約 2,051,471 件
https://w.atwiki.jp/familiar/pages/4133.html
167 名前: サイトが魔法を使えたら【ガリア編】 [sage] 投稿日: 2007/11/25(日) 23 22 22 ID jO72RQWq トリスティンの王宮内。 サイト、ルイズ、そしてタバサはラグドリアン湖での戦いのあと、 アンリエッタ女王の伝令フクロウにここに呼び出されたのだ。 「ルイズ。報告を感謝します。そして、お二方。今回のガリアの急襲をよく阻止してくれましたね。」 アンリエッタはルイズ、タバサ、サイトをそれぞれ視線を合わせて丁寧に感謝の気持ちを伝えた。 「今夜は、みなさんお疲れでしょうからごゆっくりお休みください。でも明日またこちらに来て頂きます。」 彼女は最後にそう付け加えたのだった。 部屋に戻る途中、ルイズは二人に問い質した。 「ねぇ、サイト。なんであんなとこにガリアの虚無の使い魔がいたの」 「俺に聞かれてもな。偵察かなんかだろ。でも彼女にかなりの深手を負わせちゃったから・・・生きて・・・ないかもな」 サイトの顔が苦悶にゆがんだ。 「大丈夫。あれは本体じゃない。おそらく、スキルニル。」 横からタバサが口を挟んだ。 「でもよ。どっちにしろ傷つけちまったんだ。」 ルイズはため息を一つ漏らして彼を言葉をかける。 「あのままだったら、きっとあんたたちのどっちかが、命を落としていたわ。 そっちよりか全然ましだわ――勝手なことしないでよ。また私をひとりにするつもりだったの? そんなのやなんだから」 そう言うと、ルイズは彼の背中にそっと手を添えるのだった。 「じゃ。また明日」 タバサが自分の部屋へと戻っていった。 二人も部屋へと入ると、そのまま崩れるようにベットへ倒れこんだ。 「着替えないのかよ」 「いいわよ。もう面倒、疲れたわ」 「そか」 「サイト――」 ルイズはそう一言零すとサイトの胸の中にもぐりこんできた。 彼は黙って彼女の肩と腰に手を添え、きゅっと抱きすくめてあげた。 「心配したんだからね」 彼女は胸に顔を埋めたままそう言った。彼女の耳は真っ赤になっている。 サイトは肩に添えていた手を離して、小さくしゃくりあげる彼女の頭をなでた。 「ごめん」 その言葉にルイズはこくりと頷き、小さな手を彼の背中に回してぎゅっと抱きしめた。 その晩、サイトは彼女のすすり泣きが寝息に変わるまで、頭をなで続けたのだった。 254 名前: サイトが魔法を使えたら【ガリア編】(1/6) [sage] 投稿日: 2007/11/29(木) 23 30 16 ID v/QMcuLR 翌朝。ルイズ、タバサ、サイトの三人は、アンリエッタのところへ向かった。 女王の執務室には、彼女のほかにマザリーニ枢機卿も居た。 三人が入るなり、枢機卿が口を開いた。 「先般のガリアの急襲においては、お二人のシュヴァリエが居合わせなければ、 ここも危うかったことだった。お見事でしたな。」 枢機卿の言葉を受け、アンリエッタが言葉を繋いだ。 「いささか、急な話かもしれませんが、お二方を新たな位に叙任したいのです。」 まず、彼女はタバサを見た。そして手にした書類を読み上げた。 「タバサ殿――あなたにはトリスティンのシュヴァリエを授与します。」 「え・・・」 意外なことにタバサが戸惑っている。隣に居たサイトを見て聞く。 「どうしたらいいの」 そんな困惑した彼女を前にサイトが言う。 「母親もここにいるんだし、もう向こうに義理立てすることもないんじゃないのか? こっちのシュヴァリエになっちまえば、いくらか動きやすいと思うぞ」 「そう」 そうつぶやくとサイトから視線をはなし、女王に向きなおって、跪いた。 アンリエッタの杖がタバサの肩にそっと添えられる。 「我、トリスティンの女王、アンリエッタ。このものに祝福と騎士たる資格を与えん。 ―――――始祖と我と祖国に、変わらぬ忠誠を誓うか?」 「誓う」 「――――――汝の魂の在り処、その魂が欲するところに忠誠を誓いますか?」 「誓う」 2回目の首肯を受け、アンリエッタは、一旦杖を彼女から離し、高々と掲げた。 「よろしい。始祖ブリミルの御名において、汝をシュヴァリエに叙する。」 女王の杖が彼女の左右の肩を二回ずつ叩いた。 そして、タバサに百合の紋と五芒星の付いたシュヴァリエのマントが渡された。 255 名前: サイトが魔法を使えたら【ガリア編】(2/6) 投稿日: 2007/11/29(木) 23 30 52 ID v/QMcuLR 次にサイトの方を向いて、同じく書類を読み上げる。 彼には女王の目が少しばかり潤んでいるような気がした。 「―――サイトどの。受け取ってください。あなたには男爵の爵位を与えます。」 「え・・・姫さま!?シュ、シュヴァリエどころか男爵って、そんなの――」 ルイズがいつのまにかサイトの隣に来て、彼の袖の端っこをつまんでいた。 「ルイズ。いいのです。彼にはそれだけの資格があるのです。 サイトさん。受けて戴けますね。」 女王の瞳はしっかりとサイトを見つめていた。 彼は彼女の言葉の裏に何かひっかかるものを感じたが、ここはあえて受けることにした。 「分かりました。でも、それだけじゃなさそうですね。俺に何をお望みなんですか?」 彼の確信を突く問いに一瞬、女王と枢機卿が目を合わせる。 「それは、これをお渡ししてからお話します。」 そうアンリエッタは答えると、サイトの胸にきらびやかな勲章を付けたのだった。 そして、今度はマザリーニがサイトとタバサに向かって言った。 「御両名には、明日にもガリアへ潜入して頂きたい。」 ルイズが何か言おうとしたのを遮るようにアンリエッタが彼女の近くに寄って、手をとりあげて言った。 「聞いて頂戴。ルイズ・フランソワーズ。今回の任からは虚無の担い手であるあなたをあえて外します。 もしもガリアにその身が捕らえられたら、今回の任務の意味がなくなってしまうのです。」 ルイズは黙って俯き、唇をかみ締めた。 女王は二人に目を移して、告げるのだった。 「今回の目的は、始祖のオルゴールの奪還です。始祖の御加護がありますように。」 256 名前: サイトが魔法を使えたら【ガリア編】(3/6) [sage] 投稿日: 2007/11/29(木) 23 31 52 ID v/QMcuLR サイトとタバサは明日の朝に学院を出立することになった。 ルイズは王宮から帰ってきてから、ずっと黙ってしまって彼と目も合わせようともしない。 サイトはどうしたもんかな。どう声をかけていいやら分からないまま、夜になってしまった。 「なぁルイズ」 沈黙に耐え切れなくなったサイトが口を開いた。 「・・・」 しかし、桃髪のご主人さまは、こちらをちらりと見ただけで、なにも返してくれない。 「なぁって」 彼がもういちど声をかけた。 「・・・」 彼女は、すーっとサイトのそばまでやってきて、彼のパーカーの袖口をキュッとつまんだ。 しかし、やっぱり黙ったままだ。 「明日からしばらく俺居なくなんだぞ。――しばらく会えないんだからよ、こ、声くらい聞かせてくれよ」 サイトはすこし照れながらも彼女にさらに言葉をかけた。 彼のしばらく会えなくなるという言葉に彼の袖口をつまんだ彼女の手に力が入った。 そしてようやく、ルイズの口から言葉がもれた。 「――だったら。だったらなんで行っちゃうのよ」 彼女の鳶色の瞳は上目遣いに彼へ向けられていた。 仕方ないじゃないか。サイトの言葉にかぶさるように彼女は言葉を続ける。 「しばらく離れ離れになっちゃうのが分かってんのに・・・なんで行っちゃうの・・・よ」 彼女のとても悲壮にくれた表情に、サイトは言葉を飲み込んでしまった。 かわりに、彼はそっと彼女の肩に手を伸ばした。 彼の手がルイズの肩に触れた瞬間、彼女の瞳から真珠の粒がこぼれだした。 「ガリアなんかに行っちゃったら。もしかしたら二度と・・・会えなくなっちゃう・・・かもなのに」 彼女は滂沱として流れる涙をぬぐいもせず、そのぬれ続ける瞳でサイトを責めるように見つめる。 「そんなのや。でも。でも。あの子と一緒なのもっとやなんだもん」 そこまでいうと、ルイズはサイトの胸に飛び込んだ。 「やだやだやだ。なんでタバサとなのよ。せめてなんでキュルケとかじゃないのよ」 「おおい。キュルケもまずいだろ。ふつうに」 彼は彼女にぽすぽすと胸を叩かれながら今の物言いにつっこんだ。 「きゅ、キュルケは大丈夫なんだもん。センセイがいるんだから」 コルベール先生って。日本だったら十分まずいぞ。それも。今度は心の中でつっこむ。 泣きじゃくるご主人さまにサイトは言った。 「俺もおまえの見えるものが見える。聞こえたものも聞こえる。湖の戦いでそうなっただろ。ルイズも」 彼はルイズの背中をさすって、言葉を繋ぐ。 「―――俺とおまえは見えない絆で繋がってるんだ。距離なんて関係ないよ」 そしてサイトは彼女の背中に両手を回していつもより少し強めに抱きしめた。 「いつも一緒だ。だから待ってろ」 まだしゃくり上げるルイズだったが、彼女の左右の手もサイトの腰に回してキュッと抱きつくのだった。 「タバサとなにかあったら許さないんだから」 「ないない。なんにもないから。指輪あげたろ?少しは信じてくれって」 その言葉に彼女は、自分の薬指にはめてもらった紺碧の石の指輪が温かく感じられた。 「わ、わかったわよ。今回だけは信じてあげることにするわ」 彼に見えないようにルイズは紅色に染まったほほを緩ませるのだった。 257 名前: サイトが魔法を使えたら【ガリア編】(4/6) [sage] 投稿日: 2007/11/29(木) 23 32 43 ID v/QMcuLR 次の日の朝早く、ルイズの部屋を訪れる者がいた。 ルイズ自らが扉を開けた。目の前には青髪の少女。タバサがいた。 ルイズは黙ったままタバサの碧眼を睨みつけた。 「タバサ、あんたほんとに行くんだ。」 こくり。彼女が首を縦に振る。 ギリッ。ルイズは歯を噛みしめ、次の言葉を放つ。 「わたしのサイトと一緒に行くんだ。」 「そう」 グッ。ルイズは両拳を握り締め、腰にあてた。 「――サイトにもしものことがあったら、あんたを絶対許さないんだから!!」 吐き捨てるように言うと、フンッとそっぽを向いてつかつかサイトのそばに行ってしまった。 タバサは眉を寄せて、彼女の背中に向かって答えた。 「サイトは必ず守る。絶対に死なせはしない」 そんな二人をサイトはきょろきょろと落ち着きなく見ていたのだった。 「それじゃ、ルイズ行ってくる」 そう言う彼の胸元にぽすんとルイズはおでこをぶつけて、両手でぎゅっとパーカを握り締めた。 一秒でも早く、戻って来てよ。命令なんだからね。彼女が小さな声で彼につぶやいた。 ルイズは外まで二人を見送りはしなかった。部屋のドアの前で二人の背中を見送ったのだ。 だんだん小さくなる二人の背中をずっと追い続けるなんて、彼女には我慢できないのだった。 ルイズは閉められたドアをしばらく見つめていた。唇をかみしめて・・・ そして、思いつめたようにベットに突っ伏して。涙したのだった。 学院の建屋から外に出たサイトとタバサは、彼女の使い魔を呼び寄せた。 「きゅいきゅい。どーこーに゛っ・・・」 ゴスン。タバサの杖が振り下ろされた。 ぃたいのね。シルフィードは膨れっ面で、自分の主人を睨んだ。 黙る。低い声でシルフィをタバサが一喝する。 乗って。サイトにそう言うと、彼女は先にシルフィの背に乗っかり彼に向かって手を差し伸べた。 彼の手を握ると細身からは想像つかない力で彼を引っ張り込んだのだった。 ガリアへ。 彼女はシルフィにそう伝えた。 大きな翼が広がって空気を包み込むように二、三度羽ばたくとふわりと空へと舞い上がった。 みるみるルイズを残した学院が小さくなっていく。 サイトは残した想いを振り切るかのようにこれから向かう先へと目を向けた。 サイトはわたしが必ず守る。タバサは杖をぎゅっと抱きしめてひとりつぶやくのだった。 学院の火の塔に、真っ赤な髪で左の手に真っ赤な石のついた指輪をはめた女の子が、そんな二人を眺めていた。 「ふぅん。タバサもやるじゃない。あのルイズからサイトをもってっちゃうなんて・・・ 今回ばかりはわたしの出番はなさそうねぇ。ちょっとつまんないけど。でもルイズはどうするのかしらね。」 ふふふ。キュルケはいたずらっぽい笑みを湛えるのだった。 258 名前: サイトが魔法を使えたら【ガリア編】(5/6) [sage] 投稿日: 2007/11/29(木) 23 34 02 ID v/QMcuLR その日のお昼ころ、シルフィに乗った二人は旧オルレアン公邸に着いた。 シャルロットお嬢さまではありませんか。屋敷から老執事がやってきた。 「ペルスラン。聞きたいことがあるの」 彼女はそう切り出した。 彼は彼女の問いに答えた。 「陛下はこの時期首都のリュティスにはおりません。 東のアーハンブラ城で休暇を楽しまれているはずでございます。」 アーハンブラ城。忘れもしない、かつて彼女が囚われの身となっていた場所なのだった。 彼女もサイトも身体に緊張が走る。 彼は、二人の雰囲気が変わったのに気がついた。 「これは大変失礼しました。あの城は・・・私も年ですな ・・・お嬢さまが連れ去られた城でございましたね。あぁ。なんてことを――」 老執事は汗を拭きながら平身低頭で二人に謝罪の言葉を並べていた。 「いい」 タバサは杖を握りなおし、シルフィに跨ろうとした。 そんな彼女をペルスランが慌てて引き止める。 「おおおお嬢さま。そんなに先を急がなくても・・・今夜はこちらで身体をお安めくださいませ」 そして、ようやく彼はサイトに声をかけたのだった。 「貴方様は・・・シュヴァリエ・サイト殿・・・おおお。男爵になられたのですね。まだお若いとお見受け致しますが・・・ いやいやめでたきことでございます」 サイトの胸の勲章を見て、深々と頭をさげた。 あまりに慇懃なその態度にサイトのほうが困ってしまった。 再び頭を上げたペルスランは、二人に熱心に屋敷に泊まるように勧めた。 彼の言葉になかば説き伏せられて、タバサとサイトは一泊することに決めたのだった。 ・・・ ・・・・・・ 一方、ルイズはあれからずっとベットに突っ伏したままであった。 一頻り泣きはらした後、そのまま寝入っていたのだ。 コンコン。誰かが部屋に来たようである。 彼女はぶっきら棒に応対した。 「だれよ。こんなときに」 259 名前: サイトが魔法を使えたら【ガリア編】(6/6) [sage] 投稿日: 2007/11/29(木) 23 34 53 ID v/QMcuLR すると、ドアの外から意外な人の声がした。 「モンモランシー?どしたのよ」 ドアを開けるのはいつもサイトの役目だった。けれど今はいない。 そんなちょっとしたことにも、今のルイズの心はチクリと痛むのだった。 ドアを開けると、モンモランシーの代わりににゅっと薔薇の花が目の前に突き出された。 「えっ?!ギーシュもいるわけ?」 さらに意外な人物を前にして、ルイズは目を丸くした。 ギーシュは、前髪をふぁさっとかき上げると、開口一番こう言った。 「副隊長はいないのかい?」 その一言にルイズはカチンと来た。 「あによ。知ってんてしょ。あいつがいないことくらい!なにしにきたのよっ」 そんな彼女の言葉も気にすることもなく、ギーシュは続けた。 「キミをひとり残していったのかい?しかも恋敵(ライバル)と一緒とは・・・彼も隅に置けないなぁ」 パカンっ。ルイズの手が彼に届く前に、彼の後ろからモンモランシーが引っぱたいた。 「あんたばかね。ルイズは、カレが居なくなっちゃって凹んでるのに火に油注いでんじゃない!」 そんなつもりはなかったんだけどなぁ。後ろ頭をさすりながらギーシュがぶつぶつ言った。 「ねぇ、ルイズ。あんた彼がどこに行ったのか知ってるの?」 モンモランシーがルイズに聞いた。 「ガリアとしか姫様からは聞いてないわ」 ルイズは首を横に振って答える。 「サイトは一体誰に会いに行ったんだい」 今度はギーシュが割り込んだ。 「たぶん、ガリア王に会いに行ったんだと思うわ」 それを聞いたギーシュは首をひねって言った。 「たしか、この時期はガリア王は首都にはいないはずさ。東のアーハンブラ城に狩に出かけているよ」 アーハンブラ城。忘れがたい城の名前にルイズの表情が硬くなる。 そんな彼女にギーシュが言葉をかけた。 「恋人は常にそばにいるべきさ。彼の許に行こうじゃないか」 「わたしも一緒よ。みんなの怪我をなおしてあげなきゃね」 彼の背後からひょっこり顔を出してモンモランシーも言葉をかけたのだった。 「みんなって?」 ルイズは二人に問いかける。 ギーシュがなぜか胸を張って答えるのだった。 「ボクはオンディーヌの隊長だよ。ボクが声をかければ連中は付いて来てくれるのさ」 「は、ばっかじゃないの。そんな大勢で行っちゃったらバレバレもいーとこじゃない」 ルイズは目を見開いて声を荒げた。 「ルイズ。決まっているだろう。とびっきりの精鋭を選んであるんだ」 ギーシュはまた前髪をかき上げて、なぜかやっぱり得意そうに胸を張って、そう言い放ったのだった。 344 名前: サイトが魔法を使えたら【ガリア編】(1/4) [sage] 投稿日: 2007/12/02(日) 20 39 39 ID 50uFwmAl ・・・ ・・・・・・ サイトがガリア王と会っている。だけど、彼は王に向かって剣を構えている。 そばに誰かが倒れていた。 突然、彼の足元の床が消え失せた。 彼は魔法で宙に浮いて、氷の槍を放っている。 彼に向かって王が何かを言った。 彼の目の色が一変する。そして、王に剣先を突き立てんとするようにまっすぐ突っ込んでいく。 王の表情が狡猾な笑みに歪んだ。 王は小さく杖を振るう。 ドスッ! サイトの背後から土砂でできた槍が襲い、彼の胸を貫いた。 彼は床に崩れ落ち、突進の勢いのまま何メイルか滑ってしまう。 どくどくどく。あっという間に彼の周りに血溜まりが広がっていく。 倒れた彼を王は嘲り笑っていた。 ・・・ ・・・・・・ ・・・・・・・・・ サイトっ!!!!! ルイズは自分の発した大きな叫び声で目が覚めた。 全身べっとり汗にまみれてしまっていた。 夢ーーにしては、妙な胸騒ぎがするのだった。 彼女は汗を濡らしたタオルでぬぐい、それから出かける支度を始めた。 一番鳥が鳴く前に本塔前に集合すること。 それがオンディーヌの隊長との約束だ。 まだ外は煌々と二つの月が輝いている。 その月明かりが薄っすらとルイズの部屋に差し込んでいた。 今夜、一人で彼女はそこに眠っていた。 いつもそばにいるはずの彼は居ないのだった。 ひさびさに一人きりで眠るベットの上は、かなり心細かった。 ひざを抱えたりもしたが落ち着かなかった。 結局、彼の匂いのする枕を抱きしめて眠りの世界へいったのだが、 彼が死んでしまう夢を見るなんて。 さっきの夢を思い出してしまい、彼女は震える自分を自分で抱きしめる。 サイト。サイト。サイト・・・ 窓からのぞく月たちを見上げ、ルイズは彼の名前をつぶやき続けた。 345 名前: サイトが魔法を使えたら【ガリア編】(2/4) [sage] 投稿日: 2007/12/02(日) 20 41 20 ID 50uFwmAl 彼の居ない部屋にいるとますます気が滅入ってしまう。 夜明けまでには随分あったが、ギーシュたちと約束した場所に来た。 本塔前。 明かりといえば、双月の月明かりだけ。 その月影でもってさえも夜闇にはかなわない。 景色はすぐに闇に喰われてしまう。 入り口前の階段に腰掛けていたルイズは、ここが夢なのか、現実なのか 曖昧な気分になっていた。 闇が生みだす寂しげな雰囲気。 こんなとき、そばにサイトがいたら、絶対に蝕まれはしない感情。 恐怖。 膝に顔を埋め、身体の震えを押さえ込もうとした。 だめ。わたしってサイトがそばに居てくれないとだめだめなの。 そんな彼女の肩に誰かの手が触れた。 ・・・ ・・・・・・ モンモランシーは、自分を洪水と呼ばわる友人のことが気になっていた。 あの子、なんだかんだいったって、結局はあの彼のことが好きなのよ。 なぜか分からないけれど、その感情を無理やり押し込んでるんだわ。 昔のあの子は、プライドの塊だった。 だけど、彼がそのプライドの塊を壊してくれた。 使い魔と主人だからという理由にかこつけてほとんど一緒に行動している。 他の女の子にシッポを振ったら即おしおきなのは、たぶん自分のほうを見てくれていないと 不安で不安でたまらないからなんだ。 プライドの殻を取り去ったあの子は、脆く、か弱い普通の女の子。 だから、今の状況はかなり危険だわ。 あのバカギーシュに誘われたときには、乗り気じゃなかったけど、あの子の様子を見たら・・・ わたしがそばに居てあげないとだめなんだ。 どうせ今夜は彼が居ないベットで悶々として寝付けないだろうし、 きっと早めにあの場所にいるかもしれないし。 彼女はやおらベットから身を起こす。その姿はすでに旅支度が済んだ状態だった。 マントを羽織るとモンモランシーは目的の場所へと急いだ。 例の場所に着てみると、想像通り、あの子が膝を抱えて顔を埋めていたのだった。 346 名前: サイトが魔法を使えたら【ガリア編】(3/4) [sage] 投稿日: 2007/12/02(日) 20 41 58 ID 50uFwmAl ・・・ ・・・・・・ 人肌のぬくもりを肩に感じてルイズは涙に濡らした顔を上げた。 「モンモランシー」 「つらそうね。ずいぶんひどい顔」 「わ。悪かったわね」 「悪い夢でも見ちゃった?」 図星。ルイズの顔がふにゃっと歪む。 「ごめんごめん。当たっちゃったか」 モンモランシーはルイズの背中をやさしくさすった。 「わたしたちがついてる。大丈夫よ」 「それにしても、男の子って、勝手よね。わたしたちの気持ちなんか置いてきぼりで あっちいったりこっちいったり・・・やんなっちゃうわ」 モンモランシーは闇の向こうに目をやって言った。 そんな彼女をルイズは意外そうに見た。 「ギーシュのことやっぱり気になるのね」 頬を朱に染めたモンモランシーはルイズの顔をちら見して口を尖らせる。 「そっそりゃ・・・あれだけ言い寄られれば、女の子としてう、嬉しいわよ。 ――その言葉が本物かどうか不安になっちゃうときあるのよ」 わたしだけじゃないんだ。ルイズはぼそりと零すと、顎を膝に埋め夜闇の先を見た。 「「はぁ〜」」 彼女たちは同時にため息をついた。二人は顔を見合わせるとくすりと笑った。 それから、肩を寄せ合うようにぴったりとくっついて、 その悩みの種がやってくるのを待つのだった。 347 名前: サイトが魔法を使えたら【ガリア編】(4/4) [sage] 投稿日: 2007/12/02(日) 20 42 49 ID 50uFwmAl 「二人とも、早いんだねぇ」 2時間後、モンモランシーの悩みの種が現れた。 うつらうつらしているルイズを身体で支えながら、彼女は彼を睨む。 「女の子より遅く来るなんて、非常識よ」 「これでも予定よりも半刻くらい早く来たつもりなんだけどなぁ ぼくのモンモランシー。一体君たちはいつからここにいるんだい」 「いっ、いつからって・・・ついさっきにきまってるじゃない!」 彼女はそういうと、ツンとそっぽを向いた。 んんん〜?!寝ぼけ顔のルイズが二人を見渡した。 「おはよ。」 モンモランシーが声をかける。 「んー」 「早速だけど、行こうかルイズ」 学院の正門には、レイナールとマリコルヌが馬を引いて待機していた。 「ごくろうだね。諸君」 ひらひらと手を振ってオンディーヌの隊長が声をかけた。 「モンモランシーも行くのか」 レイナールが彼女に聞く。 「そうよ。みんなが怪我したら治してあげるわ」 「隊長殿は、こんなときにもオンナ連れか、いいよなー」 マリコルヌが口を尖らせて言った。 「べ、べつにわたしはこいつと付き合ってるわけじゃないんだから! 関係ないのっ」 モンモランシーが大きな声で反論するのだった。 「ひどいじゃないか。ぼくのモンモン」 「モンモンじゃないっ!」 彼女は彼の尻をつねり上げた。 「・・・痴話げんかはちがうとこでやってくれ。早く行こう」 レイナールが二人をたしなめた。 ルイズとモンモランシー。そしてオンディーヌの精鋭3名は馬に乗り、ガリアへと駆け出すのだった。 ・・・ ・・・・・・ そんな5人の様子をキュルケは自室で眺めていた。 「ギーシュ?!ルイズはどーしようもないとして、ギーシュたちは止めないとさすがにまずいわね」 そうつぶやくと、急いで部屋から出て行った。 431 名前: サイトが魔法を使えたら【ガリア編】(1/8) [sage] 投稿日: 2007/12/06(木) 21 41 56 ID h9IVSfRF 朝がやってきた。 タバサとサイトは身支度を整えたあと、朝食をとった。 サイトは朝食をとりながら、朝の陽光差し込む窓から外をみた。 太陽が昇るその先には、目指す城が、そしてエルフたちが住む土地、サハラが広がっている。 そしてさらにその先には、東方の地、ロバ・アル・カリイエがあるという。 聖地はその真ん中あたりにあるのだろうか。 もし聖地の門が地球の世界とつながってたりしたら・・・彼は少し笑った。 マンガで読んだ、未来から来た猫型ロボットがポケットから出してきた なんとかドアのようなモノを想像してしまったのだ。 ありえねーって。自分の妄想を打ち消すかのように目の前の残りの料理を一気に 平らげたのだった。 ・・・ ・・・・・・ 二人は主亡き屋敷を守る老執事に礼を述べ、目的地へと飛び立った。 2時間くらい飛んだところで、サイトは、視線の先に竜の姿を捉えた。 その竜は、以前どこかで見かけたような気がした。 そしてなぜかムカッとしたのだった。 「なぁ、シルフィ。あの竜。見たことあるか」 「きゅい?うーん。結構イケテルみたいだけど、あたしの好みじゃないのね〜」 「そんなの関係ない。サイトの質問に答える」 言葉と同時に彼女のご主人さまの杖が飛んだ。 「おねーさま、ひどーいのね。いたいのね。しらないのね」 タバサはサイトを見て、少し首をかしげてみせた。 「知らない、みたい」 そっか。サイトは再び竜のほうを見たが、もうどこにも見つけることはできなかった。 ・・・ ・・・・・・ そのころ、キュルケは馬を飛ばしていた。 「馬って苦手なのよね。どーせなら、ジャンに空とぶ鳥くんでも作ってもらっとくんだったわ。 しっかし、あの子達結構馬乗りなれてるのかしら、全然追いつけないじゃないのよ」 度々鞍にお尻を強打されながら、彼女は鞭を振るうのだった。 432 名前: サイトが魔法を使えたら【ガリア編】(2/8) [sage] 投稿日: 2007/12/06(木) 21 42 32 ID h9IVSfRF 一方のルイズ御一行さまはというと、ラグドリアンの湖で一息入れていたのだった。 ルイズは湖をなんとなしに見やっていると、ふと、忌まわしい記憶が蘇ってきた。 惚れ薬でサイトにあんなことやこんなことをやったり、言ったりしてしまった、 あの時のことを思い出して、顔が真っ赤に染め上がった。 隣に座っていたモンモランシーが、そんな彼女の表情を見逃さなかった。 「ナニ真っ赤になっちゃってるのかしら」 「え、な、あああああによ。べべっべつになんでもないんだからっ」 ルイズは手元に生えていた草をぶちぶちぶちぶち抜きながら言った。 「隠そうったって顔に書いてるわよ」 うううそ。モンモランシーの言葉にルイズはぺちぺち自分の顔をはたく。 彼女は見事にカマかけに引っかかる友人を見て、笑いながら言った。 「薬なしでも言っちゃえばいいのに」 「言わないもん、あれは事故、そう事故なの」 モンモランシーがにやりとしながら、言ってみた。 「知ってた?あの薬、飲んだ人のホントの気持ちが出ちゃうのよ」 「えっ――ああんなのホントじゃないもん。もとはといえば、あんたが悪いんだからっ」 そういうと、ルイズは、プイッと口を尖らしてそっぽ向いた。 言っちゃったほうが、彼も喜んでくれると思うんだけどなぁ。 モンモランシーは空を見上げてつぶやいた。 お互い気がついてないだけで、ふたりとも好き同士なんじゃない・・・ ちょっと桃髪の友人をうらやましく思うのだった。 ・・・ ・・・・・・ 「――ですから、我らに陛下の秘宝をお貸し下さればよいのですよ」 「うむ。お前はどう思うのだ。エルフの代表として」 「好ましいことではないですね。神官殿。一ヶ所に秘宝が集まることは、 我々エルフが最も恐れることなのです」 神官は長髪のエルフを左右の色の違う瞳で見つめた。 「私どもは、エルフの地を一切汚すつもりはないのですよ。 我が地で扉を開く可能性を見つけたのですからね」 長髪のエルフは眉をひそめ、言葉を返す。 「扉が開けば、貴殿の地のみならず、我々の地、 いや、ハルケギニア全土に災いが起きるやもしれないのです」 「面白い。そろわなくとも扉は開くと。しかも聖地の外でか? もし本当なら、このガリアをくれてやってもいいぞ」 「陛下、少しお言葉が・・・」 「貴様はまじめすぎるのよ。戯言だ。それともヤツの言葉を真に受けるのか―――」 (どうかしたかい。アズーロ。 ―――そうか、やっぱり来たんだね。青と黒?桃色ではないんだね) ロマリアの神官は、ガリア王のそばにかしづく女性に目で合図を送ると、 アーハンブラ城の空を見やるのだった。 433 名前: サイトが魔法を使えたら【ガリア編】(3/8) [sage] 投稿日: 2007/12/06(木) 21 43 51 ID h9IVSfRF アーハンブラ城が見えた。 シルフィは徐々に高度を下げていき、着陸態勢に入った。 「あ、あの竜だ。」 サイトがタバサにその方向を指で示そうとした。 ところが、彼女はこくりこくりと居眠りをしているのだった。 タバサ。おきてくれ。あの竜がいるんだよ。彼は彼女の肩を突っついて起こした。 「いやぁっ!!!」 突然の絶叫とともに彼女の目が開いた。 「うおわっ、ごごごめん。どこか痛くしたか」 「―――夢・・・?」 タバサは額に手を当てながらつぶやいた。 「な、なんだ。夢見てたのかよ・・・びっくりさせんなよ。 どんな夢見たらあんな絶叫するんだよ」 「わたしの叔父が、わたしの髪をつかんで・・・額に・・・裏切り者の焼印を押そうとした」 こわい。タバサはそういうと、震える身体をサイトに預けるように倒れ掛かった。 彼は、彼女の華奢な身体を抱きかかえて言った。 「俺がそんなことさせない。タバサを守る」 その一言には彼女の震えを止めさせるに充分な力強さがあった。 「竜ってどこ」 気を取り直した彼女は彼に尋ねた。 あっち。彼の指差す方に目を向けた。 かなり近くにいるので彼女にも竜の姿を捉えることができる。 あれは――。でもなぜ――。彼女は小声でひとりごちた。 ぶぉん。土煙を巻き上げて、シルフィが城内の中庭に降り立った。 ・・・ ・・・・・・ 「今度はそっちからきたのか」 片側の口角を吊り上げた笑みを浮かべて女が言い放つ。 「ミョズニトニルン!!!」 タバサは杖を、サイトは右手に杖状のグングニール。そして、左手にデフルリンガーを握った。 「本物?」 タバサはミョズに問うた。 「なんだ。この前のはお見通しってこと? さすがじゃない。北花壇騎士の7号。」 タバサがぶつぶつ言っている。攻撃魔法を編んでいるのだった。 しかし、サイトが自分の杖を彼女の目の前を遮った。 (まだだ。挑発に乗るな) 彼の目がいつになく真剣な光を放っていた。 (わかった) タバサは詠唱を止めた。 434 名前: サイトが魔法を使えたら【ガリア編】(4/8) [sage] 投稿日: 2007/12/06(木) 21 44 24 ID h9IVSfRF 「降りてこっちに来なさいな」 ミョズの誘いに二人は黙って従った。 城の中の広いロビーに誘い込まれる。 そのロビーには、ごってりと飾られた扉が2箇所あった。 ミョズはその内の一枚を開け放つ。二人はとっさに身構えた。 ミョズはくすりと笑う。 「何も出てきやしないわ。今はね」 彼女の言葉とほぼ同時に、もう一枚の扉が誰かの手で開かれた。 そこには、金色の長髪の男が立っていた。 「誰だ」 サイトが誰何する。 「”ネフテス”のビターシャル」 サイトは、彼の長髪からのぞいた尖った耳を見た。 「エルフ・・・」 「なんだ。余り驚かないようだな」 「まあな。妖精(エルフ)の友だちがいるんでね」 「そうか」 二人の間に沈黙という重い空気が流れ込んだ。 お互いに相手の出方を伺う。 (先住の使い手。気をつけて) タバサが小声でサイトに話しかけた。 デルフを握る手に力がこもる。 ミョズが沈黙を破った。 「ここでにらみ合ってもしょうがないわ。使い魔どうし、仲良くしましょ」 ドォンっ。エルフの放った大きな空気の塊がサイトをミョズの方へ突き飛ばした。 しまった―――バランスを失って背中を下にして転がされてしまう。 い、ってー。ヤツは何をした?何も挙動が見えなかった。サイトに寒気が走る。 サイトが喰らった。タバサは、術の繰り手に一蹴りで鼻先に接近した。 ―――。聞こえないくらいの小さな声でスペルを唱え、自分の杖に土系統の硬質化の魔法をかけた。 そして杖の頭の部分をビターシャルの鳩尾狙いに突き上げた。 さらに彼女は自分自身にウィンドブレイクを当て、回避のすきをなくす。 む。彼は、回避不能と判断すると、彼女の当身を受け流そうと扉の外側へと身体を後ろへとび下がった。 サイトには彼の動きの意味が分かった。 「戻れ。タバサっ」 彼の言葉に反応したタバサは、ビターシャルへ向けてエアハンマーをわざとぶちかました。 反射の魔法によって跳ね返された空気の塊は、彼女自身を扉の内側へとはじいた。 ビターシャルは激しい勢いで閉じられた扉によってすぐに見えなくなった。 435 名前: サイトが魔法を使えたら【ガリア編】(5/8) [sage] 投稿日: 2007/12/06(木) 21 45 53 ID h9IVSfRF アーハンブラ城の城門が見えた。 ルイズたちの手綱を握る手に汗がにじむ。 あれ・・・?ルイズは自分の右目を手で押さえた。 あの時と同じ。視界が霧がかかったように曇る。 その霧が晴れたとき。彼の視界と繋がるのだ。 彼女に見えたものは、青髪の少女が長髪の男性に弾き飛ばされる瞬間だった。 「ギーシュ。急いでっ。戦いが始まっちゃったわ」 ギーシュを乗せた馬が猛烈な速度で先頭を駆っていく。 ルイズの馬を追い抜きざまに彼女はギーシュの馬に飛び移った。 「しっかりつかまってるんだよ。ルイズ」 彼の腰に手を回し、ルイズはしがみついた。 ハイヤッ。掛け声とともに彼は馬に鞭を入れた。 サイトの視界は女を映し出していた。 ついこの前、湖で戦った、ミョズニトニルンだった。 サイト、倒れてる?見上げるような視界にルイズは不安になる。 と、そのとき乗っていた馬がいきなり止まったのだった。 彼女は鼻を思いっきりギーシュの腰にぶつけてしまう。 「いいいきなり、なにすんのよっ。鼻打っちゃったじゃない」 ギーシュの代わりに違う声が耳に入ってきたのだった。 「君たちはなぜ、ここに来てしまったんだい?」 ルイズはギーシュの横からひょいと顔だけだして声の主を見た。 「ジュリオ!? あ、あんたこそなんでこんなところに居るのよ。」 「君だけってことは、ガンダールヴのほうはこの中に居るってことになるんだね」 ジュリオは意味深な微笑みを見せ、ルイズを見た。 そして、視線を別の場所に移した。 「とにかく、ラヴァリエール嬢を残して、君たちは戻ったほうがいいとおもうよ。 君もそう思うだろう。ミス・ツェルプストー。」 彼の言葉にルイズたちは後ろを振り返った。 「そうね。今回ばかりはあなたと同意見だわ。ギーシュ隊長。帰還の命を下しなさい」 「でも、キュルケ・・・タバサがけがしたらどうするのよ」 「いいこと。モンモランシー――あなたたちがここに居ること自体、国際問題に発展しかねない位、 危ないことなの。ましてや、この城門をくぐろうもんなら、明らかに戦闘行為よ。 タバサは、自分の意志でサイトについて行った。あの子は命を省みず彼を助ける。 その行為に誰も割ってはいることはできない。私だって今回は遠慮するわ――――」 436 名前: サイトが魔法を使えたら【ガリア編】(6/8) [sage] 投稿日: 2007/12/06(木) 21 46 43 ID h9IVSfRF キュルケは、そこで言葉を切ると、ルイズをまっすぐ見つめた。 「――だけど、ルイズ。あんたはどうせ戻りなさいってたって聞くような性質じゃないわよね。 いいえ。あなたは、残らなければならないわ。だって。彼のことが心配でこんな危険なところまでやってきたんじゃなくって?」 「そ、そうよ。あいつはあんなんだけど、心配なんだもん。それに・・・」 「『タバサがカレのそばにいる』からでしょ〜」 「ちっ、ちがうわ。そんな・・・そんなんじゃ・・・」 「いいわよ。ルイズ。皆まで言わなくたって。顔に書いてるし――でも、あの子をお願いね。ミス・ヴァリエール。」 いつもの言葉遣いとは違うキュルケに、ルイズは調子がくるってしまった。 「わ、わかってるわよ」 ギーシュはその様子を見て、みんなに言うのだった。 「ここまでってことだね。さ、みんな戻ろう。」 「でも・・・」 モンモランシーの言葉の続きは、ギーシュの目で止められた。 レイナールとマリコルヌも何か言いたげだったが、隊長の命に従うほかないのだった。 ジュリオは、キュルケの左手にはめられた赤い石のついた指輪に気がついた。 まさか・・・探していたルビー? 一瞬彼の表情が強張る。しかし、秘めた笑みをたたえたいつもの表情になった。 真偽を確かめるべく、彼はキュルケに尋ねてみた。 「ところで、ミス・ツェルプストー。その美しい赤い宝石(いし)は?」 彼女は石を愛でながら言葉を返す。 「綺麗でしょ。ジャンからもらったの」 「――ぼくもそれと似たような石をとある方の命でずっとさがし求めているんだ。 しかし、なかなか見つからなくってね」 「――そう。早く見つかるといいわね」 「炎のルビーというのだけれど、君は聞いたことはないかい?」 「・・・さぁ、聞いたことないわ」 「・・・」 少しの沈黙のあと、ジュリオがこの話題を切り上げた。 「さて、ぼくの用は済んだよ。ではまた・・・」 そういい残して、彼は城の中へと消えていった。 そして入れ替わりに別の人物が現れた。 「あんた・・・」 キュルケの目に殺気が宿った。 437 名前: サイトが魔法を使えたら【ガリア編】(7/8) [sage] 投稿日: 2007/12/06(木) 21 47 28 ID h9IVSfRF 「トリスティンの虚無か。ここで会うとは思いも寄らなかった。」 長髪の男はキュルケではなく、ルイズに言葉を投げかけた。 キュルケは沸き立つ感情を抑えて、杖を構えるギーシュたちを落ち着かせるように言った。 「みんな。だめ。ここはルイズに任せましょ。」 そして、長髪の男を睨みつけ、言い放った。 彼女の赤い髪は抑えきれない殺気のオーラで逆立つように揺らめいている。 「でもあんた、三人にもしものことがあってみなさい。ここにいる私たちが絶対に許さない。 とくにあなたには前の借りがあるの。今度は何も残らないくらいに焼き尽くしてやるから ――よく覚えときなさい」 「覚えておこう。炎髪のメイジよ。」 「『微熱』よ。微熱のキュルケ」 「・・・」 彼はルイズに視線を移した。 「トリスティンの虚無よ。こちらへ来られよ」 「虚無(ゼロ)じゃないわ。ルイズよ。」 二人は城の中へ入っていった。 「・・・いくわよ」 キュルケたちは、馬に跨ってその腹を蹴り、もと来た道を駆け出した。 ・・・ ・・・・・・ 「サイトはどこ?」 「サイト?先ほど来た、黒髪の少年のことか」 「そうよ。どこにいるの。会わせて」 「・・・」 長髪の男は黙ってロビーに入る。 そして、二枚ある扉のうち、一方を指し示した。 「詳しい話は、こちらで聞こう」 「いやよ。サイトと会わせて」 彼は少し眉を寄せ、何かをつぶやいた。 ルイズの身体が見えないひも状のもので拘束された。 「なにすんのよっ!!!」 「貴女を捕らえよとの命を受けてはいるが、彼に会わせよとの命は受けていない。 虚無のルイズよ。我が名はビターシャル。わたしがここでの世話をすることになる。」 ぎりり。ルイズは歯を食いしばった。 何でことだ。自分のせいで女王の恐れていたことがおきてしまったではないか。 悔しくて、情けなくて。だけど、こんなときにこそ言わなければならない言葉があった。 「サイト!!!助けて!!!!!」 438 名前: サイトが魔法を使えたら【ガリア編】(8/8) [sage] 投稿日: 2007/12/06(木) 21 48 05 ID h9IVSfRF ・・・ ・・・・・・ 城が見えなくなるところまでキュルケとギーシュたちは戻っていた。 誰も口を開かない。馬の駆ける足音だけがあたりに響く。 突然、一行の目の前に風竜が立ち塞がった。 「な、なんだよ。」 マリコルヌが杖を構える。 「ちょっと待て、攻撃の意志はないらしいぞ」 レイナールがマリコルヌを制した。 「ねぇギーシュ。あれなんだろう。」 モンモランシーがギーシュに指差して言った。 その風竜の口には何かが咥えられていた。 ギーシュは馬を降りて、風竜に近づく。 咥えていたものを取り出すとそれは一通の手紙であった。 表書きに何やら文字が書かれてあった。 「キュルケ。君あてらしい。」 ギーシュが彼女に手渡した。 彼女は、手紙を広げてさっと目を通す。 そしてその手紙を握りつぶすとこう言った。 「・・・あんたたちとは、ここでお別れみたい。 気をつけて戻るのよ」 「え?キュルケはどこいくのよ」 モンモランシーが聞く。 「また、あっちへ行く用事ができたの」 彼女は、自分たちが戻ってきた先を指したのだった。 618 名前: サイトが魔法を使えたら【ガリア編】(1/6) [sage] 投稿日: 2007/12/16(日) 00 35 22 ID J2VtCLLP キュルケは、風竜の背に乗って城へと戻っていた。 ”ぼくのアズーロが君の目前に立ちはだかった時、その赤い石を湛えた指輪は『本物』ということ。 君の選択肢は二つ。城に戻るか、それともアズーロと戦うか。賢明な君のことだから、後者は 選ばないとは思うけど。また会えることを願うよ。―ジュリオ・チェザーレ” 私は、ギーシュたちを安全に城から離そうと思っていた。戦闘は避ける。そこまであの神官は読んでいたのね。 軽く唇を噛んで彼女は風竜の目指す場所を見つめた。 ・・・ ・・・・・・ ギーシュは、呆気にとられた。 私の馬は預けたわ。あとはよろしく。キュルケはそういい残して、風竜の背に乗って飛び立っていった。 「隊長。これからどうするつもりだい」 レイナールは眼鏡を人差し指で上げながら言った。 「ほんとにトリスティンに戻るのか」 マリコルヌも言葉を重ねる。 「・・・」 ギーシュはあごに手を当てたまま、考えている。 「キュルケの馬はどうするの?ほったらかしにはできないわ」 このモンモランシーの言葉に彼が反応した。 「そうか・・・キュルケ、わざと・・・」 みんなに見つめられる中、彼は号令をかけた。 「全員反転っ。仲間の後方支援といこうじゃないか!」 619 名前: サイトが魔法を使えたら【ガリア編】(2/6) [sage] 投稿日: 2007/12/16(日) 00 36 05 ID J2VtCLLP ・・・ ・・・・・・ キュルケは、ジュリオと城内の一室にいた。 「ジュリオ、なんで私をここへ呼び戻したの?」 「それが目当てさ」 「この『炎のルビー』が?なに企んでんの、あんたたち(ロマリアの連中)は?」 「聞きたいかい?」 「どうせしゃべらないでしょ。あんた」 「・・・条件次第さ」 「食えないやつね」 キュルケはにやりと笑って、赤い髪をかき上げた。 「で、わたしにどうしてほしいの」 「ぼくとロマリアまで来て欲しい」 「どうしてかしら」 「4の4を一同に会するためさ」 「4の担い手、4の使い魔、4の秘宝、4の指輪?」 「その通り、ミス・ツェルプストーはその内2つを持っている」 ジュリオは白い歯を見せ笑う。 「は?何言ってんの?持ってるのは指輪だけよ」 眉をひそめて彼女はあきれたように言う。 「担い手なのさ。君は。匂がしたり音が聞こえたりしないかい?」 「あははは・・・に、担い手ですってぇ。ロマリアにいるんじゃないのよ。 匂い?そりゃあんたの香水の匂いだったらしてるわよ。趣味悪いわ、それ」 「・・・。残念ながら、ロマリアにはいないんだ。目覚めようにもきっかけとなる指輪がないからね」 「へぇ。それ本当かしら。タバサが言っていたけど、ジュリオ、あんたがヴィンダールヴじゃないの?」 「ヴィンダールヴの存在を知っている者がいるとはね―――」 彼は、右手にはめていた白い手袋をするっと外した。 右手の甲から二の腕あたりまで、焼け爛れた痛々しい傷があるだけだった。 「ぼくは使い魔じゃない。奇跡を扱えるのは、この指輪のおかげなのさ」 彼の右手の人差し指には、たくさんの文字が刻まれた指輪がはめられていた。 「人はこの指輪のことをソロモンの指輪というそうだよ」 「ふーん。便利な指輪じゃない。メイジじゃなくても使い魔がもてるわけ。 ・・・ちょっと待って。虚無の担い手って人間じゃないの? 私にはもうフレイムがいるわ」 「ロマリアに来れば、なんとでもなるよ」 ジュリオは不敵に笑うのだった。 (香水つけるなんていう趣味はぼくにはないんだよ・・・) 620 名前: サイトが魔法を使えたら【ガリア編】(3/6) [sage] 投稿日: 2007/12/16(日) 00 37 05 ID J2VtCLLP ・・・ ・・・・・・ サイトとタバサは、ミョズニトニルンに王の間まで通されていた。 「ところで、あんたたちがここまで来たというのは、陛下に会いにきたということかい?」 「そう」 タバサが口を開いた。そして言葉を続ける。 「始祖のオルゴールを返してもらいに来た」 「はっはっはっ!!! オルゴール欲しさにわざわざ、こんなところまでノコノコ来たのか!? シャルロットよ。お前も焼きが回ったもんだな」 ガリア王が弟の忘れ形見に向かって言い放つ。 「わしが、このわしが、すんなりと渡すと思っているのか?お前は?? 浅薄すぎるぞ!」 王は血走った目で彼女を一瞥する。 「そんなに欲しければ、このわしから奪い取るがいい!!」 「シェフィールド」 「はいっ」 「遊んでやれ」 王はあごをしゃくってタバサとサイトを指すのだった。 ミョズがそばの一枚の扉を開け放つ。 沢山の鎧を纏った人形たちが部屋の中になだれ込んできた。 「さぁ、どうする。あの時のようにあんたのメイジはいないんだよ!」 迫り来る兵士人形を見据えた、その時。サイトの左目に金髪のエルフの姿が飛び込んできた。 「サイト!!!助けて!!!!!」 彼女の叫びが左の耳に響く。 「ルイズ!!」 サイトは叫び、自分たちが入ってきた扉へと駆け出す。 「逃げられないわ」 あざ笑うミョズが、人形たちで扉の前を塞いだ。 「じゃまだっ」 サイトは、デルフで横一閃に薙ぎ払う。剣圧だけで一瞬にして人形たちは吹き飛ばされた。 「待って」 彼の背後で人形たちと戦っていたタバサが彼を呼び止めた。 「ビターシャルは危険。わたしがいく」 トンっ。タバサは彼と背中合わせになると、グルッと180度彼ごと回転した。 「タバサ!!」 「・・・大丈夫。ここはあなたに任せる」 前後逆になったタバサは、目の前の扉に向けて、エアハンマーをぶちあてた。 激しい音を立てて扉と壁の一部が破壊され、大穴が開いた。 彼女は、穴の外へと飛び出していった。 ・・・ ・・・・・・ 「虚無のルイズよ。叫んでも無駄だ。彼は、陛下の元にいる。一歩も動けはしまい」 金髪のエルフが表情を変えずに言い放つ。 「く、来るもん。あいつなら、きっと、絶対、来てくれるんだから!!!」 ドゴンッ。部屋の扉が破壊された。 「サイト!!」 ルイズの目が輝く。 しかし、煙の中から現れたのは、黒髪の少年ではなく、青髪の少女であった。 621 名前: サイトが魔法を使えたら【ガリア編】(4/6) [sage] 投稿日: 2007/12/16(日) 00 38 25 ID J2VtCLLP くっそ、うじゃうじゃ出やがって! サイトは、鎧姿の人形たちに手こずっていた。 デルフもはじくヨルムンガントと同質の鎧のようなのだ。 「前と違って、人形たちのは隙間があるのよねぇ」 「ちっこいし、うじゃうじゃいるし、相棒でも隙を突くのは難しいやね」 槍と剣が交互に彼に向かってぶつぶつ言っている。 そんな時、彼の目に瓦礫の山が写った。 タバサがエアハンマーで・・・そうか! サイトは、その瓦礫の山に杖を振るった。 ”レビテーション” ふわり、瓦礫の塊が浮揚する。 ”エアハンマー” 浮かされた瓦礫が細かな石つぶてに砕け散る。 彼の周囲の空気が揺らめき、彼を中心にゆっくりと回転し始める。 杖を頭上に掲げ、くるりと杖の先で円を描いた。 ”エアストーム” どどぅどどどぅ。巨大な竜巻が瓦礫の石つぶてを巻き上げた。 サイトは、杖を人形の群れへと振り下ろした。 ・・・ ・・・・・・ 「タバサ」 ルイズは目を見開いてつぶやいた。 タバサは、ルイズと一瞬視線を交差させ、長髪のエルフを睨みすえた。 「貴女には私を倒せない」 表情を崩さずにビターシャルが言う。 「あなたを倒そうとは思わない。ルイズを返してもらうだけ」 タバサは言い終わると同時に口笛を吹いた。 ガシャァーン。窓が割れる大きな音が部屋に響いた。 「おねーさまっ。助けるのね」 シルフィードの足がルイズの背中をかすめた。 その瞬間、ぎりぎりと締めつけられていた感覚がルイズから消えた。 ―――。小さくつぶやくと、彼女はビターシャルに牽制のために魔法を放つ。 彼のそばに小さな光の球が出現し、瞬時に爆砕した。 彼は部屋の端まで吹き飛ばされた。 反射の魔法に身を包んでいたはずだった。 しかし、ルイズがディスペルとエクスプロージョンの2連撃をやってのけたのだ。 ルイズは、タバサのそばに駆け寄った。 「あ、ありがと」 「ん。サイトに頼まれた」 嘘。ルイズはサイトの耳を通して、二人の会話の一部始終が聞こえていた。 そして、サイトは今も戦っている最中なのだ。 「わたし、サイトのところへ―」 ”だめだ。ルイズ。おまえはそっちでエルフを足止めしといてくれ。タバサもだ” ルイズの言葉を遮るように、サイトの声がルイズの耳に響いた。 622 名前: サイトが魔法を使えたら【ガリア編】(5/6) [sage] 投稿日: 2007/12/16(日) 00 39 57 ID J2VtCLLP ズズン―― 「始まったようだね・・・」 オッドアイの神官がつぶやいた。 隣にいた燃えるような赤い色の髪のメイジが腰をあげようとする――が、 神官の右手によって制された。 「キミが行こうが行くまいが、結果はもう決まっているのさ――」 二人の視線が絡む。彼は、ゆっくりと言葉をつないだ。 「多少の犠牲はあるだろうけどね・・・」 ・・・ ・・・・・・ 「サイト!どうしてよっ。なんでそっちに行っちゃダメなのよっ」 彼女は、虚空に向かって叫んだ。 姿は見えないが、声だけ耳に飛び込んでくる。 ”おまえはヤツとやりあうのは初めてで危ない。タバサは以前負けてる・・・どちらがだけだと危ない。 だから、二人で戦ったほうがいい” 「タバサと二人で・・・」 ガリッ。彼女は唇を噛みしめた。 ちら。二人のメイジの視線が交わった。 「やるしかないようね」 部屋の隅で、敵が起き上がろうとしていた。 ・・・ ・・・・・・ 彼は、見えない彼女と言葉を交わした。 彼女はとりあえず無事のようだった。 無茶しやがって。なんでここに来ちまったんだよ・・・ 「相棒。そんなに気になるのかい。あの娘っこが」 「聞くな」 「あらぁ、聞こえるような独り言喋る方がどーかしてるのよぉ」 「うっせ」 人形たちを巻き上げていた巨大な竜巻が治まった。 人形たちは鎧に守られて傷一つついてはいなかったが、隙間という隙間から入り込んだ瓦礫の砂ぼこりにまみれている。 彼は、その様子を確認すると、土系統の魔法を唱えた。 「イル・アース・デル。纏いし砂を油となせ―――"錬金"!!」 一瞬で人形たちが油まみれとなった。 そこに火・火・風のトライアングルスペルを重ねて放つ。 旋風に煽られた劫火が人形たちを火の海へと沈める。 鎧は焼けない。しかし、火炎の分身がその間隙にするりと侵入する。 そして、鎧の中の人形に容赦なく食らいついた。 「く、なんてこと。わたしの人形が・・・」 ミョズが苦虫をつぶしたような表情に歪む。 「おまえは、もう俺には勝てねーよ」 彼の双眸に劫火の色が映りこむ。 人形と同じように油にまみれた剣に火の粉が飛んで、炎が剣を包み込んだ。 新着レス 2007/12/16(日) 00 42 623 名前: サイトが魔法を使えたら【ガリア編】(6/6) [sage] 投稿日: 2007/12/16(日) 00 40 33 ID J2VtCLLP 彼は炎を纏った剣を中段に構え、地面を蹴った。 悔しさを灯した双眸で見据える相手に向かって切りかかっていく。 ところが。 その相手の瞳から突然生気が失せた。 そして、膝から崩れるように床に倒れ伏せたのだった。 「おい、どうしたんだよ。おいっ!!」 サイトは彼女を抱きかかえた。背中に回した手に生ぬるい液体が触れた。 血?いつのまに・・・ 「・・・ご・・・ご主人さ・・・ま・・・」 朦朧とする意識の中、うわ言の様に彼女はつぶやいた。 「いいだろう。わしが直に相手をしてやるぞ」 声のするほうに彼は鋭い目を向けた。 「なんで斬った」 「使い魔に何をしようがおまえの知ったことか」 「あ゛?今何つった?」 「・・・貴様、その年で耳が遠いのか?わしの使い魔をわしがどうこうしようが、貴様には関係――」 ふざけるな・・・ふざけんな・・・。サイトの周囲の空気が歪んだ。 ゴフッ。彼女の口から血が飛び散った。 「・・・ジョ・・・ゼ・・・フ・・・さま。お慕いしておりました・・・だ・・・か・・・ら・・・い・・・い・・・の」 彼女が彼の剣を持つ手を握った。 彼女の額と彼の左手のルーンが同時に柔らかい光を放ち始めた。 「だめだ。そんな。弱気になんじゃねーよ。おいっ。目を開けろっ」 シェフィールドは弱弱しく笑みを湛え、サイトと視線を絡ませた。 あ、り、が、と、う。彼女の唇がかすかにそう動いた。 額のルーンの輝きが蛍の光のように弱弱しくなって・・・消えた。 サイトは彼女をゆっくりと床に下ろした。 そして、ゆらりと立ち上がった。 「てめぇは腐れ外道だ。俺は男としておまえを許さねぇ!」 「勝てると思うか?使い魔の分際でわしに楯突こうとは、身の程知らずもはなはだしいわ」 「・・・」 「使い魔などいらぬ。我はこの身ひとつでおまえたちを奈落の底へと突き落とせるのだ」 「おまえはあぁあああああっ」 サイトはジョゼフへと駆け出した。 ジョゼフの顔が狂気の笑みに歪む。 サイトっ。突然、ルイズの声が耳に響いた。 その瞬間。 ドスゥッ。サイトを背後から土の槍が串刺しにした。 かはぁっ。口から鮮血を吐き出して床へ倒れこんだ。 駆け出した勢いのまま、数メイル床に血の尾を引いて止まった。 彼の周りに血の海が広がる。 「あひゃ、あは、あははははははは!!!」 部屋に無能王の狂気の笑い声が響き渡った。 75 名前: サイトが魔法を使えたら【ガリア編】(1/6) [sage] 投稿日: 2007/12/21(金) 00 21 12 ID 9uE7riHN ミョズニトニルンが倒れている。 倒れている彼女をサイトが抱きかかえているようだ。 彼女の首から力が抜けた・・・ ガリア王を罵るサイトの声がルイズに届く。 そして、彼は王目掛け突撃した。 あれ?これは・・・夢と同じ光景? 王の表情が狂気に歪んだ笑みを浮かべた。 ルイズの不安が確信に変わる。 「サイトっ!!!」 ルイズは咄嗟に彼の名を叫ぶ。 それ以上行っちゃ・・・ ドスゥッ!鈍い音が響いた。 視界が床に落ちる。 サイトの荒い息。 目前に広がる赤い血の海。 彼女の目の前には既に起き上がり、こちらに向かってくる長髪のエルフがいる。 ルイズは横のタバサに視線を合わせず杖を振った。 ”ディスペル” タバサの杖にディスペルが絡みついた。ルイズの意志を理解した彼女は、その杖をエルフへと向けた。 「匂いのする方へ」 タバサはルイズの背中に声をかけた。 ルイズは部屋を飛び出した。 サイト・・・サイト・・・ 痛いっ。 彼女は何度もけつまずいて、こけた。 ひざやひじはすりむけ、血が滲んでいた。 だけど彼女は立ち止まらない。 あるたけの力で地を蹴った。 サイト・・・サイト・・・サイト・・・ 彼女の双眸からは大粒の涙が滂沱として流れていた。 死んじゃだめ。だめなんだから。わたしが死なせはしないんだ・・・ 私はあんたに大切なこと伝えてない。それを聞く前に死んじゃうなんて・・・だめなんだから!!! 廊下に彼女の駆ける音とすすり泣く声が響く。 これは命令なんだからっ。サイト、死んじゃダメ!!! 彼女の悲痛の叫びがこだました。 76 名前: サイトが魔法を使えたら【ガリア編】(2/6) [sage] 投稿日: 2007/12/21(金) 00 22 38 ID 9uE7riHN 「相棒」「ダーリン」 剣と槍が使い手に声をかける、が返事はない。 「まずいな。このままだと前の二の舞だ」 「印が消えちゃうのね」 「この前は俺だけだったからなんともならなかったが・・・今度はお前さんがいるからな」 「なんとか繋ぎ止めれそうだわね・・・」 「いくぞ」 「いいわよ」 グングニールの穂先のルーンが黄金色に光り始めた。 同時に、デルフリンガーの刀身にルーンの文字が青白い光を放ちながら浮かび上がる。 ”フェフ・イェーラ・テイワズ・アルギズ” 護りの先住魔法がサイトを包み込んだ。 「娘っこ。早く来てくれよ・・・」 ぽつりとデルフがつぶやいた。 ・・・ ・・・・・・ もうすぐ行くから。サイト。もうすぐ・・・ 匂いを頼りに壁に空いた大穴に飛び込んだ。 サイトっ!!! ルイズは血の海に倒れ伏すサイトの姿に血の気を失いそうになった。 サイト!!サイト!! 彼のそばに座り込む。 彼女のマントが彼の血で染まった。 「娘っこ。待ってたぜ。」 デルフが彼女に声をかけた。 「相棒はぎりぎり生きてる。おまえさんの水のルビーでなんとか治せるかもしれねぇ」 「どうすればいいの」 「相棒を助けたいだろ?」 こくりとルイズは頷く。 「相棒にまだ伝えてないよな」 こくり。 「願うんだ。絶対助けると願うんだよ。娘っこ」 ルイズは血にまみれたサイトの左手を取って、両手で包み込んだ。 サイト。 ルイズはゆっくりと瞳を閉じた。 サイト。 ポウッ――水のルビーが青く輝きを放ち始める。 わたしの大切な人。 指輪の青い輝きは優しく二人を包み込んでいく。 わたしの一番――好きな人。 青い輝きがサイトの傷を徐々に塞いでいく。 お願い。生きて。 ルイズの目尻から一筋の涙が流れる。 ずっと。そばにいて。 ル・・・イ・・・ズ・・・? うわ言のような声が彼の口から零れた。 サイト・・・ ルイズはそっと彼の頭を抱きかかえ、自分の膝の上に乗せた。 愛おしく、彼女は彼の黒髪をなでる。 サイト・・・ 彼女の唇に微笑みが宿る。 サイトも安心したように口元を緩めた。 ルイズは、彼の唇にそっと自分の唇を合わせた。 青い光が消えた。 ルイズの指輪からはルビーが消え、台座だけが残された。 77 名前: サイトが魔法を使えたら【ガリア編】(3/6) [sage] 投稿日: 2007/12/21(金) 00 23 20 ID 9uE7riHN サイトは自分の足で血の海から立ち上がった。 そばにはルイズがいる。 ルイズが俺を助けてくれた。 冷ややかな視線が二人を突き刺す。 その視線を送る人物を睨み返した。 「しぶといな。生き返るとは」 ジョゼフが杖を振った。 二人の立っていた床が瞬く間に真っ暗闇に変わった。 その暗闇に吸い込まれる。 サイトはルイズを抱き上げ、浮遊のスペル(レビテーション)を唱える。 横抱きに抱えられたルイズはサイトの顔を見て――驚いた。 彼の額にルーンが浮かび上がっていたのであった。 「サイト・・・額にルーンが・・・」 「ああ。やっぱりそうか」 「やっぱり?」 「ミョズが夢に出てきたんだ。あいつも俺に力を貸してくれるのか・・・」 フライ。 彼は短くつぶやいて、床に倒れる人形たちに触れて言った。 「我が分身たち。我が命に従い、彼の者を攻めよ」 人形たちが一斉に動き出す。 「何っ?!」 ジョゼフの顔が一瞬歪んだ。 しかし、彼の杖の一振りにより人形たちは底なしの闇に食われてしまう。 「伝説を2つも身体に宿すとはな・・・楽しめそうだ」 ジョゼフは下品な舌なめずりをした。 「てめえ。絶対ゆるさねえ」 ”エア・ニードル” デルフの刀身に風の渦が纏わりつき、風の刃となした。 一瞬で数メイルまで風の刃は伸び、王の右の二の腕とわき腹を抉り取った。 う、うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ〜〜 激痛のあまりジョゼフは血を撒き散らしながら、床をのた打ち回る。 ききさまぁっ!!! 血走った目でサイトを睨みつける。 ゆるさん。ゆるさんぞ。ころす。コロス。コロス!!! 叫びながら、杖を振り回す。 床が蛇のように伸び、槍のような形に変形した。幾多の土の槍がサイトに襲いかかる。 ”エクスプロージョン” 眩い光が土の槍を粉々に打ち砕いた。 る・イ・ず。きさま・・・おマえたチはユるサナイ・・・オおオオオおおオオおお!!! ”ライトニングクラウド” ジョゼフの頭上に雷が落ちた。 ブチッ。 何かが千切れる音とともにジョゼフが床に倒れこんだ。 「あひ、あひゃ。ひょ・・・」 意味不明な言葉を床に倒れてもつぶやき続けていた。 サイトとルイズは香炉とオルゴールを持って部屋から出て行った。 78 名前: サイトが魔法を使えたら【ガリア編】(4/6) [sage] 投稿日: 2007/12/21(金) 00 24 07 ID 9uE7riHN タバサはビターシャルに突進した。 そのとき。 ズン。部屋全体が揺れた。 ビターシャルは彼女の突進を紙一重に避ける。 「黒髪の少年の命が消えた。彼は死んだ。あなたには戦う意味がなくなった。」 一瞬タバサの顔が青くなる。しかし眼光鋭く言い放つ。 「うそ。かれはかならず生きている。あの人がいるかぎり。死なない」 「愚かな・・・」 ズン。部屋が再び揺れた。 ビターシャルの目が見開かれた。 「馬鹿な・・・ありえぬ・・・少年の鼓動が戻っただと・・・」 タバサはわずかに笑みを浮かべた。 彼女は杖を振る。周りの空気がどんどん冷やされていく。 冷気の渦は一本の大きな氷の槍と化した。 ”シャベリン” 槍がビターシャルに向け飛び出した。 ズン。部屋がもう一度揺れた。 彼の表情が歪んだ。 「陛下・・・」 わき腹から血を滴らせ、彼は言葉をつないだ。 「陛下が危ない。失礼する」 「・・・させない」 タバサがスペルを唱えようとしたその時、 壁の穴から二人が飛び込んできた。 「タバサ!!」 私の勇者の声がする。 タバサはちょっと心強く思えた。 ビターシャルは、剣を構えるサイトに向かって言った。 「イーヴァルディの勇者よ。わたしは陛下を助けに行きたいのだ。おまえとはいずれまた交えることになるだろう」 彼は手を広げ、攻撃する意志のないことを伝えた。 「わたしもすでに戦える状態ではない。あのような王でもわたしは護らねばならないのだ」 「ここは剣を収めていただきたい」 跪いてビターシャルは願いを請うのだった。 「サイト。行かせてあげなよ」 背後から声がした。 「キュルケ・・・」 振り返ったルイズがつぶやいた。 「あのままだったらガリア王は死んでしまうわ。あなた人を殺すの嫌でしょ。 ジャンにも言われたんじゃなくって。殺すことに慣れてはならないって・・・」 キュルケがサイトの背中に言葉をぶつける。 「わかったよ・・・」 サイトはそうつぶやくと剣を下ろすのだった。 79 名前: サイトが魔法を使えたら【ガリア編】(5/6) [sage] 投稿日: 2007/12/21(金) 00 25 03 ID 9uE7riHN サイトたちが城から出るとギーシュたちが待っていた。 彼らのまわりには近衛兵たちがうずくまっていた。 「うまくいったようだね」 髪をかき上げながらギーシュは言った。 「ちょっと死にかけたけどな・・・」 頭をかきながらサイトが話す。 「にしては元気そうじゃない」 モンモランシーが少しつまらなそうにつぶやいた。 きゅ。サイトのパーカのそでをルイズが引っ張った。 サイトはルイズを見ると少し膨れっ面で口を尖らしている。 「どした」 「・・・わたしのおかげでしょ」 「そだな」 ぽんぽんとルイズの頭を軽くなでた。 彼女の頬が薄く朱に染まり、なぜか彼から視線をはずした。 「・・・死んだら、許さないんだから」 「はいはい」 「ほんっとに許さないんだからねっ」 「へーへー」 「怒った。もーわたし怒ったんだもん。せっかく心配したのに・・・」 「ご、ごめん。ごめんよ、ルイズ」 「知らない。あんたなんか知らないんだもん。あっちいってよ」 「そ、そんなことゆーなよ。な。ルイズ。ごめん。ほらこんなに謝ってんじゃん」 「ふんっ。」 「ルイズぅ〜」 「またはじまったよ。痴話げんか」 レイナールがあきれた様に肩をすくめる。 「二人を見てると飽きないわ」 キュルケがにんまりと笑う。 「相思相愛なはずなのに・・・」 モンモランシーがギーシュのほうをちらりと見てつぶやく。 ”サイト。いや、ガンダールヴ。聞こえるかい?” サイトは耳を疑った。ここにはいないやつの声が聞こえたのだ。 ”空耳ではないよ。ガンダールヴ。” ジュリオ。 ”久しぶりだね・・・今度ゆっくり君たちと話がしたいんだ。” 君たち? ”そう君の愛しのご主人さまとそのお友だちを我がロマリアにご招待するよ” なんで? ”ふふっ。我が主が逢いたがっているからさ・・・” 教皇が? ”そうだよ。” なんで姿が見えないのに声が聞こえる? ”それば僕が神の右手になる男だからさ・・・” 神の右手? ”ヴィンダールヴ。覚えておくといいよ。兄弟” そういうとジュリオの声はぷつりと聞こえなくなった。 80 名前: サイトが魔法を使えたら【ガリア編】(6/6) [sage] 投稿日: 2007/12/21(金) 00 26 31 ID 9uE7riHN サイトたちが無事トリスティンに帰還。 その足で女王に謁見した。 サイトは子爵の爵位を賜り、タバサはオンディーヌの副隊長補佐に任じられたのだった。 無断でガリアへ潜入したルイズたちは厳しい罰を覚悟していたが、オンディーヌ副隊長に免じて お咎めなしとなった。 しかし、謁見の終わりごろにサイトが倒れてしまう。 「サイト。サイトってば」 不安そうな面持ちでベットに寝るサイトを見つめるルイズ。 そのそばにはタバサもいた。 「おちびさんも一緒に来な」 デルフに呼びつけてられていたのだった。 しばらくして彼が目を覚ました。 「ルイズ・・・タバサもいるのか」 サイトは身を起こす。 「俺どーしたんだろ。急にくらっと来た」 「相棒。おめーの身体が悲鳴をあげてんのさ」 デルフが話し出した。 「なんで」 「相棒が伝説を二つもくっつけてるからさ」 「伝説?」 「左手のルーンと額のルーンよ。だーりん」 グングニールが横槍を入れる。 「額・・・そか」 「なんとかして、そいつを誰かに移さないといけねぇ」 「そのままだどだめなの」 ルイズが不安そうに尋ねた。 「そうね。ダーリンの命が危なくなるわ」 グングニールが答えた。 その答えにルイズが青ざめる。 「ど、どうすればいいのよ」 「移す相手に接触すればいいのさ」 「接触?」 いぶかしげにルイズが聞く。 「おちびさんとだーりんがキスすればいいってこと」 グングニールが茶化すように言った。 「き、ききすですって?!」 今度はルイズの顔が真っ赤になった。 「相棒の命と比べりゃ軽いもんだろ?」 「そーよ。そーよ。たいしたことないじゃない。あんたたちはそんなんじゃ別れないでしょ」 81 名前: サイトが魔法を使えたら【ガリア編】(7/7) [sage] 投稿日: 2007/12/21(金) 00 27 06 ID 9uE7riHN 一瞬だけだからね。そう言うとルイズは背を向けた。 タバサはベットに座り、サイトと視線を絡ませた。 カチャ。タバサは眼鏡をはずして、サイトに顔を寄せる。 薄く頬を桃色に染め、碧眼の瞳を閉じた。 二人の唇が重なり合ったとき、サイトの額のルーンが輝いた。 痛いっ。 タバサは両手で額を押さえてベットに顔を埋めた。 「大丈夫だ。ルーンが刻まれてるだけだから・・・」 サイトはタバサの背中をなでた。 「夢とおなじ痛み・・・」 タバサは小声でつぶやいた。 タバサがようやく落ち着きを取り戻した。 サイトは二人に切り出した。 「ジュリオにロマリアに来いって言われたんだけど・・・」 「ロマリア?こっそりいけるところじゃないわよ」 「女王陛下は今度ロマリアに行く予定あると聞いた」 「え?」 「そういえば、謁見のとき、そんな話してたわね」 「うそ。何もおぼえてねーよ」 「あんた、ボーっとしすぎ」 「ひどっ」 「一緒に行く?」 ルイズはタバサに聞いてみた。 「行く」 タバサはいつのまにかベットに座りサイトにしなだれかかっている。 「きーっナンなのよ。タバサっ。油断も隙もあったもんじゃないわっ」 ルイズの蹴りがサイトの顔面に命中し彼は再び深い眠りにつくのだった。 ロマリア編につづく。
https://w.atwiki.jp/magamorg/pages/1926.html
蓮聖フランシス レア 闇/自然 5 6000 ロータスプリズマ ■マナゾーンに置く時、このカードはタップして置く。 ■ロータシック・レース―このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、自分のシールドをすべて墓地に置く。その1枚につき1回、次の[LW]能力を使ってよい。 [LW]自分の手札を1枚、裏向きにしてシールドゾーンに加える。 ■クルー・ブレイカー:ロータスプリズマ (F)皆で妖精の存在は嘘だと言おう。そうすると、本当に嘘になるから…。 ―――蓮聖フランシス 作者:まじまん 新種族「ロータスプリズマ」。 手札がシールドの枚数以下だと、果てしなく酷いクリーチャー。 評価
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/6391.html
前ページ / 表紙へ戻る / 次ページ 五〇〇 「トリステイン万歳!」 何百、何千もの口からほとばしる歓呼の声が、街全体をどよもす。 「トリステイン万歳!」 君の左隣に立つルイズも大きな歓声を張り上げ、騎馬武者たち――槍や戦槌のかわりに、刺突剣のごとく誂(あつら)えられた杖を 手にしているので、貴族の魔法使いだとわかる――の一隊に手を振る。 みずから≪虚無≫を捨て去ったことを嘆き悲しんでいた彼女だったが、日が経つにつれて少しずつ元気を取り戻し、今ではほとんど元通りの 様子を見せている。 自分が≪施錠≫や≪魔力探知≫など、≪コモン・マジック≫と呼ばれる≪四大系統≫に属さぬ簡単な術を使えるのだと気づいたことも、 彼女が立ち直った一因として挙げられる――君やシエスタが見守る前で、≪浮揚≫の術を成功させたルイズの喜びようは、大変なものだった。 王都トリスタニアの中心を貫く大通り『ブルドンネ街』は、意気揚々と行進する軍団と、それを見物する群集でひしめいていた。 アルビオン解放のための連合軍結成の報せから一月ちかくが経ち、ついにトリステイン王国の軍隊が動き出したのだ。 宮殿の広場で出征の式典を終えた騎兵や槍兵たちは、ブルドンネ通りを行進して城下町の門をくぐり、その足でラ・ロシェールの港へと 向かうことになる。 故意か偶然かは知れぬが、その日は≪虚無の曜日≫であり、学院の生徒たちは授業がないのをよいことに、こぞって城下町に押しかけ、 出征する軍勢の見物に来ているのだ。 その中には、ルイズのお供としてやって来た君の姿もある。 クロムウェルからの刺客が風大蛇で最後だという保証もないため、君は周囲に警戒の目を光らせているが、今のところ怪しい者の姿は どこにもない。 先頭を進む騎士たち――その乗騎は馬だけにとどまらず、マンティコア、グリフォン、鷲頭馬(ヒポグリフ)などの怪物も見られる――は 全員が高名な貴族であるらしく、金糸や銀糸できらびやかな刺繍がほどこされた上着や、兜の上にはためく羽根飾りが人々の目を惹く。 汚れ一つない豪奢な馬具が輝き、さまざまな紋章が刺繍された旗が風にはためく。 ルイズと一緒になって騎士たちに声援を送っているのは、すっかり傷の癒えたギーシュと、彼にぴったり寄り添ったモンモランシーだ。 「あのグリフォンに乗った騎士が見えるかい? そう、青いスカーフを巻いた」 ギーシュは興奮ぎみの表情で、左右に立つ少女たちに語りかける。 「あのお方は昔、父上の部下だったジョッフル子爵だよ。父上がよくおっしゃっていたっけ、何物をも恐れぬ勇敢な騎士だったって。 今度の戦でも、≪レコン・キスタ≫の叛徒どもを蹴散らしてくれるに違いない。 ああ、ぼくもお供したかったなあ! ぼくのワルキューレが麦穂を刈り取るように反乱兵を薙ぎ倒していくところを、あのお方たちにお見せしたかったのに!」 その言葉を聞いて、モンモランシーは眉根を寄せる。 「ギーシュ!」 「な、なんだい?」 金色の巻き毛を揺らしてぱっと振り向いたモンモランシーの険しい表情を前に、ギーシュは戸惑い怯えた声を上げる。 「あなた、この前言ったばかりでしょ! 自分は命を懸けてわたしを守る、わたしだけの騎士だ、って。戦争なんかに行って大怪我でも してごらんなさい、その誓いが果たせなくなるのよ? トリステインの興廃がかかった大事な戦いならともかく、今度の遠征は ガリアが主力の、やる前から楽勝だとわかってるものなんでしょう? あなたみたいな素人がついていっても、足手まといになるだけよ!」 「あ、ああ……すまない、モンモランシー。ぼくが間違っていた」 ギーシュはそう言って、微笑みかける。 「ぼくはきみだけの騎士。だから、もうきみのそばを離れて戦場に行くなんて言わないよ。きみはぼくの大切な、麗しの薔薇なんだからね」 はたから聞いている君にとっては、全身がむず痒くなるような台詞だが、当のモンモランシーにとっては絶好の口説き文句だったらしい。 彼女は何も言わずにそっぽを向くが、その頬は赤く染まっている。 ギーシュとモンモランシー、若いふたりの仲は順調に進展しているようだ――ギーシュが例の困った病気を再発させぬ限りは、だが。 兵士たちはまだ一戦も交えておらぬというのに、人々の熱狂ぶりは凱旋の式典さながらだ。 軍勢からも観衆からも悲壮感がまったく感じられぬのは、この遠征は確実に勝てる戦だ、と思われていることが大きいのだろう。 沿道を埋め尽くした誰もが歓声を上げているなか、喜びや興奮とはほど遠い表情をした者がふたりだけいる――君とキュルケだ。 「どうしたの、ダーリン?」 右隣に立っていたキュルケが話しかけてくる。 「みんなと一緒に『トリステイン万歳』と叫ばない理由は、あたしと同じでよそ者だからなんでしょうけど、それにしても暗い顔ね。 せっかくのいい男が台無しよ。もしかして、これからアルビオンで流される血のことが気がかり? それとも、ほかの理由があるのかしら?」 君は笑みを浮かべてかぶりを振り、たいしたことではないと言う。 実のところ、ルイズの実家での事件以来現在にいたるまで、君の脳裏には風大蛇の口から出たある言葉が、刃についた血錆のように こびりつき払い落とせずにいるのだ。 風大蛇はこう言った。 「ご主人様がたは、百万の軍勢でも千フィートの城壁でも防げぬ、まったく新しい武器を準備しておいでだ。カーカバードとハルケギニア、 二つの世界の魔法を融合して作り出された、想像もつかぬほどの恐るべきものよ。この世界の怠惰で愚鈍な魔法使いどもには、 これを止めることなどできはせぬだろう。すべての者が、ご主人様がたの前にひれ伏すのだ!」と。 クロムウェルは、未知の魔法によって作られたなんらかの秘密の武器を用意しており、それを使って連合軍を迎え撃つつもりなのだ。 それはどうやら、≪タイタン≫の魔法とハルケギニアの魔法を組み合わせてできたものであり、≪タイタン≫の魔法を知る君なら、 それを無力にする方法を考え付くかもしれぬのだという。 それゆえに、クロムウェルは土大蛇と風大蛇という刺客を送り込み、君の抹殺を図ったのだ。 しかし、その武器とはいったいなんなのだろう? 城壁も軍団も役に立たぬ武器――あらゆるものを打ち砕く神の雷光か、すべての街や村を破壊しつくす大地震を引き起こすのか、 それとも、いかなる癒しの術も効かぬ死と腐敗の疫病を撒き散らすのか。 それに、『御主人様がた』という言葉も気がかりだ。 クロムウェルには優れた魔法の知識をもつ同盟者――あるいは下僕――がおり、その何者かが、謎の武器の製作に携わっているのかもしれない。 これらのことをキュルケに相談してもしかたがないだろうと考えた君は、逆に彼女に質問する。 そっちこそなにか心配事があるようだが、どうしたのだと。 「あら、顔に出ちゃってたかしら? さすが、鋭いのね」 キュルケは驚きの眼で君を見る。 「いつものことなんだけどね……なにも言わずに出ていくのは」 君がタバサのことかと尋ねると、キュルケはうなずき、寂しげな笑顔を見せる。 「今朝、あの子の部屋に行ってみたら、もぬけのからだったわ。いったい、どこで何をやっているのかしら? このあいだなんか、 怪我して帰ってきてたし。あなたは何か聞いてない?」 君は、自分は何も知らぬ、と嘘をつく。 タバサ――狂気の暴君である伯父に苦しめられている、ガリアの王族シャルロット――の身の上は、軽々しく口にしてよいものではないと 考えたからだ。 キュルケは 「そう。残念ね」と言って、 君の腕にしがみつく。 「タバサがいなくて寂しいから、ダーリンに慰めてもらうことにするわ!」 君は、二の腕に押し付けられた柔らかいふくらみと、首筋にかかる熱い吐息を感じて、どぎまぎする。 そんな君の様子に気づいたルイズは、周囲の喧騒すら圧する大音声(だいおんじょう)で 「な、なにしてんのよツェルプストー! あんたもあんたよ、なに鼻の下伸ばしてんのよ! この、この、裏切り者ー!」と叫ぶ。 当初、『アルビオン遠征』『≪レコン・キスタ≫討伐』と呼ばれていたこの戦争は、後世の歴史書においてまったく別の名で 記されることになる――『カーカバード戦争』あるいは『大侵寇』と。 八六 君は踵を返してその場を逃げ出す。 ギーシュとモンモランシーが、戻って来いと悲鳴じみた声を上げるが、耳を貸さずに岩だらけの斜面を駆け降りる。 少し進んだところで、突然眼の前の地面が裂け、深々とした奈落が現れる。 慌てて止まろうとするが、間に合わない。 頭から転がり落ちた君が最後に聞いたのは、自身の首の骨が枯枝のようにへし折れる音だ。 ばかばかしい最期だが、ギーシュたちを見捨てて自分だけ助かろうとした臆病者には、ふさわしいものかもしれない…… 三一二 君とルイズは屋根から落ち、腐臭をはなつ泥沼のごとき怪物の只中に突っ込む。 落ちた高さのわりに、衝撃は少ない――怪物の柔らかく不定形の体が、君たちを受け止めたからだ! 必死に這い出そうとするが、ぞっとしたことにねばつくそれは、君の手足をとらえて離さない。 すぐそばでルイズのくぐもった悲鳴が聞こえたので慌てて首をめぐらすが、どこにも彼女の姿は見えない。 怪物に呑み込まれたのだと理解した時には、君も同じ状況に陥っている。 皮膚が焼け、全身の骨を砕かれるすさまじい痛みに悲鳴を上げるが、どうにもならない。 君とルイズは≪混沌≫の怪物に吸収され、そのおぞましい体の一部を形作ることになったのだ。 一〇八 君は素早く飛びのいて、≪混沌≫の怪物をかわす。 しかし、ルイズは君ほど俊敏ではない。 よけるひまもなく、一瞬のうちに怪物に押し潰されてしまう! ルイズの名を叫ぼうとした君だが、突然胸が苦しくなり、その場に膝をつく。 左手の甲に刻まれた紋様が輝いていることに気づくが、すぐに光は薄れ、それに合わせるかのように視界も暗くなっていく。 自分の身に何が起きたのか気づく前に、意識を失う。 君に刻まれた≪ルーン≫は見た目はありふれたものだが、その効果は特殊なものだったのだ。 主人だけが死ぬことを許さず、その≪使い魔≫にも後を追わせたのだから…… 四九七 体力点一を失う。 宝石細工のメダルは持っているか? なければこの術は使えず、ルイズともども、怪物に叩き潰されることになる。 君の冒険は終わった。 持っているなら、首にかけて術を使え。 君はルイズを抱きかかえて空中に浮き上がるが、怪物をよけることはできない――敵は上からのしかかってくるのだから! 黒々とした腕状の塊は君たちをとらえ、地面に叩きつける。 全身に激痛を覚えるが、それも束の間だ。 あっというまに≪混沌≫の奔流に呑み込まれ、意識を失う…… 四六八 体力点一を失う。 黒い仮面は持っているか? なければこの術は効かず、使おうとしているあいだに怪物に押し潰され、君とルイズは命を失う。 黒い仮面があるなら、自分の顔の前に掲げて術を使え。 この術は相手の心中に恐怖を生じさせるが、眼も脳ももたぬ怪物が相手では通用しない。 己の間違いに気づいた時にはもう遅く、君とルイズは≪混沌≫の怪物に押し潰される。 君たちの血と肉は怪物に吸収され、腐臭を放つどろどろの肉体の一部となるのだ。 三四九 体力点五を失う。 こんな術は存在しない。 術を使おうとぶざまにもがいているあいだにも、怪物は襲いかかってくる。 反応の遅れた君はその一撃をかわせず、そばに立つルイズともども、叩き潰されることになる。 君の旅は終わったのだ…… 二二八 ≪混沌≫の怪物の中からそそり立つ触手めいた器官は、太さは人間の胴ほどもあり、大蛇のようにのたうつ不気味なものだ。 迫りくる触手に武器で斬りつけると形が崩れるが、すぐに元に戻ってしまう。 さらに別の触手が、左右から、背後から、君とルイズに迫る。 「相棒、これじゃきりがねえぞ!」 デルフリンガーの言うとおりだ。 どれだけ武器を振るっても、≪混沌≫の怪物から身を守る役には立たぬが、そのことに気づくのが遅すぎた。 首と腕に巻きついたねばつく触手は、すさまじい力で君を怪物の本体の中へと引きずり込む。 皮膚が焼け、全身の骨を砕かれるすさまじい痛みに悲鳴を上げる君には、同じ目に遭っているルイズのことを気にかける余裕もない。 君は果敢な努力を払ったが、すべては無駄に終わった。 四八九 体力点五を失う。 こんな術はない。 手間取っている隙に怪物は触手めいた器官を伸ばし、君の手足に巻きつける。 そのまま怪物の中に引きずり込まれ、全身を砕き、潰し、溶かされることになる。 ルイズもすぐに、君と同様の運命に見舞われてしまうことだろう。 君の冒険はここで終わる。 三七四 体力点五を失う。 こんな術は存在しない。 もたつく君の足を、冷たくねばねばとした触手がとらえる――≪混沌≫の怪物が、獲物を喰らおうとしているのだ! 武器で触手を斬り落とそうとするが、もう遅い。 すさまじい力で怪物の中に引きずり込まれ、苦痛に満ちた死を迎えることになる。 君は――やがてルイズや、タルブの村人たちの多くも――怪物をより強大にするための、養分となるのだ。 二一〇 嵐の中を夜を徹して歩いて来た疲労のため、眠気はもはや耐えがたいものとなる。 ルイズの母親はまだ来ないのかと小声で毒づくと、君は長椅子に横になり、肘掛を枕がわりにする。 ルイズの家族とはいえ、客に対してまともなもてなし一つできぬ貴族への礼儀など、知ったことではない。 瞼を閉じると、これまでの出来事を思い起こす――鳥人どもの襲撃、死体の謎めいた消失、それまでの快晴が嘘のような嵐、 そして執事の奇妙な態度。 風大蛇が君の命を狙っていると鳥人は言っていたが、大勢の衛士や奉公人が勤めており、堅牢な城壁に囲まれたこの場所なら、 新たな刺客が現れることもないだろう。 そう思うと安心感を覚え、まもなく眠りに落ちていく。 だが、この眠りは邪魔されることになる。 部屋の片隅からひとすじの気体が立ち昇り、逆巻いて、翼をもつ大蛇の姿をとる。 君は知らぬが、狡知に長けた恐るべき風大蛇は、すでにこの屋敷に先回りしていたのだ――君の倒した鳥人の死体に潜り込み、それを操って! 怪物は君のほうへ舞い降りると、煙でできた胴を顔に巻きつけてくる。 悪臭のする気体を肺に吸い込んでしまった君は、咳き込みながら目を覚ます。 振りほどこうともがくが、大蛇は固く巻きついており、どうにもならない。 君の体から力が抜け、やがて意識を失い、死に到る。 君の旅は終わった。 四二八 体力点五を失う。 こんな術はない。 君の術を使おうとする努力はむなしいものだが、公爵夫人にそれがわかるはずもない。 身の危険を感じた彼女は 「何を!?」と鋭く叫ぶと、 弾かれたような動きで小さな杖を振る。 たちまち、吹き荒れる暴風が客間全体を包み込む! 公爵夫人は≪風≫系統の魔法の達人だったのだ。 長々とした詠唱も、派手な身振りもなかったにもかかわらず、術の威力はすさまじく、君は木の葉のごとく吹き飛ばされる――窓へ向かって。 窓のガラスに頭から突っ込み、破片を顔全体に浴びて、苦悶の声を上げる。 破片は両眼を貫いており、いかなる術や薬をもってしても回復の見込みはないだろう。 ここラ・ヴァリエール公爵の屋敷で、君の旅は終わりを告げる。 一一五 君はふたたび、埋もれた記憶を掘り起こそうと努力するが、何も思い出せない。 イルクララ湖で風大蛇と闘ってから、まだ一月あまりしか経っておらぬはずだが、これはいったいどうしたことなのだろう? 「危ない!」 カトレアの叫びにはっと顔を上げると、怪物が君のほうへ向かって飛んでくるところだ。 今度はかわしきれず、胴を顔に巻きつけられてしまう! すさまじい悪臭に君は咳き込み、喉を詰まらせ、のたうちまわるがもう遅い。 風大蛇の毒煙を肺一杯に吸い込んだことで、君の運命は決まった。 怪物はついに、復讐を果たしたのだ。 前ページ / 表紙へ戻る / 次ページ
https://w.atwiki.jp/wiki6_karakuri/pages/49.html
フランシーヌ人形(ふらんしーぬにんぎょう) 【PROFILE】 1814年に白金によって作成された、世界初の自動人形。 生命の水を血液にして作動している唯一の自動人形であり、どの自動人形より人間らしく動き、フランシーヌ本人の髪が植毛されている。 が、フランシーヌの記憶や心は受け継いでおらず、何をやっても笑わないという理由で白金に捨てられてしまう。 最古の四人に擬似体液を与え、白金が作った自動人形を真似て多くの自動人形を作成し、真夜中のサーカス団を結成する。 人、罪、道理を何も知らず行動しており、100年もの間、ゾナハ病をばら撒く真夜中のサーカス団を引き連れて「笑うため」に放浪していた。 しかし疲れ果てたフランシーヌ人形は笑うことを諦め、偽フランシーヌ人形を造って真夜中のサーカスを抜け、アンジェリーナの手で破壊されることを望み単独で日本に渡る。 大勢の命を奪っても笑えなかったフランシーヌ人形は、エレオノールの誕生に立会い命の重みを知る。 存在理由を失っていた人形が、エレオノールのために生きるという希望を感じた。 アンジェリーナからエレオノールを託され、謎の自動人形集団から逃れるうちに、二人は井戸に落下し、エレオノールの体内の柔らかい石が反応して生命の水に晒される。 何の見返りも求めず、純粋にエレオノールの命だけを救おうとしたフランシーヌ人形に、エレオノールが微笑みかけた。 そしてフランシーヌ人形は初めて人間として笑うことができ、生命の水に溶けていった。
https://w.atwiki.jp/gods/pages/119610.html
フランシス(5) 連合王国貴族のシドマス子爵の系譜に登場する人物。 ジョージペリュー(ジョージ・ペリュー)の妻とする説も。 関連: ヘンリーアディントン (ヘンリー・アディントン、父) アーシュラメアリーハモンド (アーシュラ・メアリー・ハモンド、母)
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/7118.html
前ページ次ページ毒の爪の使い魔 年末の二つの月が重なる日の翌日、トリステインとゲルマニアの連合軍六万を乗せた大艦隊がアルビオンへ攻め入る日が来た。 その出港の日の朝、ルイズ達は侵攻軍の大艦隊が浮かぶ、ラ・ロシェールの港町へとやって来ていた。 「また来る事になったわね…」 乗っているシルフィードから身を乗り出し、眼下に広がるラ・ロシェールの町並みを見渡す。 以前はジャンガとキュルケとギーシュと、そして…ワルドと来た所。 その時はアンリエッタに頼まれて、ウェールズ皇太子から手紙を回収する為に、アルビオンへと行った。 今度はそのアンリエッタを助けに此処へ立ち寄り、アルビオンへと行く。 あの時はワルドの裏切りで任務を果たせず、皇太子までも死なせてしまった。…だが、今度は違う。 今度は絶対に死なせない。必ずアンリエッタを助け、自分も無事に戻る。そう約束したのだから。 決意に身体を振るわせるルイズの肩を誰かが、ポン、と叩く。キュルケだ。 「あんまり気を張り詰めないのよ、ヴァリエール。色々気負っているのは解るけど、いつもそんなじゃ持たないわよ?」 「そうね」 ルイズは軽く笑いながら返事を返す。 ちなみに今のシルフィードの乗員はルイズ、タバサ、ジャンガの他に、キュルケとモンモランシーも雑ざってる。 キュルケとモンモランシーは本来ならば実家に戻るべきだったのだが、ジャンガが無理やり連れてきたのだ。 だが、強引とは言え…二人ともそれほど嫌な感じは無いようだ。 キュルケは祖国の軍に志願して、女子だからと認められなかったから、この誘いは渡りに船とばかりに喜んで付いて来たのだ。 モンモランシーは表面上嫌がってはいたが、心配だったギーシュと一緒に居られる事になったので内心喜んでいた。 とまぁ、各自思惑は色々なれど、結局は一緒に居るメンバーだった。 そうこうしているうちに、一行を乗せたシルフィードは艦隊が出港の時を待っている港へと到着した。 港は世界樹の枯れ木を利用している物だ。何本もの枯れ枝の先に何十隻もの軍艦がぶら下がっている。 枯れ木とは言え、巨大樹に軍艦が何十隻もぶら下がっている姿は壮観であり、ルイズ達は目を奪われた。 「凄いわね…」 「本当…、これから戦争に行くって事を嫌と言うほど実感させてくれるわ」 キュルケもモンモランシーも呆然と呟く。 そんな彼女達を尻目に、ジャンガはシルフィードの足に結わえ付けていた荷物を外している。 布に包まれて解らないが、結構大きい物だ。 ルイズはジャンガの傍へと歩み寄り、彼が外しているそれを覗き込んだ。 「ねぇ」 「ンだ?」 「それってなに? 夕べ一晩中コルベール先生の研究室に籠もってたようだけど、それと何か関係有るの?」 「さ~て…、どうだと思う?」 笑いながらそう返すジャンガの言葉を聞いて、ルイズは「別に」と言った。 答える気は無いと判断したのだ。流石に彼女も彼の扱いには慣れてきていた。 ジャンガは外したそれを背中に担ぐと歩き出した。 「オラ、行くぞ?」 「あっ!? ちょっと、待ちなさいよ!」 さっさと行ってしまうジャンガの後を、ルイズ達は慌てて追いかけた。 乗る予定の艦は直ぐ見つかったが、その直後に護衛の兵を伴った将校に出迎えられた。 「クリューズレイと言います。ミス・ヴァリエールは何方でしょうか?」 「あ、わたしですけど?」 ルイズが名乗り出ると将校はルイズと使い魔であるジャンガのみを別の艦へと案内した。 案内された艦は『ヴュセンタール』号と言った。竜騎士隊の運用に特化された艦である。 「あの…わたし達はどうしてここに?」 ルイズが気になって尋ねたが、士官は答えない。 迷路のような狭い艦内をジグザグに移動し、やがてとあるドアの前で止まった。 士官がノックをすると中から入室を促す声が聞こえてきた。士官はドアを開け、二人を中に入れた。 随分と広々とした部屋だった。大きなテーブルが中央にあり、豪勢な衣装に身を包んだ将軍達が席に座っている。 従兵が席を勧め、ルイズはその席へと座り、ジャンガは隣の席に無遠慮に腰掛ける。 当然、将軍達は苦々しい表情でジャンガを睨み付けて怒鳴ったが、当の本人はまるで意に介さない。 少しは空気を読んで欲しい、とルイズはため息を吐く。 と、一番上座に腰掛けていた将軍が手を上げ、他の将軍達を宥めた。 その将軍はそのままルイズに視線を向ける。 「アルビオン侵攻軍総司令部へようこそ。ミス・”虚無”<ゼロ>。総司令官のド・ポワチエだ」 その言葉にルイズは緊張した。訳も解らず案内された先での総司令官といきなりの対面だ、無理も無い。 「こちらが参謀総長のウィンプフェン。そして、ゲルマニア軍司令官のハルデンベルグ侯爵だ」 紹介された二人の将軍が頷く。 それからド・ポワチエは会議室に集まった将軍や参謀達に、ルイズを紹介する。 「さて各々方、こちらが陛下直属の女官にして我々の切り札でもある”虚無”の担い手、ミス・ヴァリエールですぞ」 だが、会議室は盛り上がらない。未だ胡散臭そうにルイズと使い魔であるジャンガを見比べるばかりだ。 そんな将軍達にド・ポワチエは更に言葉を続ける。 「先のタルブでの戦いの折、敵の軍勢を食い止め、『レキシントン』号を落としたのは彼女達なのです」 その言葉に将軍達はようやく関心を持ったのか、表情を一変させてまじまじとルイズ達を見つめた。 ド・ポワチエは演技が混じった笑みを浮かべる。 「いきなり司令部に通されて驚いただろう? いやすまん。この艦が旗艦だと言うのは極秘なのだ。 見て解るだろうが、何しろ竜騎士を搭載する事に特化した艦でな、大砲も積んどらん。 敵にバレて狙われては面倒な事になるからな」 「は、はぁ……、しかし、どうしてそのような艦を総司令部にしたのですか?」 「ンな事も解らねェのかよ?」 将軍達が答える前にジャンガが口を開く。 ルイズはジト目で睨んだ。 「解らないから聞いてるんだけど?」 ハァ~、と大仰な仕草でジャンガはため息を吐いてみせる。ルイズはカチンときたが、あえて何も言わなかった。 「戦艦は戦闘のために大砲やら、火薬やら武器を積まなきゃならねェだろが? ンな物でごちゃごちゃしてる船にこんな広い部屋は用意出来ねェ。 だから、そう言った物が無い船が選ばれんだよ……解ったかよ?」 「良く解る説明ありがとう」 ルイズは殆ど棒読みの口調で、形だけの礼を言った。 「雑談はその位にして、軍議を続けましょう」 ゲルマニアの将軍の言葉に会議室から笑い声が消えた。 率直に言ってしまえば、二人が――正確にはルイズ<虚無>が――呼ばれたのは、アルビオン侵攻の助力を頼むためだ。 アルビオンへと連合軍六万の兵を無傷で上陸させる為には、二つの障害が在る。 一つは未だ有力なアルビオン艦隊。 先だってのタルブ戦役でレキシントン号を落としたが、その数はまだ四十隻以上を残しているようだ。 対する連合軍はトリステイン・ゲルマニアを合わせて六十隻ほどの戦列艦を保有しているが、 指揮系統の違いなどで混乱が予測されており、数の差は無くなってしまうかもしれないのだ。 もう一つは上陸地点の選定。 アルビオン大陸で六万の兵を降ろせる要地の候補は二つ。 首都ロンディニウムの南部に位置する空軍基地ロサイスと、北部の港のダータルネスだ。 港湾設備の規模から、ロサイス上陸が連合軍にとっては望ましい。 しかし、真っ直ぐそこへ向かっては敵にその意図を教えているようなもの。 迎撃の準備と対策を立てる時間を相手に与えてしまう事になるのは間違いない。 ここで消耗してはアルビオン首都ロンディニウムを落とす事は叶わず、陛下の救出すら不可能となってしまう。 冷静に戦力を分析しながら一同に告げる参謀長の言葉に、将軍達は揃って難しい表情を浮かべた。 連合軍にとって今必要なのは奇襲である。 敵の抵抗を受けずに六万の兵を無傷でロサイスへと上陸させたいのだ。 その為には敵軍に連合軍が『ダータルネスへと上陸する』と思わせ、そこへ吸引するしかなかった。 敵の艦隊とロサイスへの無傷での上陸、この二つが現在総司令部が抱える問題だった。 「どちらかに”虚無”殿の協力を得られないだろうか?」 参謀の一人がルイズを見ながら言った。 「タルブの戦の時と同様に敵の艦隊を吹き飛ばせないだろうか?」 「それは無理です。あれほどの『エクスプロージョン』を放つには、余程の精神力が溜まっていないと不可能です。 精神力が溜まるのも、あと何ヶ月、何年掛かるか…」 参謀達は、やれやれ、と首を振った。 「そんな不確かな”兵器”は切り札とは言わん」 直後、その参謀は背筋が震えるような感覚に襲われた。誰かの鋭い視線を感じたのだ。 その視線を感じる方へ目を向け、参謀は息を呑んだ。 ――”虚無”が自分を見つめていた。 その目は細められ、冷ややかな視線を此方へと投げかけている。 まるで獲物であるカエルを睨み付けるヘビのような、殺し屋のように冷たい視線だ。 その身体からは冷たいオーラの様な物も漂っている。 ルイズはその参謀を静かに見つめながら口を開く。 「お言葉ですが、わたしは”虚無”の担い手であるだけで”兵器”などではありません。 陛下直属の女官であるラ・ヴァリエール家の三女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールです。 わたしがこの場にいるのは、大恩在るアンリエッタ女王をお救いする事に、陛下直属の女官として”協力”する為。 そのわたしを”兵器”呼ばわりする事は、わたしのみならず、ラ・ヴァリエール家、そして陛下に対する侮辱となります」 ルイズの視線の冷たさが増す。 「故に、軽々しい発言はどうか慎んでください。そして…わたしは”虚無”ではなく、 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールですので、ご了承の程をお願いします」 参謀は小さく頷くと、椅子の背凭れに倒れ込むようにして寄り掛かった。 ルイズはそんな参謀の様子に小さくため息を吐いた。 そんなルイズの様子を見ながらジャンガは含み笑いをする。 (キキキ…こいつも少しは出来るようになったじゃネェか? 中々の殺気だゼ) 自分の影響であるのだが、そんな事を気にしたりはしない…寧ろ楽しんでいるジャンガだった。 場を取り成すかのようにド・ポワチエが口を開く。 「艦隊の方は我々が引き受けよう。きょ――いや、ミス・ヴァリエールには敵の陽動を引き受けてもらいたい」 ”虚無”殿と言い掛けて、ルイズの冷たい視線を感じたド・ポワチエは、慌てて言いつくろった。 「陽動とは?」 ルイズの言葉にド・ポワチエは誤魔化すように咳払いをする。 「先程議題に上がったとおりの事だ。我々がロサイスではなく『ダータルネスに上陸する』と敵に思い込ませてほしい。 伝説の”虚無”ならばそれ位の事が出来る呪文はあるのではないかね、ミス・ヴァリエール?」 ルイズは暫し考え込む。 敵に自分達が全く別の場所へと居るかの様に思い込ませる呪文――そんな物が在るだろうか? そう言えば”ディスペル・マジック”を覚えた時、デルフリンガーが言っていた。”必要があれば読める”と…。 ルイズは頷き、顔を上げる。 「解りました。作戦までには使用できる呪文を探しておきますわ」 おお頼もしい、と微笑むド・ポワチエ。…相変わらず演技の混じった笑みだ。 それで用が無くなったのか、二人は退室を促された。 「ホント…嫌な感じだったわ」 自分達が乗る艦へと戻ったルイズは開口一番、そんな感想を口にした。 広々とした部屋の中には彼女とジャンガ、再度合流したタバサ、キュルケ、モンモランシーが居る。 「ま、軍人なんてそんなものよ。戦争にどうやって勝つとか、勝ったらどうするかしか頭に無いんだし。 その総司令官の将軍も、結局は自分の出世の事しか頭に無かったりするんじゃないかしら?」 爪の手入れをしながら、つまらなそうにキュルケは言う。 忠誠心に疎いゲルマニアの貴族だからこその発言だった。 当の本人を見て来たルイズも頷き、同意する。 そんな二人のやりとりを欠伸をしながら見ていたジャンガは、ふと窓の外をボーっと眺めているモンモランシーに気付いた。 「ヨォ、どうしたドリル頭?」 「何よ?」 「オイオイ、心配して声を掛けてやったってのに、冷てェな…キキキ」 「あんたに心配される必要はないわ」 「キキキ。ま、それはともかくだ…」 窓の外を覗き込む。空を行く数多くの艦隊が視界に飛び込んでくる。 ルイズとジャンガが艦へと戻った直ぐ後、連合軍艦隊はラ・ロシェールを出港したのだった。 ジャンガはそれらの艦隊を暫し眺め、モンモランシーを振り返る。 「あの気障ガキが心配だったんだろ?」 「……さぁ、どうかしら?」 モンモランシーはそっぽを向く。しかし、その頬が僅かに染まっているのをジャンガは見逃さない。 顔を近づけ、小さな声で耳打ちする。 「そんなに連れなくすんじゃねェよ…。折角、寂しがってると思って連れて来てやったんだからよ」 「う、うるさいわね。わたしは寂しがってなんかいないわ。あいつなら心配ないんだし」 「そりゃまた、信頼してるじゃねェか?」 「ギーシュはこんな事で死なないわよ。あんたと決闘してからも何だかんだで生き残ってる位だし」 「キキキキキ、違ェねェ。テメェのようなバカみたいに付き添う女、ほっぽりだして死ぬほどバカな事もないしヨォ~」 ちょっと引っかかる物言いだったが、モンモランシーは反論を飲み込んだ。 「それよりも…、ねぇ何か考える事が在るんじゃないの?」 無理やりに話題変換を試みてモンモランシーはルイズに声を掛ける。 ルイズは困った表情を浮かべる。 連合軍六万を無事にロサイスへと上陸させる為には、『ダータルネスに上陸する』と敵に思い込ませる必要がある。 さてさて、どういった手段が有効なのか皆目見当もつかない。 これが人間とかならば精巧なゴーレムでも作って身代わりに出来るのだが、今必要なのは艦隊だ。 艦隊の偽者などどうやって用意すればいい? ”虚無”でもそのような事が可能な呪文があるかどうか…。 「立体映像でも使えりゃ簡単なんだがよ…」 ジャンガが呟いた。 「立体映像?」 気になったタバサが聞き返す。 「簡単に言えばな、人の姿や全く別の景色を空なんかに映し出す物だ。 俺のいた世界じゃそれほど珍しい物じゃないし、ガーレンの野郎もご大層な演説に使ってたからな。 まァ、ここにそんな物が在る訳ねェし…、無い物ねだりしても仕方ねェゼ」 「それよ」 ポツリとルイズが呟く。 ジャンガが怪訝な表情を浮かべる。 「それって何だ?」 「今あんたが言ったの! リッタイエイゾウとかってやつ!」 「だから、無ェって言っただろうが?」 「別にそれ自体を欲しいって言ってるわけじゃないわ。重要なのはそれがどう言う物かの説明よ」 ジャンガのみならず、その場の全員が首を傾げた。 そんな事は気にも留めず、ルイズは祈祷書を開いた。そんなルイズの行動にジャンガは眉を顰める。 「おい、どうしたんだよ? 説明が重要ってのはどう言う意味だ?」 「あんた、そのリッタイエイゾウとかって物の説明でこう言ったわよね。 ”人の姿や全く別の景色を空なんかに映し出す”って」 「ああ、そうだがよ。それがどうした?」 「それを聞いて思いついたのよ。何も陽動にゴーレムの様な傀儡を用意する必要は無いって事を。 ”それが居る”って解ればいいのよ、”視覚的”に」 「あン? そりゃまた…どう言う意味だ?」 ジャンガは聞き返すももうルイズは答えない。目を閉じて大きく深呼吸をした後、カッと目を見開いた。 精神を集中させながら、祈祷書のページを一枚一枚慎重に捲っていく。 そして、ついにあるページが光り出し、新たな呪文のルーンが現れた。 その呪文の内容を理解し、ルイズはしてやったりと言った感じで微笑んだ。 ――翌朝…、事態は急変する事になった…。 午前八時…朝の八点鐘が鳴り、戦列艦『レドウタブール』号での見張りが交代する時だった。 突如、砲撃の音が響き渡り、戦列艦の内の一隻が爆発、炎上して轟沈したのだ。 それだけではない…、虫の様な幻獣らしき物が艦隊のあちらこちらに突如として現れ、暴れ出したのだ。 突然の事に指揮系統は一気に混乱に陥ってしまった。 「チッ、何だってんだ…こんな朝っぱらからよ!?」 突然巻き起こった謎の襲撃による騒ぎで、ジャンガ達は就寝中の所を叩き起こされる事となった。 それに苛立ちながら、ジャンガは飛んで来た赤と緑の虫に爪を振り下ろす。 ガキン、と硬い物が砕かれる音がして、その虫は真っ二つに割られた状態で廊下に転がった。 その廊下に転がった物を見つめ、ルイズ達は怪訝な表情を浮かべる。 「虫……いや、生き物じゃないの?」 バチバチ、と音を立てながら火花を散らす、その虫の様な物はどう見ても生き物ではなかった。 よく見ると、どうやらそれは鉄などで出来ているらしかった。 『ガレンヴェスパ』――ガーレンが製造した赤い蜂の様な形をした小型メカ。 本来は同じガーレン製造の巨大メカ『バグポッドD』から射出される支援用の機体である。 装甲は薄いが、その速度は並みの飛行機械の比ではない。 大群で敵を取り囲み、その速度を活かした突進攻撃を得意としている。 『ガレンビートル』――ガーレンが製造した緑色の甲虫の様な形をした小型メカ。 『ガレンヴェスパ』同様、本来は『バグポッドD』から射出する支援用の機体である。 速度は若干劣るが、装甲は厚くなっている。 攻撃よりは捕獲に特化しており、ハサミの様な形状をした二本のマニピュレーターで敵を挟み込むようにして捕らえる。 「ガレンビートルにガレンヴェスパ…、あの野郎…大層な出迎えをしやがるゼ」 ジャンガは忌々しそうに舌打をし、部屋への中へと舞い戻る。 何をする気だ? とルイズ達が思う間も無く、ジャンガは部屋から再び出るや、廊下を駆け出した。 その肩には例の荷物が担がれている。 「ちょっと、どこへ行くのよ!?」 「外に決まってんだろうが!」 ルイズの叫び声にジャンガは止まらずに叫び声で返した。 荷物を抱えたままジャンガは甲板へと出た。 轟沈した艦から立ち上った黒煙は、まだ薄っすらと残っている。 艦隊のあちらこちらから悲鳴や魔法などの音が響いてくる。 無数に飛び交うガレンビートル、ガレンヴェスパの姿も確認できた。 そしてジャンガは鋭い視線で辺りを注意深く見回す。まるで何かを探すように…。 と、ようやくルイズ達が追いついて来た。 「も、もう…、勝手に走り出さないでよね!?」 「……」 「ちょっと! 聞いてるの!?」 「…静かにしろ」 「え?」 真剣な表情で周囲を見回しているジャンガにルイズは何かを感じた。 「…一体どうしたってのよ?」 「敵艦を探してるんだよ」 「敵艦?」 言われてルイズ達は周囲を見回す。 しかし、周囲に見えるのは見方の艦隊ばかりだ。 「そんなもの…何処にも見当たらないじゃない?」 「…いや、居る」 「居るって言っても…」 「ガレンビートルとガレンヴェスパ……どちらも航続距離はそれほど長くは無いはずなんだよ。 だってのに、こんな空のど真ん中にあれは居た。って事はだ…考えられるのは一つだけだ」 ジャンガの言葉にタバサが答えた。 「何かによってここまで運ばれた?」 「ああ。それに、あれだけの数となればそれなりの大きさの物だろうゼ。 加えて、先程の艦の轟沈の際には砲撃音も聞こえた。だから探してるんだよ…」 言いながらジャンガは周囲に視線を向ける。 やはり敵艦は陰も形も無い…が、何か違和感はあった。 (何処だ?) 違和感の在る場所を特定するべく、神経を集中させる。 ――砲撃音が再度響き、数隻が炎に包まれた。 「そこか!!!?」 叫ぶや、ジャンガは担いだ荷物を包んだ布を取り去る。 その下から現れた物を見てルイズ達は驚きの表情を浮かべた。 「あんたそれって…『破壊の箱』じゃないの!?」 それは『土くれのフーケ』によって盗まれ、それの操るゴーレムを撃退する為に自分が使用した『破壊の箱』だった。 確か、これは使い捨てとかジャンガ本人が言っていたはずだが…。 「それ…使えるの?」 「その為にあいつの研究室使わせてもらったんだよ」 言いながらジャンガは『破壊の箱』…否、『ミサイルポッド』を構える。 新たに取り付けた照準機を覗き込みながら、砲身を艦隊の前方へと向ける。 その狙いが何も無い空へ向けていられる事に気が付き、ルイズはジャンガに言った。 「ちょっと、そっちには何も無いじゃないの!?」 「黙って見てろ…」 そう言ってジャンガは集中する。 何も無い空の一点…、そこに照準を合わせ、引き金を引いた。 発射音が響き渡り、四発のミサイルが飛ぶ。 夕べコルベールの研究室で即席で作った物だが、出来は上場だ。 勢いよく飛び出したミサイルは数百メイルの距離を一気に突き進み――消えた。 「え?」 ミサイルが唐突に掻き消えたのを見て、ルイズは目を見開く。他の皆も同様だ。 ジャンガだけはニヤリと笑う。 「なるほどな…、そう言う事か」 そう呟いた瞬間、凄まじい爆発音が響き渡った。 直後、水滴が落ちて波紋が広がる水面のように、前方の空が震える。 その震えは徐々に強くなり、完全に歪んでしまった。 やがて震えが治まった時、前方にはそれまで無かった物が姿を現していた。 「どう言う事…?」 ルイズは呆然と呟く。それは全員の意見でもあった。 ――距離にして三百メイルも無い所に、三十隻以上の敵艦隊の姿が在った。 殆ど目と鼻の先に敵艦隊が突如姿を現した為、味方艦隊のあちらこちらから驚きの声が上がった。 ジャンガはミサイルポッドを肩から下ろし、床に置いた。 そこへルイズ達が声を掛けてくる。 「ね、ねぇ、あれってどう言う事!? いきなり艦隊が現れたわよ!?」 「どう言う事ってよ……昨日言ったやつの応用だ」 そのジャンガの言葉にタバサは口を開く。 「立体映像」 「え? じゃあ何…、あの艦隊は偽者だとでも言うの!?」 ルイズの言葉にジャンガは首を振る。 「…ちと違う。あれ自体は本物だ。その証拠に、今撃ったミサイルで燃えた艦が一隻落下して言ってるだろうが」 確かに、炎上する艦が一隻落下していったのが見えた。 その艦を一瞥してジャンガは言葉を続ける。 「ようするにだ、今の艦には立体映像の装置が積んであったんだよ。 艦隊の前方で、自分達の目の前の広い範囲に何も無い空の映像を映し出し、艦隊の姿を隠してたって訳だ」 「こんな近くにまで接近されても気付かれないなんて…」 とんでもない戦略性の高さだ。 これだけの距離で不意打ちを食らっては、味方はそうそう体勢を立て直す事は出来ない。 敵艦隊からは砲撃が繰り返され、次々と例の虫型のガーゴイルと思しき物が飛んで来る。 ジャンガは舌打し、ルイズを振り返る。 「オイ! 例の呪文は上手く使えんのか!?」 「え? ええ…、いけるわよ。でも…敵の艦隊が邪魔をしているじゃない?」 確かに、ダータルネスに行こうにも敵艦隊に道を塞がれている。 ジャンガは続けてタバサを振り返る。 「タバサ、シルフィードだ!」 「解った」 二つ返事で口笛を吹く。甲板に即席で建てられていた竜舎からシルフィードが出て来た。 キュルケがジャンガに尋ねる。 「どうする気なの?」 「そんなもん決まってる。道を作ってやる」 「道って……あなたまさか!?」 驚くキュルケの顔を見ながらジャンガはニヤリと笑う。 「ちょっと正気!? あの艦隊の中にシルフィードだけで飛び込んだら、ただじゃすまないわよ!?」 「んな事は百も承知だ。それに…別にあの艦全部を沈める気も無ェ」 「じゃあ、どうする気なのよ?」 聞き返すモンモランシーの言葉に、ジャンガは艦隊を見つめる。 艦隊の一番奥、一隻だけポツンと孤立するような形の艦が在った。 「”頭”をぶん殴るだけだ」 「頭?」 「あの艦隊を指揮している旗艦…人体で言う所の頭を潰す。手や足を潰しても、痛みを我慢して仕掛けてきたりもするが、 頭はそうは行かねェ。完全に潰せば動かなくなるし、ぶん殴っただけでも効果はある」 そしてジャンガはタバサに続き、やって来たシルフィードの背に乗った。 ルイズは慌てた。 「ちょ、ちょっと!?」 「俺とタバサで頭をやる。身体の動きが止まったら、テメェはダータルネスに向かって虚無ぶっ放せ」 「どうやって行けばいいのよ!?」 「シルフィードだけ戻す。テメェはただ、艦隊の動きが鈍った所で飛び出せばいいんだよ! やれ、タバサ!」 「解った。シルフィード、行って」 「きゅい!」 ジャンガとタバサを背に乗せたシルフィードは一声鳴き、甲板から勢い良く飛び立った。 前ページ次ページ毒の爪の使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/5926.html
前ページ次ページ魔法陣ゼロ 6 昼 学院中の人々が、突然の揺れと轟音に驚いていた。 塔の最上階に位置する学院長室は、特にひどい揺れであった。 溜め込んだ結果積みあがった書類は派手に崩れて、学院長の机は悲惨なことになっていた。 「ふう、やっとおさまったわい。 ミス・ロングビル、今のは何じゃろうか?」 床に落ちた水キセルを拾ってから、ここの学院長であるオールド・オスマンは秘書に尋ねた。 学院長の秘書、ミス・ロングビルは、自分の机で書き物を続けながら答える。 「学院が砲撃されたようには見えませんね。 また、あの子が魔法を失敗したのでは?」 「ヴァリエール家の三女か。じゃが、あれはさっきあったではないか? しかも、それにしては衝撃が大きすぎるような気もするのう。 ミス・ヴァリエールは、今何をしておるのかね?」 「罰として、失敗の後片付けをしているはずです」 「そうか。では、ちょっと様子をみてきてくれんか」 「了解しました、オールド・オスマン。 ……ああ、少々お待ち下さい」 イスから立ち上がろうとしたミス・ロングビルは、足元から見上げる視線を察知して動きを止めた。 一旦伸びたオスマンの鼻の下が、元に戻った。 「なんじゃ、はよ行かんか」 「ええ。しかし、このまま立ち上がると、ついうっかりネズミか何かを踏み潰してしまいそうで」 「チュッ!?」 ~~~ しばらくの間、沈黙に包まれていた教室。 呆然としていたキュルケが、我に帰った。 「な、なんだったのよ……? ククリちゃん、今の、あなたがやったの?」 キュルケに話しかけられたククリが、ハッと気付く。 「あっ! これって――」 ククリは、以前に聞いた『バトーハの塔』にまつわる悲劇を思い出した。 恋人を想う強い気持ちが生んだ、300年前の、突然の悲劇。 ちょっとした意見の相違から、ミグミグ族の少女は恋人を50年間も封印してしまった。 封印された少年が目覚めた時、時代は変わっており、少女もすでにこの世にはいなかったと伝えられている。 その状況に似ている。いや、それよりもひどい。 「ど、どうしよう! ニケくんとルイズさんを、封印しちゃった!」 「封印って、この下にルイズとニケが!?」 「そうなのよ……う、う、 わあああああああん!」 ククリは、声を上げて泣き出してしまった。 キュルケが張り付く布を剥がそうとする。が、全く歯が立たない。 「爪が痛いわねえ。 じゃあ、これでどうかしら?」 キュルケの杖の先に、青白い火球が出現した。 握り拳程度の小さな球だが、高温の炎の塊だ。通常なら、鋼の盾でも貫通できる威力。 しかし―― 「嘘!?」 中のルイズまで焼き尽くさないように、表面を焼くだけにしようとした。 だが、火球は布に接触した瞬間、消滅した。 燃えるどころか、焦げ目すら付かない。 さらにディテクト・マジックをかけたが、何も分からない。 アンロックもレビテーションも錬金も、強固に張り付いた封印を解くことはできなかった。 「あたしの魔法が効かないなんて……。 あら、なんか書いてあるわね。文字かしら?」 地面を塞ぐように張り付く×印の隅に、何かが小さく書いてあった。 「ほ、ほんとだ。えっと……500年?」 「へ?」 ククリは、ギリを封印できるほどの魔力を持ち、その後もレベルが上昇している。 さらに、300年前の件のような、非常にささいな不一致ではなく、キスを奪われたという事実に対しての反応である。 封印の効力は、桁違いだった。 「この封印が解けるまで500年…… あたし、それまで一人で生きていかなきゃいけないのね」 「いや、それ無理でしょう」 そのとき。 ×印の中心が、少し浮き上がった。 「え?」 さらに、二度、三度と、浮き上がる。 そのたびに、振動と爆発音が大きくなる。 そして―― 爆音とともに、封印が吹っ飛んだ。 「ハア、ハア、……なな、なんなのよ、今のは!」 「ゲホッ、ゲホッ。ルイズ、もっと丁寧にできなかったのかよ」 「ニケくん!」 ススまみれのニケに、ククリが抱きついた。 「もう……もう、ずっと会えないかもって思ってたのに…… ごめんなさい、ごめんなさい」 「謝るのはこっちだよ。キス、されちゃってさ。 避けようと思えば、避けることもできたんだ」 「いいのよ。ルイズさんは契約で、しかたなかったんだから。 良かった、また会えて……」 ニケの腕の中で、ククリはポロポロと涙を流す。 「教室が、また汚くなっちまったな。 ククリ、もう一回、あれできるか?」 「うん、もちろん」 再びシエスタ(?)が現れ、あっという間に教室を片付けた。 封印された時と爆破された時に、教室の床はボロボロになっていたが、修繕もなされている。 「そろそろ腹が減ったな。厨房に行こうぜ」 「うん」 そして、ルイズとキュルケは、忘れ去られている。 「ルイズ、あの子について、聞きたいことが色々とあるんだけど」 「今は、答える気にならないわ…… わたし、もう一回着替えてから食堂に行く……」 ふらふらと歩きだしたルイズを、慌ててキュルケが支えながら、二人は寮塔に向かう。 そんな二人を目撃するミス・ロングビルが、彼女達の背後に立っていた。 「あれは……ヴァリエールとツェルプストー? 仲が悪いと聞いていたけれど」 ミス・ロングビルは、掃除の結果を確認しようと教室に入る。 貴族の箱入り娘が、魔法抜きでまともに掃除できるとは、誰も考えていない。 罰として掃除させると言っても、結局はメイド達に仕上げを指示することになる予定だった。 「さて、どれだけ片付けられたか――ありゃ?」 どうせ大きな屑を取っただけだろうと思いつつ見た教室は、完璧以上の掃除がなされていた。 壁や天井は、学院に着任して日の浅い彼女には見た事のない白さであった。 「どういう事……? ヴァリエールは魔法が使えないハズなのに……? ああ、そうか。ツェルプストーが手伝ったのね。実は仲いいんじゃないの」 結局揺れの正体は分からなかったが、原因はどうでも良い。問題は結果だ。 彼女の観察眼は、学院そのものに起きた変化を見逃していなかった。 ~~~ 「シエスタ、メシくれ~!」 厨房の入り口から、ニケが大声で呼んだ。 ニケの辞書に遠慮という言葉は無い。 「シエスタさーん、いないの?」 いくら呼んでも、シエスタは出てこない。 代わりに、ヒゲ面な料理人風の男が出てきた。 「シエスタ! ……じゃなかった」 「俺はコック長のマルトーだ。 シエスタは、いねえよ。休ませてる」 「体調でも悪いのか? 今朝は元気そうだったけどなあ」 「今日のあの子は、どうやら様子がおかしいらしくてなあ……。 笑いながら廊下を走るシエスタを、何人ものメイドが目撃してるんだ。 なんでも、あまりの迫力に、まるで巨人のように見えたそうだ」 「へえ、そうなんだ」 「だから、しばらく使用人部屋で静養させて―― ん? なんだ?」 近づいてきたメイドが、マルトーに何かを耳打ちした。 「な、何? また笑いながら走ってたって!? 参ったな、まじめでいい子だったんだが…… 貴族の奴らにいじめられて、精神的にまいってたんだろうな。 実家に帰すのが、シエスタのため、か。 しかし、こうなると人手が足りなくなっちまうなあ……」 「メイドさんって、大変なお仕事なのね」 「お、おい、ククリ、ちょっとこっち来い!」 ニケが青い顔でククリを引っ張った。 マルトーから離れて、ひそひそと話す。 (どうしたの、ニケくん) (笑いながら走ってたって、あのグルグルのことなんじゃないか?) (あ、そっか。あたしが作ったグルグルを、本物のシエスタさんと勘違いしてるんだ) (誤解を解いておくべきかな……) 「おい、メシが欲しいんだろ? そこの鍋の中は、好きに食え。食器はあの棚にある。 俺は昼食の準備で忙しいんだ。じゃあな」 マルトーはそう言うと、厨房の奥へ消えてしまった。 とりあえず腹は減っているので、昼食を取ることにした。 ククリが二人分をよそい、ニケに皿を渡す。 「ねえ、あたしたちって、食べてばっかりじゃない? お礼に、準備を手伝ってあげようよ」 「いいじゃんか、どうせ余り物なんだから―― あ、でも、シエスタがいないのはオレ達が原因なんだよなあ……」 「そうよ。だから、ね?」 「そうだな。ついでに、誤解も解いておくか」 食事を終えた二人は、厨房の奥に向かった。 マルトーが指示を飛ばしている。 「ねえ、人手が足りないんでしょ? あたしたちも手伝うよ。食事のお礼がしたいから」 「本当か? そりゃありがてえ。 じゃあ、そのデザートを配ってくれ。二番目の列だ」 ククリが、ケーキが並ぶトレイを持った。 茶色いケーキからは、甘そうな香りが放たれている。 「なあ、シエスタのことなんだけど――」 「ワイン運べ! あとフォーク! サラダのはしばみ草入れすぎだ! 奴らどうせ残すんだから減らせ! おい、その鍋もう火からおろせ! 深皿が足りない? じゃあ倉庫から出して来い!」 「あ、あの――」 「お前も手伝ってくれるんだよな? 頼むぞ!」 マルトーは、笑顔でニケにはさみを渡す。 ……言い出せなかった。 「あ、お前はちょっと汚ねえなあ。あのメイド服にでも着替えな」 二人が厨房から出ると、食堂には貴族達がパラパラと着席し始めていた。 テーブルの上の皿には、料理がまばらに並ぶ。昼食の準備が終わるには、もう少し時間がかかりそうだ。 使用人達が何人も歩き回り、料理や食器を配っている。 「食事の準備をする方は、大変ね……」 まず、料理の種類が多い。さらに人数も多いので、並ぶ皿の枚数が半端ではないのだ。 人手が足りてないのは、本当のようだ。 「早く運んで、話をしたいよ」 隣の列は、すでにデザートが配られていた。 それを真似した配置で、ケーキを置いていく。 半分ほど行ったところで、ニケは後ろから肩を掴まれた。 「ちょっと、変態使い魔。なんでメイドの真似事なんかしてんのよ。 あんたのせいで、私の香水が――」 「今は忙しいんだよ、あとで」 罵詈雑言を背中に受けつつ、仕事を続けた。 その間にも続々と貴族達が食堂に入ってくる。やがて、席はほとんど埋まった。 一通り配り終えて、厨房に戻る。ケーキが一つ余ったので、二人で処理することにした。 「チョコレートのケーキ…… こっちの世界には、こんなおいしい物があったのね!」 ククリはうっとりしている。MPが全回復した! 一口食べて甘ったるさに気持ち悪くなったニケは、しばらく休んだあと、再びマルトーと話そうとした。 「今朝のことなんだけど――」 「おお、ご苦労! じゃあ、次は……塩とコショウの補充だ! あの瓶を持って行って、減ってる瓶と交換してくれ」 「いや、だからグルグルで――」 「グルグル? いや、テーブルの周りを一周づつグルっと回ってくれればいい。そうすぐには減らん。 おーい、その鍋洗っておけ!」 ……誤解を解くのは、もうすこし後になりそうだ。 再び食堂に入ると、すでに食事が始まっていた。 テーブルの脇を歩いていき、ルイズの近くに来た。 「あんた、なにやってんのよ?」 「見ての通り、厨房の手伝いだよ」 「……あんまり勝手な事しないでちょうだい」 「いいじゃんか、オレの勝手だろ」 さらに行くと、なにやら騒がしい領域があった。男子生徒達が恋愛話で盛り上がっている。 その中心では、キザな金髪の男が、無駄に手振りを交えつつ何やら語っていた。 彼らのテーブルを見ると、コショウが切れていた。 空き瓶を回収しようと、椅子の間から手を伸ばす。 と、その時。 「薔薇は多くの人を楽しませるために――」 バラを左に、グラスを右に持つ手が、大きく広がった。 勢い良く動いた手が、ニケの腕とぶつかる。 グラスが大きく傾き、水がこぼれた。 「うわっ、何すんだよ、お前! 服にかかったじゃないか!」 「ん? なんだ、メイド……なのか? 早くテーブルを拭きたまえ」 「やだよ。そっちが変な動きしてたからこぼしたんだろ」 「何を言うんだ君は? この僕に責任があるとでも言うのか?」 「ああ、そうだよ」 「なんだと? どう考えても、君がそんな所にいたからだろう。まったく、礼儀を知らない平民だな。 魔法学院も堕ちたものだ、こんな無礼者が僕達の側に存在しているなんて」 睨み合う二人に、横から割り込みが入った。 今朝、ニケとトイレで対面した金髪縦ロールの女だった。 「ちょっと、ギーシュ! なんでそんな変態と一緒にいるのよ!」 「ああ、モンモランシー! このメイドもどきが、僕に粗相の責任をなすりつけようとしてるのだよ。 しかし、変態ってどういうことだい? こいつは無礼なだけでなく、変態でもあるのか? 確かに女装はしてるが」 「そうよ。わたしが今朝トイレに行ったら、そいつがいたのよ」 「な、なんと! けしからん!」 「しかも、ギーシュにあげようとしてた香水が流されてどっか行っちゃったのよ!」 「おい、あれはお前が勝手に魔法で流したんだろ!」 「あんたがいなかったら、魔法を使うことなんて無かったんだから!」 ピクピクと震えていたギーシュが勢い良く立ち上がり、ニケにバラの花を向けた。 「貴様! 僕と愛しのモンモランシーに対しての侮辱、さらに彼女の好意をへし折った罪、そして覗き! 謝って済むものではないぞ!」 「ギーシュ様……愛しのモンモランシーって?」 わめくギーシュの後ろに、涙目の女が立っていた。 「やはり、ミス・モンモランシーと……」 「ご、誤解だ、ケティ。いいかい、僕の心に住んでいるのは、君だけだ」 「やっぱり、あの一年生に、手を出してたのね?」 「モンモランシー、誤解だ。彼女とは――」 「嘘つき! バカ! 変態 !覗き魔!」 モンモランシーはニケからコショウの瓶を奪い、ギーシュとニケの顔に投げつけた。 二人は痛みにうめきつつ咳き込む。 「ゲホッ、ゲホッ、なんでオレまで」 「もしかして、金髪の覗き魔が女子トイレに現れたって噂は…… ギーシュ様、まさかあなたなの!?」 「それこそ完全に誤解だ、ケティ。二股はともかく、断じて覗きなどしていない!」 「じゃあ、二股は本当なのね?」 「そう、僕はモンモランシーと……ゲフンゲフン、違う。どっちも誤解だ!」 「嘘よ! もう信じられない!」 ギーシュは頬をひっぱたかれた。乾いた音が痛々しい。 「さようなら!」 (オレも、さようなら……) ケティは離れたテーブルへ戻って行った。 混乱に乗じてニケも厨房に戻ろうとしたが、ギーシュに気付かれた。 「待て、メイドもどき! もうお前は許さないぞ、決闘だ! 二度と貴族に歯向う気にならないように教育してやる!」 「やつあたりだろ! あと、オレはメイドじゃない」 「そりゃあ……そうか、ルイズの使い魔か。だが、そんなことはどうでもいい。 ヴェストリの広場まで来たまえ、逃げるんじゃないぞ!」 ギーシュは友人たちを引き連れて、どこかに去って行った。 「さて、帰るか」 もちろん決闘などに行く気は全くなく、ニケは食堂から出た。 厨房では、チョコレートクリームがこびりついたボウルと、ククリが格闘していた。 「なんか騒がしかったけど、どうしたの?」 「変なやつに絡まれただけだよ。ほっときゃいいさ。 ところで、午後も授業はあるんだよな?眠いだけだから行きたくないよ」 「うん、あたしも……」 「じゃあ、今から学院の中を探索してみないか? さっき建物を歩き回ってたから、だいたいの構造は分かったぜ」 「うん、行く。じゃあ、ルイズさんに言ってくるね」 ククリが厨房を出ると、食堂では生徒たちが妙にざわついていた。 「ルイズさん、午後はニケくんと学院の中を見に行きたいんだけど、いい?」 「そうね……寝言がうるさいだけだし、授業は出なくていいわ。 ところで、平民がヴェストリの広場でギーシュと決闘するとかいう話が流れてきてるんだけど、なんか聞いてる?」 「決闘? ううん、知らないよ」 「そう。あんたたちは、揉め事を起こさないように気を付けてね」 「うん、分かった。じゃあ、行ってきまーす」 ククリは着替え終わったニケと合流し、揃って厨房を出た。 今日も空は晴れていて、散歩するにはいい陽気だ。 前ページ次ページ魔法陣ゼロ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/2559.html
「何じゃこりゃ!」 食堂で自分の昼食を見た暁はこう叫んだ。 小さな肉がほんの少し入ったスープと一切れのパンだ。 「ルイズー、これじゃぜんぜん足りないよ」 暁はルイズに抗議をする。 「ゼータク言わないの。ご飯を食べられるだけ有難いと思いなさい」 しかし抗議は受け入れられなかった。 朝食のときに何があったのか問い詰めたが、 暁は口ごもってしまい答えを聞くことが出来なかった。 そのためルイズは少しご機嫌斜めだ。 やましい事でもあるのだろうか。暁に対する疑いが昼食を質素なものに変えてしまった。 さらにルイズは続ける。 「だいたいね、使い魔は本来外なの。でも私はとってもやさしいからアンタは特別に中なのよ」 「とってもやさしいから床に座らせて、たったこれだけの量なの?そっちの肉とか分けてよ」 「もう、ワガママね。じゃ、この鶏の皮あげるわ。肉はクセになるからダーメ」 そんなやり取りをしている時、暁はつい先ほど世話になったシエスタが厨房の奥へ入っていくのを見つける。 暁は立ち上がりその後へついていこうとした。が、ルイズに呼び止められる。 「ちょっとドコ行くのよ」 「いやー、たいした事じゃないんでお構いなく」 何だか暁は嬉しそうだ。その態度にルイズは先ほどの疑いと同じものを感じた。女の勘か。 「何よ、ご主人様にも言えない事なの?」 少し語気を荒くして暁に尋ねるが当の暁は変わらぬ調子で言い返す。 「とってもやさしいご主人様なら寛大になんなきゃ。これくらい許さんかい」 そういって暁は厨房の奥へ消えていった。 残されたルイズは暁に怒りをぶつけた。 「何よ、後でお腹空いたって言ってもあげないわよ!」 「よっ、シエスタちゃん。今大丈夫?」 「あ、アキラさん」 急に声をかけられたシエスタはちょっとびっくりしたが暁に笑顔を見せる。 うーん、やっぱりいいなあ。この笑顔 暁はそんなことを思いつつ今朝のことを話題にする。 「ねえ、今朝のお礼のこと考えた?」 「いいえ、まだ全然思いついてないですよ」 「何でもいいんだよ。例えば一日デートするとか」 暁の言葉を受けシエスタは少し赤くなる。 「デ、デートなんてそんな…あ!そうだ」 シエスタは何かを思いついたようだ。 そして暁のテンションも上がる。 「お、何々?」 「あのアキラさん、何でもいいんですよね?」 「うんうん、もちろん。シエスタちゃんみたいなかわいいコの頼みなら何でも聞いちゃうよ」 期待に胸を膨らませる暁は中年のおっさんのような返事をする。 「じゃあデザート運ぶの手伝ってくれませんか?」 にっこり笑いながらシエスタは自分の希望を伝える。 それを聞いた暁はテンションが一気に下がった。 自分としては、お付き合いして下さい!とか そういうものを期待していたのだが。 自意識過剰である。 妄想はとりあえず置いといてここはいい所を見せるべきだろう。 「ああ、もちろんいいよ!」 少々引きつった笑顔で暁は返事をした。 さて、ルイズの方は。 「まったく、どんな性格してんのよアイツは」 勝手に居なくなった暁に対して文句を言っていた。 掃除の時に少し見直したかと思えばいきなりコレ? ほんとにアイツは何を考えてるのか全くわからないわ ルイズが考えていると目の前にデザートが配られた。 「失礼します、こちらに置いてよろしいでしょうか」 ウェイターに声をかけられて考えるのをやめる。 「ええ、そこで…ってアンタなにやってんの!」 ルイズにデザートを出したウェイターは暁だった。 「これはご主人様。いやー、ちょっと奉仕の精神に目覚めまして」 しまりの無い顔で暁は答える。 その答えにルイズはすかさずツッコむ。 「ウソおっしゃい!洗濯もしなかったくせに」 「あ、ゴメン。お仕事の途中だから後でねー」 そう言うと暁はルイズの元から離れていってしまった。 しかしデザートを女の子にしか配っておらず、給仕の少女に何か注意を受けているようだ。 その様子を見ていたルイズは怒るのもバカらしくなり、呆れてため息をついてしまった。 しかたなく男子生徒にも配り始めた暁。 すると近くの男子生徒のポケットから小瓶が落ちる。 ドジな奴 そう思いながら暁は瓶を落とした金髪の生徒の肩をたたき声をかけた。 「もしもし、落としましたよ」 しかし振り向いた生徒はすぐにそれを否定する。 「これは僕のじゃあない。君は何を言ってるんだい?」 「へ、あんた何言ってんの?今ポケットから落としたじゃないの」 不思議に思った暁は生徒に聞きなおす。 するとその生徒ではなく周りの友人たちが騒ぎ始めた。 「おい、それってもしかしてモンモランシーの香水じゃないか」 「ギーシュ、お前今モンモランシーと付き合ってるのか」 「え?いや違う。彼女とは…」 ギーシュが否定しようとしたとき一人の女子生徒が涙を浮かべながらやってきた。 「ギーシュ様、あなたはミス・モンモランシーと…」 「誤解だ、ケティ。僕は君が」 その女子生徒ケティはギーシュが言い訳を終える前に頬を平手打ちした。 「うわ!」 自分が殴られたわけではないのに何故か暁は痛がる。 「さようなら!」 涙を流しながらケティは立ち去っていく。 すると今度はまた別の少女がギーシュの元に現れた。 「あなた、あの一年生に手を出してたの」 「違うんだ、モンモランシー。彼女は」 しかし彼女も最後までギーシュの話を聞こうとはしなかった。 「この嘘つき!」 モンモランシーもまたギーシュに平手を放って去っていった。 「あちゃあ、修羅場だなー。ま、お大事に」 暁はギーシュに声をかけて、その場を去ろうとする。 「待ちたまえ」 しかしギーシュに呼び止められる。 暁は面倒くさそうにギーシュに聞き返す。 「なぁに?」 「僕はさっき、この瓶を知らない振りしたんだ。話を合わせてくれたっていいだろう」 理不尽な要求を述べるギーシュだが それに対してやれやれとオーバーなリアクションを取って暁は答える。 「あのねぇ、そりゃ二股がバレたあんたが悪いんでしょ。」 その言葉にふき出すギーシュの友人たち。 だが二股をかけるのが悪いのではなく、バレるのが悪いと言ってしまうのはどうだろうか。 飄々とした暁の態度にイラつきながらギーシュは問い詰める。 「とにかく君のせいでレディを傷つけ泣かせてしまった。どうしてくれるんだい?」 しかし暁は反論する。 「アホか。女ってのはね、泣きたいときに泣ける生き物なの。」 「そ、そうなのか?」 「そうそう。いちいち気にしてたら身が持たないでしょ」 一瞬納得してしまいそうになるギーシュだが言葉を返す。 「そんなことはない!アレは本当に悲しんでいる涙だ!」 「ギーシュとかいったな。俺はお前のために言ってるんだぞ。そんなんじゃこの先苦労するぜ」 「君なんかに心配されなくても僕だってグラモン家の男だ。本物か偽物かの涙は見分けられる!」 両者一歩も引かずに自論を展開し、意見をぶつけ合う。 これが普通の議論ならすばらしいものなのだが如何せん原因は二股なのだ。 バカらしいことこの上ない。 それを見ていたギーシュの友人たちも呆れてしまい二人を止めようとする。 「おいギーシュ、そろそろ…」 「もうやめとけって」 しかし二人はヒートアップし、そんな制止は受け付けない。 さらに論戦はくだらないものになっていく。 「だいたいなんだい。さして似合うとも思われないその長髪は。」 「何!そっちだってその胸のバラ、全然似合ってねえぞ」 「何を言う!僕は多くの人を楽しませるために咲くバラだ。まさにぴったりじゃないか」 「うわ、ダサ!今時そんなこと言うのお前くらいのモンだ!」 何かもう子供のケンカレベルにまで下がっている。 ギーシュが大人気ないのか、暁がもっと大人気ないのか。 もう止める気にもならない。勝手にやってろ。 友人たちがさじを投げかけたその時である。 「もう怒ったぞ!貴族に対してその態度!君に決闘を申し込む」 「おもしれえ、受けてやる!」 なんと悪口の言い合いから決闘に発展してしまった。 本来なら退屈しのぎにちょうどいいと囃し立てるところだが理由があまりにもアホらしいので友達はギーシュを止める。 「ギーシュ、ここは抑えろ!」 「止めるな、僕のプライドが許さない!」 安いプライドだな そんな言葉をかけられないほどギーシュは興奮していた。 「ヴェストリ広場で待つ」 ギーシュはそれだけを言い、暁に背を向け食堂から出て行った。 騒ぎを聞きつけシエスタがやってきた。 「ア、アキラさん。貴族を怒らせたら殺されちゃいますよ!」 震えながら暁に忠告をするシエスタ。 それを見た暁はシエスタを落ち着かせるように話しかける。 「心配ないって。何てったって俺は」 言いかけたときに別の人物に声をかけられる。 「アンタ正気?メイジと決闘なんて何考えてんの!」 ご主人様のルイズであった。 その口調は怒っている。 勝手なことをしたのと暁が心配なのと半々のようだ。 「アンタはただの平民でしょ、メイジには絶対に敵わないわ!」 そのルイズに対して暁はまたもやさしく話す。 「ルイズ、心配してくれるのは嬉しいけどさ」 「べ、別にアンタが心配ってワケじゃ…」 暁の言葉にルイズは少し赤くなる。 その様子を見ながら暁は続ける。 「男にはやらなきゃならないときがある」 この上なくカッコつけて言い切ったが決闘の理由がしょーもないのでイマイチ決まっていない。 「あ、ちょっといい?ヴェストリ広場ってドコ?」 ギーシュの友達に声をかけ広場の場所を教えてもらう。 「ああ、こっちだ」 案内され着いていく暁にルイズは声を上げる。 「バカ、どうなっても知らないわよ!」 暁は振り返りそれに答える。 「だから大丈夫だって。何たって俺はヒーローだからな」 「はぁ?」 ルイズは暁の答えにポカンとなってその場に立ち尽くした。 暁が広場に着くとギーシュは大声で叫んだ。 「諸君、決闘だ!」 その言葉に見物人のテンションは上がらずにまばらな拍手だけが起こった。 アホな理由の決闘ではそうなるのも仕方ないだろう。 そんな薄い反応に構わず、ギーシュは決闘の始まりを宣言する。 「では始めよう。ワルキューレ!」 ギーシュがバラを振ると一枚の花びらが舞い上がる。 すると甲冑を纏った戦士が現れた。 「うわ、魔法ってそんなことも出来んのか!」 暁は大きなリアクションをとって驚く。 その反応に気を良くしたのか、ギーシュは暁に説明をする。 「言い忘れていたが僕の二つ名は青銅のギーシュだ。したがってお相手はこの青銅のゴーレム、ワルキューレがするよ」 ワルキューレは身構えてから、暁に突進をする。 さっきまでつまらなそうにしていたギャラリーも何時の間にか食い付いていた。 しかしこの平民はどうするのだろう。 剣も杖も持っていない。 もしかして逃げるのだろうか。 そんな観客の予想を暁は大きく裏切った。 「あ、ちょっとタイム!」 暁は突然ストップをかけた。 その行動に観客だけでなくギーシュとワルキューレもずっこけた。 「なんだい、一体」 呆れたようにギーシュは暁に聞き返す。 悪びれずに暁は答える。 「ちょっと待ってて。準備が必要だから」 何の準備だ? みんながそう思っていると暁は構えを取り、そして叫んだ。 「燦然!シャンバイザー!」 その声に応じて暁の額にはティアラのようなものが出現した。 途端に観客からどよめきが起こった。 暁はティアラ、シャンバイザーのゴーグルを下げる。 すると彼の頭は光り輝き、装甲に包まれていく。 首、上半身、下半身とやがて全身が覆われた。 そして最後は額に力の源である赤い宝石シャイニングストーンが出現する。 光が消えるとそこには今までの暁はいなかった。 全身を水晶の鎧で包み、胸には丸い鏡のように輝くシャンディスク 目は黒いゴーグルで覆われ、頭の横には羽を思わせる装飾が付いた戦士が立っていた。 燦然―― それは涼村暁がクリスタルパワーを発現させ 超光戦士シャンゼリオンとなる現象である
https://w.atwiki.jp/shineserver/pages/14.html
アイリス:アイリスの首輪装備状態で召喚可能です。サモンコスト18 デスナイト:デスナイトのボーンピース装備状態で召喚可能です。サモンコスト20 強化ドッペルゲンガーボス:LV90以上で召喚可能です。サモンコスト44 強化クーガー:LV95以上で召喚可能です。サモンコスト47 超強い目玉:消耗品「超目玉」を使うことで召喚できます。サモンコスト12
https://w.atwiki.jp/pokecharaneta/pages/5745.html
アウトランシリーズ 一般車 コメント 1986年に発売されたセガのアーケードゲーム。 一般車 ギャロップ:フェラーリ・365GTS/4デイトナ コメント 名前 コメント すべてのコメントを見る