約 4,073,213 件
https://w.atwiki.jp/seisoku-index/pages/114.html
~なんだかんだで当日~黄泉川「一方通行ぁぁぁぁ!!!!」ガチャッバタン黄泉川「起きろじゃぁぁぁぁぁぁん!!!!!!」ピョーンカキーン!黄泉川「いったぁ……。べつに跳ね返さなくてもいいじゃんよー」一方通行「オマエのその無駄にデケェ脂肪の塊のせいでダイブされたら痛みが尋常じゃねェンだよ」黄泉川「……朝からそんなエッチなこと言わないでほしいじゃん/////」クネクネ一方通行「…………………」 黄泉川「そういえば」一方通行「あァ?」黄泉川「今日はどうやって行くじゃん?やっぱあたしが運転?」一方通行「今日ぐれェ俺が運転してやンよ」黄泉川「……免許は?」一方通行「はァ?あるわけねェだろォが」黄泉川「……………」一方通行「免許なくても運転ぐれェできるに決まってンだろ」黄泉川(そういう問題じゃないじゃん……) 黄泉川「んー、なんだかんだで助手席はらくちんじゃーん♪」グテー一方通行「なンで助手席に座ンだよ……。運転席の後ろじゃねェと万が一の時危ねェだろォが」黄泉川「あたしは一方通行を信頼してるから別にいいじゃんよー」黄泉川「それにやっぱり……」一方通行「あァ?」黄泉川「一方通行の隣が一番安心するじゃん?」一方通行「………うるせェぞクソババァ。さっさと寝やがれ」ゲシゲシ黄泉川「いたっ、痛いじゃんゆ!」 ~パーキングエリア~一方通行「おい黄泉川、便所行かなくて大丈夫かァ……って」黄泉川「………スゥ…スゥ……」一方通行「寝てンじゃねェか……。人が必死こいて運転してンのによォ」一方通行「相変わらずムカつく顔してやがンな」ホッペムニー黄泉川「……んぅ……んむぅ……?」一方通行「……起きてねェよなァ」ジー一方通行「起きねェとその無駄乳ひきちぎっぞ」ギュー黄泉川「……いたいじゃん……ゆ……」一方通行「…………チッ、なに考えてンだ俺は」 一方通行「さっさと起きろクソババァ」ガッシボカ黄泉川「……だからいたいって……へあ?」一方通行「やっと起きやがったンですかァ?」黄泉川「あぁ……、おはようじゃんよ」ゴシゴシ一方通行「おはようございますゥこのクソッタレ」 一方通行「とりあえずなンか買ってきやがれ、腹減った」黄泉川「わかったじゃんよー」 一方通行「……あとは高速降りて……と」黄泉川「ただいまじゃんよー」一方通行「おせェよ」黄泉川「そうカッカしちゃダメじゃん?」一方通行「はァ………」一方通行「で、なに買ってきたンだ?」黄泉川「ほい、じゃん」ソフトクリーム×1一方通行「…………」 一方通行「バカですかァ?なンで一個なンですかァ?」 一方通行「俺の分がねェとか言ったら捻り潰すぞ」黄泉川「なに言ってんじゃん?一緒に食べるじゃんよー」一方通行「………はァ?」黄泉川「ほらほら、あーんじゃんよ」一方通行「」ベチャ 一方通行「なァァァにしやがンですかこのクソババァァァァ!!!!」黄泉川「食べさせてあけだだけじゃん?」一方通行「いやいや、『ベチャ』ってなンですか『ベチャ』ってェェェェェェ!!!!!!」一方通行「百歩譲って『あーん』は認め……ねェけどよ!!『ベチャ』はねェだろォォォがァァァ!!!!」黄泉川「あ、一方通行ほっぺにアイスついてるじゃん?」黄泉川「ペロッ、じゃん」一方通行「」黄泉川「いやー、これやってみたかったじゃん♪」 ~なんだかんだで動物園に到着~黄泉川「いやー、絶好の動物園日和じゃん♪」一方通行「………疲れたぜェ」黄泉川「こんなところで疲れちゃってどうするじゃん?これからいーっぱい遊ぶじゃんよー♪」ギュッ一方通行「誰のせい、つゥかちゃっかり手ェ握ってンじゃねェェェェェェ!!!!!!」ブンブン黄泉川「そ、そんなに激しくしないでほしいじゃん///////」 黄泉川「うーん……」一方通行「どォかしたか?」黄泉川「どれ見ようか悩むじゃんよ……。全部は見れないだろうし……」一方通行「あァ?」一方通行「そンならまずは↓5でいいだろ」 348:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/04/18(日) 14 53 48.55 ID 8ytjC62o 芳川もしくはねこ 一方通行「……アレだ、その辺のヤツにオススメ聞きゃあいいだろ」黄泉川「結局人頼みじゃん?」一方通行「うるせェばーか」一方通行「……というわけなンですけどォ」係員「なるほど、それならあそこなんてどうですか?」黄泉川「ん?なんだかあそこすごい人だかりが出来てるじゃんよ」係員「今日入ったばっかりなんですよ、ラッキーですね」黄泉川「それじゃあ早速行くじゃん!」グイッ一方通行「いてェから引っ張るな走るな」 黄泉川「着いたじゃ……ん?」一方通行「どォした黄泉か……わァ?」芳川「にゃーん♪」黄泉川「」一方通行「」芳川「うにゃー♪」 芳川「にゃにゃ?」芳川「にゃんにゃん♪」 ID 8ytjC62o「うぉぉぉぉぉぉネコカワぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」俺「にゃぁぁぁぁぁぁんんん!!!!!!」一方通行「………どォする?」黄泉川「駄目じゃん……、アレに関わったら不幸になる予感がマッハでするじゃん……」一方通行「………だな。ンじゃ、↓5に行こうかァ」 360:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/04/18(日) 17 35 53.96 ID 5RX48a20 上条vsインなんたら 一方通行「あそこの人だかりもすげェぞ」黄泉川「ほんとじゃん、そうと決まれば早速GOじゃんよー」ダッ一方通行「だから引っ張るなっつってんだろォがァァァ」黄泉川「ヒーロー、ショー……?」一方通行「ここ動物園じゃねェのかよ……」 『でやがったな、!イングニッシュ!』『ふっふっふっ……、ト・ウマ。あなたが同胞を屠ってきた落し前、つけさせてもらうんだよ!』黄泉川「なんだかなぁ……」一方通行(なンか無性にあのヒーローをボコしたくなった)~中略~『そんなのでいいのかよ!そんな簡単に諦めて(ry そげぶ!』『かっこいい!抱いて!』ナレ『こうして世界は平和を取り戻したのでした、おしまい』パチパチパチパチパチパチ黄泉川「……なんだかなぁ」一方通行「……いい加減まともなとこ行こうぜ」黄泉川「せっかく動物園にきたじゃん、↓3に行きたいじゃんよ」 367:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/04/18(日) 18 00 16.45 ID V8bxnvc0 オオグンタマの貴重な産卵シーン 一方通行「オオグンタマ……だァ?」黄泉川「なんでも、哺乳類であるにも関わらず」「そこからは僕が説明するよ」やまぐち「やぁ、僕はやまぐち。フリーのカメラマンさ」 一方通行「で、オオグンタマってのはいったいなンなンだァ?」やまぐち「簡単に説明しようか」やまぐち「オオグンタマは草食でおとなしい動物なんだ」やまぐち「日本の群馬と埼玉にしか存在しないと言われている」やまぐち「けど、草食だからって舐めてはいけない」やまぐち「その大きさなんと3メートル、顎の力は300キロもあるんだ!」一方通行「3メートルだァ?学園都市の外にゃそンな化け物がいやがるですかァ」黄泉川「あたしの二倍近くあるじゃんよ……」 やまぐち「けどね………」一方通行「?」やまぐち「言っただろ?おとなしいって」黄泉川「つまり……」やまぐち「そう、オオグンタマのとある部位は、珍味として有名なんだ。だから乱獲が進んでね……」やまぐち「森林伐採も固体数の減少に油を射してるんだよ」やまぐち「それに、紫外線に弱いオオグンタマは、オゾンの破壊によりほとんど姿を見せなくなったんだ」黄泉川「自分達が快適な生活をするために、地球の生態系を破壊しちゃってるじゃんか……」やまぐち「ま、それが人間だから仕方ないんだけどね」 動物安価↓3 391:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/04/22(木) 21 15 10.03 ID GaQG9XMo ねこ 黄泉川「ネコ……」一方通行「あァ?」黄泉川「ネコが見たいじゃんよ!」ピキーン一方通行「さっき見ただろォが」黄泉川「あれはナマケモノじゃんよ、にゃーと鳴くナマケモノじゃんよ……」 一方通行「だいたいネコなンざ動物園で見るもンじゃねェだろ」黄泉川「ぶー、そんなことは言わない約束じゃんよー」黄泉川「とりあえず、早速ネコのところへ向かうじゃんよ!」一方通行「めンどくせェ……」 ~ふれあい☆ニャンニャンひろば~ニャーニャー、ニャーン黄泉川「すごい……、どこを見渡してもネコばっかりじゃんよ!」一方通行「そんな珍しいもンじゃ……ン?」黄泉川「?どうかしたじゃん?」一方通行「……いや、ゴーグル付けたガキが寂しそうにトボトボ歩いてンのが見えただけだ」黄泉川「???」一方通行(体内から発生する電磁波……可哀相なヤツだなァ) 黄泉川「わー、このネコもふもふじゃんよー」フワモフ-一方通行「……………」黄泉川「こっちはすごい太っちょさんじゃん、ちゃんとダイエットするじゃんよー!」ムニョーン一方通行「……………」黄泉川「わっ!子猫、子猫じゃんよ!ちっちゃいじゃんよ!にゃーにゃーじゃんよー」一方通行「………クロスケ」ナデナデクロ「にゃ?」 黄泉川「見てみて一方通行!」一方通行「あァ?どォかしたか」黄泉川「一方通行にそっくりじゃんよー」シロ「うにゃ」プイ黄泉川「素直じゃないところとかそっくりじゃんよ、あと一人ぼっちだったとことか」一方通行「鼻面折るぞクソババァ」 黄泉川「それにしても……」ジーシロ「うにゃ?」黄泉川「ほんとかわいいじゃんよー」ギューシロ「にゃー!?」フシュー一方通行「………80点だな」ナデナデ黄泉川「あたしは?」一方通行「論外。国に帰れ」ゲシゲシ黄泉川「黄泉川だけに黄泉のくn……いた!?痛いじゃんよ!」 黄泉川「シロ~♪」シロ「……にゃ」一方通行「…………」ヨシヨシ ID GaQG9XMo「ずいぶん仲がよろしいんですね、ご夫婦ですか?」黄泉通行「「!!?」」 ID GaQG9XMo「あ、いきなりすみませんね。とても仲が良いように見えたもので」俺「ウフッ♪ もうあなたったら、お二人の邪魔をしちゃ申し訳ないでしょ?」 ID GaQG9XMo「それもそうだねマイハニー。それじゃあ僕らは今日入園したばかりという珍しい猫を見に行こうか、ハハッ」ギュッ俺「もう//// みんなが見てるわよ//////」黄泉通行「「……………」」シロ「………にゃ」 一方通行「……………」黄泉川「……………」一方通行「……なンか喋れよ」黄泉川「あ、いや、わかったじゃん………」一方通行「……………」黄泉川「……………」黄泉通行(……気まずい) 一方通行「………あー、」コホン 一方通行「どォやら俺達は夫婦みてェらしいなァ」黄泉川「みたい、じゃん、よ」ハズカシクテウツミキー一方通行「……ま、別に嫌な気はしねェがな」黄泉川「は、ほんとじゃん!?」バッ一方通行「い、いきなり顔上げンなよビビるじゃねェか……」ビクッ 一方通行「ま、現実的には姉弟……いや、親子ってかァ?(笑)」黄泉川「!」黄泉川「……そんなこと言う口はこうじゃんよー」ピクピク一方通行「あァ!?あにふンだこのくほォははァ!!」黄泉川「許さないじゃんよー、乙女のハートを傷付けた罰じゃんよー」ムニューン一方通行「はなへっていってンだろォがァァァ!!!」 一方通行「……疲れた。つゥかいてェ」ヒリヒリ黄泉川「口は災いの元って昔から言うじゃん」一方通行「……………」黄泉川「そンなことよりそろそろお昼なんてどうじゃん?」一方通行「……まァ多少腹が減った気がしないでもねェ」グー黄泉川(素直にお腹すいたって言えばいいのに……)ジー 一方通行「で、どこで食うンだ?園内にレストランかなンかありゃいいがなァ」黄泉川「ふっふっふ………」一方通行「……どォした?」黄泉川「今日はお弁当を作ってきたじゃんよー!」ババーン一方通行「な、なンだってェー!?」ドドーンま・た・見・て・ね・♪ 410:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/04/22(木) 22 30 22.61 ID GaQG9XMo 1も好きだけど俺の嫁は木山先生なんだ・・・ほんとにごめん…そして乙&ありがとう!
https://w.atwiki.jp/index-index/pages/858.html
【種別】 識別名 【初出】 十三巻 【CV】 宮崎寛務 【解説】 猟犬部隊に所属している、部隊員のコードネーム。 一方通行を追い第三資源再生処理施設に向かった班の一人。 性別は男。
https://w.atwiki.jp/kusanonemaze/pages/171.html
大阪市議会・ヘイトスピーチ対処条例可決妨害事件(カラーボール事件) 総覧 → 自称「行動する(社会)運動」の襲撃事件等/自称「行動する(社会)運動」の襲撃事件等:関西編 (参考)資料屋本舗〈行動界隈の犯罪の検挙件数・検挙人員はどのくらい?〉 2016年1月15日:大阪市議会でヘイトスピーチ対処条例案の審議中、ヘイトデモ参加者が議場にカラーボールを投げ入れ、その後威力業務妨害容疑で逮捕される。Togetter(参考)〈【メモ】在特会元支部長・現運営らが大阪市ヘイトスピーチ対処条例案に反対街宣 2015/1/14・15 報道(事件の一報)産経新聞〈ヘイトスピーチ抑止条例に反対?議場へカラーボール 大阪市議会、傍聴席の男取り押さえ〉〈議場にカラーボールか 大阪市議会で抑止条例案の賛成討論中〉 NHK関西〈傍聴席から議場にカラーボール〉 朝日新聞〈大阪市議会の議場にカラーボール ヘイトスピーチ討論中〉 ABC〈【騒然】市議会議場にカラーボール 条例案は再開後可決〉 読売新聞〈「表現の自由を守れ」傍聴席からカラーボール〉 日テレ〈カラーボールで審議妨害(大阪府)〉 関西テレビ〈大阪市議会「ヘイトスピーチ」抑止条例を可決〉 報道(逮捕)朝日新聞〈ヘイトスピーチ審議の議場にカラーボール、男逮捕 大阪〉〈ヘイトスピーチ条例の審議中にボールを投げつけた疑い〉 共同通信〈市議会にカラーボール投げ入れ 男逮捕、ヘイト抑止条例に反対〉 産経新聞〈ヘイトスピーチ審議中に議場にカラーボール投げつけた男逮捕 「条例可決、阻止したかった」〉(「男はヘイトスピーチ抑止条例案に反対する市民団体などの集会に個人的に参加していたといい、15日も市役所周辺で行われた反対デモに加わった後、議会を傍聴していた。」) TBS〈大阪市でヘイトスピーチ対策条例成立、全国初〉(「男は奈良市の無職・松村和則容疑者(50)で、威力業務妨害の疑いで逮捕されました。警察によりますと、松村容疑者は「在日特権を許さない市民の会」の集会などに以前から参加していて、取り調べに対し「可決を阻止しようと思った。カラーボールは筆箱に入れて持ち込んだ」と容疑を認めているということです。」) テレビ朝日〈ヘイトスピーチ抑止討論中、議場に突然カラーボール〉 毎日新聞〈大阪市議会 議場にカラーボール投げつけ…容疑の男逮捕〉(「府警警備部によると、松村容疑者は特定の政治団体に所属せず、「在日特権を許さない市民の会」の街宣活動などに参加しているという。」) 読売新聞〈ヘイト条例「腹立った」…カラーボール投げ逮捕〉〈大阪市議会妨害容疑、カラーボール投げた男逮捕〉 日経新聞〈市議会にカラーボール投げ込み 大阪、容疑の男逮捕〉 関西テレビ〈大阪市議会にカラーボール 男を逮捕〉(「警察によると、松村容疑者は特定の団体などには所属していませんが、15日には市役所周辺でデモ活動をしていたということです。」) NAVERまとめ〈【画像集】大阪市議会議場でカラーボールが投げ込まれる言論テロ事件が発生 もみ合いも発生〉 〈大阪市ヘイトスピーチ条例案を審議中の市議会で暴力的妨害が行われた模様(動画追加)〉 条例反対派関係88047(容疑者のものであるとされるブログ)〈大阪市ヘイトスピーチ規制条例について〉 やまと新聞〈【速報】ヘイトスピーチ規制条例案審議中の大阪市議会本会議、カラーボールが投げ込まれ審議中断、議場内けが人なし、投げ込んだ男性、傍聴者に羽交い絞めにされ殴打される〉〈大阪市ヘイトスピーチ規制条例成立、カラーボール投げ込み事件の影響で、特別委員会室で本会議再開、傍聴者の参観見送りへ〉 瀬戸弘幸ブログ〈大阪・在日特権条例の誕生(1) ヘイトスピーチなる日本人への差別〉 中谷良子・現代撫子倶楽部代表ブログ〈【大阪ヘイトスピーチ条例】NHKの偏向報道〉 獅子座なお・凛風やまと獅子の会代表:「この方、『日本人の人権を守れ』とか『言論弾圧はやめろ』とか叫んでた。その通りなんですよね」「やり方は悪かったかもしれません。ただ、ヘイトスピーチ規制条例自体がおかしいことだというのは事実」(趣旨。「そういった暴力行為がまかり通るようであれば、議会の言論の自由が奪われることになりますのでしっかりと厳正に対処していきます」という吉村市長のコメントについても不満を漏らしていた。1月16日午後7時からのニコニコ生放送、25分45秒ぐらいから) 大阪府警〈検挙のお知らせ〉 ■威力業務妨害事件被疑者の逮捕〔本部警備総務課、天満警察署〕 1月16日、男を威力業務妨害事件被疑者として逮捕しました。 被疑者は、同月15日、大阪市役所8階議場において、大阪市定例会本会議で、大阪市ヘイトスピーチへの対処に関する条例案が可決されることを妨害しようと考え、傍聴席から、塗料が入ったカラーボール2個を本会議中の議場内に投げつけ、会議の遂行を妨害したものです。 1月21日:大阪市長、定例会見で事件に言及。大阪市〈平成28年1月21日 大阪市長会見全文〉 毎日新聞 念佛記者:あと一点だけ伺いたいんですが、先日、市議会でカラーボールが傍聴席から投げ込まれた時に、厳正に対処していくと仰られてたと思うんですけれども、あの時確かスーツも汚れたんじゃないかと思うんですが、弁償とかを含めて、今の段階でどういうことをお考えかを教えてください。 市長:まず、これ刑事的な手続きについては、これは当然、あれはある意味刑法に反することだと思いますんでね、業務妨害ですから、刑事的にはしっかり対応していきたいと思っています。民事的にも、これから着手することになるのかな、ちょっと当然、これは損害発生している訳ですから、責任追及というのは検討したいと思いますが、ただそこはいろいろな事情も考慮してですね、判断していきたいと思っています。 2月5日:大阪地検、容疑者を威力業務妨害罪で起訴。産経新聞〈大阪市議会議場にカラーボール投げ込み男を起訴〉 2月18日:大阪府議会、事件を受けて傍聴者の規制強化を決定。朝日新聞〈大阪府議会、傍聴者の筆箱持ち込み禁止へ 探知機で検査〉 3月22日:刑事裁判初公判(即日結審)→ 求刑:懲役1年6月(ソース) 3月29日:判決言い渡し → 懲役1年6月・執行猶予3年(確定)男組ブログ〈大阪カラーボール事件〉 宮崎勤事件 冤罪説を検証する―ブログ出張版―〈ヘイト団体『新風』の暴行犯逮捕・大阪カラーボール男に有罪判決〉 報道産経新聞〈大阪市議会にカラーボール投げ込んだ男に地裁で有罪判決〉(「判決理由で矢野裁判官は、被告が当時、審議中のヘイトスピーチ(憎悪表現)抑止条例案に反対し、犯行に及んだと動機を指摘。「短絡的犯行で酌量の余地に乏しい」とした。」) 毎日新聞〈威力業務妨害 議場にボールを投げた男に有罪 地裁判決 /大阪〉(裁判官「条例案への反対を社会に知らしめようとした犯行は、意見、信条に基づくからといって正当化されるものではない」) ABC〈【大阪】市議会でカラーボール投げた男に有罪判決〉 (前略)松村被告は、「条例案が違憲・無効なものなので、可決を阻止するためにやった」などと起訴内容を認めていました。大阪地裁は29日の判決で、「あらかじめ議場を下見するなど計画性が認められ、被告の主張も正当化されるものではないが、反省もしている」として松村被告に懲役1年6ヵ月・執行猶予3年を言い渡しました。松村被告は、「今後は街頭での演説など合法的な方法で、条例への反対活動を続ける」と話しています。 2016年7月~8月:松村元被告、大阪市役所前で「ヘイトスピーチ規制粉砕」街宣を実施。NAVERまとめ〈「ヘイトスピーチ規制粉砕」街宣 at 大阪市役所前 2016年7月~9月〉 2016年10月13日:松村元被告、今度は暴行容疑で逮捕される。産経新聞〈大阪市役所議場でカラーボール投げた男、今度は暴行容疑で逮捕〉 大阪府警〈検挙のお知らせ〉 ■暴行事件被疑者の逮捕〔天満警察署〕 10月13日、男を暴行事件被疑者として逮捕しました。 被疑者は、同日、大阪市北区中之島の役所において、男性を押し倒し、胸ぐらを掴むなどの暴行を加えたものです。 2016年2月18日:自称「行動する(社会)運動」の襲撃事件等:関西編から移植する形でページ作成。 (略) 2016年5月12日:判決言い渡しの項(3月29日)に産経新聞と毎日新聞の記事を追加。 2016年7月25日:大阪市役所前街宣の項(7月~8月)を新設。 2016年10月14日:暴行容疑による逮捕の項(10月13日)を新設。
https://w.atwiki.jp/seisoku-index/pages/1193.html
初動はほぼ同時だった。 網膜を焼く白の閃光が迸り、御坂の額に掛かる髪を払い雷撃が跳ねた。 速度はまさしく迅雷。光芒は二人を繋ぐ空間を断ち切る一撃となって直線の軌跡を描く。 認知など遠く及ばず、意識する暇もなく白の超能力者を貫かんとする槍となる。 対し一方通行は、軽く地面を踵で蹴るだけだ。 彼の能力、ベクトル操作の初動。あらゆる力を意のままに操るという超能力の頂点。 それだけで地球の公転運動を基礎としたエネルギーは向きを変え、脳裏に描いた通りに反転する。 始動からの時間は刹那にも及ばない。 そうと決めた瞬間から逡巡すらも必要ない。 最初の一撃で互いに必殺の力を放っていた。 先に得物に喰らい付いたのは御坂の放った雷撃だった。 もし仮に相手がただの一般人ならば瞬時に消し炭になる――どころかミサイルの直撃を受けたが如く肉体が四散してもおかしくないほどの高エネルギー。 しかしそれも相手が極普通の者だったらという仮定の話だ。 白雷の矛先を向けられたのは他でもない超能力者第一位。 彼の最強の能力『一方通行』の前には他の能力など塵芥も同然。 強度など関係なく、どれも等しく有象無象でしかない。 ――反射。 超高速で飛来する雷槍は彼の身体に突き刺さらんとし、その直前に逆転する。 まるで鏡に映したように、そこだけ動画を逆再生するように、一瞬の間に今貫いた空中を再度疾走する。 この世の法則下にある限りどのような力であれ彼を傷付けることはできない。 『ありとあらゆる力』を操作するという理不尽な能力。 もし正面からこの絶対の盾を貫かんとするなら『彼の能力が通じない力』という更なる理不尽を以ってしなければ成しえない。 いくら超能力とはいえど本を糺せば単なる放電。自然現象に他ならない。 そんな極ありきたりの力が一方通行に太刀打ちできるはずがないのだ。 「――――!!」 御坂の放った必殺の雷撃はそのまま自身へと跳ね返る。 殺意のままに放たれた白光は意思すらなく己の指向のままにその身を躍らせた。 空気が爆ぜ、落雷の伴うあの轟音が炸裂する。 その中で御坂は己の放った雷光に額を撃ち抜かれた。 御坂の身体が跳ねる。 間近で炸裂した音の衝撃波が少女の矮躯を叩き撥ね飛ばす。 そして、僅かに宙に浮いた御坂目掛けて足元から無数の錐が突き上げた。 一方通行の力。あらゆるエネルギーの指向性を思いのままに操る能力。 公転エネルギーを九〇度近く転換。彼の足元から直下へ。地中深くで鋭角に向きを変え、御坂の足元へと疾走した。 鋭く研ぎ澄まされた力の流れは路面を抉り上げ、構造材ごと宙へ浮く御坂に牙を剥いた。 無数の錐が少女の肉を抉らんと屹立する。 その様はあたかも掲げられた槍衾か、さもなければ地獄の針山だろう。 「――は」 と笑ったのはどちらだろうか。 突然、御坂の肌を貫く寸前、石の錐がぼろりと崩れ落ちた。 硬く、鋭く、少女の柔肌など苦もなく穿つような死の牙が無残にも塵と化す。 砂と呼ぶこともできないほどの微小粒子となったそれは反響する雷鳴に吹き飛ばされあっというまに消え去った。 言うまでもなく御坂の仕業だ。 『電撃使い』の頂点に君臨する御坂美琴。まさか彼女を彼女自身の力が傷付けるはずもない。 巨大な熱量を孕んだ白雷は彼女の身体に触れたと同時にその力を姿を変え、電磁波となり直後に現れた無数の錐に放たれる。 超振動を受けた錐は一瞬で微塵に粉砕された。 しかし御坂は納得できないでいる。 「ちょっとこれどういう事よ――」 背面に雷撃を展開。反動で前方へと急加速する。 手には砂鉄剣。自身の纏う超振動で即座に燃え上がり白熱を曝け出す。 白の残影を描き、雷速の踏み込みで彼我の距離を詰め一方通行へと斬りかかる。 擦れ違い様の一閃。 同時に爆花が咲き散る。 光熱は一方通行の身体に触れる直前、そのベクトルを反転。 己自身へと全てのエネルギーを向け炸裂した。 無秩序な破壊は御坂へも向けられる。 しかし電磁の属性を帯びたそれらが彼女を傷付けることがあるはずもない。 「ちっ――」 舌打ちし御坂は反転し地を滑るように着地する。 目を細め、眉を顰め、一方通行へ睥睨を向ける。 肩越しに振り向いた真紅の瞳と視線が交差した。 「っ――!!」 閃光。轟音。 白雷の雨を降らせ、御坂は着地の勢いを殺さず、更なる磁力の助けを得て背後へと加速跳躍する。 雷雨は攻撃ではない。元よりそんなものが機能する相手ではないのだから。 雷爆の光と音、そして舞い上がった粉塵で視覚と聴覚を奪うため。スタングレネードと同じだ。 結果として御坂の判断は功を奏した。 ごがんっ! という鈍く重い音。 もしも御坂が加速し跳躍しなかった場合、そこにいたであろう地点に一方通行の拳が突き刺さっていた。 路面は陥没し放射状に長い皹が走っている。その中心、一方通行の右腕が深く突き刺さっていた。 手首は完全に埋没し、肘近くまでが地中に消えていた。 もしそれが御坂の身体に振り下ろされていたら――。 髪の毛一本でも触れるだけで即死。 そんな理不尽の塊こそが最強の証だ。 しかし御坂にそんな今更の事実はどうでもよかった。 そんなことと言い切れるほどの深刻な問題に彼女は直面していた。 「これは一体どういうことよ……」 今目の前に広がっている光景そのものが御坂の想定外だった。 「どうしてコイツが能力使えてるのよ、妹達!!」 『どうしてと申されましても、とミサカ一〇〇三三号は代表して応答します』 己と同じ声色が頭の中で生まれる。 普段聞いている『自分の声』とは違う響き。 頭蓋を通して鼓膜を振動させるものとは別の音色だ。 『ミサカがあの人の代理演算を行っていることはお姉様もご承知のはずです、とミサカ一〇〇三三号が引き続きお送りします』 「そういうことを言ってるんじゃないわよ!」 空中で身を捻りビルの壁面に着地する。 鉄筋を能力で引き寄せ磁力を足場に、胸の前には路面がある。 視線は頭上、水平方向へ。 赤い瞳がこちらを見ていた。 視線は御坂に向けられたまま、一方通行は緩やかな動作で腕を引き抜く。 手には路面を舗装していた煉瓦が一欠。それをゆっくりと持ち上げ――。 ぞくり――と背筋に走ったものは予感だ。 コンクリートの壁を蹴り身を翻す。 方向は御坂にとっての背面上方、月を背に跳ねるように身を躍らせた。 「く――!」 喉から漏れた声を掻き消すように轟音が響く。 彼の手から放たれた煉瓦は超高速の砲弾となり直前まで御坂のいたビル壁を撃ち貫いていた。 「今、上位個体は私よ! アンタ達の全権は私が握ってる!」 乱雑な動きで右手を上着のポケットに突っ込む。 じゃらりと鳴る音は金属質のものだ。 ありふれたゲームセンターのコイン。 掴み引っ張り出した金属片が幾枚か指先から零れ月光を返す。 「なのにどうして――!!」 ぱちん、と音を立て宙に舞うコインが小さく跳ねた。 彼女の能力によって電磁誘導の見えないレーンが形成される。 握った手の内を叩き付けるように、御坂は超電磁砲を射出した。 バギンッ――!! と耳が砕けるような音が夜の街を走った。 散弾のように、けれどそのどれもが必殺の威力を持つ一方通行目掛けて穿たれた超電磁砲は、一発残らず反射され御坂へと跳ね返ってくる。 だがそのどれもが御坂を傷付けはしない。 強力な斥力場の壁に阻まれ彼女を避けるように軌道を曲げる。 あるものは地面へ、あるものは夜空高くへ。白光を描く。 「どうしてコイツの演算なんかをするのよ!」 『それがミサカの意思だからです、とミサカは率直に答えます』 ぴくり、と一方通行の眉が動いたのを御坂は見逃さなかった。 この声は彼にも聞こえているのだろう。 しかし一方通行は無言のまま、何気ない動きで一歩を踏み出す。 背の黒い翼がざわめく。 『ですから、分かりやすく言いますと――』 次瞬、吹き荒れる颪のような黒の奔流が御坂を襲った。 『ミサカはお姉様と敵対します、とミサカはここに宣戦布告します』 「ぎっ――――!!」 左の脹脛を削られながらも御坂は空中で強引に軌道を変え怒涛を回避する。 ほんの毛先ほどが触れただけなのに鑢を掛けられたように抉られた。 (やっぱり電磁操作が効かない! ううん、そんな事より……) 御坂の意思に反して妹達は独自に判断し行動している。  わ た し 「上位個体の権限が通じない……!?」 そんな事はあり得ない。上位個体の命令は絶対だ。 過去に打ち止め――最終信号を介して命令を送ろうとした者がいた事実が証明している。 御坂はそれを知らない。 ミサカネットワーク内に残された断片的な情報から得た知識だけだ。 しかし最終信号と同格の権限を有するはずなのに、御坂の命令は通じない。 いや、命令自体は通じている。そうでなければ垣根との戦闘で十全の力を発揮できていなかった。 つまり考えられるのは――。 「アイツか……っ」 脳裏に浮かんだのはベレー帽の少女。 本人はその辺りに転がっているはずだが、意識を割く余裕はない。 「元からこうなるのを見越して権限委譲の時に仕込んでたって訳……!」 直後、飛び込んできた一方通行を御坂は街灯を電磁誘導で手繰り寄せることで軌道修正する。 円弧を描くような動きで回避した御坂は遠心力をそのままに背後に吹き飛ぶように飛翔した。 「くっ――!」 「ちっ……!」 歯噛みする御坂を一方通行は舌打ちし宙を追い駆ける。 暗闇の中、ぞわっ――と背の黒翼が粟立った。 「――――!」 高速回避のまま御坂はビルの壁面に着地。 電磁操作で周囲の砂鉄を掻き集め再度右手に白く輝く剣を形成する。 「っ――ああああああ!!」 思いつく限りの手段と持てる全力で白剣を強化、固定化し、御坂は黒翼を迎え撃つ。 これが単なる強化というだけでは太刀打ちできるはずもない。 御坂の能力の一切通用しない黒翼の性質を御坂は直感的に覚っていた。 だが御坂にもこの漆黒の力に対抗する術がある。 今や御坂にしか、そして御坂だからこそ可能な禁じ手。 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 白剣を構成する電子を、粒子と波動の中間の曖昧なまま固定する 同系統の能力者故に可能な能力模倣。 それは超能力者第四位固有の能力。 だが電磁操作系能力者の頂点に座す御坂だからこそ出来る荒業だ。 一度見たきりではあるがミサカネットワークと接続した今なら可能だと踏む。 能力のデータは本来の能力者から妹達は得ている。 一方通行の代理演算履歴の参照が可能であり、かつ同質の能力者である妹達だからこそ解析が可能だった。 導き出した特殊演算式を展開。 眩い純白を放っていた光剣が一瞬揺らめき、その姿を変質させる。 放つ色は病的なまでの、蒼白。 Emu.メルトダウナー 「――――『偽・原子崩し』」 呟く言葉と共に、迫る黒濁を蒼白の刺突が迎撃する。 「ぎっ……!」 「づっ――!」 チェーンソー同士をぶつけ合ったような激しい不快音を立て黒と白が激突する。 だが御坂の手にある光剣は砕けず暴力の波濤を押し止めていた。 電子を――限定的ながら素粒子の性質を固定化する能力。 それ自体が第二位の『未元物質』に由来するものだ。 固定という本来『防御に特化した能力』だからこそ一方通行の翼を受け止められていた。 だが――。 「ぐ、う……っ!」 苦悶に顔を歪めて御坂は奥歯を噛み締める。 「脳が……焼き切れ……!」 その力は別の能力者のものだ。 本来の使用者でない御坂が用いようとすれば負担は当然大きくなる。 相手が他でもない超能力者第四位、麦野沈利ともなればなおさらだ。 完全に発揮すれば御坂ですら太刀打ちできないとされた力を使いこなせるはずなどない。 モノクロに明滅する視界がどうしてだか赤く染まっていくような気がする。 そんな中、御坂の思考の片隅に疑問が生まれた。 (あれ……?) 思索も束の間、直後疑問は結実し。 「これって……!」 「っざけ……!!」 一際甲高い音を立て、両者は同時に弾けるように離れた。 滑るように着地したのは道を挟んだ建物の屋上同士。 ポケットに入れたままの左腕を抱くように光剣を消した右手を沿え御坂は対岸の一方通行を睨む。 そして一方通行も同じように片手で頭を押さえながら視線をこちらに返している。 対峙はほんの二呼吸ほど。 吸った冷たい夜気を、は、と吐き捨て御坂は虚空に向かって叫んだ。 「――アンタたち、私に敵対するんじゃなかったの!!」 声はミサカネットワークを介した先、妹達に向けられていた。 「命令を無視できるなら私の演算補助なんてしなくていいでしょ!」 『ミサカはお姉様の味方です、とミサカ一〇五〇一号は答えます』 「じゃあ……さっき言ってたのは……!」 やっぱり、と予感が確信へと変わる。 腕を抱く右手にも無意識に力が入ってしまう。 視線を交差させた二人は荒い息に肩を上下させながらも独白のように毒吐いた。 「ほんっと、悪趣味にもほどがあるわよアイツ……」 「同感だなァ、コイツは、性質が悪いったらありゃしねェ」 二人は理解している。 彼女たち、妹達が何を考えているのか。 ぱちん、と何かが弾けるような音が聞こえた気がした。 『確かにミサカはお姉様に共感し、お姉様の補助を行っています、とミサカ一五一一三号は答えます』 脳裏に響く声が重なる。 輪唱するように、共鳴するように。 同じ音が波紋を広げる。 『ミサカはミサカとしてお姉様のためにありたいと思っています、とミサカ一〇八五四号は独白します』 『最終信号は失われ、ミサカにはもう寄る辺がありません、とミサカ一四三三三号は呟きます』 『ミサカに生きる意味を下さったあの人も失われてしまいました、とミサカ一九〇〇九号は嘆息します』 『ミサカはもうミサカの存在証明ができません、とミサカ一二四八一号は』 ぱちん、とまた音。 『ミサカがミサカである理由はもうありません』 『ですがミサカはミサカであるために一つの目的を遂行します』 『たった一つ、どうにも冴えないやり方で』 『けれどそれでいいのだろうとミサカは思います』 『ですから最初の目的のためにミサカは行動します』 『ミサカの目的は最初から定められていました』 『それが予め決められていたものだとしてもミサカはそれをよしとします』 『ミサカはお姉様のために生き』 『お姉様のために死にます』 『そう製造されました』 『そして』 『ミサカはその指針を肯定します』 『疑う余地などありません』 『ミサカにとっても意義の有るものだと』 『ですがミサカは自問します』 『本当にこれでいいのかと』 『ミサカは中途半端な欠陥品です』 『欠陥電気』 『ミサカはお姉様』 『のクローンです』 『ミサカはお姉様と同』 『一ではあり』 『ません』 『ミサカは』 『疑問します』 『本当はミサカはお姉様を止めるべきではないのか、と』 つまり御坂に追従すべきか、それとも制止すべきか。 二律背反の矛盾を抱えたまま葛藤している。 そして答えが出せぬまま――彼、一方通行が現れた。 、 、、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 だから妹達は葛藤したまま答えを出さなかった。 彼女たち、妹達にはそれが出来る。 その特殊性故にこそ取捨選択の両取りという掟破りが可能だった。 「私の演算補助もやって」 「俺の代理演算もやるってか」 『その通りです、とミサカは肯定します』 「……それがどォいう事になるか分かってて。 ――それでオマエはいいって言ってンだな」 『はい、とミサカは簡潔に意思表示をします』 投げられた一方通行の言葉に一切の迷いなく彼女は答えた。 『ミサカの代理演算機能は破綻しています、とミサカ一一八九九号は現状を報告し』 そしてまた、ぱちんと何かが弾けるような音が聞こえた気がした。 『お姉様のコントロールがあっても『心理掌握』を仲介していない現在、莫大な負荷が生じています、とミサカ一五三二七号は続けます』 「――あァ」 どうにもこの世界には救いがない、と一方通行は改めて思う。 惨劇を回避する手段などとうに失われた。 悲劇をぶち壊すようなヒーローはもう存在しない。 逃げ道などない。いかな最強と謳われる彼であっても時を操ることなどできない。 まして運命を変えることなど何人であれ赦されはしないのだ。 とどのつまり不可避の最悪がこの世界だ。 どこをどうしようと行き着く先はたった一つ。 そしてどうせ同じなら、と一方通行は改めて思う。 あの時見た一条の光の鮮烈さには遠く及ばないのは分かっている。 自分は彼のようにはなれない。なろうとも思わないしなりたいとも思わない。 けれどそんな自分なりにやるべきことがあるだろう、と。一方通行は暗澹とした瞳を御坂に向ける。 「つまり俺が能力を使うたびに」 「私が能力を使っても同じように」 は、と二人の嘆息と失笑が重なった。 『ミサカは消費されます、とミサカ一八八二〇号は他人事のようにぼやきます』 ぱちん、とまた何かが弾けた。 ―――――――――――――――――――― 前へ 次へ
https://w.atwiki.jp/seisoku-index/pages/1061.html
「ご丁寧にどゥもありがとう天井くゥン!!」 天井の宣言の後に、対峙する一方通行も叫ぶ。 「学園都市レベル5の第一位!俺が一方通行だァ!!」 それと同時に足元のベクトルを操作し、超加速で歩み寄る天井の眼前へと移動した一方通行は、天井の拳銃を持つ右手首を掴む。 そのまま能力を使用した握力で手首を握りつぶそうと力を込めるが、 やはり天井へと伝わる力は一方通行の生身の力だけで、逆に腕を振り回されて体制を崩してしまう。 「おやおや無様だな第一位。お前は私とダンスでも踊りたいのかな?生憎だがフォークダンスの踊り方など忘れてしまっていてね」 方膝を床につきながらも、いまだ手首を掴み続ける一方通行に、左手に持ち替えた拳銃の銃口を向け、そのまま引き金を引く。 乾いた炸裂音と共に弾丸が発射されたが、紙一重、一方通行の右頬を掠め、通り過ぎ床へとめり込んだ。 外してしまった事に疑問を覚え首を傾げる天井に対し、急いで右手を離し距離を開ける一方通行にはもはや余裕はない。 握りつぶす際にベクトルの操作が上手くできなかったことだけではなく、 弾丸が頬を掠ったという事実が学園都市最高の頭脳をさえ混乱させる。 能力使用状態での一方通行には、生命活動に最低限必要なもの以外は反射されるように薄い膜を張っている。 反射膜。 一方通行が最強である要因の一つに挙げられる要素だ。 その膜に触れたものは雷であろうと、銃弾であろうと、核爆弾であろうと、放射能であろうと。 解析ができる性質なら例外なく反射されるのである。 しかし、現状では反射対象に含まれているはずの銃弾が彼の体を傷つけた。 これは銃弾が特殊なわけではなく、ただ単に反射膜を形成する為の演算ができなかっただけ。 だがそれだけで、一方通行はただの一般人以下の人間に成り下がってしまうのだ。 「そンな至近距離で外してンじゃねぇよ!!」 虚勢のように聞こえるが、一方通行にはまだ余裕があった。 (ある程度能力の効果は当てがついた……効果対象は俺だけじゃなく天井のヤロウも含まれてンなァ) 混乱はしているものの、ここまでにいたる数回の攻防で、 一方通行は天井の負能力【破綻理論】の効果をある程度だが解析が終了し、一つの仮説を組み立てていた。 その仮説はこのようなものだ。 例えば、一方通行はサイコロの六の目を必ず出せるとしよう。 そこに天井の負能力が加われば、六以外の目もでてしまう。 だがそれは完全に六の目が出せなくなるという訳ではなく、ただ0だった“別の目の出る可能性”が上がっているだけである。 当然、天井がサイコロの目を自由に決めているわけではなく、偶然そうなってしまうのだ。 そして、二つの事例。 一方通行は必ず成功する筈のベクトル操作の演算に“失敗した”。 天井は外す筈のない距離での銃撃を“外した”。 その二つの事実から、破綻理論の効果に術者も入っていることがわかる。 そして、その仮説はまさに的中していたのだ。 「その表情……もう解析が終わったのか?」 不適な笑みを浮かべる一方通行に天井は自身の能力効果が解析されたことを理解する。 「まったく、あのクソ忌々しい三下みてェな能力かと思ったが、どォやら違うみてェだな」 歪んだ笑みを消し、今度は眉間にしわを寄せ吐き捨てるように一方通行は言った。 「テメェの破綻理論っつゥ、くだらねェ能力は“現象の不安定化”だろォ?」 「全く、素晴らしいよ。君が学生じゃなく研究者だったらきっと友人になれただろうに」 拳銃を構えたまま目を伏せ、やれやれといった感じで首を横に振る。 その姿からは、能力が解析されて焦っているといった様子は伺えない。 「テメェとお友達になるくれェなら、女装して学園都市中を歩き回ったほうがマシだ」 天井の言葉に一層、睨み付ける眼光が鋭くなる。 「そう睨み付けるなよ……そうだな、演算への干渉に関しては、一+一が三になる様な感覚だろう?」 「そうだなァ、演算式に余計な情報が入ってくるみてェだよ」 「研究の失敗する一番の理由は、その余計な情報だ」 公式通りに計算を行っても答えが合わないという表現ならば伝わりやすいだろうか。 特に一方通行の能力のように複雑な演算であればあるほど、ほんの小さな不安要素が全てを崩壊させてしまう。 「だがよォ……床の破片が一つ命中したり、弾丸が完全に外れず頬を掠めたってこたァ、全くの無効化って訳じゃァねェんだろう!?」 そう。完全に無効化されるわけではないのだ。 「それに、テメェも効果の対象内みたいだしなァ……ワリィが物量で攻めさせて貰うぜ」 「そうだ、当然私も効果の対象……じゃなきゃここまで失敗続きになるわけがないだろう?」 自嘲する天井に「そうかァ」と呟く一方通行にこれ以上会話を続けるつもりはなかった。 そして再び床の破片を作成するために右足を挙げた瞬間、銃声が鳴り響いた。 一方通行は何も分からなかった。 天井の放った弾丸は一方通行の腹部目掛けて、襲い掛かる。 「ッ……」 不安定ながら反射膜の作成が成功しており、銃弾は一方通行を貫くことなく天井の足元へと反射される。 おかしい。一方通行の脳内で先ほどの証明にヒビが入った。 天井自身も認めた通り、破綻論理の効果対象には使用者も含めている筈だった。 しかし、現状はどうだ? その天井から放たれた銃弾は反射膜がなければ確実に着弾していた。 完全に矛盾している。 (たまたま今回は六の目が出ただけだろォ?) そんな儚い希望も再び放たれたすう初の銃声によってかき消される。 頭部に一発、腹部に二発。 反射膜に触れた弾丸の数だ。 (確実に着弾してやがる……!!能力を解除しやがったか?) そして再び一発の弾丸が放たれた瞬間、大気のベクトルを操作し突風を天井に向け作り出した。 が、対象に着弾したのは弾丸のみで、作り出したはずの風はそよ風程度の威力しかなく、天井の髪を揺らすだけだった。 「ッガァァア!!」 銃弾は一方通行の脇腹を掠めるだけで済んだが、その裂傷は深く赤い血がジワリと彼のTシャツを濡らす。 大気のベクトル操作と、同時に反射膜の作成など破綻理論の前ではできるわけもなかった。 痛みで脇腹を押さえながら膝を床につく一方通行に天井は近付き、革靴のつま先でその顔面を蹴り付ける。 「ック……!!」 吹き飛ばされ、地面に横たわる一方通行は血流操作で応急処置を試みるが、上手くいかない。 そして、無表情を貫いていた天井の表情が一変した。 「げらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげら」 裂けるのではないかと思うほど大きく、醜く口を開いた天井は笑い始めた。 「ァアクゥセェェラレェェエェェェェタァァァァァ!」 げらげらげらげら。 一方通行の名前を絶叫し、再び笑い出す。 そしてピタリと笑い声が止まると溢れ出したのは呪詛の言葉。 「失敗失敗失敗失敗実験失敗借金借金破綻破綻破綻最終信号最終信号最終信号一方通行一方通行一方通行 殺す殺す殺すコロスコロすころすここころころころすすころろろす死死死死シシしシ詩シ死氏しsss げらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげら げらげらげらげらげら げらげらげらげら げらげらげらげら げらげらげらげらげら げらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげら」 もはや、天井亜雄は人格さえも破綻していた。 ※天井の能力について 能力名【破綻理論(サイコロジカル)】 レベル【-レベル3】 効果【現象の不安定化】 まぁある程度一方さんが説明してくれたので、ある程度は割愛します。 べ、べつに設定を深く考えてないだけじゃないんだからね/// 一言で言えば能力だろうが、行動だろうが、実験だろうが、かなり成功し辛くなる。以上。 演算は狂い、手元も狂う。 成功するはずが失敗する能力です。 実はいーちゃんを参考にしてない……けど酷似していたorz 名前の付け方として ・行動の理論が破綻して失敗に繋がる ・天井の人格が破綻している ・天井=借金=破綻 ・理論って入れてサイコロジカルって名前を使いたかっただけ ・ロジカルは理論じゃなく論理だったorz
https://w.atwiki.jp/index-ss/pages/1491.html
そういえば今朝の出費で上条の所持金はほぼ0だった。 「………………不幸だ」 一旦寮に荷物を置いてから、クラスメイトの青髪ピアスの居候先のパン屋でパンの耳でも貰うことにした上条。パンの耳なんて成長期の男子高校生にとっては『オヤツ』にすらならないのだが、無いものは無いのだから仕方ない。 明日担任の小萌先生にお金を借りようと思いながら、寮のオートロックを抜ける。他の住人達は夏休み初日ということもあって、皆一様にどこかで夏を満喫しているようだ。 夏休みであろうが無かろうが関係なく無人の管理人室を過ぎて、豚箱のような狭苦しいエレベーターに乗る。 上条の部屋がある七階に着いて、ガコンというボロさを主張するかのような振動と共にエレベーターが止まった。 「ん?」 と、上条はすぐに気付いた。エレベータホールから通路に出てその奥――自室の扉の正面で、清掃ロボが三台ほどたむろしている。清掃ロボットはこの寮には五台しか配備されていないはずなのに、なぜこんなに固まっているのか。 故障しているわけではなさそうだ。むしろ職務を果たそうと頑固な汚れに挑んでいるように見える。 ……なんか、すさまじい不幸の予感。 そもそもあの手の清掃ロボはアスファルトにこびりついたガムだって瞬殺するのだ。それが三台も集まっているのに落ちない汚れとはいかなるものか。 もしかしてチンピラみたいな格好をすればモテるなんていう幻想を未だに持ち続けている悪友であり隣人の土御門元春が、酔っ払って胃の中身を綺麗に曝け出したんじゃあなかろうかと上条は恐れ慄く。 「まさか、な……」 何にしろ見ない方が身の為だとわかっているのだが、悲しきかな人間には怖いもの見たさという何の役に立つのか分からないものが巣食っている。 そろりそろりと足を進めて、やっとそれが視界に入った。 モヤシでチンピラな超能力少年一方通行がぶっ倒れていた。 「…………………………、はー」 ドラム缶三台がガコガコと体当たりを繰り返すも、一方通行は身じろぎ一つしない。そもそもああいうロボットは人間や障害物を避けて通るようになっているはずなのだが、自称ゴミ以下のクソ野郎は清掃ロボットにもゴミ以下のクソ扱いされているのだろうか? 「…。ちくしょう、不幸だ」 そんなことを言いながらも、上条は無意識に笑っていた。 やはり気になっていたのだ。『妹達』なんてトンデモ話は信じられないが、妙な研究所が妙な技術を使って彼を追い回している、とも考えられる。 それが変わらない、前と同じ姿で見つけられたのが嬉しかった。 そんな細かい理屈を取っ払っても、また出会えたことが無性にただ嬉しかった。 何に使うのか分からない電極、ただ一つの忘れ物。それを上条は思い出す。それが、何故だかおまじないのように思えてくる。 「何やってるんだよお前、こんなところで!」 走り寄りながら声をかける。それだけの動作で何故こんなに心が弾むのだろうと上条は思う。 一方通行はまだ反応しない。 なんとも唯我独尊な『一方通行らしい』反応に笑みを漏らして、 一方通行の体が血に染まっていることに、ようやく気付いた。 「……、え……?」 戦慄するより前に、困惑する。 固まっている清掃ロボットに隠れて見えなかった。うつ伏せに倒れた一方通行の手が、額を押さえている。まるで頭痛でもするかのような仕草、しかしそこから止めどなく溢れる鮮血が、その前髪と服の白を鮮烈に塗り潰していく。 その時上条は、それが『人の血』であることが理解出来なかった。 たった今とついさっき。あまりに大きな落差を伴う現実が、頭の中をかき乱す。赤くて赤い真っ赤な……絵の具かなにかだろうか? あの一方通行が真っ白なキャンパスの前で筆を構えて、なんてなんとも似合わない図を妄想しても、上条は笑えない。 笑わないでなく、笑えない。 そんなこと、出来るはずもない。 清掃ロボットが三台、床の汚れを拭っている。床を汚す赤を、一方通行の額から流れる赤を。 くたびれた雑巾を絞るように、一方通行の体から血液を一滴残らず搾り出すように。 「……やめろ、くそっ! やめろ!!」 やっと上条の認識が現実に追いつく。致命傷を受けている一方通行に体当たりを繰り返す清掃ロボットを、強引に引き剥がしにかかる。 しかし馬力もさることながら、盗難対策の為に重量もある清掃ロボットはなかなか動かせない。 無論清掃ロボットは一方通行の傷口を広げたいわけではなく、単純に『床を汚し続ける液体』を拭っているだけだ。それを理解していても上条には清掃ロボットが死肉に群がるハイエナのように思えた。 そうまで感じているのに。ただの清掃ロボットを、上条は引き剥がすことすら出来ない。引き止められるのは一台が精一杯で、その間に残り二台が『液体』へ群がっていく。 神様すら殺せる男のくせに。 こんなガラクタに翻弄されてしまう。 一方通行は身じろぎ一つしない。元から異常なまでに白かった肌は、最早死人のそれのように蒼白だった。 「ちくしょう、畜生!!」錯乱状態に近い上条は叫んでいた。「どうしたんだよ、何が起こったんだよこれは!? なめやがって、一体どこのどいつがこんなことしたんだよ!!」 「私達『妹達』ですが? と、ミサカは返答します」 そして当然、背後から降ってきた声は、一方通行のものではない。 喰らい付かんばかりの勢いで上条は体ごと振り返る。エレベーターの音はしなかったから、その脇にある非常階段から少女はやってきたのだろう。 その少女は上条より低い身長で、顔も上条より幼く見えた。 歳は恐らく中学2、3年といったところか。肩程度の長さの茶髪に半袖の白いブラウスとサマーセーター、灰色のプリーツスカート。あれは確かこの街の中でも有数のお嬢様学校、常盤台中学のものだ。ただしコイツを『ただの女子中学生』と形容する人はこの世にいないだろう。 まず真っ先に目に付くのがごつくて真っ黒のアサルトライフルだ。無骨というよりは機能美的で無機質な兵器。次に目に付くのが額にかけられた、ゴツい暗視ゴーグルのようなもの。 そしてなにより、その目。焦点が酷く曖昧で何を見ているのか何も見ていないのか分からない、感情の無く暗い瞳。 学生とも、ましてや軍人とも呼べない少女。 上条は、通路に立つ少女を始点に周囲の空気が塗り潰されていくのを感じる。 『日常』から『非日常』へ。 『普通』から『異常』へ。 その時上条は恐ろしく思ったし、それより強く怒ってもいた。 だが、それ以上に。上条が感じたものは『戸惑い』だった。幼い頃から住んでいるこの街、学園都市。それが決して謳い文句通りの平和で美しいだけの街ではないことは知っていた。 開発では得体の知れない薬物を投与されてきたし、路地裏のスキルアウトには数え切れないくらい追われてきた。 だが、それでも上条は知らなかった。この街の『裏』の本当の顔を。 彼女が、『妹達』。 今この時、この街はそんなものを平気で作ってしまうような『裏の顔』を曝け出していた。 「これはまた派手に決まってしまいましたね、とミサカは独り言に近い感想を述べます」 妹達(一人称はミサカのようだがそれが名前なのだろうか)はその感情の無い瞳を一方通行に向ける。 「まだ息があるようなので能力が使えなかったわけではないのでしょうが……、途中の血の跡はその清掃ロボットが拭ってしまったのですね、とミサカは確認します」 妹達は今も一方通行に集っている清掃ロボットに視線を向ける。 『途中の』ということは一方通行はここでは無い場所で撃たれて、ここまでわざわざ戻ってきたのだ。 「でも、何で…?」 「一方通行がここまで戻ってきた理由ですか? とミサカは確認を取ります。私にも詳しい事情は分かりませんが、頭を撃ち抜かれた後にポケットなどを探って何かを探すようにしていたような、とミサカは思い出します。逃走に移ったのはその後だったので、何かこの辺りに忘れ物でもしたのではないですか? とミサカは推測を述べます」 『忘れ物』。そんなもの一つしかない。 (あの、電極……?) 一方通行が残していった唯一のもの。何に使うのかも分からない電極。 だが、きっとそれは一方通行にとっては重要なものだったのだ。能力を使う為に必要なのか、能力を破られた時に必要なのか。 推測しても答えはでない。が、分かっていることが一つ。 一方通行がそんな大切なものを不用意に落とさなければ、きっとこんなことにはならなかったのだ。 「……とんだ馬鹿野郎じゃねえか」 そして上条があの時、すぐに後を追って電極を渡していれば。 上条が繋がりなんて求めなければ、きっとこんな最悪なことにはならなかったのだ。 「……とんだ大馬鹿野郎じゃねえかよ、俺は!!」 思えば彼は最後、意図的に上条と距離をとろうとしていたような気がする。来るなとも言われた。 それなのに上条が勝手にしがみ付いて足を引っ張って、結果がこれだ。 上条は許せなかった。 勝手に一人で戦って勝手に一人で血塗れになった一方通行が。そんな一方通行の額を撃ち抜いた妹達が。そして何より、人に不幸を押し付けた自分自身が。 「そんなに睨まれても困るのですが、とミサカは困惑します」 妹達はそういいながらも顔色一つ変えずに続ける。 「確かに一方通行を撃ったのは私ですが、まさかあんなに簡単に銃弾が当たるとは思ってもみませんでしたし、とミサカは当時の状況を振り返ります。一方通行の能力は絶対防御であり、本来はあれくらい『反射』出来るはずなのです、とミサカは説明します。核爆弾が落ちてきても傷一つつかないという謳い文句だったはずなのですが……とミサカは疑問を抱きます」 半ば独り言のように、最後まで一切の感情を滲ませずに、妹達が淡々と述べる。 それが一層、上条の感情を逆撫でする。 「なんなんだよ、何考えてるんだよ。俺はお前みたいなクローンのことなんかよく分からないし、お前がどんな世界に生きているのかも分かんねえよ。それでもお前等にだって心はあるんだろ? 痛みとか苦しみとか感じられるんだろ……?」 そんなこと、上条が言えたことではないのは分かっていた。 この惨状の原因の一端は、確実に上条にあるのだから。 それでも、言わずにはいられない。 「こんな細っせえヤツを寄って集って追い回して、銃弾ぶち込んで!! こんな現実を前に、テメエは何も感じないのかよ!!」 「だから、そもそも銃弾が当たるとは思っていなかったのですが、とミサカは再度説明します」 それでも、彼女は一言で返した。僅かにも微かにも、揺れていなかった。 「もっとも、彼がどうなろうが実験は続けられますが、とミサカは分かりきったことを告げます」 「じっ、けん?」 意味が分からない。 「……念の為パスの確認を取ります、とミサカは有言実行します。ZXC741ASD852QWE964、とミサカはあなたを試します」 「パス? さっきから一体何を……」 「どうやらあなたは実験の関係者では無いようですね、とミサカは今更ながら確認します。一方通行と言葉を交わす人間なんて実験の関係者くらいだと思っていたのですが、とミサカは僅かに驚きます。一方通行とは個人的な知人か何かなのですか? とミサカは質問します」 「そういえば一方通行もなんか言ってたな。実験ってなんなんだよ? お前等と一方通行と、どんな関係があるんだ?」 「お答えできません、とミサカは即答します。というかミサカの質問はスルーなのですね、とミサカは不満を滲ませます」 上条は黙って妹達を睨む。『不満を滲ませる』などとのたまいながら、彼女の顔には一切の表情が無い。その様は機械よりも機械的で、その挙動はまるで操り人形のようで。 上条は少し彼女のことを理解する。きっと彼女は、『正しさ』なんて考えていない。それを正しいと『信じる』人々からの命令に従っているだけで、それが間違っているか否かなんて判断はきっと無い。 「まあそれはいいでしょう、とミサカは閑話休題を宣言します。それよりもミサカは早く一方通行を回収したいのですが、とミサカは申し出ます」 「かい……、しゅう?」 だからこそきっと彼女のその発言にも、特に意図はないのだろう。そういう表現をしただけだ。 「ええ、回収ですよ、とミサカは繰り返します。詳細は語れませんが、一方通行は実験に欠かせない個体なので、早急に回収してしかるべき処置を施さなくてはならないのです、とミサカは漠然とした情報を告げます」 その発言にも、だ。きっと他意は無い。人を人とも思わないような、まるでその実験に支障がなければ一方通行がどうなろうと知った事ではないと告げるようなその内容にも。 もう少し深く、上条は理解する。きっと彼女達だけではなく、その背後にある研究者たちも『正しさ』なんて考えていない。得体のしれない『実験』の為ならば一方通行だろうが妹達だろうが使い潰すような、人を道具としか考えていない意思が妹達の背後に透けて見える。 上条は全身に鳥肌が立つのを感じる。皮膚の内側から蛆虫が沸いて出るような不快感が体中を駆け巡る。 科学宗教、という言葉が脳裏に浮かぶ。 道徳も人権も完全に無視したその考えに上条は強い拒否感を覚えた。 「……やらせねえよ」 言って、拳を固く握る。眼差しはまっすぐ妹達に向けて。 「それは、実験妨害の意思表示と取って間違いありませんか?とミサカは問います。第三者が実験の障害となる場合、ミサカはそれを迅速に排除する義務があります、とミサカは警告します」 「ああ。止めてやるよ。そんな胸糞悪い実験、この場で終わらせてやる!!」 咆哮と同時に、爆ぜるように駆け出す。 右の拳を更に強く、砕けんばかりに強く握り締める。 上条の右手は不便だ。作用するのは異能の力だけで、銃なんかには全く歯が立たない。 けれどそんな右手でも、ただの人間をブン殴ることには何の支障も無い。 「実験を妨害する意思を確認、これより検体番号10032号は対象の排除に移ります」 それでも妹達――10032号は機械的に宣言する。 そしてその間に上条は妹達との距離を半分に詰める。 「降伏の意思が認められるか、或いは行動不能に追い込むまで攻撃は継続しますので、速やかに降伏して頂ければ幸いです」 そう上条に告げた10032号は、持っていたアサルトライフルをようやく構える。 が、遅い。もう上条は彼女の眼前まで迫っている。 銃なんてものは単純だ。銃口をこちらに向ける前に銃身を押さえてしまえば、もうそれはただの鉄の塊なのだから。 10032号の言葉の一切を無視して駆けた上条は、右手を真っ直ぐ銃身に向かって伸ばす。 10032号の指は引き金にかかっていたが、それが引かれるより早く上条の右手が銃身を捕らえた。 (捕った!!) アサルトライフルを掴んだままの右手を強く右に払う。銃を奪うことは出来なかったものの、銃口は上条から大きく逸れた。 目の前には、それでも無表情な顔と、がら空きの腹。 勝利を確信した上条が、左腕を振りかぶった瞬間。 10032号の額から、凶悪な電撃が迸った。 「なっ!?」 とっさに後ろに仰け反りながら、右手で顔を庇う。 運よく右手に触れた電撃が、バチバチと音を鳴らしながら四散した。 (こいつ、能力者なのか!?) 怪訝な顔をしている10032号を尻目に、上条は思い出す。 今朝、一方通行は妹達のことをなんと言っていたのかを。 『妹達ってのは学園都市第三位『超電磁砲』のDNA マップから作られた二万体のクローンの総称だ』 (そういえばこいつらは学園都市最強の電撃使いのクローンだった。待てよ、ということはまさか妹達って全員レベル5!?) 上条の全身から気持ちの悪い汗が噴出した。無意識に一歩、二歩と後ずさる。 いくら上条の右手が異能の力を打ち消せるといっても、レベル5級の相手にそう簡単に勝てるわけでは無い。上条の右手はあくまで異能の力にしか作用しないので、能力の余波で飛んでくる瓦礫などは防ぎようが無いのだ。 それがただの能力者ならば痛いで済む。だが相手がレベル5となれば話は別だ。 その能力が『災害級』と称されるならば、その余波もまた『災害級』なのだから。 「……? やはり電子線を追えない状態での能力の使用は安定しませんね、とミサカはゴーグルを装着します」 上条が電撃を打ち消したことを理解しきれていないまま、額にかけていたゴーグルを下ろす10032号。そこでようやく上条は我に返る。 銃口がこちらを向いていた。 上条は先の電撃を『右手』で打ち消した。そうするしか無かったので仕方無いのだが、結果アサルトライフルは今いつでも撃てる状態にある。 (マズ……ッ!!) 上条と10032号の距離はたったの数歩。だがその距離を詰めるより早く、引き金が引かれる。 オモチャの拳銃のように安っぽい銃声が、本物の破壊の後を追った。 掃射が終わってみれば、辺りはもはや廃墟のようだった。床も壁も銃弾で容赦なく抉れ、通路奥にいた清掃ロボットにまで銃弾が数発めり込んでいた。 「やりすぎましたね、とミサカは前方を視認します」 まるで銃を持ったテロリストが暴れまわったかのような(実際そんな感じなのだが)惨状を前に、10032号は相変わらず無表情で呟く。 この寮、及び周囲に人がいないことは確認済みだ。夏休み初日なので住民は全員外出しているし、周囲にはそんな若者が集う場所は無い。 だが、その全てが帰宅せずに徹夜もしくは泊まりで遊びほうけるということは無いだろう。 実験は秘密裏に行わなければならない。なのでそれらが帰宅する前に、この惨状をどうにかしなくてはならないのだ。 「……まあなんとかなるでしょう、とミサカは無責任にため息をつきます。というか危うく一方通行にも当たるところでしたね、とミサカは自分の無計画さを反省します」 そもそも10032号も上条を必殺しようとしていたわけではなく、行動不能に陥らせようとしていただけだ。故に銃口は意図的にやや下に向けていたのだが、壁や床で跳弾したのだろうか。何にしろ、一方通行を回収するために一方通行を撃ち抜いてしまっては笑えもしない。 「まあもう撃ち抜いているのですけどね、とミサカは小粋なジョークを飛ばします。まあついでにもう片方にも釘を刺しておきましょうか、とミサカは手すりから身を乗り出します。」 「し、死ぬ! やばい! 本当に死ぬかとおもった!!」 掃射が始まる寸前に七階の手すりを越えてノーロープバンジーに挑戦した上条は、六階の廊下で膝をついて荒い呼吸を繰り返す。心臓が左胸で暴れまわっているのを感じながら、とりあえず射程距離から外れて一息つこうとしていたのだが。 「はろー、とミサカは場違いな挨拶をします」 降ってきた声に慌てて上条が振り返ると、10032号が上の階の手すりから身を乗り出してこちらを見ていた。 手には当然アサルトライフル。 「嘘だろ、なんでそんな不安定な姿勢で撃てるんだ!?」 弾かれるように走り出す上条の後を銃弾が追う。床が爆ぜ、ドアに風穴が開き、消火器が弾けとんだ。 先ほどとは違いまだ逃げようがあるものの、それでも一直線に逃げていたのではではいずれ捕まってしまう。 咄嗟に上条は真横の非常階段への扉を蹴やぶって転がり込む。下へ下へと階段を降りながらも、背後から容赦なく安っぽい銃声が追ってくる。 (そもそもこっちは丸腰だってのに……ッ) 卑怯だ、と思う。とはいえそんな言い分はこの場で通用するとも思えない。 しかし実際問題、あんな物騒な銃を持った相手を素手で倒すことなんて出来るのだろうか? 先ほどのように至近距離からの不意打ちでも決まれば話は別だろうが、一度これだけ距離を離してしまってはそれも適わない。 しかも相手は能力まで持っている。さっきのはレベル3程度の電撃だったが、最悪レベル5クラスであっても不思議ではない。 だからといっていくら上条が頑張ったところで、ちゃちな拳銃一つだって手に入らないだろう。よしんば手に入ったとしても相手はアサルトライフルだ。勝ち目なんてあるはずも無い。 そこまで考えて、上条の思考は強引に断ち切られた。 何故なら、上条の向かう先――階段の踊り場に手榴弾が投げ込まれたからだ。 「なっ……!? こんな物騒なものまで使うのかよ!!」 爆発寸前の手榴弾を前に、上条がとった行動はシンプルだった。 今まで下ってきた階段を引き返すのではなく、更に階段を下るのでもなく。 そのまま加速して、手榴弾ごと踊り場の手すりを飛び越えた。 背後で手榴弾が弾ける音を聞きながら、上条は着地地点を確認する。二階と三階を繋ぐ階段だったので死にはしないだろうと思って飛んだのだが、見れば下は自転車置き場だった。 「わっ、うわわわわああああ!」 がしゃんごしゃんと自転車をなぎ倒しながらも、なんとか着地する。 あちこち擦りむいたり切ったりしたが、大した怪我は無いようだった。 「って、安心してる場合じゃねえ!!」 上条は慌てて頭上を仰ぐ。非常階段まで撃ってきたのだから、恐らくまだ10032号の射程範囲から外れてはいないだろうからだ。 案の定、半ば手すりに腰掛けるようにしている10032号と目が合った。慌てて起き上がって逃げようとした上条だったが、10032号はしばらく上条の顔を見た後、手すりから降りて上条に背を向けた。 どうやらもう追撃は無いらしい。 それが分かった途端に、上条は脱力した。膝から崩れ落ちて尻餅をつき、深いため息をつく。 まだ完全に危機を脱したわけではない。依然として上条は10032号がその気になれば撃ち抜かれる位置にいるし、一方通行のことも片付いていない。 だが逆に。上条がここからさっさと逃げ出して一方通行のことを忘れてしまえば、これ以上の危機は訪れないのだ。 10032号が撃って来ないのもそういうことだろう。つまり、今朝の一方通行と同じことを言っているのだ。 こっちへ来るな、と。 倒すべき相手も、助けるべき対象も、両者とも一様に来るなと言っている。 それらを無視してまでそこに命がけで赴く理由なんて、上条には無い気がした。 ポケットを探る。とりあえず携帯で警備員に連絡しようと思ったのだが、思い出してみればそれは今朝踏み砕いていた。 結局、ここにいても上条に出来ることなど何も無い。本当に彼を助けたいのなら、さっさと携帯を持っている人や公衆電話などを探して助けを呼ぶべきなのだろう。 例えその間に一方通行が『回収』されても。 そもそも、だ。 『じゃあついてくンのか? 地獄の底まで』 学園都市で最も強い能力者すら抜け出せないような深く暗い地獄の底。 そんなところから上条一人で彼を引きずり上げるなんて、無理に決まっているのだから。 彼の言によれば彼は人殺しで、極悪人で。 その血に塗れた手を掴む理由なんて、上条には無いのだから。
https://w.atwiki.jp/deruta_sanbaka/pages/24.html
時は飛んで合宿に向かうバス車内 同本・某 姫神・吹寄 茜川・白雪 上条・一方 青ピ・土御門 A ・K 青ピ「何かこの席順に何者かの陰謀を感じるんやけど」 土御門「気のせいだと思うにゃー。多分」 白雪(やった、上条君の隣!) 茜川(いいなぁ……) 一方「なンで俺は最弱の隣なンだァ?」 上条「不幸の予感だ……」 小萌「あれ?先生が決めた席に文句あるですか……?」 今にも泣きそうな担任教師。 土御門「にゃーー!小萌先生全然ないですよっ!ていうか、一方通行!情報屋から聞いたんだけど、黄泉川先生とこの前のロリっ娘含め、3人の女性と住んでるってほんとかにゃー!!」 一方「アァ? うるせェンだよ、スクラップになりてェか?最弱、アイツ黙らせねェと血液逆さの刑だぜェ?オレは寝ンだっつの」 めんどくさそうに空色の毛布をかぶる一方通行。ついでに土御門に向ってベクトル操作のおまけつきの小石を投げた。 そして寝る。ハズだったのだが……、 上条「こんのおバカァァァァァァァァア!!!」 一方「ぐへっ!?」 寝る態勢に入った一方通行に、上条の右手が炸裂する。 一方「テメェ、何しやが――」 上条「テメェ、今『寝る』って言いやがったか?」 当然、怒声をあげようとする一方通行。だが上条の剣幕はそれを飲みこませるのに十分すぎる真剣みを持っていた。 一方「な、なンだよ?」 上条「いいか、テメェが俺の横でどんなにイビキをかこうが知った事じゃねえし、テメェが土御門に向かって何を投げようが、よっぽどのことじゃない限りは構わねえよ。」 青ピ「いやいやカミやん、つっちー白目むいてるんやけど。」 けどな、と上条は青ピを華麗にスルーし、 上条「今の台詞。俺たちのために一生懸命バスレクの準備をしてくれた、小萌先生の前でも言えるのか?」 一方「なっ……!?」 一方通行が視線を向けると、そこにはうるうるとした涙目の小萌先生が。 古今東西、一流の悪党は泣いている女の子には絶対に勝てないのだ。 一方「チッ……とっと始めやがれ。」 上条「おーし、野郎ども! ビンゴ大会始めるぞーーーーっ!!」 全員(土御門除く。)「「「おーーーーーーーっ!!!」」」 ――その後、上条は一個も穴を空けることなくゲーム終了という、逆に奇跡的な敗北を喫することになるのはまた別の話。 「にゃー……。べ、ベクトル操作……はずるいにゃー……」 自分の能力を最大限使用したらしい。 敗北した上条をからかったり馬鹿にして遊んでいる一方通行をにらむ。 前の席に居る白雪と茜川がくすくすと忍び笑いをするくらいには楽しいやり取りだろう。 上条「うふふー、全戦全敗。いいですよ~この程度の不幸は想定の範囲内って奴ですコンチクショウ。」 一方「あンだけ偉そうな事言っといてそのザマかよ、ざまァねェなァ。」 とか言いつつバスを降りて旅館の中に入る一行。 「あ。」 そして立ち止まる上条。受付で、自分たちの高校の名前の他に『常盤台中学御一行様』と書かれているのを見つけたからだ。 「……はは、やっぱりなー。うん、前持って心の準備をしておいて良か――」 『必要悪の教会御一行様』 「ぶーーーーーーーーーーーっっっ!?」 いくら心の準備をした上条でも、さらに書いてあったもう一つの団体名を見れば盛大に吹き出さざる負えなかった。もろに想定の範囲外である。 「あ、とうまだ。おーい!!」 そしてタイミングよく現れる、一応必要悪の教会所属のインデックス。 さらにステイルを始め、続々と入ってくる怪しい一団。 「……やけにおとなしく留守番を引き受けたかと思ったら、そういう事かドチクショオーーーーーッ!!!」 伊井(今思ったんだが、この温泉旅館どれだけ大きいんだ?) 「ん、あの子は…えーと、確か姫神ちゃんが転校してきたときに見たことがあるような…上条の名前呼んでるってことは、上条の知り合い?…って土御門、何ですごい顔して固まってるのさ? 」 土御門「べ、べつに知り合いがいたりなんてしてないにゃーっ(なんで必要悪!?つかどうしてこっちに招待状届かなかったんだっ!?)」 茜川「わー、あのシスターの服装している銀色の子かわいいーでも前も見たような… 」 小萌「あれー? ステイルちゃんじゃないですかー?」 ステイル「っ!? (しまった、日にちを合わせて来たはいいがあいつの担任はこの人だったか……)」 上条「せ、先生!! 俺たちちょっとトイレェェェェーーーーッ!!」 小萌「ちょ、上条ちゃん!?」 土御門とステイルを引きずってその場から離れる上条。 上条「ぜぇ、ぜぇ……何でここにいるのかを50文字以内でどうぞ!?」 ステイル「何って、ただの慰安旅行だけど?」 上条「短っ!? つーか嘘だっ! どうせまた新手の魔術師が出たとかそんなお話でしょ!?」 ステイル「ほほう、察しがいいね。」 上条「ちょっ!? いや待って無し無し今の冗談! お願いだから上条さんの楽しい旅行を潰さないで!?」 ステイル「いやいや、今回君の出番は無い。思う存分青春を謳歌するといいよ、真実を知らないまま、ね。」 上条「くっ、そう言われると逆に首を突っ込みたくなる人間心理を巧みに突きやがって……!!」 土御門「待つにゃーステイル。思わせぶりなこと言ってるけど、土御門さんはちゃんとお見通しなんだぜい?」 上条「?」 ステイル「……何がだい?」 土御門「ズバリ、インデックスを旅行に誘いたかったけどそんな度胸ないもんだからネサセリウス全体の慰安旅行という大義名分を企画――」 ステイル「違うっ!! 企画したのは神裂達だ、インデックスと一緒に行きたがったのは彼女たちだよ!」 上条「……えーと、つまり何ですか? おまえら今回、完璧にオフ?」 土御門「ここらへんの下調べはちゃんとしてきたにゃー、事件なんて全く起きてないぜい。」 青ピ「ちょ、カミやん!? 何で僕だけ置いてくの!?」 一方「ンだァ? 青髪ピアスから赤髪ピアスに乗り換えかァ?」 青ピ「ガビーン!? こ、こうなったら僕らも新たなコンビ結成や、アクやん!」 一方「一人でやれ。つか勝手にあだ名付けンじゃねェ。」 上条「なら、まあいいんだけど……」 それだけ確認すれば用は無い。皆の元に戻り、旅館にはいるところで、 美琴「え!? アンタなんでここにいるわけ!?」 舞夏「やっほー、兄貴ー」 土御門「にゃー!?」 常盤台中学の美琴、そして研修とやらでそれについて来た舞夏とご対面。 「ンだァ?……あ、……打ち止めの……」 青髪をベクトル操作を使って地面に沈め、(!!!!!)とりあえず上条たちに追いついた一方通行。 そこに居たのはかつての敵、御坂美琴で打ち止めの姉でもある。 何と言っていいか分からず、とりあえず最弱の肩をがしと掴み、御坂の方へ押しやった。 上条(このまま突っ込んだらビリビリは確実、やばい!) とっさに上条は横に蹴りだし、軌道を無理矢理変える。 だがそこにあった鞄につまづいてその上に転び、 「痛い! ってミサカはミサカは一方通行の鞄の中で人知れず叫んでみたり!」 完全に人に知られているその声を聞いた。 「……アァ……?今、ミサカ?打ち止め?なンでオマェついて来てンだァ!?黄泉川ッ!なンでコイツがここにいるんだよッ!?」 隣の自分たちのクラスに向かって大声で叫んだ一方通行。 なるほど、彼ならベクトル操作して重いものを持っても重くないようにはできる。 もしかしたら荷物を詰めたのは他人任せだったかもしれない、しかし。 クラス一同「(いくらなんでも気づくだろう、普通……)」 「あー、ついてきちゃったのは仕方ないじゃんよー。一方通行が責任もって世話してやるじゃんよー」 とてつもなく棒読みな黄泉川。知っててそのまま持ってきたに違いないっ!!! 打ち止め「ついてきちゃったもんは仕方ないんだよーってミサカはミサカは鞄から飛び出てあなたに抱きついてみたり」 一方通行「あァ?開き直ってンじゃねェぞクソガキ!っつか、さっさと離れやがれっ!」 打ち止めの頭を押さえつけながら叫ぶ一方通行。 打ち止め「あああ頭!痛いっ!た、助けてーってミサカはミサカは…はっ!?」 呆然としている上条と美琴を見つけ、上条の後ろに隠れる打ち止め。 打ち止め「パパー!一方通行がいじめるーってミサカはミサカは隠れながら告げ口してみたり」 上条「え?ちょ…パパって俺?いや、それは無理があるでしょうと上条さんは思うのですが…」 小萌「か、上条ちゃん?パパってどういうなのですかー? はっ…そうして並んでいるとその子、御坂さんとそっくりなのですよー。」 「オイオイ、年齢考えて嘘付けェこのクソガキィ。そンな阿呆がオマエの父親であってたまるかよォ。」(まァ成長促進されてたから年齢は関係ねェが……クローンだとバレるとよくねェからなァ) 「……あぁ、あの時の女の子か。えーっと、打ち止め?御坂、妹の妹だよ。え?……お前、一方通行と仲良いんだな……。まあそんな悪人でもなさそうだし……」 しゃがんで目線を合わせる当麻はきっとよき保護者。 そして、なんとなく事情を察し、一方通行に打ち止めを渡してやるのもよきクラスメイト……なのか? 小萌「か、上条ちゃんが父親っぽいです!? やっぱりその若さで過ちを!?」 上条「えぇ!? いやいやいや、違いますってば先生!! ねぇ、美琴さん!?」 美琴「えっと……それってつまり私ら、ふ、夫婦ってこと……?(///)」 上条「ちょ、美琴さん!? 何で真っ赤になってるんでせう!? うっわ、なんか俺まで赤くなりそ――」 黒子「こんの類人猿以下のケダモノがぁぁぁぁぁ!!!」 禁書「いっそその頭をカミチギル!!」 上条「ぎゃああああああ!? むしろそっちが獣っぽい人たちがダブルで!?ってか白井、なんで学年違うのにいんの!?」 白井「風紀委員ですからお姉さ――コホン。生徒を護衛するためにいるのですわ。っていうわけで死ねぇぇぇぇぇぇーーーーーい!!!」 「ふざけんな! 俺はそんなことしたこともねぇよ! 大体御坂が4歳くらいの時にできるわきゃねーだろうが! こいつは……何だ、御坂の妹だ!」 「ああ、そォだよ。少しは黙れ。つか打ち止めどこの部屋に寝かせンだよ?俺の部屋は獣(青髪)がいるから無理だろ。黄泉川、どうすンだよ?」 クローンってのがばれたらまずいので、一応当麻の応援をする。 上条「逆に考えれば俺たちの部屋から青髪を追い出せばいいんじゃねえ?土御門はロリコンだけど義妹以外には手は出さないロリコンだしな」 御坂「あんたたちにこの子を預けるのはものすごく不安だけど、私の部屋にも獣(黒子)がいるのよね。」 青髪「ちょ、ちょとこまりますよ!なにもせんから追い出さんといて!」 土御門「これは決定事項だし、信用ならんにゃー。伊井のとこでも行けばいいにゃー」 上条「一方通行はこれでいいか?」 一方「……まあ、打ち止めはどうなンだよ」 打ち止め「アナタと同じ部屋はとっても嬉しいかも、ってミサカはミサカは両手をあげてみたり」 青髪「ちょ、ちょっとぉ……」 明るい雰囲気の四人と、それにすがる獣のお話。 吹寄「待ちなさい! いくら小学生(?)でも女子が男子と同じ部屋でいいわけないでしょ!!」 姫神「その娘は。私たちの部屋で。預かる。」 打ち止め「イヤだーーって、ミサカはミサカは駄々をこねてあなたに抱きついてみたり」 吹寄と姫神から逃げるように一方通行に抱きつく。 土御門「にゃー、本人はこういってるぜい?(つーか、一方通行随分愛されてるぜい)」 上条「小萌先生ー、なんとかなりませんか?」 小萌「え、えーっと、あの、そのー?」 助けを求めるように、おろおろとあたりを見渡す小萌先生。 伊井「先生、提案があるんですけど。たぶんあの子を別の部屋においても抜け出すだけでしょうし、あぶれた青髪を受け入れてくれる人もいないと思います。ていうか御免です。ここは予定を変更して、うちのクラスの男子だけでも大部屋で雑魚寝にでもした方がいいと思います。みんなで見張れば安全だと思いますし」 土御門「むむう…確かにそうだにゃー」 青髪「ていうか、随分酷いことをいわれた気がするんやけど…」 姫神「男はみんなケダモノ。むしろ群れるほうが危険。女子の部屋に簀巻きにして転がしておいたほうがまだ安全だと思う。」 打ち止め「簀巻きはやめてー、とミサカはミサカは涙目で訴えてみたり。ママ助けてー、とミサカはミサカは今度はママに助けを求めてみたり」 美琴「えっ!? ま、ママって私?(///)」 打ち止め「できればパパとママとあの人と一緒の部屋がいいと、ミサカはミサカは希望を口にしてみたり」 黄泉川「よしじゃあこうするじゃんよー。そこの少女、もしよかったら打ち止めと一緒の部屋じゃん。一方通行と上条も同じ部屋にしとくじゃん。 ああ、その子に何かあったら一方通行が大変なことになるから安心じゃん。 一方通行自身はいつも一緒に寝てるし。極めつけに災誤先生と同じ部屋を頼むじゃーん♪」 そこの少女は嫌だったらいいからね、と黄泉川。 まあ災誤先生と一緒の部屋は嫌だし……納得し始めたクラスの面々。 一番不幸だったのはきっと上条に違いない。 インデックス「む?なんで短髪がとうまと一緒なのかな?だったら私もとうまと一緒がいいかも。」 上条「これ以上疲れたくないのでインデックスサンはステイルとでも寝ててください。つーかそうしやがれ」 一方「ヨミカワァァ!いつも一緒に寝てるとか!適当コイてンじゃねェ!」 黄泉川「嘘はついてないじゃん? この前も打ち止めを抱き枕がわりにしてたじゃんよー」 そのとき一方通行は寝ぼけていた、という大事な部分は話さない黄泉川。 一方「ンなっ!? 何てこと言いやがる、テメ――」 その時、背後から両腕を掴まれる一方。 土御門「電極のスイッチに触れなければこいつはただのもやしにゃー! やってまえ青髪!」 青ピ「合点! 侮蔑と羨望を受けつつ死ねやイッコー(IKKO)ーーーーー!!」 一方「テメェェェェェラァァァァァァァ!!!」 美琴「パパとママ………夫婦一緒の部屋………川の字?」 上条「もしもーし!? なんか思考が変な方向にぶっとんでませんか御坂さん!?」 美琴「しょ、しょーがないわねー。娘――じゃなかった、妹が心配だから……いいいいい一緒の部屋でもいいわ、よ?(////////)」 「一方通行を救い出す、ってミサカはミサカはいつもと逆な立場に興奮しつつ電流を流してみたり!」 さすが妹達の上位個体。普段は使われることのないレベル3の電撃が器用に一方通行をよけて襲いかかる。 ……まあ手加減はしているが。 黄泉川「はいはい、遊んでないでもう部屋割りも決まったんだから、さっさといくじゃんよー。つーか、これ以上旅館の入り口で騒ぐのは迷惑じゃん」 黄泉川の言われて、生徒たちはぞろぞろと旅館の中へ入っていく。 青髪ピアスと土御門は打ち止めの電撃から復活するまで、寒空の下取り残されるのであった。 青髪ピアス「こういうのは、いつもやったらカミやんの役やないの?」 土御門「ふ、不幸にゃー」 舞夏「おーい、大丈夫かー、兄貴ー?」 しゃがみ込んで、ちょっと焦げてる兄貴を木の棒でつつく義妹。
https://w.atwiki.jp/index-index/pages/3113.html
【種別】 兵器・超能力 【初出】 新約六巻 【解説】 垣根帝督が進化した『未元物質』を用いて作り出した兵器。 『白いカブトムシ』と同じタイプのものであるとされる偵察用のトンボ。 全長5メートル程度で、上空から一方通行を捜索するために使われた。
https://w.atwiki.jp/seisoku-index/pages/428.html
約束の日曜日、待ち合わせ場所である病院の前の広場で、上条は二人がやって来るのを待っていた。 本当ならこの病院に入院している一方通行が一番最初にここで待っているはずだったのだが、どうも外出手続きに手間取っているらしい。 前もって申請するのを忘れていたのと、まだだいぶ早い時間で病院が忙しいこともあって少々時間がかかっているようだ。 と言っても、冥土帰し曰くそれほど時間がかかる訳ではないらしいので、外出自体にはまったく影響はないのだが。 よって一方通行の方は問題ないのだが、集合時間五分前になってもまだ美琴がやって来ないことが気がかりだった。 女の子は身だしなみに時間がかかるという話は流石の上条も聞いたことがあるが、常盤台中学は休日でも制服の着用が義務付けられている。 なのでそれほど時間がかかるとは思えないのだが……などと考えていると、車道の向こうから美琴がやってくるのが見えた。 「ごめん、ちょっと遅れた!」 「や、そんなに待ってないよ。一方通行もまだ来てないし、ギリギリ時間には間に合ってるぞ」 「そっか、良かった。アイツはどうしたの?」 「外出手続きにちょっと時間がかかるらしい。でも、もうすぐ来ると思うぞ」 ここまでずっと走って来たのか、美琴はだいぶ息を切らせていた。 服装は上条が予想したとおりにいつもと同じ常盤台中学の制服だったが、雰囲気がいつもと少し違う気がする。 それが少し気になって、どこが違うんだろうと考えているとふと視界の端に白い人影が映った。 「あ、来たな。おはよう」 「悪ィな、待たせちまったか」 「いやいや、全然。ビリビリなんか本当にたった今来たところだしな」 ようやく手続きを終えてやってきた一方通行は、手馴れた様子で松葉杖を突いていた。 上条は以前大通りで会ったときに一方通行が松葉杖を突いているのを見ていたが、美琴はこれが初めてなので少し驚いているようだ。 「前見たときも思ったけど、なんかそれ持ってると病人みたいだな。お前、ただでさえ目立つのに」 「いや、こんなでも一応病人なのよ? 本人が元気って言い張るからそう見えないだけで」 確かに記憶喪失なのだから病人(?)なのだが、どうも一方通行は自分が記憶喪失であることをまったく気にしていないので、 なんだか上条もたまに一方通行が病人であると言うことを忘れてしまいそうになる。 と言っても日常生活に必要不可欠なことは覚えているので、普通に生活する分には不自由はない。 しかし、不安なことも多そうに感じるのだが。 もしかしたら記憶喪失になる前からの知り合いが全くいないので、逆にそういうことを気にしなくて済んでいるのかもしれない。 思い出すことのできない過去の出来事を語られて、頭を痛めたり心を痛めたりすることが一切ないのだから。 「それより、何処に行くの? 私は特に決めてないんだけど……」 「あ、そっか。俺も特に考えてないんだけど……。一方通行、どっか行ってみたいところとかあるか?」 「俺も特にねェな。歩きながら決めれば良いだろ」 それもそうだ。この辺りのことについて何も知らない一方通行が、行き先なんて考えているはずがない。 こんなことなら前もって行く場所を決めておくべきだったなあと思いながら、上条は咄嗟に思いついた場所を挙げてみる。 「そうだ。地下街なんかどうだ? あそこは色んな学生が集まるし、多分一方通行も記憶喪失になる前に一回は行ったことがあると思うぞ」 「あ、それ良いわね。久しぶりにゲーセン行きたいわ」 「……お前、これが一方通行の為の案内だって分かってるよな?」 「わっ、分かってるわよ! 失礼ね!」 「なら良いんだけどさ」 美琴は顔を赤くしながら否定したが、やはりゲームセンターが惜しいのか少し残念そうな顔をしている。 まあちょっと寄るくらいなら良いだろうと上条が思い直していると、二人が何を話しているのか分からないらしい一方通行が口を開いた。 「で、その地下街っつゥのは何処にあるンだ?」 「ああ、ここからちょっと行ったところに入り口があるから、そこから入るんだ。 それほど距離がある訳じゃないから、杖つきでも大丈夫だと思うぞ」 「そこ行くまでにも色々あるし、説明しながら歩きましょ。お昼までまだ時間があるし、ご飯は地下街で良いわよね?」 「ン、そォだな。時間は……まだ9時前か。地下街を回ってからでも充分だ」 第七学区は中高生が最も多く住んでいる学区と言うだけあって、若者向けの店が多数立ち並んでいる。 何も知らない一方通行に、上条と美琴はよく利用する店や有名な店を紹介してやりながら地下街へと向かっていった。 地下街を彷徨い始めて数時間後。そろそろ昼食を食べに行こうかな、と三人が考え始めた頃のことだった。 上条と美琴と一緒に地下街を歩いていた一方通行が、ある店の前で唐突に立ち止まった。 一拍遅れてそれに気付いた上条は美琴に声を掛けてから立ち止まると、一方通行がじっと見ている店に目を向ける。 「ゲーセンか。やっぱり見覚えあるのか?」 「……いや。つゥか、何をするところなンだ? 騒音がすげェな」 「ありゃ、ゲーセンも駄目か。まあいいや、興味があるならちょっと覗いて見るか?」 「あァ」 もう昼が近いだけあって、ゲーセンの中は既に結構な人で賑わっていた。 それも休日なので心なしか放課後にここに来るよりも人の数が多い気がする。空いているゲームを探すのが難しそうだ。 「やー、ゲーセンって久しぶりに来たわ。 好きなんだけど、黒子が『常盤台のエースとしての自覚を~』とか言って私がこういうとこ行くの嫌がるから来にくいのよね。 こういうとこに一緒に来れるような友達もいないし、かと言って一人で来るにもちょっと寂しいし」 「やっぱり、常盤台のお嬢様はあンまりこォいうところには来ねェのか?」 「こういうとこは流石にね、ガラの悪い奴らも多いし。私はほら、能力があるから簡単に撃退できるんだけどさ。 他の子達はそうもいかないからね。たとえ脅しに使うだけでも、人に向けて能力を使うのに抵抗があるって子が殆どだし」 「て言うか、それが普通なんだと思うぞ……。お前はもうちょっと能力の使用を控えるべきだ」 「失礼ね、私だって普段からあんなに能力を使ってるわけじゃないわよ。あれはアンタ限定」 「ひどい! ビリビリはもっと俺に優しくなるべきだ!」 「……まァ上条は置いといて、不良相手にも無闇に能力で攻撃するのは止めといた方がイイと思うぞ。電撃は障害が残ることもあるからな」 「その辺もちゃんと加減してるわよ? コイツ意外には」 相変わらず上条に対してだけは手厳しいが、なんだかんだ言って美琴は学園都市最強の発電能力者であるので加減も非常に上手い。 一見むやみやたらに電撃を放っているように見えて、実は絶対に重傷や障害を負わせたりすることがないように絶妙な調整をしているのだ。 もちろん、それも上条以外に限定されるわけだが。 「はあ、俺に平和な日々が訪れることはあるのだろうか……」 「諦めろ、あれは天性の負けず嫌いだ。本気で戦って勝つか負けるかしないと納得しないだろォな」 「いやでも流石に女子中学生を殴ることには抵抗が……」 「なによ紳士ぶっちゃって! 腹立つ!」 「おわあああああっ!? こんな機械が多いところでところで電撃は止めなさい!」 美琴が放った小さな電撃をなんとか右手で受け止めながら、上条が悲鳴を上げる。 最近は病院で会うことが多くて電撃はご無沙汰だったので油断していた。危うくもろに食らってしまうところだ。 その様子を初めて見た一方通行は、上条の右手を興味深そうに見つめている。 「話には聞いてたが本当に不思議な能力だな。異能の力ならなンでも打ち消しちまうンだろ?」 「右手首から上だけだけどな……。それに異能でも何でもないただのパンチとかには意味ないから、そこまで便利なもんでもないぞ」 「ああもう、本当に忌々しい右手だわ。ちょん切ってやろうかしら」 「やめてくださいビリビリ様!」 一方通行が上条と美琴が馬鹿な言い合いをしているのを聞き流しながら辺りを見回していると、ちょうど空いている台を発見した。 彼は二人の言い合いを中断させると、見つけた台を指差した。 「あそこ空いてるぞ。あれで良いンじゃねェか?」 「おお、2台も。これは格ゲーか。対戦もできるみたいだぞ」 「俺は観戦させて貰うぞ。やり方がイマイチよく分かンねェからな」 「じゃあ、私とアンタで対戦しましょうよ。こっちでは絶対に負けないんだから!」 「うぐ、またビリビリと勝負かよ、不幸だ……」 言いながらも、二人がそれぞれ席に着く。観戦するつもりの一方通行は美琴の側に回って画面を覗き込んでいた。 二人がコインを入れると、さっそく開始の合図がされて対戦が始まる。 「えいっ、とりゃ、たあ!」 「やべ、本当に強い。だけど負けるかああああ!」 「馬鹿か」 ゲームごときに必死になっている二人を見て呆れながら、一方通行は呟いた。 しかしそんな一方通行の言葉もまるで耳に入っていないようで、二人は奇声を上げながらゲームの中で死闘を繰り広げている。 しばらくの間そんな奇怪な状況が続いていたが、最終的に軍配は美琴に上がった。 「やったあ! 勝ったー!」 「うう、負けた……」 「こンなゲームで一喜一憂できるなンて、オマエらも平和だな……」 ゲームの中での戦いとはいえ上条に勝てたのがよっぽど嬉しいのか、美琴はぴょんぴょん飛び跳ねながら喜んでいた。 その一方で、敗者上条はゲーム台に突っ伏して項垂れている。 「ふふん、でもアンタもなかなか強かったわよ。楽しかったわ」 「俺、これでも仲間内では強い方なんだけどなあ……。ゲーセンにも通い詰めてるのに……」 「まあ、私はゲーセンには来れないけど家庭用ゲーム機でやりこんでるしね」 「そっちかよ!」 「どォりで強いわけだ」 素人目にも凄まじいボタン捌きだったので何かあるとは思ったが、まさかそこまでやりこんでいようとは。 そこまでしてゲームをやりこんでいる美琴に一方通行は呆れてしまったが、上条はそれでもやっぱり悔しいのか、 コインを握り締めている右手をぷるぷると震わせながら美琴をびしっと指差した。 「も、もっかい勝負だ! 次こそは負けねえ!」 「ええ、望むところだわ。何度やっても結果は同じだと思うけどね!」 上条にしては珍しいことに、すっかり熱くなってしまっているようだ。 またその一方で、美琴は今まで上条に逃げられてまくって勝負できなかった分の鬱憤をここぞとばかりに晴らそうとその挑戦を受けて立つ。 二人は同時にポケットの中からゲーセン用のコインを取り出すと、それぞれゲーム台に投入した。 ……そんなことをかれこれ十回も繰り返していたのだが、その結果はと言うと。 「やぁったあ! 私の全戦全勝!!」 「一勝もできなかった……。不幸だ……」 「いや一勝くらいしろよ。強いンじゃなかったのか?」 「や、ビリビリはマジで強い。あとちょっとってところまでは行けるんだけどなあ……」 「でもまあアンタもそこそこ強かったわよ。実際何度か結構危ないとこまで追い詰められたし。 あ、そうだ。一方通行もやってみない? 面白いわよ?」 「ン、じゃあ少しやってみっか」 言いながら、一方通行は上条が譲ってくれた席に座る。 一方通行は初心者なので本当なら美琴に負けた上条が相手をした方が良いのだが、当の一方通行本人が美琴との対戦を希望したのだ。 宿敵上条に連勝できたことで気持ちが大きくなっているのか、反対側の席に座っている美琴は何だか小憎たらしい笑みを浮かべている。 「ふふん、手加減してあげるから安心しなさい!」 「……言うじゃねェか。吠え面掻いても知らねェぞ」 なんだかんだ言って、実は一方通行も相当負けず嫌いだ。 上条は一方通行の側から画面を覗き込みながら、心配そうな面持ちで負けず嫌い二人の行方を見守っていた。 十分後。 ……これには流石の上条も目を丸くしてしまった。何故ならなんとあの美琴が、初心者であるはずの一方通行に負けてしまったのだ。 それから何度対戦を繰り返しても、やはり結果は一方通行の勝利で終わってしまう。 そうしてやがてついに観念した美琴は、先程の上条とまったく同じようにゲーム台に突っ伏して項垂れていた。 「わ、私の完敗よ……。まさかここまで完膚なきまでにやられるなんて……」 「うおお……。すげえな、俺なんか一度も勝てなかったのに」 「こンなの、操作方法とコツ、機械の挙動のクセさえ覚えちまえば簡単だ。 それについさっきまで御坂がプレイしてるのをすぐそばで観察してたから、御坂の戦い方もついでに覚えちまったンだよ」 「つまり、あの時点で既に私は看破されてたってわけね……」 一方通行がわざわざ上条ではなく美琴との対戦を希望したのには、こういう裏があったのだ。 なのでもし一方通行が美琴ではなく上条と戦っていたら、また違った結果になっていたのかもしれない。 「でも、初めてなのに横から見てただけで急にあそこまでできるのはすげえよ。器用なんだな」 「て言うか、アンタって頭良いわよね。やっぱり前は良い学校に通ってたのかしら。……あれ、そう言えばアンタって何歳?」 「知らねェ。まァ、身長が上条と同じだからそれくらいじゃねェか?」 項垂れていると言うよりゲーム台の冷たい感覚が気に入ったのか、美琴はまだゲーム台の上に頭を乗せたままごろごろしていた。 どうせ学園都市製のゲーム台なので高度な防菌加工がしてあるのだろうが、綺麗な訳でもないのだからよせば良いのに、 などと上条が思っていると、ふと美琴がごろごろするのをやめてある一点を見つめはじめた。 何かと思って美琴の視線の先を追ってみると、そこには如何にも女の子が好きそうなプリントシール機が設置されているではないか。 「なンだ? オマエ、あれがやりたいのか?」 「待て待て一方通行。アレはプリクラと言ってだな、シールになる小さい写真を撮る機械だ。ゲームじゃない。 女の子が友達同士で撮ったり、恋人同士で撮ったりするものであって、俺らのような人間が撮るようなものじゃないんだよ」 「ふゥン。そりゃ、確かに女が好きそうな玩具だな」 「良いじゃないプリクラ! 記念にもなるし撮りましょうよ! て言うか実は私も撮ったことないから撮ってみたいのよ!」 美琴は急にがばっと立ち上がると、プリントシール機を指差しながら熱弁した。よっぽどやってみたいらしい。 しかし男である上条は、どうしてもああいったものには抵抗があった。と言うか凄まじく恥ずかしい。 逆に一方通行は未だにプリクラをよく理解していないからなのか、どうして上条がそこまで嫌がっているのか分かっていないようだ。 「でも、なんか意外だな。ビリビリもこういうの好きそうなのに」 「そりゃあ、好きは好きよ? でもさっき言った通りに一緒に撮る友達がいないのよ。ああいうのは一人で撮っても虚しいだけだし。 だから、ね! やりましょうよ! そんなに時間がかかるわけでもあるまいし!」 「……そこまで言うンなら、別に良いンじゃねェか? ただの写真なンだろ?」 「マジでか。いやアレは本当に女の子向けの代物であってだな……」 「よっし! じゃあ決まりね! 行きましょ!」 抵抗も虚しく、哀れ上条は美琴に腕を掴まれて強引にプリントシール機の中へと引きずり込まれていく。 何も知らない一方通行は素直に二人の後をついて行ったが、プリントシール機の中に入ってその画面を見た途端に顔をしかめた。 確かに少女向けの玩具だろうとは予想していたが、まさかここまで徹底的だとは思わなかったのだ。 嬉々としてプリントシール機に向かっている美琴越しに除ける画面には、目が痛くなるようなキラキラしたフレームが並んでいる。 上条は言わんこっちゃないと言うような顔で一方通行を見ていたが、当の一方通行はそっぽを向いて現実逃避していた。 そこに、美琴は追い討ちをかけるように更に様々な装飾を追加していっている。 「お、おいビリビリ、ちょっと派手すぎやしないか?」 「何言ってんの、こんなの普通よ。これでもアンタ達が嫌がるだろうと思って控えめにしてあげてるんだからね!」 「これで控えめなのかよ」 上条はげんなりしながら呟いたが、念願のプリクラができてご満悦の美琴にその言葉は届いていないようだ。 もうどうにでもなれと思っていると、全ての設定を終えたらしい美琴が両脇にいた上条と一方通行の腕をぐいっと引っ張って引き寄せる。 「ほら撮るわよ! カメラ見て笑って!」 「はいはい、分かりましたよ。一方通行もちゃんと笑えよ」 「………。無茶言うな」 一方通行は一瞬笑顔を作ろうと努力していたようだが、上条は見なかったことにした。物凄い引き攣っていたからだ。 結局一方通行は、いつもの仏頂面で写真を撮ることになった。 パシャリというシャッター音が響き、撮影された映像が画面の中に映し出される。 派手なフレームや装飾が若干(いやかなり)恥ずかしいが、写真だけ見れば本当に仲の良い友達同士に見えた。 そこに、美琴は更に何かを追加していく。ペンでパネルに何かを書いているようだった。 「今度は何してんだ?」 「文字を入れてるのよ。一回やってみたかったのよねー」 「……よく恥ずかしげもなくそンな文章を書き込めるもンだな」 「い、良いじゃない! こういうのが普通なのよ、普通!」 どうやら美琴も恥ずかしいと思っているらしい。やめる気も無さそうだが。 上条は横からちらりと美琴の手元を覗き込んでみたが、上条にしてみればそこまで恥ずかしいような文章には思えなかった。 まあ、この程度なら許容範囲なのではなかろうか。 それに文字を書けば書くほど周りのフレームや装飾が潰れてくれるので、もっと書けば良いのになどと酷いことも考えていた。 「よし、これで完成! 印刷するわよー」 ボタンを押すと、取り出し口にすとんとシールが落ちてきた。 美琴はいそいそとシールを取り出すと、それを器用に三等分にして上条と一方通行にも分けてやる。 「こんなの、何処に張れば良いんだよ。恥ずかしくって人に見せらんねえよ」 「えーと、普通は携帯電話のバッテリーの蓋の裏とかに張るみたいね。 そこなら人目に付かないだろうし失くさなずに済むし、ちょうど良いんじゃないかしら?」 「なるほど、そこなら良いか。一方通行は携帯持ってたっけ?」 「この間冥土帰しに押し付けられた。これでイイのか?」 勧められた場所にシールを張りながら、これならよっぽど不幸なことが起きない限り人に見られたりしないだろうと上条は安堵した。 上条と美琴、あとは冥土帰しくらいしかまともな知り合いが居ない一方通行は良いだろうが、 上条にはこれを見られたら困る知り合いが非常に多いのだ。 その一方で遂に念願のプリクラを手に入れた美琴は、自分の分のシールを見つめながらニヤニヤしている。 「プリクラって思ったより楽しいわね。また今度来たとき撮りましょうよ」 「絶対嫌だ」 「もうオマエとは絶対ゲーセンに来ねェ」 「ひどい!」 男性陣のあまりにも冷たい反応に美琴は非難の声を上げたが、二人は既にもう二度とプリクラなど撮るまいと心に誓っていた。 上条がむくれている美琴を宥めながら腕時計を確認してみると、ちょうど12時を過ぎたところだった。 「そろそろ飯食おうぜ。結構歩いたから腹減ったし」 「ああ、そう言えばもうそんな時間なのね。あそこのファミレスで良いんじゃないかしら?」 そう言って美琴が指差したのは、学園都市にも複数のチェーン店が展開されているありふれたファミリーレストランだった。 わざわざこんな地下街に来たまであんなありふれたレストランに行くのかと上条は思ったが、 そこまでありふれたレストランならもしかしたら一方通行の記憶に残っていることもあるかもしれない。 僅かばかりの期待を胸に、上条は二人についてファミリーレストランへと入っていった。 ――――― 時刻は夕方。休日なので完全下校時刻なんてものはないが、平日だったらもうアナウンスが流れている頃だ。 三人は帰路につこうとしている人々で溢れている大通りを歩きながら、他愛ない話をしていた。 「それにしても、収穫ゼロかあ。まさか地下街のことも全然知らないなんて思わなかったな」 「次は第六学区にでも行ってみましょうよ。あそこはアミューズメント施設が集中してるし、一回くらい遊びに行ったことがあるかもよ?」 「でもまァそンなに急ぐよォなことでもねェし、気にすンな。今のところ大した不便も無ねェしな」 「逞しいなあ……。あ、そうだ。学校のこと考えてくれたか? 先生に訊くなら早い方が良いだろうし」 一方通行の退院はまだもう少し先のことだが、上条の学生寮を確保してもらうにも少し時間が掛かるし決断が早いに越したことは無い。 しかし一方通行はそれとなく上条から目を逸らしながら、曖昧に返事をした。 「あァ、それなァ……。もうちょっと待ってくれ。まだ考えてる」 「何をそんなに迷うことがあるのよ? アンタの今の状況を考えてみれば、願っても無い好条件だと思うけど」 「まァ普通に考えればそォなンだけどよォ。……実は、外に出よォかと思ってンだ」 上条と美琴は一瞬、一方通行が何を言っているのか理解できなかった。 外ってどの外のことだ。今だって外にいるじゃないか。 上条はその言葉の意味を暫らく考えていたが、やがてひとつの可能性に思い当たって目を丸くした。 「まさか、外って学園都市の外のことか? 無茶苦茶だ」 「……やっぱりそォだよなァ」 「何でまた学園都市の外になんか出ようと思ったのよ? アンタは知らないでしょうけど、学園都市の外は私達にとってすごく危険なの。 学園都市の能力開発技術を何とかして手に入れようと躍起になってる連中がうじゃうじゃいるんだから。 万が一、変な奴らに捕まったりしたら実験台にされるかもしれないし。 それにアンタの場合は外に出るときにマイクロチップやナノマシンを注入したりもできないから格好の餌食よ?」 「それに、記憶を取り戻すための手掛かりだって外では見つからないと思うぞ。流石に外から来たって訳じゃないだろうし」 「…………。それも、そォだな。とにかくもう少し考えさせてくれ。悪ィな」 「いやそれは全然構わないんだが……。どうして学園都市の外に出ようなんて思ったんだ?」 「色々事情があるンだよ。色々な」 どうも、話したくないことらしい。 上条たちも一方通行が何か複雑な事情を抱えているらしいことはなんとなく察しているので詮索はしなかったが、 とにかく危ないことだけはしないでくれと念を押しておく。 しかし対する一方通行は、過剰に心配する二人を見て呆れたように呟いた。 「そンなに心配されるよォなことは何もねェよ。過保護な奴らめ」 「いやいや、それくらい学園都市の外ってのは能力者にとっては危ないんだぞ。お前だって、微弱とはいえ能力が発現してるんだろ?」 「分かったっつゥの。俺だって危ない橋渡るのはゴメンだからな。ほら、オマエらの帰り道はあっちだろ」 「なーんか納得いかないわ……。とにかく、絶対に血迷ったことしないでよ! 分かったわね!」 「ハイハイ。じゃ、今日はそこそこ楽しかったぞ。またな」 一方通行の態度はぞんざいだったが、それでもやっぱり門限が気になる美琴は素直に自らの帰路についていった。 ただし何度も二人のいる方向を振り返り、ぶんぶんと手を振りながら。 やがてそんな彼女の姿が見えなくなってしまうと、今度はまだなんだか難しい顔をしている上条の方へを向き直る。 「オマエはスーパーのタイムセールに行くンだろォが。急がなくて良いのか?」 「いやまあ、確かに急がなきゃだけど……。本当に大丈夫なんだよな?」 「何がだよ? ったく、オマエらは揃いも揃って心配性なのか? 最後の最後に辛気臭ェ雰囲気にしてくれンなよ」 「お前なあ……。はあ、まあ良いや。信用するよ。じゃ、お前も早く帰れよ。仮にも病人なんだから」 「分かってるっての。俺だって早く帰って寝てェ。疲れた」 それを聞いて漸く安心したのか、上条はやっといつもの調子を取り戻してくれたようだ。 そろそろ本当にタイムセールに間に合わなくなるぞと一方通行が脅すと、上条は慌てて腕時計を確認する。 「うお、ホントに時間ねえ! 悪いな、じゃあまた明日!」 「明日も来ンのかよ」 背後を振り返りながら一方通行に手を振って全速力で走るという器用な芸当をしながら、上条はあっという間に去っていった。 一方通行はしばらく去っていく上条の後姿を眺めていたが、やがて飽きてしまったかのように踵を返して病院へと帰ろうとする。 ……と、その時だった。 「あの」 最初、一方通行はそれが自分に対して掛けられた声だということに気付けなかった。 一方通行の周囲には、そんな控えめな声の掛け方をする奴はいないからだ。 だから一方通行はそれが自分を呼ぶ声だということに気付かずに、聞こえてきた声を無視して歩いていってしまおうとする。 「あの、一方通行」 名前ではないはずだが、それでも自分のことを示す単語がどこからか聞こえてきたところで、一方通行は漸く立ち止まる。 声の聞こえてきた方向を振り返ってみると、そこには先程帰って行ったはずの御坂美琴が立っていた。 「なンだ、オマエか。どォした? 上条ならもォ行っちまったぞ」 一方通行の言葉に、しかし御坂美琴はきょとんとした顔をした。 けれどそんな顔をされるようなことを言った覚えのない一方通行は、何か言い知れぬ違和感を感じて顔をしかめる。 常盤台中学の制服を着ているし、顔も見間違えようもなく御坂美琴そのものなのだが、何かがおかしい。 そういえば、先程まで美琴はあんなにごつい軍用ゴーグルなど装備していなかった。それにあんな嵩張るものを隠していたとも思えない。 一方通行が訝しんでいると、御坂美琴は一人で唐突に納得したような顔をしてこう言った。 「失礼しました。ミサカは超電磁砲・御坂美琴ではありません。いわゆる妹というやつです、とミサカは懇切丁寧に説明します」 第七学区の喫茶店。 真っ赤な夕陽の光が差し込んでくる窓際の席に、一方通行と美琴の妹は座っていた。 二人用の小さな席に向かい合って座っている二人は、それぞれの注文した飲み物をのんびりと啜っている。 「美味しいですね、とミサカは一方通行に同意を求めます」 「いや、俺とオマエは注文したモンが違ェから分かンねェよ。 つゥか御坂の妹……あァもォ御坂妹でイイな。で、その御坂妹が一体俺になンの用だ? わざわざこンな場所にまで連れて来てよォ」 「それは……、今日は、少々あなたに相談があって伺ったのです、とミサカはさっそく本題を切り出します」 「相談? 俺にか?」 我ながら、自分ほど相談相手として不適格な人間はそうそういないと思う。 そんな一方通行に相談しに来たとは、一体どういうつもりなのだろうか。もしくは、一方通行がどういう人間かを知らないのかもしれない。 「はい、相談です。とミサカは繰り返します」 「悪ィが、どォ考えても人選ミスだと思うぞ。何の相談か知らねェが、他当たった方が良いンじゃねェか?」 「構いません、とミサカはきっぱりと断言します」 「……まァ、そこまで言うなら聞くだけ聞いてやるけどよ」 一方通行は『美琴の知り合いに用がある』ということでここに連れて来られたのだった。 だが、それならせめて美琴の知り合い繋がりで上条にでも相談した方が良かったのではないだろうか? ……などと一方通行が考えていると、御坂妹が再び口を開いた。 「その為には、まずミサカたちについて説明しなくてはなりません。 ミサカたちは実は、お姉様のDNAマップを元に作成された体細胞クローン『妹達』なのです、とミサカは改めて自己紹介します」 「ン? じゃあ妹じゃねェのか?」 「厳密にはそういうことになります。 ですがミサカたちは皆オリジナルのことを『お姉様』と呼び慕っているので、自ら『妹』と名乗っているのです、とミサカは補足します。 それにミサカたちの総称もちょうど『妹達』ですし。 一部の人はミサカたちは妹より娘に近いと言いますが、流石にまだ中学二年生のオリジナルを『母』と呼ぶのには抵抗がありますから、 とミサカは更に理由を追加します」 「なるほどなァ。確かに、その辺の奴に説明するにしても『妹』の方が分かり易いし楽だろォしな」 「そういうことです。と言うか、クローンと聞いてもあまり驚かないんですね、とミサカは一方通行の反応を意外に思います」 「学園都市ってのは『外』に比べて30年も技術が進ンでンだろ? クローンなンてのはありふれたもンじゃねェのか?」 「いやいやいや。学園都市でも人体のクローニングは禁止されていますし、 実はミサカたちも非合法な存在なのでかなり厳重に秘匿されています、とミサカは一方通行の非常識ぶりに逆に驚かされます」 「へェー。オマエらも大変なンだなァ。つゥか、そんな非合法な存在がこンなところを普通にうろついててイイのかよ」 「実は現在脱走同然の状態です、とミサカは衝撃の真実を暴露します」 「オイコラ」 一方通行が鋭くツッコミを入れるが、御坂妹は何処吹く風だ。 それどころか、彼女は一方通行の発言を無かったことにして話を進める。 「それでここからが本題になるわけですが、とミサカは話題の軌道修正を試みます」 「スルーか。まァ良い、とりあえず話してみろ」 「はい。実はお姉様にお会いしたいと考えているのですが、大丈夫でしょうか? とミサカは相談内容を提示します」 「…………? 会いたいなら勝手に会いに行けばいいじゃねェか」 別に一方通行は美琴の保護者でも何でもない。それどころか、不本意ながらどちらかと言えば逆だ。 なのに、何故御坂妹は一方通行にそんなことを尋ねるのだろうか? そんなことを考えながら一方通行が首を傾げていると、御坂妹はすかさず説明を続ける。 「実はお姉様は自分の体細胞クローンが作られていることをご存じないのです、とミサカは最大の問題を明かします」 「はァ? じゃあナニか、どっかのアホが本人に無許可で勝手にクローン作ったってのか?」 顔を顰めながら、一方通行は不愉快そうな声を出した。 しかしよくよく考えてみれば人体のクローニングは禁止されているのだから、あの美琴がそんな非合法な実験に協力するはずもない。 すると御坂妹はこくんと頷き、言葉を続けた。 「そういうことになりますね、とミサカは首肯します。 とは言っても、ミサカたちはそのお陰で生まれることができたので一概に彼らを非難したくありません、とミサカはミサカの考えを主張します」 確かに御坂妹には何の罪もないし、誕生の経緯がどうであれ彼女達が生まれたことを非難するつもりも毛頭ない。 ……しかし、当事者である美琴は一体どう思うだろうか? 彼女たちの存在を、果たして許すことができるのだろうか? 「……つまりオマエは、御坂が自分たちを受け入れてくれるかどォか知りたいっつゥことだな?」 「そういうことです、とミサカは一方通行の話の呑み込みの早さにほっとします」 「しっかしクローンとはまた、難しい質問だなァ……。御坂とはそンなに付き合いが長ェわけでもねェし。 やっぱ上条辺りに相談した方が良かったンじゃねェか?」 「いえ。記憶喪失で何の先入観も持っていないあなたの意見を聞きたかったのです、とミサカはミサカの真意を告げます」 そこで一方通行はおや、と思った。 自分はまだ、御坂妹に自分が記憶喪失であることを話していないはずだ。隠しているわけではないが、そんな簡単に知れることでもない。 「俺が記憶喪失だってことも知ってンのか、やけに俺に詳しいな。どうしてそこまで知ってンだ?」 「……そ、その、ミサカたちはお姉様に近付く為にお姉様の身辺を調査したのです。 その過程であなたのことも少々調べさせていただきました、とミサカは苦しい言い訳を……いえなんでもありません」 最後の方は蚊の鳴くような小さな声だったので聞き取れなかったが、そこまで神経質にならなくても大丈夫だろうと一方通行は判断した。 なので一方通行は興味なさげに「そォかい」とだけ言うと、静かにコーヒーを啜る。 それに、記憶喪失になったこと自体に関しては特に口止めをしているわけでもあるまいし、確かにちょっと調べれば分かることだ。 「それにしても、クローンなァ。どうしたモンかねェ」 「今すぐにお返事を頂けなくても構いません。それとなくお姉様にクローンの話をしてみてはどうでしょう、とミサカは提案します」 「つっても、日常会話の中でクローンの話が出てくることなンかまずねェぞ」 「でしたら、お誂え向きの話題があります。 記憶喪失のあなたは知らないでしょうが、常盤台中学では『超電磁砲のクローンが存在するのではないか』という噂が実しやかに囁かれているのです。 もちろんお姉様もその噂をご存知ですから、その噂を聞いたことにして話題にしてみたらどうでしょうか、とミサカは実は綿密な計画を立てていたことを明かします」 「あァ、なるほど。それならなンとかなるか……」 どうやら御坂妹は、本気で美琴に会いに行きたいと思っているようだ。 上条たちから借りた漫画などによる偏った知識から想像するに、クローンといえばオリジナルを亡き者にして入れ替わりを画策するとか、 そういうブラックなものを想像していたので、一方通行としては御坂妹の行動は少し意外だった。 ただし、そこまで計画を立てたところまでは良い。問題はその先だ。 「だが、それでそれとなくクローンの話をしたとして、御坂の反応が芳しくなかったらどォすンだ?」 「……あなたがなんとかしてお姉様のクローンに対するマイナスイメージを改善してください、とミサカは無茶振りをします」 「ホントに無茶振りだな。ま、とにかくやるだけやってみるか」 「ありがとうございます。これで漸くお姉様に会う目処が立ちました、とミサカは素直に感謝します」 「ハイハイ。そォだ、上条にはこのことを話しても構わねェのか?」 「そこはあなたの判断に任せます。 上条当麻に関しては情報が少なかったのでミサカたちでは判断できなかったのです、とミサカはあなたを選んだ第二の理由を明かします」 「…………? そォか、分かった」 「では、ミサカはこれから用事があるのでこれで失礼させて頂きます。 こんな時間に付き合ってくださってありがとうございました、とミサカはぺこりと頭を下げます」 「気にすンな、俺も暇人だしな。ちったァ良い暇つぶしになった」 「……、そうですか。そう言っていただけるとミサカも嬉しいです、とミサカははにかみます」 すると、御坂妹はテーブルの上に紅茶代を置いて席を立った。 コーヒーを啜っていた一方通行は、それを見てふと思い出したように急いでポケットの中を探り始める。 「おい、ちょっと待て」 「?」 「これ、俺の携帯のメルアドと電話番号。またなンかあったら連絡しろ」 言いながら一方通行がポケットの中から取り出したのは、彼の連絡先が書かれてあるメモ用紙。 御坂妹はそれを見て何故か少し驚いた顔をし、そしておそるおそるといった様子でその小さな紙切れを受け取った。 「……ありがとうございます。 ではミサカの連絡先も教えておきますので、何か進展があれば連絡を下さい、とミサカは一方通行に依頼します」 「当然だろ、そォじゃねェと意味ねェだろォが。ほらよ」 一方通行は書くものを持っていなかったらしい御坂妹に、自分のと同じメモ用紙とボールペンを差し出してやる。 御坂妹はやたら畏まりながらそれを受け取って連絡先を書き込むと、まるで猛獣に餌を与えるかのようにそれを一方通行に差し出した。 . . . . . . .. .. . . . . . . . . . 「なンだ、連絡先を交換し合うのは俺が初めてなのか? 変な奴」 「……はい、そうです。よく分かりましたね、とミサカは一方通行の言葉に驚きます」 「その様子見てりゃ分かるだろ、普通。やっぱクローンってのも大変そォだな」 「ええ。本当に大変なんですよ、とミサカは苦労話を展開しようと思いましたが、もう時間もないので控えました」 「そォかい。それじゃ、その苦労話はまた会ったときに聞かせてくれ。じゃあな」 一方通行がひらひらと手を振ると、御坂妹は再び深々とお辞儀をしてから彼に背を向ける。 ……ふと、その光景に鮮烈な既視感を感じた一方通行は、思わず彼女を呼び止めた。 「……、なァ」 「今度は何ですか、とミサカは少々焦りながら返事をします」 「オマエ、前に俺と会ったことねェか?」 その言葉に、しかし御坂妹は何の反応も示さなかった。彼女はまるで作り物のような無表情を、保っていた。 御坂妹はゆっくりと目を閉じ、そして開く。そして彼女は先程までと同じ平坦な声で返事をした。 「いえ、ミサカがあなたと会うのはこれが初めてです、とミサカははっきり答えます」 「……そォか。引き止めて悪かったな、もォ行って良いぞ」 「はい、そうさせてもらいます。それでは失礼します、とミサカは一方通行に別れの挨拶を告げます」 それだけ言うと、御坂妹は今度こそ一方通行に背を向けて喫茶店を出て行った。 カランカランという扉の閉まる音が、静かな喫茶店の中に響き渡る。 一方通行は窓の向こうに見える御坂妹の後姿を眺めながら深い深い溜め息をつくと、顔を顰めて手のひらで目を覆う。 ひどい頭痛がした。 ――――― ――――― 『やっほー、どうだった? ってミサカはミサカは一仕事終えた下位固体を労わりながら挨拶してみる!』 『……またあなたですか、とミサカはいい加減げんなりします』 大通りを歩いている御坂妹の頭の中に、妹達の形成する脳波ネットワーク『ミサカネットワーク』を通して幼い少女の声が響いてきた。 少女の名称は『打ち止め(ラストオーダー)』。 全ての妹達を統括し、上位命令文を発動させることによって妹達に対して絶対反抗不可能な命令を下すことのできる、妹達の上位固体。 『つれないなあ、ってミサカはミサカはむくれてみたり。 ミサカだって本当はあの人に会いに行きたいのに我慢してるんだから、ご褒美だと思って早く早く! ってミサカはミサカは急かしてみる!』 『そんなに特筆すべきようなことは何もありませんでしたよ。彼は何も変わっていませんでしたし、とミサカは面白味の無い報告をします』 『他には他には? ってミサカはミサカは更に詳細な報告を求めてみる』 『ああ、そう言えばあなたのいい加減な計画の所為で色々感付かれそうになりました、とミサカは上位固体の思慮の浅さを嘲笑います』 『ええー、あれで駄目だったの? ってミサカはミサカは驚いてみる。 あの人はやたら勘が鋭いから計画を考えるのも一苦労だよ、ってミサカはミサカは頭を悩ませてみる。次はどうしよっかなー』 『……ときに上位固体。計画を考える程度なら一向に構いませんが、くれぐれも余計な行動は取らないように、とミサカは念を押します』 それまではまるで妹をいじる姉のようだった御坂妹が、急に真面目な口調になった。 ミサカネットワーク越しに、打ち止めがぎくりとしたのが分かる。 それを感じ取った御坂妹は呆れたように溜息をつくと、更に言葉を繰り返した。 『良いですか上位個体。決して無闇に外を出歩かないように。彼らに見つかってしまえば一巻の終わりですよ、とミサカは警告します』 『わ、分かってるってば、ってミサカはミサカは口籠もってみる……』 『彼らに捕まって痛い目に遭うのがあなただけならまだマシです。 ですがあなたが捕まって最も被害を被るのは彼ですし、他にもミサカたちに協力してくれた人々の努力が全て無に還ることになるのです。 あなただって呼吸するだけのキーボードに逆戻りしたくはないでしょう、とミサカは……』 『分かったってば! 絶対に外には出ないから! ってミサカはミサカは口うるさい下位固体にぐったりしてみる』 御坂妹は本当に分かってるのかこの上司は、という顔をしたが、どうせネットワーク越しなのでその表情が打ち止めに見えることはない。 と、大通りを歩いていた彼女は辺りを軽く見回してから裏路地に入った。 裏路地には危険なスキルアウトが屯しているはずだが、その程度戦闘用に調整された軍用クローンである御坂妹の敵ではない。 『でもまあ、変わってないって聞いてちょっと安心したかも、ってミサカはミサカは素直な感想を言ってみる』 『安心、ですか。安心するのはまだまだ早い段階だと思いますが、とミサカは楽観的な上位固体に対する呆れを隠し切れません』 『まあ確かにそうなんだけど、あの時は10032号だってちょっと嬉しそうだったじゃない、ってミサカはミサカは言い返してみる!』 『ハハハ何のことやら、とミサカはしらを切ります』 御坂妹は乾いた笑い声を上げたが、その表情は完全無欠の無表情だ。 と言っても、どうせ二人はミサカネットワークを通して声のみによる通信を行っているだけなので、笑わなかったところで見えはしない。 『それはそれとして、実際これからどうするの? ってミサカはミサカは先行き不安』 『さあ、どうしたものやら、とミサカも困り果てます』 『……さっき、あの人やお姉様たちが話してたのを立ち聞きしてたよね? あれはどうなの? ってミサカはミサカは回想してみる』 『外、ですか。確かにそれが最善ではありますが、それでも学園都市の中より幾分かマシというレベルです、とミサカは冷静に分析します』 『そうなんだよねー。流石にこれ以上みんなに迷惑を掛けるわけにも……、ってミサカはミサカは頭痛がしてきた』 『……そういえば、芳川桔梗はどうしていますか? とミサカはミサカたちの協力者を心配します』 『研究所に戻って何事もなかったかのように研究を続けてるけど、それでもかなり疑われてるみたいですごく厳重にマークされてる、 ってミサカはミサカは苦い顔をしてみる。 流石にこれ以上ヨシカワに頼ることはできないけど、こうしてアマイたちにばれないようにミサカを調整してくれただけでも充分だよ、 ってミサカはミサカはヨシカワの大胆さに驚愕を隠せなかったり』 『本当に天井亜雄たちにばれずにやりきったのですか。 彼女は本当に甘いか強いかの両極端ですね、とミサカはもはや感心することしかできません』 御坂妹は普段から自分のことを甘い人間と称している女研究者の顔を思い浮かべる。 路地裏の更に奥深くへと淀みない足取りで進んでいく彼女は、ふと思いついて打ち止めに声を掛けた。 『ところで上位固体、あなたは今何処に居るのですか?』 『んーと、ヌノタバが用意してくれた隠れ家だよ! ってミサカはミサカは報告してみる。絶対座標も教えようか?』 『いえ、ミサカがそこに行く機会はないと思いますので遠慮します、とミサカは上位固体の申し出を辞退します』 『へ? なんで? ってミサカはミサカは首を傾げてみる』 『ミサカは現在厳重にマークされておりますので、迂闊にあなたに会いに行けばあなたが捕らえられることになるからです。 一応撒く努力はしていますが、追跡者が追跡者なので次に会いにいけるのはかなり先になるでしょう、とミサカは懇切丁寧に説明します』 『そ、そっか。でも何でそんなに厳重にマークされちゃったの? ってミサカはミサカは不思議がってみる』 『彼に接触してしまったからでしょう。彼は厳重に監視されていたようですので、 彼と接触したときにミサカも見つかってしまったというわけです、とミサカは察しの悪い上位個体に更に補足してやります』 分かっているのか居ないのか、打ち止めは感心したようにほえーと気の抜けた声を上げた。 しかし、流石にそこで違和感を感じたようだ。 『あれ? でもどうしてあの人は彼らに見つかってるのに捕まってないのかな、ってミサカはミサカは首を傾げてみる』 『ミサカにも分かりません。ですが、彼らは今間違いなく彼に手を出せない状況にあるようです、とミサカは新情報を報告します』 『おお、それじゃあの人はもう大丈夫なんだね! ってミサカはミサカは安心してみる』 『いえ、恐らく一時的なものでしょう。そうでなければもう彼を監視する意味などないのですから、とミサカは冷酷に告げます』 『うぐっ、まあなんとなく予想はしてたけどね、ってミサカはミサカはぬか喜びにがっかりしてみる……』 『それはさておき『外』の話に戻しますが、冥土帰しに協力してもらえば何とかなるかもしれません、とミサカは脱線した話を元に……』 『…………? 10032号、どうしたの? ってミサカはミサカは不安に駆られてみる』 『……すみません上位固体、少々面倒な用事が入ってしまったようです、とミサカは一方的に通信を切断する準備に入ります』 『ええっ!? ちょ、ちょっと待ってってミサカはミサカは―――――』 ブツン。 ミサカネットワークとの接続を完全に断ち切り、打ち止めの声が唐突に途切れたとき、そんな音がした。 御坂妹は心の中で打ち止めに謝罪すると、暗い路地裏を小走りに走り出す。 そこから少しずつ速度を上げていき、暫らく後には彼女は全速力で路地裏を駆け抜けていた。 そしてやがて、少し開けた場所に出る。そこはいくつものコンテナが積まれた、屋外物置のような場所だった。 地面に敷き詰められた砂利や白いラインを見るに、元は駐車場だったようだ。 御坂妹はそこで漸く立ち止まると、荒れた呼吸を整えながらゆっくりと背後を振り返った。しかし、そこには誰も居ない。 けれど御坂妹は警戒を緩めないまま、小さく息を吐いてから虚空に向かって声を掛けた。 「……こそこそと隠れずに、素直に出てきたらどうですか。居ることは分かっています、とミサカは追跡者を促します」 僅かな沈黙。 無駄だったかと御坂妹が諦めかけた、その時。彼女の背後、そのコンテナの上で、すとんという軽い音がした。 御坂妹は、この音を知っている。 「ばれてたか。尾行は専門じゃないとはいえ、こうも簡単に気付かれると流石にちょっと傷付くぜ」 「撒くつもりだったのですが、こうも簡単に追いつかれると自信をなくしてしまいますね、とミサカは自らの無力さを痛感します」 御坂妹の背後に降り立ったのは、少年だった。 男にしては長めの、明るい茶色の髪。何処かの学校の制服なのか、茶色いブレザーを羽織っている。 御坂妹は振り返ると、少年の姿をまっすぐに見つめながらその名を口にした。 「久しぶりですね、垣根帝督」 目の前の垣根を見据えながら、御坂妹は油断なく身構える。 第三位の劣化クローンである彼女が学園都市の第二位なんて化け物に敵うはずなどないが、それでもなんとか五体満足でこの場を逃れたい。 しかし垣根はそんな彼女を見て、くつくつという笑い声を上げる。 「そう身構えんなって、別に取って食おうって訳じゃねえ。御坂妹、だっけ?」 「……盗み聞きとは趣味が悪いですね、とミサカは不快感を露にします」 「まあそう言うな。確かにやりながら悪趣味だなあとは思ったが、 こうでもしねえと今すぐにでもアイツを連れ戻したくて仕方がない研究者どもが納得しねえんだよ。勘弁してくれ」 「心中はお察ししますが。ミサカに何の用ですか? ミサカは上位固体の居場所など知りません。 なお、ミサカたちには情報を口外しないよう上位命令文が下されておりますから、如何なる拷問も無駄ですので、 とミサカはあなたの行動が徒労であることを通告します」 「やれやれ、すっかり嫌われちまったなあ。つーか、あのお優しい最終信号(ラストオーダー)がそんな命令を下すわけねえだろ」 「あの程度の子供、ミサカ一人でも無理矢理押さえ込んで洗脳装置(テスタメント)に掛けるくらい容易いです、 とミサカは上位固体の意志など無関係であることを主張します」 「ひっでえ。やってることのレベルは俺らと大差ねえな」 「承知の上です、とミサカは目的の為には手段を選ばないことを宣言します」 言葉と共に、御坂妹はぎりりと垣根を睨みつける。 しかし当の垣根はそれをまったく気にした様子もなく、涼しい顔のまま言葉を続けた。 「まあ、それは別に良いんだけどよ。上位命令云々以前に、お前をどんな拷問にかけたところで口を割らないのは分かり切ったことだし」 「ならばどうしてミサカの後をつけていたのですか、とミサカはあなたの行動の矛盾を指摘します」 「さっきも言っただろ。研究者共の要求でな……ってのはまあ建前で、純粋に興味があったんだよ」 「……興味、ですか、とミサカはあなたの言葉を復唱します」 その言葉に、御坂妹は訝しげな表情を浮かべる。 それを聞いた垣根は軽く頷くと、コンテナの上に座って足を組んだ。 「そう、興味があるんだ。お前たちがどうして突然こんなことをしだしたのか」 「……理由など。語ったところであなたごときには到底理解できるはずもありません、とミサカは口を噤みます」 「あっそ、言いたくねえなら別に良いけど。大体想像はつくしな」 「ならばどうして尋ねたのですか、とミサカはあなたの行動を疑問に思います」 . . . . . . 「……ただ、さあ。お前たちの行動を妨害しようとしてる反対派の妹達。お前、あいつらのことどう思ってんの?」 「…………!!」 御坂妹は目を大きく見開き、驚愕の表情を露わにする。 すると垣根はすうっと裂くような笑みを浮かべながら、如何にも可笑しくてたまらないといった口調でもう一度尋ねた。 「なあ、10032号。どう思ってるんだ?」 「……それは、とミサカは言葉を濁します」 . . . . . 「彼女たちの主張は決して我儘じゃあない。むしろ、人間として当然の欲望だな。誰だって、あんな末路は嫌だろうさ。俺だって嫌だ。 あんなひどい目に遭うくらいなら、アイツに殺してもらった方が遥かにマシだろうさ。 しかもあの実験が成功すりゃ、様々な技術が発展して二万人なんて目じゃない数の人々を助けることができるようになるかもしれない。 アイツに殺してもらえればそんな偉大な実験の礎になれるし、そもそもの存在理由もまっとうできるって訳だ。 ……そりゃあ誰だって、そっちの方が良いよなあ?」 「で、ですが殆どの妹達はミサカたちに協力してくれています。何人かの妹達は生き延びることができることになっていますし……、」 「知ってるぞ。反対派やってる妹達、生き残れることになってる奴らなんだろ? 当たり前だ。自分の姉妹があんなにひどい目に遭うことが分かっていて、自分だけのうのうと生きて行ける筈がない。 いや、もしかしたら残された方が死ぬより辛いのかもしれねえな」 そこで初めて、御坂妹は垣根から目を逸らしてしまう。 垣根はそんな彼女をせせら笑いながら、膝の上に頬杖をついてコンテナの上から御坂妹を見下ろした。 「お前たちだってもう知ってるはずだ。 どんなに足掻いてもどんなに頑張っても、誰もが望んで誰もが笑える最高のハッピーエンドなんかお前らには用意されてないってことを。 なのに今更、何を思ってこんなことをしてるんだ?」 「……、はい。知って、います。だからミサカたちは、せめてこうすることに決めたのです、とミサカはミサカの決意を語ります」 「で、その為に最終信号を味方に付けて、反対意見を押さえつけて強引に自分の都合を通したってわけか? えげつねえなあ。 大した自己犠牲精神だが、お前たちの仲間にも本心ではアレが嫌で嫌で仕方ない奴だって居るだろうに」 「………………」 何も言い返すことができなかった。 この選択を拒んでいた妹達には、本当に申し訳ないと思っている。どんなに謝っても許してもらえないとも。 けれど、どうしても。 「その目論見が失敗しようが成功しようが、お前らは死の運命からは逃れられない。だったらせめて楽に殺して欲しいとは思わないのか? アイツなら、きっとそうしてくれただろうに」 「……同じ死ぬなら、大切な人を一人でも救いたいと思うのはそんなに可笑しなことですか、とミサカは疑問に思います」 「さあな。俺はただ、お前らのことを哀れに思うだけさ。それに俺がおかしいと言ったところで、お前たちは諦めるのか?」 「いいえ。決して諦めたりしません、とミサカはミサカの決意が揺るぎないことを確認します」 「だったら、その問いは無意味だ。お前はお前のやりたいようにすれば良い。どうせ短い人生だ、せめて好きに生きろ。俺は干渉しねえ。 ただし、俺も自分の好きなようにやらせてもらう。その過程でお前が俺の邪魔をするなら、その時は容赦しねえがな」 「……、肝に銘じておきます、とミサカは冷や汗を流しながら答えます」 御坂妹は顔を引き攣らせながらも、ふっと不敵な笑みを浮かべた。 垣根はそれを見て再びくつくつと笑うと、すっくと立ち上がって自らの能力を展開させる。 「さって、その為にもこっちはこっちで地道に最終信号を探すとするか。容疑者から絞り込めば候補は結構限られて来てるしな」 「そうですか。まあ絶対に見つからないと思いますが、とミサカはせせら笑います」 「お前、ほんっと相変わらずな。まあ良いわ。じゃあな」 たん、という軽い音と共に垣根は一瞬で姿を消す。 御坂妹は暫らく垣根の座っていた場所をじっと見つめていたが、やがて何かを深く考え込むようにゆっくりと目を閉じた。 . .. . . 「……妹達にはもちろん、あなたたちにも本当に申し訳ないと思っているのですよ、とミサカは……、」 ……本当に哀れなのは、誰なのだろうか。 ――――― ――――― 「っつゥことがあったンだよ」 「それはまた……、難しい問題だなあ」 いつもの病室、いつもの時間。 一人作戦会議に行き詰った一方通行は、さっそく御坂妹のことを上条に相談していた。 御坂妹は判断を一方通行に任せるといっていたし、これまでも上条は一方通行という人間のことを周囲に言い触らしたりしていないので、 その辺りも信用できるだろうと思っての行動だ。でなければこんな相談はできない。 「で、オマエだったらどォ思う?」 「うーん……。やっぱり、自分のクローンが居るって言われたらすげえ驚くと思う……」 「受け入れられねェか?」 「その御坂妹って子みたいな友好的なクローンならいけると思う。ただ、こればっかりは個人差が……。 双子とはまた別だろうし、自分とまったく同じ顔の人間なんか気持ち悪いって奴もいるからなあ」 「やっぱ、御坂にそれとなく聞いてみるしかねェか」 本当なら最初っからクローンの存在を匂わせるような行動は控えるべきなのだろうが、今回はそうも言ってられない。 まずは美琴がクローンに対してどんなイメージを抱いているのかを聞き出して、スタートラインを定めなければいけないのだ。 「それにしても、どうやってクローンについての話を振るんだよ。どう考えても不自然だろ」 「そこは御坂妹が知恵を授けてくれた。オマエ、常盤台で第三位のクローンが製造されてるって噂が流れてること、知ってるか?」 「ん? あー、そう言えばそんな噂を聞いたことがあったような……。ああ、そうだ。本人から聞いたんだった。 アイツ、たまに街で会っても攻撃してこないでジュース奢るから愚痴に付き合えって言ってくるときがあるんだよな。その時だ」 「なンだ、オマエら意外と仲良いのか。二人で会うときはいつもリアル鬼ごっこしてンのかと思ってたぞ」 「いや殆どの場合はそうだぞ。まともな会話ができるのは本当にたまにだ、たまーに」 言いながら、上条がげんなりとした顔をする。 今日は美琴が一緒ではないので鬼ごっこは無かったようだが、思い出しただけでうんざりするくらいの頻度で追い回されているようだ。 「病院の外で会っても、俺の前では滅多にやンねェけどな。ありゃ何でだ?」 「流石に前科があるから、お前の前では自重してるんじゃないのか? あれでアイツかなり責任感じてるみたいだし。 そうでもなけりゃ、あの凶暴なビリビリが上条さんに攻撃してこないなんて奇跡がそうしょっちゅう起こるわけが……」 「き・こ・え・て・る・わ・よ? だぁれが凶暴ですって?」 (事実だけどな) 一方通行は心の中だけで呟きながら、冷めた目で美琴にしばかれている上条を見つめていた。 病院内では電撃を使えないからか、美琴は最近になって素手による攻撃方法を多数習得し始めていた。なんだかどんどん強くなっている。 それでも女の子に負ける上条ではないのだが、反撃できないのでされるがままだ。ひたすらギブギブと悲鳴を上げている。 「くっ、ここまでやっても落ちないか……。流石に手強いわね」 「俺は今日ほど自分の耐久力を恨んだ日はねえよ……」 「そォか。俺はオマエの頑丈さが羨ましいがな」 「いやいや、確かに頑丈さは俺の数少ない取り柄ですよ? 実際それで助けられたこともあるしな。 でも今回ばかりは例外と言うか何と言うか……」 「それだけ口を利く元気があるならまだ行けそうね」 「Oh...」 美琴が再び上条に技を掛けようとしたところで、流石に可哀想に思ったらしい一方通行が止めに入る。 ついでに美琴もやって来たことだし、いい加減本題に入らなければならない。 「そォいや御坂。ちっと小耳に挟ンだンだが、オマエ、自分のクローンの噂って知ってるか?」 「へ? 知ってるけど、何よ薮から棒に。まさかアンタたちまであんな下らない噂を信じてるんじゃないでしょうね?」 「まさか。人体のクローニングは学園都市の自治法でも禁止されてンだろ?」 と、御坂妹が言っていた。 まさかついこの間までクローンがありふれたものだと思ったいたなんて、口が裂けても言えない。 「ええそうよ。記憶喪失なのに詳しいわね。でも、だったらどうしてクローンの話なんかするのよ?」 「いや、もし実際にそンなもンが目の前に現れたら、オマエはどォ思うのかと思ってよ」 「ええ? どう思うのかって……何よ急に?」 「い、いや、さっきまでちょうどその噂の話をしてたんだけど、俺たちはどうも想像がつかなかったからさ。 実際にそんな噂の当事者なビリビリはどう思うのかなーって思っただけであって、特に深い意味なんてナインデスヨ?」 「ふーん……」 演技が下手過ぎる。 そんな意味を込めて一方通行は上条を睨みつけたが、不信感から美琴にも睨まれている彼は、 身動きが取れずにただワザとらしい笑顔を浮かべることしかできなかった。 すると一方通行は呆れたように溜め息をつきながら、上条に助け舟を出すついでにさっさと話を進めてやることにする。 「で、どォなンだ?」 「んー……、そーねぇ」 美琴には悟られないように気を付けながら、二人は静かに固唾を飲んで美琴の答えを待つ。 そして暫らく考えた後、美琴は苦笑いしながらこう答えた。 「やっぱり薄っ気味悪くて、私の目の前から消えてくれーって思っちゃうわね」 ……アウト。 ――――― ――――― 「駄目だった」 「………………」 再び第七学区の喫茶店。 今度は上条も引き連れて、一方通行は御坂妹に事の次第を報告していた。 二人は無言無表情のまま見つめ合っているので、それを横から見ている上条はもうはらはらすることしかできない。 と、次の瞬間。 「そこを何とか! とミサカは必死に懇願します!」 「いやいやいや、アレは無理だ。取り付く島もねェよ」 「何の為にあなたに頼んだと思っているのですかこの役立たず、とミサカは白モヤシを罵倒します!」 「オイコラ今オマエ何つった。人が気にしてることに触れやがってはっ倒すぞ」 「お前ら落ち着け! とりあえず座れ! 喫茶店の皆さんがこっちを見ていらっしゃるぞ! はい気をつけ! 礼! ありがとうございました! 着席!」 上条はよくわからない勢いで何とか二人を座らせることに成功するが、問題はこの先だ。 ああは言ったものの、一方通行が匙を投げたくなるのも仕方ない。何故なら美琴の答えは、それくらい絶望的なものであったから。 流石に御坂妹にそのまま伝えることはしていないが、生理的に受け付けないのではもうどうしようもない。 「……どうしても難しいですか、とミサカは未練がましく繰り返します」 「想定してた最悪の答えより酷かったンだぞ? それでも諦めねェってンで、まだ策があるなら協力はしてやる」 「マイナスイメージの改善以前の問題だからなあ。 いっそ突然アイツの目の前に現れて、どんな感じかを見て貰った方が手っ取り早い気がする」 「阿呆か。そンな荒療治、失敗したら御坂の方がショックで精神的に参っちまうぞ」 「うぐ、そうか……。でもだったら、やっぱり少しずつ段階を踏んで慣らしていくしかないよな」 「具体的には?」 「さっぱり分からん」 完全にお手上げだ。 三人はそれぞれ注文した飲み物を啜りながら頭を悩ませるが、なかなかいい案が浮かばない。 そんな中で、上条が唐突に声を上げた。 「もしくは『ビリビリ、実はお前を姉と慕うクローンが居るんだが、会ってみてくれないか?』だな」 「それもどォなンだよ。ショック的には大差ねェぞ」 「それじゃあどうすれば良いのでしょうか、とミサカは項垂れながら呟きます」 「そォだなァ……。『慣らしてく』って考え自体は間違ってねェと思うンだが……」 一方通行は背もたれに寄り掛かりながら天井を仰ぐと、目を閉じて唸りはじめた。 既に完全に手詰まりとなっているらしい二人は、期待を込めた眼差しでそんな彼を見つめ続ける。 すると、一方通行は急にぱちりと目を開けて顔だけを御坂妹の方に向けた。 「……こンなのはどォだ?」 自然と一方通行の方へと顔を寄せてきている二人に向かって、一方通行は回りに決して聞こえないような小さな声で作戦を説明する。 そして説明が終了すると、御坂妹は珍しくほんの少しだけ楽しそうな表情を浮かべた。 「それで、最終的にミサカが『よく きたな オリジナルよ わたしが おまえの クローンだ』とRPGの魔王の如く言い放つのですね、 とミサカは心を躍らせます」 「その辺はもォ好きにしてくれ。御坂がどォいう反応するかまでは責任持たねェがな」 一方通行は相変わらず超絶マイペースな御坂妹に呆れていたが、その一方で上条は苦い顔をしていた。 彼が懸念していることは、ただひとつ。 「……でもさあ、それってそれはそれで結構精神的に来るんじゃねえか?」 「確かに、結構な負担にはなるだろォな。しかし、現状これ以上の策は思いつかねェ。それか、何か他に良い方法があるか?」 「意見があれば伺いますが、ミサカも彼の言う通りだと思います、とミサカは一方通行に賛同します」 「まあ、そうなんだけどさ……」 それでも上条は美琴に少しでも辛い思いをさせてしまうことに抵抗を感じているのか、難しい顔をしていた。 そんな上条をじっと見つめていた御坂妹は、申し訳なさそうに目を伏せる。 「自分勝手は承知しています。お姉様に迷惑を掛けることになるということも。 ですがどうしても、ミサカたちは可能な限り早くお姉様にお会いしたいのです、とミサカは切実に頼み込みます」 「……でもこの方法だって、そこまで早く決行できるような作戦ではないぞ?」 「許容範囲内です。それよりも、これ以上作戦会議で時間を浪費してしまうことの方が惜しいです、とミサカはミサカの心境を説明します」 「それでも、下準備なんかもかなり大変だ。先回りして色々な細工をしないといけないし、その為の手段はどうするんだ? とてもじゃないけど、そんな簡単に実現できるような方法じゃないと思う」 「それなら問題ありません。心強い協力者がいますので、とミサカは強気に言い放ちます」 「……、はあ。分かった。そこまで言うなら、俺はもう何も言わない」 遂に御坂妹に根負けした上条は、諦めたように溜め息をつく。 コーヒーを飲みながら他人事のように二人の会話を眺めていた一方通行は、それを見届けると再び口を開いた。 「決まったか? あァ、俺は口出ししねェぞ。 作戦を決行するかどォかは御坂妹が決めることだし、噂に誘われてクローンを探すかどォかは御坂が決めることだからな。 ただ、絶対に上手く行くって保証はねェ。そこをきちンと理解してるンだろォな」 「大丈夫です。その覚悟はできています、とミサカは決意を表明します」 「じゃ、俺たちにできることはこれで全部だ。 正直この作戦を決行する為の手段については全く考慮してなかったから、ここから先は俺たちにできることは何もねェ。 後は全部オマエたち次第だ。勿論できる範囲で協力はしてやるが、あンまり期待はすンな」 「いいえ、ここまででも充分過ぎるほどです。 むしろ下手にミサカたちに干渉することであなたたちまでお姉様とぎくしゃくしてしまうのではないかと心配ですので、 ここまでにして下さった方がミサカとしても安心できます、とミサカは懸念事項を口にします」 「その辺は大丈夫だ。ま、せェぜェ御坂に悟られないように気ィ使う程度だな。……オマエらも頑張れよ」 「はい、とミサカは一方通行の応援に答えることを約束します」 御坂妹の言葉を最後に、作戦会議は終了した。すると、三人は流石に緊張していたのか、一斉に自分の飲み物を口にする。 そうしてやっと一息ついたとき、ふと上条が尋ねてきた。 「そう言えば、御坂妹は『ミサカたち』って言ってたけど、お前みたいなのってあと何人くらい居るんだ?」 「……秘密です、とミサカはミステリアスな女性を気取ってみます」 数日後。学舎の園、常盤台中学。 午前中の授業が終了した昼休み、美琴は一人でベンチに座りながら売店で購入した焼きそばパンを頬張っていた。 (寂しい……) 友達同士で和気藹々と昼食を食べている周囲の女子生徒たちを眺めながら、美琴は心の中で一人ごちた。 いつもはルームメイトである白井と一緒に昼食を食べているのだが、 最近その白井が風紀委員の仕事に追われていて忙しそうなので邪魔になるようなことを控えているのだ。 一度は一段落したかに思えた風紀委員の仕事が、なにやら新しい発見があったとかで再び忙しくなってしまったらしい。 それでも昼食くらいは一緒に、と思って一度白井の教室に顔を出して昼食の誘いに行ったのだが、 彼女はノートパソコンに向かって難しい顔をしながらひたすら作業をしていて、とても声を掛けられるような状況ではなかった。 それでも白井は美琴の姿を見ると飛びついてきて一緒に昼食を食べようと言ってくれたのだが、美琴は自ら辞退した。 なんだかんだ言って白井は風紀委員の仕事に対してとても真摯に取り組んでいるので、それを邪魔するべきではないと思ったのだ。 と言うわけで、白井は今頃一年生の教室でめそめそしながら携帯食で栄養補給をしているはずだ。 やっぱり一緒に食べれば良かったか、いやでも仕事の邪魔はできないし、などと美琴が葛藤していると、ふとひそひそ声が聞こえてきた。 「……れは絶対御坂……だって」 「そ……訳……ない……い」 「ん? 何?」 何処からともなく聞こえてきた声が自分の名前を呼んだので、話し相手を欲していた美琴はついそれに反応してしまった。 ひそひそ話をしていた女子生徒はちょうど美琴の後ろにいたのだが、後姿だけでは美琴に気付けずについそばで本人の話をしていたようだ。 「え? あれっ!?」 「えっと、あの」 「あー、ごめんごめん。自分の名前が聞こえてきたもんでつい……」 突然話しかけられた二人組の女子生徒は、後ろ向きにベンチに座っている美琴を見て非常に驚いた顔をした。 ついつい反射で反応してしまったようなものとはいえ、盗み聞きみたいでちょっと悪いことをしてしまったかなと美琴は少し後悔する。 「た、多分見間違いだと思うんですけどこの子がさっき御坂さんを街で見かけたって」 「身体から電磁波出てるのも確認したのに……」 「でも御坂さん、さっき一年生の教室にいましたよね? だからそんなことあるわけないって」 「? ええ、昼休み中はずっと学校の中にいたわよ」 「ほら、やっぱり見間違いよ。背格好の似てる発電系能力者だったんだって」 「うーん、でも常盤台の制服着てたし、本当にそっくりだったんだけどなあ……」 ……最近、急にこうした噂を聞くようになった。 当然ながら、美琴にそんな能力はない。如何に超能力者の第三位とはいえ、美琴はただの電撃使い。分身などできようはずもない。 どちらかと言えばどっかの馬鹿な能力者が変な悪戯をしているという可能性のほうが高いがそんな噂も聞かないし、 そもそもそんなことになっていれば事件として処理されることになるだろうから、風紀委員の白井を通じて美琴の耳に入るはずだ。 「その、ごめんなさい。こんな噂気分悪いですよね」 「ううん、私から聞いたことだし。気にしないで」 「それでは、私たちこれから別の棟へ移動しなくてはいけないので……、失礼します」 「うん、頑張ってね」 ぱたぱたと急ぎ足で去っていく女子生徒たちを見送りながらひらひらと手を振ると、美琴は深く溜息をついた。 ああは言ったものの、あの女子生徒が言っていた通り、正直美琴にとっては非常に薄気味の悪い噂だった。 なんと言っても他でもない自分自身の幻影が堂々と街を闊歩しているというのだから、気にならないはずがない。 かつ、こんなにも目撃証言が相次いでいるのに具体的な事件になることもなく、よってその詳細が美琴の耳に入ってくることもない。 美琴本人の与り知らぬところで、美琴に関わるおかしな何かが起こっている。それが、たまらなく気味が悪かった。 ただ美琴には、ひとつだけ思い当たることがある。 (クローン……、ね) つい先日、上条と一方通行に振られた話題。何処かで超能力者の第三位のクローンが製造されているという噂。 彼らに言われるまでもなく、美琴もこれまでにも何度かクローンの影を感じたことがあった。 けれどそんなことはありえないと一蹴し、大して気にしたこともなかったが、まさか今更になってこんなことが起こるとは。 (ただの噂だと思ってたけど、まさか……。そもそもクローンの製造にはDNAマップが必要だし……) そこで、ふと美琴は恐ろしいことを思い出してしまう。 DNAマップ。 ……私、DNAマップ、提供したこと、なかったっけ……? (いやいや、あれは筋ジストロフィーの治療の為に提供したんだし。まさかクローン製造の為に流用なんかされてるわけがない) しかし。無いと、言い切れるか? あの頃の美琴はとても幼くて、特に深い考えもなくただ筋ジストロフィーに苦しんでいる人々を助けたいと思ってDNAマップを提供した。 だから美琴がDNAマップを提供した研究者が、本当に筋ジストロフィーの研究者だったかどうか分からないのだ。 もしかしたらあの研究者はただの詐欺師で、超能力者の第三位のDNAマップ欲しさに美琴のことを騙したのではないだろうか? (……待て待て、おかしいってば。あのときの私はまだレベル1だった。当然、超能力者の第三位なんかじゃない。 そんなただの電撃使いのDNAマップを手に入れるために、そんな用意周到な真似をするか? ありえない、やっぱり勘違いか) 他にも様々な不安要素はあったが、美琴はふるふると頭を振ってそれを振り払った。 そんなこと、あるはずがない。あって良いわけがない。 それに、一方通行だって言っていた。学園都市の自治法でも人体のクローニングは禁止されている。だから、ありえないのだ。 美琴は半ば自分に言い聞かせるように、わざとそう思い込ませようとするかのように心の中でありえないと繰り返す。 ぎゅっと目を瞑って完全に頭の中を書き換えると、美琴は残っていた焼きそばパンを一気に口に放り込んでもぐもぐと咀嚼した。 「あ、あの、御坂様ですよね?」 「ん?」 口の中の焼きそばパンを呑み込んでしまうと、急に見知らぬ女子生徒が美琴に声を掛けてきた。 見た感じ、下級生のようだ。何人もの友人を引き連れて美琴を取り囲んでいる。 「私達、御坂様のファンなんです! その、握手してもらって良いですか?」 「わ、私はこのノートにサインが欲しいんですけど……」 「よろしければ一緒に写真を撮っていただけませんか?」 「あ、う、ええと、うん、良いわよ……」 少女達の勢いに押されながらも、美琴は苦笑いしてそれを快諾した。 まるでアイドルだなあと思いながら、美琴は少女達の要望にそれぞれ応えてやる。こういうことは珍しくないので、美琴も手馴れたものだ。 「わあ、本当にありがとうございます、御坂様!」 「一生大切にします!」 「これからも応援させていただきますね。頑張ってください!」 「あはは、ありがと」 美琴はなんとかお嬢様らしい上品な笑顔を取り繕って、少女達のキラキラとした瞳に答えてやる。 そしてきゃっきゃとはしゃぎながら去っていく少女達の後姿を見送ってしまうと、美琴は盛大に溜息をついた。 ああいう子たちは基本的に、美琴に対して『常盤台のエース』『学園都市最強の電撃姫』といった幻想を抱いている。 しかし普段の彼女の素行を考えてみれば分かってもらえるだろうが、美琴の行動はとてもではないがそれに相応しいとはいえない。 けれどああいった純粋な少女達の夢を壊したくない美琴は、そうした子たちの前では優等生を演じることにしているのだ。 実際、美琴に憧れて常盤台に入学してくる生徒も少なくない。そんな子たちの夢を一々壊してしまうのは、あまりにも可哀想だ。 ただし、当然美琴にとっては慣れないことをしているわけなので、非常に疲れる。 美琴はもう既にこれは超能力者の宿命なんだろうなと諦めてしまっているが、それでもどうしても未だに慣れることができなかった。 (……あ) そして、超能力者にはそれとは別にもうひとつの宿命があった。 こちらはどうしても認められなくて、諦められなくて、美琴はまだ抗い続けている。 だから美琴は、声を掛けた。 「ねえねえ、なんの話してるの? 私にも教えてくれない?」 「へ? あ、え、みっ、御坂さん!?」 「と、とてもではありませんが御坂さんのお耳に入れるようなことでは……」 「いーのいーの、そんなの気にしないでよ。クラスメイトなんだし」 「で、ですが、その、本当に大したことのない話で……」 「……ごっ、ごめんなさい!」 何も悪くないのに、誰も悪くないのに、美琴のクラスメイトたちは美琴に頭を下げると脱兎の如く逃げ去ってしまった。 その場には、美琴一人がぽつんと取り残されてしまう。 いつも同じ教室にいて、いつも同じ授業を受けているクラスメイトなのに。 (今日も駄目だったか) 別に美琴が何をしているわけでもないし、何をされているわけでもない。 ただ、美琴が超能力者であるというだけだ。 けれど美琴は諦めずに日々こうした挑戦を続けているが、未だに成果は得られない。レベルの壁は、それほどまでに高かった。 (悪い子たちじゃないっていうのは、分かってるんだけど) そう、分かっている。分かっているけれど、やはり、辛い。 他の子の前では普通に話しているのに、自分が目の前にやってきた途端に萎縮してしまってまともな会話をすることができない。 これまでは絶対に諦めてやるもんかと強く心に決めていたが、いい加減そろそろ限界だった。 この頃はずっと白井がついて回ってくれていたので忘れていたが、白井が居なくなったことでまたそれを強く感じるようになってしまった。 (寂しい……) そうだ、放課後になったらまたあいつらに会いに行こう。美琴が超能力者であることを、ちっとも気にしないあいつらに。 午後の授業の予鈴が鳴った。 ――――― 第七学区、とあるビルの屋上。その縁に腰掛けながら、垣根帝督は病室の一方通行を監視していた。 病室の中の一方通行は、美琴から借りたらしい分厚い本を読みながら、大きなあくびをしている。 「ったく、暢気にあくびなんかしてやがる。自分が追われてるってこと忘れてるんじゃねえか?」 『まあ実際、今は手出しができねえから追われてるとは言い難いがな。平和ボケには違いねえ』 独り言のつもりで言ったのだが、予想外にもヘッドセットから声が返ってきた。 あっちも暇なのだろうか、などとどうでもいいことを考えていると、今度は一方通行がうとうとし始めた。本当に大丈夫かあいつ。 「つーか、なんで手出ししたら駄目なんだ? 今なんか絶好のチャンスじゃねえか」 『なんか圧力が掛かってるらしい。統括理事長様のお達しとありゃ、聞かねえわけにはいかねえだろ』 「は? アレイスターが? そりゃまた何で」 『俺が知るか。あっちにはあっちの考えがあるんだろ』 苛立ち混じりに投げやりな答えが帰ってくる。どうやらその所為であっちも手持ち無沙汰なようだ。 と言っても、それは垣根も同じことだが。暇で暇で仕方ない。 「そもそもアレイスターが指示してたんじゃなかったのか、この実験。一体何がしたいんだ」 『諦めたわけじゃねえだろ。もしそうなら、妹達なんかとっくに『処分』されてる。あくまで『今は』駄目なだけだろう』 「ふーん、まあ良いや。とにかくこれは妹達にとっては僥倖ってことか。寿命が延びるんだからな」 「ええ。どうやら天はミサカたちに味方しているようですね、とミサカはこの幸運に感謝します」 「うおお!?」 いつの間にやら背後に忍び寄っていた御坂妹に驚いて、垣根は変な声を出してしまった。 相手は軍用に調整されたクローンとはいえ、超能力者の第二位たる垣根が接近にまったく気が付かないとは。 『おい、どうした?』 「クローンだよ、クローン。いつの間にか後ろにいた」 『いつの間にかって……、お前第二位じゃなかったか?』 「うっせ」 そのやりとりに、無表情だった御坂妹の表情がぴくりと動いた。 彼女はゆっくりと垣根の方を向くと、しかし垣根を見ずにヘッドセットの向こうにいる人間に向かって話しかける。 「その声は木原数多ですか、とミサカは垣根帝督の通信相手を推測します」 『おう、久しぶりだなクローンちゃん。最終信号の居場所教えろ』 「知りません、とミサカはそっぽを向きます。まあ本当に知らないんですけどね」 「それは前聞いたっつの。ってか、お前から俺に会いに来るなんて珍しいな。てっきり毛嫌いされてるとばかり思ってたが」 「嫌いですが、とミサカはきっぱりと肯定します」 垣根は心の中でだけひでえと呟くと、ヘッドセットから笑いを堪える声が聞こえてきた。 畜生覚えてろよ。 「で、俺のことが大嫌いなミサカちゃんがわざわざ何の用だよ」 「病院に野暮用がありまして。そこでたまたま見かけたので何か企んでいるのではないかと思ったのです、 とミサカはここに至った経緯を説明します」 『残念……、いや、ラッキーだったな。こっちは手出し無用だとよ』 「存じています。しかしあなたたちが単独行動に出る可能性を危惧しました、とミサカは補足説明を付け加えます」 「流石にそこまでしねえよ。俺たちだって色々惜しいモンがあるからな」 「そうですか、とミサカは安堵します」 口では安堵と言うものの、御坂妹の表情にはまったく変化が見られない。 そんな彼女を見ながら、垣根は改めて御坂妹に対して人形のようだと言う評価を下した。 『何か企んでるのはテメェの方だろうが。野暮用ってのは何のことだ?』 「さあ、何のことでしょうね、とミサカはしらを切ります。 と言ってもミサカたちは不安定なクローンですから、病院にならいくらでも用があるんですけどね」 『チ、まあ良い。上手く行くと思うなよ』 「……何のことやら、とミサカは目を逸らします」 会話の内容は垣根にもおおよその見当がついたが、彼は何も言わなかった。 言うまでもなく、上手く行くはずがないからだ。少なくとも、第二位たる自分がいる限りは。 そしてその時には、もう既に行動制限は解除されているはずだ。 「ところで」 不意に、御坂妹の声が聞こえた。 非常に珍しいことに、彼女は口角を僅かに吊り上げてうっすらと不敵な笑みを浮かべている。 「賭けをしませんか、とミサカは要領を得ない提案をします」 「はあ? 何の話だそりゃ。つーか、自分で解って言ってるのかよ」 『耳を貸すな。下らねえ』 吐き棄てるように言った木原の声に、垣根も無言で同意する。 しかし、御坂妹は構わない。 「ミサカたちとあなたたちの目的は、根本的なところでは同一のものです。 あなたたちにとっても損ではないと思いますが、とミサカは思わせぶりに言葉を続けます」 「……はあ。聞くだけ聞いてやる」 『オイコラ』 「良いだろ。聞くだけだ、聞くだけ。愚痴に付き合ってるとでも思えば良い」 「では、話を続けさせてもらいましょう、とミサカは笑みを深くします。 ……あなたたちは万に一つもありえないと切り捨て、馬鹿にするでしょうが。もし、もしミサカたちの企みが上手く行ったなら」 そこで、彼女は一度言葉を止めて小さく息を吐いた。 最初から覚悟はしていたが、改めてそれを口にするのはやはり恐ろしいことだった。 「もう、彼も、ミサカたちも、放っておいて貰えますか、とミサカは提案の内容を明かします」 「……は、馬鹿か。俺たちがどうしてこんなことしてるのか、知ってるよな?」 「ええ、もちろん。理解した上で言っています。 いえ、だからこそ言っています。ですからその時は、もう、そっとしておいてあげて貰えますか、とミサカは繰り返します」 「で? 俺たちに対する配当は?」 「もしミサカたちが負ければ、あなたたちの要求に何でも答えましょう、とミサカはあなたたちにとって魅力的であろう条件を提示します」 『……確かに魅力的だ。だが、賭けとして成立してねえな。賭けの参加者は俺たちとお前たち。しかしお前たちに配当はない』 ヘッドセットから、呆れたような木原の声が聞こえてきた。 しかし御坂妹は、相変わらず気味が悪いくらい綺麗に微笑んでいる。 『お前たちは賭けに勝っても負けても、最終的には死ぬことになる。いや、勝った方がひでえことになるな。 その辺、ちゃんと解ってて言ってるのか?』 「もちろん解っています。しかし、あなたは少し勘違いしていますね。ミサカたちにも配当はありますよ、とミサカは訂正を求めます」 『……頭おかしいんじゃねえのか? 気が狂ってる』 「それにもしお前が勝ったところで、その後で万が一アイツが思い出したら。あるいは知ったら。 どちらにも利益のない最悪の結果になるだけだ」 .. .. .. ... . .. 「そうならないようにして下さい。それでも駄目ならまた同じことをして下さい、とミサカはあなたたちに依頼します」 「……ホント、お前らは狂ってるよ」 「ええ、自分でもそう思います、とミサカはあなたの言葉を肯定します」 垣根は、理解を諦めたとでも言うようにやれやれと首を左右に振った。 御坂妹は、最後まで表情を変えなかった。 ――――― 白い病室の中、暖かな日差しに包まれている一方通行は、本を手にしたままうとうととしていた。 その分厚くて重い本が、力の入っていない手のひらから今にも滑り落ちてしまいそうだ。 しかし絶妙なバランスで以てなんとか一方通行の手に収まっていたその本は、不意の衝撃によって呆気なくその手から零れ落ちた。 「やっほーう。元気してる? ……って、あれ?」 「ふ、くァ……、御坂か。珍しく早かったな」 「ごめんごめん、寝てたの邪魔しちゃったわね」 あくびの所為で出てきた涙を拭いながら、一方通行は床に落ちた本に向かって手を伸ばす。 本の様子を確認してみれば、ちょうど背表紙から落ちてくれたお陰で汚れも折り目も付かずに済んだようだ。 「いや、本読みながら居眠りしてただけだ、構わねェよ。 ちなみに上条なら今日はタイムセールだってンでまだ来てねェぞ。アイツのことだからその内来るとは思うが」 「なっ、何で突然アイツの話が出てくるのよ。何の関係も無いじゃない」 「なンだ。自覚ナシか」 「だから、何の話?」 「いや、分からねェなら別に良い」 「はあ?」 美琴は怪訝そうな顔をしていたが、本能でこれ以上は墓穴だと悟ったのか、しつこく訊いてくることはしなかった。 そんな彼女を横目に見ながら一方通行は本を本棚に仕舞い込むと、ふと思い出したかのように口を開く。 「そォいや、いつもは知り合いの風紀委員と一緒に出歩いてるンじゃなかったのか?」 「ん、何か風紀委員の仕事が忙しいみたいでさ。邪魔するのも悪いし、退散して来たのよ」 「ふゥン。喧嘩でもしたのか?」 「へっ? い、いや、まったくそんなことは無いんだけど。……何か顔に出てる?」 「なンとなく。嫌なことがあったのか? って程度だな」 「そ、そっか。私ってそんなに分かり易いのかしら……。アイツも意外と見抜いて来るのよね。 まあ、ほんとに大したことじゃないんだけどさ」 そこまで言って、しかし美琴はもごもごと言い淀む。 一方通行はベッドのそばに置かれた椅子を座りやすい位置まで引きずり出すと、美琴に座るように促した。 「まァ、言いたくねェなら無理に言わなくても良いンじゃねェの。相談されたところで、俺もそォいうの苦手だしな」 「あー、うん。それは何となく分かってるから良いんだけど。ま、愚痴だとでも思って聞いてちょうだい」 美琴は勧められた椅子に座りながら、わざと明るい調子でそういった。 やっぱり分かり易い奴だなと思いながら、一方通行は彼女の言葉を黙って待つ。 「ほら、アンタたちは忘れてるかも知れないけど、私って超能力者でしょ? だからなのか、結構敬遠されちゃうのよね。 尊敬だか畏怖だか知らないけど、とにかく近寄りがたいみたいでさ。 私はレベルなんか全然気にしてないんだけど、あっちはそうも行かないみたい」 「嫉妬か?」 「いや、幸いそういうのは無いんだけど。みんなすごく良い子だし。ただ、普通の友達として扱って貰えないと言うか何と言うか……。 何て言うのかな。アンタの言う通りに虐めとかなら、お互いの悪い所を治すっていうふうに一応改善の余地があるんだけど、 私の場合は誰も何も悪くないから何処にも改善の余地がないのよね。 話し合って理解して貰えれば良いんだけど、大抵の場合は相手が遠慮しちゃったり萎縮しちゃったりしてまともに会話が成立しないし。 今まではそれでも何とかしようって思って結構頑張って来たんだけど、いい加減そろそろ諦めようかなあって。 それに、もう私には黒子たちもアンタたちも居るし、そこまで必死になる必要を感じなくなってきたしね」 美琴は一気にそこまで言い切ると、はあっと大きく息をついた。 彼女は何も言わない一方通行の方に向き直ると、気まずそうな笑顔を浮かべる。 「アハハ、ごめん。こんなこと言われても困るだけよね。気にしないで」 「いや。愚痴れば少しは気が楽になンだろ。俺じゃ何も出来ねェが、聞くぐらいならいつでもやってやる。 ちょうど良い暇潰しにもなるだろォしな」 「暇潰しって、アンタねえ……。人がわりと真剣に悩んでるってのに」 「俺に真っ当な反応を求めるのがそもそもの間違いなンだよ。助言が欲しいなら上条に言え」 一方通行がさらりと言った一言に、美琴はしかし過剰反応して顔を真っ赤にしてしまう。 こういうところが分かりやすいんだ、と思いながら一方通行は溜息をついた。 「でっ、出来るわけないでしょ! って言うか、この話絶対アイツにはしないでよ!?」 「ハイハイ、分かってるっつゥの。その辺はオマエが自分で何とかしろ」 「まったくもう……。本当に分かってるんでしょうね?」 かなり真剣にそう言っているのだが、一方通行は適当にあしらうだけだ。 と言っても、なんだかんだ言って彼は美琴の不利益になるようなことをしたことは無いので、一応は信用できるのだが。 「あ、そうだ。話は変わるけど、アンタはクローンってどう思う?」 「ごほっ」 水差しから注いだ水を飲んでいるところに来たあんまりな不意打ちに、一方通行は思わず咽る。 気管に水が入ってしまって苦しんでいると、美琴が呆れながらも背中を擦ってくれた。 「何よ、そんなに驚くことないじゃない。アンタたちが最初に振ってきた話題でしょーが」 「いや、それはそォだが……。 クローンに対する答えがアレだっただけに、オマエはあまり好きじゃなさそォな話題だったからな。少し意外だっただけだ」 「あー、あれね。まあ確かにそうかも。でもあれから急にクローンの噂をよく聞くようになってさ。 ちょっと前までは常盤台の一部でしか聞かなかった噂だったのに、 いつの間にか街中のあちこちでクローンの噂がされるようになったから、ちょっと気になっちゃってね」 「そ、そォか。で、何だ?」 表情はいつも通りのポーカーフェイスだが、内心は何か良からぬことが起こってしまったのではないかと気が気ではない。 それにしても御坂妹め、少し行動が早すぎやしないか、と一方通行は心中で毒づいた。 「うん。こないだ私はクローンについてあれこれ言ったけどさ、アンタたちがどう考えてるのかは聞かなかったなーって思って。 で、どう思ってるのか聞いてみようかと」 「……クローン、なァ。俺は記憶がねェから、ある日突然実は双子の弟が居ました、って教えられたのとそォ変わらねェな」 「あー、なるほど。そんな感じなら、今のアンタにとっては充分ありうる可能性なのか」 「でも、オマエは生まれてから今までずっと双子なンか居なかったンだろ? その辺が俺とオマエの感覚の違いになるだろォな」 「けど、クローンって遺伝子的には完全に同一人物なのよ? ちょっと気味が悪くない?」 「その辺は、それぞれの考え方の違いなンだろォな。 俺はまだそっち方面の学問には詳しくねェから突っ込ンだことは言えねェけど、一卵性双生児とそンなに変わらねェと思うぞ。 それに遺伝子的に同一人物ってだけだから、環境や生活習慣が変われば体格や性格だってだいぶ変わってくるしな」 「ふむ……。まあ、確かにその通りかも。黒子もなんかコピーロボットみたいに考えてるみたいだったしなー。 それにしても、双子の妹、ねえ」 ……これは、意外と好感触だろうか。 一応、作戦についての打ち合わせは最後までしてある。それに、御坂妹はほぼ準備完了したのであとは仕上げだけと言っていた。 予定よりだいぶ早いが、御坂妹にしても一方通行にしても、時期は早いに越したことはない。 一方通行は決断を下した。 「……そォ言えば、よ。俺も最近、オマエのクローンについて変な噂を聞いた」 「え? どんなの?」 「樋口製薬・第七薬学研究センターにオマエそっくりの奴が入って行ったのを見た奴が居て、 それがオマエのクローンなンじゃねェかって噂されてるンだと。それともオマエ、なンか心当たりあるか?」 「……いや。そんな施設、行ったことどころか聞いたこともないわ」 途端、美琴の声が低くなった。 ああこれは絶対何か企んでると思いながらも、一方通行はわざとなんでもない風に言葉を続ける。 「つっても、ただの噂だからな。樋口製薬・第七薬学研究センターっつったらまだ普通に稼動してる施設だ、 対立してる研究所かなンかが営業妨害の為にそォいう変な噂を流してるって可能性もある。調べに行くにしても無謀だしな」 「……ま、それもそうね。もうちょっと何か調べようがあれば良いんだけどねー」 言いながら、美琴は椅子の足元に立て掛けていた鞄を拾い上げた。 表面上気にしていない風を装っているが、これは明らかに今すぐ調べに行こうとしている。 「もォ帰るのか?」 「うん。たまには門限に余裕を持って帰らないと寮監に目を付けられちゃうしね。また明日来るから」 「そォか。上条にも言っとく」 「だーかーら、何で突然アイツの名前が出てくるのよ、もう。それじゃあね」 それだけ言うと、美琴はひらひらと手を振りながら病室を出て行ってしまう。 一方通行はそれを見送り、閉じられた扉を眺めながらぼそりと呟いた。 「……ホント、上手くいくのかねェ」 つづく
https://w.atwiki.jp/koki-orika/pages/554.html
【滑走する騎士グアント】 読み方 滑走する騎士(グライディン・ナイト)クリーチャー/UCコスト 4 パワー 3000 🔥🔥種族 ワンドペドラー ■スピードアタッカー■このクリーチャーが出た時、自分の墓地にあるカードを3枚まで選び、山札に戻してシャッフルしてもよい。その後、こうして戻した枚数と同じ枚数のカードを自分の山札の上から墓地に置き、カードを1枚引く。 [FT]激闘の末、ハザリア・ガウスとローナの攻撃で、アバス・ボルバロワとジラダヴァライバーは倒れた。その力は圧倒的で生半可には近付くことさえままならないが、どことなく粗削りで、ローナは、“慣れていない”ような印象を覚えた。戦いの中で見え隠れするその粗さの一瞬の隙を突き、アバス・ボルバロワとジラダヴァライバーを倒すことができたのだ。 DMKP-06にて登場した、火/火の重色ワンドペドラー。 cipで墓地を3枚違うカードにして1ドローできる。名前の異なるカードを墓地に増やしたいワンドペドラーにとって、被ってるカードを違うカードにできるありがたいカード。 キャントリップ付きなのも嬉しい。