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夕食の時間、シエスタはデザートを配膳していた。 今日は色々あった。ほとんど謎の使い魔がらみだったけど。とにかく疲れた。 あの使い魔は結局気づいたら消えていた。本当に何がしたかったんだろう?嫌がらせ? でもエプロンは返しにきてくれたわけだし、悪い人(?)でもないのだろう。 とにかく今日は早く仕事を済ませて、さっさと寝てしまおう。今日は厄日だ。 そんなことを考えていたら、手前に座る金髪の少年のポケットから何か小瓶のようなものが落ちるのを見た。 すぐにそれを拾い、落とし主であるギーシュ・ド・グラモンに声を掛ける。 こうしてシエスタのその日最大の災難が始まった。 「疲れた…」 ルイズは紅茶を飲みながらぼやく。 半壊の教室の掃除は一人でやるには相当の時間と労力を必要とした。 こんなことならキュルケの手伝いの申し出を受ければよかったかもしれない。 そう思って、部屋を見渡しキュルケの姿を探す。 青い髪の少女と一緒におしゃべりをしているのを発見する。 だがいつもよりその顔色が悪いような気がした。 (もしかしてまだ気にしてるのかな……) 少し罪悪感が心に産まれる。もう使い魔のことを言ってもいいかもしれない。 ただ逃げられたことをどう説明するか……。 「その香水は、もしや、モンモランシーの香水じゃないのか?」 「そうだ! その鮮やかな紫色はモンモランシーが調合している香水だぞ!」 急にガヤガヤと騒がしくなる。見ると、数人の生徒が集まっていた。その中心にはギーシュとメイド。 ギーシュがなにやら否定の言葉を並べ、その隣にいるメイドはさっきからどうしていいか分からずオロオロしている。 いつものギーシュの恋愛話か。どうでもいいや。 ルイズはさっさと自室に戻ろうと、残りの紅茶をいっきに飲むため、カップを口に持っていった。 「チャンスをやろう!」 「ぶッ!」 リアルに紅茶噴いた。 ギーシュは混乱していた。 メイドに「落としましたよ」と言われ、見るとそれはたしかにモンモランシーから貰った香水。 なんとか誤魔化そうとするも、回りの連中にはやしたてられてしまい、騒ぎが大きくなる。 このままではモンモランシーにもケティにもばれてしまう! 3択-一つだけ選びなさい 答え①ハンサムのギーシュは突如誤魔化すアイデアがひらめく 答え②仲間がきて助けてくれる 答え③誤魔化せない。 現実は非情である 答え-③ 答え③ 答え③…………しかし答えは違っていた!意外!その答えは④! 答え④変な奴がきて誤魔化せない。現実は非常識である 「チャンスをやろう!」 突如聞こえた、異質な声。見るといつのまにかメイドの背後に黒づくめの奇妙な亜人が立っている。 はやしたてていた連中も、メイドも声を失いこの奇妙な闖入者を見ている。 ザ・ワールド!時は止まる! ……………………その世界で最初に動いたのは、亜人と二人の少女だった。 「お前には向かうべき二つの道がある!ひとつは……「ギーシュ様、やはり、ミス・モンモランシーと…」」 亜人のセリフをかき消すようにギーシュに話しかけてきたのはケティである。 「え?ケティ!ち、違うんだ!」 急に話しかけられ反応できない。ギーシュはろくな弁解もできずに、ケティから頬をはたかれるしかなかった。 「もうひとつは!!さもなくば『死への…………「やっぱりあの一年生に手を出していたのね?嘘つき!!」」 また何か亜人が話そうとするが今度はモンモランシーに邪魔される。 モンモランシーはギーシュが何か言う前に、ワインをかけて行ってしまった。 呆然。何が起きた?なんなんだこいつは? ギーシュは亜人を睨みつける。すると、自分が睨まれていると勘違いしたのかメイドがビクっと震えた。 そういえばこのメイドが事の発端じゃないか。 くそうこの平民が!でもけっこうかわいいな。 だがそれはそれ、これはこれ。 「君のせいで二人のレディの名誉に傷がついたんだぞ!どうしてくれるんだ?」 ギーシュがメイドに詰め寄る。 メイドは泣きそうな顔になって、ひたすら謝罪の言葉を並べた。 その平謝りする姿がいくぶん滑稽で、少し優越感を覚えたギーシュはさらに続けた。 「君たちのその黒づくめの格好を見てるとこっちの気分まで暗くなってくる。 平民とはいえ貴族の前に出る時くらいは、もう少しまともな格好をしたらどうだい? …………と言ってもメイドの君の黒いのは、生まれつきだろうから変えることはできないか」 そういって笑うギーシュに、同調して回りの数人の生徒からも笑い声があがった。 「黒いの」 その言葉はシエスタの心を締め付けた。 それは後ろの使い魔の格好と、自分の髪と瞳の色のことを言っているのだろう。 大好きだった祖父から受け継いでいるこの黒い髪と瞳は、珍しい色だった。 それを馬鹿にされるのは、自分だけでなく祖父まで馬鹿にされているようで悔しかった。 シエスタの瞳からポロポロと大粒の涙がこぼれ始めた…… その時 「それ以上の侮辱は許さないわよ」 シエスタは背後から声を聞いた。 その声の主は使い魔ではなかった。その主人であるミス・ヴァリーエル。『ゼロ』のルイズ。 ピンクの長い髪と、鳶色の瞳。今、その瞳からははっきりと怒りの感情を読み取ることができた。 「ルイズ」 主人を見つけた、使い魔の場違いな声が部屋に響いた。 To Be Continued 。。。。?
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ゼロの使い魔への道-1 『ギーシュ危機一髪 その1』 『ギーシュ危機一髪 その2』 『ギーシュ危機一髪 その3』 『キュルケ怒りの鉄拳 その1』 『キュルケ怒りの鉄拳 その2』 『キュルケ怒りの鉄拳 その3』 『燃えよドラゴンズ・ドリーム その1』 『燃えよドラゴンズ・ドリーム その2』
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部屋に帰ってきたメローネには、新たな試練が待ち受けていた。 それは・・・自らの主ルイズを起こすこと! 「たたき起こすのは・・・駄目だな。後でひどい目に遭いそうだ。 だがただでは起きそうにない・・・。こうするか。」 そう言うとメローネはタイツの中からイヤホンを取りだし、ルイズにつけた。 そしてパソコンに繋げるとiTunesを起動した。 「ん~~・・・悪霊退散~~zzz」 「駄目か・・・これならどうだ?」 「ん~~・・・がちゃがちゃきゅ~と・・・ふぃぎゅ@~~zzz」 「ばかな・・・!起きろよ・・・!これでッ!!」 「やっつぁっつぁっぱり りっぱりらんらん~zzz」 「こいつ・・・!化け物か・・・!仕方がない、最後の手段だ!」 「わひゃあ!あ・・・頭がぁあああ!」 「おはようお嬢様。どうしたんだ?」 「あ・・・メローネか。なんかものすごい音楽が頭の中に・・・」 (チーズのうた 作詞・作曲ジャイロ・ツェペリ・・・いつの間にかiTunesに入っていた。 とんでもない電波ソングだ・・・うかつには聞けん。) ゼロの変態第四話 余の仇名はゼロ 「着替えさせて。」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」 「着替えさせてって言ってんの。貴族は使用人がいるときに自分で着替えたりしないのよ。」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・わかった・・・」 メローネは着替えさせている間中自分の中の獣(発情中)を押さえるのに必死だった。 着替えをすませると、2人は食堂へ向かった。 「うほっ、いい食事!」 豪華な朝食をみてのメローネの一言である。もうすこしまともな台詞を吐け。 「そういやここ最近ろくな文句って無かったもんなァ~」 なぜかって?あなた達には理解できるはずだ。 「なにいってんのよ。あんたの食事はこっち。」 ルイズの指さした先は・・・床だった。 そこには堅そうな黒パンとお茶と見間違えそうなスープ。 「感謝しなさいよ。使い魔は普通は外だけど、私のおかげであんたは中で食べられるんだから。」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 さすがの彼もこのときはプッツンしかけた。 「・・・外で待っている・・・」 怒りのこもった声でそう言うと、スープを一気飲みしてパンをもって外に出た。 「さ・・・さすがにやりすぎたかしら・・・?だ・・・ダメよルイズ! ここで弱気になったら、ますますあの変態につけこまれるわ!」 一方メローネは使い魔達の中で反省中であった。 あのような仕打ちを受けると、彼らのチームがかつて『組織』から受けていた仕打ちを思い出す。 (こんなことではダメだ・・・冷静さを欠くことは死に直結する・・・。どんな世界でも・・・ この世界ではこれが普通なんだ・・・逆に考えろ・・・ 『他の使い魔達はもっとひどい食事なんだ』そう考えろ・・・) メローネは他の使い魔が肉やらなにやら食べている中で怒りを静めようとしていた。 食堂から教室へ向かう途中、メローネ達の前に1人の少女が現れた。 萌えるような赤い髪、健康そうな褐色の肌。さらに巨乳。 「あらおはよう、ルイズ。」 「あらキュルケ。おはよう。」 「聞いたわよルイズ。変態を召喚したんですってね。さすが『ゼロ』ってとこかしら? それがその使い魔?・・・ふぅん。格好以外はまともそうだけど。」 「ちょっとキュルケ!なに人の使い魔じろじろ見てんのよ!」 言い争いをしている2人を尻目にメローネは彼女とルイズが知り合い、しかも仲が悪いこと、 キュルケという少女、みくるタイプかと思ったが気が強いことなどを理解した。 彼は長門派だし、セクシーな女性よりもかわいい女の子の方が好き(無論両方とも好きだが)なので 特に必要な情報ではなかったが。 「それよりも私、昨日使い魔を召喚したのよ。ま、誰かさんと違って1発で成功したけどね。」 「へーそう。」 「お・・・お前は・・・!」 メローネはキュルケのそばに現れた火トカゲに驚愕した。なぜならそれは先刻メローネが 使い魔達の中にいたとき、親切にも自分が食べていた肉を分けてくれた張本人だったからだ! 「この子の尻尾を見て。ここまで大きくて美しい炎は間違いなく火竜山脈のサラマンダーよぉ。」 「そうかおまえは火トカゲか~。道理で燃えてたはずだ。火トカゲだもんな~」 サラマンダーと聞くと嫌な記憶が蘇るのでやたら火トカゲを連呼するメローネ。ちなみに彼はゼニガメを選んだ。 「あら、あなたもこの子の魅力がわかるのね。そういえばあなた、名前は?」 「メローネだ。・・・それよりもうすぐ授業が始まるんじゃあないのか?」 「あ、そうね。貴方気が利くわ。じゃね、ゼロ。」 そういうと彼女は赤髪をかきあげ、火トカゲと共に去っていった。 「きー!!なによあの色情魔!火竜山脈のサラマンダー召喚したからって調子に乗っちゃって!!」 「まぁ落ち着けよ。あの火トカゲに罪はない。実際アレすごいよ?」 「うるさいっ!あんたご飯全部抜きにするわよ!」 「う・・・それは困る・・・」 あんな粗食あってもあまり変わらないのだが、ご主人様の好感度を下げないためにこういっといた。 さすがは三択恋愛の王者である。 教室にはいると生徒達の視線がいっせいにルイズとメローネに集まった。 メローネは大方ルイズを馬鹿にしているのだろうと予想した。そのうち三割はメローネに向けられていたのだが。 ルイズの言動を予想し、メローネは床に座ると他の使い魔達が集まってきた。 「なんだお前ら、そんなに俺が好きか?じゃあここは一つゲームをしよう。」 メローネはイヤホンをつけるとパソコンを起動させた。授業聞く気はゼロである。 そうこうしているうちに教師が入ってきたようである。メローネはゲームをし始めていたが。 「皆さん、春の使い魔召喚は大成功のようですね。ひとり妙な使い魔を召喚したようですが。」 教師のその一言に教室は笑いの渦に包まれる。 「おい『ゼロ』!『サモン・サーヴァント』ができなかったってそこら辺歩いてた変態つれてくるなよ!」 「違うわよ!召喚したらたまたまこの変態が出てきちゃったのよ!」 「嘘付け!」 メローネは我関せずといった態度で画面を見てにやけていた。ほかの使い魔も釘付けである。 教室が静かになった。どうやら授業が始まったようだ。 教師の名は『赤土』のシュヴルーズというらしい。 メローネはゲームをしながら、魔法には4つの属性があり、メイジにも四つのランクがあること だけは聞いていた。 だが彼も暗殺者の端くれ、教室の空気が一変したのを見逃さなかった。 「バカなっ!ヴァリエールに魔法を使わせるつもりか・・・!」 「退避ー!総員退避ー!」 「はっ!ここはどこだ・・・?次は何が起こるんだ・・・?」 ルイズが魔法を使うことになったのだろうが、生徒の脅え方が尋常ではない。ん?あのオッサンは誰だ? とりあえずメローネは生徒達に習って床に伏せることにした。その顔からは笑みが消えていた。 そのとき、大爆発が起こった。 「ちょっと失敗しちゃったわね・・・。」 そのちょっとで教室は半壊、シュヴルーズは気絶。謎のオッサンは消し飛んでいた。 「「「どこがちょっとだ!」」」 「まったく・・・今日は一段とひどいわね・・・」 そう言いつつキュルケはある疑問を感じていた。あれだけの爆発である。てっきり使い魔達が暴れて 大事になるかと思ったのだが・・・ するとキュルケの隣にいた少女が彼女の服を引っ張った。 「どうしたの、タバサ?」 「・・・あれ」 タバサと呼ばれた少女が指さした先には、使い魔達が恐怖に震えている姿があった。キュルケのフレイムは気絶している。 そして、その中心にいたのは・・・ 「は・・・はは・・・このゲーム、オレの勝ちだ・・・はは・・・」 笑いと恐怖が入り交じった顔をしている変態がいた。 ちなみに彼らがしていたゲームは「誰が『ひぐらしのなく頃に』を見て最後までリタイアしないかチキンレース」である。 「おい・・・ちょっとは手伝ってくれ。というかお前がやれよマスター。」 「ご主人様の不始末は使い魔の不始末よ。さっさと手を動かしなさい。」 ルイズ達はシュヴルーズの遺言により教室の後片付けを命じられていた。 「それにしても・・・『ゼロ』とはそういうことか」 「そうよ・・・。魔法の成功率ゼロ。だから『ゼロ』。」 メローネはルイズの態度で彼女が怒っていることを理解した。 しかもこの怒り方は戦友、ギアッチョと同じタイプだということを。 どんな言葉でも怒りを爆発させるトリガーになりかねない。彼は経験でそれを理解していた。 「・・・いけよ。」 「な、何?」 「ここは俺に任せて先に行け。昼飯を食い損ねたくはないだろう?なぁに、すぐに追いつく。」 「わ、わかったわよ・・・。」 (やっと使い魔というものがわかったのかしらこいつ・・・昼ご飯少しふやしてあげようかしら?) ルイズが去るとメローネはベイビィフェイスの手足を伸ばし掃除を始めた。 端から見るとヘンな機械がぷかぷか浮いている用にしか見えない。ルイズの前では使えないので 独りの方が作業がはかどる。 (・・・彼女は怒ると見境無いタイプだ。自分すら傷つける怒り方をするタイプだ・・・ ああゆうタイプは下手に励ますと怒り出しかねん・・・傷つけても悪いしな・・・) そしてメローネは掃除を手早く済ませると食堂へ向かった。 さらなる厄介ごとを引き起こすことも知らずに・・・
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1603.html
ラ・ロシェールで一番上等な宿、「女神の杵」亭に泊まる事にした一行は、一階の酒場でだらだらしていた。 さすが貴族を相手にするだけあって、隅々まで掃除が行き届き、テーブルは床と同じ一枚岩からの削り出しで輝いている。 そこに、「桟橋」へ乗船の交渉に行っていたワルドとルイズが帰ってきた。 ワルドは席に着くと、困ったように言った。 「アルビオンに渡る船は明後日にならないと、出ないそうだ」 「急ぎの任務なのに・・・」 ルイズは口を尖らせている。ギーシュの瞳が輝いている。セッコは首を捻った。 「なんで隔日なんだあ?アルビオンてのは、そんなに田舎なのかよ。」 ワルドが答える。 「明日の夜は月が重なるだろう?[スヴェル]の月夜だ。その翌日の朝、アルビオンが最もラ・ロシェールに近づく。」 ワルドは、まるでこれが完全な答えだ、と言わんばかりの様子だ。 「・・・おあ?」 横でキュルケがなるほどと頷いているものの、セッコには完全に意味不明である。 考えるのをやめた。 「さて、今日はもう寝よう。部屋を取った」 「キュルケとタバサが相部屋だ。そしてギーシュとセッコが相部屋」 ギーシュが怯えた。 「僕とルイズは同室だ」 ま、婚約者ならなあ。 ルイズが反論する。何でだろ? 「そんな、ダメよ!まだ、わたしたち結婚してるわけじゃないじゃない!」 「いや、大事な話があるんだ。二人きりで話したい」 「・・・わかったわ」 「女神の杵」で一番上等な部屋。そこでワインを傾けながらワルドとルイズは話していた。 「姫殿下から預かった手紙は、きちんと持っているかい?」 ルイズはちょっとふくれた。 当たり前よ。もう子供じゃないんですから。 むしろ不安なのは、手紙を書きながら見せたアンリエッタの表情。 あれはもしかして・・・いや間違いないわ・・・ 「・・・ええ」 「心配なのかい?無事にアルビオンのウェールズ皇太子から、姫殿下の手紙を取り戻せるのかどうか」 「そうね、心配だわ・・・」 「大丈夫だよ。きっとうまくいく。」 「そうね、あなたがいれば、きっと大丈夫よね。で、大事な話って?」 ワルドは何処か遠くを見つめている。 「覚えているかい?あの日の約束。ほら、きみのお屋敷の中庭で・・・」 「いやだ、そんな変な事ばっかリ覚えているのね。」 「そりゃ覚えているさ。君はいっつもお姉さんと魔法の才能を比べられて、デキが悪いなんて言われてた。」 ルイズは恥ずかしそうに俯いた。ワルドは言葉を続ける。 「でも、君は失敗ばかりしていたけれど、誰にもないオーラを持っていた。 それは、きみが、他人にはない特別な力を持っているからさ。僕だって並のメイジじゃない。だからそれがわかる」 ルイズにはなにがなんだかわからない。 「まさか」 「まさかじゃない。たとえば、そう、きみの使い魔・・・」 「セッコがどうかしたの?」 「そうだ。彼の身のこなし、そして武器をつかんだときに、左手に浮かび上がったルーン・・・ あれは、ただのルーンじゃない。伝説の使い魔の印さ」 「伝説・・・?」 「そうさ。あれは、[ガンダールヴ]の印だ。始祖ブリミルが用いたという、伝説の使い魔さ」 ワルドの目が鋭くなった。 「ガンダールヴ?」 「誰もが持てる使い魔じゃない。君はそれだけの力を持ったメイジなんだよ」 「信じられないわ・・・」 ルイズは考え込んでしまった。確かにセッコは不思議だ。 変な格好をしているし、異常に目と耳が鋭いし、素早いし、不思議な力を持っている。 命令には忠実だし、悪い奴には見えないが、幼児のように無邪気で適当で残酷だ。 記憶のことも含めて謎が多すぎる。しかし、いくらなんでも伝説の使い魔とはとても思えない。 そういった神聖なものにしては、馬鹿すぎる。 そしてわたし。どう考えても魔法に関しては落ちこぼれだ。考えたくないけどゼロだ。 ワルドが言うようなことはやはり納得できない。 「きみは偉大なメイジになるだろう。そう、始祖ブリミルのように、 歴史に名を残すような、すばらしいメイジになるに違いない。僕はそう予感している。」 ワルドの表情が熱っぽいものに変わる。 「この任務が終わったら、僕と結婚しようルイズ」 「え・・・」 いきなりのプロポーズに、ルイズは固まってしまった。 「で、でも・・・」 「ルイズ、僕にはきみが必要なんだ」 「ワルド・・・」 ルイズは俯いた。再びセッコのことが頭に浮かぶ。あんなのでも一応男だし、ワルドと結婚してしまったら側においておくのは問題だろう。 その時、わたしのコントロールを離れたセッコはどうなるだろう? セッコに信頼されているらしいタバサか、あるいはオールド・オスマン辺りが手綱を握ってくれるかもしれない。 けれど、もしそれがされなかったら? 理由もなく不安感が募る。でも・・・ 「どうしたんだい、ルイズ?」 ワルドが心配そうに私を覗き込む。 「あの・・・その・・・わたしまだ・・・」 「急がないよ、僕は」 「いえ、あのそういうわけじゃ・・・」 「いいさ、今返事をくれとは言わない。でも、この旅の間に君の気持ちを傾けてみせる。もう寝ようか、疲れただろう」 ルイズは再び俯いた。 ワルドは優しくて凛々しいし、もちろん憧れだ。でも、まだ早すぎる。 特に何か理由があるわけではない、そんな気がするのだった。 その様子を窓に貼り付いて眺めていたキュルケは呟いた。 「随分と純情ねえ、あのワルドって人。」 てっきり押し倒すとばかり思ったのに、残念。 ワルドとルイズがキュルケに観察されていたその頃。 セッコとギーシュとタバサはそのまま酒場で雑談しつつ食事をしていた。 しかし・・・ 「よく、君たちはそんな同じものばかり食べ続けられるねえ、ヒック。」 酒が回ってきたギーシュが辟易とした調子でくだを巻いた。 「そうかなあ。」 「・・・」 甘苦く、なんともいえない匂いが高級酒場の一角に漂っている。 「甘いのもう一皿くれえ。」 「はしばみ草サラダのラ・ロシェール風」 「は、はい。かしこまりました」 ウェイトレスの声もやや引きつっている。 ギーシュは右を見た。 セッコは生地が崩れるほど蜂蜜を塗ったホットケーキを貪っている。 気分が悪くなった。 正面を向く。 タバサがはしばみ草をドレッシングもかけずに頬張っている。 見ただけで口の中が苦くなった。 「もう、勘弁してくれぇ~!!」 翌朝。 目を覚ましたセッコが日課となっているスーツの手入れをしていると、ドアがノックされた。 ギーシュの方を見ると、二日酔いなのか伏せて唸っていた。 仕方なくスーツを着てドアを開ける。 「おはよう、使い魔くん」 ワルドが羽帽子を被って立っていた。 失礼な奴だなあ。部屋の中では帽子を取れよ。 「なんかあったのかあ?」 ワルドはそれには答えず、にっこり笑って言葉を続けた。 「きみは伝説の使い魔[ガンダールヴ]なんだろう?」 なんだこいつ? 「違う。オレはセッコだ」 「いや、そういう意味じゃない。左手のルーンの名前さ。」 「あー。それがどうかしたのかよ?」 そんなにこの印は目立つもんなのか? 確かにスーツの上まで浮き上がってるけど。 面倒なもんなら手袋でもするかなあ。それとも誰かに聞いたのかあ? いくらなんでも昨日今日でタバサが言うわけがねえ。言ったのがヒゲ校長だとしたら最悪だ。 そんな嫌がらせみたいな事ないと思いてえ。 「僕は歴史と、兵に興味があってね。フーケを尋問したときに、君に興味を抱き、王立図書館で君の事を調べたのさ。 その結果、[ガンダールヴ]にたどり着いた」 ・・・手袋決定。今すぐでも欲しい、面倒事なんか大嫌いだ。無かった事にしてえ。 「でだ、あの[土くれ]を捕まえた腕がどのぐらいのものだか、知りたいんだ。ちょっと手合わせ願いたい」 「てあわせ?」 「つまり、これさ」 ワルドが腰に差した剣と杖のあいのこを引き抜いた。 「今ここでえ?」 「そうだ。この宿は昔、アルビオンからの侵攻に備えるための砦だったんだよ。 中庭に錬兵場があるんだ」 「いや、そういうことじゃねえし」 「ん、ああ、大丈夫だ。寸止めするし、きみの心配したようなことにはならんさ」 本当かよ。まあ体動かすのは好きだけどなあー。 「わかったよお」 「それでこそ男だ」 変な奴だなあ。 セッコとワルドは、今ではただの物置と化している錬兵場で向かい合った。 「昔・・・かのフィ・・・王が・・・」 ワルドが何か歴史的なことを言っているが、セッコには当然理解できない。 「でだ、立ち会いには、介添え人が必要なんでね。もう呼んであるが。」 なんかめんどくさい事になってきた。全力で断るべきだったかなあ。 と、物陰からルイズが現れた。 「セッコ!何やってんの!ワルドは味方なのよ!」 はあ? 「いやちげーし!オレ悪くねえ!向こうからやろうってきたんだって!」 「え、嘘、ワルド?」 ワルドは頷いた。 「彼の実力を、ちょっと試したくなってね」 「もう、そんなバカなことやめて。今は任務中よ!」 「そうだね、でも、貴族というやつは厄介でね。強いか弱いか、それが気になるともう、どうにもならなくなるのさ」 「セッコもやめなさい!」 「ちょっと遊ぶだけだってえ。」 「ああもう、仕方ない人たちね!殺しても殺されても潜ってもダメよ!」 「わかった。」 「ちゃんと加減するから大丈夫だよ。安心して、僕のルイズ」 ワルドは首をかしげた。・・・潜るとは一体? 考えてもわからない。 「では、始めるとするか」 ワルドは腰から杖を抜き身構えた。 セッコは鞘に入ったままの剣を構えた。 「おや、抜かないのかい?」 「加減するつったのはテメーだろお。」 ワルドが電光の様に突きを繰り出す。セッコがそれを力任せに弾き返す。 「たいした怪力だな、だが隙だら・・・うおおおおおっ!」 本来死角のはずの場所へ飛びこんだワルドに、セッコの後ろ蹴りが襲いかかる。 「そうかなあ?」 間一髪で跳び退りワルドが体勢を立て直す。 「やはり、魔法無しでどうにかなる相手ではないか、[ガンダールヴ]よ」 「パワーなら負けねえぜ、多分なあ。」 セッコの単純かつ強力な大振りの攻撃をなんとかかわしつつ呪文を唱える。 これをかわさず受け止めたら、間違いなく杖か腕が折れてしまうだろう。 むしろ、こんな使い方をされて、損傷しない剣の正体の方がワルドには恐ろしかった。昨日見たときは、刃が錆びていたように見えたが。 一体どんな材質に固定化をかければこんな荒っぽい使い方に耐えうるのだろう? 「デル・イル・ソロ・ラ・ウィンデー・・・」 ボンッ! 詠唱が完了し、空気が撥ねた。巨大な空気のハンマーが剣を弾き飛ばし、 セッコ本人をも10メイルほど吹き飛ばして、そこに積んであった樽に叩きつける。樽がガラガラと崩れ落ちた。 ワルドは素早くセッコの剣を踏みつけた。 「勝負あり、だな。きみではルイ・・・」 ドボォッ! だが、ワルドは最後まで発言することができなかった。 セッコの投げつけた樽が今度はワルドを彼方に吹き飛ばす。杖を取り落とさなかったのは奇跡といっていい。 「思ったよりつええじゃねえか、帽子のおっさんよおおおお。」 セッコがゆっくりと剣を拾い上げ、鞘から抜いた。足元の地面が微妙に沈む。 「すまない、舐めすぎていたようだ。今度は全力で行かせてもらうよ」 起き上がったワルドはセッコから距離をとり低く、低く詠唱を開始した。 「ユビキタス・デル・ウィ・・・」 「いい加減にやめて二人とも!秘密任務を何だと思ってるの!」 その様子を見ていたルイズは、慌てて間に割って入り叫んだ。 「うおあ、冗談、冗談だよおルイズ。」 「失礼、ちょっと興奮してしまった」 二人はなんとか正気を取り戻した。 「俺様には、とてもちょっとした冗談に見えなかったけどな」 抜かれたばかりでその前の状況を理解してないデルフリンガーが呟いた。 To be continued…… 戻る< 目次 続く
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決闘に勝利したにも関わらず、ルイズはその場から逃げるようにして離れた。 顔を真っ赤にしている彼女のその手には、一枚のパンツが握られている。 一枚、たった一枚。その他多くはルイズの放った失敗魔法の爆発に巻き込まれ天に召されたか、あるいは第三者の手に渡ってしまったようだ。 「ブラック・サバス」 ルイズは怒りのこもった声で、自分の使い魔を呼んだ。だが、神出鬼没の使い魔は姿を現そうとしない。 ルイズはいろいろ高ぶる気持ちを抑えながら、例の装置と鞭を手にする。 そして、もう慣れた手つきで装置を『再点火』する。 「お前、『再点火』したな!」 「サバス…………あれは、どういうこと?」 予定通り現れたブラックサバスに、できるだけ笑顔で答える。鞭をもつ手はプルプル震えていたが。 「チャンスをやろう!」 「うるさい!意味分からないこと言っても、もう逃がさないわよ!あんたにはもうチャンスはないからね!!」 ルイズはブラック・サバスに向かって鞭を振るった。 「ブグッ!」 ブラック・サバスはうめき声を上げるものの、痛そうなそぶりは皆無だった。 それを見たルイズはますますむかっ腹が立ってくる。 「WRYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY!!」 ルイズは顔を真っ赤にして鞭を振るった。 しかしそれでも、ブラック・サバスは特に堪えた様子は無い。 いい加減疲れがピークに達したので、ルイズは考えるのをやめた。ベッドに横になる。 ブラック・サバスが相変わらず自分のすぐ側に立っているのを確認して、そして泥の様に寝た。 その可愛らしい寝顔を見ることなく、ブラック・サバスはただルイズの横に立つ。 長い長い一日がやっと終わった。 「いつまで寝てんのよ!さっさと起きなさい!」 「……もうちょっと寝かせて……後5分……」 「まったくだらしないんだから。あなたもそう思うわよね~?」 ルイズは寝起きのボンヤリとした頭で考える。 今、私は誰と会話してるんだ?……ブラック・サバスか……朝、起こすのも使い魔の仕事よね…… それにしても声変わったんじゃない?妙に高いわね。それにいつの間にやらボキャブラリー増えてるじゃない…… なんかムカつくしゃべり方だけど……まるでキュルケに似て…… そこでルイズは跳ね起きた。 横を見るとキュルケが、ブラック・サバスと普通におしゃべりをしている。といっても一方的に話しかけてるだけだが。 「なななななな!」 「何よ。朝から元気ねー」 「なんであんたがここにいるのよ!鍵かかって……勝手に開けたのね!?」 見るとキュルケの後ろのドアが、全開で開いている。 「勝手に開けて入ってくるなんて、ホントにツェルプストーの人間ってデリカシーがないのね!」 「そういうあんたこそ。ヴァリエールの人間は抜けてるようね。いつまで寝てんのよ」 「いつまでって………今何時」 「朝食、もう終わったわよ」 「えええええええええええ!?」 朝食の時間、食堂での話題は昨晩の決闘のことで持ちきりだった。 ギーシュはもうケガは治ってるとか、いや全治一週間だとか再起不能だとか。 ルイズの魔法によって、大爆発と共にパンツが舞い始めたとか。 そして、なによりあの謎の使い魔のこと。 不気味な姿、決闘の時見せたトリッキーな動きと、ギーシュを異様な状況に追い込んだ奇妙な力。 あれは先住魔法だ、つまりあれは亜人ではなくエルフなんだよ。 違う!あの黒づくめの格好……あれは悪魔だったんだよ!な、なんだってー! という具合だ。 しかし、その話題の中心であるルイズとギーシュがなかなか現れない。 まぁギーシュはケガを負ったので、今も療養中というのは理解できるが、ルイズが来ないのはなぜか? キュルケも顔には出さないが、少し気にかけていた。 すると後ろから声を掛けられる。振り向くと昨日の決闘の関係者の一人であるシエスタが立っていた。 「あの、ミス・ツェルプストー。ミス・ヴァリエールはどうなさったんでしょうか……昨日のことで具合を悪くなされたとか……」 「別に心配することはないと思うけど……」 そう言って二人で顔を曇らせる。後で様子を見に行ったほうがいいかもしれない。 食事が終わるとキュルケはルイズの部屋の前まで行き、何度かノックしてみる。しかし返事はない。 少し考えた後、ドアをアンロックの魔法で開けて入ってみる。 幸せそうな顔で寝ているルイズと、その横でじっと立っている使い魔をみてため息をついた。 心配して……いや、別に心配なんかしてないわよ。 ここから最初のやり取りへと展開していくのだ。 「もう!サバス起こしなさいよ!使い魔でしょ!…………ってあれ」 とりあえずブラック・サバスに文句を言おうとしたら、またもや姿を消していることに気づく。 「ああ、あんたの使い魔なら洗濯物持って……ていうか食べて出てったわよ」 「止めなさいよ!」 ベットから飛び出してルイズはブラック・サバスを追おうとするが 「あんた、もう用意しないと授業に遅れるわよ?それともそんな格好で出るつもり?」 言われて自分が昨日の決闘の時と同じ格好であることに気づく。 目だった汚れは無いが、それでも砂や泥が付いてる所があるし、なによりシワだらけだ。 というかこの格好でベットで寝たのか……と、少し後悔の念が生まれる。 「き、着替えるから出てって」 ルイズが慌ててクローゼットの前に移動する。 しかし、言われたキュルケは出て行かずにニヤリと笑った。 「着替えならあるわよ」 ニヤニヤ笑うキュルケの手の中には、パンツがあった。 「!!!!か、返して!!!」 ルイズがものすごい勢いで飛びつくが、キュルケは手を上に伸ばしてヒョイッとかわす。 「やっぱりこれあんたのだったのね~。この色気の無さはあんたのだと思ってたのよ。まぁあなたの体にはお似合いだけどね」 そう言って自分の胸を強調するキュルケを見て、ルイズの顔がどんどん赤くなっていく。 「じゃあね!早くしないと授業に遅れるわよ!」 キュルケはいろいろなものが飛んでくる前に、部屋から飛び出した。 ルイズの怒りの叫びが後ろから飛んでくる。 なぜかとても清清しい気分だった。やっぱりルイズは面白い。 その日の昼休み、ルイズはギーシュの元へ出向いた。 勝負の結果とはいえ、やりすぎた感はある(あまり覚えていないけど)。 というのも授業中、回りの生徒が自分を見る目がどうもおかしい。 決闘に勝利したことによる、改めて見直したとかそういうのではなく、なんというか畏怖しているというか。 たまに『デビル』とか『キラー』とか物騒な単語が聞こえるけど、私のことじゃないわよね。 ……いざギーシュの部屋の前に来ると、ドアを開けるのをためらってしまう。 開けた瞬間「ご臨終です」とか聞こえたらどうしよう。 …………え~い、ままよ! 覚悟を決めてドアを開ける。 「ああああああああああああああああああ」 まず聞こえたのは学院中に響いたのではないかという泣き声。 見るとモンモランシーが包帯まみれのギーシュ……恐らくギーシュである物の横で号泣している。 ギーシュ・ド・グラモン死亡確認! 処罰…………退学…………実家に強制送還………… そんな単語がルイズの頭の中を駆け巡る中、呑気な声が彼女に届く。 「おや、そこにいるのはルイズ。君も見舞いに来てくれたのかい?」 …………らせん階段……カブト虫 ……廃墟の街……イチジクのタルト…………ん? 「ギーシュ!生きてたの!」 「君はいきなりだね……」 「ちょっと!縁起でもないこと言わないでよ!」 包帯男とその横の目を赤くしたモンモランシーが順番に答える。 「ギーシュはね!今やっと目を覚ましたところなのよ!」 「まぁまぁモンモランシー落ち着いて。そんな顔をしてはせっかくの美貌が台無しになるよ」 「ギーシュ…………」 「元気そうでよかったわね。お大事に」 もう帰ろうと思い始めたルイズに包帯男があわてて声をかける。 「ま、まってくれルイズ!…………まず君と君の使い魔を侮辱したことに対して謝らせて欲しい。すまなかった」 そういって頭を垂れる包帯男に、ルイズは少々驚いていた。こんなに素直に謝るとは。 意外な顔をするルイズに包帯男、もといギーシュは続けた。 「決闘に負けて、モンモランシーが僕に付きっ切りで看病してくれてる間にいろいろ考えてね。 僕は女性には優しい薔薇のつもりでいたが………モンモランシーにケティに君に、あとあのメイドの……」 「シエスタ」 「そう、そのシエスタって子も傷つけてしまったんだ。動けるようになったら彼女にも謝罪しに行くつもりだよ」 それを聞いたルイズは、ギーシュに謝られるシエスタを想像した。 きっと頭を下げるギーシュ以上にペコペコするんだろうなあの娘は。 それを考えると少しおかしくなったルイズは二人にばれないようにフッと笑った。 「ままぁ私もちょっとやりすぎたわ。悪かったわね。私の使い魔の分も謝っておく」 予想以上にギーシュにあっさり謝罪されたので、ルイズもそれに合わせるかのように謝罪の言葉を口にする。 なんとなく気恥ずかしくなったルイズは、もうさっさと部屋を出て行こうとしていた。 そこへモンモランシーが呼び止める。 「ルイズ!ひとつ教えて…………あなたの使い魔はいったいなんなの?あれは魔法じゃないんでしょ?」 「…………」 改めてブラック・サバスのことを考える。 ……たしかにブラック・サバスの力はルイズたちの魔法の基本である四系統から、大きく逸脱している。 ……まぁそれはある意味ルイズもなのだが…… とにかく、だからといってブラック・サバスが、例えば「虚無」や「先住魔法」を使っているなんてことは思えない。 ファンタジーやメルヘンじゃあないんだし。 でも……あの力がなんだろうと……ブラック・サバスは私の使い魔なんだから。 使い魔である以上……大丈夫よね。 ……はたして本当にそうだろうか。ブラック・サバスは本当に自分を主と思っているのだろうか? あの力を、自分は御することはできるのだろうか……。 実際、今ブラック・サバスがどこで、何をしているかルイズは分からない。 「…………さぁ」 ルイズはそれだけ言うとギーシュの部屋を後にした。 その頃ブラック・サバスは 「サバスさん。あまり強くするとゴムが切れてしまいますよ」 「…………」 パンツを洗っていた。 To Be Continued 。。。。?
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いつの間にか気を失ってしまったらしい。間田は仰向けのまま、ゆっくりと目を開けた。 「う・・・・」 眩しい。太陽の光が双眸に突き刺さる。―――太陽? そんなバカな。自分は学校から帰宅する途中だったはず。そんな時間帯に真上を見上げても、日の光に 目を焼かれるようなことはまずない。 今度は直に太陽を見ないように注意しながら、頭を持ち上げる。 視線の先には雲ひとつない青い空が広がり、太陽がさんさんと輝いていた。 「・・・・・ど、どうなってんだ・・・」 慌てて上半身を起こす。すると、身体を支えるため地面についた手のひらに、妙な感触が伝わってきた。 草だ。それもきれいに刈り揃えられた芝生。冷たいアスファルトの上ではなかった。 「・・・・・・・・・・・・・」 右を見る。灰色の壁が目に入った。視線を上にずらすと壁と同じ色の塔が見える。 まるでお城の中にいるようだった。 「杜王町にこんな場所あったっけか?」 今度は左を見る。黒いマントを身につけた妙ちきりんな連中が見えた。 なんだあれ。新興宗教か。しかし時代錯誤な格好してやがるな。 まるでRPGの登場人物がそのまま現実世界に出てきたかのような、古めかしい格好をしている。 あの青い髪の女の子なんて、でけえ杖持ってドラゴンまで従えてるぞ・・・って。 「・・・・・・・ドラゴン!?」 スタンド使いか、と間田は思わず身構えるが、よく見るとドラゴンは『実体』だった。 間違いなく、モノホンの血の通った『生き物』だ。 「ホントに・・・どうなってんだよ?」 そう呟き、頭を抱える。すると、すぐそばで草を踏みしめる音がした。 ―――反射的に正面を見る。 「あんた、誰?」 ド派手な桃色の髪に、鳶色の瞳を持った女の子が間田を見下ろしていた。 「・・・・俺は・・・間田敏和」 「どこの平民?」 「平民だぁ?」 聞きなれない言葉に、間田は思わずオウム返しで答える。 今どき、人のことをそんなエラそーに呼ぶ文化なんてあるんだろうか。 訝しげに女の子を観察していると、いつの間にか周りにいた黒マントの連中のひとりが声をあげた。 「ルイズ、『サモン・サーヴァント』で平民を呼び出してどうするの?」 誰かがそう言うと、間田を見下ろしている女の子以外の全員がどっと笑う。 「ちょ、ちょっと間違っただけよ!」 女の子は振り向き、鈴のようによく通る声で怒鳴る。 「間違ったって、ルイズはいつもそうじゃん!」 「さっすが、ゼロのルイズは言うことが違いますなァ~」 再び爆笑が沸き起こる。 ルイズと呼ばれた女の子はそっちを睨みつけると、人垣に向かって叫んだ。 「ミスタ・コルベール!」 人垣が割れ、ハゲ頭の中年男性が姿を現す。 間田は吹き出しそうになった。彼があんまりな格好をしていたからだ。 手には長い杖を持ち、真っ黒いローブを身に着けている。漫画やゲームに出てくる『魔法使い』そのまんまの格好だった。 その男に向かって、ルイズがお願いします、とかもう一回やらせてください、とか言いながら腕をぶんぶん振っている。 「あの! もう一回召喚させてください!」 「それはダメだ。ミス・ヴァリエール」 ミスタ・コルベールと呼ばれた男は首を横に振る。 召喚?なんだそりゃ。ファンタジーやメルヘンじゃないんだから。それとも、この子は頭がカワイソーなことになってるのか。 間田は気味悪げにルイズとコルベールを眺めていたが、しばらくするとルイズががっくりと肩を落とし、こちらに向き直る。 「あんた、感謝しなさいよね。平民が貴族にこんなことされるなんて、ありえないことなんだから」 「はあ? 貴族?」 アホか、と間田は付け足した。中世のヨーロッパじゃあるまいし、今どきそんなものいるわけがない。 間田を無視して、ルイズは諦めたように目を瞑り、手に持った指揮棒のようなものを振る。 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。 この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」 朗々とわけのわからない言葉を並べると、ルイズは座ったままの間田に顔を近づけてくる。 「な、何すんだ」 「いいから・・・じっとしてなさいよ!」 がし、とルイズは間田の頭を押さえ、頭突きするかのような勢いで間田の薄い唇に自らの唇を重ね合わせたッ! ズキュウゥゥゥン、と奇妙な効果音が周囲に鳴り響いたとか鳴り響かなかったとか。 「ん・・・・・・・・」 「・・・・・・・・!?!?!?」 一方、初対面の女の子にいきなりファーストキスを奪われた間田敏和! スタンドも月までブッ飛ぶ衝撃ってやつを、間田は身を持って体感していた。 ああー、でもあったかいッ! そして柔らかいッ! 女の子と手すら繋いだことも無いというのに、いきなりキスとは!! 俺って果報モンだなあ、とか思った直後。 「―――うわっチィィィィィ!?」 「キャアッ!? なっ、何すんのよ!」 突如として間田の左手の甲に、焼きごてを押し付けられたかのような熱さと痛みが走った! 思わずルイズを突き飛ばし、手の甲を押さえてうずくまる。 「ぐぅぅ・・・あ、熱ッ・・・・!」 呻く間田に、ルイズの呆れたような声が届く。 「使い魔のルーンを刻んでるだけよ。すぐ終わるからしばらく我慢してなさい」 「つ、使い、魔ァ?」 痛みは徐々に引いていく。恐る恐る右手をどけると、見たこともない文字が手の甲に刻まれていた。 コルベールが近寄り、呆然としている間田の手を取ってその文字をしげしげと観察する。 「ふむ・・・・・珍しいルーンだな。さて、それじゃあ皆、教室に戻るぞ」 コルベールはそう言うと、ふわりと宙に浮かび上がった。周りにいた黒マント達もそれに続く。 去り際に、黒マントの連中が何人か、ルイズに声を投げかけてきた。 「ルイズ! お前は歩いてこいよ!」 「あいつ、『フライ』はおろか『レビテーション』も使えないんだぜ」 「その平民、あんたにはお似合いよ!」 口々にルイズを馬鹿にした言葉を残し、黒マントたちは塔の高いところにある窓に吸い込まれるように入っていく。 間田はその様子をぽかんと口を開けて見つめていた。 「空、飛びやがった・・・・・・」 スタンドかと思ったがどうも違うようだ。スタンドのヴィジョンはまったく見えないし、何よりあれだけの人数が『空を飛ぶ』という同じ能力を持つスタンドを有しているとは考えられなかった。 自分の知らない未知の能力なのか、それとも―――。 間田は先ほどまでのことを思い返す。コルベールのどこからどう見ても『魔法使い』な格好。ルイズが口走った『召喚』という単語。そして、左手の甲に突如出現したこの妙な文字。 空を飛ぶという事象も、こう考えれば納得が――――。 「・・・・いくわけねーだろ。マンガの読みすぎだな、『魔法を使ってる』なんてよォ~」 頭を振ってこの馬鹿げた考えを断ち切る。起きたばっかりで頭がまともに働かないんだろう、そう考えることにした。 空を飛ぶ謎は結局解明できていないのだが、間田はそんなことはどうでもいいとばかりに立ち上がった。 まずここがどこなのかハッキリさせなくては。連中がどんなヤツらか考えるよりも、まずそっちを確かめる方が重要だ。 そう思い、憮然とした表情で突っ立っているルイズの肩を叩く。 「なあ、ここはどこなんだ?」 ルイズは振り向いた。間田をジト目で見ながら、『なんでこんなのが使い魔なのよ・・・』と呟く。 そして仏頂面を崩さず、不機嫌そうに言った。 「トリステインよ。そしてここはトリステイン魔法学院」 「・・・・・・ハイ?」 ルイズの口から出た言葉に、思わずマヌケ面で聞き返す間田。 魔法学院、と彼女は確かに言った。『まほう』という地名・・・・・ではなさそうだ。 「聞こえなかった? それとも頭脳がマヌケ?」 「・・・・・『まほう』って、まさかあの『魔法』か?」 「あの、って何よ。魔法は魔法でしょ? はぁ、陰気臭いうえにとんでもない田舎者なのね。魔法を知らないなんて」 「空飛んでたのも魔法?」 「そうよ、当たり前じゃない! ・・・ああもう、授業が始まっちゃう・・・! ほら、教室に行くわよ!」 苛立った様子でルイズは踵を返し、塔の入り口に向かって行く。 「あ、おい!」 間田は慌てて地面に落ちていた自分の荷物を回収し、ルイズの後を追う。 これが虚無のメイジ、ルイズと、優しくてタフで頼りになる(予定の)使い魔、間田敏和の出会いだったのである。 ルイズは不機嫌だった。今日召喚した使い魔のせいである。 ベルトだらけの奇妙な服を着た、17、8歳くらいの平民の少年だ。彼は部屋についてから、色々なことをルイズに聞いた。 ここはどこなのか? ルイズたちは何者なのか? 貴族とは? 平民とは? 質問は多岐に渡った。 トシカズ、と名乗った彼はひっきりなしに質問を繰り返す。それこそ子供でも知っているようなことまで聞いてくるものだから、ルイズはいい加減イライラしていたのだ。 おまけに、最後には『自分は違う世界から来た』とのたまった。これにはさすがのルイズも『こいつはイカれてるのか?』という疑念を持たざるを得なかった。 しかし、ルイズから見て間田の言動はハッキリしているし、何より彼が語る異世界とやらの様子が非常に詳細で、クスリ漬けのイカレポンチの狂言だとはとても思えなかった。 「・・・・でも、いくらなんでも信じられないわ。違う世界なんて・・・」 ルイズは困った顔で言う。テーブルを挟んだ向かい合わせの位置に座った間田は、夜食にともらったパンをかじりながら、神妙な顔つきでうんうん頷いている。 「俺も最初は夢でも見てんのかと思ったけどな、アレを見て確信したぜ。ここは間違いなく別の世界だ」 そう言って、窓を指差す。空には紅と翠の、それぞれ大きさの違う二つの月が浮かんでいる。間田の話では、自分のいた世界には月はひとつしかないのだという。 「別の世界に来た割にはえらく落ち着いてるじゃない」 「わけのわかんねーことが連続するとかえって落ち着くもんだ」 もし自分が異世界とやらに来てしまったのなら相当に取り乱してしまうだろう。ルイズはそう思ったが、目の前の使い魔の少年は異様に落ち着いた態度で、パンの最後の一口を口に放り込んでいた。 この落ち着きっぷりに、やはりこの平民は自分を騙しているのでは?という疑念が拭えないルイズは、あることを間田に問う。 「何か、証拠を見せてよ。あんたが住んでる異世界の物とか持ってないの?」 「・・・・証拠ねえ」 ルイズの問いに、間田は一緒に召喚された自分の通学鞄を取り出す。 写真つきの教科書でもあれば良かったのだろうが、あいにく置き勉ばかりしていたため、登校中に買ったマンガ雑誌しか入っていなかった。 仕方なく、間田は『ピンクダークの少年』が表紙を飾っているそれをテーブルの上に置く。 「何これ?」 「俺の世界の本」 「絵ばっかりじゃない。あんた絵本を読む趣味でもあんの?」 「絵本じゃねえ! んだよ、マンガがねーのか、ハルケギニアってのは」 ルイズはページをパラパラとめくる。確かに、四角い枠で区分けされたページにはディフォルメされた絵と見たこともない文字が書かれており、ハルケギニアのものではないということがわかる。 しかし、これだけでは・・・とルイズが悩んでいると、間田と一緒に召喚されたらしいもう一つの荷物が目に入った。 その荷物―――大きなナップザック―――は、所々がいびつに歪んでいて、わずかに開いた口の部分からは、入りきらなかったのか太い木の棒が一本飛び出している。 ルイズはその変な荷物を指差す。 「あっちは何?」 「え?・・・・・・いや、あれは・・・。その、ちょっとな」 先ほどまでの冷静さもどこへやら。急にしどろもどろになった間田に、ルイズはピンと来た。 ――――この平民は、何か怪しいモノを持っているッ! 人が見せたがる物は別に見たくもないが、人が隠そうとする物はすごく見たい。 今のルイズはまさにそれだった! すかさず間田に高圧的な態度で迫る。 「いいから見せなさいよ。それとも何? ご主人様に見せられない物でも入ってるのかしら?」 「そんなん入ってねーよ」 「じゃあ見せて」 間田は舌打ちし、ナップザックのジッパーに手をかける。 ジィィィ、と口を大きく広げ、飛び出していた木の棒を引っ張り出す。 ズルズルと少しずつ全身像が露になる、その怪しい荷物とはッ! 「・・・・・・・・・何これ」 先ほどと全く同じ言葉を、全く違う調子で言うルイズ。 「えーっと、木の人形、かな?」 『だから見せたくなかったんだ』といった感じの表情の間田。 ナップザックの中に押し込められていた怪しい荷物。 それは関節が人間とほぼ同じように曲がる、人間と同サイズの木製の人形だったのである。 ルイズは知るよしもないことだが、この人形はご存知の通り、間田のスタンド能力を発揮するための媒体。 人形に触れた人間そっくりに化けるコピー人形なのだ。 このバカでかくてクソ重い人形を、間田はナップザックに入れて毎日持ち歩いていたのだった。 もちろん、知らない人間が見ればそれはそれは白い目で見られるのだが、目の前にいるルイズも例外ではなかった。 完全に変態を見る目つきになっているルイズに、間田は慌てて話題を変えようとする。 「な、なあ! ところで使い魔って何すりゃいいんだ?」 「・・・・そうね」 首を傾げて考え込むルイズに、間田は無事話を逸らせたことにほっと息をつく。 やがて、ルイズが口を開いた。 「使い魔には主人の目となり耳となる能力が与えられるんだけど・・・できないみたいね。何にも見えないし、聞こえないもの」 「はぁ」 「あと、秘薬の材料を探してくること。あんた、できる?」 「全然わからん」 にべもなく言う間田。ルイズはため息をつき、続ける。 「最後に、主人を守ること・・・・は、もっと無理そーね」 「何でだよ?」 「オーク鬼とかトロール鬼とかに一発でやられちゃいそうだもん」 ま、あんたじゃその辺の平民にも負けちゃいそうだけどね、とルイズは付け足した。 間田は付け足された悪口にカチンと来たが、言い返すよりも新たに飛び出した単語の意味を知るほうを優先した。 「オークとかトロールって何だ?」 「亜人よ。一匹で手練の戦士5人に匹敵する力を持っていて、人間を食べる怪物なの」 「・・・・そんなのがいるのかよ・・・・」 間田は急に怖くなった。まるでゲームのような世界だと思っていたが、そんなゲームよろしくモンスターまで棲んでいるとは思いもよらなかった。 もし道端でそんなのとエンカウントしたら秒殺されてしまいそうだ。サーフィスは直接戦闘には向かないし、人間じゃない連中をコピーできるとは限らないからだ。 「・・・・やっぱり、元の世界に返してくれ」 「は?」 「だ、だってそーだろ!? なんか話聞いてると俺、役に立たないっぽいし・・・俺なんか送り返して、また新しい使い魔呼べばいいじゃねーかッ!」 見よ! このブザマな主人公(ヒーロー)の姿を。間田は見たこともない怪物の姿に怯え、優しくてタフで頼れる男になるという誓いも忘れ、元の世界に戻してくれと懇願している! だが! だからといって間田がこの物語の主人公の資格を失いはしない! なぜならッ!! 「無理よ・・・送り返す魔法なんてないもの」 「・・・マジで?」 「マジよ」 間田が主人公の資格を失うとすれば、それは間田が死んだときだけなのだッ! 契約した使い魔が死なない限り、サモン・サーヴァントの呪文を唱えても召喚のゲートは出現しない。間田は死ぬまでこの世界に居続け、この高飛車な女の子の使い魔として暮らさなければならないのだ。 もちろん、ルイズもこんな死にそーなコオロギみたいな男を使い魔とするのはごめんだった。今すぐブチ殺して新たな使い魔を召喚したいというのが本音なのだが、そんなくだらないことで罪に手を染めることはしたくない。 それに、たとえ無知でなんの取り柄もない平民だとしても、一応は初めて成功した魔法の成果なのだ。 「だからあんたには私の身の回りの世話をやらせてあげるわ。掃除、洗濯、その他雑用」 「・・・・・・・・・わかったよ」 間田は露骨に嫌そうな顔をしたが、先ほどのオークだのトロールだのとやり合うよりはマシだと考え、渋々頷いた。 それに、衣食住はこの子に世話してもらうことになるのだ。言うことを聞いておかないと食事を抜くくらい平気でやりそうな気もする。 ルイズはその答えに満足そうに微笑み、ブラウスのボタンをはずし始めた。 当然、間田は目を丸くする。 「ちょ、何やってんのォ!?」 「? 寝るから着替えてるんだけど」 「・・・・男が部屋にいるのにか?」 「男って、あんた使い魔じゃない。別に気になんないわ」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・」 いつもの間田なら鼻の下を伸ばしながらチラチラ着替えを拝むのだろうが、さすがにそんな気は起きなかった。 人はペットが部屋にいても気にしない・・・それと同じ。要するに、自分は人間扱いすらされていないのだ。 使い魔とは思った以上に待遇が悪そうだ。そう考えた間田の頭に、柔らかいものが投げつけられた。 手にとって見ると、それはッ! 「こっ、こっ、これわァァ~~ッ!?」 脱ぎたてホヤホヤの、パンティーがッ!! 「それ朝になったら洗濯しとい・・・・・って、何でポケットに入れてんの?」 「え!? ああ~ゴメンゴメン! つい興奮・・・じゃなくて、何でもない! 何でもないから!」 「・・・? 変なヤツね」 ルイズは寝巻きに着替え終わると、ベッドに潜り込む。 ランプを消そうとすると、部屋をキョロキョロ見回している間田が目に入った。 「俺はどこで寝りゃいいんだ?」 「あー、忘れてたわ」 ほい、とボロい毛布を間田に投げる。 「布団が見あたらねーんだけど」 「布団? そんなの必要ないでしょ。それじゃ、おやすみ~」 パチンと指を鳴らすとランプが消え、あたりは闇に包まれる。 間田は仕方なく固い床に寝転んだ。毛布を被ると、どっと疲れが押し寄せてくる。 「ハァ。寝る場所もマトモに与えられないなんて、奴隷と似たようなもんじゃねーか・・・」 耳を澄ますと、ふかふかのベッドの中からルイズの気持ちよさそうな寝息が聞こえてくる。 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 なんとなく悔しくなって、ポケットに手を突っ込み、さっき入手したパンティーを取り出す。 まだルイズのぬくもりがかすかに残っている。 固い床の寝床も少しはマシになった気がする。やってることは最低だが。 こうして、間田の使い魔生活第一日目は幕を閉じた。 彼は無事に元の世界に帰ることができるのか。そして、優しくてタフで頼りになる、ハードボイルドな男になることはできるのか・・・。 結末は、まだ誰も知らない。 .....To Be Continued →
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虹村億泰は憂鬱だった。 なんで俺が掃除を手伝わされているのだろうか、と。 マリコルヌとミセス・シュヴルーズが搬出された後の教室にはルイズと億泰の二人だけ。 他の生徒は既に引き上げていた。 「なーるほどなぁ~~~失敗するからゼロね。 俺もテストの点数悪いからよォ~~、似た物同士かもなぁー」 どこから持ってきたのか、三角巾にエプロンをして完全装備をした億泰が上半分の無い教卓を運び出す。 「アンタのバカと一緒にしないでよ!? 私は知識問題なら点数良いんだからね!」 「変わんねーだろー、実技失敗なら『ゼロ』点なんだからよォ~~。 お、だから『ゼロのルイズ』って事かぁー、納得だぜ」 でもよぉー、オレでも酷くても三十点は取るぜェ~と億泰が言った途端、 ルイズの額に血管が浮き出たような気がした。 どうやら今の言葉がルイズの怒りの琴線に触れたらしかった。 「ねえ」 「あァん?」 「ここ、アンタが片付けといてね」 「今だってそーじゃねーか! オメーも手を動かせルイズ!手をよぉ!」 「私、着替えて食堂行くから」 「人の話を聞きやがれこのボケがぁ! って、おい、ちょい待て!マジに行くんじゃ! 気に障ったんならもう『ゼロ』なんて言わねーからよぉ!」 その言葉にルイズが廊下から戻ってきた。 おお、真面目にやってくれんのね!?と億泰が嬉しそうに思った瞬間! 「あんた、向こう一週間ご飯抜きね」 そう言い放ってスタスタと行ってしまった! よく見ると笑顔を浮かべているように見えたが、それは酷く引きつっていた。 言われた億泰はというと…… 「…………?ウギギギギギ?」 理解不能だった。それはもう宝クジを破られた重ちーのように。 ただし、こっちには理解可能になる瞬間なんて来ないけど。 とにかく、ルイズが居なくなった事で『ザ・ハンド』が使えた分はかどったが、 机にめり込んだ石ころの破片に、マリコルヌの血反吐、 天井に突き刺さったミセス・シュヴルーズの歯など簡単には取れない物が多く酷く面倒だった。 「ブゲ!?」 その後食堂でルイズが見てないのを確認してこっそり入ろうとした億泰だったが、 滑車に乗って物凄い勢いで滑ってくる見覚えのある岩に吹っ飛ばされた。 「よ、ヨォ……アンジェロ……」 アギ 犯人は見なくても分かる。 わざわざこんなことをする理由が他の連中には無い。 鼻血を垂らしながら床に這い蹲り、 やっぱり逃げたほうが良いような気がしてきた億泰だった。 「ヂクショー、腹減って動けないわ、 アンジェロ岩に吹っ飛ばされるわってアイツは悪魔かコンニャロォーッ!」 動く気力も無く、する事もないので億泰は窓から空を眺める事とした。 真っ青な空が恨めしい。 と、一匹のドラゴンが飛んでいる様子が見えた。 (あー、アイツは……って聞いてもいねーから名前なんて知らねーよ。 でも……羨ましいよなァ~~!自分の飯があってあんだけ遊んでられるんだからよぉぉお! オレが泥ならアイツは星だなァー) と、先程の授業で窓越しに目で会話した(ような気のする)ドラゴンを眺める。 視線に気づいたドラゴンがきゅいきゅい、と慰めるような鳴き声を出したような気がした。 「だ、大丈夫ですか!? い、生きてますよね?」 ふと死体のように転がっていた億泰に声がかけられた。 転がって見上げると、銀のトレイを持ったメイドの少女が驚いたように見つめてきている。 「正直もうダメかもしれねぇ…… なあ姉ちゃん。俺の遺言でも聞いてやってくれ。 『ランク外 5話 スコア3120 ルイズにアンジェロ岩で吹っ飛ばされて餓死』ってな」 「え……ええと、そう言うって事はミス・ヴァリエールの使い魔になったって言う…… あ!そうだ、よろしければ厨房に来ませんか? 賄いで良ければ空腹で死なれる前にお出しできますけど」 「なんだってェーーーーっ!! 行く、行くぜ!行かしてください!?」 倒れたままの姿勢から急に飛び上がったものだから、 少女は相当驚いたようだったが、暫くすると少し吹き出した。 「うわああああああ、はっ腹が空いていくう~~~~~~~~っ! 食えば食うほどもっと食いたくなるッ! ンまぁーーーいっ!!」 朝食のスープなんかとは比べ物にならなかった。 流石にかったいパンとうっすいスープと果物数個で体が動く程億泰は燃費がよくない。 そこにきてまともに作られただけでも神の施しのような物だ。 そうじゃなくても、十分に美味い代物だったのだが。 「食材の余りとかから作ってるシチューなんですけど…… よかった。お代わりも十分ありますからね」 娼婦風スパゲティをズビズバ食った時のように勢いよく食べる億泰を少女はニコニコしながら見つめている。 使い魔に囲まれていた時もそれなりに和めたが、 すぐに爆発で台無しにされた事を考えるとやっと心の洗濯ができたような気がした億泰だった 「ところで、なんであんな事になってたんですか?」 「ングッ、ゴクッ……ああ、なんか急に機嫌悪くしたみてーでさぁー。 少しだけ事実言っただけだったのによぉーっ」 「まあ!貴族相手に言えるなんて勇気が有るんですね!」 「別によォ~~、貴族だとか平民だとか俺にゃー関係ねーしなー。 魔法が使えるからって威張ってんじゃーねーよっての」 「ゆ、勇気がありますわね……」 唖然とした顔で億泰を見つめるシエスタをよそに、空になった皿を返した。 「美味かったぜェー、ホント~~にあんがとな!」 「あの、お腹が空いたらいつでも来てくださいな。 私達の食べている物でよかったらお出ししますから。 えーと……」 「ん?ああ、億泰だ。俺は虹村億泰だぜ。 つーか、うん、すまねえな。ホント。 そんじゃさァ~~、世話になりっぱってのもワリーし、 手伝える事あんなら手伝わせてくれねーか?」 ルイズの下着は気づかれるまで毎日ガオンしてやると心に決めたが、 この少女の手伝いなら何でもしていいや、という気分だった。 「私はシエスタといいます。 それなら、デザートを配るのを手伝ってくださいなオクヤスさん」 ケーキの並べられた大きな銀のトレイを億泰が持ち、シエスタが配っていく。 途中、金色の巻き髪に薔薇をシャツに挿したキザな勘違いメイジが居た。 周りに友人が集まり、口々に冷やかしているのが聞こえてくる。 「なあ、ギーシュ!お前、今は誰と付き合ってるんだよ! 「誰が恋人なんだ、言いやがれギーシュ!」 「つきあう?僕にそのような女性はいないよ。 薔薇は多くの人を楽しませるために咲くのだからね」 勘違いここに極まれり。反吐が出る事この上ない所だった。 一人だったら間違いなくボコってるなァ~と少しムカつきながら億泰はその集団から目を背けた。 「あ……」 「ん?」 「すみませんオクヤスさん、 ちょっと厨房に戻ってケーキの補充をしてきてくださいな。」 「おう」 そう言って億泰は厨房へ行き、シエスタが勘違いの所へと駆け寄っていく。 「あの、落としましたよ?ミスタ・グラモン?」 「何を言ってるんだメイド。 それは僕の物ではな……」 「おお!それはもしやモンモランシーの香水の壜ではないか!?」 「つまり、お前は今!モンモランーと付き合っている!違うか?」 「違う、いいかい?彼女の名誉のために言……」 そう言いかけた時、ギーシュのテーブルの両側から足音が聞こえてきた。 「ギーシュ様……『二股』しましたわね? チャンスは差し上げません、向かうべき道は『一つ』です」 「な、ケティ!?違うんだ!」 「これは『試練』ね。 二股に打ち勝てという『試練』と私は受け取った。 人の成長は……未熟な過去を清算することだと…… ねえ?貴方もそう思うでしょう?ギーシュ・ド・グラモン」 「モンモランシー、違うんだ誤解なんだ。 彼女とはただいっしょにラ・ロシェールの森へ遠乗りしただけで……」 ギーシュは冷静な態度を取ろうとしていたが、心の中では三つの思いが交錯していた。 『彼女達を落ち着かせなければ』 『ヒィイ~~!怖いよマーマ!』 『たかがメイドの分際で!何か有ったら仕置きの時間だ!』 「行くわよ!ケティ!」 「はい!お姉さま!」 右のケティからワインボトルのフルスイング! 左のモンモランシーからケーキの乗った皿のフルスイング! 左右の少女の怒りの間に生じる真空状態の圧倒的破壊力はまさに歯車的裁きの小宇宙!! 「……あのレディたちは、薔薇の存在の意味を理解していないようだ」 ハンカチを取り出して、ワインとガラスとクリームでグシャグシャになった顔を拭うギーシュ。 ある程度拭き終わったところで、呆然としていたシエスタに話しかけた。 冷静になっちまうほどにプッツンしているようだ。目がうつろで焦点が合っていない。 「どうしてくれるんだい? 君が軽率に香水の壜などを拾い上げてくれたせいで、こんな事になってしまった。 二人のレディを傷つけてしまったんだぞ?」 「も、申し訳ございません!」 「謝って済む問題だと思っているのか!? フン、やはり平民は平民か。 空気を読んで拾わない程度の事さえ期待するほうがバカだったね」 ギーシュが薔薇の造花を胸ポケットから抜き取った。 それを見てシエスタは『魔法を使われる』と恐怖に震え、腰を抜かして泣きながら土下座をする。 「す、すみませんすみませんすみません!」 「フン、今すぐ出て行きたまえ。君にこのトリステインでメイドをやる資格なんてない」 鼻で笑い造花をポケットへと仕舞うと、ギーシュは振り返ってその場から立ち去ろうとする。 「おいおいおいちょっと待ちやがれテメーよぉ。 テメーの不始末くらいテメーでやりやがれってんだボケが」 が、そこに厨房から戻ってきた億泰がギーシュを呼び止めた。 「なんだい君は?……ああ、ゼロのルイズの使い魔だったね、確か。 使い魔の平民如きが軽々しく話しかけないでくれたまえ。 貴族に対する礼という物を知らないのかい?」 使い魔の平民如きという言葉が引っかかるが、そんな事はどうでもよかった。 それよりもカチンと来たのはギーシュがテメーの二股の不始末をシエスタに押し付けていることだ。 厨房から戻ってきた時点で既にワインとケーキのツープラトンが炸裂していた所だから、顛末は分からない。 しかし、理不尽な内容でシエスタに八つ当たりしている事はよく分かった。 「おー、俺バカだからなァー!んなモン知らねーぜ! だからよぉーっ!」 「ぶっ!?」 億泰がそのまま自らの拳をギーシュの鼻へと叩き込んだ。 鼻の骨が折れる音と共に鼻血を撒き散らしてギーシュが倒れる。 「おれの『ザ・ハンド』を使うまでもねーっ 顔ボゴボゴにしてやっどォーッ」 「な、ま、待っ杖、杖もまd……ウヒィイイイイ!?」 その後の様子は、言わない方がいいだろう。 ギーシュ・ド・グラモン →メイジに治療されるも全治一日 魔法を使う前にボコられたせいで億泰に対して強い恨みを持った。
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夜、陽気に賑わう酒場に、一人の男が入ってきた。 マントを着けているが、身なりからすると貴族とは思えない。 幅の広い帽子と、担いでいるこざっぱりとした荷物からすると旅人の様だ。 だが、酒場の喧騒の中その男に注目する者は居なかった。 その男は、大声で歌っている男の側を通り抜け、踊っている者たちを押しのけ、喧嘩をしている連中を避けてやっとカウンターにたどり着いた。 「お隣よろしいかな?」 緑色の髪の女に声を掛け男は席に着いた。 声を掛けられた女は気だるそうに顔を上げた。 「はん?…あんた誰よ?……さっきまで居たボーヤは?」 かなり呑んでいるらしい。ワリと整った顔は酒の為に火照っている。 年齢は二十代後半ぐらいだろか。 「坊やって…こいつの事かい?」 足元を指差す男。 見ると16、7の少年が酔いつぶれて寝ている。 「そうよ…いや、違ったかも………もうどうでもいいわ。マスター!もう一杯!」 「それじゃあ」 足元の少年を跨いで席に着く男。 「僕に奢らせてくれないか?」 「あら~いいの?じゃあ一番高い奴」 「おいおい…まあいいか。僕にも同じのを頼むよ。僕はジャック。君の名前は?」 少しの間、酒が注がれているグラスを見つめてから、女は答えた。 「…マチルダよ」 「マチルダか…ステキな名前だ」 「あら、口説いてるの?」 「そう聞こえるかい?」 グラスを受け取ると、ジャックはマチルダに向き直って言った。 「乾杯しないかい?」 「何によ」 「僕らの出会いに」 「プッ。何よそれ」 「では、アルビオン共和国の戦勝一周年を記念して」 「いいわよ」 「乾杯」 「乾ぱ~い」 神聖アルビオン共和国がトリステインに宣戦布告をしてから2年。 戦争はたった1年で終結してしまった。 当初、トリステインとゲルマニアが同盟を組むというと言う噂もあったのだが、開戦とほぼ同時に反故にされてしまった。 さらにトリステインのカリスマであるアンリエッタ王女が、開戦直後のタルブで戦死してしまったのだ。 突然の悲報に兵士達の士気は落ち、王宮勤めの貴族たちはアルビオンの事よりも、王女をタルブへ行かせたのは誰か?と責任を押し付け合った。 その様な状態では『空の怪物』『羽を持つ悪魔』『灰の塔』等とあざなされるレキシントン号率いる空中艦隊と戦えるはずも無く、トリステインはアッサリと降伏したのだった。 その後、ジャックとマチルダは他愛も無い話をしながら酒を楽しんでいた。 深夜に近づいているというのにあたりの騒音はいっそう酷くなってきている。 「所であんた仕事は何?あ!ちょっと待って当てるから……吟遊詩人?」 「ハッハッハ、何でそう思ったんだい?」 「いや、何か帽子がそう見えたからね。で、本当は何さ?」 「こいつだよ」 そういってジャックはマントをめくって見せた。 「杖…あんた貴族かい」 マチルダの顔が少し険しくなった。 「いやいや、傭兵さ。とっくの昔に没落しててね。貴族制が廃止されたんで少しスカッとしてるよ」 「フフ、あたしもだよ」 「君も…するとやっぱり傭兵でもやってたのかい?」 「まあね。この戦争のおかげでちょいと稼がせてもらったよ」 頬杖をつくマチルダ。 そんなマチルダにジャックが質問した。 「戦争の前は何をやっていたんだい?」 「何って…まあ色々さ」 「色々とは?」 「…レストランとか、宿屋で働いてたよ」 「それだけじゃないだろう?」 「…どういうことだい?」 ジャックの顔が険しくなった。 「魔法学院でも、だろ?」 「フン!傭兵にしちゃ礼儀正しいと思ったら…あんた何者だい?」 袖口に隠し持っている杖に手を掛けるマチルダ。 「早まるな」 手で制するジャック。 「ちょっと話を聞きたいだけさ」 「話って?」 杖に手を掛けたまま怪訝そうな顔になるマチルダ。 「あの日の事をだ」 「あの日…」 マチルダの顔に、一瞬怯えが過ぎった。 「そう。あの日だよ」 ジャックはマチルダにグッと顔を寄せた。息が掛かるぐらい近くに。 「…一体何があったんだ?」 「何って…」 喧騒に掻き消されそうな声で呟くマチルダ。 「3年4ヶ月前の春の召喚の儀式の日。トリステイン魔法学院の教師・生徒・使用人全員が死んだ。何故だ?」 「……」 「トリスタニアで検分書を読んだよ。全員即死。殆どの者に外傷は無い。被害者の死んだ場所はわりとバラバラで、厨房で死んでいた者。 洗濯物の山に埋もれていた者。廊下に倒れていた者。木に寄りかかっていた者。生徒全員が居眠りしている様に机に突っ伏して死んでいた教室も在るそうだ。 3人ほど、首の骨が折れていた者があったな。フライ中に落ちた様だが、フライを使ってて落ちるか?普通。落ちたために死んだのではなく、死んだために落ちたんだろうな。 そして二年生だけは全員サモン・サーヴァントを行っていたであろう広場で死亡していた…」 ジャックは溜息を付く様に一旦言葉を切った。 「検分書に因ると、二年生の誰かが悪質な病気を持った生物を呼び出したのだろうとある。確かに病気なら被害者たち殆ど無傷という説明が付くかもしれない。 だが、明らかに何者かから逃げて、狼に怯えた羊のように数人で寄り添って死んでいた者たちも見つかっている。病気の感染者から逃げたのか?違う。感染すると即死するのでこれは違うだろう。 では病気を持った生物から逃げていたのか?それも違う。スクウェアのメイジ達が検査したが生徒と生徒の使い魔以外の痕跡は見られなかった。 …というか、病原体や毒物の痕跡すら全く見られなかったのだよ!そしてそんな大惨事のなか…君だけが生き残った。何故だ!!」 ジャックに両腕をつかまれ、ビクッとするマチルダ。 「あ、あたしは……」 一瞬言葉に詰まる。 「あたしは何にも知らないよ」 ジャックの目が鋭くなった。 「隠してもために成らんぞ…」 「隠してるんじゃあない!本当に何も知らないんだよ!!あの日あたしは…」 マチルダことロングビルは辟易していた。 魔法学院に潜り込んだはいいが、あのスケベじじいが終始セクハラをして来るわ、忌々しい白鼠を使って下着を覗こうとするわ、あまつさえ昨日は着替えを覗かれたのだ。 これも辛抱、宝物庫からお宝を頂くまでの我慢だ!お宝さえ手に入ればこんな所さっさと辞めてやる!!ついでにセクハラの事を上に訴えてやろうか。 そういえば、今日は使い魔召喚の儀式があるんだっけ?使い魔を手に入れてハシャぐあまり、覗きをやろうとする生徒がいるから気を付けろってシュヴルーズが言ってたが、やれやれそんな奴はオールドオスマン一人で十分だよ… 等と考えながら学院長室の前に来たロングビル。 ノックしてから「失礼します」と声を掛ける。 ………………… おかしい。 いつもならスケベじじいが浮かれた声で招き入れるというのに、返事が無い。 「失礼します。入りますよ」 ドアを開けて中に入ると、いつもの席に座っていたオスマンが、ハッとこちらを向いた。 その瞬間、ロングビルは心臓が締め付けられるような嫌な感じを覚えた。 こちらを見たオスマンの顔には、はっきりと恐怖が表れていた。 何?何がどうしたのよ?まさかフーケだとバレた?!いや、そんな筈は無い! もしフーケだとバレたとしても、オスマンが恐怖を抱くだろうか?このあたしに。 ここに勤め始めてから初めて見たオスマンの恐怖。他人の恐怖が、ロングビルに言い知れぬ不安を与えた。 「ど、どうかなさったんですか」 オスマンはロングビルの方と遠見の鏡の方を交互に見た。 「大変な…大変な事が起こったんじゃ!!こ、こんな事が!!」 「オールドオスマン。落ち着いて下さい」 と言ったものの、自分も落ち着けぬロングビル。 「何が起きたのですか?」 「こ、これは!こんな事が!!まさかこんな!これはどういう事なんじゃ!!??」 日ごろからボケた様な事を言うオスマン。 しかし、これは違う。これはボケ老人の戯言ではない! 知能の高い者が理解不能の状況を目の当りにして混乱しているんだッ!!。とロングビルは思った。 オスマンはロングビルと遠見の鏡の方を交互に何度も見ている。 「ああ!何ということじゃ!!これは…そ、そういう事か!何ということじゃぁああ~!!!」 叫ぶと同時にイスから立ち上がり、ロングビルをビシッと指さし指示を出す。 「ミス・ロングビル!!急いでぜんs――」 指示はそこで途切れた。 唐突に。何の前触れも無く。糸が切れた操り人形が倒れるように、オスマンは崩れ落ちた。 「オールドオスマンッ!!」 持っていた書類を投げ出し駆け寄るロングビル。 鼻の前に手をかざすが、呼吸が無い。 首筋に指を当てるが、脈が無い。 死んでいる。 死んでいる、という事には多少慣れていた。 色々危ない橋も渡ってきた。 死を覚悟した事もあった。 目の前で人が死んだことも一度や二度ではない。 もちろん…殺した事もだ。 だが… だが……この『死』は異常過ぎる!! 矢を射られる訳でもなく、氷を射られる訳でもなく、炎に焼かれる訳でもなく、岩に潰される訳でもなく、唐突に『死』が現れた。 どうする?助けを呼ぶか?いや、死んだ原因は何だ?その原因はまだここにあるのか?オールドオスマンをも殺せるような原因が。 このオールドオスマンを殺せる…? 背筋に激しい悪寒が走った。 胃の中から何かがせり上がってくる。 駄目だ、助けを呼んでいる場合ではない!宝物庫なんて知ったこっちゃあない!!逃げるんだ!! 自分の盗賊としての勘がそう叫んでいる。 部屋を駆け出したロングビルは、手近な窓を見つけると、そこから飛んだ。 今まで出したことも無い速度で。 自分の荷物さえも置いて。 三日後。 トリスタニアの宿屋で、学院の人間が全員死んだと聞いたロングビルは、しばらく震えが止まらなかった。 「それだけか?」 ジャックの声は、落胆した声で聞いた。 二人は多少静かな方へ席を移していた。 「そうよ。だから言ったでしょ、何も知らないって…がっかりさせて悪かったね」 「いや」 気を取り直すようにジャックが言った。 「疫病ではないと確信できただけでも進展さ」 「フ。目の前で死なれて、その死体を触ったあたしが死ななかったからね」 と自嘲気味に言ってからグラスを煽るマチルダ。 酔いもスッカリ醒めてしまった。 「では僕はこれで失礼させてもらうよ」 そう言って席を立つジャック。 「協力を感謝する」 歩き出そうとした所をマチルダが引き止めた。 「ねぇ…一つ聞いて言いかい」 「何だね?」 「…あんた何でこの事件を調べてるんだい?」 「何でそんな事を聞く?」 「いや、何か随分がっかりしてたからさ…ちょっとした好奇心だよ」 「………大した事じゃあない。トリステイン魔法学院に許婚が居たんだ。それだけさ」 「そう。悪い事聞いちゃったね」 「いや。では今度こそ失礼する」 そう応えると、ジャックは酒場の喧騒の中へ消えていった。 一人残されたマチルダは、少し悩んでから、次のボトルを開ける事にした。 許婚か……一体どの『教師だったんだろう』…。…シュヴルーズ? 「まさかね」 呟いてから、新しいワインに口を付けた。 魔法学院で一体何が起こったのか?ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルドは生涯この謎を追い続けた。 家庭を築いて後も、暇を見つけてはトリステイン魔法学院跡地に赴き、時には家族と、時には一人で調査を続けた。 しかし、結局最後まで何も判らぬまま、その生涯を閉じる。 では、何が起きたのか?時は3年4ヶ月前に遡る。 春の召喚の儀式の日。 進級試験に臨んでいたルイズは、同級生が何の問題も無く使い魔を召喚して行った後に、自分が召喚したものが信じられなかった。 「……先生!召喚のやり直しをさせてください!!」 ルイズが叫ぶ。 現れた物は、一人の『おじさん』だった。 何の変哲も無い、普通の、どう見ても平民にしか見えない『おじさん』だった。 青い帽子を被り、パイプを咥え、青緑の上着を着ている、無精ひげを生やした『おじさん』……。 到底、使い魔にしたい相手でもなければ、コントラクトサーヴァントしたい相手でもない! 「残念ながら、ミス・ヴァリエール。儀式のやり直しは許可できません」 監督をしていた教師のコルベールが言う。 ルイズにとっては無情な言葉だが、コルベール本人も前代未聞の出来事にこれ以上の事を言えないのだ。 「そんな!!でも――」 「すみません」 「!!」 いつの間にか、コルベールとルイズのそばに来た『おじさん』。 「ちょっと質問したいのですが」 「な…なんでしょうか?」 コルベールが答える。顔に少し、緊張の色が見える。 「サンレミの病院は、どちらにいけば良いのでしょうか?」 質問しながら、帽子を取る男。 「サン・レミの…病院ですか?」 「何言ってるのよあんた。それより引っ込んでなさい!今は取り込み中よ!しかも!あんたのせいでね!」 「おや?」とルイズの顔を覗き込む男。 「な、何よ!」 「ちょっと待って。この私の事知ってますよね?そうでしょう?私ですよ」 知ってるんですか?という顔のコルベール。 「知らないわよ!こんなおっさん!見たことなんて無いわ!」 「そうですか…でも、今わたしを見て感動したでしょう?皆さんも」 と周りを見渡す男。え?という顔の生徒達。 確かに、この『おじさん』には何か引きつけられる物がある。何かわからないが。 「…あんた何なの?」 ルイズが聞く。 「わたしは…ヴィンセント」 パイプを咥えなおし、帽子を被る男。 「ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ。『ゴッホの自画像』です。昨日カミソリで耳を切り落としました………所で病院は、どちらでしょう…?」 こうして、同日中にトリステイン魔法学院は全滅した。
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フーケを倒し、学院に帰ることとなったドッピオとルイズですが 「・・・・っ」 「・・・・・・」 ドッピオの足はとても酷いことになっていました 何か支えが無いと歩けないほど酷く、ルイズに少し寄り掛からないと歩けないのです 「・・・・・・」 ルイズは自己嫌悪を起こしていました 結局は今回自分は邪魔なだけで自分がいなければこの使い魔はすぐに勝てたと言うのに 「・・・・あの」 自分の責任で負傷した使い魔に謝ろうと、ルイズはたまらず声をかけてしまいました 「今回は・・・その・・」 謝ろうとしても謝罪の言葉が見つからずモゴモゴしていると 「謝らなくていいですよ」 「え?」 まるで自分のことを見透かされたかのように声をさえぎられたのでした 「今回はあの場でルイズさんを取り残したのが悪かったんです ・・・本当にすいません」 事実ドッピオはロングビルがいるから大丈夫ということを考えてルイズを残しました 結果そのあとの戦いに支障がでました。ドッピオは自分が甘いと考えていました 「・・・なんで?」 その後、主からでた言葉は疑問でした 「なんでそんなに自分ばっかり責めるの?ディアボロだって私を邪魔って言ったのよ? なんでアンタは・・・私を責めないの?」 なんで、そんなの考えるまでも無い。自分の不注意で招いた結果だったのにルイズを責める道理は無い そう思っていたドッピオは 「全部僕が悪いんです。力を持たない主を守れなくて何が使い魔ですか? ・・・もしルイズさんが自分のことを悪いと思っているなら」 一区切りおいてドッピオは 「成長してください。自分の未熟な過去に打ち勝って強くなってください 今回のことに対する謝罪はそれで十分です。まずは・・・」 ドッピオは笑って 「その泣きそうな顔をどうにかするところから始めましょうか」 そう言いました。ルイズはあわてて顔を隠します ・・・今は寄りかかる訳にもいかないのでドッピオは座っています 目をゴシゴシしてから向き直るともうその顔はいつもの顔です 「・・・今回は助かりました。次回もまた期待していいですね?」 微笑みながらそう聞いてくる使い魔に 「もちろんじゃない!」 なんの臆面もなく答えられたルイズの顔には憂いは浮かんでいませんでした 「・・・頼りにしてくれてありがとう」 聞こえたか聞こえなかったかわからないほどの小声でしたがドッピオはしっかり聞こえていました ですがあえてそれには何も言いません。しばらく無言で歩いた後 「そろそろ学院が見えてきますね」 「さぁ、さっさと帰るわよ」 「もちろんです」 辺りはだんだんと暗くなり2つの月が見え始めていました 帰った後ドッピオはすぐに保健室へ運ばれました。傷だらけですがどれも致命傷ではありません 二日ほどで完治したドッピオはいつも通りに家事をこなしていました その後、破壊の杖を取り戻したコンビとして周囲から注目の的となったルイズは困惑しドッピオはあまり取り乱しませんでした そんな毎日を少し楽しみながらドッピオは家事にいそしんでいました。 12へ