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1 2 唯梓 2012/05/28 http //hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1338205920/ 戻る 名前 コメント すべてのコメントを見る 憂が可哀想って意見もわかるけど、あの妹大好きな唯が憂との約束を破るってとこに重さがあるんじゃないの? -- (名無しさん) 2014-08-24 03 23 01 あの憂ちゃんならわかってくれるよ! -- (あずにゃんラブ) 2013-01-02 11 07 51 24日…けいおん部クリパ 24日夜半から25日朝まで…梓とイチャラブ 25日…姉妹で水入らず こうするべきだ。憂に交際を打ち明けて理解を得るのと、律澪をくっ付けて彼女達も夜早いうちに消えさせるのと、ムギに後日詳しく話すことを条件に協力を得られれば、完璧だろう。 -- (さわこ?シャンパンでも飲ましとけば無問題) 2012-06-02 06 48 00 基本的にいい唯梓なんだが、約束の件で少し後味が悪い 仲良しが一番だよね -- (百合を求めて三千里) 2012-05-30 20 36 24 憂カワイソス(´;ω;`) -- (じゅわ〜) 2012-05-30 09 44 37 これは確かに、憂ちゃんがかわいそうで折角の唯梓が台無し。 唯もこれじゃ身勝手で思いやりのない子だし。 みんな仲良しでこそけいおん! -- (名無しさん) 2012-05-30 06 18 47 うーん。まあありかな。 -- (通りすがり) 2012-05-30 02 15 41 唯「あずにゃん!交換日記やろうよ!」ってやつか? もしそれだったら俺見てたけど梓「夢の中なら」書いた人と一緒ってスレの中で言ってたよ -- (名無しさん) 2012-05-30 00 40 14 モヤッというかイラッというか・・・ -- (名無しさん) 2012-05-30 00 32 35 なんかこの憂ちゃんのもやっとした感じが 梓「夢の中なら」と唯と梓で交換日記するSSを思い出した。憂ちゃんが健気… -- (名無し) 2012-05-29 17 31 04
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前ページ次ページもう一人の『左手』 <フリッグの舞踏会から43時間前> 「サイトぉぉぉっ!!」 地獄のような業火が渦巻く森の中から、空中に飛び出した一個の物体。 それが、タンデムに才人を載せた、風見志郎が駆るハリケーンであると気付いた瞬間、シルフィードの背から、ルイズは思わず叫んでいた。 それは絶望の声ではない。 それは喜悦の、感激の、感涙の絶叫だった。 結局、彼女たちは、脱出しなかった。 森の遥か上空から風竜に跨り、炎の中に姿を消した少年と青年を待ったのだ。 無論、同乗者たち――キュルケやフーケは難色を示した。 いくら上空とはいえ、こんな場所に留まっていては、カメバズーカが自爆したら絶対に助からない。 いや、純粋に命の問題だけではない。 そうなったら、自分たちを逃がすために、自ら身体を張って時間稼ぎをしている風見の意思を、踏みにじる結果になる。 そうなっては、彼を見捨てて自分たちだけが逃げ出してきた意味が、皆無になってしまう。 つまり、彼女たちは、口にこそ出さなかったが、風見の死は確実なものと、思い極めていたのだ。 だが、ルイズは違った。 彼女が、一同とともに脱出する事をためらわなかったのは、風見を見捨てたからではない。 彼なら、あの怪物を自爆させる事無く倒す事が可能であると、――ルイズだけが信じていたのだ。 その判断に根拠は無い。彼女は、才人ほどに風見と口を利いたことさえなかったから。 だが、ルイズはそう思った。思った以上は、風見を信じた。 この場を脱出したのは、文字通り、万一の事態に備えたためと、後顧の憂いなく風見に戦ってもらうため。ただそれだけの理由に過ぎない。 そういう意味では、ルイズは才人よりもさらに深く、風見の能力に信頼を置いていたと言える。 しかし、才人は、風見とは違う。 彼は、改造人間ならぬ、生粋のただの人間だ。 風見ならば問題なく生還できるであろう状況でも、才人が無事であるとは思えない。 いや、そもそも自分たちは、フーケに人質としてさらわれた才人を救出するために、ここにいるのだ。 どういう理由があろうと、ここで彼を置いて、自分たちだけ逃げ出すのなら、まさしく本末転倒もいいところではないか。 ましてや、ルイズは彼との別れ際に、風見を置いて脱出する事をなじられたばかりだ。もしそれが、あの少年との最後の会話になってしまったとしたら……! ルイズにとって、その想像は、とても耐え切れるものではなかった。 彼女は、……自分が、いつの間にか、風見の能力を信用するその数倍の量の感情で、才人の身を案じている事実に気付いていなかった。 もっとも、ルイズ本人が気付いていないだけで、キュルケやタバサから見れば、それは一目瞭然だったのだが。 <フリッグの舞踏会から41時間前> 「なんともはや、……相変わらず君の言う事は信じがたいの」 オールド・オスマンが、大きく溜め息をつく。 「しかし、学院長……彼らに嘘をつく理由はありません」 コルベールが取り繕うように言うが、その顔色からしても、そう言った本人が、一同の報告を完全に信じているようには、とても見えない。 まあ、確かに、その目で見ぬ者には、信じろと言われても信じきれない話ではあった。 フーケに強奪された『破壊の杖』が、改造人間カメバズーカの休眠状態の姿であり、最後には、改造手術以前の理性さえ回復させ、飄然と姿を消した、などと。 この場に居並ぶ3人の少女――ルイズ・タバサ・キュルケにしても、一個の話として、改めて聞くと、いくら何でも荒唐無稽すぎると思わざるを得ない。 「じゃが……信じるしかあるまいな……」 オスマンは逆にコルベールを睨むと、彼に言い聞かせるように、重々しく頷いた。 そのまま森を脱出したフーケ追跡隊一行は、その後、無事、学院に帰還すると、その足で才人を医務室に担ぎこんだ。 彼の負った火傷は、そのまま自室で寝てしまえる程度の軽さでは、決してなかったからだ。 ――彼のパーカーは化繊である。つまり、熱に弱い。 ハリケーンで、風見とともに燃え盛る森を脱出したはいいが、全身あちこちに小さな火が燃え移っていた。 さいわい才人は脱出の際、ハリケーンのタンデムに乗っていたため、その強烈な向かい風が、服を焦がした炎を掻き消してくれたが、それでも全身数箇所に第二度の熱傷を負う結果となった。 まあ、火の粉が雨のごとく降りしきる山火事の中を突っ切って、V3とカメバズーカの元へ移動したのだ。この程度の火傷で済めば御の字とも言えた。 一方、肝心かなめの『土くれのフーケ』は、予想に反して大人しく縛についた。 一切の精神力を使い果たしていた彼女に、しょせん大した抵抗は不可能だったろうが、むしろ受け入れるかのように、すんなり縄に掛かり、学院の地下室に拘禁されている。 明日にも、王都から魔法衛士隊が、彼女の身柄を引き取りに来るだろう。 カメバズーカとの戦闘を通じ、三人娘はフーケとの間に、奇妙なパートナーシップのような感覚を覚えていたが、それはフーケも同じだったのだろう。 「あんたらに捕まるんなら……ま、仕方ないかね」 そう言いながら、寂しく笑って両手を差し出したのだ。 そののち、彼女たちは寝ずに待っていたオスマンと、コルベールを医務室に呼び出し、ベッドで治療中の才人を交えて、一切の成り行きを報告したのだった。 「しかし、学院長……?」 いかにも、お前本気か? と言わんばかりの表情を見せるコルベールであったが、それ以上迂闊な言葉を発しないだけの、とっさの理性は、持ち合わせていたようだった。 何より彼自身、その信じがたい報告を擁護する台詞を吐いてしまっているのだから。 しかし、オスマンはそんなコルベールを一睨みすると、 「彼らが虚偽の報告を申す理由がないと言ったのは、君だぞ、ミスタ・コルベール。それに、カザミくんの例もある。彼らの技術力を以ってすれば、人体の痕跡すら残さぬほどの重度の改造も可能なのではないか?」 「……」 そう言われてしまえば、コルベールとしても、言葉も無い。 そんなオスマンを、例のごとく氷のような眼差しを光らせ、風見が見つめた。 「Mr.オスマン」 「何じゃ」 「聞かせてもらおうか、あの『破壊の杖』の由来を。そもそも何故、あんなものがここにある?」 下手な逃げ口上は、通用しない。――その眼光は、言葉よりも雄弁に語っていた。 オスマンは、しばし無言で、その視線を真正面から弾き返していたが、――やがて、深く溜め息をついた。 「仕方ないの……。じゃが、これだけは承知しておいてくれ。今からワシが言う事は、王家の秘事に関わる事じゃ。絶対に他言は無用じゃぞ」 「王家の秘事……?」 キュルケが、好奇心むきだしの口調で訊き返す。 が、その無邪気な視線は、オスマンのまとう、鉄のような空気で封じられてしまう。 「左様。じゃによって、これだけは言っておく。わしの目の黒いうちに、この話が誰ぞの噂にのぼるようなことがあれば、貴公らが、話を他人に漏洩したものと見なし――」 老人は、風見以上の凍てついた目で、この部屋にいる全ての者たちを見回し、言った。 「貴公ら全員の命を、ワシがこの手で貰い受ける。――よいな?」 この、痩せこけた老人から発散される、凄惨なまでの殺気は、この場にいる全員に、彼の決意が、疑いようも無い本気である事を、否応もなく思い知らせた。 それは、ルイズや才人やキュルケはともかく、伝説の殺戮メイジであったコルベール、そして現役の北花壇騎士であるタバサですら、息を飲ませる迫力だった。 「分かった。今からアンタが言う話は、金輪際、誰にも洩らさない。そう誓おう」 風見だけが、水のような冷静さで、オスマンに返答し、話を促した。 オスマンも、そんな風見にニヤリと笑みを返し、口を開いた。 「この“杖”は、そもそも『悪魔の杖』と呼ばれておってな。250年ほど前に、アルビオンからトリステインに譲り渡されたものなのじゃが――」 オスマンは、そこで一度、息を切ると、言った。 「古文書に拠れば、そもそも、その“悪魔”とは、アルビオンの王宮で使い魔として召喚された、一匹の魔獣であったらしい」 その発言のしめす驚くべき内容に、全員は、しばし言葉を失った。 「その魔獣は、己をサモン・サーヴァントで召喚した王族を、真っ先にその手にかけたという。すでにコントラクト・サーヴァントの儀式を済ませていたにもかかわらず、じゃ」 ルイズは、反射的に才人と風見を見てしまう。 だが、二人とも、彼女のその無遠慮な、しかし確実に怯えを含んだ視線に気付いた様子は無かった。 「魔獣は、王宮に居並ぶ腕利きのスクウェア・メイジたちの呪文をものともせず、そのまま詠唱を要さぬ破壊魔法を連発し、たったの一日で、ハヴィランド宮殿を半壊に追い込み、死傷者は数百人に及んだという。――無論、その半数がメイジじゃ」 間違いない。 その記述が示す魔獣とは、確実にカメバズーカの事だ。あの怪物はやはり、それほどのパワーを所有していたのだ。 キュルケは、オスマンの言葉に、鳥肌が立つ思いだった。百人以上のスクウェア・メイジを単体で屠る戦闘力など、正直言って、彼女たちには見当も付かない。 分かるのは、それほどの化物を相手にしながら、こうして生きている自分たちが、いかに幸運に恵まれているか、ということだけだ。 「魔獣は、王宮をあらかた破壊してしまうと、そのまま眠りにつき、その後二度と目覚める事は無かった。その後は、魔獣の肉体も縮小を繰り返し、気が付けば、その肉体は跡形もなく消え失せ、あとには“杖”が残るばかりであったという」 その後、アルビオン王家は、避暑に出かけていて、難を逃れた唯一の王族が王位を継ぎ、王室と王宮を再興・再建し、その呪われた“杖”は、浮遊大陸から遠く離れたトリステインに移され、厳重に封印を施された上で、監視されていた。 アルビオンのメイジたちからすれば、自分たちの王国を、半ば滅ぼしかけた魔獣の片割れ――『悪魔の杖』が、いつまでも浮遊大陸にあるというのは、どうしてもガマンできなかったのだろう。 その“杖”が魔法学院に移されたのは、事件からさらに百年後。単に書類上のミスであるという。 事件から、長い年月が経ち、また事件そのものについて、両国の王家が硬く口を閉ざしたゆえに、当時はそれが、そこまで“いわくつき”の代物であるとは、誰も知らなかったらしい。 ――移管された当の魔法学院の責任者・オスマン以外は。 そこまで話して、オスマンの口は閉じた。 なるほど、王家の秘事というのも頷ける。 たとえ、悪魔に等しい魔獣であっても、仮にも一国の王城が、たった一匹の怪物を相手に手も足も出ず、灰燼に帰したなど、あっていい話ではない。 フーケも、その“杖”がそこまで非常識な存在だと知っていたら、とても手は出さなかっただろう。 「でも、一体どういう事なの? 契約を済ませた使い魔が、主を殺すなんて……」 キュルケがつぶやく。 無理も無い。サモン・サーヴァントが、そんな死の危険を伴う儀式だなどと、彼女としても考えた事も無かったからだ。下手をすれば、自分も使い魔の火トカゲに焼き殺されていたなど、寒気すら覚える話だ。 「正当防衛……だったんだよ」 ルイズの問いに答えたのは、オスマンではなく、ベッドに横たわった才人だった。 そして、少年の発したその奇異な言葉に、全員が、彼に視線を集める。 才人はルーンを通じて、カメバズーカから彼自身の全ての記憶を読み取った事を伝え、話を続けた。 「平田さんは……その時のことを覚えていたよ。この世界に対する、最初の恐怖の記憶としてね」 「恐怖の記憶?」 「あの人は、契約の儀式で紋章を刻まれたあと、何も分からないまま、こう言われたんだ」 『せっかく召喚に応じてくれて済まないが、余はお前のような醜い怪物を使い魔として従える気は無い。ついては今から殺させてもらうが、それに対して一切の抵抗を禁じる。短い付き合いだったな』 「平田さんを召喚した王族とやらは、――平田さんに『抵抗するな』と命令するためだけに、コントラクト・サーヴァントを済ませたのさ」 しばし、部屋を沈黙が支配した。 「自分が召喚した使い魔が気に入らないからって、……殺そうとしたって言うの……!?」 キュルケが、うめくように才人を見た。 しかし、才人はうつむいた顔を上げようとはしなかった。 ルイズには分かる。 コントラクト・サーヴァントは万能ではない。 知性を持たない禽獣ならば、紋章を刻まれると同時に、その本能に、主に対する忠誠心も植え付けられる。 だが『人格』という高度な自意識を持つ相手には、価値観の干渉にも限界があるのだ。 それは風見や才人を見ていれば、嫌でも分かる。 彼らは、自分を至上の忠誠の対象などとは、まったく見なしていない。 それと同じ事が、カメバズーカの場合も起こったのだろう。 ましてや、死んだはずの我が身が、自分を取り巻く状況さえ認識できないうちに、そんな言葉をかけられたら、パニックを起こすのは当たり前だ。 彼を召喚した王族とやらが殺されたのは、むしろ当然だと言える。 「死んで当然だ……そんな奴……!!」 ルイズは、その半ば震える才人の声を聞いて、思わず彼を見た。 自分と同じ事を、彼も感じている。そのことについて、素直に喜びを覚えるより前に、彼のその言葉を聞いた瞬間、それ以上の不安が頭をもたげるのを感じたのだ。 今まで、考える事を必死になって避けていた、――半ば恐怖に近い不安。 サイトの言う“そんな奴”の中には、わたしも入っているのではないか? サイトを勝手に召喚し、あげく下男や従僕のようにコキ使い、そのことに全く疑問すら覚えなかった。サイトにだって、自分の生活や、家族、将来があったはずなのに……! 現に、わたしは一度でも、彼に優しい言葉をかけてあげたことがあっただろうか? 確かに、ギーシュと決闘した後、寝ずの看病をしてあげたけど、……でも、そもそも、それだって、サイトはわたしのために怒って、戦って、そのあげく、あんなひどい怪我までして……。 サイトは、わたしを……憎んでいるのではないだろうか……!? 「……なさい……」 「え?」 「……ごめん、なさい……ごめんなさい……ごめん……」 そう言うと、ルイズは、居たたまれないように、医務室から飛び出して行ってしまった。 「ルイズ……?」 ぽかんとした顔で、少女が飛び出した扉を、才人が見つめた。 いや、才人のみならず、この部屋にいる男性たちは全員、あっけにとられて、彼女が去った方向を見ていた。 さすがにキュルケだけが、ルイズの思考の流れを敏感に見抜いたらしく、逆に才人を一睨みすると、深い溜め息をついた。 「なにやってんのアンタ」 「え?」 「え、じゃないわよサイト! とっととルイズを追いかけなさい!! アンタ男でしょう!?」 前ページ次ページもう一人の『左手』
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アイテム名 装備レベル レベル 攻 防 魔 魅 運 早 火 水 風 土 入手 備考 リバシオンシールド 1 0推定値 - 33.81 20 18.72 18.72 - - - - - お中元軽 2011夏祭り 100 - 372 220 206 206 - - - - - タコの串焼き 20 0推定値 - 2.00 - - - - 2.00 2.00 - - マランダ依頼 10 - 4.00 - - - - 4.00 4.00 - - たこ焼き 20 0推定値 - 2.66 - 1.33 1.33 - 2.00 - - - マランダ依頼 20 - 8.00 - 4.00 4.00 - 6.00 - - - たたうさチョコ 21 0推定値 - - - 5.00 - - - - - - キャッシュ 2007バレンタイン 10 - - - 10.00 - - - - - - たたうさバッグL 1 0推定値 - 7.45 - 4.90 2.94 - - - - - 銀箱2 2006クリスマス 41 - 38.00 - 25.00 15.00 - - - - - 卓球ボール 1 0推定値 - - - - - 4.00 - - 1.00 - 温泉ちびちゃる 10 - - - - - 8.00 - - 2.00 - 種スイカ 25 0推定値 - 0.66 - 2.00 - - - 2.00 - - マランダ依頼 夏祭り 5 - 1.00 - 3.00 - - - 3.00 - - たまご 1 0推定値 - - - - 0.71 - - - - - コケコ 4 - - - - 1.00 - - - - - タマゴサンド 1 0推定値 - - - 1.81 2.72 - - - - - タマゴさん 2006クリスマス 1 - - - 2.00 3.00 - - - - - タンバリンL 1 0推定値 - 1.81 - 2.72 - - - - - - 福袋小 2007お正月 1 - 2.00 - 3.00 - - - - - - ダンピールの盾 90 0推定値 0.83 8.75 3.75 - 1.66 - - - - - 福袋軽 2008お正月 14 2.00 21.00 9.00 - 4.00 - - - - - 小さな枝 1 0推定値 0.95 - 1.90 - - - - - - 2.85 ようちゅ 32 4.00 - 8.00 - - - - - - 12.00 小さな黄緑雑草 1 0推定値 0.90 - - - - - - - - 5.75 黄緑草くん 23 3.00 - - - - - - - - 19.00 チーズクラッカー 32 0推定値 - 1.00 1.00 1.00 3.00 0.33 - - - - チーズ・ク・ラッカー 20 - 3.00 3.00 3.00 9.00 1.00 - - - - チーズケーキ 29 0推定値 - - 0.83 2.50 1.66 0.83 - - - - チーケー 2 - - 1.00 3.00 2.00 1.00 - - - - 力の拳L 1 0推定値 0.90 - - - - - - - - - ライナ 1 1.00 - - - - - - - - - チッチ人形 10 0推定値 - 0.90 - 1.81 0.90 - - - - - ライナ仕立て 1周年 1 - 1.00 - 2.00 1.00 - - - - - チッチ人形β 2 0推定値 - 1.00 - 2.00 - - - 1.00 - 1.00 チッチ 1周年 10 - 2.00 - 4.00 - - - 2.00 - 2.00 チッチの羽 5 0推定値 - 0.50 - 1.00 - 2.00 - - 1.00 - チッチ 1周年 30 - 2.00 - 4.00 - 8.00 - - 4.00 - チッチパペット 5 0推定値 - 1.00 - 3.00 2.00 - - - - - キャッシュ 1周年 10 - 2.00 - 6.00 4.00 - - - - - チビバター 1 0推定値 - - - 0.52 - - - - - - 花メーメー 9 - - - 1.00 - - - - - - チビマヨネーズ 22 0推定値 - 0.76 - 1.53 - - - - - - 花メーメー 3 - 1.00 - 2.00 - - - - - - チュー独楽音頭 24 0推定値 - 3.63 - 2.72 - - - - - - 城下依頼 2008お正月 1 - 4.00 - 3.00 - - - - - - チョコ入りマシュマロ 8 0推定値 - 0.62 - 1.87 - - - - - - マシューチョコ 2007ホワイトデー 6 - 1.00 - 3.00 - - - - - - チョコレートマシュ 16 0推定値 - 2.00 - 1.50 - - - - - - マシューチョコ 2007ホワイトデー 10 - 4.00 - 3.00 - - - - - - 墜落ジェット 23 0推定値 0.52 2.63 - - 1.57 1.57 - - - - クリスマスBOX小 2007クリスマス 9 1.00 5.00 - - 3.00 3.00 - - - - 手作りラブチョコ 1 0推定値 0.66 - 8.00 - - - - - - - スウィートタウン仕立て 2007バレンタイン 5 1.00 - 12.00 - - - - - - - 手にしたお宝 80 0推定値 - 7.74 3.22 2.58 1.93 - - - - - キャッシュ 2008 9~10月 21 - 24.00 10.00 8.00 6.00 - - - - - 手載せリースL 25 0推定値 - 0.90 1.81 0.90 2.72 - - - - - クリスマスタウン 2006,2007クリスマス 1 - 1.00 2.00 1.00 3.00 - - - - - てのり柏餅 12 0推定値 - 2.00 - 3.00 - - - - - - 柏餅くん親子 2006柏 10 - 4.00 - 6.00 - - - - - - 手乗りタコ君 1 0推定値 - 3.79 - 0.68 - - - 1.72 - - タコ君 19 - 11.00 - 2.00 - - - 5.00 - - 手乗りタコ美 1 0推定値 - 2.72 - 1.81 - - - 1.81 - - タコ美 23 - 9.00 - 6.00 - - - 6.00 - - デビュー花束 60 0推定値 - 8.82 2.94 5.88 - - - - - - クリスマスBOX軽 24 - 30.00 10.00 20.00 - - - - - - 毒キノコ 20 0推定値 - 1.00 - 3.00 - - 1.00 - - - 猛毒キノコン 30 - 4.00 - 12.00 - - 4.00 - - - 鍋のふた 1 0推定値 - 1.00 - - - - - - - - ライナ 10 - 2.00 - - - - - - - - 生クリームプリン 55 0推定値 - - - 3.63 2.72 2.72 - - - - プリ男 12 - - - 8.00 6.00 6.00 - - - - 生ハムクラッカー 1 0推定値 - 1.00 - 1.00 2.00 1.00 - - - - ハムス・ク・ラッカー 10 - 2.00 - 2.00 4.00 2.00 - - - - ねぎすかりばぁ 1 0推定値 1.00 - - - - - - 1.00 - - ダンシングキノコ 30 4.00 - - - - - - 4.00 - - パープラムチュパ 100 0推定値 - 6.00 - 3.00 - - - - - - パロット 2007クリスマス 30 - 24.00 - 12.00 - - - - - - 破壊飴苺 1 0推定値 0.90 - - 1.81 - - - - - - スウィートタウン依頼 2007ホワイトデー 1 1.00 - - 2.00 - - - - - - 破壊飴キウイ 1 0推定値 0.90 0.90 - - - - - - - - スウィートタウン依頼 2007ホワイトデー 1 1.00 1.00 - - - - - - - - 破壊飴ソーダ 1 0推定値 0.90 - - - - 1.81 - - - - スウィートタウン依頼 2007ホワイトデー 1 1.00 - - - - 2.00 - - - - 破壊飴葡萄 1 0推定値 0.90 - - 0.90 0.90 - - - - - スウィートタウン依頼 2007ホワイトデー 1 1.00 - - 1.00 1.00 - - - - - 破壊飴蜜柑 1 0推定値 1.00 - - - 2.00 - - - - - スウィートタウン依頼 2007ホワイトデー 10 2.00 - - - 4.00 - - - - - 破壊飴桃 1 0推定値 1.00 - 1.00 1.00 - - - - - - スウィートタウン依頼 2007ホワイトデー 10 2.00 - 2.00 2.00 - - - - - - 白銀小型犬雪 90 0推定値 - 14.37 - 5.93 - - - - - - キャッシュ 2008 12月 22 - 46.00 - 19.00 - - - - - - バナナヌンチャクL 35 0推定値 1.85 - - - 2.96 - - - - - ヤッシー 夏祭り 17 5.00 - - - 8.00 - - - - - バニーラグベイビー 1 0推定値 - 4.00 1.00 2.00 - - - - - - キャッシュ 2周年 30 - 16.00 4.00 8.00 - - - - - - バブルコキュール 1 0推定値 - 8.00 2.00 3.00 - - -3.00 4.00 - - 金箱2 2006クリスマス 20 - 24.00 6.00 9.00 - - -9.00 1~ 2.00 - - ハム 1 0推定値 - - - 0.76 - 0.76 - - - - 仔ハヤブタ 3 - - - 1.00 - 1.00 - - - - バリアスチュパ 120 0推定値 - 7.00 3.00 - - - - - - - 2007クリスマス 30 - 28.00 12.00 - - - - - - - ビタクッチクッキー 16 0推定値 - 1.00 - 1.00 1.00 - 1.00 - - - ビタクッチ 2007ホワイトデー 10 - 2.00 - 2.00 2.00 - 2.00 - - - ヒマワリミニブーケ 120 0推定値 - 12.85 - 4.85 - 2.00 2.85 - - - キャッシュ 2008 6~7月 25 - 45.00 - 17.00 - 7.00 10.00 - - - 姫クラおもちゃ 30 0推定値 - 1.81 4.54 6.36 2.72 - - 1.81 - - マランダ依頼 1 - 2.00 5.00 7.00 3.00 - - 2.00 - - 100円 35 0推定値 - 2.00 - 3.00 - - - - - - お中元小 2007夏祭り 10 - 4.00 - 6.00 - - - - - - ぴよこチョコ 13 0推定値 - - - 4.00 - - - - - - キャッシュ 2007バレンタイン 10 - - - 8.00 - - - - - - ぴよボール 23 0推定値 - 2.72 - - - - - - - - アジアンリゾート 夏祭り 1 - 3.00 - - - - - - - - フウちゃん 150 0推定値 - 15.78 - 7.89 0.78 - - 2.89 - - キャッシュ 2008 12月 28 - 60.00 - 30.00 3.00 - - 11.00 - - フェリー 150 0推定値 - 15.00 - 6.00 - - - - - - ブルフラ 30 - 60.00 - 24.00 - - - - - - ブッチ義理チョコ 1 0推定値 - - - 2.00 - - - - - - キャッシュ 2007バレンタイン 10 - - - 4.00 - - - - - - フヨフヨ使い魔 20 0推定値 - 3.75 1.25 - - 1.25 - - - - プレゼントBOX小 2008クリスマス 6 - 6.00 2.00 - - 2.00 - - - - ぶら下がりトナカイ 125 0推定値 - 14.00 - 6.00 4.00 - - - - - キャッシュ 2008クリスマス 25 - 49.00 - 21.00 14.00 - - - - - プリティ赤手袋L 52 0推定値 - 1.92 - 5.00 1.92 - - - - - サンタガール 2006クリスマス 16 - 5.00 - 13.00 5.00 - - - - - ブリドルグラブ 20 0推定値 - 5.86 - 2.75 - - - - - - クリスマスBOX軽 2008クリスマス 19 - 17.00 - 8.00 - - - - - - フルドルマント 40 0推定値 - 8.21 - 1.78 1.78 - - - - - クリスマスBOX軽 18 - 23.00 - 5.00 5.00 - - - - - ブルバケ 140 0推定値 - 15.94 - - - 10.81 - - - - キャッシュ 2009 1月 27 - 59.00 - - - 40.00 - - - - ブルブレイトチュパ 130 0推定値 - 8.00 - - - 3.00 - - - - 2007クリスマス 30 - 32.00 - - - 12.00 - - - - 風呂上り牛乳 1 0推定値 - 1.86 - - - - - 2.79 - - 温泉フェアリー 33 - 8.00 - - - - - 12.00 - - プリンアラモード 40 0推定値 - - - 3.84 2.30 - - - - - アラモ 3 - - - 5.00 3.00 - - - - - ぺローン飴キウイ 16 0推定値 - 1.17 - 1.76 - - - - - - キウイペロッチュ 2007ホワイトデー 7 - 2.00 - 3.00 - - - - - - ぺローン飴ソーダ 8 0推定値 - 1.00 - - - 2.00 - - - - ソーダペロッチュ・葡萄ペロッチュ 2007ホワイトデー 10 - 2.00 - - - 4.00 - - - - ぺローン飴パイン 25 0推定値 - 2.00 - - 4.00 - - - - - 蜜柑ペロッチュ 2007ホワイトデー 10 - 4.00 - - 8.00 - - - - - ぺローン飴桃 1 0推定値 - - - 1.66 - - - - - - 桃ペロッチュ・苺ペロッチュ 2007ホワイトデー 8 - - - 3.00 - - - - - - ポインセチアL 8 0推定値 - 0.52 - 4.73 1.57 - - - - - ホワイトローズ妖精・レッドローズ妖精 2006クリスマス 9 - 1.00 - 9.00 3.00 - - - - - ぽよチョコ 1 0推定値 - - - 3.00 - - - - - - キャッシュ 2007バレンタイン 10 - - - 6.00 - - - - - - ポリスシールド 48 0推定値 - 6.47 - - 2.35 2.94 - - - - クリスマスBOX 2007クリスマス 7 - 11.00 - - 4.00 5.00 - - - - ポリス手帳 31 0推定値 - 4.50 - 1.50 3.50 - - - - - クリスマスBOX 2007クリスマス 10 - 9.00 - 3.00 7.00 - - - - - ポリスマグナムβ 61 0推定値 6.84 2.63 - - - 2.63 - - - - クリスマスBOX 2007クリスマス 9 13.00 5.00 - - - 5.00 - - - - マインゴーシュ 1 0推定値 4.00 2.00 - - - 0.80 - - - - シーフ 15 10.00 5.00 - - - 2.00 - - - - マジックカーテン 5 0推定値 - 1.00 1.00 2.00 - - - - - - キャッシュ 夏祭り 10 - 2.00 2.00 4.00 - - - - - - マジックブック赤 126 0推定値 0.90 2.72 2.72 - - - - - - - マランダ依頼 1 1.00 3.00 3.00 - - - - - - - マシュル盾 26 0推定値 - 3.00 - 3.00 - - - - - - ピノコ村 10 - 6.00 - 6.00 - - - - - - まじょっこケータイ 25 0推定値 - 2.00 2.00 2.00 - - - - - - 福袋 2008お正月 15 - 5.00 5.00 5.00 - - - - - - マツタケ 10 0推定値 - - - 5.00 - - - - - - 赤キノコりっす 30 - - - 20.00 - - - - - - 抹茶ケーキ 55 0推定値 2.00 - - 2.00 2.00 4.00 - - - - 抹茶ノ助・忠明 10 4.00 - - 4.00 4.00 8.00 - - - - まんぼー 43 0推定値 - 5.00 - 2.91 - - - - - - 福袋 2008お正月 14 - 12.00 - 7.00 - - - - - - みずたまローリング 5 0推定値 - 0.93 - - - 2.81 - 0.93 - - 水玉箱 みずたまくん祭り 22 - 3.00 - - - 9.00 - 3.00 - - 緑クマハンドL 10 0推定値 - 2.66 - 0.66 - - - - - - チョコベイクッキー 2007クリスマス 5 - 4.00 - 1.00 - - - - - - 緑ケムチの針 5 0推定値 1.84 0.78 - - - - - - - 2.89 緑ケムチ 28 7.00 3.00 - - - - - - - 11.00 ミニキャンドルL 1 0推定値 - 1.81 - 1.81 0.90 - 0.90 - - - ちゅちゅ雪だま 2006クリスマス 1 - 2.00 - 2.00 1.00 - 1.00 - - - ミニクロック 60 0推定値 - 1.00 3.00 3.00 - 2.00 - - - - お中元軽 2007夏祭り 20 - 3.00 9.00 9.00 - 6.00 - - - - ミニブック 60 0推定値 2.85 1.78 0.71 0.71 - - - - - - お中元軽 2007夏祭り 18 8.00 5.00 2.00 2.00 - - - - - - 皆へのプレゼント 20 0推定値 - 2.72 - 1.81 0.90 - - - - - クリスマスタウン依頼 2008クリスマス 1 - 3.00 - 2.00 1.00 - - - - - メリベルベルベル小 70 0推定値 - 8.00 3.33 4.00 - - - - - - キャッシュ 2008クリスマス 20 - 24.00 10.00 12.00 - - - - - - モーモーエッグ 15 0推定値 - - 1.00 - 2.00 - - - - - 仔モーモ 10 - - 2.00 - 4.00 - - - - - もさもさぬき 24 0推定値 - 1.81 6.81 1.36 - - - - - - キャッシュ 2007お正月 12 - 4.00 15.00 3.00 - - - - - - 藻ナッコー 1 0推定値 2.00 - - 1.00 1.00 - - 5.00 - - 藻っち 20 6.00 - - 3.00 3.00 - - 15.00 - - モノクロドッグ 24 0推定値 - 3.00 - 3.00 - - - - - - 福袋大 2007お正月 10 - 6.00 - 6.00 - - - - - - 桃イルカ人形 22 0推定値 - 2.00 - 3.50 - - - - - - 城下仕立て 夏祭り 10 - 4.00 - 7.00 - - - - - - 桃白鳥の盾 1 0推定値 - 6.50 - 6.00 1.00 - - - - - 銀袋 2007お正月 10 - 13.00 - 12.00 2.00 - - - - - モンブラン 48 0推定値 - 0.78 - 1.84 5.00 1.84 - - - - モンブゥ 28 - 3.00 - 7.00 19.00 7.00 - - - - 椰子の葉L 30 0推定値 - - - 4.00 0.80 - - - - - ヤッシー 夏祭り 15 - - - 10.00 2.00 - - - - -
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前ページ次ページもう一人の『左手』 「まったく、やられましたな」 そうぼやきながら、羽帽子の男は、エール酒のジョッキをあおる。 ニューカッスルから単身、脱け出してきたワルド子爵であった。 ここは、ニューカッスル包囲軍の本陣近くの、とある天幕。 空になったワルドのジョッキに酒を注ぐのは『土くれ』のフーケ。そして、その様子を冷ややかな眼差しで、額にルーンを刻まれた風見志郎が見ている。 そして、ひとしきり酒で喉を潤した彼は、ジョッキを置き、テーブルの上座の位置に座す、漆黒の僧衣を纏った男に目を向けた。無論、その僧形の男の傍らにはシェフィールドが、気配さえ感じさせぬままに侍っている。 レコン・キスタ最高貴族院議長にして、アルビオン貴族派連合軍総司令官オリヴァー・クロムウェル大司教。……事実上のレコン・キスタの領袖であるが、彼自身は一人の私兵も一寸の領地さえも持たない、ただの神官くずれに過ぎない。 「あのヴァリエール家の旗は、やはり何とかならないかね、子爵」 「何をいまさら。無視を決め込むには、もはや遅きに失したと言うべきでしょうな」 「呑気なことを……!! 君ほどの者が付いておって、何故あのような旗を掲げさせたのだ!!」 もはやレコン・キスタの名で、トリステイン王政府と公爵家に、正式な問い合わせをしてしまっているのだ。無論、それはクロムウェルの指示ではない。貴族としての常識を持った、とある騎士の独断だ。 結果、そのメイジは軍法会議にかけられ、禁固刑を言い渡されてしまった。もっとも彼自身は、戦時国際法に照らし合わせ、何一つ後ろめたい事はしていないと、最後まで主張していたが。 問い合わせた以上は、回答を待たねばならない。その回答が返って来るまでは、貴族派としても、迂闊に城を攻められない。いや、レコン・キスタ首脳部の本当の悩みどころは、そんな王党派の時間稼ぎではない。 クロムウェルのこめかみに、じわりと大粒の汗が浮かぶ。 「あの旗が揚がっている以上、気の短いヴァリエール公爵の私兵隊が、いつ我らが陣中の後背を衝くかもしれんのだぞ!!」 ――そう、そこだ。 王女アンリエッタが、ヴァリエール家の末娘にこの任務を与えたのは、あくまでお忍び。公爵本人や、公爵家に何ら筋を通したわけではない。宰相のマザリーニさえ預かり知らぬ、アンリエッタ個人の私的任務なのだ。つまり、非は一方的に王家サイドにある。 そうなると、王家に次ぐほどの兵力と資産を持つという公爵家サイドが、可愛い末っ子を死地に追いやった王政府に反発して、独断でアルビオンに攻めかかってくるという可能性は、かなり大きい。 枢機卿がアンリエッタに代わって、公爵家に詫びを入れても、彼はトリステイン貴族に人望が無いため、怒り狂った公爵が聞き入れ、矛を収めるとは思えない。 もしそうなってしまったら、トリステイン王政府も指を加えて見ているわけには行くまい。国権の長たるプライドから、そしてヴァリエール家への義理から、必ずや正式な派遣軍をアルビオンに送り込んでくるはずだ。 その際、トリステインと攻守同盟を結んでいるゲルマニアが、どう動くかは未知数だが、皇帝アルブレヒト3世は、度重なる政争の果てに帝位を掴んだような、アクの強い男である。黙って見ているとは思われなかった。 そう考えると、ニューカッスルへの総攻撃など、とても出来るものではない。今すぐにでも包囲網を解体し、陣を組み直さねばならない。なにせ、アルビオンの貴族派は全軍で、このニューカッスルを囲んでいる。 逆に言えば、首都ロンディニウムはおろか、軍港ロサイス、街道の要衝シティオブサウスゴータなど、軍勢の背後は、全くがら空きになっているのだ。 かといって、王党派をここまで追い込んでおきながら、いまさら和議を結んで停戦するほど、貴族派はめでたくは無い。テューダー王家がアルビオンにある限り、レコン・キスタは、いつまでたっても反逆者・簒奪者の汚名から脱け出せないのだから。 まさしく、圧倒的な優勢から、旗一本で膠着状態に持ち込まれてしまったのだ。 だが、ニューカッスルから単身脱出してきたワルドの態度は、飄々としたものだった。 彼は、クロムウェルの焦りをよそに、ぬけぬけと『喉が乾いた』と言ってエール酒を要求し、いまも、声を荒げるクロムウェルを前に、表情一つ変えない。 つまり彼は、 「策はありますよ」 と、こう言い切ったのだ。 「……」 クロムウェルは、さすがに一介の神官から、浮遊大陸を席巻する一大勢力の首領となった男である。そんな内実が伴うか不明な言葉に、ほいほい喜ぶような底の浅さを見せる真似はしない。 ただ、蛇のような目で、鋭くワルドを睨んだままである。 「聞かせてもらおうか」 ――くだらぬ話なら、この場でその首、叩き落すぞ。 僧帽の下から薄く光る眼差しが、そう言っている。 その眼光は、逆に言えばいかにクロムウェルが、これから吐かれるワルドの言葉に耳を傾けているか、その証明でもあった。 そしてワルドは、そんなクロムウェルの目を見て、――笑った。 「レコン・キスタとしては、今宵にでも、総攻撃をかけられませい」 クロムウェルの眼光が、鋭さを増した。 「……なにぃ?」 「ヴァリエールの末娘にしても、使いようによっては、公爵家をトリステイン王家から離反させる手駒として使えましょう」 「人質、か……?」 クロムウェルの表情が緩む。安心から発生した微笑ではない。 ――この男も所詮はこの程度か。そんな嘲りが混じった笑いだ。 「甘いな。仮にもトリステイン第一の家格と伝統を持つヴァリエール公爵家が、たかが娘一匹と引き換えに、国家反逆の汚名に甘んじると、本気で考えておるのか?」 だが、ワルドは冷静だった。 「それは閣下の解釈でござろう。わたしの考えは少し違います」 どうやら、ただの希望的観測ではないようだ。だが、話を最後まで聞くまではクロムウェルとしても、何も言いようがない。 「閣下は、ヴァリエール公爵の人となりを御存知でない。あの方が、魔法もロクに使えぬ末っ子に、どれだけの深い愛情を注いでおられるか、閣下は御存知でない」 「……」 「ですが、わたしは違います。――仮にもわたしは、ルイズ・フランソワーズと婚約まで結んでいた身ですからな。一時期は、家族同然に扱っていただいた覚えがあります。つまり公爵も、公爵夫人も、ルイズを含めた三人の娘たちも皆、等しく“知って”おります」 「ヴァリエールの末娘は、人質になり得る……そういうことか……!?」 そのクロムウェルの問いに頷くワルドの笑みには、もはやふてぶてしいと形容すべき毒素が、十二分に含まれていた。少なくとも、ルイズは、婚約者のこんな獰猛な笑顔を見たことは無いはずだ。 「不肖の子ほど可愛いと一般にも言われますが、それは何も、平民や町民に限った話ではありませぬ。ましてや、そんな我が子を戦場に直接送り込んだ責任は、王女その人にあることは明々白々。そんな王家に、あえて忠誠を尽くすほど公爵は穏健ではありませんぞ」 「……」 確かに、ワルドの言い分には説得力がある。 だが、クロムウェルとしても、よし分かったと気安く頷くわけにはいかない。 ワルド自身が言ったように、クロムウェルはヴァリエール公爵に関する情報を、何も持っていないからだ。 公爵が、娘一人と国家反逆を天秤にかけて、こちらの思い通りに動くような男かどうかは、圧倒的に未知数である。いや、むしろ分が悪い賭けだと言ってもいいだろう。 だが、分が悪いからといって、このまま手をこまねいているわけにはいかない。『何もしない』という事こそが、いま一番最悪な選択肢である事は、誰の目にも明らかなのだから。 「……ワルド君」 「はい」 「分かっているとは思うが、今一度、念のために訊こう」 「なんなりと」 「ニューカッスル総攻撃にあたり、問題点は二つ。一つは、ルイズ・フランソワーズの身柄に、傷一つ付けてはならぬということ。そしてもう一つは――」 「短期決戦、でございますな?」 クロムウェルは、大仰に頷いた。 「――そうだ。仕掛ける以上は、次なる攻撃こそを最終攻撃とせねばならない。ヴァリエール家がどう出ようが、トリステインがどう動こうが、やつらがアルビオンに出師する前に、ニューカッスルを陥とさねばならない。絶対に。何があっても絶対にだ」 しかし、ワルドの微笑は、その獰猛さを隠さない。 「ご安心を。伊達にトリステインの大使を名乗って、ニューカッスルに潜り込んではおりません。すでに攻略法は考えてあります。それに、どのような乱戦になろうとも、小娘一人を守り切るなど、この『閃光』のワルドには、いと雑作もなきこと」 つまり、貴族派がニューカッスルに乱入しても、敢えてトリステインのワルド子爵として戦い、ルイズを守るとワルドは言っているのだ。どちらにしろ小娘の眼前で、裏切り者の仮面を脱ぐ事は出来ないから、捕虜になるまで戦うしかない。 どうせやるなら、そこまで徹底しなければ、芝居も意味を失ってしまう。ワルドとしても、今の段階でルイズの信頼を失うわけには行かないのだから、そこのところは考えてある。 貴族派が欲しい首は、あくまで王党派首脳部の首であり、トリステイン大使ではないのだ。むちゃくちゃな抵抗さえしなければ、自害に追い込まれる事も無いだろう。 「なるほど、流石はトリステインの魔法衛士隊を預かるだけの事はある。大した自信だ。――ならば次は、君が言うニューカッスル攻略法とやらを聞かせてもらおうか?」 「はい」 ワルドは、エール酒を一口飲むと、再び口を開いた。 「閣下は、ニューカッスルの地下に、浮遊大陸の真下から通じる大穴が存在するのを御存知ですか?」 ――今晩中に王党派の息の根は止めてやる。 ワルドは心中で呟いた。 そして、 (だがクロムウェル、貴様がその地位にいられるのも、今宵限りだ) と、いう一言も。 「そうか。やっぱり……ここには、『俺』がいたんだな……?」 うめくように声を上げる風見志郎に、ティファニアは黙って頷いた。 ここはシティオブサウスゴータと港町ロサイスを結ぶ街道から、少し外れた森の中にある小さな集落――ウェストウッド村。 壮年以上の大人たちは誰も住んでおらず、このティファニアと名乗るハーフエルフの少女と、彼女が面倒を見る孤児たちが暮らす、村と呼ぶのもはばかられるほどの、十軒ほどの小さな村。 風見志郎は、その一軒にいた。 自分の事を『ブイスリー』と呼びつつ、物怖じせずにまとわりついてくる子供たち。だが、少女が『彼は疲れているのよ』と言うと、全員仲良く外に出て行ってしまった。 残ったのは、けげんな顔をしている美少女――ティファニア一人のみ。 「正直に言って、わたしには、あなたが何を言っているのかサッパリ分かりません。ですが……わたしたちの知るブイスリーと、あなたが別人であるという事だけは、どうやら信じざるを得ないようですね……」 森の中でワイバーンから助けてやった時に、彼女の見せた反応。明らかにこの少女――ティファニアが、『自分』に面識があることは、風見にも分かっていた。 それほどティファニアの初対面の行動は、風見の予想を超えていた。なんとイキナリ、胸に飛び込まれ、わんわん泣かれてしまったのだ。 V3の姿に怯えて流した涙ではない。ワイバーンから助かった安堵の涙でもない。 逢いたかった信じていたと、再会を祝う涙を流されては、彼としても戸惑う以外に為す術はなかった。自然、この美少女が『V3の姿をした何者か』と、自分を勘違いしていると考えるのが筋であろう。 そう考えることに、いまさら風見は矛盾を感じていなかった。 なんとなれば、ついさっき、愛車たるハリケーンを“逆ダブルタイフーン”で撃墜した、もう一人のV3の姿を、彼自身が目撃していたからだ。 最初、この美少女は、ここにいる風見志郎が、彼女の知る何者かとは明らかに別人であるという事実を、なかなか信じようとはしなかった。 まあ、無理はない。 顔も同じ。声も同じ。同じ特殊能力を持ち、変身後の姿も、何もかも同じ。 何しろ、彼女らの知る“ブイスリー”と、ここにいる風見志郎は、生物的には全く同じ人間なのだ。 そんな人間がぶらりと現れて、おれとそいつは別人だ、などと言ったところで、誰が信じるだろう? 普通はまず、その人物の言い分を聞く前に、正気を疑うのが先だろう。 だからティファニアが最初にした事は、あなたは疲れているのよ、とにかく家に帰りましょうと言って、風見をこの集落に引っ張って来ることだった。 だが、風見のことに、うすうす違和感は覚えていたらしい。 彼女曰く、その“使い魔”は、風見ほどの無愛想さを身に纏ってはいないらしい。 そして、風見の左手に刻まれたルーンを見たとき、初めて少女の瞳にあからさまな警戒が浮かんだ。 「あなたは、いったい誰なんです……? わたしが召喚したブイスリーは確か、そのルーンを左手ではなく、胸に刻んでいたはずですが……?」 「ようやく会話が成立しそうだな」 風見は、怯える少女に、にこりともせずにそう言った。 「その前に聞かせてくれないか。君が召喚した“使い魔”のことについて、詳しく」 「あの人は……1年ほど前に、わたしがサモン・サーヴァントで召喚したんです。まさか、人間が召喚されるなんて思わなかったですけど……」 彼女は、それまで自分をメイジと認識すらしていなかったらしい。 魔法が全く使えなかったわけではない。だが、彼女が使用できる呪文は一つだけ。親代わりに面倒を見てくれた姉も、やがて魔法を教える事に匙を投げ、それ以降、魔法とは殆ど関わりのない生活を送ってきたのだという。 そんな彼女が、“サモン・サーヴァント”を試してみようという気になったのは、彼女が面倒を見ている孤児の一人が、森で野獣に食い殺されてしまった時。血は繋がっておらずとも、『我が子』が非業の死を遂げた悲嘆と孤独に耐えかね、彼女は―― 「で、試しにやってみたら、『俺』が現れた、というわけか」 ティファニアは、その台詞に無言で頷いた。 「でも、ゲートの中から現れたあの人は、何も自分の事を覚えていませんでした。一切の記憶を失っていたんです。覚えていたのは、“ブイスリー”という名前と、変身の能力だけ……」 「怖くなかったのか……? そいつは、――いや、俺たちは、普通の人間じゃないんだぞ」 そう問われて、少女の顔に初めて、うっすらとした笑顔が浮かぶ。 「わたしはエルフの血を継ぐ者です。怖がられる事があっても、わたしが誰かを怖がる事はありませんわ。ましてや、わたしがこの手で召喚した、大切な家族を怖がるなんて」 こっちに召喚された『風見志郎』は、上手くやっていたらしい。少女の笑顔を見て、風見はそう判断した。日本の記憶を失っていたことが、どうやらプラスに働いていたようだ。 (ラッキーな奴だ。帰るべき世界の記憶がなければ、未練の持ちようが無いからな) だが、気になるのは、そこから先だ。 この少女は確か、“ブイスリー”はニューカッスルに行ったと言っていた。 つまり、言わずと知れた貴族派と王党派の戦場である。そんなところへ改造人間が何をしに行ったのか。 「……はい。ウェールズ殿下から密かに打診されたのです。王家のために、そのブイスリーの力を貸してはくれぬか、と」 思わず風見は立ち上がっていた。 「ばかな……!!」 この俺が……たとえ記憶を失っていたとしても、この俺が……“仮面ライダー”たる誇りをドブに捨てて、醜い内戦ごときに力を貸しているというのか……!? 権力の犬となって、改造人間のパワーを、ただの人間相手に振るっているというのか……!? 風見にとって、その一言は、まさしく寝耳に水であった。 だが、その風見の剣幕は、ティファニアを怯えさせるには充分だったのだろう。ひっ、と息を飲み込むと、いかにも済まなさげに、事情を説明し始める。 「ウっ、ウェールズ殿下は、マチルダ姉さんが出て行ったあと、密かに何かと、わたしたちの面倒を見てくれた恩人でもあるんです! 殿下は、王家再興の暁には、ふたたびモード大公家の名誉を回復すると約束して下さいました!! だからブイスリーは……」 だが……。 わたしが止めるのも聞かず、行ってしまったのです。そう言った時、少女の瞳は涙に濡れていた。おそらく、いま彼女の胸のうちでは、彼を制止できなかった自分の無力さを苛む声が、轟くほどの音量で暴れ狂っているに違いない。 「……」 風見は、そんな少女に、かける言葉を持たなかった。 「しかし、本当にいいのかいルイズ? ぼくたちはあくまでお忍びでアルビオンに来ているんだよ。それを……あんな旗を、この城に掲げるということが、どういうことか本当に分かっているのかい?」 「いいんです。もう仰らないで下さい、子爵さま」 ワルドの言葉を切って捨てたルイズの声は硬かった。 「これは、わたしが決めた事なんです。姫さまだって、お父様だって、きっと分かって下さいますわ」 そう言い切った小さな背中は、婚約者の方を振り返りもしない。そのまま靴音を響かせて、ウェールズの部屋に向かっている。 (やれやれ……) ワルドは、心中呟いた。 「殿下、ルイズ・ラ・ヴァリエールとワルド子爵にございます」 扉をノックし、二人は室内に通された。 ルイズは二度目だが、ワルドは初めてだ。この皇太子の私室にしては、呆れるほどに簡素な室内を見て、ワルドは声すら出なかった。 だが、ルイズはそんな事にお構いなく、王子に本題を切り出す。 「殿下。何か、このわたくしにお預けになりたいものがあると伺いましたが……」 「ああ、これだよ。これを是非ともアンリエッタに渡して欲しいんだ」 そう言って、ウェールズは、例の手紙が入っていた小箱から、一冊の小冊子を取り出し、ルイズに手渡した。 「これは……?」 ウェールズは顔色も変えずに答えた。 「我がテューダー朝アルビオンが滅亡の一途を辿った、その過程を、僕なりに分析して記したものさ」 「殿下……!?」 ルイズが絶句する。 形こそ違うが、これはどう考えても遺言ではないか。 「亡国の王子が、この地上に遺せる最後のものだ。何があっても絶対に、アンリエッタのもとに届けてくれたまえ」 「殿下……殿下は、もう、覚悟をお決めになられてしまわれたのですか?」 少女は、王子に詰め寄った。が、ウェールズの微笑みは崩れる気配さえない。 「この政策メモには、本邦衰亡の原因究明以外にも、――国家を興すとはどういう事か、民を牧すとはどういう事か、それを僕なりに頭を捻って、僕なりの答えを書いたつもりだ。きっとアンリエッタの役に立つだろう」 だが、勘違いはしないでくれたまえ。ウェールズは悪戯っぽくそう言うと、 「僕は、これでもニューカッスルで死ぬつもりは、断じてない。この世でテューダー王朝を再興できる者は、この僕以外にいないのだからね。石にかじりついてでも、この包囲網を脱出してみせる」 ウェールズは、ルイズに『亡命はせぬ』と言い切ったその口で、こともなげに王家の再興を宣言する。いや、口だけではない。彼の目からは満腔の自信が溢れんばかりに放たれている。おれならば出来る。彼は真実それを全く疑っていないのだろう。 ――何という男だ……!! 事ここに及んで、未だ望みを失わざる、その覇気。 それでいて、失政の原因をおざなりにせず追求する、その為政者としての目。 ワルドは、このウェールズという男と、もっと違う出会い方が出来なかった事を心底悔やんだ。少なくとも、これほどの男が、同志としてレコン・キスタにいたならば、どれほど心強いか知れたものではない。 だが、もう遅い。 遅いのだ。 ワルドの偏在がニューカッスルを脱け出して数時間になる。 今頃は、レコン・キスタの本陣で、この城を陥落させるための最終作戦会議が行われているはずだ。そして、もうそろそろ、城の真下の大穴めがけて貴族派の艦隊が発進することだろう。 「分かりました殿下……。この手記は、必ずやアンリエッタ姫殿下に手渡させて頂きます」 ルイズが、口を真一文字に結んで誓う。 (何をばかな……トリステインに持ち帰ったところで、宝の持ち腐れよ) ワルドとしても、明晰で知られるウェールズが記した貴重な政策メモを、アンリエッタごときに呉れてやる気はさらさら無かった。テューダー王家滅亡後のアルビオン統治計画に於いて、このメモは計り知れぬ価値をもつであろう。 (安心しろウェールズ。お前の政策は、すべておれたちが引き継いでやる。共和政の名のもとにな) その時だった。 「殿下! 失礼致します!!」 扉をノックした、その声は、いつかの少年兵のものであった。 「使い魔たちから連絡が入りました。叛徒どもが、叛徒どもが動いたそうです!!」 「空襲か?」 ウェールズの問いに、少年兵はむしろ目を輝かせて答えた。 「いえ、それが――貴族派の艦隊は、アルビオンの直下へ向かっている模様です!!」 「えっ!?」 反射的にルイズが声を上げる。 早すぎる!? ヴァリエール家の旗は、もう少しレコン・キスタの諸侯たちを釘付けに出来ると思ったが、甘かったということ!? って言うか、貴族派が何で地下の縦穴を知っているの!? だが、次の瞬間、ルイズはさらに頭脳がフリーズしてしまう。 ウェールズが、声を立てて笑ったのだ。 「そんなに不安そうな顔をしないでくれたまえ、ヴァリエール嬢。こんなにも早く、僕の言葉を証明できる機会が来てくれた事を、つい始祖に感謝してしまったのさ」 むしろ、その言葉に愕然とするのは、ワルドの方であった。 どういうことだ!? それは一体どういうことだ!? 地下の大穴こそが、このニューカッスルの死命を制する弱点だったのではなかったのか!? 「まったく、このニューカッスルの地下港をようやく発見してくれたのか……。無能すぎる敵だと逆にこちらの計算が伴わぬゆえ、困っておったのだが……ふふふふふ……!!」 「はい、――これでようやく、謀反人どもに目にモノ見せてやれまする」 ――虚勢ではない!? ウェールズも、そしてこの少年兵も、まさしく勝利を確信した笑みを浮かべていた。 だが、まだワルドには、ウェールズの腹の内が分からない。 一体どうするつもりなのだろう。艦隊と平行して、包囲軍も動き出しているはずだ。三百少々しか手勢を持たぬ王党派が、それら貴族派全軍を向こうに回して戦えるわけが無い。 「全軍に通達せい!! 『イーグル』号、『マリー・ガラント』号は十分後に艦隊を組んで出航!! 残りの全戦闘員は、武装に身を固め“虎ノ門“に集結! 号砲と同時に地上に攻撃を開始せよ!!」 「はっ!!」 少年兵が退室すると同時に、ウェールズは、獰猛な笑顔で振り返った。 「ついて来られい大使殿よ。これより奇跡を御目にかける」 「きゅいきゅいっ、もう、もうっ、限界なのねっっ」 シルフィードの声の後に、ばたりと人が倒れる音がした。 そして、ごちりと何かが堅い物を打つ音も。 「いたいっ、いたいのねっ!! おねえさま、可愛い使い魔に暴力を振るうのは、ダメなのねっ!!」 だが、シルフィードが愚痴を垂れるのは、ある意味、仕方が無い。 何せ、彼女は竜なのだ。 それが、魔法で人間に変身して、ただでさえ疲れ易いこの暗闇の狭い地下道を、慣れない二足歩行で、一行と共に歩いているのだ。普段している四足歩行に比べて、二重の意味で疲労が溜まるのは当然だろう。 さすがに黙っていられなくなったのか、才人は口を出した。 「おいっ!! 待てよタバサっ!! シルフィの言う通りだ、そろそろ休憩を取ろう!!」 「まだ早い」 「いや、でも――」 「さっき休んだばかり」 しかし、いい加減疲れていたのはシルフィードだけではない。ギーシュやキュルケも、かなり疲労が溜まっていたので、絶好のチャンスとばかりに才人とシルフィードに肩入れする。 「まあ、そう言うなよタバサ。あまり無理をしても行軍速度が遅くなる一方だと思うよ」 「仕方ないわね。あたしは別にそれほど疲れてないんだけど、ギーシュやサイトが、そう言うんなら、小休止を取るにやぶさかじゃないわよ」 ふん。 暗闇の中、タバサが溜め息を洩らす音が聞こえる。 「なら、10分休憩」 その声は、冥界のような暗黒の中でも、彼ら三人にとっては、天使の吐息のように聞こえた事だろう。キュルケ、ギーシュ、才人は安堵の息を吐きながら、闇の中に腰を降ろした。 「きゅい~~~」 先程から寝転がりっぱなしのシルフィードも、喜びの声を上げる。 タバサは焦っていた。 ニューカッスルまで、およそ20リーグ。 まともに歩けば一日の距離。シルフィードで飛べば一時間の距離だろう。 だが、ヴェルダンデが掘り出した、この地下道を歩き出して、そろそろ二日目になろうというのに、一行は、まだ道程の三分の二も踏破していない。 このままのペースだと、最悪ニューカッスルの陥落に間に合わない可能性もある。 だが、無理を強いる事は出来ない。 タバサとしても、この一寸の光さえ差さない闇中行軍が、これほど人間の体力を削ぐとは思ってもいなかったからだ。夜の闇より更に深い暗黒の中を、手探りで歩く。――これが夥しいほどの集中力と体力を要する作業である事を、彼らはまさしく思い知ったのだ。 だからといって、この迷いようも無い一本道で、無意味に“ライト”の魔法を使うなど、魔力の無駄遣いもいいところだし、かといって松明を燃やすなどさらに論外だ。 だが、タバサ自身の不安要素は、まだ存在した。 そう。実は、口にこそ出さなかったが、タバサも疲労の度合いは、ギーシュやキュルケたちよりもさらに重いものであった。 何しろ彼女は、常に魔法を使って、酸欠防止のためにトンネル内の空気を動かしながら進んでいるのだ。ただ歩いているだけの他の連中より疲れていても当然だろう。 (でも、もう……いまさら引き返すわけにも行かない) タバサは、自らが立案したこの地下道行軍に、少なからぬ不安を感じ始めていた。 「10分経った」 そう言うと、タバサは立ち上がった。 いつまでも休んでいるわけには行かない。時間がない、ということもあったが、あまり横になったり腰を落ち着けたりしていると、体全体に蓄積した疲労が下半身にきてしまう。そうなると、本格的にやばい。もう歩けなくなってしまう。 「きゅいきゅい~~」 いかにも嫌そうなシルフィードの声が響く。 やれやれ、どっこいしょ。といったギーシュの声や、あとどれくらい歩くのかしら、といったキュルケの声も聞こえて来る。さすがに『あと6リーグちょい』とは、タバサとしても言えないので、黙っておく。 いま自分たちが、何リーグ歩いて来たのかは、歩幅と歩数で見当は付く。 142サントのタバサの体格なら、やや小股で歩幅は50サント程度と換算すれば、あとは歩数計算で現在位置は割り出せるからだ。歩数のカウントは、タバサは魔法を使いながら、ほぼ無意識でやっていた。 だが、そんな無意識行為が、彼女の集中力をより消耗させているのも、また事実だ。 (あと……6リーグ……!) 腰がふらつき始めたタバサには、その距離は、果てしないものに思えた。 その時だった。 恐ろしいほどの地響きと同時に、凄まじいまでの地震が、この地下道を襲ったのだ。 「……なっ、!!?」 まるで地面の下で、大爆発でも起きたかのような轟音が響き、そして…… 「ああっ!!」 ギーシュが叫んだ。 地下数メイルの坑道の天井に、巨大な亀裂が走ったのを、土系のメイジである彼だけが感じたのだ。 「まずいぞ!! このままじゃ、僕たち――」 「オイ赤毛の嬢ちゃんっ!! 天井をぶち抜いて脱出だっ!!」 ギーシュの言葉を遮る形で、それまで黙っていたデルフリンガーが喚き立てる。 だが、天井をぶち抜けば、そこにあるのは敵陣である。いくらキュルケでも、はい分かりましたと答えられる指示ではない。 「早くしろっ!! このままじゃ、俺たち全員生き埋めだぞっ!!」 キュルケとしても、そう言われてしまえば、さすがに黙ってはいられない。 「タバサっ……!?」 とっさに松明代わりに、小さな炎を灯し、タバサを振り返る。 この面子の中で、坑道の天井を吹き飛ばせるほどの破壊呪文を使えるのは、『火』のトライアングルたるキュルケのみだ。だが、キュルケは自分の呪文以上に、タバサの冷静沈着な判断力を評価していた。こんな異常事態ともなれば、なおさらだ。 そして、タバサは――キュルケを見返し、頷いた。確たる意思を込めた瞳を光らせて。 「ええ~~い!! しょうがない!! みんな、目をつぶって耳を塞ぎなさいっ!! ボッとしてたら鼓膜をやられるわよっ!!」 ルイズは、何が起こったのか分からなかった。 ただ、耳をつんざくほどの爆発音がして、その爆発がまるで花火のように、次から次へと拡がったかと思うと、遥か真下の大洋から、何かが水面に叩き付けられる音がひっきりなしに響き、……そして数分後、ようやく静寂が訪れた。 アルビオンの直下に潜り込む航路を取った貴族派艦隊。これまで座礁を恐れて浮遊大陸の真下には決して進軍して来なかった貴族派のフネが、敢えてその進路を取ったのは、ニューカッスルの大穴の存在に気付き、それを封鎖・占領するためであろう。 それを迎撃するために、ニューカッスルの地下港から出航した『イーグル』号。 ――ワルドとともに『イーグル』号の艦橋に入室を許されたルイズだが、それ以上は分からない。何かが起こった。いや、王党派艦隊が何かを起こしたのは間違いないようだが、爆発音と着水音からだけでは、ルイズの脳では、事態を推測し切れない。 なにせウェールズをはじめ、艦橋にいる王立空軍の士官たちは、説明どころか、空を睨み据えたまま言葉一つ発しないからだ。いや、ルイズと同じく蚊帳の外に置かれているはずのワルドさえも、苦虫を噛み潰したような表情のまま、沈黙を守っている。 「伝令!! 伝令です!!」 そこに、例の少年兵が飛び込んできた。 「作戦は成功!! 敵艦隊は、およそ四個艦隊を大破・墜落させた模様です!!」 その瞬間、艦橋は歓声に包まれ、ルイズとワルドを除く、すべての士官・船員が飛び上がって喜悦の表情を見せた。 「よぉし!! 『イーグル』号はこのまま前進!!アルビオンの地上に出て、敵残存艦隊に攻撃をかけるぞっ!!」 ウェールズの声に、その場にいた全員が咆哮を上げる。 ちんぷんかんぷんな顔をしているルイズを、ほったらかしにして。 (ウェールズめぇ……!!) ワルドの奥歯が、ぎしりと音を立てそうになる。 有能な軍人であったワルドには分かっていた。王立空軍が、一体何をしたのかを。 「ねえ、子爵さま、いったい殿下たちは何をなさったの? 四個艦隊が全滅って、さっきの爆発がそうだっていうことなの?」 ルイズが、どこまでも素朴な質問をしてくる。 ワルドは、舌打ちを懸命にガマンしながら、口を開いた。 「浮遊大陸の真下の岩礁部分に、おそらく“火の秘薬”を仕込んであったのだろう。それを大砲で、一斉射したのだと思うよ」 「……?」 「爆発が爆発を呼び、吹き飛んだ岩礁が、それこそ無数の『砲弾』と化して、その下を進んでいた貴族派の艦隊を襲ったのさ。座礁すればフネさえも沈める巨大な岩礁に、雨あられのごとく降られては、貴族派としても死の川を渉る以外に道は無かったろうよ」 「そんな……だって、浮遊大陸の真下は、光一筋差さない暗黒地帯なのよ? どうやって貴族派の艦隊を補足したって言うの?」 「おそらく使い魔にコウモリでも飼っているメイジがいるんだろう。いや、スクウェアクラスの風メイジならば、たとえ暗闇でも、風を見て艦隊の位置を特定する事は、決して出来ない相談じゃない」 「ご名答!!」 ウェールズは笑っていた。 一分の曇りも無い、まさしく勝利を確信した笑い。 「そして、我らが王党派の軍団は、たったいまの爆発音を合図に、地上へ躍り出て、貴族派の包囲軍の尻を衝いているはずさ」 「尻――ですと!?」 もはやワルドの敬語は、勢い的にカタチだけだ。 だが、勝ち誇ったウェールズは気にもせずに笑い続ける。 「そうさ! 君たちはニューカッスルの地下宮殿が、どれほどの規模のものか知らないだろう? 城から一番遠い鍾乳洞の隠し出口は、なんと城の本丸から直線距離にして5リーグのところにあるのさ!!」 ――城の本丸から、直線距離にして5リーグ……!! ワルドは慄然とした。 彼は、ニューカッスルを包囲する、貴族派の正確な布陣を知らないが、5リーグといえば包囲網の、文字通り陣中の真っ只中だ。もし、そんなところから、王党派が不意に、地面を突き破って出現したとしたら……!! (包囲網は、いや貴族派は、大混乱になるだろう……!!) 「地上に出ますっ!!」 『イーグル』号は、『マリー・ガラント』号を引き連れて、いま、アルビオンの上空に姿を現した。久しぶりに見る双月が、まるで彼らの勝利を祝うかのように、やわらかい月光を放っている。 「よぉし! 艫綱を切れぇ!!」 ウェールズの号令一下、火を放たれ、硫黄を満載した『マリー・ガラント』号が、ゆらりと落下し始める。――クロムウェルの本陣とおぼしき地点に向けて。 「叛徒どもよ! くだらぬ贈り物だが、是非受け取ってくれ。かつての主君からの心尽くしだ!!」 その瞬間、先程にも勝るとも劣らぬ大爆発が地上を包み込んだ。 二隻しかないフネの一隻を、こんな自爆テロまがいの使い方で……!? ルイズは唖然とウェールズを振り返る。 だが、それだけに、確かに威力は凄まじいだろう。なにせ、天幕でびっしり埋められた陣中真っ只中に、火薬を満載したフネが墜落したのだ。おびただしい被害が出たのは間違いないはずだ。 ルイズは、思わず下を覗き込んだ。 火炎地獄の中を、人がまるで蜘蛛の子を散らしたように逃げ惑っている。いや、もう貴族派の包囲軍はズタズタだ、と言い切ってもいい。 だが、ウェールズはなおも容赦しない。 「全砲門を開けぇっ!! 今のうちに、貴族派の残存艦隊に総攻撃を仕掛ける!! 奴らの指揮系統が回復しないうちに、出来る限りフネを沈めておくんだぁっ!!」 そのときだった。 「サ、イト……!?」 見間違いではなかった。 紅蓮の炎に包まれ、大混乱に陥ったレコン・キスタ。 地面を吹き飛ばし、突破口を確保し、そこから敵陣を中央突破してゆく王党派の陸戦隊。 だが、 彼ら王党派と、全く見当違いの地面から、のそのそとモグラのように這い出てきた少年少女たち。 泥まみれで、顔の判別さえつかないが。――いや、それ以前に、ルイズの視力では、この距離から、彼らを識別する事など不可能なはずなのだが、……それでもルイズには分かった。 「サイトぉぉぉっっっ!!」 「っ!? 何をする気だルイズ! 自殺する気かっ!?」 ワルドが、少女の矮躯を懸命に取り押さえる。 「離してぇっ!! あそこにサイトが、サイトがいるのよっ!! 離してぇぇっっ!!」 前ページ次ページもう一人の『左手』
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前ページ次ページもう一人の『左手』 . 「撤退だそうだ」 「撤退って、……どっちが?」 「信じられんが、我が軍の方らしい」 「――はあっ!? 何で!? 貴族派の連中は白旗挙げたんだぜっ!?」 「俺が知るかっ!! とにかくクロムウェルのクソ坊主と直接話したウェールズ殿下が、その指示を出したんだってよっ!!」 「……何でそうなるんだよ……? 王子様、『レコン・キスタ』の国賊どもに毒でも一服盛られちまったんじゃねえの?」 「かもな。あのクソ坊主は特に一筋縄じゃいかねえって聞くしな。停戦交渉で盃に毒を盛るくらいはやりかねないぜ」 「――で、撤退ってどこへ行くんだ? 地下道に穴あけちまったから、もうニューカッスルには戻れねえぞ」 「いや、それがな……どうもトリステインらしい」 「じゃあ、撤退っていうのは……アルビオンからの……って意味なのか……ッッッ!?」 王党派の兵たちの口さがない私語を聞きながら、眉をしかめる“ブイスリー”――いや、ややこしいので、風見の姿に戻った彼のことを以降は、“カザミ”と呼ぶことにしよう。 そして、そんな“カザミ”をさらに不機嫌な表情で見下ろす、風見志郎――ミョズ風見。 まるで双子のように同じ顔をした彼らではあるが、そのうち一人の額には例の“ミョズニトニルン”と記された使い魔のルーンが刻まれているため、二人の区別は容易であった。 そして、この場における第三の改造人間。 「くくっ……まったく、愉快な奴らだぜ、このファンタジー世界の連中はよぉ」 そう笑いながら、ワインの瓶をあおる筋骨隆々の男――元デストロン怪人カメバズーカこと平田拓馬。 停戦の花火が夜空に輝いて以降、王党派と貴族派の兵団は、互いに緊張状態を維持しながらも対峙していた。――が、やはり勢いに乗った進軍を、理由も分からず突如停止された王党派の兵たちは、フラストレーションに任せて怒声を上げまくっていた。 それは先陣の二人の風見――ミョズ風見と“カザミ”も例外ではなく、彼らはいつでも殺し合いを再開せんばかりの険悪な雰囲気のままであったが……平田は、そんな二人ごと、双方の軍が睨めっこを続けざるを得ない、この現状を愉しんでいた。 「よぉ」 平田が、空になった瓶を投げ捨てると、二人の風見を振り返った。 「お前ら、……そもそも何で、こんなところで戦争なんかしてるんだい?」 その声を聞いて、“カザミ”はキョトンとなった。何を言ってるんだコイツは?――そう言わんばかりの表情に。 「俺は王党派の一兵士だ。王家のために戦うのは当然だろう?」 「一兵士である前に、貴様は仮面ライダーV3であるはずだろう?」 ミョズ風見が、叩き斬るように冷えた口調で言い切る。 だが、その言葉にも“カザミ”は確たる反応を見せない。むしろ、さっきにも増してワケが分からないという顔をする。 「さっきから君が言う、その『カメンライダー』とは何だ? 俺は“ブイスリー”ではあるが、ただの名だ。それ以上でもそれ以下でもない」 「ただの名、だと……!?」 ミョズ風見にとって、――いや、全ての仮面ライダーにとって、その一言は、聞き流していい台詞ではない。だが、“カザミ”はさらに言葉を続ける。 「俺には、主に召される以前の記憶がない。『カメンライダー』とは何だ? 俺が一体何者だったのか、君たちは知っているのか?」 唖然とするミョズ風見。 同じく、言葉を失っていたが、やがて平田は含み笑いを噛み殺し切れなくなったようだ。 「なるほど……くっくっくっ……そういう事なら、まだ話は分かるぜ。少なくとも俺やコイツが『レコン・キスタ』に参加しているよりはな」 耳障りに低音な笑い声が、神経を苛立たせるが、それで表情を変えるほどミョズ風見も子供ではない。むしろ、彼も納得がいった顔で、改めて憮然となる。その不機嫌の矛先は、もはや“カザミ”ではない。むしろ自分自身だ。 (もし、それが本当なら、……俺はとんだピエロだってことか……?) 過去を失った男に、過去への誇りを問う愚劣は言うまでもない。知らぬ事とはいえ、それを延々続けていた羞恥が、どっと押し寄せてきたのだ。 . 「おい」 平田が、肘でミョズ風見をつつく。答えてやれよ、とその目が言っている。 その視線を受け、ミョズ風見は、小さく息を吐いた。 「仮面ライダーは戦士ではあるが、兵士ではない。従うのは上官の命令ではなく、自らの魂が規定する正義だけだ」 その台詞を聞いて、“カザミ”はさすがに硬い視線を投げかける。 「ならば、君が『レコン・キスタ』に組している理由は何だ!? 叛徒に混じって国家への反逆を続けることを、君の魂は“正義”と認めたというのか!?」 「……」 「教えろ、君の言う“正義”とは何だ? 国家を転覆し、この国を泥沼の内戦へと引きずり込んだ者たちを、なぜ“正義”と呼ぶ!?」 さすがに平田も真顔になっている。 もっとも話題が話題だ。笑い続けられるほど空気を読めない男ではない。 ミョズ風見は向き直った。 同じ顔、同じ肉、同じ細胞を持つ二人が、真正面から視線を交し合う。だが、そこに殺気はない。問いし者が、固唾を飲んで問われし者の答えを待つ。その緊張感が在るだけだ。 彼は口を開いた。 「確かに、な。……貴様の言い分は正しい」 “カザミ”の視線がさらに険しくなる。 自らの正義に従うといった本人が、『レコン・キスタ』に正義はないと理解した上で、なお彼らに荷担したというのか? だが、ミョズ風見は言葉を続ける。 「万人にとっての“真の正義”とは何か。親切か? 慈善か? 博愛か?――それを答えられる者など、この世のどこにもいはしない。“正義”とは主観だ。客観ではない。百人の人間がいれば百通りの“正義”が存在するからだ」 「その答えを納得しろと言うのか……ッッッ」 そう言いながら“カザミ”が、怒りに満ちた表情で立ち上がる。だが、ミョズ風見の表情は、なおも沈鬱なままだ。 「納得しろとは言わん。納得できるとも思ってはいない。だが、かつて俺たちが戦っていたのは“悪”だ。“悪”を撃滅することで実行する“正義”。それこそが俺と、俺と同じく仮面ライダーを名乗る仲間たちの使命だった」 「矛盾しているぞ。“正義”が主観だというなら、“悪”もまた個人の主観に過ぎないはずだ。それとも『レコン・キスタ』の行為は、君の主観では“悪”にあらずとでも言うつもりか?」 「そうは言わん。――だが、俺たちが戦っていた“悪”は『レコン・キスタ』ごときとはワケが違う。立場を変えれば主張を理解できる余地があるような、生半可な“悪”じゃない。破壊と殺戮と混乱、恐怖と悲嘆と絶望……それ自体を生み出す事を目的とする“純粋悪”」 ――やつらを打倒する事こそが、俺たち仮面ライダーの存在の証たる“正義”だったのだ。 そう語るミョズ風見の双眸に迷いはない。 己の信念に1ミリたりとも後ろめたさを感じていない者のみが初めて可能な、一直線な眼差し。それは“カザミ”が、かつてウェールズの瞳に見た光でもあった。 「そして奴らは、今もなお虎視眈々と活動を続けている。奴らと戦えるのは俺たちだけだ。――分かるか? 俺たちの世界はまだ俺を必要としている。ならば俺の“正義”とはただ一つ。どんな手を使っても地球に、日本に帰ることだ」 「どんな手を、使っても……?」 「そうだ。そのためにこそ俺は契約した。俺を召喚した、あの男とな」 「元の世界に帰る。そのためならば、使い魔となって、何でも言うことを聞く、と?」 蔑んだような目で“カザミ”が言う。 実際、ミョズ風見の言うことは、彼からすれば、とても納得のいかない事であった。元の世界に帰るためならば、歴然たる反逆者に荷担する事さえ辞さない。それは自らを王党派の一兵卒だと規定する自分よりもさらに悪質ではないのか? そんな男が、やれ戦士の誇りだの、自らの魂の規定する正義だの、まさしく噴飯モノの言い草だ。 . だが、ミョズ風見の表情は揺るがない。 「何とでも笑え。何を言ったところで、記憶を持たぬ貴様に理解は出来まい。それに、契約を結んだとはいえ、俺は犬じゃない。命令を選ぶ権利くらいはある」 その一言に“カザミ”は怪訝な表情をする。 「どんな手を使っても、と言ったんじゃなかったのか?」 「それでも、出来る事と出来ない事があるということさ。事情も分からん内戦に放り込まれて、無関係の人間を敵として殺して来いと言われても、さすがに従えない」 「……どういう事だ?」 「俺が契約に当たって承諾した命令はただ一つ」 彼はそう言って、じろりと無遠慮な視線を“カザミ”に向けると、 「――貴様を含む、三人のV3の首を取ることだけだ」 やる気なのか。 いまここで。 “カザミ”の目に、ふたたび戦闘的な輝きが灯った。 だが、ミョズ風見は、その殺気をあっさり受け流す。 「やらねえよ」 「……なぜ?」 「俺とお前が戦えばタダの喧嘩じゃ済まない。必ずやそれに乗じて軍が動く。そうなったら、せっかく停戦まで漕ぎ付けた戦が、元の木阿弥だ。さすがにそこまで野暮じゃないさ」 確かにその通りだ。“カザミ”は鼻を鳴らしてそっぽを向いた。 「決着は、また今度までお預けだ。異存はあるか?」 “カザミ”はしばし冷たい視線を、自分と同じ顔をした男に向けたが、やがて静かに首を振った。 「なら、話はここまでだ」 ミョズ風見は立ち上がると、無防備な背中を見せ、歩き出した。 何かを言おうとする“カザミ”。だが、 「――待てよ」 彼を呼び止めたのは、平田だった。その声には、先程までのような揶揄するような響きはない。 「最後に聞かせろ。お前を召喚した“あの男”ってのは、誰なんだ?」 返答の代わりに、刺すような目線が彼から放たれる。アイツの事を思い出させるんじゃねえ。そう言いたげな空気が確実に伝わってくるほどに、彼の拒絶反応は露骨だった。 「聞いてどうする?」 並みの人間なら、一睨みで震え上がってしまいそうな鋭い眼差しだったが、平田拓馬は――カメバズーカはただの人間ではない。むしろ苛立つような響きが、彼の太い声に上乗せされただけだった。 「それを聞いて、俺がどうするかは俺が決める。――御託はいいからとっとと言えっ!!」 「……ガリア国王ジョゼフ1世」 まるで名を口にするのも厭うように言うと、そのままミョズ風見は、去った。 後に残された、二人の改造人間。元デストロン怪人と元仮面ライダー。 「知ってるか?」 平田は、数週間前にフーケに盗み出されるまで、“破壊の杖”として魔法学院宝物庫で眠っていた身だ。当然、ハルケギニアの世間事情に詳しくない。 「ガリアは、ハルケギニア最大の国家で、その王は確か『無能王』とか言われていたと思うけど、……あの男が、まさか王様の使い魔だったなんて……」 呆気にとられたように朴訥な口調で話す“カザミ”。 だが、驚くべきはそこではない。 平田は僅かな期間だが、ワルドやクロムウェルといった『レコン・キスタ』の関係者と接触を持っている。その組織に、額に全く同じルーンを刻む人物が二人、それぞれ影響力のある重要なポストを担っている。 かたや、組織の首領クロムウェルの秘書として。 かたや、王党派の『赤い悪魔』への切り札として。 彼らを送り込んだ一人の権力者。 つまり――、 「『レコン・キスタ』の本当の黒幕は、そのガリア王とやらだって、話さ」 おもしれえ。 そう言いたげな獰猛な笑みを、平田は口元に浮かべた。 . 「……本当なのか?」 ティファニアは震えながらも深々と頷いた。 だが、風見は容易に信じられなかった。 彼女が使い魔として召喚した改造人間――“ブイスリー”は、自分で自分の記憶を消してくれ、とティファニアに依頼したのだという。 「わたしだって、人から記憶を奪うという事の意味くらいは考えた事はあります。だから、何度も断ったんです。何度も何度も断ったんです。でも……」 確かに信じがたい。 だが、このエルフの血を引く少女が嘘をついていないのも分かる。 数日間ではあるが、同じ釜の飯を食い、一つ屋根の下で過ごした仲なのだ。 そして、“ブイスリー”のことも、信じがたいが完全に理解できないワケではない。 ――あいつは、“俺”だ。 両親と妹をデストロンに殺され、復讐のために自ら改造手術を志願し、『人間を辞める』ことを承知の上で、戦い続ける道を選択した風見志郎。 無限に存在する平行世界の中には、無論、仮面ライダーになる事を選ばなかった風見志郎もいるだろう。選ぶまでもなく殺されてしまった風見志郎もいるだろうし、そもそもデストロンと関わる事無く、一般人として安穏と暮らしている風見志郎もいるかも知れない。 だが、あいつ――“ブイスリー”は違う。少なくとも改造人間になる事を、仮面ライダーになる事を選択した風見志郎。すなわち自分と同じ道を選んだ、“俺”と呼ぶことが出来る存在なのだ。 なればこそ、風見には理解できる。 改造された肉体と、ライダーとして生き続けることを宿命付けられた魂。そのいずれか一方から解放される事が出来るならば、どれほど楽になれるだろうということが。どれほど世界が違って見えるだろうということが。 ――そこには、想像もつかない地平が広がっているはずだ。 “ブイスリー”の選択を責める気にはなれない。 そんな権利は、自分にはない。 何故なら、仮面ライダーとして“生きずに済む”世界を、風見が想像したこともなかったと言えば、それは明らかな嘘にしかならないからだ。 「アイツは、俺よりも強いのかも知れないな」 「――え?」 「俺には多分、君にそんなことを頼めない。自分の過去を捨ててまで人生の再出発を図ろうとは、とても思えない。仮面ライダーとしての記憶は、……もう、俺の生きる拠り所の全てだからな……。だが、あいつは違う」 「……」 風見は、ティファニアの頭を優しく撫でた。 「あいつに代わって礼を言っておく。……ありがとう」 「“ブイスリー”……」 「ティファニア、もう俺をその名で呼ぶな」 「え? でも――」 風見は、手袋を外し、左手のルーンを見せつける。彼女の使い魔と、自分が別人である事を証明できる、唯一の身体的特徴。 「君が“ブイスリー”と呼ぶべき男は、この世にたった一人だけだ。そして、それは俺じゃない」 「……」 「俺の名は風見志郎。次から俺を呼びたかったら、カザミと呼んでくれ」 「わたし……あなたが怒ってると思ってた」 風見が傍らの少女を見る。 「だから、謝ろうと思って……あの魔法は、もう使うなって言われると、そう思ってた」 「怒ってなかったわけじゃない」 風見は、そう言いながら頭を掻いた。 「もし君が、“ブイスリー”から記憶を奪って無理やり『家族』の一員に仕立てたのなら、俺は多分、君を許せなかっただろう。でも、違った。君はあいつを苦しみから解放してやった当の本人だ。ならば俺が感じた怒りなど筋違いもいいところさ」 「あなたたちの背負った過去って、そんなにつらいものなの……?」 「……」 風見はその質問に答えられなかった。 ただ、睨むような視線を虚空にやるしかなかった。 . 「じゃ、じゃあ、カザミっ! お願いがあるのっ!!」 すがりつくようにティファニアは、潤んだ瞳を彼に向ける。 「お願い……ニューカッスルに行って」 「ニューカッスルに?」 「“ブイスリー”に、ここへ帰ってくるように言って欲しいの」 「……いいのか? 奴の軍功に、君の実家の再興がかかっているんだろう?」 だが、ティファニアはニッコリ笑うと、ふるふると首を振る。 「いいの、そんなこと。わたしはこの村で家族と、平和で穏やかな暮らしが出来れば、もうそれでいいの。だから、そんなことのために“ブイスリー”に人殺しをさせ続けてることの方が、よっぽど嫌なの。……それに」 「それに?」 「この耳じゃ、……このエルフそのままの顔じゃあ……貴族になんてなれやしないわ……」 自嘲するように言うティファニア。 それは、この数日間で風見が耳にした、自分の境遇に対するティファニアの唯一の愚痴だった。 「……わかった」 「え?」 「今夜から出かければ、明後日の朝には帰って来れるだろう。待っててくれ」 風見は、少女が洩らした最後の一言に、あえて触れなかった。 己の肉体に抱く、一言で表現しがたい感情。――それは彼にも十分に理解できる事だったからだ。 もうメンヌヴィルに浴びせられた火傷の痛みも、ほぼ感じない。 風見は、解き放たれた獣のような速度で、街道の方角へと駆け出した。 XXXXXXXXXX 一夜が明けた。 徹夜で行われた王党派の撤兵作業は、払暁にようやく終了し、浮遊大陸を震撼させたアルビオンの大反乱は、貴族派の勝利で幕を閉じた。 ジェームズ1世を筆頭とする三百の兵団は、無事トリスタニアに入城を果たし、太后マリアンヌ・宰相コルベール・王女アンリエッタの三人は、国を挙げて彼らを歓迎した。 ――少なくとも、表面上は。 「殿下、一体どういうおつもりですかな……!?」 枢機卿の殺気すら伴う問いかけに、太后マリアンヌは思わず顔をそむける。 『鳥の骨』などと揶揄されながらも、老練の政治家として、永きにわたって一国を切り回してきた男の視線は、鋼の硬度と、鈍く光る冷たさを兼ね備えていた。 「お答え下され姫殿下。おふざけやお戯れにしては、今回の一件はいささか度が過ぎておりますぞ」 だが、その視線と質問を一身に受け止める17歳の美少女は、顔色一つ変えなかった。 「どういうつもりも枢機卿、あなたが何を怒っているのか、わたくしにはまるで見当がつきませんわ」 その言葉とは裏腹に、全てを把握し理解している瞳で彼女はうそぶく。 ――アンリエッタ・ド・トリステイン。それがトリステイン第一王女たる、彼女の名であった。 「おとぼけになられては困りますな殿下……ッッッ!!」 今にもこめかみの青筋から血を噴出しそうな形相を剥き出しながら、老人は、孫ほどの年齢の王女に向ける視線に、一層の厳しさを加える。 「貴女が御自分の勝手な判断で受け入れた、アルビオンの王党派の事でございますよっ!!」 . その剣幕は、いまにも殴りかからんばかりだ。 だが、いかに彼が国政を牛耳る宰相であっても、臣下であることには違いない。マリアンヌは思わず彼をたしなめた。 「枢機卿、あなたの気持ちは分かりますが、少々お控えなさい。娘とて怯えておりましょうが」 母として、一応マリアンヌはアンリエッタを庇う。 だがやはり、当のアンリエッタの表情は変わらない。いや、それどころか眼前でいきり立つ枢機卿を揶揄するように、口元には薄い笑みさえ浮かんでいる。 「年甲斐もなく、何を憤慨しているのかと思えば、……かのジェームズ陛下は、ともに始祖の血を引く王族であり、わたくしの敬愛する伯父なのですよ? そのお命をお助けするのに何の遠慮が要りましょうか?」 「殿下、理解しておられるのですか……? 王党派の亡命を受け入れるということは、かの簒奪者どもとの戦を回避することが、もはや不可能になったという事なのですぞ……? 殿下は、我が国を戦火の渦に巻き込むおつもりなのですか……ッッッ!?」 「そこまで仰るのでしたら枢機卿、あなたの権限で、改めて陛下を追い出せば宜しいではございませんこと? 『せっかく亡命して頂いて申し訳ございませんが『レコン・キスタ』が怖いので、やはり他所を当たって下さい』とでも申し上げて」 「殿下ッッッ!!」 マザリーニは、思わずテーブルに拳を叩き付けていた。 そんな事が出来るなら苦労はしない。その拳は、そう語っていた。 “亡命”という行為は、端的にいえば祖国を見限るという事である。 それは国家に対する重大な侮辱であり、背信であり、反逆でさえある。 ならばこそ、それを為す者を受け入れる国家には重大な覚悟が問われる。祖国を侮辱した者を、他国が保護するという事は、見方を変えれば国交断絶、宣戦布告と解釈されても仕方がない行為なのだから。 逆に言えば、一度保護した亡命者を、あっさり引渡すような政権は、諸国から例外なく嘲笑を浴び、それ以上の信用を失う。 ましてや彼らは王族だ。国家反逆どころか反逆者に国を追われてきた者たちだ。そんな彼らを『レコン・キスタ』に引渡したりしたら、それはもはや妥協どころか屈服に他ならない。トリステイン王政府の名は、その日のうちに地に堕ちるだろう。 「――申し訳ございません。少し取り乱しました」 ハンカチを取り出した枢機卿が、汗を拭きながら間を外す。だが、その表情からして、彼の怒りが、いまだ冷めやらぬものである事は明白だ。 「お母様」 そんな枢機卿に一瞥すら向けず、アンリエッタは母親に厳しい目を向けた。 「いま枢機卿が、愉快な事を仰っていましたが、ハルケギニア統一を謳う『レコン・キスタ』と、このトリステインが戦わずに済む道があると、本当にお思いですか?」 太后マリアンヌは、娘の真摯な問いに、しばし瞑目していたが、やがてゆっくり口を開いた。 「――はい」 「『レコン・キスタ』がトリステインに攻めて来ない、と正気でお考えですか?」 どうせ放っておいても攻め寄せてくる『レコン・キスタ』を相手に、いまさら機嫌を取るような真似をする必要がどこにある。――そう言わんばかりのアンリエッタの口調は、物静かであったが、それ以上に毅然としていた。 だが、それに答えるマリアンヌの物腰も、冷静そのものであった。 「ええ。この母も枢機卿も同じくそう思っておりますわ。――こちらから刺激しない限り彼らは攻めて来ない、と」 「根拠は?」 「無論、ありますとも」 そう言ったのはマリアンヌではなく、皮肉な笑みを浮かべたマザリーニであった。 「ニューカッスルの戦で『レコン・キスタ』どもが予想以上に疲弊した、という報告が入っております。そして艦隊の再建と地盤固めの必要性。さらにはきゃつらの組織形態を考慮した上で、そういう結論に至りました」 「分かるように言いなさいマザリーニ」 アンリエッタの厳しい声が飛ぶ。彼女がマザリーニを“枢機卿”という官位ではなく名で呼ぶのは、例外なく怒気が激しい時だ。……もっとも、事ここに至っては、怒気を発しているのは、お互い様というべきだが。 . 「報告によると、あの簒奪者どもは、最後の会戦で四個艦隊の戦力を喪失しております。その分の艦隊再建、そして更なる軍備増強のためには、彼らはまず、足元のアルビオンの内政を固めるところから始めねばならないでしょう」 攻め寄せるどころか、むしろ守りを固めねばならないのは『レコン・キスタ』の方である。そのためには、これまでのテューダー朝時代と同じく、ハルケギニア各国と通商を結び、風石輸出をはじめとする経済活動を再開するはずだ。 「そうでなければ、軍備再建の軍資金など、とても工面できませんからな」 落ち着いた口調でマザリーニはそう言った。 「そして『レコン・キスタ』はただの貴族連合ではない。きゃつらは王権否定の政治団体であると同時に、議会制共和主義の思想団体でもある。さらに、彼らの首領のクロムウェルという男は、謀略に長けた人物であると聞きます」 陰謀に長じた者が、思想という武器を手にしたなら、最初に始めるのは、問答無用の武力活動ではありえない。まずは調略の触手を伸ばすはずだ。 王家ならずとも政権を握れるという共和政の魅力と、『レコン・キスタ』の現在の勢いを鑑みれば、クロムウェルが本気になって口説けば、各国の貴族たちは平然と祖国を裏切り『レコン・キスタ』になびくだろう。ならばまず仮想敵国の内部から切り崩すのは当然だ。 ――だが、調略には時間がかかる。そして、その分だけ、こっちは時間を稼ぐ事が出来る。 「そして最後に、王なき政府などに、アルビオンの民がいつまでも従うとは到底思えません」 ハルケギニアの絶対王政と、始祖ブリミルからの王権神授説は、六千年の伝統を誇る。 六千年という時間がどれほどのものか、僅かでも想像できるならば、その磐石さの程が少しは理解できるはずだ。 少なくとも、利権に釣られて連帯したような『レコン・キスタ』ごときのハネッ返りどもに覆せるほど、六千年の伝統とは軽いものではない。必ずや失政を重ね、民からの支持を失うはずだ。 マザリーニとマリアンヌは協議の結果、そのメドを3年と見た。 王という調停者を持たぬ『レコン・キスタ』の諸侯どもは、好き勝手に党派を組み、派閥抗争を行い、議会工作は必ずや武力衝突に発展するだろう。長くとも3年も放って置けば、内輪揉めで他国を侵略するどころではなくなるはずだ。 そこで初めて軍を派遣し、『レコン・キスタ』を駆逐すればいい。そのあとで誰か一人、テューダー家の血を引く人物を即位させて、王家を再興させてもいいし、それとも王など立てず、各国の共同統治地にしてもいい。 それまでは、当たらず触らず、放って置こう。 そういう見地に立てば、アルビオンの新政府といたずらに対立せずに、むしろ彼らを利用しようと考えるのは、為政者としては当然であったろう。 どのみち、現在のトリステインが、風石の大半をアルビオン産でまかなっている以上、そう簡単に彼らと喧嘩は出来ない。風石の供給が絶えるということは、軍事・流通両方の面で、それこそ致命的な損害なのだから。 アルビオンと国交を維持できるなら、それに越した事はないのだ。 ……それが、国政の頂点に立つ二人の『レコン・キスタ』に対する見解だった。 だから、ジェームズ1世の亡命など、マザリーニが真っ先に情報を掴んでいれば、受け入れるはずがなかった。彼の存在など『レコン・キスタ』を無意味に刺激するだけの、文字通り国家にとって無用有害な存在でしかなかったからだ。 アンリエッタは、彼らのそういう思惑を、それこそ机ごと引っくり返してしまったのだ。 そして、それはアンリエッタも承知している。 マザリーニとマリアンヌの思惑も、現在のアルビオンの情勢も、今後のトリステインの政略も、……何かもかも理解した上で、王女はそのテーブルを引っくり返したのだ。 「分かっています。あなた方が仰ったことは全て。その上で“手紙”を書いたのですから」 今度は、宰相と太后が絶句する番だった。 “手紙”とは言うまでもない。アンリエッタがしたため、ルイズからウェールズに手渡された手紙のことである。ルイズによるヴァリエール紋章旗掲揚事件で、王女が公爵令嬢に与えた密命のことは、すでに国家首脳の知るところとなっていた。 ウェールズは父を脱出させるに当たり、その手紙をジェームズに託した。何故なら、その手紙には、こう記されていたからだ。 『トリステインは、アルビオン王家とそれを支援する全ての方々を受け入れる準備があります』と。 . ――無論、国家の正式決定でも何でもない。すべてアンリエッタの独断によるものだ。 だが、仮にも一国の旧王が、王女の直筆でそう書かれた手紙を持って現れれば、門前払いを食わせる事など、絶対に不可能だ。 「こうなる事を承知の上で……ヴァリエールの小娘に密命を下したと言うのですか……!?」 呆然と声を上げるマリアンヌを、見下すような視線でアンリエッタは頷いた。 アンリエッタが手紙に何を書いたところで、ウェールズが素直に亡命してくるとは、実は彼女自身も思っていなかった。彼女が愛する王子様は、祖国と部下を見捨てて一人逃げ出すような男ではない。死ぬほどツライ結論だが、アンリエッタにはその確信があった。 むしろ彼自身は踏みとどまりつつも、その手紙を使って部下や父親を逃がそうとするはずだ。 ――そして、アンリエッタの予想は現実のものとなった。 王党派の亡命を受け入れた以上、もはや『レコン・キスタ』との関係修復は不可能だ。 つまり……、 「いったい……いったい何故……そんな真似を……ッッッ!?」 震える声で訊くマザリーニに、アンリエッタは一瞥すら与えない。 「決まっているでしょう」 彼女は椅子から立ち上がると、静かにマリアンヌに向けて歩を進めた。 「ウェールズ様を殺めた逆賊どもを、ウェールズ様から国を奪った簒奪者どもを、一人残らず皆殺しにするためですわ」 淡々と吐かれた言葉であるからこそ、そこに込められた殺意の深さは、容易に想像できるものであった。 マリアンヌが、化物でも見るような目で、近付いてくる娘を見る。 「しっ、しかし、アンリエッタや、ウェールズ殿下の訃報はまだ報告されておりませんよ」 「秘されているのでしょう。わたくしには分かります。ウェールズ様を生かしておく事の危険性を、クロムウェルが理解できぬはずがありません」 「でっ、ですがっ……」 「『レコン・キスタ』と和平なんか結ばせてたまるものですか。今すぐ攻め寄せ、今すぐ反逆者どもの首を掻き切らなければ、……わたくしはこの先、生きていく事さえ出来ないでしょう……ッッッ!!」 「アンリエッタ……」 「もっとも……わたくしは“そのために”ゲルマニアごときに降嫁するのでしょう?」 そう言いながらアンリエッタは、恐怖でのけぞった母親の腹に、優しく手を置いた。 「アルビオンで内戦が始まるや否や、同盟締結をダシに、あなた方が急ぎまとめた婚儀の約束」 アンリエッタの瞳が、さらに冷たく光る。 「でもね、お母様……わたくしは、知っているのですよ。何故あなた方がわたくしの婚儀を焦るのか。わたくしがゲルマニアに嫁いだ後、誰がトリステイン王家を継ぐことになるか……」 マリアンヌは、自分の腹を優しく撫でまわす実の娘に、吐き気さえ覚えそうになっていた。 「ねえ、お母様、この子の父親は……枢機卿なのですか……?」 その一言は、凍り付いていた母親と宰相を、さらなる恐怖へと叩き込む。 王女は、そんな二人に静かに微笑むと、 「ご安心下さい。わたくしは何も怒ってはおりませぬ」 「え……?」 「ウェールズ様の苦境に際して、テューダー王家に一兵すらも送るどころか、あの御方の死を前提とした婚儀を勝手に決められた事も。それどころか、わたくしの輿入れ自体が、その子に玉座を継がせんが為の計らいであった事も……わたくしは怒っておりませんわ」 「その復讐のために……祖国を戦に引きずり込もうと言うのですか……ッッッ!?」 「わたくしは、この婚儀の本来の役目を果たすだけですわ」 そう言いながら枢機卿に微笑んだアンリエッタの言葉に、もはや嘘があろう筈がない。 彼女は全身全霊を持ってゲルマニア皇帝を篭絡し、彼を『レコン・キスタ』への敵対者たらしめるだろう。そして両国は足並みを揃えて杖を携え、ウェールズの仇討ちの戦に邁進することになる。……それがアンリエッタの、いまの望み。 「では、お母様、ごきげんよう。どうかお体を御自愛くださいませ」 . 言葉もなく立ち竦む二人を後にして、アンリエッタはきびすを返した。 だが彼女は、……ウェールズの生存と、彼がクロムウェルと提携した事実を、いまだ知らない。 ############# 「生き……てる……?」 少年は、目覚めた。 おかしいな、確か、おれは空中に放り出されて……、 「きゅいきゅいっ、サイトっ、やっと目を覚ましたのねっ!!」 そのとき少年は、そう言いながら自分の首っ玉に飛び込んできた青い髪の女性によって、何も言えなくなった。 彼から言葉を奪ったのは、まともにぶつけられた女の感情ではなく、ほのかに匂う女臭さでもなく、――その巨大な胸の感触であった。 (ルイズを相手にしてたら忘れがちだけど……やっぱ、巨乳って、いい……) 「おやおや、やっぱり若い者はいいねえ」 桶に水を汲んで部屋に入って来た、中年の男性。それほど上質の衣服ではないので、おそらくは平民であろうか。 途端に真っ赤になって、シルフィードを引き剥がそうとする才人だが、この韻竜はいささか常識が通じない。「きゅいっ?」と不思議そうに言うと、抵抗するように、さっきよりさらに激しく才人にしがみ付いた。 ――たっぷり二分ほど。 「済んだかね?」 男性が、さすがに眉をひそめながら質問し、才人は顔を上げることも出来ずに、黙って頷いた。 「まあ、傷が浅かったのは不幸中の幸いだが、しばらくは動かん方がいいぞ」 ――傷? そういえば、身体中に包帯が巻いてあるが、これが傷なのだろうか? 「ま、今は農閑期だし、怪我人を追い出すような真似はしねえ。ゆっくりしていったらええ」 「あの――」 才人の声に、男性は「ん?」といった表情で振り向く。 「助けていただいて有難うございます。――で、その……ここはどこなんですか?」 「ここはタルブの村だ。うちのワインはトリステイン一なんじゃが、お前にはちょっと早いわな」 そう笑うと、男は出て行った。 「タルブ……」 ハルケギニアの土地鑑がない才人には、どのみち聞き覚えのない場所であった。 前ページ次ページもう一人の『左手』
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アイテム名 装備レベル レベル 攻 防 魔 魅 運 早 火 水 風 土 入手 備考 破れた軍手L 1 0推定値 0.76 - - - - - - - - - 武闘家 16 2.00 - - - - - - - - - ラブチョコ 42 0推定値 - 0.76 - 6.92 - - - - - - キャッシュ 2007バレンタイン 16 - 2.00 - 18.00 - - - - - - ラブラブクッキー 12 0推定値 - 5.00 1.81 3.63 - - - - - - キャッシュ 2008ホワイトデー 12 - 11.00 4.00 8.00 - - - - - - ラブリー扇 120 0推定値 - 6.33 1.00 6.00 2.00 - - - - - お中元軽 2007夏祭り 20 - 19.00 3.00 18.00 6.00 - - - - - 瑠璃茉莉隊カバン 60 0推定値 0.50 6.00 - 6.00 - - - - - - お中元大 2008夏祭り 10 1.00 12.00 - 12.00 - - - - - - レインボージェット 23 0推定値 - 4.21 - 0.52 - 1.57 - - - - クリスマスBOX小 2007クリスマス 9 - 8.00 - 1.00 - 3.00 - - - - ロールケーキ 53 0推定値 - - 3.00 4.00 3.00 - - - - - ロール 30 - - 12.00 16.00 12.00 - - - - - 路上ギター 50 0推定値 - 3.00 1.00 1.50 1.50 - - - - - お中元大 2007夏祭り 10 - 6.00 2.00 3.00 3.00 - - - - - ロッキーエッグ 15 0推定値 0.76 - - - 0.76 - - - - - コケコ 3 1.00 - - - 1.00 - - - - - ワインL 30 0推定値 - 2.90 - 2.90 1.93 - - - - - イエロボクス 2006クリスマス 21 - 9.00 - 9.00 6.00 - - - - - 和風丸型行灯L 1 0推定値 - 5.00 - - 3.00 - - - - - キャッシュ 2007お正月 10 - 10.00 - - 6.00 - - - - - 破れた袋 30 0推定値 - 6.67 - 2.5 - 0.83 - - - - 福袋軽 2009お正月 2 - 8 - 3 - 1 - - - - 白虎一家の舎弟 30 0推定値 - 8.82 - - - 1.76 - - - - 福袋G 2009お正月 7 - 15 - - - 3 - - - - 緑色猫じゃらしレフト 35 0推定値 - 7.65 - - - 0.59 - - - - 福袋G 2009お正月 7 - 13 - - - 1 - - - - ぽよの手配書 60 0推定値 - 12 - - - 0.67 - - - - 福袋軽 2009お正月 5 - 18 - - - 1 - - - - 潰された煙草のゴミ 70 0推定値 - 10 - 2.5 - - - - - - 福袋G 2009お正月 6 - 16 - 4 - - - - - - 逆手サバイバルナイフ 85 0推定値 - 12.73 - - - 3.64 - - - - 福袋軽 2009お正月 1 - 14 - - - 4 - - - - 白猫シララとシロロ 150 0推定値 - 16.36 - - - 13.64 - - - - 福袋G 2009お正月 1 - 18 - - - 15 - - - - 土産紅魚 180 0推定値 - 20 3.08 12.31 - -0.77 1.54 1.54 1.54 1.54 福袋G 2009お正月 3 - 26 4 16 - -1 2 2 2 2 フニフニバニィポーチ 50 0推定値 - 6.3 - 5.93 5.19 - - - 1.11 - キャッシュ 2009 2月 17 - 17 - 16 14 - - - 3 - ガトーチョコラ 90 0推定値 - 14.69 - - 3.75 - - - - - キャッシュ 2009バレンタイン 22 - 47 - - 12 - - - - - 刻み続ける時 130 0推定値 - 13.06 0.83 12.22 - - - - - 1.39 キャッシュ 2009 2月 26 - 47 3 44 - - - - - 5 リーフプラジコン 100 0推定値 - 12.12 - - 3.94 6.06 - - - - キャッシュ 2009 3月 23 - 40 - - 13 20 - - - - ラブベアーミニ 30 0推定値 - 7.39 - 3.91 2.17 - - - - - キャッシュ 2009 ホワイトデー 13 - 17 - 9 5 - - - - - ホワアフティー 160 0推定値 - 17.44 - 7.18 5.64 - - - - - キャッシュ 2009 ホワイトデー 29 - 68 - 28 22 - - - - - リボンハートチョコ 1 0推定値 - 7.2 2 4.8 - 0.8 - - - - キャッシュ 2010バレンタイン 15 - 18 5 12 - 2 - - - - マジックラブバニー 30 0推定値 - 10.61 1.82 2.73 2.73 0.91 - - - - キャッシュ 3周年 23 - 35 6 9 9 3 - - - - ファクマスリング 30 0推定値 - 9.13 3.91 4.78 - 2.61 - - - - キャッシュ 2009 12月 13 - 21 9 11 - 6 - - - - イーウン 40 0推定値 - 7.31 2.31 1.92 - - - - - - キャッシュ 2009 5月 16 - 19 6 5 - - - - - - 空翼シールド 60 0推定値 - 10.71 - - - 2.5 0.36 0.36 0.71 0.36 キャッシュ 2009 6月 18 - 30 - - - 7 1 1 2 1 一輪のカーネーション 80 0推定値 - 10.65 - 5.16 3.87 - - - - - キャッシュ 2009 4月 21 - 33 - 16 12 - - - - - スカイジュブック 120 0推定値 - 4.86 8.86 4 - 2.86 1.43 1.43 2 1.43 キャッシュ 2009 6月 25 - 17 31 14 - 10 5 5 7 5 セリッドシールド 160 0推定値 - 24.87 - 0.77 3.85 3.85 4.1 4.1 4.1 4.1 キャッシュ 2009 12月 29 - 97 - 3 15 15 16 16 16 16 フリフランクフルト 150 0推定値 - 26.5 4 10 2 - - - - - 豪華チケット 2009夏祭り 30 - 107 20 40 8 - - - - - 紅梅扇子 100 0推定値 - 15.15 - 10.3 9.09 - - - - - キャッシュ 2010 2~4月 23 - 50 - 34 30 - - - - - 服部の鎖鎌 40 0推定値 6.6 6.6 - - 5.35 2 - - 3.6 - クリスマス箱50 2009クリスマス 30 26 26 - - 21 8 - - 14 - 舞牡丹手裏剣 150 0推定値 - 24.0 - - 11.0 11.4 - - - - クリスマス箱150 2009クリスマス 20 - 72 - - 33 34 - - - - 白紅華鞄 60 0推定値 - 10.4 - - 14.0 6.0 - - - - キャッシュ 2010クリスマス 50 - 62 - - 84 36 - - - - テンジクードの秘薬 140 0推定値 - 20 - 9.7 9.7 5 - - - - キャッシュ 2010 クリスマス 50 - 120 - 58 58 30 - - - - フィロトグレイル 1 0推定値 - 26.72 10 19.36 20 19.27 6 6 6 6 金箱軽 2011クリスマス 100 - 294 110 213 220 212 66 66 66 66 カイナルクレスト 90 0推定値 - - - - - - - - - - 金箱軽 2011クリスマス 74 - 141 - 60 - 60 - - - - クリアスリング 30 0推定値 - - - - - - - - - - 金箱軽 2011クリスマス 70 - 80 - 41 41 32 - - - -
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前ページ次ページもう一人の『左手』 . 「てめえら、こいつらも運びな。身代金がたんまり貰えるだろうぜ」 派手な格好の空賊の頭が、ルイズとワルドを指して言い、去って行く。 それに合わせて、周囲の賊たちも、下卑た笑い声を上げるが、――ワルドは妙な違和感を覚えた。 賊たちの立居振舞いから、何と言うか、――演技のような、わざとらしさを感じるのだ。 魔法衛士隊の束ねとしてワルドが知る、本物の『賊』たちは、こんなに無駄なバカ騒ぎ――油断と言い換えてもいいだろう――を獲物の前では決してしないからだ。 なぜなら賊たちにとって、“略奪行為”という時間は、少なくとも傭兵たちにとっての戦闘と同じく、命を賭けた『職業的戦場』なのだから。 彼らのやり方はもっと酷薄だ。要求だけをシンプルに突きつけ、逆らうような素振りを見せれば、人質の一人や二人は、躊躇せずに殺す。人質の前で調子に乗って、特徴のある自分の顔を晒すような短慮な真似は決してしない。 そう考えれば、こいつらはアマチュアの空賊ということになるが……さっき見た操船技術からしても、素人とはとても思えない。ということは、歴とした正規軍の連中が、賊に偽装していると考えるのが妥当だが、 (戦況的に圧倒的有利な貴族派の空軍が、空賊に偽装する必要があるだろうか?) ――ない。 ということは、導かれる解答は一つだ。 ワルドは、自分とルイズを取り囲むようにして、空賊船に連行しようとする賊たちを見回し、おもむろに口を開いた。 「さがれ下郎、頭領の部屋に案内せよ」 「なっ、なにぃ!?」 「――我が名は、トリステイン王国魔法衛士隊グリフォン隊隊長ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド子爵。アルビオン王国王党派への接触を命じられている。大使としての扱いを要求する」 その場にいた全ての空賊が、ぽかんと口をあけた。例外があるとすれば、真っ青になっているルイズだけだ。 「――しっ、子爵さまっ!? ……そんな……いきなり……いくら何でも、もう少し……!!」 あわを食うルイズを差し置き、表情を硬くした賊の一人が、ずいと一歩前に出る。 「おいおい、お前――自分の立場が分かってるのか? 俺たちは、アルビオンの貴族派から、王党派へ味方する酔狂な奴らを、とっ捕まえる密名を帯びてるんだぜぇ?」 しかし、ワルドは一向に怯まない。 「今一度言う。頭領の部屋に案内せよ。我が名はワルド子爵。トリステイン王国王女アンリエッタ姫殿下の密命を帯び、行動する者だ。――とっとと頭の指示を仰げいっ!!」 最後の裂帛の一声が効いたのか、賊たちが“どうする?”と言わんばかりに、ちらちらと顔を見合わせ、――やがて、そのうちの一人が空賊船に走り去って行った。 (我ながら、分の悪い賭けだ) 心中、ワルドは苦笑する。 しかし、もし自分の予想通り、この連中が、王党派の残党の偽装空賊だったら、こういう態度に出ない限り、自分たちはおしまいなのだ。何故なら――ルイズは知らないが――自分の懐には、クロムウェル直筆の書付があるのだから。 連中に身体検査をされないようにするためには、最初から毅然とした態度で、それなりの扱いを要求する必要がある。奴らが王党派である疑いがあるならば、それは尚更だ。 (しかし……俺は強運なはずだ) ワルドは、自分にそう言い聞かせた。 . 「これが……アルビオン……!!」 才人は、眼前に展開される、圧倒的なパノラマに、しばし言葉を失ったようだった。 ――確かに、この絶景は、初めて見る者には、いささか刺激が強すぎるなと、才人の後ろで震えていたギーシュも思った。 無論、ギーシュが震えていたのは、才人と違って、その浮遊大陸の景勝のためではない。 まる一晩、シルフィードの背で夜風に吹かれながら、アルビオンまでの飛行を強制されたためだ。まるで凍りついたように、自分の体が芯から冷え切っているのが分かる。 この寒気の前ではハッキリ言って、どんな感動も無意味だ。魔法学院からラ・ロシェールまでの空中移動の寒さも、かなりのものだったが、昨夜から引き続く夜間飛行の寒さに比べれば――文字通り、木枯らしとブリザードほどの差があったと言えるだろう。 口を利く元気がないのは、当然ギーシュだけではない。 キュルケも唇を紫色に染め、手元に作り出した小さな――しかし高熱の――火球で、懸命に暖を取りつつ、厳しい眼で周囲を警戒している。 タバサは……まあ、あの子の事はギーシュにはよく分からない。この寒さの中、いまも表情一つ変えずに、分厚い本を熟読している。そんなタバサに、彼は何か言おうと思ったが、寒すぎて口を開くのが億劫だったため、やめておいた。 だが、その一方で、眼前のアルビオンに呆然と眼を奪われている才人の気持ちも、理解は出来る。-かつて両親と共に行ったアルビオンへの家族旅行の際、当時の幼かったギーシュは、間違いなく、いまの才人と同じ表情をしていたはずだからだ。 夜明けと同時に払拭された分厚い暗闇――そして、彼らの視界に、まさに忽然と(としか言いようのない唐突さで)浮遊大陸が現れたのだ。それも圧倒的な迫力と美しさを併せ持つ景観として。……才人ならずとも、度肝を抜かれるのは仕方ないだろう。 しかし、ギーシュが肝を奪われたのは、別のことだった。 つまり星明りが頼りの闇の中で、彼らはアルビオンの、ほんの間近まで接近を果たしていたという、その事実。 払暁までの暗闇の中を、羅針盤も持たず、ここまでアルビオンに接近していたなんて、……シルフィードを先導する形で飛行する風見の誘導の正確さに、さすがのギーシュも舌を巻く思いだった。 まあ、正確には、風見の視力や勘というよりは、例の『V3ほっぱー』とかいう円筒の魔力らしいが、風見は詳細を説明しようとはしなかった。 だが、ここが危険な空域である事も間違いはない。 今のところ、周囲に敵影はないが、それでも、アルビオンを一手に眺め得るこの位置は、逆に言えば、アルビオンから――いや、すでに夜が明けてしまった以上、360度全方位から丸見えである事も明白なのだ。 まあ、危険な空域ではあるが、航路上、この現在位置を一行が飛翔しているのは、ミスではない。 この現在位置は、少年少女四人分とジャイアントモール一匹分の過重を背負って羽ばたくシルフィードに、極力負担をかけないための、ぎりぎりの上昇角度を計算した結果なのだ。 . 風見はいまも独りで黙々と飛び続ける。 飛行進入角を変更し、大陸の下部……雲と霧と瀑布に包まれた、『白』の部分に航路を修正する。 無論――メイジでない彼が『フライ』を知るわけはない。 正確には、彼が跨った『はりけーん』とかいう名の、鉄の馬が、ペガサスよろしく飛んでいるわけだが、羽ばたくわけでも魔法を使うわけでもない鉄の馬が、夜明けの空を飛ぶ光景は、ギーシュにはむしろ無気味に見えた。 もっとも――ハリケーンのカウルから生えた一対の翼と、その翼に付随するジェット・ノズルが、この飛行バイクの推進力になっている――と、説明されたところで、彼には理解しようもないのだが。 取りあえずギーシュは、いまだに呆然とアルビオンを眺めつづける才人を尻目に、キュルケが暖を取っている火球に、同じく手をかざした。無論、周囲に目を配りながらだ。 彼の使い魔ヴェルダンデは、いまシルフィードの背にはいない。もし傍にいたら、ともに抱きしめあって温めあいたいところだが、あいにく今、ヴェルダンデは風竜に抱えられる格好で、シルフィードの懐にいる。 タバサが言うには、シルフィードも互いに温め合う『抱き枕』が有った方がいい、との事だった。風竜が、人間のように夜風に凍えるものなのかどうか、本当のところギーシュには分からないが。 ハルケギニアの二つの月が重なる『スヴェル』の月夜――アルビオンがラ・ロシェールに最も接近する夜。 それは、一行が、ラ・ロシェールに到着した次の晩だった。 アルビオン行きの便が欠航している以上、何とか自力で、浮遊大陸まで飛行するしかないのだが、それでも彼らは、まだしも幸運だった。シルフィードという移動手段が、彼らにはあったからだ。 それに、風見が考案したアルビオン上陸作戦にとっても、実際問題、フネによりも風竜による移動の方が都合良かったという事実もあった。 だが、風見が全員に打ち明けた策が、その場にいた者全員を唖然とさせた、無謀極まりないものだった事には変わりはない。 それは、アンリエッタの名に釣られて参加したギーシュが、ハッキリ言って、その案を聞いた瞬間に、学院に帰りたくなったほどの、ムチャなプランであった。 「ニューカッスルの城に、地下から潜入するぅっ!!?」 素っ頓狂な声を上げるキュルケに、風見は涼しい顔で答える。 「そうだ。――そのために、グラモンとその使い魔にも来て貰ったんだ」 だが、その一言は、ギーシュからすれば聞き捨てにしていい台詞ではない。 「ちょっ、ちょっと待ちたまえ君ぃっ!! 僕はアンリエッタ姫殿下直々の御指名で、ここに呼ばれたんじゃなかったのかねぇっ!?」 「お前がここにいるのは、お前と、お前の使い魔の力が必要だからだ。――それとも手柄を立てる機会を、みすみす棒に振る気か?」 ギーシュが吹き出す泡状の唾液を躱しもしない風見志郎。しかし、風見が吐いた言葉に、たちまちギーシュは返答に困ってしまう。 . 手柄を立てる機会を棒には振れない。……確かにそうだ。国軍の元帥さえ輩出する名門の出自とはいえ、ギーシュは嫡男でもない三男坊。いずれ他家に養子に出される時に備えて、功を立てておくに越した事はない。 それに、……たしかに彼の使い魔・ジャイアントモールのヴェルダンデなら、浮遊大陸の真下から掘り進んでも、直上の城塞まで坑道を築くことも、あるいは可能であろう。 しかし、問題点は多々ある。 陽光さえ差さない浮遊大陸の“裏側”を、座礁しないように移動するだけでも一苦労だろうし、ニューカッスルの正確な座標が分からなければ、とても実行できる案ではない。闇雲に掘り進んで、顔を出した地上が、貴族派の本陣だったら目も当てられないのだ。 何より、制空権を握るという、貴族派の艦隊がどれだけうろついているかも知れないのだ。質・量ともに、世界一とも言われる竜騎士団を擁するアルビオンの空軍力は、決して侮れるものではない。 だが、――にもかかわらず、風見は言い切る。 「問題ない」 「V3ホッパー……ですか……?」 才人が尋ねると、風見は力強く頷き、腰から15サントほどの円筒形の物体を取り出し、 「こいつを使えば、移動中の俺たちの現在位置や、ニューカッスルの座標を知ることが出来るし、周囲の索敵や偵察を同時に行うことも出来る。――タバサ?」 風見は、突然話を打ち切ると、タバサに向き直った。 「なに」 「アルビオンの貴族派とやらの航空戦力は、予想できるか?」 その円筒形の物体で、何が出来るかはともかく、そもそも、その“ほっぱー”なる物体が一体何なのかは、この長身の男は説明する気は無いようだな、とギーシュは思ったが、無論、風見の話の腰を折る度胸は、彼にはない。 タバサは、……しかし、その風見の問いに深く考え込んでいた。 「分からない……でも……」 ギーシュには、なぜ風見が、そんな質問をタバサにするのかも想像つかなかったが、雰囲気的に、やはり黙っている方がよさそうだと判断する。 しかし、いつもは目立たない、この眼鏡っ子が答えた数字は、この場にいる少年少女たちを慄然とさせるには充分だった。 「貴族派たちが、空賊たちまで手なずけているなら……少なくとも、二個艦隊から三個艦隊が、常時アルビオン周辺を哨戒していると考えていい」 「……二個……艦隊……!?」 キュルケが呻き声を上げた。 「あくまで可能性の話」 タバサは、フォローのようにそう言ったが、その眼鏡の奥の怜悧な瞳は、全く笑っていない。 . 無理もない。 艦隊の規模は、それぞれ家門や軍閥によって違うが、一個艦隊で大体5隻から20隻。搭載している砲門は、小型艦なら20~30門程度だが、大型艦なら100門以上の大火力を有する場合もある。 いや、この場合、問題はフネの数や、火力ではない。 艦隊を拠点として、広範囲の索敵を行っているはずの、おびただしい竜騎兵がいる。これが厄介なのだ。竜騎兵一匹に見つかれば、あっという間に仲間を呼ばれ、最後には艦隊が丸ごとお出ましになるだろう。 そうなったら、絶対に助からない。艦砲射撃で、無数の砲弾を撃ち込まれて、何も出来ないままに即死だ。 だが、風見は静かに呟いた。 「ザルだな。――制空権が、聞いて呆れる」 ギーシュは唖然とした。 無論、風見のくそ度胸に、だ。 ――確かに、国土面積的に言えば、トリステインほどもある浮遊大陸を、たった二個や三個の艦隊程度で、哨戒し切れるものではない。だが……しかし、決して楽観視できる数ではないはずだ。この男は、艦隊が持つ戦力というものを甘く見ているのではないか? そうギーシュが思った瞬間、キュルケが口を開いた。 「カザミ、取りあえず、あなたの立てた予定は聞かせてもらったわ。それによると、貴方は何故か、アルビオン空軍に見つからないと踏んでいるようだけど、……もし見つかったら、どう責任を取るの?」 「責任?」 「そう、責任。だって今回も作戦指揮を取るのは貴方自身なのよ? 見つかるかどうかじゃない。見つかったらどうするのか、そこを聞かせてもらえない限り、こんな作戦、怖くて乗れないわ」 そう言ったキュルケの眼差しは、男に媚びを囁く、彼女の普段の潤んだ瞳とはまるで違う鋭さを放っている。 「ルイズには悪いけど、あたしだって、まだ死にたくはないのよ」 キュルケの舌鋒は鋭い。しかし、ただの難癖ではない。彼女の言い分に一理あるのも事実だからだ。タバサも才人も、無論キュルケの側からの目線で、風見の解答を待っている。 どう答える気だ? ギーシュは、むしろ興味津々といった態で風見を見た。 「策は、闇だ」 (やみ?) しかし、風見のその言葉は、ギーシュの解釈通りの『お先真っ暗な闇雲プラン』という意味ではなかったらしい。彼は説明を続ける。 「明日、日が暮れると同時に出立する。夜の闇にまぎれ、海面スレスレを移動し、アルビオンの真下から、ほぼ垂直に等しい深い角度で上昇する。貴族派は、座礁を恐れて浮遊大陸の真下はうろつかないという話だから、この航路を取る限り、大丈夫なはずだ」 . いつの間にか話柄が変わっている、という事はギーシュにも分かった。 キュルケが聞きたいと言ったのは、発見されたらどうするかであって、発見されないための方法ではない。……まあ、真下からの航路を取るというのは、それはそれで、有効な案ではあるだろうが。 だが、風見も、自分のミスに気付いたのだろう。 最後に一言付け加えるのを忘れなかった。 「それでも見つかったら、俺が全力を以って、お前らの盾になる。……それだけだ」 「頼りにしていいのね……!?」 睨み付けるように確認するキュルケを見て、ギーシュは思い出していた。 ツェルプストー家が、ゲルマニアでも有数の軍人の家系であることを。 そして、確かに無謀極まりない腹案ではあるが、今となっては、風見の提示したプラン以外に、もはや他の策も無いであろうことも。 だが、……やはり予定は予定でしかないというのが、世の常、というものだった。 「いけない……!!」 さっきまで一心不乱に読書に勤しんでいたはずのタバサが、そう呟いた。 何が? と訊き返す暇さえ、ギーシュにはなかった。 タバサの目が指し示す方角――太陽の中に、確かにそれは見えたからだ。 (艦影……!?) 次の瞬間には、轟音が大気を震わせ、数十発の砲弾が空を切り裂き飛来する。 ――死ぬっっ!? 走馬灯は見えなかった。 見開いたままのギーシュの目には、全く違うものが見えたからだ。 すなわち、襲い掛かる一斉砲射の中から、着実に自分たちを貫くと思われた一発の凶弾。それを、自らの身体を張って防ぎ止めた、一人の男の影。 「かっ、風見さん……!!」 才人がうめくように、つぶやく。 (カザミ……あれが……?) しかし、ギーシュの目には、そこに風見を見つけることは出来なかった。 直撃弾の砲煙の中に“人馬一体”の人影はあった。だが、ギーシュには、それが風見には全く見えなかったのだ。何故ならそこに、彼が知る男の姿はなかったから。 そこにいたのは、自分たちが乗るシルフィードの、遥か前方にいたはずのハリケーンであり、そのシートに屹立する、昆虫のような顔をした一人の亜人……仮面ライダーV3だったからだ。 しかし、タバサにしろキュルケにしろ、そして才人にしろ、彼らは、突然出現した謎の亜人に、まったく驚いてはいない。むしろ、彼の身を気遣うような視線さえ向けている……ということは、やはり……!? 「あれが……カザミ……なのか……!?」 . 砲音が再び轟く。 こちらに向けて、艦砲射撃の第二波が放たれたのだ。 それら全弾の軌道計算を瞬時に行えるほど、V3の大脳に内蔵された補助AIの機能は高くない。だが、彼にはそれを補って余りある他の能力を持ち合わせていた。 死角に満ちた人間の肉眼に比べ、ほぼ全天の視界をカバーできる巨大な複眼。 それらの視覚を、100%活かすことの出来る、強化された動体視力、そして反射神経。 なにより、歴戦の過去によって培われた“勘”。 それらが、シルフィードに直撃を与えるであろう砲弾を、的確に選別し、選別した瞬間には、V3の跳躍は終了している。……あとは、その砲弾を身体を張ってガードするだけだ。 ……カメバズーカの時もそうだったが、この世界での俺は、どうやら大砲に縁があるみたいだな……。 全身に走る衝撃と激痛をこらえながら、V3は心中、苦笑を禁じえなかった。 「風見さん!! 風見さん!!」 才人の悲鳴が、美しい夜明け空に響く。 だが、いまのV3に、彼の叫びに応えてやれる余裕はない。 出来る事は、こう、怒鳴り返す事だけだ。 「バカ野郎!! 俺の事はいいから雲の中に飛び込めっ!! 早くしろっ!!」 前ページ次ページもう一人の『左手』
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前ページ次ページもう一人の『左手』 <フリッグの舞踏会から9時間前> ユニコーンと杖を組み合わせた紋章をつけた馬車が、護衛たる魔法衛士隊の一団とともに、魔法学院の門をしずしずとくぐり、学院長オスマン以下、教員生徒、御目見え以上の資格をもつメイジたちはこぞって居並び、杖を掲げた。 従者に手をとられ、馬車から降りた女性は、いまだ少女と呼ぶべき幼さを、その顔に残していたが、そのあどけなさこそが、彼女の容貌に華を添えていることを、誰もが認めていた。 トリステイン王国第一位王位継承者・アンリエッタ・ド・トリステイン姫殿下。 その可憐で清楚な美貌は、国民の間に絶大な人気を誇り、その支持率は、実際に政務を執る宰相のマザリーニはおろか、国家の最高主権者たる太后マリアンヌさえも凌ぐという。 毎年開催される『使い魔品評会』の最大の主賓であり、その御前に使い魔たちの芸を捧げ、優勝の栄冠を掴んだ者は、その夜に催される晩餐会『フリッグの舞踏会』で、アンリエッタから、直接お言葉を頂く事が出来る。 それは、トリステイン魔法学院在校生たちにとって最大の栄誉であった。 もっとも、他の生徒たちとともに整列しながら彼女を見つめるルイズの眼差しは、少なからず微妙な感情を含んでいた。 (せっかく姫様が来て下さったというのに、品評会に参加する事さえ出来ないなんて……) ――王国の象徴たる美貌の王女。 そんな彼女と個人的面識があるというのは、ルイズにとって、密かな誇りであった。 本来ならば、その高貴なる“幼馴染み”の前で、自分が召喚した使い魔を――ひいては自分の価値を、あらためて認めて欲しかった。 才人は、自分が人間である以上、犬猫と並んで一芸披露などやってられっかと叫んだ。 確かにそれは道理だ。 たとえ、もとをただせば使い魔として召喚したとはいえ、余人の契約した凡百の禽獣たちと、彼らを比較する気持ちは、もはやルイズには無い。 いや、使い魔としての話だけではない。 たとえ一個の人間としても、才人以上の勇気を持ち、風見以上の戦闘力を持った者など、この学院にいるはずが無いからだ。そういう意味では、ルイズは彼らを召喚した自分に、今では誇りさえ抱いていた。 だが、それでも、アンリエッタに認めてもらう数少ない機会を棒に振ることは、――彼女となまじ旧知であるだけに――ルイズにとって、とても耐えがたい事だった。 が、それも今となっては、彼らの心情以上に、物理的に困難な話になりつつある。 彼女が召喚した使い魔たちは、『破壊の杖』事件で、それなりの傷を負ってしまっていたからだ。 二人とも、というのはある意味正確ではない。 改造人間たる風見は、一晩寝込んだだけで、起き上がれるようになり、どこかへ行ってしまったからだ。――もっとも、彼はもとより容易に他人に弱みを見せる男ではないので、本当にダメージが回復したのかは、知りようも無いが。 正確に言えば、起き上がれないのは才人一人だ。 彼は、風見のように人工的な自己修復機能を持ち合わせてはいない。 いかに水魔法の秘薬といえど、たった一日では、森で負った火傷が完全に癒えないのも、当然だ。 余談だが、先日の決闘騒ぎといい、彼はこの一週間で、ハルケギニアの平均的平民が利用する、ほとんど一生分の秘薬を消費した事になる。 そして何より、おとといの夜の一件で、折角ふさがり掛けていた傷口も、少し開いてしまったと聞く。……というより、実は、全面的にルイズの責任なのだが。 (無茶するんだから……あのばか) その時の様子を思い出すと、ルイズは、胸の内にじんわりと暖かいものが満ちてくる。 無論、一人でにやにやしている自分を、隣に並んだキュルケが、やれやれとばかりに肩をすくめて見ているのを、気付きもしない。 だが、当然の話だが、――たとえ傷口を癒えたとしても、体力までは回復しない。 結局、才人は当分、ルイズの部屋で、安静にしていなければならなかった。 まあ、今回の秘薬は、学院への窃盗犯である『土くれのフーケ』を追跡して(彼は人質であったが)負った名誉の負傷であるため、代金は学院側が負担してくれた。そのため、自分のフトコロは痛まなかったのが、救いと言えば救いかもしれない。 (でも、昨日買ってあげたあの剣は……正直、痛かったわね) ギーシュとの決闘後に、才人に使用した秘薬代。それで、今月のルイズの小遣いは底をついた。 だが、生まれながらのお嬢様である彼女にとって、“一文無し”という状況は、自分の行動を妨げる理由には全くならない。ヴァリエール公爵家の名を出せば、大概の店で信用買いが可能だったからだ。 現に昨日、ブルドンネ街で購入した『デルフリンガー』とかいうインテリジェンス・ソードは、家名を出せば、普通に買えた。――もっとも、その領収書の金額は、かなりのボッタクリ価格である事を、彼女は知らなかったが。 しかし、自由になる現金が、手元に無いという事実は、まったく変わらない。 次の仕送りの振込み日まで、かなり日がある。それまでこの軽い財布で何とか、やりくりせねばならない。 ルイズはそう思うと、さっきまでの暖かいものが、急速に萎えてゆくのを感じた。 そして、例の『使い魔品評会』には、たしか優勝賞金も出たはずだった事を思い出すと、優勝どころか、参加すらおぼつかない現状を思い出し、先程よりもさらに暗澹たる気分に落ち込む自分を食い止められなかった。 もっとも、彼女の使い魔は一人ではない。 才人が動けない今、風見に『品評会』への参加命令をすれば済む話だ。――彼を知らない者ならば、簡単にそう言うだろう。 そして、改造人間たる風見が、その特殊能力を披露すれば、品評会でも充分優勝は狙えるはずだ。 先日の『破壊の杖』の一件で、この青年の所有する凄まじいまでの身体性能を、ルイズは充分すぎるほど知っていたからだ。 だが、才人でさえ嫌がった品評会へのエントリーを、あの男が承知するとは、到底思えなかった。 風見は、ただ平民だから、貴族だからという理屈で命令に従うような男ではない(まあ、正確には、才人だってそうなのだが)。 今回の『破壊の杖』事件の時も、便宜上とはいえ主である自分に、『足手まといだから帰れ』と言うような男なのだ。……まあ、あの時はかろうじて気力を振り絞り、一本やり返すことに成功したが。 しかし、だからといって彼に対する苦手意識が払拭されたわけでは全然無い。 たとえ身体を張って怪物から守ってもらったとしても、それは変わらない。 だが、いつまでも逃げてばかりはいられない。 ルイズは、風見志郎を探そうと、決心した。 <フリッグの舞踏会から40時間前> 「まいったな……」 才人は、完全にルイズの姿を見失っていた。 今夜の『破壊の杖』事件の顛末を報告するために、学院長オールド・オスマンと教師のコルベールを医務室に招き、話を進めた。 本来なら、自分たちから学院長室に出向かねばならないはずなのだが、オスマンはいたって気さくな老人で、才人が負傷していると聞くと、ケガ人に負担はかけられんと言って、わざわざ医務室まで出向いてくれた。 で、問題はそこからだ。 、話の途中で、何故かルイズが泣き出し、医務室から走り出てしまったのだ。 才人は、わけが分からないなりに彼女を追って――キュルケに怒鳴られたからということもあるが――理由を聞こうとしたが、とうとう追いつけず、闇雲に探し回るしかなくなってしまったのだ。……それから、もう一時間も経つ。 もう時間が時間だ。こんな真夜中に大声を出して、彼女を探し回るわけにも行かない。いや、それ以前に、呼んだところで、返事をしてくれるわけが無い。 だいたい、あいつがあんなに足が速いなんて聞いていない。 いやまあ、確かに、もとからすばしっこい奴ではあったが、体格から考えても、まさか追いつけないとは思っていなかった。 火傷がひきつれて、まともに全力疾走できないという要因もあったが、もし、普通の状態で追っかけっこしたとしても、案外、勝てないかも知れない。 そういえば、ルイズは乗馬が得意だった。あの小さな身体で、自分の倍以上ある馬を、平気で乗りこなす姿に、才人は密かに舌を巻いたのを思い出した。……なんかムカついたので、素直に誉めてやらなかったが。 ということは、ルイズは、身体能力の持ち合わせも平均以上ということになる。 そう思うと、才人は持ち前の負けん気が、むらむらと込み上げてくるのを感じた。 あんなに可愛くて、勉強も出来て、実家は大貴族で、その上、運動神経もアリかよ!! そう思うと、才人は、世間の不平等さを、すごく叫びたくなる。 彼自身、学業・運動・容姿、ついでに実家の経済状況も『中流』の域を全く出ない少年だったから。 まあ、彼女は、それらを補って余りある『魔法』という致命的な欠点があるが、彼にとっては、ルイズが魔法を使えようが使えまいが、正直どうでもいいのだ。なにせ才人は魔法自体存在しない世界で生まれ育ったのだから。 ――そして、彼のその価値観こそが、才人によってルイズが救われている最たる箇所なのだが、才人も、そして当のルイズも、その事実には気付いてはいない。 「やれやれ……」 才人は、校庭に出ると、塔の壁にもたれて座り込んだ。 いま何時だ? 腕時計は、朝の5時を指している。 周囲は闇だが、夏なら、そろそろ夜が明けている頃だ。 寒くないといえば、嘘になる。だが、火照った火傷が寒風に晒され、心地良いのも本当だ。 しかし、あの時ルイズは、何故泣いたのだろうか? キュルケは、自分を名指しで『追え』と言った。 ということは、やはりルイズが泣いたのは、この平賀才人に責任がある、ということになる。 しかし、あの成り行きで、いつ彼女を泣かせるような言葉を吐いた? 正直、才人には、まったく思い当たるフシがなかった。 腹が鳴る。 才人は、その音を聞いて、ようやく自分が空腹である事に気付いた。 いや、空腹だけではない。引きつるような火傷の痛み以上に、彼は、自分の全身が、それこそ泥のような重い疲労に包まれている事を、はじめて意識した。 現に――下手に休憩を取ってしまったからかもしれないが――動くのが、死ぬほど億劫になってきている。それも急速に。 しかし、とりあえず状況的に考えて、自分がルイズを捕まえ、涙のわけを聞き、それなりに慰めてやらねば、眠ることも許されないだろう。キュルケに言われたからではない。男としてのエチケットとしてだ。 才人は立ち上がった。 ルイズを捜さねばならない。 彼女に会って、慰めねばならない。 自分の疲労を確認した瞬間、才人は、猛烈にルイズの涙の理由が気になり始めた。 火傷はともかく、疲れているのはおれだけではないはずだ。何しろ彼女は今夜、遠路はるばる、このおれを助けに来てくれたのだから。 もし、そんなルイズを泣かせたのだとしたら、……泣かせた上で、動くのがダルイとか言っているようなら、男として、おれはヤバイ。――才人は瞬間的に、そう思ったのだ。 この時間に起きて、活動している人間は限られる。だが、それでも、そいつらがルイズを見ていないとは限らない。 たとえば、――厨房だ。厨房の料理人やメイドたちなら、もしかして彼女を目撃しているかも知れない。 (たしか、あのメイドの子……シエスタとか言ったか……?) 才人は、ルイズの捜索に本腰を入れ始めた。 <フリッグの舞踏会から12時間前> この護送車の乗り心地は、思ったほど悪くない。 もっとも、手枷足枷と腰縄がなければ、もっと良かったのだが。 そう思って、フーケは苦笑した。 護送車――といっても、形状は一応、馬車である。 ただ、普通の馬車と違うのは、箱状の馬室が、鋼鉄に鎧われた檻で出来ているという事だ。 一晩、魔法学院の地下室で睡眠をとったので、魔力はそれなりに回復しているであろうが、そもそも杖を奪われてしまっている以上、この鋼鉄の檻は、まさしく完璧に脱出不可能な“移動監獄”であった。 このままトリスタニアの一角にあるチェルノボーグ監獄に移送され、来週中には公判も開始されると言われた。どう転んでも、流刑か死罪は免れないだろうから、明日にでも終わらせてくれればいいのに、と思う。 もっとも、さんざん貴族たちの秘蔵のコレクションを荒らし回ってきたのだ。その中には、どう見ても非合法な入手経路を匂わせる品も数々ある。刑が執行される前に、どこぞの貴族が放った刺客に消されてしまう可能性の方が高いだろう。 我ながら、惨めな末路だと思う。 だが、不思議と後悔はなかった。 「最後にいいもの、見せてもらったからね……」 『破壊の杖』からイキナリ変身した、あの怪物。 その怪物から自分を庇い、それどころか、腰を抜かした自分を抱え、逃げてくれた少年。――彼は、もともと自分がさらってきた人質だった。 その怪物をたおすために、百年の知己もかくや、といわんばかりの阿吽の呼吸で、ともに杖を振るい、戦った少女たち。――彼女らは、もともと少年を救出に来た、追っ手だった。 そして、その怪物から自分たちを逃がすために、単身、怪物と戦い、時間を稼いでくれた、あの昆虫顔の亜人。――彼は、もとはといえば、最初に自分のゴーレムと戦った“敵”だったはずだ。 まったく、大した奴らだ。これまで自分がコケにしてきた、鼻持ちならない貴族どもとは大違いだ。 心残りはある。当然だ。 もし、自分が死んだら、アルビオンにいるあの子が、苦労することになるだろう。 これまで稼ぎの大半を、生活費として仕送りしていたのだ。彼女と子供たちが、これからの暮らしを、どうやって立てていくのか。それを思うと、胸を掻き毟りたくなる。 だが、一応、頼んでは来た。 たしか、キュルケとか言ったか。ゲルマニアからの留学生、フォン・ツェルプストー家の娘。 ウインドドラゴンの背の上で、学院に帰還する途上、自ら縄にかかる条件として――ハッキリ言って条件など言える状況ではなかったが――“家族”のことを頼んできた。 ロングビルと名乗っていた頃は、あまり虫の好かない娘だったが、奔放そうな一面の裏に義理堅さが潜んでいそうだ。あの少女なら、信頼できる気がする。 その時だった。 護送車が、不意に止まった。 あまりに突然だったので、思わずフーケはつんのめる。 「ちょっと!! 馬車くらい、まともに御せないのかい!?」 そう叫んで、彼女は気付いた。 たった今まで、護送車を取り囲んでいた、魔法衛士隊とおぼしき数人の気配。それが跡形もなく消えていることに。そして、その衛士たち数人分以上の魔力を帯びた気配が、護送車の扉の、すぐ外に佇んでいる事を。 ――どうやら、ここまでのようだね。 フーケは覚悟を決めた。 おそらく、いや間違いなく、自分を始末しに現れた刺客であろう。 檻の鍵と、蝶つがい溶かされ、扉が重い音を立てて地面に落ちる。 そこから、肉の焼ける、妙に香ばしい匂いが、鋼鉄の箱の中に漂ってきた。 そして、たった今、魔法衛士隊を皆殺しにしたであろう、一人の巨躯の男が、ゆっくりと檻の中に入って来る。――車軸のような長大な杖を持った、異様な男。 「俺は『白炎』のメンヌヴィル。――マチルダ・オブ・サウスゴータ、だな?」 そう言って、男は二ヤッと笑った。 <フリッグの舞踏会から39時間前> その瞬間、ルイズは男の背に背負われている自分に気がついた。 (あれ、わたし、……眠っちゃってたの?) 反射的に、口元のよだれを拭こうとして、自分が妙に見覚えのある服を着込んでいる事に気付く。 ハルケギニアでは見たこともない繊維で織られた、妙に厚手で、それでいて全く重さを感じさせない、その上着。若干まだ焦げ臭さが残っていたが、ルイズは不快とは思わなかった。 それは、平賀才人が日頃愛用している、奇妙な形の衣服。 ――確か“ぱーかー”とかいったっけ? 「起きたか、ルイズ?」 「ほえ?」 「ほえ、じゃねえよ、あんなところで寝やがって。風邪でも引きてえのか、お前は」 憎まれ口を叩きつつも、自分を背負いながら歩を進める少年に、ルイズは頬が赤く染まるのを感じたが、――この体勢ならば、自分がどんな顔をしようが、彼に見られることはないという事実に気付き、途端に、身体から力が抜けるのを感じた。 医務室を飛び出して、どこをどう走ったかは覚えていないが、――気がついたらヴェストリの広場にいた事までは、覚えている。 かつて才人が、徒手空拳でメイジに挑み、瀕死の重傷を負った場所。 そこでうずくまっているうちに、いつしか泣き疲れて眠ってしまったのか。 あれから幾日も経っていないというのに、まるで何年も前のような気がする。だが、それでいて、目を閉じれば、そこにはありありと才人の勇姿が瞼に浮かぶ。 まあ、メイジと言ってもドットクラスのギーシュが相手だったし、勇姿と言っても、ズタズタのボロボロにやられて、死にそうになっている姿だったが。 だが、それでも、ルイズにとっては、あの瞬間の才人は、まぎれもないヒーローだった。 みんなから苛められていた、無力で哀れな少女の前に、颯爽と現れた、怒れる王子さま。 勿論、平民に過ぎない彼に対し、そんな想いを抱いた自分を、後々ルイズは必死になって否定したが、しかし、それでも彼女は最初から理解していた。 平民が貴族に喧嘩を売るという、その意味。 平民がメイジと喧嘩をするという、その意味。 彼は、風見のように、メイジと戦っても確実に勝てるだけのパワーを秘めているわけではない。 そこらにいる普通の人間が、“魔法使い”相手に戦うのだ。 風見が戦うのと、才人が戦うのでは、まったく決闘の意味合いが変わってくる。 おそらく才人自身、気付いてもいまい。 それは、単に身分上の下克上を意味するだけの行為ではない。 それは、ハルケギニアに於いて、社会と世界を相手に喧嘩を売るという意味であり、行為であるということを。 案の定、彼はコテンパンにやられた。 だが、それでも彼は屈しなかった。 血を吐き、骨をへし折られ、それでも戦うことをやめなかった。 ルイズは、そのときの才人を思い出すと、涙が出そうになる。 この、楽しい想い出など一つもなかった学生生活で、唯一、自分の味方になってくれた少年。 しかし、しかし、だ。 彼女の不安は、またも自己主張を開始する。 そのときの才人の怒りの対象が、ギーシュだけだったと誰が言えよう? もしかしたら、才人が本当に殴りたかったのは、ルイズではなかったのか? 誘拐同然に召喚され、突然使い魔としての生活を強要されたフラストレーションを、たまたま、ああいう形でギーシュにぶつけたかっただけではなかったのか? この想像が、才人その人を激しく侮辱するものである事は、百も承知している。 だが、それでも、一旦拡がった想像の翼は、飛翔する事をやめてくれない。 ルイズは、さっき泣き尽くしたはずの涙が、またも溢れ出しているのを感じた。 彼女はそれでも、必死に額を才人の背に押し付け、可能な限り声を洩らさないようにする。 「なあ、ルイズ」 突然、才人が口を開いた。 「お前が何で泣いてるのか、おれには分からないけど――」 「……」 「お前が考えてる事は、多分間違ってるぜ」 ルイズは、思わず顔を上げた。――涙でぐしゃぐしゃになっている、その顔を。 彼が何を言っているのか、ルイズには分からなかった。 だが、たった一つだけ分かる事がある。 才人は、否定してくれたのだ。 このルイズ・ラ・ヴァリエールの胸の内に生じた、暗い疑問を、それこそナタで叩き割ったように、明快に否定してくれたのだ。 「なによ、この……ばかいぬ、調子に乗らないでよ……!」 ルイズは、そう言いながらも、さっき以上に彼にしがみ付いた。 ぷん、と才人の身体から血の匂いが薫る。 おそらく、包帯の下の傷口が開いてしまっているのだろう。優しい声を出してくれてはいるが、いま才人は、激痛の余り、おそろしく険しい顔をしているに違いなかった。 でも、それでも、……ルイズはこのままでいたかった。 この、妙に安心できる背中に、自分の体重を預け、彼の体温を感じていたかった。 さいわい、才人が背中を降りろと言ってくる様子は無い。 だから、と言っては何だが、――ルイズは甘える事にした。 だが、ケガ人にただで甘えていては、ヴァリエール公爵家の名がすたる。 「ねえサイト、……あんたに何か買ってあげるわ。剣なんかどう?」 「ああ? イキナリなに言ってるんだ、お前? 犬のフンでも拾い食いしたのか?」 「ばっ……!! バカ言ってるんじゃないわよっ!! 今日みたいなひどい目にあっても、ちゃんとわたしを守れるようにって、ただそれだけよっ!!」 素直になれないのは、お互い様であったかも知れない。 だが、この瞬間、少年と少女は、まぎれもなく幸せだった。 前ページ次ページもう一人の『左手』
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前ページ次ページもう一人の『左手』 「ズゥゥゥゥゥカァァァァァァ!!」 悪鬼のごとき形相で迫るカメバズーカ。 「ぐっ!?」 それを迎え撃とうとするV3の全身に走る、高圧電流のような激痛。 思わず腰が砕けそうになるが、こんな状況で、膝を屈するわけにはいかない。懸命に大地を踏みしめる。 そんな隙だらけのV3の懐に、カメバズーカは一気に飛び込み、その勢いを殺さぬままに、二本の剛腕で、V3の首根っこを、握り潰さんばかりに引っ掴む。 「ちぃっ!」 しかしV3は、カメバズーカの勢いを利用して、柔道の巴投げの形で、怪人を後方に放り投げる。 大地にのけぞって倒れたV3。その彼によって、大地に転がされたカメバズーカ。 だが、そのままむくりと身を起こすカメバズーカを、予期せぬ攻撃が襲う。――彼の足元の地面が、いきなり爆発したのだ。 「がはっ!?」 衝撃波をまともに食らって、カメバズーカがすぐ傍の樹に叩き付けられる。 ルイズが、怪人の足元に転がっていた石に、『練金』をかけたのだ。 「くっ……、何をしやがったズ~カ~!?」 勿論、デストロンの改造人間からすれば、そんな程度の爆発など、物の数ではない。 だが、ルイズの放った、二発の『失敗魔法』の結果は、恐慌状態に陥っていた、キュルケ、タバサ、そしてフーケの、3人のトライアングル・メイジの精神に平衡をもたらすには充分だった。 (魔法が効いてる……? この化物には、魔法が通用する!?) いかに人に畏怖を撒き散らす“ばけもの”といえど、それと戦おうとする者がいる限り、人の心はいつまでも凍てついたままではいられない。『ともに戦う』という選択肢を投げ捨てて逃亡するには、この世界のメイジたちの気位は高すぎるのだ。 フーケが、怪人の足元に『練金』をかけ、両足を大地に埋め込ませる形で動きを封じ、 「今だよっ!!」 そのフーケの声に呼応するように、キュルケが『フレイムボール』を放ち、カメバズーカの甲羅を、紅蓮の炎に包み込む。 だが、それでも、怪人の表情が変わったのは一瞬だけだった。 「ズ~~カ~~、悪いがお嬢ちゃん、こんなヌルい火じゃあ、水ぶくれ一つ作れねえぜぇ」 ――が、その時、フーケが自分に残った最後の魔力で、キュルケの炎に巻き上げられた木の葉を“油”に錬成し、同時にタバサが、特大の『エアハンマー』をお見舞いする。 「なぁっ!?」 急激に、大量の油と酸素を補給された炎は、それこそ爆発的なまでの燃焼を引き起こし、カメバズーカの全身を覆い隠すほどの勢いを見せる。それは普通の人間なら、一瞬で気化してしまうほどの高熱だった。 「やるじゃないか、お嬢ちゃんたち」 「あんたもね、おばさん」 だが、そのキュルケの余計な一言に、フーケがブチ切れる暇さえなかった。 「よし、今のうちだ。全員、早くここから逃げるんだ! アイツは俺が引き受ける!!」 「なっ、何言ってるのよアンタっ!? ここまで来て、手柄を独り占めする気なのっ!?」 そのV3の台詞に、やはりと言うべきか、真っ先に反応したのは、ルイズだった。 さっきの二発の失敗魔法こそが、怪人への反撃の先鞭だったと思っている彼女にとっては、眼前の怪物を追い詰めているとおぼしき今の情況で、敵前逃亡する事は考えられない事だったからだ。 永年、『ゼロ』のレッテルを貼られ続けた彼女は、――無理からぬ事だが――それほどまでに、自らの汚名をすすぐ栄誉に貪欲だった。 「そうよカザミ、悪いけど、いまさらあの獲物を、あんたに譲る気は無いわ」 キュルケも調子に乗って、ルイズの尻馬に乗る。 「人を散々ビビらせておいて、蓋を開けりゃあ、とんだ張子の虎じゃないの」 このキュルケという少女は、こと虚栄心の一事に関しては、ルイズをさらに凌ぐ。 そして何より、自分をこれほど怯えさせた存在が、戦闘を開始してみれば、案外恐れるに足ら無かったという事実が、悔しくて仕方が無いのだ。 その思いは、何もキュルケだけではない。 「まったくね。これじゃあ、私としても、何で腰まで抜かして、こいつから逃げたのか分からないよ」 フーケもぼやくように呟く。 フーケにしても、眼前で、あっさり火だるまになっているカメバズーカを見て、拍子抜けした事は間違いないのだ。 タバサだけが、いまだ鋭い眼差しを怪人に注いでいたが、それでも、油断していないだけで、勝負はついたと判断しているようだった。 ――だが、それでもV3には分かっていた。 自分たち改造人間は、この程度のことで死ぬような、ヤワな存在ではない事を。 「ズゥゥゥゥゥカァァァァァ!!」 推定一千度以上の高熱で炙られ、完全に活動を停止したかに見えたカメバズーカが、突如、広大な森林に響き渡るような声を轟かせた。 「なっ……!?」 彼女たちは、先程までの余裕はどこへやら、その咆哮を聞いた瞬間に、顔色を失ってしまう。 そしてカメバズーカは、自らを包む巨大な炎球を、内側から弾き飛ばしたのだ。……かつてV3が、コルベール相手にそうしたように。 ――これほどの炎ですら、改造人間カメバズーカを焼き尽くす熱量には、至らなかったのだ。 「危ない!!」 カメバズーカが弾き飛ばした炎球は、一千度に及ぶ高熱を含んだ弾丸となり、四方八方に、放射状に撒き散らされる。 もしV3が、とっさに盾にならなければ、彼女たちは、その炎球破裂の余熱だけで、黒コゲになって即死していただろう。 「きゅいっ!!!?」 数cm大の小さな炎が、仰向けにひっくり返って気絶していたシルフィードを、叩き起こす。だが、その程度の火傷で済んだのは、この風竜にとっても、果てしない幸運だったと言えるかも知れない。 カメバズーカが撒き散らした、高熱の火炎弾は、周囲の木々を一瞬にして火だるまにし、その炎は瞬く間に、燃え広がっていったからだ。 それほどの高熱をまともに浴びたV3である。 いま、怪人から攻撃を喰らえば、例え彼といえど、無事には済まなかったであろう。 だが、カメバズーカとしても、全くの無傷というわけではない。 鱗状の人工強化皮膚は、ところどころ焦げ付き、焼けただれ、ぞっとするような傷痕を晒している。 「ズ~~~カ~~~」 口から、ごほっと黒煙を吐くと、カメバズーカはガクリとよろめいた。 (いま……だ……!!) V3は、怪人と同じく、焦げ痕の残る自らの肉体を引きずりながら、渾身の鉄拳を、硬い皮膚によろわれた、そのほおげたにめり込ませる。 カメバズーカは、悲鳴すら上げられず、暗い森の奥に殴り飛ばされていった。 (くぅぅ……っ) 膝を着きそうになるのを、かろうじてこらえ、V3は振り返る。 「もう一度言うぞ……お前らでは、あいつと戦えない。ここは俺に任せて……逃げろ!!」 「カザミ……」 「――聞け」 V3は、言葉を続けた。 「あの怪人――カメバズーカの体内には、爆弾が仕込まれている。――それも、ただの爆弾じゃない。核爆弾だ」 「かく……爆弾……?」 タバサが未知の単語に反応し、眼鏡を嵌め直すが、フーケはその言葉に思い当たっていた。 「それって、まさか、ガンダールヴの坊やが言っていた――ゲンシ爆弾とかいう……?」 「そうだ。爆発すれば、半径数十リーグ以内の物は、何もかも吹き飛ぶ。何もかも、だ」 「うそ……でしょ……?」 キュルケが呟くように訊き返すが、V3が冗談を言っていないことは、その語調の空気からして、歴然であった。 「今すぐ魔法学院へ飛んで、Mr.オスマンに伝えるんだ。大至急、学院にいる全ての人間を退避させろ、と。分かったな?」 顔面蒼白になりながらも、タバサは頷く。 それを確認すると、V3は彼女たちに背を向けるが、 「待ちなよっ!!」 フーケが、その背中を、怒鳴るように呼び止めた。 「私たちはドラゴンで逃げる。それはいい。でも、アンタは……どうする気なんだい?」 「あいつは俺の――“仮面ライダー”の敵だ。お前らの手を煩わせるわけにはいかない」 その場にいた全員が、その言葉の正確な意味を理解できなかったであろう。だが、この異形の両者の間には、余人には計りがたい深き因縁が存在するのだろう。それだけは分かった。 「ヴァリエール」 「えっ――?」 「平賀に、……優しくしてやってくれ」 目だけで振り向いて、そう答えると、V3は、カメバズーカを殴り飛ばし、転がっていった方向に走り出し、姿を消した。――ルイズには、その背中が僅かだが、寂しく微笑んだような気がした。 「カザミィィィッ!!」 ルイズの叫びを合図としたように、紅蓮の炎に染まる森の奥から、バズーカ砲弾の爆音が響く。 それは、人間には介入できない、改造人間同士の戦闘開始の号砲であった。 ――ズキンっ!! カメバズーカに、地面に放り投げられ、脳震盪を起こしかけていた才人は、ようやく眼を開けた。手首から走る鋭い痛みが、気付け薬代わりになったようだ。 指は――動く。かなりの痛みを伴う事に変わりは無いが、それでも、骨は折れていないようだ。 その事実を、才人は暗澹たるショックとともに受け止める。 改造人間のパワーを以ってすれば、カルシウムの足らない現代人の骨など、文字通りひとひねりだったはずだ。にもかかわらず、おれの右手は無事なままだ。 何故だ。 ――考えるまでも無い。疑問の余地すらない。余りに単純明快な、その答え。 「風見……さん……」 体を起こす。 それに気付いたルイズが、こっちに駆け寄ってくる。 「サイト! 無事だった!? ケガは無い!?」 そんなわきゃねえだろ、と思いながらも、脂汗を流しながら、かろうじて笑って見せる。 「良かった……!」 「ルイズ」 「取り敢えず……取り敢えず、撤退するわよ。こんなところでグズグズして、カザミの志を、無下にするわけにはいかないわ」 「ルイズ」 「急いで! カザミは言っていたわ! あの“ばけもの”が自爆したら、魔法学院さえ巻き込むほどの大爆発を起こすって!! だから――」 「見捨てるのか? ――風見さんを」 その言葉を聞いた瞬間、ルイズのからだは凍りついた。 「風見さんは、お前にとっても“使い魔”の一人だろう?」 「……」 「そんなあの人を、見捨てるのか?」 そう問い掛ける才人の、射抜くような瞳をルイズは、真っ直ぐに正視することは出来なかった。 「……かっ、カザミは……カザミは死なないわっ!! サイトだって知っているでしょっ!? アイツはただの人間じゃない。それに……」 「だからって見捨てるのかっ!?」 「ただ見殺しにするんじゃないわっ!! 今こうしている間にも、あの“ばけもの”が自爆するかも知れないのよっ!! 一秒でも早く私たちは、学院に帰って、みんなを避難させなきゃならないのっ!! それに――」 「いま、ここにいても、私たちに出来ることはない、――か?」 才人に台詞を奪われて、ようやくルイズは彼に向き直った。――駄々をこねるな、と言わんばかりの目で、少年を睨み返す。 「――そうよ。悔しいけど、あの“ばけもの”を相手に戦えるのは、カザミだけ。私たちじゃない。だから私たちは、私たちに出来ることをするしかないの」 「きゅいきゅいっ!!」 むこうで、シルフィードが呼んでいる。 「なにやってるの二人ともっ!! 早く来なさいっ!!」 キュルケが焦れたように叫んでいる。 そう、こんな無意味な口論をしている暇は無い。 一刻も早く、ここから脱出しなければ、純粋に命が危ないのだ。 そんな事ぐらい、才人にも分かっている。 核爆発の威力の凄まじさは、世界唯一の被爆国民たる平賀才人が、この場にいる誰よりも承知しているからだ。 だが、それでも、……釈然としない。あの二人を置いて、自分たちだけおめおめと逃げるなんて出来るわけが無い。特に、彼の“記憶”を知ってしまった以上は。 「ルイズ、確かにお前の言う事は正しい。でも……やっぱり納得できねえ」 「何言ってるのよサイトっ!? 私たちに、他に出来ることがあるわけ――」 「戦いを止めさせる」 「なっ……!?」 「おれが二人を止めて見せる。そうすれば、何も起こらず、誰も死なずに済む」 ルイズには、この使い魔の少年が、もはや何を言っているのか分からなかった。 普通の人間が、まさに怪物同士というべき、あの二人の間に入って、どうやって戦闘を止めさせることが出来るというのだ。 「何ふざけたこと言ってるのっ!! あの“ばけもの”が説得の効く相手だと、本気で思ってるの!? 巻き込まれて、犬死にするのが関の山じゃないのっ!!」 「“ばけもの”って言うなっ!!」 そう叫んだ才人の目は、純粋なまでに真っ直ぐな目をしていた。 ギーシュのゴーレムに、瀕死の重傷を負わされても立ち上がり、カメバズーカ相手にナタ一本で立ち向かおうとした時の、――あくまでも退く事を知らない眼差し。 ルイズは知っていた。 この眼をした才人には、もはや一切の理屈は通用しないという事を。 「あの人は……好きでバズーカや甲羅を背負ってるわけじゃねえんだ。――あの人は」 「サイト……」 「あの人は……人間だ」 言い切るように言うと、才人はそのまま、少女を置いて駆け出した。 二人の改造人間が戦う――いまや炎が逆巻く、紅蓮の森に。 カメバズーカが撒き散らした炎は、いまや瞬くうちに延焼を重ね、月下に森厳と静かにあるはずだった森林は、まるで昼間のように明るかった。しかし、樹木を照らすのは日輪ではない。さながら煉獄のような白熱の炎である。 才人は、ハンカチで口元を覆い、煙を吸い込まないようにして、走った。 もし、こんな山火事の中、方向を見失ったら最後、確実に自分は死ぬだろう。カメバズーカの自爆や、森の延焼に巻き込まれるまでもない。一酸化炭素中毒で、あっさり窒息してしまうはずだ。 だが、それでも、才人には確信があった。 自分が、間違いなく風見の――V3のいる方向に向かっている事を。 そして、自分が話せば、二人が戦うことの無意味さを、必ず理解してくれるであろう事を。 「ズゥゥゥゥゥカァァァァァァ!!」 カメバズーカがV3を、燃え盛る大木に叩きつける。 その衝撃で、稲妻に打たれたように、巨木が縦に真っ二つになるが、そんな程度の攻撃で仮面ライダーが動けなくなるとは、怪人も思ってはいない。――当然V3本人も。 ダメージが残る重い身体を、意地だけで動かし、迫り来るカメバズーカのみぞおちに、前蹴りを返す。 よろめくカメバズーカに、さらにジャンプからのキックを見舞うが、一瞬走った激痛が、半呼吸ほど隙を作ってしまう。怪人は身を翻し、躱されたV3の蹴り足が大地を抉る。 「くっ!」 ――正直、このコンディションでは、格闘戦はキツイ。 V3は、そう思わざるを得ない。 だが、殺意だけで活動しているような、今のカメバズーカを相手に時間を稼ぐためには、近接戦闘が一番確実なのだ。 こいつに考える間を与えてはならない! もし、こいつが通常の“怪人”としての思考を取り戻す余裕を与えれば最後、いつ自爆という確実な手段に出るか分からないからだ。 その時だった。 「――やめろぉぉっ!! 風見さんも平田さんも、もう止めてくれぇぇっ!!」 パーカーのあちこちから、いや頭髪からも白い煙がくすぶらせ、才人が血を吐くような叫びを上げていた。 「ひ、らが……!?」 「小僧……!?」 次の瞬間、V3は反射的に動いていた。カメバズーカから才人を庇う位置に。 「馬鹿なっ!? 何故お前がここにいる!? 俺の戦いを無意味なものにする気かっ!!」 「……ええ、無意味な戦いです。だから、おれはここに来たんです」 そう言うと、才人は、V3の背からすり抜けて、二人の中間地点にに立った。 V3もカメバズーカも、眼前の少年の意図がまるで分からず、呆気に取られている。 「平田拓馬……昭和XX年X月X日生まれ。アマチュアレスリング・フリースタイル、全日本選手権優勝二回。世界選手権優勝一回、準優勝二回」 「おい……小僧……!!」 カメバズーカの顔から表情が消える。 「その後、靭帯を傷めて現役引退。平成XX年、XX大学レスリング部に顧問として招聘を受ける」 「――何のつもりだ……小僧……!!」 カメバズーカの背が震える。 「その3年後、同大学非常勤講師の某女性と結婚。同年、妻との間に長男・拓也誕生。その翌年現住所に自宅購入。その翌年……」 「小僧ぉぉぉっ!!」 もはや、カメバズーカの声は、絶叫と化していた。しかし才人は、いささかもたじろぐ事無く、そんな彼を真っ直ぐ見つめたまま、最後の一言を発する。 「――デストロンに誘拐、身柄を拘禁され、第一次改造人間計画候補素体とされる」 「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!」 カメバズーカは膝を着き、耳を塞ぎ、まるで本物のカメのように小さくなってしまっている。 V3は、そんな“敵”の姿を見て、呆気に取られていた。 「平賀……お前がいま言ったのは……?」 「風見さん」 「……本当なのか。洗脳が……?」 才人が、頷く。 「ここにいる方は、もう“怪人”ではありません。人の記憶と意志をもった人間です。デストロンという秘密結社が、このハルケギニアに無い以上、お二方がこれ以上争う必要はないはずです」 「……」 V3には信じられなかった。 ショッカーやデストロンといった暗黒組織の科学力はダテではない。 やつらが施した“脳改造”という名の洗脳固定は、改造人間本人の生存本能よりも更に上位に、組織の価値を置く。つまり脳改造を受けた者は、いわば、組織という名の宗教の殉教者になるということだ。 それほどの洗脳が、そう簡単に解除されるはずが無い。それになにより、このカメバズーカは自分の存在を確認した瞬間、問答無用で襲い掛かってきたではないか。 だが、そう思う一方で、やはり才人の言う事も一考の余地はあると思っている。 自分とて、召喚される前は半壊していたはずのダブルタイフーンが、復元していたではないか。洗脳によって破壊された、改造人間の自我も復元しないとは、誰が言い切れる? 「確かに……」 カメバズーカは、顔を上げた。 「俺の名は、平田拓馬……俺自身、ほとんど忘れかけていた名だがな……」 「じゃあ、やっぱり、――洗脳は解けていたんですね?」 「ああ。お前が、俺の前で意地を張っているのを見て、その時ようやく気付いたんだ。……自分の記憶が戻っている事にな」 それを聞いて、才人は、顔をほころばせた。 あの時、自分を嬲るように、右腕を捻り上げたカメバズーカが、そのまま才人の手首をへし折らなかったのは、やはり、人としての意識が回復していたからだ。 「だったら、……だったら、もう止めましょうよ! これ以上二人が戦う意味なんて無いじゃないですか!?」 「悪いが……それだけは無理だ」 カメバズーカは、そう言うと、さっきまでと同じ、殺意にまみれた目で、V3を睨んだ。 「コイツは、俺を殺した……俺自身の仇の片割れなんだ。絶対に、許せねえ……!!」 才人は失望しなかった。 カメバズーカの、その答えは、半ば予想できるものだったからだ。 しかし、それでも確認は取れた。もはやここには、組織に狂信的な忠誠を尽くす、“怪人”はいない、と。それが分かっただけでも、充分だった。 だから才人は、この場を静める最後の賭けに出た。 ポケットから、さきほど砕け散ったナタの一部――といっても、かなり大きな破片だったが――を取り出し、自分の首筋に当てた。 「平賀……?」 「――おい、小僧……何の真似だそりゃあ?」 「見た通りの眺めですよ」 才人は、緊張で、頬を引きつらせながら、 「平田さん……あなたの恨みや怒りはもっともだと思います。……でも、でも、それでも敢えてお願いします。――おれの首に免じて、この場は矛を収めてください!!」 「小僧……!!」 「おれに、あんたたち改造人間を腕ずくで止める力は無い。でも、せめて……覚悟ぐらいは……あんたらにも……!!」 そう呟くと、少年は唇をかんだ。 「くっ……」 「ふふっ……」 「くははははははっ!!」 「くっくっくっ……!!」 才人がぽかんと口をあける。 それはそうだろう。いくら何でも、仮面ライダーと怪人が、並んで笑い合っている光景は、視聴者として育った少年には、シュールすぎる“絵”だったからだ。 ひとしきり笑い終えると、カメバズーカは全身から煙を噴出し、見る見るうちに、――人間の姿になった。 筋骨隆々の、体格のいい、五十代の男に。 「まったく、度胸だけは一人前だな、小僧」 「平田さん、――あんた……!!」 V3は驚かない。 ハンマークラゲやテレビバエ、マシンガンスネークといった怪人たちも、人間形態への変身機能を備えていた。ならば、このカメバズーカに同じことが出来たところで、驚くには値しない。 おそらく、この男こそが、改造人間カメバズーカの、世に在るべき、本当の姿なのだろう。 しかし、同じく変身を解いた風見志郎に、男――平田が向けた眼差しは、先程と変わらぬ鋭いものであった。 「今日のところは、小僧に免じて見逃してやる。――だがV3、いつか必ず、俺は貴様と決着をつける。それだけは覚えておけ……!!」 そう言い捨てると、男は才人に、優しい、だがそれ以上に寂しい目で笑いかけ、そのまま森の奥に姿を消した。 燃え盛る炎が渦巻く、金色の森の中へ。 前ページ次ページもう一人の『左手』