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前ページ次ページデュープリズムゼロ 第三十一話 『ゆうきのひかり』 「全く、キリが無いわ!!」 命のやり取りが続く最中、ギリギリの精神力でキュルケは額に汗を浮かべたまま思わず心内を溢して悪態をとる。 「えぇ、だけど私達は負けられないのよ…絶対に!!」 叫んだルイズが巻き起こした爆発が今、魔法を唱えようとしていたアルビオンのメイジの身体を直撃し、大きく吹き飛ばす。 「でかしたわ、ルイズ!!」 ルイズの牽制に合わせてキュルケの魔法がアルビオンのメイジの一人を炎で包んだ… この場に居るアルビオンのメイジ達はウェールズ含め、全員が生命を司る水の力そのものアンドバリの指輪の力で肉体を蘇生され、操られている。現在の彼等は肉の身体を持っているとは言え、本質的には水の精霊に限りなく近く、受けた傷は即座に修復する。 これに対し、通常の攻撃では明確なダメージを与える事は至難の業である。だが、ミント、ルイズ、タバサ、キュルケの四人の中にそれを可能としている人物が二人居た。 それは『火』のメイジであるキュルケと異世界の魔法を持つミントだった… 「再生の限界。」 燃え上がる炎の中、ガクガクと足を振るわせながら尚、立ち上がろうとするアルビオンのメイジが遂に動きを止め崩れ落ちたた事に対してタバサが小さく呟く。その一言の中には僅かではあるが喜色と安堵が籠もっていた… 「ようやく一人ね…キュルケ、あんたまだやれる?」 「あったりまえでしょ、あんたがへばってないのにこの私が参る訳にはいかないもの!」 視線だけを交え口元を緩めた二人、ルイズとキュルケが互いを叱咤しながら呼吸を整え、再び敵へと意識を集中させる。 瞬間、キュルケにアルビオンのメイジが放った特大のエアハンマーの呪文が襲いかかる…しかし、キュルケもルイズもそれを一切気にする事は無かった。 ルイズの役目はその圧倒的速射性を生かした牽制、キュルケはそれに合わせた決定打のだめ押しである。そして道中一番精神力を消耗していたタバサの役目は二人を守る盾となる事… キュルケの直ぐ脇で空間が音を立てて爆ぜた… エアハンマー同士の衝突による相殺によって巻き起こった風が赤い髪を煽り、火照った身体と思考をクールダウンさせキュルケは自分が今、信頼する親友に守られているのだという事を実感する。 ルイズも又、今までの闘いの中から学んだ事を確実に生かしていた…仲間を頼る事、例えそれがどんなに地味で情けない事でも自分の出来る事をすると言う事。 大切なのは自分自身の役目と何の為に戦っているのかを見失わない事なのだから。 そして鉄壁の風の盾から起こる牽制の爆発と、水の力そのものを焼き尽くす微熱の炎… ルイズは虚無に目覚めて以来の本当の闘いを経て確実に成長していた… ルイズ達が三位一体の連携で奮闘している間、ミントはたった一人でウェールズとアンリエッタという超が付く優秀なトライアングルメイジを相手取り、苦戦を強いられていた。 というのもウェールズにダメージを与えるには『赤』の魔法を使う必要があるのだが、それに対してアンリエッタが所謂「積極的自衛」の為に水の魔法を使用してくる。 例えウェールズに対し、少々炎の効果を与えた所でアンリエッタの水の魔法がある限りウェールズの再生は止まる事は無い。 無論、ミントも直接アンリエッタを必殺の跳び蹴りで先に仕留めようともしたが、これも思いの外鋭いウェールズの剣技と魔法に阻まれてしまっていた。 (こいつ等…) ミントは思わぬ苦戦に内心で毒づく…即席の筈でありながら生来の気性が故か、ウェールズが前に出て、アンリエッタが守るというその徹底された連携はベルとデューク等とは比べる事が出来ない程に完成している。 「アンリエッタ!!あんた、マジでいい加減に目を覚まさないと城までボコボコにしてから連れ戻すわよ!!」 「ミントさん、私をこのままウェールズ様と行かせて下さい!女王として間違っているのは解っています…ですが、人を本気で愛するというのはこういう事なのです!!」 「~~~~っ!!馬鹿なこと言ってんじゃ無いわよっ!!!」 苛ついた様子でミントが放った魔法『タイフーン』がアンリエッタの防御を貫いて身体を軽く吹き飛ばす。 地面に倒れ伏し、白いドレスを泥土で汚したアンリエッタに直ぐさまウェールズが駆け寄るとアンリエッタをミントから庇うかのようにしながらその身体を引き起こす。 「ミント君、君にはアンの気持ちが分からないようだね…仕方ない、さぁアン、残念だが彼女に僕たちの愛の力を見せるとしよう。」 「うぅ……ごめんなさい、ミントさん…」 アンリエッタの手を取ったウェールズは不敵に言ってアンリエッタの杖と自分の杖を交差させる様に構え、それをミントへと突きつけ呪文の詠唱を始めた。そしてアンリエッタも又ウェールズに合わせて詠唱を行い始める。 その並々ならぬ魔力の集中を察し、流石のミントにも緊張が走る…魔法の阻止もああも密着されては形としてはアンリエッタが半ば人質になっている状況では難しい… 「おい、相棒。」 が、ここでミントの掌の中でこの戦闘の最中、ずっと沈黙を保っていたデルフリンガーが突然ミントを呼んだ。 「……何よ?あんたまさかあの魔法は吸収出来そうにありませんとか言わないわよね?」 「あぁ、それもあるが…あの王子様を操っている水の先住の力…ありゃブリミルも相当苦労した代物でな。」 「でっ?今そんな話して何だっての?」 苛ついた様子でミントはデルフを睨み付ける… 「まぁ、聞けって、だからこそブリミルは大した奴でな、ちゃんと対策用の虚無を用意してやがったのさ!!あの呪文を嬢ちゃんがそいつを唱えさえすればあいつ等を動かす水の力は大人しくなりやがるはずだ。 ただ虚無の魔法ってのは詠唱にやたらと時間が掛かりやがる。だがこの状況じゃその時間を稼ぐのが難しい、何とかできねぇか?」 普段のデルフリンガーの様子から言えば何とも不安が残るがミントはここはこの自称伝説の痴呆症のインテリジェンスソードを信じる事にした。 「へ~、だったらここはあたしが何とかしといてあげるから、あんたはルイズにその事をとっとと伝えて来なさい。」 言うが早いか、デルフの返答も聞かず、ミントは振り向きざまに手にしたデルフリンガーをルイズ達が居る方向へと迷い無く投擲する。 察するに、直に二人の魔法が完成する…ここを凌げるか凌げないか、それは半ば賭けになるであろうという事を思いながらミントはしっかりとそれぞれの手にデュアルハーロウを握り込んで構えを取った。 産み出された竜巻が、木々を巻き上げ破砕する、地を抉って吹き飛ばす…風の絶叫はあらゆる音を遮断し水のうねりが視界を遮る。 アンリエッタとウェールズによって産み出された水という絶対の質量を纏った巨大な竜巻はデルフリンガーを手放したミントの視界の先で、あらん限りの猛威を振るってまるで暴れ狂う大蛇の如く、突き進む。 王族という極限られた血脈の中でのみ可能とされるそれは『風』『風』『風』そして『水』『水』『水』という魔法を組み合わせた『ヘクサゴンスペル』一人のメイジの力では到達できないまさに別次元の破壊力を持った魔法だ。 ミントはゆっくりと迫るその圧倒的な力を前にして、一度深呼吸をするとデュアルハーロウを構えて魔力を込めて引き絞る… (凄まじい威力ね…でも!!) 瞳を見開いたミントの両手で魔力の螺旋が回転と収束を始める。 それはいつもの虹を連想させる七色では無く、黄昏の落日か夜明けの日の出か?いずれにしろまさに太陽を連想させる様な眩い黄金…その高貴な輝きは金ですら霞みかねぬ程の眩さ… 「あれは…?」 「黄金の結界…だと?」 アンリエッタとウェールズの視線の先、うねる竜巻の先で突如、ミントの身体が黄金の光に包まれたかと思うとまるでミントの周囲を覆うように黄金の結界が現れ、それが竜巻に飲み込まれたのは一瞬の事であった… 『黄金』の魔法 タイプ『コスモス』 それはただ『勇気の光』と呼ばれる魔法… 幼い人形の少年に託された願いと妹から託された力…故に他の色と効果と組み合わさる事の無い異色にして純血の魔法。 ミント自身は否定するだろうがこれは紛う事無い大切な『絆』から生まれたミントにとっての究極の魔法… 全てを吹き飛ばさんとする竜巻の中、黄金の結界勇気の光を纏ったミントはひたすらに魔力を集中させる… 土砂を巻き上げ猛威を振るう竜巻は勇気の光との衝突によって完全にその進行を止め、純粋な魔力と魔力のぶつかり合いへと相成っていた。 「クッ…わたくしは…」 アンリエッタは襲いかかる頭痛と嘔吐感に思わず苦悶の表情を浮かべた… ウェールズとのまさに絶妙とも言える魔力の制御を行いながら、トライアングルクラスの魔法の継続使用は精神的にも揺らぎと迷いを抱いた今のアンリエッタには実際かなりの無理が掛かっていた。 「耐えるんだアン!僕たちはここで倒れる訳にはいかない!!」 実際アンリエッタは魔法の使いすぎでいつ倒れてもおかしくない現状、今立っていられるのもシンクロしたウェールズの魔力に引きずられるような形であった… (何…これ?歌声?…ルイズなの?) 圧倒的な破壊すらも意に介さぬ自身の魔法で築かれた絶対防御領域の中、ミントは沸き上がる様な胸の高鳴りと魔力の充実に加え、自分の耳に何故か何処か懐かしくすらある歌のような物が聞こえてきたのを感じた… それはルイズの唱える虚無の呪文。それに背中を押されるように、尚も輝きを増していくミントの纏う黄金の輝きは余波とも言える魔力の粒子を噴出し、立ち上る竜巻を黄金の光で染め上げていく… ____ 唐突にあれ程までに荒れ狂っていた竜巻が跡形も無く消滅したのは互いの『絆の力』がぶつかり合い、しばらくが立ってからだった… 涙雨の如く降りしきる雨の中で既に爪痕深く、凄惨な光景となった湖畔にあるのは倒れ伏してもう動く事が無くなったウェールズとその身体を抱いて泣きはらすアンリエッタ…そしてその様子を黙して直ぐ側で見つめるミント達四人。 ルイズがデルフリンガーの助言を受けて新たに目覚め、使用した魔法『ディスペルマジック』それはあらゆる魔法効果の消去という物だった。 そのルイズの魔法の力を受けたウェールズは心を操っていたアンドバリの呪縛から遂に解放された。だが、それは同時にその魔力で構成されていた肉体の支えを失うと言う事に他ならない… 結局ウェールズは他のアルビオンのメイジと同じく再び冥府へと戻る他無く、アンリエッタはその事を唯々その場で嘆き続けた…愛した男の悲報に嘆き、そして又その男を目の前で失うという事に四人もアンリエッタに掛ける言葉を見つけられないでいた… その中でも一つ救いがあったとすればウェールズは今際の際に自らの口と意思を持って、アンリエッタと言葉を交わす事が出来た事だろう。 国を背負う事の責任の重さを説き、また最後までアンリエッタを泣かせている自身の不甲斐なさを謝罪し、最後に自分の事を忘れ、その分までしっかりと強く生きて貰いたいと… それだけをアンリエッタに伝え、ウェールズは覚める事の無い眠りへとついた… 「全く…王女がこれじゃあトリステインの行く末も心配ね。」 泣き疲れたのかそれとも精神力の限界を超えた反動か、既に気を失ったアンリエッタを回収し、王城への帰路についた一行を背に乗せ、シルフィードが空を裂く… 「そうね…でも案外そうでも無いかも知れないわよ、これだけの事があったんだもの…きっと嫌でも変わるわよ、それが良い事だとは私には思えないけど…」 ミントのアンリエッタを指しての問題発言にフォローを入れたのはキュルケだった。だがその視線の先にあるのはアンリエッタの姿では無く、自分達に背を向ける形でシルフィードを操るタバサの背中だった… ミントの発言にいの一番に食いつきそうなルイズであったが今ルイズは思う所があるのだろうか俯いたまま、アンリエッタの身体を黙って支え続ける… 「そうね…ま、あたしなら散々舐めた真似してくれたレコンキスタを絶対ぶっ潰してやるわ。ってなるんだろうけどね~。」 「まぁ予想通りというか…貴女の場合ならそうなるわよね…」 戯けた調子でキュルケは不機嫌な様子のミントに微笑む。願わくば目の前の眠れる少女が自分の親友と同じように心を閉ざしてしまわない事を願いながら… 「ウェールズ様…」 失ってしまった愛しい人の名を呼ぶ一人の少女の頬を涙雨はただ静かに濡らしていた… 前ページ次ページデュープリズムゼロ
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前ページ次ページデュープリズムゼロ 第五話『ギーシュからの挑戦』 「ぶへぇ……この僕を足蹴にするとは…」 観衆の中、ミントの跳び蹴りによって無残にも食堂の端にまで吹っ飛ばされたギーシュがヨロヨロと起き上がり鼻血を拭ってミントを睨む… 「…君は確か…ゼロのルイズが召喚した平民の使い魔だったね。フフフ…成る程…流石は平民、 子女でありながら気品の欠片も無いまさに蛮行と呼ぶに相応しい振る舞いだ。」 だいぶミントの蹴りが答えているのだろう。ギーシュは足をガクガクと震わせながら精一杯の強がりと共に再び他の生徒達に囲まれた騒動の中心まで何とか歩いて来ると胸元から取り出した造花の薔薇の杖をミントに突きつける。 「このギーシュ・ド・グラモンいかに君が女性とて君の無礼な振るまい許すつもりは無い!!覚悟したまえ!!」 「シエスタ、大丈夫?あんた全然悪くないんだからあんなバカほっとけば良いじゃん?」 「そうはいきません、我々平民が貴族様に逆らうなど…」 だがミントはポーズを決めて声高らかに宣言するギーシュを完全に無視して未だ怯え伏せたままのシエスタの身体を引っ張り起こしてスカートに付いた汚れを軽く祓ってやる。 その様子にギーシュの顔は朱を帯び、こめかみにピクピクと青筋を浮かべていた。 「無視するなよっ!!ぐ…最早我慢成らん唯ですむと思うな平民!!」 ギーシュの怒りに染まった声色にシエスタがビクリと震え、顔を青ざめさせる中ようやくミントはギーシュの方へと向き直り、片手を腰に当ててゆっくりとわざとらしく溜息を吐く。 そうして軽くその場で飛び跳ねると背中から愛武器デュアルハーロウをしっかりその手に握り込んだ後ビシリとその手をギーシュへと向ける。 「唯じゃ済まないって、どうするつもり?こちとらルイズのせいでストレス溜まりまくってんのよ。喧嘩なら受けて立つわよ。」 ふと、ミントの左手に熱が走る…契約の時の様な痛烈な物では無く柔らかで力強い熱… 「良いだろう!このギーシュ・ド・グラモン君に決闘を申し込む!!だがここは貴族の食事の場、平民の血で汚すわけにも行くまい。ヴェストリの広場で待つ、そこで決着をつけるとしよう。」 金髪を掻き上げながらそう言うとギーシュはミントが逃げ出さないようにと友人の一人に監視を依頼すると別の友人を連れだってすたすたと食堂の外へと歩いて行った。 それを追いまたぞろ我先にと周囲のギャラリーも面白い見物だとヴェストリの広場へと移動していく。 「決闘ね~上等じゃ無い…ボコボコにして地獄巡りをさせてあげるわ。」 ジト目でギーシュの背中を見送り自信ありげに笑うミント… 「コラーッ!!このバカ、あんた一体何考えてるのよ!!」 そんなミントに怒鳴り散らしながら猛スピードで掴み掛かるルイズ。 「うっさいわね~。何をそんなに怒ってる訳?」 「うっさいわね~じゃないわよ!!何でギーシュと決闘なんて事になってんのよ!?」 「知らないわよあのバカがシエスタに絡んでたからちょっとぶっ飛ばしてやっただけじゃ無い。」 「何であんたはそう…もう、とにかく直ぐにギーシュに謝ってきなさい!!」 「…ねぇルイズあたしがそんな事すると思う?」 「ぬっ…だから…もう!!……だぁーーーーーーーーっ!!」 駄目だこいつ早く何とかしないと…最早言葉も出ないルイズは頭を掻き毟りながら絶叫し自分の使い魔に心底呆れ返る… 「ミントさんっ!!貴族様との決闘なんて無茶です。殺されてしまいますよ!」 そしてやっとルイズから解放されたと思えば今度はシエスタがミントに涙ながらに縋り付く。 そんな二人の様子に対して今度はミントが溜息を漏らす。 何だかだここに来てまだ一日しか経過していないと言うのに溜息の量がやばい。 「あんた達さぁ…あたしの事舐めてない?」 こう見えてミントは相当に強い。特にルール無用の戦いなれば時には非道な手段さえ躊躇いなく行使する、そういう強さも秘めている。 かつて敵対した魔道の申し子たる男もミントを見てこう言った。 『欲望は人を強くすると言いますが殿下はさぞ欲が強いと見える…』 そう、まさにミントという少女はそう表する通りなのだ… 勿論魔法学園の人間はルイズ含めそんな事は知るよしも無い。 「ねぇ、あんたヴェストリの広場って所まで案内して頂戴。」 見張りに残っていた男子生徒に声をかけミントは堂々と広場へと歩いて行く。 「ど、ど、どどうしましょうミス・ヴァリエール。私のせいでミントさんが。」 顔を青くしてシエスタが震えながらルイズに訪ねる。 「…私だって知らないわよ。もうこうなった以上はどうしようも無いわ。少なくとも私には見届ける義務があるからシエスタあんたは先に医務室の手配をしておいて。」 言ってルイズは自信満々に歩いて行くミントを慌てて追いかけた。 _____学院長室 ここでは二人の男性がとある重大な案件について談義を交わしていた。 一人は召喚の儀式の引率をしていた教師コルベール もう一人は齢300歳とまで噂されるトリステイン魔法学園学院長オールド・オスマン 「成る程のぅ…この件わしが預かる、王宮にも報告は控えろ。誰にも他言無用じゃ。」 「分かりました…しかし本人達にもですか?」 「うむ、何にせよ情報が少なすぎるでの。大きな力を持つならばその自覚と責任が必要になる。 わし等は知らなすぎるあの使い魔の人となりは勿論ガンダールブのルーンについてもじゃ…」 髭を擦りながらオスマンはを細め思慮深くコルベールに語る。 あの日、ミントが召喚されルイズとの契約を結んだ後 ミントの手に浮かんだ見慣れぬ使い魔のルーンを書き写していたコルベールが昨夜から図書館で様々な文献を読みあさり調べたところミントの左手のルーンの正体が発覚した。 しかしその正体が何とも問題だった。 それはかつて始祖ブリミルが使役したと伝わる伝説の使い魔『ガンダールブ』のルーン そしてコルベールはこの明らかに自分の手に余る案件を偉大なるメイジオールド・オスマンに報告していたわけだ。 二人が揃ってこの降って湧いた突然の難題に頭をひねっていると学院長室の扉に二度三度静かなノックの音が響き渡った 「学院長、ロングビルです。ご報告があります失礼してよろしいでしょうか?」 「おぉ…おぉ、構わんよミス・ロングビル。」 「失礼します。」 扉を開けて部屋に入ってきたのは学院長の秘書ロングビル(25)因みにコルベールが年甲斐も無く恋をしている女性でもある。 「いやー、さっきまでコルベール君と二人きりじゃったからの、潤いが足りず毛根が死んでしまうところじゃったよ。して、報告とは?」 先程までとは打って変わってオスマンは喜色の顔でロングビルに訪ねながら使い魔のネズミモートソグニルをロングビルの足下に走らせる。 「現在ヴェストリの広場にて生徒達が決闘騒ぎを起こしております。 また、教師が止めようにも騒ぎが大きすぎ恐らく終息がやっかいである為宝物庫の秘宝『眠りの鐘』の使用を許可して頂きたいのです。」 冷静に一息で報告を済ませるとロングビルは足下に寄ってきたモートソグニルを軽く足で蹴り祓う。 「それとセクハラは止めて頂けますか?」 「うぅ~む…残念じゃのう。まぁ決闘の方は所詮子供の喧嘩じゃて眠りの鐘は必要ない。 事が落ち着いた後で当事者に罰を与えてやれば良かろう、放っておけば良い。因みに決闘なんぞしておるバカはどこの誰じゃ?」 オスマンの言にロングビルは一瞬眉をひそめるも再び淡々と報告を始める。 「土のドット二年のギーシュ・ド・グラモンです。」 「グラモンの倅か。あそこの一族は色恋が好きな連中じゃからのぅ。そういえば二人の兄もグラモンの奴も学園に居った頃は女の取り合いで決闘騒動を起こしておったわ。 それで…相手は誰かね?」 オスマンは懐かしむのと同時にグラモンの家系に呆れるているとここで初めてロングビルが言葉を言い淀む。 「そ、それが……ミス・ヴァリエールの召喚した使い魔、平民の少女だそうです。」 ロングビルのその言葉にコルベールとオスマンは顔を見合わせ、互いの考えを即座に理解した。 「ふむ分かった。それならばギーシュ・ド・グラモンが分別のある貴族であれば大事には成るまい。ミス・ロングビル、君は一応医務室の手配を。」 「畏まりました。」 ロングビルの退室を確認してからコルベールは即座にオスマンに詰め寄る。 「学院長!!」 「分かっておる。ミント君と言ったか…早速彼女が本当にガンダールブなのか見極めるチャンスが来たようじゃの…」 オスマンは自分の机から水煙草を取り出し咥えた後、部屋の隅に立て掛けてある大きな鏡に被せられた布を魔法で取り払い、短く呪文を唱える。 そこにはヴェストリの広場で大勢のギャラリーに囲まれた状態で睨み合うギーシュとミントの姿が見下ろす様な俯瞰視点で映し出されていた。 ___ヴェストリの広場 「フッ、逃げずに良く来たね褒めてあげよう。」 「逃げる?冗談っ。あんたごときに逃げ出すようじゃ遺産のゲットなんて夢の又夢よ。」 ミントとギーシュのお互いが睨み合う。 ルイズはそれを心配そうに観衆の最前列から見ていた。 「ルイズの使い魔大丈夫かしら?御陰で食堂じゃ笑わせて貰ったけどアレギーシュの奴、 相当切れてるわよ。私あの子気に入ってるの…やばくなりそうだったら助けてあげないと。ね、タバサ。」 ミントの心配をしている人物はここにも居る。キュルケは広場の外壁の上から二人を見下ろしながら隣に座り本を読みふける親友のタバサに声をかけた。 「…多分不要。」 タバサの返答にキュルケは二つの驚きに目を丸くする。 基本的に本を読んでいる最中はタバサは自分が話しかけても殆ど返事をしてくれない。 そしてタバサはミントへの助けは必要無いと断じた。それはつまりそういう事なのだ。 「珍しいわねタバサ、まぁあなたがそう言うならそうなんでしょ?」 「先ずはルールだ。決着の付け方だがこれはどちらかが参ったと言いそれを勝者が認める事。」 「オッケーよ。」 「そしてもう一つ、僕に限って言えばこの薔薇、僕の杖なのだがこれを僕が手放しても君の勝ちとしよう。」 (尤も最初のルール…これは君によりきつく仕置きをする為のルールなのだがね…) ギーシュはミントに見せつける様に薔薇を高く翳した後その薔薇で歪めた口元を隠しミントを睨む。 「僕の二つ名は『青銅』。故に魔法を使って君のお相手をさせて頂く。卑怯とは言うまい?」 今度こそギーシュも魔法を唱える為に杖を翳す。 「全然問題ないわ。」 平然と言ってミントもデュアルハーロウを握る、それが決闘の開始の合図。 (やっぱりだわ…武器を握ると力が漲る…ブックの魔力を取り込んだ時程じゃ無いけど ルイズの使い魔にされた影響?この左手のルーン何かあるわね?) 一瞬の思考…そしてミントとギーシュの間にはいつの間にか一体の青銅で出来た女性のゴーレムが立っていた。 「行けっワルキューレ!!」 ギーシュの合図に合わせて青銅のゴーレム、ワルキューレがミントへと拳を振りかざし猛然と突進する。 中身が空洞のゴーレムとは言えその身体は紛う事なき金属製、唯の人間では抗え無い驚異である。 だがミントはギーシュのワルキューレの拳を見切った様に軽やかなバックステップで躱してみせると強く地面を踏み締め、今度はミントからワルキューレへと一気に飛びかかる! 「遅いっ!!」 『ドゴンッッ!!』 鈍い衝突音と共にワルキューレの身体が僅かに浮き上がりその背が勢いよく広場の芝生を押しつぶす… 「大した事無いわね…」 つまりミントは蹴り飛ばしたのだ。純粋な蹴り上げだけで… どよめく観衆、しかしギーシュは余裕の顔を崩さない。 「やるね…そんな蹴りをさっき僕は喰らったわけだが正直ぞっとするよ。だが甘い、その程度じゃ僕のワルキューレは倒せない…そして…」 ギーシュの薔薇の造花から六枚の花びらが散り、それはそれぞれ剣と盾を携えた六体のワルキューレへと変化した。 「ワルキューレはその一体だけでは無い。さぁ、跪いて泣いて謝れば僅かに君の罪酌量してあげようじゃないか何せ僕は優しいから!!アハハハハ!!」 同時にミントに蹴り飛ばされ顎がいびつに変形したワルキューレも立ち上がり一歩ミントににじり寄る。 「(こいつらドールマスター達が作ってたパペットみたいな物か…)仕方ないわね…」 ミントは呟いて一度深呼吸して集中する。 ギーシュはそのつぶやきを聞き諦めたか?とも考えたがその考えは直ぐに否定される事に成る。 二つのデュアルハーロウがミントの左手に握られ、空いた右腕は肩の高さから自分の後方へと僅かに下げられる…そう、左手のデュアルハーロウを弓に見立てればそれはまさに矢を番えて引き絞る様にも見えた。 「ギーシュって言ったっけ?確かあんた魔法は卑怯じゃ無いって言ったわよね??」 ミントの笑いながらの問いかけにギーシュは言いようのない不安の様な物を振り払う様に答える。 「あぁそういった!!そうそれがメイジだ、君の様な魔法も使えぬ平民等と対等に戦いなどする訳が無いだろう。 さぁ何をする気か知らないがこれで止めだ!ワルキューレ!!」 再び一体目のワルキューレがミントに肉薄する。 そして残りのワルキューレも動き出した。これでは一体目を退けても残りのワルキューレの餌食である。 これで決着だと誰もが思った瞬間、ミントはその口元をいやらしく歪めて歌う様に言い放った。 「だったらあたしも魔法を使うわ。」 瞬間、ワルキューレは幾つもの光の弾丸に貫かれて美しかった姿を一瞬で不細工なガラクタへと変える… ミントは目を丸くしたギーシュと周囲の野次馬を見やり満面の笑みを浮かべる。 そうマヤ曰くの『小悪魔的』では無く『悪魔的』な笑みを… 前ページ次ページデュープリズムゼロ
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前ページ次ページデュープリズムゼロ 第十七話『囚われの王女様』 宿を飛び出したミント達は桟橋を目指してラ・ロシェールの街を走る。 「見えたわ!あそこよ。」 世界樹と呼ばれる巨大木の麓に作られた階段を前にしてルイズが指さしたのはカンテラの明かりに照らされた壁面に掛けられた看板。その看板には確かに『アルビオン行き船着き場』と書かれていた。 その先に伸びる狭く古ぼけた階段を船着き場を目指してワルドを先頭にミントが最後尾を警戒しながら三人は駆け上がる。 と、先頭を進んでいたワルドが突然その足を止め、杖を抜いて臨戦態勢をとる。 「何者だ!?」 険しい表情を浮かべるワルドの目の前にはその行く手を阻む様に怪しげな黒いローブを纏った仮面のメイジが杖を構えて立っていた。 「ここから先には行かせん。」 抑制無くそう言って問答無用とばかりにワルドの問いには答えず男は杖を振りエアカッターの呪文を放ち、ワルドもまた閃光の二つ名に恥じぬ高速の詠唱で同じくエアカッターを放った。 『くっ…』 二つの風の刃は激しくぶつかり合い相殺すると一瞬の内に指向性を持たない暴風となってワルドと仮面のメイジのそれぞれのマントをたなびかせる。 そしてワルドが作り出したその僅かな隙を見逃さず、デルフリンガーを抜いたミントが一気に仮面のメイジに肉薄するも横薙ぎに振るわれたその鋭い一閃の切っ先が仮面のメイジを捉えるよりも僅かに早く仮面のメイジは風の様に宙を舞い、 ワルドとミントを飛び越え、余りに目まぐるしい戦いにすっかり気圧されていたルイズの眼前に降り立った。 仮面のメイジが咄嗟の反応に遅れたルイズにその手を伸ばそうとする。 だがそこまでだった… 「ウィンドブレイク!!」 猛々しくワルドの声が夜空に響く。 ワルドの作った隙を見逃さず一瞬で切り込んだミント。その回避行動の隙を使って既にワルドは次の魔法の詠唱を完成させていたのだ。 質量を持つ突風の激鎚、エアハンマーの上位互換に当たるその呪文の直撃を受けてルイズに手を伸ばしていた仮面のメイジの身体が衝撃と共に勢いよく中空に投げ出される。 だが仮面のメイジもまた手練れ、その様な状況でまだ意識も杖も手放してはおらず自由落下の最中に身を翻すとその杖からは今まさに風属性最強の攻撃魔法ライトニングクラウドが放たれようとしていた… 「ったく…往生際が悪いのよ!!」 差し違えるつもりなのかとそれを見て思わず毒づくミント…そして桟橋に一筋の雷光が走り、空気を振るわせる轟音が響き渡った。 「ふぅ…まさかライトニングクラウドを使えるとは思わなっかたよ…」 杖を鞘に収め、雷光に眩んだ視力も回復したワルドは階段の縁から顔を覗かせ眼下の様子を確認する。そこにはもはや街の明かりと夜の闇以外は何も見当たらなかった。 「『ボルト』よ。あれがあんたの見たがってたあたしの魔法よワルド。手紙とか無事、ルイズ?あいつ明らかにあんたの事狙ってた感じだったわよ。」 ミントの言葉にルイズは慌てて懐を確認し、手紙の無事を確認し安堵の息を漏らす。 「え?あ、うん大丈夫よ。」 「やはり油断は出来ないな。ここからは僕が殿を引き受けよう、先に行きたまえ。」 「わかったわ。」 あの瞬間、仮面のメイジの詠唱が完成するよりも一瞬早く、剣閃の直後に魔法の発射態勢に移っていたミントの放ったボルトの魔法が仮面のメイジを閃光で切り裂いた… 仮面のメイジが消し炭になったのか純粋に地面に墜落したのかは定かでは無いが取り敢えずの危機はさった。 何度も繰り返される刺客の襲撃にこれからの旅路の一抹の不安を抱きながらもミントはルイズの持つ手紙などの安否を確認すると再び勢いよく階段を駆け上がっていった。 しんがりとなったワルドはミントとルイズを見送りつつ内心驚きを隠すのに必死だった。 (まさか異国の魔法があれ程の威力とはな…) ワルドの立てた計画ではさっきのどさくさ紛れでミントにはここで退場して貰う予定だったがワルドが想像していた以上にミントは強かった。 やはり今朝ミントの力を上手く計る事が出来なかったのは実は思う以上に痛かったのかも知れないなとワルドは改めて考えると船着き場へと再び走り出した。 (何、チャンスなどまだまだ幾らでもある…) 当然ながらその後は刺客の襲撃は特になく船着き場で貨物船舶マリーガラント号を徴用する為ワルドが船長を説得し、道中の風石の不足分をワルドが風の魔法で補うという条件でルイズ達一行はアルビオンを出発する事となった。 ___マリーガラント 甲板 「ファ…本当に船が空を飛ぶなんてね……」 現在ラ・ロシェールを船が発ち一夜が過ぎた。普段よりも幾分か近い朝日を背に受けて一路船はアルビオンへの進路をとっている。 倉庫を改築した質の低い客室での仮眠から目覚めたミントは寝ぼけ眼を擦りながら甲板へとノタノタとした足取りで上がる。 雲を抜け空を飛ぶ船の手すりに静かに身体を預けて眠たげに欠伸をして、眼下に広がる光景を眺め、改めて一つ感嘆の吐息を漏らした。 甲板を吹き抜ける風が寝起きのミントの髪を優しく揺らし頬をくすぐる。 「ミントの世界には空を飛ぶ船は無かったの?」 余り眠れなかったのか幾分かミントよりも早く起床したルイズが残してきたキュルケ達が心配らしくラ・ロシェールの街があった方を心配そうに見下ろしながらミントに問う。 「…無い事は無いけど少なくとも一般的じゃ無いわね。」 そう言ってミントは以前ロッドの愛機『スカーレットタイフーンエクセレントガンマ』(略してスカタン号)でヴァレンの聖域へと向かった事を思い出しながらふと口元を緩めた。 あの時は今と違って空から見下ろす光景をゆっくり楽しむ暇など無かったのだ。 「あいつ等無事かな…?」 「さぁね…そればっかりは信じるしか無いわ。」 ルイズの不安そうな言葉にミントはあっけらかんに答える。ルイズはその返答に些か不満がある様子だったが所詮物事など成るようにしか成らないのだ。 そうドライに割り切るとミントは改めて瞳を閉じて再び風を感じる。 思い返せばカローナの街を離れた時以来の船旅だ…あの時は東天王国の統治方針の話で結局マヤとの大げんか、その前は考え事の最中の不意打ちの衝撃で(犯人はロッド)船から海へと放り出されエライ目に遭った。 (……………………………) よくよく考えれば考える程ミントは自分が船旅に余り恵まれていないのでは無いかと思考をネガティブな物にしていた。 そして… 「空賊だぁーーー!!!」 見張りをしていた船員のその声にミントはガックリと盛大に肩を落とした… 「参ったね…」 心底困ったという様子でワルドがぼやく。 結論から言えばミント達は突如マリーガラントを襲撃した空賊達に対し大した抵抗も出来ぬまま捕まり、武器と杖を取り上げられて身代金の為の人質として空賊船の牢屋の中に放り込まれていた。 無論空賊船が大砲を撃ち込んで来た時ミントは徹底抗戦の構えをとったが武装を一切搭載していない輸送船でそれがいかに無謀かをワルドとルイズに説かれ、 反撃の機をうかがう為渋々空賊達に従った。流石に自分達の乗る船を落とされてはミントもどうしようも無いのは分かる。 三人が牢に閉じ込められてしばらくの時間が経つと一人の空賊が三人の捕らえられた牢へとやって来た。その手には粗末なスープの入った器が携えられている。 「おーい、貴族様メシだぜヘヘヘ…。」 イヤらしく笑いながらスープの器を差し出した空賊に対して臆する事も無くミントはその器に手を伸ばす。見れば分かるが味付けの薄そうなそのスープには豆しか入っておらずミントは明らかに不満そうな表情を浮かべる。 「ショッボイスープね…って何すんのよ!!」 「おっと…メシの前に質問に答えて貰うぜ。アルビオンは今戦争やってる訳だがあんた等何しにアルビオンにやって来てたんだい?」 スープの器を引っ込めて空賊が問い掛ける。 「……………旅行よ。」 ルイズが空賊を敵意の籠もった目で睨みながら短く告げる。 その言葉を空賊は見え透いた嘘だと内心苦笑いを浮かべた。 「そうか旅行とは奇特な話だな。俺達はてっきり貴族派へのお客様だと思ったぜ。」 空賊の言葉に三人の眉がピクリと動く。 「あんた達が貴族派の人間だったら直ぐにここから出してスカボロー港に連れて行ってやれたんだがな。俺達にとっては貴族派の方達は大事なお客様だからなヘヘヘ…。」 空賊はそう言って笑うとスープの器をようやく牢の中へと置いた。 そしてここで二人の少女が全く同じタイミングでそれぞれ全く異なる言葉を発した。 「あ、さっきはあぁ言っちゃったけど実はあたし達貴族派なのよ!!」 「誰が貴族派なものですか。私達はトリステインからの正式な王党派への大使よ!分かったのなら私達を大使として扱いなさい!この下郎!!」 『…………………………』 ルイズとミントが互いの顔を見合わせて固まるとその場の時間も停止する。 「何で馬鹿正直に本当の事言うのよ!!馬っ鹿じゃ無いのっ!!?」 「何で私達が恥知らずの貴族派だなんて名乗らないといけないのよ!!あんたにはプライドって物が無い訳!?」 二人の少女が同時に吠える。 その様子は東方の例えならばまさに龍と虎の闘い。ハブとマングースの闘い。 「あー…結局あんた達は王党派へのトリステインからの大使…って事でいいのかい?」 「あぁ、そういう事だよ。…全く…」 二人のやりとりに気圧されて遠慮がちに問い掛けてきた空賊に対し、ガックリと肩を落としながらワルドは最早隠しても無駄だと悟り半ばやけくそに答えた。 ___空賊船 船長室 そんなこんなで一悶着があった後、ルイズ達三人は空賊の頭に呼び出され空賊に引き連れられて船長の部屋へと案内されていた。 「お頭、連れてきましたぜ。」 空賊の声に応える様に部屋の奥にあるテーブルの椅子の座が音を立てクルリと回転し、ひげ面の如何にも空賊と言った逞しい風体の男がルイズ達を出迎える。その手にはメイジの証とも言うべき杖が収まっている。 そして船長室は豪華とは言えぬが一介の空賊の物とは思えぬ程上品に設えられていた。が、ルイズにとって船長室にだらしなく整列する空賊の部下達はどうにも粗野で野蛮な印象しか無い。 それらを束ねる部屋の主は特に嫌悪感を表しているルイズに対して椅子に座ったまま良く磨かれた自分の杖を突きつけニヤリと笑った。 「よぉ…お嬢さんがトリステインの大使様かい?」 「えぇ、そうよ。」 「一体何しに行くんだ?あいつ等は明日明後日にはこの世から消えちまうっていうのによ。」 「あんた達に言う事じゃないわ。あんた達は黙って私達を解放してアルビオンへ運べばいいの。」 「その様子じゃ大事なんだろ?そいつを手土産にしてやれば貴族派は喜ぶと思うがね?」 「そんな恥知らずな真似をする位なら死んだ方がマシよ!」 ルイズは恐怖を確固たる意思で押し殺し、小さな胸を張ったまま船長から一切視線を逸らさず堂々とした態度で淡々と船長の挑発的な問い掛けに答えていく。 (ルイズ…) その勇ましい姿を黙って間近で見ているミントも正直ルイズという少女を今まで見くびっていたと素直に思う。無論世間知らずの馬鹿だとも思うが… 「やれやれ、全く威勢の良いお嬢さんだ…トリステインの貴族ってのはどうも頑固でいけねぇ。」 平行線のやり取りに空賊の頭は疲れたのか呆れた様に溜息を漏らすと頭に被っていた帽子を外した…長い黒髪の癖毛が違和感を孕んで揺れる。 「だが!!貴族派の連中の様な恥知らずとは比べるまでも無い!!…そうは思わないかお前達?」 『サー、イエッサー!!』 一喝と共に突然頭の纏う雰囲気が変わる…それにあわせて部屋の壁に背を預けて成り行きをニヤニヤと見守っていた部下達が一瞬で佇まいを正し、良く訓練された兵士の様に…否、兵士そのものの掛け声で敬礼を頭へと向けた。 何が起きているのか理解が追いつかず、ミントとルイズが目を点にして呆気にとられていると頭は無造作に自分の髪の毛と口ひげを引っ張り、むしり取る。 ワルドだけはここに来て事態を理解した。 現れたのは凛々しい金髪の青年、唯の美形の金髪ならばギーシュと代わりはしないがその姿は真の気品と勇猛さを感じさせる物だった。 「大使殿、先程までの我々の無礼を謝罪する。私はアルビオン王立空軍大将、本国艦隊司令長官……アルビオン王国皇太子、ウェールズ・テューダーだ。」 粗野な空賊の頭だった男はそう言って未だ驚きによって硬直したままのルイズ達に爽やかにかつとっておきのいたずらに成功した少年の様に微笑んだ。 前ページ次ページデュープリズムゼロ
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前ページ次ページデュープリズムゼロ 第二十八話 『ラグドリアン湖の激戦』 「はぁ…」 水の精霊の涙を求めてラグドリアン湖を目指しているミントは一つ溜息を漏らして何故自分が今こんな目に遭っているのかと考え、その馬鹿馬鹿しさに改めて悲観に暮れる… 「おぉ、どうしたんだい僕の愛しき麗しの女神!その憂いを秘めた「うるさい!くだらない事言ってないであんたは馬の操作に集中しなさい…」」 ミントは自分の馬の手綱を代わりに操っているギーシュがやたらとキラキラした瞳で自分を見つめてくる事にうんざりしながら力無くギーシュを睨み付ける。 「うぅ…ギーシュ…」 「我慢なさい、そもそもあんたが全部悪いんだから。」 「うっ…それは…分かってるわよ…」 ミントとギーシュのやり取りを恨めしげに見ていたのはそもそもの原因であるモンモランシー、そしてミントに無理矢理に連れてこられたルイズである。 今ルイズとモンモランシーはそれぞれ一人で馬に、ミントは非常に不本意ながらギーシュの馬の後ろに乗っている。 それは四人が学園を発つ為、学園の馬を借りようとしたのだが生憎と空いている馬が三頭しか居なかった故の苦肉の策。 そもそもミントはギーシュを学園に置いていくつもりであった。 が、厄介な事に薬の影響下にあるギーシュはミントが目を離すと他の生徒達にミントの魅力を説いて回ったり…挙げ句実家にミントの事を恋人だの紹介したいだのと手紙を綴り始めたりとやりたい放題だったのでしようが無く連れて行く事にした。 「だったら私は行かずに残るわ。」 そう言ってルイズが面倒事から逃れようとするも巻き添えを求めるミントはそれを許さずそもそも馬に乗り慣れていないミントがここは誰かの馬に相乗りするという話しに相成った。 そしてその役目を買って出たのは勿論絶賛ミントにベタ惚れ中のギーシュで、ミントもこれに関して深く考える事も無く了承した。 しかしそんなミントの安易な考えを裏切るかのようにミントの視線の先で手綱を操りながら愛を詠うギーシュはそれはもうひたすらにうざかった… (馬の操作をしなくて済むのは楽だけど精神的にきついわね…これならルイズ置いて自分で馬に乗ってくれば良かったわ…モンモランシーもこいつの何が良いのか全然分からないわよ…) そんなミントの心を知らずギーシュの駆る馬の足取りは軽く、一行は昼を大きく回った頃に目的地であるラグドリアン湖へと辿り着いたのであった。 ____ ラグドリアン湖 「……変ね、ラグドリアン湖の水位が上がってるわ!」 「水位が?」 ラグドリアン湖に到着した途端、モンモランシーはその変わり果てた光景に驚愕した様子を浮かべた。 「ええ、ラグドリアン湖の岸はここよりもずっと向こうだったはずなのよ。……ほら、あそこに屋根が出てるわ。村が湖に呑まれてしまったみたいね。」 「うわ、ほんとだ……」 モンモランシーが指差した先には、確かにワラぶきの屋根が湖から突き出ている。更に水面をよく注意して見れば、家が丸ごと水の中に沈んでいることが分かった。 それを興味深げに観察しているミントとルイズを放置しモンモランシーは波打ち際まで歩いていって水に手を触れて精神を集中させる為、目を閉じる。 因みにミントにとって用済みとなったギーシュは起きていると鬱陶しいだけなので現在モンモランシーのスリープクラウドの魔法で夢の中である。 「……水位が増えてるのはやっぱり水の精霊の仕業みたい。理由までは流石に分からないけど水の精霊は、どうやら怒っているようね。」 「触っただけでそんな事が分かるなんてやるじゃない…あんたを連れてきたのは正解だったわね。」 自分の世界には無かったそのメイジの技能にミントは素直に感心する。 「ふんっ…当然よ、『水』のモンモランシ家は、水の精霊との交渉役を何代も務めていたんだから。」 「務めていた?何?今はその交渉役じゃ無い訳?」 「うっ……そ、それは……」 ミントのその指摘に、思わずモンモランシーは口ごもる。 「モンモランシ家は結構前に干拓事業をする際に水の精霊を怒らせて交渉役を降ろされたのよ。トリステインじゃ結構有名な話よ。」 言い淀んでいたモンモランシーの代わりにルイズが簡潔な説明をミントに行う、家の恥を晒されるのは悔しいが事実なのでモンモランシーとしても肯定せざるを得ない。 「でも少なくとも水の精霊を呼び出すのは問題ないでしょ、モンモランシー?というかそれ位は最低限やってもらわないとね…」 「ぐ…分かってるわよ、黙ってみてて。」 ミントの挑発的な言葉に応え、モンモランシーは腰に下げた袋から自分の使い魔のカエルを取り出した。 「ひっ、カエル!!」 「情けないわね~…たかがカエルじゃない?」 情けない声を上げたのはルイズでそれを嘲笑ったのはミント、ルイズはカエルがどうも生理的に苦手なのだが言われっぱなしも癪である為ルイズは頬を膨らませた。そして… 「あっ、カボチャ!!」 「ひぃっ!!?」 仕返しとばかりのルイズの嘘にこれまた情けない悲鳴が湖畔に響く…咄嗟に反応したミントだったがそれは直ぐに嘘だと気が付いたので恨めしそうな目でルイズを睨む。 「…あんたも人の事言えないじゃ無い…」 「ルイズ!!」 「あ~~~もう!二人ともうるさいから静かにしてなさいっ!!水の精霊を今ロビンが呼びに言ってるんだから騒がないでよ!!」 二人の言い争いの間に使い魔のロビンを湖へと放したモンモランシーが二人に怒鳴りつける事で取り敢えず二人の言い争いは鎮静化したのだった。 程なくしてロビンがモンモランシーの元に戻って来る。すると大きく湖の水面が膨らみそこから不定型な水柱が現れた。 水柱は一行をしばらく観察するような様子を見せた後その姿を徐々に人間の女性のシルエットへと変形させていった。そして、ようやく形作られたそのシルエットはモンモランシーの姿を模していた。 これで取り敢えずの最低条件はクリアできた。それを確認したモンモランシーはルイズとミントが見守る中、水の精霊に向かって一歩前に出る。 「水の精霊よ、私ははモンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシ。水の使い手で旧き盟約の一員の家系に連なる者。カエルにつけた血に覚えはおありかしら。覚えていたならば私達に分かるやり方と言葉で返事をしてちょうだい。」 その言葉に反応したのか、モンモランシーの姿を模している水の精霊はフルフルと震えるように会話を始める。 「………覚えているぞ、単なる者よ。貴様の身体を流れる液体を我は覚えている。お前に最後に会ってから月が52回交差した。」 水の精霊の覚えているという言葉にモンモランシーは心底安堵する。 「良かった。水の精霊よ、お願いがあるの。あつかましいとは思うけど、あなたの一部を私達に分けて欲しいの。」 「……………」 今度は何か考えるかのように沈黙をする水の精霊。その様子に一行はどうもイヤな予感を感じずにはいられなかった。 「断る、単なる者よ。」 その水の精霊の一言を聞いてルイズとモンモランシーは内心当たり前かと一応の納得をする。「下さい。」「はいどうぞ。」という話がそもそもあり得ないのだから…しかしミントは違う。 「はぁっ?けち臭い事言ってんじゃ無いわよ!良いからほら、あんたの涙を寄越しなさい。それがないとあたしが困るのよ。」 恐れも遠慮も一切無く、ミントは水の精霊に両手を突き出して軽い催促のステップを踏んでみせる。 これにはモンモランシーもルイズも思わず絶句する… 「断る、ガンダールブよ、我にはお前達へ我が一部を差し出す理由が無い。お前が我が一部を求めるならば我にその力を認めさせ、契約の元で求めるが良い。」 水の精霊には感情が無いのか、ミントの暴言にも特別怒った様子も無く淡々と切り返した。 「ガンダールブって?」 モンモランシーが水の精霊の言葉に疑問符を浮かべるもそこまで怒った様子が見られない水の精霊のその反応にミント以外は胸を撫で下ろした。 が、ミントの続ける言葉に更に精神をすり減らす事となる。 「成る程、涙が欲しかったら自分とバトルして力を見せてみろって事ね?な~んだ、あんた案外話せるじゃ無い。」 そう、青ざめる連れ二人等意に介さず、ミントは精霊の先の発言にとあるシンパシーを感じ、つまりは何を求めているのかを察していたのだ。 「あんた何言ってんのよ!!!!バカなの!?いいえバカよ!!」 「お願いミント、止めて!!これ以上水の精霊怒らせたら私の家取り潰しになっちゃう!!」 大泣きしながすっかりやる気になったミントに縋り付くルイズとモンモランシー、それを正直鬱陶しく感じながらもミントは手にしたデュアルハーロウを水の精霊に突きつけると高らかに宣言した。 「うっさいわね~…ほら、下がった、下がった。、…さ、レッツバトルよ!!」 「………来るが良い…単なる者よ。」 「…嘘でしょう…」 嘆く二人を置き去りに弾かれたようにミントが岸辺を走る。するとミントがつい先程まで居た地点へと高圧縮された水塊がまるで鞭の様に連続で叩き付けられた。 不定形故のしなやかな動きがミントの蹴った地面を次々と水が穿つ… 「相棒、あの水には当たるなよ!水の先住には心を狂わす力がある!」 「オッケー。切り裂け!!」 デルフリンガーの助言を受けてミントのステップは更に鋭さを増す… 勿論ミントは防戦をする気も無く、デュアルハーロウから放たれた魔法、高水圧の水の鋭い刃は未だモンモランシーの姿を模したままの水の精霊の胴を袈裟に切り裂いた。 水の飛沫を巻き上げ、一瞬その形を崩した水の精霊、だが次の瞬間には当然とでも言うか元の姿へと戻っていた。誰が見てもダメージが入っているとは思えない。 「やっぱ効かないか…」 ミントは予想していたとはいえその光景にやはり驚きつつ自分に迫る水の弾丸をたたき落とし次の魔法を放つ体勢に移った。 そしてミントの今の一撃に一番驚いていたのは誰あろう水の精霊であった… 『系統魔法』とも『先住魔法』とも違う永遠を生きる自分にも知り得ない未知の魔法とそれを操る人間等、自然と興味が湧く… 続いて水の精霊を襲ったのは紫電を放つ巨大な暗黒の球体。それは水面を削り取るようにしながら高速で真っ直ぐ水の精霊に向かう。 ハルケギニアには存在しない属性の魔法は水の精霊をそのまま周囲の水もろともに飲み込むと強烈な力場を生んで何も残さず消滅した。 消滅した水面を補うようにして大きく波立った水面…そこにはもうモンモランシーのシルエットを模った水の精霊は居なかった。 しばらくの後、水面が穏やかさを取り戻す。すると姿は見えないにしても再び湖畔に水の精霊の声が響いた。 「…そなたの力我は存分に見せてもらった。我はそなたを認めよう。武器を納めよガンダールブ…」 とミントも半ば予想出来ていたかのように素直にデュアルハーロウを背に納めると戦闘態勢を解除する。 「ったく…判れば良いのよ。」 不遜に言ってミントはルイズとモンモランシーが居た場所へと戻る。ウィーラーフもそうだったが所謂人智を超えた存在というのは人の力を試すのがやたらと好きなようでミントは実際この流れは予測が出来ていた。 だがルイズ達はそうも行かない。 「何なのよ…一体…」 と、理解の追いつかないままルイズとモンモランシーの二人は呆然と水面とミントを見つめていた。 事態に収拾が付いた事で一行はようやく再び水の精霊との交渉を再開する。 水の精霊もまずミントの存在に疑問を抱いた為、ミントが何者であるかを問い、またミントも自分の身分、置かれている状況などを掻い摘みながら水の精霊に答える。 思わぬ形ではあるがミントが王女である事を知ったモンモランシーは「ありえない…ありえないわ…」と譫言のように呟いていた。 そうして互いにある程度の情報を交換した後、ようやくミントが『精霊の涙』を要求するも水の精霊は再びこれを拒否した。 これに声を上げてミントは反論したが水の精霊曰く、ここ数日水の精霊は何者かの襲撃を受けて実際困っており、その襲撃者を何とかすれば『精霊の涙』をミントに譲ると言う。 なんにせよお宝を手に入れる為に、何かと『お使い』を頼まれるのはミントにとっても馴れた物である。無論、面倒だとは思うがこればっかりは仕方が無い。 こうしてミント達は今夜、水の精霊を襲う襲撃者に備える事となったのであった… 前ページ次ページデュープリズムゼロ
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前ページ次ページデュープリズムゼロ 第二十一話 『脱出アルビオン』 礼拝堂に並ぶ石柱の一本が半ばから上下に分断され、崩れ落ちる… (何だこれは!!??……間違いなくエアニードル程度では受ける事すら叶わんぞ!?) ワルドは目の前で繰り広げられた衝撃的な光景に思わず戦慄し歯をぎりと食いしばった。 つい先程、ミントの手によって振り抜かれた黒い靄を纏ったデルフリンガーの切っ先はワルドの鼻先数サントを僅かに掠め、斬撃はそのまま脇にあった石柱へと叩き込まれていた。 常識的に考えていかな剣の達人であれど少女の腕力で大柄な成人男性以上の胴回りを持つ石柱を剣で切断するなど到底不可能だ。 ワルドはその常識を持って戦法を選択し、ミントの剣が石柱に弾かれるにしろ、食い込むにしろその瞬間に確実に生まれるであろう隙を突く為に確実な回避を選んだ。 だが、ワルドの想定も常識も一切関係ないと言わんばかりにミントの振るった黒い靄を纏ったデルフリンガーは容易く石柱に食い込むとそのまま横薙ぎに切り砕く… 石柱に刻まれたその傷は風の刃で付けたような鋭い物では無くもっと荒々しく、それはまるでミノタウロスが全力で斧を振るったかのよう… 額を伝う嫌な汗を拭う間もなく続けて返す刃がワルドに迫る。黒いプレッシャーに気圧される事無く踏み込み、回避し、杖によるカウンターを決める事が出来たならワルドの勝ちだ。 だが、ミントの大胆な大振りの斬撃はデルフリンガーの間合いを上手くいかし、それを許しはしない。ワルドの目の前でミントの斬撃の度に盾とした瓦礫は粉々に砕け散る。 ここまで回避に徹しつつ冷静に分析に努めたワルドはこの規格外の魔法と剣の破壊力を理解した。ハルケギニアのメイジの魔法にも今ミントが使用している魔法に酷似している物がある。 「(成る程…この魔法やはり正体は解らぬがその本質は『ブレイド』か!)ならばっ!」 接近戦では分が悪いと判断し、簡単な風の魔法で土煙を巻き上げワルドは一足飛びでミントから距離を取った。 「今なら吸収は出来まい!!エアハンマー!!エアカッター!!エアハンマー!!!」 苦し紛れとはいえワルドの真骨頂である高速の詠唱によって不可視の魔法がミントへと襲いかかる。 「来るぜ、相棒っ!!」 「分かってるわよ。」 活躍の場が与えられている事が嬉しいのかやたらとテンションが高いデルフリンガーをふるってミントは迫る魔法へと迷う事無く前進した。 既に魔法『アポカリプス』はインテリジェンスソードの特性を持っていち早く対応したデルフ自身の意思で解除されている。 「くっ…何という対応速度だ…」 やはりと言うべきかミントの足を止める事は出来たがワルドの目の前で魔法は黒い靄を振り払ったデルフリンガーに易々と掻き消される。 接近すれば凶悪な攻撃力を持つ魔法剣とガンダールブの技が…たとえ離れようとも残された精神力で放てる魔法が通じないという事実にワルドは心底苦い表情を浮かべる。 (くそっ!これが伝説の使い魔ガンダールブか。認めたくは無い…認めたくは無い…が!!このままでは確実に負ける…) 余りに相性が悪い。戦術的撤退もやむ無し、屈辱にあえぎながらそう判断を下し即座にワルドは天を仰ぎ上空で待機させていた己のグリフォンを呼び出す為、口笛を吹く。 口笛に反応して直ぐにグリフォンはステンドグラスの天窓を突破して舞い降りてきた。しかしそれと同時に再びミントが距離を詰めようとしている。 だが、ワルドにも最後の切り札はある。貴族としての最後の吟じとして使いたくは無かったがまさかそれを使わねばならぬような事になるとは夢にも思っていなかったが… ワルドは素早く新たな呪文の詠唱を終えると杖の先端を視界の正面に見据えたミントでは無く、その端に映るルイズへと向けた。 「えっ……?」 ルイズは戦闘の最中に今まで見向きもされなかった自分に突如ワルドの杖が向いている事に気づきその身を硬直させる。 「ガンダールブ!私への一太刀かルイズの命か、選んで貰う!!ウィンドブレイクッ!!」 「なぬっ!?」 ワルドの言葉と視線にその意図を読み取り、ミントは足を止めるとワルドが全力でルイズに向けて放ったウィンドブレイクの射線へと咄嗟にその身を投げ出した。 そして… 間一髪、ミントがその身を盾にデルフリンガーでウィンドブレイクを吸収し、ルイズを守る…だがその間にワルドはグリフォンの元へ辿り着いていた… 「フハハハ、愚かだな。やはりルイズを守ったかガンダールブ、どうあがこうとも君達が死ぬ事に変わりは無いというのに。」 まんまと目論見通りに事が運んだ事に高笑いを浮かべてワルドは飛び上がったグリフォンの背からミントとルイズを勝ち誇ったように見下ろす。 「ワルド…あんた、逃げる気!?」 「逃げる?ククク…これは異な事を仰る…先程も言った筈だ。君達は私が相手をせずとも此処で確実に五万の兵に蹂躙されて死ぬでは無いか。先程までの闘いはいわば戯れだよ。」 「やっぱあんたって最高にむかつくわ…」 「同感よミント。」 ルイズとミントは勝ち誇るワルドを侮蔑の視線で貫くように睨み付ける。 「随分と嫌われた物だ…だがそれも仕方在るまい。ルイズ、アンリエッタの手紙は君の遺体から後で回収させて貰うよ。それでは永遠にさよならだ。ハハハハ!」 ワルドはそう言い残して背を向けると逃走の為、グリフォンを天井の砕け散ったステンドグラスへと飛翔させる。 しかし… 「言っとくけど、このままあんたを見逃してあげる程……あたしは甘く無いのよ!!」 怒りの雄叫びと共にミントは全身全霊の力を込めて緑色の魔力を纏わせて、デルフリンガーを力いっぱいに振り下ろす。 ミントに残された全魔力から生み出された巨大な風の刃はデルフリンガーの刀身を離れ、一気に解き放たれると礼拝堂そのものを一刀のもとに両断した。 刹那、既に十分な距離を離れたと油断していたワルドの頬を一瞬の風がなぞる…風のメイジたる鋭敏な感覚でワルドはその風の鋭さを感じ取った…次に感じたのは奇妙な違和感。それは己の右腕からだった。 「…ッ!?…ウオォォァァァァ…!!????」 余りの衝撃に思わず絶叫が上がる。ワルドの限界まで見開かれた瞳に映る光景では本来自分の右腕があるべき場所で唯々、血しぶきが噴き上がっていた。 杖もろともに失われた右肘から先はミントなりのルイズの折れた腕に対する意趣返しなのかそれとも純粋に狙いがそれたのか… 「おのれぇっ!!この屈辱忘れんぞ、ガンダールブ!!」 憤怒の表情でワルドはミントを睨み、捨て台詞を吐く。 結局ワルドにはミントの真意は分からなかったがその身を預けているグリフォンが命令を下さずとも怯えたように全速力で飛行してくれた御陰でミントの魔法の更なる追撃からは逃れる事は何とかできた。 「ちっ、逃がしたか。」 飛び去ったワルドのグリフォンを追うように見上げて地団駄を踏むとミントは舌打ち混じりに毒づいてデルフリンガーをようやく鞘へと押し込んだ。 色々とこの剣には聞きたい事はあったがその前にこの状況を何とかしなければならない。 「ミント…ありがとう。でも…これからどうすれば…」 ルイズはヨロヨロとミントの隣まで移動すると不安げな表情でミントを見つめた。 「どうするもこうするも無いわ。何とかこの国から脱出するしか無いじゃない…」 「でも…一体どうやって…」 「ったく、知らないわよ…あたしよりもあんたの方がこの世界の事詳しいんだか…ら…っ…ぁれ?」 ふとミントは突然の脱力感に襲われてその場にへたり込んでしまう。 「ミントっ?どうしたの大丈夫?どこか怪我を…」 軽い目眩を覚えながらも駆け寄ってきたルイズを制してミントは何とか立ち上がる。 ヴァレンとの闘いの時もそうだったが戦闘を終え、緊張が解けたせいで一気に疲労が襲いかかったのだろう。 「あ~…へいきへいき…ちょっと馴れてない魔法一気に使いまくったせいで疲れただけ。少し休めば大丈夫だから…」 「でも…ひどい顔色だわ…」 ルイズは心配そうにミントを見つめる。医療には明るくないルイズから見てもミントの顔色は明らかに悪かった。 「でも…本当にどうすれば……ミントもこの調子じゃそう遠くまで歩けないし船も無いわ……」 ルイズは改めて現状を把握するとどれだけ今自分達がどれだけ絶望の中にいるのかを認識してしまう。 すると、不意にルイズの足下でぼこっと床石が割れ、何か見覚えがある茶色の生き物が顔を出した。 「え?」 ルイズとミントが何故今ここにギーシュの使い魔ヴェルダンデが居るのかが理解出来ず呆気にとられているとヴェルダンデはそのままルイズへと鼻先を擦りつける。正確には水のルビーへと。 「おーい、ヴェルダンデ!どこまで君はは穴を掘る気なんだね!って……ルイズじゃないか!!?」 ヴェルダンデが出てきた穴から、ギーシュの声が聞こえてきたと思えば一拍置いて、その穴からひょっこりギーシュが顔を出した。 「ギーシュ、何であんたがここに!?」 ルイズの問いにギーシュは土に汚れた手で自慢の金髪を掻き上げる。 「あの後何とかフーケと傭兵達を退けてね。タバサのシルフィードで君達を追ってアルビオンに辿り着いたのさ。そうしたら今度はヴェルダンデが突然穴を掘り始めたから慌ててそれを追いかけて今に至るってところさ。成る程、ヴェルダンデは君の水のルビーの匂いを追っていたんだね。 いや~それにしても、タバサとキュルケと共にフーケのゴーレムを相手取った僕の勇士を君達にも見せたかったよ。君達こそあれからどうなっ…」 と、合流の成功に浮かれていたギーシュはようやくルイズとミントが満身創痍になっている事に気が付いた。とくにルイズは服もボロボロで右腕が明らかに折れている。 更に極めつけ、後ろには胸を貫かれたウェールズの遺体… 明らかに困惑と同様の表情をギーシュが浮かべるが二人は今はいちいち構って等いられない。 「とにかく良くやったわギーシュ。さぁ、脱出するわよ。」 「ちょっ…状況が!!子爵は…わぷっ」 「説明なら後でするわよ。ほら、ルイズも、腕、気をつけなさいよ。」 「ミントは?」 「…あたしは武器拾ってくる。先に行ってて、直ぐ追いかけるから。」 「うん…急いでね。」 混乱しながら状況の説明を求めようとしたギーシュの顔をミントが蹴りで穴へと押し込み、軽い問答の末ルイズを見送るとミントはゆっくりとウェールズの遺体が横たわる祭壇へと歩み寄り身を屈めた。 「さて…あんたも報われない男ね…悪いけど約束通り風のルビーは貰っていくわよ。」 既に物言わぬウェールズからは了承も抗議も無い。 ミントは独白気味に語りかけながらその血にぬれた指先からするりと風のルビーを抜き取った。その後でウェールズの顔を優しく撫で、安らかな眠りを促すように瞼を落とさせる。 心なしか強張っていたウェールズの表情は瞼を落とすと少しだけ穏やかな物へと変わっていた… 既に一刻の猶予も無い、外からはレコンキスタと王党派の開戦の怒号が聞こえてきている。 「じゃあね、ウェールズ。」 ミントは再び立ち上がると直ぐ近くの瓦礫からその姿を覗かせているデュアルハーロウを拾い上げ、ウェールズへ手を振って躊躇う事無くヴェルダンデの掘った穴へと飛び込んだ。 ___ 脱出路の穴を抜けた先、シルフィードの背の上でミントはラ・ロシェールで分かれて以来のタバサとキュルケに暖かく迎えられた。 「色々…大変だったみたいね。ミント。」 一足早く合流したルイズの姿を見て色々と察してくれているのか、キュルケは多くは語らず優しげな声色で唯一言そう言った。化粧で誤魔化してはいるがその目元にはタバサと揃いのくまがうっすら浮かんでいた。 「まぁね~、あんた達も大変だったでしょ?…正直迎えに来てくれて助かったわ。」 ミントはそう何でも無いように平然と答える。 「心配…徹夜で飛んで来た…」 「感謝してるわ。シルフィードもご苦労様。」 ミントが二人への感謝と労いの言葉を掛けながら優しく背中を撫でるとシルフィードは疲れた様子ながら「きゅるきゅる」と喉を鳴らして喜んだ。 「それじゃあ、脱出するわよ!」 雲間から覗く太陽に向かい高らかにミントは声を上げる。アルビオンの猛き風はいつまでもこの勇ましくも浅ましい異世界の王女の鮮やかな緋色の髪をただ揺らし続けた… 前ページ次ページデュープリズムゼロ
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前ページ次ページデュープリズムゼロ 第十話『森の廃屋の死闘』 ルイズ達は現在ロングビルが手綱を握る馬車に揺られながら紅蓮の宝珠奪還の為に学園から離れた森を目指していた。 「ところでさー、紅蓮の宝珠って何な訳?」 荷台でシエスタに用意させた弁当をムシャムシャと頬張りながらミントは誰にと言う訳でも無く問いかけた。 「余り詳しくは分かりませんが私が学園長から聞いた話ですと宝石の様な物らしいですよミス・ミント。」 「まぁ、宝石ですの?詳しくお聞きしたいですわミス。」 ロングビルが後ろへと視線を送りそう答えるとキュルケが露骨に瞳を輝かせた。 「えぇ、らしいですわ。やはり私も土メイジの女性ですから宝石には興味がありまして学院長に色々と聞いてみたのです。 紅蓮の宝珠は強力な炎の魔力が込められているらしいのです。 でも誰がどの様に作ったかもその使用方法も一切分からない不思議な宝石らしいですわ。」 ロングビルはそう言って残念そうに溜息を吐く… 「用途も製法も不明なんて変わった宝石ねぇ…」 ルイズが首を捻る。 「はん、女ってのはどうしていつの時代も宝石なんて物に夢中になるのかね? 俺様にゃさっぱりわからねぇぜ。相棒もその口かい?」 ミントの背に背負われたデルフリンガーが鞘から刀身を覗かせて鍔を鳴らす。 「って…どうした相棒?」 ミントはデルフの声が聞こえていないかの様に何やら考え事をしているのか弁当を食べる手を止め思考に耽っていた。 ミントにはロングビルが紅蓮の宝珠の特徴として上げた条件に見事に当てはまるお宝を一つ知っているのだ。 「もしかして紅蓮の宝珠って………」 そのミントの小さな呟きは道を行く馬車の音に掻き消されたがその呟きを確かに聞き逃さなかった人物は直ぐ側に居た。 そうして馬車に揺られて数時間、ルイズ達はようやく土くれのフーケの隠れ家と目される森の中の廃屋に到着していた。 「作戦を立てる。」 草むらの影でタバサが杖を使って簡単な見取り図を地面に描く。 「先ずは偵察、これは私が…中にフーケが居れば全員で奇襲を掛けて一気に仕留める。」 タバサの提案に全員が頷いて肯定する。 「居ない場合は?」 「その場合は廃屋を調査してフーケの手がかりを探す。」 「オッケー、それで行きましょう。」 キュルケの問いに簡潔に答え、タバサとミントは立ち上がり廃屋を睨んだ。 素早く無駄の無い動きでタバサが廃屋の壁に背を預け、窓から中をのぞき込む。 「…………」 声を出さず事前に決めていたハンドサインを茂みに身を隠しているメンバーへ送る。 「居ないみたいね…」 「よし、あたしとキュルケで中を調べるからルイズとロングビルさん、 周囲の警戒をしといて頂戴。」 「あっ…ちょっ…」 「分かりました、お願いします。」 ミントは言うやいなやキュルケと連れだって廃屋へと掛けていく。 「ではミス・ヴァリエール、私は向こう側から警戒をしますので何かありましたら知らせて下さい。」 そう言い残しロングビルも移動を始めた。 (全くあいつったら…) 有無を言わさず置いてきぼりを食らったルイズは渋い表情を浮かべたがロングビルもミントやキュルケの判断に納得している様なので渋々周囲の警戒に移る。 ___廃屋内部 三人はフーケの隠れ家と目される廃屋の中を注意深く調べて回る。 「テーブルと椅子にチェスト…変わった物も怪しい物も何も無いわね。」 「埃が大分積もってる…」 タバサはテーブルの上を指先でなぞる。成る程確かにタバサの指先は汚れていた。 「これは情報に踊らされたかもね…っと。」 ミントの視線は不意に小屋の隅に置かれた一抱えはある小箱に惹かれた。 よく見ればその小箱にだけは埃が被っていない。 「これは…」 恐れ無くミントが開いた箱の中に入っていたのは手の平大の大きさのオレンジ色の宝玉。 それはまさに一目見ただけで今自分達が探している紅蓮の宝玉だと分かった。 「紅蓮の宝珠。」 「嘘!?見つけたの?」 タバサとキュルケは慌ててミントの元に駆け寄るとその箱の中身を確認する様にのぞき込む。 そんな二人とは対照的にミントの視線は紅蓮の宝珠に釘付けになったまま思考はただ一つの疑問に埋め尽くされている。 (まさかとは思ってたけど…何でこれがこんな所にあるのよ…?) 「それにしても何でフーケはこんな所に折角盗んだお宝置いていったのかしら?」 キュルケは首を傾げる。 「確かに妙…」 同じくタバサもそれには疑問を抱いた。余りにこの状況は腑に落ちない。 「そのフーケってのがこいつを誰か横流ししてくれる奴に明け渡す為の指定の場所がここなんじゃ無いの?」 宝珠を箱に戻し小脇に抱えると、ミントは自分の考えを口に出す。 そのミントの言葉に納得すると同時にキュルケとタバサの表情に一気に緊張が走った。 仮にミントの仮説が正解ならばフーケは品物の取引の始終を見守る筈、だとするならば自分達の存在も行動も見られている可能性は十二分にある。 そして紅蓮の宝珠がこの無人の小屋で発見されている以上その推理は無いとは言いきれる者では無い。 『キャアァァァーー!!』 瞬間、三人の耳にルイズの悲鳴が聞こえてきた。 「伏せてっ!!」 ミントが叫び、三人が咄嗟に身を屈めると次の瞬間廃屋の屋根は昨夜見た巨大な土くれのゴーレムの腕によって木っ端みじんに吹き飛ばされた。 「逃げるわよ!!」 廃屋から飛び出す三人に待ち構えていた様にゴーレムの腕が振り下ろされる。 その一撃は紅蓮の宝珠を抱えたミントとキュルケ逹を分断させた。 「ゴーレムはあたしが引きつけるわ。あんた達はルイズ達と合流して逃げながらフーケを探しなさい!!」 言ってミントはデルフリンガーを抜くと素早くキュルケ達とは逆方向へと走った。 「へっ、出番みてぇだな相棒。」 「片手じゃあんたしか使えないのよ。」 左手に熱が走り、力が漲る…これならばゴーレムの攻撃から逃れる事は十分可能だ。 「無茶よっ!?」 キュルケがそう言って杖を振り上げたがタバサがそれを制してキュルケの腕を引き、指笛を空に向かって吹く。 「大丈夫…それより乗って。」 「しょうが無い、それにミントなら確かにいざとなったらあのまま紅蓮の宝珠持って逃げそうよね。」 そう言ってキュルケはタバサが指笛で呼んだシルフィードの背中に飛び乗ると注意深く森の中に居るであろうフーケを探す事にした。 先程悲鳴をあげたルイズはゴーレムに分断されて逃げたミントを目で追っていた。 ゴーレムは一瞬迷った様だがキュルケとタバサを放置し宝珠を持つミントを狙うつもりだ。 そのミントは片手で小箱を抱えて背中に背負っていたデルフリンガーを抜いて、ゴーレムの攻撃を巧みな身のこなしと剣術で何とかしのいでいる。 「ミント!!」 ゴーレムの叩き付けによって舞い上がる土埃にミントを見失いルイズは思わず悲痛な声を上げる。 「ルイズ、乗って!!」 そこに主とキュルケを乗せたシルフィードが飛来し、ルイズをキュルケのレビテーションを利用してその背に回収した。 「キュルケ、タバサ、ミントが危ないの…お願い、助けて!!」 「落ち着きなさいルイズ、ミントは私達に逃げながらフーケを探してといったわ。」 「ミントを見捨てるの?あんた人の使い魔だと思って!!最近少しは見直してきたと思ったのに!!」 「ちょっと、落ち着きなさいよルイズ!」 ルイズがキュルケに感情のまま掴み掛かる。そしてそれを制したのは意外にもタバサだった。 「…彼女はゴーレムを引きつけると言った。あなたは彼女を信じれない?」 抑制無く言ったタバサの視線は森を凄まじい集中力で捕らえ続けている。 「タバサの言うとおりよルイズ、私達の役目はミントが時間を稼いでる内にフーケを見つける事。」 「ミントが戦っているのに……私は…」 悔しさにギリと歯を食いしばりルイズは鋭い視線を眼下の森に落とす。こうなったら絶対にフーケは私が見つけてみせると決意して… ___森の中 フーケは正直焦っていた。 現在相手をしている生徒とその使い魔が予想を遙かに上回る厄介さなのだ。 慎重ながら大胆なタバサ、恐れを知らない勇猛果敢なキュルケ、爆発魔法に警戒が必要なルイズ、明らかにこういった状況に馴れた様子のミント… そもそも当初の予定では捜索隊をゴーレムで蹴散らし、あくまでもフーケの拿捕に失敗したという事にして自分への疑いを完全に反らせるつもりだった。 欲を言えば道中で誰ぞ古株の教師を引っ張り出して紅蓮の宝珠の使用方法等を聞き出したかったと言うのもある。 彼女達の対応の早さに取り敢えず先に紅蓮の宝珠を確保しようとゴーレムをミントに差し向けたがこれが中々にしぶとい、その間にシルフィードと三人が自分を探している。 時間を掛けては非常に不味い。 (ちっ…搦め手で行かないと駄目みたいだね!!) フーケは伊達眼鏡を外し、猛禽類の様に鋭い目でゴーレムを介しミントを睨んだ。 ___廃屋周辺 しばらく時間を稼いでいたミントは突然ゴーレムの動きが鋭くなった事に気が付いた。 そしてゴーレムは思いも寄らぬ行動でミントの足を止めに来た。 振り上げられたゴーレムの左腕がミントの頭上に掲げられる。 これまではそこから叩き付けや掴み掛かりへと移行していたのだが今回はそういった行動は取らずあくまでミントの頭上を維持しまるで日よけの様に振る舞おうとしている。 (何する気?) ミントがそう思った瞬間、ゴーレムの左腕が突然一気に崩壊し大量の土砂となってミントに降りかかる。 「やばいっ!!」 そう思った瞬間ミントの身体に激しい衝撃が襲いかかってきたのだった。 「ミントッ!!」 ルイズはその光景を丁度シルフィードの上から見て、衝動に駆られるままシルフィードの背中からミントを襲った土砂に向かって飛び降りた。 「ちょっとルイズ!!」 「………っ」 キュルケが手を伸ばすもその手は空を切る、だがタバサのレビテーションが何とか間に合いルイズは土砂の山の手前に無事降り立った。 「ミントっ!!返事して、ミント!!この、よくも!!」 ルイズは叫びながら土砂の山に駆け寄るとフライの呪文をゴーレムに向けて放った。 だが爆発はゴーレムの肩口に命中するもこんな時に限って威力が全然足りない。 ゴーレムはそんなルイズを確認すると残った右腕をルイズを捕まえる為に伸ばした… しかし、その腕がルイズを捕らえる直前、ミントを覆っていた土砂の山が轟音と共に大きな爆発で飛散し、同時に飛び出してきたミントに寄ってルイズはその射程外に担ぎ出されてしまった。 意表を突かれフーケが集中を乱したのかゴーレムの腕が盛大に空を切りそのまま体勢を崩して膝を折る… いつの間にか泥まみれのミントは魔法で土砂を吹き飛ばしたのか左手にデュアルハーロウを纏めて持ち、右手にデルフリンガーを持っている。 ルイズを放しミントは顔を伏せたままワナワナと肩を震わせる…ついでに言えばその背中からはドス黒いオーラが放出されているようにも見える。 「こいつぁすげぇ心の震えだぜ相棒!!そうだもっとだ、ガンダールブは心の震えで強くなる、お前の嬢ちゃんを助けたいって想いが強ければ… 「この泥人形!!よくもこのミント様を泥まみれにしてくれたわねっ!!!!完全に頭に来たわ!!先ずはあんたからボコボコの地獄巡りにしてあげるわ!!!」」 ミントの心の震えの大きさに歓喜の声を上げていたデルフリンガーの声を遮って、ミントが怒りの雄叫びを上げる。 そこにはルイズを助ける等という想いが微塵も無い程に自身を泥まみれにしたゴーレムとフーケへの純粋な怒りしか無い。 「ちょっとミント、あんた大丈夫なの??!!」 「大丈夫よ、ちょっとヘマしたけど…それよりルイズ、悪いけどあれ持って下がってて頂戴。」 ミントはデルフリンガーを地面に突き立ててデュアルハーロウを両手に持ち直すと土砂の跡を指さした。 「ちょっ…俺の出番終わり!?」 そこには土砂から紅蓮の宝珠の箱が僅かに顔を覗かせていた。 「嫌よ!私は貴族よ、貴族は敵を前にして背を向けたりしない、私も戦うわ。」 そう言って杖をゴーレムに向けて構えたルイズ。しかしその射線上にミントの背が割り込んだ 「駄目よ、こっからはあたしも本気出すから巻き込みかねないからね。ご主人様語るなら自分の使い魔の実力位、ふんぞり返って空から見てなさい。」 結局少々渋った物のルイズは素直に紅蓮の宝珠の箱を回収してタバサ達と合流した… ゴーレムが再び起き上がって来た事に咥え、ミントが自分から自分の使い魔と言っていた… 本来王女である筈のミントにそこまで言わせてしまった以上最早ルイズも自分の役割を果たすしか無い。 「さて、行くわよ土くれ。」 ミントはデュアルハーロウを構え呟くと、破壊の魔法『黒』の光の螺旋を廻し始めた……… 前ページ次ページデュープリズムゼロ
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前ページ次ページデュープリズムゼロ 第十六話『年増再び』 「くそぅ!!」 ワルドは一人酒場でワインを一気に煽り、沸き上がる怒りに毒づいて乱暴にテーブルにグラスを置く。 それというのも朝一番のミントとの立ち会いでワルドはルイズの目の前でミントに圧勝したのだ。だが、それが不味かった… (異国の王族か何かは知らぬがガンダールブめ……) 御陰でルイズの心象はかなり悪くなってしまった。 これではまるで自分を悪役に仕立てる為の茶番だ。ただワルドの内心が荒れているのは何もその事だけでは無い。 ワルドは気づいていた。ミントが実力を見せぬ様にわざと自分に敗れた事も、自分に対して僅かながらにも警戒心(というよりは不信感)を抱いていると言う事も。 だがなんと言う事は無い。魔法衛士隊隊長のエリートである自分が冷静になれば小娘一人御する事など造作も無い… ワルドは自分の本当の目的とそれに関する様々な計画、そしてこれからそれに対する障害となるであろう物事に対しての対処を思い描いて思考に耽った。 自分のテーブルの後ろに微かに見える密談を行っている二人組のメイジの姿を捉えながら… ___女神の杵邸 滞在二日目、ワルドの御陰で無事に船の手配も完了し、明日にはアルビオンに向けて出立するという事でミント達は全員揃って宿でゆっくりと身体を休めていた。 既にワルドは朝の決闘の件についてミントに改めて謝罪をし一行は共にテーブルを囲いアルビオン風のディナーを楽しんでいた。 だがここで一行に再び予定調和のトラブルが降りかかる。 突然宿の正面玄関が乱暴に開け放たれる。そこには弓矢や剣等で武装した大勢のゴロツキ傭兵が控えていたのだ。 ルイズ達に無意識に緊張が走る!突然の賊の乱入に同じく宿に泊まっていた一般の客達から悲鳴が響いた。 「居たぞ!!あいつ等だ!!」 一人のリーダー格らしき傭兵が声をあげる。傭兵達は周囲の客達に目を向ける事無くルイズ達を発見すると問答無用と言わんばかりに弓に番えた矢を放ち始めた。 「不味い!!全員伏せろ!!」 流石と言うべきか一番素早く反応したワルドが料理と酒の乗った地面と一体化した石のテーブルの足を練金で崩し、弓矢に対する即席の盾とする。 別のテーブルに着いていたタバサもワルドに倣い、本を片手に同じく盾を作り出す。その際ちゃっかり自分の好物であるハシバミ草のサラダだけはきちんと確保する。冷静な物である。 「どうするワルド?明らかにあいつ等あたし達狙ってるわよ。」 テーブルの盾から半身を覗かせ、傭兵達の姿を確認してミントがワルドに訪ねる。 「僕たちを狙った刺客という訳か…しかし位置取りが不味いな。 奴らはあそこから弓矢で慎重に攻めてくるつもりの様だ…魔法で応戦しようにもアルビオンに向かう前にこちらの精神力を無駄に消費するのは避けたいんだがね。」 「確かに私の火でもあの石の扉の影に隠れられたら効果は薄いかもね。」 ワルドとキュルケが冷静に状況を確認してそれぞれ同じような結論を出す。 二人の攻撃魔法の特性上狭い屋内では使える魔法もある程度制約が掛かる上どうしても射線が直線状になる以上は遮蔽物に効果を削がれてしまう。 「フフッならばここは僕にお任せを!!奴らを攪乱し隙を作ります、行けワルキューレ!!」 と、ワルドとキュルケの会話を聞いてここで勇ましく名乗りを上げたギーシュが薔薇の杖を高く翳し、舞い落ちた薔薇の花びらから取り敢えずワルキューレを二体練金する。 「な、な、何でも良いから早くしなさいよ!!」 ルイズからの罵声を受けながらワルキューレは手にした剣を振りかざし猛然と傭兵達の元に突撃していく。 途中何本もの弓矢を身体に打ち込まれるがゴーレムの最大の強みはそのタフさにある。傭兵の迎撃に構わず進撃したワルキューレはあっという間に入り口まで到達した。 ワルキューレに恐れをなしてか傭兵達は慌てて密集していた入り口から逃げ出していく。 「ハハハ見たか!!これが僕のワルキューレの力だ!!」 「やるじゃないギーシュ!!」 お気楽に高笑いを浮かべはしゃぐギーシュ、ルイズ、キュルケ。 しかし残りの面子はその様子が明らかにおかしいという気が付いていた。それは命が掛かった実戦の中で培われた経験からの物である。 ズ ド ン !!! 警戒状態が続く中傭兵達を追い立てる様にワルキューレが宿の外にまで歩を進ませると突如轟音を響かせ、上空から落ちてきた巨大な岩の塊がワルキューレを容易く粉砕した。 「うわぁ~~ワルキューレ~~~~~!!!!!」 響くギーシュの悲鳴。そしてワルキューレを粉砕した岩の塊は再び浮き上がる様に全員の視界から消えた。 __外 「ふん、他愛無いね。」 自分の巨大ゴーレムの一撃で粉々に砕け散ったワルキューレの残骸をみやり、フーケはゴーレムの肩の上でニヤリと笑う。 「油断はするな…それとくれぐれもヴァリエールの娘を殺すなよ。」 そのフーケの隣に立つのは全身を黒のローブで包み、顔を真っ白な仮面で隠した男のメイジ。 それは昼間ワルドが食事をとっていた酒場にて密談を行っていた二人組のメイジだった。 ミント達の手で捉えられたフーケは監獄に収監され、そこでこの仮面のメイジの所属する組織への協力をするという条件で助け出されていた。 フーケはその条件を飲んで今ここに居る。まぁその協力要請は拒めば殺すという脅迫じみた物であったからでもあるが… と、ここでフーケが再び宿の入り口に視線を向けると、再び散開した傭兵達が弓を構えて集まり出す。 __室内 「ま、ギーシュじゃこんなもんよね…」 ワルキューレがやられた事で再び傭兵達が室内に弓矢を打ち込み始めた。 キュルケ、タバサ、ワルドもそれぞれ魔法で応戦するも傭兵達は対メイジ戦闘になれているのか魔法が来るそぶりがあれば直ぐに後退してしまう。 「これではじり貧だな。」 「そうね…ま、ここはこのミント様の出番かしらね。」 ワルドが歯がゆそうにぼやくのを聞いてここまで見につとめていたミントがおもむろに立ち上がる。 「なんだ相棒?手があるのかよ?」 「まぁね~、ああいう奴らをぶっ飛ばすのには言い魔法がね…」 悪戯な微笑みを浮かべてそう言ったミントに対して全員の主に期待の視線が集まる。その中で鼻歌交じりにミントが狙いを付けてデュアルハーロウに纏われた黒い魔力を引き絞った。 「何それ?」 ルイズの間の抜けた様な問い…他にはそれを口に出した人物は居なかったが全員が同じ疑問をその珍妙な魔法に抱いていた。 デュアルハーロウから撃ち出されたのはリンゴよりも二回り程の大きさの大きな黒い玉。 練金で作り出した物質という訳でも無く完全に実体化したその不思議な質感を持つ黒い玉は連続して五つ程、ミントの黒い魔力の螺旋から生み出され地面をボールの様にゆっくりと撥ねながら傭兵の集団に接近していく。 例えばミントの世界の人間があの傭兵の集団の中に一人でも居たならばその人物は撥ねながら接近するその黒い玉から周囲に退避を促して一目散に逃げ出していただろう。 だがここには誰一人接近してくるその黒い玉の正体を知るものは居ない。 そんなゆっくりと撥ねるだけの玉に一体誰が警戒をするだろうか?ハルケギニアにはそもそも存在しえぬその魔法、傭兵達は誰もその黒い玉から逃げようとはしなかった。 黒色の魔法、タイプノーマル『ボム』 そして遂に一人の傭兵の身体にボムが接触する… 爆発。爆発。爆発。そして爆発。 轟音がちゃっかり自分だけ耳を塞いでいたミント以外の鼓膜を激しく揺する。 圧倒的破壊力の爆発は大量の土煙を巻き上げて大勢の傭兵もろともに宿の出入り口を吹き飛ばして巨大な風穴を岩壁に作り上げた。 「何だいっ!!?今の爆発は!?ヴァリエールのお嬢ちゃんか!?」 その突然の爆発の様子をゴーレムの肩の上から見ていたフーケは直ぐに警戒状態に移った。膠着状態だった状況はその爆発で一転する。 「いや、あれはその使い魔の仕業だ。どうやら魔法で生み出した爆弾の様な物を使った様だな…」 「ちっ、ミントか…」 仮面のメイジの伝えた情報にフーケは舌打ち混じりに歯がみする。 「……マチルダ、ここはお前に任せる、時間を稼いでここで奴らの注意を引いてくれればそれで良い。」 「あいよ…」 フーケが渋々といった様子で返事をすると仮面のメイジはまるで最初からそこに居なかったかの様に風と共に消えていた。 ボムの爆発から一拍。一陣の風が吹き抜け、互いの視界を遮っていた土煙が徐々に晴れていく。 快晴の夜空は重なった二つの神々しく輝く月明かりを遮る事は無い。フーケの視線の先には同じく自分を敵意を孕んだ瞳で不敵に睨み付けてくるミント達の姿がはっきりとあった。 「久しぶりだねぇ、会いたかったよミント!!」 「げっ…フーケ!!あんた監獄に入ってたんじゃ無かったの?」 「え?確か君達が捉えたはずだよね?」 「脱獄…」 ギーシュがここにフーケが居るという事実に首を捻るとタバサがそれ以外に無いという答えを簡潔に答えた。 「あぁ、そうさ!だけど親切な人達がね、私みたいな美人はもっと世の中の為に働くべきだって助け出してくれたのさ。」 訪れたリベンジのチャンスに冗談を交えながらケラケラと笑い、フーケは自信満々にミント達を見下ろす。 しかしミントは魔法でも武器でも無くもっと恐ろしい物でフーケに対して先制の一撃を加える。 「自分で美人なんて言ってんじゃ無いわよ!良いわ、手下共々ボコボコにして地獄巡りをさせてやるわ、このミント様にお礼参りなんて百万年早いのよこの『 年 増 !!!!! 』」 年増!! 年増!! 年増!!!!! ミントが放ったその魔法の言葉が山彦となりリフレインする度フーケの胸にはまるで槍が突き立てられた様な衝撃が容赦無く襲いかかる。 「とっ…年…」 「ば、馬鹿ヤロー!!フーケの姉さんに何て事言いやがるんだ!!そりゃあ姉さんは四捨五入したら三十…」 ゴシャリッ!!! 叫んだ傭兵の一人がゴーレムの無慈悲な拳に叩きつぶされる。 (あぁ、あれは死んだわね…) その始終を眺めていたルイズ達はその傭兵は何故か生きているという確信を抱きつつぼんやりとそんな事を思う…フォローするにも言いようがあるだろう。完全なとは言えないがあの傭兵は十分なとばっちりだ…同情する。 「小娘が好き放題に言ってくれるじゃないか。 ミント……。地獄を見せてやるよ!」 憤怒の表情で握りしめた拳を振るわせフーケは傭兵達を巻き込む事も構わずゴーレムを前進させる。 「来たな。だがあれをまともに相手はしていられない。諸君、この様な任務では最終的に半数が目的地に辿り着けば成功とされる。故にここは二手に分かれよう。」 状況が動いた…傭兵の約半数が戦闘不能になったとはいえ、ゴーレムが本格的に攻撃に参加してきた事でワルドが全員にそう提案する。 すると遮蔽物が無くなった事で本格的に魔法で傭兵達を攻撃していたタバサが無言で自分、キュルケ、ギーシュを指さした。 「囮。」 指さされた二名は了解の意を込めて頷く。続いてタバサはワルド、ルイズ、ミントを指さす。 「裏口へ。」 「分かった、済まないが奴らの足止めを頼む。」 「任せたわ。」 「ちょっと!そんなの駄目よ!!危険だわ!」 ワルドとミントがタバサの提案を了承し、早速裏口に向かおうとするがそこでルイズが異を唱える。 「ハァ、あんたねぇ…」 ルイズの甘さに溜息をつくミント…だがここでルイズを説得したのはキュルケだった。 「冷静になりなさいよルイズ。 そもそも私とタバサはあんた達が何をしにアルビオンに行くのかも知らないんだからこれで良いのよ。 ほら、グズグズしてたら船があいつ等に押さえられちゃうわよ。」 「でも…」 それでも食い下がろうとするルイズにキュルケは一発デコピンを食らわせる。 「でもも何も無いの!!あんたには大切な役目があるんでしょう?それに前は私達フーケ相手に良いとこ無しだったからね。今回は私達にも活躍させなさいよ。じゃないと格好付かないわ。ね、タバサ?」 キュルケの言葉に無言で頷いたタバサの瞳は『任せろ』と雄弁にルイズに語っている。 「行きたまえ、ルイズ。ここは僕たちに任せるんだ。」 「あんた達……頼むわねっ!!」 友の言葉を受けてルイズは走りだした。これ以上彼女達の前でごねるのは侮辱に当たる。そしてルイズを追いワルドとミントも振り返る事無く裏口から宿の外へと飛び出していく。 「逃がすか!!」 ルイズ達を追おうとフーケはゴーレムを操作しようとしたがそれは自分目掛けて飛んで来た炎の塊によって阻害された。 辛うじてゴーレムの肩の一部を練金した盾が炎を防ぐ。 「ちっ、小娘共がよくも邪魔を…」 「よし、行ったわね…さて、ここからはこの微熱のステージよ。」 キュルケは懐から取り出したルージュを唇に走らせて色っぽく笑う。既に傭兵は粗方片づいた。後はこちらを見下ろす巨大なゴーレムである。 ミントの爆発とゴーレムの進行のせいで既にレストランは壁が崩れ、屋根も無い。最早外と区別が付かなくなっている。 「フフフ、燃えてくるね。だが、あの巨大なゴーレムをどうやって仕留めるかが問題だね。手はあるのかい?」 「まともには無理……だから」 言いながらタバサは魔法で作り出した高圧縮された水の塊を幾つも作りだしゴーレムの足へとぶつける。 と、タバサは続けざまそのまま水の塊を一気に氷へと変えてゴーレムの足首と膝をピンポイントで完全に固定した。 急に関節を固定されたゴーレムにガクンと衝撃が走る… 「嫌がらせをする。徹底的に…」 そのタバサらしからぬ言葉にギーシュは一瞬唖然としてしまうがキュルケにはその意とする所は直ぐに伝わった。 「プッ、アハハ、良いわねそれ最高よタバサ!ギーシュ、ゴーレム使いの土メイジとして相手にに一番やられたくない事教えなさいよ。」 ゴーレムの振り回した拳を軽やかにフライで回避して愉快そうにキュルケは笑う。どうやら自分の親友はここに来て新しい一面を見せてくれたようだ。 それがたまらなく嬉しくて胸の内が熱くなる。 「あぁいいとも。だが、実技の授業で僕に実践しないでくれよ!!」 タバサのあのまるで小悪魔の様な言い様、性格こそ全く違えどあれではまるであの傍若無人で破天荒なミントの様では無いか…平然とそんな事を言うのだから恐ろしい話だ。 だが、今はそれがまた一層頼もしく思えてギーシュは人生初の命がけの戦いの最中でありながら思わず苦笑いをこぼしていた。 『行くぞ(わよ)、年増!!』 「年増って言うな~っっ~~~~~~!!!!!!!!」 前ページ次ページデュープリズムゼロ
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前ページ次ページデュープリズムゼロ 第四話『爆発!黒色の魔法?』 ルイズとミントが揃って教室へと足を踏み入れるとほぼ同時に教室の一部からざわめきと明らかな嘲笑や侮蔑と言った感じの悪い笑い声が二人の耳に聞こえてきた。 (何かやな感じね・・・) その不愉快な笑い声が自分達に向けられた物だとミントは直ぐに気が付くとつまらなさ気に肩を窄めてルイズの様子を伺った・・・ 自分にはこの状況の意味が分からない以上ルイズに何かしらの要因があるのだろうと・・・ しかしミントの目に映ったルイズはその嘲笑を気にした風も無く堂々と自分の席へと歩いて行く。 いや…気にしていないのでは無く必死に堪えているのだ 「ミント、あんたは私の隣におとなしく座ってなさい。」 「へぇ、今回はあたしの席あるんだ?」 ミントはルイズに進められた通り椅子に座る。 するとルイズと自分の周り数席だけ他の生徒が寄りつかず離れて座っている事に気が付いた。 その事を再びミントが疑問に思っていると教室の入り口から中年の女性教師が教室へと入ってくる。 「皆さんおはようございます。春の使い魔召喚は、大成功のようですわね。この赤土のシュヴルーズ、 こうやって春の新学期に、召喚された様々な使い魔たちを見るのがとても楽しみなのですよ。」 と満足そうに生徒と使い魔を眺めるシュヴルーズ 「あらあら、中々変わった使い魔を召喚したようですね、ミス・ヴァリエール。」 と、ルイズとその隣に座っているミントへと注目する。 途端、教室のそこかしこから再びクスクスという笑い声が響く 「おいゼロのルイズ、召喚にまで失敗したからってその辺を歩いていた平民を連れてくるなよ。」 小太りの少年マルコリヌの発言に再び教室に笑い声が響く。 「違うわ!召喚は成功したわよ、こいつが現れただけよ!!」 マルコリヌを睨み付けルイズが抗議する その二人のやり取りと周囲の様子にミントはさっきまでの状況を理解し、確信した。 (あぁ成る程、ルイズ苛められてるんだ・・・まぁこの性格じゃしょうがないか?) 「ミスタ・マルコリヌお友達をゼロ等と言って馬鹿にする者ではありません。 それに彼女が正式な使い魔である事はミスタ・コルベールが確認しています。 さぁさぁ、それでは授業を始めますよ。」 それからの授業は問題なく進められた。 『火』『水』『土』『風』の魔法の四大系統。失われた系統である『虚無』。 それら魔法と生活との密接な繋がり、そして始祖ブリミルの存在。 およそハルケギニアの系統魔法の基礎と呼べるカリキュラムにミントもとりあえずは耳を傾ける。 およそ勉学と呼べる物には拒否反応が出るが既存の物とは全く異なる新しい魔法が手に入るならそれに越した事は無い、特に興味を持ったのがブリミルの存在そのものだ。 (6000年前か…このブリミルって奴案外エイオンなんじゃ無いかしら?) そんな予想にミントは大嫌いな勉強に何とか食らいついていく。そうして授業の内容は錬金の魔法の実演へと進んでいた。 「では誰かにやってもらいましょうか・・・・・・そうですねミス・ヴァリエール、お願いできますか?」 シュヴルーズの発言に一瞬で教室中が騒然となる、そして指名された本人であるルイズにも明らかに緊張の色が見て取れた 「待って下さいミセス・シュヴルーズ!ルイズにやらせるのは危険です!!!」 声を上げたのはキュルケだった。そうして他の何人かの生徒達からもそれに追従する声が上がる。 「ミス・ツェルプストー、何事もやってみないとわかりませんよ。それに私は彼女が非常に優秀な座学の成績を収めている事は知っています。」 そんな中、問答を無視してルイズは勢いよく立ち上がる。 「ミセス・シュヴルーズ、私やります。やらせてくださいっ!!」 その言葉にシュヴルーズはうんうんと頷き、感心してキュルケ含む大半の生徒は頭を抱えた。 「ではミス・ヴァリエールは前へ。」 ルイズが教壇の前にたどり着くと生徒達はそれぞれ当然の様に姿勢を低くして机を盾にして警戒態勢へと移る。 中にはそそくさと教室の中から出ていく生徒まで居た (周りの奴らの反応からして何か嫌な予感しかしないけどとりあえずは様子見ね。) ミントも周りに合わせて同じように姿勢を低くし顔の上半分だけをのぞかせて教壇の前で杖を振りかぶるルイズを静かに観察する。 『練金っ!!』 瞬間、閃光と共に巻き起こる轟音と爆発!! (これ・・・黒色の魔法!?) 想像を絶する爆発の衝撃に教室中は一瞬で阿鼻叫喚の絵図へと変わっていた そんな中爆心地の埃と煤にまみれたルイズが一言呟く。 「ちょっと失敗したみたいね・・・」 「何がちょっとだゼロのルイズ!!」 「だから止めたのよ!!ゼロのルイズに魔法を使わせるなって!!」 「成功率ゼロ!!失敗魔法もいい加減にしろよ!!」 わき上がる同級生達からの批難の声にルイズは平静を装いながらもただ強く悔しさに拳を握り唇を噛む。それは誰にも気付かれない様に・・・ (成る程、ゼロってそういう意味か・・・ったく難儀な子ね~。) 教室の惨状に呆れ返り、自分の髪の毛についた埃を祓いながらミントは今朝キュルケから聞いたルイズの二つ名の意味をようやく理解した。 結局ルイズの失敗魔法によってシュヴルーズが気を失い、授業の再開は不可能となり それによってルイズには罰として魔法を使わずに滅茶苦茶になった教室の片付けが命じられた。 尤もまともに魔法が使えないルイズには魔法を使わずという条件など有ってない様な物であったが… 「………」 ルイズは俯き無言のまま床に散らばる細かい瓦礫や木くずをひたすら箒で集めている。 そしてミントも又無言で手伝いとして吹き飛んだ机や椅子を元の位置に戻した後はルイズに習い箒を手にしてそれを手の平の上に立てて器用にバランスを取るという遊びに 興じていた。 「…何で何も言わないのよ?」 長い沈黙を先に破ったのは俯いたまま表情を隠したルイズだ。 「それってあの爆発の話?」 よっと。と言うかけ声と共にミントは箒を自分の頭の上に移動させ起用にバランスを取り続ける 「そうよ。私が魔法を使えば結果は必ず爆発。…私は貴族の癖に今まで一度もまともに魔法を使えた事が無いの。」 箒を強く握りしめながらルイズは唇を噛み本当に悔しそうに言葉を紡ぐ。 「ふ~ん…だから周りの奴らもあんたの事馬鹿にしたりからかったりしてくるのね。」 「そうよ、その通りよ。あんたに散々偉そうに振る舞ったってこのざまよっ!!魔法が使えない貴族! あんただって口に出さないだけで心の中じゃ私の事笑ってるんでしょ!?」 ルイズの中の魔法が使えないというコンプレックス、薄暗い心の闇がついさらけ出されてしまう…同時に潤んだ瞳から零れる滴が一つ 「なんで私の使い魔は風龍じゃないの?なんでサラマンダーじゃないの?何でよりによってあんたみたいな平民なのよっ!!」 ついつい思ってもいない…否確かに心の奥にある醜い想いがぶちまけられる… この生意気な平民の使い魔はきっとこれ見よがしに魔法が使えない事をネタに私を馬鹿にするだろう、混乱気味の思考でそうルイズは考えていた。 しかしミントが発した言葉はルイズの予想とは全く異なる物だった… 「使えてるじゃ無い…魔法。」 「…え?」 ミントの発言の意味が分からずルイズは一瞬思考が停止する。 「あれだけの爆発よ?あの生意気な事言ってたデブだってあんたが目の敵にしてるキュルケだって、 というかあんたの魔法を失敗だなんて言ってくる気に入らない奴なんてその爆発魔法でぶっ飛ばしてやれば良いじゃ無い?あたしならそうするけど。」 ミントはさも当然の様にそんな物騒な事を言う。 あまりの発言のぶっ飛び具合にルイズはまたしても惚けたままだ。 「そ・も・そ・も・あたしがこんな所に居るのはあんたの魔法のせいでしょうが!!言っとくけど あたしが元居た場所に帰るのにかかる船や道中の費用、全部あんたに請求回すからね!!」 地団駄を踏んでミントはルイズをビシリと指さした。本来なら不敬である。 「………」 言葉を無くしたままルイズはミントの言葉を自分の中で反芻する。 「爆発魔法でぶっ飛ばせ」ミントは確かにそう言った。 いかんせん発想は物騒極まりないがあれを失敗では無く『爆発魔法』の成功として捉えればそれは正直認めたくは無いが確かに魔法だ。 何せ練金しただけでこの有様だ…仮に完璧にコントロール出来たとすればこと戦闘用の魔法としては最大級の驚異だ。 「馬鹿にされたままじゃ悔しいんでしょ?あんたの力認めさせたいんでしょ?だったら自信持ちなさい。 あたしもあんたのとばっちりで後ろ指指されるのはごめんよ。」 既に教室の片付けもルイズの足下の集まった細かい物をゴミ箱に押し込めば完了だ、思考に耽るルイズにミントが背を向けながら語りかけるとミントは「柄にも無い…」と一人ごちてそのまま教室の出入り口をくぐった。 そしてルイズが再び顔を起こした時その表情は先程とは打って変わって何か吹っ切れた様にすっきりとした表情へと変わっていた。 (認めさせてやるわよ!私の魔法を…) __アルヴィーズの食堂 罰の教室掃除を終えたミントは朝と同じように再び厨房を訪ねてシエスタとマルトーの世話になっていた。 本来まともな人間ならば世話になった礼の一つとしてでもシエスタのこの後の仕事 つまりは生徒達への食後のおやつであるケーキの配膳でも手伝おうと申し出るところでは有るが… しかしミントは勿論そんな事はしない。むしろその時間が生徒と使い魔の交流も兼ねているとどこかから耳にするとじゃあ自分にもしっかりケーキを食べる権利がある筈だ! とドタドタとルイズを探しに食堂へと走っていってしまった。都合が良い時だけはきっちり使い魔に早変わりである。 「おーいルイズ~。」 「げっ、ミント…」 「あれ?ケーキは?」 「まだよ…ていうかあんた…いや何でも無いわ。」 ルイズは察した…ミントは例え他人から奪ってでもケーキを食べる気だと。 そんなこんなでミントが再びルイズと合流したのだがそれとほぼ同時に食堂の一角でワインボトルが人の頭でかち割られる様な音と共に何かしらの騒動が起きていた。 「何かしら?ちょっと見てこよっと。」 「ちょっと、待ちなさいよミント。」 ルンルンと軽い足取りで野次馬根性丸出しのミントを追いかけ、ルイズも騒ぎの中心を囲う人だかりに足を運ぶ。 「全く、君たち平民は配慮という言葉を知らないのか?」 「申し訳ございませんっ!!」 その中央では何やらフリルの付いたシャツを着たワインでその金髪を濡らした少年ギーシュが薔薇の造花を振りかざし地面に這いつくばり必死に謝罪を行うシエスタをネチネチと責め立てて居る真っ最中であった。 「君のせいで二人の少女の名誉は傷ついた…さてどのような罰を君に与えるべきか?」 ルイズは何事かと直ぐ側に居たクラスメイトに問いかける 曰く、 デザートを配膳していたシエスタは金髪の少年・ギーシュが香水のビンを落としたことに気がついた。 元々奉仕精神の強い彼女である。当然それを見過ごすことは出来ず、良かれと思いビンを拾い上げるとギーシュに差し出した。 しかしギーシュはそのビンを受け取ろうとはしなかった。それを受け取れば周囲に自分とモンモランシーとの関係がばれてしまう。 そしてそれはギーシュ個人の都合でよろしくない。その真意を彼女に汲み取れというのは酷な話だ。 結局その香水がきっかけで彼の二股が明るみになり、彼は二股をかけていた少女二人から見事な制裁を受けた。 ギーシュはその責任をこともあろうかシエスタに押し付け、今に至る。 「何それ?完全にギーシュの自業自得じゃ無い…」 呆れて呟くルイズ。このままではシエスタが余りに可哀想なので助けに行くかと思い立ったルイズであったがその前にいつの間にかミントが自分の視界から消えた事に気が付いていた。 「…まったくこれだから平民は…」 「ん?・・・うわぁギーシュッ!!」 未だ続くギーシュの言葉責め、そんな中一番最初にそれに気が付いたのはギーシュの側に居た彼の友人マルコリヌだった。 「ん?…どうしっぼぁっ!!」 マルコリヌの声に反応して振り向いたギーシュ、その視界には何故か猛烈な勢いで飛来してくる靴の底。 顔面を襲う強烈な衝撃にギーシュの身体は吹き飛ばされ二度の地面との衝突の後、派手にガーデンテーブルを巻き添えにして無残に崩れ落ちる。 突然の事態に周囲の野次馬がざわめく。 そしてギーシュを蹴り飛ばした反動で中空で体勢を整えて華麗な着地を決めて見せた新たな騒ぎの中心は沢山の生徒が見守る中、 威風堂々憮然とした態度で尊大に言い放った。 「黙って聞いてれば全部あんたの自業自得じゃ無い!!あんたのつまらん言い掛かりのせいであたしのケーキがいつまでたっても届かないんでしょーがっ!!!!」 ケーキを配っていたシエスタがギーシュのせいで足止めされている以上ミントにとって最早ギーシュはぶちのめすべき障害でしかなかった。 「あぁ…頭痛が…」 その光景にルイズは襲い来る目眩に力なく天を仰ぐ。 (パンツ白だった…) マルコリヌだけは今回どうやら幸運だった様である。 前ページ次ページデュープリズムゼロ
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前ページ次ページデュープリズムゼロ 第二十七話 『特製ワインは恋の味』 トリステインに置ける戦勝ムードに落ち着きが見え初めてきた頃、ルイズとミントもまた魔法学園にて、いつもと変わらぬ平穏を取り戻していた。 しかし、それは『取り敢えず』であって何もかもが以前のままとは行く訳が無い。 ルイズは『虚無』の力に覚醒した。それは夢の中で出会ったミントの世界の魔法使いファンシーメルがルイズへと向けたかつての予言道理に… とにもかくにもタルブ戦役の祝勝パレードとアンリエッタの女王就任式の後、当然の如くミントとルイズはアンリエッタから城へと招かれ、直々に感謝の言葉を向けられた。そしてその場で幾つかの案件が決定される事になる。 艦隊を消し飛ばしたルイズの虚無、それと単身一騎当千の力を振るったミント、特にマザリーニの士気を呷る為の出任せのせいで一気にその存在を神格化されたヘクサゴンの存在の隠匿。 これらは公に明かせばその奇跡を後押しとしたアンリエッタが女王の座についたばかりのトリステインを恐らく大きく揺るがす事になる。 又、それはトリステインに身を置く限り、二人のこれからに対してしがらみとなるであろう事は容易に想定できた。ともすればロマリア法王庁に保護という名目の元、その身柄を拘束されるかも知れない。 今回の戦乱一番の功労者二人に対し、アンリエッタとしても心苦しいが此度の決断はそれ故の判断であった。 そしてもう一つ、ルイズはその場で己の目覚めた虚無の力を王女アンリエッタに捧げる事を誓い、『王女陛下付き女官』という肩書きを負う事となった。以降ルイズはアンリエッタから勅命の任務を受ける事となる。 ミントもアンリエッタに友情を覚えないでも無いが、結局は打算を持って全てを決めるミントにはそのルイズの決心に対して理解は出来なかった。だが、ルイズの決めた事をとやかく言う事理由も特に無いので何も言わなかった。 ただ「面倒な任務に巻き込まれるのはごめんよ。」という一言以外は… ___ 魔法学園 「久しぶりね…あなたとこうしてゆっくりするなんて…」 金髪ロールの少女モンモランシーは憂いを秘めた儚げな表情を浮かべ、そんな台詞を穏やかな口調で学園の中庭にあるガーデンテーブルの向かいに座る少年、ギーシュへと向けた。 「あぁ、そうだねモンモランシー。君とこんな素敵な時間を過ごせて僕は幸せさ、今宵はあんなにも月が綺麗だ…無論、君の美しさには遠く及ばないがね。」 淀みなく繰り出されるギーシュの歯の浮くような台詞にモンモランシーは思わず頬を朱に染めそうになるが浮つきそうな心を何とか静め、ここは努めて平静を保つ。 「あら、ありがとう。でもその台詞、私以外にも言ってるんじゃ無いの?ここ最近の貴方ったら私よりもあのルイズの使い魔と一緒にいる時間の方が長い位だわ。アルビオンから帰ってからはキュルケともタバサとも仲良くしちゃって…」 「そ、そ…そんなことは無いよモンモランシー。僕の心には君以外は住んではいないさ。」 少しだけ、だが確実にギーシュに動揺が現れた事にモンモランシーは眉をひそめる。本来ならここで平手打ちでも入れて尋問してやりたい所だが今は我慢する。 そう、計画の為に… 「まぁ良いわ。それよりもワイン飲みましょう。これ貴方が私にくれたタルブのお土産のワインよ。(そういえばあのタルブの田舎メイドにもこの前声をかけてたわねこいつ…)」 まこと恐ろしいのは女の嫉妬…それを知らぬは男ばかりである… 「あぁ、そうだね。」 言ってモンモランシーは持参したワインの栓を抜いて用意しておいたグラスに慣れた手つきでワインを注ぎ入れた… そしてその最中、ギーシュのグラスには袖元に潜ませている小瓶の中身をほんの数滴混入させる事に成功する。無論ギーシュは気が付いていない。 「それじゃあ、乾杯といこうか。」 「えぇ、乾杯。」 二人はロマンチックにも月を赤い水面に映すグラスを軽く触れさせ、心地よい鈴の音の様な韻を奏でるとそれぞれの口へとグラスを運ぶ… そしてそのままギーシュがグラスを空にしたのを見てモンモランシーは己の計画がこれまで全て順調に上手くいっている事に内心でほくそ笑んだ… 後は薬の効果が現れ、ギーシュが自分を見つめれば全ては終わる。 と、そこへモンモランシーの予想だにしない…否、恐れていた事態が起きた。 「おーい、ギーシュ~。」 お客さんだ。 このモンモランシーにとって最悪とも呼べるタイミングでギーシュの名を呼んだのは誰あろうとミントであった… 自分を呼ぶ声に気が付いたギーシュの視線の先、つまりはモンモランシーの背後から何食わぬ顔で軽く手を振りながらミントは二人の元へと歩いてくる。 「ギーシュ、あんたの注文通りヘクサゴン、ナイトフライト用に準備しといたわ。コルベール先生の研究所の広場に出してるから好きに使いなさい。全く、このあたしを小間使い扱いするなんてあんた良い度胸してるわ。」 「あぁ、すまないとは思ってるこの埋め合わせは必ずするよ。でも、ありがとう感謝するよミント君。」 「ま、あんたにはそこそこには世話になってるからね…それにしてもモンモランシーと夜空のデートがしたいだなんてあんたも良い所あるじゃ無い。」 ミントは軽い不満を溢す様に言いながらも仲睦まじげな二人を見て満足そうに笑う。 「へ?それじゃあ最近ミントとギーシュが一緒にいる事が多かったのって…」 話が見えないのはモンモランシーだ。 実はここ数日ギーシュは何度も何度も、ミントへとヘクサゴンを一晩だけ貸して貰えないかとそれはもう何度も何度も…頭を下げて頼み込んでいたのである。 ミントがアンリエッタの要請を受けてヘクサゴンを封印する前にと。全ては最近構ってあげられなかったモンモランシーの為に… 「そういう事よ、モンモランシー。それじゃあ精々楽しみなさい。おやすみ~。」 それだけを言い残してミントは二人のテーブルの上のベリーパイを掠め取るとその場を去ろうとする。その姿をモンモランシーは半ば呆然と見つめ、ギーシュも感謝と共にその背中を見送る。 だが、これが不味かった… 「待ちたまえっ…ミント君!!」 突如、ギーシュが大きな声でミントを呼び止める。それはいつかの決闘騒動の時の様に堂々とした呼び止めッぷりであった。 モンモランシーはそのギーシュの突然の行動にハッとなる…全身から血の気が引くような感覚を覚えるもそれはもう遅い!! 無論、呼び止められたミントは多少訝しみながらも何の気なしに振り返る… 「何よ?」 「ギーシュッ、駄目ぇっ!!!」 「好きだっ!!愛してる!!君の事が何よりも!誰よりも!!僕と、このギーシュ・ド・グラモンと結婚して下さい、ミント王女殿下!!」 「は?」 モンモランシーの制止の声も虚しく、ギーシュの熱烈な愛の告白にミントの世界が停止する… もしかしたら今ミントはベルが『年増』呼ばわりされた時と同じ様な表情だったのかも知れない。 「アハハ……………終わったわ…何もかも…」 モンモランシーはその広めの愛らしい額を手で押さえて力無く笑うと唯一言呟いた…もはやそれが限界だった… ____ 魔法学園 モンモランシーの部屋 「で…きっちり説明しなさい…」 ミントは底冷えするような冷たい口調でモンモランシーに問う… 「ギーシュが最近また浮気しているんじゃ無いかと思って惚れ薬を作って飲ませたのよ。そうしたら悪いタイミングで貴方が来て…ギーシュが貴女に惚れちゃったのよ…」 消え入りそうなボソボソ声でそう端的に返答したモンモランシー、彼女は今石畳の上で正座状態である。 「…………呆れてものも言えないわ…で、どうするのよ『コレ』。」 ミントの視線の先にはこれでもかと言う程にミントにボコボコにされ、十二分に地獄巡りを楽しんだ挙げ句に猿ぐつわを口にはめられ簀巻き状態にされて冷たい床に転がされている気を失ったギーシュが居た。 ギーシュはあの後、事もあろうに固まったままのミントに飛びかかり、その唇に自分の唇を寄せた…無論、一瞬の内に叩き伏せられたギーシュは地面と口づけする事となったが… 無論、愛するミント様からの愛の鞭というご褒美に気を失っているギーシュは今恍惚の表情である事は語るまでも無い。 モンモランシーはギーシュの可哀想な姿に思わず唾を飲む…もしここで返答を間違えれば次は本格的に自分なのかも知れないと…(既に一度逃走を図って修正済み。) 「げ、解毒剤は作れるわ…材料が揃えば多分一晩で出来ると思う…」 「そう、なら急ぎなさい…ギーシュに又言い寄られるだなんて考えるだけで寒気がするわ。」 ミントが震える身体を抱くようにそうキッパリとモンモランシーに言い放つとモンモランシーは今度は非常に何か言葉を言い淀んだ様子を見せた後、意を決した様子で衝撃の事実をミントへ告げる… 「無いのよ…材料が…」 「しょうが無いわねぇ、なら明日、朝一で城下町まで買いに行きなさい。それ位は待ってあげる。」 「それがもう売ってないのよ…『精霊の涙』は品切れでしかも今後の入荷も未定なのよ。」 「……嘘…でしょう?」 ミントは目の前が途端に真っ暗になるのを感じた…気が付けば目の前の全ての元凶モンモランシーもへたり込んだまま溢れ出る涙を袖で拭い続けている… そのまましばらく二人の間に呆然とした時間が流れたがここでようやくミントは一つの苦渋の決断を決める… 「はぁ…分かったわ…こうなったらあたしが精霊の涙を手に入れる…」 「はぁ!?何言ってるの、無理よ!水の精霊に会うには由緒ある交渉役の水のメイジの力が要るし。第一、運良く出会えたとして精霊の涙下さいと言って貰えるような物じゃあ無いのよ…万一水の精霊の怒りに触れでもしたらそれこそ…」 モンモランシーは勢いよくそう言うとミントに呆れた様に伏し目で首を横に振るう… 「下さいだなんて言わないわ。精霊の涙ってのは水の精霊の涙なんでしょう?だったら話は早いわ、このミント様の魔法で水の精霊をボッコボコにして泣かせてゲットすれば良いのよ。」 不敵にミントはハルケギニアの常識で考えればとんでもない事を言う。 モンモランシーは当然そんなミントに抗議の声を上げる。 「バカを言わないでよ!!あんた精霊に喧嘩を挑む気!?正気じゃないわ!!」 モンモランシーの主張は常識で考えれば当然だ、だがミントで無くとも今回の騒動の根本であるモンモランシーにそんな事を言う資格があるとは思わないだろう。 当然ミントはキレる… 「っ…勝手な事言うなーーー!!!!こっちはあんたのせいでどれだけ迷惑してると思ってんのよ!!」 「ひっ!?」 怒りの叫びと共に、モンモランシーの部屋の石畳を踏み抜かんばかりの勢いで地団駄を踏んだミントにモンモランシーは小さく悲鳴をあげると頭を押さえて身をすくませる… 「言っとくけどモンモランシー、交渉役はあんたよ。何があろうと絶対連れて行くからね…」 「ちょっ…何であたしが!?」 ミントの死刑宣告にも似た言葉にモンモランシーは当然抗議の声をあげたがジト目で睨み付けてくるミントの視線は冷たい。それはそれ以上のモンモランシーの言葉を許さなかった。 「明日、朝一で出るわよ、このミント様から逃げられるだ何て絶対に思わない事ね。いいわねっ!?」 そうとだけ言い残してミントは部屋を出ると勢いよく扉を蹴って閉める。その際、蝶番が衝撃に耐えきれず変形したせいで以降モンモランシーの部屋は非常に扉の立て付けが悪くなるのだがそれは些末事… 「そ…そんな~…」 その場にへたり込み、ただ己の不幸を呪うモンモランシー…心底逃げ出したかったが確かにギーシュがこのままなのも不味いしそもそも惚れ薬は禁薬である。 事が大きくなって表沙汰にでもなればどうなるか…そして何より怒り狂ったミントが怖い… そうして今夜、魔法学園の女子寮塔でそれはもう盛大な溜息が二つ零れたのだった。 前ページ次ページデュープリズムゼロ
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前ページ次ページデュープリズムゼロ 第八話『買うわ!デルフリンガー。』 「今日は授業は休みよ。街に買い出しに行きましょう。」 虚無の曜日の朝一番に朝食を取り終えたルイズはミントにそう提案した。 「街か…丁度良いわね。行きましょう。」 二つ返事の了承、それはミントとしても断る理由の無い提案である。 何せミントはハルケギニアに召喚された際は着の身着のまま、リュックにはミントの世界の通貨と各種コイン、後は最低限のサバイバルキット位しか持ち合わせていない。 それに寝間着や普段着等も出来れば確保しておきたいし何より様々な人々の集う街などで情報を集める事は冒険者の基本だ。 早速支度を済ませてミントとルイズは一路王都トリスタニアに馬を走らせた。 因みに今日はミントはいつもの服を洗濯へ出してルイズの制服のスペアを借りている。 (少々胸元が窮屈ではあったが入らないと言う事も無い。) そんな二人の魔法学園を朝一番に出て行く姿を見ている人物がいた。 「あら?ルイズにミント…街に行くのかしら?………何か面白そうね。」 キュルケである。キュルケは昨日の決闘騒ぎ以来、より一層ミントへ強い好奇心を持つ様になっていた。 見た事も無い形態の魔法を使い、その行動と性格はまさに破天荒、まず間違いの無い天然トラブルメーカー。昨日の騒ぎはまさにそれだ。 キュルケ自身そういう騒ぎが大好きだ。自分に直接迷惑が掛からず、指先一つのちょっかいを出す事でより事態を面白く出来るなら尚良しだ。 「でも今からじゃ流石に追いつけないか…いや、あの子の使い魔なら。」 キュルケは鏡台の前でそう呟いて着替えと化粧を済ませると変わり者の自分の親友を頼る為軽い足取りで部屋をでる。 「……………………」 少女タバサは壁に背を預けながらベッドの上に座り静かに本を読みふける。 タバサの虚無の曜日の予定は決まっている。こうして一日静かに本を読む事である。 稀に任務を言い渡される事もあるが今日は幸い任務も無い。端から見れば分からないが今日のタバサの気分はおおむね良かった。 「タバサー居る〜?私よ〜。」 が、そんな静かなタバサの世界をぶち壊すかの様にドンドンと扉がノックされ唯一の友人の声がタバサの耳に入る。 タバサは杖を手に取るとサイレントの魔法を唱えて再び本の世界へと集中する。 しばらくして九割方文字の羅列を捉えていたタバサの視界の隅に赤い髪と共に揺れる二つの脂肪の塊が入り込んできた。 どうやら勝手にアンロックの魔法で鍵を解錠して進入してきたキュルケは、自分に何かを訴えている様でようやくタバサはサイレントの魔法を解除してやる。 「全くもう、あなたったら酷いじゃ無い。」 「用件は何?」 「ルイズがあの使い魔の子と街に行ったみたいなの。面白そうだから私も追いかけて行こうと思うんだけど今からじゃ追いつけそうに無いわ。 だからあなたの使い魔の風龍で追いかけて貰いたいのよ。ねぇ〜お願い…」 キュルケが胸の前で手を合わせて身体をくねらせる。無駄に色っぽい。 「……………………」 タバサは無言で少し思案した後、窓辺から外に向かって口笛を吹いた。 すると森の中からタバサの部屋へ向かって青い鱗に包まれた一匹の風龍の幼生が飛来してくる。名はシルフィード、タバサの使い魔である。 「乗って。」 一言そう言ってキュルケに促しながらタバサは軽やかにシルフィードの背中に飛び乗る。 「あれ、あなたの事だから「虚無の曜日」って言って渋ると思ってたけどどうしたの?」 シルフィードの背中に乗りながらキュルケがタバサに尋ねるとタバサは無言で自分とキュルケを順に指さし一言小さく呟く。 「友達」 「タバサ!!」 感極まった様子でキュルケはタバサを抱きしめる。その豊満な胸をタバサの顔に押し当てながら。 「それに私もあの使い魔に興味がある…」 タバサは昨日ミントの使用した魔法について思い返す。 もしもアレが先住でも系統でも無い魔法ならばもしかしたら自分の助けになりえるかも知れない。 その為には先ずはミントの事を知らなければならない… 春のまだ少し冷たい風を切ってタバサとキュルケを乗せたシルフィードはトリスタニアへと飛んだ。 ___城下町トリスタニア 「ふーん…結構栄えてるわね。」 街の広場から周囲を見渡してミントは正直な意見を口にする。 「そりゃあ王都だもの。先ずはミントの服よね。さ、服屋に行きましょう。」 ルイズが先導して歩いて行くのでミントも素直にその後ろを付いていく。 自分一人ならどうとでもなるがルイズ(サイフ)が迷子になっては流石に厄介だ。 最初店内に入った瞬間、「取り敢えずお勧め全部頂戴。」等と曰ったミントに思わず突っ込みを入れる等の一悶着がありながらも下着、寝間着等をを購入しミントの普段着のスペアをオーダーしたルイズ。 服などは完成したら学園まで配達して貰える手はずである。 次に二人が向かったのは貴族御用達のカフェレストランだ。 運ばれてきた料理に舌鼓をうちながら食後のデザートに頼んだクックベリーパイと紅茶をルイズとミントは語りあいながらゆっくりと味わう。 「おいしいわねこのパイ、そういえば昨日は結局ケーキ食べれなかったのよね〜ギーシュの奴のせいで。」 ミントはクックベリーパイの甘酸っぱさを味わいながら吐き捨てる様に言う。 「そういえばそうよ!あんたねあれはやり過ぎよ。あんたの為にシエスタに医務室用意させてたのにその医務室に運ばれたのがギーシュなんだからシエスタきっとそうとう驚いたわよ。」 怒りながらもルイズは愉快そうに笑って言う。 「だから言ったじゃん、あたしを舐めるなって。」 「まぁでもあいつにも良い薬よね。正直なところ私もすっきりしたし。」 「でしょうね。あたしああいう男正直嫌いだわ。」 「あはは、だと思う。」 「あら、じゃあミントの好みの男性のタイプってどんな人?私気になるわ。」 「そりゃあ…………って、キュルケじゃ無い?」 ルイズとミントが会話に花を咲かせているといつの間にやら隣のテーブルにキュルケとタバサが座っていた。 「ツェルプストーっ!?あんた何で…」 「何でも何もあたしはタバサとお茶しに来たのよ?そこでよーく見知った顔を見かければそりゃ声位掛けるわよ。」 反射的に立ち上がったルイズにキュルケはからかう様に笑って答える。 「まぁ座んなさいよルイズ。周りに笑われるわよ。」 ルイズを制してミントは優雅に紅茶を一口すする。確かに他の客の小さな笑い声がルイズの耳には聞こえてきた。 仕方なくルイズは席に着くとまだ不機嫌ながらもミント達のやり取りを静観する。 「所でミント、昨日見てたわよ〜。凄かったじゃない、平民だって思ってたけどあなたメイジだったのね!」 「フフフ、もっと褒めるが良いわ。ま、あたしにとっちゃあんなのチョロいチョロい。」 「あなたの使っていた魔法…アレは何?」 ここでさっきまでハシバミサラダをひたすら食べていたタバサが初めて口を開く 「あぁ、あれは…ってあんた誰?」 「紹介するわねミント。この子はタバサ、私の一番の親友よ。」 キュルケの抱擁に押しつぶされながらタバサは無表情にミントに会釈する。 「ふーん…あたしはミント様よ、よろしくタバサ。」 ミントもタバサの会釈に答える様に軽く掌を振った。 「で、あれは…「ストップ!!ミント。」」 ミントが昨日の魔法の簡単な説明をタバサにしようとした所でルイズが突然それにストップを掛ける。 「何?」 「フフフ、タバサには悪いけど使い魔の力の秘密をそうそう簡単には聞かせられないわ。 特にツェルプストーには尚更ね。」 「意地が悪い…」 「あんたの力じゃ無いでしょうが…」 「流石ヴァリエールね…」 三者それぞれ呆れた様にジト目でルイズを見つめる。空気を読めよと言いたげに。 「う…うるさい!!うるさい!!うるさい!!そもそもメイジとして使い魔の秘密を守る位のリスク管理は当然よ。私は何も間違った事は言っていないわ。」 顔を赤くしながらルイズは怒鳴る。言っている事は正論だが如何せん感情が先立って見え透いている為いまいち説得力に欠ける。 しかし、その言い分にはタバサも思うところがある以上ここでごねるのは憚られる。 ミントの事は別に直ぐに直ぐ知らなければならない訳では無い。 ミントとしてもよく考えれば自分のこの世界での特殊性を思い直せばこう言った事をホイホイ話しては無用なトラブルを呼びかねない。ここは癪だがルイズの言葉に理がある。 キュルケも大胸そう考える。 『仕方ない。』 三人の声がハモり、一人の空気の読めない少女のせいでこの話はここで打ち切りと相成った。 そのまま四人は折角だからとブラブラ街の中を散策する事にした。 途中タバサの為に本屋に寄ったり、露店で行儀悪く串焼きを買い食いしたり、ルイズのサイフに手を出そうとしたスリをミントがボコボコにしたりと楽しい時間が過ぎていく。 そうしてミントの希望でマジックアイテムの店などを巡った後、最後に武器屋を覗く事になった。 武器を持った際の力が溢れる現象が果たしてデュアルハーロウ以外でも起きるのかを確認する為だ。 ルイズの案内の元で狭い路地裏に入って行った三人、悪臭が鼻につく。よく見なくてもその辺りにはゴミや汚物が道端に転がっていた。 「路地裏っていうのはどこも同じね。でもその分掘り出し物ってのも期待できるわ。」 「そういう物なの?まぁそういう物だから掘り出し物っていうんだけどね。」 ルイズは立ち止まると、辺りをきょろきょろと見回す。 「ピエモンの秘薬屋の近くだったから、この辺だったと思うんだけど…」 「あれね。」 ルイズが見つけるよりも早くミントが指をさす、見ると剣の形をした銅の看板が下がっていた。 どうやらそこが武器屋のようだった。 四人は石段を上り、羽扉を開け、店の中に入って行った。 店の中は昼間だと言うのに薄暗く、とても貴族を相手にしている商売では無い事を物語る。 壁や棚には所狭しと剣や槍、槌が乱雑に並べられ、中には目玉商品なのだろうか立派な甲冑もあった。 店の奥では煙草をくわえていた親父が入ってきたミント達を胡散臭げに見つめて直ぐに 紐タイ留めに描かれた五芒星に気付く。 それから慌てて煙草の火をカウンターに押しつけて消すと、ドスの利いた声を出した。 「旦那、貴族の旦那、うちはまっとうな商売してまさぁ、お上に目をつけられるようなやましいことなんかこれっぽっちもありませんや。」 「客よ。」 ルイズが腕組みをしたまま答えると店主はまた驚いた表情を浮かべる。 「へぇ?貴族のお嬢様方が武器をですかい?そりゃまた………しかしそうですね、そうでしたらこちらなど如何で?美しさで言えばうちで一番でさぁ。」 店主は店奥から繊細な銀の細工の施されたレイピアを持ち出してきた。それをミントが受け取り軽く構えを取ってみる。 「駄目ね…帰りましょ。」 溜息混じりに呟きレイピアをカウンターに戻してミントは肩を窄めた。 全く持って力がわき上がるあの感覚がこの銀細工のレイピアからは感じられないのだ。 「結局何がしたかったのよ?まぁ良いわ、邪魔したわね。」 ルイズはミントの行動に首を傾げるがまぁ良い、用事が無いならこんな所に用は無い。 「はいよ、どうか御贔屓に…」 用も済んだと早々に帰ろうとする四人に店主は内心武器屋にガキが来るんじゃねぇと舌打ちをする。 『おぅ、帰れ帰れっ!!武器はガキのおもちゃじゃねぇんだよ。二度と来んな!!』 と羽扉に手を掛けた四人に突然そんな男の声が聞こえてきた。 無論店内に居る男など店主以外には居ない。四人が振り返りそれぞれギロリと店主を睨む。 「馬鹿野郎、デル公!貴族のお客様に何て事を言いやがるんだ!!」 慌てて店主は店の隅に置かれた樽の中から随分と古びた一本の剣を取り出して四人の前に差し出す。 「これってインテリジェンスソード?随分口が悪いわね。」 「何それ?」 「インテリジェンスソード、自我と知性を持った剣。」 ミントの疑問に相変わらず本を読み続けるタバサが簡潔に答えた。 「へぇ〜面白いじゃない。ねぇおっさん貸して貸して。」 言うが早いかミントは店主の手から剣をかすめ取る。同時に左手に熱が走り、力が漲る感覚を感じた。 そして今まで剣など扱った事の無いはずのミントの頭の中に剣という武器に関するあらゆる知識が一瞬でたたき込まれた。 適切なメンテナンス方法から適切な構え、振り方、重心の取り方、そして何よりもこの剣がやたらと手に馴染むのだ。 「驚いた…嬢ちゃん『使い手』かよ……それに嬢ちゃんあんたすげぇ修羅場くぐってるな。 よし嬢ちゃん、俺を買え。」 突然神妙な様子になったインテリジェンスソードの様子に全員が目を丸くする。 「へ〜……あんた剣の癖に面白い事言うわね。良いわ買って上げる。おっさんこれ幾ら?」 「ちょっとミント、そんなボロッちぃ剣なんか買うの!?ていうかあんたあたしに払わせるんでしょうが!!駄目よ!」 ルイズの訴え等最早関係ない、冒険者としての経験がミントに訴える。 こいつは掘り出し物のお宝だと。 「良いじゃ無いルイズ、面白そうだし。何ならミント、どうせ一山幾らの剣なら私が買ってあげるわよそれ位。」 「おっキュルケ、太っ腹。流石に胸の大きい女は違うわね。」 「胸は関係ないでしょうがっ!!解ったわよ!!買うわ買って上げるわよ馬鹿!!」 キュルケの提案に半泣きで食って掛かるルイズをミントはしてやったりと言った表情で笑う。 はっきり言ってキュルケもこうなる事が読めていての提案だったのだがチョロいにも程がある。 「くっ…そういう訳よ!あの剣幾ら?」 ルイズは金貨の入ったサイフを怒りのままのカウンターへと叩き付ける。 「あれなら新金貨100で結構でさぁ。」 「あっそう!!」 カウンターに乱暴にぶちまけられる金貨…苦笑いで店主はその金貨の枚数を数えている。最早ルイズからのただの八つ当たりである。 「そういえばあんた名前は?」 「あぁ、おれっちの名前はデルフリンガーだ。よろしくな、相棒。」 「あたしはミントよ。ミント様って呼ぶ様に、よろしくねデルフ♪」 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