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ーーーーー 明け方にようやくインタビュー部分の文字起こしを終えて、純にメールで送った。 聞き直すたびに涙があふれて、いつもよりずいぶんと時間が掛かってしまった。 梓「あー……目痛い……」 やり残していた物置の片付けをこなしながら、 泣き過ぎと寝不足で腫れた瞼を時折濡れタオルで冷やす。 ライブはとても盛り上がったと、昨晩純からメールで教えてもらった。 さわ子先生と和先輩も来ていたそうだ。ちょっと逢いたかったかも。 バイクの音が家の前で停まって、郵便受けがコトンと音を立てた。 室内から玄関へ回って、届いた郵便物を確かめる。 請求書やダイレクトメールに混ざって、 一人暮らしをしていた住所から転送された絵はがきが1枚届いていた。 梓「律先輩、こんどは南米に行ったんだ……」 きれいな風景の写真を眺めて、もう一度宛名の下に書かれたメッセージを読む。 途中で雨に濡れたのか、ところどころ文字が滲んでしまっているけれど 律先輩らしいちょっと雑で跳ねた文字に、懐かしい気持ちになる。 ……ふと、視線を感じて顔を上げた。 梓「……」 唯「……」 梓「……」 唯「や、やっほーあずにゃん! アイス買ってきたから一緒に食べよ?」 ギターケースを背負った唯先輩は門扉からぴょこんと顔を覗かせて、 コンビニの袋を揺らしながらニッコリと笑った。 唯「ねえあずにゃん、ここってなんていう名前だっけ」 律先輩からの絵はがきを目の高さに掲げて、 唯先輩が2本目のアイスを頬張りながら聞く。 梓「マツ、マチュ、マチュピツ、ですよ」 唯「あは、言えてないよあずにゃん。マツピツだよ。……あれ?」 梓「唯先輩だって言えてないじゃないですか」 唯「えへへ、そうだね。りっちゃんほんと色んなところに行ってるねえ」 梓「そうですね。そんなにアイス食べたらお腹こわしますよ?」 唯「だいじょーぶだいじょーぶ」 へらりと表情を崩す唯先輩から目を逸らして、私は物置の片付けを再開した。 唯先輩は一昨日の事も昨日の返事も聞こうとせず、 掃き出し窓の桟に腰掛けてニコニコと私を見ている。 唯「あっ!あずにゃんそれ!」 梓「えっ?」 ふいに唯先輩が大きな声を出して、びっくりして振り返る。 唯「それって、ビニールプール?」 梓「あ、はい。ちっちゃい頃に使ってたやつですけど。母がまだ捨ててなくて」 手に持った子供用のビニールプールをちらりと見て、唯先輩にこたえる。 唯「なつかしーねー、うちにもあったよ。ねえ、それ膨らませてみない?」 梓「えっ、これをですか?」 唯「そそっ。そこにポンプもあるし」 梓「はぁ……。長い事このままだったし、膨らみますかね」 両手で広げようとしたら、長い間折り畳まれてくっつき合っていたビニールが べりべりと耳障りな音を立てた。 しゅこしゅこ、しゅこしゅこ 唯先輩が足踏みポンプを踏む様子を、窓辺に座って眺める。 しゅこしゅこ、しゅこしゅこ 空気を送られたビニールプールは少しずつ膨らんで、 本来の姿を見せ始めている。 しゅこしゅこ、しゅこしゅこ 梓「……代わりましょうか?」 唯「大丈夫だよー、これ結構楽しいし。アイス食べた分、消費できるし」 唯先輩は額に汗を浮かべつつ、ニコリと笑ってみせた。 30分ほどかけてようやく膨らんだビニールプールに、ホースで水を張る。 唯「気持ち良さそうだねー、スイカとか冷やしたくなるねえ」 梓「唯先輩は食べ物のことばっかりですね」 唯「えー、そんなことないけど……。よしっ、入っちゃおう」 梓「えっ」 唯先輩はさっさとジーンズの裾を捲って、 ざぶん、とビニールプールの中に両足を入れた。 唯「うひょお、ひゃっこい!」 梓「ああほら、ジーンズの裾もっと捲らないと、濡れてますよ」 唯「だいじょーぶだよ、すぐ乾くから。あずにゃんもはやくおいで」 ほら、と手を差し伸べられて、反射的にその手を握る。 ざぶざぶと波打つ水面が太陽の光を反射して、きらきら光っている。 サンダルを脱いで、おそるおそる片足を水に浸す。 梓「……つめた」 唯「気持ちいいねー。ほらあずにゃん、もう片方も」 梓「っと、そんなに引っ張らないで下さい、唯先ぱーー」 強く手を引かれたはずみで、先に入れたほうの足がつるりと滑った。 そのまま身体のバランスを失って、唯先輩に抱きつく格好で倒れ込む。 ばしゃーん 梓「……」 唯「……」 梓「……スミマセン」 唯「……こちらこそ」 梓「……」 唯「……ぷっ、くくっ」 梓「……ふふっ」 唯「あずにゃん、やっと笑ってくれた」 梓「えっ」 至近距離で、唯先輩がとても優しい笑顔で私を見ていた。 小さなビニールプールの中に座り込んで、びしょぬれのまま、 唯先輩の両手が私の両手を包み込む。 その手が冷たいのにあったかくて、ずきんと胸が痛む。 唯「ずっと心配だったんだよ。あずにゃんちっとも笑わないから」 梓「……」 唯「なんで音楽やめちゃったのか……何があったのか、聞いてもいい?」 梓「……」 唯「無理にとは言わないけど……もしよかったら、でいいから」 梓「……わかりました」 ……初めて参加したライブツアーのサポートは、最初のうちは順調だった。 知らない街で初めてのお客さんを目の前にして演奏する、刺激的な日々。 ツアーも後半にさしかかった頃、リードギターを担当しているメンバーに言い寄られた。 まったくその気が無かったし波風を立てるのも嫌だったので、できるだけ丁寧に断った。 すると今度は、そのメンバーから嫌がらせを受けるようになった。 最初は小さないたずらじみた内容だったけれど、 徐々に、ライブ本番中にまで行為が及ぶようになってしまった。 すれ違いざまに身体を触る、私のエフェクターを踏む、ギターを倒す……。 他のメンバーには見えないようにやるので、注意されるのはいつも私だった。 それでも、メンバー間の不和が原因でツアーを駄目にしちゃいけない。 そう思って、だんだんとエスカレートしていく彼の行為を、私は我慢し続けた。 梓「今考えれば、早く誰かに助けを求めるべきだったんです」 唯「……」 梓「我慢してるうちに、ストレスで胃を痛めてしまって」 唯「……」 梓「しばらくは薬でごまかせていたんですけど、本番中に倒れちゃって」 唯「……」 梓「動けなくなって、当然演奏もストップしちゃって」 唯「……」 梓「すぐにスタッフさんに助けてもらったんですけど、その時に」 唯「……」 梓「一番前にいた、ちょっと酔っぱらったお客さんが怒っちゃって」 唯「……」 梓「持ってたグラス投げられて、それがオデコに当たって……」 唯「……」 梓「脳しんとう起こしちゃったみたいで、気付いたら病院のベッドでした」 水の中で、握られた手がゆらゆらと揺れている。 唯先輩は何も言わず、ただ静かに私が話すのを聞いてくれている。 いちど目をつぶって、深呼吸して、再び口を開く。 梓「その日から、ギターを持つと手が震えるようになっちゃったんです」 唯「……」 梓「お医者さんは、やっぱり精神的なものだって」 唯「……」 梓「当然お仕事も出来なくなって、それでここに帰ってきたんです」 唯「……そんなことがあったんだ」 梓「……はい」 唯「もしかしてだけど、そのギターの人って、今回のバックバンドの……?」 唯先輩の問いに、こくりと頷く。 唯「ああ……。それでこの間は、帰っちゃったんだね」 梓「あの時は……すみませんでした」 謝った私に、唯先輩はふるふると首を横に振った。 濡れた髪から水の粒が散って水面に落ちる。 唯「あずにゃんのせいじゃないよ。あずにゃんは何も悪くない」 こつん。 唯先輩の額が、私の額に触れる。 唯「……大変だったね、あずにゃん。よくがんばったね」 梓「……」 唯「ねえ、あずにゃん」 梓「……はい?」 唯「泣いてもいいんだよ?」 梓「…………ッ」 押し殺していた感情がいっぺんにせり上がって、涙が溢れ出した。 びしょぬれのまますがりついて、子供みたいに大声で泣いた。 唯先輩は何も言わず、私が泣き止むまで優しく背中を撫で続けてくれた。 ーーーーー 梓「……せっかく目の腫れが引いてきてたのに、台無しです」 唯「まあまあ。泣いてすっきりしたならいいじゃないですか。……それに」 梓「それに?」 唯「久し振りにあずにゃんをギュッてできたから、ちょっと嬉しいかも」 梓「何言ってるんですか」 真っ赤になっているだろう私の目を覗き込んで、唯先輩が微笑む。 梓「それより、どうするんですかコレ」 唯「ほぇ?」 梓「下着までびっしょりですよ」 唯「あ……あー、どうしよっか……」 今更のように現状に気付いて、唯先輩の眉が八の字に下がった。 唯「憂は会社に行ってるしなぁ……」 梓「もう、考え無しにこういうことするからですよ?」 唯「えーっ、まさか転ぶなんて思わなかったんだもん」 梓「うっ……。それは……スミマセンでした……」 唯「いえいえ……こちらこそ……」 梓「……」 唯「……」 梓「……ぷっ」 唯「ふふっ、えへへ……」 お互いの顔を寄せて、くすくすと笑う。 初めて会った時から変わらない彼女の笑顔を、とても愛おしく感じる。 梓「とりあえず私が着替えて下着買ってきますから、唯先輩は待っててください」 唯「えー、このまま?」 梓「プールの外に出てもらっても構いませんけど」 唯「んー……折角だからこのまま待とうかな」 梓「……好きにしてください」 ビニールプールから上がってサンダルを引っかけ、びしょぬれのTシャツを絞る。 唯先輩は水面からはみ出した膝小僧をぺちぺち叩きながら、 ねえあずにゃん、と私を呼んだ。 梓「はい、なんですか?」 唯「むったんどうしてる?」 唯先輩の質問に、Tシャツを絞る手が止まった。 視線は合わせずに、額に張り付いた前髪を掻き上げる。 梓「部屋の……クローゼットに入れっぱなしです」 唯「あとで一緒に弾いてみない?ギー太も持ってきたし」 梓「……でも、全然触ってないから…弦錆びてるかも」 唯「替えの弦がなかったら、買いに行こうよ」 梓「ブランクがあるから、うまく指が動かないかもですよ?」 唯「リハビリだと思えばいいよ~」 梓「……手が……。また、震えちゃうかもですよ」 唯「ねえ、あずにゃん」 膝小僧を叩く音がやんだ。 ゆっくりと振り返って、唯先輩と視線を合わせる。 梓「……はい」 唯「大丈夫だよ」 梓「……」 唯「怖くなんかないよ」 何か根拠があってそう言っているのかは、分からない。 唯先輩のことだから、きっと根拠なんてことすら考えていないだろう。 だけど。 唯先輩にそう言われたら、なんでだか、大丈夫って思っちゃうんだ。 むかしっから、そうだった。 この人の優しさに触れたら、いつだってそうだった。 唯「……ね?」 首を傾げてみせた唯先輩に、つい、笑みがこぼれる。 梓「……ビニールプールで体育座りしながら言われても、説得力ありませんよ」 唯「あれぇ? ダメだった?」 梓「適当なところで上がっちゃってくださいね。ホントにお腹こわしますよ?」 さっきアイス食べ過ぎてましたし、と付け足したら、 唯先輩は肌についた水滴をきらきら光らせながら、子供みたいに笑った。 着替えを済ませて、財布と携帯を持って玄関を出る。 庭を覗くと唯先輩はまだビニールプールに入ったままで、 いってらっしゃ~いと間延びした声で手を振った。 いってきます、と私も手を振り返して門を開ける。 コンビニへの道を急ぎながら、携帯を開いて着信履歴を表示する。 最新の番号を選んで耳に押しあてると、5コール目で親友の声が聞こえた。 梓「あ、もしもし純? 昨日はありがとう。……うん。それでね、今…… おしまい 戻る
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唯「今日もムギちゃんのお菓子おいしかったね~」 梓「はい!……って明日こそは練習ですよ!」 唯「わかってるよ~」 なにげない会話なんだけど、唯先輩と一緒にいるこの時間。 私はこの時間が大好きだ。 時々横目で唯先輩を見ながら。 今日もそんな感じで私たちは一緒に帰っている。 唯「明日はムギちゃん何を持ってきてくれるのかな?」 梓「唯先輩!?」 唯「冗談だよあずにゃん」 相変わらず練習はしてくれない。 でもいざとなるとあんな演奏をするんだからすごい。 梓「唯先輩が言うと冗談に聞こえません」 唯「ぶーぶー」 ふてくされた顔もかわいいな。 …いやいや何を考えてるの私は。 慌てた私は話題を変えてみる。 梓「き、今日も寒いですね、唯先輩」 唯「ほんとだよね。もう十二月だもんね~、うう寒い…」 そう言って唯先輩は寒いというジェスチャーをする。 唯「あ、そだあーずにゃんっ」だきっ 梓「はい?にゃっ!?」 …どうやら私にこの話題は逆効果だったみたいだ。 唯「あれー?あずにゃん顔赤いよ?」 梓「なんでもないです!」 梓「じゃ、じゃあ私こっちなんで。失礼しますっ」 恥ずかしくなって逃げてきてしまった。 ほんとは嬉しいはずなのに… いつからだろうか、こんなに唯先輩を意識しだしたのは。 夏?秋?なんかあったかな? もしかしたら初めて唯先輩を見た時かもしれない。 …まあいいや、今日は帰ろう。 翌日、放課後 今日もこの時間がやって来た。 私は唯先輩とならんで歩く。 梓「結局今日も練習できませんでしたね…」 唯「まあまあいいじゃないかあずにゃんや。それよりね…」 梓「どうしたんですか?」 唯「あーずにゃんっ」だきっ 梓「にゃっ!?」 唯「昨日全然抱きつかせてもらえなかったからね、今日は…」 和「あら、あなたたち仲がいいのね」 唯「あ、和ちゃん」ぱっ 梓「あっ…」 唯「和ちゃん今日はどうしたの?」 和「生徒会が今ちょうど終わったのよ、明後日から冬休みだからそれまでに終わらせておきたい仕事がたくさんあるのよね」 唯「へ~そうなんだ。とことで和ちゃん、今日も寒いね~」だきっ 和「分かったから離れなさい」 唯「えー、いーじゃんもうちょっと」 和「はあ…梓ちゃんも大変ね」 梓「あ、いえ…大丈夫…です」 梓「じゃ、じゃあ私こっちなんで」 唯「ばいばいあずにゃん」 梓「はい、失礼します」 はあ… また逃げて来てしまった。 唯先輩ってああやって誰にでも抱きつくのかな? 私だけに抱きついて欲しいな…なんて。 …はっ!そういえば! 唯先輩って抱きつくのはいろんな人にするけど、手ってつないだことあるのかな? うーん…どうなんだろ? 明日唯先輩と手を繋いでみよう。 できるかな?まあ楽しみだな♪ 翌日、放課後 さて、今日もいつものように唯先輩とならんでいるわけだけれども… なかなかうまくいかない。 手の距離はいつもより近くにあるはずなのにあと少しが私にはできない。 唯「あずにゃん、今日はなんだか近いね」 梓「そ、そうですか?そんなことないですって」 唯「いや~、絶対近いよ。…あずにゃん寒いの?」 梓「いや、そんなことは…」 唯「素直になりなよあずにゃん」だきっ あったかい… …まあいっか明日で。 翌日、放課後 よし、今日こそは… 私は隙を狙うために唯先輩を観察する。 唯「あずにゃんそんなに見ないでよ~」てれてれ ああかわいい。 でもこのままだとまた抱きつかれて終わりになっちゃうからね、ここは… 梓「あ、すいません。そんなに見てたつもり無いんですけどね」 唯「えー、そうなの~?残念…」しゅん かわいいな。 …いやいやだからそうじゃなくて! 今がチャンスなんだよ! 私は唯先輩の少し後ろに行くように歩く速さを遅める。 手を伸ばす、そーっと… 唯「あれ?あずにゃんどうしちゃったの?疲れちゃった?」くるっ 梓「あ…いえ、そんなことは…。な、なんでもないです、はい」 失敗した… 後ろにいっちゃダメなのかな? でも後ろに行くしか私には思いつかないし…うーん… 唯「あずにゃん今日なんだか面白いね!」 私は大真面目ですよ。 声には出さず、私はもう一度隙を狙う。 唯「ところであずにゃん、明日から冬休みだね~」 おお、そうだった。 今日終業式したけど、手を繋ぐことで頭がいっぱいで忘れてた。 梓「そういえばそうですね」 唯「そういえば…ってあずにゃん忘れてたの?」 梓「覚えてましたよ!」 私が立ち止まってこの言葉を言ったおかげで、自然と唯先輩の後ろに行くことができた。たまたまだ。 でもここで決めないと、明日からはもう会えないんだよね。 …よし。 私は唯先輩の手に向かって手を伸ばす。 唯「…」 唯先輩の顔を見るのも忘れて。 そーっと… 唯「…」さっ あ…… 私は唯先輩の顔を見る。 唯先輩は前を見"続けて"いる、ように私には見えた。 唯「…あずにゃん今日も寒いね」 梓「あ、はい、そうですね…」 私達は今日も並んで歩く。 何時の間にか私の左手はあったかくなっていた。 唯「あずにゃん、冬休み終わってももよろしくね」 梓「はい、こちらこそ」 こんなに楽しみな冬休みは初めてだ。 ーーーーーー ーーーー ーー えーっと… よろしくとは言ったものの、何をすればいいんだろう? こういう関係になりたいとは思っていたけど、いざなってみると何も思い浮かばない。 困った私はとりあえず微笑みかける。 …困った顔を返してくる。当たり前だよね、突然笑いかけてきたんだもん。 もんもんとした気持ちを抱えたまま、いつもの別れ道まで来た。 唯「あずにゃんばいばーい」 私は右手を離し、挨拶をする。 …少し残念だけど、また明日。 って明日から休みか。 梓「はい、失礼します!」 あずにゃんもどこか嬉しそうにしてくれている。 よかった… ――― 唯「ただいまー」 憂「あ、お姉ちゃんおかえりー」 唯「ふいー、疲れたよ~」 憂「お疲れ様♪ご飯できてるよ」 唯「うん、ありがと」 何時もの何気ない会話。 憂はまだ私達のことを知らない。 唯「いただきまーす」 憂「いただきます」 唯「あー、学校終わっちゃったね~」 憂「明日から冬休みだね~」 唯「クリスマス会、今年も楽しみだな~」 憂「あ、今年もあるんだ」 唯「たぶんあると思うよ~」 憂「それって24日かな?」 唯「うーん、どんなんだろ…?たぶんそうなんじゃないかな?」 憂「そっか…ねえお姉ちゃん?」 唯「ん?どうしたの?」 憂「次の日……25日にさ、私達だけでクリスマスパーティーやらない?」 唯「おおっ、やろうやろう!」 憂「それじゃあお姉ちゃんの大好物、いっぱい作ってあげるからね!」 唯「ありがと、憂。楽しみにしてるよ」 憂「うん、楽しみにしててね!」 唯「ごちそうさま、私部屋行ってるね」 憂「うんっ♪」 クリスマスパーティーかあ… 少しもやもやとしながら私は自分の部屋へ入る。 がちゃ 唯「あっ」 …携帯だ、携帯が光っている。 誰からだろう? 唯「あずにゃん…」 私はあずにゃんに掛け直すことにした。 ーーーーーー ーーーー ーー 梓「ただーいまー」 っていっても誰もいない。 私はカバンとギター、そして制服を置き、着替え終わるとソファーに腰掛けた。 梓「はあ…」 唯先輩と手、繋げたんだな… あったかかったな。 それでその後…… 顔が熱くなるのが自分でも分かる。 まあとりあえず、ご飯でも食べようかな。 私はテーブルにある2千円を財布に入れて家を出る。 梓「おっと」 携帯を忘れるところだった。 梓「いってきまーす」 …ああ寒い。 さっきまで寒く感じなかったのはなんでだろう? 理由は分かっている。 私は携帯を取り出すと電話を掛けた。 梓「…でない」 ご飯の途中かな? またあとで掛けてみよっかな。 2
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おんせん! 唯「あずにゃ~ん。ポーズ決めて、ポーズ! ちょおいやらしいやつ!」 梓「嫌ですよ……は、はい。こんな感じでどうです?」 ぱしゃ、と間髪入れずにフラッシュの光。 唯「いいねいいね~。その調子でタオル取ってみよっか!?」 梓「駄目ですっ。他に誰もいないからって、そこまで恥を捨てきれませんのでっ」 唯「ううぅん、あずにゃんのいけずぅ~♪」 温泉に浸かるというよりは、代わりばんこに撮影会をしてる感じ。 唯先輩は、かなーりご機嫌な様子。 唯「あのねあのね、あずにゃん。さっき、ムギちゃんからもらった割引チケットを確認したんだけどね」 梓「はい?」 唯「ひとりよんせんえんでいいみたいだよ! こんなに素敵な旅館だけあって、素敵な割引率だよね!」 梓「……はい? 旅行費用は、一緒に計算して確認しましたよね」 唯「うん。あ、でもね、ムギちゃんが『間違えて期限切れのチケット渡しちゃったの~』って、交換してくれたんだけど」 えっと、確か私が受け取った時は八千円になる計算で、結構痛い額だけど唯先輩との思い出作りだし、とか思ってた覚えがあるんですが。 それでもいざ泊まってみたら、八千円で済ませるのが申し訳ないくらいの豪華な旅館で。 唯「ちゃんと携帯の電卓で計算したよ? 私も、いくら何でも安すぎじゃないかなー、どこ間違ったかなーって思ったんだけど……」 梓「はあ……ムギ先輩に、後でしっかりお礼を言わないといけませんね。割引チケット、超特別優待チケットにしてくれたみたいですから」 唯「……うん、そうだね。ふけーきとかオフシーズンとか言っても、こんな素敵な旅館が貸し切りだなんて、やっぱりおかしいもんね」 んう……これじゃあ女狐だとか、心の中でだって失礼なこと言えないじゃないですか。 あの人は気にしないんだろうけど、おっきな借りが出来ちゃった気分ですよ。 梓「あの、唯先輩。ムギ先輩へのお土産、ってわけじゃありませんけど……欲しがってた写真、一枚だけならあげてもいいかなと」 唯「え? あずにゃん、嫌だったんじゃないの?」 梓「いえ、嫌なのは嫌なんですけど、それは唯先輩との本気でラヴい写真を他の人に見せるのが嫌なわけで……明日、旅館の前で抱っこしてもらって、ってくらいなら構いませんよ」 唯「そっかぁ。じゃ、女将さんにお願いしないとね」 梓「はい」 ムギ先輩のご期待には添えそうにありませんが、お陰様で唯先輩と楽しい旅行が出来ましたよー、っていう気持ちということで。 唯「んじゃー、それはそれとして! あずにゃん、はいえろポーズ!」 梓「ふぇっ!? え、えっ、わあ!?」 ぱしゃり。 唯「う、うわあ……今、すっごいの撮れちゃった……」 梓「なっ、何ですか!? どんなの写しちゃったんですかぁ!?」 唯「んへへへへ。おぜうさん、この恥ずかしい写真をばら撒かれたくなかったら、もっと大胆な写真を撮らせてーん♪」 梓「どーいう理屈ですか、それっ! やだもう、今度は私が唯先輩を撮る番ですよ!」 わいわい、きゃいきゃい、ざぶーん。 温泉って本来、もっとしっとり楽しむものなんだろうけど。 唯先輩にかかれば、どうしてもこうなっちゃうのは仕方ないかなあ。 おねむ! 唯「ふあゎ……んにゅうー」 梓「は、はしゃぎすぎましたね、さすがに……温泉に入って逆に疲れるとか、有り得ません……」 ふたりしてへとへとになりつつ、部屋に戻る。 まぁ、お昼の観光の疲れがどっと出たのかもしれないけど。 唯「……ふぉぉぉ!?」 梓「どうしたんですか、唯先輩?」 先に部屋に入った唯先輩の背中にぶつかりそうになって、慌てて足を止める。 唯「や、や、や……やったー! これだよこれ! 温泉旅館っていったらこれがないとね!」 ……って。 梓「唯先輩が変なこと言うから、本当にお布団ひとつだけしか敷いてくれてないじゃないですかぁ!」 唯「んふー……枕、ふたつ並べてあるよ? ちゃあんと、枕元にティッシュも置いてくれてるしぃ」 梓「雰囲気出そうとして声色変えても駄目ですっ。そ、そりゃあ、一緒に寝るつもりでしたけど……その、えっちぃことする体力、残ってないってゆうか……」 唯「あずにゃん。エッチはいつでもどこでも出来るけど、温泉旅館でひとつの布団で寝るっていうのは、なかなか経験出来ることじゃないよ?」 そんな真面目な顔で力説されても困るんですが。 ああもう、早速記念写真撮ろうとしてるし。 唯「あずにゃんあずにゃん、ほらほら。横になって一緒に記念撮影しよ! 早くっ」 梓「はあ……んもう、唯先輩ってば、本当に仕方ないですねえ……」 唯「ん……あずにゃん、も少し寄って、ほっぺぴたーってなるまで。うん、後ろのティッシュも入れて……はい、撮るよー」 梓「も、もうっ……こんな恥ずかしい写真、撮るなんて……」 ぱしゃ。 唯「はー、満足満足。それじゃあ……お風呂にする? エッチする? もう寝ちゃう?」 梓「さっき、私もう体力残ってないって言いましたよね?」 唯「にゅー。あずにゃん、寝るのはいつでもどこでも出来るけど、温泉旅館でひとつの布団でえちーことするっていうのは……」 梓「写真撮る前と言ってること微妙に変わってますよね」 唯「……わかったよ。今夜は大人しく寝るよ……」 梓「はい。そんでは、私はお先に……ふわゎゎゎ……んにゅぅ……」 汗も引いたし、髪もほぼ乾いてるし、歯磨きも済ませてあるし。 さ、明日は朝ご飯をいただいたら、すぐに出発しないと。 唯「電気消すよー」 梓「ふぁい……おやしゅみなしゃい、唯しぇんぱぁい……」 布団に潜り込むなり、強烈な睡魔に襲われる。 でも、もうちょっとだけ、起きてないと。 唯「んしょ、んしょ……えへー。あずにゃん、おやすみぃ」 梓「んにぅ」 唯先輩も同じ布団に入ってきて、当然のように私を胸の内に抱き締めてくれた。 ちょっとだけ頭を動かして、谷間のところに鼻先を埋めて、収まりをよくする。 ……うん。これで快眠は約束されたも同然です。 唯「えへへへへ。おっぱい好きなあずにゃん、大好きだよ」 何とでも言ってください。 こんなにあったかくて柔らかくて、気持ちいいモノをお持ちな唯先輩のせいなんですからね。 梓「……ゆぃしぇんぱ……だぃ、しゅき……れふ……すぴゅー……」 まよなか! 梓「むにゅ……」 ふと、目が覚めた。 別におトイレに行きたくなったわけでも、寝苦しくなったわけでもない。 ただ……何だか、むずむずする。 唯「……すぴょぴょ……んぅ~……にゃふ~……」 どう、しよう、かな。 すやすや眠ってる唯先輩を起こせないし、寝る前にあんなこと言った手前、お願いするわけにもいかない。 しょうがない、自分でするしかない……かな。 梓「んっ……んん、ふ、ふぅ……」 浴衣の裾に手を入れて、自分を慰める。 ちょっとくらい無理をしてでも、えっちぃことしてもらえばよかった、かな。 梓「んぁっ、あっ、あふぅ……っく、ん、んきゅ……きゅぅんっ……」 唯先輩、きっと私をへろへろにして、恥ずかしい写真を撮るつもりだったんだろうな。 気持ちよくなっちゃって、もう正体も怪しくなった辺りで、えろいやらしーポーズなんか取らせるんだ、絶対に。 梓「んぅ……ゆ、唯先輩っ……はぁ、はぁぅ……んくっ……」 こんなに密着して添い寝してるのに、何してるんだろ、私。 でも、起こすの可哀想だし……あ、そうだ、ちょっとだけなら。 梓「唯、せんぱぁい……指先だけ、ちょっぴり、貸してください……ん、しょ……んくぅ」 唯先輩の腕を動かして、指先が私の股間に触れる位置へ。 そして、私の指を添えて、また淫らな行為に耽る。 梓「はあっ、は、ああ、唯先輩っ……んく、ぁう、き、気持ちーです、唯せんぱぁいっ……ああ、あふっ」 唯「すぴゅぴゅ……すぅ……くふぅ~……」 梓「あ、う、そこっ……唯先輩、そこ、とっても感じちゃうですよぉ……っはう、はぅんっ……あっ、あああっ」 気持ちよくって、時々、身体が跳ねる。 密着した唯先輩も一緒に揺れるけど、眠りが深くて全然気付いてないみたい。 ……もう少しだけ、もう少しで済みますから、眠ったままでいてくださいね? 梓「んっ、ん、んんぅ、ふぁ……あは、い、いいですぅ、唯先輩、気持ちいいですぅっ……んっ、くぅっ、んんん!」 もう、少し……もう、済みます、から。 梓「ふああ、あっ、駄目だめ、イくっ、あっ、イきます、唯先輩っ……私、イっちゃいますっ、ああ、ふにゃあああっ!」 全身に走る快感を、ぎゅううっ、と唯先輩の腕にしがみついて堪える。 声も、出来るだけ我慢したつもりだったけど、唯先輩の指先が、酷く敏感になっている私のあそこを優しくさすってくれるから、まだ快感が止まない。 ……え? 梓「んぅ、あ、にゃうっ……も、もしかして……唯先輩、起きちゃってます……? い、いつから、ですか?」 唯「んう……あずにゃんが、イっちゃう直前かな? んもー、起こしてくれればよかったのにぃ」 梓「はうっ、んんんっ……んにゃ、は、はう、すみませんでした、からっ、もお、指っ……んく……ふにゃあ」 唯「あずにゃんのえっち。私の指、勝手に使うなんて……どうしてくれるのかなあ?」 あ……何か、唯先輩の目が意地悪モードになってる気がする。 梓「こ……こお、します……んっ、あむ、ちゅるる……ぴちゅ、んく、ちゅぴる」 唯「わぁ、お口で綺麗にしてくれるんだ……ちょっと予想外だったよ」 ぱしゃ。 梓「ひんっ!? んふ、ぷぁ……しゃ、写真は、駄目ですよぅ」 勝手に手指を使っちゃったのは謝ります。 けど、私の愛液にまみれた指を私自身が舐めてお掃除してるところなんて、写さないでください。 唯「指、早く綺麗にしてくれないと……お布団めくって、きっと大変なことになってるあずにゃんの格好を写しちゃうよ?」 梓「ふぁ、ふぁい……っんむ、くむっ、ちゅるる、れるぷ、はむ……ん、んあ……」 そんな写真を撮られたら、私、恥ずかしすぎて死んじゃうかもしれないです。 唯先輩の指、一生懸命に綺麗にしますから、どづか許してくださいよぅ。 梓「んむっ、ふう、くぷぷ、ちゅっ、れる、れろっ……んふ、ちゅううっ、ちゅ、ふあ……はあ、はぅ……唯先輩、これで、どおでしょう?」 唯「ん……うん、結構気持ちよかったし、綺麗になったね……けど、駄目。私が隣にいたのに、ひとりでえっちぃことしたのは許せないよ」 ばさっとお布団が剥ぎ取られる。 浴衣は勝手にまくれてて、私と唯先輩の素足が絡み合ってるいやらしい光景。 そして……太ももの途中まで脱ぎかけの、私の縞々ぱんつ。 梓「や……や、です……唯せんぱぁい……」 唯「駄ぁ目。撮っちゃうからね……はい、チーズ」 ぱしゃ。 ぱしゃぱしゃ。 梓「やああっ! お願いです、許してくださいっ! も、もうこんなことしないから、だからっ」 唯「……本当に? 約束?」 梓「約束します……んく、ぐす……本当に、唯先輩と一緒の時は、無理に起こしてでもえっちぃことしてもらいますから……」 唯「そっか、うんうん。それならいーんだよ。もう今夜は写真は撮らないであげるね」 うう、消してくれるわけじゃないんですか。 唯「んじゃ、少しだけ一緒にお風呂に入ろっか。拭くだけより、洗った方がすっきりするでしょ、お股」 梓「うく……は、はい……」 私、唯先輩を起こす気は全然なかったのに……こんな目に遭わされるくらいなら、最初からお願いしてた方がよかったかも。 16
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純「そういえば梓、変わったね」 部室で憂が入れてくれたお茶を飲んでいた時だった。私が部長なので元、律先輩の席。憂はもちろん唯先輩の席。純は憧れの澪先輩の席だ。 梓「何よいきなり」 純「これ」 と、純の携帯。昨日私が送った、なんてこともないメール。 梓「日曜日にみんなで新曲作ること?」 純「ちがうちがう。こっち」 カーソルがゆらゆら揺れてる音符が付いたデコ絵を指している。 憂「そういえばそうだね」 私を置いてけぼりにして憂が微笑んだ。 憂「前は絵文字、あまり使わなかったよね」 梓「そう・・・だったっけ?」 純「そうそう! 返事だけとか、遊ぶ約束しても時間と場所だけ書いた業務連絡みたいな」 あー・・・・・・そうかもしれない。 私は小さい頃から文章を作ることが苦手だった。メールを返信する時も何分も考えて考えて。なに書こうか、早く返さなきゃっていろいろ考えちゃったりしてるうちに別の用事思い出したり、そのまま寝ちゃって。 さすがに返事しないのは良くないと気付いたから、必要な事だけパパッと書いて。 だって次の日には会えるし、急ぎの時は電話があるし。 梓「でも、いつから絵文字使いだしたんだろ?」 殺風景な文だったから? ううん。今まで気付かなかったし、今日はじめて言われた。 家のソファーに寝転んで自分の携帯を眺める。いらないメールをこまめに消すほうだから、けっこう昔のやつがそのまま残ってる。 ほんとだ。ほとんど消しちゃってたけど、1年の頃のは長くても二行しかない。メール打つの、めんどくさいって思ってたっけ。でも、鳴らなかったらやっぱりさびしくて。 梓「む・・・」 古いものからたどっていたら、鍵マークが付いた受信メールが4つ並んで現れた。 澪先輩『これからよろしくな! 相談ならいつでも乗るぞ?(笑顔)』 唯先輩『あずにゃーん(ハートハートハート)! 今の私の待ち受けこれだよ~(chu!)(私が猫耳つけてる)!』 ムギ先輩『後輩とメールするの、夢だったの~(手紙からハートがいっぱいこぼれてる)』 律先輩『メアド確保ー!!』 先輩達とはじめてメールした日だ。その日の受信メールをめくりながら思わず笑った。ああ思い出した。帰ってからも先輩方からメールで質問攻めにあって、途中から誰に何を送ったのかわからなくなったんだっけ。 最後までメールしてきたのは唯先輩だった。そういえば初めてだったかも。夜通しメールしたの。 合宿の打ち合わせ。学祭の打ち合わせ。そう、この頃からだったかな。唯先輩に毎晩メールしたの。電話もたくさんしたな。初めての学祭で、それなのにメンバーがバラバラで。不安な私の声、ずっと受け止めてくれた。なぜか唯先輩の声を聞くと安心できたんだ。 年末のライブハウスの段取り。そうだ・・・寅年。まさか自分のトラ耳で思い出すなんて。 トンちゃんの名前も唯先輩が決めたんだよね。修学旅行先から先輩達からたくさん送ってくれた。・・・・・・写真だけでも十分騒がしい。 写真といえば今の私の待ち受け『ゆいあず』の時のだ。憂が撮ってくれた、私と唯先輩が背中合わせになってるやつ。 梓「ふでぺぇ~んふっふぅ・・・あ・・・」 また現れた鍵マーク。唯先輩からの。毎日、見てるよ。 唯『梓、愛してる』 夏フェスの夜、私は唯先輩に告白した。過呼吸ぎみになっちゃって、自分でも何を言ってるのかわからなくなって、なさけなくて、バカみたいに涙がこぼれる私を抱きしめてくれた。心ごと。こんな私を。 梓「はっ!?」 ちがうちがう! 抱き枕に頬ずりするんじゃなくて本人にしてもらいたい、じゃなくて・・・! 戻るボタンを押してハッとした。 『唯先輩』 『唯先輩』 『唯先輩』 ・ ・ ・ 私のメールの履歴は唯先輩でいっぱいだった。 そっか。唯先輩が絵文字をたくさん使うから、返信するとき私も使うようになったんだ。 また始めのほうを振り返る。うんうん。どの絵文字使ったらいいかすっごく悩んだ形跡がある。いつからかメールがすごく待ち遠しくなって。 好きな人が出来るだけで、こんなに変われるんだね。いつの間にか私の携帯まで、唯先輩で埋め尽くされちゃってる。 時間を見る。そろそろバイトあがる頃だ。好きなものならすぐ覚えられるでしょうと、今のアイス屋さんを勧めたのは私だ。よし、たまには私から。 梓『唯、愛してるよ(ハート)』 唯、知ってる? 絵文字使うようになったけど、ハートは唯専用だよ? おまけ 唯『めずらしいね。あずにゃんのほうから言うなんて』 梓「たまに言われたほうがありがたみ、あるでしょ?」 唯『私もあずにゃん大好きだよ~』 梓「唯の大好きは使われすぎ。 全然ときめかないもん」 プルルル プルルル 梓「唯?」 ピッ 唯『梓。愛してる』 梓「 ・・・・・~~~っっっ!!」 カアァァァッ! 唯『えへへ~。これはあずにゃん専用だよ!』 梓「そ・・・そ・・・っ!」 唯『あず』 梓「それは直接言うです~~~っ///!!!」 おしまい す、素晴らしい! -- (あずにゃんラブ) 2013-01-12 08 46 02 凄く良いけど梓呼びはあんまり好きじゃないなぁ -- (名無しさん) 2018-03-15 16 13 01 名前 感想/コメント: すべてのコメントを見る
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――病院 あれからすぐに救急車が駆けつけ、唯先輩は病院へ担ぎ込まれ私もそれに付き添った。 途中救急隊員の人が事故の概要とか先輩との関係なんかを色々聞いてきたけど、憔悴しきってた私はそれに答える事もなく、ただ俯いて声を出さず泣いているだけだった。 ちなみに私の怪我は擦り傷とちょっとした打撲だけで何も問題はないそうだ。 だけど、その代わりに唯先輩が……。 結局、病院に到着したのとほぼ同時に唯先輩は息を引き取った。 私はただ病院のベッドの上に横たえられてる唯先輩の傍で立ち尽くしている事しか出来なかった。 梓「先輩……どうして……折角会えたのに、こんなのって……こんなのってないですよ……」 梓「うぅっ……ぐすっ……」 やっと会えることになって、ようやく会えるその日がまさか唯先輩の命日になってしまっただなんて、私には到底受け入れられない。 大切な人が目の前でいなくなったせいで、私の心は絶望感で満たされていた。 だがここでふと壁にかけられてる時計に目が行く。 ここで私はあることに気付いた。 梓「今9時22分……てことは電話の先の唯先輩の時間はまだ8時22分……」 梓「私が事故に会うまで、まだあと8分残ってる!今なら……今ならまだ間に合う!! 居ても立ってもいられず、すぐに頭の中の電話回線を開く。 もうなりふりなんて構っていられない、少しでも可能性が残っているならそれに賭けるしかない! 梓(お願い!電話に出て……唯先輩……出て) 呼び出し音が続き中々電話が繋がらない。 藁にもすがる思いでひたすらコールを続ける。 唯『もしもしあずにゃん?』 梓『先輩っ!』 電話の向こうの唯先輩は、もうすぐ自分が死んでしまうのも知らずに、いつものように抜けたような声で電話に出た。 その声を聞いて少しほっとする私。 唯『どうして電話を?もう1時間後の私には会えたんだよね?』 梓『それは……』 唯『あーっ!そうかぁ、もしかして苦情の電話?想像してた人と違いました!とかだったりしてー』 笑いながらそうジョークを飛ばしてくる先輩。 今私の目の前で冷たくなって眠っている先輩とは全く真逆だ。 その顔を見ながら私はある覚悟を決める……こうする以外にあの人を助ける手段がない。 梓『そうですよ……会わなきゃよかった。あなたになんて……』 電話の向こうの唯先輩の声が止まった。 そりゃあそうだろう、誰だってこんなこと言われればこうなるもの。 でも止めるわけにはいかない。 心の中で唯先輩への謝罪の言葉を何度も繰り返しながら感情を殺してさらに続ける。 梓『……だから、このまま帰ってください!お願いします!』 唯『理由はやっぱり私が……?』 梓『すいません……とにかくお願いします、会いたくないんです!』 唯『どうして?いきなりそんなこと言われてもさ……もうすぐ着いちゃうし』 梓『これだけ言ってもまだ分からないんですか!?平沢先輩なんて大嫌い!!その顔も!髪も!指も――』 梓『――あなたの声も!』 涙声になりそうなのを誤魔化しながらとにかく思いついたままの暴言をひたすら並べ、つき慣れてない嘘を吐き続ける私。 もう嫌われてもいい、そうする事で唯先輩が死なずに済むんならこんなの安いもんだもの。 だけど……唯先輩の反応は私の想定を裏切るものだった。 唯『声!?嘘だよ!あずにゃんは嘘をついてるよ!あずにゃんに私の声が聞こえる筈ないもん!』 梓『嘘なんかついてません!!最低でした……幻滅しました!こんな筈じゃなかった!!』 唯『嘘だよ!だって私は……私は……話せないんだから!』 梓『……え?』 余りの衝撃発言に私の頭の中は真っ白になる。 いきなりすぎて理解できない……唯先輩が喋れない!?どういうこと!? 唯『私は5歳の頃から耳が聞こえないんだ。話すことも出来なくてね。だから、あずにゃんが私の声を聞けるはずがないんだよ』 梓『そんな……』 不用意な発言であっさりと嘘を見抜かれ、その場にへたりこむ。 やっぱりつき慣れてない嘘なんてつくもんじゃないんだ。見ての通りすぐボロが出るし。 唯『あずにゃん、どうして嘘なんかついたの?ワケを聞かせて?』 梓『それは……それは……っ!ぐすっ……ひっく……うぅ』 唯『あずにゃん、何があったの?どうして私を帰らせようとするの?』 梓『お願いします!とにかくすぐに帰ってください!』 唯『あずにゃんが私と会って何が起きたのかは知らないけど……でも……でも必ずあずにゃんに会いに行くから!』 電話の向こうの唯先輩の発音が変わった。 多分走り出してその状態で会話してるからかも。 止めなきゃ……何とかしなきゃ……もう時間がない! 梓『どうして分からないんですかっ!!来たら……死ぬんですよ!?』 唯『え――』 真相を聞かされた唯先輩が唖然とした声で呟く。 いきなり死亡宣告をされれば誰だって同じ反応をするだろう。 全力疾走状態だった先輩の足は今は完全に止まっているようだった。 このまま怖くなって逃げてほしいと心の中で願う。 唯『死ぬ?私が?――もうっ!冗談にしちゃ悪ふざけがすぎるよ?』 梓『冗談なんか言ってません!先輩は私と会うと死ぬんです。私を助けて……だからお願い!このまま帰ってください!』 唯『だめだよ。あずにゃんが言ってることが正しければ、私が行かないとあずにゃんが……』 それは私も十分分かっている。 唯先輩があの場にいなかったら今頃死んでいるのは私の方だ。 でも私はそれでいい。 唯先輩がただ生きていてくれるだけで私にとっては何よりの幸せなんだから。 梓『私ならきっと助かります。だから――』 唯『私は行くよ!』 私の懇願を遮るように唯先輩の言葉が割り込んでくる。 どうやらまた走り出したみたいだ。 逃げ出して欲しいという私のささやかな希望は断たれてしまった。 梓『ダメです!来ないで!来ないでってば……うぅっ……ぐすっ……ずずっ……』 唯『泣かないであずにゃん、私なら大丈夫だから……大好きなあずにゃんを残して死んだりなんか絶対しないから』 梓『……』 唯『ねえ、前に私にギター教えてくれた時のこと覚えてる?あずにゃんは鼻歌を歌ってくれたよね』 唯『10年ぶりだった。音楽の音色ってどんな物なのか忘れかけてた私の記憶をあずにゃんは蘇らせてくれたんだよ?』 唯『あずにゃんと初めて電話が繋がった時も驚いたな。誰かと手話や筆談なんかじゃなくって声で直接お話したいな……そう思ってたらあずにゃんの声が聞こえてきて……すっごく楽しかった』 唯『自分の気持ちを相手に伝えられる。そして聞いてくれる人がいる。それがこんなにも素晴らしいことなんだなーって……』 唯『だから……だからもう2度とあんなこと言わないで!!』 梓『え……?あんなこと……って?』 唯『自分のこと、居なくなっちゃえばいいなんて……そんな……そんな悲しいこと言っちゃダメだよ!!』 梓『分かりました!もうそんなこと言いませんから!だから本当にやめて……お願いだから……』 唯『うん、分かった。でもね、私は行くよ?必ずあずにゃんを助けるから。何度だって同じ選択をするよ!1時間先の私がしたように!』 唯『今コンビニの前に着いたよ!あずにゃん!あずにゃんはどこなの!?』 梓(このままじゃ唯先輩が……どうしよう……あっ、そうだ!) 唯先輩は私の顔を見た事ないし服装もただ制服と言っただけでどんな格好なのか知らない。 ここでさっき電車の中で隣に座っていたツインテールの制服姿の女の子がいたことを思い出した。 私はここで最後の嘘をついた。 梓『白い制服!白い制服でツインテールの女の子が私です』 唯『白い制服ね、分かった。大丈夫、大船に乗ったつもりで見てなさい!』 これで白い制服の子が私だと唯先輩が思い込んでくれるならそれで大成功だ。 祈るような気持ちで私は目の前の唯先輩の亡骸の冷たくなった手を両手で強く握る。 そうだ、あっちの時間で私が轢かれたら、今ここにいる私はどうなるんだろ。 このまま消滅しちゃうのかな、どうなのか分からないけど、1つだけはっきりと分かることがある。 それが今度こそ本当の、唯先輩とのお別れになるということだ。 唯『あっ!横断歩道の向こうに白い制服の子が見えた!ちゃんとツインテールだし、あずにゃんみっけたよ!』 唯『それじゃ、1時間後にまた会おうね、今度こそ』 梓『はい、また1時間後にきっと……』 梓(最後の最後まで騙すようなことしてすいませんでした……先輩) 梓(でも、こうするしかないんです……今までありがとうございました唯先輩。本当は直接言いたかったですけど……大好きです……どうかお元気で、さようなら――) 私は心の中で唯先輩に最後の感謝の気持ちと別れを告げる。 と同時にこの半年間の唯先輩との思い出が走馬灯のように駆け巡った。 初めて電話が繋がって保健室で会話した時、電話を切ろうとした私をあなたは慌てて止めて半ば強引に話を進めましたよね…… でもあれがなかったら、今の私は無かったんじゃないかなって、今になってそう考えるんです。 その夜、公園でお話した時のこと覚えてますか? 私にあずにゃんなんて変な名前を付けてきて正直呆れましたよ。 でも初めてあの人を「唯先輩」と呼んだんですよね、私。 テストの答えを教えてって泣きついてきた事もありましたね。 結局成り行きでズルに加担しちゃったんですけど、放っておけないいんです…… カンニングよりずるいですよ、あなたのその声―― 時間差で流れ星にお願いしたあの日の夜、覚えてますか? ……きっと私達、同じ願いをしてたんだろうな、今になってそう思えるんです。 そう、「会えたらいいな」って―― 落ち込んでる私を励まそうと遊びに誘ってくれたこともありましたね。 鎌倉で電話越しだけど一緒に遊んで、海岸で見た夕日、私はずっと忘れません。 河原で音も合わせられないのに暗くなるまでギターを練習もしましたね。 とても嬉しそうにしてくれて、お陰で私は音楽の楽しさを再認識することが出来ました。 なんだか全てが昨日の事のようですね…… もうすぐ死ぬかもしれませんけど不思議と怖さはないです。 目を閉じてじっとその時を待つ私。 8
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気がついた時、私は暗い部屋にいた。 扉も何もない、暗く広いだけの部屋。 何処からともなく私を呼ぶ声が聞こえた気がした。 声が聞こえた方へ目をやると、少し離れた場所に先輩達の姿が見えた。 私は先輩達の居る場所へと歩を進めるが、その距離は縮まるどころか次第に遠ざかって行く。 必死に追いつこうと走り出す、だが無情にもその距離は離れていくばかり。 『私を置いて行かないで下さい…!』 必死の叫びも虚しく、遂に先輩達の姿は見えなくなり私は一人その部屋に取り残される。 『私を一人にしないで下さいよぉ…!』 喩え様のない喪失感に、私はその場に立ち尽くすだけだった。 『あ~ずにゃん♪』 その時、私を呼ぶ優しい声が聞こえた。 『何してるの?』 それはとても懐かしく温かい声だった。 『ほら、あずにゃんも早くおいでよ♪』 声の主が私に向かって手を伸ばす、私はその手を掴もうと必死に手を伸ばした。 指先に微かな感触。忘れる筈のないその温もり、いつも私を抱いてくれたあの人の温もり。 「唯先輩!」 私は精一杯の声でその名を呼んだ。 「あいよ~♪」 私の耳に届いたのは、そんな気の抜ける様な声だった。 「…」 一瞬、自分の置かれた状況がわからなかった。 だが、意識が覚醒していくにつれ、私は少しづつ状況を把握していく。 「夢…?」 そして茫然とそう呟いた。 「おはよう、あずにゃん♪」 「…唯先輩、ここ何処ですか?」 私の問い掛けに唯先輩は不思議そうな顔をしたが、すぐにいつもの笑顔に戻って答えてくれた。 「ここは二年生の教室、あずにゃんのクラスだよ」 「教室…」 「寝ちゃってたみたいだね、あずにゃん」 「…そうみたいですね」 「怖い夢でも見ちゃった?」 「え?」 「だって、ほら…」 そう言いながら、唯先輩が私の涙を拭ってくれる。 「大丈夫だよ、もう怖くないからね…よしよし♪」 そして、優しく頭を撫でてくれた。 「…」 普段なら恥ずかしさのあまりその手を振り払ってしまう所だけど、今はその手が堪らなく愛おしかった。 「今日は素直だね、あずにゃん♪」 「ち、違います!まだ少しぼ~っとしてたから…!」 「いいこいいこ♪」 「もう、止めてください!…それより、唯先輩こそ何で二年の教室に居るんですか?」 「えっとね、部室で待ってても中々あずにゃんが来ないから様子を見に来たんだけど…」 「あ、そうだったんですか」 「そしたら、あずにゃんが寝てたからずっと寝顔を見てたんだよ♪」 「すいませんでした…そっか、ずっと寝顔を見て…って、えぇ~っ!?」 「あずにゃんの寝顔、とっても可愛かったよ♪」 「…」 中野梓、一生の不覚…。 寝顔を見られた上に、寝言まで聞かれてしまった。あまつさえ涙まで…。 「あずにゃん、部活行こ!」 私の後悔を余所に、軽い口調でそう言いながら唯先輩が手を差し出す。 「あ、はい…」 私は差し出されたその手を取ろうとした。 「!」 その瞬間、私は言い表せない程の恐怖感に襲われた。 「あずにゃん?」 唯先輩が首を傾げる。 (あれ、この感じ何処かで…) 既視感?…違う、感じは似てるけどそうじゃない。 先刻の夢?…それも違う、もっと確かで現実にあったような。 「あ…」 ふと、私は思い出した。 残暑厳しい夏の終わり。祭りの最中、雑踏の中で唯先輩の手が離れて行ったあの夜の記憶。 「どうしたの、あずにゃん?」 ほんの数センチ…けれど、私はどうしても差し出されたその手を掴めなかった。 (もしも、この手がまた離れるような事があったら・・・) あの夜に感じた虚無感。喪失感。その時の記憶が私の身体を麻痺させる。 そして、遂に私はその手を掴む事なく自らの手を引いてしまった。 刹那、私の手を柔らかな温もりが覆った。 「唯…先輩?」 それは唯先輩の手だった。 「大丈夫だよ、あずにゃん…今度こそ、私はこの手を離さないから」 「何で、そんな事…?」 「わかるよ、私もそうだったから」 「え?」 「お祭りの夜…あずにゃんと繋いでた手が離れちゃって、ずっと探したんだけど見つからなくて…」 (唯先輩、ずっと私を探してくれてたんだ…) 「その時、何だかわかんないけど急に怖くなって、悲しくなって、涙が止まらなくなったんだよ」 「唯先輩…」 「だから、もう絶対に離さないよ…それでも、あずにゃんが不安だって言うんなら、ほら♪」 そう言って、唯先輩は両方の手でしっかりと私の手を握り締めた。 「…」 温かくて力強い唯先輩の両手。 それでもまだ、私はその手を握り返す事が出来なかった。 「まだ、不安なんだね…でも心配は要らないよ、あずにゃん♪」 次の瞬間、私の全身が大好きな温もりに包まれた。 「あ…」 その温もりに包まれた瞬間、私の中に巣食っていた恐怖の感情が一気に消え失せる。 「こうやって、ずっと抱き締めててあげるから…私は絶対にあずにゃんを離さないから」 「唯せんぱぁい…」 私は縋りつく様に、唯先輩の体をぎゅっと抱き締めた。 「あずにゃんだけを置いて行ったりしないから、一人ぼっちになんてしないからね」 「はい、唯先輩」 「行こう、あずにゃん!ムギちゃん達がお茶とお菓子を用意して待ってるよ♪」 「はい!」 唯先輩が私の手を取って走り出す。 私はその手をしっかりと握り締め、負けじと走り出した。 「ねぇ、唯先輩…」 「なぁに、あずにゃん?」 「私の手…一生、離さないで下さいね?」 「あいよ~♪」 この先どんな事があろうとも、私はこの手を離さない。 END これか、結構前のSSなんだね -- (名無しさん) 2011-03-24 11 34 03 まったく唯梓は最高だぜ!! -- (あずにゃんラブ) 2013-01-20 01 49 12 こういうの好き -- (名無しさん) 2013-10-29 01 39 47 唯のあいよ~♪が良いね -- (名無しさん) 2018-03-27 09 40 12 名前 感想/コメント: すべてのコメントを見る
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1 唯梓 ※立て逃げ乗っ取り 2013/05/21 http //hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1369062309/ 戻る 名前 コメント すべてのコメントを見る なんで最後いい感じに終わらせたんだよ -- (名無しさん) 2015-02-14 03 01 17 梓がこんな風になったのは病気ではなく妖怪のせいかもね。 -- (名無しさん) 2014-12-11 08 48 06 梓が暴走する前半、突然いい話になる後半、それぞれ単独なら面白いけど、展開が突如変調し過ぎ。 もう少しうまく繋げればよかった。でも全体でみれば楽しめる作品。 -- (名無しさん) 2014-12-11 07 12 35 嫌いじゃないな。 -- (エルプサイコングルゥ) 2014-12-11 03 23 16 力技的な終わり方。 少しばかり狂気も感じる。 -- (名無しさん) 2014-12-10 23 35 21 俺も中野にこんな風に言われたい -- (名無しさん) 2014-04-23 22 13 08 なんかラストいい話みたいな雰囲気になっててワロタ -- (名無しさん) 2013-05-28 00 34 44 ずいぶん昔のSSに澪先輩じゃなきゃってほとんど同じタイトルの画あったな。 改変じゃないし、則りだからいいけど、やっぱりちょっとなんだかなと思ってしまうな。 まあ、梓があほかわいかったからいいけど。 -- (名無しさん) 2013-05-23 00 45 27 溶けかかってたってあずにゃん何を出した… まぁ仲良さそう?で何よりかな。 -- (名無しさん) 2013-05-22 02 21 17 終盤の急展開は一体何なんだ… -- (名無しさん) 2013-05-22 00 27 22
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このSSは『【けいおん!】唯×梓スレ 2』というスレに投下されたものです http //changi.2ch.net/test/read.cgi/anichara2/1247988782/l50 546 :名無しさん@お腹いっぱい。:2009/08/25(火) 06 42 43 ID vflqH1Ly 最近澪先輩と唯先輩が上機嫌だ。 多分、というよりは確実にそうなんだろうけど、やはり自分の歌ができたからなんだろう。 澪先輩はといえば、今鼻歌を歌いながらベースを弾いている。勿論聞こえてくるハミングは「Heart goes boom」 腕はいいのに、恥ずかしがりやな性格で損をしている先輩には、いい歌だと思う。本当なら、もっと自信過剰になるくらいでもいい人なんだから。 今聞こえてくる音色が、以前のものよりもずっと深く重く、そして澄んで聞こえることがその証明。 唯先輩はといえば、同じく鼻歌を歌いながらキュッキュッとギターを磨いていた。ニコニコしながら、楽しそうに行為を繰り返してる。 その分練習に当ててくれれば、と思わなくもないけど、そうしてギターと触れ合うのもやはり大事なことなんだろうと先輩を見てると思えてくる。 唯先輩の歌―「ギー太に首ったけ」 聞くだけで、本当に大事にしてて大好きなんだってことが伝わってくる、そんな歌。 ―そんな唯先輩を眺めながら、ふととある疑問が頭に浮かんだ。 少しボーっとしていたせいだろうか。私はそれを吟味することもなく、あっさりと口にしてしまっていた。 「ギー太って、男の人なんですか?」 口にしてから、何で私はこんなことを聞いたんだろうと激しく後悔した。ギターはギターだし、そもそも無機物だし。 どこから男の人なんて発想が出てきたんだろう。それは、確かに「太」という妙に男らしい名前がつけられているからなんだろうけど。 でも、頭の中でちらりと浮かばせるくらいならともかく、こうして口にしてしまうなんて。 唯先輩もギターを磨いていた手を止めて、え?と書かれた顔をこっちに向けていた。不意をつかれた、そんな顔。 「ええと、ギー「太」って名前じゃないですか」 とりあえずそう続けてみる。その直後、なんでもなかった振りをして話題を打ち切ってしまえばよかったと再び後悔した。 ううん、今からでも遅くはない。何か別の話題を振って、打ち切ってしまえばいい。 それなのにそうしないということは、ひょっとしたら私は本気でその答えを聞きたいと思っているのかもしれない。 まさか。でも、それを否定しきる材料はみつからない。なら、もしそうだとしたら、私は何を理由にしてそんな行動に出ているのだろう。 唯先輩はというと、しばらくきょとんとした顔でこちらを見つめていた。釣り眼がちの私がときに羨ましく思うくるりとした大きい瞳に、惜しげもなく私を映しながら。 ふいっと、何の前触れも無く唯先輩の視線が落ちる。釣られて、私の視線も下へと落ちる。 そして「ギー太」とぶつかった。 直前まで磨かれていたボディはいつもよりも心なしか輝きを増して見える。 一生懸命にそして本当に大事そうに磨いていたさっきまでの唯先輩の姿を見ていた私には、それがたっぷりに注がれている愛情の結晶のように見えていた。 ううん、実際にそのとおりなんだ。そうでなければ、先輩はあんな歌を作ったりしないだろうから。そして、あの歌を聴けば唯先輩がいかにこのギターを、「ギー太」が大好きかってこと、誰にだってわかる。 そんなのずっと前からわかってた。一度お店にメンテナンスに持ち込むような事態にはなったものの、それはただその知識が無かったせいだし。 それまでも、先輩なりにずっと大事にしてきたことはわかっていた。服を着せたり、添い寝をしたり―方向性はおかしいけど。 そもそも、そうでない人にはあんな演奏はできないだろうから。 あの時、ううん、結局は今でも私を虜にしているあの音色を出すなんてできないはずだから。 それは、私が唯先輩を尊敬している部分のひとつで。私はそれを感じることに微笑ましさを覚えていたはずなのに。 何故だろう、今この瞬間の私は―それをなぜか疎ましく思ってしまっていた。 「そっかぁ~ギー太、君は男の子だったんだねっ」 その理由を探り始めるより早く、下を向いていた唯先輩の顔がほわっとほころんだ。 「決めてなかったんですか」 とりあえず、反射的に突っ込みを入れる。冷静に考えれば、それは当たり前のことなんだけど。 そう、唯先輩にもそれは当たり前だったんだ。なのに何故私はそんなことを気にしてしまったのか。 547 :ギー太とゆいあず2/4:2009/08/25(火) 06 45 52 ID vflqH1Ly 「ギー太~」 別に唐突ということは無かった。構えていたギターを、ひょいっと立ててぎゅーっと抱きしめる。 予備動作から本動作まで、そこに私が驚くような要素は何一つない。緩慢とも柔らかともいえるその動作は、それがなされる前からそれが何か簡単に想定できるものだったから。 けれども、私はそれにどうしようもないほどの衝撃を受けていた。 「大好きだよ~」 ぎゅーっとギー太を抱きしめ続ける唯先輩は、そんなことまで口にしている。うっとりと浮かべられる笑みは、私を抱きしめているときの表情と同じか―ひょっとしたらそれ以上。 もともと表裏のない人だから、その言葉に嘘なんてあるはずがない。その仕草全てがそれを示していて、でも今この瞬間だけは、それが覆されればいいなんて私は思っていた。 「お、唯、ラブラブだなー」 「へへー、そうだよ~」 横から投げかけられる声。唯先輩に触発されたのか、チューニングキーと六角レンチを手にドラムセットのメンテナンスをしていた律先輩が、ひょいっと顔をこちらに向けている。 何の変哲もない、いつもの律先輩の声なのに。その言葉は思ったよりも勢いよく私の側頭部にぶつかってきた。 「…ラブラブ…」 ぼそりと繰り返す。ラブラブ…それは、つまり。 「ギー太は私の恋人だもんっ」 そして更に決定的なフレーズが、逆側からもはや決定的な一撃を私のこめかみにヒットさせた。 「こ、ここここっこっ…」 「なんだぁ、梓。鶏のまねか…?」 あまりの衝撃に舌が回らない。だから私の口はそんな音を紡いでるわけで、決して律先輩の言うような特技を身に着けたわけじゃない。 というか、こんな状況でそんな真似をする余裕があるわけ無いじゃないですか―というか、こんな状況って何だろう。 何で私は、こんなにも動揺してるんだろう。 「いい心がけだと思うぞ。ギタリストにとって自分のギターは、それくらいに思って丁度いいくらいだしな」 いつの間にか演奏を終えていた澪先輩が背後から現れる。そう、まったくその通りだ。澪先輩はいつも正しいことを言ってくれる。 だけど、今の私は何故かそれに―何とか反論できるところを見つけようと―必死になって反発しようとしていた。 「ふふ~ギー太ぁ」 だけどそんな言葉なんて見つからない。私が何もいえないでいると、唯先輩は今度はギー太に頬ずりなんかはじめてて。 それは、いつも私がしてもらってることなのに。ぎゅーっと抱きしめられて、頬ずりして、あずにゃんはかわいいねって言ってくれて。 ―だけど、今の先輩の目にはわたしなんて入ってなくて。ギー太だけを映してる。 ううん、それでいいのに。ギターを大事にしてくださいね、なんていったのは私で。そもそも先輩がギー太を大好きなんてこと前から知っていたことで。 なのに、そうだ―それを恋人と、自分の一番の存在だよって先輩があっさり言ってしまったことが― ぎりぎりと胸が締め付けられる―なんで、私はこんなになってるのかな。 ―…まさか、まさかだと思うんだけど、私ひょっとして ―唯先輩のギターに、ギー太に…嫉妬してるの? まさか、そんな馬鹿なことあるわけない。だいたい、ギターに嫉妬なんて―ありえないです。 そもそも、唯先輩に嫉妬するほど―そんな感情、抱いてるなんて―なんて。 ―なんて? なんで、そこで疑問系になるんだろう。断定してしまえばいいのに、それが出来ない。 ぐるりと思考が回転を始め、私の頭が混乱する。それが、とある答えにたどり着く前に 「…あずにゃん?」 そんな唯先輩の声が、私を現実に引き戻してくれた。 引き戻された私の視界には、いっぱいに広がる唯先輩の顔。 「へ…ひゃっ!!」 慌てて飛びのく。すると、いつもの大きさに戻った唯先輩が残念そうな顔をする。 「何で逃げるかなぁ」 そんな気の抜けた声と共に、ぐいっと先輩の顔がまた近付く。私の懐にきゅっと踏み込んで、すいっと手を伸ばして、あっさりと私を捕まえてしまった。 「あずにゃん、捕獲ぅ!」 何で唯先輩は、こんなに私の隙を付くのが上手いのだろう。迅速ってわけじゃないのに、気が付けば私はいつも捕まえられてしまっている。 548 :ギー太とゆいあず3/4:2009/08/25(火) 06 47 23 ID vflqH1Ly 「な、なんですか…!」 そう言い返しつつ、私はどこかほっとしていた。元々―内緒だけど―先輩に抱きつかれるのは嫌いじゃない。 そのぬくもりも柔らかさも安心感も、私はこっそり楽しみにしていたりした。それがない日は、何だか落ち着かなく思ってしまうくらいに。 だけど、今はそれだけじゃない。きっと、さっきはギー太を抱きしめていた腕がそこから離れて、今は私を抱きしめていることに嬉しくなってしまったんだろう。 ―だから、なんで私は―うぅ、もう、これじゃ本当に! 「なんですかじゃないよぉ~どうしたの、あずにゃん?」 「…ど、どうしたのって、なにがですか…?」 「今。ぼーっとして変だったもん」 「へ…?あ…べ、別に何でも…ないです」 誤魔化そうと先輩から顔を背けようとしたけど、先輩はそれを許してくれなかった。大きな瞳に、きゅっと真剣な光を灯して、私をじっと見つめている。 それは、本当に私を心配してるんだよって気持ちがいっぱいに伝わってきて、私はつい、正直に自分の気持ちを打ち明けてしまいそうになる。 そんなわけに行かないけど。だって、言える筈がない。ギー太に嫉妬してましたなんて。 無機物に嫉妬してたことが露呈するのはまだいい。あまりよくないけど。だけどそれは、それを告げてしまうことは、つまりは裏返すとそれだけ先輩のことが―ということになってしまうから。 ―そんなの、そんなこと、言えるはずがありません! だから私はきゅっと口を閉めて、黙秘を通そうとしてたのに。 「なんだぁ、梓。ひょっとして唯のギターに嫉妬でもしてたのかー?」 「何で律先輩はそんなあっさり言っちゃうんですか!!」 反射的に怒鳴り返して、私はハッと我に帰った。 見回すと、私を抱きしめたままきょとんとしてる唯先輩と、後頭で手を組んだポーズでぽかんとしてる律先輩、同じくぽかんとしている澪先輩と、ビデオカメラを片手にこちらを撮影しているムギ先輩が目に入る。 ―最後なんか不穏な行動が見えた気がするけど、それは置いておいて― これは、今の私の発言は…つまり 「いやー…わりぃわりぃ、まさかマジだとは思わなくってさー」 自分から、隠し通そうとしていたことを自白してしまったってことだ。 ―もういいです…律先輩なんて知りません。ごめんなーと手をあわせる律先輩からぷいっと視線をそらして、唯先輩に視線を戻す。 するとそこには私の予想通り、キラキラ目を輝かせて私を見つめる唯先輩の顔があった。 「あずにゃん~~~…!!」 ぎゅーっと抱きしめられる。ほお擦りされる。更には私を抱きしめたままくるくる回りだす。 唯先輩はとっても嬉しそう―だって私はつまり、ギターに嫉妬してしまうくらい唯先輩のことが大好きです、なんて告白してしまったようなものだから。 ―ああもう、好きにしてください。もう… そう言いつつ、私は何故か変に落ち着いた気分だった。先輩たちの前でこんな宣言させられて、あまつさえ唯先輩にそれを知られてしまって、そういうことだって思われてしまって。 いわば、本来の私だったら顔を真っ赤にして否定しているはずなのに。 そのことを先輩が嬉しそうにしているのが―なんだかとても心地よかったから。 「大丈夫だよ、あずにゃーん」 私をぶんぶん振り回しながら、唯先輩は言う。―私は目が回りそうで、あまり大丈夫ではないですけど。 その気配を察してくれたのか、先輩はトンっと私を地面に降ろした。突然軸を戻された体が、ふらりと揺らめき、唯先輩の手がそれを支えてくれる。 「私、ギー太と同じくらい、あずにゃんのこと好きだから」 かくりと私の頭が落ちた。―ギターと同列扱いですか、いえ、別にいいんですけど。 ―あれ? ふと、疑問が持ち上がる。ギターと、ギー太と同じくらい、好き?そこが何故か引っかかる。 だって、さっき先輩は確かにそう言っていたはずだから。 そう、確か、ギー太は唯先輩の―それと同じと言うことはつまり、私は―唯先輩と私は― ―恋人? ぽんっと私の頭が沸騰する。 確かに、私は今ほとんど先輩に大好きって告げたようなものだし、それを受けた先輩は私のことを好きと―ギー太と同じ、恋人として好きだって言ってくれたから。 つまりは、そういう意味で取るならカップル成立というか、恋人同士って言っても間違ってるってわけじゃない。 ―いやいや、私の思考暴走しすぎだから。でもなんでか、もうそういうことにしちゃおうっていうか、そうなっても言いやって方向に勝手に思考が流れようとしてる。 駄目駄目、冷静にならなきゃ。唯先輩のことだもの。きっと、いつものじゃれあい的な…そんな― 549 :ギー太とゆいあず4/4:2009/08/25(火) 06 48 38 ID vflqH1Ly 「ふふ、あーずにゃん…」 「へ…?」 「むちゅ~」 「…!?!?」 そんな―って表情のまま、接近する唯先輩をよける術もなく、私の唇はあっさりと奪われていた。 はむっと私の下唇を挟み込んで、甘噛みするように動かすと、先輩はまたあっさりと離れる。 「な、な、なにを…」 言葉にならない。だって、先輩の唇が、私の唇に触れて―その箇所が焼け付くように熱くて、上手く動かない。 唯先輩にキスされた、ってその事実が上手く巡ってくれなくて、まるで焼け付くマグマのように私を溶かそうとしてしまってる。 それはつまり、証明だ。仮定として私の中に浮かんだ、恋人同士という関係。それをあっさりと、何よりも明確に唯先輩は明らかなものにしてしまった。 ううん、客観的な事実としてだけじゃない。私の中にあったそれ、その形をもう言い逃れのしようもないくらいに、はっきりを私に突きつけてくれた。 それはずっと、私が望んでいたことだということを。 ―何でそんなにあっさりと、そんなことをしてしまえるんですか。 「えへへ、あずにゃん、大好き」 ―そんな台詞を、そんなに簡単に口にしてしまえるんですか。 先輩の顔はいつもどおりの笑顔のようで、でも少しだけ頬が赤く染まっていた。 ―ああもう、その顔は反則です。 ぷしゅーと私の頭が蒸気を上げる。そりゃもう、こんな熱に当てられたら、私の沸点なんてあっさりと超えてしまってもおかしくない。 意識を保つのも精一杯。ううん、きっとあと数秒も持たずに、私は倒れこんでしまうことだろう。 そんな冷静な自分の忠告に、私はきゅっと唇を噛む。 目が覚めてからじゃ、ちょっと遅い。今この瞬間に、先輩に返さないといけない言葉がある。 ―そう、お返しです。こんなにされたんですから、先輩にも多少は同じようになってもらわないと、割に合いませんから。 一生懸命手を伸ばし、ぎゅっと抱きしめる。いつもは胸に埋める顔をとんと肩に乗せて、まるでキスをするように先輩の耳に唇を寄せた。 「私も大好きです―えっと、愛してます、唯先輩」 記憶はそこまで。自分の台詞が止めになったのか、私の意識はすうっと純白の中に溶け込んで行った。 ―追記。 後で聞いた話―私の企みはどうやら成功していたみたい。 意識を失った私を支える形になった唯先輩は、そのあと私と同様ぷしゅーとオーバーヒートしてしまったとか。 あとあと保健室で同時に目を覚ましたときは―それを確認する余裕なんて欠片もなかったけど。 翌日その話を律先輩と澪先輩から聞かされて、恥ずかしがる唯先輩に私はこっそり勝ち誇ったりしてた。 そのあとムギ先輩の「ゆいあずメモリアル」ムービー上映が始まるまでは、の話だったけど。 ―ええ、そういえば撮影してましたね、本当に迂闊としか言いようがないです。 ―大ダメージですよ…冷静さを欠いた自分を客観的に見るのがこんなに痛いなんて。…なんで唯先輩、そんなに嬉しそうなんですか。 ―ちょ…保健室の映像は駄目です!修正いれ…というか見ちゃ駄目です!もう、なんでこんなのまで撮ってるんですか、ムギ先輩! (終わり) すばらしい作品をありがとう
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和「私も唯達の影響で音楽に目覚めてね。楽器は出来ないけど、レーベルの経営なら……って思ったの。 レーベルの名前は『創造(クリエイション)レコード』! HTTなら、きっと新たな音楽シーンを創造する旗手になれるはずだわ」 創造レコード――まさにHTTに相応しい名前です。 そうしてレコーディング。 唯「必殺! フィードバック!!」 ――ギョワアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!! ああ、この音です……この音。 唯先輩のギー太(トレモロアームを装着する改造済み)から放たれる轟音に身を任せていると、 つくづく自分がこのバンドにいることができる幸せを、 そして、何よりも自分が唯先輩の隣を歩くことのできる唯一無二の存在(つまり恋人ってやつです!)であることの幸せを感じます! 私、ちょっと病気でしょうか……? ともあれ、レコーディングは順調に推移。 放課後ティータイムとしての1stアルバム 『Houkago Tea Time Isn’t Anything(放課後ティータイムは何者でもない)』 が完成しました。 この意味深なタイトルは唯先輩がつけました。 HTTに対して、シューゲイザーだのサイケデリックロックだのオルタナだの何だのという、 無意味でキリのない空虚なジャンル付けをしたがる世間に対する、唯先輩からの回答でした。 アルバムは評論家筋にも好評、売上もそれなりに上がり、創造レコードの今後の操業資金とするには十分な利益を得ることもできました。 そうして、アルバムリリースに伴うライヴツアー。 放課後ティータイムの、 『最初の10分はただ耳を塞いでいるだけでいっぱいいっぱい、20分すると帰りたくなる、でも30分経つと轟音に身をゆだねて踊りたくなる』 と評された轟音ライヴは、各所で話題となりました。 唯「あずにゃん、今日のライヴも最高だったよ! いいビックマフとワウのコントロールっぷりだったね!」 梓「ほ、本当ですか……!?」 唯「うん! わたしも最高に気持ち良かった~。これだから、あずにゃんのこと、大好き!」 梓「…………ありがとうございます(顔から火が出そう……)」 紬「あらあら♪ 微笑ましいわ~」 律「こっちまで熱くなってくるな~」 澪「それなら律……今夜は私と……いや、なんでもない」 まさに放課後ティータイムの活動は順風満帆でした。 そして、私にとってはあの、最愛の人、唯先輩に認められているという事実が、何よりもうれしかったのです。 でも、そんな幸せな日々は長くは続きませんでした。 年頃の女の子と言うものは、時には身体が疼いて仕方ない夜を過ごすものです。 梓「唯先輩……唯先輩……」 その日、奇しくも発情期であった私は、耐えきれなくなって同じベッドで寝ている唯先輩の肩をゆすりました。 (ちなみに唯先輩と私は1stアルバムの印税で、二人で住むためのマンションを借りました) いつもなら、 唯『もうあずにゃんったら、仕方ないなぁ~。発情すると止まらないところも猫そっくり♪』 とか言って可愛がってくれるのが常なのですが……。 唯「んー……今日はダメ……」 帰ってきたのは眠そうな返事でした。 唯「今日……1日中……ミキシング……つかれた……」 結論から言ってしまいましょう。 この頃、唯先輩とのすれ違いが激しいのです。 きっかけは、間違いなく2ndアルバムのレコーディングが始まったことでした。 和「1stアルバムも好評だったし、次はもっと期待できるわ! 最近とみに増えてきているHTTのフォロワーのようなバンドとの違いをシーンに見せつけるためにも、次のアルバムが大事よ!」 そんな期待と共に、創造レコードからは多額のアルバム製作費がHTTにあてられました。 これなら今まで以上に機材にもレコーディングにもこだわることができて、すごい作品ができる! 5人のうちの誰もがそう考えたことでしょう。 しかし、現実はそうはいきませんでした。 最初のトラブルは、不動のドラマー、律先輩に起こりました。 律「最近、身体が動かないんだ……」 激しいドラミングが身上だった律先輩は、2ndアルバムのレコーディングという最悪のタイミングで身体を壊してしまいました。 特に脚へのダメージは甚大で、もはや律先輩はロクにバスドラムを踏むことすらできなくなっていたのです。 律先輩は、レコーディングを中断し、入院することになりました。 退院しても、しばらく以前のようなドラミングは難しいそうです。 澪「律が……入院だって……!?」 このことに最も心を痛めたのは澪先輩でした。 もはやこの時期には澪先輩が律先輩に幼馴染の友情を超えた特別な感情を抱いていることは、周知の事実でした。 そして、そんな澪先輩の心のダメージに拍車をかけたのは―― 澪「唯……お前は何を考えているんだ!?」 唯先輩が、離脱した律先輩のドラムパートを全てサンプリングで賄うと言いだしたことです。 唯「別にりっちゃんをクビにするわけじゃないよ。前のアルバムのセッションの時のりっちゃんのドラムパートをサンプリングして、編集して2ndの曲に使うんだよ?」 澪「でも……律が叩いていないことに変わりないじゃないか! 律が回復するまでレコーディングは延期するべきだ!」 唯「でも和ちゃんからもらっている製作費にも限りがあるし、 そうそう長い間レコーディングをひきのばすこともできないよ?」 唯先輩の案が苦虫をかみつぶした末の苦肉の策であることは、私もムギ先輩も重々承知していました。 澪「ふざけるな!! それじゃあバンドの意味がないじゃないか!!」 しかし、『バンドとはメンバーの誰一人欠けても成立することはない』が信条であり、 その上、律先輩という大切な人の問題となった時の澪先輩にとって、その提案は承服しかねるものでした。 そうして、澪先輩はだんだんとスタジオから足が遠のくようになっていきました。 唯「仕方ないね。ベースは私が弾いて、ボーカルは私とあずにゃんで分担しようか」 それでも唯先輩はレコーディングを中断することはありませんでした。 この頃からです。 唯先輩が口の悪いレコード会社のスタッフやエンジニアから 『コントロールフリーク』だの『独裁者』だの『神経質』だのの陰口を叩かれるようになったのは――。 しかし、唯先輩には確かにそう思われても仕方ないところはありました。 その① 自分以外の人間に卓のツマミは触らせない。 レコーディングには、何人もの腕利きのサウンドエンジニアが関わりました。 しかし、唯先輩はその誰にも、ミキシング卓のボタンひとつ触ることを許さず、アンプに向けるマイク1本にすら触れることをよしとしなかったのです。 唯「だってこれはわたしたちのアルバムだよ? どうしてわたしたち以外の人に音をいじられなくちゃならないの? そんなの、私たちの飲むお茶をムギちゃん以外の人が淹れるようなもの……つまり台無しだよ!」 唯先輩の言うことはもっともにも聞こえましたが、異常なほどにこだわっていたのも事実です。 唯「わたしたち以外の人間に、絶対にアルバムの音はいじらせないよ!」 こんなことを言う唯先輩ですか、その実、自分以外の人間……私や他の先輩達にすら、卓を操作する権限は与えられませんでした。 その② ギターの一音にすらこだわる。 とある曲のイントロのギターのワンコードを録音するだけで2週間の時間がかかりました。 私も何度ギターリテイクを出されたか、覚えていられないほどでした。 そして、ミキシングにもこだわり、ボーカルのブレスの聞こえ方ひとつから、 ベースとムギ先輩の弾くシンセサイザーの一音の重なりにまで、何度もリミキシングを重ねました。 思えば唯先輩は高校時代、チューナーなしで4分の1音のチューニングのずれにまで気付いた絶対音感の持ち主です。 唯「うーん、今のところ、わたしが考えていたコードの響きとちょっとちがうかな~。もう一回だね」 口の悪い音楽雑誌の記者は『平沢唯は1曲でギターを200本も重ねるパラノイア』と書き立てました。 その③ とにかく時間がかかる。 前述したサウンドへのこだわり。 これにサンプリングした律先輩のドラムトラックの切り貼りが加わるというのですから、かかる時間は考えたくもありません。 しかも、唯先輩はその全てを一人でこなすわけです! レコーディングの予定は、当然のことならどんどん後ろにずれ込んでいきました。 そんなある日、創造レコードの社長にして唯先輩の幼馴染である真鍋先輩が、真っ青な顔をしてスタジオにやってきました。 和「唯……ちょっと相談なんだけど」 唯「な~に?」 唯先輩はミキシング卓に向かったまま、振り向きもしません。 和「アルバムのレコーディング……もうちょっと早くならないかしら。 時間がかかり過ぎているせいで、スタジオ代がとんでもないことになっているの。 これじゃ、いずれ創造レコードは倒産してしまうわ」 真鍋先輩の言葉は冗談には聞こえませんでした。 この頃、創造レコードはHTT以外にもいくつかの売れっ子インディーバンドを抱えており、 資金にはそれなりに余裕はあるはずなのにもかかわらず、この発言です。 唯「それじゃ、こういうこと? 和ちゃんはHTTに中途半端な出来のアルバムを出せっていうの?」 和「そう言うわけじゃないけど……いい加減に出費が……」 唯「だからもうすぐできるって! 何度も言ってるじゃん! すぐ! もうすぐ! 英語でいえば『Soon』!!」 和「…………」 この唯先輩の剣幕には、さすがの真鍋先輩も閉口してしまいました。 後年、HTTは『アルバム制作に金をかけ過ぎて、レコード会社をひとつ潰しかけたバンド』とのありがたくない異名を頂戴することになりました。 とにかく、毎日がこんな調子――。 以前の軽音部の部室やHTTのスタジオにあったはずの、ほのぼのとして楽しい空気は微塵もありませんでした。 そして、アルバムの制作に没頭する唯先輩は1日の殆どをスタジオで過ごし、 マンションには寝に帰ってくるだけ、(それも3日に1度程度)というありさまでした。 これですれ違いにならない方がおかしいというものです。 梓「今日も帰ってきてくれないんですか……?」 唯「うーん、まだミキシングの出来に納得いかないんだ~」 梓「そんな……。これで1週間も連続で一緒に夜を過ごしていないじゃないですか……」 唯「仕方ないよ。あずにゃんはギター弾いてちょっと歌うだけでいいけど、わたしはそれに加えて、もっといろんな作業をやらなくちゃいけないんだから」 当然、私も理解はしていたつもりでした。 唯先輩は天才だ。音楽の神に選ばれた人だ。そんな唯先輩を私は好きになった。 だから、我慢しなくちゃいけない。 そう何度も自分に言い聞かせてきました。 でも、それももう限界だったのです。 梓「いい加減にしてください!!」 ある日、スタジオで私は唯先輩に対して溜まりに溜まった感情を爆発させてしまいました。 梓「来る日も来る日もスタジオ、スタジオ、ミキシング、ミキシング……唯先輩はちょっとおかしいです!!」 唯「おかしい? どうして? 私たちHTTのアルバムのためだよ? 一生懸命アルバムを作ることの何がおかしいの?」 梓「それが律先輩の身体の……澪先輩の心の……そして私と唯先輩の生活の破綻に繋がっていてもですか!?」 紬「梓ちゃん? 落ち着きましょう、ね? ほら、座って……紅茶も淹れるから、ゆっくり飲んで、落ち着いて話しましょう、ね?」 すかさずムギ先輩が間に入りますが、私は止まれませんでした。 そうして、私は言ってはいけない一言を言ってしまったのです。 梓「唯先輩は……私とアルバムのどっちが大事なんですか!!??」 その時の、固まった唯先輩の表情を、私は一生忘れることはないでしょう。 やってしまった――と後悔した時にはもう遅かったのです。 唯先輩は戸惑いがちに、ムギ先輩の顔をちらりと見、そしてもう一度私の顔を見ると、 唯「………ごめんね」 とだけ小さくつぶやき、またミキシングの作業に戻りました。 この瞬間、私にとって全てが……終わってしまったのです。 その後、気まずくなった私は当然スタジオに顔を出すこともできませんでした。 私の分のギターパートとボーカルパートのベーシックトラックは全て録り終えた後だったというのが不幸中の幸いと言うほかありません。 そして、最後まで私たちの間に入ってくれたムギ先輩も、とうとうスタジオに顔を見せなくなったとのことでした。 なんでもムギ先輩は真鍋先輩にこう言い残し、スタジオを後にしたと言います。 紬「りっちゃんに澪ちゃん……そして今度は唯ちゃんと梓ちゃん…… あんなに仲の良かった皆の関係がこれ以上壊れていく様を、もう私は見ていられない」 ぐうの音も出ませんでした。 私が荷物をまとめ、唯先輩との愛の巣だったマンションを離れたのもそのすぐ後のことでした。 そうして、長い月日と、膨大な労力と、山のような札束と、そして何よりも取り返しのつかない友情と愛情の喪失を引きかえに 完成した放課後ティータイムの2ndアルバムには、皮肉なまでに象徴的なタイトルが付けられました。 その名も 『らぶれす!(Loveless)』 まさに愛なき世界となってしまった私たちの未来を象徴するようなタイトルでした。 放課後ティータイムの2ndアルバム『らぶれす!』はとてつもない好評をもって世間に迎え入れられました。 しかし、後になると、この『らぶれす!』は『放課後ティータイムの2ndアルバム』ではなく、 『平沢唯のソロアルバム』として受け取られることが多くなりました。 それも当然です。 このアルバムはほぼ唯先輩が一人でつくったものなのですから。 その証拠に、律先輩はただのサンプリング音源のドラムマシーンと化し、アルバムでは1曲も新録を行っていません。 (それでも唯先輩の巧みな編集技術により、アルバムで聴かれるドラム音は生録音と殆ど違わないものでしたが) 澪先輩は、アルバムでは一音もベースを弾いておらず、数曲での作詞とコーラスに僅かに声が残っていただけです。 ムギ先輩が録音したキーボードパートは、最終的に全て唯先輩の演奏に差し替えられました。 私に関しても、数曲でのボーカルとギター演奏で、その痕跡を残したのみです。 そして、最も皮肉なのはそんなアルバムの出来が素晴らしかったことです。 ギターの轟音はこれまで以上に猛威を増し、その間隙を流れるように漂うボーカルもこの世のものとは思えない天上の美しさを讃えていました。 『らぶれす!』アルバムは世紀の名盤として、音楽史に名を刻み、後世に影響を与え続ける存在となったのです。 この後、あれだけのすれ違い、仲違いがあったにもかかわらず、 放課後ティータイムは『らぶれす!』のリリースに伴うライヴツアーに出ました。 (この頃には律先輩も一応のドラミングはできるまでに回復していました) 商業上、契約上の理由で仕方なく行ったものとはいえ、ツアーは当然ながらつらいものとなりました。 楽屋でも移動のバスの中でも、当然ながらまともな会話はなし。 唯「………」 澪「………」 律「……しゃれこうべ」 紬「………」 梓「………」 空気を変えようとした律先輩必殺の一発ギャグもまったく効果はありませんでした。 バンド全体としての雰囲気も悪かったけれど、私と唯先輩の間にはそれ以上に気まずい空気が流れていました。 以前はあれだけ頻繁にされていた唯先輩からのスキンシップも、二人の間でのちょっとした会話ですらも皆無。 互いが互いを空気であるかのように認識していました。 もっとも私は無理やりにでもそう思わなければ、心がバラバラになってしまいそうなくらいつらかったからなのですが。 しかし、皮肉だったのはそんなバンドの雰囲気の悪さにも関わらず、 肝心のライヴ演奏に関しては、HTTのキャリア内でも最高の状態にあったことです。 唯「え~、それじゃ次は『ふわふわ時間』」 客「ウオーッ!!」 ふわふわ時間での長尺ノイズパートはもはやHTTライヴの風物詩となり、 多くの観客が轟音の波に身を委ね、気持ちよさそうに陶酔していました。 海外でのライヴを行うこともできました。 しかし、頂点に達したこの轟音は同時に、HTTというバンドの断末魔の叫びでもあったのです。 4
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唯「あずにゃん?」 梓「なんですか?唯先輩」 唯「あのね…」 梓「はい?」 唯「き、キスの仕方を教えてほしいな」 梓「き、キスですか!?」 唯「うん、ちゃんとしたキスの仕方」 梓「ど、どうしてそんな事を聞くんですか?」 唯「どうしてってキスしたい人がいるんだよ」 唯「だからちゃんとしたキスのやり方を教えてもらってからやりたいな~って」 梓「……」 梓「唯先輩はそのキスしたい人の事が好きなんですか?」 唯「うん!大好きだよ」 唯「凄く大切な人…だよ」 梓「そうですか…」 梓「……」 唯「あずにゃん?」 梓「……分かりました」 梓「教えてあげます」 唯「本当!?」 梓「はい」 梓「唇と唇が触れあったら唯先輩の舌を相手の舌と絡ませます」 梓「以上です」 梓「じゃあ、私は用事があるのでこれで帰ります。さようなら」 唯「ちょ、ちょっと、あずにゃん!まだ話が……」 梓「(唯先輩のバカバカバカ)」 梓「なんですか?話って」 梓「私は忙しいんですけど」 唯「あずにゃん、最近なかなか口を聞いてくれないよね?」 梓「…そんな事はないですよ」 唯「私の事、嫌い?」 梓「…そんな事はないです」 唯「じゃあ、話をするから最後まで聞いて」 梓「…なんですか?」 唯「あのね…」 唯「あずにゃんの事が好き」 梓「えっ」 唯「あずにゃんの事が好きで好きでたまらないんだよ」 唯「もっとあずにゃんとずっといたい」 唯「もっともっとあずにゃんと一緒にいたい」 唯「だから私と付き合ってあずにゃん!」 梓「…本気なんですか?」 唯「本気だよ!」 梓「じゃあ、唯先輩が本気なところを見せてくださいよ!」 唯「……」 唯「分かった」 唯「あずにゃん良い?」 唯「私の本気を受け取って」 チュウ 梓「(唯先輩//)」 唯「(ちゃんとしたキス見せてあげるからね)」 梓「(ゆ、唯先輩の舌が…//)」 梓「(私の舌と絡みあって…//)」 梓「///」 唯「どうだったあずにゃん?」 唯「私の本気のちゃんとしたキスは」 唯「これで信じてくれた?」 梓「はい、良く分かりました…//」 唯「じゃあ!?」 梓「これからよろしくお願いします唯先輩」 唯「うん、よろしくね!」 梓「あの、唯先輩?」 唯「何?」 梓「キスの仕方を教えた時の大好きな人って……」 唯「もちろん!あずにゃんの事だよ」 梓「(やっぱり、えへへ~)」 梓「ところで唯先輩、さっきのキスの仕方はまだまだですよ」 唯「えー、そうなの?」 唯「私なりに頑張ったのに……」 梓「大丈夫です」 梓「…これからたくさんしていきましょう//」 唯「うん!」 終わり 名前 感想/コメント: すべてのコメントを見る