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1 某都会の某マンションの三○何とか号室にて。 無機質な音が響く。 カタカタカタカタカタカタ、と。 聞き慣れしまいすぎて、自分の呼吸音や心臓の鼓動音と間違えてしまいそうなくらい、駿河心象(するがしんしょう)はパソコン中毒者だった。 こう成ったきっかけというのも、また自業自得だが。 それは後々にして。 「……なんだ、これ」 思わず、心象は呟く。 彼は親元を離れた一人暮らしなので勿論、この部屋には彼の他には誰もいない、それ故その呟きは自動的に独り言になってしまう。と言っても、別に彼に損も得も出るわけでもないが。 心象が見つめるモニタ――開かれた黒一色のページには、大きな白い文字で『殺.人請負ネット』と書かれていた。 最初は好奇心。 近頃の日本は、自殺やらなにやらで随分と物騒な世の中になっていた。それに影響されたのかは定かではないが『一人ではなかなかできない自,殺も集まれば怖くないよ。さあ、一緒に死のう!』と言ったコンセプトのものが、ネット上には多数在る。 ならば、と。 一緒に殺,人をしましょう、というものもあるのでは。 彼は思って、早速検索をしてみたわけだが。 『殺人請負ネット』 殺人を請け負う。 人の命に関わる、そういう類のもの。 勿論、物騒なことには変わらないが。 「…………」 少し迷ってから(あるいは少し臆してから)、心象は文字のしたにある『入り口』をクリックする。 はたから見れば、オカルト系の人々が集まる掲示板といったところか。 「こんなとこに訪問者なんているのか……?」 ましてや素性も知らぬ個人、あるいは集団に自らの命の灯を消してくれと言う、そんな物好きで且つ怖いもの知らずの野郎が。 この世に一人はいるだろうけど。 一人のためにこんなものを立ち上げる必要は無い。 だけど、だからこそ。 「こりゃあ面白そうだ」 心象の『殺人請負ネット』に対する第一印象は、そんな感じだった。 2 真っ黒な掲示板。 その上には白い文字が飾りのように。 心象はとりあえず、最新の書き込みを見る。 【楠宇佐美 16歳 女】 題名にはそれだけ書いてあった。 「16歳ですでに死亡希望者かよ……」 いや、もしくは成りすましの可能性もあるか。 少女の名前の読み方を、姓のくすのき、名のうさみと検討をつけて、心象はマウスのホイールをくるくると回し、さらにスクロールをする。 【最初に書いておきます。 題名に書いてあることは全て真実です。楠宇佐美というのも本名です。 それぐらいの覚悟、又はそれ以上の覚悟を持って此処に来たことを分かってもらうためです。】 「本名、か……」 ネット上ではそんな発言は、まず嘘であると疑うことが自然であるけど、何せ『舞台』がこれなのだから。 つまりは面白そうなのだから。 心象はとりあえず話を素直に受け取ってみることにした。 そう判断すると、さらにスクロール。 【この掲示板を興味本位で見ている方はそれを信じるなり信じないなりしても構いません。 だけど、清算者さんには信じてもらいたいと思っています。】 見慣れない言葉が出てきた。 清算者。 清算とはつまり、 何かに結末をつけること。 人の命に結末をつけること。 「コイツが殺人を請け負うっていう奴か?」 心象は少し思い当たることがあって、今度は上にスクロールをし、一番上の左側にひっそりと書いてある文章を見る。 管理人:清算者 成程な。 つまりは此処の設立者か。 心象は一応『清算者』を頭の中にインプットすると、下へスクロール。楠宇佐美の書き込みを再度見る。 【私は高校でいじめに遭っています。 教科書を隠されたり机に落書きをされるのはまだ軽い方で、トイレに閉じ込められた後、個室の上からホースで水をかけられたり、椅子をゴミ捨て場に捨てられていたりするのが日常になっています。もっとひどいときもあります。いじめに遭うきっかけももう忘れました。 親に言っても何もしてくれません。というか、私に興味が無いんです。友達も離れていきました。 私に居場所は無いんです。】 まだベタな。 と、心象はまず思ったが、この書き込みをしている人物の年齢を思い出し、少し同情しつつもあくまで人事なのだからと念頭におきつつ、書き込みの続きに目を向ける。 続きといっても、たったの一行だったが。 【だからお願いです。清算者さん。私の殺人を請け負ってください。】 3 清算者。 この楠宇佐美の書き込みから推測するに、殺,人を実行する張本人ということには間違いない。 そう判断した心象はこれは長くなりそうだと思い、整理されていないキッチンに向かい昼食用に買っていたミネラルウォーターを冷蔵庫から取り出し、またパソコンの前へと。 書き込みがされていた。 清算者のものだった。 【貴方の不幸な体験は理解した。これより詳細を話す。今日中に貴方の住所とメールアドレス、そして電話番号を此処に書き込んでほしい。】 此処に書き込め、か。 ネット上に書いてはいけない個人情報をバンバン書けと、成程な、此処はそういう所か。 本当に心の底から死,にたいと、そう願い思う人のみが来る場所。 面白いけど、くだらない。 そして、諦めている。 そこまで考えてふと、心象は昔話題になった事件を思い出した。 昔と言っても、たったの一年前のことだが。 たしかあれは秋。 ネット上のある掲示板に一人の男子生徒が、 『自殺してくる』 と書き込みをした。 ハンドルネームは諦(あきら)だった。 その名の通り、生きることについて何もかもを投げ出し、諦めていた。 翌日、都内の紅葉の名所で人が倒れていた。 黒い学生服に、大きな赤いしみが付いていた。 その屍は駿河心象の親友だった。 どうしてもこれは昔話になってしまうので、親友だったと、過去形で言ってしまった自分が情けない。 それか、もしくはこうか。 案外その事件も清算者が関わっているかもしれないかもな、と。 心象は自嘲して、再びモニタを見る。 【楠です。お話を見ていただき、ありがとうございました。清算者さんの言われたことは下に書いておきました。続いて私は何をすればいいでしょうか。】 【これから私は貴方にいくつか質問をする。随時連絡を待ちなさい。】 【分かりました。待ってます。】 ……文から察するに、当分の間此処には書き込みは無いだろう。 なら、こっちが行動するのみだ。 心象はポケットから黒い携帯電話を取り出すと、モニタをちらちらと見ながらボタンを押し、やがて、それを耳に押し当てる。 「……楠宇佐美さんでしょうか。こんにちわ、私は清算者です」 4 声は、不自然じゃないだろうか。震えてはいないだろうか。小さくはないだろうか。 ……いや、とにかく堂々としていればいいだけのことか。 心象は己に言い聞かせて、清算者の口調と一人称を改めて頭にインプットする。 唐突に、機械からか細い声が聞こえた。 『本当に、清算者さん』 「……そうです」 『信じて、いいですか』 「……私は貴方の本名を信じました。貴方は私の声を信じなさい」 『……はい、分かりました』 そこで小さく、心象は深呼吸。 そして、口の端を吊り上げて、声は出さずに笑う。 こんなにスリルのある物真似は初めてだ。 なんて、面白い。 心象はしばらく、『質問』の内容を考えるために頭を働かせる。 と。 楠宇佐美は言う。 『清算者さん、あの噂は本当ですか?』 「……噂?」 『去年の秋に起こった事件のことなんですけど』 「…………」 『あの、失礼な質問かもしれませんけど、本当に清算者さんがあの学生を殺したんですか?』 「…………」 沈黙で、答えるしかなかった。 当たり前だ、俺は本物ではないのだから。 だけど。 これで分かった気がする。 今までのつっかかりが綺麗さっぱり無くなった。 何だ、もうクライマックスは目前なのか。 いつのまにか三日月の形だった口が、真一文字に結ばれていた。 ゆっくりと、心象は言葉を紡ぐ。 「貴方はいずれ私に殺,される身。そのような噂の真相など、貴方にはもはや関係がないでしょう」 『……分かりました。変な質問してすいません』 「そのことはもういい。これから貴方がするべきことを話す――私がこれから掲示板にURLを貼る。そのサイトに行きなさい。そして、もう此処には戻らないように」 『……はい、分かりました』 楠宇佐美は訝しそうな雰囲気を漂わせて、電話を切った。心象もそれにならって黒い携帯電話をポケットへと戻すと、早速掲示板にあるURLを貼る。 清算者はきっと――否、絶対この『異常』には気付いているだろうな。 そして心象はミネラルウィーターを一口飲むと、新しく書き込みをする。 ハンドルネームは、諦にした。 【清算者さん、俺を殺してください。】 5 心象の携帯電話は、掲示板に電話番号を書いてから数分も立たない内に鳴り出した。 先ほどのようにそれをポケットから取り出し、耳に押し当てて―― 『声』を、聞く。 『もしもし、諦様でしょうか』 「……ああ、そうだ」 たった、これだけの会話――これだけの、声のやりとりだというのに。 心象は精神的に追い詰められていた。 畜生。 何だよ、これ。 この絶望しきった『声』は! この少しでも気を許せば呑み込まれそうになるこの危機感は! 冷静になれ冷静になれ――いま冷静じゃなかったら、いつ冷静になる気なんだ。 『では、これから幾つか質問をします』 「――っと、その前に。清算者、お前は何で俺に電話したんだ?」 『随分と可笑しな質問です。貴方が私に殺,してほしいと頼んだから――』 「そういうことじゃない―― ――何でお前は『異常』を放置しながらにして、俺なんかに電話したのかって聞いてるんだ」 楠宇佐美に電話ができない。 掲示板には見覚えのないURL。 この異常を、お前は何で無視したんだ。 心象は『声』に負けないよう、自らを奮い立たせるように堂々と。 すると、 『……貴方の、名前です』 と、清算者。 そして心象は小さな声で、やっぱりなと、呟く。 それが俺の仮説が真実だという十分な根拠になる。 この後は一気にたたみかけるだけだ。 「諦。この名前はお前にとっても俺にとっても重要な意味がある」 『貴方にとっても?』 「……一年前の事件だ。自らを諦と名乗り、自,殺を暗示するような書き込みをして、翌日そいつの死体と思わしき遺体が発見された。その遺体は俺の親友だった」 『つまり、貴方の親友が諦だと?』 「いや、違う。当時はそう言われていたが、俺はそうではないと知っている。あいつは、その例の書き込みがされていた時に、俺と一緒に図書館で受験に向けて猛勉強していた―― ――つまり、俺の親友は諦に殺,されたんだ」 心象は言い切ると、冷静に、しかしどこか感情的に続けた。 「そして、お前にとって諦と言う名前が持つ重要な意味。それはおまえ自身とでも言おうか―― ――清算者、お前の正体は諦だ」 6 『ふむ……なかなか、面白いことを言う』 「何だよ。俺の言うことが戯言とでも言うってか?」 『違う。『一部』を除き戯言では無い。確かに諦は私であり、そしてあの書き込みをしたのも私だ』 「…………」 心象はそこで一旦携帯を静かにキーボードの上に置くと、ミネラルウォーターを一口。 今までの会話だけで、もう喉がからからになっていた。 それほどまでの、『声』の威力。 それほどまでの、体力と、そして何よりも精神へのダメージ。 心象は、本当は今すぐにこの電話を切りたかった。 昔の嫌な思い出――親友が死んだ事件なんてわざわざ思い出さなくてもいいはずなのに、犯人と思わしき人物を好奇心で見つけた――否、見つけてしまったのだから。 そして、あくまでもこれから思うことは仮説だが。 諦。 生きることだけでなく、死ぬことさえ諦めた半端物。 死ぬことを諦めたから、代わりを殺した。 そういうことなのだ、結局。 諦はそういう人種なのだ。 一年前の事件、被害者は誰でも良かった。 そして、今。 諦は清算者と名乗り、殺,人請負ネットを作った。 彼は人生の幕が下ろすまで死ぬことを諦めるのだから、代わりがいなければ。 殺人請負ネットとはつまり言い換えれば――その『代わり』の収集場なのだ。 諦だけのための、殺人請負ネット。 彼はそうやって生きてきた。 そうしなければ、生きていけないのだから。 生きることさえ、諦めているはずなのに。 まったく可笑しな矛盾だ。 だけど、人間なのだから仕方が無い、と。 心象は思いながら、一つ疑問に思ったことを思い出した。 「諦、いやに認めるのが早くないか……?」 しかし、携帯を放置していく時間を長引かせるわけにもいかない。 その疑問を頭の片隅に置いておくと、心象は携帯を取り、再び耳へ。 『休憩でもしたか』 「まあ、そんなところだ。すまないな、ほったらかしにしておいて」 『別に、かまわない――ところで、私は君の推理に不思議に思う点があるのだが』 「何だ?」 『私は確かに先刻も言ったように諦だと認め、書き込みもしたと白状した。しかし、だからといって私が君の親友を殺したという証拠にはならない』 「……確かに、証拠にはならないな」 心象はそして、にやりと笑い。 「お前が俺の親友を殺した――そう俺が思った根拠ってのは、感覚と直感だ」 『……今まで、私以上に面白く、そして変わった人種はいないと思ってましたが、それは間違いだったようです』 「奇遇だな、俺もそう思ってた」 心象は面白い面白いと、嬉しそうに微笑んだ。 7 くっくっくっくっ、と。 心象は口に手を当ててひとしきり笑う。 これは、親友が死んだ事件を面白がる、己への自嘲か。 それとも、目の前にあるものへの、多大なる好奇心からか。 きっと、どちらの意味も含んでいるのだろうけど。 「なあ、諦。俺の質問にも答えてくれ」 『……何でしょうか』 「お前、何で自分が諦だって直ぐに認めたんだ? はぐらかす方法なんていくらでもあるだろ?」 『…………』 しかし沈黙は続くばかり。 心象はせきたてるように声をかけようとし、 「おい、諦――」 『貴方が掲示板に貼ったURLです』 心象の言葉を遮るように言った諦の声は、どこか、震えていた。 『貴方の言う異常を見逃したその訳は、何も諦という名前だけでは無い。皮肉にもその異常の中にもその理由が在った―― ――それが、あのURL。 それを見た瞬間、私は『これ』を続けるのはもう無理だと悟りました。 何せ『本家』が見つけてしまったのだから、この模倣されたサイトと、そしてその管理人を』 「何だ……知ってたのか」 『当たり前です。何度も眺めていましたからね』 ふふふ、と。 そこで初めて諦は笑った。 嬉しそうにか、それとも悲しそうにかは心象には分からなかったけど。 『それで、貴方は最終的に私を警察に引き渡すつもりでしょうか』 「おい、誰がそんなことすると言ったんだ? しないよ、俺は」 『……何故』 意外そうに言う諦の声に、心象は面白いと思いながら、 「俺に、他人の人生を変えるだけの権力と度胸は無い。……まあ、本当は面倒くさいだけだけどな」 そう言い残して、心象は一方的に、そして唐突に電話を切った。 面白いことが終わったのだから。 早く次の面白いことを探そう、と。 「そういえば、楠宇佐美……」 今頃驚いているだろうな。 心象は自ら貼ったURLを、検索した。 一つのサイトが、モニタに現れる。 開かれた白一色のページには、大きな黒い文字で『殺.人請負ネット』と書かれていた。 そして、左上の隅には黒い文字でひっそりと。 管理人:駿河心象 確かに、そう書いてあった。 「まさか、俺のサイトを真似する奴がいるとは……」 心象は一年前、高校三年生だった。 彼の親友と共に、一流大学を目指し勉学に励んでいた。 そして紅葉が舞う秋。 事件は起きてしまった。 心象はそれをきっかけに気力をすっかり亡くし、センター試験も受けずに、ただ一人マンションでパソコンを打つ生活に入り浸った。 だが、しかし。 面白さを追求する彼にとって、それは地獄でしかなかった。 ならば自分で作ればいい。 それが『殺人請負ネット』の設立までも過程と成ったのだ。 しかし、清算者の立てたものとは違う。 諦を増やさないために、悪あがきでもいいから何かしようと。 世界は面白いのだと。 そう伝えるために、彼は創った。 心象が見つめる白い掲示板には書き込みがされていた。 楠宇佐美のものだった。 【駿河心象というのは、本名ですか?】 その問いに心象は黙って――しかし軽く笑って。 【本名だ。しかし、俺のものではながな。】 【誰の本名か教えてくれませんか?】 【亡くなった人のものだよ。】 駿河心象――否、名もない主人公はパソコンから離れると、窓を開いて外を見る。 「――『殺人請負ネット』の管理は諦にまかせて、俺は浪人を卒業する努力でもしようかな。いつまでもうじうじしてたら、それこど俺が諦になっちまう」 そうだろう、心象。 主人公はすっかり闇に包まれた空に唱えると、俺らしくもないと呟き、まだ半分ほど残り、ぬるくなったミネラルウォーターを、そのままゴミ箱へと捨てた。 殺人請負ネット delete...
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例えば友人。 私には俗に言う親友という者はいない。 友人はいるにがいるが、それはネットで知り合った顔も本当の名前も知らない、遠い場所にいる誰かも分からない友人で、これを友人と呼んでいいものかどうかも甲乙つけがたいが、これを友人ということを否定してしまうと友人と呼べるものは一切誰にも該当しなくなってしまう。これを思うと結構寂しいと今更ながら思う。 流石にネットで知り合って、名前も顔も知らなくても、親しいなら友人では呼べなくもないだろう。 ネットで友人になるかも知れない人とはコミュニティーサイトで知り合う事が多い。コミュニティサイトは主に情報を交換したりする場所で、ソーシャル・ネットワーキング・サービス、匿名掲示板やブログ、登録制でオンラインゲームコミュニティサイトと呼ばれるような場所など、色々あり規模も大きいものから小さいものまである。 中でもソーシャル・ネットワーキング・サービス、略称SNSは大きく発動範囲を広げている。SNSというのはネット上に、自分の事を紹介するプロフィールを作って公開することが出来たり、このSNSでブログを書いたり、他にも同じような趣味を持ったような人とコミュニケーションをはかったりするようなもので、他にもアバターと呼ばれる自分の分身としたキャラを作る事も出来る。 そもそもSNSの目的は人間関係の繋がりを作ったり、深めあうことを後押しするような目的で、もともとは既存の参加者の誰かから紹介を受けて会員登録するというのが一般的だったが、最近は誰でも簡単に会員登録することが出来る。 他にもSNSは携帯専用というところもあり、それはそれで口コミなどで会員を増やして大きな規模を誇っていたりするようだ。 という前置きはこれまでにして、とある友人に知り合ったのはそのSNSと呼ばれる場所で、一番親しい人である。 とは言っても名前も顔も知らないが、その友人とは私と同じくちょっとした小金持ちだという事を知って、株もやっているという事で話も合い仲が良くなった。一応ネット上では男が女のアバターやキャラをネットおかま、通称ネカマと呼ばれる物が存在する。これはネット上でも結構大きなことで、中にはちょっとした嘘をついてみたノリでやっている人がいるが、男は女の気を惹くために何かを貢ぐなんてこともある。それがネカマだとしてもネット上では現実での性別は確認できずに、そのまま貢ぐなんてこともある。 まあその友人は女であるのは間違いない。 何故なら名前も顔も知らないが、ボイスチャットをしているからだ。このボイスチャットは電話と違って、電話料金も掛からず話せるのがいい。インターネットの活用方法はどんどん進歩していって便利である。 私がその彼女について知っている事は、結構驚かされることだった。まず歳が中学生と私の歳より十歳近くも離れていた。その歳で小金持ちなのは私と同じく親が金を持っているからだそうだ。それで株は暇潰しみたいな事でやっているそうだが、私と同じように株で生活しようと思ってるのかなと思っていたら、見事に予想が外れる。 彼女は聞けば既に働いているそうだ。何をやっているかは詳しくは聞けなかったが、どうやら芸能活動をしているそうで、もしかして実はドラマとかに出ている子なのかも知れず、親もその手の大御所なのかも知れない。 他にも彼女は金が好きで、株でもう買った分や、仕事の収入で金のインゴットを購入して集めているそうで、他にも金で出来たアクセサリーや金で出来たベッドなど大きな物から小さな物まで収集しているそうだ。しかも聞けば聞くほどその量は異常で、どう考えてみても小金持ちの域に収まることなく大金持ちの部類だろう。簡単に計算したとしても、私の財産の三十倍近くはありそうだ。まあ初めはこの話は誇大発言か嘘じゃないかと思ったら、これも予想に反して金が大量に映った写真を送りつけられてきて、何処かの誰か別人の写真を何処かから拾って来たのだとも思ったが、よく見ればその金とともに写っていた部屋は和室で、流石に和室で金を保管するなんて普通は無いだろうと思い、それに彼女は金が好きだがその前に部屋は流石に普通だと聞いていたので、これは本当に彼女のものだと思った。 最近では彼女も仕事が少し忙しくなってきたそうで、株の話もあまり出来ず、大型の匿名掲示板に行ってみたりはするものの、そこでは基本的に少人数で語り合うという事は無いので、大人数で且つ、色々な話が交わりすぎて、あまり付いていけないのだ。 だから基本的にはSNSの方でのんびりやっている。 私はブログは書いていないが、プロフィールは書いている。どうせ誰かも気づかれないので身長や無職だという真実を書いているが、しかし金を持っているという事は一応伏せてはいる。 乞食と呼ばれるような、物乞いをされるからで、そもそもそんなことは知らせる必要もないからである。 「っと」 私は株の動きを見ていると、話をしていた彼女からボイスチャットの誘いがきた。 私はそれを承諾した。 「こんばんわ」 「やほ」 「最近は御免なさい、少し色々用事があって連絡が取れなくて。さっき仕事が終わって風呂に入ってきたところで、久しぶりの休日が頂けました」 彼女の声はまるで大和撫子を思わせるような優しい声で、それで且つ言葉も綺麗だ。しかしその大和撫子がパソコンに向かっているとなると、その光景を想像するとギャップが面白かった。 「別にいいよ、というか休んだ方がいいんじゃない?」 「いえ、大丈夫ですよ。移動中も仮眠は取ってますから」 「そっか、でも仕事は順調?最近とても忙しそうだけど」 「正直少し問題がありまして」 「どうしたの?」 「いえ、大した事ではないのですが、数分遅刻してしまいまして、御父様に叱られてしまいました」 私からしては本当に大した事はなかった。あとそのしょんぼりしているような声が可愛いとも秘かに思う。 「あー、流石にそれは忙しいんだし、しょうがないんじゃない。でもまー貴女のお父さんの事だから結構色々言われてそうだね」 私は彼女のお父さんの事を何度か聞いていた。彼女のお父さんは私の親以上に厳しい人で、本当に些細な失敗でも何時間も反省させられるそうだ。まるで一家揃って有名人なのかと思わせるくらいだ。 「ええ、おかげで三時間ほど説教を受けまして、その間していた正座のおかげで足も痛いのです」 「そもそも普通に三時間も座ってたら痛くもなるよ。私の場合はお尻が」 「重いんですね」 「おっと、聞き捨てならねえな」 「じゃあ軽いです」 と、彼女は時々ジョークもかましてくれる。しかしどっちに転んでもいい気はしない。誰だ尻が軽いなんて言葉作ったのは。 それから私達は日付が変わってからも、二時間近く話をしてから彼女は先に寝た。 私もそれに続くかのように、少し早いが寝る事にした。
https://w.atwiki.jp/shousetsu/pages/504.html
春だった。一人の男が、寂れた街道沿いの小さな酒屋で、ちびちびと酒を呑んでいた。 腰には、装飾の施されていないマンゴーシュを帯びている。階級の低い役人か、もしくは山賊の手下か。もしかすると、一人旅の男かもしれない。片側のホルスターには、リボルバーが一丁下がっている。 背は高く、金髪だった。真っ赤な革の胴着は、古いがよく手入れされており、やはり赤に染められた麻の下衣も清潔なものだ。しっかりした、大きな旅行鞄には、金貨と食料が唸っているのがよく分かる。 男は、マンゴーシュとリボルバーの他にも武器を持っていた。よく磨かれたシミターだ。 おそらく、いかなる武器も使いこなすのだろう。その多様さは、彼の英雄であるスティン・リオゴナスを彷彿とさせる。 喉かな空気と、アルコールの弱い酒を楽しんでいた男は、不意に口を開いた。「マスターさん、この辺で面白い噂なんかないですか? 「面白い噂? ああ、それだったら、この街道を先に進んだところにいるレオス・ドルソンって爺に聞けばたくさんの噂話が聞けますぜ、旅の御方。まあ、半分はホラだって話ですがね」「レオス……? ほう、それは懐かしい響きですよ」 酒屋のマスターは、首を傾げた。先ほどまで磨いていたグラスからは目を外し、男を見た。「あの偏屈親父を知っていると……?」「いや、俺も風の噂でしか聞いていませんので。しかしレオスか……不思議と久しい感じもする」 男は、喉の奥で音を立てるような乾いた、しかし楽しそうな笑い声を上げると、席を立った。「どうもありがとう、久しぶりに美味い酒が飲めましたよ」「そう言ってくれると嬉しいねぇ、日々の苦労が報われる思いだよ」 目の端に、悪戯を見つかった子供のような輝きを男は放つ。いや、そうでないとしたならば、これから悪戯をしようと企む悪餓鬼だろうか。「いくらになりますか?」「ギディック銀貨一枚と四ニルクだ」 男は、旅行鞄から銀貨と銅貨を取り出すとカウンターに置いた。「お釣りは取っといてください、面白い情報をくれたお礼です」「まいどありっ!」 男は酒屋を出ると、寂れた街道を口笛を吹きながら歩いていった 大切なのは、その指だった。誰もが羨む繊細な指、細く、長く――彼女の指は本当に美しかった。いや、エルフという種族自体は美しく、彼女も美しいエルフの一人であった。或いは、秀でて美しい選ばれた美女とも云うべきか。 エルフの寿命は長いと、たびたび噂されるがそうでもない。一番の長生きが、百二十歳だったろうか。人間の最高齢が百十五歳だから、そう変わるものでもない。平均的な年齢はやや、エルフ族が高いとはいえ、それでも数歳の差に過ぎない。エルフが信じられないほどに長寿だという噂は、年月を経ても変わらぬ、妖艶な美しさが原因であろう。無論、それだけではないのだが。 彼女も確かに、美しかった。まだ若い――人間の年齢と照らし合わせても少女と言うべきほどの――彼女は、群れを追われていた。群れというのは、少々乱暴な物言いかもしれない……高貴なエルフ族を、群れなどという野蛮なまとまりとして表すことが、果たして正しいのか否かは誰もが知っている。それは群れでなく、団体として生活し、お互いが尊重しあって助け合う共同生活と云うべきか。 その生活から弾かれた彼女――人間にしてみれば一匹のエルフは、寂れた一本の街道を歩いていた。小柄だかほっそりとしていて、腰まであるほどの長い金髪を靡かせて、一人寂しく宿を探していた。 街道は、様々な人種、様々な種族――そして様々な旅人が行き交い、出会い、そして情報を交換する。酒屋も然りと、男は言った。一ギディックと三ニルクだったか。既に自分が、どれほどの酒を飲んだかも忘れていた がま口の財布には、金貨二、三枚と銀貨が数枚。そして、他はぎっしりと銅貨が詰まっている。銅貨一枚で充分酒は飲めることを考えたら、男が呑みすぎたのかボッタクリか。しかし、足のふらつきを考えに入れるのならば呑みすぎたと判断するのが妥当だろうと男は考え直す。 ――しかし、困ったものだ。頭はふらつかねぇのによ。 酒豪であることを考慮に入れていない。普通の人間ならば、その半分も呑めないというのに。早朝に店に入り、夕刻まで入り浸るというのはかなりの量を呑んでいたことになるのだ。 しかし、ある程度の情報は入った。寂れた酒屋だから人の入りは少ないと思っていたが、意外にも同じ旅人らしき人物が多く訪れた。極めて大切な情報としては、レオス・ドルソンがまだこの辺りにいるという確証を得ることが出来たことだろう。 そんなことを考えて、ふらふらと歩いている男が、一人のエルフにぶつかった。妙齢の美しいエルフだが、エルフ族特有の傲慢を男は感じなかった。「おや、すみません。お嬢さん、お怪我はありませんか?」「え? あ、はい。平気……だと思います」 エルフの少女は、何事かよく分からない様子だ。目を丸くして、男を見つめている。 もしくは、エルフのような優雅さとは裏腹の、人間特有――旅人特有の快活さと朴訥さに違和感か何かを感じたのだろう。今まで目にしていなかった表情と優しい瞳に、その時既にエルフの少女は心を奪われていたのかもしれない。「おや、腕をすりむいていますよ。消毒液と湿布薬くらいならばありますので、手当てさせてくださりませんか?」「はい? あ、なるほどっ。是非!」 血や穢れを知らないのだろう。あまりにも娘が素直なものだから、思わず男はクスリと微笑んだ 「え? あれ、私おかしい……ですか?」「いや、なんでもありません。さて、手当ては終わりました。申し訳ございませんでした、お達者で」 男はそう言って、優しく微笑む。そして立ち上がり、やはり足元のふらついたまま街道を去っていった。 エルフの娘は、今の際までいた男の瞳を思い出して、一人頬を染めた。 人間が野蛮だと聞かされていたからか。正直、『エルフ族という種族の団体』から弾かれた時に恐怖と虚無を感じていた。 しかし今は、人間にも優しい人はいると理解し、信頼出来る人間を探し出そうと心に決めていた。 娘は立ち上がり、先ほど手当てをされた箇所を撫でる。優しい男の手つきを思い出し、あの人ならばと思い返す。 娘はその道を、男の背中を追って駆けていた レオス・ドルソンは、非凡な情報網を持っていると噂される。情報源はもっぱら、マンゴーシュとシミターを巧みに操る剣豪らしい、と。頻繁に囁かれる噂だ。しかし、あながち間違ってもいない。「レオス……か。随分と懐かしいねぇ」「そうかい、ヴィルド。お前さんも、相変わらずの根無し草じゃのぉ」 現れたのはレオス。「おや、お師匠様。お久しぶりでございます」「慇懃無礼なその態度も、未だ変わらず……か」 そう言ってレオスは、目を細める。「久しぶりに、ヴィルド。お前の剣を見てみたいもんじゃの」「フフ……ご遠慮いたします、お師匠様。小さな器には収まりきらぬので」 自然体で立つ男――ヴィルドは、ホルスターからリボルバーを抜く。「僕は既に、お師匠様を遥かに凌駕する力を持っていますので」 黒光りするその銃身は、真っ直ぐとレオスを狙う。回転式の拳銃だ。弾倉には弾が六発。威嚇射撃としての空撃ちは――ない。 撃鉄を起こし、引き金を引くだけとなる。「お力、試させていただきます」「……師に銃口を向けるとは、なんという常識知らずか。好きにせぇ」 ダーン。鋭い音が響く。再び撃鉄を起こす動作の後に、二度目の銃声。 合計六発の銃声が、夜明けの街道にこだまする。「やはり、お師匠様のお力は衰えておられぬか……」 ヴィルドはリボルバーをホルスターに収めた。「お久しぶりです。またしばらく、居候させていただこうと思っておりました、お師匠様」 そして、ヴィルドは輝くような笑顔でレオスに微笑みかけた。 「相も変わらず、無礼なヤツよ」 鼻を鳴らすレオスに、ヴィルドは苦笑した。 「しっかし、お前も大きくなったもんじゃのぉ、ヴィルド。ここを去ったのは、かれこれ二十年も昔か」「そうですね、お師匠様。お師匠様から受け継いだ剣、今でも肌身離さずに持っております」 マンゴーシュとシミターを、そう言って示すヴィルド。「ほぉ、師想いの子じゃて」「親も同然ですから」「口が上手いのも相変わらずじゃの」 レオスは微笑む。顔中の皺がより深くなり、その優しく鋭い、コガネムシのように輝いている瞳が埋もれる。歴戦の勇者と名高いものの、弟子の前ではただの親バカのようになるのは相変わらずだと、ヴィルドは思った。しかし、それもまた心地よく感じる自分をヴィルドは意識し、両親を幼くして亡くした自分の育ての親と、レオスを慕っている。 挨拶代わりの銃撃も、弾けなかったとしても当たらないギリギリのところを狙っていったつもりである。まあ、皮の二枚や三枚は破れたのかもしれないが。 先ほどの男を遠目に見つけ、彼女は心がときめくのを感じた。恋の予兆だと誰かが言うそれは確かにエルフの美少女にも訪れたのだろう。異種族間での交わりは珍しくなく、体の基本的な構造は同じであるからして染色体などの異常もない。オリクと人間、ホビットとエルフの間でも、子供を作る妨げにはならない。妨げとなるのは、理解だろうか。 そして、理解してもらうべき相手が存在しない彼女は、確かにヴィルドとの交際を夢見ていた。俗に言う一目惚れを、娘は経験している。 男は、初老の男性と会話をしているようだ。声は特別大きいわけでもなく、距離もあるので内容は分からないが、それでもエルフの鋭い視力は男が微笑んでいるのを確認した。その笑顔にも、胸はドキッとする。恋をしている感じは気持ち悪いと思いつつ、なかなか居心地がいいとも感じ始めていた。 口を開く。声帯が振動し、言語を成す。「あの! さっきはありがとうございました!」 男は振り向いた。「おや、さっきの! わざわざ、追いかけてきたんですか?」 ビックリするヴィルド。それもそうかと、女は内心で苦笑する。 「ええ……その……お礼! そう、お礼がしたいんです!」「ヴィルド、また女を引っ掛けてきおったか?」「お師匠様、そんなことはかつて一度もしたことはございませんが……?」 娘は、ヴィルドとレオスの下に辿りつく。「その、傷の手当てをしてくださったので……」「あれは僕がつけてしまったもの。お礼など、していただかなくても結構です」 そして、娘の大好きなふんわりと優しい微笑みを浮かべるヴィルド。「いえ、あれは違うんです。あなたのせいではないんですっ」「それでも、怪我した少女を手当てするのは大人である人間の務めです。お金も、礼の言葉も必要としません」「あの傷は、私がエルフの村から追われる時につけられた傷なのです」 ヴィルドの言葉を、もはや娘は聞いていない。そして、ヴィルドの優しさに付け込むように――その言葉の意味を彼が理解するように、二の句を継ぐのに少しの間を取った。「仲間につけられた、傷なのです」「詳しい話を、聞きたいのぉ」 そう言ったのはレオス。穏やかだった彼の瞳も、今は冷たく、そして澄んでいる。 妙齢の女子を傷つけるということは、この師弟ともども許し難い行いなのだろう。ヴィルドも、見ると眉間に皺を寄せている。優しい瞳も、今は全てを切り裂く剣のように鋭い。「お師匠様の家まで、ご案内いたします。どうぞこちらへ」 そしてヴィルドは、娘の手を取ると街道の横道へと逸れた。レオスも後に続く。 ヴィルドに手を握られたことで、娘の頬は朱に染まった。それを悟られまいと俯くと、それを恐怖や怯えと取ったのかヴィルドは声をかける。「無礼なことは承知です。しかし、心配なのですよ。決して不貞は働きません……信じろというのは無理でしょうが、どうか信じていただきたい」 「あの、別に警戒とかしてないですよ……? ただ、その――いきなりで驚いたので」 「驚かせて、申し訳ない。しかし、女性の一人旅は危険ですぞ、ご婦人殿。どうぞ、今晩だけでも泊まっていってください」 既に日は沈みかけ、出歩くには暗すぎる時分でもあることから、娘は快く申し出を受け入れた。その理由の中には、多少の下心も含みあったが。 「それでは、今晩だけ……お言葉に甘えさせていただきます」 そして、娘はヴィルドの手の甲にその手を添える。 ヴィルドは再び、娘の手を引いて歩き出した。娘を守るように、レオスも娘の後ろについている。その道の両脇には、うっそうと茂った森が広がっている。 「一つ、訊いてもよろしいですか?」 不意に、ヴィルドが口を開いた。 「え!? あ、はい。なんなりと」 「お名前を、教えていただきたいのです。構いませんか?」 「私……私の名前は、リアリー=フォンゴベル・ファランツェルです。貴方は、ヴィルドでよろしいんですよね?」 「ええ。僕はヴィルド・クランケル。師は、レオス・ドルソンです」 ヴィルドはそう言い、口をつぐむ。 沈黙の中に、三人が歩く音と木々がざわめく音だけが残った。この気まずい沈黙をリアリー=フォンゴベル・ファランツェルは酷く居心地悪く感じ、口を開いたその時。ヴィルドが突然しゃがみこんで茂みを探る。 「あ、あれ? どうしたんですかっ?」 「ああ、ここに入り口があるんです。性悪なお師匠様は、こんな隠れ家を持っているんですよ。昔は帰れなくなって、この辺りでよく泣いたものですよ」 「口が過ぎるぞ、ヴィルド。さっさと開けろ」 「はいはい、分かっていますよ」 ヴィルドは入り口の取っ手を掴み、思い切り横にスライドさせた。 その光景の、余りの素晴らしさに、リアリーは息を飲んだ。先ほどまではただの茂みだったものが、茂みごと地下に飲み込まれていったのだ。さらには、暗い地下の階段には松明が明々と灯り、隠れ家への道を案内していた。その様子はまさに、深海に煌めく一片の明かりとでも言えようか。夜闇に煌々と輝いているその姿は、星を散りばめた天の川よりも尚、美しい世界を形作っていた。 「凄い……これはあの……レオスさんが?」 「凄いじゃろ? 年寄りの道楽でも、ここまではせんよ。なんせ、大陸全土探そうとわしに敵うほどの技術を持ち合わせたヤツはおるまい」 「痴呆のジジイがどんだけ凄いもんを創ろうと、世間様は気にもかけんよ、お師匠様」 ヴィルドは、打って変わって豪快に笑うと、地下の階段へと降りていった。 「おい、あんたがたも急ぎな。まあ、ジジイはそこで野垂れ死にしてもよかろうが」 「黙れ、ドラ弟子。わしの隠れ家に不法侵入じゃぞ。ちったぁ礼儀を弁えい!」 軽口を叩きつつ、二人は地下の闇に飲まれていく。リアリーはおどおどと、入り口で踏みとどまったまま右往左往しているといった体だ。 ヴィルドの態度が、先ほどとは全く違うものになっているのが気にかかるのだろう。別人格といっても差し支えないほどに砕けた口調に振る舞い――それは、ブラソナ大陸に残してきた仲間達に通ずるものが確かにあるとリアリーは感じたのだ。 もしかしたら――人間は確かに恐ろしいのかもしれない。人を蹴落としていく、そんな種族なのかもしれない。それだとするのならば、リアリーはどこに移ろえばよいのであろうか。 しかし、彼女のそんな心配をよそに、ヴィルドはエルフの娘に手を差し伸べる。 「おい? おら、リアリー。さっさと来いや」 その逞しい腕を、ヴィルドは差し出す。 「風邪引くぞ?」 「あ、ありがとうございます……」 その腕に縋り――松明が煌々と闇を切り裂く深淵へと、リアリー=フォンゴベル・ファランツェルは足を踏み出した。 分かりやすく説明をすれば、大きな木の洞に屋敷がある状態だ。切り立った崖の途中、上からも下からも完全に外界から隔離された場所に、レオスの隠れ家はあった。 「す、凄いですね……」 「なに、腐れジジイの道楽だよ。しかも、全部自分の手作りっていうんだから驚き。そのケチんぼさに」 「青二才がなにを言うか。誰にも手を出されんと、一人でやるから隠れ家なんじゃよ」 誇らしげにレオスは言うが、それでも半分は確かにケチだったからなのだろう。 「ま、敵は来ないし居座るには最高だぜ、娘さんよ。とりあえず適当にくつろぎな」 「お、お言葉に甘えます……」 リアリーは屋敷内に足を運んだ。 不必要に華美ではないその屋敷は、実用性に富んだ造りになっていた。それほど巨大な建造物ではなく、一般的な家屋の敷地面積と照らし合わせてみても大差ない。しかし、一人で住むには明らかに広いのは確かだろう。 居住者がいるのかと、リアリーは部屋を一つずつ見て回ってみたが、どうもそれらしい人物も見当たらない。十人ほどは生活出来るはずの屋敷にただ一人というものは、酷く寂しいものがあった。 ため息をついて、リアリーは宛がわれた部屋へと向かうことにした。一番下の階まで下り、その部屋の扉を開いた途端――、 「お前は誰だ? レオス様の館に一人で乗り込むとは、不貞の輩よ。退治してくれるわっ!」 その白い喉もとに、白刃がひたりと、当てられる。 「え、ええと? あの……命だけは、許してくださ……」 命乞いも尻すぼみとなっていく。リアリーは、短い人生に終わりを告げる準備もできず、ただただ呆然と、眼下に見える白刃に縫い付けられたかのように見つめている。 「お前……どうやって入った……!」 「え、ええっと……ヴィルドさんに連れられて――」 「――ラシャクじゃねぇか、久しいな」 「ヴィルドさん! 本当にお久しぶりです!」 やってきたヴィルドに、ラシャクと呼ばれた少女は歓喜の声を上げる。それと同時に、リアリーは解放される。 「ああ、少し大きくなったか? まあ、俺がここを出たときには、まだ子供だったもんなぁ……」 「それ、言わないでくださいよ……それより、久しぶりに会ったんですから。今日はご馳走にしましょう!」 ラシャクは大袈裟な身振りでヴィルドに抱きついた。それを見て、リアリーは若干、胸がキュウっと締め付けられるのを感じた。 「ああ、そうそう。ラシャク、今日からリアリーもここに住むから。女同士、仲良くしてやってくれ。んじゃ、俺はジジイと少し話してくるから」 そしてやんわりと、自分の体に絡み付いているラシャクの腕を外すと、ヴィルドはその場を去っていった。 気まずい沈黙。 「あの……よろしくお願いします。わ、私……さっきのこと、気にしてないですから」 先に口を開いたのは、リアリーだった。不貞の輩ではないと分かって気恥ずかしいのか、耳まで赤く染めたラシャクは黙り込んでいる。 「ええっと、ラシャクさん? 私、何か気に障ること――」 「あんた、優しいエルフだね」 ボソッと、ラシャクが呟いた。 「あんた、エルフだろ? エルフのくせに、優しいんだね」 「へ?」 きょとんと、首を傾げるリアリー。 「いや、なんでもないよ。気にしないでくれ」 ラシャクはダルそうに首を振ると、リアリーの横を通り過ぎ、先ほどの扉より一つ奥の扉を開く。 「あんた、あたいの部屋の隣だったんだね。よろしく頼むよ」 何がなんだかよく分からず、若干呆然とした表情を浮かべていたリアリーは慌てて頷く。それを見て、ラシャクはニコリと微笑むと、自分の部屋へ入っていった。 リアリーはしばらく廊下に佇んでいたが、窓から見える景色にふと、心を奪われた。窓に顔を寄せ、景色をもっとよく見ようとしたが、多少高いところに窓があるために届かない。リアリーは逡巡したが、湧き上がる欲求に勝つことを知らぬ純粋な彼女の魂はあっさりと外へ出ることを許可した。 ――無論、レオスやヴィルドが許可するか否かはさほど彼女の中では問題ではない。 「わぁ、すごーい!」 外に出たリアリーは、その雄大な眺めに感嘆の声を上げた。完全な絶壁。巨大な山の谷に、一つだけぽっかりと口を空けたこの隠れ家。 この場所を歩いてみて、ある程度の広さがあることをリアリーは知った。屋敷だけではなく、天井からの湧き水を溜めて作られた貯水池までもある。そして、崖の縁からは遥か眼下に先ほどの街道が見える。 夕闇がそろそろ迫る、ここから見える世界は、赤い絨毯が敷き詰められたかのように鮮やかな紅が輝いている。 さっき街道から見たときには気づけなかったこの隠れ家に、リアリーはただただ、レオスの凄さを思い知るのだった。 「眺めはどうだ? 下からじゃ、ここは絶対に見つからんぜ」 いつの間に後ろに立っていたヴィルドに、リアリーは振り返る。 「凄いです! レオスさんも凄いですけど、この崖の洞は本当に凄いです!」 「いや、本当に凄いのはジジイだよ」 そして、リアリーと隣り合ってヴィルドは座る。 「この洞。どうして見えないんだと思う? ここからだと街道は丸見えなのに」 「……あ、そういえば」 「ジジイが完璧な隠蔽魔法で隠してるんだよ。癪な師匠だぜ――剣も魔法も、カラクリまでも俺より上だ。まったく……いつかあの野郎を超えたいと思うのにさ」 地面に寝転がるヴィルドの横顔を、優しい夕焼けが照らす。実際の年齢をリアリーは知らないが、そんなヴィルドの姿を見ると、まだ夢見盛りな少年としか思えないほどに幼い。夕焼けに染まった頬は滑らかで、褐色の肌に白く繊細な指を走らせたいとリアリーは考え頬を赤らめる。 「……どうかしたか?」 呆けているのを気に止めたのか、ヴィルドが訝しげに訊ねる。リアリーは慌てて顔を背けると、早口で言った。 「な、なんでもありませんよっ。それより、そろそろ夜じゃないですか? 私、お腹空いちゃいましたよ」 そして、慌てて立ち上がるリアリー。 「そう……だな。そろそろ、飯の時間か……?」 その時、頃合いよくラシャクが夕食ができたと告げに来た。 「いやに頃合いがいいじゃないか? さては、見てたな?」 茶化すヴィルドに、ラシャクは、 「ヴィルドさんを覗き見する趣味などないよ! しばらく会わぬ間に、自意識過剰になってるね!」 と、慌てるかのようにかぶりを振った。 「そ、それよりリアリーさん。早く行きましょう? レオス様が待っております」 「え? ええ……」 疑問に思い首を傾げるリアリーの後頭部を、ヴィルドが軽くはたいた。 「いたっ……何するんですか、ヴィルドさん!?」 「お前、テメェの仲間に追われてきたって言うからその話を俺らが聞くためにここに来たんじゃなかったっけか? 自分の言ったことくらい覚えてろ」 「あ、そうか……」 「んじゃ、行くぞ。二人とも」 そんなヴィルドに連れられ、三人は食事を摂りに屋敷へと再度、足を向けた。 夕食時にもなると、人はどこか安心感に近いものを感じる。それはレオスとても例外はなく、その弟子であるヴィルドもそうである。 四人で食卓を囲み、夕食を摂る様はさながら家族のようであるが、そこに血のつながりは皆無である。レオスは飲み、ラシャクは椀に米をよそい、リアリーは食しヴィルドが奪う。温かい風景であると同時に、それは異様な風景でもある。 無論、血のつながりが無いことからくる異様である。そしてそれを尚のことに確かなものとするのは、自然と張り詰める空気だろうか。冷たい白刃にもなり、目に見えない枷となり、四人に糸のように纏わりつく空気。それが凍り付いているのは、誰もが知っている。 そして、その原因がリアリーであることも。 「ごっそさん」 最初に立ち上がったのはヴィルドだ。 「俺は先にあっちの部屋行ってるぜ」 茶碗を洗い場へと持っていくヴィルド。 「んじゃ、ラシャク。洗っといてくれよ」 バタン、と。音を立てて閉まる扉。 「さて、エルフの娘さん。そろそろどうかね? 話せそうなら、向こうの部屋で話していただきたい」 優しく丁寧だが、率直な言葉に、リアリーは箸の動きを止めた。 「すみません、先ほどは宿がなく……あわよくばと思いあのようなことをのたまいました。話すほどのことではないので、心配なさらず」 ラシャクはリアリーの肩に手をかける。 「でも、あんたさぁ……どうってことないならなんで――」 そのまま顔を覗き込むラシャク。その目はやはり、リアリーの瞳を捉えて離さない。 「――なんで泣きながら、震えてんの?」 リアリーの堤防は、いとも容易く決壊した。 「私だって、本当は仲間と一緒にいたかったんです――ずっと、村で一緒に、平穏無事な生活を送りたかったんです――っ」 盛大に泣きはじめるリアリーの背中を、ラシャクは優しく、ゆっくりと撫でていた。 「ほら、好きなだけ泣きな。落ち着いたらまた話せばいい」 ラシャクはリアリーを抱き寄せる。その胸に、おとなしくリアリーは体を預けた。しゃくりあげる合間合間に、やはり村への郷愁を語る。 リアリーの涙が、うら若い女剣士の衣服を濡らす。いつの間にか、部屋にはリアリーとラシャクだけになっていた。おそらく、エルフの美女に気を使い、レオスとヴィルドは部屋を出たのであろう。その気遣いが、余計にリアリーの涙を誘う。 「リアリー、あんたがどんな仕打ち受けたかは知らないけど、私は味方のつもりだよ。だって、リアリー。あんたさ、ヴィルドさんが好きだろう?」 「ラシャクさん……?」 邪気のない泣き顔。 「あいつは、良いやつにしか懐かれないから。あいつを好きになるのは、みんな良いやつだから」 その言葉が心に染み入るように、ラシャクは間を取る。 「だからリアリー。あいつを信じるお前を、私は信じる。だから、お前は私の信じるお前を信じろ」 「……あり、がとう」 短い言葉だったが、その一言にリアリーは、自分の思いを全て詰め込んだ。 瞳からまた、一粒の涙が零れ落ちる。 月明かりが照らす、崖の縁。 「ジジイ、大体事情とやらは飲み込めるぜ」 その青白い光は、人が思うほどに暗くない。 「そうじゃな。そもそも、エルフが人間に関わることが珍しいわい」 二人を際立たせて明るく浮かび上がらせる、女神の光線。白光の下、二人の顔は死人のように血の気がない。青白い肌に赤らみはなく、表情が見えない。 「今さらだけどよー、はみ出しもんのエルフ囲っていいのか?」 「いや、別に置くのはいいのだが――しかし逆に、どこか定住することが危険になるのじゃよ」 「なんでさ、ジジイ。自分たちの領域に、人間招きいれたってとこじゃねえのか?」 領域、という部分でレオスは眉を顰める。 本来は、人間が足を踏み入れていい場所ではない。強い魔力がその肉体を粉々に食い潰すからだ。無論、それを相殺してあまりあるほどの魔力を持つことはいかなる人間でも可能である。 しかし、修行をせずに魔法力を得る人間などそうはいない。レオスやヴィルドとて、修行の果てに人並みはずれた、エルフすらも凌駕する力を手に入れたのだ。 「ハシバミやライラックなら分かるが……しかし他に、そんな人間はいるのかよ?」 「護符かもしらんな。それを中心とした、ある一定の範囲の魔法を無力化するものだが」 レオスが仮定を挙げるが、どれもさしたる確証はない。 「まあ、レイドンが関係してるのは確かじゃと思うが? レジスタンスの調べたところによると、以前大量の護符を行商人から仕入れたらしいからな」 ふーん、と。関心なさげに相槌を打つヴィルド。それよりも今大切なのは、リアリーが何の目的で、ネルツワームにやってきているかということだ。 言わずとも、群れから離れて一人でいるエルフといえば想像は付く。仲間が死に至る理由となり、故意でなかろうと種族を危険に晒した罪は命でしか償えないからだ。――もっとも、間諜という可能性もないではない。 「俺は数日後、ここを出るつもりだが……?」 「ラシャクとリアリーを、よろしくな」 微笑むレオス。 応えて、ヴィルドは親指を立てる。 「了解。師匠さん」 師弟は笑みを交し合う。互いの実力を知っているからこその信頼関係なのだ。 「最後に、少しばかり稽古をつけてやろうかの」 「いや? 案外、稽古をつけてやるのは俺かもしれねェぜ」 二刀を引き抜くヴィルド。レオスも戦槌(ウォーハンマー)を手に取り、構える。 「なんだか、笑えて来るな。爺さん」 「……なんでじゃ?」 「もう、二十年も会ってない師匠とその弟子。普通はお互いの数値がある程度分かっているはずなのに、今や未知数ってところがだよ」 お互いに、ニヤリと笑みを浮かべ合う。 「フフッ、そうじゃな。……かかってこい!」 その言葉を同時として、お互いの体は近接した。 右の手で、咽喉を突くヴィルド。しかし剣先はウォーハンマーによって右に弾かれ、回転を止めないレオスの体は勢いのままに左わき腹をつま先で蹴りつけようとする。咄嗟に左のマンゴーシュでそれを防ごうとすれば、逆に手の甲を狙うレオス。 「くッ……!」 回避が間に合わないと判断したヴィルドは、更に迫って左脇に入り込む。間合いが狂い、攻撃は空回りに終わったレオスに隙ができ、渾身の頭突きをヴィルドはレオスに喰らわせた。 「うごッ」 しかし、受けるダメージはヴィルドも同じだ。確かに右の蹴りは交わしたが、レオスの石頭にヴィルドは一瞬視界が狂った。 「痛ってェ……相変わらず石頭してんな、クソッ」 「お前も相変わらず、きかん気の強い頭じゃな。老いぼれの頭は大切にするべきだと、育ての親から言われておらんのか?」 同じように頭を押さえ、蹲るレオス。しかし石頭のおかげか、先にレオスが立ち上がった。 「テメェ、殺る気かよ? 上等だコラッ!」 同じく立ち上がるヴィルド。しかし足元は覚束ない。どこまで硬ければ気がすむのか……レオスの頭は本当に恐ろしいと思うヴィルドだ。 「女の子とヤるほうが、よっぽど楽しいのだが……仕方ないのぅ。ラシャクはまったく相手にせんし、とんだ不孝者の弟子が二人もいるわい」 「ラシャクに変なこと吹き込んだら承知しねェぞ、クソジジイ!」 右のシミターが、レオスの左わき腹から右の肩口までを一閃したかに思えた。がしかし、ウォーハンマーの柄でその斬撃を阻みヴィルドの頭をウォーハンマーが襲う。回転しながらヴィルドはしゃがみ、足元に後ろ回し蹴りを放った。続いて、左の足で胴体を、反動を利用して跳躍し、更に空中で右肩を蹴りつけつつ素早く二刀を逆手に持ち帰る。 「フンッ」 頭を串刺しにしようかというときに、レオスも負けじと柄で足を払いバランスを崩させた。更に肋骨めがけ、ウォーハンマーを叩きつける。体制が整っていないヴィルドは、それを避わすことができなかった。 「――痛ゥ」 悲痛なうめき声が口の端から漏れるが、それはレオスも同じこと。肩口と胸を斬り裂かれ、赤い華を裂かせていたのだ。 最後の最後で体を捻ったのか、ヴィルドも大したダメージはない。背中から落ちて咳き込んでいるが、それも『フリ』なのかもしれない。 「痛ってぇな――死んだらどうするつもりだ、クソジジイッ」 「……それぐらいでお前が死ぬとは思えんがのォ。まあ、痛み分けじゃな」 「――んなもんですませるかよッ。……こちとら、命賭けてネルツワームを旅して回ってたわけじゃねぇからよ――ッ!!」 「わしとて望むとこよ、若造が……まだまだ負けるつもりはないぞッ」 再び構え、対峙する二人。 「ハッ……老いぼれはさっさと失せろっての!」 「口の減らん弟子よのぉ……師匠として、鍛えなおしてやろうぞ」 穏やかな口振りだが、同時に地面を強く蹴るレオス。 ヴィルドも迎え撃つべき、右足を引いて半身を切る。マンゴーシュを正眼の位置に持っていき、シミターは上段に構える。 左から打ち出されたウォーハンマーは、性格にヴィルドの頭を狙う。同時にマンゴーシュは動き、レオスを追う。そのタイミングは、明らかにウォーハンマーがヴィルドを昏倒させるよりも、マンゴーシュがレオスを貫くほうが早いタイミングだった。 しかし、慣性に則った体は言うことを聞かない。胸を貫く寸前、無理やり体を捻るがやはり胸元を浅く斬撃は迸り。 「――ッ!?」 シミターの白刃が、レオスの首の皮一枚の差で突きつけられる。ウォーハンマーは、所在なげに中空を叩きつけたままの格好だ。 「――俺の勝ち、だな」 ニヤリと、酷薄で俺様な薄い笑みを口元に浮かべてヴィルドは宣言する。レオスは目をパチクリとさせて――そして笑った。 「ははっ。ヴィルド。とうとうわしよりも強くなったか! リオゴナスの右腕として恐れられ、『賢者の百五十ヶ月戦争』に終止符を打った英雄よりもっ! もはや、ヴィルドよ。お前に敵うのは、わしの親友にして智勇の名将、スティン・リオゴナスをおいて他にはいまいよ」 楽しそうに、目を爛々と輝かせ饒舌になるレオス。それだけ、弟子の成長が嬉しいのか――はたまた、戦いの際に体中を支配したアドレナリンの行き場がないのだろうか。 それにしても、本当に楽しそうだとヴィルドは思う。 「さあて、ヴィルドよ。いつ発つかは決めてあるのか?」 「いや? あと数日は厄介になるつもりだったからな。まあ――リアリーがどんな人間……ってかエルフか。とりあえず、性格を見極めるくらいにはいるつもりだぜ。本当は、帰ってくるつもりなんざなかったがな――はみ出しもんのエルフが一人街道を歩いてて、なんもなかったで済ませるわけにはいかねぇよ。追放されたんだろうが、もしかすると間諜って線も捨てきれねぇし。テレパス発信で呼び出しかけて、すまないとは思う」 「本当に思っているかどうか、怪しいものだがな」 「ま、気にするなって。リアリーが何の理由でここに来たかは分からねぇが、あいつが寝てる間にテレパスで記憶とか探ってみるよ。レイドンとの戦争も近いが、優先順位はブラソナとの平和協定だからよ。レジスタンスのメンツも、とりあえずはそっち方面で動いてるってハシバミ達から聞いてるが、実際のところどうなんだ?」 「確かに、レジスタンスはよく働いてるが――オークやウリクに外交術なんぞ持ち合わせておらん。ホビットも、いらんことばかりよく喋りやがるし、今の所は難航じゃな。もっとも、ドワーフが暴れだしておらんことだけが唯一の救いだがな」 ふーんと、ヴィルドは鼻を鳴らす。 「まあ、結構頑張ってるほうじゃないか? まず先行するべきは、リアリーが何者かを確認すること、ブラソナの動向確認及びそれに伴うネルツワームへの被害の検算ってとこか。レイドンの火力相手には、ブラソナの後ろ盾がなければキツイが――この際贅沢言ってる間はねえか。ジジイ、レイドンの宣戦布告がいつ頃になるか分かるか?」 レオスは腕を組む。 「いや、ガレスからの着信はないからまだ分からないのだろう。しかし、ラズィエルからの報告だと一年以内には兵を上げるそうだ」 先ほどまでは輝いていた月も、今では雲に覆われている。伴って下界は、より満ち満ちた暗闇に気を取られ、街道を行き交う人々の足元には暗い霧が渦巻いていく。 洞の縁にいる二人からは、草木から迸るマナが明るく輝き、そして人々の顔を照らすのに気がついていた。昼間の間に太陽の光をたくさん吸ったマナは。温かい輝きに満ちている。それすらも、足元をうろつく負の冷気には敵わない。 「……さて、寝るか」 「そうじゃな――明日も早かろう」 ヴィルドは宛がわれた寝室へと向かう。その背に続き、レオスも自らのベッドへと足を向けた。 その晩、ヴィルドはリアリーの寝室へと足を運んだ。言葉で問い質すよりも、記憶を探るほうが確かだと彼は思っていたが、それでも話を聞いてみるという選択肢を完全に捨てることはしなかったのだ。 「リアリー、まだ起きてるか?」 「ヴィルドさん……? はい、起きてます」 「入るぞ?」 引き戸越しの、問いかけには程遠い、疑問系だが有無を言わさぬ確定事項のようにヴィルドは言った。 引き戸を開き、ヴィルドはリアリーの寝室へと入っていった。 「こんばんは、ヴィルドさん」 ふんわりと微笑む彼女に、先ほどまで嘆きは見えない。あるのは、街道で出会った時と同じような、淡い恋心に近いもの。確かに恋心なのだが、リアリー自身がそれに気づいていないためにそれを恋心と呼ぶことはできないのだが。同じ部屋に二人きりという状況に、内心で期待していることをリアリー自身も知らない。 「単刀直入に訊ねるが――」 「え? な、何をです!?」 真夜中、同じ部屋に二人きり。そしてヴィルドの言葉は、リアリーの淡い恋心に火を点ける燃料としては充分だった。それを認めたがらないリアリーは慌てふためき枕を抱くが、胸の鼓動は鎮まらない。 反面、ヴィルドの顔は真剣だ。そして、その動揺があまりにもわざとらしいと思ったことで、間諜という線はひとまず捨てた。もっとも、色恋沙汰にはめっきり鈍感なヴィルドは、動揺に至る理由までは思いつくことができなかったが。 「リアリー。お前は、どう思っている?」 「ど、どうって――その、とっても魅力的で……ってそうじゃなくてっ! でも、おそばに……というか――す、す、す……好きですけど、その――違うんです! そうじゃないんですっ」 要点を得ないリアリーの言葉に、ヴィルドは眉を顰めてみせた。 「いや、今の状況ってことだが……」 「状況!? え、私――はいいですけど、その……やっぱりもう少し永いお付き合いしてからのほうが……って、何言わせてんですか!?」 「お前――ふざけてんのか?」 「ええっ? や、やっぱり……身持ちの堅い女はお嫌いですか?」 何言ってんだコイツと、ヴィルドが思ったのは言うまでもない。しかし悲しいかな、恋愛経験が皆無のヴィルドは、その言葉を理解していない。 「俺が言ってるのは、なんでお前がブラソナにいずにネルツワームまで来たかってことだ」 「え? あ、それは…………その―――仲間から、追い出されたんです」 「んで、その理由は?」 「…………っ」 貝のように、リアリーは口を閉ざした。 「いいから……なんか理由言ってくれねぇと俺だってお前を信用するわけにもいかん。ましてや、大陸を連れて回るなんぞできっこねぇぞ」 「…………」 「それに、ブラソナとはどうあっても信頼関係を築いておかなきゃいけない。近い戦争のためにもな」 「…………っ?」 「まあ、お前が喋りたくないなら――強制的に心から割らせるだけだがな。心身は消耗するが、こっちが必要な情報は手に入る。最終的には、こちとら手段を選んでいられない。――この際だから言っておくが、俺達はお前を信用していない……ラシャクは別としてな。ひとつはっきりしているのは、全てがはっきりするまでお前に自由はないと思え」 「…………はい」 特に何を言うでもなく、リアリーは首を縦に振る。 俯くリアリーに、それ以上の言葉をかけることなくヴィルドは部屋を立ち去った。 リアリーの表情が歪む。想い人に疑惑の目を向けられているためか。リアリーの胸は、滾々と溢れる想いがあるにも関わらず、それがほんの僅かも届かない悲しみでいっぱいになった。 「あれ?」 自分でも気づかぬ間に溢れた、純潔の涙が頬を流れる。自分が悲しんでいることを、この時彼女は理解した。しかし、自分でも否定していた感情は易々と受け入れることなどできはしない。 結局、リアリーは毛布にもぐりこみ、夢の世界へ逃げるという選択肢を選ぶしかなかった。 翌朝、リアリーは自分から進んでレオスやヴィルド、そしてラシャクの手伝いをすることにした。その理由のひとつとしては、ヴィルドに自分という存在を受け入れて欲しいという願いからだったのだが、元々ヴィルドはエルフという存在を受け入れているので、さしたる意味を持たないのだが。 それでも、リアリーは精力的に家事手伝いをした。基本的に、ラシャクと共に料理や洗濯をすることぐらいしかないのだが。その間中、男達は鍛錬を怠らない。 もっとも、鍛錬以外の時間はラシャクすらも知らない『何か』について話し合っているだけだが。 それについて、リアリーはラシャクに一度訊ねてみたことがあったが、得られた答えは「何も知らない」という、簡潔にして無価値なものだった。それでも、自分なりに探ってみようと透視や盗聴を時間ができれば行っていたのだが、それも無為に終わった。 なぜならば、魔法を無効化する領域をレオスやヴィルドは作り出せるからだ。逆に、魔法が作用しない場所でもある程度の範囲を魔法の影響下にすることも出来るのだが。それだけでも、二人が卓越した戦士であり、高度なウィザードであることを物語っている。 そのように、ヴィルドのことを知りたいと思えば思うほどにリアリーの行動はエスカレートしていった。慕う人を知りたいという気持ちを理解できないほど、ヴィルドは狭量ではないが、リアリーが魔法で探ろうとすればするほどに彼女に対しての疑念は増すばかりである。 リアリーがレオスの隠れ家に居候し、およそ二週間ほどが過ぎた頃である。ヴィルドはリアリーの部屋を再び訪問した。 「そろそろ、話してくれてもいい頃じゃないか?」 「でも……」 リアリーのその様子から、芳しい返事は期待できないとヴィルドは見たのか、仕方ないとでも言うかのように腕を組む。 「ならば、記憶を探るしかないだろうな」 「待ってください!」 怪訝に思い、ヴィルドは眉を上げてみせる。ただでさえ、透視の出所は分かっている。そしておそらくは、ラシャクでさえもその気配の源がリアリーだと気づいているだろう。それに関してラシャクがリアリーを質さないのも、一重にリアリーのことを友人だと思っているからだ。 「言ったら、ヴィルドさんは優しいから、私を保護しようとするでしょう?」 「そうかもな。しかし、言わないならば言わないでここを出すわけにはいかない。これでも、ネルツワームが好きだからな、この国の不利益を万一にももたらすようなことはしたくない」 「……どちらにしても、私のそばに居続けるのですね?」 悲しそうに瞳を伏せる。 「ちゃんと事実をはっきりさせれば、ここから出るのを許すかもな」 淡々と言い放つヴィルドは、真実だけを口にした。 「正直、私の口からお話するのは心苦しいです。……ですから、時期を待って――」 「待ってなどいられんな。フォンゴベル女帝が一年の内には冷戦状態を破り、攻撃を仕掛けてくる可能性があるからな。今のうちに言ってもらわないと、今夜中に記憶を探ることになるぞ」 冷たい沈黙が、室内を支配した。そしてそれは、夜の闇を凍らせるのではなく、ヴィルドが記憶を探る意思を固める手助けをした。 「そこまで嫌がるなら、記憶を探らせてもらう。安心しろ、悪いようにはしない」 言うが早いか、拳をリアリーのこめかみに軽く打ちつけた。魔法のようにリアリーの体からは力が抜け、ヴィルドが彼女を横に寝かせる頃には朝まで覚めない深い眠りについていた。 ヴィルドはリアリーの額に手の平を乗せ、そこから意識の糸を伸ばし彼女の記憶へと入り込んでいった。 ヴィルドは、優しく意識の触手を伸ばしていった。記憶の糸を丹念に、丁寧に手繰り寄せ、リアリーの精神が崩壊しないように気をつけて記憶を呼んでいった。 古い記憶――産まれた瞬間や、少女時代の楽しい日々の記憶は脇へとどけていく。やがて、エルフとして武芸や魔法を学ぶ時代に辿り着いた。 一瞬、リアリーが剣や弓に関する講習や師の暗唱する呪文の記憶をヴィルドは感じる。が、それも関係を感じることはなかったので、古い記憶と同じようにどけていく。ヴィルドはリアリーが幸福だと感じた記憶、明るい記憶に今回のことは殆ど関係がないと感じていた。森を駆け、初めての狩りに心昂ぶらせる記憶、エルフの友人と共に、狩りの成果を喜ぶ記憶、リスや野ウサギと野山で飛び跳ね、楽しく踊る記憶――道に迷った旅人を、村に招き入れる記憶。 どんどんと、ヴィルドは記憶を探っていく。先日の件もあり、ヴィルドはリアリーが間諜だと、思い込んでいたのだ。そのため、重要な記憶をいくつか見過ごしていた。 やがて、記憶がかなり新しいものになってきた。リアリーを取り囲むエルフの群集、泣き叫ぶ男や子供達、憎しみの言葉を連ね、天を罵倒するエルフの戦士、絶望に打ちひしがれ、星を読むことをやめたウィザード。それらの言葉や思いを、リアリーの記憶は一身に受けていた。 鮮明な言葉として、それらを聞き取ることはできない。重要な記憶だとヴィルドは思ったが、記憶以上のことを掴むことは出来ることはない。やがて、リアリーは仲間達に襲われ追われ――。 その次に新しい記憶は、ネルツワームのどこか、森の近くにある浜辺に打ち上げられたところだった。 途端に、ヴィルドの意識の糸がプツリと切断された。集中力を乱したのか、それともリアリーの本能的な防衛本能が働いたのかは分からない。しかし、その理由の一端が最期に見た記憶だということは確かなのだろう。 「ハッ……ハアハア」 ヴィルドの荒い息が、静まり返った部屋にいやに響く。自分の息が自分で思うよりも大きい音を出しているのが、疲労に加え苛立ちをも募らせる。 「クソッ」 小声でいくつか悪態をつき、ヴィルドはさっさと立ち上がった。いつの間にか掻いていた汗を洗い流そうと、湯浴みをしようと思ったのだ。しかし、この時刻ではラシャクが既に湯を抜いているのだろう。汗で濡れた衣服だけでも着替えようと、ヴィルドは部屋へと戻り衣装ダンスから自分の下着と服を取り出す。 その間、リアリーの記憶が疑問となって、頭の中で渦巻いていた。 ヴィルドは困惑していた。自分が想像していたものとは異なる記憶ばかりが奔流となって、ヴィルドの意識に入り込んできたからだ。リアリーの記憶を見るからに、明らかに間諜ではないと思うものの、それでは透視や盗聴の理由が掴むことができない。その事実と、現実的ではない食い違いにヴィルドは頭を抱えた。そもそも、エルフが仲間を追いやることが信じられないのだ。調和を尊ぶ生き物として、余計な侵入者を入れもしなければ、徒(いたずら)に同じ森の住民を群れから追い出すことはしないものだ。 「侵入者?」 その時、ひとつヴィルドは心当たりがあることに気づいた。記憶の中で、道に迷った人間とリアリーがでくわしたところを思い出したのである。まさかとは思ったが、それ以外に考えられない。しかし、再びリアリーの記憶を探る勇気をヴィルドは奮い起こせない――恐怖や絶望までもが、記憶を通して意識に進入するからだ。 「……どうすればいいんだ」 その夜は、とても長い夜だった。ヴィルドは一人思考に耽るが、ことを解決してくれそうな答えは浮かばない。リアリーをここに残すことも、旅に連れていくことも――始末することすら考えた。人間の研究機関に送れば、リアリーは研究対象となるのだろう。エルフなど、普段は見かけることすらもない。体内の構造やそのマナの出所を探るためのモルモットにリアリーがなる姿は、易く思い浮かべることが出来る。 然るべき方法ではないと、その可能性をヴィルドは捨てた。知性を持つ生き物に対して、あまりにも非人間的だと思ったのだ。命を奪うほうが、彼女を辱めずに済むのだろう。 おそらく、危険はない――しかし、本物のはぐれ者を仲間にして旅をすることはヴィルドやラシャクの危険にもなるのだ。レジスタンスが反感を買うのも好ましくない。つまり、リアリーは危険因子になる可能性が大きすぎるのだ。 しかし、どれだけ思考を続けても解決案は浮かばない。 ヴィルドとて、冷血な人間ではない。ちゃんとした温かい心を持っている。だからこそ、リアリーを突き放すことに抵抗を覚えたのだ。 半神的な存在は、俗物的な存在よりも多くの神秘を引き起こす。そして、それは人間に友好的とは限らないのだ。 これ以上考えても仕方が無いと、ヴィルドは思った。また夜が明けたら、レオスに相談しようと――そうすると決めて、今は休息を求める体に安らぎを貪らせようと布団に横になる。 三日月が、赤いトターナと青のタルトナの瞳を輝かせて、黒い霧が忍び寄る惑星グディンナをひっそりと傍観していた。 翌朝、ヴィルドはリアリーが、どこかよそよそしく振舞っているのを感じた。無理やり記憶を覗いたためにそれはもちろんなのだが、必要な処置であったのも確かだ。それをリアリーに分かってくれと、ヴィルドは言うつもりもない。ましてや、恨み言を言われる謂れもない。 ラシャクは相変わらず、リアリーと仲良くやっているようだ。ラシャクのように人懐こい人間が、このネルツワームにあとどれくらいいることか……異種族というだけで迫害するのが人間というものだ。 ネルツワームの根幹に関わっている者でさえ、レジスタンスの存在を知る者は少ない。レイドンを打ち倒し、そしてレジスタンスとネルツワームが勝利を収めたとして、ウリクやホビットに理解を示すことが出来るのは直接的な関係をレジスタンスと築いてきたものくらいだろう。 朝食の席で、ヴィルドがレオスに持ちかけた話が、自分に関することだとリアリーは本能的に理解した。ヴィルドが自分を、厄介に感じていることも。優しい心が、追い出す決断をすることを阻んでいることを。それならばせめて、迷惑をかけずに、誰にも知られずにここを出ようとリアリーは思った。 ――荷物をまとめようと。 リアリーは知らない。ヴィルドは昨晩のうちに、リアリーを守り、エルフの名誉を守り、仲間の下へ戻ることが出来るように取り計らおうと決めたことを。そして、どうすればリアリーを救えるかということを、レオスに相談したことを。 そのことを知らず、リアリーは一人ネルツワームを彷徨おうと一人決断してしまったのだ。 一方、ヴィルドである。 レオスに相談したのはいいものの、リアリーがどのような過ちを犯したのか正確には知らないのだ。レオスはその昔、エルフ族の英雄、スティン・リオゴナスの親友だったと聞いた。今は転生し、過去のことを全て忘れているスティンだが、転生後もレオスと友好的な関係築いているという。レオスの名前を出せばスティン・リオゴナスは心を開いてくれるに違いない。 結局、導き出した答えは、レオスの紹介状を携えてスティンを訪れるという選択だった。そして、スティンの紹介でエルフ族の住むブラソナへと渡る、ということだった。 無論、リアリーを無実だと証明することが出来るだけの情報を得てからだが。そのためには、スティンの大きな協力が必要になる。 この時、ヴィルドはエルフの特殊な生態を初めて知った。これが、人々にエルフ族が長寿と言われるゆえんである。 「でも、もしスティン・リオゴナスが俺を信用しなかったらどうにもできないぜ?」 「それは問題ないぞ。わしの紹介を拒むほど、スティンは薄情ではないわ。今はレゴットの東、ケルセベーン渓谷に住んどる。ここから三日ほどじゃな。一応、テレパスでお前のことは伝えておくぞ、ヴィルドよ」 ヴィルドは頷き、立ち上がった。 「明日にはここを出る。ラシャクにも話を通しといてくれ」 そう言って、部屋を出ようとヴィルドが引き戸へ足を向けた瞬間――、 「大変! リアリーがいなくなっちゃったッ!」 ラシャクが息せき切って部屋へと入ってきた。かなり急いできたのか、息が乱れている。 「隅から隅まで探したけど、どこにもいないの……きっと地上に出ているのよッ」 「ったく。あの小娘は世話の焼ける……」 ヴィルドは部屋を飛び出す。ラシャクもそれに続いた。レオスはというと、瞑想に入っている。意識を飛ばして、地上を調べているのだろう。同時に、テレパスの波長をヴィルドに合わせた。 おそらく、場所を指示しているのだろう。迷いなくヴィルドの足は動き、それに遅れることなくラシャクもついていく。 『森を抜けた空き地に娘はおったぞ。今の位置から、南へ五百メートルほどだ』 思ったほど遠い場所までは行っていないと知り、安堵するヴィルドだが、再び気を引き締める。 森の南には、ゴブリンや鬼人の類が生息しているからだ。普段はレオスが張った結界により、ある範囲からは出られないのだが、運悪く迷い込んだ商人や旅人が例外なく襲われているからだ。 その生息域が迫っている。あと七百メートルもいけば、リアリーはモンスターの巣窟へと迷い込むのだ。それだけは、なんとしても招きたくないとヴィルドは思い、更にスピードを上げる。 「ちょっとぉ……ヴィルド早すぎるってば!」 言いながらも、やはりしっかりついてくるラシャクは剣士として鍛えられているに違いないのだろう。木々の間を駆け抜け、ようやく前を小走りに行くリアリーの背中を見つけ。 そこでヴィルドは、鬼人の群れが周囲で蠢く気配を感じ取った。 「リアリー!」 声を大にしてヴィルドは呼びかける。振り向いたリアリーの顔には、驚きの表情が浮かぶ。その背後から鬼人が迫るのを見て、ヴィルドは更に叫んだ。 「逃げろ、リアリー! ここは危険だッ」 「で、でも、ヴィルドさん……なんで……?」 「いいから逃げろッ!! 死にたいのかッ」 怒気を含んだヴィルドの声色に、リアリーは一も二もなく従った。即ち、鬼人から離れ安全な領域へと足を踏み出したのだ。 しかし、背後ではゴブリンがラシャクを囲み、執拗なまでに攻撃を仕掛けていたからだ。 「ラシャクさんっ!」 「話しかけないでッ!」 ラシャクも相当怒っている。腹立ち紛れに、ラシャクはゴブリンの槌矛(メイス)を受け流し、返す刀で頭部を割った。もう一匹のゴブリンは、更に顔面への蹴りを入れられ悶絶している。 ラシャクはよく戦っているが、一人ではあまりにも辛いだろう。ラシャクの息は既に上がり、シミターの動きには早くも鈍りが出ている。 「ラシャクさん、加勢しますッ!」 リアリーは叫び、胸の前でいくつかの印を結んだ。印を結びつつ、口では呪文を物凄い速度で読み上げていく。 「アーサ・ディ・レオゾ=パウラ・ディ・ラウラ・ギバイス=アイスーン・ディ・ブラバス=(地の神よ、力を与え給え、氷の民よ、我が敵を打ち倒せ)」 空気が凍り、ゴブリン達に絡みついた。リアリーは更に印を結んでゆき、続きの呪文を唱えあげる。 「サルゴン・ディ・ソルク・ディ・グレイス・ブライカ(悪の魂を凍らせ砕け)」 ゴブリンに絡みついた冷気が、更に低くなってゆく。リアリーの呪文が全て終わった後には、氷の彫像となったゴブリンと、そしてその場に立ち尽くすリアリーが残っただけだった。 「ラシャクさん、大丈夫ですか?」 「……わよ」 「へ?」 「大丈夫じゃないわよッ! どんだけ心配したと思ってんの? 心細かったって知ってるの? 初めての友達を失いたくなかったわよッ」 ラシャクはリアリーを抱き寄せ……る前に、危険領域から抜け出した。 「ずっと一人で……だからもう、どこにも行かないで。あたい、許さないからッ。これは約束じゃなくて、命令、分かった?」 リアリーは、心地よさげに瞳を閉じる。 そして、「はい」と答えたかと思うと、ピョコンと顔を上げた。 「ヴィルドさんは?」 「――忘れてた」 見れば、鬼人二人相手に苦戦を強いられている。 「しまった。剣、忘れてきちゃった」 急いでたから仕方ないだろ、とか、別にリアリーが救出できればそれでいいし剣が必要だとは思わなかった、とか、様々な言い訳が頭の中をぐるぐると回ったが、それでも命の危機でその言い訳を笑う余裕はあまりなかった。 言うなれば、空元気で笑った。自棄になっていたというのが正しい。この際、どうにでもなれ、と。 そんなヴィルドにはお構いなく、一人目の鬼人が巨大なメイスを振りかぶり振り下ろした。横に飛んでそれをかわすと、もう一人の鬼人が蹴り付けてくる。 三メートルはあろう鬼人の重い蹴りは、運良くヴィルドの脇を掠めていったが、当たっていれば骨が砕けるほどの衝撃だったろう。そのブォンという音に、ヴィルドは冷や汗を掻いた。 「嘘だろ?」 縋るような言葉は、始めの鬼人のメイスが唸る音によって掻き消される。二番目の巨人も、後ろに回りこんできた。 「これは……きっと危険だ」 ボヤく間にも、頭上からメイスは降ってくる。ゴブリンの落としたメイスを拾うが、粗雑な造りのそれでは決定打を与えることはできない。 せめて一人なら、これで相手出来たのにと、詰まらなそうな口調で軽く振ってバランスと重心の位置を確かめる。あらかたの準備が出来るまで、律儀にも鬼人は待ってくれていた。 「おや、化けモンが待ってくれてるとは意外だねぇ」 それは素直な感想だったが、こういう言い方を鬼人は嫌うということも知っていた。案の定始めの鬼人は眉を顰め(鬼人の表情は分かりにくいのだが)二番目の鬼人は分かりやすく唸った。 「俺達は、お前ら人間のように卑怯な生き物ではない」 「へえ。そのくせ、一人に二人とは随分な接待じゃないか」 「己の力を高く見積もり、死に急ぐほど馬鹿ではない、レオスの弟子ヴィルドよ」 その言葉に、ヴィルドは面白そうな表情で鬼人を見上げた。 「他の人間なら、身包みをはいでやるだけで済んだのにな。俺達鬼人を、辺鄙な森に閉じ込めた罪は重いぞ、ヴィルドよ。恨み果たさずにはいられん、ここで死んでもらうぞ」 「できないことは、始めから言わないことだなッ」 ヴィルドは高らかに宣言する。同時に、左右から挟み撃ちに襲う巨大な一対のメイス。それを跳んでかわし、石を拾って二番目の鬼人の顔面に投げつける。石は目に入り、痛みで鬼人はメイスを取り落とした。 その間に、ヴィルドは始めの鬼人の足の間に入り込む。踏み潰そうと躍起になる鬼人をかわしながら、声を作って辺りに叫んだ。 「おおい、みんな聞いてくれ! ここに鬼人の恥さらしがいるぞ! みんなで笑ってやれ、あっはっは!」 「なんだとッ?」 二番目の鬼人は気性が荒いようだ。分かりやすい挑発に、分かりやすく乗ってくれたのはヴィルドとしては計算外だが、それに越したことはないと内心でニンマリと笑った。後は、鬼人同士で喧嘩してくれれば幸いだ。 「待て、ガートルート……今のは俺じゃ」 「ガートルートがヘマをしたッ。なまぐさ野郎の出来損ない!!」 「何ィ、お前はそんなに上出来なのか、リッグラト! 偉ぶってるのはいいけどな、俺はテメェのそういうところが嫌いなんだよッ。頭いい子ぶって、戦いじゃ役立たずじゃねぇか!」 「待て、違う――」 「お前こそ役立たずのくせに――この、ちょっと頭いいからって――もう頭に来た!」 感情を抑えきれずに、ガートルートはリッグラトへ向かって行った。そして、リッグラトを持ち上げて、頭から地面へと叩きつけた。 その間に、ヴィルドはこっそりと危険領域から抜け出した。領域の外で、ラシャクと共に待っていたリアリーが話しかけてきた。 「ヴィルドさん、大丈夫ですか?」 「お前の心配をしすぎて大丈夫じゃなかったが、今は大丈夫だ」 疲れた表情で、ヴィルドはリアリーに微笑んだ。 「さあ、帰ろうかリアリー」 「ちょ、あたいを忘れないでってば!」 並んで歩く二人に、胸騒ぎを感じるラシャクだった。 その日のリアリーは散々だった。 穏やかなレオスは激昂し、安堵と疲れが苛々と相成ったヴィルドは重い拳骨をリアリーの頭頂部に何発も食らわせ、ラシャクはラシャクで二度と離れないように本気で縄で縛りつけようとし、挙句にはレオスとヴィルド、そしてラシャクはそれぞれ二時間ずつの説教を垂れた。その中で、レオスはどんなに心配だったか、ラシャクはどれだけ寂しい思いが胸を不安にさせたか、そしてヴィルドは、どれだけ焦り、自分を不甲斐なく思い、守れなかったら神々に面目が立つまいと命を捨てる覚悟までしていたかを語った。 みなが最後に必ず付け加えた言葉は、「二度とヴィルドから離れるな、それを破ったら自由はないものと思え」だった。 それを居心地よく感じるリアリーを、レオスはやれやれと、ヴィルドは仕方あるまいと見逃していたのだが、ラシャクは反省が足りないと再び自分の部屋へと連れ込み、リアリーがヘトヘトになって心神喪失寸前まで説教で追い込み、二度と離れないという宣誓書をわざわざ書かせたのだ。魔法で二重三重と補強し、それを破ることはできないように、リアリーの体がラシャクという存在に縛られることにもなり、事実上では半径三十メートル圏内から離れることができないようになった。 そのような束縛を嬉しく思うリアリーは、エルフの中では人間らしい性格に育ってしまったのだろう。エルフの社会で閉塞感を覚えたのも無理はないのかもしれない。 いっぽう、事件が終わりひとまず心地がついたヴィルドは、リアリーとラシャクに翌日には発つことと、そして二人も同行する旨を伝えた。 「本当っ? やっとあたいも、ヴィルドさんと一緒に旅に出れるんだね!」 「勘違いすんな。お前が『破れぬ誓い』を勝手に結んだせいで、リアリーを連れてくことができないんだろうが」 「まあ、あたいがいないと、ヴィルドさんがリアリーを襲ったりするかもしれないし……ねぇ、リアリー?」 リアリーは赤面し、顔の前で手の平を振って慌てる。 「わ、わ、わた、私、そそそそんなこと言われても困りますっ。――ってか、なんでそんなたた楽しそうなんですかラシャクさん!?」 「だって、リアリーが可愛いんだもん。食べちゃいたい」 「ふ、ふざけないでください――ッ!」 耳まで真っ赤になるリアリーに、ヴィルドまでもが吹き出した。 「はははっ。まあ、今日はしっかり寝とけよ、二人とも。明日からは大変だからなっ」 笑いながら、女子二人を布団へと促す。ラシャクとリアリーはおとなしくそれに従った。 「おやすみ、あたいのリアリー」 「わ、私はいつ、ラシャクさんのものになったんですかッ?」慌てるリアリー。 「あははっ。冗談だって、ジョーダン。おやすみ、また明日っ」 「びっくりさせないでくださいよッ。おやすみなさいッッ」 お互いに寝る前の挨拶をして、彼女らは布団へと向かった。
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名前 交換必要数 精霊の雫 * 光る緑蜜 * 尖魚の背油 * 遊花の露 * 蒼色の涙 * 濃厚な樹液 ** 水晶の欠片 ** 漆黒の軟金 ** 虹の水羽 ** 瞬く黒曜石 ** 錆びた合金 15 機械片 20 黒雲の雫 10 紫紺の木片 15 冷酷な心 20 純粋な心 11 不適な心 15 博愛な心 6 ドリンク系 ドロップ系 紫紺の木片はカイゼルの左にある赤い森の黄色っぽい奴(不適な心も落とすっぽい) 純粋はフラスタルゲージの70の1番右の遠隔ロックされてる先の鎌持ってる奴(ロックはラスダンで解除できます) 冷酷は記憶の神がいたダンジョンのドアがいっぱいあるところのトラップのドアの奴 博愛はレブの祭壇から行った先の大砲のような武器がついてる奴 水羽は空のでかい奴(HP,MP15%UPのアクセサリ落とす) 漆黒はラスダンにいるだれか(結構落とす) 錆びた合金と黒雲の雫はレジベルト 水晶は純粋落とす奴がいる所の、水晶がついた敵 濃密な樹液?違ったらすいません名も無き島?の花みたいなやつだったかもしれません 機械片は、神の祭壇ⅩのEDGI=ZA機がドロップします ■水と風の庭園 神殿内部001 グルガン 冷酷な心or勇気の志 ■神の祭壇 Ⅹゲート EDGI=ZA ヒールピースor機械片 神殿内部 テル 博愛な心 ■フラスタルゲージ B70F-001 メルキス 純粋な心 ■レム・ヴァニア・アグニナ オゴール 紫紺の木片 バラジット 不適な心 ■グレイヴェインの墓 レジベルトライン EDGI=OKS 錆びた合金 ロッカヴァルセ 星はすべてor黒雲の雫 ■ログ・セルシウス ヂューバル 濃厚な樹液 ■名もなき島 タルカセクト 濃厚な樹液 パワードロップ必要素材 ■フラスタルゲージ B70F-001 ボゲーノ 水晶の欠片 バイタルドロップ必要素材 ■ログ・セルシウス EDGI=B 漆黒の軟金 ■名もなき島 シャラニナ 漆黒の軟金 マジカルドロップ必要素材 ■ログ・セルシウス ラファタク ヒールピースor瞬く黒曜石 スピードドロップ必要素材 ■空 ラヴィレンス ラヴィレンスor虹の水羽 ■フラスタルゲージ B70F-001 ゼブルガン 精霊の雫 ■グレイヴェインの墓 レジベルトライン モグスロア 精霊の雫 パワードリンク必要素材 ■水と風の庭園 鍾乳洞B1 デグラバ ヒールピースor光る緑蜜 バイタルドリンク必要素材 ■神の祭壇 Ⅹゲート ペルビタ 尖魚の背油 マジカルドリンク必要素材 ■空 ワイバルジア 遊花の露 スピードドリンク必要素材 ■名もなき島 レーバ 蒼色の涙
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血の雨に打たれる中――鬼神が神風の如く暴れまわった――それは、人が見えるものではない――だが、見てよいものとはまた別のものであった――その変わり果てた形相の鬼神は、幼女の札が指先に触れた瞬間、容赦なく札を奪い取った―― ――鬼神は、ダイゴであった―― ダイゴは、金のことになると、鬼畜の神の如く豹変するのであった! そして、万札の雨をふんだんに浴びて、一枚残らず抱きしめました。 幼女は泣きそうになりました。しかし、ちょっとは大人になったと自覚しているのか、必死で泣くのを堪えようとしていました。作者、こういうの大好きです。 「お譲ちゃん。」 声をかけたのは、福田でした。福田はしゃがみこみ、幼女と同じ目線を保ちました。 「いいですか――あなたには素質がある。これに書いてある住所に行けば、モーニング娘。に入団することができますよ?私が推薦します――。」 そうやって、尻をベタベタと触りながら福田は言いました。満面の笑みでした。 幼女は、そんな猿めのことなど忘れるくらい、すごいことだと思いました。 幼女が住所のもとにかけていく後姿を見て、福田は、 「フフ…彼女の未来が楽しみです。」 と静かにほほ笑みました。黒人が涙を流す…「しばしの別れですよ…」と福田は黒人の肩を叩く―― 森に平和が戻りました。 瀕死になったお父さんを、みんなは忘れていました。 お父さんはふらふらと棒以下になった枝にも見えないその足を左右に泥酔したようにのたれました。そして、犬がだんだん森のほうに近づいていく。 そして、福田はようやく、その犬に気づいたのでした。 「フタエノキワミアーッ!その犬を森の中に入れてはいけません!!!」 犬の近場にいた、金を抱き抱え一枚一枚計算しているダイゴは、その言葉を聞き取りましたが、無視しました。 黒人はなぜ森に入ってはならないのか、頭に「?」を浮かべましたが、それでもとりあえず走ってお父さんを止めようとしました。 ――時既に遅し。 犬は森の茂みに入ってしまいました。 そして、チャッチャラチャ~ン♪という携帯のような音が聞こえ始める―― 辺りは暗くなり、雷鳴が冴えわたり始め、濃い真黒な雲が押し寄せてきました。 今までとは歪すぎる威圧感がこみ上げる。 「ああ…エンカウントをとってしまった…」 絶望する福田―― 「…オ母サン…?」 黒人が凍った汗を流す―― 黒く紫の雷雲が立ち込め、辺りの木々がざわめき、森の動物たちは巣に逃げ隠れしました。 風が強い…そして、とんでもない威圧感が一歩…また一歩と近づいてきました。 「僕ハ、オ父サン位、スゴク、気ガ読メル人デハ無イデスケド… ココマデ、近ヅイテ来ルト、分カリマス…。」 カタコトは、非常に読みづらいです。頑張って読んでください。 「私は、気は読むことができませんが、おそらく、そうなのでしょう…あなたのお父さんを森の中に入れると、強い者同士が呼応しあって…猛者が出やすくなります…いやはや困ったものです…」 黒人と福田は絶望しました。 ダイゴはようやく万札を数え終わり、福田の家に不法侵入し、トラベルバッグを窃盗し、現ナマを詰め込みました。生々しい血がベットリとついたまま。 鈍いダイゴが、ようやく事態に気付きました。 一雨来そうだと… 「福田さん、そろそろ、雨くるっすよ!家で、現金の山分けの話でもしましょうよ!」 と、ダイゴは親指と人差し指で「マネー取引のしぐさ」をしました。 「今はそれどころじゃないようです…」 福田が恐れをなしてきていました。 「くっ…この威圧感ですら、まだ500メートル切ってないんですか…困ったものです…」 福田は広い額に指をあてて先を見続けようとしました。 「コノ気ハ…!?彩!?ワズカデスガ、彩モ感ジラレマス…」 「彩というのは、娘のことですね…なるほど…あなたのお父さんの心を読んだのですがね、彼は『二つの気』がやってきていると予測していましたが、もう一人は誰か分からなかったようでした…今になって分かるなんて…」 メジャー相手を前にした、楽天イーグルスのような無様な姿…必死に福田と黒人はこの威圧感に耐えようとしました… 「どうしたんすか?」 ダイゴがちょっと病気かげんの二人に能天気に話しかけます。 そして、野原の開けた、道から、陽炎があふれ出す… 2つの影がぼやけて見える… 飛行機が近くで通り過ぎたかのような耳鳴り…押し寄せる、恐怖… 福田と黒人の二人は無限の闇に足をつけてしまい、そこから底なしに沈んでいくような感覚を覚えました。 何もできない―― 彼らはヒシヒシと感じ取りました。 犬は瀕死で森の茂みにのたれています。 そして影は人の形となり、姿を現しました。 人知を超える卓越した恐怖とともに可南子が口を開く… 「彩…行くわよ――」
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簡単にリンク製作の説明をします。 [[もじもじ]] は、wikiページを作ることは、オプション以外で作れることは説明しましたが、 リンクを使うときは、 [[リンク名 URL]] がいいでしょう。 ↑がひとつ増えて になったら、別窓で開くようになります。 URLのリンク名を入れておけば、誰だって見やすいでしょう! @wikiモードの鎖のような形をしたボタンを押せば楽に出せます。
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例えば 映画のような悪役が いたとしよう 君は僕がHEROになると 思っただろうか 違う きっと僕は 正義感溢れる誰かが 名乗り出るのを待って いるだけの男だ だって、怖いじゃないか 君を置いて先にいくのは そりゃ怖いよ 君の涙を拭けなくなるなんて でも ただ一人、君の為なら ヒーローになりたい 例え、傷ついても 君がいるなら勝てそうな気さえする でも、やっぱり 怖いから エキストラがいい 誰かが戦ってる最中 僕は君をつれて必死になって 逃げる役 君の一番近くで君を守れる役 まぁ…例えば、の話しだけれど 君だけのヒーローでいたいのは そんな男の小さな願い
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心の傷を負って 誰を信じていいかわからなかった 消えてしまいたい そんな時に 目の前に現れたのが あなただった 毎日 なにもいわず ただ黙って私の前で 歌をうたうだけ なのに 不思議と癒されてた “天使の歌” そう思った 今はもう あなたも消えてしまって 遠い過去の思い出 だけど 忘れない
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手にした鉄の塊が 恋したのは貴方の胸元 確実に 正確に その瞳は一直線に 最速で 滑走 誰に宛てたモノだっけな この決意は 音速で 疾走 その事実さえ疑う余地も無く そういう場所だろう 光速で 錯綜 手に残るのは冷たい反動 知らない 知らない 何も その決意掲げ 高らかに 誰の為に 何の為に たった一本の指先で 神になったつもり 決意は守るためかい 決意は傷つけるためかい 今さら狂言 その胸元に 誰かが恋をする 数え切れない想いを宛てて 受け取る他 無いだろう 此処はそういう場所
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oyajimoe様の詩の板です。 人間ってやつは ムービィスター 王子様探し