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事件・事変 こちらはテウルギア世界の正史として起こる大きな出来事を纏めるページとなります。 設定の兼ね合いもあって難しいとは思いますが、差し障りなければここに書き込んでいってくれると管理人としては嬉しいです。 CD東西戦争(仮名) コラ-リュミエール事変 木偶人形同時多発テロ事件 CD東西戦争(仮名) 企業歴215年から220年にCDグループ領内で発生した企業間戦闘等の総称。 主に中枢企業側に賛同する勢力とそれに反発する勢力によるものであり、それぞれの勢力図から「東西戦争」と呼ばれる様になった。 また、三大企業間の停戦以降初めて起きた企業間戦争であり、かつ初の「テウルギアの戦闘」を伴う戦争でもあった。 戦争は熾烈を極め、最終的に二つの企業が「消滅」した他、民間人を含め50万人以上が犠牲になるという大惨事となった。 コラ-リュミエール事変 企業歴239年に起きた大規模な企業間取引に伴う事件。 レナード派の陰謀による、コラ社社長リュドミラの領域侵犯とその鹵獲を発端とし、それを受けたアリシアが彼女を人質として身代金などを始めとした取引を持ち掛けるというウルトラCを敢行。 同盟or敵対企業のトップという事もあってその緊張レベルは一瞬で頂点に達し、CD-アレクトリス間での全面戦争まで懸念される程の事態に突入。 たった一日で全世界を混乱に陥れた。 木偶人形同時多発テロ事件 CD東西戦争(仮名)が終息して間もない混乱するCD領で同時多発的にテロ事件が発生した。組織は「木偶人形」と名乗り「我は木偶なり。使われて踊るなり」という犯行声明を残している。その後多方面でゲリラ作戦を展開するもそれぞれの企業のやり方で適切に対処され部隊は消滅した。CD本社の発表によると主犯はフロント・オブ・ジャスティスの下部組織で孤児や極貧の家庭から安値で買い取り洗脳し、人形を作ったとされ、フロント・オブ・ジャスティスの残忍な行動が浮き彫りになった事件とされている
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WJ Diary 企業歴234年 5月11日 オフィスのデスクをひっくり返し、中の資料を漁る。ない。棚のファイルを引っ張って放り投げる。ない。探し物は見つからない。そもそも俺はその探し物の外見さえも把握していない。 だが−エニグマが保有する情報が詰まった何かのダミーがこの本社施設の中に存在する 『情報提供によって集められたデータは厳重に管理され、本社屋のどこかに設置された何かのダミー内部に納められている』 エニグマのデータ入りダミー。それを手に入れ、内部の情報を知れば、俺の求める正義に辿り着く一助になるかも知れない。 正義を知るにはまず、世界の真実を知らなければならない。そのためには様々な情報を手にして、真実を見極めなければならない。 真実を求めるために偽物を探すなど笑い物だが−なんだこれは?プラスチック爆弾か?なんでこんなものがここに−この穴、コードが入るぞ。そうかこれがデータ入りのダミーか!端末に繋いでデータを吸い出せば− バカな。『残念でした』だと!?サイレンが鳴った!クソッタレ、やられた!ダミーのダミーだ! WJ Diary 企業歴234年 5月12日 目を覚まし、まぶたを開けると、白衣の人間がいた 「おはようござます。麻酔弾で眠っていた気分はどうですか?」 「誰だ貴様は」 「申し遅れました、私はエニグマ・インサイド高級再現料理開発実験室第三班の者です。これから貴方には−」 「何故殺さなかった?」 「これは不思議なことをおっしゃりますね」 「殺す必要もない、もしくは殺すだけのリソースを割きたくないと?贋作屋風情が…」 「貴方には、私たちの料理の味見役となってもらいます。懲役刑の代わりのようなものですよ。拒否権がないのは…お分かりですね?」 何?味見役?ここで…エニグマでだと? バカな−様々な意味で非常にまずいぞ。奴らは…味覚を痛めつける『料理のような何か』を作ることで有名だ 「食品サンプルは食い物じゃないぞ」 「ちゃんとした食べ物にするために、どうかご協力ください」 断る!くそ、壁に磔にされていやがる!離せ、離せ! 「それでは、ヒラメのムニエルをどうぞ」 いつのまにかテーブルが用意され、白衣の男が指を鳴らす。クロシュが外され現れたのは、なるほど。白魚に小麦粉をまぶして焼いたムニエルのように見える。少なくとも。食品サンプルとしては上出来だ だが、なんだ?見た目は間違いなく普通のムニエルだが−なにか、言葉にできない違和感が溢れ出ている。あのムニエルの雰囲気は−言葉にできないが、とにかく『食べ物のそれではない』 白衣の男が切り分けた魚を俺の口へ持ってくる。遺憾なことに、俺のマスクには、口のあたりに穴が空いていた。奴らが開けやがったのか 「はい、あーん」 奴の顔を睨みつけ、口を固く閉ざす。だが、俺を縛る拘束具にはそれを遮るメカニズムがあった 身体中に電気ショックが走る 「がぁあああああああ…!」 苦しみに耐えきれず、叫ぶ 「えい」 そして叫ぶ口に、フォークが無造作に突っ込まれた。そして研究員の部下と思われる大男に、二人掛かりで口を押さえ込まれる。俺は声を上げることもできない。まるで強姦魔の手口だ こうなれば抵抗も何もあったものではない。口に入れられた食べ物とは思えない何かを飲み込んだ 「どうですか」 胃の中が最悪に気持ち悪い。食い物以外の何かを飲み込んだ、という感触が半端ではない。最悪だ この魚は生きている。俺の胃の中で泳ぎ回っている!それほどの異物感だ 「お味のほどは」 自分たちの料理の味の感想を聞いてくる男。俺の胃の中で『違和感』が泳ぐ 「前に染料が口に入ったことがあったが」 臓腑に潜り込んだ異物を認識しないために、目の前の拷問官に集中し、精一杯の強がりをしてみせる。全身全霊のハッタリで、睨みつけた 「あれの方がマシだったな…!」 男の顔が歪んだ。俺の剣幕に慄いたか、自分の料理が失敗したのがショックだったか、そのどちらでもないのか。わからないが、拷問を執行するこの男のネガティブな表情は見ていて悪くない 「さあ、その生ゴミの出来損ないをダストボックスへ持って行ったらどうだ」 煽る 「何を言っているんですか?」 だが男は至極普通に返す 「これは懲役刑の代わりですよ?全部お食べください」 WJ Diary 企業歴234年 5月13日 食い終わった後あまりの不味さに気絶して、気がついたら日付が変わっている。磔状態のまま、起きてすぐエニグマの朝食を食うことになった。 クソが。『エニグマの朝食』だぞ。なんておぞましい響きだ。このフレーズに匹敵するのは『リュミエールの貴族』くらいだ。 「何を食わせる気だ?」 「フレンチトーストです」 「味覚異常者共が。黄色い成型ヘドロの間違いじゃないのか?」 「それではお口を開けてください」 俺は拒絶の意思を込めて首を左に曲げた。電気ショック 「ぐぁあああああ!!!!ングゥッ」 無造作に突っ込まれるフレンチトーストの見た目をした何か 昨日と同じく口を押さえ込まれて吐き出せない。しかも今度はパンに似た何かだ。噛まずに飲み込めば窒息死しかねない−つまり、咀嚼するしかないのだ。 「さあもっと噛んでくださいWJさん」 舌がある程度慣れてしまって、エニグマ料理が如何にしてマズイかをじっくりと味わう羽目になってしまった。 口内に摂取した『味』が舌に染み込み、それが『ショック」として脳に処理される。『味』は舌の神経を通って脊髄、やがては脳へと達する。そのようにして『ショック』は身体中を駆け回り、全身の至る所に伝播する。そして実際の不味さ以上に食った人間の体にダメージを与えるのだ。 これは食い物じゃない これはあくまで俺の体感の話で、実際のエニグマ料理の不味さのメカニズムがどのようになっているかはわからない。だがこれだけは言える。 試食役だと?笑わせるな。これは拷問だ。意味のない拷問だ。 「水をよこせ!」 飲み込んでから俺は言った。身体中から冷や汗が止まらない。異物を胃に入れた感覚が止まない。消化しては−いけない気がする 差し出されたストローを吸う。水がこんなにも美味し−くはない。食わされたモノのカケラが口の中に残っていて、水の味まで変えてしまった。 全力で口をゆすぐ。このまま吐き出してやる。口腔内にエニグマ料理の一片も残したくない。だがそれも、口を押さえ込まれて阻止される 「吐いてはいけませんよ」 飲むしかなかった。相手の話と、口の中の吐瀉物以下の水を。 脳味噌が疲労で全く働かなくなったのがわかる。体の方も、大した運動をしていないのにクタクタだ。 「おやおや、露骨に疲れ切った様子ですが…」 返事を返そうとして、やめた 「ふうむ、ビタミンB1やアリシンを追加配合してみたのですが…」 それらが疲労回復に効果のある物質であることは、エニグマ料理でノックアウト状態になった俺にはわかるはずもなかった 「まあ完食していただくぶんには変わりありませんよね」 それからはまさに消化試合。口に突っ込まれ、咀嚼し、飲み込む。噛み締めるたびに脳天を鈍器で叩かれたかのような衝撃を食う 最後の一口を口に詰め込まれ、水で流し込む。もはや俺は息も絶え絶えだった。エニグマ料理は不味すぎる 今にも意識を手放してしまいそうだった。だが、嫌味を言う元気だけはあった 「配合…成型…フン、馬鹿馬鹿しい…」 誰に言ったのかもわからない言葉だったが、誰に向けた言葉かはわかりきっていた 「貴様らの研究室を取り潰して…畑やら生簀やら作った方が…有意義だろう…な…!」 捨て台詞だった。その言葉を最後に、今日は終わった。疲労困憊の俺には、意識を手放すしかなかったのだ WJ Diary 企業歴234年 5月14日 それからは、俺はエニグマの研究者には従順に振る舞った。味に関しては全力の罵倒を叩きつけたが、それ以外は勤めて大人しくした。 下手に抵抗すれば、体力を消耗するばかりではなく、相手からの警戒心を強めて雁字搦めにされてしまうからだ。表面だけでも従っておく方が良い。脱出までの間は、だが それからも、3食−たまに間食のエニグマ生活は続いた 「マルガリータです」 「ダンボールに絵の具を塗すくらいなら乳児でもできるぞ」 「ハンバーグです」 「クソの方がマシだな」 「カルボナーラです」 「どこの配線コードを使った?」 「お味はどうでしょう」 「前から言う通り、研究室を取り潰して自分で食材を作れ。薬品を固めて楽をしようとするな」 そうこうしているうちに、何ヶ月か過ぎた。その頃には、味覚への暴力が続く毎日と、従順にならざるを得ない状況に対して、凄まじいストレスが溜まっていた。ストレスの方向は自分の内側に向かって行き、やがては精神的なダメージへと変わっていった。 早い話が、うつ病のような状態になっていったのだ 手錠はもうかかっていない。だが、荷物の大半を取り上げられた状態では電子ロックのドアを突破できない。暗い個室にはベッドとトイレしかない。殺風景だ こんな場所でやることは、ただ食い物とは思えない物品を食うことだけ。現地支給3食おやつ付きのエニグマ生活。いや、監禁された上での拷問の毎日か あの研究員が料理を持ってくる際はドアが開くが、お付きの男に銃を突きつけられた状態では脱出もできない。研究員含めた三人組で来るものだから、隙を突いて逃げる前に射殺されるだろう。俺は弾丸より早く動くことはできない 詰み。そんな言葉が脳裏をよぎる。はたまた王手、もしくはチェックメイト 俺は一生この場所で、あの味覚の拷問を受け続けるのか?脱出の糸口も掴めないまま、ストレスを溜め続けて?なら、舌を噛み切ってでも死ぬべきか?死にたくない、こんなところで死にたくはない 「エメリー…ソフィア…」 料理の不味さが、ついに脳に重篤な障害をもたらした。はっきりとした幻覚が映る 在りし日のエメリー・ジュリアとソフィア・ジュリア。死んだはずの二人は俺に手を振っている。その向こうには、二人が作ったであろうケーキがあった。本物の、ちゃんと食えるケーキだ 二人と同じ場所に行けば、二人に出迎えられ、二人とともにあのケーキを食べることができるのだろうか? 「エメリー…ソフィア…助けてくれ…」 WJ Diary 企業歴234年 8月21日 白衣の男が食事中、このようなことを言ってきた 「明日は我が社の記念すべき日で…」 「水」 どうでも良いことだ。俺はそれを遮る。だが研究員は口を止めずこう言った 「こんな記念日ですから、WJさんの注文通りのディナーを用意しますよ?」 これもどうでも良い どうせ最低最悪のクソみたいな物が供される。何を頼んでも−いやこれはチャンスだ。俺の頭に、脱出の計画が練り上がっていく 「大盛りのカプレーゼを食わせろ。それから鉄串で焼いた鶏肉もだ」 エメリーとソフィアが俺に勇気をくれた 皮肉にも、俺を絶望の淵から救ったのは、幻覚で見たあの双子だった WJ Diary 企業歴234年 8月22日 注文通り、その日の夕食にはトマトとチーズのサラダに似た何かと、鉄串に刺さった鶏肉のような何かがあった。俺は鉄串を一本隠し、カプレーゼのほとんどを口に含めたまま食事を終えた WJ Diary 企業歴234年 8月23日 口の中でトマトもどきとモッツァレラチーズもどきを噛み砕いて混ぜ、吐き出し、自分の舌に似るように成型する。 1時間もすると舌の偽物が完成する。本物のトマトとチーズでは作れない代物だ。絵の具を固めたようなトマトと粘土のようなチーズがあったからこそできた 腕にくすねた鉄串を刺して、流した血液で血だまりを作る。そこに偽の舌を浮かべて、さらにその近くにうずくまる。これで心配して駆け寄った研究員とその護衛の隙を作る。 偽物のプロに偽物が通じるかというと微妙だが、相手はダミー制作部門とは別の料理研究専門だ。しかも暗い部屋では判別がしづらい 試みは成功した。俺が舌を噛み切って自殺したと勘違いしたあの白衣の男は、すぐさま駆け寄ってきた。俺は死んだふりをやめて研究員を捕まえ人質にとり、ついでに自分の荷物を取り返しエニグマ本社から脱出した。 「penance to foods(食材に、贖罪しろ)」 そう言って研究員の鳩尾に全力の拳骨をねじ込み、俺はエニグマを後にした 地獄の日々だったが、終わるのはあっけない。結局、データ入りのダミーは回収できなかった 穴を開けられたマスクを捨て、俺は別の企業への道を急いだ。まともな飯が食える企業に行くためだ。味覚障害を矯正しに行かねばならない とりあえず言えるのは、エニグマに首を突っ込んだらロクなことにならない、ということだ。それは成型ヘドロを食い続けた数ヶ月間からすれば、あまりにも安い成果だった もう1ページ
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型式番号 LME-PHA-04/Mi-Ln 開発 リュミエール・クロノワール 機体サイズ 13.6m 武装 ・掌部小型可変出力光弾砲「虹色蓮華掌」 特殊機能 ・過剰出力変換機構「龍気纏身」 主な搭乗者 ツバキ・イザヨイ "子供の頃に描いてた 正義の味方になった夢" "世の未来は守れなくとも 今は譲れない場所がある" 機体概要所持兵装 機体概要 リュミエール(というかアリシア)の趣味全開であるファンタズマゴリアシリーズの4作目。 2作目や3作目とは違い、こちらは通常販売品である(尤も、実際はあちらが特殊なだけなのだが)。 ファンタズマゴリアシリーズの例として女性型のシルエットを持つ可憐な機体であり、本機のデザインモチーフは「門番」。 ロールアウト時期は237年夏。 チャイナドレスをイメージした大胆なデザインが特徴で、2作目のL.S.Sとの共同開発で味を占めたのかその脚部デザインは俗に言う「生脚」同然という露骨過ぎる代物。 アーマー左右に大きく開かれたスリット等から覗くその容姿は「大きなお友達」からのウケが非常に良く、また一部の物好きレメゲトン達には「テウルギアはファッションである」とまで言わしめたという。 他にも腕部を始めとして全体的に「生身」の部分が多いが、これは運動性と非常に大きな稼働範囲の確保を目的としている面もある(…が、どこまでそうなのか、真実は闇の中である)。 また、その関節部や武装等、様々な部分でスカイウォッチャーの技術が流用されたとも言われるが、あちら同様に特殊なプロテクトが掛けられているのか解析しても詳細が分からず、真偽は定かではない。本機以降のリュミエール所属機体には全てこの技術が流用されているようだ。 シリーズ共通として射撃戦に秀でた機体として製造されているが、本気はデザインモチーフ故かオールマイティーな戦闘能力を持ち味とするバランス型の機体となっており、格闘戦も十分にこなせる。 搭乗者の力量で変わるものの、ツバキの場合は太極拳、八極拳が行える程度の挙動を見せている。 射撃戦ではシリーズの他機体程の強みを持たない代わりに、本来のコンセプトである「華麗な弾幕表現」については一つの完成形とまで評されるレベルに至った。 そのコンセプト故に外見上軽装備の機体が多かった同シリーズだが、本機に至っては遂に素手になってしまった。 一応、防御力については「服」の部分の装甲がそれなりの耐久を持つ上、「胸部装甲が十分に与えられている」ため、安全面についても考えられてはいるようだ。 因みに、当初はもう少しスレンダーな姿になる予定だったが、とある社員が安全性の確保を提示、頑として譲らずにアリシアのデザインに反対。どちらのデザインも甲乙付け難いとされ、最終的にリュミエール領民総出で選挙を行った末に僅かな差で現在の"厚い"装甲となった。 明確に武装と呼べるものは掌部に装備された小型のビーム砲である「虹色蓮華掌」のみで、基本的にそれ以外の武装を装備することも想定されていない。 そのため機体には一切のハードポイントが設けられておらず、拡張性は皆無。 性能そのものは同社製としては珍しくこれといった不得手のない万能型の機体だが、裏を返せば乗り手の実力が如実に現れるストイックな機体でもある。 戦闘スタイルは至って単純で、虹色蓮華掌による弾幕形成で牽制し、それに気を取られた相手の懐に飛び込んで格闘戦を仕掛けるのを基本とする。 単純な攻撃力そのものは高くないが、後述する特殊機構の存在などもあって有効な相手は意外にも多い。 また制約はあるものの強力な射撃も可能で、射撃戦にもそれなりに対応が可能となっている。 携行武装を一切持ってはいないものの、残念ながらその機構の特殊性故に整備性が宜しくない上に、コストも相変わらず高いまま。 テウルゴスの実力がはっきり現れる性能という事もあり、ただでさえ乗る人間が殆どいないファンタズマゴリアシリーズにおいて、リュミエール内でも本機に乗ろうとする人間は少ない。 万能と言えば聞こえはいいが、それは裏を返せば特化機にはそれぞれ劣るという事でもあり、対テウルギアでのハードルがかなり高いのもそれを後押ししている。 しかし、これといって目立った弱点がないその性能は、テウルギア以外の通常兵器に対しては極めて優位に働く事が認められており、「誰に対しても安定した性能を発揮できる」点から、モチーフに倣って要所での門番としての運用が検討されている。 そのため、一部からは「ある意味一番元ネタに合致している」と言われているとか、いないとか。 所持兵装 掌部小型可変出力光弾砲「虹色蓮華掌(ニジイロレンゲショウ)」 本機唯一の武装。 名前通り出力を変更出来るビーム砲で、小型弾の連射、乱射による弾幕生成も出来れば最大出力にする事で大きめの光線を放てる他、眼の前に大きな光弾を生成して敵を攻撃しつつ敵弾を相殺する壁とする、などといった事も出来る。 ただし、光線照射中は隙だらけであり、光弾は隙が小さいものの射程が威力と反比例するなど、弱点もない訳では無い。 とはいえ、手持ち火器でさえないため取り回しに悩まされる事もなく、非常に小回りが効くという強みは本機の機動力等を思えばその弱点を補って余りあると言えるだろう。 過剰出力変換機構「龍気纏身(リュウキホウシン)」 本機に搭載された特殊機能で、格闘戦を行う際の不安要素である機体の耐久度を補うためのもの。 専用コンデンサに溜め込んで変換した過剰エネルギーを放出し、身に纏う事で攻防一体型の武装として扱う。 リュミエールとしても実験的な機能であり、技術が確立出来ていないのか、袖口などの「服の出口」にあたる部分からしか放出出来ず、纏う事の出来る部位が四肢に限られる(デザインの都合上背中や胴体に放出口がない)上、防御用として使うには出力が足りず、対テウルギア用兵装を防げる様なものではない。 攻撃面においてはそれなりに優秀であると評価されており、格闘攻撃時に各部位に纏わせる事で破壊力を高めたり出来る他、自身の攻撃による損傷を防ぐ役割もある(纏ったエネルギーが敵機の装甲を傷付けて脆くすることで、衝撃を機体に伝えにくくする)。 また、掌部での打突時に限りエネルギーを虹色蓮華掌経由で打ち込む事も可能であり、その場合は対象を内側から崩壊せしめる事さえあるなど極めて強力な攻撃手段足り得ることが判明している。 が、技術的な観点とキャラクター性の観点からリュミエールは研究を中止。 本機以外に類似の機構は搭載されず、また改良型が開発される目処はなくなってしまった。 皮肉にもとある違法改造機がこの技術の発展型に相当する機能を搭載しているが、勿論本機とは全くの無関係である。 原案/更科 月華
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永久凍土:4 敵の機体〈ドレカヴァク〉の片腕は落とした。人間のシルエットにしては異様に――歪なほど細い胴部に匹敵するほど太く巨大な前腕だった。巨大な鉤爪を先端に有し、その前腕に氷結装甲をまとわせることで、脅威的な打撃と防御を可能にする――兵器としての要であろう腕を、だ。 だが、それだけだった。 むしろ状況は悪化の一途を辿っている。 後ろへ振り向き様に、テウルギア用の小銃(ハンドガン)を放った。まともに照準を定める余裕さえないままに引き金を引き絞ったのだ。たちまちに前へ向き直したイサークにとって、その弾がどこへ飛んでいったかなど、すでに意識の外へ振り落とされていた。 「大丈夫……大丈夫だ」 粘っこい冷や汗が、こめかみを伝う。 数え切れないほどに繰り返された急加速を、再び行う。その度にイサークの身体がシートへ押し付けられ、意識に黒がチラつく。ブラックアウト寸前になるほどの加速度を繰り返しても、意識だけは決して手放さない。 その度に、老朽化を極めた機体が悲鳴を上げている。金属たちのひしめきが、ガラスの擦れるような耳をツンざう音となって頭の裏をかき撫でる。 いつ壊れるとも知れない綱渡りを、何度も繰り返してきた。これ以上の激しい動きを要求するわけにはいかない。 傍目に〈ヴォジャノーイ〉がただ逃げ惑っているだけのようにも見えるだろう。だが、望んでいた状況へ持ち込めたと、イサークは自覚していた。 初めから予備で装備していた程度の小銃に、敵機を損傷できるほどの攻撃力など期待していない。 敵機が――〈ドレカヴァク〉がこちらへ近づけないようにできればいい。そのための牽制としてさえ機能していれば。 それも、当然だ。 作戦の目標は、敵と戦闘をすることではない。 とあるものを持ち帰るだけだ。 海へ沈んでいないとすれば、どこにあるかの目星はついている。 ――島でさえなくなり、海面から突き出た建築物の集合体となったヴェネツィアの、内陸にあった唯一の敷地。 サン・マルコ広場。 そこへの到達こそが最優先だ。 だからこそイサークは、下手に細い道へ進むことは途中経路を無駄に伸ばすだけの自滅行為だと判断した――真正面からの戦闘では、勝ち目がないことも悟っていた。 だからこそ、牽制を放ちながら一目散に目的地へたどり着くことを、目的にした。 ――ヴェネツィアの中でも、そんな大雑把な動きを許容できる場所は、大運河(カナル・グランデ)以外にあり得ない。 その広い川幅の、なるべく中央を切り裂くように、〈ヴォジャノーイ〉は邁進する。 再び、スラスターの噴出で機体の前後を入れ替え、照準枠を覗き込むこともしないままに小銃から火を吹かせて、また加速を繰り返す。 動いている方向は全く変えないままに、機体の向きだけを変える――慣性に任せたままその動きを可能にできるのは、接地も接水もしない、浮遊型の脚部だからこその特異さだ。 ちらりと目を配らせたレーダーでは、敵を意味する赤い光点が、距離を開けて右へ左へとジグザグに動いている。 まるで獰猛な獣に追われるようだと皮肉げに笑って、まだそんなことを思える余裕が自分にあることを自覚する。 〈ドレカヴァク〉の驚異的な瞬発力には驚かされたが、しかしイサークの長年の経験が、その特性を感じ取っていた。 敵には、その瞬発力を発揮するための角度が要る。彼我の位置や、自らの動き、踏み台にするための建造物……つまりは、長く伸びた直線軌道を、行えないのだと。 鳥類の足のような後ろ向きの関節部も、カヌーのように変形できる下半身も、急激な方向転換や軌道変更では存分に性能を発揮できるだろう。 しかし一直線に進み続けることに対しては、〈ヴォジャノーイ〉の水上浮遊のみにこそ、軍配が上がる。 敵と自分の距離を常に開け続けて、攻撃のチャンスを奪う。あとは目標物を拾い上げて一目散に逃げ出す。 残された活路は、これだけだ。 すでにサン・マルコへの道程は見えている。残された懸念は、目標物がどれぐらいの大きさかだけだ。 再び慣性を残したまま旋回をしようとした―― その時に、音が聞こえた。 ガラス管が割れるような音だと思った、次の瞬間には損傷を知らせる警笛が鳴り響いた。 その部位を見て、息が止まるかと思った。 〈ヴォジャノーイ〉の片腕だ。機銃を持っていた方ではない。手首から先が残されていたはずの腕。肩から先の全てが、信号途絶による全損を意味していた。 当然、牽制に使っていた小銃すらも、今は海中に没しただろう。 『鬼ごっこは終わりだ。イサーク……!!』 「まっ……!」 レーダーと正面のカメラ映像を同時に見るのと、次なる衝撃が飛来するのは、どちらが先だっただろうか。 次は脚部だった。全体の信号がなくなったわけではなかった――が、結果としてはどちらも変わらない。 海面に、機体が叩きつけられる。機体ごとイサークを、海水が出迎え、飲み込み、不規則に揺らしていく。 次々に立ち並ぶ警告の数々を見なくても、わかる。 ものの数分もしないうちに、〈ヴォジャノーイ〉は海中へ没することだろう。 イサークの脳裏を、いくつもの記憶と思考が駆け廻る。 何一つ成果を果たせていない自分を信頼してくれた男の言葉。軽妙な愚痴を挟みながらも、自分を慕ってくれた整備員の顔。亡命した身の上でしかない自分の待遇を鑑みてくれたテウルゴスの顔。こんな自分に、未だ仕事を与えてくれる会社。 それら全てに、結局、報いることができなかった虚しさがイサークの胸に流れ込む……全身から血の気と共に生気まで流れ出しそうになる前に……その奥で大きく重く鎮座している感情が、それを押し留めていると思い出した。 ――まだ、きっと自分を待ち続けている、レメゲトンがいる。 「……クレイ、オーン……!」 次なる衝撃が、イサークの身体を吹き飛ばさんばかりの勢いで襲いかかった。眼前の画面に亀裂が走り、コクピットのあちこちから海水が溢れて、イサークの身体を冷たく飲み込んでいく。 いくら〈ヴォジャノーイ〉が水上での運用を想定された機体であっても、コクピット内部の浸水までは想定されてはいない。雨水の流入程度ならともかく、テウルギアの構造において、最も堅牢に作られるべきであるはずの、登場者を守るためのコクピットが破壊されることは、つまり搭乗者(テウルゴス)が死ぬことを意味しているのだから。 だからこそ自分の未来など見ていなかった。動かない下半身で、壊れたコクピットから運良く抜け出せたとしても、その後がないことなど目に見えていた。 「頼む」 それよりも先に――コクピットが浸水で操作不能になる前に――。 ずっと閉じ込めてきたレメゲトンを、解き放つこともしないままに、終わることなどできなかった。 「これだけ。これだけなんだ……!」 決して手慣れてきた操作ではない。それでもこの瞬間が来ることを、ずっと心待ちにしていた。 それを迎えるには、あまりに突然で、あまりに可哀想な仕打ちになるかもしれない。 だが今のイサークができることは、残された成せることは、この一つを除いて、他になかった。 「――帰ってきてくれ(・・・・・・・)。クレイオーン」 それを口にしながら、悟る。思わず微笑んでしまっていた自分を自覚して。 これはただのエゴだったのかもしれない、と。 どんな状態でもいいから、その声を聞きたかったのだと。 三度の衝撃が、ついにコクピットを破壊する。雪崩れ込む海水と泡沫が視界を奪い、イサークの呼吸を閉ざす。 激しい水流の音に耳を奪われながらも……しかし声が、聞こえてきたような気が、した。 『……死ぬのは、嫌』 「……! ……」 言葉ではない。声にすらならない、ただの気泡が口から溢れ出る。 あと数分後には自分の命がないと知っていながらも、優しげに笑みをほころばせていた。 それでもイサークは気泡を吐いた。 おかえり、と口の動きだけが、それを意味しているなど……誰にも気づかれないと、届かないと知っていながらも。 肺腑の全てを絞り出して、それだけを繰り返していた。
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La-221 概要 アダム・コンドラートヴィチ・ラーピン記念設計局が開発した戦闘攻撃機。 徹底した地形追随飛行能力獲得に主眼が置かれている。 外観 クロースドカップルドデルタ翼機であり、わずかに外傾斜した垂直尾翼、直下の機体下面に舵面つきのベントラルファンを持つ。機体のシルエットは旧歴におけるMIG-1.44が近い。 機動性 爆撃機並みの推力を持ち、二次元推力偏向ノズルを持つAF-220Lターボファンエンジンを2基搭載しており、ステルス機ながらマッハ2.9を記録する。また、格闘戦能力も非常に良好で、短時間ならば迎え角120度での機動も可能。 搭載量 基本的にウエポンベイに武装を格納する関係上、大型兵器の運用には向かない。 中近距離ミサイルの他、主翼に中型ミサイル用ステルスポッドを積載できる
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コンチネンタル 通称 - 所属グループ クリストファー・ダイナミクス 本社機能施設 マンチェスター 主要事業 鉄道輸送 軍事機能 あり(列車機関砲《イージスライナー》4編成) 外交 CDの一部門が独立した企業だが、アレクトリス出身の鉄道技術者の登用を積極的に行なっている。 代表職員 アルマン・アトリー 企業概要 CD勢力圏内の多くの鉄道路線を管理・運営する鉄道事業者。 もとCDの部門であったが、ドナウ戦線後退の影響を受けた事業再編の際に独立企業化。 民間の輸送業務のほか、CD正規軍物資輸送を担うことも多い。 防衛警備用列車機関砲《イージスライナー》は4連装無反動機関砲を2門装備した2両編成の武装列車。重要度の高い輸送任務に使用される。 平時はグレートブリテン島に1編成、ユーラシア大陸に3編成配備されている。 原案/三番目の634@WX様
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シビル・ブロードハースト 通称 - 性別 女 所属 エーリクス&ハーベルトカンパニー オラクルボード - 認証レメゲトン ステラ・S 搭乗テウルギア アヴァンギャルド キャラクター概要 レメゲトン:ステラ・S テウルギア:アヴァンギャルド機体概要 キャラクター概要 “騎士サマの露払いなら、まあ、あたしだろうね” エーリクス&ハーベルトカンパニー専属となる熟練の女テウルゴス。年齢不詳。 アルチュール登場以前の同社において、テウルギア戦力の中核の一翼を常に担ってきた経歴を持つ。 明るく、底の深い性格で人当たりもよく、よく笑う武人然とした女傑で、周囲からの人望も集めている。 アルチュールが「エクスカリバー」のレメゲトン、ビアンカに承認され、「円卓の騎士」が結成されて以降も、彼らだけでは手が回らない様々な任務に勢力的に取り組んでいるようだ。 アルチュールに対しては、若い身で背負わされた重い責任に耐える姿に多少思うところがあるようで、何かと気を回している。 ガラトとは気軽に軽口を叩ける仲で、よく酒を酌み交わす姿も見かけられる。 戦場では一番槍を至上とする突撃主義者であり、敵の守りがもっとも堅い部分を果敢に突き崩して、数々の激戦を征してきた。 部下の面倒をよく見、よく世話をする、いい意味で部隊の母親のような存在。 レメゲトン:ステラ・S “アンタもさ、もっと一番を目指しなさいよ、バカ!” 白いドレスの女性の仮想人体モデルを持つレメゲトン。口が悪く、勝ち気で、落ち着きがない性格。 常に何かに怒っているが、基本的にシビルには心酔しており、彼女を指し追いて社の看板を他者が背負うのに納得がいっていないようだ。 しかし当のシビルはそのアルチュールを気にかけているような状態なので、歯がゆい思いをしている。 攻め手において天才的な発想力を持ち、その常識に捉われない刹那の判断が幾度もシビルの危機を救っている。 テウルギア:アヴァンギャルド 機体名 アヴァンギャルド 開発 エーリクス&ハーベルトカンパニー 機体サイズ 15m 武装 ・右腕専用アサルトライフル・左腕携行用パルス・ガン・右背部拡散レーザー砲・左背部ガトリング砲・近接用レーザー・ハルバート 機体概要 エーリクス&ハーベルトカンパニーの汎用テウルギア「カリバーンⅡ」の専用改修機。 ベース機の長所を活かし、さらに突撃性能を高めるような改修が施された。 単独での戦闘というよりは、部隊の旗印となり、通常戦力の生存性能を担保する役割を期待されている。 鈍色のベースカラーに、白と黄色のラインが目を引く専用カラー。右肩には軍旗を象ったエンブレムの意匠。 シンプルで高性能な本機の基本性能を活かして敵に肉薄し、友軍の活路を切り開くような運用を想定して調整された。 最大の特徴は腰から下をすっぽり覆うような蛇腹状のスカート型装甲で、これは四方を囲まれることの多いシビルの戦い方を案じた社が提案した。全方向防御装甲として機能している。 また、両手に装備された銃はスカート装甲の内側のラックに格納することができ、両手で長柄のレーザー・ハルバートを扱う際に用いられる。 原案/羽純
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悪竜騎士と黄金剣姫-03- written by LINSTANT0000 注意、これは設定が固まる前の創作物です。まともな剣術描写はほとんどないので、期待しないでほしい。 また、この作品に登場するテウルゴスは特別な訓練を受けています。絶対にまねしないで下さい。死にます。 * 月下の荒野に二つの影があった。 1つは白銀の騎士(ミラージュナイト)。右手の長剣を肩口に引き付け、左手の盾を正面に構えた変則的な雄牛の構えをとっている。 対するは悪竜の騎士(トゥガーリン・ズエメヴィチ)。右手が長剣の鍔元を握り、剣先は地面につくほど下げられている変則的な愚者の構えだ。 「はあああああ!!!!!」 私ののどから、裂ぱくの気合を込めて叫びがあがる。高性能機であるミラージュナイトの運動性能を十全に発揮した出だしは早く、わずか数歩、瞬く間に間合いをつめて行く。 最後の一歩、踏み込みと同時の刺突。並みのテウルゴスではその軌道を認識することすらできずに貫かれる技量と速度だ。これまでに幾度となくマゲイアを、テウルギアを屠ってきた自慢の一撃。最高のテンションでもって必殺を叩き込む。 しかし、対する黒騎士を操る男は並大抵のテウルゴスではなかった。黒騎士はポンメルに添えていた左手を押し込み、長剣を跳ね上げた。音速を超えて突き込まれる白騎士の長剣に、黒騎士は長剣を巻きつくようにあわせたのだ。 「なっ!?」 火花すら散ることなく、恐ろしいほど滑らかに白騎士の剣は受け流され黒騎士の脇をすり抜けるようにいなされた。 ミラージュナイトの計器には一切の負荷警告が表示されていない。あの一撃は機体が刺突の勢いに姿勢を崩すほどの剛撃だった。にもかかわらず逸らされた側に感覚が返ってきていない。直接操作できないテウルギアで、生身における奥義を実現するなどどれだけの技量が必要なのか。 いまさらながら戦いを挑んだ相手の強大さに、少女は気おされる。 『ぼおっとしてると死ぬぞ。』 黒騎士の操り手(イリヤ・ムロメッツ)のどこかあきれたような声が耳に入った。視界に移るのは、此方の剣を剣を受け流したまま、振り上げられた黒金の長剣。 刃に写った月光の光に背筋が凍りつく。慌てて盾を振り上げると、盾ごと此方を叩き潰そうとする剛剣が振り落とされた。着弾の瞬間、無数の圧力警告がモニターを埋め尽くす。全身のシリンダーが悲鳴を上げ、ジョイント部分がわずかに歪むほどの衝撃だ。バランサーが屈服し、片ひざを突いて支える態勢になってしまった。 『もう少しまじめにやれよ。』 盾を押し切ろうとしていた剣が惹かれる。圧力が消え、立ち上がろうとした瞬間、地面を踏みしめる重低音が響いた。無意識に盾を脇腹に当てるように構えると、先の剣とは比べ物にならないほどの衝撃が機体を揺さぶる。 ―――補正が効かぬ!?だが戻してやるわい! あまりの衝撃に、機体が吹き飛ばされたらしい。オートバランサーが飛んだ次の瞬間、わずかに宙に浮いた。だいぶ飛ばされたが、キルヒェンフュルストが復旧させてくれたバランサーのおかげで着地することができた。どうにか視線を黒騎士に向けると、ミドルキックの姿勢から足を下ろしている。 たったの二合。それも一度はただの蹴撃だ。ただそれだけで、ミラージュナイトは全身から警告を発している。まだ表示されている警告のほとんどは注意を促す黄色だ。しかし、このまま戦えばあっという間に赤に変わり、戦闘不能に追い込まれるだろう。 「強いなぁ、貴方は!」 『いまさら気付いたか?』 まただ、黒騎士は剣先を地面に付ける愚者の構えをとる。そして、空いている手で此方を指差し、手招きしてくる。 そうか、かかって来いと。あそんでやるよと言うのだな。そうだとも、実力の差は歴然。相手からすれば片手間でひねれる程度なのだろう。そもそも相手は世界でも名の知られた傭兵。その場の勢いで戦いを挑んで良い存在ではなかった。 ―――姫よ、胸を借りなさい。かの御仁には殺意が無い、ただで教えを受けられる。 だが、私の師(キルヒェンフュルスト)が言うように、先ほどから振るう剣に本当の意味での殺意が乗っていない。なぜだか分からないが此方の命をとるつもりはないのだろう。ならばこれは実戦形式の訓練だ。それも、世界最高峰の使い手が相手の。命を掛けるつもりであたれ。何かが得られるかもしれない。 そうだ、私は世界を統べた血脈(ハプスブルク)の末裔。再び欧州を統べ、世界を従える者。稀代の英雄から教えを受ける機会、逃すわけにはいかない。奪いつくせ、かの英雄の全てを。 そう思うと、全てが1つになったように感じた。外れていた調子が整い、感じていたキルヒェンフュルストとの違和感が消える。ああ、私は柄にもなく緊張していたのだな。戦いを前に、相手の偉大さに飲まれて。 深く息を吸い、気息を整える。 「イリヤ殿。」 『なんだ?』 今の願いを告げよう。己の全霊をかけ、全てを振り絞り。 「いえ、師匠!胸をお借りします!」 「は!良いぜ、ぶちのめしてやるよ弟子(仮)!」 こうして私は、ひとつの時代の頂を仰ぎ見る機会を得た。 同時に駆け出し距離をつめる私と師匠。今度は右袈裟で剣をあわせる。師匠は逸らすことなく剣で打ち合わせてくれた。互いの剣が同じ動きで弾かれる。 ああ、ありえない。あまりの絶技に身が震える。どうやれば長さも重さも異なる長剣を振るい、体格も出力も異なる互いが同時に、同じ速度と角度で剣をはじき合わせられるのか。剣速をあげるため、一瞬だけ握りこみを緩めるその瞬間、彼はこちらの剣に合わせてきた。 こちらの、手から弾き飛ばされそうになる剣をあわてて握りこんだ動きまで合わせて見せたのだ。どんな観察眼、どれだけの技量があればそんな曲芸をなしえるのか。 『驚くにはまだ早い、打ち込んでこい!』 「はい!」 また愚者の構えを取る師匠に打ちかかる。両手で柄を握りこんだ渾身のから竹割り。以前マゲイアを両断した一刀。それをはるかに超える私の人生最高の一撃が成った。にもかかわらず、私の剣は黒騎士に触れられず大地を叩き切る。 剣先が装甲の表面に触れうことも無かった。おそらく薄皮一枚の空間を空けて、完全に見切られた。 『踏み込みが浅い!関節の動きが硬い!腰と肩の捻りが足りねぇ!やる気あんのか!』 機体の出力に任せ、三分の一ほど大地に切り込んだ長剣を抜く。こちらが剣を構えるのと同時に、師匠の剣が飛んでくる。掬い上げる様な軌道で振るわれる長剣。何とか盾をあわせ、押し出すような勢いを利用して飛び退る。 『盾持ちが気軽に後ろに下がるな!』 それをとがめるように大きく踏み込まれ、着地する瞬間を狙った突きが来る。切っ先の動きが見えない。だが月光のきらめきがわずかに変わった。勘に頼り、体裁きだけで動かした盾はかろうじて突きを受けた。 着地の衝撃を制御しようとしていたバランサーが、新たなベクトルを受けて混乱する。後ろに倒れようとするのを防ぐために、機体は無茶をして前に重心を移動させた。そう、すさまじい速度で剣を引き、刺突を再装填した師匠に向かって機体が動く。心臓が大きく跳ねた。 『これが突きってやつだ、良く覚えとけ。』 近い。いつの間にか師匠は目の前にいた。その剣先はすでに盾に押し付けらており、たての裏には私がいる。そのまま突き込まれていれば私は死んでいた。思わずたたらを踏み数歩下がる。師匠も剣を引き、一歩だけ下がった。 『もう一度だ、打ち込んでこい。』 「はあああああ!!!!!」 踏み込んで放ったのは相手の胴を狙った逆水平。師匠は回すように振った剣の横腹をこちらの刃に合わせ、空いた手を逆の腹に添えている。完全に防がれた。相手の剣に力をかけるが、剣を擦らせて振り切らされる。 無理やり腰に引き付け、けん制の突き。また、剣の腹で受けられる。頭上斜めに構えられた剣の腹を滑る様に突きが上方にいなされた。師匠はもう一歩踏み込んでくる。同時に左手で剣の腹をかち上げ、その勢いでこちらの剣が真上に跳ね上げられる、だが! 「こうくるのは分かってましたよ師匠!」 その動きにあわせ、左手でポンメルを握りこむ。弾かれた剣は、見方を変えれば大上段に振り上げた剣。ならば振り落とすだけで最大の攻撃力をもつ斬撃に変わる!師匠の剣はまだ攻撃可能な位置に無い。間に合うはずだ! 動き出した剣先に白い軌跡が生まれる。音速をはるかに超えた証。師匠が動く。握りこまれた無手がブレて、 『阿呆が!油断するな!』 師の機体はこちらの剣の斬線の内側へ入り込み、師の剣を押し上げ、挙動を変えた裏拳が私の剣の腹を捉える。受けた剣がこちらの両手を軸に回る。素手でパリングされた。気付いたときには補正が効く段階ではない。再びの衝撃に身構えるが、今度は来なかった。 前を向けば、師匠は私の剣を打ち払った時点でこちらの間合いから飛び退っていた。私も焦らず、剣を構えなおす。 『相手が無手でも油断するな!近接型は、貴様の剣速なら素手でもパリングできる!大降りはできるだけ避けろ!』 「はい!」 そういいながら、師匠は構えを変える。大上段に両手で構えた動き。唐竹割しかしない、正面から受けてみろとでも言う構えだ。 ―――だが、これまでの動きを思い出すのじゃ。あれはブラフかも知れんぞ。 分かっているよキルヒェンフュルスト。私に剣を仕込んでくれた祖父(剣聖)は、あの構えから変幻自在の斬撃を繰り出してきた。散々打ちのめされた経験がよみがえる。 『お座敷剣法でよく生きてきたな!剣が狙いを叫んでるぞ!』 それは師も同じだった。何度打ちかかっても、全てが対応される。十合、二十合と剣を重ね、覚えた型も、編み出した歩法も、防ぐ手合いを限定していく挙動制御を含めた確殺の連撃すら容易く見切られた。師はあの祖父と同格あるいはそれ以上の剣の使い手なのだ。 『ちゃんと軌道を見切れ!馬鹿がそこで受けるな、自分から仕切りなおせ!不利な状況で戦ってどうする!』 返す刃は私が苦手とする盾受けを鍛えようとするもの。微妙に芯を外す軌道を捉え損ねれば盾でも剣でもこちらがバランスを崩される。そうなれば私の反撃の機会は一度失われた。時折そのまま押し切られ次の一手で積む状況に至ると、盾ごと吹き飛ばす蹴りで仕切りなおされる。 やはり我が師は強い。どうしようもないほどに強い。そして優れた指導者でもあるのだろう。このわずかな戦いの中で自分の動きが明確によくなったと感じるほどに変わった。関節の使いかた。バランサーの動きを利用した剣の振り方。機械ゆえの稼動範囲と出力域の違い。そういった細やかな誤りを窘められ、見取りする機会は私を変えている。 「これでどうです!」 どうにか体勢を整えて、左切り上げ、肩口からの突き下ろし、右水平切りのコンビネーションを繰り出す。切り上げは交わされ、突き下ろしは反らされ、水平切りも薄皮一枚で避けられる。だが、万全のはずだ、この瞬間における最高の一撃だ、なにより師からの反撃が帰ってこない。 『は!やるじゃねぇの。』 師の賞賛が聞こえる。初めての賞賛にうれしくなる。私にもできた。ゆえに私は己の全てを投げ打つことにした。ここで成すべき事は秘することでも、折れることでもないのだから。 百を越えたあたりから、数を数えるのをやめた。そんなことを気にしている余裕がなくなったからだ。師の剣はさらに冴えて来る。高まる私の力にあわせ、際限なくその技量が開放されていく。後一歩で届くはずの目の前の目標がどこまでも動き続けた。後一歩、後一歩で届くはずなのに。 どうしても届かない。 『この辺が潮時だな。』 どれだけ打ち込んだのか分からない。しかし、師の言うとおりこの稽古の終わりは近いだろう。私の視界には薄らと靄がかかり、心臓が悲鳴を上げている。限界を超えて脳を酷使したからか、絶え間ない頭痛が私を襲っていた。なにより機体が限界に近かった。すでに機体に警告が灯っていない部分はなく、指間接や盾のジョイントはいつ壊れてもおかしくない黒の警告に変わっている。 ―――既に二百合を超えておるわ、姫の体も限界よ。師の一人としては止めざるを得ぬ。 けど、まだいける。私もこの子も、まだ全力を出すだけの余力がある。たとえ数号しか待たないそれであっても。私はあの高みに届くはず。いいえ、たどり着かなくてはいけないの。 ―――やはり我侭姫なのは変わらぬか。 ごめんね、じい。でも私はこの運命を逃すわけにはいかない。避けてはならない運命。今この瞬間を逃せば私は殻を破れない。 ―――そう呼んでくれたのはいつぶりかの。よいよい、帝国の支配者(ハプスブルク)たらんとする姫がそう定めたならば、聖界諸侯(キルヒェンフュルスト)にして選帝侯(クーアフュルスト)はそれを支えるのみよ。世界を統べる大鷲が生まれる瞬間を見せるがよい。 「ふぅ、わが師よ!」 『何だ我が弟子。』 私の呼びかけに、師は弟子と返してくれた。ああ、拙い我が剣を認めてもらえた。歓喜が私の心を満たす。 「我が全力を、お見せします。」 『受けてやろう。』 私の言葉を請けた瞬間、師の気配が切り替わる。どこかふざけた、甘さのある気配ではなかった。師が放つ殺気が膨れ上がる。先ほどまでのそれとは比べ物にならない、周囲の全てを殺しつくし地に這わせんとする重圧。 魂が震える。これが世界最高の剣士というものか! 『お前の才能は本物だ、全欧州の統治者、天界を統べる秩序と法則の支配者たらんとする神聖不可侵の黄金剣姫(マリア・クリスティーナ・ルイーゼ・アマーリエ・フォン・ハプスブルク=ロートリンゲン)。ゆえに……。』 私の名を呼んだ師が構えを変える。初めて見せた構えだった。 『見せてみろ、お前の可能性を。』 師の機体が生み出すエネルギーが増して行く。全身から放出される余剰エネルギーが確開口部を加熱し、橙色の輝きを放っていた。 『お前が行き着く剣(王)の最果て。この俺が、悪竜騎士が見定めてやる。』 ―――ふふふ、まさか出力制限をかけておったとはな。 師の力。必ず超えてみせる。 私は、この子は剣を握り締めた。
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悪竜騎士と黄金剣姫-01- written by LINSTANT0000 注意、これは設定が固まる前の創作物です。シリアスはほとんどないので、期待しないでほしい。 また、この作品に登場するテウルゴスは特別な訓練を受けています。絶対にまねしないで下さい。死にます。 * 旧ロシア領、現ヤロヴィトの本社がある北方アジアの拠点都市であるエカテリンブルク。 旧ロシア領でも珍しく、戦禍を免れたこの都市はかつての佇まいを今に残す、貴重な観光歴史都市としても知られる町だ。 石造りの古い古い街並みの中、まだ肌寒い春の日差しが差し込む、広場に面したカフェのテラスで、注目を集めている女がいた。 暖かな日差しを跳ね返す黄金の巻き髪をたらし、露出の激しい夜会用の深紅のドレスを纏う迫力系美人。美しい装丁の本を片手に、紅茶を嗜むその姿は、一枚の絵画のようだった。 ただ、胸元はあまりにも無防備に開かれており、煽情的な肉体と相まって周囲の男性の視線を釘づけにしていた。あちこちから突き刺さる煩わしい視線にため息を吐き、女は周囲に視線を飛ばす。 そのあまりにも鋭い視線を受けた男たちは、誰もが思わず視線をそらしてしまう。その瞳の奥に、隠しようのない悪意を感じ取ったからだ。周囲の男たちのふがいなさに、女はもう一度大きくため息をつき、紅茶に口をつけた。 そのタイミングで彼女の目の前に一人の男が座る。 「おう、仕事だ仕事。」 「は?」 あまりにも脈絡のない男の言葉に、女の声に険が宿る。その眉間に薄くしわが入り、ただでさえ鋭い目がつり上がった。 「仕事だって言ってんだろうが。」 「何言ってますの?私たちは休暇でエカテリンブルクに来てますのよ?」 もう一度伝えてくる男に、明確な怒りを込めた声で返す女。久しぶりにとれたせっかくの休暇中に、いきなり仕事を入れてきたら、誰だってそんな対応になるだろう。 「今さっき依頼されたんだよ。」 荒ぶる猛獣をなだめるように、両手を上げて女を抑えようとする女。その動きを見て、額に手を当て、これまでで最も重い溜息を吐き出す女。その行為を以て気分を入れ替えたのか、少しでも建設的になるよう先を促す。 「どんな依頼ですの?とりあえず聞くだけ聞いて差し上げますわ。」 「ターゲットはアレクトリス領内の小さな研究施設。そこに拉致された子供の回収。」 その促しに機嫌をよくしたのか、男が真面目な表情で依頼内容を告げ始める。その内容は中々面倒な話だった。どこの企業かわからない秘密の研究施設。それもアレクトリス領への越境作戦だ。 常識で考えれば、借金で首が回らない状態でもない限り、誰も受けないだろう代物だった。 「いきなり危険ですわね。ま、それだけならかまいませんが......」 しかし、この男女は、その程度の困難や面倒であれば鼻で笑ってこなしてきた。主に男が問題や困難を引き付け、呼びよせ、作り出すのだが。 女は爪をやすりで研ぎながら先を促す。言外に面倒ごとは今のうちにしゃべっておけよ、というプレッシャーを送りながらだ。 「......依頼料は花束一つだ。」 「ぶち殺しますわよ?」 ばつが悪そうに男が告げた言葉に、女は殺意を振りまいた。周囲の客たちは一斉にレジに駆け込み、あるいはテーブルに財布の中身を叩き付けて逃げ出していく。ウェイトレスたちは半泣きだった。 「待て待て待て!相手は小さい子供だぞ!」 流石の男も顔色が悪い。両手を前に突き出し、なんとしても女を止めようと立ち上がりかける。 「貴方をぶち殺すのですわ!お死になさい!」 「んぬふっ!?」 座った状態で放たれた抜き打ちの一撃。羽飾りがつけられたタングステンカーバイト鋼製の鉄扇が男の額を正面から打ちぬいた。 硬質な音共に立ち上がりかけていた男は椅子と共に後ろに倒れ込んでいく。 椅子に座った状態で、手にした鉄扇の勢いだけで大の男を吹き飛ばす女の技量と怪力に、逃げ切れなかった客たちは震えあがった。 「ふぅ、ところでそこの貴女?」 先ほどよりは険の取れた表情で、かいてもいない汗を拭くしぐさをする女。彼女は男と同時にテーブルに着き、今の出来事にあいまいな表情で固まっている少女に顔を向ける。 「は、はひぃ!?」 少女は思わず甲高い悲鳴を上げてしまう。少女は女が浮かべる引きつった笑顔に恐怖した。自分の生殺与奪権を握りしめた女が、この無礼な小娘をどう料理してくれようかしら?とでも聞こえてきそうな笑みを浮かべていれば、誰だってそうなるだろう。 「お、怯えないでくださるかしら?」 たとえ女に脅しをかけるつもりはなく、彼女が作れる最大の笑みを浮かべたのだとしても。気合を入れたために鋭くなった視線と、緊張で硬質に響く声がすべての印象を覆していたが。女はちょっと傷ついていた。 「ご、ごべん”な”ざい”!ごべん”な”ざい”!」 その心理的な不快感を感じ取ってしまったのか、少女は顔中から様々な液体を出しつつ、椅子から飛び降りて地面にうずくまる。機嫌を損ねてごめんなさい、余計なことしてごめんなさい、思いつく限りの謝罪をしながら、命乞いをする。 少女の古びた服装も相まって、貴族に粗相した平民の少女にしか見えなかった。 「どうしていつもこうなりますのよ!?」 幼い子供を相手にすると、非常によく見られる光景に女が嘆く。 「つあぁ、キッツ。そりゃジル、お前の顔が怖いからって、ウオァッ!?」 「今度こそあの世に送って差し上げますわ!」 鉄扇の刺突から復帰した男が、顔をしかめ、赤くなった額をさすりながら椅子に座りなおす。 同時に放った余計な発言に、女はテーブルの上にあったテーブルナイフで男の瞳を狙った。 閃く銀光。 男はとっさにテーブルの上のフォークで、突き込まれるナイフを絡め取る。 ぎりぎりと、鳴ってはいけない音を立てながら男女は拮抗する。 「幾らなんでもナイフで目を狙うのはやめろ!そこはまだ生身なんだぞ!」 「キィーッ!避けるんじゃありませんわ!大人しくお受けなさい!」 「流石に生身のところ狙われたら防ぐわ!」 へし折れるナイフ、飛び交うフォーク、盾として使われるスプーン、牽制のバターナイフ。 あらゆるお茶用の金属製食器が飛び交い、周囲の石畳に突き立っていく。スプーンが石材に刺さるというのはどういうことなのだろうか。 「これで!とどめですわ!」 「テーブルはやめ、ぐふんっ!?」 最終的に総金属製の丸テーブルを引っこ抜き、男に叩き付けた女が勝利する。 石畳に崩れ落ち、伸びた男を一瞥すると、女は再び少女に問いかける。 「フンッ!さぁ、説明なさいそこの娘。この男に話した内容を、全て、簡潔に。」 女の命令に、少女はびくびくしつつも語り始めた。 「ひ、ひゃい!一週間くらい前に、私たちの住む区画から何人かの子供がいなくなったんです。」 私たちの住む区画は、昔SSCNだったところから逃げてきた人も多く住む、貧しい場所です。 でも、この町では珍しく、皆仲が良かったんです。いがみあい?もないですし、お祖母ちゃんもいい場所だって言ってました。 けど、一月前から、子供たちがいなくなり始めました。そのころから住み始めた、危ないおじちゃん達がやったんだって皆言ってました。けど、おじちゃん達軍人さんみたいだったし、強そうな武器も持ってたから、誰も文句を言わなかったんです。 今では、全部で27人がいなくなって。その中に私の妹がいて。みんなを助けてほしいんです。お願いします。 最後は泣きじゃくりながらもしゃべり切った少女を、女は胸に抱いた。少女の嗚咽が大きくなる。 「任せなさい、あの人と一緒に、必ず助け出してあげますわ。」 「お願いします。これだけしか言えないけど、お願いします。」 胸の中で泣く少女を、あやしながら男に問いかける。 「いいわ、どうせ連中は叩き潰したあとなんでしょう?イリヤ。」 「よくわかってんじゃねぇかジル。じゃなきゃ研究所の位置なんざわかる訳ねぇだろ。」 男は胸元の電子機器を投げ渡す。 女は片手で受け取ると、どうやってか指すら使わず、高速で中の情報を読み取っていく。 「この町の警備部隊には?」 「話をねじ込んだ。軽装備だが、アルセナル上がりの精鋭小隊を足付きで出してくれるとよ。」 「包囲してでも逃したくないわね。低練度でいいから最低一個中隊出させるわ。」 「その辺の交渉は任せる。俺には向いてねぇ。」 男は交渉下手なことを認め、困り顔で両手を上げて降参した。そんな男を見て、都市警備部隊からさらに大量の兵を抜き出さんと猛烈な勢いで文面を書き上げながら、女は微笑む。 「知ってるわ、そのための私だもの。任せて頂戴、私のイリヤ。」 「知ってるよ、だから任せてんだろ。俺のジル。」 二人は視線をかわし、互いの言葉を胸に、不敵にほほ笑む。どこか甘やかなこのやり取りは、新しい仕事を受けるときのお決まりだった。いつの間にか始まった、常に互いの信頼を忘れないための儀式。 「じゃ、準備が整うまでに、飯だの水だの服だの買っておくわ。」 そこで終わっていればかっこよかったのかもしれない。しかし、その後の男の言葉に、女は再び眉をひそめた。 「はぁ、イリヤ、貴方私の許可なしにどうやって買い物する気なのかしら?」 その言葉に、男は慌てだす。 「こ、こんな時くらい決裁権返しててくれよ!」 「貴方に渡すわけないでしょ?お嬢ちゃん、お名前は?」 「そ、ソフィアです。」 そんな男を無視しながら、まだ胸の中で泣いていた少女を放し、問いかける。顔を上げた少女は真っ赤な顔で、溺れていたように大きく息を吸い、呼吸を整えてから、己の名を答えた。 「ソフィア、ソフィア。写真からしてこの子ね。さぁ、お買い物の支払いは任せるわ?」 「な、なんですかこの金額!?」 「イリヤのお守りと監視のお給料よ。余ったら受け取りなさいな。」 少女の名を聞いて、女は端末を操作していく。少女の持つ汎用端末が震え、その画面をのぞき込んだ少女は大声をあげた。そこには、少女が一生分は優に生きれるほどの金額が表示されていたのだ。 「む、無理ですよこんなの受け取れません!?」 「何か文句があって?」 どうにか受け取りを拒否しようとする少女に、女の目が鋭くなる。 「何もございません!」 その威圧に耐えきれなかったのか、少女は一転してすべてを受け入れた。 「ではよろしい、お行きなさい。」 「「イエス、マム!」」 一度頷き、買い物に行くように促した女に、男と少女は反射的に敬礼した。 「ふざけなくてよろしい!!!!」 それを見た女の顔が赤く染まる。怒りの波動なのか、豪奢な巻き髪がゆらゆらと重力に逆らい始める。 「やべぇ逃げるぞ!」 「えっ?ちょ、うわああああああ!!!!!!」 身の危険を感じた男は、傍らの少女を肩に担ぎ一気に走り出した。人類が出してよい速度以上で走る男の肩の上で、少女は悲鳴を上げながら荷物のように運ばれる。はたから見れば、人さらいにしか見えないだろう。だが、少女の悲鳴が楽しげなものに変わるにつれて、周囲の警戒は薄れていく。 皆、ほほえましいものを見るような眼で見ていた。 平和の象徴とでもいうべき光景。しかし、今の少女は知らない。この後、買い物を終えるまでに6軒の店と1つの倉庫、29台の車とマフィアが一つ、この町から消え去る騒動に巻き込まれることを。 こうして、イリヤ・ムロメッツとジルニトラが、アレクトリス領へと侵攻することになった。いつも通り、男の思う正義を成すために。
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ある色男の受難 -おまけ- written by 樽 ~注意。この文章には、メタ発言、実在ゲームや他作者さんの作品への言及、ほか、せかいのほうそくをみだすような内容が存在します。どこかネジがゆるいパラレルだという前提で御覧ください。~ ~あと、このさくひんにとうじょうするおんなのこはみんな18さいみまんです。~ ~言ってみたかっただけです。~ 『……あたしの出番が無かった。』 テウルギア『ルドラ』のサブモニターで、ふくれっ面の少女が不機嫌そうに、そう口にした。 「……はい?」 『せっかくの!!マイルさん主役回で!!あたしだけ!!出番が!!無かった!!』 そう言ってゴネるのは、今回見せ場が全く無かった、エクの人格の一つであるフェム。地中ソナーシステム『サラスヴァティー』を用いた音響測定・解析担当の元気属性、好きなゲームは音ゲー全般。 「そうは言ったって、今回の事件でソナー使うところ全く無かったし……。」 思いっきり身を隠す気の無い敵の迎撃(陽動だったのだから当然だ)に、その追撃、果ては三対一での大立ち回り。大人しくしゃがんで見えない敵を探すようなミッションでは無かったため、そもそも今回は搭載すらしていなかったのだ。 『でも!!主役回!!』 「フェムは一体何の電波を受信してるのかな……?」 何故だか分からないが、彼女の言い分を聞いていると正気がどんどん削れていくような気がする。これ以上いけない。 「まあ、その埋め合わせに今日一日はフェムに付き合ってあげるって事なんだけど、……何で僕はルドラに乗せられているのかな?」 彼女のことだからいつものようにCDショップ巡りとかライブハウスとかに連れ出されると思っていたのだが。今回は何か別のことを企んでいるらしい。 『ふっふっふ、今日はちょっと面白い遊びの情報を仕入れてきたのだよ!』 自信満々でふんすと鼻をならすフェム。エクでは絶対見られない表情だよなあ、とちょっと感慨深い。 しかし、テウルギアを使った、面白い遊び……?考えれば考えるほど嫌な予感しかしない……。 「……で、気になるその内容は?」 なんだか凄く訊いて欲しそうだったので、単刀直入に訊いてみた。これ以上機嫌損ねても怖いし。 『聞けば、CD陣営コラ・アルセナルのテウルゴスがレメゲトンの指示に従って舞い踊るように降り注ぐ砲弾を回避し続けたという……。』 「……それを、僕に、やれと……?」 なるほど、それはこの子が好きそうだ……!出荷よ~~~、という電波が降ってきた気がしたが、これ以上正気を失いたくないので華麗にスルーした。 『まあちょっとルールに手は加えたけど、趣旨は一緒!失敗しても爆発四散とかしないから安全だよ!』 クリアできるかな~?と、小悪魔のような表情で挑発してくるフェム。 「ふ、あまり僕を舐めるなよ?ゲーセンデートは紳士の嗜みだ……!」 こちらも挑発的な笑みで返す。まあ、ヴェーダに就職する前はそういうのが好きな子に誘われて結構やりこんだものだ。その子には最終的に刺されたけど。ウッ何だ、全身から汗が……。 『な、なんか青い顔してるけど、手加減はしてあげないからね!それじゃあスタッフさん、よろしく!』 フェムの宣言と共に、軽快なBGMが流れ出す。そして目の前に立ち上がるのは、一枚の板。何故か人のシルエット状に切り抜かれた穴が空いている。 その状況に困惑していると、なんとその板がゆっくりとこちらに迫ってくるではないか! 慌てて回避のステップを踏もうと操縦桿を倒すが、ルドラの足はピクリとも動かない。 「!?」 まさか機体トラブルか、とサブモニターに目をやると、フェムがいい笑顔で謎のポーズを取っていた。 それは、いわゆるボディビル的なポーズ。その時は知る由もなかったが、ダブルバイセップスと呼ばれるポージングである。 『(にっこり)』 「……!!」 何かに気付き、メインモニターに迫りくる板に目をやる。そこに空いた穴は、フェムのとっているポーズと同様の形をしており―― 「ま、待ってフェム!!マッ◯ル行進曲は音ゲーじゃないから!!」 『わははははははは!!誰が音ゲーと言ったッ!!』 ヘイ、ユー!見ているだけでいいのかい?涙は明日の筋肉になる。 そうしてフェムが満足するまで、テウルギア『ルドラ』は筋肉をアピールするポーズを取らされ続けるのであった。