約 83,017 件
https://w.atwiki.jp/gods/pages/82488.html
クレピニヤン クリスピニアヌスの別名。
https://w.atwiki.jp/i_am_a_yandere/pages/2415.html
44 :ヤンデレの娘さん 朱里の巻 part.5 ◆yepl2GEIow:2011/10/14(金) 20 30 53 ID IF2Ju81M 4年前 「ねぇ、絆って何なんだろう」 「前にも言っただろ、実在しない夢さ、ただの下らない夢」 「けれど、人は夢を見ずにはいられなくて」 「利巧とは思えないね。夢は破れるもの。太陽目指して飛ぶだなんて蛮勇で死んだイカロスの昔話、知ってるでしょ?」 「蝋の羽のギリシャ神話」 「そう」 「夢が破れるのは、怖いよね」 「ま、自ら進んで体験したい結果では無いけれどね」 「それでも、何で人は夢を、絆を求めるんだろう」 「それは、きっと……」 45 :ヤンデレの娘さん 朱里の巻 part.5 ◆yepl2GEIow:2011/10/14(金) 20 31 13 ID IF2Ju81M 現在 俺が考えているのは、きっと最良の手段では無い。 むしろ、最悪の手段だ。 誰一人として幸福にならない、むしろ確実に俺達4人が揃って不幸になる。 そんな、たった1つのさえ無いやり方だ。 けれども、例え不幸になったとしても。 例え友を不幸にしても。 それでも伝えたいことが、あるから。 問いかけたい、ことがあるから。 どうにかしたい、ことがあるから。 だから、俺は俺を止める。 俺を止めて、敵になる。 『主人公(ヒーロー)』と戦い、倒されるために。 旧高級マンション『パレス・アテネ』 現廃屋 埃っぽく、無機質な建物の中、永遠と思えるほど延々と続く螺旋階段を、正樹と葉山は昇り続ける。 「これで建物の大半は探したな。高層マンションとして作られただけあって、さすがに一苦労だぜ」 「そだねー!」 多少グッタリしたような正樹に対して、朱里は踊るように階段を昇る。 ステップを踏むたびに、制服の黒いスカートがヒラヒラと舞う。 「……っつても、収穫はデカかったけどな」 「へ?」 確信の感じられる正樹の言葉に振り返る朱里。 「ホラ、ココって無人の建物のクセして、1階の辺りとか、局所的に俺らのと違う足跡があったり、ピンポイントでキレーだったりしてただろ?」 「って言うと?」 「最近、ココに出入りしてる誰かがいるってことだろ。ソレがみかみん達なのか、それとも何の関係も無い、ただのホームレスか誰かなのかまではわかんねーがな」 「いや~、とんだところに名探偵も居たもんだ!」 「こんなの推理でも何でもねーよ。ホームズ探偵なら出入りしている奴の身長体重出身地まで言い当ててる所だぜ」 「それじゃ、誰かがいるかもしれないね。―――これから探す、最上階に」 螺旋階段の上を見上げ、朱里は言った。 「まーた1部屋1部屋覗くことになるのかと思うとゲンナリするけどな」 「あ、それは無いよ!」 ヒラヒラと手を振る朱里。 「このマンションの最上階は『ロンドフロア』って言って、フロア丸々1つが1世帯分になってるんだってー!1家族が1フロア広々独占できるってわけ!元々はそれを売りにする予定だったらしいよ!」 「高級ホテルみてーなモンか。つっても、ンな部屋買う位なら、俺なら一戸建ての家にしてーけどな」 「あっはー!なら、どちらにせよこのマンションはお先真っ暗だったって訳かー!」 私に似てる、と朱里が小さく続けたのを、聞く者はいなかった。 「……ま、何ともいえねーけどな、俺の庶民感覚だし」 「でも、それがこうして日の目を見る、っていうか人目を見たのは良いことだったのかもねー!」 「……さぁ、な」 そんなことを話しているうちに、2人は螺旋階段を昇り切った。 「んじゃ、開っけるよー!」 背を向けたまま、そんな風に態々勿体を付けて、朱里はドアを開く。 長年鍵が開け放たれていた他の部屋と違い、こっそりと朱里がカードキーをスライドさせたことに、正樹は気が付かない。 「さ、入って入ってー!」 「……」 自分の部屋みたいに言うなよ、と言いたいが言うことができない正樹。 迂闊な一言でどんな目に会うか分からない。 彼は、朱里のことが怖いのだ。 正樹が『ロンドフロア』に足を踏み入れると、ドアをしめる朱里。 「……キレーだ」 「アタシが!?」 「……つーか、部屋が」 彼の言う通り、埃まみれで汚れていた他の階と異なり、ここだけは奇妙なほどに綺麗に掃除されていた。 「そりゃあ、勿論」 えへん虫、と朱里は何故か胸を張り、 「私とまーちゃんの愛の巣になる場所だもん!」 と言った。 その意味を理解するのに、9.8秒かかった。 それが、正樹の絶望までのタイムだった。 46 :ヤンデレの娘さん 朱里の巻 part.5 ◆yepl2GEIow:2011/10/14(金) 20 31 59 ID IF2Ju81M 「……は?」 自分でも滑稽に思うほど間抜けな声が、正樹の口から洩れた。 「……まさか、お前。最初っから俺をココに呼ぶつもりで……?」 「ピンポーン!やっぱ、まーちゃん才能あるよ、名探偵の!……それで、何で今までアタシの気持ち分かってくれなかったのかなぁ」 朱里の声にどこか寂しげな、しかし威圧的な音が混じる。 「ひっ……!?」 思わずきびすを返し、ドアノブに手をかける正樹。 しかし、どれだけ力を込めてもドアが開くことは無く、ただがちゃがちゃという音を立てるだけだった。 「あー、駄目だよ駄目駄目全然駄目。外も中もオートロックに改造してもらったからね!」 がちゃ、がちゃがちゃがちゃ 「正直、さ。今まで参ってたんだよね。どれだけ話しかけても何をやっても、まーちゃんアタシのこと避けて、御神千里の影に隠れてるんだもん!」 がちゃがちゃがちゃがちゃがちゃがちゃがちゃがちゃ 「ウン、言わなくても分かるよ、照れてるだけだよね!でも、乙女は我慢弱いんだよね。だから、まーちゃんここに来てもらったの!強引にでも私のになってもらうために、ね」 がちゃがちゃがちゃがちゃがちゃがちゃがちゃがちゃがちゃがちゃがちゃがちゃがちゃがちゃがちゃがちゃがちゃがちゃがちゃ 「あ、大丈夫だよ!ちゃんと御神千里たちはココにいるから!アタシは嘘吐かないもん!でも、まーちゃんが会うことはないだろうけど、ね」 がちゃがちゃがちゃがちゃがちゃがちゃがちゃがちゃがちゃがちゃがちゃがちゃがちゃがちゃがちゃがちゃがちゃがちゃがちゃがちゃがちゃが―――― 「ねぇ、さっきから話しかけてるのに何後ろ向いてるの?」 ドアノブを一心不乱に回し続けていた正樹の手を強引に取る朱里。 「ちゃんと、目を見て話そう、よ!」 そして、強引に振り向かせ、正樹の体をドアに押し付ける。 「う……あ……」 拒否権を認めない朱里の視線に、うめき声を上げるしかない正樹。 「そんなに怖がんないでよ、怖いことなんて何も無いんだからさ」 ス、と朱里の細い手が正樹の頬を撫で、首筋から襟元を伝い、ワイシャツのボタンにその指がかかる。 「愛してるよ、まーちゃん」 そう朱里が囁きかけた瞬間。 轟音が響いた。 47 :ヤンデレの娘さん 朱里の巻 part.5 ◆yepl2GEIow:2011/10/14(金) 20 32 33 ID IF2Ju81M ガッシャーンと何かが砕けるような派手な音と共に、バタンと乱暴にドアが開かれる音。 誰が開いたのか、正樹はすぐに知ることになった。 「みっきー!?」 こちらの方に走り寄ってくる相手、緋月三日に向かって朱里が驚いたような声を上げる。 それも道理だろう。 彼女の衣服は裸同然に乱れ引き裂かれ、肌にはいくつもの切り傷や殴られた跡があり、何より目には涙を浮かべ、顔は恐怖にひきつっている。 「ちょ、おま、出てくるなって言ったでしょ。って言うか何が……」 「助けて!!」 朱里の言葉を遮り、三日は彼女の胸に顔を埋めて叫んだ。 「助けてください、朱里ちゃん!!」 「え?ちょっとどういうこと!?」 尋常ならざる三日の態度に、さしもの朱里も狼狽する。 同じく正樹も困惑しながらも、朱里がこう言う『普通っぽい』リアクションを取ったことに、心のどこかで場違いな安堵を覚えた。 それよりも、と正樹は考えを切り替える。 三日の姿は、あまりにも痛々しかった。 これではまるで――― 「…助けてください、朱里ちゃん。…助けて。…あの人から」 「何があったってぇのよ一体!?」 聞き返す朱里の頬にも冷や汗がつたっているのが見える。 なぜなら、三日の姿はまるで―――暴行の後そのものだったから。 「何があったの!?何をされたの!?」 恐らくは半ば答えを予想しながらも、朱里は叫ぶ。 「…言えません。…言えないんです。…女の子として。…言えない位、本当に酷いことを。…本当に酷い、裏切りを。…あれは、あれではまるで……」 「よぉ」 三日は、最後まで言葉を続けることは出来なかった。 「…ひ!?」 彼女の後ろに、もう1人の影が現れたから。 「…ひあああああああああああああああああああああああああああああああ!?」 奇声を上げて、部屋の隅へと逃げる三日。 「まったく冷たいモンだねー。今さっきまでよろしくやってた相手に向かってさー。ま、どうでもいーけどー」 そう気だるげに語るのは、正樹と同じ夜照学園高等部男子制服を半裸同然に着崩した、長身の少年、御神千里。 しかし、その手にはナイフが握られ、見慣れたはずのその表情(カオ)には笑み1つ浮かばず、睨みつけるような鋭い目つきをしていた。 「……みかみん?お前、みかみんだよな?」 鋭利な眼付の少年に向かって、葉山は恐る恐る呼びかけた。 「やっほー、はやまん。お久しぶり。ココ悪党ばっかだねー。俺も含めて、さー」 手の中のナイフを弄びながら、そう言ってわらった御神千里は、まるで全てを見下すように歪に嗤った。 48 :ヤンデレの娘さん 朱里の巻 part.5 ◆yepl2GEIow:2011/10/14(金) 20 33 08 ID IF2Ju81M 「アンタ……」 相手を斬り捨てんばかりに剣呑な目つきを千里に向ける朱里。 「あの娘に何したのよ……!?」 部屋の隅で震える三日の代わりとばかりに叫ぶ朱里。 「ナニしたのってのは、これまた最高で最良で最上級の問い方だねー。ま、勿論―――」 ナイフをヒラヒラと振りながら、ニィと笑みを深くする千里。 「お前の想像通りのことと、それよりもっと酷いことに決まってるわけだけどねー」 千里の言葉を受けた朱里の瞳が驚愕で見開かれる。 「御神……」 いつの間にか朱里の手に握られたスタンガンがバチバチという音を立てる。 「千里いいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい……!!!!!」 怒りにまかせ、千里に向かって、朱里は一直線に飛びかかる! しかし、 「よ、っと」 スタンガンが千里に触れる直前、朱里の体が回転する。 「がは!?」 フローリングの床に背中から叩きつけられる朱里。 スタンガンを持って真っ直ぐに伸ばされた腕から、朱里を千里がものの見事に投げ飛ばしたことに、一番最初に気が付いたのは正樹だった。 「あー、やーっぱり」 床の上の朱里を見下し、鋭い目つきで千里は言った。 「お前、弱いだろ。ナイフなんざ、使うまでも無い位」 そう言って無造作に手の中のナイフを放り捨てる千里。 「アンタ!!」 侮辱するような言葉に、スタンガンを持って跳ね起きる朱里だったが、結果は先ほどと同く床に叩きつけられるだけだった。 「ああ、いや。弱いと言うと少し違うか。場慣れしてないし喧嘩慣れしてないのか。殴られたことはあっても殴ったことはないとか。それをお前も分かっていたから、俺をさらった時は事前準備をしていた訳なんだろうけど、何なのさ、今の体たらくは?」 「ゆう……かい?」 千里の台詞に怪訝な顔をする正樹。 「そ、ゆーかい。愉快じゃなくてねー。コイツら、お前を連れ出すためだけに俺をボコッてこんな所に無理矢理連れてきたんだぜ?酷い話だよなー」 何でも無いことのような口調で千里は言った。 「だから……か?」 「あ?」 「そいつらに酷い目に遭わされたから、仕返しにこんな酷いことをしてンのか?」 「こんな酷いこと?」 正樹の言葉に、きょとんとしたような顔をして、周囲を見渡す千里。 「ああ、違う違う。そーゆーんじゃないんだわ。この誘拐はきっかけではあるけど理由じゃ無い」 「じゃあ、何で……?」 「分かったから」 全てを見下すような、酷薄な嘲笑を浮かべ、千里は即答した。 「コイツらは、もう『駒』として使えないってことが」 千里が何を言っているのか、正樹には一瞬分からなかった。 「こ、『駒』?」 「そ、友達役という『駒』。俺が学園生活を平穏無事に居心地良く過ごすために利用する『駒』。でも、こんな目に遭わされる『駒』は要らないしねー」 からからと嗤う千里。 その姿は、どこか朱里に似ていたが―――朱里よりももっと酷くて非道だった。 「みかみん……お前、正気かよ?」 「正気だよー。正気で本気で合理的に、当り前に他人を利用して、使えなくなったら処分してるだけー」 「処分……?」 「欲望と暴力でー、人間としてー、再起不能にするってことー。ホラ、俺ってキチンと潰してから捨てるタイプだし、ペットボトルも人間も」 わけが分からない。 意味が分からない。 何もかもが分からない。 つい数日前まで、あれほど正樹に親身になってくれた人間が、まるで人間をモノのように扱うなんて。 「何で……どうして……変わっちまったんだよ!?」 困惑と驚愕とどうしようもないもどかしさを、正樹は千里にぶつける。 「変わったって。いやいや、元からだよ」 正樹を見下して、千里は言う。 「元から俺は人間なんか信じちゃいない。お前のことも、ソイツらのことも。誰一人信じちゃいない。お前と初めて会った中等部の頃と、根っこの部分は欠片も変わっちゃいない」 正樹が初めてであった頃の千里。 悲しいまでに孤独なのに、頑なに他人を拒絶していた少年。 「いや、まぁ、他人の『使い方』って奴は覚えたかなー。てきとーに付き合って、てきとーに馴れ合って、てきとーに利用する。使ってみると意外と便利なモンだね、他人ってさ」 あまりにもあっさりと言い放たれる言葉に、二の句を告げない正樹。 49 :ヤンデレの娘さん 朱里の巻 part.5 ◆yepl2GEIow:2011/10/14(金) 20 34 24 ID IF2Ju81M 「……ざけるな」 床の上から、声が聞こえる。 「ふざけるなあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」 朱里が再度、床の上から跳ね起き、スタンガンを振り回す! 「るせぇよ」 振りあげられた腕を取ろうとする千里に、朱里は鋭い蹴りを放つ。 入った! 「とでも、思ったー?」 振りあげられた片足を受け止め、千里はたった一本で朱里の身体を支えるもう片方の脚を払う! 「がは!?」 再度床に叩きつけられる朱里。 「いー加減、落ちろよ」 その蹴り足に、千里は腕を絡めてあり得ない方向に締めあげる! 朱里の脚から、ごきり、という嫌な音が聞こえた気がした。 「……!!」 声が出そうになるのを反射的に抑える朱里。 「へー。悲鳴を上げないんだ、偉い偉い」 そう言って、極めていた朱里の脚を無造作に手放す千里。 そして、その脚の膝関節の上に自分の足を乗せる。 「やっぱ、脚とか潰されたら選手生命絶たれるのかな、水泳って」 そう言って、千里はグッと足に体重を乗せた。 「ぃたあああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」 断末魔の如き悲鳴を上げる朱里に、思わず目をそむける正樹。 「目を逸らすな、刮目しろ」 その言葉は、朱里に向けられたのだろうか、それとも、正樹に向けられたのだろうか。 それとも、誰にも向けられていないのだろうか。 「に、しても馬鹿だよなー、お前も。態々突っかかってくるから余計痛い目見て。何でンなことした訳?」 朱里を見下して、千里は言った。 「……んないわよ」 息も絶え絶えになりながらも、片足を引きずるような有様になりながらも、朱里は何とか立ち上がった。 気力で、想いで、立ち上がった。 「私にも分かんないわよ、そんなこと」 そう言って、再度スタンガンを構え直す。 「でも、でもねぇ!あの娘とはお互い利用し合う為に友達になって!一緒に互いの恋の為に悩んで、泣いて、頑張って!今までそうしてきたから!あの娘のそう言う姿、見てきたから……!」 目に力を込めて、自分を奮い立たせるように朱里は言う。 「どう言う訳か、あの娘の想いを裏切ったあなただけは許せないのよ!!!!!!!!!!!!」 もう一度、無謀な突貫を決める朱里。 「きっかけは互いの利害からだったけれども、一緒にいる時間が重なりすぎて、いつしか大切な物になっていて―――ってことか。それはまた素晴らしく……」 そう言って千里は朱里を迎え討ち、 「下らねぇ」 その攻撃を、その想いを一蹴した。 頭から床にたたきつけられ、激痛で手放したスタンガンは何処かへと転がって行く。 「友情だの、愛情だの、そんなのは目にも見えない不確かな物だろうが。相手の気まぐれ次第で、いつ裏切られるとも知れない、いつ断絶されるとも知れない代物じゃねぇか。そんなもの、所詮は夢幻で、無為で、無意味だ」 床にたたきつけられた朱里を見下し、千里は嘲り笑う。 「だーから、他人なんて打算で利用するのが一番利口だ」 「御神、千里……アンタ……!」 痛みをこらえ、起き上がろうともがく朱里。 「だからさぁ……」 脚を無造作に振りあげる千里。 「いー加減、落ちろっつってるだろー?」 朱里の腹部に、千里は躊躇なく脚を振り下ろす! 「ぎいいいいいいいいいいいいいいやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!」 朱里の悲鳴が部屋中を震わせた。 「まったく、中途、半端に、丈夫だから、嫌なんだよね、スポーツマン、ってのは!」 ゴッ、ゴッと嫌な音が聞こえてきそうな勢いで、一切の情け容赦なく朱里をなぶる千里。 「お、おい……みかみん……」 千里に向かって、恐る恐る声をかける葉山。 「あー、はやまん?」 いたぶる脚を止め、葉山の方に目を向ける千里。 「明石も三日もこのまま壊しちゃうけど、別に良いよね?」 まるで、『弁当にピーマン入れちゃったけど別に良いよね?』というのと同じようなノリで千里は言った。 50 :ヤンデレの娘さん 朱里の巻 part.5 ◆yepl2GEIow:2011/10/14(金) 20 35 00 ID IF2Ju81M 「別に良い……って、いや……」 「あー、まぁ何となくノリで殺しちゃったりしそうだけどさ、それはそれってコトで」 そう言って、ゴッと朱里をなぶる千里。 「いや……」 「って言うかさー、壊しちゃった方が良いよねー、お前的にも。三日は嫌いで、明石は怖いんでしょー?イヤなモンと怖いモンは、あるよりも無い方が良いでしょ?」 確かに、三日にも朱里にも、正樹は何度となく恐ろしい目に遭わされた。 酷い目にも、遭わされた。 だから…… だけど…… でも…… 「たすけて……」 千里に嬲られ続ける朱里の瞳が、正樹に向けられていた。 「たすけて、まーちゃん……」 それは、心からの懇願だった。 17年間共に過ごしてきた幼馴染からの。 「いや、駄目だろ、それ」 はっきりと、正樹は言った。 「あ、そう。まぁ、お前が何言おうが、俺はこいつら壊しちゃうから関係無いんだけどね?」 「させねーよ、ンなこと」 『これまで』を知っているだけに、話すことさえ恐ろしかった、意見することさえ恐ろしかった、対峙することさえ恐ろしかった相手に、正樹は宣言した。 「コイツは、俺が壊させねぇ」 しっかりと立ち上がり、拳を握りしめ、正樹は宣言する。 「そうかい。なら、やってみなよ、葉山(ヒーロー)!」 朱里から脚を離し、千里は正樹に蹴りを繰り出す! 「がぁ!?」 あまりにも躊躇なく繰り出された蹴りを諸に受けた正樹は、広い玄関先から一気に吹き飛ばされ、更に広いリビングと思しきスペースまで吹き飛ばされる。 「ホラホラ、どーしたよ。壊させないんじゃなかったのかー?」 そんな正樹に向かって悠然と近づいてくる千里。 「うっせーよ。武士の情けで、一発だけ受けてやっただけだ」 そう言いながら、靴下を脱ぎ捨て、フローリングの床の上に立つ葉山。 リビングとはいっても、入居者がいないままに倒産したため、物の無い広々とした空間だ。 (まるで、バスケットコートの中だな) 痛みを押さえながら、場違いな感想を抱く正樹。 けれども、バスケットコートならば、バスケ部である正樹のテリトリーだ。 やりようは、ある。 「一応言っとくけど、『話し合いで解決しよう』なんてバカな事考えてないだろーね?話し合いほど相手の意見と心を折るのに非効率的な手段は無いよ?」 リビングに足を踏み入れ、嘲笑を浮かべながら千里は言った。 「分ぁってるって」 千里に応じ、アクション映画のようにクイクイと挑発的に手招きをする正樹。 「来いよ」 その仕草に、千里は鮫のように狂悪な笑みを浮かべる。 「じゃ、遠慮なく」 と、言い終わるよりも早く、ドン、と正樹の間合いまで踏み込み、身体の大きさを活かした豪快な蹴りを見舞う千里。 しかし、その蹴りは空振りに終わる。 「そら!」 蹴りの瞬間、がら空きになったわき腹に、正樹の拳が叩きこまれる! 「っつ!?」 思いもよらぬ反撃に、軽く距離を取る千里。 「と、と、と。驚いたなー、別に喧嘩に強い設定無かったろ、お前」 「お前にだけは言われたくねーし、ンな設定も生えてねーよ。バスケの動きの応用しただけだ」 「確かに、お前からボール捕れた試し無いからねー」 「ボールが取れねー奴が攻撃いれられっかよって話だ」 コートの中の正樹は、とても機敏な動きが出来る。 それを闘いに使えば、蹴りを空振らせ、隙を作るのは容易だ。 機敏な動きで相手を翻弄し、攻撃(ポイント)を入れる。 それなら、正樹の得意分野だった。 「まさか、バトル展開の役に立つとは思わなかったけどな」 加えて、今までの千里の戦い方は基本的に受け身だった。 あくまでも、相手に仕掛けられてからリアクションを取り、ダメージを与えていた。 先ほどのように自分から仕掛ける戦い方は、むしろ不得手! 「同感。でもさ……」 再度、千里は距離を詰め、膝蹴りを放つ。 そして、正樹はそれをギリギリのラインで避け、拳打を入れる。 しかし。 51 :ヤンデレの娘さん 朱里の巻 part.5 ◆yepl2GEIow:2011/10/14(金) 20 35 39 ID IF2Ju81M 「全っ然痛くないんだわ」 正樹の拳は、千里に片手で受け止められていた。 「何でか、分かる!?」 問いかけながら、正樹の頬に拳を叩きこむ千里。 「知るか!大体こちとら人殴ったことだって……」 「そう言うことじゃ、無いんだ、よ!!」 反対の頬をぶん殴る千里。 「軽いんだよ!お前の拳が!それに、拳に乗ってる想いがさぁ!!」 「想い!?」 殴り返しながら聞き返す正樹。 「そう!俺は俺のエゴの為に闘ってる!殴ってる!でもお前はどうだ!?所詮ただ一時の同情心に流されてるだけだろう!?」 「同情……?」 千里の拳にカウンター気味にパンチを振るいながら、正樹は言う。 「そうだ!どうせ、殴られる明石に同情心を煽られたんだろう?俺が手を引きゃ、また怖がって避けて癖にさ!!」 「ちが……」 「だったら何だ!」 正樹を殴りつけ、千里が叫ぶ。 「何だ何だ何なんだ!?お前にとって、『明石朱里』ってのは!?体張ってまで守る価値のあるモンなのか!?」 正樹の拳を受けながらも、叫びと共に千里は拳を振るい続ける。 「答えろよ!答えてみろよ!葉山正樹!お前にとって明石はどんな存在なんだ!?」 千里の想いの全てが乗せられた、文字通り渾身ならぬ渾心の一撃。 ―――お前も仲良くするのだ~!――― 千里のアッパーを顎に受け止め、吹き飛ばされながらも、正樹は思う。 ―――正樹のバカー!――― 朱里のことを。 ―――『縁日マスターのまーちゃん』と言われただけはあるね!!――― 朱里との思い出を。 ―――ねぇ正樹、アレやろ!じゃなくてたこ焼き買お!――― 朱里への想いを。 ―――じゃあ二択!――― どうして今まで忘れていたのだろう。 ―――まーちゃん――― 朱里との楽しい日々を。 ―――正樹――― 朱里との、かけがえの無い日々を。 ―――正樹!――― だから、自分にとって、明石朱里とは――― 「……幼馴染だよ」 フローリングの床に叩きつけられながらも、正樹ははっきりと答えた。 「家族を除けばどこの誰よりも長い時間を過ごした、家族よりもどこの誰よりも大事で大好きな幼馴染だよ!」 床の上にしっかりと立ち上がり、正樹は叫んだ。 「それで文句あっか!!」 正樹は渾身で渾心の一撃を、千里に見舞う! その一撃を、想いを受け止め、千里は膝をついた。 「答え出すのが遅ぇんだよ、馬鹿野郎」 「悪ぃ……」 千里の表情は良く見えなかったが、正樹には彼が満足げな笑みを浮かべているように思えた。 52 :ヤンデレの娘さん 朱里の巻 part.5 ◆yepl2GEIow:2011/10/14(金) 20 35 55 ID IF2Ju81M その光景を見ていた者があった。 それは、痛みをこらえ、ゆらゆらとリビングに脚を運んでいた明石朱里だった。 その手には、どこかに転がったスタンガンに代わり、千里の持っていたナイフが握られている。 「……御神、千里いいいいいいいいいいいいいい!!」 膝を付き、隙だらけになった彼の背中にナイフを突きたてる朱里。 「……あ」 グラリと倒れる千里。 「千里くん!?」 今まで蹲っていた三日の悲鳴が響く。 「あは、あはははは……やった。やってやったわ……。これでみっきーの仇は討った……。糞野郎の御神千里はいなくなったわ……」 ナイフを片手に、虚ろな笑みを浮かべる朱里。 「千里くん!!千里くん!!しっかりして下さい!!」 ボロボロの筈なのに、随分と元気そうに走り寄った三日が、心底心配そうに千里の体を揺する。 「……ゴメン、三日」 擦れ声で、千里が口を動かす。 「俺、ピンピンしてる」 千里の言葉に、場が凍った。 「「「え?」」」 思わず、3人の声が、と言うよりも感想が一致する。 「って言うか、あんなナイフで死ぬわけ、無いし……」 グッタリした声ではあるが、はっきりとそう言う千里。 「でも、アタシは確かにこの手でグッサリと……」 朱里はそう言いかけて、千里の背中と、『自分の手の中に残った』『返り血一つない』ナイフを見比べる。 千里の背中には刺し傷1つ付いていないし、朱里の持ったナイフは……。 「もしかして……」 恐る恐るナイフの先端に指を押し付けると、刃が柄の中に収納されていく。 ばね仕掛けで。 まるで、一昔前の駄菓子屋で売っていた玩具のナイフのように。 と、いうより…… 「これって……マジで玩具?」 「……」 「…」 2人揃って目をそらす千里と三日。 露骨に怪しかったので、朱里は三日の腕を取った。 「…痛!?」 とは言う物の、傷だらけに見えた腕をゴシゴシとこすると、『血』の跡は滲んで消える。 どう見てもメイクです本当にありがとうございました。 「オイ、みかみん……」 「どーゆーことなのか、説明してくれないかしら?」 正樹と朱里が2人をジト目で見やる。 「「(…)ごめんなさい」」 2人の謝罪の声が見事に唱和した。 53 :ヤンデレの娘さん 朱里の巻 part.5 ◆yepl2GEIow:2011/10/14(金) 20 38 25 ID IF2Ju81M 「…説明する前に、状況を整理しましょう」 「いや、何我が物顔で仕切ってんのよ」 事前に準備した救急箱で治療を受けながら、朱里はツッコミを入れた。 「いや、お前もナチュラルにツッコミ入れるなよー、誘拐犯。誘拐は犯罪なんだぞ忘れるな」 「それを言ったら女の子殴るのはどうなのよ」 「男女平等パンチ」 「お前ら、話し逸らしてんじゃねぇよ、って言うか責任なすりつけ合ってんじゃねぇよ」 「「他人事みたいに言うな!」」 久し振りに自然に出た葉山正樹のツッコミに、明石朱里と御神千里……もとい俺の声が唱和した。 「まったく、そんなだから明石が外道に堕ちちまったんだよな、そこだけは同情するよ」 「アンタの同情はいらない」 嘆息する千里に冷たい言葉をかぶせる明石。 ちなみに、彼女に包帯を巻くのは、着替えを終えた三日の役目だ。 何せ、この面子で一番元気なのがこの娘なんだもの。 本当に酷い目に遭っていたりはしないので、ご安心を。 「…改めまして葉山くん向けに説明すると、朱里ちゃんと私が、あなたを閉じ込めるために、撒き餌として千里くんをここに閉じ込めました。…ここまでは本当のことです」 ごめんなさい、と葉山に向かって素直に頭を下げる三日。 冷静になって、思うところがあったのだろう。 「だろうなぁ……」 つい、と三日の謝罪空しく女子組から一歩距離を取る葉山。 「コイツらのことは、まぁ許してやってくれないか。全ては明石がお前のこと大好きなのが空回っただけなんだから。俺の方も、今は何とも思って無いし。今は」 俺の言葉に、気まずそうに顔を赤くする明石。 「まぁ、ボコられて助けを求められる位だし、な」 同じく葉山。 「俺が言うのも難だけど、あの場にお前がいなくても、明石はお前に助けを求めてたはずだぜ?あー、沁みる」 フローリングの床に身体を横たえたまま、自分で自分の消毒をしつつ、俺は言った。 ここ数日、椅子に拘束されてた所に、全力を尽くして殴り合いをしたからな。 もう体力なんて欠片も残っていないや。 「で、結局何でみかみんと緋月はこんな猿芝居を打ったんだよ」 葉山の言う通り、そこから先は俺と三日のお芝居だ。 「猿芝居とは失礼な。これでも短い時間で頑張って練習したんだよ?」 何しろ、『2人の敵になる』と決意したのが、今日のお昼だったからなぁ。 それから、大急ぎで演技プランを組み立てて、玩具のナイフや三日のボロボロのメイクといった、諸々の準備を整えてだもの。 いやぁ、焦った焦った。 もっとも、準備が整ってからは2人が来るのを今か今かと待ち構えて、遅い!とか言ってたわけだけれど。 「お前たち、全然互いの本音をぶつけようとしないからな。心身をギリギリの所まで追いつめないと、本音が引き出せないでしょ?」 「その為に悪堕ち、っつーか『実は悪人だった』って振りをしたってのか?」 俺の言葉に、難しい顔で葉山が聞き返す。 慣れない頭脳労働で、状況を理解しようと、と言うより俺達と分かり合おうとしているのだろう。 演技とは言え、あんなことをした俺と分かり合おうと歩み寄ってくれる姿勢が俺は嬉しかった。 「悪人、って言うか誰かさん達の似姿だね」 俺の言葉に気まずいそうな顔をする明石。 「似姿って言っても、本物さんにはその更に奥に、本人も知らない本音が隠されていたようだけれど」 ますます気まずそうな顔をする明石。 もっとも、正直これは賭けの1つではあった。 明石が、クサレ外道にボロボロにされた三日の姿を見て何とも思わないような奴だったら、2人の友情は本当に終わっていただろう。 もう1つの賭けは、葉山が自分の気持ちを確認できるかどうか。 もし最後の最後までヘタレたままだったら、この場から追い出すつもりだった。 「ま、そう言う訳で、そう言うコンセプトで、俺がお前たちの敵になって、お前らを心身ともに追いつめるっていうドッキリを仕掛けさせてもらった訳。あ、三日は俺の外道ぶりをアピールする被害者役ね。その為に、ちょい薬局でそれっぽいメイク用品揃えてもらいました」 「本当に演技?本当にドッキリ?」 「あれぐらいやらないと、心折れないでしょ?」 しれっと言った俺の言葉に、ヒッと小さく悲鳴を上げる明石。 54 :ヤンデレの娘さん 朱里の巻 part.5 ◆yepl2GEIow:2011/10/14(金) 20 39 32 ID IF2Ju81M 「やっぱりアンタおかしいわよ!イカれてるわよ!知り合いをボコるのに躊躇が無さ過ぎ!!」 葉山の影に隠れてガタガタと震える明石。 「暴力は誰かの意見と心を折るのに最も手っ取り早い手段だからねぇ」 「ホンモノだー!」 と、ギャグっぽく言ってる物の、かなり本気で怖がっているらしい明石。 葉山も軽く、というよりかなり引いているようだ。 まぁ、俺もかなり本気だったし、最悪の場合、俺は明石を一方的にいたぶり続けて、最後には三日に対する脅迫を取り下げさせる方向も考えていたから妥当なリアクションではある。 「…そうやって、『ヤンデレた朱里ちゃん以上にイカれた相手を演じることで、相対的に朱里ちゃんの狂気性を低く見せる』のもこのお芝居の目的です」 「……」 えー、三日、そこまでぶっちゃけちゃう? 「ま、まぁ、アレだねー。はやまんの明石への評価を無理矢理フラットな所まで持って行ってから、はやまんの本音を聞きたかったと言うか?聞かせたかったと言うか?そのまま俺は少年漫画の悪役よろしく、葉山に乗り越えられれば万々歳って感じ?」 俺はそう一気に意図を捲し立てた。 ここまで行ったら開き直って全部ゲロるしかないわ。 「で、最後はこうやって『ドッキリでした』って言うつもりだった訳?それだと、色々台無しじゃ無い?」 痛いところを突いてくる明石。 「台無しになったんだよ、実際、こうして」 渋い顔をしながらも俺は答えた。 「…『この真相は墓の中まで持っていく』って言ってましたものね、千里くん」 うん、だからそこまでぶっちゃけないでくれ、三日。 「じゃあ何か、みかみん?お前あのまま一生涯外道キャラを通すつもりだったのか?」 葉山の目が据わってる。 「……少なくとも、俺とお前の友情はこれっきりだろうと思っていたよ」 「……なんで」 包帯を巻く手を止め、俺の胸倉を掴み起こす葉山。 「なんでそこまでするんだよ!!こうしてギャグですませられたから良かったようなモンだけど!!下手したら本当に俺はお前のことずっとケーベツしてたんだぞ!!なのに、何で!!」 「倒れてる奴の胸倉掴むなよ、はやまん。まだ色々痛いし。これでも」 「……悪い」 そう言って、優しく手を離す葉山。 「でもさ、そうでもしないと、一生後悔するかもって思って。俺も、三日も、お前も、それに、明石も」 「……」 「絆を求めて、想いを求めて。その為に、みんな空回って、みんなすれ違って、みんな頑張って……。その頑張りが報われなきゃ、あんまりでしょ?」 絆も想いも目には見えない。 それは、きっと夢幻(ユメ)に似ている。 けれど、夢を見ずにはいられなくて。 「ゆめは、叶って欲しいからね」 それは、明石だけでなく、彼女との友情の回復を望んでいた三日にとっても同じことで。 そう言う意味じゃ、俺は最初から最後まで自分の我儘の為に動いていたのだろう。 「有難迷惑なンだよ、手前は」 憮然とした顔で、葉山は言った。 「ゴメン」 俺は、いつも通りの苦笑を浮かべてそう言うほかなかった。 でも、もう一度殴られるだろうなぁ。 「助けられる方の気持ちも、少しは考えろや」 そう、葉山は続けた。 それは、つまり「助かった」と言う意味で…… 「……ん、ありがと」 「……バーロー」 と、その時、玄関先から派手な音と共にドアの開く音がする。 55 :ヤンデレの娘さん 朱里の巻 part.5 ◆yepl2GEIow:2011/10/14(金) 20 39 50 ID IF2Ju81M 「セン!?三日ちゃん!?いる!?生きてる!?大丈夫!?」 そう言って靴を脱ぐ間も惜しんでバタバタと入ってきたのは、ウチの親、御神万里だった。 「ああ、ちょーど何もかもが終わった所だよ」 軽く身体を起こし、気だるげに答える。 さすが俺の親。 極めて微妙で絶妙なタイミングで現れてくれる。 「セン!三日ちゃん!」 親は、俺の言葉を聞いたのか聞いていないのか、俺達の元に真っ直ぐに走り寄り、俺と三日に抱きついた。 「レイちゃんからこの場所を聞き出すのに一晩以上掛かっちゃってもう間に合わないかもって思ってて!でも、良かった、本当に良かった……!」 「ちょ、親!?」 「…お、お父様!?」 ぎゅぅ、ときつく抱きしめる親。 密着しすぎて、涙がつたっているのが肌で分かる。 「……ゴメン、心配かけて」 「良いのよ、無事なら……って無事じゃ無い!?」 4人揃ってボロボロ(一名例外)を見て驚く親。 「みんな、一体全体何があったの!?まるで暴風雨が通り過ぎたみたくなってるけど!?」 暴風雨か、それは良い得て妙だ。 何せ、ここには恋と言う名の暴風雨が最大瞬間風速マックスで吹き荒れていたのだから。 「何、大したことじゃねーですよ」 そんな親の問いかけに、葉山が苦笑を浮かべる。 「ただ、『千里』の奴と、一昔前の少年漫画よろしく、本音をぶつけ合った、友情の殴り合いをしただけっす」 56 :ヤンデレの娘さん 朱里の巻 part.5 ◆yepl2GEIow:2011/10/14(金) 20 41 08 ID IF2Ju81M 「なーんて、良い感じに良い台詞で締めたところで、実は何にも解決してないんだよなぁ」 翌朝。 ホームルーム前の教室内の自分の席で、正樹はグッタリとして言った。 その隣の席には、言うまでも無く俺が座っている。 あの後、親が持ってきていた車で俺達は自分たちの家に送られ、ようやく、いつも通りの日常が帰ってきていた。 「ま、世の中そんなもんじゃない、正樹?」 正樹の姿を見つめ、俺はクスクスと嗤った、もとい笑った。 一度壊れて棄てたキャラを再構築しきるまでには、少し時間がかかるかもしれない。 「ぜーたくは言わねーよ。今日一番大変だったのは千里だし」 実際、親が学校の方に何やら口八丁手八丁で連絡を入れていたとはいえ。 何も言わず、丁度一週間近く欠席していたのは確かな訳で。 俺達の久々の登校に友人たちには大いに驚き、口々に理由を問いかけた。 何とか「バイクの免許を取った記念に三日と一緒にこっそり小旅行と洒落こもうとしたら、バイクで事故って旅先で足止めを喰っていた」という言い訳をアドリブで考えて切り抜けた。 あんまりと言えばあんまりな理由に、心配していた友人たちは肩透かしを通り越して怒りを覚えた者も間々居たりして。 特に天野の剣幕は凄まじかった。 「散々心配かけてソレかよふざけんなよ連絡よこしやがれこの野郎!」とは天野の言。 そのまま刺し殺されてもおかしく無いような勢いだった。 最後には「もう付き合ってられるか、オレは自分のクラスに帰る!」と言って教室から走り去って行くくらいだった。 気のせいか涙声だったような気もするが―――それは、気のせいと言うことにしておいてやろう。 ああ見えて、天野は繊細なのだ。 「世は事も無し、とは良く言ったものでござろう。散々人に心配をかけた碌でなしと比べれば」 と、冷やかに言うのは李だった。 一言言うと、さっさと自分の席に戻って行く。 天野のように露骨に声を荒げたりしないものの、彼女も随分と俺を怒って、心配してくれたのは確かなようだった。 李にしても、天野にしても、機嫌を直してもらうのには少しだけ時間がかかりそうだった。 もっとも、そうして俺のことを心配して、気にかけてくれたことは申し訳なくも思うが、嬉しくも思う。 ま、この辺りは俺が根気よく謝る他ないだろう。 「それに、何も悪いこと無いでしょ?」 そう言って俺達の席に寄ってくるのは明石だった。 隣には三日も一緒だ。 親友だからな。 「って言うか、無い……よね?」 明石は恐る恐るといった有様で言い直し、 「お願いです、無いって言って下さい」 と頭を下げた。 まだ、正樹は何も言って無いのに。 「あー、その何だ……」 頭を掻きながら、答えに迷う正樹。 「正直、お前をどー思ってるのかなんて、自分の中でもまだ分かり切れねぇところはある。恋愛なんて、今まできちんと考えたこと無かったしな。でも……」 けれど、今度は結論をきちんと出す。 「揺り籠にいたころから、やっぱお前は好きだし、このまま仲良くやりたいとも思う。それこそ墓に入るまで、ずっとな」 「まーちゃん……!」 正樹の言葉に、明石は花の咲いたような笑顔を浮かべ、抱きついた。 「アタシもまーちゃんのこと大好き!これからずーっとお墓の中まで一緒にいるね!言われなくても一緒にいるね!嫌って言ってもずっと一緒にいるね!」 「やめろこんなところでひっつくなっつーか怖い怖い怖い怖い!」 「なんで、墓場まで仲良くよろしくしたいんでしょ?」 「好きだけどそれは怖い!」 そこで、正樹は俺に向かって助けを求めるような視線を向けて言う。 「なぁ、千里。俺、コイツのこと、これからもキチンと受け止めきれるかなぁ?」 「大丈夫じゃない?」 と、俺はクスクスわらいながら応じた。 57 :ヤンデレの娘さん 朱里の巻 part.5 ◆yepl2GEIow:2011/10/14(金) 20 41 25 ID IF2Ju81M 「何せ、正樹は一番悪くて一番強くて一番全力の俺を倒したくらいだもの。それでも駄目なら、俺達にきちんと助けを求めてくれれば良いし」 「あー、その時は頼むわ」 「おう、頼まれた」 正樹の言葉に、俺は満面の笑みでサムズアップをした。 思えば、俺はずっと正樹に助けを求めてもらいたがっていたのかもしれない。 「…何だか、昨日から千里くんと葉山くんの信頼度が上がってる気がします」 「いつの間にか名前呼びだし」 何故か、女子組からジト目で見られた。 「んー、まぁ何となくなんだけどねー」 「そうそう。昔の少年漫画よろしく、殴り合ってたら何となく友情が深まってた感じで」 正樹と揃ってそう言うが、ジト目は変わらず。 「友情と言えば、そっちこそどうなった?きちんと仲直りというか仲直しはできたんかな?」 分かってはいるけれど、きちんと確認したくて、俺は2人に確認した。 「…はい、朱里ちゃんからとてもきちんと謝って頂いて。『酷いことして本当の本当にごめ「脅しの材料は全部捨てたって報告しただけなんだからね!勘違いしないでよね!」 三日の言葉を遮って、顔を真っ赤にして明石は言った。 「脅し?一体何のことだ?」 物騒な単語が出たので、怪訝そうに問いかける正樹。 「男の子は知らなくて良いことよ」 「…男の人には知らないで居て欲しいことです」 女子2人の声が見事に唱和した。 まぁ、知られたくないから脅迫材料に使えたのだろうから、これ以上突っ込むのは野暮と言うものだろう。 「ともあれ、これで全て元の鞘に収まったって訳か。あんなに大騒ぎした割には、味気ないモンだな」 と、正樹がため息交じりに言った。 「違うよ、はやまん」 俺は、訂正させてもらうことにした。 「暴力的で不器用で最悪な過程ではあったけれど―――俺達は、今までよりほんの少しだけ絆を深められたんだ」 おまけ ある電話越しでの会話 『ねぇ、みっきー。その……言いづらいんだけどさ』 「…何ですか、朱里ちゃん?」 『あの動画のデータ、全部消去する前に、1人でガッツリ観ちゃった』 「…は、はぁ」 『って言うか、見入っちゃった』 「…」 『……知らなかった。あそこ、ああ言う風にすると気持ち良いんだ。それにあそこも……』 「お願いですから朱里ちゃんの頭の中からも消去してください!!」
https://w.atwiki.jp/orecaapplication/pages/1016.html
未解禁のモンスターです! このページは未解禁モンスターに関するページです。2024年08月24日 (土) 現在のApp版では作成不可能であることに留意してください。 パラメータ ヤンシャオロン 成長パターン 初期コマンド 覚える技 (BOSS)ヤンシャオロン 出現条件 クラスチェンジ派生 解説 技コスト キャパシティ パラメータ 属性 火 性別 無 出現章 新7章 クラス ☆☆ 種族 ドラゴン 入手方法 白黒タマゴ(Lv1~10)が稀にクラスチェンジ 下位EX ソウジョウの息 上位EX 相生の息 消費EXゲージ ? 形式 連打 ヤンシャオロン 成長パターン HP レベル 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 個 体 値 0 101 103 105 107 109 111 113 115 117 120 1 103 105 107 109 111 113 115 117 119 121 2 104 106 108 110 112 114 116 118 120 122 3 105 107 109 111 113 115 117 119 121 123 4 106 108 110 112 114 116 118 120 122 124 5 107 109 111 113 115 117 119 121 123 126 攻撃 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 個 体 値 0 42 43 44 44 45 46 47 48 49 50 1 42 43 44 45 46 47 47 48 49 50 2 43 44 45 45 46 47 48 49 50 51 3 43 44 45 46 47 48 48 49 50 51 4 44 45 46 46 47 48 49 50 51 52 5 44 45 46 47 48 49 49 50 51 52 素早さ 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 個 体 値 0 33 34 35 35 36 37 37 38 39 40 1 34 35 35 36 37 37 38 39 39 40 2 34 35 36 36 37 38 38 39 40 40 3 35 35 36 37 37 38 39 39 40 41 4 35 36 36 37 38 38 39 40 40 41 5 35 36 37 37 38 39 39 40 41 42 初期コマンド ★ ★★ ほほえんでいる こうげき こうげき こうげき! こうげき こうげき! こうげき! こうげき! ★→★★ いのちの息 いのちの息 いのちの息 覚える技 単体選択攻撃 こうげき こうげき! ランダム攻撃 全体攻撃 防御 回復 いのちの息 強化 召喚 異常 EX増減 コマンドパワー増減 ためる ★→★★ 技変化 無効 ほほえんでいる (BOSS)ヤンシャオロン 出現条件 クラス合計に関わらずランダムで出現 竜剣士リントor剣聖ヒエンをチームに入れる クラスチェンジ派生 ヤンシャオロン(Lv10)からクラスチェンジ→ヤン 解説 インシャオロンの片割れ。 技コスト キャパシティ 0.0 【ほほえんでいる】 1.0 【こうげき】【ためる】(1リール) 2.0 【こうげき!】 3.0 【★→★★】 ? 【いのちの息】 0 1 2 3 4 5 ★ ? ? ? ? ? ? ★★ ? ? ? ? ? ?
https://w.atwiki.jp/i_am_a_yandere/pages/64.html
327 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] :2007/10/08(月) 22 38 42 ID erUdUA9C 秋。それは人によってさまざまなあり方を見せる季節。 食欲の秋、読書の秋、スポーツの秋。 俺にとってはプラモデルの秋だ。 いや、俺は年がら年中プラモデルを作りながらあーでもないこーでもないと言いつつ プラスチックに色を塗ったりしているわけであるから、秋が特別というわけではないな。 プラモデル作りは俺にとってライフワークである。 よって、俺にプラモデルの秋は到来しない。 だからといって、秋にプラモデル作り以外の何かをしようとは思わない。 新しいことを始める暇があるならプラモデルでも作っていたいのが俺という人間である。 つまり、俺は秋になっても相変わらず、というわけである。 蒼穹の一部に光の穴を開ける太陽は、朝から調子が良さそうだ。 ついこの間まで半袖シャツを着ていたというのに、いつのまにか朝の空気は肌寒く感じられるようになっている。 朝の清々しい空気を吸い込みながら歩道を歩く俺の前方には、腕を絡み合わせているカップルの姿がある。 弟と妹である。実の兄妹同士である彼と彼女は当然恋人の関係にはない。 だが、こうやって後ろから見ていると恋人そのものである。 今すぐベロチューでもかますのではなかろうかと俺に危惧させる程の密着度で2人はくっついている。 そんなべったりとくっついている弟と妹の後方を俺が歩いているのは、ストーカーをしているからではない。 ただ今俺と弟と妹は、登校中の態勢にあるからである。 俺と弟は高校へ。妹は高校から数百メートル離れた中学へ。 妹は中学校へ向かう岐路に立つと、しょぼくれた表情で言った。 「お兄ちゃん……学校行きたくない」 「わがまま言うなよ。学校はちゃんと行かなくちゃ」 「だって、私が学校に行ったらお兄ちゃん私以外の女と……そんなの、許せない……」 「まさか、そんなことありゃしないさ。ほら、早く行かないと遅刻するぞ?」 「うん……行ってきます、お兄ちゃん」 妹は渋々といった感じで中学校の通学路へと歩を進めた。 何度も振り返りつつ、妹は段々と離れていき、角を曲がったところでようやく姿が見えなくなった。 ここからは弟との二人きりの登校である。 高校の正門へと続く坂道は緩やかな傾斜が続く直線の道になっている。 目測で200メートルはあるこの坂は全校生徒にとっての不満の対象となっており、同様に俺も不満である。 この坂道を上る頃になって、ようやく弟の顔から陰が消える。 妹と一緒にいるときの弟は、どこか後ろめたい表情をしている。 それは実に微妙な変化であるため、妹すら気づいていない。――たぶん。 328 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] :2007/10/08(月) 22 39 57 ID erUdUA9C 高校へ着いた。 弟は校舎の玄関の入り口に立つと、無言で俺に手を振って中へと入っていった。俺は首を縦に振って応える。 俺と弟は一つ違いである。俺は現在17歳である。だから弟の年齢は16歳ということになる。 そのため当然学年が違うわけであり、下駄箱の位置も別である。 校舎の壁に貼り付いている時計は7時30分を指している。 生徒がまばらに登校する時間で、まだ玄関は朝の静けさをかすかに残していた。 自分の上履きを収納している棚の前に行き、上履きを取り出す。 上履きを何気なく床に落としたとき、一緒に封筒が落ちてきた。 上を見る。天井しかない。誰もいない。誰かが落としたというわけではないようだ。 前後左右を確認。人の気配無し。俺を監視しているらしき人物はいない。 白い封筒を拾い上げて、再度周囲を見回してから、開封する。 中に入っていたのは二つ折りになっている便箋だけだった。 ふむ。なにかがおかしい。 なぜ俺の下駄箱の中に便箋入りの封筒が入っていたのであろうか? 朝俺が登校する前に下駄箱の中に手紙を入れていくなんて、まるでラブレターみたいではないか。 ラブレターか。思い返せば、今まで恋文というものをもらったことは一度もないな。 弟に見せてもらったことは何度もあるのだが。 今俺の右手の親指と人差し指に挟まれているこのラブレターらしきものは、俺に宛てたものなのか? いや、それはないだろう。 俺のことを好きだという女がいるとはとても思えない。 俺は女から注目を浴びたことはない。注目されようと思ったこともない。もちろん男に対しても同様である。 だというのに、俺の下駄箱にラブレターが入っていた。 それは、つまり、その。 俺のことを好きだってこと、――――は無いな。無いだろう、さすがに。 きっと間違って俺の下駄箱にラブレターを入れた女の子が居るのだろう。 しかし、今時文章をしたためて恋を伝えようとする女子がいるとは。 俺は感動した。感動したぞ、名も知らぬ女子。 だが、俺の下駄箱に間違っていれたのは失敗だったな。 君が失敗を犯したせいで君の熱い想いがこもったラブレターの封は切られてしまった。 ピンクのハートマークのシールは無惨にも破かれてしまったのだ。 なんという悲劇。数十センチの間合いを違えてしまったために君の慕情は霧散してしまった。 俺も早く間違いに気づいてあげられればよかったのに。俺の阿呆。 こうなっては、せめて君の想いが冷めぬうちに中身を読んでしまわなくては。 そうでなくては、あまりにもこの紙切れ達が可愛そうだ。 送付先の男子にこのラブレターは渡せないが、君の下駄箱に返しておくよ。 また、諦めずに筆をとってくれたまえ。 便箋を封筒から取り出してひろげ、文に目を通す。 なになに、『同じクラスになったときから、あなたのことばかり見ていました』か。 嗚呼、なんと健気なことよ。男子に自らの想いを悟られぬよう、物陰からひっそりと見つめているだなんて。 着物を身に纏った文学少女が木の幹の裏に隠れている姿が浮かぶ。 その純な想いが俺に向けられることはないのですね。まったく、残念だ。 手紙の二行目。『あなたのことが好きです。もし話を聞いていただけるなら、昼休み屋上に来てください』。 おお。喉の奥に甘酸っぱく、それでいてしつこくない感覚がこみ上げてくる。 ひねりをくわえた変化球のような文章では、ここまでストレートな感動は押し寄せてこない。 一体、君は誰に向けてそのストレートを放ったんだい?教えてくれ。 俺は、便箋の下に書かれていた文字を見た。そして目を激しくしばたたかせた。 そこに書かれていたのは、平凡極まりない俺の名前だったのだ。 329 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] :2007/10/08(月) 22 40 59 ID erUdUA9C ***** 昼休み。 俺はいつもより早めに昼食のパンを食べ終えると、屋上へと向かった。 二段とばしで階段を上り、屋上へ出る扉の前に立つ。 どきどきする。顔の熱を下げられない。冷静になんてとてもなれそうにない。 別に興奮しているわけではない。緊張しているからなのである。 今朝俺の下駄箱に入っていた手紙は、間違って入っていたわけではなく、俺に宛てられたものだった。 文章を読んだところ送り主は俺に対して好意を持っているようである。 そして、俺は送り主の正体が気になったからこうやってのこのこと屋上へ向かっているのである。 あの手紙がいたずらでなくば、彼女は俺へ向けて告白をしてくるはずである。 きっと、両手を祈るように胸の前で組んで、頬を赤く染めながら、熱っぽい眼差しで俺を見つめてくるのだ。 その状態のまま、思わず録音したくなる恋の言葉を言ってくれるであろう。 彼女の告白に対する、俺の返事はもう決まっている。 だが俺は、その返事をしていいものか、決断がつかないのだ。 「……ええい!」 開けてしまえ!なんとでもなる。 もしも変な結果になってしまってもその時はその時だ。 屋上へ向かうドアを開ける。 途端に、新たな行き先を見つけた風が廊下へと吹き込んでくる。 視界の先にあるのは開けた屋上の光景。ここから人の姿は見えない。 深呼吸を1回。そして足を踏み出す。 屋上は周囲にフェンスが張り巡らされている。 ベンチが置かれていないのは、あまり生徒が立ち入らない場所だからである。 事実、ここに昼食をとる生徒の姿はない。 さて、手紙の送り主はどこにいるのか。 右を向く。フェンスの向こうに広がる街と空が見えただけだった。左も同様。 誰もいないな。やれやれ、やはりいたずらだったか。 ――よかった。一気に肩の荷が下りた。 よし、教室へ戻って惰眠をむさぼることにしよう。 振り返る。と、そこには女子生徒がいた。俺の進路を塞ぐように、屋上の入り口に立ちはだかっている。 いつのまに現れたんだ?足音一つしなかったぞ。 この人が俺を手紙で呼び出したのか? ……だろうな。状況から考えて。 女子生徒は屋上の風に黒い艶やかな髪を任せていた。彼女の髪を見ているとコーヒーゼリーが思い浮かんだ。 別に彼女の髪の毛を食べたくなったとか、そういうわけではない。 彼女の瞳は俺の目に釘付けになっていた。まばたきをするとき以外は、ずっとそんな状態であった。 視線を交わし合って、数秒が過ぎて、ようやく俺は目の前の人物に対して見当をつけられた。 彼女は、俺のクラスで一番の美人であるという評価を男子によって下されている、葉月さんであった。 ――ここにきて、俺のあの推測は確信になったな。 330 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] :2007/10/08(月) 22 41 56 ID erUdUA9C 葉月さんは俺の目を見ながら、両手を胸の前で組み合わせた。 こんな動作まで想像通りにならなくてもいいと思うのだが。 「や、葉月さん」 「あ、あの……手紙、読んでくれた?」 葉月さんの声は控えめで、男の庇護欲を駆り立てる響きを持っている。 普段明るい人気者である葉月さんの声は、たった今屋上にて俺一人に向けられている。 なんだか自分が特別な人間になったような気分である。 「うん、朝きたら下駄箱に入ってたから。ちゃんと読んだよ」 「じゃ、じゃあさ……私の気持ちも、もちろん気づいているよね?」 あなたのことが好きです、というのが葉月さんの気持ちであろう。手紙にはそう書いてあった。 手紙の文を信じるのであれば、葉月さんは俺のことが好き、ということになる。 「それでさ……返事は決まってるのかな? できたら、ここで教えてもらいたいんだけど」 返事を早急に要求してくるのはいい判断だ。 告白の返事は早めに受け取ったほうがいい。 告白されてすぐであれば、相手は高揚しているであろうから、いい返事をもらえる可能性が大きい。 しかし、それは告白を受けた相手が好意を抱いている場合である。 つまり、告白してきた相手を嫌いであればいい返事は返ってこないということである。 俺の場合、葉月さんを嫌っていないのだからこれには当てはまらない。 なにせ、クラス一の美少女からの告白である。 俺には葉月さんを嫌う理由などない。クラスの他の男どもと同様に、俺も葉月さんに好意を持っている。 交際を申し込むほど思い詰めてはいないから、告白する気などまったく無かったが。 「ねえ……どうなの?」 葉月さんはそんなことを言いながら、続けて俺の名前を呼んだ。 まるで付き合ってくれ、と懇願しているようである。 葉月さんが一歩踏み出してきたことにより、俺との距離は少しだけ短くなった。 ここで俺が数歩踏み出して葉月さんを抱きしめれば、晴れて俺にも彼女ができるということになる。 だが俺には、そうすることはできない。 よって、告白に対する俺の返事は、こうなる。 「ごめん、葉月さん。……俺、君とは付き合えないよ」 眼前にある葉月さんの顔から、気のようなものが、ふっと消えた。 目を大きく開け、呆然として立ちつくしている。 それはそうだろう。なにせ、俺なんかに振られる形になったのだから。 「どうして……? 私のこと、嫌いだったの?」 葉月さんの目尻に涙が浮かんだ、ように見えた。 距離があるのだから目尻まで見えるわけがないのだが、声を聞いているとそんな錯覚を覚えたのだ。 「俺は、葉月さんのこと嫌いじゃないよ」 「じゃあ、どうして……?」 「……」 言えない。言いたくないのだ。だから早くこの会話を終わらせたい。 俺は、無言でその場を立ち去ろうとした。 が、葉月さんが行き先を遮っていたので、足を止めることになった。 しばらく、目で「どいてくれ」と語ったのだが、葉月さんはどいてはくれなかった。 仕方なく、葉月さんの肩を押してどけようとした。 その時である。俺の視界の天地が逆転したのは。 331 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] :2007/10/08(月) 22 43 13 ID erUdUA9C ふと見上げた先には空があった。 たった今視界の先に空が広がっているのならば、さらにひっくりかえれば目の前にコンクリートの 地面が広がっているはずだが、そんなの当たり前だな、とか意味もなく考えた。 次に考えたのが、俺はなぜいきなりこんな状態になったのかということである。 ああ。たぶん葉月さんに向けて俺が手を伸ばした時、投げられたのだろう。 痴漢行為をされるとでも思ったのであろうか。そうであればこの反応は正解である。 視界の一部に、葉月さんの頭が割り込んできた。 近くで見ても、変わらず葉月さんは美人顔であった。 「なんで理由を教えてくれないの!? ねえ、なんで?」 涙目と、涙声。これを俺がやったのだ、と思っただけで自分が罪人になった気分になる。 俺が葉月さんをふった理由はある。だがそれは言えない。 「ごめん、葉月さん……」 俺は葉月さんの肩を押し、隙をついて廊下へ向けて駆けだした。 葉月さんの声を、階段を下りながら聞く。 「待って! 待ってよっ! 好きなのに! 本当に好きなのにぃっ!」 悲痛な叫び声だった。その声は、俺が教室へ戻って机に突っ伏すまで耳に残っていた。 俺が葉月さんをふった理由は、葉月さんの告白が嘘であると見抜いていたからである。 そう思うのには、理由がある。 まず一つ目。葉月さんは俺ではなく、弟のことが好きなのだ。 クラスにて、時々複数の男女を交えて会話をすることがある。 その際、葉月さんは必ずと言っていいほど、弟のことしか聞いてこなかったのだ。 周りの男どもは葉月さんと会話できる俺のことを恨めしげな目で睨んでいたが、 俺にとっては葉月さんと会話をするのはそれほど嬉しくなかった。 弟のことしか聞かないのだから、当然俺のことなど一切聞いてこない。 どう考えても、俺から弟の情報を聞き出そうとしているようにしか考えられない。 将を射んとせばまず馬を射よ。将は弟、馬は俺。 葉月さんは弟という将軍の首をとるために、馬である俺を仕留めるつもりだったのだ。 だから、俺と付き合って弟に接近しようと試みた。 そして俺は、葉月さんのその企みを見抜いていた。だからこそふったのである。 これは決して、俺の考えすぎというわけではない。 前例もあった。その前例こそが、葉月さんが嘘を吐いていると思わせた二つ目の理由である。 332 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] :2007/10/08(月) 22 44 39 ID erUdUA9C あれは確か、中学三年のころだったか。 机の中に入っていたラブレターを読み、俺は手紙に導かれるように体育館裏へと馳せ参じた。 そこで待っていたのは、以前から俺が恋していた(と思う)同級生の女子であった。 彼女は付き合ってください、と俺に言った。俺はもちろんOKした。 その場で彼女と離れてから、俺は雄叫びをあげた。もちろん歓喜によるものである。 たくさん話をして、いろんな場所に行って、あふれんばかりの想いを伝え、あんなことをしたい。 夢のような心地であった。そしてそれは現実に夢まぼろしとなった。 彼女はよく俺の家に遊びに来た。それ自体は別にかまわなかった。 問題は、彼女は遊びに来ても弟としか会話をしようとしない、という点だった。 俺が、弟と会話をする彼女に声をかけると、邪魔者を見る目つきで睨んできた。 決して錯覚ではない。彼女がそんな態度をとるのは一度や二度ではなかった。 そんな感じでだらだらとした関係を続けてきたある日、俺は彼女に別れを告げられた。 俺自身彼女への想いが冷めていたのを実感していたので、簡単に別れることにした。 問題はその後。弟が言ったのである。「今日、兄さんの彼女に告白されたよ」、と。 俺は冷めた気持ちでそれを聞いていた。このときには、彼女の思惑にも気づけていたから。 弟の相談に対して、俺はどんな返事をしたか覚えていない。 付き合えばいいんじゃないか、と言ったのか、やめておけ、と言ったのか。 悲しかった。裏切られたことも悲しかったが、ダシに使われたことはもっと悲しかった。 最初から、「弟との仲をとりもってくれ」と相談してくれればよかったのに。 俺は喜んで彼女に協力していただろう。 弟の傍で幸せな顔で笑う彼女を見ていられればそれで満足できたから。 少しばかり胸が痛もうとも、我慢できたから。 だけど、昔の彼女と同じく葉月さんも俺を利用しようとしていた。 作戦としてはまあ、悪くはない。対象の身近な人間と接触し、外堀を埋めていくのは有効な手段である。 けれど、俺は思うのだ。人の心を踏み台にする作戦など、人がやるべきことではない。 悪魔だ。悪魔の所行だ。人間は生きているのだ。心があるのだ。 踏み台にされてしまえば、人の重みに負けて心が軋むものなのだ。 もう俺の心は鉄筋の骨とコンクリートで組まれた階段ではない。 築50年の学校の、木の階段である。しかも腐っている。シロアリだって潜んでいるかもしれない。 だからもう、踏まれたくないのだ。壊されたくないのだ。そっとしておいて欲しい。 ごめん、葉月さん。俺をそうっとしておいてくれ。これ以上、女という存在に絶望させないでくれ。 女は皆が男を裏切ろうとしているとか、妹は兄と結ばれることを夢見ているとかいうのは、もうたくさんだ。 俺は、昼休み終了を告げるチャイムが鳴ってからもずっと机の上で寝たふりを続けた。 昼休み終了から帰りのホームルームが終わってクラスメイトが帰るまで、ずっとそうやっていた。 ようやく人気がなくなったのは、六時になる五分前であった。 333 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] :2007/10/08(月) 22 46 37 ID erUdUA9C ***** きっぱりと、ふられちゃった。 昨晩寝ずにラブレター書いて、眠気を我慢しながら目一杯力を入れて化粧までしてきたのに、 あっさりとふられちゃった。 せめて、少しだけ迷う素振りでも見せてくれれば望みはあったのに、それもなかった。 ということは、彼にはすでに心に決めた女の人がいるってこと? そんなはずがない。だって、彼の弟はそんなこと言ってなかったもの。 私は高校に進学して、彼に出会うまで男子に恋をしたことがなかった。 それは決して私がレズっ気があるからというわけではなくて、周囲に魅力的な男子が居なかったから。 どの男子も、見ていて恥ずかしくなるぐらい子供っぽかった。 だから、いくら口説かれても告白されても、胸がときめくということがなかった。 高校に上がったら男子も成長しているはず、という期待は外れてしまった。 むしろ、変な目で私の体を見てくるようになったことでさらに悪化したようにさえ思えた。 唯一の例外が、彼という人間だ。 入学当初は、名前も知ろうと思わないほど、興味の対象外の存在だった。 それがひっくり返ったのは、一年生の六月に全校生徒参加で行われた、河川敷のゴミ拾いの時。 全校生徒総出で河川敷を拾うとなると、中にはまじめに作業しない生徒もいる。 皆友達と歩きながらおしゃべりしていた。まじめにやるのは、先生が近づいたときだけ、という有様だった。 私は1人でゴミを拾っていたのだけど、やっているうちに馬鹿馬鹿しくなってきた。 私以外の誰一人としてまじめに拾っていないのに、どうして私だけがまじめにやらなければならないのか。 自分だけがおかしいのではないか、とまで思えてきた。 もうやめてしまおう、と思って女友達のところへ向かったとき、彼が私に近寄ってきてこう言ったのだ。 「葉月さんも休憩? ならゴミ袋、貸して」。 どういう意味か、すぐにはわからなかった。けれど、彼の服の汚れ具合を見たら疑問は解決した。 彼の体操服は草や土で汚く汚れていたのだ。彼は、そんなになるまで熱心にゴミを拾い続けていた。 注目すると、彼は人が立ち入らないような草が生い茂った場所まで踏み込んでいた。 そして、ものすごく満足そうな顔をしながら、ゴミ袋を掲げて出てくるのだ。 拾ったどー!と吼える彼を、皆は笑って見ているだけだった。 誰一人として、彼を手伝おうとはしなかった。 私は、彼を手伝おうと思ったのだけど、どうしても足は動かなかった。 その場に足を縫いつけられたかのようだった。 そんな状態になっても、視線は彼の姿を勝手に追う。 彼が進んでいく道には、満杯になったゴミ袋だけが残っていた。 彼の背中を見つめたまま、作業終了の時刻になり、私は学校へ戻った。 けれど、教室に戻って彼の姿を探しても、どこにも見当たらなかった。 彼が戻ってきたのは、私たちが学校に戻った二時間後。 ゴミ袋の代わりに、大量のジュースを持ってクラスへやってきた。 なんでも、河川敷のゴミ拾いに感謝した付近の住民が持たせてくれたらしい。 ジュースは全校生徒には行き渡らなかったものの、クラスメイト全員の手には渡った。 一年以上が経った今も、私はその時にもらったジュースを飲んでいない。 冷凍庫に入れたまま、ずっと保管している。毎日霜を落としているので保管状態は万全だ。 あのジュースは、私が彼に惚れた日の記念品なのだ。 あのゴミ拾いの日をきっかけにして、私は彼の姿を目で追うようになった。 高校生には見えないほど、威厳のある背中。 異性に対する、達観したようにさりげない態度。 そして時々見せる、憂いを帯びた眼差し。 皆で夏休みに家族でどこへ行った、という会話をしているときにその目をよく見た。 気づけば私は、彼のことばかり考えるようになっていた。 今では、彼の姿を見られない日には悲しくて寂しくて、泣きたくなるほどになっている。 そんなときは、彼が来て私の涙を拭っていく夢を必ず見る。そしてさらに寂しくなってしまう。 もうこんな状態は耐えられない。そう思った私は、ずっと彼に傍にいてもらおうと決めた。 334 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] :2007/10/08(月) 22 49 41 ID erUdUA9C しかし、いざ彼の心を虜にしようと思っても、どうしたらいいのかわからなかった。 友達に、「好きな人がいるからどうしたら付き合えるのか教えて欲しい」と聞いても、 「葉月ちゃんなら、話してるだけでオッケーでしょ。どんな男もイチコロだって」と言われるだけだった。 話しかけるだけなら、すでに実践している。けれど、彼は私に惚れているようには見えない。 むしろ、彼と話す度にどんどん惚れ込んでいくのは私の方。どんなことを話せばいいのかもわからない。 何を話しても、些細なことを聞いても、彼の眼差しは私の邪な感情を見透かしてしまう気がする。 本当は聞きたいことが山のようにあるというのに、聞くことができない。 彼女がいるのかいないのか。どんなタイプの女の子が好きなのか。 私のことは、恋愛対象として意識してくれているのか。日ごとに聞きたいことが心に溜まっていく。 だけど彼と話をしたい。私だけに向けられた彼の言葉を胸に刻みたい。 だから、あたりさわりのない会話として、弟さんのことを聞くことにした。 彼はちょっと複雑そうな顔をしていたけど、ちゃんと教えてくれた。 彼から弟さんの話を聞くうちに、私はあることに気がついた。 彼と仲良くなるために、弟さんの協力を得ればいいのだ。 そのことに気づいてすぐ、弟さんを捕まえて彼の情報を聞き出した。 どうやら彼に彼女はいないらしい!一瞬で、世界が光り輝いているように見えた。それが昨日の出来事だった。 勢いをそのままに、彼への想いをラブレターにしたため、彼の下駄箱へ入れたのが今朝。 そして、ふられた理由もわからないまま呆然と屋上でうなだれ続けて、ようやく立ち上がれたのが今。 今の時刻は何時かわからないけど、空はとっくに灰色に染まっていた。 午後の授業、全部さぼっちゃったな……。でも、今の私の顔を彼に見られたくなかったからこれでいい。 これからどうしよう?彼にあそこまであっさりとふられてしまったということは、やっぱり私のことなんか 眼中にないということなんだろうか。 ――いや。眼中にないというのなら、無理矢理にでも視界に割り込んでやるまで。 だって、この想いは私には止めようもないほど大きくなっているのだ。 そして私も、止めようとは思わない。彼に全て受け取ってもらうのだ。 粉々に打ち砕かれても、私は諦めたりなんかしない。 「……諦めて、たまるもんかっ!」 絶対に、この初恋は実らせてやるんだ。 幸いなことに、明日は学校が休みだ。 今までは憂鬱で仕方なかった休日だけど、明日は違う。 彼の家に押しかける。クラスメイトが遊びにくるぐらい、別におかしいことじゃない。 もう、自分にできる手段は全て実行するまで。 彼を手に入れるためなら、どんなことでもする。 彼がどうして私をふったのか、その理由を明日はっきりと聞き出してやるんだ。 もし、彼に女がいるのであれば――寝取ってやる。 初恋の人に、初めてを捧げるなんて、なんてロマンチック……。 今日、ちゃんと眠れるかなあ?
https://w.atwiki.jp/isu-urawiki/pages/27.html
ヤングムーン [単語] 【名詞】 恐らく、某大学の某先生を指す言葉。 実は思いやりがある人物として名高いらしい。 由来 2007年の夏頃に提唱されたヤング・ムーンの法則によって有名になった。 用例 ヤング・ムーン先生 み・み・みらくる・やんぐむんむん♪ 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/gods/pages/32613.html
カシュデヤン 悪魔の一。 病の治療法を教えた。
https://w.atwiki.jp/jico3178/pages/114.html
ヤングサンデー (やんぐさんでー) 正しくは“週刊ヤングサンデー”。ハイティーンから20代にかけて人気の高い、小学館発行の週刊グラビア&漫画雑誌。 ブリンの1コーナー『ヤングサンデー提供・グラビア刑事・雨上がり分署』では、この雑誌に掲載されているグラビアアイドルをフィーチャーしている。 2007.2.28O.Aから、創刊20周年を記念して小学館ヤンサン編集部関係者・漫画家などをゲストに呼び、数週にわたってトークを展開。 名前 コメント すべてのコメントを見る
https://w.atwiki.jp/monaring/pages/146.html
ヤンデレ攻撃隊 2黒 クリーチャー・人間・ミニオン エコー 2黒 側面攻撃、側面攻撃、側面攻撃 ヤンデレ攻撃隊がいずれかの対戦相手に戦闘ダメージを与えるたび、 そのプレイヤーは毒カウンターを1つ得る。 1/1 ヤンデレシリーズのひとつ。どんだけ側面に執着しているのだろうか。 攻撃時には本家の《アルビノ・トロール》やこちらのギコ教授を一方的に殴り倒すことができる。 ただし、根本的に1/1であるため簡単に焼かれてしまう上、側面攻撃が攻撃時にしか誘発しないことから、ブロッカーとしては使えない。
https://w.atwiki.jp/feltwerewolf/pages/62.html
恋人陣営:本体系 変化系 占い結果 霊能結果 カウント 能力使用 襲撃耐性 村人 村人 村人 強制 なし 勝利条件:ゲーム終了時に自身と片思い相手の生存 始まりの夜に生存者から1人を選択します。 選択した相手の片方を自身との片思いの関係にします。 片思いされた人は無自覚で、元々の能力も失われません。 片思いの相手が死亡した場合、終末ヤンデレは覚醒し勝利条件などが変化します。 覚醒後 占い結果 霊能結果 カウント 能力使用 襲撃耐性 人狼 人狼 人狼 強制 なし 勝利条件:生存者が2人以下になる 片思い相手が死亡した時点で即座に「終末ヤンデレが覚醒しました」と告知されます。 その告知後の占い結果などは上記の通りになります。 毎夜、生存者から1人選択して襲撃します。 この襲撃はヴァンパイアの襲撃と同等です(人狼、妖狐を死亡させることができる)。 カウントが人狼なので、「村村狼ヤ」と残ると人狼の勝利になることや襲撃耐性は持っていないので注意が必要です。 出典:Twitterのツイート
https://w.atwiki.jp/i_am_a_yandere/pages/2374.html
813 :ヤンデレの娘さん 朱里の巻 part1 ◆yepl2GEIow:2011/09/12(月) 22 19 53 ID 3d.1vUmw 4年前 「『悪意』って何なんだと思う、九重?」 「わっはー。千里は相変わらず無駄で無為で無意味なことに頭使ってるね偏屈だね偏狂だね中二病だねー」 「……」 「ま、強いて言うなら『悪意とは善意の対義語である(キリ)』ってトコじゃない?まー、そもそも前提として善意ってヤツをボク達は知らないわけだけどー」 「つまり、説明になって無い」 「そ、説明になってないし、説明できない。辞書的には、誰かを憎んだりー傷つけようとするキモチらしいけど、その説明じゃぁ何かピンとこないよねー」 「だな。曖昧模糊としている」 「模糊もモコモコ、雲を掴もうとするような話だ」 「ま、『悪』ってやつをしようとする意識ってことでおっけーだとは思うんだけどねー」 「そもそも、『悪』ってなんなんだろう」 「単なる『悪』なら、法を逸脱したり、他者を傷つけることってコトになるんだろうけど。よくわかんないけどねー」 「どうして、その悪をなすのか?」 「その答えが『悪意』の意味ってコトになるんだろうけどねー。『悪』をなそうというモチベーションみたいな?」 「それだと、まるで悪人はみんな悪いことが好きで好きでたまらないみたいに聞こえるけど」 「そんなケースは稀なんじゃない?まぁ、ボクは善人にも悪人にも会ったことは無いけどねー」 「そうか、悪のために悪をする者はいない」 「そう、大切なのは目的」 「法を逸脱してでも成し遂げたい目的があるか、モラルを曲げてでも人を傷つけたい激情があるか」 「要は手段の問題だよね。そして、ボクたちはソレを定義づける、もっとマシで相応しい言葉を知ってる」 「そう」 「「欲望」」 「だから、悪をなす意思を悪意と呼ぶなら、そんなものはどこにもなくない?」 「そうだな。それは、単なる欲望。欲しいと思う気持ちに善も悪も無い」 「そ、悪意なんてどこにもない。善意ってヤツがどこにも無いみたいにねー」 「悪意なんて、この世界には無い」 「そ、何年かけて、万年かけて、世界中のどこもかしこもそこかしこを探しても、そんなものなんて無い」 そして、それは、4年後の今も同じなのだろう。 勿論、これから語る、明石朱里の物語にも、きっと―――― 814 :ヤンデレの娘さん 朱里の巻 part1 ◆yepl2GEIow:2011/09/12(月) 22 20 25 ID 3d.1vUmw 現在 その日は、気がめいるような雨だった。 先月の新学期ムードも薄れ切り、生徒会選挙も終わった10月のある朝のことである。 「明石さん?明石朱里さん?」 出欠を取る担任の女教師の声が、教室に響いていた。 「先生。朱里、今日来てません」 明石の隣の席の生徒が、手をあげて先生に言った。 「あれ。明石さん、欠席かな?珍しい、って言うか奇跡的だね」 担任の先生は、そう驚いたように言った。 「葉山くん、何か聞いてない?」 「・・・・・・や、何も」 先生の問いに、珍しくローテンションで被りを振る葉山。 「って言うか、普通に風邪とかじゃ無いんですかー?」 と、隣の俺が葉山に代わり、努めて和やかな声音で言った。 「え、御神君たちは知らないかな?明石さんって少なくとも葉山君が来てる日は、どんな重病でも重症でも学校来てるよ?」 まるで当然のように先生は言った。 本気で知らなかった。 それは葉山も同じようで、隣で目を丸くしている。 「お陰で水泳部の西堀先生から相談来てウザいんだけどね」 そんな言い方するなよ、聖職者。 「連絡とか、来てないんですかー?」 「先生は聞いてないけど?」 しれっと答える先生。 つまり無断欠席。 それって拙いんじゃないだろうか。 「ま、いいや、次行こうか。伊能さん、いるー?」 と、大して気にした様子も無く、先生は出欠を取り続ける。 けれども、俺はどうにも明石のことが、そして葉山の様子が気になって仕方が無かった。 「なーんか落ち着くよね、屋上って」 その日の休み時間、俺は校舎の屋上、には雨なので入れないので、その手前の階段にいた。 葉山と2人で。 朝からずっと、葉山の様子はおかしかった。 ずっと塞ぎこんだ様子で、俺が話しかけても適当に返すだけ。 こんな葉山は初めてだった。 「そう思わない?」 あくまでいつも通り、軽い調子で葉山に話しかける。 「まぁ、お前は前はよく屋上にいたからな」 ローテンションで、葉山は答えた。 「ああ、中等部の頃ね」 「最近は、大桜の下だがよ」 「あそこも良い所だよね、静かで」 「静かなのが、好きなのか?」 「そういうキブンになるときもある、ってカンジかなー」 そう言って、俺は葉山に対して笑顔を向けた。 「で、何かあったの?」 俺は、単刀直入に言った。 生憎、回りくどい方策は得意じゃないのだ。 「何が、って何もねぇよ・・・・・・」 俺から目を逸らし、葉山は答えた。 気のせいか、階段の手すりを握る手が強張っているように見えた。 「じゃあ、言い直そうか。何があったの、明石と」 俺はそう断じた。 「・・・・・・分かるのか」 「分かるよ」 それまではいつもどおりに見えた葉山のテンションがとみに落ちたのは、明石の話題が出てからだった。 2人の間に何かあったことは、鈍い俺でも一目瞭然だった。 「分かりすぎて、正直見てられないよ。今のはやまん」 「・・・・・・」 「話してくれないかな、俺に。話すだけでも、楽になるかもしれないし」 なるべく穏やかに、葉山の目線に合わせて、俺は言った。 「・・・・・・1つだけ、約束してくれ」 「約束する、何でも」 ようやく口を開いた葉山に、俺は即答した。 「この話は、他言無用で頼む」 そう言って、葉山は重い口を開いた。 815 :ヤンデレの娘さん 朱里の巻 part1 ◆yepl2GEIow:2011/09/12(月) 22 20 59 ID 3d.1vUmw こんなやり取りがあったらしい。 昨日の日曜日、珍しく、久しぶりに葉山は明石の家に呼ばれた。 特にやることも、遊ぶことも無く、他の友人達も軒並み用事が入っていたので、葉山は明石の誘いにあっさりと乗った。 「おひさし」 自宅、ごく普通のマンションの玄関前で、明石はそう言って葉山を迎えたという。 その日の明石はミニスカートに明るい色のブラウス、それに美脚のラインが目立つロングソックスという出で立ち。 メイクもバッチリで、そのままティーンズ向けのファッション誌の表紙を飾れそうだった。 「何だ、明石。出かけるのか?」 「ううん、何で?」 「随分とめかしこんでるみたいだったから」 「べ、別に?コレが普通だけど?」 そう言ってトボける明石だったが、とても部屋着には見えない格好だと葉山は思った。 対する葉山はいつもどおりのジーンズなので、逆に気後れするくらいだった。 いや、今更気後れするような相手でも無いのだが。 「あ、ひょっとして『今日の朱里ちゃんキレーだな、かわいーな、コクッちゃいたいなー』とかそんな風に思ったり?」 「思わねーよ」 いつも以上にテンションの高い明石の冗談に、葉山はツッコミを入れた。 「じゃあ、二択で答えて。今のアタシ、綺麗?」 右手の人差し指を一本立てて、上目遣いで聞いてくる明石。 「それとも、不細工?」 今度は左手の人差し指を立てる。 「別に、フツーじゃね?」 葉山は普通に答えた。 「二択って言ったじゃーん」 両手の人差し指を示し、明石が言った。 「別にどっちでもいーだろ?」 「二択ッ!」 「選択肢が極端すぎんだろ!」 「二択」 「いや、俺、女子の服には、あんま詳しくねーし」 「に・た・く」 最後にドスの効いた声でそう言われて、とうとう葉山も折れた。 「まぁ、綺麗、って言うか可愛いんじゃねーの?」 「ホント!」 葉山の言葉に、明石が今までに見たことも無いほど嬉しそうな笑顔を浮かべた。 「あんまホンキにすんなよ、俺の評価なんざ。さっきも言ったように女子の服のコトとかわかんねーし」 なぜか気恥かしくなり、 「正樹の評価だから良いんじゃない」 そう言って明石は、足取りも軽く「上がって」と葉山を促した。 「おじゃましますッス」 明石の言葉のままに明石の家に上がる葉山。 「お袋さん達は……あ、共働きだっけか」 靴を脱いで居間へと移動しながら、葉山が聞いた。 「そ。父さん母さん今仕事中」 「だったな」 そんなやり取りをしながら、居間のドアを開ける。 「なんてゆーか久々じゃない?正樹があたしンち来るのって」 「あー、そういやいつぶりだ?」 「4年と半年、それに一週間と5時間11分14秒だね」 「正確に覚えすぎだろ!」 「と、言ってる間にも23秒が過ぎてしまったわね、ゴメンゴメン」 「お前、実は数学得意だろ」 と、言いながら、改めて葉山は居間の中を見回した。 明石が約4年ぶりと言ったように、葉山が明石の家に来たことは多くないかもしれない。 むしろ、明石とは葉山の家や、外で遊んだりしていた記憶の方が印象深い。 なので、明石家の居間を見回しても、清潔でスッキリしている、といった程度の感想しか出てこない。 816 :ヤンデレの娘さん 朱里の巻 part1 ◆yepl2GEIow:2011/09/12(月) 22 21 36 ID 3d.1vUmw 「あ、アタシ、ちょっとお茶用意してるから」 「ウン、良いのか?そこまで手間かけさせちまって」 「ま、お客さんだし」 「つーてもなぁ」 約4年ぶりで、しかもあまり来たことの無い家で待たされてもどうにも居心地が悪い。 「と、悪い。トイレ借りていいか」 「良いよ。折角だから、ついでに家の中テキトーに見て回っててよ」 葉山の言葉に、キッチンでガチャガチャという音を立てながら、朱里が言った。 「良いのかよ」 「そこにいたってヒマになるっしょ?」 「ま、そうだな」 提案の善しあしはともかく、こうした気遣いはありがたい。 「それに、正樹に私のこと、もっと知って欲しいし」 「お前のこと、じゃなくてお前の家のこと、だろ。日本語は正確に使いなよ」 そんな軽口をたたき、葉山は立ち上がり、幼馴染特有の気安さでリビングを出た。 「あー、トイレの場所聞くの忘れた」 出た後に、葉山はそれに気がついた。 もっとも、さほどあせることではない。 半分以上、居間で手持ち無沙汰になるのが嫌で出ただけだ。 明石に勧められたとおり、適当に家の中を見ながらトイレをさがすことにした。 そう考えて、適当に家の中のドアを開ける。 「ココは親御さんたちの部屋だな」 ダブルベッドとテレビ、ちょっとした机のある部屋を覗いて葉山は言った。 「次は、と。ココは物置か」 本棚や様々な荷物で手狭になった部屋を見て呟く。 本棚の中にはアルバムが仕舞われているようだった。 「見てやって、後で話のネタにしてやるか」 そう思ってアルバムを開く。 前半は、明石の両親の写真からだった。 それから、明石が生まれた後の写真。 明石の両親は共働きなので、どうしても朱里にかまってやれる時間が少ない。 そのため、家族旅行の写真があっても近い日付の写真が連続で並んでいることの方が多かった。 家族旅行の回数自体が少ないのだろう。 その代わり、葉山の家の旅行に明石も一緒に行った記憶があった。 あとは、入学式や卒業式の写真。 「ほとんど全部に俺が一緒に並んでンな。まるでキョーダイみてーだ」 幼稚園から高校まで同じなのだ。 家族写真の中に葉山も一緒に写っていた。 その逆の写真が、葉山の家にもある。 「腐れ縁にもほどがあるなァ。ったく、やれやれだぜ」 そうは言いながらも、懐かしさに自然と笑みがこぼれる。 そんなことを考えている内にあっという間にアルバムを見終わる。 「まいった。ネタになるような写真が無ぇ。っつーかンなことしてる場合じゃ無ぇ」 アルバムを仕舞い、物置部屋を後にする。 そして、無造作に次の扉を開ける。 「!?」 扉を開けて、硬直した。 817 :ヤンデレの娘さん 朱里の巻 part1 ◆yepl2GEIow:2011/09/12(月) 22 22 17 ID 3d.1vUmw その部屋は、とても部屋とは思えなかった。 いや、確かにクローゼットやベッド、勉強机といった記号が、そこが寝室であることを辛うじて認識させてくれた。 しかし、その他は何だろう。 壁一杯に、写真が貼られていた。 葉山の写真だった。 通常サイズのものから、引き伸ばしたものまで、様々なタイプの、様々な年代の葉山の写真が壁に隙間無く貼られていた。 いずれも、視線がカメラの方を向いていない。 盗撮であることは明らかだった。 壁だけではない。 天井、床、果てはクローゼットにまで、葉山の写真がビッシリと貼られていた。 ベッドの布団にまで、葉山の写真がプリントされている。 葉山葉山葉山葉山葉山葉山葉山葉山葉山葉山葉山葉山葉山葉山葉山葉山葉山葉山葉山葉山葉山葉山葉山葉山・・・・・・ どこを向いても葉山の写真がある。 自分の姿が部屋一面に飾られていることに、言いようも無い嫌悪感、否、恐怖感を感じる。 「・・・・・・ヒ」 そこで、ようやく喉が正常な機能を果たし始めた。 「ヒアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」 恥もプライドも無く、葉山は家中に響かんばかりの悲鳴を上げた。 「あれ、どうしたの正樹?」 その悲鳴を聞きつけて、というには平静な声が背後から聞こえた。 明石だ。 「あ、朱里・・・・・・」 振り返った瞬間に、腰が抜けたのか、はたまた気が抜けたのか、葉山は尻餅をついていた。 自分の姿が写った、床の上に。 「・・・・・・これ、何?」 震える手で、部屋の中を指差す。 「・・・・・・え?」 対する明石は、何のことだか分かりかねるような声で小首をかしげ、言葉を続けた。 「ココ、アタシの部屋だけど?」 ココ、アタシノヘヤダケド その発声の意味を掴むまで、葉山は数瞬かかったと言う。 「お前の・・・・・・部屋?」 「うん」 当たり前のようにうなづかれる。 「お前・・・・・・・こんなところで暮らしてんの?」 「うん」 「こんなところで毎日起きんの?」 「うん」 「こんなところで毎日寝てんの?」 「うん」 「こんなところで毎日勉強してんの?」 「うん、大体は」 「こんなところで毎日ケータイで喋ってんの?」 「うん」 「お前・・・・・・」 口が、喉が、何より頭が正常に機能しない。 「お前、こんなところで二十四時間三百六十五日生き続けてんの?」 「うん」 当然という顔の明石と、圧倒的に異様な明石の部屋。 「なん・・・・・・で・・・・・・」 「ああ、この写真?」 抵抗感無く、慣れた様子で部屋の中を見渡して、明石は言った。 「ああ、ゴメンゴメン。思わず勝手に撮っちゃったり、学級新聞とかに載った奴をパソコンに取り込んでプリントアウトしたり、さ。謝るから、ね」 「いや、ソレじゃなくて・・・・・・」 どっちを向いても、葉山の姿しかない。 「こんな部屋に居て、気ぃ狂わないのか?」 「え、何で?」 明石はきょとん、とした。 思いもよらないことを聞かれたという風に。 818 :ヤンデレの娘さん 朱里の巻 part1 ◆yepl2GEIow:2011/09/12(月) 22 22 38 ID 3d.1vUmw 「むしろ、ちょー落ち着くじゃん」 「おち・・・・・・つく?」 理解しがたい言葉が、明石の口から飛び出た。 いや、理解できるはずなのだが、頭が理解することを拒否している。 「すっごい落ち着くって言うか、安らぐっていうか。なんかこー、正樹に守られてる感があって良いんだぁ、ココ」 恍惚とした表情さえ浮かべながら、明石は語る。 「世界で一番の、私の安全地帯」 そのおぞましい空間を、明石はそう形容した。 「なん・・・・・・で・・・・・・」 葉山には、とても理解しがたかった。 訳が分からなかった。 まるで、地獄の只中で天国に居るようなことを言う彼女が。 言葉や表情だけではなく、明石朱里と言う存在自体が。 『これは、誰だ?』 と、葉山は思った。 『俺の知ってる朱里は、こんなヤツだったのか?』 例えば、朱里の体をエイリアンが乗っ取っている、そんな与太話のほうがまだ現実味があるように思えた。 「何で、って言ったよね、正樹。その理由はシンプルだよ」 腰を抜かしたままの、葉山に顔を近づける明石。 「正樹が、好きだから」 葉山の耳元で、明石がそう囁いた。 おぞましい空間の中で行われるには、とてつもなくアンバランスな告白。 「正樹になら、頭のてっぺんから足先まで、心臓でも肝臓でも目玉でも何でも、私のどこだってあげる。正樹のためなら、世界中の誰だって殺せる」 囁きは、続く。 「世界中が誰一人何一つ無くなっても、正樹さえいてくれるなら、私は幸せ」 告白は、続く。 「正直ね、私普通に生きてて何度も何度も何度も死にたくなったよ。普通に生きてたから。普通に、みんなからシカトされたり、暴言を吐かれたり、暴力を振るわれたりしたことも、あったから」 おぞましい、告白は。 「でも、正樹がこの世にいてくれてる、それだけを支えに今日まで生きてきたよ?」 そして、明石は、葉山の耳元から正面に移動する。 「大好き」 そう言って、葉山の唇に、自分の唇を重ねた。 キスをされてる。 そう思ったときには、体重をかけられ、押し倒されていた。 「ぅん、ううん・・・・・・」 「!?」 唇の柔らかな感触を味わう暇も無く、口内に異物が侵入してくる感覚。 舌を入れられているのだ。 葉山の口の中に、明石の舌が。 「ぁ、あん・・・・・・うむ・・・・・・ン。ちゅぱ・・・・・・」 葉山の体の上に乗った小さな胸から、ドキドキという鼓動が聞こえる。 その鼓動が、初めて葉山に、明石が女性であることを感じさせた。 同時に、口の中で明石の舌が蛇のようにうねる。 訳が分からなかった。 意味が分からなかった。 何もかもが理解不能だった。 今まで、葉山にとって明石は腐れ縁の幼馴染で、気安い友人で、それ以上の存在では無かった。 そんな明石が、葉山を異性として見ていたというのだろうか。 葉山に対して、こんなことをしたかったというのだろうか。 「フフ・・・・・・」 それまで、葉山の手に重ねられていた明石の手が移動する。 葉山のズボンへと。 『逃げないと』 ベルトに手をかけられた瞬間、ようやく葉山にその発想が生まれた。 『逃げないと逃げないと逃げないと逃げないと!』 自分の口内を蹂躙する明石の唇を強引に振り払い、ベルトを外そうとする明石を突き飛ばした。 819 :ヤンデレの娘さん 朱里の巻 part1 ◆yepl2GEIow:2011/09/12(月) 22 23 19 ID 3d.1vUmw 「まさ・・・・・・き?」 信じられないという顔をする明石の存在すら視認できず、葉山は脱兎のごとく部屋を逃げ出した。 「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああ!」 悲鳴を上げ、部屋だけではなく、明石の家からも、走り出る。 「あああああああああああああああああああああああああああああああああ!」 行き先なんて考えていない。 一分一秒でもあんなおぞましい空間にいたくはなかった。 走って逃げて走って逃げて走って逃げて走って逃げて走って逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて。 闇雲に走った先で、葉山は我に帰って足を止めた。 呼吸が荒いのは、急に走ったからだけではないだろう。 「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・ウン?」 ふと気がつくと、懐から振動音が聞こえる。 ポケットに入れていた携帯電話だ。 それを取り出そうと手をやって、葉山は遅まきながら自分の全身が震えていることに気がついた。 そして、震える手で携帯電話を取り出し、 「ヒアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアああああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?」 葉山は、過去最大級の悲鳴を上げた。 着信者:明石朱里 そう、携帯電話に表示されていたからだ。 思わず通話終了ボタンを押すと、着信のお知らせが残る。 「ヒィ!?」 着信履歴を覗くと、葉山は携帯電話を取り落とした。 着信者:明石朱里 着信者:明石朱里 着信者:明石朱里 着信者:明石朱里 着信者:明石朱里 着信者:明石朱里 着信者:明石朱里 着信者:明石朱里 着信者:明石朱里 着信者:明石朱里 着信者:明石朱里 着信者:明石朱里 着信者:明石朱里 着信者:明石朱里 着信者:明石朱里 着信者:明石朱里 着信者:明石朱里 着信者:明石朱里 着信者:明石朱里 着信者:明石朱里 着信者:明石朱里 着信者:明石朱里 着信者:明石朱里 着信者:明石朱里 着信者:明石朱里 着信者:明石朱里 着信者:明石朱里 着信者:明石朱里 着信者:明石朱里 着信者:明石朱里 着信者:明石朱里 着信者:明石朱里 着信者:明石朱里 着信者:明石朱里 着信者:明石朱里 着信者:明石朱里 着信者:明石朱里 着信者:明石朱里 着信者:明石朱里 着信者:明石朱里 着信者:明石朱里 着信者:明石朱里・・・・・・ 短時間の間に、ビッシリとそう表示されていたからだ。 「ワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」 葉山はそのまま、携帯電話を拾うのも忘れて、家へ逃げ帰った。 820 :ヤンデレの娘さん 朱里の巻 part1 ◆yepl2GEIow:2011/09/12(月) 22 23 53 ID 3d.1vUmw 以上が、俺が葉山から聞いたことの顛末だった。 話している間中、葉山はガタガタとかわいそうに震えていて。 なだめながら聞くのがやっとだった。 正直、最後まで話せたことが奇跡だったかもしれない。 「そっか・・・・・・」 俺は、話し終えた葉山の肩をポンポンと叩いて言った。 「ありがとう、全部話してくれて」 俺は、出来うる限り最大級に穏やかな笑顔を葉山に向けた。 「あ、ああ・・・・・・」 生唾を飲み込みながら、葉山は何とかそう言った。 正直、俺にとって明石は危険度の高い女子だとは思えない。 葉山の話を聞いてなお、そう感じられる。 俺は、ブチ切れた時の生徒会メンバーをはじめとする危ないモードに入ったコたちを数多く見てきたから。 彼女らに比べれば、誰1人にも危害1つ加えていない明石は極々普通の女子でしかない。 けれど、葉山は違う。 葉山が怖いと、恐ろしいと感じたことは事実なのだ。 今重要なのは、葉山を慰めてやること。 「安心しなよ、怖いモンはもう無いから。もう去ったから」 「ああ・・・・・・ああ・・・・・・」 慰める俺に、ガクガクと頷く葉山。 「お前が遭ったのは、ひと時の、そう夢みたいなモンだよ。明石だってきっと・・・・・・」 「アイツの名前を言うな!」 俺が明石の名前を出すと、葉山は悲鳴のようにそう言った。 この様子だと、きっと昨日から連絡なんて取ってないんだろうなあ・・・・・・。 確認したいけど、今の葉山はそれを聞けるような状態には見えない。 意外と言えば意外だが、納得と言えば納得の状態だった。 葉山は、本当にごく普通の男子高校生だ。 当たり前に親や教師の庇護を受けて育ち、人間のドロドロとした部分なんてほとんど体感せずにすくすくと育った奴だ。 いじめにあったことも、いじめをしたことも無いような、表裏の無いまっすぐな奴だ。 まっすぐだからこそ、横殴りの衝撃には弱い。 それも、今回は不意打ちだった。 葉山も、なんのかんのでイロイロ鈍感な奴だ。 昨日体験した全てが、葉山にとって『明石の意外すぎる一面』だったのだろう。 それも初体験。 初心者には刺激が強すぎる。 キスのことだけではないので、念のため。 「まぁ、とにかく、もう大丈夫だから。俺らもついてるしさ」 「・・・・・・頼りに、していいか?」 「もちろん」 「・・・・・・ありがと、な」 そうして、教室に戻ろうと俺たちは立ち上がる。 震えていた葉山の足元も、随分しっかりとしてきた。 そうして、俺たちは階段を下りて、踊り場にさしかかった。 踊り場には先客がいた。 と、言うより、倒れていた。 人が、女の子が1人。 「三日!!」 俺は、思わずその大切な女の子の名前を叫んでいた。 821 :ヤンデレの娘さん 朱里の巻 part1 ◆yepl2GEIow:2011/09/12(月) 22 25 34 ID 3d.1vUmw その後。 俺は、葉山に先に戻ってもらい、三日を急いで保健室に連れて行った。 保健室の先生によると、体調に特に問題は無いらしい。 「ちゅーか元々、良く倒れる奴だかんな」 と、先生は言った。 「体、弱いですからね」 「とりあえずベッドに休ませとくから。御神、お前着いててやれ」 「はい」 そんなやり取りをして、先生はベッドから離れた。 しばらくすると、暢気な寝息が聞こえる。(不良教師だ) 「・・・千里・・・くん?」 ベッドの上で、三日が目を開ける。 「そだよー。お目覚めかな、眠り姫」 「・・・ねむりひめ?」 ボンヤリとした顔で辺りを見回す三日。 こんな軽口にボケるとは、頭がまだ本調子では無いらしい。 「心配したよー。踊り場で倒れててさー」 「・・・私、倒れちゃったんですね」 改めて、三日は辺りを確認し、ここが保健室であることを認識する。 「・・・ここまで運んでいただき、ありがとうございます」 「これぐらい軽いもんだよ」 仕事的にも、体重的にもね。 「でも、体育の授業でもないのに三日がブッ倒れるなんて久しぶりだね。あの夏以来じゃない?」 なるたけ軽い調子で、俺は言った。 今日は最大級の穏やか笑顔の出番が随分多くなりそうだった。 「・・・私のせい、なんです」 脈絡も無く、三日は言った。 「って、どうしたのさ。藪からスティッチに」 「・・・私のせいだと思うと、胸が苦しくなって、・・・息も荒くなって、・・・気がついたら、倒れてて」 俺のボケにツッコミも入れず、三日が言葉を続けた。 気のせいか、小さな胸が上下する間隔が短くなっているようにも見える。 「と、とにかく、落ち着いて、ね?ね?」 背中をさすり(俺もパニクッてるのだ)、俺は三日をなだめる。 「・・・聞いてたんです、さっきの葉山くんの話」 軽く深呼吸して、落ち着いてから三日は言った。 聞いていた、というのは、先ほどのやり取りのことだろう。 「・・・あれは、きっと私のせいなんです」 そして、三日は話し出した。 懺悔するように。 822 :ヤンデレの娘さん 朱里の巻 part1 ◆yepl2GEIow:2011/09/12(月) 22 25 54 ID 3d.1vUmw しばらく前に、こんなやり取りがあったのだそうだ。 「・・・どうして朱里ちゃんは、葉山くんにストレートに告白してしまわないんです?」 「!?」 三日の素朴な疑問に、会話していた明石は言葉を詰まらせたのだという。 「ええっと、それは何と言うか。まだそのカードを切るのは早いというか最終手段と言うか今はその段階じゃないというか・・・・・・」 しどろもどろでそう捲くし立てる明石だったが、まっすぐ見つめる三日の眼に嘆息して、 「自信が無いのよ、正直」 と、ため息混じりに言った。 「告白なんかして、もし正樹に振られたり、『キライだ』とか言われたりして、今のぬるま湯みたいな関係が壊れちゃうんじゃないかって思って、怖いのよ」 明石はそう、本音を吐露した。 「…大丈夫ですよ、朱里ちゃん」 三日は静かに首を横に振り、優しく明石の手を取った。 「…絶対、大丈夫です」 「何の算段も無いのに、何でそう言い切れるのよ」 「…良いですか、朱里ちゃん」 気弱な明石に、三日は諭すように言った。 「…正直言って朱里ちゃんは美少女なんです」 「恥ずかしいことを臆面も無く言うわね」 「…事実ですから。…それも、私が男の子だったらほんのちょっとだけときめいていたかもしれない位の」 「恥ずかしい台詞の大盤振る舞いね」 「…ですから、葉山くんなんて美少女の朱里ちゃんが迫りに迫れば陥落するに違いありません!」 「陥落!?」 「…葉山くんなんて『チョロい!』ものなんです」 「私の親友が腹黒くなって生きるのが辛い」 「…とにかく、自分に自信を持ってください」 「自分に自信、ね」 明石は三日の言葉を繰り返し、微笑を浮かべた。 「会ったばかりはオドオドビクビクだったみっきーの口からそんな言葉が出る日が来るなんて、ね」 「…出過ぎた言葉、でしたか?」 「ううん」 首を横に振る明石。 「ありがと、みっきー。みっきーに言われて、むしろ自信出て来た」 そして、明石は決意した。 「告白するわ、アタシ」 「…朱里ちゃん」 三日に頷く。 「まぁ、ちょっぴりちゃんと準備がいるから、今すぐにってワケにはいかないけどさ」 「…はい、応援しています!」 そして、現在 「…それが、あんな結果に終わるなんて」 三日は、思いっきり落ち込んでいた。 我が事のような落ち込みぶりだった。 俺も似たような経験があるので、三日の気持ちは痛いほど分かる。 それこそ、我が事のように。 「…私のせい、ですよね」 「お前のせいじゃない」 三日から零れた言葉に、俺は即答した。 「お前はお前にできることを十分にしただけだ。その結果は残念なことになったけれど、それとこれとは話は別だ」 ポン、と三日の頭に手をやって、俺は言った。 「だから、大丈夫だ」 「…ありがとう、ございます」 ほんの少しだけ、三日の声に元気が戻った気がした。 「どういたしまして」 俺は、笑顔でそう答えた。 「それにさー、まだ希望はあるかもだよ?今のはやまんはちぃとパニクってるだけだし、さ。落ち着けば、何か変わるかもー」 半分以上は気休めのような言葉ではあった。 けれど、それに対して三日は「…はい」と頷いてくれた。 823 :ヤンデレの娘さん 朱里の巻 part1 ◆yepl2GEIow:2011/09/12(月) 22 26 36 ID 3d.1vUmw おまけ ここから先は、俺が知る由も無い出来事だ。 葉山正樹に告白をした後、明石朱里が何をしていたか。 彼女は、一晩中街の中をさ迷っていた。 夜が開けた、その時間、本来なら登校しているその時間帯もまだ。 激しい雨に打たれながら。 その一晩、物騒な輩に絡まれなかったことは、ある意味では幸運ではあった。 そうした輩でさえ、今の明石のことは避けて通ったのかもしれない。 雨に濡れ、汚れきった衣服。 憔悴しきった表情。 虚ろに濁った瞳。 覚束無い足取り。 右手には汚れのついた携帯電話が握られていた。 その携帯電話が葉山のものであることに、彼女の友人ならば気が付いただろう。 その前に、彼女が明石朱里であることにすら気が付かないかもしれないが。 そう思わせるほどに、普段の彼女からは考えられない位、憔悴しきっていた。 「……はは」 彼女の口からは、時折虚ろな笑いが漏れる。 「……あはははは」 笑いが漏れては、虚空に消える。 フラフラと歩いていた彼女の足は、夜中歩きとおしてとうとう止まった。 そして、明石の体はコンクリートの上にグラリと倒れた。 その勢いで、右手の携帯電話が道に転がる。 「……あ」 地面に倒れた痛みよりも、手から離れた携帯電話を、明石は目で追った。 その時、黒猫が現れた。 「へぇ…ん」 その黒猫、否、明石が黒猫だと一瞬錯覚した女性は、傘を片手に明石の落とした携帯電話を無造作に拾い上げて、言った。 「ハードなお仕事終わって、久々の帰宅中にヒトみたいなゴミが落ちてると思ったらゴミみたいなヒト…なんだよ?」 「かえ……して」 出会いがしらの暴言より先に、明石は葉山の携帯電話のことに反応した。 「それ……かえして。たいせつな……ひとのもの……だから」 途切れ途切れで、そう声を漏らす。 「良い…よ」 女性は、明石に近づき、前かがみになって携帯電話を手渡す。 そして、彼女の顔をまじまじと見る。 「キミの顔、どっかで見覚えある…なぁ。どこだった…かな?」 そうして、少し考え込むと言った。 「分かった、明石朱里さん…でしょ?」 「……?」 自分の名前を言い当てたその女性を不思議に思う明石。 明石にとって、その女性は見覚えの無い相手だ。 「分かるよ。自分の娘の交友関係くらい…ね」 そう言って、女性は猫のように笑う。 「明石朱里…さん。キミはちょっぴり面白い人かも…しれないね?」 そう彼女―――緋月零日は言った。 明石朱里と緋月零日 壊れかけた少女と壊れ果てた女性 出会ってはいけない2人が、出会ってはいけない時に、出会ってしまった。