約 845,521 件
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/6394.html
前ページ次ページゼロの騎士団 ゼロの騎士団 PART1 始まりの地 トリステイン6 「うおぉっしゃあぁー!!!」 ダブルゼータが拳を振り上げる。 「ウソ……アイツ勝っちゃった……」 あまりの逆転劇にルイズは、それ以上声が出なかった。 「……儲かった」 その割には、タバサの表情は変わらない。 ニューとゼータが二人に近寄っていく。 「幾等なんでも、投げるか普通。」 ゼータが呆れながら、ダブルゼータの肩を後ろからつかむ 「いてっ!一応、ケガしてんだから、労れよ!おい、ニュー回復してくれ」 ダブルゼータが痛みをこらえながら、ニューに催促する。よく見るとハリマオスペシャルの炎に触れており、数か所が火傷している。しかし、ニューは近くに倒れている。ハリマオスペシャルの様子を見る。 「お前は後だ、そのくらい我慢しろ、ミディア」 ニューが素早く呪文を唱える。途端に、ハリマオスペシャルの傷がふさがれている。 「まったく、私がいるからと言って、そんな無茶な戦い方をするな、ウォーター」 手から出るシャワーのような水と、心地よい冷気が、ダブルゼータの全身の火傷を癒す。 ウォーター 火傷や火だるまを治す呪文で、旅の途中は飲み水などにも使われた。 「おいニュー、ミディアムかけてくれよ」 火傷を治しただけで不安なのか、ダブルゼータが不満をぶつける。 「お前はそれで充分だ、少しは大人しくしていろ。」 「おい!奴が気づいたぞ」 ゼータが気絶から回復した事に気づく。 ハリマオスペシャルは、傷は癒えたが、まだ、足取りは朦朧としていた。 ダブルゼータに近づき、ただじっと見つめている。 「うぉぉぉん!!」 親愛でも服従でもない咆哮であった。 それに対し、ダブルゼータもまた瞳から怒りの色は消えていた。 「……お前も大した奴だったよ」 素直に相手を讃える。 ハリマオスペシャルは咆哮の様な息を唸らせ、振り返る事無く専用の厩舎に向け歩き出していた。 「なんなのよ、あれ……」 ダブルゼータの怪力より、ニューの魔法よりも、得体のしれない友情の誕生がルイズには何よりも理解できなかった。 ギャラリーも、ただ二人のやり取りを見ているだけだった。 自分の使い魔の無事を喜んでいる、金髪の少年を除いて…… ダブルゼータの勝利宣言を、遠見の鏡から二人はじっと見ていた。 「勝ちましたわね、彼……」 唖然とした面持ちで、ロングビルは同意を求める。 「勝ってしまったのう……」 オールド・オスマンも、驚きが隠せないでいた。 「彼らは何なのじゃ?あんなゴーレム見た事無いぞい、しかもあの赤い羽根の奴は、見た事もない魔法を使ったではないか」 ニューのミディアムは、オールド・オスマンであっても始めてみる魔法だった。 ダブルゼータとほかの二人を鏡から見ながら、オールド・オスマンは独り言のようにつぶやく。 「彼らは、アルガスという国の騎士で、あの青いのはゼータといい騎馬隊の隊長だそうです。今、現在はミス・タバサの使い魔だそうです。 私は今朝、彼と会話しました。彼らは明確に自分の意識を持っています。」 今朝、ゼータと会った時の、情報を使える。 (そう、彼らはアイツのように自分の意思を持っている。) 心の中でロングビルは、三人を誰かに重ねていた。 「アルガスとやらは、あんなゴーレムが沢山いるのかのぉ……」 一体だけでも驚きであるのに、三体もいて、しかも、彼らのようなのが不特定多数存在する。 オールド・オスマンには想像もつかなかった。 (やっかいじゃのぉ、あんなものどうしろって言うんじゃい) 事態の異常さに、オールド・オスマンは頭を抱えた。 「失礼します。おや、どうかしたんですか?」 自室で遅めの朝食を終え部屋に入るなり、コルベールは空気の違和感を感じる。 コルベールはオスマンの近くに行くと遠見の鏡に気づく。 「何を見ているんですか?……ああ、生徒と使い魔の親睦会ですね。」 自分の使い魔の姿を見て、一人納得する。 「ハリマオスペシャルも、皆と馴染んでいるようですね。」 先ほどの光景を見てないだけに、コルベールの表情は暖かい。 (どこを、どう見てそう言えんだい、この鈍感男) 周りの生徒達の空気に気づかないコルベールを、口に出さず、ロングビルが罵る 「あれはミスタ・ダブルゼータじゃないですか、人見知りのハリマオスペシャルが懐くなんて、珍しい事ですね。」 周りが、唖然としている光景を見てコルベールは素直に感心する。 「コルベールくん、君は彼らを知っているのかね?」 ダブルゼータに驚かないコルベールに、オスマンは彼らとの関係を問いただす。 「彼らが、昨日報告した、ミス・ヴェリエール、ミス・ツェルプストー、ミス・タバサの使い魔ですよ。今日この後、彼らと会談する事を昨日伝えましたよね?」 コルベールが昨日の報告に不備がないか確認する。 「なにっ!彼らが、昨日の報告にあったゴーレムじゃと!」 (なぜ、そんな重要な事を詳しく話さんのじゃ、こやつは……) 事の重要性を理解していないコルベールの罵声と、それを軽視した自分への罵りがステレオとなってオスマンの心に響く。 一般的にゴーレムはメイジが作る物で、使い魔にはならない。使い魔を召喚する儀式で、それでは不合格になってしまう。 だからこそ、オスマンは、変なゴーレムを召喚してしまった三人への、進路の事だと思っていただけに、彼らとの面会は気が滅入った。 「そうじゃったな、もうすぐ親睦会も終わりじゃ、昼食の後に、彼らと生徒たちを呼んできたまえ……」 何かを注意しようにも、今のオスマンにはそれができなかった。 「そうですね、後、オールド・オスマン彼らのルーンの事なのですが、昨日一晩かけて調べたのですが辞典には彼らのルーンが見つかりませんでした。こう言ったルーンなのですが、何かわかりますか?」 シエスタが見た同じメモを、コルベールが差し出す。 オスマンはそれを一読するが…… 「ふむ、これはわしも解らんのぉ、コルベール君、引き続き調べてくれたまえ。」 オスマンが持っていたメモを、コルベールに返す。 「分りました、オールド・オスマン」 一礼して、コルベールが部屋を出ていく。 コルベールの退出音と共に、部屋は長い沈黙に包まれた。 昼になり親睦会がお開きとなり、ルイズ達は昼食に向かう途中だった。 「どうだ、キュルケ嘘じゃないだろ。」 ダブルゼータが自慢げに3度目の同意を求める。 「わかったわ、アルガス一でトリステイン一の怪力、ダブルゼータさん」 しつこさから、さすがに呆れ始め、キュルケの対応もおざなりだった。 「けど、すごい力ね、魔法でも使ったの?」 ルイズがニューに秘密があるのかと聞く。 「私の魔法に失礼だぞ、ルイズ」 「さり気無く呼び捨てにしないでよ、私はアンタのご主人様なのよ!」 ニューの対応が、ルイズにとっては不満でならない。 「あら、仕方ないじゃない、ニューと違って、あなたは「ゼロのルイズ」じゃない」 ゼロを強調しながら、キュルケがルイズをからかう。 「キュルケ殿、ゼロとは何の事だ?」 ニューが疑問を口にする。 「ゼロはルイズの二つ名よ、メイジには能力に由来する二つ名があるの、ちなみに、私は「微熱」でタバサは「雪風」よ」 キュルケは自分とタバサの二つ名よりも、ルイズの二つ名を嬉しそうに言う。 「二人はともかく、ルイズは何でゼロなのだ?」 ルイズに向かって、ニューが由来を聞く。 「うっさいわよ!アンタ、飯抜きよ!」 ルイズが怒りで理不尽な命令を下す。 「あっ、みなさん」 天啓とも言えるタイミングで、シエスタが表れる。 「シエスタ、どうしたんだい?」 ニューがシエスタに、助け船を求める。 「はい、三人……ダブルゼータさんに料理長のマルトーさんが、何か言いたいそうです。厨房に来てくれませんか?」 主役はダブルゼータであるらしい。 だが、主と居るよりはよっぽどよかった。 「ルイズ殿、そういう訳だから厨房に行って参ります。」 二人とシエスタを引き連れ、早足で歩き出す。 「ああっ!待ちなさい、馬鹿ゴーレム!」 ルイズの罵声から逃げるようにニュー達は厨房に向かった。 「マルトーさん連れてきましたよ」 「おお来たな、待ってたぞ」 ある程度、調理が終わった厨房で、三人を料理長らしき男が笑顔で出迎える。 「あのハリマオスペシャルに勝つとは、大した奴だ。」 「うおっ!なんだいきなり」 マルトーが息子への抱擁のように、ダブルゼータに抱きつき、慌てて突き放す。 大男のマルトーが、2メイル程後ろに飛ぶ。 「なるほど大した力だ!アイツは、使い魔とは思えないほど傲慢で、下手なメイジより強いから、誰も手を出せなかったのに勝っちまうとはな!」 マルトーにとって、ハリマオスペシャルが投げられたのが、よっぽど嬉しい様だ。 「俺はお前さん達にお礼がしたいのさ、もっとも、俺が出来るのは料理くらいだけどな!さぁ、こっちに座んな!」 「こっちですよ、皆さん」 シエスタが中央の大きなテーブルに案内する。 そこには、朝の食事よりもさらに豪勢な食事が並べられていた。 「本来は貴族用なんだが気にする事はねぇ、俺からの気持ちだ!たくさん食べな。」 「ありがてぇ!ちょうど腹が減ったところだったんだ。」 ダブルゼータが二人に相談もせずに、席に飛びつき、皿を空にし始める。 「馬鹿、いきなりみっともない真似するな」 そんな、ダブルゼータを注意しながらゼータも席に着き、ニューもそれに続く。 「おお、いい食いっぷりだな!じゃんじゃん行ってくれ!」 マルトーが嬉しそうに言い、周りも頷く。 三人は5人前の食事を、あっという間に空にしてしまった。 「ウマかった、親父さんありがとな!」 「マルトー殿、大変、美味でした。」 「ごちそう様、とっても美味しかったよ。」 三人が、三者三様の感想を述べる。 「おう!また、来てくれよな!」 厨房を後にする三人をマルトーとシエスタが嬉しそうに見送った。 厨房を後にした3人は、同じく食堂を出たルイズ達と再会する。 「遅いわよ、アンタ達!ご主人様を待たせるなんて、どういうつもりよ!」 先に待っていたルイズが噛みつく。 「すまない、マルトー殿からもてなしを受けていた。」 「なんで、使い魔のアンタ達がもてなしを受けるのよ!」 納得のいかない様子で、ルイズがニューに詰め寄る。 「まぁいいじゃない、それよりも、今ミスタ・コルベールが来てオールド・オスマンが私達とあなた達に学院長室に来るようにって」 キュルケが3人に行動予定を伝える。 「アンタ達!オールド・オスマンはこの学園の学園長で一番偉いんだからね!馬鹿な真似は絶対しないでよ!」 ルイズが何も問題を起こさないように三人に注意を促す。 「いきましょ」 ルイズの返答を待つより早く、タバサが歩き出す。 「タバサ待ちなさい!いい事、絶対問題起こさないでよね!」 (ダブルゼータはともかくとして、私やゼータは何もしてないのに) 自分に対する信頼の無さに、ニューは少し寂しさを感じた。 学院長室の中で、ゼータはロングビルと再会する。 「ロングビル殿、お忙しい中、今朝はありがとうございます。」 「よろしいんですよ、ゼータさん」 ゼータがロングビルに今朝のお礼を言う。 「あなたって、真面目な割に手が早いのね」 ゼータに対して、キュルケが間違った感心をする。 「なっ!何を言ってるんだ、キュルケ殿!」 「慌てるところが、余計に変」「タバサ!」 妙な所で絶妙な連携を発揮する。 「君!ロングビルはわしの物じゃ、手を出されても困るよ。」 ゼータの事は冗談でも、ロングビルの所有権には冗談を感じられない口調で、オスマンが口をはさむ。 そして、ロングビルににじり寄る。 「勝手に所有しないで下さい、後、どさくさにまぎれないでください。」 口調の割には、えげつない肘打ちが、オールド・オスマンのこめかみをとらえる。 (マチルダさんみたいだな) 操られているとはいえ、かつて法術隊を壊滅寸前にまで追いやった女性を思い出す。 「いたた、ミス・ロングビル暴力はいかんよ……私はこの学院の学院長を務めるオールド・オスマンじゃ」 三人に改めて自己紹介をする。 「早速じゃが、お前さん達は三人に召喚されてここに来たと言うらしいのぉ」 「はい、私達は……」 異世界であるスダ…ドアカワールドのアルガス王国の騎士である事。魔王ジーク・ジオンを倒すため、また違う異世界である。ムーア界に行った事。そして、倒した後、この世界に呼び出された事等を語った オスマンはひとしきり聞いた後、眉間に皺を寄せ重い口を開いた。 「わしも、いろいろな地方を旅したが魔法を使い、ハリマオスペシャルに力で勝つゴーレムなんか初めて見るぞ」 遠見の鏡の出来事が彼らが尋常ならざるものである事を、オスマンは受け入れていた。 「で、アルガスの騎士団であるお前さん達は、当然そのアルガスに帰らねばならんのう」 「はい、それで、貴方の力を借りたいのです。オールド・オスマン」 ニューが、そう言ってオスマンの助力を求める。 「それは……できん相談じゃよ、なぜなら『サモン・サーヴァント』で呼び出したものは、もとに返す事は出来ん。ましてや、異世界などと言えばなおさらじゃ」 彼らにとって、絶望的な言葉をオスマンは口にする。 「ふざけるなジジィ!!」 ダブルゼータがオスマンをアルゼンチンの形で担ぎあげる。 「うお!何をするんじゃ、やめてくれ誰か止めてくれぇ!!」 「ダブルゼータさんやめてください、そして出来れば、そのまま頭から叩きつけてください。」 「何気にワシを亡き者にしようとしてないか!ミス・ロングビル!!」 「おちつけ、ここでお前がその老人の頭をへこませて、剣で2、3回突き刺そうとも現状は変わらん!」 「ゼータの言うとおりだ、その後、爆風と電流とかを与えたって何も変わらん!」 「味方はおらんのか!!」 ダブルゼータがオスマンの背骨に致命傷を与えた所で、オスマンは解放された。 「はぁ、はぁ、むろんわしも何もしない訳ではない、色々調べてみる。さすがに、死にたくないからのぉ」 激痛で緩んだ膀胱の尿意を堪えながら、オスマンは口約束をする。 「その代わりと言っては何じゃが、もう少し使い魔をやってくれんかのぉ」 オスマンは取引を持ちかける。 帰れない事よりも、ルイズの使い魔の期限が無期限と化したのにニューは唯、泣きたくなった。 会談が終わり、夕方。 「……で、アンタは私の一生の使い魔になる事が決まったのね。」 部屋に戻るなり、ルイズは満面の笑みを浮かべる。しかし、その笑みは何かやましいものが含まれていた。 「アルガスに帰るまでだ、オスマン氏がその方法を見つけるまではここに留まる事にしただけだ。」 「ここに留まれるのは、そして、食事ができるのは誰のおかげかしら、隊長のニュー様?」 答えが分かっているような、声でルイズがニューを見下ろす。 「もちろん、お世話になる代わりに雑用くらいはしてあげますよ、ゼロのご主人様」 ニューはゼロが何かしらのキーワードであると知った為、それを皮肉に交える。 「この馬鹿ゴーレム、いい度胸じゃない!アンタなんか食事抜きよ!」 近くの部屋に聞こえるくらいの罵りあいが始まる。 「……サイレント」 タバサが世界の音を遮断し、本に視界を移す。 (さわがしい、二人だな) 動きと音のない静かな世界でゼータは二人のやり取りを少し羨ましく思った。 中庭では、人だかりが出来、その中心はキュルケとダブルゼータであった。 「さぁ、さぁ、ここにいる私の使い魔のダブルゼータは、あのハリマオスペシャルを打ち破った、トリステイン一の怪力よ、このダブルゼータをこの丸い円の中から出す事ができれば賞金2000エキュー、しかも、トリステイン一の称号はあなたの物、さぁ、挑戦する者はいないの?1回20エキューよ」 キュルケが丸い円を指差しながら、挑戦者を募る。 「なぁ、キュルケ、何でこんなことするんだ?俺は疲れてい「あなたが頑張ったら、さらに美味しい食事が出るわよ」おうおう、偉そうに貴族の看板掲げているくせに、俺にビビって誰もででこねぇのか、この腰抜け貴族ども!」 労働の意味を見つけ、睨みつけるように辺りを見回すダブルゼータ。 「その言葉、聞き捨てならないなぁ、ゴーレム君」 人だかりの中から、先ほどのモグラの主である金髪の少年が現れる。 「ヴェルダンデの敵を討ってくれた事には感謝するが、今の言葉は貴族として許せん」 そう言いながら、ギーシュがバラを掲げる。挑戦者が表れた事に、観客のテンションが上がる。 「ギーシュ、挑戦してくれるのね!あなたってやっぱ勇敢だわ!」 媚びているのが丸分かりで、キュルケがギーシュの果敢な挑戦を称賛する。 「キュルケ、賞金は僕とモンモランシーの華麗なデートに使わせてもらうよ!」 そう言ってキュルケに、参加費用を渡す。 「誰かと思えば、モグラの坊主じゃねぇか、モグラが俺の相手をしてくれるのかい?」 「ふっ!僕の可愛いヴェルダンデに、君みたいな野蛮なゴーレムの相手をさせる訳ないだろう、出でよ、ワルキューレ」 薔薇の杖を掲げ、5メイル程の青銅のワルキューレが誕生させる。 「君の相手は、このワルキューレが勤めよう、キュルケ異論はないね!」 ワルキューレがダブルゼータの前に立ちはだかった所で、観客のテンションは最高潮にヒートアップする。 「オールオッケーよ!ギーシュ」 そう言いながら、ダブルゼータの近くに行き、耳打ちする。 「少し手加減しなさい、圧倒的な力で勝つと挑戦者が現れないから。あなたも、おいしい食事がしたいでしょ?」 ダブルゼータに指示を出す。 「オッケー、任しときな!」 了解して、キュルケを円の中から出るように促す。 「じゃぁ、いくわよ……はじめ!」 キュルケが開幕のゴングを鳴らす。 「いけっ!ワルキューレ!」 ギーシュの掛け声とともに、ワルキューレがダブルゼータに突進する。 「うぉっ!結構やるじゃねぇか、この姉ちゃん」 (こいつは思ったより、力が在りやがる。しかも意外と重てぇ!) 圧し掛かられるような、圧力に苦戦の気配を感じ取る。 「どうしたんだい、ゴーレム君!口の割には大した事はないな!」 以外に、押している事に気を良くするギーシュ。 「なろぉぉぉっ!」 叫びと共に、身をかがめて懐に潜りこむ。そして、辺りをつかみ放り投げる。 「なっ!ワルキューレ!」 ギーシュが一瞬の出来事に驚く。慣性で飛ばされたワルキューレは、そのまま地面に墜落した。 「やるじゃねぇか、小僧」 相手の善戦に、ダブルゼータが素直に称賛する。 「ダブルゼータの勝ちね、さぁ、他に挑戦者はいないの?」 キュルケが相手を求める。 「次は俺だ!」 「嫌、この私だ!」 何かに触発されたのか、次々に参戦の声を表明する。 その日の夕方は、いつもより喧騒に溢れていた。 トリステイン 宝物庫 外の喧騒を聞きながら、ロングビルは秘書と本職の仕事を果たそうといていた。 「この扉は特別でして、カギと合言葉がないと開かないのですよ」 コルベールがそう言って鍵を見せる。 「けど、何故宝物庫に?」 コルベールが問う 「はい、モッド伯が、王宮に提出する、目録を作ってほしいとの事なので……」 「なるほど、最近モッド伯が、ここに多く来るのもそれが理由なのですね。」 ロングビルの答えに、ここ最近、よく訪れる伯爵に納得する。 「以前から、伯爵はある物を手にいれたがっているのですよ」 「ある物ですか?」 ロングビルの瞳に興味の色が出る。 「はい、百獣の斧というものなのですが、出自と効果が解らないマジックアイテムなのですが、モッド伯はなぜかそれを欲しがっているのです。」 (きっとそりゃぁ、訳ありな代物だねぇ) そう言ったものは、何かしらいわくつきな物であり、欲しい者には高値で売れる事を経験から感じ取っていた。 「アイコトバヲオネガイシマス。」 突如、扉の無機質な音があたりに響く。 「え!どこから声が!?」 「マジックアイテムなんですよ。」 驚いた、ロングビルにコルベールが説明する。 「フカーヤノネギ」 「カクニンシマシタ」 鈍い音をたてて、扉が開く。 「こちらです。」 二人が宝物庫に入る。 「入口の方に比較的新しいものがあります。何年か前の目録がありますので、それを参考に作って下さい。」 「ミスタ・コルベール百獣の斧とはどういった代物なのですか?」 ロングビルが獲物を定める。 「百獣の斧ですか、こちらにあるのがそうです。」 そう言って、ガラスの箱に飾られた斧を指さす。 それは、煌びやかには程遠いが、片手用の斧であり獅子の顔が刻まれていた。 (これが百獣の斧かい、なんだか地味だね) ロングビルは、その斧からあまり金銭的な価値を感じなかった。 「では、私はしばらくここで作業しています。」 「はい、分りました。カギはお貸ししますので、後で返して下さい。」 その声とともに、コルベールの気配は遠ざかる。 「さて、このまま、盗んでとんずらと行きたいけど、それだと、真っ先に疑われるしね。」 まだ、本業として仕事をしていく為に迂闊な真似は出来ない。 「それに、アイツ等がいる事を考えると厄介だしね」 (目録を作るついでに、目星を付けとくかい) そう思い、ロングビルは宝物庫を調べ始めた。 モッド邸 深夜 モッド伯は寝室に呼ばず、客人を待っていた。 「お久しぶりですな、モッド伯様」 「来たか」 姿の見えない声にもさほど驚かない。 「あれは、今、学園にかけあっておる。余りせかすな」 モッド伯は手で待てのサインを送る。 「それも重要なのですが、一つ、力をお貸し願いますか?」 声と共に辺りの闇が強くなる。 「それは、あの方のご命令か?」 「いえ、ですが早めに手を打っておくべきかと思いまして」 (あの方の命では無いとは、珍しい) 目の前の声を聞きながら、モッド伯はそう思った。 「私は、何をすればいいのだ?」 「あるメイドを一人学園から連れてきて欲しいのです。」 「それは問題ないだろうが、それに何の意味があるのだ?」 メイドの価値などたかが知れている。モッド伯がそう思い疑問を口にするのは当然であった。 「そのメイドを餌にすると、ある物が釣れます。そのある物に価値があるのです。」 「お前の言っていた奴らか……ふん、まぁよい、それくらいなら容易い。」 モッド伯が承認する。 「では、私はこれで」 「あぁ、また会おう。……闘士ドライセン」 この世界の物でない闇の中、赤く光るモノアイが消えた後、体の寒気を忘れるべく、モッド伯は寝る事にした。 「11君の相手はこの青銅のギーシュがお相手しよう」 青銅のギーシュ ゴールドには勝てない MP 330 「12ギーシュがワルキューレを錬金した。」 ワルキューレ 7体まで現れる。 HP 360 (3体で) 前ページ次ページゼロの騎士団
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/413.html
前ページ次ページゼロのアトリエ 青い髪の少女。タバサが、本を読んでいる。 授業を終えた後、タバサにとっては貴重な一人の時間。 「タバサ、いる?」 ドアがノックされた。 「タバサ、おーい、タバサちゃーん?」 無視したら、ノックの音が3倍に増えた。 仕方がないので扉へと向かう。こんな事をするのは決まっている。 「ねえ、面白そうなもの見つけたんだけど。」 満面の笑顔を浮かべながら飛び込んできたのは予想通り、キュルケだった。 ゼロのアトリエ ~ハルケギニアの錬金術師9~ ヴィオラートが召喚されてもうすぐ一ヶ月。 ルイズはたまには話でもしようと探す事もあるのだが、使い魔としての仕事をこなした後は、どこかに出かけているのか姿が見えない。 「まったく、なんていうの、自由時間はきっちり取る使い魔ってのはどうなのよそこんとこ。」 少し憤りを感じながら広場を歩いていると、キュルケとタバサのコンビが顔を出した。 「ねえ、ヴァリエール。」 「何の用?」 「あなたの使い魔さんがどこにいるのか、わかる?」 「別に。やることやった後は、自由にさせてるもの。」 「あら。気にならないの?あたしちょっと心当たりがあるんだけど。」 「…知ってるの?」 「ええ、噂に聞いたのだけれど、何だか面白いことやってるって。」 「面白い事?」 「なんだか壁の外で土遊びをしてるみたいよ?」 学園を囲む壁の外では。 「それーっ、いけいけー!」 ヴィオラートが、地中から半分体を出したヴェルダンデにまたがって、土を掘り返していた。 ルイズたちは呆然と、掘り返された地面を疾走するヴィオラートonヴェルダンデをただ見つめる。 「…何してるの?」 「あ、ルイズちゃん。見て、いっぱいとれたよ!」 体中が土で汚れているが、気にする様子もない。 収穫の喜びが、汚れの不快感を上回ってるようだ。 「じゃじゃーん!錬金術専用菜園~!」 菜園。なるほど。錬金術専用菜園。 「あれは何?」 「まめだよ。」 なるほど、まめである。これでもかというくらいまめだ。 「あれは?」 「ぶどうだよ。」 なるほど、ぶどうである。ぶどうとしか言いようがない。 「じゃ、あれは?」 「さんごだよ。」 なるほど。畑から生えたももいろさんごが、これ以上ないほど雄雄しく屹立している。 (さんごって、畑に生えるものだったのね…) ルイズの常識が、また一つ書き換えられた。 「手伝ってもらってたんだよねー。」 ヴェルダンデは誇らしげに鼻を振って、ルイズたちを睥睨する。 「へえ、すごいじゃない。畑からさんごが生えてくるなんて。これがあなたの…『錬金術』?」 興味を示したキュルケが、ヴィオラートに質問する。 「うん、錬金術で畑を作ると、普通じゃできないようなものができたりするんだよ!」 (え?錬金術じゃないと、畑からさんごは生えない?) ルイズの常識が、元に戻る。 菜園の隅に視線を移すと、乱雑に積み上げてあるレンガが目に入った。 「で、あっちの隅のほうにあるレンガはなんなの?」 「ああ、あれはヨーコーロ用のレンガ。」 「ヨーコーロ?溶鉱炉を1から作ってるってわけ?」 「うんそうだよ。土とか、がらくたとか使って。ちょっと時間かかったけどね。」 信じられないものを見たといった風情でヴィオラートを見るキュルケ。 「あなた、何者?」 そう問いかけられたヴィオラートは自信満々にこう答える。 「えへへー、あたしはヴィオラート!錬金術師だよ。」 「錬金術師…へえ、なんか面白そうね。」 興味深げにレンガを触るキュルケ。 こつこつと音をさせ何かを試しているようだ。 タバサは食い入るように畑にそびえ立つさんごを見つめる。 しばらく誰も言葉を発せず、各人何かに興味を引かれていたその時。 「こ、困るねえ、一体何をしているんだ?」 なんだか、いかにも命じられてきましたといった感じのコルベールがおっとり刀で駆けつけた。 やはり、大人数で騒いだのはまずかっただろうか。 コルベールは地面を見渡し、しかるのちに正当なる問いを発する。 「これは何だね?」 「錬金術の、菜園です!」 「じゃあ、あのレンガは何かね?」 「ヨーコーロを作ろうかなー、って思って。」 「溶鉱炉?君が、ここで?」 コルベールは信じられないといった面持ちで、ヴィオラートの真意を探ろうとする。 「設計図はあるかね?」 促されたヴィオラートは、設計図を取り出すと、コルベールに手渡す。 「ふむ、ちょっと見せてもらえないかね?ふむ。」 手渡されたコルベールはしきりに感心して、設計図を指差しながら構造を確認する。 「ほー、これは…ゲルマニア式?いや、それよりも効率そのものは良くなっているようだな、ふむ。」 「あの、先生?」 「いや、これはこれは。」 「素晴らしい!」 「はい?」 「火の司るものは破壊の力ばかりではない!私は常々そう考え、その実践の方法を模索してきた。」 「は、はあ。」 「いや実は私も、溶鉱炉の設置は考えてはいたんだが、金がなくてね。」 「ええと…」 「いや、しかし原材料からほぼ全て手作りでここまでの施設を!錬金術師とは、本当に凄い存在なのだね!」 「そ、そう、ですね。はい、あはは…」 禿頭がゆだるような熱さで、伝えきれない感動を表すコルベール。 コルベールが、火の力とその民生における社会的有用性についての考察に熱弁をふるうこと小一時間。 燃料が切れてきたのか、話の方向がようやく現実レベルの話へと回帰する。 「…ものは相談なんだが、私が、学院長への根回しやら他の雑事をしておくからだね…」 コルベールは見せ付けるようにわざとらしく咳払いをすると、 「君の作る施設を、使わせてもらってもいいだろうかね?」 取引をもちかけた 「え、ええと。いいですよ、はい…」 「そうか!いやー、今日はいい日だ!長年の念願がこんな形でかなうとは!」 いやー感動した!としきりに呟きながら、コルベールは去っていった。 その様子をただじっと見ていたルイズは、ヴィオラートに視線を向けると、何かを決意するように語り始める。 「ねえ、ヴィオラート。」 「ん?」 「その錬金術って。私にも、魔法の使えないこの私にも…できるかな?」 「うん。勉強すれば、必ず答えてくれると思うよ。魔法は、必要ないから。」 「そう。それなら、ちょっと…一日一時間くらい。」 「やっても、いいかな。」 「あら。あなたがやるならあたしもやろうかしら?」 ルイズに対抗意識を燃やしたのか、キュルケも錬金術師に立候補する。 そして静かに手を上げるタバサ。 「いいかしら?ヴァリエール。あたしたちも参加して?」 「い、今私が拒否したらなんか、なんか。けちくさいじゃない。」 ちょっと不満げな顔をして、ルイズはヴィオラートに向き直る。 「いいよね、ヴィオラート?」 問いかけられたヴィオラートは、お日さまのような笑みを浮かべ、高らかに宣言した。 「よーし、じゃあ、皆で色々作ってみようか!」 ハルケギニアの錬金術師、その起源。 この瞬間は後の世にそう記される事になるが、彼女達は未だその事実の重みに気付いてはいなかった。 前ページ次ページゼロのアトリエ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/400.html
前ページ次ページゼロのアトリエ 天井が見える。僕は…どうなったんだろう?不思議な音を聞いて、それから… 「あ、気がついた?」 そこにあるのは、真の意味で穏やかな笑顔をしたヴィオラートの姿のみ。 「君は…」 記憶を手繰り寄せ、ギーシュは自らの敗北を悟る。 「君が、看病してくれていたのか…」 何かを磨く作業を止め、ヴィオラートは静かに頷いた。 ゼロのアトリエ ~ハルケギニアの錬金術師8~ 「ええと、つまり、君はヴェルダンデにあの岩を探してもらっていただけだと。そういう訳かい?」 「そう。あの岩を割るとね、中からこんな…」 「原石?」 「そうだよ?このあたりだとあんまり使わないみたいだけど。」 ヴィオラートは磨いていた原石を布で拭き、表面を光らせる。 「磨けば、こんなにきれいな宝石になるんだから。」 そこには、美しく輝く猫目石の姿があった。 「ああ、こんな宝石があるなんて知らなかったな。君は職人か何かだったかい?」 「錬金術師。職人といえばそうだけど、ちょっと変わってるっていうか…」 「なるほど。僕が負けるのも当然かもしれないね。謝罪しよう、ヴィオラート。」 ギーシュはたっぷり間を取ると、これ以上ないくらいの気障な態度でなめらかに言い放つ。 「可愛らしい貴女が、このように美しい宝石を創り出す…まことに、これは天の配材と言う他はないね。」 ヴィオラートを見つめ、熱視線を送り始める。 「…わかってくれれば、それでいいよ。」 しかし、当のヴィオラートはだんだんギーシュから離れているようだが。 「そうだ!勘違いの贖罪として、次の虚無の日に一緒に出かけるってのはどうだい?」 ヴィオラートは全てをスルーすると、無言で猫目石を磨く作業に没頭する。 たぶん猫目石を磨く作業に没頭するふりをしている。 「黙られるとそこはかとなく怖いんだが…。あの、調子に乗りすぎたかもしれないね、その、」 「もう大丈夫みたいだし、あたし用があるから…じゃあね、ギーシュくん。」 有無を言わせぬ勢いで退出するヴィオラート。 ギーシュの積み上げてきたものは、ヴィオラートには何の効果ももたらさなかったようだ。 部屋の扉を開けると、廊下の向かいにルイズが立っていた 「別に、待ってたわけじゃなくて…その、帰りが遅かったから。」 それだけ言うと、ルイズは早足で部屋の方へ歩き出す。 「ねえ、ヴィオラート。」 「ん?」 「聞いてなかったから…あなたの世界のこと。」 それだけ言うと、ルイズは下からヴィオラートを覗き込む。 ヴィオラートは、少し考えた。 お店はロードフリードさんに任せてあるから、なくなってたりはしないだろうけど。 でも、ずっと任せっぱなしにもできないし、結局はあたしがいないと駄目なんだろうなあ… 思索に沈んでいたヴィオラートに、ルイズが怪訝な顔を浮かべて質問する。 「ロードフリードさんって誰?」 「へっ?何でルイズちゃんがロードフリードさんのこと知ってるの?」 「アンタさっき、ロードフリードさんが…って言ってたじゃない。」 どうやら、知らぬ間に声が漏れていたらしい。 「ええと、ロードフリードさんには…お店を任せてあるんだ。」 「ふーん。お店をねえ。お店、か。」 ルイズは、考えて 「明日は虚無の曜日だし、町に行くわよ。何か買ってあげるわ。」 明日の予定を決めた。 「わあ、町があるの?良かった。材料とか買える所が欲しかったし。」 「そ、そう。良かったじゃない。優しいご主人様に感謝しなさいよ?」 最後に、これだけは小声で、こう付け加える。 「…別に、ホウキを使いたいとか、そんな、そんな子供っぽいことは。」 そして翌日。 朝早く目を覚ましたルイズは、それでも既に起きていたヴィオラートに理不尽な怒りをぶつけ、 空を飛んで町に向かった。 おおはしゃぎで、ヴィオラートのフライングボードに競争を挑みながら。 「ここかな?」 「ここよ」 ついたところは、魔法の道具を扱っている店らしい。 ドアを開けると、薄暗い店内に怪しげな道具が山と積まれ、どこからか独特の香りが漂ってくる。 「ここは…見た目怪しいけど、色々素材とかも揃ってる…らしいわ。聞いた話だけど。」 「そうなんだ。」 (何だか、あたしの店に似てるような…タネとかあるかな?) ヴィオラートは店内を漁り、なんだかしょぼくれたものばかりをカゴいっぱいに詰め込んでゆく。 「けっ!しょぼくれた娘っ子が、しょぼくれたもん集めやがって!」 なにかが聞こえた気がしてあたりを見渡すが、声のした方には誰もいない。 気をとりなおして今度はいらなそうなものを集め始めると、 「そんなものいらねえだろ!俺買え俺!」 また声がする。声の方角を確かめると、一振りの剣ががらくたの山に刺さっているようだ。 「俺だよ俺!俺俺!」 「あ、喋った。」 「へえ、インテリジェンスソードね。結構錆びてるのがアレだけど。」 「デルフリンガーだ!おぼえとけ!」 そう名乗ると、ヴィオラートを観察するように伸びようとして、ぶっ倒れた。 「おでれーた!お前さん『使い手』か!ええと…そう、名前の長え奴だな!」 「あ、あたし?」 「そうだ、てめ、俺を買え!」 「剣、使えないし…」 「なぬ!?」 「あたし剣使えないから…ちょっと残念だけど、使えないんじゃ買っても意味がないよね。」 (ピンチだ。折角のチャンスが水泡に帰す5秒前って所だ。ようやっと日の目を見れると思ったら、 見つかった『使い手』は名前の長い奴、しかも剣が使えねえときた。何だそりゃ。 だがそれでも、ここで逃したらまた何年となく道具屋の隅でほこりを被ることになるかもしれねえ。) 「ま、待て待て!俺を買ったほうが何かとお得だぜ!」 「おとくなって、どんなお得がついてくるの?」 「お前さんならわかるはずだ。ちょっとでいい、触ってみちゃくれねえかな?」 ヴィオラートは気の抜けたような顔になり、まあ、触るぐらいは…と、デルフリンガーの柄に手をかける。 額のルーンが輝き、しばらくすると何かを納得したように両手でデルフリンガーを抱え持った。 「これは…そっか。デルフリンガーくんって魔法の剣なんだね。」 「ん?おう、魔法で動いてるぜ?」 「そういう意味じゃないんだけど…まあ、いいや。これもください」 「へい!まいど!」 主人はデルフリンガーを鞘に入れると、ヴィオラートの集めたがらくたと一緒に清算する。 デルフリンガーはヴィオラートの背中に収まることになった。 「別に、無理に買う必要はなかったんじゃないの?そんなの…」 「色々お得ってのは本当みたいだし…そなえあればうれいなし、って言うでしょ?」 「???」 「あたしには、デルフリンガーくん自身の知らない事までぜーんぶわかっちゃったからね。」 本当に良かったのだろうか?デルフリンガーは、感じないはずの悪寒を感じたような気がして、何かに祈った。 前ページ次ページゼロのアトリエ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1724.html
前ページ次ページゼロの大魔道士 シャナク――破邪呪文の一種で、アイテムや武具、もしくは生命体にかけられた呪いを解除する魔法である。 解除の成功率、そして解除後の影響に関しては使い手の力量がそのまま影響する。 呪いとは何か? ポップの世界において呪いという言葉の定義はない。 何故なら、原因がわからない不都合を起こす現象はほぼ全て呪いとされているからだ。 ただ、一説によれば呪いとは総じて魔法の別に形ではないかと言われている。 不思議な現象に魔法が絡んでいなければおかしいというのが根拠だった。 コントラクト・サーヴァント――術者と受術者の間にルーンを刻むことによって主従契約を生み出す魔法である。 始祖ブリミルが生み出したとされるこの魔法はメイジであれば大抵のものが扱える。 いわゆる初級魔法に分類されるこの魔法は、ある種の強制力を持つ。 ルーンを刻まれ、使い魔とされた生物は主人に対するある程度の忠誠心を代表とする色んな能力が強制的に付加されてしまうのだ。 さて、ここで話は本題に戻る。 前述の通りシャナクは呪いを解除する魔法だ。 そしてコントラクト・サーヴァントは魔法ではあるが、その効力上呪いといっても差し支えはないものだろう。 つまり、シャナクはコントラクト・サーヴァントに対して十分効力を発揮すると言っても良いのである。 (くっ!? 思ったより強固な…っ!) 話を聞く限りでは初級魔法のようだから解除も簡単だろうと臨んだポップだったが、意外な苦戦を強いられていた。 効力は外道といえども、そこは始祖ブリミルの魔法である。 戒めという呪いを砕かんと襲い掛かるポップの魔力を押し返さんとばかりに抵抗力を発揮する。 (こりゃ、師匠のアレ並だな…) アレ、つまりポップがマトリフのお下がりでもらった、バックルにマトリフの顔が彫ってあるダサいベルトのことである。 装備すると外れなくなるという呪いがかかっていた恐るべき一品。 なお、バーン打倒後ポップが必死にシャナクの修得に励んだ理由がここにあるのは言うまでもない。 「ちょっとアンタ、何してるの!?」 ポップが悪戦苦闘しているその時、ルイズがその様子に気がついた。 流石に契約を解除しようとしているとは気がついていないが、ルーンが激しく光り輝いているとなれば主人としては気になるのは当然。 同様の心境のコルベールと共にルイズはポップへと近づいていく。 と、その瞬間。 「こっ…の……消えろぉぉーっ!!」 ポップの渾身の叫びと共に後押しされた魔力がルーンへと襲い掛かる。 シャナクの力がルーンよ砕けろと奔流。 しかしこの瞬間、ルーンが自己防衛とも言うべき力を発した。 始祖ブリミルが使役したといわれる伝説の四なる使い魔の一体の力は、己の存在の消滅を防がんと動いたのである。 バシュゥッ! そして次の瞬間。 ルーンは砕け散ることなく、ポップの体から出て行き――そして『乗り移った』 「なっ…!? ぐっ、ぐあ…!?」 ここで不幸だったのは、彼が一番位置的にポップに近かったということがある。 周囲の生徒たちは既に彼自身の言によって解散していたということも不幸の一因だっただろう。 ルイズも同程度の位置だったのだが、彼女はコントラクト・サーヴァントの行使者。 条件的には当てはまらなかった。 それはつまりどういうことかというと―― 「こ、コルベール…先生?」 炎蛇のコルベール。四十二歳。独身。 ポップから追い出されたルーンをその体で受け止める羽目になった彼は ――この日、この時を持って教え子の使い魔になることが確定した。 『………』 痛いほどの沈黙が場を包んでいた。 場にいる人間は五人。 ぽかん、と口を大きく開けて固まっているルイズ。 自身の左手をまるで悪夢を見るかのように眺め続けるコルベール。 とある事情によりこの場に残っていた微熱と雪風の二つ名を持つ二人の生徒。 そして、どうコメントしていいのかわからず目をそらすポップだけだった。 「じゃ、そういうことで!」 キッカリ三秒後、最初に動き出したのはポップだった。 ぶっちゃけ、ルーンが砕けずに他人に移ったのは予想外の出来事だった。 しかし話の限りでは命にかかわることではないらしいし、そもそも自分は火の粉を払っただけである。 自己欺瞞を完成させたポップは素早く身を翻すと飛翔呪文を唱え 「あ、ま、待ちなさい!」 背に降りかかるルイズの罵声を無視して逃走を開始するのだった。 「随分と…め、珍しいルーンだね。私の左手にあるルーンは…」 ひゅうう、と風がコルベールの少なくなった髪の毛をなびかせる。 彼の目の前には罵声を上げ続ける桃色の少女の姿がある。 ミス・ヴァリエール。 いや、ご主人様? どちらで少女を呼ぶべきかコルベールは闇に染まりそうな思考の中、他人事のように考えるのだった。 「さて、これからどうしたもんだか…」 ポップは一度ルイズ達の視界から消えた後、こっそりと身を隠しつつ近くに戻ってきていた。 まだ完全に確信したというわけではないが、ここが異世界である可能性が高い以上無闇に動き回るわけにもいかない。 言葉が通じて人間がいる以上、町なども存在はしているであろうが、法律や常識が大幅に違う可能性は大いに高い。 となると下手すればうっかり犯罪者になってしまうということも考えられる。 現時点ではハルケギニアの知識がないに等しいのだから。 「お、移動するようだな」 ポップの視線の先には、宙に浮いて移動を開始するルイズ達の姿があった。 何故かコルベールがピクリとも動かないルイズを抱えて飛んでいたのだが、そこは気にしてはいけない部分だろう。 「トベルーラ…じゃないよなぁ。やっぱ異世界となると魔法体系も違うのか?」 少なくともポップの知る限りではサモン・サーヴァントやコントラクト・サーヴァントなどという魔法は存在しない。 類似している魔法や現象はあるにはあるのだが、彼らの様子を見た感じでは広く浸透している魔法のようだ。 となると、自分の知る魔法と、ルイズらの扱う魔法は全く別のものである可能性は高いといえる。 「とりあえず、あいつらに着いて行ってみるか。まずは情報を集めないことにはどうしようもないしな」 またぞろ厄介なことになったぜ、とポップは髪をガシガシとかきむしりながら飛翔呪文を唱える。 (ま、流石に大魔王を倒すよりはマシだろ) そうポジティブに考えることができたのはポップの成長の証だったのかもしれない。 それが楽観的な考えだったのかは、未来のポップのみが知ることではあったのだが。 前ページ次ページゼロの大魔道士
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/696.html
「あんた誰よ?」 『サモン・サーヴァント』によって現れた一人の青年を前に、不機嫌そうにルイズは尋ねた。何やら呆けた様子を見せている、みすぼらしいナリの男は、不思議そうに辺りを見回し始める。 「……何だここ?」 「先に聞いてるのはこっちなのだけれど?」 要領を得ないやり取りに、徐々に不機嫌さを増していくルイズの顔に目を向けると、男は盛大にその腹の虫を鳴らせた。 「ああ、俺は……雷(アズマ)って言うんだけど……そんな事より、何か食わせてくれないか? 腹、減っちまった」 尋ねた答えは得られたが、おまけで付いて来た言葉に、その周りで様子を眺めていた生徒達が爆笑でもってルイズとその使い魔に言葉を投げかけた。 「呼び出した使い魔が平民な上に、いきなり食事を要求されてるぜ?」 「あさましい使い魔もいたものね。ある意味ゼロのルイズには相応しいんじゃない?」 あからさまな嘲笑を浴びせかけられ、羞恥に身を震わせるルイズは、その怒りを目の前の使い魔にぶつけた。 「あんた! 状況理解してる!? 呼び出された第一声がそれって、何よ、馬鹿にしてるの!?」 「呼び出されたって……わけわかんねぇよ。こっちは船に乗ってた筈なのに、気付いたらこんな所にいたんだから。理解してるのは、今俺の腹が減ってるって事くらいだな」 そう言って力無く倒れたアズマと名乗った青年は、差し掛かる日の光を浴び、あくびを一つ、そのままくぅくぅと寝息を立て始めた。 「……召喚のやり直しは……」 「無論、不可だ。さぁ、早く『コントラクト・サーヴァント』を執り行いたまえ」 おずおずと言うルイズに対し、コルベールの対応は迅速な物だった。 「はい……」 不本意ながらも、こうしてルイズのファーストキスは、空きっ腹を抱えて眠る平民に捧げられる事と相成ったのだった。 目を覚ましたアズマは、そこがまるで見ず知らずの場所である事を知り、あからさまにうろたえを見せた。そして、眠る前のひと時を思い出し、あー、と頭を抱える。どうやら夢の類ではなかったらしい。不可思議な現象にアズマは混乱する。 少なくとも、日本では見たことの無い意匠の部屋は、アズマの好奇心を刺激した物の、下手に動くのはどうか、と思い至り、自身が横たわっていた藁の床に再び身を預けた。 「腹減ったなぁ……」 この部屋の窓からは、日の光とは違う控えめなそれが差し込んでいる。 恐らくは夜なのだろうが、月の光にしては明るすぎる。そう思い、アズマはその身を起こして窓の外に目をやった。 「嘘だろ?」 その目に映ったのは、夜空に煌々と輝く二つの月。あり得ない光景に息を呑んだアズマの無防備な背に、がちゃりと戸を開けて部屋に入ってきた者の声がかけられた。 「やっとお目覚め? 怠惰にも程があるわ……これ、夜食。お腹空いてるんでしょ?」 アズマが振り返ると、そこにはパンを手にしたルイズの姿があった。 何がどうなってるのか分からない状況だが、空きっ腹を抱えたアズマにとっては、目の前にある食べ物が全てだった。慌ててルイズの差し出したパンを掴み取ると、ほぼ一息でそれを嚥下した。 「おかわり」 「はぁ? ちょっと、あんた殆どそれ一気食い……」 「足りない」 問答無用とばかりに言うアズマに、ルイズは自身のペースが掴めずに戸惑いっぱなしである。少なくとも、ある程度は空腹が満たされたのか、笑顔の彼に目を向けた。 「ちょっとは我慢しようって考えにならないの? せっかくご主人様がご主人様が施しを上げたって言うのに」 「ご主人様? おまえ何言ってるんだ? よく分からないけど、これっぽっちじゃ全然足りないよ」 あの後眠っていたせいか、契約について理解していないのだろうか? ルイズはそんな不安を抱えながらも、ずい、と手を差し出して食べ物を要求する使い魔の勢いに押され、 「……ちょっと待ってなさいよ。ちゃんと食べ物は用意してあげるから。その後、わたしの話を聞きなさいよ?」 「ああ。何か食わせてくれたら何でも聞くさ」 肩を怒らせ、ルイズは渋々と部屋から出る。使い魔に甘い顔を見せるのはこれっきり、そう心に誓いながら。 アズマはと言うと、再び窓の外に目をやり、ほう、と溜息を吐いた。 「望んでた通りに、別の国に来れたんだろうけど……これはあり得ないよなぁ……」 外国の空には月が二つあるものかと一瞬思ったアズマだが、少なくとも自分が生きる世界には月が二つあるという現実は存在しないだろう、そう考えた。 だが、そんな詮無き考えも、今の彼には無用だった。全てを捨て、ただ流浪の身となったアズマには、意味のある事など殆どありはしないのだから。 「これはこれで、いいのかもな」 自身に受け継がれなかった『陸奥』の名を思い、彼は目を閉じる。 それが忘れられるなら、どうなったっていい。少なくとも、今のアズマにとって、流れに身を任せて生きる事が全てだった。 ふと視線を落とすと、妙な紋が自身の左手の甲にある事にアズマは気付く。 「なんだこりゃ?」 刺青など彫った覚えはないのだが……アズマは部屋を見回し、布らしき物でそれを拭ったが、消える気配が無い。いつの間にこんな物が、と考えるも、今の不明瞭な状況では答えなど出るはずもなかった。 とりあえず、必死になって左手の甲を布らしき物で拭っていると、再び開かれた扉の前で、仁王立ちしているルイズがいた。その手には先ほどよりも多いパンが握られている。 「おおっ、食い物!」 「あ、あああああ、あんた……」 「?」 早速その中から一つを奪い取り、もぐもぐと食べ始めるアズマに、震えた声でルイズは言う。 「ご主人様のパンツを持って、何してんのよーーーーーーー!!」 いきなり怒声を浴びせかけられ、驚くアズマ。左手を拭っていた布らしき物は、よくよく見ると、女性用の下履きに似た物であることに気付いた。 「へ、へへへへ、変態! あんた変態だわ!」 「…………何だかなぁ」 部屋に置かれていた鞭を手にしたルイズに追い回されながら、アズマはパンを咥えて呟く。相変わらず状況は分からないが、とりあえず退屈だけはしないで済みそうだ、そう思って彼は飄々と、自身に振るわれる鞭を避け続けるのだった。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/3448.html
前ページ次ページゼロの斬鉄剣 ゼロの斬鉄剣 7話 ―土くれのフーケ― 学院を統べる男、オールド・オスマン 伝説のメイジと謳われ名声を欲しいままにしてきた。 ―が。 グー・・・ 自室の机に突っ伏して寝ている。 どうやら差し込む日差しの陽気に負けてしまったようである ふと、小声で”サイレント”の呪文 唱えたのは秘書であるロングビルであった 「ふふ・・・」 扉を出て行く秘書がむかったのはオスマンの部屋の下にある“宝物庫” 扉には魔法がかけられさらには頑丈な鍵までもがついている 「(・・・・チッ、いまいましい・・・)」 扉に悪態をつくロングビル。 「だれだ、そこで何をしている!」 突然声をかけられたが場慣れしているのだろか、落ち着いて応対する。 「あ、ミスタ・コルベール。」 「おや、ミス・ロングビルではありませんか、一体どうしたのです?」 などと質問をしてきたので適当にあしらうロングビル。 食事にも誘われたが丁重に断り、残念そうに去るコルベールを見送ると 「(フン、あたしゃハゲチャビンには興味は無いのさ。)」 しかし、と壁をさわりため息をつくロングビル 「頑丈・・・ねぇ。」 なにや腹に逸物のあるロングビルであった。 その日の夜- コンコン 「は~い、どなた?」 「拙者でござる。」 ぱぁっと明るくなるのはキュルケである 「まあ!ダーリン、やっとわかってくれたのね!」 五ェ門に飛びつくキュルケ 「いや、別の用件だ。」 なんだと、ちょっとつまらなそうな顔をするキュルケ 「折り入って頼みがあるのだが。」 五ェ門からお願いされるなどとは思っても見なかったキュルケは目を輝かせる。 「なに?ダーリンの頼みならなんでも聞いてあげてよ?」 五ェ門は手にした剣を差し出す 「あら、この剣はたしか・・・」 「いかにも、拙者が拾った“デルフリンガー”だ。」 まじまじと剣を見るキュルケ 「見ちゃいやん!」 突然の奇声に嫌悪感をあらわにするキュルケ 「気味の悪い剣ね、溶かしちゃっていいかしら?」 「そうしたい所なんだが、この剣が言うには“魔法”を無効にすることが出来るらしいのだ・・」 ああ、と理解するキュルケ 「それじゃ、あたしはその剣に魔法をぶつければいいのね?」 「左様、お願いできるだろうか。」 かしこまる五ェ門 「お安い御用よ、ついでだからタバサも呼んでみる?いろんな魔法でためしてみましょうよ。」 「かたじけない。」 「お姉さま、何を読んでいるの?きゅい!」 窓際にいる少女に話しかける竜 「・・・喋っちゃだめ・・・」 「きゅい(ごめんなさいなのね!)」 「・・・秘密。」 トントン 「・・・誰?」 「タバサ、夜分にすまないが・・」 ガチャリ 「どうしたの?」 言い終わる前にすばやく扉を開けたタバサ 一緒にいたキュルケが理由を説明する。 「・・任せて。」 その様子を窓越しに眺めていたシルフィードは 「(・・・見えなかったのね!きゅい!)」 そうして一行は敷地内の広場に向かう。 それを窓からみていたのは― 「(な!なんでゴエモンがあの二人と・・・)」 そう思うとルイズは矢も盾もたまらず飛び出す。 「いくわよー」 「ばっちこーい!」 呪文が詠唱され 「ファイヤーボール!」 ドシュゥ! デルフリンガーに当たる直前、巨大な火球何事も無かったかのように姿を消す。 「すごいじゃない、その剣。」 「へへ、姉ちゃんはわかってるね!」 ボソボソと呪文が聞こえる 「ウィンディ・アイシクル」 氷の氷柱がいくつもデルフリンガーめがけて突進するが直前で 「・・・効かない」 たちまちかき消されちょっとショックをうけるタバサ。 「だろ、ゴエモン兄!どんなもんだい!」 なるほど、これはかなりいい拾い物をしたらしいと思う五ェ門 「ちょっと、あんたたち!」 いっせいに振り返る 「あたしを差し置いて、使い魔になにをやっているのかしら?」 大分お怒りのようだなので一同は理由を説明する。 「・・・じゃあ余計許せないわ!なんであたしを差し置いてやったのよ!」 それは、と言葉が詰まりそうになる五ェ門。 「だって、あなたの魔法はいつも的外れじゃないの。」 ルイズの魔法は威力こそあれ大雑把なのだ。 「うっさいわね!いいわよ!そこまでいうならやってやるわ!」 そう言い切ると、デルフめがけて呪文を唱える 「へっへ、いくらやってもむだ・・・・」 「ファイヤーボール!」 ズガーン! 「あ・・・・」 なんと、ルイズの魔法はデルフを大きくそらして、塔の壁に当たってしまったのだ。 「これは思わぬ好機のようね。」 夜の散歩で思わぬ光景を見たロングビル、その口元は暗闇に怪しく輝いていた。 「あーあ、壁にひびが・・・。」 塔の壁には大きなひび割れが姿をあらわしていた。 「あのあたりって確か・・・。」 「・・・・宝物庫。」 あちゃあと、頭をかくキュルケ 「ルイズ、どうするのよ!」 「どうするっていっても・・」 学院の宝物庫には希少なマジックアイテムなどが眠っている。 その壁を壊したとあっては下手をすれば停学物である。 ふと、五ェ門が地面から“なにか”が迫ってくるのを感じ取った 「おぬし等、ここを離れたほうがよさそうだ。」 ルイズたちもただならぬ気配を感じその場から離れる そしてデルフリンガーが据えられていたあたりから ゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・ なんと見る間に巨大なゴーレムが現れたのだった。 「な、なんなの・・・?」 ゴーレムの肩にはいつの間にか人影が現れている。 大きさは30メイル程であろうか、ルイズのつくったひびめがけゴーレムは 拳を振りかざす、瞬間 ズシーン! 地響きがあたりを走る。 ひびが入ったところは見事な大穴があけられていた、ゴーレムの肩から穴へ向かう人影 「あれは、盗賊!」 飛び掛ろうとルイズ達、しかし 「やめておけ、この距離では間に合わない。」 五ェ門がルイズたちを制止する。 「な、何でとめるのよ!あんたもアレ位ならその剣で一発でしょ!?」 勢いがそれてしまい軽い混乱状態になるルイズ。 「考えても見るのだ、この時間に不可抗力とも言える力でルイズが壁に穴を開けた 、そこへで都合よく賊が入るというのはいかにも怪しい。」 五ェ門の言葉に落ち着きを見せるルイズ 「ならば、賊はこの学院に長らく潜伏していた者であろう。」 「まさか!」 「十分ありえる事だ。とにかく今追えば罠に嵌るやもしれん、朝まで待とう。」 五ェ門の長い経験がそう告げる、召還されるまでは世界中を股にかける大泥棒の一味であったのだから。 五ェ門の説得にしぶしぶ応じる3人。 大穴を明けられた宝物庫に大きな字が刻まれていた 「封印の環とその魔法の書、確かに領収しました 土くれのフーケ」 翌朝、学院は蜂の巣をつついたような騒ぎとなっていた あつまった教師たちは部屋の中央に並ぶ4人を見つめている。 「―以上が私たちの見た全てです。」 現場近くにいたルイズたち4人は会議室で昨日の件を報告した 「ふむ、なるほどのう。」 一通りの説明が終わった後がやがやと騒がしくなる 「土くれのフーケめ、魔法学院にまで手をだすとは・・・・」 「衛兵も平民では役に立たん・・・」 「当直のシュヴルーズ先生はいったい何をしていたんだね!?」 名前がでたとたんビクリとするシュヴルーズ 「も、もうしわけございません・・・」 パンパンと、手をたたくオールドオスマン 「それまで、この度の一軒はなにもシュヴルーズ先生一人の責任ではない、 大体いままでまともに当直をこなした教師はここに何人いるのかのう?」 一瞥するオスマンに声も出ない教師たち 「これが現実じゃ、それよりフーケを捕まえ取り戻す事を考えんといかんのう。」 「しかし、居場所もつかめないとあっては・・・」 そのとき、ミス・ロングビルが扉をあけ入ってきた。 「昨日の賊の居場所が判明しました!」 ざわめく会議室 「今朝方から姿がみえんとおもっていたが・・・仕事が速いのう。」 「ええ、朝起きたらこの騒ぎでしたので、早速調査を開始していました。」 「ふむ、して賊はいずこへ?」 一息いれるロングビル 「土くれのフーケと思われる賊は学院から3時間ほどはなれた農村にある廃屋にいると思われます。」 ふうむ、とヒゲをいじるオスマン 「して、その根拠は?」 「今朝、廃屋に黒ずくめのローブをきた怪しい人物が出入りしていたのを見かけたと近在の農民から聞き出しました。」 考え込むオスマン 「ふむ、どうやら本物のフーケのようじゃのう、さて・・居場所が割れたい以上これを追撃せねばなるまい、どうじゃ?フーケの首を挙げて名をあげる機会じゃぞ?」 しかし、教師たちは一様に黙り込む 「(やれやれ、なんと情けない・・・)」 「私がいきます!」 声を上げたのはルイズであった。 「ミス・ヴァリエール、君では無理だ!」 ひとりの教師が声を荒げる 「だって、こんなに集まっていて誰一人杖をあげないじゃないですか!」 「あたしたちも一緒にいきます!」 ほっほっほ、と笑うオスマン 「よろしい、ミス・ロングビル、彼女たちをフーケのアジトへ案内するのじゃ。」 「オールド・オスマン!」 どよめく会議室 「なに、心配はなかろう。彼女たちは敵を見ておる、そのうえミス・タバサはまだ若いというのに“シュヴァリエ”の称号を与えられてると聞いておる。」 言葉に詰まる教師たち 「ミス・ツェルプストーは優秀な軍人を輩出している家系の出で実力も折り紙つきともきいておる。」 そしてルイズに目を向ける 「ミス・ヴァリエールも・・・その、優秀なメイジを輩出している公爵家の出じゃ、期待はできるじゃろう。」 最後に五ェ門に目をむける 「なにより、ミス・ヴァリエールの使い魔は得体の知れない剣術でグラモン元帥の子であるギーシュ・ド・グラモンを完膚なきまでに討ち果たしたというではないか。」 笑顔が戻るオスマン 「ミス・ロングビル、彼女たちを頼みましたぞ。」 「心得ましたわ、オールド・オスマン」 そうして一向はロングビルの先導の元、フーケの隠れ家に向かうのであった。 前ページ次ページゼロの斬鉄剣
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/505.html
前ページ次ページゼロのアトリエ 早めの出席を旨とする生徒達がようやく集まり始めた、朝の教室。 とある四人が、彼女達にしかわからない会話を続けていた。 「ガラス玉?そんなもの作ってどうするの?」 キュルケが問う。たしかにガラスは高価だが、手に入らないほど高いというほどでもない。 「ガラス玉は基本だよ?宝石の代わりにもなるし、メリクリウスの瞳とガラス器具はいつか必要になるし…」 「それに、これを錬金術で作る事に意味があるんだから。」 ヴィオラートが、ガラス玉製造の必要性を強調する。 「ガラス玉でも、宝石の持つ魔力を代用できるの?」 ルイズが質問する。魔法の授業とは違い、そこに理不尽なハンデは存在しない。 「うん、一応効果は発動するし、品質そのものはいいものが…」 授業前の、四人が揃う最初の時間は、放課後の錬金術教室の企画立案の場となっていた。 ゼロのアトリエ ~ハルケギニアの錬金術師14~ 教室の扉がガラッと開き、ミスタ・ギトーが現れる。 長い黒髪に黒いマントを纏ったその姿は不気味であり、 その不気味さと冷たい雰囲気からか、生徒達には全く人気がない。 「では授業を始める。知っての通り私の通り名は『疾風』。疾風のギトーだ。」 教室中が静寂に包まれ、ギトーは満足げに頷いて授業を続ける。 「最強の系統は知っているかね?ミス・ツェルプストー。」 「『虚無』じゃないんですか?」 「伝説の話をしているわけではない。現実的な答えを聞いてるんだ。」 何かを期待するようにキュルケを見るギトー。 キュルケはその裏に気付いたが、気付かないフリをしてギトーの求める言葉を吐いてあげた。 「…『火』に決まってますわ。ミスタ・ギトー。」 キュルケはうんざりしながら、ギトーの幼稚な証明につきあうことにする。 「ほほう。どうしてそう思うね。」 「全てを燃やしつくせるのは炎と情熱。そうじゃありませんこと?」 「残念ながらそうではない。」 ギトーは腰の杖を引き抜いて、言い放つ。 「試しに、この私に君の得意な火の魔法をぶつけてみたまえ。」 「火傷じゃ済みませんわよ?」 キュルケは、目を細めて言った。 「かまわん、本気で来たまえ。その有名なツェルプストーの赤毛が飾りでないのならね」 キュルケは杖を振り、小さな火の玉を生み出す。 その玉を一メイルほどに成長させると、適当にギトーへ向けて押し出した。 ギトーはその火の玉を避ける動作もせずに、杖を横薙ぎになぎ払う。 烈風が巻き起こり、火の玉をかき消し、その向こうにいたキュルケを吹っ飛ばした。 悠然として、ギトーは言い放った。 「諸君。風が最強たる所以を教えよう。風は全てをなぎ払う。」 キュルケが気だるげに起き上がり、両手を広げた。気にすることもなく、ギトーは続ける。 「不可視の風は、諸君らを守る盾となり、敵を吹き飛ばす矛となるだろう。」 「そしてもう一つ、風が最強たる所以…」 ギトーは杖を立てた。 「ユビキタス・デル・ウィンデ…」 低く、呪文を詠唱する。 しかしその時、教室の扉がガラッと開き、緊張した顔のコルベールが現れた。 「ミスタ?」 ギトーは眉をひそめた。 コルベールは妙にめかしこんでいたのだ。 頭に金髪ロールのカツラをのせ、ローブの胸にはレースの飾り。 ご丁寧に靴まで趣味の悪い金箔で飾り立てていらっしゃるようで。 「あやや、ミスタ・ギトー!失礼しますぞ!」 「授業中です」 「おっほん!今日の授業は全て中止であります!」 コルベールは重々しい調子で告げた。教室から上がる歓声に、コルベールが手を振って答えたまさにその時。 金髪のカツラが「しゅるっ」という軽妙な音を立てて滑り落ちた。 教室中の生徒が、コルベールから目をそらして必死に笑いをこらえる。 一番前に座ったタバサが、コルベールの禿頭を指差してぽつりと呟いた。 「滑落注意」 教室が爆笑に包まれた。 コルベールは顔を真っ赤にして怒鳴った。 「黙りなさい!ええい、黙りなさいこわっぱどもが!」 とりあえずその剣幕に、教室中がおとなしくなった。 「えーおほん、本日は恐れ多くもアンリエッタ姫殿下が、この魔法学院にご行幸なされます」 教室がざわめきに包まれる。 「そのために本日の授業は中止。正装し、門に整列する事。」 生徒達は、緊張した面持ちで一斉に頷く。 コルベールはたっぷりと生徒達を見渡してからようやく満足し、重々しげに首を縦に振った。 整列した生徒達は杖を掲げ、しゃん!と小気味良い音を響かせる。 魔法学院の正門をくぐって、王女様ご一行が姿をあらわした。 馬車が止まり、玄関と馬車の間に非毛氈のじゅうたんの道が作られる。 「トリステイン王国王女、アンリエッタ姫殿下のおなーーりーー!」 そのように告げられたのだが、しかし、最初に姿を現したのは四十過ぎの痩せこけた男であった。 がっかりである。 生徒達の落胆を見て取った男は、意に介した風も無く馬車の横に立ち、続いて降りてくる王女の手を取る。 生徒達の間に歓声が沸き起こった。 「あれがトリステインの王女?ふん、あたし達とそう変わらないんじゃない?」 キュルケがつまらなそうに呟く。 「そ、そうかな?綺麗な人だと思うけど…」 問われたヴィオラートはそう答え、何気なくルイズに視線を送るが… ルイズは顔を赤らめ、惚けたように何かを見つめている。 その視線の先には、羽帽子を被り鷲の頭と獅子の胴を持つ幻獣に跨った、りりしい貴族の姿があった。 脇を見ると、キュルケもいつの間にか赤い顔で羽帽子の貴族を見つめている。 そんなにいいのかなあ、と思いつつ、ヴィオラートはその貴族をじっくりと観察してみる。 ヴィオラートはその貴族に違和感を感じた。何かと似ているのに違う、本物とそれを装っているものの違い。 何が本物でなにが装っている…偽者なのか。具体的な言葉が、なかなか思い浮かばない。 その貴族が通り過ぎ、従者の列も通り過ぎ、生徒達も散会し始めた後になってようやっと思い至る。 (どこがというわけじゃなくて、全体的に…ロードフリードさんと雰囲気が似てるんだ。) 礼儀正しい振る舞い、隙のない動作、そしていつも浮かべる微笑。 (似ているけど違う。それも何か、致命的な違い…) ヴィオラートは、穴の開くほど観察したその微笑を何回も思い出して、手がかりをつかもうと考えた。 ルイズを見たときの微笑、アンリエッタを見たときの微笑、学院に向けた微笑… そして、ルイズがわずかにその貴族から視線を外し、アンリエッタを見た瞬間の彼の表情にたどりつく。 特別に、違和感を持って観察して見なければわからないような刹那。ルイズに向けられた酷薄な眼差し。 彼は何かを装っている。もしかしたら、全てを。 ヴィオラートは一抹の不安を抱えながら、人気の消えた玄関先をあとにした。 前ページ次ページゼロのアトリエ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/3336.html
前ページ次ページゼロの英雄 ルイズの手記-3 △月○日 結局アタラクシアって赤竜を追ってアルビオンに行くことになった。 行くついでに姫様に用事を頼まれる、密命を帯びてアルビオンに向かったワルド様がいつまで経っても帰ってこないらしい。 ラ・ロシェーヌで一旦休んでとか思ったけど甘かった、スピノザが全力を出せばアルビオンまでひとっ飛びじゃないの。 キュルケとギーシュも何故か付いてきた、スピノザが頼まれると断れなかったらしい。 アルビオンは戦争の真っ直中、最近押され気味だった貴族派が勢力を盛り返しつつあるらしい。 途中あわやレコン・キスタ間諜かと疑われたけれど、姫様から預かった水のルビーが証を立ててくれた。 ウェールズ様は素晴らしい方だ、戦況は苦しいが最後まで戦い抜くと仰られた毅然とした態度に思わず感動。 ただもし自分たちが戦死した場合姫様がに迷惑が掛かるだろうと一通の手紙を預かった。 その時輝く水のルビー、って私の属性って虚無だったの!? 試しに一発撃ってみたらすっごい爆発が起きて貴族派の主力が吹き飛んだ、これ幸いと年甲斐もなく特攻するジェームズ陛下。 一気に王党派に傾いた戦場の様子を見て、ウェールズ様に預かった手紙を返す。 ところで先行……もとい閃光のワルド様は一体何処に? 元レコン・キスタ総指揮官オリヴァー・クロムウェルは走っていた。 森を掻き分け、川を渡り、崖から転げ落ちながら、がむしゃらに追撃の魔の手を逃れようと走っていた。 わざわざ特注で作らせた僧服は木々に引っかけぼろぼろで、かつての神聖な面影など欠片もない。 酷使を繰り返したせいか右手の中指に付けたアンドバリの指輪は効力を失って久しい。 「ふ、ふふふ……」 つまりは自分は見捨てられたのだ。 あの人を人とも思わぬガリアの狂王に。 「ふひ、ふひひひひ……」 惨めだ、途方もなく惨めだ。いっそこのまま…… その時がさりと蠢くものがあった。 「ひっ」 森の木々の奥に覗く真紅の巨体、それを見た瞬間体が凍る。 「ひへぇぇぇぇええええ」 鋼すら通さぬ皮膚、人など塵程度にしか思ってないだろう二つの紅玉、金属製のゴーレムすらやすやすと引き裂く爪と、雷を呼ぶ二本の角。 あまりにも圧倒的なその存在に出会ったとき、人は考えることをやめただ恐怖する。 己の存在の矮小さ自覚するが故に…… 「ひへぇぇぇぇぇえ!」 そのドラゴンはクロムウェルの左腕を囓り取った、そのままさも不味そうに咀嚼し、ゆっくりと飲み下す。 ――ああ、自分はこのままこの竜の昼飯になる運命なのだ。 クロムウェルがそう思い、瞳を閉じた瞬間。奇跡が起こった。 聞き覚えのない詠唱が耳を叩く。 その詠唱が終わると同時に、真紅のドラゴンはまるで夢を見たように呆然と周囲を見回した。 「おうちに帰りましょうか」 ドラゴンは一声なくと、ゆっくりとその場を飛び去っていく。 「大丈夫ですか?」 クロムウェルはほっと一息吐いて、自分を助けてくれた相手のことを見た。 金髪の髪、ぴっちりとした衣服を押し上げる二つのたわわな果実、そして美しい顔から覗く尖った耳。 ――エルフ!? 一難去ってまた一難、今度こそ完璧に硬直したクロムウェルに向かってそのエルフはゆっくりと近づいて来る。 「来るな……」 クロムウェルは残った右手を掲げる、それは死を前にしたクロムウェルの精神が生き残りたい一心で体を動かした結果だった。 「来るなぁぁぁぁあああああ!」 「きゃっ!?」 血で汚れ、光を無くした筈の指輪が蠱惑的な光を放った。 △月×日 ウェールズ様に聞いたところによると、赤いドラゴンは王都ロンディニウムから西へ飛んでいったらしい。 ウェールズ様にお礼を言い、スピノザの背に乗って西へ飛んでいくと、意外な人物と出会った。 「タバサじゃない」 『雪風』の二つ名を持つトライアングルメイジ、それに奇妙な服装の黒髪の平民と高飛車そうな微妙にタバサ似の青髪の女の子。 ものっそいおでこが眩しかった。 「きゅいきゅい、スピノザさま奇遇なのねーるーるるー」 シルフィはシルフィで色々と吹っ切ったのか、スピノザに甘える用に顔を擦りつける。 韻竜だからって隠すことを止めたらしい、まぁこれだけ韻竜が出てくればね…… アタラクシアを探していると言ったら、おでこが突っかかってきた。 なんでよ? 聞いた話によると元々デコが召喚したらしい、じゃあなんでこんなとこにいるのよ?って聞いたら 「うるさいうるさいうるさーい!」 ――取られた、私の十八番取られた…… スピノザはスピノザで平民の持った剣を呆けた用に見つめていた、破竜剣 ダンテ ? なにそれ? 魔王竜を殺す為だけの武器? 二丁拳銃ぶっ放せるようになったり変身出来るように――いや、なんでもない。 「きゅいきゅいきゅいー、そんな物騒なものだと気づかなかったのねー!?」 シルフィはもうこれ以上背に乗せたくないと騒いで、怒り狂ったおでこに鞭を入れられている、哀れ。 スピノザに聞いたら竜の臭いがするから、アタラクシアはこの付近に暫く留まっていたらしい。 けれどちょっと前にこの場から離れた様子だとか、一体何処に行ったのだろう? ある時は大盗賊『土くれ』のフーケ。 ある時は魔法学院の秘書ミスロングビル。 しかしてその実体は、アルビオンの元公爵家の一人娘、マチルダ・オブ・サウスゴーダ。 マチルダは上機嫌だった、学院から盗み出した使い方の分からない『どらごん殺し』が信じられない値段で売れたのである。 盗品の販売を任せている知人から連絡が来た時はからかわれているのかと思ったが、どこぞの王族が見た目を気に入って買っていったらしい。 故にマチルダの懐は随分と温かかった、これで暫くは孤児院の子供達を飢えさせずに済む。 「ん?」 その時マチルダは異変を感じ取った、普段は外で元気いっぱい遊んでいるか畑の世話をしている筈の子供達が一人も見当たらない。 いつもなら誰か一人が「あ、マチルダ姉ちゃんだ!」と言う叫びが上がると共に一斉に揉みくちゃにされるのだが…… 「何か、あったのかね?」 異変を感じ取ったマチルダはフーケの顔になる、杖を取りだしゴーレム作成の呪文を唱えた。 作りだしたのは五メイルほどの土のゴーレム、戦力としては頼りないが様子見には十分。 マチルダはゴーレムを使って孤児院の扉を開け…… 転がるようにしてその場から飛び退いた。 マチルダ立っていた場所を閃光のように細腕が薙ぐ、そのあまりの鋭さに回避したと言うのにマチルダの頬に血の玉が浮かんだ。 刺客は奇妙なことにどこかで見たようなメイド服を着込み、その左手に身の丈もある大剣を持っている。 ――こいつが、テファ達を! ぎりりと血が出るほどに唇を噛みしめる、そのまま渾身の精神力を込めて杖を振るった。 「此処に居た子達の仇だよ!」 地面から巨大な腕が生えた。 その腕は小柄なメイド服の人影を一薙ぎすると、そのまま地面から生えるに全長三十メイル以上の巨大なゴーレムへと成長した。 これで仕留めた、暗い感動に身を震わせたマチルダは薄れる土煙の奥に信じられないものを見た。 「なんて、奴だい……」 メイド服の人影は傷一つないまま、ゴーレムの腕の上に立っていた。 格が違う、そう理解したマチルダはゆっくりと杖を棄てる。 「参った、殺したいなら好きにしな」 目の前のメイドはとんでもない化け物だった、正攻法では絶対に敵わない。 ――だから自分の首を刎ねようと近づいて来た隙に、差し違えてでも仕留める。 太もものガーターベルトの仕込んだ予備の杖に手を当てながら、マチルダは今生最後と決めた呪文を唱え…… 「ミスロングビル?」 「おでれーた、このおっかねぇ姉ちゃんはシエスタの知り合いかい」 あまりにも予想外の名前を呼ばれたことに、今度こそ本当に杖を取り落とした。 ジョゼフの手記-3 △月×日 パソコンが動かなくなった、ガッデム! 理由は分からないのでマキシマムスピィィィンとばかりに頑張ってみたらEscが取れた。 修理を配下に任せ――パソコンのエロ画像が見れなくなって皆半狂乱だが……に託し、何故か青筋を浮かべたビダーシャルにイザベラ達が行ったらしきアルビオンの情勢を尋ねた。 「レコン・キスタがまた勢力を盛り返している」 待て、今なんと言った? もう一度聞きなおしてみても結果は変わらない、あの状況からどうやって…… 尋ねてみるとクロムウェルはエルフと真紅の魔竜と言う手札を手に入れて狂ったように暴れまわっているらしい、しかも死人の兵まで動員していると言う――どう考えても私がくれてやったアンドバリの指輪の効果じゃねぇか! しかもビダーシャルは人間がエルフを操っていることに激怒している、超恐い。 これ以上我が同胞を穢すつもりなら我等エルフ全てを敵に回すことを覚悟せよとか恐い、超々恐い、なんかキャラまで変わってるしよぉ…… いくらなんでも頃合いだろう、アルビオン内乱に介入することを決定し準備を進める。 だが準備と言う段階になって困ったことがあるのことにを気づく、最近ろくすっぽ暗躍していなかったので船が足りないのだ。 浮遊大陸でアルビオンに侵攻するには大規模な航空戦力が必要になる、我がガリアもある程度の航空戦力は有してはいるものの準備不足故いまいち決め手に欠ける。 まったく予想外の事態ばかり起こって楽しくて仕方がない、そんなことを考えていたら困惑した様子の部下が報告にやってきた。 ――コルベールが一週間でやってくれました! 魔法学院から客室研究員として招聘したハゲにパソコンで見た飛空艇と言う船のことを話したら、本当に作ってしまったらしい。 蒸気機関と言う燃料を燃やして動くカラクリを使い、風石さえあればメイジがいなくても空を飛ぶ船。 もしくは風石がなくても僅かな疲労で済むレビテーションだけで大空を駆けることが出来る船。 それなんてチート? 本人はしきりに後悔していたが知ったことではない、配下に命じて既存の船を全て飛空艇に改造させる。 いよっしゃー待ってろアルビオン、狂王ジョゼフが今いくぜー! 「そう言うことだったのかい、悪かったね……」 「いえいえ、見なかったことにして放っておくことは出来なかったので」 シエスタはその黒い髪を揺らし、ニコリと笑った。 子供達はティファニアが連れ去られた後、マチルダの言いつけを破って街へと探しに出たらしい。 その折り夜盗化した傭兵達に襲われたところをシエスタが助けに入り、とりあえず元の孤児院でマチルダの帰りを待つことにしたのだ。 いきなり手刀を叩き込もうとしたのは、マチルダがどう見ても夜盗にしか見えなかったからだとシエスタは言った。 「まぁ、確かに夜盗には違いないけどさ……」 マチルダはそう言って愚痴を零す。 「しかしあんた、一体何者だい?」 「いえ、学院で奉公させていただいている”ただ”のメイドですけど」 「ただのメイドがあんな動き出来るはずないじゃないのさ、それに何それ」 「俺っちのことかい?」 カタカタと音を立てながらデルフリンガーは言った。 「魔法を吸い取るインテリジェンス・ソードなんて伝説級の剣じゃないのさ」 たしかにただのメイドが持っていていい武器ではない。 「これはおばあちゃんの遺品でして」 「――何者だい、あんたのおばあちゃん」 「ただのメイドですよ、わたしは護身術からメイドの仕事の仕方まで全部おばあちゃんから教えて貰ったんです」 思わずマチルダの顔が引きつる、シエスタが護身術と言っているものは暗殺者の用いる体術そのものだったからだ。 「そう言えば、一度だけ変なことを言ってました」 ぽんとシエスタは手を叩いた。 「どんなだい?」 「遠い異国の言葉だったので意味は分からなかったんですけどね」 「駄目じゃねぇか!」 デルフリンガーが笑う。 「でもあの時のおばあちゃんの顔、凄く寂しそうで……」 「そうかい……」 しんみりした気持ちのままマチルダはシエスタを見た、誰にだって大切な過去の一つや二つくらいはある。 「ところであたしはこれからテファを連れ戻しに行く……」 子供達を頼む、そう言おうとしたマチルダの唇をシエスタの細い指が押さえ込んだ。 「水臭いですよ、辛い時は助けてくださいって言えばいいんです」 シエスタは笑った。 太陽のようなその笑みに、マチルダは思わず泣きそうになってしまった。 ???の手記 ――恐らく、神はこの私を許すまい。 それでも構わない、たとえこの身が悪魔と呼ばれようともけして私は躊躇うまい。 「本当にいいんだな?」 友の声に、娘は「お願いします」と答えた。 友が、左手に構えた大剣を振りかぶる。 音を立てて振り下ろされた剣が祈るように目を閉じたエルフの胸に突き立った。 流れる血潮、命の結晶。 それを前にして私は呪文を唱える。 コントラクト・サーヴァント。 対象を己が使い魔とする呪われた呪文を。 「エルフ達は私たちを許しますまい」 そのようなことは分かっている。 それでも、この人とエルフの血が混じった娘は願ったのだ。 人と人、人とエルフが憎しみあわずに暮らすことが出来る世界が来ることを。 確かにこの儀式が成功すれば長きに渡って続いてきたエルフとの戦いは終わるに違いない。 果たしてそれが、正しいことなのかどうかはともかくとして…… 「だが、それが娘っこの願いだろ?」 相変わらずひねた口調で、友は言った。 随分と長い付き合いだがこれほどやりきれない口調は初めてだった。 「なぁ、一つだけ頼みがあるんだが……」 それを皆まで聞かず、私は詠唱を終える。 そして今生の別れを惜しむようにその娘の唇へ口付けた。 五つの力を司るペンタゴン この者に呪いを与え、我の使い魔となせ 血が光へと変わり、娘の胸に使い魔のルーンが刻まれる。 私はただ憐れな娘のことを見ていた。 後の世のために生贄となることを望んだ、憐れなハーフエルフの娘のことを見ていた。 後世に伝えることすら憚られる、おぞましくも悲しい使い魔のことを私は見ていたのだ。 前ページ次ページゼロの英雄
https://w.atwiki.jp/4423/pages/340.html
編集する。 カウンター - 2024-08-31 01 59 46 (Sat) 主人公ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール 平賀才人(ひらが さいと) デルフリンガー トリステイン学園関係者シエスタ ティファニア・ウエストウッド トリステイン王室関係者 リンク 主人公 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール 声優・釘宮理恵 ヴァリエール家の三女で平賀才人を使い魔にしている。 魔法が使えないので「ゼロのルイズ」と呼ばれていた。 才人に対してツンデレにあたっている。 平賀才人(ひらが さいと) 日本の秋葉原からこの世界に召喚された。 デルフリンガー トリステイン学園関係者 シエスタ ティファニア・ウエストウッド トリステイン王室関係者 [[]] [[]] リンク コメントログ 名前 コメント 編集する。 出典、参考
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/3441.html
ペルソナ3の望月綾時を召喚 ゼロの仮面~ナイト・アフター~-01 ゼロの仮面~ナイト・アフター~-02 ゼロの仮面~ナイト・アフター~-03 ゼロの仮面~ナイト・アフター~-04