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8月某日……午前7時30分 晴絵「……ぐぅ」スヤスヤ ピピピピッ……ピピピピッ 晴絵「……むぅ……ん、むにゃ……うるしゃい……」モゾモゾ ピピピカチッ 晴絵「………ぐぅ」スヤー  ̄ ̄ ̄ 午前10時15分 晴絵「………」ボーッ 晴絵(………うーん、久々の休日だからって少し寝すぎたかな……こんなに寝たのって学生のとき以来かも)ポリポリ 晴絵「仕方ない……とりあえず起きるとしますか………」モゾモゾ 晴絵(……そういえば、昨日は望(憧の姉)が家に来て一緒に飲んでたんだっけ……やば、思い出したら頭痛くなってきた……)ガンガン 晴絵「まぁしばらくしたら治るでしょ……ひとまず部屋の片付けから始めようかなぁ……」ズルズル  ̄ ̄ ̄ 午後12時50分 晴絵「……あー、よーやく終わった!」ドサッ 晴絵「我ながらよくこんなにゴミ溜めてたわねぇ……ま、これで部屋もスッキリしたから良いか」ぐぅ? 晴絵「……って、朝から掃除してたらすっかりこんな時間か……さすがにお腹減ってきたかなぁ」ガチャッ 晴絵(……うーん、冷凍庫にはなにも無いし……仕方ない、買い物でも行こうかな……ついでに今日の昼ごはんは外食にでもするか)ウンウン 晴絵「そーと決まれば財布……うわ、こりゃお金も少し下ろしとかないとなぁ」 晴絵「あとは車の鍵っと………え?」ガサゴソ 晴絵「あ、あれ?無い!?うそ、カバンの中に入れといたのに!?」 晴絵「……ど、どうしよう」ズーン 午後13時45分……某ファストフード店 晴絵「……まいったなぁ」ハァ… 晴絵(結局鍵が見つからないから諦めて徒歩……朝ごはん食べてないから我慢もできずとりあえずハンバーガーで空腹を満たす……と)モグモグ 晴絵「ってなんか久し振りの休日なのにどんどん悪い方向に進んでいってる気がする!?」ハッ 晴絵(とりあえず早く買い物終わらせて車の鍵を探そう!車が動かせなかったら休日なのにドライブすらできないじゃない!!) 晴絵「あーもう、ふぁふぁしのふぁか……」モキュモキュ  ̄ ̄ ̄ 午後14時 アリガトウゴザイマシター! 晴絵「さてと、とりあえずコンビニでお金下ろして……あ」ピタッ 晴絵「そういえば今度の小テストで使うプリントまだ途中のまんまだっけ……」 晴絵(プリントは確か学校よね…………仕方がないか、先にそっちを終わらせよう)ハァ…  ̄ ̄ ̄ 午後15時30分 晴絵「……はぁ、しんどかった」ガラッ 晴絵(まさか坂道でこんなに体力削られるとは思わなかったなぁ……学生時代は苦でも何でもなかったのに……)フゥ… 他先生「……おや、赤土先生?今日は部活はおやすみではなかったのでは?」ガラッ 晴絵「いやぁー、課題の製作がまだ終わってなかったので今日中に終わらせちゃおうと思いまして……」アハハ 他先生「そうだったのですか、仕事熱心なのは良いですがあまり無茶をしてはいけませんよ?インターハイが終わってまだ間もないのですから…」 晴絵「これくらいなら平気ですよ、それに頑張ってくれたのさあの子達ですからね……」 他先生「……そうですね、私も歳ながらテレビの前で興奮したもんですよ、あの子達は本当によくやってくれた」 晴絵「ええ……自慢の教え子ですよ」フフッ 他先生「羨ましい限りです、……それでは私はこの辺で」スッ 晴絵「はい、お疲れ様でーす」 晴絵「…………ふぅ」ギシッ 晴絵(……そうね、灼やしず、須賀くん達は本当によくやってくれたわ……けど、私は?) 晴絵(私はあの子達に何かを残せたんだろうか……いや、それ以前に) 晴絵(私は自分自身のトラウマにけりをつけれたんだろうか?) 晴絵「……わかんないなぁ、自分の事なのに」ハァ 晴絵(……まぁ、一つわかることといえば)チラッ 晴絵「目の前のタスクを一つずつ……か」 晴絵「考えてても仕方ないし、まずはプリント製作だけでも終わらせておきましょうか」トントン 午後17時45分 晴絵「……すっかり遅くなっちゃったわね」 晴絵(まさかこんなに遅くなっちゃうなんて……ダメだなぁ私……) 晴絵「なんかご飯作る気が起きないなぁ……コンビニ弁当で済ませちゃおうかな」 晴絵(……なんだろ、どんどんダメな方向に進んでいってる気がする……)スタスタ  ̄ ̄ ̄ 午後18時15分 アリガトウゴザイマシター 晴絵「……はぁ」 晴絵(せっかくの休日なのに朝から掃除やって朝ごはん食べ損ねてお昼はファストフード) 晴絵(午後は結局、テストの準備で全部潰れたし、夜は一人寂しくコンビニ弁当……) 晴絵「…………なんだかなぁ」ハハ… 晴絵「なにやってんだろ……私………」 晴絵(………こーやって灰色の日々を過ごしながら歳だけとってくのかな……はは、おっかないなぁ)ジワッ 晴絵「……優雅な休日なんて、ほど遠いわね…………」ポツリ 京太郎「あれ?赤土先生じゃないですか!」 晴絵「」ドキーン 晴絵「す、すすす須賀くん!?な、なんでここに!!?」ザザッ 京太郎「夕ごはんの買い物帰りっすよ、今日はおばさん達が旅行でいないんで俺が食事当番なんです」 晴絵「へ、へー……そうなんだー」 京太郎「赤土先生は何でここにいるんですか?」 晴絵「え!?わ、私も……夕ごはんの……買い物を、ちょっと……」カァァ 京太郎「そうなんですか」チラッ 京太郎(夕ごはんがコンビニ弁当……) 晴絵(とか思われてるんだろうなぁ……いい歳の大人が夕飯にコンビニ弁当ってカッコ悪いなぁ……)ハハッ 京太郎「そうだ!赤土先生、うちで食べていきませんか?」 晴絵「えっ!?」 京太郎「弁当だけですと栄養とか偏っちゃいますし、正直材料買いすぎて灼さんと二人じゃ余しそうだったんですよね」 京太郎「もちろん赤土先生が良ければですけどね」 晴絵「い、いやぁーでもこの時間によそ様の家にお邪魔するのはちょっと……」シドロモドロ 晴絵(さ、誘いは嬉しいけど……教師が生徒の世話になるなんてダメすぎるわよね) 京太郎(とか思ってるのかなぁ……よし) 京太郎「あー、保護者がいないのに子供二人だけじゃ不安だなー」棒読み 晴絵「う……」 京太郎「どっかに頼りになる大人の人はいないかなー」棒読み 晴絵「うぅ……」 京太郎「赤土せんせーが来てくれたら買いすぎた材料もはけるし灼さんも喜ぶのになー、困ったなぁー!」チラッ 晴絵「……ああもう!わかったわかった私の負けよ!」 京太郎「へへ、ありがとうございます!」 晴絵「まったく……どういたしまして」ヤレヤレ 午後18時30分 晴絵(やれやれ……まさか自分の教え子に気を使われるなんて思ってもみなかったわ)スタスタ 京太郎「……それじゃあ灼さんは先に食器を用意しててください、それじゃあまた後で」ピッ 京太郎「灼さん喜んでましたよ、『ハルちゃんが来るの!?』って言ってました」 晴絵「なんか悪いわね、わざわざ気を使ってもらっちゃって……」 京太郎「別に気なんか使ってませんよ、俺も灼さんも純粋に赤土先生が来てくれて嬉しいですしね」 晴絵「ほぅ、嬉しいこと言ってくれるねぇ……ま、お世辞でも嬉しいよ、ありがとう」ニコッ 京太郎「……お世辞じゃないんてすけどね」ボソッ 晴絵「んー?何か言った?」ニヤニヤ 京太郎「なんでもないですよ!……さ、行きましょう、赤土先生」ニッ 晴絵「ええそうね、遅くなる前に帰りますか!」 晴絵(……どんなに惨めでも、私を慕ってくれる子達がいてくれる)チラッ 晴絵(そんなこの子達に私ができることってそんなに無いかもしれない……) 晴絵(だけど私は……)グッ 京太郎「どうかしたんですか?赤土先生」 晴絵「んん、何でもない……ただね」 晴絵(もしこれから先みんなが悩んだり迷うような事があるのなら、それを解決するのは私でありたい!) 晴絵「……ただ、悪くない休日だったなーって思っただけ」 京太郎「……」ジーッ 晴絵「……ってなに人の顔ジロジロ見てるのよ?」 京太郎「いや、だって赤土先生……」 京太郎「なんか凄く良い笑顔してましたから」 カン
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第十四章【小悪魔テク! 女子力粉砕スーパーノヴァ!】 淡「エェーっ!? 東京に須賀が来てるの?」 菫『あ、ああ。東京見物でホテルに泊まってるらしい』 淡「ずるいずるい! 一人で須賀と遊んだんでしょ!?」 菫『遊んでなどいない。照について話しただけだ』 淡「じゃあさじゃあさ! 明日は私が遊んでいい?」 菫『なんでそうなる』ハァ 淡「いーじゃん! ねね! お願い!」 菫『はぁ、分かった。須賀の電話番号を教えるから、自分で交渉しろ』 淡「やった!! ありがとー!!」 菫『それにしても、お前はいつ須賀がお気に入りになったんだ?』 淡「お気に入り? 別にそんなことないけど?」 菫『……とてもそうは見えないが』 淡「んー、まぁ強いていうなら興味があるのかな」 菫『興味?』 淡「アイツってさー、こう! 強い雀士を惹き付ける何かがある気がするんだよねー」 菫『……否定はしないが』 淡「だからさ、確かめてやるんだ!」 / \ _人_ ' ` 、 \ Υ'/ / / ト、 丶 / / / | | | Χ } .′ il / | | \ | / `、 リ | i | _|l__∧ト、八 | メ´ ニニ / } | | | || `>x、\| 斗チ芋ミ、∨ ,′j | |l l|斗示芋ミ、 ''h! } ,′ , |l 八 И'h! } 乂___ノ / / || \| 乂__ノ /i/i/ / /l| .八 ゝ /i/i/i i / / / / | ‘,\ ハ r ア /l/ / / | ト、 込、 _ノ // ,イ l| |l l\ \> .,_ /∨ /l| 八_ |ヽ. 八l_\ \-─=ー ァ--< / / 八 { \ `ヽ | | ./ /´ ハ 〕 { 〉 ,′ / ` ヽ \∧ | |/─、_ / |∨ __ Ⅴ__=| / 〕\ \ | | Y´ \\.ノ (`ヽ \\) | ,′ \ 丶 淡「この恋のテクニカル! スーパーノヴァになったあわいちゃんがねっ!!!」ニッ 第十四章【小悪魔テク! 女子力粉砕スーパーノヴァ!】 カチコチカチコチ 京太郎「……驚いたな」 まさか大星が俺と遊びたいって電話をくれるなんて まぁ、東京見物にも飽きてきたところだから嬉しいんだけどさ 京太郎「あの時は、悪いことしたし……今日はあの時のお詫びをしねぇと」 照さんの様子がおかしくなったせいで、途中で別れることになったからな 京太郎「……大星、か」 同じ金髪ってこともそうだけど 妙に親しみやすいんだよな、あいつ それに、金髪っていうと…… ~透華「泣く子も黙る龍門渕透華! アナタ如き、私に夢中にさせるのは簡単でしてよ!」~ 京太郎「透華さん……」 ほんと、俺の周りには俺には勿体ほどの良い人たちがいる 染谷先輩も、豊音さん、透華さんだって、俺が、俺がもし――出来ることなら 京太郎「いや、そんなこと考えてたって仕方ねぇ」 俺にはやるべきことがあるんだ だから、それを背負わなきゃいけない 俺には――それしか選ぶ道は無いんだから ?「んふふー」ソローリ 京太郎「ん?」 パッ 京太郎「わっ!?」 ?「だぁ~れだっ!」ガバッ ムニィィッ 京太郎「ほわぁっ!? 暗い!? 柔らかい!? なんだこれ?!」 ?「ほらほら~? 当てないといつまでも闇の中だよ~?」グニグニ 京太郎「あわわわっ!?」 ?「うわっ! だ~いせ~いか~い♪」パッ 京太郎「っとと! って、大星!?」 ____ ´ `丶 / \ / \ ヽ / ,イ ヽ . // | | ' ト、 . j/ ; | | │ !∧ i / i |¬|ト│ |八-- 一 i i . Ν 八八 Ⅴ´\ハ | | ┼ __ | \ (⌒⌒) i Λ x= ミ \ル‐ =ミV | │ i │ レ(ノ\ レ 丿 \/ | i iハ . |. | │ i │ | i i . " "" ; | . | i . | i . ∨込. マ フ / イ リ i . 人八 ∨ 个ト ,,_ <「∨ /i i . /\[ | __j_」 ∨∠ リ リ 、 / リ jレ'´ 乂 У∨ ∧ \ / / /ー --/ / /⌒>、 \ / / / / 广⌒゙ア / ///⌒\ \ / / / / / 厶イ , \ \ 淡「お待ちかねの、大星淡ちゃんでーす!」イェイ 京太郎「び、ビックリさせるなよ」ドキドキ 淡「少しくらいのサプライズが無いとね!」 京太郎「どういう理論だよ……まぁ、いいけどさ」 淡「えへへ、久しぶり!」 京太郎「おう。この前は悪かったな」ポリポリ 淡「いいっていいって。それより、須賀こそ大丈夫?」 京太郎「大丈夫?」 淡「菫先輩に変なことされなかった? いやらしいこととかさー」ワキワキ 京太郎「いやらしいことはされなかったな」 淡「じゃあ何されたの?」 京太郎「……不器用なこと?」 淡「へっ?」 京太郎「ははっ、いや! なんでもない」 淡「むっ! なにそれー! 教えてよー!」グイグイ 京太郎「知りたきゃ弘世さんに直接聞くんだな」ニヤニヤ 淡「くそー! 覚えてろよー!」ゲシゲシ 京太郎「あいたっ!? 蹴るなって!」グイグイ 淡「がるるるるっ!」ウゥー 京太郎「犬かっ!」 淡「ちがーう!! 孤独のロンリーウルフ様だー!!」 京太郎「ヤムチャかよ! 孤独とロンリーでダブってるし!」 淡「まぁ、ダブリーの淡様だし? って感じ?」 ドヤッ 京太郎「」 俺ら「「「「「あわわわきゃわわわわっ!!!」」」」」 ダヴァン「ラーメンはやっぱり美味しいデス」ズルズル ネリー「また食べてるの?」 ハオ「これで六杯目」 京太郎「まぁいいや。そんで、どこ行く?」 淡「んっとねー。どこでもいいよ!」 京太郎「うわぁー」 淡「なんだよー」ペチペチ 京太郎「普通さ、どこでもいいとか言う? いや、無いわー」 淡「いいじゃん! 好きな男とだったら、どこでもいいっていう……乙女心?」ウーン 京太郎「そこで疑問形じゃなきゃ可愛いんだけどな」ポンポン 淡「ガキ扱いするなー!! 私の方が年上だぞー!」 京太郎「何月生まれ?」 淡「十二月」 京太郎「俺二月」 淡「(`・ω・´)」ドヤッ 京太郎「あーはいはい。参りましたよお姉さま」ワシワシ 淡「えへへっ♪」 京太郎「じゃあ、どうするかなー」 淡「んー」グーキュルル 京太郎「あっ」 淡「あっ! お腹空いた!!」 京太郎「腹が鳴ってから気づくのかよ!」 淡「便利じゃん! 腹時計!」 京太郎「……フリーダムに生きてんなぁ、お前」 淡「別に守りたい世界は無いよ?」 京太郎「そんなストライクに言うんじゃねぇよ」 淡「いいからほら! ご飯食べに行こっ!」グイグイ 京太郎「おわっとと! 引っ張るなって!」 ナニタベヨッカナー コノヘンクワシイノカ? ゼーンゼン! マジカヨ ?「……」ギュルギュルギュルギュル レストラン ほむほむ 京太郎「ここか?」 淡「なんだか人気らしいよー。行ったこと無いけど」 京太郎「えぇ? じゃあ行列で入れないんじゃないか?」 カランカラーン 店員「……二名様?」 京太郎「あ、はい。でも混んでますよね」 店員「……そこの人。声を聞かせて」 京太郎「え? コイツですか?」 店員「そう」 淡「はーい! 淡ちゃんのプリティボイスだよー」 店員「……優先席にご案内するわ」スタスタ 京太郎「え?」 淡「マジかー……私の声すげぇ」ゴクッ 京太郎「確かにいい声だもんな」 淡「ほんと? 須賀もいい声だよ」 京太郎「そうか? あんまり言われたこと……あるな」トオイメ 淡「?」 ち な み に 穏乃「え? 私の声ですか?」 店員「!!!! 特別席にご案内するわっ!! さぁ!!!」 穏乃「えぇっ!?」ビクッ 春「私の……声?」キョトン 店員「チッ、ちゃんと列に並んでちょうだい。さぁ」 春「」 京太郎「やけに女性率の高い店だな」 淡「でしょー? 女性に大人気の店だからさ」 京太郎「マジか! でもいっか、俺レディースランチとか好きだし」 淡「へぇー、でも普段どうやって頼んでるの? 女装?」 京太郎「するか! 咲に頼んでもらって交換してるな」 淡「サキに? 付き合ってるの?」 京太郎「まさか! 咲は今、そういう状態じゃないんだ」ギリッ 淡「……そっか。ごめんね、変なこと聞いて」 京太郎「いや、いいんだ。気にしないでくれ」 淡「(フリーなんだ。ふーん? ま、私には関係ないけどね)」ニマニマ 京太郎「顔がニヤケてるぞ?」 淡「いつもこういう顔なんですぅー」 京太郎「そういうことにしておくか」ハァ 淡「まぁ、いいや! 何か頼もうっとー」 テレテレテロリン♪ 淡「およ?」 京太郎「着信か?」 淡「んー」 ガサゴソガサゴソ 淡「えっと、相手は菫先輩かー」 京太郎「弘世さん?」 淡「ここを触って……あれ? 違ったっけ?」 京太郎「大丈夫か?」 淡「うん。はい! 淡ちゃんでーす!」 菫『あ、淡か? はぁ、はぁ、き、気をつけろ』 淡「え? 何? 電波が悪くて聞こえないよ?」 菫『奴に、ザザッ、気づかザザザザ、食い止め、ガガッ、なかっ』 淡「後でかけ直すねー」ピッ ツーッツーッ 京太郎「なんだって?」 淡「さぁ? 多分大したようじゃないよ」 京太郎「いいのか?」 淡「多分だいじょーぶ! って、あぁもう! これよく分かんない!」プンプン 京太郎「随分と古い携帯使ってるんだな? 2、3世代くらい前の携帯だろ?」 淡「うん。ケータイとか詳しくなくてさー、ずっとこれ使ってるんだけど」 ピロロロロロピロロロロ 淡「むきぃっ!! 使いにくぅぅぅい!!」ウガァァ 京太郎「おいおい、物に当たるなよ」 淡「マジでこの携帯ムカつくんだけど! ぷんぷくり~んだよ!」 ´ \__ / マ三三三三三三ニ=- / / \ ∨ /⌒> 三三三ニ=- ,′ ヽ \三三三ニ=- / _/ │ ∧ . | ニ二 -=ニ\三三三ニ=-. / / /│ '| |\ . . i |\  ̄`丶三三三 __/ / / │/│ | . |\ . | \三三 _/´/ / /| \| | | | |│ . | 八 ー―‐=ニマ三\ マ三 厂| |∨// 人 レl | ト-| | |│ . │ \ \ `マ三) }三__,,... -┤│レ/゙∨ /\l |_|斤テ外八 ^ト--|/--│ ー=ニ二 `マ /_三 ││|{ {. / ∧ンリ 乂ツ \|斗テ外、.| 卜、 丶、______ く_三三 | ∨\八 { / Y / / , 乂)ツ 》│ | /\ \≫==≪\ マニ三__,,,... -‐ヘ_ \,,>\∨廴_,人 / / / リ│ │ >ー──=ミ〃 `ヽ∨ニ三  ̄ \__,)) ヽ ∠/_7 イ /⌒)丿 \_ノ{ -‐~‐- }ノ三三 ≧=‐ -=≦ / ∧|/ / ,.二二二二∨|\___/| ̄ -= / / 厂∨ / -――=マ 〉| | ((⌒´ ∨ 〈 ∨/l. │ `ーヘ ∨| │ `、 ヽ、____丿 \ \ 京太郎「どうどう。新しい携帯にすればいいんじゃないか? 最近のはつかいやすいぞ」 淡「最近はIPhone7ってのが新しいんでしょ? あれってどうなの?」 京太郎「7? いやいや違うぞ、新しいのは6だ」 淡「そうなの? 新しいの欲しいんだけど分かんない!」 京太郎「まぁ興味無いとなぁ」 淡「んふふ……でもでもぉ? このかわいそーな淡ちゃんにぃ、救いの手を差し伸べてくれる人が目の前にいるんだよねー」ニヤリ 京太郎「お、俺か?」 淡「ねねっ! 今度一緒にケータイ見に行ってよ! いいでしょ?」 京太郎「ああ……別にいいぜ(どうせ咲の件で一度はショップに行くし、まぁいっか)」 淡「やったぁー!! ありがとー!!」 【大星淡の女子力スーパーノヴァ1 古い世代の携帯で彼の気を引いちゃう(天然)】 淡「あっ! そういえば!」 京太郎「ん?」 淡「菫先輩から電話番号は聞いたけど、LINEのIDとメルアドもらってない!!」 京太郎「そういそっか。んじゃ交換すっか」 淡「やったー! はい、ケータイ出して!」 京太郎「おう。んで、これをこうして」ふるふる 淡「ふるふるー♪」ふりふり ティロン 京太郎「これでオッケーだ」 淡「よっしゃー! 次はメアドだー!」 京太郎「LINEで贈るぞ」 淡「ばっちこーい」 京太郎「うし」 ティロリン スガ鹿男『ほれ、受け取れ』 淡「あははっ!! なにその名前!」ケラケラ 京太郎「い、いいだろ別に」 淡「じゃあじゃあ、私も!」 ばぶるがーる『ほほーい>< 登録してねっ』 京太郎「オッケー。ってか、お前も同レベルじゃねぇかよ!」 淡「……」 ティロリン ばぶるがーる『ひどいよっ><』 淡「(´∀`*)」 京太郎「目の前にいるんだから口で言えよ。ていうかお前のLINE、一々可愛いな」 淡「淡様の可愛さに恐れいったか!」エッヘン 京太郎「あぁ、参っちまうな」クスクス 淡「! んへへっ」キュッ 【大星淡の女子力スーパーノヴァ2 LINEやメールで記号を駆使しちゃう(天然)】 京太郎「じゃあ、今度一緒にショップ行こうな」 淡「やったー♪ おごってくれてもいいよ?」ニヤリ 京太郎「出来るか! ちゃんとお小遣いもらっておけよ?」 淡「はーい。この間の大会で、お母さんから頑張ったで賞もらったかんねー」 京太郎「頑張ったで賞?」 淡「うん。決勝進出祝いだって」 京太郎「そりゃいいな。俺なんて県予選敗退だからなー」トオイメ 淡「え? 須賀って弱いの?」 京太郎「直球だなオイ!」 淡「まぁ、確かにオーラ感じないけどさー」ケラケラ 京太郎「むぐぐぐっ」 淡「でもさ。いーじゃん弱くても」 京太郎「へ?」 淡「そりゃあさ、私みたいなスーパーウルトラメチャストロングなあわいちゃんが言うとイヤミかもしれないけどさ」 京太郎「あ、うん」 淡「……正直言うとね。全国大会は、格下ばっかで楽勝だって思ってたんだ」 京太郎「……」 淡「でも負けちゃった。侮りは捨てて、最後が全力を出したのに――負けちゃった」 京太郎「大星」 淡「でもね! お陰で、麻雀じゃ何があるか分からないんだって知ることが出来たんだ!」 京太郎「!」 淡「えへへ、それ以来! 前よりもっともぉーっと! 麻雀楽しいよ?」 京太郎「……あぁ、そうだよな。大星の言う通りだと思う」 淡「だから! 須賀も麻雀に楽しみを見つけてこーよ。そしたら、あっという間に強くなれるから!」 京太郎「おう。ありがとな」ポンポン 淡「わっぷ、もぉー頭撫でるなー」ニヤニヤ 京太郎「おお、悪い」スッ 淡「あっ……」ズキッ 淡「そーだ、私のことより須賀の話をしてよ」 京太郎「俺のか?」 淡「うん! 色々知りたいからさ!」 京太郎「うーん、とは言ってもな。最近の趣味はゲームくらいか」 淡「ゲーム?」 京太郎「ああ、今はTODやってんだ。その後にTOD2のPSP版をだな」 淡「えー? 何それ何それ!?」 京太郎「ゲームの話なんて聞いても退屈じゃないか?」 淡「ううん! 知りたい知りたーい♪」 京太郎「そ、そうか?」ソワソワ 淡「色んなゲームのこと教えてよ。あんまそういうのやらないからさー」 京太郎「おう。じゃあ、まずは……」 数分後 淡「じゃあヒロインはラスボスの同一存在なんだ! レンズを破壊するとヒロインも消える、と!」 京太郎「そうなんだよ……(泣)」グスッ 淡「覚えたぞーメモメモ」 京太郎「ばかっ! 覚えなくていいんだよ!」 淡「えー? でもそれはもう聞いちゃったからさー。別のやるよ別の」 京太郎「ちくしょぉ、名作なのに……」 淡「えへへ、でもさ! その代わりに!」 京太郎「?」 淡「須賀がやってるのを、横で見ていてもいい?」 京太郎「お、おう!! 見てくれるか?! いやー咲とかはこういうのダメでさ!」キラキラ 淡「うん! 楽しみにしとく!」 京太郎「じゃあ今度俺の家でゲームだな! うっし!!」 淡「(須賀の家で……部屋で、ゲーム)」ドキッ 京太郎「(大星は本当にいいやつだなぁ)」ジィーン 【大星淡の女子力スーパーノヴァ3 男には「なにそれ!? 知りたい知りたーい♪」と言っておく(天然)】 京太郎「んでな、その時主人公が言うんだよ」 淡「うんうん」 京太郎「俺は悪くねぇ!! ってな」アハハ 淡「あはははっ!」グーキュルル 京太郎「あっ」 淡「あっ……//」カァ 京太郎「すまん。話に夢中になりすぎてたな」 淡「う、ううん! いいよ!」 京太郎「そろそろ注文しないとな。何にする?」 淡「えっとねー、えっとねー」パラパラ 京太郎「俺はレディースランチにしようかな」 淡「レディースランチもいいけど……うーん」 京太郎「決まりそうか?」 淡「コレにしよっかなー」ボソッ 京太郎「それって、オムライス?」ビクッ 回想 咲「「あーん! 私オムライス食べられないんだよねぇ~(悲)」 咲「嫌いじゃないし食べたいけど食べられないのっ><」 咲「……だって、……だって、卵割ったらヒヨコが死んじゃうんだよっ!」 咲「赤ちゃんかわいそうですぅ! まだ生まれてないのにぃぃ~(悲)」 咲「ピヨピヨとすら鳴けないんだよ……」ブルブルブル 京太郎「っ」ゾワッ 京太郎「……」ブルブル 淡「……あっ」 京太郎「お、大星……?」 淡「うん。ハンバーグにしよっと」 京太郎「えっ……?」 淡「何? どうかした?」ニコニコ 京太郎「だ、だってお前……オムライスが食べたいんじゃないのかよ」 淡「!」 京太郎「この前だって、結局俺のせいで……食べられなかったみたいだし」 淡「……」 京太郎「じゃあ、なんで?」ブルブル 淡「私、オムライス食べられないんだ」 京太郎「!!!(まさか、大星も咲みたいに!?)」ゾクゾク 淡「だってさー」 京太郎「っ」ブルブル / / // . 〃 . iト、| . | ヽ ヽ ヽ 乂 .′ / ,イ . / ! . i| | . |\ . ハ .′ i`ーァ′/ ! . i | . | | . | \ . ヽ . ____ i-‐ ´ . .′ !/ . ′| . | | . | | . | \ .  ̄| ̄ ̄ `ヽ /i| |. | | . | | . ! | . |_,,-‐====‐\ . | . | . i j〃 . i| |. |‐===┼- | j -‐ \ . . | . | . | / . i| {. ! \八 . | jノ , -‐ __,,.⊥ . } . | . 人 ′ . 八 Ⅵ ≫=ミ、 . ! ≫≦Y⌒'マハ 、 . .′ . | . .\ i . i . \{ハ 《 )i ハ\{ ″{ .) i } } 》 . / . /! . \ .\ | . | . i '. ヾ い; jj 八∨乂 _;ノ ノ . / . | . .`ー- | . | . | . | . l'. V辷ク ゞ゚-‐ ' . / . / . | . . | . | . | . | . |ハ / . / . / . . | . . | . | . | . | . | . , / . . .′ . / . | . . . | . | . | . | . | . / ,. ,イ . / . 人 . . . . |.. i | . | . | . | ゝ. 、 ノ .′ // / . / . . / \ .\ . l 从 . | . | . { / > . { /' / . / . . ′ \ .\ . 乂{ \. !\〉、 \_/ . . 〕jッ。. . ィV`ヽ /. / . . / \ .\ . . `\ \{ \;/ . . //{{ ` ´ | |│ ,// . . / \ .\ . . 淡「須賀が、悲しい顔しちゃうから」 京太郎「え?」ドクン 淡「何かあったんでしょ? 嫌なこと」 京太郎「え、あ……あ、ああ」 淡「うん。だからオムライスは食べない」ニッ 京太郎「なんで、そんな……」 淡「当たり前じゃんかよー。そんな顔しちゃってさー」ナデナデ 京太郎「お、大星……」 淡「オムなんていつでも食べられるし。でもさ、須賀との食事はたまにしかできないじゃん」 京太郎「!」 淡「だからさ! この瞬間だけは楽しく食事しなきゃ! 私も、当然須賀もね!!」ニッ 京太郎「……」ドクン 淡「ということで、淡ちゃんはハンバーグを食べちゃうぞー!」 京太郎「……は、ははっ。やっぱお前、いい奴だ」 淡「ほぇ?」 京太郎「なぁ……大星」 淡「なーに?」 京太郎「淡って、呼んでもいいか?」 淡「うん、いーよ。私もキョウタローって呼ぶから」 京太郎「そっか。俺もいいよ」 淡「オッケー★」 京太郎「後さ」 淡「んー?」キョトン 京太郎「一緒にオムライス……食べてくれないか?」 淡「え? 大丈夫、なの?」 京太郎「ああ。お前と一緒なら、食べられる気がするんだ」 淡「っ!」ドキッ 京太郎「だから俺に、付き合ってくれるか?」 淡「……うん、いいよ」 京太郎「よっしゃ。じゃあ。オムライスパーティだ」 淡「オムライスパーティだね」 京太郎「デミグラスかな」 淡「ケチャップがいいな……」 京太郎「選べるみたいだぞ」 淡「デミグラスも捨てがたいね」 京太郎「捨てがたいな」 淡「どうしよっか」 京太郎「どうしよーか」 淡「どっちも食べる方法を探そうよ」 京太郎「じゃあ半分こだな」クスクス 淡「半分こしちゃいますか」クスクス 京太郎「淡」 淡「なーに?」 京太郎「ありがとうな」 【大星淡の女子力スーパーノヴァ4 オムライスを食べられない女をアピールせよ(天然)】 店員「お待たせしました」コトッ 京太郎「ありがとうございます」 淡「ありがとー」 店員「ごゆっくり」フッ カチャッ 京太郎「頂きます」 淡「頂いちゃいます」 モグモグモグ 京太郎「ケチャップ付いてるぞ」 淡「キョウタローもデミ付いてる」 京太郎「拭いちゃうぞ」 淡「拭いちゃいますか」 フキフキ フキフキ 京太郎「交換だな」 淡「交換だね」 ススス 京太郎「頂きます」 淡「頂きまーす」 モグ モク ゙モグ 京太郎「デミ付いてるぞ」 淡「ケチャップ付いてるよ」 京太郎「拭いちゃうぜ?」 淡「拭いちゃうからね?」 フキフキ フキフキ 京太郎「あっ」 淡「?」 京太郎「オムライスうまい」 淡「うんっ。美味しいね」 カランカラーン 京太郎「お腹いっぱいだな」 淡「いっぱいだね」 京太郎「このあとどうする?」 淡「どこでもいいよ」 京太郎「またか」 淡「まただよ」ククク 京太郎「じゃあ、俺にも聞いてくれ」 淡「んーっと。このあとどうする?」 京太郎「どこでもいい」 淡「キョウタローもかい!」 京太郎「あはは、だってさ」 / l ′ ,′/ / | ∧ , / l / ./ l ′ ∧ ′ / イ|l | l| / ,イ ィ} /! ′ |l ∧ ヽ |l 八 | lレ\// / / l , / l / |l | l|ー一 |l /¨! .从{-==≧、 / ヌ } ./ / .!∧ |l | l| 从 { λ/ ` 弋丕 /´ l} //Ⅳ_ 斗< |l | l| ∨V ヽ / ´、ニ赱 | /l .八 l| } ` ┤ 从/ |l / ヽ |Ⅳ ∧ {! _ノ |/ ′∨ 仆、 八 ∨ ` _ /≧ュ. / \ . ィ _/二二二≧ュ \ /}/ -=≦二ニニ=- 二二ニ()≧ュ ー</∨ __. -=≦二二二二二ニニ -=ニ()ニ=-/ {=ニニ{0=- | r=≦三三二二二二二二二二二ニニ//二=-/ 八 ニニ|0=- |__ /二二二=-\ニニニニニニニニニニ{ /二二二 >、 ,<-=ー ヽ\__,r======ミ , .r ー―――――――― /、 ̄ ̄ ̄> / , ―| |-=ニニニニニニ{ニ┐ }ニニ\ 京太郎「お前と一緒なら、どこだって楽しいに決まってる」 淡「……えへへっ//」 _, -──- .,_ '´ `丶、 / \ , / \. / . / ヽ ′ / / `、. .' / /, // /| | ` i . / 」_ ′/ | | i| . i. i | j/, /イ`メ、 | 小 || ト.! j .| ∨/ / |/ ヽ | ァT丁l | | ノ i| V j 抖竿ミ ノ ノ ,ノイjノ | i___ ____彡' , i| i| j 八| x x /ィ竿ミ 刈 | } ̄¨ え≠ / 八 i|/l | | x x / ノ | ′ / -‐ ' ハ 八 ト、 ヘ.__ ` 厶 イ ノ/ __,.斗‐=≠衣 ヽ八\ 丶.__ソ . イ(⌒ソ イく jア¨¨^\ \ \ >-=≦廴_ ア /ノヘ\ 斗ァ'′ \ \ ヾ. \___ ⌒ヾく<,_ `ヽ )ノ/圦 | 、\ ヽ 、∨tl `ヽ . ∨ V\ i { `| Vi \ ハ i } | } i } ∨,} }≧=- | 辻_V\`i} i } | /} iハ} 辻ノ ノ ¨〕V//リ iノ ////V〔 ¨〕淡「うんっ!!」 京太郎「じゃあ行くぞ」 淡「あいあいさっさー!」タタッ ウデクンデイイ? アア、イイゼ ヤッター! オイムネガ!? アテテンダヨー! 「……」 / \ / . .. . .. ... ヽ. / / . . . . . i / /;. ;ィi i i i .| | . .. |. / i | . ハ!_|.|. | i | . | / ..|. | ! '|´|_И ! i | | |./ . /! { ハ i f"| ヽ| i |-、 | .|i/ | };ハ{. Lン| ;ル'^ } | | | ノ "" j/ / | | | .、 '^リ ! | | | ハ` ! / i i |ノ |/ ヽ.__,.. 、 / / / / /! / V | / ノi! /! ノソ }ノ ,..-‐y/‐j/フ‐'" ̄\ ,...-‐'" `ー- 、 r=、´ `ir、 /\ヽ、 ||.ト、 ハ | | | ||.| |. i ゙、 | | | ||.|/!| ゙、 !.i i ||.|| 照「……」スタスタ ザッ 照「!」 菫「……よかったのか?」 照「……何が?」 菫「邪魔する予定、だったんだろう? チャンスもいくらでもあっただろうに」 照「別に。私はなにも見ていないし、なにもする気は無いよ」 菫「ふっ、そうか。それより、私は今からスイーツバイキングでやけ食いもしようかと思ってる」 照「!」 菫「……付き合ってくれると、嬉しいんだが?」 照「っ……う、うん」ブルブルブル 菫「ありがとう」ポン 照「ありが、とう……」 菫「なぁに、いくらでもチャンスはあるさ。私も、諦めるつもりはない」 照「うん……!」 淡「でねー! このクレーンゲームがさー!」 京太郎「任せろ!」 淡「頼んだぞー!!」 それからの数時間は、まるであっという間に過ぎて 二人を包む空間が加速していく感覚に、俺達はただただ酔いしれて 気が付けば―― 淡「手、つないでもいい?」 京太郎「ああ」 二人の距離は、ゼロになっていて 淡「ほら! 時間いっぱいまで遊ぶよー!!」 京太郎「おい、急に走るなって!!」 俺達は思う この時間がいつまでも続くなんて、幻想を抱くほど子供じゃないけど 淡「あわわ!」コケッ 京太郎「あぶねぇ!」ダキッ せめて、この瞬間だけは―― 淡「んっ」 京太郎「っ」 チュッ 熱の覚めない、夢であるようにと 第十四章【小悪魔テク! 女子力粉砕スーパーノヴァ!】 カンッ
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10月某日 穏乃「山登りがしたい!」バンッ 京太郎「そうか、じゃ行ってこい」バイバーイ 穏乃「うん!いってきまーす……って止めてよ!?」 京太郎「いきなり山に登りたいとか訳のわからん事言われても反応に困るんだが……」 穏乃「いやー最近体が鈍ってるような気がしてさ、やっぱりたまには山に登んないと体にも悪いもんね!」キラキラ 京太郎(別に山に登らんでも体調は悪くならんと思うんだが……) 京太郎「そんなに行きたいなら一人で行けばいいじゃん」 穏乃「一人でなら中学で散々登ったよ、今は他の誰かと一緒に登りたい気分なんだ」 京太郎「それなら憧でもいいだろ……何で俺なんだよ?」 穏乃「だって憧ったらさ『今しずと登ったら途中ではぐれて遭難しそうだからやだ』って言うんだもん……憧も衰えたものよ……」ヨヨヨ… 京太郎(その場にいたら憧に全面同意してたな、俺) 穏乃「憧がだめなら消去法だと京太郎しかいないんだもん……ダメかな?」ショボン 京太郎「……はぁ、分かったよ付き合えばいいんだろ?その山登りとやらに」 穏乃「ほんと!?」バッ 京太郎「どのみち今日は暇だしな……仕方ないから一緒に行ってやるさ」 穏乃「へへ……ありがとう、京太郎!」ニコッ 京太郎(山登りねぇ……まぁ正規のルートを通ってけば簡単に山頂までつくだろ)ウンウン 翌日 穏乃「うっおりゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」ダダダダダダダダダダッ 京太郎「ちょっ……!まて……ぜっ、はぁ…少しはスピード緩めろ……!」タッタッタ 穏乃「へっへへーん、なにいってるの!その調子だとお昼までにつかないよー!?」クルッ 京太郎「つかなんだよこの道!……いやもう道じゃねえし!お前いっつもこんな獣道通ってたのかよ!?」ハァ…ハァ… 穏乃「え、だってこっちの方が早く着くでしょ?」ニッコリ 京太郎「こっの……猿めぇ」ゼェ…ハァ… 穏乃「ふっふーん!私が猿ならきょーたろーは猿以下だねー♪それじゃあ山頂目指してペース上げるよーーっ!!」ダッ 京太郎「くっ……ぬぉ、負けてたまるかよぉぉぉ!!!」ダダダダ 京太郎(早く……あいつに追い付かねえと……!じゃないと……!!)チラッ 穏乃「いやっほぉぉぉーーー!!!」ダダダダダダダダダ………フワッ 京太郎(さっきからジャージの中が下から見えてんだよぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!上見て走れねぇから滅茶苦茶おっかねぇんだよこんちくしょぉぉぉ!!)チョクシガデキマセーン 穏乃「きょーーたろーー!!足元ばっかり見てると危ないよーーー!?」ダダダダダダダダダダッ 京太郎「おまえがっ!それを言うなぁぁぁ!!!」ダダダダッ 数十分後 穏乃「とーっちゃく!!お疲れさま、京太郎!」ニコッ 京太郎「………ーーーっ!」コヒュー…コヒュー…… 穏乃「………ありゃ?」 京太郎(キツかった……体力的にも精神的にも……っ!!)ゼェ…ハァ…←結局抜かしきれないから諦めて正面から向かい合った人 京太郎「な、……何でおまえ、そんなに息とか切れてないの……疲れてないのか……?」プルプル 穏乃「んー……山に登ってるからかなぁ?」 京太郎「わっかんねー、お前の言ってることがわっかんねー!」 穏乃「でも京太郎やるねー!ここまで着いてこれたのは京太郎が初めてだよ?」 京太郎「そりゃ男子だからな……意地とかもあるし」 穏乃「ふふ……ならここまでこれた京太郎にご褒美!見よ、この景色を!!」バッ 京太郎「ご褒美って……………うわぁ……っ!」 眼前に映るのはどこまでも続く山 そして赤と黄が織り成す紅葉… 広がる山々の紅葉に澄みきった青空……見たことも無い絶景が目の前に広がっていた 京太郎「………すっげぇ」 穏乃「でしょ?」ヨイショ 京太郎「うん……すげえよ、よくこんな絶景が見れるとこ知ってたな」ペタッ 京太郎(普通に登って着く山頂でもここまではいかないだろ……) 穏乃「……中学のときにこの場所を見つけてね、そのときは麻雀教室も無くなってて、和も憧もいなくてね……」 穏乃「何もないときは一人でこーやって後ろの樹にもたれかかってずっとこの景色を眺めてたんだ」 京太郎「……穏乃」 穏乃「本当はね、ずっと前からこの景色を誰か他の人にも見てもらいたかったんだ……」 京太郎「……じゃあ俺が」 穏乃「うん!他の人に見せれたのは京太郎が初めて!だから……」 穏乃「今日はホントにありがとね、京太郎!」ニコッ 京太郎「……ったく、そーいう事なら始めっから言えっての」クシャクシャ 穏乃「えっへへ……///」 京太郎(マジでいいとこだなここ……景色もキレイで風もきもちーし……なんっか…………疲れて……ねむ……)ウトウト 穏乃「……京太郎?」 京太郎「………」スー…スー… 穏乃「……もう、こんなとこでお昼寝なんてさすがに私でもやらないよ?」ヤレヤレ 穏乃「でもなんか私も眠くなってきたなー……やっぱり鈍ってるからかなぁ……?」 穏乃「……うん、決めた、私も一緒に寝よっかな」ポフッ 穏乃「……京太郎のとなり、なんか落ち着くなぁ……」ウトウト 穏乃(………できればずっと) 穏乃(きょーたろーとこうしていたいなぁ……)ギュッ 京太郎「………」スヤスヤ 穏乃「………」グゥ… 起こすのは野暮ってもんよ……カン
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―麻雀部部室― 美幸「コスプレをしよう!」 梢「……いきなり何を言い出すんですか」 莉子「……いいですね、コスプレ」 美幸「でしょ!そういうと思った!」 美幸「てことで、執事たちカモーン!」 ザザッ 京太郎(どっから湧いてきたんだ) 澄子「すごい量の衣装ですね……」 美幸「ふふ、椿野家にかかればこれくらいどうということは無い!」 友香「制服・ナース服・チャイナドレス……いっぱいあるね」 美幸「さあ、みんな!」 美幸「自分で好きな衣装を着てね!」 梢「え、自分で選ぶんですか?」 美幸「当たり前じゃん」 美幸「自分に合ってる衣装を選ぶのもセンスの内だよ!」 澄子「自分自身の容姿をよく理解しておく必要がありますね」 美幸「うん、これで勘違いして合わない衣装を着たときには……ぷくくっ」 京太郎「……ひどく悪意のある笑い方ですね」 美幸「あぁ、ごめんねもー」 美幸「さあ、衣装を選ぶよ!」 美幸「みんな、着替えれたー?」 (全員テレビなどでよく見る個室の中) 梢「……あの、恥ずかしいんですけど」 澄子「気にしすぎですよ……ここだけの事です」 京太郎「俺はいいですよ」 莉子「私も……オッケーです」 友香「テレビでよく見るねー、こういうの」 美幸「じゃあ一斉に外に出てねー」 バサッ 一同「……」 美幸「えーと、まずは私だけど……」 美幸「ナース服を着てみましたー!」 美幸「診察しちゃうぞ!」 京太郎(おお、いいぞ……) 京太郎「可愛いですよ、先輩」 美幸「でしょでしょー!須賀くんの心拍数計ってあ・げ・るっ!」 京太郎「あはは……じゃあお願いしようかな」 梢「ふふっ……ぷくく」 美幸「?、梢ちゃん……何がおかしいのかな?」 梢「いや……言い出しっぺの癖に衣装は無難なんですね」 梢「デカい口を叩いておいて、結局は置きに行ったわけですか……滑稽ですね」 美幸「……言いたい放題言ってくれるじゃん!」 美幸「ふん、そういう梢ちゃんだってよく分からないコスプレだよ」 美幸「別の制服着て、眼鏡はずして、左目に眼帯つけただけじゃん!」 京太郎(普段の梢さんとは違って、ミステリアスな雰囲気だな) 梢「ふふ……分かっていませんね美幸」 梢「溢れ出る私の魅力を存分に周囲に伝えるには」 梢「これくらいシンプルでいいんですよ」 美幸「……梢ちゃんってナルシストだったんだね」 梢「ええ、この麻雀部で一番かわいいのはこの私っ!」 梢「あなたなんて相手にもなりませんよ」 美幸「……梢ちゃん、表に出ようか」 梢「やるんですか?……望むところです」 美幸「……私が勝ったら、今の発言とその姿をネットにばらまくから」 梢「どうぞ勝手にしてください」 梢「私が勝ったなら、あなたを牧場送りにしてやります」 梢「もーもー言いながら、お乳でも絞ってもらってください」 美幸(むっかーっ!) 京太郎(うわ、ホントに出て行っちゃった) 澄子「仕方ありませんね、私たちだけでやりましょう」 澄子「私はスーツ姿でキャリアウーマンをイメージしてみました」 京太郎(うわぁ……エロいな) 京太郎(すらっと伸びた綺麗な脚、手に持っている書類) 京太郎(そして眼鏡と来た!……いかにも仕事が出来そうな女性だ) 京太郎(てか、依藤先輩ってこんなに美人だったっけ) 友香「私はバニーガールでー!」 京太郎(うお……こっちもエロい) 京太郎(網タイツが元々のスタイルの良さを引き立てているな) 京太郎(うさ耳も似合ってるし……) 京太郎(でも何よりは溢れんばかりのおもち!) 京太郎(た、谷間が……) 莉子「わ、私は魔法少女です」 京太郎(これまた前2人とは違う傾向できたな) 京太郎(ピンクのツインテールの髪) 京太郎(可愛いフリルの衣装) 京太郎(特徴的なリボン) 京太郎(そして手には弓!) 京太郎(あれは……ま○か!?) 京太郎「俺はファミレス店員だ、いらっしゃいませー」 澄子「……普通ですね」 莉子「はい、普通です」 京太郎(あなた達が攻めすぎなだけじゃ……) 友香「こいつも置きに行ってるじゃん!」 友香「もっと他の服着ればよかったのに」 京太郎「いや、何故かこれを着ないといけない気がしたんだよ」 澄子「ふう、ではそろそろお開きにしますか」 友香「先輩2人はどうするんですか?」 澄子「放っておきましょう、面倒くさいですしね」 美幸「はぁ……はぁ……」 梢「うぅ……くっ」 美幸「……梢ちゃん、なかなか……やるじゃん……」バタリ 梢「美幸こそ……」バタリ カン!
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憩さんと付き合い始めて今日で1年、なのだが俺と憩さんはここ1ヶ月の間会っていなかった 憩さんは麻雀部に顔を出さなくなっていたこともあって、俺たちの会話は減っていき、恋人という関係はメールで保たれていた あの人当たりの良い憩さんのことだし、俺よりも良い人に告白されて付き合っているのかもしれない あの優しい憩さんのことだし、それを俺に伝えようとしないのかもしれない そんな考え、不信感を俺は募らせていった そんなある日、憩さんからデートに誘われた、答えはもちろんOK 不安と希望、その2つを抱えて俺は待ち合わせ場所に来ていた 憩「遅いで!京太郎くん!」 京太郎「まだ待ち合わせの1時間前ですよ!?」 京太郎「しかも今日は少し冷え込んでるのに」 憩「気にせんといてや、そーれーに」ニギッ 憩「こうすればあったかいから」 憩「ほな、行こか」ニコッ 相変わらずこの人は……まったく まだ秋に入って間も無い季節、歩く道が明るく見えた 近くの公園、服屋などなど普通のデートコースを回った そして夕暮れも近くなったころ、俺たちは本屋に来ていた 憩「勉強始めたんや、やっぱり医学部やないとダメなんやって」 憩「せやから最近会えなかったんや……ごめんな」 京太郎「じゃあこれからも会える機会は減ってしまうんですか?」 憩「……ごめん」 京太郎「別にいいですよ、お家のことは仕方ないですし」 京太郎「そうとなれば早く帰って勉強しないとですね!」 憩「京太郎……くん」グスッ 京太郎「ああもう、泣かないでくださいよ」 憩「だって、だってぇ……」ポロポロ 京太郎「…………ちょっと俺、見たい本があるんで行ってきます」 と、二つ目の参考書コーナーに向かって行った 京太郎「これが憩さんの受けようとしているところか」 さわりの部分を読んでみる、が 京太郎「何語だよ、これ」 どうやら俺にはまだ難しすぎるみたいだった まあいいや、段々できるようになればいい、俺だって成績は良い方なんだし 会計を済ませて憩さんのところに戻る 京太郎「もう泣き止みましたか?」 憩「……うん」 京太郎「それじゃあ行きましょうか」 今度は俺が憩さんの手を握って会計へ 会計の人からは「なんでこいつ彼女と一緒にまた同じ本買ってんだ?」というような目で見られた 本屋を出て、いつもの公園に来た 憩さんと初めて寄り道した公園、一緒にたこ焼きを食べたあの公園に 憩「なあ、京太郎くん」 京太郎「なんですか?」 憩「えへへ、呼んでみただけや」 京太郎「憩さん憩さん」 憩「何や?」 京太郎「呼んでみただけです」 憩「えへへ」 京太郎「あっはっは」 憩「……ふぅ」 憩「京太郎くん、しばらくこうさせてぇな」ギュッ そう言って、憩さんは俺に寄りかかった 幸せそうな顔をしていて、なんだか愛おしかった 憩さんはいつもは笑ってるんだけど不安なこととか心配なこととかあるんだろうな ……俺もそのうちの一つになれているのだろうか、少しだけ不安だ しばらくすると、憩さんは眠ってしまった。可愛らしい寝顔をしながら この人ともっと仲良くいるために、ずっと側にいるために頑張らないとな 少しほっぺをぷにぷにと押してみる 憩「むにゅにゅ……」プニプニ 可愛い。 憩「ふぁぁ、ウチ寝とったんか、ごめんな」 京太郎「全然ですよ、寝顔最高でした!」 憩「よ、よだれとか大丈夫やった?」 京太郎「舐めておきました!」 憩「な、なめ!?」カァァ 京太郎「まあ嘘ですけどね」 憩「むーっ!京太郎くんのあほー!」プンスカ! 怒った顔も可愛い、というか笑いながら怒ってるんじゃないか?何気に凄い気がする こういうときは…… 京太郎「憩さんはいつも笑顔で可愛い」 憩「え?」 京太郎「憩さんは笑顔無しでも可愛い」 京太郎「憩さんは天使で可愛い」 京太郎「憩さんはちょっぴり淫乱可愛い」 京太郎「憩さんは頑張り屋さん可愛い」 京太郎「憩さんは……俺の恋人可愛い」ギュッ 憩「な、ななななっ!///」 京太郎「ほら、こんなに憩さんの良いところを挙げられるんだから、アホじゃないですよー」 京太郎「……とまあ、簡単に言いますと、好きです」 京太郎「会えないときは苦しかったです、ずっとずっと好きです」 京太郎「これからも、ずっと一緒にいてくださいね」 憩「なんや、そんなこと……」 憩「当たり前やで」ニコッ 憩「ウチやってずっと一緒にいたいんやから」 京太郎「…………うっはぁ~」 京太郎「良かったぁ~いやぁ実は憩さんが他に彼氏を作っちゃったんじゃないか、って思ってたんですよ」 憩「そんなんありえんですーぅ」 京太郎「ですよねー」 ああ、良い雰囲気だ。そういえば昔面白い話があったな、憩さんならわかるだろう 京太郎「……憩さんといると、月が綺麗ですね」 憩「月?……確かに綺麗やけど……なに?」 その後、俺は「月が綺麗ですね」の意味を憩さんに夜通し教えた……教え込んだ
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部室に一人、俺は居る。 卓と牌を綺麗にしながら、物思いに耽る。 京太郎「咲たちは今頃合同合宿か……」 京太郎「思えば色々あったな、麻雀部に咲が入って、合宿行ったり、県大会優勝して、全国出場が決まって……」 京太郎「咲にも気の置けない仲間も出来た。」 京太郎「もう俺の手も必要ないくらいに……」 今の咲には和や優希、それに染谷先輩に部長が付いている。 もう俺の後ろを付いて来る咲はいない…… 京太郎「っとそういえばハギヨシさんにタコスの作り方と麻雀を教えてもらうんだった。」 ―龍門渕家屋敷― ハギヨシ「ようこそ龍門渕家へいらっしゃいました。」 京太郎「やめてください、仰々しいですよ、客でもないんですから、というかむしろこっちが教わる側なのに……」 ハギヨシ「いえいえ、須賀様はお客様です、お客様に粗相などあったら龍門渕家の執事として面目が立ちません。」 ハギヨシ「ただ、お嬢様達は生憎、合同合宿で不在で大したおもてなしや挨拶など出来ませんが……」 京太郎「こちらこそすみません、急に料理を教えて欲しいなんて無理言って。」 ハギヨシ「では不肖、この萩原、精一杯須賀様の指南役を受けさせていただきます。」 京太郎「よろしくお願いします。」 ハギヨシさんからおいしいタコスの作り方と麻雀を教わる。 厨房でタコスを作る傍ら、ハギヨシさんは何かを煮込んでいた。 京太郎「ハギヨシさん、それは?」 ハギヨシ「ああ、これはシチューを煮込んでいるんです。」 京太郎「シチュー?夕飯のしこみですか?」 ハギヨシ「いえ、料理の練習です。」 京太郎「ハギヨシさんほどの腕前なら練習なんてしなくてもいいんじゃ……?」 ハギヨシ「ふふ、練習はし続けることに意味がある……と言いたい所ですが……」 ハギヨシ「目指す味には到底近づけられないのです……」 京太郎「目指す味、ですか。」 ハギヨシ「ええ、衣様がシチューを召し上がった際、こんな事を仰いまして……」 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「「「「いただきます」」」」 衣「今宵の夕餉は……シチューか……」 透華「そうですわね……」 純「しかし今日のはまた一段とうまいな!」ガツガツ 智紀「萩原さんの作る料理はいつもおいしい。」 一「おいしいね、透華。」 透華「え、ええ……」 「違う」 智紀「?」 純「何が違うんだ?衣?こんなに旨いのに。」 衣「いや、あの、ハギヨシの作ったシチューは大変美味だぞ。」 衣「ただ、その……」 ハギヨシ「龍門渕家のシチューとは味が違う……ですか。」 衣「う、うむ。」 衣「昔、母君が作ってくれたシチューを思い出して……」 透華「でも仕方ないことですわ……何せもう作れる者がおりませんもの。」 衣「ああ、そうであったな……」 衣「すまないハギヨシ……忘れてくれ……」 ハギヨシ「いえ、こちらこそ配慮が足らず申し訳ありません。」 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 京太郎「そんなことがあったんですか……」 ハギヨシ「はい、それからは今は亡き奥様のが作っていたシチューを思い出しながら試行錯誤していましたが中々上手く行かず……」 ハギヨシ「おっと、少々湿っぽくなりましたね。」 ハギヨシ「そうだ、今夜はお泊りになってはいかがでしょうか?」 京太郎「流石にそこまでして頂く訳には……」 ハギヨシ「いえいえ、麻雀のこともありますし、何より夕食も召上って貰わずにお客様を帰したとなると透華お嬢様に叱られてしまいます。」 京太郎「そこまで言うなら泊まって行こうかな?」 ハギヨシ「ではお部屋にご案内させていただきます。」 夜になってハギヨシさんに案内された部屋で床に就こうと思ったが…… 慣れない枕が原因か、はたまた慣れない部屋が原因なのかはわからないが中々寝付けなかった。 余りに寝付けないので、ふと窓に目をやると龍門渕家の庭が見えた。 「どうせ寝付けないのだから」と、少し外の空気を吸うためにも庭を散歩しようと部屋から出る。 庭に出て、少し歩いてみる。 辺りは静まり返っていて風の音すら聞こえない。 月夜に照らされた綺麗な庭で空を眺めると雲が一つも無く満天の星空に満月が浮かんでいた。 綺麗な月だ。 月を見ながらそんな事を思っていると何所からか風が吹いた。 それと同時に人も…… 「あら、どちらさまかしら?」 「ええと龍門渕の知り合いに泊めさせて頂いてる須賀京太郎です。」 「そう、ならお客様ですわね。」 その人は長い金髪の女性で、気品と優しさを体現しているような美しい人だった。 「私、今、"寝付けなくて"庭で休んでいましたの。」 「よかったら京太郎君も月夜のティータイムはいかがかしら?」 「いいんですか?見ず知らず俺なんかが……」 「ええ、家で泊まっているという事は誰かに誘われたという事でしょう?」 「ええ、ハギヨシさんに……」 「なら、問題ありませんわ。」 「では、失礼して……」 「さあ、一緒に月夜のお茶会を楽しみましょう。」 それから暫く話しをしながらお茶を飲んでいく。 不思議な人だった。 優しい雰囲気と柔らかな笑みで俺の話を聞いてくれていた。 「――で、そいつは麻雀やる時はすごいのに、いつもはどん臭くいやつなんですよ。」 「うふふ、京太郎君はその子の事とても気に掛けてらっしゃるのですわね。」 「なんか、妹みたいで放って置けないんです。」 「妹、ですか……」 「あの、俺なにか気に障ることいいましたか?」 「いえ、少し昔の事を思い出しただけですわ……」 「そうですわ、私にも妹がおりましてね。」 「それを少し、思い出しまして。」 「ただそれだけですわ。」 「そうなんですか……」 そう言って、その人は少し悲しそうな顔をしながら虚空を仰ぎ見ていた。 先ほどまで見せていた柔和な笑顔が曇ったのが少し辛かった。 それから少しだけその人は自分の話をしてくれた。 体が弱く、肺の病を患っていたこと。 そして今はもう大丈夫になって、夜の間なら歩き回れるようになったこと。 「ごめんなさいね、私のつまらない話なんて聞かせてしまいまして。」 「いえ、むしろ俺のことばかり話してしまい、すみません。」 「貴方の話はとても面白かったですわ。」 「こんな話でいいならいくらでもしますよ。」 「うふふ、あら、お茶が切れてしまいましたわ。」 「時間が経つのが早いですね。」 「……それにもうこんな時間ですわ、よい子はもうとっくに眠っている時間ですわよ?」 「うわ、本当だ、そろそろ寝ないと。」 「ちょっとよろしいでしょうか?」 「はい、なんでしょう?」 「京太郎君に"ついていって"いいかしら?」 「え?」 「"ここは迷いやすい所"ですわ。」 「なのでお部屋まで案内いたしますわ。」 「ありがとうございます。」 その人はそう言って、俺を部屋まで案内してくれた。 彼女は部屋の前に飾られている花をみて、呟いていた。 「あら、この花は……」 「どうしたんですか?」 「私の好きな花でして。」 「ええっとエゾムラサキでしたっけ?」 「いいえ、似ていますが違いますわ。」 薄青色の花を慈しむように見た後、俺に向き直り、挨拶をする。 「それではお休みなさい、京太郎君。」 「おやすみなさい、あ、そうだ貴女のお名前を聞き忘れていました。」 「私の名前は、龍門渕……――華ですわ。」 最後の方は閉まる扉の音で聞き取れなかった。 ただ明日にでもなればハギヨシさんに聞けばわかるだろう。 そう思い、用意されていたベッドで目蓋を閉じる。 ここは厨房か……そう思い辺りを見回す。 その内に厨房に仲が睦まじい姉妹らしき二人がやってくる。 鍋を掴み何かしている。 妹らしき方が何かを言っている。 「お姉さま、お母様に教えられた作り方ってこれで合ってましたか?」 「確かこんな感じだったはずですわ。」 「デミグラスはこんな味でしたでしょうか?」 「もうちょっと甘めだったはずですわ……」 「ここからは隠し味ですわね。」 「お母様も祖母様から教わった時に隠し味を入れたって言ってましたわね。」 「そうして少しずつ隠し味が増えていくんですわね……」 「お姉さま、私たちも娘か息子のお嫁さんが出来たら新しい隠し味を増やすのですね。」 「そうですわね、でもその前に私たちのお婿さんを探さないといけませんわね。」 「うふふ、そうですわね、子供なんてまだまだ先ですわね。」 姉の方はある程度煮込んだ後、味見している。 「うん、良い出来栄えですわね。」 「それでは私、みんなにシチューが出来た事を教えてきますわ。」 そう言った妹はどこかに行ってしまった。 姉は何故かこちらを向いた。 俺が見えているのだろうか…… 夢の中なので何があっても不思議ではないが…… 俺を見据えて姉は呟いていた。 Forget-me-not 「私を忘れないで」 朝日が昇り鳥の囀りで目を覚ます。 不思議な夢を見たものだ。 ハギヨシさんにシチューの話を聞いていたからか、はたまた龍門渕さんと話していたせいかはわからない。 たかが夢の事で一々考えてても仕方ないので、とりあえず顔を洗って身支度をする。 ハギヨシ「須賀様、おはようございます、昨晩はよく眠れましたか?」 京太郎「あ、おはようございますハギヨシさん、おかげでちゃんと眠れましたよ。」 ハギヨシ「朝食の用意が出来ております。」 京太郎「ありがとうございます。」 ハギヨシさんに通され、軽めの朝食を取らせてもらった。 その後は流石に家に帰らないと拙いのでハギヨシさんに挨拶をして別れることにした。 京太郎「麻雀とタコスを教えてもらっただけでなく泊めさせてもらいまして、本当にありがとうございました。」 ハギヨシ「いえ、お気になさらないで下さい。」 京太郎「あ、そうだ、ハギヨシさん、名前をちゃんと聞き取れなかったんですが『龍門渕なんとか華』さんていますよね?」 ハギヨシ「透華お嬢様のことですね。」 京太郎「その人にもお礼を言っておいて下さい、『昨日の貴女との夜中のお茶会は楽しかったです』って。」 ハギヨシ「?わかりました、伝えておきます。」 京太郎「それでは。」 ――ハギヨシ視点―― 確かに言伝を受け、須賀様を見送りさせていただきました。 ただ、須賀様のお言葉に少し引っかかりがあったのです。 何故なら透華お嬢様は合同合宿で皆様と一緒に出ていますので、 昨日の夜に透華お嬢様と須賀様が会われるということはないのです。 一介の使用人風情が詮索することではありませんので透華お嬢様が戻られた時に伝えれば良いこと…… 私は厨房に向かい朝食の片付けと昼食の下拵えをすることにしました。 その時気付いたのですが、昨日作ったシチューとは別に新たな鍋が置いておりました。 私はその鍋から一掬い取り、味見をし、そして驚愕致しました。 驚愕した理由は今は亡き奥様の作ったシチューと同じ味だったからです。 勿論私が作った覚えがありませんので周りの人物が作った考えるのが妥当です。 そこで私は、近くに居た杉乃さんに聞いてみましたが、残念ながら彼女ではないようです。 となると益々謎が深まりました。 今龍門渕家にいるのは私と杉乃さん。 そして昨晩からお泊りになられた須賀様だけなのです。 当然、須賀様は元の味や作り方を知る由はありませんですし、何より彼の性格からして厨房を勝手に使うという事はないはず…… 一体誰がこのシチューを作ったのでしょう…… 京太郎「ただいま~」 京太郎母「あんた何所に行ってたのよ?」 京太郎「執事のハギヨシさんにタコスと麻雀を教えてもらってた。」 京太郎母「執事?今時そんなのいるんだ。」 京太郎「居るとこにはいるんだな。」 京太郎母「私ちょっと出かけてくるからお昼はテキトーに食べておいて。」 京太郎「あいよー。」 簡単な昼食をとってベッドの上で昨晩の事を思い出す。 月夜に照らされた彼女は美しく、そして儚かった。 「優しそうな人だったな……」 その内に段々と目蓋が重くなり、夢の世界の扉を叩いてしまう事になる。 ここは何所だ…… 今は誰も住んでいない洋館に執事服を着た男が暗い顔をしていた。 そこへ声を掛ける女の人が一人。 「あの、どうしました?」 「……私はここの執事でございます。」 「と言いましても、『元』ですが。」 「そう、ですか。」 「はい、ここは直に人の手に渡るのですが行く宛もありませんので。」 「ここで果てるのも一興かと思いまして……」 男は悲しそうな顔をしながら洋館を見回し、そう言ってのけた。 「……どうして命を捨てようとなさるのか聞いてもよろしいかしら?」 「……ここには私の主が住まわれていたのですが、ある日、主は恨みを買った賊に襲われ、息を引き取りました。」 「私は守れなかったのです、守るべき主人を……」 「主はご両親と死別なされてから、一人この家を守り続けていました。」 「死後は天涯孤独の身であったため、家を受継ぐ者もおらず、こうして人手に渡ることに……」 「…………」 「……私は仕えるべき主を失い、守るべき家も失いました。」 「私は自分の存在価値を見出せないまま、途方に暮れていました……」 「ですから、せめて主のお傍にと……」 「……それなら貴方、私の執事になりませんこと?」 「は?」 出された提案に男は驚いた顔をしていた。 多分これから先は見ることはないくらいこの男にとって珍しい顔だ。 「ですから、今は何所の執事でもないのでしょう?」 「だったら、我が龍門渕家の執事になりなさい。」 「しかし、こんな私でよろしいのでしょうか……」 「主人一人守れなかった私が、また執事をするなんて……」 「私が許可します、貴方は私に仕えなさい。」 「文句を言う者が居るのなら私が蹴散らして差し上げますわ。」 「……左様でございますか。」 「ええ、私に通せぬ物はありませんわ。」 「ところで貴方の名前は?」 「私に名前などありません。」 「名前を与えてくれた主が亡くなった時、名前に意味など無くなってしまいましたから……」 「……では私が付けて差し上げましょう。」 「……萩原、そう萩原がいいですわね。」 「萩原、でございますか。」 「そう、それで愛称は……ハギヨシがいいですわね。」 「わかりました、ではこのハギヨシ、精一杯貴女様に仕えさせていただきます。」 京太郎「う、う~ん……」 そこで目が覚めた。 俺は軽く体を伸ばし、変な夢を見たと思いながら、喉の渇きを潤す為に台所へと向かう。 そこで帰ってきた母親と出くわした。 京太郎「お帰り、結構遅かったな。」 京太郎「そういえば母さんは何所行ってたんだ?」 京太郎母「ただいま、ちょっと人と会っててね。」 京太郎「へぇー。」 京太郎母「そういえば、京太郎、あんた昨日は執事に会いに行ったって言ってたわよね?」 京太郎「ああ、それがどうしたの?」 京太郎母「どこの執事?」 京太郎「龍門渕家の執事さんだけど。」 京太郎母「そう……」 京太郎「どうしたんだよ、いきなり?」 京太郎母「……京太郎、あんた……父親に会ってみたくはない?」 京太郎「はぁ?」 京太郎「俺の父さんって俺が生まれる前に死んだんじゃないのかよ?」 京太郎母「ちゃんと生きてるわよ、ただ、余り表沙汰に出来る人じゃなかったから死んだ事にしてただけ。」 京太郎母「あんたが会った事あるかはわからないけど、行った事はある所よ。」 京太郎母「で、会ってみたくない?」 京太郎「いきなりそんな事を言われてもな……」 京太郎「そもそも何で今更になって……」 京太郎母「あんたも高校生になったんだから父親の事を知っておいてもいいかなって。」 京太郎「もしかして母さんが今日あってた人って……」 京太郎母「そう、あんたの父親。」 京太郎母「あんた返事次第で養子にしてもいいとも言われてるのよ。」 京太郎「養子?」 京太郎母「あっちにも家庭があったからよ。」 京太郎母「元々あんたが生まれていたことも知らなかったのよ。」 京太郎「ようは母さんは不倫してたのか?」 京太郎母「結果的に言えばね。」 京太郎母「まぁ養子の件は直ぐに答えを出せとも言われてないし、とりあえず一緒に住まないか?って聞かれたのよ。」 京太郎「母さんはどうなんだよ?」 京太郎母「あたしはどっちでもいいけどあんたとは一緒には住まないわよ。」 京太郎「はぁ!?」 京太郎母「あたし暫く海外に転勤するから。」 京太郎「そんな話聞いてねぇよ!?」 京太郎母「そりゃ言ってないもの。」 京太郎母「だからあんたの父親に話を付けに言った訳。」 京太郎母「この家は一応残してあげるけど出来れば京太郎には父親の所に行って欲しいかな?」 京太郎「なんでだよ?」 京太郎母「流石に息子一人にするのは忍びないし、結構長く居る予定だから海外に連れて行くわけにはいかないし。」 京太郎「……わかったよ、とりあえず会うだけ会うよ。」 京太郎「一緒に住むかどうかはそれから考える。」 京太郎母「よーし、それでこそ我が息子だ。」 明日父親と会うことになった。 この母親いつもこんな感じだ。 いきなり重要な事を言い出してはケロッとしてやがる。 それはともかく一体父親どんな人物なのだろうか…… 朝になり父親が住んでいる家とやらに向かう。 なんじゃこりゃ。 誰かがドッキリの看板もって何所かに潜んでいるんじゃないかと思った。 何せここへ来たのは昨日ぶりなのだから…… ハギヨシ「ようこそいらっしゃいました『京太郎様』。」 京太郎「ハギヨシさん、昨日ぶりですね。」 やはりと言うかなんと言うか、お出迎えこの人だった。 てっきりハギヨシさんといっしょにドッキリの看板が出てくるのかとも思ったが、 ハギヨシさんはそんな事をするような人ではない。 そして出迎えにはもう一人居た。 「よく来たね、京太郎君。」 そこにはどこか頼りなさげな中年の男が立っていた。 「ええと貴方が俺の……?」 「詳しい事は中で話そうか。」 そう言われて通された部屋には白髪交じりの男が待っていた。 「ハギヨシ、もう下がっていい。」 「はい、それでは私はここで失礼させていただきます。」 ハギヨシさんはそう言って音も無く去っていった。 これから重要な事を話すのだろう。 そのための人払い。 先ほどから一緒に来た中年の男性が切り出す。 「お義父さん、彼が京太郎君です。」 「初めまして、須賀京太郎です。」 「……君がそうか、急な事で済まないな。」 「君の母親から京太郎君を預かって欲しいと言われてな。」 「それに私も是非、君を養子にと思っている。」 「いきなりすぎて直ぐには答えられません。」 「そうだな……虫のいい話をいきなり出されても困惑するだろう……」 どうやら話を聞くと中年の男の方が龍門渕家の現当主で透華さんの父親。 老人の方が前当主で透華さんの祖父、龍門渕高校の理事長でもあるらしい。 それから俺の人生を変える様な話が続いた。 ―――――― ―――― ―― 結局の所、龍門渕家のお世話になることにした。 後で龍門渕高校の面々に挨拶をしないといけないな。 あと、清澄高校の面々にも事情を話さないと…… 透華父「そろそろ透華達が帰ってくる頃だ、挨拶は私も一緒に立ち会おう。」 京太郎「わかりました、えっと、"お義兄さん"?」 透華父「出来ればお父さんと呼んでほしいのだがね……」 京太郎「"お義兄さん"の養子になる話は"まだ正式に決まった"わけではないんですよね?」 透華父「まぁそうではあるが一日でも早く家族として馴染む為にもそっちの方がいいのではないのかな?」 京太郎「それよりも何故お義兄さんが俺の親になるのかが……」 透華父「……すまないね、大人の事情半分、私のエゴ半分という奴だよ。」 京太郎「……大人って大変ですね。」 透華さんのお父さんと話していたら女性の大きな声が響き渡った。 「ただいまもどりましたわ!」 「おかえりなさいませ、皆様。」 どうやら龍門渕のメンバーが帰ってきたみたいでハギヨシさんが出迎えたようだ。 透華父「透華達が戻ってきたようだな。」 透華父「さぁ、君の事を紹介しようか。」 京太郎「ええ、お願いしますよ、"お義父さん"?」 透華父「……婿養子ではないからね?」 京太郎「わかってますよ……」 俺達は今居る部屋を出て、今から家族になる人たちの所へ向かう。 部屋の前ではハギヨシさんが待っており、俺達に向かって御辞儀をする。 そしてゆっくりと部屋の扉を開けてくれた。 部屋の中に居た一人がこちらに気付く。 「あら、お父様、ただいま戻りましたわ。」 「ああ、お帰り、透華。」 この人が透華?確かに似ているがあの人とは違う…… あの人はもっとこう……落ち着いていて、柔和な笑みの持ち主だったはずだ。 そんな疑問を考えていたが透華さんが父親に尋ねる。 「ところでお父様、そちらの方は?」 「彼は京太郎君、我が龍門渕家の家族になる子だ。」 「清澄高校麻雀部の1年、須賀京太郎です、よろしくお願いします、お義姉さん。」 「はい!?」 驚きの表情と共に素っ頓狂な声が部屋に響く。 養父が苦い顔をしていたが、それは娘に対してではなかった。 先ほどから養父の顔を睨んでいる金髪の一際背の低い少女が気になるのか、とも思ったがそれだけではなかったようだ。 透華父「京太郎君。」 養父は咎めるような声で俺を呼んだ。 そして意味がわかった。 京太郎「あ、須賀というのは不味いですかね……」 透華父「出来ればね、それに高校も直に変わる。」 京太郎「そうでしたね。」 透華「では改めて自己紹介を、龍門渕透華ですわ。」 衣「衣は天江衣だトーカとは従姉妹にあたる。」 一「ボクは国広一、透華専属のメイドでもあるんだ、よろしくね。」 純「おれ、じゃなくて私の名前は井上純です、メイドでもあります。」 智紀「メイド、沢村智紀、です。」 歩「りゅ、龍門渕家のメイドで一年の杉乃歩です!」 ハギヨシ「執事の萩原でございます、皆様からはハギヨシと呼ばれております。」 透華父「挨拶は終わったようだね、では私はこれで戻るよ。」 そう言って養父は部屋から出て行った。 部屋の扉が閉まった瞬間、息を吐く音が聞こえる。 純「あ~なんか苦手なんだよな、透華の親父さん。」 智紀「なんとなくわかる。」 一「一応龍門渕家の当主だからね~。」 衣「衣もあの男は好かないな。」 透華「あの、あれでも私のお父様なのですわよ……」 「あれでも」ってなんだ、「あれでも」って…… 俺は会って一日も経ってないから何とも言えないが男には男の苦労があるんだよ……多分。 74 名前: ◆/cZ9NqabwE[saga] 投稿日:2012/10/23(火) 19 26 21.21 ID 9mpxyvgoo んじゃ本編すこし投下 75 名前: ◆/cZ9NqabwE[saga] 投稿日:2012/10/23(火) 19 26 49.84 ID 9mpxyvgoo 夕食の時間になり、皆が一堂に会する。 透華さんの祖父さんと親父さんは居なかったが、家族はなるべく一緒に食事を取るのが決まりらしい。 その家族の中に、執事やメイドさんも含まれているらしい。 皆が席に着くとハギヨシさんが料理を運んでくる。 次々と色取り取りの料理が並べられるが、一品だけ異彩を放った料理がある。 それを見た天江さんがぽつりと呟く。 「シチューか……」 この前作っていたシチューだろうか。 完璧なハギヨシさんのことだ、未完成品を出すわけがない。 つまり龍門渕家のシチューを完成させたということだろう。 明らかに戸惑っている透華さんと天江さんを見て、他の人たちが躊躇っていた。 折角ハギヨシさんが苦労して作ってくれたんだ、食べないのは勿体ないと思う。 俺は手を合わせて声を張って「頂きます」と言い、スプーンで一掬いするとシチューを口に運ぶ。 京太郎「うん、美味しいですよ、ハギヨシさん。」 ハギヨシ「ありがとうございます。」 その言動の意味に気付いたのか、透華さんがシチューに手をつける。 一口味わったかと思ったら、顔を綻ばせた。 「美味しい……そして懐かしい味ですわ。」 その言葉を聞いた天江さんがスプーンを手に取り、恐る恐るシチューを口に運ぶ。 「ああ、確かに、母君が作ってくれた味だ……」 天江さんが感慨深そうに言うと、周りから安堵の息が漏れ出る。 走った緊張の糸が切れたからか、井上さんが大声で頂きますと言った後、がっつき始める。 他の人もそれに倣ってか、食事を始めた。 「では、ごゆっくりどうぞ。」 ただ一人、ハギヨシさんはそれだけ言って食堂から出て行った。 食後、とぼとぼと家の中を歩き回る。 思い出すのは透華さんの笑った顔。 あの人に似たあの笑顔だった。 結局あの人は透華さんではなかった。 なら一体誰なのか…… 考えても出ない答えを考え、 思考はぐるぐると迷う。 真夜中になって俺に与えられた部屋で窓から外を見る。 月明かりに照らされた庭が見える。 今夜もあの人はいるのだろうか…… 俺の疑問は解けるのだろうか…… 気付いたら庭に足が向かっていた。 庭に敷き詰められた綺麗な花絨毯を横目に、小さな屋根が付いたお茶会の場所へ向かう。 そこに白い椅子に座った綺麗な金髪が風にたなびいていた。 「こんばんは。」 「ん?きょうたろーか。」 目的の人に思わず声を掛けて、そして人違いだと気付く。 「どうしたきょうたろー?」 「いえ、天江さんがいるとは思わなかったので。」 「ここからの望む景色は風情があるからな、時折ここで寛ぐ。」 「そうですか。」 「ところで天江さん――「衣だ」」 「衣を呼ぶときは衣と呼んでくれ、衣もきょうたろーのことをきょうたろーと呼ぶ。」 「衣たちは家族になるのだ、名前で呼ぶのが道理であろう?」 「わかりました。」 「では衣さん、こちらに座ってもいいですか?」 「そのくらいの瑣末なことは一々許可を取らなくてもいいぞ。」 「んじゃ失礼します。」 俺は空いている向かい側の椅子に腰を下ろし、暫くの間、衣さんと話していた。 話している内に衣さんは眠くなってきたのだろう、ゆっくりと舟をこぎ始めた。 「衣さん、もう寝ましょうか。」 「衣はまだきょうたろーと話をしてても大丈夫だぞ……」 「俺もそろそろ寝ないといけないんですよ。」 「なんだきょうたろーも寝るのか、それなら仕方ないな、衣は部屋に戻るぞ。」 「お休みなさい、衣さん。」 「お休み、きょうたろー。」 そう言って衣さんは眠そうな目をこすりながら別邸に戻っていった。 衣さんに寝るとは言ったものの、直ぐに部屋へと戻る気はなかった。 ただ、俺が寝ると言わないと衣さんは素直に戻らない気がしたのでそう言っただけだ。 花と月を見ながら少し目を瞑る。 風の音と花の香りが心地良い。 色んなことが俺の身に起き、住んでいた家から離れ、今はここにいる。 起こった出来事とこれからの事を頭の中で整理していたら何時の間にか眠っていたようだ。 大した時間ではないが、その間に人が来て俺に声をかけてきた。 「こんなところで寝ると風邪をひきますわよ。」 「え?あ、こんばんは。」 「ふふ、またお会いしましたわね、京太郎君。」 そこには真夜中のお茶会を開いた人がいた。 「京太郎君、お茶はいかがかしら?」 「頂きます、『龍門渕さん』。」 「はい、どうぞ。」 コポコポとティーカップに注がれたお茶を飲みながら、 下の名前を聞きそびれた女性と会った。 「そういえば、おれ、ここの養子になることになったんです。」 「そう、なら私とも家族になりますのね。」 「私の事は母親だと思ってかまいませんわ。」 「なんなら私の事を『お母様』と呼んで頂いても構いませんのよ?」 「流石にそれはちょっと……」 「そうですか、残念ですわね……まぁ無理にとは言いませんわよ。」 それから俺が高校に転校する事、明日清澄に行って挨拶する事や不安な事、 身の回りの急激な変化を話した。 話が進むに連れ、お茶が切れて御開きの時間になった。 「龍門渕さんと話していて大分気が紛れました。」 「私で良ければ幾らでも相談に乗りますわ。」 「ありがとうございます……そういえば貴女は普段、何所にいるんですか?」 「夜はいつもここにいますわ。」 「私に会いたくなったらここにいらっしゃい。」 「出来れば私をお母様と呼ぶ練習もして欲しいですけど。」 冗談めかしてくすくすとお上品に笑いながら言っていた。 「出来るだけ努力します、それではお休みなさい。」 「おやすみなさい、京太郎君。」 挨拶を済ませて部屋に戻ると、暗がりの中で目立っている物が在った。 枕元に置いてある、チカチカと光る携帯電話を開く。 「ん、母さんからのメールか……」 『ハロー京太郎、元気にやってる? 今母さん海外に居るせいか電波が届かない事もあるの、 だからメールとか電話出来ないことも多いけど寂しくなるなよ? あたしも寂しいけど京太郎との思い出を元に仕事頑張るわ。』 「適当なメール寄越しやがって、まぁ母さんらしいと言えば母さんらしいか。」 それにしても母親、か。 俺には既に母親がいるので暫くはあの人を母と呼べないだろう。 でもあの人を母親と呼べるようになった頃には、ここの一員になれたってことだろうな…… やがて朝になり、清澄との別れの日がやってきた。 朝一に担任に事情を伝え、教室で別れの挨拶をする。 そこには咲も含まれていて、その顔は驚愕の色しか見せていなかった。 咲「京ちゃん、嘘……だよね?」 京太郎「咲、別に今生の別れって訳じゃないんだ、同じ長野に居るから何時でも会える。」 咲「……でも清澄から出てくって事でしょ……?」 京太郎「確かにそうだけど、咲はもう大丈夫だろ?」 咲「私の何が……大丈夫なの……?」 今にも泣きそうな咲を宥めつつ、落ち着いた声色で諭す。 京太郎「咲には和も優希も染谷先輩も部長も居るだろう?」 京太郎「困った時は頼れる仲間や友達がいる……」 京太郎「だからもう俺が居なくても大丈夫だろ?」 咲「何も……何もわかってないよ……京ちゃんは……」 咲「全然大丈夫じゃないよ……」 咲「京ちゃんのバカ……」 それだけ言って咲は足早に去っていった。 「これでいい、これでいいんだ。」 自分にそう言い聞かせて、咲の背中を目で追いかけていた。 やがて放課後になり、一人部室の掃除をする。 「もう今日で最後か」と思うと、どこか物寂しく感じる。 懐に忍ばせた退部届けが重い…… ただの紙切れ一枚なのに、こんなにも重いものなのか…… そして一番最初にやってきた部長に事情を話し、退部届けを渡す。 それを受け取った部長はただ、目を細めてぼそりと呟いた。 「そう、家の事情なら仕方ないものね……。」 「うちも少し寂しくなるわ。」 「直ぐに気にならなくなりますよ。」 「そうかしら?送別会もせずに送り出すのは心苦しいわね。」 「出て行く奴のことより、今居る部員のために時間を割いてください。」 「そっちの方が建設的です。」 「案外須賀君ってドライなのね。」 「別れは惜しいですが決まった事をうだうだ考えても仕方ないです。」 「咲には言ったの?」 「納得はしてないようでしたが、大丈夫でしょう。」 「そう……」 部長は短く言うと椅子に座って部員全員を待っていた。 その内に部員が一人、また一人と入ってくる。 やがて集まった部員に別れの挨拶を告げる。 まこ「しかし急な話じゃな。」 京太郎「急すぎて俺もびっくりしましたよ。」 和「これでお別れなんですね。」 京太郎「同じ長野だから会おうと思えば会えるんだけど……」 優希「まったく、犬が勝手に飼い主放ってどっかに行くんじゃないじぇ!」 京太郎「タコスの食いすぎんなよ?」 久「とうとう咲は来なかったわね……」 和「……そうですね。」 京太郎「直ぐに元に戻りますよ、今のあいつには目標がありますから。」 まこ「だといいんじゃがのう……」 京太郎「最後に一つだけ……」 優希「なんだじぇ?」 京太郎「あいつを……咲を頼みます……」 和「言われなくても大丈夫です。」 京太郎「それじゃあ、さようなら、皆元気でやってください、俺、全国応援してますんで。」 そう言って部室から出る。 咲は今何所に居るのだろうか。 あいつの事だ、きっと一人でめそめそと泣いているのだろう。 公園近くの河川敷で彼女を見つけた。 須賀君の言った通りの場所でした。 「咲さん。」 「あ、和ちゃん……」 「部活終わっちゃいましたよ。」 「うん、ごめんね。」 彼女は赤い目を擦りながら申し訳なさそうに謝ります。 やはり彼のことで泣いていたのでしょうか…… ふざけた男ですね、須賀君は…… 彼女にこれだけ想われていて、 彼女の場所が解るくらい想っていて、 何故自分で彼女を慰めないのでしょう…… 私は正直彼に嫉妬しています。 大切な友人をここまで泣かせた彼に。 大切な友人をここまで理解している彼に。 家の事情で仕方ないのは分かっています、私も人の事を言える様な環境ではありませんから。 それでも私は嫉妬してしまう。 私以上に彼女を理解している彼を…… 校門を出るとハギヨシさんが車で迎えに来てくれていた。 ハギヨシ「京太郎様、御向かいに上がりました。」 京太郎「様付けは勘弁してください。」 ハギヨシ「では、京太郎お坊ちゃまとお呼びします。」 京太郎「もっと嫌です。」 ハギヨシ「そうですか、それと私の事は呼び捨てで構いません。」 京太郎「年上の人を呼び捨てにするのは……」 ハギヨシ「透華お嬢様たちも私の事は呼び捨てでございます。」 京太郎「じゃあ呼び方は個人の気持ちの問題ということで。」 ハギヨシ「畏まりました、京太郎様。」 京太郎「結局様付けのままですか。」 ハギヨシ「やはり坊ちゃまの方がよろしかったでしょうか?」 京太郎「いえ、呼び捨てにするという選択肢をですね……」 ハギヨシ「仕える方に対してそんな失礼なことはできません。」 京太郎「俺はそっちの方が楽なんですけど……」 ハギヨシ「それに、京太郎様は先程――」 ハギヨシ「呼び方は個人の気持ちの問題と仰いましたので。」 京太郎「うっ……わかりました。」 大人ってずりーのな。 龍門渕家に戻った後、皆で食事をしている時、衣さんがこんな事を言い始めた。 衣「確かきょうたろーは明日から龍門渕に転校するのだったな?」 京太郎「ええ、そうですけど。」 衣「部活はどうするのだ?」 京太郎「特には決めてないです。」 透華「あら?麻雀部に入るのではありませんの?」 透華「京太郎も元は麻雀部なのでしょう?」 京太郎「俺は高校に入ってから麻雀始めたんで凄く弱いんですよ。」 京太郎「麻雀部に入ってからはずっと雑用ばかりしてましたし。」 純「個人戦は出なかったのかよ?」 京太郎「個人戦では午前で敗退しました。」 透華「……そうですか」 智紀「…………?」 衣「つまりきょうたろーは初心者なのだな。」 京太郎「ええ、そうですよ、役を覚えた程度です。」 透華「私、良い事を思いつきましたわ!」 京太郎「すっごい嫌な予感がする……」 透華「この後、京太郎の歓迎会を始めますわよ。」 衣「おー!とーか!衣もその意見には賛成だ!」 純「歓迎会って言ってもどんな事をやるんだよ?」 透華「もちろん!麻雀ですわ!」 京太郎「それって歓迎会と言う名のカワイガリじゃないですか!?やだー!?」 純「まぁ諦めな、野良犬に噛まれたと思ってさ。」 純「いざとなったらオレが助け舟だしてやっから。」 京太郎「うう、井上さん、イケメンだ……」 純「……言っとくけどオレは女だぞ。」 京太郎「知ってますよ。」 純「へぇ、オレを男扱いしない奴なんて初めてだ。」 京太郎「県予選の時に井上さんにタコスを食われたせいで、俺買いに行きましたから。」 純「……すまねぇ。」 京太郎「気にしてませんよ。」 純「あと、オレの事は純でいいぜ。」 京太郎「はい、分かりました、純さん。」 衣「純!きょうたろー!早く衣の部屋で打つぞー!」 純「はいはい……」 京太郎「俺の力を見せてやるぜ。」 京太郎「主に弱さ的な意味で……」 純「情けねぇ男だな……」 そんなこんなで衣さんが住んでる別邸に向かい、卓を囲む。 最初のメンバーは俺、国広さん、沢村さん、透華さんだ。 結果は俺の箱割れで終わった。 一「よっわ!?」 智紀「弱い……」 透華「弱いですわね。」 京太郎「だから言ったじゃないですかー……」チーン 純「見事な振込みマシンだったな。」 衣「きょうたろーは銀行みたいだな。」 京太郎「せめて少しは慰めてくださいよ……」 透華「慰められるレベルですらありませんもの。」 衣「よし今度は衣も打つぞ!」 純「今度はトバないようにしろよ?」 京太郎「善処します……」 またもや俺がラス引いたわけだけど、この人たち相手なら仕方ないよね? 俺そこそこ健闘したと思うよ? 箱は割れたけど。 京太郎「」チーン 純「まぁある意味予想していた。」 衣「寧ろ先程よりかはましだろう。」 一「それでも弱いね。」 衣「よし、では次だ!」 京太郎「マジですか……」 純「やばくなったらストップかけてやるから安心しろ。」 京太郎「出来れば早めにお願いします……」 透華「私が京太郎をみっちり鍛え上げてみせますわ!」 京太郎「もう既に歓迎会じゃないな。」 その後10時を過ぎまでやっていてそのあとお開きになった。 お開きの理由は衣さんがお眠の時間になったからだ。 どんだけ見た目通りなんだ衣さんは…… 衣さんを寝かしつけて戻ってきた透華さんに呼び止められた。 透華「京太郎、ちょっとお話をしてもよろしいかしら。」 京太郎「ええ、大丈夫ですよ。」 透華さんは対面の椅子に腰掛け俺と話し始める。 透華「龍門渕家には慣れまして?」 京太郎「慣れたかどうかはまだ何ともいえませんが、良くはしてもらってますよ。」 透華「そうですの。」 透華「家には早く慣れて欲しいですわ。」 透華「京太郎は既に家族の一人なんですから。」 京太郎「家族、ですか。」 透華「ええ、そうですわ。」 透華「貴方と私がどんな関係でも、我が龍門渕家に来た時から、京太郎、貴方は家族ですわ。」 京太郎「なんかむず痒いですね。」 透華「直ぐに慣れますわよ。」 透華「だからこそ、家族だからこそ聞いておきたいのですの。」 京太郎「なんですか?」 透華「一つは個人戦のこと。」 透華「もう一つは貴方が夜に会った方の事。」 京太郎「個人戦は午前で予選敗退しただけですよ?」 透華「……個人戦は得点制ですわよね?女子も男子も変わりませんわ。」 透華「なのに、何故、得点制の個人戦出場者が午前で終わる事が出来ますの?」 京太郎「……あまりに点数が酷かったもので。」 透華「しかし、それだと公平性が失われてしまいますわ。」 透華「凄く弱い方と打てたから一人二人だけ良い点が取れたなんてことになったら、それこそ不公平。」 透華「本当は棄権か出場拒否をしたのでしょう?」 京太郎「凄いですね、エスパーかなんかですか?」 透華「ただの推理ですわ。」 京太郎「俺はただ身の丈に合った事をしてただけです。」 京太郎「俺は麻雀初心者ですから、大会に出られるレベルじゃありませんし。」 京太郎「それに皆の役に立ちたかったので、大会に出なかったんです。」 透華「……そう、ですの。」 京太郎「もう一つの方は夜のお茶会のことですよね?」 透華「ええ、その通りですわ。」 京太郎「実は、俺、透華さんに会うまでその人の事を透華さんだと思っていたんです。」 京太郎「特徴を聞いてみたら透華さんの様でしたし。」 京太郎「でも実際に透華さんに会って見て違うと分かっただけで、その人の事は特に分かってないんですよ。」 京太郎「分かっているのはその人が「龍門渕」と名乗っている事、よく夜の庭に居る事ぐらいですかね。」 透華「わかりましたわ、京太郎、お話に付き合って頂いてありがとうございます。」 京太郎「いえ、こちらこそ話して少し楽になりましたから。」 透華「ではお休みなさい。」 京太郎「おやすみなさい。」 俺は透華さんと別れた後、夜の庭へと出向く。 勿論あの人に会うために。 いつもの場所に行くとお茶を用意して待っていてくれた。 「こんばんは、龍門渕さん。」 「あらこんばんは、流石に一朝一夕で「お母様」とは呼んで頂けませんわね。」 「そんなに簡単なことじゃないんですよ。」 「気長に待ちますわ。」 「それで今日はどんな悩み事かしら?」 「麻雀をやっているんですがさっきコテンパンにされちゃって。」 「ふふふ、大丈夫ですわ、京太郎君は強くなりますもの。」 「そんなことがわかるんですか?」 「ええ、コツは大きく三回深呼吸して頭を氷のように冷ますことですわ。」 「そんなんで出来ますかね……」 「とにかくやってみればわかりますわ。」 「わかりました、それでは今度やってみます。」 「そういえば龍門渕さんって御幾つなんですか?」 「女の人に年齢と体重を聞くのはタブーですわよ。」 「あ、すみません。」 「ふふ、ただ一つヒントを言うなら……私には子供がいます。」 「お子さんが居るんですか。」 「ええ、近くにいるのですがその事に気付いていないようですわ。」 「そんなに会いたいなら会えばいいんじゃ……」 「中々難しいものなのですわ。」 「そうなんですか……すいません、無神経な事を言って……」 「お気になさらないで。」 それだけ言ってその人はお茶を一啜りしていた。 「すいません、本当はもうちょっと居たいんですけどそろそろ部屋に戻ります。」 「そうですか。」 「もう部屋に戻らないと明日が辛いですから。」 「転校初日お寝坊は恥ずかしいですものね。」 「それではお休みなさい。」 「お休みなさい。」 俺は部屋に戻り、明日のために早めにベッドの中に入った。 今夜はどんな夢を見るのだろうか…… 俺は部屋に戻り、明日のために早めにベッドの中に入った。 今夜はどんな夢を見るのだろうか…… ここは……龍門渕家か? 今からしたら大分若く見える透華さんのお祖父さんがいる。 台紙入りの写真を渡される。 所謂お見合い写真というものだ。 お父様からの話によると、とある企業の御曹司らしい。 人柄は中々の好青年で、経営者としては辣腕らしく、 龍門渕の婿養子候補としてお父様の御眼鏡に適ったとのこと。 龍門渕家の長女として、一応、会って話を聞くことにしました。 私の旦那様になるかどうかは別として。 また変な夢をみたな、と思いつつ体を起こした後、身支度をする。 今日は転校初日だ、何かあったら困るので念入りに身嗜みを整える。 朝食を軽めに取った後、ハギヨシさんが用意してくれた制服に袖を通し、鏡の前で不備が無いか確かめる。 龍門渕高校は服装自由なのだが、初日は印象も大切なので一応制服で登校しようと思う。 それからなんだかんだあったが無事放課後になった。 なんだかんだと言うのは透華さん達と登校する際、入部届けに既に麻雀部と書かれていて、 それを見せながら爛々とした目で俺を見てくる金髪二人。 女の子ってずるいな、俺、断れないじゃん。 高校に着いたあとは職員室に行って担任と校長、教頭にやたら丁寧に挨拶されたりした。 放課後に入った直後、純さんがやってきて道案内と言う名の麻雀部に連行された。 恐らく待っていたずっと待っていたであろう透華さんが、仁王立ちしていた。 透華「龍門渕高校麻雀部へ、ようこそいらっしゃいましたわ!」 衣「よく来たな、きょうたろー!とーかはずっと立ったまま待っていたぞ!」 透華「衣!余計な事は言わなくてよろしいですわ!」 京太郎「あ、そうなんですか。」 透華「ムキー!?なんですの、その反応!?」 純「透華、京太郎はあっけに取られてるだけだ。」 京太郎「なんというか、ビックリしましたよ。」 透華「ふふ、私、目立っておりますわ!」 どっちかって言うと悪目立ちの部類だと思うけど、伏せておこう。 辺りを見回して疑問が浮かぶ。 今ここに居るのはレギュラーメンバーに補欠の杉乃さん、家で見た面子ばかりだ。 京太郎「あの透華さん、麻雀部に男子って居ないんですか?」 透華「おりませんわ!」 京太郎「あれ?って事はもしかして男子って……」 一「純くんと京太郎君だけだね。」 純「オレは女だ!」 京太郎「それって一種のテンプレ芸ですか?」 純「定着させたかねぇのにな……」 京太郎「龍門渕って強豪校なのに人数少ないですね。」 透華「ええ、あまりに軟弱でしたので、私達が1年生の時に追い出しましたわ。」 京太郎「すっごく不安になってきたんですけど。」 純「ここで打っていたら軟弱になろうと思ってもなれないから安心しろ。」 京太郎「無事生きて卒業できるかな……」 京太郎「あ、そうだ、皆さんお茶飲みますか?」 透華「ええ、お願いしますわ。」 衣「衣も飲むぞ。」 一「それじゃボクも頼もうかな。」 智紀「頂きます……」 純「オレもオレも。」 歩「私もお言葉に甘えていいですか?」 京太郎「分かりました。」 純「ってちょっと待て、なにナチュラルにお茶淹れようとしてんだよ。」 純「てかお前らも何自然にパシってるんだよ……」 一「違和感が無かった……」 歩「当然のように受け入れていました……」 京太郎「普段の習慣で体が動いてました……」 ハギヨシ「お茶でしたら私が淹れますので、どうぞ京太郎様は席でお掛けになってください。」 京太郎「あ、すみません。」 あれ、ハギヨシさんってこの部屋にいたか? 気にしてはいけないんだろうな、執事だもの。 声が掛かる、透華さんからだ。 透華「さぁ今から新入部員の歓迎会ですわ!」 あれ、昨日と似たような事言い始めたぞ? 俺に拒否権なんざあるわけないけど。 最初に卓に着いたのは俺、一さん、純さん、沢村さん。 京太郎「お手柔らかに……」 智紀「頑張って……」 一「今度はトバ無いようにね。」 純「練習だからそんなに気負わなくていいんだよ。」 みんなの心遣いが沁みるぜ…… ラスだけどトンでない、奇跡的にトンでない。 純「おー、今日はトバなかったな。」 智紀「意外……」 一「少しは進歩したのかな?」 京太郎「すみません、ベタおりしまくっただけです……」 純「あー、なんだ、上がらなきゃ勝てねぇけど点棒キープするのも重要だもんな……」 透華「点を取れなければ意味がありませんわ!」 透華「もっと攻めるべきですわ!」 透華「これは教育ですわね。」 衣「それでは次は衣達だな!」 透華「次は誰が入りますの?」 純「オレ今卓に入りたくないんだが……」 一「ボクも……」 智紀「私は後ろで見てる。」 歩「私は無理ですよ!?」 京太郎「ハ、ハギヨシさん!助けて!」 ハギヨシ「私ですか?ご要望とあれば……」 透華「ハギヨシと打つのは久しぶりですわね。」 衣「よし!それでは皆の者!打つぞ!」 そんなわけで今度は俺、透華さん、衣さん、ハギヨシさんで卓を囲んだ。 透華「ロン、5200ですわ。」 衣「ロン、8000。」 ハギヨシ「ロン、3900です。」 京太郎「はい……」 純「おい、京太郎が涙目だぞ……」 一「あの卓に入ったらそうなるよ……」 衣「きょうたろー、流石に振り込みすぎだぞ。」 透華「負けが込んでいても自棄になってはいけませんわ。」 京太郎「そんな事言われても……」 ハギヨシ「京太郎様、落ち着いて、今までやってきた事を思い出してください。」 京太郎「今までのこと……」 清澄のメンバーで打った時、ハギヨシさんに教わった事、昨日皆と打って感じた事。 色々思い出してみる。 少し頭を冷やした方がいいかもな…… ……そういえば龍門渕さんにコツを教えてもらったっけ。 『頭を氷のように冷やせ』って。 やってみよう、まずは三回深呼吸だ。 スー、ハー、スー、ハー、スー、ハー…… よし、次だ。 一・純・智紀「?」 頭を冷やし、冷静になろう。 冷たく。 冷たく。 氷のように。 衣「……!」 透華「…………?」 ハギヨシ「…………」 京太郎「お待たせしました、再開しましょう。」 ハギヨシ「ええ、準備は宜しいようですね。」 衣「どうやら暗がりに鬼を繋いでいたようだな。」 透華「どういうことですの?」 衣「打ってみるまで判らぬ、だがきょうたろーには言い知れぬ天資がある。」 京太郎「冷静に……冷たく……」 賽が回る。 投げられた賽は澱みなく滑っていく。 山が切り分けられ、それぞれに手牌が配られた。 衣(この手に伝わる感触は……) 透華(京太郎の雰囲気が少しずつ変わっていきますわね……) ハギヨシ(まさか……) ハギヨシ「もしかしたら暖房を入れる準備をした方がいいかも知れませんね……」 一・智紀「?」 純「おいおいヨッシー、冷房の間違いじゃないのか?」 ハギヨシ「備えあれば、というやつですよ。」 京太郎「…………」 13順目 透華(妙ですわね、先程に比べて衣の鳴きが少ないですわ。) 透華(衣が麻雀で手心を加えるとは思えませんが……) ハギヨシ(やはり京太郎様は『何か』を待っていますね。) ハギヨシ(この前麻雀の指導をさせて頂いた時に奇妙な感じがしたのはこれでしたか。) 衣(山からツモる度、手に牌の冷たさが伝わる……) 衣(きょうたろー、これが貴様の力なのか……?) 京太郎「リーチ……」 一「あ、京太郎君が初めてリーチしたよ。」 純「「やっと」って感じだな。」 智紀「上がったら今日の初和了。」 京太郎「……ツモ。」パタタタ 純「お、今日の記念すべき初和了。」 京太郎「えっと……」 透華「1000・2000ですわ。」 京太郎「すみません、まだ点数計算出来なくて。」 透華「覚えることがまだ沢山ありそうですわね。」 一「点数言えないせいか、いまいち締まらないね。」 衣(今は元に戻っているが、きょうたろーの力の発露は確かに在った。) 衣(まだまだ未熟な力であるし、麻雀に関しても伊呂波を知らぬ初心者。) 衣(だからこそきょうたろーの今後の成長が楽しみだな。) 衣「さぁ、次局に移るぞ!」 京太郎「うわー、もう疲れたー……」 衣「だらしがないな、きょうたろー。」 透華「家に帰りましたら特別メニューを用意して差し上げますわ。」 京太郎「夕飯の話ですか?」 智紀「多分、麻雀の話。」 京太郎「ということは……」 衣「うむ、特訓だな。」 純「特訓だろうな。」 一「特訓だね。」 京太郎「マジですか……」 純「夕飯食う時間くらいは確保してくれると思うぜ。」 純「ロン、3900だ。」 一「ツモ、1000・2000だよ。」 智紀「ロン、5200。」 京太郎「焼き鳥……」 透華「京太郎、牌効率を考えるのですわ。」 京太郎「牌効率、ですか。」 透華「ええ、待ちに関してですが、場に一枚も出てないと仮定して、 嵌張・辺張・単騎待ちなど一種四枚の牌待ちなどより、 両面待ち、二種八枚の方が単純に考えて二倍の確率で引けますわ。」 透華「多面張であればあるほど単純に和了する確率は上がりますの。」 京太郎「ああ、なるほど。」 透華「いっそのこと字牌は全部切るつもりで行ってみてはいかがかしら?」 透華「順番としては手配に一枚しか無い客風を最初に切り、それから場に出ている字牌を切ってみましょう。」 透華「三元牌や連風牌が二枚手牌にあるならキープしてもよろしいですが今は忘れるのですわ。」 京太郎「えーとつまり……?」 透華「……最初は字牌全部切って面前でタンヤオか平和を目指しましょう。」 京太郎「おお、そういうことですか。」 純「いいのかそれで……」 透華「最初はこれでいいんですわ、ではやってみましょう。」 京太郎「ツモ、ええっと1300・2600?」 透華「メンタンピン・ツモで裏も一枚ありますから五飜で満貫ですわね。」 京太郎「おお、満貫なんて滅多に和了出来なかったのに!」 透華「ふふ、京太郎ったら和了っただけでそんなに喜んで。」 京太郎「嬉しかったものでつい。」 ハギヨシ「皆様、デザートをお持ちしました。」 純「お、良いタイミングで持ってきてくれたぜ!」 一「ちょうど甘いものが食べたかったんだ。」 衣「ハギヨシ、今日の甘味はなんだ!」 ハギヨシ「ゆずとみかんのジェラートでございます。」 衣「氷菓か!衣は幾らでも食べられるくらい好きだぞ!」 純「食いすぎて腹壊すなよー?」 衣「衣だって節度は守るぞ、子供じゃないからな!」 京太郎「衣さん、すっごい目を輝かせている……」 京太郎「あれで俺より年上だってんだから驚きだ……」 純「あんまり本人の前では言うなよ?」 京太郎「あはは……」 そのあと透華さんの座学が始まった。 スジ、壁、捨て牌読み、降り方。 簡単なところで言えばまずはこれを覚えろと言われた。 スジにも色々あるらしいが多すぎて俺は覚えきれていない。 透華「それでは実践ですわ、京太郎は全体を見きれていない節がありますので注意してくださいまし。」 京太郎「まだ全部覚え切れていないですよ!?」 透華「やりながら覚えていけばいいですわ。」 透華「純、入りなさい。」 純「あいよ。」 衣「衣も入るぞ。」 透華「あとは……ハギヨシ、入れますかしら?」 ハギヨシ「わかりました。」 京太郎「あれ、透華さんは入らないんですか?」 透華「私は京太郎の後ろでちゃんと出来ているか見ていますわ。」 先生に後から見られているとか緊張するんだが…… とにかくさっき教わった事を思い出しながら打ってみよう。 相手は遥か格上なのだから胸を借りるつもりで行こう。 純「ロン、2600だ。」 ハギヨシ「ツモ、1000・2000です。」 衣「ツモ、4000オールだ。」 京太郎「……はい。」 透華「このくらいで暗い顔をしてはいけませんわ。」 京太郎「焼き鳥はきついです……」 純「おいおい、さっきに比べて振り込みが少なくなってるだろ。」 ハギヨシ「危険牌を切る頻度が明らかに減っておりますね。」 衣「トーカのおかげだな。」 透華「進歩はしておりますけど、京太郎は少し焦りすぎなのですわ。」 透華「節目節目に一度落ち着いてください、常に冷静でいれば全体を見ることができますわ。」 京太郎「わかりました。」 京太郎「よし、COOLだ、COOLになるんだ。」 純「落ち着くのはいいがCOOLとか京太郎に似合わねー。」 京太郎「あ、ひどい。」 衣「出来れば、きょうたろーのもう一つの方も鍛えなければな。」 京太郎「"もう一つの方"ってなんですか?」 ハギヨシ「恐らくですが、オカルトと呼ばれる分類のものでしょう。」 京太郎「自覚ないんですが、俺にそんなのあるんですか?」 衣「衣の印象だとトーカに似た感じがしたな。」 透華「え?そうですの?」 純「そういえば京太郎のオカルトってどんなのなんだ?」 衣「衣も確たる物を得た訳ではいないが、多分温度に関わるものだろう。」 純「温度ねー、だからハギヨシが暖房がどうのって言ってたのか。」 衣「それでは始めるとするか。」 あれから3半荘ほどやってみたがギリギリラスだった。 揮わぬ成績を見てか衣さんが唸る。 衣「う~む、きょうたろーが力を発露する条件がいまいち掴めん……」 純「普通にさっきより点数よかったけど違ったのか?」 衣「きょうたろーのはもっと冷える感じなのだ。」 一「透華と似た感じっていうのはそういうこと?」 透華「私って冷えてますの?」 衣「咲やノノカと打ってたとき事を覚えてないのか?」 透華「覚えていますけど、あんなの私じゃありませんわ、第一地味ですし。」 京太郎「地味って……」 透華「龍門渕透華は目立ってなんぼですもの!」 衣「話は逸れたがそんな感じだ。」 結局、俺のオカルトの発動条件が判らないままその日はお開きになった。 わからないことをわからないままにするのはなんとも気持ち悪いものだ。 せめて糸口でも見つけられれば思いながら自然と庭へ向かう。 そして今夜もあの人と会う。 「こんばんは。」 「こんばんは、今日はなんのお話をしましょうか。」 「いつも話を聞いて貰ってばかりですね。」 「京太郎君のお話を聞けるのなら構いませんわ。」 「今日、衣さんにオカルト打ちに関して話したんですが。」 「衣と、ですか。」 「ええ、龍門渕さんは衣さんの事をご存知で?」 「知っていますわ、衣のご両親のことも含めて。」 「へー、親しい間柄なんですね。」 「ええ、そうですわ。」 「それでオカルトがどうしたのかしら?」 「部活で打ってるときにオカルトの力が出たらしいんですが、いまいち出る条件がわからなくて。」 「そうですわね……」 「前に私の言った事を覚えていらっしゃるかしら?」 「えーと『頭を氷のように冷やす』でしたっけ?」 「そうですわ。」 「氷のように冷えた頭ならオカルトに関して何かわかりますわ。」 「ただし、これだけは守って欲しいですわ……」 「なんでしょう?」 「心だけは氷のように冷やさないで。」 「自分もそして周りも辛いことになりますわ……」 「何かよく分からないけど、分かりました。」 「うふふ、変なお返事ですこと。」 ふと昨日、話したことが気になった。 この事を聞くのは無神経な事だということは自分でも分かっている。 「ところで龍門渕さん、子供が居るって言ってましたけど……」 「今でも昨日の事の様に思い出せますわ。」 「その子が生まれた日の事を……」 「何で会わないんですか……」 「正直、会わせる顔なんてありませんの、我が子を残して去った母親なんて……」 「……その子ももう、私の顔など覚えてないと思いますわ。」 「…………」 憂いを帯びたその顔を見て俺は…… 何も言えなかった。 この人がどんな気持ちで過ごしてきたのか想像も付かなかった。 ただ、月明かりのように冷たい悲しみの感触だけが伝わってきた…… 「さぁ、京太郎君、良い子はもう寝る時間ですわよ。」 「あの!」 「あの……上手く言えないけど、きっとそのお子さんも貴女に会いたいと思っていますよ。」 「……ありがとう、京太郎君。」 「それではお休みなさい。」 「お休みなさい。」 自室に戻った俺はベッドの横たわる。 今日起きた出来事を整理する。 転校初日のこと。 部活のこと。 麻雀のこと。 オカルトのこと。 そして龍門渕さんのこと。 今日は色々有って疲れた、早く寝よう。 そう思ってたが、何か体の調子が優れなかった。 そのまま一人、部屋で休んでいたが眩暈がする。 それに続き、突如腹部からの激痛に襲われ、その場で蹲ってしまった。 下腹部が熱い。 脚を伝う液体の感触。 一体何が流れているんだ…… 体に力が入らない。 誰か助けを呼ぼうにも、痛みの余り声も出ない。 そして俺は痛みに耐えかねて意識を手放した。 さっきの部屋だ…… ただ自分の体に違和感がある。 異様にお腹が出っ張っている。 自分の足元すら見えないくらいに。 そういえば妹はつい先日無事赤ちゃんを出産しました。 生まれた子供の名前は確か『衣』という名前になりましたわ。 妊娠が発覚した時期が一緒なので二人して大喜びしていましたわね。 ということはそろそろ私も陣痛が来てもおかしくありませんわね…… そんな事をハギヨシと夫に話しながら笑っていたら。 突如腹痛に見舞われる。 とても痛く、額に脂汗をかくのがわかる。 そんな様子をみてハギヨシが車の手配をして。 夫は私の身を案じる。 その内に産婦人科に着き、分娩室に入った。 「龍門渕さん!吸って吸って吐いてー!」 「ひっひっふー!」 「吸ってー!はい息んで!」 「うううぅぅんんんあああぁぁあ!!」 「もう少しですよ龍門渕さん!赤ちゃんの頭が見えましたよ!」 「龍門渕さんもう一度!吸って吸って吐いてー!」 「ひっひっふー!」 「ひっひっふー!」 「はい息んで!」 「あああぁぁぁあぁぁあぁ!!」 ……ギャーオギャーオギャー 「無事生まれましたよ!龍門渕さん!」 「可愛い女の子です!」 「ああ、ああ、私の赤ちゃん……」 助産婦さんに我が子を渡してもらった時。 産む時の痛みなど気にならないほどの幸福感があった。 愛しい我が子を抱きながら、『こんにちは』と言う。 産まれて来てくれて、ありがとう。 可愛い可愛い、私の赤ちゃん。 京太郎「うわ!?」 全身にかいた寝汗が気持ち悪い。 最近変な夢ばかり見るな…… ここへ来たのが何か関係しているのだろうか? それからそれなりに時間が経った日。 京太郎「…………」タンッ パキパキ 純「京太郎から鳴けねー……」 衣「衣の特訓のおかげだな。」フフン 一「打牌が凍りついて卓から離れないん感じだよね。」 衣「まさにすが(河に張った氷)だな。」 京太郎「一応ですが今はもう須賀じゃないですけどね。」 智紀「長野なのに東北弁……」 扉が開き、出てきた透華さんが声を張る。 透華「みんな!明日清澄の応援に行きますわよ!」 一「また急だね。」 純「おいおい、学校はいいのかよ?」 透華「問題ありませんわ、部活動の一環として行きますもの。」 一「いいのかなー?」 透華「いいんですわ。」 京太郎「応援ですか。」 透華「京太郎も原村和や宮永咲のことが気になるんじゃなくて?」 京太郎「そうですね、俺もあいつらのこと応援したいです。」 咲は元気にやってるだろうか。 危なっかしいあいつが少し気になる。 いつものような夜に、 いつものような庭で、 いつもの人が待っている。 「こんばんは。」 「こんばんは。」 「俺たち明日から東京に行く事になりました。」 「そうですか、もうそんな時期なんですのね、少し寂しくなりますわ。」 「インターハイが終わったら直ぐに帰ってきます。」 「そしたらまたこうして話せますよ。」 「そうですわね……」 龍門渕さんは少し寂しそうな顔をしたあと、真剣な眼差しを俺に向けた。 「京太郎君、私が前に言いました「心だけは冷やさない」という言葉覚えていますか?」 「ええ、冷やすのは頭だけですよね。」 「この先、何が起こっても心だけは氷のように冷やさないで、そして心を氷で閉ざさないで。」 「辛い時は家族に頼ると良いですわ。」 「わ、わかりました。」 龍門渕さんの真剣な表情に気圧され、意味も分からず返事をした。 龍門渕さんが再び穏やかな表情に戻った後、いつもの優しい声で話す。 「明日は東京なのでしょう、でしたら早目に寝ませんとね。」 「あ、はい、おやすみなさい。」 「おやすみなさい、良い夜を。」 挨拶をして別れたあと、自室に戻ってベッドに寝転がる。 京太郎「辛い時は家族に頼れ、か……」 京太郎「そういえば母さん今何やってるんだろう?」 携帯電話を開き、母親にメールを打つ。 《明日から友達の応援の為、東京に行って来る。母さんの方は仕事とかどんな感じ?》 京太郎「簡単だけどこんな感じで良いか。」 明日から東京に行くのか、咲は頑張れるだろうか。 東京のお姉さんと無事仲直り出来ればいいのだが…… 明日は早目に起きよう。 続き
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前話 次話 恒子「お前ら待ってたかー!大将戦の実況の福与恒子とご存じアラフォーが来たぞー!!」 健夜「アラサーだよ!というかいきなり何言ってるの!?」 恒子「なんか言うべきかなーって」 健夜「もう……ええと、解説の小鍛冶健夜です」 恒子「元世界第2位のアラフォー」 健夜「アラサーだって!」 恒子「はい、えー、大将戦を前にしてこうなってます」 1位白糸台2264 2位清澄1892 3位臨海1305 4位阿知賀900 健夜「白糸台はさすがですね。準決勝では弱点を突かれたのか油断したのか2位でしたけど、決勝では圧倒的な実力で1位をキープ」 健夜「それを追う各校。特に清澄が迫っていますね」 恒子「臨海と阿知賀も頑張っているよね?」 健夜「うん。でもどうしても白糸台との差が縮まらない。それがここまで」 恒子「てことは?」 健夜「大将戦でここまで変わらなかった順位が変化するかもしれません」 恒子「ほほう……女の勘、もといアラフォーの勘だね」 健夜「アラサー!今回いつもより多くない!?」 誠子「ただいま戻りました」 淡「お疲れさまでーす。今回はハンデ無しかー」 誠子「お前はまた……とりあえず汚名返上ってことで」 尭深「お疲れ様」 菫「ああ、よくやってくれた。で、淡」 淡「はーい」 菫「お前阿知賀ばかり意識するなよ?」 淡「……そんなことないですよ?」 菫「こっち見て言え」 照「……大将戦」 淡「テルー?」 照「ん……淡ファイト」 淡「うんっ!」 照「そして……気を付けてね」 淡「もっちろん!高鴨穏乃、今度こそ100回倒す!!」 菫「阿知賀はいいから他にも気を付けろよ……」 照(咲……京ちゃん……) 灼「ごめん……あんまり差縮められなかった……」 晴絵「灼……」 灼「私……」 穏乃「灼さんお疲れ様です!!」 灼「し、穏乃?」 穏乃「後は私がなんとかしてきます!」 灼「いや、なんとかって…」 穏乃「うおおおお!!燃えてきたあああ!!」 憧「少しは静かにしろ!」ベシッ 穏乃「あたっ!もーいいじゃん、逆境って燃えるし」 玄「穏乃ちゃんはいつも燃えてるよね」 宥「あったかい?」 穏乃「まだ負けた訳じゃないですし!行ってきます!!」 憧「ジャージで行くなっつったでしょ!!ほら、着替えた着替えた!」 穏乃「えー……ジャージの方がいいのに」 憧「ジャージで全国決勝大将戦なんて聞いたことないわ!」 灼「っぷ、あはははは!」 玄「灼ちゃん?」 灼「……悩んでるのが馬鹿らしくなってきた」 晴絵「……そうだな」 灼「……穏乃」 穏乃「はい!」 灼「まかせたよ」 穏乃「はい!!よーし!行くぞー!!」 憧「ちゃんと制服着ていきなさいって!!」 宥「ふふっ。あったか~い」 ダヴァン「……日本は強かったデス」 智葉「おい、こいつのラーメン持ってけ」 明華「はーい」 ハオ「何日分かなー」 ダヴァン「酷い!私に死ねト!?」 智葉「なんで麻雀よりも必死なんだお前……冗談だからな」 ダヴァン「サトハの冗談は笑えまセン……」 ネリー「じゃーネリーがばばーんと逆転してくるねー」 智葉「おう……しかし、全国大会の決勝、それも大将戦が全員1年生とはね」 明華「何か問題でも?」 智葉「いや……何が起こってもおかしくないよな」 ハオ「?」 ネリー「よく分かんないけど、行ってくるねー」 久「お疲れ様、よくやってくれたわ」 和「もう少し頑張れればよかったんですが……」 まこ「あんまり言うなって。1年生がよーやったわ」 優希「そうだじぇ!それに、おっぱいならのどちゃんが圧勝だったじぇ!」 久「そりゃー永水でも呼ばなきゃ勝てないわー」 和「もう優希!部長まで!」 まこ「うーん、わしら全員分でも足りなんか」 和「染谷先輩まで……あれ?咲さんと、こんな時真っ先に反応する須賀くんは?」 久「ああ、須賀くんは咲を対局室まで送らせたわ」 まこ「今までの会場でも迷っとったんじゃ。まず今回も迷うじゃろ」 優希「京太郎なら大丈夫だからな!」 咲「……ねぇ京ちゃん」 京太郎「うん?」 咲「えっと……私が方向音痴だってのはもう認めるからさ……」 京太郎「……まだ認めてなかったのか」 咲「それはいいよ!……手、繋いだまま対局室まで行くの?」手繋ぎ 京太郎「……咲だしなぁ」手繋ぎ 咲「私、そこまでじゃ…」 京太郎「中学の修学旅行で隣にいた咲が消えたのはさすがに驚いたなぁ……」 咲「あ、アレはお店からいい匂いがしたから……」 京太郎「このまま行くぞ」 咲「……はい」 咲(やっとお姉ちゃんのとことだけどお姉ちゃんじゃない……) 咲(でも、部長に和ちゃん、それにみんなが勝ちたいって言ってた) 咲(私は……どうしたいんだろ) 咲「……ねぇ京ちゃん」 京太郎「うん?」 咲「京ちゃんは……清澄が優勝したら嬉しい?」 京太郎「はぁ?当然だろ?」 咲「そうだよね……」 京太郎「それに、咲が勝つってのが嬉しいな」 咲「え?」 京太郎「まさかちんちくりんの幼馴染が全国決勝で大将をまかせられるなんて……感慨深いなぁ」 咲「……ちんちくりんじゃないもん」 京太郎「……それに、よくは分からないけど照さんと本気でやるって言ってたろ?」 京太郎「そりゃ照さんと直接対決って訳じゃないし……なんか上手く言えねーけど、お前が勝つ方が俺は嬉しい」 京太郎「ああもうなんだろ……とにかく俺はお前を応援するし、お前の味方だ!どうだ!?」 咲「……ぷっ、どうだって……あはははは!京ちゃん何言ってるか分かんないよ」 京太郎「う、うるせー!とにかく、お前は全力でやって、楽しめばいいんだよ!」 京太郎「県大会の決勝でも言ってたろ?楽しいって。もうそれでいいよ。ごちゃごちゃ言うのは性に合わない」 咲(なんかいろいろぐるぐる考えて、悩んでたのがどうでもいいやってなったな……) 咲「ふふふ。そうだね……全力で楽しんでくるよ!」 咲が+-0を止めました 恒子『さあ、選手が全員揃ったー!』 健夜『アレ?今宮永選手、男子に手を引かれて対局室まで来てなかった?』 恒子『アラフォーの嫉妬?』 健夜『アラサー!!』 恒子『あ、試合開始』 健夜『軽いよ!?』 淡(今回は最初っから全力!) 咲(これって……) ネリー(話は聞いてたけど面倒だよー) 穏乃(うーん……配牌をどうこうするとかできないし……) 淡「カン!」 穏乃(え!?最初から!?) 淡「ロン!」 淡(100回……100回分倒す!!) 咲(う……なんか衣ちゃんとやってた時みたい……) ネリー(金髪が強いよ……) 穏乃(うおおおお……なんかやばい!) 淡「ツモ!」 淡(あはっ!なんか絶好調じゃん!!) 恒子『前半戦終了!王者白糸台の1年生、大星淡選手が大活躍!!』 健夜『すごいですね……準決勝ではなんと言うか、油断していたように見えましたけど、今回はそれが無い』 健夜『去年の天江選手や、宮永照選手ほどじゃないですが、彼女もかなり点を稼ぎますね』 恒子『うん……さすがアラサー』 健夜『アラサー…合ってるよ!今なんで脈絡無く言ったの!?』 淡「たっだいまー!!どう!?」 誠子「あ、あぁ……お前、すごいな……」 淡「でしょー!?」 菫「ああ。今回は油断していないみたいだな」 淡「決勝だし、出し惜しみ無しです!」 尭深「でも……準決勝では後半戦から……」 淡「大丈夫」 照「……淡?」 淡「後半戦だろうとなんだろうと……負けないから」ゴッ 照(淡がここまで本気になるなんて……) 菫「普段からここまでやる気ならいいんだがな……頼むぞ」 淡「はーい」 穏乃「うわーやばいやばい!大星さん最初から全開だよ!」 宥「お、落ち着いて……」 穏乃「というか何気に宮永さんもすごいね!あとあの……名前長い子も!」 灼「……大丈夫?」 穏乃「うおおおおおお!!また燃えてきたあああああ!!」 玄「し、穏乃ちゃん?」 穏乃「いやーもうなんかすごい!!」 憧「おいおい……うち圧倒的に負けてるのよ?」 晴絵「……シズ?」 穏乃「はい?」 晴絵「楽しい?」 穏乃「すっごい楽しいです!ああもう後半楽しみすぎる!」 憧「あたしの制服で暴れるなっ!」 晴絵「そっか……最後まで楽しんできな!」 穏乃「はいっ!!」 ネリー「サトハー、アレ貸して」 智葉「いきなりなんだ」 ハオ「……眼鏡?」 ネリー「違う」 明華「サラシ?」 ネリー「……巻くほど無いよ」 ダヴァン「ドス?」 智葉「メグ、ちょっと来い」 ダヴァン「冗談ですカラ!!」 ネリー「それそれ」 ハオ「それなの!?」 智葉「そもそも持ってねーよ」 ネリー「うーん……金髪とか短髪が強いからサトハの力を借りたかったのに……」 智葉「貸し出せるものじゃないだろ……後半、いけるか?」 ネリー「最後までやってみるよー」 ネリー「……負ける気はないしね」 和「……オカルト合戦ですか」 優希「じぇー……私の時並みにやばくね?」 まこ「どうするんじゃ久?」 久「大丈夫よ」 まこ「あん?」 久「ちょっとした秘策を送ったから」 咲(お姉ちゃんとこの大将さん、思ってた以上だったな……) 咲(ちょっと差広がっちゃったし……どうしよ) 咲(そういえば……部長が休憩の時に秘策を送るから対局室から出るなって言ってたけど……なんだろ?) 京太郎「おーい、咲ー」 咲「京ちゃん?」 京太郎「えっと……」 京太郎(確か部長がこう言えばいいって言ってたな……) 京太郎「どんな事になっても、最後まで見てるから」 咲「……うん」 京太郎「全力で楽しんで来いよ」 咲「……勝てないかもしれないよ?」 京太郎「どんな事になってもって言ったろ?いいんだよ。お前の味方だって言ったし」 咲「京ちゃん……」 咲(本当に……来て欲しい時に、来てくれるんだなぁ……) 京太郎「ああ、じゃあ優勝したくなることも言ってやるよ」 咲「へ?」 京太郎「優勝したら、お前の言うこと何でも聞いてやるよ」 咲「…………え?」 京太郎「あ、こっちだけだったかな……まぁいいや。どうだ?」 咲「……約束だからね?」 京太郎「?お、おう!」 咲「破ったら……ええと、泣くよ?」 京太郎「泣くよって……あはは!それはないだろ?」 咲「い、いいの!とにかく約束だから!」 京太郎「はいはい。了解しましたよお姫様」 咲(なんでも……なんでもかぁ。何しよっかな) 咲(手を繋いでデート?あ、恋人繋ぎとかいいかな!それから膝枕とかも……よし!とにかく頑張ろう!!) 咲(これ……カンできない……) ネリー(むむむ……やっぱり借りた方がよかったかな) 穏乃(よし、配牌はまともだ!) 淡(……準決勝みたいにいくと思ってんの?) 淡「ロン!」 穏乃「……え?」 淡(100回、倒す!!) 穏乃(最後だけど、まだ諦めない!限りなく0に近い可能性だけど、それを目指すのが楽しい!!) ネリー(素直に負ける気は無いし……全力だよ!) 淡(うっわ凄い!こんなに差があるのに諦めてないとか!本当に冗談みたいな勝ち方しかないのに全員諦めないとか…) 淡(みんな、この3人みんなイケてんじゃん!!) 咲「……カン!」 淡・穏乃・ネリー「!」 淡(テルーの妹……アンタが一番イケてるよ!) 淡(でも、最後まで私が和了る!) 咲(……楽しいよ、京ちゃん) 咲(そういえば……県大会の決勝もこんなだったね) 咲(うん……最後まで、楽しむよ!) 咲「もいっこカン!」 咲(嶺上……) 咲(……ならず……か) 淡「ツモ!」 大将戦結果 1位白糸台2264+713=2977 2位清澄1892+648=2540 3位臨海1305+55=1360 4位阿知賀900+35=935 恒子『し、試合終了ー!!優勝は、白糸台高校ー!!!』 前話 次話 名前 コメント
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http //hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1362270655/ 優希「それでは再会を祝して乾杯ー!」ゴクッ 京太郎「乾杯!」ゴクッ 咲「かんぱーい」ゴクッ 和「乾杯です」ゴクッ 京太郎「ぷはあっ! いやあ、まさにこの一杯の為に生きてるってやつだな!」 優希「京太郎、親父臭い」 京太郎「んだと、このやろー!」 優希「おおっ、やるか、こらー!」 和「クスクス……ゆーき、せっかくの席なんだから喧嘩はいけませんよ?」 優希「うっ」 京太郎「やーいやーい、怒られてやんの!」 咲「京ちゃんもだよ! 久しぶりに当時の清澄高校一年生部員で集まったって言っても、もう大人なんだから少しは落ち着きなよ」 京太郎「ぐっ」 和「いくら顔馴染みだけの集まりとはいえ、皆それなりに知名度もありますからね…… 同じ麻雀の世界にいるのになかなか会えないのはちょっと寂しいですけど」 咲「最後にあったのは……3ヶ月前の京ちゃん達の結婚式だっけ?」 京太郎「そうだったな。 それにしても、もうあれから3ヶ月も経つのか……まだついこの前ような気もするぜ」 優希「うふふ、ラブラブで毎日が楽しいから時間が経つのが早いんだよな、あなた♪」 京太郎「そうじゃなくて誰かさんのお守りに忙しくて時間の間隔がおかしくなってんだよ、奥さん!」 優希「なにを!」 京太郎「なんだよ、このやろ!」 和「もう、だから2人共……」 咲「まあまあ、もう2人は放っておこうよ和ちゃん」 和「……そうですね。 夫婦喧嘩は犬も食わないと言いますし」 咲「と言うより、2人からしたらこんなの喧嘩の内に入らないんじゃないかな?」 優希「むきー!」 京太郎「ぐぬぬ……!」 和「確かに、笑ってますね2人共」 咲「仲がよくて羨ましいよね。 私もいつかはあんな風にじゃれあってみたいなあ……ね、和ちゃん」チラッ 和「えっ!? いや、しかし私は……」 咲「むう……いいよ、未だに手すらまともに繋げない和ちゃんにそういうのを期待した私がバカでした」ツーン 和「さ、咲さぁん」 優希「修羅場か?」ムニー 京太郎「痴話喧嘩じゃね?」ムニー ―― 京太郎「えーっと何の話してたんだっけ?」 咲「4人でなかなか会えないよねーって話と和ちゃんがヘタレって話だよ」 和「咲さん!?」ガーン 京太郎「まあ和がヘタレなのは置いといて……確かに結婚して 地元の俺と優希、東京の咲と和で一緒に会える事はほとんどないよな」 和「須賀君まで!?」ガガーン 優希「咲ちゃんものどちゃんも東京のチームで活躍するプロ雀士だからなー。 テレビでもしょっちゅう紹介されてる……のどちゃんはヘタレだけど」 和「もう関係ないじゃないですか!」 優希「でも咲ちゃん達はすごいよなー、この前とうとうプロ麻雀せんべいのカードになったって聞いたし」 咲「そういう優希ちゃんだって地元のチームじゃエースだって聞いたよ?」 優希「ふふん、実はこの前【東風の神】という二つ名を頂戴したのだ!」 京太郎「鳴きと高火力を組み合わせた速攻型雀士。 特に東風戦の彼女は誰にも止められない。 今日もタコス片手に点棒の山を築く東風の神……だったか?」 咲「あっ、それこの前優希ちゃんの特集記事が組まれた時の……」 優希「なんだ京太郎、見てないとか言ってたくせにやっぱり私の特集ちゃんと読んでたのか!」 京太郎「まあ、な。 それにしても随分持ち上げられてたよなあ。 その正体が未だに 子供っぽいタコス娘だとわかったらイメージ崩れんじゃねーの?」 優希「むかっ! それはこっちのセリフだ!」 咲「あっ、確かに今の京ちゃんはテレビで見る時と全然違うね」 優希「こんなところ見られたら子供達の夢を壊しちゃうな、【牌のお兄さん】?」 京太郎「……頼むからその名前で呼ばないでくれ」 咲「最初に見た時はビックリしたなー……だって京ちゃんがテレビで 『みんなー、今日も京太郎お兄さんの麻雀教室の時間だよー!』って言ってて……きゅふふ……」プルプル 京太郎「笑うなよ! 瑞原先輩みたいに30過ぎでも頑張ってやってる人だっているんだぞ!」 優希「本人に聞いたらボロボロにされるぞ京太郎……それにしても昔は あんなに弱かった京太郎が今や誰かに麻雀を教える立場……世の中はよくわからないな」 京太郎「まあ、それは俺も正直思う。 麻雀始めたのも高校からな俺が誰かに麻雀を教えられる立場なのかってな」 咲「京ちゃん……」 京太郎「でも、まあ……やってみてわかったけど教えるのってすっげえ楽しいんだ。 あの清澄の皆で行ったインターハイの熱気とか、色んなものを少しでも次の世代が 感じられる手助けが出来てるのかもしれないって思うと……そういうのって最高だろ? だから今の仕事はすごく充実してる」 優希「京太郎……」 京太郎「まっ、俺は結局3年間打ち込んでも自分の手で全国には行けなかったけどな…… そんな奴が何言っても恥ずかしいだけか」 咲「そんな事……」 優希「そ、そんな事ない!」 京太郎「優希?」 優希「魔境長野なんて呼ばれてた私達の世代3年間で、最終的に県大会ベスト4に なれただけでもすごいんだ! 確かに京太郎は全国には行けなかったけど……私はそれを恥ずかしいなんて思わない!」 京太郎「優希……」 優希「私は、あんなに部内の対局で負けても全然折れなかった京太郎が好きなんだ……だからそんな事、言わないで」 京太郎「……ありがとな」ナデナデ 優希「……うん」 咲「うーん、なんだか入り込めない雰囲気だなあ……これが夫婦の絆ってやつなのかな和ちゃん」 咲「和ちゃん?」 和「私はヘタレなんかじゃないのに……いいじゃないですか、未だに私から手繋げなくても、キ、キ、キスできなくても……」 咲「まだ落ち込んでたんだ……ごめんね和ちゃん」ナデナデ ―― 咲「そういえば……ねぇねぇ京ちゃん」 京太郎「ん?」 咲「京ちゃん達は子供とかどうするの?」 京太郎「ぶっ!?」 優希「んぐっ!?」 和「さ、咲さん! いきなりなんてことを言い出すんですか!」 咲「えっ、でも2人は結婚したんだし別におかしいこと言ってないよね?」 和「そ、それはそうですけど……」 京太郎「子供、子供かぁ……」 咲「あれ、あんまり乗り気じゃないの?」 優希「……私はいつでも構わないけど」 京太郎「まだそんなに安定してないからなあ……俺も優希も忙しいし そんな状態で子供の面倒ちゃんと見てやれる気がしないんだよ」 和「確かにゆーきも須賀君も大会やら何やらで忙しそうですね……」 京太郎「それでも2人の時間は取れるだけマシなんだけどな……だからもう少し落ち着くまでは俺は子供を作る気はないな」 咲「そっか……」 京太郎「……産まれたら優希似のすごい可愛い子なんだろうけどな」 優希「んうっ!?」 和「ゆ、ゆーき大丈夫ですか!? はいお水です!」 優希「んくっ、んくっ……はあはあ、喉詰まらせて死ぬかと思った……おい京太郎!」 京太郎「なんだよ」 優希「い、今のはいくらなんでも恥ずかしすぎるぞ! だいたい、それを言うなら……」 優希「京太郎に似てかっこいい子の間違いだろ!」 咲「うわあ」 和「2人共完全に出来上がってますね……」 京太郎「なんだとぉ、そんなわけないだろー。 最近の出生率を考えたら優希に似た可愛い可愛い女の子に決まってらあ!」 優希「それはIPS細胞での出生が増えたからだろー! 京太郎と私の子供なら京太郎に似てかっこいい男の子が産まれるに決まってる!」 京太郎「女の子!」 優希「男の子!」 咲「……もういっそ2人産んだらどうかな?」 和「双子という手もありますよ」 京太郎・優希「それだ!」 ―― 京太郎「……」 優希「……」 咲「黙っちゃったね」 和「2人共、自分達がどれだけ恥ずかしい発言をしたのか理解したんでしょうね」 京太郎「……」チラッ 優希「……」チラッ 咲「なんだろう。 すごくカンしたい気分だよ」 和「お、落ち着いてください、咲さん」 咲「むむむ」 京太郎「……そ、そういえば」 咲「なにかな京ちゃん、子供の名前でも決まった?」 京太郎「」 和「私もさっきのお返しに同じ話題をぶつけましょうか……ねぇ、ゆーき」 優希「の、のどちゃんが怖い……」 京太郎「そ、そうじゃなくて! 咲と和は付き合ってるんだろ?」 咲「そうだけど」 京太郎「い、いつになったら結婚とかするつもりだ?」 和「はいっ!?」 咲「……」 優希「そ、そうだそうだ! もう同棲してるんだし結婚しててもおかしくないな!」 咲「……」 和「え、えっと、あの、その」 京太郎「まさか世間体とか言い出さないよな? 同性婚が認められてそれなりに経つんだぜ?」 優希「そうだぞ、のどちゃん。 部長なんて染谷先輩と風越のキャプテンから同時にプロポーズされて困ってるらしいし」 京太郎「なんだそりゃ、竹井部長そんな事になってんのか?」 優希「うん、付き合ってもいないのにプロポーズされても困るのよねー……って苦笑いしてた」 京太郎「そりゃ困るわ……」 咲「……私は」 和「」ビクッ 咲「私は、別に結婚できなくてもいいよ」 和「えっ……」 京太郎「咲!? お前何を……」 咲「そりゃあ、ね。 そうなれたらいいなーとは思うよ?」 優希「だったら!」 咲「だけど和ちゃんにそれを求めるのが酷なのもわかってるつもり…… 未だに和ちゃんの両親に私がよく思われてないのもね。 だからこのままでいいの。 今だって私は十分幸せなんだから下手に波風立てたくない……もう、大切な人を失うなんて嫌だよ……」 優希「咲ちゃん……」 和「……」 咲「……ごめん、ちょっとトイレ行ってくるね!」 京太郎「咲! おい、和……いいのか、咲にここまで言わせておいてだんまりなんて」 和「……」 優希「私もそう思うぞ、のどちゃん。 最終的には当人同士の問題だけど今の咲ちゃんは見てて痛々しい……泣いてないのが不思議なくらいだった」 和「私、は……」 ―― 優希「きゅう……」 京太郎「全く、飲み過ぎでダウンしやがって……よいしょっと」 咲「あはは、優希ちゃんハイペースだったからね」 和「……」 京太郎「4人で集まれたもんだからテンション上がっちまったんだろうな……しょうがない奥さんだよ」 咲「京ちゃん、そんな事言ってるけど本当はそんな優希ちゃんが好きなんだよね?」 京太郎「……まあな。 たまには風に当たるのも悪くないし俺達歩いて帰るわ」 咲「んふふー、頑張って家まで背負ってあげなよ京ちゃん? じゃあ、私達はタクシー捕まえたいからこっち……ここでお別れだね」 京太郎「おう。 今日は楽しかったぜ咲、和」 咲「私も楽しかったよー。 ねっ、和ちゃん?」 和「あっ、はい……」 京太郎「そりゃあ良かった。 じゃあまたいつか会おうぜ2人共!」 咲「うん! 京ちゃん達も末永くお幸せにー!」 京太郎「もちろんだー!」 咲「ふう……じゃあ私達も少し歩いてから帰ろっか和ちゃん」 和「はい」 咲「綺麗な星空だね」 和「そうですね……東京だとあまり星なんて見られませんから余計にそう感じます」 咲「見てる余裕もあんまりないからね……やっぱり地元は落ち着くよ」 和「咲さん……」 咲「どうしたの、和ちゃん?」 和「……いえ、なんでもありません」 咲「ふふっ、変な和ちゃん」 和「……」 咲「……」 和「……あの」 咲「なぁに?」 和「手、繋ぎませんか?」 咲「うん、いいよ」ギュッ 和「あ……」 和(私が決死の想いで伝えた事をあなたはこんなにもあっさりと……) 咲「えへへ、和ちゃんの手あったかいね」 和「……///」 和(おまけにこんな言葉までセットで……咲さんにはかないません) 咲「嬉しいなあ」 和「えっ」 咲「いつもは私から手を繋ごうって言うから……今日和ちゃんから言ってくれて本当に嬉しいの」 和「……!」 和(こんな些細な事でここまで喜んで……私が、そうさせてしまったんですか?) 咲「あはは、私も酔っちゃったのかな? なんだか頭がフワフワしちゃってるや」 和「……」 咲「そんなに飲んではいないはずなんだけどなあ……」 和「咲、さん!」 咲「今度はなにかな、和ちゃ……」 チュッ…… 咲「……へ?」 和「あ、う、その……」 和(寸前で恥ずかしくなって唇じゃなくて頬にキスしてしまいました……ああもう、私ったら何をしてるんですか……!) 和「あ、あの咲さん……」 咲「……」ポロポロ 和「!?」 和(さ、咲さんが泣いてる!? ま、まさか嫌だったんですか? それとも土壇場で怖じ気づいた私に情けなくなったとか……) 咲「和、ちゃん」 和「は、はいぃ……!」 咲「ありがとう……」 和「……はい?」 咲「それとごめんなさい、さっきちょっと嘘ついちゃった」 和「嘘?」 咲「うん……私が結婚しなくていいってあの時言った理由は本当はたいした事じゃなかったの」 和「それ、どういう……」 咲「本当は私ね、正直わからなくなってたの……和ちゃんは本当に私が好きなのかなって」 和「えっ……!?」 咲「だって和ちゃん、私から言わないと何もしてくれないし、 私が何かしても反応悪いし、付き合ってから一度も……好きって言ってくれなかったし」 和「あ……」 和(ああ、なんという事ですか……私、そんな簡単な事すらしてなかった…… そのせいで咲さんをこんなに不安にさせて……最悪、です) 咲「だから嬉しい……今日は和ちゃんから手を繋いでくれた、 和ちゃんがキスしてくれた……私の事を好きだって表してくれたのが本当に、嬉しいよ……」 和「っ、咲さん!」ギュッ 咲「和ちゃん……」 和「好き、です……告白したあの日から変わらず……いいえ、今はそれ以上に咲さんが好きなんです……!」 咲「あ……」 和「ごめんなさい……私は自分の気持ちすらちゃんと伝えようとしてませんでした……本当にごめんなさい……!」 咲「あはは、なんだろう……私夢でも見てるのかな? あんなにこうなったらいいなって思ってた事が1日でいっぱい叶っちゃった……ぐすっ」 和「夢じゃありません、夢なんかにしてたまるものですか! それにこんなのまだまだ序の口なんです、これからはもっとたくさん私の気持ち伝えますから……」 咲「うん……和ちゃん」 和「なんですか?」 咲「大好きだよ」 和「私も大好き、です……」 ―― 京太郎「……で、いつまで潰れたふりしてるつもりだ優希」 優希「んっ……」 京太郎「2人きりにしてやりたいからって下手くそな芝居打つか普通」 優希「しょうがないだろ、他に思いつかなかったんだから……もうおろしてもいいぞ京太郎」 京太郎「……いや、このままでいい。 たまにはこういうのもいいからな」 優希「そうか……じゃあお言葉に甘えるじぇ」 京太郎「……」 優希「どうしたの?」 京太郎「いや、その口調久々に聞いたから」 優希「ああ……そういえば私、いつの間にか普通に喋ってたっけ」 京太郎「嫌いじゃなかったんだ、お前のその喋り方。 久しぶりに聞けてちょっと嬉しいかも」 優希「そ、そうなのか? 私京太郎に振り向いてもらえないの、この喋り方のせいもあると思って必死に直したのに……」 京太郎「……いつの間にか普通になったんじゃなかったのか?」 優希「あっ……」 京太郎「なるほどなあ、俺の嫁さんは意外に努力家だったと」 優希「う、うるさいうるさいうるさい!///」ポカポカ 京太郎「いてて……」 優希「……」ギュッ 京太郎「優希?」 優希「京太郎、咲ちゃん達大丈夫かな?」 京太郎「……」 優希「2人共大切な友達だからどうしても気になっちゃう……大丈夫だってわかってるはずなのにどこかで不安でもあるんだ」 京太郎「なるほどね……でも大丈夫だと思うぜ」 優希「どうして?」 京太郎「根拠なんかないさ。 ただあいつらがダメになるのが想像できないってだけだ」 優希「なんだそれ?」 京太郎「なんなんだろうな?」 優希「……京太郎は単純過ぎるじぇ」 京太郎「ははっ、確かにな」 優希「でも……京太郎の言葉なら信用できるから不思議だな」 京太郎「お互いに単純ってわけか?」 優希「そうなのかもしれない」 京太郎「じゃあお似合いってわけだ」 優希「っ……うん///」 京太郎「そうかそうか……おっ、流れ星」 優希「……」 京太郎「今日も星が綺麗だなー」 優希「京太郎」 京太郎「んー?」 優希「私があの時言ったのは本心だから」 京太郎「……」 優希「京太郎が望めばいつだって、私はいいから」 京太郎「……ああ、その時は俺もフォローするし頑張るよ」 優希「んっ……京太郎、大好き」 京太郎「俺も大好きだよ、優希」 ――1年後 京太郎「優希、優希!」 優希「ドタバタ走るなー! それでどうしたんだ?」 京太郎「届いたぜ、招待状!」 優希「本当か!?」 京太郎「ああ、やっとだよ」 優希「そうかー、のどちゃんもとうとう覚悟を決めたんだな」 京太郎「だからほら、早く出かけようぜ」 優希「えっ、なんで……」 京太郎「おいおい、そんなの決まってんだろ」 ―― 咲「ううっ、ドキドキするなあ……」 和「本当ですね……」 咲「でも、これが私達の門出の第一歩なんだから頑張らないと」 和「はい……咲さん」 咲「な、なに?」 和「愛してます」 咲「……」 和「咲さん?」 咲「不意打ちはやめようよ和ちゃん……」 和「す、すいません」 咲「ううっ、なんか言うことが頭から飛んじゃったよ」 和「だ、大丈夫ですよ、簡単な話ですから」 咲「い、行く前にもう一回復唱しとくよ……こほん」 ※ 京太郎「妊婦でも着れるドレスを買いに行くんだよ!」 ―― 咲「私、宮永咲は原村和さんと結婚します!」 カン!
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http //hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1343982484/ 京太郎「あぁ、あっついな~」 京太郎「風が全くないわけじゃないんだけどな~」 咏「仮に風がなかったとしても流石にこれは暑すぎなんじゃね?」 京太郎「どっか涼しいところにいきたいな~」 咏「そだねぇ……」 咏「どっかに涼しい所とかないかね」 京太郎(そいえば隣町に結構大きいプールが出来たって聞いたような……) 京太郎「あの三尋木プロ……」 咏「どしたい?」 京太郎「プール行きませんか?」 咏「えぇっ!プール!」 咏(プールってことは水着だよね……) 京太郎「いやでした?」 咏「ううん!全然嫌じゃないよ!」 咏「嫌じゃないんだけど……」 咏(私お世辞にもグラマラスって体型じゃないしなぁ……) 咏(まぁどうせいつか行きたいって思ってたし) 咏(結局遅いか早いかの問題だし、まいっか) 咏「まぁいいかな」 京太郎「ほんとですか!」ガタッ 咏(そんなに喜ばれたら悪い気しないしね!) 咏「うん!」 ~~~~~~~~ 京太郎「着いたみたいですけど、結構並んでますね……」 咏「やっぱオープンしたばっかだからじゃね?知らんけど」 京太郎「みたいですね、まぁとりあえずあっち並びますか」 咏「そだね」 ~~~~~~~~~~~ 係員「何名様ですか?」 京太郎「一般二枚d」 咏「中学生一枚と一般一枚!」 係員「分かりました」 係員「入場料は1800円になります」 京太郎「どうも…」 係員「ごゆっくりおたのしみください」 京太郎(三尋木プロのおかげで安付いたな) 咏「安くなってよかったね!」ニコッ 京太郎「そうですけど」 京太郎「てっきりおれは気にしてるんだと思ってましたよ」 咏「なにが?」 京太郎「三尋木プロがその、なんていうか、ちっちゃいのを……」 咏(ウッ…)グサッ 咏「いやぁ~、せっかく小さいんだから利用しないっと勿体無い気がするじゃん?知らんけど」 京太郎「ははっ、そうですよね~」 咏(うぅ……結構気にしてるのに……) 京太郎「やっと中に入れたことですし早速着替えてきますか!」 咏「う、うん、そだね…」 咏(いよいよか……)ゴクリ ~~~~~更衣室~~~~~~ 咏(はぁ……) 咏(ちっちゃいって言われちゃったな……)ガクリ 咏(私だってできるなら瑞原プロみたいないい感じにエロチックな体つきがよかったのに……) 咏(しかも今から水着見せなきゃだし……) 咏(ほんとどうしよ……) ~~~~男子更衣室~~~~ 京太郎(三尋木プロの水着かぁ) 京太郎(どんなんなんだろ?) 京太郎(いつも浴衣姿しか見てない分ワクワクがおしよせてくるぜ!) 京太郎(あぁ~気になって仕方がない) 京太郎(さっさと着替え済ましていくか!) ~~~~~~~~ 京太郎(はやく来すぎたか) 京太郎(待たせるよりはましだし良しとするか……) 咏「お、おまたせ……」オズオズ 京太郎「そんなに待ってないですよ」 京太郎(あれ?) 京太郎「なんでタオル巻いて出てきてるんですか?」 咏(うぅ、人の気も知らないで……) 咏「だって、京太郎くんがその……」 咏「ちっちゃいとかうからっ」/// 京太郎「えっ」 京太郎(やっぱり気にしてたんだ……) 京太郎(さっきはデリカシーのないこと言っちゃったな……) 京太郎「その、すいません」 京太郎「で、でもおれとしてはただでかいだけっていうのよりは」 京太郎「三尋木プロみたいにその……」 咏「??」 京太郎「ちっちゃくてもしまっていてスレンダーな人の方が好きですよ?」 咏「ほんとに?」ウルッ 京太郎(おぉ、これは……) 京太郎(いかんいかん、俺のせいでこんなになってるのに……) 京太郎「もちろんです!」 咏「ちっちゃくてもいいん?」 京太郎「全然大丈夫です!」 咏(ちっちゃくてもいいんた……すっげー安心したわ~)ホッ 咏(でもこのまま許しちゃうのはちょっとなぁ) 咏(こっちとしてはすんごい悩んだわけだし) 咏(なにかやってやらないと気がすまないんだよねぇ……) 咏(むぅ……) 京太郎「急に黙ってどうしたんです?三尋木プロ?」 咏(そうだ!) 京太郎(やっぱりまだ怒ってるかな……) 咏「……だら許してあげる……」 京太郎「えっ?」 咏「だ、だから、私の事名前で呼んでくれたら許してあげるっ!!」/// 咏「前から疑問に思ってたんだよね~」 咏「付き合ってんのに『三尋木プロ』ってのはどうなん?てな具合にさ」 咏「だから、京太郎くんは今日から『三尋木プロ』は禁止ね?」 京太郎「わ、分かりました」 咏「うんうん、じゃあさっそく『咏ちゃん』って呼んでみ?」 京太郎「え? ちゃん、ですか?」 咏「そうそう」 京太郎「年上に流石に年上に『ちゃん』は……『咏さん』なら大丈夫ですけど……」 咏(むぅ、まぁ名前で呼んでもらえればなんでもいっか……) 咏「じゃあそれでもいいよ!」 京太郎「分かりました」 京太郎(『咏さん』かぁ……間違えて『三尋木プロ』って呼んじゃいそうだな……) 咏「」ジー 京太郎「??」 京太郎(あ、そうか) 京太郎「咏さん」 咏「うん!どしたの?」ニコッ 咏(やた、なんか知らんけどやっと名前で呼んでもらえたー!) 京太郎「せっかく遊びに来てるんで早速いきますか?」 咏「そだねっ!」 咏「じゃあ行こうか?」タオルトル 京太郎(おぉ……) 京太郎(みひろ……じゃなくて咏さんはああ言ってたけど) 京太郎(腰とかキュって締まってるし、脚なんかスラッとしてるし) 京太郎(鎖骨も結構くっきり浮き出てたりして) 京太郎(すごい……エロいな……) 咏(京太郎くんなんか知らんけどめっちゃ見てるし) 咏「あの、京太郎くん?」 京太郎「へ?」 咏「そんなにまじまじ見られるとその、恥ずかしい……」/// 京太郎「あっ、すいません!」 京太郎(つい見入ってしまった) 京太郎「綺麗だったんでつい……」 咏「えっ」/// 咏「そんなこと言ってもなにも出ないよ?」/// 京太郎(なんか前もこのやりとりあったな) 咏「」チラッ 京太郎「??」 咏「京太郎くんおなかすいてたりする?」 京太郎(やっぱり何か出た……) 咏「遠慮しなくてもいいよ?なんか知らんけど私いますんごく機嫌いいから!」ニコッ 京太郎(さっきあんなことあっただけにおごってもらうのはな……) 京太郎(そうだ) 京太郎「三尋木プロ」 咏「」ジトッ 京太郎「…じゃなくて、咏さん!」 咏「うん、なに?」 京太郎「流石にご馳走になるのはあれなんで…」 京太郎「あのスライダーでどちらが早くゴールできるかを競って」 京太郎「負けた方が向こうの売店でソフトクリームを二人分買ってくるっていうのはどうですか?」 咏「おっ、それおもしろそうだね♪」 ~~~~~~~~~~ 咏「準備はいい?」 京太郎「オッケーです」 咏「じゃあいくよ?よ~い……」 咏「ドンっ!」 咏「よっ」 京太郎「せいっ!」 ツルっ 京太郎(あいたっ) 京太郎(スタートでミスちまった……) ザバァーン 咏「あはははっ、京太郎くんすんごく遅くね?」 京太郎「くぅ、今日はちょっと調子が悪かっただけですよ……」 京太郎「でもまぁ、勝負は勝負なんでソフトクリーム買ってきますよ……」 咏「まって、私も行くっ!」 京太郎「え?ここで待っててもいいですよ?」 咏「でもほら、せっかく二人で来てるんだし二人で買いに行くほうがよくね?」 京太郎「まぁそうですね、じゃあ二人で行きますか」 咏「うん!」 ~~~~~~~~~~~ 京太郎「咏さんはどれ食べるんですか?」 咏「ん~、私は抹茶かな」 京太郎「じゃあ抹茶と普通のやつひとつずつ」 店員「かしこまりましたただ今お持ちいたします」 ~~~~~~~~~~~ 京太郎「おいしいですか?」 咏「すんごく美味しいよ」 京太郎「それは良かったです」 咏「そっちはどうなん?おいしい?」 京太郎「まぁおいしいですけど……」 咏「そ、そうなんだ……」チラッ 京太郎(食べたそうだな……) 京太郎「ひとくち食べます?」 咏「いいの?」 京太郎「いいですよ」 咏「じゃあお言葉に甘えて」 ペロッ 咏「おぉ、こっちはこっちで美味しいね!」 咏「じゃあお礼ということでこっちのも、ほい」 京太郎「え?」 咏「だからお礼だって、ほれほれ」 京太郎(かわいいな……) 京太郎「じゃあ一口だけ」 ペロッ 京太郎(ふむ、甘さのなかに引き立つ抹茶の芳醇な香りがなんとも……) 京太郎(それに咏さんの食べかけというのもあって……) 咏「どうかな?」 京太郎「すごくおいしいです!」 咏「そっか良かった……」 咏「じゃあささっとソフトクリーム食べちゃって次のところ行こっか」 京太郎「ですね!」 ~~~~~~~~~~~ 京太郎「つぎどこ行きます?」 咏「うんとね、次はあの流れるプールかな」 京太郎「分かりました」 ~~~~~~~~~~ 京太郎「じゃぁ入りますか」 咏「そだね」 咏「京太郎くん先に入っていいよ!」 京太郎「??」 京太郎(プールに先とか後とかあるのか?) 京太郎「じゃあお先に……」 ちゃぽん 咏(ニヤリ……) 咏「とぉっ!」ピョン ダキッ 京太郎「ニャバッち!!」ビクッ 咏「京太郎くん捕まえた!」 咏(にしてもおどろきかたすごいな……) 咏「えへへ、驚いた?」 京太郎「すごく驚きましたよ……」 京太郎(思わず変な声を出してしまった……) 咏「ごめんごめん、でも京太郎くんのこと驚かせたかったし」 京太郎「いや咏さん軽いしいいんですけど……」 京太郎(ってあれ?なんかここ急に流れが……) 京太郎(まずい、バランスがっ!!) 咏「うわっ、あぶなっ」 ザプーーーン ゴポゴポ 京太郎「ぷはぁ」 京太郎「危なかった……ん?、咏さんはどこだ?」 咏「」プカーン 京太郎「あっ、咏さん!」 京太郎(マズイ、とりあえずプールから上げないと……) 咏(おお、このまま浮いてれば京太郎くんが助けてくれて) 咏(そのままじ、人工呼吸とかしてくれるんじゃね?) ~~~~~~~~~~~ 京太郎「咏さん大丈夫ですか!?」 咏「」 京太郎(返事がない、これって結構まずいんじゃ……) 咏(むぅ、人工呼吸まだかな?)チラッ 京太郎(ん?……いま目開かなかったか?) 京太郎「咏さん?」 咏「」チラッ 京太郎(これ、もしかして……) 京太郎「咏さん、おきてますよね?」 咏「え?」 京太郎「起きてるならなんで返事してくれなかったんですか!」 京太郎「本気で心配したんですから……」 咏(あぅ……悪い事しちゃったな) 咏「ご、ごめん……」シュン 京太郎(ぐはっ!、くそぅそんな顔されると怒れなくなる……) 京太郎「まぁ、無事だったからいいんですけど」 京太郎「でも今度からはこういうの止してくださいよ?」 咏「うん……」 咏(でも京太郎くんに人工呼吸して欲しかった……) 京太郎(少し落ち込んじゃったかな?) 京太郎「じゃあ気を取り直して次のとこ行きますか?」 咏「そだね……」シュン ~~~数時間後~~~ 京太郎「ふぅ、結構遊びましたね~」 咏「そだね、久しぶりに遊んだ、って感じだわ」 咏(人工呼吸できなかったのは残念だったけど……) 咏「そろそろ疲れてきたしもう行こっか?」 京太郎「そですね」 ~~~帰り道~~~ 京太郎「今日は楽しかったですね~」 咏(人工呼吸、人工呼吸……) 京太郎「??」 京太郎「咏さん?」 咏「えっ?」 京太郎「今日は楽しかったですね」 咏「あ、うんでもやっぱり人工呼吸が……あっ」 京太郎「え?」 咏(人工呼吸で頭いっぱいだったからつい……) 京太郎(人工呼吸って……) 京太郎(だからあの時……) 京太郎「えっと、なんかすいません……」 咏「京太郎くんは悪くないけどさ……」 咏「でもこっちとしては結構待ってたんだよね?」 京太郎「うぅ、申し訳ない……」 咏(あれ?京太郎くんまで落ち込んでね?知らんけど) 咏(あ、そだ) 咏「じゃあ京太郎くんがひとついうこと聞いてくれたら許してあげよう!」 京太郎「ひとつですか?」 咏「そそ、ひとつだけひとつだけ」 京太郎「で何をすれば?」 咏「うんとね、とりあえず目閉じて」 京太郎「分かりました」メヲトジル 咏「ちゃんととじてる?見えてない?」 京太郎「大丈夫です」 咏「そっかじゃあいくよ?」 京太郎「はい……」 京太郎(一体何されるんだ?) チュウっ 京太郎「っ!」 咏「ん……ふっ」 咏「ぷはっ」 咏「フフフ、これで許してあげる!」/// 京太郎「……」ポカーン 咏「あ、そうそう」 京太郎「??」 咏「私からのキスは京太郎くんからキスしてくれるまでお預けだからね?」 京太郎「え?」 咏「じゃ、そういうことで、がんばってね♪」 京太郎(また不意打ちをくらってしまった……) 京太郎(……) 京太郎(こういうのなら……まいっか……) おしまい!
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http //ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1390033543/ ――7月中旬 教室 7月中旬に差し掛かり、夏休みを期待するあの独特のゆるい雰囲気が学校を包むようになってきた そして今は4限目の授業中 しかし先生のもその空気に当てられたのか、後半はほとんど雑談である 先生「おっ、もうこんな時間か。では授業は終わりにする」 教室を出て行く先生を見送っていると、見知った2人が廊下を歩いているのが見えた その2人はなぜか俺のクラスメイトに話しかけている、何か用だろうか? 「熊倉くーん、お客さんだよー!」 部長「悪いがちょっと来てくれ」 副部長「ごめんね貴重なお昼の時間に」 「え、あれだれ?」 「なんちゅー胸しとるんや、うちへの当てつけか」 「ちっ、女かよ……」 流石我が部の美人二人組み。教室に現れただけでこの騒ぎようだ 京太郎「どうかしたんですか?」 「もしかして、熊倉君の彼女かな?」 「なに!?うちとは遊びやったんかー!」 「俺の方が絶対気持ちよくしてやれるのになあ」 なにやら一部物騒な言葉が聞こえたが、気にしない 部長「時間がもったいないから簡単に説明するな」 部長「実はインターハイに向けて一緒に合宿を行ってくれる高校を探していたんだが…」 副部長「今朝連絡があってね、やっと見つかったのよ」 部長「場所はうちの高校の合宿所を使う予定なんだが、色々買わないといけないものもあるんだ」 あー何だか嫌な予感がするぞ、雑用的な意味で 部長「そこでだ、ここに書いてあるものを買ってきて欲しいんだ」 ほらきたやっぱり 副部長「悪いとは思うんだけど、私たち他にもやらなきゃいけないことがあって…」 部長「重いものもあるから、他の者にも頼めないんだ」 京太郎「それなら宅配便を使えばいいのでは?」 部長「残念だがうちの高校はそこまでお金を出してくれないんだ」 うーむ別に構わないが 部長「だ、ダメか?///」ウワメヅカイ 京太郎「」キュン 副部長「ね、お願い///」ムニュ おおおお、おも、おもちが、あたたたたたたたたたた 京太郎「……」 京太郎「はい!喜んで!!」イケメンスマイル 副部長「ほんとう!?ありがとう!」 京太郎「お二人のためなら何だってしちゃいますよ~」デレデレ ___________ _____________ ___ ふぅー、危うく教室で昇天するとこだったぜ しかし副部長のおもち柔らかかったなぁ、世界文化遺産に指定するべきだよあれは 「「………………」」 アレ?なんだかクラスの様子がおかしいぞ 京太郎「小鍛治ー、昼飯食べようぜ」 小鍛治「……」プイッ あ、あれ、俺なにかしましたっけ? 「熊倉くん、あれはないんじゃないのかな」 京太郎「へっ?」 「小鍛治さんかわいそう…」 「彼女を放置して他の人とイチャイチャするなんて…」 京太郎「い、いや、小鍛治と俺はそんなんじゃ――」 「この、鬼、悪魔、京太郎!」 「胸か!?やっぱり胸が大事なんか!!このケダモノ!!」 京太郎「……」 「彼女と胸、どっちが大切なの!」 「変態!変態ッ!!変態ッッ!!!」 京太郎「……」 京太郎「ちくしょー!さっきから好き勝手言いやがって!だったら俺も言わせてもらうぜ!」 京太郎「貴様ら女子連中はおもちの何たるかを理解していない」 京太郎「おもちはただの脂肪の塊にあらず!!愛なんだよ愛!!愛そのもの!!」 京太郎「それを今から貴様ら凡俗にも分かるように説明してやる!!心して聴けい!!」 京太郎「まずは――」 _________ _____ __ 20分後 京太郎「――というわけだ、分かったかっ!!」クドクド 女子「「……………」」 「小鍛治さん、こんな変態とお昼なんてやめて私たちと一緒に食べよ?」 小鍛治「え、いいの?」 「もちろんだよ、こっち来て」 「なんか近くによると妊娠しちゃいそうだしね」 小鍛治「う、うん、ありがと///」チラ 京太郎「……」 まーたこのパターンか……女子社会はきびしいや 「おー彼女取られちゃったか、ならこっちで俺達と食おうぜ!」 京太郎「だから小鍛治は彼女じゃねーって」 「まー知ってるけどね」 ちくしょう、こいつら 「…でさ、一つ聞きたいことあるんだけどいいか?」 京太郎「おう、なんだ?」 「さっきの胸の感触教えてくれ」 京太郎「しね」 久しぶりに男子と昼飯を食べた。女子からのキツイ眼差しも一緒だったけど ま、でも 小鍛治『そ、そんなんじゃないって!』キャッキャッ 小鍛治が楽しそうだから良しとするか ――7月下旬 合宿初日 夏休みに入り、インターハイに向けて最終調整に入る――合宿だ なにやら相手先は島根県の女子高らしい、遠路はるばるご苦労なこって ちなみにその高校は県の代表校ではないらしいので、練習試合はオッケーだそうだ 副部長「あら、来たわね」 校門前で待っていると、10人ほどの集団が向こうからやってきた 部長「朝酌女子高校の方々ですね、遠いところからはるばるお越しいただきありがとうございます」 「ご丁寧にどうもありがとうございます。3日間ですがどうぞよろしくお願いします」 互いに挨拶している間、他の部員を見てみた とりあえず目に付いたのは3人だ 黒髪ロングの子、金髪のセミロングの子、やや幼い顔立ちの子 特に童顔の子は実にいい…なぜって?おもちが大きいからに決まってるだろう 童顔の子「」ニコッ ゲスなことを考えてると微笑まれた、しにたい ----------------------- 合宿所などの設備の案内が終わり、さっそく合同練習となった まあ実戦形式で打つだけなんですけどね しかし全く知らない人と打つのはなかなか勉強になる そして確実に強くなってることが実感できる もう飛ぶことなんてほとんどないし、隙あらば上位にだって食い込める だけどこんなんじゃ足りない。もっと強くなりたい。誰よりも、もっと、もっと―― 童顔の子「きみけっこう強いんだね」 京太郎「!!」 童顔の子「驚かせちゃったかな?」 京太郎「い、いえ…大丈夫です」 童顔の子「敬語はいいよ、同い年なんだから。ねっ、熊倉京太郎くん」 京太郎「よく覚えてるね」 さっき全体で簡単に自己紹介したのだが…俺はほとんど聞いていませんでした 童顔の子「たった一人の男子部員だったし、なんとなくね」 京太郎「ありがとう」 童顔の子「ふふ、どういたしまして。じゃあ私の名前は?」 京太郎「……ごめん、正直言って忘れてしまいました」 童顔の子「そうだろうと思った。私は朝酌女子高校1年の―」 童顔の子「瑞原はやり、だよ☆」 京太郎「」 京太郎「ほげっ!」 京太郎「……瑞原はやり(28)…さん?」 はやり(16)「なんで敬語なのかな?」 京太郎「あ、間違えた」 京太郎「……瑞原はやり(16)…さん?」 はやり(16)「なんで二回も!?」 京太郎「い、いや…だってねえ?」 確かにそうだ、どことなく雰囲気が瑞原プロに似ている 幼い顔立ちに、その自己主張するおもち…まだ発達段階だけど、間違いない つーかこれって偶然か? どちらにしろ、ここは慎重に対応したほうが良さそうだ はやり(16)「どうしたの?」 京太郎「いや、なんでもないよ。それよりも一緒に打とうぜ」 はやり(16)「うん!」 __________ ______ __ とりあえず今日の練習が終わった。あとは飯食って寝るだけだ 慣れない環境だったせいか思ったより疲れたが、勉強にもなった 小鍛治「おつかれさま」 京太郎「おう、おつかれさま」 小鍛治「えと…さっきさ、朝酌の子としゃべってたけど」 京太郎「ああ、瑞原さん?」 小鍛治「うん…それで、何の話をしてたのかなあって思って」 京太郎「ああ、簡単に自己紹介して一緒に打っただけだよ」 小鍛治「本当に?なんかちょっと…」 京太郎「ん?どうかしたのか」 小鍛治「…いや、なんでもない」シュン 京太郎「?」 小鍛治「それより夜ご飯の準備しよ」 京太郎「お、おう」 少し小鍛治の様子がおかしかったが、その後はいつも通りだった ご飯を食べた後、皆お風呂に入ったが、お約束の覗きなんてしておりません というか俺以外女子のこの環境で覗きがばれたりしたら村八分じゃすまないからね、仕方がない で、今俺達は広間でくつろいでいるのだが、朝酌の子の何人かが俺に話しかけてきた 「ねえ、君。熊倉京太郎くんだっけ?ちょっとお話しようよ」 京太郎「はあ…いいですけど」 「ありがと。それでさ熊倉くんって彼女いるの?」 小鍛治『あわわわわ』ガクガクガク 部員2『どうしたの、すこやんの番だよ?』 京太郎「うぇっ!な、なんですかいきなり!?」 「えー?ほら私たち女子高だからさ、共学の男子ってどうなのかなーって気になって」 京太郎「はぁー、残念ながらいませんよ」 「そうなの!?熊倉くんってけっこうモテそうなのにー、もったいなーい」 京太郎「そうだったら良かったんですけどねえ…」 「じゃあさ、私と付き合ってみる?」 小鍛治『ぶほっ!』ビチャ 部員1『ちょ、きたな!』 京太郎「ほんとですか!」ガタッ 「うそでーす」テヘッ 京太郎「まあ、分かってましたけどね…」 京太郎「伊達に彼女いない歴=年齢じゃないですから」 「あっ、なんかごめん…」 「私は男子の好みとか聞いてみたいな、女子高にいるとそういうの分からないし」 京太郎「そのくらいなら構わないですけど、もうからかうのは無しですよ?」 小鍛治『うぅ…』チラチラ 部員2『すこやんも話しに加わればいいのに…』 ――7月下旬 合宿2日目 今日も昨日に引き続き、朝から麻雀、麻雀、麻雀だ ただ朝酌の子と打つたびに、小鍛治がこちらをジロジロ見てきて少々やりずらかったが… そして午後3時を過ぎ、練習も一通り終わった頃 副部長「ねえ、京太郎くん。悪いんだけどいいかしら?」 京太郎「ええ、なんでしょう?」 副部長「実はね、夜の食材なんだけど思った以上に減りが早くてね。追加の分を買ってきてもらいたいの」 京太郎「いいですよ。でも一人だと流石に持っていけないんで何人か欲しいんですが…」 副部長「そうねえ、だったら――」 小鍛治「ハイ、ハイ!なら私行きます!!」クワッ あれ小鍛治さんいましたっけ!? 副部長「あらそう?ありがとうすこやん」 「そういうことなら、うちのを一人持っていっても構いませんよ」 向こうの部長さんだ 副部長「いいんですか?ありがとうございます」 「おっ!ちょうどいい、瑞原こっちに来てくれ」 はやり「はい、どうかしましたか?」 「食材の買出しに一緒に行って来てもらいたいんだが、いいか?」 はやり「部長の頼みとあらば!」 「そうか、よろしく頼むぞ」 はやり「はい!」 小鍛治「むぅ…」 とりあえず3人で駅前のスーパーに来た というか駅前まで行かないと基本何もないからね、ここらへん はやり「茨城ってけっこう栄えてるんだねー、こんなになってるの初めて見たよ」 京太郎「え、いたって普通だと思うけど」 はやり「そうなの?私の地元だと駅に行くにもひと苦労するくらいだしね」 京太郎「へえー。えっと確か瑞原さんって島根だっけ。島根ってそんなになにも無いの?」 はやり「まあ基本的にはなにも無いかなー、でもその代わり自然はほんとにきれいだけどね」 京太郎「やっぱりそんな感じなんだ」 はやり「そんな感じとは失礼な!」 京太郎「はは、ごめんごめん」 小鍛治「……」 京太郎「……ん?どうした小鍛治さっきから」 小鍛治「なんでもない、さっさと買い物済ませちゃおう!」プイッ 京太郎「あ、ああ」 はやり「……ふーむ、なるほどね」ボソ 買い物を済ませるとかなりの量になったが3人もいれば割と余裕だ 時計を見るとまだ時間に少し余裕がある はやり「まだ時間あるから、あそこのデパート見に行きたいんだけどいいかな?」 京太郎「いいんじゃないか、なあ小鍛治?」 小鍛治「わ、私は別にどっちでも…」ゴニョゴニョ はやり「じゃあ行こう小鍛治さん、ほらっ!」グイッ 小鍛治「わわっ!引っ張らなくていいから!?」 ~服飾店 はやり「どうどう?熊倉くん似合ってるかな?」 京太郎「ああ、なかなかいいんじゃなか」 はやり「ふふ、ありがと」 京太郎「でもそんな服、買うお金なんてあるのか?」 はやり「あるわけないじゃん、いわゆるウインドウショッピングだよ」 京太郎「ウインドウショッピングねえ……楽しいものなのか?」 はやり「熊倉くんは女の子の気持ちがよく分かってないみたいだね……」チラ 小鍛治「……」ハァ 京太郎「?」 はやり「小鍛治さん、こんなのどうかな?」 小鍛治「えっ!わ、私ですか?」 はやり「ほらほら敬語はいいから。きっと似合うよ」 小鍛治「で、でも、私…こんな派手なの着ないし…」 はやり「別に買うわけじゃないんだから、それに熊倉くんも見てみたいでしょ?」 京太郎「おお、まあ見てみたいかな」 小鍛治「そ、そう?//じゃあ着てみようかな…」 しばらくすると… 小鍛治「ど、どうかな///」 京太郎「うーむ」 小鍛治「///」 京太郎「意外と似合ってるんじゃないか」 はやり「うんうん」 小鍛治「意外とは余計だよっ!?」 はやり「じゃあ次はこんなのどう?」 ~雑貨店 ひと通り服を見た後は雑貨店に来た 女の子ってこういうところ好きだよね。男の俺にはよく分からないけど はやり「ねえねえ見てこれ、かわいー」 小鍛治「え、そう。私はこっちの方が好きかな」 はやり「ええー、熊倉くんはどう思う?」 京太郎「どちらともよろしいんではないかと」 はやり「適当だね」 小鍛治「京太郎くんに気の利いたセリフを期待するほうが間違いだよ」 京太郎「ひどい言われよう」 だいたいお店を見終わり、さあ帰ろうということになった エスカレーターで1階まで降りてきたところで、突然瑞原さんが俺に荷物を預けてきた はやり「あー、ちょっと待っててね」モジモジ 京太郎「え、どこ行くんだ?」 小鍛治「ばかっ」バシッ 京太郎「いてっ!何すんだよいきなり!」 小鍛治「さ、このアホは無視して早く行ってきて」 はやり「…ありがとう、小鍛治さん」 そう言うと瑞原さんはどこか行ってしまった 小鍛治「もう!京太郎くんはデリカシーないんだから」 京太郎「デリカシー?……ああ、そういことか」 小鍛治「今度から気をつけてね、まったく」 流石にアレだけじゃわかんねえよ。女子の空気を読む能力は異常 瑞原さんが戻るまでの間、特にすることもないので、周りの店を見回してみる やはりというか…どこのデパートでも同じだと思うが、1階はやはり宝飾品など女性向けのものばかりだ なんで出入り口である1階にこの手のお店を置くのだろう? 男性客が入りづらくなるだけだと思うのは俺だけだろうか? 京太郎「あれ、小鍛治はどこ行った」 くだらないことを考えているうちに小鍛治もどこかに行ってしまった 辺りを見回すと、黒髪の女の子が宝飾品店の品物をじっくりと眺めている 何を見ているのか興味が湧いたので、後ろからこっそり覗いてみる シルバーのチェーンに薄い青と透明の宝石(アクアマリンとダイアモンドか?)があしらわれている シンプルだがなかなか綺麗なネックレスだ。ついでに値段はと…… 京太郎「5万か……ちょっと高いな」ボソ 小鍛治「わっ、いたの!?」 京太郎「いたのとは失礼なやつだな」 小鍛治「ご、ごめん」 京太郎「…小鍛治もこういうの興味あるのか?」 小鍛治「私だって一応女の子だよ!?興味ぐらいあるよ」 京太郎「じゃあ、試着してみれば?」 小鍛治「え……いや、いいや。気に入ったらほんとに欲しくなっちゃうから」 京太郎「ふーん、そんなもんか」 小鍛治「そんなもんだよ」 はやり「ごめんお待たせー」 京太郎「お、来たか。じゃあ、帰ろうぜ」 小鍛治「…うん」 ――7月下旬 合宿最終日 特に問題も無く最終日の練習を終了した 俺はインターハイに出場するわけではないけど、とても実りあるものだったと思う そういや今気付いたけど、俺合宿するの始めてだったんだよな…… 清澄での境遇に比べればここでの俺の扱いは、素晴らしいものといわざる得ない 元の時代に帰ったら部長はロッカーだな 部長「3日間練習にお付き合いいただきありがとうございました」 「いえ、こちらにしてもとてもためになりましたよ」 「インターハイぜひ頑張って下さい」 部長「ありがとうございます、気を付けて帰ってください」 「「ありがとうございましたー!!」」 一通り挨拶が済むと、瑞原さんがこっちにやってきた どうしたのだろう? はやり「熊倉くん、最後にちょっといいかな?」 京太郎「おう、なんだ」 はやり「えーとね…」 はやり「女の子の胸を見るのもいいけど、一番大事な子から目を離したらダメだぞっ☆」 はは、ばれてましたか…恐れ入りました 京太郎「ありがとう、肝に銘じておくよ」 京太郎「ついでに俺からも一ついいか」 はやり「なにかな?」 28になっても語尾に☆をつけることとか、あの年甲斐の無い衣装とか 一人称が「はやり」のこととか、うわ…このプロきついとか… 言いたいことはたくさんあったけど、ひとつだけ 京太郎「瑞原さんがたとえプロになっても、またいつか俺と麻雀打ってくれないか?」 はやり「はは、何それ。お安い御用だよ!」 京太郎「ありがとう、またな」 はやり「またね」 _________ _____ __ 小鍛治「ねえ、京太郎くん。瑞原さんと最後何の話してたの?」 京太郎「……うーん、ちょっとした約束をしたんだよ」 小鍛治「約束?どんな?」 京太郎「ひ・み・つ」 小鍛治「うわぁ…きもちわる…」ドンビキ 京太郎「ひでえ!」 京太郎「でもそういう小鍛治だって、瑞原さんとなにか話してたじゃないか」 小鍛治「私はその……お、応援されただけだから//」 京太郎「瑞原さん偉いなあ…インターハイ頑張らなくちゃな!」 小鍛治「はあ…そうだね」タメイキ 京太郎「?」 ――8月上旬 東京 部員1「とうちゃーく!」 部員2「田舎者丸出しだからやめてくれない?」 副部長「まあいいじゃない、久しぶりの都会なんだから」 ついにインターハイ出場のため東京までやってきた、実に約半年振りの東京だ あらためて辺りを見回すと、以前来た時に比べて明らかにその風景が変わっている さすが大都会東京、様変わりするのもかなりの速さだ 小鍛治「荷物持ちますよ」 トシ「ありがとう健夜ちゃん、それなら頼もうかねえ」 驚いたことに今回はトシさんが俺達と同行することになった なにやら新しい人材の発掘、またそれとは別にやることが一つあるそうだ 部長「さあ、さっさと会場に行って抽選を済ませよう。なるべく早く休みたいからな」 いくら茨城県からとはいえ、電車で2時間近くかかったからな 部長の言うことももっともだ。正直俺も疲れたので早く休みたい ----------------------- 抽選会が終わりトシさん以外皆くたくたで、予約していたホテルに入った 部屋割りは俺とトシさんが一緒の部屋で、それ以外がまた一部屋となった 夢も希望も無いね! 部屋では特にやることもなかったので、早々にベッドの中に入ってしまった 自分が出るわけでもないのに、緊張してなかなか寝付けなかったのは内緒だ ――8月上旬 インターハイ 団体戦一回戦 いよいよ、インターハイの幕開けとなる団体戦一回戦だ 各都道府県の代表がぶつかり合うのだ。県予選のときのようにすんなりいくとは思えない 実際県予選の時にみんなの間にあった、あのゆるい雰囲気は既になくなっている 小鍛治なんかはその雰囲気に当てられてか、あの時以上に緊張しているようだ 果たして大丈夫だろうか… ________ ____ __ まあいつものように結果だけいうと、今日の初戦はなんとか大丈夫だった いつも通り小鍛治に回るまでに1位になり、ある程度点差をつけたのだが、そこは全国大会 県予選のように3万点差というわけにもいかず約1万点つけるのがやっとだった そして、案の定小鍛治は最初はガチガチに緊張して、ほとんど小鍛治銀行状態だった しかし後半に入ると何とか調子を取り戻し、オーラスで2位に逆転することができた 見てるほうもラス前まで3位だったので心臓バックバクだった 頼むから劇場型クローザーみたいな真似はしないでもらいたいのだが… だが跳満以上くらわないのは流石と言うべきかな 京太郎「お疲れ様、勝ててよかったな」 小鍛治「……うん、ありがと」 京太郎「前半はともかく後半の追い上げはすごかったじゃないか」 小鍛治「…そんなことない、ごめんね」 京太郎「小鍛治…」 小鍛治が俺に謝る理由は分かっていた 県予選が終わって、小鍛治が泣いた後にした俺との約束を果たせなかったからだ もう足手まといにならない、俺にかっこいいところ見せる、って ――8月上旬 インターハイ 団体戦二回戦 今日は団体戦二回戦だ 昨年はここで敗退したとのことなので、みんないつも以上に緊張している なにせ会場に向かう途中、誰も言葉を交わさなかったくらいだ そして試合前のいつもの部長の言葉が始まる 部長「さて今日の試合だが、当然これまでより難しいものになると思う」 部長「なので全員気を引きしめて、試合に臨んで欲しい」 部長「……」 部長「というセリフを昨日言おうと考えていたのだが、今日は少し正直になろうと思う」 部長「もしかしたら私は、そこまで勝ちたいと思っていないのかもしれない」 部長「みんなと麻雀を打てればそれでいいじゃなかと最近思うようになった」 部長「でも、子供みたいだが、私はこの祭りをここで終らせたくないとも思ってる」 部長「だから特に言うこともない。みんな頑張ってくれ」 部員1「おっ!たまにはいいこと言うじゃん!」 部長「なにっ!?」 部員2「まあ、確かにいつものはありきたり過ぎてつまらないけどね」 部長「」 健夜「わ、私はいつものも良いと思いますよ?」 部長「疑問系!?」 副部長「さあ、みんな行きましょう!」 「「はい!!」」 部長「それ、わたしのセリフっ!!」 大事な試合なのに最後まで締まらない まあ、俺達らしいといえばそうなのかな? さあ、俺も頑張って応援するか 部長の演説の後、俺はトシさんに誘われて、控え室ではなく観客席から一緒に試合を見ている さすが二回戦と言うべきか、部長と副部長ですらぎりぎりプラス収支がやっとで、他の2人はマイナスとなった 結果的に大将戦までに10万点を切る格好となってしまい、順位は現在3位だ 京太郎「トシさん、正直言ってどう思う?」 トシ「かなり厳しいね、2位との差は約2万、1位とは約3万。普通に考えれば無理だろうね」 トシ「最悪、4位のトビで終了…なんてこともあるかも」 京太郎「まあそうだよな…」 トシ「ただ――」 京太郎「ただ?」 トシ「…いやなんでもないよ。健夜ちゃんの応援、ちゃんとしてあげなさい」 京太郎「うん」 いよいよ、運命の大将戦が始まった いつも通りとはいかないが今日は始めからちゃんと打ててる だからといって2位との差はなかなかつけられない 俺の見立てでは、そもそもこの4人はほとんど実力差がない よほどの強運に恵まれない限り追いつくのが難しいのは明らかだ そして、点差を埋められないまま南入 小鍛治…… ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ ―小鍛治健夜 この人たち強い…このままだと絶対に追いつけない いや、追いつくことはおろか、4位になることさえ考えられるよ… 負ける? ここで負けるの? 嫌だ…私だってもっとここで打ちたい まだみんなに恩返しだってしていない いままで生きてきて、ほとんどずっと一人ぼっちだった いつも自分の席で本を読んで、周りから壁を一枚隔てて過ごしてきた 本と家族だけが、私にとっての世界そのものだった 高校に入っても変わるわけないって思ってた けどそんな私みたいな人間に、興味をもって話しかけてくれる男の子がひとりいた 今までもそんな人は何人かいた。けど最後にはみんな私から離れていった それでも彼は私をあきらめないでいてくれた そして部活に誘われて、入部して…… 初めて学校に自分の居場所ができた気がする 初めて文化祭を友達と回って、初めて他人に褒められて、初めて友達とお昼ご飯を食べた いつの間にかあの分厚い壁がなくなっていた。世界がこんなにも綺麗なことを初めて知った でも私は、まだ彼らになにもしていない。なにもできていない こんなにも感謝してるのに… だからここで先輩達の夢を終らせるわけにはいかない! そして何より、京太郎くんとの約束は果たさないといけない!! 私のかっこいいところ、見せてやるんだっ!!! ゴッ! ~~~~~~~~~~~~~~~~~~ ビキッ トシ「おや…」 京太郎「ど、どうしたの?モノクルが…急に……」 トシ「ああ、何ともないよ。久しぶりで驚いただけさ」ニヤ 京太郎「?」 トシ「ふふ、なるほどね…ここから先は1秒だって見逃したらだめだよ」 京太郎「えっ?」 小鍛治『ロン、6400』 京太郎「やった!」 トシ「いや、まだだよ」 小鍛治『ツモ、6000・3000』 京太郎「よっしゃあ!運が向いたきた、いけるぞ!」 トシ「運?それは違うよ」 京太郎「どういうことですか?」 トシ「あれが健夜ちゃんの本当の実力さ」 京太郎「ああ…」 そうか…なるほど。これが小鍛治の…いや小鍛治プロのオカルト能力 小鍛治『ツモ、4000オール』 京太郎「これで2位、後は耐えさえすれば…」 トシ「耐える…?」 小鍛治『カン』 トシ「その必要はないよ」 小鍛治『カン』 トシ「なにせ健夜ちゃんが狙っているのは」 小鍛治『カン』 トシ「1位になることだけだからね」 小鍛治『嶺上ツモ――』 京太郎「だ、大三元…役満。捲った…!」 トシ「これは本物だねえ」 京太郎「か、かっけえ…」 _________ _____ __ 部長「なんと言っていいのか…とにかくありがとう」 部員1「あの状況から勝つなんてすごすぎだろ!シビれたよ」 部員2「こんな試合初めて見たよ、感動しちゃった」 副部長「ほんとすごかったわ!」 小鍛治「い、いえ、そんな…後半なんかほとんど何も覚えてなくて」テレテレ ガチャ 京太郎「……」 小鍛治「あ、京太郎くん…」 小鍛治「どうだった、かな?」 京太郎「……」 京太郎「小鍛治ーー!!」ダキッ 小鍛治「ちょ、ちょっ…//」 京太郎「すっげーかっこよかった!!」 京太郎「最後の役満での和了りなんて、漫画の主人公みたいだったぞ!」 小鍛治「そ、そうかな///」 京太郎「あの絶望的な状況から捲くって1位とか、もう鳥肌もんだったぜ!!」 小鍛治「あ、ありがとう////」 小鍛治「……」 小鍛治「そ、それでさ…約束、守れたかな?」 京太郎「…ああ、最高にかっこよかったぞ」 小鍛治「よかったぁ…」グスッ 京太郎「お、おい!?」 小鍛治「ううん…大丈夫」ポロポロ 小鍛治「嬉しくても涙って出るものなんだね」ニコ 京太郎「小鍛治…」 小鍛治「京太郎くん…」 部員1「あーこの部屋なんか暑くない?」 副部長「あらあら」 部員2「ちょっと!今いいところなんだから邪魔しない」 京太郎「////」 健夜「/////////」カァァァ 部長「ほらっ!馬鹿やってないで帰るぞ」 部長「ただ…その、ふ、二人はまだここにいていいからな///」ドキドキ 部長「ご、ごゆっくりー!」ダッ ガチャ 京太郎「」 小鍛治「////」 小鍛治「ね、ねえ…一ついいかな」 京太郎「お、おう、なんだ」 小鍛治「私さ、京太郎くんとの約束守れたよね?」 小鍛治「だからさ、その…一つお願いしてもいいかな?」 京太郎「まあ、俺のできる範囲でなら」 小鍛治「いいかげん私のこと、名前で呼んで欲しいかなー…なんて///」 京太郎「……」 小鍛治「い、いや…やっぱり今の無しで――」アタフタ 京太郎「……健夜」 小鍛治「えっ」 京太郎「健夜。これでいいか?」 健夜「うん!」 京太郎「帰るか」ギュ 健夜「うん///!」ギュ __________ ______ __ その後の試合については、正直言ってあまり言うべきことはない 負けてしまったからだ 副部長が3位で回ったところで他家が飛んで終了 あまりにもあっけなさ過ぎて、ほとんど実感がないのが本音だ だけどみんなが意外とスッキリとした表情をしていたのが印象的だった ともかく、俺達の団体戦はこれをもって終了となった ――8月上旬 インターハイ 団体戦は終ってしまったが、まだ副部長の個人戦がある なのでまだ俺達は東京にいるのだが、何人かは観光に出かけたようだ 俺はというと今日はトシさんに誘われて、男子の試合観戦に来ていた 健夜も誘うおうかと思ったのだが、なぜかトシさんに断られてしまった なにやら、俺だけに用があるようだ 京太郎「すごい張り詰めた雰囲気だね、こっちまで緊張してきそう」 トシ「全国から本物の怪物どもが集まってくるんだ。仕方ないよ」 京太郎「"怪物" ってのは流石にいいすぎじゃない?」 トシ「?知らないのかい」 京太郎「え、何を?」 トシ「まあ…見てれば分かるよ」 京太郎「?」 トシ「まだ、少し時間があるね」 トシ「ちょっと準備してくるから、ここで少し待っててくれるかい?」 京太郎「ま、まあいいけど…何してくるの?」 トシ「ひ・み・つ」 なかなかチャーミングだ しばらくすると、試合が始まってしまった まだトシさんが来ていないが、仕方がない 試合が始まると、さらに空気が張り詰める。なんだこの異様な圧力は… あの咲も、強いオカルト能力者に近づくと気分を悪くしていたが…これはその比じゃない 『御無礼』 京太郎「っ…!」 『県予選のときのように、もう《ゴルゴダの枷》は必要ないな』 『最初から全力でいかせてもらうか』ボッ 京太郎「ぐ、はっ…!」 なんだこの試合は、常軌を逸している… ま、まずい…このままだと…意識が 『……今の私の麻雀力は?』ゴゴゴゴゴゴゴゴッ 『32768アーデルハイドです』 京太郎「ぐわあああああああ…!!」 だめだ…もう。ごめんみんな…俺…こんなところで…… ガシッ! ??「大丈夫かい?少し遅れちまったね」 京太郎「う……ぁ…」フラフラ う、美しい……可憐だ… 京太郎「っ…」パクパク ??「喋らなくていい、そこでゆくっり休んでなさい」 ??「まったく、酷い有様だねえ」 ??「仕方がない……久しぶりに私の本気、見せてあげるよ!」ゴゴゴゴゴ スゥー…… こ、この構えは……まさかッッ! 天地魔闘の構えッッッ!!!! 天は攻撃、地は防御、魔は魔力の使用を意味する これら三つの動作を一瞬にして行う、大魔王でも全盛期にしか扱えぬという まさに、最大の奥義ッッッ!! しかし、これでは駄目だ… 天地魔闘の構えはカウンター技、自分に向かってくる攻撃に対処できるのみ……ッッ! このままでは会場にいる観客は…… スゥー……バッ! !!私としたことが、ぬかった…ッッ! これは予備動作に過ぎんッッ! ここから繰り出される技は…… 超武技ッッ闇勁ッッッ!!!! この会場に充満する"気"を奪い取る気かッッ! だが奪い取ったその"気"、一体何に使うというのか小娘…ッッッ!! むッ!なんだ、この光は…会場全体に広がって… まさか、そのエネルギーを使っているとでもいうのか…… この会場にいる人々の意思の共鳴を…引き起こしているとでも言うのかッッ!! すごい……外へ漏れようとしてした"気"が押し戻されていく だが、恐怖は感じない。むしろ暖かくて、安心を感じるとは… 眠い……この安心感……だめだ…意識が―― ~~~~~~~~~~~~~~~~~ ??「ふぅー、疲れた」 ??「とりあえず、大丈夫そうかね…」 ??「しかし、全国大会の度に呼び出されるのはたまったもんじゃないねえ」 ??「まあ、これも大人の努めか」 京太郎「……」 こうやってこの子を介抱するのも、これで二度目 ??「まったく…世話のかかる子だよ」ナデナデ _________ _____ __ 京太郎「ん…あ…」 トシ「気付いたかい、どこか痛むところは?」 京太郎「い、いや…大丈夫。なんともないよ」 トシ「そう?よかった」 京太郎「記憶があやふやなんだけど…なにかあったけ?」 トシ「さあ、なにも。夢でも見ていたんじゃないのかい?」 京太郎「そう…かなあ。あ!そういえばすごく綺麗な女性がいたんだけど、知らない?」 トシ「へえ…どのぐらい綺麗だったのかな?」 京太郎「いや、もう…今まで見た中で一番だよ!」 トシ「ふふ、そう?ありがとう」 京太郎「?」 トシ「さあ、試合見ようか。これも勉強の内だよ」 京太郎「はあ…」 トシさんに言われるまま、試合を眺める 流石全国から選りすぐりの選手が集まっているだけある、レベルが高い いや高すぎるくらいだ、県予選で戦ったアカギさん達3人もすごかった しかしここに集まっている選手達はそれと同等か、あるいはそれ以上の実力を持っている… 明らかに俺のいた時代とは一線を画している まるで別の競技を眺めているような…… 京太郎「あのートシさん、明らかに俺の時代とはレベルが違うんですが…」 トシ「そうなのかい?」 トシ「……あーなるほど、これを読んでごらん」 そういうと少し厚めの紙の束を渡された トシ「こっちで少し会議に出席してね、そのときの資料の一部だよ」 京太郎「えーなになに…『男子麻雀界の二極化に伴う新たな競技の設置について』」 京太郎「そんなのあったんだ…」 京太郎「『近年、男子麻雀選手の実力が急速に二極化し――』」 京太郎「『新たな麻雀競技を設置することでその解決を図ることを――』」 京太郎「なにそれこわい」 京太郎「『テニス、バスケにおいては既に同様の試みがなされており――』」 京太郎「『特に"テニヌ"においては中学生が分身、五感の剥奪、光速移動――』」 京太郎「『最近の研究では、恐竜の絶滅の原因はある中学生にあると考えられ――』」 京太郎「なにそれもこわい」 トシ「その様子だと、どうやら知らないみたいだね」 トシ「将来的には男子麻雀は二つの競技に分かれることがほぼ決まってるんだよ」 トシ「女子は均等にバラけてるからいいんだが、男子はあまりにも差がありすぎてね」 トシ「でも、どうやら未来では"そっち側"の競技はあまり知られていないみたいだね」 なるほど。通りで俺の時代の男子のレベルが低いわけだよ… なんとか無事に試合を見終わった レベルの高いものを見ると本当に勉強になるな まあ、一部人知を超えている方々もいたので、それは参考にならなかったが… いつか俺もあの舞台で戦いたいと思うような……思わないような 京太郎「トシさんは結局、俺にこれを見せたかったの?」 トシ「まあそれもあるけどね」 京太郎「?」 トシ「……実はタイムリープについて知っている人をついに探し出してね」 京太郎「!!」 トシ「で、その人はこのインターハイである高校に同行してるんだ」 トシ「まあ、私が呼んだんだけど…」 トシ「その高校は永水女子高校」 トシ「そこの神代さんという人が、明後日京太郎と会ってくれるそうだ」 京太郎「そう…」 トシ「今まで黙っててごめんね。できるだけ普通に過ごしてもらいたかったんだ」 京太郎「そんなことないよ。ありがとう、トシさん」 京太郎「それで、どこに行けばいいのかな?」 トシ「それならここに地図があるから。ほら」 京太郎「…明後日ここに行けばいいんだね」 トシ「そうだね…ただ一つ忠告することが」 京太郎「?」 トシ「たとえどんなことを聞かされようと、最後は自分の心に素直にね」 京太郎「……うん」 いよいよらしい、ついに帰れるのだ だが嬉しいと言う気持ちには到底なれなかった ――8月上旬 インターハイ おそらくもう長い時間、ここにはいられないと分かると、いてもたってもいられなくなった 俺はこの短い時間をどう使うべきなのだろうか? トシさんに話を聞かされてから、何度も何度も考えた だが決まって俺の頭の中には、いつもあいつの顔が片隅あった そうか。やはり、俺は…… 京太郎「よしっ!」 京太郎「トシさんごめん。少し出かけてくるよ」 トシ「まあ部屋の中にいてもしょうがないしね。二人とも気をつけていってらっしゃい」 京太郎「!!ありがとう、行ってきます」 コンコン 京太郎「すいませーん!」 ガチャ 部長「おう、どうした?」 京太郎「すいません部長、健夜を呼んでもらっていいですか?」 部長「ん?あ、ああ、分かった。少し待っててくれ」 しばらくすると、いかにもらしい格好で現れた 京太郎「ちょ、おま…花の女子高生が学校のジャージはないだろう…」 健夜「ほ、ほっといてよ!」 京太郎「出鼻くじかれたが、まあいいや。健夜、今日は暇あるか?」 健夜「うん、まあ…でも、どうして?」 京太郎「ええと、その……だな」 健夜「どうしたの?京太郎くんらしくない。もっとはっきり言ってよ」 京太郎「あー、一緒に出掛けないか?」 健夜「え、まだ先輩の個人戦残ってるから、副部長は行けないよ?部長だって――」 京太郎「いや、違う違う。俺は健夜と二人で行きたいんだ」 健夜「えと、それって……ももも、もしかして///」 京太郎「どうだ?」 健夜「ええええとね///!?もももちろん嬉しいんだけど……こっこ、こころの準備というものがありまして」アタフタ 副部長「もちろんオッケーよ」 健夜「え!?」 部員2「京太郎くんは10時に駅に待ち合わせね」 京太郎「別にホテルの前でもよくないですか?」 部員1「よくないよ!」 部長「初デートなんだから、待ち合わせからちゃんとしないとダメだろうが」 健夜「ででででデートって!?///」 部員1「すこやんはおめかしに時間がかかるから、そのうちに京太郎はデートプランでも練っておきな」 京太郎「そうですね、皆さんありがとうございます。じゃあまた後でな健夜」 健夜「え!?ちょとみんな勝手に――」 ガチャ 先輩達のおかげで健夜を誘うことができた 本当に感謝してもしきれないな ―駅前 現在9時45分、ホテルから程近い有楽町駅前に俺はいる 流石コンクリートジャングル東京、この時間からもうかなり暑い まあ元の時代の頃よりは幾分マシかもしれないが ??「お待たせ」 いきなり、かわいらしい女性に声を掛けられた 京太郎「えーと…どなたですか?」 ??「私だよ!?」 帽子を取って、よく見てみると… 京太郎「…ああ、健夜か。ごめん気がつかなかった」 気付かないのも無理は無い。朝のあのジャージ姿とのギャップがあまりにあったからだ 京太郎「いいじゃん……」ボソ 健夜「ん、どうしたの?」 京太郎「いや、なんでもない。その服似合ってるなって思って」 健夜「そ、そう//?実は先輩達から少し貸してもらったんだ」 健夜「さすがにそんなに荷物持ってきてないからね。助かったー」 先輩グッジョブ!! 京太郎「さ、時間がもったいない。行こうか」 健夜「どこ行くの?」 京太郎「まずは日比谷に映画を見に行こうぜ」 健夜「うん!」 今日は世間では平日ということになっている なのでそこまで混んでいなく、10分もすると映画館に着くことができた 健夜「何見よっか?」 京太郎「そうだなー」 えーと…この時間やっているのは 『千と千○の神隠し』『ダンサー・イ○・ザ・ダーク』『ファ○ナルファンタジー』 なんか偏ってるなーこの映画館… 健夜「この『ダンサー・○ン・ザ・ダーク』っていいんじゃなかな?」 健夜「『弱視の女性と息子との日常を描いたほのぼの感動作!!』らしいよ」 京太郎「それだけはいけない」 健夜「え?」 京太郎「それだけはいけない」 健夜「う、うん。分かった…」 健夜「じゃあこれは、『ファイ○ルファンタジー』」 健夜「『制作費1億3,700万ドルの超大作!世界初のフルCG映画をご覧あれ!!』だってさ、どう?」 京太郎「だめだだったんだ…」 健夜「なにが!?」 京太郎「回収できなかったんだよ…」 健夜「そ、そう…」 京太郎「健夜『千と○尋』にしよう、これはもう運命なんだ」 健夜「ま、まあ、京太郎くんがそこまでいうなら…」 _________ _____ __ いやー、やっぱりいい映画は何度見ても楽しめる 今見ても最新の映画と遜色ないどころか、むしろ新しい発見があるくらいだ 京太郎「どうだった?」 健夜「うーん、すごい良かったよ」 健夜「主人公の成長が軸になってるけど、脇役の活躍も欠かせない」 健夜「ジブリ独特の煌びやかな装飾とか、素朴でいて安心できる自然の風景も素晴らしかったし」 健夜「そして最後は千尋の成長からカタルシスを感じることができる」 健夜「とてもいい映画だったんじゃないかな」 京太郎「実に女子高生らしくないレビューをありがとう」 健夜「ふんっ!どーせ私は女の子らしくないですよ!」プイッ 京太郎「怒るなって」 健夜「…でも」 京太郎「ん?」 健夜「あの後、千尋とハクはまた会えたのかな?京太郎くんはどう思う?」 京太郎「そうだな……」 健夜「?」 京太郎「俺はまた会えると思う」 健夜「どうして?」 京太郎「俺だったらまた会いたいと思うから」 健夜「京太郎くん、意外とロマンチストなんだね」 京太郎「男の子はいつでもロマンを求めている生き物なのさ」キリッ 健夜「うわっ……」 京太郎「うわっ、とはなんだ。うわっ、とは…」 京太郎「そういう健夜だって、最後の方ちょっと泣いてたじゃねえか」 健夜「き、気のせいだから!」 京太郎「はいはい、そうですね」 健夜「バカにしてるっ!?」 京太郎「いいえ、滅相もございません。健夜お嬢様」 健夜「……今度は何?」ジー 京太郎「なんでもございません。さ、時間も時間ですしお昼にいたしましょうか」 健夜「それ続けるんだ!?」 お昼は近くで済ませてしまった 少し歩けばほとんど何でも揃ってしまう。東京とは恐ろしい街だぜ、まったく そして俺達が次に来たところは… 健夜「見て見て!この通りにあるのほとんど本屋さんなんだって!!」 そう本好きは避けては通れない町、神保町だ だが本だけではない。御茶ノ水の方に行けば楽器屋、スポーツ用品店が立ち並び さらに少し歩いて秋葉原まで行けば電子部品から同人誌までそろってしまう いわば、ここら一帯はマニア・オタクの聖地と言えるかもしれない 健夜「すごい!ネットでしか見たことがないような本がこんなにいっぱい!!」 健夜「うわー、ここに住みたいくらいだよ~」 健夜「ねえねえ、京太郎くん。もしかしてあれが噂の書泉グランデかな?」 京太郎「あ、ああ。そうなんじゃないかな…」 健夜「行ってみようよ!ほらっ!!」 京太郎「はいはい」 健夜「このエレベーターはね、R.○.Dっていうアニメにも出てくる場所なんだ」 健夜「それだと地下に行けるようになってるんだけど、流石に無理みたいだね」 京太郎「確かに、エレベーターの底が見えちゃってるもんな」 健夜「あの読子・リードマンもこのエレベーターに乗ったのかと思うと…」 健夜「うぅ~、感動だよ!」 健夜「あ、書泉の本棚って大型店にしては珍しく、いまだに木製の本棚なんだ」 健夜「なんだかレトロでかっこいいね」 健夜「さ、次は神保町のランドマーク、三省堂に行くよ!」 京太郎「りょーかい」 健夜「こ、これはすごいね…驚いたよ」 健夜「このビル全部に本が詰まってるんだよ?まさに本の山だよ!!」 健夜「雑誌、新刊、小説、漫画、理系専門書からさらに洋書まで扱ってるなんて…」 健夜「すごすぎるよ、感動だよ!」 健夜「聞くところによると、池袋にはジュンク堂というラストダンジョンまであるんだから……」 健夜「東京は本当に恐ろしい所だよ…」 京太郎「さいですか」 神保町に着いてから、実に一時間以上はしゃぎっぱなしだった まあ楽しんで貰えたようでなによりだ 流石に真夏の移動で疲れたので、近くの喫茶店で少し休むことにした 健夜「ご、ごめんね…ちょっと買いすぎちゃった」 京太郎「気にすんな、荷物持ちなら慣れてるから」 健夜「それってどうなの…」 京太郎「それに、デート中女の子に荷物持たせるわけにはいかないだろ?」 健夜「そ、そうかもね///」 健夜「でも、なんでこういう場所をを選んだの?」 健夜「京太郎くんなら、ディ○ニーランドとか行くのかなー、とか勝手に思ってたんだけど…」 京太郎「おいおい健夜…ディ○ニーランドに行きたかったのか?」 健夜「ムリムリ!絶対無理!!あんなキャピキャピした空間なんて絶えられないよ!」 健夜「最悪、穴という穴から砂糖吐いて気絶するよ!!」 京太郎「何その気持ち悪い妄想……」 京太郎「まあ、でもそうだろ?だから敢えて落ち着いた場所を選んだんだよ」 京太郎「それに本好きなのは前から分かってたしな」 健夜「私のことちゃんと考えてくれてたんだ……ありがとう」 京太郎「どういたしまして」 京太郎「さ、十分休んだし、最後にもう一つだけ行こうぜ」 健夜「ここは?」 京太郎「上野恩賜公園――いわゆる上野公園だな」 健夜「へえー…あ、見て、かえるの噴水がある。かわい~」 まずは基本に沿って、交番横の入り口から入る そのまま左側を真っ直ぐ進んでいく 人がまばらなので非常に快適だ 健夜「うわー、大都会のど真ん中にこんなに緑がたくさんあるなんて…すごい不思議」 京太郎「たしかにそう考えるとすごいよな」 ちなみにここは、1873年に日本初の公園に指定された歴史的な公園だ ボードウィン博士という人がこの場所を公園として残すように働きかけたのがきっかけだそうだ 実際にボードウィン博士の銅像は噴水池の横にある 俺達がここでデートをすることができるのもこの人のおかげなのだ。感謝しないとな 健夜「すごい数の桜の木だね、春に来れたらもっと綺麗だったかも」 うーむ、確かにその通りかもしれないが、決しておすすめはできないだろう 何しろあの時期のここら辺はまさに人、人、人のどんちゃん騒ぎ 酒飲みの人間や至るところに散ったごみ等見るに耐えない 健夜「ふうー、やっと桜並木を抜けたね。ん、あれは何の建物かな?」 京太郎「正面にあるのは東京国立博物館だな」 健夜「へえー、ここから見ると左右対称になってて綺麗だね」 健夜「それに荘厳というか、趣を感じるよ」 東京国立博物館もまた日本最古の博物館である 健夜の言っていた建物は本館で、和洋折衷の様式となっている 主に日本及び東洋の文化財を取り扱っているのが特徴だ 歴史好きにはたまらないかもしれないが、そうでない人にとってその展示は退屈なものかもしれない しかし本館については均整の取れた非常に美しい構造をしていて、思わずため息がこぼれる これだけでも見る価値があるかもしれない また、アニメ映画『時をかける少女』ではここが舞台の一つとなっている 魔女おばさんこと芳山和子はここに勤めていることになっているのだ そして間宮千昭が見に来たと言う「白梅ニ椿菊図(はくばいにつばききくず)」はここのものだった もちろんこの絵は実在しないものだが 健夜「あ!あれが上野動物園なんだ」 京太郎「そうらしいな、行きたいか?」 健夜「うーん、動物園なら茨城にもあるし、せっかくだから別のがいいな」 京太郎「そうか。なら博物館と美術館だったらどっちがいい?」 健夜「それだったら美術館かな、博物館の展示ってなんだか苦手なんだよね」 京太郎「それは分かる、歴史とか好きならまた変わってくるのかもしれないけどなー」 健夜「で、どこにあるのかな?」 京太郎「あっちだな」 健夜「ああ、あの四角い建物だね。変わった形してるんだ」 健夜「あ!あれってもしかして有名な『考える人』かな」 京太郎「そうだな、オーギュスト・ロダンの彫刻だな」 健夜「あれ?でも前にテレビで見たのは別の場所だったような…」 京太郎「ああ、ロダンの『考える人』は世界中にたくさんあってその一つがこれなんだよ」 健夜「へえー、一つじゃなかったんだ」 京太郎「そゆこと。しかし暑いな、さっさと中入ろうぜ」 健夜「そうだね」 建物の中に入ると、その無機質な外観と相まってかとても涼しい さっそく受付で常設展のチケットを購入し、展示を見ていく 健夜「すごい繊細…布と肌の質感が本物かそれより綺麗に見えるよ」 京太郎「ドルチの『悲しみの聖母』だな」 京太郎「この美術館の絵画の中でも特に人気の高い作品だ」 京太郎「実際一目でその美しさは分かるし、何度でも見たくなるよ」 健夜「ふーん、そうなんだ」 健夜「私さ、こういう分かりやすいというか、一目で綺麗ってわかる絵のよさは理解できるんだけどさ」 健夜「宗教画の楽しみ方がよく分からないんだけど…」 京太郎「宗教画かー……うーん」 京太郎「俺もよく分からないだよな、宗教画」 健夜「そうなの?」 京太郎「ぶっちゃけて言えばさ、宗教画って聖書の二次創作だろう?」 京太郎「分からなくても無理ないと思う」 健夜「あはは、ひどい言い様」 京太郎「それだったら、俺はこっちのルノワールとかモネの作品が好きだな」 健夜「この女の人の絵は見たことあるよ、名前は知らないけど」 京太郎「『帽子の女』だな。光の描き方がすごいよな」 京太郎「ルノワールはかなり親しみやすい画風なんで、世界的に人気の画家だ」 京太郎「んでこっちのがモネの作品だ」 京太郎「モネもルノワールも同じ印象派だけど、それぞれ個性があっておもしろいよな」 健夜「そうだね、でもどちらかというと私は――」 そんな他愛の無い会話をしていると、あっという間に時間が経っていった 展示物も大体見終わったので外に出ると、もう日が落ちてかなり暗くなっていた 京太郎「そろそろ帰るか」 健夜「うん、そうだね」 健夜「あ、見て!噴水がライトアップされてるよ、綺麗…」 京太郎「…せっかくだから見ていこうぜ」 健夜「いいの?ありがとう」 噴水の近くにベンチが備え付けてあったので、二人でそこに腰掛ける 健夜「今日はありがとう、とても楽しかったよ」 京太郎「どういたしまして。でもこういうの実は初めてだったからさ、正直緊張したよ」 健夜「そ、そうなんだ……じゃ、じゃあ初めて同士だね///」 京太郎「そういうことになるのかな//」 健夜「///」 京太郎「はは…」ポリポリ 健夜「私…」 京太郎「ん?」 健夜「私、京太郎くんには本当に感謝してるんだ」 京太郎「どうした、いきなり」 健夜「いきなりじゃないよ、いつもそう思ってるんだ」 健夜「入学式の日、京太郎くん、私に話しかけてくれたでしょ?」 健夜「正直あの時は、「金髪不良少年が私になんの用!?」って思ったよ」 京太郎「金髪…はその通りだけど、不良少年っておい!」 健夜「はは、ごめんごめん」 健夜「でも誰も私に話しかけない中、京太郎くんは何度も私にかまってくれたよね」 健夜「少しずつだけど、京太郎くんとも普通に話せるようになって…」 健夜「家族以外でそんな仲になったのは初めてだったんだよ?」 京太郎「……」 健夜「そんな時、麻雀部に誘われて、先輩達もいい人ばかりで…」 健夜「学校の中に居場所があると、登校するのがとても楽しくなるんだね。初めて知ったよ」 京太郎「……」 健夜「文化祭なんて、今までの私にとってはただの苦痛な行事の一つだったんだ」 健夜「でも真面目に参加して、皆と一緒に準備すると、楽しいものになるんだって気付いたよ」 健夜「京太郎くんのおかげで、クラスの女の子達とも仲良くなれたしね」 京太郎「…俺は何もしてないよ。健夜には魅力があって、誰かがその事に気付いただけさ」 健夜「ううん、そんなことない」 健夜「その後は大会に出たり、海に遊びに行ったり、合宿したり、色んなことがあったね」 健夜「そして今は、京太郎くんとここにいる」 健夜「なんだか、この何ヶ月かは私にとってはずっとジェットコースターに乗ってる気分だったよ」 健夜「京太郎くんがいなかったら、絶対こんなことになってなかったと思う」 健夜「だから、本当に心から感謝してるんだ。ありがとう」 健夜「えへへ……なんだかこういうのって恥ずかしいね///」 京太郎「そうだな」 健夜「京太郎くん…」 京太郎「健夜…」 健夜の手に、自分の手を重ねる。暖かい だんだんと二人の距離が近づいてゆく、そして――― 「あれは何をやっているのでしょう、マム」 「ノーウェイノーウェイ、あなたにはまだ早いわ」 「それにしても最近の高校生は進んでるのね~、ママとパパなんか――」 京太郎・健夜「!!」バッ 京太郎「……」 健夜「……」 京太郎「か、帰るか//」 健夜「そ、そそそそうだね//////」 京太郎・健夜「はぁー…」 健夜「ね、ねえ、京太郎くん」 京太郎「なんだ?」 健夜「来年もまた、一緒にここに来ようね」 京太郎「……そうだな」 健夜「?」 上野駅から電車に乗り、宿泊先のホテル近くの駅まで戻ってきた 京太郎「ふうー、結構疲れたな」 健夜「一日中動き回ってたからねー」 京太郎「この荷物のせいじゃないんですかねえ…」 健夜「そ、それは悪いと思ってるよ!」 京太郎「はいはい」 健夜「もうっ!」 健夜「あ、そうだ。ちょっと買わなきゃいけないものがあるんだった」 京太郎「そうなのか?だったら付き合うよ」 健夜「いいよ、もうホテルまですぐそこだし。一人で大丈夫」 京太郎「そうか?」 健夜「うん、今日はありがとうね、とても楽しかった。またね明日ね」 京太郎「おう、また明日」 そう言って、健夜は向かいの交差点を歩いて渡って行く 信号は青、人はまばら、夏の日差しが道路を照らしている えっ?夏の日差し? 今は夜だったよな? あれっ? なんだこの映像 いや、この光景……前にも…どこかで そうだ……この後……確か…車が来て…それで… 「あぶなーいっ!!!!」 京太郎「ッ!!」 荷物を捨てる、全力で走る 健夜を抱き寄せ――歩道に倒れこんだ 京太郎「大丈夫か!!」 健夜「ッ!?え?え!?」 混乱しているようだが、見たところ目立った外傷は無いようだ よかった、本当によかった… _______________________ _____________ ____ 京太郎「落ち着いたか?」 健夜「うん、なんとか……」 結局、信号無視した車は俺達のとなりを通り過ぎ、ガードレールにぶつかって停止した その後、救急車とパトカーが来て一時辺りは騒然となった 俺達は警察の人に事情を説明し、救急隊員の人にも簡単に診てもらった 京太郎「ごめんな、健夜の本ばら撒いちまって」 健夜「ううん、そんなのいいよ。それに本はきれいにすればまた読めるしね」 京太郎「そうだな…」 京太郎「歩けそうか?」 健夜「うん、余裕だよ!!」ガクガクガク 京太郎「いや、だめだろ!?生まれたての小鹿みたいになってるぞ」 京太郎「ほら」 健夜「なに、その格好は?」 京太郎「ホテルまでおんぶしてやるから、乗れ」 健夜「い、いや、いいって。恥ずかしいし…」 京太郎「それで転んで怪我したら大変だろ?な、頼む」 健夜「う、うん…そうだね。じゃあお願いしようかな」 京太郎「よっこいしょ、っと」 健夜「ど、どうかな」 京太郎「どう、って?」 健夜「その……重くないかな?」 京太郎「いや、全く。むしろ軽すぎるくらいだな」 京太郎「それに幸いなことに、背中にあたるものがないから気を遣わなくていいしな」 健夜「」グイッ 京太郎「ちょ、やめ!しまってる、しまってるからっ!!」 健夜「まったく、京太郎くんはいちいち他人をからかわないと死んじゃう人なのかな!?」 京太郎「まあな、でも健夜限定だぞ?」 健夜「余計性質が悪いよね!?」 京太郎「冗談だよ」 健夜「もうっ!」 健夜「でも……」 健夜「さっきはありがとう。とってもかっこよかったよ」 京太郎「う、なんだか照れるな//」 健夜「でも、あんな危険な真似もうしないでね?」 健夜「京太郎くんがいなくなったら、私……」 京太郎「……安心しろ、俺はちょっとやそっとじゃ死なないから」 京太郎「それに、そんな約束はできないな」 健夜「え」 京太郎「健夜のピンチは、俺が必ず助けるから」 京太郎「だからどんな時間にどんな場所にいようと、跳んで助けにいくよ。必ず」 健夜「よ、よく、そんな恥ずかしいセリフを……///」カァァ 健夜「で、でも…ありがとう。覚えておくよ…///」ボソボソ 京太郎「ああ、そうしてくれ」 ________ _____ __ 京太郎「……」 京太郎「……」 健夜「…zzz」スースー 京太郎「寝たか…」 まあ、無理もない。ただでさえ疲れていたのに、あんなことがあったのだ 京太郎「……」 京太郎「なあ、健夜。俺思い出したよ」 京太郎「あの日、あの時、何があったのか」 ――8月上旬 インターハイ 神代さんとの面会日 京太郎「ここか…」 トシさんに渡された地図を頼りに、神代さんが待つ旅館に到着した 東京のど真ん中にもこんな立派なものがあるんだなあ 受付の人に名前を告げると、すぐに部屋まで案内された。話は通っていたのだろう 京太郎「失礼します」 中に入ると、40代くらいの男性が座っていた もっと厳しい雰囲気の人を想像していたが、この人からそういうのは感じられない 京太郎「こんにちは、神代さんですね。今日はよろしくお願いします」 神代「こんにちは、よく来てくれたね。ささ、座りなさい」 _________ ______ __ 神代「うーむ、何から話そうかねえ」 神代「まあ、まずはタイムリープとはどういうものなのか話そうかな」 神代「熊倉さんから聞いてるかもしれないけど、これは自体は別に珍しくはないよ」 神代「私の経験から言うと、若い人に多いと言えるかな」 神代「ほら、君も若いでしょ。ま、理由はよく分からないけど」 神代「で、タイムリープの現象はね、トンネルを考えると分かりやすいかなあ」 京太郎「トンネルですか?」 神代「そそ。でも普通のトンネルじゃないよ、ある時空を別の時空を結ぶトンネル」 神代「君はそのトンネルを通ってきたってわけ」 京太郎「そのトンネルはどうやってできるんですか?」 神代「うーむ、実はトンネルには2種類あってね」 神代「一つは元々そこにあるもの、けどこれは普通の場所にはないんだ」 神代「少なくとも、君みたいな高校生が行くようなところには無いと考えていい」 神代「もう一つは、突発的に新しくトンネルができるタイプのものだね」 神代「原因は様々で、人によるもの、自然現象によるもの、あとはオカルトとかかな」 京太郎「……人によるもの、って例えばどんなのですか?」 神代「そうだねえ、突発的に感情が大きく変化するのが原因であることが多いかな」 神代「例えば、生命の危機に直面するような事故に遭遇したときとかね」 神代「ほら、映画とか小説でよくあるような」 神代「さらに言うと、オカルト持ちの人がそういう目に会うとなりやすいと思うよ」 京太郎「逆に言えば、オカルト持ちでなければタイムリープはしにくいと?」 神代「あくまでそういう傾向にあるだけだけどね」 神代「でも君は今のところは、オカルト能力を持っていないだろう?」 神代「だから君の場合は、他の人間のオカルト能力が関係している可能性は高いね」 なるほど 神代「まあ君の場合、12年も跳躍したんだ。相当強力なオカルト能力者が関係しているのかも」 京太郎「あの、それで…肝心の帰り方なんですけど」 神代「そうだったね、それが一番重要だよね」 神代「でも、その答えはすごく簡単だよ。あるものを持っているだけでいいんだ」 京太郎「あるもの?」 神代「"心の底から帰りたいたいという気持ち"。要は気分しだい…」 神代「逆に言うとね、京太郎くん、君は心の底では帰りたくないと思っている」 神代「そうなんじゃないかな?」 京太郎「そう……かもしれません」 神代「まあ、君にも事情があるのだろう。詳しくは聞かないよ」 神代「ただね、だからといって未来を変えようとはしてはいけないよ」 京太郎「なぜです?」 神代「これも熊倉さんから聞いてるかもしれないけどね、歴史を変えるのにはリスクが伴う」 神代「そして、たとえ改変がうまくいったとしてもその埋め合わせはいつか必ず来るよ」 神代「どういう形で、とまでは分からないけどね」 やはり、未来を変えるのはだめみたいだな ならば、自分の力でなんとかするしかない 神代「あと、なるべく早いうちに帰ったほうがいいね」 神代「この時代にいればいるほど、君のこの時代での存在が大きくなる」 神代「そうすれば、未来での不確定性もどんどん増していくだろう」 京太郎「どういう意味ですか?」 神代「うーん、例えば熊倉さんは、未来では君のことを知らなかったのだろう?」 神代「だが、この時代では既に君のことを知ってしまっている」 神代「つまり、君の知っている未来とこの時代が辿る未来には明らかに矛盾が生じてしまっている」 神代「このくらいのごくごく小さな矛盾ならまだいいんだけどね」 神代「だけど、君がここで過ごば過ごすほど、その矛盾は看過できなほど大きくになってくる」 京太郎「そうなるとどうなるんですか?」 神代「分からない…だけどそれが善いものであるとはとても思えないね」 京太郎「……」 神代「もしかしたら、ドクの言ってたみたいに銀河が消滅しちゃうかも。なーんて」 京太郎「??」 神代「あ、ごめん。分からないよね」 神代「これがジェネレーションギャップかあ、歳はとりたくないものだねまったく」 京太郎「はあ…」 神代「聞きたいことはもうないかな?」 京太郎「そうですね……何か、向こうに持っていけるものはないんですか?」 神代「それは無理だね。来たときの格好でしか帰れないから」 京太郎「そうですか…なら、帰る時間と場所は選択できるんでしょうか?」 神代「それも無理。SFみたいにそんなに便利なものでもないんだよね」 神代「だから、タイムリープした瞬間にしか戻れないよ」 京太郎「そう…ですか。ありがとうございました」 神代「……じゃあ最後におじさんから一つアドバイス」 神代「君みたいな悩み多き青少年には、時としてどうしていいか分からないときがあると思う」 神代「そういう時、自分の頭で考えることは何よりも重要だろう」 神代「だが、考えすぎて、理屈を優先して、自分の気持ちを忘れてはいけない」 神代「だから、最後の最後は自分の気持ちに素直になってみるといい」 トシさんも、同じこと言ってたな 京太郎「そうですね、ありがとうございます」 神代「さ、若者はとっとと帰った帰った!」 神代「年寄りの説教ほど、聞くに堪えないものはないから」 ――8月上旬 インターハイ 女子の個人戦が終了した 結果は副部長が三回戦敗退、本人は楽しかったと喜んでいた ついに俺達の夏が終ったのだ 祭りの後はいつも寂しい、でもこの祭りはとても楽しかった またいつか今度こそ、俺も参加してやろう そうすれば、咲や部長も喜ぶだろう そのときは健夜も喜んでくれるだろうか? ――8月中旬 部活 インターハイが終ったとはいえ、部活動自体は続いている 先輩達は事実上引退なのだが、それでも部活には顔出してくれる まあ、先輩達がいなくなると俺と健夜だけになるから助かるんだけどね 部員1「ふぃー、終った終わった。このままどこか遊びにいかねー」 部長「アホ、受験に備えて勉強するべきだろうが」 部員2「といいながら、未だに部活に来ている部長であった」 部長「うっ!それは、その…たまには息抜きも必要であってだな…」オロオロ 部員1「おしっ!なら遊びに行こう、そうしよう」 部員1「すこやんも行くよな!?」 健夜「はい、せっかくだから」 副部長「京太郎くんはどうかしら?」 京太郎「えーと、実はちょっと用事がありまして……」 健夜「えっ!?」 副部長「あら、そうなの?」 部員2「この前もそんなこと言ってたよね」 部員1「私たちに隠して何を企んでいるのやら…」 京太郎「そ、そんなんじゃありませんよ」 部員1「ほんとかな~」 京太郎「あっ!もうこんな時間だー(棒)お先に失礼します!」ダッ 健夜「……」 ガラガラガラ ふうー、危ない危ない。あんまり追求されるとボロが出かねないな さて、家に帰って着替えて、さっさと行かないとな ―次の部活の日 健夜「一緒にかえ――」 京太郎「銀河の歴史がまた1ページ」ダッ ―次の次の部活の日 健夜「今日は大丈――」 京太郎「それでは次週をご期待ください。サヨナラ、サヨナラ、サヨナラ…」ダッ ―次の次の次の部活の日 健夜「……」 京太郎「次回も健夜といっしょにレリーズ!」ダッ ガシッ 健夜「ちょっと待とうか」ニコ 京太郎「ナ、ナニカナ、スコヤサン…」 健夜「最近何かコソコソしてるみたいだけど、どこで何をしてるのかな」ニコニコ 京太郎「エ、イヤ、ソノデスネ…」 健夜「もしかして私に言えない様な事なのかな」ニコニコ 京太郎「ソウイウワケデハ…」 健夜「別にね、京太郎くんのこと信用してないわけじゃないんだよ?」ニコニコ 健夜「でもね、もうすこし私のこと信用してほしいかなー、なんて」ニコニコ 京太郎「オッシャルトオリデ…」 健夜「だいだいね――」クドクド 部長「あ、あれがいわゆる修羅場ってやつなのか?」ドキドキ 部員2「ちょっと一方的だけどね」 部員1「すこやんは意外と尻に敷くタイプだね、ありゃあ」 副部長「愛が深いのも考え物ねえ」 京太郎「」 健夜「」 健夜「んん…//で、結局何をしてるの?」 京太郎「すまん、今はちょっと言えないんだ。でもじきにに分かると思う」 京太郎「それまで待ってもらえるか?」 健夜「うん…」 京太郎「お詫びじゃないけどさ、今度また二人で遊びに行かないか?」 健夜「え、いいの?最近忙しいんじゃない?」 京太郎「大丈夫大丈夫!俺も健夜と一緒に出掛けたかったからな」 健夜「そ、そうなんだ…だったらいいよ///」 京太郎「じゃあ、来週の水曜日はどうだ?」 健夜「うん、その日なら大丈夫」 京太郎「よかった。詳しいことはまた後でな。もう行かなきゃ」 健夜「うん、分かった。いってらっしゃい」 京太郎「ああ、行ってきます」 部長「まるで夫婦だな」クス ――8月下旬 デート前日 京太郎「うーん、どうするか…」 デート前日だというのに、未だに俺はどこに行くのか迷っていた 京太郎「だいたい茨城県民って、どこにデートに行くんだよ…」 京太郎「何も無いじゃん、何も無いじゃん!」 ついには考えあぐねて、机の整理をし始めてしまった これはあれだ、テスト前に部屋の掃除をしたくなってしまう例の… パラ… 京太郎「ん?何だ、これ」 『アクアワールド 前売り券』 京太郎「これは、確か…」 以前、健夜のお母さんから頂いたものだ 京太郎「はは、なるほどね…」 もし…仮に、運命と云うものがあるとしたら、こういうことをいうのかもしれない 京太郎「決まりだな」 ――8月下旬 デート当日 さて、服装オッケー、財布オッケー、ハンカチとティッシュは持った えーと後は…… あっ!危ない危ない、大事なものを忘れるところだった これを忘れると、この2週間の努力が水の泡になってしまうからな 京太郎「じゃあ、行ってくるよ」 トシ「ああ、気をつけてね」 京太郎「あー……トシさん」 トシ「ん?」 京太郎「いつも、ありがとう」 トシ「ふふ、こちらこそ」 トシ「さあ、行ってらっしゃい」 待ち合わせ場所の駅前に向かう そこには既に、かわいらしい姿をした女の子がベンチに座っていた 京太郎「おはよう」 健夜「あ、おはよう!」 京太郎「すまん、待たせちまったみたいだな」 健夜「ううん、私も今来たところだから…………ハッ!!」 京太郎「……」 健夜「……」 健夜「普通逆だよね」 京太郎「だな」 京太郎「でも、俺の『人生で一度は体験したみたい事』第6位を経験できたからいいや」 健夜「なにそれっ!?ていうか1位から5位はどうなってるのそれ!?」 京太郎「さ、早く行こうぜ。電車に乗り遅れちまう」 健夜「え、ちょっと待ってよ。すごく気になるんだけど!?」 ___________________ ___________ ____ 電車で水族館近くの駅まで来て、今はバスに乗っている 天気は見事な晴れ。海の景色も素晴らしい 健夜「ここの水族館来るの久しぶりだよ。小学生のとき以来かなー」 京太郎「俺も水族館なんて、学校の遠足で行ったきりだと思う」 健夜「へえ、確か京太郎くんて長野出身なんだよね?」 健夜「長野県に水族館なんてあるの?」 京太郎「失礼な、一応あるぞ。そんなに大きくなかったけどな」 京太郎「それより、冬になると遠足でよくスキーをしに行ったりしたなあ」 健夜「いいなあ、私の所なんか普通に近くの公園に行ったりしただけだったもん」 京太郎「まあそれは雪国の特権ということで…」 京太郎「でも、雪ってそんなにいいものでもないぞ?」 京太郎「道路だけじゃなく、屋根に上って雪を落とさなきゃならんし」 京太郎「子供のころは雪のせいでよく転んだし」 京太郎「近くに買い物に行くにも一苦労だし…」 京太郎「でも、小さい頃は雪が降るとそれだけではしゃいだりしてたっけか…」 京太郎「今では、雪が降ると『めんどくせー』としか思わないのにな」 健夜「あはは、そうかもね」 健夜「でもそのおかげで、スキーとか滑れるようになったんでしょ?」 京太郎「まあな」 健夜「じゃあ、いつか私に教えてよ。実はまだしたことないんだ」 京太郎「……」 健夜「京太郎くん?」 京太郎「…そうだな、いつか必ず」 健夜「?」 京太郎「おっ、見えてきたな。あれがそうなんじゃないか」 健夜「あの大きい建物?前に来たときと違う気がするんだけど…」 京太郎「ああ、なんだか今年リニューアルオープンしたらしいぞ」 健夜「そうなんだ、楽しみだね!」 _________ _____ __ 京太郎「どうする健夜、微妙な時間だし先にお昼ごはん食べないか?」 健夜「う、うん。そうだね…」 京太郎「中にフードコートあるし、行こうぜ」 健夜「……」 京太郎「どうかしたか?さっきから口数少ないけど」 健夜「え、えーとね……その…」 京太郎「?」 健夜「こ、これっ!!」ズイッ 京太郎「ん?見ていいのか……お弁当じゃん!」 健夜「……」コクコク 京太郎「これ、健夜が自分で作ったのか?」 健夜「うん。いちおう…」 京太郎「俺の分もあるのか?」 健夜「も、もちろんだよ//」 健夜「というより、京太郎くんのために作ったというか……」ボソボソ 京太郎「?」 健夜「さ、向こうに机と椅子あるし行こっ!」グイッ 京太郎「お、おう」 早速健夜の作ったお昼ごはんを机の上に広げる 主食とおかずがバランス良く敷き詰められている さらにフルーツまで用意してあり、盛り付けもなかなか綺麗だ 京太郎「おお、意外とうまそうじゃん!!」 健夜「意外とは余計だよ!?」 健夜「でも京太郎くんの舌には合わないかも…」 京太郎「え、なんでだ?」 健夜「ほら、京太郎くんってお料理得意でしょ?それに比べて私はヘタクソだし……」 京太郎「あはは、それはそうかもな」 健夜「ひどいっ!」 京太郎「でもいいんだ、健夜の作ったご飯を食べられるだけで」 健夜「そ、そう///」 京太郎「さ、食べようぜ」 健夜「うん」 モグモグ 健夜「どうかな…」ジー 京太郎「うん、10段階評価でいうと4ってところだな」 健夜「それは喜んでいいのかな…」 京太郎「なに、これからどんどん上手くなっていけばいいさ」 京太郎「それより俺は、健夜の作ったものを食べられるだけで嬉しいから」 健夜「うっ…あ、ありがと//」 京太郎「うーん、でもこの味付けどこかで……健夜、これお母さんに手伝ってもらったろ?」 健夜「な、なぜそれを…」 京太郎「この煮物の味付けなんて健夜のお母さんのにそっくりだし、こっちの照り焼きだって――」 健夜「え、え、なんでそんなこと知ってるの?」 京太郎「ああ、言ってなかったけ?」 京太郎「実はな…文化祭の後意気投合しちゃってさ、何度かおじゃまして料理について教えあったり」 京太郎「今どこのスーパーでどの品物が安いのか、とか話しながらお茶したり――とかしてたしな」 健夜「主婦の会話!?お母さんと仲良すぎない!?それに私そんなこと知らないんだけど!?」 京太郎「えー、だって健夜って土日はお昼過ぎまで寝てるじゃん?」 京太郎「俺その時間にしかいなかったからなあ」 健夜「」 京太郎「ん?どうした」 健夜「乙女の秘密を暴いてそんなに平然としてるなんて……」 京太郎「乙女て……」 健夜「もう、知らない!勝手に食べれば!!」ガツガツ 京太郎「はいはい、すいませんでした」 昼食を食べ終わり、少し休憩をとると、いよいよ水族館に入場した さすがリニューアルしたばかりなので、清潔感があっていい感じだ 健夜「見て見て、すごい大きな水槽…」 京太郎「ほんとにな。イワシの大群がすごいキラキラしてるな」 健夜「あはは、あそこで泳いでる亀見て!」 京太郎「魚に纏わりつかれてる、何してるんだろう?」 健夜「さあ、分からないけど、なんだかかわいいね…」 京太郎「すごいな、サメも一緒に泳いでるんだな……他の魚食べないのかな?」 健夜「水族館の魚は餌は足りてるから、基本的に襲ったりしないらしいよ」 京太郎「基本的には?」 健夜「うん、だからたまに襲ったりすることもあるんだって」 京太郎「へえー、他の魚からしたらたまったもんじゃないなそれ…」 健夜「ふふ、そうだね」 京太郎「しかし、水族館に来ると腹が減ってこないか?」 健夜「えー、ならないよ。なんで?」 京太郎「俺よく料理はするからさ、食材を見ると完成品が思い浮かんじゃって…」 健夜「食材って…」 京太郎「ほら、あそこのイワシなんてうまそうだろ?たたきにすると最高なんじゃないか」 健夜「うっ……確かに」 京太郎「あのブリなんかいいじゃないか、脂身が多そうだから照り焼きにするか鍋にするか…」 健夜「うぅ…」ゴクリ 京太郎「向こうの水槽の大きなエビはシンプルに刺身にしようかな。頭は鍋のダシにしよう」 健夜「……もうやめて!お腹空いてきちゃうよ!?」 京太郎「やっぱりなったじゃないか」 健夜「京太郎くんのせいだからね!?」 健夜「うー、もうまともな目で展示見れないよ…」 京太郎「はは、わるいわるい!」 京太郎「じゃあ、あまり食材っぽくないあっちの展示を見ようぜ」 健夜「えー、なになに……サメと…マンボウだね!」 健夜「確かに、これならお料理は想像しにくいもんね」 京太郎「ちなみにサメの肉は鶏肉に似ていて、マンボウも意外と全国各地で食べられ――」 健夜「もうやめてっ!?」 _________ ______ __ 健夜「すごいサメの数だね…それに何種類もいるみたい」 京太郎「なんでも、この水族館の一押しがサメとマンボウらしいぞ」 健夜「へえー、言うだけあって確かにすごい数…」 健夜「あ!あのサメかっこよくない?」 京太郎「どれどれ……ふーむ、メジロザメっていうのか。確かにかっこいいな」 健夜「でしょ!」 京太郎「なんというか、ロシアの諜報機関に所属していて暗殺とかやってそうな顔をしてるな」 健夜「やけに具体的だね…」 京太郎「そうだな、例えるならサメ界のプ○チンといったところか…」 健夜「それはいけない」 京太郎「おっと、そうだったな」 健夜・京太郎「……」 健夜「あ、あれなんかどうかな」 京太郎「えーと、レモンザメか。名前はかわいらしいが……目がイッちゃってるな」 健夜「…うん、そうだね。あんなの海で見かけたら間違いなくパニックになる自信があるよ」 京太郎「こっちはあれだな、シリアルキラータイプだな」 京太郎「さっきのは計画的に殺人を犯すのに対して、こっちは特に理由も無く犯行に及ぶに違いない」 健夜「ひどい言い様だね…まあ、分からなくもないけど」 京太郎「おい、またすごいのを発見したぞ、あれ!」 健夜「うわっ!すごい強面…歯がむき出しになっててこわっ!」 京太郎「あれは…シロワニっていうのか。サメなのにワニって…ひょっとしてギャグで言っているのか!?」 健夜「へえ、見た目はあんなのなのに、おとなしい性格で人もめったに襲わないんだって…」 京太郎「嘘付け!あの顔は絶対中南米のマフィアのボスをやってて、麻薬取引で金稼いでる顔だよ!!」 健夜「ああ…確かにそんな感じ」 _________ _____ __ 健夜「想像してたのと違う…」 京太郎「え、何が?」 健夜「なんていうか、もっとこう『かわい~!』とか『すご~い!』とか」 健夜「水族館てそういう楽しみ方をするものだと思ってたよ…」 京太郎「そうか?楽しいならいいじゃん」 健夜「私たち水族館に来て、料理の話とサメの犯罪者顔の話しかしてないよ!?」 京太郎「わがままだなー。じゃああっち行こうぜ」 健夜「えーと『愛くるしい海獣たちが待ってます』…か。よさそうじゃん!」 京太郎「おお、いたいた。アザラシにラッコかあ」 健夜「……」 京太郎「ん、どうした?」 健夜「かわい~!これだよ、これ!!私が求めてたのは!!」 京太郎「そうですか」 健夜「あのラッコかわい~!」 京太郎「二匹が手を繋いでるな。かわいいけど、なんでだ?」 健夜「ラッコはね、海面に浮いたまま寝るんだ」 健夜「で、そのとき離れ離れにならなないように手を繋いで寝るんだよ」 京太郎「なんだよそれ、可愛すぎるだろ…反則じゃねえか」 健夜「でしょ~」 京太郎「あっちにいるアザラシもかわいいな」 健夜「正確にはゴマフアザラシだね。少年アシベの『ゴマちゃん』と同じアザラシ」 京太郎「ゴマ、ちゃん…?」 健夜「少年アシベのゴマちゃんだよ、さすがに知ってるでしょ?」 京太郎「アア、アレネ。イマオモイダシタヨ…」 知らないとは言えない…これがジェネレーションギャップというものか…… 健夜「すごいムニュムニュしてそう、家に持ち帰って抱き枕にしたいくらいだよ」 京太郎「それは、あのアザラシがかわいそうだから止めた方が…」 健夜「ちょっとそれ、どういう意味っ!?」 健夜「向こうにいる鳥?なんだろう」 京太郎「えーと、なになに……エトピリカ、だと…」 健夜「知ってるの?」 京太郎「ん、まあな。エトペンのモデルになった鳥だろ?」 健夜「京太郎くん、エトペンなんか知ってるんだ…以外」 京太郎「ふふ、まあな…なにせ、世界一幸せなペンギンだからな」 健夜「どういう意味?」 京太郎「俺と代われっ!!と毎日思っていたってことさ…」トオイメ 健夜「?」 _________ ______ __ 京太郎「そろそろ時間だし、帰るか」 健夜「うん、そうだね」 京太郎「…なあ、今日は楽しかったか?」 健夜「うん、もちろん!」 京太郎「そうか、よかった。本当に…」 健夜「?」 京太郎「なあ、その……帰る前に少し話したいことがあるんだが」 健夜「帰り道の途中じゃだめなの?」 京太郎「ああ、大事な話なんだ」 健夜「!!」 健夜「そ、それって、ももももしかして…///」 京太郎「……あそこならゆっくり話せそうだな」 健夜「う、うん…//」ドキドキ 健夜「で、なにかな//」 京太郎「……」 京太郎「この4ヶ月いろいろあったよな」 健夜「なに、突然?まあ、そうだけど…」 京太郎「最初健夜と会ったときなんか、すげえビクビクしててさ」 京太郎「俺、こいつと付き合っていけるのか?って思ったもんだよ」 健夜「ひどい!そんなこと考えてたんだ」 京太郎「はは、すまんすまん」 京太郎「そういや、出会ってすぐの頃はよく本の話をしたっけか」 京太郎「健夜、普通に話すときはビクビクしてるくせに、本の事となると途端に饒舌になってたよな」 健夜「や、やめてよ…なんだか恥ずかしいから///」 京太郎「いろいろ健夜から本を借りて…結構読んだなあ。楽しかったよ、すごく」 健夜「そ、そう?ありがとう//」 京太郎「その後は、半ば無理やり麻雀部に誘ったけ」 京太郎「正直あのときのことは反省している、後悔はしていない」 健夜「後悔もしてよ、もう!」 健夜「ま、でも、そのおかげで色々な事が経験できたんだけどね…」 京太郎「そうだな、短い間だったけどすごい密度だったような気がするよ」 健夜「そうだね」 京太郎「他にもたくさんあったなあ」 京太郎「トシさんに弟子入りしたり、文化祭で馬鹿やったり」 京太郎「初めて大会で勝ち進んで、合宿で思いっきり練習もして」 京太郎「みんなで海水浴に行ったのも楽しかったなあ」 京太郎「あの時の健夜の水着姿、ほんとに可愛かったぞ」 健夜「あぅ…///」 京太郎「東京に行って、インターハイで応援して」 京太郎「健夜、ぜんぜん実力を出せなくて、めちゃくちゃ落ち込んでたよな」 京太郎「でも、最後の対局はほんとかっこよかったよ。びっくりするくらい」 京太郎「また、ああいうのを見てみたかったんだけどな……」 健夜「……え、それってどういう――」 京太郎「健夜、よく聞いてくれ」 京太郎「俺、転校しなきゃいけないんだ」 健夜「え?」 健夜「い、いきなり何言ってるの?」 健夜「あ!そうだ、またいつものくだらない冗談だね!」 京太郎「健夜……」 健夜「もう、京太郎くんは…さあ、帰るんでしょ?行こうよ」 京太郎「健夜…すまない。本当は最初から分かっていたことなんだ。いつかは帰らないといけないって」 健夜「もう、いいよ。そういう冗談は……だからやめて」 京太郎「でも、気付いたらあまりにもみんなと仲良くなっちまって、言い出せなかったんだ」 健夜「お願いだから…」 京太郎「すまない」 健夜「……なんでなの」 京太郎「すまん、それだけは言えない」 健夜「私にも?」 京太郎「健夜だからこそ、だ」 健夜「意味わかんないよ」 京太郎「だろうな」 健夜「……でも、転校しても、またすぐ会えるんだよね?」 京太郎「いや、もう会えないかもしれない」 健夜「~~ッ!!なにそれっ!意味わかんないよ、さっきからっ!!!」 京太郎「……」 健夜「……」 健夜「ねえ、今日さ…いつかスキーを教えてくれるって約束してくれたよね?」 京太郎「そうだな」 健夜「東京で、あの公園で…」 健夜「来年もまた、一緒にここに来ようって約束してくれたよね?」 京太郎「ああ」 健夜「あの事故の後……私がピンチのときは必ず助けてくれるって言ってくれたよね!?」 京太郎「……」 健夜「あれも全部嘘だったの!?」 京太郎「そうだ」 健夜「っ…!!」 健夜「馬鹿っ!!」ダッ 京太郎「……」 泣いてたな……大事な人を泣かせるなんて、我ながら最低だ 京太郎「いや、これで良かったのかもな」 ……ああ、結局渡せなかった、これ _________ _____ __ 京太郎「ただいま」 トシ「おや、おかえり。案外早かったんだね」 京太郎「…うん」 トシ「……」 トシ「どうしたんだい?」 京太郎「単刀直入に言うよ、トシさん。俺帰ることにしたんだ」 トシ「……そうかい。だから今日健夜ちゃんと…」 トシ「きちんとお別れはできたのかい?」 京太郎「どうだろう、正直よく分からないや」 トシ「京太郎のことだ、自分に対して未練が残らないように、冷たくあしらったんだろう?」 トシ「違うかい?」 京太郎「はは、トシさんには適わないな……ほんとに」 トシ「京太郎こっちにおいで」 京太郎「どうしたの、急に」 トシ「いいから、ほらっ」ギュ トシ「半年も一緒にいるのに、こうするのはこれが初めてだね」 京太郎「うん、そうだね」 トシ「京太郎、この半年間本当にありがとう」 京太郎「お礼を言うのは俺の方だよ」 トシ「そんなことないよ。あんたからは色んなもの貰ったんだから」 京太郎「それを言うなら、俺だってトシさんから色んなもの貰ったよ」 トシ「お互い様だね」 京太郎「そうだね」 京太郎「…いろいろ言うべきことがあった気がするんだけど、出てこないや」 トシ「ふふ、私もだよ」 京太郎「しばらく、このままでいい?」 トシ「うん」 その後、自分の部屋に戻り、荷物の整理をした だけど、それもあっけなく終ってしまった まあ、半年程度ならこんなものなんだろう 結局、麻雀部の先輩やクラスメイトにはお別れを言わなかった たとえ言ったとしても、理由を聞かれて、返答に窮するだけだ 寂しいが、仕方がないのかもしれない 半年振りに清澄の制服に袖を通し、玄関に向かう トシ「なかなかきまっているじゃないか、似合ってるよ」 京太郎「ありがとう、なんだか照れるね」 京太郎「あー、あと悪いんだけど、これを健夜に渡しておいてくれないかな」 京太郎「本当は最後に渡すつもりだったんだけど」 トシ「これは……分かったよ、必ず」 京太郎「学校のこととか、色々と後始末をしてもらうのは申し訳ないんだけど…」 トシ「何言ってるのさ、大人に迷惑をかけるのも子供の仕事の内だよ」 京太郎「そう言ってもらえると助かるよ、ありがとう」 京太郎「あと、これ。トシさんにも」 トシ「なんだい?やけに大きいね……あらっ?」 京太郎「料理の練習でだいぶ磨耗しちゃったから、新しい調理器具を買ったんだ」 京太郎「どうかな…なるべく良さそうなのを選んだんだけど」 トシ「うれいしいよ、ありがとう京太郎。でも高かったろうに…」 京太郎「今月短期のバイトで稼いだからね、どうってことないよ」 京太郎「それより、俺がいなくなってからもカップラーメンは控えてほしいかな」 トシ「ふふ、善処するよ」 京太郎「もうっ」 トシ「……」 京太郎「……」 トシ「行くのかい?」 京太郎「うん」 トシ「帰りは?」 京太郎「少し遅くなるよ」 トシ「そうかい、いってらっしゃい京太郎」 京太郎「いってきます」 京太郎「ばあちゃん」 この半年間、色んなことがあった。本当に楽しかった だからできれば、ずっとここで過ごしたいくらいだ だが、そういうわけにもいかない ついに帰るときが来たのだ トシさん、麻雀部の先輩方、クラスメイト、そして健夜… みんなと別れるのは寂しいが、彼らのおかげでとても楽しい日々を過ごすことができた 伝えることはできないが、本当にありがとう 京太郎「さて…」 おあつらえ向きの下り坂が見えてきた だから、助走を付ける タンッ! みんなの顔がフラッシュバックする タンッ!! この半年の出来事が一挙に頭の中を駆け巡る…健夜 タンッ!!! 健夜……本当はあの時俺は… 京太郎「いっけええええええええええ!!!」 ――8月下旬 健夜「やっぱり、このままじゃダメだよね……」 あれから、2日たったけど私はいまだに行動できずにいた でも、このまま分かれの挨拶すらもできないのは、もっとダメだ よしっ! 健夜「おかーさん、ちょっと出掛けてくる」 _________ _____ __ 健夜「つ、着いてしまった…」 あー、勢いで来たものの、なんて言えばいいんだろう? あんな別れ方したし、会うのは気まずいよ… 健夜「はぁー…」 トシ「おや、健夜ちゃんじゃないか。どうしたんだい?」 健夜「あ、熊倉さん。えと、その…京太郎くんいますか?」 トシ「……まあ、上がりなさい」 健夜「?はあ…」 玄関に上がると、以前とは異なる違和感を感じる、なんだろう? それになんだか、物が減ってるような もしかして… トシ「さて、今日はどうしたんだい?」 健夜「えと、熊倉さんも知ってますよね?京太郎くんが転校すること…」 健夜「だから、その…最後の挨拶に……」 トシ「そうかい、ありがとう健夜ちゃん」 トシ「でも、残念だけど、京太郎はもう行ってしまってね。ここにはいないんだ」 健夜「そう…ですか……」 やっぱり、感じた違和感はそういうことだったのだ トシ「健夜ちゃん……」 健夜「はは、少し遅かったみたいですね……」 トシ「京太郎のこと、恨まないであげて。あの子にも事情があって――」 健夜「分かってます!!分かってますけど…」 トシ「……」 トシ「これ、京太郎から健夜ちゃんにって」 _________ _____ __ 健夜「ただいま」 健夜母「あら、おかえり。早かったわね」 健夜「うん……ごめん部屋行くね」 健夜母「ちょっと、健夜!?」 バタン はは…バカみたい。別れの挨拶すらできないなんて あの時…きちんと話を聞いてあげればよかった 熊倉さんから渡された、箱を見る 開ける気にはどうしてもなれなかったけど、それでもなんとか包装を解いていく 現れたのは、シルバーのチェーンに薄い青と透明の宝石があしらわれている―― 健夜「これは、あの時の…」 間違いない。合宿のとき、京太郎くんと瑞原さんと行ったデパートで見つけた、あの時のネックレスだ そういえば最近、京太郎くん忙しそうにしてた。きっとこのためにアルバイトしてたんだ 健夜「覚えててくれたんだ……」 健夜「馬鹿……」 こんな物より、私は京太郎くんがいてくれさえすれば、それで…… ――9月上旬 二学期始め 二学期が始まった 朝のホームルームで先生が京太郎くんの転校のことを伝えると、クラスがざわめいた その後なぜか、何人ものクラスメイトが私を慰めてくれた 中学生の頃の私だったら考えられないことだったので、素直に嬉しかった でも正直、何を言われても心に響いてくることはなかった 今日は特に授業などもなかったので、早めに終ってしまった なので、荷物を持って早々部室に向かう ガラガラガラ 健夜「失礼します」 シーン… 健夜「…まあ、誰もいないんだけどね」 さすがに2学期ともなると、先輩達もほとんど顔を出せなくなる だから、今日からは本当にひとりぼっち 健夜「……一人で麻雀なんかできるわけないじゃん」 健夜「馬鹿……京太郎くんの馬鹿」 することもないので、仕方なく持ってきていた文庫本を読む 健夜「……」ペラペラペラ 健夜「……」ペラペラ 健夜「……」ペラ… 健夜「はぁ……」 だめだ、なんだか集中できない 以前なら2時間でも3時間でも、いや1日中、本の世界に没頭することができたのに いつからだろう?どうして変わってしまったんだろう? そんなのは分かりきっている、京太郎くんと出会ったからだ 京太郎くんが私の世界を広げてくれたから、私の興味を外に向けてくれたから… 本当はもっと京太郎くんと過ごしたかった 他愛のない、いつものバカ話をずっとしていたかった 二人で大会に出て、また全国に行きたかった 2年生になったら、新しい部員が来てもっと部活が盛り上がるはずだった 3年生になったら、部活も引退して進路について二人で真剣に語り合うはすだった どうして、転校なんかしたの?どうして、最後の挨拶もさせてくれなかったの? どうして、急にいなくなっちゃうの?どうして、ちゃんと理由を教えてくれなかったの? どうして?ねえ、どうしてなの、京太郎くん。お願いだから答えてよ…… 分かれることを知っていたなら、どうしてあの時私に話しかけてきたの? 私が一人だったから、同情して付き合ってくれていたの? 私のこと、本当はどうでもいいって思ってたの? こんなに辛い気持ちになるくらいなら、ずっとひとりぼっちの方がマシだったよ 健夜「馬鹿……」ポロポロ 馬鹿……馬鹿!……馬鹿!! 麻雀なんて…もう辞め―― コンコン 健夜「!!」ゴシゴシ コンコン! 健夜「は、はい。どうぞ」 ガラガラガラ 「失礼しまーす」 健夜「は、はい」 「ここ、麻雀部であってますよね?」 健夜「はい、そうですけど…えーと何か用ですか」 「えーと、実は…」 コンコン 健夜「!!」 「失礼します」 健夜「え、また!?」 コンコン 「しつれいしまーす」 健夜「」 _________ ______ __ 結局、その後来たのは計4人。いずれも1年生の女の子だ 健夜「えーと、皆さんどういったご用件で…」 「あはは、敬語はいいよ。同い年なんだし」 健夜「う、うん…」 健夜「で、なんの用なのかな?」 「はい、これ」 健夜「えーとなになに……入部届かあ。なるほどなるほど」 健夜「……」 健夜「うえ゛!?」 健夜「入部届っ!?入部届って、あの入部届っ!?」 「それ以外になにかあったけ?」 「ないと思うけど」 健夜「ということはつまり…四人とも麻雀部の入部希望者ってことっ?」 「「うん!」」 健夜「そう、なんだ」 健夜「でも、どうして急に…?」 「熊倉君が誘ってくれたんだよねー」 健夜「えっ」 「8月の中頃くらいかなー。いきなり電話してきてさ」 ちょうどインターハイが終って、先輩達が引退した頃だ 「そうなの?私なんかいきなり家まで来たからびっくりしちゃったよ」 健夜「……」 「でも、すごい熱心ていうかさ…鬼気迫るかんじだったよね」 健夜「……」 「何度もお願いされたからね、最後にはオーケーしちゃったもん」 「私の時なんか――」 健夜「……」 健夜「……」 健夜「……」 健夜「……」ポロポロ 馬鹿は…馬鹿は私だ。私、自分のことしか考えてなかった 京太郎くんはこんなにも私のこと考えていてくれたのに 「えっ、え、えちちtちょっといきなりどうしたの?だだだ大丈夫?」 「落ち着け!どこか痛いところでもあるの?」 健夜「ううん…違うの……ただ、自分が…情けなくて、それで…」ポロポロ 「うん、大丈夫。大丈夫だから」ポンポン 健夜「ありがとう……来てくれて…ありがとう…」ポロポロ 「うん、うん…」 生まれたての赤ちゃんのように、その後もずっと泣き続けた _________ _____ __ ピンポーン トシ「おや、健夜ちゃん」 健夜「熊倉さん、お願いがあります!」 トシ「どうしたんだい、急に」 健夜「私に麻雀を教えてください!!」 トシ「…今も教えてると思うけど」 健夜「違うんです!もっと全国で……いや世界で戦えるくらい強くなりたいんです!」 トシ「……世界とは大きく出たね。どういう心境の変化だい」 健夜「京太郎くんがどこに行ったのかは知りません」 健夜「けど、私がもっと麻雀で強くなって、もっと有名になれば」 健夜「きっと、京太郎くんも見ていてくれるから……」 健夜「だから、強くならなくちゃいけないんです!」 トシ「それは自分のためかい?」 健夜「正直分かりません」 健夜「でも、私の麻雀をまた見たいって言ってくれたんです」 トシ「……」 健夜「京太郎くんからは、とても多くのものを貰いました」 健夜「信じられないほど、たくさん」 健夜「だから、ほんの少しでも、私からあげられるものがあるなら」 健夜「自分のためと言われても、構いません!」 トシ「ふふ…」 トシ「まったく、二人ともそっくりなんだから……」 健夜「?」 トシ「いいよ、明日から毎日おいで。みっちりしごいてあげるから」 健夜「あっ、ありがとうございます!!」 トシ「さあ!さっさと、京太郎に追いつかなきゃね。時間がなくなっちゃうよ」 --------------------------- その後は早かった 1年生が終るまで、私は熊倉さんの指導を徹底的に受けた 団体戦では残念ながら、全国に行くことはできなかった しかし、最後の大会では県で2位に食い込むことができた 私たちの最初の実力からすれば、相当成長できたのは確かだろう 私はこのままこのメンバーで、2年生になってもやっていくんだとばかり思っていた だけど、1年生での終わりに突然お父さんの転勤が決まり、転校することになった 同じ茨城県だったが、新しい家から通うには少し遠すぎたのだ 新しい高校の名前は『土浦女子高校』 制服はブレザーではなく、丸襟にグレーのリボンのものに変わった 初めてできた友達や部活の仲間、熊倉さんと分かれるのは辛かった きっと京太郎くんもあの時、こんな気持ちになったのだろう 引越しの後気付いたけど、京太郎くんから預かっていた文化祭の衣装がいつの間にかなくなっていた 京太郎くんとの数少ない思い出だったから、必死になって探したけど見つからなかった もし誰かの手に渡っているなら、せめて大事に扱っていてほしい 熊倉さんも程なくして、福岡の麻雀の実業団で監督をするため引越しをしたそうだ 転校してからも麻雀はずっと続けた、何ものにも優先して そのせいか、3年生の全国大会では団体戦優勝を果たすことができた 京太郎くんは見ていてくれたのだろうか?そうだと嬉しい 高校を卒業してからは、ありがたいことにプロのオファーがあった 私は飛びついた それからも、私はひたすら麻雀をし続けた まるで、最初の目的を忘れてしまったかのように そして…… ――12年後 東京 インターハイ会場 恒子「すこやん、お疲れー!」 健夜「お疲れ様、こーこちゃん」 恒子「いやー今日もアラサーらしく、年季の入った名解説でしたな」 健夜「アラフォーだよ!!」 恒子「……」 健夜「間違えちゃったじゃん!何言わせるの!!」 恒子「いや~、今のはさすがにすこやんが悪いと思うんだけど」 健夜「もうっ、まったく!こーこちゃんは!」 恒子「はいはい、悪うございました…」 恒子「ん、あれっ?すこやんにしては珍しく、ネックレスなんて着けてるんだね」 恒子「どうしたの、若作り?」 健夜「私まだ20代だからね!?そのくらいのファッションはするよ!」 恒子「へぇー、アクアマリンとダイアモンドかあ。デザインは若い人向けみたいだけど、大丈夫?」 健夜「大丈夫ってなに!?」 恒子「でも、すこやんにしてはいいセンスしてるじゃん。なんでいつもは着けないの?」 健夜「うーん…なんでだろ?」 健夜「なんだか今まで、どうしてもそういう気分になれなかったんだよね……」 恒子「ふーん……さては男ですな?」 健夜「ななな、なんで分かるの!?」 恒子「ふふふ、女がアンニュイな表情をしたら、それ即ち男が関係していると相場が決まっているのだよ」 健夜「へえ、こーこちゃんすごいんだね」 恒子「それほどでもあるよ!」フフン 恒子「……もしかして彼氏からのプレゼントとか?」 健夜「彼氏か…そうだったら良かったんだけどね…」 恒子「"だった"ってことは、昔の?」 健夜「うん、学生時代にちょっとね」 恒子「へえ、行かず後家四天王の一角と呼ばれたすこやんにも、そんな時代があったんだねえ」 健夜「行かず後家なんてよく知ってるね!?ていうか、そんなの初めて聞いたよっ!?」 恒子「初めて言ったからね」 健夜「……ちなみに他の三人は?」 恒子「えーと、野依プロと瑞原プロと、あと一人誰にしようか?」 健夜「こーこちゃん、そのネタその二人には絶対に言わないほうがいいよ。命に関わるから」 恒子「命って、そんなー」 健夜「……」 恒子「……肝に銘じます」 恒子「しかし、すこやんにもそんなことがあったんだねー。その子とは結局?」 健夜「うん、転校しちゃってそれっきり」 恒子「ははー、まるで一昔前の少女漫画みたいな展開だね」 恒子「でも、その子はすこやんのことをとても大切に思ってたみたいだね」 健夜「……どうして?」 恒子「だって、このネックレス高校生が買うにしてはかなり高いもん」 恒子「5万か6万くらいはしたんじゃないのかな?」 恒子「好きな娘以外にそんなプレゼント、普通はしないよ」 健夜「……」 恒子「すこやんは、その男の子のことどう思ってたの?」 健夜「……分かんない、忘れちゃった」 恒子「そう」 恒子「……」 恒子「さあ!明日で仕事が一区切りするから、その後飲みに行くぜー!!ね、すこやん」 健夜「うん、そうだね。ありがとう、こーこちゃん」 さて、今日は解説の仕事は終ったからホテルに帰ろう なんだか疲れちゃった。きっと昔の話をしたからだ あれから12年が経った 私は強くなり続けた…と思う 体も成長した。む、胸だってほらっ!? ……ごめんなさい、嘘つきました。ほとんど変わってません プロになって、色んな大会に出た。そして勝ち続けた 気付いたら、いつの間にか世界ランキングが2位になっていたこともある ねえ、京太郎くん。見てよこれ、私のカード 『国内では無敗』『永世称号七冠』『恵比寿時代は毎年リーグMVP』 だってさ。この『Grandmaster』なんて仰々しいの、私には似合ってないよね 私強くなったんだよ?銀メダルだってとったことあるんだから その時の私、見ていてくれた?その時の私、かっこよかった? 京太郎くんがあの時言ってくれたみたいに 少しでも恩返しできたのかな、私… ねえ、京太郎くん。私、疲れちゃったよ。少し頑張りすぎたからかな こーこちゃんにはああ言ったけど、私はあの時から……いや今でもあなたのことを… 健夜「会いたい……」 もし、もう一度出会えたら…あの時言えなかったことを――― 「あぶなーいっ!!!」 健夜「へ?」 横を見る。横断歩道に猛スピード迫ってくるワゴン車。距離は20メートルくらい 健夜「あ」 これは助からないな。こうどうしようもないと、案外冷静になるものなんだ ここで、私死んじゃうんだ。あっけない ああ、私の人生ってなんだったんだろう? でも、今にして思えば案外幸せだった言えるのかもしれない 仲の良い友達も何人かいるし、他人から見れば麻雀選手として大成功を収めたといえる あれ?あと、何かあったけ? まあ、いっか。どうせここで終ってしまうんだから でも…前にもこんなことが ドンッ 健夜「え」 すごい衝撃が伝わる でもこれは、車というより、人の 振り向くと、そこには金髪の男の子が 健夜「あ、きょうた――」 グシャ 肉の潰れる嫌な音がした 今度こそ、私は気を失った ________ _____ __ ―病院 「ハイ、いいですよ。お疲れ様」 健夜「ありがとうございました」 「特に異常は見当たりませんね。気になるところがあれば、またいらして下さい」 健夜「はい。あの…あの男の子は今」 「まだ、手術中ですね」 健夜「そう、ですか」 「……私の見たところ、頭からの出血は多いようでしたが、それほど深いものではないようです」 「肋骨にひびが入っていますが、中に以上はないようでした」 「左足は骨折していますが、それほど酷いものではないので、将来障害が残る心配はありません」 「追突する直前、車が横にそれたので、正面衝突を避けられたのが良かったのかもしれませんね」 健夜「そう…ですね」 「自分の命を顧みず、他人を助けることのできる素晴らしい青年です」 「うちのスタッフが全力で取り組んでいるので、安心してください」 「じきに手術も終るでしょう……彼のこと、待ちますか?」 健夜「はい」 事故のとき、私はもう助からないと思った しかし、周りにいた人達の証言によると、男の子が飛び出してきて私を突き飛ばしてくれたらしい 私は歩道に逃れたが、その子は…… 警察の人によると、車は70~80キロ近くスピードを出していたらしい それで、あの怪我で済んだのは奇跡的とのことだ それでも、あのような酷い怪我を負ってしまった 私はすぐに気を失ってしまったので、その後の出来事は詳しくは知らない 気付いたら病院にいて、よく分からない検査を受けていた そして今、彼の眠るベッドの横で、私は座っている 健夜「……」 健夜「ありがとう。あなたのおかげで、私助かったよ」 健夜「ねえ、あなたは誰なの?金髪のそっくりさん」 健夜「ん?なんだろこれ……学生証?」 健夜「……」 健夜「名前だけ、名前だけならセーフだよねっ?」 健夜「苗字は『須賀』、名前は……」 健夜「『京太郎』……かあ」 健夜「……」 健夜「……」 健夜「えっ?え、ええええっ…え?!??」 ここここれは、どういうこと?もしかして本当に、京太郎くん本人? いや、この子も京太郎くんなんだけどね!? でででも、顔とか体つきとかはほとんど同じに見えるし いや、でもあれから12年経ってるし、同じってありえないよね!? はっ!もしかして、この子京太郎くんの息子さんとか…… ということは、もう他の誰かと結婚してて…… 健夜「うぅ……」キリキリ やめよう、秒速5センチメートルみたいな妄想は。私の胃に優しくない 第一、自分の息子に同じ名前をつける親がどこにいる! 健夜「はあー……」 傍からみたら、私ただの変質者だね、これ 健夜「ねえ、早く目を覚ましてよ『京太郎』くん……」 恒子「すすすこやーん!!」バーン 健夜「あ、こーこちゃん」 恒子「事故にあったって聞いて、だだだ大丈夫!?」 健夜「落ち着いて、こーこちゃん。私は何ともないから」 恒子「そ、そうなの!?よ…よかったあ」ヘナヘナ 健夜「心配してくれたんだね。ありがとう」 恒子「あれ?……この子はどうしたの?」 健夜「この子が私を助けてくれたの。でも代わりに…」 恒子「そう、なんだ」 健夜「幸いそこまで酷い怪我じゃないらしいけど、まだ意識が戻らないんだ」 恒子「そう……すこやんのことありがとね、少年」 ~~~~~~~~~~~~~~~~ 良子「少々遅れましたが、どうやら無事なようですね」 えり「そうですね」 はやり「まったく、心配したんだから…」 咏「まったくだねぃ」 野依「よかったっ!!」 靖子「まあ、無事でよかったよ。ほんと」 はやり「……」 良子「どうかしました?」 はやり「うーん、あの子…」 良子「あの金髪の子ですね?どうやら、彼が小鍛治さんを助けてくれたようですが」 はやり「うん、そうなんだけど。あの男の子、どこかで会ったことがあるような……」 野依「……」 野依「痴呆っ!!」 はやり「あ゛、今なんつった」 ビクッ!! 野依「難聴っ!!」 咏「これは、やばいねぃ…」ヒソヒソ 良子「Oh……」 はやり「久しぶりに切れちゃった☆……雀荘行こうか☆」 野依「望むところっ!!」 はやり「でも、二人じゃ麻雀できないからなあ…☆」チラ 咏・良子「」ビクッ!! 咏「あー!私このあと雑誌の取材があって――」 良子「実は解説の仕事が残っていまして――」 はやり・野依「ん?」ニコニコ 咏・良子「……お供させていただきます」 みさき「あれ?そういえば藤田プロがいませんね、さっきまでここにいたのに」 咏・良子(あのカツ丼、逃げやがったな…) はやり「じゃあ行こうか☆二度と麻雀のできない身体にしてあげるよ☆」 野依「こっちの台詞っ!!」 ~~~~~~~~~~~~~~~~ 健夜「なんだか、外が騒がしいね。何かあったのかな?」 恒子「さあ?お年寄りが世間話でもしてるんじゃない?」 健夜「病院なんだから静かにして欲しいよね、まったく」 健夜「……京太郎くん」ギュ 恒子「すこやん…」 恒子「すこやん、もしかしてその子のこと知ってるの?」 健夜「分かんない…」 恒子「え、それってどういう」 コンコン 健夜「は、はい、どうぞ」 ??「失礼します、こちらに須賀くんがいると聞いて」 健夜「は、はい。こちらです」 健夜「えと、あなた達は?」 ??「申し遅れました、私は清澄高校麻雀部の部長の竹井と申します」 久「それとこちらが、部員の染谷、宮永、片岡、原村です」 久「私たち、須賀くんと同じ部員なんです」 健夜「そう、だったんだ」 咲「京ちゃん!!京ちゃん!!」 優希「イヌ…なにやってんだじぇ」 和「須賀くん…」 まこ「それで、容態のほうは?」 健夜「手術は成功したんだけど、まだ意識の方が…」 まこ「そう、なんか…」 久「…私のせいだわ、あの時買出しなんか行かせなければ……」 まこ「あほ、単なる偶然じゃ。自分のせいにしたって何にもならんぞ」 久「……そうね、その通りだわ。ありがとう、まこ」 久「それで、その…事故の詳しいこと聞いてもいいですか?」 健夜「はい」 __________ ______ __ 久「そうですか、ありがとうございました」 健夜「い、いや、お礼を言うのはこっちの方だから」 咲「でも、京ちゃんらしいね」 優希「いつも、他人ことばっかり。少しは自分のことも考えろ…ばか」 健夜「……あの、良かったらこの子のこともっと教えてくれませんか?」 久「敬語はいいですよ、小鍛治プロ」 健夜「え、ばれてたの!?」 和「麻雀やってる人で、小鍛治プロのことを知らない人なんていませんよ」 まこ「それに、福与アナもおるしな」 恒子「あれっ、分かっちゃた?私も有名になったもんだね~」 久「小鍛治プロからの頼みとあらば仕方ないですね。悪いけど、咲お願いね」 咲「え、私ですか?」ビクッ 久「この中なら、あなたが一番須賀くんと付き合いが長いわ。よろしくね」 咲「は、はあ」 久「私達は先に帰るわね。たくさんいても邪魔になるし」 恒子「なら、私も帰るよ。咲ちゃん、すこやんのことお願いね」 健夜「普通逆じゃない!?」 その後、咲ちゃんから色々な話を聞いた 中学時代どんなことがあったのか、どんな会話をして、どう思ったのか 高校に入ってからこと、大会のこと、そして今日のこと 咲「いつも、自分のことは後回し。他の人のことを第一に考えてるんです」 咲「まったく…バカなんだから」 健夜「…そうだね、昔からそうだったんだよね」 咲「?」 健夜「ありがとう、咲ちゃん。私の頼みなんか聞いてくれて」 健夜「明日も試合でしょう?早く帰って休んだほうがいいよ」 咲「…そうですね、そうします」 咲「小鍛治さんはこの後…」 健夜「もう少しだけ、ここにいるよ。一人じゃ寂しいもんね」 ――??? ~~~~~~~~~~~~~ 「う……ぁ…」 何をしてるんだい? 「いえ…何もできないんです」 本当かい? 「ほら、見てください。包帯でグルグル巻きでしょう?」 「これじゃあ、動けませんよ」 なんで包帯なんかしてるんだい? 「えーと…なんででしょう?怪我でもしたかなあ…」 いいや、怪我なんかしてないはずだよ。ほらっ! 「ちょっと、止めてくださいよ。痛いじゃないですか!」 本当に? 「あれっ?痛くない…?なんで…」 怪我してるわけでもないのに、そんな包帯を巻いているから身動きが取れなくなるのさ さ、起きなさい。私と彼が言った、同じ言葉があるだろう? それを思い出すんだ 「え、もしかして…あなたは――」 ~~~~~~~~~~~~~~~ ――事故から三日後 京太郎「うぅ……」 うあ、体がだるい。つか左足全く動かねえ…どうなってんだ なんか後頭部もジンジンするし、最悪だな あれ?俺何してたんだっけ? たしかこっち戻ってきてそれで…… 京太郎「た、助かったのか…俺!?」 まじかよ…絶対ダメかと思ってたのに 京太郎「よっしゃーーーーーっっ!!!!」 京太郎「って、痛っ…!声出しただけで、ハンパなくいてぇ…」 はあ、てことはここ病院か そういえば、肝心の健夜は無事だったのだろうか? 歩道に押したまでは確認したんだが、それ以上覚えてねえ コンコン 「失礼します」 ん、誰だ?とういかこの声、最近まで聞いてような――やべっ! ガチャ 健夜「『京太郎』くん、起きてる?わけないよね…」 無事だったかあ、よかった……本当によかった 健夜「今日もお見舞いの品、持ってきたんだけど。既にいっぱいだね」 健夜「ねえ、今日の試合、咲ちゃんたち勝ったみたいだよ。よかったね」 健夜「解説のとき、こーこちゃんたら酷いんだよ。全国放送でアラサーネタ連発するし」 健夜「自分だって、もうすぐアラサーなのにね」 健夜「……」 健夜「ねえ、『京太郎』くん。早く目を覚まして。本当のこと教えて」 健夜「あなたは、あの京太郎くんなんでしょう?」 健夜「咲ちゃんから聞いたよ、いろんなこと」 健夜「昔から、変わってないんだね。私、びっくりしちゃった」 京太郎「……」 健夜「私あれから、すごく強くなったんだよ?」 健夜「なにせ、元世界ランク2位なんだからね。すごいでしょ?」 健夜「銀メダルだって取ったんだから…」 京太郎「……」 健夜「……」 健夜「私…あなたに、頑張った、って。それだけでいいの……だから…」ポロポロ 健夜「京太郎くん……」ポロポロ 言うべきなのだろうか? 正直言うと、助かったときのことは全く考えていなかった だが、俺のことをいまさら言ったところでどうなるというのか もしかしたら、既に健夜には付き合っている男性がいるかもしれない そんなところに、12年前の俺が現れたらどうだろう? そんなことしたって、健夜を困らせるだけだ いや、たとえ彼氏がいなくたって同じようなものか… それに、そもそもタイムリープなんて荒唐無稽なこと信じてもらえるはずがない なら言わないほうがいい それが健夜のため だけど…… 『自分の気持ちに素直にね』 ……ありがとう、トシさん 健夜「……じゃあ、もう行くね」ゴシゴシ 京太郎「……待った」 健夜「え」 京太郎「久しぶり、健夜」 健夜「えっ!あ…え、え?」パクパク 健夜「きょ、京太郎くんなの?あの…」 京太郎「そう、あの京太郎だ」 健夜「…なんとも、ないの?」 京太郎「言ったろ、ちょっとやそっとじゃ死なないって」 健夜「で、でも、まだ高校生なんでしょ!?」 京太郎「まあ…その……いろいろあったんだ」 京太郎「詳しいことはまた後で話すよ。それでも信じてくれるか?」 健夜「……私、ひと目見て分かったもん…京太郎くんだって」 健夜「違うかもしれないって思ったよ?けど、苗字は違ったけど名前も顔も一緒で…」 健夜「変だって思った。そんなのありえないって…」 健夜「でも、咲ちゃんからあなたの話を聞いて分かったの」 健夜「この人は間違いなく京太郎くんなんだって」 健夜「昔から全然変わってなくて、びっくりしたんだから…」 京太郎「そういう健夜だって、あの頃と全然変わってないじゃないか」 健夜「そ、そんなことない!あの後、いろんなこと…いっぱいあって……それで…」ジワァ 京太郎「……」 健夜「ばか~~っ!!勝手にいなくなって…」 健夜「急に現れたと思ったら…今度は事故で!」 健夜「すごく、すっごく!心配したんだからっ!!」 京太郎「す、すまん」 健夜「もう起きないかもって何度も何度も思って……それで…」 健夜「バカ、アホ、トンチンカン!!」 健夜「ヘンタイ!ドスケベ!他の人の胸ばっかり見てっ!!」 健夜「バカバカバカバカバカバカバカばかばかばかばかーーーーー!!!」 京太郎「そこまで言わなくても…」 京太郎「どうしたら許してくれる?」 健夜「許さないもん!」 京太郎「もん、って……じゃあ、どうしたいい?」 健夜「えと…その、あのー……」 健夜「………!!」 健夜「ききききキス、してくれたら許してあげないこともない…かも/////」モジモジ 乙女か!いや、もう乙女じゃないのか? 京太郎「えっ!?そのー、聞きにくいことなんだが……彼氏とかいないのか?」 健夜「」 健夜「……」 健夜「いたことないもん…」ボソ 京太郎「え?」 健夜「今まで、一人もいたことないって言ったの!わるいっ!!」 京太郎「い、いや悪くないです。むしろ嬉しい…かな」 健夜「そ、そう、なんだ…///」 京太郎「ああ」 健夜「じゃあ、その……する?」 京太郎「いやその前に、ちょっと待ってくれ」 京太郎「最後分かれたとき、本当に言いたかったこと、言わせてくれ」 健夜「うん」 京太郎「好きだ」 健夜「私も。あの頃からずっと」 京太郎「健夜…」 健夜「京太郎くん…」 健夜の手に、自分の手を重ねる。暖かい だんだんと二人の距離が近づいてゆく、そして――― ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ トシ「どうやら、うまくいったみたいだね」 トシ「……あらあら、年寄りはとっとと退散しようか」 トシ「確かこういう時は、こう言うんだったかな」 トシ「二人は幸せなキスをして終了」 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ ――5年後 京太郎「うー、緊張してきた…」 健夜「大丈夫だよ、なんたって私が教えてきたんだから」 京太郎「そうだな、いつもありがとう」 チュ 健夜「…えへへ」 恒子「おー、暑い暑い!暖房効きすぎかなあ、この部屋は」 健夜「こーこちゃん!?」 健夜「…もしかして、見てた!?」 恒子「いんやあ、見てないよ」 健夜「よかったあ」 恒子「二人が熱ぅ~いキスをしてることろなんてね」 健夜「も、もうっ!見てたんじゃん!?早く実況に戻りなよ!」 恒子「はいはい……あと京太郎くん、タイトル戦頑張んなさい」 京太郎「はい!」 健夜「もうっ、こーこちゃんは…」 京太郎「…福与さん、いい人だなあ」 健夜「えっ!うわ、浮気!?」 京太郎「そんなことしないよ…」 京太郎「福与さん、俺が初のタイトル戦で緊張してるから、わざとああ言ってくれたんだよ」 健夜「そ、そうだったんだ。後で感謝しなくちゃだね」 はやり(3×)「おーい、京太郎くん!」 京太郎「あ!お久しぶりです、瑞原プロ」 はやり(3×)「久しぶり。今日はよろしくね」 健夜「ちょっ…!すごい格好してるね、それ」 健夜「痴女…というより、もはや露出狂だよその服!?」 はやり(3×)「えー、最近流行ってるんだよこの服、ほらこれ見てよ」 健夜「なにスマホまで出して…なになに」 『茨城在住のあるデザイナーは、スランプに陥っていた』 『あるとき、茨城で開かれていたフリーマーケットを覗くと、そこにはとんでもない服が』 『これにインスピレーションを受けた彼は、次々と新作を発表してゆく』 『最初は麻雀界隈の一部のみで流行っていたものの、今ではその茨城スタイルは世界的なものになりつつある』 『そのブランドの名前は、彼がフリーマーケットで発見した服に付いていた文字からとった』 『K.K、と』 はやり「ねっ!」 京太郎・健夜「Oh…」 K.K=Kumakura Kyoutaro です…本当にありがとうございました トシ「ほら、試合はじまるよ。早く行きな、二人とも」 京太郎「監督!」 京太郎「そうですね、行ってきます」 トシ「ああ、いってらっしゃい」 ________ _____ __ 京太郎「今日は負けませんよ、嫁と娘が見てるんです」 はやり「まだまだ、新人君には負けないよ」 アカギ「久しぶりだな、京ちゃん……だが、勝つのは俺だぜ……!」 野依「負けないっ!!」 京太郎「あー、そういえば…」 はやり「ん?」 京太郎「……約束、守ってくれましたね」 はやり「なんのこと?」 京太郎「いえ、何でもありません。さあ、いきますよ!!」 京太郎「カンッ!!」