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こちらについては私、ソル・ルナ/更科 月華(@luna_theurgear)が 「独断で」 作成したページとなります。本作品の大雑把な指標、基幹設定を鬼柳 香乃(@KanoKiryu)様に纏めて頂きました。必要に応じて追加があればまとめ側に追加お願いします。 完全な確定ではないものも含みますのでご了承下さい。 まとめ→ https //togetter.com/li/1140909
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通称 棺の花婿(スポーゾ・ラ・バーラ) 性別 男 所属 VCF 認証レメゲトン クウィリーノ 搭乗テウルギア ディエス・イレ キャラクター概要 レメゲトン:クウィリーノ テウルギア:LME-MK-01/Des-ire.VCF ディエス・イレ機体概要 登場作品 キャラクター概要 濃く短い金髪、碧眼。36歳。背は高く細身。胸元にバラを差した純白のスーツに身を包んだ、VCFの副社長。 社内の主に結婚式・祭典などを管轄し、常に笑顔を絶やさず、オペラ歌手じみた高らかに歌うような独特の喋り方で歯の浮くような言葉ばかりを並べる。 社長とは義理の息子=婿養子という関係にある。 テウルギアへ搭乗する度にプロポーズのような台詞「~これからの人生を君と共に歩もう」「~悲しさも嬉しさも、全てを分かち合おう」etc...を並べるため、整備士たちからキモがられているが本人は意に介しない。 レメゲトン:クウィリーノ 癖っ毛の金髪碧眼。白いブラウスに黒いショートパンツ、サスペンダーを着た少年という見た目。 ジルベルトのことを「父上」と呼び、付き従う。 また見た目より精神が幼いのか感情の起伏が激しく、機嫌を損ねると泣くこともしばしばある。 「母上」という誰かのことをジルベルトに話すことが日課。 テウルギア:LME-MK-01/Des-ire.VCF ディエス・イレ 開発 リュミエール・クロノワール 機体サイズ 13.1m 武装 式典用 装飾槍(中身スカスカ) 機体概要 つい数年前に企業:リュミエール・クロノワールより、「ミラージュナイト」のカスタム機として購入された真っ白の機体。型式番号もそれを示すもの。 過剰とすら言える装飾に飾られており、ドレープのあるベールを纏っている。 VFCの本業故に、稼働する機会は式典中が主だったものとなるため実戦に遭遇する機会がほぼない。 他企業との外交の関係上、武装はなく、装飾を施した槍だけが唯一の積載物である。 槍そのものは車にぶつけるだけで折れるぐらいに脆い。 またベールは結婚式・祭典などの際は白だが、葬式の際は黒を纏う。 ジルベルトがコクピットへ入る前にプロポーズを行わないと不調を起こして起動しない。 搭乗者であるジルベルトの希望により脱出装置がなく、故に棺と揶揄されているが、同じく彼の強い希望によって特殊なCPUが搭載されている他、元がミラージュナイトであるため、もし実戦投入されたとしても生存率は高い。 CPUの名前は〈アデラーイデ・ヴェルディ〉。故人の脳核を電子回路に繋いで使用しており、他のテウルギアとは逸した処理演算性能を誇る。転用すれば電子・情報戦も可能だが、それが可能となる装備や機会はないだろう。 登場作品 黄金の翼 原案:在田
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■企業名/大和重工 ■企業名略称/大和重工 ■所属グループ/アレクトリス ■本社機能施設/中国海南島海口市 ■主要事業/災害救難、防災器具設備、医療、漁業 ■軍事機能/テウルギア、陸軍戦力、海軍戦力、防衛施設多数 ■外交/保留(方針は平和主義) ■企業概要/ 汚染地域かたの避難民や元々の住民などが結成した漁業組合が企業の前身である。中国は山岳が多く、東南アジアは海に面しておりどちらも災害が多発していた。この組合は積極的に災害救難を行っていた。それに付随して、防災器具や設備の開発生産が進み、現場での応急処置や病院での医療が発達を遂げていった。その需要が高まるにつれ、組合は企業となりその名前を大和重工とした。これが企業の始まりである。 社員研修を徹底しており、領民の見本となるような礼儀作法等を熱心に教育している、また、社員一人ひとりを大事にする社風から、助け合う事をモット―としており、社員の団結力は高い。そのような企業体系から、領民からの信頼も厚い。 ■企業の各部門 【軍事部門】【行政部門】【救難隊】【外交部門】【経営部門】 ■事業説明 主要事業は、災害に関する事が多い。救難や、防災器具設備の開発生産や、医療である。救難に関しては他企業他グループであっても要請があれば、出動可能範囲で出動をしている。防災器具設備も企業を問わず広く輸出しており、これらの恩恵は多くの企業が受けている。 医療に関してはかなり発達を遂げている。現場での応急処置や、病院での手術、薬品に至るまで高い水準の医療を提供している。 漁業に関しては、海南島自体が海に囲まれている為に組合時代から長らく主要事業として成り立ってきた。収穫物は海南島や近くに存在する企業に卸売りをしている。また、事業程ではないが、造船も行っている。が、技術は軍艦を造船出来るレベルではない。 ■勢力圏 海南島を掌握しており、保護地域として定めている。 元々汚染地域からの避難民が移民して来ており、多種多様の人種が存在する。多くは東南アジア系、オセアニア系である。民族間の対立を避けるために、教育課程において他の民族を知る時間を設け、民族間交流をさせている。また、民族に関わる様々な施設を建設し、多民族の調和を維持している。 海南島の行政は、大和重工行政部が担当している。治安維持に関しては軍事部警務隊がこれを管轄する。法務は行政部法務課が担当をしている。大和重工はより良い領民の生活の為、教育施設、病院や娯楽施設を多く建設して管理を行っている。これらの多くの施策により高い治安を維持している。 ■軍事機能 大和重工軍事部門が全軍事昨日を管理している。下部組織に【機人課】【海軍課】【陸軍課】【研究開発課】【後方支援課】が存在する。これらの中でも多くの役割によって組織が多く存在している。戦争時(侵攻防衛を問わない)には【統合軍事本部】が設置され、多くの課が一つになり命令系統が単一化される。これにより、情報の錯乱を防いでいる。 テウルギアは三機(二機?中小企業の限度数いっぱいという事で)保有している。また他にも、旧来の部隊を多く保有している。前文明の軍隊を色濃く残した軍隊であろうか。 防衛機能に関しては、常に海軍での周辺海域の警戒。一部の海辺などに陸軍を配置等をしており、臨戦態勢は常に取っている。また、山の内部を削り、戦争時には山の斜面が展開し、山の内部に設置してある大砲等で射撃を行う機能も存在している。 まだ防衛戦の経験が無い為、その全容を知る物は多くない。まだまだどのような防衛をしているのかは謎のままである。 テウルギアを含めた武装に関しては、多くは自社生産をしている。一部ライセンス契約をし生産したり、武装を輸入する形を取っている。 反対に大和重工の装備を外に出す事はない。 軍事作戦方針は【戦術重視】である。後述するテウルギアがそのような形で汎用性を重要視しているのも戦術の幅を広げる為である。 その為、あらゆる戦い方を想定した訓練を日々行っている。 ■テウルギアについて 保有テウルギアは中型テウルギアで【三式機人戦闘兵器】としている。通称及び隠語はオレンジ。塗装がオレンジ色である為である。 同様の型のテウルギアは保有する全機体である。 機体の区別する名前についてはパイロットが決める事としている。現在は一番機から、【不知火】【トントロ】【ホルモン】である。 機体に関しては、元から武装を装備していないテウルギアとなる。その構造は簡潔に作られいる。修理や換装がしやすい構造で、どこかが破損すれば、すぐに予備の部品と交換すれば修理を終える事が出来る。 武装が全て後付けである為に、武装は多種多様であるので汎用性が高くどこでも戦える仕様となっている。追加装甲も装備可能である。機動力に関しては後付け装備を考慮し、非常に高い。装甲に関しては普通レベルである。 また、【演算処理統合戦闘システム】という独自の装置を搭載している。高い戦闘力のテウルギアと戦闘する際、一機だけの演算処理では予備動作から行動予測(射撃や移動)が遅れる為、有利な状況を作りづらい。そこで、全機体の演算処理機能等を統合し、演算処理を単一化する事で高い演算処理能力を出すシステムである。結果として、常に相手の行動予測が行えるようになった。 加えて戦闘データーを収集し、学習し記憶する能力も合わせ持つ。このデーターは本社のAIに伝達され、AI自体も学習し記憶する。AIはそのデーターを解析し、レポート提出する。それは敵の戦術予測や敵パイロットの癖、敵テウルギア性能。自軍テウルギアの癖やパイロットの癖などありとあらゆる情報の解析を行う。それを踏まえ、戦闘の質を常に高めている。 考案者ヲペン @renraku_yo_yo
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第4話:失(ミス)・幸運(フォーチュン) ――ページ5 普段からは想像もできないような混乱が、フロアに溢れ返っていた。 それまでは穏やかな歓声があったことなど、想像もつかないほど叫び声ばかりにかき消されている。 再び、轟音と共に爆震が起こって、言葉にならない叫び声が反響する。 断線やショートを未然に防ぐべく、天井でチカチカと瞬いてた照明が落とされた。甲高い絶叫が耳をつんざき、暗闇が肌を突き刺してきた。 薄明るく灯った非常灯だけでは、誰も安心など抱けないままでいる。 あたりに渦巻く不安と焦燥に、胸を打たれているのはディサローノでさえ同じだった。 思っていたよりも切迫した自分の早口が、体を流れる鼓動のリズムを更に急き立てる。 「下はどうなっているの!?」 『個別に答えるわけにはいかない。非常口の鍵は解除してある。近くにいる者から開くんだ』 普段から低いヘンドリクスの声が、より頑なな重さを伴って、木槌のように鼓膜を打ちつける。 その険しさこそが、今の状況をしかと見つめている証だった。むしろ頼りになるほどの厳格さを示す。 どよめきが途絶えない渦中において、自分こそ冷静であると胸に手を当てても、早鐘を鳴らす鼓動は認めてくれない。 誰かが発する動転が、ふと気を抜いた別の誰かを乱し、流してしまう。 その連鎖が動乱の渦を巻き、洪水のように心を巻き込む。より苛烈な混沌が広がっていけば、冷静だと思っていたい自身でさえ翻弄されてしまう。 誰かが一人でも、状況を冷厳に見届ける者が必要だ。予断を許さぬ的確な指示で、本人の意識を食い繋ぐ必要がある。 『急げ! 誰かに任せるな。自分の命を守るために活路を開け!』 それこそ、今のヘンドリクスが背負う役目だった。 自分の言葉一つで、多数の命を失いかねない責任と重圧に抗い続ける。短くも的確で冷静な指示で発破をかけ、動揺する意識を支えながら、正しく誘導する……最も理性を保ち続けなければいけない重責だ。 尻を蹴り上げられるような一喝に、ディサローノも動き出した。 カジノという商売を行う以上、チップという莫大な金が動き回ることとなる。都合上、フロアに設けられた非常口は、二重のロックがかけられている。不必要な人の出入りを防ぐために監視室が管理する電子錠と、それぞれのスタッフたちの鍵の二つだ。 「通ります! 道を開けて!」 だからこそ扉にいち早く気づいた誰かがいたとしても……スタッフが持つ鍵が通らない限り、その努力は徒労になってしまう。 逃げ出したい一心で、いくら扉を殴ろうとも体当たりしようとも、その程度で開くほど建て付けが甘いはずはない。 その行動は、より多くの人を招き呼ぶ。そこに逃げ口があるのだと知らしめ、我先にと動き出すためにも陣取り、その瞬間を今か今かと待ち続ける。 そのせいで、より多くの人集りができてしまう。 「道を! 早く! 通して!」 体を割り込ませようとしても叶わないほど、ぎゅうぎゅうに敷き詰められていた。 突き進もうにも押し返されて……鼻孔に焦げ臭さを感じた時には、叫んでいた。 「退けええぇぇーっ!!」 絶叫は、まるでそれ自体が爆発であるかのように、突き立つばかりの群衆を吹き飛ばした。仰天に目を剥いて、衝撃波に飛ばされるかのように後退った。 驚いて腰を抜かした者が何人居ただろうか……床に尻を叩きつけた者たちが、薄明かりの下でディサローノを見上げるばかりだ。 徒労にも体当たりを繰り返していた男たちが、ぽかんと口を開いた。自分が何をしていたかさえ忘れてしまったかのように、虚脱で空っぽになった瞳孔が、ぜえぜえと肩で呼吸するディサローノを覗きこむ。 「今、そこを開けます! だから離れて!」 掲げられた鍵を見つけた瞬間に、男たちの反応は変わった。扉へ足早に歩み寄るディサローノから飛び退る。 ようやく鍵を差しこんで、捻る。ガチャリと音と感触が来た途端に、肩の荷が降りたと思うと同時に、どっと疲れが肩にのしかかった。 ――その瞬間だ。 爆音が空気を震わせ、フロアに熱気が広がった。あちこちで悲鳴が轟き、薄暗かった視界がにわかに赤く照らされる。 それが、二度。 思わず振り返った先で、階段のあった場所に火柱が立ち上っているのが見えた。 その奥……別の非常扉で、火球が膨らんだ瞬間さえも。 緋焔に、目と肌がちりちりと焼けつく。その一方で、腹は深い海底へ潜ったかのように、ぐっと重く冷えこむのを感じた。 階段が燃えたのは想定の範疇だ。階下からドローンが辿り着いた。それだけだ。 ――非常扉は、どこから燃えた? 階下から登ってきたドローンが、混乱に羽音を隠して、そこまで辿り着いたのか? あるいは……。 ほんの少しだけ開いた隙間から、扉の向こうを覗き見た。 何の変哲もない廊下。ドローンの羽音も、内側のどよめきも感じられないほど、静寂に満たされた場所……。 反対側の壁に設えてある手すりを見るまで、そう思っていた。 何ら特殊なものではない、むしろどこにでもあるものだろう。銀色の金属パイプのような手すりだ。 そこに映り込んでいる、赤い光点以外は。 何の赤色か――少しだけ頭を回せば、すぐに理解が追いつく。ぞっと背中が凍りついた。 非常扉が内開きで良かったと――もし外開きなら、もうディサローノの命はなかっただろうと思い至る。 爆弾は、すぐ頭上にある――扉の上。天井ギリギリに貼りついて、人が通る瞬間を待ち望んでセンサーを張り巡らせている。 分厚い鋼鉄製の扉越しに爆発させても、まともな威力を示さないとわかっているのだ。 だから手をこまねいている。逃げ惑う人々が、愚かにも自らを守る扉を開け放ち、爆弾の下へ身を曝け出す瞬間を待ち望んでいるかのようだ。 慌てて、閉じようとした。その場にいる全員へ、別の場所へ逃げるよう声を張り上げるべく、振り返った。 ……だがその光景を見た瞬間に、ディサローノの決意は風前の灯火だと思い知る。 スクリンプラーが遅れて作動し、降り注ぐ水が火柱を押し潰す。フロアにある全てを、人集りさえも。 爆炎を見た人間は、ディサローノだけではない。 全員が、巻き起こった火炎に煽られ、まともな理性は焼き尽くされていた。 生き延びるための唯一の道が、そこにあると信じた……扉へ殺到する表情が、咆哮が、物語っていた。 恐慌が、人の体をした洪水となって襲い来る。 ギリギリで保っていた自我を、雨で洗い流されてしまったかのように、狂騒に染まった手が、扉へ向かう。 それが生き残るための最善だと信じて、死が待ち受ける暗闇へ……。 もはやディサローノでは、それを止められない。 誰も彼女の姿など見ていない。誰も彼女の声など耳に入らない。 愕然に、全身から力が抜けていくようだった。 それまでの自分の行動は、死力を振り絞った喚呼は、泡沫に帰すと。 次の瞬間には、ディサローノは走り始めていた。 誰も止まってくれることはないとわかっていながら、それでも人の濁流をかき分けて、反対側へ……。 誰かの肩が、彼女の顔面とぶつかった。にわかに暗くなる視界の向こうで、誰かの肩を掴んで体を起こした。だが間に入った別の体が、彼女の腕を弾き飛ばす。 それでも手は、次に掴むものを探した。また誰かを掴んで、体を進めようと腕に力を籠めた。また別の誰かが、体の動きを阻む。 人の体をした奔流が、ディサローノをもみくちゃにした。非常扉へ――その奥でぽっかりと口を開けて待っている暗闇へ押し流そうとする。 それでも前へ進もうとした。前へ……混乱の渦中の、その中心部へ。唯一の、逃げ延びるためではない、生き残るための場所へ。 狂乱の坩堝へ飛び込むことこそが、最も冷静な最善だと信じて。 ――その隙間に、それが見えた。 先程までゲームを繰り広げていたルーレット。内側から水を溢れさせて、白球が床に流れ落ちている。 「……許さない」 全身を濡らす雨に、体温を奪われ、凍てつくような寒さを覚える。 だが胸中に湧き上がったのは、真っ赤な炎だ。 先程の絶叫とは比べ物にならない感情の昂りが、憎悪を燃え上がらせた。 「絶対に――っ!」 背中で、再び膨れ上がった爆炎と灼熱が……意識を、人々を、吹き飛ばす。
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1話 2話 3話 3.5話
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■6月12日 5時04分(UTC+6) 格納庫の天井になっているハッチが単調な機械音とともに開き、紺と蒼穹のグラデーションが、LED照明の単調な白を塗りつぶすように、頭上に広がる。 水平線から顔を出した太陽が、海面に光の柱を作っている。 目の前で、立て膝をつくような姿勢で駐機しているテウルギアの、青と水色で塗り分けられた装甲が、一気に精彩を帯びて輝いたような錯覚すら覚える。 基本的なパーツは技仙公司の、どちらかといえば無骨なデザインだ。そう思っていた。それが、今となっては、兵器というよりも芸術品にすら見える。あるいは海面に映える色合いも理由の1つではあるだろうが、エリーアスは、それだけではないように思えていた。たとえば、これからこの機体が躍動することへの、期待感のような――。 それだけではない。潮の香りが。程よい強さの海風が。そして、周囲で起きている荒事など、まるで気にしないかのように、ホログラムのような光を敷き詰めた海面が。 心地よいシャワーのように、全身に覆い被さる。 テウルギア『青龍』と、その横に立つエリーアスの身体が、輸送潜水艦ハクレン号の甲板に、立っていた。少し間違えば、艦が沈められるかもしれない。自分も死ぬかもしれない。 そんな状況にあることを理解してなお、身を包むのは、今まで経験したことのない「爽快感」だった。あとで考えれば、いわゆる「武者震い」の類もあったのかもしれない、けれども。 「デッキ解放完了。新米、出撃作業を」 スピーカーからブレンダン艦長の声がする。その言葉を、ごく自然に受け入れ、為すべき事を為す。 「ええと。ミハイルさん、出撃、大丈夫ですか?」 「問題ない。固定解除を頼む」 「了解です」 手元のタブレットから、固定解除のボタンを押す。 パシンという音とともに、テウルギアを固定していた数本の金属ワイヤーがアンカーを解除され、一瞬だけ弾けるようにうねり、そして収納された。 その音は、これから強靱な猛獣が野に放たれるのにふさわしい。そんな印象をすら感じさせる音だった。 「ロック解除確認。青龍、出撃する。エリーアス君、反動で振り落とされるなよ」 機外スピーカーでミハイルが言うと同時に、機体が横方向、艦の右舷側にジャンプする。僅かに船が傾くが、微々たるものだ。 そして次の瞬間。テウルギアの脚部から展開されたホバーユニットが、盛大な水しぶきを上げる。 機体は二度三度、水面で左右に揺れるような動きをした後、一旦静止し。 そして、ジェットスキーのような航跡と、まき散らされた水滴による小さな虹を残して、滑るように走り出した。その背中は、みるみるうちに小さくなっていく。 落下防止のために腰につけた安全紐のうっとうしさも、自身が海水の飛沫でびしょぬれになったことも、本当に些細なこととしか思えない程に。 その姿は、美しく、力強い姿だった。 【ハクレン号の航海日誌】 第1話 ベンガル湾での待ちぼうけ、その4 「っと、忘れる前に」 周囲の景色、一面に広がる海の夜明けと、それをバックに出撃する青龍(テウルギア)に見とれるところだったが、仕事が残っていることを思い出す。 足下に視線を落とす。自分の安全紐が固定されているフックの横に、小型の円筒がナイロンのワイヤーで縛り付けてある。出撃が決定してから、海上に出るまでの僅かな時間で、エリーアス自身がやった作業だ。 ソノブイ。水面に浮かべる音響観測装置で、何時間か前に、機密ハッチ経由で放り出したのと同じ形のもの。 その2個目を、固定を外して、そのまま甲板に転がす。先ほどと違って艦が海上に顔を出していて、自分が甲板に居る以上、それが一番手っ取り早い方法だった。 ガン、ガコン、という音を立てて転がっていったソノブイが、水飛沫をあげて海面に落ちる。数秒、青緑色の海に沈んだように見えたが、すぐ浮かび上がってきて、先端の数センチだけが水面に顔を出した状態で安定した。 やや乱暴なやり方だが、もともとランチャーで射出することを前提に作られているので、その程度は問題ないそうだ。 「新米、特に問題はないか?」 今度はフェリシアンの声だった。艦橋に居るメンバーはまだ、交代していないようだ。 「はい、大丈夫です。揺れも殆どないので、このまま甲板で待機します」 「戦況が悪化したら一旦潜水するそうだ、その時はハッチを閉めるから気密点検を頼むぜ」 「了解です」 ふぅ、と一息つく。 相変わらず周囲の景色は、刻一刻と変化していく。太陽が昇るにつれて、紺色だった海の色に碧色が混ざりはじめ、空の色がだんだん明るくなり、東の空は、黄色とも白ともとれる輝きに満ちてきている。 真横から照る太陽は眩しく、まだ早朝とはいえ、直射日光で少し暑くすら感じる。 それでも、先ほどの水飛沫でずぶ濡れになったことと、適度な海風のおかげで、甲板の上は快適……というと、語弊があるかもしれないけれども。少なくとも居心地の良い環境であることは、否定しようがない。 そこにあるのは、人間が細々とやっている戦闘など、眼中にないかのような。自然がダイナミックに作り出す、綺麗な空間だった。 出撃前の最終打ち合わせで、ミハイルは『自機のカメラ情報はすべてハクレン号に送信する』と言っていた。戦闘中に状況をいちいち伝えるのは、ミハイルの集中を削ぐことになりかねない、という、きわめてシンプルな理由だった。 送られてくる映像そのものは艦橋で誰かが常時チェックしている筈なので、自分が見る必要性はない。それでも、好奇心で「見てみたい」と感じるのは否定できないし、見ていて問題になることもない筈だ。 手元の端末から、チャンネルを切り替える。ブゥン、という音とともに、手元の端末が、さきほど出力したテウルギア――『青龍』の、メインカメラからの映像を映し出した。思っていたよりも遙かに画質は良く、ビデオ等の映像コンテンツと何ら変わらない解像度だった。 肉眼では、既に『青龍』の姿は、海上に浮かぶ点のようにしか見えない大きさになっている。けれども、ほぼリアルタイムで送られてくるカメラの映像は、水上を高速でホバー走行しているのがよくわかる、スピード感に満ちあふれるものだった。 『警告。アンノウン5およびアンノウン6からハッチ開放音。水中用マゲイアの発進と思われます……発進するスクリュー音を感知。アンノウン7およびアンノウン8と設定しますか?』 先ほど少しだけ聞いた、レメゲトンの、優しい声が響く。音声も通信に含まれていることに、今更ながら気がつく。おそらく密閉されたコクピット内の音を拾っているので、波を切るホバーの音は遮断されているのだろう。 「それでいい。潜行して叩く。水中から母艦(ハクレン号)を叩かれたら意味がない」 『了解』 海面を駆けていた景色が、急速に速度を落とし、海面に静止する。そして『ガコン』という音とともに、海面が急に近づき、そのまま顔面を覆い尽くす。 次の瞬間、端末の画面は、明るい海の中の景色になっていた。 早朝の太陽が作る鋭角の光芒が、画面の上側から、不規則に差し込んでいる。 一瞬遅れて、大量の泡が画面を包み込み、急速に上に向かっていく。 アクアマリンからトルマリン、そしてサファイアに繋がっていくグラデーションが、一気にサファイア1色になり、そして更に、だんだんインディゴに近づいていく。 画面の隅で、驚いた銀色の魚の群れが逃げ出す中、機体がどんどん潜っていくのがわかる。 水中の景色を、潜水艦の小さな窓から生で見ることもあれば、艦外カメラで見たことはあった。 その筈なのに、空と海の様々な側面を、ダイナミックな動きで連続して一気に見ると、こうも不思議に感じるものなのか、と。自分が仕事をしていたのは、こんな場所だったのか、と。 エリーアスは、驚きと興奮を禁じ得なかった。 『高度マイナス120フィート、そろそろアンノウン8と接触します。アンノウン7は本機3時の方向を潜行中、迂回を試みている模様』 「逃がしはせんさ」 その言葉とともに、スクリーン右側に、銃のような装置を握った右手が映る。 それが『青龍』が出撃時に握っていた、水中用の、銛のような弾を発射するランチャーだと気がついた時には、既に1本の、銀色の槍にも見える弾が、少量の泡とともに、サファイアの視界に溶けて消えていった。 『着弾まで10』 AI(レメゲトン)の声と、ピィーンというソナー独特の音が重なる。状況からして、敵対マゲイアから放たれた索敵音だろうか。 「無能め、反応が遅い」 ミハイルの、珍しく辛辣な声が聞こえる。いや、彼が自分も含めて、ハクレン号の乗組員と友好的なのは、あくまで敵でないから、護衛対象だから、という、シンプルで厳しい事実を再確認する。 敵に対して手を抜けば、死ぬのは自分だ。それだけではない、エリーアスも含めたハクレン号も無事では済まなくなる。 ミハイルの態度に、恐怖や反感は感じない。ただ、彼が「同じ企業連合に所属する人」だったことに、エリーアスは一抹の安堵を感じていた。 まだ太陽の角度が低いせいで、海に射し込む光芒は、かなり急な角度になっている。そのおかげで、海底が見えない、ただ水中に居るだけの映像でも、機体が旋回しているのは容易にわかる。 『着弾および圧壊音とおぼしき音を確認。……アンノウン8からの動力音、消失しました』 そして、レメゲトンが報告を終えた時には、既に機体は、少し右側……おそらく、姿は見えないものの、もう1機のマゲイアの方向……に、旋回を終えていた。 「一旦放置してアンノウン7、後にアンノウン4から6(敵潜水艦)を叩く。死んだふりをしている可能性もある、音源探索だけは切らすな」 『了解しました。アンノウン7、本機正面。距離0.37海里、相対高度マイナス44フィートを、2時の方向に35ノットで航行中』 「魚雷は対潜に取っておく。近接戦闘で仕留めるぞ、逃げる相手に遠距離では銛は当たらん」 『了解』 海中の映像が少し歪み、頭上の光が走り出す。 時々、目の前に現れた魚群が。あるいは大きな魚が。驚いて方向を変え、避けていく。 その動きから、徐々に深度を下げつつ、かなりの速度で潜水航行しているのがわかる。おそらく40ノットを超えているのではないか、という程度のことは、エリーアスもなんとなく、感覚でわかるようになった。 流石にまだ、小窓から見える景色だけで、航行速度をぴったり言い当てる、艦長やエメリナのような真似は、到底できないけれども。いや、艦長やエメリナでも、難しいのではないだろうか。大型の輸送潜水艦では、40ノットどころか、30ノットを超える速度は出ないのだ。 やがて、画面の中央よりやや下側、紺色の海中にぼんやりと。最初は鮫やクジラの類に見えたが、それとは明確に異なる、黒い影が映る。 強いて言うなら、前後方向に球を引き延ばしたような形の胴体に、不釣り合いな大型の両腕だけをつけたような。そんなシルエットが見えてくる。それは生物独特のスマートさというより、機械工学的な無駄のなさだった。 相手も、こちらの接近に気がついたようで、おもむろに、身体の中心軸をこちらに向けてくる。魚のように身を捻るでもない、その無機質な水中運動は、生物とは全く異なる、人間が作った「機械」であることを、強く意識させて余りあると言えるかもしれない。 先ほどと殆ど同じ動きで、画面に映ったランチャーから、銛が射出される。 とはいえ、敵もこちらを捕らえている以上、ランチャーを構えた動作に反応したのか、銛が発射された瞬間には、敵は回避動作を開始していた。 画面から見て、右側に。もともと進行方向のベクトルを活かして、スライドするような動きの敵が残した、僅かな泡だけを突き刺して、銀色の銛は海の色に溶けていく。 『警告。敵、攻撃態勢』 敵のマゲイアが、正面に腕を延ばした。その先には、おそらく刺突に使うのであろう刃と、小型の魚雷発射管と思われる装置がついている。 マゲイアの中央部にある、ガラスの奥に複数の機械が詰め込まれた、観測用カメラと思われる装置が、一瞬光る。後で聞いたところ、光学での照準確定のための装置らしいが、エリーアスにはそれが、獲物を前に凝視する、肉食生物の目に見えた。 とはいえ、敵の攻撃を、ミハイルが黙って見ているわけもなく。その敵の動きが、無言のまま、スッと画面の中央に向かい、更に、左側に旋回したように回る。もちろん、敵がわざわざ、旋回したのではない。こちら側(ミハイル)が、敵を中心に、左側に回り込んだのだ。 (それが本物に準拠しているかどうかはわからないけど)テレビやアニメ、ゲームなどで見るテウルギアの戦闘シーンとは、かなり違う。水の抵抗を強く、しっかりと受ける、ゆっくりした世界だ。それでも、行われているのは間違いなく、命のやりとりだった。 相手が、魚雷の発射態勢に入ったまま、腕の方向をむりやり曲げて、こちらを捉えようとしてくる。 だが、ミハイルの射撃のほうが、一瞬早かった。今度はランチャーから射出された銛が、ほぼ正確に相手の中心を捉える。 銛が刺さった場所から、相手の外装が凹み、少なからぬ量の泡が出る。その中に赤茶色の液体が混ざっていたようにも見えるが、それがオイルなのか、あるいはマゲイア操縦者の血なのか、もっと別のものなのか、そもそも見間違いだったのか。エリーアスにはわからなかった。 本体が圧壊したせいで、手の角度が変な方向にブレてしまい、画面から見て斜め上に向かって発射された魚雷が、画面内に泡でできた航跡を残して消える。かなりの速度だったため、発射されたら避けるのは難しかっただろう。 ――そこから先は、戦闘と言うべきかどうかすら微妙な、一方的な破壊だった。 攻撃型潜水艦を小型魚雷で牽制しつつ、同じ深度まで潜ってから、側面から近づいてナイフ状の武器を突き立てる。正面や上方への攻撃はできても、それ以外の方向に攻撃ができず、旋回性能でも圧倒的に劣っている潜水艦に、ミハイルのテウルギア(青龍)を止める術はなかった。 同じ潜水艦乗りとして、ある意味、心のどこかが寒くなる思いは、ある。自分達が潜行しているとき、同じようにテウルギアに襲われたら、彼らと似たような運命をたどるかもしれない。 そう、画面に映っている潜水艦には、1隻あたり、少なくとも十数人、おそらくはそれ以上の人員が乗っていて。 それが殆ど抵抗らしき抵抗もできないまま、一方的に破壊され、水圧に蹂躙されて圧壊し、大量の泡を吐き出しながら海中に没していったのだから。 それでも、ミハイル、そしてテウルギア『青龍』の圧倒的な姿は、エリーアスにとって、ただただ強く、強靱で、安心感をもたらしてくれる存在になった。 ■6月12日 14時25分(UTC+6) 「では、諸君らの身柄は、一旦軟禁させていただく。特務中とのことなので、それ以上の情報を聞くことはしないかわりと、思っていただきたい」 「……問題ない。配慮をいただいた貴艦への処遇について、害を為さないよう、弊社上層部には強く進言させていただくことを約束する」 収容された、敵の潜水艦により撃沈されたヘリ輸送艦およびミサイル攻撃艦、そして武装ヘリの生き残り人員は、50名ちょっとだった。 せいぜい20人程度の居住空間しかないハクレン号に、全員をそのまま収容するのは流石に不可能だったので、積み荷の一部だった(基地間の輸送返却のために)空のコンテナを幾つか、艦備え付けのクレーンを使って投棄し、空いたスペースに臨時の人員収容場所を作ることとなる。 人員収容場所といっても、フェリシアンとパーシー、そして「DIYが趣味だ」というセベロの手伝いで、一部の空きコンテナに、照明と、簡易の空調(扇風機のようなもの)、非常用のトイレ等をつけた、ある種の「プレハブ小屋」のような、本当に質素なものである。 ――彼らは、ヴェーダと呼ばれる企業の関係者だった。ハクレン号の所属する技仙公司系列と同じ、アレクトリス・グループに所属する、いわば同盟企業ではあるが、その立ち位置はかなり違う。 有り体に言ってしまえば『技術研究のためなら倫理も何もなく、何をしでかすかわからない』企業であり、今回、救出した人員も「救出には感謝する、しかし何をしていたかは言えない」というスタンスを貫いていた。 故に、ブレンダン艦長が自ら、音声通信で調査艦と「話をつけた」結果として、撃沈艦の生存者のうち、ハクレン号で回収した人員だけはこちらで預かり、調査艦とは接触すらしない……言ってしまえば「見なかったことにする」ことになっていた。 生存者の幾ばくかは、調査艦の側に回収されたことも、ハクレン号の側では確認していた。状況からして、本来ならすぐにこの海域から離脱すべきだと思うが、調査艦は、ハクレン号のレーダー範囲から外に出るまで、全く動く気配はなかった。 エリーアス自身は、この結末が正しかったのかどうかは、わからない。 ただ、自分が無事に生き残ったこと。 とりあえずの臨時寄港地として、正式に艦長決定が下され、航路の変更や、港湾への連絡など、コルカタに向かう準備がはじまったこと。 救助した彼らを降ろす……というか、アレクトリス・グループの然るべき部署に引き渡すまで、「何もしでかさないよう、監視する」業務が追加されたこと。 言うまでもなく、いつ敵対企業の増援が来るか判らないので、当面の航海は警戒を厳重にする必要が出てきたこと。 そして、護衛のテウルゴスであるミハイルとの距離感が少し縮まった(気がする)かわりに、色々と聞いてみたい話が出てきたこと。 これらの変化で、当分は、仕事のキャパシティ的にも、精神的にも、手一杯な状態が続くであろうことは、容易に想像できた。
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クロノクロス・クロックワークス 企業名略称 クロノス 所属グループ アレクトリス 本社機能施設 旧上海 主要事業 時計類全般の製造と保守、およびそれらに必要な部品の生産加工業と販売 軍事機能 皆無 外交 リュミエール傘下である為か他勢力企業からの受注も多い 企業概要 企業歴以前より存在し、時を刻み続ける由緒正しき時計屋。腕時計から時計台のような大規模な時計まで幅広く保守、製造から売買まで行っている。 アナログからデジタルだけでなく、ウォッチからクロック…はては原子時計など時計全般を取り扱っている。 今では保守すら困難なアンティークなどのパーツの生産を行っている他、その他時計に関するパーツは全て自社で賄えるほどの精巧かつ芸術的技巧を保持。 その時計に関する情熱と精神たるや凄まじく、現宗主であるリュミエールが誇る美への追及にも似た狂気を孕んでいるとさえ感じるほどの拘りを持つ。 その拘りからか、製造する時計はどれも寸分違わず狂いなく時を刻む。たった0.0001秒の誤差すら許さないその姿勢と技術は如何にもアレクトリスの企業らしいともいえるだろう。 勢力圏 旧上海首都に本社を置いており、機械式時計などだけでなくアンティーク時計の保守及び売買、時計台などの時計の調整も行っている為に各地へ足を運ぶことがある。 他勢力には少ないが、支社も存在している。 ただし、企業として保有する領土は社屋及び生産工場、社員寮のみである。 +... その実態はL.S.Sのアレクトリス内に存在するフロントカンパニーであり、数ある諜報部の作戦本部。 主要な従業員は自動人形であり、それらを含め徹底的に機密保持を行っている。 その関係は古く、現在では彼らを経由し秘密裏に同盟企業への技術供与などを行っている。 彼らの技術もまた1部ロストテクノロジーに通ずるものがあり、その緻密かつ精巧な技術は確かなもの。 これらは徹底的なまでに隠蔽されており、機密に関する依頼などは天秤のエングレーブを施された特注品の時計を持ち寄り、とある合言葉を言うことで請け負う。 その際、依頼人はプライベートルームへと案内されスタッフの中でも限られた人間だけが知る場所へと通される。 本社地下深くには司令部含む隠し基地が秘密裏に建造されており、各部隊の待機所、非常用のシェルターや格納庫として利用されているとか。 関連企業 リュミエール・クロノワール 宗主兼技術提携先。互いに製造する商品の趣味嗜好は合致しているものの、多くの場合外見が多くを占める宗主との間に従業員たちとのいざこざが稀に起こる。
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抗企業武装会議 フロント・オブ・ジャスティス 企業名略称 foJ,抗企会 所属グループ - 本拠地 旧カザフスタン アルマトイ北部周辺 活動内容 主にクリストファー・ダイナミクス・グループに対する反企業活動 軍事機能 あり 外交 表向きは、すべての企業に宣戦布告している 組織概要 歴史 活動 軍事力 拠点 組織 人物イスラフェル ヴェガ・ノリエ・アスラフ ライラ・ベント・オルファ 組織概要 指導者イスラフェルが率いる、三大グループからの資源と富の解放を謳う反体制武装組織。 「企業政治はかつての国家暴走の軌跡をなぞっているだけ」と批判し、企業軍や企業の庇護下にある都市などの襲撃を繰り返している。 同じような思想の反企業勢力は多数あるが、それら有象無象とは一線を画す規模と軍事力、そして果断な実行力を持ち、ここ数年その存在感を急激に増してきている。 現在は主にクリストファー・ダイナミクスへの攻撃を繰り返しており、特に南部緩衝地帯での活動は、グループ全体が目を背けることができないほどに拡大している。 クリストファー・ダイナミクス領、特に東部では「テロ組織」といえば彼らの名が挙がる事も多い。 企業支配への反感を持つものや、各グループで派閥争いに敗れ放逐されたものなど、三大企業支配に与しない勢力を受け入れて拡大した組織であるが、その活動には不可解な点も多い。 特に近年になってクリストファー・ダイナミクスへの攻撃に固執するようになった理由や、企業経済とは切り離された、非合法組織とは思えないほどの軍事作戦の展開を可能とする資金源は不透明となっている。 歴史 クリストファー・ダイナミクスとEAAが接触し軍事衝突を始めた頃には前身となる組織が存在していたとされるが、当時は企業に顧みられることない、取るに足らないテロ集団であった。 当時はEAA、クリストファー・ダイナミクス双方への小規模な攻撃を繰り返しては、企業軍に蹴散らされていたという。 年代によって指導者や攻撃対象、活動拠点などを変えながら細々と活動してきたが、10年ほど前にイスラフェルと名乗る男が指導者となった直後、急速に勢力を伸ばした。 指導者が変わって以降の破竹の勢いの理由などは様々な憶測で語られるが、真相は不明である。 活動 基本的にクリストファー・ダイナミクスの施設はすべて攻撃対象。 多くの場合施設の破壊後は速やかに軍を退いており、拠点を占拠し確保する事は稀。 破壊・扇動・暗殺・攪乱などあらゆる方法でグループ全域の経済活動を阻害している。 中でもマゲイア・テウルギアを用いた機甲部隊は近年爆発的に拡充しており、局地的な戦線であれば企業正規軍とも正面から渡り合えるほどになってきている。 軍事力 主要戦力は歩兵部隊だが、近年整った機甲部隊を中心に再編成されてきている。 武装車両や戦車、輸送機さえ備えた通常兵器に加えマゲイア、フリーランスではないテウルギアの部隊さえ確認されている。 かつてのように、ブラックマーケットに流れていたような横流し品で雑多に武装した兵隊崩れとは一線を画す、統率された軍事能力を各所で発揮しはじめている。 兵力や資金源の供給元は不明だが、SSCN産のマゲイアや歩兵用火器で武装するものの割合が非常に高い。 当然、SSCNはそれら武装集団への関与は否定している。 その他には青龍やテュポーン社などとの関与も疑われているが、いずれも噂の域を出ていない。 拠点 活動拠点については不明瞭な場合が多く、神出鬼没な活動範囲から決まった拠点を持たない軍事集団かと思われていた。 近年の機甲部隊の拡充でさすがに完全に隠し通す事は難しかったのか、その潜伏地は旧カザフスタン、アルマトイ北部に広がる砂漠地帯ではないかと推定されている。 この地は現在SSCN社の本社機能がある地に近いが、凄まじい砂嵐になどの悪条件によって各グループの領域意識が曖昧になっている地点であり、SSCN社はもとよりクリストファー・ダイナミクス側のエクステック・フェデレーションなどの企業も手を出しづらい、ある意味勢力図の空白地点となっている場所でもある。 組織 「会議」とついているのは有象無象だった武装集団を統一するにあたって一時期的に採っていた合議制の名残であり、現在は一人の指導者に決定権が集中した武装組織らしい体制になっている。 指導者の下にそれぞれの担当の責任者が置かれているが、軍事部門の最高責任者は指導者であり、その下に補佐役でありテウルゴスでもあるアズリエルが就いている。 人物 イスラフェル 本名不詳。抗企業武装会議の指導者である人物。 10年ほど前から彼らの指揮を執る歴戦の軍人だが、各企業はその姿を記録できてさえいないという、謎の多い男。 ただの小さな武装集団であった組織を10年で東部最大級の反企業勢力に仕立て上げたカリスマ性は組織外にも知れ渡っている。 指導者への就任前は最前線で破壊工作を行っていた工作員であったとされる。 ヴェガ・ノリエ・アスラフ コードネームは「アズリエル」 イスラフェルの軍事面補佐、実質的に軍の最高司令官を担当するテウルゴス。常に顔に布の覆面を巻いた、細身の男。 卓越した指揮能力で二面・三面作戦の指揮を指揮し、戦況を常に有利に運び、企業軍に恐れられている。 搭乗するテウルギア「アルファ・スコルピィ」の戦闘能力も高く、その機体とともに、組織の顔としても機能している。 ライラ・ベント・オルファ コードネームは「ジブリール」。 主に組織の渉外担当を務める女性。若いながらも卓越した話術で、扇動や物資提供などの裏方に力を発揮する。 その任務から明るく朗らかな性格とされているが、その本性は冷酷かつ残忍。 捉えた捕虜などの処分を自ら買って出ることもあるという。 原案/羽純
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■6月11日 20時40分(UTC+6) 無人の、テウルギア『青龍』のコクピットの中で、中央の小さいモニター、ただ1つだけが、青白い光を放っている。他のモニターや計器は、何も表示していないし、電源すら入っていない。 テウルギアそのものが、最小限の出力での待機モードになっている。主が搭乗していないコクピットに、データを表示する、機能的な意味は、どこにもない。 テウルゴス(ミハイル)が、機体の外、4.75mほど離れた場所で、弾薬のチェックを行っていることを、テウルギアは知っている。否、レメゲトンは知っている。 テウルゴス(ミハイル)による目視チェックも、機体の機能を使用したフレーム側のセルフチェックも、10分31秒前に完了していた。だから、少しでもエネルギー消費を抑えるため、待機をしている。その現状認識は、きちんとある。 にも関わらず、レメゲトンの、サブシステムのごく一部が、稼働し、メインモニターを動作させている。 『私は、もっと人について、学ばねばなりません。私が人ならざる者(レメゲトン)であり、限定的に人として生きる(仮想人格)者であるために』 『人が傷つくということ、人に害を為すということを、私は、学ばなければなりません。彼(私のテウルゴス)の佳きパートナーであり、彼(私のテウルゴス)を害さないためのプログラムとして』 『かつて、彼(私のテウルゴス)が本機での作戦行動中、彼(私のテウルゴス)の息子が搭乗するマゲイアを、身を挺して庇おうとした時。私は機体に、別の動作をさせました。彼の意図を理解し、それにそぐわないことを理解しながらに』 『本機(私)があのとき、マゲイア(彼の息子)を庇った場合。彼(私のテウルゴス)が、その生命に関わる重大な損傷を受ける可能性が、80%以上と判断したからです』 『私は彼(私のテウルゴス)の不利を看過できませんでした。これは私の、レメゲトンとしての存在意義で、変えることのできない定数の筈でした』 『しかし彼(私のテウルゴス)は、私に怒りをぶつけ、私に怒鳴りました。死ぬより辛い目に遭わせてくれた、と。私の行動は間違いだった、と』 『彼(私のテウルゴス)の私に対する、感情的な行動は、私のログ、[ALERT-0029]229/04/19-17 34 22.49(UTC+3)として記録されている、その1度だけです。その事実を、私は重大なものと解釈せねばなりません』 『私は、私の行動が、彼(私のテウルゴス)に、それほどのストレスを与えたことを、憂慮せねばならないと感じました』 『人間に与える不利、あるいは損失とは、何でしょうか。私はそれを正しく理解――』 そこで画面がすべて消える。同時に、ミハイルの声を、テウルギア(青龍)の外部汎用スピーカーが拾った。 「弾薬パッケージのシリアルナンバーを読み上げる。出撃前の整備記録と照合してくれ」 至って平静な、いつものミハイルの声だ。その瞬間に、画面の表示はすべて消える。 「了解しました、どうぞ」 レメゲトンの機能のみ、通常モードで起動。ミハイルが読み上げる声を待つ。 「LN-4251686-6、LN-4251687-3、LN-4251688-0……」 「確認しました。すべて、本年5月18日、現地時間19時04分から行われた、出航前の弾薬搬入時に受領したデータに一致します」 「了解だ。次に短距離魚雷と、短距離SAMの確認を行う」 「引き続き、レメゲトン関連機能のみ通常起動を維持します。必要な時は言ってください」 返事はない。私(レメゲトン)はそのようなものを、求めていない。 ――おそらく先ほどの無秩序なログ表示は、私(レメゲトン)が見た夢。あるいは、人間で言うところの「寝ぼけていた」というものなのかもしれない。 バグ未満の、開発者の想定しきれなかった矛盾、あるいは不合理によるもの。 想定外ではあっても、機能に支障が出ないエラー。メンテナンスでテオーリアに行った時に、報告すれば良い、程度のはず。 独立した自己診断回路は正常に動作している。この未知の動作が、有害な結果をもたらすことはない。 コンマ数秒に満たない処理で、判断を行う。そして次に、ミハイルから指示が来るまで。何も考え(演算し)ない――無とも言える時間を、開始する。 人が時として、自身でも理解不能な既視感や、唐突な記録のフラッシュバックに襲われるように。あるいは、忘れてしまいたい過去の出来事に、悪夢という形で苛まされるように。 彼女(レメゲトン)もまた、ミハイルが機体格納庫に戻った際に行われた、携行記録との同期により得られたデータ――ミハイルと、搭乗艦(ハクレン号)の若手乗組員と会話――が、自身のログを検索するトリガーとなり、「未知の動作」に至ったことまでは、理解していなかった。 【ハクレン号の航海日誌】 第1話 ベンガル湾での待ちぼうけ、その3 ■6月11日 20時59分(UTC+6) 「ミハイルさん、入りますよ」 本当にわずかながら、うわずった声とともに、エリーアスの姿が格納庫に現れる。 降着姿勢で固定された青いテウルギア(青龍)の、コクピットハッチを開け放った状態で、ミハイルは手持ちの小型端末を見ていた。何を読んでいるのかは、エリーアスには見えない。 「どうした、エリーアス君。先ほどのソナー照射の件かね」 端末から目を離さないまま、ミハイルが返事をする。考えてみれば、照射音は艦全体に響いていたはず。当然、ミハイルも認識していなければおかしい。 「はい。あれ、艦長というか、艦橋から連絡とかまだ来てませんか?」 「何も来ていないな。浮上しているのはわかるから、状況は変わったんだろうが」 ミハイルの視線の先が、端末画面からエリーアスに移った。 「あ、はい。実はですね……」 エリーアスが、先ほどのいきさつ――所属不明潜水艦とのやりとりを含めた、一連の経緯――を説明する。 「なるほど、そういうことだったか」 「すいません、てっきり連絡を受けてると思って」 「気にはなっていたが。ブレンダン艦長は、必要な連絡は遅滞なく伝える人だ。だからまあ、即座に私の出番が来るわけではないのは、わかっていたさ」 「あ、はい……」 「とはいえ、ふむ……。よし、意見具申しよう。艦内有線通話で、艦長に伝えてもらえるかな?」 「はい、何でしょう」 「本機のオプション装備として、小型ソノブイ(小型の集音装置、ソナーの音を拾ったりする)展開装置がコンテナにある。ここから1個取り出して、船外作業用のエアロックから放り出してはどうだろう。潜望鏡深度であれば、最低限の電波出力でも本機アンテナで拾える。海面での音響を拾えれば、状況の把握に役立つだろう」 「わかりました、伝えます」 伝声管の隣にある、有線式の音声通信装置で艦橋を呼び出し、艦長にミハイルの提案を伝える。 艦長は伝声管を好むが、それは「艦内電装が落ちようが、電子機器に支障が出る電磁波を受けようが使えるから、これが一番安心感がある」という、艦長自身の信条が多分に含まれる理由で、それを部下にまで強要する人ではない。 数秒の沈黙のあとの、艦長からの返事は「よし、やってくれ」だった。 艦長の判断、ゴーサインが出たことをミハイルに伝える。 「では6番コンテナを開けてくれ。ソノブイ射出装置から1発分、取り出すぞ」 自身も座席シートベルトの金具を外しながら、ミハイルが言う。 「わかりました」 機体添え付けのコンテナに向かい、ロック装置のレバーを解除位置に移動する。中に、ダークグレーに塗装された、大砲のような装置が入っていた。 兵器の取り扱いでは、エリーアスは護身用の拳銃射撃訓練しか受けていないので、あとはミハイルにやってもらうしかなさそうだ。 ミハイルが手際よく、コンテナに入ったままの装置から、直径30cm、長さ1m弱の、棒状の装置を取り出し、エリーアスに手渡す。重さは5kgぐらいだろうか、重いといえば重いものの、手で持つのに苦労するほどではない。 「ああ、そうだ。これの識別信号を登録しないとな。アズール、聞いているか。オプションのソノブイ1機を、ランチャーを介さずに射出して使う。コード識別でアクティブにする準備を」 「はい、製造番号の読み上げをお願いします」 降着姿勢のままの機体から、静かな若い女性の声がした。 艦に乗ってからは、女性の声というと、だいたい棘のあるエメリナと、自他共に認める「豪快なおばちゃん」のエーレンフリートの声しか聞いていないので、どこか影のある落ち着いた声は、ひどく新鮮に感じる。 テウルギアと呼ばれる兵器に、仮想人格としてレメゲトンと呼ばれるAIが搭載されている。殆どのそれは、会話、あるいは画面に人型の姿を表示することで、会話以上のコミュニケーションが取れる。 知識として、その程度の理解はエリーアスにもある。それでも、実際にコンタクトするのは、はじめてだった。 一瞬、というには少し長すぎる硬直。けれども今は、そんな状況でないことを思い起こす。あわてて手元の筒を見る。半周ぐらいさせたところで、それらしき記載を見つけた。 「ええと……TTY225-809-493……これであってますか?」 「認識しました。ありがとうございます」 女性の声と同時に、手元の筒の先端で、赤い小型のランプが数秒間だけ点滅した。 「ではエリーアス君、それを気密室経由で、艦外に放り出してくれ。くれぐれも自分まで放り出さないようにな」 「わかりました」 軽く礼をして、気密室に向かう。廊下で、足を止めずに少しだけ後ろに目をやるが、アズールと呼ばれていた、あのレメゲトンの声は、もうしなかった。 ■6月11日 21時15分(UTC+6) いくら「もやしっ子」と呼ばれたりするエリーアスでも、輸送艦で働いているうちに、それなりの肉体労働には慣らされている。 なので、ソノブイを持ち運ぶのに、その重量は気にならなかった。問題は、ただ、持ちにくい、の一点に尽きる。 取っ手のない円筒なので、抱えるしかないけれども、直径が30cmほどというのが、微妙な大きさなのだ。もう少し太いと力を込めやすいし、細ければ手で掴めるのに……。 そんなことを考えながらの、船外作業用ハッチまでの移動は、思っていたより疲れる作業だった。 そして、艦外への放出も、なにしろ普段は滅多にやらない……というより、考えてみれば、訓練以外で気密室を使うのは初めてだった。 手順など覚えているわけもなく、艦内備え付けの端末から、操作マニュアルを何度も確認しながら進めることになる。海中でハッチを開ける以上、一歩間違えば、艦内に浸水が発生する作業なのだから、気を抜くことはできない。 当然、確認も含めて手順は多く、こちらもまた、予想以上に時間がかかってしまった。後で聞いたら、クルーでも気密室を使ったことがある人は、半分も居ないらしい。 そういえば、エメリナは機嫌が悪いと、よく「海中に放り出す」と言うけれども、こんな面倒なことをするつもりなのだろうか、などと益体も無いことを考えてたりもする。勿論、冗談なのはわかっているのだけれども。 「ふぅ」 気密室の排水ポンプが、静音モードで排水を完了するまで、約2分。 グリーンのランプが点灯したので、恐る恐る扉を開けてみる。床や壁は濡れたままだが、海水は残っていないし、ソノブイはなくなっていた。無事、艦外への放出に成功したようだ。 艦橋に寄ってソノブイの放出が終わったことを伝えてから、ミハイルの居る格納庫に戻る。 艦橋の空気が思ったより落ち着いていて、フェリシアンとパーシーが雑談をしていたのを見れたので、少し気が楽になった。皆があの程度リラックスしているなら、まだ大丈夫なのだろう。 ■6月11日 21時37分(UTC+6) 「ふむ、こんな感じだろうか」 「凄いですね……ハクレン号のメインコンピューターより、かなり精度が高いのでは?」 表示内容(オブジェクト)が重なっても見えるよう、意図的にワイヤーフレームだけで描かれた3Dの画像で、周囲の海域の概略が、艦内の全端末から確認できるようになっていた。 先ほど放出したソノブイからのデータと、ハクレン号の聴音装備のデータを統合し、青龍(テウルギア)のレメゲトンが解析した結果を、フィードバックされている。 そのためのケーブルが、コクピットから伸びて、艦内の端子に直結されていた。結構な太さのものが数本、より合わされているあたり、通信量は膨大なのだろう。 「単独ではここまでの情報は得られんよ。あくまで連携の賜物だ。それに……」 「それに?」 「艦長はおそらく、ほぼ同等の図を、頭の中だけで描いている筈だ」 「今の自分では到底、そんなことは無理そうです」 「私でも無理だよ。だからこそ、AI(レメゲトン)にこういった表示をさせている。高機動戦闘中ほど、直感的に得られる情報は重要だからな」 「そういうもの、ですか」 「そういうものだ。得意分野や特技になり得るものは、世の中いくらでもある。自分が人より抜きんでているものを見つければ、それを生かす場はあるものだ」 「なるほど……」 「すまないな、説教くさくなった。……それにしても、妙なのは不明艦隊の動きだな。潜水艦のほうがあれだけ派手にソナーを使用したのに、いまだに動きがない」 「そういえば、そうですね、もう最初のソナーから、1時間近く経ってますよね」 「ああ。哨戒の対潜ヘリぐらいは出して然るべきと思うが、その動きはないようだ。こちらの潜望鏡で確認できていないから、甲板には上げているのかもしれんが……」 当初は夜間になれば、ハクレン号側にとって、目視されにくくなるメリットが大きいと考えていたが、こうなると一長一短になってくる。 だが、それに輪をかけて不思議なのが、不明潜水艦側だ。 「不明潜水艦側も、攻撃していませんね」 うむ、とミハイルが頷く。 「セオリー通りなら、早々に叩くべきだな、自分の位置と存在を晒したわけだから」 「そうですね……迂闊に手を出せない事情でもあるのでしょうか」 「ふむ、事情?」 「たとえば、ですけど。不明艦隊の目的が、何らかの調査や回収だとして。それが海洋汚染や、或いは大規模破壊を引き起こすものだとしたら」 「……核や化学兵器の類か、あり得るな」 「当てずっぽう、ですけど」 「エリーアス君」 「は、はい」 「君はなかなか面白いな。推論とはいえ、事態の説明ができる理由を思いつく」 「ごめんなさい、当てずっぽうばかりで……」 「気に病むことはない、発想が柔軟なのは良いことだし、自分でそう理解しているなら、それは長所だ。推論を盲信して、それを前提に行動するようになったら、問題だがね」 「気をつけます」 「まあ、こうして幸い、不明潜水艦隊の動きも、不明艦隊側の動きも、安定して拾えている。今は成り行きを見守ろう」 「そう、ですね」 ふぅ、とミハイルが長い溜息をつき、手元にある携帯端末に目をやる。 先ほどの様子から見ても、戦況や、戦闘のデータを見ているようには思えない。何かしらの文章……読書をしているように、見える。 が、何を読んでいるかを訊くのは何となく悪い気がして、エリーアスは格納庫の隅で、コンテナに腰をかけて所在なげにしているしかなかった。 ■6月12日 1時24分(UTC+6) 「…………ス君。エリーアス君」 ビクリ、と起き上がる。言うまでもなく、居眠りをしていた。 「す、すいません」 あわてて時計を確認する。先ほど見たときは1時を過ぎていたから、15分か20分ぐらい、意識が飛んでいたことになる。 「勤務時間は超過しているしな、致し方ない。だがまあ、爆睡はしないでくれよ、流石に私もフォローできなくなる」 「気をつけます」 「さりとて。今のところ、何も動きはないしな。ああ、そうだ。2番コンテナに、カフェイン入りのレーションが入っている。食うか?」 「頂いて大丈夫ですか?」 「私が今回の護衛作戦用に受領したものだが、元々、技仙グループからの物資だ。問題あるまいよ」 「では、お言葉に甘えて」 小型のコンテナを開くと、携行用の飲料水やレーション、毛布などが入っていた。いわゆるサバイバル用物資の類、といえる。 レーションを1個取り出して、コンテナをしっかりと閉じる。船倉に置いてあるレーションは乾パンと飲料、それにレトルトの食事、セットだが、これはゼリー状の飲料だけで完結していて、他には何も入っていなかった。 封を切り、蓋を開けてゼリーを流し込む。カフェイン入りとは聞いていたけれども、味までコーヒー味になっているとは思わなかった。食感がゼリーだけに、違和感はないけれども、食事というには味気ない印象もある。 「こういう時、何か少しでも食べておくのは重要だからな。体力勝負で、ここ一番というところで空腹だと、碌なことがない」 「はい、先輩の皆さんからも言われました」 「そうか。ふむ、本当に説教くさくなってしまうな、すまない。どうも整備班を含め、同じ世代の人間と話すことが多いものでね」 「いえ、参考になります」 「そう言ってもらえると嬉しいよ。さて、どれくらい続くかわからんが、暇な夜を過ごそうじゃないか」 「……不明潜水艦や、不明艦の人たちも、同じような感じなんでしょうかね」 「少なくとも潜水艦はそうだろうな。私たちより遙かに深く潜っているからな、何かあったら脱出もままならないだろう……。今は深度340フィートか、やはり爆雷を警戒して、定期的に深度だけは変えているな」 「根性比べみたいですね」 「まさにそうだな。潜水艦側はそれを意図しているのだろう、仕掛けるのを躊躇う理由があるにせよ、あれだけ派手に動いた割に、意図は不明だが……いや」 言葉を切って、ミハイルが数秒間、考え込む。 「先ほどの君の推測について考えてみた。たとえば、ソナーを照射されて、慌てた不明艦側が、潜水艦側に、指向性通信をした、とすれば」 「あっ」 「核や化学兵器の存在をちらつかせ、反撃を躊躇させている可能性はあるな」 「なるほど……」 「そうだとしたら本当に面倒だ。ここに居る三者、誰にとっても千日手になりかねん」 「そうですね……時間が解決してくれるわけでもないですし」 「まあ、先ほどの言ではないが、憶測で動くわけにもいかないな。当面は緩みすぎぬようにしつつ、のんびり過ごすしかなかろう」 「わかりました」 なんとなく時計を見る。エリーアスのデジタル式腕時計は、1時36分を指していた。前に調節したときから、タイムゾーン変更の指示は来ていないし、位置的にもさほど動いていない筈だ。 その姿に気がついたのか、ミハイルが言う。 「さきほど誰かが船のコンピューターで計算していたログが届いたが、現在地の日出は4時50分頃の予定だ。4時15分頃が夜明けだろうな」 「この季節ですからね」 「長い夜になるかと思ったが、もっと長い昼間が待っているだろうな。体力の無駄遣いをしないようにしよう、お互いな」 「はい、でも、居眠りしないようには気をつけます」 フッと微笑を浮かべたミハイルが、手元の端末に再び目をやる。 今度、自分も何か、電子書籍の類を購入して、端末に落としておこうか、と、ふとエリーアスは考えた。 ■6月12日 4時08分(UTC+6) 「アンノウン2(不明艦隊のヘリ母艦)から音声反応。エレベーターハッチの音と推定します」 先ほど聞いた、レメゲトンの声が唐突に響く。 少し前のように居眠りしていたわけではない。それでもリラックスしていた……もう少し有り体に言えば、ぼうっとしていたので、我に返るまでに、一呼吸ぐらいの時間はかかった。 もっとも、コクピットに居たミハイルも似たような様子だ。 「他に何か聴音できないか?」 「確認中……エンジン音らしきノイズ、10……いえ、12基を確認。同調状況から、双発の機体が6機、動作していると推定。機種特定できませんが、ジェットエンジンと思われます」 「ヘリコプター、でしょうか」 「VTOLという可能性も否定はできないが、熱源がまだ出ないところを見ると、ヘリコプターかな。VTOLのほうが暖機での廃熱が強く出る」 「なるほど……」 「……反応出ました、すべて技仙-22ティルトローターのRATによる改修機です。6機のうち4機が離陸しました。残る2機は動く気配ありません」 「わざわざ鹵獲したヘリを、護衛のような重要任務で使うこともあるまい。おそらくは、あれ(不明艦隊)が味方か……。情報は艦橋に共有しているな?」 「はい」 「……潜水艦隊側にも動きあり、アンノウン4から6、約2ノットで微速前進しながら、浮上しています。0.4フィート/秒程度、この速度で上昇を続けた場合、海面到達は約14分30秒後です」 「ほう、上がるか。何か対ヘリ装備を持っているのか、ヘリに狙われる前に敵を沈めるつもりでいるのか。どちらにせよ、完全に他人事でもいられなくなったが」 「潜水艦隊が敵だと判った以上、共闘するか、全力で逃げたほうがいいんじゃないでしょうか」 「それはそれで正論ではあるがな……しかしな、おそらくそんなに単純な話ではないぞ、これは」 「そうなんですか?」 「あとで艦長に聞いてみるといい。それまではお互い、事態の推移を見守るしかないしな」 「はい……」 釈然としない思いはある。親会社の技仙公司製の機体は、同盟企業にも販売されている。だから、それを運用しているのが、必ずしも技仙公司や、その子会社たる自社の戦力とは限らない。 それでも、仲間の可能性が高い艦隊と、敵の可能性が高い武装潜水艦を前に、攻めるわけでも引くわけでもない姿勢、というのは、納得がいかないものがあった。 ――後で考えれば、その考えがいかに浅はかだったか、と真っ赤になるような結果ではあるにせよ。 ■6月12日 4時14分(UTC+6) 艦橋に、警戒態勢での徹夜明けとなるクルーの、微妙な疲労感が漂っている。 エーレンフリートが差し入れてくれた、非常用レーションをパンに挟んだ簡易サンドイッチで食事はしているし、交代で20分程度の仮眠もしている。 それでも、状況の推移を間断なく見守るという作業は、どうしたって神経を使うものになる。しかもそれが、自分たちの生命に直結しかねないというのであれば、尚更だ。 ある意味、必要とあらば交代要員を用意して、長期戦にも十分に対応できる戦闘船と、所詮は輸送業であり、人的コストに無頓着ではいられない輸送船との差とも言える。 そんな中、エメリナからの報告と、スクリーンに表示された(テウルギア経由での)ソノブイからの観測による、不明艦隊からの技仙製ヘリの離陸の情報が、ほぼ同時に発せられたことにより、クルーの緊張はさらに強まる。 だが、艦長はすぐには対処を指示しなかった。 「臭うな、色々と嫌な感じが」 艦長が呟く。 「ですなぁ」 フェリシアンが短く応じる。 「さっき艦にあるデータで調べた限りでは、正規部隊として、鹵獲なり接収なりしたクリストファー・ダイナミクス・グループ(余所)のヘリ母艦と、アレクトリス・グループ(うちら)の標準型ミサイル艦を、2隻で運用してるってのは、書類上、見当たらなかったっすねぇ」 「そもそも、よほどの秘匿案件じゃなきゃ、事前にあたし達に、そこに居るって情報は来てる筈よね」 クリストファー・ダイナミクスの社内用データベースの簡易コピーから、編成をチェックしていたパーシー、聴音用ヘッドホンを左手に持ち、左耳にだけ押し当てたまま会話を聞いていたエメリナもそれに賛同する。 「そんな秘匿案件じゃ、いくら同盟企業ですと言っても、なぁ。機密保持のために仲間だと気がつかずに撃沈させてしまいました、死人に口なしです、なんて可能性も普通にあるわな」 口調こそ普段通りの軽さのままだが、フェリシアンの表情も、普段の雑談のように明るくはない。 「しかし、放置した場合、それはそれで厄介だ。万が一に彼ら(友軍とおぼしき不明艦隊)が良からぬことをしていた場合、色々纏めて我々に責任をふっかけられる可能性もある」 ブレンダン艦長の声は、最早、呟きというより、溜息に近い。 「……艦長!水中聴音に感あり……おそらく不明潜水艦が発射口を開いています。……何らかの発射音および推進音、数6」 「特定を急げ、SBM(潜水艦発射ミサイル)か魚雷かの判別だけでいい!」 「ほぼ垂直軌道です、SBMと推定!」 「タイミング的に、ヘリ部隊狙いか。着弾予想は」 矢継ぎ早に飛ぶブレンダン艦長からの質問と、フェリシアンのデータ分析による回答。いや、質問への回答というより、何が必要かは認識として共有されている。 あとはただ、艦長が思考するにあたり、情報として優先したい順番を指定するための「質問」という会話形式になっているに過ぎなかった。 「海上まで15秒、そこから先は弾種不明ですが、ヘリ部隊までは60秒程度かと」 更にエメリナの報告も混ざる。 「発射ハッチの閉鎖音を確認しました、次弾はすぐには発射されない模様」 「ヘリ部隊、散開しました。0.4マイル程度の縦列編隊に移行」 「SBM、海面上50フィート前後で強反応、分離型ミサイルです。弾頭18に増加……全弾、ヘリ部隊に向けて飛翔中」 「明確なヘリ対策を用意していたか。となると、潜水艦の目的は、不明艦隊の撃破ではなく、その戦力だけを削ぎ拿捕するか、あるいは調査艦の持つ何かを入手することか?」 「そうですなぁ、わざわざ動きを待ってカウンターを狙うあたりは。しかしそれにしては、機動兵力不足ですな……いや、マゲイアを搭載している可能性も十分にあり得ますが」 「……SBM、ヘリ部隊と交差……着弾音2、ヘリ部隊の反応消失1。1機は少し速度が落ちました、何かしらの被害を受けたものかと」 「観測急げ。潜望鏡の高度を上げるために若干の浮上も可とする」 「了解!」 エメリナがコンソールを叩き、さらなる情報収集を開始する。 「……マゲイアを攻撃型の潜水艦に積むとして、せいぜい2機、おそらくは1機だろうな。それ以上は、潜水艦のサイズを損ない、機動性や隠密性に関わる。ましてや、反応から見るに、テウルギアを運用できる大きさではないだろう」 艦長の呟きに、パーシーが応じる。 「ふーむ、マゲイア3機では、ミサイル搭載の護衛艦が後ろに控えているヘリ母艦1隻分の攻撃ヘリと戦うには、あまり分は良くないですからなぁ。とりあえずヘリに先手を打たせて、ミサイルで数を減らして対応したい、と。状況として、筋は通りますな」 「おそらく不明艦隊側も、その意図は理解している。が、機関を止めている以上、万が一に魚雷を撃たれるのは避けねばならない。それ故に、潜水艦側への牽制、あわよくば撃破を狙うしかなく、先手を打って対潜装備でヘリを出さざるをえなくなった、か」 「潜水艦側が、不明艦隊側の調査艦(アンノウン1)だけは沈めたくないことをわかってるなら、魚雷が主力の潜水艦相手に、あえて散開しないのも、筋は通るわ……って、被弾したとおぼしきヘリが高度を下げてるわよ。このまま行くと着水するわね」 艦長の手が額に添えられる。瞳を閉じられ、少し眉間の皺が増える。 「推論が重なりますが、状況としちゃ説明はつきますな、艦長」 フェリシアンが艦長の方を見る。 その顔には「で、どうしますよ?」と書かれている。いや、艦橋にいる全員の表情に、多かれ少なかれ、その感情がある。 「私の予想になるが」 艦長が、言葉を切る。 「次の手として、おそらく不明潜水艦部隊は、不明艦隊のうち、アレクトリス・グループ標準型ミサイル艦(アンノウン3)を叩くと私は読んだ」 「……なるほど」 フェリシアンがニヤリと笑う。 「ミサイル艦が戦力を喪失し次第、この戦闘に介入する。具体的には護衛のテウルギアに出てもらい、不明潜水艦を殲滅、その上で不明艦隊に接触を行うものとする」 「了解しました。今の話を護衛のテウルギア(ミハイル)と新米(エリーアス)に伝えますが、宜しいですかな?」 「ああ。外れたら少し、私が恥ずかしいがな」 艦長も、フェリシアンほどではないが、微笑を返す。 水面から浮上した太陽が、インド洋の穏やかな波を灼きはじめる。 待ちぼうけが、終わろうとしていた。
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黄昏広がる空の下 一人見上げる黄昏に 闇と群がる老鳥が 去ねや去ねやと孤を描いて 嘲笑う声など気にとめず 神の使いを気取るのか 堕ちた神を名乗るのか ただただ鳥は孤を描いて 食事の刻だと怪鳥が 一声上げると群上がり 後に残るは宵闇が 後に残るは燕の尾 こちらクリストファーダイナミクスグループの企業、バビロニアタスク社のマゲイア部隊スワローテイルズのお話になります。老いた鳥と馬鹿にされながらも抗っていく人たちのお話です。不定期更新です。 1話