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ぱさりとシャツを端に投げ、あたしは心細くなり胸と秘所を隠す。逆にイースはいつも堂々としていた。それはまるで本物の女王様のようで。 今も手早く、シャツを投げ捨てるとあたしとの間合いを詰める。 細い指があたしの身体に触れた。 「濡れてる」 音を聞かせるようにわざと指を激しく動かされ、あたしの羞恥心をも掻き乱す。 あたしがイースに勝手に触れることは許されないから、手を掴んで引き離すことはできない。 あたしの指は白くなるまできつくシーツを握り締める。 「キスで濡れたの?それとも私に奉仕してるときから?」 「いたっ」 「答えなさい」 クリトリスをつままれ、あたしは悲鳴をあげる。 「キス……したとき……」 「よくできました」 「っあ」 ぐっと指が一本入ってきた。 圧迫感を感じ身をよじるが、イースがすかさず腰を掴む。 「まだいけるでしょ?」 腰を掴んでいる手に更に力が入れられた。イースの人差し指が中指にそって押し入ってきた。 「ああっ、や……だ」 「きついわね」 中で二本の指がぐにゅぐにゅと動き回り、嫌なはずなのに、身体からは蜜が溢れ出る。 いつものように。 思考がとろとろと蕩け、だらしなく口が開く。 あたしの神経は一点に集められる。 「ふあ、あ、あああああぁぁ」 胸に口づけされ、強く吸われるとあたしは逆らうことなく身を委ね上りつめた。 ヒューヒューと浅い呼吸を何度も繰り返し、足りない酸素を補う。 薄く目を開けてイースを見ると、無表情に指を嘗め、あたしを見ている。 唾液とは違うものがイースとイースの指の間に糸をひいた。 彼女があたしに手を伸ばそうとしたとき、あたし達以外の声が部屋に響いた。 「イース、ちょっと来てくれ」 髪の長いあの男だろう。疲れた声だった。 「ちっ、今行く」 イースは手を合わせ、いつもの服に着替え、ベッドを降りてあたしを見る。 「部屋から出なければ休んでていいわ」 そう言い残して部屋を出て行った。 今はあたしが逃げ出さないことがわかっているから、鎖を巻き付けたりはしない。 一度だけ、玄関フロアまで逃げたことがある。 身体を陵辱されることに、快楽を与えられることに耐えられなくなって、隙をついて。 そしてあたしは絶望した。 開かない扉。 ここさえ開けば外に出られるのに。 手が赤くなっても扉を叩き続けるあたしにイースはただ一言 「諦めなさい」 そう告げた。 控えめなノックが聞こえ、扉が開く。イースにしては早いと思ったら、姿を見せたのはガテン系の男だった。 「入るぞ」 プリキュアの時、そしてこの館では数回だけ見たことがある、名はウエスター。 イースはあたしと他の二人が接触することをとても嫌った。 その内の一人が目の前にいる。 「その格好……」 あたしはシーツで前だけを隠すように、ベッドに座っている。 彼は小さく溜息をついて後ろ手に扉を閉めた。 「イースは?」 「まだサウラーのとこだ。俺がここにいることがわかったらあいつ怒るだろうな」 それがわかっていて、何故彼が此処にきたのかあたしにはわからない。 「あいつの寿命が決まった」 「寿命?」 「寿命というか、死ぬわけだ」 この男の話は要領を得ない。 ただ『死』という言葉だけがあたしの頭に刻まれる。 話を聞くうちにようやくあたしは理解する。 イースは明日死ぬ、と。 正確に言えば国家にメビウスに殺される。 「上手くいかないものだな。どんなに力があっても、それが結び付かない」 そんなに不器用な人だっただろうか。あたしの知るイースはいつだって生気に溢れていた。 「本人は知ってるの?」 「ああ」 口の中はカラカラだった。 そんな素振りすら彼女は見せなかったのに。 「助からないの」 「……無理だろうな」 「なんで、あたしに?」 「知る必要があるかと、思った」 「……………」 知る必要はあたしにあるのだろうか。 彼女が死ねばあたしは彼女から解放される? 「大丈夫か?」 あたしはいつの間にか俯いていた。 「へ……きだかっ」 言葉の途中で立ち上がる。 走ってトイレへ向かう為に。 べちゃっ 「ごほっ、がっ、けほっ」 気持ち悪い…………。 頭がぐちゃぐちゃと掻き乱されるような感覚。 のろのろと動いてあたしは顔を洗いに行く。 ようやく落ち着いて顔を拭いていると、ふわりと背中からシャツをかけられた。 「いい加減服を着ろ」 「触らないで」 シャツを握り締め、ウエスターの手を払う。しかし、払ったはずの手はかわされ、逆に手首を掴まれる。 「俺はイースの意志を無視した。お前に知らせる気はなかったようだったしな」 「何が言いたいの?」 手首にぴりぴりと痛みが走る。あたしが力を入れて振りほどこうとしてもびくともしない。 「さぁな。気まぐれだったのかもしれない」 きっとこの人は馬鹿だ。 脳みそまで筋肉でできているのかもしれない。 そう思うのに、 真っすぐな、揺らぎのない瞳を見ていると言いようのない不安にかられる。 彼の真意を探そうとしてしまう。 「何をしてるの?」 あたしとウエスターは声のした方に顔を向ける。 そこには不機嫌な顔を隠そうともせず、腕を組んだイースが立っていた。 「イー……ス」 ウエスターがあたしの腕から手を離す。 「私の部屋に勝手に入るなんて何を考えてるの。薄汚い奴隷とヤリたかったのかしら」 「悪かった。すぐ出ていく」 彼等はメビウスに仕えながら個を重んじる。 余計な干渉を好まない。 だからなおのこと、ウエスターの言動が理解できなかった。 もしここがイースの部屋でなかったら、彼にも言い分はあったかもしれない。 しかしここは、彼女の部屋で領域、波風を立てないように黙ってウエスターは出ていった。 「何をしていたの?」 「何も……」 「男とヤリたかった?」 「っああ」 胸を握り締められる。耐え切れずあたしが悲鳴をあげても、イースは暫く睨みつけていたが乱暴に手を離した。 「あっち」 彼女がゆび指したのは黒いソファーだった。 近くまできたとき身体ごと押し倒され、あたしは小さくうめき声をあげる。 身体に跨がられ、胸倉を掴まれる。 「その瞳はどこを見つめてるの?」 イースの声は抑圧的でも、震えているわけでもなく淡々としていた。 あたしの返事も待たずに自分のモノで彼女はあたしの口を塞ぐ。 あたしはそれを受け入れるだけ。 イースの唇はだんだんと下に降りていく。 首もとまできたとき、イースの動きが止まった。 「…に……んで……る…」 「え?……痛っ」 イースが何事か囁いた後、鈍い痛みが襲ってきた。 「んっ、いた……い、離して」 痛みは更に強くなる。 プチッと 肌の裂ける、音がした。 イースはようやく歯をたてるのを止める。彼女の顔が少し離れたときに指を首に這わせてみた。 ぬるっとした感触が伝わる。 彼女の唾液かそれとも 「血が……」 鮮やかな赤色が視界に入る。 痛いわけだ……。 イースはあたしにもたれ掛かるように体重をかけたまま動かない。 起き上がった彼女の口元には血が付着していた。彼女はソレを乱暴に拭う。 「それで、何をしていたの?」 「ただ……話をしただけ」 「どんな?」 「死んじゃうんでしょ?」 彼女にしては珍しく驚いた顔をしている。 そして、けたけたと笑い始めた。 「そうね。私は明日死ぬわ」 まだ笑い続けている。 「受け入れるの?」 ぴたりと彼女は笑うのを止めた。 「メビウス様が決めたことよ。私はそれに従うだけ」 「…………そう」 返事が送れてしまった。 イースの顔が、表情が、能面のようだったから。 「痛い?」 「ひりひりする」 イースが首もとに触れる。今も血が滲んでいるらしくその手であたしのシャツを触るから、白い服に赤い色が増えていく。 それが視界に入る度、嫌なことを思い出す。それがわかっているから、その手をあたしの顔にもなすりつける。 「怒ってるの?」 「不快で仕方がないわ」 「私が死んでも忘れることはないでしょうね」 とても、愉しそうに見えた。 「プリキュアさえいなければ、私の運命は変わっていたかしら」 「憎い?」 「殺したいくらい」 少しだけ安心した。 彼女も血の通った人間のようだ。 あたしが彼女を傷つけることはできないから、本物の血を見ることはできないけれど。 「あなたは私のモノでしょう?」 「ええ」 「一緒に死んでみる?」 「……いや」 イースは気分を害した風でもなく、不敵に笑っていた。 あたしと彼女の関係は変わっている。 イースとの言葉のやり取りには、正解があるのかわからない。 始めはあたしも敬語を使ったり、言葉を選んだり、気に入ってもらおうと必死だった。 でもそれは何の意味もなかった。逆に彼女を怒らせていることに気づいたから。 「ニセモノには興味がないの」 あの時のあたしは彼女にとって偽者で偽物だった。 従順な奴隷で、意思のある玩具を彼女は欲しがった。 ボーン 重低音が館に響く。 下の階にある六時間ごとに鳴る大時計。 今のは18時の鐘のようだ。 「二十四時間を切ったわ」 明日の今頃、彼女は既に死んでいるらしい。 ぐいと引っ張られ、あたしはソファーに普通に座らされる。 膝の上に向かい合って彼女が座った。 「どうしたい?」 「?」 「私が死んだら、プリキュアに戻りたい?」 言葉が出てこなかった。 先ほど彼女から解放されるとは考えた。 その先は真っ白だったけど。 プリキュアって何だっけ? あたしがプリキュアだったことなんて今では霞んで見える。 戻りたい? いや、戻れない。 あたしには戻る資格がない。 「あなたの瞳には何が写っているの?」 「イー…ス…」 あたしが写すものは――― イースだけだった。 今のあたしにはイースしかいない。 彼女が死んでしまったら、 あたしは――――。 「………ないで」 「え?」 「死なないでよ」 「無理よ」 イースはおでこをくっつけくすくすと笑う。そして、触れるだけのキスをされた。それは恋人同士がするようなもので、あたしはさらに不安にかられる。 「私は失敗したのよ。必要なくなったの…………なんで泣くの?」 指摘されて初めて気づく。 ぽたぽたと涙がこぼれ落ちるのを。 ここにきて たくさん泣いた。 悔しくて、辛くて、怖くて。 でもこれは違う。 他人の為に流した初めての涙だった。 そんなあたしを イースは興味深そうにずっと見ていた。 監禁された人が加害者に好意的な気持ちを持つことがあるということが、少しだけわかった気がする。 極端な話、今のあたしにはイース以外に何も存在しないのだ。 依存できるのも、話相手も彼女だけ。 あたしは彼女に生かされている。 そして、 いつものように零時の鐘で牢屋に戻る。 イースが鍵をしようとした時、あたしは彼女に話しかけた。 「あたしはどうなるの?」 「死ぬ前に教えてあげるわ」 「なんで、冷静でいられるの?」 「……冷静だと思った?」 彼女は呟くように地下室を出ていった。 み-776へ
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「せつなちゃん、大丈夫?」 「……う、うん、なんとか」 あれからしばらくして、ようやく立ち直ったせつな。 とはいえ、先ほどのやりとりを聞かれた恥ずかしさもあって 心配して声を掛けてきた祈里への返答もぎこちない。 「はい、これ、買ってきたお茶。これ飲んで落ち着いて」 「うん、ありがと、ブッキー」 祈里が差し出すペットボトルを受け取るせつな。 それを飲む前に、真っ赤に染まった自分の頬に当ててみる。 中のお茶に冷やされたペットボトルの冷たさが心地良い。 おかげで、火照った心が落ち着いたような気もする。 「全く、見られるのが嫌なら最初から人目につくところでいちゃつかないの!」 「……うう、そこは反省するわ」 「あたしは全然気にしないのになーっ!」 「ひゃあっ!」 ……気がしたのだが、ラブが横から抱きついてきたので体温心拍数共に再上昇。 「……ラ、ラブ、流石に二人が見てるんだし、こういうことは……」 「いーじゃんせつな、もう二人にも見られちゃったんだし、 むしろ遠慮する必要なくなったよね、わはーーっ!」 反省した手前、一応ラブを止めようとするせつなだったが、 既にラブの自制心という名のブレーキには欠陥が生じていたらしかった。 (もう、ラブったら、私は恥ずかしいからって言ってるのに……) そう思い、こうなったら美希か祈里に何とかしてもらおうと 二人に助けを求めようとしたせつなを襲う違和感。 ギュッ ラブの反対方向からも誰かに抱きつかれる感覚。 「なるほど、これがせつなの抱き心地なわけね」 「み、美希?!」 今しがた、助けを求めようとした本人である美希が、そこにいた。 「な、何してるの?」 「いやー、ラブがそこまでハマる抱きごごちってどんなもんかなーって、あたしも興味あって」 「興味持たなくていいわよ!」 せつなの抗議を美希は聞こえないフリ。 「んー、柔らかくて、暖かく、匂いもいい。 何よりも冷たいけどすべすべしてて、きめ細かいこのお肌の感触が……完璧ね!」 「さっすが美希タン、わかってるねーっ!」 勝手に論評まで始める始末である。 美希は普段どちらかというとラブを止める役に回ることが多いのだが 時々、二人揃って悪ノリに走ることもある。 この辺は幼馴染ならではの阿吽の呼吸のなせる技ではあるのだが。 標的にされるほうは溜まったものではない。 「ねえ、ラブちゃん、美希ちゃん」 救いの手は別の方向から来た。 そうだ、まだブッキーがいる。 ブッキーならラブ達を止めてくれるかもしれない。 期待を込めた視線を祈里に送るせつな。 今なら彼女の背中に天使の羽だって見えるかもしれない。 「せつなちゃんを抱きしめるのって、そんなに気持ち良いの?」 興味深々と言った表情を浮かべて聞く祈里の姿。 「……ブッキー」 天使の羽は、気のせいだったらしい。 「そりゃもう!すっごく気持ち良いんだよ!」 「だからブッキーも遠慮せずに、ほら」 そう言って怪しい笑みを浮かべ、祈里に向かってオイデオイデと手招きするラブと美希。 「そうなんだ……じゃあ私も」 それに応じるようにフラフラと近づいて来る祈里。 本で読んだ、幽霊が生者を手招きして仲間に入れようとする、という話を ふと思い出したせつなだったが、首を振ってそれを頭から追い出すと 目の前の現実をどうにかすることに集中する。 「ね、ねえブッキー、お願いだから、止めてくれない?」 しかしそんなせつなの懇願も、祈里には届かない。 「せつなちゃん……ごめんね、私も、やってみたいの……えいっ」 そう言いながら祈里が狙い定めた場所は、せつなの腿の上。 そこに頭を載せながら、ゴロンと寝る姿勢。 「あら、膝枕とは、やるわね、ブッキー」 「ああっブッキーずるい!それあたしもやったことない!」 「えへへ……ここしか空いてなかったから……」 そう言ってペロっと舌を出してみせる祈里。 「はあ……確かにせつなちゃんの匂い、良い匂い……」 「でしょでしょ、あたしはいつでもせつなの匂いで幸せゲットだよっ!」 「これはハマるわね、今度こういうアロマ作ってみようかしら」 最早三者三様に好き放題やり放題の有様。 「あのね……三人とも、本当に、もう許して……」 このままではいけない。 また恥ずかしさで、頭がショートしてしまう。 そう思い、精一杯頑張って訴えてみるせつなだったが 「「「だーーーーーーーーーーーめっ!」」」 笑顔と共に即効で却下された。 「ねえねえブッキー、あたしの後であたしの場所と交換しよ?」 「ダメよラブ、あなたはいつもせつなと一緒なんだからちょっとは遠慮しなさい、 次代わるのはあたしよ」 「ええーーっ、美希タンそれはずるいよっ!あたしもせつなに膝枕されたいっ!」 「ゴメンね二人とも、私ここが一番好きだから……今日はダメ」 「「ええーーーーっ!ブッキーずるいっ!!」」 「三人とも、いい加減にしてーーーーーーーーーーーーーっ!」 せつなにとっての試練の時間はまだまだ始まったばかりのようだ。 それから数刻の後。 せつなと、それを囲む三人の姿。 しかし、そこには先ほどまでの喧騒はない。 聞こえてくるのは三つの規則正しい呼吸音。 ラブ、美希、祈里の三人がそれぞれの姿勢でせつなに抱きついたまま、すう、すうと立てている寝息の音だ。 あの後、それぞれ思い思いにせつなを堪能した後、いつの間にか寝入っていたのだ。 (全くもう……) 唯一その音を出していないのは、中心にいるせつな。 三人を起こしてしまわないように、心の中で呟く。 (……すっごく恥ずかしかったんだからね) しかし言葉とは裏腹に、せつなの顔には柔和な笑み。 それは多分、三人のことを感じられているから。 ラブの、美希の、祈里の、体の柔らかさ、暖かさ、匂い、 そしてその中にある、せつなのことを思う、優しさ。 それらを感じることが出来ているような気がするから。 (……だから、すっごく幸せな気分、かな?) そう思うせつなもだんだんと微睡みの中。 自分を包む三つの幸せに身を委ねたまま、意識を手放していくのだった。 「お嬢ちゃん達、おっまたせ~すっかり遅くなっちゃってゴメンよ~ なんせ久々の新作だけに、芯をサクっとさせるのが大変だったんだよね ドーナツに芯はないけど、グハッ!」 やっと出来上がったドーナツを持ってカオルちゃんが丘にあらわれたのは、それから更に後。 紙袋を片手に4人のところまでやってきたのだが。 「あらら……みんな寝てらあ」 そこには、穏やかな、安心しきった表情で寝息を立てているせつなと そのせつなを左右から抱きしめるラブと、美希と、腿を枕にする祈里と せつなを中心に、思い思いの姿勢で眠る少女達の姿があった。 「ま、いーや、ドーナツ、ここに置いとくよ」 そう小声で言うと、紙袋を置いて、立ち去ろうとするカオルちゃん。 しかしその途中でふと何か思いついたように立ち止まり、四人の方を振り返る。 「お嬢ちゃん達、そうしているとまるでさ……四つ葉のクローバーみたいだねえ」 誰に言うとでもなく、そう呟く。 そんな彼のサングラスの奥に、優しい光が湛えられていたのは一瞬で。 「……いっけねえ、オジさんつい臭いこと言っちゃったよ。 まあ、オジさんの靴下はもっと臭いけどね、グハッ!」 いつものカオルちゃんに戻ると、丘を去っていった。 四つ葉町の町外れにある小高い丘の上。 一面にシロツメクサが咲き乱れる草原に、今はすっかり人気はなく。 あるのはただ、幸せのもと。 寄り添うようにして眠る、四つ葉のクローバーの化身だけ。
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お風呂あがりのラブから切り出された話を聞いて、 思わず私は吹き出してしまった。 「どうしたの、お母さん?」 「...ううん、何でもないわ」 「変なの...」 ラブから相談されたのは、 ピーマンがおいしく食べられる、 料理の作り方。 ふたりで、色々と考える。 硬くて苦い感じをやわらげるため、 だし醤油で炒め煮にすることにした。 「せっちゃんは知ってるの?」 「ううん。まだ...」 「じゃぁ、明日の夕ご飯で、それ作りましょ」 「うん!あたし、頑張るよ!」 ラブがお風呂に入っている時に、 せっちゃんがやって来た。 相談されたのは、人参がおいしく 食べられる、料理の作り方。 ふたりで、色々と考える。 味が良く出る豚肉を使って、 ポトフ風に煮込むことにした。 小さめの乱切りにして、味をよく 染みこませよう。 「ラブは知ってるの?」 「いえ、まだ...」 「じゃぁ、明日の夕ご飯で、それ作りましょ」 「ええ!私、精一杯頑張ります!」 お互いの思いに、心が温かくなる。 一緒に暮らして欲しい。 あんなに真剣な目をした ラブを、見たことがなかった。 クローバーの丘で初めて見た、 彼女の顔に浮かんでいたもの。 戸惑いと、何かに対する自責。 彼女に、幸せを感じて欲しい。 彼女に、愛を感じて欲しい。 レストランで、はしゃいでいる ラブから、痛いほどに伝わる思い。 幸せになっては いけない気がする。 そう言っていた、彼女。 何があったのかは、知らない。 知る必要もない。 私も、彼女を包んであげよう。 そう決めた。 娘が1人、増えたと思って やってきた。 使う部屋が、増えた。 ご飯の材料も、4人分。 歯ブラシも、4つ。 お父さんのおみやげも、 4等分。 徐々に増えていく、 彼女の笑顔。 いつしか、4人で居ることが 当たり前になった。 そして。 陽が差し込む居間で 初めて聞いた言葉。 言葉と一緒に届く、 あふれるほどの思い。 やってきたことは 間違いじゃなかった。 「ん...?」 「あれっ...?」 ふたりが、同時に声を上げた。 「苦くないし、食べやすいわ...」 「いろんな味がしみてて、 ちょっとおいしいかも...」 狙い通りの味になった。 お互いへの思いが、 味となって染みている。 「ふたりとも同じ相談するんだもの、 びっくりしちゃったわ」 「もう、お母さんってば、 黙ってるんだから...」 「ごめんね。でも、ふたりの気持ちが 何だか嬉しくて...」 ふたりが、照れたような顔をして 下を向く。 「さぁ、どっちが早く克服できるかな?」 「よーし、せつな、もっと色々作って 絶対好きにさせるからね!」 「私も、負けないわ!」 勢いよく食べるふたりは まるで双子のよう。 胸を張って言える。 私には、自慢の娘が、ふたり。
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小さな歩幅で、小走りする。 途中で、止まってしまう。 落とすように放ったボールが、 よろよろと進む。 勢いはすぐに消え、 横に転がる。 溝を転がっていくボールに背を向け、 ブッキーが苦笑いで戻ってくる。 「なかなか、うまくいかないな...」 ラブも、美希も 微妙な表情。 「うーん、もうちょっと強く投げるといいと思うよ...」 「そうそう。まっすぐね...」 「うん...」 もう一投。 腕だけ、無理して振っている。 ボールが、今度は反対側の溝を よろよろと滑っていく。 スコアボードの「G」の横に 「-」が光った。 「わたし、センス無いなぁ...」 ブッキーが、肩を落として 戻ってくる。 美希が、続いて投げる。 ピンが倒れる、高い音。 「すごーい!美希たんダブルだよ!」 「すごいね、美希ちゃん」 ハイタッチするブッキーも、笑顔。 無理して作った笑顔は、 すぐにわかる。 笑顔になれることを 教えてもらった。 一歩、前に進む 勇気をくれた。 こっそり練習したダンスは、 私に合わせて、踊ってくれた。 今度は、私の番。 席を立ち、 ブッキーのそばに行く。 「ブッキー」 「はいっ」 ブッキーが弾かれたように 顔を上げる。 ごめん。 ちょっと強い調子に 聞こえちゃったかな。 「ちょっと来て」 手を引き、ボール置き場の 後ろに行く。 「ずっと見てたんだけど、 足の運び方だと思うの」 ブッキーの後ろに回り、 手を取る。 脇を締めて、 ボールを構えて。 左足から、踏み出して。 1歩目で、腕を伸ばして ボールを前に出すの。 2歩目で、力を抜いて ボールを下に。 3歩目で、反動を使って ボールを後ろに。 4歩目で、体を少し下に沈めて。 5歩目をぐっと前につき出して、 ボールを押し出すの。 「いっしょに、やってみて」 「うん...」 1,2,3,4,5。 1,2,3,4,5。 「せつなー、投げる番だよー」 「ごめん、私とブッキー、スキップお願い」 1,2,3,4,5。 1,2,3,4,5。 ゆっくり、何度も何度も 繰り返す。 1,2,3,4,5。 1,2,3,4,5。 ぎこちなかった動きが、 だんだん私と合ってくる。 どれくらい、 続けただろうか。 フォームが、固まってきた。 「やってみましょ」 「うん」 フロアに戻る。 ゲームのスキップを解除し、 ブッキーを促す。 構えたまま、じっと 前を見ている。 後ろから、声をかける。 「大丈夫、いけるわ!」 ブッキーがうなずく。 1,2。 ボールを前に出し、下げて。 3,4。 ボールを後ろで、ためる。 5。 ぐっと踏み込む。 ためた反動で、ボールが前に すっと押し出された。 スピードは無いが、 まっすぐ、転がっていく。 「あっ!」 「えっ?」 ラブと美希の、驚いた 声が聞こえる。 ヘッドピンの、少し横に当たる。 ピンが、パタパタと倒れる。 残り、1本が ぐらぐらと揺れている。 「お願い...!」 ピンの揺れが大きくなり、 パタリと、倒れた。 「STRIKE!」 画面に映し出される。 「きゃーっ!!!」 4人とも、信じられないような声を出して 飛び上がってしまった。 「完璧ね!ブッキー!」 「すごいよブッキー!ストライクだよ!」 みんなとハイタッチを交わした後、 私の手を取って、ぴょんぴょん跳ねている。 「わたし、初めて!初めて!」 大きい瞳をさらに開いて、 こぼれ落ちそうな笑顔。 「ありがとう!せつなちゃん!」 ぎゅっと握られた手から、 どれほど嬉しいか、伝わってくる。 少し前までは、決して 味わうことのなかった感覚。 むずがゆいような、 暖かいような、 とっても、嬉しい感覚。 「よーし、あたしも負けないぞー!」 全力で投げたラブのボールが 勢いよく溝を転がっていく。 「うわ、すごい速度」 美希が、顔を覆う。 その仕草がおかしくて、 ブッキーと、声を上げて笑った。 私の番が回ってきた。 レーンに向かう。 ブッキーの笑顔を思い出し、 クスッと笑った。 「どうしたの?」 「...ううん、ちょっとね」 幸せなの。 つぶやいた声が、 聞こえたかどうか、わからない。 にんまりしながら、私は 自分の赤いボールを手に取った。
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「それでは皆さん、明日から2日間の職場体験学習で地域の方々との交流を深め、 働く事の大切さを学んできて下さい。今日はこれまで!」 私が中学校に通い始めてから二週間が過ぎた。 クラスのみんなは相変わらず私に優しく接してくれているし、授業にも大分慣れた。 先生の言葉の通り、私たち2年生全員は、職場体験学習という学校行事に参加する。 ラブや他のクラスメイトは夏休み前に体験先と活動内容を決めていたけれど、 転入したばかりの私は、先生の計らいでラブと同じ体験先である幼稚園へ行かせてもらえることになった。 「せつな、明日は幼稚園だねー!しかもあたしと二人だけで一緒の組だからすっごく楽しみだよ!」 「ええ、そうさせてくれた先生に感謝するわ。ところでラブ。私、お願いがあるんだけど。」 「ん?何、せつな。」 「私、幼稚園がどういう所かよく分からないの。ラブは幼稚園に行ってたんでしょ?」 「うん、まあ・・・。でも小さい頃の事なんで、ほとんど忘れちゃった。タハハ・・・」 「そうなの・・・?残念だわ。」 「あ、ウチに帰れば何かあるかも・・・。さ、早く帰ろっ、せつな。」 「ええ。・・・って、待ってよーラブぅ~」 小走りで教室から出て行ったラブにようやく追いつき、下校を始めた。 家に着くと、今日はパートが休みのお母さんが出迎えてくれた。 「お母さーん、ただいまー!」 「ただいま、お母さん。」 「あら、お帰り。今日は二人共早かったのね。」 「うん。あのね、明日せつなと幼稚園に職場体験学習に行くんだけど・・・」 「私、幼稚園に行ってなかったのでどんな所か知りたいの。」 「ああ、それならラブの卒園アルバムがあるわよ。」 「そつえん・・・アルバム・・・?」 「そう、幼稚園での思い出が詰まった写真がいっぱいのアルバムよ。」 「わはーっ!それなら早く見よっ?ね、せつな?」 「え、ええ。お母さん、そのアルバムを見せて下さい。」 お母さんが持ってきてくれた卒園アルバムをラブの部屋へ持ち込み、テーブルの上に置いた。 【平成○年度 クローバー幼稚園 卒園アルバム】と書かれた表紙を開くと、園児の集合写真が現れた。 「せつな、これは入園式の時の写真だよ。これがあたしで、こっちが美希たん。ブッキーはこの子で・・・」 「ふふ、みんな可愛かったのね。あ、もちろん今のラブたちも可愛いよ。」 「これは動物園に遠足に行った時の写真。ブッキーったら動物の事になると、普段とは別人のようにイキイキしてたわ。」 「さすがは獣医さんの娘ってとこかしら。」 「これはお遊戯会の写真だね。この時は美希たんが主役だったよ。」 「美希のことだから演技も完璧にこなしたんでしょうね。」 写真を見たことで思い出がよみがえってきたのか、ラブは次々と当時の話を私にしてくれた。 私には分からない事も多かったが、ラブは一つ一つきちんと説明をしてくれた。 そんな中、アルバムも半分を過ぎたあたりでラブがページを開いた瞬間、私は彼女の表情のちょっとした変化を見逃さなかった。 (あ、これは・・・・・・) ラブはめくろうとしたページをすぐに戻してしまった。 「何、どしたの?ラブ。」 「いや、何でもない。・・・せつな、そろそろ夕ご飯の時間だから続きは後でね。」 「嘘よ。ラブ、どして隠すの?私に見られたくない物があるっていうの?」 「え、えーっと・・・。」 「そんなの、写真を撮ってくれた人やアルバムを作ってくれた人に失礼じゃない?」 「で、でも・・・。」 「あっそう。それなら美希やブッキーの家でアルバムを見せてもらうわ。ラブは見せてくれなかったってね。」 少しキツい言葉になってしまったけど、どうやらラブも観念したようだ。 「そ、そんなぁ~。わかったよ、せつな。見せるわよ。見せればいいんでしょ!」 「よろしい。さあ、ページをめくってもらおうかしら。」 「その代わり、絶対に笑わないでよ!絶対にだよ!」 ラブは再びアルバムに指を当て、そっとページを一枚めくった。 開かれたそのページには、上半身が裸の園児たちが色とりどりの絵の具を塗りたくっている姿が写し出されていた。 「ラブ、これは何なの?」 「これは、ボディペインティングっていう遊びで・・・」 「どして隠そうとしたの、ラブ?」 「え・・・だって裸だし、絵の具でベタベタだし、恥ずかしいよ~」 「そんな事ないわ。恥ずかしくなかったんでしょ、その時は。」 「ええ、まあ・・・。」 「だったらいいじゃない。ここに写っているみんな、いい顔してるわ。」 「そ、そうだね!何かはじけてるっていうか・・・ねえ、これ見て。」 ラブが指で示した一枚の写真には、絵の具まみれの3人の女の子が写っていた。 「これは・・・ラブたち?」 「うん!真ん中でピースしているのがあたし。左が美希たん。」 「美希、この時からモデルさんポーズしてたのね。」 「で、右がブッキー。親指を口にくわえて上目づかいなんて、今見たらクッハー!って感じだよ。」 「しかも、3人それぞれピンク、青、黄色の絵の具をおもに塗られているところが面白いわね。」 「あはー、言えてる!この時の色が今のプリキュアの色になった・・・ってのは考えすぎかな?」 「まあ、ラブったら。フフフ・・・」 「あははは・・・」 「ラブー、せつなちゃーん、ごはんよー。」 階下でお母さんが呼んでいる。アルバムを閉じてラブと一緒に食卓へ向かった。 夕ご飯の席で、ラブの幼稚園時代のことをお母さんに聞くことができた。 ラブは「やめてよー」とか色々言っていたけど、きっと全てがいい思い出だったんだろう。 気が付くともう入浴の時間だ。ラブに先にお風呂に入ってもらい、続いて私が入浴を済ませた。 「ラブ、お待たせ。アルバムの続きを見ましょう。」 「ごめん、せつな。今日はもう遅いからまた今度ね。」 「そうね、寝坊して中学生の私たちが幼稚園に遅刻じゃ格好悪いものね。」 「せつな、おやすみ。明日がんばろうね!」 「ええ、精一杯がんばるわ。おやすみ、ラブ。」 ラブと合図を交わした後、私は自分の部屋に入り、ベッドに横になった。 明日は今まで知らなかった幼稚園が、初めて会う園児たちや先生方が私を待っている。 そう思うと楽しみと不安が交錯してしまって寝られなくなるので、深呼吸をして気分を落ち着かせた。 今度は眠れそうだ。おやすみなさい・・・。 ~つづく~ 3-667へ
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あの時、確かにあたしたちは――― 「わたしー、せつなさんを呼んでくるね。」 自分と同じ境遇だと感じたブッキーは、せつなを呼びに部屋へ。 「じゃあ私たちはバーベキューの準備をしましょう。」 ミユキさんとあたしと美希たんは海岸へ。 「あ、いっけなーい。大事な物忘れちゃった。先に準備しててくれる?2人とも。」 「はーい。」 あたしと美希たんは慌しく、鉄板や食材の準備を整える。 「ねぇ、ラブ」 「ん?」 夕陽が眩しく、あたしたちを照らす。あの時と一緒だとあたしは振り返る。 あれは1年前の暑い夏の日。 お互い、惹かれつつある存在になったのに気付き。 親友から恋人へと発展した思い出の日。 そんな2人の光景を知っているのは… ――あの夕陽―― だけ。 「せつなとはどう?」 「どうって?」 「…」 「せつなが幸せかって事?」 「えぇ…」 美希の手が止まる。その姿を横目で見つつ、あたしは言葉を続ける。 「わからないよ、まだ。今だって、せつなはどうしてるか…」 あたしも正直不安だった。半ば強引に誘ってしまった合宿。せつなが乗り切れてない 事も薄々感じてはいたし。 「でも、ブッキーならウマく説得してくれそうね。」 再び手を動き始める美希。その顔には少し笑みもこぼれていて。 「美希こそブッキーとはどうなの?順調?」 「完璧……、とはまだ言えないカモ。」 静かな波の音。 あたしたちの会話は妙に重たい空気になる。 「お互い、頑張りましょ。」 「負けないよー」 幼馴染み。 いつも3人でいた。 途中で2人になりかけたけど、あたしたちには無理だった。 美希はずっとブッキーを気にしていて。 あたしもブッキーは妹のように可愛い存在だったし。 だから――― 「2月だったわよね、アタシたちの前にせつなが現れたのって。」 「…うん…」 「早いわね、月日が経つのって。」 「そうだね…」 いつしか、あたしはせつなを。 そして、美希はブッキーを。 春を待たずして訪れた、あたしたちの分岐点(ターニングポイント) けれど、悲しくはなかったし、寂しくもなかった。 「不思議だね。」 「…そうね。」 3人から4人になったクローバー。それは以前にも増して深まった絆。 あたしと美希の絆もまだ色褪せていない。 恋人からライバルへ――― これもまた、あたしならではの分岐点なのかもしれない……と。 バーベキューの準備も出来、後はミユキさんとせつなとブッキーを待つのみ。 ふと波間に立つ美希。 あたしも後を追って。 「ラブ…。アタシね…」 「ダメだよ、美希たん。過去は振り返らないの!」 「そうね。」 言いたい事は何となくだけど、把握出来た。 でも、今は親友だし、ライバルでもあるし、同じプリキュアで。 あの時の分岐点は間違ってないんだ。 確かにあの時、あたしたちは輝いていた。 ほんの少しでも―― 夕陽だけが知っているあたしたちの関係。 そう。美希はあたしの……
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んじゃ俺も投下。 ぶきせつで被ってしまったスマソ 「せつな、ブッキーが今日どこに行くかとか聞いてた?」 ラブが私の部屋に入ってきた。 「ううん、別に聞いてないよ」 「そっか...まだ帰っていないってブッキーの家から電話あったから...」 時計を見る。夜11時をとうに回っている。 「携帯も出ないし...何もないといいけど...おやすみ」 ぶつぶつ言いながらラブは自分の部屋に戻った。 読みかけの本に目を戻すが、何か胸騒ぎがする。 ブッキーとは、ダンス合宿でお互いを知ってからは よく一緒に図書館や買い物に行っていたが、いつも 夜8時には家に戻るように予定を組んでいた。 そのうち胸騒ぎは嫌な予感になり、本の内容も 頭に入らなくなってきた。 服を着替え、アカルンを呼び出す。 「キィ」 いつも陽気な声で出てくるアカルンも、私の気持ちを 察したのか、真面目な表情をしている。 「ブッキーの居るところへ」 赤い光が私を包んだ。 27 : ◆BVjx9JFTno :2009/08/15(土) 05 30 28 ID 66tdVY2Y 光が消えると、そこは閑散とした路地だった。 四つ葉町にこんな場所は無い。 周りを見渡すより前に、声が聞こえた。 「やめてください...離してください...」 聞き覚えのある声が小さく聞こえる。 それをかき消すかのように、男達の声が聞こえる。 「あきらめろよ。ここまできたら叫んでも声聞こえないし」 「つかマジでおっぱい大きいよなぁ。俺にも触らせろよ」 「まてよ俺が終わってから!先にこいつ狩ろうって言ったの俺だし」 声の方を向くと、ブッキーに男3人が覆い被さっていた。 ブラウスは半分破られ、下着が見えている。 色々と触られているが、まだ最悪の事態には至っていないようだ。 ブッキーの表情は絶望と悲しみでで覆い尽くされている。 嫌な予感が的中した。 28 : ◆BVjx9JFTno :2009/08/15(土) 05 31 44 ID 66tdVY2Y 「ブッキー!」 大声を出してブッキーに走り寄る。 「...せつなちゃん...?」 「なんだよお嬢ちゃん。お友達かい?」 「おほっ、こりゃまたおいしそうなカラダしてんねぇ」 男達が私の方に寄ってくる。 ブッキーの表情がみるみる変わり、涙があふれている。 助けてって言うんでしょ。言うまでもないわ。そのために来たんだもの。 ところが、次に出てきた彼女の言葉は私の予想とは 違っていた。 「せつなちゃん!逃げて!はやく逃げて!」 「ブッキー...」 この期に及んでも、友達を逃がそうとするブッキーが たまらなく愛おしい。 それと同時に、男達に対する黒い憎悪が心を覆い尽くす。 29 : ◆BVjx9JFTno :2009/08/15(土) 05 34 13 ID 66tdVY2Y 私は立ち止まり、男達を睨み付けた。 全身に殺気をみなぎらせる。こんな感覚は久しぶりだ。 まだ私はこんな感覚を持てるのか。 いや、今までとは少し違う。 全ての人を不幸にするためにこの感情を持っているのではなく、 大事な人を守るため...大事な人を傷つけた奴に対する憎悪。 「ねぇ、一緒に遊ぼうよぉ」 胸に伸びてきた左端の男の手首を内側にひねる。 男は浮き上がるように反転し、簡単に腕を極められた。 「あうぅぅぅぅおぉぉ」 情けない声を出す男だ。股間を蹴り上げる。 声もなくその男はのたうち回る。 「てめぇっ」 残り2人の男が色めきだつ。 30 : ◆BVjx9JFTno :2009/08/15(土) 05 35 45 ID 66tdVY2Y 正面の男を睨み付ける。 男の目に怯えが走る。 勝負は既に決しているようだ。 こいつは生きるか死ぬかの闘いを経験していない。 「調子こいてんじゃねぇぞ!」 怯えを隠すかのように、正面の男が殴りかかってくる。 まるでスローモーションを見ているかのように遅い。 顔の動きだけで拳を避け、軸足を払う。 男は簡単に転がった。 ふいに後ろから腕を捕まれた。 もう1人の男が後ろに回っていた。 反射的に体をひねり、肘を飛ばす。 無意識だった。 31 : ◆BVjx9JFTno :2009/08/15(土) 05 38 50 ID 66tdVY2Y ラビリンスの兵士訓練は苛烈を極めた。 総統メビウス直下の兵になるには、戦術はもとより 実戦の能力が重視される。 選抜試験は実戦形式の競技ではなく、実戦だった。 容赦なくお互いの急所を狙う。 それで使い物にならなくなった兵は、弾よけの歩兵になるか クラインに命を止められるだけだった。 それに、勝ち抜いてきた。 容赦なく相手の急所を打ち抜いてきた癖は今も抜けず、 格闘になると無意識に急所を狙ってしまう。 飛ばした肘が男のこめかみに吸い込まれる。 しまった、と思った。ここは殺し合いをする場所ではない。 しかし、体をひねった際に男がバランスを崩したらしく、 私の肘は急所をかろうじて外した場所に当たった。 それでも男は棒のように倒れ、白目をむいていた。 32 : ◆BVjx9JFTno :2009/08/15(土) 05 44 07 ID 66tdVY2Y 「この野郎...」 足を払って転倒した男が立ち上がり、ナイフを取り出した。 「せつなちゃん!!危ない!!」 ブッキーが叫ぶ。 ブッキーの悲痛な叫びとは裏腹に、 私は口元をほころばせてしまった。 構えと目を見ればわかる。 ナイフと打撃の組み合わせは、よほど訓練された 兵士でないと併用できない。 ナイフですべて片付くと思ってしまうのだ。 つまり、ナイフだけ見てれば良い。 「おらああああああああ!」 声は勇ましいが、ナイフが止まっているようなスピードだ。 やけっぱちで振り回しているだけだ。 ナイフを持った腕が伸びきったところで、手首に掌底を入れる。 簡単にナイフが落ちた。 体の回転を生かして、そのまま回し蹴りを入れる。 きれいに首に入った。声もなく男は倒れた。 33 : ◆BVjx9JFTno :2009/08/15(土) 05 47 31 ID 66tdVY2Y ブッキーの元に駆け寄る。 「ブッキー、大丈夫?」 「せつなちゃん...ありがとう...もうだめかと思った...」 ブッキーの大きな目から涙が止めどなく流れ、私の胸に 飛び込んできた。 「さ、早く行こう」 私はTシャツの上に着ていた襟付きのシャツを ブッキーに着せ、足早にその場を離れた。 何本か通りを過ぎると、大通りに出た。 隣町のようだ。 「ブッキー、どうしてあんなところに居たの?」 「獣医学の専門書を頼まれて、買いに来たの。 そしたら帰りがけに突然囲まれちゃって...」 よほど怖かったのだろう、ブッキーは私の腕に しがみついたままだ。 「せつなちゃん...強いね」 「えっ...まぁ...ラビリンスでやらされてたから」 「ありがとう...せつなちゃん」 ブッキーが私にさらに密着してくる。 意外に大きなブッキーの胸が腕に押し当てられている。 34 : ◆BVjx9JFTno :2009/08/15(土) 05 48 04 ID 66tdVY2Y 「あ、連絡しておかなきゃ」 ブッキーがリンクルンを開けて電話をかけ始めた。 「あ、ラブちゃん?連絡取れなくてごめんね。ちょっと色々あって、 せつなちゃんに助けてもらったの。これから戻るね。」 「あ、美希ちゃん?連絡取れなくてごめんね。ちょっと色々あって、 せつなちゃんに助けてもらったの。これから戻るね。」 「あ、お母さん?連絡取れなくてごめんね。ちょっと色々あって、 せつなちゃんに助けてもらったの。終電なくなっちゃったから タクシーで戻るね。」 ブッキーがリンクルンを閉じた。 「ねえブッキー、私アカルンがあるからすぐ戻れるよ?」 「うん、知ってるよ」 「えっ...」 ブッキーが私の腕にぎゅっとしがみつく。 「ホントに怖かったから...忘れさせて欲しいの」 「...」 私はこれから起こり得ることを想像して、 体の奥底が熱くなるのを感じた。 以上終わり。 続きは思いついたら書きます。 何か表現が某ハードボイルド小説のパクリに なってしまったorz
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From 桃園ラブ To 東せつな Subject ラブだよ せつな、お元気ですか? あれからもう10年になるんだね。 ラビリンスは幸せな国になったよね? きっと、せつながいっぱい頑張ってるから。 でも、あのときみたいに倒れるまで無理しちゃだめだよ。 美希たんは今やすっかり押しも押されぬトップモデルだよ。 で、今年も年末はずっと向こうでお仕事なんだ。 ブッキーは卒業研究で大学に缶詰なんだって。前に会ったときは 徹夜が続くとコンタクトは眼に悪いのって、眼鏡かけてたよ。 あたしは……今日はケーキ屋さんで売り子のバイト。 四つ葉町を出て、バイトをしながらミュージカルの女優を目指してるんだ。 たくさんオーディション受けて、たくさんオーディション落ちちゃってるけど。 最近は小さな役だけど少しはもらえるようになってきたんだよ。 でね、いつかはブロードウェイの舞台に立つんだ。 ダンスはね……あの頃はもうできなくなってた。 あの時の大会に優勝したら、ミユキさんのようなダンサーになれて、 皆を幸せに出来るんだって思い込んでたけど、甘くはなかったよ。 どうしても許せなかったんだ。 同じ事務所の友達があんなことになるなんてね。 あんなに頑張ってるのにおかしいよ! で、辞めさせられるのを止めようとしてるうちに気付けばあたしも事務所に いられなくなったんだ。 高校にもダンスにももう居場所がなかった。 あのとき、ブッキーとっても心配してくれたし、美希たんなんてすっごく怒って、 事務所に文句言ってやるんだって…… あたしはそんなことだけはさせられなかった。美希の夢まで壊してしまうなんて それだけは絶対ダメだって。 でもミユキさんや皆を裏切ってしまったことには変わらなかった。暫くは 立ち直れなかったよ。 美希たんやブッキーが自分の夢をつかもうとしているのにあたしは…… そんなときにお母さんがね、ラブの信じたことを責めたりはしない。 前を向きましょう、やり直せるからって。 せつなも今は苦しい場所で頑張っているんだって。 本当はね、自分の夢を見つけて頑張っているんだろうせつなのこと、 うらやましいと思ってたんだ。 昔隼人さんから聞いたことがあるんだ。 カオルちゃんのドーナツカフェがあった頃はちょくちょく来てたんだよね。 ラビリンスの人間は自分で考える力をなくしているってね。 メビウスの代わりになるのはたやすいけど、そうならないためには今は 前の見えぬ道を手探りで進むしかないんだって。 そんな中で頑張っているせつなのことを思うと、 今度会えた時には、せめて恥ずかしくないあたしでいようと思って、 編入した定時制の学校卒業して、当時パートで勤めていた会社でも やっと認めてもらえて、正社員にならないかという話もしてもらえたの。 職場の人もみんないい人ばかりだったし、ずっと頑張っていきたいと いう気持ちもあったの。 でも、あの時見つけた夢のことをあきらめきれない自分はね、 心のどこかにずうっといたんだ。 会社の人たちの期待を裏切ってしまうことと、自分の心を裏切って生きること…… 昔せつなは言ったよね、「二兎を追うものは一兎をも得ず」って。 あの頃のあたしは「両方とも……それ以上手に入れて見せる」と自信を持って言えた。 でも、そんなことばかりじゃないという現実もわかるようになった。 結局、会社の人にはお詫びを言った。 もしダメだったら帰って来いって言ってくれたけど、 その言葉には甘えないことを誓っているよ。 お父さんもお母さんも驚いてた。悲しませたかもしれない。 でも、それがラブの選んだ道なら信じるって。 ミユキさんも一度はダンスを捨てたあたしにただ一言「覚悟は出来てるわね」って。 世界に通じるラブになることを今度こそはあきらめない。 世界はね、昔タルトが言ってたパラレルワールドだったかな? シフォンがいるスイーツ王国もだし、もちろんせつなのいるラビリンスもなんだよ。 そういえば、ラビリンスにはクリスマスはあるのかな? あっても、せつなは働いているんだろうね。 ほんと残業ばっかりしてちゃだめだよ。 あの時はシフォンを助けに行くためにクリスマスどころじゃ なかったけど、クリスマスは楽しむ日なんだからね。 今度のオーディションに応募するためのとっておきのプロモムービー、 せつなだけには先に見せてあげる。 ささやかなクリスマスプレゼント。 じゃあ、おやすみ。 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ かつてはリンクルンだった古い携帯電話に込めたメッセージ。 そっと送信ボタンを押す。 ***** From 東せつな To 桃園ラブ Subject せつなより ラブ、お久しぶり。覚えているかしら? 貴女達の世界で言えばもう何年も経っているのでしょうね。 ラブも美希もブッキーも自分の夢に向かっているわね…… 私の夢は、ラビリンスが貴女達の街のように幸せになること……あの時そう言ったわ。 復興、といっても実際には総てが破壊された訳じゃない。メビウスから解放された 人たちに幸せを知ってもらう。私達はその手助けをすればいい。 でも、幸せとは何かをラビリンスの人々が理解することは難しかったの。 幸せとはドーナツが自由に食べられること?命令なしにダンスが踊れること? 元は生きることの責任をコンピュータに丸投げして楽をすることを求めてきた人たち。 結局何も変えられないの? 最初は私達がもうメビウスのようなコンピュータに頼らないように、 自分で決断することの大切さを説いて廻ったり、 何をしたらいいか解らない人々のための相談会を開いたりして日々駆け廻ったわ。 そう言えばウエスターもあの頃はちょくちょく四つ葉町に来てたみたいね。 次第に私達がメビウスの代わりだと見られるようになっていったの。 私達はクラインがやっていたようなことをやるようになっていたわ。 ただ、人々にとってはメビウスに操られていた頃の記憶は忌まわしいものだった。 ”私達に「管理」されるのも勿論良しとしない。ならば、自分達に都合のよいメビウスをもう一度作り直して欲しい。 それがかつての幹部だった君たちの責任ではないか?” その声は日に日に強まり、結局はウエスターもサウラーも私も押しつぶされたの。 苦しかった。 あの戦いはなんだったのだろう?と思いながら、プログラムを組む毎日。 そして管理という名の望まぬ「支配」を強いられる日々。 幸せのプリキュアだったのに本当の幸せが伝えらずこんなことになったのが悔しかった。 心が痛かった。かつてナキサケーベのカードを使ったときとも 比べ物にならないくらい…… その痛みはいつしか薄らいでた、いえ、痛みを感じる心そのものが消えそうになってた。 ある日ふとリンクルンをしまっておいた箱を開いたら、そこにはリンクルンはなく、 ラブたちの世界に潜入した頃に与えられていた携帯があったの。 もう貴女に幸せのプリキュアの資格はないって突き付けられたみたい。 それからその箱は開けなくなった。 でもね、少し前にウエスターが昔自分でドーナツを作るためにラブ達の世界から 持ち込んでいた調理器具を偶然見つけたの。 お母さんとラブと一緒に料理を作ったあのころを思い出した。 あの頃ハンバーグを丸めていた時のラブの笑顔…… もう一度やり直せるかも知れないって思った。 今は非番の日には小さなキッチンで子供達と料理を一緒に作っているわ。 ラビリンスでは食事は全て工場で作っていて、 今でも自分から料理を作ろうという国民はいないの。 でも、自分で料理を作って美味しいって思うのも、 作ってあげて美味しいって思ってもらえるのも、 時には失敗して落ち込んだとしてもまた頑張ろうって思うことを、 子供達に伝えることはできる。 それが幸せの意味、自分で決める未来を知ることにつながるから。 道は遠いけど、貴女達に幸せになったラビリンスを見てもらうことは あきらめていないわ。 今日、ラブにメールを送りたくなって久しぶりに箱を開いたの。 やはり携帯のままだったけど、これで送信すればきっと届いてくれると信じるわ。 では、おやすみなさい。 ---------------------------- 古い携帯にメッセージを込めて送信ボタンを押した。 ***** その夜、ラブはせつなとハンバーグを焼く夢を、せつなはラブとダンスを踊る夢を見た。 幸せに満ちた寝顔であった。
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「あ」 「ん?あ、ごめんなさい。これ美希のね」 苦笑して彼女はあたしのコップをテーブルに戻した。あたしの声に一度は中断された会話が、なぁんだという微笑とともに快活な少女によって再開される。あたしも笑顔を作り、会話に戻る。ドクドクと高鳴る心臓に気づかないフリをして、彼女が置いたコップを握る手を微かに震わせながら。 炭酸ジュース一つと、カフェオレ一つとオレンジ二つ。パラソル付きのテーブルでドーナツを囲むように置かれた飲み物。 頼まれた飲み物を人数分買ってきた幼なじみは、あたしに飲み物を手渡すとき首を傾げた。その目は珍しいねとでも言っているようだった。 ありがとうと言ってそれを受け取り、思ったよりも渇いていた喉を潤す。甘さの中にすっきりとした酸味。嫌いではないが、随分と飲んでいなかった気がする。 そしてあたしの隣にはもう一つのオレンジジュースがコトンと置かれた。 全ては仕組まれた事故だ。 ポーカーフェイスには自信があったはずなのに、自分で仕掛けたものにああも反応してしまうのは想定外だった。 今がいいだろうか 自然なタイミングで もう誰も気にしていないだろう 「せつな、ドーナツついてる」 「わっ、ラブ。もう……ありがとう」 トーン低めの黄色い髪の少女、桃園ラブがテーブルを挟んで漆黒の髪色の少女東せつなに手を伸ばし、その頬についたドーナツのかけらを取り口に入れた。 持ち上げようとしたコップをあたしはもう少しで倒してしまうところだった。 からん、からん あたしはストローをコップの中で上下させる。 作戦は成功したのに、結果を喜ぶことができない。自分はこんなに惨めなことをする意気地なしだっただろうか。 間接キスを仕組みながらそのストローに口をつけることさえできなくなった。 友人の話は頭から流れ、ただ悪戯に、氷がとけていく。 「―――よねっ美希たん?」 「えっ?」 不意に話しかけられハッと声のした方を見る。声をかけたラブだけではなく、せつなと祈里も訝しげにあたしを見ていた。 「大丈夫?」 「うん。ごめん、何だっけ」 「明日の合宿。せっかく海の近くだし、海で遊びたいねって」 「え、ええうん。泳ぎたいわね」 「でしょ?こっそり水着持ってこうかなー」 話についていけたことにほっと息をつき、喉を潤すため自然にストローに口をつけた。 意識をし過ぎているのかもしれない。違うことに意識が移り、気にしなければこうして普段通りになる。 「気にしてるのかと思った」 その時、小さな声でせつなが話しかけてきた。反射的にあたしも小さな声で何を?と返す。 「飲み物飲まないから。潔癖?って言うんだっけ。それだったら悪いことしちゃったなぁって」 意味に気づくとかぁっと体温が上昇するのがわかった。彼女が自分を見ていたことに急に恥ずかしくなる。そして、余計な心配をかけたことを反省する。 「ごめん。何か今日ぼーっとしてて。あたしは仲のいい友達なら平気よ」 あと、潔癖はあんまりよく受け取られないわよとあたしらしくお小言。せつなはごめんねと微笑んだ。 罠を仕組んだことを心の中で詫びつつ、あたしの心は彼女の笑顔で少しずつ晴れていく。 「もしかしたら苺チョコ取ったから怒ってるかなとも思ったし」 これは嘘。からかうようにせつなは自分の食べかけのドーナツを指差す。 あたしの一番好きな苺ソースの乗った甘くないチョコ生地にチップ入りのドーナツ。売れ行きがよかったらしく今日は一つしか残っていなかった。 「あたしはそんな子供じゃないわよ」 彼女にも食べて貰いたくて薦めたドーナツ。今は残りが三分の一ほどだ。 「美味しいでしょ?」 「ええ、でも……」 次の瞬間あたしの口内にふわりと甘さが広がった。せつなはしてやったりの顔をしている。 「いつもクールなのにこれを食べた時の、美希の緩んだ顔は見物よね」 甘くてほろ苦いドーナツ。 あたしは一口大だったそれをゆっくり咀嚼もせずに飲み込んだ。 高鳴った心臓は当分正常な働きをしてくれないだろうとどこか遠いところで考えながら。 END
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わたしと美希ちゃんは二人に別れを告げると、いつもの帰路へ歩を進める。 「今日はどうなる事かと思ったわよ。」 「あのノーザってゆう人、わたし……怖い…」 ラビリンスから送られてきた最高幹部、ノーザ。 わたしたちはふと、不安に襲われる。 けれども、何度もその不安や恐怖からわたしたちは這い上がってきた。 自分たちの可能性。わたしたちの役目。希望は捨てちゃいけない。 ―――私、信じてる――― 「ねぇブッキー。これからちょっと寄り道しない?」 「えっ?」 「アタシの読者モデルの最新号、実は家に届いてるの!」 「ほんと!?でもね…」 「ん?用事あるの?」 「実は……」 美希ちゃんのお母さんにお願いして、こっそり届けてもらってたり。驚かそうと思って。 だからほんとは今日、誘うのはわたしの方な訳で。。。 「ママったら呆れちゃう…。なーんにも言わないんだもん。」 「そりゃそうだよ…。内緒にしといてってお願いしたんだもん。」 さっきまでの戦いの事や、不安や恐怖なんて美希ちゃんと居れば どこかに飛んでっちゃう。 わたしたちの調子も元に戻ってきたようで。自分の心があったかくなるのがわかった。 たまには、ラブちゃんやせつなちゃんみたいな関係に便乗したいなって……。 「おじゃましまーす」 「何か持ってこようか?」 「ううん。それより、早く見せてよ!ってアタシが言うのも変だけどね。」 すっかり読者モデルとして活躍してる美希ちゃん。それを見るのがわたしの楽しみ。 普通なら憧れちゃうんだけど、美希ちゃんはすぐ手の届く……。 ――――大切な人 「この洋服、秋用にしてはちょっと派手すぎてアタシは嫌だったんだ。」 「そなの?とっても似合ってるけど?」 「わかってないわねー。」 「うーん…」 「アタシが着たかったのはき・い・ろ。」 「黄色?」 「ほら、次のページ」 開かれたページには、鮮やかに着飾れた黄色の美希ちゃんが。 「わぁ~。とっても似合う!」 「でしょ!大好きな人のイメージカラーよ。それも秋とバッチリ!アタシ、完璧!!!」 嬉しくて。思わず、わたしは美希ちゃんに抱きついちゃって。 あ、ラブちゃんだったら覆い被さっての方が正しいかも…。 「ちょ、ちょっとブッキー。」 ビックリする美希ちゃん。でも、わたしは笑っているだけ。 「もう、なんなの?笑ってばかりで。変よブッキー。」 と言葉にするも、わたしを見つめる美希ちゃんの瞳はうっとりしていて。 なにをするわけでも、話すわけでもなく、体を寄せ合う2人。 しばらくして、どちらかが一方の名前を呼ぶ。 しかし、眠っている事に気付いて、優しく微笑み、自分も再び体を預けて目を閉じる。 ガチャ 「祈里ー、もうすぐご飯………。くすくす…、仲がいいのね二人とも。」 2人の幸せそうな寝顔を見て、そっと毛布をかけてくれたお母さん。 後々、話を聞いたらちょっと恥ずかしくて。 秋はわたしの季節。 山吹色はわたしたちの心をあったかくしてくれる。 「今度は人の少ない時間だけにするから…」 「いきなりなんだもんブッキー。勘弁してよね!」 「でもラブちゃんとせつなちゃんだって…」 「ま、負けてられないわね!」 ~END~