約 845,521 件
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/587.html
前ページ次ページゼロのアトリエ その夜。ヴィオラートは一人、部屋のベランダで月を眺めていた。 ギーシュたちは一階の酒場で大いに盛り上がっているらしい。 キュルケが誘いに来たが、断った。どうにも飲む気分じゃなかった。 「ヴィオラート」 振り向くと、ルイズが立っていた。 「今日の、手抜きの理由について聞きたいの。」 ルイズは真剣な眼差しでヴィオラートを見つめる。 「そうだね。」 ヴィオラートはいつもどおりの微笑で答える。 「あの人に、あんまりはっきりと手の内を見られたくないんだ。」 その答えを聞いたルイズは、哀愁を帯びた顔でヴィオラートに問う。 「ワルドを疑ってるの?」 ヴィオラートは少し迷った後、小さく、しかしはっきりとした声で答えた。 「…うん。」 その答えに、ルイズは何を思うのか。 「ワルドと結婚するわ。」 ヴィオラートをしっかりと見据えたまま、そう言い放った。 ゼロのアトリエ ~ハルケギニアの錬金術師18~ 思わず口を突いて出た言葉を、ルイズは後悔していた。 後を押して欲しかった。考えすぎだよって言って欲しかった。 あの夢。そして思い出とは違う、ワルドの不自然に積極的な態度。 自分でも、何となく不安に思っていたのだ。 ヴィオラートの言う事はいつも正しい。 正しいヴィオラートに、この不安を打ち消して欲しかったのに。 「あたしは…結婚したこともないし、あの人のことを知ってるわけでもないけど。」 やめてほしい。その後に続く言葉は決まりきっている。言われなくてもわかっている。 「最後に会ったのは何年前かな?その間のワルドさんのこと、何か知ってる?」 正しくて優しいヴィオラートの言葉が、ルイズの逃げ道を塞いでいく。 「あの人は…ルイズちゃんを見てないよ。」 哀しげな目で告げるヴィオラートの言葉に、ルイズは何も反論できない。その通りだから。 重苦しい沈黙がベランダに流れる。 「ヴィオラート…」 とにかく何か言わなければ。そう考え顔を上げたルイズの眼に、 月を背負い、腕を振り上げる巨大な影の輪郭が飛び込んでくる。 それは、岩で作られたゴーレムだった。こんなものを作るのは… 「フーケ!」 ルイズが叫び、ヴィオラートが振り返ると、 ゴーレムの肩に乗った人物が、嬉しそうな声で言った。 「感激だわ。覚えててくれたのね。」 「あなた、牢屋に入ってたんじゃあ…」 「親切な人がいてね。出してくれたのよ。世の中の為になることをしなさい、ってね!」 フーケが叫び、巨大ゴーレムが拳を振り上げて、 「危ない!」 ベランダが粉砕される直前、ヴィオラートはルイズの手をつかんで部屋の中へと転がり込む。 「合流しよう!」 ルイズの返事を待たずヴィオラートはそのまま駆け出し、空いた手でデルフリンガーをつかむと、 部屋を抜け、一階への階段を駆け下りた。 降りた先の一階も、修羅場だった。 いきなり現れた傭兵の一隊が、一回の酒場で飲んでいたワルドたちを襲ったらしい。 魔法で応戦しているが、多勢に無勢。 どうやらラ・ロシェール中の傭兵が束になってかかってきているらしく、手に負えないようだ。 キュルケたちはテーブルを盾に傭兵達に応戦していた。 メイジとの戦いに慣れた歴戦の傭兵達は、まず、魔法の届かない遠くから矢を射掛けてきた。 闇にまぎれた傭兵達に地の利があり、屋内の一行は分が悪い。 魔法を唱えようと立ち上がると、矢が雨のように飛んでくる。 ようやく合流したヴィオラートがフーケの存在を伝えようとするが… 吹きさらしからゴーレムの足が見えていたので、やめた。 「参ったね」 ワルドの言葉に、キュルケが頷く。 「精神力が切れるまで魔法を使わせて、安全になったところで突撃…ってとこかしら。」 「そ、そうなったらぼくのワルキューレが何とかする!」 ギーシュがちょっと青ざめながら言った。しかし、タバサがあくまでも淡々と宣告する。 「無理」 「やってみなくちゃわからない!」 「そんなことは無理」 重ねて宣告する。 その知ったような顔にか、あるいは小さな女の子に軽く見られたという事実に対してか。 「僕はグラモン元帥の息子だぞ!卑しき傭兵ごときに遅れは取らない!」 ギーシュが激昂し、立ち上がって呪文を唱えようとした。 それをワルドが、シャツのすそを引っ張って倒し、押さえつける。 「いいか諸君」 ワルドは低い声で話し始める。一行は黙ってワルドの話を聞いた。 「このような任務は、半数が目的地にたどりつければ成功とされる。」 ワルドがそう言うと、こんなときも優雅に本を広げていたタバサが本を閉じて、ワルドの方を向く。 自分と、ギーシュと、キュルケを杖で指して「囮」とだけ言う。 それからタバサは、ワルドとルイズとヴィオラートを指して「桟橋へ」と呟いた。 「時間は?」ワルドがタバサに尋ねた。 「今すぐ」とタバサが答える。 「聞いての通りだ。裏口に回るぞ。」 「え?え?」 ルイズは驚いた声を上げた。 「彼女達が敵を引きつける。囮だ。その隙に僕らは桟橋に向かう。以上だ。」 「で、でも…」 ルイズはキュルケたちを見た。 キュルケが魅力的な赤髪をかきあげ、つまらなそうに言った。 「ま、仕方ないわね。あたし達は何も知らないんだし、あんたが行くしかないのよ。」 ギーシュは薔薇の造花、のように見える杖を確かめ始めた。 「うむむ、ここで死ぬのかな。死なないのかな。死ぬ、死なない、死ぬ、死なない…」 タバサはルイズに向かって頷いた。 「行って」 「でも…」 ワルドとヴィオラートの双方がこっちにいるのは、バランスに欠けているのではないか? ルイズはそう考え、自分の言葉で意見を表明しようとするが… 「それじゃ、あたしの道具をいくつか渡しておくね。」 ヴィオラートは先手を打ったかのように、何かの道具を用意していた。 「キュルケさんにはこれ。一見効果なさそうに見えても叩き続けてね。」 そう言って、キュルケに太鼓のようなものを手渡す。 「タバサちゃんにはこれ。」 タバサに手渡したのは三叉音叉。その威力は折り紙つきである。 「ギーシュくんは…魔法のパン。怪我した人に食べさせてあげてね。」 日持ちしそうなデニッシュをむっつ、籠ごと受け取るギーシュ。 ルイズの考えは、宙に浮いた。ヴィオラートはちゃんと考えていたのだ。 「さあ、早く行こう。遅くなればこちらが不利だ。」 ワルドがルイズを促す。全くその通りだった。 ルイズは、何もしなくて良かった。 酒場から厨房に出て、ワルドたちが勝手口にたどりつくと、 酒場の方から規則正しい太鼓の音が聞こえてきた。 「始まったようだな。」 ワルドはぴたりとドアに身を寄せ、向こうの様子を探る。 「誰もいないようだ。」 ドアを開け、三人は夜のラ・ロシェールの街へと躍り出た。 「桟橋はこっちだ。」 ワルドが先頭を行く。ルイズが続く。ヴィオラートがしんがりを受け持った。 月が照らす中、三人の影法師が遠く、低く伸びた。 前ページ次ページゼロのアトリエ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/486.html
back / top / next アオは、窓から顔を出して、空を見ていた。 日が昇り空が白みだしてくる。鳥のさえずりが耳に心地よい。 世界は変われど、夜明けは変わらず、か。 それが嬉しくて、少し笑った。 自分をこの世界に呼び込んだルイズという少女は、ベッドでだらしない格好で寝ている。 大口開けて、毛布を蹴り飛ばしている姿はヒロインとしてはどうだろう。 「ほらほら、風邪をひくよ」 姿勢を整えてやり、毛布をかけ直す。 「……ん~ちいねえさま、もっと~…むにゃ」 幸せそうな顔で寝言を言っているが、起きる気配は無い。朝早いせいもあるが、夜更けまで転がっていた彼女の眠りは深かった。 「……ああ、姉様そんなにほほをつねらないで…んにゃ…」 かと思ったら、ひきつけを起こしたように身悶える。悪夢でも見ているのだろうか。 ルイズの百面相を眺めているのもおもしろかったが、そろそろ仕事を始めようとアオは思った。 とりあえず洗濯からだったが、一つ問題があった。 水場がわからない。 当然といえば当然の事だったが、さてどうしたものかと考える。 何気なく窓の下に目を向けると、洗濯物を詰め込んだかごを持った人物が目に留まった。 写真とかでしか見たことはなかったが、あれはたしかメイドといった者ではなかったか。 「ちょうどいいや。あの人に聞いてみよう」 洗濯物を手に取ると、三階の窓から軽やかに飛び降りる。 「きゃあ!」 いきなり、目の前に人が降ってきたのだ。当のメイドにしたら、災難と言うほかない。 かごを取り落として、そのままバランスを崩して尻餅をつきそうになる だが、それよりも早く右手をつかまれ、引き寄せられる。彼女は図らずもアオの胸にほほをよせることになった。 !?!?!?!?!? 頭の中が真っ白になる。状況の変化に思考が追いつかない。 恐る恐る見上げると、見知らぬ男の顔が目と鼻の先にある。 その笑顔と青い瞳に、思わずくらっとくる。 ……これは夢? 夢なの? ならば楽しまなければ勿体ない。 彼女はゆっくりと目を閉じると、唇を近づける。 「大丈夫?」 その一言で、夢は覚めた。 「そ、それでは、あ、あなたがミス・ヴァリエールの使い魔になられたという……」 「知ってるの?」 散乱した洗濯物を一緒に拾いながら、アオが意外そうな顔をする。 「ええ、なんでも召喚の魔法で平民を呼んでしまったて、噂になってますわ」 「そうなんだ。そういえば自己紹介がまだだったね。僕の名はアオ」 「変わったお名前ですね……。私はシエスタっていいます。貴族の方々をお世話するために、ここでご奉公させていただいているんです」 「ああ、やっぱりそうなんだ。っと、これで全部かな。はい、驚かせちゃってごめんね」 アオは謝りながら、拾った洗濯物をシエスタに手渡した。 「い、いえ、そんな。で、でもアオさん、なんで上から降ってきたんですか?」 「僕も洗濯しようとしてたんだけど、場所がわからなくて困ってたんだ」 「はあ」 「そうしたらあそこから、君の姿が見えたから」 ルイズの部屋の窓を指差し、当たり前だろうという顔で言うアオ。 この人物、思えばかならず最速で動いて、何が何でもどんな困難も叩き潰して実行する、そういう存在だった。 「ええっと、じゃあ案内しますね」 シエスタは深く考えるのをやめ、歩き出した。 このとき彼女は、ある中年の女教師から預かった洗濯物を一つ回収し忘れるのだが、それはまた別のお話である。 「うわぁ」 シエスタは目の前に広がる干された洗濯物たちに、感嘆の声を上げた。 アオがお詫びにと、こちらの洗濯物までまとめてやってくれたのたが、そのスピード、手際たるや、メイドである自分が比較にもならなかった。いつもの半分以下の時間で、洗濯が終わってしまったのだ。 「すごい! すごいですアオさん!!」 「そ、そうかな、はは」 シエスタの尊敬の眼差しに、照れるアオ。 「でもどうしましょう。こんなにしてもらったら何か御礼をしないといけないわ」 「いいよそんなの……そうだ厨房を貸してもらえないかな」 「厨房を、ですか? わりました、私からマルトーさんに頼んでみます」 「ありがとう」 アオは、にっこり笑ってみせた。シエスタの心臓が高鳴る。呼吸がとまる。 「どうしたの?」 「え、ええと、わ私、先に行ってますから!」 シエスタは両手をばたばたさせた後、顔を引き締めて駆け出していった。 ちょっと困ったような顔で、残されたアオの一言。 「……僕、厨房の場所知らないんだけど」 「朝ですよ、起きてください」 日も高くなり、まばゆい光が部屋の中に差し込んできている。 アオは、ルイズを起こそうと体を揺するのだが。 「ん~、あと五分」 なんでこういう場合、必ず五分なんだろう。 アオはそう思いながら、とりあえず毛布をはぐことにした。 「な、なによ! なにごと!」 「おはよう、ルイズ様」 「はえ?」 ルイズは寝ぼけた声でアオを見た。 「……?? ……? ……! ……!!」 徐々にふにゃふにゃだった表情が赤く染まる。覚醒と同時に、昨夜の事を思い出したのだった。 ルイズは、顔を隠そうとしてベットから落ちると、一人で壁際に追いつめられた。 首をかしげるアオ。 「い、いつからそこにいたぁ!」 アオはさらに首をかしげると、まあいいかと思って、服を手渡した。 「昨日からだよ、寝ぼけちゃってるのかな?」 「そそそそソンなことないもん」 冷静になれ、冷静になるのよわたし。 服を受け取り、ネグリジェを脱ごうとして、ルイズの動きが止まる。 「あっち向いてて!」 「いいの?」 「いいの!」 「おはよう。ルイズ」 なにやら憔悴した様な表情のルイズと部屋を出ると、声をかけられた。 「おはよう。キュルケ」 ルイズは顔をしかめ、いやそうな声で挨拶を返した。 「おはようございます」 アオも笑顔で挨拶する。 「あら、おはよう……へえ、あんたの使い魔ってほんとに人間なのね。平民を呼んじゃうなんて、さっすがゼロのルイズ」 「うるさいわね。あんたには関係ないでしょ」 赤い髪の女の子、キュルケは、ルイズの言葉を半ば聞き流し、値踏みするようにアオを見た。 「良かったじゃない、なかなかの色男で。これでブサイクだったら目も当てられないところだわ。ねえ、色男さん、あなたのお名前は?」 「アオといいます」 「アオ? 変な名前」 キュルケは、ルイズと真逆のベクトルに成長した体を揺らしながら笑うと、後ろを振り返り手招きする。 すると彼女の部屋から、真っ赤で巨大なトカゲが現れた。 「でも、どうせ使い魔にするならやっぱこうでなくちゃ。ねぇ~、フレイムー」 キュルケは勝ち誇ったように言って、その背を撫でる。 「これってサラマンダー?」 悔しそうに尋ねるルイズ。 「そうよー。火トカゲよー。見て? この尻尾。ここまで鮮やかで大きい炎の尻尾は、間違いなく火竜山脈のサラマンダー? って、あら? どうしたのフレイム」 自分の使い魔の様子がおかしい事に気づいて、キュルケが怪訝な顔をする。 フレイムは、アオとしばらく見つめ合ったと思うと、突然腹を見せてひっくり返った。 「フ、フレイム!? どうしちゃったの!?」 キュルケの言葉にも反応せず、硬直したように固まっている。いや、小刻みに動いてはいるが、これは……震え? アオはそっとフレイムの腹に手をのばすと、優しく撫でながら、震えるサラマンダーだけに聞こえる声でそっと囁いた。 「大丈夫、僕は君を傷つけないし、誰にも傷つけさせない。だから、ね?」 きゅるきゅる。 フレイムはアオの手を一舐めすると、お辞儀をして去っていった。 「ちょっと、フレイム? どうしちゃたのよ~」 あわててキュルケはサラマンダーの後を追いかける。 「あんた、なにしたの?」 ルイズの質問に、アオは、さあ? と首をかしげてみせた。 「ふわあ」 アオが食堂の豪華絢爛さに驚くのを見て、ルイズが得意げに言った。 「トリステイン魔法学院ではね、貴族たるべき教育を存分に受けるのよ。だから食堂も、貴族の食卓にふさわしいものでなければならないのよ」 「すごいんだ」 「わかった? ほんとならあんたみたいな平民はこの『アルヴィーズの食堂』には一生入れないのよ。それを特別の計らいで入れてあげるんだから感謝しなさい」 「うん、ありがとうルイズ様」 ルイズは、椅子を引きながら素直に感謝の言葉を述べるアオに少し調子を狂わされたが、まんざらでもない表情で席に着いた。 「すごい料理だね!」 アオはテーブルに並べれた、朝食にしては豪華すぎる料理に目を丸くする。 そしてすぐさま暗い顔をする。 「ど、どうしたの?」 「こんな食事が用意されてるなんて知らなかったから、僕、お弁当を作っちゃったんだ」 「お弁当?」 アオの差し出した包みを開けると、中からサンドイッチが出てきた。申し訳程度に肉や野菜がはさまれたそれは、さすがにこの豪華さの中にあっては少々、いや、かなりみすぼらしい。 「いいじゃない、あんたが食べれば」 「うん、そうする」 アオは頷いて、ルイズの隣に腰掛けた。 ルイズは最初、床に座らせる気だったが、さっきのキュルケの件で機嫌が良かったこともあり、そのまま許した。小さな肉のかけらが浮いたスープや固そうなパンの切れ端を用意していたのも内緒だ。 「偉大なる始祖ブリミルと女王陛下よ。今朝もささやかな糧を我に与えたもうたことを感謝いたします」 祈りを終え、料理に手を伸ばす。 丸ごとのローストチキンを切り分けながら、ルイズはちらりと横を見た。 隣で、もそもそとサンドイッチを食べるアオは、なぜか小動物を連想させる。 あれって、アオが私のために用意してくれたのよね。 そう思うと、少しいたたまれない。 「ねえ、アオ。それ、わたしにも一切れちょうだい」 アオは、ルイズがひるむような笑顔を向けると、はいっどうぞと、彼女の皿に乗せる。 あむっとサンドイッチを口にした途端、彼女の目が見開かれた。 やだ、なにこれ! めちゃくちゃおいしいじゃないの!! どう見ても貧相な一切れは、瞬く間に胃袋に収まってしまう。 「……ねえアオ」 「なにかな?」 「わ、わたしは、また作ってくれてもいいんじゃないかな~、て思うわよ」 もう一切れ、と催促しながら言うルイズに、アオは微笑んだ。 back / top / next
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/5635.html
前ページ次ページゼロの社長 ギーシュとの決闘から2日。 学院は今までと変わらず、生徒達で賑わっていた。 もちろん、変わった所もあった。 ヴェストリの広場には、あの決闘でのデュエルの後に土を埋めただけの状態なので、 円形に草の生えていない場所ができている。 生徒達も、見たことも無いドラゴンを呼び出す海馬のことを認識し、軽軽しくルイズを馬鹿にはできなくなった。 もっとも、その態度は海馬の力を恐れてのものであり、ルイズ本人にしてみれば、あまり好意的なものではなかった。 決闘をした当の本人であるギーシュはと言えば、表面は相変わらずであるが、 『なんとなくだけど…少し男らしくなった気がする。』 とは、隣の席であり、学院内でギーシュの彼氏と認識されているモンモランシーの談である。 そしてキュルケはと言えば、あの決闘より海馬に好意を抱いている。 見たことも無いドラゴンを操る見知らぬ土地から来た平民の使い魔。 過去の彼女の中に無かったカテゴリーである海馬瀬人という人間に、彼女がこいの炎を燃え上がらせると言うのもまた、 当然と言えば当然の流れだったのであろう。 さて、物語は次なるフェイズへと進む。 決闘より2日後の早朝。 ルイズと海馬はあの決闘の日より2度目の朝をコルベールの私室で迎える事となった。 あの決闘の日よりコルベールの手元に預けられた『召喚銃』こと、『デュエルディスク』と『デッキ』 しかし、デュエルディスクの使い方はもちろん、カードに書かれているテキストはコルベールに読めるものではなく、 また、デュエルモンスターズのルールそのものがわからない。 そのために海馬はコルベールにそのテキストの意味を口頭で教える代わりに、ハルキゲニアの文字をコルベールに教わる事にした。 しかし、それならば海馬とコルベールの二人でことが足りる。 なぜここにルイズがいるのか。 ルイズ曰く 『使い魔の力を正確に知っておく必要がある。』 とのことらしい。 が、しかし。 コルベールと海馬の永遠とも思えるデュエル講義には軽軽しく口をはさめるものではなかった。 「このカードはヴォルカニック・デビル。このデッキの切り札となるカードだな。」 海馬がデッキから引き抜いたカードは、黒い体に赤い炎の煙をまとわせているデザインのカードだった。 「ヴォルカニック・デビル…レベル8 炎属性炎族・効果 …この単語はさっきあったブレイズ・キャノン・トライデントか。 墓地に送る…そうか!このカードはブレイズキャノントライデントを、墓地に送って特殊召喚するんだね。 …攻撃力は3000、守備力が1800。なるほど、確かにこれは強力なカードのようだ。」 「ふむ、なかなか飲み込みが早いな。半日でそこまで読めるとは、言語学者になった方がいいんじゃないか?」 「仮にも教師だからね。それに、このテキストは結構言葉のパターンがあるから、別のカードで覚えた訳なら、応用は楽だね。 …通常召喚ができない、ということは召喚自体が難しいね。 しかし、敵モンスターはヴォルカニック・デビルを強制的に攻撃しなければいけない上に、 モンスターを破壊したら相手の場を一掃した上に相手プレイヤーに直接ダメージとは…」 コルベールはカードとしての強さを認識すると、そのカードを現実に召喚したときの恐ろしさを感じ、顔を曇らせた。 だが、それを知らずにルイズが口をはさんだ。 「攻撃力3000ってことは、ブルーアイズと同じ攻撃力なのね。 それで、能力を持っているなんて、ブルーアイズより強いじゃない。」 ピシッ…と、世界が凍る音がした。 「ルイズ…今なんと言った?」 凍った世界で、ルイズは気づいた。 しまった。まずい事を言ってしまった、と。 「えー…えっと。コ、コルベール先生はどう思います?」 どうにかコルベールに助けを求めようとする。 「ミス・ヴァリエール。それは違うよ。確かに、ヴォルカニックデビルとブルーアイズは同じ攻撃力だけど、 ヴォルカニックデビルには、召喚のためのルールがある。 そのため、ブルーアイズのように色々なパターンを駆使して召喚する事ができないんだ。」 「ルイズ。カードにはそれぞれ役割がある。そして、40枚のカードは他のカードを補い合い、勝利と言う未来へと進む。 1枚だけを見てカードの優劣など決まらん。考え無しに軽軽しく口をはさむな。」 その物言いにむっとしたルイズは、つい語気を強めて反論してしまう。 「なによ!強い能力を持つカードが勝つに決まってるじゃない。」 ふぅ…と、ため息をつく海馬。 「では、聞こう。どんなときでも場に攻撃力3000のモンスターがいるのと、 特定のカードが揃ったときのみ場に攻撃力3000のモンスターが出てくるもの。 どちらが相手をしづらい?」 「そっ…それは…」 言葉に詰まるルイズに、コルベールが言う。 「でも、ブレイズキャノンを使っていけば、相手に強力なモンスターが多数出てきても、破壊していけるね。 でもそれは、カードの運び方に影響される。 デュエルと言うのは1枚のカードを出し合うだけじゃない。 カード同士を助け合わせるのが重要なんだ。 いや、これはデュエルだけでなく、どんな事でもそうさ。」 そうこうしている内に、また海馬とコルベールは机に向き直ってしまった。 そして結局この話が終わったのは早朝日が登った頃であり、ルイズは睡眠不足により、授業中に爆睡していた。 そして同じような内容がもう1日続き、今朝にいたるのであった。 ルイズは、風呂に入りに行くと言って早めにコルベールの部屋を出た。 結局この2日間で、海馬はコルベールにデッキの内容の訳、デュエルモンスターズの対戦ルール、 現在わかっているデュエルディスクでの実体化のルールを伝え終えていた。 「しかし、実体化のほうはいまだ不確定なルールが多すぎる。 これに関しては、実践を積み重ねていくしかないな。」 「海馬君、それは…」 コルベールは顔を曇らせる。 実践、いや、この場合は実戦と言い換えられるだろう。 つまり、モンスターで何かと闘うと言う事だ。 「私は、なるべくなら、これをつかわずにすむ毎日が続いて欲しいと思っている。 これは使いこなせば、あまりに強力な力だ。…だから―――」 「俺は、俺がなぜここに召喚されたかを考えた。 たぶん俺は、ここでなさねばならない事があるのだろう。 そのためにここに呼ばれたと思っている。 ならば、おれがなすべき事が起こったときに、万全の状態であるように準備しているだけだ。」 「…………」 そんな話を終え、海馬は先に食堂に向かうとコルベールに伝え、部屋を出た。 ルイズも風呂から上がった後合流すると言っていた。 そしてまっすぐ食堂へ向かう道の途中で、キュイキュイとやかましい喋り声が聞こえてきた。 ふと、目を向けると、先日決闘の場にいた青い髪の少女…タバサと言ったか。 それと、その使い魔の大きな竜の姿が見えた。 そして、喋り声を多く上げているのは、竜の方であった。 「お姉さま。やっぱり吸血鬼退治は危険なのね。あの従姉姫ったら、こんな危険な命令をさせるなんて、意地悪を通り越してるのね! …って!まずいのね!?」 使い魔の竜 シルフィードは驚いた。 喋っているところを他人に見られてはいけないと、タバサに言われていたのに、 見知らぬ人物が傍に現れていたのだ。 一方の、盗み聞きをするのを嫌った海馬は、その1人と1匹の前に姿を晒した。 「あわわ、まずいのねお姉さま。喋っているところ見られちゃったのね。あいた。」 こつんと、自身の身長よりも高い杖でシルフィードの頭を叩いたタバサ。 「お喋り。」 「盗み聞きをする気は無かったのだがな、そこのドラゴンがやかましい声で騒ぐ中に、気になることがあったのでな。」 「シルフィード」 「知っている。そのドラゴンの名前だな。それより、だ。 貴様はこれから、吸血鬼退治とやらに行くのか?」 「そう」 タバサは短く肯定をした。 そして、そのまま海馬に背を向け、シルフィードの背にのろうとする。 「俺も連れて行け。」 「なっ!なに言ってるのね。吸血鬼は危険な相手でお姉さまだけでも危険なのに、あいた。」 「静かに。…命の保証はしない。自分で自分の身が守れるなら。」 「お姉さま!?」 「ふん。もとより守ってもらおうなどと考えてはいない。俺には俺で試したいことがあるのでな。」 「……」 無言のままシルフィードの背にのるタバサ。 そして海馬は、デュエルディスクを展開し、手札のモンスターを召喚する。 「古のルール!出でよ!ブルーアイズホワイトドラゴン!」 海馬の最強モンスターが召喚される。 そして、海馬はブルーアイズの背にのった。 「思い出したのね!この間ギーシュ様に勝ったかっこいいドラゴンの人なのね! 何より、そのかっこいいドラゴンなのね!すごいのね!あいた。」 「出発。……勝手についてきて。」 「ふん、ブルーアイズ。シルフィードに続け!」 2匹のドラゴンは翼を広げ、それぞれの主を背に乗せ大空へと羽ばたいた。 そして、風呂をあがり食堂へと向かっていたルイズは、偶然それを見つけた。 「ちょっと!勝手にどこに行くのよ!?セトー!?」 前ページ次ページゼロの社長
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4316.html
前ページ次ページゼロの武侠 例えるなら、それは獲物を定めた獣の気配。 万雷の歓声に紛れ、己が身を潜める確かな殺気。 気を緩めれば、瞬く間に静寂を打ち破り喉下を喰らわれる。 そんな感覚を覚えたワルドは静かに自分の杖へと手を掛けた。 誰にも悟られぬよう、されど一息で敵を迎え撃てる態勢を作り上げる。 自分の存在が伝わった事を確信して、梁師範は立ち去った。 その場に取り残されたのは状況を理解できなかったルイズのみ。 周囲を取り巻く生徒達もアンリエッタ姫以外に目はいっていない。 唯一人、違和感に気付けたのは興味なく手元の本に視線を落としていたタバサだけだった。 夜の帳が落ちる頃、再びワルド子爵はその場に現れた。 それは自身に恐怖を与えた存在を探る為に。 明らかに相手は自分を誘い出そうとしている。 だが、彼はあえてその挑発に乗った。 昼間のような状況で奇襲を受ける危険を考えれば、 多少の事があろうと敵の存在を計るべきだと判断したのだ。 「よう。待たせたな」 張り詰めた空気を放つワルドに親しげに話しかける声。 振り返った先にいたのは奇妙な服装をした見覚えの無い黒髪の平民。 しかし、薄暗闇の中から現れた男の視線にワルドは覚えがあった。 殺意を滾らせた獰猛な獣の眼。よもやそれがただの平民のものだったとは……。 手に掛けた杖から手を離し、彼は下らなそうに笑みを浮かべた。 その刹那、空気が弾けた音が周囲に響く。 「真面目にやれ。でなきゃ……死ぬぞ」 緊張が解けかけた直後、ワルドの前髪を揺らす風。 それは魔法ではなく、目の前の男が放った拳圧によるもの。 顔が確認できる距離とはいえ、互いの間は3メイルは離れている。 今の拳を、もし腕にでも受けていれば枯れ木でも折るように砕かれていた。 男の危険性を理解しワルドは再び杖に手を伸ばして引き抜いた。 メイジであろうとなかろうと眼前の敵の脅威に変わりはない。 その確信が彼から慢心を削ぎ落としトリステイン最強のメイジへと変える。 だが、そうではなくては困る。 ただワルドの命を狙うだけならば不意を突き、 未知の技術である剄を駆使して戦えば負ける事はないだろう。 梁が望んだのは互いの全力を尽くして戦う死闘。 「何故、僕を狙う? 恨みかそれとも誰かに雇われたのか?」 見た事のない構えを取る梁にワルドは問う。 魔法衛士隊の隊長となれば内外を問わず多くの人間から怨み妬まれる。 事実こうして暗殺者に命を狙われた事もあった。 しかし相手に杖を抜く時間を与える相手は初めてだ。 そして意図を理解できぬワルドに返された答えは意外な物だった。 「お前が強そうだったからだ」 「何を…?」 「相手が強いと知れば手合わせてしたくなる。 どちらが強いか確かめたくなる。全力を以って戦いたくなる。 ……お前にあるだろう、そんな気持ちが」 それは決して消せない格闘家の性。 世界が変わろうと決して揺るがない。 ただひたすらに強さを追い求めて道を突き進む。 ワルドとてそれを笑い飛ばす事は出来ない。 かつて彼が憧れた貴族達も、そんな下らない理由で決闘に赴いた。 それは失われた過去の栄光の記憶。 だが、この男は尚もそれを守り貫き通しているのだ。 なんという純粋なる意思と覚悟だろうか。 「……もしも僕が応じなかったらどうするつもりだったんだ?」 「そうだな。その時はお姫様でも襲って無理矢理にでも引っ張り出すか」 「なるほど。となれば魔法衛士隊の隊長として放置しておく訳にもいかんな」 楽しげに冗談を交わした時間も一瞬。 殺気を纏わせて向かい合う両者に言葉は要らない。 あるとすれば、それは唯一つ。 「トリステイン王国グリフォン隊隊長、ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド」 「西派白華拳最高師範、梁」 互いの名を心に刻み付けるかの如く名乗り合う。 これからの死闘を未来永劫忘れる事なきように、 たとえどちらかが倒れようともそれを誇りとする為に。 「参る!」 その言葉を発したのどちらだったのか、 あるいは両方だったのか、戦いの幕はその一言で開かれた。 神速の域に達しているであろう梁の踏み込みをワルドは迎え撃つ。 『閃光』の二つ名を持つ彼の戦い方は意外にも守勢にある。 相手の動きを見、その手を窺い、万全を期して彼は攻勢に打って出る。 迂闊に動けば実力の劣る敵にさえ倒される事があると熟知しているが故の戦法。 そして、何よりも彼には相手よりも遅れて発そうとも間に合う『速さ』がある。 相手の詠唱を見極め、それに先んじて魔法を完成させる。 それでは如何なるメイジでさえも敵う筈はない。 仕掛けた瞬間、己が何をされたかも分からずに打ち倒されるだろう。 しかし至近から放たれた寸打をワルドは驚愕と共に避けた。 切り返すべき隙などない。続け様に放たれる連打を辛うじて凌ぐ。 絶対の自信を持つ速度において同等あるいは凌駕する相手と杖を交えた事はない。 困惑を押し殺し、彼は梁師範を引き離そうと背後に跳躍した。 だが、それこそが梁師範の狙い。 着地と同時に避けようのない剄での一撃を放ち勝負を決める。 両手で印を結び、剄の呪文を口にする。 「煉精化気煉気化神…」 追撃をせずに足を止めた梁師範に違和感を感じつつも瞬時にワルドはルーンを紡ぐ。 先に完成したのはワルドのエア・ハンマー。 内気より剄を練り上げる動作は彼から見れば致命的な隙。 互いの立場は逆転し、未だに詠唱を続ける梁師範に空気の塊が襲い来る。 受ければ完全武装の兵士とて昏倒せしめる威力を秘めたそれと、 真っ向から梁師範の掌底が激突する。 「破ッ!」 破裂するような衝撃音と巻き起こる風。 自身の魔法が徒手で打ち砕かれた事実にワルドは凍りついた。 それも見えない筈の一撃をああも事も無げに…。 ワルドの疑念は確信へと変わった。 この平民は魔法ではない“何か”を有していると。 (危ねえ危ねえ……死ぬかと思った) 睨むのにも似た視線を浴びながら、悟られぬよう梁師範は動揺を隠し通す。 まさか先に魔法を打たれるなどとは思いもよらなかった。 そもそもルイズしか比較対象がいなかったのだから仕方ない。 見えない攻撃を受けれたのもライフルと対峙した時のように、 杖の先端と放たれるワルドの殺気から判断しただけだ。 運が悪ければ、ここで敗れていてもおかしくなかった。 呼吸を整えて梁師範は再び剄を練り上げる。 だが、それ今しがた放った打透剄ではない。 己が両手に剄を纏わせて武器と変える西派の基本。 魔法を詠唱させる隙を与えれば確実に敗北する。 互いの手を知らない者同士とはいえ引き出しの多さは恐らく向こうが上。 まるで中国でのペドロ達の戦いを真似るように彼はワルドの懐へと飛び込んだ。 引き離そうとするワルドと喰らいつく梁師範。 その合間に放たれる両者の攻撃は互いに必殺。 ワルドのエア・ニードルが拳法着を掠めれば、梁師範の手刀が羽帽子に切れ目を入れる。 返しで見舞われた蹴りを避けながらワルドは舌打ちした。 分が悪い。相手が両手足使えるのに対して、こちらは杖一本。 それ以外の部位で受けようとすれば容易く切り落とされるだろう。 気迫の込められた一撃を前に、防衛本能がそう告げていた。 魔法を使わせぬ為、杖を狙ってきているのは分かっている。 だからこそ、今まで一撃もマトモに受けずに済んでいるのだ。 このままでは持久戦……体力勝負ともなればどちらに転ぶかは分からない。 平民相手に負けたとなれば自身の名誉は傷付くだろう。 何よりもワルドは確実に勝つ事を是としている。 一か八かの勝負に全てを賭けるつもりは毛頭ない。 だからこそ彼は必勝の手に打って出た。 エア・ニードルを解き、彼が唱えたのはフライ。 旋風脚を放った梁師範の頭上を飛び越えて、彼は寮塔の上へと降り立った。 「悪いがこれで勝負を決めさせて貰う」 詠唱するのは彼の持つ魔法の中でも高い殺傷力を持つライトニング・クラウド。 放たれた雷雲は如何なる強者であろうとも避け難い。 ここは決して拳足の届かぬ場所。 仮に駆け上がって来れたとしても魔法の完成には間に合わない。 故に、絶対の安全地帯とワルドはそう思っていた。 しかし、彼は知らない。 梁師範が手足に纏わせていた剄を放てる事を、 フライで頭上へと逃れた直後から彼が呪文を唱えていたのを、 そして今ワルドがいる場所は彼にとっても絶好の距離だという事実を。 「三華聚頂天花乱墜…」 組まれた印を中心に、体を巡る膨大な内気が剄へと変化し収束していく。 西派の中でも知る者は限られている究極の奥義。 剄を破壊力に変えるという一点においてこの技を超える物はない。 一度放てば体力を消耗し立ち上がる事さえままならぬ諸刃の剣。 故に必殺必倒。この技が放たれたのならば、そこには勝利か敗北しかない。 ワルドの眼が驚愕に見開く。 足元で構える男の両の掌が太陽の如き眩き光を放つ。 それこそが魔法ではない“何か”の正体だと彼が確信した直後。 「百歩…神拳ッ!!」 眼下より放たれた一条の光がワルドもろとも寮塔を貫く。 その刹那。寮内に響き渡った轟音が寝入っていた生徒達に危急を報せた。 前ページ次ページゼロの武侠
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/3847.html
前ページ次ページゼロの魔獣 ニューカッスル アルビオン王家終焉の地となった、かつての名城は、今や見る影もない。 王党派最後の砦は、物理的な意味で文字通り『壊滅』していた・・・。 百倍以上の敵に囲まれ、完全に進退が窮まった事で、王軍三百はその悉くが死兵となった。 城門に迫る敵を薙ぎ払い、一人でも多く道連れにせんと、烈火のごとく逆襲をかける。 その裂帛の気合は、生き延びて勝利の美酒を味わいたい雑兵達に耐えられるものではなかった。 前線の思わぬ崩壊に『レコン・キスタ』首脳部が採ったのは、考えうる中で最も単純かつ頭の悪い策であった・・・。 瓦礫の山に悪戦苦闘する火事場泥棒どもに侮蔑の視線を投げかけつつ、羽帽子の長身が進んでいく。 向かった先は、レコン・キスタ旗艦-『レキシントン』・・・今回の戦いの趨勢を決定付けた艦であった。 「首尾はどうだったかね? 子爵」 「・・・今 手の者に回収させているところですよ しかし いまさら『彼』に何の用です? ミスタ」 「フフ・・・ 適材適所というヤツさ まあ 私のちょっとした趣味といった所だよ」 『ミスタ』と呼ばれた白衣の男は、そう言ってニヤリと笑う。 「それにしても」 と、辺りを見回しながら、羽帽子の男・ワルドが話題を変える。 ―改修前、『王権(ロイヤル・ソヴリン)』の名を冠し、王家の守護神とまで謳われた名鑑の名残はどこにも無い。 優美なマストは取り払われ、物々しい砲台と無骨な計器類が立ち並ぶ・・・ 明らかに既存のハルケギニアの『船』のルールを飛び越えた、空の要塞であった。 「実に閣下の好みそうなデザインだ まったく・・・異界の技術とは恐ろしい物ですな・・・」 この『異物』がハリボテで無いことを、ワルドは既に知っている。 先の戦いにおいて、この艦は単独で城門に突撃し、 逃げ惑う味方と必死の形相で踏みとどまる敵を、城ごと吹き飛ばして見せたのである。 「なに・・・ 私の知人が構築した技術を この世界の魔法技術で応用してみただけのことだよ もっとも その友人は 既にこの世の者ではないがね・・・」 「・・・魔獣・・・ですか」 ワルドの指摘に、男の瞳が黒眼鏡の底で怪しく光る。 -ややあって、男が口を開く。 「魔獣といえば・・・ 慎一くんに噛まれた傷の具合はどうかね?」 「すこぶる良好ですよ いまだったらオークと殴りっこしても勝てそうだ」 そう言いながら、ワルドは永遠に失われたハズの左腕- その肘先に取り付けられた銀色の篭手を巧みに動かしてみせる。 「それは長上 介抱祝いといってはなんだが ひとつ贈り物を用意させて貰うよ ― 子爵は乗馬は嗜むのかな?」 「一応は 乗りこなせない幻獣など存在しないと自負していますが」 「結構 だが こいつは予想以上のじゃじゃ馬だよ 覚悟して置きたまえ」 白衣が指を鳴らす。 ひとつの巨大な影が現れ、二人の頭上を高速で飛び去っていく。 突風に煽られる羽帽子を押さえながら、ワルドはまず驚愕の色を浮かべ・・・ 次いで子供のように瞳を輝かせた。 トリステイン南方、ラ・ロシェールのさらに先、タルブ―。 広大な草原に囲まれた寒村、その近くに建てられた簡素な寺院を 慎一はシエスタを連れ立って訪れていた。 「・・・ これが 『竜の羽衣』 なのか・・・?」 「ええ おかしな話でしょう? こんな鉄のカタマリが 空を飛ぶはずなんてないのに」 「・・・・・・」 「あの・・・ シンイチさん・・・?」 ―ここに来るまでの道中、慎一は一つの仮説を立てていた。 シエスタの祖父は、何らかの事故に巻き込まれ、 飛行機に乗ってこの世界にやってきた『地球人』なのではないかと・・・。 その予想、半ばまでは当たり、残りの半分は外れていた。 目の前にある鉄の塊は、間違いなくこの世界の物ではない。 おそらくは『飛行機』であり、シエスタの祖父は、ほぼ間違いなく『異邦人』であろう・・・。 ― おそらく、と言ったのは、それが慎一の知る一般的な飛行機では無かったからである。 慎一が古い記憶を辿る。 子供のころ見た特撮ヒーロー番組。 地球を跳梁する宇宙怪獣、 巨大な敵に立ち向かう地球防衛軍。 ピッチリとした近未来的なスーツ、 ビビビーッと音の出るスーパー光線銃。 ― 慎一の眼前にあるのは そんな世界から飛び出してきたかのような『戦闘機』だった・・・。 慎一は『竜の羽衣』 の周囲をゆっくりと回り、その全体像をあらためて確認する。 外見は上履きを巨大化させたかのような流線型、 塗装の類は施されておらず、全体が地金の渋い銀色で覆われている。 翼は無く、機体後部にモヒカンのような尾翼が申し訳程度に一本。 後方にはジェット機のようなブースター。 特徴的なのは、コックピット前方、機体の上部に取り付けられた防弾ガラス。 半透明の黄色と緑、六角形の窓が組み合わさって、亀甲模様を作っている。 ガラス内部には人が入れそうなスペース。一瞬複座型かとも思ったが、シートは無い・・・。 そこまで調べた時、慎一は機体表面に、引っかき傷のような文字が彫ってあることに気付いた。 「・・・『試作壱号機 ― 荒鷲』」 「えっ?」 慎一の言葉に、シエスタが驚きの声を上げる。 「シンイチさん その字・・・読めるんですか?」 「・・・爺さんの遺品を見せてくれるか?」 程なく、シエスタは二冊の本を持ってきた。 とりあえず慎一は、辞書のように分厚い一冊を開く。 中には頭痛がするような大量の数式と、やたらと細かい図面・・・。 一目で機体の仕様書である事が分かったが、それ以上の事は慎一には分からない・・・。 ひとまず本を閉じ、小さい手帳の方を開く。 それは、シエスタの祖父の手記であった・・・。 【昭和49年 4月4日】 慎一はそこで首を傾げた。 シエスタの論述が正しいならば、彼女の祖父がこの世界に来たのは終戦の前後であるはずだ。 来る途中で時間軸が捻じ曲がったのか、地球とハルケギニアでは時間の流れが違うのか 或いは・・・彼の住んでいた『地球』は、慎一の知る『地球』とは、似て異なる世界なのか・・・? 「・・・・・・」 「何か 分かりましたか?」 「・・・この機体は、宇宙開発用に作られたものだったんだ」 「宇宙・・・?」 「コイツでお月様まで飛ぼうとしてたって事さ・・・」 「そんな事・・・?」 慎一にとっても、にわかに信じられる記述では無い。 だが、ここに書かれている事が事実ならば、 このマシーンは十三使徒・・・慎一の知る科学者達が作り上げたものではないだろう。 十三使徒の科学力は自然のコントロール ― 地球の『内』を向いた保守的な思想に乗っ取っていた。 この機体にはその逆 ― 地球の『外』を目指した技術が詰まっていることになる。 ページを進める。記述は徐々に、男の身辺の話へと移っていく。 三体の変形合体により高い汎用性を持たせるスーパーロボット計画。 その合体テストの際に発生した事故。 中央の機体がサンドイッチになって大破し、臨界状態となった炉心が爆発、 先頭の機体に乗っていた『彼』は、強烈な爆発に巻き込まれ― ― 気が付いた時には、ハルケギニアの空を飛んでいた・・・。 それは、筆者の心の痛みが伝わってくる文章であった。 -事故に巻き込まれた仲間の安否 -プロジェクトを失敗させてしまった無念 -日々募っていく望郷の念 いつしか慎一は、タルブの草原で夕焼けを望む『彼』の横顔をそこに見ていた。 『この手記を手に取ってくれたあなたに・・・』 最後のページに書かれていたのは、『彼』から慎一にあてたメッセージであった・・・。 『この手記を手に取ってくれたあなたにお願いがある。 あなたにこの、竜の羽衣を託したい。 私はもう、生きて故郷の地を踏むことは無いだろう。 技術や手段の問題ではない。 私はこの地で愛する家族を手に入れ、すっかり根を下ろしてしまった。 故郷に帰るための翼を失ってしまったのだ。 だが、この機体は違う。 この機体には、無限の未来を託して散っていった仲間たちの想いが宿っているのだ。 不躾な頼みである事は承知だが、是非、この機体を本来あるべき場所へ 虚空の彼方へと、解き放ってやって欲しい・・・。』 慎一は静かに手記を閉じた。 「・・・シエスタ この『羽衣』の事なんだが」 「ええ 私には 難しいことは分かりませんが・・・ でも シンイチさんに預けることで 祖父もきっと喜ぶと思います!」 「ありがとう」 慎一は機体の上に四つんばいになると、ゴリラの筋肉を纏い、鷹の翼を広げた。 「え! ええっ!? ここから?」 「一足先に学院に戻る 休暇明けには迎えに来るさ 家族水入らずで 骨休めしとくといいぜ!」 重厚な銀色の機体がズズッと持ち上がる。 慎一は緩やかに、夕焼けのタルブの草原へと飛び立った―。 ― 元の世界に戻るための手がかりを得た慎一ではあったが、問題はいまだ山積みであった。 この機体は、専門知識を持つシエスタの祖父にも動かせなかったのだ。 半世紀以上もブランクのある骨董品を、ド素人の慎一が治さねばならない。 慎一としては、一縷の望みにかけるしかなかった・・・。 学院に戻ったときには、既に太陽が頭上へと来ていた。 機体の置き場に困り、とりあえず、かつて決闘を行った広場へと着陸する。 衆人が注目する中、慎一はある人物を待っていた。 ―やがて、人込みを掻き分けながらこちらに向かってくる禿頭・・・。 「シ シ シ シンイチくーん! その素晴らしいマシーンはどうしたんだい!?」 学院一の変人 ジャン・コルベール ―― 慎一の一縷の望みが、気持ち目玉をグルグルさせながら現れた。 前ページ次ページゼロの魔獣
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/3753.html
前ページ次ページゼロの魔獣 「・・・で 何でお前がここに居るんだ?」 「フッ このギーシュ・ド・グラモン トリステイン王家の一大事と聞きつけ 及ばずながら尽力しようと駆けつけたのさ!」 「ルイズならとっくの昔に出発したぞ とっとと追いかけたらどうだ?」 主の居ない一室では、男二人の不毛な会話が続いていた・・・。 ギーシュが今朝になってルイズの部屋を訪れたいきさつはこうである。 昨夜、奇妙な来訪者の姿を目に留め、『たまたま』アンリエッタの依頼を耳にしてしまったギーシュは すぐさま義侠心を奮い立たせ、アルビオン行きに名乗りを挙げようとした― ―が、突然室内に怒声が響き渡り、次いで物凄い剣幕のルイズが飛び出して来たため 出るに出られなくなってしまったのだ・・・と。 「まったく シンイチは貴族の意地ってもんが分かってないな・・・」 タメ息をついてギーシュが続ける。 「今から馬で追いかけて 一緒に連れて行ってくれなんて そんなミソッカスみたいな真似ができるかい? ここは密かに先回りして ルイズのピンチに颯爽と現れるのがベターってワケさ」 「・・・そのために 俺の力を借りにきたのか?」 あまりの虫の良さに腹も立たない。 あれ程最悪のファースト・コンタクトであったのも関わらず 実は慎一は、この金髪の若者が嫌いでは無かった。 お調子者であるという一点において、彼は、慎一がかつて共に旅をしていた少年と似ていた。 それに実際、この話は渡りに船だった。 真理阿やアンリエッタにも頼まれていたし、命を救われた恩もある。 慎一にはルイズを守らねばならない、それなりの責任がある・・・のだが 昨夜の大喧嘩の後、ノコノコとルイズについて回る気にはどうしてもならなかった。 ギーシュを送ったついでに、アルビオンに物見遊山と洒落込む、と言えば かろうじて、かろうじて男としての面子も保てるのでは無いだろうか? (キュルケに言わせれば、慎一のそういうところが『可愛い』のであろう。) 「よく分かった じゃあ早速出発するか!」 「そう タバサに頼んでシルフィードを借り・・・ええッ!!」 慎一はギーシュの首根っこを捕まえると、一息に窓から飛び立った。 力強く翼をはばたかせ、みるみる上空に舞い上がると、ピタリと急停止した。 「・・・おい ラ・ロシェールってのはどっちだ?」 ギーシュは声にならない。顔が青紫に鬱血し、口からあぶくを吹いている。 震える指先で、かろうじて目的地を指差した。 「なんだ 逆方向じゃねぇか・・・ 早く言えよ」 そう言うと、慎一は風竜もかくやというスピードで、一気に雲のかなたへと飛び去った。 「タバサ! 今すぐシルフィードを出して!!」 自室に物凄い勢いで駆け込んで来たキュルケに対し、窓の外を見ながらタバサが言った。 「・・・あのスピードは 無理」 ―ラ・ロシェールに向け快調に飛ばし続けていた慎一ではあったが ふと、前方の異変に気づき、翼を大きく旋回させて乱暴に着地した。 ぶつけた尻をさすり、朝食を幾分戻しながらギーシュが抗議する。 「シンイチ 休憩するならもっとエレガントに・・・」 「敵がいた」 慎一の飼っている『目のいいヤツ』は、1キロ先の獲物を捉えていた。 それは、通りすがりの旅人を襲うには、あまりに物々しい一団だった。 「情報が筒抜けじゃねぇか 白土三平の漫画でもありえねえ・・・」 「だ だが チャンスじゃ無いか・・・ 奇襲を企むものは 自分達が奇襲を受けることは想定していないものさ・・・」 「ほう」 慎一は素直に感心した。死に掛けの若者に兵法を説かれるとは思ってもいなかった。 「いい機会だ・・・ ここは ボクの親友の力を借りるとしよう・・・」 ギーシュが指を鳴らす。 たちどころに何者かがもこもこと地面を盛り上げ、高速でこちらに迫ってきた。 慎一は括目した。 その使い魔の巨体にではない。 その生物が地面を掻き分けながら、自分のスピードについてきた、という事実にである。 哀れな襲撃者たちは、文字通り足元をすくわれた。 彼らは元アルビオンの傭兵であった。といっても、今は金で雇われているワケでは無い。 ラ・ロシェールの街の酒場『金の酒樽亭』で飲んだくれていた所、 店に入ってきた目つきの悪い女に、いきなり仲間の一人が椅子で叩き伏せられたのだ。 彼らにも傭兵の意地がある。突然の乱入者相手に果敢にも立ち向かったものの 酒の回った体でどうにかなる相手ではなかった。 酒瓶でどつき回され、テーブルで押し潰され、ウォッカで火ダルマにされ 遂に彼らは暴力に屈するところとなった・・・。 殺らなければこちらが殺られる・・・ 全身に生傷を負い、悲壮な決意を持って襲撃計画に望んでいた彼らの一人が、 突然大地に飲み込まれた。 背後からの悲鳴に全員が振り返った。それが新たな悲劇の始まりだった。 前方の大地が裂け、そこから出現した悪魔に、瞬く間に半数がぶちのめされた。 前歯を折られ、みぞおちを打たれ、睾丸を蹴り飛ばされ 後から出てきた金髪の若者が名乗りを上げる頃には、既に大勢が決していた―。 ギーシュがワルキューレを使い、事後処理にあたる。 次々に身ぐるみを剥ぎ、縛り上げていく。 慎一が魔獣を使わなかったのは、優しさからではない。 彼らの知る情報を、聞きだす必要があったからである。 ―と、 傷の浅かった傭兵の一人が、後方で何かゴソゴソとやっている。 「おい テメー! 妙な動きしてんじゃねえ!!」 言いながら近づいた慎一の前で、異変は起こった。 突如、男の体がビクンと震え、その全身が痙攣する。 全身の筋肉が異常に盛り上がり、着ていた服が裂ける。男が天を見上げて咆哮する。 とっさに身構えた両腕の上から拳が跳んできた。 ダンプカーでもぶつかったかのような衝撃が走り、 慎一の体はサッカーボールのように大きく跳ね飛ばされた。 悲劇の場は惨劇の場へと姿を変えた。 男の瞳は、既に正気のそれではない。 両手を縛り上げられた傭兵達は、まともに抵抗することも出来ず。 かつての仲間に抉られ、絞られ、叩き潰されて、断末魔の悲鳴を上げる。 「クッ! ワルキューレッ!!」 ギーシュの叫びに、近くの戦乙女が槍を繰り出す。 男は避けない。青銅の槍は腹筋で止まり、飴細工のように捻じ曲げられる。 ギーシュは男を包囲すべく、ワルキューレに同時に指示を出す、 と、男が突然、猿の如く飛び跳ね始めた。 男はその巨体からは想像もつかない動きで飛び回り、紙人形でも相手にするかのように 次々とワルキューレを引き裂いていく。 「な 何なんだよコイツはァ!?」 「下がってろギーシュ! コイツは俺の獲物だ!!」 ペッと奥歯を吐き捨てながら、慎一が叫ぶ。 その瞳がただちに猛禽のそれへと変わり、飛び回る男の姿を捉える。 飛び交う男の軌道にあわせ、慎一が跳ぶ 中央で両者が交錯し、動きが止まる。 両手を絡め、互いの額を擦り合わせながら、戦いは純粋な力比べとなる・・・。 ずずっ、と慎一の体が徐々に後退していく。 勝利を確信した男が雄叫びを上げ、慎一の首筋に齧り付く。 「ウオオオオオオオオオ!!!! この俺をッ ただで喰えると思ってんじゃねえええええ!!」 大きくのけぞりながら慎一が吼える。 その額から、ズルリと鷹のクチバシが飛び出す。 「うおおおおおおおお!!!」 慎一がその尖った頭部でヘッドバットを繰り出す。 ビキッと鈍い音がして、男のこめかみが大きく穿たれる。 奇声を上げてよろめく男を、慎一は絡めた両手で引き起こす。 その右腕が獅子の頭部に、左手が熊と頭部へと変化し、男の両手を噛み千切る。 「噛み付きってのはこうやるんだよおおオオオ!!」 慎一が大口を開け、男の頚動脈目がけて牙を剥く。 ぞしゅっという炸裂音と共に、周辺の頚骨、鎖骨ごと一口でそぎ落とされる。 歯形上に開いた風穴から、噴水のように血がふき出し、遂に男は倒れこんだ。 「アンタら・・・いくら相手が賊だからってやりすぎよ」 木陰で頭を抱えながら、気分が悪そうにキュルケが言う。 シルフィードで追ってきた彼女達は、惨劇を遠目で目撃することとなった。 「・・・・・」 タバサも脂汗をかいている。若くして数多くの修羅場をくぐり抜けて来た彼女ではあったが これ程までに酷い現場に立ち合ったことは無い。 「―信じてもらえないとは思うが コレをやったのは慎一じゃない 彼らの仲間の一人さ」 足元で怯えている使い魔、ジャイアントモールのヴェルダンデを抱きしめながらギーシュが弁護する。 慎一は気にした風も無く、黙々と遺留品を漁っている。 「バチが当たるわよ ダーリン」 「どうせ死人にゃいらん」 そんなやり取りをしながら、慎一は目当ての品物を発見した。 「お前らの国の傭兵は、こんな物を持ち歩いてるのか?」 「なんだい? それが男を怪物にしたマジックアイテムなのかい?」 「・・・いや そんな大層な物じゃねえ」 そう言いながら、慎一は、是が非でもアルビオンに行かねばならない事を悟った。 男を変貌させた道具は、おそらくは慎一の世界から持ち込まれた物 ―1本の注射針。 そのガラス管の中には、まだ半分ほど、透明な液体が残されていた・・・。 前ページ次ページゼロの魔獣
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/3369.html
前ページ次ページゼロの斬鉄剣 ゼロの斬鉄剣 1話 ―使い魔の初仕事― ルイズの部屋に案内された五ェ門 「サムライ・・・ニッポン・・・きいたことないわね。」 五ェ門はひとまず自分がどういう場所から来たのか説明していた 「にわかには信じられないけど、あんたみたいな風体の人間はハルケギニアじゃ見ないものね」 「無理に信じろとは言わない、なにせ今の状態でそれを証明できるのは拙者の刀のみなのだ。」 と、五ェ門は自らの命でもある斬鉄剣をルイズに見せる 「・・・・見たことも無い、美しい剣ね、カタナ・・というのかしら?」 「左様、拙者は剣に生きる身、これが拙者の命ともいえるのだ。」 ルイズに斬鉄剣を褒められ多少気をよくする五ェ門。 「ふーん・・とにかくゴエモンはその”サムライ”で剣をあつかえるのね。」 ルイズはひとまず目の前の使い魔はある程度使えるようだと、僅かばかりの希望を見出した 「ところで、拙者が使い魔とやらになったのは分かった、だが具体的に何をすればよいのだ?」 ふう、と一息つくルイズ 「じゃあ、使い魔について説明するわね。」 ルイズは五ェ門の眼を見据える 「使い魔とは主人と感覚を共有できる・・・んだけど、ゴエモンからは何も感じないわ。」 「感覚の共有?」 「つまり使い魔が見ているものや触れているものを感じることができるはずなんだけど、無理のようね。」 うむ、とうなずく五ェ門 「次に秘薬など主人が望む物探す能力、これはどう?」 「地理さえ覚えればある程度は出来ると思うが、期待はしないほうがいいな。」 そう、しかたがないわねという態度でゴエモンを見るルイズ、 「最後にご主人様であるあたしを一生守り続ける、あんた剣士なんだからこれくらいはできそうよね?」 一瞬五ェ門の背筋が凍った 「一生・・・と言ったか?」 「そうよ、そもそも使い間と主人との契約はどちらかが死ぬまで有効で、召還もその間はつかえないの」 「(これも・・・試練か・・・。)」 五ェ門は沈痛な面持ちとなった 「じゃあとにかく今日はもう終わり!」 そういうとルイズは五ェ門の前で服を脱ぎだし 「まっまて!ルイズ!」 なによ、という顔で五ェ門の制止に反応する 「る、ルイズ!女性がみだりに肌をみせるものでは・・・・」 狼狽する五ェ門を見て意外だという顔をするルイズ 「いいじゃない、使い魔如きに見られたところでどうということはないわ。」 顔を真っ赤にする五ェ門、剣の天才といわれた男も女性の免疫はそれほど無いのだ。 「じゃあ、これ明日洗っておいてね!」 脱いだ服を五ェ門に投げ渡す 「(なななな・・なまあたたか・・いや!違う違う!)」 必死で煩悩を鎮める五ェ門、しばらく理性との格闘が続くのだ。 夜中 あたりを静寂が包む 「(なんと静かなのだろうか)」 五ェ門がこの世界に召還されて初めての夜はご満悦のようだ。 「それにしても月明かりが明るい」」 ふと、部屋の窓から月を覗く そしてここに至りはっきりとした異世界の証拠を眼のあたりにした 「月が・・・二つ・・・」 もはや驚きの声もでない五ェ門。 「(いったい何故拙者はこのような所にいるのだろうか・・・。)」 五ェ門は今朝からの出来事を回想していた 光の壁があらわれ、迂闊にも触れたこと、突然視界が開けたと思ったら目の前には桃色の少女 そして・・・・・ うっ と五ェ門は鼻を押さえ懐のちりかみを当てる。 「(いかんいかん!仮にもこれから仮とはいえ主人になる人間にふしだらな・・・)」 今日は休もう、ここが異世界というのならば少なくとも刺客の類は現れないだろうと 普段よりは警戒を解いて睡眠をとることにした、立ったままで。 チュン・・チュン 朝 といってもこの時間であれば生徒は殆ど誰も起きていない時間だ。 「(さて、洗濯・・・・見ないように・・みないように・・)」 と思っていたがよく考えれば洗濯場の場所を教えてもらっていない 「(物はついでだ、探索も兼ねて屋内を歩き回ろうか。)」 ひとまず洗濯物をまとめ、ルイズの部屋を出る五ェ門。 「(それにしても、ずいぶん立派な建物だ)」 五ェ門は壁の厚さや構造をみてここが本当に学び舎なのかと訝しげに見て回る。 歩き回るうち五ェ門は今までの生徒とは違う顔立ちの人間を見つけ、声をかける。 なんとなく日本人に近いような・・・という理由だったが。 「またれよ、そこの給仕。」 呼ばれた給仕、もといメイドの少女は振り返る 「は、はい!なんでしょうか。」 「すまないが洗濯場を探している。」 ああ、とメイドは頷く 「それでしたら私もこれから向かうところなのでご案内いたします。」 「かたじけない。」 そう言ってメイドの後ろを歩く五ェ門。 「ところで、貴方様はミス・ヴァリエールの使い魔さんですか・・?」 ふと、声をかけられる五ェ門。 「いかにも、何故そなたが知っているのだ?」 「はい、平民を使い魔として呼び出したともっぱら・・・あ!すみません・・失礼な事を。」 「構わぬよ、元々身分など無いのだからな。」 そうこうしているうちに洗濯場へ到着する 「こちらが、洗濯場として利用している場所です。石鹸はこちらにあるのでご自由にお使いください。」 なるほど、この世界にも洗濯板があったとはと関心する五ェ門 ふと、五ェ門は洗物を分別する際気がついた、下着にシルクのような物があったのだ。 「すまぬ、ええと・・・」 クスッとはにかむ少女 「シエスタです、貴方様のお名前は?」 「これは無礼を・・。拙者の名は石川五ェ門。」 「ゴエモン様でよろしいでしょうか?」 「いや、様などと仰々しい呼び方は結構だ。」 「じゃあゴエモン”さん”」 それでいいというように頷く五ェ門 「では早速だがシエスタ・・」 言いかけたところでシエスタは 「呼び捨てで構いませんよ、皆からそう呼ばれてます。」 にっこり笑って五ェ門に顔をむける 「(・・・可憐な・・・)」 と思考を巡らせたとき己に渇を入れる。 「・・・?どうかなされましたか?」 「い、いやなんでもない、それより・・・」 五ェ門は持っているシルクと思われる下着を差し出す 「拙者はシルクの類を手洗いしたことが無いのだ、繊細な生地を洗うのを手伝ってほしい。」 ああ、とシエスタは頷き了承する。 「かたじけない、他の生地の物は自分で洗える。」 そういうとせっせと洗濯を始める五ェ門 なるほど、男の一人暮らしで身についた技はここ異世界でも通用するようだ。 てきぱきと洗濯をこなす五ェ門をみて 「(負けられない・・!)」 シエスタが妙に対抗意識をもったのは秘密だ。 しばらくして、洗濯が終わる 「シエスタのお陰で洗濯が早く終わった、感謝いたす。」 ふかぶかとお辞儀をする五ェ門 「い、いいんですよ。これもお仕事ですから。」 かえって恐縮してしまうシエスタ。 「あの・・・よろしければ洗濯物があれば私にお申し付けください」 おもいがけない申し出だったが 「いや、これも使い魔の仕事らしいのだ」 「いえいえ、洗濯物は基本的にメイドのお仕事ですから。」 なんだか申し訳ない気持ちになった五ェ門だがそれが仕事というのならばいたし方が無い 「・・・何から何まですまない、シエスタ。」 「それより後ほど食堂の厨房でいらしてくださいな、一人分ぐらいの賄い食なら出せますよ。」 そう言われ、おもわず昨日から何も食べていないことを思い出す。 「かたじけない。」 そう礼をのべ、そろそろ時間だろうかと思い 「拙者はこれでもどるが・・・」 「洗濯物は乾いたら届けます、ご安心ください!」 「ではそなたの荷物運びを手伝おう。」 「い、いいえとんでもございません、使い魔さんにそんな・・」 といいつつも五ェ門がさっさと洗濯物を持ち上げてしまったため一緒に運ぶこととなった 「(それにしてもスラリとしてて格好いい人だなあ・・・)」 五ェ門の身長は元の世界で180センチ程、ここトリスティンでも比較的大柄なほうである。 「ここでよろしいかな?」 「はい!ありがとうございました!」 シエスタは感謝の言葉をつげる 「それでは拙者はこれにて。」 そうシエスタに告げて主の部屋へ。 「(ルイズもあれほどお淑やかならば、周りの評価も違ってくるだろうに・・・)」 と考えていた。 部屋へ戻るとまだ主人たるルイズは眠りこけていた 「(さて、そろそろ起こすか)」 そう言うなりルイズを揺さぶる五ェ門。 「ん~~。もうたべられにゃい・・・」 何の夢を見ているのだと半ばあきれる五ェ門 「ルイズ、ルイズ、朝だぞ。」 う~んと起き上がるルイズ 「ん~・・・あ!あんた誰よ!」 なるほど、そうきたかと 「お主が使い魔として呼び出したのであろう。」 はっとするルイズ 「そ、そうね・・・そうだったわ。」 平民をみてテンションを下げるルイズ 「じゃあ、着替えさせてよ!」 五ェ門は驚く、だが落ち着いて 「自分で着替えるのだな。」 と言い放つ 「な、なによあんた!使い魔は下僕なの!さっさときがえさせ・・・」 言い切る前に視界が突然変わった いくら主とはいえ子供(年齢はそうでもないが)、ここは教育が必要と五ェ門も怒った。 「御免!」 ルイズをひざに仰向けに乗せてをふりかざし、ルイズの尻をたたき始める 「きゃあ!」 「痛い!」 「お主には!」 「やめて!」 「仮にも主としての」 「痛い!痛い!」 「自覚が!」 「許して!」 「足りない!」 パンパンと叩かれルイズはベソをかいている。 「ぐすっ・・ひっく!」 「少しは主人としての気概をもて、自分で出来ることは自分でするのだな。」 「お父様やお母様にもここまでされたこと・・ぐすっ!」 ギロリとルイズをにらむ。 「ひっ!わ・・わかったわよぅ・・」 思いもよらない仕打ちにすっかり萎縮する そうすると笑顔になる五ェ門 「そうだ、聞き分けのよい子だな、お主は。」 「ふ・・ふん!なによ・・・使い魔のくせに・・」 廊下がざわざわとしてくる 「そろそろ朝食の時間ね・・・。いくわよ、ついていらっしゃい」 そう告げると五ェ門をつれ、廊下にでるルイズであった。 前ページ次ページゼロの斬鉄剣
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4092.html
前ページ次ページゼロのエルクゥ 「はは。見たか? 驚いて目を剥いてたぞ」 「ぜーっ、ぜーっ、ぜーっ……うう、そんなの、見てる余裕なんかあるわけないじゃない……はぁ、はぁ、はぁっ……」 目的地らしき石の壁に囲まれた建物に到着したのでルイズを下ろすと、ルイズはそのまま地面にへたりこんでしまった。 荒い息をつきながら反論する口も、どこか勢いがない。 エルクゥの驚異的な動体視力ならともかく、時速100キロ超で駆け抜けていく人の表情なんて、通常の人間に観察できるわけもないのだが……。 「……ねえ。あなた、もしかして亜人なの?」 「あじん?」 息を整えながら、ルイズはそんな疑問を口にした。 なんかさっきも聞いたような言葉だな、と耕一は首をひねった。 「人の形をしてるけど、人じゃない種族よ。エルフとか、翼人とか、獣人とか、オーク鬼とか。あんな非常識なスピードで走ったり、『フライ』で飛んでる人のところまでジャンプだけで跳んだりなんて真似、メイジでもできないもの」 よどみなく解説を返す様子に、馬鹿にされてたわりには、結構頭いいんじゃないのかなこの子。などと場違いな感想を頭に浮かべつつ。 「ふぅむ……」 ひとつ唸って、考える。 亜人。人の亜種。 ニュアンス的には間違いではないかもしれない。『鬼』という生き物も、そのカテゴリーに入るようだし。 ―――それに、まあ、この身が純粋なホモ=サピエンスだ、とはお世辞にも言えないからなぁ。 いや、魔法使いが純粋なホモ=サピエンスと言えるかどうかはわからないけど。 事件の直後はちょっとその辺哲学的な意味で悩んだりもしたのだが、耕一よりはるか昔にエルクゥとして目覚めていた楓に心体共に慰められて、今ではそんな悩みもあったなぁ、程度のものだった。 貴方は貴方です。 愛する者からのその絶対の承認は、人をとても強くする。鬼を飼いならせるほどに、だ。 「まあ、厳密には違いそうだけど、そう思ってくれていいんじゃないかな」 「……そう、なの?」 答えを返すと、ルイズはどこかぼんやりした表情を浮かべた。 もしかしたらすごい使い魔を引き当てたのかもしれないという劣等生の期待と、得体の知れない力を振るう亜人に対する畏怖とが入り混じった、微妙な心境を表していた。 「と聞かれてもね……こっちの世界の生態系なんて俺にはわからないし、どうにも」 「……こっちの、世界?」 「ああ。たぶん、俺はこの世界の人間じゃないから」 ……しかしそれは、すぐに不機嫌な表情にとって変わってしまった。 「……なによ、それ」 「俺が住んでいたところじゃ、魔法なんて架空の存在だったんだよ」 「意味がわからないわ。ハルケギニアの人間じゃないって事?」 「うーん、この星というか、いや、星が違っても魔法なんか使えないか……この次元というか……ともかく、こことはまったく違うところ、というか……」 「…………」 首をひねりながら言葉を搾り出す耕一に、ルイズの眼が、どこかアレな人を見るようなソレに変わっていく。 一般相対性理論すらまったく知らない耕一には、次元やら空間やらをゲーム用語以上の言葉で語る事は出来なかった。 ……まあ、よしんば、真の統一場理論が完成していて耕一がそれを朗々と語れたとしても、 それがこの世界でも通用するものなのか、そしてルイズが納得してくれるのかどうかは、まったくの別問題であるが……。 「……まあ、とにかく、俺はその『亜人』のようなもので、すごく遠いところから来たと思ってくれればいい。だから、魔法も含めてこの辺の事は何もわからないんだ。その、はるけ? なんたらって言うのも、全然聞いた事がない」 「……ふぅん」 今のところは、それで納得してもらうのが妥当だろう。 ルイズは胡散臭げな視線だったが、それ以上追及する気はなさそうだった。 「あー、それで、ちょっと聞きたい……っていうか、さっきコルベールさんに言いそびれた事なんだけど」 「なぁに?」 塩粒ほどだった『フライ』で帰ってくる組が豆粒ほどに近付いてくるのを見やりながら、ルイズはぱんぱん、とスカートの砂を払いつつ立ち上がった。 ショックからはとりあえず立ち直ったらしい。変な話を聞かされて機嫌がナナメに傾いて、ショックどころの話じゃなくなった、というのも小さくない要因だったが。 「俺を元の場所に送り帰してくれないか?」 「へ?」 ルイズは、きょとん、と耕一を見つめた。 「いや、たぶんその『サモン・サーヴァント』の魔法だと思うんだけど、変な鏡みたいなのが目の前に出てきてさ。 それに吸い込まれかけてどう引っぱっても抜けられなかったから、近くにいた家族にすぐ戻るって言って鏡に飛び込んだらあそこに居た、というわけなもんで……」 「だ、ダメよ!」 できれば早く帰りたいんだけど、と続ける前にルイズが叫んだ。 「あ、あんたは私の使い魔として召喚されて、もう契約したのよ。さっきも、やり直しのできない神聖な儀式って言ってたでしょ?」 「……契約ってのは、お互いに同意があって成立するもんなんだけどね。まあ、そういう様子だったから言いそびれたんだけどね」 一応、空気は読めるほうだと自負している。この場合まったくありがたくなかったが。 「だ、だからよ。使い魔は主人を守るもの。ご主人様を置いてどこかに行っちゃうなんて許さないわ」 精一杯威厳があるように胸を張り、傲慢な言葉を口にしても……それが、せっかく召喚成功したのに逃げられでもしたらまた馬鹿にされる、という劣等感に満ちた震える声では、効果は半分以下だった。 同い年ぐらいの少年であれば売り言葉に買い言葉で有耶無耶になったかもしれないが、幸か不幸か、耕一は一応少女の虚勢や我侭を受け入れてやるぐらいの、青年と呼べるメンタリティは持っていた。 「……ね、君、家族はいるかい?」 「い、いるわよ。それがどうしたの?」 「どんな人がいるんだい? 聞かせて欲しいな」 「な、なによ、気持ち悪いわね。……両親と、姉様が二人いるけど」 「そうなんだ。その中で一番好きな人は?」 「……なんでそんな事答えなくちゃいけないのよ」 病弱ながらとても優しかった下の姉を思い浮かべながら、ルイズは不審がる。 「『今からお前とそいつを永遠に会えなくしてやる』」 「っ!?」 「『お前は今から見知らぬ土地でどこかの誰かに一生奉仕しろ。お前の一番好きなそいつは、お前に二度と会えない』」 「…………っ!」 少し迫力を込めた声色に、想像してしまったのだろう、ルイズの顔が蒼白になっていく。 「そう命令されたら、どうする?」 「ど、どうするって……そんな」 そんな横暴な命令聞けるわけないじゃない!と言おうとして、ルイズははっと口に手を当てた。 うん。気付いたか。やっぱり頭がいいし、いい子だな。と、耕一は頷く。 「そう。今君が言った事だよ」 「で、でも、平民は貴族に奉仕するのを喜ぶべきで」 「家族を好きな事に、好きな人と離れ離れになる悲しみに、貴族だの平民だのが関係あると思うのかい?」 「あ、あるわよっ! 平民なんて何よりも貴族への奉仕を喜びにすべきで、自分の悲しみなんて二の次でしょう!」 「じゃあ、貴族より偉い王様が君に命令しよう。『お前ごときの悲しみなんて二の次でくだらない事だ。王への奉仕に喜べ』」 「~~~っ! ヴァ、ヴァリエール公爵家の名誉にかけて、姫殿下の命は果たしてみせるわ!」 目尻に涙を浮かべて、声をあげるルイズ。 耕一は少し後悔した。このルイズという少女、予想以上に意地っぱりだった。こいつは梓以上だ。 自分で気付いてすら反発するタイプか……根はいい子っぽいんだけどな。よっぽど深く掘らないと根は見えなさそうだ。 「……とまあ、そういう事を言われると、今ルイズちゃんが感じているような心境になるわけだよ。ごめんな、変な事言って」 「べ、別に変な事なんて言ってないわ。下の者は上の者に従う。当然の事よ」 ……とはいえ、ルイズの根を包む土であるこれまでの言葉は、ここの社会では真っ当な常識なのだろう、とも思った。 それを異邦人である耕一が取り除けてしまったら、ルイズは社会に溶け込めなくなってしまわないだろうか。 鬼の血を引く柏木の者が、いかに人間社会に溶け込む事に尽力しているか。祖父や叔父、親父に、遥か昔のご先祖様、代々の表裏に至る努力を千鶴や楓から聞いている耕一は、ついそんな事を考えてしまった。 いっそ、そんな事に気付かない少年ならば、まっすぐにルイズの根まで掘り起こしてしまうのかもしれなかったが。 「それに……そもそも無理なのよ」 「何が?」 「あんたを……召喚したものを元の場所に戻す魔法なんてないもの」 「…………マジで?」 「マジよ」 それは予想外だった。いくら神聖な儀式と言っても、緊急の手段ぐらいはあってしかるべきじゃないのだろうか。 「それは、君が使えないというだけ……じゃないよな」 「ええ。そんなのがあるなんて、先生だって知らないと思うわ」 「マジか……」 「マジよ」 彼女が嘘を言っているようには見えない。 ……うーむ。あのコルベールさんの態度からして、生徒には隠されているだけ、という線もない気がしないではないけど。 呼べるなら戻せるだろう、と楽観的だった考えが覆されて、耕一もさすがに焦り始めた。 「わかった? あんたは私の使い魔をするしかないの」 「……うーむ」 悩み出す耕一に、有利に立ったと思ったのか、少女の虚勢が貴族の矜持に変わり、ルイズの言葉に余裕が出てくる。 逃げるのは簡単だろうが、剣と魔法のファンタジー世界に逃げてどうするというアテがあるわけでもない。 自然は多そうだし、身体能力を駆使すれば狩猟採集で生きていけるかもしれないが……それでは逃げる意味がないし、野良エルクゥとか洒落にもならない。 「……ぬー」 ……とにかく、彼女より知識のある人に話を聞かなければ。 元の世界への送還魔法なんて本当に存在せず、まったくのイレギュラーで呼び出されたのか。それとも何らかの関わりはあるのか。 「はぁ」 とりあえずのところは彼女についていって、機会を見つけて責任者に掛けあってみるしかないか。学院というぐらいなら、校長先生ぐらいはいるだろう。 『平民風情がこの校長に向かって軽々しく口を利くとは無礼者め』などと無礼討ちされそうになったら、その時にはエルクゥ全開で逃げ出せばいい。 当面の方針をそう結論付けて、耕一は『ごめんよ楓ちゃん。ちょっとすぐには戻れなさそうだ』と空に向かって懺悔をすると、ひとつため息をついた。 「わかったよ。帰るのを諦めるつもりはないけど、手がかりが見つかるまでは君に従おう」 「……態度が気に入らないけど、まあいいわ。ゆっくり上下関係を思い知らせてあげるから」 「王様にそう言われて心から忠誠を誓えるなら、そうするといい。子曰く、天下は恐怖でなく仁徳にて治めるべし、ってね」 「……ふん。もうその手は喰わないんだから」 物騒な事を口走るルイズに苦笑しながら、お手柔らかに、と握手を求めると、見事に無視されてしまった。 代わりに、手の甲を差し出される。一瞬意味がわからなかったが、昔見た演劇を思い出して、もう1回嘆息。 そして、膝をつき、せいぜい精一杯恭しく、その甲に口付けた。 「そうそう、あんた、君とかルイズちゃんとか呼ぶのやめてよね。ご主人様に向かって馴れ馴れしいわよ」 「ふむ。じゃあ……ミス・ヴァリエール?」 「……あんたに言われると、なんかムズムズするわね」 「ルイズ?」 「気安く呼ばないで」 「じゃあ、ルイズちゃんで」 「……うー。なんか納得いかないけど、それが一番マシな気がするわ」 そんな会話をしている内に、他の生徒たちが次々と到着して、門をくぐっていく。 「はあ。私たちも教室に行くわよ。えっと……カシワギコーイチ?」 「耕一、でいいよ。柏木が苗字で、耕一が名前だ」 「そう。まあ……ありがと。あんたのおかげで授業に間に合ったわ。あのまま歩いてたら、きっと間に合わなかったもの」 それだけ言うと、ぷいっと踵を返して、門に向かって歩き出してしまう。 ルイズちゃんの方はこれで様子を見て、とりあえずコルベールさんと話してみるか……と、これから取るべき手段を考えつつ、耕一は少しだけ微笑ましい気分でルイズの後についていった。 前ページ次ページゼロのエルクゥ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1767.html
前ページ次ページゼロの答え 「うぅ、腰が痛い……」 そう呟きながらルイズは街を歩いていた。 なにせ馬に乗ったことはあるものの、あんな速度で走り続けた経験はない。 なのに初めて馬に乗った上にルイズ以上の速度で駆っていたデュフォーは平然としていた。 恨めしげに横目で睨むものの、文句は言えない、馬で行こうと言ったのは自分である。 まさか初めて乗る馬ですら、あんな完璧に扱うとは思っていなかった。 そのデュフォーはというと、初めて街にきたはずなのにルイズの先を歩いていた。しかも迷いなく。 「ちょっと待ちなさいよ。あんた武器屋の場所わかってるの?」 「お前、頭が悪いな。武器屋はどこだ?の答えも出せるからアンサー・トーカーだろ」 ルイズはその場で深呼吸をして怒りを静めた。街中でキレるわけにはいかない。 「ふぅ……ま、まあそれはいいとしてスリには気をつけ」 ギロリ。そう言いかけた所でデュフォーが横を睨んだ。 「きゃっ!な、なによ急に?」 デュフォーが睨んだ方を見ると一人の男が恐れをなした表情でこそこそと退散するところだった。 「……もしかして今の」 「スリだ」 「……あっそ」 その後、数回同じことがあり、デュフォーに対してスられる心配は杞憂だったとよくわかった。 そうこうしている内に武器屋にたどり着いた。本当に場所がわかっていたことに今更ながらルイズは驚いた。心底得体の知れない使い魔だと思う。 武器屋に入るとルイズはまず店の主人のところに向かった。一方デュフォーはちらりともそちらを見ず、乱雑に積み上げられた剣のところに行った。 そして主人とルイズが話している間にその中から一本の大剣を掴み出した。 「おでれーた!いの一番に俺を選ぶなんていい目をしてるじゃねーか坊主」 デュフォーが掴み出すと同時に剣が叫んだ。が、デュフォーはまったく動じず、まだ話をしている最中のルイズと主人のところへ持ち込んだ。 「おいおい無視すんなよ。てかその体で俺を扱えんのか?悪いことは言わねぇからもっと体に合った武器にしろよ。いくら俺が名剣でもよー」 「ルイズ。この剣でいい」 「へ?ってあんた何勝手に決めてるのよ!それになによその剣は!錆が浮いてボロボロじゃない!みっともない!」 「若奥さまの言うとおりですぜ。そんな剣よりもっと良い剣がうちには」 「この剣以上の物はないだろう?」 「へへっ、その通りだぜ。だけど坊主、お前の体じゃ俺を扱うのはちーとばかし……」 そう剣が喋ったところでデュフォーが左手を見せた。 「これなら問題はないだろ」 「おでれーた!おま『使い手』か!流石俺を一目で選ぶだけのことはあるぜ!俺の名前はデルフリンガーだ。これからよろしくな、相棒!」 何かに引っかかったのかぴくりとデュフォーの眉が動いた。だがデュフォーが口を開くより早くルイズが怒鳴った。 「だーかーらー、勝手に話を決めるなって言ってるでしょうが!何よ、その変なインテリジェンスソードは!」 しかしデュフォーと変な喋る剣は一向に話を聞こうとしない。疲れた溜息を吐くとルイズは主人に告げた。 「……あの剣はいくら?」 「へぇ、あれなら百で十分でさ」 デュフォーはルイズの財布を懐から出すと、その中からきっちり百枚をカウンターに置いた。 「毎度」 鞘に入れられたデルフリンガーをデュフォーは受け取った。肩から提げるようにして身に着ける。 そんなデュフォーを横目に主人とルイズが話をしていた。 「若奥さま。俺がこういうのもなんですが下僕の躾はちゃんとしたほうがいいですぜ」 「……できるならとっくにやってるわよ」 こうして無事(?)目的の剣を購入し、店から出て、学院へと戻るデュフォーとルイズ。 その様子をキュルケたちが見ていた。 「ふふっ、これはチャンスね。あんな剣よりもっと良い剣を買ってあげれば一気に好感度アップよ」 「それはないと思う」 「む、何でよタバサ」 「彼、まったく迷いもせずにあの剣を選んでた。きっとよっぽど気に入ったんだと思う。他の剣をプレゼントしてもあれ以上に気に入られる可能性は低い」 「う、そう言われると。……うーん、確かにあなたが言うとおりね、他の剣を贈っても気に入られなきゃ意味がないわ」 そう言うとキュルケは大きく溜息をついた。せっかく親友に無理やり付き合ってもらってまで街にきたのに収穫は何もないのだ。 タバサごめん、と謝るとキュルケは学院に帰ることにした。勝負は夜だと考えて。 寮に帰るとすぐにルイズはベッドの上でうつ伏せになって枕に突っ伏した。帰りも行きと同様に馬に乗ってきたため、更に腰を痛めたらしい。 患部に水でぬらしたタオルを置いて冷やしてながら恨みがましい目でデュフォーを睨みつけていた。 だがデュフォーはそんなルイズを無視して、さっそく鞘からデルフリンガーを抜いて話しかけた。 「おい」 「なんだ相棒?」 「いつまでその姿でいる気だ」 「は?何言ってんだあいぼぐっ!」 デュフォーは問答無用でデルフリンガーを石造りの壁に叩き付けた。 「思い出したか?」 「いきなり何しや―――」 再び壁に叩きつける。 「思い出したな?」 「は……はい。思い出しました……」 「そうか、なら次だ。ガンダールヴという名前に聞き覚えは?」 「ん、あー……なーんか頭の隅に引っかかる名前だな」 それを聞くとデュフォーは呆れた表情になった。 「……忘れていることが多すぎるな。仕方がない、思い出させてやる」 「お、おい、ちょっと待てよ、相棒。ら、乱暴はよ……」 「この角度で強い衝撃を与えると思い出しやすい」 しばらくの間、金属を石に叩きつける音とデルフリンガーの悲鳴が響いた。 ―――そして小一時間後。 「思い出したな?」 「あ、ああ。ばっちりだぜ相棒……だからもう石に叩きつけるのはよして……お願い……」 ボロボロになったデルフリンガーがそう懇願するのを聞いてデュフォーはこう告げた。 「なら早く元の姿に戻ったらどうだ?」 「わ、わかった。今すぐ戻るぜ!だ、だから岩に叩きつけるのはもう勘弁して……」 デルフリンガーがそう叫ぶと、突然その刀身が光り出した。 そして光が収まるとそこには錆の浮いた大剣ではなく、まるでたった今、研がれたばかりのように光り輝く大剣があった。 「これがほんとの俺の姿さ。ど、どうだい相棒、おでれーたか?」 多少びくびくしながらデュフォーの反応を見るデルフリンガー。だがデュフォーは無反応。 「くぅ~。相棒、そんなんじゃガンダールヴとしちゃ役立たずだぜ!良く聞け!ガンダールヴの力はな」 「心の震えで決まるんだろう」 「なっ!?知ってるのか、相棒。だったら俺の言いたいことも」 「問題はない。心の力を込めることなら慣れている」 「へ?慣れてるってどういうこった」 「他に言いたいことはあるか?」 「いやだからちっとは俺の話を……」 「ねえ、デュフォー。さっきからあんたがこの剣と喋ってるガンダールヴって何?」 デルフリンガーの言葉をさえぎるようにしてベッドの上からルイズがデュフォーに話しかけた。 「名前なら聞いたことがあるはずだが?頭が悪いから忘れてたのか?」 「っの!始祖ブリミルが使役していた伝説の使い魔の一人でしょ!それくらい知ってるわよ!わたしが聞きたいのは何であんたが『ガンダールヴ』とか言ってるのかってこと!」 「お前、頭が悪いな。俺が『ガンダールヴ』だからに決まっているだろ。この使い魔のルーン。これが『ガンダールヴ』の証だ」 そういうとデュフォーはルイズに左手のルーンを見せる。 そしてルイズに対してガンダールヴについての説明を始めた。 デュフォーの説明に対し、最初はうさんくさげな顔をしていたルイズだったが、話が進むにつれ、徐々に顔色が変わってきた。 「理解できたか?」 一通り説明を終えると、デュフォーがそう訊ねる。 「……証拠」 「お前、頭が悪いな。証拠なら」 「違う。ルーンじゃなくて、実際にそんな力を持ってるって証拠を見せて!でないと信じられないわ!」 強張った表情でそう叫ぶルイズ。 仕方ないなと言ってデュフォーはデルフリンガーを持って立ち上がった。 「ついてきて、中庭に行くわよ」 そういうとルイズはドアを開け、部屋の外に出た。 「きゃっ!?」 ちょうどデュフォーに会うためにルイズの部屋の前に来ていたキュルケが、目の前でいきなりドアが開いたことに驚いて悲鳴を上げた。 「ちょっとルイズ!急にドアを開けないでよ、びっくりするじゃない!」 キュルケがルイズに対して文句を言うが、ルイズはそちらを向こうともせず表情を強張らせていた。 それに訝しげな表情を浮かべるキュルケ。だがルイズに続いてデュフォーが出てきたのを見ると相好を崩し、ルイズのことは頭から消え去った。 「あら、ダーリンじゃない。こんな時間に部屋から出るなんて……ひょっとして私の部屋に来る気だったとか?」 デュフォーは違うと一言でキュルケを切って捨てるとルイズの後を追った。 前ページ次ページゼロの答え
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/3431.html
前ページ次ページゼロの斬鉄剣 ゼロの斬鉄剣 6話 ―魔剣デルフリンガー― 五ェ門がルイズに召還されてからはや3週間たった夜の事 「ねぇ、ゴエモン。」 部屋の隅で瞑想をしていた五ェ門に声をかけるルイズ。 「あんた、いっつもその服だけど替えの服はないの?」 すこし顔を顰める五ェ門 「あいにくだがこれが拙者の一張羅。」 「あ!そうか。」 自分が召還したときに五ェ門が持っていたのは斬鉄剣ぐらいであったので 愚問といえよう 「そうね、明日は休日だしゴエモンの服を買いに行きましょうか!」 「拙者の着物を?」 ふふん、とルイズは鼻をならす 「あたしはこう見えても公爵家の出よ?使い魔の服を買うくらい楽勝よ!」 それに、とルイズ 「ゴエモンもこの国に来てから遠出はしてないでしょ?だから一緒にいきましょ。」 ふむ、とうなずく五ェ門 「かたじけない、一つ宜しく頼む。」 五ェ門がそう礼を述べるとルイズはニンマリと笑いながらベッドにもぐりこんだ こうして次の日は城下町に行くことになったのだ。 チュン・チュン・・・・ 五ェ門はいつもの時間に目をさましたが・・・ 「あら、おはようゴエモン。遅かったわね。」 不覚にも寝過ごしたかと太陽をみるもまだ顔をだしたばかりといったところだ。 「む、ずいぶん早い目覚めだな、ルイズ。」 まあね、と笑うルイズ 「ここから城下町まで馬でも3時間はかかるのよ、早めにでないとね。」 なるほど、納得するゴエモン 「それに今日は久しぶりに人とでかけるから・・・(ボソ)」 「どうかしたのか?」 「う、うるさいわね!いいからさっさと行くわよ!」 やれやれ、元気のいいことだと思う五ェ門であった。 「これが今日乗っていく馬よ!」 そう紹介されたのは見事な風貌の馬だった。 「ほう、見事な馬だな。毛艶もいい。」 えへん、となぜか自慢げな態度で五ェ門に説明する。 「きょうはこの学院でも指折りの馬を借りることができたのよ!」 自分の馬ではないはずなのだが、思ったより立派な馬を借りることが出来てずいぶんご満悦なルイズ しかし― 「ブルルルヒィーーーーーン!」 とたんに暴れだすルイズの馬 「な!なんなのよ、落ち着きなさいよ!」 なるほど、と五ェ門。 どうやら学園でも指折りの気性の荒い馬を借りてきたらしいー 五ェ門はルイズから手綱を取り上げる 「どうどうどう・・・」 暴れていた馬も五ェ門が手綱を取るとみるみる大人しくなる。 「ちょっとどう言う事よ!なんであたしの言うことよりゴエモンの言うことを聞くのかしら!?」 かなり不機嫌になるルイズ 「馬はなかなか賢い生き物だ、自分に合った乗り手でなければたいていこうなる物だ。」 ぶー、と膨れるルイズ 「馬の癖にあたしを馬鹿にして!」 ハハハ、と笑う五ェ門 「馬鹿にしてるというより、ルイズの場合は殺気がでているから馬が怯えたのだろう。」 あたしのどこが殺気でてるのかしらと不満げだが 「わ、わかったわよぅ。」 大人しくなったルイズを見て馬が頬ずりする。 「ちょ、きゃ!」 馬がルイズぺろぺろ舐めだす 「だいぶ気に入られたようだな、これを機にもっとお淑やかにすることだ。」 「ブルルヒヒン!」 五ェ門が笑い出すと馬も笑い出した。 「んもう!余計なお世話よ!さ、はやくいきましょ!」 「では拙者が手綱を、ルイズは道案内をしてくれ。」 むすっとしたがしぶしぶ了解するルイズ 「うう、わかったわよ。ところでゴエモンは馬にのったことがあるんだ?」 「無論、では行くぞ!」 ルイズが五ェ門の腰にしがみつくと馬は走り出した 「・・・あの生意気な貴族には特に気の荒い奴を当てたつもりだが、やるじゃねぇか。」 影から見ていた学院付きの厩務員がおもわず漏らすのであった。 その日キュルケが起きたのは外で馬の足音が聞こえてきた時だった 「ん~、朝から騒がしいわね・・・あら?ルイズとダーリンじゃないの!」 門をくぐる姿をキュルケは見ていた。 「方角は城下町かしら、こうしちゃいられないわ!」 ドンドンドン! キュルケが叩いたのはタバサの部屋 朝起きてすぐドアを叩かれたためびっくりするタバサ。 「・・・なに?」 ボソリといったつもりだが聞こえたのかキュルケは 「タバサ~、ちょっとあけて~」 しぶしぶとドアにアンロックの呪文をかける 「タバサ、一緒に城下町まで行かない?」 なぜ、と首をかしげるタバサ 「ダーリンとルイズが城下町へ行ったのよ!追いかけなくちゃ!」 ダーリンときいて誰?とおもうタバサ 「んもう、ゴエモンよ、ゴ・エ・モ・ン」 ピクリと反応するタバサ、しばらく考えて。 「行く。」 「そうこなくっちゃ、早速行きましょ!」 と、せかすキュルケにタバサは 「大丈夫、シルフィードなら城下町まで30分・・・」 ああ、とキュルケはうなずく 「そうだったわね、貴方の使い魔・・・風竜ですもの、すぐ追いつくわね!」 「・・・準備。」 タバサはそそくさと準備を始める キュルケも寝巻き姿だったことを思い出し自分の部屋へ戻る 「じゃ、一時間後に出発しましょうか。」 2時間半後―城下町 「なかなか速い脚だ、お主は。」 「ブヒヒン!」 嬉しそうにする馬、どうやら気は荒いが脚は相当なものであるようだ 「おもったより早くこれたけど、もうにぎわっているようね。」 宮城へ続く大通りはすでに人でにぎわっていた。 馬を町の入り口にある預け場に留め置くと目的の店へ向かう それを影からのぞく二人の影 「あら、ダーリンたちはどこへ行くのかしら?」 「・・・・」 気づかれないように後に続く二人だが五ェ門は気配で分かっていたようだ 「(なぜあとを・・?)」 さして危険ではないので捨て置く五ェ門。 「ここよ、ゴエモン。」 古臭い店だが汚くは無く、生地の種類も豊富で品揃えもよかった。 「これはようこそ、ヴァリエール様。」 気のよさそうな老女主人がルイズに声をかける 「お久しぶりマダム、今日は使い魔に服を仕立ててもらいにきたの。」 「おやまあ、そうでございましたか・・・立派な殿方ですこと。」 しげしげと眺めるマダム 「拙者、出来ればこれと同じものを仕立ててもらいたいのだが。」 ほうほう、とうなずくマダム。 「これは珍しいつくりの服ですわね。」 「出来るか?」 にっこりと笑うマダムは一言 「服を扱いかれこれ50年、まかせなさい。」 そういうとさっさと寸法を測り始めるマダム 「マダムは元・貴族、でも腕は確かよ。あたしが小さい頃からお世話になってるわ。」 ホホホと笑うマダム 「そうですよ、私はヴァリエール様のオムツも仕立てたのですから」 「ちょ、マダム!変なこと言わないで!」 「使い魔さん、服を詳しく見たいから脱いでもらえるかしら?代わりは用意するわ」 あっと思い出すルイズ 「そうよマダム、ゴエモンのサイズに合う服は無いかしら?近いうち品評会があるのよ。」 やいのやいの女性はファッションにうるさいもので最終的に決まったのは入店してから実に3時間後のことであった。 「マダム、宜しくお願いするわ。」 「またお越しくださいませ、ヴァリエール様。」 五ェ門の服が仕上がるのは10日後ということで仕上がり次第学院に送ってもらうことにして店を去る 二人 「じゃ、服も買ったけど時間があるわね。もうすこし街を見ていき・・・・」 ルイズはそこで言葉を詰まらせる 五ェ門の後ろには― 「あら、ごきげんようルイズ。奇遇ね?」 「・・・・こんにちは。」 「ちょっと、なんであんたらがいるのよ!」 あわてるルイズ 「あら、今日はただのお買い物よ?ね、タバサ」 コクリとうなずくタバサ 「ふうん、何を買いに行くのかしら?」 「あら、よろしかったら一緒に行きませんこと?」 「・・・・ゴエモンも。」 「ちょっと、かってにゴエモン連れてかないでよ!」 むくれるルイズ 「まあよいではないかルイズ、せっかくだから拙者はもう少し街を見て回りたいのだ。」 うー、とうなるルイズ 「しかたがないわね、はやくすませましょ!」 二人きりで街を見て回れると思っていたルイズはしぶしぶ了解する キュルケ達が合流してしばらくすると、町の路地の奥からわずかながら悲鳴が聞こえてきた 「ルイズ、すまないが先に行っててくれ。」 と駆け足で声の方角へ向かう 「ちょっと、ゴエモン・・・もう!」 路地の奥には家に囲まれ、人目につかない広場があった 「オラオラ!たてよ!」 「や、やめてくれ・・・」 「うるせぇ!親分の女に手を出しやがって!」 とらわれた男女一組とそれを嬲るガラの悪い男たち 一番屈強そうな男― 親分と呼ばれている男はおもむろに 「もう、やめろ」 ピタリと子分たちが動きを止める やっと終わったかと思った矢先 「この錆た剣でゆっくりいたぶってやんな」 下卑た表情で子分に剣を渡す。 「へい、わかりやした」 「ひぃ!」 振りかぶった時 「待たれよ!」 間一髪、現れた五ェ門。 「なんだテメェは!」 ふん、と五ェ門 「弱い者を大人数でいたぶるとは、大人気ない奴らだ。」 「うるせぇ!とっとと失せろ!」 いきり立つ男たち 「それ以上やるのならば、拙者があいてをいたそう」 「生意気な、やっちまえ!」 五ェ門を間合いに捕らえたとき、男たちは勝利を確信したが バシ!バシ!バシ! 3人がかりで飛び掛るが目にも留まらない手刀で叩き伏せる 「お主ら如き、斬鉄剣の露にすることすら憚る。」 一番デカイ男に目を向ける五ェ門 「さて、あとはお主だけだが。」 男は五ェ門の異様さに怯む 「この二人に手をださないと誓うなら見逃してやろう。」 「しゃらくせえ!」 男は五ェ門に飛び掛ったが、すばやく回り込まれ腕をキメられる 「お主のような乱暴者にこの腕はもったいないな」 ボキン!ボキン! 容赦なく五ェ門は男両腕を折る 「これで二度と悪さわできまい、今度からはまじめに働くことだな。」 「ひ、ヒイイイイイ!」 子分たちも打たれた箇所を折られているのか抑えながら逃げおおせる それを見送る五ェ門は声をかけられる 「あ、ありがとうございます」 痛めつけられてた男は女とともに五ェ門に礼をする 「礼はいい。それよりもこの町からはやく出て行くことだ。」 そういわれるとそそくさと男女は去っていく それも見送ると五ェ門はルイズたちのところへ戻ろうとするが 「まってくれ!」 五ェ門は振り返ったが誰もいない、気のせいかとおもったが 「ここだ!ここだよ兄さん!」 なんと、捨てられた剣から声が聞こえてくる 「面妖な・・・」 鞘に手をかける五ェ門 「ちがうって!兄さん、俺っちをつかってくれよ!」 しかし五ェ門は返す 「残念だが拙者にはもう斬鉄剣がある、あきらめろ。」 そういうと五ェ門は踵をかえす。 「ま、まってくれ!絶対役に立つって!そうだ!おれっち魔法を打ち消すことができるんだぜ!」 振り返る五ェ門 「ほう、それは面白い力だな。」 「だろ!俺を拾い上げてくれよ、お願いだよ!」 必死になる剣、それもそうだ。こんな人目のつきにくいところで捨てられたらガキの玩具にされるか くず鉄拾いに拾われるかどっちかなのだから。 「その言葉信じよう、だが偽りがあれば・・・・・。」 刃を覗かせる五ェ門。 「と、とにかく手にとってみてくれよ、な?」 五ェ門が剣を手に取る すると、左手のルーンが輝きだす 「お、おでれーた!、兄さんは使い手か!」 なんのことだと五ェ門 「いいから!俺っちは兄さんに拾われるべくして拾われたんだよ。」 ひとまず剣のいうところの「魔法を打ち消す力」について興味があったので拾うことにした。 「あ、俺の名前はデルフリンガーっていうんだ、兄さんの名前は?」 「うむ、拙者は石川五ェ門という」 「とりあえず俺の名前はデルフって呼んでくよ!」 口の軽そうな剣だとおもう五ェ門 「わかったからデルフ、少し落ち着かんか。」 しょぼくれるデルフ 「わ、わかったよ。鞘に収めてくれたら黙るから、その剣チラつかせるのは勘弁してくれ。」 「あとでお主の力、試させてもらうぞ。」 「おう、まかせてとき」 カチャン さっさと鞘に収められるデルフであった。 「さて、もうじき日が暮れる、急がねば」 ルイズたちに合流した五ェ門 「ちょっとゴエモン、どこへいってたのよ。それになに?その剣は?」 五ェ門は喋る剣についてルイズに聞いた 「それはインテリジェンス・ソードね。」 なんだそれはという顔をする五ェ門 「魔法の力で意思を持つようになった剣のことよ、わりと沢山あるのよ。」 剣を見つめる五ェ門 「それより、ダーリン。もう夕方だけどはやく帰らないと。」 しまったという顔をするルイズ 「・・・・のってく?」 横からタバサ 「人・・・4人に馬一頭。楽勝」 「そうね、タバサの風竜がいれば学園まですぐですもの。」 馬をどうやって運ぶのだと思ったが 「(きゅい!あばれないでね!)」 馬がおびえないよう目隠しをしておいて背中にのせる 「ブヒヒン?」 ずいぶん肝の据わった馬であるが、単に間抜けであるのかもしれない その日、五ェ門は久々に空からながめる夕日を目にするのであった。 前ページ次ページゼロの斬鉄剣