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戻る マジシャン ザ ルイズ 進む マジシャン ザ ルイズ 3章 (27)円卓 「当諮問会での発言は議長である私か、副議長であるマザリーニ枢機卿の許可が必要となります。 それ以外の口述は発言として認められません、これに従わない場合は私の権限において退室を命じる場合があります。また、偽証を行った場合には王権への反逆罪に問われることもあります」 張りのある、女王アンリエッタの声が円卓の間に響き渡る。 ルイズは学院でのクラス会の様子をふと思い浮かべたが、今が女王陛下の御前であることを思い出し、その考えを振り払った。 議長であるアンリエッタの説明は、発言の仕方に始まり、退室命令・王権反逆罪に類する罰則規定の解説、諮問会で知り得た情報は参加者同士での共有は許されるが、それ以外の人間に伝える場合は国王の許可を必要とする守秘義務の解説に及んだ。 長々と続く単調な説明に、ギーシュとモンモランシーが眠くなってはいないかと心配になりルイズは二人の顔色をうかがったが、どうやらその心配は杞憂であったようだ。 二人はかちこちに緊張して、真剣な顔つきでアンリエッタの言葉一つ一つに対して律儀に頷いている。 今度は本当に言っていることが頭に入っているのかが心配になったが、流石にそこまで馬鹿じゃないはず、とルイズは思うことにした。 そうして暫く後、女王の説明が終わったのを見計らったマザリーニが、会を次の手順へ進ませるべく発言を行った。 「それではまず、順に名を述べ身分を明らかにし、この当会への招集を受けた理由を述べてください」 そう言ってマザリーニは、自分の右に座るエレオノールにその骨張った手のひらを向けて、自己紹介を促した。 「エレオノール・アルベルティーヌ・ル・ブラン・ド・ラ・ブロワ・ド・ラ・ヴァリエールと申します。 身分はトリステイン王立魔法研究所主任研究員ですが、本日は所長が急病とのことですので、その名代として参りました。 若輩者故、いたらぬ点もあるかと思いますが、どうか皆様、よろしくお願いいたします」 促され立ち上がったエレオノールの、見事な挨拶。 先陣をきる者としての貫禄は十分。物怖じせずに堂々とした、正に完璧な形の自己紹介。 自分の姉の完璧さを毎度のことながら確認し、ルイズは誇らしい反面で、自分とのあまりの違いに劣等感を感じずにはいられなかった。 しかし感じたのはそれだけではない、この姉の挨拶に関してルイズには一点気にかかる部分があった。 いくら所長の名代とはいえ、一研究員の立場であるエレオノールが、なぜこの場に出席することになったのか、その部分がルイズの中で腑に落ちなかったのである。 まあ、もっともこれは事情を詮索するためルイズの父であるヴァリエール公爵が根回しを行い、その結果としてエレオノールが送り込まれた為だったのだが、 この事実を知っているのは当のエレオノールとアンリエッタ、それにマザリーニだけであったので、ルイズがそれに思い至ることのができなかったのは当然のことである。 挨拶は順に右へと続いていく。 エレオノールが着席すると、次はその右席についていたモット伯爵が立ち上がった。 「ジュール・ド・モットと申します。王宮よりトリステイン魔法学院への勅使の役目を仰せつかっております。 この度は先の戦役で私が見聞きしたことを報告するようにと、マザリーニ枢機卿から招致を受けてこの場に立っております。 どうぞ皆様、よろしくお願いします」 そう言って長身の体を窮屈そうに曲げて一礼するモット伯爵。 彼がその顔が上がったとき、偶然にもモット伯とルイズと目が合った。 そして白い歯を見せ笑顔を見せたモット伯爵に、ルイズは怪訝な顔をするばかりであった。 モット伯爵が着席すると、次に立ち上がったのは長身の女性。 今は上等そうな白いシルクのドレスを身に纏い、上品そうに微笑んでいる――土くれのフーケ。 この諮問会において最も場違いな人間がいるとすれば、間違いなく彼女であろう。 当然参加者達の視線が一斉に彼女に向いた。 彼らの視線を集めながら、フーケはゆっくりと立ち上がり、何とも軽やかな一礼をして見せた。 その一礼に、参加者の誰もが目を奪われた。 気品と美しさが織り混ざった見事な一礼、エレオノールのそれが完璧な作法であったとするならば、フーケのそれは見た者を引きつけずにはいられない洗練された芸術のようであった。 「皆様お初にお目にかかります。わたくしはマチルダ・オブ・サウスゴータ、今は無きアルビオン領サウスゴータ太守の長女にございます。 現在は諸国を旅する旅人として渡り鳥のような生活をしております」 この説明を聞いて、ルイズは口をまん丸に開けて驚いた。 始祖に誓ったその舌の根も乾かぬうちに、彼女は堂々と自分はこの場にいる人間とは初対面だと言い切ったのだ。 そして更に、城下を騒がせた盗賊であることを伏せてアルビオンの貴族だと名乗り、その身分は旅人であると言ったのである。 「なっ……何よそ、むぎゅぅ!」 それは、とフーケの嘘を追求しようとしたルイズの口元に、さっとタバサの手が伸びてそれを塞いでいた。 「今は……」 普段以上に小さな声でそう囁くタバサ、その言葉にルイズも渋々と従った。 ルイズ達がそうしている間にも、フーケの言葉は続いていた。 そしてそれは、ますますルイズ達を驚かせる内容であった。 「わたくしはこの場にオールド・オスマン、及びミスタ・ウルザの質問に答えるようにと、王宮の招致を受けてこの場に立っております。 ですがその前に、事前の取り決めであった、わたくしが犯してしまいました無許可での国境越えその他に関する、今現在全ての罪状に対する免責を書面にして頂きたく思います」 再び口をあんぐりと開けるルイズ。貴族の子女としては大変見苦しい姿であったが、試しに横を向いてみたところ、ギーシュとモンモランシーも同じ顔をしているところだった。 全面的な免責要求。 よくもぬけぬけと言ったものである。フーケはこれまで行った全ての犯罪行為に対する免責を要求し、しかもその代表を『無断での国境越え』などというどうでもいいもので隠してみせたのだ。 このような無茶な要求を姫殿下、いや、女王陛下がお許しになるはずがない。そんな期待を込めてルイズは、自分が敬愛してやまないアンリエッタへ期待の眼差しを送った。 けれど、その彼女が次に口にした返答は、ルイズを更に困惑させるものであった。 「それは今この場で書面にしなくてはなりませんか?」 免責への同意。 今度こそ大きく開いた口が閉じない。口から涎が垂れる直前に、タバサがとっさに閉じてくれたので事なきは得たが、そうでなければ危なかった。 「はい女王陛下。先に書面にして頂きたく思います」 アンリエッタが諦めたようなため息を一つ吐く。 慣例に則るならトリステインにおいては、今回のような場合には事後に非公式の場で取引を交わし、免責書類を発行するのが常であった。 それを自動筆記によって記録されている場で、女王が犯罪者との取引を行ったという事実を公然と言い放ってみせる胆力は見事と言わざるを得ない。 なるほど、そう考えればこの盗賊が計算高さと度胸の良さを兼ね備えた油断ならない相手であることがアンリエッタにも知れた。 とるに足らない犯罪者を相手にするのではなく、対等の取引相手としてまず認めろと彼女が言いたいのだろうということも理解した。 しかし、仮にも王国の面子に泥を塗ったのである、それだけの危険を犯すに足る自信はどこから来ているのか。 アンリエッタは国を率いる王として、彼女の手の中で未だ伏せたままになっているそのカードに、強く興味をひかれた。 「マザリーニ枢機卿、書類の準備をお願いします」 「……ただいま用意致します」 そもそも諮問に対して今回のような大きな取引が行われることは先例が無い。 すでにそこからして例外づくしであったのだが、これは国の存続に関わる大事の最中、どの様な条件を呑んででも彼女の知っていることを吐き出させることが最優先であるという、女王アンリエッタの非常時の判断であった。 彼女のそんな姿勢を、この場に出席していない最高法院の人間が知ったらどんなことを言い出すか……、マザリーニは後の処理を考えて小さく嘆息し、書類にサインを走らせた。 「こちらが免責書類となります」 そう言ってマザリーニ枢機卿が差し出した書類を受け取ったアンリエッタは。素早くその書面の中身に目を通すと末尾にサインをし、最後に王家の紋章を押印した。 そうして出来上がった公式書類を受け取ったマザリーニは、今度はフーケの前まで歩いて持っていき、それを彼女に手渡した。 手元の書類に視線を落とし、じっくりと確認するフーケ。全てに目を通し終わったとき、その口元が笑みが形作られていた。 「はい、これで結構です。これでわたくしはお望み通りに、知っていることを何でもお話し致しますわ」 書類を手にしたフーケが着席し、次はその右席に座るウルザの番となる。 杖を手にしたウルザが立ち上がろうとすると、それを制して先に立ち上がるものがあった。 アンリエッタ女王の左席、つまり順番からすれば王宮の関係者以外では最後に起立するはずのオールド・オスマンである。 「皆様、トリステイン魔法学院学院長オスマンです。 これからミスタ・ウルザが挨拶をするにあたり、皆様には事前にいくつか聞いておいて頂きたいことがございます。 それは彼が語ることは宣誓した通りに真実であり、また、その詳細についてはこの先の諮問によって明らかにされるものであるということであります。 どうか静粛に、発言は陛下の許可を頂いてからお願いいたします」 オスマンがアンリエッタとマザリーニの二人へと目配せをすると、最初からの取り決めであったのだろう、二人は頷いてこれを返した。 うやうやしくかしこまった口調のオールド・オスマン、ルイズはこの老人がこんなしゃべり方をするのを初めて耳にした。 オスマンの着席を見計らって、再びマザリーニがウルザに起立を促した。 それに従って、ウルザはゆっくり立ち上がると、深く頭を垂れて礼の姿勢を取った。 その仕草はエレオノールやフーケのそれとは全く違う、まるで機械のような完璧さと正確さを持った人間味の感じられない異質な姿であったが、慣れたルイズからすればむしろそれこそが彼の自然体であることが知れた。 そして口を開いたウルザは、自身の紹介と事実とを簡潔に口にした。 「私はウルザ。ミス・ヴァリエールに使い魔として召喚された、系統魔法ならざる魔法を識る者であります。 この場にはオールド・オスマンと王宮の招致を受けて立っております」 口調だけは丁寧に、けれどその声色は硬質かつ厳格に。 何もかも普段通りのウルザの言葉であった。 ルイズからすれば既に知っている事柄、何も驚くことはない。 しかし、そうではない者が多数いる円卓の間は、当然のことながらその言葉に大きくざわついた。 ハルケギニアにおいて系統魔法ではない魔法、そこから連想されるものは魔獣やエルフ達が扱う先住の魔法である。 事情を知らされぬ者達が、畏怖と恐怖の対象であるそれに帰結して、心穏やかにいられなかったのも無理もないことであった。 女王の御前という特別な場で、どの様な態度をとって良いか分からずに、ただ動揺だけが広がっていく。 そして、 騒雑を呼んだのがウルザの発言であったならば、 「皆さん、静粛にお願いします」 それを沈めたのはアンリエッタであった。 「先のオールド・オスマンの発言の通り、詳細は後の諮問によって明かされます。今は静粛にお願いします」 必要以上を口に出さないアンリエッタの制止に、参加者全員が一斉に口を閉じた。 それが女王としての才覚か、それとも女王という権威のなせる技かは当のアンリエッタにも分からなかったが、これ幸いとマザリーニは次の発言者に起立を促した。 「わ、私はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール……」 そこからは順調な、というよりフーケ、ウルザと続いた流れからすると気が抜けたように感じる挨拶が続いた。 ルイズ、ギーシュ、モンモランシー、コルベールが順番に挨拶を済ませ、その場で見聞きしたものを証言するように呼ばれた旨を発言した。 唯一、オスマンだけは今回の騒動を諮問する側として呼ばれたことを話し、この後の諮問にあたってはオスマンが質問し、それに答える形で進められることを説明した。 「それでは質問します、ミズ・サウスゴータ。よろしいかな?」 力強いオスマンの声が、円卓の間に響く。 途中五分の休憩を挟んだ後、諮問会が再開された。 円卓を挟んで向かい合って起立しているのは一組の男女、オスマンとマチルダ。 両者はかつてこうして何度も学院の院長室で言葉を交えたことを思い出しながら挨拶を済ませ、本題へと入った。 「ミズ・サウスゴータ、事前に取らせて頂いた調書によれば、あなたは神聖アルビオン共和国樹立時からその中枢に近い立場にいたとのことですが、間違いはありませんな?」 「ええ、その通りです」 「そして亡命を希望し、ここトリステイン王国へ渡ったと。これもよろしいかな?」 「ええ、間違いありません」 あくまで自分は元アルビオン貴族マチルダ・オブ・サウスゴータであり、王家への恨みを晴らすためにレコンキスタに参加したが、やがてその思想について行けなくなり先の戦役の直前に逃亡、現在はトリステイン王国に亡命を希望している、これがフーケの立てた筋書であった。 オスマンは彼女の側からこの前提を崩すつもりが無いことを確認して、質問を続けることにした。 「それでは、神聖アルビオン共和国についていくつかお聞かせ願いたい。まず神聖皇帝、国の最高指導者の立場にあるものは、オリヴァー・クロムウェル司教である、このことに間違いはありませんかな?」 「いいえ、違いますわ」 「おお! 違うと申されますか!」 悠然と微笑んで答えるフーケ、それを聞いて大仰に驚くオスマン。 事情を知るルイズ達からすれば実に猿芝居この上ないのだが、エレオノールをはじめとする事情を知らぬ参加者達は二人のやりとりに引き込まれているようだった。 「はい。アルビオンは現在クロムウェル司教の統率下になく、実質的に国を支配しているのは別の者ですわ」 「ほほう! それではミズ・マチルダ、我が国を脅かしておるアルビオンの、その本当の支配者とはどの様な名なのかをお聞かせ願いたい」 そのオスマンの声を聞き、少し困ったような表情を見せるマチルダ。 左手を口元に持っていき、右手の人差し指でこつこつと机を叩く、そうして溜めを作ってから、彼女は何か恐ろしいことを口にしようとしているように唇をか細く震わせた。 フーケの本性を知るルイズからすれば、それは演出過剰気味な仕草であったのだが、その場に居合わせなかったコルベールやギーシュ、そもそも事情を知らぬモット伯爵などは何か感じ入るところがあったようである。 「男って単純ね」 誰にも聞こえないように小さく呟いたルイズの声に、隣に座るタバサだけが律儀に頷いていた。 「ミズ・サウスゴータ、お聞かせ願いたい」 「ええ、ええ! オールド・オスマン! わたくし決心がつきましたわ。やはりわたくしは彼の名をこの場で明らかにせねばなりません。例えどれほどに恐ろしいことであっても、この場でそれを明らかにすることこそが、始祖ブリミルが私に課した定めなのでありましょう!」 感極まったようにその名を告げようとするマチルダに、事情を知らぬ男達は引き込まれ、一方でルイズやアンリエッタは冷めた眼差しで彼女を見ていた。 円卓の上では、自動筆記のペンだけが二人のやりとりを記録している。 「彼の名前はジャン・ジャック・ド・ワルド! 元トリステイン魔法衛士隊隊長、ワルド子爵でございます!」 ワルド子爵、栄えある魔法衛士隊のグリフォン隊、その元隊長が裏切り者であったことは参加者のうちにも周知の事実として知らしめられていた。 だが、マチルダの口から出たところによれば、彼は裏切り者であるだけではなく、今やトリステインを滅ぼそうとしている侵略国アルビオンの支配者にのし上がっているのだという。 流石にこのことはアンリエッタも知らないことであったのか、驚きに手で口元を隠している。 そして更に大きく衝撃を受けていたのはエレオノールであった。 ルイズの婚約者であるワルド子爵のことを当然エレオノールは知っていた。 親同士が戯れに決めたことであっても、以前のルイズが彼にあこがれのような感情を抱いていたことをエレオノールも知ってはいたし、何よりも自分も知る人間が、このように大きな騒動の中心にいるとは思っていなかったのである。 泣き虫な妹を心配し、そちらを見やるエレオノール。 そしてこのとき、偶然にも目線を泳がせていたルイズと、エレオノールの視線が交差した。 けれど、ルイズの瞳にはエレオノールが想像していたような動揺の色はなかった。このことを一瞬怪訝に思ったエレオノールだったが、ルイズの方から視線を外した為、彼女自身もそれ以上を考えることはしなかった。 関係者達の様々な思惑が交錯する間も、オスマンとマチルダのやりとりは続いていた。 「ワルド子爵がどの様な手段を用いて、アルビオンを支配したのかは気になる部分ですが、そちらは後にまわして、今はお二人がどの様な関係かを先にお聞かせ願えますかな?」 「……わたくしとワルド子爵は、情を通わせた仲でありました……」 それからフーケが口にしたのは、よくぞこれほど次から次へと嘘が並べられると、ルイズが呆れかえるってしまうような内容であった。 フーケはまず、自分とワルドが恋仲であったことを話し、そして彼に利用され悪事を働いてしまったと涙混じりに告白した。 全ての罪はワルドにあり、自分は利用されただけの哀れな女、悲劇のヒロインであったことを訴えたのである。 彼女の言う『悪事』の中には学院で盗みを働こうとしたことなども含まれているのだろうが、それすらもワルドに利用されてのことだと言うのだろう。 これだけの嘘を並べて矛盾やよどみを感じさせないのは、盗賊や貴族より、むしろ役者に向いているのではないかと、ルイズは思わずにはいられなかった。 役者と政治家というのは本質の部分でよく似ているんじゃないかしら。 ―――ルイズ 戻る マジシャン ザ ルイズ 進む
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その日、トリステイン魔法学院新2年生のルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールはペンギンみたいな、でもどこかぬいぐるみのように作り物じみた生き物を召喚した。 それもけっこうたくさん。 彼らはどうやら『プリニー』と呼ばれる種族らしい。 曰く、元は人間である。 曰く、罪を犯して死んだ魂が中に入っている 曰く、罪を償うために働いてお金を貯めないといけない 曰く、投げると爆発する 曰く、曰く、曰く…… 色々と話を聞いたものの、どうにもルイズにはピンとこない。 というかそもそも、そんな与太話としか思えないような話を信じられるわけが無かった。 「とりあえずそんなことはどうでもいいから使い魔として働きなさい!」 「お給料くれるんならイイっスよー」 なんとものんきな返事であった。 * かくして、ルイズとプリニーたちの新しい生活が始まった。 「服。着替えさせて。そこの一番下の引き出し」 「あ、これッスね。どうぞッス」カシャ 「下着の色は白とピンクとベージュ。どれがイイっスか」カシャ 「そうね、今日はちょっと気分を変えて水色にしましょう」 「ルイズさまー。このブラウスほつれてるッスー。替えはどこッスかー?」カシャ 「あら?そっちのクローゼットに入ってない?」 「あ、コレっスねー」カシャ 「……ねぇ、さっきからなんか変な音しない?」 「「「なんのことッスかー?」」」 後日、男子生徒の間で着替え途中のルイズを鮮明に描いた絵姿が出回り、主犯である水棲鳥類っぽいものたちと、絵姿を購入した男連中がまとめて爆砕されるという事件がおきるもそれはともかく。 この頃からルイズの日常はだんだんと波乱万丈なものへと変わっていった。 二股を掛けた男子生徒をプリニーどもが総掛かりで袋叩きにしてみたり。 学院を襲撃した怪盗『土くれのフーケ』が作り出した30メイルにも及ぶゴーレムにプリニーをぶん投げて爆砕してみたり。 反乱軍レコン・キスタに壊滅させられそうな王党軍へと大使として派遣されたアルビオンにて、こっそりトリステイン王国を裏切っていたワルド子爵とウェールズ皇太子が壮絶な相討ちを繰り広げたり。 タルブ村周辺に進軍してきたレコン・キスタ軍(このころになると神聖アルビオン帝国と名乗っていた)と戦うため、タルブ村にあった竜の羽衣(プリニーの1匹、グラフィアカーネは「何でこんな所にネーベルヴィントがあるッスか!?」と騒いでいた)に乗り込み、上空で始祖の祈祷書から会得した虚無の系統魔法『エクスプロージョン』を放って戦艦の群れを薙ぎ払ってみたり…… たまには辛いことが起こったり、戦争に巻き込まれたりしつつもルイズとプリニーたちはのんびりかつちょっぴりスリリングな毎日を送っていた。 しかし……。 * それは、ルイズの幼馴染にしてトリステインの女王、アンリエッタが何者かによって王宮より誘拐された事件において。 邪悪な水の先住魔法によって操られるアンリエッタのかつての恋人、ウェールズの遺体を新たな虚無魔法『ディスペル』によって取り戻し、赤い月が昇るラグドリアン湖畔に水葬しようとしたときのこと。 「……ああ、もうそんな時期ッスかー……」 「……サウレ?どうしたの?」 「ルイズさま、今までお世話になりましたッス。どうやらお迎えが来たようッス」 「……え?」 ふと気づけば湖面に立つ怪しい人影。 『彼』をプリニーたちは『死神』と呼んだ。贖罪を終えたプリニーたちを新しい『始まり』へと連れてゆく、水先案内人だと。 「や、ちょ、待って!待ってよ!?どうして!?どうして行っちゃうの!?いいじゃない、いいじゃないのよ!ここにいれば!いなさいよ!アンタ、私の使い魔でしょう、勝手にどっかに行って良いわけ無いでしょう!?こら、光るな!浮かぶな!降りてきなさい!いいいいいい加減にしないとふふっふふ、ふ、ふっ飛ばすわよ!」 杖を振り上げ、呪文を詠唱するルイズをそっと抑える残りのプリニー。 「や、コラ!離せ!離しなさいよ!」 「やー、そんな熱心に引きとめてくれるのは嬉しいんッスけどねー」 「でもね、ルイズさまー。コレばっかりはどうしようもないんスよー」 やんわりと、しかし、はっきりとした態度で。プリニーたちは言う。 もう、サウレはここに留まってはいられないのだと。 普段はいい加減で、てきとーで、怠け者な彼ら。その彼らが初めて真面目な表情で。でもどこかうつろな瞳で。 だから、ルイズも理解した。理解せざるをえなかった。 「……ねえ、どうしても?どうしても、行かなくちゃいけないの?」 「ごめんなさいッス、ルイズさまー。みんなー、あと任せてイイっスかー?」 「しょーがないッスねー」 「メンドくさいッスけどー」 「こら、ご主人様のことをしょーがないとかメンドくさいとか言うんじゃないわよ……バカぁ……」 「や、すんませんッス。……ね、ルイズさま。オレにはこんなモンしか残してあげられないッスけど……。 がんばって、くださいッス」 そうして、サウレの体を包んでいたうすぼんやりとした光が天に輝く赤い月へと昇っていったあとには まるで中身を抜かれたぬいぐるみのようぺしゃんこになった、プリニーの皮だけが残されていた。 * それから。 事件が起こるたびに1匹、また1匹と櫛の歯が抜け落ちるようにプリニーたちは天に召されていった。 最後まで残っていた1匹、エポナも戦争で七万もの大軍を足止めするために殿としてアルビオン大陸に残り……。 トリステイン軍の撤退が完了した直後に赤い月が昇ったから、召されていったのだろう。 そうして、ルイズの傍にあれだけたくさんいたプリニーたちは1匹もいなくなってしまった。 サウレが残した皮を加工し、仕立て上げたフード付きマントを羽織ったルイズは「これでうるさいのがいなくなってせいせいしたわ!」と普段と変わりないように振舞っていたが、やはりどこか寂しげだった。 そんなルイズの感傷などお構いなしに世の中は動いていく。 ルイズと同じ虚無の担い手であり、ハルケギニア随一の大国を支配する王、ジョゼフ。 かの王の命により、北花壇騎士タバサがルイズを攫いに襲いかかってきたのだ。 * 「まてぃっ!」 トライアングルメイジたる雪風のタバサとジョゼフ王の使い魔、ミョズニトニルンのシェフィールド。 そしてシェフィールドが操るスキルニル部隊。 彼女たちによって追い詰められたルイズは苦し紛れに再びサモン・サーヴァントを唱えていた。 進級試験の時と同じように現れた、光り輝くゲート。 そこから飛び出してきたのは……。 「……プリニー?でも、色が違う……」 姿かたちは間違いなくプリニー。 しかし、ルイズが知っているプリニーは皆青かった。だが新たに現れた2匹は片方は薄い緑色、片方は黄土色をしていた。 その片割れが声を張り上げる 「かつての恩を返すため!」 「いやー、僕はそうでもないんだが」 「この身を異形の姿に変えて!」 「全力で不本意だけどね?」 「ミス・ヴァリエールの危機にはせ参じる!」 「なあ、何でそんなに熱血してるんだ?」 「プリニーウェールズ!」 「あ、プリニーワルドだ」 「ふたりはプリニー!!」 「なあ、やっぱこれ恥ずかしいって。ほら、みんな唖然としてるじゃないか」 どうやら、ルイズの知っている二人のようだった。 * 「ええぃっ、かかれスキルニル!」 「おっと、流石に数が多いな。ひい、ふう、みい…ざっと7・8体といったところか?」 「一応、失敗魔法で3体は仕留めたんですけどね」 「ほほぅ、それはそれは。やるようになったじゃないか、ルイズ。 ……うん、そうなると僕も成長した所を見せないとね」 土を蹴り上げて襲ってくるスキルニル部隊。 数を減らしたとはいえ、またタバサをプリニーウェールズが抑えているとはいえいまだ数の差は圧倒的と言える。 だがしかし、プリニーワルドはうろたえた様子も無く、まるでこの程度の数は何の障害もならないと言いたげであった。 「さてルイズ。このプリニーという種族の体は特殊な入れ物に人間の魂を詰めた……いわば動くガラス瓶のようなものでね?」 「あの、ワルド様?ちょっとのんびりしすぎじゃ……」 「まあまあ慌てない。最後まで聞きたまえ。ええと、どこまで話したっけ……そうそう、プリニーの体というものは人間に比べてはるかに構造が単純なんだ」 だから、こういうこともできる。 そう締めくくると、プリニーワルドは目にも止まらぬ速さで呪文を詠唱する。まさしく『閃光』のごとく。 そして完成するのは…… 「ユビキタス・デル・ウインデ!」 かつて、ルイズたちをさんざんに翻弄した風のスクウェア・スペル。 それはこの場においても非常に強力な魔法だった。 主に、数的な意味で 「……あのー……」 「ん、なんだいルイズ」 「この数は、流石にやりすぎじゃないでしょうか……?」 「はっはっは、そうかい?」 「やりすぎですよ!なんですか40体って!?」 「いやー、この体偏在が作り易くて」 かくして、40体の偏在プリニーワルドによってスキルニル部隊は袋叩きにされ。 残ったタバサとシェフィールドもプリニーウェールズとプリニーワルドが放ったプリニー族の固有能力『プリニー踊り』によって眠らされるか麻痺させられて捕縛(シェフィールドは毒も喰らっていた)され、ルイズはかろうじて窮地を脱したのであった。 * そうしてラ・ヴァリエール嬢誘拐未遂事件もひと段落つき、ルイズは疑問を2人(というか2匹)に投げかけた。 どうしてそのような姿をしているのか。どうして自分のところにやってきてくれたのか。 前者の答えは簡潔で『罪を犯したから、その贖罪のため』であり、後者の答えは…… 「ま、彼の粋な計らい、というやつさ」 「彼……?」 そう言ってウェールズが指し示す方を見るルイズ。そこには 「……あ、あんた……」 いつかの、ラグドリアン湖畔で初めて出会い、その後も度々顔を会わせた『彼』。 すなわち、『死神』が音も無く佇んでいた。 * かくして、ルイズとプリニーたちの新しい生活が始まった 「魔界戦記ディスガイア」からプリニーを召喚
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戻る マジシャン ザ ルイズ 進む マジシャン ザ ルイズ (3)錬金術の教示 「偉大なる始祖ブリミルと女王陛下よ、今朝もささやかな糧を我に与えたもうたことに感謝します」 食堂での朝食が始まった。 ここは若い少年少女達がその旺盛な食欲を満たし、あるいは共同生活を送る仲間との連帯感を高める場である。 そんな若者達の中、初老の男が一人。 そう、ルイズ・ド・ヴァリエールの使い魔となったメイジ・ウルザである。 本来なら使い魔であるし執事という立場を取らせると決めたのであるから、食事はあとで別に取ってもらうのが筋なのだが、生憎とメイジと使い魔の関係初日のルイズがそのような手配を行っているわけが無かった。 しょうがないので、今日は同席ということになり、今ウルザはルイズの横に座っているのだ。 勿論、少年少女達の中にとあって、周囲からは距離をとられている、かなり。 ゼロのルイズが高位のメイジを召喚したということは、すでに学院中に知れ渡っており、同席した生徒は皆そのメイジがルイズの隣に座っている男だということに気付いていた。 (重い、重いわ…空気が重いわ…) 周りがウルザに身体的にも精神的に距離を取っている為なのだが、隣のルイズにはたまったものではない。 (何か…何か考えなくちゃ……っ!) その時、ルイズはふっと誰かの視線を感じた。 きょろきょろと周りを見回してみると、視線の主は直ぐに見つかった。 長身に、同世代とは思えない発育の良さ、燃えるように赤い髪。 そして、今はその頬も茹で上がったように紅潮している。加えて瞳も潤んでいる。 (ちょっ!ツェルプストー!あんたっ!何で私!そんな趣味はないわよっ!) 昨日から何度目か分からない悪寒を感じで体を震わせた。 しかし、注意深く、かつ相手に気付かれないように視線を追ってみると、微妙に自分が相手では無いことに気付いた。 そう、視線の先は………横にいる男に向けられていた。 キュルケの唇が何事か呟くのが見えた。 当然ながら、ルイズは読唇術も読心術も使えない。 しかし、この時ばかりはキュルケがなんと呟いたのかを明白に理解することが出来た。 ――素敵なおじさま… 食事が終わり、教室へ向かう最中のことである。 「ミス!ミス・ヴァリエール!ミスタ・ウルザ!」 「あ、おはようございます。ミスタ・コルベール」 「おはようございます。ミスタ・コルベール」 禿げ上がった頭の教師、コルベールに声をかけられたのである。 「すみませんが、ミスタ・ウルザの左手のルーン文字を見せて頂きたいのですが」 「私は別に構いませんが…ミスタ・ウルザも構わないかしら?」 「無論。私も異議はありません」 ウルザが左手を出すと、コルベールは素早くメモをとり始めた。 「いやはや、召喚の儀式の後、ずっとこのルーンのことを調べているんだよ」 「え?どうかしたんですか?」 「メイジを召喚したなんて前例が無いからね、おまけに君が召喚したというのも……まあ、兎にも角にも知的好奇心が刺激されてしまってね!」 「ふむふむ、成程。そういうことでしたら今晩ご一緒に分かったことについて報告し合うというのは如何ですかな?」 「おお!?既にご自身で解読がお進みでしたか!?流石ですなミスタ・ウルザ!しかし、こちらはまだ報告するほどには…」 「いやいや、ミスタコルベール、私は貴方の意見が……」 「おおっ!……でしたら……!」 「それは……たい……是非……」 「…っ!……!!」 ルイズは妙に盛り上がる二人を置いて教室に急ぐのであった。 「―――というわけで、皆さんご存知の通り、魔法の四大系統「火」「水」「土」「風」「虚無」、五つの系統がある訳ですが、その中で「土」は万物の組成を司る重要な系統なのです」 今日の授業は赤土のシュヴルーズ教師の錬金の授業である。 なお、使い魔であるメイジは先ほどふらりと教室に入り、今は授業を聞きながら一心不乱にメモを取っている。 (メイジなのに、こんな初歩的な授業を受けて楽しいのかしら?) 「オホンッ!ミス・ヴァリエール!」 「は、はい!」 余所見をしている生徒を当てるのは、どの世界でも共通である。 「では、土の基本魔法を説明してください」 「え、あ、はい…… 『土』の系統の基本魔法は『錬金』です。 金属を作り出したり建物を建てる石を切り出したり、農作物を収穫するなどの生活により関係した魔法が『土』です」 「よろしい、ミス・ヴァリエール、よく出来ました。……では次に、実際に錬金を行ってみます」 そう言うとシュヴルーズは錬金の実技を披露してみせた。 シュヴルーズが呪文を唱えると、教壇の上に置かれた石が輝き、金属へと姿を変えたのだった。 これを見たウルザが「ほお…」と呟くのをルイズは聞いた。 「先生!ゴールドですか!?」キュルケが聞くと 「いいえ、真鍮です。」と応えるシュヴルーズ。 「さて、次は誰かに錬金をやってもらいましょうか……ミス・ヴァリエール!」 「え、はい!」 また自分かという考えを払って姿勢を正す。 「貴女は……随分と変わった使い魔を召喚したそうですね。 どうでしょう?その使い魔の方に錬金の実演をして頂けませんか?」 教室中の生徒がルイズとその使い魔に注目する。 あ、ちょっとこの感じいいかも、とほんの少しだけ抱いたが、それを出さずに、ウルザに声をかける。 「ミスタ・ウルザ、先生の仰るとおりに」 「……分かりました、ミス・ルイズ」 ルイズはウルザが軽くため息をついたのを感じた。 (別に錬金くらい初歩の術じゃない、減るもんじゃないし…そりゃ、私は使えないけど…) ウルザが教壇に立つ。 (さて、このように生徒に囲まれ教壇に立つなど久しいことだ…) さて、目の前には先ほど錬金された石と同じくらいの大きさの石が置かれている。 確かに、ウルザは数々の世界を渡り歩いた魔法使いであるが、初めて接した魔法系統を直ぐに使いこなすような超人ではない。 よって、ハルケギニアの系統魔法を使えるわけが無い。 しかし、今メイジという立場をこの世界で失うのは得策ではない。 ウルザが何事か呟き、呪文が完成して、石が輝く。 そして、石はシュヴルーズ教師が錬金したのと同様に、真鍮へと姿を変えてきた。 「おおおおおお!!」「凄い!」「ルイズの使い魔はスクエアメイジか!」 教室中が喧騒に包まれる。 「こんなものでよろしいかな?」 「ええ、結構です、ええと…ミスタ・ウルザ」 ただ一人、首を捻っていたのはモンモランシーである。 「あ、あれ?今、水の系統魔法を使って、なかっ…た、…わよね。私の勘違いね、きっと」 「さて、次はミス・ヴァリエール。あなたがやって御覧なさい」 「先生!」 キュルケが声を上げる。 「ルイズは危ないです!ゼロのルイズですよ!?」 それを聞いたシュヴルーズが応える。 「ミス・ツェルプストー、貴女は彼女をまだゼロのルイズと呼ぶのですか?彼女の使い魔であるミスタ・ウルザが錬金を成功させたのを見たでしょう。 使い魔が出来て、主人が出来ないなんてことがありますか」 それを聞いてルイズが立ち上がる。 「私、やります!」 ルイズが教壇に立つ、前には先ほどと同様の石が置かれている。 「ふむ、これは興味深い」 ルイズはウルザの魔法が見たいと思っていたが、それはウルザとて同じことである。 プレインズウォーカーである自分を強引に召喚するほどの腕前である、そしてその手による知らぬ魔法体系の呪文、狂人ならずとも魔法使いなら心引かれる演目である。 ルイズが呪文の詠唱を始める。 同時に、一斉に机の下に避難を始める生徒達。 意味を理解出来ないまでも、何処かで見たような既視感を覚える。 ルイズの呪文が完成する。 爆発 なんの防御もしていなかったウルザは爆発に巻き込まれたのだった。 危険に対して敏感なのは、いつだって生徒だ。 ――ウルザ 戻る マジシャン ザ ルイズ 進む
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前ページ次ページルイズと無重力巫女さん 昼頃から始まったアンリエッタ王女によるトリステイン魔法学院の視察は予定通りというか、順調に進んだ。 宝物庫や中庭、食堂や生徒達が暮らす寮塔等を見回っている内に、すっかり日も沈んでしまった。 今回アンリエッタ王女は一晩泊まってから翌日王宮に帰るので、今夜は魔法学院で夜を明かすことになったのである。 その為、警備もかなり強化されている。前に土くれのフーケに忍びは居られたので尚更だ。 今夜の衛士達の警備はいつにも増してかなり厳しいがそれは本塔や生徒達が暮らす寮塔――そして城壁部分だけである。 逆に給士やコックとして働いている平民達の宿舎の警備はほぼゼロである。 金で雇われている学院の衛士達はこんな事を言っていた。 「平民をさらう者が居るとすれば、それは単なる人さらいか、ただの変わり者さ。」 その為今日の仕事を全て終え、明日の仕込みも済ませた彼らは酒を飲み交わしたり外にあるサウナ風呂に行ったりと、割と自由にしていた。 そんな場所から少し離れた草むらの中に、「五右衛門風呂の様な物」が置かれていた。 以前霊夢がマルトーから貰った大釜を使ってこしらえた物である。 その辺りには誰もいなかったがふと上空から霊夢が数枚のタオルと水が入った小さな桶、それと火種と洗濯道具を持ってやってきた。 勿論これらの道具は全てルイズの部屋から拝借してきた物である。 いつもは何か文句を言ってくるのだが、何故か今日のルイズはベッドに座ってボッーとしていた。 まぁその分取るのが楽だったので良しとしよう。 霊夢は着地すると鍋の下に敷いてあるレンガで作ったかまどに最初から入っていた枯れ木に火を付けた。 枯れ木が丁度良い位に乾いていたのか、どんどんと火が勢いを増していく。 やがて火が大きくなるのを見て霊夢は辺りをキョロキョロと見回し、誰もいないのを確認した。 「さてと…。」 確認をし終えると霊夢は首に巻いている黄色いリボンを解き、ソレを足下に置いた。 次ぎに上着に手をかけると思いっきり上へ捲り、真っ白な下着が――― ― ― 少女脱衣中だぜ。覗き見なんかするなよ? ― ― チャポ… 「ふぅ、気持ち良いわねぇ~♪」 服を全て脱ぎ終え、タオルを体に巻いた霊夢は丁度良い湯加減になった自作のお風呂に入っていた。 脱いだ衣類は一度洗濯した後、かまどの近くで乾かしている。 ―洗濯している最中は素肌にタオル一枚といういけない姿であったが…まぁそれは置いておこう ― 「~♪、~♪。」 霊夢はお湯で体を清めながらも段々と気分が良くなっていき、鼻歌も口ずさみ始めた。 片手でお湯をすくうとそれを肩にかけ、そこを軽く擦る。 次に顔、次に背中、と体のあちこちにお湯掛けているとふと左手の甲が視界に入った。 その瞬間、霊夢の脳裏に何日か前に言っていたオスマンという老人の言葉を思い出す。 「ガンダールヴ、伝説の使い魔ねぇ…。」 そうポツリと呟くと目を細め、左手の甲をじっと見つめた。そこにあるのは白い素肌だけだ。 オスマンが言っていた様なルーンなど何処にもない、というよりあったら不愉快だ。 今は幻想郷に帰れる証拠を掴むまでルイズの部屋に居るがあれはあくまでも利害の一致のうえである。 使い魔のルーンがないものの、召喚の儀式で霊夢が現れた限り、余程のことがなければルイズは再召喚が出来ない。 だが霊夢が無事に幻想郷へ帰ればルイズは使い魔を再召喚ができる。 今の扱いも使い魔というより客人に近い扱いであろう。霊夢自身もそれに甘んじている。 満足な食事とちゃんとした寝床。だけど一緒のベッドで寝るというのは癪だが。 ……だけど、もしもルーンなんかがあれば今頃は使い魔扱いにされていたに違いない。 霊夢はそれを考え、お湯につかっているというのに体に寒気が走った。 ルイズはこんな魔法の世界だけではなく幻想郷でもやっていける様な性格の持ち主である。 一体どんな環境で育ってきたのか気になるところだがそこはまぁ別に良いだろう。 素直じゃないうえにかなりのサディスト、しかし以前喧嘩をふっかけてきたギーシュや気軽な性格のキュルケよりかは清楚ではあるが同時にプライドも高い。 もしも使い魔扱いされていたら、今頃霊夢はぶち切れるどころかルイズを懲らしめていただろう。 そして何よりも恐ろしいのが…彼女の放つ魔法 ―つまりは何もない空間を爆発させるモノ― である。 霊夢は一度だけしか喰らっていないがあの爆発は自分が作り出した結界を打ち破ったのだ。 多少の自負はあり、即席ではあったがそれでも博麗の結界は他よりも強力である。 ルーミアやチルノといったクラスの相手の弾幕や攻撃なら十分に耐えうる性能を持っていた…それが一発の爆発で粉砕した。 一体あの力が何なのか良くわからないが…とりあえずは幻想郷へと帰る方法を探し出さなければいけない。 このハルケギニアとかいう世界は貴族やら平民やら色々とゴチャゴチャしたモノが多くて住みにくい。 ―それが幻想郷からこの魔法の世界へ連れてこられた霊夢の第一感想である。 ……最も、そんな事を考えている霊夢本人はお風呂にのんびりと浸かっているのだが。 「早いとこ幻想郷に戻りたいわね…。」 ふと霊夢は一人そう呟いた。 気づけばこのハルケギニアに来てから既に一ヶ月くらいは経過していた。 今頃魔理沙辺りが異変だとか何やら騒いで幻想郷中を飛び回っているに違いない。 そしてまず第一に疑われるのはあのスキマ妖怪―八雲 紫―だと思うがまあそれは仕方のないことだろう。 まぁでも、紫ならば今回のことを説明しつつも結界を維持しながら自分を探しに来てくれるかも知れない… そんな楽観的な考えも持っていた霊夢ではあるが同時にその後も事も考えていた― (だが紫の助けで幻想郷に戻ってきた後、きっと色々と持って行かれそうね。主に食料やお酒なんかを……って、ん?) と、そんな事を考えていると鼻の辺りをむずむずとした感覚が襲ってきた。 何かと思い鼻の下を軽く指で擦ると、指にベットリと赤い血が付いている。 「あ…鼻血でてる…。」 霊夢はまるで他人事のように、ポツリと呟いた。 「はぁ…。」 さて、そんなルイズは自室のベッドに腰掛けため息をついていた。 先程霊夢が幾つかの道具を持って部屋を出て行ったがそれすら彼女は気にしていない。 今ルイズの心の中には羽帽子を被った男―ワルド子爵―の姿が映し出されていた。 すらりと伸びた体、顔には立派な髭、鷹のように鋭い目、マントにはグリフォンの刺繍が施されている。 かつてルイズが子供の頃に知り合い、それからしばらくは会う暇がなかったが今日は久しぶりに会えた。 あの時よりも大分年を取ったかのように見えたがそれでもワルド子爵は美しかった。 同時に、もう一つその子爵に関してのある記憶をルイズは思い出した。 「そうだ…昔私とワルド子爵の父親が…。」 昔、ルイズの父とワルドの父がもっと大きくなったら結婚させようと約束をしていたのだ。 当時のルイズには、結婚というモノは考える暇がなかった。 厳しい母親や長女に追いかけられる日々…それが何時解放されるのかいつも考えていた。 自分の家の筈なのにあの頃の自分は何故か体の良い牢獄のように見えた。 それを今にも時々夢に見てしまい、起きたときには体中が汗まみれだった事もあった。 ――しかし、時には良い夢も見る。 忌まわしい牢獄から、自分を助け出してくれるナイトが現れるのだ。 その夢で自分を牢獄から救い出してくれるのは…当時、十六歳だったワルド子爵である。 ルイズはその時の夢を思い出すかのように、ゆっくりとベッドに倒れ込むと目を閉じた。 ―――イズ!ルイズ!お説教はまだ終わっていませんよ!!」 屋内だというのに、声を荒げて自分の名を叫ぶのはルイズの母。だれよりも規律を重んじる人。 ルイズでも頭が上がらない長女ですらも縮こまってしまう程である。 そんな厳しい母親は廊下を歩きながらルイズの姿を捜していた。 「はぁっ…!はぁっ…!」 そして夢の中では六歳であるルイズは今にも泣きそうな表情でとある場所へと向かっていた。 其所は中庭にある池であった。ほとりには小さなボートがあり、それを使って池の真ん中の島にある東屋へ行くのだ。 昔は良く家族でその東屋へ行ったのだが、今となってはそこへ赴く者は居ない。 軍を退役した父は近隣との付き合いと狩猟に夢中で、母は娘達の教育に必死である。 自然とその池には誰も近づかなくなり、ほぼ風景と化していた。 だからこそ隠れるのには最適で、夢の中の彼女は何かから逃げたいときにはいつも此所へ来ていた、 ルイズはあらかじめ小舟の中にしまいこんでいた毛布を頭から被り、そんな風にしていると… 「泣いているのかい?ルイズ。」 毛布越しから誰かが声を掛けてきた。 ルイズは被っていた毛布をどけると、自分の目の前には十六歳ぐらいのワルドがいた。 今と比べるとこの頃はまだまだ未熟だったがそれでも幼いルイズにとってはナイトも同然であった。 そう、自分をいつかこの牢獄のような家から救い出してくれる騎士。 「子爵さま、いらしていたのですね。」 幼いルイズは慌てて顔を隠した。みっともない姿をあこがれの人に見せるわけにはいかない。 ワルドはそんな彼女を見て天使のような微笑みを顔を隠したままのルイズに向けた。 「ああ、今日はきみのお父上に呼ばれたのさ。君との婚約に関することでね…。」 ルイズはあこがれの人の口から「婚約」という言葉を聞いて顔を赤くした。 「い…いけない人ですわね、子爵さまは…。」 「ルイズ、ぼくの小さなルイズ。君は、僕の事が嫌いかい?」 ワルドが、おどけた調子でそう言った。ルイズはそれに対し首を振る。 「ち、ちがいますわ。ただ単に良くわからないだけです。」 ルイズは顔を上げ、ワルドに笑顔を見せてそう言った。 ワルドはにっこりと笑みを浮かべると、そっと手をルイズの目の前に差し伸べた。 「ミ・レディ。手を貸してあげるよ。ほら、つかまって。もうじき晩餐会だ。」 だがしかし…差し伸べられた手を、ルイズは掴むことを躊躇った。 その様子に気づき、ワルドはルイズに優しく呟く。 「また怒られたのかい?大丈夫、僕からお父上に取り直してあげよう。」 ワルドの言葉を聞き、ルイズはコクリと小さく頷き、その手を取ろうとした。 その時、突如強い風が吹き、ルイズは思わず目を瞑ってしまった。 やがて数秒して風は止み、ルイズは再び目を開け――― 「……ここ、何処?」 ――驚愕した。 目を開けた先には子爵の姿は無く、それどころか自分の家ですらなかった。 白いタイルに白い壁、おざなり程度に観葉植物を隅っこに置いている何処かの部屋。 ルイズはそんな所にいつの間にかそんな所にいた、我が家にはこんな部屋はない。 天井を見上げると明かりを灯すような物はないのに天井から光が差し込んでいた。 そして気づいたら、ルイズの体も六歳から十六歳―つまりは現在の姿――になっていた。 「一体何処なの?ここは…」 ルイズは今までワルド子爵の夢は時折見たりすることはあった。 そして色々なパターンがあった――晩餐会でワルド子爵とダンスしたり等々―がこんなのは全くの初体験であった。 ルイズは全くの初めての展開に目を白黒させていると、ふと誰かに声を掛けられた。 「あら?ちゃんと此所へ来てくれたのね。」 声を掛けられたルイズはそちらの方へと目を向けた。 そこには ――不条理なことがいくらでも通る夢の中だからか―― 白いイスに腰掛け、こちらを見つめている金髪の女性がいた。 作り物の様な綺麗な顔には笑みが浮かんでいて、それは先程ワルドが見せたものよりも更に優しいものに見える。 頭には変な形の白い帽子を被っており、白い導師服を身に纏っていた。 とりあえず声を掛けられたからにはちゃんと応えなければと思い、ルイズは口を開いた。 「ねぇ、そこの貴方。少し聞きたいんだけどここが何処だか―――」 しかし、ルイズの言葉は目の前に出された女性の手に制止され、言い切ることが出来なかった。 何も言わなくなったことを確認した女性はスッと手を下ろすと口を開いた。 「その前に、いくつか聞きたいことがあるのだけれど…よろしくて?」 女性のその透き通るような声にルイズは思わず頷いた。 まぁ夢の中なので…という考えも働き、ルイズは無意識の内にしていたのだ。 「じゃあまず一つめ…貴方は自分が特別な存在だと思ってる?」 その質問に、ルイズは首を横に振り、口を開いた。 「特別どころか蔑まれているわ…だって私は魔法が使えないし…。」 ルイズの卑屈な言葉に女性は肩をすくめた。 「ふ~ん…じゃあ二つめ、貴方は『虚無』という伝説の系統を信じてる?」 ルイズはその質問に言葉を詰まらせ、悩んだ後、半信半疑な様子で応えた。 「…私自身よくわからないわ。」 「そう…。まぁいいわ、信じなくても信じていても事実は一つだけだから。じゃあ最後の質問ね?」 妙に意味ありげに聞こえる風に女性は言うとルイズの方に少しだけ近寄ると中腰になった。 そして、不意にルイズの肩を掴むと口を開いた。 「あなた…使い魔を召喚した際、人間の少女を呼び出したでしょう。」 その直後、女性の目が優しそうな物から一気に鋭い物へと変貌し、ルイズを睨んだ。 それに伴い先程まで体中から発せられていた雰囲気もあっという間に緊迫した空気へと早変わりする。 自分を射抜かんばかりの鋭い視線に思わずルイズはビクッと体を大きく震わせる。 肩を掴まれたルイズは内心自分の夢のあまりの不条理と理不尽さに憤っていた。 なんだって夢の中だというのに痛い思いをしなければならないのだ! 折角の子爵様との甘い甘い夢を見ていたのにこれじゃあ台無しじゃない…! と、ルイズがそんな事を思っていると、もの凄い激痛が肩から脳髄へと伝わって来た。 どうやら段々と掴む力が強くなっていくのが肩から伝わる痛みでルイズはそれを知った。 このままだとその内腕をもぎ取られるのでは?というありもしない事を思い浮かべ、ルイズはゾッとした。 しかしそのとき、急に女性がルイズの肩を掴んでいた手を離すと立ち上がり、後ろを振り向いた。 「ちょっ…いきなりどうしたのよ?」 解放されたルイズは息を少しだけ荒くして立ち上がると女性の後ろにもう一人誰か居ることに気づいた。 その姿は光り輝いていて明確な正体がハッキリと掴めない。 ただ分かることは、ルイズと比べれば大分身長が高い。ただされだけである。 手には大きくて長い太刀を持っており、熟練の戦士特有の鋭い殺気を目と思われる二つの赤い光点から放っている。 ただ、その視線の先にいるのはルイズではなく、そのルイズの前に佇む女性であるが。 「あらあら、もう感づかれたみたい。残念、『夢の中』なら大丈夫だと思ってたのに。」 そんな視線で睨み付けられている女性はと言うとそれに対し小馬鹿にする様な態度で人影に話しかけた。 それが合図となったのか―――突如人影が太刀の切っ先を女性に向け、素早い突きを繰り出した。 女性はそれに対し、身構えもせっず突っ立ているとフッ…と半透明の壁が女性の前に現れた。 人影の突きはその壁によってあっさりと防がれたが、すぐに体勢を立て直し後ろへと下がる。 突然の戦闘にルイズは棒立ち状態になっていたがそれに気づいた女性が声を掛ける。 「あぁ、今回はもうこれくらいでお開きね。貴方はもう目を覚ましても構わなくてよ。」 その声にハッとした顔になったルイズは人影の方を指さし、声を荒げて叫んだ。 「何よあれ!?というかなんで闘う羽目になってるのよ!?というかこれ私の夢よね!」 「静かにしなさい――これは夢。そう思えば何も気にすることはないわ。」 先程肩を掴んでいた時とは打って変わって捲し立てるルイズを子供をあやすかのような感じで女性はそう言った。 ルイズはそんな態度に更にイラッと来てしまったがそれよりも先にふと給に眠気が襲ってきた。 「それじゃ、また会いましょうね?今度は二人だけでね…。」 プ ツ ッ ! まるでピンと張った糸を切った時に出る様な音を立ててルイズが意識を手放す直前、それを見た。 人影がダーツの要領で投げた太刀が女性の胸部を刺し貫いた瞬間を…。 だがしかし――女性はその攻撃に対して、顔に笑みを浮かべていた。 見る者を凍り付かせるような笑みを。 ――その直後、人影は頭上に現れた『裂け目』から出てきた『何か』に潰され、一瞬にして即席ミンチと化した。 ◇ ―――… ア ァ ア ァ ア ッ ! ! ! 」 夢から現実へと戻ってきたルイズはみっともない叫び声を上げると上半身を勢いよく起こした。 だが勢い余ってか、そのままベッドから吹っ飛ぶような体勢になってしまい、見事床とキスする羽目になった。 ルイズはスクッと立ち上がるとジンジンと痛む鼻を押さえ、涙目になりながらも先程の夢の中の出来事を思い出そうとした。 「イタタタ…何なのよあの女…は…おんなは…あれぇ~?」 なんとか思い出そうとするが――何故か肝心の部分―あの金髪の女性が刺された直後の事―だけは何故か思い出せなかった。 おかしいなぁ…と思いつつルイズは先程の事を思い返していたが、一向に夢の思い出すことが出来ない。 ただ、その女性と会ったことだけしかルイズは覚えていなかった。 された筈の質問や、最後に現れた太刀を持った謎の人影の事は一向に思い出せない。 (一体なんなのよこれ?でももしかすると…疲れてるのかしら、私? …きっと日頃の苦労や過労なんかが祟ってあんな夢を見たのね。) だからといって…あんな衝撃的な最後 ― 人影がミンチになる瞬間 ―― すら忘れてしまうのはどうかと思うが。 まぁそれを忘れていれば、当分肉料理が食えなくなるという事にはならないだろう。 (レイムの奴が帰ってきたら、とりあえずこの事を愚痴として話してやるわ。うん、そうしよう…!) 最も、そんな時霊夢は聞いている振りをしている事を幸か不幸かルイズは知らなかった。 ノックの音に気が付いたルイズはドアの方へと目を向ける。 (レイム…?いや、アイツならそのまま入ってくるだろうし…。) こんな時間帯に誰かと思い、怪訝な表情をしているとそのノックが規則正しいことに気づく。 初めに長く『二回』、今度は短く『三回』とリズムを奏でるかのように聞こえてくる。 ルイズは規則正しいそのノックに、何か思い出したような…ハッとした表情になる。 「……あれ?これって確か…。」 数十秒置いてから再び初めに長く二回、次に短く三回とノックの音が聞こえた。 ルイズはそれで何かを思い出したのか、目に堪っていた涙を拭き取ると急いでドアを開けた。 そこに立っていたのは、真っ黒な頭巾をスッポリと被った、少女であった。 辺りをうかがうように首を回すと、そさくさと部屋に入り、勝手に扉を閉めた。 「あ、あなたは…?」 突然の訪問者にルイズは少し驚いたが、少女はシッと言わんばかりに口元に指を立てた。 それから。漆黒のマントの隙間から水晶の飾りが付いた杖を取り出すと軽くルーンを唱えて杖を振った。 光の粉が部屋を舞うのを見て、ルイズは一人呟いた。 「ディティクトマジック…。」 ポツリと呪文の名を呟いたルイズを見て、頭巾の少女は口を開いた。 「何処に目や耳があるかわからないものですからね。」 光の粉は静かに消え、部屋を覗く者がいないのを確認した後、少女は頭巾を取った。 そこから現れたのは、ルイズが良く知る相手で、幼い頃には遊び相手として付き合った存在。 いまではこの国のトップに近い少女として、民衆から支持されている。 ルイズは昔より美しくなったその顔を見て、急いで膝をつく。 「あ…アンリエッタ姫殿下…!?姫殿下じゃありませんか!」 無二の親友に名前を呼ばれ、若き麗しい王女は優しく微笑んだ。 「……お久しぶりね、ルイズ・フランソワーズ。」 ルイズの目の前に突如として現れたのは―――アンリエッタ王女であった。 前ページ次ページルイズと無重力巫女さん
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前ページ次ページゼロのルイズとオラクルレイ わたしことルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・ フォン・アンハルツ・ツェルプストー…… と表記するのは長いので、以下はルイズとキュルケでお送りします などと誰に言っているのかわからない心の声にうんざりとしつつも わたしは前日キュルケとの間で賭けをしていた。 「ねえルイズ、賭けをしない賭け」 「キュルケ、またどうせ大したこともない賭けなんでしょう?」 「うっふっふー、まあそれもいいけどね、でも明日はサモン・サーヴァントの試験」 「なに、どっちが大きな使い魔を呼べるかどうかでも争うつもり?」 「自信満々ね、ルイズ」 「なんですって」 「いーっつも失敗ばかりのあなたが使い魔なんて召喚できるわけ無いでしょう!」 「おいまていまなんて言ったこのおっぱい色情魔」 閑話休題。 「ぜぇ、ぜぇ……要するにわたしが何らかの使い魔を召喚すればゼロのルイズと呼ばれることはなくなるということね」 「ええ、まあ、あたしだけだけど」 「で、わたしがもしも負けたら……」 「小間使いとして学園に残らせてあげても良いわよ」 そうなのである。 二年に進級するための使い魔召喚試験、いわゆるサモン・サーヴァントで失敗をすると わたしは荷物をまとめて実家に強制連行されてしまうのである。 そこでお姉さまやお母様のお小言を言われるだけならまだいいけれど ちい姉さまに悲しげな表情をされてしまうのは絶対に嫌だった。 「まままままあ、よもやわたしが失敗するなんてありえないけど!」 「その動揺を少しは察せられないように努力しなさいよ」 「うるさいわね! やってやろーじゃん!」 「あなた貴族とは思えない口の悪さね」 どう反応せいと。 ※ そして現在にいたる。 「何度失敗をする気だね」 ミスタ・コルベールもちょっと怒りを抑えきれなくなってきている。 わたしはそんな姿を眺めながら。 「お待ちくださいミスタ・コルベール、呪文名は間違っていない、しかし爆発が起きて失敗をしてしまうということは」 「ということは?」 「今日は女の子の日ということで調子が悪いというのはいかがでしょう」 「君は先日の実技試験もそんなことを言っていなかったかね」 さすがに言い訳をするには苦しかったか。 「では、これが最後の呪文だ、ミス・ヴァリエール。集中して使い魔を召喚しなさい」 「えー」 「えーじゃない、どれほど時間を取っていると思っているんだ、次の授業の時間が差し迫っているんだ。これ以上君のために試験を行っている場合じゃない」 「うー! にゃー!」 「ねこの真似はいいから、さっさと呪文を詠唱しなさい」 ごまかせなかった。 さすがに優柔不断気味とはいえまっとうな教職者であられるミスタ・コルベールが、融通を利かせるなんて手段をとってくれるわけがなかった。 「我が名はルイズ。五つの力を司るペンタゴン。我の運命(さだめ)に従いし、使い魔を召還せよ!」 ――手ごたえを感じた。 何かが引っぱり出されるような、そんなフィッシングに似た感覚が左手に伝わっている。 まあ、タクトを持っているのは右手なんだけどね。 「お、おお……ミス・ヴァリエール、これはやったのではないかね!」 心なしかミスタ・コルベールも嬉しそうだ。 そうだやったのだ、私は賭けに勝ったのだ! これでキュルケからゼロのルイズと呼ばれることはなくなるのだ! って、ちっちェーなこの賭け! ※ 「キマシタキマシタキマシタワー! さあ、わたしの使い魔ちゃん! サラマンダーかなあ、それでもウィングドラゴンだったりして? それとも大陸全土を包み込むようなガーゴイルだったりして!」 「ルイズ、嬉しいのはわかるけど、少し落ち着きなさい」 「さあ、さあ! 姿を成せ! 姿を成すんだ! ジョー!」 「ジョーって誰なのよ……」 はしゃいでいると光の粒子になっていた使い魔がどんどん人の形と成していく。 ……人の形に? 「我が名はルイズ……」 「待ちなさいミス・ヴァリエール」 そうして人の形をした使い魔というのは……女の子だった。 一言で言うと白い。 大きな帽子にマントをしている。 「あ、あ、どうしましょう、ミスタ・コルベール! き、貴族を拉致……!」 「う、うむ……交渉事は私に任せなさい」 「ああ……こんな時だけ頼りに思えますミスタ・コルベール」 「……君一人で交渉をするかね?」 そそくさと生徒の人垣まで撤退。 私はキュルケのおっぱいに向かって話しかける。 「ねえキュルケ、オチとしてはどうよ」 「まさか人を呼びだしちゃうとはねえ……さすがのあたしも予想外だったわ」 「ドレスのような衣装に頭には大きなバケツみたいな帽子、髪の毛はふわふわでスタイルもあたしと同じくらいでいい感じだし、あんた女の子を使い魔にする趣味でもあったの?」 「そんなインモラルな教育はヴァリエールでは行ってません!」 ※ そう話している間でも、使い魔として呼び出された少女とミスタ・コルベールの折衝交渉はまだ続いているらしい。 とは言っても女の子の方は自分に何が起きたのかわからないという印象で、首を傾げたりぽつんと空を見上げてみたりをしている。 ちょっとのんびりとした女の子なのかな? 「ミス・ヴァリエール」 「はい!」 「彼女は使い魔となることを了承してくれたようだ」 ……ようだ? 「はじめまして、ルイズさん、私は美国織莉子、あなたに使い魔として呼び出された者です」 「ああ、これはご丁寧に、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールと申します、その、ご趣味は?」 「唐突にお見合いを始めるんじゃない」 この場の空気を軽くしてあげようとしただけじゃないかよぅ。 「趣味はお菓子作りを少々……不器用なんですけどね」 「まあ、お菓子作りなんですの、そういうのは使用人にやらせなければよくって?」 「はい、ミス・ヴァリエールがミス・オリコにコントラクトサーヴァントをするまで3秒前」 君とキスをする3秒前!? 「それではオリコ、私ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは、あなたにコントラクトサーヴァントをいたします」 「使い魔の刻印が身体に刻まれるんですね、ああ、まるでこれではルイズさんの所有物になってしまうかのようですね」 「我が名はルイズ。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」 オリコの話を聞いているととても長いことになりそうだったので、さっさと口づけを交わしてしまう。女の子同士という気安さもあってなのかここまではスムーズに済んだ。 「終わりました」 「ふむ……サモン・サーヴァントは何回も失敗したが、コントラクトサーヴァントは一度で成功をした様子だね」 「あの、ルイズさん……私ファーストキスでした」 そんな報告はわたしもだからいい。 ……いや、いいってことはないんだけれどもね! こっちも相当恥ずかしい思いしているんだけどさぁ。 ※ 「いたっ、いたっ、えぅぅぅぅぅ!?」 そうだ、使い魔には刻印が刻まれてしまうんだと思った時にはもうすでにオリコは悲鳴を上げている最中だった。 「オリコ! 女の子の痛みよ! これで一つあなたは大人になった!」 「ミス・ヴァリエール、誤解をさせるようなことを言わない。ミス・オリコ、それは使い魔のルーンが身体に刻まれているんだ、だが心配はいらない、長い間続く痛みではないから」 「男の人はそういって先っぽだけとか言って女の子に挿入しようとするから注意するのよオリコ!」 「ミス・ヴァリエールは退学がお望みらしい」 すみませんでした。 「本当、鋭い痛みが身体の中に違和感を生じさせたと思ったら、すぐに済んだわ」 「そうなのよ、経験則じゃないけど男の人は……痛いのは一瞬だよ……なーんちゃって!」 「まあ、この痛みをお与えになられたのはルイズさんなんですけどね」 「すんませんでしたー!」 さっきから謝り通しである。 「珍しいルーンだね」 「あら、そうなんですか?」 「うむ、教師をして長くなるが、このようなルーンを見るのは初めてだ、少し恥ずかしいね」 「いえいえ、人間が使い魔として召喚されたんですもの、古今東西ありえない形を持ったルーンがあっても仕方がないです」 わたしもオリコの左手の甲に刻まれたルーンを眺めてみるけど、たしかに知識の中では該当するものがなかった。 「さて、待たせてしまって申し訳なかったね、皆も次の授業が始まる、教室に戻ろう」 多くの生徒達が飛ぶときにわたしに嫌味を言いながら去っていく。 それを見ながらオリコはぼんやりとした様子で。 「メイジっていうものは飛ぶものなんですねえ……」 「……え?」 ※ オリコと詳しい話をしていくと、彼女は貴族ではなくて平民であることが判明した。 何だもう、と思う時にはもうすっかり彼女と話友達になっていて、 「ところでルイズ、使い魔って何をすればいいのかしら?」 「ああ……そういえばそんなことも考えないとねえ……」 オリコの話は面白くてついつい長い間話していたものだから頭がぼーっとし始めていた。 「身の回りのお世話でもすればよろしいでしょうか?」 「うーん、せっかくの友達にそんなことをさせるのもねえ……かと言って……あ」 「あ?」 「ベッドが一つしかないわ! 使用人に言って……ああ、駄目だベッドを置くスペースがないわ」 部屋の中にあるテーブルや棚を片付ければもう一人分のベッドも置けそうだけれど、片付けさせるのに時間はかかるし、わたしにも勉強をするスペースが必要になる。 どう考えても教科書やノートをしまうスペースは必要で、図書室から借りてきた本なども置かなくてはいけなかった。 「客間などがあればいいんですね」 「うん……ただ、あなたは使い魔ってことになるから、貴族の客室には泊められないし、かと言って使用人達の眠るところには置きたくないし」 「いえいえ、眠るスペースがあれば文句はありませんよ、さすがに雑魚寝は勘弁ですけど」 まったくだ。 そんなことをさせるのはわたしのプライドが許さなかった。 「仕方ないわ、使用人達の一番いい部屋をオリコ専用にさせてもらいましょう」 「そんなことができるの?」 「できるできる。ヴァリエールの名前を出せば一発よ、家名っていうのは重いものがあると思っていたけれど、まさかこんなところで有効活用ができるなんてね」 さっそく使用人の部屋に赴き、オリコに上等な部屋を与えた。 彼女はどことなく恐縮している様子だったけれど、わたしの中ではいいことをしたと胸を張って言えるのであった。 前ページ次ページゼロのルイズとオラクルレイ
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ルイズが魔法学院から抜け出して約十分。 町からも、街道からも離れた、ある貴族の別荘が見えた。 この別荘は、トリスティンの城から見て、魔法学院から更に離れたところにある。 別荘の主を『モット伯』だが、この別荘を『モット伯の娼館』と揶揄するものもいる。 森の中にある別荘は街道からも見ることは出来ない。 しかし、街道を通る行商人たちは、年頃の娘が女衒らしき男に連れられて、森の中に入っていくのを何度も見かけていた。 ドシャッ、と音を立てて、ルイズは森の中に着地した。 別荘の周囲は壁に囲まれており、忍び込むのは容易ではないと感じさせる。 そこでルイズは思考した。 『建物の大きさ、庭の形、衛兵の位置を、空中から見た限りでは、空からの侵入がもっとも確実だが、私は空を飛ぶことが出来ない』 …ふと、ルイズを目眩が襲う。 ブルブルと頭を振って、気を確かにしようと気合いを入れる。 おかしい。何かがおかしい。自分は空を飛べないはずだ。では、どうやってここまで来た? 馬でもない。馬で来るに速すぎる。タバサのシルフィードに乗せてもらえば短時間で来ることも可能だが、そんなはずはない。 空から別荘を見た記憶がハッキリと残っている。自分は、いつの間にか空を飛んだのか!? ゴクリと唾を飲み込み、深呼吸して、考えを中断させる。 「今はシエスタを助けなきゃ」 そう呟いて、ルイズは別荘の正門へと歩いていった。 正門から堂々と入り込んだルイズは、使用人に応接室へと案内され、モット伯の歓迎を受けた。 その途中、女性の使用人を何人か見かけたが、使用人と呼ぶには幼い少女も混ざっている。ルイズはそれに嫌悪感を感じた。 それに気づいたのか、モット伯はルイズに話しかけた。 「ああ、この館の使用人が何かご無礼を致しましたかな?」 「そうとは言ってないわ」 「そうでございましたか。いやはや、彼女たちは貧しい家の出でしてな。私は彼女らに職を与え、教育を施し、生きるための場所を与えているのです。 教育は私の生き甲斐でしてな!」 そう言って高笑いするモット伯に、心底つまらなそうな目を向けると、モット伯は不敵な笑みを浮かべた。 「そうそう、あのシエスタというメイドの事でしたな。彼女は実に気だてが良いのですよ。 良い教育を受けさせれば、メイドだけでなく教育係の口もありましょう。ですから私が彼女を預かろうとしたのです。料理長も快く…」 「快く? なら、あの金貨は何?」 腹立たしさを隠しきれないルイズは、自分の声が心なしか低くなっているのに気づいたが、今更怒りを隠しても仕方ないと考えていた。 「…おやおや、ご存じでしたか。何せ優秀なメイドを引き取るのですからな。私からあの料理長…ええと、確かマルトーと言いましたか、彼へのココロザシというものです」 「そう? まあいいわ。それよりもシエスタに会わせて貰えないかしら」 「ははは、そうそう急ぐこともないでしょう。夜分にこの別荘をお尋ね頂いたのです。シャンパンでも開けましょうか、このシャンパンはなかなか珍しいものでしてな」 モット伯は、まるでルイズを無視するかのように話を続けると、使用人にシャンパンを持って来させた。 「雲が月を隠すと、雲の隙間から鈍い光が漏れます。雨が降った後であれば、月明かりが蛍のように雲を光らせるのです。このシャンパンはそれをイメージしたものです」 シャンパンを開けると、ぼんやりと輝く白い煙が出て、さながら星空のように天井を覆った。 ギーシュとは違う意味でキザったらしい態度を取るモット伯に、ルイズも我慢が出来なくなった。 「もういいわ!シエスタはヴァリエール家で引き取る約束が済んでるのよ!すぐにシエスタに会わせなさい!」 モット伯は貴族ではあるが、ヴァリエール家に比べればその格式には雲泥の差がある。 ヴァリエール家で引き取るのは出任せだが、家の名を使ってモット伯を脅かせば、少しは効果があるはずだと、ルイズは思いこんでいた。 「目も耳もありません」 だが、突如後ろから聞こえた声にルイズは背筋を凍らせた。 ルイズは腰に携えた杖を掴もうとしたが、声の主に腕を掴まれ、杖は床に滑り落ちてしまう。 「光る煙を出すシャンパンなんて悪趣味だと思ったけど、頭の中も悪趣味ね!」 気丈にも腕を掴まれたまま叫ぶルイズ。 ディティクトマジックという魔法がある。 マジックアイテムが仕掛けられていないか、誰かに魔法でのぞき見されていないかを探す魔法で、光り輝く粉が探査領域を舞うという特徴を持つ。 煙を出すシャンパンはカモフラージュだったのだ。 悪趣味なシャンパンが、何らかのマジックアイテムだったとしたら、魔法の使えないルイズでも『怪しい』と気づいただろう。 しかし、ルイズはモット伯の雰囲気に飲まれていたのだ。モット泊はメイジとして強い訳ではないが、自分のキャラクターをよく知っている。 時には人に取り入って、時には人を蹴落として、今の地位を手に入れたのだ。 「いかが致しますか」 ルイズを押さえつけているメイジは、グレーのマントの仲から杖をちらつかせ、ルイズを地面に押さえ込んだまま言った。 モット伯は短く「再教育だ」と言って、気味の悪い笑顔を見せた。 あまりの気味悪さに、ルイズはありったけの罵声を飛ばそうとしたが。 「このヘンタイ!こんな事をし…………!…………!!!…………!」 ルイズの声はモット伯に届くことはなかった。 ルイズはサイレントの魔法をかけられ、まるで荷物でも運ぶかのように地下牢へと運ばれていった。 しばらくして静かになった応接間で、モット伯はルイズの杖を拾い上げると、舌先で握りの部分を舐めた。 ルイズを取り押さえたメイジはそれを見ていたが、さしたる関心を向けることなく、事務的な口調でモット泊に声をかけた。 「先ほどの娘、ヴァリエールと申しましたが」 「ああ? あれは、あのヴァリエール家の三女だ。君は知っているかね?数々の優秀なメイジを輩出したヴァリエール家の三女は、ゼロのルイズと呼ばれている」 「ゼロ、ですか」 「魔法成功率ゼロ、ゼロのルイズ。何とも愉快じゃないか。彼女は魔法を使おうとすると爆発を起こすそうだ」 「爆発?」 モット伯は、オールド・オスマンの部屋にあるものより小さい『遠見の鏡』を見る。 「この別荘には空を飛んで近づいてきていた。フライかレビテーション程度は使えるのだろうが、風を起こそうとしても、練金しようとしても爆発するそうだ」 モット泊と、グレーのマントをつけたメイジは、応接室を出て『教室』と名付けた部屋に向かう。 「『平民』の体はさんざん味わったが、『高貴な貴族』の味も味わってみたくてねぇ。あの娘は出来損ないのメイジだが、ヴァリエール家の三女だ。血統は申し分ない」 「ヴァリエール家を敵に回すことになりますぞ」 「心配はない。魔法の使えぬメイジに貴族の価値はないのだ。そうだな…『世間知らず極まりないヴァリエール家三女は、メイドを探しに危険な森の奥へと入り込み、オークに嬲り殺された』…とういうシナリオはどうかね」 「ありきたりですな」 男は、相変わらず事務的な口調で答えていた。 ルイズは牢屋の中から、周囲を見渡していた。 牢屋は二重構造になっており、通路に面した鉄格子は細い鉄棒で作られている。 牢屋の奥にはもう一つ鉄格子がある。格子の太さは屈強な戦士の二の腕ほど、格子の幅は広く、ルイズならすり抜けることも可能だろう。 奥は暗くて何も見えないが、糞便のような不快な臭いが漂ってくる。 ルイズはやり場のない怒りを発散しようとして、鉄格子を蹴飛ばそうとした。 プギィーーーッ! おぞましい叫び声と共に、鉄格子の奥から毛に包まれた腕が伸びて、その指がルイズの鼻先をかすめる。 「…………!!!」 ルイズは悲鳴を上げたが、サイレントの魔法をかけられたままなので、その声は響かない。 ブギィーーーッ!ギィーーーーッ! 不快極まりない叫び声から、奥の牢屋にいる生き物が何なのか理解できた。 二本足で歩き、人間を待ち伏せして殺すだけの知能を持ち、木の幹を棍棒として使うどう猛な獣、オークだ。 オークは、戦争の道具としてメイジに飼われることはあるが、使い魔になることはほとんどない。 平民を使い魔にした方がマシだと言われるほど、オークは嫌われている。 人間の価値観から見てあまりにも下卑、それがオークへの評価だった。 まれに長老と呼ばれる知能の高いオークもいるらしいが、噂でしかない。 この館の主人がなぜオークを飼っているのか知らないが、ロクな理由ではないだろう。 ルイズは「お似合いね」と、呟いた。 しばらくして、『教室』と名付けた部屋にモット伯が姿を見せる。 ベッドの上に寝かされ、鎖で両手足を拘束されたシエスタは、これから何をされるか分からない恐怖に包まれていた。 「待たせてしまったね」 モット伯はわざとらしく、見せびらかすように、ルイズの杖を振る。 それを見たシエスタの表情が変わった、恐怖とは違う感情がわき上がったのだ。 「さて、シエスタ!君は困ったメイドだ、由緒あるヴァリエール家の三女をひどい目に遭わせてしまうのだからな!」 そう言って、シエスタにレビテーションの魔法をかけ、荷物を運ぶのと同じようにして地下牢へと運んでいく。 地下牢に降りると、シエスタはルイズの入った牢屋の隣に入れられた。 「ルイズ様!」 「………!」(シエスタ!) ルイズがシエスタを心配して声を出そうとするが、サイレントの魔法のせいで声が届かない。 「………!」(あんた大丈夫なの?アイツに何かされてない?) 「ルイズ様…まさか、私を助けに…」 「………!」(べっ、べつにあなたを助けに来た訳じゃないんだからね。ちょっと気になっただけよ) 「そんな、私、こんな迷惑をかけてしまったなんて…」 「………!」(だーかーらー!) 通じているのか通じていないのかよく分からない会話は、奥の部屋から聞こえてきた鳴き声に中断させられた。 ブギィィーーー! ガシャン!と、鉄格子に巨体がぶつかる音がする。 身長2m、体重は400kgを超えるであろう獣の迫力に驚き、シエスタは体を硬直させてしまう。 「さて、今日は何のお勉強をしようかね。…お友達との再会を記念して、友情のお勉強をしましょう!」 そう言うとモット伯は、ポケットの中から鍵を取り出して、牢屋の奥へと投げ込んだ。 鍵はチャリンと音を立ててオークの牢屋に落ちた。 「どちらかが囮にでもなれば、鍵も外せましょう!」 囮? 冗談じゃない。オークの実物を見たのは初めてだが、その残酷さは話に聞いている。 逃げるための魔法も使えないのに、囮になるなんて考えられなかった。 ルイズは、悩んだ。 どう考えても種絶望的な結果しか導き出せないからだ。 「…ルイズ様。マントを、できるだけ大きく、振っていただけませんか」 シエスタの言葉を聞いて、ルイズは頭にクエスチョンマークを浮かべたる。 「牢屋の前でバタバタと振って下さい。オークは、ひらひらした物を見ると、それに興味を牽かれるって、お爺ちゃんが言ってました」 一片の曇りも、迷いもなく、オークを見るシエスタに、ルイズは驚いた。 ルイズにはなるべく安全な手段で囮を任せ、自分は危険な場所へと赴こうとしているのだ。 ルイズは今、杖を持っていないし、自分の味方になるメイジもいない。 しかし今ここに、誰よりも信頼できる『仲間』がいた! 絶望的な状況には変わりないのに、絶望を絶望だと感じさせない。 シエスタの勇気は、今、貴族の誇りよりも遙かに気高く、そして崇高に輝いていた。 ルイズはマントを脱ぐとシエスタの牢屋に投げた、シエスタは驚き、ルイズを制止しようとする。 「…だめです!そんな、危険なことは、私がやります!」 幸か不幸か、シエスタの声に興味を惹かれたオークは、気味の悪い声で叫びながらシエスタの牢屋へと手を伸ばした。 鉄格子をガシャンガシャンと震える。 シエスタは、自分の言葉がルイズを死地に赴かせてしまったのだと悟って狼狽えた。 しかし今更何をすることも出来ない。ルイズから預かったマントを手に取り、闘牛士のようにオークの前へとちらつかせ、必死になってオークを煽った。 ガシャン!ガシャン!と響く鉄格子の音。そしてオークの叫び声。 生きた心地のしなかったが、死んだ気にもならなかった。 ルイズは鉄格子の隙間に体を滑り込ませると、奥に落ちている鍵へと静かに歩く。 ブギィイイイイイイーー! 吐き気のするような声が聞こえてくるが、それほど気にならない。 鍵だけを見て、静かに歩く。 あと5歩。 ギィイ!ピギー! あと4歩。 ガシャン!ガシャン! あと3歩。 ブゥィイイイーーッッ! あと2歩。 ギィィィ!! あと1歩。 きゃあっ! 突然聞こえてきたシエスタの悲鳴に驚き、シエスタを見る。 シエスタはオークの興味を牽こうとして近づき過ぎたのだ。すでに片手を掴まれ、オークの牢屋に引きずり込まれそうになっている。 「やめなさい!」 気づいたときには叫んでいた。 オークの視線がルイズを捉えると、オークはその巨体からは想像も出来ない速度でルイズに接近し、ナワバリを荒らされた怒りをルイズにぶつけた。 強烈な一撃を受けたルイズは宙を舞い、鈍い音を立てて鉄格子に衝突し、力なく崩れ落ちた。 「ほっ!いい見せ物でしたな」 モット伯はそう呟くと、すでに興味は失ったのか、牢屋を後にした。 ルイズとシエスタの体を味わってやろうと思っていたが、オークに蹂躙された後では興味も失う。 オークに触れた者はオークと同じだと言わんばかりの態度で、モット伯は二人を見捨てた。 それが彼の命取りだった。 鉄格子に叩きつけられ、気を失うまでの一瞬の間に、ルイズは意識の中で誰かと会話していた。 『やれやれ…もう少し速く気絶してくれれば助けられたんだがな』 「…誰よ、あんた」 『俺のことはいい。時間がない、少し体を貸してもらう』 「あたしの体を?」 『このままじゃ助けられないんでな』 「助けるって、オークから? あんたが何者か知らないけど、出来るの?」 『ああ、任せな』 ルイズは、見ず知らずの相手に、まるで長年戦いを共にした戦友のような奇妙な感覚を覚えた。 そして「頼んだわよ」と告げて、意識を手放した。 ---- //第六部,スタープラチナ #center{[[前へ 奇妙なルイズ-11]] [[目次 奇妙なルイズ]] [[次へ 奇妙なルイズ-13]]}
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Team Andanteの副会長。 瀬良とこのチームを作り上げた、管理人を除くAndanteの最古参のメンバー。 瀬良が最も信頼している人物であり、変態四天王の一人。 HNからも分かるが、ルインを心底愛しており、「破滅の女神 ルイン」を無限回収している。 リアルの知り合いに見せるたびに少々引かれているようだ。 いつも店でルイン様を買い占めているため、ルイン様を 購入しようと店員に声をかけた所「ルインですね?」と返されたことがある。 目標は年内に1000枚超え。 また、ほぼ全ての言語及び全てのレアリティをコンプリートしている。 デッキも様々なテーマにルインを投入したオリジナルのものを数多く使用している。(岩石ルイン、BFルイン等) が、最近はゼータ・レティキュラントに浮気気味。本人いわく「ゼータ以外うまく扱えない」とのことだが、カードに関する知識はかなり深い。 瀬良は「いつか世界中のルインは彼に独占されるのではないか」と危惧している。(本当にやりかねないバイタリティを持っている) ルイン以外にもノースウェムコやフレイヤ等も回収している。 ルイン×ノースウェムコこそ正義だと思っている。 普段は気さくな人物なのだが、「ルイン」「黄金」「百合」等のワードが出ると目の色が変わる。 そして新しいことに意欲的に挑戦する行動力の持ち主。もうこの人がリーダーで良いんじゃないかな。 瀬良が把握してる限りでは、メンバーの中で最年長。 現在のルインの所持数は947枚。
https://w.atwiki.jp/kuroeu/pages/274.html
コテエリル 解説 ミケルティ王国連合に所属する七都市の一つ。 人口は約一万八千人。 サンタリアとアムレシィの中間に位置する川沿いの街で、古い街並みと格式ある革細工の工匠会が複数存在している。 雑感・考察 名前
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【名前】 マイコマイナソー 【読み方】 まいこまいなそー 【俳優】 宮原華音 【登場作品】 騎士竜戦隊リュウソウジャー特別編 エピソード・オブ・ソウルメイツ 【所属】 ドルイドン 【属性】 人間型モンスター? 【分類】 マイナソー/不明 【発生元】 マイコ 【願望】 「変わりたいのに変われない」 【武装】 無し 【鳴き声】 「カワレナイ」 【分布】 不明 【幻獣モチーフ】 無し 【その他モチーフ】 マイコ(発生元)、ドッペルゲンガー? 【詳細】 クレオンが生み出した特別編に登場する特殊なマイナソー。 年若い女性、「マイコ」に体液を摂取させ生み出したマイナソーだが、他のマイナソーと異なり発生元と瓜二つの外見をしている。 おまけに服装までマイコ本人をコピーしているため、一見するとただの人間にしか見えない。 しかしれっきとしたマイナソーであるため身体能力は人間を遥かに凌駕し、リュウソウ族であってもその制圧は容易ではない。 「カワレナイ…」という鳴き声をあげるが、それは「変わりたいのに変われない」という鬱屈した思いに由来する。 発生元の悩みを周囲の存在にも強制する能力を持ち、このマイナソーの前ではリュウソウチェンジが不可能になってしまう。 そのため対処するためには生身でいることを強いられてしまう。 怪物ではなく人間にしか見えない見た目ながらもマイナソーの性質を持つため、マイナスエネルギーを吸収して巨大化する特性も持つと思われるが劇中ではそういった様子は見られなかった。 特別編の時系列は第32話の直後。ジャックオーランタンマイナソーの影響が残る人々に混じって出現。 「ニクイ、ニクイ」とつぶやく人々に混じって一人だけ「ニクイ」ではなく「カワリタイ」と口にしていたことから、人間の姿をしたマイナソーと見破られるも、リュウソウチェンジを不可能にする能力でメルトはチェンジ出来ず、 生身のコウ達を圧倒していく。 カナロが現れたどさくさでその場から立ち去るも、ガイソウルを利用して憎しみの感情を吸い取って回っていたナダが、コウ達が羽交い締めにしたマイコマイナソーからマイナスエネルギーを吸い尽くしたことで実体を保てなくなり消滅した。 その頃マイコはクレオンに捕まり、再びマイナソーを生み出すよう脅迫されていた。 そこから救出し事情を聞いたカナロによれば、彼女の家は卓球場だったとか。 マイコはおしゃれなカフェをやりたかったが両親が反対していたため、上記のマイナス感情が芽生えた模様。 「私、今度こそ変わりたい」とワイズルーが化けた占い師に語っていたが、両親を強く説得できなくて悩んでいたのかもしれない。 最終的に卓球場は閉じることとなり、閉店セールのチケットが配られていた。 それを受け取ったコウ達は、今回の貢献者であるナダも、ういら親子も連れて全員で卓球をすることに。 そして物語は本編第33話へ続く…… 【余談】 演者をベースに衣装を着込んだわけでもなく、演じている宮原華音女史に多少の化粧?(目元等)を施しただけで登場した特撮作品全体を見ても類を見ない怪人。 予算削減といえばそれまでだが、仮面ライダージオウにも同様のタイプのヒューマノイズが登場している。 また忍者戦隊カクレンジャーのカラカサも一般怪人としては珍しく演者をコスプレさせた外見をしている。 幻獣ではなく発生元本人と瓜二つという点ではマイナソーとしても唯一の事例で異質極まりないが、あえてマイナソーは幻想の怪物の伝承を司るという根底的な設定を考慮してみてみると、 「自分自身と同じ姿の幻を見る」というドッペルゲンガーが近いだろう。 ドッペルゲンガーと本人は出会ってしまうと死んでしまうとも言われるが、マイナソーは完全体になると発生元を殺してしまうし、発生元が死亡すると成長途中のマイナソーは消えてしまう。 そういったことを考えるとドッペルゲンガーのマイナソーでも不思議ではない存在だった。 演じている宮原華音女史は仮面ライダーアマゾンズにて高井望役としてレギュラー出演していた。 後に仮面ライダーガッチャードにて敵幹部の一人としてレギュラー出演することとなった。
https://w.atwiki.jp/gods/pages/56373.html
タテエボシ(立烏帽子) スズカゴゼンの別名。