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夕食の後、せつなは部屋に戻り、私服のままベッドに倒れこんだ。今夜だけは食事の味もよく覚えてい ない。 先ほどの、ミユキの言葉が頭に焼きついて離れない。この世界の人間の中で、最も苦手な存在だった。 他の誰でもない、せつな自身の行動がそうさせたのだ。 目を合わせることすら辛いほどに、後ろめたい人だった。しかし、恐る恐るうかがった瞳には、不思議 と憎しみの色は無かった。 少し開いた窓、カーテンを揺らして夜風が吹き込む。 ふと目に入る、部屋の家具や装飾品の数々。乱暴に身を投げ出して、乱れてしまったシーツ。 慌てて起きて、丁寧にベッドメイクをやり直す。優しい部屋。あゆみが買ってくれたお布団。こんな使 い方は許されないと思った。 外に出て、ベランダの涼しい風にあたる。美しい四ツ葉町の夜景が一面に広がっている。 無数の灯りの一つ一つの先には、この家と同じように幸せな家庭があるのだろう。 そんなことを考えながら、またミユキの言葉を思い出していた。 「事情はどうあれ、多くの人々を不幸にした事実は許せない!」 “許せない!”シンプルなその一言を、頭の中で何度も繰り返しながら噛み締める。 当然だ! ――――許せないなんて――――そんなの当たり前だ。 それなのに、この街に来て以来、初めて聞いた言葉だった。 「どうすれば――――許してもらえますか?」 なんて――――都合のいい質問だろうか。 どうにかすれば、許してもらえるとでも思っていたんだろうか? 愚かだと思う。それでも、初めて自分の罪を認めた人だから。ただ、純粋に聞いてみたかった。 ラブ、美希、祈里。彼女たちは、せつなの罪を認めようとしなかった。謝罪すら拒絶した。口にするほ どに苦しそうな顔をした。 始めから、責める気がない。そんな人たちに謝ったところで、自己満足にすらなりはしない。 謝ることもできないのに、許されるはずが無い。許しなんて、請う資格がない。 知念 ミユキ。ラブに、夢と幸せを与えた人。この人ならば、自分にも何か答えを示してくれるような 気がした。 たとえ、それが拒絶や断罪であっても構わない。もう、一人で抱えるのは苦しかった。 その答えは、自分で見つけろと言っていた。ならば、あるのだろうか? 本当に――――そんな答えが。 ラビリンスと共に、この身を滅ぼす。それ以外の、未来が―――― 「一つだけ、ヒントをあげる。守るだけではなくて、――――」 なにを? 守りたいものは、ラブの笑顔と幸せ。ただ、それだけだった。 いや、違う。――――今はもう、あの時とは違う。 ラブと、優しくしてくれたご両親。そして、美希と祈里も守りたい。 たった数日で、ずいぶんと欲張りになったものだと思う。これ以上増えたら、自分の手には余るかもし れない。 それも、違う。――――守るべき数なんて、関係ない。 ラビリンスを打ち倒す! メビウスの野望を打ち砕く! 果たすのは、ただそれだけでいい。 そうすれば、もともと幸せに溢れていたラブたちは、きっと本来の笑顔を取り戻せるはずだった。 「――――与えられる存在になりなさい」 与える? 東 せつなが、他人に幸せを与える? 無理だ! と思えた。 確かにこの街に来て、望んでいたままの幸せを手に入れた。でも、それは、みんなから与えられたもの。 そして――――本来は、受け取ることすら許されないもの。 いつかは、返すべきものだった。 他人に分けて、与えられるものなんて、これっぽっちも持ってはいなかった。 自分の自由にできるのは、この身体と命だけ。だから――――戦うと誓った。 この身が、砕け散るまで。ラビリンスの野望を、砕き切るまで。 他に、どんな使い方があるというのだろうか。 「せつな? どうしたの」 「ちょっと、夜風にあたっていたのよ」 髪をほどいた、パジャマ姿のラブが部屋から出てきた。 ツインテールの時とは違い、長い髪を揺らしたラブは、びっくりするほど大人っぽく見えることがある。 大きな瞳が、憂いを帯びて揺れる。一瞬でこちらの心情を察して、心配しているのだろう。 「ミユキさんの言ったこと、気にしてるの? 大丈夫だよ。きっと、わかってくれるから」 「そうじゃないの、与えられる存在になりなさいって意味がわからなくて。そんなもの、何も持っていな いもの……」 「だったら、今から手に入れようよ! そしてみんなで――――って、どうしたの、せつな?」 せつなの目が、驚きに見開かれる。幸せになりなさい。それは、何度もかけられた言葉だった。その度 に、空しくせつなの心をすり抜けていった。 これ以上、望んではいけないと思ったから。誰よりも、せつな自身がそれを許せなかったから。 その言葉が、今、全く別の意味を持ってせつなの心を捉える。 「自分で見つけなさい」ミユキの忠告が甦る。 一つだけ、ヒントをあげる。ミユキはそう言っていた。そして、ラブからもたった今、その一つを受け 取ったように思えた。 後は、美希と祈里。彼女たちからも聞いてみたい。そうしたら、答えに行き着くような気がした。 「ありがとう、ラブ。私、明日、美希と祈里に会いに行ってみるわ!」 「それなら、あたしの部屋で集まろうよ」 「ううん。それぞれ、二人っきりで話してみたくなったの。今のラブと、私のように」 「わかった。頑張ってね、せつな」 『翼をもがれた鳥(第十六話)――――四葉のクローバー――――』 「四葉フォトスタジオ――――ここね」 クローバータウンストリートから少し離れたオフィス街、そのマンションの一角にせつなは足を踏み入 れる。 初めて訪れる場所だが、地図をもらっていたので迷うこともなく辿り着いた。 今からここで、美希の読者モデルの撮影があるらしい。終わってから待ち合わせても良かったのだが、 せっかくなのでと見学を勧められたのだ。 几帳面なせつなのこと、つい早く着きすぎたらしい。外で時間を潰そうかとも思ったが、中学生がうろ つく場所でもない。 中で待たせてもらおうとしたところで、カメラマンらしき人から声がかかった。 「遅いよ、君。もう撮影の準備は済んでいるんだ。さあ、早くこっちへ」 「えっ? 私は……」 「いいから早く! 午後からは次の雑誌が控えてるんだろう? それまでに終わらせないとね」 若いカメラマンは、せつなの腕を掴んで中へと案内する。表情と口調は優しいが、行動は有無を言わさ ず強引だった。 スタジオをくぐり抜けた先に待っていたのは、プロのメイクとスタイリスト。 もともと美しいせつなの容姿が、瞬く間に磨き抜かれていく。 「あのっ! 聞いてください!」 「質問は説明の後にしてくれるかな。まずは撮影の手順からだ」 何を言っても聞いてもらえない。せつなは観念して従うことにする。 内容は簡単だった。決められたポーズを取り、カメラに要求される表情を向けるだけ。 「いいよ~、そこで笑って!」 「はい」 「ダメダメ、笑顔が固い。作り笑いじゃカメラは誤魔化せないよ。もう一度!」 「こうですか?」 「それもダメ。君の笑顔からは喜びが感じられない。目に輝きが無いんだ」 何がいけないのか? 頭が混乱していく。容姿は認めた上での撮影のはず。 表情? 笑顔? それも、この世界に潜入する時点で、念入りに調査して身に付けたつもりだった。 ラブもあゆみも誉めてくれたのに――――ここでは通じない? 繰り返されるダメ出しに、せつなの表情もだんだんと険しくなっていく。怒って出て行こうとした時だ った。 「すみませ~ん、遅くなりました。蒼乃 美希です」 「美希!」 「せつな……どうして?」 それから二時間ほど後のこと、お昼の休憩時間にせつなと美希はスタジオ近くの喫茶店に移動した。 美希が時々撮影の打ち合わせで使うお店だった。高級感の漂う美しい店舗で、テーブルの間隔も広く天 井も高い。 要するに中学生が二人で入るようなお店ではないのだが……。 他人に聞かれたくない話をするには、打って付けの場所でもあった。 「まったく、美希のせいで酷い目にあったわ」 「だからゴメンってば。お詫びにここはアタシの驕りでいいから」 「そう、悪いけどお言葉に甘えさせてもらうわ」 メニューを見て心配していたのだ。どれも信じられないほど高額なものばかりだった。 払えないほどではないが、あゆみからもらった大切なお小遣いを、こんな贅沢で使ってしまうのは躊躇 われたのだ。 結局のところ、完全な人違いだった。前の撮影の仕事が長引いて遅刻した美希の代わりに、せつなをモ デルと勘違いしたらしい。 基本的に部外者が立ち入る場所でもなかったし、一般人離れしたせつなの美貌も災いしたのだった。 OKをもらえるカットこそ無かったものの、カメラマンたちはせつなのことを大変気に入ったらしい。 素人と聞いて目を丸くしていた。 美希と一緒に撮ってみないか? 読者モデルになる気はないか? などとしきりに声をかけていた。 それを、これ以上ないくらいキッパリとせつなは断った。かなり気分を害していたらしい。 「それにしても、せつながモデルって良かったわよ。くくっ」 「笑わないで! 雰囲気に流された私が馬鹿だったわよ……」 「いいじゃない、狼狽したせつななんてそうそう見れるものじゃないんだし」 「一番高いメニューは何かしら……」 せつなが気を取り直そうとするたびに、美希が蒸し返してからかう。そんなやり取りがしばらく続いた。 美希にしてみれば、こんな雰囲気を簡単に手放すのが惜しかったのだ。 言うまでも無く、三人の中で一番せつなと気まずいのが美希だ。この間のイースの影との戦い以来、一 応友人と呼べる間柄にはなれた。 それでも、親しいかと言うとかなり微妙な関係だった。 せつなが四つ葉町で暮らすようになって、既に一週間が過ぎようとしている。基本的に四人で行動して いるものの、ラブ抜きでせつなと向かい合う時間も少なからずあった。 そんな時、一番会話に困るのが美希だった。 押し黙るせつな。空気を読まずにニコニコしている祈里。せつなを無視して、祈里とだけ話すわけにも いかない。 なんとか場を持たせようと美希が声をかけるものの、せつなからはそっけない返事しか帰ってこない。 何してるの? 美希たん。ラブが戻ってくる頃には、疲れきってテーブルに突っ伏してる美希の姿がし ばしば見受けられた。 「あれが、美希の夢? 美希の幸せ? 美希が本当にやりたいことなの?」 「そうとも言えるし、違うとも言えるわ。アタシの目標はハイファッションのトップモデルよ」 憤慨はしていたものの、このトラブルはせつなにとっても好都合だった。肩の力が抜けて、自然に聞き たいことが口をついて出る。 今のは読者モデル。モデル業界のほんの入り口であり、美希の目指すのは国内外を問わぬコレクション のステージだった。 目を輝かせて、世界の舞台で活躍するモデルの話をする美希。そんな姿をせつなは不思議そうに眺める。 今日の撮影とだいぶ違うことはわかる。それでも、何がそんなに楽しいのかは理解できなかった。 「他人より優れた容姿を持つ者が、衣装の流行を先導する。そういうことね?」 「実も蓋も無い言い方ね……。アタシ以外のモデルにそんなこと言っちゃダメよ」 「ごめんなさい。でも、本当にわからないの。容姿が優れているって、そんなに誇れるようなことなの?」 「モデルに関して言えば――――その通りよ。でもね」 モデルとは、たまたまルックスに恵まれた、そんな次元で目指せるものではない。生まれ付いての容姿 など、最低条件の一つに過ぎないのだ。 「せつなの顔とスタイルは、アタシから見ても完璧よ。それでも通じなかったのはどうしてだと思う?」 「笑顔が固いって、喜びを感じないって言われたわ」 「何から生まれた笑顔か使い分けること。理想的な顔の筋肉の動かし方をすること。ただ笑えばいいもの じゃないの」 「そうかもしれないわね。でも、今日、私が聞きたいのはそういうことじゃないわ」 「モデルというのはね――――」 「もう、モデルの話はいいわ!」 「いいから聞いて、アタシがモデルを目指した理由。ラブとブッキーしか知らないことよ」 どこで開かれたのかは、もう覚えていない。母親に連れられて見た、華やかなコレクションの舞台。 そこで美しく輝くモデルたち。 いつかは、自分もそこに立ってみたい。幼心に抱いた夢。それは――――よくある話だった。 「パパ、アタシモデルになるのっ!」 「いいかい、美希。モデルを目指すとは、完璧な女性を目指すことだ。モデルとは手本なのだよ、わかる かい?」 「うん! アタシ完璧になる!」 今となっては滅多に会うこともなくなった父親とのやりとり。その中でも、忘れ得ぬ一つだった。 美希が魅せられたのは、舞台の照明でもなければ、モデルの顔でもスタイルでも衣装でもない。それぞ れのモデルが培ってきた人生の輝きそのもの。 考え方も、立ち振る舞いも、教養や身体能力も。広い知識や経験も。それら全ては糧となってモデルの 美しさを磨き上げる。 美希にとってモデルになるとは、女性として完成させること。そして、父親との約束を果たすことでも あった。 幼い頃から身体が弱く、同じ歳の子と遊べずに美希に付いて回っていた弟の和希。その目標になりたい、 そんな気持ちもあった。 美しい母親に対する憧れもあった。離れてしまった家族に、自分を見せ付けてやりたい気持ちもあった。 「だから、アタシは完璧なの。そうでなくちゃいけないのよ」 「どうして――――私にそこまで話してくれたの?」 「せつなが、体の弱さに負けて希望を失っていた弟に似てるからかな」 「私が――――負けている?」 「ねえ、せつな。後悔はつらい? 一度道を間違えてしまったなら、なおさらその先は完璧であるべきよ」 休憩が終わり、再び美希は撮影へと戻っていった。 全ては自分を輝かせるために。家族を引き裂いた悲しみすらも、前進する力に変えて。 不幸すらも――――希望に変えて。 常に希望が持てる生き方こそ完璧。美希の言葉を胸に刻んで、クローバータウンストリートに戻ること にした。 次は、祈里と会うために。 クローバータウンストリートの表通り、特に賑やかな場所に山吹動物病院はあった。買い物を楽しむ客 が行き交う往路において、目的を異にする建物。 言葉の話せない動物の処方はどうしても遅れがちだ。苦痛を訴えられないから、継続して治療を行うこ とも難しい。 買い物のついでにでも気軽に寄れるように、なるべく通院が負担にならないようにとの配慮だった。 「こんにちは。初めてかしら?」 「あ、せつなさん!」 「こんにちは、東 せつなといいます。よろしくお願いします」 勝手がわからなくて、せつなは正面から院内に入った。迎えてくれたのはあゆみと同じくらいの歳の美 しい女性。 どうやら祈里の母親らしかった。すぐに祈里が駆けつけて、奥の男性と一緒に紹介する。 恰幅のいい大柄の男性は正先生。祈里の父親で、この動物病院の院長だ。 「祈里、ここはもういいわ。せつなさん、ゆっくりしていってね」 「うん、せつなさん、わたしのお部屋に行こう」 「お邪魔します」 初めて見る祈里の部屋。黄色のイメージで統一された、柔らかい印象の内装だった。 一見、女の子らしく可愛く整えてあるものの、ラブや自分の部屋と決定的な違いがあることに気が付い た。 「すごい数の本ね。これ――――全部、祈里のなの?」 「わたしのもあるし、お父さんやお母さん、おばあちゃんからもらった本もあるのよ」 つまり、全ては祈里が読む本らしい。サウラーもかなりの読書家だけど、それ以上かもしれない。 詩集、文学書、神学書、図鑑、医学書。パッっと見ただけでも、冊数だけではなくジャンルも多岐に及 ぶようだった。 許しをもらって、そのうちの何冊かを手に取る。やはりただ持っているだけではなくて、全てのページ に読み込まれた跡があった。 本を戻して、祈里と向かい合う。 どう切り出していいか分からず、沈黙が続く。今日も約束を取り付けただけで、用件は何も伝えていな かった。 祈里は何も話さず、尋ねもせず、ただせつなの様子を微笑みながらずっと見守った。 「祈里は、私と一緒にいるのが平気なのね」 「どういうこと?」 「美希は、いつも居心地が悪そうにしてるから……」 「美希ちゃんは、あれで色々気を使う人なの」 せつなの質問の意図を汲んで、祈里が口を開く。これも、二人きりでなければできないお話だったに違 いない。 会話は確かに有効なコミニュケーション手段だけど、それが全てってわけじゃない。 もしそうなら、人は動物と仲良くなんてなれるはずがない。 会話は信頼から生まれるのだそうだ。それは相手を信用するとか、そういう類の話ではない。 互いの口にする言葉が、相手を傷付けることは無いと信じ合うことで、初めて会話が成立するのだ。 生まれた国が違い、生活習慣も考え方も、常識の段階から何もかも違うのがせつなだ。 敵味方に分かれて戦っていた相手であり、今は心に深い傷を抱えている友人でもある。 迂闊に言葉を発せられないのは当たり前だった。 「だから、一緒にすごせる時間を持つことができた。それだけでも楽しいのよ」 「私も、祈里の傍にいるだけで気持ちが落ち着くわ。でも、今日はそうもいかないの」 「わかってる、大事なお話があるのね。心の準備はできてる」 「そんな大したお話でもないの。――――医学書が一番多いのね、祈里の夢は獣医だったわね」 「うん、動物さんが大好きだし。お父さんが獣医だし」 美希のように朗々と語ることはなかった。でも、それだけじゃないのは聞くまでもなかった。 膨大な蔵書が、祈里の内に秘められた情熱を表していた。 命を救う仕事をしてきたのなら、救えなかった命もまた多いに違いない。その悔しさが根底にあるのだ ろう。 「入院して気が付いたの。この世界は、他の技術レベルに比べて医学が極端に発達しているわ」 「そうなんだ。でも、それだけは全然満足できないの」 「ここの人たちは、動物の命すら、これほどまでに大切に扱うのね」 「愛している人がいるのなら、命の大切さに人も動物もないと思う」 「愛してくれる人がいないなら、人の命は動物にも劣るってこと?」 「そういうわけじゃないんだけど……」 「ごめんなさい。まさしく、ラビリンスはそういうところなのよ」 「せつなさん……」 怖いとは思わないのだろうか? 関わりたくないとは思わないのだろうか? ラブも美希も祈里も、 あゆみや圭太郎も。そして、きっとミユキも。 他人を愛して受け入れることによって、その人を苦しめている不幸まで抱えてしまう。 ラブは自分と知り合ってから、悲しい顔をすることが多くなった。美希は家族を愛していたからこそ、 悲しい別れをする羽目になった。 祈里にいたっては、この上、無数の動物たちの不幸まで抱えようとしているのだ。 「悲しみだけじゃないもの。それを乗り越える喜びだって分かち合えるわ」 「それが、祈里の幸せなの?」 「わたしだけじゃないと思うよ。ラブちゃんも、美希ちゃんも、きっと、せつなさんも同じ」 「私も――――?」 「どうして、ラブちゃんを助けようと思ったの? お礼のためだけに命を捨てようと思ったの?」 「私は……。ラブには笑顔で、幸せでいてほしかった。ただ、それだけよ」 「それが、せつなさんの祈りなんだと思うの」 「祈り?」 「そう。祈りはね、目標よりも、目的よりも、より純粋な想いなの」 獣医は、祈里が現実に望める最良の手段であって、目的そのものではないらしい。本当の願いは、人と 動物とが一緒に幸せになること。それが、彼女の祈りだった。 代価を求めないからこそ、力を伴わないからこそ、欲が働かない。純粋なる想い、そして、願い。それ が――――祈り。 ふと胸に手をあてる。銀の鎖を手繰り寄せ、緑色に輝くハートのアクセサリーを手に取る。 これこそ、祈りではなかったのか。 「せつなさん、それは?」 「これは、私が砕いてしまった幸せの素よ。唯一残った部分を削ってハートのアクセサリーにしたの」 「四つ葉の一枚ね。それも、十分に綺麗だと思う」 「ラブがくれた幸せを、私は踏みにじってしまった。だから、私は幸せになってはいけないと思うの」 「違う! それは違うと思う」 「何が――――違うの?」 「これをきっかけに、せつなさんが幸せについて考えるようになったのなら、幸せの素は壊れてなんかい ないもの」 ラブの言葉を思い出す。残った一枚がせつなの分で、足りない三枚はラブと美希と祈里で補うからって。 本当だと思った。変わっていない。カタチは壊れても、込められている想いは何も変わっていない。 「ありがとう、祈里。みんなから、大切なことを教わった気がする」 「ねえ、四葉のクローバーに、それぞれの意味があるの知ってる?」 「幸せの素じゃないの?」 「それとは別に、一枚一枚に意味があるの。一つは愛、一つは希望、一つは祈り、そして、四枚目の奇跡 ――――幸せよ」 幸せ? それが――――四つ葉に例えられるプリキュアの最後の一葉。だったら、その資格を持つミユ キの教えは……。 (守るだけではなくて、与えられる存在になりなさい) あの言葉の意味とは、人の幸せの在り方そのもの? イースは、奪うことによって人々の不幸を集めてきた。ならば、幸せとはその反対、与えることによっ て生まれるもの? だから、人は繋がっていくのだとしたら―――― 守るだけでは足りない。そして、与えるとは必ずしも幸せそのものじゃない。 「やっと、やるべきことが見えてきた気がする。ありがとう、祈里。ううん――――ブッキー!」 「うん! せつなちゃんならできるって、わたし――――信じてる!」 「ええ、精一杯かんばるわ!」 四つ葉公園の夕暮れ。仕事の合間を縫って来てくれたミユキの前に、緊張した面持ちのせつなが立つ。 この前と全く同じ光景。違うのは、あれから三日過ぎていることと、四人の瞳に、決意の輝きがあるこ とだった。 ミユキは口を開かず、ただ、黙ってせつなの言葉を待つ。 何かを言いかけるラブに、せつなは視線で合図を送って止める。美希と祈里も、心配そうに後ろで様子 を見守った。 「ミユキさんに、お願いがあります」 「何かしら?」 「私に――――ダンスを教えてください!」 お願いします! 深く、深く頭を下げる。図々しいのは百も承知だ。 拒絶されるかもしれない。罵られるかもしれない。構うものかと思った。元より失うものは、自分の命 くらいしかありはしない。 それを戦いに使う覚悟も、失う覚悟もできている。 なら、それまでの時間を無為に使うのはもったいないと思えた。 今はただ――――確かめたかった。この人が、伝えたかった言葉の意味を。 「私のコーチは、厳しいわよ」 耳を疑う。自分の口からお願いしたにも関わらず、とても信じることができなかった。 呆然としているせつなに、ラブが最初に抱きついた。美希が肩に手を置いて微笑む。祈里が手を取って お祝いする。 今、ここに――――新ユニット“四つ葉のクローバー”が誕生した。 避2-678へ
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半ズボンのポケットにあるものを時々触って確かめながら、 夕暮れが近付く通りを、少年は黙々と歩く。 物心ついたときから、母は一緒に暮らす人、父は外で会う人だった。 幼い頃は母に連れられて、小学校に上がってからは一人で、父に会いに行った。 何でも我儘を聞いてくれ、高価なおもちゃも簡単に買ってくれる父。 その代わり、会いに行っても一緒に過ごす時間はごく短いものだった。 それでも以前は、父と一緒によく遊んでいたような気がする。 キャッチボールの合間に見せる、誇らしそうな笑顔。 オセロで負けて悔しがる自分をなだめる、オロオロした顔。 実に楽しそうに遊んでくれる、父の表情が大好きだった。 しかし大きくなるにつれ、外野の声が耳に入ってくる。 母が自分のせいで、心通わせた人との再婚に踏み切れないでいるのだと。 父が自分に優しいのは、将来、会社の跡取りにしたいと考えているからだと。 親はただ自分の親であるだけでなく、それぞれ一人の人間だということ。 自分は必ずしも、彼らの一番ではないのかもしれないということ。 幼くしてそれを知った時、心のどこかに、冷たく静かな自分だけの場所が生まれた。 ひんやりとしたその場所にたった一人、膝を抱えて座り込む。 母が再婚して新しい父が出来れば、今の父とは会えなくなるかもしれない。 父の跡取りになることを受け入れれば、もう母とは暮らせなくなるかもしれない。 そんなどうしようもないことを、考えてしまう自分が嫌で。 そんなことを考えながら、親たちの顔を見る自分がもっと嫌で。 母にわざと我儘を言って、困らせることが多くなった。 父の家を訪れても父を避け、ゆっくり話すことなどなくなった。 早く大人になりたい。 父に縛られず、母を縛らず、誰にも頼らず生きていける大人に。 たった一人でも生きていける、強い大人に。今すぐにでも。 そして、それが出来ないのなら・・・。 少年は歩く。 わずかに伸びた影を従え、 しんと冷えた心の景色を、その瞳に宿らせて。 桃源まで、東へ五分 ( 第4章:未来へハイタッチ! ) 四つ葉町の街外れに広がる森。ここだけは、二十五年の歳月を跳び越えても少しも変わっていないように、せつなの目には映っていた。 木々の枝葉が傾きかけた陽光を遮り、せつなとタルトの影を消す。上から降ってくるざわざわという音は、まるで森がひとつの意志を持ち、ここでは自分が主だと主張しているように聞こえる。 イースだった頃は、ここを通るたびに、自分の心が森に見透かされているような気がして、ざわめく木の葉をぐっと睨みつけたものだった。 そんなことを思い出して拳を固く握ったせつなを、タルトが走りながら心配そうに見上げる。 「パッションはん。大丈夫かぁ?」 「平気よ。そろそろ追いつくかしら。」 せつなが過去の記憶を振り払おうとでもするように、なお一層足を速める。タルトも負けじと、彼女に追いすがった。 森の中を、二つの影が歩いていく。大きな影と小さな影。南瞬の姿をしているサウラーと、ズボンのポケットに両手を突っ込んだ、あの少年だ。やがて大きな影が立ち止まると、それを見て、小さな影もその歩みを止めた。 「さぁ、ここだ。約束通り、渡してもらおうか。」 「ここってどこ?マシンの姿を拝んでからじゃなきゃ、渡せやしないよ。」 深い森の中で突然立ち止まったサウラーに、少年は不安そうにきょろきょろしながら、それでも言葉だけは勇ましく言い返す。 「ほほぉ。なかなかしっかりしているね。いいだろう。スイッチ・オーバー!」 サウラーが、おもむろに本来の姿に戻り、そこに立っている巨木の幹に右手を当てる。すると、その手を中心に次元の扉が開き、タイムマシンがその姿を現した。 「うわっ、こんなところに隠してたんだ。」 「誰かに盗られないとも限らないからねぇ。さあ、部品を渡してくれるかい?」 ニヤリと笑って右手を差し出すサウラーに、少年は一歩後ずさり、意を決したように、その顔をまっすぐに見据えた。 「その前に。約束、ホントに守ってくれるんだよね?」 「無論だよ。信じられないかい?」 少年が、サウラーの冷たい瞳を覗き込む。 「じゃあその証拠に、先にマシンの中を見せてくれない?」 「お好きなだけ、どうぞ。」 少年がマシンの前扉を開けて操縦席に乗り込むと、サウラーはその扉を押さえたままで中を覗き込み、ごちゃごちゃとした計器類を指差した。 「これが今の時間。そして隣りにあるのが、行き先の時間だね。そしてこっちで場所を設定するようだ。一度跳んだらノンストップだから、タイムトラベルを止めるためのブレーキは無いようだね。」 「・・・なんだか他人事みたいな言い方だけど、おにいさん、これに乗ったことあるんだよね?」 「勿論あるとも。だが、操縦したのも、これを作ったのも、僕ではないんでね。まぁこの程度の機械なら、見ただけで扱える。要は、車とほとんど同じさ。ま、多大なエネルギーが必要ではあるようだが。」 自信たっぷりのサウラーに、ふぅん、と気のなさそうな返事をして、少年はじっとマシンの計器を見つめる。そして何気ない様子で、そのつまみに手を伸ばした。 「今から九年前の、19××年。えーっと日付は・・・今日と同じでいいや。」 「おいおい、君。何を勝手にマシンをいじっているんだい?」 サウラーの呆れた声に、少年はニヤリと笑って振り返る。 「だって、約束通り俺を過去に連れて行ってくれるんだろ?だったら先に、目的の時間を設定しておこうと思ってさ。」 「ふぅん、手回しがいいねぇ。」 サウラーは落ち着いた表情でひょいと身を引くと、マシンから離れた。その様子をじっと窺っていた少年も、ゆっくりと操縦席を離れ、外へ出る。 「さぁ、今度こそ渡してくれるかい?」 三度促された少年は、今度は素直に頷くと、ズボンの右ポケットの中から、丸くて銀色に光る鏡のような物体を取り出した。 「よぉし、良い子だ。取り付け位置はここだな。」 サウラーは少年から部品を受け取ると、ちょうど車で言うところのフロントガラスの真ん前、ボンネットの付け根あたりにある小さなくぼみに、その部品をはめ込んだ。 「これでよし。さて、出発するとしよう。」 「うん。」 少年が、マシンの後部座席のドアに手をかける。と、その手をサウラーが掴み、マシンから引き離した。 「君には感謝しなくちゃいけないねえ。僕が帰る手助けをしてくれて、礼を言うよ。」 「・・・!」 サウラーが少年の肩を軽く突き放す。それだけで、少年は後方へ弾き飛ばされ、もんどりうって地面に転がった。 「よし。・・・これで本当にさよならだな、イース。」 口の中でそうつぶやきながら、サウラーは素早く操縦席に乗り込む。計器のつまみをいじり、マシンのエンジンをかけ、エネルギー増幅器のレバーを引き絞ると、さっき取り付けた部品の鏡のように丸い面から、見る見るうちに金色の光が溢れ出した。 「そのまま未来へ。・・・なに!?」 突然、サウラーの顔が驚愕に歪む。 部品の表面から真っ直ぐな軌道を描いて飛び出した金色の光は、行くあてもなく森の木にぶち当たり、生木の表面に黒い焦げ跡と一筋の煙を残しただけで、力なく消えてしまったのだ。 慌てて操縦席から飛び降りるサウラー。その背中に、やけに冷静な声がこう呼びかけた。 「甘いよ、おにいさん。人との約束をいとも簡単に破っておいて、自分だけ未来に帰れるとでも思ったの?」 怒りを宿した少年の瞳が、きっとサウラーを睨みつける。 「おのれ・・・。一体何をしたと言うんだ!」 焦ってもう一度部品を見なおしたサウラーは、ボンネットの付け根にもうひとつくぼみがあるのを発見し、舌打ちをしながら少年の方に向き直った。 「わかったぞ。部品はもうひとつあったんだな!」 もうひとつのくぼみに同じ部品を取り付ければ、二枚の鏡が相対するような格好になる。その間でエネルギーを増幅させ、アンテナに飛ばしてタイム・リープの跳躍力を得るのだろう。 「ご名答。でもおにいさん、気付くのが遅いや。残念ながら、おにいさんにはもう渡せないしね。」 少年はそう言いながら、その場から逃げだそうと身構える。ところがサウラーは少年に迫る気配も無く、ほぉっと大きな息を吐くと、力なくこう呟いた。 「ふん。今更部品を渡してもらっても、もう後の祭りだよ。」 その感情の籠らない、そしてそれだけに真に迫った言葉に、少年はドキリと視線を動かした。 「ど、どういうことだよ。」 「君のせいで、貴重な燃料を無駄にしてしまったのさ。この時代には無い、高性能な燃料だ。僕はこのマシンの燃費を知らないがね。下手したら、このマシンはもう過去へも未来へも、跳ぶことは出来ないかもしれない。」 「そ・・・そんな・・・。」 へなへなと膝から崩れ落ちる少年。暗い瞳のサウラーが、ゆっくりと彼に近付く。 そのとき。目にもとまらぬ速さで、ひとつの影が二人の間に飛び込んだ。 「イースか。」 「サウラー!この子に何をする気!?」 両手を広げ、少年を庇うように立ちふさがるせつなに、サウラーは相変わらず感情の籠らない声で呼びかける。 「ふん。何をする気か、その子に訊いた方がいいみたいだね。君もその子のせいで、もう元の時代へは戻れないかもしれないよ。」 「なんですって?」 「おねえちゃん・・・おねえちゃん・・・ごめんなさい・・・。」 少年は、涙ながらに話し始める。 マシンがこの時代に現れてトラックの上に墜落したとき、偶然、対になった部品を二つとも拾ったこと。後から大切なものらしいと知って、部品を渡す代わりに、自分も過去に連れて行ってもらうことを思いついたこと。部品をひとつしか渡さなかったのは、サウラーを信用していなかったため。部品を渡してタイムマシンの構造や操縦方法を聞き出し、後からせつなとタルトを連れて、マシンを奪いに来るつもりであったこと・・・。 「まったく、そんな無茶な計画を・・・。そんなにまでして、過去に戻りたかったの?」 「・・・父さんと母さんに、頼みに行きたかったんだ。離婚なんてやめて、って。家族三人で、ずっと一緒に暮らしたい、って。」 今のままでは、父か母、いずれはどちらかを選ばなければならなくなる。でも出来ることなら、自分は父とも母とも、一緒に居たい。 「ダメなんだ。俺はまだ子供で・・・どうしたって、父さんにも母さんにも迷惑をかける。こんな俺のこと、父さんも母さんも、本当は持てあましているに違いないし。 だから・・・早く大人になりたい。でも・・・でも、そんなことは無理だから・・・。もし、父さんと母さんが別れる過去を変えられないんなら、俺なんか・・・」 「そうだね。そんなくだらないことを考えるくらいなら、君は生まれて来ない方が良かったかもしれないね。」 「サウラー!なんてこと言うの!」 マシンにもたれかかり、口の端を斜めに上げながら腕組みしているサウラーを、せつなは厳しい目でにらみつけた。サウラーは少年をひたと見据えたまま、なおも言い募る。 「なんの力も無い子供である君は、誰か大人の庇護を受けなければならない。この世界では、そう決められているんだよ。 ならばそれ以上のものを望まず、自分の運命を受け入れて生きていくのが、まともな人間のすることなんじゃないのかい? それが出来ず、自分の過去はおろか庇護者の過去まで変えたいなどと言うヤツは、最初から生まれて来ない方がマシさ。」 「違う!生まれて来ない方が良かった人間なんていないわ!」 「ほぉ。同病相哀れむというヤツかい?イース。君だって、ラビリンスのイースだったという事実からは逃れられない。その姿が何よりの証拠じゃないのかい? 運命を変えたつもりになっているのかもしれないが、過去はどうあがいても、変えられやしないのさ。」 勝ち誇ったようなサウラーの声に、少年は深くうなだれる。しかし、すぐ目の前から聞こえて来た、静かだが力強い声に、再びその顔を上げた。 「いいえ。変えるのは過去じゃない。未来よ。私はみんなから、そう教わったわ。」 夕闇が迫り、さらに暗くなりかけた森の中。せつなの銀髪が淡い輝きを放って、涙で濡れた少年の目に映る。 「サウラー。あなただって同じよ。未来の全てが決められているわけじゃない。あなただって、そう望めば・・・」 「ふん、よしてくれ。僕は君と違って、メビウス様のお傍にお仕えすることこそが喜びだ!」 サウラーの拳が、せつなを襲う。咄嗟に少年を突き飛ばしたせつなは、間一髪で攻撃を回避したものの、バランスを崩して転倒した。そのはずみで、リンクルンがケースから飛び出し、草むらの中へその姿を消す。 「あっ!」 「ふふふ。まずはここでプリキュアを一人倒しておけば、メビウス様もお喜びになるだろう。帰る算段は、その後だっ!」 「おねえちゃんっ!」 そのとき。 ――べちょん! ――バシン! ――ゴンッ! 立て続けに響いた三つの音。その後に、何かがドサリと倒れる音が聞こえて、せつなはそろそろと顔を上げた。 マシンを背にして、サウラーが仰向けに倒れている。どうやら倒れる時に、開けっぱなしにしていたマシンのドアで、後頭部をしたたかに打ちつけたらしい。 その顔の辺りに落ちているのは、中身が散らばった赤い手提げカバンと、何やら白っぽい塊。その塊がむっくりと起き上がり、イタタ・・・と小さく声を上げた。 「タルト!」 せつなと少年の声が揃う。ぴょこんと立ち上がって、得意げに親指を突き出そうとしたタルトは、そこで慌てたように口に手を当てると、急いで木の陰に隠れた。 「ん?」 小首をかしげたせつなは、つかつかとサウラーに歩み寄る人影を見て、あぜんとする。 肩で息をしながら手提げカバンを拾い上げ、散らばった中身を手早く元に戻して、せつなにニコリと笑って見せたのは――あゆみだった。 「うっ・・・。」 サウラーが小さく呻く。せつなは急いでリンクルンを拾い、身構えた。 「あゆみさん。危ないから、こっちに来て。」 しかし、あゆみは手提げカバンを握りしめ、サウラーの顔を見つめたまま、動こうとしない。 「あゆみさん!」 「うっ・・・イース・・・!」 跳ね起きようとしたサウラーの体が、ぐらりとよろける。彼はそのまま地面に手を付くと、今度はよろよろと起き上がった。そんなサウラーをじっと見つめていたあゆみが、恐る恐る声をかける。 「あなた・・・お腹空いてるんじゃない?」 せつなはハッとしてあゆみを見た。 どうして今まで気付かなかったのだろう。サウラーがこの時代の人々の助けを何も借りていないのであれば、彼はこの時代に来てから丸二日、何も口にしていない可能性が高いのだ。その状態で、マシンの部品を探して炎天下を歩きまわったり、あろうことか自分と格闘したりしていた。いくら体力のあるサウラーでも、ふらふらになって当然だ。 遠征中のラビリンス幹部の食事は、基本的に本国から支給される。また、この世界の金銭も、日常生活に必要なくらいの少額ならば、支給されている。 しかしここは二十五年前の世界。いくら現金を持っているとはいえ、貨幣自体が変わっているのでは、使いようがない。変わっていないのはごく一部の小額コインのみ。これではほとんど現金を持っていないのに等しい。 自分は、少年やあゆみや源吉に助けられ、この二日間を何不自由なく過ごすことができた。そのことに改めて感謝しつつ、自分が全く気付くことができなかったサウラーの状況にひと目で気付いたあゆみを、せつなは驚きと羨望の眼差しで見つめた。 「ふっ。何を言ってるんだ、君は。」 強がりを言う傍から、サウラーのお腹がグーッと派手な音を立てる。 あゆみは急いで手提げカバンの中を探ると、可愛らしいピンクのリボンで結ばれた、ビニールの包みを取り出した。 「これ、お父さんへのお土産だったんだけど、あなたにあげるわ。友達が作ったクッキーで、凄く美味しいの。あ・・・ごめんなさい。さっきカバンをぶつけたから、少し・・・いや、かなり割れちゃったけど。」 「なっ・・・こんなものっ!」 あゆみに対して圧倒的な力を持っているはずのサウラーが、口ごもりながら後ずさる。あゆみは臆することなく彼に近づくと、その手にクッキーの包みを握らせ、自分はくるりと踵を返した。 「そんなんじゃとても足りないわよね。あと、飲み物もいるし。待ってて、すぐ持ってくる!」 急いで駆け去っていく少女の後ろ姿を、サウラーはクッキーの包みをしっかりと握ったまま、ただ呆然と見送った。 「良かったわね、サウラー。これだって、あなたにとっては決められた未来じゃなかったはずでしょう?」 「う、うるさいっ!何なんだ、あの女はっ!」 クッキーの包みを握り潰さんばかりに力を込めるサウラーに、せつなが冷静な一言を浴びせる。 「食べておいた方がいいわ。また元の時代に戻って、私たちと相対したいのならね。」 「そんなこと・・・出来ると思っているのか。」 「やってみなければ、わからないでしょう?」 じっと見つめるせつなの視線から、サウラーが目をそらす。そして、森の巨木の一本を見上げると、音も無くその枝へと跳び上がった。 「わっ、逃げたんか?」 「さすがに私たちの前じゃ食べにくいでしょ。」 せつながタルトの言葉にニコリと笑うと、まだそこに座り込んだままになっている少年の顔を覗き込む。 少年は、ズボンの左のポケットをごそごそと探ると、さっきと同じ鏡のような部品を取り出して、せつなの手に押し付けた。 「ありがとう。」 せつなが再び、ニコリと笑う。その視線を受け止めきれずにうつむいた少年は、そのままギュッと細い腕に抱きしめられて、驚きに目を見開いた。 「・・・おねえちゃん?」 「ごめん。ごめんね。あなたが何かを抱えていることに気付いてたのに、何も聞いてあげられなくて。私たちが来たことで、あなたを追い詰めてしまったのかもしれないわね。」 「そんなこと・・・。」 「本当は、お父さんと仲良くしたいんでしょ?忙しくてなかなか一緒に居られないけど、もっといろんな話をしたいんでしょ?」 少年の瞳に、涙が盛り上がる。 「だったら、あなたからそう言えばいいのよ。あなたから、いろんな話をすればいいの。そうやってお互いに歩み寄って・・・」 そこでせつなの声が途切れたのを、少年は一瞬、いぶかしく思う。が、すぐにまた、落ち着いたアルトの声が静かに響いてきた。 「・・・お互いに歩み寄っていけば、きっとお互いの気持ちがもっとわかるようになるわ。そうすれば、一番いい方法が見つかるはずよ。だって・・・」 そう言って、せつなは少年の体を離すと、微笑みを湛えた目で、彼の目を見つめた。 「だって、家族なんだから。」 その言葉に、少年は照れ笑いのような笑みを浮かべながら、しっかりと頷いたのだった。 「おねえちゃん。」 少年が、サウラーが消えた梢をちらりと見上げてから、改めてせつなに向き直る。 「あいつ、おねえちゃんのこと、『イース』って呼んでた。それがおねえちゃんの名前?」 少し伏し目がちになったせつなが、それでも微笑を失わず、静かにかぶりを振る。 「それは、私がかつて呼ばれていた名前。今は違うわ。 ある人と出会ってね、私の未来は変わったの。ううん、未来なんて持っていなかった私が、新しい未来をもらったの。」 「新しい・・・未来?」 「そう。まだ何も描かれていない、何ひとつ決められていない、眩しいくらいにまっさらな未来。そんなものを手にする日が来るなんて、思ってもいなかった。」 せつなはそう言って立ち上がり、一層暗くなった森の奥に目をやる。 「過去ばかり見つめているとね。そんな未来が眩しすぎて、どうしていいかわからなくなるの。だから、私は決めたの。今を精一杯がんばるって。これから先のことなんてまだわからないけど、今を少しずつ積み重ねていくことで、未来を作っていこうって。」 「・・・僕にもあるのかな?新しい未来。」 「もちろん。あなたの中には、未来がいっぱい詰まってるわ。」 せつなは、少年が自分のことを、背伸びした「俺」という言い方ではなく、いつの間にか「僕」と言っているのに気付いて、柔らかな笑顔を浮かべた。 少年の方は、そんなせつなの顔を見て、何か違和感を覚えていた。何だろうと首をかしげて、その正体に気付く。 薄明りに淡い光を放っていた銀髪が、今は光を放っていないのだ。一層暗くなった周囲に溶け込むように、少女の髪が黒々と見える。 少年はそれを、日暮れとともにますます濃くなる闇のせいだろうと、また一人で勝手に納得した。 「さあ、もう遅いから家に帰って。お父さん、心配するわよ。」 「うん・・・。おねえちゃんは、どうするの?」 少年の質問に、せつなは少し考え込む。 「あゆみさんが戻ってくるかもしれないから、待ってるわ。この部品をマシンに取り付けて、状態も確認しておきたいし。」 「・・・。」 マシンと聞いて再びうつむく少年の顎に手をかけ、せつなはグイとその顔を上向かせる。 「大丈夫よ。私、精一杯頑張るから。それに・・・」 そう言って、せつなは少年の耳に口を寄せた。 「・・・いい考えが、無いこともないわ。」 「ホント?じゃあ、大丈夫なの?」 少年の顔が、わずかに明るくなる。 「ええ。だからあなたは安心して、あなたがやるべきことをやって。」 「・・・わかった!」 「なんや、急に元気になったみたいやな~。」 せつなの後ろから、タルトがおどけた顔を覗かせる。 「返すの忘れとった。これ、あんさんのやろ?」 「あっ、そうだったわ。ごめんなさい。」 タルトが、手に持ったものを少年に差し出す。それは、少年が昨日せつなに貸した、野球帽だった。 「あゆみはんがサウラーにカバンを投げ付けた時、中から飛び出したみたいや。ここで渡せて良かったで~。」 「ありがと、タルト。タルトも元気でね。」 「うっ・・・あんさんもなぁ!」 涙もろいタルトの懸命の笑顔に手を振って、少年は森を後にする。街外れの通りまで来た時、彼はかぶっていた野球帽を脱ぐと、その内側に書かれたマジックのイニシャルに目をやった。 (K.T。・・・カオル・タチバナ。) 近い将来、もしかしたら自分の苗字は、橘ではなくなるかもしれない。それでも、自分にとって父は紛れもなく父であり、母は紛れもなく母だと、今は確かにそう思えた。 少年は、再び野球帽をかぶり直すと、今度は立ち止まらず、父の家までぐんぐんと駆けた。もしも父が家に帰っていたら、まずは父とまた、オセロで勝負するところから始めてみよう・・・そう思いながら。 せつなは気付いていなかったが、せつなとタルトが、もう少年とは呼べなくなった彼と出会うのは、それから二十四年と半年ほど後のこと。せつながまだ、まっさらな未来をその手に掴む前のことである。 ~第4章・終~ 新-884へ
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学校の門が開くと同時に、その中に飛び込む。 この時間に学校に来るのは初めて。 周囲を見回しても、先生か、部活動の朝練に来ている生徒がちらほらと見て取れるだけ。 その中の一人にクラスメイトがいた。 「帰宅部のあなたが何で?」って驚かれたけど、 すぐに今日が何の日かを思い出して合点がいったようで「頑張ってね」って言ってくれた。 まだ練習が始まらず、来た人たちで自主トレをしている運動部の部員達。 その姿を見ながら校庭を横切ると、昇降口に辿り着く。 ここが今回の、お目当ての場所。 本格的な登校時間では無い為か、開け放たれていないそこの扉を開き、中に入る。 昇降口の中に人の気配は無く、シーンと静まり返っている。 流石に時間が時間だからそんなものだろう。 でも、それでいい。 彼女よりも早くここに辿り着かなければ意味は無いのだから。 バレンタインデー、好きな人に想いを乗せたプレゼントを贈る日。 まさか自分がその当事者になるなんて、去年の今頃の自身を思うととても信じられない。 あの頃は「好きな人」なんて存在はいなかったから。 でも、今はいる。 この一年で彼女に出会い、彼女の事が好きになり、彼女と想いを通じ合わせる事が出来た。 そうして今日この日を迎える事が出来た事、それをとても嬉しいと思う。 でも一つ、問題があった。 それは、二人がいつも同じ屋根の下、しかも隣の部屋で暮らしていると言う事。 折角のバレンタインなのに、朝起きたらいきなり顔を合わせて、 そこでチョコを交換して終わり。 それじゃいくらなんでもあっけなさ過ぎる。 だから、昨日の夜、一つの提案をした。 「明日、学校で先にチョコレートを渡した方の言う事を一つだけ聞く」 それは、時に家族、時に恋人、そして時にはライバルになれる二人だからこそ出来る、 ちょっとしたゲーム。 ルールを決めておけば、お互いに負けたくないという気持ちが働く。 そして勝った方には、恋人としてのご褒美が待っている。 これなら精一杯頑張ろうという気持ちになれるというもの。 勿論彼女も、二つ返事で了承してくれた。 ……で、結果は、見ての通り。 どちらが早く起きれるのか、と言う事を考えれば最初から明白だったわけなんだけど。 今頃彼女はまだ夢の中か、起きて事態に気付いて大慌てでここに向かっている途中か。 流石に反則だからとアカルンの使用は禁止になったけど、それも結局関係なかった。 そうして、既に昨日の内に決めておいた、勝った時のご褒美の内容を思い浮かべて 顔をニヤつかせつつ、下駄箱を開いたあたしに― 「……ハァ、ハァ、ラブ……どして?」 息を切らせながら駆け込んできたせつなが、声を掛けてきた。 「あ、せつな、遅いよ~」 「遅いよ~、じゃないわよ。これでもいつもより一時間は早く起きてるんだから! それなのに、お母さんがラブが学校に行ったって聞いて……」 余裕を持って起きたつもりが、よっぽど慌てて家を飛び出して来たのだろう。 几帳面なせつなにしては珍しく髪は乱れ、 背負った通学鞄の他にあゆみに渡されたのであろう、 朝食の入ったビニール袋を手に持っている。 「隣の部屋から目覚ましの音も聞こえなかったし……本当に、どして?」 普段、自力では起きれないので、目覚まし、タルト、せつな、あゆみと 出来る限りの助力を得ることで事なきを得ているラブ。 それをよく知ってるせつなだけに、こうして出し抜かれる形になった事が 意外だったらしい。 納得が行かない、といった表情でラブに詰め寄る。 それに対してラブは余裕の笑みを崩さずに、 「そんなの、とても簡単な理由だよ。だって……」 「だって……?」 「あたし、文化祭とか修学旅行とか、イベントのある日だけは必ずちゃんと起きれるし」 そう、自信たっぷりに告げた。 「へ…………?」 目が点、というのはまさに今の彼女の表情の事を言うのだろう。 告げられた事実に二の句が告げずに、呆然とするせつな。 「だから、今回は最初からあたしの勝ち、決まってたんだよね。わはーっ!」 「……はあ、どう考えてもラブに不利なルールを提案してきた時点で、 おかしいと思うべきだったわ」 へたり込んでしまったせつな。 未だに先を越された事のショックから立ち直れないようで、がっくりとうなだれている。 「さ~てと、勝ったあたしからのお願い、早速聞いて貰おうかな~」 得意満面、両手を腰に当てて勝利者としての自分を存分にアピールしつつ、 ラブは先程決めておいた「お願い」の内容に思いを馳せる。 これを言った時、せつなはどんな顔するのかな? きっと最初は嫌がるけど、結局「もう、仕方ないわね……」とか言いながら 聞いてくれるに違いない。 わはっーっ!ドキドキするねえ そんな浮かれ気分で顔を緩ませるラブに、掛けられる声。 「あ、ちょっと待って、ラブ」 「ん?何?」 「その前に、私からのチョコ、渡したいんだけど、いいかな……?」 そう言ってせつなが鞄から出したのは、ピンクの包み紙で包装された小箱。 昨日二人で一緒に、お互いに送るチョコを作った時に一緒に見ているから 見間違えるはずも無い。 せつながラブの為に作ったチョコレート。 ハート型のチョコの真ん中に、ラブへの愛のメッセージの書かれた本命チョコだ。 せつながあたしの為に精一杯頑張って作ってくれたチョコだもん、 断る理由なんか無いもんね。 「もっちろんオッケー!というか喜んで頂きます!!」 ラブは二つ返事でせつなの提案を承諾する。 その返事にせつなは嬉しそうに笑う。 「ありがとう、ラブ。それじゃあ……ハッピーバレンタイン」 「ハッピーバレンタイ~ン!!」 差し出されたチョコレートの箱を受け取るラブ。 今の彼女の気分はまさに幸福の絶頂。 ご褒美も貰えるし、せつなの本命チョコも貰えるし、今日は幸せいっぱいゲットだよ! 受け取ったチョコの箱を見つめ、その手に掴んだ幸せをまざまざと噛み締める。 だが―。 そんな時こそ人というのは足元にある落とし穴に気付かずに、見事にハマってしまうもの。 せつなは、先程チョコを渡した時の笑顔のまま、 ラブの顔をじっと見ながらこう告げた。 「はい、じゃあこれで私の勝ちね、ラブ」 瞬間、ラブの顔に浮かぶ笑顔が心からのソレから ただ顔にお面のように張り付いただけのものへと変化する。 「え……何それ」 言われた言葉は耳には入っているが、頭が理解しようとしない。 せつな、何言っているの? だってせつなより先に学校に来たのあたしなんだよ? 「……………………………………………………どして?」 「それ、私の台詞」 「あ、ごめん……でも、何で」 「何でって、だって、そういうルールでしょ?」 納得出来無い、とばかりに疑問の声をあげるラブ。 それに対して今度はせつなが余裕を持った平静の表情で淡々と告げる。 「昨日二人で決めたルール、 『学校で先にチョコレートを渡した方の言う事を一つだけ聞く』 間違いないわよね?」 「うん……って、あっ!!」 せつなに告げられたルールの内容、 それを頭の中で復唱したラブが、ある事に気付く。 自分のハマッた落とし穴の正体に。 「あ、あたし……まだチョコ、渡してない……」 気付いた事実に二の句が告げずに、愕然とするラブ。 全身の力が抜けたかのように、その場に崩れ落ちる。 「トホホ……あたしの幸せがぁ……」 そのまま横に倒れ伏すと、目から濁流のように涙を流すのであった。 「さてと、じゃあ私のお願いを聞いて貰おうかしら?」 攻守逆転、両手を腰に当てたせつなの姿を頭上に見つつ、 ラブはせつなから何をお願いされるのかと、多少の不安と共に思いを馳せる。 せ、せつな……まさかさっきの仕返しとかで変な事言わないよね? 今後一ヶ月くらいのせつなのドーナツ代あたし持ちとか、 人参嫌いを直しなさいとか言い出して「当面の間、晩御飯のおかずは人参よ!」 とか言ってくるんじゃ……。 たはっーっ!もう駄目だあたしーーーーーっ!! 勝手に悪い方向に思考を進ませて怯えた顔を作るラブに、掛けられる声。 「ラブ」 「ひいっ!ごめんなさいっ!」 「……何で謝るの?」 「え?だってせつな、さっきの仕返しにあたしを人参攻めにする気じゃあ……」 ラブの言葉に、せつなは数度、目を瞬かせる。 やがて左の手の平に右の拳を一度ポンと乗せると、心からの納得の表情を作る。 「あ、それもいいかも。じゃあ私からのお願いは人参……」 「うわっ今の無し!キャンセル!だからせつなもそれ言うの禁止!」 「……冗談よ」 慌てて静止しようとしたラブに笑いながら答えるせつな。 ……いやでも、目が本気だったような。 内心ではそう思ったラブだったが、 それを指摘するのは藪蛇な気がしたので黙っておくことにする。 「で、私のお願いなんだけど」 「……」 「大丈夫よ、人参は関係ないから」 まだ不安気な表情で自分を見ているラブに苦笑しながら、 せつなは、今から口にする内容を頭の中で再確認する。 昨日、このルールが決まった時から考えていた願い事。 実は、せつなの方からこれを口にするのは初めてなのだ。 だから、上手く伝わるだろうか、という 若干の不安を打ち消す為に大きく息を吸い込んで深呼吸。 気持ちを落ち着けて、口を開く。 「じゃあ本題。ラブには今から言う事をきっちりと守って貰うわ。 それが私からの『お願い』よ」 「う……はい」 「きっちりと」と念を押されたことに若干の不安を頂きながら、おずおずと頷くラブ。 それを見届けると、せつなは言葉を続ける。 「まず、今度の日曜日、朝10:00までに天使の像の前に来る事。 勿論時間厳守よ。遅刻は許さないから」 「何で?」 「質問は最後まで聞いてから。 で、次にね、そこで貴方を待っている娘がいるから、声を掛けなさい」 「誰の事??」」 「だから質問は最後まで聞いてからね。 それで、後はその娘と一日過ごす事。どう過ごすかは、ラブ、貴方に任せるわ。 ただし、ちゃんと二人で楽しい時間が過ごせるように、しっかり事前に考えておいてね。 行き当たりばったりは許さないんだから。 ……以上よ、で、何か質問は?」 「えっと、質問と言われても何処から聞いたものだか……」 ラブが戸惑い混じりの率直な感想を述べる。 せつなが誰の事を言っていて、一体自分に何をさせたいのかと。 あれ……? 言われた内容を頭の中でなんとかまとめ上げようとして、ふと気付く。 これって、どう考えても……。 ラブの頭の中に浮かんだ言葉。 それの裏づけを取る為に、せつなの様子を窺う。 「何?質問が無いなら、後は言うとおりにして貰うわよ?」 ラブの視線に気付いたせつなの様子。 頬を僅かに染めながら、それでいてラブに向けられる目に含まれる、若干の不安。 あ、やっぱりね。 せつなの「お願い」 その意図を完全に理解したラブが、心の中で頷く。 全く、素直じゃないんだから。 でも、そんなところもせつなの可愛いところかな。 「どうしたのラブ?急にニヤケたりして」 「何でもなーい、じゃあ質問、いい?」 でも困ったな、そんな態度取られると、ついついあたしだって 意地悪したくなっちゃうんだよ? 「ええ、いいわよ」 「あのね、その待っている娘って、誰?」 「えっと……ラブの良く知ってる娘、かな」 流石にこの辺は聞かれることを想定していたようで、すんなりと答えが返ってくる。 「ふーん、誰なのかなあ、ねえせつな、その娘って……可愛い?」 「えっ?……う、うーん……か、可愛い……かな?」 「せつなよりも?」 「ええっ?!そ、そんなこと……ないわよ、うん。私と同じくらい……かな」 ふふ。せつなの顔、真っ赤。 そりゃそうだよねえ、自分で自分の事、可愛いなんて言うの恥ずかしいよねえ。 困ってる困ってる。 うん、困ってるせつなの顔も可愛いなあ。 ……あ、まずい。 もうちょっと困らせたくなって来ちゃった。 「ふーん、そっかあ、可愛い娘なんだ。そりゃ困ったな~」 眉をひそめ、唇を噛み締めて額に手を当てる。 そんな若干オーバーアクション気味のポーズで、 ラブは困っている自分を演出してみせる。 「……どして?」 そんなラブの様子と言葉とに、首を傾げるせつな。 獲物が餌に食いついてきた事に口の端がニヤけそうになるのを せつなに見えないように隠しながら答える。 「だってそんな可愛い娘だったら、あたしキスしたくなっちゃうかもしれないし」 「……キ、キスぅ?!」 さらっと平静を装って言った言葉。 それに対してにわかりやすいくらいに動揺するせつな。 「ついでに手を繋いだり、腕も組んじゃいたくなっちゃうかも。 でも他の娘とそんな事したら、せつなが悲しむよね。 あたしせつなが嫌がる事はしたくないしなあ」 「……そ、そんな事は」 「よし決めた!あたしその娘とはキスもしないし手を繋ぐのも腕組みもしない! これならいいでしょ、せつな?」 「え、えっと……それは……良くない」 「何で?だってあたし、浮気みたいなことしたくないし」 「その……だって、その娘って……あうう」 せつなは言葉に詰まると、暫し目を泳がせた後に俯いてしまう。 顔をこれ以上無いという位に赤く染めつつ、上目遣いにラブに送られる視線。 そして、そこに込められた困惑の感情。 わはーーーっ!可愛い、可愛すぎるーーーっ!! 何ですかこの幸せゲットしまくりなラブリーエンジェルは。 当社比で通常の三倍くらいの破壊力が余裕であるんですけど! うわダメ、今のあたし絶対顔がニヤケてるよ。 落ち着けー落ち着けー平常心平常心……ってダメ、やっぱり我慢できない! …… ………… ………………えっとお ……………………いいよね? ここ学校だけど、まだ早い時間だから多分誰もいないし。 ちょっとくらいなら、いいよね? 「ね……せつな」 声と共に、ラブがせつなの両肩に手を掛け、自分の方へと引き寄せる。 「きゃっ!ラブ、一体何?!」 その唐突な行動に思わずよろけるせつな。 ラブは彼女の体に両腕を回して支えると、そのまま抱き締める。 「あ……」 ラブの腕。 それが優しく、包み込むように体に回されている事を感じ取ったせつなは 力を抜き、その身をラブに預ける。 「……いい?」 せつなを見つめるラブの顔。 それは、これからすることへと期待と、少しだけの恥じらいに赤く彩られていて。 そしてせつなも、それと全く同じ顔をしていたから。 ラブの問いかけには言葉を返さず、小さくコクンと頷いた。 「……」 「……」 そして引き寄せられるように、顔が近づき重ね合わせられる ―唇と、唇。 暫しの時間、そうしていた二人の顔と体。 それがやがて、名残を惜しむようにゆっくりと、離れる。 「……えへへ」 「もう……ラブ、ここ、学校なのよ」 照れ笑いを浮かべるラブ。 それを咎めるような口調とは裏腹に、せつなの顔には喜色が浮かんでいて。 先程までの温もりを確かめるかのように、そっと自分の唇に指を当てる。 そんなせつなの様子に嬉しそうに目を細めながら、ラブが口を開く。 「いやだって、困ってるせつなの顔がちょー可愛いんだもん、仕方ないでしょ」 「何よそれ……って、判ってて、あんな質問してたのね」 「あはは、ゴメン」 「……意地悪」 「ゴメン、ほんとゴメン」 フォローするかのように、ラブが慌ててせつなを抱き締め直す。 今度は、お互いの顔が、丁度相手の肩に支えられるような形で。 自分の言葉を相手に一番近い距離で届けられるようにと。 「じゃあ、お詫びの代わりになるかわかんないけど、あたしから一つ、いいかな?」 「何?」 「これなんだけどねー」 そう言いながら鞄を開け、ラブが取り出したのは、赤色の包み紙で包装された小箱。 ラブがのせつなの為に作ったチョコレート。 ハート型のチョコの真ん中に、せつなへの愛のメッセージの書かれたもの。 勿論こちらも本命チョコだ。 「何か今更な感じになっちゃったけど、あたしもこれ、せつなに受け取って欲しいし……」 おずおずとチョコレートを差し出し、せつなの返事を待つ。 ラブにしては珍しく、一抹の不安を含んだ弱気な面持ちで視線を頼りなく彷徨わせ、 頬にはうっすらと赤みが差している。 それもその筈、せつなと違い、前からバレンタインデーというものを知っていたラブだが 今までチョコを渡す相手と言えば、父親の圭太郎くらいしかいなかった。 まして、本命の好きな相手に渡すとなると今回が初めてなのだ。 緊張や不安が無いという方が嘘だろう。 (……ふふ) そんなラブの様子を見て、せつなは心の中で微笑む。 滅多に見る事の出来ない、恋する少女としてのラブの顔を見れた事。 そしてその相手が自分である、という事を嬉しく思ったから。 「ラブ、可愛い」 だからこそ、心によぎった、ちょっぴり意地悪な考え。 さっきのお返しっていう事で、これくらい許されるかなと言う悪戯心が言わせた一言。 「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!」 しかしそれは、最大級の幸せの嵐となってラブのハートを直撃した。 「か、かかかかかかか、かわ、可愛い、可愛いってーーーーーーっ!!!」 緊張状態からの反動なのか、 顔を真っ赤にして思わずチョコを放り投げてしまいそうになるラブ。 「わわっ、ちょっと、落ち着いて」 チョコが空中に放たれようとする寸前で、 せつなは辛うじてその手を掴んで阻止する事に成功した。 「……落ち着いた?」 「あ、はい、おかげさまで」 平静を取り戻したラブが答える。 それと同時に、せつなに送られる目を三角形にしての、視線。 「何?」 「……意地悪」 「ごめんなさい」 チョコを渡すという大事なイベントを台無しにしてしまった事。 それを申し訳なく思う気持ちも手伝って、 せつなはある提案をラブに持ちかける事にした。 「お詫びというのは違うかもしれないけど……今日の「お願い」、ラブのも言ってみて」 「え?」 「私に叶えられるかわからないけど、精一杯頑張るから」 「本当っ!!」 その途端、キュアパッションの瞬発力もかくや、という速度で 目を輝かせたラブがせつなの両手を取った。 「本当に本当、あたしのお願い、聞いてくれるの?」 「え、ええ。でも、あくまで出来る範囲でよ?」 その秋の空の如き態度の変化にたじろぎつつも、せつなは頷いてみせる。 本当にこれで良かったのかしら、と少しばかりの後悔が頭をよぎるが すぐにそんな事は杞憂だと思い直す。 満面の笑顔でこちらを見ているラブ。 その笑顔を守るためなら、せつなに出来ないことなんてないのだから。 「で、お願いって、何?」 「あ、あのね……」 先程までの元気はどこへやら。 本題に入った途端にラブが口ごもる。 「これ、なんだけど……」 彼女にしては珍しく、小さな声で恐る恐る差し出したもの。 それは、先程の騒動で渡し忘れたチョコレート。 「チョコ?これをどうすればいいの?」 「いや、どうするじゃなくて……受け取って欲しいんだけど」 「それだったら、勿論喜んで受け取るわよ」 「あ、違うの」 受け取ろうと手を差し出したせつなを制止すると、 ラブは改めて彼女に向き合う。 そこにあるのは、先程チョコを渡そうとした時以上に緊張した表情。 まるで悪い事をした子供のように、上目づかいでせつなを見つめている。 そして、今から言う事を一字一句言い損ねまいと、一度深呼吸すると 口を開き、ゆっくりと言葉を紡ぐ。 「あのね……あたしのお願いは……。 あたしのチョコを受け取る時に、一緒にキスして、欲しいなって……」 顔を赤くしながら言う言葉は、先に進むにつれて声のトーンが落ち、 か細く、弱いものになっていく。 それでもラブは、せつなの顔をずっと見つめながら 想いが届かない事の無いようにと、最後まで言い切った。 うわー、言った、言っちゃったよ。 顔、赤いよね。っていうか熱くなってきたし。 ……わわわ、言う時に言った後の方が恥ずかしいよこれ。 せつなに変な事言ってるって思われて無いかな? わ、今更不安になって来た。 ど、どうしよう。 こんなのいつものラブじゃない!って嫌われたりしないよね? やだ。 せつなに嫌われるのは絶対にイヤだ。 やっぱり、こんなお願い取り消しにして……。 「変じゃないわ」 「え?」 思考が悲観的な方へと傾きかけていたラブを引き止めるように掛けられる声。 それは、彼女を見つめる瞳に優しさを浮かべたせつなのもの。 「あのね、ラブ。私、あなたのお願いを聞いた時に思ったの」 「……?」 「ああそうか、私もそうすれば良かったなって」 「!」 ラブの目が驚きで見開かれる。 「え?それじゃあ」 「もう私はチョコを渡しちゃったから今更やり直しは出来ないけど…… ラブのお願いの分だけでも、叶えましょうよ」 少しだけ恥ずかしげに、それでも優しさを顔から損なう事無く ラブに向けられたせつなの言葉。 それがラブの不安を打ち消し、太陽の笑みを取り戻させる。 そしてラブは、その笑みを顔一杯に浮かべると、 「うん!!」 と力強く頷いたのだった。 「でね、一応確認なんだけど」 「ん?」 「誰も……いないわよね?」 念を押すようにせつなが尋ねてくる。 人一倍優れた視力で周囲を見回してはいるが、 何せここは背よりも高い下駄箱が立ち並ぶ昇降口である。 物陰やら柱向こうに誰かがいないとも限らない。 「うん、いないと思うけど……多分ね」 もっとも、さっきここで堂々としちゃってるわけなので 今更人目を気にした所で手遅れではあるのだが。 本当に、変な所で几帳面なんだからとラブは心中で苦笑する。 「大丈夫だって、こんな時間にここにいるのあたし達くらいだって!」 「……そ、そうね、こんな時間だし」 根拠は全く無いくせに妙に自信に満ちたラブの言葉。 それにせつなは同意することにした。 なんだかんだ言っても彼女だって、 恋人とのほんの一時の甘い時間を過ごせるチャンスを不意にしたくはないのだ。 「だから、ね、ラブ、早く……」 そうと決めたらとばかりに、目の前の想い人に改めて向き直ると顔を覗き込んでくる。 近づくその顔。 朝一番でシャワーを浴びた時のシャンプー石鹸の香りと、 白く柔らかい頬の中に色づく赤い唇、 そして、せがむ声と共にラブの顔をじっと見つめる、紅い瞳。 「う……」 その中に、今まで見た事の無い艶の色がある事を見つけて、 ラブは思わずドキリとさせられる。 「あ……うん、じゃあこれ、あたしから」 その色に引き込まれるように、チョコを持った両手をせつなへと差し出す。 その手の動きを追うように、せつなの顔に近づいていくラブの顔。 ラブは気付いているだろうか。 せつなの瞳に惑わされ、唇を求める彼女の瞳の中。 そこにも彼女と同じ艶の色が出ていることと、 それに見つめられたせつなもまた、引き込まれるように顔を近づけていることを。 そして、差し出されたチョコレートの箱に添えられた手、 その手に受け取る手が重ねられるのと同時に、 お互いの瞳に魅了された少女達の口付けが交わされたのだった。 と、ここで終われば、バレンタインの日のとある恋人達の光景。 だが、繰り返しになるが敢えてここでもう一度記しておこう。 幸せな時こそ人というのは足元にある落とし穴に気付かずに、見事にハマってしまうもの。 「『こんな時間にここにいるのあたし達くらい』だってさー」 「失礼しちゃうわよねー」 小声で交わされる会話。 ここは、昇降口を出た所にある校舎の登り階段。 ラブとせつなの位置からは完全に死角だが、 こちらからは一方的に彼女達の様子が覗き込める場所。 そこの手すりに隠れるようにして、二人の様子を覗き見ている少女達の姿がそこにあった。 クラスメイトの由美を含めた、三人の少女。 学校内ではラブ達と一緒に行動する事の多いグループの子達だ。 「全く、恋する乙女を甘く見るんじゃないっての。 チョコ渡す為の早起きなんて当たり前よ」 「そうそう、今日という日に掛ける気合は半端じゃないんだから」 「まあそれはいいんだけど、朝から堂々とイチャつきますか、あの二人は」 「うん……こっちはまだ、渡せるか渡せないかの瀬戸際だってのに 本当、見せ付けてくれるわよねー」 「というわけで、私、そんな幸せいっぱいの二人にとっておきのプレゼントを 思いついたんだけど……」 「え?何々?」 「こういうの、どうかな?」 そう言って由美は携帯を取り出すと、昇降口のラブとせつなに向けて構えた。 そして、友達思いの彼女達によって、下駄箱の前でキスをしている様子を バッチリ「記念撮影」された姿を写メで送られたラブとせつなは、 その日の放課後までずっと二人仲良く並んで、頭から湯気を出しながら 机に突っ伏する羽目になったとか。
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四ツ葉町郊外の森。クローバーの名を冠したこの街は、自然との共存を旨として豊かな緑を守り抜いてきた。 爽やかに吹き抜ける夏の微風。森の木々を揺らし、耳に心地良い音楽を奏でる。 街に照りつける真夏の輝く太陽も、緑の木の葉に遮られ、緩やかな木漏れ日に変わる。 心が洗われるような美しき光景。その自然の美のなかに、全く異なる美しさを放つ人物が静かに立つ。 似合わない。その場に不自然なまでに似合わないその姿が、一層その存在を神秘的なものとして際立たせる。 スカイブルーの衣装をナイルブルーの鮮やかなラインで縁取る。同色のブーツにダークブルーのタイツが脚線美 を引き立てる。 ハートの髪飾りが、藤の花を連想させるサイドポニーの髪を豊かに纏め上げる。左腰に結ばれた長い帯のリボ ンが、風を受けて旗のようになびく。 青い瞳が高い戦意を宿し、鋭い光を放つ。常人離れした高い頭身、スレンダーな肉体美。はちきれんばかりの 獣のようなしなやかな筋肉が開放の瞬間を待つ。 そして、可愛らしいリストバンドの先の小さな拳が硬く握られる。 「確かここだったはず。出てきなさい、イース! キュアベリーが一対一の決闘を申し込むわ」 見えなくても、在るはず! ベリーの両手が左右から大きく弧を描き、頭頂で重ねられてまばゆい光を放つ。 悪いの――――悪いの――――飛んで行け! “プリキュア・エスポワールシャワー” 指の先で収束されたスペード型の光弾が、文字通り雨のように放射状に広がりつつ放たれる。 辺りを一瞬青く染め上げ、再び変わらぬ静寂が戻る。 その数秒後、視界が大きく歪み建物らしき姿が映る。人間サイズの穴が何も無い空間に開き、目的の人物 が姿を現した。 ラビリンスの四大幹部イースがベリーの前に降り立つ。直後に空間の扉は閉じられる。 黒いボンテージ風の闘衣から覘く、透き通るような真っ白い肌。それは夜空に映える月のよう。 柔らかな銀色の髪を黒いカチューシャが纏める。紅の縁と胸飾り、そしてブレスレットが内に秘めたる情熱を 表し、衣装を華麗に引き立たせる。 比肩しつつも対照的な美しさを放つキュアベリーとイース。それは動と静を象徴するかのように。青空と夜空 の化身であるかのように。 「無駄だ。館は座標をずらし、異空間に在る。外部から干渉することは不可能だ」 「あなたが出てきてくれたなら問題ないわ。怖気付かれたらどうしようかと思ったけど」 「白々しい挑発など不要だ。ナケワメーケも増援も呼ばん。その殺気、本気のようだな」 「ええ――――これで終わりにしましょう。アタシも、ピーチもパインも呼ばないと約束するわ」 これ以上の話し合いは不要と、双方が判断して口をつぐむ。互いの覚悟は放たれる闘気で十分に伝わる。 互いの呼吸を計りつつタイミングを待つ。人間同士の戦いにおいては、先手を取った者がペースを掴むから だ。睨みあいつつ対峙する。 そして、申し合わせたように両者が同時に飛び出した。交差する青と黒の閃光。繋がって音が聞こえるほど の超高速の打撃戦が繰り広げられる。 キュアベリー対イース。最初にして、恐らく最後となるであろう死闘の幕が切って落とされた。 『翼をもがれた鳥(第七話)――――飛べない鳥は地に斃れ伏す――――』 青を基調に美しく飾られた美希の部屋。寒色と呼ばれるこの色合いは、夏場において涼やかな印象を与えて くれる。 程よい温度で調整された空調が、心身ともに疲労している祈里を深い眠りへと導く。 きっちりと閉じられてはいたものの、鍵はかけられてなかった窓が静かに開く。そっと小さな何かが忍び込んだ。 コツン――――コツン――――コツン。 祈里のおでこに何かがぶつかる。休息を求める身体が、睡眠を維持しようとおでこに手を伸ばす。障害を払 いのけようとする。 しかし、幾度往復しようとも何の手ごたえも得ることはできなかった。 コツン――――コツン――――コツン。 ノンレム睡眠の深い眠り。投薬によって機能を妨げられた脳が、活動レベルを取り戻すべく全身に大量の血 液の循環を命令する。 軽い眩暈と動悸を感じつつ、祈里はゆっくりとまぶたを開いた。 視界の隅に、遠ざかっていく赤い何かを見たような気がした。頭がぼんやりして、その姿を正確に捉えること はできなかった。 「ここ……は? 美希ちゃんの……部屋? わたし、どうして」 徐々に意識が覚醒する。眠りに付く前の記憶をさかのぼる。 そう、話したいことがあった。だから美希に会いに来たのだ。 このままでは、きっと取り返しの付かない悲劇が起こる。だから、自分と美希とでイースと戦おうって。 そして……。 そして、その後淹れてもらったハーブティーを飲んで、突然眠くなって―――― (ハーブティー! そうだ、あれを飲むまでは何ともなかった) ベッドから降りようとしたが、足に力が入らず落下する。数十センチの高さだから痛くはなかったが、身体の 異変に気が付く。 (薬を盛られた? 何のために? まさか――――美希ちゃん!) 祈里が話し終えた直後に入れたハーブティー。それに薬を盛るなんて準備が良すぎる。そう考えて気が付く。 もしかしたら、美希も同じ事を考えていたのかもしれない。そして、それに自分を巻き込みたくないと悩んで いたのだとしたら……。 (だとしたら、最後の一押しをしてしまったのはわたし……。でも、一人でなんて無理!) イースが見た目通りに弱っているとしても、ナケワメーケを使われたら勝ち目が無い。 ウエスターやサウラーが介入してくるかもしれない。 まして敵の本拠地である占い館に行くのなら、どんな罠が用意されているかもわからない。 ラブを失いたくなくて戦う決意を固めた。でも、そのために美希を失うようなことになったら……。 (美希ちゃん……ごめん) 祈里はリンクルンを取り出す。思った通り、美希の携帯には繋がらなかった。 ラブに連絡を取る。もう――――手段は選んでいられないと思った。 「もしもし、ブッキー? 昨日から全然連絡繋がらなかったじゃない。何かあったの?」 「ラブちゃん、お願い! 美希ちゃんを止めて」 「どういうこと? それじゃわかんないよ」 「美希ちゃんが……一人で占い館に行っちゃったの。わたしは薬で眠らされて、今も動けなくて」 「薬を? 美希たんがブッキーに? どうなってるの!」 「お願い、早く美希ちゃんを止めて! まだ家を出て三十分くらいだから間に合うかも」 「もう向かってるよ。一体、二人で何を隠してるの? 話して!!」 観念して祈里は事情を話し始める。昨日の戦闘の後のウエスターの言葉。そして、それからの美希と祈里の こと。 祈里が美希に話したこと。その内容と気持ちの全てを。 始めは相槌を打ったり、聞き返したりしていたラブがだんだん話さなくなる。 耳元から聞こえてくるラブの荒い息だけが、電話がまだ繋がっていることを教えてくれた。 しばらくしてから、一言だけ返事があった。普段からは想像もできない低い声。それは内に秘めた激しい怒り を顕していた。 その言葉を最後に電話が切れた。 「…………死なせないよ、絶対に。せつなは――――あたしの友達だから」 ラブの怒りと悲しみが祈里に突き刺さる。たった一言に秘められた強靭な意志。 それは、二人の決意を打ち砕く言葉。真っ向から否定する宣言。そして、――――きっと自分自身に対する 誓い。 ラブの想いの強さに呑み込まれそうになる。祈里は、自分の情けなさに目の前が真っ暗になった。 何があっても後悔しない。そんな覚悟の上での決断だったはずなのに。 舌の根の乾かぬうちにこの有様だ。 わたし――――何をやっているんだろう。 自分の意思で判断して、行動するんだ。そう決意してここにやってきたのに……。 結局、美希ちゃんに頼っていた。 わたしと美希ちゃんとでイースを倒す。そこで思考が止まってしまっていた。 きっと美希ちゃんが仕切ってくれると思ってたんだ。 こんな話を持ちかけておきながら……。 わたしが失うものを、美希ちゃんも失うことになるのに―――― わたしは自分のことしか考えてなかった。美希ちゃんの気持ちすら考えようとしなかったんだ。 結局、美希ちゃん一人に負担をかけて、美希ちゃんの想いを踏みにじって。 ラブちゃんを傷付けて。 わたし一人がこんなところで、成す術もなく休んでいるなんて……。 行かなくちゃ……。 闇に落ちそうになる意識に、唇を噛んで抵抗する。力の入らない足を両手で押さえつけて立ち上がる。 壁に手をつくようにして、祈里は部屋を出た。 せめて――――自分の目で結末を見届けるために。 キュアベリーの変幻自在の蹴り技の応酬。恐るべきリーチと破壊力でイースを襲う。 ベリーの膝蹴りをイースはバックステップで避ける。それが前蹴りに変化、左サイドステップで逸らす。 更に回し蹴りに軌道を変える。両手でブロックして受け止めた瞬間に、身体を翻して逆の足での二段蹴りと なって襲いかかる。 一つは止めて、一つは屈んで避けた。その瞬間に右わき腹にフックを打ち込んで距離を取る。 威力ではイースに勝ち目は無い。長期戦も消耗戦も今の体の状態では話にならない。確実に回避して一方 的に攻撃を加える。 まずはダメージを与えて、コンディションの面でのハンデを減らさなくてはならなかった。 突き刺すようなベリーの闘気。明確に伝わってくる殺意がむしろありがたかった。 イースを苦しめていた全身の痛みが綺麗に引いていく。身体が嘘のように軽くなる。アドレナリンの分泌? 脳内麻薬の精製のおかげ? それもある。だが一番大きな理由は意識が戦闘に集中されること。生死をかけた戦いを身体が感じ取り、 生存することを最優先させる。 「非力ね。その程度なの?」 「挑発には乗らないと言ったはずだ」 ベリーの言葉は、挑発ではなく本心そのものだった。 小細工は無し。矢継ぎ早の蹴りで一方的に力で押してきた。それは攻勢に出ないイースの真意を見極める ためだ。 隙も当然あるはずだ。それなのに一発入れただけで下がってしまう。それも、悲しいほどに軽かった。 (これは――――思った以上に身体が弱っているのかもしれない) 本来はこんなに楽な相手ではないはずだった。以前に公園で戦った時は、イースはピーチを一方的に押して いた。 自分の力量がピーチと変わらないことを考えれば、むしろ勝てるはずのない相手だった。 恐らくイースは長期戦を望んでいないはず。でも、それはベリーも同じだった。 もともと賭けのようなものだったのだ。この戦いは。 イースの性格から考えて、たとえ不利になっても、この期に及んでナケワメーケを召還するとは考えられなか った。 だが、ここは占いの館。敵の本拠地の前なのだ。 対等に戦ってる間はイースに配慮して手は出してこないだろうが、形勢が不利になればどうなるかわからない。 だったら互角の流れの中で、一気に崩して必殺技で決めるしかない。 必勝パターンが決まれば、後は誘導するだけ。まずは、大事にしている体力を削ぎ落とす。 一方的にならないように、肉を切らせて骨を断つ! 大きく息を吸ってから地面を蹴った。 縦横無尽、変幻自在、不規則な弧を描きながらベリーの蹴りがイースを襲う。 一気呵成――――目的は休む時間を与えないこと。凪ぐよりも斬るという表現が似合うほどの切れ味の鋭い 蹴り技の連撃。 空を切る音、受けて凌ぐ打撃音が途切れることなく鳴り響く。攻撃の残像が複雑で美しい模様を描く。 しかし――――当たらない! どのような反射神経の成せる技か、どのような動体視力が音速に迫るほどの動きを見極めるのか。 時に半歩のステップ、時に片手で流し、時に、数センチで見切って避ける。 (もし……イースが本調子だったら、アタシなんて手も足も出なかったかもしれないわね) フェイントもない、崩しもない、ただ渾身の力で振り回すだけの打撃。それでも、もう一人の自分が受けたと して凌ぎきる自信なんてありはしない。 それほど蹴り技には自信を持っていた。それがここまで通じないなんて……。 やがて無酸素運動の限界が訪れる。息が続かない、そう思った瞬間イースが動いた。 一瞬の迷いの隙を突かれて軸足が払われる。バランスを崩した所に両手を合わせた掌打が腹部に打ち込 まれる。 だが、これは予定通り。体力を奪うのと引き換えに多少のダメージをもらう。相手を油断させつつ逃げ足を 封じていく。有利と思わせつつ罠に誘い込むためだ。 (なに――――これ?) そう、受けたのは予定通り。しかし、予定に無いほどのダメージがベリーを襲う。 ただの掌打では無かった。小柄なイースが、生き残るために死に物狂いで身に付けた技。力を螺旋状に高め、 加速させて叩きつける。流し込んだ気が体内からベリーを食い荒らす。 ダメージは隠す必要が無い。油断を誘わなくてはならない。だからこそ、隠せないほどのダメージを本当に 受けていたのでは意味が無かった。 (これは……楽には勝たせてもらえそうに無いわね) 「なぜ……お前だ?」 「どういう意味?」 「お前が――――私とキュアピーチの間に割って入るほどの者か!」 「必死で――――生きてきたのが自分だけだなんて思わないで!」 先程までの繰り返し。暴風の如くベリーの蹴撃が吹き荒れる。 余裕なんてあるものかとイースは思う。紙一重で見切っているわけじゃない。蹴りの間隔が短すぎる。大きく 回避したら次が避けきれない。 まるで綱渡りだ。一つ間違えば次は無い。一度バランスを崩し、あの暴力の前に身を晒せばどうなってしまう のか。 神経をすり減らしながら回避していく。そのうちのいくつかは避けきれずに受け流す。 正面から受けているわけではないのに、腕ごと持っていかれそうになる。歯を食いしばって耐えながら気を練 る。こちらの攻撃のチャンスは何度ももらえない。 確実に大きなダメージを与えなければならない。しかし――――この技も身体に大きな負担をかける。後、 何度打てるのか。 (それでも――――倒すしかない! 私の命を奪う資格があるのは、メビウス様か、ラブだけ。こんな所では 死ねない!) ベリーの呼吸が切れ、攻撃から防御に切り替わる一瞬。それだけが今のイースに許された攻撃のチャンス。 再び放つ必殺技。手ごたえあり! しかし、その瞬間に腹部に衝撃が走る。 膝蹴りが肝臓の上に突き刺さる。呼吸が止まり、嘔吐がこみ上げてくる。 カウンター? 違う、手ごたえはあった。相打ちに持ち込まれたのだ。息が切れた振りをして誘い込まれた んだ。避けることだって出来たはずなのに、あえてこちらのダメージを優先させるとは……。 共に膝を突く。しかし――――先に立ち上がったのはベリーの方だった。 (化け物め! あれを二度も受けてまだ立つのか?) 全身を駆け巡る苦痛の電気信号。戦いによって忘れられていた痛覚神経が、一部本来の機能を取り戻す。 襲いかかる激痛が肉体の限界を知らせる。危険な状態にあると伝えてくる。 (危険なのは、目の前にいる敵だ!) 気力を振り絞って立ち上がる。震える膝を殴りつける。この先すぐに壊れるとしても、今は動け! と。 幸いにも、ベリーはすぐには仕掛けてこなかった。しかし、それは幸運などではなかった。 (相打ちはこれが狙いかっ!) イースが動けない間に、ベリーは最大の攻撃技の発射準備を行っていたのだ。 警戒していなかったわけではない。だが大きくて動きの鈍いナケワメーケと違い、発動に大きなモーション を必要とするあの技は、対人戦闘では使えないとタカをくくっていた。 自分は今――――その時間をベリーに与えてしまったのだと知る。 “響け! 希望のリズム! キュアスティック・ベリーソード!” キュアベリーの呼びかけに応えて出現するアーティファクト。 ベリーの口付けで希望の青い鍵、妖精ブルンが目を覚ます。そして、舞う!――――回る!―――― 力の門を開く錠が解き放たれる! 引き出された巨大なエネルギーがベリーソードに注ぎ込まれる。収まり切らぬ力の奔流が青白い光となって 駆け巡る。 もう、何も考える余裕なんてなかった。あれが決まれば全てが終わる。いつ奪われるかわからない寿命。そんな 曖昧なものじゃない、確実にこの場で命を断つ死神の鎌。 そして――――改めて知る。自分は――――死にたくないのだと! 「そうは――――させん!」 ベリーが破邪の言霊を紡ぎながら刀身で印を刻む。その動きを阻止すべくイースが間合いを詰める。 狙うは一点! ベリーソードのみ。ウエスターの強化されたナケワメーケすら一撃で浄化する必殺技。撃たせ るわけにはいかなかった。 (まだ――――私はラブに伝えていない気持ちがある!) しかし、イースの渾身の一撃は空を切る。命中する瞬間、ベリーの手から突然ソードが消えた。手首の動き だけで上空に放ったのだ。 「なにっ!」 「隙だらけよ、イース!」 イースのミゾオチにベリーの膝蹴りが突き刺さる。 再び強制的に止められる呼吸。全身を駆け巡る激痛にイースの時間が停止する。 (これが……キュアベリーの実力。始めから、何もかも計算通りだったということか……) 悶絶して動きを止めたイースに容赦ない追撃が加えられる! 膝を軸足と交差する位置で降ろし体を反転させる。ダンスのステップの応用。回転加速した強烈な回し蹴り が、イースの頭部に直撃し体ごと弾き飛ばした。 同時に落下してきたベリーソードがベリーの手に戻る。 一瞬浮かぶ寂しそうな憂い。そして――――謝罪の言葉。それもほんの一時の事。 厳しい表情で必殺の言葉が紡がれる。 「ごめんなさい、イース。――――さようなら」 “悪いの・悪いの・飛んで行け! プリキュア・エスポワール・シャワー!!” イースは十数メートル先に飛ばされ、巨木に叩きつけられる。歪む視界、軋む身体、焦る気持ち。脳震盪を 起こし立ち上がることが出来ない。 死の宣告にも等しいキュアベリーの詠唱を聞きながら回復を待つ。動けるようになるまで後二秒―――― 間に合うか? その時、自分の名を叫ぶ声が後ろから聞こえてきた。 「せつなっ!」 森を駆け抜けたラブが目にした光景。まるでスローモーションのように映った。 時間がゆっくりと流れる。ただし、自分は金縛りにあったかのようにまるで動けなくなった。 黒い人影が直線軌道で飛んでくる。目の前の大木にぶつかり、跳ね返って地面に叩きつけられる。 全身を震わせながら、両手の力だけで上半身を辛うじて持ち上げる。 すぐに駆け寄って助け起こしたいのに、体が動かない。 当然だ。集中力が高まって遅く見えるだけで、実際にはほんの一瞬の出来事。動く時間などありはしない。 ラブにできたのは、ただ大声で名前を叫ぶことだけ。 イースがラブの声に反応して振り向き、その目が驚愕に見開かれる。そして、次の瞬間には飛ばされてきた 方を向いて立ち上がった。 通せんぼをするように――――両手を広げて立ち上がる。 その小さな体が青い閃光に包まれて覆い隠されていく。 「っ――――――――ぁぁあああああ!!」 イースの絶叫が響き渡る。 その光はよく知っている。キュアベリーのエスポワールシャワー。 その威力はよく知っている。今からじゃ間に合わないなんてことも、嫌ってほどわかる。 「美希! 止めてっ! やめて――――!!」 こちらに気が付いているのか、いないのか。技は最終段階に入っていた。キュアスティックの先端が回転し、 輝きを増した浄化の光がハートの形で膨らんでいく。 せつなが消えてしまう。絶望的な思いの中でラブは走る。記憶に蘇るせつなの顔が、笑顔から寂しそうな顔 に、そして泣き顔へと変わっていく。 (助けて――――誰か――――助けて!!) キィィィィィ――――! その時、弾丸のような速度で小さな何かが光の中に飛び込んだ。ハートの中心に球状の赤い光が生まれ、 どんどん膨らんでいく。 次第に青い光が収まっていき、同時に赤い光も消えた。 その後に気を失った一人の少女が残される。それはイースではなく、黒髪の少女。 「せつ……な? やだ……よ。せつな、せつな、起きてよ、せつなぁ」 ラブがせつなを抱きかかえる。軽いはずの体が不思議に重く感じる。全身から筋肉が失われてしまったかの ように、手も足も、首も、あらゆる関節がダラリと垂れ下がる。 「死んじゃ……やだよ……」 「落ち着いてラブちゃん。胸が上下してるでしょ。とても……小さい動きだけど」 「ブッキー? 動けないんじゃなかったの」 「変身したら少し楽になったの」 いつから居たのだろうか、ラブの後ろから遠慮がちにキュアパインが話しかける。 パインは屈んで、せつなの横に落ちていた物を大切そうに拾った。プリキュアの妖精にして力の源。愛の鍵 ピルン、希望の鍵ブルン、祈りの鍵キルンに続く、幸せの鍵アカルン。 今ので力を使い果たしたのか、動く様子が無い。 (どうして、この子がここに? せつなさんを助けた? わたしを起こしたのもあなたなの?) ベリーも気持ちが落ち着いたのかラブの元にやってくる。既に戦意は無い。せつなの無事を認めて、瞳が複 雑に揺れる。 「ラブ……ごめんなさい。アタシ……」 「事情はブッキーから聞いてる……。でも、絶対に認めないから!」 ラブがせつなを守るように立ち上がる。敵を見るような目で睨みつける。激しい怒りの感情が、多くの言葉を 紡ぐことを拒んだ。 そして、せつなを背中におぶった。 「ラブ、手伝うわ。いくらなんでも気を失った子を傷付けたりしないから……」 「わたしも……」 「触らないで!――――二人ともせつなには指一本触れさせない!」 「聞いてラブ。許してくれなんて言わない。でも、こうしなきゃあなたが」 「もう放っといて! せつなは――――あたしの友達なんだから」 どこに運ぶ気なのか、ラブはせつなを背負って歩き出した。ここに来るまでも、そして今も、変身もせずに ラブのままで。 ベリーとパインにはその気持ちがなんとなくわかった。 もともとピーチはイースと戦闘などしていないのだ。言葉で伝えきれない想いを届けるために、体ごとぶつ かっていたにすぎない。 せつなが寿命を管理されている事実を知った。説得を受け入れられる環境ではないことを知ってしまった。 だからもう戦う理由が無い。無防備な姿をせつなに晒すことが、ラブなりの愛情表現なのだろう。 ラブの姿が消えるまで、ベリーとパインは油断無く周囲を警戒し続けた。そして疑問に思う。 ここから館は見えなくとも、館からここは見えているはず。どうしてイースが連れ去られるのを黙って見て いるのかと。 「ごめん、ベリー。わたしラブちゃんに話しちゃったの」 「まあ、アタシもフェアじゃなかったしね。それに、失敗したのはその子の力なんでしょ?」 「そうだと思う。わたしを起こしたのもアカルンみたい。どうしてなのかはわからない」 「もういいわ。正直言うと、ほっとしちゃったの」 ベリーは一度家に戻って、祈里とこれからのことを改めて相談することにした。念のためブルンを飛ばして ラブの後を追わせた。 あの様子では、せつなは当分は起き上がることもできないだろう。どちらにしても、少し時間を置かなけれ ばラブは話も聞いてくれそうになかった。 結局目的も果たせずに、意味も無くラブとせつなを傷付けてしまった。自分のやったことは、傷口を広げ、 問題を大きくしてしまっただけなのかもしれない。 ラビリンスの様子も不気味だった。寿命を管理する。そんな非道なことをしているにしては、今のイースの 扱いは甘すぎる。 もしかしたら、これまでの事も今日の戦いも、全てはメビウスの掌の上で踊らされているだけなのかもしれ ない。 次こそ、失敗は許されない。事態は最悪のシナリオに向かって真っ直ぐに進んでいる。そして、それこそが メビウスの狙いかもしれないのだ。 ラブとイースの様子を注意して見守って、最悪ラブだけでも守り抜く。必ず――――守ってみせる! 今度こそ二人でと、パインと共に誓いを新たにするのだった。 避2-406へ
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***プロローグ*** もしもお伽話の人魚姫が実在するとしたなら―――それはきっと彼女のような人なのだろう。 身近な人間の贔屓目だって人には笑われるかもしれないけど、彼女の泳ぎを見る度にそう思う。 優雅で、美しくて、彼女の起こした水しぶきまでもが真珠のように輝いて見えて。 幼い頃、その姿に心を奪われて……それからだろうか、自分が彼女を意識するようになったのは。 勿論、泳いでる姿だけが魅力的なのじゃない。 普段は頼り甲斐があって、優しくて、クールぶってる癖にちょっと抜けてて―――そんな彼女の内面も含めて…多分…自分にとっては初めての……というか現在進行形で、その……恋してる、誰よりも大切な人で……。 子供の時から、漠然とであったけれど、きっといつまでだって二人で一緒にいるのだろうな、って考えていた。人魚姫と王子様は結ばれなかったけど、自分と彼女は決して離れることはないんだろうなって。 けれど、恋は盲目とはいうものの、不満がないわけではなくて………むしろ恋をしているからこそ、不満に思うところもある。 この胸に芽生えてしまった不満……それは―――……。 ***美希SIDE*** ギラギラと照りつく夏の太陽が眩しい海辺。 砂浜は大勢の家族連れや水着姿の恋人達で賑わっていた。 「ちょ、ちょっと待って下さーい!え、えりかー!!」 「あははは、こっちこっちー!早くおいでよ、つぼみー!」 ……あのコ達も恋人同士……なのかしら。遠目でよく分からないけど、前にどこかで会ったような……。 「ふふっ……いいな。楽しそうよね、あのコ達」 あたしの隣でブッキーが少し羨ましそうに言う。 久しぶりに海に来る、って事で彼女らしくないちょっと大胆な黄色のビキニを着ているのが目に眩しい。 それ選ぶのにあたしも付き合ったのよね……あたしの着てるのもその時ブッキーが選んでくれた物だし……。 だけど、そのあたしの水着はというと……。 「……ゴメンね、ブッキー……あたしがアレ忘れちゃったばっかりに……」 暑いというのに手首まで隠れる大きめのパーカーの下に隠されていた。 それだけじゃない。 頭にはつばの広い帽子を被り、目には大き目のサングラス。口元も隠すようにタオルを巻いて。 とても海にやって来た、という格好とは思えない。 「あ、う、ううん!気にしないで、美希ちゃん!別にそういうつもりで言ったんじゃないから!」 慌てたように首を横に振るブッキー。 彼女が今日という日をどれほど楽しみにしていたか知っているあたしは(そりゃ勿論あたしだって楽しみにしてたのよ!?)、申し訳なくて溜息を漏らすばかり。 日差しを避ける為のビーチパラソルの下、あたしは恨めしげに砂浜を楽しげに駆ける少女達を眺めていた。 「―――姉さん、山吹さん、お待たせ」 両手に冷えた缶ジュースを何本か抱えた和希があたし達の元へと戻ってきた。 「あ、ありがとう、和くん」 差し出されたジュースを受け取るブッキー。だけどあたしは……。 「ありがとう、和希。だけどジュースよりもその――――」 あたしの切羽詰った声に、和希は言いにくそうに視線を逸らす。 「ごめん、姉さん……随分探したんだけど、どこも売切れだったよ……」 「あ……そ、そう……し、仕方ないわね……」 「確か来る時にコンビニがあったから、この後そこまで行ってみるよ」 和希はプルトップを開け、余程喉が渇いていたのか缶の中身を一気に飲み干す。 「そ、そこまでしなくてもいいわよ!悪いのはあたしなんだし……」 「いいから姉さん達はここで待ってて。それじゃ」 「あ!和希!ちゃんと帽子かぶって行くのよ!日射病にならないように……あと何かあったらすぐに連絡する事!」 「心配性なんだから……今日はいつもより体調もいいんだ。大丈夫だよ」 白い歯を見せて笑うと、和希はまた人波へと姿を消した。その後姿を見送りながら、あたしはまた申し訳なさから大きく溜息をつく。 なんで…なんでよりに寄ってアレを忘れてきちゃうのよ……あたしったら……絶対にバッグに入れたと思ったのに……。 あたしの落ち込んだ様子に、ブッキーが心配そうに声をかけてくる。 「美希ちゃん……大丈夫よ。元気出して。きっとどこかに売ってるはずだから―――日焼け止め」 ***祈里SIDE*** 元々、今回の海への旅行の発案者は美希ちゃんだった。 最近弟の和希くんの体の調子も良く、お医者さんからは「少し日光に当たって身体を動かすのもいいかもしれません」と言われた事がきっかけで。 「それでね…海にでも連れて行ってあげようと思うんだけど……も、もしブッキーも……その……」 頬を染めて伏し目がちにわたしを誘う美希ちゃん。 消え入りそうなその言葉に、わたしは内心ヤキモキしながら、助け舟を出す。 「―――いいわね!わたしも一緒に行きたいな。だめ?」 「ほ、ホント!?よ、良かった。じゃあ―――」 わたしとしては彼女のこういうところが……不満。 普段はビシッとしてて格好いいのに、わたしに対してだけはいつも弱気。 告白したのだってわたしからだし、照れてるからか、彼女の口からまともに愛の言葉なんか聞いた事もなくて。 もっと強気にリードしてくれたっていいのにな……。 一度でいいから……その……彼女の口から想いを告白して欲しいのに。 わたし達だけで旅行なんてって普通ならお母さんが反対するだろうけど、男の子の和くんがいる事で今回はスムーズに許可が出た。 レミさんは最後まで自分も一緒に行きたいってごねてて、「普段はあたしを置いて旅行ばっかりしてるのに」って、美希ちゃんは愚痴をこぼしてたけど。 二人きりじゃないからその……ラブちゃん達みたいにいちゃいちゃしたり出来ないのは残念だけど(ごめんね和くん)、夜は二人部屋だし……ちょっぴり邪な期待も……。 ま、まあそれはともかくとして! 折角の海への旅行、という事でわたし達ははしゃぎまくった。二人でお互いの水着を選びに行ったり、ドーナツカフェで綿密に計画を練ったり。 美希ちゃんは「せっかくの旅行なんだから完璧!にしないとね!」って凄く張り切ってた。 ―――ところが、いざ海に到着した時、彼女は重大な忘れ物をしてきた事に気がついたのだ。それは―――「日焼け止め」 「何だ、そんなことくらい」って思われるかもしれないけど、モデルさんのお仕事をやっている美希ちゃんにとってはそれはまさに死活問題。 夏真っ盛りとはいえ、雑誌では早くも秋物特集を組み始めている時期で、事に寄っては冬物の企画だってすでに動き始めてる。 美希ちゃんも夏休み中に何回か撮影を控えてるみたいで、そのどれもが秋から冬にかけてのフッションばかり。真っ黒に日焼けした健康的な―――なんてイメージは決してそぐわない物ばかりだ。 故に―――絶対に日に焼けてなどならない。 「美希ちゃん、足にもタオル掛けておかないと……焼けちゃうわ」 相変わらず落ち込んで無言の美希ちゃんの足に、そっとタオルを被せる。 「―――ブッキー……あたしの事はいいから、和希が戻ったら泳いできたら?海まで来たんだし……」 「え…?う、ううん。わたしはいいの。美希ちゃんの傍にいたいし……」 「ゴメンね……あたしのドジにつき合わせちゃって……」 今日何度目になるか分からない美希ちゃんの謝罪の言葉。けどその言葉をこれ以上聞くのは、ちょっと辛い。 わたしは返事をしないで、海へと目を向けた。仲睦まじげに泳ぐ先ほどの女の子達が見える。 「ホラホラ~!早く来ないとブラ返さないよ~!」 「ひ、ヒドいです、えりがぼがぼっ!!堪忍袋の緒がぼがぼっ!!」 ……仲睦まじくはないのかしら……。 どうやら泳いでるうちに片方の女の子の水着が流されちゃったみたいね。片手で胸押さえてるし、溺れないか心配だわ。 でも……。 「…本当に楽しそう……」 「えっ!?あれのどこが!?」 「あ、そ、そうなんだけど!……でも、ああいう事でも、きっと後で思い返してみたらいい思い出になるんじゃないかなって」 言ってしまってからあっ!と後悔して口を押さえる。わたしの不用意な言葉が更に美希ちゃんを傷つけてしまったみたい。 膝を抱えてそこに顔を埋めると、彼女は小さな声で呟いた。 「……あたしさえしっかりしてれば……」 「美希ちゃん……」 わたしは彼女の傍に寄り添い、その肩に頭を預け、目を閉じた。 「落ち込む事なんてないの……わたしは美希ちゃんとこうしてるだけで幸せなんだから……」 「ブッキー……」 「ね、言ってみて。わたしは美希ちゃんの――――何?」 ちょっぴり甘えた声で、美希ちゃんに問い掛ける。 ―――ね、美希ちゃん。言ってみて。その言葉だけでわたしはどんな事でも許してあげるから。 「ななな何って―――そそそれは……その……」 言葉に詰まり、恥かしそうに顔を赤くしてそっぽを向いてしまう美希ちゃん。―――もう……わたしの意図は伝わってるくせに……。 もどかしくなったわたしは、突き詰めるかのように更に言葉を重ねる。 「―――何?」 言いにくそうにしていた彼女も、意を決したかのように一度大きく深呼吸して、わたしの方を向き直った。 「も、勿論あたしの何より大事なこ―――――」 「―――ねえねえ、彼女たち。どこから来たの?」 「可愛いねー。中学生?にしてはそっちのパーカーの彼女は大人びてるなあ」 わたしの一番聞きたかった言葉は、突然の闖入者の声にかき消された。 顔を上げたわたし達の前には、髪の毛を染め、良く日に焼けたいかにも軽薄そうな大学生くらいの男の子が二人立っている。 「ね、良かったらサ、一緒に遊ばない?」 「折角の海なんだしさー、ヒトナツの思い出っての作ってってもいいんじゃない?」 ……もうちょっとだったのに……。 美希ちゃんはウンザリした様子だったけど、一瞬で笑顔を作って(さすがモデルさんだわ!)彼らに向けて手をひらひらと振る。 「ゴメンなさい。あたし達そういうの間に合ってますからー」 「えー、そんなつれない事言わないでさあ~。俺らも男二人で退屈してたんだ」 「俺達マジメだよ~?下心なんて全然ナシ!ちょっと遊ぶだけだからさ、ね?」 男の子達もナンパし慣れてるのか、しつこく食い下がってくる。 いつもならこういう時には和希くんが美希ちゃんの彼氏役になってくれるんだけど、コンビニまでは距離があるし、まだ戻ってくる気配はない。 ―――もう…こうなったら……。 「あの……わたし達は別に女の子二人で退屈してませんから!」 「「「え!?」」」 突然のわたしの発言に、男の子達同様に美希ちゃんも驚いたみたい。やだ……邪魔されたからってわたし……らしくなかったかしら……。 だけど一旦口を開いた以上は黙ってもいられない。 「ね?言ってあげて。だって美希ちゃんはわたしの―――――」 続きを促すように美希ちゃんののサングラスの奥を見つめる。 「わたしの……何?」 「え?まさか女の子同士で、とかないよね?」 男の子達の視線もわたしにつられたかのように美希ちゃんへと集中した。それがますます彼女を狼狽させる。 「あ、あたしはそ、その……な、なんと言うか……」 絡みつく視線を断ち切るように、美希ちゃんは思い切り大きな声で―――――。 「彼女の……こ、こ――――お、幼馴染なのよ!!!」 ……し―――――――――――ん。 ――――空気が凍りつく、ってきっとこういう事を言うんだわ………。 波が引くように一瞬の間を開けてから、男の子達はまた口を開きだした。 「そ、そうなんだ。俺達もさ、小学校の時からの知り合いで……なあ?!」 「あ、そうそう。だからさ、お似合いじゃない?ね?」 戸惑う男の子達の反応をスルーして、美希ちゃんはわたしの方をちらりと盗み見る。 欲しかった答えが得られなかったわたしは……まるでフグみたいにぷううっと頬を膨らませて……。 もう!!こんな時くらいはっきり言ってくれてもいいじゃない!! わたしの反応に慌てたのか、オロオロしながら美希ちゃんは弁解しようと言葉を繋いだ。 「あ、あのね、ブッキー、い、今のはそのなんというか……な、成り行き―――――」 「あなた達!待ちなさい!!」 けど、取り繕おうとする美希ちゃんの声は、再び新たな闖入者に寄ってかき消されたのだった。 ***美希SIDE*** 「嫌がってる女性を無理に誘うなんて、みっともないと思わないんですか!」 突然の新たな乱入者の登場に唖然とするあたし達と男の子二人組。 声の主はひょろりとした体躯を強く見せようとでもしてるのか、胸を大きく反らし、腕組みをして仁王立ちしている。 ―――でも正直迫力不足も甚だしいわ。下手したらこのナンパな男の子達の半分も体重がないんじゃないかしら。 えーと…見覚えのある眼鏡とらっきょ……もとい、特徴的なこのヘアースタイルは……ラブと同じ学校の―――なんて言ったかしら? 「け、健人くん!」 ああそうそう、御子柴健人くん。 前に皆で遊園地行ったりトレーニング施設を貸してもらったりしたのよね。―――ブッキーを船上パーティに招待したりした事も……く、嫌な思い出だわ。 それにしたってなんでこのコがここにいるのよ? 「あ?なんだお前?」 「あのさ、俺ら今忙しいんだよ。ヒーローごっこならそこらの子供とでもやってくんね?」 御子柴君の登場に一瞬怯んだものの、自分たちより明らかに格下の相手だと考えたのか、男の子達は居丈高に御子柴君へと詰め寄った。 でも、意外と言うか、御子柴君には焦った様子も怖気づいた様子も感じられない。 「ふふん。あなた達、それくらいにしておいた方がいいんじゃないですか?」 「ああ?何言って―――――」 「お、おい!ま、周り見ろよ、周り!!」 一人の男の子の言葉に、連れの子だけじゃなく、あたしたちまで周囲を見回す。 げ…な、なによこれ………。 いつの間にかあたし達のいるビーチパラソルの周りは、体格のいい何十人という黒スーツ、サングラスの男性達に包囲されていた。み、見てるだけで暑苦しいわ……。 見ているあたしとは反対に、余程訓練されているのだろうか、彼らは汗一つかかず、後ろ手に手を組んだまま、直立不動の体制で身動き一つしない。 「な…なんだよこいつら……」 男の子達も彼らの異様な風体に気圧されたのか、背中合わせになって怯えている。 「彼らは我が御子柴財閥の誇る有能なSP達ですよ……もし僕に何かしようものなら―――――」 言って御子柴君はパチン、と指を鳴らした。途端にザザッ、とファイティングポーズを取る黒服の男達。 素人目にも格闘の達人と分かる彼らの威圧感と殺気に、男の子達は「ひっ」と小さく呻くと、くるりとあたし達に背を向け、 「あ、お、俺達用事思い出しちゃったから……」 「じゃ、じゃあまたね!彼女達!!」 と言い残すと、凄いスピードで砂浜の遥か彼方まで一気に走り去ってしまった。 「ふ、口ほどにもない。大丈夫ですか、山吹さん?」 余裕の表情で手をパンパンと払う御子柴君。いや、あなた何もしてないじゃないの! 「あ、ありがとう健人くん……とSPさん達……」 「ま、まあ助かったわ…ありがとう」 「いや、お礼には及びません。実はこの海沿いに御子柴財閥がリゾート施設を建設する事になってましてね。その為に視察に来ていただけですし。―――でも良かった」 ス、とブッキ―の手をさり気なく握る御子柴君。ちょ、ちょっと何やってるのよ!ブッキー、早く振りほどいて! あたしの心の声が届かないのか、この雰囲気に流されてしまってるのか、彼女は手を取られるがままに御子柴君へと聞き返す。 「良かった……って?」 「あなたを守る事が出来たからですよ、山吹さん」 「僕の大好きな、大切な人を守る事が出来た」 その台詞に一瞬あたしの顔から血の気が引き、その後一気にカーッっと頭のてっぺんまで熱くなった。 (は、はあ!?な、何歯の浮くような事言ってるのよ!?それはあたしの台詞よ!!) けど、あまりの怒りの為か、あたしの口からは何も言葉が発せられない。 (ちょっとブッキーからも言ってあげ――――) 拒否の言葉を口にしないブッキーがもどかしくなり、彼女の横顔に合図するように強い視線を送る。でもあたしが見たのは嫌がってる様子のブッキーじゃなく。 「…………」 ―――予想に反して御子柴君の言葉に頬を赤らめ、うっとりとした目をしているブッキー……だった。 その言葉に微笑んだ御子柴君がゆっくりと手を上げると、途端に周囲の黒服軍団からパチパチパチ……という祝福の拍手が起こり始める。 どれだけ訓練されてるのよ!!!というツッコミも入れる事が出来ないまま、あたしはただ呆然とブッキーを見つめ続けた。 ***** 「姉さん、お待たせ。やっぱり日焼け止めはその―――姉さん?」 あー……誰かあたしに話しかけてるわ。誰かしら。聞き覚えのあるような声だけど……。 「姉さん?姉さんってば!?」 なんだろう、遂に幻聴まで聞こえるようになっちゃったのかしら。 無理もないわ……SPに胴上げされながらブッキーと御子柴君が仲良く去って行くような幻覚を見るくらいですもの……。 「―――――」 あ、静かになった。やだわホント……こんな格好してるから暑さにでもやられたのかしら……あたしったら……ふ…ふふふ……。 タオルに隠された口元を歪め、虚ろな笑みを浮かべるあたしの眼前に、突如、さっ、と赤い物体が差し出される。 何よこれ……赤くて丸くて足がひぃふぅみぃ……八本。なんだ、ただのタ―――――――!!!!! 「た、タコォォォ!!!???」 あまりの恐怖に意識を取り戻したあたしは、ざざざざっと一気に後ずさる。 ひぃひぃと肩で息をする涙目のあたしの前には、空気で膨らますビニール製のタコの玩具を手に苦笑いする和希の姿が。 「良かった。気がついた?ボーっとしてたからちょっとショック療法を試してみたんだけど」 「か、和希……あんたねぇ……」 怒りにワナワナと身体を震わすあたし。弟でもやっていい事と悪い事があるのよ……!! けど和希はそんな事どこ吹く風という顔で「ありがとう」とタコの玩具を横にいる持ち主らしき少女へと手渡し、あたしの横へと腰掛ける。 「―――で、何かあったの?姉さんがそんな風にボンヤリしてるなんて珍しいけど。それに山吹さんはどうしたの?」 和希のその言葉に怒りも吹き飛び、あたしは理解したくない現実へと引き戻された。 ブッキ―は……。 「……ブッキーなら知り合いの男の子に会ったから、ってちょっと出かけたわ……」 「山吹さんが?……ふーん、姉さんをおいてくなんてらしくないなあ……」 疑わしそうにあたしを見る和希。な、何よ。嘘なんかついてないわよ。 目を逸らすあたしに、和希はやれやれという風に肩をすくめた。そして思い出したかのように。 「あ、そうだ。ごめん、姉さん。やっぱり日焼け止めはコンビニにも置いてなくて……猛暑だから買う人も多いんだろうね」 「……そう……」 日焼け止めなんかもう何の意味もないわよ。だってそれが必要で、一緒に海辺で遊びたかった相手はもう―――……。 サングラスの下の目が潤む。 どうしてだろ…本当だったらこの旅行は目一杯ブッキ―と楽しむはずだったのに……。あたしのドジで台無しになっちゃったから……怒っちゃったのかな……。 いや……いやよ……ブッキー、あたしの傍にいて……。あたしを嫌いにならないで……。あたし……。 あたしはまだあなたにちゃんと伝えてない事が―――。 「あーあ、残念だなあ。姉さんの泳ぎ、僕は好きだからさ。太陽の下で見たかったんだけど」 深海のように暗く澱んだあたしの気持ちを知らないように、和希が突然暢気な事を言い出した。 「山吹さんも言ってたけど、姉さんの泳ぐ姿ってさ、お世辞抜きで本当に綺麗なんだ。覚えてる?姉さんが僕の小さい頃によく読んでくれた童話の―――『人魚姫』みたいに。」 何よ、あたしが落ち込んでるからって慰めてるつもり? 覚えてるわよ。最後、人魚姫が泡になってしまう下り、読みながら和希だけじゃなくあたしまでビービ―泣いちゃって、ママがビックリして飛んできたわよね。 「たまに思うんだよね。あの時、なんで人魚姫は届かないかもしれない想いを諦めてしまわなかったんだろうって。美しい声まで犠牲にして……」 そういうお話なんだから仕方ないじゃない。あたしだって何度人魚姫に同情したか分からないわよ。 何かを犠牲にしてまで賭けた想いが報われずに終ってしまうなんて―――哀しすぎるもの。 「……それほど好きだったんでしょ。王子様が」 「うん。それはすごい事だよね。ただ人を好きだって想いだけで、何を失っても構わないって強さを持つ事が出来るなんて」 ぴくっ、と和希の言葉にあたしの心が反応した。 「そういう心の強さも含めて、人魚姫の泳ぐ姿は綺麗なんだろうなあ。あくまでイメージだけどね」 ニコッ、と和希があたしに微笑みかける。 「姉さんの泳ぐ姿は、そんな人魚姫に似てるよ」 ……随分変な慰め方じゃないの。 それに今のあたしは人魚姫なんかじゃないわ。日に焼けるのを怖がって、太陽の下に出るのを嫌がってる―――どっちかと言えば吸血鬼よ。 そんなの……冗談じゃないわよね。 足にかけられていたタオルを払いのけ、ガバッっと起き上がると、あたしは邪魔な帽子とサングラスを取り去った。 ジッパーを降ろし、パーカーも脱ぎ捨てる。こんなの着てたら暑くて走れないもの! 「和希!ちょっと留守番してて!!」 「分かった。けど―――いいの?日に焼け―――」 「そんなの知った事じゃないわよ!」 砂を蹴り、あたしは走り出す。ブッキーを……あたしの王子様を探して。 今してる事は無駄な事かもしれない。もうブッキーはあたしになんて振り向いてくれないかもしれない。この想いは報われずに終わってしまうかもしれない、 でも、伝えなきゃ、って事だけは分かる。今日何度も伝える事が……ううん、今までだって何度も言おうとしてたのに、照れ臭くて伝えられなかった言葉だけは。 あたしはあなたが―――。 あたしの背後から、和希の呟きが聞こえた気がした。 「大丈夫だよ。きっと姉さんの想いは、泡になったりしないから」 新-190へ
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み-432 翼をもがれた鳥――――そして飛べない現実を知る(後編)―――― 夏希◆JIBDaXNP.gさんへ 言い訳。変わったなって思う、イースが。痛みをわかる子になった。なってしまったと言う表現が正しいのかもしれませんが。 そして悟る、自分の最後を。全力を出せるのも今日が最後だと。現実は優しく微笑んでくれなかった。それでも、イースはイースなりに 精一杯進んだ結果がこうだった。こうなってしまった。全てはラブと出会ったから。これもまた、現実で。飛ぶ事は許されない。 ラブのように、ラブと一緒にはもう…。合流する仲間たち、そして繰り広げられる戦い。残酷。本当はね、どちらもこんな事望んじゃいないのに。 あえてせつなと呼ぶ伝説の愛戦士。胸が苦しくなったな。とことんやって分かり合おうって言う気持ち、ハートがすごく切なくなって。一体どうなってしまうのか… み-405 を書いて下さったあなたへ 近年、日本にも定着しつつある〝アレ〟ですねw小ネタ以上~準SS未満なこの文章構成、自分はとても好きでね。サクって読めちゃうでしょ? ○○が現れた!とか某ゲームのようで面白い!差し詰め、せっちゃんが主人公とでも言いましょうかw ブッキーしかり、美希たんしかり、ついポロっと出ちゃう〝あの人〟からの命令に思わず笑ったり。やっぱり仲のおよろしいことw 残念ながらお菓子は底を尽きてしまったんでね、残ってるものはまぁ〝カラダ〟と言う事で。。。 策士!桃園ラブ!!! み-574 「すべてを包む空」 黒ブキ◆lg0Ts41PPYさんへ 考えてみれば自分で、一人で行動するって新鮮なのかもしれませんね。いつも誰かに支えられていた。誰かが自分を助けていてくれたのだから。 ほんの微かな事でも、今のせつなには何か新鮮に思えて。強調された色彩の赤。真っ赤なハート。そして、体を流れる血。せつなは今、生きている。 彼女にとっての美希の存在。不思議な感覚。それはみんなが感じた雰囲気。付かず離れず。でもどこか惹かれあう。それがこのSSにも十分生かされていて。 気が付けば、重い流れからシフトチェンジしていて。せつなの心模様もどこか晴れ晴れしているような。ほら、家族も後押ししているかのよう。 生きる事。毎日が変化。欠ける事のない存在。幸せと思いやり。今はただただ、感じる事を素直に、そして前向きに進んで欲しいなって思いました。 み-397 翼をもがれた鳥――――そして飛べない現実を知る(前編)―――― 夏希◆JIBDaXNP.g さんいつもありがとう! 冒頭のね、〝流れ〟が胸を突くんですね。それこそため息をついてしまうぐらい。〝寂しさ〟を感じたんです。それはイースの心情なのか、東せつなの心情なのか。 彼女は最初から飛ぶつもりなどなかった。けれど、ラブと出会い、いろんな経験をして微量でも〝飛ぶ〟事が出来てしまった。なかったはずの感情が芽生えてしまった。 そんな遠くない自分の過去を蹴散らすかのような言葉。〝スイッチオーバー〟。それは悲しくて、とても冷たい言葉。彼女が求めていた現実はそこにあったのかもしれません。 戦火の中、友は・ラブは何を思うのか。焦り、戸惑い、後悔、行く末。彼女たちの現実。それはこの町を救う事。プリキュアとしての運命。声は間違いなく届いているのだから。 それぞれの現実が交錯する中、自分が思うのはやはり寂しさ。イースの決意はイコール、もう〝飛ばない〟・〝飛べない〟のかなって。後戻りは…出来ないんですよね。 み-464 「幻想の楽園」 黒ブキ◆lg0Ts41PPYさんへ 心の拠り所を求めていたのかな。あまりにも衝撃的な一連の流れ。そこに携わってしまった自分。 ふと気付いた時には自分一人。プライドもあって。そんな彼女を知ってか知らずか、いつも通りのせつなが そこにはいて。興味を示す美希はある意味ピュア。確かめてみたくなるのは当然。女の子から見る女の子。 回顧すれば疑問符がいっぱい残るけれど、今を見つめてね。幸せを掴む為に何が出来るのか。何をしてあげれるのか。 楽園は手の届かない場所なのか。幻想のまま終わるのか。道標は自分自身で。美希もまた、せつなのために。 み-382 翼をもがれた鳥――――夢のまた夢―――― 夏希◆JIBDaXNP.gさんへ感謝の気持ちを。 イースの中の迷宮。森には光明がなく、そこから逃れたくなる。例え逃れられたとしても今度は孤独が待ち構えていて。 それでも救いの手は差し伸べられて。半ば強引な誘いもどこか断れない自分がいて。不思議な感覚。でも疑いの目は消えうせてなくて。 興味。吸い込まれていくイース。戸惑いから産まれた喜び。それはかすかな物だけど。恥ずかしさもやってきた。何だかイライラもするけれど。 そして訪れる現実。砕け散るのは夢なのか、幻なのか。それとも心だったのか…。やはり彼女には不幸しか訪れないのか。 さようならは完全なる別れの言葉。最後の嘆き。そして戦士は決戦へ出向く。夢を夢で、夢のままにしたいから。 み-349 翼をもがれた鳥――――飛べない鳥は大地を駆ける―――― 夏希◆JIBDaXNP.g さんへ 茶番。その通りかもしれません。端から見たら、一線を越える戦いでないのが明らかであり。 確かめ合う。本気ではあるけれど。イースは戦う事で、己の存在意義を証明する。受け止めてくれる 人がそこにはいるから。憎しみもある。だからぶつかる。けど、それはどこか気持ちのいい物でもあったり。 タイトルの通り、イースは飛べないんです。自由にはなれない。だったら地を駆け巡る。この子がいる限りと。 現実が容易には迎えてくれなくて。痛み、それが全て。周囲にも変化が起きる。導かれし四人はどうなっていくのか… み-318 翼をもがれた鳥――――飛べない空を見上げて―――― 夏希◆JIBDaXNP.gさんへ 長期作品の記念すべき第一話。駆け抜けていったイースと言う存在。そして生き方。それは今でも賛否両論があるでしょう。 では、もう一つの世界があれば。SSだから出来る事。SSだから補える事。イースの心を今一度、呼び起こしたとでも言えるでしょうか。 戦闘はやはり欠かせないですが、心の闇・またその先を描く事によって奥行きが出ていますよね。葛藤があるから後一歩が…、真の悪役には まだなれない。戦士と言うには若すぎて。14歳、少女には変わりないのですよ。翼はまだ未成熟。光は差し込むのでしょうか… み-305 「胸から零れた罪の破片」 黒ブキ◆lg0Ts41PPYさんへ 罪と言う言葉。非常に重たいですよね。このお話では冒頭から言葉の流れがとても重たく感じます。 さらに言えば、それは美希の悲痛な叫び、いや嘆きとも言えるのでしょう。裏切りの行為に近かったあの場面。 前回を思い出させます。ラブと祈里にはようやく現実が見えたのか、反省の想いが芽生えてきてますよね。 自分たちは何をしているのか。何をしてきたのか。これから何をすべきなのかを。イコール、それが〝タイトル〟の 意味を表してくるでしょう。人間は後悔をする生き物。それをどう生かして成長していくか。この物語、まだまだ成長しますよね。 み-292 『帰ってきたせっちゃん――ある日のせっちゃん。クローバーフェスティバル――』 夏希◆JIBDaXNP.gさんへ 僕自身が凄くラブに対して想いがあるので、物語のせつない部分を読むと胸が締め付けられる訳です。ふと最終回のラスト部分を思い起こしたり。 夢。ラブの夢だけ不透明のような気がして。呟いたセリフが象徴してますよね。そんな姿にせつなの心は動いていく訳です。 生きて行く事と言うのは夢との追いかけごっこだったり。実現出来そうでなかなか難しい。手が届きそうで遠かったり。それでも一人で進むより、二人で。 かえってきたせっちゃんがやらなければいけないこと。笑顔が行く末をナビゲートしてくれることでしょう。 み-277 「始まりは嵐の夜に」後編 ◆lg0Ts41PPYさんへ 文章が非常に繊細だなと思いました。もちろん、話の流れは二人の融合な訳ですから事細かい文章が 要求されます。描写も安易な考えだと不釣合いになってしまう。ラブの〝すぐだから〟これは愛してる人が 快楽の中で微量ながら恐怖も感じている、それを取り払うかの如く発せられたメッセージなのかなって。これもまた優しさ。 せつなは時折、不安な表情を見せます。態度でもわかったり。彼女自身、真の愛情と言うか〝愛される事〟に戸惑いがあるのでしょう。 わかってるようでわかってない。それが今の二人。だからこそ二人で愛し合い、一緒にいる事で答えが出てくるのだと思うのです。 嵐のような情事は過ぎ去ると爽やかな気持ちになったりして。あぁ、SSでこれだけ表現出来るようになりたいなぁ… み-258 雨宿り 磐丸◆A2AMtvz22Eさんへ いつも力になってくれてる副管理人様のレアな投下で御座いました。この初々しさと言うか、無邪気かつちょっと下心 出ちゃうラブと、冷静だけど案外凝視してたんだね的なせつなとのやり取り。もっと読みたくなるお話ですね。 でも憎い所で閉めちゃう所がポイントなんです。中学生の淡い恋やドキドキ感はこう言う表現の方がリアルだと 思うんです。もしくはこのスタイルが磐丸クオリティかもしれません。雨と制服。ラブとせつな。火照る体と恋心。 読み返して思うのは、やはり14歳は発育途中なんだなって。体も心も。本編では描けない部分がここにはありますね。 み-265 「始まりは嵐の夜に」前編 ◆lg0Ts41PPYさんへ 少女たちの冒険。背伸びでもなく、宛てのない旅でもなく。二人だけの旅。それも遠くへ。 若さって言うのかな。無謀にも思えるような事も、どこか応援したくもなったり。読み手はラブの 視点にもなれるし、せつなの視点にもなれる。流れを掴み取った時訪れる緊張感。それこそが二人だけの 世界だったり。濡れた体は冷たいはずなのに、どこか熱くなれる感情。込上げて来る欲望。それでも相手を 思いやる冷静さ。心はどう打ち解けていくのか…。そして後編に続く訳ですね。 み-232 【人魚姫の鍵】 ◆EeRc0idolEさんへ 貴重なブキせつ回のあの場所。思い出の地であり、二人が近付けた・きっかけになった所。 読んでいるとせつなは大人っぽく見えて。祈里はまさにときめく乙女。温もりと鼓動と満ち溢れる恋心。 キスはかんたんそうで難しく。ラブと美希もまたいい雰囲気だったり。大人の美希とまだまだ甘えん坊なラブ。 2×2で違う雰囲気を味わえるからこそ進む物語。それがクローバーなんですよね。 秘密はずっと守られていくのでしょう。美しすぎるそのパンドラの箱は永遠に開かないのかも。鍵は心の中ですからね。 み-217 「涙」 黒ブキ◆lg0Ts41PPYさんへ 美希のポジション。とても上手に描かれていますよね。怒り、まさに蒼き炎。 親友たりとも容赦はしない。理由があれど、やはり許されない行為。それを目撃してしまった。 巡るめく感情はパニックすら起こしてしまいそうで。無論、ラブとブッキーは事の大きさに気付く。 何て事を…。失ってしまう事に気付いた。一体どうすれば!?読んでてね、悪い事は続くと言うか ドロ沼になるんだよなぁって思いましたよね。これが継続の醍醐味だったりするんですよ。 言葉は悪いかもしれませんが、駆け引きだったりして。そう、これもまたクローバーが描く世界だったりするんです。 み-205 「AM6 00」 ◆BVjx9JFTnoさんへ かなりご無沙汰の美希せつで御座いました。正直驚きましたからねwすっかりラブせつのイメージが自分にはついちゃってるみたいで、、、 さて、タイムリーな夏休み作品となりました。誰もがあの頃経験したラジオ体操。と、その前に二人の小競り合いもポイントだったり。 さらに言うと!途中の〝また息が苦しくなった。〟これ実は深いかもしれませんよー。 何でかって?よーく考えよう。見詰め合ってるんだぜ? 僕が常日頃言い続けてるのはこの二人の空気感なんですよね。もしくは距離感。付かず離れずが絶妙にフィットしていて。 読んでて自然に入り込めるのも、このCPがもたらす魔力なんでしょう。ラジオ体操もSSになっちゃうなんてあなた完璧よ! み-189 【「ごめんなさい」より「ありがとう」】 遊◆0LbB6EOWlさんへ お帰りなさいませ。そしてお待ちしておりました!心からお待ちしておりました!!だってブキせつと言えばry っと、冷静に。41話のスピンオフ、そして自分が最初に思った事がお話になってウキウキでございました。 パッションが助けにいった→パインと二人っきり→よい子はわかるよね?ですよ、えぇ。あぁ、このキャッキャウフフ。 付かず離れず、でも愛おしい。そう、ぽかぽかするの。優しさが文章に表れています。あなたのポイントはコレなんです。 初々しさを忘れずに描いて行く。それがブキせつのポイントだったり。はい、メモりました! み-195 【始まりのご褒美】 ◆EeRc0idolEさんへ 私は変わってるんでしょうかwラブ美希の会話を何度も何度も読み返しては煩悩が活性化していますwwwこのCPは私の得意ry 取り乱しました…。ポイントはやはり美希たんだと思うのですよ。みんなの事を重んじてはちょっと没頭してしまう癖がある。 それが蒼乃美希と言う女性。そこを上手く抽出しながら、それぞれの展開へとナビゲートして。 決して長くならず、キャラを 存分に活かしてお話を描かれました。あ、こう言う展開も面白いなって。競作からのスピンオフも一味加える事で新たな展開が 進んでますしね。これが恵千果ワールド、中々やりますなぁ。。。 み-174 「eve」 み-178 「welcome back」 ◆BVjx9JFTnoさん二本投下ありがとうございました! 自分は家族の温もりを感じると共に、時の流れも感じました。このお話のように、せつなは未だ復興に力を注いでる、 その中でラブやあゆみさん、圭太郎さんは一日も早い帰宅を待ち望んでいる。あれから時が過ぎ、夏を迎えて。 お休みを利用して帰る彼女に、家族は最大限の幸せを準備してね。うん、ちょっと胸が熱いと言うか苦しくなると言うか。 ラブの明るい所が僕は大好きで。ハンバーグを喜んで作る様を想像した時、もうアウトでした。せっちゃんも恐らく、一人に なった時こう感じるかもしれないですよね?優しくてみんなが愛おしくなって。本当に、本当に家族って素晴らしいなって。 あなたが作る作品には、家族の在り方が描かれてる。それは今後も変わらなく。読んだ作品は色褪せる事なく輝いて。 み-151 「許されなくても」 黒ブキ◆lg0Ts41PPYさんへ リベンジ。それはラブの逆襲になるのかな。せつなの仇を取るでは少々暴力的かもしれませんが。僕はね、本分の 「……せつなは…嫌だって言うことも出来なかったんだよね…」 ←ここがポイントなのかなって思いました。 戸惑い、絶望、恐怖、そして快楽。せつなは親友の行為をただただ受け止めるしか出来なかった。その思いを汲んだ、 知ってしまったラブはもう…。幼馴染同士、その向こう側にはせつなの心。はぁ、巡るめく感情がもう交錯しまくる! み-121 『帰ってきたせっちゃん――ある日のせっちゃん。蛍を探せ!――』 夏希◆JIBDaXNP.g さんへ 季節や情景を言葉で伝える。それはせっちゃんだから出来る表現。目に映る全てが新鮮で、それは 彼女が桃園家で住んでるからこそ実感出来る喜びなんですよね。ifの世界ではあるけれど、これも SSだから・継続だから楽しめる物。と、同時に何だかあゆみさんになった気分でこのシリーズは 読めてたりします。すっかりハマってますねー 蛍とせっちゃん。浴衣美人。クローバー。そして夏。想像はまだまだ続きますね! み-131 「薄闇」 黒ブキ◆lg0Ts41PPYさんへ 感想にもありましたが、ブッキーはどうなってしまうのだろうと。暗闇でなく、明るくでもなく。 そして対に存在する少女せつな。が、こちらには輝く太陽が傍にいてね。起こってしまった事は 想像を絶する物、それも親友から。けれど、せつなには光り輝く場所があった。救いでしたよね。 太陽は次に闇へと差し込もうとしてる。とても強力で、協力的な彼女が。そうさせるのはやっぱり せつなの存在が大きいからなのでしょうね。 み-142 【願い星 叶え星】 ◆EeRc0idolEさんへ ラブはまだ少女。寂しければ泣くし、悲しむ。愛しい人を想えば尚。それを逸早く感じ取ったのは母、あゆみ。 想いを叶える為、ラブは努力する。そして掴み取る証。でもね、やっぱり隣にせつながいてこそ彼女は幸せ。 あまりにも隣にいた存在が大きかった。覚えていた感触は絶対忘れる事なく、繰り返す自愛。脳裏にはあなたが。 時は七月、七夕。織姫と織姫の物語 、突如降り注ぐ閃光。指先から感じる想いと喜び。届いた願いと叶えた 少女。その裏にはお互いの努力、苦労の積み重ねがあるんですよね。 み-49 三次を書かれた同志の方へ 道。それぞれが進むべき道。選んだ道。今は離れてしまうけど、必ずまた一緒になる。繋がると信じてね。 これは三次だから出来たafterstoryだと思います。自分は三次を描く派なので、とても興味深かったです。 元となったお話を投下された方も嬉しいでしょう。SSが好きな人もすんなり読めた、はたまた二人の今後を 占ういいきっかけにもなったと思うんですよね。そう、二人の物語はまだまだ続くんですよ! み-45 磐丸◆A2AMtvz22Eさんへ 短いながらも内容はかなりぎゅっと詰まってます。せつなく、涙するお話は貴重なだけに嬉しくもありました。 あえて旅立つ決意をした彼女。それを後押しした彼女。そこにあったのはやはり〝涙〟だった訳です。 やっぱりね、寂しいと思うのですよ。女の子なんですもの。静かな閃光は何を示すのか。こぼれ落ちた雫は何を 意味するのか。物語は読み手が描き続ける。二人の幸せへの道標として。 ラブせつの今後もまた無限大なんです。せつなく終わらせる事でまた広がる世界。奥が深いぃ~ み-113 【夕涼み】 ◆EeRc0idolEさんへ 戸惑いなのか動揺なのか。進んで行く二人の関係に、どこか期待も膨らんでいたり。 恋の予感?初夏の訪れは少女からの脱却をも意味していて。浴衣がクローバーたちを 後押し。輝きながら、ときめきながら。蛍の光はひっそりと、彼女たちの心を映し出す。 惹かれ合う鼓動。まだ踏み出せないもどかしさがあるのだけれど、これもまた彼女たち、 いやブッキーとせつなが醸し出す味なのかなって。緊張がほんのり汗となり、繋がれた 手と手が交わう。互いを感じて。答えはもう出たみたいだね! み-100 「罪の残滓」 黒ブキ ◆lg0Ts41PPYさんへ 表と裏。陽と陰。けれど二人は一人。否、一人の少女。無垢な彼女。 現実に引き戻されると、そこに現れるのは後悔の念。行動はせめてもの償い。 逃げてる?恐怖?全て当てはまるでしょう。それだけの事をしたのだから。 四人でいる事は救いであり、間が持つ。あれだけ楽しかったのだから、いつかまた。 心が痛むのは人間の証。同時に、あの子もまた苦しんでいる。祈里は何を思うのか。 考えてみると、祈里とせつなは似てるのかもしれません。だからこそ、輝いているせつなが 祈里には眩しかった。手に入れたかったんだろうなぁ、彼女の全てを…。 酒3-107 最短SS『おやすみの前に』を書かれたあなたへ 短めのお話をいくつかにわけて投下して頂きました。小ネタ書きだった自分にはとても興味深いお話でね。 短い文章に内容をぎゅっと凝縮するのって凄く、難しいんですよ。さらりと読める分、いかに読み手の心に 印象を残すのかと言うね。このショートストーリーでは独白+投げかけの展開に奥深さを感じました。 クローバーは常に前へと進んでいく。明るい未来の先には、必ず幸せが訪れる。明日をもっと、輝く日にするための おまじないとでも言いましょうか。おやすみなさい、うーん奥が深いなこの言葉。。。 み-90 「弱き者の祈り」 黒ブキ ◆lg0Ts41PPYさんへ 伝説の作品後日談が着ました。思い起こせば衝撃の作品だったんですよね。新たな祈里の可能性だった訳です。 補足にも書きましたが、あの時・あの場所で・一体何が起きたのか?あれは祈里であって祈里じゃないのだと。 が、しかし。せつなはせつななんですよ。哀れも無い姿の彼女を見て、祈里はどう感じたのか? 振り返る事で 開かれる新たな世界。それは失望なのか否か。そこに幸せと言う扉は存在しないのだけれど。 誰もが持っている〝暗闇〟 祈里はどうなっていくのか。うーん、立ち直ってくれえ・・・ み-9 【良薬口に甘し】 ◆EeRc0idolEさんへ せっちゃんは時に強情になったりします。それはね、きっと親友の事が大切な存在だからなのかなって。 心配になったり、庇ったり、叱ったりして。その先にあるのは真の優しさであり、思いやりなのだと。 今、自分がしたい事をする。真っ直ぐな子。それが東せつな。そんな彼女に惹かれる・魅了される山吹祈里。 お互いに優しい気持ちを持った少女。今回はせつなに母性愛を感じました。温もりに包まれる祈里を見てたらね。 薬は苦くても甘くても信じて飲み続けること。苦手でも、彼女が支えてくれたら治りが遅くなってもいいのかなって。 酒2-809 『4人はクローバー』 ◆T2ETDaxtSgさんへ 圭太郎さんもまた好きなキャラの一人で。〝正直〟なんですよね、凄く。 自慢出来る娘。今年は特別に奮発しちゃって。父親だから出来る事。娘を持つ 親だから出来た事。でもそこには主役の彼女がいなくて・・・。 ラブはこの日を楽しみにしてたんだよね。もちろんせつなも。そして、美希と祈里もまた。 友情と絆とひな祭り。忙しさなんて何処吹く風。女の子の日は1年に1回だもんね。 やっぱりクローバーは四人がいいなって確信したお話でした。 競-581 「解けない思い」 SABIさんへ 幼馴染みから憧れ、惹かれる存在へ。 いつも先頭を走っていた彼女に、祈里は淡い恋心を抱いて。 くしくも同時期に現れた存在が彼女、東せつな。 四人でいる事は楽しいし、互いが互いを導き、助け合い今を一 生懸命に生きて。これが運命だとしたら決して否定はしない。 山吹祈里と言う生き方。作品で描かれていた原点。それが〝引 っ込み思案〟と言う物でした。 女の子らしい女の子。対面に存在するのが桃園ラブになる訳で すが、祈里→ラブで描かれたこの作品は片思い。それもみんな の作品では珍しい〝叶わぬ恋〟 ラブちゃんの部屋もせつなちゃんの部屋も灯りが点いている。 ここは特に、自分にはせつなく伝わってきてね。中と外との温 度差もさる事ながら、それはどこかブッキーの心の灯火が薄れ ていく瞬間でもあったりして。深読みしすぎかもしれないけれ ど…。 片思いや失恋、届かぬ想いがまた一つ。雪の結晶と涙の雫。2 月がもたらした淡い青春のお話、ありがとうございました。
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最近せつなに元気がないのよね…。 『ラブと喧嘩でもした?』 アタシは何となく心配で、せつなにメールしてみたんだけれど。 その夜は、いくら待ってても返信は来なかった。 翌日、アタシは学校帰りに偶然見てしまった。 ラブとブッキーがキスしてるところを。 なるほど。せつなの元気のない理由って、これだったのね。 ラブは、昔からブッキーを可愛いがっていたし、ブッキーはいつもラブのお尻を追いかけてたっけ。 一時期、アタシに熱を上げていた時もあったけれど、今思えばあれは、ラブを忘れるためにアタシに逃げていたのね。 ラブはきっと、ブッキーを愛してる自分にも気づいてしまったんだろう。 それは確かにずるい行為だと思う。 でも何となくわかる気がする。 アタシも小さい頃、ふたりの可愛い幼なじみを同じくらい愛していたから。 けれど、今頃きっとせつなは、何処かで泣いてるんじゃないかしら… こういう時、アタシの勘はとても良く当たるから不思議。 思ったとおり、いつものあの丘に、せつなはいた。 アタシは何も言わず、せつなの隣に腰かける。 せつなはアタシに気づいたけれど、何も言わず、瞳に涙をいっぱいに溜めて、アタシを見上げた。 何も話さないのに、せつなのくちびるはアタシに語りかける。 今だけ全部忘れたいの。忘れさせて。 美希なら忘れさせてくれるでしょ… 最初にメールした時、アタシは慰めるつもりだった。 けれど今はもう、この少女のことしか考えられなくなっている。 可憐に匂い立つ花に誘われる蝶のように、アタシはせつなに引き込まれ、ほのかに開いたくちびるをついばんだ。 くちづけた刹那、閉じた瞳からこぼれた涙を、アタシは次のキスで拭う。 アタシの胸の中で、青い炎のような思いが、静かに燃えはじめていた。 4-645物語は終わらない...
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それは、せつなが私と一緒に暮らし始めてからしばらく経ったある日の事。 寝よ うとベッドに潜り込んだ時の話。 「ラブって好きな人とかいるの?」 せつなからのメールだった。隣の部屋なんだから来て話せば イイのにってその時 は思った。 「うぅん、いない。恋愛すらまだした事ないよ。」 今思い返せば素っ気無い返事 だったなぁって。 「告白されたら嬉しい?」 「そりゃ嬉しいよ~。今まで経験した事ないし、相談ばっかされてた方だもん。 」 「わかった。ありがとう。おやすみラブ。」 「おやすみせつな。また明日も幸せゲットしようね!」 ごく普通の女の子の会話、メールのやり取り。むしろせつなに好きな人出来たの かなって。何か嬉しい気持ちが強かったかも。 少しばかり眠りに入った時、私の部屋にせつなが入ってきた。 「ラブ、もう寝ちゃった?」両膝を着いて小声で呟くせつな。 「どうしたの?眠れない?」 「うん…」 せつなのちょっと不安気な声。私は何の疑いもなく「おいで。一緒に寝よう。」 と言葉を返す。 「あったかい…」 せつなの安堵な声に私もホッとする。 「ずっとこのままでいれたらいいのに。」 「大丈夫だよせつな。私はいつだって味方なんだから。さっきのメールからする と誰か好きになった?」 いつしか眠たかった私の頭はせつなの事でいっぱいになり。 「好きになるのって悪い事なのかな?私、胸が苦しいの。」 そう呟くせつながあまりにも恋しくなり、私は思わず抱き締めた。 「ごめんねラブ…」 せつなは泣いていた。その姿に私は凄く愛しい感情が芽生えて。 「泣きたい時には泣けばイイよ。私が全部受け止めてあげるから。」 「うん。ありがとう。」 せつなは凄く純粋な子。私と出会えた事を本当に喜んでくれた。私もせつなと出 会えた事を幸せに思う。 「ラブ?」 「何?」 「女の子同士は好きになっちゃいけないの?」 普通なら驚く質問だと思う。ましてや今の状態を考えれば。 けど… 「いけなくなんかないよ。いろんな幸せがあってイイと思うもん。」 不思議と自然に言葉が出た。せつなを抱き締めてたからなんだろう。 「私は…、ラブの事が好き。もう自分の気持ちに嘘を付けないわ。」 電気が体中を駆け巡った。この表現が合ってるかはわからない。それぐらいの衝 撃だった。 しばらく沈黙が続き、私はこう呟いた。 「せつなの彼女になれるなら私、幸せだよ。」 「嘘。そんな優しさ…、私嬉しくない。嫌なら嫌って」 せつなの悲しい表情は暗闇の中でもハッキリわかった。 「私がせつなに嘘付いた事ある?いつだって真正面で話してきたつもりだよ?」 「うん…。でも…」 「わかった。もう何も言わなくてイイよ。」そう言ってせつなの唇を私はキスで 塞ぐ。 !? せつなの体は少し震えたけど、これが私の最高の返事だと思った。 「正直に言ってくれてありがとう。私嬉しいよ。本当に幸せだよ。」 もう一度せつなの唇に私の唇を重ねる。 「ラブと出会えて良かった…。好きになって良かった…。」 また泣き始めたせつなをギュッと抱き締める。 「愛してる…、せつな。」私の初めての彼女はせつな。初めてのキスもせつな。 そして初めての相手も。 「ずっとこのままでいれたらいいのに。」 「それ、さっき私が言ったのよ。ふふ…」 さっきまで泣いていた私の彼女がもう笑った。反対に私が嬉しくて泣いちゃいそ うだったケドね。 ~END~
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ラブ「まさかね.....」 美希「有り得ないでしょ、どう考えても」 祈里「こんなにどうしよう…」 せつな「重たかった。さ、遠慮なく食べてね!」 そこには部屋中埋め尽くされたチョコレートが。 せつな「ラビリンスのみんなが精一杯作ってくれたの!私、嬉しかった…」 祈里「せ、せつなちゃん、あのね…」 せつな「ブッキーにはコレ!あ、こっちだったかしら?」 美希「何考えてるのよせつな!」 せつな「またイライラしてるの?美希には甘いのがいいわね。」 ラブ「あのさ、せつな。みんなが作ってくれたって言ったけど」 せつな「そうよ。自分たちを助けてくれたのはプリキュアだ!って」 美希「で、そのお礼にチョコ?何かおかしくない?」 祈里「そう…だよねぇ」 せつな「私、言ったわ。」 三人「何を?」 せつな「大好きな人。大切な人。尊敬してる人。信頼してる人に 2月14日はチョコレートをプレゼントするのよって」 ラブ「で、ラビリンスのみんなはコレをあたしたちに?」 美希「せつなが洗脳してどーすんのよっ!」 祈里「太っちゃうよぉ、こんなに.....」 せつな「何で喜ばないの?どして?」 ラブ「うぅん、嬉しいよ。ありがとせつな。」 美希「気持ちはとっても嬉しいのよ。ただ量がね。量が…」 祈里「じゃあ四ツ葉町のみんなでたべよっ!」 せつな「私、精一杯応援するわ!」 ラブ「せつな?」 美希「応援て?」 祈里「まさか…」 せつな「ア、アカル…」 三人「逃がすかぁぁぁぁぁ!」 こうして、四ツ葉町あげての大カカオ祭りは開催されるのでした。 せつな「私の手作り、誰にあげようかしら…」 ~END~
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大きい方のカレンダーの最後の絵、あれが美希せつ画に見えてしまうのなら あなたは立派な美希せつ党員です 美希 「あなたはサンタ、アタシは着ぐるみですか、動物の」 せつな「ピッタリね」 美希 「ああピッタリね」 せつな「完璧よ!」 美希 「完璧ね!!」 幼いイメージが二人には無いと言われ せつな「クスッ・・・」 美希「何よ」 もしも二人が姉妹なら 妹とケンカになっても、ロクに謝ってもらったことなどなく それでも何だかんだで、唇を尖らせたり、ふくれっ面になりながら 結局自分が折れることになる損な役割のお姉ちゃん そして、それを承知していて図に乗って甘え倒す妹 せつな「まったくその通りね 苦労するわ」 美希 「代弁どうも」 がばっ!! ラブ「!? みっ、美希たん!?」 美希「スンスン」 ラブ「あ・・・ダメ、美希たん あたしたちは漢・・・じゃない女同士v」 美希「・・・違う」 ラブ「はい?」 美希「(あいつ・・・居候のくせにラブと違うシャンプー使ってやがるな)」 噂のアイス屋さんへ 「アイス?いいな」 「せつなも食べる?」 「うん欲しい」 「じゃ、あーんして」 「あーん」 ちゅぷん 「くっ口移しでとは言わなかったわ」 「美味しいんだからいいじゃない」 「…もっかいちょうだい」 「ふふ」 せつな「何故かあちこちで、私と美希が姉妹みたい、って言われてるみたいだけど うん、まあ、それはいいとして・・・美希の方がお姉さん、っていうのはどして? チームのまとめ役だから? ・・・偉そうなだけよ 大人びてるから? ・・・ああ見えて結構子供なのよ 図体が大きいから? ああそれだったらw」 美希 「・・・ちょっと、せつな、それアタシのドーナツなんだけど」 せつな「お姉さんなんだからガマンしなさい」 せつな「しっかり者、のようで実はヌケたところの多いお姉ちゃん」 美希 「カタブツで、不器用、ぶっきらぼう、そしてKYの・・・って ちょっと、自分で突っ掛けておいて拗ねないでよ・・・ カタブツで、不器用、ぶっきらぼう、そしてKY・・・ だけど正直で優しい妹」 せつな「しっかり者、のようで実はヌケたところも多くて・・・ 一言も二言も多いお姉ちゃん」 美希 「やれやれ・・・クリスマスも営業か・・・」 せつな「文句言わないの 私たちだっていつまでもプリキュアというわけにはいかないでしょ」 美希 「アタシ、一応モデルの仕事があるんですけど」 せつな「来期のおもちゃのバレ画像が出たとき 何故か私とあなたの絵柄のアクセサリーが載ってて すごく複雑な気持ちになったわ・・・」 美希 「人の話聞いてないわね つーか、そこは素直に喜んどきなさいよね ま、ヌカ喜びだったわけだけど それにしても・・・何でアタシ、こんな格好なわけ? どして?」 せつな「完璧よ、トナカイさん さぁ行きましょ、美希 出番だわ」 美希 「おいサンタ、ヒゲ忘れてるぞ」 美希とせつなは何故かハプニングがお似合い せつな「そうね、目の前に生ダコ突きつけられたりね」 美希 「あの大将、一体どこにあんなものしまってたのかしら・・・って 今さらイヤなこと思い出させないでよ」 せつな「次の映画は海が舞台だそうね」 美希 「今から不安にさせないでよ」 戦士として鍛えてきた肉体もベッドの上では役立たず 美希「はい、いい子いい子~」 せつな「(もうっ、調子に乗るなっ)」