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名前 ハルカ 種族 ライバル(♀) うp主 特撮の人 特記事項 ・仮面ライダーマニア。 ラハトのライバル。彼の隣家に住む女の子で、彼女もまた仮面ライダーマニア。 ラハトをガンバライドカードで釣った事もある。
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←前へ 「ただいまー。いやぁ、お腹すかせて待ってると思って、急いで帰ってきたよ」 「何言ってんだ。お前が早く食べたかっただけだろう。このバカ野郎」 賑やかに話しながら入ってくるカナを、マコは恨めしそうにみている。 それはそうだ、もしカナが急いで帰って来なかったのなら、きっと最後まで出来たはずなのだから。 「さぁ、早くご飯食べようよー!」 カナにせかされ、私と千秋は立ち上がる。……しかしマコは立たない…… いや、立たないと言うか、立てない……と言うか、勃ってるから立てないと言うか……とにかく立てない様だ。 「マコはちょっと調子悪そうだから、そこで待っててね」 「あっ……はぃ。ごめんなさい」 申し訳なさそうに謝るマコの頭を3度ほど撫で、私は二人の待つ台所へ向かった。 夕食の準備も済み、みんなで仲良くすき焼きを食べ始める。 相変わらずカナと千秋は、どれが誰の肉だと賑やかに争っていた。 そんな中マコは、食事もあまり進まずモジモジして落ち着きがない。 しばらくすると、突然マコが立ち上がり、少し前かがみになったまま廊下へ向かい始めた。 「んー? マコちゃんどこ行くんだ?」 千秋の問いかけに、一瞬固まるマコ。 「その……ちょっとトイレに……」 「ふーん。早くしないと、このバカが肉全部食っちゃうぞ」 興味なさそうに千秋が返事したのを見て、マコはホッとした表情を浮かべて、再びトイレへ向かって足を進める。 しかし、私がその様子を見落とす訳が無かった。 「マコ?」 私の声にビクッと反応し、恐る恐ると言った感じで、ゆっくりとこっちを向くマコ。明らかに様子がおかしい。 「一人でイッっちゃダメだよ?」 私の言った事を理解したのか、マコはこの言葉を聞くと黙って頷き、気まずそうに視線を床に落とす。 やはりマコはトイレに行って、一人で性欲を処理するつもりだった様だ。 ちょっと悪い事をしたと思うけれど、私だってマコのイク姿を見たい。 だからマコはもう少しだけ我慢……そうすれば、私が自分でするよりも何倍も気持ち良くしてあげるから…… しかし、私のこの発言をカナは不思議そうな顔で聞いている。 「はぁ? おいハルカ、トイレは一人で行くのはあたりまえろ?」 確かにその通りだ。 「フフッ、そうね。私ったらなに言ってるのかしら。じゃあマコ、行ってらっしゃい」 笑顔でマコにそう言った私に対し、マコはひきつった笑顔で返事をしトイレに向かった。 「おっ、早かったな。スッキリしたかー?」 早々にトイレから戻りカナにそう言われると、マコは軽くうなずき席へ戻る。 前かがみで戻ってきた姿を見る限り、スッキリしていないのは明白だ。 結局この後も、我慢していて食が進まないのか、マコはほとんど夕食に手をつけなかった。 さすがに、これ以上我慢させるのはかわいそうと思い、私はマコにある提案をする事にした。 「ねぇ、マコ。今日泊っていかない? ほら、明日は日曜日で休みだし」 突然の提案に、驚いているのかマコはなかなか返事をしない。 「おい、マコちゃん。ハルカ姉さまの誘いを断るつもりじゃ無いだろうな?」 返事をしないマコにイライラし始めたのか、千秋が攻め立て始めた。 カナはと言うと、お腹がいっぱいになったのか、眠たそうにあくびをしている。 「えっと……じゃあ、お願いします」 「うん、じゃあお家に電話するから電話番号教えてくれる?」 私はそう言ってマコを連れ部屋を出て、電話の元へ向かった。 部屋を出て二人の目が届かなくなると、マコは私に飛びつくように抱きついてきた。 普段のマコからは考えられないような大胆な行動。よっぽど我慢が出来ないらしい。 私は抱きつくマコを少し離し、目を見て問いかける。 「おトイレ行った時、一人でえっちな事しなかった?」 もちろんしていない事は分かっていた。でも、マコの反応を見てみたかった。 「はい。……ちゃんと言われた通り、えっちな事しなかったです。……だからっ、ご褒美……んっ……」 マコの唇にソッとキスをする。もちろんコレがマコの欲しいご褒美じゃない事くらいは分かっている。 顔は赤くしているが、やはり不満げなマコ。でも、今はこれ以上はしない。 「寝る時まで我慢出来たら、もっと凄いご褒美あげるから……今はコレで、あと少しだけ我慢して、ね?」 何やらマコは少し考えている様子……。 「……もっと凄い事って……なんですか?」 いつもならすぐに頷いて終わりなのだが、 どうやらマコはさっきまでの出来事もあり、少々用心深くなっているようだ。 私はマコの耳元に口を近づけ、ヒソヒソと言葉を発する。 「えっちな事…………じゃなくて、……本当にエッチしてみよっか。 ……マコは私の事も気持ち良くしてくれる……?」 「……! ……は、はぃ!!」 マコはこの言葉を聞き、目をまん丸にすると、大きく返事をしてうなずいた。 とりあえず私はマコの家へ電話し、お泊りの許可を取る。 無事許可を取って部屋へ戻ると、まだ9時だと言うのにカナはすでに眠りこけていた。……しかしコレは好都合。 「こら、カナ! 寝るなら自分の部屋で寝なさい」 「ほぇ……あー、悪い悪い……ふあ~ぁ、……それじゃあ諸君、オヤスミなさい」 大きなあくびをしながらヨタヨタと部屋へ戻っていくカナ。 「さて、片付けが終わったら、お風呂入って、たまには私たちも早く寝ましょうか」 「そうですね。夜更かしは体に良くありませんから」 私のこの提案に、普段から言う事をよく聞いてくれる千秋は、あっさり賛成してくれた。 片づけとお風呂を終え、居間に客布団を敷き、マコの布団も準備完了。……と言ってもこれは飾り。 千秋が部屋に入るのを見送って、私はマコを部屋に連れて入った。 「うん! そのワンピース私のお古なんだけど、良く似合ってるよ」 お風呂上がり、私はパジャマ代わりに、マコにワンピースを着せていた。 「そんな……オレには父親譲りの男気が……って言うか、オレは男です!」 「はいはい。マコは可愛い可愛い男の子だもんねーッ」 少し小馬鹿にした言い方で私がそう言うと、マコはふくれっ面を浮かべている。 私はその犯罪的に可愛い生き物を連れ、ベッドの中へ入った。 ベッドの中に入ると、マコはすぐに抱きつき私の胸へ顔をうずめ、ピッタリひっついて離れない。 太もものあたりに下着から出たマコの硬いモノが当たる。私はそれを太ももで挟み、ゆっくりと擦ってみた。 「……ふぁ……んっ、ぁっ……」 思った以上に大きな反応……ずいぶん我慢させちゃったから…… 私は徐々に擦るスピード・力を強めていく。すると、マコもそれに比例して喘ぎ声を強めていく。 「んっ、ん……あっ、ふ……ぅっ、んんっ……ハルカさん……気持ちいい……っ」 顔を近づけて喘ぎ続けるマコ。気づくと、マコの吐息がかかるほどに、近くまで顔が寄せられていた。 開きっ放しの口からは喘ぎ声が絶えず発せられ、私はマコにうるうるした目で見つめられている。 その姿に思わず私までドキドキしてしまい、つい足に入れる力加減を忘れてしまっていた。 「ハルカさんっ! ……ハルカさん……もう、オレ…………んんっ!」 「……っ!」 突然唇を押しつけられ、マコの激しいキス。……それは射精の合図。 キスと同時に、ふとももに挟んでいるモノがビクビクッと大きく反応し、熱い液を大量に出している。 マコのキスが終わり布団をめくると、私のパジャマは精液でドロドロになっていた。 「ご……ごめんなさい。……あの、我慢できなくて……その…………」 必死に謝り続けるマコ……しかし体の方は、まだ物足りないと言わんばかりに、大きいままビクビク痙攣している。 「いいのよ。マコは今日いっぱい我慢したんだから。これくらい許してあげる」 私はそう言ってベッドから降り、ドロドロになったパジャマを上下とも脱ぎ捨て、下着だけの姿になった。 ……と言っても、寝る時はブラジャーは外しているため、下に穿いているだけ。 その姿のまま再びベッドへ戻り、マコを抱きしめる。 「気持ち良かった?」 「はい。……でも、一緒に気持ち良くって言ってたのにオレだけ……ごめんなさい」 「うーん……じゃあ、マコも同じように、手と足と口で私の事気持ち良くしてくれる?」 私はそう言ってマコの膝辺りに、股を擦りつける。普段と違って自分がおねだりしている不思議な気分…… するとマコは布団に潜り、私の残された下着に手をかけた。 「マコ? ……何してるの?」 「……えっと、これ取らないと見えないから……同じように口で出来ないし……」 マコの手でゆっくりと下着が降ろされていく……普段しているエッチな事をされると言う、変な気持ち。 気がつくと、私の体はガチガチに緊張してしまっていた……。 次へ→ 名前 コメント 6スレ目 この野郎氏 マコとハルカ 保管庫
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第2回 探求(1) 5月29.5日 ブラックタイガー(無頭冷凍、東急ストアにて10尾980円。うち4尾 スープで煮込む) ぼんやりと菫色を感じるのみ。 6月5.5日 ブラックタイガー(先週の残り、週末までにおかず用に4尾食べられ、2尾。バター炒め) 目覚ましを低音量にて使用。 失敗。鮮度が悪いためか発生を確認できず。 6月12.5日 (甘エビ刺身用、サンカマタにて15尾580円のうち7尾、醤油とワサビにて生食) 枕の下に携帯を敷き、バイブレーションアラームを使用 成功。しかしまたも手足動かせず。 これは五月から六月にかけて、ハルカがあの菫色の世界に到達というか覚醒というか、とにかく行き着いたその記録だ。 日付に小数点がついているのは、それが日曜と月曜の、どちらともつかない間にあるからだった。 ハルカはあの現象が発生する状況を、できるだけ細かく分析しようと考え、実験を重ねていた。 まず、はっきりとわかったことがあった。発生するのはやはり一週間に一度だけ。日曜日の夜だ。正確には日曜日と、月曜日の間、午前三時二十八分。 買ってきたエビは、たいてい一日で食べきれないので、月曜や火曜の献立に上ることも多い。しかし、日曜以外はどうしてもうまくいかないのだ。 曜日というのは、時間に対して人間が勝手に刻んだ目安でしかない。なぜ日曜の夜なのか。正直なところ理解に苦しんだ。 あるいは観測者である自分の精神状態、つまり、明日からまた退屈な一週間がはじまる、という嫌悪感のようなものが、その引き金となっているのかもしれない。 ただ、そうやって考えを進めると、要は自分の錯覚である、という、いかにもな結論が出てしまうので、そこはあまり深く考えないようにした。 エビ。日曜日と月曜日の間、午前三時二十八分。 起き続けているか、あるいは少なくとも20分以上前に、自然な形で目覚めていなければならず(これには携帯のバイブアラームが都合よかった)、時間ピッタリで急に起きようとしたり、大きなアラーム音を鳴らしたりと、目覚めにショックが伴った場合には発生しないようだ。ここまではわかった。 だが何度試みても、最初のときの、ベッドを抜け出して歩き回れるような自由が得られなかった。せいぜい布団の中で首を巡らせるだけだ。これでは研究を進められない。 いかにして一回目のときのように、はっきりとした発生に行き着くか、そこが課題だった。 もちろん、条件のひとつは明白だ。すなわち、あのイセエビ八匹。 だがあんな立派なイセエビは、そうそう食べられるものではない。お中元のカタログで調べたところ、あのサイズの活きエビの相場はだいたい3匹1万円。我が家の家計からして、晩のおかずに出る可能性はまずないし、ハルカの個人的こづかい(月2500円)から考えても、手が出るものではない。 しかし、グラタンやてんぷらの、安い小エビでも小規模の覚醒は起こった。 とすると、あの現象は、エビ全般に含まれる何らかの成分によって誘発されるものに違いない。 ならばその鍵となる成分を突き止め、よりコストパフォーマンスの高い、つまり安いエビの可能性を探っていくべきだとハルカは結論づけた 探求(2) 6月26.5日 オマールロブスター(一尾、東急ストアにて780円、ボイル) ワイン(グラス半分)を飲用 かなり意気込んでみたが失敗。発生確認できず 淡白なロブスターには誘発成分が少ないのではと推察 7月3.5日 相模湾産活きクルマエビ(特大1尾 東急ストアにて560円 塩焼き) 目まいのため意識を失うものの、ついにベッドから起き上がり、這い出すことに成功。 さらに実験は続いた。特にエビについて、研究の進歩は目ざましかった。 これまでの経験から、味の濃い、いわゆる「旨い」エビほど覚醒の誘発効果が高い傾向にあることがわかってきた。では、エビの旨さとは何か? ハルカはまるで水産科の学生のような熱心さで、エビの旨みを解き明かす調査に没頭し、とうとうその鍵を握るのが、ベタイン・グリシンであることをつきとめた。 ベタイン・グリシンは、アミノ酸の一種で、エビの身に、あの独特の甘味を与えている。これこそ、日本人が特にエビを好む原因なのだそうだ。 日本の食卓にのぼるカニ、エビ類の、ベタイン・グリシン含有量は以下の通りである (ベタイン・グリシン含有量) クルマエビ 539 イセエビ 420 ズワイガニ 357 タラバガニ 417 ハナサキガニ 476 (mg/100g) これによれば、エビ類の中でも最高のベタイン・グリシン量を含有しているのはクルマエビだ。これが捜し求めていた「誘発成分」とするならば、クルマエビには、イセエビを超える効果が期待できる。 また、エビのタンパク質は自己分解性が激しく、すぐに食感が失われてしまうこともわかってきた。つまり、素材はボイルや冷凍でなく、活きエビでなければならない。 活きクルマエビ。それがあの世界を探検する鍵となるかもしれない。 夏向けの洋服をいくつか我慢してでも、チャレンジする価値がありそうだ。 思いつめた表情のハルカを見て、周囲はきっと英単語でも覚えているのだと思っていたろうが、ハルカの心の中は、もはやエビで一杯だったのである。 そして夏休み直前の7月17日。 ハルカは大事なお年玉貯金を下ろし、東急ストアで活き車エビ(特大)6尾を、特価2000円にて購入。台所で塩焼きにし、一人で食べた。ビールのつまみに一匹欲しがる父にも渡さなかった。 両親もこの頃になると、日曜の深夜にエビをむさぼり食う娘の姿を見ても何も言わないようになっていた。受験を控えていることだし、何か神経がたかぶっていると思ったのだろう。 携帯のバイブアラームを枕の下にセットし、万全の布陣で、ハルカは覚醒に臨んだ。 全体的には、気が触れたようにしか見えなかったと思うが。 再び菫色と水飴 7月17.5日 これまでにないクリアーな覚醒だった。 いつもの金縛り状態でなく、体を動かせることにも気づいた。 あの最初の日と同じだ。水中で動くような抵抗があるものの、ゆっくりとなら体を動かせることにも気付いた。空気は重い、まるで水中のようだ。 カーテンを下ろした窓の外が明るい、窓のはじには、なにか光の筋が走っているのにも気付いた。窓の外がどうなっているのか、廊下の先にまた水飴はあるのか。 (今日こそ確かめてやる。) ハルカは興奮をおさえきれず、さっそく行動に移った。 タオルケットを持ち上げた。手の重さが増す気配はない。いける。 寝汗を吸ってやわらかいはずのタオルケットが、まるで日に数日もさらした雑巾のような感触で、妙に固まって感じられた。 ベッドからゆっくり上体を起こす。 大気がねっとりと重い。ガラス繊維に触れるような、チクチクした軽い痛みが皮膚を走った。 注意しながら横に転がって四つんばいの状態になり、そのまま窓を目指してゆっくりと這った。 体育座りをするように足を体にひきつけ、呼吸を落ち着けてから、窓枠に掛けた手を支えに一気に立ち上がった。 脳の血液が、急にぐわんと巡った。目まいがした。 ハルカはしばらく目を閉じて、窓に背を向けたまま立ち尽くした。 カーテン越しの外の光が、背中に感じられた。しかしそれは太陽の温かみとはどうも違うようで、はたして暑いのか寒いのか、よくわからないのだった。 ハルカは辛抱強く目まいがおさまるのを待った。今日こそ、この不思議な世界をしっかり見てやろうと、半ば意地になっていたのだ。 薄目を開けて窓の方に向き直り、カーテンを開いた。 小学生の頃から部屋にかかっているキャラクター柄のカーテンが、やはり干されて固まった雑巾のような感触だったが、いちいち気にして入られない。 四階の窓から外に見えたのは、宝石を思わせる深い菫色に染まったまま、不気味に静まり返った蒲田の町だった。 見渡す限り、動くものは何一つなく、またうまく説明できないのだが、すべてが動くはずもないように思えた。 町じゅうの道路に、例の水飴が流れ出していた。 乳白色、半透明のなかに混じった、青や赤、緑。 あたりを照らし出す菫色の光のため、正確にどんな色なのかはよくわからない。 それは、まるでガラス細工の巨大な工場が事故を起こし、溢れ出した色ガラスに、街が水没しているようにも見えた。 街路樹や窓、アンテナや電線などの細かい部分は、なぜか妙に霞んで見える。 カーテン越しに見えた光の筋は、天球をまたがって輝く、巨大な光の弓のようなものに見えた。 それは太陽の替わりに地上を紫色に照らし出しており、なにかひどく不気味なものに見えた。あたりをくまなく照らし出しているはずなのに、明るいのか暗いのかはどうも定かでなく、あたりのどこにも影がなく、またどこもすべて影のなかにあるようにも見えた。 風景全てが、なんともいえない違和感のなかにあった。 呆然としたまま空を見上げ、北のある一点を中心に、無数の同心円を空に描く光の筋を見て、ハルカは気付いた。 「星だ」 同じものを理科の教科書で見たことがある。 シャッターを開けたまま夜空を写真に撮ると、星はああして見える。 今こそハルカははっきりと理解した。 残像だったのだ。 星は光の筋となる。天空をまたぐ光の弓は、太陽の軌跡だ。 あの水飴は、町を行く人や車の流れなのだ。 この菫色の世界では、動くものすべてが、その動く軌跡そのままに、立体的な残像となって、空間に固まっているのだった。 どれくらい眺めていたろうか。ふと気づくと、はるか遠くに、見慣れないものが見えた。 何か塔のようなものだ。 南西、神奈川方向、川崎駅か、あるいはその先の横浜あたりだろうか。足元は、ビルの群に隠されてよくわからない。霞み具合からすると、相当の遠くにあるように見え、またその距離でこの高さに見えるとなると、かなり巨大なもののようだった。 ハルカの記憶している限り、窓の外にそんなものが見えたことはなかった。 視界の中でその塔だけが微妙に黄色っぽく、それはいかにもよく目についた。 ハルカはその塔の位置を、イトーヨーカドーと、ライオンズマンションとの間を目安にして覚えておくことにした。 そしてドアの外へ (そうだ、外は。) 新たな好奇心がわきあがってきた。 ハルカは注意深く、再びはうようにして部屋のドアに向かった。 よく見ると、ドアの合板がうっすらと透き通っていることに気付き、驚愕した。木目の向こうには、洗面所に続く廊下の様子が見えている。 しばらく考えて理解した。 このドアは一日のうちに何度も開閉される。おそらくそのため、これも一種の残像となって、完全な不透明にならないのだろう。 ドアは鉛のように重く、ノブは力をこめてようやく回った。 ノブを回す手が、まるでヤスリがけをするようにヒリヒリと痛んだ。 酔っ払っていたとはいえ、よくこんなものを気付かずに開けたものだとハルカは思った。 あるいは最初の覚醒のときは、もっと簡単に開けられたのだろうか。 ようやく通れるくらいの隙間を押し開けて、ハルカは廊下に出た。 振り返ると、ドアは、蝶番を中心にした、一片の巨大なバームクーヘンのように見える。 廊下にはあいかわらず水飴が流れていた。 今ははっきりと、これが母だとわかる。以前と流れ方が違うように見えるのも理解できた。 今日、母は掃除を手伝わせるために、何度もハルカの部屋を訪れていた。そのためハルカの部屋に向かう側の水飴は、より濃度が濃いのに違いない。 声をかけてみようかと思い、やめた。それはやはり、ただの影のようなもので、生命として存在しているようには思えなかったのだ。以前のような、うかつな接触をしないように、母の残像を避け、廊下の隅を横向きになってそろそろと進んだ。 玄関のドアは、マンションによくあるスチール製だ。これもよく見れば透き通っているのかもしれないが、暗さのせいか、あるいは材質のせいなのかよくわからない。 ハルカの部屋の、軽いドアでさえあの重さだった。ノブの固さ、ドアの重さはさらに増して、ハルカの力ではびくともしなかった。まるで銀行の大金庫をこじあけようとでもするようだ。 一瞬あきらめかけた。だが、なんとしても外に出て見たいという欲求は抑えがたかった。 あの高かったクルマエビを、今度食べられるのはいつかわからない、という、きわめてわかりやすい理由もあった。 パジャマのすそで手をくるみ、全身の力をこめてノブを回した。ノブに触れたパジャマの表面は、たちどころにボロボロになった。 ノブが回ったところで、何度もドアに体当たりをした。音がほとんどしない。以前と同じだ。まるで空気が振動を拒むようだった。 パジャマの肩口がズタズタになった頃、わずかにドアが動いた。急がないと、回したノブがまた元にもどってしまう。 ハルカは、ドアと、脇にある靴箱の間に、体を斜めに挟み込ませて、両足を踏ん張った。 少しづつドアは開いていった。足の裏はまるでドアの中にめり込んでいくように感じられ、すりむけて結構痛い。しかしここまで来たらやめられない。靴を履こうかとも思ったが、ハルカのお気に入りのスニーカーは、ものの見事に、小さな細長い水飴となっていた。歩く軌跡が見えているのだろう。地面を蹴ってはまた戻る、小さな弧をいくつも描いて、半透明のドアに混じるようにして外に消えていた。 こうして見ると、自分だけが靴のように水飴状になっていないのは、逆に奇妙なことのように思えてきた。 休み休み、時間を知るすべはないが、おそらく五分ほどをかけて、ハルカはとうとうドアをこじ開け、マンションの廊下に出た。 水飴の滝 玄関の暗がりから出ると、外の明るさはいかにも強烈で、ハルカは、菫色の光に一瞬目がくらみそうになった。 ここもやはり、しんと静まり返っている。足の裏の痛みに、コンクリートの冷たさがひんやりと心地よかった。 色とりどりの水飴の塊が廊下を埋め尽くしているのが見えた。マンションの住人の姿なのだろう、 ハルカが両親とともに住んでいるマンションは、ごく普通の小さな3LDKだ。部屋のそれぞれが廊下に面していて、中央にエレベーターと階段がある。 ハルカはとりあえずそこを目指した。 空気はますます濃密に、液体のように感じられた。ハルカはあえぎながら、泳ぐようにして、一歩一歩前に進んだ。やはりできるだけ水飴を避けるため、体は横向きで、端を選んで歩いた。 普段の出入りにはエレベーターを使っていたが、使い物にはならないだろうと思われた。 近づいて見ると案の定、エレベーター全体が灰色の水飴と化している。外に出るためには階段を使うしかなかった。 エレベーターにくらべ、通行が少ないせいだろう、階段の水飴は、廊下に比べて濃度が薄かった。ハルカは注意深く、そろそろと階段を下りていった。 それはまるで、水飴の滝に沿って下るようだった。階段の段差が、水飴に美しい一定のパターンを作っている。それはいつか家族で見に行った、鍾乳洞の奇岩を思わせた。 時々、誰か壁に手でもついたのだろうか、壁めがけて突き出された水飴があり。そのたびハルカは身をかがめて、トゲのようなその下をくぐるのだった。 ようやく一階にたどりついたハルカは、マンション入り口の自動ドアで足を止めた。 大きなガラスの自動ドアは、すりガラスのようになっていた。 ハルカにはその理由がわからなかったが、あるいは一日に何百回も開閉するために、表面のさまざまな反射が、それぞれ残像となって重なって見えるためかもしれない。 階段から流れ出した水飴は、エレベーターからのそれと合流して、太い一本の流れとなり、そのままドアを貫通していた。 ハルカは悩んだ。 これは玄関のドアのように開けられそうになかった。いや、ある意味では開いているとも言えるかもしれないが。いずれにせよ、外に出るには、この自動ドアを抜けるしかなかった。 しばらく悩んだ末、ハルカはドアに足先を突っ込んでみた。 ザクリ、と嫌な感触があって、しかし足先はわりと簡単にガラスのドアを貫通した。 母親とはまったく感触が違った。柔らかだが厚みのある人体と、薄いが固いガラスとの差かもしれない。ガラスの表面にゆっくりと波紋が生じ、それとともに、なんともいえない痛みが、ハルカの足先から伝わってきた。正確に言えば痛みというより、正座した後の足の痺れのような感じだ。ただそれよりずっと強烈だった。足を抜こうか、このまま進もうか迷ったものの、結局そのままドアの外に飛び出した。 ついにハルカは屋外に出た。 目の前には、また別の、これまで見たことのない水飴が流れていた。 全体的に幅広で、その分背は低かった。濃度から言えばこれまでのものよりずっと薄く、ほとんど透明に見えた。しかし全体になにかキラキラとした光沢があるのが違っていた。先に進むためには、この見慣れない水飴を超えていくしかない。ハルカは決心して、新しい水飴の中に片足をつっこんだ。 絶叫した。 ガラスとは比べものにならない。激痛だった。まるで熱湯に足を入れたかのようだ。 反射的に足をひっこめて、その反動で、アスファルトの上に派手にしりもちをつきながら、ハルカはこの水飴の正体を直感的に理解した。 (車だ!) マンションの前を走る車の残像に違いなかった。 おそらくこれは、運動エネルギーの塊のようなものなのだろう。速度が速い分、透明度が高く見えたのだ。 ハルカは、新たに目にした、この危険な残像に触れないよう注意深くマンションの周囲を一周してみた。しかし、どこもやがては、キラキラした残像に突き当たるのだった。都心の住宅街だから当然といえば当然だ。車の通らない道などない。これ以上は進めない。 ハルカはなすすべなく、マンションの入り口、植え込みの前に立ち尽くした。植え込み全体が、ぼんやりとかすんで見える。葉が風でそよぐ、その残像なのだろう。菫色がかった半透明の緑が美しかった。 ふと、眠気がゆっくりと全身を浸しつつあるのに気づいた。 いつもの、あの強烈な眠気だ。 突然のことにとまどいつつ、ハルカは恐怖した。ここで眠ってしまったら? このボロボロのパジャマで、マンション入り口に倒れているなど、冗談にもならない。 (戻らなければ!) だが、ひょっとしたら、と思ったが案の定、体もしだいに重くなってきた。 ハルカは、はいつくばるようにして来た道を引き返した。ドアのガラスを乱暴に通過し、必死で階段を駆け上った。部屋が四階であることを呪った。 手足はどんどん重くなり、眠気はますますひどく、次第に周囲が暗くなってきた。三階の途中までしか記憶にはない。 やはり起きたら何事もなく月曜日。 しかし目覚めたハルカの方は悲惨だった。 いったいどうやったのか、ベッドの中には戻っていたものの、全身はひどい筋肉痛で、特に車の残像に突っ込んだ足はひどかった。 ひとつ勉強になった。眠ってしまう前に、もといた場所に戻っておかないと、こういう目に遭うのだ。 本来日曜日と月曜日は切れ目なくつながっている。その間、いる場所が変わっている、なんてことはありえない。そのありえないことをやってしまうと、無理やりもとの場所まで引っ張り戻されるのではなかろうか、その距離が離れるほど、それはこういう大変なことに…などと考えているひまはなかった。やはり遅刻寸前だ。 ボロボロのパジャマを丸めてクローゼットに放り込み、あわてて着替えを済ませた。朝食をかっこみ、母ににらまれながらマンションの出口に走ったハルカは、自動ドアのガラスが、なんだか全体的にゆがんでいるのに気付いた。 理由はわかっている。 しかしこれが自分の仕業であるとはまさか言えないし、言ったところで誰も信じないだろう。ハルカはそ知らぬ顔で自転車を飛ばし、いつものように学校に向かった。 思わず顔がにやけた。いまやハルカは、この見慣れた街の、全く別の姿を見ることができるのだった。 →第3回へつづく
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シンプルでわかりやすい,ダサいフレーズなのにかっこいい = ダッコいい をテーマに活動するオリジナルバンド. 作詞作曲をする人が固定されていないのも特徴の一つ. パート おなまえ 他のバンド Vo,Gt 森本タカオ 仏ちゃん,KATY Ky 田代タツヤ Pen+α,ポロリ Ba 赤津ユウイチ KATY,ヘンタイ Dr 村林ユウタ Pen+α,プロデュ―ス業
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データコスト スキル 説明 友情覚醒 キャラ評価 コメント ハルカ データ 基本ステータス Lv HP SP 攻撃 防御 会心 編集 1 134 61 81 30 39 編集 100 288 171 205 84 68 編集 100(限界突破4回) 360 191 241 108 88 編集 コスト 初期値:9 覚醒後:11 スキル スキル種類 スキル名 説明・効果 編集 リーダースキル 全力魔法 魔道士の与えるダメージが中アップ 編集 超全力大魔法 魔道士の与えるダメージが大アップ 編集 アクションスキル1 ブレスドサンクチュアリ 説明:味方を大回復し、一定時間周囲の味方の防御力がアップ SP:55 編集 効果: 編集 アクションスキル2 セイントレイ 説明:聖なる閃光で敵を穿つ SP:48 編集 効果: 編集 オートスキル1 HP+15% 編集 オートスキル2 攻撃+15% 編集 オートスキル3 アクションスキル強化+15% 編集 説明 CV 大空直美 魔法学園で白魔術を学ぶ少女。 成績は万年二番手だが、くじけず努力を続ける。 友情覚醒 紫のルーンx80 紫のハイルーンx75 紫のスタールーンx11 +ネタバレ画像 奮起の白魔術士 ハルカ・グレイヘヴン キャラ評価 コメント 名前
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香月悠 (かづき はるか) 27歳 悠栖とは双子の関係 どっちが兄かは不明 面白いこと大好き珍しいものはもっと好き 根っからの蒐集家で珍品から 何に使えるのかよくわからない物まで幅広く蒐集している ドS 銃の扱いが得意 従者はドーピングアイテム 現在R市でUGN支部長という立場 片割れよりちゃっかりした性格 シンドロームはブラムストーカー 身長:175cm 体重:55kg 誕生日:10月25日 血液型:不明 イメージカラー:青 好きなもの:人形、珍しいもの、気まぐれな猫、悪だくみ 嫌いなもの:見苦しい人、騒がしい人、役立たず 趣味:人形集め、人形作り
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てんしのまちはるか【登録タグ て 夜見野レイ 小説 本】 天使の街~ハルカ~ 著者:夜見野レイ 本紹介 コメント 名前 コメント
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能力 降霊術[0] 降霊術師専用。隣接マスで[召喚済]になった自分のクリーチャーを[降霊中]にする。 降霊解除[0] 降霊術師専用。自分の[降霊術]を解除して、[降霊中]クリーチャーを[待機]にする 入手条件 緑の★を50個集める 説明 専用職業の降霊術師になれるキャラ。 降霊術師の詳細は個別ページから。 使用感・雑記etc 実際に使ってみての感想、戦略や思い出トークなどあればここに記入して下さい 名前 コメント
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第8回 アオウオ 火曜日の夜にそれは起こった。 その日、ハルカはなんとか元気を回復したものの、ほとんどベッドの中で勉強をして過ごした。 これまで、できるだけ考えないようにしてきたが、中学三年の夏休みともなると、そろそろ学校の補習に塾の夏期講習など、いろいろ忙しくなってくるのだ。 いまでは明らかに娘に不審の目を向けている両親の心証を、少しでもよくするためもあった。 メギ曜日に夢中となっていたここ数ヶ月の間に、すっかり頭が錆びついているようで、なかなか調子が戻らない。だがそれが、今のハルカにはかえってありがたかった。 あの恐怖を少しでも紛らわせようと、普段は嫌々の数学に没頭した。 「二等辺三角形の両角は等しい」という、よくわからん証明をようやく片付けると、すでに11時を回っている。ハルカはノートを放り出すと、ベッドに倒れこみ、お気に入りのタオルケットにくるまった。 外は雨だった。夏らしくない、じっとりとしめった嫌な雨だ。 湿気のせいか、体の節々がまだ痛む。雨が窓をたたく音が、いつまでもうつろに響いていた。 それを、最初は夢かと思った。 しかし突然そうでないことに気付いた。 ぎょっとした。 あの感覚があった。 メギ曜日で感じていた、あの独特の違和感だ。 だが今日はまだ火曜日だ。メギ曜日が来るはずはない。 しかし、ハルカの全身の感覚は、周囲の異常を強く告げていた。 起き上がって様子を確かめようとして、ハルカはさらに気付いた。 体が動かなかった。 目は開いている、耳も聞こえているようだ。しかし体はピクリともしない。 これは何だ。全身の毛が逆立った。 あたりは闇に閉ざされている。おそらく夜中過ぎなのだろう。空気はじっとりと湿って、水の中にいるように不快だった。菫色の薄明がないのだけが、いつもとは違っていた。 (なぜだ、今日は日曜ではない) (メギ曜日が来るはずはない) 疑問が駆け巡った。 窓の外が、一瞬青白く光った。その色に見覚えがあった。 光はすぐに消え、また闇が戻ってきた。 恐怖に凍り付いて、ハルカは全身の感覚を研ぎ澄ました。 しばらくして玄関の方で、物音がした。 カリカリと金属をこすり合わせるような嫌な音だ。 ハルカはいまや確信していた。間違いない。あれだ。 音はしばらく続き、突然にやんだ。 部屋の空気が急速にじっとりと湿ってきた。 すでに家の中まで入ってきたのだろうか。音はなく、ただ気配だけが重苦しくのしかかって来るようだった。 今度はずっと近くで音がした。ドアのすぐ外のようだった。動かない顔のかわりに、眼球を必死でドアのほうに捻じ曲げると、ドアを突き抜けて入ってくる、何かが見えた。 液体のように表面に波紋を浮かべ、大きくたわんだドアの、その中央から、黒くて鋭いものが、ぬるりと突き出されてきた。濡れたように光っている。 どっと湿気が流れ込んできた。部屋の中は、もうまるで水中のようだ。 巨大な何かが、錐で穴を押し広げるようにドアを突き抜けて、部屋の中に入り込んできた。 あの「目」が見えた。 「アオウオ」がそこにいた。 それは、ハルカの部屋一杯の、それ以上の大きさがあった。ベッドの傍ら、ハルカの真横に、砲弾のような巨体が浮かんでいる。体の端は、壁を突き抜けて、部屋からはみ出していた。 あまりの大きさに全体像が掴めない。 ハルカは恐怖に凍りつきながらも、その細部をつぶさに観察していた。 黒くて鋭い先端部は、鳥のクチバシのようだ。獲物に穴をあけて内容物を吸い出すためのもののようだった。なめらかな表面は、モルフォ蝶の鱗翅を思わせる、金属光沢を備えた羽毛のようなもので覆われていた。目も覚めるような青一色だった。光線の加減で、コバルトから藍、セルリアンブルー、スカイブルーと、あらゆる青に変化した。 全身から、かすかに霧を噴出しているように見え、それによって絶えず周囲に湿気を満たしているように見えた。 巨大な一つの目が、生物としてはまったくありえない場所についており、それはやはり平面的な模様のようで、生物的器官とは思えなかった。 その虚ろなまなざしは、「死んでいて生きている」という、説明のつかない強烈な印象を与えた。 アオウオは、鋭い先端部をしきりと小刻みに振り回すだけで、獲物であるはずのハルカに襲いかかろうとはしない。まるで何かを探しているかのようだった。 突然、あの脳を焦がすような思考が、自分の中から湧き上がってくるのを感じた。 いまこそハルカは理解した。これは奴の攻撃の手段なのだ。アオウオは、人間の思考に、外から入ってきて操るのだ。 (体を動かしたい) (体を動かしたい) (体を動かして動くのだ。) 今ここに少年はいない。ハルカはこの思考攻撃に、自分が抵抗できないことを知っていた。そしてすぐにそんな考えすら消し去られた。 (体を動かしたい) (体を動かしたい) (体を動かして動くのだ。) (そうしたらどんなに素敵だろう) (自分から体を動かしさえすれば、なにもかもうまくいくのだ。) ハルカは、心の底から、それこそ全身全霊の力で体を動かそうとした、しかし果たせなかった。体はまるで自分のものではないようで、相変わらずピクリとも動かないのだ。もどかしくてたまらなかった。心があの冷たく青い感覚様の到来に舌なめずりをしているのが痛いほど理解できて、悔しくてならなかった。 (早く動くのだ。) (体を動かして動くのだ。) (体を動かして動くのだ。) ハルカは、体一つ満足に動かせない自分のふがいなさに、ただ泣いた。生まれてから今に至るまで、こんなに悲しく、悔しいことはなかった。 体を動かして動きさえすれば、すべてはうまく行くと言うのに! カンバス9 どれくらい続いたろう。 ハルカはボロ雑巾のようにくたくたになって、水曜の朝に目覚めた。 アオウオの姿はなかった。 雨はすでに止んで、強烈な7月の太陽が、窓から差し込んでいた。 顔は、一晩中流した涙と鼻水でズルズルになっていた。 ほんのついさっきまで、自分が心からアオウオの命令に従いたかったこと、それが果たせないのが本気で悔しかったことが、まざまざと思い出された。 それどころか、今も心のどこかで、あの怪物をまるで恋人のように懐かしく、慕わしく思っている自分に気付いて、ハルカは改めて戦慄した。 部屋中にまだ湿気が残っている。布団やパジャマはじっとりと濡れて、肌にまとわりついていた。 ハルカは、恐怖から逃れるようにベッドから転がり出ると、床の上に小さくしゃがみこんで震えた。 床のカーペットには、巨大な砲弾型の跡が、黒く湿って残っていた。洋服ダンスや机は、夏だと言うのに一面にびっしりと結露している。 窓ガラスには、濡れたカーテンが一面に張り付いていた。 夢だと思いたかったが、夢ではなかった。 アオウオが追って来たのだ。 震えながら思った。 (金縛りでよかった) (動けなくて本当によかった) もし動けたら、たちどころにあれの命じるままになっていたろう。そうしたら、こうやって無事に朝を迎えられなかったに違いない。 そこまで考えて、ぎょっとした。 メギ曜日ならどうなる? 今度、メギ曜日に目覚めたら、そのときこそ終わりではないのか。しかもそれは、わずか5日後のことでしかない。 いや、メギ曜日まで無事でいられる保証すらない。 現に今日はまだ水曜日ではないか。 震えが止まらなくなった。 なんとかしなければ! 台所から母の呼ぶ声が聞こえた。 ハルカは、なんとか考えをまとめると、のろのろと立ち上がった。 こんなところで震えていても仕方がない。 また変に怪しまれて、部屋で寝ているよう言われたり、病院に連れて行かれたりするのは避けなければならなかった。 そんな時間はない。 ハルカは震える手で窓を一杯に開け放ち、湿気と恐怖とを七月の太陽で追い払った。 父母の前でなんとか元気を装い、真っ青な顔はまだ癒えないケガのせいにして、味のしない朝食を胃袋に流し込み、ハルカは郷土博物館に向かった。 「0犬」の名前が共通していたのであれば、あの「アオウオ」も、ひょっとして伸吉の記録にあるのではないか、そう思ったのだ。 あの恐るべき怪物に備えるための、何かの手がかりがあるかもしれない。 いや、ないと困る。 頬に大きなシップを貼ったハルカの姿に驚く野村さんに、土曜のことを手早く詫びると、何かこれまでに見落としていた情報がないかどうか、あらためて信吉文書を徹底的に調べなおしていった。 これまであまり気に留めていなかった、文書全体を包んでいた麻の袋にも注意してみると、文書が保管されていた際のものと思われるマジックの書き込みを見つけることができた。 「寄贈」 「後藤濱代」 他にも住所のようなものもあったが、こちらは滲んでよく読めない。 これが、おそらく文書を保管していたという信吉の姉の名なのだろう。これはこれで新発見だが、今はあまり役に立ちそうになかった。 ハルカは焦りつつ、これまでカビのせいであまり解読の進んでいなかったノート5、8、カンバス7、9、そしてスケッチブックなどに手をつけることにした。 真っ黒なカビに覆い尽くされたカンバスやノートは、相変わらずほとんど判読不能だったが、手がかりも多少あった。 「0犬」の描かれたのはカンバス8。そしてサイズからしてカンバス8と9は連作のように見えたことを思い出したのだ。 筆箱から定規を取り出した。よくある短いプラスチック製だ。 ハルカは野村さんの目を盗むようにして、カンバス9の表面を覆うカビの層を、その定規で強引にこそぎ落とした。 美術品には許されないことかもしれないが、こっちは命がけだ。 定規の角に削られて、カビに侵された絵の具の表面がみるみる剥がれ落ちた。絵が台無しだ。冷や汗が出た。だが、少なくとも描かれた何かの全体像は、ぼんやりと明らかになっていった。 全体の四分の一ほどを傷だらけにした時点で。ハルカの手は止まった。 あの「目」が、そこに描かれていた。 相変わらずの稚拙な絵だったが、見間違いようもなかった。 画面端にエンピツで書かれた字にも気付いた。 「青青魚魚(アヲウヲ)」 それは、未知の深海の生物か、あるいは何か熱帯植物の種子のように見えた。優美な曲線を描く、砲弾のような体があり、その先端近くに、あの「目」とクチバシがついている。 昨夜はっきりと見ることの出来なかった、その異様な全体像は、ハルカを戦慄させるに十分だった。 ハルカは必死になって、絵の周囲をさらに削っていった。何か弱点は? 撃退法が書いてありはしないか? だが、この乱暴な処置は諸刃の剣だ。エンピツの字は他にもあったが、ともすれば絵の具の層とともに剥がれてしまう。 ・・・水中ニ潜・・・・・精神的・・・電気・・・・・断片的にそんな単語が読み取れた。 (もっとだ) (カビだけ薄くそぎとれないか?) 焦れば焦るほど画面の傷はひどくなる。 「ちょっと君!」 野村さんの怒声が部屋に響いた。 あと五日 ハルカは郷土博物館そばのコンビニで、駐輪場にへたりこみ、買ったはいいが食べる気にもならないアイスキャンデーを咥えながら絶望していた。 博物館を叩き出されたのだ。 精いっぱい謝ってみせたが、あれだけの狼藉をしでかしては、もう二度と伸吉文書に近づけてはもらえないだろう。家や学校に連絡されなかっただけでも幸運に思わなければならなかった。 (どうしよう) (どうしたらいい) 周囲は腹立たしいまでに、さわやかな夏の陽の中にあって、口の中に広がる甘ったるいオレンジ味が神経を逆なでした。 (今日も夜が来る) (青青魚魚が来る) (今日来なくても五日後にはメギ曜日が来る) (明日から夏期講習も始まる。) まとまりのつかない混乱した思考が、ぐるぐると頭の中を駆け巡った。寒くもないのに足が震えるのはこういう時かと思った。 (どうしよう) (どうしたらいい) (どうもこうもない) (それしかない) ハルカは立ち上がり、アイスキャンデーを噛み砕いた。 こうなったら、あの少年を探し出すしかない 名前さえ知らない、あの黄色の騎士を。 あの少年をなんとしても見つけ出して、助けを請うしかない。 あと五日。 夏期講習の会場は賑やかだった。 JR蒲田駅前、塾の真新しいビルの一室は、エアコンがよく効いて心地よい。 普段会わない他校の生徒とも顔をあわせるためか、ハルカたちはおたがい緊張の反面、興奮して、あちこちで他愛のない話題に盛り上がっていた。 昨日のテレビドラマに、サッカー、プロ野球、そして他校の誰かの恋の行方。 ハルカは、現在自分の直面している危機的状況と、周囲の能天気さとの、あんまりなコントラストに頭がくらくらした。 「あんた大丈夫?」 隣のクラスメイトが、ハルカの顔を覗き込んで心配そうに言った。一緒に郷土博物館に行った彼女だ、やはり一緒に夏期講習に参加していた。 「顔どしたの、なんか怖いよ?」 多分そうなのだろう。頬のシップもそうだが、緊張で目が釣りあがっているのが自分でもわかっていた。ハルカは苦労して顔に笑みを浮かべ、できるだけ気軽そうに話した。 といってもうまい話題など思いつかない。つくわけがない。とっさに、このあたりで自転車に乗った全身黄色の男の子とか見たことがない、とか聞いてみた。当てになるとも思えないが、この状態で無理にアイドルの話をするよりはマシだ。 「あるよ。服も帽子も黄色いんでしょ」 あっさりとそう返されて、ハルカは拍子抜けした。 「あれ男の子なの? 『イエローおばさん』って、有名だけど」 ハルカは驚愕して彼女の肩を揺さぶり、さらに情報を聞き出した。 「いやー、自分じゃ見たことないから、詳しくは知らないけど。確かおばさんだって聞いたよ。大井町をフラフラしてるって」 さらに意外だった。大井町というのは蒲田からJR京浜東北線で二駅、品川のとなりの街だ。前回二人が出会った「ガス橋」を起点に考えると、かなり遠い。自転車なら、ぎりぎりで行動半径と言えなくはないが。 突然考え込んだハルカを、彼女は心配そうに見守っていた。さぞかし変に思われていることだろう。だが今はそれどころではない。 それに、おばさんとは? 背格好からすれば、たしかに少年もそう見えるかもしれないが、別人ではないのか。しかし、あんな変な格好をした人間が、そう何人もいるだろうか。 ハルカは、講義もそっちのけで自分の考えに没頭した。まだ頬に大きなシップを貼り付けたままの、見るからに普通でない様子のハルカを、講師があえて注意しないのが助かった。 ハルカは、休み時間の合間に、さらに周囲の話を聞いて回った。 こういう時は、他校からも生徒が集まっているのがありがたい。 しかし、「黄色い服と自転車」というキーワードでは、同じような話しか聞くことはできなかった。やはり「イエローおばさん」の印象が強烈なのだろう。 新たに得られた情報では、 大井町駅の西口商店街あたりに、夕方出没するらしいこと。 自転車も服も全身まっ黄色であること。 スカートではなく、作業着のようなものを着ているので断言できないが、多分小柄なおばさんらしいこと。 ハルカは迷った。まず信じてよいものか。信じるとしても、さてどうするか。 しかし講義が終わって、結局ハルカは大井町に行ってみることにした。 手がかりが他に得られない以上、まずはそれを確認してみようと考えたのだ。 どうせここは駅前だ。往復の運賃300円を払うのはちょっと痛いが、電車なら10分もかからずに行ける距離だった。 イエローおばさん 大田区のどこに行っても流れてくる、五時を告げる「夕焼け小焼け」のチャイムを聞きながら、ハルカは大井町駅に降り立った。 大井町は、品川に近いためか、蒲田より少し駅ビルが立派だ。しかしやはりまだ下町の範疇であることに変わりはない。 「イエローおばさん」が出没するという西口商店街は、特にまだ再開発が進まず、寂れた個人商店が建ち並んでいた。 一時間経った。 歩けば十五分ほどで端まで行けてしまう小さな商店街を何往復もして、ハルカは次第に焦り始めた。「イエローおばさん」は影も形も見せなかった。 考えて見れば、いつもここに現れるという保証はないのだ。 七時前には帰宅しないと、また親に怪しまれる。六時半がぎりぎりのタイムリミットだった。 あたりは、惣菜を買い求める主婦や、ゲームセンターの前にたむろする中高生でごったがえしている。なにも変わらない、いつも通りの日常がそこにあった。 誰も信じないであろう危機に、ただ一人脅え、全身黄色の変質者が現れるのを、ひたすらに待ちわびている自分が、まるで阿呆のように思われてきた。 夏の陽が、少しづつ地平線に近づいていた。六時十五分になった。 あと十五分ここで待つか、それとも移動しようかと、考えを巡らせているハルカの視界の隅に、ふと、それは飛び込んできた。 いた! 黄色い自転車、黄色い服。 100メートルほど向こうの角を曲がって現れつつあった。 ハルカは、走り出しそうになるのをこらえながら、早足で「イエローおばさん」に向かって行った。 期待はすぐに落胆へと変わった。 自転車が違う。 見間違えるはずのない、あの改造車ではなかった。ごく普通の、古びた買い物用自転車が、黄色のペンキで汚く塗りつぶされていた。ハンドルの前カゴに、潰した空き缶のようなものが一杯に詰められているのが不気味だった。 乗っているのも、やはり男性ではなさそうだった。ずんぐりした体形は中年女性に特有のものだ。 黄色い作業着に、黄色い軍手、黄色い靴下、黄色いサンダル。衣服はどれも、薄汚れ、くたびれていた。 顔はよく見えない。行商のおばさんがするような、覆いのついた、黄色い帽子をすっぽりと被っていた。ハルカは思わず立ち止まり、出しかけた足を引っ込めた。 (この人は、おかしい) 直感でそう思った。 自転車にまたがったまま、漕ぐのでなく、片足をペダルに、もう片足で地面を蹴るようにして、ふらふらと危なっかしく進んでくる。店の一つ一つに立ち止まっては、頭を小刻みに動かして中を覗きこんでいる。いかにも不審だったが、周囲の店員も客も、慣れた様子で、さして気にも留めていない様子だった。 呆然として見守るハルカの方に、どんどん近づきつつあった。 (どうしよう) さっきまで、あれだけ待ち焦がれていたはずなのに、いざ目にした「イエローおばさん」はあまりにも異様で、とても気軽に声をかけられそうにはなかった。 とうとう目の前に来た。 洋菓子屋のショーウインドーを覗き込んでいる。なにかひっきりなしにぶつぶつと言っているのが聞こえてくる。もうすぐ六時半だ、このまま帰るわけにはいかない。 ハルカは目の前を通り過ぎようとする「イエローおばさん」に、思い切って声をかけた。 「あの」 反応はない。 「あのっ、すいません。」 少し大きな声を出すと、頭をすっぽり覆っていた黄色い帽子が、ゆっくりとこっちを向いた。 はじめて顔が見えた。 老婆だった。 いや、年齢は判然としない。顔中に深い皺が刻まれていたが、肌はバラ色で、妙なつやがあった。強い光をたたえた小さな目が、落ち着きなく瞬いている。ハルカの方を見ているようで、実はどこも見てはいない。もちろんあの少年ではない。似ても似つかなかった。まるで、何か強い恐怖や、悲しみといったものに漂白されたような、不幸で、不吉な顔だった。 その口が素早く開いた。 「インチキさん?」 「え?」 「ダイトのインチキさん?」 意味がわからない。 ぼんやりとした、定まらない視線のまま「イエローおばさん」は、なおも早口で言った。 「19ダイなの?」 19台? それとも19代なのだろうか? そんなことを一瞬考えて、泣きたくなった。とても会話などできそうにない。しかし、ここまで来て、何の成果もなく帰るわけにもいかなかった。 「あの、すいません、お子さんとかで…」 「クミのひと?」 「黄色の服を来た・・・お子さんじゃなくてもいいんです、あの。」 「ラケシ? ラケシなの?」 やはり会話にならない。 ふと、あることに思い至った。 それは恐ろしい考えだったが、ハルカは思わず震えながら、ゆっくりと「イエローおばさん」の耳元に近づいた 囁いた。 「ゼロイヌ」 「イエローおばさん」の落ち着かない視線が、急に止まった。信じられないと言う目でハルカを凝視して、小さく震えだした。 ハルカは慎重に言葉を選ぶようにして、さらに言った。 「アオウオ」 「見た?目、目、あの青い目」 その瞬間、「イエローおばさん」の目が、ぎょっとするほど丸く剥き出された。 続いて、しぼり出すような絶叫が、商店街に響きわたった。 「イイイイイイイイイイイイイ!」 敷石の上に転がり、「く」の字型に折れ曲がって「イエローおばさん」は吠えた。 自転車が倒れ、カゴに積まれた空き缶が、耳障りな音を立てて路上にばらまかれた。 ハルカは、その音に縛り付けられるように動けなくなった。 洋菓子屋のおばさんが、あわててこちらに駆け寄ってくる。「イエローおばさん」を抱え起こし、ハルカの方をきつい目でにらみつけた。 「あなた、どこの学校? この人、見たらわかるでしょう! 恥ずかしくないの?」 足が震えて、何も言えなかった。あたりに人が集まっている。 ようやく足の裏を地面からひっぺがすと、ハルカは後も見ずに、その場から逃げ出した。 「…を、…るよう!」 幼児のように泣き喚く「イエローおばさん」の声が、背後に響き、いつまでも耳にこびりついて残った。 駅までの道を走りながら、ハルカの頭の中ではおそろしい考えが渦を巻いていた。 偶然かもしれない、しかしあれは、 犠牲者 ではないのか? 発車寸前の京浜東北線に飛び乗り、ハルカはようやく蒲田駅まで帰って来た。 駅前の大時計は、もう七時近くを指している。 空は、ばら色の夕闇に覆われつつあった。 また夜が来る。 次のメギ曜日までは、あと四日しかなかった。 第9回へ続く(7月17日公開予定)