約 1,001,329 件
https://w.atwiki.jp/wakoku/pages/67.html
放浪料理人:マオ設定【空想職業】 空想職業案内【http //shindanmaker.com/267925】にて 出てきた設定を元にキャラ立てしてみた結果。 ※二次創作はご自由にどうぞです! *********************************** 【基本情報】 ・名前 マオ(華国語で「猫」の意) ・性別:男 ・年齢:19歳 ・家族構成:不明 ・出身地:華国・貧民街 ・現在地:草原船中心に放浪 【外見】 ・身長・体重・体型:176cm ・髪と目の色:深緑/漆黒 ・髪型:後ろで軽くまとめてる。ウェーブは天然 ・服装:チャイナ服的なもの ・小道具:腕輪(後述)・髪飾りや衣服の中に暗器あり ・その他:狩&護身用に小さい武器をいくつか隠し持ってる。主に針や投擲系。 【職業】 ・仕事内容◆放浪料理人◆ 各地を点々としながら珍しい食材や料理を開拓しつつ旅をしている。 屋台のような適当な感じで店を構えていたり何かしらやってる。 現在は草原船内で腕をふるってたりいなかったり。 草原船の正式な船員ではないので、気まぐれに船内から消えたりもする。 放浪している時は草原船の移動ルートと重なるように動いており、 暇になるとまた草原船に戻ってくる。 【能力】 *腕輪:たま マオの左手に付けられている腕輪。人間ほか動物とも会話が出来る。 堅物のおっさん。腕輪歴は400年強。 元々は倭国の宝物、そこに魂が移った。 盗まれ店に売られ、巡り巡って華国にやってきた。 マオに倭国語等色々教えたりもしてる。 マオの行為を咎める事もあるけど、かわいさ故で基本的に甘い。 生前はとある所に仕えていた武士。(徒大将辺り?) 本名は鐶(たまき)、年齢は30代後半あたり?戦にて討死。 過去に身分違いの女性と結ばれない関係を築いていた。 性的な面に関しては堅め。(特に女性相手) 別に経験が無い訳ではないし、必要ならば色町にも行く。 *できること:空を飛ぶ事・喋る事・動く事 人称:我・私・俺(使い分け)/貴公・おまえ・そなた/役職・名前呼び捨て 口調:少し古めで堅めな口調。ぶっきらぼう? ~なのか、~だろう、よかろう マオには態度が甘い。 装備者の体力を動力にしているので、死体では動けない。 装備者が気絶していてもたまの意思で飛んだりは可能だが、際限なく使い続けると装備者は死ぬ。 腕輪が外されていても外面的に動けないだけで、見聞きも出来るしたまの意思はある。 (腕輪を外している間はたまは何も知らないとマオは思ってるけど) 【性格】 ・基本性格 *いじわる猫。好奇心も強いけど警戒心も強い。 気まぐれ、飽きっぽい、マイペース。素直じゃない。 ・細かい設定 好き&大事:たま・料理・刃物調達・悪戯・優しくされる事、大事にされる事 嫌い&苦手:見下される・飼われる事・疲れる・面倒な事 *華国貧民街生まれの元少年奴隷。 *マオという名前は昔からの呼び名で実名ではない。 *8歳の時にたまを拾い、そのまま貧民街から出奔。 *奴隷時代の反動かちょくちょく意地の悪い行動をするが、適度な所で謝ったり「冗談」で流して終わらせる。 *自分と反対の幸せな生い立ちの人には、羨ましさ半分憎らしさ半分。 *素直じゃないだけで基本的には優しい。 *飼われるのは嫌だけど、寂しがりやなので構ってはほしい。 *頬をつねったり服や髪を引っ張ったりが日常コミュニケーション。 たまには抱きついたりで普通に甘えたりもする。 *ねこ、って呼ばれるのはなんか嫌。 *肩から背中にかけて傷痕と焼印痕があるので露出は好まない。 *奴隷時の虐待がトラウマで、似た状況になったり精神的に責められると気が弱くなる。 *草原船に身を置いてはいるが、略奪・暴力・殺傷行為は苦手。 *たまは父であり兄であり友達。 *女性の色気には弱い(恥ずかしいので) 【口調】 ・しゃべり方 わがままっ子な口調。中性っぽい感じ。 ~だよ、~でしょう、~なの等、敬語使うときは大体嫌味。 ・人称 自分:俺(昔は僕。今でも気弱になると僕になる) 他人称:キミ、職名+さん、名前の略称を呼び捨てか、さん付け 名前を呼ぶほど親しくない、は知らない時は、おにーさん・おねーさん 【関係】 ・各キャラとの関係 エルヴァ:雰囲気に惹かれたので話しかけてみたら無視された、ので蹴ったのが始まり。 (エルタオ交際時期辺り?この時はたまたま近くにフーはるが居なかったとか) 恋というよりは兄弟みたいな感覚でじゃれついている。 ご飯食べてたり楽しそうなエルヴァは好きだけど、残忍なエルヴァは嫌い。 風絲:昔のトラウマを色々思い出すので出来れば関わりたくない。苦手な人種。 エルヴァに構ってると邪魔をされるのもおもしろくない。 ひどくされても甘やかされると居心地よく感じてしまうので、その度に壁に頭を叩きつける気分。 悠:最初は女だと思ってなめてかかっていたら、怖かった。 風絲程ではないが少々警戒気味。逆らえない。 麻花:料理仲間。顔に傷作ってるとちょっと心配になる。(女の子だから) 風絲と兄妹とはあんまり信じたくない。 アムリタ:殴られて喜ぶ人を殴る趣味は無いので馬は合わない。 雑用お手伝い係くらいにはなるかなーと思ってる。 雫然:年上で同じ男だとは思えないという意味で不思議生物。 向こうからも嫌われてるし、こちらも特に思う事は無いので割とどうでもいい存在。 でも衝突したら一番ぎゃいぎゃいやりそうな組み合わせだと思う。 ・仲のいい職業・理由◆聞き耳屋◆ 嘘でも真実でも噂を聞くのは好き。 ・仲の悪い職業・理由◆音集め屋◆ 草原船に関わっているので、シュウくんにはあまり良く思われてなさそう? 【各キャラへの一言・名前呼び方】 ・麻花/麻花・麻(マー) ・エルヴァ/エル ・悠/はるさん・はる ・アムリタ/アム ・風絲/風絲さん・風絲 ・雫然/雫然 【その他】 【診断結果】 ふきは『放浪料理人』です。 髪は深緑。瞳は漆黒。 慎重な性格で、腕輪を使用します。 仲がいいのは『聞き耳屋』、悪いのは『音集め屋』。 追加要素は『背が高い』です。
https://w.atwiki.jp/ryugugakkou2013/pages/7.html
九条院卓也の龍宮な日々「月とバニラ」(7/4) 九条院卓也の龍宮な日々「月とバニラ」(7/25) 九条院卓也の龍宮な日々「月とバニラ」(8/8) テーマ:仕事、息子、その他。 テーマ:仕事、息子、その他。 テーマ:仕事、息子、その他。 遅い朝。 今日も朝から暑かった。 朝から暑い。 夏の濃い日差しを感じる。洗濯物を取り込んだというだけで、すでにほんのりと汗ばんでいる妻の肌。 洗濯物を取り込んだというだけで、妻は軽く汗をかいていた。 洗濯物を取り込むだけでも妻は汗をかいていた。 ここのところずっと暑い日が続いているが、過ごしづらいほどでもない。 決して、過ごしづらいほどの暑さでもなく、これぐらいでちょうどいい。 だからと言って、決して過ごしづらいほどの暑さでもなく、これぐらいでちょうどいいかも知れない。 これぐらいでちょうどいい。 ほどなくして妻を見送る。。業者から店にアイスを下ろしに行くらしい。重たいクーラーボックスを5つぐらい車に積むわけで、女手ひとつで大丈夫だろうか。 仕事に行く妻を見送る。 仕事に出掛ける妻を見送る。 まずは、業者から店にアイスを下ろしに行くのが日課であるという。 業者から届いた荷物を店に下ろすのが日課であるとかなんとか。 せめて卸売の業者のにいちゃんが力仕事を手伝ってくれたら有難いのだが。 部屋に1人残され、水回りの整理と、布団を取り込むのが私の仕事。 部屋にはオレ1人。水回りの整理と、布団を取り込むのが残された者の仕事だ。 部屋に1人残されたオレは、水回りを整理したり、布団を取り込んだりするという重役を仰せつかっている。 昼食は、ホットケーキにサラダに、冷製のトマトスープ。これなら洗い物も少なくて済む。 昼食は、ホットケーキとサラダと、冷製のトマトスープ。 昼食は、トマトの冷たいスープ、ホットケーキ、サラダ。 レンジで温めたホットケーキの上にバニラのアイスを1玉乗せるのが最近のお気に入りだ。 そして、レンジで温めたホットケーキの上に、妻の仕事の残り物のバニラのアイスを1玉乗せるのが最近のお気に入りだ。 ホットケーキをレンジで温めてからバニラのアイスを1玉乗せるのが最近のオレのお気に入りだ。 バニラアイスは妻の仕事の残り物で、でっかいタッパーに入った状態で我が家の冷凍庫の大半を占拠している。 会社に着いたのは、昼の2時を少し過ぎた頃だった。 昼の2時を少し過ぎた頃に会社に着く。 昼の2時を少し過ぎたあたりに出勤。 正社員となり2年目の夏。 正社員となり2年目の夏。 正社員となって2年目の夏。 30歳を過ぎてなお、私はこの会社でバイトの身分に甘んじていた。壁を1枚隔てた隣のフロアには、伝票整理をしながら居眠りをしていた頃の私をよく知る連中が当時と変わらぬ配置のままで居るのかと思うと、なんとも不思議な感覚がある。 30歳を過ぎても、オレはこの会社でバイトの身分に甘んじていた。壁1枚隣のフロアには、伝票整理をしながら居眠りをしていた頃のオレをよく知る連中が当時とほとんど変わらないデスクの配置のままで居るのかと思えば、じつに不思議な感じがする。 30歳を過ぎてなお、オレはこの会社でバイトの身分に甘んじていた。 甘んじるも何も、伝票を数える途中で居眠りをして、どこまで数えたかわからなくなって結局イチからまた数え直す…などという体たらくがしょっちゅうだった。 壁1枚挟んだ隣のフロアには、その頃のオレをよく知る連中が当時とほとんど変わらないデスクの配置のままで居るのかと思うと、つくづく感慨深いような、不思議な感じがしないでもない。 居眠り小僧が今では、上役出勤だ。 かの居眠り小僧が、今では上役出勤。 居眠り小僧が、今では上役出勤というわけだ。 ある所では時が止まり、ある所では時が進む。そんなようなファンタジー小説を遠い昔に読んだような気がする。誰の何という本だったのか、時間がある時にでも調べてみるとしよう。 ある所では時が止まり、ある所では時が進む。そんなようなファンタジー小説を遠い昔に読んだような気がする。誰の何という本だったのか、時間がある時にでも調べてみるとしよう。 ある所では時が止まり、またある所では時が進む。云々。 なんとなく、そんなようなファンタジー小説を遠い昔に読んだような気がするのだが、誰が書いた何という本だったかまではよく覚えていない。時間がある時に調べてみるとしよう。 1週間の中で、昼過ぎに出社するのが2回。多くて3回。今のところ、誰も何とも言わない。 1週間の中で、昼過ぎに出社するのが2回。多くて3回。今のところ、それを咎める奴など居ない。 1週間の中で、昼過ぎに出社するのが2回か3回。今のところ、それを咎める奴は居ない。 たかだかその程度のロスならば仕事でキッチリと返してやる自信が私にはある。 たかだかその程度のロスならば仕事でもってキッチリと返してやる自信がオレにはあるのだ。 たかだかその程度のロスならば仕事でもってキッチリと返してやる自信がオレにはある。 すなわち、仕事の量よりも、質。 仕事の量よりも、質。なんとも便利な言葉である。 部長とか課長とかの役職とは別に、プロジェクトリーダーというのを何回か連続してやっているわけで、とりあえず、ヒラの分際で部長クラスにモノが言える今のポジションがむしろ気に入っている。 部長とか課長といった役職とは別に、プロジェクトリーダーというのを何回か連続してやっている。 部長だの課長だのという役職とはまた別に、プロジェクトリーダーというのに何回か連続して任命され続けて今に至っている。 とりあえず、ヒラの分際で部長クラスにモノが言える今のポジションが気に入っている。 これがまた有り難い事に、ヒラの分際で部長クラスにモノが言えるのだからじつに占めたものである。 下手に管理職になど就いて、メクラ判を押すだけの仕事に明け暮れるとなると、クリエイターとして丸くなった、などと後ろ指を指されるのがオチである。 これがまた、下手に管理職になど就いて、メクラ判を押す仕事に明け暮れるとなると、穿った連中から、あいつはゲームクリエイターとして丸くなった、などと後ろ指を指されるに決まっている。 むしろ、下手に管理職になど就いて、メクラ判を押すだけの仕事に明け暮れた日には、妙に穿った見方をする連中から、あいつはゲームクリエイターとして丸くなった、などと後ろ指を指されるのがオチだ。 やっぱり、これぐらいがちょうどいい。 やっぱり、オレはこれぐらいがちょうどいい。 やっぱり、オレにはこれぐらいがちょうどいいのである。 だいたいいつも、5時の少し前になると各人のデスクにお局がお菓子を配り歩くのだが、こいつがまた、人をイライラさせる天才である。 いつも、だいたい、5時少し前になれば、銘々ののデスクにお局様がお菓子を配りにやって来る。 いつも、5時少し前になると、我が部署の銘々のデスクにお局様がお菓子を配りにやって来る。 こいつがまた、人をイライラさせるのが天才的に上手い。 このお局様がまたクセモノと言うか、どうやら、人をイライラさせる天賦の才能を持って生まれてしまったらしい。 ある時は、おみくじに見立てたクッキーを皆に1つずつ差し出して、若い社員がたまたま大凶を引いたのを見て大爆笑。その上に、「私もさっき引いたけど吉だったわよ」などと畳み掛けやがった。 ある時は、おみくじに見立てたクッキーを皆に1つずつ差し出し、若い奴がたまたま大凶を引いたのを見て大爆笑。しかも、その直後に、「私もさっき引いたけど吉だったわ」などと畳み掛けてくれた。 こないだなんて、おみくじに見立てたような洒落たクッキーを皆に1つずつ差し出し、たまたま若い社員が大凶を引いたもんだから大爆笑。しかも、その直後に、「私もさっき引いたけど吉だったわよ」などと畳み掛けて若僧の息の音を止めた。 またある時は、他の社員がうまく受け取れなくて床に落としたチョコの1粒を拾い、そのまま缶の中に戻してから、中身をグルングルンとかき混ぜながら薄ら笑いを浮かべていた。 また別の日には、飴玉のように銀紙にくるまったチョコを、でっかい缶ごと持って配り歩いていたのだが、たまたま他の社員がうまく受け取れなくて床に落としたチョコの1粒を拾って、そのまま缶の中に戻してから、中身をグルグルとかき混ぜながら、ニヘラ…と不気味な笑いを浮かべていた。 別の日には、飴玉のような感じで銀紙にくるまったチョコを、大きな缶に入ったまま持って配り歩いていたのだが、別の奴がうまく受け取れなくて床に落としたチョコの1粒を拾ったかと思えば、そのまま缶の中に戻して、中身をグルグルとかき混ぜながら、ニヘラ…と不敵な笑みを浮かべていたのだった。 まぁ、チョコは銀紙にくるまっていたため落としてもたいして問題はないし、潔くその場で配ってしまっても良いのだが、缶の中に戻して混ぜるとなると、いささか悪意を感じるから笑える。 もちろん、チョコは銀紙にくるまっているから落としてもたいして問題はないのだが、缶の中に戻して混ぜるという発想自体、少なからず悪意を感じてしまう。 もちろん、チョコは銀紙にくるまっているため落としても衛生上はたいして問題はないかも知れないが、缶の中に戻して混ぜるという発想自体には少なからず悪意を感じずにはいられない。 そんなこんなで、私にとって、このお局の習性を観察するのが社内での密かな楽しみのひとつになりつつあるわけだ。 と、まぁそんなこんなで、このお局の習性を観察するのがオレの社内での密かな楽しみのひとつになりつつあるわけですな。 と、まぁ、何を隠そう、このお局の習性を観察するのがオレの社内での密かな楽しみのひとつになりつつある。 そうして、今回は何をしでかしたのかと言うと、あろう事か、私の妻の物真似である。 そして、今日のところは何をしでかしたのかと言うと、事もあろうに、オレの妻の物真似である。 そうして、今日は今日でまた何をしでかしたのかと言うと、よりによって、オレの妻の九条院彩夏…の物真似である。 とうとうやりやがったか。 相変わらず、外れがない。 相変わらず、外れがない。 いやいや、まったく。相変わらず外れがない。 クッキーの箱を小脇にかかえ、くじょういんさぁ~ん…などと、妙にクネクネとしたイントネーションで私を呼びつつ、妖艶なつもりで足を組み換えて見せたりで、挙げ句の果てに、口角に舌先を引っ掛けながら不気味に笑っていやがるではないか。 どっかの外国のクッキーの箱を小脇にかかえて、くじょういんさぁ~ん…などと、クネクネとした変なイントネーションでオレを呼んだかと思えば、妖艶なつもりで足を組み換えて見せたり、しまいには、舌の先を口角に引っ掛けながらこれまた不気味に笑っていやがる。 外国だかどこかのクッキーの箱を小脇にかかえつつ、くじょういんさぁ~ん…などと、クネクネとした不気味なイントネーションでオレを呼んだかと思えば、いかにも妖艶なつもりで足を組み換えて見せるなど、体全体を使って、じつに生き生きとパフォーマンスしている。 極めつけは、舌の先を口角に引っ掛けながらニタニタと不気味に笑いやがって。なるほど。確かに、彩夏だ。 まったく、ここまで堂々とやられたらたまったもんじゃない。 向かいの席の若い奴があからさまに笑いを噛み殺そうとして、見た事もないような妙な表情になっている。 向かいの席の若い社員があからさまに笑いを噛み殺そうとして、入社以来誰にも見せた事もないような妙な表情になっているじゃないか。 向かいの席の若い社員と来たら、おそらくオレに気を遣ってか、あからさまに笑いを噛み殺そうとして、痙攣か引き付けでも起こしそうな妙な表情になっているではないか。 もういい。わかったわかった。 もういい。わかったわかった。降参だ。 オイ、お局。 よし、もういい。わかった。お局。お前には、冥土の土産に「月とスッポン」という諺を教えてやろう。 お局。どうやら、お前には、冥土の土産に「月とスッポン」という諺を教えてやるしかないようだな。 お前には、冥土の土産に「月とスッポン」という諺を教えてやるしかないらしいな。 それともうひとつ。九条院は妻の姓で、私は婿養子である。なので、妻が私を「九条院さん」と呼ぶのはあり得ないのだ。 それと、九条院は妻の姓で、オレは婿養子である。だから、妻がオレを「九条院さん」と呼ぶのはあり得ないのだ。 それと、九条院は妻の姓で、オレは婿養子である。 だから、妻がオレを「九条院さん」と呼ぶのはあり得ないのだ。 まぁ、どの道お前には関係ないし、関係なくて構わないのだが。 まぁ、どの道お前には関係ないし、関係なくて構わないのだがねぇ。 まぁ、どの道お前には関係ないし、関係あったらむしろ困るぐらいなのだがねぇ。 いやはや、見てはいけない物を見てしまった。 まったく、見てはいけない物を見てしまった。 いやはや、まったく、見てはいけない物を見てしまった。 今日のところは、思いのほか仕事もはかどった。 とりあえず、今日のところは、思いのほか仕事もはかどった。 そうは言いつつも、肝心の仕事が思いのほかはかどったのは有り難い。 さて、ビールでも買って帰るとするか。 さて、ビールでも買って帰るとしよう。 さてさて、今日のところは、ビールでも買って帰るとしようか。 月がキレイだ。 月がキレイだ。 月がキレイだ。 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/usagike/pages/35.html
梅雨入りも間近い、湿った空気の漂う頃のことだ。 「今日は本当にありがとうございました」 「いえいえ、こちらこそありがとうございました。お役に立ててよかったです」 琳吾は愛想よく笑って握手をした。相手は琳吾より一回りほど年配の夫妻だ。 背の高い若白髪の男性と笑顔皺のある小さな女性は海の近くでカフェレストランを開くらしい。 旦那さんがフランス料理のコックで、奥さんがホールデザイナー。少しレトロな外観にしたいと幾つか調度品をお買い上げ頂いた。 タイプライターや小さな卓上ランプ。中でも一番大きな商談はオルゴールだ。 一般に普及する手のひらサイズのものではない。オルフェウスというギリシャ神話の詩人の名を冠すそのオルゴールは、小さな戸棚の背丈がある。 滑らかなアンバーの木枠と張ったガラスの奥に、星座盤のように無数の穴があいた金属盤がある。この穴に歯を引っ掛け、音を鳴らすのだ。 可愛らしいのは装飾で、緻密に彫られたアールデコ調の草花が支柱を覆い、天井には花と子犬が遊んでいる姿が浮き彫りにされている。ところどころに金メッキの補強が入っているのも豪奢に見せていた。 本当は、ピアノとピアノ弾きがいたらね。 奥さんはそう言って笑った。 夫妻は昔、フランスのピアノがあるバーで知り合ったらしい。残念ながら、レストランに置くには資金も場所も足りない。 かわりに、と紹介したオルゴールの柔らかい金属音に、嬉しげに笑顔を見せてくれた。 「イメージはもっと静かな感じなの。どうにか出来るかしら」 「もちろん。では、音量とテンポの調整をして、……そうですね、今月末にはお持ちします」 「首を長くして待っています。そうだ、よければ食事をサービスしますよ。とても綺麗な街並みだから、通るだけでも楽しいですがね」 ご機嫌な夫妻を見送って、琳吾は手帳を捲った。 細かい調整をするとなると、専門家の手が必要だ。こういう事が得意な昔馴染の職人が丁度来週にくることになっていて助かった。 頭の中で予定を捏ねくり回しながらレジに鍵を掛ける。 ちょうど一区切りついたところだった。一息入れようと思ったのだ。 いつもなら店の扉を開けて、ただいまの代わりにおやつーと叫ぶ来地が、珍しくこっそりと玄関から入ってきた。 今の時間はまだ開店中。見咎める事もなかっただろう。 たまたま、琳吾が手洗いに立っていなければの話だ。 「あれ、らい君。おかえり」 声をかけると、来地はギクッと肩を跳ねさせた。 「り、琳吾兄ちゃん! 店は?」 「今、ちょっとトイレに行ってきた。あれ、らい君、ブレザーどうかしたの?」 「な、なんでもない…」 来地が慌てたように丸めていたブレザーを抱きしめ、そこからクーンと苦鳴がした。 琳吾は目を眇めた。 「…………犬か」 ブレザーから小さな仔犬が鼻先を出した。 宇佐木家の末弟は、末っ子で甘やかし過ぎたのかなんなのか、中学生になっても小学生のようなことをする。 犬猫を拾ってくるのもその一つだ。ならば、それに対して雷を落とすのが責任ある長男の義務である。 いつになく冷たい表情の琳吾に来地がブレザーから覗く犬とそっくりな情けない表情をした。 「らい君、戻してきなさい」 「琳吾兄ちゃん酷い! 鬼!」 「鬼でもなんでも、らい君面倒みれないでしょ」 「だってかわいそうじゃん。もしおれが拾わなかったら、この子達、夜になって凍えて死んじゃったかもしれないんだよ」 「あのねえ、らい君。今かわいそうでも、うちじゃどうしようもない。うちにはもうノブナガがいるし、皆学校とか仕事とかで忙しいでしょう」 「でも琳吾兄ちゃんは大体うちにいるじゃん」 「ほら、そうやって人任せにする。自分で責任もてないなら拾ってくるなって言ってるの」 「琳吾兄ちゃん酷い! 揚げ足取り! ……鬼!」 語彙の少ない来地が言葉に詰まって地団駄を踏んだ。徹底抗戦のつもりか、潤んだ目で睨みつけブレザーをぎゅっと抱きしめる。 きゅう、と先ほどより弱い鳴き声がした。 「ちょっと、らい君仔犬絞めてない? 今変な声したけど」 「え、え、」 慌てる来地の腕からブレザーを奪い、そっと剥がすと鼻先の出ていた犬と、もう一匹、一回り小さい仔犬が出てきた。 どちらも泥だらけだ。小さい方は息が短く、脇腹が盛んに上下している。ぐったりと目を瞑り足を投げ出した姿はいかにも弱っていた。 「らい君、どうして具合悪いの先に言わないの!」 「えー、だって琳吾兄ちゃんが」 「ぬるま湯とタオル持ってきて。早く拭いてあげないと」 頬を膨らませたあと、来地ははぁいと返事をしてバタバタと台所に走っていった。 琳吾は足音を聴きつつ、店用のエプロンで顔周りの泥を拭ってやる。ポケットからスマートフォンをだすと行きつけの動物病院を呼び出した。 # # # 軽い栄養失調と悪戯で泥をかけられたための体温低下が原因だったようで、一晩点滴を受けた二匹の仔犬はすっかり回復していた。 茶の間におろすと元気に足を動かし始めた。お尻ばかりが目立って、コロコロ転がっているようにしか見えないが。 「元気になってよかったね」 小さなしっぽを掴まえた来地が、ふわふわになった仔犬を撫でた。 前に進まないことが理解できてないのか、仔犬は短い足で一生懸命足踏みしている。 もう一匹の鼻先をつつき、悠が伺うように言った。 「で、兄貴。これ飼うの?」 卓袱台の向こうでは、琳吾がこめかみを揉んでいる。 「飼わないけど、ここまで関わっちゃったからね。里親探しまではするよ」 「よっしゃ! ありがと、琳吾兄ちゃん」 「来地は里親、一人くらいは見つけて来いよ」 「わかってるって」 安請け合いした来地の隣で、達巳がボソリと言った。 「ノブナガと喧嘩しないかな……」 「大丈夫だって! こんなに小さいんだよ?」 「むしろノブナガにやられるんじゃね」 蜜柑の皮を剥きながら言う悠に来地が決意の目をした。 「マリオとルイージはおれが守ってみせる!」 「なにそのマリオとルイージって」 「え、この子達の名前」 「え、マジで」 「いや、らい君。さすがにそれ可哀相だから」 「ヒデヨシとイエヤス」 「それもどうかと思うよ、たつ君」 「……あ、寝ちゃったみたい」 兄弟の会話をよそに、仔犬はくっつきあい、しっぽを丸めて寝てしまっていた。
https://w.atwiki.jp/sw_takamori/pages/106.html
BACK INDEX NEXT 611 名前: 妖杜伝奇譚『‡』 ◆NN1orQGDus [sage] 投稿日: 2008/09/22(月) 22 45 27 ID aTaAF3kl 第2話 『路地裏の交錯』 ◆ 「変なのに付き合ったから遅くなったじゃんかー」 深都姫は頬を膨らませる。 折角倭斗と二人っきり――デートらしき物が出来たというのに、二人の闖入者のせいでグダグダになってしまったのでご機嫌ナナメなのだ。 「言うな。俺だって後悔してる」 倭斗は特殊な嗜好の人間が持つ特有の毒気に当てられた頭を振り、ある種の妄想を抱く輩は度し難い、と内心で呟く。 「お前は、あんな風になるなよ」 膨らんだままの深都姫の頬をつついた刹那、大気の鳴動を感じた。 魔の波動が大気を揺るがしたのだ。 それもこれ見よがしに誇示しているのか、隠そうとはしていない。否、隠そうとしていても隠し切れないのか。 深都姫もそれに気づいたのか、眉をひそめている。 「どうするの?」 「此処まで露骨だと……釣りだな。しかも釣り針が見えてやがる」 波動の先を手繰ると、そこは“彼女”を祓ったあの路地裏だ。 「するっとスルーする訳には……行かないよね」 「ああ。アレを放っておいたらまずいな」 倭斗は嘆息し、深都姫を見る。深都姫もまた、倭斗を見る。 二人の視線は絡み合い、お互いの意思を確認して頷いた。 二人は雑踏の人混みを縫うように駆け出す。行き交う人々は闇に紛れた悪の存在を知らずにいる。 倭斗はそれが気にくわないが、それも仕方のないことだとも思う。 人は自分の手の届かない場所については無関心なのだ。 自分は人よりも手が届く場所が広い。放っておければ良いのだが、それが出来ない自分は相当な貧乏性だな、と一人ごちる。 いつの間にやら深都姫が先行している。彼女は仕方なく退魔師をやっている自分よりも正義心が強い。 それは立派なのだが、年相応の幸せを掴んで欲しいと倭斗は思っている。 そんなもどかしい心を持ちつつ深都姫に並ぶと、件の路地裏に勢い良く飛び込んだ。 ◆ 「がぁぁぁーーーーーっ!!」 路地裏には大小二つの人影があった。双方とも、魔の波動……妖気を発散している。それも、強く濃密に。 つまり、夜の住人である。 小さい影が唸り声を挙げつつ、地を踏みつけている。 その振動は大したことはないのだが、地団駄を踏むたびに熱気を帯びた濃厚な魔の波動を発散している。 「いい加減にしないと呼びもしないお客さんが……って、もう来てるな」 大きい影が溜め息を吐きつつ諦め顔で倭斗と深都姫を一瞥する。 「アンタたち……何者!?」 深都姫の鋭い声が路地裏に広がる。 「ふん……自分の名を名乗らずに他人に強要する、か。なかなかのアティテュードだ」 嘲笑にて返されると、深都姫は気色ばむが倭斗に制止される。 「汚ない油をぶちまけられたら放っておけないタチでね。……つか、煽ってんの、オマエラ」 倭斗は冷笑で応じ、鋭利な刃物のような視線で二人を射る。 「うだうだ五月蝿い! 私は……九蓮宝燈の一人! 世界の果てでこの世を呪う……」 「そんな珍妙な名前を勝手につけるんじゃない! それに仲間は九人もいない! ……連れが失礼したな。俺はジン。こっちはメストだ」 ジンは名乗りながらも地団駄を踏み続けるメストをさえぎり、倭斗と深都姫を圧するように、静かに告げる。 「へえ、そいつは結構。生憎と俺達はお前らみたいな夜の住人に名乗る名を持ち合わせてないんだ……悪いね」 倭斗はそう言い放つと、メストを見て目を丸くする。 「おい、深都姫。向こうにお前と同じスケールのがいるぞ」 「倭斗のバカァッ! 私の方が大きいもん!」 倭斗の軽口に深都姫が反応し、ポカポカと叩き始める。 「ちょい待ち。私が、この私が……そんな毛も生えてなさそうなちびすけと同サイズ? ……訂正を要求する」 「へん! 私はまだ成長途中だもんね!」 「はっ! 夢を見たって無駄よ? 絶壁は絶壁のままが運命なのさ」 「そっちこそえぐれてるくせにっ!」 鬼気を揺らめかせながら、深都姫とメストは対峙する。互いに胸を張り、互いに相手を威嚇するように体を大きく見せようとしている。 ジンは小さな二人のやり取りに苦味の交じった笑みを浮かべると肩を竦める。 「どうする? お互いの連れがこんな風だが……殺り合うかね?」 「残念だけど、殺り合う空気じゃないな。」 倭斗は唇を歪ませると、深都姫の襟首を引く。ジンも同様にメストをたしなめる。 「放せ、ジン! このメストさんは小娘に粉かけられて黙ってるようなチンケな根性してないんだ!」 「なにおぅっ! 私だって!」 未だに言い合う二人を無視し、ジンと倭斗は互いに相好を崩す。 「名前を聞いておこうか。俺は菅原倭斗。……覚えておけ、お前ら夜の住人を狩る者だ」 「顔に似合わず鼻息が荒いな。俺は夜の住人のジン。四暗刻単騎って組織のの一人だ」 ◆ 倭斗は未だに怒りが収まらない深都姫の手を引き往来の雑踏に紛れる。 「なんで逃げるのよ! あんなヤツらやっつけちゃえばいいのに!」 「彼処で戦ったら被害がでかいだろ。それにアイツらは……特にあのジンって奴は相当やりそうだ」 倭斗の唇が歪に歪むと、深都姫はそれを見咎める。 「倭斗、笑ってるけど……楽しいの?」 「笑ってる? 俺が? 気のせいだろ」 でも、と言いかけて深都姫は慄然とした。倭斗は確かに笑っていた。陰惨な笑みを浮かべ、その瞳は渇望にも似た光を湛えている。 「ねえ、大丈夫だよね? 倭斗、別人みたい……」 「平気さ。俺は……俺のままさ」 倭斗はぼんやりと輝く蒼い月を見上げ、深都姫の手を軽く握った。 ◆ 路地裏に残る夜の住人は寂寞の闇に紛れている。 「メスト、少しは頭が冷えたか」 「まあね。それにしてもあのちびすけ……」 メストが収まらない怒りの握り拳に力を込めると、青白い炎に似た燐気が立ち上る。 「お前の悪い癖だな。頭に血が昇ると猪突猛進になる」 ジンは溜め息混じりにメストの肩に手を置いた。 「……わかってる。私が怒ってるのはちびっこのせいじゃない」 「じゃあ、なんで怒ってる」 「夜の住人の存在を忘れた人間は腐りきってる。恐れる事を忘れて増長する人間は……嫌い」 「だったら思い出させてやれば良いだけだ。人を喰らう夜の住人の恐ろしさをな」 ジンの乾いた声が路地裏に静かに木霊すると陽炎の様に揺らめくメストの殺気は揺らいで薄くなっていく。 「俺達四暗刻単騎はこの世を呪うために集った。そうだろ」 力強いジンの言葉に、メストは目を閉じて満天の星屑を仰ぐ。 「そうだったね。……憎悪の炎で焼き尽くす為に、ね」 夜の住人達は不穏な妖気の残滓を残しつつ黒檀の闇に溶けるように消えて行った。 ――To be continued on the next time. BACK INDEX NEXT
https://w.atwiki.jp/himajinnomousou/pages/158.html
その日、アバロンの宮殿内はいつもの厳格な空気はどこへやら、にわかに慌しい様相を呈していた。 あちらこちらへと忙しなく駆け回る給仕家臣らを横目に見ながら、いつも通り城下町にでも繰り出そうかと思っていたバレンヌ帝国軍傭兵隊隊長のヘクターは眉間に皺を寄せる。 泣く子も黙る傭兵隊を率いる豪傑ヘクターは己の信条を曲げない不器用な男だが、戦のない時は城下町で一杯やるのが日課であり、隊員のみならず城下町の住人にも慕うものが多い快男児でもある。 というわけで日夜宮殿と城下町を行き来するのが常な彼は、斯様に普段らしからぬ宮殿内の様相に対し、分かりやすく疑問符を頭の上に浮かべたのだった。 「なぁ、なんで今日こんな騒がしいんだ?」 浮かんだ疑問をそのまま、隣を歩く兵士に向ける。 兵士の名はジェイムズ。帝国軍の軽装歩兵部隊に所属する男で、若くして皇帝の外遊時には身辺警護を任されるほどの実力を持つ、腕利きの戦士だ。 帝国兵の見本のように規律正しく真面目な性格なのでヘクターとは少々折り合いが悪い所もあるが、年が同じということもあってか何だかんだつるんでいることが多い二人組である。 「あぁ、明日は収穫祭初日だからな。その準備だろう」 いつもならば宮廷内を駆け回るなと注意しそうなジェイムズだが、この時ばかりは慌ただしい家臣たちを咎めることもしないようだ。 「あぁー、そう言えば飲み屋の連中もそんなこと言ってたな。じゃあ明日は、がっつり酒が飲めるな!」 「お前はいつも飲んでいるだろう。たまにはアンドロマケーを見習って出店の手伝いでもしたらどうだ」 ヘクターの同僚にして傭兵部隊副隊長である女傑の名を出しながら、ジェイムズがヘクターの素行を咎める。しかし、ヘクターはどこ吹く風だ。 「はっ、あいつは手伝いじゃなくて小遣い稼ぎのためにやってるだけだぜ。あと、下手に酒飲んでめんどくせーナンパくらうよりよっぽど店やってる方がいいんだとよ」 傭兵部隊では珍しい女性隊員でもあるアンドロマケーは、荒くれで有名な傭兵団を束ねるだけあって気風のさっぱりした姉御肌の美女である。 ヘクターと同じく酒は人並み以上に好きな方だが、外で飲むとどこでも大抵面倒なナンパにあって相手を叩きのめすことになるので、イベント事の時はどこかで出店をやっていることが多いようだ。 「・・・む」 他愛のない会話を続けながら宮殿内を城下町へ向かい歩いていると、前方から自分たちとすれ違うコースで歩いてくる人物に目を止め、ジェイムズが眉間に皺を寄せた。 その反応に気付いたヘクターが進行方向へ視線を向けると、向こう側から歩いてきたのは宮殿家臣とは明らかに異なる様相をした、小柄な少女。 「あれ、キャットじゃん。珍しいな」 「全く、あのような格好で気安く宮殿内を歩くとは・・・」 キャットは、アバロンシーフギルドの顔役を若干17歳にして務めている少女だった。 その諜報における実力はバレンヌ帝国第31代皇帝ジェラールも大いに認めるところで、先のヴィクトール運河要塞攻略において、彼女の功績なしに攻略成功はなかったとすら言われている。 元はアバロン内で金持ちの屋敷から金銭を盗む泥棒だったそうだが、どういう経緯なのか皇帝ジェラールにその身を助けられたとのことで以後皇帝への忠誠を誓い、ジェラールも彼女とシーフギルドを正式に帝国軍の一員として加えたのであった。 ヘクターは自分も軍人らしからぬ服装をしているので気にしないが、ジェイムズとしてはキャットのラフな服装は帝国軍人として度し難いらしい。 「ようキャット、宮殿に出向くなんて、珍しいじゃん。どうしたんだよ」 ヘクターが手を上げながら声をかけると、キャットはその名の通り猫のような大きな目をぱちくりと瞬かせながら、ヘクターとジェイムズを見上げるようにして止まった。 「うん、ちょっとジェラール様に用がね。ヘクターは飲み行くとこ?」 「おう」 軽い調子で親しげに会話をする二人と、それを不機嫌そうな表情のまま見つめるジェイムズ。 「ジェラール様は明日の祭典に備えてお忙しい身だ。お前などとお会いしているような暇はないぞ」 「別にジェイムズに聞いてないし」 咎めるジェイムズと、気にしないキャット。二人の関係性の常は、この応酬に凝縮されているのであった。 「ジェラール様なら、確か訓練所にいたはずだぜ」 「おっけ、ありがとヘクター」 「おいヘクター!」 ヘクターに礼を言うと、キャットは喚くジェイムズを無視しつつ小走りで宮殿の奥に向かっていった。 「ジェラール様!」 アバロン宮殿の奥まったところにある訓練場にはいると、すぐにジェラールの姿は目に入った。 公的な場では黄金の鎧を身に纏った威厳ある姿をしている若き皇帝ジェラールだが、普段は純白のシルクで仕上げられた動きやすい格好をしている。 キャットはその姿を、密かにパジャマと呼んでいた。 「やぁ、キャット。どうしたんだい」 訓練所内の的に向かって弓を構えていたジェラールは、キャットに手を挙げて応えながら微笑んだ。 その柔らかな微笑みの表情に、キャットは自分の顔が微かに紅潮し鼓動が早まるのが分かる。 自分で、その理由はちゃんとわかっていた。 キャットは、ジェラールという青年に並々ならぬ好意を抱いているのだ。あの夜、彼に危ないところを助けられたその時から、この気持ちはずっと高まり続けている。 「あら、キャットじゃない。どうかしたの?」 そしてせっかく跳ね上がっていた心拍数が、冷水を浴びせられたように急激に冷め、一気に萎んでいくのが分かる。 それもそのはず。ジェラールの横には、最もアバロンでいけ好かない女がいたからであった。 「・・・なんだ、おばさんもいたんだ」 「おば!!?・・・随分なご挨拶ね。今日はジェラール様の弓の訓練なのだから、私がいるのは当たり前よ」 明らかに不機嫌そうな声色のキャットに応えたのは、長く美しい金髪をポニーテールに結んだ軽装備の帝国兵と思しき女。 彼女の名は、テレーズ。帝国軍猟兵部隊に所属する彼女だが、その弓の腕前は帝国軍随一と噂されていた。短弓長弓を自在に使いこなし、さらには短剣による接近戦もかなりの腕前を誇る。 その実力を買われ、若くしてジェイムズと同じく皇帝外遊時の身辺警護に抜擢された、帝国の誇る文句なしの才媛であった。 身辺警護だか何だか知らないが、何かとジェラールの側にいることが多いテレーズのことが、キャットは大いに気に入らなかったのである。 「あっそ。まぁいいや・・・ねぇジェラール様、明日の収穫祭、ご挨拶の公務が終わったら一緒に街を回らない?」 テレーズには一切目を合わせずにジェラールの元まで距離を詰めながら少し彼を見上げるようにして、キャットが尋ねる。 「え、そうだな・・・別に私は構」 「ダメです」 ジェラールが言い切る前に、テレーズが強弓の一矢の如き声で遮ってきた。 「は?おばさんには聞いてないんだけど」 「おば!!?・・・ジェラール様は明日、帝都民へ向けた祝辞の後、新たに帝国臣民となった南バレンヌのミラマー自治代表団と会食のご予定があるの。それに翌日も予定が詰まっているから、街を回る余裕はないわ」 そう言いながらさり気なくジェラールとキャットの間に立ち位置を移したテレーズは、表面上にっこりと微笑みながらキャットを見下ろす。 頭ひとつ分近く背丈に差がある二人が、互いに睨み合うようにしながら火花を散らす様に、訓練場内にただならぬ緊張感が走った。 「いや、あの、別に私なら・・・」 「さ、ジェラール様、訓練の続きです。本日はあと十本、しっかり的の中央に当てるまで上がれませんよ!」 そう言いながらジェラールの視線を弓矢の的に向けさせたテレーズは、しっしっと手を振りキャットにも帰るように促すと、彼女に背を向けてジェラールへの指導を再開した。 「・・・・・・っとに邪魔なおばさん・・・」 一段と低い声色で毒吐きながらキャットがその場を後にするのを、テレーズはしっかりと視界の端に捉えていた。 「・・・・・・ほんっと私って最悪・・・」 宮殿内の兵士詰め所には専用の大食堂があり、その一画には兵士らの憩いの場として酒類の提供をしているカウンターも存在する。 そのカウンターで葡萄酒をちびちびと飲みながら、テレーズは深いため息と共にそう呟いた。 「え、いきなり何よ」 テレーズの隣でチーズを摘みながら、同じく葡萄酒の入ったマグカップを傾けていた女が、唐突なテレーズの懺悔に怪訝な顔をする。 女の名は、ライーザ。ジェイムズと同じ軽装歩兵部隊に所属する女戦士で、テレーズとは帝国正規兵になる前からの古い付き合いである。 「ねぇ・・・私ってやっぱ、もうおばさんかしら」 「え、ちょっとやめてよ、それ認めたら私もそういうことになるじゃないの」 ライーザがあからさまに眉間に皺を寄せながら言うと、テレーズは唇を尖らせながら俯いた。 「そりゃあさ、私なんてもう25だし、ジェラール様より全然年上だし、キャットとなんか8つくらい離れているし、そのくせ同レベルであの子といがみ合っちゃってるし・・・」 「・・・あー、そう言う感じのアレね」 もはや独り言のように呟き続けるテレーズの言葉から凡その状況を察したライーザは、手にしていたマグカップをカウンターに置くと、腕を組んでうーんと唸りながら考え込む仕草を見せた。 「しかしジェラール様ねぇ・・・。こういっちゃ何だけど、あんた男の趣味変わったわよね」 「・・・自分でもそう思うわ」 カウンターにへたり込むようにしながらテレーズが応える。彼女自身、何故今こうもジェラールに惹かれているのか、不思議ではあった。 「ジェラール様、普段のご様子は御即位以前と何も変わらないのよ。それはそれでなんか守ってあげたくなる感じは前からあったけど・・・でも御即位なされてからは、ご公務や戦装束に身を包んでおられる時なんて、まるで亡きレオン様やヴィクトール様がそこにいるかのように急に凛々しくていらっしゃって・・・。以前はいつも私の後ろに居たのに、この間なんて私がちょっとゴブリン相手に間合いミスった時なんか、むしろスマートに助けてくれちゃったりなんかしてさ・・・あとソーモンの時なんて」 「あーわかったわかった、はいはいはーい」 このままだと延々喋り続けそうな勢いだったので、それを制止するように手を振ってライーザが声をあげる。 「つまり、ギャップにやられたってことね」 「・・・そう、なるのかしら・・・」 特定の相手へ向ける好意を自分で認めることほど、気恥ずかしいことはない。テレーズはカウンター上に組んだ腕の上に頭を乗せながら、ライーザの出した結論に対して控えめに肯定した。 ライーザは思案する。どうやら友人は己の中に芽生えたその好意を自覚しつつ、若く可愛いキャットが恋のライバルだということで思い悩み、結果この調子なのだろう。 そう推論した彼女は、再び腕を組んで唸った。 「まぁ・・・なんていうかキャットちゃんみたいな若さはもうさ、私らにはないわよね。そりゃ認めざるを得ない」 「そうよね・・・」 ライーザの告げた非情なる現実に、テレーズの声は更に沈んでいく。 「でも、若さでは出せない魅力が私らにはちゃんとあるはずよ」 「・・・魅力?」 テレーズが恨めしそうな目で見上げると、ライーザは皿の上のチーズを一気に口の中に放り込み、マグカップの中身を勢いよく飲み干した。 「どうせあれでしょ。キャットちゃんが明日の午後ジェラール様を出店回りに誘いにきたとかでグダってんでしょ?」 「・・・偶にライーザって鋭すぎてキモい」 「っさいわね。で、ジェラール様は明日キャットちゃんと街回るって?」 ライーザが椅子から立ち上がりながら聞くと、テレーズは僅かに首を横に振った。 「・・・いえ、その時は訓練中だったから会話邪魔して遮っちゃった」 「それでいいわ。恋は弱肉強食、チャンスは奪い取るもの。つまり今度は、あんたのターンってわけね」 「私のターン・・・?」 言っている意味が良くわからないという顔のテレーズだったが、そんな彼女を見下ろすライーザは、不敵な笑みを浮かべていた。 帝都臣民の大歓声を背に、眩い黄金の鎧を身に纏ったジェラールはバルコニーから宮殿内へと戻る。 秋の収穫祭で皇帝による臣民への祝辞は毎年恒例のことだが、今年はバレンヌ帝国としての領土全盛期であった南バレンヌ地方までを領地として復活させたことで、過去に類を見ないほどの凄まじい盛り上がりを見せている。 要するに、皇帝ジェラールの名声と人気は嘗てないほどに高まっていたのだ。 宮殿の中に引っ込んでも全く鳴り止む様子のない広場の臣民による大歓声に、ジェラールは誇らしいやら気恥ずかしいやら、なんとも言えない表情をしながら自室まで戻り、ようやく一心地つけるといった様子で黄金の鎧を脱いでいく。 こうした身支度も本来は召使が行うものなのだが、そういった扱いだけはどうにも慣れないジェラールは、自分でやるのが習慣になっている。 そそくさといつものシルクの上下に着替えると、やっと一息つくように自室のベッドに腰掛ける。 コンコンッ ドアをノックする音が聞こえ、さらに『お飲み物をお持ちしました』という声が聞こえてくる。 丁度演説後で喉が渇いていたジェラールが感謝の言葉と共に入室を許可すると、間もなくドアが開き果実水の入った瓶とグラスをトレイに乗せた女が中に入ってきた。 その姿をみて、ジェラールは驚愕の表情を浮かべる。 「・・・って、テレーズ!?」 「・・・お疲れ様です、ジェラール様」 飲み物を持ってきたのは普段彼の身の回りの世話をする給仕ではなく、なんとテレーズであったのだ。 しかもその格好は普段の軽装防具ではなく、深めのスリットから脚線美の映えるスカートに首周りから肩まで大胆に露出されたブラウスという、最近帝都内で流行りの南バレンヌファッションに身を包んでいる。 「・・・どうぞ」 「あ、ありがとう・・・」 テレーズからグラスに注がれた果実水を手渡されると、ジェラールは思わず彼女から目を逸らしつつ受け取る。 テレーズは女性の中では、背が高い方だ。その彼女が今の服装で座った自分に合わせて屈むと、しっかり角度がつくためか色々と視線の置きどころに困ることになるのである。 「その・・・どうしたんだい、テレーズ」 兵装以外の彼女を見ることがなかったジェラールは、自分でも意外なほど動揺しながら問いかける。 「その・・・実は、本日この後会食を予定しているミラマー自治代表団の方の到着が遅れているようでして、会食のご予定を明日にずらすとのことで」 「そ、そうか」 言いながら何故かテレーズが少しずつ近づいてくることにジェラールは内心で焦りつつも、あくまで平静を装う。先帝から引き継いだ強靭なる魂がなかったら、あやうく今頃は赤面して倒れていたかもしれない。 「それで・・・ですね。この後もしジェラール様がよろしければ、城下町への軽い視察に予定変更など如何かと思いまして。臣民はジェラール様のお姿を拝見できることを、何よりの喜びとしておりますので」 「・・・確かに、あれほど喜びの声を上げてもらえるなんて、私も思わなかったよ。この後の予定が無くなったなら、確かに民の顔を見にいくのは良いかもしれないな」 そう言いながらジェラールが微笑むと、テレーズはそれに応えるように艶やかな笑みを浮かべた。 その表情は護衛中にはまず見ることがないような華やかなもので、それにもジェラールは一々どきりとしてしまう。 「はい。城下町とはいえ不埒な輩がいないとは限りませんから、もちろん私もお供いたします。民に余計な不安を抱かせぬよう格好はこの様相で参りますが、一応万が一の時の武具も仕込んでありますので」 そう言いながらテレーズは、徐にスカートのスリットを大胆に捲り上げる。するとそこには、大腿部に巻きつけられた小さな剣帯に、小型剣が納められていた。 「ッ!!?・・・そ、そうか。それなら安心だな・・・!」 再び、目を逸らしながらジェラールが言う。武器の有無を確認しただけだと言うのはわかるのだが、如何せんそれ以外に視界に飛び込んでくる景色の方が、ジェラールにとっては殺傷力が高い。 「で、では参ろうか!」 「はい・・・!」 いそいそと立ち上がったジェラールの脇にテレーズも控え、どうもぎこちない様子で歩く二人はそのまま城下町へと向かっていった。 「・・・・・・」 遠くでは未だ賑やかに臣民が歌い踊り、広場の中央では煌々と火が焚かれ続け、無事に迎えられた収穫祭の喜びが今も続いている。 その様子を自室の窓から眺め、ジェラールはうっすらと微笑む。 帝都の繁栄をこうして見ることができるのは、彼にとってなにものにも代え難い喜びだ。 「・・・皆も喜んでくれていたな・・・」 そう呟きながら、ゆっくりとベッドに向かい、腰掛ける。 先刻までテレーズと共に城下町を巡り、多くの民と話し、彼らの喜ぶ様を間近で見てきた。 途中、出店を出していたアンドロマケーから大量の串焼き肉を貰ったり、飲み屋の外席ですっかり出来上がり肩を組みながら歌っていたヘクター&ジェイムズに挨拶したりと、いつもは戦いの連続で休まる暇のない帝国兵の皆も、其々にこの祭りを楽しんでくれているようだった。 「テレーズには流れで城下町回りの護衛をお願いしてしまったが・・・彼女も少しは気が休まっただろうか・・・」 護衛といっても、特になにか危険が起こったということはなかった。 あったことといえば、酔った民にぶつかられたテレーズが自分に抱きつく格好になってしまったりとか、人混みに逸れそうになったので彼女と手を繋いで突破したりとか、そういったことくらいだ。 側から見ている限りでは、彼女も常に緊張感に包まれているというよりは、どこか楽しんでいるような、そんな眩い笑顔も時折見られた。 それならばそれで良かったのかもしれないな、とジェラールは思う。 コツンッ 「・・・?」 窓辺に、何か小さなものがぶつかったような音がする。 ジェラールがすぐに気づいて、何事かと思い窓辺に近づく。 すると窓の外に設置された小さなバルコニーの縁に立つ、小柄な人影があった。 「あぁ、やはりキャットか」 そこにいたのは、キャットだった。彼女は屋根の上でも木の上でも自在に駆け回るので、たまにこうしてバルコニーから彼の元に顔を出すことがある。 衛兵たちはいい顔をしないが、ジェラールはあまり気に留めることはなかった。 しかしこんな時間にどうしたのかと思いながら窓を開け、自身もバルコニーに出る。するとキャットは縁の上にしゃがみ込み、すっとジェラールに向かって手を伸ばした。 「こんばんは、ジェラール様。今から、少し屋根上の散歩をしましょう」 「え・・・?」 唐突な誘いにジェラールが即座に反応できずにいると、キャットはみるみるうちに小さな可愛い顔を膨らませた。 「ネタは上がってるんです。ジェラール様、今日テレーズと城下町回ってたでしょ」 「あ、あぁ・・・どうも会食の予定が変更になったらしくてね」 「変更させたのは、ライーザですよ。ミラマー代表団に帝都入り口で接触して、今日は城下町の収穫祭案内にさせたんです。全部裏はとったので間違いないです」 そう言いながらキャットはジェラールの腕を掴み、ひっぱるように自分の方に引き寄せる。 無理に抗わずにバルコニーの縁へと引き寄せられたジェラールは、キャットが盛大に拗ねた様子であることを流石に察した。 「・・・ずるいです。あたしだって、ジェラール様とデートしたかったのに」 「いや、あれはデートとかではなく公務というか・・・」 「誰がどう見たってデートでしょ」 ぴしゃりとジェラールの言葉を遮りながら、キャットは彼の腕を手に取ったまま縁の上に立ち上がる。 街に出ていたギルド仲間伝いにジェラールとテレーズがいい感じの雰囲気で並び歩いていたという報告を聞いた時には、お湯が沸かせるほど顔を真っ赤にして怒り狂ったものだ。 だが、それで単に地団駄を踏んでいても仕方ない。相手がそのつもりならば、こちらも徹底的に戦うまでなのである。 引き寄せられるに任せてジェラールもバルコニーの縁に登ると、キャットは慣れた様子ですぐ下の屋根伝いに歩き出した。 「昼間はあの女にしてやられたけれど、夜の帝都はあたしのテリトリーよ。賑やかな街の明かりを頼りに、屋根の上のランデブーをしましょう」 「・・・了解、付き合うよ」 収穫祭の雰囲気で開放的になっていたジェラールは、キャットの我儘に付き合ってあげるのも今日は悪くないだろうと思い、彼女について屋根に飛び移る。 「ふふ、あの夜から思ってましたけど、ジェラール様って屋根上なのに身のこなしが軽いですよね。シティシーフ、向いてるんじゃないですか?」 「おいおい、私に泥棒になれというのかい?」 「いいえ、違うわ。もうあたしたちはチンケな泥棒じゃない。帝都の平和を守るための諜報部隊だもの」 屋根から屋根へ伝い、宮殿の外壁を進み、外壁詰め所の屋根から近くの民家へは大きな木が一本ある。それを伝えば、あっという間に城下町の屋根上世界へ辿り着く。 「でも、盗みをやめたわけじゃないわ」 「こらこら、私の前でそんなことを言うものじゃない。流石に看過できないよ」 屋根を伝って歩いていけば、賑やかなアバロンの中央広場が近づいてくる。きっとこうして臣民が喜びに歌い踊る様は、夜が更けるまで続くのだろう。 「ご心配なく。盗む対象は一つだけだし、そもそも盗まれるかどうかは、その人自身が決めることだから」 「人・・・?」 「・・・ジェラール様って、ほんと、にぶちんですよね」 広場の様子を見下ろせる大きな屋根の上にたどり着いた二人は、その場に腰を下ろして賑やかな様子を特等席から見下ろす。 「でも、次はあたしが先手を取るわ。絶対負けない」 「・・・?」 ジェラールの肩に寄りかかるようにしながらそう呟くキャットに対し、ジェラールはその言葉の真意を測りかねながら支えるに徹する。 ジェラールとしても彼女のことは可愛い妹のように思っているが、しかしこうして体を密着されるのはどうなのだろうか、とは流石に思う。年頃の娘だし、もう少しこういうのには気を遣った方がいいのではないだろうか。 その時、ふわりと風に乗ってキャットの髪のいい香りが鼻腔をくすぐった。 それに釣られて思わず髪の匂いを嗅ぐようにジェラールがキャットに顔を寄せると、今度はキャットが慌てる番である。 「え、ちょ、ジェラール様・・・!」 「いや、なんだかいい香りがしたから」 ジェラールの中ではそのまんま猫吸いのような気持ちであるのだが、キャットからしたらこれはひとたまりもない。 慌てふためきながらも当然身動きなんて取れるはずもなく、そのままジェラールが一頻り満足するのを固まりながら待つ。 やがてむふぅと満足げにジェラールが顔を離すと、キャットは居た堪れなくなってすっと立ち上がった。ジェラールからは見えない角度だが、顔の紅潮具合が凄まじいことは言うまでもない。 「・・・ち、ちょっとお腹すいちゃったので、串焼きと飲み物調達してきます。ここで待っててください・・・!」 「ん、わかった。気をつけて」 言うが早いか、猫のようにしなやかに屋根を飛び移り、まだまだ人混みで賑やかな地上へと降りていくキャットを見送る。 そうしてふと一人になったジェラールは火の粉が舞い昇る夜空を見上げ、戦いの最中にある一時の平和を享受するように目を細め、物思いに耽るのであった。 「・・・にぶちんって、どういう意味なんだろうか・・・」 にぶちんを巡る二人の戦いは、長期戦になりそうであった。 一覧に戻る TOPに戻る
https://w.atwiki.jp/marurowa/pages/46.html
ストレイト・クーガー◆o9OK.7WteQ 「ああっ、文化は本当に素晴らしい! 俺は文化が大好きだ!」 読み終えた本を閉じ、男は言った。 両腕を大きく広げ廊下を歩いている姿は、まるでこれから演説を始めるかのよう。 トレードマークの紫色のサングラスは前髪の一部に引っ掛けられていたが、その目は閉じられた瞼に遮られ見る事が出来ない。 「文化―――それは人の営みの中で育まれる素晴らしいもの、俺はその中でも本を推す、映画も良いが一定時間拘束されるという欠点があるからだ、 だが本は違う、本人の努力次第で拘束される時間を短縮出来る、それではじっくりと楽しめないだろうと思うかもしれないが、逆に濃密な時間を過ごせると考える人間もいる、俺がそうだ。 そして文化の中にはただ平和に生活するだけでは成長しないものもある、それは何か? それは“力”だ、人は昔から常に何かと戦ってきた、それは自分を守るため、狩るために襲い掛かってくる動物、理不尽だとも思える自然災害、 そして人間が戦ってきた中で一番の強敵は同じ人間だ、同じ人間同士が戦うことで力の文化は大きく発展してきた、そう、人は本来争う生き物だから」 圧倒的な言葉の奔流。 それを聞く者も止める者もこの場には誰一人存在しない。いや、いたとしても止められはしないだろう。 男は本を片手に持ったまま図書館を出た。貸し出しの許可を得ろと咎める人間もここにはいなかった。 夜の闇の中、男の言葉は途切れること無く加速していく。 「そして俺はその争いの中にいる、これは俺の最も愛するものを高めるために最適な環境、戦いは非文化的と言う奴もいるかもしれないがそんな事はない、 やり方による、それにここには歯ごたえのある奴がわんさかいそうだ、俺は戦闘大好きな馬鹿じゃないがさすがに胸躍った、それが俺の人生を縮める事になったとしてもだ、自分が成長する事を拒絶する人間がいるか? いや、いない!!」 男は目を見開くと手に持っていた本を天高く放り投げ、そのまま流れるように前髪をはじきサングラスをかけた。 「―――しかし俺はこうも考えている、他人に運命を左右されるとは意志を譲ったということだ、意志なきものは文化なし、文化なくして俺はなし、俺なくして俺じゃないのは当たり前、そしてぇっ!!」 この戦いが自然に起こったものだったら、例えそれが命のやり取りだとしても男はそれに参加していたかもしれない。 だが、この戦いは一人の男が一人の少年に復讐するために起こしたもの。それに参加する事は利用される事と同義。 この男は利用される事を良しとしない。 「ラディカル! グッド、スピィィィード!」 重力に負け落下してきた本が男の叫びに呼応するかのように粒子に変わり、同様に地面の一部も鋭利な刃物で抉られたかのような跡を残し光になった。 その虹色の光の粒子が男の両脚に絡みつき、 「脚部限定!」 銀色と紫色を基調とした輝く流線型の装甲を形作った。 かつて横浜を中心に原因不明の隆起現象が発生し、半径30kmにも及ぶ地域が本土と切り離された。その地は『ロストグラウンド』と呼ばれ、日本政府の尽力によりある程度の復興をみせた。 しかし、その支援は全ての人間には行き届かず、復興した市街の住人と崩壊した地区の住人、通称「インナー」と呼ばれる人間達とで分かれ、二層社会を形成してしまう事となった。 これだけならばまだロストグラウンドが日本に復帰する見込みは十分にあった。だが、現実はそう甘くはなく、誰もが予想しないものとなった。 それは、ロストグラウンドで生まれた新生児の中に『アルター能力』という特殊能力を持つ者が現れ始めたからだ。 アルター能力。精神感応性物質変換能力とも呼ばれ、自らの意思により周囲の物質を分子レベルまで分解し、各々の特殊能力形態に合わせ再構成する能力である。 その形態は千差万別で、例外を除けば同じ形状や能力のものは一つとして存在しない。理由としては、アルター能力が能力者自身の性格や願望を具現化したしたものだからだという説が有力だ。 そして、その説が間違いではないと最も思わせられる人物がこの男だった。 「衝撃のファーストブリットぉ!」 超高速で放たれた蹴りが図書館の外壁に大穴をあけた。 その速度、破壊力はすさまじく、常人ならば知覚することすら困難だろう。 「足りない! 足りない足りない足りないぞぉっ! 今の俺には―――」 だが、男はまるで満足していなかった。 蹴りを放ち終わったと同時に疾駆。それは破壊された外壁が巻き上げた砂塵を置いていく程の速度。 「情熱思想理念頭脳気品優雅さ勤勉さ、は足りている! だがっ!」 しかし、その速度は、 「―――速さが……足りない! 俺が遅い、俺がスロウリィ……!」 男の満足するものではなかった。 男は文化と、そして何よりも“速さ”を愛していた。 それは彼のアルター能力、『ラディカル・グッドスピード』が、全てのものを速く走らせることが出来る、という力を有している事からもわかる。 だが、今はその速度が制限されている状態にあった。 それは何故か? 考えるまでもない。 「どこかで聞いているんだろう!? ジラーミンさんよぉ!」 ……男は主催者の名前を間違えていた。 命は相手に握られている。首につけられた爆弾がその証で、威力の程は確認済みだ。 もし、これから言う言葉を本当に聞かれていたら、問答無用で首輪を爆発させられる可能性もある。 だが、 「お前は重大で決定的で取り返しのつかないミスを犯した、それは集めた人間の中に俺がいたって事だ、さらにその俺の前で明らかに戦う気の無い人間を殺した、さらにさらに俺から“速さ”まで奪った! 気に入らない! それが復讐のためだってんだから尚更気に入らないっ!! つまり俺はお前に逆らった上で倒すと即決即納即効即急即時即座即答ォーッ!!!」 その程度でこの男は止まらない。 「…………」 少しの間待ってみたものの返答は無く、首輪も爆発しなかった。 しかし男はそれが、やれるものならやってみろ、という無言のメッセージだと勝手に受け取った。 男は自分の発した言葉があまりに早口すぎたため、相手が聞き取れなかったという可能性は微塵も考えていない。 「……ハッハッハッ、ハー!」 「―――さあ、始めるとしますか」 最強と呼ばれたアルター使い、ストレイト・クーガーは宣言した。 【D4/図書館前/深夜】 【ストレイト・クーガー@スクライド】 [状態]:健康 [装備]:HOLY部隊制服、文化的サングラス [道具]:支給品一式 不明支給品(0~2) [思考・状況] 1・ジラーミンに逆らう 2・ジラーミンを倒す ※ジラーミンとは、ギラーミンの事です 時系列順で読む Back ruins Next 主役 投下順で読む Back ruins Next 主役 GAME START ストレイト・クーガー 一人では解けない 真実のパズルを抱いて。
https://w.atwiki.jp/83452/pages/2721.html
幸せだった。 騙され続けていた頃は幸せだった。 騙されているという自覚がなかったから。 真実を知ることで考える葦になるよりも、騙され続けて晩夏のアスファルトでひっそりと佇む雑草のままでいたかった。 ……騙されていたあの頃。 セミ達がヒステリックな断末魔の悲鳴を上げ、太陽が地上にいる者をいたぶって楽しんでいた9月の初め。 あの頃の唯は、学祭のライブが楽しみで毎日胸を高鳴らせていた。 クリスマスも正月も、ここまで唯の端正な顔に締まらない笑みを浮かべさせることはできなかっただろう。 夏休みの終わりの仄かな絶望感すら感じられなかった。 そしてそれは他のみんなも同じだったと思う。 お茶を飲んでだらけていても、何故か憎めないムードメーカーの律。 軽音楽部を引っ張る生真面目な澪。 お茶やお菓子を提供して部を影から支えてくれる紬。 可愛らしい後輩の梓。 ……みんな笑っていた。みんな幸せに見えた。 「じゃ、今日はこれで解散っと」 空を藍色が支配する時間がいよいよ長くなり始めた頃。その日も唯達は学祭への特訓でいい汗をたっぷりと流してきた。 腕は疲弊してだらりと垂れていたし、肩は重労働に痛みで抗議していたが、胸は9月の残暑にそぐわない清々しさに満ち満ちていた。 「忘れ物ないかー?部室閉めるよー」 「忘れ物確かめるのはお前だ!今回は講堂使用許可証忘れてないだろうな?」 「大丈夫大丈夫~。念のため夏休み中に書いておいたんだから」 「極端な子」 帰り道。皆でたわいもない話で盛り上がる、無駄なようで大切な時間。 「じゃ、また明日ー」 「宿題忘れるなよー」 「家に帰ってからも練習続けてくださいね」 皆と別れるのが惜しい。律は梓の頭をクシャクシャと撫でていたし、紬は無邪気に手を降り続けていた。 唯は最後にもう一度手を振ると、儚い喪失感に胸をわずかに冷やしながら歩き始めた。このまま家に帰るのが惜しい。 ちょっと迷った末に、唯は国道沿いのアイスクリーム屋に行くことにする。 このまま家に帰る気にはなれなかった。だが別に妹が待つ家が嫌なわけではない。先ほどまで胸を高鳴らせていた幸福感にもう少し浸っていたいだけだ。 夕暮れの国道は車が多い。右へ左へと赤いテールライトが流れては消えてゆく。 運悪く、唯は赤信号にまともにぶつかってしまった。一度変わるとなかなか変わらない、悪名高い信号に。帽子を被った顔のない人物が、唯を嘲笑う。 信号はなかなか変わらない。当然のことだが、車は彼女を無視してどんどん国道という川に流されてゆく。 唯の中で、だんだんと鬱屈としたカーキ色の苛立ちが高まってきた。先ほどまで心を埋めていた清々しさや幸福感が台無しにされてしまった。 唯は機械があまり好きではない。踏み切りや駅の改札機など、人の行く手を阻む機械は特に。何だか機械に小馬鹿にされている気分がするのだ。 ……小馬鹿にされる。そう考えると、唯の中で柄にもなく復讐への願望が高まる。相手のいない復讐。 車の流れが途切れるのを、唯はじっと待ち続ける。 唯の右手には大型の長距離輸送トラックが止まっている。ヘッドライトが、唯がこれからしようとしていることを咎める目に見えた。 ……構うものか。唯はいつになく挑戦的な気分だった。どうせこのトラックも、ちょっとエンジンをかけただけで私の敵になるんだ。 車の流れが途切れた。唯は変わらない信号を無視して車道に飛び出す。 帽子の人物に仕返ししてやった気分だった。ちょっとしたアウトロー気取りだった。 ……それが間違いだった。 トラックの死角になって気づかなかったのだが、実は別の大型トラックがすでに凄まじいスピードで接近していたのだ。 唯は綺麗にはね飛ばされた。 「……ちゃん、お姉ちゃん!」 ……誰かが呼んでいる。唯は水の中に仰向けに横たわっていた。視界がゆらゆらと揺れている。 水の中なのに、何で息ができるんだろう。唯はぼんやりと靄がたちこめる頭で、答えのない疑問と共にいた。 「……ちゃん、お姉ちゃん!」 唯はふと、憂とプールに行った日のことを思い出す。あの日、プールから上がったあとに食べたアイス、おいしかったなあ。 ……そういえば私、アイス食べたっけ? 「お姉ちゃん!!!」 「!!!」 唯は突然目を覚ました。それはまさに、長時間沈んでいた水から浮かび上がるような目覚めだった。 起き上がろうとして、肩から胸にかけて凄まじい激痛が走った。灼熱のナイフで体の内側から切られるような痛み。 涙の滲んだ目で、唯はあたりを見回す。何もかもが白かった。寝ているベッドも、床も壁もわけのわからない機械も。……また機械か。 「お姉ちゃん!お姉ちゃん!ああ、よかった、よかったぁ……うぅっ」 「いだだだだだだだ!!」 憂が抱きつかれ、唯はまたナイフで刻まれるような痛みに襲われた。涙がこぼれ落ちる。 「……あ、ごめんね。でも、でもよかったよおぉ……」 涙に滲んだ目で、唯はあたりを見回す。実にたくさんの人間が彼女を見守っていた。憂、和、軽音楽部の仲間達、両親。 ……あれ、何でお父さんいるんだろ。仕事で当分留守にしてるはずなのに。 「憂、ここどこ?」 「……病院だよ。お姉ちゃん、トラックにはねられたんだよ」 唯はすべてを思い出した。 つまりはこうだ。彼女は変に粋がったおかげでしっぺ返しをくらい、こうして何時間も何時間も眠るハメになった。肩の痛みのおまけつきで。 幸いにも演奏に差し支えのない程度の怪我ですんだらしいが、素直に喜べなかった。むしろ申し訳なさで胃が泡立つような気分だった。 (よかった、無事だった。) (ギター、助かった) (心配させやがって) (ライブに間に合うだろうか) ……みんなうるさいなあ。静かにしてほしいなあ。 唯はまだ靄の晴れきらない頭でぼんやりと考えたが、口には出さない。今は申し訳なさの方が強かった。 数日の後、唯はぎこちない足取りで退院した。ずっと横になっているうちに、体の使い方のコツを忘れてしまったらしい。 家に戻ってからすぐ、唯は真っ先にギターの安否を確認する。 「よかった……!無事だ!」 彼女の愛用のギターは全くの無傷だった。ギターケースにアスファルトに擦られた傷がついただけで。まさに奇跡的だった。 「よかったね、お姉ちゃん!」 (ギターなんかどうでもいいのに) (もっと他に考えることがあるでしょうに) (自分の体のこととか、迷惑をかけた人のこととか) 「あ……ごめんね、憂。今度から気をつけるよ。そうだよね、みんなに迷惑かけたよね」 「え?私はただ、よかったねって」 「え?……あれ?」 憂は言った。確かに言った。唯の身勝手な振るまいを咎めるようなことを。 「お姉ちゃん、どうかした?」 (何でわかったんだろ?) (顔に出ちゃったのかな。そんなにキツい顔してたかな) (次から気をつけないと) 憂の動揺が、手に取るようにわかる。……唯の小さな手には多すぎるほどに。 (それより、せっかくのお姉ちゃんの退院なんだし、今夜はパァッとやろうかな) (たまにはお寿司でもとろうかな) 「あ、憂。何にも気を使わないで。自業自得なんだし」 「……え?」 「……え?」 「……お姉ちゃん、何でわかったの?」 憂の顔に、はっきりと動揺と困惑が浮かんでいた。だがその表情は、憂の内部の混乱を半分も伝えきれていなかった。 (……顔になんか書いてあるのかな) (ちょっと鏡見てこよう) 「ま、まあいいや。ちょっとトイレ行ってくるね。晩ご飯はたまにはお寿司にしよう」 部屋に取り残された唯は、憂に負けず劣らず混乱していた。 憂は何故あんなに動揺してるんだろう。ただのありふれた会話で。 別に、おかしなことを言った覚えはない。いつも通りの言葉で、いつも通りに返したつもりなのに。 ……つもり。あるいはやはり私がおかしいのかもしれない。狂気に捕らわれた人間が、自分は正気だと思いこむのと同じに。 唯は絡み合ったコンセントを一本一本ほどくように、今の会話の意味を吟味する。 ……やがて、一つの突飛な、だが辻褄のあいすぎる答えが浮かび上がる。 (私……他人の心が読める!?) 急に心臓が活発になる。胸の中で白い閃光が弾け飛ぶ。……きっと今胸に手をあてたら、心臓はシャボンの泡よりもあっけなく壊れてしまうだろう。 唯は口を半開きにして、呆然とその場に突っ立っていた。体が前に傾ぐ。平均感覚すら失われてしまったらしい。 (他人の心が読める……これ、いわゆる超能力ってやつなの?) 彼女の頭は、答えを求めてあてもなくさまよう。答えなどあるはずもないのに。 ……ふいに唯は笑い出した。乾いた笑い声が抑えきれない。肩が痛みという抗議の声をあげるが、気にもとめずに全身で笑い続ける。 それは、唯が初めて獲得した勝利だった。 頭の出来も体も並みで突出した才能もない、平凡な少女が手にしたあまりにも大きすぎる勝利。 翌日の朝。 いつも寝ぼすけな姉が時間通りに起きてきたのを見て、憂は目を疑った。 (お姉ちゃんが早起き……だと……!?) (お天気が変わるんじゃないだろうか?雪でも降ってきたりして) (……お金でも降ってこないかなあ) 「おはよー。憂」 唯は憂の“言葉”を無視してにこやかに朝の挨拶をする。 昨日のうちに、唯はこの“力”の使い方を完璧にマスターしておいた。どうやら“心の声”は、通常の言葉と違いわずかに滲んで“聞こえ”るようだ。 この区別さえつければ昨日のような失敗はしないだろう。 ……昨日はずっと上の空だった。憂がせっかく頼んでくれたお寿司も、久々の自宅での入浴も、何の感動を与えてくれなかった。 実のところ、夕べは興奮のあまりほとんど寝られなかった。布団の中であっちを向いたりこっちを向いたりして夜を無駄遣いしただけだ。 (お姉ちゃん、やけにご機嫌だなぁ) (……まあ、退院あけだしね) 「お姉ちゃん、学校が楽しみ?」 「うん、楽しみ!早くみんなに会いたいや」 早くこの“力”を有効活用したかった。これさえあれば面倒な人間関係に悩まされずにすむのだ。 ……そう、私は誰よりも空気の読める人間になったんだ。 唯はこの“力”を公表するつもりはなかった。超能力なんて誰も信じないだろうし、主張したところで頭がおかしいと思われるだけだ。 だったら一人で楽しむに限る。 大急ぎで朝ご飯を詰め込み、顔を洗って家を飛び出す。 「先行くね、憂!」 「お姉ちゃん、待って!」 憂の言葉を後にして唯は晴れた空の下に飛び出す。太陽は地上にいるものを焼き焦がすことを諦め、いまは空の片隅でちんまりと縮こまっている。 どこからかキンモクセイの冷たく甘い香りが漂ってきて、唯の弾んだ心にさらに勢いをつける。 たまにいろいろな人間とすれ違う。たいていの人の“声”は日常の些末な問題について語っていた。 誰に聞かせるつもりもない声。聞く者などいないはずの声。 (給料日) (安売り) (メール) (嫌な授業) 唯は他人の“声”を聞くことに、罪悪感がないわけではなかった。スケベ心でプライベートを覗き見するなどいけないに決まってる。 でも、と彼女は罪悪感を抱きしめ、頭を撫でて落ち着かせる。 望んで得た“能力”ではないのだ。それに“声”の方が勝手に私に飛び込んでくるのだ。いったいどうすればいいというのだ。 巣にトンボが引っかかった蜘蛛に何の責任があるというのだろう。夏の虫が飛び込んできた火に、どうすることができるだろう。 そんなことを考えていると、ふいに二種類の“声”が“聞こえて”きた。彼女がよく知る後輩の声。 「せんぱーい、唯先輩ー!」 ツインテールをぴょこぴょこと揺らしながら、梓が駆けてくる。もちろん“声”もばっちりと聞こえる。 (一応治ったんだ。助かったなぁ、ライブ) (今日からみっちり練習させないと) (……抱きつかれるのは嫌だなぁ) 唯は梓を抱きしめようとした手を引っ込める。……そっか、嫌だ嫌だって言ってたけど、本当に嫌だったんだな。もう止めないとなぁ。 少し残念だったが、仕方がない。嫌がらせは唯の好みではなかった。それより、“力”が早速役にたってくれたことに感謝しなくてはならない。 「あずにゃん、おいーす」 「おはようございます。肩はもう大丈夫なんですか?」 (ライブは出られますよね?) 「……うん、大丈夫だよ」 唯はちょっとだけ傷ついた。寄りかかっていた木がフッと消えてしまったような気分だった。 ……私の体の調子よりもライブかいっ。 二人は並んで登校する。梓は唯に事故のことをああだこうだと咎めているが、彼女はほとんど上の空だった。 「……唯先輩は不注意なんですよ。だから……ちょっと、聞いてますか?」 「ちゃんと聞いてるよ」 ……もちろん聞いている。ただ、聞く“声”の種類が違うだけだ。 「おーい、唯ー!」 顔を上げると、懐かしい顔が二つ。律と紬が手を振って待っていた。 「あー、りっちゃん!おいーす!」 (……チッ、今日もあいつの顔を見なきゃならないのか。気違いデコ女) ……え? 唯は今“聞いた”ことに耳を疑った……聴覚を使ったわけではないのでこの表現は誤りかもしれないが。 後輩の顔を見つめる。にこやかに笑った愛らしい顔に似合わぬ赤黒い憎悪の念が彼女から発散されていた。 (ふん、ニヤニヤと締まらない笑みを浮かべやがって) (穀潰しの分際で先輩面しやがって) (気色悪いレズ女といちゃいちゃしてさ) ……鏡を見たら、きっと滑稽な表情をしているに違いない。唯は顔の感覚をすっかり失ってしまった。 「唯ー、今日は早いんだなぁ」 「学校に行きたくてしょうがなかったでしょう?」 (おい唯、なんでそんな害虫と一緒に仲良く歩いてんだよ) (あなたはこっち側の人間でしょう?) 聴覚がズルズルと蛞蝓のように唯の耳から滑り落ちてゆく。律や紬や梓が発する言葉が耳から耳へと抜けてゆく。 唯は呆然と別の“言葉”を“聞いて”いた。律と紬から汚らしい黄色の悪意が発散されている。 (このチビ、唯に惚れてんじゃねえか?ベタベタしやがって、気持ち悪い) (キイキイとヒステリックに叫んで、ノイローゼになりそうよ) (何で入部させたんだろ?入部させなきゃよかった) (さっさと出て行かないかしら) ……律が梓の頭をクシャクシャと楽しげに撫でる。梓が笑顔で手を除けようとする。紬は嬉しそうににそれを見つめている。 唯だけが笑みとは無縁の、鉛の池をさまよっていた。 感覚の失われた足で、いったいどうやって学校にたどり着けたのだろう? 唯は青白い凍えに取りつかれていた。まだ9月だというのに腹の底が、頭の内側が寒くて寒くてたまらなかった。 耳を塞ぎたくてたまらない。だが耳を塞いでも無駄なのだ。唯の心は悪臭を発する、汚い色をした憎悪の念で埋め立てられそうだった。 (入部しなきゃよかった。ライブで成功させたらさっさと辞めてやろうかな) (害虫の頭触っちまった。後で手を洗わなくちゃな。消毒もすませなきゃ。オエッ) (新人のペーペーの癖に、威張り散らして。何様のつもりかしら) ……澪ちゃん。澪ちゃんなら、大丈夫だよね。みんなのことが大好きだよね……。 「おい、律ー!」 「おぉ、澪ーっ!」 (何だよ律。またそいつと一緒かよ。さっさと退部させろよな。部長だろ?) 唯の希望はあっさりと打ち壊された。にこやかに笑う澪の手によって、あっさりと。 2
https://w.atwiki.jp/merligold/pages/20.html
From めるりP 第1回 / 第2回 / 第3回 / 最終回 第2回 「ゴールデンチケットは金色の輝き」 そもそもめるりゴールドというイベントは、“「トカチゴールド」に出られなかった恨みだけで出来ている”というわけではない。めるりPが毎週日曜に放送している「めるり倶楽部withあなさん」というネットラジオにそのヒントがある。 このネットラジオで個性的なトークでリスナーを魅了する、めるりPの相方、もう一人のパーソナリティー、あなさん。ana3Radioとも。 もともとアイマス関連の絵描きであり、めるりPとの接点は何もないはずだった。しかし、めるりPはpixivで偶然彼を発見。その特異なセンスに魅せられためるりPは、twitterでコンタクトを取り、skype通話を試みて、意気投合。翌日には試験放送、その翌週にネットラジオの定期放送を始めた。それ以来二人は公私ともに(公私混同甚だしいが)親しい仲である。 そして、そのネットラジオなどであなさんを知り、彼の魅力的な人柄に惚れこみ、或いは面白がり、めるりPに会うたびにこう発言する人が少なからずいたのだった。 「あなさんに、会ってみたいよね」 しかし、彼は北海道在住。そうはなかなか来れない、と返すと、 「何? 旅費? そんなもん俺が持つ!」と言う人さえいた。 自重しない、もとい、気前の良い知人を多く持ったものだと、めるりPが呆れ……もとい 感心しながらあなさんにその事を伝えると、彼は戸惑いながらこう言うのだった。 「困りますよそんなの! 申し訳ない! 旅費全部持ってもらうなんて、ビビる!」 そりゃそうだ。誰だってビビる。私もビビる。 というわけであなさんをオフ会に呼び出す恐ろしい計画は共に進める前にぶち壊すことになり、スクラップ&スクラップとなっていたのであった。 しかし、めるりゴールドを開催するにあたり めるりPは「どうせ滅多にないことなんだし、この際、何かやってくれそうな友人を遠くから呼んでみたい。こういう機会でしか来れなそうな人を」と提案。遠方より何たら来たる、また何たらやの精神である。 そんなわけで、あなさんは勿論のこと、居住地が開催地の東京から遠く、おまけに金が無く、しかもめるりゴールドというイベントに必要不可欠なメンバー、 トークの鉄人、あなさん。 モラトリアムの鉄人、かぜまち。 コスプレの鉄人、ひづき。 それぞれ食材を持って下からせりあがってきそうな三人、カネガネーゼトリオ(めるりP曰く「シロガネーゼ」とかけたとのこと。だがしかし、なぜ「シロガネーゼ」とかけたのかは本人曰く「忘れた」)をどうにかして呼べないか、ということになった。しかし彼らはカネガネーゼと名付けられる通り、あまり金銭面に余裕は無い。いくら太っ腹が多いスタッフとて、さすがに全部の旅費は負担できない。 そこで、スタッフの一人が、 「じゃあ、旅費をカンパしてもらおう。 でもそれだけじゃ悪いから、呼んでもらった人はカンパして頂いた人へ何かサービスして、あと特典も付けよう。 そういう特別なチケットにすればいい!」 などと、「ゴールデンチケット」という大変に馬鹿馬鹿しい制度を提案したのである。 かくして慎重に議論を重ねた結果、「ゴールデンチケット」(10,000円)は次のような性質のものになった。 基本的にカンパである。めるりゴールドにぜひ参加するという意思があり、尚且つ「ゴールデンチケット」により召集されるメンバー(カネガネーゼ・トリオ)の三人に興味があり、会ってみたいという人が購入するのが望ましい。 カンパであるということを鑑みるに、当日の参加に不都合、あるいは十分に性質を理解していない、ということがあっては、双方に不利益が生じる。そういった観点から、これを購入できるのは、連絡が容易であり、当日ほぼ確実に参加でき(つまりこのチケットによる恩恵を受けられ)、尚且つ、ある程度スタッフ側に面識があることに限らせてもらう。 10,000円という額は、決して安くはない。よってこの企画(めるりゴールド)の趣旨を理解し、最悪の場合「スベっても許せるよ」という人のみ購入可能。さらに、いくら洒落であるとはいえ、これによって引き起こされるトラブルがあってはならない。 以上の性質により、「ゴールデンチケット」は広い範囲への案内はせずに、早くからめるりゴールドに興味を示した方(積極的に開催をめるりPに促したような人々には特に)にのみ頒布を限らせていただいた。 その事に不満を覚えられる方もいるだろうが、そもそもが「カンパ」という性質を持つもので、さらに不要なトラブルを避けるためであり、申し訳ないが御了承されたい。 で、ゴールデンチケットの特典とは? カネガネーゼトリオの提案を聞いてみよう。 「目の前でご飯作るとか」 「肩でも揉む」 「一緒にゲームする」 「自分が作った動画を」 「この前描いた本のコピーを」 「めるりPのDJMIXのCD」 「めるりPのブロマイド」 「めるりPのサイン入り色紙」 ……。 「で、ゴールデンチケットを買ったんだけどさあ。これ、得するの?」 「いや、そのことについては喋るわけにはいきません、黙ります。ゴールデンチケットなので」 「何だって? どういうこと?」 「何せ『ゴールデン』チケットですからね。雄弁は銀、沈黙は金って……」
https://w.atwiki.jp/oshitodomero/pages/119.html
スレッド_レス番号 01_775-778 作者 備考 長編,近未来の悩み 「……今、なんと言ったかしら?」 彼女は精一杯の平静を装ってそう問い返した。はりついたような笑みに なっているかもしれないが、確かめる術はない。ただ、綺麗に磨き上げた爪が、 持ち上げているティーカップの縁に触れて、かちかちと震えていた。 そのカップを優しい手つきで女から取り上げて、彼は先程の言葉をゆっくりと 繰り返した。 「もう、ここは貴女がおいでになる場所ではありません、と申し上げました。マダム」 ふんわりと巻いた髪が落ちかかる、剥きだしの肩がはっきりと揺れる。 「わたくしは、あなたと過ごすために来ているのよ、ハル?」 「存じております」 「ここまで来て、お茶だけ飲んで帰れと?」 「イエス、マダム。そして、もうおいでにならないでください」 「それはどういう意味!? あなた、わたくしの言うことが聞けないというの!?」 「その通りです、マダム」 甲高い声で叫んだ彼女に、彼は穏やかな口調を崩さず、しかし断固として頷いた。 彼はいつもそうだ、と女は思う。 彼女がどれほどヒステリックに泣こうとわめこうと、彼は泰然と構えて嫌な顔 ひとつ見せない。女の言葉に耳を傾け、黙って寄り添い、宥め、落ち着かせ、 しかし女に非があれば柔らかに指摘する。その態度があまりに優しくて、女も 最後には納得せざるをえないのだ。 けれど―――今回ばかりは、無理だ。彼がなんと言おうと、絶対に頷くことは できない。 唇がわななく。なんとか息を吸い込んで、吐いた。 「二度は許さないわ。……わたくしを満足させるのがあなたの務めです。果たしなさい」 「マダム」 ハルは女の前に恭しく膝をつく。その瞳は優しいままだ。女の両手に自分の それを重ねる仕草も、敬意と思いやりに溢れて変わらない。けれど、その首は ゆっくりと横にふられた。 「そのご要望にはお応えすることができません。おわかりください」 「どうして―――わたくしを捨てようというの!? まさか」 瞬間脳裏をよぎった想像に、全身の毛が逆立つような気がした。 「まさか……他の女ができたのね!? そうなんでしょう!」 叫ぶ彼女に、彼は目を伏せて小さく首をふる。少し、咎めるような声で彼女を 呼んだ。 「マダム。……私は、そのようにはできていません。ご存知のはずです」 「でも―――だって、ハル!」 「私は……私達は、けして裏切らない恋人です。そういう、商品ですから」 ほのかな笑みと一緒に吐き出された言葉は、むしろ悲しみに彩られているように 聞こえた。 ―――それとも、そう聞こえているだけだろうか。 女はきつく唇を噛んだ。 「……そうよ。あなたはわたくしに買われているの。四の五の言わずに抱きなさい」 「それが、貴女の真の望みなら……そうするのですが」 彼は、そっと彼女の目を見上げた。 「私は貴女の下僕です。貴女のお望みを叶えるためだけに存在しているのです。 観劇でも買い物でも、どんな場所でもお供しますし、歓楽をお求めならいくらでも さしあげましょう」 「なら!」 「……最近、貴女は夜中に暗い顔をなさっておいでです」 困ったように、彼は口を開いた。 「ご存知のように、私に睡眠は必要ありません。寝ているようでも、常に貴女の ことを見ています。あらゆるデータをもって、貴女が心地よいよう動くために」 「……それは」 「それができるのは、私がセクサロイドだから。……感情があるように見えても、 それはそのように組まれた行動パターンに従っているからに他なりません。 貴女が……最近お悩みの通り、私に愛情はないのです」 「―――ハル!」 悲鳴のように言葉を遮った女を、彼はただ見つめる。その眼差しは深い。 ―――深い、ように思える。 「私に感情を読み取れる貴女は、まさしく人間らしい方なのです。愛情に愛情を もって返して欲しいと望むのも、人としてはごく自然なこと。……ですから、 貴女はもうここにいてはいけません。あなたの心に心で応え、愛してくれる人を 見つけなくては」 「……そんな人、いないわ」 「いますよ。必ず」 「いないわ! いたら……そんな人がいるなら、わたくしはここに来たりはしなかった!」 彼は穏やかに笑って、立ち上がった。上体をかがめ、そっと彼女の額に唇で触れる。 「―――大丈夫、あなたは魅力的な女性です」 「ハル」 「貴女が求めているのは心です。それは、私には差し上げることができません。 心を得ようと思えば、傷つくことも、辛いこともあるでしょう。……人とは、難しい ものです。けれど、諦めないでください。貴女は、セクサロイドに過ぎない私を、 人間と錯覚するくらいに優しい方なのですから」 優しく触れる指先も、その体も唇もこんなに温かいのに。 私は人ではない、と彼は言いきる。 そんなこと―――わかっていた。とうの昔に。 ……だから、か。 何かが胸の奥にすとんと落ちた。ぽつりと、つぶやく。 「わたくしは……人間なのね……」 「そうです」 「感情が……あるの。ハル、あなたが本当に……好きだった」 「光栄です」 「でも苦しかった。マスター登録さえされていれば、あなたは誰でもいいんだわ」 「……ええ、その通りです。マダム」 ハルがゆっくりと女の髪を梳く。 「私の役目は終わりました。……貴女は幸せになれる方です。そのことを、どうか 忘れないでください」 深く一礼して、彼は女に背を向ける。その姿が扉の向こうに消えようとした瞬間、 女は大きく声をあげた。 「ハル!」 「はい」 「もしいつか……そんな人ができて……表のお店であなたを呼んだら……あなたは 一緒に、お茶を飲んでくれるかしら……」 彼は、彼女が愛した顔でふわりと微笑む。 「ええ、喜んで。アネッサ」 そのまま、もう二度と振り返らずに、出会ってずっと二人が過ごした部屋を出て行った。 ―――アネッサ。 それは昔、『幸せな子』と意味を込めて、祖父がつけてくれた名前だ。 ハルが―――彼が今まで、一度として呼ばなかった、彼女の。 たくさんの思いが込みあげて、アネッサは一人、気が済むまで泣き通した。 「マスター情報をダンデータフォルダへ移行します。よろしいですか?」 「はいよ。……寂しいか、ハル?」 男の問いかけに、彼は静かに答えた。 「私が寂しいと感じることはありません、オーナー」 「……うん、そうだな。さ、次のお客様が待ってるぞ」 「はい、オーナー」 データ移行承認を出す寸前、彼は、唇だけで小さく、さよなら、と呟いた。 END 戻る スレッド別 / 作者別 / シリーズ別 バグ・不具合を見つけたら? 要望がある場合は? お手数ですが、メールでお問い合わせください。
https://w.atwiki.jp/legends/pages/1759.html
【電磁人の韻律詩~8号~ BE A SUPERMAN】 「そっち行ったよ恋路。」 「任せてアスマ!」 路地裏を素早く走り回って逃げ回るエイリアンのような生き物。 そしてソレを追いかける明日真。 彼はエイリアンのような生き物を待ち伏せしていた恋路に合図を出す。 「2500w………照射!」 パチッ! 何かが弾けるような音がした直後にそのエイリアンのような都市伝説の表皮が泡立ち始める。 「ギャアアアアアス!!」 路地裏に轟く断末魔と破裂音。 明日真と恋路は組織の命令で都市伝説「チュパカブラ」を退治していた。 「よし、今日の仕事はこれで終わりだ。たこ焼き一パックを要求する。」 パチン! 「やったねアスマ!戦国●双3買って貰おうよ!」 明日と恋路はハイタッチをする。 「ほう、上手いもんだなあ……。戦い慣れしていないと思っていたんだけどまあ良いか。 良くやったぞおまえら。」 「いやいや、正義の味方ですから。」 「それより黒服さん、戦国無双3の方を……。」 「あと三体、都市伝説を倒したらな。」 「そんにゃあ!?」 明日と恋路の二人は組織の仕事にも割とすぐに適応し始めていた。 元々都市伝説と戦う為に都市伝説と契約した明日と 元々都市伝説と頻繁に戦っていたらしい恋路は 人間にとって危険な都市伝説を見つけて倒すという仕事に慣れていたからだろう。 二人の能力の性質上対生物に強い為、組織からの任務は必然的にUMA系の都市伝説の退治が多くなっていた。 「じゃあもう俺達帰りますよ?良いですか?」 「ああ、俺は上司に任務の報告をしなくちゃいけないんだ。」 「それじゃあ黒服ちゃんさようならー!」 「おお、じゃあな恋路ちゃん。」 「恋路、もう行くぞ、さっさと乗ってくれよ。」 「ああ、そうだ明日。ちょっとこっちに。」 「なんすか黒服さん。」 急に呼び止められて明日だけが黒服の傍まで手招きされる。 「ちょっと耳貸せ。」 「え、はぁ………。」 「細かいことを言う気は無いが男として気をつけるべき事は気をつけろよ?」 「ちょっ!まっ!清い付き合いですから!!」 慌てて両手を振って否定する明日。 ニヤニヤ笑う黒服。 「ちなみに良ければ(ピー)とか(ピー)とか貸すが………。」 「違いますからあ!」 「そうかそうか、それは残念だ。」 「もう、じゃあ行きますよ?」 「おう、それじゃあ今日はゆっくり休め。 あと………。」 「あと?」 コホン、と咳払いをする黒服。 「組織とバイトの掛け持ちは程々にな。」 明日にだけ聞こえるように呟いた。 「―――――――――――!!」 「まだ俺しか知らないし今は咎める気もないから安心しろ。 程々にしておけってだけだ。」 「あ、あはははは………。じゃあ帰りますね。」 誤魔化すように笑いながら明日は恋路の待つスカーウェイブに向かう。 二人はスカーウェイブに跨って路地裏を抜け出し、家路についた。 二人は家に着くとすることも無かったのでお笑い番組なんかを見ながら晩酌を始めた。 「あー!仕事明けの一杯が堪らないね!」 「そうだな、親父臭いことこの上ないが仕事をしたという実感は確かに有るよ。」 「仕事明けの一杯と言ってもオレンジジュースだから勘違いしないでね!」 「誰に向けて言っているのじゃ。」 「知らないよっ!」 やれやれとため息をつく明日。 恋路はどこか楽しそうな様子である。 「ねえねえアスマ、そういえばそろそろクリスマスだよね。」 「ああ、そうだな。」 こたつの電源を入れて玄関から蜜柑をもってくる。 二人はこたつに入ってぬくぬくし始めた。 「何処行くの?」 「どこか行くのは前提なのな。」 「勿論!プレゼントとかお互い交換なんかしちゃったりしてさ! 私からのプレゼントはなんと!」 「なんと?」 「わ・た・し。」 「それはない。」 「無いか。」 「無いね。」 「残念だよ。」 「残念だろう?」 とてものんびりとした時間だ。 こたつに入ってのんびり談笑なぞ昔の明日には想像できなかっただろう。 ガチャリ 急にリビングのドアが開く。 「ただいまー!元気してたー?」 「「誰!?」」 明日と恋路は素っ頓狂な声を上げる。 リビングのドアを開けて突入してきたのは真っ赤な髪をしたお姉さんだった。 こたつで二人仲良くイチャイチャしていた明日と恋路はポカーンとしている。 「只今、真。」 「もしかして姉ちゃん!?」 「え、アスマにお姉さん!?」 其処にいたのは明日真の姉、明日晶だった。 彼女もまたプロのモトクロスライダーとして世界中を回っていた。 「もしかしてじゃないわよ~、真が女を連れ込むようになっているとは……。」 恋路をちらりと見る晶。 「ど、どうも~、お姉様……。」 苦笑いする恋路。 大変気まずい。 空気が変わる瞬間は一瞬だった。 「弟から離れろ雌狐があああああああああああ!!!!」 「今更帰って来て保護者面かこの人間失格があああああああ!!!」 ドカァン! 突然恋路と晶の拳がぶつかり合う。 明日晶、彼女はボクシングを趣味でやっており高校時代はインターハイでならしていたのだ。 明日真は彼女にしばらく会っていなかったがまた腕を上げた様子である。 しかし対抗する恋路も負けては居ない。 本体が機械なので身体は硬いし、本人は名前を忘れたようだが格闘技経験者らしい。 「私の拳を止めた!?」 「人間の癖に……重い!」 二人は拳を合わせて目と目も合わせる。 「面白いじゃない、雌狐!」 バシンバシン! 晶の得意とするフリッカージャブが炸裂した。 目にもとまらない速さで拳を二回、明日の頬に叩き込む。 「固い!?」 晶の右手に走る違和感。 「都市伝説を……舐めるんじゃねえ!!」 一本背負いのように晶の右腕を持って思いっきり投げつける恋路。 「――――――しまっ!!」 「うわっ、こっちくんなぁぁぁああああああああああ!!!」 ドシィン!! 投げられた晶は真に直撃した。 しかし晶はそんなことも気にせず真を踏み台にして恋路に飛びかかる。 至近距離での殴り合いが始まった。 お互いどう見ても本気、ていうか見えない! 速すぎて動きが見えない!! 「弾けろ!3000Wだ!」 「触れられる前に離れる!」 「能力が効かない!?」 「拳で語り合おうぜええええええええええ!!!」 ドスッ! メキィ! ゴリゴリッ! 「もういやだ、この家………。」 明日真は薄れいく景色の中で頭を抱えていた。 【電磁人の韻律詩~8号~ BE A SUPERMAN fin】 前ページ次ページ連載 - 電子レンジで猫をチン!