約 1,838,563 件
https://w.atwiki.jp/gods/pages/110637.html
マリアヨーゼファフォンハスリンゲン(マリア・ヨーゼファ・フォン・ハスリンゲン) 神聖ローマ帝国のアンハルト=ベルンブルク=シャウムブルク=ホイム侯の系譜に登場する人物。 関連: ヨハンヴォルフガングフォンハスリンゲン (ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ハスリンゲン、父) エルネスティナ (母) フランツアドルフフォンアンハルトベルンブルクシャウムブルクホイム (フランツ・アドルフ・フォン・アンハルト=ベルンブルク=シャウムブルク=ホイム、夫) ヴィクトルフリードリヒ (ヴィクトル・フリードリヒ、子) シャルロッテルイーゼ (シャルロッテ・ルイーゼ、子) フリードリヒフランツクリストフ (フリードリヒ・フランツ・クリストフ、息子) ヴィクトリアアマーリエエルネスティーネ (ヴィクトリア・アマーリエ・エルネスティーネ、娘) アドルフカールアルブレヒト (アドルフ・カール・アルブレヒト、子) レオポルトルートヴィヒ(3) (レオポルト・ルートヴィヒ、子) マリーヘンリエッテ (マリー・ヘンリエッテ、子)
https://w.atwiki.jp/gods/pages/110266.html
ヘレナオブザユナイテッドキングダム(ヘレナ・オブ・ザ・ユナイテッド・キングダム) ドイツのアンハルト公の系譜に登場する人物。 イギリス王女。 関連: アルバートオブサクスコバーグゴータ (アルバート・オブ・サクス=コバーグ=ゴータ、父) ヴィクトリア(4) (母) クリスティアンフォンシュレースヴィヒホルシュタインゾンダーブルクアウグステンブルク (クリスティアン・フォン・シュレースヴィヒ=ホルシュタイン=ゾンダーブルク=アウグステンブルク、夫) メアリールイーズオブシュレスウィグホルスタイン (メアリー・ルイーズ・オブ・シュレスウィグ=ホルスタイン、娘) 別名: ヘレナオーガスタヴィクトリア (ヘレナ・オーガスタ・ヴィクトリア)
https://w.atwiki.jp/sxrumble/pages/20.html
結末へ向けて、紡がれる希望。 あなたのよく知る未来へ向けたその布石。 すべてはただ、あなたの信じた未来の足場を固める行為。 石橋は叩いてこそ固まるのだ。その橋は真ん中を渡れ。 第三話 諦めるつもりがないなら決戦だ ふわりと舞うならそれはきっと、無邪気の体現。 御前様ふわり。早坂桜花の横をふわふわと舞う パピヨンの元へ現状の報告をした帰り道。その報告はもはや義務や取引といった関係を持つのか微妙なところであったが、桜花は自身の手元に彼から投げられた「ドクトル・バタフライの核鉄」がある限り、この行為を当然として続けていた。 もはやパピヨンが報告を望んでいるのかどうかも計り知れない。が、この不条理と理不尽が硬直した今という状況を鑑みた時も何かすがる思いもあったのだろう。 また、報告という行為は、思考を張り巡らせ極限の深みまでの思考を試みる桜花にとって、彼女に安定した冷静さをもたらす結果を生んでいた。物事を整理して話すという行為は、時に着眼を客観として見るからである。 桜花はあくまで現状を整理し、打破するポイントを必死に探ろうとしていた。 山道を下り、並木道を抜け、学園で秋水と落ち合う段取り。 だが、そんな確認する必要もない簡単な行程の中で、桜花はふと足を止めた。 脇道の人影に気づいたからである。御前様が驚きで愕然としている分だけ、桜花は冷静に相手を見据えることができた。代わりに御前様が相手に指を向け、驚きをアクションする。 「オ、オメーは!?」 「オヒサシブリ。そしてそっちの人は、ハジメマシテで、いいのかしら?」 目の前にいる少女。ヴィクトリア・パワード。 その接触を誰が予想できたであろう。腹黒い彼女もこれには予想外であった。 いや、可能性は実現可能として考慮していた。だが、それは暗躍する存在としてであり、まさか単身で桜花に接触をしてくるとは予測できなかっただけ。 「あなたが、その可愛らしい武装錬金の創造者、ハヤサカオウカね。ねえ、突然で悪いんだけどパピヨンの所へ案内してもらえないかしら?」 拒否不許可の声色が響き、僅かすらも相手の意志を伺おうとはしない漆黒の声が命令を唄う。壊れてしまった人間の表情ではありえない、心があるからこその固い意志。そむけられない別格の敵意。 「ヴィクトリア・パワード」 ホムンクルスという存在を前にして。桜花は御前様のみの武装という今の不完全な武装状態を、無動作で全ての篭手を創造し完全武装できるように、心で信念と同調を図った。 桜花は対決を覚悟し、そして同時に自身を強く苛む。核鉄所持者としての自覚が足りていなかったことを深く後悔する。周囲に対する警戒のつもりで御前様を武装していたが、それはつまり自身が核鉄所持者と触れまわるようなものだからだ。この銀成市内でならそれも許容されるだろうという確信に近い甘えが 、油断に直結した。そして油断は死に直下する。 覚悟を諦めと言うなら、桜花は覚悟を決めた。戦闘への決意。それでも相手を無駄に刺激しないよう、強引に口だけを開く。 「本当に突然ね。パピヨンへの道案内、断ればどうなるのかしら?」 「武装解除で、一人の戦士長が生き埋めになるでしょうね」 即答は予想外へ投げられ、その勢いが手かがりを結ぶこととなる。閃きとは線であり、つまりそれが過去を紡ぎ答えを描くのだ。ヴィクトリアの投げ上げた言葉は、状況を把握するには十分すぎる言葉だった。いわば火渡戦士長失踪の原因がヴィクトリアであるという自白を前にしたのだ。桜花ならば全てを深読みし、現状を描く全ての答えすら言葉として脳を駆け巡ったことだろう。 だがその申し出、意図が桜花にはさっぱりと掴めなかった。そこで桜花は、思考を整理する時間稼ぎの意図も込め、先に気にかかるささいなことを訊ねることにした。 「あなた、確か一緒にいるだけで気分が悪くなるほど、錬金術の全てが嫌いなのではなくて?」 「そうね。だからあなた。調べた中じゃ、錬金の戦士から一番遠い錬金の戦士。ホムンクルス・パピヨンとの繋がりも噂されている。それからあなたのことは色々聞いているわ」 ヴィクトリアの声に無自覚に込められた響き。―――このひとはわたしとおなじ、あの眼ができないひと。それでもこの世界に生きているひと。だけどわたしはひとでなし。それでもわたしはひとでなし。 桜花についての大体の情報は、ムーンフェイスから入手していた。 それでも、ヴィクトリアはさきほどの桜花の質問に対する回答になっていない言葉しか言葉として吐かない。 なぜここに来たのか。なぜパピヨンに会いに来たのか。なぜ彼女は企み動いているのか。 ただひとつ確かなこと、皆を幸せにするつもり、ではない。 火渡の命が天秤にかけられ、さらには相手の意図も把握できない状況。桜花に拒否権はない。 「警戒の意味も含めて、御前様は武装解除しないわよ」 それが答え。恭順の意思表示。ヴィクトリアはそれをせめてもの強がりだと理解し、嫌味で笑う。 「ええ、私もそれぐらいは譲歩してあげるわ。我慢してあげる」 あらあらでは済まされないかもしれない取引だろう。それでも今は、利用されちゃうのも仕方ないと桜花は思う。 最大限の譲歩の駆使。来た道を戻り、ヴィクトリアを蝶々の隠れ場へ案内しようと桜花の決意。 それに続く会談が、どれほどの布石となるかを知る者は少ない。 だが結末へ向けた賽は、こうして投げられる。 どれだけ賽が積まれようとも、川を渡れ。 交差した先にこそ、運命は地獄を這い上がり立ちふさがるのだから。 それは長旅ではない。急ぐ必要もなく辿り着く運命の近似値。 そこにいるもの、三名。ヴィクトリア・パワード。早坂桜花とエンゼル御前。そして、パピヨン。ここはパピヨンの秘密の研究所。 「ヒサシブリ、研究は進んでいるようね」 「――…貴様か。招いた覚えはないが、何のようだ?」 その出会いはどこか物語的で、とてもどころではなく不自然な出会いだった。作為があるとすればヴィクトリアの意思。軽く嫌味たらしいヴィクトリアの望みによる結論か。 パピヨンは、話を聞こうじゃないか、とは言わなかった。言うわけがなかった。 誰も彼も、不機嫌を隠しながら晒け出しながら手探りの模索を続ける。 ヴィクトリアにも、そんな時期があったのかしら、どうかしら。 前置きは不要だとヴィクトリアは空気を読み、さっさと本題に入ることにした。 「ママに言われて、あなたに渡すものがあったの。本当は白い核鉄を渡すときにあなたも来ると思ってたんだけど、来なかったからね」 運命すらもあざ笑うかのように笑うヴィクトリアに対し、パピヨンの顔がさらなる不快色で染まる。そんなパピヨンに向けて、ヴィクトリアは一つの紙束と“何か”を投げつけた。 それは、後に運命を変えることになる大切なものとなる、望みの種。 希望につながる糸を生む種を投げつけたヴィクトリアは、自身の言葉をもってそれを否定する。 「今となっては意味を成さないでしょうけど、ね」 パピヨンの不快感は、漆黒を超えた。 「…これで貴様はオレに何をしてもらいたい?」 「別に。ただママがあなたに渡したがってたから。だから、利用するかしないかは、貴方次第よ」 人から与えられた選択肢が、蝶々に突きつけられた。 それはDr.アレクの研究の一部。そしてもう一つ。シリアルナンバーL(50)の核鉄。かつての使用者の名を、アレキサンドリア=パワード。 少し、結果論の話をしよう。 いかに天才とは言え、ほんの2ヶ月ほどで、精製不可能とまで言われたものをゼロから創造るコトは可能だろうか?その答えは、天才じゃなくたって判るだろう。『そんなコトあってたまるか』。 彼らの世界がそれほど甘い世界ならば、今頃錬金術は皆の為になってるし、賢者の石だってとうの昔に完成している物語が描かれたことだ。しかし、あなたのよく知る未来を考えてもらいたい。白い核鉄は二ヶ月で完成した。パピヨンが、完成させた。 結果論を理解するには、過程を導くことが求められる。 この結果論を紡ぐには、ある仮定的手がかりが必要であった。 二か月という期間で求められるのは、研究にかける時間の短縮と、そして材料。 さかのぼれば、白い核鉄の精製方法そのものは残っていた。あとはベースとなる黒い核鉄をつくるだけ。だが、黒い核鉄の製法はもう100年前に失われている。それが問題。 無から白い核鉄を精製することは、困難を極める。故に、2か月という期間で白い核鉄を精製することは不可能と言えるのだ。 もう少し整理してみよう。 そもそも白い核鉄とはなんだ。 賢者の石の精製。錬金戦団は長きに渡る研究の果てついに100年前、シリアルナンバーⅠ~Ⅲの核鉄をベースにして3つの試作品を造り上げた。それが―――黒い核鉄。 その黒い核鉄を基盤に開発されたのが、黒い核鉄の力を全て無効化する、白い核鉄。 つまり核鉄から黒い核鉄は造られ、黒い核鉄から白い核鉄は造られる。 加えてもう一つ。カズキの胸にあった試作品の核鉄。それは黒い核鉄の力を制御し通常の核鉄と同じ力に戻す試行型。つまり、それを逆に考えれば、理論上は試作品の核鉄から黒い核鉄の精製方法も見えてくるであろう。 鍵はヴィクトリアが握っていた。 結果論から考えたとき、結末へ向けて“誰の核鉄も欠損させず”物語をピリオドへ繋ぐには、パピヨン謹製白い核鉄の材料となる核鉄が必要となる。ここに、物語上、宙に浮いた核鉄がひとつあった。それが、アレキサンドリア=パワードの核鉄。 結果論から考えたとき、結末へ向けて“最短研究開発速度で”物語をピリオドへ繋ぐには、パピヨン謹製白い核鉄の礎となる研究資料が必要となる。ここに、物語上、宙に浮いた研究資料がひとつあった。それが、アレキサンドリア=パワードのデータ。 全ては、アレキサンドリア=パワードの死を未来に繋ぐ存在が鍵を握る。 物語の構成美を結論点に見据えたとき、全ての扉が開かれるためには、ヴィクトリアの鍵が必要だったと言える。 言ってみれば、パピヨンにとって目の前にお膳立てが整った状況である。 ここまできたら黒い核鉄の完全なる精製方法なんて必要ない。今ここに、Dr.アレクの研究資料が投げ託された。黒い核鉄のベースとなる核鉄までも、併せて投げ託された。 もはや白い核鉄が託されたといっていい状況である。 これだけ揃っていれば、パピヨンにその意志さえ固まれば、黒い核鉄も白い核鉄もできるだろう。 なぜか。 なぜなら彼は馬鹿じゃないのだ。 ましてや彼は、蝶・天才なのだ。 研究の一部があれば完成させるのは可能である。そんなことは既にパピヨンが蝶野攻爵として人間であった時にも成しえている道だ。 ヴィクトリアが投げたのは物語の分岐点であった。自由な蝶々の前に、人から与えられた選択肢が突きつけられたと言ってもいい。 それは、ピリオドの日まで不機嫌でい続けるには十分すぎるほどの選択肢。それでも。 たとえ人に利用されるのが大嫌いだとしても、今は仕方なかった。パピヨンに、選択の余地は無かった。『なぜかって?』 それはあの日から何度も確認した約束があるから。 ―――“約束忘れるなよ”。 それがどれほど気に食わないプレゼントだとしても、今、優先するべきは彼とのあの約束だ。諦めるわけにはいかない。 蝶々は顔をしかめ、不機嫌を露骨に醸し出した。まるで、武藤カズキ以外の人間にかつての名を呼ばれた時のように、不機嫌。 「どうするんだ、パッピー?」 「…五月蝿い」 やることなんて決まっているじゃないか。わざわざ問うまでも、なく。 彼は武藤カズキを諦めない。 時間にすれば五分にも満たぬやりとり。ただ、核鉄と資料を投げ渡すだけの会話。ヴィクトリアはパピヨンの揺るがなさをいつもの自虐的笑みで笑い飛ばす。 「これでママの用は済んだわ、じゃあね」 そう言うと、ヴィクトリアはふっと消えた。恐らく常に歩きながらも足元に伸ばしていたアンダーグラウンドサーチライトに退避したのであろう。 「貴様も、用が済んだなら消えろ」 パピヨンの言葉に突き放されるように、桜花もパピヨンの秘密ラボを後にする。 御前様が唖然とするまでもなく、このとき目の前で起きていたやり取りの本質を早坂桜花は理解できずにいた。時間をかけて考えればわかったことかもしれないが、この翌日に全てが動き出すのだから、そんな余裕もなかった。 これからの桜花にできることは、せめて今の彼女にできることをするということとなる。 ―――もしも今…、津村さんの心が閉ざされた今……、すぐ外に武藤クンがいたら絶対に助けてくれるんだろうな…って。 そう思ったら…ね……。 でもそれができないから問題。だって代わりなんて、いないのだから。 桜花は運命を呪わない。静かに顔をあげて、そして胸に秘めた意志を強く固める。 「ええ、“敵”の状況整理は済んだみたい。近いうちに、仕掛けてくるわ」 ヴィクトリアを今は“敵”と形容して桜花は戦意を込める。電話の相手は弟・秋水。 「わかった、姉さん。俺も一旦戻るよ」 行方をくらました再殺部隊を探す為、秋水はまず戦士・千歳を探していた。 だが、ブラボーの所に彼女はいなかった。他もいくつかあたっては見たがわからなかった。 だが、それもそのはずかもしれない。だって彼女も再殺部隊なのだ。 再殺部隊はいったいどこに消えたのか。 彼が思うに、再殺部隊は消えたのではない。なぜなら、その気持ち、なんとなく彼にはわかるから。 「俺は帰ってきたぞ、武藤」 再殺部隊の埋伏。それはきっと、自身を見つめなおす為の行為。秋水には既に乗り越えたその段階。 刀を素振る。空を斬る。既に十分伏していた身だ。暫くぶりだ。 さあ、準備は出来ているぞ。 始まりの予感はこうして、戦争の幕を舞台裏で飾る。 アンダーグラウンドサーチライトの一室で、ヴィクトリアはママの味を齧る。 「これで、とりあえず後始末の段階は終了ね」 核鉄とは将棋の駒のようなモノだ。そんな前提を無視し、ヴィクトリアは自身の核鉄をひとつ確保すると、他の核鉄は安易に託し与えた。『なぜそんなものをわざわざむざむざと誰かに渡してしまう?』 答えは簡単。これから起こるホムンクルスの一斉蜂起すらも、彼女にとってはどうでもいい話なのだ。それでは彼女の真意はどこへ? さて、彼女の真意はどこへ行く。 月のみぞ知るか、さらなる深みが隠されているのか。 「むーん、大体の準備は整ったかな。しかし彼女もなかなか面白いことを考える」 ムーンフェイスが一人、久し振りの月夜の散歩を終えて顔を出す。他のムーンフェイスは何処へか。 考えれば、答えは一つ。『月は世界中に顔を出すものだろう? 』 つまりそういうことである。ヴィクトリアがわざわざ彼を求めたのもそういうことだ。 一斉蜂起に求められしは、導きの月 月が30、再び顔を出した。欠けることのない満面の笑みで。 彼は帰ってきて前を見据えた。曇りのない眼で。あの眼の彼はもういない。 少女は上を向いた。足元を固める段階は終わったのだから。 それは同時に、殲滅戦の幕明けも意味していた。 決戦だ。 誰も彼も、俯きうなだれる中で。 それでも、誰一人として。 諦めるつもりはない。 ならば、決戦だ。 夏も終わった日、誰も知らない決戦が幕を開ける。 望んだのは、あなたたち。 そして、わたしたちもそう。 今ある力を使いこなせず、過ちを重ねて。 またひととばけものがしょうとつする。 (第四話「夜が明けたら決断を要す」へ続く) web拍手 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/bakiss/pages/593.html
銀成市市街地の山の手に、いまは住む者のない屋敷がある。 通称オバケ屋敷。かつては蝶野一族──明治時代から続く貿易業を営む資産家──とそ のボディーガードたちが住まっていたが、この初春、彼らは忽然と姿を消した。 以来ここに住む者もなく打ち捨てられるままになっている。 人々は常に成功者のスキャンダラスな話題を求めている。 だからマスコミは蝶野家の人々の、失踪として片付けるにはあまりに不穏な痕跡の数々を 一時期これ見よがしにあげつらい、銀成市市民の耳を楽しませたものだ。 曰く、彼らの失踪に先駆けて長男が寄宿先から姿を消した。 曰く、失踪したと思われる日に多くの銃声が響いた。 曰く、その直前、傷まみれの不審な高校生が蝶野邸を訪れた。 曰く、住民の服だけが残されていた。 曰く、屋敷の至るところに争ったような跡があった。 曰く、にも関わらず血痕は蔵と書斎にしかない。 曰く、幾つかの蔵には猛獣が突進したような風穴が開いている。 曰く、その風穴を辿ると、まるで何かを衝突させ磔にしたような痕跡がある。 曰く、そういえば長男の失踪の直前にも寄宿先が原因不明の半倒壊を遂げた。 曰く、銃声のあと銀色に光る人影が「何か」を担いで立ち去った。 曰く、これまた見慣れぬ風体の男女数名、銀色の影を窺っていた。 などなど。 神隠しか資産狙いの強盗か、もしくは何らかの抗争かと所説は様々に渦巻き、果ては銀色 の影は宇宙人で大規模なキャトルミューティレーションが発生したというトンデモ学説も飛び出 したが、やがては銀成学園高校での集団昏倒事件に端を発する世界各地での謎の昏倒事件 へと人々の興味は移っていき、目下蝶野邸は話題の外。ただ門扉にキープアウトのテープを 貼られたまましばらく放置されている。 九月三日の銀成市は明け方より快晴であったが、山の手にある蝶野屋敷だけはうっすらと 霧が立ち込めており、道行く者は以前の事件と突き合わせて気味悪そうに遠望していた。 ちなみにここは市街からひときわの高台にあるため、下界からかなりの階段を上らねばキ ープアウトのテープすら直視できない。 (もっともそんな苦労するのは人間だけだけど) 蝶野邸の庭に穴が開いた。最初は六角形を模した光線だったそれは一瞬で人一人が通れる ほどにまで拡大し、亀甲模様を描きながらそれに沿ってブィンと無機質なドア開閉の音をあげ 地下へ通じる穴を開けたのだ。 出てきたのがヴィクトリアである以上、穴はアンダーグラウンドサーチライトによる物であるコ トはいうまでもない。 (高台でも地下は地下。地下なら電気を拝借してエレベーターで昇るコトぐらい造作もないわ) この武装錬金は地下に変幻自在の亜空間を作り出せるのだ。 フンと鼻を鳴らしてちょっとした優越感を覚えながら薄い霧にけぶる辺りを見渡す。 日本庭園。そんな形容がぴったりの場所だ。 足元には堅い石畳があり、すぐ横には大小様々な灰色の石で縁取られた小さな池と、うっす ら苔の浮いた石灯籠が並んでいる。視界の彼方には枯山水すら認められた。テニスコートほど の面積いっぱいに砂利を敷き詰め、そこに一抱えもある奇岩をぽつぽつと点在させる枯山水は 日本人なら多寡問わずわびさびを感じるところだが、欧米人たるヴィクトリアにはどうでもいい。 むしろその枯山水が接地する瀟洒(しょうしゃ)な建物こそ目を引いた。 蝶野邸。父・ヴィクターがかつて眠っており、今はヴィクトリアの飢餓を解消する場所。 だが。 「何ココ。こんなに広いなんて思ってなかったわよ」 元々釣りあがり気味の瞳を更にキツくして、記憶の中の総角に毒づいた。 庭を見た時もしやと思っていたが、眼前に広がる屋敷の広大さに確信した。 ここは広い。しっとりと立ち込める薄霧を差し引いても塀の影すら見えぬ。庭のところどころ に竹垣はあるがそれは何らかの日本庭園的な様式の区分で設けられているようであり外界 と隔絶する物ではない。 さればと振り返ってみればますます広大さを痛感しげんなりとした。 何故ならば寄宿舎の四分の一ぐらいはありそうな蔵が冗談のように林立していたからだ。 父の痕跡も飢餓解消の施設も、簡単には見つけられそうにない。 そう悟ったヴィクトリアは鼻白んだ。 「さていち早く到着いたしましたのは金髪眩しい白皙のお嬢様っ! うろうろうろ~と邸内へと 参ります! されどされどそちらは残念ながら不正解……」 竹垣の影からひょいと飛び出てヴィクトリアの後ろ姿を見た者がいる。 小学生並に小さな体。頭にはシルクハット。肩の前でちょんとくくったおさげ髪。……小札だ。 「むしろあちらこそ探るべきなのであります。とはいえもりもりさんからは教えてはならぬと申 しつけられておりますゆえ、不肖はただただ機を待つばかり」 マイク代わりのロッドを口から放して、蔵に目をやる。 「さ、さささて、どうなりますやら……場合によっては不肖も本格的に戦うワケでして」 どきどきとした緊張が小さな体から漏れる。 秋水が紫の竹刀袋を忙しく揺らしながら、無限に続くと思われる階段を一気に駆け抜けた。 (この霧……まさか) 元L・X・Eであり、その盟主と今向かう邸宅の関係を知悉する秋水にとって『霧』なるものが 立ち込めているのはひどく暗示的である。 事実目を凝らせば霧は自然の霧らしからぬ金属の光をチカチカ瞬かせている──… (総角) いまこういう霧を張れるただ一人の男を秋水は想起し、竹刀袋を握りしめた。 核鉄を持つ彼が今さら竹刀? いや、竹刀袋は先端が緩やかにしぼみ天に掲げれば布が だらしなく垂れるであろう。すなわち、袋の全長より短い『何か』が収められている…… 居間、玄関、応接室とひとしきり邸宅をめぐったヴィクトリアは、倦怠感と耐えがたい飢餓も 手伝ってひどく苛立ち始めていた。 彼女の求める者はまだ見つからない。要するに普通の家屋なのだ。 いや、正確にいえばあちこち破損しており尋常の物ではない。 桟も剥き出しに破壊された襖は一つや二つではないし、鋭利な何かで四つに斬られた障子が 部屋の内側に向かって散乱しているのも見た。 異様といえば異様だが、しかし置かれている物はまるで錬金術の産物とは無縁だ。 強いて言うならば破壊痕か。凄まじさから見てホムンクルスの仕業といえなくもないが、それ だけならば「ただの家庭が襲われた」ぐらいの、手がかりにならぬのを含めたあらゆる意味で ヴィクトリアが嫌悪する普通の家屋だ。 書斎に至っては床の中央にドス黒い血痕が染みついて、すぐ傍では机が引き出しを上に向 けて倒れている。机に乗っていたのだろうか。本や万年筆が散乱し、傘の割れた電気スタン ドが埃を被っていた。 結果的に、ココを訪れたコトが収穫に繋がった。 最初はアルバムを見た。よく似た顔の兄弟の成長記録があった。前髪を奇麗に真ん中で分 けた色白でやせ型の三白眼の兄弟たち。写真の下に添えられた文章によると双子ではなく 一つ年の離れた兄弟だったらしい。しかし兄の方が高校入学したのを機にアルバムは弟の 方しか写さなくなった。 そして「家督相続決定の記念にて」と注釈ある弟の記念写真を最後にアルバムは一枚の 写真もなくなった。その日付が今年の物だったから、おそらく失踪前最後の写真ではないか? と思ったヴィクトリアは同時にその弟の顔に少しデジャビュを感じた。 目や髪、色白の不健康そうな肌はどこかで見たコトがある。 ただし雰囲気は違う。『どこかで見た』顔はもっと傲岸で自信に満ち満ちていたが、写真の 弟はむしろ劣等感からようやく解放されたという風で弱々しい。 例えば、そう。途中で消えてしまった兄の方が雰囲気としては近い。 ひとまずアルバムを逆にめくって兄の写真のある所まで戻り、凝視した。視覚に焼きつかせ 記憶にある近しい顔を探る。 ヴィクトリアにとって幸いだったのは、百年来女学院で暮らしたコトだ。猫を被って接したの はほとんどが女子で、男性との出逢いは数少ない。 更には一般人に無関心であるから記憶に残っている男性というのは十指に限定される。 すなわち、戦士かホムンクルスか。嫌悪という一種最大の関心に基づく記憶から探ると、凝 視する写真の男と似た者は案外早く見つかった。 「……まさかあの時の蝶々覆面(パピヨンマスク)?」 古巣たるニュートンアップル女学院で遭遇した怪人のような男。 顔こそ秘匿されているが前髪と目つきは同じ。身長も同じだ。 となればである。母・アレキサンドリアは言っていた。彼は錬金術師だと。 そしてココは彼の住居であったコトは想像に難くない。 (けれど錬金術の痕跡はない。つまりあの男が秘密裏にどこかで行っていたワケね) が、推論は明確なる所在にはつながらない。すなわち振り出し。 (けど、蝶々覆面のコトを知れば手がかりが見つかるかも……気に入らないけど) ヴィクトリアが他に本を探そうとすると、足元で軽い衝撃が走った。 見れば万年筆を蹴ったらしい。机から落ちたままずっとそこにあると思しき万年筆を。 一瞬見過ごしそうになったヴィクトリアだが、一つ疑問が浮かんだ。 万年筆はフタを尻につけた状態でそこにある。つまり筆先が露出しているのだ。 (というコトは……) 机の傍で人の字になって這いつくばる本の背を摘みあげた。 (やっぱり 日記だ。達筆で日々の事柄が綴られている。もどかしげにページを一気に最初までめくり あげたが蝶々覆面がアルバムから消えたよりもっと後の日付。彼への記述はなさそうだ。 もっとも着想を得たヴィクトリアは幻滅するより先に日記の背表紙を見た。 笑みが浮かんで仕方ない。執筆者の几帳面さに助けられた。 背表紙には今年何番目の日記かナンバリングが施されている。金箔を押したような煌びや かな装丁なのはいかにもこの豪邸の持ち主らしくもある。 素早く背表紙の文字を目に焼き付けて書斎から該当する物を探す。あった。 一年平均二~三冊のペースで整然と並んでいる。そこからアルバムから兄の消えた頃の 物を引き抜いて流し読む。 結論からいえばやはり兄は死んではいない。高校入学と同時に難病を患い、闘病が進みに つれて徐々に期待が失われていく様が綴られていた。 そうしてたっぷりの文字を読んだ。実に二年分はあったろう。ヴィクトリアの求める核心があった。 ──あいつは時折蔵の中に閉じこもるようになり と病気の息子の奇行を嘆く文章にヴィクトリアは直感した。 (蔵の中なら……) 例えば百年前に父・ヴィクターをしばらく眠らせるコトは可能だったろう。 同時に錬金術に必要な様々な物を隠しすコトも。 気づいてしまえば何故初見で気付かなかったのか不思議なぐらいだ。 ヴィクトリアは立ち上がり、蔵へ向かって歩き出した。 その頃、秋水の駆け上がった階段とは別の、いわゆる裏口の方から密かに蝶野邸へ侵入し た影があった。 たおやかな黒髪を腰まで垂らしたその影は、何かを探るようにそろりそろりと霧の中を進んで いき、ピタと立ち止まった。視線の先には竹垣に隠れて向こうを覗く小さな影──… ようやく目的地についたというのに、ヴィクトリアは慄然としていた。 「やはりココに辿り着いたか」 一体この男はどうして何度振り払い邪険にすれど追ってくるのか。 むしろ恐怖に近い感情で相手を見たのは、ヴィクトリア自身否定はしているが内心の奥底で 協調したいと願っているからに他ならない。 早坂秋水は薄暗い蔵の中でヴィクトリアを直視した。手には紫の竹刀袋を持っているが、攻 撃するつもりはなさそうだ。 「少し考えれば分かるコトだった。俺は戦団ではなくこの場所をまず引き合いに出すべきだった」 何をいっているかは分かっている。ヴィクトリアの糧秣の獲得手段だ。確かに恨み深い戦団 よりはまがりなりにも父と縁のある場所に頼る方がいい。 されどヴィクトリアは。 本音をいうより先にアンダーグラウンドサーチライトを展開し、地下へ埋没。 自分でも煮え切らない、情けない、どうしようもなくつまらない行為だとは分かっている。 けれど対話を避けねばそれまでしがみついていた物が何もかも無駄になるような気がして 逃走を選ばざるを得なかった。 一体どれだけの距離を埋没しただろうか。 息せきながら天井を見上げ、全身全霊でここに通じる穴を封鎖する。 もはや外界から隔絶された亜空間の完成だ。煉瓦造りの六角通路に佇む心持は鉛を飲んだ ような重苦しさがある。だから秋水を振り払ったという事実を務めて忘れようとした。 だが。 武装錬金を使うが故の一種研ぎ澄まされた感覚が、異様な感覚を捉えた。 それは地上から轟々と沈み、確かに向かってくる。今まで感じたコトもない現象。 やがて。 ヴィクトリアは息を潜めてその光景を見た。 防護に徹すれば何者もの侵入を許さぬ、現に百年の長きにわたり母を外敵から完全守護 した地下深淵の避難豪。 それがいま、強制的な力で開けられている。 かつて千歳に開けられたコトはある。だがそれは千歳の探査能力を差し引いてもある程度 までは地下に彼女を容れるコトを良しとする母の意思あらばこそヴィクトリアも妥協した。 だが今! 完全に断固たる思いで閉じた筈の空間が、稲光と共に裂け──… 秋水が現れた。よほど無理な手段を講じたらしい。侵入と共に彼の右頬が張り裂け、長い羽 毛のような血しぶきをあげたのだから。 「一体どうして……」 「君以外にも亜空間に介在できる武装錬金を操る者がいる」 秋水の右手で鈍い金に光るのが『忍者刀』とはヴィクトリアには分からない。 ……先ほど秋水のいた場所には。 彼の名前を刺繍した紫の竹刀袋が無造作に打ち捨てられていた。 秋水はそれをヴィクトリアが沈むなり抜きはらい、シークレットトレイルで地面を斬った。刀を 袋で覆っていたのは病院からの道すがら、人目をはばかればこそ。 亜空間への退避を得意とするヴィクトリア。だが追跡はまるで不可能ではない。 「君以外にも亜空間に介在できる武装錬金を操る者がいる」 秋水が語るようにシークレットトレイルを用いれば亜空間への没入は可能。が、その際は本 来なれば根来のDNAを含む物体以外の透過は決して許さない。 では秋水は何故地下へ行けたか? その秘密は彼が身に纏う真新しい学生服にある。 根来はシークレットトレイルを渡しながらいった。 「使え。貴殿の衣装はすでに対応済みだ」 それで秋水は察した。根来が自らの着衣にそうしているように、学生服にも根来の毛髪が 編み込まれていると。 この一時を見るにおそらく防人と根来、そして千歳は秋水の思惑を知っているようだがそれ はまた別の話だ。 ともかくも彼はシークレットトレイルで地下へ行った。到達の際に頬から血しぶきが走ったの は追跡に気を取られたゆえの失策だろう。 根来ならばこういう。「顔を学生服で包まぬからそうなる」と。 だが秋水は良くも悪くも生来の気質ゆえに、一刻も早い追跡ばかりに気をとられ、余裕を持 てなかった。下手をすれば頭蓋だけ亜空間の拒絶で吹き飛んだかも知れぬのに。 慄いたヴィクトリアだが、すぐに冷たい目線で断固たる抗議を送った。 「私が聴いているのは手段の話じゃないわ。理由。どうして私につきまとうの? あなたは戦士。 私はホムンクルス。そこまでして……つきまとう必要なんてないじゃない。何の得になるのよ」 もはや悲鳴に近い声だ。 秋水の頬から流れる血に眼が吸いつけられて、それに対して人間らしい感情が沸き起こるの がどうしてもどうしても不可解で許しがたい。 「前にもいった」 秋水は頬の血を拭おうともせず、答えた。 「君が人を殺すとはどうしても思えない。だからだ」 時は前後する。秋水、そしてヴィクトリアが蔵に入るのを見た者たちがいる。 「むむ。これで計画の第一段階に突入!」 小札は竹垣の影からひょいと出てツカツカと蔵へと近づいた。 「あとはひと段落つきしだい、不肖のマシンガンシャッフルで秋水どのを捉えるのみ!」 「なるほどね。総角クンからあなたが命じられているのはそれだったのね」 「ハイ! 正にその……きゅうっ!?」 小札は咄嗟に身をよじった。同時にそこまでいた場所に何かが刺さり、慄然とした。 矢だ。羽のない西洋の。 「……え、矢……! 矢ぁ!? というコトはココに来てまさかまさかのご登場っ!?」 「昨日の夜、念のため学校の屋上を御前様に監視させておいて正解だったわ。おかげであな たちが何かを企んでるって分かったもの」 小札は見た。霧の中、アーチェリーを左手に装備した麗らかな女性が歩いてくるのを。ついで にその肩の上には二頭身で不格好な自動人形がふわふわ浮いているのも見た。 「よーロバ女! ……ってオマエ相変わらず貧相だな。桜花と同い年なのに」 御前が気の毒そうにいい、桜花は無言で微笑した。テストで満点取った秀才が追試受ける 人間に「頑張ってね」と呼びかけるような余裕の笑みだ。 すらりとした長身に豊かさを湛えながらもシルエットは細い桜花だ。モデル体型だ。 「う、うぅ。それは言わぬお約束……」 まったく身長が低くて少年よりも未発達で足もマッチ棒みたいな小札はしゅんとした。 「なぜに同じ十八歳でありながらこうも格差あるのでしょーか……い、いやそれはさておき」 小札は八メートルほど先にいる桜花にロッドをそろりと突き出した。 「戦闘回避の余地を求めていんたびゅー。物見遊山でありますか? あって欲しいのですが」 桜花の眼光が俄かに鋭くなった。 「今頃秋水クンは大事な説得の真っ最中。うまくいくかはまだ分からないけど、少なくても終わっ た後、あなたたちの目論みに利用されるのだけは許せない。秋水クンへの侮辱だから」 脛に傷持つ小札だからぐうの音も出ない。説得のセッティングは彼女の中では一番平穏な 解決のために考えた手段だが、突き詰めれば下心ありきなのは否定できない。 「もっとも総角クンが企みを回避するというのなら私も退きますけど、それは無理でしょ?」 「う、正にその通り……ゆえに不肖も退けぬワケで……」 桜花が矢を放つと同時に小札のマシンガンシャッフルが霧を散らした。
https://w.atwiki.jp/sxrumble/pages/60.html
仲間とはなんだろう。友達とはなんだろう。 目に見えない繋がりってどこにあるんだろう。 第30話 a friend of nobody オバケ工場へ向かった戦士は五名。 中村剛太。早坂桜花。同じく秋水。戦部厳至。犬飼倫太郎。 オバケ工場内部へ突入する手前で、犬飼が戦部に声をかける。 「しっかりとオレを守ってくれよ」 犬飼は丸腰、核鉄はある事情があって毒島に預けていた。 全ては、火渡戦士長を救出するため、最終決戦に間に合わせるため。 剛太や早坂姉弟の任務は戦闘。戦部の任務は犬飼の護衛であった。 戦部という貴重な戦力を護衛にまわしてまでして、犬飼をオバケ工場に連れてきた理由があった。まあそこは、仕上げをごろうじればいい。 そしてニュートンアップル女学院へ向かった戦士、五名。 毒島華花。円山円。根来忍。どこかに楯山千歳。そして現地にて合流予定の津村斗貴子。 毒島は静かに、ヴィクトリア・パワードを見据える。 その横顔、ガスマスクのフォルムは、どこか犬の面に似ていた。その姿はまるで番犬、二人分の睨みを利かせるかのように。さあ、こちらも開幕だ。 「話は聞いているな、ここは任せるぞ」 ヴィクトリアに対する敵意を抑えるために黙りこくっている毒島に変わって、根来が斗貴子に声をかける。斗貴子の返事は無いが、伝わる空気があった。ここは私一人で十分だ、という空気が。 「大丈夫よ、私もいるんだから」 代わりに答えて円山。彼(女)が仰せつかっているのは、これから始まるであろうヴィクトリアと斗貴子の戦いの検分人、見守り役である。そして重要な役割がもうひとつあった。それは今後の物語を語る上で、最優先で説明が必要となる奇跡だろう。 「よろしくお願いします」 ようやく毒島が口を開いた。それでもガスマスク姿で前を見る姿勢は崩さない。肩肘を張って幼さの残るその姿を見ると、円山も母性に目覚めずにはいられない。抱きしめずにはいられないが、まあそういうわけにもいかないところなのが少し辛い。だからここは微笑むだけにとめておこうか。 「まかせて。悪いようにはしないわ」 この緊迫した空気の中で、「武装錬金!」と先走って叫んでしまうのは少し無粋というものだろう。円山は大人の余裕を持って、バブルケイジを無音無動作で展開させた。 ―――バブルケイジ、風船爆弾(フローティングマイン)の武装錬金。特性は触れた者の、身長を吹き飛ばす。 「一発につき約15cm。あなたは約150㎝弱だから、9発ってところかしらね」 ヴィクトリアの身長も約150㎝。だが円山の狙いは、文脈からも判るように、毒島であった。さて、何のために。なぜ毒島の身長を吹き飛ばすか。 「しっかりくるまっていることだ。万一が発生した時の、命の保障はできない」 その“作業”を傍らで見守る根来が、どこか保護者じみた口調で毒島に念を押した。つまりはそういう作戦。かつて剛太はその手に根来のマフラーの切れ端を巻くことによって、シークレットトレイルが切り開いた抜け道へと(腕のみながら)潜り込むことに成功した。今回の作戦はその応用である。 根来の任務は言うまでもなくアンダーグラウンドサーチライト深部への潜入及び、火渡戦士長の捜索と救出をすること。しかし無限に広がる防空壕の中で人っ子一人を探すことは困難きわまる任務である。しかしそれは根来一人で探した場合の話だ。この任務、仲間がいるといないでは成功率に大きな変化がでてくる。一人より二人、二人より三人。ともに戦う仲間。 根来の首に巻かれたマフラーが、微かに蠢く。そこにいたのはもう一人の、小さな毒島だった。まあ、実際はエアリアル・オペレーターを装着した楯山千歳である。もちろんコスプレではない、これも重要な作戦故の行動だ。 千歳もまた、既にバブルケイジによって身長は吹き飛ばされていた。武装錬金ごと身長を吹き飛ばせるのは津村斗貴子とバルキリースカートが実証済みだ。 「さあ、いってらっしゃい。戦士長をよろしくね」 円山の優しい声が風に乗る。 出歯亀野郎の首筋に、ガスマスクをつけたミニマム美女とミニマム美少女がそっと寄り添う。いったい何のプレイなんだろうか。しかし、(しつこいかもしれないが)、これもりっぱな作戦の一環である。 「まかせたぞ」 そう捨て台詞を置いて、根来はニュートンアップル女学院の内部へと潜り込むための刃を壁に切りたてた。 それぞれの戦いは、それぞれに任せられる。『ここはわたしが』、『そこはあなたが』。 「もう、いいかしら?」 茶番はいい加減こりごりだとも言いたげに、ヴィクトリアが吐き捨てる。 見送りを済ませた円山がヴィクトリアの方へ向き直り、うやうやしく手を広げてみせる。 「ええ、今度こそもう横槍は無いから安心してここからは存分にどうぞ。見ての通り、私もあのコ達の命をちょっとは背負っちゃったからね、うかつに下手な行動はしないつもりよ」 円山はまるで見せ付けるかのように、自分の役割が果たされたことをアピールしてみせた。もし円山に万一が発生し彼(女)の武装が解除されてしまったとき、根来の異空間の中に毒島や千歳がいては、二人に何が起こるかわからない。円山のこれからはあくまで検分役に徹することであろう。 「群れたところを見せ付ければ、私の心も揺らぐんじゃないかとでも考えているのかしら、あなたたちは」 ヴィクトリアの声に怒りの灯がともり、気がつけば言葉が少し感情的になっていた。 トモダチはいない。幼少の頃ならそうと呼べる人間もいたかもしれないが、もうみんな死んでしまった。 カゾクもいない。いた。でももうみんな、生き別れて死に別れてしまった。 ナカマはいない。そんなひと、いた覚えが無い。パパを殺すためのナカマならいたこともあるけど、そんなのは本当のナカマなんかじゃあない。 ミンナ、イラナイワケジャナカッタ。イラナイワケナカッタ。 ただ、もういまは、だれもどこにもいない。少女はヒトリボッチ。 誰も守ってくれない、たったひとりぼっち。 ヴィクトリア・パワードに味方は、いない。 家族しかいない、家族しかいなかった。 ヴィクトリア・パワードは誰の仲間でもない。 「…キミも…、ひとりぼっちだったんだものな、ヴィクトリア・パワード」 ここでようやく斗貴子が口を開く、会話へ割ってはいる。そう。再殺部隊の連携が揺さぶっていたのは、ヴィクトリアの心ではなく、実は斗貴子の気持ちであった。剛太も早坂姉弟も、斗貴子の心をこじ開けたかった、どんなに回りくどい手を使って、でもだ。 その皆が手を繋いだ優しさは、きっとあらゆる絶望すらも包み込む。 悲しみを押し殺している斗貴子を、不愉快そうにヴィクトリアが睨み付けた。いつだって同情されるのは不快なものだから。 風が二人を一時的に分かち、また繋ぎ合わせる。ヴィクトリアの長い髪が空を舞い、ヴィクトリアの表情を覆う隠す誤魔化す、護る。 斗貴子は、胸が痛かった。痛いほどヴィクトリアの気持ちが理解できたから。 だって、だって。 津村斗貴子もずっと一人だったのだ。彼女自身が、強く思っていた、『私はいつだって一人だ』と。彼と出会うまで、ずっとそう思っていた。本当はそんなことなかったのに。なかったのに! 「…ヴィクターが言っていた。「一人で生きるのも、一人で死ぬのも辛いものだ」って」 「パパが?」 目の前の少女は、たしかに昔の自分に似ているかもしれない。でも。 「でも、私とキミとはやっぱり違う」 同じなんてありえない。似ていてもどこか違うのが人間だ。それが人の心なんだ。 「私も、一人で生きていけると思っていた。いつも一人でいるようにしていた。それでいい、と思っていた」 思い出せない過去も思い出そう。カズキと出会うまでの、津村斗貴子を全て。 「きっと一人の方が楽だと言い聞かせていたんだろう」 それはカズキと出会う前の津村斗貴子。全てが覚悟の現れであるかのように振舞って、そうやって孤独な戦いの道を突き進んできた、あの頃の津村斗貴子。口では「楽だと言いきかせてきた」なんて言っているが、それは彼女の心情や思いを的確に表現した言葉ではなかった。色んな過去や感情が、彼女に孤高の道を歩ませていたんだ。過去の記憶がない、それだけで自分を一人ぼっちと思うには十分だったのだろう。 斗貴子は静かに顔を上げる。月光に照らされて、薄紅色の傷痕が静かに映える。 「でも、違う。違っていた。はじめから私は一人でなんて生きていなかったんだ」 それが、彼女がようやく辿り着いた一つの真実、得た答えのひとつだった。 ずっと一人だと思っていた、友達なんてできないと諦めたこともあった。家族なんてどこにもいないと勝手に決め付けていた!いつだって彼女のそばにいる人は『いたのに』!! 「…七年前、キャプテン・ブラボーは私の命を守ってくれた。錬金戦団が私を育ててくれた、鍛えてくれた。それに剛太も私を慕ってくれていた。そしてカズキが、見ず知らずの私を助けてくれようとしてくれた。まひろちゃんや、ちーちんにさーちゃん。それにカズキの仲間たちも、みんなこんな私の友達になってくれた」 そう言うと、津村斗貴子は、静かに迷いのない目ですっとヴィクトリアを見据える。 「もう私は、一人でも生きていける自信は無い」 知ってしまったから。たとえ一人であっても一人ではないということを。目を閉じれば、みんなが仲間だといってくれたあの日を思い出す。 「でも、簡単に命を捨てたりも諦めたりもしない」 大丈夫。誰かが悲しんだりするかわりだったらきっと、私にも耐えられる。 「あの日から、色々あったけど、今は楽しかったことしか思い出せないから」 だから、辛い。 風だけが空気を読むことなく辺りをざわつかせる。緊張感はピークに達する。そして、張り詰めた空気を破る言葉が斗貴子の口から心から零れ落ちる。 「…ヴィクトリア・パワード。私はカズキのように甘くはない。悪意を持ってくる者は悪意を持って返す」 それは誰のための悪意でもない。いわば悪意の映し鏡だ。 「……そう、それがあなたの答え…」 「そうだ、だから決着をつけよう。」 決着は決別とは違う。さぁ、先に待つのは決別の決心か、決定的な結末か。 津村斗貴子は、ひとつの決意を抱いて、刃を構える。逃避行はおしまい。もう逃げない。この一件が終わったら、次は彼との決着をつけにいこう。…カズキの代わりに。 それが終わったら、この街を去って、また戦い続けよう。 一筋の涙が頬を伝った。月の光で美しく輝く。 バルキリースカートでは、涙を拭うことができない。でも大丈夫。誰かが悲しんだりするかわりだったらきっと、『私にも耐えられる』。 ―――カズキが、今の私を見たら、なんと言うだろうか。 答えてよ。カズキ。 いつもの笑顔を見せてよ。 カズキ。 一心同体だったハズなのに、はずなのに。 会いたいよ……!! 今になってようやく気がついた気がする。 戦うということの本当の辛さを。 そしてカズキはずっとそんな辛さを抱えながら、それでも戦士をやってきたということを。 「私がいなくても、カズキは月へ行ったと思う。あの日、見ず知らずの私を助けようとしたときのように、みんなを守るために」 それは誰に向けた言葉でもない。静かにバルキリースカートをはためかせながら、津村斗貴子は処刑の刃をヴィクトリアへと向ける。 これから円山円は、誰の味方でもない立場で、これから始まる二人の戦いを見る。 そもそも円山は女が嫌いだ。さらにヴィクトリアにしても津村斗貴子にしても、もともとは敵である。津村斗貴子に至っては、かつて殺し合いを演じた仲だ。決して友達といった関係では断じてない。 手出し無用、それが「誰の味方にもならない」という言葉の意味。 だから手は出さない声もかけない、だけど。 がんばりなさいと、がんばれと願うことだけは止めなかった。 だってホラ。 根はいいヤツなんだから。 再殺部隊の面々は、どいつもこいつも。ね。 こうして最後の幕が厳かに空を目指す。 これから津村斗貴子は、百年の歴史という重みを知ることになるだろう。 ピリオドのない人生がもたらした悲しい力を、知ることになるのである。乗り越えなければならない試練は、いつだって鏡のようにそびえ立つ。友達を頼ってはいけない、仲間の力を借りてはいけない。 目をそらしてはいけない。 これは、二人だけの戦い。そこに、仲間はどこにもいらない。 男の戦いに横槍が要らぬように、女の戦いにも盟友はいらない。 この世界の結末を巡る二人が、永き戦いを貫く閃光を散らしたのが未来。 それがつまり、ピリオドの為の儀式のはじまりのうた。 ホシアカリに届く、出会いと別れの物語。 死が語る、絶望の幕開けであろう。 (第31話「死心死体の女」へ続く) 惨劇はもうひとつの戦場、悪意の夜で。 web拍手 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/gods/pages/124624.html
レオポルトヴィクトルフリードリヒ(レオポルト・ヴィクトル・フリードリヒ) レオポルトフォンヘッセンホンブルクの別名。
https://w.atwiki.jp/sxrumble/pages/79.html
この物語の始まりは一人の少女の戦いへの決意から。 この物語の終わりは一人の少女の戦いへの決別から。 逝き斗死生ける一人の少女として、決して、バケモノとして、ではなく。 たとえ事実がバケモノであったとしても、そこまでバケモノではないんだ。 心が人である限り。決して人の姿を忘れない。 第49話 not so MONSTER 大戦士長、突然にして堂々たる参上。 「に…ッ!」 ただただ驚愕の円山。そんな円山の絶句を坂口照星は微笑ひとつで受け流した。 物陰から現れて黒幕のような拍手でも始めそうな登場。有無を言わさぬ、やさしい笑顔がそこにあった。そうして大戦士長・坂口照星は誰かに聞かれるその前に、自身がこの場にいる理由を簡潔に述べる。 「戦士・千歳に、照星部隊の再結成を、と要請されましてね。ならば私も前線にと、こうして来たわけですよ」 これはなんと簡単に言ってのける男であろうか。彼は簡単に言ってのけたが、もちろん話はそんなに簡単ではない。大たる長である彼がこの場に単身でいるということがすなわち異常事態なのである。つまり今世界で起きている戦争が、彼がその手を離したとしても「大丈夫」という状況でなくては彼の登場はありえないのだから。 全てが確実にピリオドへ向かっているということを示す存在であると言えるだろう。彼がこの場に現れるために彼が費やした苦心を想像するに、それも尋常ならざる決意のなせるわざと言えるかもしれない。 そして、千歳が照星部隊の再結成を要請したということ。これも、彼女がこれまでに撒き散らした手がかりが示す必然だろうか。もしかすると、彼女が撒き散らした手がかりが一点に集うときが、全てが一点へ集まるときがピリオドなのかもしれない。 戦士・千歳。 この物語において、火渡戦士長の失踪を機に暴走した再殺部隊を偽情報により踊らせ一点へ集わせたのが、千歳であった。病院を護るために満身創痍の体を押して月に立ちふさがった防人たるブラボーの楯となるために、誰よりも早く駆けつけたのが、千歳だった。戦えない体に葛藤するブラボーの背中を押したのもまた千歳であり、火渡の救出においても、千歳は大きな役割を果たしたのも千歳であった。バブルケイジの理不尽きわまる特性すらも希望に代えて、ヘルメスドライブの限界を超え、ブラボーを戦地へ導いた楯山千歳。そしてこの時、大戦士長たる坂口照星すらも戦場に引きずり出したのもまた、千歳であった! 全ての舞台裏は、そう。楯山千歳によって拓かれる夜明けの物語。 「…いったいあの人はどこまで計算してたのかしら」 落ち着きを無理やりに取り戻し、円山が横でふわふわ浮かんでいるバブルケイジを指でつつきながら呟いた。それは、諦め込みの無理やりな納得なのかもしれない。そんな円山の傍らのバブルケイジ。火渡救出の任務を終えて尚も円山が武装解除をしないのは、この瞬間も千歳が小さな体で絶望を乗り越えてブラボーを仲間と共に戦っていることを知っているから。目の前の戦いを前にして、何もできなかったという思いは燻ぶるだけで煤けていくしかないのか。 そうやって、諦めていた戦いへ続く道が、ひとつの奇跡が現実としてあなたの前に現れることがある。そして、力強い言葉がいつだってあなたたちを奮い立たせるんだ。 これは優しい大人たちが送る、子供たちのための物語! 坂口照星がこの場に現れた理由、それはもちろん見物などではありえない。当然目的があり信念があるのだ。たった一言が大きく空気を引き締める。 「行きますよ、戦士・津村に戦士・円山。戦士・毒島に戦士・根来。戦士・千歳が纏めあげたこの舞台。全てに決着をつけに」 大きく空気を引き締めるたった一言がある。語られた真意、彼の目的。終わりを終えて、また未来への一歩を踏み出すために。そのために!彼はその為にこそこの男はここに現れたのだ。 坂口照星の言葉を聞いて、火渡救出の任務を終えた根来と毒島が物陰から顔を出した。立ち位置的にはヴィクトリアの正面斜め前で、自身の核鉄を火渡に託した毒島の素顔、晒け出された複雑な表情。それはヴィクトリアに向けられた感情、火渡を監禁しこの戦争を引き起こした者に対する敵意であったのだろう。だが、『憎しみは殺意の言い訳にはならない』。ヴィクトリアが津村斗貴子に対して贈った言霊は、毒島の胸にも強く響くものでもあった。芽生えてしまった、ヴィクトリアに対する戸惑い。そんな毒島をちらりと見て、坂口照星が現れてからは沈黙を保っていたヴィクトリアがくすりと笑った。 無駄な言葉もなく、まるで空気が彼女の出番を告げるまで静かに押し黙っていたヴィクトリアは、それでもどこまでも凛然と胸を張って立つ。 見渡せば戦士たちが、錬金戦団の大戦士長たる坂口照星に向き直していた。千歳の暗躍を知る由もないヴィクトリアは、これはいったいどこの誰の差し金なのかと苦笑いを浮かべる。そうして胸に秘める憎しみのやり場に対するどこか諦めの表情も浮かべながら、この張り詰めた空気をさらに弾く様にゆっくりと真っ直ぐな姿勢で空気を裂く言葉を発した。 それはホムンクルス造反劇の首謀者から、錬金戦団の大戦士長へ贈る、戦争の幕引きへ向かうための言葉。細い指を静かに、一人の少女へ向ける。 「ツムラトキコに話を聞くと良いわ。今夜の私に残されていた希望は全て、あそこにいる女の子に託したから」 子供を戦地へ送ることに対する皮肉を込め、ヴィクトリアは『女の子』という言葉で津村斗貴子を形容した。 坂口照星の胸に響くは、あの日、ヴィクターが海上で放った怒りの絶望。『再殺はお前達の、必然』。 否定する言葉が出なかった。 否定できないテーゼ、そうやって人間を辞めた者たちをただ再び殺すのが錬金の戦士の使命なのかということ。例えば!『年端もいかぬ娘に責を負わせて化物にし、化物にされた父親を討たせようとする様な意思のコトかァッ!!!!』目の前に立つ、ヴィクトリア・パワードこそが、錬金戦団における過ちの象徴。それは言わばひとつの、ピリオドか。 この時、戦争の首謀者たるヴィクトリアを前にして坂口照星が下した判断は、錬金戦団の大戦士長の判断だと考えたならば非難に値するものであっただろう。だが、ピリオドとピリオドの先にある物語において、ホムンクルスの制圧と錬金戦団の段階的活動凍結を実行に移したことを考えた時、この場における坂口照星の判断は決して彼の信念を偽るものではなかったと言えるに違いない。 恐らくはこの後に続いた彼の選択に違和感を抱く者もきっといる。だが、忘れないでほしい。大切なのは選択を誤らないことではないのだ。大切なのは選択の後にどのように行動するか、なのである。 内に秘めたひとつの選択を形にするため坂口照星が、静かに呟いた。 「我々は赦されますか?」 たった一言、そして返して二言。 「私達が赦されるのなら、もしかしたらね」 それが、この首脳会談とも言えるかもしれない、ただひとつのやり取りであった。殺り殺らぬ、願いにも似た言葉の受け答え。目撃した者は少なく、全てを証言できる者もまた少ない。 二人はそれ以上なにも交わすことはなかった。言葉も、そして刃も。戦士とホムンクルスが、互いに何もせず、ただすれ違う異景。 この時、坂口照星の胸にあった将来の展望は、ヴィクトリア・パワードがツムラトキコに残した希望によって具体案となり、決行にと移される。ホムンクルスの再人間化を目指す未来へ。 坂口照星とすれ違ったヴィクトリアはそのまま歩みを止めることなく、まっすぐ学院の外へ向けて足を進めた。こうしてヴィクトリア・パワードは自身が抱いた全ての戦争行為を終結させ、背中に背負った未来を人間に託す。誇りと命ひとつを携えて、一人ニュートンアップル女学院を後に凛と威風堂々と煌々と、世界へ。 この場に居合わせた全ての戦士たちは、この戦争をたった1人で闘いきった少女に自然と姿勢を正し敬意を払っていた。さぁ、誇り高き戦士のお帰りだ。仰げ尊し美しきこの世界を。今が、巣立ちの時。 さよならも言わず、別れも告げず。いつかの再会の約束もないままに。 どうかこれがよい別れとならんことを。 こうして夜に終止符が打たれるときは近づき、明け方が今まさに。 かくて世界はあなたが望んだ空の色を取り戻していく。 あなたにとって、赤とは何色だろうか。 それは滴り落ちる血の色か。ところであなたの血は何色ですか? それは街を焼く業火の色か。ところで夕焼けの空は何色ですか? あなたの血潮が太陽の熱を帯びたことはありますか。 真紅の色が、誓いと喩えられるように。 血の通わぬ誓いに優しい温もりがないように。 人が優しい温もりを求めて家に帰るように。 きっと、誓いこそがあなたの帰る場所。 約束の場所が、誓い。 あなたの世界はどこにありますか。 あなたの街はどこにありますか。 あなたの家はあなたを待ってくれていますか。 この物語は、ただの袋小路の物語。 道を外れた人が道に迷った人が、その足跡が静かな月夜の道のり。 ただちょっとだけ遠回りな、未来への帰り道。 だから。 帰ろう、帰るべき場所へ。 夜明けの朝に、遅れてきた未来に。 そして伝えたい気持ち。 語られることのなかったらあの言葉。 あのお迎えの言葉を。 ピリオドの先の未来へ繋がると願って。 さあ! これから送る結末は、ヴィクトリア・パワードがあなたへ贈る物語。 戦争の決着の場にヴィクトリアの姿は無かったが、彼女がいなければ、あらゆる意味でこの物語は有り得無かった。 世の中には、確かに作り手が舞台に上がる物語もある。 だが決して、作り手はクライマックスを飾ることをしない。してはいけない。 だから、ヴィクトリアは引き際をわきまえて、静かに物語から離れていく。 ホシアカリは照らした未来。 愛すべき人たちを。そして津村斗貴子を。さあ、最後の決戦へ。導きいざなうのは、そう。男爵様が相応しいだろう。舞台は最終決戦へ。こうして戦士が、集う。 「さて!」 坂口照星が振り返った勢いで翻ったマントが、パンッと空気を張り裂く音を立てる。その音でまた少し、戦士たちが顔をあげた。 「行きますよ、戦士たち。この戦争を終わらせるための戦場へ」 この場にいた全ての戦士が静かに瞳で返事をする。そして津村斗貴子は、ヴィクトリアの核鉄を強く握りしめた。その様子全てにまた勇気をもらって。坂口照星がひときわ大きな魂で、渾身の叫び! さぁ物語に幕を下ろすため、男爵様と柔らかく冷たい朝を呼びに行こう。 「武装錬金!!」 威風堂々たる男爵様の君臨。 これまで、男爵様は物語の終わりを告げる絶望の象徴だったかもしれない。だが、このときの男爵様は確実に、絶望を打ち砕く希望そのものだった。 これはこの星を照らす戦士にならんがための戦いの歌。 今、幕が降りる時間へ。 カーテンコール。 (第50話「Go to end」へ続く) 千歳が提案した、照星部隊の再結成。 既に戦場には火渡と防人と千歳の3人は集結していた。だが、照星部隊その3人のみによって構成されている部隊ではない。 部隊と名の付く以上は、指導者が必然として存在する必要がある。 彼の名を冠する部隊であるならば、そこに求められる名前は1人だけ。つまり照星の名を持つ者。そして、彼はあらゆる部下をお気に入りと言ってのける器を持つ。今や大戦士長となりし彼の部下は、もはや千歳たち三人だけを指す言葉ではない。 全ての戦士たちが、照らす星の名に集う。 これはこの星を照らす戦士にならんがための戦いの歌。 web拍手 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/gods/pages/115873.html
ゲオルクヴィルヘルムカールヴィクトル(ゲオルク・ヴィルヘルム・カール・ヴィクトル) ドイツのヴァルデック侯の系譜に登場する人物。 関連: フリードリヒアドルフヘルマン (フリードリヒ・アドルフ・ヘルマン、父) バティルディスツーシャウムブルクリッペ (バティルディス・ツー・シャウムブルク=リッペ、母) インゲボルクフォンプラーテンハラームント (インゲボルク・フォン・プラーテン=ハラームント、妻)
https://w.atwiki.jp/gods/pages/111138.html
フリードリヒフェルディナントフォンシュレースヴィヒホルシュタインゾンダーブルクグリュックスブルク(フリードリヒ・フェルディナント・フォン・シュレースヴィヒ=ホルシュタイン=ゾンダーブルク=グリュックスブルク) デンマークのシュレースヴィヒ=ホルシュタイン=ゾンダーブルク=グリュックスブルク公の一。 グリュックスブルク公、シュレースヴィヒ=ホルシュタイン公。 関連: フリードリヒフォンシュレースヴィヒホルシュタインゾンダーブルクグリュックスブルク (フリードリヒ・フォン・シュレースヴィヒ=ホルシュタイン=ゾンダーブルク=グリュックスブルク、父) アーデルハイトツーシャウムブルクリッペ (アーデルハイト・ツー・シャウムブルク=リッペ、母) カロリーネマティルデフォンシュレースヴィヒホルシュタインゾンダーブルクアウグステンブルク (カロリーネ・マティルデ・フォン・シュレースヴィヒ=ホルシュタイン=ゾンダーブルク=アウグステンブルク、妻) ヴィクトリアアーデルハイトフォンシュレースヴィヒホルシュタインゾンダーブルクグリュックスブルク (ヴィクトリア・アーデルハイト・フォン・シュレースヴィヒ=ホルシュタイン=ゾンダーブルク=グリュックスブルク、娘) アレクサンドラヴィクトリアフォンシュレースヴィヒホルシュタインゾンダーブルクグリュックスブルク (アレクサンドラ・ヴィクトリア・フォン・シュレースヴィヒ=ホルシュタイン=ゾンダーブルク=グリュックスブルク、娘) ヘレーネアーデルハイトフォンシュレースヴィヒホルシュタインゾンダーブルクグリュックスブルク (ヘレーネ・アーデルハイト・フォン・シュレースヴィヒ=ホルシュタイン=ゾンダーブルク=グリュックスブルク、娘) アーデルハイトルイーゼフォンシュレースヴィヒホルシュタインゾンダーブルクグリュックスブルク (アーデルハイト・ルイーゼ・フォン・シュレースヴィヒ=ホルシュタイン=ゾンダーブルク=グリュックスブルク、娘) ヴィルヘルムフリードリヒツーシュレースヴィヒホルシュタイン (ヴィルヘルム・フリードリヒ・ツー・シュレースヴィヒ=ホルシュタイン、息子) カロリーネマティルデフォンシュレースヴィヒホルシュタインゾンダーブルクグリュックスブルク (カロリーネ・マティルデ・フォン・シュレースヴィヒ=ホルシュタイン=ゾンダーブルク=グリュックスブルク、娘) 別名: フレゼリクフェルディナンアスレースヴィホルステンセナーボーグリュクスボー (フレゼリク・フェルディナン・ア・スレースヴィ・ホルステン=セナーボー=グリュクスボー)
https://w.atwiki.jp/gods/pages/117219.html
ヴィクトルフェルディナントフランツ(ヴィクトル・フェルディナント・フランツ) ヴィクトルツーホーエンローエランゲンブルクの別名。