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えだまめちゃん 概要プロフィール 人物像 容貌・服装 趣味 女児符号女児符号 深々読心(ハート・リード) 加速符号 穿心掘黒(フラッシュバック・パニック) 究極符号 堂廻目眩(ドグラ・マグラ) 各作品での活躍登場作品名 関連人物家族 関連イラスト Twitterアカウント 概要 プロフィール 相棒のヨモギと 「人生とは如何に歴史に名を刻むか、なのですよ」 「夢、罪、功。あなたが満足出来たなら、どのような方法でも良いのです」 愛称 えだまめちゃん 本名 成城 こまり 年齢 11歳? 誕生日 7月7日 身長 153cm 体重 46kg 一人称 わたし 二人称 あなた 好きなもの ずんだ餅 嫌いなもの ルールを破る人 趣味 錬金術 人物像 駆け出しの錬金術師。相棒のヨモギと一緒に勉強をしています。 意外と激情家だと言われます。 種族…?人間ですよ。 容貌・服装 緑色のぱっつん髪を後ろでまとめています。 服装は緑が多めです。 趣味 錬金術が趣味です。釜を使うタイプと陣を描くタイプがありますが、ここでは前者です。 女児符号 女児符号 深々読心(ハート・リード) 最大20mの実態のない錨付きの鎖を誰かの胸に刺し、対象の心を読みます。 素材の声が聞こえるこの力が錬金術をより良いものにしてくれるのです。 加速符号 穿心掘黒(フラッシュバック・パニック) 最大10mの実態のない穿孔機付きの鎖を相手の頭に刺し、相手のトラウマをえぐり出す力です。最低だと思います。 究極符号 堂廻目眩(ドグラ・マグラ) あなたはお母さんの体の中で体験したこと…具体的には見た夢を覚えていますか?覚えていない?分からない?大丈夫。わたしが再現してあげますから、すぐに思い出せますよ。 各作品での活躍 登場作品名 まだないです。裏方も悪くありませんが、表舞台に出てみたいですね。 関連人物 家族 ヨモギ 謎の生き物。多分猫だと思います。 成城 竜吾 お父さん。植物を使った錬金術が得意です。 成城 弓子 お母さん。金属を使った錬金術が得意です。 食堂なるしろ 家族ぐるみで経営している食堂。駅近なので食事時にはまぁまぁ混雑します。 関連イラスト れんきんじゅつし こまり
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ここに作品タイトル等を記入 更新日:2022/07/15 Fri 00 21 56NEW! タグ一覧 セブンスカラー 紫水龍香 魔龍少女 あらすじ 今回のあらすじを担当させていただきます、紫水家に仕えておりますばぁやこと冴子です。 前回は雪花様が孤独と焦りを感じながらも龍香お嬢様を含めた周りの人間に支えられ、見事それらを張り切り姉の仇であるシードゥス、アンタレスに一杯食わせたのですね。 だが、当然シードゥス達がこれで終わるハズもなく…どうなるのでしょう第17話 痛い、痛い。 「✖️✖️。お前は今日から男として生きるんだ。」 痛い。殴らないで。 「男が泣くな!男は涙を人前では見せん!」 痛いよ。やめて。 「飛鳥。こんな女々しいものは捨てろ。男らしくない。」 痛いのが止まらない。もう無理だ。これから先ずっとこうならいっそもう死んーーーーー 「ねぇ。アタシが付き合ってあげるからさ。ちょっとだけまだ、生きてみない?」 君は。誰? 「アタシは」 目を開く。一面に広がる白い見知った天井。黒鳥はベッドの上で目を覚ます。 「…夢、か。」 黒鳥はため息をつくと、身体を起こす。眠気が残る顔を水で洗い、着替えを済ませると部屋を後にしようとドアノブに手をかけ、ふと。机の上にある写真を見つめる。 「…行って来るよ。シロ。」 その写真には仲良さげに手を繋ぐ、黒鳥と白髪の少女の姿が写っていた。 剥き出しの配管やひび割れた壁、見るからに荒れた廊下を老年の男性を筆頭にライフルなどを持って武装した複数人が歩いていた。 「海原さん。ホントにこんなところにいるのでしょうか。」 隊員の一人が老年の男性、海原に尋ねる。 「うむ。情報が確かならあの男が最後に目撃されたのはここだ。」 海原は廊下を歩いて進みながら隊員達に答える。 「“新月”から情報を抜き取り、姿を眩ませた…黒鳥天鳥(くろとり あとり)…。」 「その天鳥が抜き出した情報と言うのはそんなに重要なものなんですか?」 その隊員の質問に海原の目が険しくなる。 「奴が抜き取ったのは“新月”内でもトップシークレットに危険な情報…雪花亜美のとある研究内容だ。」 雪花亜美……“新月”の技術の大半を開発し、実用化させた若き天才。妹である雪花藍が使用している“デイブレイク”など彼女の技術はロストテクノロジーに片足を突っ込んでいるレベルで高度だ。 そんな彼女の研究内容ともなればその重要性は計り知れない。 「その中でもとびきりの情報…魂の定着、取り出しに関する技術を奴は盗んでいきおった。」 「魂の…取り出し?」 「最早半分オカルトだよ。一度亜美君に仕組みを聞いたがこれっぽっちも理解出来んかった。」 海原はドアを開ける。 「だが、仕組みは分からんが何が出来るのかは分かる。魂を肉体から抜き取り、他の物に定着させる。不思議に思わないか?シードゥスに何故現代兵器が通用しないのか、何故同じシードゥスを介していない“デイブレイク”の攻撃は通用するのか。」 海原は呆気に取られる隊員達に言う。 「やつらは“魂の皮膜”を張っている。彼らの身体から放出される謎のエネルギー…そして、それを破れるのは同じ“魂の皮膜”を纏った攻撃のみ。」 「し、しかしその“魂の皮膜”とやらはシードゥスにしか発現しないのでは?」 隊員の一人の言葉に海原はカッカッカッと快活そうに笑うと隊員の胸をトンと叩く。 「何を言っている。あるじゃないか。ワシら人間にも。魂が。」 「…!なら、まさか“デイブレイク”には…」 「あぁ。君が思っている通りだ。“デイブレイク”には現装着者の雪花藍の姉、雪花亜美の魂が宿っている。だから攻撃が通用するのだ。」 海原の言葉に隊員達はざわつく。 「まさか、彼女は生きて…」 「いや、雪花亜美は死んでいる。そもそも魂を完全に定着させるのは彼女の頭脳を持ってしてもなしえなかった。まぁもしまだ生きていたならあるいは出来たかもしれんが。だからこそ彼女は死の間際に妹に託したのだろうが。」 海原達は物々しい鉄扉の前に立つ。そして、一瞬時間を置いた後、その重い鉄扉を開ける。開けた先には天井から垂れたチューブがそこかしこに拡がる何とも不気味な空間、そしてその中央に黒い一機の人型の人形のようなモノが鎮座していた。 その人形を見て、海原は懐かしそうな顔をして言った。 「……久しぶりだな。ようやく見つけたぞ、天鳥。」 氷で出来た結晶があちらこちらに並ぶある種幻想的な洞窟内に三体の怪物が歩を進めていた。 シードゥスのボス、プロウフを先頭に後ろをアルレシャ、ルクバトが続く。 「着きましたね。」 そう言ってプロウフは歩を止め、だだっ広い空間の中央にある氷の玉を見上げる。 「…ホントに目覚めさせるのか?」 「しょうがないだろう。スピカも倒れた今、こっちには戦力が必要なんだ。」 今から仲間を復活させると言うのに渋い顔をするルクバトにアルレシャは諭すように言う。 レグルス、その実力はツォディア内でも上位に位置し、その忠誠心からプロウフが信頼を置いていたシードゥスの一人。だが、前の他戦いにてアルテバラン亡き後にその忠誠心が仇となり、無理な強襲を仕掛けて壊滅させたもののツォディアの半数と多くのシードゥスを失った責任でプロウフに封印された。 「アルレシャ、お前が言ったんだからお前が面倒を見ろよ。俺は関与しないからな。」 「わーってるよ。プロウフ、早く始めてくれ。」 「分かりました。」 プロウフはそう言うと手を翳し、力を込める。するとパキィンという音と共に氷が砕け、氷片が雪の如く舞い散る。 そしてその中から一体の怪物が解放され、プロウフの前に跪く。 そんな怪物、レグルスを見下ろしながらプロウフは尋ねる。 「頭は充分冷えましたか?レグルス。」 「ハッ!私が至らぬあまりプロウフ様にご不快な思いをさせてしまったこと、償え切れぬものではありませんが十二分に反省しました!」 「今回は封印という処置を取りましたが…次はありませんよ。」 「ハッ!肝に銘じます!」 「…相変わらず気持ち悪ィなアイツの忠誠心。」 プロウフの前に傅き、忠誠の意を示すレグルスを見てアルレシャはぼやきながら近づいて肩に手を置く。 「レグルス。もう勝手な真似はすんな」 「触るな汚れる。」 置いた瞬間パチンと腕を弾かれる。 「あ?」 「お?」 二人は睨み合いながら一瞬で一触即発の状態になる。 「テメェ……久しぶりに出てきたくせに随分なご挨拶じゃねぇか。」 「私に触れていいのはプロウフ様だけだ。何やら随分とイメチェンしてるみたいだが私に勝てると思うなよ。」 「上等だテメェ表出ろや。」 「はいはい。そこまでにしなさい。」 バチバチと火花を散らす二人をプロウフが諫める。これではどっちが保護者なのか分からないな、とルクバトが二人を眺めながら思っていると。 「「テメェ今失礼なこと考えただろ。」」 二人が揃ってルクバトに言う。 …やっぱりこの二人仲が良いのでは?ルクバトは二人に睨まれながらそう感じた。 「むむ…むむ……」 「どうしたの雪花ちゃん?」 ミーティングルームで何か広告のようなものを見ながら唸る雪花に龍香が声をかける。 気になった龍香が雪花が見ているものに目を落とすと、そこには色とりどりの果物を使ったスイーツの写真が並んでいた。 「今丁度期間限定のスイーツフェアをこの喫茶店でやってるんだけど…ただ、ここに行ったら間違いなく今月のお小遣いが無くなる…」 どうやら雪花はこのスイーツフェアに行きたいようだが、懐事情を考えると行きあぐねると言った様子だ。 「え?そんなに高いの?」 気になった龍香がその広告に目を落とす。その値段を見て、龍香はキョトンとした顔をする。 「え?そんなに高くなくない?」 「は?お前だってこれ」 突然価値観の違う素っ頓狂なことを言う龍香に抗議の声を言いかけて雪花は思い出す。 「…そういやアンタ、普通にばあやとかいるような良いとこの出だったわね…。」 「?」 不思議そうな顔をする龍香を何処か複雑そうな目で雪花が見つめていると。 「あら、ユッキーとリコピン。何を見てるの?」 「あ、風見さん。」 ミーティングルームに入ってきた“新月”のメンバー風見が二人に尋ねる。 風見は雪花が見ている広告を見ると。 「あら、これ町外れの喫茶店じゃない。何?二人で食べに行くの?」 そう言うと風見はポケットからチケットを取り出す。 「それは?」 「福引で当たった一時間食べ放題半額券よ。マイマイかヤマピー誘おうかと思ったんだけど、二人で行くならあげようか?」 「ホント!?」 初めて見る目を輝かせた雪花に龍香は少しビックリするが、風見はどうやら慣れた様子で。 「うんうん。沢山食べてきなさい。」 「ありがと!風見!」 雪花は嬉しそうにそれを受け取る。そして雪花はそのまま龍香の方を振り返る。 「さぁ龍香!早速行くわよ!」 「え、今から!?」 「あ、それ四人までだからせっかくだしハーちんとクロクロも誘えば?」 風見が赤羽と黒鳥を誘うことを提案すると、雪花は少し嫌そうな顔をして。 「えー、黒鳥はまだしも、アイツとっつきにくいのよね。なんか常にしかめっ面だし絶対誘っても断ってくるわよ。」 (……正直初めにあった頃の雪花ちゃんに似てるよね赤羽さん。) (あぁ。今言ったことまんま会ったばかりの雪花だもんな。) 「なんか言った?」 「い、いや。何も?でも誘うくらいはした方が…」 龍香がそう言うが、雪花はハッと鼻で笑うと。 「絶対断るって。頭でっかちで頑固そうだし常に怒りっぽいし面倒臭いじゃないあの人。」 雪花はべらべらと悪口を言い連ねるが、何かに気づいた龍香は顔を青ざめさせると恐る恐る雪花に言う。 「そ、その。雪花ちゃん。そこまでにしといた方が。」 「え?だって龍香も思うでしょ?絶対人付き合い苦手よあの人。」 「へぇ。悪かったわね。人付き合い苦手な面倒臭い頭でっかちで。」 その声にビックリした雪花が振り返るより早く、いつの間にか背後に立っていた赤羽は雪花のこめかみに拳を当てるとグリグリとめり込ませる。 「いだだだだだだだだだだだ!!?黒鳥!黒鳥ィー!」 悲鳴をあげながら雪花が助けを求めると。 「なんだどうした?」 騒ぎを聞きつけたのか黒鳥が部屋に入ってくる。そして雪花のこめかみに拳をグリグリする赤羽、呆れ顔の風見を見ると。 「…雪花、赤羽に何言ったんだ?」 「何で察してんのよいだだだだだ!」 悲鳴をあげる雪花をほっといて黒鳥は龍香に尋ねる。 「何があったんだ?」 「いや、そのこのスイーツ一時間食べ放題に赤羽さんと黒鳥さんを誘おうか、みたいな話をしてて。」 「スイーツ!?あの、町外れの!?」 “スイーツ”という言葉に反応したのか大きな声を出す黒鳥。珍しい彼の行動に全員が固まる。そのことに気づいた黒鳥はコホンと咳払いをすると。 「む、失礼。はしたないところを見せたな。」 《いやいやいやいやこっから取り繕える訳ねーだろ。》 流そうとする黒鳥にカノープスがツッコミを入れる。 「黒鳥さん。スイーツ好きなんですね。」 「スイーツ好きなんて、あなたも結構“女々しい”とこあるのね。」 「ッ」 赤羽の言葉に黒鳥が一瞬、複雑そうな顔をする。 「コラコラ。男だってお菓子が好きでもいいじゃない。」 「っ、とにかく。早くスイーツ食べに行きましょ!んで、結局二人は来るの?」 宥める風見に雪花が早く行こうと催促する。 「あ、ああ。行かせて貰う。」 「私はやめとくわ。なんせ、頭でっかちの面倒くさい女が一緒じゃ楽しめなあでしょうし。」 「悪かったわよ!悪口言ったのは謝るわ!」 「んもう。根に持たないの。四人とも、車出してあげるから乗りなさい。」 風見が四人を乗せて町外れの喫茶店に案内しようとすると、龍香がおずおずの申し訳なさそうに手を上げる。 「あ、あの〜ごめんなさい。せっかくのお誘いなんですけど私、遠慮させて貰います…。」 「え」 申し訳なさそうに辞退を表明する龍香に雪花が詰め寄る。 「な、何でよ!アンタ一番来そうなのに…!」 「…いや、別に皆が嫌いとかそう言うのじゃなくて、個人的な問題と言うか……」 モジモジとして何故か辞退の理由を口籠る話そうとしない龍香に代わってカノープスが。 《あぁ。それがな。毎晩夜食してたのが祟って増量して今龍香は》 「わあああああああああ!!」 《もが》 余計なことを言おうとしたカノープスを頭から素早く取って握りしめて黙らせると、龍香は取り繕うように笑って。 「あ、あはは!お、おかしなことを言うな〜カノープスも!わ、私!実は甘いものがそんなに得意じゃないから!行ってもあんまり元が取れないかな〜って思って!」 「……ま、その。がんば☆リコピン」 「また今度、行こうな…。」 必死に言い訳をする龍香を全員が少し生温かい目で見守るのだった。 「あれー?あれあれー?」 「…何探してんの?」 キョロキョロと辺りを見回し、時には机の下やタンスを開けたりするカストルを見ていたアンタレスが声をかける。 「いやーボク、プロウフからプロキオンの面倒を見るように頼まれたんだけどさぁ、いなくなっちゃって。」 「あぁ、あのガキ?」 カストルが探し人の名前を言うと、アンタレスは面倒くさそうに言う。 「まぁまぁ、プロウフのお気に入りだからさぁ。それにあの子結構愛されてるよ?アルレシャとかルクバトが結構可愛がってるの見るし。」 「随分と丸くなったもんね全く…。」 「もしかしたら、外出ちゃったかなぁ。なんか、色んな広告とか新聞見てたし。」 カストルは拾い上げた紙切れを放り捨てて、パンパンと手を叩く。するとヌッと大柄な鯨のような外見をした怪物が姿を現す。 「お呼びになりましたかぁ?」 妙に間延びした声でカストルに呼ばれた怪物が尋ねる。 「メンカル。呼び出して悪いけど、お目付を頼んでたプロキオンがいなくなっちゃったから探しに行くよ。」 「はい〜。」 そう言うと二人は扉を開けて、館を後にする。アンタレスはそんな二人を見ながら呆れたようにため息をつく。 「ツォディアもガキのお守りをする時代、か。」 「もう!もう!カノープス!何で皆の前で言っちゃうのな〜!」 ぷりぷりと怒りながら龍香は今はいないカノープスに文句を言う。それが発覚したのは昨夜のことだった。 昨夜風呂上がりにアイスを食べていた時だった。たまたま帰っていた龍賢は龍香の様子を見て。 「龍香、丸くなったか?」 「……え。」 恐らく龍賢は特に気にしてはおらず、なんとなくで言ったのだろうがその言葉に龍香は固まる。 「り、龍賢ぼっちゃま…!」 そのことに気づいた冴子が龍賢に声をかける。だが龍賢は。 「良いじゃないか。この時期は丸いくらいが将来良く成長すると母が言っていたのだが…」 「そういう問題ではありません!いいですかおぼっちゃま。そもそも…」 龍賢はそう言うが、冴子はデリカシーがないと龍賢を説教し始める。 龍香はすぐに洗面所に向かい、置いてある体重計に乗る。 緊張の瞬間。体重計が示した数値に龍香は目を見開く。 《あー、…その、全然気にする必要はねぇって…》 カノープスがショックを受けた龍香にそう声をかけると。 「そ、そうだ!カノープス着けてるからだよ!全くもう!カノープスったら〜!」 《いや、絶対そんな変わんない…》 そう言うと龍香はカノープスを外すともう一回チャレンジする。 だが、その程度のことで劇的な変化が起こるはずもなく。龍香の悲鳴だけが響いた。 なんてことが昨夜あり、龍香はちょっとピリピリしていたのだ。そこにカノープスが失言をしたものだから龍香はカノープスを投げ捨てると“新月”基地から走り出してしまった。 龍香がカノープスにブツクサ文句を言いながら道を歩いていると。 「う、うぅ…。」 道端に倒れ伏している女の子がいた。その子は帽子を被り、ぶかぶかのジャケットを羽織った何処かバックパッカーのような服装をしていた。 「だ、大丈夫!?」 「うぅん…」 龍香は慌ててその少女に駆け寄る。少女は外傷こそはないものの、苦しそうな顔をしている。 もしかして何か病気か…?と龍香が携帯で救急車を呼ぼうか少し迷った瞬間。 ぐぅぅぅぅぅ……と腹の底から響くような音が少女から聞こえる。 「……え?」 「お、お腹空いた…」 少女は死にそうな声でそう呟いた。 「はぐっ!ふぐっ!もぐっ!うぐうぐ!」 「お、落ち着いて食べて?喉に詰まっちゃうよ?」 公園まで倒れていた彼女を運んだ龍香は近くのコンビニで今持っている手持ちのお金で出来る限りパンを購入した後、彼女にそれらを渡すと恐ろしい勢いで彼女は食べ始める。バクバクと勢いよく食べる様はまるで獣のようだ。 そしてしばらくすると彼女はウッと声を上げ、苦しそうに呻いて顔を青ざめさせる。 「あぁもう言わんこっちゃない!」 龍香がお茶を渡すと彼女は一気にそれを飲み込んで、ドンドンと胸を叩いて飲み込むと、フゥと一息をつく。 「ふぅ、助かった!ありがと!ホントに死ぬかと思った!この恩は一生忘れないよ!」 「それはよかったけど…何であそこで倒れてたの?」 龍香が尋ねると、彼女は遠くを見つめると。 「実は…ケーキ屋に行こうと思ったんだけど、お金を持ってくるのを忘れて…」 「一旦取りに帰れば良かったんじゃ?」 「こっそり抜け出して来たから…怒られる。」 「な、成る程。」 彼女は何処か恥ずかしそうに答える。そして彼女は切り替えるように龍香に尋ねる。 「それにしてもありがとう恩人!その、名前を教えてくれ!」 「えっと…龍香だよ。」 「りゅーか……龍香だな!ありがとう!この恩は忘れないよ!私の名前は…プロ…」 そこまで言いかけて少女はバッと口を押さえる。 「プロ…?」 龍香が不思議そうに見つめる中、少女は上を見たりと目をギョロギョロ動かせて何か考える素振りを見せた後、何かを思いついたようで。 「な、なんでもないよ!そ、でね!私の名前はプローク・シオンだよ!」 「へー、シオンちゃんって言うんだ。外国の人?」 「う、うん。」 赤い瞳と帽子から赤茶色の髪を見て、龍香がへー、興味深そうに見ていると、シオンは慌てたように立ち上がって。 「龍香!この恩は絶対今度会った時に倍にして返すから!そ、それじゃまたね!」 「あ、ちょっと待って……行っちゃった。」 嵐のような子だったなー、と龍香が走り去るシオンを見ていると、ピリリリと携帯に着信が入る。 「?着信?」 龍香が携帯を操作して、通話に出る。そこから告げられた一言で驚きのあまり龍香の目が見開かれる。 「えっ、シードゥスが出た!?」 「爆弾セット完了しました。」 「黒鳥天鳥が抜き出したと思われるデータも削除完了しております。」 「うむ。ご苦労。この技術は最早我らの手に負えん禁忌の技術。葬り去るしかあるまいて。」 中心に黒い人型のロボットが鎮座する空間に隊員達が手際よく情報抹消のための準備を進めていく。 準備完了した合図を受けた海原は部下なら起爆装置のスイッチを受け取ると、チラッと部屋の片隅にあるベッドに横たわる一つの遺体に目をやる。天鳥は外傷一つなく、祈るように両手を握って、眠るように死んでいた。 「天鳥……妻と息子を失ったお前がどれだけの苦しみを味わったかは知らん…だがそのために娘を差し出してまでこの禁忌の情報を得て、お前は何がしたかったんだ…?」 海原が遺体の天鳥に問うが、当然返事が返ってくることはない。何故なら彼はもう既に死んでいる。死体が返事をするハズがないのだ。 そう、結局の所これは海原の感傷から出た独り言。答える者などいない。“そのハズ”だった。 《強者になるためだ。》 何処からともなく男性の声が聞こえる。その声に隊員達はどよめき、海原はこの見知っていた男の声だと言うことに気がつく。 「なっ、この声はどこから…」 全員が辺りを見回し、声の発生源を探していると。ギョロリと部屋の中央に鎮座していた人形の瞳が輝き、動いたかに見えた。 次の瞬間人形はガラスケースの扉を叩き壊すと、海原を突き飛ばす。不意の事に面食らった海原の身体は宙を待って地面に叩きつけられる。 隊員達が狼狽えながらも銃を構えるが、人形はそれよりも早く腕に付いている亀の甲羅のような手甲から刃を展開させると、それを一振りする。 するとポロポロと銃口が切断され、発射不可能となったライフルの部品が床に落ちる。 「そ、その声は…あ、天鳥なのか…?」 思い切り地面に叩きつけられた衝撃に悶えながらも海原が黒い人形に尋ねる。 人形はちらと海原を一瞥すると、その場に転がっているスイッチを拾い上げて言う。 『そうだ。俺は今度こそ強者となって再びこの世に舞い戻ったのだ。』 そう言うと人形、天鳥はスイッチを押し込む。起爆装置が爆発までのカウントダウンを知らせる中、天鳥はポイとスイッチを投げ捨てその場を後にする。 天鳥はその去り際に独り言のように呟いた。 『……飛鳥。』 「お、ようやく見えてきたわね。」 龍香が諸事情で抜けたため、風見の運転で雪花、黒鳥、赤羽を乗せた車は町外れの喫茶店へと向かっていた。 「雪花的にはどれが食べたい?」 「ん〜やっぱこの旬の桃を使ったタルトね。これは外せないわ。赤羽は?」 「和風の奴ないの?」 後ろの席でワイワイと皆が楽しそうにしているのを見て風見がフッと笑ったのも束の間。 目的地が何やら騒がしいことに気づく。しかも満員御礼と言った様子ではなく、周りの人間の慌てぶりからどうやら何かトラブルがあったようだ。 「何かしら?」 風見が何事かと車を一旦止めて、店の方を注視するとその騒ぎの中心に異形の怪物が二体見えた。 「シードゥス!?」 「え!?」 風見の声に三人は一斉に外を見る。風見の言う通り、そこには半身を所々繋ぎ合わせたようなグロテスクな外見の怪物と、ブヨブヨと醜く太った鯨のような怪物がいた。 「だーっ!?なんだってこんな時に、しかもこの場所に出るのよ!?」 せっかく楽しみにしていた喫茶店でシードゥスがトラブルを起こしたことに雪花は怒りを隠せないようで、すぐに“デイブレイク”に指を這わせる。 「とにかく、今は戦うしかない、風見さん。俺達が行きますので、龍香ちゃんに連絡を!」 「分かったわ。気をつけなさい!」 「クソシードゥスが、ブった斬ってやるわ。」 黒鳥が風見に龍香を呼ぶように頼み、赤羽は血気盛んに外へと飛び出す。 そしてそれと同時に変身し、武装を身に纏った三人はパニックになって蜘蛛の子散らすように逃げる人々を飛び越えて、怪物達の前に立つ。 「そこまでよシードゥス!」 「お、もう来ちゃった?」 雪花が“マタンII”を構えて、その切先をシードゥスに向ける。だが、突きつけられたツギハギのシードゥスは両手を上げておどけて見せる。 「ふふっ、君達が“新月”かァ。話はかねがね聞いてるよ?それにしても若くて可愛い子ばっかだねぇ。ふふっ。」 「なんでここにきたのか知らないけど、会った以上ブった斬らせて貰うわ。」 「おぉ、血気盛んだね〜!いいね〜!嫌いじゃないヨォ。」 赤羽が殺気を放つが、目の前のシードゥスはおちゃらけた様子のままだ。 「シッ!」 次の瞬間、雪花と赤羽は同時にツギハギのシードゥスに仕掛ける。雪花と赤羽の斬撃が左右から襲い掛かる。だがその刃が届く前に、隣にいた鯨のシードゥス前に立ちはだかる。 「ッ!仲間が盾に!」 「関係ないっ!」 二人の斬撃が目の前の鯨のシードゥスに炸裂する。そしてその一撃が目の前の怪物の命を……終わらせることはなかった。 「!?」 てゅるん、と二人の刃はこの怪物を滑るだけで傷を一切与えられていなかったからだ。 「な、に?」 「か〜ゆ〜い〜」 「はははははは!面白いだろうメンカルの身体は!」 ツギハギのシードゥスが笑う。見ればメンカル、と呼ばれたシードゥスの体表はヌメヌメとした油が分泌されており、どうやらこの油が斬撃を滑らせ攻撃を無力化したようだ。 「このっ!」 雪花が躍起になって、何回も“マタンII”を振るうが全ての攻撃がダメージを与えることはなく、滑るだけだ。 「なら!」 赤羽が一旦距離を取って太腿のホルダーから針型の徹甲弾“椿”を抜き取ると、メンカルに向けて投げ飛ばす。だがその攻撃はメンカルが猛烈な勢いで腕を振るったことにより放たれた油の散弾が全てを撃ち落とし、メンカルに届くことはなく途中で爆発する。 「!この技、あの魚野郎の…!」 「お、アルレシャを覚えてるんだ。そうだよ。コイツはアルレシャの一番弟子って奴さ。」 まぁ、あっちは水分だけどね。とツギハギのシードゥスが言う。 「だが、迎撃したと言うことは!その攻撃は有効打になると見た!」 黒鳥は両腕に蜘蛛を模したような手甲を装着すると、そこから粘性の糸を噴出させる。 そしてその糸は瞬く間にメンカルに絡みつく。動きを制限し、その隙に攻撃を当てようという算段だ。 だが絡み付いた糸はメンカルの全身の油によって粘着することなく、するすると地面に落ちて無力化されてしまう。 「ッ、なら!」 黒鳥は今度は背中きら黒翼を拡げると飛び立ち、翼から黒い羽根を飛ばす。勿論放たれた羽根はメンカルの油の膜に阻まれ、その身体を傷つけることはない。だが、顔を中心に攻撃することで、その視界を塞ぐことは出来る。 「み〜えな〜」 「今だ!」 これを好機と見たか、赤羽と雪花はそれぞれ徹甲弾を取り出すとメンカルに投擲する。 音もなく放たれるこの攻撃には視界が塞がれたメンカルでは防ぎようがない。 「これで終わりよ!」 二人が直撃を確信した次の瞬間。横から飛んできた円盤状の物体がそれらを叩き落とす。 「なっ!?」 「ッ!下よ黒鳥!」 「え」 赤羽の叫びで黒鳥は間一髪下から襲いかかってくる円盤の存在に気づく。 「くっ」 ギリギリ仰反るようにしてその攻撃を回避するが、黒鳥の胸元の衣服が切り裂かれる。 「お〜か〜え〜し〜!」 「何……きゃっ!?」 さらには目隠しの羽根を全て流し終えたメンカルが頭頂部の穴から猛烈な勢いで油を発射する。それは黒鳥を捉えて地面へと叩き落とす。 「おやおや?ボクを忘れてないかい?」 円盤を投げた張本人であるツギハギのシードゥスが可笑しそうに三人に言う。 「お前ッ!」 雪花と赤羽がそのシードゥスに飛びかかる。同じように二方向からの同時攻撃。だが、そのシードゥスはその二人の攻撃をゆらりと簡単にかわすとお返しと言わんばかりに雪花に肘打ち、赤羽に膝蹴りを叩き込む。 「がっ!?」 「ぐぅふ!?」 手痛い仕返しに二人は慌てて距離を取る。そんな二人を眺めつつ円盤を掌でクルクル回しながら。 「自己紹介がまだだったねぇ。ボクの名はカストル。アルレシャの同じツォディアの一人さ。」 そう言うとカストルは雪花達に円盤状の武器を投げつける。 「喰らうか!」 雪花は横へと跳んで、その一撃を回避すると反撃の為に距離を詰める。メンカルと違ってカストルには油のような防護膜はない。そして雪花が“マタンII”を振り上げた瞬間。 「ッ!」 何かに気づいた赤羽が横から雪花を蹴り飛ばす。不意の一撃に雪花は対応出来ず、ズサァと地面に倒れる。 「へぶっ!?、って、何すんのよこの…」 雪花が文句を言おうとした瞬間、さっきまで雪花が立っていた場所をカストルの円盤が通り過ぎる。 「あの武器、紐のようなものがついてるわ。ただ投げるだけの道具じゃなさそう。」 「おっ、気づいちゃった?ま、でも流石にボクも“サダルメルクの瞳”を誤魔化せるとは思っちゃあいないからね。」 どうやらカストルが操る円盤状の武器には紐がついており、ヨーヨーのように器用に投げつけた後も操作出来るらしい。 「それにしても、カノープスはいないのかい?彼がいたらもっと楽しくなりそうなんだけど。」 「あいつなら今ダイエット中だよ!」 そう叫ぶと雪花は腰から取り出した銃をカストルに向けて発砲する。 「ダイエット?ふふっ、面白い冗談だね。いいよ気に入ったよ君。」 だが、放たれた弾丸をカストルは涼しい顔をしてかわす。 「マジなんだけどね…!」 雪花は一旦銃を牽制するようにカストルに放って動きを制限すると、メンカルの攻撃で撃ち落とされた黒鳥の元まで下がる。 「黒鳥大丈夫!?言っとくけどここで倒れられたらめっちゃ困るんだから!」 「あ、あぁ…何とか、大丈夫だ…。」 頭を押さえながら黒鳥がフラフラと立ち上がる。どうやら軽い脳震盪を起こしているようで、足元が覚束ない様子だ。 「おいおい、大丈夫な…の…?」 黒鳥の方を振り返った雪花が固まる。その視線は黒鳥の胸に向いている。 「どうし…た?」 「あ、あんた……“女”だったの!?」 「ッ!?」 雪花の視線が釘付けになっていたのは。先程のカストルの攻撃で切り裂かれた衣服よりとても男性のものとは思えない円弧を描く乳房が露わになっていたからだ。 「み、見るな!!わ、私は?俺は、男だ!男…なんだ!」 「は、はぁ!?いや、どう見てもそれは女…?」 「違う!違う違う違う!」 “女”。その一言に黒鳥は酷く動揺し、顔が青ざめ、若干半狂乱になりつつある。赤羽も黒鳥が女という事に少し驚くが、今はそれどころではない。 「あんたが男だろうが女だろうが知ったこっちゃないけど!今は…!」 赤羽が一瞬気を取られた瞬間、メンカルが赤羽に対して襲いかかる。メンカルの巨体から繰り出される猛烈な体当たりに、赤羽はギリギリ刀を盾にするが衝撃は殺せず、大きく吹っ飛ばされる。 「赤羽!?」 「ふふっ、女であることを隠すなんて、何か“トラウマ”でもあるのかい?」 「ッ!?」 いつの間にか距離を詰めていたカストルが武器を振るう。雪花はその一撃を“マタンII”で受け止める。 「クッソ!今アンタなんかに構っている暇ないのに!」 「つれない事言わないでヨォ。その子から面白そうな闇を感じるのサ。ドロドロして、最高に最低な闇を!」 「こんの悪趣味野郎が!」 “マタンII”を振るって斬り払うと銃をカストルに発砲する。カストルは身体をイナバウアーのように倒して回避すると、お返しにと逆立ちするように足を上げ、雪花の銃を蹴り上げて弾き飛ばす。 「くっ」 「まずは1人!」 カストルが拳を振り上げた瞬間。横から黒い影がカストルに襲いかかる。 「!」 咄嗟のことだったがカストルはギリギリ腕をクロスさせて影の攻撃を防ぐ。しかしどうやら体勢不利だったらしく倒れながらも直ぐ様立ち上がってバク転しながら後退する。 「新手か!?」 黒い影が黒鳥と雪花の前に降り立つ。そこにいたのは黒い、のっぺりした曲線が大きく多様された装甲を持つ機械の人形だった。 機械の人形はギョロリと黒鳥を見る。その瞳を見た黒鳥はゾクっと背筋が凍るような思いをする。 忘れていた瞳。忘れたい瞳。その瞳は忌々しい記憶を呼び覚ます。暴力、冷遇、強制。 震えが止まらない。気のせいだと思い込もうとしているとその人形が喋り始める。 『飛鳥……なんだ、そのザマは。』 「!」 人形の声を聞いた黒鳥がさらに震え始める。今までに見たこともないあまりの怯えぶりに雪花は不審がる。 「く、黒鳥大丈夫?って言うかアンタ何よ!」 雪花が黒鳥の前に立つと“マタンII”を人形に突きつける。 『……勇敢な子だな。それなのに、お前はなんたるザマだ。』 人形は何処か呆れたようなそんな佇まいで黒鳥を見つめる。 『それでも私の子か?』 その言葉に雪花は目を見開く。 「え、そ、それって」 雪花は思わず声を上げる。この人形の言うことが本当なら、今ここにいる人形が。 “黒鳥の親”ということなのだから。 To be continued… 関連作品 セブンスカラー
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女児ズ短編小説・玲亜編 『すれ違い文化祭』 初ちゃんと喧嘩した。 喧嘩....というよりは、私が一方的に初ちゃんに怒ってそのまま別れたと言った方が正しいけど、ほぼ喧嘩別れしたも同然だった。 それは、金曜日のことだった。その日は、明日青空小で行われる文化祭の準備をしていて、いよいよ大詰めということもあり皆それぞれ忙しそうにしていた。 「玲亜ー、飾り付け終わったぜ。」 「ん、ありがとねみっちゃん。ちょうどお昼だし、皆も一旦休憩しよっか。」 普段は給食制の青空小だけど、文化祭の準備期間は給食を配る為のスペースが他のもので埋まるからということで生徒達はお弁当を持参することになっていた。私は勿論、初ちゃんと一緒にお弁当を食べるつもりでいた。 「初ちゃんもそろそろひと段落した頃かな?」 教室の飾り付け担当の私とは違い、初ちゃんは外で屋台のテント張りを担当していた。私はお弁当を持って、初ちゃんが居るであろうグラウンドまでやってきた。 「初ちゃん何処だろう.....?」 辺りを見回していると、少し先にあるベンチの前に初ちゃんの姿が見えた。茶髪にベージュ色のメッシュ、遠くからでもすぐに分かる。 「初ちゃん!一緒にお弁当........」 私は初ちゃんに駆け寄ろうとして、ハッと立ち止まった。初ちゃんの側に、多分下級生であろう女の子が何人か居る。 「え........」 そして、初ちゃんはその女の子達と一緒にベンチに座り、お弁当を食べ始めた。女の子達は初ちゃんを囲み、皆楽しそうに笑っている。初ちゃんも笑いながら、女の子達と何か話しているように見えた。 「...............何..........で........................」 私は、その場から一歩も動けなかった。昨日までは私と一緒にお昼ご飯食べてたのに、何で今日は他の人と一緒に居るの?何で「玲亜と約束があるから」って断らなかったの?何で、そんなに楽しそうに笑ってるの.............? 「.....................馬鹿...........っ」 お弁当を胸元に抱え、私は元来た道へ走り出した。あと一秒でもあの光景を見ていたら、ほんとにどうにかなりそうな気がして。 「馬鹿、馬鹿っ.....!!初ちゃんの馬鹿........っ!!!!」 何度も、何度もそう言いながら、私は廊下を走り抜ける。周りに居た人達は皆驚いて私を見るけど、それを全部振り切って私は走り続けた。 「あれ、玲亜ちゃん?どこ行くの?玲亜ちゃん!」 旭ちゃんの呼びかけすら無視し、教室の前も通り過ぎ、階段を上へと駆け上がって.......私は、いつもよく初ちゃんと一緒に来ている屋上に辿り着いた。 「はぁ......はぁ.............」 夢中で走ったせいか、さっきの大きなショックのせいか、全身の力が抜け、私はドアの前に座り込んでしまった。もう、お弁当を食べる気力も残っていない。 「......何で..........何でよ初ちゃん................」 初ちゃんの優しい顔が、声が、一緒に過ごした思い出が、どんどん遠ざかっていく。気がついたときには、私の頬は涙で濡れていた。 「........初ちゃん...................」 両手で顔を覆い、私は声を殺して泣いた。作業再開のチャイムが鳴るまで、ずっと。 「皆さん、明日はいよいよ文化祭です。思う存分、だけどハメを外しすぎず、楽しんで下さいね。」 「「「はーい!」」」 校長先生の校内スピーチが終わり、下校時間になった。準備の関係で何人かは教室に戻ってきていなくて、初ちゃんもその一人だった。 「玲亜、帰ろうぜ。」 「............」 「おい、玲亜ってば!」 「えっ?....あぁ、ごめん.......」 「どうしたんだよ、昼間っからボーッとしちゃってさ。」 みっちゃんが呆れたようにそう言いつつ、私に鞄を差し出してきた。 「ほら、早く帰ろうぜ。」 「うん..........」 鞄を背負い、教室を出る。 すると、今一番見たくない顔に偶然出会してしまった。 「あっ、玲亜にみっちゃん。お疲れ様。」 初ちゃんだ。何も知らないといった顔で此方に手を振っている。 「おう初!お疲れさん!途中まで一緒に帰るか?」 「うん、そうする。荷物だけ取ってくるね。」 そんな初ちゃんを見て、私は普段なら絶対言わないような言葉を口にした。 「........ごめん、私先に帰る。」 「え?」 私の言葉に、初ちゃんもみっちゃんも目を丸くしていた。 「何か用事でも思い出したか?」 「違う、初ちゃんと一緒が嫌なだけ。」 しまった、言い方を間違えた。そう思ったときには、もう遅かった。 「え....わ、私と帰るの、嫌......?」 「良いでしょ別に、初ちゃんには他の子が居るんだしさ。」 その時の私は、まるで何かに乗り移られたかのような気分だった。本当は言いたくもないような初ちゃんを傷つけるような言葉を、何度も何度もぶつけてしまっていた。 「他の子....?」 「とぼけないでよ!!さっき一緒にお昼ご飯食べてたじゃん!!」 「あ、あぁ、あの子達?あれはその.....」 「私なんか居なくても、初ちゃんには他にいっぱい女の子が居るんでしょ!?だったらその子達と一緒に帰れば良いじゃん!!私のことなんかほっといてさ!!!!」 「お、おい玲亜?何があったか知らないけど一回落ち着けって......」 「結局初ちゃんは女の子なら誰でも良いんだよね!!そうだよね!?下級生の女の子達に囲まれてヘラヘラして、バッカみたい!!!」 「い、いや、私はただ.....」 「うるさい!!!!言い訳なんか聞きたくない!!!!!もう初ちゃんとは絶交だよ!!!!!!二度と私に話しかけないで!!!!!!!!!!!」 勢い任せにそう叫び、私は走ってその場を後にした。みっちゃんの呼び声も振り切って、逃げるように走って家まで帰った。 ........................................ ..................... 「........はぁ.................」 お風呂に入った後でも、私の気分は晴れなかった。初ちゃんと喧嘩したことや、初ちゃんが他の女の子と一緒に居たこと以上に、初ちゃんにあんな酷いことを言ってしまった私自身に腹が立っていた。相手に弁解させる暇も与えず、こっちから一方的に責めて.....今思い返せば、本当に酷いことをしてしまった。 「................初ちゃん、怒ってるかな......それとも...........悲しんでるかな............」 あの後の初ちゃんの心情を考えただけで、息をすることすら苦しくなってしまう。私が同じ立場なら、明日の文化祭なんか行けなくなって当然だとも思った。これ以上何を考えても駄目だ、今日はもう寝よう。そう思った時だった。 『プルルルルルルル』 スマホに電話がかかってきた。まさか初ちゃんが?と思って画面を見ると、相手はみっちゃんだった。 「.......もしもし。」 『あ、玲亜か?悪いなこんな時間に。初とお前の間に何があったのかどうしても気になってさ。』 「ううん、大丈夫.......実は.........」 私は、みっちゃんに今日あったことを話した。いつもバカやってる単細胞で脳筋なみっちゃんだけど、こういう時に真剣に話を聞いてくれるところは私も素直に尊敬していた。 『...........なるほどなぁ。でもよ、一個気になることがあるんだけど聞いても良いか?』 「何.....?」 『お前さ、初と昼飯食うつもりだったって言ったよな?それ、初も同じだったのか?』 「どういうこと?」 『初もお前と同じで、一緒に昼飯食うつもりだったのかなってこと。前以って約束とかしてなかったのか?』 「......それは...........!」 思い返せば、私は初ちゃんに「今日一緒にお昼食べようね」なんて一言も言っていなかった。昨日まで何も言わずとも一緒に食べてたんだし、今日も当然のように一緒に食べると勝手に思い込んでいた。 「........約束、してない..........」 『だと思った。あの後初と一緒に帰ったんだけどよ、あいつ玲亜を怒らせるような心当たりは何もないって言ってたぜ?』 「........................」 『初が嘘吐くような奴じゃないのは、アタシも玲亜も知ってるだろ?そんな奴が玲亜にいきなり怒られるなんて、おかしい話だと思ったんだ。』 「.....じゃあ.......私の勝手な思い込みだったってこと?私が、全部悪い....ってことなの.....?」 『いやいや、何も全部悪いとは言ってねえよ。思い込みなのは確かだけどな。初がどういうつもりだったのかまではアタシも知らないけど、絶対何か事情があったんだと思うぜ。』 「....そう、だよね........私も、初ちゃんが何の理由もなしにあんなことするなんて思えないし......」 『ちゃんと分かってんじゃねえか。明日、ちゃんと自分で謝りなよ?』 「うん........そうする。ありがとう。」 電話を切り、ベッドに入りながら、私は明日初ちゃんにどう謝ろうか考えていた。 「昨日はごめんね........ううん、それじゃ足りないよね。それに、初ちゃんの話もちゃんと聞かなきゃ........」 そして、迎えた文化祭当日。楽しみにしていた一大イベントのはずなのに、私の心は不安でいっぱいだった。 「ちゃんと謝れるかな.........」 学校に来てすぐ、私は初ちゃんを探す。出来るだけ早く、文化祭が始まる前に謝らなきゃ。 だけど、初ちゃんの姿は何処にもなかった。チャイムが鳴っても教室に来ないから、私は先生に聞くことにした。 「音羽さんなら、今日は風邪でお休みするって親御さんから聞いたわよ?」 「えっ........!」 「音羽さん、準備で凄く頑張ってたものね。少し疲れが溜まっちゃってたのかしら。残念だけど、今年は不参加ね。」 「そんな................」 きっと、原因は疲れだけじゃない。私が昨日あんなことを言ったせいで、落ち込んで......それが原因で気が滅入ったに違いない。 「......私.........最低だ.............」 まただ。またネガティブな方向に物事を考えてしまう。こんな時、初ちゃんが居れば慰めてくれるのに。その頼みの綱すら、自分で切ってしまうなんて........ その後、文化祭は予定通り始まった。だけど、私は何処にも行く気になれず、隅の方で座って時間をやり過ごしていた。屋台から溢れる焼きそばの匂い、大音量で流れる賑やかな音楽、楽しそうに各箇所を回る皆.......今の私には、そのどれもが苦痛だった。 「こんなはずじゃなかったのに............」 もう帰っちゃおうかな、と思ったその時。 突然、ちょんちょんと誰かに肩を叩かれた。 「えっ?」 振り向くと、そこには文化祭のマスコットキャラを模した着ぐるみを着た人が立っていた。 「..........!.....、..........♪」 着ぐるみは何か身振り手振りをして、私に何か伝えようとしているように見えた。けど、今の私にはそれすら目障りだった。 「......あっち行ってよ。私は子どもじゃない、そんな着ぐるみじゃ喜べないよ。」 私がそう言っても、着ぐるみはおどけたような動きを続けていた。イライラした私はその場を立ち去り、何処か別の座れる場所を探した。 「......ここなら大丈夫かな。」 私はベンチを見つけ、そこに座った。.....そういえば、ここは昨日初ちゃんが座っていたベンチの近くだ。 「..........初ちゃん............」 また思い出してしまう。本当に、どうしてあんなことを言ってしまったんだろう。後悔ばかりが募っていく。 「あれ?あなたは.......」 すると、また誰かに声をかけられた。顔を上げると、そこに居たのは下級生の女の子達だった。 「あなた達.......」 私はその顔に見覚えがあった。昨日、初ちゃんとここで一緒にお弁当を食べていた女の子達だ。 「虹富先輩、ですよね?昨日音羽先輩が話してくれた人だ!」 「わぁ、先輩が言ってた通り可愛い人だなぁ♪」 「え、えっと.....初ちゃんの知り合い.....?」 「知り合いっていうか、昨日お手伝いしてくれたんですよ!」 「私達も屋台担当だったんですけど、手が空いたからって音羽先輩が手伝いに来てくれたんです♪」 初ちゃんが、そんなことを......... 「せっかくだからお昼ご飯もご一緒しませんかって誘って、その時に虹富先輩の話も聞いたんだよね。音羽先輩って好きな人居るんですか?って!」 「そうそう、そしたら虹富先輩の名前が出てきたんです!あの時の音羽先輩デレデレだったなぁ〜♪確かに、こんなに可愛い人なら分かるかも!」 「.........っ!」 そうだったんだ.......初ちゃんは私のことを忘れてたわけじゃなかったんだ。それに、下級生の皆を手伝っていたなんて....... 「私........私..................っ」 「えっ?に、虹富先輩?」 「......私、誤解してた.....ありがとう、ほんとのこと教えてくれて。」 「.....?ど、どう致しまして......?」 不思議そうに首を傾げる女の子達と別れ、私はまたその場を離れた。溢れそうになる涙を必死に堪え、一人きりになれそうな屋上へと足を運ぶ。 「...............」 みっちゃんの言った通りだった。初ちゃんが何の理由もなしに私を忘れるわけがない。それなのに、私は勝手に誤解して、酷いことばっかり言って....... 「.....う.......うぅ...........っ」 とうとう、私は耐えきれなくなった。一つ、また一つと、涙の滴が頰を伝っていく。 「初ちゃん......ごめんなさい...........ごめんなさい............っ!」 絞り出すような声で、私は何度もそう叫んだ。たとえ本人の耳に届かなくても、どうしても今謝りたくて。 「ぐす.....ひっぐ........」 両手じゃ拭い切れない程の涙を必死で拭っていると、横からスッと何かが伸びてきた。 「え.....?」 いつの間にか、さっきの着ぐるみが真横に立っていた。その手には、ハンカチが握られている。 「...................」 「........あなた.....誰なの?」 ハンカチを受け取り、涙を拭いながら私は尋ねる。 「......!.........!」 「身振り手振りじゃ分かんないよ......」 「...........。!」 着ぐるみは私の質問には答えようとせず、また変な踊りを始めた。 「誤魔化さないでよ!.....っていうか、ダンス下手くそすぎ.......」 今にも転びそうになりながら、着ぐるみは踊り続けた。そのダンスはどう見ても下手くそで、正直目も当てられないけど.......でも、見ているうちに何となくおかしくなってきて、私は思わず吹き出してしまった。 「....ぷっ、ふふ.....あははは!何その動き!」 「!.....♪..........♪」 「あははっ!それやめて、お腹痛い!あははははは!」 お腹を押さえて笑っていると、着ぐるみは突然踊るのをやめて私に近づいてきた。 「え....?な、何?」 「.......、.............」 着ぐるみは自分の顔を指差したかと思うと、両手を上下に動かしてみせた。 「......頭を取って、ってこと?」 「!」 私の答えに、着ぐるみはうんうんと頷く。私は意を決して、着ぐるみの頭を外してみた。 「玲亜。」 「..........!!!初......ちゃん.........!?」 着ぐるみの中に居たのは、風邪で休んでいるはずの初ちゃんだった。 「えっ、え!?何で!?」 「あはは、ごめんね。風邪で休みっていうのは嘘だよ。先生とみっちゃんと、あと後輩の皆にも協力して貰って、ちょっと玲亜を驚かせようと思って朝から仕込んでたんだ。」 「そんな......聞いてないよ..............」 予想外の展開に、私は思わずその場にへなへなとへたり込んでしまった。 「.........そっか、初ちゃんも私と仲直りしたくて.........」 「うん、でもただ行くのも勿体ないってみっちゃんが作戦を考えてくれたんだ。」 「あのバカぁ......余計なことばっかり頭回るんだから........」 「ご、ごめんね、私もあんなに怒って落ち込んでた玲亜にどう話しかけて良いか分からなくて......でも、誤解が解けたみたいで良かった。あ、それと後輩の皆がさっき言ってたことは本当だよ。」 「そうだったんだ.....初ちゃんはただお手伝いしてただけなんだね。変な言い掛かりつけて、酷いこともいっぱい言ってごめんなさい........」 「此方こそごめん、連絡のひとつくらいすれば良かったね。玲亜を悲しませたのは私の落ち度だよ.....」 「そんな、初ちゃんは何にも.....!.....その、私も.....初ちゃんと........初ちゃんと、仲直り.....したい.........」 「勿論だよ、玲亜!私もこれから、玲亜と前以上に仲良くなっていきたいな。」 「.......!うん!」 着ぐるみを脱いだ初ちゃんに抱きしめられ、私はすっかり元気になった。初ちゃんも、いつもと変わらない優しい笑顔で私を見つめていた。 「さて、じゃあそろそろ行こうか。」 「行くって?」 「文化祭、まだまだこれからでしょ?」 「!......えへへ、そうだね♪行こっ、初ちゃん!」 初ちゃんとしっかり手を繋ぎ、私はまた走り出した。まるで羽が生えたかのようにその足取りは軽やかで、さっきまでの暗い気分はすっかり晴れていた。 「まずはどこ行く?玲亜の行きたい場所なら何処にでもついて行くよ。」 「それじゃあねー........焼きそば!焼きそば食べに行きたい!」 文化祭はまだまだ終わらない。私と初ちゃんの文化祭は、これから始まるんだ。 FIN.
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芦田ノノ 概要 リリの隣に引っ越してきたお姉さん。 リリムムの秘密を知っており、彼女等を優しく見守る。 プロフィール 愛称 ノノ姉ぇ 本名 芦田ノノ 年齢 18歳 誕生日 3/22 身長 165 体重 ヒミツ 一人称 私 二人称 貴方 あんた(勇馬に限り) 好きなもの 嫌いなもの 人物像 容姿・服装 女児符号 女児符号(現在発動不可能) 加速符号 マキナ・アギト 経歴 真の目的
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女児ズ短編小説・美奈編 『みっちゃんの憂鬱』 月曜日。一週間の始まり....なのに、朝から雨が降っている。 「憂鬱だなぁ.....まぁ、梅雨だから仕方ないか.....」 傘を片手に、私は学校に向かった。今日は猫達も何処かで雨宿りしているのか、一匹も姿を現さない。 「........あ」 ふと顔を上げると、前から誰かが歩いてくるのが見えた。私と少し似た髪型に、『一撃必殺』と書かれたTシャツ。クラスメイトのみっちゃんだ。 「みっちゃん、おはよう!」 私は傘の下でみっちゃんに手を振った。すると、それに気づいたみっちゃんも小さく手を上げて「よ」と短く答える。 「.........?」 何だか、元気がない。いつもなら向こうから挨拶してくるくらいなのに珍しいなと思いながら、私はみっちゃんの元に駆け寄る。すると、ふとある事に気がついた。 「あれ、玲亜は?」 いつもみっちゃんと一緒に来ている玲亜が、今日は隣に居ない。 「風邪だってよ、昨日から熱で寝込んでるらしいぜ。」 「そうなんだ、心配だね.....」 そうか、玲亜が居ないからみっちゃんも元気がないんだ。いつもお互いにどつき合いながらも、二人は凄く仲良しだから......加えて、この雨のせいでみっちゃんの大好きな外遊びも出来ないとなれば元気がなくなるのも当然だけど、本当にそれが原因かは私にも分からなかった。 「とりあえず、学校行こっか。」 「........おう。」 何となく気まずい雰囲気のまま、私達は一緒に学校に向かった。 ......................... ........... 「.........はぁ.................」 二時間目まで終わり、休み時間になっても、みっちゃんは溜め息ばかりついてじっと席に座ったままだった。 「............」 そんなみっちゃんにどう声をかけて良いか分からず、私も黙ってしまう。下手な事を言って怒らせるのも良くないし、むしろそっとしておく方が良いのかもしれない。 「初ちゃーん!トランプして遊ぼー!」 「う、うん!」 旭達に誘われ、しばらくトランプで遊んでいたけど、やっぱりどうしてもみっちゃんのことが気になってしまった私は思い切って旭に相談してみた。 「........あの、さ......みっちゃんが朝から元気ないんだけど.......どうしちゃったのかな......」 「え?みっちゃんが?.....ほんとだ、何か暗いね......玲亜ちゃんが居ないからかな?」 「それもあると思うけど、はっきりした原因は分かんない.....」 「うーん.........あっ、もしかして!」 「何?何か分かったの?」 「あたしの予想通りなら、初ちゃんも給食の時間になれば分かると思うよ♪」 旭はそう言ってウインクしてみせた。給食の時間になれば分かる......どういう事なんだろう。 ............................... ............... いよいよ、給食の時間になった。旭の予想は合っているんだろうか。 「というか、今日の給食何だっけ。」 私は献立表を確認した。コッペパンと苺ジャム、牛乳、ハンバーグ、コンソメスープ。そして、ミニトマトが二つ。私からすれば、どれも大好きなメニューばかりだ。 自分の給食を運びながら席に戻ると、みっちゃんはまだ席に座ったままだった。その机には何も置かれていない。 「........みっちゃん、給食食べないの?」 私はとうとう思い切って、みっちゃんにそう聞いてみた。すると、みっちゃんは虚な目を此方に向け、一言 「要らない。」 と答えた。 「ダメだよみっちゃん、お腹空いちゃうよ?」 そう言いながら、給食当番の旭がみっちゃんの分の給食を用意し始める。 「.....良いって、食欲ねえんだよ。」 「良くない!はい、これも!」 「.......うぇ..........」 ハンバーグとミニトマトが乗ったお皿が机に置かれると、みっちゃんは更に嫌そうな顔を浮かべた。 「!」 なるほど、そういう事だったんだ。 「.....もしかして、みっちゃん.....トマト苦手?」 「うっ........な、何で分かったんだよ初。」 「顔に出てたよ、思いっきり。」 「ぐ............」 顔を逸らしながら、みっちゃんは黙ってしまう。 「そっか、それで朝から元気なかったんだね。てっきり玲亜が居なくて寂しいのかと思ったよ。」 「なっ、んなわけねーだろ!一日くらい居なくたって平気だっつーの!」 みっちゃんはそう言うが、声色からしてあながちそれも間違いではなさそうだった。 「玲亜のやつもトマト苦手でよ、二人で今日の給食やだなーって前から話してたんだ。そしたらちょうど良いタイミングで風邪ひきやがって.....」 「あはは、そうだったんだ。じゃあ、私がそれ貰ってあげるよ。」 「えっ!良いのか?でも先生に怒られねえかな...」 「バレそうになったら私が勝手に取ったって言えば良いよ、それにヘタだけみっちゃんのお皿に戻せば多分バレないしね。」 「そっか!悪りぃ、頼んだぜ!」 運良くその日は先生が会議で教室に居らず、私はすんなりみっちゃんのミニトマトを貰うことに成功した。 「皆よくトマトなんか食えるよなぁ.....アタシ多分一生無理だ........」 「そういう食べ物って多分誰にでもあるよね、私も練り物とかヒジキはどうしても無理だなぁ。」 「じゃあ、初の苦手なもんが給食に出たら今度はアタシが食ってやるよ!」 「ほんと?ありがとう、これも助け合い....かな?」 「だな!助け合い助け合い!」 みっちゃんはすっかり元気になっていた。それを見て、私もようやく安心する。やっぱりみっちゃんは、元気に笑ってる顔の方が似合うなって。 「.........あんまり良い事とは思えないけど......二人がそれで良いなら、何も言いません。」 「げっ、久乱!?いつの間に!?」 「こ、この事はどうか内密に......」 FIN.
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アナザーコマリ 概要プロフィール 人物像 容貌・服装 趣味 女児符号女児符号 破種(オヴァーチュア) 加速符号 崩我(インタールード) 究極符号 壊禍(フィナーレ) 各作品での活躍登場作品名 関連人物家族 関連イラスト Twitterアカウント 概要 プロフィール imageプラグインエラー ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (キャライラスト) 「どうです?忘れるという感覚は。もっとその顔を見せてくださいな」 「他人の絶望は飽きたのでそろそろ自分の絶望を味わいたいところですわね」 俗称 ミラー 本名 アナザーコマリ 年齢 ??? 誕生日 ??? 身長 153cm 体重 46kg 一人称 わたくし 二人称 あなた 好きなもの トマト、チキンライス 嫌いなもの 自分の行動を制限されること 趣味 ぬいぐるみ遊び 人物像 こまりがお母さんの持ってきた骨董品の鏡を使ってしまったことで生まれた慇懃無礼なお嬢様。 長ったらしいのでミラーと呼ばれている。 自分や他人の負の感情を感じるのが好きという歪んだ感性を持つ。 容貌・服装 纏めていない腰まで伸びる長髪と虹彩のない赤い眼 白い帽子とブラウスに黒色のジャンパースカートを着用 趣味 ぬいぐるみ遊び どこから調達してくるのか…彼女の周りにはぬいぐるみが沢山いる。 女児符号 こまりが記憶を引きずり出すなら反転たる彼女は記憶を消す。強力な意志力があれば対抗が可能だが… 女児符号 破種(オヴァーチュア) 序曲。その時しようとしていたことをまるごと忘れさせる。例えば、魔法を撃とうとしたらその事を一瞬忘れる。大したことの無い能力だが隙と不安を作り出すには充分。 加速符号 崩我(インタールード) 間奏曲。対象は家族、技能、プロフィールを約3分毎に忘却し、足から腿へ、胴へと伸びる実体のない蔓が進度を示す。対象には「重要なことを忘れた」という感覚が残り、大きな不安を与える。 彼女の影響下から離れてしばらくすれば元に戻る。 究極符号 壊禍(フィナーレ) 終曲。対象は一切全てを忘れ、ぬいぐるみとなる。こうなってしまってはもう戻ることは出来ない。 対策は序曲で惑わされない強靭な精神力を身につけることのみ。 各作品での活躍 登場作品名 関連人物 家族 いない 関連イラスト
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「猫丸ちゃんの様子がおかしい?」 給食を口に運びながら旭は返答した。 「せめて食べながら話すなよ……。今日の体育の時、見てなかったのか?」 「そだねぇ、サッカーだったっけ。私ボールにしか目がいってなかったから、全然猫丸ちゃんなんて見てないんだけども」 おいおい、と頭を抱えながらも、向かいに座る美奈は言葉を続ける。 「うちのクラスでも下位に入る程の運動音痴な、あの猫珠丸菜が。今日のサッカー中に3点も決めたんだぜ?何かおかしいだろ」 「んーまあ、そだね。いつもならボールに触れる事すらままならないで、ゴール前をウロウロしてる筈だし」 「そう!アタシのドリブルをカットして、そこから一気に巻き上げていってホイホイと点を入れられて……このままじゃアタシの面子にかかわりかねないんだよ!」 声を荒げながらスープを口にする。ものの数秒で飲み干すあたり、面子を潰されたことによっぽどご立腹な様子だ。 「仕方ないなー。じゃあこの完全無欠の美少女、旭ちゃんが様子を探ってくるよ。じゃ、このプリンは依頼料に貰ってくね」 「完全無欠からは程遠いだr……あっ、おまっ……ちぇっ、仕方ねぇか」 ◇ ◇ 「──という事があったので、プリンの分くらいは働きますかね」 独り言をつぶやき、そそくさと旭は殺気を消しながら歩く。既に今日の学業は終わって下校時間。 ランドセルを背負ったままの旭は、十数メートル先に先行する丸菜を尾行しつづけていた。 そそ、と時折電柱の影、ポストの裏、生垣の間に身を隠しつつ彼女を追い続ける。 「……しっかし、調べれば調べる程、今日の猫丸ちゃんはなーんかオカシイな」 昼休み、休み時間と空いた時間中にクラスメイト、他級の児童、果ては学年下の子に聞き込みを続けると、猫珠丸菜の奇妙な事を聞く事が出来た。 例えば、虹富玲亜との話では 「猫丸ちゃんね……あ、そうそう!さっき初ちゃんと二人で校庭で日向ぼっこしてた時、ひょこひょこと飼育小屋にいくのを見たよ。…でも、今日は当番じゃなかったよね」 「うーんそうねぇ。当番じゃなかったよ。何してるんだろう猫丸ちゃん?……ところでお昼から初ちゃんとお二人きりとは、お熱いですなぁ~」 「ば、ばかぁ!何言ってんのぉ!」 「おやおや~耳まで真っ赤玲亜ちゃん~」 ……等と口走って、貴重な情報提供者に逃げられたり。 また、如月詩音の話によれば 「ん……そうだね。あの子を見たのは屋上だったよ。ボクが風に当たった後に、屋上への階段ですれ違ったんだ」 「ほー」 「今考えてみれば、いつもと違った瞳をしていたよ。例えば…何かに苦悩するような存在、オルタナティブ・アイズとでも言うべきかな?」 「うーん分かったような分からなかったような……まま、ありがとう!」 ……今思い返してみても、詩音が何を言っていたのかさっぱりであるが。とにかく、やっぱり丸菜はどこか怪しいのだ。 よくよく思い返せば、いつもはコバンザメの様に旭達に引っ付いてくる筈の丸菜だが、今日は全然付いてこない。それどころか、授業中や給食時間以外では、やたらに会わないのだ。 他の児童や先生たちの話から、頻繁に教室の外へ行っている事は確認されているのだが、行先がまばら過ぎて何をしているのかさっぱり分からないのである。 「何かのサプライズ……をするにしても、誰かの誕生日や記念日が近いわけでもないんだよなぁ。何をこそこそしてるんだか」 こそこそと跡をつけながら旭はぼやく。 二人は大通りを抜けて、狭い路地が入り組む住宅街へと歩を進めていく。 丸菜の家はこの住宅街の中だ。そこに入られてしまうと、もう探索も難しくなる。 「うーんどうしたもんか……いっそ声を掛けてみるか?でも、遊びにきたってわけじゃない格好してるし、露骨に怪しまれるよなぁ」 背中に背負ったランドセルを後目に、一度置いてくればよかったと後悔をしていた。 しかしもうここまで来てしまった以上後には引けない。旭は決心を決め、尾行を続ける。 「……あれ?」 丸菜の家は、目の前の十字路を左折した先にある。 いつも通り彼女はそこを左折する筈、だった。だが彼女は予想に反し、そのまま直進を続ける。 この先は小さな林になっていて、住宅なんて一つもない。丸菜はそのまま進み続ける。 「私が言えた義理じゃないけど、ランドセルを背負ったまま林に遊びにいく、なんて猫丸ちゃんがするかね?」 やっぱりオカシイ。いつもなら、彼女は遊ぶ準備は万全にする筈だろう。それが家なんて気にもしない様子だ。猫珠丸菜という人が変わってしまったかのようである。 訝しみながら旭も歩を進めると、数分もしないうちに雑木林の入り口までたどり着いてしまう。 「何か隠してる…にしては何を?」 無機質に前に進み続ける丸菜に、次第に恐怖すら覚える。地面に落ちた小枝を踏み鳴らしながら往く姿は、完全に猫珠丸菜とは思えなかった。 だが、どこをどう見ても姿は猫珠丸菜なのだ。 のじゃロリ猫みたいな怪異が変身した、という事も考えたが、それならそれでのじゃロリ猫が様子見に現れてもおかしくない。 「いったい、何なの?」 間違っても枝を踏んで音を鳴らすまいと旭もゆっくり雑木林へと侵入した。 そして、林の中で気付いた。 「ん、鳴き声……?」 街の中では全然耳にも入らなかった、様々な鳴き声の雑音。 大声で鳴く烏や、小さいながらも木霊する野犬と思えしモノの威嚇。 人間界から隔たれ、野生が棲む世界で、『彼女』は歓迎されていないらしい。 次第に強くなる烏たちの鳴き声。遥か頭上の枝の上で群棲する彼らは丸菜を敵視する様に瞳を向けた。 「これ、どうなって……!?」 見上げてみれば、物凄い数である。枝と枝の間から陽の光が差し込む筈の林だが、その光を遮る程の数が集まっていた。よほど、自身らのテリトリーに侵入したのが気に食わないのか。 「ガアァッ!!」 中でも一際大きな一羽…ボス烏だろうか、それは大きな翼を広げる。荒鷲の如き躯を目いっぱいに誇示した、その刹那。 ボス烏を先頭に、黒の槍は丸菜に向かって一斉に放たれた。 鋭嘴で彼女を抉らんと飛来する漆黒群。 棒立ちしたまま何もしない丸菜。 親友に迫る脅威を目の前に、旭は尾行という仕事を忘れて飛び出した。 「猫丸ちゃん、危ない!!」 「ッ……!?」 後ろから叫ぶ旭に視界を向けた丸菜の頭上に、ボス烏が迫る。 「ええいままよっ!加速ッ、『胎動』!!」 瞬時に全身の力が増す。地面を一蹴りして丸菜と烏の間に滑り込み、旭は両手を大きく開く。 一瞬の集中。全身のエネルギーを掌に集めるイメージが身体を通ると、そこに一対の瞬きが生まれた。 「──これは……!」 旭の耳に入らない、丸菜の小さな声。 瞬きは直ぐに閃光となって、まるで小さな太陽を生み出す。 「符号解放──『暁天』ッ!!」 両手を同時に前に突き放つ。直後、掌に浮かぶ太陽が光波となって烏たちの隙間目掛けて飛び出した。 「ガ、ガア、ガアッ!?!」 直撃はしない。だが幾つもの波となって翔けていく熱に当てられ、烏たちは一目散に逃げ出してく。 最後までアプローチを掛けようと必死に飛び回るボス烏の周囲には、もう仲間はいない。 「私たちがここに入った事は謝る……だけど、だからって傷付けるならこっちも容赦はしないよ!」 あくまで威嚇、という意思を強く押し出しながら暁天を放ち続ける。 光波で散々に空間を荒らされ、ついにボス烏も半ば諦める様に転進した。 ガアァァ!、と一際大きな鳴き声を残しながら。 「……ふぅ」 脅威が去っていくのを見て、両手のエネルギーを抑えていく。次第になくなる太陽。丸菜はただただ、輝かしい光をじっと見つめ続けていた。 「……あ。いや、あの、違うんだよ猫丸ちゃん!あの、追いかけてた訳じゃなくて、いや追いかけてはいたんだけど……」 今になって我に返り、後ろに立つ丸菜へ振り向きながら適当な言い訳を並べる。納得してくれるかな、とちらりと顔を覗き込むと、その顔は感情を映しておらず。 「えっと……あの、猫丸ちゃん?」 「──貴様が『我』を追跡してきたのは知っていた」 「あ、そ、そっかー!だよねぇ!流石にそうだよねー!!」 ばれてたかー、と冷や汗を拭った。そして直ぐに疑問符が脳裏に浮かぶ。 彼女は今、自分の事を『我』と称していた。 いつもなら「私」という筈の一人称が、違うのだ。なんだか言葉のイントネーションもいつもとは感じが違うようにも思える。 「何用があるかは存ぜぬが……。貴様はこの個について知ってるのだな」 「な、なんだか難しい言葉を言ってるけど……いや知ってるも何も、友達でしょ!?」 「……『友達』?どういった利を得ているか、理解不能」 「ふぇぇ……なんだかしおんちゃんみたいな事言い始めちゃったよ猫丸ちゃん」 まだ分からない単語をつらつらと並べられ、旭は頭がこんがらがる。 「まあいい。我よりも、この個について知り得ているらしい。……付いてこい」 そう投げ掛けて、丸菜は林の中へと再び突き進んでいく。旭に付いてこいと言っておきながら、置いていき気味ではあるが。 「あ、ちょっと待って!」 跡を追いかける旭。 少しだけ振り向きながらも尚歩を進める丸菜は、しばらくして足を止めた。 林の中を抜けた先。雑木林に周りを囲まれて分からなかったが、そこは大きく開けた丘だった。木々が丸々ない草原の生い茂る丘には、遮られる事のない陽光がカーテンの様に射している。 「ここだ。貴様が居れば、あの個について分かるやもしれん」 「──あ」 そして。 旭は気が付く。 丘の上に在るモノに。 「……ど、どういう、こと?」 いつの間にか出ている不快な脂汗が、余計に彼女を撫でていく。 「だって、今目の前に」 眼前に立つ丸菜を見て、次いで丘の上を見やる。 「何が…」 「何故そうも、感情を荒げる」 「だって、だって…!」 「なんで、猫丸ちゃんが二人もいるの…?」 思わず駆け出す。 今まで目の前にいたそれではない。 丘の上に鎮座する、自分のよく知る少女の元へ。 「猫丸ちゃんッ!」 肩先に手を触れる。手を重ねる。頬を撫でる。 だが、どうやったって。 目の前にいる少女は目を瞑ったまま動く事はなかった。 「どう、いう……」 理解が追い付かない。 二人の猫珠丸菜が居て。 一人は自分の知らない猫珠丸菜で。もう一人は目を開ける事なく身体を地面に預けたまま。 ただただ丸菜がオカシイだけだった。ただ詩音と同じく中二病を発症しただけだった。それで終わってくれれば、どれだけよかったのだろうか。 色んな感情が、旭の中を堂々巡る。 「その個は『器』は完全。だが、そこにあるべき『中身』が存在しない。動作を失ったのは、そのためだ」 もう一人の猫珠丸菜が後ろからそう言う。 「分からない……どういう事なの!?あんたは……あんたは誰っ!!」 恐ろしい形相で睨みつける。これまで感じた事のない、どす黒い何かが吹き出しそうになる。 「我か。……そうだな」 もう一人の丸菜は右手を頭上高くへ掲げる。細い指が陽に当てられる。すると、猫珠丸菜であった筈の姿が少しずつ欠けていく。覆われていた姿が露わになるにはそう時間は掛からなかった。 猫珠丸菜であったモノの姿は、透き通る白銀の長髪を靡かせながら旭の目を見つめる。 「我は特異点監査官ナンバー027。コードナンバー『ソラ』。この惑星のシンギュラリティを監査する為に来た者。そして」 「──そこの個の命を奪ったモノだ」
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セブンスカラー 第十一話 想いを胸に 更新日:2020/08/10 Mon 23 53 39 タグ一覧 セブンスカラー 紫水龍香 魔龍少女 今回あらすじ担当する山形よ。前回は藍と黒鳥君がトゥバンを迎え撃つ作戦を決行し、嵩原君は情報を抜き取るために会社へ潜入し、火元、桃井ちゃん、藤正君は龍香ちゃんの手助けをするためにアジトへと向かったわね。 様々な人達の想いが交錯するこの事態....どうなるのかしら第十一話。 とある一室...朝日が入り込み、爽やかな風がそよぐ部屋に嵩原は呼ばれていた。 そして目の前にはベッドに腰かけ、まだ言葉も喋れぬ赤ん坊を抱え、あやす妙齢の女性がいた。長い桃色の髪を伸ばし、穏やかな表情で娘を愛する母がそこにいた。 「龍那さん。その子は?」 「ふふっ。なんとこの度娘が生まれたの。名前は龍香よ。可愛いでしょ。」 「ええ。とても。」 「ありがとう嵩原君。」 龍那、と呼ばれた女性は微笑む。その微笑みに嵩原は思わずドキッとする。ふと横切った邪な考えにいかんいかんと頭を振り邪念を払っていると龍那は微笑んだまま少し、窓の外、遠くを見つめる。 「きっとあの人も喜んでいると思うわ。」 ふと龍那の瞳に悲しみの色が混じる。 「その...ご主人の件は。」 嵩原が何と声をかけるべきか推し量っていてると龍那はアッ、と声を上げ、慌てて取り直す。 「あ!ごめんね。気を使わせちゃって。貴方を呼んだのは他でもないの。」 龍那は母にあやされキャッキャッと嬉しそうに笑う龍香に笑みを投げ掛けながら嵩原に言う。 「この子達のこと、頼みたいの。」 「...え。」 龍那の言葉に嵩原は虚を突かれ、一瞬思考が飛ぶ。何を言われているのか分からなかったが、すぐにその言葉の意味を理解し、余計に頭が混乱する。 「そ、それって」 「世話は冴子さんに頼んでるわ。けど彼女一人じゃ手が足りないこともあると思うの。あ、心配しないで、龍賢もスゴい良い子だから。貴方にも懐いてるし大丈夫だと思うわ。」 「い、いや!そうじゃなくてそんな...その言い方はまるで今からその...」 「...私だってこの子達の行く末を見守って行きたい。けど“先生達”は残念だけどそれが叶う相手じゃないわ。私の命は十中八九無いわね。」 「...でも、それじゃ龍賢君や、龍香ちゃんは。」 嵩原がその先の言葉を言おうとした瞬間龍那の細い指が嵩原の唇に触れ、言葉を遮る。 驚く嵩原に龍那はニッと白い歯を見せて笑みを浮かべながら言う。 「龍賢と龍香なら大丈夫よ。なんてったって私とあの人の子供なんだから。だから、二人をよろしく頼んだわね。」 建物を突き破り、正確に嵩原を捉えた矢が飛んでくる。どうやってこちらの位置を把握しているのかは知らないがこの正確な射撃はあまりにも厄介だ。 「!」 だが、その一撃を嵩原は刀を抜いて弾く。そして今の射撃で嵩原は狙撃手の位置を大体把握する。 (やはり屋上か!) 社長室から狙撃された時点である程度気づいてはいたが、射撃が飛んできた方角からして狙撃手は最初の位置から移動していないようだ。 正確な射撃は厄介だが飛んでくる位置さえ絞り込めれば対応可能だ。 (後は如何にして近づくか...だ。) 能力を使えば容易い。だがこの能力を連続して使うと今の自分にはかなりの負担となる。だが、かと言って普通に近づくにはあまりにもリスクが高い。どちらにせよ、答えは一つ。 (短期決戦あるのみ!!) 嵩原の右目がギラリと輝きを放つ。次の瞬間嵩原の姿は消え、嵩原のいた場所にガラスが落ち、割れた。 「ウザってぇな!!」 別方向から飛んできた長距離射撃をギリギリで防御する。またもや爆発が起こり、閃光と轟音が響く。 トゥバンは煙を引き裂きながら飛んできた方向に疾走するが、上空から烏が現れ、トゥバンの周りを飛び回り、進行を邪魔する。 「またかっ!」 トゥバンは薙刀を振り回して烏を追い払うが、今度はさらに黒い羽根が降り注ぎ、足止めされる。 そしてまたもや別方向からの射撃がトゥバンを襲う。今度は上手く防御出来ず吹っ飛んで地面を転がる。トゥバンは苛立ち紛れに地面を殴る。 「対策はしてきたって訳か!接近戦は避けて遠距離戦に持ち込みてぇみたいだが...」 だが、それは逆に言えば近距離に持ち込めば奴らは自分に勝てないと言っているようなモノだ。上空から羽根を撃ってきている奴は知らないが、今射撃している女ならまず間違いなく勝てる。 相手もそれを理解しているからこその遠距離なのだろうが。 だが近づくには上空にいる奴を何とかするしかない。アイツがいる限り延々と妨害され、隙を突いた遠距離射撃に晒されることになる。 「こっちに遠距離攻撃はないと思ってるみてぇだが。」 トゥバンは薙刀を握り締め、上空にいる妨害者を見据えて構えを取る。 一方の上空でトゥバンを妨害している黒鳥も焦っていた。 (コイツまだ死なないのか!) 雪花の“ヘオース”とて無限に撃てる訳ではない。莫大なエネルギーを消費する“ヘオース”は“デイブレイク”の内部電源のみでは三発しか撃てない。外部電源に繋げようにも射撃位置がバレてしまってはそこに留まり続ける訳にもいかない。話を聞いた限りコイツは接近戦においてはほぼ無敵を誇る。接近戦に持ち込まれる前に何とか致命傷を与えなくては。 (それにそろそろ俺の羽根も少なくなってきたしな。) 黒鳥の羽根も無限にある訳ではない。飛ぶためにもある程度温存しなければならない。黒鳥がどうするか思案を巡らせていた時だった。 トゥバンは薙刀を黒鳥に向ける。何をするのか、黒鳥が一瞬図りかねた瞬間トゥバンは渾身の力で薙刀を黒鳥に“投擲”した。 「何だとッ!?」 予想外の一撃に一瞬反応が遅れる。その遅れが致命的だった。放たれた一撃は黒鳥の右翼を貫いた。貫かれた右翼は飛行能力を失い、黒鳥は左翼で何とかバランスを取ろうとするが、バランスを失った黒鳥に向けてトゥバンは大きく跳躍する。 「くっ!」 黒鳥は向かってくるトゥバンを見て、間に合わないと判断し、無事な左翼を刃にトゥバンを迎撃する。 刃と化した翼がトゥバンに直撃する。だがトゥバンはその翼を両腕で受け止め逆に黒鳥を地面に向けて投げ飛ばす。 「うおっ!?」 黒鳥はそのまま地面へと叩きつけられる。全身を襲う痛みと衝撃に黒鳥は唸る。だが落ちてくる薙刀を手にしたトゥバンが上空から迫りくる。 「ハハッ!!」 「!」 黒鳥は迫りくるトゥバンに向けて最早飛べない翼から羽根を使いきる勢いで発射して迎え撃つ。だがトゥバンは薙刀を回転させ羽根を弾きながら防御する。 「なっ」 「狙いは良いがな!」 黒鳥はトゥバンの一撃を横へと転がってかわす。しかし、トゥバンは立ち上がった黒鳥に一気に距離を詰める。 「クソッ!」 「決定打不足だ!!」 黒鳥は再び刃とした翼を向けるがトゥバンはその翼を薙刀で弾いて、掴むと黒鳥を持ち上げ地面へと叩きつける。 「ガッ!」 「貰ったァッ!!」 黒鳥が怯んだ隙にトゥバンは左腕を足で押さえると薙刀を振り上げ、黒鳥の“右腕”を切断する。 「ぐっ、ガアアアアアアアアアアア!!?」 黒鳥が悲鳴を上げる。鮮血が溢れ、辺りに飛び散る。返り血を浴びながらもトゥバンが黒鳥にトドメを刺そうとした瞬間横から射撃が飛んでくる。 「チッ!」 トドメを中断し、トゥバンは大きく跳躍してその一撃をかわす。 左手が自由になった黒鳥は右肩を押さえながらよろよろと立ち上がる。 [スネーク] 黒鳥のマスクが蛇のように変わり、翼が消えて尻尾が生える。 『黒鳥大丈夫!?一応最低出力で撃ったけど!』 黒鳥の通信機に心配そうな雪花の声が届く。右腕を切断されたのだから無理もない。 「ナイス援護だ藍...今のはヤバかった。」 黒鳥は血で染まる肩を押さえながら、ぐぐっと力を入れる。走る激痛に耐えるように黒鳥は絶叫する。すると切断された右肩から新しく右腕が再生される。 脂汗を浮かべ、息も絶え絶えながらも黒鳥の右腕が再生した様子にトゥバンはヒュウと口笛を吹いてみせる。 「再生能力持ちとはな。だが。」 トゥバンは薙刀を構えて黒鳥を見据える。 「あとどれくらい再生出来る?それ、負担が半端ないんじゃないのか?」 「ぐっ...」 黒鳥はゴクリと唾を呑み込む。今、黒鳥の頭の中はこの疑問が支配していた。 “俺達は本当に奴に勝てるのか?”と。 「ここは....」 目を覚ますと白い天井が見えた。目覚めた龍香はぼんやりとする頭を抱えながら起き上がる。 今まで自分は何をしていたのか、確か自分はかおりを救うために廃工場に行って、それから兄の仇のシードゥスと戦って。それで...。 「ッ!かおりは!?」 龍香は辺りを見回す。だが周りには誰もいない。頭に触れてみるとカノープスすらいない。 「カノープス?」 龍香がカノープスの名を呼ぶが、返事は返ってこない。 「みんな...」 周りに誰もいない。静寂が支配する真っ白な空間。そのことに二年前の記憶が呼び起こされる。 頼れるものは誰もいない。呼び掛けても誰も答えてくれない。寂しさが胸を込み上げてくる。孤独と絶望と寂寥。それらが呼び起こされた龍香の心臓が早鐘を打つ。呼吸が上手く出来ず、視界が暗転し、平衡感覚が失われ、何処までも奈落へ落ちていくような感覚を覚え、一種のパニック状態に陥りかけた瞬間だった。 ドタドタと慌ただしい足音が外から聞こえる。そしてその足音の主達は扉の前まで来るとバンと若干乱暴に扉を開け放つ。 「龍香!お待たせ!」 「紫水!起きてたか!」 「龍香ちゃんおはよう~」 《待たせたな龍香!》 「えっ」 泥と擦り傷だらけでボロボロだが皆笑顔で龍香の前に現れる。見知った面々の登場に龍香のパニックは引っ込むが今度はなんでかおりと藤正が火元とカノープスと行動を共にしているのか疑問が沸き上がる。 「えっ。えっ何で。かおりと藤正君が...?」 「大体の事情はコイツから聞いた。」 《コイツとは何だ小僧。》 「誰が小僧だこの骸骨野郎!」 《骸こ...このガキャ...!》 藤正とカノープスがギャンギャン喧嘩する中、かおりは龍香へと近づく。 「水臭いじゃない龍香!何で教えてくれなかったのよ!」 「だ、だって。かおりを...」 「...ま、何で教えてくれなかったのは分かってるわよ。アンタ優しいモン。」 かおりはポカンとする龍香に微笑みかけ、肩に手をおく。 「私は今まで龍香に何度も助けて貰った。だから今度は私にも龍香の手助けをさせて。コイツも手伝うし。」 「...まぁ、紫水のためならやぶさかじゃねぇし...俺も助けて貰ったしな。借りを作りっぱってのも男らしくねぇし。」 照れ臭そうに頭を掻きながら藤正はそっぽを向く。 「龍香ちゃん。彼らのお陰でコレを手にすることが出来ました。受け取ってあげて。」 「これ....」 龍香はかおりから、カノープスと錆びた剣を受け取る。 「マジ大変だったんだぜ。変な黒いのは襲い掛かって来るし!」 「死ぬかと思ったわ!」 「久方ぶりに銃とか撃ったから肩とか痛いわホント。」 《三人のお陰でアイツを倒すことが出来るコイツを手に入れることが出来た。》 三人が笑い合う。きっとこの剣を手に入れる為だけに三人は物凄く頑張ったのだろう。傷だらけの三人を見れば分かる。自分のために友達が身体を張ってくれたのだ。自分はもう孤独じゃない。こんなにも自分を想ってくれる人達がいる。そのことに自然に目頭が熱くなる。 気づけばボロボロと涙が溢れていた。 嗚咽をあげながら泣く龍香に三人と一つがギョッとする。 《ど、どうした龍香?どっか痛むのか?》 「ふ、藤正が臭すぎるとか?」 「んな訳あるか!いや、臭くないよな俺...?」 「龍香ちゃん、大丈夫?」 「大丈夫。もう大丈夫です。」 心配する三人と一つに龍香はそう答えると、涙を拭いながらベッドから出て、立ち上がる。 龍香はカノープスを頭につけると剣を持って三人に向き直る。 「かおり、藤正君、火元さん、カノープス...ありがとう。」 「...ああ。」 「...今、雪花ちゃんと黒鳥君が戦ってるわ。」 「...アタシ達も待ってるから。」 かおりは龍香の背中を強く叩く。 「だから、一発あの野郎にブチかましてきて!」 三人に龍香は笑みを浮かべるとコクリと強く頷く。 「任せて!!」 ビルの屋上から遠距離射撃を繰り返していたルクバトはさらに射撃を叩き込むために敵の位置を把握しているフィクスに尋ねる。 「おい。フィクス。敵の座標は?」 「!目標は不可解な行動を繰り返している。24E,17B...飛ばし飛ばしこちらに来ている。」 「?何を言っている?」 フィクスが言っていることが本当なら相手は瞬間移動を繰り返しているということだ。 あり得ない...と切り捨てようとしたが、ルクバトはふと思い返す。 「いや...それならオフィスから消えたことにも説明がつく。それに確かゲンマの報告ではサダルメリクの瞳を持っていた奴も生きていたんだったな。」 サダルメリク...裏切り者のシードゥスの一人。ツォディアにいながら人間に与し、プロウフに粛清され肉体を失ったシードゥス。 「そんな裏切り者も今では人間の道具、か。」 「こちらに向けて接近中。5G。」 最早肉眼で確認出来るレベルまで近づかれた。だが、そこまで近づけばルクバト自身も視認して攻撃出来る。 見れば向かいのビルに一人の男が現れる。遠くからでも分かる右目に装着した異形の呪眼。まさしく今回の侵入者だろう。 「姿が見えれば。」 ルクバトが射撃体勢を取った瞬間こちらに向けて男は何かよく分からないモノを投げつける。 一瞬爆弾か何かかとルクバトは身構えるがルクバトの優れた動体視力が全てタダのガラクタだと見破る。 「目眩ましのつもりか?」 しかもガラクタは自分達よりも少し上の軌道を取っているため二人には当たらない。 改めて男に狙いを定めてルクバトが矢を放った瞬間だった。 サダルメリクの瞳が輝き、男の姿が消え、そして先程のガラクタがあった場所に男が現れる。 「なっ」 全て男、嵩原の狙い通りだった。投げつけたガラクタを迎撃されればその隙に懐に潜り込むプランもあったが、上手く見破ってくれた。これで完全に相手の上を不意を突く形で取れた。 嵩原は鞘から刀を抜刀し、ルクバトに斬りかかる。ルクバトも不意を突かれながらも右手の刃でギリギリその攻撃を防ぐが、体勢を崩し隙を見せる。 (貰った!) 続く斬撃で仕留めようと振りかぶった瞬間だった。ルクバトは体勢を整えるのを止めて逆に倒れ込む。 普通敵を目の前にして倒れまいと踏ん張るものだが、ルクバトは逆に倒れ込んだのだ。予想外の行動に嵩原の目測の間合いはズレ、斬撃はルクバトを掠めるだけに終わる。 そしてルクバトはお返しにと倒れた状態から嵩原を蹴りつける。 「ぐっ!」 何とか腕で防御するが嵩原は地面を転がる。 「...今のは正直焦った。」 ルクバトはユラリと立ち上がる。埃を払うようにパッパッと自身の服を叩く。 「だが、俺もツォディアの一人だ。残念だが射撃しか出来ない馬鹿ではないぞ。」 嵩原は立ち上がりながら能力の全力使用の反動による激痛に苛まされる。 口の中に徐々に鉄の味と香りが広がる。 「そう、甘くはないか...」 嵩原は刀を構え、鋭くルクバトを見据えると一気に駆け出す。ルクバトもこの距離では射撃よりも接近戦が良いと見たか、嵩原に向けて走り出す。 そして嵩原は刀を、ルクバトは刃を相手に繰り出し、そしてぶつかり合う。互いの斬撃が相手を倒そうと切り結ばれる。ルクバトの鋭い突きを嵩原はしゃがんでかわすと反撃にと刀を振るうが、それをルクバトは身体を捻ってかわす。 「中々、やる。」 ルクバトは余裕綽々の様子を見せる。だが嵩原の方は徐々に傷口が痛み始め、身体は限界へと近づいていく。 サダルメリクの瞳により、ギリギリ相手の攻撃を見切ってはいるが、それも何時まで持つか。 「その瞳。何処まで俺を見切れる?」 「くっ!」 ルクバトもツォディアの位置にいる実力者だ。徐々に嵩原も弱っているのを感じ取っていた。斬撃は戦闘において口以上に自身を物語るものだ。 とうとうルクバトの一撃が刀を弾き、嵩原は完全にバランスを崩す。 さらにルクバトはこれを好機と見たか地面を思い切り蹴りつけ嵩原の顔に瓦礫や砂埃を飛ばして目潰しを仕掛ける。 「!」 サダルメリクの瞳が一瞬視界を奪われる。嵩原はすぐに後ろへと下がろうとした瞬間、足に痛みが走り、動けなくなる。 見ればルクバトが嵩原の足を踏みつけ移動を封じていたのだ。それと同時に右手の刃を構える。 「ッ!?」 「お行儀が良すぎたな。」 次の瞬間完全に動きを封じられた嵩原の身体をルクバトの右手が貫いた。 「黒鳥君!大丈夫!?」 右手を押さえる黒鳥を画面越しに見ながら山形が叫ぶ。黒鳥は再生した右手の感触を確かめ、トゥバンを見据えながら山形に返す。 『何とか。死ぬほど痛いですが...』 汗を流しながら黒鳥は答える。そう答えてはいるが先程のやり取りで黒鳥もトゥバンとの実力差を感じているようで後ずさりをしている。 「嵩原君は何をしているの!いくら何でも遅すぎよ!買い出しに何時まで...」 そこまで言って山形は一つの可能性に思い当たる。 「まさか、嵩原君...」 『嵩原さんなら大丈夫です。』 黒鳥が答える。 『必ず戻ってくると約束しましたから。』 「....そう、やっぱり。」 向かったのだ。嵩原は前々から龍斗の会社に潜入し、証拠を集め引きずり下ろすべきだと言っていた。確かにこれ以上資金源なしでは限界が近い。資金源を確保するのは確かに急がれるものではあるが。 「だからってこんな肝心な時に...!」 『嵩原は信頼してんのよ。』 雪花はトゥバンへと“ヘオース”を発射する。トゥバンは“ヘオース”を受け止め、爆発が起こる。 『私達だけでも大丈夫だって。信頼してんのよ。だから!』 雪花は再び“ヘオース”を発射する。またもや着弾し、爆発が起こる。 『ここで根性見せなきゃいけないのよ!』 爆炎が辺りを包む中、煙を引き裂き現れたトゥバンは黒鳥に斬りかかる。 「お喋りは済んだか!」 「チッ!」 黒鳥は向けられた刃をしなやかな動きでかわす。そして逆にトゥバンの腕を取り、関節技を決めようと腕をトゥバンに伸ばす。 「対策済みだ!」 だがトゥバンは仕掛けられる前に尻尾で黒鳥の胴を叩いて怯ませ攻撃を中断させる。怯んだ黒鳥にトゥバンの薙刀が襲い掛かる。だが黒鳥はそれをすんでのところでかわし、尻尾で反撃を試みる。 しかし振るわれた薙刀が黒鳥の尻尾を切断し、その攻撃は届かない。 「クソッ!近すぎて狙えない!」 雪花も“ヘオース”を構えるが黒鳥があまりにも近すぎて撃てば巻き込みかねない。かと言ってもう無駄撃ち出来る程エネルギーの残量は“ヘオース”にはない。 トゥバンは黒鳥を殴り付けて体勢を崩させるとそこに思い切り蹴りを叩き込む。 「ぐっ!」 「終わりだ!」 トゥバンが薙刀を黒鳥に向けて振るおうとした瞬間。 「待てーッ!!」 「!?」 突如大声と共に上空から現れた龍香がトゥバンに斬りかかる。トゥバンはその斬撃を受け止めるが、受け止められると同時に繰り出した龍香の蹴りがトゥバンを後退させる。 「また邪魔か...!」 「黒鳥さん!大丈夫!?」 「龍香ちゃん...!」 「龍香!アンタ大丈夫なの!?」 「うん!全然大丈夫!」 龍香は心配する雪花にサムズアップで返す。 「現れたかカノープス!今度は途中でくたばらねぇだろうな?」 龍香の登場にトゥバンはどこか嬉しそうに言う。龍香はそんなトゥバンに向き直ると、剣を構える。 「今度はいきなり全力で来ないのか?」 「...貴方は強い。私とカノープスの力だけじゃ絶対勝てない。」 「?何を...」 龍香の出方を伺うトゥバンに龍香は宣言する。 「けど今の私は皆からの想いを託されてるの。だからもう負けない!」 龍香がそう叫ぶと同時に錆びた剣は虹色の輝きを放ち、恐竜の意匠が施された一振の立派な剣へと覚醒する。 「絆を胸に!!」 次の瞬間大地を突き破り紫の光を放つ恐竜が現れ、龍香を後ろから食べるように包み込む。 「うおおおおおおお!?」 「た、食べられた!」 突然の出来事に黒鳥と雪花が驚愕する。恐竜に食べられた龍香に変化が起こる。髪の毛が伸び、服も広がり、両肩、両腕、両腰に恐竜の頭蓋骨のような鎧が装着され、胸の鎧に変化が起こり、より凶悪な顔つきになる。 紫の光が消えるとそこには新たな姿となった龍香がいた。 《肝胆相照!ティラノカラー・アトロシアス!!》 血を流し暗闇のまどろみに沈みながら嵩原は地面に倒れていた。倒れた嵩原からルクバトはメモリーが入ったUSBを取り出す。 「これで任務完了...だな。」 「疑問?その男はどうする?」 「サダルメリクの瞳を持ってやがるからな...回収してプロウフに渡すか。何かするだろ。」 「了解。」 シードゥス達の声が遠退いていく。嵩原は消えいく意識の中で自問自答をする。 (僕は...何をしている。) 指一本動かせない。身体から熱が引いていく。 (黒鳥君と約束したのに...) また約束を破ってしまう自分の不甲斐なさに泣けてくる。 (僕は...また...。) 思い返してみれば何一つしてやれない人生だった。龍那との約束は果たせず、龍賢を救うことは出来ず、龍香の痛みにも寄り添ってやれなかった。 そして今も友や慕う人間の託された想いや無念を無下にして死のうとしている。 (こんなものか...僕の人生は...。) 黒鳥が完全に闇に沈もうとした瞬間だった。 『嵩原先生。』 目の前に同僚である雨宮との記憶が思い起こされる。それは一年前の帰り道だった。たまたま帰り道を一緒にした際に嵩原は聞かれたのだ。 『嵩原先生は何故教職の道を目指したのですか。』 ふと、聞かれたなんてことない質問。その時自分はなんと答えたのか。 『私が教職を目指したのは...』 (そうだ....) 自分が教職を目指したのは約束のため、“想い”を託された子供達を支え、彼らの成長を手助けしてやるためだ。 それは何も“新月”の子供達だけではない。学校の生徒達もそうだ。皆親からの“想い”を託され、学びに来ている。 (そんな彼らの力になりたくて...!彼らが健やかに過ごせる世界を作るため...教員に、“新月”に入ったんだ。) 自分は最期の最後に大切なことを見落とすところだった。自分がこの任務に臨むのは、死に場所を見つけるためではない。 「彼らに...!託すためだ...!」 「?」 嵩原は痛む身体に力を込める。刀を掴んで立ち上がると同時にこちらに無防備な近づいてくるフィクスを睨む。 「ッ!まだ生き」 「アアアアアアアアアア!!」 嵩原は叫びながら渾身の力で刀を振るう。鋭い斬撃はフィクスを切り裂き、その命を刈り取る。 「フィクス!!」 まさか虫の息どころか呼吸が止まっていたハズの死に体の人間が反撃に出るとは予想していなかったルクバトは完全に不意を突かれる。 「まだ!まだ死ねない...!!」 嵩原の右目が輝く。すると右目が視界に捉えていたルクバトが握るUSBと嵩原握っていた瓦礫が瞬時に入れ替わる。 「しまっ」 「うあっ!」 嵩原はさらに刀をフィクスに突き刺し蹴り飛ばす。シードゥスは絶命すると爆発する。フィクスはトドメを刺され、完全に生命活動を停止させられる。 蹴り飛ばされたフィクスはルクバトに衝突すると大爆発を起こす。 「ぐおおおおおお!?」 ルクバトは爆発を受けて地面を転がるが素早く体勢を建て直すと弓矢を構えて嵩原がいた場所に目測で矢を放つが手応えはない。 煙が晴れるとそこにはおびただしい量の血痕しか残っていなかった。 辺りを見回しても誰もいない。 「逃げられたか...だが、奴もこの血の量では助からん。」 ルクバトはフィクスが爆発した痕を見つめる。 「...まぁ、なんだ。お疲れだ。」 ルクバトはそう呟くとその場を後にすることにした。これ程までに大騒ぎをした以上自分達の存在が露見されるのはマズイ。 空は満月が明るく夜空を照らしていた。 新たな姿となった龍香を見てもトゥバンは全く怯まず、寧ろ笑みさえ溢して見せた。 「おいおい。またまた新しいおべべか?衣裳持ちなのは結構だがな。」 トゥバンは薙刀を振り上げると龍香へと向かっていく。 「そいつは俺を倒せるのか!?」 トゥバンは薙刀を龍香に振り下ろす。だが龍香は振り下ろされた薙刀を左手で掴んで受け止める。 「なっ」 トゥバンが薙刀を押したり引いたりするが薙刀はビクとも動かない。トゥバンが薙刀を取り返そうとしていると龍香は剣を握った拳でトゥバンを思い切り殴り飛ばす。拳が顔面にめり込み、ヒビが入る。 「ごっ....!?」 「...これは二年前に貴方に傷つけられた“新月”の人達の分。」 強烈な痛打にトゥバンは一瞬混乱する。だが龍香は堂々と歩いてトゥバンとの距離を詰めると大剣“タイラント・ブレイド”で何度もトゥバンを斬りつける。 その太刀筋はトゥバンでも見切れなかった。 「がっ」 「これは雪花ちゃんと黒鳥さんの分!」 「お、俺が押されている...だと!」 トゥバンが薙刀で再び斬りかかるが、龍香はそれを受け止め、またもや返す刀で斬りつける。 「これはかおりの分!」 そして龍香は怯んだトゥバンを思い切り蹴り飛ばした。 圧倒的な力を見せる龍香に黒鳥と雪花はポカンとする。 「圧倒してる...」 「なんて力なの...」 地面に倒れるトゥバンはドンと地面を殴り付ける。 「何故だ...!?これ程の短期間で何故これほどの力を!」 《教えてやるよ。トゥバン。》 カノープスが答える。 《この剣は俺の本来の力が込められていた。コイツを扱うためには七つの力が必要だが、あの時龍賢は達していなかった領域に龍香は既に達していた。だがらこの力が使えた...それにこの力は俺達だけの力じゃねぇ。》 「かおり、藤正君、雪花ちゃん、黒鳥さん!“新月”の皆!沢山の人達からの想いが託された力なの!それが楽しむためだけに戦う貴方に負けるハズがない!!」 「ぐっ...くっ、クハハハハハハハ!面白ェ!ホントに敵わねぇか確めてみろ!」 トゥバンは笑いながら龍香に斬りかかる。だが、龍香は薙刀が振るわれるより先に懐に潜り込むとトゥバンの顔面をまた殴り飛ばす。 「ぐおぉ!?」 「...これはお兄ちゃんの分!」 トゥバンは殴られながらも笑いを絶やさない。 「く、ハハハハハ。ハハハハハハ!初めてだ!ここまで追い込まれたのは!」 トゥバンは立ち上がると薙刀を構え、力を込める。すると凄まじいオーラが漂い、空気が震え始める。 「我が生涯最強の好敵手よ!この俺の最強の一撃を手向けと受け取れ!!」 「アイツまだこんな力を!」 トゥバンは叫ぶと龍香に向けて薙刀を振るう。振るわれた薙刀から放たれた龍の形をした斬撃が地面を裂きながら龍香へと向かっていく。 「龍香!!」 雪花が叫ぶ。龍香は向かってくる斬撃に対し、真っ向から見据えて“タイラント・ブレイド”を構える。 「これが私達の想いの力!」 龍香も力を込め、そして向かってくる斬撃に向けて一閃。 「ブレイジング!バスタァァァァァド!」 振るわれた一閃は斬撃を裂き、そしてその先にいるトゥバンをも切り裂いた。 紫色の鮮血が宙を舞う。トゥバンは切り裂かれながらも笑みを浮かべる。 「ハハッ。ハハハハハ。ハハハハハハハハッ!!」 トゥバンを走馬灯が駆け巡る。二年前の激闘、プロウフとの、他のシードゥスとのやり取り、“新月”残党との死闘、そして。 『貴方のことが好きだから、と言ったら?』 記憶の中で尋ねる彼女にトゥバンは独りごちた。 (...アンタレス。悪いが俺はお前の想いにゃ応えられねーよ。) トゥバンが倒れる。そして同時に爆発。爆音が響き、そして黒煙が上がる。 皆最初は呆然としていたが、徐々に状況を読み込んできた全員が歓声を上げる。 「や、やった。」 『勝っ、勝った!勝ったノネ!』 『や、やりましたよ山形さん!』 『えぇ!』 宿敵を倒した龍香は剣を突き刺してへにゃりと脱力する。 「か、勝った....」 《あぁ。龍香。お前の勝ちだ。》 「ま、今日は素直に認めてあげる。やったわね。」 「よくやったぞ。龍香ちゃん。」 「雪花ちゃん、黒鳥さん。」 雪花と黒鳥も龍香に駆け寄って称賛の言葉をかけてくれる。 「にしてもこれ重いのよね。よっと。」 「雪花もよくやってくれたな。お前がいなかったら多分死んでたぞ、俺。」 「ま、トーゼンね。龍香がいなくても私一人で仕留められたし?」 「素直じゃないな...」 三人が談笑している時だった。ザッ、と後ろから足音が聞こえた。 「誰だ!」 黒鳥が叫ぶと、木の陰から一人の男性が現れる。それは血塗れの嵩原だった。 「やぁ、皆...どうやら勝ったみたいだね。」 「ッ」 「嵩原さん!!」 「山形!火元呼んで!嵩原が...嵩原が!」 絶句する三人の前で、嵩原は倒れ込む。嵩原は死の間際だと言うのに黒鳥に微笑みかける。 「どうだい...生きて、帰ってきたろ?」 「嵩原さん...!」 嵩原は震える手で握りしめていた血で真っ赤に染まったUSBを黒鳥に託す。 「これが...会社の情報だ。多分、失脚させるには充分なハズ...だ。」 黒鳥や、雪花は目に涙を浮かべる。素人の龍香から見てもこの出血量は助からない。 「嵩原さん、なんで...」 「ゲホッゲホッ...そう。最期に謝っておきたくてね。」 嵩原は血反吐を吐き、弱々しく唸りながら目線を三人に向ける。 「黒鳥君。君には辛い判断をさせてしまったね...本当に申し訳ない。」 「嵩原さん...俺、嵩原さんがいないと...」 「もう...大丈夫だ。君は僕がいなくてもチームを引っ張っていける...何も心配もなく君に託せるよ。」 黒鳥にそう謂うと今度は雪花に向く。 「藍君...君にはお姉さんのことや、学校を勧めておいて最期まで君のことを見れないこと...ホントに申し訳なく思う。」 「バカ!嵩原が学校勧めてくれたから、私初めて友達が出来たのに...!それに、申し訳なく思ってるなら生きなさいよ...!」 「ふふ...」 そして、嵩原は最後に龍香を見据える。 「先生...」 「龍香君...君には謝ることが沢山ある。お母さんとの約束、龍賢君のこと、君の痛みに寄り添ってやれなかったこと。君にはホントに何もしてやれなかった...」 「そんな事ないです!先生や友達がいたから学校にも行けたし、折れなくていられたんです、だから...」 「...龍香君、あと申し訳ないが雨宮先生に伝えておいてくれ。コンサートの約束、守れなくて申し訳ない...と。」 嵩原は血塗れのチケットを龍香に渡し、そこまで言って空を見つめる。満月が嵩原を照らす。 「あぁ...あと、山形さんにも...ふふっ、謝ることが多過ぎて...まだまだ...死ね...な」 嵩原の視界が暗転する。何もない。真っ白な空間。そこには沢山の友人がいた。そして、目の前に雪花亜美と青い光を称える異形の生命体がいた。 「嵩原さん。もう良いんです?」 「...あぁ。正直まだ、喋りたいけど。」 異形の生命体が話し掛けてくる。 「まさかもうこっちに来るとはね。」 「...サダルメリク。君の瞳を受け取っていながら済まない。君の瞳は彼女に託すよ。」 生命体...サダルメリクはフフッと笑う。 「ま、今はお疲れだ。二年分の土産話でも聞かせてくれ。」 嵩原は友人達と共に光の向こうに消えていく。 (...もう。大丈夫だ。) 熱を失った自分の前で泣く三人を見ながら嵩原は思った。 (君達は僕がいなくても歩いていける。もし困っても頼れる友や、大人もいる。) 嵩原は三人から目の前の光放つ扉へと目をやる。 (これから先の人生、どんなに困難な道のりだとしても、君達なら楽しく、張り切って強く前に進んでいける。だから、君達の行く末を見れないのは...残念かな。) そして嵩原は光の中へと消えていった。 To be continued....
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アナザーマリネッタ 更新日:2020/10/28 Wed 20 09 31 タグ一覧 アナザー女児 オウマがトキ 符号保持者 創作注意事項 ネタやパロディOK 各種創作に自由に使ってOK カラーや服装のアレンジ可 目次 概要 プロフィール 人物像 容貌・服装 趣味 各作品での活躍登場作品名 関連人物家族 関連イラスト 概要 imageプラグインエラー ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (画像のURL) うちの子に声がついたよ! プロフィール 愛称 アナザーマリネッタ 本名 マティアス・マーテリアル 別名 アナザーマリネッタ 身長 128 体重 18 一人称 ボク 二人称 キミ 好きなもの 強さ 姉(の髪と心臓) 誰かを支配すること 嫌いなもの 弱さ 趣味 オモチャで遊ぶこと 人物像 強さを求めて姉を探している少年。 マリネッタの弟。 容貌・服装 趣味 各作品での活躍 登場作品名 関連人物 家族 マリネッタ(姉) 唯一家族と呼べる存在だが、向こうからは家族と認識されていない。 その他 マーナ 二匹のつがいの狼。使い魔のような存在。こちらはオス。 アナザーに忠実だが、鼻息がうるさいと怒られている。 ガルム 二匹のつがいの狼。使い魔のような存在。こちらはメス。 夫と違い優秀だがアナザーに懐いていない。 関連イラスト
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(クリスマスのアリア) 更新日:2020/04/16 Thu 10 34 31 タグ一覧 「クリスマスケーキですか?」 「そうなの~♪この時期限定のケーキを売れば、皆喜ぶと思って♪」 ここはオウマがトキ。開店より少し前の時間帯。 アンコは、店長代理のメローナの話を聞いていた。 「確かに、クリスマスケーキは売れそうですよね。分かりました。作らせて頂きます」 アンコはピオーネが作成したレシピを元に、ケーキを作り始める。 「なになに、小麦粉に牛乳苺とクリーム・・・」 キッチンでレシピを熟読し、作業に取り掛かろうとするアンコ。 「あ、あの」 そこに一人の少女が声をかけてきた。 「はい?あ、シトロンさん、なんでしょう」 アンコは手を止め、シトロンをまっすぐ見る。 「ヒッ!いえ、何でもないです忘れてください!」 シトロンは、ガクガク震えながらどこかに行ってしまった。 「な、何だったんだろう?今の」 アンコはそう呟き、作業に戻った。 「わぁ~!美味しそうだよ!」 「味見はあたいに任せろ!」 「わしにも食べさせるのじゃ!」 厨房から漂ってきた匂いに、プラムとアイベリー、そしてのじゃロリ猫は歓声を上げた。 「アイベリー!プラム!のじゃロリ猫!掃除しなさい!」 そんな三人を叱りつけるフロート。 オウマがトキにはいつもの空気が流れていた。 厨房を除いては。 アンコは、オーブンに意識を集中させようしたが、出来なかった。オーブンのテカりが鏡のように反射して、後ろにいる黄色い女の子の姿を写し出しているのだ。 「あ、あの・・・」 「は、は、は、はい!」 シトロン・ロリポップはどもりながら返事をした。 「その、何か用が?」 「え、いや、何でもないです忘れてください!」 シトロンは慌てて逃げていく。 (う~ん) アンコが再びオーブンに目を戻すと、また黄色い女の子がこちらを伺っているのが見えた。 「シトロンさん!」 「はいぃぃぃぃ?!」 「良かったら、手伝ってください」 「ふぇ?」 シトロンの驚きで真ん丸に空いた目を見て、アンコは少し申し訳なく思った。 「あ、あれ違いました?」 「ち、ち、違くないです!お手伝いしたいんです!お、お願いいたしますです!」 シトロンは顔を真っ赤にしてどもりながら言うのだった。 「またお越しくださいませ~」 レジの前で客に礼をしたフロートは珍しくご機嫌だった。 クリスマスケーキが売れたこともそうだが、あのシトロンがマーマレード以外の女の子と働いていたからだ。 お互い遠慮しながらだが、ちゃんと仕事をしていた。例えこれがクリスマスの奇跡だとしても、お姉ちゃん嬉しいわ・・・フロートはその光景がやけに眩しく見え、今日の厨房は二人に任せたのだった。(お陰で今日はマーマレードが使えないのだが) アンコとシトロンがケーキを作った日の翌日、二人はメローナから褒められていた。 「凄いわ二人とも~♪皆喜んでたのよ♪」 「ありがとうございますメローナさん!」 「よ、よかったぁ」 二人の心に暖かいものが沸き上がった。 「アンコちゃん、シトロンちゃん」 喜んでいた二人に声をかけてきたのは、アルバイトの長寝淡雪だった。 「お客さんがね、木みたいなケーキあるかって言ってるよ」 「木みたいなケーキですか?」 「うん、なんか、草が生えたようなやつらしいよ」 アンコは思案したが、どのようなケーキか想像もできなかった。 「あ、あのあの、困った時はヤスカタさんです。色んな本を持ってて、色んな事を知っている凄い人なのです」 シトロンはそう言い、本屋の方を指差すのだった。 「木みたいなケーキ。それを探しに来たのねシトロン」 「そうなんです。あ、あの本見させてもらってもいいですか?」 「ええ勿論よ」 アンコは二人が会話してる最中も、草の生えた木のケーキについて考えていた。 そんなケーキ、今まで聞いたことがない。これはお客に直接聞いてみたほうが良かったのでは無いだろうか?その方が何を求めているか分かったのでは無いだろうか? 「アンコ」 考え事をしていたら、周りが見えなくなっていたらしく、ヤスカタに肩を叩かれるまで周りに気付かなかった。 「え、あ、はい」 「シトロンが何か見つけたみたいよ。そんな怖い顔してるから困ってるけど」 目を上げると、怯えた様子のシトロンとやれやれと言ったようなヤスカタがいた。 「す、すみません!考え事をしてて」 そんなに怖い顔をしていたのか、これからはしないようにしようとアンコは反省したのだった。 「なるほど、ブッシュ・ド・ノエルですか」 シトロンが持っていた本には、横向きに置かれた薪のようなケーキが乗っていた。 「そ、そ、そうだと思います。淡雪さんが木みたいなやつだと言っていたので」 「これなら私でも作れるかな。お客さんはまだいるかしら・・・」 アンコは本をシトロンに返しながら呟いた。 「そ、それではキッチンに引き返しましょう・・・ヤスカタさん、ありがとうございました」 「どういたしまして」 「あ、吊坂さん、いえ、坂吊りさんです・・・」 キッチンには、アルバイトの吊坂ジュジィがいた。今は真っ黒な身体をしている。 「あ・・・・・・こんにちわです」 「ジュジィさん、突然すみません。淡雪さんが何か注文を受けてたみたいなんですが、淡雪さんを見かけませんでしたか?」 「あの、淡雪さんがうつらうつらし始めたので、私、いえボクがヘルプで入りました。そう言えば、何か聞いてきた人がいたような・・・」 アンコはこの黒い女の子の事を内心好いていた。態度が礼儀正しく、同僚として非常にやりやすい。 と、突然ジュジィの体色が黒から白に変わり始めた。 「それを聞いたのはボクだよ。ボクボク!」 元気な悪戯っ子の吊坂ジュジィだ。 「あ、坂吊さんです・・・あ、あの、淡雪さんから何か聞いてませんか?」 シトロンの問いに、ジュジィは少し考えてから答えた。 「う~ん、あ!思い出した!茶色くて、緑のコケ・・・?みたいなのが乗ってるケーキがなんとかって聞いてきた人がいた!」 (緑のコケ・・・?) アンコは眉を寄せた。 「その人はまだ?」 「なんか急用ができたから帰るけど、また明日来るって言ってたよ」 「ありがとうございます。アンコさん・・・ア、アンコさん・・・?」 「え、あ、すみません。また考え事を・・・また明日来ると言っていたんでしたっけ」 「はい、明日いらっしゃるみたいで」 「作りましょう」 「え?」 「一度試作してみましょう。アイディアが沸いてきたんです」 アンコはそう言ってケーキの材料を引き寄せた。 「あ、はい。私も手伝います」 試作品は順調に進み、一時間半ほどで完成した。草の木ようなと言う発言があった為、メロン味の飴細工を乗せたチョコレートケーキだ。 「おぉ~!すげぇ旨そう!」 「食べたい~!アンコ!シトロンお姉ちゃん!味見させて!」 「はい喜んで!」 「あの、沢山あるので慌てないで下さい・・・」 匂いを嗅ぎ付けたプラムとアイベリーが入ってきて、厨房は少し賑やかになった。 「おぉ~!これめっちゃうめぇ!」 「本当!すっごく美味しいよ!」 「上手いのじゃぁ!」 「ぶっ!のじゃロリ猫なんでここに?!あたいと勝負だ!」 「のほほ、わしが勝ったらお主の分のケーキも寄越すのじゃ!」 ブッシュ・ド・ノエルを食べたプラムとアイベリー(そして休みの筈なのに何故かいるのじゃロリ猫)の感想はとても良いもので、アンコとシトロンは、これならお客さんも喜んでくれると安堵したのだった。 そして次の日のお昼すぎ、いつもより早めに出勤したアンコは、厨房でケーキを作っていた。 「あの、ケーキ、焼き上がります・・・」 「了解です。オーブンから取り出してきてください」 アンコはこの後作るための飴細工を作るのに必死だった為、手伝ってくれていたシトロンに任せたのだった。 「あ」 シトロンの小さな声に、ガシャンと言う音。アンコが振り向くと、ケーキを床に落っことして自分も床に転がっているシトロンが目に飛び込んできた。 「し、シトロンさん?!」 「ご、ご、ご、ごめんなさい!本当にごめんなさい!」 両者の目にぐしゃぐしゃになってもう食べられないケーキが写る。 「あ・・・」 シトロンは目に涙を一杯溜めて謝った。 「ごめんなさい!ごめんなさい!本当にごめんなさい!」 「だ、大丈夫です。謝らないで下さい」 地面に土下座しんばかりに謝るシトロンに、アンコは戸惑い困り果てた。 「ねえ、何してるのさ」 そこで響くは一人の少女の声であった。 「全く、どうしてそんなに張り切るのさ。これだからシトロンはボクがいないと駄目だな」 マーマレードはそう呟き、姉の背を撫でながらアンコに向き直った。 「で、何作ってたの?」 「えっと、メロンの飴細工を乗せたブッシュ・ド・ノエルで・・・」 「う~ん、これ作り直すにはどれくらいかかんの?」 「一時間半位でしょうか・・・」 「じゃあ大丈夫かな。君の腕なら出来るだろ?ボクもちょっと手伝うから。もう一度やるんだ」 「あ、はい喜んで!」 アンコには以外だった。マーマレードと言う女性は、皮肉やで冷たくて、姉の(とりわけシトロンの)事にしか興味がないと思っていたのだ。 「ボケッと突っ立ってる暇があるなら準備する!」 「は、はい喜んで!」 アンコはビビりながらもマーマレードの言う事を聞いたのだった。 カチャカチャと言う泡立て機とボールがぶつかる音が厨房に広がる。 「メロンの飴細工は時間がかかりすぎるので、今回は違うもので時短しようと思います」 「他のもの?」 苺を切っていたマーマレードが聞く。 「はい、それはこれです」 アンコは小坪を見せた。 「抹茶か・・・チョコレートケーキに抹茶って合うのか?」 「はい割りと・・・私家でも料理するんですけど、かなり美味しいと自負しています」 「作ったことがあるなら信頼するけど、君、その腕前でどうしてうちに来たの?」 アンコの手が止まった。 「え?」 アンコは少し考えてから言った。 「私の母の推薦なんです。パティシエ自体はずっと前からの夢だったんですけど、ある日急にここのチラシを持ってきて、ここならいいって言われたんですよね」 「ふーん、君の母親も、君の腕を知ってるんだったらもっと良いところに推薦すれば良かったのに」 「いえ・・・母とは一緒に暮らしてないんですよ。父とも・・・二人とも忙しいので・・・でも、心の奥では繋がってるから、寂しくないですよ」 「ふーん」 マーマレードは興味なさげに相槌を打ってから言った。 「よし出来た、次は何?」 「後はケーキを型に入れて焼くだけです。デコレーションの準備をしましょう」 「分かった」 マーマレードはてきぱきとオーブンに火をつけた。 「あ、あ、あのあの!」 そこにやって来たのはシトロン。 「こ、こ、これ良かったら使ってください!」 シトロンが両手に持っていたのは、柊の葉の砂糖細工だった。 「凄いです!とっても可愛い・・・これをつければ、お客さんも絶対に喜んでくれますよ!」 アンコはシトロンの手先の器用さに驚き、その器用さに目を丸くした。 「マーマレードさん!見てください!これ!凄いです!凄く可愛いです!」 「そんなに叫ばなくても聞こえてるよ。凄いね姉さん」 「そ、そ、そんな事ないよ・・・そもそも私が転んだのがいけないんだし・・・さ、砂糖細工だって直ぐに作ったのだし」 シトロンは顔を真っ赤にしながら否定したが、出来立てのブッシュ・ド・ノエルに、その柊の葉はよく似合っていた。 アンコとシトロンとマーマレードは、ジュジィが陽気に運んでいる皿を注視していた。 「そう、これよこれ!こんな感じのが食べたかったの!完璧だわ!」 暫くして聞こえる客の声に、アンコは思わずガッツポーズをした。 「あの、良かったですね。アンコさん」 「シトロンさんとマーマレードさんのお陰です!本当にありがとうございました!」 「別に・・・一緒に仕事してる仲間なんだから、手伝うことくらい当たり前だろ。シトロン、行こう」 マーマレードはそっぽを向きながら言うと、厨房の方に引き返していった。 「もっと自信持てばいいんじゃないの?結構腕のいいパティシエなんだからさ」 腕のいい・・・仲間・・・ その言葉がアンコの胸を貫き、いつまでも忘れられない言葉になった。 それからアンコはマーマレードの事が少しだけ苦手では無くなったという。