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布が擦れる音で、 目を覚ました。 まだ、寝付いてから そんなに時間が経っていない。 薄目を開ける。 人の影。 「ーーーっ!」 声を上げそうになるが、 次の瞬間、見慣れた顔が見えた。 せつなちゃん。 机の上に、貸していた本を 置いている。 確かに、せつなちゃんは 今日中に返すって言ってたけど、 わざわざ、アカルンで来なくても。 せつなちゃんが、 こっちを見た。 私は、あわてて 寝たふりをした。 「ブッキー...寝ちゃった?」 答えなかった。 せっかく、こっそり 返しにきてくれたんだから。 気づかないふり。 せつなちゃんの気配が、 近づいてくる。 いつもと違う、少し荒い息。 どうしたの...? せつなちゃんの息が、 近くなった。 唇にふれる、 やわらかい感触。 えっ...? してる...の? 抵抗できなかった。 するはずも、なかった。 だって、私もせつなちゃんと ずっと、したかったから。 パジャマのボタンが、 そっと外される。 前を、はだけられた。 せつなちゃんに 見られている。 「きれい...」 せつなちゃんが息を漏らし、 私の胸に、触れてきた。 しっとりとした指が、 私の胸を撫でる。 撫でていた指に、だんだんと力が入り 手のひら全体で、やわやわと揉まれる。 せつなちゃんの手のひらの中で 先端が、みるみる尖る。 口に含まれ、 舌で転がされる。 寝たふりを、続けた。 起きたら、せつなちゃんは すぐに、やめてしまうだろう。 体中を、甘い刺激が 駆けめぐっている。 動けない分、感度が 増しているみたい。 パジャマのズボンと、 下着をゆっくりと降ろされる。 すっかりあふれてしまったそこに、 せつなちゃんの唇が押しつけられる。 びくんと、体が跳ねる。 私の蜜が、ゆっくりと かき回され、音をたてる。 声が、漏れそうになる。 体が、乗ってくる気配があり、 別の音が、近づいてきた。 薄く、目を開く。 せつなちゃんのが、 目の前にあった。 自分の指で、弄っている。 蜜が跳ね、しずくが 私の首すじに落ちている。 せつなちゃんも、 して欲しいの...? せつなちゃんの、荒い息。 かき回される、私の中。 高まる気持ち。 もう、我慢できない。 両手で、せつなちゃんの お尻を抱え込んだ。 「ひゃっ...!」 思いきり、貪り付く。 「ブッキー!ごめん!ごめんなさい!私つい...!」 すでに大きく膨れているつぼみを、 舌ではじく。 「ごめんなさい!ごめ...あっ!ああん!」 あっという間に、せつなちゃんの腰が 激しく跳ねた。 あふれ出した蜜を、 舌ですくい取る。 せつなちゃんの、味。 そのまま、続けた。 「まって!今されると...ああっ!」 せつなちゃんの腰が、 立て続けに跳ね回る。 腰を抱え込んだまま、 何度も、続けた。 荒い息が、響いている。 ぐったりと横たわったせつなちゃんは まだ小刻みに痙攣している。 「せつなちゃん、かわいい...」 お尻から、背中にかけて 舌を這わせる。 それだけで、何度も体が跳ねる。 「もっと...する?」 返事は、無かった。 後ろから手を回し、 せつなちゃんの胸を包む。 うっすらと汗ばんだふくらみが 手の中で踊る。 先端を、軽くつまむ。 「ふうぅっ!」 せつなちゃんの体が、 また激しく跳ねた。 「ねぇ...もっと、する?」 「何度も...うなずいてるわ...」 せつなちゃんを仰向けにし、 上から向かい合う。 真っ赤に紅潮したほお。 たっぷりと、うるんだ瞳。 艶めかしく、開いた唇。 尖った先端どうしが擦れる。 せつなちゃんが眉間にしわを寄せ、 甘い声を漏らす。 そのまま、のしかかる。 お互いの先端を飲み込むように、 ふたりの膨らみが密着し、形を変える。 唇を重ね、舌で戯れる。 せつなちゃんが、うっとりとした 表情で、喉を鳴らす。 「もっと...しよっか?」 こくんと、せつなちゃんがうなずく。 せつなちゃんの両手が、 私の首に回される。 長い夜に、なりそう。
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わたしは雨が好きだ。ものごころついた時にはもう好きだった。 どの季節に降るものも好きだったが、中でも、ひと雨ごとに秋が深まり冬が近づくこの季節の雨が一番好きだった。 雨で思い浮かぶことはたくさんあるけれど、幾度となく思い返してしまう出来事がある。 あれはそう、こんな風に雨がしとしと降っていた日のこと。まだランドセルを背負っていた頃の……。 学校の帰り道の途中に、原っぱがある。そこを通り過ぎようとすると、ふいに猫が近寄って来た。 近所で飼われている子だった。診察にも何度か来たことがあったから、わたしを覚えてくれてたみたい。 なーお、と小さく鳴いて、わたしの足元に頭を擦り寄せる。首筋を撫でるとごろごろと目を細める。 あんまり可愛くて、つい夢中になって遊んでしまい、気づいたらだいぶ時間が経っていた。 ふいに、音もなく降り出した雨が頬を濡らした。 いけない、帰らなきゃ。わたしは猫ちゃんにさよならして、走り出した。傘を持って来なかったから。 わたしは雨は好きだけど、濡れるのはごめんだ。いったん風邪を引くと長引く体質もあったから、できれば濡れたくはなかった。 ランドセルが重くて走るのが辛くなった頃、駄菓子屋の前を通り掛かった。おばあちゃんの許可を得て、しばらく雨宿りさせてもらうことにした。 夕立ちはだんだん強くなり、本降りになってゆく。 「やみそうもないね。お母さんに電話するかい?あんた、動物病院の子だろ?」 「おばあちゃん、ありがとう」 駄菓子屋のおばあちゃんとそんなやり取りをしているわたしに、店の外から誰かが話し掛けて来た。 「「いのりちゃん!」」 幼なじみのらぶちゃんとみきちゃんだ。 らぶちゃんは桃色の傘に桃色の雨合羽という出で立ち。対象的に、みきちゃんは上から下まで蒼で統一している。 何故か二人とも、目を丸くしてわたしを見ていた。 「らぶちゃん、みきちゃん、今帰り?」 「そんなわけないでしょ!?」 「そうだよ、どこ行ってたの? 尚子おばさん探してるよ!」 「あ……」 お母さんがわたしを探している。それを聞いて、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。 「あたし達、尚子おばさんに頼まれたの。ねー? みきちゃん」 「うん、いのりちゃんが帰って来ないから一緒に探してって」 涙があふれて来る。 「おばあちゃん、どうしよう……」 「しょうがないね、あたしが電話しといてやるから、友達の傘に入れてもらって早く帰んな」 「はい、ありがとう、ごめんなさい」 店を出ようとするわたしに、二人が傘を差し掛けようとする。 「いのりちゃん、あたしの傘にどうぞ!」 「らぶ、何言ってんの。入るならアタシの傘でしょ」 「えっと……」 わたしはどちらの傘に入ればいいかわからなくなり、困ってしまった。 「はいはい、じゃあこれでどうだい? これなら皆で入れるだろ。雨合羽のないお嬢ちゃんが真ん中だよ。返すのはいつでもいいからね」 後ろから大きな傘が差し掛けられた。駄菓子屋のおばあちゃんの黒い傘だった。 「本当にありがとう、おばあちゃん」 真ん中に傘の柄を持つわたし。右隣りに、閉じた桃色の傘を持ったらぶちゃん。 左隣りのみきちゃんは、閉じた蒼い傘をバッグを持つように手首に下げている。 おばあちゃんの傘は少し重かったけれど、おかげで3人仲良く雨の中を帰ることができたんだ。 ぎゅうぎゅう肩を寄せ合いながらの帰り道は、狭かったのに何故か楽しくてたまらなかった。 お母さんにもちゃんと謝れたのは、らぶちゃんとみきちゃんが見ていたからかもしれない。 「おばさん許してくれて良かったね、いのりちゃん!」 「うん、ありがとう」 「また明日ね」 「うん、またね」 わたしのせいで遅くなったふたりを、お父さんが送って行くことになった。 「また明日、学校でねー」 桃色と蒼色の傘が曲がり角を過ぎて見えなくなるまで、わたしはずーっと手を振り続けていた。 「そんなことがあったの……。だからブッキーは雨が好きなのね」 「やっぱりせつなちゃんもそう思う?」 「ええ、思うわ」 木陰で本を読んでいて急に夕立に降られたわたしは、雨宿りしながら止むのを待っていた。 そこを偶然通り掛かったせつなちゃんが、傘のないわたしを見つけて自分の赤い傘に入れてくれ、今こうして並んで歩いている。ちょっとだけ昔の思い出話をしながら。 「小さい頃の三人に、会って見たかったな」 ぽつり、とせつなちゃんがつぶやいた。 寂しそうな横顔に何も言えず、わたしは黙ったまま、せつなちゃんの傘の柄を持つ腕に自分のそれを絡め、そっと力を込めた。 ――――せつなちゃんのそばには、今のわたし達がいるよ―――― 黙って歩くふたりの頭上では、真っ赤な傘の表面を滑りながら雨が踊る。踊りながら雨は、ぽんぽろろん、と歌い続ける。 ふいに、せつなちゃんの歩みが止まった。わたしはせつなちゃんの顔を見る。 せつなちゃんは、わたしを見つめてひとこと、こう言った。 「ありがとう、ブッキー。――――そばにいてくれて」 わたしはやっぱり何も言えず、かぶりを振る。何も言えないけれど、何も出来ないけれど、わたし達はこうして寄り添える。 こんな雨の中でも、曇った日でも、晴天の陽光の下でも。戦いのさなかですら。 だから、今はもう、寂しくないよね……。 わたしと組む腕に、返事をするように、せつなちゃんがぐっと力を込めた。 肌寒いはずの11月の夕暮れの中を、ぽかぽかの温もりに包まれながら家路をたどるふたりに、雨は優しい音色を与え続けてくれていた。
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「ブッキー、今のとこリズムおかしいわ。フォローしきれない」 「あ、ごめんなさい。美希ちゃん」 「どんまい、もういっかい行こう」 「崩れた時はベースのほうが合せちゃうのはどうかしら」 四ツ葉町の公園内。 カオルちゃんのドーナツ屋さんから電源を引いて、バンドユニット“クローバー”の練習が続く。 どうしてこんなことになったのかと言うと……。 「ねえ、みんな。バンドやらない?」 喜色満面の表情で突然ラブが切り出す。 「「「ええ~~~~」」」 今年のクローバーフェスティバルのゲストは、トリニティとある大物ロックバンドらしい。 ゲストによって、その年のイベントは決定する。昨年はトリニティとオードリーだったので、 ダンスと慢才大会が行われた。 今年は漫才ではなく――。 「あたしは本当はダンス部門で出たいんだけど」 「アタシはダメよ。プロダンサーのスカウト蹴ってモデルになったんだもの。モデルしてる間 はもうダンスはしない。これはケジメよ」 いい加減な気持ちでは、もうダンスステージには立たない。美希は前からそう宣言していた。 「うん、でも、せっかくせつながこまめに会いに来てくれるようになったんだし、美希たんも 夏休みで、しばらくこっちに居られるんでしょ。また皆で何かやりたいんだ」 「わたしはかまわないけど、バンドなんていきなり出来るものなのかなあ?もう一ヶ月もない よね」 「私もかまわないわよ。限られた時間の中でも精一杯頑張ってみせるわ」 美希はため息をつく。 「要するに、後はアタシだけってことね。いいわよ、もう。確かにダラダラ休み過ごすのは性 に合わないしね」 「決まりだね! 大丈夫、お祭りだもん。気負わなくていいと思うんだ」 「でも、やるからには徹底的にいくわよ、ラブ。アタシは完璧なんだから」 かくして、期間限定バンドユニット、クローバーが誕生した。 「実は機材はミユキさんのツテで中古を借りられることになってるんだ。曲はカオルちゃんが 作ってくれるって」 「根回しいいわね、ラブ。でも……カオルちゃんて本当に何者なんでしょうね」 「またよ、ブッキー。ドラムはリズム楽器なんだから、周り気にして外してちゃ意味ないのよ。 引っ張らないと」 「うぅ……美希ちゃん、わたし出来る気がしないの」 「ブッキーは周りに合せるタイプだものね、あまり向いてないのかもしれないわね」 「そうね、ブッキーに出来ないとは思わないけど、確かに時間が無いわね」 「いっそ、せつなと交代しちゃう?」 ラブにはボーカルに専念してもらって、可能な限りダンスの動きを入れたいと言うのが全員の 意見だった。 「私、ドラムやるわ。大丈夫、私はイメージの中で秒単位で時を刻めるの。難しい技術までは 無理でも、リズムだけは取ってみせる」 「せつなは一番練習時間が短いものね。曲のコントロールはアタシがサポートするから」 「わたし……ギター、今から覚えられるかな。ドラムよりマシだとは思うけど……」 ブッキーが申し訳無さそうに言った。足手まといになってる、そう思うことでより自信をなく していた。 「いっそギター無しで、キーボードトリオ構成にするのはどうかな、お嬢ちゃんたち」 休憩だよん、と言ってドーナツとコーヒーを運んできたカオルちゃんが口を挟んだ。 「キーボードなら――わたしピアノ習っていたから」 ブッキーが目を輝かせて言った。 「決まりね! これで行くわよ」 激しい練習の毎日が始まった。 同日、夕刻の桃園家。 「そうだったの、大変なことに巻き込まれちゃったわね、せっちゃん」 「ラブの行事、イベント好きにも困ったものだなあ……」 あゆみと圭太郎から白い目で見られるラブ。 「だって……」 「大丈夫、私は嬉しいの。また、みんなと同じ事を頑張れるのが楽しいの。 それにラビリンスには音楽もダンスもないから、ダンスは広めようと思っていたわ。 そのためにも、音楽を経験しておくのもいいと思ったの」 なるべくたくさんの幸せを学んで持ち帰りたい。そうせつなは語った。 「それじゃあ張り切ってみんなで応援にいかないといけないわね」 「僕らも精一杯応援して盛り上げようじゃないか」 「おとうさん、それ私のセリフ」 せつなが帰るまでの夕食のひと時、桃園家は絶えぬ笑い声に包まれていた。 「もしもし、ブッキー。うん、今なにしてるの? そう、うん、アタシはお風呂入って一休み してるとこ」 心地よい疲れ。見慣れた街並み。落ち着く自分の部屋。そして穏やかなブッキーの声。心から くつろげる。 夢に見たフランスでの刺激的な生活の日々。不満なんてあるはずもないけれど、やっぱりアタ シはこの街が好き。ここに住む人たちが好き。 ラブとブッキーとせつなが好き。 本当はわかってる。距離的にはともかく、時間的に一番会いにくいのは実はアタシ。 だから今回のことも、なるべくアタシと時間を共にして思い出を作ろうって配慮なんだって。 そして確かに楽しいと感じられる。同じ目的で頑張れる、一つになれる。遊んでいるだけでは 味わえない濃密な時間。 だから……このバンドは必ず成功させる! 美希は再びベースを取り出した。 「続いて、エントリーナンバー4番。“クローバー”の皆さんです。 作詞・作曲・振り付け・カオルちゃん。曲名は“Four Leaf Clover”です!」 「行くよっ! みんな」 ステージ目指して駆け上がる。 晴れ渡った青空。野外のステージを埋め尽くす大勢の人々。ダンスとは違った独特の緊張感。 高まる鼓動をエネルギーに変えて、テンションを上げていく。お客さんの声援を胸に刻む。 心の中で刻むビートが限界に達した時、アタシたちは楽器とマイクを手に取った。 ダンダンダンダン、ダダダッ、ダンダンダン せつなのドラムが軽快に響く。打面への角度、叩く強さ、キレはまだまだだ。だが、ペダルの 使い方を、技をいち早く身に付け、正確無比なリズムでメンバーを牽引する。 正確に、正確に、正確に、走らず、崩さず、感情を抑えて淡々と叩き続ける。 美希がリズムに音階を乗せていく。ちょっと変則だけど、自分の役目はコントロール。 誘導し、ためる。 そして弦を叩き付けるような高速のビート、抑えてきたテンションを一気に解放する。ラブ! オーライ!美希たん。 ラブのボーカルが炸裂する。ダンスで鍛え上げた肺活量から生まれる膨大な声量。生まれた時 から活動的なラブの本領発揮だ。 激しいダンスを披露しながら力強い歌声を曲に乗せていく。 ソロパート、ブッキーの美しい旋律が響き渡る。テクニックではメンバー中随一、低音を片手 で弾きこなし、ギターには出せない音の厚みで空間を広げていく。 そしてクライマックス。せつなのドラムが熱を帯びる。美希が弾き切れろとばかりにベースを かき鳴らす。 ブッキーのキーボードが荒れる曲に整合性を持たせる。 激しいダンス! トリニティの秘蔵っ子。本物のダンサーの実力が、キレが、観客の目を釘付 けにする。 ラブの高域のシャウトが炸裂する。 四人の想いが、熱意が、会場中の人々心に届きビートアップする。 曲が終わる。クローバーが静かに頭を下げる。観客は総立ちになって割れんばかりの拍手を送 った。 「それじゃ、美希たん。元気でね」 空港まで見送りに来た三人が最後の別れを惜しんだ。 「ずっと待ってるからね、美希ちゃん。がんばってね」 「そのうち、アカルンで遊びにいかせてもらうわ」 美希は言葉に詰まって、そして言った。 「バンド、楽しかったわよ。また来年もやりましょう」 「来年は、また漫才だったりしてね」 「だったら私と病院ネタの続きやりましょう」 「それだけは……勘弁して」 みんなで笑いあった。そうこれは一時の別れでしかない。 せつなもしばらく忙しくなるらしい。少しの間会えなくなるのかもしれない。 でも、大丈夫。 道は別れても必ず繋がっている。心が繋がっていれば体も必ず引き合うから。 幸せは未来に待ってるんじゃない。繋がる今を、この瞬間を精一杯生きて、楽しい思い出に変 えていく。 だから、美希たん、ブッキー、せつな。これからも、毎日、一緒に幸せゲットだよ。
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イルミネーションが恋人たちを招き入れる。 光り輝き、白い息が夜空に吸い込まれる。 今日は特別な日。待ち焦がれた日。 どんなお洋服を着てきてくれるのかな? どこへ連れてってくれるのかな? こうやって待ってる間もわたしの心は弾んで。 「るんるん」 思わず口にしちゃう。そんなわたしの唇にリップクリーム。 落ち着かなきゃ。どきどきしてるわたしの胸を、心を、そっと手で押さえて。 ―――ふぅ 深呼吸。吸い込む空気は冷たくて、ちょっと辛い。今年の冬は気温の差が激しい。 夜になればぐっと冷え込んで。早くあたたまりたいな…。それが今のわたし。 腕時計。 もう何回見ちゃってるのかな。早く会いたい。 「うん!アタシ超カンペキっ!」 煌びやかな町並みにも屈しない美貌。ショーウインドウに映る彼女は宝石のよう。 その輝きの行く先は愛する妖精の元へと導かれ。 今日だけは仕事を入れなかった。何があっても必ず会おうと。 去年出来なかった約束。二人だけの時間を。大切な日に貴方と―――。 自然と早足になってる自分が少しおかしくて。チョット子供かな? 家を出る時は凄く寒く感じたのに。今はなんだかぽっかぽか。 着込んだせいかって?正解~。 (ホントは違うけど…ネ、くすっ) 歩道にはブルーのLEDが飾られていて。アタシ色。何だかお祝いされてるみたいで。 あ、でもアタシがデコったらここにイエローもつけちゃうかな。 握られた右手の中には小さい箱。渡せなかったから今年こそは。 ヨシっ――― 乙女の気合。蒼き流星、いざ参らん。 天使の女神像の前で待ち合わせ。 今年は二人きりで聖夜を共に。あなただけを――― 心と心が繋がる瞬間、灯火は幸福へといざなう。 〝Happy Christmas〟 ~END~
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なんだか身体が熱いな… 特に胸の辺りが…そういえば、いったいここは何処だ? 確か私は、プリキュアに敗れ、そのまま意識を失ったような… 「気がついた?」 話しかけられ、後ろから抱きすくめられていることに気づいた。 き、貴様はプリキュア!キュアピーチ! 「何故貴様がここにいるのだ!?」 「帰ろうとしたらアナタを見つけたんだよ。あのまんま放っておけなくて、誰も住んでないボロアパートにこっそり運んじゃった。良かった、気がついて」 布団の中で、ピーチが腕や脚を絡ませている。 温かいな…。温めてくれていたのか…。 モミモミモミ…気持ちイイな…胸を揉んでくれているのか…ちょっと恥ずかしい…うは!じゃなくて! 「貴様!何故私の胸を揉んでいるのだ!」 「たはー!気がついた?だって…モミ…おっきくて…モミモミ… 羨ましいなーって見てたら、つい…モミモミ」 「ん…ヤ…メ…は、離せ…あぁっ…」 「ねぇ、前から思ってたんだけど、この衣装ヤラしいよねぇ。だって着たまま揉めちゃうもん」 そう言いながらおもむろにピーチは、私の胸あてと胸の間に手をすべりこませ、直に蕾に触れてきた。 ピーチの少し冷えた手のひらが心地いい。 「ふ…貴様の衣装の方が、あっ…イヤラシイ、と思うぞ…っく」 負けず嫌いな私は、後ろ手にピーチの股間をまさぐってみる。 ふわふわとしたマイクロミニスカートの下には、な、何も着けていない。 「な!ノーパンとは!どういうわけだ」 「さあ、製作サイドの都合じゃないのかなぁ」 そう言いながら、ピーチは後ろに回した私の両腕を紐のようなもので結びはじめた。 「貴様やはり…!私を拷問するつもりだな!口が裂けてもラビリンスの情報は漏らさないぞ」 「え?違うよ。触られてたらイースに集中できないんだもん」 結び終えると、ピーチは私を布団に座らせ、後ろから抱きしめた。 「イース…アタシずっとこうしたかったの」 耳元で囁きながら、再び胸を弄びはじめる。 左手で胸の突起を摘みながら、右手で股間に触れる。 腹部の隙間から右手を差し入れる。 中指で茂みに分け入ると、そこはすでに蜜であふれかえり、ぴちゃぴちゃ音を立てる。 「すご…イースのココ、熱くてとろけそうだよ…」 「っく、やだぁ…ふ…」 「やだって言うけど、ココは嫌がってないみたいだよ?ほら…」 ピーチの指が私の敏感な部分を捕らえた。蜜をすくいながら指で塗りたくられ刺激されると、自然に甘い声が出て腰か浮かぶ。 「声、出しちゃダメ。誰か来ちゃうよ。我慢して」 ピーチは私の耳を舐めながら、胸をまさぐり、秘部を擦り、言葉で責める。 「イースのココ可愛いね。膨れてきたよ…もっと、もっとって言ってるみたい。あれ?下のおくちがヒクヒクしてるよ、入れてほしいのかなぁ?」 ヌプ… 「ん…!ふあぁ、やだ!はあ…っ」 「入っちゃった。ヤだった?じゃあ出さなきゃ… でもぬるぬるしてて気持ちイイから出したくないなぁ」 ピーチは指を出し入れしながら、指のつけ根で硬くなった部分を擦る。 「んん!っは…も…おかしくなっちゃう!」 「イク?イク?」 「ん…イク…あああイイィ!ピーチィ!」 敵の指でイカされ、私は果てた。 しばらく羞恥心と快感の余韻で動けなかった。 悔しい…情けない…。 「腕が痛い…ほどいて」 「あ、ゴメン、今ほどくね」 ほどいてくれたピーチは、私を抱きしめくちびる同士を合わせた。 「気持ち良かった?」 「あ、ああ…何故くちびるを合わせるんだ?」 「だって好きだから。好きだから触りたいの」 そう聞くとなんだか恥ずかしい。 「ふん!…き、貴様も気持ち良くしてやろうか」 「平気。アタシはイースがイク顔見れただけでイっちゃったよ!」 私はピーチのスカートの中に手をすべらせる。 「嘘をつけ…」 ピーチのそこはちゅくちゅくと音を立て、私の指を受け入れる。 「洪水のようだな…」 「くはー!まいったなぁ」 触りはじめると、何故だか止まらない。 「ねぇ、舐めて…」 「こ、こうか?」 怖ず怖ずと確認する私に、ピーチは細かく指示を与える。 「そう、そこ…上手だよ…んふ…」 ぴちゃぴちゃ…舐めながら見上げると、ピーチは自ら胸元に手を入れ、乳房をあらわにし慰めはじめた。 どれくらい舐めつづけたのだろう。 「あ」 突然ガクンと跳ね上がり、ピーチは達したようだった。 「イースにイカされちゃうなんて…最高だなぁ」 「バカ…」 ピーチのくちびるに自分のをそっとくっつけた。
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美しかった紅葉も、その多くは散り、落ち葉を攫う風の冷たさが身に染みる。 空も、どことなく薄暗くて――街から色彩が失われる季節。 それを跳ね除けようとでもいうのだろうか、商店街は赤を基調とした華やかな装飾を纏う。 外路地にはイルミネーションの明かりが灯り、民家にはクリスマスリースやポインセチアの花が飾られる。 そんなお祭りムードに乗せられて、カオルちゃんのドーナツカフェでテーブルを囲む四人。ラブは調子に乗って、デタラメな歌を口ずさむ。 今夜はイブで、明日はクリスマスだ。昨年はラビリンスとの戦いのため、みんなで祝うことができなかった。 そこで、「今年こそは!」と、兼ねてより計画していた、クリスマスパーティーの最終打ち合わせを行っていたのだった。 「真っ赤なお尻の、トナカイさんは~♪」 「ちょっと、ラブったら、それじゃおサルさんでしょ? お鼻よ」 「あははっ、そうだっけ?」 「まったく、せつなに教わってどうするのよ……」 「ラブちゃんらしい。でも、本物のトナカイさんのお鼻は黒いのよ」 祈里も楽しそうに笑い、いかにも獣医の卵らしい解説を付け加える。 「それじゃ、どうして歌では赤いことになってるの?」 「それがよくわかってないの。ただ、そのトナカイさんは、赤い鼻のせいで仲間外れにされてたんだって」 「ひど~い! そんなのあんまりだよっ!」 せつなが不思議そうな顔で質問する。彼女がこの世界に来て、一年と半年が過ぎようとしていた。これでも随分と一般常識を身に付けたのだが、祈里の知識には及ぶべくもない。 祈里が伝承を思い出しながら続きを話そうとすると、興奮したラブが身を乗り出して抗議してきた。 「落ち着いてラブちゃん、あくまで言い伝えだから。でも、その子の鼻が明かりになるからって、サンタさんに誘われたそうよ」 「最後は、幸せになれたのね? 良かった」 「それでサンタさんの服も赤いのかしら? 赤と言えばせつなの色。幸せの色って感じよね!」 「美希たん、いいこと言う!」 どんな話題になっても、廻り回って、せつなを気遣う言葉になる。彼女は苦笑しつつも、そんなみんなの気持ちを嬉しく感じていた。 今回のパーティーだって、クリスマスを初めて祝う、せつなのために企画されたものに違いなかった。 『たいへん! せつなが消えちゃった!? ~子供の頃のクリスマス~(起の章)』 「あ~、でも楽しみだなぁ~。せつなは、サンタさんに何をお願いするの?」 「えっ? サンタさんにお願いって?」 「ちょっと、ラブ!」 「ラブちゃん!」 突然、とんでもないことを言い出すラブに、せつなはキョトンとして聞き返す。 美希と祈里もビックリしていたが、ラブはそしらぬ顔で続ける。 「クリスマスにはサンタさんがやってきて、プレゼントをくれるんだよ」 「それは、本当はお父さんやお母さんの扮装なんでしょ? この世界の風習なのよね」 せつなは大真面目で答える。クリスマスプレゼントは、子供たちが一年で一番楽しみにしているイベントだ。 いわば大いなる幸せであり、興味が無いはずがなかった。 「あっちゃー、やっぱり知ってたか……」 「当然でしょ? 子供じゃないんだから」 せつなの返事に、ラブはあからさまにガッカリした表情を浮かべる。 「そうかなぁ~、あたしなんて一昨年まで信じてたのに」 「ラブ、さすがにそれは……」 「そんな人いないと思う……」 呆れ顔の美希と祈里は、せつなと顔を見合わせて一斉に吹き出す。「え~っ」と不満そうにしていたラブも、すぐに一緒になって笑った。 もし、せつなが信じてくれたら、自分がサンタになってプレゼントする気だったんだろう。 「でも、どうしていつかバレるのに、サンタのフリなんてするのかしら?」 「そりゃあ、子供の喜ぶ顔が見たいからじゃ……」 「そうだけど、そのままご両親が渡しても、同じように喜ぶと思って」 せつなの素朴な疑問に、美希が自信なさそうに答える。そんなこと、考えたこともなかったからだ。 彼女は、それでも納得がいかない様子だった。わざわざプレゼントを渡すのに、他人に、しかも架空の人物に成りすます理由がわからない。 「夢を持って欲しいからじゃないかなぁ?」 「子供がサンタクロースを信じたら、何かいい事でもあるの?」 「いい子しかプレゼントをもらえないって話だし、、躾の一環なのかしら? でも、そんな風に考えたくないわね……」 「あたしね、それ、一昨年にお父さんに聞いたことがあるんだ」 それは、ラブが中学一年生の時の、クリスマス・イブの夜だった。 中学校に入って、ラブも女の子の自覚が出てきたのか、部屋に鍵をかけて寝るようになっていた。 コッソリ忍び込もうとした圭太郎は、扉から入るのを諦めて、ベランダから窓を外して侵入を試みた。上手く外せたものの、外から冷たい風が吹き込んで―― 「それで目を覚ましたラブは、本物のサンタだと思い込んで抱きついて、おじさんのカツラが外れたというわけね」 「オチまであるなんて……」 美希と祈里が、その時の様子を想像してクスクスと笑い出す。せつなはその後のことが気になるのか、黙って聞いていた。 「うん。それでショックだったのもあって、どうしてそんなことをするのか、お父さんに聞いたの」 「なんて言ってたの?」 せつなは気になって、ラブに話の続きを催促する。ラブは頷いて、圭太郎の言葉を思い出す。 プレゼントを手に入れるためには、お金を払って購入する必要がある。だから普通は親が用意する。だけど、親が子を愛して贈り物をするのは当然のこと。 家族でもなく、友達でもない他人が、プレゼントを贈ってくれる。そんな、無償の愛が世の中にはあることを、信じて育って欲しいからだと。 いつかは、必ずバレる時が来る。だけど―― 「不思議な出来事や、無償の愛を信じた子は、きっと優しい子に育つ、か。おじさん、いいこと言うわね」 「確かにラブちゃん、人一倍優しいよね」 「ラブだけじゃないわ」 「「「えっ?」」」 「そうやって、たくさんの愛情に包まれて育つから、この街の人はみんな優しいのね。その頃の私は、他人を出し抜いて、メビウス様に認められることだけを考えていたわ」 「せつな……」 胸の内を晒すように、せつなは寂しそうにつぶやいた。 さっき聞いた、赤い鼻のトナカイのことを思い出す。周囲と違う存在は、仲間として受け入れられない。それは、トナカイも人間も同じだろう。 もちろん、ラブたちが自分を仲間外れにすることはないだろう。だけど、トナカイがサンタクロースの側に新しい居場所を見つけたように、自分にも、他に相応しい居場所があるのかもしれないと。 いつの間にか、みんなの表情が曇っているのに気が付いて、せつなは慌てて笑顔を作る。 元よりそんな過去は承知で、だからこそ、これまでの分まで楽しんでもらおうと、企画してくれたクリスマスパーティーではないか……。 迂闊な発言を後悔して、せつなは、なんとか他の話題に切り替えようと頭をひねる。 そんな重い空気を、横から会話に割り込んできた大男が吹き飛ばした。 「そういうことなら、うってつけの物があるぞ?」 「うっ……ウエスター!?」 金色の髪を持つ、筋肉質で大柄な体格の美青年。一年前にラビリンスに帰還した、ここには居るはずのない人物。 それは――ウエスターのもう一つの姿、西隼人であった。 「いつ、この街に来ていたの? もしかして、ラビリンスに何かあったの!?」 せつなは、ウエスターとサウラーの厚意で、彼らにラビリンスのことを任せて四つ葉町に帰ってきている。 もし、不測の事態が起これば、彼女もイースとして故郷に戻らねばならない立場にあった。 「そうじゃない。実はサウラーに用事を頼まれてな、種子島まで行ってきたんだ。今はその帰りだ」 「そんなところに、何があるの?」 美希が不審に思って尋ねる。放蕩癖のある彼だが、その真剣な表情を見れば、バカンスに行ってたわけじゃないことはわかる。 ウエスターは、手にした水槽を見せた。そこには一体の、直径一センチほどの小さなクラゲが入っていた。 「可愛いっ!」 「可愛くないっ!」 「で、このクラゲがなんだっていうの?」 祈里のつぶやきに激しくツッコミながら、美希が気持ち悪そうに尋ねる。 タコに限らず、この手の軟体生物は得意ではない。 「こいつはベニクラゲと言ってな、全パラレルで唯一、『不老不死』の能力を持つ生き物なんだ。こいつを研究して不老――とまでは行かんが、長寿の薬を作ろうとしているらしい」 「感心しないわね、ウエスター。サウラーが言い出したの? そんな命をいじる研究より、もっと学ばなければならないことがあるはずよ!」 「そう言うな。やっとラビリンスが解放されたんだ。なのに、先の短い老人はあまりにも気の毒だろう? 際限なく使うつもりはない」 危険な研究かと警戒するせつなに、ウエスターはそこまでの効力は無いと説明する。 人間とクラゲでは、遺伝子の塩基配列が違いすぎる。よほど上手くいっても、十年か二十年、寿命を延ばせるだけらしい。もちろん、失敗すればただの美容薬だ。 「ねえねえ、それで、さっき隼人さんが言ってた、うってつけの物ってのは?」 「フフフ、それはな――こうするのだっ!」 “スイッチ・オーバー” 「ホホエミーナ! 我に力を!」 “ホホエミーナ~! ニッコニコ~!” いきなり西隼人がスイッチオーバーを行うと、懐から黄色いダイヤを取り出して、水槽に突き刺した。 出現する――超巨大クラゲ。ニコニコと明るく笑っているのが、余計に不気味であった。 カオルちゃんのお店のお客さんはもちろん、広場にいた住人たちも慌てて逃げまどう。「困るのよね~」と、カオルちゃんは冷静にボヤいていた。 「ホホエミーナ、やれ!」 「ニッコニコ~」 ホホエミーナは、せつなを触手で捕らえて自分の方に引き寄せる。彼女も抵抗しようとするが、生身でどうにかなる相手でもない。 ラブたちは、とっさに腰のリンクルンを探る。――が、今の彼女たちが持つのは、普通の携帯電話だった。 リンクルンは、タルトがスウィーツ王国に持ち帰っていたのだった。 「クッ、ウエスター! あなた、どういうつもり!?」 「なに、子供に戻りたいみたいだったからな、協力してやろうというのだ。心配するな、取って食おうってわけじゃない」 ホホエミーナの触手の先が、せつなに向けられる。ほんの一瞬、チクリとした痛みが腕に走った。 それを見届けて、ウエスターはホホエミーナを元の姿に戻した。 「痛っ! 何をしたの? ウエスター!」 「さあな? 後のお楽しみだ。俺からのクリスマスプレゼントだと思ってくれ」 「ふざけないでっ!」 怒りの形相で睨むせつなを、ウエスターは気にした風もなく受け流す。 そして、背を向けて立ち去った。 「一体、なんだったの?」 「さあ……」 「まあ被害は無くて、良かった……よね?」 ラブ、美希、祈里が、離れて行く彼の後ろ姿を、ポカンと眺めながらつぶやく。 せつなの顔色が良くないように見えたので、四人はパーティーの打ち合わせを中断して家に帰ることにした。 コポコポとポットが沸騰する。ラブは温めたティーカップに、数種類の葉っぱを入れて湯を注いでいく。 以前、美希からもらったハーブティーセット。普段はあまり口にしないのだが―― (せつな、大丈夫かなぁ? まさか隼人さんが、酷いことするとは思えないけど……) あの後、せつなは気分が優れないからと、部屋に篭ってしまっていた。 もっとも、ウエスターの行動は不可解だったが、せつなに危害を加えたと思っているわけではない。 以前の彼ならともかく、今は、共にメビウスと戦った仲間である。それに、せつなの気持ちに配慮して、四つ葉町に帰してくれた恩人でもあった。 コンコンと、ラブは控え目にせつなの部屋のドアを叩く。 しかし、返事は無かった。 「せつな、ハーブティーを淹れてきたの。気分がスッキリするんだって」 カチャリ、とドアが少しだけ開かれる。しかし、せつなが顔を見せることはなかった。 「せつな、どうしたの? 具合悪いの?」 明らかに様子がおかしい。ラブは不安を感じて、もう一度問いかける。 「うるさいっ! 入れ!」 「えっ? ……」 聞こえてきたのは、確かにせつなの声。でも、口調がどう考えてもおかしかった。これでは、まるで―― それに、なんだか子供っぽい、かんだかい声にも聞こえた。 ラブは大きく深呼吸して、せつなの部屋に足を踏み入れる。 ドアの先に居たのは、つややかな黒髪と、真っ白な肌の、可愛らしい小さな少女。 いや、顔立ちは整っているが、可愛くはないかもしれない。鋭い目付きでラブを値踏みするように見つめる、幼い子の姿があった。 「あの……せつなは? それに、あなたは一体?」 「せつな、だと? そんな者はここにはいない!」 なんだか、前に、どこかで聞いたことのあるセリフだな……と思いつつも、ラブは少女の次の言葉を待つ。 「わが名はイース。ラビリンス総統、メビウスさまのしもべだ!」 小学生だとしたら、きっと低学年だろう。 幼い女の子は、精一杯の威厳を見せようと、大きく胸を張って左手を伸ばす。 それは、可愛らしくも滑稽な動きだった。大抵の者が見れば、「かわいぃ~」と抱き付きたくなるくらいに愛らしい姿だった。 しかし、当のラブにそんな余裕は無かった。 ガチャンとティーカップを落とし、零れた中身はカーペットに染み込んでいく。 少女の顔立ちに宿る、確かな面影。そして何より、見覚えのある、大きすぎて裾の余ったぶかぶかのお洋服。 その女の子は……確かにラブの親友で、仲間で、家族でもある、“東せつな”その人であった。 新2-431へ
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ラブ 「うおお…せつなについてかないとー」 美希 「ブッキーこないなんて…楽しみにしてたのに」 祈里 「うう…ラブちゃんと会いたかった…。」 せつな「ブッキーと買い物なんて楽しみだわ…」
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ザクザクザクザク…… くちゅん 寒い。 朝早くから庭でスコップ片手に雪をすくう私を、ウエスターとサウラーは興味深げに見ていた。 クリスマスとはこの世界では一大イベントらしい。 「イース、メリークリスマス!!」 来るとは思っていたがまさか真っ赤な服装で現れるとは予想外だった。美希サンタだよ、といわれようやくサンタクロースの衣装をモチーフにしたものだと理解した時には、反応の悪い私に対して彼女は少しむくれていた。 胸元は開いていて、白く長い脚など8割以上肌をさらしていて……サンタクロースすらつい最近まで知らなかった私にわかれという方が難しい。 「クリスマスイベントの仕事でこんな時間になってごめんね」 「別に待ってないわ」 「そうよね。寂しかったよね」 私の皮肉など慣れたのかスルーしまくる美希を部屋に招き入れると、ケーキ持ってきたからとスタスタとキッチンへ向かう。 ナイフを出したり、皿を用意したり今では彼女の方が私よりこの家のことが詳しいのではないかと思えるほど手際がいい。 私はやることもないので大人しくリビングに行きソファーに座った。 イースのことが好きなの、付き合ってくれませんか。 美希に告白された時のことを私は今でも覚えている。 私の記憶が正しければ 嫌だ。お前のことなんか私は嫌いだ。 そう返した。 私が睨みつけると彼女はわかったと言って私を抱きしめた。 そして今に至る。 どう考えてもおかしい……。 私の理解する限り恋人とはお互い好きで初めて成り立つ関係ではないのか。 「お待たせー。食べよ」 私の考えは美希が白いケーキを目の前に出したことで中断された。フォークで刺してもふわりとした感触が伝わってきて、なぜか少し嬉しい。 「あーんして」 彼女のフォークの上のケーキを私は黙って口に入れる。甘い味が口に広がり、咀嚼している時彼女を見ると目を細めて微笑んでいた。 美希は綺麗な指でケーキに乗っていた苺を持つと、ヘタを取り半分ほど唇で挟んだ。 彼女が目を閉じたのを確認して、私は頬に手をそえ顔を近づける。 「ん……」 唇が触れない程度の所で歯をたてるとぐちゅっと苺が潰れ汁が滴る。苺は噛み切らず今度は深く唇ごと貪りつく。 苺の香りが鼻につき、甘ったるさが増す。 唾液と苺が混ざり合いお互いを行き来して、口の中の存在が相手の舌だけになったとき、どちらからともなく口を離した。 美味しかった?と目で訴える彼女にもう一度キスをすることでこたえる。 二人を纏う空気が濃厚なものに変わり、私と美希は自然と私の部屋へ向かった。 ベットへ押し倒すと、欲望に濡れる蒼い瞳を隠そうともせず私を見る。 「相変わらず殺風景な部屋よね」 「寝るためだけのような場所だから」 白い肌に舌を這わせようとしたとき、色のつながりであることを思い出した私はぴたりと動きを止めた。 美希の非難を背中に受け部屋を出る。 まったく……これを忘れたらあの努力が水の泡だ。 戻ってきた私をジト目で見る美希だったが、私の手の上のモノを見てぱあっと顔を輝かせた。 「雪だるま!作ったのコレ?」 予想以上に喜ぶ彼女を見て自然と私の頬も緩む。 外で待たせていたのでふて腐れているかと思ったが、雪だるまは朝と変わらず美希の手におさまった。 本で見た絵を参考に、お菓子や枝で装飾した手のひらサイズの粗末なモノだがそれでもありがとう!うれしい!と美希は喜んでくれた。 「かわいい。でもこの部屋だと溶けちゃわない?」 「いいのよ。クリスマス用だから」 美希が雪だるまをベットサイドに置いたのと同時に私は後ろから抱きしめた。 ふわりと彼女の匂いに包まれ目を閉じる。 「あたしのこと好き?」 「……嫌い」 「そう、あたしも好きよ」 くすくすと笑い声が聞こえ、なぜか恥ずかしくなったので彼女の耳を甘噛みするとこつんと頭をぶつけられた。 私の手が彼女の服にかかり二人でベットに倒れ込む。 私は馬鹿だと思うがこんな私を好きな彼女は更に上をいく馬鹿だと思う。 好きだといってくれなくてもいい、あたしのことを信じてくれたらそれだけで嬉しい。 初めて身体を重ねた時そんなことを言われた。 欲に流され、意識が途切れそうになる瞬間私が強く握りしめたのは、シーツではなく彼女の細い指だった。 「なーに考えてるの」 「なんでもないわ」 私がそうとこたえるとむすっとなって、頬っぺたをむにーと引っ張られた。 「痛いわよ、離して」 「好きって言ってくれたら」 「言わなくてもいいんでしょう?」 それはそうだが言われたら嬉しいよと美希は抗議してくる。 駄々をこねる子供みたいだと微笑ましくなった。普段全てを見透かしているかのように大人っぽい彼女が見せる一面。蒼い髪をぐしゃぐしゃ掻き混ぜるとお返しとばかりに肩に噛みつかれた。 「いいわよ。この関係でも満足してるし……もし、イースに好きな人ができたら、あたしは諦めるし……」 震えながら言う彼女は私より身長も高いはずなのにとても小さく思えた。 「……ずるいことしてるのはわかってるから」 「そうでもないんじゃない」 「え?」 美希の続くはずだった言葉は私の口に吸い込まれた。 ――――――――― 「これって……?」 シャツ一枚でも美希が震えていないのは、この部屋がエアコンと情事の後の熱気で暖かいから。 熱にさらされた雪だるまは今や溶けて、液体と小さく透明な袋だけを残している。 美希は袋を手にすると中に入っていたネックレスと白い紙を取り出した。 「ネックレスだけど……指輪?」「クリスマスプレゼント。今はまだ首につけていて欲しいの」 トパーズがはめ込まれたそれを美希の首にかけると、彼女は頬を染めて微笑んだ。 「ねぇイース、知ってる?トパーズは幸福、希望って意味があるのよ」 教えてもらった石の意味を聞いて、あの時直感で買ったのは必然だったのかと思って苦笑した。 美希はリングを指にちょこんとひっかけ全体を見る。 魅力的な笑顔でありがとうとほんとに嬉しそうに言うから、私は素直によかったと思った。 「こっちは、紙だよね?……何か書いてある」 かさかさと小さい紙が開かれていく。 「うそ……」 美希が目を見開いて書かれた文字を読んでいくのを私は不思議な気持ちで眺めていた。 首にかけた指輪も手紙に書かれた言葉も気持ちを伝えるのには曖昧で、完璧には程遠い。 「うっ、ひく、うわーん」 「どうして泣くのよ!」 「ぐすっ、嬉しいからよ」 悲しいときも泣くくせに、嬉しいときまで泣くなんて……。 私はそっと手を伸ばし美希の涙を拭う。 沢山の人を傷つけたこの汚れた手でも、美希はいつも優しく握って綺麗だねと言ってくれた。 改めて私は彼女から沢山のモノを貰うばかりだったことに気づく。朱い太陽の下で話をして、蒼い空の下を散歩する。 穏やかな毎日も、楽しい出来事ももたらしてくれたのは美希だから。 美希以上にこの関係を利用していた、私からのはじめてのプレゼント。 「私は今幸せだから」 緊張しながら口にした言葉は、紙を胸に抱いてぼろぼろと涙を流している彼女に聞こえただろうか。 END おまけ 「イース、僕が提案したラブレターはどうだった?」 「俺のテレビで見た雪だるま作戦もよかっただろ?」 次の日、リビングで顔を合わせた同居人たちはにやにやと笑いながらイースを問い詰める。 ソファで本を読んでいたイースはちらっと二人を見ると、がばっと服を胸元までさげた。 「とっても役に立ったわ」 キスマークが尋常なほど散らばる肌を見て囃し立てようとした二人は、イースの顔を見て息をのんだ。 いつもの何倍も人を見下すような冷たい顔をしている。 「上手くいったんだよ……な」 「ええ、あなたたちのおかげで発情したメス猫の相手をしただけよ」
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裏返しに並べられた百枚の読み札が部屋に散らばる。囲むのは、ラブと美希と祈里の三人。 ドキドキしながら一人づつめくっていく。 「よしっと。次はラブの番よ」 「よーし……て。えぇーーボウズが出ちゃった。とほほ……」 「わたしの番ね。やった! 姫よ。もらっちゃうね!」 「勝負有りね。でも、ほんとせつな遅いわね。どこまで行ってるのかしら?」 噂をすれば影。階段を勢いよく駆け上がる足音が響く。 何かあったのだろうか? せつながこんな風に慌てることは滅多になかった。 「みんな! 手を貸して欲しいの。凧揚げをするわよ!!」 『えぇ~~!!』 騒動は、突然にやってきた。 『帰ってきたせっちゃん(第十七話)――ある日のせっちゃん。天まで上がれ!(前編)――』 のどかなお正月の昼下がり。 ラブの部屋に集まるのはいつもの四人。カードを囲んで真剣な表情で向かい合う。 歌かるたの散らし取り。百人一種の代表的な遊び方だ。 読み手のラブが読み札を切る。その順に和歌を読み始める。 「むらさめの~」 む、の時点で下の句のカードを探し始める祈里。 五文字目で思いついて探しだす美希。 一番遅れて歌を判別するせつな。 『はいっ!』 三人の手が同時に重なる。上から順に祈里、美希、せつな。 そして取り終える百枚の札。 戦果はせつなが四十枚。美希が三十二枚、祈里が二十八枚だった。 「参りました。もう、せつなには敵いそうもないわね」 「せつなちゃん凄い。こんなに早く百種全部覚えちゃうなんて」 「やっとよ。ブッキーなんて読む前から探し始めてるじゃない」 始めのうちは、下の句まで読んでからしか探せなかったせつなが一番弱かった。 しかし、驚くほどの勢いで記憶していく。 数順目には覚えきってしまい、圧倒的な強さを見せつけた。ラブはともかく、美希や祈里はもちろん暗記 している。 そしてせつなには、まだ一字覚えや二字覚えなんて知識はない。 そのハンデを跳ね返すのが、視力と反射神経、そして記憶力だった。 下の句が配置されてる位置を全て把握してしまう。探し始めるのが一歩遅れても、手が最短距離で札を奪 うのだ。 コンコン 部屋のドアが控えめにノックされる。あゆみが差し入れにきたのだ。 トレイに乗っているのは、おせんべいと緑茶だけ。女の子のおやつには華やかさが足りない。 「ごめんなさいね、紅茶とお菓子を切らしちゃたの」 「おかまいなく、おばさん」 「わたしたち、毎日お邪魔しちゃってるから」 「たはは、せつなと食べ過ぎたよね」 「もう! 主に食べてるのはラブでしょ」 「スーパーなら開いてるわね、後で買い出しに行ってくるわ」 「おかあさん、それなら私が行きます」 せつなはスッと立ち上がり、自分の部屋に上着を取りに行く。 一緒に行くと言った、ラブたちの申し出をやんわりと断る。少し外の空気を吸いたくなっただけ、すぐ帰 るからと。 ラブたちは、せつなが帰るまでボウズめくりをしながら待つことにした。 せつなは一人、お正月の人通りの少ない商店街を歩く。 冷たい風が、暖房で火照った体に心地良かった。澄んだ美味しい空気を胸いっぱいに吸い込む。 始めてのお正月。そして、大切な家族や仲間とずっと一緒にいられる時間。楽しくて、嬉しくて、心は弾 みっぱなしだ。 百人一首も楽しかった。いくつかは学校で習ったものもあったけど、新しい歌もたくさん覚えることがで きた。 最初は全然取れなかった札が、見る見るうちに自分の手元に集まっていくのも面白かった。 でも、夢中になるのはここまでかなって、そう感じてもいた。 これ以上やれば、どんどん差は開いていくばかりだろう。結果の見えているゲームでは楽しさは半減して しまう。 みんなの笑顔を曇らせないためにも、ここからは手加減が必要になるかもしれない。 一枚取るたびに大喜びしているラブが、少しだけうらやましいと思った。 競技と呼ばれるものですら、その本当の喜びは勝利することではないのではないか? せつなはこの世界に来て、強くそれを感じるようになっていた。 カルタに限った話ではない。学校の勉強も、スポーツも同じ。せつなにとっては、全力で取り組み、本領 を発揮できる場ではなかった。 やりすぎれば目立ってしまう。それがいけないことではないのだけど……。 せつなは、称賛されることも、嫉妬されることも、そのどちらも好きではなかった。 ぼんやり考えながら歩いていたら、お目当てのスーパーに着いた。メモを見ながらお菓子を購入して、こ れでおつかい終了だ。 帰り道で駄菓子屋のおばあさんとすれ違った。 「おや、せつなちゃん。正月早々おつかいかい?」 「はい、お茶菓子を切らしてしまって」 「フン、感心しないねえ。正月の三が日からお店開けてちゃ、風情もへったくれもありゃしない」 「すみません。お店が開いたら駄菓子屋さんにもお邪魔します」 「そうじゃないんだよ。だけど、つまらない世の中になっちまったね」 「どうかなさったんですか?」 せつなには、なんだかおばあさんの元気がないように見えた。気になって少しお話がしたくなった。 おばあさんも愚痴の相手が欲しかったのだろう。お店の裏口を開けて、お茶を入れてくれた。 話し相手ができて嬉しいのか、いくらか機嫌も良くなって昔話を始める。 「昔はこの辺りは四ツ葉町商店街なんて呼ばれててね、そりゃあ趣のある人情溢れる町だったよ」 「私には、今でも幸せの集まる素晴らしい街に思えます」 「無論、悪くはないさね。でも、お正月だって昔に比べたら随分味気なくなったもんだよ」 お正月でも休まないお店ができて、お正月の準備がどんどん質素になっていったこと。 洋服が普及して、手間のかかる着物姿で出かける人がとても少なくなったこと。 テレビゲームの流行と共に、外で元気よく遊ぶ子がいなくなってしまったこと。 「お正月といえば男の子は凧揚げ、女の子は羽子板で遊んだものさ。どっちも見なくなっちまってね」 「羽子板は昨日やりました。凧揚げって何ですか?」 「そうか、ついに知らない子まで現れたのかい。興味あるなら凧職人を紹介してあげるよ」 おばあさんは返事も聞かずに立ち上がろうとする。言葉とは裏腹に、会わせたがっているように感じられ た。 せつなは会ってみることにした。 おばあさんに連れられてやってきたのは、通りから少し奥に入ったところにある木造の古い家屋だった。 外見は普通の住宅。でも、一歩敷居をまたげば、そこは本格的な工房だった。 「凧じじい、お客を連れてきてやったよ。顔くらい見せたらどうだい」 「凧じじいはやめろ。もう凧なんて何年も作ってねえや、梅干ばばあ」 「ふん、梅干はお互い様さね」 「あの、初めまして。東 せつなと申します。凧を見せて頂きたくて」 「奥の部屋にあるのがみんなそうだ。好きなだけ見ていきな」 おじいさんはこちらも見ずにそう言った。あまりの無愛想っぷりに、駄菓子屋のおばあさんまで腹を立て る。 だけど、せつなにはぶっきらぼうな態度の中にも、温かさのようなものを感じ取っていた。 クリスマス以来、おじいさんがとても好きになっていた。いや、お年寄りの人間としての深みに、とても 関心を持っていたのだ。 工房を通り抜け、言われた部屋に足を進める。そして――――息を呑んだ。 そこにはおびただしい数の凧が保管されていた。それはまるで凧の博物館のようであった。 形も色々だが、大きさも様々だ。ノートくらいの小さなものから、全長が四メートルを超えるほどの大凧 まであった。 描かれている絵も素晴らしかった。十二支に浮世絵、昆虫や魚を形取ったもの。そして、一番目を引いた のが、大凧に描かれた勇ましい鎧武者。 絵の良し悪しなんてわからないせつなにも、その迫力には心を揺さぶられた。 「凄い……」 「そうかい? 頭の固いじじいでね。装飾品としてなら今でも買い手がつくのに、頑として売ろうとしない のさ」 「どうしてですか? こんなに綺麗なのに」 「凧は飛ばしてこそ凧だってね。今では作るのも辞めちまって、扇子作りで食いつないでるのさ」 「その扇子もすっかり売れなくなっちまったがな」 おじいさんが手を休めて様子を見に来てくれた。何のかんの言っても気にはなっていたらしい。 「扇子だって美術用途なら売れるだろうに、タコ作ってた割には頭の固いじじいだよ」 「そっちのタコとは違うんじゃ……」 「違わねえよ。ひらひらした足をつけてたから、その昔は関西でイカなんて呼ばれててな。粋な江戸っ子が 張り合ってタコと名付けたのが由来よ」 「その割には骨がありますね」 せつなは竹で作られた凧の骨組みに目を奪われていた。見事なまでに強度を計算して張り巡らされている。 この骨組みこそ、凧の出来の要だと思えた。大真面目の指摘なのだが、おじいさんは大笑いした。 「くっくっくっ、こりゃあ一本取られた。面白いお嬢ちゃんだな。気に入った、何でも聞きな」 おじいさんの家は代々、凧職人であったらしい。父親から技術を学んだのだが、その修行は熾烈を極めた ものだった。 下図が描けるようになるまで十年、骨を削れるようになるまで、また十年。 父親で師匠だった人の教え。「迷わず、一心に数をこなせ。後は指が教えてくれる」 その教えを守り、死に物狂いで凧作りの技術を身に付けた。 そこまでして一人前になっても、家族を養っていけるほどの収入があるわけではない。 どんなに精巧に作っても、目的は子供の遊び道具だ。そんなに高い値段が付けられるわけではない。食い つなぐには副業をこなす必要があった。 それでも、おじいさんは凧作りに誇りを持っていた。 クローバータウンが四ツ葉町と呼ばれていた頃、正月に限らず、冬にはあちこちで凧が揚がっていたもの だった。 シーズン中は修理に追われ、それ以外の季節は冬に備えて作り貯める。 全ては子供たちの笑顔のため。貧しくても充実していた日々だったという。 「ところが近頃ときたら、凧揚げどころか凧を知らない子供までいる始末でな」 「…………すみませんでした」 「今じゃ伝統工芸とか言っては、金持ちが道楽で買い求めるくらいでな。そんなもんのために作ってるんじ ゃねえやな」 高額で買い取るとの申し出もあったらしい。おじいさんはその全てを断ってきた。 凧作りを神棚に上げるつもりはない。凧揚げは庶民の遊び。時代と共に必要とされなくなるのなら、失わ れるのも運命だと。 副業で続けていた扇子作りも、もう採算が合わなくなってきているらしい。何より凧作りを辞めてしまっ たことで、創作意欲が失われてしまっていた。 だから、今年の冬が過ぎたら工房をたたむのだとか。 おどけた口調で話してはいたものの、その表情はとても寂しそうだった。 このままではいけないと思った。 子供たちの笑顔のために頑張ってきた、おじいさんの幸せが失われてしまう。 そして、おじいさんの手で笑顔になれるはずの、子供たちの幸せも失われてしまうのだ。 「お願いがあります! 私に凧を作ってもらえませんか? お年玉と、お小遣いも少しは貯まっています」 「気持ちは嬉しいが、俺はもう凧作りは辞めたんだ。金なんて要らねえから、ここにあるのを好きなだけ持 って行きな」 「どうしても――――作ってほしいんです」 「駄目だ! 俺は頭が固いんでな、作らねえと決めたら二度と作らねえ」 そこから先は意地の張り合いだった。せつなはあきらめようとせず、おじいさんも頑として譲らない。 せつなは最後の賭けに出た。この工房にある中で一番揚げるのが難しい凧。つまり、大凧をせつな一人で 空に揚げることができたら作ってもらうと。 そんなこと出来る訳がない。あきらめさせるにはいい方法だと、おじいさんも約束してくれた。 持ち帰ることができるような大きさではない。後で友達を連れて取りに来るからと約束して、ひとまず引 き上げることにした。 「すまなかったね、せつなちゃん。大変な約束をさせちまって」 「いえ、興味があるのは本当です。あれが空に揚がるところを見てみたいわ」 予想を超えた展開に、おばあさんは戸惑っていた。子供好きな人だから、若い子とお話するだけで気分が 晴れるんじゃないかと期待しただけだった。 せつなもそれは感じていた。おばあさんの様子がおかしかった理由が、あのおじいさんのことだってこと を。 おばあさんは、ラブのおじいさんの源さんって方とも仲が良かったらしい。また一人、四ツ葉町から職人 が消えていくのが寂しかったのだろう。 せつなには、その気持ちの全てが理解できるわけではない。 せつなはクローバータウンが好きだ。友達と遊ぶゲームだって楽しいと思うし、機能的で扱いやすい洋服 だって大好きだ。 だけど、そのために古き伝統が失われていいとも思わない。晴れの日には着物も着たいと思うし、羽子板 やかるただって凄く楽しいと思う。 一つはっきりしているのは、幸せは輪だってこと。それを広げていくことが大切なんだってこと。 おじいさんは今、その輪から外れようとしている。 だから――――凧を揚げるのだ。 輪の中に居る――――みんなのためにも。外れつつある――――おじいさんのためにも。 せつなはおばあさんと別れ、家に向かって走りだした。 避2-534へ
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美希「まったく、いつアタシたちが結婚するなんて言ったのよ」 祈里「美希ちゃんは男の人と結婚したいの?」 美希「それは――嫌よ」 祈里「じゃあ、ずっと独りがいいの?」 美希「それも――嫌よ」 祈里「わたしが男の人と結婚してもいいの?」 美希「それは――絶対に嫌」 祈里「わたしは、やっぱりウエディングドレスがいいな」 美希「アタシは――結婚するなんて言ってないわよ!」 ラブ「美希たん、弄られキャラが嫌でツンデレにキャラチェンジしたのかな?」 せつ「私には、やっぱりブッキーに弄られてるように見えるわ……」 ラブ「せつなはあたしに弄られたい?」 せつな「ラブならいくらでもいいわよ?」 美希(大胆…) ブキ(…すごい) 「アタシたちって奥手なのかしら」 「別にラブちゃんたちに合わせる必要は・・・」 「す…」 「す?」 「すき………」 「?」 「すきやき!!!」 (はぁ~また美希ちゃん肝心なときに・・・)