約 115,884 件
https://w.atwiki.jp/yuiazu/pages/1035.html
『ごめんなさいね、梓…お母さん達、明日はまだ帰れそうにないの』 「仕方ないよ、お仕事なんだし」 『帰ったらお誕生日のお祝いしましょうね』 「べ、別に良いってば、もう子供じゃないんだから」 『あら、少し前まではプレゼントにあれが欲しいこれが欲しいって言ってたのに』 「も、もうそんな昔の事は忘れたもん!」 『ふふ、それじゃあ週明けには帰れると思うから 戸締りはきちんとして、火の元には十分に気をつけなさいね』 「は~い、わかってます」 『じゃあ、一日早いけど…Happy Birthday梓』 「…うん」 通話が終わった後も、私は暫く携帯を握り締めていた。 「もう、子供じゃないんだから…」 私の両親はその仕事柄、家を空ける事も少なくない。 公演の期間によっては一週間近く帰らない事だってざらにある。 それは今日に始まった事じゃないし 今までにも仕事の都合で幾度か約束がふいになったこともあった。 「わかってるよ」 頭では理解している、それでも…。 「誕生日くらいは、一緒に過ごしたかったな…」 いつもの様に三人でお喋りしている時、不意に憂が言い出した。 「そうだ、梓ちゃんって今日がお誕生日だよね」 「うん、そうだけど…」 「梓も17歳か~、遂に大人の仲間入りだね」 「どう言う基準で大人なのよ…」 「それでね、良かったら今日うちでお誕生会しない?」 「お誕生会?誰の?」 「いや、今の話の流れであんた以外に誰が居んのよ」 「え、でも…」 「お姉ちゃんから聞いたよ梓ちゃんのお父さん達、今週は演奏会があって週明けまでは帰って来れないんでしょ?」 「うん、そうなんだけどね…」 「だからね、お姉ちゃんとも相談したんだけどお姉ちゃんと梓ちゃんのお誕生日会を一緒にやっちゃおうかって」 「え、唯先輩と一緒に?」 「うん」 「そう言えば、憂のお姉ちゃんも11月生まれだっけ」 「そうなんだよ~」 「でも…」 「あ、都合悪かった?」 「そうじゃないけど、迷惑じゃないかな?」 「迷惑?」 「唯先輩だって、ちゃんとした誕生日の日にお祝いしたいんじゃないかな」 「それなら心配いらないよ、だって、一緒にしようって言ったのおねえちゃんだもん」 「唯先輩が?」 「うん、お姉ちゃんがね…『お誕生日なのにあずにゃんを一人ぼっちにしたくないよ』って」 「そう、なんだ…」 「愛だね」 「ちょ…純、何言って…」 「本当、梓は憂のお姉ちゃんに愛されてるよね」 「ふふ、そうだね」 「もう、憂まで…」 「それでどうかな…今日、大丈夫そう?」 「…うん、大丈夫」 「良かった、お姉ちゃんも楽しみにしてたから」 「私も行って良いよね?」 「うん、勿論そのつもりだよ」 「憂、愛してる!」 「もう、純ちゃんったら」 「…」 (唯先輩と一緒にお誕生会…か) 「こんばんは~」 「あ、いらっしゃい梓ちゃん」 「本日はお招き頂いてありがとうございます」 「どういたしまして…あ、お姉ちゃんは部屋で飾り付けをしてるから」 「そ、そうなんだ」 いきなり唯先輩の名前が出て思わず口篭る。 「とりあえず上がって、純ちゃんもすぐに来ると思うから」 「うん、お邪魔します」 私は憂に案内され、リビングの方へと足を向けた。 「あ!あずにゃんだ~♪」 「こんばんは、唯先ぱ…」 「あずにゃ~ん♪」 「ゆ、唯先輩!いきなり抱きついて来ないで下さい!」 「え~、今日はあずにゃんのお誕生日なのにぃ」 「私の誕生日なら私の言う事を聞いてくださいよもう…」 そんな私のお小言も右から左へ、唯先輩は料理が並べられたテーブルへと私を連れて行く。 「見て見てあずにゃん、今日はご馳走なんだよ♪」 「人の話を…って凄いですね、これ憂が全部作ったの?」 目の前に並べられた豪華な料理の数々、そう言えば前に泊りに来た時もこんな感じだった。 「ううん、お姉ちゃんと一緒に作ったんだよ」 「え、唯先輩もですか?」 「そうだよぉ~、あずにゃんの為に頑張ったんだよ~」 唯先輩は、えっへんと言った感じに胸を張る。 「…ありがとうございます」 「ふふ、梓ちゃん照れちゃって可愛い」 「ち、違っ…照れてなんかないもん!」 「あずにゃ~ん、よしよし♪」 「むぅ…」 ピンポーン 「あ、純ちゃんかな?私見て来るから二人とも座っててね」 「うん」 答えながら腰を下ろした私の横に、唯先輩がちょこんと座りこむ。 「あずにゃんと隣同士~♪」 そう言って、唯先輩は幸せそうに微笑んだ。 「ご馳走様~」 「美味しかったね」 「うん、ケーキも手作りで凄く美味しかったよ」 「えへへ、お粗末さまでした」 「さて、それじゃあ早速ですが私から二人にプレゼントがあります」 「へぇ、純にしては気が利いてるじゃない」 「何だろ~?」 「私からのプレゼントはこれです!」 「?」 「何も持ってないじゃない?」 「今から二人きりの甘い時間をプレゼントしたいと思います」 首を傾げる私達をビシッと指差し、純がそう言った。 「は?」 「…って事で、憂!お邪魔虫は退散するわよ」 そういいながら、憂の腕を掴む純。 「え、ちょっと純ちゃん?」 「いいからいいから」 「あ、うん…じゃあ、お姉ちゃん達ごゆっくり?」 そう言って、憂と純は二階へと上がって行ってしまった。 「…」 「…」 顔を見合す私と唯先輩。 「行っちゃったね」 「そ、そうですね」 突然の事態に私は何を言って良いかわからずにいた。 「…」 「…」 そして再び流れる沈黙。 「ねぇ、あずにゃん」 「は、はい」 先に口を開いたのは唯先輩だった。 「私からもあずにゃんにプレゼントあるんだよ」 「そんな、今日は唯先輩のお誕生日会でもあるのに…」 「つまらないものだけどね」 そう言うと、唯先輩はギー太を抱えて歌いだした。 「Happy birthday to you~♪Happy birthday to you~♪」 「…」 「Happy birthday dear あずにゃ~ん♪」 「…」 「Happy birthday to you~♪」 歌い終えた唯先輩が私に向かって微笑みかける。 「お誕生日おめでとう、あずにゃん♪」 「ありがとう…ござ…います」 自然と涙が溢れ出た。 「あ、あずにゃんどうしたの?」 「何でも、ありません…ちょっと目にごみが入っただけですから」 「え、でも…」 「ねぇ、唯先輩」 「なぁに、あずにゃん?」 「今日は本当にありがとうございました」 「ううん、私もあずにゃんと一緒にお祝い出来て良かったよ」 「それで、その…急だったからプレゼントとか用意できなかったんですけど」 「いいよいいよ、突然だったもんね」 「でも、唯先輩はとっても素敵なプレゼントをくれたじゃないですか」 「えへへ、喜んでもらえたなら良かったよ♪」 「だから、その代わりと言ったら何なんですけど…」 「うん?」 「今日は特別に、唯先輩のお願いを何でも聞いちゃいます」 「何ですと!?」 途端、唯先輩の目が輝きだした。 「あ、あの…私の出来る範囲の事でお願いしますね」 「あずにゃんにお願い事か、そうだね…」 「あずにゃん、今晩は泊まって行くんだよね?」 「あ、はい…一応そのつもりで来ましたけど」 「じゃあ、私と一緒に寝てくれる?」 「唯先輩と一緒に…って、えぇ!?」 「駄目?」 「えっと、駄目って訳じゃ…だけど私達はまだ高校生な訳ですし、その早いと言うか…」 「…あずにゃんのエッチ」 「にゃ、にゃああああああ!?」 「あずにゃん、顔が真っ赤だよ」 「ゆ、唯先輩のせいじゃないですか!」 「私はただ一緒の部屋で寝て、お話とかしたいなぁ~って思っただけだよ」 「あずにゃんは何を考えたのかな?」 「ふふ、あずにゃんのエッチ♪」 中野梓、一生の不覚。 結局、私は唯先輩の部屋で、純は憂の部屋で寝る事になった。 唯先輩と隣同士の布団に入る。他愛のない会話をしながら少しずつ夜が更けていく。 まどろみ掛けた頃、唯先輩が呟くように言った。 「あずにゃんも今日から17歳だね」 「そうですね、早いものです」 「私の誕生日はね、もう少し先なんだよ」 「はい、知ってますよ」 「あずにゃん、気付いてた?」 「何がです?」 「今日から私達、少しの間だけど同い年なんだよ?」 「!」 「だから…ね?」 私の耳元に顔を寄せ、唯先輩は大人びた声で囁いた。 「梓…」 「ゆ、唯先輩!?」 「駄目だよ、梓も…」 「え?」 「私達、同い年でしょ?」 「え、あ…」 「梓…」 「ゆ、唯…」 「うん♪」 「…」 「あずにゃん、顔が真っ赤だよ?」 「もう、知りません!」 「ふふ、ごめんごめん」 「…(唯って、呼び捨てにしちゃった…)」 「…(もう一度だけ、今だけだから…)」 「…唯」 私は唯先輩の方に向き直り、もう一度その名を呼んだ。 「zzz」 「…唯?」 「zzz」 「…」 「ゆ、ゆ、ゆ…」 「…ほぇ?」 「唯のバカーッ!!」 静まり返った家の中に私の怒声が響き渡った。 「隣の部屋、何か騒がしいね」 「うん、そだね」 「せっかく二人きりにしてあげたのに、ムードないなぁ…」 「良いんじゃないかな、お姉ちゃん達らしくて」 「まぁ、そうかもね」 「それに…」 「うん?」 「そのおかげで、私も純ちゃんと二人きりになれたし」 「おや、今日は甘えん坊だね、憂?」 「そうだよ、私が甘えるのは純ちゃんだけなんだから」 「うん、わかってるよ」 「大好きだよ、純ちゃん」 「私も好きだよ、憂」 この日は、私達4人の新しい誕生日になりました。 おしまい。 名前 感想/コメント: すべてのコメントを見る
https://w.atwiki.jp/25438/pages/4509.html
あずにゃんへ 今度の夏祭り、久しぶりに軽音部の皆で行くって約束でしたが、何でも、澪ちゃんがどうしてもりっちゃんと二人で行きたいと言ってるらしくて、集合は三人になりました。二人は今おアツいから、許してあげてね。 昨日唯先輩から送られてきた一通のメール。その最下に書かれていた待ち合わせ場所を三度反芻して、私は家を出ました。今日がその夏祭り当日。先輩方が卒業して以来、初めての再会です。夏休みの間はずっとこっちにいてくれるからいつでも会えるとはいえ、それでも再開初日というのは嬉しいような気恥ずかしいような、不思議な気分です。 夕方六時のチャイムが鳴る頃には、青空に赤い影がぼんやり滲んで、じいじいと耳をつんざくような蝉時雨も、まるで川の流れのように滑らかな音色になる、そんな時期になりました。 風も僅かながらそよそよと穏やかに流れていて、心地良い暑さが夏の終わりを、ぼんやりと連想させました。 川を越え信号を渡り歩くことおよそ十分。曲がり角を抜けた所、遠目に先輩たちの姿を確かめることが出来ました。 「あっ、おーい! あずにゃーん!」そう私が気付くや否や、唯先輩も私に気付いたらしく、こちらを向いて、手を広げながら駆け寄ってきました。 あぁ、懐かしいなぁ。唯先輩はいつも私と会えば、真っ先に駆け寄って抱き着いてきていました。しかし、今日の問屋は高めの為替。何故なら唯先輩と私の距離は、遠目と言うほどに離れているわけで…… 「これだけ離れてて、かわせないわけがないです!」 とはいえ、今身体をズラすにはいささかタイミングが早すぎて、もうちょっと近づかせないことには、唯先輩が対応できてしまいます。もうちょっと近づいてもらわないと。もうちょっと、もうちょっと…… 「梓ちゃん、久しぶりね~」 「わっ!?」 突然背後から話しかけられ、思わず後ろを振り向きました。声の通り、そこにはムギ先輩がいました。しかし、一体いつから背後に……? 「もう、ビックリしましたよムギ先輩」 「あらあら、ごめんなさい」 「……あの、どうして少し距離を置くんですか?」 「だってここがベストスポットだもの」 「ベスト……?」 言ってる意味はすぐに分かりました。 「あずにゃん久しぶり~! ずっと会いたかったよ!」 「うにゃあっ!?」 いつの間に距離を埋めた唯先輩が、後ろから思いっ切り抱き着いてきたのですから。 「半年ぶりのあずにゃん分だ~! お肌のモチモチもあったかさも変わんないねえ」 「や、やめてください唯先輩ぃ!」 そうやって言う唯先輩も、やっぱり半年前と何も変わらない。でも半年の月日が流れていたことは確かなだけに、すっかり免疫の無くなった私の心臓は、途端にばくばくと早鐘を打ちだしまして…… 「ム、ムギ先輩、助けてくださ」 「半年ぶりの唯梓分……! あぁ、どんどん癒されていくわ!」 「それどころじゃないご様子で……」 結局、これまでの空いた穴を埋めるように、私は唯先輩に思う存分味わされたのでした。 「もう。頬ずりまでしたんですから、人前でくっつくのはダメですよ」 「えぇ~。あずにゃんは手厳しいなぁ……」 唯先輩がそう不服そうに呟くのを、隣でムギ先輩が慰めていました。 ……後ろを歩いているお陰で、離れた後でも足が震えてるのはバレてない、と思いたいです。 「それにしても、あずにゃんが何も変わってなくて良かったよ~。反応は前より可愛くなってたけど」 「う、うるさいです。……でも、唯先輩もムギ先輩も、お変わりないようで良かったです」 「あ、でもねあずにゃん。ムギちゃんは大学生になってからたくさんバイト始めたんだよ」 「え、そうなんですか!?」 ムギ先輩を見ると、そうなのよ~とこくんと頷き、 「社会勉強をしたくてね。レジ打ちとか古本屋さんの棚整理とか、色々始めたのよ」 「いくつも掛け持ちしてるんですか、スゴいですムギ先輩!」 「褒めてもお茶は出ないわよ~」 スゴいと言われて、ムギ先輩はとても嬉しそうでした。お金に不自由なんてしないのに、自ら進んで働くなんて、ムギ先輩は人がよく出来ています。 「後ね、澪ちゃんとりっちゃんは別のサークルにも入ったんだよ。二人とも同じ『しいた』同好会なんだって」 「……角度同好会とは、かなりマニアックな集まりですね」 「ぷぷっ。あずにゃん、知ったかぶっちゃダメだよ~」 ムカッ。確かにダメ元で言いましたけど……。 唯先輩は得意気に続けます。 「あずにゃん、『しいた』っていうのはね、この詩のどんな所がいいかを調べたり、実際に作って見せ合いっこする所なんだよ」 「……唯先輩、その同好会、『しいた』じゃなくて、『しいか』だったりしません?」 「ほぇ?」 ムギ先輩の方を見ると、うんうんと二度首肯してくれました。 「……ま、この位すぐピンときますよ。先輩とは違って」 「あずにゃんが見下した! しどい… …」 「自業自得じゃないですか」 唯先輩がよよ、と泣き崩れるフリをしました。 「しかし、澪先輩はともかく、律先輩もそこに入ったんですね。意外っていうか……」 そう言うと、二人は示し合わせたかのように顔を見合わせて、ふふふと意味深に笑いました。 「何かあったんですか?」 「うふふ、そこにも健気なドラマがあるのよ。初めは澪ちゃんが、もっと詩の勉強をしたいってそのサークルに入ったのだけど、それを律ちゃんが聞いたら、その日の内に律ちゃんも入っちゃったの。『澪のポエムが暴走したらマズい』とか『人見知りが暴走して気まずくなった時の為に』って言ってたけど……」 「りっちゃんも素直じゃないよねぇ。二人のことはちゅーの一件で皆知ってるのに」 ねー、とまたまた示し合わせたように、二人が言いました。 「あの、私だけ話がついていけてないんですけど……」 そう言うと、二人の動きがぎくっと静止しました。 「あ、あれ、あずにゃん、何も知らない?」 「思い当たる節はありませんけど……」 「そ、そういえば、梓ちゃんはあの場にいなかったわね」 「澪ちゃんの寮に遊びに行った時のことだもんね。どうしよ……」 「他の人には絶対言うなって言われてるけど、でも梓ちゃんだし別に……」 何をひそひそ話してるんだろう……? そう思っていると、どこからともなく古典風な笛や太鼓の乾いた音色が聞こえてきました。きっとお神輿が担がれ始めたのでしょう。 「お祭り、始まったみたいですね 「あ、ほ、ほんとだっ! 早く行こうよっ、ね、ねね!」 「そ、そうね。私も久しぶりだし、ちょっとでも長く見ていたいわ!」 「ささ、早く行こあずにゃん!」 「そこまで急かさなくても……」 結局さっきの話題は何だったんだろう、と少し気になりはしましたが、程なく気にならなくなりました。 私だってお祭り前の訳ない興奮を覚えないはずはなく、殊に二人の先輩と再会して懐かしさの渦中にいたのもあって、一刻も早く屋台の群れに入りたい気持ちの方が勝りました。ひょっとしたら、この中で一番私が、今日というこの日を楽しみにしていたのかもしれません。 夕方のふわふわした暖かさが街へ溶け出したからでしょうか、薄灰色だった雲は目を射差すような橙色に染まり、その日光と盆提灯、屋台からこぼれた白色蛍光が混ざり合って、その光景はまるで夢や思い出の一シーンのように、全景がぼんやり滲んだ、とても幻想的な風景でした。 「あずにゃん、たい焼き食べる?」 「ありがとうございま……って、いつの間にそんなに買ったんですか!?」 気付けば唯先輩は持てるだけの食べ物を買ったという風体で、さながら食べ物の着ぐるみをまとっているかのようになっていました。 「まま、好きなの選んでよ。たこ焼きたい焼きさいきょう焼き、フライドポテトにスーパーポテトもあるよ」 「豊富ですね……」 最後のは商標的に訴えられたりしないでしょうか? 「じゃあ、たい焼きを一つ」 「あいまいど! お嬢ちゃん可愛いからタダね!」 「誰ですか」 そう言って受け取った一尾のたい焼き。紙ごしでも伝わる温かさは、屋台から貰った出来上がりも同然の温もりでした。 ……もしかして、私が食べると思って、最後に買ってくれたのかな……? 「はむっ……。いつもより甘い気がします」 「ほんと? 買ってよかったぁ」 食べているのは私なのに、まるで自分事のように喜ぶのを見て、思わず私も笑ってしまいました。 たい焼きを食べ終わる頃には、唯先輩の手元にはりんごあめしか残っていませんでした。食べている最中にムギ先輩にも譲っていたのですが、それにしたって尋常じゃないスピードです。 「あずにゃん、そんなにじーっと見てどうしたの?」 「一瞬で食べ物が消えてたらじーっと見たくもなります」 そう言っても唯先輩は依然、小首を傾げて、自分の口元手元に目線をやっていました。 「あっ、分かった! りんごあめも食べたいんだ。欲しがりさんめ~」 見当違いもいいとこです。 「しょうがないなぁ~。はい」 「……はい?」 「私のアメあげるよあずにゃん。二人で分けっこしよ?」 「なっ…………!?」 とっさに私へ差し出しているアメに目を落としました。形はあまり崩れていませんが、反対側の輪郭はもうしなっと曲がり、所々が濡れて妖しい光を放っていました。いや、この濡れてるのって、もしかしなくても……! 「い、いらないです! 唯先輩の分が減っちゃうじゃないですか!」 「気にしないよ~。寧ろ食べきれるか不安だったから、あずにゃんに食べてもらえたらありがたいなぁ」 拒むどころか、大義名分が出来てしまいました。 ど、どうしよう……。でも唯先輩が困ってるって言うなら、助けてあげるべきだよね……? そう、これはあくまで人助けなんです。あくまで唯先輩を助けるために…… 「あ、ムギちゃん。リンゴあめ食べる?」 「いいの? じゃあお言葉に甘えて~」 「あっ……」 悩んでいる間に、あめはムギ先輩の口に入っていき…… 「はい、あずにゃん」 そうしてムギ先輩を経てから渡されたリンゴあめは、何の躊躇いもなく食べることが出来ました。感謝の気持ち半分、勿体ないことをされた気持ち半分で、私はムギ先輩を見つめました。 「たくさん食べたし次は遊ぼうよ!」 「もう、ちょっとは休みましょうよ」 「ダメだよ~。お祭りは無駄なく遊ばないと」 ふんすと鼻を鳴らして、唯先輩はゲームの屋台がある左の小路へと入っていきました。 「もう、唯先輩は相変わらずですね」 「そうねぇ。でも、梓ちゃんがいるから、っていうのもあると思うわ」 「私?」 ムギ先輩は頷きました。 「唯ちゃん、梓ちゃんと会えるのをすごく楽しみにしてたもの。久しぶりにあずにゃんに会える! って事あるごとに言ってたのよ」 「……どうせ、ひっつく相手がいなくて寂しがってただけですよ」 「うふふ、そうね」 そう言うと、雑踏の前から唯先輩の呼ぶ声が聞こえました。 「あずにゃんムギちゃん、人で溢れちゃってるよー……」 唯先輩が退いてきた先では、隙間も無いほどの人の群れ。ちょうど近くで神輿の掛け声が聞こえるので、きっとそのせいでごった返してしまっているのでしょう。 「これを抜けるのは大変そうね……」 人混みを一目見て、ムギ先輩はそう呟きました。 「う……」 自然、前に進む足が固まってしまいます。どうしよう。もしはぐれちゃったら、二度と唯先輩と会えないような……。折角、折角また会えたのに…… あーずーにゃん」 ふわっと、手に温もりが重なったような気がして、見ると唯先輩が、私の右手をすっぽりと包んでいました。 「これならはぐれないかなぁ、って思って……。ダメだったかな」 そう言って唯先輩ははにかむように笑いました。さっきの不安なんて霞にしてしまうような、優しい、照れくさそうな笑顔。固まった身体が徐々にほぐれていく気がしました。 「……私と会いたがってた、って聞きましたから。特別です」 そう言って、より一層手を握る力を強めました。 「えへへ、ありがとあずにゃん。あずにゃんは優しいね」 「……優しいもんですか」 「優しいよ~っ」 ……どうせ鋭いなら、私の不甲斐ない気持ちも、見抜いてくれたらいいのにな。 「じゃ、行くよ。離れないようにしっかり握っててね」 私はそっと頷いて、それを合図にゆっくりと歩き始めます。もう一つの手で唯先輩の手を掴もうか少し迷って、その手で後ろ髪の片尾をふいと払いました。 「ふぅ、どうにか抜け出せましたね」 「はぐれなくて良かったぁ……。でもムギちゃん、ごめんね、繋ぐ手の余りがなくって」 「大丈夫よ。私には百合の磁力があるもの。二人とは絶対に離れないわ」 「? 綺麗な磁力だねぇ」 人混みを脱した直後だと言うのに、ムギ先輩の呼吸も表情も、一切崩れていませんでした。 「あっ、ムギ~! 唯と梓も!」 一息ついた所で景色が開けると、偶然にも、眼前に律先輩が現れました。 「なんだ、結局放課後ティータイムは一つに集まる運命なんだな」 「運命だなんてっ……。りっちゃんロマンティック~」 「はは、澪の癖があたしにも移っちゃったみたい……」 律先輩は照れ笑いをして頭をかきました。 「そういえば澪ちゃんは?」 「あぁ、澪なら……」 そこで言葉を切り、後ろの方を指さします。澪先輩は、屋台をじっと睨んだまま、何かを投げるようなポージングで固まっていました。実際何かを手に持っているようで、それは…… 「あれ、輪投げですか?」 「そっ。だるま落としの方が簡単だって言ったのに、だるまが落ちんのは演技が悪いって聞かなくて」 そう言ってる内に、澪先輩がさっと手首をスナップさせました。輪っかは手を離れ、屋台の陰に隠れその所在は知れぬ所となりましたが、澪先輩の強張った表情が解けたと思うと次にはがっくりとうなだれて、 「外したな」 「外したね」 「そんなに欲しい物があったのかしら」 「財布と電話を出さないでくださいムギ先輩」 やがて澪先輩が、がっくりとしたままこちらへ来ました。 「律ぅ……輪っかは完全に入ってなくちゃダメだってぇ……」 「あー、私もそれで神のカード貰えなかったなぁ」 帰って来た澪先輩は、律先輩の肩にしがみついてそうぼやきます。一方の律先輩はそんな澪先輩の頭を優しく叩いてあげていて……あれ、あれ。 「あの二人、あんなに距離近かったですっけ……」 「……隠すつもりもないみたいだし、もう言った方がいいよね」 「そうねぇ。あのね梓ちゃん、今二人はアツアツなのよ~」 「アツアツ? まぁあれだけ近かったら暑そうですけど……って、唯先輩! なんでそんな可愛いものを慈しむような目で見るんですか!?」 「いや~あずにゃんは初いのぉ、純粋だのぉ。そのまま大人にならないでおくんなまし~」 「だから何キャラなんですかってば」 「もうすぐ花火だって! 折角だから五人で見ようぜ!」 澪のお礼参りと行くか~! という鶴の一声で始まった屋台巡りも一通り堪能した後、またまた律先輩の鶴の一声で、花火の見える場所まで移動することになりました。前列の唯先輩達の会話を手持ちぶさたに聞いていたら、 「ぶつ、ぶつ……」 「み、澪先輩……?」 一緒に後ろを歩いていた澪先輩が心なしか、いや明らかにどんよりした様相で歩いていました。 「あぁ、梓。いや、皆とこうしてまた集まれたのは嬉しいんだけど、今年こそ律と二人で夏祭りに行こうって意気込んでたから、ちょっと複雑な気持ちで……」 苦笑いをする澪先輩の気持ちが何となく分かるような気がしました。それと同時に、とても意外な気がしました。 私の知る澪先輩は、こうやって心にひっかかるような、何となく分かる微妙な気持ちを、自然な会話の流れで口に出来るような人ではなかったはずです。 「澪先輩は、大学生になってから変わりましたね」 「そ、そうかな?」 「そうですよ」ふとさっきのやり取りを思い出して、「特に律先輩関係は、前よりずっと積極的じゃないですか。何かあったんですか?」 「!? べ、別に何もない! 何もないぞ!」 慌てて手を振って否定する澪先輩でしたが、何か思い直したように、照れくさそうに頬をかきました。 「……いや、うん。あった。ほんとは。」 「ですよね! 澪先輩と律先輩、今までの幼馴染って感じよりもっと深い関係になってるような……」 「わーっ! それ以上はダメだぁ!!」 澪先輩は真っ赤になって私の口を押えました。 「……というより、十年一緒にいた今までが変わらなさすぎたんだよ」 紅潮しきった頬を掌で押えて、澪先輩は続けます。 「でも勢いとはいえ、変えるきっかけが出来た。そのチャンスを逃したくなくてさ、もう少し自然に近づいてみよう、素直になれるよう頑張ってみようって思って」 最近までは凄く恥ずかしかったけどね。とおずおず付け加えます。 「……皆、新しい環境になって、変わっているんですね」 そう呟いた時、お祭りの人混みに飛び込む前にした近況報告をふと思い出しました。 ムギ先輩も律先輩も、澪先輩も変わっていく。成長。それを喜ぶのは至極当然な感情であるはずなのに、皆が私の知らない所で変わっていく。それがとても寂しくてしょうがない。 いつか皆、葉桜が紅く染まっていくように、私の知らない先輩達となってしまうのでしょうか。あの優しくてほんわかと温かい唯先輩も、もしかしたらきっと……嫌。そんなの、絶対嫌だ……! 身体が震えそうになっていることに気付いて、私は慌てて考えを薙ぎ払いました。よそう、こんなのただの気の迷いだ。一人で考えるから変な穴にハマるんだ。私と澪先輩はよく似ている。変わりたいと思えるきっかけを訊けたら、きっとこんなモヤモヤもすぐ晴れてくれる。 「……澪先輩」そう思うが早いか、言葉のまとまらない内に、私は澪先輩の名前を呼んでいました。 「? どうした?」 「あの、みお、澪先輩は……」 それから先の言葉が舌をつかず、澪先輩は首を傾げて私の言葉を待ちます。 「あの、澪先輩はどうして……!」 何でもいいから何か言ってしまおう。後で補足を入れたらいい、そう思い声を出しました。が、 「おーい! 着いたよーっ」 そう決心した瞬間、唯先輩が大きな声で私たちに呼びかけました。 「ラッキー! ちょうど橋の端っこになったぞー!」 「りっちゃん、それは寒いよ……」 「わざと言ったんじゃないやい」 そう言う内に、前を歩いていた先輩達の歩みが止まりました。ちょうど、何の妨げもなく花火を一望できる場所です。 「ごめん梓、何か言った?」澪先輩が再び私に尋ねます。 「…………花火なら、二人きりで見られるんじゃないですか?」 「……! そうだなっ。おーい、律~!」 クールなイメージと相反して、うきうきと音の出そうなステップで律先輩の元へ向かって行きました。 「言わなくてよかった……」折角コンプレックスを払拭しようと頑張ってるのに、私の気の迷いで足を止まらせては申し訳が立ちません。自分の悩みを人に丸投げなんてしては、解決なんて夢のまた夢です。 「……チャンス、かぁ」 その一語が、余計な重みを持ってのしかかってくるような気がしました。 もし私に変わるチャンスが訪れても、それを受け入れることが出来るだろうか。 ……ただ一人変わらずにいてくれている唯先輩にも、もしその日が訪れたら、私は笑って見送らなければならないのだろうか…… 「あーずにゃん」 「わっ」 物憂げに星を見ていたら、空っぽになっていた右隣に、いつの間にか唯先輩がやってきていました。 「良かったぁ。一人で見に行っちゃうのかと思ったよ」 「そんなことしませんよ。花火は誰かと見た方が良いに決まってます」 「そうだよね。私もあずにゃんと見る花火が、一番綺麗に見える気がするよ」 「わ、私は別に唯先輩と、とは言ってないです!」 心を見透かされたような気がして、一瞬ヒヤっとしました。お神輿近くの時といい、唯先輩はその時の気持ちをズバッと見透かしてくるくせに、それがどんな意味を持っているかには酷く鈍感なのがズルいです。いっそそこまでバレてくれたら……なんていうのは贅沢な話だよね。 二人とも無言のまま、花火は刻一刻と迫っていきます。心の中で手持ちぶさたを言い訳に、唯先輩の横顔を眺めました。 「……唯先輩は変わりませんね」 「えぇ~そうかなぁ。私、大学生になったんだよ?」 「じゃあ何か変わったんですか?」 「えーっと……アイスを三口で食べれるようになった」 「あ、それはちょっとスゴいかも……」 憎まれ口を叩きながら、内心ほっとしている自分がいました。 「……あずにゃん、がっかりした?」 唯先輩が不安げに私の方を覗き見ました。 「……何言ってるんですか。唯先輩はその方が良いです。唯先輩は、大学生になっても、ずっとそのままの方が良いです」 つとめて明るいイントネーションで呟いたつもりでしたが、自信はありません。 「あずにゃんがそう言ってくれるなら嬉しいよ」 唯先輩はほっとため息をついて笑いました。 「私さ、ちょっと不安だったんだ。ムギちゃんはバイトを始めて、りっちゃんも澪ちゃんも他にやりたいことを一緒に始めて、私だけ何もかも高校生のままで、それでいいのかな、って。でも、あずにゃんがそのままで良いって言ってくれるのなら、それだけで安心だよ」 「唯先輩……」 それでも、少ししょんぼりしている唯先輩を見ていたら、いてもたってもいられませんでした。 「……きっと唯先輩はまだチャンスが来てないだけです。前に進みたいと思う、その気持ち一つだけで十分素晴らしいです!」 少なくとも、時間に背中を押されて、ただ転ばないように前へ足を出しているだけの私なんかより、ずっと、ずっと…… 「……あずにゃん、ありがとっ!」 「ぎゃふっ!?」 ぎゅっとまた抱き締められました。さっきは確かめる余裕が無かったけど、唯先輩から伝わるのは懐かしい温かさ。とても幸せな、だけど何故か切ない温もりでした。 「もう、離してくださいってばぁ」 「ダメだよあずにゃ~ん。花火が始まるまでだよっ」 そう言うや否や、どこかのスピーカーからざらざらした女の人の声が、後五分で花火が上がることを告げに来ました。 「あずにゃん、もうすぐ花火が上がるって!」 パッと唯先輩の身体が離れました。 「……始まるまでって言ったのに」 「? 何か言った?」 「な、何も言ってないです!」 ほとんど無意識にそう呟いていました。……参ったなぁ。本当に唯先輩への耐性が無くなっちゃったみたい。 花火のしらせはやがて群衆のざわめきに変わり、それが最高潮になった瞬間、一つの大きな花にまとまり、ドンとお腹に響く音と共に空へ打ち上げられました。赤や黄色、緑や青、めいめいの花が咲いては消え、でも夜空を空白のままにしないよう、次々連なって昇っていきました。 時には二つの輪が半分以上重なり合い、混じって派手な円模様と、多色混合の彩り豊かな火花が散り、かと思えば次の瞬間、二輪はどんどん離れて行き、ついには壁でも出来てしまったかのように、妙な距離が出来てしまいました。 あぁ、もっと近づけたなら鮮やかな景色になるのに。寄せては返す花火の距離がもどかしくて、もっと、もっと右に行けたなら……。と思いながら、くい、くいと身体を右に傾けていたら、こつん、と右手が何かにぶつかってしまいました。何が当たったんだろうと右を向いた時、唯先輩と目が合いました。 「あっ、ごめんなさい唯先輩」邪魔をしちゃったな、とすぐ悟りました。 そう言うと、唯先輩はくしゃっと顔を崩して、さりげなく、まるでさっきからそこにあったかのように、自分の左手を、私の右手の中へ滑り込ませていきました。 「これなら邪魔にならないよっ」 無垢な笑顔で私にそう言いました。 私は返事代わりに、うつむくように頷いただけでした。 それでも唯先輩は満足げに笑って、再び夜空に目をやりました。私もつられて顔を上げると、右腕にとん、と唯先輩の肩がもたれかかってきました。 「あずにゃん」 そう呼びかけられなかったら、私はまた横を向いて、何をしてるんですか!? なんて身構えたかもしれません。ただ、そんないつも通りを過ごすには、唯先輩の仕草が、私に語りかける、真剣な響き故に小さくなってしまった声が、それが私にしか聞こえない奇跡みたいな状況が、あまりに特別過ぎました。 「……どうしましたか、唯先輩」 空を見上げたままそう尋ねました。 「あずにゃん、私、やりたいことを見つけたよ」 ほら、こうして良かった。その一言に思わず強張った横顔は、花火が昇る今ならきっと、唯先輩に見えていないでしょう。 「私、ここに戻って来て、あずにゃんとこうやって一緒に夏祭りを楽しんで、ちょっと分かった気がするんだ。変わらなかったのは、やりたいことをもう既に見つけてるからじゃないのかな、って。でもそれを始める引き金が、まだ私に無かっただけなんじゃないかのかなって。あずにゃん。私はもっとギターをやりたい! 放課後ティータイムとしてだけじゃなくて、もっと、もっと!」 どどどん、と一段大きな音がしました。でも、その花火がどれだけ立派だったのか、私は知る由もありませんでした。だって…… 「だからあずにゃん! 大学生になったら、私と二人で、一緒にギターをしてください!」 その瞬間、唯先輩は私の手を両手に包んで、まるで告白まがいなことを大真面目に言うのですから…… 「な、なな、何をいきなり言うんですかぁ!?」 突然の途方もない誘いを受け入れられる度量も無く、とうとう我慢できず悪い癖が出てしまいました。でも、 「…………唯、先輩……」 慌てふためいた拍子に揺れた身体も、唯先輩にがっちりと包まれた右手だけは微動だにしませんでした。 「あずにゃん、お願い……」 真剣だけど、どこか甘えんぼで哀れっぽい口ぶりと表情。こんな顔されて、私にどうこう出来るはずなんてないわけで…… 「……もう、唯先輩は勝手です。私の都合なんて知らんぷりであずにゃんあずにゃん、って……」 「あぅ……」 唯先輩の両手がびくっと引っ込んだ気がしました。違う、こんなのが私の気持ちじゃないのに……。唯先輩が勝手なら、私だってよっぽどワガママだ。 ……でも、同じワガママなら、背伸びでも屈みでもして唯先輩と目線を合わせることだって出来るはずだ。 私は息を一つ吸って、言いました。 「……半年です」 「ほえ?」 「私の受験が終わって、唯先輩と同じ大学に入って、その時にも唯先輩の気持ちが変わらないなら、また誘ってください。……私の気持ちは、絶対に変わりませんから」 唯先輩の顔に、パッと笑顔の花が咲きました。 「あずにゃん、ありがと~!」 唯先輩がまた抱き着きました。 「ゆ、唯先輩、こんなに人がいる所でっ……」 「だいじょーぶ、皆花火に夢中で見てないよ」 「……もう」 それもそうだなぁ、って納得してしまった私は、余程重症なのでしょう。 変わること、先に進むこと。それはまだどうしようもなく怖い。大切な物がふいになってしまう位なら、ずっと今のままで居続けていたい。 でも、これでまた四年の間は先輩の背中を追いかけていられる。答えは唯先輩と一緒に見つけていこう。見た事のない世界をたくさん見せてくれた、この人とならきっと見つけ出せる。 もしその道程で何かが変わってしまっても、その目の前に変わらず唯先輩がいてくれるのなら、大事な物は、そのままでいてくれる。そうに決まってる。 三度、私は空を見上げました。花火は終盤に差しかかったのか、間髪入れず次々打ち上がり空に咲き乱れて行きます。色とりどりの、輪郭がぼやけた花が空高く咲き乱れ、その下では菜種色の炎が控えめな花を咲かせ、水面にたゆたう葉のようにはらはらと花弁を散らしていくのでした。そこに無粋な余白など、どこにもありはしませんでした。 夏が終われば、何かが変わる。そんな移ろう季節の真ん中は、全てが鮮やかに輝いていました。 あとがき ここまでお付き合い下さり、ありがとうございました。楽しんでいただけたら幸いです。 読みづらい文章だったらごめんなさい。これが今のところの、文章力の限界です。 次に投稿する時は、もっと文章力や見せ方を向上させてきます。 再度、ここまでお付き合い下さり、ありがとうございました! そしてあずにゃん、お誕生日おめでとう! 戻る
https://w.atwiki.jp/83452/pages/3166.html
梓「でも私の周りに男の人なんて居ないし、どーしよ…」 唯「あーあずにゃんだ、やほ~!」 梓「あっ、唯先輩、こんにちはです」 唯「まだあずにゃんだけかぁ、全く皆遅いなぁ~」 梓「はぁ…そうですね…」 唯「ん~それにしてもあずにゃんは本当に可愛いなぁ~っ」 梓「ちょ、唯先輩、抱き着かないでください!」 唯「可愛いなぁ~もう~」 梓「む、むね!胸に手が、手が当たってます!やっ…!」 唯「あ、ごっ、ごめん。調子に乗りすぎだよぅ…」 梓「あ…、う、はい、大丈夫ですけど…」ドキドキ 梓(律先輩が言ってたのって、お、女の人からでも効果あるのかな…) 梓「あの~、唯先輩…」 唯「なんだいあずにゃん?」 梓「ちょっと相談があるんです…!!」 唯「ん~…?よし、先輩にど~んと相談してみなさいっ!」 梓「どうしたら胸が大きくなりますか!?」 唯「…え?」 唯「え、いや、うん?胸を大きくしたいの?」 梓「はい…。」 唯「私は、あー、そのままでいいと思うんだけどなぁ…」 梓「でっ、でも私のクラスの友達は皆大きいし、こんなちっちゃい胸…」 唯「これからおっきくなるよう!」 梓「こ、こんな胸じゃ澪先輩に勝てないんですっ!」 唯「…へ?」 唯「えー、なんで澪ちゃんに勝ちたいの?」 梓「あう、それは…えと」 唯「?」 梓「ゆっ、唯先輩は胸が大きいのと、小さいのはどっちが好きですか…?」 唯「ん~、おっきいのとちっちゃいのなら、私はおっきい方が好きかも」 梓(や、やっぱり!唯先輩は澪先輩が好きなんだ!) 梓(澪先輩にはどうしても負けたくない…) 唯「あーずにゃーん、ボーッとして…。戻ってこーい。あーずにゃー」 梓「うひゃあ!?」 唯「ふぇ!?」 梓「唯先輩、かかかかかか、顔近いですっ!」 唯「あ、そっか。逆にビックリしちゃったよう。ごめんねあずにゃん。」 梓「い、いや、いいですけど…っ。」 律「やべー、何か中に入りずれえ…」 パカン 澪「お前が梓にあんな事言ったのがきっかけだろ…」 律「った!一々叩くなよ澪!痛いだろーっ!」 澪「全くお前は…」 紬「あらー、何してるの?りっちゃん、澪ちゃん。」 澪「あー、ムギ、ちょっと中覗いてみ」 紬「…?」 紬「あら、あらあらまあまあ」 紬「とっても楽しそうなことしてるわね。」 澪「楽しそうかぁ…?」 唯「う~ん、それにしても皆遅いねえ」 梓「そうですね…。」 梓(皆来ない…、唯先輩に、今ならっ!) 唯「ちょっと見に行ってくるよー」 梓「ままま、待ってください!」 唯「どうしたのあずにゃん?」 梓「ああ、あの、その、わわ私の胸をもんでくらひゃいっ!!」 唯「ふえぇ?」 律「うおおおおおおお!!」 澪「あ、梓!?アイツ何を言い出すんだ!?」 紬(キタ━━━(゜∀゜)━━━!!) 澪(こここれはマズイ!唯に何て事をさせる気だ梓は!唯の全ては私の物なのに!) 紬「早く!早く!」 律「ちょおいムギデコ掴むな痛い痛い!!」 唯「あ、ずにゃん?突然どうしたんの?」 梓「へっ、えぁ、あの、私、今っ…うぁあ」カアアアアッ 唯「…私があずにゃんの胸を揉めばいいのかな?」 梓「わっ忘れてくだ…って、え、先輩、今何て?」 唯「えへへ、ちょっと恥ずかしいけど、可愛い後輩の頼みだもん!聞いてあげなきゃね?」 梓「せせせせ先輩!?あっ…!」 澪「律!これはマズイよ!何とかしないと!」 紬「どこもマズくなんてないわよ?」 律「いいから離してムギ!痛いってば!何でそんな妙に興奮していたたたた!」 澪「止めなきゃ!」 紬「待って澪ちゃん落ち着いて!」 律「落ち着くのはお前だ痛い痛い離してお願い離して!」 梓「あの、先輩っ、優しくして…ください…」 唯「…ねぇ、ちょっと扉の外煩くない?」 梓「え?」 唯「ちょーっと待ってね」 梓「は、はぁ…。」 唯「えい!」 紬「っえ?」 澪「あ?」 律「うぉ」 ドサドサドサ 唯「なんだ、皆着てたんだ!」 澪「い、今偶然皆音楽室前でバッタリなぁ」 紬「えっ、ええ、そうなのよ。」 唯「そうなんだぁ。えへへ、ムギちゃん、早くお茶にしよー?」 紬「あ、はい。ちょっと待っててね。」 梓(む、むぅー…) 澪(危なかったな…) 紬「はい、紅茶とケーキよ唯ちゃん。」 唯「わーい!ありがとムギちゃん!ムギちゃん大好きーっ!」 梓・澪「なっ!?」 紬「…まぁ。」 紬(後ろからどす黒いオーラを感じるのですけれど…) 梓(そうなのか唯先輩が本当に好きなのは澪先輩じゃなくて ムギ先輩だったのかなんてこった盲点だったどうしようお金持ちで綺麗であの眉毛じゃ勝ち目がないよう) 澪(ななな、何て事だ。唯、冗談はやめてくれよ唯が本当に好きなのは私なんだろ? そうだよなまさかムギが好きなんてないよな確かにムギは可愛いけど…) 律「あー…ん、デコがいてえよぅ」 梓「律先輩…マジック持ってます?」 律「ん~?持ってるけどどうするつもりだ?」 梓「貸してください!」 律「?まぁ別にいいけどさぁ。ほい」 梓「ありがとうございます!」 澪(コイツ一体何を…、ハッ!?) 澪「待て!落ち着くんだ梓!」 梓「止めないでください!私は私の意思で…これを…!」 澪「所詮マジックで書いた眉毛なんて偽物に過ぎないんだぞ!!」 梓「う…確かにその通りですけど…っ!」 唯「んはぁー、ケーキうまうま~。」 澪(だけど…唯のために自らマジックで眉毛まで書こうとするなんて…本気なんだな、梓…。) 唯「紅茶、美味しかったぁ。」 澪「! なぁ唯。少しカップの中に残ってるぞ?」 唯「あれ、本当だ。でももう飲み切れない…どーしよう」 澪・梓「!!」 紬(唯ちゃん、わざとやってるのかしら?私は面白いからいいけれど…) 澪「私が飲んでやるよ!」 梓「もう少しだけ飲みたかったので丁度いいです!私が飲みますよ!」 澪「…あ?」 梓「…ん?」 澪「梓、そんなに飲みたければ私が新しく入れてやるぞ?」 梓「私は後ちょっとだけ飲めればいいんです!だから丁度いいんですよ!」 澪「なら後ちょっとだけ私がにいれてあげる!」 梓「わざわざ申し訳無いじゃないですか!何で頑なに新しく入れたがるんです!?」 澪「そ、そりゃあ後輩の事を思ってだな…」 梓「嘘です!本当は唯先輩のカップで、その、かっかかっ、かっ間接キスしたいだけなんでしょう!?いやらしい!」 澪「なぁ!?そんな訳無いだろ!それだったらそっちこそ!」 律「なぁ唯。ちょっと余ってんじゃん。貰うぞ?」 唯「え?うん、いいよ。」 律「ありがと」ゴクッ 梓・澪「 あ あ あ あ あ あ あ あああ あ!!!」 2
https://w.atwiki.jp/83452/pages/10912.html
~おふろ!~ かっぽーん。 唯「お風呂はいいねぇ……リリンの産み出した文化の極みだよねぇ」 梓「お猿さんとか、動物も普通に入りますけどね」 視線をどこに向けたらいいのかわかんない。 唯先輩に先に服を脱いでもらって、その次に私が入ったんだけども……やっぱり、自分が特殊な性癖の持ち主なんだって自覚しちゃったわけで。 唯「あ、ごめんね。急いで身体洗っちゃうね」 梓「いえ、折角ですから! 私にお背中流させてください!」 唯先輩が持参したスポンジを強引に奪い取る。 お湯と泡にまみれた綺麗なお肌……これを目の前に何もしなかったら、それこそ異常だと思う。 唯「あれ……あずにゃん、どしたのかにゃー?」 梓「ん……しょ、んしょっ……ちゃんと首筋からもっぺん洗い直しますけど、いいですよね?」 唯「うっ、うん……」 片手で髪をまとめて、優しくスポンジング。 汚れているようには見えないけど、しっかり洗わないとお風呂に入った気がしないかもしれないから、ね。 梓「ん……」 首から肩、肩胛骨の辺りを通り過ぎて背すじに手を滑らせて、次は脇腹。 唯先輩がくすぐったそうにしてるけど、私はむしろその様子が嬉しいというか。 唯「あん、や、あずにゃんっ……んんっ、あぅ、くすぐったいよおっ」 梓「それは私のせいじゃないです。唯先輩が持ってきたスポンジのせいです」 直接触れてないんだから、決して今まで洗ってる間に把握した私の力加減が問題になるハズがない。 だから、悪いのはスポンジなんです。ええ。 唯「んぅっ……ん、んっ……あ……♪」 脇腹、お尻、脚……どうしよう、このまま前の方も洗わせてもらっていいのかな? ん、まぁ、止められるまでは……っと。 梓「唯先輩、腕を上げてください」 唯「んっ」 肩から二の腕、そして手首も指先も丁寧に優しくこする。 返す刀で反対側、腕の真っ白な内側の肌を特にやわやわとこすりつつ、唯先輩の表情を伺う。 唯「んん……あ、はぅ……はぁぁ……♪」 痛くはなさそう。 なら、このまま続けても大丈夫だよね。 梓「ん……んくっ」 唯先輩の脇の下から、ちょっと手を伸ばせば……いやいやいや、私ってば何を考えてるんだか! ……でも、唯先輩が嫌がらないんだったら、いいのかな? 唯「んふっ……ふ、ふうっ……」 身体の裏側を洗い終えて、今度は表側なんだけど……唯先輩、『残りは自分でやるから!』みたいなこと言わない。 っていうことは、このまま続けても構わないと。 でも、一応聞いてみないと。 梓「唯先輩。前の方も、私が洗っちゃっていいんですか?」 唯「ふぁ……うっ、うん……あずにゃんの洗い方、優しくて気持ちいーし……全部お任せしちゃっていい?」 梓「んく……はい、です」 唯先輩、『全部』って言った。 スポンジ越しにでも、全身をくまなく触っていいよ、ってことだよね。 唯「んぅ、ん……はぅ……♪」 梓「あの、もし痛かったらすぐ言ってくださいね?」 唯「うん♪」 優しく、優しく、優しく。 冗談でも『痛い』なんて言わせないように、脇の下からそっと胸の膨らみにスポンジを滑らせてゆく。 ……ふにゅん、って手応え。スポンジ越しなのに。 唯「んん……は、はぁ……はっ、はあ……」 唯先輩の息遣いが、荒い。 その呼吸に合わせるように、私なんかが何人集まっても敵わなさそうなおっぱいを、揉むようにスポンジでこすってく。 スポンジよりも柔らかくて、でもしっかり弾力があって。 膨らみの頂点の辺りは、特に特に特に、そっと丁寧にこする。 唯「んぅっ♪ ふあ、あぅ、あ……♪」 梓「…………」 ここは、強くこすると痛いですもんね。 ちゃんと洗って、膨らみの下側と、谷間もこすって……反対側も同じく洗うです。 唯「ねっ、ね、あずにゃん? お願いがあるんだけどぉ……」 梓「……何でしょお?」 唯「おっぱいはいいけど、その……お股は、あんまり、えろっちぃ触り方しないでね?」 梓「にゃっ!?」 えろっちぃ、とか。 そんなつもりじゃなかったんだけど、あ、あれ? 思い返してみると、結構、そんな感じだったような……? ……で、でも、ここまできたら退けないんですよ、唯先輩! 梓「えろっちく感じるのは、えろっちぃこと考えてるからですよっ」 唯「あん、あ、そ、そんなっ」 わしわしわし、とさっきより強めに、反対側のおっぱいをスポンジでこする。 でも、唯先輩が嬉しそうなのは気のせいかな? 唯「んっ、あぅ、ああ、あずにゃんっ……はぁ、あぅぅっ」 梓「…………」 ま、大丈夫なんでしょう。 続き続き……っと。 強めにしてた力を弱めて、何だかさっきの反対側より膨らんでるような頂点部分を丁寧にこすって、お腹を洗って。 唯「あ……は、はぁ……はぁっ、はぅ……あずにゃんって、ベビーフェイスに似合わずテクニシャンだねっ」 梓「私が子供っぽいってことですか?」 唯「ううん、そうじゃなくって……私があずにゃんを洗ってあげるつもりだったのに、出来なくなりそおだよ……んっ♪」 スポンジをお腹から脚へ回らせて、そろそろ内股の番。 とってもデリケートで、他人に見られるのは勿論、触らせるなんてとんでもない場所なんだけども……唯先輩は、くてっと無防備で。 梓「……続けても構いませんか?」 唯「うっ、うん、お願い……」 ちょっと身体を傾けて、何となくだらしなくなった唯先輩の上半身を肩で支える。 私に甘えてる……のかな。 まあ、お願いされたからには、きちんと綺麗にしなきゃいけないですし? 唯「んふ……そこ、憂にも触らせたことないのに」 梓「んにゃっ!? あ、あっ……じゃぁ、私が初めてってことですかっ」 唯「うん」 思えば今まで不自然なくらいに出てこなかった、憂の名前。 それが、『初めて』っていうことを特別に強調する為なんだから、私はもう頭が真っ白になってしまって。 梓「は、はぅあ……そ、そのぉ……優しくしましゅ……」 唯「うん」 優しく、優しく……身体の中で一番敏感な場所だから、こう、もっと優しく……。 唯「んっ……んん、あ、ふぁ……」 さ、さすがに、ここまでが私には限界みたい。 シャワーを出して、湯温が安定したところで、唯先輩の全身を一気に流す。 唯「ぷふぁ!? あ、あれ、あずにゃん?」 梓「もっ、もお、洗い終わりましたから……髪は自分で洗ってくださいね!」 唯「んぅ……もうちょっとだったのに、あずにゃんのいけずぅ……」 ……何がもうちょっとだったんですかね。 とは聞けず、私は唯先輩をバスタブに追いやって、慌てて急いで全身を洗った。 勿論、髪も。 唯先輩に同じことされないように、割り込む隙を与えないように。 梓「じゃ、唯先輩も髪洗ってください。私は温まったらすぐ上がりますから」 唯「えええ。持ってきた下着、全部見たいって言ったじゃん、あずにゃん」 梓「そ……れは、また後程。狭い脱衣場でファッションショーはどうかと思いますし」 唯「んにゅー」 鼻の辺りに力が入らないようにしながら、腕とフェイスタオルで大事な部分を隠しつつ、唯先輩と入れ替わりでバスタブに浸かる。 唯「残念だなぁ……ん、あずにゃんに……一番似合うのを選んで欲しかったのに……」 ああ……そんな乱暴にわしわし手を動かしたら、私なんかとは比べるべくもない大きなおっぱいがふるふる震えて……んくっ。 直接触ったり揉んだり……私、本当はもっとえちぃこともさせて欲しいんですよ、唯先輩。 ~ゆあがり!~ 唯「もー、先に上がっちゃうなんて酷いよ、あずにゃん」 あ、可愛いパジャマですね。 どう頑張ってもせくちーには見えませんが、よく似合ってると思いますよ。 梓「髪を乾かさないといけないですから。唯先輩よりずっと時間かかりますし」 と言いつつ、買っておいたアイスを差し伸べる。 その途端、唯先輩は頬をぷうっと膨らませていたのに、嬉しそうな表情になった。 唯「あーいーすーぅ♪」 そんな、飛び付いて取らなくてもいいのに。 梓「……はー。さっぱりしましたね」 悪戯したせいで、悶々とした気分が余計に昂ぶっちゃったような気がしますけど。 唯「うん、そーだね。このまま寝てもい……くない」 あ。大好物のアイスを食べながらも、しっかり当初の目的を忘れてない。 っていうか、唯先輩の中では何がどういう優先順位なんだろ? エロス? 私? アイス? 睡眠? ……うん、まぁ、すぐにわかるんだろうけどね。 梓「んぐっ、んっ……ぷはぁ。もう一杯……」 唯「あむあむ……いい飲みっぷりだねえ、あずにゃん」 梓「ええ、まぁ、緊張して……じゃなくって、お風呂上がりで喉が渇いたもので」 さて。 アイスを食べながらじゃ、私に抱き着けない。 えっちぃDVDを見ておかしな気分になったとしても、やっぱりアイス片手じゃどうにもならないだろうし。 大人しく眠っちゃう……っていうのは、一番考えにくいけど、どうなのかな? 梓「さっぱりしたところで、お待ちかねのDVD見ましょうか、唯先輩」 唯「はむ……んふ。そっか。あずにゃん的にはお待ちかねだったんだぁ?」 梓「んくっ、んんっ……こほん。見るんですか、見ないんですか? 本ごともらっちゃった以上、私は別に慌てて今夜見なくてもいいわけですが」 唯「ああん、あずにゃんってばぁ。見るに決まってるじゃないのさー」 アイス、まだ半分も食べ終えてないのにですか。 唯先輩的に、アイスとエロスはつり合うくらい大事ってことですかね。 ~おたからかんしょうちゅう!~ 唯「ふおおおお……!?」 梓「うく……は、はうう……こ、こんなことまで……っぷ、ふう……あむないあむない……」 危ない気がしてティッシュを鼻に当ててみたけど、何とか大丈夫だった。 画面から目を離したついでに、隣でアイスを頬張りながら、食い入るようにテレビに釘付けな唯先輩を眺める。 唯「お、おおう……こりはちょっちヤバいんじゃないかな、あっ、ああ、水着がズレて見えそうっ! うはー! あ、もちょっと……ああん! 戻しちゃ駄目だよう!」 反応から考えるに、唯先輩も初めてこのDVDを見るというのは本当っぽい。 だって、アイスを舐めるのがおろそかになって、雫が垂れそうになってて……。 梓「……んくっ」 零しちゃ駄目だよね。 ぺとぺとになっちゃうもんね。 パジャマに零れたら、お洗濯しなきゃいけなくなっちゃうしね。 唯「そこだー! いけー!」 はい。いきます。 唯先輩の唇……のすぐ近くの、アイスの角に伝った雫のとこまで。 梓「んぁ……はぷっ」 唯「ひゃあ!?」 梓「んちゅっ……ちゅうっ、れる……はぁ……だ、駄目ですよぉ、唯先輩……アイス、溶けちゃってるじゃないですか?」 私が雫をすする音を立てるまで気付かなかったみたいで、唯先輩は手こそ放さなかったものの、びくっと大きく肩を震わせた。 唯「あっ……うん。アイス、アイスね……えへへ。ごめん、ぼーっとしちゃってたよ」 梓「いっぺんDVD止めますね? ちゃーんと、集中して見られるように」 ぴ。 唯「ああん」 梓「早く食べちゃってください。じゃないと、私も気になって仕方ないですから」 唯「……気になって仕方ないと、今みたくキスのふりして私をびっくりさせちゃうんだ、あずにゃんは?」 梓「驚いたのは唯先輩の勝手です。私はただ、雫が落ちたらぺとぺとになって困るなぁと思っただけで」 唯「じゃあ、こうしたら……また、ぺろぺろしてくれるのかな?」 唯先輩はそう言って、パジャマのボタンを片手で器用に外していく。 上から順にひとつふたつみっつと、ブラに包まれた膨らみが覗けてもお構いなしに。 梓「あにょっ!? ゆゆゆゆっ、唯しぇんぱいっ!?」 唯「ほーら、あずにゃん。アイスの雫が落ちちゃうよ、私がぺとぺとになっちゃうよぉ~」 わざと口元からアイスをズラして、首筋に雫が垂れるようにする唯先輩。 変なDVDを見てたせいか、綺麗なお肌がほんのり紅くなっていて、思わず生唾を飲んじゃう。 梓「んく……」 唯「ぅんっ……ちべたっ」 ぽたり、と鎖骨のくぼみに一滴落ちる。 ティッシュか何かで拭けば、きっとこの悪ふざけも終わったハズなのに。 気が付けば私は、舌を伸ばして雫を舐め取ってしまっていた。 梓「んぅ……ちゅ、ちるっ……」 唯「ふあ、あっ……あーずにゃんっ……♪」 ふるるっ、と唯先輩が嬉しそうな声を上げて、小さく身震いした。 何もかもが、とっても、甘い。 梓「んふう……ふ、ふむっ、ちゅっ、れる」 唯「あ、ん、次が垂れちゃうよ、あずにゃん……もっと舐めてくれる?」 梓「は、い、唯先輩……しっかり、綺麗にします……」 唯先輩の肌の滑らかさと体温を舌で感じて、とろけそうに甘ったるい声を聞かせてもらって。 特別に何をされたわけでも、したわけでもないのに、私はぼうっとしてしまって。 左右の鎖骨の真ん中辺りに落ちたふたつめの雫を、吸い取るように味わう。 梓「んちゅっ、ちゅるっ、れるるっ……ん、ふぅ……ちゅぅ、ちゅっ、んんっ」 唯「やぁん、あずにゃん……一生懸命に綺麗にしてくれるのは嬉しいんだけど、たった一滴なのに激しくなぁい?」 梓「あぅ……い、嫌……でしたか?」 唯「ううん? 私、今、『嬉しい』ってゆったよね?」 梓「だって、『激しい』とも言いましたから……調子乗っちゃったのかなと」 唯「どんどん乗っちゃっていいよ。あずにゃんのしたいように……ね?」 そう言いながら今度は、アイスをお肌に直に触れさせた。 砂糖水の塊は唯先輩の体温ですぐに溶けて、私の密かな憧れだった胸の谷間へ滑り込もうとする。 梓「あ、あっ……んむっ! んるっ、れるるっ、ちゅぅぅ……ん、んっ……んむ……?」 唯「……えへへ。こおして直接おっぱいに顔を埋めてもらうのは初めてだね」 梓「ふあ、あぅ……わ、私っ、その、ブラが汚れちゃいけないと思って……」 ああ、何て酷い言い訳なんだろ。 こんなにふにふにやわやわのおっぱいに顔を埋めて舐め取らなくたって、ちゃんと拭くものを用意してあるのに。 唯「ブラ、取っちゃってもいいんだけどな……あずにゃんが脱がせてくれるならね」 梓「……こんな体勢で言うのもあれですが、やっぱり早くアイス食べちゃってください」 唯「ええ~? どおして?」 梓「どおしても、ですっ」 唯「んむー……」 私は舌を引っ込めて、ブラとパジャマの上から唯先輩に抱き着いて、もう舐めませんよという意思表示。 これでも垂らされたら、髪がぺとぺとになっちゃうところだったけど。 しゃくしゃくって急いでアイスを食べる音がして、くずかごに棒を捨てる音がして。 唯「食べ終わったよ、あずにゃん。ブラ外してくれてたら、もっと色んなとこにアイス垂らすつもりだったんだけど」 梓「そんなの、まだ早いですっ! えと、あの、何をどうすればいいんだか、私は全然わかりませんしっ」 唯「それじゃぁ……DVDの続きだね? えっちな課外授業だね?」 梓「……ええ。つまりは、そーゆーことです」 初めての私にはレベルが高すぎるかもしんないけど、参考にはなるハズだから。 唯先輩が、ぎゅーっといつもより深く私を抱き締めてくれたところで、ぴっとリモコンを押す。 唯「あれ、巻き戻し?」 梓「はい……その、唯先輩がどんな表情かなーってチラ見したら、アイスが垂れそうだったので……ちゃんと見たいですし……」 唯「ふふふ。あずにゃんのすけべー」 梓「何とでも言ってください。唯先輩の方がもっと、もっともっと、もっともっともっとすけべーなんですから」 唯「先にえろっちぃことしてきたのは、あずにゃんだけどねー」 ううううう。 させたのは誰なんですか、もう。 5
https://w.atwiki.jp/tesu002/pages/4492.html
唯「ごめん・・・憂・・・」 憂「お姉ちゃん・・・」 唯「でも私お姉ちゃんだから・・・お姉ちゃんだから・・・」 憂「うん・・・」 唯「妹が、憂が間違ったことしたら・・・私が止めないと」 憂「うん・・・」 唯「あずにゃんが言ったんだ、全部、悪いのは憂で、私は悪くないんだって、澪ちゃんが、悪い憂で、ムギちゃん、私悪くない、律っちゃんも、あずにゃん、言った」 憂「そっか・・・」 唯「ごめん憂・・・憂・・・ごめんね・・・」 憂「ううん・・・私こそ・・・悪い妹でごめんね・・・」 唯「憂ぃ・・・」 憂「お姉、ちゃん・・・叱って、くれて・・・止めてくれて・・・ありがとう、ね・・・」 憂「」 梓「憂逝ったあああああああああああああwwwwwwwwww」 梓「憂選手、今のお気持ちは?」 憂「」 梓「憂選手ー?」 憂「」 梓「答えてくださいよー」 梓「・・・」 梓「し、死んでる・・・!」 唯「うっ・・・うぅっ・・・」 梓「な、泣いてる・・・!」 梓「なにこの状況・・・ドッキリ?」 梓「あの・・・唯先輩・・・なんて言ったらいいか・・・」 唯「・・・」 梓「憂・・・なんでこんなことに・・・」 梓「いやだよ・・・こんなの・・・みんな・・・」 唯「大丈夫だよ・・・あずにゃん・・・私がついてるから・・・」 梓「それもそっすね」 梓(なんでこんなことになってしまったんだろう) 梓(ちょっとした気持ちのすれ違いがこんな悲劇を呼ぶなんて・・・) 梓(唯先輩が泣いてる・・・こんなのいやだ・・・) 梓(私は唯先輩の笑った顔が好きなんだ) 梓(嘘でも悲しい顔なんて見たくない) 梓(それなのに・・・) 梓(私は私達をこんな目に合わせた人を) 梓(許さない) 唯「ごめんね・・・憂・・・私もすぐに行くから・・・」 梓「っ!?唯先輩ダメです!」 唯「あずにゃん・・・」 梓「私についててくれるって言ったじゃないですか!」 唯「ごめんね・・・でもあずにゃんならきっと大丈夫だよ・・・」 梓「当たり前だろwwwww」 唯「うん・・・じゃあ私、もう行くね」 梓「唯先輩ダメです!」 梓「玄人はこめかみに当てるんじゃなく口にくわえて引き金を引くんですよ!!」 唯「そうなんだ・・・ありがとうあずにゃん・・・」 ターンッ 梓「マジかよえげつねえな・・・」 唯「」 梓「掃除すんの誰だと思ってんだよ・・・きっと私以外の誰かだよ」 梓「とりあえず唯先輩と間接キスでもしとくか」 梓「フヒヒwwwwwwwww」 梓「ぺろぺろ」 ガンッ 梓「おっと」 ターンッ 梓「ゔっ」 あずにゃん2号「・・・1号がやられました」 梓3「ふん、奴は我ら梓百人一首の中でも最弱」 梓4「百人一首の面汚しよ」 梓5「ククク」 梓6「7ー、帰りTSUTAYA寄ってこーぜ」 梓7「おー」 梓8「あー、私も行きますー」 ?「しずまれぇい・・・!」 梓9「あなたは!」 梓皇帝「・・・」 梓10「こ、皇帝陛下!」 梓皇帝「この私自らが動くからには地球も終わりよ・・・」 梓11「おお・・・なんとも頼もしい・・・」 唯「そうは・・・!」 澪 律 紬「させない!」 梓12「貴様ら死んだハズでは!」 梓皇帝「面白い・・・かかって来るがいいわ!」 唯「はぁああああああああああ・・・!!」 To be continued. 結末は劇場にて君の目で確かめよう! 映画「けいおん!」 2011年12月3日(土) 全国ロードショー! ※この作品はフィクションです。 実在の人物、団体、事件、主に劇場版などにはいっさい関係ないので用法容量を守って正しく部屋を明るくしてテレビから離れて観てください。 戻る
https://w.atwiki.jp/yuiazu/pages/1738.html
文化祭が終わったから部室に誰も居ないんじゃないか。なんて不安な気持ちになっていたけれど、 先輩達にここで受験勉強したいと告げられて正直ホッとした。 というか律先輩と唯先輩はまだ受ける大学すら決まってないらしい。 …今から勉強して間に合うのかな? そんな私の心配をよそに、唯先輩は卒業アルバムの個人撮影の事を気にしていた。 □ 「ホントにホントに可笑しくない?」 「ホントにホントに可笑しくないですよ」 「うぅ~」 「特製モンブラン食べて納得したんじゃなかったんですか」 「あれはあれで嬉しかったけどさぁ…」 先程部室で前髪を切りすぎるという大失態をやらかした唯先輩。 帰り道でも先輩は前髪をしきりに触って、撮影までに伸びないかな~、と無茶な事を呟いていた。 隣を歩く私との会話にも生返事でなんだか面白くない。 「唯先輩、ちゃんと前みて歩かないと、」 「うおっ!」 「危なっ!!」 案の定、つまづいてしまった唯先輩の右手をとっさに掴まえた。 「危なかった~。ありがとね、あずにゃん」 「もう、ホントに気をつけてください」 私が掴んだ手を離すと、なぜか唯先輩は再び私の手をつかまえた。 「唯先輩?」 「え、えっとね。また転ぶかもしんないから…」 「そうかも、ですね」 そう言って私も手を握り返した。 「おおぉ!」 「さっきからフラフラして危ないです。怪我でもしたら困りますから」 「転ばぬ先のあずにゃんっ!」 「はあ。まあ、そういう事で」 「でも、あずにゃんが嫌がらないって珍しいねぇ」 「……やっぱり離しましょうか」 「ま、ま待った!あずにゃん君、落ち着くんだ!」 「何ですか、そのキャラ。ちゃんと気をつけて歩いてください」 「あぅ、あずにゃん先輩きびしいっす…」 「だいたい気にし過ぎなんですよ、アルバム撮影だからって」 「えぇ、だってだって!ずっとずうっと残るんだよ!」 「ですから。試し撮りも問題無かったんですし、無謀な事しなきゃよかったんですよ」 「もう!あずにゃんだって来年この時期になったらわかるよ!」 「え…」 『来年』 その言葉に胸がチクリとして、上手く思考が働かなくなった。 「あれ?どしたの、あずにゃん?」 急に黙り込んでしまった私を先輩が覗きこんで尋ねる。 「へ、な、何でもないです!ただボーッとしてただけです」 「そーなの?」 「そうです」 そっけなく答えると、唯先輩は何も言わずに繋いでいる手を勢いよく振り出した。 「わ!ちょ、ちょっと!止めて下さい、唯先輩!」 「えへへ、これならボーッとする暇無いよね」 「もう、少しは落ち着きというモノを覚えて下さいよ…」 「あずにゃんと手ぇつないでるのに落ち着いてなんかいられないよ~」 「なんですか。それ」 「だってなんだか嬉しくなっちゃうんだよ!」 「…っ、そうですか」 「あずにゃんはどうも無いのー?」 「へっ?!べべ、別になんとも!!」 「ええ~しょんな~」 □ 帰りついた部屋で繋いでいた左手を見る。 『なんだか嬉しくなっちゃうんだよ!』 唯先輩の言葉を思いだして顔が熱くなった。 嬉しいってどういう事? …私と手を繋ぐことが? いやいや、まさかね。 「はぁ。唯先輩は誰とでも仲良くするのが好きだもんね…」 そう、先輩はまわりの皆が好きなんだ。 私は軽音部の後輩だから少し近くに居るだけ。 他の人より触れ合う機会が少し多いだけなんだ。 初めてライブで観た姿に心惹かれて。 入部して見た姿には幻滅したけど、 でも本当はちゃんと練習していた。 演奏する姿はやっぱりかっこよくて、 何気ない行動や言葉に何度も助けられた。 そうしていつの間にか、胸の中に唯先輩への特別な想いが、先輩を好きだという気持ちが住み着いていた。 それに気付いた時、自分でも驚いたけれど、誰かに相談する事は出来ずにいた。 この気持ちを伝える事は無いと思ったし。 伝えて気まずい雰囲気になったら、と考えると怖くて仕方なかった。 それなら、仲良しの先輩後輩でいる方がずっといい。 そう、放課後ティータイムのためにも。 それでいいんだ。 □ 翌日、先輩達の個人写真の撮影は無事?済んだそうだ。 そして四人とも第一志望を同じ大学にしたらしい。 ムギ先輩と澪先輩はともかく、律先輩と唯先輩、ホントに大丈夫かな…。 そうして帰り道。 さっきから唯先輩がソワソワしていて落ち着かない。 どうかしたんですかと、先輩に声をかけようとすると、 「とりゃっ!」 意を決したような掛け声と共に、唯先輩は私の手を掴まえてきた。 「っ?!」 不意をつかれた私が先輩の方を見ると 「……転ばぬ先のあずにゃん、だよ」 とこちらを見ないで唯先輩は言った。 「じゃあ、しょうがないですね」 と私も先輩の方を見ずに手を握り返す。 いったい先輩はどういうつもりなんだろうか。さっきから二人とも黙ったままだ。 昨日の今日で頭がぐるぐるする。 手をつないでいるだけなのに、心臓の音が聴こえてしまうのでは無いかと心配するくらいドキドキしていた。 どうしよう、何か話さないと。 「唯先輩」 「なあに、あずにゃん?」 「私はいつまで杖になればいいんでしょうか?」 「うーんと、お家まで?」 へ。何それ。 気が抜けた私は思わず昨日の疑問を口にしてしまった。 「先輩」 「うん?」 「どうして私と手を繋いだら、その、嬉しいんですか?」 「うへっ?!」 「な、どうしたんですか?」 先輩は突然奇声をあげると顔を赤くしてあたふたし始めた。 「そ、そのあずにゃんがカワイイというか、あ、あずにゃんを、あずにゃんは、えっと、あの、」 「先輩、落ち着いて下さい。何が言いたいのかわかりません」 ゆいは こんらん している! 「だ、だからっ!私は、あずにゃっ、中野、梓ちゃんが、大好きだからですっ!!」 唯先輩の手を握る力が強くなったかと思うと、大きな声で先輩は言い放った。 「へっ!?」 は、え、何?先輩が私を、好き? 好き、って、…うええぇぇえ!!! あずさも こんらん した! 「な、せ、先輩が、私を。いやまさか、そんなわけな、でも、え、あの、」 「ちょ、あずにゃんも何言ってるのかわかんなくなってるよ!」 「わ、私だって!ゆ、唯先輩がす、好きですっ!好きなんです!」 「え、えぇええぇぇ!!」 □ しばらくして落ち着いた私達は帰り道の途中にある公園のベンチで休んでいた。 「あぅ、もっとちゃんとあずにゃんに告白したかったよぉ…」 「…それはこっちのセリフですよ」 というより、まさかこんな事になるなんて思ってもいなかった。 「でも、よかった。あずにゃんも同じ気持ちでいてくれて」 「…それもお互い様です」 先輩と顔を見合わせて笑いあう。 あんなに悩んでたのが嘘みたいだった。 「じゃ、そろそろ帰ろっか」 「はいです」 先輩の言葉にベンチから立ち上がる。 そこで私はふとある事を思い付いた。 …ちょっと恥ずかしいけど日ごろのお返しも兼ねて、ね。 「唯先輩」 「ん、なあに?あずにゃん」 私の呼びかけにこちらを向いた先輩の肩に手を置いてから 背伸びして先輩の前髪の間から見えるオデコにそっと唇をつける。 「あ、あずにゃっ、な、な何をっ?!?!」 「早く前髪が伸びるおまじないです」 顔を真っ赤に慌ててる先輩が可笑しくて可愛い。 「ねえねえ、じゃあ前髪が伸びるまでしてくれるの?」 しばらくして落ち着いた先輩がフニャッと笑って言う。 「な、や、やってやるです!」 まさかそう返されるとは思わず、勢いで答えてしまった。 「えへへ。じゃあよろしくね、あずにゃん!」 唯先輩は嬉しそうにもっとフニャフニャ笑って言った。 それから先輩と手をつないで歩く。 先輩はご機嫌で手を振るのをなだめるのが大変だった。 昨日、あんなに前髪ばかり気にしてたのが嘘みたいに。 □ 先輩達が卒業してしまう。 来年から軽音部はどうなってしまうのだろうか。 放課後ティータイムはどうなるんだろうか。 唯先輩への気持ちをどうすればいいのか。 心配ばかりしていたけれど、きっともう大丈夫。 唯先輩の手の温もりを感じていると、なぜか素直にそんな風に思えた。 これからもよろしくお願いしますね、唯先輩! そう思いながら私はつないだ手をそっと握りしめた。 おしまい! 良かった -- (名無しさん) 2011-09-06 01 28 24 甘酸っぱくてニヨニヨする -- (名無しさん) 2011-11-10 22 43 03 かわゆす -- (名無しさん) 2012-09-24 20 28 56 まったりだね? -- (あずにゃんラブ) 2012-12-29 13 14 48 素晴らしい -- (名無しさん) 2014-06-20 19 48 13 唯も赤くなったりあたふたしてる所が良かった -- (名無しさん) 2019-06-14 12 18 23 名前 感想/コメント: すべてのコメントを見る
https://w.atwiki.jp/yuiazu/pages/1603.html
梓「あっ、雨」 梓「どうしよう…傘持って来てない…」 唯「あずにゃん~。一緒に帰ろ」 梓「唯先輩っ」 唯「どうしたの?あっ、雨が降ってるね」 梓「今日、傘持って来てないんです」 唯「それなら大丈夫だよ、あずにゃん」 唯「鞄の中にほら。折りたたみ傘~」 唯「私があずにゃんの家まで送ってあげよう」 梓「そんな悪いですよ」 唯「良いではないか。先輩の好意に甘えなさいな」 梓「…じゃあお言葉に甘えまして」 唯「うん、帰ろ」 梓「唯先輩何か嬉しそうですね」 唯「だってあずにゃんと一緒に帰れるんだよ。嬉しいよ~」 梓「っ//」 梓「そ、それにしても雨が強いですね」 唯「そうだね。傘が小さいからもっとこっちにおいで」 唯「じゃないとあずにゃん濡れちゃうよ」 梓「そ、そうですね」 梓「(唯先輩とぴったり…)」 梓「(えへへ)」 唯「あずにゃんも何だか嬉しそうだね~」 唯「あっ、私と一緒に帰れるのが嬉しいんだね!!」 唯「可愛い奴め~」ダキッ 梓「ち、違います///!!」 翌日 梓「あっ、また雨」 梓「でも今日は鞄の中に傘が…」 唯「あずにゃん~。一緒に帰ろ」 梓「唯先輩」 唯「おっ、今日も雨が降ってるね」 唯「鞄の中に傘が…あっ!」 梓「?」 唯「どうしようあずにゃん」 梓「どうしました?」 唯「傘がない」 唯「干したままにして家に忘れちゃった」 唯「どうしよう…」 梓「…しょうがないですね」 梓「今日は私が唯先輩の家まで送ってあげます」 唯「あ、あずにゃん~」ダキッ 梓「い、いちいち抱きつかないでください///!!」 唯「今日も雨が強いね」 梓「そうですね。傘が小さいですから唯先輩はもっとこっちに来てください」 梓「そうじゃないと唯先輩濡れちゃいますよ」 唯「うん、分かった」 梓「(唯先輩とぴったり…)」 梓「(えへへ)」 終わり 梓可愛い -- (名無しさん) 2013-08-01 12 30 24 名前 感想/コメント: すべてのコメントを見る
https://w.atwiki.jp/25438/pages/3418.html
* 『悪いっ!今日はどうしても定時で上がれなさそうだ。 梓より遅くなりそうだから、適当に時間潰しといてくれないか??』 しとしとと雨の降る晩だった。 メールに気がついたのは電車に乗る前だったけど、この機会に唯先輩に話をつけるにはいい機会だと思って、わたしはまっすぐ帰ることにした。 でも律先輩が、わたしと唯先輩をふたりきりにするのが嫌だって思ってることがわかるのは、ちょっぴり嬉しかった。 「おかえり〜」 住むところを見つけるつもりがあるのか。それともなし崩しにここに住み続けるつもりなのか。 そもそも働く気は? …この人、昼間に何やってるんだろう。 「今日こそシチューです!どーしても食べたくってさぁ」 「…嫌いだって、言ったじゃないですか」 「うそ。だって昔、よく作って食べたじゃん」 「だからです。思い出すからヤなんです」 「つれないなぁ。思い出の味なのにぃ」 「…そろそろはっきりさせないといけませんから言いますね。 わたし、今律先輩と…」 「ううん。いいよ、言わないで。わかってるよ、あずにゃん。 やっぱりそっか。なんとなくそうなんじゃないかな〜って思ってたんだよね」 「…気づいてたんですか」 「わたしもそこまで鈍くないよ〜。でもりっちゃんもあずにゃんもはっきり言わないし、確信は持てなかったけどね」 「…すみません唯先輩。三年半は……わたしには長過ぎました」 「謝らなきゃいけないのはこっちだよ。ごめんね。急にいなくなって。ごめんね。長い間一人にして」 「…わたしのせいです。わたしが…先輩をつなぎとめておけるほどの魅力がなかったから…」 「違うよ。そうじゃない。そうじゃないんだよ、あずにゃん」 知らない間にわたしは泣いていた。 涙を流すわたしを、唯先輩がギュッと抱きしめる。 もう涙なんて、枯れ果てたと思っていたのに。それでも泣けた。楽しかった日々。唯先輩と過ごした日々。いっつも一緒だった。 一緒に弾いたギター。あったかくておいしかったシチュー。初めてのデート。 あのとき、動物園に行く予定だったのに、雨が降ってしまって水族館に変更になった。 わたしはとても残念だったけれど、唯先輩は「楽しみが先に延びただけだよ」って笑ってた。 普段は乗らない路線バス(この街に住む学生は皆、自転車ばかりを使う)に初めて乗って出かけた水族館。ペンギンとアザラシがすっごく可愛いかった。 唯先輩は特にシロクマに夢中だった。あずにゃんみたいに可愛いってはしゃいでた。全く意味がわからなかったけど、楽しそうな唯先輩を見てるのは好きだった。 それから動物園には何回も行ったっけ。それはもう、飽きるくらい通った。 あずにゃんが好きなところに行きたいからって唯先輩は言ってた。 何度通ったところでも、隣に唯先輩がいれば楽しかったから、不満なんかなかった。 動物園に行く時も路線バス、使ったな。最近はもう、乗ってないな。 唯先輩だけを見て、唯先輩の背中を追いかけて、唯先輩の体温を感じて、唯先輩で心の中をいっぱいにして、いつだってその手は結ばれていて、ずっとずっとこのまま、二人の手が離れることはないんだって、思ってた。思ってた、のに。 「やめて…ダメです。唯先輩」 わたしは抱きしめられて思い出してしまった。唯先輩の体温を。あったかくてやさしいて、少し甘い匂いがする。なんにも変わっていない。あのころとおんなじだ。ぜんぶ。 「これからはずっと一緒にいる。約束するよ。どこにも行かない」 「…うそ」 「ホントだよ。離れてる間、ずっとあずにゃんのこと考えてた。もうずっと。わたし、あずにゃんに夢中だったんだなぁ〜って改めて気づいたよ」 「じゃあなんでもっと早く帰ってきてくれなかったんですか」 「…ごめん。こんなことできるの最初で最後ってわかってたから、後悔したくなかったから…だから思う存分、いろんなところに、自分が今ままで行ったことのないところ、会ったことのない人に会って、経験したことのないことを知りたかったんだ。そうしたらこんなに時間が経ってた」 「…長過ぎですよ」 「…ごめんね。ホントにごめん。手紙…出したんだけど、届いてなかった?」 唯先輩がいなくなってしばらくしてから、もらった小物だとかプレゼント類は全部捨てた。 踏ん切りはなかなかつかなかったけれど、一つ一つに思い出があって、見るたびに唯先輩を思い出すのがつらかったから。 ようやく決心がついて、そういうものを全部処分した頃だった。先輩を感じさせるようなものは何一つなくなったわたしの部屋に、一通の手紙が届いた。エアメールだった。 差出人は…。 わたしは手紙を読むことなく破り捨てた。 もしはっきりと別れを告げる言葉が記されていたら、恐ろしくて読むことができなかったし、なによりもう唯先輩を思わせるものを近くに置いておくことが耐えられなかった。 それから何通か手紙が届いたけれど、一度も読むことはなかった。 「…わたし、寂しかったんです。耐えられなかった。唯先輩がいなくなって…」 「大丈夫。これからはずっと側にいるから。大丈夫だよ、あずにゃん」 唯先輩はさらに力を込めてわたしを抱きしめた。 これからはわたしを離さない、離すことなんてない、そういう意思が込められてるみたいだった。 「わたし、この三年半でいろんなものを見たり、聞いたり、食べたり…経験したんだけどね。 あずにゃんが好きって気持ちは変わらなかった。本当だよ」 「…唯先輩」 「今、この時期に帰ってきたのはね、もちろん自分の中でひとつの区切りがついたってこともあるんだけど…あずにゃんの誕生日をふたりで過ごしたいなって思って。プレゼントも一応用意してあるんだよ」 ムギ先輩の言ってたのはこのことか。 ちゃんと…誕生日、覚えててくれたんだ。 「自分勝手だってわかってる。ヒドイことしたって…謝って済むことじゃないよね。 りっちゃんにも澪ちゃんにもムギちゃんにも…すっごく怒られるんだろーなーって思うけど…だけどね。 わたし、あずにゃんのことが好き。大好きだよ。昔も、今も、これからも、ずっと。 お願い。もう一度わたしと付き合ってください」 なんてズルい人なのだろう。 唯先輩はいっつもこうやってわたしの心をかき乱す。 この人は何も変わっていなかった。純粋な情熱も愛情も、何一つ変わっていない。 抱きしめられた身体から、唯先輩の体温が伝わってきて、熱くなる。 強い意思の込めれれた視線はまっすぐ、わたしの瞳を射抜いている。 それは昔のままだった。わたしの知る唯先輩と変わらない。 大好きだった唯先輩。世界中でいちばん、何よりも誰よりも好きだった唯先輩。 わたしの唯先輩。 そんなことされたら…わたし、どうしたら……。 いいや、迷うことなんてない。答えは決まってる。 わたしは唯先輩の瞳を見返して、答えを告げようとした瞬間、部屋の扉が開いた。 視線を向けると、そこにいたのは律先輩だった。 律先輩の手に持ったスーパーの買い物袋がドサっと落ちた。そしてそのままドアが閉まる。 足音が聞こえた。律先輩が走り去っていく。 それは遠い世界から聴こえてくる音のようで、今まで律先輩と過ごした日々がまるで夢だったかのように思えた。 わたしは唯先輩を振りほどいて、部屋を飛び出した。 * アパートを出てしばらく行ったところで、トボトボと歩くしょぼくれた後ろ姿を見つけた。 「なんで止めてくれなかったんですか」 「あれ…梓?なんで?」 「なんで?じゃないでしょうが、こんの…バカァァーーー!!」 とぼけた顔しやがって!このヘタレっ! わたしは思いっきり力一杯の正拳突きを律先輩のお腹に喰らわせた。 「◯=!|^*;!>、_」!!?」 声にならないうめき声をあげて、お腹を押さえながらへなへなとへたり込む。 「ねぇ、律先輩」 「……はい」 「わたしがなんで殴ったかわかりますか」 「……わかりません」 「…マジですか。律先輩、本当にバカだったんですね」 「ヒドイ!これでも一応先輩だぞ!それは言い過ぎだ!」 「いいえ。ここまでされて気がつかないのは律先輩が悪いです。 …まぁ本当ならさっきあそこで唯先輩の頬に一発ビンタでもしてほしいところです」 「…えーっとつまり」 「ここまで言ったらわかるでしょ」 「…だいたいは」 まだお腹を押さえて座り込んでいる。 …強くやりすぎたかな、ちょっと後悔して、手を差し出した。 「いつまで座り込んでるんですか。はい」 「いや…マジで痛かったぞ…今のは」 「わたしが心に受けたショックはこの程度じゃないです」 「…ごめん」 「ねぇ、律先輩」 「…はい」 「改めて聞きます。わたしはあなたのなんなんですか。 あなたはわたしのことどう思ってるんですか」 「…それは…だな」 「よーく考えてみたんです。そしたら気づいちゃったんですけど、 わたし、律先輩がわたしのことどう思ってるかって、ちゃんと言葉にして聞いたことなかったんですよね」 「あ、あれ?そうだったっけ??」 「とぼける、なっ」 もう一度正拳突きをお見舞いした。今度はちょっと手加減して。 「ぐへぇ!い、痛い…痛いです」 「…今度は手を抜きましたから、大したことないはずです」 また座り込んでお腹を押さえて、うつむきながら律先輩が言う。 「……いや、さ。わたし、梓にはしあわせになってもらいたいと思ってるんだ。 だから…唯がいなくなって。傷ついて寂しくて泣いてる梓を見て放っておけなかった。 わたしでよければそばにいるって。わたしのできることならなんでもするって思ったよ。 だけど…」 顔をあげてわたしの方を見上げながら続けて言った。 「唯が帰ってきたら、もうわたしの役目は終わるのかなって思ったんだ。 梓には本当に一緒にいたい相手と一緒にいてほしいと思ったからさ… それでさっき二人の姿を見てさ。確信したんだよ。わたしのできることはもうないんだって」 「…なんですかそれ。わたしの気持ち、全部わかったフリして。勝手に身を引いたりなんかして。そういうのがかっこいいとか思ってるんですか」 「いや、そういうつもりじゃ…」 「わたしは唯先輩のことが好きでした。大好きでしたよ」 律先輩の身体が震えた。 わたしの口からはっきりと唯先輩への想いを聞いて、ショックを受けているんだろう。 「でもそれは昔の話です。 今、わたしが誰と一緒にいたいって思ってるか、知ってるんですか」 「そりゃあ…」 「言いませんよわたし。今度はもう、わたしの方から言いませんからね。 わたしは聞きたいです。律先輩の気持ち。わたしのことどう思ってるかって」 お願いだから、ちゃんと、言葉にして伝えて。 教えて欲しい。あなたの気持ち。本当の気持ち。 「…ごめん。言うよ。ちゃんと言う」 立ち上がって、わたしの肩を掴む。目と目が合わさると、律先輩の瞳の中にわたしの姿が映った。 「好きだ」 「梓、わたしは…梓のことが好きだ。大好きなんだ。 ずっとずっと。ずうっと前から!梓のことが好きだったんだ!」 「…やっと言いましたね」 「……好きだ。唯に負けないくらい。ずっと前から好きだったんだ。梓が唯といっしょにいるときもずっと梓のことだけ見てた。 梓とこういう関係になれて、夢みたいだったよ。でもその夢はもう覚めるんだと思ってた」 「…夢じゃないです。現実ですよ」 「自信がなかった。不安だったんだ。唯が帰ってきてからは余計に」 「……わたしだって不安でしたよ。律先輩が弱気だから。もっとしっかり抱きしめておいてほしかったです」 「……ごめん」 「謝らないでよ。さっきからそればっかり」 「……わるい」 「…ほら、また」 「……どうしたら、自信が持てるのか、自分でもわからないんだ。 いつだって不安なんだ。確かなものが何も、ないから」 「ちゃんと気持ちは伝えたじゃないですか。それなのに。わたしのこと、全然信用してないんですね」 「それは…」 「…目を瞑ってください」 「え」 「いいから瞑って。早く」 「はぁ…わかった」 くちづけをした。 「これで…少しは持てましたか?自信」 「えっ、えっ、あ、うん…」 「だいたい、もう一年になるっていうのになんにもしないってどういうことですか」 「それは…」 「もういいです。これまでのことは。これからのことが大切なんですから」 「…そうだな。うん。…つーかヤバいです。今すんごくヤバいです」 「え。どういうことですか」 「いやその、この勢いを失いたくないっつーか。梓さん。今日はウチに来ませんか?」 「あ、そういうことですか。え、でもそれはちょっと、心の準備がまだ…」 「いいや、弱気はもう捨てた。今日からは強気で行かせてもらいます!」 わたしの手をぎゅうっと握ると、そのままグイグイと駅まで引っ張っていった。 ……わたしも、好きです。今わたしが好きなのはあなたです。律先輩。 今度は手を離さないで。ずっと側にいて。お願い。ひとりぼっちには、しないで。 4
https://w.atwiki.jp/yuiazu/pages/347.html
……いまーこそーわかーれーめー いざーさらーばー この歌が終わって閉式の言葉が終われば、私達の出番だ。 私は卒業生の『仰げば尊し』を聞きながら、一週間前の事を思い出していた。 最終回「門出!」 Aパート 「はぁ~」 いつものように溜め息をつきながら、部室へと向かう。 先輩方が引退して、一人きりになってしまった『軽音部』。 その部室は、ムギ先輩が持ち込んだ食器棚も無くなり、私にとって一人で居る寂しさを倍増させる空間になっていた。 「……唯先輩、どうしているのかな……」 先輩達は皆同じ大学に合格し、自由登校になった今では学校に来ること自体が珍しくなっていた。 いつでも、部室に行けば……いや、学校内で会えば必ず「あずにゃ~ん」と言って抱き着いてきた唯先輩。 その温もりを味わえないのが、更に寂しさを増幅させる。 ~♪ 部室へと続く階段の前で、今となっては聞こえる筈の無い懐かしい音が聞こえてきた。 ―なんで?先輩方は居ない筈なのに そんな疑問を持ちながら、階段を上る。 部室に近ずくにつれ、その音は大きくなっていった。 扉の前に立ち、中を覗いてみる。 そこには曲の練習をしている先輩達がいた。 ついこの間までは普通だった光景。 でも、今ではあり得ない光景。 自分の気持ちを抑えきれなくなった私は、涙を流しながら扉を開けた。 「あ~、あずにゃ~ん!……って、なんで泣いているの?」 「唯ぜんば~い」 号泣する私を、唯先輩が優しく抱きしめた。 「ざみじがっだでず~」 他の先輩方も、演奏の手を止めて私の周りに集まった。 「そっかぁ~、一人になっちゃって寂しかったんだね~、ごめんね~、私がもっと来てあげれば良かったんだよね~」 「そうだな、あたしの代わりに部長になったとは言え、一人きりなんだもんな」 「私も、梓の事は気になっていたんだけどな……色々とやらなきゃならない事があったから……」 「私もそうよ、梓ちゃんの事がとても心配だったんだけど……家の用事が多くって……」 先輩達の声を聞きながら、唯先輩に抱きしめられ、私の気持ちも段々と落ち着いていった。 ◆ 「……所で、今日はなんで皆さん此処に集まったんですか?それも楽器持参で」 久しぶりのティータイム。 以前とは違い、ペットボトルのお茶と市販のお菓子だけれど、皆でお喋りをするには十分だった。 「ふふ~ん、なんでだと思う~?あずにゃ~ん」 「わからないから聞いているんじゃないですか」 「梓ぁ~、聞いて驚くなよ~、なんと……」 「卒業式が終わった後、先生方の計らいで『卒業ライブ』をやる事になったのよぉ~!!」 「さわちゃん居たのかよ!……ってーか、私の台詞を取らないでよ!!」 「良いじゃないの~久しぶりのティータイムなんだし」 「……全然理由になっていない気がするんだが……」 私は律先輩達の会話をぼーっとしながら聞いていた。 「あずにゃん、どうしたの?」 唯先輩の言葉にはっと我に帰った。 「あ、えーと、色々と突然過ぎて……んと、『卒業ライブ』ってどこでやるんですか?」 「閉式の言葉が終わった後に、講堂でやるのよ。機材とかのセッティングは父の会社の人達に頼んでおいたわ」 「はぁ……そうですか」 『卒業ライブ』かぁ……。 「楽しそうですね!!」 「でしょ~」 唯先輩の顔がパァッと明るくなった。 さっきの私の言葉に嘘はない。 だけど、それが終わると……この笑顔ももう見られなくなってしまう……。 それを考えると、心から喜ぶことはできなかった。 「ん?どしたの、あずにゃん」 「いえ、何の曲を演奏するのかな~って考えていたんです」 「梓、曲ならもう決めて有るぞ」 そう言って、澪先輩がリストを見せてくれた。 「ふわふわ時間・翼をください・Genius…!?、って……えっ?」 私はそれを見て驚いた。 「最後の曲って……この間レコーディングした曲ですか?」 「そうだぞ~、初お披露目ってヤツだ」 律先輩が胸を張って答える。 その曲は、先日ムギ先輩が「軽音部の卒業記念に」と言って、先輩のスタジオを借りて数曲レコーディングした内の一つで、唯一の新曲だった。 先輩方にとっても―勿論私にとっても―とても大切な曲なのだ、それを最後に演奏する……考えただけで緊張してきた。 「あずにゃん……大丈夫だよ、いつものように私達の演奏をすれば良いだけなんだからね」 私の頭を撫でながら、唯先輩がそう言ってくれた。 「さ、梓にも報告した事だし、卒業式まで一所懸命練習するぞ」 『おー!』 澪先輩の一言で、久しぶりに皆揃っての練習が始まった……。 ◆ 「……卒業式を終了いたします」 気がつくと、閉式の言葉が終わっていた。 周りを見ると、式の緊張から解かれた人達がモゾモゾと体を動かしている。 後は卒業生が退場するだけ……ってみんな思っているんだろうなぁ~。 そんな事を考えていると、突然緞帳が下りてきた。 生徒や父兄がザワザワと騒ぎはじめる。 それを合図に、司会の白石先生が話しはじめた。 「皆さんお静かに願います。えー、式次第の変更がございます。本来ならばここで卒業生の退場なのですが、今回だけのサプライズがあります」 私はヨシッと小さく気合いを入れた。 「桜校軽音部『放課後ティータイム』前へ」 『はいっ!!』 その言葉を合図に、私達は前へと進んだ。壇上ではムギ先輩の執事―確か斉藤さん―を先頭に着々と機材のセッティングが進められている筈だ。 「他の生徒はその場で静かに待つように」 白石先生の一言で、皆が静まった。 壇上に上がり、ギターを取り、ストラップを肩にかけ、舞台の中央に向かう。 先輩方は既に準備を終えていて、皆集まっていた。 「よし、それじゃぁ軽音部のラストライブ、みんな行くぞ!」 『オー!!』 気合いを入れ、それぞれの定位置へ移動する。 私と唯先輩のツーフロント、唯先輩の右後方に澪先輩、私の左後方にムギ先輩、奥のセンターに律先輩。 いつものフォーメーション、だけど、今日で終わってしまうフォーメーション。 ―ダメダメ!今はそんなこと忘れて、最高のパフォーマンスを見せるんです! 私は心の中で再度気合いを入れた。 「あずにゃん、行くよ」 唯先輩の声に、無言で頷く。 緞帳が上がる。 「ワンツースリー!」 唯先輩の一言で、律先輩がカウントを取り、ギターのリフが始まる。 私達のオープニング曲『ふわふわ時間』の演奏が始まった。 キミを見てるといつもハートDOKI☆DOKI 揺れる思いはマシュマロみたいにふわ☆ふわ ―唯先輩、気づいていましたか? いつもがんばるキミの横顔 ずっと見てても気づかないよね ―私、この曲を演奏するとき、いつも唯先輩の事を思いながら弾いているんですよ 夢の中なら二人の距離縮められるのにな ♪ とっておきのくまちゃん出したし今夜は大丈夫かな? ―この後の、ギターの絡み合い、私好きなんです。唯先輩と一つになれる気がするんです。 もすこし勇気ふるって 自然に話せば 何かが変わるのかな? そんな気するけど ―唯先輩……私も、勇気を出して話したい事があるんです……。 ♪ 「改めまして、みんな~こんにちは~!!『放課後ティータイム』でーす!!」 一曲目の演奏が終わり、唯先輩のMCに入った。 「先ずは、本日、このようなステージを用意して下さった、校長先生始め諸先生方にお礼をさせていただきます、ありがとうございます!!」 唯先輩が一礼をする、他のメンバーもそれに習い一礼した。 「今日は後二曲だけなんですが、みんな最後まで楽しんでね~!!」 そう話す唯先輩も楽しそうだ。 「では次の曲……卒業する私達に向けて演奏します『翼をください』」 「ワンツースリーフォー!」 律先輩のカウントで二曲目が始まった。 いま私の願いごとが かなうならば 翼がほしい この背中に 鳥のように 白い翼つけて下さい ―私の願いも同じだ この大空に 翼をひろげ 飛んで行きたいよ 悲しみのない 自由な空へ 翼はためかせ 行きたい ―次の曲でこのステージも終わってしまう……私達の関係も終わってしまうのかな…… ―出来る事なら、翼を持てるのなら、何時でも唯先輩の所へ行けるのに ―ダメダメ、泣くのはステージが終わった後、今は先輩達の為に笑顔で演奏しなくちゃ ♪ 演奏が終わった……次で最後なんだ……。 「えーと、次が最後の曲なんですが……ここで皆さんにお知らせがあります!」 えっ……『お知らせ』って……何? 何か発表しなくちゃならないことでもあるんですか? 「これは、現部長のあずにゃんにも知らせていない事なんですが……」 へっ!?何?何なんですか?私にも教えられない事を発表するんですか? 「本日を持って、『桜校軽音部』の『放課後ティータイム』は活動を終了いたします」 ……そんなこと……わざわざ言わなくてもわかっています……ウッ……涙が出そうになったじゃないですか……。 「ですが!!」 えっ? 「『放課後ティータイム』は無くなりません!!『軽音部』としてではなく、アーティストとして活動を開始致します!!」 唯先輩……それって……。 「再来週の水曜日、私達は1stシングル『ふわふわ時間』でメジャーデビューをします!!!」 観客である生徒達の声が一瞬静まり、直後に割れんばかりの歓声が上がった。 「唯……先輩……本当……なんですか」 私は声を震わせながら聞いた。 「本当だよ!あずにゃん!私達、メジャーデビューするんだよ!」 その一言で、私の視界が歪んだ。 気が付くと、私は泣きながら唯先輩の胸に飛び込んでいた。 「ごめんね~あずにゃ~ん。あずにゃんをびっくりさせようと思って黙ってたんだ~」 「グズッ……びっくり……ウグッ……させすぎ……ウゥッです……」 「あたしは『部長からの連絡事項』として言いたかったんだけどね」 「唯ちゃんが『梓ちゃんを驚かせたい』って言うから……ごめんね」 「全く……唯の責任だぞ、梓を泣かせるなんて……」 「ゴメンゴメン、まさかあずにゃんがこんな風になるとは思わなかったから……。あずにゃん、本当にごめんね」 「グスッ……これからは……こんなドッキリしないで下さい」 「大丈夫だよ~、泣いてるあずにゃんの顔なんて。もう二度と見たくないもん」 「約束、ですよ……」 先輩に抱きしめられ、頭を撫でられていると、徐々に心が落ち着いていった。 「梓、最後の曲、行けるか?」 「はい……大丈夫です、澪先輩」 ギターを構え直し、観客の方へ体を向け……。 「にゃぁぁぁ!!!」 思わず大声を出してしまった。 なぜなら、観客の大半が瞳をキラキラと輝かせながらステージ……というか私を見ている!?なんで? 「うふふ、さっきの唯ちゃんと梓ちゃんのハグ……最高だったわぁ~」 左後方から、そんな声が聞こえた。 ―はぁ……そうですか……そうですよね……そりゃ、ステージ上であんなことすれば、こうなりますよね…… 「あずにゃん……大丈夫?」 唯先輩が心配そうに声をかけた。当然だよね、隣であんな大声を出して、その上落ち込んだ表情を見せているのだから。 「は……はい、なんとか」 「無理しなくてもいいよ、まだ時間はあるから」 「いえ、大丈夫です。行けます」 「そう?んじゃ、最後の曲行くよぉ~」 そう言って、唯先輩は観客の方に顔を向けた。 「それでは皆さん!残念ながら次が最後の曲となりました。この曲はデビューシングルのカップリングで、私達の事をイメージして作りました!!」 そう、この曲は正に『私達』を表現している曲だ。 そして……今、一番、弾いていて楽しい……嬉しい……そんな心地良さを感じられる曲……。 「聞いて下さい!『Genius…!?』」 唯先輩と私がセンターフロントで背中合わせに寄り添う。 唯先輩が私の方に振り向く。 私も唯先輩の方に振り向く。 唯先輩が無言で頷く。 私も無言で頷く。 唯先輩がギターを奏でる。 それに続いて私もギターを奏でる。 その後他の先輩方も各々の楽器を奏でる。 そこから生まれるメロディーは、みんなの気持ちを高揚させ、心地好い一体感を生み出す。 イントロが終わる少し前に『私達』は背中を離し、お互いのマイクの前に立つ。 タイをキュッと結んで いざ出発 ハートもキュッと結ばれたまま ―『私達』の気持ちも結ばれてますよね 私たちだけに魅せれるステージ パワー集結させてゆこう ―『私達』の魅力、見せつけちゃいましょう 何度立っても初めてみたい 1曲目は決まってドキドキ緊張 ―唯先輩、知ってました? でも目くばせしたらそれがすぐ 嬉しさになる不思議 ―歌詞のこの部分、私の気持ちそのままなんですよ スポット浴びる私たち 世界中のひかり あつめてるくらい ―唯先輩、行きますよ なんかね発光 だってハンパじゃないんだもん モットーは楽しく だって本気なんだもん かっこいいよね 今のリフ 気分はプロっぽく ダメだ、もうノリノリ もしかして 私たちってGenius…!? 誰にも言われないけど…きっと……!! ―サビの部分をツインボーカルにしようって、唯先輩言いましたよね……練習は辛かったけど、今、ステージで一緒に歌えて、私物凄く幸せです! ♪ 出逢っちゃったね ―出逢えました 見つけちゃったね ―見つけました プレイの至福 一体感 ―唯先輩との一体感 知る前にはね ラッキーなことに ああ帰れない ―絶対に、帰りたくありません ♪ アウトロに入り、『私達』はマイクから離れ、お互いに向き合う。 お互いを見つめながら、センターへと歩み寄る。 曲が終わる数小節前に、背中合わせになり寄り添う。 そして……最後のコードを弾きながら……振り返ってお互いの顔を見つめ合う……。 余韻が終わり、楽器の音が止む。 私は最高の笑みを唯先輩に向けた。 唯先輩も最高の笑みを返してくれた。 この振り付けを提案したのは唯先輩だった。 練習中は、なんとも言えない気恥ずかしさが有ったのだけれど、いざ本番でやってみると……言葉に出来ない程の、心地好さと、快感が、私を包んでいた。 「あずにゃん」 思わず呆けていた私は、唯先輩の言葉で我に返った。 「みんなに挨拶しなきゃ、背中離すよ」 「あ、はい」 ……ちょっと、残念、かな……でも、後でいっぱい、ギュッてして下さいね…… 「みんなぁ~!!ありがとぉ~!!!」 今までに感じたことのない歓声と、それに負けない位大きな唯先輩の声が講堂に響き渡る。 「えーと、これからも!私達ほうかご……??」 不意に声が途切れた。当の本人を見ると、白石先生の後方を不思議そうな顔をして見ている。 何だろうと思い、そちらを見ようと顔を向けた所で、白石先生がマイクの前に立った。 「えー、ここで校長先生から一言有るそうです。」 Bパートに続く! 名前 感想/コメント: すべてのコメントを見る
https://w.atwiki.jp/yuiazu/pages/401.html
日曜日の午後。 一人暇を持て余していた私は、近くの公園に散歩に出掛けた。 季節は初夏。梅雨があけて、空はようやく青さを取り戻していた。 浮かぶ雲は梅雨と違い、キレイな白色で空を彩っている。 少しだけ湿り気を残した風も心地よくて、 予定のない休日も悪くないかな、なんて思いながら歩いていると、 「あずにゃん好き好き大好き、愛してる~」 ……唯先輩の声が聞こえてきた。 声が聞こえてきた方に顔を向けると、 ベンチに座った唯先輩の姿が見えた。 何をするでもなく、ただぼんやりと空を見上げていて、 「あずにゃん好き好き大好き、愛してる~」 変わった調子で、 まるで歌を口ずさむように同じ言葉を繰り返していた。 憂鬱な季節が終わり、過ごしやすい気持ちの良いお天気に、 唯先輩も散歩に来たのだろう。 のんびりベンチに座って小休止というのは、悪くない過ごし方だと思う。 ただ…… 「あずにゃん好き好き大好き、愛してる~」 「………………」 唯先輩の言葉の中身が問題だった。 あまりの内容に、思わずその場に立ち尽くしてしまう。 唯先輩はまだ私に気づいていないのか、空を見つめたまま、 「あずにゃん好き好き大好き、愛してる~」 同じ言葉を口にし続けていた。 その声が耳に届き、私は一度目を閉じて、 「唯先輩っ!」 目を開いてそう叫び、唯先輩に駆け寄った。 「あっ、あずにゃ~ん!」 私に気づいた唯先輩がこちらを向き、 ほにゃっとした笑顔を浮かべて両手を振った。 でも私は、手を振り返す余裕なんてなくて…… 顔を強張らせたまま、返事の代わりに怒声を上げた。 「何なんですか! あ、あんな大きな声で! す、す……き……だなんて!」 恥ずかしさに言いよどみながら、それでもしっかり文句を言う。 幸い、公園には他に人影はなかったけれど…… だからといって、外であんなことを言うなんて…… あまりに恥ずかしすぎる。 私は怒って文句を言うけれど、 でも唯先輩は何を言われたのかわからないとばかりに、 「え? あずにゃん、どうしたの?」 首を傾げて、そう言うだけだった。 「どうしたの、じゃないです! さっき大きな声で言っていたじゃないですか! わ、私のことが……そ、その……す、す……き……とかっ ……ぁ……してる……とか!」 私の言葉に、唯先輩は「ん~」と言いながら空を見上げて、 「……あ、さっきの歌のこと?」 「……う、歌、なんですか?」 「うん、歌だよ。私の作った、あずにゃんに捧げるラブソング! お天気で気持ちよくて、つい口ずさんじゃったんだよぉ」 笑顔でそう言われ、私は脱力してその場にしゃがみこんでしまった。 確かに声の調子は歌のようだったけれど…… まさか本当に歌だったとは思わなかった。 あの言葉はどう聞いても歌詞とは思えない。 「……あれが、歌なんですか」 「そうだよ。澪ちゃんにアドバイス受けて、頑張って作ったんだよ!」 「……どんなアドバイスを受けたんですか」 「澪ちゃんがね、『自分の中にある素直な気持ちを、 まず言葉にすることが大事なんだ』って言ったからね、 自分の素直な気持ちを言葉にしてみたの…… あずにゃん、嫌だった……?」 笑顔で言葉を続け……最後に曇り顔でそう聞かれては、 嫌なんて強く言うことはできなくて…… 「……せめてサビ以外の箇所を歌うようにしてくれませんか」 「サビ以外も同じだよ?」 「……全部あれなんですか」 「あ、曲名は『あずにゃん好き好き大好き、愛してる』、だよ!」 「……曲名もですか」 あまりのことに何も言えず、私はもう力なく笑うことしかできなかった。 唯先輩に好きと言われるのが嫌なわけじゃない。 誰だって好意を寄せられて不快になるはずがなかった。 ましてやそれが、自分にとって大切な人からの好意ならば、 嬉しく思うのが当たり前だろう。 でも、いくらなんでも…… やっぱりあの歌は、さすがにきついと思った。 せめて人には聞かせないで欲しいと思ってしまう。 恥ずかしいなんてものじゃなかった。 (よし……やっぱり歌うの、やめてもらおう) 決意をもって、いつの間にか俯けていた顔を上げると、 「ん? あずにゃん、どうしたの?」 唯先輩の笑顔が目の前にあった。 混じり気のない、純粋な笑顔。 私を見つめるその笑顔には、悪意なんて一欠けらも存在していなくて…… さっきの歌も、本当に、 ただ純粋に自分の気持ちを歌にしたということが伝わってきてしまった。 「……唯先輩はズルイです」 「え? えっと……なにが?」 「……なんでもないです」 仏頂面で答えて、私は唯先輩の隣に座った。 ため息をついて、 「……歌」 「え?」 「……さっきの歌……恥ずかしいですから、 もう少し小声で歌って下さい……」 私がそう言うと、一瞬唯先輩はきょとんとした表情を浮かべて…… その表情は、またすぐに笑顔に変わっていた。 「あずにゃんは恥ずかしがり屋さんだねぇ」 「……あんな歌詞じゃ、誰だって恥ずかしがりますっ」 私の文句に、唯先輩は「エヘヘ」と笑い、 そしてまたあの歌を口ずさみ始めた。 さっきよりも、ちょっとだけ小さな声で。 「あずにゃん好き好き大好き、愛してる~」 歌詞の恥ずかしさに、私の頬は熱くなってしまうけれど…… 楽しそうに歌っている唯先輩の笑顔を見ていると、 もう止めようなんて思えなかった。 (まったく……いっつも唯先輩は……) いつもこうだった。唯先輩の笑顔を見ていると、 いつも本気で怒ることはできなくて、 結局最後は許してしまう。 あずにゃんと呼ばれることも、 ところ構わず抱きつかれることも、 最初は困っていたはずなのに…… 笑顔と一緒に向けられる好意に、 本気で怒ることはできず、抵抗もできなくて…… そして気がつけば、いつの間にか受け入れてしまっていた。 受け入れ、喜んでしまっていたのだ。 (……ほんとに、ズルイですよ) あんな笑顔を向けられたたら…… そんな楽しそうに「好き」って歌われたら…… 喜ばずにはいられないじゃないですか。 「あずにゃん好き好き大好き、愛してる~」 唯先輩の声が私の耳をくすぐる。 恥ずかしい歌詞に、頬は熱くなるばかりだ。 きっと今、私の眉は困ったように斜めになっていて…… でも口元は、きっとまた、ほころんでしまっているんだろうなって、 そう思った。 END おまけ 翌日月曜日。 「~~♪ あ、純、おはよう。今日も良いお天気で気持ちいいね」 「……あ~、まぁ……ねぇ……」 「……? なに、その微妙な表情?」 「まぁ、お天気で気持ちがいいのはわかるけれど…… 登校中にあんな歌を口ずさむのはどうかと……」 「……え? 私、なんか歌っちゃってた?」 「うん……『ゆいにゃん好き好き大好き、愛してる~』って……」 「…………え?」 ありゃま…感染したな。 -- (あずにゃんラブ) 2013-01-20 12 16 42 名前 感想/コメント: すべてのコメントを見る