手にとりあえず帰ってもらう事にして、ボンネットの件は後で謝りに行くからと伝えた そして振り向くと・・・ ??? 空から降ってきたハルヒを抱き起こし、とにかく長門の部屋に入ろうと、玄関があるはずの場所に駆け込むんだ俺だが マンションの入り口には何もなかった 玄関もなければオートロックの操作盤もない というかマンション自体が消えてなくなっていた レンガ造りの高級マンションがそっくりそのまま消えてなくなっていた 「ちょっとキョン、これどうなってるの?」 どうって、俺にも分からん 落ちつけ俺、よく考えろ マンションがあったはずの平面には全く何もなく、むき出しの地面だけが広がっていた 向こう側にあるはずの、シャミセンを拾った空き地がここからそのまま見えた どうなってるんだこれは ハルヒの手を掴んだまま、強引にマンションがあったはずの空間に踏み込んでみた やっぱりか 予想通りだ 俺とハルヒの前にはぐんにゃりした白い壁が立ちはだかった マンションが消えてなくなったわけじゃないんだ 誰かがここにバリヤーを張っているんだ それはお前かハルヒ? 「はあ?私が何でこんなことするのよ?」 すまんハルヒ ちょっと考え中だ 俺はハルヒの手を放し、ダッシュで突入を試みた チリチリと小さな火花のようなものが散り、俺の体は押し戻された 痛みも衝撃もなく、ただやんわり跳ね返された 「キョン、これって・・・前のあれかしら?」 ああ あれに近いものだ お前の仕業じゃないとしたら こんな事ができるのは他には・・・ けっこうたくさんいるな 「ちょっとキョン」 何だよもう 今考え事してるんだから 「キョン!」 ああ? 「ちゃんと説明しなさい! あんたが何か知ってることぐらい、あたしにはお見通しなんですからね! あんたはこんなに不思議な物が目の前に現れても、顔色ひとつ変えないじゃないの! 何か知ってるんでしょう?包み隠さず全て話しなさい」 さっきの鶴屋さんの声が耳によみがえる ハルヒはいろいろ知ってるっていうのか 今ここで説明するしかないのか ついに切り札を出すしかないのか 今ほどここに古泉がいてほしいと思ったことはなかった あいつのアドバイスが聞きたい しかしハルヒ、説明してる暇はないぞ 早く長門の部屋に行かないと 「だから説明しなさいって言ってるのよ! 有希がおかしくなったことにも関係あるんでしょう? あの4人組の事だって」 4人組だと? あいつらに会ったのか? あいつらが来てるのか? 「そうよ あの4人組が来て 髪の長い女が私に汚いとか言い出して ブン殴ってやろうと思ったら急に空に放り投げられたのよ! ああムカつくわーあいつったら」 待て待てハルヒ ちょっと整理させてくれ 俺と別れた後であいつらに会ったのか? それとも長門のマンションに入った後か? 「入ってからよ 有希がひどい熱だったから氷枕と布団たくさん用意して 救急車を呼ぼうとしたら電話が通じなくて どうしたんだろうと思った時に入ってきたのよ ドアも開けずに土足で入ってきて ねえキョン、あいつらいったい何なのよ?」 おいハルヒ あいつらの目的とか何か聞かなかったのか? 「聞いたけど全然意味分からないわよあんなの」 思い出せハルヒ あいつらは何と言ってたんだ? 「どうでもいい事ばっかりよ」 いいから思い出せハルヒ! 「何よもうキョンってば・・・ちょっと待って 周防とかいう女が他のヤツらを連れてきたとか言ってたわ 時が満ちたとか、今から何かが始まるとか 終わりの世界がどうとか言って、そしたら・・・ そうだ!あの子が来たのよ!」 あの子って誰だ? また他の人間が来たのか? 「そうよ!思い出したわ。あの新入生よ! 新入部員候補の1年女子よ」 はあ? 何だと? 「新入部員候補の中に小柄な女の子がいたでしょう?あの巻き毛の子」 ああそんなのがいたな確かに 何となく不思議な印象だったな 覚えてるぞ しかし何でその子が来たんだ あいつらの仲間なのか? まさかスパイだとか? 「分からないけどたぶん違うと思う 来たのは別々だったし、あいつらも驚いた顔してたから」 その時突然 俺の背中に鳥肌が立った ものすごく嫌な予感がした おいハルヒ 良く聞け その1年女子は何か持っていなかったか? 「何かって?」 金属の細長い棒みたいなものだ ピカピカ光ってるヤツだ 「そこまで覚えてないわよ! その子が出てきた途端に部屋に嵐が起こって、気がついたら外に放り出されてたんだから」 待て待て待て待て くっそう古泉に会いたい 俺はどうもこういう複雑な事態には対処できない あいつの的確な状況分析がとても恋しい 「そうだ」 何だハルヒ 何か思い出したのか? 「お2人にはまだ登場してほしくないからって聞こえたような気がする」 お2人?そう言ったのか?その新入生は? 「違うかもしれないけどそう聞こえた」 お2人って事はもしかして・・・ 俺はハルヒの肩を抱いたままで後ろを振り返った 目の前にあるマンションはすでに消滅していたが 後ろの景色も違うものに変わっていた いやちょっと違うぞ 景色はさっきと一緒だが何か空気の匂いが違う それにこの不思議な色はいったい何だ・・・? 何だか安心感を与えてくれるような落ち着いたベージュの空 そよとの風も吹かず、じっとりとしているが不快ではない この空は覚えているぞ ハルヒといっしょにあいつが飛ばされたとしたら この空を作り出したのは この閉鎖空間を作ったのは やっぱりお前か 佐々木・・・・・・ 「申し訳ないキョン 今はまだ君たちをあそこに入れるわけにはいかないようだ」 リンク名 その2に続く
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電気を付けたら部屋が明るくなりました、みたいないつも通りの放課後。俺はいつも通り占領もとい借りられた文芸室に足を運んだ。にしても太陽もたまには休めばいいのにどうしてここ最近晴天続きなんだ。 真夏の太陽を恨みながらドアを開けると、そこにはチューリップの花のように可憐なメイドがのんびりお茶を沸かしてい・・・なかった。 ただ部室の真ん中で怯えた朝比奈さんが団長様に気圧されていた。 ハルヒ「だから答えてちょうだい!どうやって瞬間的に私の前に姿を現せたのよ!?」 みくる「あうあうあうあうあう」 ハルヒはなんで怒っているんだ?いや、というより爆発寸前の太陽ような笑顔だな。それに「不思議を見つけた」みたいな楽しさを感じる・・・まさか。 少し会話(というより恐喝)を思い出そう。朝比奈さんが突然姿を現した、だと。しかもハルヒの目の前で。 俺が頭痛を感じていると古泉が営業スマイルのまま近寄ってきた。 古泉「事態は深刻です」 なら深刻そうな顔をしろ、仮面か? 古泉「これは失礼。しかし涼宮さんの前ではこの顔でなくてはなりません」 そういやそうだったな。ある程度の事情は察したが状況を詳しく説明してくれ。 古泉「僕にもよくわかりません。僕がここに来たころにはすでにああいう感じでした。」 そうかい。とりあえず止めるためにハルヒのところへ行った。 キョン「ハルヒ、何があったか知らんが少し落ち着け」 ハルヒ「あんたは黙ってて!みくるちゃん、教えなさい!」 みくる「・・・」 まあ予想はしていたが相手にされなかったわけだ。馬の耳に念仏とはこのために作られた言葉なんだと感心した。 古泉「まあこんな感じです。僕が止めても無駄でした。」 無意味に近づいてきた役に立たない超能力者を無視し、部室のすみにいる無口な宇宙人の所へ行った。 長門は椅子に座ったまま、相変わらず俺が一生読まなそうなぶ厚い本を読んでいた。俺が話しかけようとした時長門が顔を上げてこちらを見た。 長門「対処法が見つからない。」 実は俺の耳に耳せんを付けていたため聞き間違えました、というわけはなくそのつぶやきをはっきりと聞いた。 長門「現在の涼宮ハルヒの力が今までより強まっている。おそらくとても興味をそそがれる不思議を発見したから。」 ハルヒの声がうるさくて聞き取りづらかったがこんなところか。 キョン「でなんで対処法がないんだ?眠らせて記憶を消せば」 と言いかけて当たり前のように非現実的な事を話す自分に落胆した。 長門「今彼女は朝比奈みくるの不思議について知りたがっている。それを邪魔する事象を物理的にも精神的にも排除する。」 ということは今のあいつにはとんでも能力が効かないということか? 長門「そう」 ん?じゃあなんで朝比奈さんはすぐに暴露しないんだ。その「排除」は「朝比奈さんの暴露への抵抗」には適用されないのか、と珍しく難しいことを思い付いた。 長門「朝比奈みくるは彼女の信頼下にある。ゆえに傷つけるような行動をしたくないのだと思われる。」 暴れん坊将軍も逃げ出すようなこの光景を見てよく言えるな、とは口には出せない。 おや?見つめつづければ吸い込まれそうな長門の眼に、わずかだが懇願の光が見える。まさかな。 とそこへ古泉がまた近寄ってきた。顔が近いぞ離れろ。 古泉「これは失礼。このまま放っておくと未来人について明らかになるのは間違いないでしょう。」 キョン「一応聞いておくが、ハルヒが秘密を知るとどうなるんだ?」 古泉「自覚のない神が覚醒します。」 キョン「わけわからん。」 AAでも張りたいぐらいだ。30文字以内で答えよ。 長門「AAとは何か知らないが、端的にいえば力の暴走。彼女の中の常識が塗り替えられ、世界が彼女の思うがままになる。」 さすが長門、どこぞのイケメンと違い頼りになる。 しかしそれは厄介だな。そんなことができれば本当に世界がSOS団になってしまう。 長門「あなたの心も操作される。」 キョン「まじめに対策しないとまずいことだな。」 さてとあの闘牛をどうにかしないと。いやフクラミのではないぞ。 長門「そうなれば私とあなたが結ばれない。」ボソ 長門が小さい声でなにかをつぶやいた。もう一度確認したら、なんでもない、と返され読書に戻ってしまった。 まあさほど重要なことではなさそうだから、今は事態の鎮静化をしよう。 ふとハルヒ達の方に目をやると みくる「キャアアア!」 キョン「うおおぅ!」 急に朝比奈さんが俺に抱き着いてきた。とうとう愛の告白を受けてしまったか、と妄想を一瞬だけ広げた。一瞬だぞ。 現実に戻ると朝比奈さんが眼に涙をためて、俺に助けを求めてきたことを察する。とそこへ宇宙人からも危惧される人物が作曲中のベートーベンみたいな顔で近寄ってきた。朝比奈さんはあわてて俺の後ろへ移動して震えていた。うーんかわいらしい。 ハルヒ「キョン!そこをどきなさい!」 キョン「絶対断る」 ハルヒ「じゃあ横に移動しなさい!」 ここでからかってみることにした。いや動かないよりマシだろ。 キョン「わかった。」 ハルヒ「わかればよろしい。」 キョン「ほらよ。」 俺は体の向きを変えずに長門の方に移動した。すると朝比奈さんが一緒に移動した。 ハルヒ「み~く~る~ちゃ~ん!」 そして今度はいらいらした顔でどなった。その後も俺を巻き込んで大声を浴びせ続けた。 みくる「キョンくん」 小さな声が後ろから聞こえた。なんですか朝比奈さん。礼なら後でしてください。 みくる「それもありますけど、違います、テヘ。」 と舌をだしてウインクした。効果は抜群だー! とそこにトビラを開ける音がした。 この部屋内には団員が揃っているはずだ。鶴屋さんかな、しかしそれはそれで困るが。 キイイ そこに見えたのは朝比奈さんである。 俺と目があった直後朝比奈さんは弥生人が生きた恐竜に出会ったみたいな顔をしたまま扉を閉めた。ってなんで朝比奈さんが二人いる? みくる「あの時の私だ」 ん?ということはあなたは未来の朝比奈さん? みくる「正確にはえ~と3日後です。なぜここに来るように言われたかわ知らないんです。」 ではせめてこの後起こることはわかりますよね?ハルヒに生返事をしながら、震える小猫の答えを待った。 みくる「私は掃除当番での仕事で遅れて部室に来たんです。で部室に行く途中で鶴屋さんに会いました。」 あながち俺の予想は外れてなかったんだなぐへぇ。 ハルヒ「キョン!私が大人しい内にどきなさい!」 襟首を引っ張っといてよく言えるな。あっ朝比奈さん、俺の服を引っ張るのは嬉しいですが服が伸びてしまいますよ。 なにやら外が暗くなってきた。あれ天気予報じゃ晴天白日のはずだが。 みくる「あっすいません。で私と鶴屋さんで部室に行ったんです。で最初に私が入ろうとしてすぐに気づいたんです。」 襟首にかかる力がふいに消えたからようやく応答できる。 キョン「朝比奈さんがもう一人いることですね。」 みくる「そうです。で私が二人で図書室に行くよう頼んだんです。鶴屋さんは突然のお願いを承諾してくれました。」 ふと止められる気のない目覚まし時計のようなハルヒの声のベクトルが別のほうに向いてることに気づいた。 ハルヒ「今の会話にあった『キカン』て何よ!怪しいわね、電話の内容的に『機関』て書くんでしょ!教えなさい古泉くん!さもないと」 なんか部室のトビラの前で副団長の権利が云々と話を続けているが、それ以前になぜ古泉が新たな犠牲者に?その解答はすぐ隣の椅子から聞こえた。 長門「古泉一樹はおとりになっている。その間に朝比奈みくるから情報を聞き入れて。」 なるほどな、二人ともありがとよ。では朝比奈さん続けてください。 みくる「えーと図書室に着いた頃に黒い雲が雨を降らしました。夕立みたいな感じです。」 言い終わらぬ内に雨が降ってきた。たしかに夕立だな。 だが俺は言葉に表せられない不安がよぎる。この風景はいつぞやの冬の遭難と似ている。 ふと俺は長門を見た。長門は外の雨、いや雲を見上げている。その眼に僅かな不安を感じたのは多分俺だけだ。 みくる「キョンくん。キョンくん!聞いてますか!?」 キョン「すいません、ぼーっとしてました。」 みくる「もう。しばらく図書室で私たちは勉強してました。でも勉強中に未来から指令がきて、すぐに私は鶴屋さんを連れて部室に戻りました。」 朝比奈さんがぷっくりと頬を膨らませている。急所に当たったー!効果は抜群だー! ショックで廃人になりかけた俺に長門が手を引いてきた。両手に花だぜ。 長門「情報統合思念体にアクセスできない。」 キョン「なんだと。」 長門は冗談を言わない奴だ。とすればまさか今の状況は。 長門「冬の遭難時と似ている。私や涼宮ハルヒ、朝比奈みくるは能力を使用できない。」 さっきの予感はこれか。しかも学校でかよ。下手すりゃ一般人に被害が出るじゃねえか。 俺が打開策を考えようとしたところで後ろから猪が襲ってきた。 ハルヒ「なーにみくるちゃんや有希を誘惑してんのよバカキョン!離れなさい!」 いきなり横に突き飛ばすな。ベクトルを操作する力の開発なんて受けてない俺は倒されるがままに朝比奈さんの体に俯せで倒れた。 いてて大丈夫ですか朝比奈さん。て何顔を赤くしてるんです?俺は倒れる直前に手を床の方に突き出して覆いかぶさらないようにしましたよ?ん、なんで床がこんなに柔らかいんだ?・・・て キョン「柔らかい!?ゲフッ!」 あれーおれいまはらをけられたきがするぞ。しかもあさひなさんに。 ハルヒ「いい加減にしなさい!」 キョン「事故だ!過失だ!冤罪だ!」 ハルヒ「過失でも立派な犯罪じゃない!」 それもそうだ。とりあえずハルヒ裁判官に無罪を説得するために腰を上げると そこは部室じゃなかった。山の頂上付近の石をご想像してもらえるとありがたい。妙にゴツイ石や岩が辺りに広がっている。CGではない、その証拠に石を持ち上げてみたが重い。 一瞬で風景が変わっている。WHY? まあ唯一の救いは団員が全員すぐ近くにいることだ。朝比奈さんは倒れたまま、てか気絶してないか? にしてもここはどこだ?いつぞやのかまどうまの時と似ている気がするが。 長門「そう」 いつも通りの長門の反応にほっとした時、ガンッと言う音がすぐ後ろの方で聞こえた。俺は地面から物理法則を無視した物体が湧いてきたか、と考えながら振り返ると そこに赤い装飾をまとった大きめの石を両手で持っている古泉がいた。そしてそのすぐ下の床に倒れているハルヒ。 キョン「古泉!!」 俺は我を忘れて古泉の胸倉を掴み押し倒した。馬乗りになり、奴の顔を殴り飛ばそうとしたところで誰かに腕をつかまれた。顔を上げるとそこには長門がいた。 長門「彼の行動は正しい。」 キョン「友達を石で殴ることが正しいのかよ!」 長門「聞いて。」 長門の眼にほんのわずかだが水の膜ができている。そんな目をしないでくれ。俺は長門の言うことを聞くことにした。 長門「まず涼宮ハルヒに超現象を知覚されてはいけない。これは彼女が認識し興味を持たれてはいけないことを示す。」 つまりこの空間を記憶に残される前に気を失わせる必要があったんだな。 長門「私は古泉一樹に涼宮ハルヒを殴り気絶させるよう指示した。古泉一樹は最初拒絶したが、私の考えを理解したと思われる。指示通りに動いた。」 そうなのか。だが同時に俺は聞かなければならないことができた。 長門「私という個体は、あなたに彼を恨んでほしくないと願う。」 承知した。だがな長門 キョン「石で殴るというのは理解できん。俺たちは部員で友達だ。それに他の二人はともかく長門は人間にはできないことをするのは簡単だろ。」 なんで宇宙的マジックで傷つけずに気を失わせなかった、と言いかけて俺は思い出した。長門は言っていた、冬の遭難の時と似ていると。 長門「私や涼宮ハルヒの能力は今失われている。彼女をおとなしくするには絶好の機会だった。だが同時に穏便な方法で処理できなかった。」 事情は察した。だがこれだけは確認させてくれ。おまえはハルヒを傷つけるのになにも感じなかったか? 俺は立ち上がって長門の顔を凝視した。長門は俺の眼を10秒見つめた後ハルヒの方を向き、電波話以外では滅多に動かない口でたった6文字をつぶやいた。 「ごめんなさい」 俺は長門の両肩に手を置いた。俺の中を安堵と喜びが走り回った。なぜか?長門が人間らしい感情を少しずつだが着実に持ち始めていることに決まっているじゃないか。 長門の顔を見た。若干驚きの顔をしていたが嫌そうな顔をしていなかった。 みくる「ふぁぁ。皆さんおはようございます。」 俺は瞬間的に長門から離れた、いやまた何か誤解を受けるのは嫌だからな。やあ朝比奈さんおはようございます。 みくる「あわわわわ!てなんですか、ここどこですか~!?」 ブーン ずいぶん懐かしいセリフを聞いたが、今はこの状況を打破する方法を考えなければならない。 ブーン 古泉「ようやく落ち着いてもらえたようですね。押し倒された時別の意味で興奮しましたがそれはともかく、いやいやすいません。」 キョン「おまえに謝られてもちっともさっぱり全然お世辞にしか聞こえない、不思議!」 古泉「今のは聞こえなかったことにしておきましょう。とりあえず状況を整理しましょう」 みくる「ひゃあ!涼宮さんが倒れてる!キョンくんキョンく~ん!」 古泉「ここでは異能力を使えない。この空間の創造主は少なくとも涼宮さんではない。なぜなら彼女の意志で作られたのなら、気絶前と気絶後で何かしらの変化が」 みくる「キョンくん!古泉くん!長門さん!」 俺たちは見事にスルースキルを発動しつつ、古泉の話を聞いていた。 ブーン さっきから遠くで聞こえる虫の音がしつこいなあ。 古泉「あなたが僕にうっとおしそうな顔をするのは珍しいですね。どうしたんですか?」 いや珍しいことではないだろ。だが今は違う。 キョン「さっきから虫の音がうるさいんだよ。殺虫剤カモーン。」 古泉「それは変ですね。この空間には人間以外入れないはずですが。」 みくる「なんで皆さん無視するんですか~!私の言うこと聞かないとミンチにしてやりますよ~」 古泉「長門さんは虫の音が聞こえましたか?」 長門「聞こえない。だが向こうに」 みくる「私泣きますよー!」 古泉「聞こえませんか、僕もです。」 キョン「待て長門。今なんて言った?」 長門「聞こえない、と言った。」 違う、そのあとだ。よく聞こえなかった。 長門「向こうに何かいる。」 俺たちは長門の見ている方向を凝視した。そこには 「ブーンブーンブーン」 擬音語を言葉にしたような音を出す、どこかで見た気がするAAが空を飛んでいた。 あれはなんだ、敵か? 古泉「どうもそのようですね。そして同時に倒さなければならないでしょう。」 キョン「だがどうやって倒すんだ?」 ブーンという声が突然大きくなってくるとともにそいつも大きくなってきた。つまり キョン「接近してきてる。みんな逃げろ!」 俺たちはあてもなく走った、俺は倒れているハルヒをおんぶしながら。意識のない人間は重いと聞いたことがあるが、ハルヒは軽かった。 AA「時間の果てまでブーン!」 よくわからないことを叫んだかと思ったら、奴はいつのまにか俺たちの頭上10mにいた。 奴の大きさはこの距離で一般男性の平均身長ぐらいはありそうだ。 長門「あれは生物ではない。」 なぜそんなことがわかる? 長門「今までの経験と言語化できない決定」 無理矢理訳すと『女の勘』ということか。だが生物でないならなんだ。 長門「わからない」 古泉「僕の方にも質問してくださいよ、のけものみたいじゃないですか。」 空気と化した朝比奈さんよりはマシだろうよ。セリフがあるのとセリフすらないのはかなり違うぞ。 古泉「思うに長門さん、あれはゲームの敵と同じようなものではないでしょうか。あれに殺意を感じません。」 キョン「なるほどな。だとするとプログラムに従って動いてるんだな。」 となるとプログラマーがいることになる。だが疑問がある。 キョン「なんでこんなことをするんだ?危害を加えたいならさっさと攻撃すればいいのに。」 古泉「僕にもわかりません。」 言い忘れたが、話している間も俺たちは常に奴の動きを見ている。て誰に言ってんだ俺。 ん?なんかさっきよりも奴が近づいてないか? 古泉「このまま待機してても拉致があきません。少し刺激を与えましょう。」 と言いながら古泉は大きめの石を拾い奴に石を投げ付けたが、奴はその石から逃げるように体を曲げた。そして落下してくる石は俺の眼の前でだんだん大きく キョン「あぶね!古泉気をつけろ!」 長門「彼に石をあてないでもらいたい。」 古泉「すいません二人とも。」 古泉は観音様にお願いするかのように謝罪した。あとで缶コーヒーをおごれ。 古泉「いやです。ですがわかったことがあります。あれは石をあてられたくないようです。みんなで石をあてましょう。」 ほういい度胸してんな、あとで覚えてろ。とりあえず古泉の提案に生返事して、奴に石を当てることにした。 ――あれからおよそ30分―― 結論からいうと、全然当たらない。 長門「あれとの距離はおよそ8m。当たらない距離ではない。」 古泉「ですが当たりません。困ったものです。」 キョン「どっか高台はないのか」 古泉「辺りを見ればわかりますがそんなところはありません。」 おまえはいつでもスマイルだな、奴もそうだが。 古泉「一度あれと話してみたいです。」 長門「あれは生物ではないから有機生命体の言語を理解できるか困難。」 長門、冗談と本気を区別できるようになったら人間として完璧だから頑張れ。 長門「そう。」 俺達は休憩することにした。だがハルヒでないほうの神は俺たちをいじめたいらしい。俺の顔の右5cmを何かが火花を散らしながら正面から通過した。その直後にパーンなんて音がした。まるで花火のような キョン「朝比奈さん!なにやってんですか!?」 気づけば正面約十mの位置で朝比奈さんは鬼のような形相をしていた。しかもロケット花火をセットしていた、オレタチニムケテ。 みくる「ひどいですみんな。私が見えてないかのようにふるまって。グスッ」 キョン「朝比奈さん!別に無視してたわけではないんです!」 古泉「そうですよ。僕たちは空気を見てるんですから。」 キョン「バカヤロウ!んなこと言ったら」 みくる「私なんてどーせ役立たずで雑用係のロリロリメイドでしかないんだ、うわーん!」 朝比奈さんは泣きながら俺たちに向けてロケット花火を打ち続けた。ていうかどこに花火を持ってたんだ?それ以前になぜもっている?。 俺たちはとにかく逃げ回った。朝比奈さんはようしゃなく打ち続けている。 とにかく花火をなんとかしなくては、と考えた時ふと打倒朝比奈さん策を思い付いた。それは石を花火に投げつけ、ひるんだところで朝比奈さんを止める。完璧だろ。 俺は足元に落ちてる石を発射前の花火に向かって投げた。石は花火に当たると、上の方をむいて転んだ。朝比奈さんが方向を直そうと花火に近づいたとき、花火は無意味な方向へ発射された。 古泉「よくやってくれましたキョンくん。」 ん?なんのことだ?今から俺は朝比奈さんを止めに入るのだが。 古泉「えっ、まさか偶然だとは思いませんでした。感服です。」 なんだ、と思い上空を見た、いや正確には地面から8m上の空間を見た。 例の奴が赤く点滅していた。その後粉々に砕けて消えた。そういうことか、俺SUGEEEEEE! 長門「空間が壊れ始めている。この空間から脱出する。」 キョン「力は戻ったのか?」 長門は無言でうなずいた、口の両端をナノ単位で上に向けながら。 長門「今回はあなたのおかげ。私の見込んだ通りの人。」 キョン「俺はそんなすごい人じゃないぞ」 長門「・・・・大好き」 キョン「えっ・・・・」 古泉「とりあえず脱出しましょう。長門さんお願いします。」 長門「・・・KY。わかった。」 なんだこのとてつもなく不安な感じは。なにか重要な問題を忘れたような。まあ気のせいだろ。 長門「△*■Μэ⑲㏄∑¥∴」 キョン「なあ古泉。さっきから聞こえる爆音はなんだ?」 古泉「この付近で火山でも噴火してるのでしょう。」 長門「∂◎#@キョン・古泉・ハルヒ・長門・朝比奈」 朝比奈さん?あっ キョン「長門!ストップ!」 遅かった。俺たちは部室に戻っていた。ハルヒ・長門・古泉・俺は部室の机に隠れるように帰還、朝比奈さんは・・・ 俺は朝比奈さんを止めようとしたがもう遅い。朝比奈さんがセットした花火はいきよいよく放たれ、部室の窓を破っていった。 ――その後――――― ハルヒ「キョン、今日あたし何してた?」 あの後長門が朝比奈さんを眠らせ、情報操作を行った。 ガラスは割れなかったことにし、ハルヒは部室の机でうたた寝していたことにした。 ハルヒの傷も治した。未来の朝比奈さんは時間転移でどこかに行った。なにしに来たんだろう。 部室から出た直後に、今回の事をほとんど知らない朝比奈さんに会った。で今団員全員で帰路についてるわけだ。夕焼けがきれいだな。 キョン「椅子にもたれてグースカ寝てたじゃないか」 ハルヒ「あーもー一生の不覚よ!キョン、今日は夜も部活するわよ!」 冗談じゃない。俺にも休息をだな。 古泉「いいんじゃないですか?このまま放置したら閉鎖空間が発生してしまいます。」 キョン「だまれイエスマン。今日は疲れたんだ。」 ハルヒ「なんで疲れてるのか知らないけどわかったわよ。ところでさ。」 ん、珍しく声を小さくしてどうした?愛の告白なら喜んで受け入れるぞ。 ハルヒ「バカキョン!そんなんじゃないわ!私の頭に傷はない?」 キョン「別にないが。」 顔が真っ赤だぞ、とは言わなかった。 ハルヒ「・・・・・・そうよね、夢よね。」ボソッ キョン「なんか言ったか?」 ハルヒ「別に。」 さてお別れの交差点に入ったので俺たちは解散した。今日は朝比奈さんの黒い部分が見えたからよし。だがそれよりももっと印象に残ったのが 「・・・・大好き」 自分の顔が熱をおびるのがよくわかった。 俺は家に着くとまず顔を洗った。俺が夕飯を待ちわびるべく部屋に戻ったところで、妹が電話の子機を持って追いかけてきた。 キョン「誰からだ?」 妹「長門さーん」 キョン「・・・そうか」 妹「キョンくん顔赤いよーどうしたのー」 俺は妹を部屋の外へ放り投げたのち子機を耳にあてた。 キョン「長門か?」 長門「・・・そう。今から私の家へ来てもらいたい。あなたに今回の事件で聞いてもらいたいことがある。では。」 電話が切れた。さて健全な男子学生ならどう反応したらいいのかね。告白(?)された後に家に呼びだされるという状況に。 ―――数十分後――― 俺は長門の家の前に着いた。恐る恐るインターホンに指を乗せた。家に呼び出されたのはあくまであの件について聞くためだ、俺は自分にそう言い聞かせながらインターホンを押した。 「おーともなーいせかーいにーまーいお」 呼び鈴なのだろう、歌が途切れると長門の声が 「やあこんばんは。2時間ぶりですかね。」 なんで古泉がいるんだ。俺は安堵と残念感を同時に味わいつつ キョン「そう」 と無口な宇宙人のまね事で答えた。 古泉「おそらく僕とあなたの用件は同じはずです。鍵は空いてます、入ってください。」 キョン「なんで開けっ放しなんだよ。」 インターホンが沈黙したのだろう、返答はなかった。 俺はとりあえず中に入って長門達の下へ歩いた。 長門は俺を見ると顔を俯かせた。 長門「座った。」 古泉「長門さん、『座って』ですよ。」 長門「間違えただけ。」 長門は緊張してるのだろうか?珍しい。 俺達3人がONLY ONEインザハウスな机を挟んで腰を下ろすと長門が口を開いた。 長門「今から話すことは情報統合思念体の調査結果である。情報の伝達に齟齬が発生するかもしれない、実際コミュニケーションとは」 キョン「あー長門。知識豊富なのはよくわかってるから今回の事件について教えてくれ。」 長門「そう。キョンが言うなら。」 えっ?長門が俺のことをあだ名で読んだだと。 古泉「顔が赤いですよ?とうとう僕のあなたへの愛に気づいてもらえましたか。」 キョン「断じてそれはないしそっちの趣味も一切さっぱりからっきしないぞ。」 長門「二人とも聞いて。」 長門は全て話した。まずあの空間と物体の作成者は、冬の遭難時の犯人と同じだそうだ。 動機はまさにヒトラーが民主主義を唱えるかのようなものだった。 長門「彼らの目的はない。動機は『退屈』だったから。ただ彼らの言いたいことを我々は完全に解析できていないからなんともいえない。」 前回はハローの代わりに吹雪を降らしてきた。今度は退屈しのぎに数人を異空間射撃ゲームかよ。何考えてんだかさっぱりわからん。 そして朝比奈さんがなぜ未来から来たのか。どうも未来の一組織が情報統合思念体の急進派と手を組んでいたらしい。 長門「涼宮ハルヒにあえて未来人を認識させることで、どのような変化が表れるかを調べていた。朝比奈みくるはその組織に騙されていた。ちなみに今は急進派及びその組織は厳正な処分を下されている。」 朝比奈さんが図書室でされた指令は、急進派が捕まった後正規の組織が指示したもののようだ。 ん?だが疑問が残る。その疑問を代弁するかのように超能力者は言った。 古泉「未来人や急進派はあの頭の愉快な思念体の行動を知らなかったのでしょうか?彼らの目的は彼女の変化の観察ですよね?邪魔が入るとわかってたら計画自体に意味がありません。」 長門「それについては情報統合思念体も困惑している。もしかしたら彼らは未来人にすら認知されない行動力を持っているのかもしれない。」 奴らがその思念体と手を組んで空間に閉じ込められた状況を観察した、という可能性はないのか? 長門「ありえない。あれと会話することも困難であるのに、計画を立てることは不可能。」 キョン「あまりに馬鹿にされる思念体に全俺が泣いた。」 長門「あなたは一人しか・・・ジョーク?」 キョン「よく気づいた。」 ――――その後―――― 古泉「では用も済みました。僕はこれで失礼します。」 古泉は帰った。長門の告白は気になるが俺も帰ることに 長門「・・・・」 帰ろうした俺の腕の裾に小さな力がかかった。振り向くとそこにはハムスターをつまみあげるように裾をつかむ長門が俺の目をじっと見つめていた。そして長門の顔が少し赤い。 俺たちは時間の経つのを忘れたかのように見つめ合った。顔に熱を感じる。ああ今なら認めるぜ、今まで自分の心から逃げてきたからな。 キョン「・・長門。」 長門「・・・有希と呼んで欲しい」 キョン「・・・有・・希」 長門「・・・キョン」 俺はいつのまにか長門を抱きしめていた。長門も俺の腰に腕をまいていた。 おっ長門、いや有希の胸から鼓動をはっきり感じた。こいつは宇宙人なんかじゃない。それに俺は言った、冗談と本気を区別できたら完璧だと。 「おまえは人間と変わらない、いや人間なんだ。」 「・・・異能力をもってるけど、いいの?」 「この世界では当たり前なんだ。気にするな。」 「・・・そう。」 「そうだ。おまえは人間で、俺の『彼女』になるんだ。」 「・・・・なら二つだけ約束して欲しい。」 「なんだ?俺にできることならいいぞ。」 「あなたにしかできない。まず私のことを呼ぶ時『おまえ』ではなく『有希』と呼んで。」 「ああ。」 「もうひとつは・・・私の事を支えて欲しい、いつまでも。」 「もちろんだ!じゃあ俺からも一つ。いつまでも俺を支えてくれ、有希。」 「・・もちろん。」 「有希。大好きだ。」 俺たちは口づけを交わした。 あの後俺はすぐに家に帰った。お互いに何を話せばいいかわからなくなったからだ。今となっては名残惜しい。 ―――次の日―――― 放課後俺たち団員は1+1=2というぐらい当たり前のように部室に集まった。 俺は古泉とスピードをし、朝比奈さんはなぜかナースになっていた。ハルヒいわく、風通しがいいのだそうだ。実際そうらしいので特に異論はなかった。無口な少女はいつものぶ厚い本ではなく、俺でも読めるレベルの恋愛小説を読んでいた。ハルヒ?あいつはいつもの通りだ。 ハルヒ「なんか昨日から変なことを考えるのよね。」 今日ハルヒの様子はずっと変だった。何か考え事をしていたのだ。なんだ、今度は危ない水着を朝比奈さんに着せるつもりか?「風通しがいいのよ」とか言って。 ハルヒ「させたいけど違うわよ!なんか古泉くんに石で殴られた、てのを考えちゃうのよ。まさかそんなことあるわけないとはわかってるんだけど。」 みくる「えっ・・・」 古泉「僕がそんな恐れ多いことをするわけないじゃぎゃッ!」 古泉よ、慌てすぎで舌噛むなんて入れ歯を装備したライオンより滑稽だぞ。 ハルヒ「てなわけで古泉くん。悪いんだけど今日だけ副団長の活動停止を行うわ。帰って。明日からはいつも通りのあたしになるから。」 古泉「・・・わかりました。ではみなさんまた明日お会いしましょう。」 そういやあいつに落とし前をつけるのを忘れていた。明日にしよう。 さて古泉が帰ったから朝比奈さんでも誘ってトランプでも ハルヒ「ちょうどいいわ、キョン!ここらへんではっきりしてもらいましょうか!」 キョン「なにをだ」 ハルヒ「なにって・・その・・・あんたが誰を好きなのかを・・」 そんなことか。見れば朝比奈さんや読者中の少女も俺を見ている。ハルヒには悪いが速答させてもらう。 「俺は有希の彼氏だ。」 ―――完―――
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◆0 夢と希望に充ちあふれて始まったような気がしないでもない高校生活一か月目にして涼宮ハルヒと関わりを持ってしまってからというもの俺の人生はちょっとしたスペクタクルとでも言うべき出来事の連続ではあるが、しかし上には上が下には下がいる、と昔から言うように俺以上に意味のわからない存在に振り回されて恐ろしく充実した人生を送っているやつというのも世の中には確かに存在する。 今回はハルヒと俺と、そんな一人の男子生徒にまつわる、不幸とも幸福ともいえないような騒動の話だ。 ……え? 誰だ、だって? やれやれ、言わなくてもわかるだろう。 いつだって騒動のきっかけはハルヒであり、そしてハルヒに巻き込まれた俺以外の男子といえば、あいつしかいないじゃないか。いや、谷口ではない――古泉一樹。赤玉変態型超能力者、である。 ◆1 「キョンくん、ちょっとお願いされてほしいことがあるのね」 と、同じクラスの阪中が話しかけてきたのは、長い一日の授業が終わってさて団活へと赴くかなと俺が座りすぎで重たくなった腰を上げたころだった。ちなみにハルヒはホームルームが済んだ瞬間ロケットスタートでぶっ飛んでいってしまったので、後ろの席は空っぽである。 「ん、なんだ? ハルヒへの言付けとかだったら頼むから本人を探してくれ」 探すまでもなく部室にいると思うが、それはさておき、最近のハルヒはクラスの女子とよく話をしているようだし、出来ればこのまま普通にクラスに馴染んで普通の女子高生になってほしい……と俺は思うのだ。って、俺に何の権限があってあいつにそんなことを望むのか、という話だが。 「違うのね」 阪中はそう否定するとなんだか恥ずかしそうにもじもじと身をよじり、上目遣いで俺を見上げた。 なんだよ可愛いな~さすが某国木田の一押し……すまん、妄言だ。 「えっと、用があるのは涼宮さんじゃないのね……」 ごそごそとどこからともなくファンシーな色のものを取り出し、阪中は頬をさくらんぼ色に染めながら、 「これ……」 おいおい、マジか! 「えらくマジなのね! これ、古泉さんに渡してください!」 お願いなのねー(のねー)! とエコーを響かせつつ阪中はどこへともなく走っていき、俺の手の中にはご丁寧に赤いハートのシールが貼られた、どっから見てもラブレター然としたものが残された。 ……はは、お約束だな。 「――ちょっとキョン、今阪中さんに何かもらってなかったかい?」 「いやもらってたよな、それは俺が見るところずばりラブレターだろう!」 ……うるせー。 阪中の声の残響が消えたとたんに話しかけてきた国木田と谷口。お前ら目がギラギラしてるんだが。ああもらったとも、見ろ、この可愛い丸文字で書かれた宛名を。まだ本邦未公開の俺の名前だぞ。 「フルイズミカズキ……? あれ、お前そんな名前だっけ、忘れちまったよ。どのへんがキョン?」 はい、馬鹿ー。 「なんだ……そうだよね、まさか阪中さんに限ってキョンってことはないよね」 さりげなくものすごく失礼だぞ、国木田。残念ながら反論材料がないが。 「つーかまた古泉かよ。キョンもかわいそうになー、あんなのがそばにいたら余計モテなかろう」 お前今のボケだったのかよ! ボケで終わらせずにノリツッコミにまで昇華させてくれないとさっぱりだ。 「食いつくところそこかよ! 俺のことなんかほっといて話を進めろや!」 「よし。……で、なんだ、古泉は実はそんなにモテモテだったのか」 まああの胡散臭い整形疑惑さえ抱かせる顔だからな、わからないでもないでもない。ああ認めたくない。どうせ俺の知らんところで彼女の一人や二人や三人くらいは作っているのだろう。痴情のもつれから刺されちまえ。 すると谷口国木田両名はいかにもうんざりしましたーと言うように首を振り、 「かぁーっ、キョン、鈍いにもほどがあるぜ。あんなに露骨にモテてる奴があるか、忌々しい」 何? そうなのか? 「そうだよ。SOS団だって朝比奈さんとか、たまに見てもわかるくらいあからさまにアタックかけてるよ」 「そのうえ、それになびかない、と来たもんだ。あいつはホモか? Sランクだぞ?」 待て待て待て待て、待て! 朝比奈さんが、古泉に懸想しているだと? 有り得ない。ハルヒが恋をしたり俺が告白を受けるというくらいありえない。 国木田は哀れむような目つきで俺を見やると、「認めたくないのはわかるけどね……」と言った。 違う。断じてそうじゃない。認知するしないの問題ではないぞ。朝比奈さんが古泉に猛烈アタックって、いったいいつの話だ。映画撮影は随分昔に終わったし結局まだ続編は撮っていない。 「毎日お弁当作って九組にいったり、してるらしいけど」 有り得ない。それを俺が知らないなんていくらなんだって、さすがにおかしいじゃないか。俺の知る限り、未来人の朝比奈さんと超能力者の古泉は実はあまり仲がよくなかったはずじゃないのか? 俺は手にした阪中の手紙を見下ろした。俺の知らないところで、何か異常なことが起きている。 ◆2 古泉か朝比奈さん、あるいは第三者だが長門に話を聞く必要があったのだが――部室まで急行する途中で、俺はハルヒに引き止められた。正確には、部室のドアを目前にした廊下の真ん中で、であるが。 「何してんだ?」 「しっ、静かにしなさい」 ドアに張りついて片耳を押し当てながら、ハルヒはとんとんとドアを指差した。どうやら同じようにしてみろ、という意味のようだ。俺としては急いで三人のうち誰かに会いたいのだが、仕方がない―― 『あっ、朝比奈さん!? 何のおつもりですか!』 聞こえてきたのは、何やら切羽詰まった古泉の声だった。朝比奈さんもいるようだが、穏やかではない。 『うふ、お茶にちょっと仕込んじゃいました。古泉くんちっとも振り向いてくれないんだもの。流行りのヤンデレってやつですよ~』 『いや、僕はヤンデレとかキョンデレとか、そういうツンデレに似てるものはもううんざり……ではなくてですねっ』 それですよぅ、と朝比奈さんの可愛らしいはずの声。 『古泉くん、嫌じゃないんですか? あたしは嫌です、こんなに魅力的なのに、立場に縛られて独り身のままなんて』 『それはっ……あなたには、関係のないことですよ』 『そんなことありません。このまま何もしないで手に入る未来は、孤独なだけ……そんなのは嫌!』 『意味のわからないことを言わないでください! わかってるんですか、ご自分が何をしているのか』 『現場の独断で変革を強行しちゃっても、いいじゃないですかぁっ! 既成事実さえあれば、規定事項が……』 ――待て待て待て、こらハルヒ、目を輝かせてる場合かっ! 「そこの二人、ちょっと待ったぁ!」 「「きゃっ」」 ハルヒが張りついているのも無視して、ドアを蹴開ける。部室内では……朝比奈さんが、ウェイトレス姿だった。 「キョン! 何す……」 「ふぇえっ! ご、ごめんなさぁい」 「あっみくるちゃん! 待ちなさい、どこ行くのっ」 朝比奈さんは本物とは思えない勢いで部室を飛び出して行き、床に転んでいたハルヒはバネのように跳ね起きて朝比奈さんを追いかけてあっという間にいなくなった。 ……古泉、いつまでも床に寝ころんでる場合か。まさか、朝比奈さんに押し倒されたんじゃないだろうな。 「いえ、申し訳ないのですが、彼女にいただいたお茶が妙な味でして」 それはまさかあれか、痺れ薬というやつか! 朝比奈さんはそんなものをいったいどっから持ってきたのやら。 「長門さんに、あなたから頼んでいただきたいのですが」 ああ長門な、長門……ってうおっ! いたのか長門! 「……最初から」 助けてやれよ、もっと早く……いや悪い、今からでも遅くないからここに転がってるのを何とかしてくれ。長門はこくりと頷くと、いつもの本から離した手のひらをこちらへかざした。きゅるる、と呪文。 「……いやあ、あなたが来て下さって助かりましたよ……」 むくりと起き上がって古泉が情けない笑顔を浮かべた。もう少しで貞操を失うところでした、か。古泉、お前も普通に童貞だったのか……で、朝比奈さんか……いや、特に何も考えてないぞ。 「……これ、お前宛てに、阪中から預かってきたんだが」 俺はとりあえず持ったままであった手紙を古泉に突きつけてやった。別に怨念など込めていない。 「阪中さん、というと……」 三月に幽霊騒ぎを持ち込んできたあいつだよ。当然覚えてるよな? 向こうはラブレターまでよこしてるんだ。 「ラブレター」 古泉は溜息をつきつつ立ち上がると、机の上に置いてあった通学鞄の中からごっそり紙の束を取り出した。 「これは全て、本日いただいたものです。大半は朝下駄箱の中に入っていたんですが」 ばらばらと机の上一面に広げられた、手紙と思しきハガキ大のカラフルな物体たちに、阪中の手紙を加えて古泉は再び溜息をついた。谷口あたりが見たら何を贅沢に悩んでいるのかと思いそうだが、 「普段からもらうのか?」 「まさか……今日が初めてですよ。それをこんなに」 なるほど、やはり異常事態である。 「朝比奈さんがお前にお弁当を作ってくるそうだが」 「確かに今日はいらっしゃいましたが、それも今日が初めてです」 しかし国木田の話では、毎日猛烈なアタックということだったのだが……いったい何がこんなことに。 助けて長門さん。俺と古泉は揃って読書中の長門に目線をやった。長門は俺にまっすぐ顔を向け、 「朝比奈みくるがここへ戻るまであと五分三十二秒。退避を推奨」 俺がか。 「……違う。古泉一樹が」 だと思ったよ。 ◆3 「で、長門、説明してくれるか?」 校内のどこかで待機している、と言う古泉を早急に追い払い、俺は長門に向き直った。もう少しで朝比奈さん達が戻ってくると言ったが、どうやら長門は朝比奈さんとは逆に古泉を避けたいようだ。 「……説明する」 ありがとな。古泉には後から伝えられるかね。しかし待機って、いったい学校のどこに隠れるんだろうな。 「……古泉一樹には、現在、情報改変が施されている」 ――― 「情報改変……ですか」 はい、と彼女は微笑み頷いた。 僕が校内でのとりあえずの待機場所に選んだのは、生徒会室だった。ここなら涼宮さんには見つからず、その他の生徒も生徒会長が閉め出しているだろう、との判断であり、それは八割は正解だったのだが、しかし僕がすっかり忘れていたのは……相変わらず、生徒会には僕の計算外の人物がいる、ということであった。 「古泉さんの存在を認識した女性が、古泉さんに好意を持つよう設定されています」 生徒会書記にしてTFEI端末である喜緑江美里さんが、うっとりと僕の手を撫でながら言った。 非常に、なんというか、居心地が悪い。なんでこの人こんなにぴったりくっついて座ってくるんだ! 後頭部にヤンキー上がりのきっつい視線がザクザク刺さってるんですが。痛い痛い痛い。神人のパンチよりはマシながら、何かタバコを押しつけられてるようなジリジリした痛みが……。 「つまり、今なら古泉さんはあらゆる女性を――涼宮ハルヒさんを除きますが――落とし放題というわけです。誰でもおっけーですよ、長門さんでも、あの二人が結婚したらキョンキョンになってしまうお嬢さんでも頭部で昆布を養殖しているような奇怪な生き物でも、我々の認識上は女性ですから。まああのような髪の毛の妖怪を選ぶのはよほどの黒髪フェチさんだけでしょうけれど……ところで古泉さんは、髪の綺麗な女性はお好きですか? わかめは髪の毛に良いんですよ」 知ってますけど、わかめ……ていうか、なぜそのチョイス……すごい敵対心が感じられるんですが。 いや待て、そこじゃない。 「……今、涼宮さんを除く、とおっしゃいましたよね?」 「うーん、江美里とお付き合いしてくれたら、もっといろいろ教えちゃいますよ?」 痛っ! なんかあらゆる空気が痛い! 前門の虎後門の狼! 「……喜緑くん。今日はもう帰りたまえ。会長命令だ」 と、会長が言った。 「会長、それは権力の乱用です。不信任案出しますよ」 「我が生徒会にそのような規定はない。早く帰りたまえ」 そもそも、高校の生徒会長には、役員に命令する権限もないんだけどな……と思ったが、余計なことを言っても自分の首を締めるだけだと知っている賢い僕は黙っておいた。喜緑さんはふうと溜息をつき、 「仕方がありませんね、諦めましょう」 とあっさり手ぶらで部屋を出ていった。仕事とか、してたんじゃないのか……。 「古泉……俺が生徒会室でボヤ騒ぎを起こしたくなる前にそのアホ女の思いつきを解決しろよ……」 了解、しました、が……さて、どうしたら彼が僕の思い通りに動いてくれるだろうか。それと今から、部室に戻っても気まずくないだろうか……。はあ。 ――― で、結局、部室に古泉が戻ってきたころにはハルヒによって活動は解散となっており、朝比奈さんはハルヒに付き添われて先に帰っていた。長門も古泉が来る少し前に帰ってしまい、俺は一人であいつを待つ羽目になっていた、というわけなのだが。 「大体の事情は、ある方がご親切にも教えて下さったのですが……長門さんは、今後について何か言ってませんか」 なぜか、ご親切にも、を強調する古泉。よっぽど親切な人にあったのだろうか。事情を知ってる人って誰だ? 「長門は、こんなことが起こるに至った理由がわからなければ解決不可能だと言っていたが」 あいにく、長門にわからないことは俺にもわかりそうもない。何せハルヒの考えを当てようなんてな。 すると古泉は、ふっと呆れとウンザリが八割くらいのこちらが見ていてムカつく笑みを浮かべた。 「あなた方にもこれくらいはわかっていただけるかと期待していたのですが……相変わらず疎いんですね」 馬鹿にしてんのか。そうなんだな? 帰っていいか。 「聞いてください。僕が会う女子生徒すべてにアプローチを受けているのは涼宮さんが望んだからです。しかし涼宮さんは僕のためを思ってハーレムにしてくれようとしたわけではない。これはいいですね?」 そうだな、まあそうだろう。あのハルヒが他人中心の世界を作ろうと思うはずがない。 「では、何のために涼宮さんは世界を改変したのか――答えは簡単、要はあなたのためなのです」 俺かよ。お前は毎回毎回俺に責任をとらせて楽しいのか! 今回ばかりはさすがに心当たりがまったくないぞ。 「単純な話です……ライバルなんかいなければいい、自分以外が、あなたではない誰かを好きになればいい、と涼宮さんは考えたのでしょうね。あなたでなければ、別に誰でもよかったんじゃないですか」 毎回毎回、だから僕は宝くじが当たらないんですよ、と古泉が呟く。意味不明だ。 「つまり……どういうことだよ」 「心変わりしない、と涼宮さんに誓ってください」 いつ、どこで、なぜ、どうやって。 「明日にでも、ラブレターというのはいかがですか? 幸いここに見本が大量にありますし」 「悪趣味だぞ、古泉」 「失礼……わかっていただけた、ということでよろしいですか?」 いや、正直お前の論理の飛躍にはあまりついていけていない。そもそも俺の心の何がどう変わるのか。 「とにかく、時を見て、行動してください」 と、いつになく真剣な声音で古泉が言った。こいつも追いつめられるとグレる、というわけらしい、が……冗談でもなんでもなく、俺がどう行動したらお前がモテなくなるんだ? 続きはWebで!