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207 名前:【SS】左手のしりとり 1/3[sage] 投稿日:2011/08/13(土) 21 45 21.53 ID w9i6DogU0 [2/7] 『桐乃 好き』 そう書いた紙を桐乃に突きつけた。 桐乃はその文字に目を向けた後、手元の髪に新しく文字を書き、俺に見せてくる。 『京介 大好き』 くっ、俺の完敗だ。 正面を見ると、桐乃が勝ち誇ったように笑っている。 さて、ここで皆が誤解しないよう、今日の状況を確認しておこう。 今日は八月十三日。全世界的に左利きの日だ。 本当なら俺も桐乃も右利きなんで関係のない話なんだが、突然妹様が余計な提案をしてきたのだ。 「いざと言うときのために、名前くらい左手で書けた方がいいんじゃない?」 というわけで、俺と桐乃はリビングで向かい合いながら書き取りの練習を行っているわけだ。 ちなみに練習している文字は自分と周りの人の名前、それと好感情を示す言葉だ。 なんで好感情を示す言葉かって言うと、エロゲかなんかで、筆談でたどたどしく愛を告白するシーンが良かったからだとか。 まあ、左手で文字を書かなきゃいけないような状況なら、 ありがとうとか、感謝してるとか、大好きとか、そんな言葉を書く必要がありそうだよな。 桐乃が書いた文字に目を向ける。 『京介 いつもありがとう』 『京介 愛してる』 『京介 格好いい』 やっぱりこいつ、こういう時の学習能力は高いよな。 俺と一緒に始めたのに、大分上手くなっていやがる。 俺も負けじと文字を書いていく。 『桐乃 素敵だ』 『桐乃 可愛い』 『桐乃 ずっと側にいてくれ』 書いた文字を少し離れて見てみる。 駄目だ。下手すぎる。 一向に上達しねえ。 もしかしたら書く文字が悪いのかも知れん。 『あやせ ラブリーマイエンジェル』 『あやせ 俺 嫁』 『あやせ 京介 愛してる』 書いた文字を少し離れて見てみる。 うむ!大分上手く書けたな。 さて、桐乃はどうだ? 『あやせ 京介 嫌い』 『あやせ 京介 蹴る』 『あやせ 京介 埋める』 ・・・・・・なんか筆跡から怒りのようなものが感じ取れるんだが。 おい桐乃、何で俺を睨んでるんだ? あと、おまえが選んだ文字が悪感情を示すものに見えるのは俺の気のせいか? まあいいか。他の字を書いていこう。 208 名前:【SS】左手のしりとり 2/3[sage] 投稿日:2011/08/13(土) 21 46 11.03 ID w9i6DogU0 [3/7] 『カレーライス』 この言葉は必要だよな。 桐乃のほうを見てみる 『すり抜け』 すり抜け? 何でそんな言葉を書くんだ? 不思議に思い桐乃のほうを見ると、桐乃は黙ってこちらを見ている。 どうやら俺の次の文字を待っているようだ。 ・・・・・・なるほど。しりとりか。 『けん玉』 『待ちぼうけ』 『毛じらみ』 『御鏡攻め×浩平受け』 OKだ。 今度瀬菜に会った時はその乳を揉み解そう。 それはともかくとして、なんで『け』攻めなんだ? ・・・・・・『け』攻め? ふと思い立ち、正面に座る桐乃に目を向けた。 桐乃は真剣な表情で俺を見ている。 ・・・・・・気が乗らないが、付き合ってやるとするか。 前にちらりと見ただけだしちゃんとやれるかはわからないけどな。 俺は記憶から『あのしりとり』を引きずり出した。 『ケスラー・シンドローム』 ペンを握る桐乃の手がびくりと震えた。 その後、ゆっくりと慎重に文字を書いていく。 『無重量用軸受け』 やっぱりそうか。 なら続きはこれだ。 『ケレス』 『スピン抜け』 『計器飛行』 『ウインドウ開け』 予定調和の言葉を重ねていく。 さて、次はなんだったか― 『ケネディー宇宙センター』 『アナンケ』 『鍵盤ハーモニカ』 209 名前:【SS】左手のしりとり 3/3[sage] 投稿日:2011/08/13(土) 21 46 36.83 ID w9i6DogU0 [4/7] 俺が書いた文字に、桐乃が再度びくりと震えた。 そりゃそうだろう。 これは『王手』の状態だ。 ここで『あの文字』を書いちまったら『詰み』だからな。 さて、どうする? 俺が視線を向ける中、桐乃はゆっくりと丁寧にペンを走らせた。 『髪の毛』 ―桐乃は間違えなかった。 だから、あと二つの言葉でこのしりとりは―『プラネテスしりとり』は終わりを迎える。 頭の中に、俺が書くべき最後の文字を思い浮かべる。 ふう。 一つ深呼吸して覚悟を決めると、俺は震える手を何とか落ち着かせ、 桐乃に勝利するための言葉を紙に刻んだ。 『結婚しよう』 これで終わりだ。 俺が目線を手元の紙から桐乃に移すと、桐乃は顔を真っ赤にしながら幸せそうに微笑んでいた。 桐乃の手が動く。 今度はリラックスした様子でやさしく文字を書いた。 『うん。 頼まれても、絶対に離れてあげないからね』 ・・・・・・おい、それは卑怯だろう。 俺は憮然とした面持ちで桐乃を見ると、桐乃はすごく嬉しそうな顔でニヤニヤと俺を見つめてくる。 ・・・・・・はぁ、仕方ねえか。 しりとりは終わらなかった。 なら、次は俺の番だ。 俺は先ほどとは違い、何も考えずに筆を走らせた。 『願ってもねえ言葉だぜ』 俺たちの、左手でのよるたどたどしい筆談は続いていく・・・・・・ -------------
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猫の手ノーマルガチャで確認 -- 2013-03-23 02 02 46 バックラー 防御力25 魔法防御力50 なべの蓋 防御力40 魔法防御力40 売却金額100 -- 2013-03-16 02 56 41 メノウの腕輪 防御力50 魔法防御力25 売却金額300 ラージシールド 防御力50 魔法防御力100 売却金額600 -- 2013-03-13 21 02 32
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| |ニニニ| /! _||_ |; |ニニニ| / | ,.ィニニニヽ j .、 |ニニニ| ,≦≧、 \ УニニニニニY / |ニニニ|. /.ニニニ∧ 7三三三三!_ .|ニニニ| /.ニニニニ∧. /ヽ'"´ ___ `丶 .|ニニニ|./.ニニニニニニ∧ / 、≦ニニニニニニ≧ .、 .|ニニニ|'ニニニニ >-‐- .  ̄ ̄ _}ニニニニニニニニ{、 Y -‐‐-<.ニニ|ニニァ'´ 厂!___ヽ/ニニニニニニニニニァ'´__「 |___ヽ.!ニ/ { ̄ }/ ,―, ┘ Yニニニニニニニニ/ |_┌‐┬┬┐ | Yニ.′ .] [/_/ V / ;ニニニニニニニ; ┌‐┘└┐/ ;ニi L ノ 〉 〈 iニニニニニニニ! . ̄○ | ̄ !ニ .、 /,.へヽ、 ;ニニニニニニニニ、 __l | ′ニニヽ、  ̄ /ニニニニニニニニニヽ、 .└‐ ┘ /|ニニニニ≧ ‐-ァ r≦ニニニニニニニニニニニニ≧ ‐-‐ ≦ニニ!.ニニニニニニニニ/ |ニニ 丶.三三三.  ̄ /ニ! (ニニニニニニニ) .、ニニニニニニ./ `ヽニ> .,___,. ィVニ/ r‐トニニニ} ヽニニニ/ __r} ニニニニニニニニニニニニ{、__ !ニ!ニニニ} `¨¨´ '´ ̄`ヽニニニニニニニニニニニニ/´ ̄` .|ニニニ} /ニニニニニニニニニニニニ∧ `YY´ /ニニニニニニニニニニニニニニ\ (ニ)┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓┃名前:右手に盾を左手に剣を┃性別:男性┃属性:黒┃配合回数:0┣━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┫┃HP:05┃敏捷力:10┣━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓┃《特技名/種類/発動回数/優先度》┣━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┫┃右手に盾を左手に剣を┃特殊┃無制限┃20┃┣━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┫┃場にいる全ての対象の現HPと固定ダメージ(補正を含まない)を入れ替える。┃入れ替えた際に現HPが最大HP以上になった場合、余った数値は全て切り捨てる。┃ただし、固定ダメージが0以下(補正を含まない)は対象にならない。┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓┃《タイプスキル/種類/発動回数/タイミング/優先度》┣━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┫┃頭には兜を┃特殊┃無制限┃常時┃09┃┣━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┫┃敵味方問わず、このキャラが場で生存している限り種類『回復』『蘇生』は発動しない┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
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Nside 幸せな密着タイムは 人の波に流されて終わり。 到着しました、水・族・館! さすがに雨と平日って事もあり人もまばらで、ラッキー。 あ〜ちゃんを入口で待たせて 入場券を購入。 いざ、館内へ! 伸ばした左手はするりと避けられ、鞄を持つ右手さん。 しょんぼり…。 でも、いいや 入って初っ端から わーわーキャーキャー言って 楽しそうだし。 それ見て私は幸せだし。 やっぱ可愛いなぁ 「なに、にやけとるんよ」 ぷっくりあ〜ちゃんの少し後ろでハリセンボンがぷっくり膨らんだ。 いや、今それはタイミング的にも、ダメでしょ 「ふはっ」 「なに吹き出しとんの?」 キョロキョロ辺りを見回し ハリセンボンとご対面。 いやーん可愛いとか 吹き出した事も忘れて またわーわーキャーキャー あーほんと可愛い もちろんあ〜ちゃんがね? 館内もいよいよメインなのか 一番大きい水槽にたどり着く ベンチが設置されちょっとした休憩所になってるみたいだ。 あ〜ちゃんはパタパタと 水槽に近づいて 『…綺麗』なんて呟く 水槽からの反射で、淡い光の中を泳ぐあ〜ちゃんの方が綺麗だ。 私はそれをベンチに腰をおろして眺める。 周りには誰も居ない。 なんだろう この言いようのない モヤモヤ?不安、なに? あまりにも綺麗過ぎて あ〜ちゃんがそのまま 光に溶けちゃいそうだった。 慌てて、 あ〜ちゃんの右手を握った。 「どしたん?」 「あ〜ちゃん消えない?」 きっと情けない顔してるよね? ダメなヘタレ王子でごめんね? 「大丈夫じゃって、ちゃんとおるよ?」 握り返されたその右手に うっかり涙が出そうになった。 まだ水族館は閉館しませんよ。 まだまだデートは続くかな?
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Nside あ〜ちゃんの不安が爆発したようにも、私の不安があ〜ちゃんに伝染したようにも見えた。 「あ〜ちゃん、ちょっと着いてきて?」 ちょびっと早いけど しょうがないかな あ〜ちゃんは少しだけ距離をあけて着いてくる。 俯いて表情はわからない。 「あ〜ちゃん、目つむって?」 「え?」 「いいから、早く。」 目つむったあ〜ちゃんの手を引きゆっくり歩く。 あ、よかった バッチリだ 「いいよ、目あけて」 いつか連れて来たいって思ってた、とっておきの場所。 「あ〜ちゃん、のっちはね?あ〜ちゃんが好き。たまに不安になっちゃうのは自信がないから」 あ〜ちゃんは目に涙を溜めてきいてくれた。 「のっちはダメなとこいっぱいでしょ?だからね、あ〜ちゃんと一緒にいていいのかなぁ、好きでいていいのかなぁって」 「いていいに決まっとる、あ〜ちゃんものっちのこと…ちゃんと…好き」 あ〜ちゃんの右手が私の左手を緩く握る。 「ここね、本気で好きになった人といつか来ようって決めてたんだ」 「…馬鹿のっち」 「へ?」 「かっこよすぎじゃ…」 ほっぺの赤さは夕焼けのせい? それとも照れてるから? どっちでもいいや だって右手が逃げないでいてくれてる、ちゃんと繋げてる。 「あ〜ちゃん大好きー!!」 「こら!恥ずかしい!」 へへっ それでも離れない右手が 愛しかった。 終わり?
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前ページ次ページもう一人の『左手』 四人が学院長室を辞した後、風見はコルベールの部屋に誘われていた。どうやら彼は、二人が元いた“異世界”に多大なる興味があるらしい。 才人も、風見について行くべきか迷ったが、やめておいた。 彼にとっては、自分がTVの再放送で観ていたヒーローが、一人の人間として、当然のように自分の隣にいるという現実は、この魔法の国以上に受け入れがたいものだったからだ。 ――ひょっとして俺は、本当は今頃、病院の集中治療室で、植物状態になって、覚めない悪夢でも見ている最中なんじゃないか? 風見を見ていると、そんな想像が頭をよぎり、気が狂ってしまいそうになってくる。 だったら、かなりムカつく女ではあるが、まだコイツと一緒にいる方がマシかも知れない。そう思ってしまう。 幸い――かどうかはともかく、少女は部屋までついてこい、と言う。 御主人様のお供を務めるのは、使い魔の当然の義務だと。 才人は――やっぱりムカついたが―― 一応素直について行くことにした。 「おいルイズ、“それ”が今日の『サモン・サーヴァント』で笑わせてくれた平民か?」 「スッゲェな、お前。どこまで俺たちを楽しませれば気が済むんだ?」 「公爵家の御令嬢は、何事にも手を抜くって事を知らないらしいからな」 学院長室からの帰り、女子寮のルイズの個室に向かう道すがら、才人を従えた彼女は、こんな調子の嘲りを、何度も浴びせられていた。 どうやら、彼女が平民を使い魔として召喚したという珍事件は、もはや全校に知れ渡っているらしく、廊下で顔を合わせた者たちの殆どが、自分たちに後ろ指を差す。 聞こえよがしな悪口を言ってくる連中だけでも7~8人。いや、それ以上に、眼引きし、袖引き合い、聞こえぬように失笑冷笑を送ってくる者数れず。 しかし、ルイズは、そのいずれにも取り合わず、毅然と胸を反らして廊下を闊歩する。 才人は、最初のうちこそ、ザマア見やがれと思わぬでもなかったが、そのうちさすがに気が引けてきた。 「お前……ひょっとしてイジメられてんのか?」 「――違うわ」 「でも、よう……ちょっとコレ、ひどいんじゃね?」 「バカは相手にしない主義なの。だから何を言われても、気にはならないわ」 ルイズは、振り返りもせず言い捨てたが、その肩が震えているのが、才人には見えた。 「泣いてんのか……?」 「泣いてないわよバカァッ!!」 そう言いながら才人に向き直ったルイズの瞳は、確かに涙で潤んでいた――しかし、その形相は、とても『イジメられて泣かされた女の子』といった、しおらしいものではなかった。 「なんでなの……!?」 「――え?」 「なんでアンタなの……? なんで平民なの……!? 今度の『サモン・サーヴァント』は、わたしが……わたしが『ゼロ』じゃないって証明する、最大のチャンスだったのよ……!! なのに、なんで……なんでアンタなんかがノコノコきちゃうのよぉっ!!」 むちゃくちゃ言うな。 そんなこと俺が知るか。 無理やり勝手に、俺を召喚したのはテメエじゃねえか。 ――普段の才人ならば、たちまち、そう言い返しただろう。 しかし、この場合、誰がそれを言えただろう。 必死に涙をこらえて、全身を震わせながら自分を睨み据える、この小柄な少女に。 「――すまん」 才人は謝っていた。 この少女の言い分は、理不尽極まりない。そんな事は分かっていた。 しかし――自分が召喚に“応じた”ことで、この少女の名誉を毀損したというのも、また、一面の事実なのだ。そう思った瞬間、思いが素直に口から出ていた。 「え……?」 しかし、才人のこの反応は彼女にとって、かなり意外だったらしく、一瞬、その形相から険が抜ける。 だが……。 ――おいおい、『ゼロ』のルイズが、今度は平民に八つ当たりしてるぜ? ――おおかた、給料の額で揉めたんじゃねえのぉ。 ――給料って、使い魔のか? ――ちげ~よ、使い魔の『フリをしてもらう』給料だよっ!! ――ぎゃはははははっ!! これ以上は無いほどにあからさまな侮辱の声が、廊下の向こうから響き、ルイズは再び唇を噛みしめると、拒絶するように才人に背を向けた。 校舎を出て、女子寮へと続く渡り廊下を歩いている時だった。 見事な巻き毛とそばかすの少女と、フリルのついたシャツの胸ポケットに薔薇を挿した、キザったらしい少年のカップルとすれ違った。 「――ほら、あれが例の……くくっ」 「ダメよギーシュ、笑っちゃ可哀想よ……ふふっ」 ルイズの肩が、また、かすかに震える。 その瞬間、才人の中で何かが切れた。 「オイ待てよ!」 そう言うや否や、才人はすれ違った少年の頬に、渾身の右ストレートを叩き込んでいた。 「ぴぎゃっ!!」 才人の右拳は、振り向こうとしていた少年にとって、丁度カウンターになったらしく、2・3m転がって、彼は、そのまま動かなくなった。 突然の出来事に、少年の隣にいたカノジョも、数秒間ほど呆然としていたが、やがて悲鳴をあげて、ギーシュと呼ばれた少年の元へと駆け寄る。 「ギーシュ! ギーシュ!! しっかりしてギーシュ!! ――ちょっとアンタ、いったい、一体何をするのよっ!?」 巻き毛の少女が、才人を睨みつけた瞬間、ようやくルイズの時間も動き出したようだった。少女と才人の間に入り、彼の胸倉を掴み上げる。 「なっ、何やってるのよアンタっ!! ……あっ、あのっ、ごめんなさいモンモランシー、 すぐにコイツにも謝らせるからっ!!」 「……」 「なに黙ってるのよっ!! 早く、早く謝りなさいって言ってるのよっ!!」 「……」 「平民っ!! 御主人様の命令が聞こえないのっ!?」 「『ヘイミン』じゃねえっ!!」 まさか自分が怒鳴られるとは思わなかったのだろう。ルイズは、びくりと震えて彼の胸倉から手を離した。 「俺の名前は『ヒラガサイト』だ!! 『ヘイミン』なんて呼び方するんじゃねえっ!!」 「じゃあ、君は自分が平民じゃない、とでも言いたいのかい……!?」 声のした方向に才人が目をやると、少年――ギーシュが唇から血を流しながら上体を起こそうとしているところだった。 モンモランシーと呼ばれた少女が、彼の腫れ上がった頬に手を当て、何かを小声で唱えている。すると、見る見るうちに少年の傷が癒えてゆく。 (また“魔法”か、――くそっ!!) しかし才人は、その奇跡の業を見ながらも、何故か自分の戦意が止む事は無かった。 「人を後ろから不意打ちして、恥じもせず名乗りをあげるなんて、いかにも平民に相応しい下品さだと思うがね」 「女の子を平気で傷つけて恥じないような貴族サマよりは、かなりマシだと思うがな」 「え……?」 その言葉を聞いて、ようやくルイズは理解した。 この平民が、他の誰でもない、自分のために怒ってくれているのだ、と。 さっきまで、さんざん罵りあい、つかみ合いをしていたはずの、自分のために。 何よりも、さっきあれだけ理不尽な言葉を投げつけた自分のために。 「なん、で……?」 しかし、才人が、その問いに答える事は無かった。 「言ったな、平民……!!」 ギーシュの瞳に、凶暴な光が宿る。 しかし才人も、全く気圧される事無くギーシュを睨み返す。その眼差しには、もはや何の躊躇いも無い。 「どうした? 来いよ貴族サマ。まさかコレで終わりってワケじゃないんだろ?」 「あわてるなよ平民」 ギーシュはズボンのポケットから左手の手袋を取り出し、才人に投げつけた。 「ぎっ、ギーシュっ!!」 ルイズが悲鳴のような声を上げる。 「――決闘だ。30分後にヴェストリの広場で待っている。来たまえ」 「……上等だよ」 「その意気だ。逃げるなよ平民!」 それだけ言うと、彼はきびすを返して立ち去った。 「誰が逃げるか、この――」 「――逃げなさいっ!!」 ルイズの顔は、蒼白になっていた。 「いいからっ、いいから逃げなさいっ!! でないとアンタ、本当に殺されちゃうわっ!!」 「もう、遅いわよ」 半狂乱になって、才人の服を引っ張るルイズの背後から、モンモランシーが冷たく言い放つ。 「ギーシュは手袋を投げつけた。――平民のアンタが知ってるかどうか分からないけど、これは、決闘に於ける正式な作法なの。逃げる事など認められないわ」 そう言いながらモンモランシーは、瞳に嗜虐的な光を宿らせる。 「安心なさい。ギーシュはあれでも優しいから、いくら平民でも殺したりはしないわ。殺された方がマシだって目には遭うかも知れないけどね」 「でも、学院内での勝手な決闘は、校則で禁じられているはずよっ!!」 「それは貴族同士の場合でしょ? 校則は無礼討ちまで禁じてはいないわ」 「無礼討ちって――そんな……!!」 「勘違いしちゃダメよルイズ。この場合、あくまで先に手を出したのは、そこの平民の方なんだからね」 そう言い捨てると、モンモランシーはマントをなびかせて振り返り、ギーシュが去った方角に歩いてゆく。交渉はもう終わりだと言わんばかりに。 「待って、――ねえ、ちょっと待ってよモンモランシー! そんなこと言わないで。使い魔に代わって主のわたしが謝るから! このバカにも謝らせるから!! だからギーシュに機嫌を直すように言って!! お願い!!」 モンモランシーの背に、ルイズが叫ぶ。 その血を吐くような声に、さすがのモンモランシーも、ちょっと躊躇うものがあったのか、ちらりと才人に振り向く。 「御主人様はこう言ってるけど、あなたはどうしたいの、平民?」 「案内しろよ、テメエの彼氏のところへよ」 「つまり、謝罪する気は無いって事?」 「当然だろ」 モンモランシーは、やれやれとばかりに肩をすくめ、 「――だ、そうよ、『ゼロ』のルイズ。ホント躾がなってない使い魔ね」 そう言って、また歩き出し、才人も無言でそれに続く。そして彼を、さらにルイズが追う。「何で? 何で分かってくれないの? アンタ殺されるのよ? メイジの使う魔法がどういうものかって事は、コルベール先生の『ファイアボール』で見当付いてるでしょう!?」 そう言いながら才人を見上げるルイズは、もはや涙をこらえてはいなかった。 このときルイズを見下ろした才人は、この少女が意外なまでの美貌の所有者である事に、初めて気付いた。 桃色がかったブロンド。 さらさらの長髪。 きめ細かい白い肌。 鳶色の大きな瞳。 しかし、その瞬間、才人の脳裡に浮かんだのは、彼女がその美貌を歪ませた姿。 ――屈辱に肩を震わせ、唇を噛みしめ、必死になって涙をこらえる姿だった。 わからねえ。 何でだよ、何で、おれはこんなにたまらない気分になってるんだ!? 一体おれは何に腹を立ててるんだ!? わからねえ! わからねえ! わからねえ!! ――いや、ちがう。わかってる。答えは最初から出ていたはずなんだ。 「俺が死んだら……今度こそ、ちゃんとした使い魔を召喚しろよ」 女の子を泣かせる男は、最低だって事だ。 そんなクソ男をぶん殴るのに、理由なんざ必要ないって事だ!! 「仇はその時とってくれりゃあいい」 ぱーん。 平手打ちのいい音が響いた。 「アンタ……本気でそんなこと思ってたの……!? そんなこと考えて、わたしの心配を無視して勝手に、勝手に決闘なんかおっ始めようって言うの……!?」 その顔を支配していたのは怒り。 使い魔になる事を拒絶された時も、周囲から散々バカにされた時も浮かべなかった、純粋な怒り。 「死んじゃいなさい! あんたなんか、あんたなんか、死んじゃえばいいのよっ、このばかぁっ!!」 前ページ次ページもう一人の『左手』
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鳳竜バラドボルス右手 属性:雷 レベル:1~10 HP:~ 出現場所:全フィールド 弱点: オリンポスの矢(太陽神アポロンのカードスキル) 部位破壊:可能 部位破壊の合図: 報酬ゴールド:2000 宝箱(赤): 黄金版各種 宝箱(青): バラドボルス 鳳竜バラドボルス バラドボルスのスフィア 宝箱(緑): 特徴: 巨龍(キング扱い、再戦にスフィアが必要) 右足→左足→右腕→左腕→頭部の順に出現 頭部を倒す(自発のみ)と、巨龍ポイントが1ポイント入りレベルが上がる
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31: 名前:サスライ☆09/28(火) 13 06 46 †7年前† 着流しの上に、ポンチョ式の厚手のマントを着て、暫く切っていないであろう髪は、革のバンダナを何重にもターバンの様に巻いて乱暴に纏め上げられていた。 補修跡が目立つ革靴を鳴らし、右手で樫の杖を突いて歩く。左手は長すぎる着流しの袖の下に隠れて見えない。 黄桜18の頃の姿だ。細面なのは変わらないが動きに無駄が無く、全体的に落ち着いた印象がある。 特にやりたい事も無く、宛の無い旅を続けながらギルドを通してのフリーの傭兵業で毎日を食い繋いでいた。 3年前とそれは雲泥の差で、改めて七海を連れて来なくて良かったと感じる。未だに思う。 だから『本当にアレで良かったのか』の答えは出ていない。しかし今はソレを、一時の気の迷いと自分に言い聞かせてまた歩く。 ギルドに行って先ず見るのは、どの様な仕事では無くて、今世界がどの様に動いているかの無料新聞だ。 傭兵と言うのは兵の名の通り、戦場に駆り出される事が多く、それでいて生きていなければ金は手に入らない。 だから、より勝機のありそうな方につく。ギルルの里に居た頃は仕事は上から決められていたが、独りでは勿論そうはいかない。 そして、どれだけ組織と言う物の中において自分がどれだけ分け前を損していたかに気付かされるのだった。 32: 名前:サスライ☆10/01(金) 07 32 09 大抵傭兵ギルドは、登録の酒場で会員証を見せると通してくれる。表で経営している賞金稼ぎギルドと違い、傭兵は収入が高い分臭い仕事が多いからだ。 尚、傭兵ギルドは公立では無くて大手マフィアや有力武器商人等の私立経営になっている。 酒場の奥の従業員専用扉の更に奥。地下へと続く扉があって、やや軋む階段を12段程降りれば、ホテルのロビー程の空間がある。 電灯の光の中を歩き新聞をとって、酒場の使い回しテーブルセットに向かい椅子にドッカリ座ればそれで中堅傭兵の完成だ。 そんな新聞を読む黄桜の席の向こうに座る人影が新聞の文字を遮ったので、眉間に皺を寄せてそちらを見た。 「あ゛? ちょっと新聞見えないんだけど」 このメンチを切っていると言っても差し支えない行為。実は黄桜の『挨拶』だ。 これで人間の器を計り、あわよくば次の仕事でペアを組む。喧嘩を買う様な奴は半人前、無視して一人前。 「おいおい黄桜、お前も偉くなったなぁ。こんなトコで喧嘩したら会員証取り下げられんぞっての」 そして笑った上に言葉で反撃出来て一流だ。黄桜はこの声に憶えがあったので顔を上げる。そこには旅の途中で見知った、師匠とも言える一流傭兵が居た。 「あ、チョーさん。ちわっス」 33: 名前:サスライ☆10/02(土) 07 41 31 今、黄桜達が滞在中のこの国ではちょっとしたお祭り騒ぎが起こっている。 革命が成功し、人民主権の新政府を樹立。それ故に価値観がすげ替わり、混沌とした灰色の状態になった。 今、この国ではちょっとした摩擦による、内乱が起こっているのである。 無愛想な顔で目線だけスゥと動かし、新聞を読み進めると更に詳しい事が解る。 元々、この国は主権が二つあった。武力で主権になった物と思想で主権になった物だ。 思想派は殆ど表に出ず、武力派が長い時間国を治め、際立って戦争も無かった。 が、相次ぐ新技術、外国への驚異に旧式武装の軍では対応出来ず思想派も表に出てこない。 煮えくり返った人民が思想派に政権を戻すと言う大義名分を建てて、革命が起こったのだった。つまり、今内乱で新政府軍が相手にしているのは武力派の旧政府軍だ。 「ふぅ、なんか旧政府軍は人が足りなくて火の車らしいな」 チョーさんは煙管(キセル)に火を点けてモヤモヤした考えを吐き出す様に、煙を出し、それ故に顔によらず聡明な考えを出す。 「あれ、そうなんスか?流石チョーさん、何でも知っているっスね」 「……まあ、そうしといて。取り敢えず元々人が少ない上に、新政府軍に地力で負けてるらしい」 これで黄桜には大体の行動方針が決まった。一流傭兵のチョーさんとペアを組んで新政府軍に味方すれば良い。 34: 名前:サスライ☆10/02(土) 08 13 36 さて、チョーさんとはどの様な人物かについて少し説明しよう。 そこまで大きくないが引き締まった筋肉を有している中年男性で、重火器の取り扱いに長けている。 黄色い肌と真っ黒い髪は、黄桜の知る人種に当てはまらなくて本名も不明で何者かはよく解っていない。 しかし、その強さは本物で先程述べた重火器の使用は勿論、修理技術、更に医療技術まで身に付けているモンスターだ。 そう言う訳で、黄桜は何としてでもチョーさんとペアを組みたい。交渉は既に始まっている。 チョーさんは自由奔放な性格で、破天荒な気がある為に中々掴めない。 「まぁ、俺にも新聞見せてくれよ」 「ハァ、別に良いですけどもう読む必要無いんじゃないですか?」 「気になるんだ。新聞の4コマが」 黄桜は苦笑いで新聞を差し出す。別に黄桜は興味無いが、ここの4コマ『シャブ小僧』は無駄にクオリティが高く、楽しみにしている者が多い。 傭兵と言う性格上、恥ずかしがり隠れて読む者が後を断たないが、それを知っているからこそチョーさんは堂々と読む。 「チョーさんって、結構オープンッスよね。何か隠し事とか無さそうです」 先ずは身近な話題から入り、契約まで誘導する。褒めれば案外のめり込み易い。 「いやそうでも無い、俺だって隠し事の一つや二つあるさ」 「またまた御謙遜を。あ、もしかして名前とか?」 「いやいや、お前が新政府軍に就こうと、ペアを申し込んで来ても断ろうって事とかさ」 まるで4コマの様にあっさりと行動を読まれていた。ならば、何故ギルドに来たのかと聞いてみる。 一番大きく、美味しい仕事を放って何がしたいと言うのか。 「4コマ読みに来ただけだな」 たまにチョーさんは、凄い単純思考なのか凄い理論思考なのか解らない時がある。取り敢えず、黄桜は肩が骨粗鬆症になる気分なのだった。 35: 名前:サスライ☆10/04(月) 11 54 02 殺人は犯罪だ。その犯罪が許される所、それが戦場だ。 「全く、イカれている」 血の混ざった消炎の臭いを嗅ぎながら、黄桜はボヤく。しかし其処に自らの意志で立っている彼もきっとイカれているのだろう。 しかし彼は迷いがあった、其処に立つ度に七海の事を思い出すのだ。 これで良いのか。都合が悪ければ消すのが本当に正しい事なのか。 桜の花弁の火傷痕が脳裏を過る度に、何時も危ない目に合う。いっそ、この想いも消してしまえと感じる日もあるがそれは出来ず、自分の弱さを再確認した。 「イカれている?違う、死に場所を探しているんだ」 と、向こうから声が聞こえる。それは今敵対している敵の声。敵は、続けた。 「此処で生き延びても旧政府が全てだった彼等に何が残る?だったら、この場で歴史の舞台から引いた方が良い。誇りを抱いてな」 その飄々として掴み所の無い口調は馴染みのある声。黄桜は、敵に向かって言う。 「じゃあ、貴方は何でソッチに居るんで?チョーさん 貴方はこの国の歴史の舞台から関係無い筈だ」 言われた敵……チョーさんは肩の力を抜いて、答えた。 「俺はな、知ってしまったんだ。この仕事を続けても、何も背負っていない奴の先には何も無い。 そんな虚しい人生、せめて何かを背負っている人間の中で死にたいもんさ」 36: 名前:サスライ☆10/05(火) 19 51 23 チョーさんのマシンガンが唸りを上げて大量の鉛弾を放つのが、戦闘開始の合図だった。 黄桜はそれを横に走る事でかわし、弾切れと同時に一気に距離を詰める。 樫の杖でチョーさんの利き腕目掛け、思い切り突いた。 利き腕を支配しているマシンガンは使えない、そして手の甲粉砕骨折等で片手を封じればガンマンは終わる。 「なあ、下らねぇと思わねぇか。この戦いは」 チョーさんは余裕の口調で笑いながら言葉を出す、見ればマシンガンのグリップで杖を受け止めていた。押す力同士の力比べになる。 「下らねぇなら、止めませんか?」 「お前は何も解っていないな。言っているのは俺達の闘いなんかじゃ無いんだ」 チョーさんは突然グリップを捻った、だから杖も捻り上げられてフリーになった腹にグリップで突かれる。一連の流れはまるで、銃で杖術をしている様だった。 腹に衝撃が入ったせいで、ろくに喋れない黄桜に、上からチョーさんは語りを続ける。 「新政府だ誇りだなんだ言っても、つまりは弱い者虐めだ。そして、俺等傭兵はそれに荷担しているハイエナだ」 呼吸が戻ったのを見ると、敢えてチョーさんは弾を籠めずにグリップで足元を狙う。 それをジャンプして避けると、読まれていたのかグリップは地面について棒高跳びの原理で垂直蹴りを顎に当てられた。 ゴム底の蹴りは重く、平衡感覚が保てないグニャグニャの景色でチョーさんの声が違う。 「仕方ない事とは言え、いい加減自分のやっている事に虫酸が走ってきてな 俺達みたいな弱い人間が虐めの荷担で甘い汁を吸うのっておかしいと思うんだ」 37: 名前:サスライ☆10/11(月) 18 59 59 寒天みたいな世界を振り払い、黄桜は片手で杖を構える。下段の防御の型だ。 グリップファイトはリーチが短いので下手に突撃すれば反撃を喰らうし、銃は間合いが悪い。 その点で黄桜の取った構えは正解と言えるが、チョーさんは呆れた顔をしていた。 「ハァ……。 俺さ、結構マジなんだけどな」 「俺の杖術を舐めると痛い目みますよ」 「解っていない、解っていない。そんなんだから、お前は俺に勝てないんだ」 何処が不満だと言うのだろう、本気を出せと言う意味では、実は左手を使わない事を言われた時、左手は過去に自分で切り落としたと言った。 つまり、これが今自分の出せる最強の型だ。 溜め息一つ、チョーさんが銃を片手に、マガジンを片手に迫ってくる。これならグリップファイトをしながらマガジンを詰め込み奇襲が出来る。 しかし、それを阻止する手段が一つ、黄桜の頭の中に浮かんでいたのでそれを行った。 先ず、捻りを加えた突きをチョーさんの首に放つ。勿論、頭を横に振って避けられるがそれで良い。 何故ならこの杖は実は仕込み杖。捻る事で鞘が外れる仕組みになっている。 慣性を利用して虚空の彼方へ勢い良く飛んでいく鞘。故にチョーさんの首筋には研ぎ澄まされた刀があった。 これを引けば、チョーさんの首は落ちる。 「だから言ったでしょう、痛い目見ると」 38: 名前:サスライ☆10/14(木) 00 04 16 経験豊富なチョーさんは気付いていた、黄桜が奥の手を持っている事に。 杖に隠せる武器は多々あり、銃も考えられた。実際スパイが暗殺に使う傘型銃もある位だ。 しかし銃を身体の一部として使える本能はそれを否定、ならばサイズ的に刀が現実的だ。 さて、雑誌等では日本刀が金属を叩き斬る動作があるが、仕込み刀は別だ。 杖に収納する故に重さが足りないからだ。所謂、普通の傘と折り畳み傘の違いだ。 そこでチョーさんはマガジンを取り出した。それは、銃を長い戦いで知り尽くした彼だから出来る防御。 「そうだな、痛い目みるな。自分を過信したお前がな」 チョーさんの首の真横に軽くアンダースローで投げられたマガジンがあり、それが斬撃を防いでいた。 そしてグリップが腹を突き、しかし今度は再起不能に成る程の適度な力だ。 鯖折りを思い出す「コキリ」とした鈍い音と、風穴が開く様な感覚が黄桜を襲って、黄桜は地面に倒れる。 薄れいく意識の中で、チョーさんの最後の言葉を聞いた。 「左手、使ってたら互角だったかもな」 二つ思う。なんだバレていたのかやっぱチョーさんはスゲェなぁ、との感嘆。 そして、強い人とは本気で戦わなくちゃ勝てないし失礼だ。しかし本気で戦いたく無い、それは我が儘なのだろうかと言う疑問。 何故か瞼を閉じればあの日の七海の顔が浮かんで、そのまま意識を失って目が覚めたら安全な所に運ばれていた。 恐らくチョーさんの仕業だろう。が、その後はチョーさんの姿をてっきり見なくなった。 39: 名前:サスライ☆10/14(木) 20 19 09 †四年前† ワイワイガヤガヤと雑音賑わす荒れくれ者に混ざって、小汚ない初老の男がテーブルに座っていた。向かいには使い古された黒いマントの黄桜が座っている。 目に最早生気は感じられない。しかし、生きている。 チョーさんに負けたあの日から、何故か傭兵を出来なくなった。左手も怖くて使えないままだ。 初老の男は情報屋だ、だから情報を提供する。情報の内容は、高価な荷物が運ばれる道のりについてだ。 黄桜21歳、山賊をしている。 しかし黄桜は山賊として異質だ。荷物に興味は無くて、寧ろその護衛に興味があるのだ。 高価な荷物には強力な護衛が付く。その護衛を左手を使わず、殺さずに倒す事を奪うよりも目的にしていた。 殺す事も出来ない、本気になる事も叶わない、欲望に身を任せる事も出来ない。自分をそう思っていて、そんな人間の成れの果てがこの姿だ。 あらゆる事の自分に対しての問いに答えない人間の成れの果てだ。 殺そうと思えば自分に命を奪う権利があるのかと問いがある。 本気になろうと思えば、この力はそんな事の為に存在するのかと言う問いがある。 欲望に身を任せようと、荷物に同行していた女を陵辱してやった、しかしここぞと言う時に焔の、そして七海の笑顔が横切って冷めてしまう。 何の為に生きているのか、俺が何をしたと言うのか。 問えども答える者はおらず、只、情報屋の耳障りな声が頭に入ってくるだけだった。 40: 名前:サスライ☆10/14(木) 20 57 53 舗装もされていない土の道があった、両脇には森があり、舗装しようにも木材の権利が入り組んでいる為に中々うまくいかない。 だからこうして山賊に襲われるのに最適な環境が出来上がった。 今日、荷物の護衛をしていた人間は某国で英雄と呼ばれていた人間だ。文章が過去形なのは、それが既に倒されてしまって立つ事もままならない状態だからだ。 「アーデルハイト・ベーレンドルフ……僅か15で頭角を出し、18で英雄。現在21か……」 意識があり、気丈な光を宿した瞳で睨み付けるアーデルハイトを、死んだ魚の様な目で上から眺める黄桜は、情報屋から得た情報を言ってみた。 「くそっ、貴様が『英雄狩り』の黄桜か!」 「ああそうさ。運が無かったな、英雄狩りをする前に会っていたら勝てたかも知れないな。 経験が薄かったから」 『英雄狩り』とは、黄桜の異名であり、彼の起こす独特な行動だ。強者とは英雄である事が多い、故に付いた異名である。 最も、黄桜の様に力があっても英雄になれない人間は沢山居るが。 「何故だ、何故そこまでの力を、たかが山賊に使う。神はそうは望んでいない筈だ」 「……山賊意外に使ってみたら、こうなった。どうも神様ってのは俺が嫌いらしくてな」 フゥと息を吐いて、貨物馬車に近付く。その時、やや高めの更に高ぶった大声がした。 「うわああああぁ!」 それはアーデルハイトが黄桜に向かい渾身の力で起き上がり、短刀で突進する為に気合を入れる為の大声。 何かの記念品だろうか、飾り気のある短刀は、黄桜の直ぐ近くに迫っている。 41: 名前:サスライ☆10/14(木) 21 27 51 黄桜に迫る短刀は、まるで予知されていたかの様に軽く避けられて、短刀を持つ手首を掴まれた。 呆然唖然と目を丸くするアーデルハイトに、黄桜は答える。 「動けない時、なるべく力を使わず素早く起きれる様に重心を後ろにズらしていたろ。 こんな事やってるから俺自身似た状況になるのが多くてな」 淡々と説明される頃には、短刀が落ちて乾いて澄んだ音が地面に伝わった。しかし、アーデルハイトの目には絶望の色は見えない。奥の手がある訳では無いのにだ。 「何故、諦めない。最早お前には何も無いのだぞ。もしかしたら、『犯される』かも知れんぞ?」 余談だが、アーデルハイトとはドイツの女性名である。勿論男性のパターンもあるので、どちらにも使える名前だが。 「では、絶望したら強くなるのか。諦めたら進展するのか。 私は僅かな希望に懸けようと思うのだ。それに、お前は私を犯せない」 絶望どころか、挑発的に笑いかけるアーデルハイトは言い合うだけ意味が無いと判断した無表情の黄桜に言葉を続けた。 「私は知っているぞ。お前、粗チンで不能らしいな」 「……!?一体誰がそんな事を」 「おやおやぁ、冷酷無比の英雄狩りが耳まで赤くするとはなぁ。 お前、陵辱しようと服を破いて自分も脱いだまでは良いが勃たなかった上に粗チンだったと被害者の女性は言っておるぞぉ」 目を弓にしてウケケと憎たらしく笑うアーデルハイトは、年相応の愉快さがあり、顔を赤くして目を丸くする黄桜は年相応の純粋さがあった。 42: 名前:サスライ☆11/01(月) 01 15 58 手首を掴んだまま顔を赤くしている黄桜にニヤニヤとしているアーデルハイトは、最早敵を見る目をしていなかった。 だから彼女は英雄足りうる存在なのかも知れない。倒すのでは無くて、勝つ事が出来るのだから。 彼女は雰囲気をゴロリ変え、しかし出来る限り優しい表情と声で言う。きっと自分がそうされたら嬉しいだろうから。 「もう、『英雄狩り』なんて止めないか?私の方からも言ってみる、上手くいけば城の兵士に出来るかも知れない」 「今更、引き返せと」 「引き返すんじゃない、初めるんだ。終わりは、初まりなのだから。 君はそんな事を本当は望んでいない」 今まででも何べんも同じ感情に見舞われたが、今回は特別それだ。 コイツはもしかしたら、お人好しなのかも知れないと言った感情が高ぶり、怒りを通り越して呆れが湧き出る。 「ふん、お前に俺の何が解るんだ。所詮は正義気取りの偽善者ではないか」 するとアーデルハイトはニカリと笑い、黄桜は難解さに頭を抱えたかったが体制的にそれは出来ず、只薄気味悪さが背筋を走る。 「そうかも、知れない。だが、自らの正義を肯定出来ないより遥かにましだ。 己も信じられない人間が正義を語るべきでは無いだろう」 薄気味悪さは、そのまま氷柱になり、心臓をグサリともチクリとも、或いはその両方が一気に貫く。 43: 名前:サスライ☆11/01(月) 01 33 02 アーデルハイトは、目を見開いている黄桜の顔を見て正しさを肯定すると、沈黙と言う回答に答えた。 「君は、まだそうして誤りに傷付く事が出来る。 まだ、笑う事が出来る。 人の立場を考えて話す優しさがある。 やり直せない訳無いではないか」 それは何故だが必死で、背景を感じられずに得なく、もしかして15で英雄になるにも大層な理由があるのかも知れない。 しかし黄桜も理由があるのは同じだった。目の前の少女と同じく、此処に在るには大層な理由があった。結局は、同じ年齢の同じ人間で、環境が違うだけなのだ。 だから黄桜には黄桜の大層な理由がまた脳裏を横切る、そこには七海の笑顔があった。アーデルハイトのダイヤモンドの様に固い意志の目と重なっている。 「私も許してもらう様に必死に懇願する!絶対だ」 『貴方は次期里長で無ければ十分過ぎる戦力になる』 何処からもなく声が聞こえる、そして黄桜の深層心理は従えと言う。 「それまで護ってみせる、人を護れない英雄に価値など無い」 『じゃあ、私も貴方の旅に付いて行きます』 重なる、重なるから自然と手が動く。左手が動く。 「『ごめんな』」 それは、誰に言った言葉だろう。彼が何をしたと言うのだろう。 44: 名前:サスライ☆11/01(月) 01 50 02 †現在† 英雄狩り・黄桜は、最後の英雄アーデルハイトを刈って以来姿を見せなくなっていた。 現地に遺されたアーデルハイトの遺体には軽い火傷がある程度で際立った外傷は見られなかったそうだ。 そんな営業停止して存在も忘れかけられている黄桜だが、莫大な褒賞金は未だに存在している。被害者が被害者だけに野放しにしては面子に関わる。 が、捕まらないのは英雄狩りの恐怖だろう。人は誰しも誰かの背中を追って生き、その追うべき対象が殺される様な人間はどれ程強いのかと言う恐怖である。 しかし敵討ちが後を絶たないのも確かで、そう言った者達は帰って来ないのも懸賞金と恐怖を上げる切っ掛けになっている。 『所詮人は自分の命が惜しい』 酒場から出た彼女に先程の情報屋の言葉が過る。しかし、ダイヤモンドの意志を継ぐ彼女にとってそんな物でしか無くて一瞬で振り払われた。 誰かがやらなければいけない。 これは私情は関係無く見えるが、随分な私情だ。私情とは突き詰めれば公的な感情になるのだから。 つまるところ、胴着服の彼女は随分な情熱家と言える。 「……貴方は、私が止める。この、千鳥が!」 黄桜が里を出たのは性別不明の5歳の頃、今ではポニーテールをなびかせる凛々しい女性となっていた。 45: 名前:サスライ☆11/01(月) 02 08 02 サラサラと流れる川が人里離れた山の奥にある。それに糸を垂らして釣りをする人影一つ。 木綿の着流しを纏った黄桜で、その風貌は世捨て人と言った所。左手はやはり包帯に覆われている。 溜め息一つ吐いて、ビクに何も入っていない事を再確認すると、また釣りに戻った。 「何が悪いんだろうなぁ、餌かな、釣り方かな、ポイントかな?」 「必要とされない所に生物の居場所は無い。魚は本能的に知っているのでしょう」 体勢も顔の向きも変えずに、ボンヤリと川の流れを見ている彼は、背中からの声に特に驚きもせずに、川に流す様に言う。この川でみんな洗い流せれば良いのに。 「いやいや、結構重要だよ、だって魚が取れなきゃ俺は飢えて死んじゃうかも知れない」 「では貴方はそれを望んでいるのでしょう。 だから……大人しく倒されろぉ!」 活き活きした悲鳴が背中にかかり、蹴りが黄桜の後頭部を直撃した。川に水柱が上がり、数匹の魚が宙に舞い上がる。 水面の隆起部先端から割れて出てきた黄桜はペッと水を吹くと、蹴り飛ばした張本人を見た。 「んーと、身体強化の蹴りにギルルの古武術。懐かしいな。ねぇ、千鳥よ」 黄桜の目の前には武術の型を取る千鳥が在る。 46: 名前:サスライ☆11/01(月) 02 31 19 蹴られる瞬間に、黄桜は後頭部を身体強化と同じ原理で、精霊の加護を用いて防御していた。だから水柱が上がる程の蹴りもどうと言う事は無い。 千鳥はそう考えて、やはり一筋縄ではいかない相手だと演武を一通り行った後、再び型を取ると黄桜がオヤと感じるから口に出す。 「あれ、それってギルル古武術をアレンジしてんな」 「ふ、作用。これぞギルル流千鳥門。通称『千鳥流武術』です!」 「うわぁ、だっさ……」 「うっさいな。何時か軍の正式採用になる程メジャー武術になると思いたい」 千鳥はそう言って、駆ける。只、駆けるのでは無い。なんと水の上を駆けた。 一瞬のインパクトに身体が固まった黄桜は、そのまま跳び蹴りを狙われるが意識を取り戻し右手で受ける。 川の向こう側まで蹴り飛ばされ、しかし受け身をとった黄桜は右手のみをレイピアよろしく突き出して、ニヤリとする。 「それが千鳥の精霊の加護か。水を操る、そんなトコか?」 「残念ながら、ハズレです」 千鳥が遠くから正拳突きを放った、勿論突きは届かない。が、衝撃波が黄桜を襲う。 そのスキに後ろに回りこんだ千鳥、経験からか同門からか一瞬で予想がついた黄桜はそこに回し蹴りを放つ。が、まるで鋼を蹴った様に効かないではないか。 バックステップで距離を取ると、黄桜は冷や汗を拭い、しかし昔読んだ能力大全から千鳥の能力を推理した。 「成る程、お前の精霊の加護。それは、『四聖咆哮』。 超身体強化だな」 47: 名前:サスライ☆11/01(月) 02 54 32 水を走るのは、沈むよりも速く走ったから。衝撃波は、拳速が生み出す風。鋼の堅さは、強力な身の引き締め。 千鳥は、精霊の加護の才能が無くて落ちこぼれ扱いを受けていた。しかし、基本が異様に高い事を利休に認められる。 その結果、能力が無いのでは無くて身体能力を究極に高める能力だと知った。 彼女はそれを以て頭角を表し、『男だったら次期族長』と里から認められる程に成長した。 しかし彼女はそれを里の為に使わず、ある日忽然と姿を消す。その後は『正義の味方』として世界を回っていた。 黄桜を探す為に。 「アーデルハイトさん、あれは何故火傷で死んだのですか?貴方の能力はそこまで殺傷能力は無い」 「お前に言う必要なんか無いだろ」 「ありますよ、だって、あの人は……大事な仲間だったんだから」 今にも泣きそうな雰囲気を纏う彼女を遠目に見て、溜め息一つ言ってやる。 「ショック死だよ。 アイツ、俺の能力に侵されつつある中で、無理矢理ショック死しやがった」 千鳥は肩の力を抜いて、口に笑みを浮かべる。表情は遠目なのでよく解らない。 「ああ、そうか。アイツは自分で無いなら死んだ方がマシって言う奴だからなぁ、そうかそうか。 アハ、アハハハハ……」 そして、下唇を噛み千切った。 「ふざけんなテメェ。神聖な精霊の加護を何だと思ってやがんだ!」 拳を顔面に受ける黄桜、しかし表情は冷たい。やせ我慢しているだけだが。 「神聖か、俺にとっちゃ悪魔だよ。例え、神様がくれた物だとしてもな」 48: 名前:サスライ☆11/01(月) 03 24 38 やせ我慢の状態から黄桜は千鳥の拳に噛み付いて固定し、左手で千鳥の頭を掴んだ。左手の包帯が全て灰になり、下から生身の腕が出てくる。 「どんなに人間が強かろうが、悪魔には勝てないんだ。この俺みたくなぁ!」 「そうでも、無いですよ」 「何っ!?」 黄桜に頭突きを喰らわせる。そして頬に蹴りを入れて、噛み付きの束縛を解除。地面にバウンドしたのを掬い上げて、逆ベクトルから殴りかかる。 「ギルル流・『流れ落とし』!」 思い切り血を吐いて地面に改めて叩きつけられる黄桜。 身体強化とは、力が上がるに限らず内臓の力も上がる。当然脳の力もだ。それを利用し、千鳥は忘れた途端に記憶の欠片から思い出して高速で修復したのであった。 こうして、彼の戦いは終わった。 ††† 「なあ、千鳥。俺さ、思うんだ。もしかしたら強くなるには一人じゃ駄目なんじゃないかって。 だってさ……素直にそう思える今、もう七海の顔が脳裏を横切る事はあんま無いんだ」 地面に仰向けのままの黄桜が体育座りでチョコンと座る千鳥に言う。 千鳥の顔は黄桜によく見えない、しかし彼の顔は晴れ晴れとしていた。 「あのショック死の後な……、俺は山に籠った。何でかなぁ、きっと最後のチャンスを逃して居場所を失ったのを本能的に知ったんだろう。 七海の記憶を奪った『あの日』をやり直すチャンスをさ」 千鳥は口をモゴモゴさせる、黄桜は只、「泣くなよ」と笑顔で言った。 黄桜の顔に雫が落ちる。 「全く、お前は何時までも泣き虫だなぁ。 精霊の加護を信じるんだ、だってそれは神の力でも悪魔の力でも無くて……」 笑顔のまま、彼は息を引き取った。千鳥が黄桜に会いに来たのは、里の為なんかじゃ無いと言う事を伝える前に。 そう、『倒しに来た』のでは無い。千鳥は『会いに来た』のだ。 完
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Nside 「暑い…」 「………うん」 じわじわと滲む汗が気持ち悪い。 梅雨特有の湿度の高さが部屋に充満して空気が重たい。 あいにくクーラーはツンデレなのか熱風を吐き出したからお休み中。 「のっちぃ〜…」 「んぁ〜?」 「つっまらん」 はい、そうですよね。 どうしたもんか… あ〜ちゃんはパタパタと胸元を扇ぎながら髪をかきあげる。 あー…うん その仕種って色っぽいよね やば、鼻から暖かい汁が… 「ちょっとぉなにしとるんよ…」 「ぬぁんもしとらんです」 だらーんとした空気 あれ?さっきより重くない。 心地好い空気が流れてる気がする。 「あ〜ちゃん」 んー?とこちらをちらっと見ながら微笑んでくれる。 あ この空気ってあ〜ちゃんが出してんだな、うん。 「あ〜ちゃん」 「だから、なによ?」 「んーん、ただ好きだなって」 「ふぇ?」 少しだけりんごみたいになったかと思ったら、ぺちってはたかれた わかってるよ 照れ臭いんだよね 「いっきなりなによ!」 「んーん。ただ言いたかっただけ」 そうこの空気に言わされちゃったんだよ。 あ〜ちゃんはぶつぶつ言ってる。 ほんと、かわいいなぁ 「雨が止んだらさ、アイス買いに行こっか」 「アイスー!」 ぱぁっと笑って りんごちゃんはニコニコの向日葵みたいになってるよ あ 「「虹」」 雨が止んだみたいで ところどころ光の階段が降りてる よし さりげなく触れた右手をそのまま掴んでコンビニに… 「アイス買いに行くよ!」 あら するりと隣からいなくなり 財布を握りしめ玄関へと走っていった。 虚しく空をきった左手に 「お前もうちょっとしっかりしろっての」 って言って私も財布を握りしめ追いかけた 待っててよ すぐ捕まえるから。 「あ〜ちゃん待ってぇ〜」 「置いてくよ〜」 続く?
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前ページ次ページ神の左手は黄金の腕 流星の如く飛来する『破壊の杖』を追っていたフーケの口元が吊り上がる。 その投擲速度と距離にこそ驚かされたが、方向はまるで見当違い。 左右に広がったギーシュとキュルケの中間を抜くような弾道。 駆けつけたゴーレムの巨体が二人のパスコースを完全に塞ぐ。 これで最悪、先に拾われたとしても相手に渡す事は出来ない。 下らないゲームもこれで終わりだ、と彼女は空を見上げた。 満天の星空に浮かぶ二つの月。 その星空を二つに切り裂く『破壊の杖』の軌跡。 そして、突如自分の真上に現れた大きな黒い影。 「え?」 フーケの驚く声を余所に、その影は『破壊の杖』と近付く。 その正体が風竜だと気付いた頃には手遅れだった。 風竜の背に乗った少女、タバサが『破壊の杖』を腕の中で受け止める。 「……キャッチ」 彼女が小さな声で自分の勝利を宣言する。 ゴーレムの腕に捕らわれぬ様に急上昇するシルフィ-ド。 もはや手の届かぬ場所へと遠ざかる『破壊の杖』。 目の前で掴んだ筈の勝利が逃げていく。 その事実に彼女は自分の足元が崩壊するような錯覚を覚えた。 否。それは錯覚などではなかった。 彼女が上へと気を取られた瞬間、ゴーレムが地面に飲み込まれる。 まるで大地という獣が顎を開いたかの如く、その巨体を巻き込んで地盤が崩壊する。 凄まじい轟音と砂煙が立ち上るのを遠くから眺め、ゴールドアームは作戦の成功を悟った。 「どうやら上手くいったみたいだね」 「それはいいけど……。もう少し何とか出来なかったの? 髪も服も埃塗れになっちゃったじゃない」 ケホケホと咳をしながら二人は互いの無事を確かめる。 クレーター周辺に立ち込める一面の砂埃。 ようやく人影だけが認識出る視界の中でで顔を突き合せる。 普段から身嗜みに気を使う二人だけに、気分はあまり良くない。 しかし、それも生きていればこその贅沢と笑い合う。 “学院から引き離してヴェルダンデの掘った落とし穴に嵌める” 無謀ともいえるタバサの作戦はゴールドアームの指揮の下、成功下に終わった。 この作戦が成功したのは彼のおかげだ。 『破壊の杖』を奪ったキックやロングパスだけではない。 不安や仲間への不信が僅かでもあれば、ここまで上手くはいかなかった。 だけど、いつの間にか僕達の間にはスポーツを通じて固い絆が結ばれていた。 一人の力では成し得ぬ事も、共に戦う仲間がいれば出来る。 ゴールドアームは身を以ってそれを教えてくれた。 ギーシュが落とし穴のある方へと視線を向ける。 未だに視界が利かないので確認出来ないが決着は付いた筈だ。 あれだけの高さからの転倒だ。 肩に乗っていたフーケは大怪我を負ったか、レビテーションで脱出しただろう。 空を飛ぶ魔法と他の魔法は同時に行使できない。 自分が助かろうと思うならゴーレムは解除しなければならない。 つまり、どちらを選択しようともフーケは終わりだ。 シルフィードが彼等の頭上へと舞い降りる。 彼女の羽ばたきが強風を生み砂煙を蹴散らしていく。 直後。彼女等の目は驚愕に見開いた。 そこには下半身を埋めながらも健在を誇るゴーレムの姿。 その巨大な手が低空へと降りてきたシルフィードを捕らえる。 「さあ捕まえたよ! 握り潰されたくなかったらソイツを返しな!」 巨人の胸元近くに立つフーケの叫びが木霊する。 転倒する直前、彼女は地面を柔らかな砂へと変えた。 それがクッションとなり墜落の衝撃を吸収した。 そして、そのまま息を殺して待ち続けていたのだ。 『破壊の杖』を持ったタバサが手の届く所まで来る瞬間を…! 「きゅいきゅい!?」 ミシリと骨の軋む音が辺りに響く。 脅しではない。フーケは他人の命を奪うのに躊躇しない。 それでも一息に仕留めないのは『破壊の杖』が此処にあるからに他ならない。 全身に掛かる重圧にタバサの意識が急速に遠のく。 杖が手元にあろうとも振る事さえ叶わない。 このまま意識を失えば人質として使われるだろう。 それだけは出来ない。 私の所為で皆を危険に晒す訳にはいかない。 唇を噛み切りながら堪えるも視点が合わない。 ぼやける視界の中、彼女は大地を貫く雷を見た。 「ゴールドアーム!!」 叫びながらルイズは彼へと駆け寄った。 肩口から迸る電流。 立ち上る黒煙。 苦しげな呼吸と苦痛に歪んだ表情。 それは今までに見せた事のない彼の姿。 蒸気機関さえマトモにない世界で、 アイアンリーガーの体がどうなっているかなど、彼女には知る由もない。 しかし目の前の異常が彼女に危機を知らせる。 「来るんじゃねえッ!」 グローブを填めた手で彼女を遮りながらゴールドアームは構える。 セットポジションからワイルドアップへ。 手の内に握られたアイアンリーグ用の硬球が軋みを上げる。 今から走って行っても間に合わない。 たとえ駆けつけたとしても、あの巨体に成す術はない。 可能性があるとすれば唯一つ! ここからゴーレムを打ち砕く一球を投じるのみ! 果たして今の自分に出来るのか…? いや、出来たとしても二度とマウンドに立つ事は叶わない。 限界を超えた力を引き出されたボディは完全に破壊されるだろう。 だが躊躇している余裕はない。 この最後の一球に己の全てを込めて投じるだけだ。 「止めなさいゴールドアーム! 今の体でそんな無茶したらアンタ…!」 覚悟を決めた彼の背にルイズの声が掛けられる。 彼女もゴールドアームが命を賭しているのを感じ取ったのだ。 しかし今の彼を誰が止められるというのか。 “投手をマウンドから降ろせるのは投手自身だけだ” 彼ならば、いつもみたいにそう言っただろう。 自分の身を案ずるルイズの心がグローブの下の左手から伝わってくる。 そうだ。お前は間違っていない。 いくら腕が立とうと仲間の事を軽んずる奴はアイアンリーガーじゃない。 だからこそ、この肩を犠牲にしてでも助けようとしているんだ。 それが僅かの間だったとして彼女達は共に戦った仲間だ。 肩が砕けようが腕が千切れようとも構わない。 心さえ折れなければ俺はアイアンリーガーだ…! ワイルドアップの体勢を取った彼の体を稲妻が駆け巡る。 蝋燭が燃え尽きる間際に眩い光を放つかの如く、彼の体を流れるオイルが滾る。 組み込まれた回路が焼け付くような高熱を発する。 彼は確信した。この一球こそ選手としての生涯を締め括るに相応しいと。 「これが俺の、魂の一球だァァァーー!!」 大気を切り裂いて振り下ろされる右腕。 それはアイアンリーガーとしての自分に別れを告げる球。 その指先が白球から離れる瞬間、彼は有り得ない声を聞いた。 “本当にそれでいいのか”と、その声の主は言う。 メモリーに焼き付いた、その音声を忘れる筈がない。 かつて共にシルバーキャッスルに挑み、フィールドに散ったリーガー。 今でも奴が間際に言った言葉を覚えている。 宿敵を前にしながら、戦う意思さえ失っていた俺達を奴は命を捨てて目覚めさせた。 “決着も付けずに終わっていいのか” 問いかける声に返す言葉など無い。 無念は胸の内に刻まれたまま癒える事はないだろう。 だが整備もままならぬ体で限界以上の力を出せば助かる筈がない。 機械である以上、それは決して逃げられぬ法則。 それでもアイツは真っ向から否定した。 真のアイアンリーガーの力はそんなものじゃない、と。 背後で輝く光にフーケは振り返った。 そこには間際に迫る衝撃波を伴った鋼鉄の球。 一直線にゴーレムの頭部へと飛来するそれを巨大な掌が遮る。 その刹那。まるで意思を持つかの如く白球が激しい雷を帯びた。 激突の瞬間、ボールの放つ高熱が飴のようにゴーレムの腕を溶かす。 『44ソニック・オン・サンダー』 鋼鉄で出来たバットをも熔かす彼の持つ最大にして最高の球。 そして、それは腕に留まらずゴーレムの頭さえも穿ち貫通した。 その余波が崩れかかった土塊の巨体を残らず吹き飛ばしていく。 舞い上がる風にフードが脱げたのも気付かず、フーケは立ち尽くす。 一陣の風が吹き抜けた跡には何も残されてはいない。 「ミ……ミス・ロングビル!?」 不意にギーシュが上げた声にフーケは我に立ち返った。 すぐさまフードを再び目深く被り、その場を離れようとした瞬間。 ずしりと彼女の背に重たい物が圧し掛かる。 見れば、自分に手を乗せる風竜がそこにはいた。 (たっちだうん、げーむせっとなのねー) きゅいきゅいと楽しげに鳴く風竜。 先程の仕返しなのか、背骨がやたらと痛い。 何でこんな連中に…と口惜しげに睨んでもどうにもならない。 運がなかったと潔く諦め、彼女は動かない腕から杖を手放した。 自分の投げた球の軌跡を見据えたまま彼は立ち尽くす。 機能停止寸前の体で投げたそれはハルケギニアに来てから最高の一球だった。 崩壊すると思われた体は依然変わらずゴールドアームの意思の下にある。 マシンの性能の限界を、彼は己の意思で凌駕した。 それはかつてシルバーキャッスルの連中が起こした奇跡。 「ウオォォォォオーーー!!」 ゴールドアームが吼える。 それが何から来るものなのか、彼には理解できなかった。 ただ回路の熱に身を委ねて彼は雄叫びを上げる。 全身を巡るオイルが沸騰しながら叫ぶ。 “マグナムエースとの決着なしに生きる事は出来ない” たった一球。 だが、その一球が彼の迷いを断ち切った。 それは選手生命にではなくハルケギニアに別れを告げる球となった…。 前ページ次ページ神の左手は黄金の腕