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その日もアンリエッタは祈っていた。 自分の為に行ってくれた友人とその仲間達のことを思って。 そして…… 言葉には出さなかったが、ウェールズのことを思って。 ふと外が騒がしいことに気がつく。 その中にルイズの声が混ざっていることに気がついたアンリエッタは、 少しだけ顔をほころばせると、騒ぎの起こっている場所へと向かった。 「ルイズ!」 アンリエッタがそう言って駆け寄る。 「姫さま!」 ルイズも同じく一声あげてアンリエッタの方へと向かった。 そうしてルイズと抱き合ったアンリエッタの目からは、一筋の涙がこぼれていた。 そんな様子を、虎丸は貰い泣きをしながら、Jと桃、ギーシュは暖かい目で、 キュルケとタバサはよくわからないという表情で眺めていた。 「くそ!目にごみが入っちまったぜ。」 虎丸の照れ隠しの台詞で、ようやくルイズとアンリエッタは我に帰った。 アンリエッタは一度咳払いをすると、詳しい報告を聞くために、ルイズとその使い魔達を中に通すことにした。 一通り報告を受けたアンリエッタは、一瞬目の前が暗くなったのを感じた。 自分がつけたワルド子爵が、最愛の人の命を奪い、この得がたい友人とその使い魔達まで危機にさらしてしまったのだ。 無理もないことだろう。 そんな自分の不甲斐なさを友人に詫びようとして、ルイズ達の顔を見たアンリエッタは気づく。 彼女達は、そんな自分を恨むどころか、顔色が悪くなったことをたいそう心配しているのだ。 アンリエッタのやることは詫びることではない。 そうと思ったアンリエッタは、はっきりと言うことにした。 「ルイズ、そしてその使い魔の方々。わたくしのために動いていただいて、怒っていただいて、本当にありがとう。」 万感の思いを込めたその言葉に、場が静かになる。 そんな中アンリエッタが発言を続けた。 「それで、…ウェールズ様は、…その王大人という方が、…故郷に葬って下さる、…とのことでしたわね?」 その途切れ途切れの言葉からは、アンリエッタがいかに感情を押さえつけているかがわかる。 最初からそうなると見越していたアンリエッタであったが、実際にウェールズが死んだという報告は胸にこたえたのだ。 そんなアンリエッタの様子に応えるかのように、虎丸が言葉を発した。 「姫さま。俺には難しいことはわかりません。ただ、ウェールズ王子さまは、」 そこで、虎丸はアンリエッタの方をしっかりと見る。 アンリエッタがこちらを見つめていることを確認した虎丸は、話を続けた。 「自分は幸せだ、と言ってました。自分の惚れた女性のために命を張れるのは男子の本懐だ、とも。」 虎丸の言葉は短い。 だが、そこに込められた思いは、紛れもなくウェールズのそれであった。 「姫さま。これを。」 そう言ってルイズは、アンリエッタにウェールズのつけていた風のルビーを差し出した。 そうして夜は、静かに、そして優しくふけていった。 ただ、アンリエッタのウェールズとの思い出話を話す声と、それに相づちを入れるルイズの声だけが響いていた。 「……これは、凄いな。」 大司教、否アルビオン皇帝オリヴァー・クロムウェルの声がむなしく響く。 隣に立っていたワルドの口から、歯をかみ締める音が聞こえる。 そう、ワルドは生きていたのだ。 顔はひどく焼け爛れ、失った左目には眼帯をしている。そして左手の袖は力なく揺れていた。 そんな二人に目の前には、かつてのニューカッスル城の礼拝堂後が『あった』 そう、そこは、まるで初めから何もなかったかのように綺麗に消失していたのだ。 (これでは、ウェールズの遺体も見つかるまいな。) そう思ったクロムウェルだが、すぐに忘れることにした。 どうせ手はまだまだあるのだ。手札の一枚程度失ったところでどうというほどでもない。 「そう言えば子爵、余が思うにその手と目は無理にしても、その火傷は治せると思うのだが。」 意識を切り替えたクロムウェルは、気になっていたことを尋ねる。 その台詞に、ワルドは背筋の寒くなるような笑みを浮かべてから答えた。 「閣下のご温情痛み入ります。ただ、この傷は戒めです。 少なくとも、あの者達を倒すまでは消すつもりはありません。」 その台詞に興がそがれたクロムウェルは、ワルドを伴いその場を離れることにした。 最後にワルドが、礼拝堂後をちらっと眺めたことに気づくことはなかった。 ワルドは気がついていた。多分に直感的にではあるが。 これがメイジの仕業ではないことに。 「「「「「「桃(シエスタ)(J)(虎丸)(ギーシュ)!」」」」」」 アンリエッタの所に、ルイズを残して桃達は退出した。 途中、疲れたというキュルケとタバサは、自分の部屋へと戻っていった。 そんな桃たちを出迎える声が響く。 その様子に、思わずギーシュは涙ぐむ。 ぼやけた視界でよく見れば、モンモランシーとケティもこちらに近づいて来るのが分かる。 そして、 マリコルヌが力強い笑みを浮かべているのが分かった。 その手には、大きな、とても大きな幻の大塾旗がそびえていた。 これほどの友情はない。 抱きついてくるケティとモンモランシーの感触を堪能しながら、ギーシュはそんなことを思っていた。 そんなギーシュの様子を視界におさめたマリコルヌの体がぐらりと揺れる。 慌てて秀麻呂たちは、それを支える。重さ三百キロを優に超える大塾旗だ。意識のないまま倒れては、ただではすまない。 「よくやったぜ!マリコルヌ!」 秀麻呂がマリコルヌに笑いかける。マリコルヌの顔は、月明かりの中で、うっすらと笑みを浮かべていた。 「きゅいきゅい。私も混ぜて欲しいのね~。るるるー。」 歌いながらシルフィードが乱入してくる。 帰り際に、アルビオンに行ったメンバーとルイズの使い魔達だけという条件ではあるが、 タバサから人前で探す許可をもらったシルフィードはご機嫌だった。 そう、話好きな彼女は、本当に会話に飢えていたのだ。 ……思わず、モンモランシーとケティの存在を忘れてしまうほどに。 「「「シルフィードがしゃべったーー!」」」 事情を知らない一号生達と、魔法学院の学生二名が声をあげる。 シルフィードは気がついていないが、明日タバサの説教が確定した瞬間であった。 そんな中一人の男が声をあげる。 「ぬう!あれは!」 「知っているのか雷電!」 思わず虎丸が合いの手を入れる。 「うむ。まさしくあれこそ古代中国において伝わる音言龍(ねげんりゅう)に違いない!」 「わたしはそんな変な名前じゃないのねーーーーーー!」 シルフィードの絶叫が響く。それにしてもこの竜、ノリノリである。 そんな即興漫才に、我に帰った塾生達が、シルフィードの前に押しかける。 桃は伊達と酒を酌み交わしていた。 Jは飛燕と何か会話をしている。 疲れている、というシエスタは、新男根寮自慢の巨大浴場に行っていた。 覗こうなどという不埒者は、警護の一号生たちに星にされるので安心だ。 そんな騒がしくも楽しい夜がふけていった。 (こ、ここは……?私は、生きているのか?) ウェールズが意識を取り戻すと、そこは知らない天井であった。 そこに声がかかる。 「うむ。気がついたようだな。今、他の者を呼んでくるから少し待っておれ。」 王大人だ。もちろんウェールズとは認識はない。 そのことに気がついた王大人は、一言だけ告げてから席を立った。 自分はルイズの使い魔達の知り合いである、と。 (私は、生き残ってしまったのか。) 脱力感がウェールズを包む。 他の皆は当然死に絶えてしまっただろう。 それに、 (アンリエッタに迷惑をかけるかもしれない。) そう思うと、気が気でなかった。 もし、今手元に自分の杖があったなら、風の魔法で自分の頭を吹っ飛ばしていたに違いない。 バタン ドアを開け放つ音がする。 よほど勢いよく開けたのだろう。その音は建物中に広がっていた。 (誰だ?) ウェールズがそう思うまもなく、飛び込んで来た人影はウェールズに抱きついてきた。 「……良かった。生きていてくれて。」 そう言って自分に抱きついたまま涙を流すような人物には心当たりがなかった。 これほど特徴的な人物を忘れろ、という方が無理である。 その時、窓から一陣の風が吹き、侵入者の被っていた帽子が舞い上がった。 そこに表れる特徴を見て、ウェールズは愕然とした。 「君は!ティファニア!」 そう、ウェールズの従姉妹、ティファニアであった。 フーケは、マチルダは外で寝転がって月を眺めていた。 「マチルダよ。復讐はしなくても良いのか?」 そこへ王大人が声をかける。内容こそ厳しいが、その目には限りない慈愛がこもっていた。 ゆっくりとマチルダは振り向く。そして 「妹が喜んでいるのを邪魔する姉はいないさ。」 そう言って窓に視線を向けると、ウェールズとティファニアが泣きながら抱き合っていた。 マチルダが外にいたのは、ティファニアを陰から見守るためであったのだ。 (それに、) マチルダは思う。自分には、命よりも大切な者達がいるのだ。 復讐なんかにかまっている暇はない。 ただ、 マチルダは月を見上げる。今日も二つの月は互いを祝福するかのように輝いていた。 そっと王大人がマチルダの顔を胸に抱く。 「泣きたい時は泣くがいい。」 マチルダは泣いた。今は泣き父のことを思って。 父の無念を晴らせないことを思って。 そうして誓ったのは一つ。 必ずテファが幸せになるまで見届けることを。 父が最もやりたかった事だけは必ずやり遂げると。 月達は優しく見守っていた。 父のように。母のように。 男達の使い魔 第十一話 完 NGシーン 雷電「あ、あれまさか!」 虎丸「知っているのか雷電!」 雷電「あれぞまさしく古代中国において伝わる痕浄焼(こんじょうしょう)!」 かつて唐の時代、南浄寺と北浄寺という寺があった。 おのおの南浄拳、北浄拳という拳法を有し、その力を競い合ったという。 ある時、その寺を代表する二人の拳士が立ち会うことになった。 激闘の末に北浄寺の拳士は破れ、己の名誉も何もかもを失った。 しかし、その拳士はその後も修行を続け、ついには復讐を成し遂げたという。 なお、その際挫折しそうなときには、負けたときに付けられて焼印の痕を眺めて気持ちを高ぶらせたのだ。 そうして復讐を終えた彼は、己が痕は浄化された!と言うことで、己の痕を痕浄焼と名づけたという。 なお、この拳士の名前は今には伝わっていないが、そのあまりの脚力から暴走と言われていた。 この話が、日本とハルケギニアに伝わり、根性焼と暴走族に名を変えて言ったのは皮肉という他ないだろう。 民明書房刊 「暴走族の夜明け」(平賀才人著)
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結論から言うと私は外で食事をさせられた。周りには他の生徒の使い魔がいる。 外に出された理由は私が食事中に吐いたからだ。初めての食事を胃が受け付けなかったらしい。 ルイズはすぐさま私を外に追い出した。その後。何とか我慢して食事を食べる。パンも流動食だと言えるほど噛んで食べれば吐くほどではない。が、やはり体の中に違和感があるのは禁じえない。これからは人間が何をしなければいけないか考えなくてはいけないな。 いつまでも幽霊の常識じゃいけないってことだ。 食事が終わる頃生徒たちが食堂から出てくる。私の方をみて笑う生徒もいる。さっきのことだろう。 そう思っているとルイズが出てきた。 「あんた何してんのよ!恥かいちゃったじゃない!」 会った瞬間怒鳴ってくる。 「調子が悪かったんだ」 当たり障りのないことを言う。食事をしたことがないと言ったら二度と食事させてもらえなくなるだろうな。 「あんたの体調なんて聞いてないわ!罰として昼食抜きね!」 まぁ昼食だけならさして問題はないだろう。 そして教室へ向かう。ルイズと私が教室へ入ると既にいた生徒が一斉にこちらを見る。 そしてクスクス笑い始めるた。特に気にするようなことではない。 教室を見回す。石で出来た大学の講義室みたいだな。 生徒を見るとやはり使い魔を連れている。 フクロウ、ヘビ、カラス、猫、目玉、六本足のトカゲ、蛸人魚etc、、、 ルイズが席に座る。私も席に座り帽子を取る。ルイズが睨んでくるが無視する。どうせ私は床に座れとか言うのだろう。 ルイズが何か言おうとする前に扉が開き中年の女性が入ってきた。ローブは紫色で帽子を被っている。きっと彼女が先生なのだろう。 彼女が春の使い魔召還の祝辞を述べる。先生はシュヴルーズというらしい。 「おやおや。変わった使い魔を召還したものですね。ミス・ヴァリエール」 シュヴルーズは私を見てとぼけた声で言う。教室が笑いに包まれる。 ルイズは俯いている。シュヴルーズは笑いを取るために言った冗談なのだろうがルイズが傷つくのは考慮に入れてないようだ。 「ゼロのルイズ!召還できないからって、その辺歩いてた平民を連れてくるなよ!」 誰かがそう言う。するとルイズが立ち上がり怒鳴り返す。 そこから言い争いが始まる。また『ゼロのルイズ』だ。どうやら誹謗中傷の類らしいな。 シュヴルーズが杖を振ると、言い争っていた二人は席に座り静かになった。魔法は便利だな。 シュヴルーズが二人を叱る。 「ミセス・シュヴルーズ。僕のかぜっぴきはただの中傷ですが、ルイズのゼロは事実です」 マリコルヌと呼ばれていた彼ががそう言うと笑いが漏れる。 シュヴルーズがまた杖を振ると笑っていた生徒の口に赤土の粘土が張り付いた。 「あなたたちは、その格好で授業を受けなさい」 シュヴルーズは厳しい顔でそういった。 しかし発端を作ったのはお前だろう。 「では授業を始めます」 話しを聴く限りだとこの世界では魔法が科学技術らしい。ゆえにそれを使える貴族が権力を持つということか。 いや、魔法が使えるから貴族か…… こいつらが魔法が使えなくなったらどうするんだろうかね? シュヴルーズが杖を振ると石が光る。光が治まると石は金属に変わっていた。 つくづく魔法は何でもありらしい。 6へ
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此処は練兵場だか何だか知らんが広い場所 この場に立っているのは、私と髭と主人だ 互いに実力を知るために手合せをしよう、とか何とか まぁ、断るのも可愛そうだから引き受けたが… 試したい事もあるから丁度良い さて、始めようか! 【逆に考える使い魔】 少し時間をバイツァ・ダスト! 手合せの為に宿の外に出た時 私は見てしまった! 空から変態が落下してきた瞬間を! そして!私の血に潜む何かが…奴は『邪悪』だと叫んでいる! 「ここは何処だ!?貴様は誰だ!?」 混乱してようが関係ない! 「俺に近「ふんッ!」…ッ!?」 ―ハルケギニア BF1階― ジョージに首を両断されて死亡 妙なテロップが…電波か? 「相棒よぉ…使ってくれるのは有り難いけど…イキナリ辻斬りh(チンッ)」 初ゼリフのデルフを無視し、戦利品を懐に収める DISCという名らしい… 私が死んでから何年経ったか知らないが、向こうの世界では便利な物が出来たようだ… 音楽を楽しむ為の娯楽道具(CD部分の説明)と戦う為の武具(スタンド部分の説明)を兼ねるとは、お得だな DISCには、ヘタクソな字で『クリーム』と書いてある 未強化だから慎重に使わば… で、現在に至るわけだが 再びデルフを抜いて構え…頭に流れる膨大な量の情報から不要なモノを排除! オメガ13Zって何だ? そんな事を考えながら打ち合っていると魔法で吹き飛ばされてしまった… しまったな…どうせなら、盛大に血糊を撒き散らしながら派手に吹き飛べば良かった… なに?何故、盛大に血糊を撒き散らすのか? 逆に考えるんだ、『油断させて抹殺出来る』と考えるんだ…どうにも奴が気に食わないからな! 「ン、ンー?それの程度では使い魔失格だよ?」 キタ---------!プッツンキタネコレハ! 「調子扱いてんじゃ…ゲフン!ゲフン!…良いのかね?全力を出しても?」 「僕は実戦で鍛えられたメイジだ、多少のことでは揺るがないよ」 「ならば刮目せよ!己の魂を燃やす一撃!」 己に感じる小宇宙を燃やす! 「ハァァァァアアアア!」ただならぬ気配に警戒を強める髭…しかし、無駄な行為だ! さらに気張って警戒が強まった…このタイミングだ! 「アアアッ!…限界だ…」 「な、なんだっ「隙有りィぁ!」しまっ!?」 全てを霧散させて崩れ落ちると見せ掛け、懐に忍ばせたロープを掴み、巧みな操作で縛り上げる! 「変態秘奥義!空中亀甲縛りッ!」 本来なら木に吊し上げるなりするのだが、場所が無いからハンマー投げの如く高速回転! 「ギィャアアァァア!絞まるぅ!…でも、それがイ「氏ねぃ!」 なんか呟いたので地面に叩きつけて黙らせた… 真性とはな…いや、主人がドSだから問題ないな… 気は乗らないが、気絶した髭を(縛ったまま)担いで宿に戻るとするか… 本日の成果 クリームのDISK ルーンの効果を確認(様々な武具の効果、使用法、技術情報の習得)
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「――ルイズちゃん。今私たちがどこに向かっているか、差し支えなければ教えてくれないかね?」 「食堂よ」 「ああ、朝食をとるんだね!それには賛成だ。実を言うと私はさっきからお腹がペコペコでね!」 食堂に着いた双識は高級レストランさながらの豪華な佇まいに感心した。 天井からはシャンデリアが吊り下げられ、銀の燭台が瀟洒な皿を飾りたてている。 並べられている料理は朝食とは思えないほどに豪勢で、朝食を余り摂らない双識は、見るだけで胸焼けがして来そうだった。 あたりは既に食事を始めている生徒や教師で賑わっている。 その歓談の間を縫うようにして、ルイズは中央テーブル端の席に座った。 双識もその横に座ろうと思ったが、席の両側は既に食事をしている生徒で埋まっていた。 その上、ルイズの前にある料理は、どう控えめに見ても二人分の量があるようには見えない。 「これはまた随分とおいしそうな料理だね。――で、私はどこに座って、何を食べればいいのかな?」 「あんたは、これ」 ルイズの指さす先――床を見ると、そこには、堅そうなパンと粗末なスープが置いてある。 ひょっとして、いやひょっとしなくても、これが自分の食事なのか。 双識はルイズの顔を、見る。淡い希望を抱いて。 「あんたみたいな使い魔は本当は外、私の特別な計らいで中で食べられるんだから感謝して欲しいぐらいね」 双識の視線を意にも介さず、的外れな慰めをかけるルイズ。 ルイズはあくまで使い魔と主人の上下関係をはっきりとさせておきたいらしい。 「――モノを食べる時はね、誰にも邪魔されず自由で、なんというか救われてなきゃあダメなんだ。独り静かで豊かで……」 「馬鹿なこと言ってないで、早く食べなさいよ」 双識は諦めて外見通りに堅いパンを囓りながら、食事する生徒たちを見渡す。 何人か好みに合う生徒がいたらしく、双識の顔が緩む。それをルイズが目ざとく見つける。 「言っとくけど、他の生徒に手を出したら、殺すからね」 「ああ、ルイズちゃんはそれほどまでに私のことを愛して――」 「違うわよ!平民と貴族は身分が違うの。もしバレたら、即刻打ち首よ。それでとばっちりを受けるのは私なんだから」 なんだそんなことか、と双識は首を振る。 「それは安心したまえ!私はルイズちゃん一筋なんだ!」 「全然わかってないじゃないの……」 食事を終えたルイズと消化を終えた双識は、授業を行う教室に移動した。 魔法の授業をするぐらいだからと、双識はもっと特殊な部屋だと思っていたのだが、意外なことに何の変哲もない講義室だった。 そして、食堂の出来事から半ば予想していたことだが、やはり双識は席に着かせてもらえなかった。 そうこうしているうちに授業が始まるのか、中年の女性が入ってくる。 この女性も魔法使い――メイジなのだろう。 「皆さん、春の使い魔召喚は大成功のようですわね」 女性は生徒全員を見渡す――と、ある一点で目が留まる。 「あなたは随分と変わった使い魔を召喚したようですわね。ミス・ヴァリエール」 女性教師の冗談に、教室のあちらこちらからクスクスという笑いが漏れる。 「なんたって、ゼロのルイズだからな!」 「何ですって!かぜっぴきのマリコルヌの癖に、私を侮辱するの?」 太った生徒の飛ばした野次に敏感に反応するルイズ。 売り言葉に買い言葉。 あれよあれよという間に、ルイズとマリコルヌという生徒は口げんかを始める。 その熱気にあてられたのか、教室中もにわかに騒がしさを増した。 結局、例の女性教師が魔法で場を強引に纏めて授業が始まった。 時々不明瞭な単語が出てくるものの、授業で説明する内容自体は昨日ルイズに聞いたことと変わらない。 が、実際に目の前で魔法が使われているのをじっくりと見るのは初めての体験だ。 『練金』と言う魔法らしく、目の前で石が金属に変わる。それはとても双識の興味を引いた。 食い入るように教壇を見ている双識を、ルイズは不審そうに見る。 「――何よ、そんなに集中しちゃって。授業がそんなに楽しい?」 「魔法をじっくり見る機会は私にとっては初めての体験だからね。少なくとも、種が割れた手品よりは面白い」 「テジナ――って何?その――」 「ミス・ヴァリエール!授業中の私語は厳禁ですよ!」 教壇から厳しい叱咤の声が飛んでくる。 私語がばれたのだろう。さっきまで説明をしていた女性教師が、腰に手を当ててこちらをにらんでいるのが見えた。 「すみません……ミセス・シュヴルーズ」 「授業中に私語をしているほど余裕なら、ミス・ヴァリエール。『練金』はあなたにやってもらいましょう。さあ、前に出てきなさい」 女性教師――シュヴルーズの言葉に教室の空気が変わる。不思議そうな顔をするシュヴルーズに、キュルケがおずおずと言う。 「あの……ミセス・シュヴルーズ。それは止めておいたほうが……」 「何故ですか?ミス・ヴァリエールは努力家だと聞いています。自己研鑽の機会を与えるのが何か不味いことなのでしょうか?」 「「「「「「爆発します!!」」」」」」 教室の中にいるルイズを除いた生徒全員の声がハモる。 だが、シュヴルーズには生徒たちが何故猛反対するのか、その理由が全くわからなかった。 彼女はルイズの仇名と、その由来を知らなかったのだ。 「――とにかく『練金』はミス・ヴァリエールにやってもらいます。さあ、練金したい金属を強く心に思い浮かべて」 その決定に、生徒たちの顔が引きつる。泣き出す生徒や、念仏を唱えだす生徒もいた。 「何よ!あんたたち!今度こそは成功するに決まってるんだから!」 そのどこから来るのかわからない自信を胸に、ルイズは石と向かい合う。 シュヴルーズは真剣な表情で杖を振るその様子を、自分の過去の姿を重ね合わせる。 そうそう、私も魔法を覚えたての頃はこんな感じ―― 盛大な爆発が起こった。 使い魔が暴れて人が飛び人がぶつかって物が壊れて使い魔にぶつかり使い魔が暴れて―― ルイズの爆発から教室は一転、阿鼻叫喚の地獄と化していた。 「だからゼロのルイズにやらせるなって言ったのよ!」 「俺の使い魔が!ラッキーが!蛇に飲まれちまった!ラッキー!」 「大きな星がついたり消えたりしている……彗星かな?違うな、彗星はもっと、パァーッって動くもんなあ……」 生徒の絶叫が聞こえる。いくつか断末魔も混ざっているようだ。 原因の一端を担ったシュヴルーズは床に倒れ、筋肉の赴くままに痙攣を繰り返していた。 その余りにも不気味な体操に、生徒が何人か失神する。可哀想だが、向こう三ヶ月はあの動きが夢に出てくることだろう。 パニックは、もはや収集がつかない状況になりつつあった。 「ふうん。なるほど――ね。だから『ゼロ』か」 双識も爆発に巻き込まれてはいたが、二次災害の範囲からはどうにか逃れていた。 教室の隅の柱に背中を預けて、教壇付近で生徒たちに囲まれているルイズを見る。 生徒たちの文句を浴びているようだが、ルイズはそれをどこ吹く風といった調子で受け流していた。 煤で汚れた双識の顔に、不敵な笑みが浮かぶ。 どうやらルイズもこの世界では『普通』ではないようだ。 かつての世界で、双識がそうだったように。 行き詰まった殺人鬼を召喚した、行き詰まった魔法使い。 言葉にするとそれは随分と滑稽な有様だろう。 自分の弟なら、こう言うに違いない。 「――傑作、だな」 (ゼロのルイズ――合格) (第四話――了)
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結果的にルイズの企みはほぼ失敗したといえる。 あのあとDIOが帰ってきてから、ルイズは1も2もなくDIOに魔力を流す訓練をした。 少しずつ少しずつ流してゆくのは実に骨が折れた。 気を抜けば、蛇口を壊したみたいに抜けていってしまう。 2、3時間の試行錯誤の後、ルイズは肌でその調整を覚えた。 そして、DIOの意に反する命令を聞かせるには、相応の魔力を代償にされることを、数回の気絶の後、ルイズは知った。 仮にルイズが一時間に生産できる魔力を10として、DIOに強制命令執行を行うには15必要とすれば、その差額の5が、気絶というかたちでルイズに跳ね返ってくるのだ。 巨大なダンプカーを操縦しているような気分だった。 操作性最悪だ。 燃費も余りに悪すぎる。 取り敢えずルイズはルーンを介してDIOに洗濯を命令してみた。 当たり前のようにルイズは気絶した。 しかし、二時間後に失敗を悟ったルイズが目を覚まして裏庭に向かうと、意外や意外、自分の服が綺麗に洗濯されて整然と干されていた。 ルイズの純白の下着が、ユラユラと風に揺れていた。 怪訝な顔を向けるルイズに、DIOは答えた。 「使い魔になると、約束したじゃあないか、『マスター』。 これくらいのことはするさ」 「せ、洗濯、上手ね」 「……昔とった杵柄だ」 完璧すぎて、嫌みにしか聞こえない。 DIOは表面上は穏やかだが、すねたような、嫌そうな雰囲気がルーンを介してしっかり伝わってきて、実に心地よかった。 しかしなんだ、別に無理やりさせなくても、使い魔としての仕事はやってくれるらしい。 ありがたいといえば、ありがたいが、素直すぎて逆にルイズは不気味だった。 一線を越えるような命令には従わないが、何を考えているのかわからない。 一応警戒するものの、同時にルイズは、化け物のくせに優雅で貴族然としたDIOにこうした汚れ仕事をさせることに、ゾクゾクするような背徳的な喜びを覚えた。 気がしただけだが。 2メイル近い屈強な男が、自分の命令でゴシゴシ洗濯していただろう姿を想像して、ルイズはうっとりした。 (今度から見学してみようかしら……) ルイズは案外ダメな人間だった。 使い魔として働いてくれるDIOにすっかり味を占めたルイズは、段々調子に乗り始めた。 ルイズそれを自覚していたが、こんな楽しいこと、止められそうにもなかった。 掃除をさせて、キレイになった部屋のぐるりを見回して、ルイズは得意になった。 (もっと鍛錬を積んで、魔力を増やしてゆけばゆくゆくは……) 輝かしい未来を妄想して、ルイズはウキウキした。 床につく前、ルイズはDIOに一冊の本を貸した。 彼女が子供の頃、よく姉のカトレアに読んでもらった、思い出の品だった。 ありがたく読むようにと言うルイズに、DIOは何も言わずに本を受け取り、宝物庫からパチってきたソファーに横になった。 (……………………………) ルイズは今度はDIOに床で寝るように命令してみた。 ルイズの意識が急速に遠のいた。 何故だろうか、昨日と違って、DIOには何の変化もなく、ソファーでルイズが貸した本を読み始めていた。 いずれにせよどうやらルイズにはまだ過ぎた命令らしかった。 レベル不足という奴だ。 だが、今度はちゃっかりベッドの上からためしていたので、問題は無かった。 いつか絶対に床に寝かしちゃる……と薄れる意識の中で固く決意しながら、ルイズはポテンとベッドに伏せった。 明日は学級閉鎖が解かれ、召喚を行ったクラスメイト達が初めて顔を合わせる日だ。 そう思うと、ルイズは複雑な気持ちでいっぱいだった。 翌朝、ルイズはやはり部屋に溢れる陽光で目を覚ました。 カーテンは閉められていて薄暗いものの、その光をウザったく思いながら、ルイズはもぞもぞとベッドから起きた。 「服~」 薄闇の向こうから、ポーンと上下が飛んできた。 「下着~」 薄闇の向こうから、ポーンと上下が飛んできた。 「着せて~」 「…………………」 今度は何も反応がなかった。 渋々ルイズは自分でそれらを身につけた。 もう目は覚めていた。 「今日は授業があるわ。あんたにも同伴してもらうから」 DIOは無言でルイズに従った。 ルイズが使い魔と共に部屋を出るのとちょうど同じく、隣のドアが開いて、中から燃えるような赤い髪をしたキュルケが出てきた。 メロンみたいなバストが艶めかしく、身長、肌の色、雰囲気……、全てがルイズと対照的だった。。 彼女はルイズを見ると、にやっと笑った。 「おはよう。ルイズ、もう大丈夫みたいね」 とりあえずは契約に協力してくれた恩人なのだが、ルイズは嫌そうに挨拶を返した。 「おはよ、キュルケ」 挨拶もそこそこに、キュルケはその隣にいる男に鋭い視線を向けた。 「で、これがあなたの使い魔ってわけね」 「そうよ」 「まぁ、契約したあとは、ご主人様と使い魔の間の問題だから、 口出しはしないわ。 でも、サモン・サーヴァントで化け物喚んじゃうなんて、あな たらしいわ。さすが『ゼロ』。 クラスはあんたの噂で持ちきりよ~?」 ルイズの白い頬に、さっと朱がさした。 「どうせ使い魔にするなら、こういうのがいいわよね~。 フレイムー」 キュルケの呼び声に応じて、彼女の部屋からのっそりと、真っ赤で巨大なトカゲが現れた。 廊下の気温がグッとあがった気がする。 それを見たDIOは、実に興味深いといった風に、そのトカゲ…サラマンダーに視線を向けた。 サラマンダーがビクリと震えて、己の主を守ろうとキュルケの前に進み出た。 「平気よ。あたしが命令しない限り、襲ったりしないわ」 しかしサラマンダーは、牙を剥き出しにしてDIOを威嚇している。 今にも炎を口から吐き出しそうだ。 しげしげとサラマンダーを観察しながら、DIOが聞いた。 「こんな生き物が、この世界には当たり前のように存在してるの か」 「えぇ、そうよ。でも、そのセリフ、そっくりあなたに返してあ げるわ。 あんた、何者?」 「…………DIO、だ」 サラマンダーに目を向けたまま、名乗った。 「へぇ、ディオね。名前だけはマトモね」 そこにルイズが割り込んできた。 「DIOよ。ディオじゃなくて、DIO」 「はぁ?どう違うのよ?」 「私に聞かないでよ。あいつがそう言ってしつこいから、先に言 っておいただけよ」 「ふぅ~ん。ま、どうでもいいけど。 じゃあ、お先に失礼」 炎のような赤髪をかきあげ、キュルケは去っていった。 フレイムはこちらに視線を向けたままジリジリと後ずさり、やがて振り返って自分の主を追った。 キュルケがいなくなると、ルイズは拳を握り締めた。 「キーっ!なんなのよあの女!自分が火竜山脈のサラマンダーを 召喚したからって! ……あぁ、もう!」 「何か問題でも?」 「おおアリよ! メイジの実力を計るには、使い魔を見ろって言 われているぐらいよ! なんであのツェルプストーがサラマンダーで、わたしがあんた なのよ! 化け物? わたし化け物なの? 冗談じゃないわ!」 「……もし、本当に使い魔がメイジの写し身なのだとしたら…… ふん、君が私を喚んだとしても不思議ではないね」 思わぬ返答だった。 「どういうことよ。やっぱり私が化け物だって言いたいの? 朝食抜くわよ?」 「…………………」 トリステイン魔法学院の食堂『アルヴィーズ』。 3つのやたらと長いテーブルが並んでおり、百人は優に座れそうだ。 ルイズたち二年生は真ん中のテーブルらしかった。 一階の上に、ロフトの中階があった。 教師たちはそこで食べるようだ。 その中に、コルベールの姿を窺うことは出来なかった。 まだ回復していないらしい。 自分の未熟のせいでケガをしたコルベールを思うと、ルイズの胸は痛んだ 。 ルイズは気を取り直すと、得意気に指を立てて説明にはいった。 「トリステイン魔法学院では、魔法だけでなく、貴族たるべき教 育を存分に受けるの。 だから食堂も、貴族の食卓にふさわし云々……」 ペラペラとまくしたてるルイズだが、DIOは全く聞いていなかった。 サッサと席について、その豪華な食事にありついていた。 突然現れて、勝手に席についた大男に、生徒は眉をひそめたが、男の発する『自分はここにいて当たり前』オーラのせいで口出しが出来ないでいた。 そしてその作法は完璧だった。 誰も、目の前に座っている男が、三日前に見た死体だとは露とも思わなかった。 それに気づかず話し続けるルイズの話はとうとうクライマックスを迎えたようだ。 サッパリした顔をして振り返ったが、そこにはもちろん誰もいなかった。 慌ててテーブルに目をやると、DIOは既に食事を終えていた。 「んな、ななななな、何してるのよ!?」 ドカドカとクラスメイトにぶつかりながら、DIOに詰め寄る。 「食事を終わらせた。外で待っているよ、『マスター』」 去り際の、"まぁまぁだ"というDIOのセリフが、癪に障った。 自分に逆らったらどうなるか、朝食で教えてやろうと思っていた目論見は御破算になり、ルイズはプルプルと震えながらDIOの背中を見送った。 to be continued…… 18へ
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前ページ次ページ鮮血の使い魔 気分が滅入る。 任務も折り返し地点まで見事に果たしたというのに。 憧れの婚約者から求婚されたというのに。 気分が滅入る。 理由は解っている。 ウェールズに亡命する気は無く、ここで死ぬつもりで、説得しても無理だった。 だからアンリエッタは悲しむだろう。彼の死を聞いて悲しむだろう。 手紙を持ち帰るという任務を果たせても、姫殿下の幸福は果たせない。 なぜ、死ぬと解っていて、逃げようとしないのか。 決まっている、貴族の名誉を守るためだ。 もし自分が同じ状況に立たされたらどうするか? 決まっている、貴族の名誉を守るために戦って死ぬ。 当たり前だと思っていた事を、いざ目の当たりにする事で、ルイズは涙があふれそうになった。 でも、仕方ない、自分には何もできない。 気分が滅入る。 理由が解らない。 「結婚しよう」と彼は言った。「ここで式を挙げよう」と彼は言った。 憧れの婚約者。ワルドが言ってくれた。 でも、嬉しさよりも、困惑が先に立つ。 どうして? どうして、今、ここで? 誇り高き貴族として死んでいこうとするウェールズに、 是非婚礼を行って欲しいと説明されて、一応の納得はした。 けれど、これから死のうとする人々の前で、幸せの象徴である結婚式を行うだなんて。 だがウェールズは、こんな時だからこそと、喜んで引き受けてくれた。 解らない事じゃない。ワルドの考えも、ウェールズの考えも、解らない事じゃ……ない。 だからルイズは、結婚するのだと思う。ここで、ワルドと。 それはとても幸せな……でも、しかし、けれど……。 気分が滅入る。 だから。 これ以上気分が滅入るのは勘弁して欲しいと、ルイズは思うのだった。 なのに。 余計に気分が滅入りそうな事をしようとする自分が何だかおかしくて、少しだけ笑った。 「ねえ、コトノハ。ちょっといい?」 ウェールズとの話も終え、手紙を受け取り、ワルドとの結婚話も進み、 夜の宴を待つ段になって、ルイズは己の使い魔に声をかけた。 言葉はまだ結婚式の件を知らないので、それを話しておこうと思い、 ついでに、最近ワルドとばかり一緒にいたから、言葉と一緒の時間も持とうと考えたのだ。 言葉の事は、怖いし、気持ち悪いし、指輪の件で裏がありそうで、でも嫌いじゃない。 だから言葉と話す事で多少は気が晴れればという気持ちがある反面、 結婚の話をしても、誠の首を後生大事に持ってる言葉が相手では、 余計に気分が滅入るのではと酷く不安でもあった。 「宴まで時間があるし、久し振りに話さない? 最近はワルド様とばかりだったし、 ほったらかしって訳じゃないけど、あまり話せなかったから」 「……そうですね、少しお話をしましょうか」 鞄を持って言葉はルイズの後について行き、ルイズは空の見えるテラスへと誘う。 日はすでに暮れ、星々が頭上で輝いている。 「こうして三人で星を見るのも、久し振りですね」 と、言葉は鞄を開ける。 「マコトを出しちゃ駄目よ、人に見られたら面倒だから」 「誠君にも星を見せて上げたいんです。ここから見る星は、学院で見る星よりも綺麗ですから」 浮遊大陸アルビオン、より空に近い場所から見る星は、数も多く、そして強く輝いている。 「だからさ、鞄を開けるだけにして、マコトを上に向けるとか。 窮屈で悪いけど、そこは学院に帰るまで我慢してもら……えないかな?」 すっかり誠を気遣うのも慣れてしまったルイズ。 言われた通りにする言葉を横目で見つつ、ふと思う。 (はぁ。何だかここまでくると、マコトにある種の愛着が湧いてきたような気さえ……) と思って鞄の中を覗いて、瞳孔全開で灰色の肌の顔を確認する。 (いや、やっぱり無いわ、絶対無い。天地がひっくり返ってもありえない) 何だかんだでやっぱり自分は言葉を好いているけれど、 言葉から聞いた話で誠を不憫にも思っているけれど、 やっぱり死体で、それも首だけの男は、ちょっと無理。絶対無理。 (でも) その無理に、彼女はすがっているのだと思うと……。 「学院を出てから、今日、ここにたどり着くまで、夜の散歩、ずっとしてなかったっけ。 ごめんね、ほったらかしにして」 「いえ……誠君と一緒でしたから」 淀んだ瞳で見上げる言葉。空には星々、教えられた星座の名前。 鳶色の瞳は憂いに揺れながら星を見た。 「星座の名前……いっぱい教えたよね。覚えてる? コトノハ」 「……ええ。たくさん、教えてもらいました」 楽しかったと、言おうとして、口をつぐんだのは、ルイズと言葉の両方だった。 楽しい話をしたいけれど、そういう気にはなれない。 お互い、思うところがあった。話していない事があった。 言葉は、ワルドがレコン・キスタの人間であり自分を誘っている事を秘している。 ルイズは。 「コトノハ。私ね、結婚するかもしれない」 「え」 「ワルド様に求婚されて、明日、アルビオンを発つ前に、 ウェールズ殿下に婚姻の媒酌を行ってもらう約束を、すでにしてしまっていて……」 「でしたら」 これもワルドの計画のうちか。結婚すればレコン・キスタに引き入れやすくなる? 「するかもしれない……じゃなくて、するんでしょう? 結婚」 「うん……でも、あまりにも急すぎて。 長い間会ってなくて、ほんの数日前に再会して、気持ちが現実に追いつかない感じ」 「……マリッジブルー。結婚を前にあれこれと想像して、不安になってるだけですよ」 「そうかしら?」 「ルイズさんはワルドさんが好きで、ワルドさんもルイズさんが好きなら、 ずっと一緒にいられるのはとても幸せに違いありません。 私と誠君が、世界の果てよりも遠い、異世界でも、幸せでいられるように」 「コトノハは祝福してくれるんだ? 私達の結婚」 「……。そういう、訳じゃないです」 祝福していると、言えばいいのに。 でも、下心のある自分では、トリステインを裏切るつもりの自分の口からは、言えない。 ……トリステイン。そうだ、ルイズはトリステインを裏切れるのだろうか? あの人のよさそうな王女様を裏切れるのだろうか? 「ルイズさんが一番好きな人は、ワルドさんですよね」 だったら裏切れるはずだ。 ワルドのために、祖国アルビオンを、友アンリエッタを。 「……よく、解らないわ。気持ちの整理、つかないもの」 「じゃあ、ワルドさんとアンリエッタ様、どっちが好きですか?」 「質問の意味がよく解らないわ。好きの意味が、二人では違うでしょ?」 「ではどちらかを選ばなければならないとしたら?」 「私は貴族よ、誇り高きヴァリエールの。 だから、この命は姫殿下のために捧げているわ。 でもそれはワルド様も一緒。私もワルド様も、姫殿下を選ぶわ」 「……そうですか」 ワルドは、アンリエッタより、レコン・キスタを選んでいるのに。 本当に説得できるのだろうか? ルイズを。 もし説得できなかった時、ワルドはルイズをどうする気だろうか。 「力ずくでもさらっていくさ。我々の崇高な使命を知れば、彼女も心変わりする」 「そうですか」 結局、ルイズと星について語り合ったりはしなかった。 胸中で渦巻く疑念が言葉を無口にさせ、その雰囲気が伝わりルイズも無口になった。 そうして星空を眺めている間に、アルビオン王家最後の宴が始まってしまった。 今は宴の席で、ルイズは気分が優れないと客室で休んでいる。 一人で考えたい事があると、婚約者のワルドも部屋には入れないのだ。 言葉は宴の席に姿を出してるものの、鞄を持ったまま部屋の隅に立っているだけで、そこにワルドが声をかけてきたのだ。 そこで言葉は質問してみた。ルイズの説得に失敗したらどうするのか? 答えは前述の通りだった。 「ルイズさんは誇り高い人です。ルイズさんの心を動かせるのは、ワルドさんしかいません」 「ミス・コトノハ、君の協力にも期待しているよ。 婚約者である僕と、使い魔である君とで説得すれば、きっとうまくいくさ」 「そうですね」 「ところでその鞄、いったい何が入ってるんだい?」 「これは……」 言葉が視線を落とすと同時に、ウェールズ皇太子の声が響いた。 「アルビオン万歳!」 『アルビオン万歳!』 杯を掲げる王党派の面々。 言葉は、彼等を裏切っている事実にふと気づいた。 でも、その事で心は痛まない。 でも、ルイズを思い浮かべてしまった。 説得が成功しなければ、説得するまで、真実を明かすまで。 (私は、ルイズさんを裏切っている……?) 西園寺世界。 誠との中を取り持っておきながら、寝取った女。裏切った女。 友達面をして、裏で仲間と共謀し、誠を奪い取った、裏切り者。 誠の気を引くために妊娠しただなとと狂言までした浅ましい人。 桂言葉を、裏切った西園寺世界。 裏切っ……た……。 (なら、私は) (私も、同じ) (違う、絶対) (彼女、とは) (違う、から) 宴など、どうでもいい。 ワルドも立ち去り、声をかけてくるアルビオンの騎士達もあしらい、 用意された客室に戻った言葉は、しっかりと鍵をかけると、鞄を開いた。 「誠君」 取り出す、誠の頭部。 固定化の魔法をかけれれて、朽ちぬままの遺体。 「もうすぐですから……もう、すぐ……」 もうすぐ、何もかもがうまくいく。 だのに、なぜだろう。 気分が滅入る。 翌朝になって、言葉は教会にいた。参列者は言葉一人だった。 一応、誠も参列しているが、言葉の鞄の中で静かにしてもらっている。 ウェールズがいる。ワルドがいる。ルイズがいる。結婚式が始まる。 第13話 滅入る少女 前ページ次ページ鮮血の使い魔
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「まさかミス・ロングビルが『土くれ』のフーケだったとはな・・美人だったもので 何の疑いもせず採用してしまった」 学院に戻ったルイズ達はオスマンに事の顛末を報告していた。 オスマンが言うには居酒屋でたまたま働いていたフーケを採用したらしい。 隣にいたコルベールはあきれ返っている。 「死んだほうがいいのでは・・」 「つーかマジで死ね!!」 銀時はオスマンに『洞爺湖』ぶちあてる。 「ぐおぉぉ!!」 ふっとんだオスマンをさらに足げにしてゲシゲシ踏みつける。 「要はてめえののせいで俺たち死にそうなめにあったってことじゃねえか。 死ねよ、頼むから死んでくれよ」 「やめ・・本気で死ぬ・・あっ・・そこは・・」 最後のあたりがあえぎ声になってるのは気のせいだろうか。 「やめろ、ミスタ・サカタ、気持ちはわかるが。このままでは学院長がMにめざめてしまう」 どうにか銀時をコルベールは止める。 「と、年寄りに普通ここまでするか」 ボロボロになりながらどうにか立ち上がったオスマンは言った。 「あっ、俺の知り合いの女はな、けつでも触ろうもんなら腕ごとコナゴナになるまで折るぜ。 そいつに比べれば随分優しいけどな」 「君の知り合いの女性には死んでも会いたくないのう」 オスマンは今回の事件にショックを受けているようだが銀時は別段普通だった。 女という者はずるい生き物ということは知っているからだ。 「まあともかく、君たちは良くぞフーケを捕まえ『破壊の杖』を取り戻してきた」 3人は誇らしげに礼をするが銀時は特に興味はなさそうだ。 「君たちの、『シュヴァリエ』の爵位申請を、宮廷に出しておこう。追って沙汰があるじゃろう。といっても、ミス・タバサは確かすでに『シュヴァリエ』の爵位を持っているから、精霊勲章の授与を申請しておいた」 「本当ですか?」 キュルケは驚いた声で言う。 「ほんとじゃよ、君たちはそれだけのことをしたのだからな」 「オールド・オスマン、ギントキには何もないんですか」 「残念ながら彼は貴族ではない」 「そんな・・」 しかし当の銀時は興味なさそうに鼻をほじっている。 「っつ、んなもんいらねえよ、現金か甘いもんならありがたく受け取るけどな」 ら○☆すただかシュヴァルツだか知らないがそんな腹の足しにもならないもの受け取ってもしょうがない。 「さ、今夜は予定通り『フリッグの舞踏会』を執り行う。『破壊の杖』も無事に戻ってきたことだ。思いっきり着飾るが良い」 3人はそれを思い出し、礼をした後、外に出ようとした。 しかし銀時だけは動かない。 「悪いけど先言ってろ」 ルイズは心配そうな目をしたがうなづいて部屋から出て行った。 「何かわしに聞きたいことがおありのようじゃな」 銀時は鼻毛を抜きながら答える。 「えーと、オスマン・サン○ンさんだったけ・・」 「オールド・オスマンじゃ!!誰がやたら目の良いアフリカ人じゃ!!」 銀時のボケにも一応対応するオスマン。 とりあえずコルベールに退室を促す。 コルベールはどこかさびしそうな顔をしていた。 「とりあえず言ってご覧なさい、爵位はやれんができるだけ力にはなろう。 あまり気乗りはせんが・・」 なにやらよろしくない事を最後のあたりにボソッとつぶやく。 「聞こえてんぞジジイ!とにかくあの『破壊の杖』、あれは俺の元いた世界の武器だ」 オスマンの目が光る。 「ほう、元いた世界とは?」 「俺は、こっちの世界の人間じゃねえ」 「本当かね」 「マジだ、俺はルイズの奴の『召喚』でこっちに世界によばれた」 「なるほどのう、そうじゃったのか」 オスマンは目を細める。 「何で俺の世界の武器がここにあるか説明してもらおうか」 ここからオスマンは語り始めた。 20年ほど前、森でワイバーンに襲われた際助けてくれた命の恩人が 持っていた武器が『破壊の杖』だったという。 ワイバーンを倒した後、怪我していたらしく倒れ、学園で介護した。 しばらくは小康状態が続いたものの突然容態が悪化し亡くなった。 「マジかよ」 銀時は呻く様な声で言った。 ようやく元の世界に返る手がかりを見つけたと思ったら当人は 亡くなっていたのだから。 「彼も自分の事を異世界から来たというておったな。思い出したぞ!! 自分の事をサムライとも言っておった」 「そいつ侍だったのか!?」 「ああ、説明を聞く限り騎士のようなものと理解をしたが、どこか違っておった。 何故命を張ってまでわしを助けたと聞いたとき『俺が侍だから、俺の武士道だから』 とも言っておった、少なくとも騎士は名誉も誇りもなく、他人のために命をかけて戦おうする奴なんざおらん」 「だったらそいつは間違いなく侍だ」 銀時は感慨深げにうなづいた。 もしかしたらその侍は攘夷戦争初期に戦っていた自分達の先輩かもしれない。 「ということはおぬしもサムライなのか?」 「ああ、でもまいったな、これで振り出しかよ、後一つ聞いていいか?」 「何じゃ?」 銀時は左手のルーンを見せる。 「武器を持つとこいつが光って体の調子が少し良くなったりするんだ。 あんたなんか知ってるか」 オスマンはしばし困ったような顔をした後。 「・・・それは知っておるよ、ガンダールヴの印じゃ、伝説の使い魔の印じゃ」 「伝説の使い魔?」 「そうじゃ、その伝説の使い魔はありとあらゆる武器を使いこなしたそうじゃ」 「伝説の使い魔ね~?」 銀時は左手のルーンを一通り見た後。 「まっ、いっか」 オスマンはずっこける。 「お主そこは普通何故自分が伝説の使い魔なのか考えるところだぞ」 「べ~つ~に~、あって不便なもんじゃねえしさ、あ、これシャ○ニングフィ○ガーとかできるの」 「それがなんなのかは分からんがたぶんできん」 「え~、かめ○め波は」 「それもできんと思う」 「ちっ、伝説ってわりにはこいつ大したことねえな」 ―コルベール君が聞いたら激怒するぞ 銀時の態度にオスマンはあきれ返った。 「お主が元の世界に返す方法はできるだけ調べておくことにしよう。 できればすぐにでも帰ってほしいからな・・」 やはり最後にボソッとしゃべるオスマン。 「だから聞こえてんぞジジイ!」 「よくぞ恩人の杖を取り戻してくれた。改めて礼を言おう。 不本意だが・・」 そういってオスマンは部屋の物置をがさがさあさり始めた。 「『破壊の杖』はマジックアイテムとして宝物庫に入れておいたが 彼の形見はもう一つあってな。それはわしの個人的なコレクションにしておる」 オスマンは取り出した1メイルぐらいの箱を開ける。 「こいつは日本刀じゃねえか」 そこには立派な日本刀があった。 「ああ、彼がなくなった後、調べたんだがハルケギニアのどこにもこのような形状の剣など存在しなかった。だからわしは彼が異世界から来たということを信じたのだ。 どうだ、礼代わりにこれをもらわんか」 銀時は首を振る。 「いや、あんまり他人の刀は使いたくねえ、こいつはあんたが持っているか墓に供えるか にしといてくれ」 「わかった、さっきの話だが帰る方法が見つからなくてもわしを恨まんでくれよ。 何ここも住めば都だ、嫁さんだって探してやる」 「そういうわけにはいかねえよ、俺には待ってる奴がいるんだ」 「ほう、それはお前さんのこれかい」 オスマンは小指を立てた。 「そんなんじゃねえよ、別に血がつながってるわけでも、結婚してるわけでもねえ。 しいて言えば腐れ縁だ。それでもあいつらは俺の家族で俺の大切な奴らなんだ」 珍しくマジな顔の銀時にオスマンは驚いた。 ―この男こういう顔もするのか。 「わかった、わしも出来る限りのことはしよう」 「ああサンキュ、それにな・・少○ジ○ンプの続きも気になってしかたねえだよ」 「・・・・」 少○ジャ○プはどういう物かわからないオスマンであったが一つだけ気づいたことがあった。 ―もしかしてこの男相当なろくでなし 「んっ?」 「どうした」 銀時が突然思い出したかのような声を上げる。 「何か忘れてるような気がするんだけどな。 思い出せねえってことは大したことがねえってことか」 コンコン 学院長室の扉からノックの音が聞こえる。 「開いとるぞ、入れ」 入ってきたのはコルベールだった。 「あの~先ほど宝物庫の修繕をしていた作業員から瓦礫の中から こんなものが見つかったと報告がありまして・・」 コルベールが持ってきたのはボロボロの大剣だった。 「宝物庫のリストには入っていないインテリジェンスソードだったんですよ。 さっきからミスタ・サカタに会わせろというばかりで」 そういって大剣の鞘を抜く。 「おい!!相棒てめえーなんてことしてくれたんだよ、俺のこと置いていきやがって・・」 わめくのはあのデルフリンガーである。 銀時は手をぽんと叩く。 「ああそうか、マダケンのことすっかり忘れてたな」 「まさか本気で忘れていたのかよ、っていうかマダケンっていうんじゃねえ」 「別に瓦礫と一緒にガラクタになっちゃえば良かったのに、あ、元々ガラクタか」 「てめえ!!殺すぞ、本気で殺すぞ!!」 「上等だオラ、やれるもんならやってみろよ」 オスマンとコルベールは冷や汗を流す。 インテリジェンスソードと本気で喧嘩する大人気ない人間は初めてだからだ。 「なあ、コルベール君・・」 「それ以上いわないでください、私もだんだん自信が・・」 舞踏会がおこなわれている会場はアルヴィーズの食堂の上の階のホールだ。 銀時はそこでひたすら出てくる料理(特にデザート類)にがっついていた。 皆ドレスに着飾った中、正直銀時は場違いで回りからさすような視線が送られているが。 図太い神経を持っている銀時は全く気にしていない。 「(ムシャムシャ)まったく・・せっかく帰る方法見つかった思ったら(ガツガツ)・・ 結局わからなかったし・・・(ゴクゴク)・・あーテンション落ちるわ・・(モグモグ)・・ おかげで食事もろくにのどに通らねえ」 「うそつけぇぇぇ!!さっきからめちゃくちゃ喰ってんじゃあねえか!!」 突っ込むのはマダケンことデルフリンガー、結局銀時が引き取ることになった。 ワインも瓶ごとラッパ飲みする銀時。 周りの貴族は顔をしかめている。 キュルケがさっきまで話しかけてきたがパーティーが始まるとその輪の中にいってしまった。 シエスタは忙しい中銀時に肉料理を持ってきてくれたがそれもあっさり平らげた。 銀時はサラダに手をつけようとするがそれにもう一人がフォークをさしてきた。 タバサである。 「私が先」 「いや俺が先だった」 タバサは珍しくドレスを着ているが銀時にとってどうでもいいらしい。 二人はにらみ合う。 「・・・・」 「わかった勝負だ」 「いや、相棒、そいつ何も言ってないぞ」 「こういうのは目を見りゃあわかるんだよ」 「そういうもんか」 勝負方法はテーブルの端までの料理を速く食べ終えたほうが勝ちというものである。 勝負が始まった。 タバサのほうが若干ペースが速い、銀時よりドンドン先に食べていく。 一方銀時は先にたくさん食べているせいで少し遅い。 実際銀時はこの勝負に負けても別段損するわけではない。しかし銀時は根っからの負けず嫌いである。 「負けんな平民!!」 「タバサも平民に負けんな!!」 いつの間にかギャラリーが銀時たちを囲んでいる。 「いったらんかーい!!俺!!」 「相棒!!」 銀時はここからスパートをかけ始めた。 ついにはフォークを捨て、手づかみで食べ始めた。 皿にあるものを無理矢理口にかっ込む。 その恥も外聞もない姿は何故か美しいとまわりは思った。 ドンドン銀時はタバサに追いついていく。 タバサも速度を速めるが銀時にはかなわない。 銀時が最後の料理を食べたとき、タバサの最後の皿にはまだ料理が半分ほど残っていた。 「やるわね」 「おめえもな」 銀時はタバサと握手を交わす。奇妙な友情が今生まれた。 周りからは歓声が起こる。 「良くやったー平民」 「タバサもすごかったぞ」 拍手の中、ギャラリーには感動のあまり泣いている者もいる。 皆馬鹿ばっかりである。 「うぷ、少し喰いすぎた」 銀時は口を押さえ夜風に当たりにバルコニーに出る。 とりあえずバルコニーの枠にもたれかかる。 「ヴェリエール公爵がご息女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール嬢のおな~~り~~~~」 ホールからは音楽と共にドレス姿のルイズが出てきた。 その姿はまるで花のように美しかった。 普段はゼロと馬鹿にしている男子生徒たちも次々とダンスを申し込む。 「あいつ結構ああいう姿も結構似合うな、まっ貴族だから当然か。 神楽の奴だったら絶対似合わねえな」 そんな風にいってるとルイズがダンスの誘いを断り、こちらに向かってくるのが見える。 「楽しんでるみたいね」 「まあな、意外に似合ってるぜ、その格好」 銀時の言葉にルイズは顔を真っ赤にする。 「べ・・別にあんたのために着たわけじゃないからね、それに意外には余計よ」 あまりにもテンプレどおりの台詞をはくルイズ。 ―こいつツンデレって奴か。実在してたんだな。 銀時の回りにはツンツンかデレデレかという極端な女性しかいないためツンデレは珍しかった。 「馬子にも衣装って奴だな」 「そうともいうかもな」 デルフリンガーの言葉に同意する銀時。 「うるさい、うるさい、うるさい」 「おめえはどこのシ○ナですか」 銀時はルイズの普段とは違うボニーテールのような髪型を見て考えた。 「なあここは『実は俺ボニーテール萌えなんだ』っていうところか」 「いや、それは別のアニメだろ」 「さっきから何わけのわかんないこと話してるのよ」 「別に、それよりお前は踊らねえのか」 ルイズはため息をついた。 「踊る相手がいないのよ」 「いっぱい誘われていたみてえに見えたけど」 「あんなガキ相手には踊れないわ」 「ふ~ん」 銀時は返事をしながら夜空を見上げる。 「あっ!!」 「何!?」 「どうした、相棒!! 突然の大声を上げる銀時にルイズとデルフリンガーは驚く。 「いやルイズと最初会ったとき声が誰かに似てんなーと思ったけど、今わかった。 おめえ神楽に声が似てんだ、あーようやくすっきりした」 「カグラって誰」 「何だ相棒にも女がいたのか」 デルフリンガーの言葉にルイズは凍りついたような表情をする。 「ちげえよ、人前で平気でげろを吐く女だ」 「何よそれ!」 「どういう女だそりゃあ」 「なんつーかな、平気で暴力振るうし大喰らいで腹黒な女だけどな、 それでも俺の大切な奴で家族だ」 「やっぱり女じゃねえか」 「だから違うっつーの」 銀時が今まで見せて事のない表情を見たルイズは。 「ギントキ、踊ってあげてもよくってよ」 「は?パス、俺ああいう場所苦手だ」 あっさり断られた。 ルイズはため息をつきながら手を差し出す。 「私と一曲踊ってくださいませんこと。ジェントルマン」 そんなルイズに銀時はぷっと笑う。 「何よ、人がせっかく・・」 「いいぜ、じゃじゃ馬娘」 銀時はルイズの手をとる。 「勘違いしないでよ、あんたと踊りたいわけじゃないから。ただあんたは一応大人の男だからガキよりはましだと思っただけ」 「はいはい、わかったから」 「何かその態度むかつくわね」 「俺ダンスなんかしたこと無いんだけど」 「私に合わせなさい」 ホールでは音楽がなりそれぞれダンスが始まる。 身長差があるせいか最初はぎこち無かったが段々様になってきた。 「信じてあげるわ」 「何がだよ」 「その、あんたが別の世界から来たってこと」 ルイズは軽やかにステップをふみながらそう呟いた。 「つーか信じてなかったのか」 「正直半信半疑だったけど、あの『破壊の杖』あんたの世界の武器なんでしょう。 あんなの見せられたら信じるしか無いじゃん」 ルイズは下をうつむく。 「ねえ、帰りたい?」 「そりゃあ、帰りてえな、待たせてる奴もいるしな」 「そう・・」 ルイズはさびしそうに答える。 ―なんかこいつ今日変じゃねえ。 銀時は乙女心に信じられないぐらい鈍感だった。 「ありがとうね」 「は?何が・・」 ―なんか変な物でも喰ったのか。 礼など言ったルイズを銀時は失礼なことを思う。 「フーケのゴーレムから私のことを守ってくれたじゃない」 「ああ、何だそんな事か・・」 見ず知らずの他人の為にすら命を張って戦う銀時にとって、目の前の命を助けるのは当然のことであり些細なことだった。 「そんなことって・・なんで死ぬかもしれないのに戦うの、私の使い魔だから」 「違うな、使い魔じゃなくても俺は戦ってたな。俺の武士道のため、つまり俺のためだ」 ルイズは理解できないという顔をしている。 「お子様には難しすぎたか」 「子ども扱いしないでよ」 いつもの調子に戻ったルイズに銀時は笑う。 「うっ・・」 ダンスの途中で銀時が青ざめる。 「ど、どうしたの、まさかケガでも・・」 「違う、さっき喰った物が程よく胃の中シェイクされて逆流してきた」 銀時は腹いっぱい食べた上にワインもたらふく飲んだ。 その状態でダンスなんか踊ったのでゲ○がはきたいのだ。 「ちょっと!?絶対ここで吐くんじゃないわよ」 「どうやら俺とお前は不運(ハードラック)と踊(ダンス)ちまったみてえだな」 「全然かっこよくないわよ、いやー!!」 その後、バルコニーでゲーゲーはいている銀時の姿があった。 「ちょっと見直したのに、やっぱりあいつ最低よ」 しばらく銀時はゲ○の使い魔と呼ばれることになる。
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前ページ次ページ呪いの使い魔 ここはアルヴィーズの食堂。 多くの生徒たちが豪華な朝食に舌鼓を打つ中、花鶏は不機嫌な顔で床の上に置かれたパンとスープを睨み付けていた。 そして、すぐ側でクックベリーパイを幸せそうに頬張るルイズに声を掛けた。 「ちょっとルイズちゃん?」 「もぐもぐ……何かしら?」 ルイズは勝ち誇ったような表情で花鶏を見つめた。 花鶏はパンとスープを指差して訊ねる。 「これは何かしら?」 「何って、アンタの朝食に決まっているじゃない!」 当然のようにルイズは言い切った。 こうして、花鶏に明らかにランクの下がった食事を与えることにより、使い魔と主人の差を思い知らせるのがルイズの目的であった。 (……とは言え、流石にこれだけは可哀想だったかしら?) 一瞬、そう考えたがルイズはこちらをじーっと見つめる花鶏を見て、首を振ってその考えを払拭した。 相手はあの花鶏である。 昨晩、そして今朝彼女にされたことを考えれば、これくらいの処遇はあって然るべきである。 (そうよ!これは御主人様に粗相を働いた使い魔への罰なのよ!……それに、食事を抜いてるわけじゃないし、気に病むことなんて何も無いわ!) そう自分に言い聞かせて、ルイズは皿の上にあるクックベリーパイの最後の1枚へと手を伸ばそうとする。 しかし、ルイズの手は何も掴むことは出来なかった。 「へ?」 慌てて見ると、つい先程まで確実に皿の上にあった筈のクックベリーパイが今は影も形も無い。 落としたのか?と思って、周辺の床を見てみるが何も無い。 誰かが食べた?と思ったが、周りには自分と花鶏しかいない。 花鶏は不服そうな顔でパンを千切りながら丁寧に口の中へ運んでいる。 (……自分でも気付かない内に食べてたのかしら?いけない、いけない気を付けないと!) ルイズは仕方が無いので、新しいクックベリーパイを取りに席を立った。 それを横目で確認した花鶏はさっとクックベリーパイを取り出し、それを頬張った。 「……無駄に甘いわね。あ~あ、何でもいいから野菜が食べたいわ」 その様子を遠目で見つめる少女がいた。 彼女の名はタバサ。 青い髪にメガネを掛けている。 タバサはハシバミ草のサラダを食べながら、花鶏の一挙一動を見つめていた。 「あら?タバサが他人に興味を持つなんて珍しいわね?」 彼女にそう声を掛けたのは、今朝ルイズの部屋にやって来たキュルケである。 キュルケとタバサはとても仲が良く、正に親友という関係であった。 そんなキュルケが友人の希少な行動に思わず声を掛けたのである。 「彼女、ルイズの使い魔よ」 「そう……」 「あなたから見て、彼女はどう?」 「……分からない」 タバサはボソッとそう言うと、再びハシバミ草のサラダに口を付けた。 ハシバミ草を咀嚼しながらタバサは先程の花鶏が取った行動を思い出していた。 花鶏はルイズが意識を外した僅かな時間を利用して、テーブルの上からクックベリーパイを一切れ掠め取ってみせた。 その一連の淀みない動きはとても素人のものではない。 キュルケの問いに「分からない」と答えたが、花鶏という人物はただ者では無いのだろうとタバサは思った。 「……ん?」 ふと視線を感じ、そちらへ目を向けると花鶏がこちら見つめていた。 探るような、分析するような目。 タバサは思わず背筋に冷たいものを感じた。 と、花鶏がこちらへ向かって歩いて来るのが見えた。 タバサは杖に手を置くと、彼女が何かして来たとしてもすぐに反撃へ移れるように準備をした。 花鶏がこちらへ近付いて来る。 と、次の瞬間彼女が自分の背後に回っていた。 「あ……!!」 杖を向けようとした瞬間、タバサは感じたことの無い刺激に襲われた。 思わず口から言葉が漏れる。 それを聞いて、花鶏がニヤッと笑う。 「……無口で無愛想っぽいから茅場みたいなタイプかと思ったけど、うふふ」 そう言いながら、花鶏はタバサの胸を擦った。 そんなことを一度もされたことのないタバサはこの何とも言えない刺激に戸惑いを見せる。 「や……あ……」 「うふふ……いいわあ。やっぱりこの平べったい胸は至高ね」 その様子を隣で呆気に取られた様子で見ていたキュルケだったが、すぐに気を取り直して花鶏に杖を向けた。 「ちょっとあなた!タバサを離しなさい!!」 「丁重にお断りするわ」 花鶏はそう即答すると、目をハートマークにし、だらしなく涎を垂らしながらタバサの体をあちこち弄る。 そうしていると、タバサも切ない吐息をこぼしだす。 「あ……はぁ……」 「うふふふふふふ」 何時の間にか周りの生徒たちもその様子を遠目で眺め始めていた。 男子生徒の何人かはその光景に興奮し、思わず股間にテントを張っていた。 当然、ルイズもそれを見ている。 「あ、あはは、あはははは……」 花鶏が如何わしいことをしている相手はガリアからの留学生である。 下手をすれば国際問題になりかねない。 「アハハハハハハ(ry」 ルイズは狂ったように笑って現実逃避していた。 「ああ……いいわあ、とってもいいわあ」 花鶏はうっとりとしながらタバサの体を弄り、ローブの中へ手を入れようとする。 その瞬間、タバサの中で何かがキレた。 「ウィンディ・アイシクル」 氷の矢が周囲に放たれる。 食堂内はパニックになった。 「うわあああああ」 「いてえええええ」 「あ……僕のおちん○んに……」 流石にこれには花鶏もやばいと察する。 しかし、時既に遅し。 「ウィンディ・アイシクル」 再び氷の矢が放たれると、それは食堂内のありとあらゆるものを破壊した。 そして、天井から小型の照明が落ちて来る。 それは花鶏の頭に命中すると、そのまま彼女はバタンキューと気絶した。 「た、タバサ!もう止めて!!」 キュルケの声ももうタバサの耳に入らない。 タバサの目は光を失い、その口には乾いた笑みさえ浮かべていた。 「ウィンディ・アイシクル」 こうして今朝のアルヴィーズの食堂は地獄絵図となったのだった。 「アハハハハハハ(ry」 「うう……、あの平べったい胸をもう一度……あ、ルイズちゃんでもいいわよ」 「アンタはそこで永遠に気絶してなさい!!」 前ページ次ページ呪いの使い魔
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前ページ次ページ重攻の使い魔 第9話『勝利の代償』 背後で徐々に騒ぎが広まっているのを尻目に、一行は桟橋目指して走り続けていた。宿の主人には申し訳ない、本当に申し訳ないのだが、元はといえば酒場で襲ってきた暴漢共が悪いのだ。とにかくそういうことにしておいてでも、今自分達は逃げなければならない。もしも捕まったり、殺されでもしたら元の木阿弥だ。 ワルドを戦闘とした一行は、建物に挟まれた階段をなだれ込むようにして駆け上がる。余り幅広とは言えない削り出しの階段を上りながら、ルイズはもしやライデンは通ることが出来ないのではないかと後ろを振り向いたが、かろうじて通行できているようだった。 延々と走り続け、ワルドとライデンを除く一行は完全に息が上がっていた。足ががくがくと振るえ、壁を支えにどうにか階段を上りきる。階段を抜けた先は広い丘の上であり、そこには天を突くかのような巨木が悠然と聳え立っていた。広大な範囲へ四方八方にわたって広げられた枝には、まるで木の実のように幾つもの船が係留されている。 「追っ手の姿は見えるか?」 「はぁっ、はぁっ、いえっ、今の所、それらしい、影は、見えないわ……」 待ち伏せと奇襲を受けた以上、敵は組織的に行動している可能性が高い。今は先刻の混乱で追撃がないだけかもしれないのだ。一刻たりとて気を緩めることはできない。 もう数百年も以前に枯れてしまった大樹をくりぬいて造られた内部は、遥か上方まで完全な吹き抜けとなっている。ワルドは目当ての階段を見つけると、急かすように手振りをする。とはいえ先程から足の筋肉を酷使しているルイズたちにすればもう走れない所まできていたが、そこではたとフライを使えばいいことに気がついた。焦るあまり基本的なことを失念していたのだ。そのフライが使えないルイズはライデンに抱えてもらおうとしたその時、ワルドが叫んだ。 「まずい、上だ!」 ルイズ達が声に釣られて、はっと見上げると20メイルほど上空に白い仮面を被った男が浮遊し、あろうことか詠唱に入っているのが見て取れた。男が黒塗りの杖を頭上に振り上げると、周囲の空気が急速に冷却されていく。仮面の男がどのような魔法を使おうとしているのか気付いたワルドは全員に警告する。 「全員逃げろ! 奴が使おうとしているのは……!」 「『ライトニング・クラウド』!」 ライデンが魔法の棍棒を仮面の男へ向け、迎撃しようとしたが、半瞬の差で間に合わなかった。何かを鞭で打ち付けるような鋭い音が聞こえたかと思うと、男の周囲から敵を噛み殺さんとばかりに稲妻の竜が伸びる。さしものライデンとしても光速の攻撃を回避することはできず、赤い鎧を纏った巨体は超高圧の電流に蹂躙される。 直撃を受けたライデンは全身を帯電させながら、地面へと膝を突いた。神の使途の如く、強大な力を振るっていた巨人が初めて敵の攻撃に屈した瞬間であった。 「ライデンっ!」 ルイズが思わず駆け寄るが、鋼の巨人はクリスタルをせわしなく点滅させ、一向に動き出す気配がなかった。そんな馬鹿な、この強力な使い魔が打ち倒されるなどと。この困難な任務において最後の頼みの綱であったライデンを失い、主人であるルイズもその場に崩れる。 「くっ、すばしっこいわねぇ!」 「敵はスクウェア・メイジ。私たちでは勝てないかもしれない」 キュルケやタバサ、ワルドらが魔法で応戦するが、攻撃が敵の体を捉えることはない。ひらりひらりと、寸での所で回避し続ける男は時折空気の塊を打ち据えてくる。ワルキューレを盾にすることで、どうにか凌いでいたが、一発が盾をすり抜けワルドたちに直撃した。 敵の攻撃で一瞬足並みが乱れた隙を、白仮面は目ざとく認識すると、ライデンの傍で呆然としているルイズの背後に降り立つ。 「ルイズっ!」 「……え? っきゃああぁぁぁっ!!」 抵抗する間もなくルイズは抱え上げられ、男は空中へと上昇する。 「おのれぇっ! 『エア・ハンマー』!」 ワルドは高速で詠唱を行い、三連続で圧縮された空気弾を男目掛けて放つ。ルイズを抱えたことで若干動きが鈍った男は、ワルドの渾身の攻撃を完全に回避しきることができなかった。空気塊の一つに足を取られ、体勢を崩すと思わずルイズを手放してしまう。拘束から開放されたものの、空中に投げ出されたルイズは地面へ向けて真っ逆さまに落下していく。 「ワルキューレ、ルイズを受け止めろ!」 薔薇を振りかぶり、一体のワルキューレに命令を出すと、ワルキューレは装備していた武装を放棄し、落下してくるルイズの元へ一目散に駆け寄る。跳躍しながら衝撃を吸収するようにルイズを受け止めると、即座にその場から退却する。 体勢が崩れたことで、今度は逆に隙を作ってしまった男はキュルケとタバサによる集中攻撃を受け、地面へ墜落することとなった。一瞬倒れ伏すものの、即座に起き上がり再び攻撃に移ろうとした所で、残り二体のワルキューレが突進してくる。練成する数を減らしたことで、個体の膂力・防御力・速度が飛躍的に向上したワルキューレは、とどめを刺すことこそできなかったが、連携攻撃により男を転倒させることに成功した。それでもなお立ち上がろうと身を起こした男の目に映ったのは、先程から詠唱を続けていたワルドの姿だった。周囲の気温が急激に下がっていく。そしてワルドは一切の躊躇いなしに己が使用できる最大級の魔法を放つ。 「『ライトニング・クラウド』!!」 先程仮面の男がライデンに膝をつかせた風系統最強の魔法は、相手のそれよりも更に太い雷撃であった。男が身動きするにも間に合うはずがなく、胴体の中心を打ち抜かれる。身を起こしかけていた男は全身を焦がしながら再度、地面に倒れ伏すこととなった。 「はぁっ、はぁっ、倒したか……?」 しばらく警戒していたが、男が再び動き出す気配は見られなかった。どうにか突然の襲撃者を倒すことができたが、こちらも相当に消耗してしまった。これから先、またも不測の事態が発生しないとも限らない。ここでの消耗は一行にとって痛手となった。しかも最大の攻撃担当であったライデンが機能不全に陥り、任務の成功率はがた落ちしたといっても過言ではなかった。 「まさか敵がスクウェア・メイジを投入してくるとはな……。間違いなく反乱軍の一員だろう」 ルイズは先程と同じように、やはりライデンの傍に座り込んでいた。表情からは感情が抜け落ち、完全に放心している。そんなルイズにワルドは苦々しい口調で話しかける。 「おそらく、昨日今日の戦いをどこかで眺めていたんだろうな。奴は真っ先に最大の脅威となる君の使い魔を潰しに来た。あの魔法で先手を打たれた時点で結果は決まっていたんだ。『ライトニング・クラウド』に耐えられる者などいはしない。残念だが、君の使い魔は……」 「……っ! 子爵、奴が!」 同じように苦しげな表情をしていたギーシュは、黒焦げとなって転がっている男の異変に気がついた。その場にいた全員が一斉に振り向くと、男は驚いたことによろめきながらも立ち上がっていたのだ。懐から小さな手の平に収まる程度の球を取り出すと、こちらに向けて放り投げる。ワルドたちがまずいと考えた瞬間、球は盛大に煙を吐き出し、周囲の視界は全く効かなくなる。敵の攻撃が来るかと身構えていたが、結局煙が晴れるまで何も起きなかった。そしていつの間にか、男は姿を消していたのである。 「馬鹿な……。奴は本当に人間なのか……?」 『カッタートルネード』とならんで風系統魔法の最高位に位置する『ライトニング・クラウド』の直撃を受けて尚も生きていられる人間が存在するなど信じがたい光景であった。あれだけ常識離れした能力を持っていたライデンですら一撃の下に倒してしまう魔法なのだ。姿を消した男が人間であるとは思えない。一同はまるで神か悪魔を見たような表情となる。 しかし、そんな中ルイズだけは相変わらず呆然自失となっていた。ワルドが見やると、左手の薬指にはめられた『水のルビー』を動かなくなったライデンに押し付けている。 「どうして、どうして直せないのよ……。これで直せなかったら、どうすればいいのよっ……」 必死でライデン修復を試みる婚約者の姿に、ワルドは悲しげな表情となる。一瞬躊躇ったあと、言いにくそうに話しかけた。 「……ルイズ、君はどうしたい? おそらく君の使い魔が元に戻ることはない、と思う。それに僕達はここに留まっているわけにはいかないんだ。動かない以上足手纏いにしかならない。残念だが置いていく他ないと思うが……」 「いや……いやよ……。ライデンはわたしの使い魔なんだもん……。初めての使い魔なんだもん……。置いていくなんてやだっ……、うっ、ううぅ……」 遂に泣き出してしまったルイズに、一同は掛ける言葉がなかった。 たとえ感情を持たない人形であっても、異質な力が少し怖くても、それでもライデンは自分にとって家族以外の初めての味方だった。自分が危ない時には真っ先に身を盾にして庇ってくれたのだ。確かにライデンに頼らないメイジになるとも決心したが、いなくなっても構わないということではない。徐々に点滅の感覚が長くなり、最後には完全に光を失ってしまったライデンの前で、ルイズは泣き崩れた。 その時、それまで黙っていたタバサが口を開いた。 「あなたがその使い魔を置いていきたくないと言うのなら、シルフィードに運ばせればいい」 青髪の少女はそう言うと、甲高く指笛を吹いた。すると吹き抜けになった上層部から主人と同じように青い鱗を持った竜が降下してきた。その口元には、どこに行ったか分からなくなっていた巨大モグラが咥えられていた。苦しげな鳴き声を上げ、じたばたと手足を動かしている。己の使い魔の無事を知ってギーシュは思わず抱きついた。 「ああっ、無事だったんだねヴェルダンデ! どこにいってしまったのかと心配していたんだよ!」 感激してヴェルダンデに頬ずりしているギーシュは放っておき、キュルケが流石に労わるように声を掛ける。 「ほら、ルイズ。タバサもこう言ってるし、ね。大丈夫よ、きっとライデンを直す方法が見付かるわ」 実際にはそんな保障はなかった。気休めだとしても、そう言う他になかったのだ。ワルドとキュルケ、タバサの三人でレビテーションを使い、どうにかライデンをシルフィードの背に載せると、一行は急いで船が係留してある桟橋へと向かう。未だ力の抜けているルイズはワルキューレに抱えられていた。 階段を駆け上った先の桟橋として機能している巨大な枝を走り抜けると、そこに停泊していた船へと飛び込む。突然集団で乗り込んできた闖入者に、それまで甲板で寝こけていた船員が飛び起きる。船員はワルドたちの格好を見て、顔から血の気を引かせた。 「君、船長を呼んでもらおうか」 「へへへへいっ! 船長、せんちょおー!」 船員は泡を食ったような勢いで船長室へと飛んでいった。しばらく待っていると、つばの広い帽子を被った初老の男性を連れて戻ってきた。船長らしい男性は、ワルドの格好を頭からつま先まで一通り眺めると、一応の敬意を払いながらも胡散臭そうな表情をした。 「して、なんの御用ですかな?」 「女王陛下直属のグリフォン隊隊長のジャン・ジャック・ワルド子爵だ。この船はアルビオンへの定期船なのだろう? 今すぐに出航してもらいたい。これは姫殿下直々の勅命だ。君達に拒否権は与えられていないことを伝えておこう」 突然無理難題を押し付けられた船長は、勅命だと言われたのも関わらず反論してしまう。 「ちょ、ちょっと、無茶を言わんで下さい! 今この船にはアルビオンへの最短距離分の風石しか積んでおらんのですよ! 風石の予約は一杯で、今から新たに風石を確保するなんて無理です!」 「もちろん、こちらとしてもそのことは認識している。僕は風のスクウェアだ。足りない風石の分は僕が補おう。料金は言い値を払う」 「はぁ……、まあそれなら」 その後、ワルドから積荷である硫黄の分も上乗せして料金を支払うとの言質を取り、思わぬ商談の成立に気分を良くした船長は、何事かと甲板に上がってきていた船員達へ矢継早に命令を出していく。気分よく眠っていたところを叩き起こされた船員達は、ぶつぶつと文句を零してはいたものの、船長の命令に逆らうこともなく、桟橋に括りつけられている舫い綱を解き放ち、横静索によじ登り帆を張った。 繋留が解かれた船は一瞬空中に沈んだかと思いきや、風石の力を如何なく発揮してアルビオンへ向けて出航した。到着予定は明日の昼過ぎであることを聞くと、ワルドは糸の切れた人形のように壁を背にして座り込んでいるルイズへ足を向ける。その傍には主人と同じように赤いゴーレムが力無く足を放り出して座らされていた。 「ルイズ……、任務の話なのだが……」 ワルドの言葉にもルイズは完全に無反応であった。仕方無しに三人固まって難しい顔をしていたギーシュを呼んで、今後の方策を練ることとする。あまり頼れる人物ではないが、出身がゲルマニアとガリアのキュルケとタバサに秘密任務を話す訳にはいかない。手招きに気付いたギーシュが小走りに近付いてくる。 「どうしました、子爵?」 「船長から聞いた話だが、ニューカッスル付近に陣を敷いた王軍は攻囲されて苦戦しているらしい」 「……ウェールズ皇太子は無事なのですか?」 「わからんよ。まだ存命ではいるらしいが……」 二人は同じように苦い表情となる。思っていた以上に戦局は厳しいものだった。本陣付近まで攻め込まれているとなると、最早一週間ともつまい。更に手紙の回収を行うには分厚い敵陣を突っ切る以外に手段はない。この任務にタバサの風竜を使うわけにはいかないのだ。非常に困難な局面となることが予想された。 「反乱軍としても一応は無関係のトリステイン貴族に公然と手出しする訳にはいくまい。ただ、間違いなく検問を設けているだろうな。そこは隙をついて突破する以外に手段はない」 ワルドの言葉にギーシュは緊張した表情を作る。トリステインの今後の命運を分けるこの任務、最大戦力であったライデンを失ってしまったのは余りにも痛かった。 様々な人間の意志が交錯する中、船はアルビオンへ向けて一直線に飛行する。 「空賊だ!」 夜が明け、下半分が真っ白な雲に覆われたアルビオンを視界に入れたところで、甲板に船員の切羽詰った叫び声が響く。緊急事態を表す鐘ががらんがらんと打ち鳴らされ、それまで眠っていた船長と船員達が慌てて飛び出してくる。 ワルドたちの乗る船の右舷上方に位置取る船は、所属する国家の端を掲げておらず、甲板から身を乗り出してこちらを眺める男達の格好は、どう見ても空賊以外にありえなかった。 「今すぐ逃げろ! 取り舵いっぱぁぁいっ!!」 船長は船を空賊船から遠ざけようと命令を下すが、時既に遅し。高度を落として並走し始めていた空賊船は定期船の進路を遮るかのように大砲を放った。 その後、マストに旗流信号を示す四色の旗が掲げられる。停船しなければ攻撃を行う。敵船の意思表示を受け、船長は一瞬悩む。今この船にはグリフォン隊の隊長と、数人のメイジが乗船している。助けを期待するかのような視線をワルドへ向けるが、ワルドはどうしようもないといった身振りをすると、溜息を付きながら告げた。 「魔法はこの船を浮かべるために打ち止めだ。それに彼女達も相当魔力を消耗していてね。あの船に従うしかない」 これで破産だと頭を抱えて呟くと、観念したのか船長は停船命令を出す。 空賊船は完全に定期船へと横付けすると、鉤付のロープを渡して次々とこちらへ乗り込んできた。日焼けして粗野な雰囲気を隠そうともしない男達が拡声器を片手に命令する。 「てめぇら、抵抗すんじゃねぇぞ! もしも逆らってみろ、すぐさま首を切り飛ばしてやる!」 弓やフリントロック銃で武装した空賊は手馴れた様子で抵抗する船員を拘束していく。ギーシュやキュルケが思わず魔法を使おうとした時、目の前にすっと手を出されワルドに制止された。 「やめたまえ。いくら平民といえど、あれだけの数を相手に消耗した状態で戦うのは無謀だ。大砲がこちらを狙っていることも忘れてはいけない。……今はとにかく機を待つんだ」 突然ずかずかと歩き回り始めた空族たちに、甲板で大人しくしていたグリフォンやヴェルダンデら使い魔が喚き始めた。空賊の一人が仲間の一人に身振りをすると、その男は杖を取り出し短く呪文を唱える。すると使い魔たちの頭上に小ぶりな雲が現れ、次の瞬間には纏めて寝息を立て始めてしまった。 「眠りの雲……、メイジまでいるのか」 抵抗する人間がいなくなったところで、空賊の頭と思わしき男が乗り込んでくる。汗とグリース油で真っ黒に汚れたシャツの胸をはだけ、そこから覗いた胸板は逞しく、赤銅色に日焼けしていた。ぼさぼさに乱れた長髪は赤い布で適当に纏められ、口元は無精髭に覆われている。丁寧に左目は眼帯が巻かれ、まるで作り話に出てくるような男は乗り込むやいなや、船長を出すように命令する。 「ほう、てめぇが船長か。船の名前と積荷を答えろ。嘘をついたらいいことねぇぜ」 曲刀で頬をなぜられ、震える足を押さえながら何とか立っている船長は正直に白状する。積荷が硫黄であるということを聞くと、空族たちは割れんばかりの歓声を上げる。男は船長の帽子を取り上げると、躊躇いなく自分の頭に被せた。 「マリー・ガラント号、いい船だ。全部丸ごと俺達が買ってやる。料金はてめぇらの命だがな。異論はねぇだろう?」 がくりと船長が崩れ落ちるのを確認した所で、空賊の頭は座らせられている真紅のゴーレムに気付いた。値踏みするかのように下卑た笑を顔に貼り付けると、悠然とした足取りで近付いていく。 「ほほぅ。こいつは随分と変わったゴーレムだな。どこぞの悪趣味な貴族に売りつけたら結構な値段が付くかも知れねぇ」 そう言ってライデンに触ろうとした時、隣で座り込んでいたルイズが猛然と立ち上がった。 「わたしの使い魔に触るんじゃないわよっ! あんたらなんかね、ライデンが無事だったら、無事だったらっ……!」 頭は一瞬驚いたものの、少なくとも美少女といって差し支えないルイズの顔を見ると上機嫌になった。敵意を込めた視線を向けるルイズの顎を取ると、舌なめずりをした。 「へぇ、随分と別嬪な小娘だな……。お前、俺の嫁にしてやるぜ」 「触るなっ!」 鋭く頭の手を払うと、銃を向けられるのも構わずに血走った目で睨み付ける。 頭は面白そうに笑おうとして、はっとした表情になった。その視線はルイズの左薬指にはめられた指輪に集中している。しばらく考え込み、ふんと鼻を鳴らすと部下へ命令を下す。 「硫黄に加えて貴族様ときたか。おい! てめぇらこいつらも運び込め。あとでたんまりと身代金をふんだくれるぜ! それとそこのデカい人形も忘れるなよ!」 ライデンがメイジの手で空賊船に運び込まれるのを見て、またしてもルイズは抵抗する。空賊に拘束され、身動きが取れなくなっても、ルイズは喚き続けた。 一足先に船長室へと引き上げた頭の顔は、とても空賊とは思えない程に引き締まっていた。 前ページ次ページ重攻の使い魔
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まぁ変態の集会所です。 会話などの使ってください。 ※暴言禁止 ※なりすまし禁止 どんなこと話されてるんですか? -- さら (2018-08-08 16 51 55) どんなの? -- ハゲ (2019-12-14 06 30 15) 名前 コメント