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「最近トウマの帰りが遅い」 「同じようなこと前にも言っていなかったか」 「そうか?まあそれはさておき、これはゆゆしき事態だ」 ナツキは相変わらずの仏頂面を崩さず、茶をすする。帰りが遅いっていっても7時を越えることはないのだ。 塾に行ってるとこならもっと遅いだろうし、そんなに心配することもないだろうというのが、彼の結論だった。 「そういえばアキラも帰って来てないな」 「あいつはいいんだ」 「いいのか」 茶がなくなったことに気づき、ナツキは台所に立つ。そこで乾燥棚に置いてある二つの弁当箱を見て、わずかに頬を緩ませた。 「む、そういえば最近お前も帰りが遅いな。逆に朝は早いようだが」 「……みんな色々あるんだろうよ」 「ふむ、そうか。しかし色々とは気になるな。お前の場合はそこの弁当箱にワケがありそうなものだが」 「……なんでもねえよ」 「声が若干震えているが……まあいい、重要なのはそこではない。問題はトウマの身辺だ」 「男でも作ったんじゃねえのか」 やや投げやりに放つ。自分を話題からそらそうとした結果、微妙に悪化したことをナツキは言ってから気づき、冷や汗を一筋流した。 「確かに近頃やけに色っぽくなったような……いやしかしそれは確定したとは……」 ぶつぶつ呟き考え込み始めた長兄を尻目に、これ幸いと二男は自室に引っ込んだ。蒲団を敷き、さっさと潜り込む。明日は一層早く起きなければならない。 (明日は俺の番だからな……) 破顔するのを抑えきれず、闇の中ナツキは人知れず笑う。幸福すぎて仕方がなかった。ほかのことがどうでもよくなってくる。 そう、数日前のあの日から――――。 (さて、帰るか) HRも終わり、帰り支度をするナツキ。バレー部員なので、練習に参加するべきなのだが、何分炊事は自分の担当なので早く帰らなければならないのだ。 いつも通りの仏頂面を引っさげて校内を歩いていると、目の前に見知った姿が現れた。 「南先輩……」 言われて、南春香はゆっくりと振り返る。その顔はやや青白く、辛そうに見えた。 「あら、ナツキくんじゃない」 「ウッス」 「ふふ、相変わらずね。元気そうで何より」 「南先輩は……あんまり元気そうじゃないっすね」 「そうね。疲れてるのかしら。最近だるくって……」 くらっ。ハルカの体が揺らぐ。考えるより先に腕が伸びる。ナツキの両腕がすんでのところで彼女を抱き寄せることに成功した。 「大丈夫っすか!?」 「ごめんなさい……。やっぱり、疲れてるみたい」 綺麗な長髪がわずかに動き、全体がぬくもりで包まれていく。 「あんまり無理しない方がいいっすよ。少し休んでもいいと思います」 抱きしめた頭を、優しくなでる。昔妹に同じようなことをしたような気がした。 しばらくそうしているうちに、自分が置かれている状況を悟り、冷や汗をダラダラ流し始める。 マズイ、これは非常にマズイ。 相手は三年の先輩でしかも二度ほど不埒な行いをしてしまっている。仏の顔も三度まで。 いくら慈愛に満ち溢れる聖母でも激怒するであろう。見物人がいないのが不幸中の幸いか。 「ねえ」 「いっ!?す、すんませんしたっ!」 高速で離れ、高速で頭を下げ、高速で休めの体勢。いつかの繰り返しだ。 鉄拳でも張り手でも甘んじて受けよう。 「どうぞ、煮るなり焼くなり好きにしてください!」 「好きにしていいの?」 やけに熱っぽい顔をしたハルカが問う。それに肯定の意を示す彼を見て彼女は、 「じゃあもう少しこのまま」 ナツキに体を預けた。どきまぎした彼は、そのオーダーに従うしかなかった。 結局、人目につくということでナツキが震えた声色で移動を懇願し、近くの公園に向かうことになる。 (たぶん、この人は疲れてたんだな) ベンチに腰かけた彼の膝にはハルカの寝顔が浮かんでいる。すぅすぅ聞こえる寝息が、ヘンな安心と緊張をもたらしてくれる。 ――大変なんだろうな。 切実にそう思う。自分も同じような身の上だが、たいして役に立たないとはいえ兄がいる。 上にだれかいるだけで、不思議と安心できるものだ。その反面、一番上というのは気苦労が絶えないのだろう。 力になってやりたいと思うのは間違いなのだろうか。自分だって家事全般はこなせる。相談や手伝いだって……。 (無理だろうな) 彼女はそういう人間だ。何でもできるから、自分で何でも抱え込んでしまう。それは性分だから仕方がないのかもしれない。 それでも何かしてあげたい気にさせるのも、やはり彼女の性分なのであろう。 「そろそろ寒くなってきたな」 辺りを見回せば日は沈み、暗くなってきていた。時計を見れば、6時を回っている。彼女はもちろん、自分もそろそろ家に帰らなければならない。 しかし――。 (なんとも起こしにくい) 気持良さそうに眠っている彼女を起こすのは大変気がひけた。起こして寝起きが悪かったらどうしよう。 それに休めといったのは自分だし、それを反故にするのはよくないだろう。 かといって起こさなければ帰宅が遅れてあちらの南家にご迷惑をかけてしまうし、第一こんな寒空の下で寝かせていたら風邪をひかせてしまって逆効果なのではないだろうか。 ……これならどうだろうか。 苦悩の末、ナツキは自分の上着をハルカに掛けることで落ち着いた。自分は寒いがそんなことはどうでもいいといわんばかりの行い。 その性分が彼女と似ていることに本人は気付いているのかいないのか。 誰かの声が聞こえて、ハルカは徐々に覚醒する。次第に感じる温かさに覚えがなく、まだ夢の中なのではと疑うが、寒風が顔をかすめたことにより現実であると知る。 「あれ……」 「ああ、起きたんすか」 上から聞こえるくしゃみに目を向けると、顔を赤くしたナツキがいた。 「ナツキくん!? どうしてこんな……」 起き上ったとき、自分に重なった何かが落ちる。拾い上げると、それは男物のコートだった。 「寒いですからね、風邪ひくと思って」 「そんなこと!」 しなくていいのに、とまで言い切らず、唇をかむ。 自分に気をつかってくれたのだ、それを露骨に否定することなんてできない。 「少しは先輩の役に立てましたかね……」 コートを着せようと手をつかむと、その手は氷のように冷たく、見るからにかじかんでいた。 「こんなに……」 「いいんすよ、これくらい」 「よくない!」 二人分の荷物を持ち、手を引いて強引に歩かせる。 早く風呂なり暖房なりで温めなければ――そんな気持ちがハルカの心を占有し、異性と手をつないでいることには頓着しなかった。 家には誰もおらず、暗闇が広がっていた。そろそろ8時なのだから、二人ともいるはずなのに。 (それは後で考えましょ) 優先すべきはナツキである、とハルカは自身に言い聞かせ、暖房をつけ、風呂に湯を入れる。 「もう少しでお湯がたまるから、そしたら入って」 「ええと……」 困惑した彼が見たのは自分の手であった。 真っ赤なその手は小刻みに震えており、衣服を脱ぐのは困難であろうことは容易に想像できる。 そのときハルカは思いついた案に赤面し、動揺する。 しかし自分のせいであるとして覚悟を決め、告げた。 「わ、わたしが脱がすわね!?」 見事に裏返った声であった。 上半身は何とかなった。問題はズボンとその下である。 「あの、やっぱり自分で……」 「い、いいのよ! ナツキくんはわたしのためにこうなったんだし……」 首を可動範囲ギリギリまで曲げて下ろしにかかるハルカ。持前の器用さをいかしてなんとか成功するが……。 むにゅ。 「ひっ――ヒィィィイイ!?」 勢いよく壁にぶつかるまで後退し、衝突後も心中は恐慌状態となった。触った、触ってしまった、触っちゃった。 「すんません……」 「あ……ご、ごめんなさい。驚いたりして……見たことないものだか――」 謝ろうとしたのがマズかった。正面を向いたハルカの目には、その〝見たことないもの〟が映り、 「いやあああああああ」 彼女は盛大な悲鳴をあげることになった。 「…………」 「ほんとうに、ほんとうにごめんなさい」 「いいんすよ、気にしてませんから」 十分後、ガラス戸に背を向ける格好で、ハルカは浴室のナツキと会話できるまでに回復した。 「……やっぱだめっすね、俺」 「?」 「先輩の役に立とうとしても、逆に迷惑かけただけでした」 「…………」 「俺、多分先輩のこと……好きっす」 「そう……」 その言葉に、なぜかハルカは今まで告白された中では感じなかったものを感じ取った。 自分のために身を犠牲にした彼を思い出すと、胸騒ぎのような感覚がわいてくる。 「ねえ、名前で呼んで」 「…………。ハルカ――さん」 長い沈黙のはてに、浴室ならではのよく響く声が聞こえた。それだけで、彼女には十分だった。 「うん、わたしも好きみたい、ナツキのこと」 「光栄っす」 「じゃあ恋人らしくお弁当でも作ろうかな」 「あ、俺も作ります。料理は得意だから」 「うーん、じゃあ交代制にしようか」 「そうっすね。一人も」 「『一人も二人も作る手間は変わらない』?」 「ウッス」 なるほど、似た者どうしか。なら好きになってもしょうがないよね。ハルカは胸中で幸福感が広がっていくのを感じた。 それはとても甘いもの。 「さて、藤岡の親がいないということで藤岡の家に来たワケだが……」 チアキは眠たそうな眼を少々険しくして、 「何でお前がいるんだよ」 「そりゃあれだよ、妹が心配で心配で」 カナはさも当然とばかりにこたえ、トウマを見遣る。 「第一、こんなちびっこ二人で番長の家に行くなんて危ないったらありゃしない」 「あ、その設定まだあるんだ」 複雑そうな顔の藤岡はこの状況を喜ぶべきかどうか悩んでいた。 意中の相手が自分の家に来るという願ってもないシチュエーション。 しかし、奇行が目立つ彼女を入れてはたして家と自分は無事で済むのかという不安が脳裏をよぎる。 (それになんだか嫌な予感がする) たいてい、こういう予感はよく当たるものである。 「藤岡」 トウマが耳元に唇を寄せ、 「カナのこと好きなんだろ?」 「う、うん。まあね」 バレていないと思っていた藤岡はある程度の衝撃を受けたが、それは置いといた。 「いっそのこと押し倒せば?」 「なっ……!」 「だってカナ全然気づく気配ないし、それくらいのことしないと進展しないんじゃないか?」 「それは……」 妹と言い争っている少女に目を向ける。 たしかに、これまで色々アプローチしてきたが効果という効果は得られなかった。 ならいっそのこと、それくらい強烈なことでもしないと一生気づいてもらえないのでは? でもそれで嫌われたら元も子もない。 「オレはチアキと違ってお前の意志を尊重するからな」 チアキ曰く、『あんなバカ野郎に負けるなんて納得できん』とのこと。 そのため、彼女のカナへの冷遇っぷりは、さらに磨きがかかっていた。 それに伴い、藤岡の恋心もいま一つ理解してもらえないでいる。 「まあ、だからその……ずっと一緒にいたいというか、そばにおいてほしいというか……」 顔を赤くしてあさっての方向を見るトウマを撫でていると、玄関のベルが鳴った。 出なければ、と動く藤岡よりもはやく、カナが出迎えにいった。 「まったく。あんなののどこがいいんだ?」 チアキの質問に、藤岡は若干照れながら、 「ああいう元気なところかな」 「バカはエネルギー配分を知らないだけだ」 勇気を振り絞り、呼び鈴を鳴らす。その音より、自分の心臓は大きな音を立てている気がする。 服はお気に入りのもの、メイクはばっちり、シミュレーションは100回はやった。 (完璧ね) そう、完璧。何もかもが徹底されている。 彼が扉を開ける。さあここで用意したセリフを言う。 「藤岡くん、突然来て迷惑だったかな。でもどうしても伝えたいことがあって……」 「おう、リコどうした」 そこにいたのは想い人ではなく、恋敵の南夏奈であった。不思議そうな顔をするカナの後方から、藤岡と小さな女の子二人がやってくる。 (なん……だと……) 親がいないという情報を入手した彼女は千載一遇のチャンスと入念に服を選び計画を立て、 ありったけの勇気を振り絞ってここまできたというのに、相手はすでに侵入し、あまつさえこの城(リコ視点)を我が物としているとは……。 (いいえ、ここで挫けてはダメよ。物語的には不利な状況こそが成功フラグ、すなわち王道。 つまりこの展開はのちに愛する藤岡くんの伴侶となる私への試練) 「ま、上がんなよ」 「ええ、お邪魔します」 行儀よく挨拶し、中に踏み入るリコ。ここで藤岡に許可を取らないのは断られる可能性を考慮してのこと。 もはや執念と呼ぶべき直感による行動である。 (南夏奈……あなたには負けないわ) ねっとりした炎を身に宿し、見当違いの敵意をカナにぶつけるリコであった。 名前 コメント 9スレ目 保管庫 青太郎氏
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←前へ 【ハルカ編】 (ハルカサイド) 最近、チアキの様子がおかしい。 というのも何を考えているのかわからない上の空状態になることが多いのだ。 食事中にボーっと虚空を見つめていたかと思うと、私の呼びかけにも反応しなかったり、いつまで経ってもお風呂から出ててこないので、心配になって見に行ってみれば、浴槽の中でのぼせるほど物思いにふけっていたり。 チアキがこんなになることは、今までになかった。少なくともチアキと一番多くの時間を共有している姉だからこそそれがわかる。 私は原因が気になったが、あえて問い詰めることはしなかった。 難しい年頃のチアキが、そういった何らかの物思いに耽るのもある意味当然だと思ったからだ。 が、私の認識が大きく改められたのは、カナがいつものように藤岡君を家に連れてきた時のことだった。 それまでも藤岡君に懐いていたチアキとはいえ、その時の様子は些か異常だった。 まるで餌にありつく子猫のように藤岡君の身体に身を預けるその距離が一層近くなっていたのだ。 そして何よりも私が驚いたのが、藤岡君を見つめるチアキの表情が、私が今までに一度も見たことがないようなそれになっていたことだ。 あれは……まるで誰かに恋をしている目。 そういう経験に疎い私とはいえ、これでも一応十七年間も生きているのだからそれくらいはわかる。 チアキは藤岡君のことを好きなんだ――私はそう確信した。 が、これで終わっていればまだよかった。 元々チアキは藤岡君に対し、お父さんの面影を見ている。 その親愛の情が、淡い恋心に変わったとしても私はそこまで不思議には思わない。 しかし、私は見てしまったのだ。チアキが藤岡君とキスをしているところを。 夕食を終え、カナがお風呂に入り、私が台所で洗い物をしている間。 まるでその僅かな時間を惜しむかのように、二人は居間で濃厚なキスを交わしていたのだ。 しかも、よくよく見ると……舌まで入れている。あのチアキが、だ。 私はたまたまその光景を見てしまい、その日は冷静を装って二人に接するので大変だった。 そして更に決定的な出来事は翌朝起こった。 その日は晴れた休日ということもあり、私はカナとチアキの布団を干すことにした。 部屋に入り、チアキの布団をあげようとした時、僅かにそのシーツが濡れて、シミがついていることに私は気付いた。 「チアキったら、この歳にもなってまだおねしょを……」 最初そう思ってしまった私は心底甘かった。 よくよく確認すると、それは染み方、臭い、どれをとってみてもアレ――女の子にとっては恥ずかしい液体だった。 私はそれがすぐにわかってしまったのだ。だって……私だって何度か同じようにシーツにシミを作ったことがあるのがら。 この状態が指し示す結論は一つ。チアキは、一人ですることを覚えている。 「まさか」という気持ちだった。あのチアキが、だ。 テレビドラマのラヴシーンの意味がわからず、尋ねてられては私が答えに窮し、カナにはからかわれるあのチアキが、まさか既に自慰を覚えているなんて……。 少なくとも私が覚えたのだって中学生になってか……いや、今はそれは関係ない。 とにかく私はそこから更に恐ろしい想像した。 チアキと藤岡君が好き合う関係にあるのは間違いない。そして百歩譲ってそれを暖かく見守る余裕がまだ私にはある。 しかし、それ以上のことをもしかするとしているのでは……。 そんな危惧が、私の頭の中をぐるぐるまわって仕方ないのだ。 そして私は決意した。チアキは私の大事な妹であり、私はチアキの姉だ。 妹を守るのは姉のつとめ――ブラジャーもまだ早いチアキに、そんな『おかしなこと』はいくらなんでもまだ早すぎる! そのことについて、何としても問いたださねば、と思ったのだ。 そして、もしそのことについて正確な答えを教えてくれる人がいるとすれば、それはチアキよりも寧ろ――。 幸いにもカナが今日また『彼』を家に連れてくるといっていた。チアキのお友達も何人か来るらしいが機会としては申し分ない。 私は必ず真相を問いただし、チアキを正しい道へ導かなくては、という決意に燃えたのだ。 「このお皿はどこにしまえばいいですか?」 「えと、上から二段目の右奥の方に。そう、そこでお願い」 今日はいつぞやと同じく、チアキの友達を招いたパジャマパーティーが我が家で行われた。 そこに同時に招かれていたのが藤岡君だ。確か前回も来ていたはずである。 チアキ達は今、皆でお風呂に入っている。 カナも「また風呂場を焚きつけてくるよ」と言ったきり行ってしまった。 未だに戻ってくる気配がないところを見ると、もしかするとチアキ達に混じってお風呂に入っているのかもしれない。 そして台所では夕食の食器を片付ける私を、藤岡君が手伝ってくれている。 「俺に手伝わせて下さい。手持ち無沙汰なのもなんなので」 そう言って進んで食器を洗い、棚に収めてくれている藤岡君は、どこから見てもただの好感の持てる少年のはずだ。 しかし私は問い詰めなくてはならない。チアキとの関係について――。 「藤岡君……ちょっと聞きたいことがあるのだけれど、いいかしら……?」 私は意を決し、食器を洗う手を止め、藤岡君を真っ直ぐに見据えた。 「はい、なんですか?」 「あのね……実は最近チアキの様子がおかしいというか……上の空というか……」 「チアキちゃんが?」 「えーと……でね、その原因が……」 「チアキちゃんの様子がおかしい原因ですか? それなら俺なんかに聞くよりハルカさんの方がわかっているはずじゃ?」 「普通はそうなんだけど……今回はどうも勝手が違うというか、藤岡君に聞かなくちゃわからないというか」 「???」 藤岡君は見るからに思案顔を浮かべている。 私も私だ。こんな聞き方じゃ回りくどすぎる。チアキのため、ここはガツンと―― 「その、藤岡君はチアキと付き合っているの?」 あ……、これじゃストレートすぎたかも……。 「俺とチアキちゃんが、ですか? どうしてそう思うんです?」 「見ちゃったのよ……。藤岡君がチアキと、その、キス……しているところを」 「…………」 私が断腸の思いでなんとかそこまで言葉を吐き出すと、藤岡君は途端に真剣な表情になった。 そして、どうしてだろうか。私はその表情に、一抹の恐怖すら感じてしまったのだ。 「そうだったんですか。見られていたんじゃ、誤魔化しようもないですね」 「やっぱり……」 「まあ元から誤魔化すつもりも隠すつもりもなかったんですけれどね。 そうです。俺とチアキちゃんは今、ハルカさんが言うような関係にあります」 私は言葉を失った。勿論、チアキだって女の子だ。遅かれ早かれ、恋の一つや二つするだろう。 しかし、実際にその時をこうして迎えてしまうと、やはり姉としてショックなものがあるのだ。 「もしかして……キスはまずかったんでしょうか。それとも……そういう関係にあること自体――」 「あ、別にそういうわけじゃないのよ……。 二人の関係自体に私はとやかく言うつもりはないし、 寧ろ応援したいくらいなんだけど……。 それに藤岡君は、最初はカナのことが好きなものだと思っていたから……」 「はい。南のことが好き――そう考えていた時期が俺にもありました。でも、今はチアキちゃんが――」 「そう、なんだ……」 「でもよかったです。ハルカさんに認められたなら安心ですよ。反対されるかと思ったんですが」 そう言うと藤岡君は僅かに目を伏せた。 さて。普通の展開なら、笑顔で「二人の今後を姉として応援させてもらうわ」とでも言って終われば十分だろう。 しかし今日はそれでは終われない。 「でね……おそらく二人の関係に関連してなんだけど、チアキの様子がおかし――」 私はここまで言葉にして、はたと気付いた。ここから何て言えばいいのだろう? 「チアキがいつの間にかオナニーを覚えていた。もしかして藤岡君が教えたのか?」とか、バカ正直に聞いてもいいものなのか? 私はそんな言葉を出す自分の姿を想像し、急に恥ずかしくなった。 が、私が言葉に詰まるのを見ると、藤岡君は何故かニヤリと笑い、こう言ったのだ。 「もしかしてチアキちゃん――『お漏らし』でもしちゃいましたかね」 「!!」 心臓が口から飛び出るかと思った。 「すると……ハルカさんがそれを発見したのはあの日、この前俺がここにお邪魔した次の朝ですかね? 確かにあの時はチアキちゃんにあまり『構って』やれなかった。 フラストレーションが溜まって『お漏らし』しちゃってもしょうがないかもしれません」 「藤岡くん……もしかして全部知っているの」 「何のことでしょうか」 「藤岡君の言うとおり、チアキはオナ……一人ですることを覚えたみたい。いくらなんでも早すぎる」 「そうでしょうか? 今の小学生は進んでいると言いますし、もしかしたら友達に教えてもらったのかも」 「私は……友達に教えてもらったより、居間で舌を絡め合わせて口付け合う関係の彼氏の方が可能性は高いと思うの」 そこまで問い詰めたものの、藤岡君は何ら動じる素振りすら見せず、 「それはいけないことでしょうか?」 当たり前のようにそう言ったのだ。 「それは……! いけないに決まってるじゃない! チアキはまだ小学生、子供よ!? 幾らなんでも早すぎる……!」 思わず声を荒げてしまった。しかし、藤岡君はまるでそれすらも予想の範囲内だったというように落ち着き払って、 「果たして本当にそうでしょうか」 「え?」 「果たしてチアキちゃんは本当に子供なんでしょうか」 「それは……だってまだ……」 「少なくとも俺はそう思わない」 「!! もしかして……藤岡君、あなたもうチアキと……」 「それは――ハルカさん自身の目で確かめてみてください」 「それは……どういう意」 そこまで言いかけたところで、台所にはお風呂場から上がってきたと思われるチアキ達の声が聞こえてきた。すると、 「うえーい。いい湯だった~! そして湯上りは牛乳に限る! いや~、しかし楽しかったなぁ~、大きさ比べ競争2回戦!」 風呂から上がってきたカナが、ご機嫌で台所にやってきた。 「あれ? どうしたんだ二人とも、何か真面目な顔しちゃって。特にハルカ、お前なんか怖いぞ? もしかして藤岡と対峙して、番長時代の血が騒いだのか? 『どっちが本当の番長か――決着をつけましょう』とか。そーいう血生臭いノリか? ん?」 「何でもないよ、南。それより今日は本当に泊っていって大丈夫なの?」 「え……藤岡君は今日泊っていくの?」 「ああ。藤岡がいないと皆でやる『カナ様主催! チーム別ウイイレ対抗戦』が盛り上がらないだろう? 勿論負けたチームにはバツゲームもあるし、まだまだ夜はこれからだー!」 「ははは。お手柔らかに頼むよ。俺だってサッカー部とはいえ、ゲームは専門外だから」 ハイテンションのまま、カナは冷蔵庫から牛乳パックを取り出すと、ラッパ飲みしながら行ってしまった。 そしてそれについていこうとした藤岡君が、私に背を向けたまま、小さく言った。 「ハルカさん、俺の言葉の意味、よく考えてみてくださいね。 ああ、あと確かに今のハルカさん、怖い顔してます。チアキちゃんが驚きますよ。 チアキちゃんにとってハルカさんは誰よりも信頼できるお姉さんなんですから気をつけてくださいね」 その時の私は、さぞかし複雑な表情をして、台所に立ち尽くしていたことだろう。 次へ→ 名前 コメント 5スレ目 くろおか 保管庫 黒い人氏
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登録日:2021/09/23 (木) 00 37 41 更新日:2023/08/26 Sat 03 14 57NEW! 所要時間:約 6 分で読めます ▽タグ一覧 AG アゲハント アニポケ アニポケ手持ちシリーズ エネコ カメール グレイシア コンテスト ゴンベ ハルカ ハルカの手持ち バシャーモ フシギバナ ポケモン 手持ち 販促要員多め ステージオン!! 出典:ポケットモンスター アドバンスジェネレーション、119話『怪盗バンナイとリボンカップ!!』、2002年11月21日~2006年9月14日まで放送。OLM、テレビ東京、MEDIANET、小学館プロダクション、©Nintendo・Creatures・GAME FREAK・TV Tokyo・ShoPro・JR Kikaku ©Pokémon ■概要 『ハルカの手持ち』とは『ポケットモンスター アドバンスジェネレーション』のヒロインであるハルカの手持ちの事。 ●目次 ■概要 ■手持ちポケモン■アチャモ→ワカシャモ→バシャーモ♀ ■ケムッソ→カラサリス→アゲハント♀ ■エネコ♀ ■ フシギダネ→(フシギソウ)→フシギバナ♀ ■ゴンベ♂ ■ゼニガメ→カメール♀ ■ イーブイ→グレイシア♀ ■その他■ マナフィ ゲームとのある意味最大の違いとしてはオダマキ博士救出に使った御三家を手持ちに加えていない事。 実はハルカはポチエナから救出するためにミズゴロウを使ったのだが、実際にハルカがもらう事になったのはアチャモである。 (ミズゴロウは博士救出の際に言う事を聞かず、アチャモの方が人懐っこかったため) ハルカがシリーズ初となるコーディネーターヒロインという事もあり、手持ちポケモンは可愛い系かつ♀ポケモンが多い。 一方進化させることに抵抗ないのか最終進化して大型化しているポケモンもいる。 またサトシ一行の誰かは次作の販促要員を手持ちに加える事が多いのだが、ハルカはシリーズでもぶっちぎりで販促要員を手持ちに加えている。 FRLG要員→フシギダネ・ゼニガメ・イーブイ、DP要員→ゴンベ。しかもイーブイはDPでの新進化への布石でもあったと後に判明する。 ただサトシはエイパム、タケシはウソハチと各々DPの販促要員をゲットしているので、AG編自体販促が多いシリーズともいえる。 ホウエン編まではワカシャモ・アゲハント・エネコ・フシギダネ・ゴンベと項目冒頭の画像のような手持ちだった。 カントー編ではワカシャモ・ゴンベ・ゼニガメ・イーブイ(一時的にエネコとアゲハントも)となっている。 ■手持ちポケモン ■アチャモ→ワカシャモ→バシャーモ♀ CV:西村ちなみ(愛河里花子(代役))→小西克幸 技:ほのおのうず、オーバーヒート、ブレイズキック、スカイアッパー 特性:もうか アチャモからの進化で最初の手持ち。 アチャモの頃は泣き虫でコンテストでも出番がなかったが、ワカシャモに進化してからはたくましくなり本格的に活躍し始める。 ♀だがバシャーモ声は小西克幸が務めている(これ自体はアニメではよくある事)。 カントー編ではエース格として最終回直前にバシャーモに進化。 非公式のコンテスト大会にてサトシのジュカインと激闘を繰り広げた。 DP編ではダブルバトルでヒカリのポッチャマと見事なコンビネーションを披露した。 ■ケムッソ→カラサリス→アゲハント♀ CV:白石涼子 技:ぎんいろのかぜ、あさのひざし、つばめがえし、サイコキネシス メグミの影響で初ゲットしたポケモンであるケムッソが、運良くカラサリスに進化し入手。ホウエン編でのエース格となる。 進化前は主人に似たのかかなりの食いしん坊で、進化後もハルカのポロックをあまり気にせず食べている。 バトフロ編ではハルカ母に気に入られたため実家に預けられ、終盤までお休みする羽目に。 DPシリーズで再登場した時は復帰していた。 余談だがムサシもアゲハントを欲しがってケムッソを入手したが、それはドクケイルになった。しかしムサシは寧ろドクケイルの方を気に入った。 演じる白石氏は当時新人であり、新無印でアサヒ役で出演する際にインタビューでアゲハントにも触れている。 ■エネコ♀ CV:林原めぐみ 技:たいあたり、おうふくビンタ、ねこのて、ふぶき 勝手にボールからでてくる気まぐれな猫。 ムサシに気に入られてゲットされそうになったが、ニャースの手引きもありハルカがゲットした(というより勝手にゲットされた)。 ねこのてで運任せに戦う印象が強い。一時期ハルカが運ゲートレーナーのように思われていたのは大体エネコエピに起因する。 バトフロ編では実家の温室が気に入ったらしく、アゲハントと同様に終盤まで一旦お休み。 ■ フシギダネ→(フシギソウ)→フシギバナ♀ CV:伊東みやこ 技:たいあたり、はっぱカッター、つるのムチ、はなびらのまい FRLGの販促要員と思われる。元は小柄でおっとりした、ハート模様のあるフシギダネだった。 長い間人の踏み入らない森で暮らしていたため人間の世界に興味津々。 後にサトシのフシギダネとも共演し、後輩兼妹分となる。 バトフロ編では本人曰く「サトシのフシギダネといれば色々と勉強になる」としてオーキド研究所に預けられ、一旦(ry DPシリーズにて再登場した時は最終形態に進化しており、マリルをつるのむちで捕まえている静止画のみだった。 ゼニガメやイーブイは進化したことが言及しているがフシギダネは言及がなく、 「ポケットモンスターダイヤモンド・パール アニメポケモンおもしろクイズブック」のハルカの紹介ページには、 フシギバナを含むハルカのポケモンが全員載っているがフシギダネだけが載っていないことから、 ジョウト地方に旅立った後にオーキド研究所からフシギダネを呼び戻しフシギバナまで進化したと考えられる(フシギダネ同様にフシギバナも♀なため) ■ゴンベ♂ CV:佐藤智恵 技:きあいパンチ、ソーラービーム、ゆびをふる、たいあたり 次作に先駆けて登場(DP発売の2年前)。ハルカの手持ちの中では唯一の♂ポケモン。 ハルカに似てかなり食いしん坊。大体なんか食ってる。食い物が絡むと「しんそく」を越える。 その為、『ハルカデリシャス(*1)』と言う腹を一瞬で満たせる専用のポロックで抑制している。 マサトとも仲がよく一緒に行動している(振り回されることもしばしば)。 オーキド研究所に来た際は進化系であるサトシのカビゴンに面会した事も。 ■ゼニガメ→カメール♀ CV:半場友恵→小西克幸 技:アクアテール、れいとうビーム、こうそくスピン、ハイドロポンプ バトフロ編からの新レギュラー。やはりFRLGの販促要員で、小ぶり、そしてまだ子供だからか泣き虫。 元はオーキド研究所の初心者用として飼われてたポケモンであったが、 訪れたハルカの母性に惹かれた事から、オダマキ博士曰く「自分でトレーナーを決めてしまった」として自ら付いて来る形でゲット。(*2) 好奇心が強く、それが原因でトラブルに巻き込まれることもあった。 その後も旅やコンテストを通じて成長し、DPシリーズではゼニガメから進化。サトシのゼニガメとの差別化も含めて進化したと思われる。 ■ イーブイ→グレイシア♀ CV:林原めぐみ 技:シャドーボール、ひみつのちから、こおりのつぶて、ミラーコート。 こちらもDPでの新進化への布石としてゲット。 バトフロ編にて育て屋さんから貰ったタマゴが孵ってゲット。 そしてなんと♀のイーブイ。羨 ま し い かぎりである。 落ち着いた性格でハルカからも優雅だといわれている。 DPシリーズで再登場した際は進化していた。キッサキ近くにあるあの氷の岩まで行き、進化させたらしい。 ■その他 ■ マナフィ CV:白鳥由里 一時的に同行していたポケモン。詳しくは映画を観よう。 追記・修正おねがいしますカモ。 △メニュー 項目変更 この項目が面白かったなら……\ポチッと/ -アニヲタWiki- ▷ コメント欄 [部分編集] フシギバナもバシャーモみたいに厳つい声になってるんだろうか。 -- 名無しさん (2021-09-23 03 02 48) アニポケ手持ちシリーズ見てると近年のヒロイン枠カスミからアイリスまではゲットしてるけどセレナ以降はポケモンゲットしなくなってるんだね コハルもゲットしなさそうだし第八シリーズは久々に六体埋めるヒロインがほしい -- 名無しさん (2021-09-23 05 38 00) ホウエン編だと最終進化までいったのはアゲハントだけか。カントー編終盤からトレーナーとして成長したって感じ。 -- 名無しさん (2021-09-23 11 48 11) あっ白石涼子さんは当時は新人声優だったのか… -- 名無しさん (2021-09-24 00 54 06) 名前 コメント
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←前へ ――――グチュッ…… 「ひぁっ……んっ!!!」 ゆっくりとマコの指が膣内に挿しこまれ、私は思わず腰を跳ね上げて感じてしまった。 さっきまでと比べ物にならない刺激が、体中を駆け巡る。 「ハルカさん、痛くないですか?」 「大丈夫っ……ぁっ……だから、続けて」 指を途中で止めて心配するマコに対してが続けるように言うと、 マコは再び指を挿し込んでいき、 「全部入りました」 と、指が全て入った事を告げた。 マコの指が私の膣内を掻き回す様に動き、その度に口からはえっちな声が出て、指の差し込まれている下の口からは、グチュグチュとイヤラシイ音が聞こえる。 すごい……自分でする時は、こんなに濡れた事なんて一度も無いのに、マコにされてると思うだけで、どんどん溢れてきちゃう…… 気持ち良い、すごく気持ち良い。 ……でも欲を言うと何か物足りない。 さっきまでは指でいいと思ってたのけど、もっと奥まで突いて欲しい。もっと長くて太いもので―― ふとマコのソレに目をやると、先程イッたばかりにもかかわらず、大きいままの状態を維持していた。 あまりヤリ慣れない男の子は、一回イッたくらいじゃ小さくならないって聞いた事がある。 きっとマコだってもっと気持ち良くなりたいんだ。なら一緒に…… 「マコ、私の中……気持ち良い?」 「え?! ……えっと、柔らかくて気持ち良い……です」 「じゃあ、マコがおちんちん入れたいなら……その、入れても良いんだよ?」 本当は自分が挿れてもらいたいくせに、変に強がりを言ってしまう。 するとマコは少し考えてから、クスッと笑い、 「はい。ハルカさんがそう言うなら、挿れてあげますね」 と言った。 恥ずかしい……恥ずかしい、恥ずかしい!! 挿れてあげますね……って言ったって事は、マコは全部気づいてたんだ。 私の方が挿れて欲しいって思ってた事も、強がり言って誤魔化そうとした事も。 こんな事なら素直に「挿れて」って言えば良かった。 ホントに……これじゃどっちが年上で、どっちが年下か分かんないよ……。 私は両手で熱い顔を覆って、グッと恥ずかしい気持ちに耐えていた。 「えっと……ハルカさん、もう少し足を開いてもらって良いですか?」 「え!? あっ、そうね。ごめんなさい」 マコにリードされる様にそう言われた私は、足を開いてマコが挿れてくれるのを待つ。 赤ちゃんを産む様なこの体勢を見られるのが恥ずかしいので、一秒でも早く挿れてほしい…… なのにマコは初めての挿入に戸惑っているのか、なかなか先へ進まない。 耐えきれなくなった私は、マコのソレを掴み、入口へ導く。 「んっ……ココだよ、……さっき指入れてたでしょ?」 「でも、ホントにこんな小さい穴に入るんですか?」 心配してくれるのは嬉しいけど、こっちだってずっとお預けされて我慢の限界、私は手で掴んで入口に当てたまま、腰を落としてマコのソレを三分の一程差し込んだ。 「あっ、あん……っ! はぁっ……気持ち良……んんっ!!!」 マコのソレは一般男性に比べれば、小学5年生と言う事もあり相当小さいはず。 なのにこの気持ち良さ……気が遠くなりそりそうになる。 「続きは……自分で出来るよね?」 「はい、ごめんなさい。初めてで上手くできなくて……」 上手くできなくてごめんなさい? ……私は、マコのそう言う初々しい所が大好きなのに。 「そんな事気にしないで、早く奥まで入れて。……ね?」 少しシュンとしたマコの頭を撫で、出来る限り挿れやすい様に力を抜いて、私の中へマコを迎え入れる。 膣の壁を擦りながら、やがてソレは、先程の指の到達地点を超え、さらに奥へと突き進む。 私の指でも届く事のない、深い深いお腹の奥の方へ…… 擦れる部分も指とは全然違う。 どうしても指だと全体を強く刺激できないけど、コレくらいの太さがあればそれは容易で、私の膣内すべてを満たしてくれる。 「あっ、んん! ……ハルカさんの中……熱くて柔らかくて……凄く気持ちいです……」 「もう、まだ全然動いてないのに……挿れただけでイキそうなの?」 気持ちよさそうな表情のマコをからかうように、冗談交じりでそう言うと、なんとマコは困った顔をしながら、本当に頷いてしまった。 え? 男の人って挿れただけで感じちゃうものなの?! 「うぁ……っ、ハルカさん、動かさないで……あっ、……くださぃ……」 「えぇ? 私、全然動いてないよ?!」 「でも、中でギュって……締め付けるんだもん……あっ、あっ! ダメ……もうっ……」 その言葉と同時に、体を震わせ、それに連動して私の中でビクビクと震えるモノの先からは、ビュッ! と、勢いよく子宮口めがけて熱い何かが飛び出した。……まぁ、何かって言うか、精子なんだろうけど……。 マコはすべて出し終えると、ソレを差し込んだまま、力尽きたようにパタリと私の上に覆いかぶさる様に倒れこんだ。 あまりにも突然であっけない終わり方に、少し不満が残るが、胸の上で気持ちよさそうにしているマコの顔を見ていると、責める事なんて出来なかった。 私は膣内に力を入れ、マコの尿道に残った精子を、最後の一滴まで絞り取る様に締め付ける。 「んんっ……!!」 「マコがキスしないでイクなんて、凄く久しぶりだね」 マコの前髪をあげて、そっと呟く。 いつもイク時はキスをしていたマコ。何とも思っていなかったけど、それが無くなるとちょっと淋しい気もする。 そんな気持ちを知ってか知らずか、マコは首をのばして私に優しくキスをした。 「ごめんなさい。またオレだけ……今度こそ」 そう言って倒れこんでいた体を起こし、差し込んでいたままのソレを動かし始めるマコ。 「あんっ! マコ、まだ出来るの?」 「良く分からないけど……まだ小さくなってないから大丈夫と思います」 マコが腰を激しく動かし始めると、膣内からはじゅぶじゅぶと音が鳴る。 きっと私の愛液とマコの精液が、膣内で混ざり合ってエッチな音を出してるんだ……。 そう思うと興奮してしまう。 やがてその音はどんどん大きくなり、マコが腰を私にぶつけるたびに、ピチャピチャと水音が響いている。 私の割れ目からは、おしっこを漏らしたように、精子の混じった白濁の愛液が大量に流れ出て、ベッドにあった小さなシミを、どんどん大きくしていった。 「んぁ、……すごぃ、マコの精液……私の中で掻き回されて……エッチな音、止まらないよぉ……はぁん……っ」 「ハルカさん、まだですか? オレ……また――――」 「うん、私もっ、もう……イク、イクッ! ……イッちゃいそ……ふ……ぁっ、……んんんんッッ!!!!」 頭の中が真っ白になって、体の力が抜けていく。 そっか、私イっちゃったんだ…… また中でビクビク動いて熱いのがいっぱい出てる……マコもイッたみたい。 でも良かった。いろいろあったけど、最後は二人で一緒にイケて………………って、……ん? えぇ?! 脱力感に襲われている私の体が、上下に揺さぶられている。 まさか……と思ってマコの方を見ると、まだその行為を続けていた。 「マコ……? まだ小さくならないの?」 「んっ……あっ、んぁ…………」 ダメだ、聞こえて無い。…………えぇぃ! こうなったら意地でもマコのおちんちん、静めてやるんだから! ――――んん……ん? 気がつくと二人とも眠ってしまっていた様で、窓の外はすっかり明るくなっていた。 結局あの後、4時頃までエッチは続き、7回目の射精でようやくマコは落ち着いてくれた。 「もぉ……マコってば、元気すぎるんだからっ!」 そう言って、眠っているマコの額にデコピンをお見舞いする。 しかし疲れきっているのか、おでこを掻いただけで起きる事は無かった。 まぁ実のところ、私も同じく7回イッてしまったんだけどね……。 おかげでベッドも体もグショグショ。 こんなのチアキやカナに見つかったら大変。 私は窓を開けて部屋の空気を喚起して、眠っているマコを起こし、お風呂へ連れて行く。 お風呂で自分と寝ぼけているマコの体を洗い、マコに散々突かれた穴の中も綺麗に洗浄。 指で割れ目を開くと、ボトボトと白い液体が大量にこぼれおちる。 「これからはマコが来る時は避妊具用意しとかないと……」 そんな事を言いながら、妊娠でもしたら大変と思い、中に指を入れて全て掻き出して風呂場を後にした。 後はベッドのシーツを洗濯機に放り込み、無事証拠を隠滅。 いつも通り朝食を作って、いつも通り振舞い、無事一日を終えた。 ――――そして一ヶ月後 私は部屋でボーっとカレンダーを見ていた。 「今日でマコとエッチして丁度一カ月かぁ……」 確かマコとエッチする15日前に生理になったから、半月遅れか…… 「まさかね――――」 おしまい ↑「マコとハルカ」シリーズへ (* Д`)ハァハァハァハァハァハァハァ -- 名無しさん (2009-08-13 17 46 30) 激wwカァオスww -- アイヤール (2009-12-28 20 10 41) 最後シュールだなおいw -- バナナ (2011-01-08 01 49 35) 名前 コメント 6スレ目 この野郎氏 マコとハルカ 保管庫
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やる夫のポケモン > ハルカ 基本情報 特性1:テクニシャン 威力60以下の技の威力が1.5倍になる(+付きの技が適用される)。 ※タイプ一致技、あるいはダメージが変動する技の場合元々の威力の数値で判定。 威力が変動する技の場合変動後の威力で判定する。 特性2:悪い手癖 直接攻撃を受けると、30%の確率で触れた相手から道具を奪う。 ※自分が既に何かの道具を持っている場合、不発に終わる。 ┏【種族値】━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━──────────┃H P 70┃攻撃 120┃防御 60┃特攻 95┃特防 50┃素早 125┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ タイプ:悪/毒 耐性:◎=4倍 ○=2倍 △=1/2 ▼=1/4 ×=無効 ノ 炎 水 電 草 氷 格 毒 地 飛 エ 虫 岩 ゴ ド 悪 鋼 △ △ ○ × △ △ 技一覧 技名 分類 タイプ 威力 命中率 範囲 効果 追い討ち 物理 悪 40+ 100 相手一体 相手が交換すると、交換する前のポケモンに威力2倍で攻撃 切り裂く 物理 ノーマル 70 100 相手一体 急所に当たりやすい 眠り粉 変化 草 - 75 相手一体 相手を眠らせる 剣の舞 変化 ノーマル - - 自分 自分の攻撃を2段階上昇させる 引っ掻く 物理 ノーマル 40+ 100 相手一体 なし 電光石火 物理 ノーマル 40+ 100 相手一体 先制技(優先度+1) 連続斬り 物理 虫 20+ 95 相手一体 連続で当てるたびに威力が2倍に上昇する外れるか別の技を選ぶと威力は最初に戻る 毒の粉 変化 毒 - 75 相手一体 相手を毒状態にする 痺れ粉 変化 草 - 75 相手一体 相手を麻痺状態にする フェイント 物理 ノーマル 30+ 100 相手一体 相手の守る・見切りを無効化して攻撃(優先度+2) 影分身 変化 ノーマル - - 自分 自分の回避率を1段階上昇させる 挑発 変化 悪 - 100 相手一体 相手が3~5ターンの間攻撃技しか出せないようにする まき菱 変化 地面 - - 相手の場 相手がポケモンを交換するたびに出てきたポケモンにダメージを与える ※1 毒菱 変化 毒 - - 相手の場 相手がポケモンを交換するたびに出てきたポケモンを毒状態にする ※2 毒突き 物理 毒 80 100 相手一体 30%の確率で相手を毒状態にする 居合い切り 物理 ノーマル 50+ 95 相手一体 なし 草結び 特殊 草 不定 100 相手一体 相手の重さで威力が変わる 恩返し 物理 ノーマル 不定 100 相手一体 懐き度が高いと威力が上がる(最高100) 敵討ち 物理 ノーマル 70 100 相手一体 味方が瀕死になった次のターンに使うと、威力が2倍 身代わり 変化 ノーマル - - 自分 自分のHPを1/4減らし、身代わりを作る 堪える 変化 ノーマル - - 自分 瀕死になる攻撃を受けてもHPが1残る(優先度+4)連続で使用すると失敗しやすくなる トンボ返り 物理 虫 70 100 相手一体 攻撃後、そのターン内に手持ちと交代する 目覚めるパワー 特殊 ノーマル ※ 100 相手一体 ポケモンの個体値によって威力とタイプが変化 火炎放射 特殊 炎 95 100 相手一体 10%の確率で相手を火傷状態にする 10万ボルト 特殊 電気 95 100 相手一体 10%の確率で相手を麻痺状態にする 冷凍ビーム 特殊 氷 95 100 相手一体 10%の確率で相手を凍らせる 泥棒 物理 悪 40+ 100 相手一体 持ち物をこちらが持っていないとき、相手の持ち物を奪う 地均し 物理 地面 60+ 100 自分以外 100%の確率で相手の素早さを1段階下げる 峰打ち 物理 ノーマル 40+ 100 相手一体 必ず相手のHPは1残る シザークロス 物理 虫 80 100 相手一体 急所に当たりやすい 自然の恵み 物理 ノーマル 不定 100 相手一体 持っている木の実によりタイプと威力が変化使用すると持っていた木の実は消費される 不意打ち 物理 悪 80 100 相手一体 先制技(優先度+1)発動できない場合がある ※3 影打ち 物理 ゴースト 40+ 100 相手一体 先制技(優先度+1) 燕返し 物理 飛行 60+ 必中 相手一体 必ず命中する 空元気 物理 ノーマル 70 100 相手一体 使用者が毒・猛毒・麻痺・火傷状態の時、威力が2倍になる アクロバット 物理 飛行 55+ 100 相手一体 自分が道具を持っていないと威力が2倍 ※4 投げつける 物理 悪 不定 100 相手一体 持っている道具により威力と効果が変化使用すると持っていた道具は消費される 辻斬り 物理 悪 70 100 相手一体 急所に当たりやすい 炎のパンチ 物理 炎 75 100 相手一体 10%の確率で相手を火傷にする 冷凍パンチ 物理 氷 75 100 相手一体 10%の確率で相手を氷状態にする 雷パンチ 物理 電気 75 100 相手一体 10%の確率で相手を麻痺状態にする トリック 変化 エスパー - 100 相手一体 相手と自分の持ち物を交換する クロスチョップ 物理 格闘 100 80 相手一体 急所に当たりやすい 八つ当たり 物理 ノーマル 不定 100 相手一体 懐き度が低いと威力が上がる(最高100) 誘惑 変化 ノーマル - 100 相手全体 相手の特攻を2段階下げる異性にのみ有効、性別不明は無効 岩石封じ 物理 岩 50+ 80 相手一体 100%の確率で相手の素早さを1段階下げる 気合パンチ 物理 格闘 150 100 相手一体 必ず後攻になる(優先度-3)使用前に攻撃技のダメージを受けていると失敗する お仕置き 物理 悪 60+ 100 相手一体 相手の能力上昇の数が威力に加算される能力1上昇につき+20 ダストシュート 物理 毒 120 80 相手一体 30%の確率で相手を毒状態にする ※1 飛行タイプ・浮遊の特性を持ったポケモンには無効。 3回まで重ねがけが可能。ダメージはそれぞれ最大HPの1/8→1/6→1/4に増加していく。 ノーマルタイプ技「高速スピン」「霧払い」で撤去できる。 ※2 飛行タイプ・鋼タイプ・浮遊の特性を持ったポケモンには無効。 2回重ねがけが可能。2回使うと猛毒状態にする。 毒タイプ、かつ飛行タイプ・浮遊の特性がないポケモンが場に出てきた場合、解除される。 ノーマルタイプ技「高速スピン」「霧払い」で撤去できる。 ※3 相手が変化技を使用するか、相手に先制されたときは技は不発である。 ※4 飛行のジュエルを持っていた場合、キチンと飛行のジュエル効果を使用した上で持ち物を持っていない威力で計算される。 具体的な瞬間火力は55×2×1.5=165 ハルカのレベル技 Lv1 追い打ち Lv1 引っかく Lv10 電光石火 Lv15 連続切り Lv17 毒の粉 Lv17 痺れ粉 Lv20 フェイント Lv23 まき菱 Lv23 毒菱 Lv28 毒突き Lv30 切り裂く Lv32 影打ち Lv36 不意打ち Lv40 辻斬 Lv45 身代わり Lv50 命がけ ハルカの現在の特徴 現状にある技で組むならば シングル【剣の舞 不意打ち 毒突き 炎のパンチ】 ダブル・トリプル【フェイント 不意打ち 挑発 炎のパンチ】 あたりになるだろうか。炎のパンチは冷凍パンチでもいいが、鋼への有効打はなくなる。 タイプは優秀だが防御系の種族値が貧弱、攻撃は高いが優秀なタイプ一致の物理技に恵まれていない。 他にも特性テクニシャンを最も活用できる威力60の技が現状では不一致の地均しと燕返しのみ、紙装甲なのに悪い手癖持ちなど、やや能力が噛みあっていない。 待望のテクニシャン適用一致技としてお仕置きを習得した。 先手を取れる不意打ちと選択だが安定した悪の一致技を習得出来たためアタッカーとしても活躍させていくとが可能になった。 毒突き、ダストシュートは強力だが草にしか抜群を取れず、多くのタイプに半減・無効化されてしまうため相手を非常に選ぶ。 幸い特攻も低くはないので特殊技で補ってやり、高い素早さと豊富な変化技を活かして嫌がらせに徹してやるといい。 教え技で三色パンチを覚えさせたら、サブウェポンはそちらに切り替えよう。トリックもあると役立つか。 毒タイプ物理最強技のダストシュートを習得した。 命中不安なので毒突きと適宜入れ替えて運用していこう。 撒き菱・毒菱に追い討ちと、交代を多用する相手に対し大きなアドバンテージがある。 また、眠り粉・痺れ粉に峰打ちを持つので、捕獲要員としても非常に優秀。 覚える技のベースは教え技、卵技のみヤミラミ。 技開発クラブで覚えたいのは騙し討ちなどの高威力物理技か、テクニシャンが効く連続技あたりか。 習得可能技一覧 習得相手 習得できる技 エド(教え技) メガトンパンチ、炎のパンチ(済)、冷凍パンチ(済)、雷パンチ(済)、メガトンキック、頭突き、のしかかり、捨て身タックル、けたぐり、地球投げ、物真似、丸くなる、夢食い、悪夢、いびき、泥かけ、凍える風、連続切り(済)、寝言、痛み分け、トリック(済)、なりきり、マジックコート、叩き落とす、横取り、シグナルビーム、重力、不意打ち(済)、悪の波動、思念の頭突き、怪しい風、ワンダールーム、イカサマ、自己暗示、威張る ルイズ(卵技) 自己再生、黒い眼差し、月の光、おだてる、トリック(済)、フェイント(済)、メタルバースト、不意打ち(済)、悪巧み、誘惑(済) 金剛晄 クロスチョップ(済)、カウンター、爆裂パンチ ソル お仕置き(済)、ナイトバースト、ダストシュート(済)
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作品一覧 作品一覧(プチ) 関連リンク 作品一覧 タイトル 作品集 サイズ ジャンル 主要キャラクター 備考 幻想郷の黄金週 第一章:「霧雨魔理沙」「アリス・マーガトロイド」のケース・その零 14 幻想郷の黄金週:「藤原妹紅」「上白沢慧音」のケース・その壱 14 幻想郷の黄金週:「藤原妹紅」「上白沢慧音」のケース・その弐 14 幻想郷の黄金週:「藤原妹紅」「上白沢慧音」のケース・その参 14 海の境界 16 41kb シリアス 紫 魔理沙 レミリア妖夢 幽々子 藍 霊夢 東方花宵塚 16 7kb バトル 妹紅 レミリア 幻想郷の黄金週:終話(1) 16 永遠亭始めました vol.ゼロ 16 永遠亭始めました vol.ワン 16 永遠亭始めました vol.ツー 17 永遠亭始めました vol.スリー 20 永遠亭始めました vol.フォウ 24 女の子は夜が足りない 25 14kb ほのぼの メリー 蓮子 明日もきっと晴れ 27 38kb ほのぼの 鈴仙 永琳 輝夜 霊夢 合作 作品一覧(プチ) タイトル 作品集 サイズ ジャンル 主要キャラクター 備考 私立東方学園:ある夕方のこと プチ1 4kb ほのぼの 鈴仙 てゐ 『明日はきっと……あれ? ~another diary~』 プチ5 35kb ギャグ 永琳 鈴仙 てゐ 紫 萃香 合作 トリミング プチ7 8kb アリス 関連リンク セノオ(ハルカ)氏運営サイト『夜明けのテンションでいこう』 東方SS合同誌『彩雨草子』参加
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第7回 脱出(2) 0犬の群れは、もう悠長な陣形を組むのをやめ、一列になってハルカを追ってきている。 ハルカの走ってきた道筋に沿って、上空を数珠つなぎに並んでいる様子は、まるで連凧のように見えた。 目の前には、ようやくたどり着いた多摩川の河川敷があった。野球場やテニスコートが広がっている。この多摩川さえ越えれば東京都に、家に戻れるのだ。しかしそのためには、なんとかこの先のガス橋までたどり着かねばならない。 この土手を、あと1キロほど逃げ切る必要があった。 こんなに走ったのは学校のマラソン大会走以来だろうか。 脇腹が、ふくらはぎが痛み始めた。 土手の上は、ここも意外なほどに残像が濃い。走る手足がそれに触れ、即席の防護服がさらに破けた。 ただ、周囲の様子はよく見える。待ち伏せを警戒する必要だけはなくなった。 はるか川崎方向のかなたに、例の塔がまた見えた。結局あれは何なのだろう。その謎を解ける時がくるだろうか。今は、この状況から脱出できるかどうかもわからなかった。 土手の上に0犬の行列を従えて、ハルカはさらに走った。 突然に、背後の0犬が音を立てた。声というべきなのかも知れない。 カチッ、カチッ、カチッ、カチッ 金属同士をぶつけるような鋭い音で、3秒ほどの間隔で連続して起こった。小さな音だったが、ほとんど静寂に包まれたメギ曜日の中では、それはいかにも遠くまでよく響いた。 それに反応するようにして、数珠つなぎの0犬が一斉に騒ぎだした。 カチッ、カチッ、カチッ、カチッ カチッ、カチッ、カチッ、カチッ 突然の事態にハルカは当惑した。 しかしその意味はすぐにわかった。 どこか遠くから、かすかだが同じ音が聞こえてきたのだ。 カチッ、カチッ、カチッ、カチッ いやな予感がした。 その予感を裏付けるように、多摩川の対岸、東京都側の上空に、ゴマ粒ほどの小さな茶色い点がいくつか浮かびあがってきた。 連絡を取り合っていたのだ。 5つほどの点が、急速にガス橋の方に向かっていた。まるでハルカの狙いがわかっているかのように。 橋の上で挟み撃ちだ。 0犬は、群で協力して獲物を追いつめる、完全な狩人だった。 目の前にガス橋が迫ってきた。 だがどうすればいいのか。 この橋を今渡らなくては、もう絶対に家までは間に合わない! そのとき、何かが猛然と迫ってくるのが見えた。 川崎方向から、自転車だ。 ハルカは、一瞬ポカンと口を開けた。 残像ではない。ハルカのように普通に動いていた。 自転車も、乗っている人間も、すべて黄色一色だった。 それは、ハルカがメギ曜日ではじめて見た、生きて動く他の誰かであり、その奇妙な姿にもかかわらず、まるで白馬の騎士のように見えた。 黄色の騎士 近づいて見ると、それはまったく気違いじみた騎士だった。 自転車は、アルミの太いフレームに、サスペンションがいくつも仕込まれたマウンテンバイクだ。大掛かりな改造が施されているようで、なんに使うのか見当もつかない様々な道具類が、びっしりとフレームに装着されていた。 タイヤやブレーキといった動作部分以外は全て、黄色いビニールテープが隙間なく巻かれている。 乗っている人間のいでたちも、また気違いじみていた。 ヘルメットにフェイスガード、ジャンパー、ブーツ、グローブ。 そのすべてが真黄色に塗り潰されていた。 服の繋ぎ目すら、黄色いビニールテープで厳重に巻かれている。そのためか全身が濡れたように光って見えた。 さながらモトクロス選手と宇宙飛行士の合いの子といったところだ。 黄色の騎士は、駆け寄るハルカに目もくれずに、目の前で急停車すると、フレームに装着された道具の一つを、素早く外して手に取った。 ビニールテープを隙間なく巻きつけた棒状のものだ。 フェイスガードの隙間にその先端を差込み、トロンボーンのように構えると、ほとんど同時に小さな黒い針のようなものが0犬に飛んだ。吹き矢だった。 「蠣蛎蜘蜘蜘蜘蜘!」 空気を切り裂くすさまじい声がした。 背後に迫っていた先頭の一匹に命中したのだ。 その名状しがたい異様な声と、かん高い響きの鋭さに、腰が抜けそうになった。 0犬は結晶となった。 あのぼんやりとした繊維質の体が、一瞬で凍結したように、立体のモザイクとなって固まった。 続けざまに針が飛んだ。 「蠣蛎蜘蜘蜘蜘蜘!」 「蠣蛎蜘蜘蜘蜘蜘!」 一発はさらに背後の一匹、もう一発は橋の方から迫る先頭の一匹を、正確に狙い撃ちしていた。 見事な腕だった。 三匹の0犬が、固まったまま、ゆっくりと地上に墜落して、そのまま自重で砕け散る姿を、ハルカは幻を見るように眺めていた。 「どこから来た!」 黄色の騎士は、はじめてハルカの方に向き直ると、フェイスガードを跳ね上げて、鋭く叫んだ。 顔が見えた。やはり少年だ。 おそらくハルカより二つは年下だろう。頬を紅潮させ、目には当惑と、焦りの表情を浮かべている。 「もう終わるぞ!どこから来たんだ!」 その声の激しさ、ハルカは我に返った。 「ひ、東矢口」 声がうわずってしまうのが、自分でも情けなかった。 「バカ!来い!」 少年は、いきなりハルカの手をひっつかむと、土手を駆け下りた。川に向かって。 自転車は、吹き矢と共にもう一方の手で担いだままだ。速い。ハルカは土手の坂道を転げ落ちるようにして、必死で後を追った。 0犬が、再び動き出した。吹き矢の射程距離を警戒するように、遠巻きの円陣を組んで迫りつつあった。 野球場を越え、テニスコートも越えた。少年は橋の方には目もくれず、ひたすらに川を目指していた。 泳いで渡ろうとでも言うのだろうか。 岸までたどりつくと、少年はいきなり自転車を水面めがけて放り出した。 ハルカは思わず息を呑んだ。 しかし、自転車は沈まない。つかんだままの片手のハンドルさばきで、そのまま水上に立ち上がった。川の水が粘土のように固体化しているのだ。 「乗れ!とばすぞ!」 自分も水面に降り立つと、少年は断固として言った。 多摩川の上を ハルカと少年は、多摩川の水面を自転車で疾走した。 それは、とほうもない体験だった。 水面は、青灰色に輝く寒天の原野のようだ。物質としての水ではない。絶え間なく流れる川の残像、膨大なその運動エネルギーの上に乗っているのだった。 ものすごいスピードで多摩川大橋が近づいてくる。 自転車にサドルは一つしかない。ハルカは、後輪の軸から突き出した棒状の突起の上に立っていた。手は少年の肩にしがみついている。 車輪から直に伝わる激しい振動に、ハルカは振り落とされないよう必死だった。 足元を見ると、二つのタイヤが、わずかに水中へと沈み込んでいるのがわかる。 不思議な寒天のぬかるみだ。わずかな轍が波紋となって、後に美しい尾を引いていた。 止まれば、おそらくゆっくりと沈んでしまうのだろう。それにしても、なんと深く美しい青なのだろうか。 ハルカの様子に気付いた少年は、背中を向けたまま怒鳴った。 「下を見るな!」 驚くハルカに向かって、少年は早口でまくしたてた。 「アオウオだ!やつに見られたら0犬もやられちまう。だから見るな!」 (なぜこの少年が、『0犬』の名を知っているのだろう!) (『アオウオ』ってなんだろう?) ハルカの脳裏に小さな疑問が浮かんだ。 しかし次の瞬間、それとはまったく別の考えが、唐突に頭の中に膨れ上がり、そんな疑問を押しつぶしてしまった。 それは、強烈で異常な思考だった。 (0犬なんかどうでもいい。) (0犬なんかより、水だ。) (水の中が見たい。) (水の中が見たい。) (水の中が見たい。こんな男は信用ならない。) (水の中が見たい。そうだ、こんな男は最初から信用ならないと、自分は知っていたのだ。) 何の脈絡もない断片的な思考が、後から後からハルカの頭の中に溢れ出し、脳を中から焼いて焦がすように果てしなく反響した。 (水の中が見たい。) (水の中が見たい。) (水の中が見たい。水の中さえ見ればすべてはうまくいくのだ。) (水の中を見るのだ。) そしてハルカは、水の中を見た。 水の中でこちらを見つめるなにかと目が合った。 それは目だった。 眼球のような生物的器官としての目ではない。むしろ描かれた絵のように、平面的でうつろに見えた。 それは、人間の脳の奥底に、本能的な恐怖として焼きこまれた、「目」のイメージそのものだった。 暗い水の底には、そのような目が、一瞬無数に折り重なって見えた。 頭の中に、冷たく青いものがどっと進入してきた。 ハルカは、絶叫した。 あと500 自転車が水上で激しく転倒した。 少年が何か大声でわめきながら、引きずるようにして、自分と自転車を岸に引き上げようとしているのを、ぼんやりと感じていた。 まるでテレビの中継を見るように、すべてが遠く、他人事のように思えた。 なんということをするんだ。とハルカは思った。 (もっと水の中を見なければならないのだ。) (もっとあの冷たく青い感覚様を味わうのだ。) (もっとあの冷たく青い感覚様を味わうのだ。) ハルカは信用のならないこの男から逃げるため、必死で抵抗した。 なにか鈍い音がした。それが自分の骨が鳴る音だと気付くのにしばらくかかった。 少年がハルカの顔面を殴り飛ばしていた。平手打ちなどではない。手加減なしの本気だ。 二発、三発、四発。上唇になにかぬるぬるとした温かいものが伝い落ち、その不快な温もりが、ハルカから青い感覚様を奪った。舌の上に鉄と塩の味が乗った。血だ。 鼻血が噴き出している。 「起きろ!来るぞ!」 そこは多摩川大橋の橋脚だった。東京側の岸だ。 視界の端に小さく0犬が見えた。川から上がったハルカたちを、再び追ってきている。 あれが、0犬がまたやってくる。 一気に自分の思考が戻ってきた。 ハルカは、少年を突き飛ばすようにして跳ね起きた。 唇を伝う血がぬるぬると温かく、周囲の風景がぐるぐる回っていた。 少年は一瞬だけハルカの目をのぞきこんで、正気を確かめるようにすると、また腕をひっつかんで、土手を目指し駆け出した。なんとかハルカもそれに続いた。 走りながら一瞬、川の方を振り返ると、ハルカたちの転んだあたりで、何か水面が青白く光ったような気がした。 ようやく土手の上まで登りきって、少年はハルカの耳元で叫んだ。鼓膜が破れるほどの大声だ。 「走れ!あと500もしたら終わりだ!死にたくなかったら家まで走れ!眠るな!」 「500?」 ハルカの問いかけに答えず、少年は自転車に素早くまたがると、土手の上を矢のように走り出した。再びガス橋の方向、0犬が迫る真っ只中だ。 「御(おん)ショウタ様!」 奇妙なときの声をあげ、少年は0犬の群れに突っ込んでいった。 その姿がみるみる小さくなっていくのを、ハルカは呆然として見守っていた。 突然に、静寂の中に一人とり残された自分に気付いた。 (そうだ、) (急がなけ) (れば。) 鼻血を手で拭った。手の甲にへばりついた、固まりかけの赤黒い血の色。 気が遠くなりそうだった。 まだぐらぐらする頭でしばらく考えて、橋の下をくぐり抜けた。こうすれば、横断の危険を冒さずに、もと来た下り車線側の歩道にたどり着ける。 また走った。走りながら無意識に数を数えていた。 あと500、という少年の言葉が耳に残っていた。 国道一号線は、来たときと同様に静まりかえって、動くものは何もなかった。少年が注意をひきつけてくれたからなのだろうか。だがハルカには、あらゆる物陰にまだ0犬が潜んでいるような気がしてならなかった。曲がり角や大きな看板には特に注意しつつ、先を急いだ。 142、143、144、145 できるだけ普通に、遅くも早くもならぬようにハルカは数を数えつづけた。少年がいない今、不安を紛らすにはこれしかなかった。空が次第に暗くなってきた。メギ曜日の終わりがいよいよ迫ってきているのだろう。 223、224、225、226 カー用品店の前を過ぎ、コンビニの前を過ぎ、ラーメン屋の前を過ぎた。 しだいにあの特徴的な睡魔が、少しづつ自分を襲い始めたことに気付いた。 ハルカは脂汗を流しながら、さらに足を速めた。 350、351、352、353 ファミコンショップの前を過ぎ、またラーメン屋の前を過ぎた。蒲田陸橋が見えた。 眠気が急速に増してきた。ずきずきと頭痛が始まり、眼球が勝手に動き出して視線が定まらなくなった。空はがらんとして暗い。一歩進むごとにその振動が頭に響いた。 411、412、413、414、 ようやく蒲田陸橋にたどり着いた。 眠い、ただ眠い。空はもはや黒い空洞のようで、黄色い火花が自分の周りをぐるぐると回っているよう感じられた。 自分が何をやっているのかすら、わからなくなっていた。 あと86しかない、いや96だったろうか。 夢遊病者のように、足を引きずりながらハルカは進みつづけた。 483、484、 角を曲がった。家が見える。ああ、しかしもうだめだ。 その瞬間。メギ曜日が終わった。 薄れ行く意識の中で、自分の体がもといた場所に、マンションの四階まで吸い寄せられるような感覚をハルカは感じた。 そして月曜日 ベッドで意識を取り戻したハルカは、まさに悲惨なありさまだった。 火傷のような赤い腫れが、露出していた肌の全てに及んでいた。 手足のそこらじゅうは擦り傷だらけ、肘や膝は特にひどく、大きなかさぶたとなってズキズキと痛んだ。 少年に遠慮なしに殴られたせいで、顔は青黒く腫れ上がり、足腰の筋肉は鉛のようにこり固まっていた。 何よりひどかったのは、まるで交通事故にあったような全身の痛みだ。皮膚や筋肉だけでなく、骨や内蔵の細胞一つ一つに至るまで、激しい衝撃に、きしみ、悲鳴を上げていた。メギ曜日が終わるまでに、もといた場所にたどりつけなかったためのダメージに違いなかった。 今が夏休みでよかったと本当に感謝した。 だが、娘のおそるべき姿に驚愕した両親を、寝ぼけて転び、顔を机にぶつけた、と言いくるめるのは、かなり大変だった。 ビニールの切りくずと成り果てた、「シミズデンキ」の黄色い袋が部屋中に散乱していたためもある。両親が、それぞれの出勤の支度に追われていなかったら、いろいろ詰問されずには済まなかったろう。 一人ベッドに残ったハルカは、ろくに寝返りもできず、苦痛にあえぎながら、あわれな一日を過ごした。 外は上天気で、窓の外には、大きく発達した入道雲の上端が見えた。 どこからか、テープに録音された竿竹屋の声が、近づいては遠ざかっていく。いかにも平和な夏の一日だった。 「竿屋、竿竹、20年前のお値段です。」 ハルカはぼんやりと天井の蛍光灯を眺めながら、考えていた。 ちょっとした遠出のはずが、とんでもない冒険行になってしまった。 思い返してみると、生きて帰れたことすら不思議だ。自分の幸運と、あの不思議な少年に感謝せねばならなかった。 それにしても、あれは結局何者だったのだろう。走り去った方角からすると、世田谷方面の子だろうか、下丸子か、久が原あたりかもしれない。 少年の、決然とした眼差しと、紅潮した頬とをハルカは思い出した。 奇妙ないでたちと、見事な吹き矢の腕を思い出した。 たった一人で、0犬の群れに突っ込んでいった後姿を思い出した。 あれは、ちょっと格好よかったな、とハルカは思った。 湿布を貼った頬にそっと触れてみた。ものすごく痛かった。 ・・・本気でなぐりやがって。 感傷はどこかに吹き飛んだ。歯がグラグラだ。女の子になんと言うことをするのだろう。 唸り声を上げながら、ハルカはベッドの中で一日を終えた。 とにかく、もう外に出るのはやめよう。いや、こんな遊びそのものを、だ。 エビも、雲母粉も、後藤伸吉も、メギ曜日も、もうおしまいだ。 ハルカは固くそう決心した。 しかし事態は、もはやハルカの決心くらいでは収まらなかったのである。 第8回へ続く(7月10日公開予定)
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第6回 0犬 0犬は四匹。 いや、なんと数えるべきかはわからない。 それは熊ほどもある巨大な塊で、伸吉の絵にあった通りの、生物かどうかも判然としない奇怪な物体だった。 あの絵が抽象画などではなく、この想像を絶する何かを、伸吉ができるだけ正確に描き残そうとしたものであったことを、ハルカは今はっきりと理解した。 全体の濁った茶色も、密集した椰子の葉のような左右対称の細部も、絵そのままだった。 距離は、ハルカの後方50メートルほど。いましがた渡ってきた多摩川大橋の上空に、5メートルほどの間隔を空けて、横一列に、整然と浮かんでいた。 羽ばたいたり、なにか空中に留まるための努力をしている様子は見えない。そもそも手や足や目といった、生物的な要素が何も見当たらなかった。それはいかにも唐突に、ただそこにあった。 地上からの高さは8メートルほどだろうか。 いつからこんなものが後ろにいたのだろう。まったく音がしなかった。 ハルカは、しばらくの間呆然として、橋の上に浮かんでいる四匹の0犬を眺めていた。 だが、それらが突然動き出したのを見て、ハルカは我に返った。 一匹が、空中を滑るように一定距離を進んで止まり、それを待って次の一匹がまた動く。四匹全部が動き終わると、ハルカとの距離を少し縮める形で、再び横一列に並んでいた。チェスの駒か、訓練された兵士を思わせる動きだった。 ハルカは本能的に危険を感じた。それはまるで、獲物を狩りたてる猟犬の動きのようにも見えたからだ。 見ると、しばらくの静止状態の後、また一匹がハルカの方に動きだして止まった。急ぐ様子はなく、むしろのろのろとした動きだ。しかしあの四匹が、ただそこに浮かんでいるのではなく、何かの意思を持ってハルカの後を追い、少しづつ距離を詰めてきているのはもはや明らかだった。 ハルカは思わず足を速めた。 0犬はまた動いた。 早足で前に進みながら、心の奥で警報が鳴った。 このまま進めば、家からはどんどん遠ざかってしまう。しかし四匹の0犬は橋の上にいて、ハルカの戻る道を完全に塞いでいた。 国道一号線は、神奈川県側に達すると1キロほどは一本道で、横道はほとんどない。追ってくる0犬から距離を取ろうとすれば、前に進むしかなかった。 ハルカはできるだけ何気ないそぶりで、さらに足を速め、大股で歩いた、しゃにむに歩いた。 走って逃げなかったのは、0犬がそれに反応して、急に襲いかかって来るかもしれないと考えたからだ。今のところ、どうやら急ぎ足にするだけで、0犬は追いつけないらしかった。 歩きながらハルカは必死に考えていた。 (この先に交差点がある) (そこで左に曲がれば、下流の六郷橋まで回り道ができるだろう。) (そこから東京側に渡れば、たぶん時間はギリギリになるが、あいつらを避けてなんとか家に帰れるはずだ。) (大丈夫だ。落ち着け。あれが何か知らないが、隙を見せなければ平気だ。) 4匹の0犬は、相変わらず一定距離を保ってハルカを追ってきていた。 交差点がずっと先に見えて、なかなか近づいてこないのがじれったかった。 200メートル、150メートル。マラソンランナーの気分だ。それまでの探検気分はとうに消えうせて、ハルカの心の中には、すでに不安と恐怖しかなくなっていた。 ようやく交差点の近くまで来ると、ハルカは後ろの様子をうかがってから、0犬たちが静止した瞬間を見計らって一気に駆け出し、角のコンビニを左に曲がった。 それによって彼らを出し抜けるかと思ったのだ。 しかし角の向こうで、ハルカはまたも硬直した。 コンビニの看板に隠れるようにして、目の前に3匹の0犬がいた。 これは罠だった。 六車線 ほとんどパニック状態になった。 交差点は、車残像の合流点だ。右には、これまで並行して歩いてきた国道一号線。前方には、それに直交する409号線の流れがあった。二つの流れはハルカの目の前でぶつかり合い、混ざり合って、複雑な模様を描いている。それは透明な死の壁だった。 後ろと左には合計7匹の0犬だ。逃げ場はなかった。 まるで白昼夢だった。ここは自宅から3キロと離れていない国道一号線で、すぐ隣にはコンビニがある。ファミリーマートだ。以前に店先でアイスを食べたことがある。 ここはただの、神奈川県川崎市なのだ! しかし菫色の太陽の下で、いまやハルカはおそるべき危機にあった。 振り返ると、後ろの4匹は、さらにハルカとの距離を音もなく詰めていた。待ち伏せをしていた新たな3匹とは、すでにほとんど距離がない。 思考はほとんど停止状態で、「電気・水道料金振込みサービス」「宅急便」など、コンビニの看板に書かれた文字がやけに鮮やかに見えた。視界の端にあるのは、東芝科学館の看板だ。そして7匹の0犬。 一匹が、飛び出してきた。 反射的に後ずさりをした。 そのまま国道一号線に巻き込まれた。 絶叫した。 痛いなんてものではない。いきなり熱湯の激流に突っ込んだようなものだった。路面のアスファルトの上で何度も転がり、ひじやひざは大きくすりむけた。とても立ってはいられない。体は恐ろしい勢いで、 どんどん神奈川方向に流されていった。 ハルカは必死になって横に転がった。 先ほど知った、タイヤの間に生じる流れの空隙を思い出して、そこに逃れようとしたのだ。 何度も失敗した。 車の大きさによってタイヤの位置には差があり、通行する車は、いつもきちんと車線中央を走るわけではない。激痛に襲われながら、全身を隠せるだけの空隙を残像の中に見つけるのは、かなりの苦労だった。 手足を棒のように一直線に伸ばし、車線中央にへばりつくようにすることで、ハルカはようやく空隙の中に潜りこむことができた。 流れの底から外をうかがった。プリズムを思わせる不思議な光線の屈折の向こうに、角にいた3匹が、すでにハルカを追って迫りつつあるのが見えた。 肘と膝のするどい痛みが、ハルカの思考力をよみがえらせた。 ぐずぐずしてはいられない。0犬が残像の中にまで入ってきたらおしまいだった。 その前に、とにかくこの流れを横断するしかない。 ハルカは残像の中を、車線の空隙を目指して次々に駆けた。呼吸を整えながら、まるで塹壕の兵士のように。 国道一号線は、上りと下りで各三車線、合計六車線もある。車線を移るたびに、さらに流された。まさに必死だった。 200メートルは流されたところで、ようやく下りの三車線分を横断するところまで来た。 流された分、0犬との距離はかなり離れた。しかしここからは上り車線だ。今度は逆方向に流されることになる。つまり0犬の待ち構える方に。 走り抜けるしかなかった。 中央分離帯の空隙に身を潜ませたまま、ハルカはよろよろと、ぶざまに腰を持ち上げた。運動会でやった、あの要領だ。クラウチングスタートとか言ったっけ。 そのまま一気に飛び出すと、ハルカは上り車線に飛び込んだ。 全力で走った。 今度は流れに逆らわず、むしろ流れに乗るようにして、斜めに進んだ。さっきは避難所だった空隙に、今度は足を取られないよう走りながら飛んだ。まるでハードル走だった。途中で転ばないことしか頭になかった。 流れに運ばれ、ハルカはたちまちに100メートルほどを駆け抜けた。二車線を越えた。 その思い切った前進は、退路を塞いでいた3匹を、一気に出し抜くことに成功した。 しかし、前にはさらに4匹がいる。みるみる距離をつめて、間近に迫ってきていた。 ハルカは恐怖と戦いながら足を動かし続けた。 足を止めるわけにはいかなかった。止めれば転ぶ、転んだらもうおしまいだ。 なんとかあの4匹より先に、さっきの交差点までたどり着くしかなかった。そうすれば、反対側の横道に抜け出せる。 ハルカは数秒の間、迫り来る0犬と真正面に向き合い、これまでになくはっきりと見た。 間近で見る0犬は、物質であることすら疑わしい、ぼんやりとした異様な質感で覆われていた。 しいて表現すれば、手入れのよい髪の毛のような茶色い繊維質。そこにもう一種、鼈甲のような光沢部分があり、二つが絡みあって、まるで椰子の葉のように見えていたのだ。 見たこともない曲線によって構成された複雑な細部は、それが何かの生物的器官なのか、それとも機械的構造の一部分なのかすら、ハルカにはわからなかった。 0犬もまたハルカを見ていた。 目はなかったが、ハルカははっきりをそれを感じた。 それは、人間が何ら意思の疎通を期待することのできない、まったく異質で、攻撃的な存在だった。 その距離が20メートルを切ったあたりで、ハルカはとうとう、0犬より先に交差点までたどり着き、歩道へと抜け出した。 ついに国道一号線を横断したのだ。 逃避行(1) おそらく全部で一分にも満たない間の出来事だったろう。 アスファルトの路面にへたりこみ、荒い呼吸の中で振り返ると、0犬はあわてる様子も見せず、空中で一カ所に合流していた。 まるでハルカがこちらに気付くのを待っていたかのように、大きく半円を描くようにして隊列を展開し、再びハルカに迫りはじめた。 (まだだ、もっと逃げなきゃ。) ハルカは気力をしぼり出すようにして、なんとか立ち上がり、交差点を曲がり、さらに走った。ここからは409号線だ。 全身が火傷のように赤く腫れ、痛んだ。疲労もひどい。足がもつれて、走ることが難しかった。さっきの横断が、やはりなにか大きなダメージを体に与えているようだ。 ハルカは足を引きずるようにして、必死に409号線を進んだ。 この道から家に引き返そうと思えば、上流にある「ガス橋」まで回って、多摩川を渡るしかない。 下流の「六郷橋」を経由するよりも、かなり遠回りだ。メギ曜日の終わりまでに、家に帰れるかわからなかったが、もうそれしかなかった。 7匹の0犬は、いまや悠々としてハルカを追っていた。 動きのパターンが変化している。 ハルカを囲む半円形から、まず中央の一匹が大きく突出する。続いて左右の三匹が内側から順にそれを追う形で、楔形となった。そして今度は、左右の三匹が外側からさらに前方に進んで、再び元の半円形に戻るというものだ。そうした一連の動作を、5秒ほどの間隔で繰り返していた。 自分の状況さえ考えなければ、それは美しいとさえいえる整然とした動きだった。 動きの意味はよくわからない。中央の一匹が、より正確にハルカの方向を目指すようになってきたところを見ると、獲物を追い詰めるためのパターンなのかもしれない。 最初の全力疾走で、50メートルほど稼いだ距離も、少しづつ詰められてきていた。ハルカはあえぎながら、必死で前に進んだ。 今度追いつかれたら終わりだと確信していた。走れずとも歩いた。足を引きずりながら、とにかく歩いた。 信号やバス停、郵便ポスト、ガムの包み紙、アルミの空き缶。 視界に入っては通り過ぎていくものは、どれも見慣れた日常の一部だった。自分にとっては必死の逃避行にも関わらず、それはひどく間が抜けて見え、ハルカはわけもない悔しさで涙をあふれさせた。 前方に歩道橋が見えてきた。「スクールゾーン」と大きく書かれた垂れ幕が下がっている。あれなら危険な車残像を横断せずとも、先に進めそうだ。 一気に駆け出そうと顔を戻して、ハルカは小さく声を上げた。 歩道橋の陰から、あらたな0犬が空中に姿を現したのだ。 さらに5匹。やはり整然と横一列に並んでいた。 ハルカはその場にへたり込んだ。 逃避行(2) あわせて12匹の0犬は、挟み打ちをする形で、ゆっくりとハルカに迫ってきた。 ハルカは、かたわらの壁にもたれかかるようにして、顔を覆った。 30秒か、一分か、どれくらいそこで止まっていただろう。 ふと、自分がまだ無事なことに気付いた。 おそるおそる顔を上げた。 0犬の群れは、ハルカを中心に、半径50メートルほどの円陣を組んでいた。しかしなぜかそれ以上近づこうとはしないのだった。 見上げて気付いた。 必死のあまり目に入らなかった。大きな黄色い看板があった。紫色の世界の中で、やけに浮き上がって見える黄色。 「圓團圖門」や塔と同じ色調だ。 ハルカが背にしたコンクリの壁も、同じ鮮やかな黄色だった。 「シミズデンキ 川崎店」 派手な書体で、あちこちに書かれていた。 郊外のあちこちにある、家電の量販店だ。 車の客にも目立つようにするためか、建物全体が黄色く塗られていた。 (まさか) ハルカが壁から離れると、0犬は敏感に反応した。 あわてて壁にくっつくと、また動きが止まる。 ゆっくり10数えて見たが、やはり0犬は止まったままだった。 間違いない。理由はさっぱりわからないが、この独特な黄色のせいで0犬は近づかないのだ。ハルカは放心したように、再びその場にへたりこみ、黄色い壁を背に、ひざを抱えて座り込んだ。 12匹の0犬は、まるで時計の文字盤のような正確な角度で、ハルカと電気店を取り囲む円陣を保っている。やはり近づく気配はない。 この黄色がそばにある限りは、どうやら安全と言えそうだった。 しかし、不安は去らないどころか、ますます大きくなっていた。 このままでは身動きがとれない。「163分」というメギ曜日の終わりまで、もうそんなに時間はないはずだった。 ここでメギ曜日が終わればどうなるか見当もつかない。同じマンションの三階と四階であれだ。この距離を引っ張り戻されれば、たぶん即死ではないだろうか。 気ばかりが焦った。 肌がますますヒリヒリする。もうちょっと雲母粉を念入りに塗ればよかった。 さもなければ、こんなジョギング姿でなく、服をもっと選べばよかったかも。 服を。 ふと考えが浮かんだ。 脱出(1) ハルカは「シミズデンキ」の自動ドアを一気に通過して店内に転がり込んだ。 店内は、冷たく静まりかえっていた。 安っぽいエアコンやテレビ、洗濯機や冷蔵庫といった家電製品が、「大特価」「激安」などと書かれたポップとともに、賑やかにディスプレイされている。 郊外からの客で混みあうのだろう、通路はその残像で濃い。 0犬は、やはり追ってこない。ハルカはまっしぐらにレジを目指した。机を乗り越え、レジ下の引出しを引っかき回した。 ゼムクリップ、はさみ、ステープラー、伝票、領収書。 やはりあった。 看板や壁と同じ黄色の、ビニールの買い物袋が、束になって出てきた。 ラッピングの要領で、手に巻きつけた。取っ手の部分が、結びつけるヒモのかわりだ。それは、ハルカのひじから手首までを、あの黄色で覆った。 (いける!) ハルカは必死の勢いで、全身に黄色い袋をまきつけにかかった。 ドアが重かったのと逆に、軽いビニール袋はおそろしく軽く、もろく感じられた。うっかり触ると、水に塗らしたティッシュペーパーのように破けた。一度に5枚ほど重ねなければ、巻きつける最中にビリビリに破けてしまう。 ハルカは、工作にあまり自信がなかった。自分の手先と、やたらに破けてしまうビニール袋を呪った。仕上がりはいかにもみっともなかったが、それどころではない。二重、三重、ひたすらに黄色い袋を巻き付けていった 袋に大小があるのを利用して、大きな袋は胴体や太ももに使った。 最後に三枚ほど束ねた袋を頭からすっぽりかぶり、目と口に指で穴をあけると、それは完成した。 百枚近いビニール袋でできた、世にも奇妙な黄色い防護服だ。 体のあちこちに「シミズデンキ」のロゴがちりばめられて、まるで仮装大会だった。 だが今は、そんなことに構ってはいられない。 ハルカは、裏口の自動ドアから飛び出した。フェイントのつもりだ。 ドアのガラスを通過するとき、即席防護服の表面は派手に裂け、ちぎれ飛んだビニールが黄色い羽毛のように一面に飛び散った。 それが威嚇となったのか、0犬は一瞬、一斉に後ずさりをするように見えた。 (今だ) ハルカは走った。 円陣の隙間を目指し、全力疾走で包囲を破った。 駐車場を必死に駆けた。出入りする車の残像に接触して、ビニールの切れはしがさらに激しく舞った。 行き先は多摩川だ。 249号線に戻らず、このまま横道を通って、とにかく多摩川の土手まで出るのだ。見晴らしのいい土手の上に出れば、あの待ち伏せもできないとハルカは考えた。 狭い細道の、残像の中をもろに突っ切るコースになったが、ハルカは走った。しゃにむに走った。 車、自転車、歩行者の残像に何度も激しく接触した。そのたびに防護服はどんどんボロボロになり、肌が露出しはじめたが、気にしていられない。 目の前の道が急になくなり、雑草に覆われた坂が見えた。土手だ。 土手の上まで一気に登りつめて、はじめてハルカは後ろを振り返った。 0犬は20匹近くに増えていた。 第7回へ続く(7月3日公開予定)
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第1回 そのはじまり 今思うと、エビが悪かったのかもしれない。 ハルカの叔父は神奈川の下田に住んでおり、そのとき伊豆半島名産の伊勢エビを送ってくれたのだった。 スチロールの箱に、オガクズと共に詰められた活きエビが八匹。 父も母も、娘のハルカも、最初は大喜びした。 母が箱を開いて、オガクズまみれの宇宙生物みたいなのが、ゾロゾロとはい出てきた時には、ちょっと背筋が寒くなったものの、やはり新鮮なエビのうまさは最高だった。 ぷりぷりとした肉を味わい、大きな頭にたっぷりと詰まったミソをすすった。 父とっておきの、なんとか言う白ワインも開けた。大変にうまかった。 しかし、刺身で二匹、ボイルで二匹、オーブン焼きで二匹と、豪華フルコースを堪能するうちに、家族はしだいに言葉少なになっていった。 流し台の上でキューとか鳴いているやつを、もう一度オガクズの中に戻すのは不可能だ。今この場で食べつくすしかない。それは判っているのだが、ハルカはだんだん気分が悪くなってきた。 最後はワインで流し込むようにして、なんとか八匹を腹の中に片付けた頃には、家族全員、もうエビなんて二度と見たくもないという顔になっていた。 こういうのは、いつか腹いっぱい食べたいと思っているうちが花だと思った。 胸が苦しかった。 さっきまであれほど有難がっていたミソのえぐみで、喉の奥がムカムカした。 もとからアルコールに弱いのに、調子に乗ってワインも飲みすぎた。 (実はハルカは中学生だ) ハルカはその夜、自室のベッドに転がり込むようにして、風呂にも入らずに寝込んでしまったのだった。 忘れもしない。4月17日。日曜日のことだ。 これで起きたら月曜日ではなかったと言ったら、信じてもらえるだろうか。 この長い話というのは、煎じ詰めると、つまりはそういうことだ。 菫色の水飴 長い夢を見ていた。 それは断片的な、まとまりのないイメージの連続で、ときおりぼんやりと像を結ぶことはあったが、ほとんどは、わけのわからないものだった。 ただ一つだけ、唐突な声というか、確信のようなものが、何度も意識を巡った。 「つながった!」 「つながった!」 「おまえは、つながった!」 具体的に何がどう「つながった!」のか、それはさっぱり見当もつかなかったが、夢の中でハルカは、繰り返し繰り返し、その声に強く揺さぶられた。 「つながった!」 「つながった!」 「おまえは、つながった!」 頭がずっしりと重く、寝汗が肌を伝う感触が、夢の中にまですべりこんで来るのが不快だった。 目が覚めた。 吐き気がした。 夜中過ぎくらいだろうかと、ぼんやり考えた。寝ぼけており、酔っ払っていた。目も耳も、なにか調子が変だった。 あたりは、明かりもつけないのに妙にぼんやりと薄明るく、紫がかって見えた。 より正確には、菫色というべきだろう。 そのせいなのか、部屋のデジタル時計の時間が、ぼやけてよく読めなかった。 頭が重く、ひどく眠く、吐き気も止まらない。さらにトイレも近くなってきた。 起きようか我慢しようか、しばらく悩んだあげく、ハルカはベッドからはい出し、よろめきながら廊下の先の洗面所に向かった。 空気が重く、肌が妙にヒリヒリした。 ようやく洗面所までたどりつき、用を済ませて帰ろうとして、ハルカは、はじめてそれに気付いた。 紫色の薄明かりに照らされた廊下に、それが見えた。 水飴の塊だ。 ハルカの通ってきた廊下全体に、まるで巨大な歯磨き粉のチューブからひねり出したように、それは漂っていた。 高さは、ちょうどハルカの背丈(162センチ)よりちょっと上まで。幅は1メートルくらいだろうか。外側は空気に溶け込むように透明で、内側にいくにつれて乳白色となり、中心ほとんど不透明で白っぽい茶色に見えた。いや、周囲が菫色のため、本当は何色なのかよくわからない。 もちろん、こんなものが廊下にあるはずはなかった。 不思議とあまり恐怖は感じなかった。それがあまりに突拍子もなかったためだろう。 (これは夢だろうか?) (これはなんだろうか?) ぼんやりと考えながら、ハルカは指先で、その手近なところに触れていた。思えば、寝ぼけたハルカは大胆だった。 不思議な感触だった。 触れたところから全体に、ゆったりと波紋が生じていくのは水のようで、強く力を入れた部分が、空気にじんわり拡散していくのは煙のようだった。 しかも、しばらく経てば、それは再びもとの場所に固まるのだ。 まるで池の底の泥をかきまわしているようだとハルカは思った。 その指先が、だんだん痛くなるのを感じ、ハルカは指を引っ込めた。 見ると、まるで擦りむいたかのように、赤く腫れている。思えばさっきのヒリヒリもこれだったに違いない。多分、寝ぼけたまま、ろくに前を見もせずに、この中を突っ切って来てしまったのだ。 菫色に染まった廊下で、指先を口に入れながら、ハルカはぼんやりと立っていた。 水飴は、まだそこにあった。 (眠い。とにかく寝よう。これは多分夢だ。) 結局そう結論付けて、ハルカは自分の部屋に向かった。 とにかく眠かったし、夢ならはやく覚めて欲しかったのだ。 ハルカが再び目覚めたのは、4月18日。月曜日の朝8時半過ぎである ハルカと蒲田について いつもより寝坊だった。 ハルカの父はすでに出勤しており、食卓では母が不機嫌そうにしていた。 ハルカは昨夜の奇妙なできごとについて、ちょっと話をしてみようかと思ったが、母の顔を見てやめた。 急がないと遅刻だ。 早く朝食を済ませるよう急かされた。何も変わらない、いつもの朝の風景だ。 してみるとあの妙な出来事は、やはり自分にだけ起こった夢に違いない。 しかし、ヨーグルトにコーンフレークと干しブドウをふりかけつつ、ハルカはふと、あることに気付いた。 立ったままの母が、しきりと二の腕の横あたりをもんでいる。 腕、どうしたの、とハルカは聞いた。 「起きたらなんだか痛いのよ、腫れちゃって。」 エビのせいかしらねと、母は言った。 その場所。 それはちょうど、あの菫色の世界で、ハルカが触れていた水飴の、同じくらいの高さにあった。 ところで、ここらへんでハルカについて紹介をしておこう。 ハルカは中学三年の15歳だ。 身長成績は、平均よりちょっと上。 自分では、ちょっと美人かもと思っているが、どんなもんだろう。 父と母と三人家族。東京都の南のはずれ、大田区の蒲田に住んでいる。より正しくは、蒲田から東急目黒線で一駅、矢口渡《やぐちのわたし》の近く、東矢口三丁目と言うところだ。賃貸マンション四階の3LDK。 両親の仕事の都合で、三年前、この蒲田のはずれに越してきたのだった。 ついでだから、この話の主な舞台となる、蒲田という街についても紹介しておこう。 一番有名なのはたぶんあの「蒲田行進曲」だが、あれはかなり大昔の話だ。 映画の撮影所があったころのテーマソングらしいが、今ではそうした面影はもう跡形もない。蒲田駅の発車ベルで例のメロディーが流れるくらいだろう。 もともとあまり品のいい街ではない。飲み屋や風俗店が多い。大田区名物の町工場を中心に少しは栄えていたらしいが、そのにぎやかだった街並みも、不況と高齢化で、今はさびれるばかりとなっていた。 だがその一方で、潰れた飲み屋や商店の跡地には、安くて小さなマンンションが、ものすごい勢いで増殖している。都心に通勤するサラリーマン向けだ。 小さな没落と繁栄が、狭い一帯に入り混じって、何とも言えないゴッタ煮の風景を作り出していた。 環状八号線、国道一号線、京浜急行線、東急目黒線、東急池上線など、首都圏の交通網が、さらにそのゴッタ煮をズタズタに貫通している。ひっきりなしに行き来する物流のトラックと、通勤客を満載した電車が、街の印象をますますゴチャゴチャとさせていた。 近くには多摩川が流れ、これが神奈川県との境。多摩川に沿って5キロも歩けば羽田空港、そして東京湾があった。 まあ、別段どうということのない街だ。 だがまさか自分がこの街の、東京都大田区近辺の救世主になろうとは、もちろんこの時ハルカは想像だにしていなかった。 二回目と三回目 この「菫色の水飴の世界」は、ハルカの通う東矢口第二中学三年C組で、一瞬だけ盛り上がって、その一瞬後にはすっかり忘れられた。 何しろ学校でこの手の話には事欠かないし、人が死ぬとか呪われるとか、盛り上がる要素にいまひとつ欠ける内容だったからには仕方ない。 二回目と三回目がなかったら、ハルカもそのまますっかり忘れるところだった。 つまり、一回では終わらなかったのだ。 二回目はそれから約一ヵ月後。5月8日のことだ。 前回同様、やはり日曜日の深夜だった。 いつものように夕食後、月曜日の小テストのための勉強をして、風呂に入って、パジャマに着替えて11時には寝た。 夜中にふと目覚めかけたとき、再び「あの」色調を、あの特徴的な菫色を感じたのだ。 それは前回と違って、ごくボンヤリとした感覚でしかなかった。日暮れ時に、どこかから漂ってくるカレーの香りのように、菫色の雰囲気とでもいったものに包まれたまま、はっきり目をあけることもできず、ハルカの意識は押し寄せる眠気に飲み込まれてしまった。 やはり起きたら何事もなく月曜日。 だが、ある事実がハルカの興味を強くひかずにおかなかった。 エビだ。 やはり夕食はエビだった。今度はグラタンの具。すっかり忘れかけていたあの記憶が呼び覚まされた。 この奇妙な符合はなんだろう? こうなると確かめないと気が済まないのはハルカの性分だった。 その二週間後の5月22日、ハルカはこっそりエビが献立に登るよう家族を誘導した。 何かというと天ぷらだ。必ずエビが入るし、実験が失敗してもこれはこれでうれしい。ハルカはイカやレンコン、サツマイモなどに混じって4匹のエビを食べた。 ハルカはその夜、はじめて意識的に「それ」に備えた。 小テスト用の勉強をして、風呂に入って、パジャマに着替えて11時にはベッドに入った。うっかり寝入ってしまわぬよう、ぼんやり天井を眺めながら待った。 12時。1時。2時。 しかし何もおこらない。 期待していたのも最初のうちで、だんだん飽きてきた。当たり前だがすごく眠い。 明日の朝が気になってきた。こんなバカをやっていれば一時間目の英語の小テストに響く。80点以下は、単語書き取り100回に再テスト。 あの薄汚いネズミ色の再生紙に、びっしりと英単語を書き連ねるのは実に不毛だ。 んなことを考えつつ、うつらうつらしてきたところで、三回目は起こった。 今度はこまめに時計をチェックしていたから、だいたいの時間もわかった。 おそらく午前3時20分過ぎ。 はじめて体験するその瞬間を、どのように表現したらいいだろう。 航空機事故や地震の際、テレビに速報が流れるその直前。 画面にはまだ何も変化はないのに、一瞬の静寂や、アナウンサーのかすかな様子の変化などから、なんとなく予兆というか、不吉な気配のようなものを感じないだろうか。 あの何ともいえない嫌な感じを、5倍にも強烈にしたような独特の感覚のあと、視界が突然菫色に変化したのだ。 スイッチをひねるような唐突さだった。それまでの暗闇に慣れた目からすると、まるで部屋中が菫色のライトに照らし出されたように見えた。 周囲の気温が、さっと二度ほど下がったように思えた。 いっぺんで目が覚めた。 ハルカは布団の中で、暗い菫色に染まった天井を凝視しつつ、しばらく硬直していた。 間違いない。夢ではなかったのだ。これが夢でなければだが。 待望の瞬間のはずなのに、不思議とあまり喜びは沸いてこなかった。 イコロの目がうまく揃ったときのような、ドキドキとした高揚感はあったものの、以前のような酔っ払った勢いがないためだろうか、なにか偶然「いてはならない」場所に紛れ込んでしまったかのような、漠然とした不安がハルカを包んでいた。 首から上だけを動かし、盗み見るようにして、ゆっくりと周囲を見渡してみる。 机や椅子、安い合板のクローゼット、いつものハルカの部屋が、全体に菫色となってしんと静まり返っていた。 時計のデジタル表示が、奇妙なことになっているのにもあらためて気づいた。 以前はただ、ぼやけたようにしか見えなかったのだが、注意深く観察すると、全体が半点灯のような状態で、時も分も、8の右の棒が取れたような形、つまり「EE:EE」のような表示のまま固まっていた。 ベッドを抜け出して、さらにじっくり時計を見てみようと思ったハルカは、自分の手が布団を押し上げられないことに気づいた。 手だけではない、全身が異様に重く感じられ、むきになって手足を動かそうとするたび、重さはぐんぐんと増してくるように思えた。 さらに強烈な眠気が、急激に全身に回ってくるのにも気づいた。まるで動こうとするハルカを抑え込もうとするかのようだ。 (眠りたくない!眠ってはいけない!) (もっと「ここ」にいたい!) (もっと「ここ」が見たい!) 叫ぶように、自分に言い聞かせるように、口をぱくぱくさせながら、ハルカは意識を失った。 決意 やはり起きたら何事もなく月曜日。 無理に体を動かそうとしたせいか、全身が妙にだるく、節々が痛い。 だが、そんなことはどうでもいい。 日曜の夜。 エビ。 そして菫色。 こには確かに、一種の法則性があった。 いつものように遅刻寸前で母からにらまれつつ、学校に向かい自転車を飛ばしながら、ハルカはアルキメデスだかピタゴラスだか、風呂場から裸で外に飛び出していった古代の学者のように興奮していた。 エウレカ!私は発見したのだ! 「それ、霊だよ!」 いつもの三年C組で、菫色の世界の話は、再びちょっとだけ盛り上がった。 だがその反応は、再びハルカを落胆させるに十分だった。 「霊」「金縛り」「異次元」「呪い」「魔法」 盛り上がっていた気分に、一気に冷水をかけられた気がした。 そうじゃない。 信じてくれないならまだいい、だが、これはないだろう、と思った。 あの異様で、独特な菫色の世界を、なんというか、そうしたありがちな言葉で括られてしまうのが、ハルカにはどうにも我慢ならなかったのだ。 だが、それがなぜかと言われれば、うまく説明が出来なかった。 不満足げなハルカを置いてきぼりに、やがていつものごとくに月曜の小テストが、そして授業がはじまった。 いつもと変わりない、月曜日の日常。 五月の日差しが心地よかった。 しかし、授業を上の空で聞き流すうちに、そしてご想像の通りというべきか、散々な結果に終わった小テストのため、ネズミ色の再生紙を英単語で埋め尽くすうちに。 ハルカの胸の中に、今朝の興奮が、先刻の不満がよみがえり、そして最後に不思議な使命感がわき上がって来た。 実のところハルカの日常は、近頃あまり面白くなかった。 いよいよ迫った受験に備え、家と学校と塾とを往復するだけの毎日だ。 別に大した目標があるわけではない。そこそこに勉強して、そこそこの公立高校の推薦をもらうだけの予定だ。両親は、もうちょっとレベルの高い私立校を目指したら、と言っていたが、それに特別な魅力も感じられないのだった。 それまで漠然と信じていた、自分の可能性や夢が、未来が、急にありがちな小さな現実の中に閉ざされていくような気がした。 ハルカには、さっきの自分がなぜ不満だったかわかった。 「未来」、「夢」、「可能性」、「霊」、「呪い」、「魔法」、どれも同じだ。 ちょっとロマンチックで、わかりやすく、そこそこに安心できる。 だが、どれも似通っていて、底が見えている。 なにもかもが、そうなのだ。 想像力と感受性に満ち溢れた15歳のハルカとしては、それがどうにも我慢のならないことだった。 偶然に垣間見た、あの菫色と水飴。 あの奇妙な世界は、少なくともそういういうこと「だけ」はなかった。 ロマンのかけらもないし、何にも似ていない。第一わけがわからない。あまりにデタラメすぎた。 日曜日と月曜日の間に、誰も知らない未知の世界があるのかもしれない。 中学生のハルカだって、ありえねえ、と速攻でツッコミを入れたくなる。 (しかし) とハルカは思った。 それがいい。 やってみよう。 あの菫色の世界を、自分の目で確かめてやろう。 その正体が何か、見きわめてやろう。 それが幻覚でも、錯覚でも、なんでもいい。 それは絶対に、ハルカだけの、世界のどこにもない探検になるはずだ。 そこそこな可能性や、ありがちな夢より、こんな再生紙の裏に英単語を書く毎日より、よほど面白そうだ。 どうやらエビがあれば、あとは部屋で寝てるだけで済みそう、という気軽さもいい。 ささやかな決意だった。 それはハルカにとって、久しぶりに胸がドキドキするような秘密の楽しみに思えたのだ。 受験が本格化するまでの。 →第2回へ続く
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覇妖精ジオ・ハルカ SR 自然 7 サイキック・クリーチャー:スノーフェアリー/エイリアン 3000 ■このクリーチャーをバトルゾーンに出したとき、バトルゾーンにあるハンターを全て破壊する。 (ゲーム開始時、サイキック・クリーチャーは山札に含めず、自分の超次元ゾーンに置き、バトルゾーン以外のゾーンに行った場合、そこに戻す) 《覇妖精ジオ・ハルカ》&《ハンティングフェアリー サキ》→《永遠の大妖精ハルカサキ》 作者:神風弐千 評価 名前 コメント