約 2,241,683 件
https://w.atwiki.jp/schwaken-extra/pages/24.html
シュヴァルツェスマーケン・えくすとら♪ 第3話「テオドール争奪・料理対決!!」(後半) 4.カティアとキルケ、ベアトリクスの料理 「ったく、どいつもこいつも情けねえ奴らなぁ。テオドールの事を少しも満足させられてねえじゃねえかよ。」 先程から腹を空かせたままのテオドールの泣きそうな表情を見て、ヨアヒムは呆れた表情で溜め息をついたのだった。 試合開始から既に15分が経過したのだが、先攻したアイリスディーナ、アネット、ファムのいずれの料理もテオドールを満足させるには至っていない。 プロの料理人に作らせた高級料理を、勿体無いという理由で拒絶されたアイリスディーナ。 高たんぱく質、高脂質のマンガ肉を炭水化物不足で拒絶されたアネット。 名状しがたい何かを入れたせいで米麺を拒絶されたファム。 彼女たち3人が無様に敗北する姿を、先程からリィズが物凄い笑顔で見下していたのだが。 「・・・次は私の番のようですね。」 そんな3人の姿を目の当たりにしてもなお、自信に満ち溢れた表情を崩さないカティアが、テオドールに料理を差し出してきた。 皿の上に綺麗に並べられたカティアの料理・・・それは・・・。 「アネットさんもファム先輩も、料理のインパクトに拘り過ぎなんですよ。やっぱり料理というのは質素で素朴な物が一番です。」 「・・・こ・・・これは・・・!?」 「スタッフド・ピーマンです。さあテオドールさん、どうぞ召し上がれ♪」 一般家庭でも普通に食されている、極々普通の家庭料理・・・ピーマンの肉詰めだった。 真っ二つに両断された鮮やかな緑色のピーマンに、丸め込まれた鶏の挽肉がしっかりと詰め込まれ、蒸し焼きにされた事で肉汁がピーマンの中から逃げずにしっかりと閉じこもっている。 タレも市販の物ではなく、ケチャップと醤油をベースにしたカティアの手作りの代物のようだ。さらに味のアクセントとして、ゴマ油とブラックペッパーも使われている。 まさしく完璧なピーマンの肉詰め・・・適度に焼かれた挽肉から漂う香りが、テオドールの食欲を刺激したのだが・・・。 「・・・た・・・食べられない・・・っ・・・!!」 「え!?」 目から涙を流しながら、テオドールはピーマンの肉詰めを一口も食べる事無く、ナイフとフォークをテーブルの上に置いたのだった。 その予想外の事態に、戸惑いを隠せないカティア。 「そんな、一体どうしてなんですか!?テオドールさん!?」 自分の調理にミスは無かったはず。自分でも自画自賛してしまう程の、テオドールへの愛情をたっぷりと込めた、最高のピーマンの肉詰めが出来たはずなのに。 「・・・ふふふ・・・ふふふふふ・・・あはははははははははははは!!」 「な・・・リィズさん!?」 だがその様子をフライパンでハンバーグを焼きながら物凄い笑顔で見つめていたリィズが、初めからこうなると分かっていたと言わんばかりに、誰もが予想もしなかったとんでもない理由を語ったのだった。 「残念だったわねカティアちゃん・・・お兄ちゃんはね、ピーマンが大の苦手なのよ!!」 「はああああああああああああああああああああああああああ!?」 あまりにしょーもない理由に、カティアは口をポカーンと開けて唖然としてしまう。 そして涙を流しながら、テオドールはピーマンの肉詰めを激しく拒絶したのだった・・・。 「この料理対決で勝負を決めるのは、お兄ちゃんを満足させる事・・・どれだけ最高のスタッフド・ピーマンを作ろうが、それでお兄ちゃんを満足させられなければ何の意味も無いわ。」 「くっ・・・!!」 「スタッフド・ピーマンというメニューを選択した時点で、既にカティアちゃんの敗北は決まっていたのよ!!あはははははははははは!!」 物凄い笑顔で高笑いするリィズを見て、カティアはとても悔しそうな表情を見せる。 「テオドールさん、もう高校生にもなって何子供みたいな事言ってるんですか!?」 「嫌だああああああああ!!ピーマンだけは絶対に嫌だあああああああああああ(泣)!!」 「好き嫌いは駄目ですよテオドールさん!!ほら口を開けて下さい!!」 そう言ってカティアはフォークをピーマンの肉詰めにぶっ刺し、無理矢理テオドールに食べさせようとする。 「はい、テオドールさん、あーん(激怒)!!」 「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だあああああああああああああああああ(泣)!!」 こんなはい、あーんは嫌だ・・・。 カティアの両手首を掴んで必死に抵抗するテオドールだったのだが、そこへキルケが自信に満ちた笑顔で、颯爽とテオドールの前に立ちはだかったのだった。 「全くカティアちゃんったら、テオドール君が嫌いな物を無理矢理食べさせようとするなんて、幾ら何でも酷過ぎるにも程があるわ。」 「な・・・キルケさん!?」 「さすがにこのメニューなら、食べられない人なんてそうそういないと私は思うのだけれど?」 キルケがテオドールに提供したのは・・・これまたカティアのピーマンの肉詰めと同様の、極々普通の家庭料理・・・オムライスだった。 焦げ目1つ無い完璧な焼き加減の、色鮮やかな黄金色のふわふわの玉子も見事だが、何よりも特徴的なのは一般的なチキンライスではなく、ドライカレーを使用しているという点だ。 ふわふわの玉子の甘みとドライカレーのピリ辛が、口の中で絶妙にマッチするのは間違いない。 そのドライカレーから放たれる香ばしい香りが、今にも腹ペコで死にそうなテオドールの食欲を刺激する。 そしてオムライスにはケチャップで、可愛らしい猫のイラストが無駄に器用に描かれていたのだが。・・・ 「さあテオドール君、どうぞ召し上が・・・」 「・・・た・・・食べられない・・・っ!!」 「・・・え!?」 涙を流しながらテオドールは、スプーンをテーブルの上に置いたのだった・・・。 予想外の出来事に、キルケは戸惑いを隠せない。 「幾ら何でも酷過ぎるぞキルケ・・・!!これを食べるなんて残酷な事、俺に出来るわけねえじゃねえかよおおおおおおおおおおおおおっ(泣)!!」 「残酷って、一体何を訳の分からない事を言ってるのよ!?」 テオドールの言っている事が全くもって理解出来ない。このオムライスを食べる事の一体どこに『残酷』な要素が含まれているというのか。 テオドールが嫌いなピーマンは全く使っていないし、全く調理ミスが無い完璧なオムライスを作ったはずだ。 だがその様子を皿にご飯を盛りつけながら見ていたリィズが、まるで初めからこうなると分かっていたと言わんばかりに、物凄い笑顔でキルケに真相を語ったのだった・・・。 「残念だったわねキルケ。お兄ちゃんはね・・・大の猫好きなのよ!!」 「はああああああああああああああああああああああああああ!?」 ケチャップでオムライスに無駄に器用に描かれていたのは、とても可愛らしい猫のイラストだ。 それ故に猫好きのテオドールには、どうしてもこれを食べる事に抵抗を感じてしまうという訳だ。 このオムライスにスプーンをぶっ刺すという事は、この可愛らしい猫のイラストをぐちゃぐちゃに崩してしまう事を意味するのだから。 「ちょ、猫好きって・・・えええええええええええええええええええええ!?」 「確かに貴方のオムライスは見事な代物だったわ。だけどオムライスに猫のイラストを描いた時点で、既に貴方の敗北は決まっていたのよ!!あはははははははは!!」 「そんな馬鹿なああああああああああああああああああああああああっ!!」 その場に崩れ落ちるキルケを尻目に、今度はベアトリクスが威風堂々とテオドールの前に立ちはだかったのだった。 だが何故かベアトリクスは、その手に何も料理を手にしていない。 とても妖艶な笑みを浮かべながら、今にも腹ペコで死にそうなテオドールを見つめている。 「全く、どいつもこいつも情けないにも程があるわね。料理という物の本質をまるで分かっていない連中ばかりで笑ってしまうわ。」 「ちょっとベアトリクス先輩、料理の本質って、先輩は何も作ってないじゃないですか!!」 そう・・・リィズの言う通り、ベアトリクスは先程から全く料理を作っていないのだ。 ただ威風堂々とドヤ顔で、テオドールたちが騒ぐ光景を見つめていただけだ。 アイリスディーナのようにプロの料理人に作らせるという訳でもない。それ所か彼女のテーブルには食材自体が用意されていなかったのだ。 それなのに一体何をテオドールに提供しようというのか。 「貴方達は何も分かっていないみたいね。そもそも男の子が本当に喜ぶ物が一体何なのかを。何を提供すれば喜んで貰えるのかを。」 「何ですって・・・!?」 「うふふふふ・・・。」 だがベアトリクスがテオドールに『提供』しようとした物・・・それは誰もが予想もしなかったとんでもない代物だった・・・。 「・・・ねえ、テオドール・・・。」 「な・・・何すか?ベアトリクス先輩・・・。」 「・・・私を、食・べ・て♪」 突然ベアトリクスはエプロンを脱ぎ捨てて制服のボタンを外し、テオドールの右手を自らの豊満な胸に当てたのだった。 柔らかくて温かいベアトリクスの胸の感触が、ダイレクトにテオドールの右手に伝わってくる。 「あ、えあ、あ、おうお、あ、はいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!?」 いきなりの出来事にテオドールは頭の中が真っ白になり、興奮のあまり目をグルグルさせてしまったのだった。 「ちょっとベアトリクス先輩!!お兄ちゃんに何やってるんですかあああああああああああ!?」 「この間買った少女漫画に載っていたのよ。こうすれば男の子は最高に喜んで貰えるってね。」 「はああああああああああああああああああああああああ!?」 「貴方も言っていたように、この料理対決の本質はテオドールをどれだけ満足させられるかが鍵になるわ。これで満足しない男の子なんて、アスクマンのような余程の変態でも無い限り、そうそういないと思うのだけれど?」 「いや満足も何も、最早料理対決ですら無いわあああああああああああああああああっ!!」 鍋の中身を味見しながら文句を言うリィズを完全に無視し、テオドールの右手をしっかりと掴んで自らの豊満な胸から決して逃がさないベアトリクスだったのだが。 何故なのだろう。こうしてテオドールに胸を触られると、何だかとても胸が高まってくる。とても愛おしい気持ちになってくる。 今までシュター部の男性部員たちに面白半分で胸を触らせて、からかってみた事があったのだが、それでもこんな気持ちになった事は今まで一度も無かったというのに。 (・・・そ、そんな、駄目よ、私にはユルゲンという心に決めた人が・・・そ、それなのに・・・っ!!) 「ベアトリクス先輩、もう勘弁して下さいよおおおおおおおおおおお(泣)!!」 (な、何なのよこれ・・・!?何だか彼の事がとても愛おしく思えてくる・・・!!こんな・・・こんなのって・・・!!) 先程までテオドールを見下した態度を取っていたベアトリクスだったのだが、いつの間にか完全にテオドールに対して慈愛の表情を見せるようになってしまっていた。 うるうるした瞳で右手を離してくれと懇願するテオドールの表情、そして自分の胸を触るテオドールの右手の感触が、どんどん愛おしく感じられてしまう。 もっと私に触れて欲しい、もっと私を感じて欲しい、もっと、もっと、もっと・・・もっと!! (し、信じられない・・・これが・・・これが恋愛原子核の力だというの!?) 「・・・おい、ベアトリクス。ちょっといいか?」 だがそこへ物凄い表情のアイリスディーナがベアトリクスの右手を掴み、そのままズルズルとベアトリクスを教室の外へと連行してしまったのだった。 「ちょっとアイリス、何するのよぉっ!?」 「いや、今後の事について、ちょっとお前と話し合う必要が出たと思ってな。」 「ああん、そんな、ちょっと待って、テオドールううううううううううう!!」 「・・・この浮気者が。」 「嫌ああああああああああああああああああああ!!」 アイリスディーナに無様に引きずられながら、必死にテオドールに手を伸ばす情けないベアトリクスの醜態を、リィズたちが唖然とした表情で見つめていたのだった・・・。 5.リィズとアスクマンの料理 「・・・ま、まあ、羨まし・・・あ、いや、とんでもない出来事があった訳だが・・・これでまだテオドールに料理を出してないのはリィズとアスクマンだけだな。制限時間は残り10分を切った訳だが・・・。」 馬鹿が・・・!!無様に敗北したアイリスディーナたちを嘲笑うかのような物凄い笑顔で、ヨアヒムの言葉と同時にリィズが颯爽とテオドールの前に立ちはだかったのだった。 未だベアトリクスの胸の感触の余韻に浸ってしまっているテオドールだったのだが・・・リィズが提供した料理の香りを嗅いだ瞬間、その余韻が一気に吹き飛ばされてしまう。 「やれやれ、お兄ちゃんを満足させられるのは、やっぱりこの私しかいないみたいね。」 「こ・・・これは・・・この料理は!!」 「さあお兄ちゃん、どうぞ召し上がれ♪」 リィズがテオドールに提供したのは・・・何の変哲も無い、ただのハンバーグカレーだった。 米も、ルーも、野菜も、ハンバーグに使われている牛の挽肉も、その全てがその辺のスーパーで安売りされている、極々普通の素材ばかりだ。 アイリスディーナが作らせた高級肉料理や、カティアやキルケの料理のように、調理方法に工夫を凝らしてる訳でもない。かと言ってアネットやファムの料理のように奇抜な料理という訳でもない・・・本当に極々普通のハンバーグカレーだ。 「何よこれ、ただのハンバーグカレーじゃない。私のオムライスでさえもテオドール君を満足させられなかったってのに・・・。」 「・・・ふふふ。」 「リィズちゃん貴方、一体どういうつもりなのかしら?」 キルケは一目見ただけで判断した。これならば自分の作ったオムライスの方が余程マシな料理だと。 鍋の中に残ったルーを、右手人差し指で掬い取って一口舐めてみたのだが、本当にただの平凡な辛口のルーだ。自分のオムライスと違い、調理方法や隠し味に何か工夫を凝らしてる訳でもない。 それでもドヤ顔を崩さないリィズを見て、怪訝な表情を見せるキルケだったのだが。 「・・・うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお(感涙)!!」 だが次の瞬間・・・テオドールが先程まてと違い、物凄く歓喜に満ちた表情で、ハンバーグカレーを物凄い勢いで口の中に放り込んだのだった。 「「「「「何いいいいいいいいいいいいいいいいいいい!?」」」」」 「美味い美味い美味い美味い美味い美味い美味い!!」 涙目になりながら、とても満足そうにハンバーグカレーを食べるテオドールの姿に、驚きを隠せないアイリスディーナたち。 一体これはどういう事なのか・・・今テオドールが口にしているのは、本当に何の変哲も無い、ただのハンバーグカレーのはずだ。 だがその様子を自信満々の確信に満ちた笑顔で見つめていたリィズが、アイリスディーナたちを嘲笑うかのように、威風堂々とその真相をはっきりと告げたのだった。 「残念だったわね皆。お兄ちゃんはね・・・カレーが大の好物なのよ!!」 「「「「「・・・はあああああああああああああああああああああ!?」」」」」 誰もが予想しなかった、まさかの単純明快なリィズの回答に、アイリスディーナたちは戸惑いを隠せない。 そんなアイリスディーナたちを尻目に、テオドールはとても満足そうにハンバーグカレーを食べ続けている。 先程リィズも言っていたが、この料理対決で勝敗を決するのは、料理の味でも工夫でもない・・・『どれだけテオドールを満足させられるか』だ。 つまりテオドールを一番満足させられれば、極端な話、味などどうでもいい・・・要はテオドールの一番の好物を出せば済むだけの話なのだ。 リィズは幼少時からテオドールと一緒に暮らし、常にテオドールの事を見続けていたので、テオドールがカレーの辛口が大好物だという事を完璧に把握していた。 それ故に今回の料理対決は、テオドールの好みを知り尽くしているリィズが、最初から圧倒的に有利だったのだ。だからこそ他の者がどんな料理を出そうが、リィズは余裕の笑みを崩さなかったという訳だ。 「・・・ふう、美味かったぜ・・・ごちそうさん、リィズ。」 「えへへ、お粗末さま。お兄ちゃん。」 そうこうしてる間にテオドールは、あっという間にハンバーグカレーを完食してしまった。 アイリスディーナたちの時とは違い、テオドールはとても満ち足りた表情をしている。 それは今回の料理対決で、リィズが圧倒的に優位に立った証だ。 「・・・お兄ちゃんの大嫌いなピーマンもハンバーグの中にこっそり入れたんだけど、全然気付かなかったでしょ?」 「え!?マジかよ!?」 とても自信満々な笑顔でそう告げるリィズに、テオドールは驚きを隠せずにいた。 自分が食べたハンバーグからは、ピーマンの独特の苦味など全く感じなかったからだ。 リィズに真相を明かされても尚、テオドールは信じられないといった表情をしている。 「カティアちゃんったらお兄ちゃんが食べられないって言ってるのに、無理矢理ピーマンを食べさせようとするんだもの。全く何考えてるんだか。」 「ぐぬぬぬぬ・・・!!」 「これで今回の料理対決の勝者は私に決まったも同然よね。ほら見なさいよ、私のカレーを食べたお兄ちゃんの、この満足そうな笑顔・・・アンタたちには悪いけど、明日お兄ちゃんとデートするのはこの私よ。」 明日のデートの光景を頭の中で想像し、気持ちを高ぶらせていくリィズ。 明日は2人で一緒に映画を観て、洒落たカフェで昼食を食べて、その後遊園地にでも遊びに行って、観覧車の中で2人きりになって・・・そして・・・ 『・・・リィズ・・・俺はお前の事が好きだ・・・ずっと前からお前の事が好きだったんだ。』 『お兄ちゃん・・・嬉しい・・・!!』 『俺は今からテオドール・ホーエンシュタインに改名する!!だから俺と結婚してくれ!!』 『お兄ちゃああああああああああん!!』 『うおおおおおおおおおおおおお!!』 テオドールに押し倒されたリィズは、そのままテオドールと唇を重ね・・・そして・・・ 「・・・ぐへ、ぐへへ・・・ぐへへへへへ・・・。」 口からヨダレを垂らしながら、物凄い表情で興奮するリィズを見て、とても悔しそうな表情を見せるアイリスディーナたち負け犬共だったのだが。 突如部屋中を満たした香ばしい香りが、一瞬でリィズを現実世界へと引き戻したのだった。 「勝ち誇るのは、テオドール君が私の料理を食べてからにしたらどうかね?リィズ君。」 「・・・な・・・!?アスクマン、アンタ一体何考えてるのよ!?」 アスクマンがテオドールに提供した料理・・・それを見たリィズは戸惑いの表情を隠せなかった。 「青椒肉絲(チンジャオ・ロースー)だ。さあテオドール君、遠慮せずに食べたまえ。」 ピーマンがふんだんに詰め込まれた、中国発祥の豚肉料理・・・それをアスクマンは自信に満ち溢れた笑顔でテオドールに提供したのだ。 先程のカティアの件で、テオドールがピーマンを食べられないのは実証済みのはず・・・にも関わらずピーマンが大量に使われた青椒肉絲を提供するとは、一体どういうつもりなのか。 この青椒肉絲がどれだけ美味な代物であろうとも、それでテオドールを満足させられなければ何の意味も無いというのに。 だがリィズの予想に反して、テオドールは目の前の青椒肉絲から放たれる芳醇な香りに引き寄せられ・・・震えた手でピーマンを箸で掴み取ったのだった。 「ちょ、ちょっとお兄ちゃん!?」 「・・・お、おかしいよな・・・俺、ピーマンは食べられないはずなのに・・・それなのに、こんな・・・」 先程リィズのハンバーグカレーを完食したばかりのはずなのに、青椒肉絲から放たれる芳醇な香りが、再びテオドールの食欲を目覚めさせたのだった。 そしてテオドールが恐る恐るピーマンを口の中に放り込んだ・・・次の瞬間。 「・・・・・・!!!!!!!????????」 ビクンビクンビクン。 全身を凄まじい勢いで電撃が駆け巡り・・・そしてテオドールはいつの間にか無我夢中で、青椒肉絲を口の中に流し込んでいたのだった。 予想外の出来事に、リィズたちは驚きを隠せない。 テオドールはピーマンが大の苦手のはずだ。それなのにこれは一体どういう事なのか。 「う、美味い!!何て美味さなんだ!!これが、このピーマンの苦さが、何故か俺の心を限りなく満たしていく!!」 「そんな馬鹿な!?お兄ちゃん正気に戻ってよ!!ねえ一体どうしたっていうの!?」 「俺にもよく分からねえよ!!だけど美味いんだ!!美味いんだよこのピーマンが!!」 テオドール自身も戸惑いを隠せないようで、嫌いなはずのピーマンが大量に詰め込まれた青椒肉絲を、涙目になりながらもあっという間に平らげてしまったのだった。 「一体何がどうなってるのよ!?この青椒肉絲に一体何があるっていうの!?」 「そう言うだろうと思い、君の分も作っておいた。さあ食べてみたまえ。」 アスクマンが差し出した皿を渋々受け取ったリィズが、箸でピーマンを口にした次の瞬間。 「・・・くっ・・・んんんんんんんっ・・・!!」 ビクンビクンビクン。 リィズの全身を凄まじい勢いで電撃が駆け巡り・・・涙目になりながらリィズは悔しそうにその場に崩れ落ちたのだった。 「どうして・・・!?一体何をどうしたら、こんな・・・!!」 「それはこの青椒肉絲のタレに、隠し味として○○○を仕込んだからなのだよ。」 「な・・・○○○!?たったそれだけでここまで劇的な風味が生まれる物なの!?」 悲しい事に作者に料理の知識が全然無いもんだから、隠し味が伏字になってしまっていた・・・。 驚愕の表情で崩れ落ちるリィズを、ドヤ顔で見下すアスクマン。 その様子をアイリスディーナたちも、戸惑いの表情で見つめている。 「リィズ君。君のハンバーグカレーはピーマンの風味を殺した、所詮はまやかしの料理に過ぎん・・・素材を活かすというのは、こういう事だ。」 「貴様ぁっ!!」 「全くどいつもこいつも、料理という物の本質を全く理解していない連中ばかりで呆れてしまうよ。はーーーーーーっはっはっはっはっは!!」 自分の勝利を信じて疑わないと言わんばかりに、アスクマンは崩れ落ちるリィズを見下しながら高笑いしたのだった・・・。 6.決着 「さて、これでテオドールは全員の料理を食べたようだな。それじゃあ早速だが明日リィズとアスクマンのどちらとデートするのか、テオドール自身に決めて貰おうじゃないか。」 仕方が無いとはいえ、最早完全にリィズとアスクマンとの二者択一になってしまっていた・・・。 ヨアヒムに促されてテオドールは起立し、リィズたちの前に歩み寄る。 「果たしてテオドールはどちらの料理が満足したのか・・・満足した料理を作った奴の右手を取れ。テオドールに右手を握られた奴が、明日テオドールとデートする事になる。分かったな?」 「お兄ちゃん、私のハンバーグカレーが一番美味しかったよね!?」 「まさに失笑する他無し・・・私の青椒肉絲を食べたテオドール君がどれだけ満足したのか、結果は誰が見ても明らかじゃあないか。はははははははは!!」 とても不安そうな表情を見せるリィズ。 自分の勝利を確信したと言わんばかりのアスクマン。 完全に蚊帳の外に置かれてしまったアイリスディーナたち。 そんな彼女たちの光景を、ヨアヒムはニヤニヤしながら見つめていたのだが。 「幾らお兄ちゃんでも、こんな変態野郎とデートしようなんて到底思わないよね!?だから絶対私を選んでくれるよね!?」 「ふん、性別などという下らないしがらみ如きで、私とテオドール君の愛を阻む事など出来る物か!!」 「お兄ちゃん!!」 「テオドール君!!」 2人に迫られ、戸惑いの表情を隠せないテオドールだったのだが。 それでもテオドールは、決断しなければならない。 決断しなければテオドールには、1週間ものトイレ掃除という過酷な罰則が待っているのだ。 リィズのハンバーグカレーも、アスクマンの青椒肉絲も、互いの持ち味を存分に引き出した最高の料理だった。 その中で、どちらの料理が満足出来たかを選ぶとなると・・・。 「・・・ア・・・アスクマン先輩・・・っ・・・(泣)!!」 断腸の想いで、テオドールはアスクマンの右手を取ったのだった・・・。 信じられないといった表情で、全身から漆黒のオーラを放ちながら、リィズは涙目になったテオドールを見つめている。 「お兄ちゃんどうして!?ねえ、どうして私じゃ駄目なの!?私よりもそんな変態野郎とデートなんかしたいの!?」 「仕方がねえだろうがよ!!お前のカレーよりもアスクマン先輩の青椒肉絲の方が美味かったんだからよおっ(泣)!!」 テオドールとて、アスクマンなんかとデートなどしたくはない。 だがどちらの料理が満足したのかを問われれば、間違いなくアスクマンの青椒肉絲の方だったのだ。こればかりはどうしても譲る事は出来なかった。 そう・・・テオドールはこういう奴なのだ。嘘を付く事が出来ない真面目で正直な男なのだ。 こういう誠実な男だからこそ、アイリスディーナたちは一斉にテオドールに惹かれ、恋焦がれていったのだろうが・・・。 「・・・だ、だからって・・・そんな・・・!!男同士でデートだなんて・・・!!」 「ごめんなリィズ・・・父さんに言われてたのに、お前の事を大切にしてやれなくて・・・!!」 「信じられない・・・お兄ちゃんったら不潔よおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」 大粒の涙を流しながら、リィズは調理実習室を飛び出していったのだった。 そんなリィズの無様な姿を、アスクマンはドヤ顔で見下している。 「明日のデート楽しみだね、テオドール君!!」 「くっ・・・!!」 「デートのプランは私に任せておいてくれたまえ!!明日は君の事を存分に楽しませると誓わせて貰うよ!!はーーーーーーーーーーっはっはっはっはっはっは!!」 とても満足そうな表情で、アスクマンはテオドールの肩を抱き寄せながら高笑いしたのだった・・・。 前半へ 戻る
https://w.atwiki.jp/ange_vierge/pages/69.html
テオドーチェ imageプラグインエラー ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (teo02.png) 世界 黒 レベル 1 (99) 入手先 友達招待報酬 レアリティ SR パワー 3534(13211) コスト 12 ガード 2279(7648) リンク 6pt スピード 1767(5929) 売却価格 20000 エクシードⅠ 天隕石
https://w.atwiki.jp/schwaken-extra/pages/28.html
シュヴァルツェスマーケン・えくすとら♪ 最終話「俺が好きなのは・・・!!」 4.俺が好きなのは・・・!! キルケ、アネット、カティア、ファム、ベアトリクスと、立て続けに告白されてキスをされたテオドール。 5人の唇の柔らかくて優しい感触が、5人のテオドールへの想いが、テオドールの唇に・・・そして心に深く刻まれ、いつまでもテオドールをキスの余韻から離さない。 戸惑いを隠せないテオドールだったが、それでもまだまだこれで終わりではないのだ。 と言うか彼女たちは、こんな朝っぱらから一体何をやっているのだろうか・・・。 「さて、これで残るは私とリィズの2人だけとなったわけだが・・・。」 「ええ、次は私がお兄ちゃんに告白する番よ。」 そう言い放ったリィズは、胸元のポケットから一枚の紙切れを取り出した。 それはリィズが以前、テオドールがバイトをすると言い出した際に書かせた、高校卒業後もずっとこの家で暮らすという誓約書(第2話参照)・・・だったのだが・・・。 「・・・ねえ、お兄ちゃん。これは確かにお兄ちゃんが直筆でサインした誓約書だよね?」 「あ、ああ・・・て言うかお前、そんな物を何で今更・・・。」 リィズは誓約書の最後の方に書かれた文章を、テオドールに指差したのだった。 「・・・じゃあこれに関しても、お兄ちゃんは同意したって事でいいんだよね?」 「・・・は?・・・はあああああああああああああああああ!?」 『私、テオドール・エーベルバッハは、高校卒業後にリィズ・ホーエンシュタインと結婚する事を誓います。』 誓約書には思い切り、そう書かれていた・・・。 全く身に覚えの無い文章に、テオドールは思わず動転してしまう。 「待て待て待て待て待て!!こんな事書いて無かったはずだろ!?お前これ絶対俺が署名した後に付け足しただろ(泣)!?」 「本当にそう?確信が持てる?お兄ちゃんが見落としてただけなんじゃないの?お兄ちゃんったら慌てん坊さんなんだから、契約内容を良く確認せずにサインしたんじゃないの?」 「・・・ううっ・・・それは・・・」 そう凄まれると、何だか本当に確信が持てなくなってしまったテオドールであった・・・。 いや、結婚云々の文章は本当に書いて無かったはずなのだが・・・リィズに凄まれると何故か自分に見落としがあったのではないかと本当に思ってしまう。 テオドールの首に両腕を回し、物凄い表情で迫るリィズ。 その凄まじい迫力に、思わずテオドールはたじろいてしまう。 と言うか、最早告白をすっ飛ばして恐喝になっていた・・・。 「ねえ、お兄ちゃん。もう諦めて。諦めて私の恋人になって。私、お兄ちゃんの為に、これまでずっと頑張ってきたんだよ?」 リィズはとても潤んだ瞳で、戸惑うテオドールをじっ・・・と見つめた。 「・・・私に告白してくる男共だって何人も振ってきた!!」 「お前俺が知らない間にそんな事されてたの(汗)!?」 「・・・不純異性交遊は駄目だとか言う先生たちを垂らし込ませる為に、この間の数学のテストで100点を取った!!」 「お前本当に凄ぇな(汗)!!」 「・・・アスクマンを調教して犬にした!!」 「お前が犬にしたのかよ(汗)!?」 家の外では相変わらずアスクマンが亀甲縛りされた状態で、必死にテオドールの名前を叫びながらぎゃあぎゃあ騒いでいたのだが。 「うるさい!!黙れポチ!!」 「わんわんわん!!・・・くーんくーんくーん・・・。」 リィズの一喝で、情けない表情で黙り込んでしまったのだった・・・。 「・・・ねえ、私と一緒に来て、お兄ちゃん・・・私はただ、お兄ちゃんと一緒にいたいだけ・・・。」 「リ、リィズ・・・んんっ・・・。」 目に涙を浮かべながら、リィズはテオドールと唇を重ねた。 そしてすぐに唇を離し、テオドールの事をじっ・・・と見つめながら、アイリスディーナの隣に座ったのだが・・・。 「さて、最後に残ったのはこの私だな。」 立ち上がったアイリスディーナが、テオドールの首に両腕を回す。 そして。 「・・・お前は私の未来の夫だ。お前は私の未来の夫だ。」 テオドールの耳元でうわ言のように、物凄い笑顔でそう呟き続けたのだった。 いきなりのアイリスディーナの行動に、リィズたちは仰天した表情になる。 「お前は私の未来の夫だ。お前は私の未来の夫だ。お前は私の未来の夫だ。お前は私の未来の夫だ。お前は私の未来の夫だ。お前は私の未来の夫だ。お前は私の未来の夫だ。お前は私の未来の夫だ。お前は私の未来の夫だ。お前は私の未来の夫だ。」 「・・・あ・・・あへ・・・あへへ・・・」 「お前は私の未来の夫だ。お前は私の未来の夫だ。お前は私の未来の夫だ。お前は私の未来の夫だ。お前は私の未来の夫だ。お前は私の未来の夫だ。お前は私の未来の夫だ。お前は私の未来の夫だ。お前は私の未来の夫だ。お前は私の未来の夫だ。はい復唱。」 「・・・お、夫・・・俺はアイリスの・・・夫・・・俺はアイリスの夫・・・」 「そうだ。お前は私の未来の夫だ。」 何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も同じ事を耳元で呟かれたテオドールは、だんだん頭の中がボーッとなってきた。 そして口からヨダレを垂らして目をグルグルさせながら、テオドールは完全にアイリスディーナにされるがままになってしまっている。 アイリスディーナの身体の温もり、柔らかい胸の感触、そしてとてもいい匂いが、さらにテオドールの理性を失わせていく。 「・・・ふ~っ。」 「はあ・・・ん・・・っ。」 アイリスディーナがテオドールの耳元に甘い吐息を吹きかけると、テオドールは身体をビクンビクンさせたのだった・・・。 「そしてリィズはお前の妹だ。リィズはお前の妹だ。リィズはお前の妹だ。リィズはお前の妹だ。リィズはお前の妹だ。リィズはお前の妹だ。リィズはお前の妹だ。リィズはお前の妹だ。リィズはお前の妹だ。リィズはお前の妹だ。リィズはお前の妹だ。はい復唱。」 「・・・い、妹・・・リィズは俺の・・・妹・・・」 「そうだ。断じてお前の恋人などではない。妹だ。」 勝ち誇った笑顔でテオドールの耳元で呟き続けるアイリスディーナの姿に、リィズが全身から漆黒のオーラを放ちながら立ち上がったのだった。 「ちょっとアイリス!!お兄ちゃんに一体何やってんのよ!?」 「リィズさん駄目です~!!告白中は一切の手出し口出しはしないって、皆で約束したじゃないですか~!!」 「いや告白というか、最早告白ですらないわあああああああああああああああっ(激怒)!!」 アイリスディーナに飛びかかろうとするリィズを、必死に背後から押さえ込むカティア。 しまった、その手があったのか・・・!!キルケもアネットも、そして部屋の外に追い出されたベアトリクスもファムも、とても悔しそうな表情でその様子を見つめている。 どれだけ自分たちがテオドールへの愛と想いを込めた告白をしようとも、肝心のテオドールの脳内に強い暗示を刷り込まれてしまっては、何の意味も無いのだ。 アイリスディーナは今日の朝に集合した際、皆との打ち合わせの最中において、自分が一番最後にテオドールに愛の告白をすると率先して名乗り出たのだが、初めからこれが目的だったのだ。 テオドールへの暗示が解けてしまう前に、確実にテオドールに自分が好きだと言わせる為に。 言葉は言霊・・・実際にテオドールに「アイリスが好きだ」と口にさせる事さえ出来てしまえば、それはとても重い意味を持つ物になるのだから。 そうこうしている内に、制限時間の1分ギリギリまでテオドールの耳元で呟き続けたアイリスディーナは、そっ・・・とテオドールと唇を重ねたのだった。 そしてすぐにテオドールから離れて、物凄い笑顔でリィズの隣に座る。 「さて、これで私のテオドールへの洗脳・・・じゃなかった、愛の告白が終わったわけだが。」 「洗脳って言ったよね!?今アンタお兄ちゃんへの洗脳って言ったよね(激怒)!?」 「ではテオドール。今この場で迅速にすぐに決めてくれ。私たちの誰を恋人にするのかをな。」 目をグルグルさせながら、混濁とした意識の中で、テオドールの脳内で 『俺はアイリスの未来の夫』 『アイリスは俺の未来の妻』 『リィズは俺の妹』 という言葉が、何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も繰り返し再生され続けている。 アイリスディーナはボイスレコーダーをテオドールに向けながら、とても勝ち誇った笑顔でテオドールを見つめている。 この恋の争奪戦の勝者は自分だと・・・そう信じて疑わないとばかりに。 「・・・お、俺が好きなのは・・・」 「俺が好きなのは・・・?誰なのだ?テオドール。ん~~~~~~?」 俺はアイリスの未来の夫。アイリスは俺の未来の妻。リィズは俺の妹。 俺はアイリスの未来の夫。アイリスは俺の未来の妻。リィズは俺の妹。 俺はアイリスの未来の夫。アイリスは俺の未来の妻。リィズは俺の妹。 俺はアイリスの未来の夫。アイリスは俺の未来の妻。リィズは俺の妹。 俺は・・・ 「・・・ア・・・アイ・・・」 (・・・お兄ちゃん・・・。) 「・・・!?」 ふと、混濁した意識の中で、テオドールの頭の中にリィズの可愛らしい笑顔が浮かんだ。 ホーエンシュタイン家に引き取られた幼少時から、両親を事故で失い寂しい想いをしてきた自分の傍にずっといてくれて、ずっと自分の事を慕ってくれていた、義理の妹の姿が。 とても不安そうな表情で自分を見つめるリィズの姿を見たテオドールは、アイリスディーナの洗脳を完全に打ち破ったのだった。 そうだ・・・俺が好きなのは・・・俺がこれまでずっと好きだったのは・・・!! 「・・・違う・・・!!」 「な・・・!?」 「俺が好きなのは!!」 驚愕の表情を見せるアイリスディーナを無視し、テオドールはリィズの身体をぎゅっと抱き締め、はっきりと告げたのだった。 「俺が好きなのはリィズ!!お前だ!!」 「・・・っ!?」 リィズは一瞬、テオドールが何を言っているのか理解出来なかった。 だが自分を抱き締めるテオドールの身体の温もり、そして力強い腕の感触が、すぐにテオドールの言葉の意味を理解させた。 とても真剣な表情で、テオドールはリィズの身体をぎゅっと抱き締め続けている。 「俺はずっと昔から、お前の事が好きだった・・・だけどお前は義理とは言え俺の妹だから・・・お前を好きになるのはまずいんじゃないかって、ずっとお前への気持ちを押し込めていたんだ。」 「・・・お兄ちゃん・・・。」 「お前が俺の恋人になる事で、お前が周囲から白い目で見られるんじゃないかって・・・お前が学校でいじめられるんじゃないかって、ずっとそう思ってた・・・だけど違うだろ・・・そうじゃないだろ・・・!!」 リィズを酷い目に遭わせたくないから、自分が身を引かなければ・・・そんな物は言い訳に過ぎないのだ。 テオドールはとても真剣な瞳で、涙目になったリィズを見つめる。 そして今にも泣きそうなリィズの頬を、そっ・・・と右手で撫でてあげたのだった。 今にも不安で押し潰されそうなリィズを、安心させる為に。 「もしお前に酷い目に遭わせる奴らがいるのなら・・・俺がお前を守る!!」 「お兄ちゃん・・・!!」 「だって俺は・・・俺はお前の・・・お兄ちゃんなんだから!!」 「お兄ちゃああああああああああああああああああん!!」 互いの唇を貪り合い、互いの身体を抱き締め合うテオドールとリィズ。 キスは1人3秒まで・・・だが互いに兄妹の縛りを解き放ち、恋人同士となった今となっては、そのルールは最早何の意味も成していなかった。 長い長いキスの後、互いに潤んだ瞳で、互いを見つめ合うテオドールとリィズ。 その様子をアイリスディーナが、信じられないといった表情で見つめていた。 「馬鹿な・・・私がお前に施した洗脳を、こうもあっさりと打ち破るとは・・・!!」 「ああそうさ、俺は危うくお前の言葉に飲み込まれる寸前だった・・・だが俺のリィズへの想いが、リィズの俺への想いが、俺を正気に戻してくれたんだ・・・!!」 「くっ・・・それ程までの強い絆だとでも言うのか・・・!!」 2人の想いの強さをこうもはっきりと見せ付けられてしまったのでは、さすがのアイリスディーナも何も言い返す事は出来なかった。 誰がテオドールと恋人同士になっても恨みっこ無し・・・それを言い出したのは他でもない、アイリスディーナ自身なのだから。 いや、アイリスディーナだけではない・・・カティアもアネットもキルケもファムもベアトリクスも。 誰もがテオドールとリィズの事を、複雑な表情で見つめていた。 「お兄ちゃん、大好き・・・世界中の誰よりも、お兄ちゃんの事が大好き!!」 あおーーーーーーーーーん(泣)!! 家の外でアスクマンが、何やら変な叫び声を上げていたのだった・・・。 5.何はともあれ日はまた昇る。 かくして、テオドールとリィズは無事に恋人同士となった。 その事をテオドールとリィズは朝食を食べながら、すぐに両親に報告した。 突然の出来事にさすがに驚きを隠せなかった両親だったのだが、それでも2人なら大歓迎だと温かく祝福されたのだった。 ただし少なくとも2人が高校を卒業し、テオドールが就職するまでは、絶対に一線を超えない事・・・それだけは両親から強く念を押され、テオドールもリィズも快く了承したのだった。 まだ高校生の内にリィズを妊娠させるような事態になってしまったら、それこそテオドールもリィズも、周囲から侮蔑の目で見られてしまいかねない・・・それはテオドールもリィズも重々承知しているのだから。 そして噂が流れるのは本当に早い物で、2人が恋人同士になったという事実は、すぐに学校中に伝わる羽目になってしまった。 その事でリィズがいじめられるんじゃないかと正直不安だったテオドールだったのだが、意外にもそんな事は無かったようで、リィズはクラスメイトたちからすんなりと祝福されたのだった。 またバイト先のファミレスでも、テオドールとリィズはすぐにユルゲンに報告し・・・ユルゲンは正直残念だ、君には妹と添い遂げて欲しかったと苦笑いしながらも、それでも妹の分まで2人で幸せになってくれと祝福されたのだった。 まさに名実共に、テオドールとリィズは恋人同士となった・・・はずなのだが・・・。 「・・・な・・・何で・・・!?」 その翌日の朝・・・テオドールを起こしに来たリィズが目撃したのは・・・これまでと同様にテオドールに添い寝をするアイリスディーナだった。 アイリスディーナは勝ち誇った笑顔で、威風堂々とリィズを見据えている。 「やあ、お早うリィズ。」 「お早うじゃないわよ!!何でアンタは未だにお兄ちゃんに添い寝してるのよおっ!?」 全身から漆黒のオーラを放ちながら、リィズは無理矢理アイリスディーナを引き離そうとする。 だがアイリスディーナもまた全身から白銀のオーラを放ち、必死にテオドールにしがみついてリィズに抵抗しようとする。 「あのねえアイリス、お兄ちゃんは私と恋人同士になったのよ!?」 「ああそうだ。誠に遺憾ながら、テオドールが将来の妻として選んだのは私ではなくお前だ。」 「だったら何でアンタはお兄ちゃんにちょっかいを出してくるのよぉっ!?」 リィズの質問に、アイリスディーナは威風堂々と、はっきりと宣言したのだった。 「私はテオドールの妻になるのは諦めた。だから私はテオドールの愛人になる事にしたのだ。」 「・・・あ・・・い・・・じ・・・ん・・・!?愛人~~~~~~~~~~(激怒)!?」 「だからお前はお前で、勝手にテオドールと仲睦ましくするがいい。私は私で勝手にテオドールと愛を深めさせて貰うからな。」 「はあああああああああああああああああああああああああああ(激怒)!?」 何だよ、こんな朝早くから、うるさいなぁ・・・耳元でリィズとアイリスディーナに騒がれて目を覚ましたテオドールだったのだが・・・目の前で何が起こっているのか一瞬理解出来なかった。 だが数秒後・・・自分の顔に押し付けられているアイリスディーナの豊満な胸の感触、そして物凄い形相で自分を睨みつけるリィズの姿に、すぐに今の状況を理解したのだった。 「・・・あっれええええええええええええええええええええええ(泣)!?」 「やあ、お早う我が愛人よ。」 「あ・・・い・・・じ・・・ん・・・!?愛人~~~~~~~~~~~~~(泣)!?」 「そういう訳だからテオドール。これからもよろしく頼むぞ。はははははは。」 「はははははは、じゃねえだろおおおおおおおおおおおおおおお(泣)!!」 アイリスディーナを振りほどいて慌てて起き上がったテオドールだったのだが、そこへテオドールの携帯電話にカティアからの着信が届いたのだった。 「・・・もしもし、こんな朝早くから一体どうしたんだよ?カティア。」 『テオドールさん、すぐにテレビを付けて下さい!!』 「テレビを付けろってお前、一体何を・・・」 『いいから早く!!大変な事になってるんですよ!!』 「・・・大変な事・・・?お前一体何を・・・。」 怪訝に思いながらテオドールが部屋のテレビを付けると・・・そこに映されていたのはドイツの首相の緊急記者会見の生放送だった。 そして何故か青ざめた表情の首相の隣には、何故か妖艶な笑みを浮かべるベアトリクスの姿が。 テレビに表示されたテロップに書かれていた内容・・・それは・・・。 『首相、一夫多妻制度の緊急成立を発表。』 「い・・・いっぷ・・・たさい・・・!?きんきゅう・・・!?は・・・あ・・・え・・・!?」 唖然とした表情のテオドールを尻目に、ドイツの首相が何故か怯えた表情で記者会見に望んでいたのだった・・・。 『・・・そ、そういう訳でありまして、昨日の夜に緊急で行った閣僚会議の結果・・・我ら統一ドイツにおいて、本日付けで一夫多妻制度を成立させる事と相成りました・・・。』 『首相、今回の一夫多妻制度という、極めて異例となる法案を成立させた事について、首相の真意をお聞かせ下さい!!』 『い、一夫多妻自体は、世界中で見れば特に異例という訳ではありません・・・皆さん意外にお思いでしょうが、じ、実は日本でも江戸時代までは側室制度という物がありまして・・・』 と言うかこの首相は、一体何をそんなに怯えているのだろう。 と言うかベアトリクス先輩は、こんな所で一体何をやっているのだろう。 と言うか一夫多妻制度って一体何。 色々とツッコミを入れたくなる衝動を必死に抑え、テオドールはテレビの緊急特番をじっ・・・と見つめていたのだった。 アイリスディーナもリィズも口をポカーンとさせながら、テオドールの奪い合いを一旦止めて、テレビの画面を眺めていたのだが・・・。 『今回の一夫多妻制度の導入によって、1人の男性に複数の女性が集中し、結果として結婚したくても出来ない若者が増えるのではないかと私は危惧しております。その点についてはどうお考えなのでしょうか?』 『そ、それに関しましては・・・』 なんかベアトリクスが妖艶な笑顔で、首相の耳元でブツブツ呟いていた。 『ほ、本来恋愛という物は、もっと自由であるべきであり・・・』 『私は首相に聞いているのです!!と言うか彼女は一体何なのですか!?』 『い、一夫多妻制度以外の質問に関しては、申し訳ありませんがノーコメントで・・・。』 『では一夫多妻制度の質問に戻らせて頂きますが、首相は自由な恋愛を掲げてはいますが、やはり1人の男性が複数の女性と同時に結婚するというのは、やはり歪な形だとしか・・・!!』 なんかもう、何からツッコミを入れたらいいのか、全然意味が分からない。 唖然とした表情のテオドールに、カティアがさらにとんでもない事を告げたのだった。 『そういう訳なので、私は今からテオドールさんの愛人になります!!』 「・・・はあああああああああああああああああああああ!?」 『正妻の座はリィズさんに譲りますが、それでも私は愛人としてテオドールさんの傍にいますから!!それなら文句無いですよね!?』 「おまおまおまおまおま、お前いきなり何言って・・・!?」 『いやだって、たった今法律で認められたじゃないですか!!そういう訳なんで今からテオドールさんの家に挨拶に伺いますねっ!!それではっ!!』 「ちょ・・・!?」 ツー、ツー、ツー・・・。 ピロリロリン、ピロリロリン♪ カティアからの通話が一方的に切れた後、さらにキルケからの着信が鳴り響いた。 「も・・・もしもし・・・」 『・・・あ、やっと繋がった。テオドール君、テレビ見た?』 「・・・ま、まさか・・・!!」 『そのまさかよ。私、テオドール君の愛人になる事にしたから。』 「お前もかよおおおおおおおおおおおお(泣)!?」 『今から貴方の家に挨拶に行かせて貰うわ。それじゃあね。』 ツー、ツー、ツー・・・。 ピロリロリン、ピロリロリン♪ キルケからの通話が一方的に切れた後、さらにアネットからの着信が鳴り響いた。 「・・・お前も俺の愛人になるって言うのかよ(泣)!?」 『うわっ、びっくりした!!いきなり大声出さないでよ!!』 「わ、悪い・・・じゃなくて(泣)!!」 『まあ理解してるなら話は早いよ。そういう訳だから、今からアンタの家まで挨拶に行くわ。それじゃ。』 ツー、ツー、ツー・・・。 ガチャッ。 アネットからの着信が一方的に切れた後、さらにファムがいきなり部屋に入ってきた。 「うわあああああああああ!!うわああああああああああああああああああああ(泣)!!」 「テオドール君~、私、貴方の愛人になる事にしたわ~!!」 「アンタは一体何なんだああああああああああああああああ(泣)!?」 ファムに抱き締められたテオドールに、さらにテレビを通してベアトリクスが呼びかけてきた。 『・・・そういう訳だからテオドール・・・私は貴方の愛人になる事にしたわ。』 「ひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい(泣)!!」 『これで後腐れなく貴方の傍にいられるという訳ね・・・ふふふ・・・あははははははは!!』 なんかもう何が何だか、全然意味が分からないテオドール。 そんなテオドールを逃がすまいと、アイリスディーナもファムと競うようにテオドールを抱き締めた。 2人の女子に左右から抱き締められて、身動きが出来ないテオドール。 「成る程、これで何も気にする事無く、堂々とお前の愛人になれるという訳だな。」 「ぎゃあああああああああああああああああああああああ(泣)!!」 「・・・お~に~い~ちゃ~あ~ん(激怒)?」 「リィズーーーーーーーーーーーーーーーーーーー(泣)!!」 リィズが放った漆黒のオーラが、部屋中を激しく暴れ回ったのだった・・・。 「これじゃあ今までと何も変わらないじゃないのよおおおおおおおおおっ!!お兄ちゃんの馬鹿あああああああああああああっ(激怒)!!」 あおーーーーーーーーーーん(泣)!! 家の外でアスクマンの叫びが聞こえたような気がしたのだった・・・。 前半へ 戻る
https://w.atwiki.jp/chibifantasy2/pages/918.html
ミティオドール ペット説明 初期ステータス HP SP 攻撃力 防御力 105 8 14 3 魔力 魅力 運 素早さ 5 4 3 7 火 水 風 土 11 7 0 12 技・魔法スキル スキル名 使用SP 効果 習得レベル 第1スキル名 - - - 第2スキル名 - - - 第3スキル名 - - - 適正装備 装備箇所 装備適正 武器 不明 左手 不明 頭 不明 上 不明 下 不明
https://w.atwiki.jp/schwaken-extra/pages/19.html
シュヴァルツェスマーケン・えくすとら♪ 第1話「ドタバタ学園生活の始まり」(前半) 1.新しい朝 『勝てるなんて・・・まだ信じてるの・・・?』 テオドールの全身全霊の捨て身の攻撃によって、リィズの全身に戦術機の破片が次々と刺さり・・・それでも激しい出血の中、息絶え絶えになりながらも、リィズは愛しの表情で眼前のテオドールを見つめていた。 『反乱軍なんて馬鹿ばっかり・・・嘘つきばっかりなんだよ・・・。』 『・・・・・。』 『どうせすぐに逃げ出す・・・だから・・・助けてあげようと・・・したのにさ・・・お兄ちゃん馬鹿で頑固だから・・・。』 (・・・お兄ちゃん!!) 『どうしてなの・・・?ねえ、分かんないよ!!どうしてそんなに反乱軍が好きなの!?』 『・・・リィズ・・・。』 『あいつらお兄ちゃんを利用してるだけだよ!!東ドイツを変えてみせる!?嘘だよ!!出来るはずがない!!そんなの出来るはずが・・・っ!!あがっ、がはあっ!!』 激しい吐血によって、リィズの言葉が遮られる。 これだけの傷では、リィズはもう助からないだろう・・・テオドールは悲しみの表情で、自分が傷つけた・・・傷つけざるを得なかった、たった1人の大切な妹を見つめていた。 (・・・ねえ、お兄ちゃんってば!!) (ううん・・・むにゃむにゃ・・・あと5分・・・) それに仮に助かったとしても、革命軍は決してリィズを許さないだろう。 兄を助ける為だったとはいえ、リィズはシュタージの一員として多くの人々をその手に掛け、そしてかつての仲間にさえも拷問をしでかし・・・ファムを殺したのだ。 いずれにしてもこのままリィズを助けたとしても、待っているのは革命軍による公開処刑だ。 いや・・・かつてリィズが666小隊の者たちに行ったように、過酷な拷問によって生き地獄を味あわされ続けられる事になるかもしれない。 『・・・ねえ・・・私と来て、お兄ちゃん・・・私はただ、お兄ちゃんと一緒にいたいだけ・・・!!』 そうなる位なら、いっそ俺がこの手でリィズを楽にしてやらなければ・・・テオドールは覚悟を決めて、ハンドガンの銃口をリィズに向けた。 『・・・お前と一緒に逝く事は出来ない。俺には叶えなければならない願いがある。』 『・・・お兄・・・ちゃん・・・。』 『ごめんなリィズ・・・父さんに言われてたのに、お前の事を守ってやれなくて・・・!!』 (早く起きないと、学校に遅刻しちゃうよ!!) (うるさいなあリィズ・・・あと5分って言ってるだろ・・・。) 『お前が俺をシュタージから救ってくれた・・・だから今度は、俺がお前をシュタージから救ってやらなきゃな・・・!!』 目に大粒の涙を流しながら、ハンドガンの引き金に指を掛けるテオドール。 そんなテオドールの心情を察したのか、リィズも安らかな笑顔で、特に抵抗もせずに、自分に銃口を向けるテオドールを見つめていた。 (んもう、お兄ちゃんの頑固者!!こうなったら・・・!!) 『だって・・・俺は・・・俺はお前の・・・お兄ちゃんなんだから・・・!!』 『お兄・・・ちゃん・・・』 パァン!! テオドールが放った銃弾が・・・リィズの脳天を貫いたのだった・・・。 身を震わせ嗚咽するテオドールを、駆けつけたアネットが優しく抱き締め・・・ 「いい加減・・・起きろーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」 「うおああああああああああああああああああああああああっ!?」 リィズに無理矢理布団をひっぺ返され、テオドールは強引に叩き起こされたのだった・・・。 春の清々しい陽気に包まれ、未だに虚ろな意識の中、テオドールの視界に映ったのは・・・頬を膨らませながら自分を見つめている、制服姿のリィズの姿だった。 訳が分からないまま、テオドールは無理矢理リィズに手を引っ張られて、強引にベッドからも強制的に立ち上がらされる。 「・・・は?・・・あ?・・・え!?」 「もう、お兄ちゃんったら、やっと起きてくれた・・・。」 「リ、リィズ・・・!?何でお前がここにいる!?」 「何でって、お兄ちゃんが全然起きないから、お母さんに頼まれて起こしに来たに決まってるでしょ!?」 そう言いながらもリィズは慣れた手つきで、テオドールのパジャマのボタンを次から次へと外しにかかるのだった。 あまりの恥ずかしさに、テオドールは思わず赤面してしまう。 「分かった、分かったから、あとは俺が自分でやるから、お前は部屋を出て行ってくれ!!」 「やだ。」 「何でだよ!?」 「お兄ちゃんが二度寝しないように監視してろって、お母さんに言われてるもん。」 「いや、だったらせめて後ろを向いててくれ!!このままだと恥ずかしくて、とてもじゃないが着替えられねえんだよ!!」 そう言ったテオドール自身が後ろを向いて、慌ててパジャマを脱いで制服に着替え始めた。 不貞腐れるリィズだったが、まぁリィズの気持ちも分からなくもない。 今日から新しい高校生活が始まるというのに、初日から寝坊して遅刻なんて事になったら、それこそホーエンシュタイン家は近所の笑い者だ。 自分が笑われる分には全然構わないのだが、これでもホーエンシュタイン家に居候させて貰っている身なのだ。リィズや彼女の両親にまで迷惑を掛けるわけにはいかない。 気を引き締めながら、テオドールはネクタイをせっせと結ぶ。 それにしても、先程まで寝ていた時に観たあのリアルな夢は、一体何だったのか。 何故か互いに巨大なロボットに乗って自分とリィズが殺し合って・・・そして戦いに勝利した自分が強引にリィズの機体のコクピットをこじ開け、何故か自分がリィズを銃で殺してしまった夢。 夢と呼ぶにはあまりにもリアルで・・・そしてあまりにも悲しくて残酷な・・・。 いやいやいやいやいや、そんな事は今更どうだっていい。 1階では今頃リィズの両親が朝食を用意して、テオドールとリィズが降りてくるのを今か今かと待っているはずだ。 というか、早くしないと本当に学校に遅刻してしまう。 「ふう・・・よし、着替えたぞリィズうえあああああああああああああああああ!?」 「もう、お兄ちゃんったら遅い~。」 「いやいやいやいやいや、何で後ろを向いてないんだよお前は!?」 「・・・ところでお兄ちゃんってトランクス派だったんだぁ。」 「はあああああああああああああああああああああん(泣)!!」 下着姿を見られてしまった・・・。 「リィズの馬鹿・・・俺・・・俺・・・もうお婿に行けない!!」 「もう、何馬鹿な事言ってるのよ・・・ほら、ネクタイ曲がってるよ?」 溜め息をつきながら、リィズはテオドールの曲がったネクタイを、慣れた手つきでさっさと修正したのだった。 頬を赤らめながら、リィズは小さな声で、そっ・・・と呟く。 「・・・お婿に行けないなら、私がお兄ちゃんを貰ってあげるんだから・・・。」 「は?今何か言ったか?リィズ。」 「う、ううん、何でもない!!ほら、ネクタイ直したから、早く朝ご飯食べに行こ!?」 「あ、ああ・・・。」 リィズに手を引っ張られ、テオドールは慌てて1階の居間へと向かう。 漂ってくる焼きたてのパンのとてもいい香りが、目覚めたばかりのテオドールの食欲を刺激したのだった。 居間ではリィズの父親が新聞を読みながら優雅にコーヒーを飲んでおり、リィズの母親が父親の分の食器をせっせと片付けていた。 空いた2人分の席に、出来立てのオムライスと食パン、サラダ、コーヒーが並べられている。 「お早う。テオドール君があまりにも遅いから先に食べさせて貰ったよ。はっはっは。」 「ああ、ごめんな父さん、ちょっと寝坊しちゃって・・・。」 慌てて席に着いたテオドールは、母親の手作りの朝食をとても美味しそうに食べ始めた。 テオドールの隣の席で、リィズもまたテレビを観ながら美味しそうに朝食を食べている。 家族4人での一家団欒の、当たり前の光景・・・だがテオドールは自分がその「当たり前の光景」の中に溶け込めている事に、心の底から充実感を覚えていた。 何故ならテオドール自身が、かつてはこの「当たり前の光景」を享受する事が出来ない環境に置かれていた経験があるのだから。 テオドールは幼い頃に両親を事故で亡くし、児童養護施設で育てられていた。 そんな彼をリィズの両親・・・テオドールの母親の遠縁の親戚であるホーエンシュタイン家が善意で引き取り、こうして家族として迎えられたのだ。 だがこうして家族としての幸せを掴み取ったテオドールとは対照的に、今でも虐待され、施設や親族にたらい回しにされ、天涯孤独になってしまう子供たちもまた大勢いる。 そしてこうしている今もまたテレビのニュースにおいて、母親が娘を虐待して逮捕されたなどという報道がなされていた。 自分が両親を失ったからこそ、幸せを掴み取ったからこそ、こういったニュースを聞くたびにテオドールは悲しい気持ちになってしまうのだが・・・。 「・・・ご馳走様、母さん。凄く美味しかったよ。」 冷めかけたコーヒーをさっさと口の中に流し込んだテオドールは立ち上がり、自分の分の食器を流し台へと片付けたのだった。 今こうして自分が幸せを掴み取った以上、自分と違い天涯孤独になってしまった子供たちの分まで、精一杯幸せに生きないといけない・・・それが幸せを掴み取った自分がやらなければならない事なのだと、テオドールはそう考えているのだ。 「ほらお兄ちゃん、朝ご飯食べたなら早く学校に行こう!?早くしないと入学式に間に合わないよ!?」 「分かった、分かったからリィズ、そんなに引っ張るなって。」 「2人共、今日はお昼までには帰って来れるのよね?」 「ああ、今日は入学式だけだから、昼までには帰ってくるよ。」 リィズに手を引っ張られながら、テオドールは慌てて靴を履いて玄関を出る。 入学式に相応しい、とても清々しい青空、そして温かい太陽の日差しが、テオドールとリィズを優しく包み込んでいた。 一体友達が何人出来るのだろうか・・・リィズと同じクラスになれるのだろうか・・・どんな充実した学園生活が待っているのか・・・テオドールはそんな期待を胸に抱き・・・。 「行ってらっしゃい2人共。車に気をつけてね。」 「ああ、それじゃあ行ってきます!!」 リィズの母親に見守られながらリィズと手を繋ぎ、テオドールは清々しい笑顔で新たな学園生活への第一歩を踏み出したのだった。 2.学園生活の始まり リィズはテオドールの事を「お兄ちゃん」などと呼んでいるが、リィズの方が誕生日が2ヶ月程遅いだけであり、2人は同い年で同学年である。 それでもテオドールが養子に来るまでは一人っ子で、寂しい思いをしてきた影響もあるからなのか、リィズはテオドールの事を最高のお兄ちゃんだと思っているのだ。 そんなリィズの事を怪訝な目で見る近所の人たちも少なからずいるのだが、当のリィズ本人は全く気にしておらず、公衆の面前でテオドールと手を繋いだり腕にしがみついたりと、事ある毎にテオドールに甘えまくっている。 こんな日々が、永久に続けばいいのに・・・リィズは心の底からそう思う。 互いに手を繋ぎながら、テオドールとリィズは幸せそうな笑顔で学校へと向かっているのだが。 「そう言えば今日さ・・・変な夢を観たんだよなあ・・・。」 信号待ちをしている時、ふとテオドールがそんな事を言い出した。 「変な夢?どんな?」 「・・・何故か俺がリィズを銃で撃ち殺す夢。」 「何で私がお兄ちゃんに銃殺されないといけないのよおっ!?」 「そんなの俺が知りてえよ・・・。だけど妙にリアルな夢だったんだよなあ・・・。」 あの時のハンドガンを手にする感覚、そしてロボットの操縦桿を握る感覚が、何故か今もテオドールの手に深く染み付いてしまっているのだ。 そう・・・まるで今すぐにあのロボットを動かしてみろと言われたら、何故か自分の手足を操るかのように自由に動かせそうな程までに。 だが一体何でまたテオドールがそんな物騒な夢を観たのかは知らないが、よりにもよってこんな日に縁起でもない・・・目を潤ませながら、リィズはテオドールの左腕にしがみついたのだった。 「お、おいリィズ・・・。」 「もうその話はおしまいっ!!お兄ちゃんが私を殺すなんて縁起でもないよ!!」 「・・・ま、まあ・・・確かにそうだけどさ・・・。」 「だから、もう夢の事は忘れて!?ね!?」 あまりにも現実離れした、現実には絶対に有り得ない夢なのだが・・・それでもリィズは不安で不安で仕方が無いのだ。 もしかしたらお兄ちゃんが、どこか遠くへ行ってしまうのではないかと。 テオドールもリィズの不安を察したのか、もう夢の事を深く考えるのは一切止める事にした。 確かにリアル過ぎて気になってしまうのだが、だからと言って気にした所で仕方が無い。 「・・・ああ、悪かったなリィズ。突然変な話をしちまってさ。」 「ううん、分かってくれればいいんだよ、お兄ちゃん。」 「さて、信号が青だし、そろそろ行くか。」 再び互いに仲良く手を繋ぎながら、テオドールとリィズは今日から通う事になる高校・・・「私立マブラヴ学園」の校門を潜り抜けた。 随分と妙な名前の学校だが、去年発足したばかりの学校なのだそうで、上級生も2年生までしかいないらしい。 校門で待ち構えていた教師の指示を受けて、テオドールとリィズはクラス分けの一覧が掲載されている看板が設置してある、グラウンドの奥へと向かったのだが。 「・・・やったねお兄ちゃん、私達同じクラスだよ!!」 「ああ本当だ。中学の時はお前と別々だったから、ちょっと不安だったんだけどな。」 歓喜の表情で、リィズはテオドールの腕にしがみついたのだった。 というか中学時代はリィズがテオドールにあまりにもべったりだったもんだから、教師たちが教育上良くないとか不謹慎だとかで、無理矢理2人を別々のクラスにしてしまったのだ。 まあ確かにクラスは別々になったのだが、リィズが休み時間の度にテオドールのクラスに突撃する上に、結局は家に帰れば一緒になるのだから、中学時代の教師たちの思惑はあんまり意味が無かったりする。 周囲の同級生たちもテオドールとリィズ同様、クラス分けの一覧を見て一喜一憂していたのだが。 「さて、俺たちのクラスは1年3組だったな・・・。」 もうそろそろ教室に行かなければならない時刻だ。こんな所でいつまでものんびりしている訳にはいかない。 だが、テオドールとリィズが教室に向かおうとした、その時だ。 「きゃあああああああああああああっ!!」 悲鳴が聞こえたと思った瞬間、クラス分けの結果に一喜一憂している新入生たちの集団から、1人の少女が弾き飛ばされた。 少女はとても痛そうに足を押さえている。どうやら新入生の1人が派手に暴れた際に突き飛ばされてしまい、右足を捻ってしまったようだ。 慌ててテオドールが少女の下に駆けつけ、心配そうな表情でしゃがみ込む。 「おい、大丈夫か!?」 「は、はい・・・い、痛っ・・・」 「馬鹿野郎!!てめぇら少しは周りの迷惑も考えやがれぇっ!!」 真剣な表情でテオドールに怒鳴り散らされ、少女を突き飛ばしてしまったらしい小太りの男が、申し訳無さそうに少女に謝罪したのだが。 右足を手で押さえる今の少女には、男の謝罪を受け入れる余裕さえも無いようだった。 「・・・どうやら足を捻ったみたいだな・・・待ってろ、すぐに保健室に連れて行ってやるからな。」 「いえ、私の事はどうかお構いなく・・・っ・・・!!」 「何馬鹿な事言ってんだ。目の前の怪我人を放っておく事なんて出来るわけねえだろ。」 「だけど私のせいで貴方が、入学初日から遅刻なんて事になってしまったら・・・」 「そんなの別に気にすんな。先生に事情を話せば分かってくれるだろ。」 「ですが・・・きゃあっ!?」 問答無用で、テオドールは少女をお姫様抱っこしたのだった・・・。 いきなりの出来事に周囲の者たちが一斉に驚きの声を上げ、中には携帯やスマホを取り出して、ツィッターや2ちゃんねるで実況する者たちまで現れる始末だ。 「ちょ、ちょっとお兄ちゃん!?」 「悪いリィズ、そういう訳だからお前は先に教室に行って、先生に事情を話しておいてくれ!!」 「ま、待ってお兄ちゃん、お兄ちゃんってばあっ!!」 「頼んだぞリィズ!!それじゃあな!!」 少女をお姫様抱っこし、物凄い速度で保健室へと走り去るテオドール。 そんなテオドールの後ろ姿を、周囲の誰もが唖然とした表情で見つめていたのだが・・・。 「・・・お・・・お兄ちゃん・・・!!」 「・・・えーと、君・・・彼の事をお兄ちゃんとか言ってたけど、もしかして彼の双子の妹さんか何かかな?」 騒ぎの張本人になってしまった、先程少女を突き飛ばしてしまった男が、とても申し訳無さそうな表情でリィズに謝罪に来たのだった。 少女に怪我をさせてしまった事は当然そうだが、少女も言っていたように自分のせいでテオドールが遅刻なんて事になってしまったら・・・彼はそれを危惧していたのだが・・・。 「・・・・・。」 「僕の不注意のせいで本当にごめんよ・・・中学の頃からの友達と一緒のクラスになれて嬉しくてさ・・・つい我を忘れちまったんだ・・・。」 「・・・・・。」 「だけど、僕の方からも先生に言っておくからさ・・・彼女の事は彼に任せて、君も遅刻しない内に早く教室に行った方が・・・。」 テオドールの後ろ姿を見守るリィズの肩に、軽く手を触れる男。 だがリィズが振り向いた、その瞬間・・・リィズの形相を見た男は恐怖のあまり、思わず腰を抜かしてしまったのだった・・・・。 「ひ、ひいっ!?」 「・・・お兄ちゃんとお姫様抱っこお兄ちゃんとお姫様抱っこお兄ちゃんとお姫様抱っこお兄ちゃんとお姫様抱っこお兄ちゃんとお姫様抱っこ・・・!!」 「ちょ、ちょっと・・・君・・・!?」 「お兄ちゃんにお姫様抱っこして貰うなんて、私でさえまだ経験無いのに・・・!!それなのにあの女、いきなり現れたと思ったら何なのよ・・・!?あんなに嬉しそうにしてさあ・・・!!」 物凄い形相で、歯をギリギリと食いしばり、目の前で腰を抜かしている男を睨みつけるリィズ。 なんかもう、リィズの全身から凄まじい漆黒のオーラが溢れていたのだった・・・。 「おいそこのクソデブ!!アンタのせいでお兄ちゃんは遅刻しそうなのよ!!私も保健室に行くから、早く先生に事情を説明しに行けこのクズ野郎がぁっ!!」 「ひ、ひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!!」 恐怖に怯えた表情で、慌てて職員室まで走り出す男。 そんな男の後ろ姿を、まるで汚物でも見るかのような物凄い表情で見つめていたリィズだったの だが。 「・・・待っててねお兄ちゃん、私もすぐに行くから!!」 今度は一転して物凄く心配そうな表情で、慌てて保健室へと走り出す。 その様子を周囲の者たちが、唖然とした表情で見つめていたのだった・・・。 3.出会い、そして再会 結局テオドールの迅速な行動のお陰で、少女の捻挫は軽症で済んだようで、テオドールとリィズは少女を保健室に残したまま、そのまま教室に行かずに入学式に直行したのだった。 だが入学式を終えて教室に向かったテオドールを待っていたのは、先程少女をお姫様抱っこして保健室に連れて行った事に対する、クラスメイトからの絶賛の嵐。 男女問わずに沢山のクラスメイトたちに囲まれて質問攻めに遭い、戸惑いを隠せないテオドールだったが、あれだけの騒ぎを起こしてしまったのだから仕方が無い事だと言えるだろう。 これはもう友達が出来るのかどうかとか、最早そういうレベルの話ではない。 完全にテオドールは、クラスメイトたちから英雄扱いされてしまっているのだ。 「おいお前ら。そこの2人が困ってるだろうが。いい加減席に着け。」 そんな騒ぎの中、1年3組の担任となった先生が教室にやってきた。 テオドールを取り囲んでいたクラスメイトたちが、慌てて席に戻る。 「テオドールとリィズは初めましてだな。改めて自己紹介させてもらうぜ。今日からこのクラスの担任を務める事になったヨアヒム・バルクだ。」 テオドールたちの担任の先生となったヨアヒムは、いかにも筋肉質で豪傑な、とても大雑把な性格の中年男性といった感じだったのだが・・・。 「どいつもこいつもいいケツしてやがるなあ。お前ら今日からよろしく頼むぜ。」 ウホッ。 「さて、今日からお前らは晴れてこのマブラヴ学園の生徒となった訳だが、晴れやかな高校生活を満喫するにあたって重要な・・・」 ガラガラガラッ!! ヨアヒムが言いかけた所へ、突然教室のドアが開け放たれたのだった。 そこに現れたのは・・・先程テオドールがお姫様抱っこして保健室に連れて行った少女。 どうやら彼女は偶然にも、テオドールやリィズと同じクラスだったようなのだが・・・。 「す、すみません、遅くなりました~!!」 「おうカティア。足の方はもう大丈夫なのか?」 「は、はい、テオドールさんが助けてくれたお陰・・・」 カティアと呼ばれた少女がテオドールの姿を確認し、とても満面の笑顔を浮かべたのだった。 テオドールもまた、カティアの姿を見て驚きを隠せない。 そしてリィズもまた、カティアの姿を見て漆黒のオーラを隠せない。 「・・・ああああああああああああああああああ!!テオドールさん!!」 「カティア、お前・・・!!俺と同じクラスだったのかよ!?」 「私もびっくりです!!まさかテオドールさんと同じクラスだったなんて・・・!!」 むぎゅっ。 とっても嬉しそうに、カティアは慌てて立ち上がったテオドールに抱き着いたのだった。 いきなりの出来事にクラスメイトの誰もが驚きの声を上げる。 「ちょ、ちょっと、おま・・・」 「えへへ、テオドールさんと同じクラスだなんて・・・嬉しいなあ・・・」 「ちょっとカティアちゃん!!お兄ちゃんが困ってるじゃないの!!離れなさいよぉっ!!」 大好きなお兄ちゃんを取られてたまる物かと、慌ててカティアを引き剥がしにかかるリィズだったが、カティアもまたリィズに必死に対抗して、テオドールを決して放そうとしない。 なんかもう、睨み合うリィズとカティアの視線の間で、物凄い火花がバチバチと鳴っていた・・・。 「・・・い~や~で~す~、放しません~っ!!そもそもテオドールさん、全然困ってるように見えないんですけど~っ!!」 「大体アンタが席に着かないせいで、先生の話が滞ってるじゃないのよ!!少しは先生の事も考えてあげなさいよぉっ!!」 「じゃあ私、このままの体勢で先生の話を聞きます!!それなら文句無いですよね!?」 「何でお兄ちゃんがそんな羞恥プレイを強要されないといけないのよぉっ!?」 強引にカティアをテオドールから引き離し、慌ててテオドールを庇うように立ちはだかるリィズ。 その様子をクラスメイトたちが、とても面白そうな表情で眺めていたのだった。 中には携帯やスマホを取り出し、ツィッターや2ちゃんねるで実況する者たちも・・・。 「ほら、さっさと空いてる席に座りなさいよ!!丁度お兄ちゃんの隣の席が空いて・・・っ!?」 「やったあ!!テオドールさんの隣の席です!!」 「ちょっと先生!!何でカティアちゃんがお兄ちゃんの隣の席なんですかぁっ!?」 「別にいいじゃないですか、リィズさんだってテオドールさんの隣の席なんだし!!」 「むぐぐ・・・!!」 「ぬぐぐ・・・!!」 睨み合うカティアとリィズに挟まれ、戸惑いの表情を隠せないテオドール。 このままでは話が進まないもんだから、ヨアヒムも涙目になりながら2人に着席を促したのだが。 「・・・あ~お前ら・・・取り敢えず落ち着け。落ち着いてとにかく席に着け。いやマジで席に着いて下さいお願いします(泣)。」 「「・・・・・。」」 さすがに自分たちの争いのせいで先生が困っている事を自覚したのだろうか。 リィズもカティアも納得行かないといった表情ながらも、渋々自分の席に着席したのだった。 それからヨアヒムから3年間の高校生活を送るにあたっての注意事項とか、明日からの予定とか、アルバイトは禁止ではないが事前に申請して許可が必要とか、購買の焼きそばパンとコロッケロールは1日50食限定だから気をつけろとか、とにかく色々な話を長々と、しかし生徒たちが退屈しないようにユーモア溢れる語り口で告げられたのだが。 ヨアヒムがそんな話をしている間にも、カティアとリィズが互いに牽制し合うように睨み合っていたのだった・・・。 「・・・な、なあ・・・お前ら俺の話ちゃんと聞いてる・・・?」 「アルバイトは事前に申請が必要なんですよね!?」 「購買の焼きそばパンとコロッケロールは1日50食限定なんですよね!?ご心配なく!!お兄ちゃんのお弁当は毎日私が作ってあげるんだから!!」 「そ、そうか・・・ちゃんと聞いてくれてるならいいんだけどさ・・・いいんだけどさっ・・・ぐすん(泣)」 キーンコーンカーンコーン・・・。 そうこうしている内に、あっという間に下校時刻になってしまったようだ。 「・・・ま、まぁ話が長くなっちまったが、とにかく要約するとだな・・・お前ら高校生活を存分に楽しめよって事だ。それじゃあ今日はこれで解散な。」 起立~。礼~。 ヨアヒムが教室を去った瞬間、再びテオドールの奪い合いを再開するリィズとカティア。 互いにテオドールの腕にしがみつき、テオドールを絶対に渡すまいと、互いに決して譲ろうとしない。 「私、テオドールさんみたいなお兄ちゃんが欲しいって、前からずっと思ってたんです!!身を挺して私の事を助けてくれて、凄く優しくてかっこよくて・・・テオドールさんは私にとって理想のお兄ちゃんなんです!!」 「何がお兄ちゃんよ!!私と完全にキャラが被ってるじゃないのよ!!」 「ご心配なく!!私はリィズさんと違って本当の妹じゃありませんから!!」 「あら残念だったわね!!私だってお兄ちゃんとは血が繋がってないのよ!!義理の妹なのよ!!だから結婚するにあたって何の障害も無いの!!分かる!?」 「け、結婚って、義理とは言え妹なんだから、そんなの絶対おかしいと思います!!」 「別におかしくは無いわよ!!法律上は全然問題ないんだから!!」 なんかもう2人の間に挟まれてるテオドールが、物凄い涙目になっているのだが。 そんな修羅場をクラスメイトたちが、とても面白そうな表情で眺めていた。 しまいにはタブレットを取り出し、ニコニコ生放送で実況し出す者まで現れる始末だったのだが。 「ちょっとアンタ、生放送したいなら本人に許可を取りなさいよ!!自分の姿を無断でネットで晒される人の気持ちを考えた事があるの!?」 「ひ、ひいっ!?」 「そこの妹もどき2人!!アンタたちもテオドールが困ってるって何で気付かないのかな!?」 タブレットの電源を強引に切ったクラスメイトの少女がテオドールの元に歩み寄り、リィズとカティアを強引にテオドールから引き離したのだった。 とても爽やかな笑顔で、少女はテオドールに話しかける。 「自己紹介が遅れたね。私はアネット。今日から3年間よろくねテオドール。」 「お、おう・・・。」 「今日の朝のテオドールのお姫様抱っこ、私も見てたよ。凄くかっこ良かった。それにカティアを突き飛ばした人にあそこまで真剣に怒鳴り散らすなんて、中々出来る事じゃないよ。」 「・・・な、なんか改めて言われると恥ずかしいけどな・・・。」 「別に恥ずかしがる必要なんか無いって。テオドールが迅速にカティアを保健室に連れて行ったお陰で、こうしてカティアも軽症で済んだんだから。」 こうしてテオドールと親しそうに話すアネットは、とてもさばさばした性格で飾り気の無い親しみやすい少女のようだった。 テオドールもどこかアネットに、リィズとは違った話しやすさを感じていたのだが・・・。 「・・・また1人、変なのが増えた・・・!!」 漆黒のオーラを全身から燃えたぎらせながら、リィズが物凄い表情でアネットを睨み付けていたのだった・・・。 カティアもリィズの腕にしがみつき、2人の親しそうな会話を焼きもちを焼きながら見つめている。 「ところでテオドールってさ。XboxOne持ってる?」 「え?まさかアネットもXboxOne持ってるのか!?PS4持ってる奴は多いけど、XboxOne持ってる奴は中々見かけなくて、全然話が合わなくてさあ!!」 「うんうん、面白いソフト多いのにね!!私今『雷電Ⅴ』をやり込んでる所なの!!」 「おお最近発売されたばかりの弾幕シューティングだよな!!俺も進学祝いに父さんに買ってもらったばかりなんだ!!あれ面白いよな!!」 「・・・なんか私とテオドールってさ、凄く話が合うって思わない?」 「おお俺もそう思ってた所・・・」 言いかけたテオドールの右手を強引に掴んだリィズが、そのままテオドールを教室の外へと連行したのだった。 いきなりの出来事にテオドールは戸惑いを隠せない。 「ちょ、リィズ、おま・・・」 「お兄ちゃん、早く帰らないとお母さんが心配しちゃうよ!?はいこれ、お兄ちゃんの鞄!!」 「お、おう・・・だけどカティアとアネットが・・・」 「あの2人の事はもういいから、お母さんにはお昼までに帰るって言ってあるんだから、早く帰ろ!?」 まあ確かにリィズの母親には「昼までに帰る」と伝えてあるのは事実だ。 その母親が心配すると言われれば、さすがのテオドールも黙ってリィズに従うしかないのだが。 大人しくリィズに手を引っ張られるテオドールを、カティアとアネットがとても名残惜しそうに見つめていたのだった・・・。 後半へ 戻る
https://w.atwiki.jp/dostoyevsky/pages/98.html
砂男/クレスペル顧問官 (光文社古典新訳文庫) ドストエフスキーが好み読んでおりました
https://w.atwiki.jp/schwaken-extra/pages/23.html
シュヴァルツェスマーケン・えくすとら♪ 第3話「テオドール争奪・料理対決!!」(前半) 1.デートの権利を賭けて それはよく晴れた清々しい土曜日の昼・・・休日で人が少ない私立マブラヴ学園の、調理実習室での出来事だった。 「・・・よし、これで全員揃ったな。先日テオドールに内緒で告知した通り、これからお前らには料理対決をして貰うからな。」 「いやいやいやいやいや、朝飯と昼飯を抜いて昼に学校に来いって先生に言われたから何かと思えば、何でいきなりこいつらが料理対決する事になるんですか!?」 ヨアヒムの言葉に、露骨に不服そうな態度を示すテオドール。 そして他に調理実習室に集まったのは、リィズ、アイリスディーナ、カティア、アネット、ファム、キルケ、ベアトリクス、アスクマンの8人。 彼らはテオドールに極秘で行われたヨアヒムの呼びかけに応じ、こうして休日の学校にわざわざ集まってきたのだ。 全員が制服にエプロンを身に付け、それぞれに用意されたテーブルの前で待機している。 テーブルの上には各員が独自に用意した、色とりどりの食材の数々が置かれていたのだが。 「テオドール、リィズ、カティア、アネット。お前ら明日は確かバイト休みだったよな?」 「え、ええ、明日は俺たち全員シフトから外れてますけど・・・。」 「よし、ならば問題無いな。」 「何が問題無いんですか!?て言うか何でそんな事まで先生が知ってるんですか!?」 「ベアトリクスにお前らのシフト表を見せて貰ったからな。」 「どうやって手に入れたんだよ!?シュター部怖えよ(泣)!!」 テオドールの泣きそうな表情を、ベアトリクスはドヤ顔で見つめていたのだった。 従業員のシフト表は事務所内にあり、決して客席からは見れないようになっている上に、ファミレスの従業員にはシュター部の部員も、その親族も存在しない。 にも関わらずベアトリクスは、一体どうやってテオドールとリィズのシフト表を入手したというのか。 と言うか、もう個人情報もプライパシーも何もあった物では無かった・・・。 「テオドール。お前がこの学校に入学してから1週間・・・お前の事をずっと見させて貰っていたが、お前のモテっぷりは正直言って半端ではない。たった1週間でお前に好意を寄せる女子たちが、これだけ大勢現れやがる始末だ。本当に羨ましい奴だなおい。」 何故かアスクマンまでいる事に、誰も突っ込みを入れないのは何故なのか。 「しかも別の高校に通う俺の姪(キルケ)にまで手を出しやがって。馬鹿野郎この野郎。」 「だからそれが何で料理対決に繋がるんですか!?」 「そりゃあお前、こいつらが毎日毎日毎日毎日、四六時中お前を奪い合って見てられねえから、決着を付けさせる場を用意したに決まってるだろうが。」 そう、ヨアヒムの言う通り、あれから壮絶なテオドールの奪い合いが、彼女たちの手によって毎日のように派手に繰り広げられているのだ。しかもそれは校内に限った話ではない。 毎日のようにテオドールを起こしに来るついでに、何故か一緒に添い寝するアイリスディーナ。 テオドールと一緒に過ごす時間を少しでも増やす為に、わざわざ自分と同じバイトに誘うアネット、そしてテオドールと同じファミレスでバイトするリィズとカティア。 別の高校に通うキルケに至っては、わざわざテオドールに会う為に、テオドールがバイトするファミレスに毎日通い出す始末だ。 さすがにこのままではまずいと思ったヨアヒムが、ひとまずの一区切りの決着の場を与える為に、こうして料理対決を開いたという訳だ。 「料理対決の内容は至ってシンプルだ。お前らが自分で用意した食材を使った料理を、実際にテオドールに食べて貰う。そしてテオドールを一番満足させた奴が優勝だ。」 「朝飯と昼飯を抜いて来いって、そういう事かよぉっ!?」 テオドールの腹が、さっきから盛大に鳴り響いていたのだった・・・。 「そして優勝者には明日の日曜日、テオドールと1日デートする権利を与える物とする。」 「はああああああああああああああああああああああああ!?」 「なお、お前に拒否権は無い・・・もし万が一お前が優勝者とのデートをすっぽかすような真似をした場合、罰として毎朝トイレ掃除を1週間やって貰うからな。」 「横暴だ!!職権の乱用だ(泣)!!」 というかトイレ掃除一週間分って、物凄くどうでもいい罰則のような気がするのだが・・・。 泣き叫ぶテオドールを無視して、ヨアヒムは右手を高々と掲げ、大々的に宣言したのだった。 「これより第1回、テオドール争奪・料理対決を開始する!!」 「第1回って、第2回以降もあるのかよおっ(泣)!!」 「選手宣誓!!リィズ・ホーエンシュタイン、前へ!!」 「何この日本の高校野球みたいなノリ(泣)!?」 ヨアヒムに促されたリィズが教壇の上に立ち、ヨアヒムと同じように右手を高々と掲げ・・・。 「・・・宣誓!!我々選手一同は、お兄ちゃんへの愛に賭けて・・・どんな手段を用いてでも全員徹底的に叩きのめしてあげるから、アンタたちせいぜい無駄な足掻きをしておくがいいわ!!あはははははは!!」 全身から漆黒のオーラを放ちながら、物凄い表情で宣言したのだった。 「いや、そこはスポーツマンシップに則って、正々堂々と戦う事を誓えよ(泣)!!」 「待っててね、お兄ちゃん・・・お兄ちゃんを満足させられるのは私しかいないって事を、お兄ちゃんに思い知らせてあげるんだから!!」 「俺の話聞いてる(泣)!?」 そしてリィズが自分の持ち場に戻ったのを確認したヨアヒムが、現在時刻を確認してストップウォッチを懐から取り出す。 「現在時刻は12時20分、調理の制限時間は30分とする!!30分以内にテオドールを満足させられる料理を作ってみせろ!!それじゃあお前ら調理開始だ!!」 ヨアヒムがストップウォッチを押したのを確認したリィズたちが、一斉に調理を開始する。 今ここに、テオドールとのデートの権利を賭けた壮絶でしょーもない料理対決が、当の本人であるテオドールの承諾も無しに、勝手に開始されたのだった・・・。 2.アイリスディーナの料理 「・・・ところでベアトリクス。何故お前までもがこの料理対決に参加しているのだ?」 リィズたちが物凄い勢いで調理を行う最中、アイリスディーナとベアトリクスだけは包丁にも食材にも全く手を付ける事なく、まるで調理を行っていなかった。 アイリスディーナが厳しい視線を隣にいるベアトリクスに向けているのだが、当のベアトリクスは妖艶な笑みを浮かべながらアイリスディーナの視線を無視し、今にも腹が減って死にそうなテオドールを見つめている。 「お前はテオドールには興味が無い、私の兄上が好きなのだと、以前私に言っていただろう。」 「ええ、貴方の言う通り、私が好きなのはユルゲンよ。あの坊やには正直言って興味無いわ。」 「ならば何故私の邪魔をするような真似をする?互いに互いの恋の手助けをすると、先日互いに誓い合ったばかりではないか。」 「それは彼が恋愛原子核の持ち主だからよ。」 「・・・な・・・!?」 突然聞きなれない言葉を耳にした事で、戸惑いの表情を隠せないアイリスディーナ。 「恋愛原子核だと!?何だそれは!?」 「貴方は彼を見て一度でもおかしいとは思わなかったの?先生も言っていたけれど、彼はこの短期間であれだけの数の女子を虜にしてしまった・・・これはもう異常だとしか言いようがないわ。」 「・・・それは・・・テオドールがそれだけの魅力の持ち主だというだけの話だ。」 アイリスディーナとて、リィズたち恋敵に対して嫉妬の感情があるのは否定はしない。 だが、だからこそテオドールへの愛が一層深まるという物だし、リィズたちの本気の「想い」もよく理解しているつもりだ。 恋愛原子核だか何だか知らないが、自分やリィズたちと違ってテオドールと特に親しくもない癖に、そんな訳の分からない事を言われる筋合いは無い。 「・・・ベアトリクス。お前はテオドールとまともに接した事が無いから・・・」 「それだけの魅力の持ち主・・・本当にそれだけだと思う?ただ魅力的な男子だからというだけで、あれだけの数の女の子が一斉に彼に集まるとでも?そんなの絶対に有り得る訳が無いわ。」 ベアトリクスは先日シュター部の部活動中に部員たちに話した、恋愛原子核に関する持論をアイリスディーナにも説明したのだった。 日本の横浜に存在する高校に、今のテオドールと似たような境遇の男子生徒がいる事。 その男子生徒は幼馴染やクラスメイトの数人の女子、さらには担任の女性教師まで虜にしてしまっているという事。 おまけに世界的な資産家である御剣財閥の双子の姉妹までもが、その男子生徒と添い遂げる為だけに、わざわざ他校から転校してきた事。 しかも、その男子生徒は特に女子を口説こうとしてる訳でもなく、本人の自覚も無しに勝手に女子たちが集まっているという事。 そのあまりに常識を逸しているモテっぷりに興味を抱いた、その高校の学年主任を務める女性教師が興味本位で男子生徒を調べた所、その男子生徒のモテっぷりは細胞レベルにまで達している事が判明した事。 そんな男子生徒がその身に宿す特性を、彼女が「恋愛原子核」と名付けた事。 「・・・で、仮にテオドールがその白銀武と同じ、恋愛原子核とやらの持ち主だとして・・・仮にお前がこの料理対決で優勝したとして、お前はテオドールを一体どうするつもりなのだ?」 ベアトリクスはテオドールには一切興味が無い、愛しているのはユルゲンだけだとアイリスディーナに公言しているのだ。 なのに今回のテオドールとのデートを賭けた料理対決に参加し、しかも本気で優勝を狙っている・・・一体何を企んでいるのか。 この矛盾を孕んだベアトリクスの行動に、アイリスディーナは言いようの無い不安を感じていたのだが・・・。 「まさかお前までもがテオドールに恋焦がれたという訳でも無いだろう。なのに一体どういうつもりなんだ?」 「私が優勝を目指す目的は、彼の研究の為よ。」 「な・・・研究だと!?」 放たれたベアトリクスの返答は、アイリスディーナが全く予想もしていなかった、とんでもない代物だった。 「私が優勝した暁には彼を私の自宅に招待し・・・彼がその身に宿す恋愛原子核を徹底的に分析させて貰うわ。」 「・・・ベアトリクス・・・貴様・・・!!」 「そう、私は彼に興味は無い・・・私が興味があるのは、彼がその身に宿す恋愛原子核だけよ。」 リィズたちはテオドールに対して本気で恋愛感情を抱いており、明日のデートの為に真剣に調理に取り組んでいる。 そんなリィズたちに混じってベアトリクスはテオドールに興味が無いと言い放ち、テオドールを研究する為に大会に参加したというのだ。 テオドールがベアトリクスに何をされるか分かった物ではないというのもあるが、これはリィズたちのテオドールへの「想い」に対する侮辱に他ならない。それがアイリスディーナにはどうしても許せなかった。 「彼がどんな経緯で恋愛原子核を宿す事になったのか、恋愛原子核が周囲にどれだけの影響を及ぼす物なのか、どれ程の効力を持つ物なのか・・・私は凄く興味があるのよ。」 「・・・ベアトリクス。やはり私は、お前とアスクマンにだけは優勝させる訳にはいかないようだ。」 ベアトリクスに対して、敵意をむき出しにするアイリスディーナ。 そんなアイリスディーナの厳しい視線を、ベアトリクスは余裕の表情で受け流す。 調理開始から既に5分が経過したというのに、相変わらずアイリスディーナもベアトリクスも、全く包丁や食材に手を付けていなかったのだが・・・。 「あ~ら、今までまともに包丁を持った事も無い貴方が、一体どうやって私に勝つというのかしら?これはあくまでも料理対決なのよ?」 「そうだな、私は今まで料理など一度もした事が無い。」 「見た限りでは相当高価な食材ばかりを用意したみたいだけど、それも料理人が活かせなければ何の意味も無いのよ?」 「確かにお前の言う通りだ・・・だがなベアトリクス・・・誰が『私が調理する』と言った?」 「な・・・何ですって!?」 アイリスディーナが勝ち誇った笑顔で、指をパチン!!と鳴らすと・・・ガラガラガラと勢い良く扉が開け放たれ、先程から待機していた3人のコック姿の料理人の男性たちが、一斉にアイリスディーナの元に駆け寄り、跪いたのだった・・・。 彼らは3人共ベルンハルト家の使用人たちであり、一家の毎日の料理全般を任されているプロの料理人たちだ。 全員がドイツの有名な料理大会で優秀な成績を収めた程の凄腕であり、その手腕を高く評価されベルンハルト家にスカウトされ、今も専属の料理人として働いているのだ。 「・・・お前たち。」 「「「はっ!!」」」 「・・・やれ。」 「「「承知致しました!!お嬢様!!」」」 アイリスディーナの号令の元、3人の料理人たちが物凄い勢いで目の前の食材を捌いていく。 そのまさかの光景に、さすがのベアトリクスも動揺を隠せないでいた。 アイリスディーナは全く包丁や食材に手を付ける事なく、余裕の態度で腕組みをしながら、勝ち誇った笑顔で彼らの調理を見守っているのだが・・・。 「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!!自分で調理せずにプロの料理人に全部やらせるって、これってどう考えても反則じゃないの!?ねえってば!!」 「いやいやいやいやベアトリクス。ヨアヒム先生は確かにこう仰られていたぞ。」 『料理対決の内容は至ってシンプルだ。お前らが自分で用意した食材を使った料理を、実際にテオドールに食べて貰う。そしてテオドールを一番満足させた奴が優勝だ。』 「そうよ!!だからプロの料理人に任せるなんて卑怯だと私は・・・!!」 「卑怯?ヨアヒム先生は『自分で食材を用意しろ』と言っただけであって、『自分の手で調理しなければならない』などとは、ただの一言も言っていないのだがなあ?」 「・・・はああああああああああああああああああああああ!?」 アイリスディーナは物凄い笑顔で、ベアトリクスに物凄い反論をしたのだった・・・。 そう、確かにアイリスディーナの言う通りだ。 ↑のヨアヒムの言葉をもう一度読み返してみれば分かるが、ヨアヒムがアイリスディーナたちに要求したのは『自分で用意した食材を使え』という事だけだ。『自分で調理しろ』などとは確かに一言も言っていない。 「そ、そんなのは屁理屈よ!!料理対決なんだから自分で調理しないと駄目に決まっているでしょう!?」 「負け惜しみなど見苦しいぞベアトリクス。他人に調理を任せるのが禁止だと、ヨアヒム先生がいつそんな事を言った?」 「ぬぐぐぐぐぐぐ・・・!!」 悔しがるベアトリクスだったが、そうこうしている内に3人の料理人たちの手によって、あっという間に料理が出来上がってしまった。 料理人たちの手によって、今にも腹ペコで死にそうなテオドールに差し出されたのは、とても美味しそうな香りが漂う高級肉料理。 「お待たせ致しましたテオドール様。ウインナーシュニッツェルとレーバーケーゼ、ミュンヘナーヴァイスブルストをメインに、シュパーゲルとクネーデルにオランデールソールを添えさせて頂きました。」 なんか凄く長ったらしい名前の、よく分からんメニューが出た。 「リィズ。お前が先程言った言葉をそっくりそのまま返してやろう。どんな手段を使ってでもお前たちを徹底的に叩きのめすとな。」 「・・・・・。」 「お前も確かに兄上が絶賛する程の料理人のようだが、それでも所詮は家庭料理の域を出ないアマチュアだ。正当な修行を積んだ彼らプロには到底敵うまい。」 「・・・・ふふふ・・・。」 「ヨアヒム先生が料理対決を持ちかけた時点で、既に私の勝ちは決まっていたのだよ!!はーーーーーーっはははははははは!!」 勝ち誇るアイリスディーナを尻目に、テオドールは黙々と高級肉料理を口にしたのだが。 一口食べ終えた所で、突然テオドールがナイフとフォークをテーブルの上に置いたのだった。 「・・・うーん、なんか違うんだよなあ・・・。」 そしてテオドールは戸惑いの表情で、不満そうな態度を示す。 その予想外のテオドールの態度に、アイリスディーナの表情から先程までの余裕が消え失せていった。 「な・・・一体どういう事なんだテオドール!?何か嫌いな物でも混ざっていたか!?」 「いや、凄く美味いよ。美味いんだけどさあ・・・なんか食った気がしないというか・・・。」 「食べた気がしないだと!?一体どういう事なんだ!?」 彼らは全員が有名な料理大会で優秀な成績を収めた、プロの料理人なのだ。 そんな彼らが、致命的な調理ミスなど犯す訳が無い・・・アイリスディーナは一体何がそんなに不満なのか理解出来なかったのだが・・・。 「いや、そういう事じゃなくてさ・・・確かに料理自体は凄く美味いよ。だけどあまりにも高級過ぎて、なんか食べた気がしないっていうか・・・勿体無いっていうか・・・」 「・・・なん・・・だと・・・!?」 テオドールの言葉に、驚愕の表情を隠せないアイリスディーナ。 そう、確かに彼らが作った料理は、まさしくプロの手によって生み出された高級料理その物だ。 素材自体も一般市民には簡単に手が出せない高級品が使われているし、その素材の旨みもプロの手によって最大限に引き出されている。 だが彼らの高級料理を日常的に食べているアイリスディーナとは違い、テオドールが居候させて貰っているホーエンシュタイン家は、ごく普通の収入の一般的な中流家庭・・・悪い言い方をすれば「庶民」なのだ。 そんなホーエンシュタイン家で暮らしているテオドールが、突然こんな長ったらしい名前の高級料理を出されよう物なら、あまりに高級過ぎて逆に引いてしまうのも無理も無いという物だろう。 「テオドールお前、貧乏性にも程があるだろう!?」 「・・・ふふふ・・・ふふふふふ・・・あはははははははははははは!!」 その様子を先程から米を炊きながらドヤ顔で見つめていたリィズが、戸惑いを隠せないアイリスディーナの姿を見て高笑いした。 「アイリス。アンタはやっぱりお兄ちゃんの事を何も理解していなかったみたいね。」 「な・・・何だと・・・!?」 「確かにこの人たちの実力は認めるわ。だけどどれだけ高級料理を出そうが、お兄ちゃんを満足させられなければ意味が無いの・・・高級料理という選択をした時点で、アンタの負けは最初から決まっていたのよ!!」 「・・・ば・・・馬鹿な・・・っ・・・!!」 驚愕の表情で崩れ落ちるアイリスディーナを、リィズは物凄い笑顔で見下していたのだった・・・。 3.アネットとファムの料理 「申し訳ありませんお嬢様!!私たちの力が足りなかったばかりに、お嬢様に恥をかかせてしまいました!!」 とても申し訳無さそうな表情で、アイリスディーナに頭を下げる料理人たち。 だがそんな3人をアイリスディーナは全く責める事無く、穏やかな表情で優しく包み込んだ。 「お前たちのせいではない。お前たちは本当に最高の料理を作ってくれた。」 「ですが・・・!!」 「リィズの言う通りだ。これはテオドールの好みを把握していなかった、私のメニューの選択ミスが招いた結果だ。」 「お・・・お嬢様・・・!!」 テオドールが残した長ったらしい名前の、訳の分からない高級肉料理を食べながら、無様に敗北したアイリスディーナはリィズたちの調理する光景を見つめていたのだが。 その光景を見ていたリィズが全身から漆黒のオーラを放ちながら、物凄い表情でアイリスディーナに突っかかってきたのだった。 「ちょっとアイリス!!それってお兄ちゃんとの間接キスなんじゃないの!?」 「何だリィズ、鍋に火をかけたまま放置していてもいいのか?折角の料理が焦げてしまっても知らないぞ?」 「お生憎様!!お米を炊く時間ならちゃんと計算してます!!それよりも私を差し置いてお兄ちゃんと間接キスなんて許さないわよ!!」 「これは私の使用人たちが作った料理だ。だから私が処分するのは至極当然の事だ。」 「抜け駆けは許さないわよ!!私にも食べさせなさいよぉっ!!」 「駄目だ絶対に渡さん!!」 アイリスディーナとリィズがしょーもない争いをしている最中、料理を完成させたアネットが颯爽とテオドールに料理を差し出してきた。 どうやらアネットの料理も、アイリスディーナと同様の肉料理のようなのだが・・・。 「さあテオドール、どうぞ召し上がれ。」 「・・・こ・・・これは・・・!!」 「私はアイリス先輩のようなミスはしないわ。やっぱり料理と言うのは単純明快じゃないとね。」 アネットが作った料理は、とても豪快かつシンプルな代物だった。 両側から鶏肉の大きな骨が豪快に突き刺さった巨大な肉の塊が、焼きたての鉄板の上でジュージューと派手な音を立てて、もう今にも肉汁が零れ落ちそうな勢いだ。 「・・・マ・・マンガ肉・・・だと・・・!?」 驚愕の表情で、テオドールは目の前の肉の塊を見つめていたのだった。 「マンガ肉とは何だ!?テオドール!?」 「マンガ肉と言ったらマンガ肉だ!!それ以上でもそれ以下でも無いんだあっ!!」 聞いた事の無い名前の料理に戸惑いの表情を隠せないアイリスディーナを尻目に、テオドールは豪快にマンガ肉にかぶりついたのだった。 絶妙な焼き加減で焼かれた肉の塊から解き放たれた肉汁が、テオドールの口の中に一斉掃射されていく。 「ま、まさかマンガ肉の実物を、実際にお目にかかる日が来ようとは!!」 「この間、店長にも提案したんだよね。マンガ肉をメニューに入れられないかって。」 「うおおおおおおおおおおおおおお!!美味い!!美味いぞおおおおおおおおおおおおっ!!」 「シンプル故に調理も楽だしコストも抑えられるから、低価格で出せるんじゃないかって店長に言ったら、これは面白い、上層部に伝えておくって褒められたのよ。」 「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」 素材もアイリスディーナの料理とは違い、その辺のスーパーで安売りされている代物だ。 だからこそテオドールも、変な遠慮をせずに豪快に食べられるのだろう。 とても美味しそうにマンガ肉にかぶりつくテオドールを見て、自分の料理をまともに食べて貰えなかったアイリスディーナは、とても悔しそうな表情を見せたのだった。 「リィズ。アンタの言う通りだわ。テオドールの事をちゃんと理解している人こそが、この戦いの勝者となる・・・私はテオドールの性格なら下手に高級な食材を使った料理よりも、こういった手軽に食べられる料理を選んでくれると、最初から確信していたのよ。」 「・・・・・。」 「アンタには悪いけど、テオドールと明日デートするのはこの私よ。アンタが今から何を作ろうとしてるのかは知らないけれど、見なさいよこのテオドールの満足そうな顔・・・。」 「・・・ふふふ・・・。」 「アンタの言葉をそっくりそのまま返してあげる。せいぜい無駄な足掻きをするがいいわ!!はーーーーーーっはははははは!!」 勝ち誇るアネットを尻目に、テオドールが豪快にマンガ肉を完食したのだが・・・その時だ。 「・・・た・・・炭水化物・・・」 「・・・え?」 突然テオドールが、とても苦しそうな表情を見せたのだった。 「炭水化物!!炭水化物が食いてええええええええええええええええええええええ!!」 「ちょっとテオドール、いきなりどうしたのよ!?」 「炭水化物!!誰か炭水化物をおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」 悶え苦しむテオドールに、訳が分からないといった表情のアネット。 あれだけテオドールに満足して貰えたのに、一体自分の料理の何がいけなかったのか・・・。 「・・・ふふふ・・・ふふふふふ・・・あはははははははははははは!!」 「な・・・リィズ!?」 だがその様子を見ていたリィズが、初めからこうなる事が分かっていたと言わんばかりの勝ち誇った笑顔で、鍋の中に切り刻んだ野菜を入れながら、アネットに威風堂々と告げたのだった。 「・・・アネット。私は同じファミレスのキッチンで働く貴方なら、もう少し歯応えがあると思っていたんだけどね。なのに結局はその程度・・・貴方には失望させられたわ。」 「何ですって!?リィズ・・・!!」 「貴方のマンガ肉は、栄養のバランスが全然整っていないのよ。」 「そんな馬鹿なはずがないわ!!ちゃんとこうして野菜だって添えて・・・!!」 「あれだけの肉の塊だもの。ちょっと野菜を添えただけじゃ、マンガ肉の強烈なインパクトを鎮められないわ。結局の所、所詮は脂肪とたんぱく質と鉄分の塊に過ぎない・・・これではお兄ちゃんが炭水化物を欲しがって当たり前よ。」 「・・・っ!?」 リィズの言葉で、アネットは驚愕の表情でその場に崩れ落ちたのだった。 テオドールを満足させる・・・それだけに拘り過ぎて、アネットはそういった細かい所にまで気を回せなかったのだ。 「ば・・・馬鹿な・・・っ・・・!!」 「この時を待っていたわ。アネットちゃん。」 「な・・・ファム先輩!?」 「さあテオドール君。どうぞ召し上がれ。」 とても勝ち誇った笑顔で、ファムは炭水化物不足で苦しむテオドールに料理を提供したのだった。 お椀の中に入っているのは、どうやら様々な肉と野菜を具材とした、透明な麺類のようなのだが・・・。 「こ、これは・・・!?」 「ブンボーフエよ。私の故郷のベトナムでの郷土料理なんだけど、お米で作った麺と言えば分かりやすいかしら?」 「米!?米!?炭水化物!?」 「そうよテオドール君が欲しがってる炭水化物よ。さあテオドール君、存分に味わって♪」 「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」 喜びを顕わにするテオドールを見て、ファムは勝ち誇ったかのようなドヤ顔をアネットに見せたのだった。 アネットが用意した食材を見た時点で、ファムはアネットが豪快な肉料理を出す事も、アネットの料理を食べたテオドールが炭水化物を欲するであろう事までも確信していたのだ。 だからこそファムは、テオドールがアネットの料理を食べ終わるタイミングで米麺を出せるように、わざと意図的に調理を遅らせていたのだ。 この料理対決は「テオドールを一番満足させた者」が優勝・・・それさえ満たせば過程などどうでもいい。 そう・・・自分の料理でテオドールを一番満足させる為に、ファムはアネットを踏み台にしたのだ。 ファムの意図を察して悔しがるアネットだったが・・・テオドールが麺を口にした瞬間。 「・・・ぶううううううううううううううううううううううううううううううううう(泣)!!」 突然テオドールが泣きそうな表情で、麺を盛大に吐いたのだった。 予想外の出来事に、ファムは戸惑いを隠せない。 「ちょ、テオドール君、一体どうしたの!?」 「ファム先輩、アンタ、この麺の中に何を入れたんだよ!?」 「何って・・・もう、私の口から言わせる気・・・?」 顔を赤らめながら、ファムはとても恥ずかしそうに告げたのだった。 「・・・私の、愛e」 「うわああああああああ、うわああああああああああああああああ(泣)!!」 泣きそうな表情で慌ててうがいをするテオドールを見て、戸惑いを隠せないファム。 「テオドール君ったら酷いわ!!私が心を込めて作った料理なのに!!」 「いや心を込め過ぎて重過ぎるわ!!アンタこれ実際に食ってみろよ!!」 「食べてみろって・・・だってベトナム料理なら私の得意とする所・・・」 ファムがテオドールにまともに食べて貰えなかった麺を、怪訝そうに口にした瞬間。 「・・・ぶううううううううううううううううううううううううううううううううう(泣)!!」 泣きそうな表情で、盛大に麺を吐いたのだった・・・。 後半へ 戻る
https://w.atwiki.jp/schwaken-extra/pages/22.html
シュヴァルツェスマーケン・えくすとら♪ 第2話「恋愛原子核」(後半) 3.ファミレスでバイト 「いらっしゃいませ、3名様でよろしかったですか?只今の時間は全席禁煙となっておりますが、よろしかったでしょうか?」 その日の夕方・・・アネットに紹介されたファミレスにおいて、爽やかな笑顔で接客に精を出すテオドールの姿があった。 結局テオドールが興味を持てそうな・・・というかまともな部活動が存在しなかった事と、やはりアネットを見習って自分の小遣い位は自分で稼いで、少しでもリィズの両親の負担を減らしてやりたいというテオドールの想いから、こうして放課後にバイトをする事になったのだ。 ただこの件をテオドールがリィズの両親に話した際、以前テオドールが 「高校を卒業してから自立する為の資金を貯めたい」 という話をリィズにしていたので、テオドールが家を出る事を断固阻止するつもりのリィズが、当然の事ながら猛反発する事態になってしまった。 そしてリィズも同じ店で一緒にバイトする事、高校を卒業してからもずっとこの家で暮らす事をテオドールに無理矢理納得させ、誓約書まで書かせた上で、こうしてテオドールのバイトを容認したという経緯になったのだ。 「お兄ちゃん、3番テーブルのチーズハンバーグのAセット、準備出来たよ。」 「了解、あとこれ、4番テーブルのお客様のオーダーな。」 「2番テーブルの海老とクリームのリゾット、あと5分で上がるからね。」 「おう。」 料理が得意なリィズが調理を担当し、テオドールが接客を担当する・・・今の所は順調に客を捌けているのだが、それでもテオドールもリィズも正直言って汗だくになってしまっていた。 今は夕食時のピークの時間帯という事で、休む暇もなく次から次へと客が入ってくる。 当然、どこのテーブルでどんな注文があったのかという事を、接客担当のテオドールは常に完璧に把握しておかなければならないし、それも追加注文が入ったりでリアルタイムでどんどん状況が変わっていく。 また調理担当のリィズも次から次へと注文が入ってくるので、1つの注文だけに集中して調理する訳にもいかない。調理の状況を見ながら注文に応じて臨機応変に動かないといけないのだ。 息つく暇も無い程忙しい・・・店長が人手が足りないと嘆いていたのも頷けるという物だ。 正直言ってテオドールもリィズも、ファミレスのバイトを軽く見ていた。 リィズの父親が昨日の夜、 「2人が今の内に社会勉強するのも悪くないかもしれないな」 などとテオドールとリィズに言っていたのだが、こういう事だったのだ。 これが仕事なのだ。これが働くという事なのだ。 仕事として給料を貰う以上は、遊び感覚で作業をする訳にはいかない。 当初はリィズもアネットにテオドールを取られたくないからと、半ば監視目的でこのバイトを始めたのだが、作業を始めてから5分もしない内に、もう完全にそれ所では無くなってしまっていた。 「おい嬢ちゃん、服に糸くずが付いてるぜ。ほらよっと。」 「きゃあっ!?」 ガラの悪そうな男たちのグループの1人が、注文を聞きに来たカティアの胸に触ってきた。 慌てて男たちから離れたカティアが、涙目になりながら男たちを睨みつける。 「な、何をするんですか!?やめて下さい!!」 「おっとっと悪い悪い。つい手元が狂っちまった。ぎゃはははは。」 以前テオドールにお姫様抱っこをして貰った時とは違う・・・カティアの全身に走る強い悪寒。 男たちの邪な笑顔を見て、カティアは言いようの無い気持ち悪さを感じていた。 同じ男の人なのに、どうしてこんなにもテオドールさんと違うのかと。 今も男に触られたカティアの胸に残る、男たちの悪意。それがどうしようもなく気持ち悪い。 「お客様!!そのような迷惑行為を店内でなさるのは困ります!!」 そんなカティアの危機を察したテオドールが、思わず女子高生への接客を放り出してしまい、カティアを庇うように男たちの前に立ちはだかった。 そしてテオドールからのアイコンタクトを受けたリィズが頷き、迅速に警察への通報を行う。 「あんだてめぇ・・・俺らになんか文句でもあんのかよ。あぁ!?」 「ここは風俗店ではありません!!女性スタッフへの接触行為は固くお断り致します!!」 男たちは露骨に不満そうな表情でテオドールを睨み付けるが、テオドールもまた一歩も引かずに男たちを睨み返す。 正直言って怖い。足がガクガク震える。自分は何か格闘技を習ってるわけでもないし、特に喧嘩が強いわけでもない。それに1対1ならともかく相手は3人もいるのだ。 だがここで引いてしまえば、カティアの心に一生消えない深い傷を残す事にもなりかねないのだ。どれだけ恐怖を感じようとも絶対に引く訳には行かなかった。 どんな手段を使ってでも、絶対にカティアを守らなければ。 「テ、テオドールさん・・・。」 「おいおい俺はこの嬢ちゃんの服に糸くずが付いてたから、親切に取ってやろうとしただけだっつーの!!わざとじゃねえのに、何でてめえなんぞに文句を言われねえといけねえんだよ!?」 「それならば彼女に糸くずが付いていると、ただ忠告をするだけでも良かったのでは!?何故わざわざ彼女の身体に触るような真似をしたのです!?」 「だからわざとじゃねえっつってんだろうが!!この店を訴えるぞコラァ!?」 「ええどうぞご自由に!!それで不利になるのは、むしろ女性スタッフの身体への不必要な接触行為を行った、お客様の方だと私は判断しますが!?」 真剣な表情で一歩も引かないテオドールを前に、遂に男の1人がブチ切れた。 突然立ち上がってテオドールの胸倉を掴み、1発殴りつける。 それを目撃した他の客たちが騒ぎ出し、店内に悲鳴が響き渡った。 「がはあっ!!」 「お前マジでムカツクから死刑な。」 「お、おいお前、さすがにそれはやべえって!!単にあの女をからかってやるだけの話だっただろうがよ!?」 「だってこいつマジでムカツクだろうがよぉっ!!」 仲間たちが必死に男を止めるが、頭に血が上った男はもう完全に止まらなかった。 カティアの壁になり必死に立ちはだかるテオドールの腹に、今度は強烈な膝蹴りを食らわせる。 凄まじい衝撃。胃液が逆流する。テオドールは嗚咽しながらその場に崩れ落ちた。 「うっ・・・がはっ・・・!!」 「テオドールさん!!テオドールさぁんっ!!」 泣きながらカティアがテオドールの傍に駆け寄るが、それでもテオドールは強い信念を秘めた瞳で立ち上がり、男たちを睨みつける。 その凄まじい気迫の前に、男たちは思わず一瞬たじろいてしまった。 「・・・お客様・・・女性スタッフの身体への接触行為だけではなく・・・今度は私への不当な暴力行為・・・一連の出来事は全て、店内の監視カメラに収められております・・・!!」 「・・・な・・・監視カメラだと!?」 「それに私の妹が・・・既に警察への通報を済ませた所です・・・お客様がどうあがこうが、最早弁明の余地など微塵もありませんが・・・っ!!」 テオドールの言葉が終わると同時にキッチンから駆けつけてきたリィズが、テオドールに暴力を振るった男の胸倉を掴み、全身から凄まじい漆黒のオーラを放ちながら、そのまま男を物凄い形相で睨み付けた。 その凄まじい威圧感を前に、男は思わずお漏らししてしまったのだった・・・。 「ひ、ひいっ!?」 「・・・アンタ・・・私のお兄ちゃんに暴力を振るったのもそうだけど、カティアちゃんにまであんな酷い目に遭わせるなんて・・・万死に値するわ!!」 「な、何なんだよお前!?何そんなにマジになってんだよ!?たかがそいつの胸をちょっと触っただけひぎいっ!?」 壁ドン!! リィズは物凄い勢いで男を壁に叩き付け、情けない表情の男を汚物を見るかのような瞳で睨み付ける。 「・・・アンタにとっては大した事無いかもしれないけどね・・・アンタのせいでカティアちゃんは凄く気持ち悪い思いをしたんだよ・・・?女の子にとって好意を持たない男の人に身体を触られるっていう事が、どれだけ苦痛を伴う物なのか知ってる・・・?」 完全に腰を抜かしてしまった男の顔に、リィズはぺっ、と唾を吐きつける。 「・・・この下衆野郎共が。もう二度とこの店に顔を出すな・・・殺すぞ。」 そしてようやく近くの交番から駆けつけてきた警察が迅速に男たちを拘束、そのまま手錠を掛けてパトカーへと連行していったのだった。 何とか無事に切り抜けた・・・安堵してその場に座り込んでしまったテオドールを、リィズが有無を言わさずに物凄い勢いで抱き締める。 「ちょ、リィズ、おま・・・」 「お兄ちゃんの馬鹿馬鹿馬鹿ぁっ!!」 先程までとは一転して物凄く泣きそうな表情で、リィズはテオドールの顔を自らの豊満な胸に埋めたのだった。 その温かい温もり、とてもいい匂い、そして胸の柔らかさに、テオドールは思わず赤面してしまう。 余程テオドールの事が心配だったのだろう。自分の顔を抱き締めるリィズの両腕が震えているのを、テオドールは敏感に感じ取っていた。 「カティアちゃんも大丈夫だった!?怪我は無い!?」 「は、はい、私は何とか・・・」 「本当にあいつら最低よね!!カティアちゃんの胸にいきなり触るなんて、もうマジであいつら死ねばいいのに!!」 本気で自分を心配してくれるリィズを目の当たりにして、とても申し訳無さそうな表情を見せるカティア。 その3人のやり取りを、他の客たちがとても興味深そうに眺めている。 中には携帯電話やスマホを取り出し、ツィッターや2ちゃんねるで実況する者たちも。 「・・・ふうん・・・彼が叔父さんが言っていたテオドール君かぁ・・・気に入ったわ。」 そしてカティアを助けに行ったテオドールに接客をほったらかしにされた女子高生が、意味深な笑顔でテオドールの事を見つめていたのだった・・・。 4.反省会 その後、昨日に引き続いてまたしても警察からの事情聴取を受ける羽目になってしまったテオドールとリィズは、担当した警察官から「また君たちなのか」と苦笑いされながらも、無事に事情聴取を終えて何とか無事に業務に復帰した。 だが今日の業務が終わってタイムカードを押した後に、テオドールたちは今回の一件で店長から呼び出される羽目になってしまった。 店長が言うには、このファミレスの運営会社の幹部の人が、たまたま偶然あの場に居合わせていて、あの時のテオドールとリィズの対応について話をしたいとの事らしい。 「4人共早く帰りたいでしょうに、本当に御免なさいね。役員の人がどうしてもテオドール君たちと直接会って話がしたいって聞かないのよ。」 「いえ、俺らは別に構いませんが・・・あの、俺とリィズの対応が何か上で問題になったとか・・・?」 「う~ん、私はむしろテオドール君もリィズちゃんも頑張ってくれたと思うんだけどね。」 テオドールたちを採用したこの店の店長は、とても物腰の柔らかくて落ち着いた雰囲気の、心優しい女性だった。 とても穏やかな笑顔で、テオドールたちにコーヒーを差し出してくる。 そして緊張した面持ちのテオドールを、横から不安そうな表情で見つめるカティア。 何も出来なかった。ただテオドールとリィズに守られて怯える事しか出来なかった。 テオドールのように身体を張って相手を守る事も、リィズのように迅速な警察への通報や、迷惑行為を行う客を追い出す事も出来なかった。その事実がカティアの心を深く締め付ける。 テオドールさんがこの店で働くと聞いたから、私も・・・そんな軽い気持ちで始めたバイトだったが、今回の件で自分の情けなさを思い知らされる結果となってしまったのだ。 「・・・私のせいで、テオドールさんとリィズさんが解雇なんて事になったら・・・。」 「おいおいカティア、そんな事あるわけねえだろ。むしろ俺らは被害者・・・。」 コンコンコン。 テオドールが言いかけた瞬間、ドアから軽快なノックの音が聞こえた。 そして店長に促されて入ってきたのは、とても爽やかそうな印象のスーツ姿の若い男性だった。 男性は店長に案内されてテオドールたちと反対側の席に座る。そして店長が男性の隣に座るような形になった。 「4人共待たせてしまって悪かったね。本当はすぐに君たちと話をしたかったんだが、別の店でもちょっとしたトラブルがあってね。その対応があったせいでこんな時間になってしまった。」 「いえ、俺らは全然大丈夫ですけど・・・あの、貴方は・・・。」 「これは失礼、自己紹介がまだだったね。僕はこういう者だ。」 男性は穏やかな笑顔で、テオドールたちに名刺を差し出してきた。 そこに書かれていたのは・・・。 「・・・ベルンハルト・コーポレーション株式会社・総務部部長・・・ユルゲン・・・・ベルンハルト!?」 「君たち兄妹の事は妹からよく聞いているよ。テオドール君、リィズ君。」 「ベルンハルトって、まさかアイリスのお兄さん!?」 名刺を覗き込むテオドールを、ユルゲンはとてもニヤニヤしながら見つめていた。 歳が離れた兄がいるとは彼女から聞かされてはいたのだが、どんな仕事をしているのかまでは聞かされていなかったし、テオドールも特に深入りしようとは思わなかった。 それがまさかこんな所で、こんな形で会う事になろうとは。 アイリスディーナの兄だと聞いたリィズが、全身から漆黒のオーラを放ちながら、ユルゲンの事を物凄い形相で睨み付けている。 「さて、君たちも不安そうな顔をしているから、最初にその不安を吹き飛ばしてやろうかな・・・今回の件で君たちに処分を下す事は一切無いから、その辺は安心して欲しい。」 「ほ、本当ですか!?」 「勿論だ。これからも是非この店で働いて貰えると嬉しいな。」 「それは俺としても願っても無い話です。両親に自分の小遣いは自分で稼ぐって豪語したばかりですし、それがいきなり解雇なんて事になったら、とても両親に顔向け出来ないと思ってましたし・・・。」 「最近は少子化の影響からなのか、バイトの確保も中々ままならない状況でね。僕としても君たちのような優秀なスタッフには是非残って貰いたいんだよ。」 取り敢えず、いきなりバイトをクビにならずに済んだ・・・テオドールはホッと胸を撫で下ろしたのだった。 あの時の自分の対応に間違いがあったとは思っていないが、それでも上層部の気に障るような何かをしでかしたのではないか・・・そんな不安をずっとテオドールは感じていたのだが。 「まあそれでも今回の件に関しての君たちの対応に対して、全く問題が無かったという訳でもないんだ。それに関しての反省会はきちんと行わないといけない・・・それは分かるよね?」 「・・・は、はい・・・。」 「店長から聞いていると思うけど、僕もたまたまあの場に居合わせていてね。君たちの対応を遠くから見させて貰っていたんだ。」 ユルゲンの言葉で、またしても緊張の表情になってしまったテオドールたち。 いくら今回の件でクビにならずに済んだと言っても、それでも反省会という言葉が出てしまっては、やはり緊張せざるを得ないというのが実情だろう。 ユルゲンもそれは察しているようで、テオドールたちを必要以上に不安にさせないようにと、とても穏やかな表情でテオドールたちを見つめている。 「まずはテオドール君に関してだけども、身を挺してカティア君を守ったのは結構なのだが、それで接客中の女性に対して何の詫びも入れずに、無言で接客を放棄したのはまずかったかな。」 「・・・そ、それは・・・急な事だったので、つい・・・。」 「うん、気持ちは分かるよ。だけどああいう状況だったとはいえ、無言で放置された彼女は決していい気分をしなかったと思うよ。せめてすみませんの一言があれば違っていたんだろうけどね。」 「・・・はい。」 「それと自己犠牲の精神は結構だが、自分の身はもっと大切に扱いたまえ。君が傷ついた事でリィズ君もカティア君も泣いていただろう。」 確かにユルゲンの言う通りだ。身体を張ってカティアを守ったのはいいが、それでリィズとカティアを泣かせてしまったのも事実だ。 あの時、殴られる前に監視カメラの存在を男たちにほのめかしていれば、また違った結果になっていたかもしれない。 誰かを守るのは確かに大切だが、自分が傷つかないように尽力するのもまた大切な事なのだ。 自分が傷付いた事で、自分を慕う誰かを悲しませる事になってしまうのだから。 「次にリィズ君なんだけど、事件が起きてから警察への通報を的確に済ませた、君の冷静さや判断力、そして迷惑行為を働いた彼らを退けた胆力は評価出来るんだけど・・・。」 「・・・・・。」 「・・・その・・・幾らお兄さんが殴られて腹が立ったからといって、お客様が見ている前で唾を吐いたり、殺すとか暴言を吐くのは、さすがにちょっとまずかったかな。」 ユルゲンに指摘されたリィズの全身から、漆黒のオーラが消え失せたのだった。 確かにあれを見た周囲の客が、リィズやこの店に対して悪い印象を持ってしまってもおかしくは無い。あれで迷惑行為を働く男たちを追い出せたとはいえ、接客業を営んでいる以上は決して褒められた行為ではないだろう。 とても落ち込んだ表情で、思わずうつむいてしまうリィズ。 「アネット君はテオドール君の事が気になって調理を止めてしまったようだけど、気持ちは分かるが料理を待たされるお客様の事を考えると、決して褒められた行為ではなかったかな。」 「・・・はい・・・。」 「テオドール君とリィズ君が警察への通報や、迷惑行為を働いた彼らへの対応をしっかり行ってくれている以上、君は2人を信じて調理に集中すべきだったと思うよ。君の料理を待ってくれているお客様がいるんだからね。」 あの時アネットはテオドールの事が気になって仕方が無かったのだが、それで結果的に客に料理を提供するのが遅れてしまったのだ。 飲食店が必要以上に客を待たせるなど、あってはならない事だろう。最悪の場合、客が怒って帰ってしまう事にもなりかねない。 「最後にカティア君なんだけど・・・まぁ君は被害者の立場にある人間なんだけどね。だけど胸を触られた後、もう少し毅然とした態度を取って貰いたかったというのが本音かな。テオドール君も言っていたが、うちはファミレスであって風俗店では無いのだからね。」 「・・・・・。」 「まぁいきなりあんな事されたんじゃ、気が動転してしまっても仕方が無いんだろうけどね。事件が起きた後の君の働きぶりは優秀だったし、気持ちの切り替えもきちんと出来ている。次から気をつけてくれれば何も問題は無いよ。」 運営会社の幹部を勤めているだけあって、ユルゲンの指摘は至極真っ当で的確な代物だった。 決して4人を責めている訳ではないが、さすがに幹部としての言葉の重みが違う。 「・・・さて、反省会はここまでだ。次からはいよいよ本題に入らせて貰うが・・・。」 「え?本題?俺たちをここに残したのは反省会の為じゃないんですか?」 「それもあるけど、それはあくまでもついでだよ。僕がここに来たのは君とリィズ君に別の大事な話があるからなんだ。」 とても真っ直ぐな瞳で、ユルゲンはテオドールとリィズをじっ・・・と見据えた。 いきなりの事に、思わずたじろいてしまうテオドールとリィズ。そして・・・。 「・・・最初に言っておくが、これは君たちがアイリスの知り合いだから言うのではない。君たちの能力と働きぶりを見させて貰った上で言う事なんだ。それを肝に銘じて欲しい。」 「はぁ・・・。」 「テオドール君、リィズ君・・・2人共高校を卒業したら、うちの会社で正式に正社員として働くつもりはないか?」 「・・・はああああああああああああああああああああ!?」 全く予想もしなかった話に、テオドールは思わず動転してしまった。 今日あんな事があったにも関わらず、それをいきなり正社員とか。 ユルゲンは穏やかな笑顔で、じっ・・・とテオドールとリィズを見つめている。 「テオドール君。君はとても真面目で正義感が強くて勇敢な男だ。それにただ勇敢なだけの無謀な男ではなく、己の能力を弁えた上での冷静で適切な判断力も持ち合わせている。あの状況で混乱して下手な事をする者も多いというのに、君のような優秀な人材はそうそういる物ではないよ。」 あの時、客の男に殴られた時・・・テオドールは下手にカッとなって殴り返そうとせず、ファミレスの店員としての毅然とした態度を決して崩さなかった。 もしテオドールが男に手を出していたら、それこそ大問題になっていただろう。店としての信頼を失墜させ、最悪売り上げを落とす事にも繋がりかねなかったのだ。 「リィズ君、君も同じだ。君は非常時に的確に動けるだけの冷静さと判断力、そして大の男が相手でも決して引かない胆力も持ち合わせている。それに君の料理の腕も実に見事だった。店長にレシピの改善まで提案してしまう程までにね。ただのバイトにしておくのは惜しい人材だよ。」 「あの、ちょっと待って下さい、まだバイトを始めてから1日目なのに、いきなり俺とリィズを正社員にって・・・そんな事を急に言われても・・・」 「勿論返事は急がないよ。君たちの将来に関わる事だからね。今はこの店でバイトしながら高校生活を満喫してくれればそれでいい。だけど前向きに考えてくれたら僕としては嬉しいな。」 いつまでも非正規のまま、正社員になれずに苦しむ者も多いというのに、それをいきなり正社員に誘われたのだ。テオドールとリィズにとって、これ程ありがたい話はないだろう。 だがそれでもテオドールには、即答出来ない理由があるのだ。 「・・・その・・・誘ってくれたのは嬉しいんですが・・・実は俺も父さんから誘われてるんです。高校を卒業したら私の仕事を手伝わないかって。」 「そうか。君たちの父上は一体どんな仕事をしているんだい?」 「確か福祉関係の仕事だとか言ってました。勿論強制はしない、自分の信じた道を進めと言ってくれてるんですが・・・俺も正直どうしたらいいのか・・・。」 「先程も言ったが返事は急がないから、ゆっくり考えてくれればそれでいいさ・・・それじゃあ今日はこれで解散にしようか。4人共引き留めてしまって本当に悪かったね。良かったら僕の車で家まで送ってあげるよ。」 テオドールたちが店を出ると、もうすっかり日が沈んで夜になってしまっていた。 バイト初日から本当に色々な事があって大変だったが、それでも自分の小遣いは自分で稼ぐとリィズの両親に豪語してしまっている以上、明日からも頑張らないといけない。 だがテオドールがユルゲンの車の助手席に乗ろうとした、その時だ。 「・・・あ、やっと出てきた。もう、タイムカードを押してから出てくるのが遅いわよ。一体何をやってたのよ。」 先程テオドールに接客をほったらかしにされた女子高生が、む~っ、としながらテオドールに近付いてきたのだった。 テオドールも彼女の顔は覚えていたようで、とても申し訳無さそうな表情になる。 「その、すいません、接客を途中でほったらかしにしてしまって・・・でも、わざわざ俺の事を待ってたんですか?苦情なら別に店を通してでも・・・。」 「苦情なんか無いし敬語もいらないわよ。私たちは同学年なんだから。テオドール君。」 「・・・いや、何で俺の名前を知ってるんだよ?大体何で俺と同学年だなんて・・・。」 「彼女が貴方の事をテオドールさんって呼んでたでしょ?それに叔父さんから貴方の事を色々と聞かされてたのよ。入学式初日に大活躍した学校の英雄だって。」 「叔父さんって・・・まさか・・・。」 「貴方の担任のヨアヒム・バルクは私の叔父なの。」 女子高生はとても意味深な笑顔を見せながら、テオドールをマジマジと見つめてくる。 その様子を見たリィズが全身から漆黒のオーラを放ちながら、物凄い形相で女子高生を睨み付けていたのだが・・・。 「私はキルケ・シュタインホフ。この近くの聖ルミナス女学院に通う高校1年生よ。よろしくね、テオドール君。」 「お、おう・・・。」 「貴方はその辺のゲスな男たちは全然違う。とても勇敢で誠実で素敵な人なのね。とても気に入ったわ・・・貴方がここで働いてるなら、私も毎日ここに通おうかしら・・・ふふふ。」 ちゅっ。 キルケはテオドールと唇を重ねた。 いきなりの出来事に唖然とするテオドール。そして。 「・・・私は貴方に一目惚れしたの。だから私が貴方のハートを必ず射止めてみせる。覚悟しておきなさいね、テオドール君。うふふ。」 「・・・はああああああああああああああああああああああ!?」 「何ぃ!?テオドール君、君は将来アイリスと結婚するんじゃなかったのか!?」 「いきなり何言ってるんですかユルゲンさん!!あれはアイリスが勝手に言ってるだけで、俺はまだ彼女と付き合うと決めた訳じゃ・・・!!」 「死ねえええええええええええええええええええええ(激怒)!!」 「リィズーーーーーーーーーーーーーーーーーー(泣)!!」 仰天するテオドールたちを、キルケはとても可愛らしい笑顔で見つめていたのだった・・・。 5.その名は恋愛原子核 「・・・以上が今回議題に上がった、1年3組テオドール・エーベルバッハに関するレポートです。」 同じ頃・・・私立マブラヴ学園のシュター部の部室において、女子部員がプロジェクターに接続されたノートパソコンを使って、テオドールの極秘情報などをスクリーンに映し出していた。 テオドールが入学式の日にカティアをお姫様抱っこする画像、昨日の夜にアイリスディーナにキスされる画像、昨日の昼休みにファムとアスクマンに追い掛け回される画像、今日の昼休みにリィズたちに拉致られる画像・・・。 これらの様々なリア充画像を見せ付けられたシュター部の部員たちが騒ぎ出し、驚嘆と嫉妬の声が挙がる。 そしてこの瞬間、ベアトリクスのスマホから鳴り響く着信音。 「・・・私よ。どうしたの?カトリーヌ。」 『すいません部長、たった今テオドール君に関しての新しい情報が届きました!!』 「新しい情報ですって?」 『画像送ります!!』 ノートパソコンに送られた画像が、スクリーンに映し出される。 それはたった今起こったばかりの、テオドールがキルケにキスをされる画像だった・・・。 「・・・へぇ、中々やるじゃない彼。まさか他校の生徒まで虜にしちゃうなんて。ふふふ・・・。」 『なおテオドール君、リィズちゃんの両名がアイリス先輩の兄君から、高校卒業後にアルバイトをしているファミレスの運営会社の、正社員として働かないかと誘われた模様!!』 「分かったわ。今日はもう遅いから貴方はもう帰っていいわ。明日も引き続き彼らのネタを探って頂戴。」 『了解しました!!あ、先輩、今日の昼食の日本料理、とても美味しかったです!!誘って頂いてありがとうございました!!それでは!!』 ベアトリクスが通話を終えると、シュター部の部員たちの騒ぎが一層大きくなってしまった。 特に今まで一度も女子にモテた事が無い男子部員たちからは、女子にモテまくっているテオドールに対しての凄まじい嫉妬と憎悪が激しくなってしまっている。 まさか他校の生徒にまで手を出しやがるとは・・・!! 絶対に許さない。絶対にだ。 しかも卒業後の就職先まで確約とか、どんだけリア充なんだよ!? ギャルゲーの主人公かよ!? ば・・・馬鹿にしやがって・・・!! そんな男子部員たちの厳しい言葉が、スクリーンに映し出されるテオドールの画像に浴びせられたのだが。 「・・・恋愛原子核ね。」 ベアトリクスの言葉と同時に、部員たちの騒ぎが一瞬にして静まり返ってしまった。 聞き慣れない言葉を前に、部員たちは意味が分からずに動揺してしまう。 「中学時代は全然女子にモテなかった癖に、何故か高校に入ってから急にモテ出した・・・それも常識では有り得ない程の物凄い勢いでね。今のテオドールと全く同じ境遇の男子高校生が、日本にも1人存在していると聞いた事があるわ。」 「そ、それは一体どういう人物なのでしょうか!?」 「横浜にある高校の生徒らしいわよ。確か白銀武と言ったかしらね。彼は幼馴染や数人のクラスメイトだけではなく、担任の女教師にまで好意を持たれているという話よ。」 「・・・なん・・・だと・・・!?」 「さらには御剣(みつるぎ)財閥の跡取りである双子の姉妹までもが、彼と添い遂げる為にわざわざ他校から転校までしてきたんだとか・・・。」 そのベアトリクスの言葉に、モテない男子部員たちの騒ぎが一層大きくなってしまった。 羨ましい・・・憎い・・・妬ましい・・・そんな凄まじい憎悪と嫉妬が、遠く離れた日本にいるその男子生徒にまで向けられてしまう。 そんな男子部員たちの情けない姿を、ベアトリクスは意味深な含み笑いをしながらマジマジと見つめていたのだったが・・・。 「あの・・・て言うか、何で先輩がそんな事まで知ってるんですか?」 「・・・貴方が気にする事・・・?」 「し、失礼致しましたぁっ!!」 ドヤ顔でベアトリクスに睨まれた男子部員が、その鋭い眼光の前に萎縮してしまい、思わず両手でちんちんを押さえてしまったのだった。 「彼があまりにも非常識なまでに女子にモテまくるもんだから、その横浜の高校に赴任している女性教師が、興味本位で彼を研究したらしいんだけど・・・彼の女性を引き付ける魅力は細胞レベルにまで達している・・・その女性教師は彼の内に眠る力を『恋愛原子核』と名付けたそうよ。」 「恋愛・・・原子核・・・」 「テオドールも彼と同じね。別に意識して女子を口説こうとしている訳でもないのに、何故か女子の方から彼に大勢近付いてくる・・・これはもう才能とかいうチンケなレベルの話ではないわ。彼の存在その物が女子の心を虜にしてしまうのよ。まさしく彼もまた恋愛原子核の持ち主よ。」 うおおおおおおおおおおおおおおお!! テオドール許すまじ!! 俺も恋愛原子核が欲しい!! う・・・羨ましい・・・!! あいつマジで何様のつもりだよ!? テオドールに対して嫉妬と憎悪の感情を顕わにする男子部員たちを、ベアトリクスは「うっわー、こいつらマジでだらしねー(笑)」とか思いながら見つめていたのだったが。 「で、本題はここからなんだけど・・・まだ公表はされてないのだけれど、今週の土曜日にヨアヒム先生が料理対決を開くという情報を掴んだの。」 「料理対決?しかも今週の土曜日って、そんな急に何でまた・・・」 「優勝者には翌日の日曜日に、テオドールとデートする権利を与えられるらしいのだけれど・・・。」 一瞬の静寂の後、部員たちが思いもしなかった事に、戸惑いの表情でどよめいたのだが。 「・・・その料理対決・・・私も出場するわ。」 ドヤ顔で宣言するベアトリクスの言葉に、部員たちの騒ぎが盛大に大きくなってしまったのだった・・・。 前半へ 戻る
https://w.atwiki.jp/schwaken-extra/pages/26.html
シュヴァルツェスマーケン・えくすとら♪ 第4話「お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃあああああああん!! 」(後半) 4.観覧車 それからテオドールはアスクマンに連れられ、ショッピングモールやら公園やらゲームセンターやら色んな所に足を運び・・・その度に周囲の者たちから物凄く白い目で見られてしまったのだった。 そうこうしている内に、あっという間に夕方になってしまい・・・遊園地の施設の中でも一際目立つ観覧車の中で、テオドールはアスクマンと2人きりになってしまっている。 2人を乗せた観覧車が、ゆっくりと穏やかな速度で、静かな音を立てながら上空へと昇っていく。 その様子をリィズたちはとても悔しそうな表情で、ただ黙って見ている事しか出来なかった・・・。 「・・・ふう、やっと2人きりになれたね、テオドール君。」 「は、はぁ・・・。」 「全くさっきから周囲の者たちが、やたらと好奇の目で我々を見つめるのには本当に呆れてしまうよ。まぁ私とテオドール君の愛が羨ましいのは理解出来るのだがね。はっはっはっはっは。」 休日で家族連れやカップルなどで行く先々が混雑していた、今日のこれまでの喧騒がまるで嘘のように、観覧車の中は不気味な静けさに包まれてしまっている。 他の観覧車の中ではカップルたちが肩を抱き合ったり見つめ合ったり、誰も見ていないからと濃厚なキスを交わしていたりと、それはもう凄まじいまでのイチャイチャラブラブっぷりを発揮していたのだが・・・。 「・・・お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん・・・!!」 テオドールが乗る観覧車を手が届かない地面から、全身から漆黒のオーラを放ちながら、リィズが物凄い形相で睨み付けていたのだった・・・。 そんなリィズたちの想いを嘲笑うかのように、テオドールとアスクマンを乗せた観覧車が、ゆっくりとゆっくりと、上へ上へと昇り続けていく。 「・・・テオドール君。」 「ひ、ひいっ!?」 そしてそんなリィズたちの想いをさらに嘲笑うかのように、アスクマンが突然テオドールを押し倒したのだった。 アスクマンは顔を赤らめながら、とても潤んだ瞳でテオドールを見つめている。 「ちょ、ちょっとアスクマン先輩!?」 「さすがにここなら邪魔は入らないだろう・・・テオドール君、私はもう我慢の限界なんだよ・・・。」 「や、やめて下さい、先輩、どこ触って・・・あんっ!!」 「テオドール君・・・私は君の事が好きだ・・・。」 「うわあああああああああ、俺にそんな趣味は無いですよ先輩いいいいいいいいいい(泣)!!」 アスクマンの顔がどんどん近くなっていく。 やばい、やばいやばいやばい。 テオドールは必死に逃げ惑うが、この密室の観覧車の中ではどこにも逃げようがないし、観覧車が地上に降りるまでに助けを呼ぶ事さえも出来なかった。 その事実がテオドールの心に、より深い絶望を味あわせる事になる。 「んんんん~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ。」 「ひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい(泣)!!」 だがアスクマンの唇がテオドールの唇に触れようとした、次の瞬間。 「お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃああああああああああああああん!!」 リィズの全身から放たれた凄まじいまでの漆黒のオーラによって局地的な地震が発生し、観覧車に凄まじい衝撃を与え、急激に揺らしたのだった。 安全装置が揺れを感知した事によって、観覧車が強制的に停止してしまう。 「どああああああああああああああああああああああああ(泣)!!」 「何いいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい(泣)!?」 突然の凄まじい揺れにビビったテオドールとアスクマンも、慌てて離れて近くの手すりにしがみついた。 だが次の瞬間、リィズの全身から放たれた漆黒のオーラが、テオドールとアスクマンが搭乗する観覧車まで伸びていき、そのままアスクマンに殴る、蹴るの暴行を加えつつ、テオドールを優しく包み込んでしまった。 「あ、やめ、びで、いでえ(泣)!!」 「はあああああああああああああああああああああああああああ(泣)!?」 そして戸惑いを隠せないテオドールを回収した漆黒のオーラが、物凄い勢いでリィズの身体へと戻っていく。 「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお(泣)!?」 「お兄ちゃあああああああああああああああああああああああああん!!」 そのまま落ちてくるテオドールを、お姫様抱っこして受け止めるリィズ。 そして全身から漆黒のオーラを放ちながら、そのままテオドールをお姫様抱っこする体勢のまま、人気の少ない場所まで走り去ってしまったのだった。 あまりの一瞬の出来事だった為に、周囲の野次馬たちは呆然とした表情で立ち尽くしてしまっていたのだが、アイリスディーナたちだけはすぐに状況を理解し、慌ててリィズを追いかけていったのだった。 「何なのだリィズのあの凄まじいまでの力は!?と言うかあの身体能力は何なのだ!?」 「まさかあれが・・・恋愛原子核に秘められたもう1つの力!?」 「はあ!?一体何を言っているのだお前は!?」 リィズを追いかけながらベアトリクスは、様々な調査によって知り得た恋愛原子核についての知識を、驚愕の表情のアイリスディーナたちに語り出した。 「白銀武の恋愛原子核に影響された女性たちの中には、どういう原理なのかは知らないけれど、その身に凄まじいまでの力を宿した者が現れたというわ。」 「凄まじいまでの力だと!?一体どういう事なのだ!?」 「例えば、白銀武の幼馴染の鑑純夏(かがみ・すみか)・・・彼女は白銀武をグーパンチしただけで、遥か彼方まで吹き飛ばしたという記録が残されているのよ。」 「はあ!?グーパンチだけでって、えええ!?」 「それだけの力の影響を、テオドールの恋愛原子核がリィズにもたらしたのだとしたら・・・!!」 リィズのテオドールへの想いが、兄としてではなく1人の男性としての想いが、テオドールの恋愛原子核によって、リィズの内に秘められた力を呼び覚ましてしまったとでもいうのか。 だが今はそんな事を考えている余裕はない。すぐにテオドールとリィズを追いかけなければ。 「・・・あそこだ!!」 アイリスディーナたちが駆けつけた場所・・・そこは遊園地の中心部にある憩いの場・・・穏やかな緑に包まれた小さな公園だった。 漆黒のオーラに仰天する周囲の野次馬たちを完全に無視したリィズが、テオドールを芝生の上に押し倒している。 なんかもう、テオドールは一体全体何が何だか、全然意味が分からないといった表情をしていた。 そんなテオドールとは対称的に、リィズは今にも泣きそうな表情でテオドールを見つめている。 「・・・危ない所だったねお兄ちゃん。あんな変態野郎にキスされそうになるなんて・・・。」 「ちょ、ちょっと、リィズ、おま・・・」 「だけど、私がお兄ちゃんを守るから。あんな変態野郎なんかにお兄ちゃんを渡さないんだから・・・ううん、あの変態野郎だけじゃない、他の女たちにも誰にも・・・!!」 漆黒のオーラでしっかりと、しかし絶対に傷つけないように、テオドールを巧みに優しく押さえ込みながら、リィズはテオドールと唇を重ねようとしたのだが。 「抜け駆けは許さんぞ、リィズ!!」 「何ぃ!?」 「はあああああああああああああああああっ!!」 アイリスディーナが放った白銀のオーラが、テオドールを押し倒すリィズに襲い掛かる。 それをリィズは漆黒のオーラで受け止めるものの、あまりの威力に吹っ飛ばされてしまった。 「ちいいいいいいいっ!!」 「ちょ、アイリス、な・・・ええええええええええええええええ(泣)!?」 「・・・アイリスディーナ・・・貴様さえ現れなければ、お兄ちゃんはぁっ!!」 どうにか立ち上がったリィズは、全身から放たれた漆黒のオーラを爆発させる。 それに対抗するかのように、アイリスディーナも全身から放たれた白銀のオーラを爆発させた。 「あの青年がその身に宿す恋愛原子核に導かれ、2人の少女が遂に目覚めたか。兄者よ。」 「これも恋愛原子核を持つ者であるが故の、青年が背負うべき宿命(さだめ)だな。弟者よ。」 「ああ、1人の男を2人の女が奪い合う・・・恋愛原子核がもたらす深き業か、兄者よ。」 「第三者の我らには一切手出しする事は許されない。見届けようではないか。弟者よ。」 リィズとアイリスディーナの戦いを、とても真剣な表情で見つめる屈強な男2人。 なんかもう、訳が分からない展開になってきた・・・。 5.高まる想い。ぶつかり合う想い。 漆黒のオーラを放つリィズと、白銀のオーラを放つアイリスディーナ。 2人はとても真剣な表情で、互いの事を睨み付けている。 そんな2人の様子を、訳が分からないといった表情で見つめている野次馬たち。 既に日が沈んで夜になろうとしている最中、僅かに残った夕焼けの光が、テオドールたちを優しく照らし出している。 と言うか当のテオドール本人は、一体全体何がどうなっているのか、全然意味が分からないといった表情をしていた・・・。 「・・・お兄ちゃん。私、お兄ちゃんの事が好き。お兄ちゃんの為だったら何でも出来るよ。」 「リ、リィズ!?」 なんかもう、ムードもへったくれも無い愛の告白になってしまっていた。 リィズ自身もそれは自覚しているものの、この状況ではもうムードとか悠長な事を言っていられる場合ではない。 アスクマンのような下衆野郎のせいで、テオドールが危うく汚される所だったのだ。 そうなる前に、テオドールを一刻も早く自分だけの物にしなければ・・・その想いだけが今のリィズを突き動かしていた。 リィズが放つ漆黒のオーラを、アイリスディーナは白銀のオーラで弾き返す。 「抜け駆けは許さんと言ったはずだぞリィズ。テオドールは私の未来の夫だ。」 「アイリスまで!?」 「その邪魔をするのであれば、例えお前でも容赦はしない!!」 アイリスディーナが放つ白銀のオーラを、リィズもまた漆黒のオーラで受け流す。 何だかよく分からないが力がみなぎってくる。テオドールを強く想えば想う程、アイリスディーナの身体から無限の力が溢れ出てくる。 一体この力は何なのか・・・アイリスディーナ自身にもよく分からなかったのだが、ただ1つだけ言える事がある。 今ここでリィズを倒さなければ、テオドールを自分だけの物にする事が出来ないという事だ。 「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」 アイリスディーナが手の平に生み出した白銀のオーラが、一本の剣の形状になる。 そして旋風の如き速さで、アイリスディーナはリィズに斬りかかった。 剣術なんか全く心得が無いはずなのに、何故かアイリスディーナが繰り出す剣術は達人の域にまで達してしまっている。 「舐めるなあああああああああああああああああああああっ!!」 リィズもまた手の平に生み出した漆黒のオーラを、一本の槍の形状に変えて迎撃した。 リーチで勝る槍による凄まじい打突の連打により、アイリスディーナを巧みに近寄らせない。 リィズもまた槍術の経験なんて全然無いはずなのに、何故かリィズが繰り出す槍術は達人の域にまで達してしまっていた。 「・・・あの、ベアトリクス先輩・・・これもさっき先輩が言ってた、テオドールの恋愛原子核に秘められた力って奴なんですか?」 「私だって驚いてるわよ。まさかこれ程までだなんて・・・!!」 アネットの質問に、ただただ驚愕の表情で答えるしかないベアトリクス。 恋愛原子核に導かれた少女たちが、人外の力に目覚める・・・自分が集めた記録から情報だけは知り得ていたのだが、まさかここまでとんでもない事態になるとは思ってもみなかったのだ。 「お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃああああああああん!!」 「テオドールテオドールテオドールテオドールテオドールテオドールーーーーーーーーっ!!」 互いに凄まじい戦いを繰り広げるリィズとアイリスディーナだったのだが、その時だ。 「・・・2人共、もう止めて下さいーーーーーーーーーーーーっ!!」 カティアが全身から蒼白のオーラを放ちながら、2人の斬撃を受け止めたのだった。 そして蒼白のオーラを爆発させ、リィズとアイリスディーナを弾き飛ばす。 「・・・リィズさん。アイリス先輩。私もテオドールさんの事が好きです。お兄ちゃんとしてではなく、1人の男性として。」 「はああああああああああああああ!?カティアまで何言ってんの!?」 「でもだからと言って、こんな互いを傷付け合うような決着の付け方、絶対に間違ってます!!」 カティアが放った蒼白のオーラが、リィズやアイリスディーナを優しく包み込んだ。 それはまるで、カティアの母性を体現するかのように。 カティアの蒼白のオーラに優しく包み込まれたリィズとアイリスディーナは、まるで母親の胸に優しく包み込まれるかのように、穏やかな眠気に包まれてしまう。 「女なら女らしく、堂々とテオドールさんに正面から告白して、それで決着を付けて下さい!!暴力でライバルを蹴散らすなんて許されない事です!!他人を傷付けるだけじゃない、自分自身も傷ついちゃうんですよ!?心も、身体も!!」 「・・・カティアちゃん・・・私だってそれ位分かってるわよ・・・それでも・・・それでもぉっ!!」 お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん!! そのリィズの強い想いが、漆黒のオーラをさらに爆発させた。 リィズが放った漆黒のオーラがカティアの蒼白のオーラを打ち破り、カティアを弾き飛ばす。 「きゃああああああああああああああああああっ!?」 「カティアーーーーーーーーーーーーーーっ!!」 「それでもお兄ちゃんの周りには、いつもいつもいつもこうやって他の女たちが擦り寄ってくるから、仕方が無いじゃないのよぉっ!!お兄ちゃんったら中学時代は全然モテなかった癖にさぁっ!!」 弾き飛ばされたカティアに、リィズはさらに漆黒のオーラで追撃しようとするのだが。 だがそこへファムが放った桃色のオーラが、リィズの漆黒のオーラを相殺した。 「駄目よリィズちゃん。貴方はそんな子じゃないでしょ?」 「邪魔を、するなあああああああああああああああああああああああああっ!!」 「きゃあああああああああああああああああああああああっ!?」 リィズが放った漆黒のオーラが、ファムを派手に弾き飛ばす。 派手に地面に叩き付けられ、うずくまるファム。 それを目撃したテオドールの中で、何かがプツンと切れた。 「・・・リィズーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」 怒りなのか、焦りなのか、悲しみなのか・・・よく分からないが、それでもテオドールの心の中を強い焦燥感が支配していた。 必死の形相で、テオドールはリィズを芝生の上に押し倒す。 「何故だリィズ!?何故ファム先輩とカティアを吹っ飛ばした!?あの2人はお前を救おうとしていたんだぞ!?それをぉっ!!」 「・・・つ~かまえたっ♪」 「な・・・むぐぐ・・・!?」 押し倒されたリィズはテオドールを抱き締め、そのまま強引にテオドールと唇を重ねたのだった。 それを見たアイリスディーナたちは、一斉に仰天した表情になってしまう。 「「「「「「・・・あああああああああああああああああああああああっ!?」」」」」 アイリスディーナやリィズ、カティア、ファムだけではない。キルケやアネット、ベアトリクスまでもが一斉に緑色、白色、紫色のオーラを爆発させた。 なんかもう、とんでもない事態になってしまっていた・・・。 「ちょっとリィズちゃんだけずるいわよ!!私にもテオドール君とキスさせなさいよぉっ!!」 「テオドールあんた、義理とはいえリィズはあんたの妹なのよ!?」 「ああん、私にはユルゲンという心に決めた人がいるのに、何故かテオドールと無性にキスしたくなってしまったわ!!これが恋愛原子核の力だっていうの!?」 キルケ、アネット、ベアトリクスが一斉にテオドールに迫り、リィズを強引に引き離そうとする。 必死に抵抗するリィズだったが、それに負けじとカティアやファムも何とか立ち上がり、一斉にテオドールに向かっていく。 アイリスディーナも負けてなる物かと、白銀のオーラをバズーカ砲の形状に収束させ、リィズたちを吹っ飛ばそうとしたのだが。 「・・・はぁーーーーーーーーっはっはっはっはっは!!テオドール君!!」 全身から黄金のオーラを放ちながら、アスクマンが物凄い表情でテオドールに向かっていった。 「何だかよく分からんが、私にもこんな力が目覚めてしまったよ!!さあテオドール君、この私と共に兄弟の契りをぶげげぼぎげぶぎゃーっ!?」 ドカッ!!バキッ!!グシャッ!! ズガガガガガガガガガ!! ズドーン!! もこっ!!もこっ!!もこっ!! アイリスディーナたちが物凄い形相で、アスクマンに殴る、蹴るの暴行を加え続ける。 「あ、やめて、死ぬ、本当に死ぬ(泣)!!」 「「「「「「「本当に死ねええええええええええええええええええええええ(激怒)!!」」」」」」」 「ぶぎゃあああああああああああああああああははははははははははは(泣)!!」 そのまま物凄い表情で、遥か彼方へと吹っ飛ばされてしまったアスクマン。 そして邪魔者を消したアイリスディーナたちが一斉に、自分の恋のライバルたちに対して、互いに円を作るかのように真剣な表情で向き合ったのだが。 「・・・7人共、もう止めてくれえええええええええええええええっ!!」 その円の中心に、テオドールが必死に向かって行ったのだった。 そして必死に両手を広げ、もうこんな戦いは止めろと、身体を張って説得する。 「何でこんな事になっちまったんだよ!?もうこんな下らない争いは止めろよ!!」 「・・・お兄ちゃん・・・。」 テオドールの必死に説得を受け、リィズたちはオーラを解除したのだった。 全員が沈痛の表情で、一斉に落ち込んで下を向いたのだが・・・。 「・・・だって・・・だって・・・だってぇっ!!」 リィズが大粒の涙を流しながら、テオドールの身体にしがみついて身体を震わせ、嗚咽する。 「このままじゃお兄ちゃんが、あの変態野郎に犯されるんじゃないかって、不安で不安で仕方が無かったんだもん!!」 「・・・リィズ・・・いやそれに関しては本当にごめんな(泣)。」 「お兄ちゃんが悪いんだからね!?お兄ちゃんが私じゃなくて、あの変態野郎とデートするなんて言うからぁっ!!うわああああああああああああああああああああああん(泣)!!」 堪え切れなくなったリィズは、とうとう人目もはばからずに号泣してしまったのだった。 とても申し訳無さそうな表情で、テオドールはリィズの身体を抱き締める。 その様子をアイリスディーナたちは、悲しみの表情で見つめている。 「7人の女を優しく包み込む1人の男か・・・中々いい物を見させて貰ったよな。兄者よ。」 「ああ、これも恋愛原子核の成せる技よな。弟者よ。」 「あの青年がこれからどういう道を歩むのか、実に楽しみよな兄者よ。」 「彼が我ら統一ドイツにとって、希望の光になればいいよな。弟者よ。」 そして屈強な肉体の男2人が、とても感動した表情でテオドールたちを見つめていたのだった・・・。 前半へ 戻る
https://w.atwiki.jp/ange_vierge/pages/121.html
テオドーチェ imageプラグインエラー ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (teo04.png) 世界 黒 レベル 1 (99) 入手先 イベント報酬イベント限定レイドボスPAOクリスタル交換所(予定) レアリティ SR パワー 3613(13506) コスト 12 ガード 2233(7493) リンク 6pt スピード 1807(6064) 売却価格 20000 エクシードⅠ 天隕石