約 1,871,706 件
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/2761.html
前ページ次ページ虚無の王 王宮への出仕に当たって、モット伯爵が利用している邸宅は、トリステイン魔法学院から徒歩で一時間の距離に在る。 その距離を、高速型ワルキューレのステップに飛び乗ったギーシュは、五分足らずで駆け抜けた。 そこまではいい。 あっと言う間に目的地へ到着したギーシュは腕を組み、首を捻る。 移動にかけたのと、同じ時間だけ悩む。 さて、どうやってモット伯と面会しよう―――― 土産物のエスカルゴは良い口実だった。勢いに任せて、空に渡して来た事を、今更ながらに後悔する。 もう一つ、重大な問題が有る。 会ってどうする――――? 「……僕は何をしに来たのだ?」 シエスタが連れて行かれた。 そう聞いた途端、居ても立ってもいられなくなった。 さて、その時、自分は何をするつもりで飛び出したのだろう。 ギーシュは悩む。悩み、悩んで、その首が正面に向き直ったのは、問題が解決したからでは無かった。 「誰だ!何をしているっ!」 誰何の声が鋭く響いた。 門前で右に左に首を捻る怪しい人影を、門衛が見咎めたのだ。 カンテラの灯が目を貫く。 「……おや、これはこれは、グラモンの御子息じゃありませんか!」 名乗る前に、相手が気付いた。 グラモン伯爵家とモット伯爵家は極めて親密な間柄だ。但し、紳士に限って。 両家の婦人達は、自身の夫が、息子が、素行不良の悪友に汚染される事を、いたく気に病んでいる。 そんな女性達の良識に満ちた警戒心が、益々漢の友情を煽り立てる。どんな時でも、どんな階級でも、悪友とは女房を謀ってでも守る物だからだ。 案内の最中、衛士は何やら誤解に満ちた笑みを浮かべていた。モット伯はこの邸に家族を連れて来ていない。 この500メイル四方の空間は、モット伯のモット伯によるモット伯の為の自由なる王国なのだ。勿論、性的な意味で。 「やあ、ギーシュ君。どうしたね、こんな時間に。そうか!蝸牛を持って来てくれたんだね!」 モット伯はグラモン家と違ってお金持ち。相応に食い道楽だ。 舌なめずりせんばかりの声に、ギーシュは約束の土産を持参出来なかった事が、なんだか申し訳なくなった。 事実、客人が手ぶらである事に気付くと、伯爵は見るからに落胆する。 「しかし、だとすると、本当に君は何をしに来たのだね。この時間だ。夕食も抜かして来たのだろう」 一体、何事なのか。 モット伯爵は優雅さを失わない程度に、表情を強張らせる。 彼にとって、食事に優先する程の緊急事態とは、王命と女以外には考えられなかった。 「実は……こちらの御屋敷で、シエスタと言うメイドが御世話になっている筈ですが――――」 「ああ。耳が早いね。今日、魔法学院から引き抜いたんだ。あのメイドがどうしたね」 「あの娘は僕等学生に大変良く仕えてくれまして……それで、その……」 「なるほど!挨拶の一つ、労いの言葉一つもかけてやれずに、別れる事になったのが心苦しかった――――そう言う事だね。いや、ギーシュ君。君はお父上に似て義理堅いな!丁度いい。食事は未だなんだろう。食べて行き給え。シエスタに給仕をさせる」 モット伯はギーシュの肩を大袈裟に叩きながら、満面に笑みを浮かべた。 「お心遣い、有り難うございます。所で、伯爵。彼女が働くのは、御領地の御屋敷ですか、それとも――――」 「勿論、ここだよ」 つまりは、そう言う事だ。 * * * 「早かったじゃない。どうだったの、お祭りは?楽しかった?」 アルヴィーズの食堂―――― 明るい瞳のルイズに、空は軽い驚きを覚えた。 一日放ったらかし、酔って帰った身。不機嫌に眉を釣り上げる顔を想像していたから、これは正直に意外だった。 「特訓。あんたが居ないから、往復が大変だったんだから」 特訓で某かの成果を得たのだろう。 いかにも、聞いてくれ、と言わんばかりの口振りだった。 「で、どや。なんか、手応えの一つも有ったか?」 ルイズは悪戯っぽい瞳で空を覗き込む。 なんや?――――怪訝に返すと、クスクス笑い始めた。 「明日ね。明日見せて上げる」 「自信あるみたいやん」 「どうかしら?ふふ……」 殆ど無意識の内に、笑みが零れ落ちる。 表情の一つ一つ、仕草の一つ一つが、自信と言うより、無邪気な期待と希望とに満ちている。 キュルケが言う所の、短気でヒステリーでプライドばかり高く、おまけに嫉妬深いトリステイン女性の典型とも言えるルイズが、こうにも無表情な表情を晒す。 これは、余程の事が有ったに違いない。 小柄な体躯に似合わず、ルイズは健啖だ。正規の前菜と共に、空が持ち帰った蝸牛を一ダース半、ペロリと平らげる。 そう言えば、タバサも良く食べる。 恐らく、メイジは全員、こうなのだろう。 「殻ん中の汁もイケるで」 「やーよ。服が汚れるじゃない」 ルイズは皿の中に零れたガーリックバターをパンで拭う。 公爵家の三女と言う地位故だろうか。他の学生達と比べても、その立ち振る舞いは一つ一つが、洗練されているし、どこか気取っている。 それが、“ゼロ”の二つ名と相俟って、桃髪の少女を同級生の中でも一際浮いた存在にする。 「そう言えば、あのメイド居ないわね」 「ああ、シエスタか?」 “飛翔の靴”で食堂狭しと飛び回るメイドだ。居なくなれば、さすがに気付く。 何人もの男子生徒が視線を巡らせ、チラリと覗く白い脚が拝めない事に落胆する。 「なんでも、どっかの貴族に引き抜かれたらしいわ」 「物好きが多いのね。全く」 それで、シエスタの話題は終わった。 ローラーメイドに恨みは無いが、捲れ上がるスカートの中を、後から覗こうと身を屈める紳士達の姿は、見ていて気分の良い物では無かったし、貴族に引き抜かれた、と言うなら栄転だろう。 その事実を、ルイズは素直に喜んだ。 食事を終えて、部屋に戻る。 空は汚れ切ったシャツを着替える事にする。 ルイズは後を向いている。 使い魔は人間では無い。男性では無い。貴族の乙女が人知れず定めたルールは、とっくの昔に崩壊している。 食後は座学の時間――――。 と、言っても、最近は講義するべき内容も乏しくなっている。 ルイズが燃焼科学や、応用技術を学ぶのは、あくまで魔法に応用する為であり、それ自体の追求が目的では無い。 今では簡単おさらいと、今後の方針を少し話し合って、後は雑談で時間を潰すのが常になっている。 教訓めいた話や、地球での偉人伝は、割合受けが良い。ルイズも貴族として共感する所が有るのだろう。 反対に、ネタさえ選べば、ジョークの類もイケる。 四コマ漫画の内容を、適当にアレンジして語りながら、空はふ、と重力子〈グラビティ・チルドレン〉の仲間達を思い出す。 初代眠りの森〈スリーピング・フォレスト〉のメンバーは、揃って漫画好きだった。寄り場は漫画喫茶。 空が『魁!クロマティ高校』を片手に大笑いしている時、スピット・ファイアは気取った様子で『花より男子』を斜め読み、キリクのむっつりは真っ赤な顔で『魔法先生ネギま!』を読み耽っていた。 「あら?」 ルイズが声を上げる前に、空が気付いた。 扉の前に人の気配。そして、戸板の下から、紙片が一枚滑り込む。 「ワイ宛や」 「何?誰から?」 「呼び出し。差出人は不明」 「ギーシュかしら?また、決闘?」 「違う気するけどな。最近、あいつとはよう会うさかい、こないな回りくどい事する意味無いやろ」 「じゃあ、誰?まさか、また他の誰かから決闘?」 ギーシュが幾度と無く空に敗れている事を知り、決闘を挑んで来た生徒が居た。 以前、空にそう聞いた事が有る。相手はヴィリエ・ド・ロレーヌ。 ヴィリエは友人の仇を報じようとしたのでは無い。その逆だ。空を倒す事で、ギーシュを辱めようとした。 結果は語るまでも無いだろう。 「さあ、どうかなあ?」 ともあれ、急ぎの用事らしい。指定の場所は例によって例の如くヴェストリの広場。 「……まさか、ツェルプストーじゃないでしょうね?」 「さあな。キュルケやったら、もう少し気の利いた遣り方するんと違うか?」 じゃ、ちょっと行って来るわ――――空は部屋を出ると、廊下の窓から飛び降りた。 広場では、意外な人物が待ち受けていた。 「我等の風!」 料理長のマルトーだ。 近付く車椅子を認めるや否や、どすどすと重量感溢れる足音で駆け寄った。 何の用だ――――? 実の所、空はマルトーが好きでは無い。 魔法学院に高給で雇われ、並の貴族など及びもつかない金持ち。それが貴族嫌いを気取っている。 職人としての気概から衝突するならともかく、この男の場合は陰に籠もる。 「我等が風!おお、よく来てくれた!たまたま、貴族の小娘に用事を言い付けられた、てメイドが居たんで、手紙を持たせたんだ。届いたか!良かった!良かった!」 「で、何の用や?」 「ああ、他でもねえ。シエスタの事だよ」 「あいつがどうした?」 「さっきも言っただろう、我等の風よ!シエスタは貴族に連れて行かれちまった、て!」 「拉致された、とは聞いとらん。引き抜きやろ。正当な雇用契約や。連れて行かれた言わんわ」 「畜生!契約だって!冗談じゃない!相手は貴族なんだぞ!あいつら、平民は貴族に逆らえねえと思って、好き勝手やりやがって!」 空は呆れ返っていた。と、言うよりも白けていた。 この男は貴族制度の旨味だけを吸い取り、肥え太りながら、権力に蹂躙される弱者を装っている。 その御都合主義的な生き方は、空が日本に於て散々利用しながら、同時に軽蔑もした“クズ”その物だ。 ルイズが絶望の縁で尚、杖を磨き、ギーシュ等グラモンの一族が生活を切りつめながら国家王権の為に血を流し、タバサが誰にも語る事の出来ない運命に立ち向かっている時、この肥満体が一体、何をしていた? 中世欧州には腕一本で貴族にまでのし上がった料理人が何人も居る。 魔法至上主義のトリステインでは無理でも、ゲルマニアならその目も有る。 貴族や、その子弟風情に嘗められるのが嫌なら、勝負に出ればいいのだ。こんな所で何をしている? 正直、付き合っていられない。 「シエスタは奴隷やない。無理に連れてこ言う貴族が居ったら、守ろ言う貴族かて居るやろ」 いや、奴隷でもそうだ。自身の財産が掠め取られるのを黙って見ている貴族は居ない。 勿論、シエスタが“断れない”と誤解する事は有り得る。気の弱い小娘相手なら、幾らでも脅し様は有る。 「連れて行かれた、言うたな。シエスタは本意やなかった。お前、それ知っとったな」 「勿論、俺だって止めたさ!だけど、仕方ねえじゃないか!所詮、俺はただの料理長だ。何が言える、て言うんだ?」 「誰か貴族に相談したか?する様に勧めたか?」 「貴族が俺達平民を助ける訳無えだろ!」 「お前、オスマンの爺さんや、コッパゲが何もしいへん、て本気で思っとるんか?」 黙り込むマルトーに、空は少し腹を立てた。 結局、この料理人を“マルトーの親方”と呼んでいたコルベールの友情は、一方通行だったらしい。 「もうええ。兎に角、要件言え。愚痴に付き合わせる為、呼んだんや無いやろ」 「だから、シエスタの事だよ!」 空の反応は、予想外だったのかも知れない。マルトーの声が焦燥を帯びる。 「シエスタの話がここから、どう続く?」 「シエスタを連れてったのは、モット伯、て貴族だ。最低の助平野郎だよ!魂胆は見えてるじゃねえか」 「ま、若いメイドをいちいち引き抜くんに、他の理由も無いやろな」 「俺はよう、あの娘にだけは幸せになって欲しいんだよ。シエスタは貴族の妾なんて柄じゃねえんだ。平凡な結婚をして、幸せに暮らすべきなんだ。あんただって、そう思うだろ?」 「異論無いけど、手遅れの願望聞かされても困る」 「だからよ!完全に手遅れになっちまう前に、シエスタを助けてやりてえんだ!頼む、我等の風よ!力を貸してくれ!」 それは、意外な申し出だった。 「助ける?……その貴族ん所押し入って、シエスタを連れ戻そう、て腹か?」 「そうだよ!その通りだ!」 「で、その後は?」 連れ戻したからと言って、それで万事解決とはいかない。 拉致されて来たメイドを、王法に背き、モット伯と事を構えてまで魔法学院が再雇用する訳が無い。 どの様にしてモット伯に報復を諦めさせる?どうやってシエスタの生活を保障する? 「それは……正直、判らねえ。でも、黙ってられねえんだよ。シエスタはいい娘だ。本当にいい娘だ。あの娘が助かるんなら、俺はどうなったって構わねえ」 「お前かて、家族居るやろ――――なんでそこまで?」 「あの娘の為、てのも有るけどよ、俺の為でも有るからさ。ああ、俺はケチな男だよ。料理人連中は俺の腕を知ってるし、慕ってくれてるけど、他の平民達が俺を馬鹿にしているのは知ってるんだ。 蝙蝠野郎、てさ。陰で貴族を馬鹿にしながら、小金を貯め込んで貧乏人を馬鹿にする。貴族でも平民でもねえ、蝙蝠野郎、てさ」 人間は身近な成功者を妬む。ハワード=ヒューズの伝記を有り難がり、ブラウン管の向こうの青年実業家は褒めそやすが、ベンツを乗り回す隣家の親父は成金、最低の俗物だと吐き捨てる。 マルトーが貴族を嫌う様に、貧しい平民がマルトーを嫌うのはあり得る話だ。 「でも、あの娘はそうじゃなかったっ。ここで黙って見過ごしたら、俺は一生、仲間がどんな目に合わされてても、見て見ぬフリして陰口だけは一丁前の、ケチな男で終わっちまう。そんな気がするんだよ。頼む!我等の風!」 マルトーは這い蹲ると、地べたに頭を打ち付けた。 「手貸してくれ!あの娘を助けてえ!蝙蝠だって暗い夜の中だけじゃねえ、青空の下を飛べるんだ、て信じてえんだ!」 その姿を、空は黙って見つめていた。 脳裏では、前風の王を構成する、相反する二つの性質が鬩ぎ合っていた。 頭の足りない暴風族の若者達を私兵として操り、最終的には体制転覆さえ目論む、冷酷無慈悲な革命家としての側面。 創世神〈ジェネシス〉内部に超獣〈ベヒーモス〉と言う巨大派閥を作り上げ、将来の政敵とも成り得た前“牙の王”。宇童アキラの逮捕を惜しんだ、純粋なるストームライダーとしての側面。 帽子の位置を直した時、内心で決着は付いていた。 「……マルトー。人数集めぃ」 ドスの利いた声で言った。 * * * ギーシュは高速型ワルキューレに揺られて、帰路を急いでいた。 モット伯邸での出来事が、脳裏を過ぎった。 自分は一体、何をしに行ったのだろう。 して来た事と言えば、夕食を御馳走になり、給仕についたシエスタの胸の谷間を鑑賞しただけだった。 モット伯と父とが友誼を結び、一門の紳士達が親しく付き合っている理由を、ギーシュは改めて知った。 モット伯がこの邸に限って採用しているメイド服。赤を基調とした彩色は頂けないが、胸元を大きく開いたデザインは秀逸だった。 ああ!――――全く、貴族の子弟に過ぎない自分は、所詮、本物の貴族に及ばないのだ。 シエスタの胸元に実るたわわな果実。彼女は着痩せする体質だった。その事に、自分は愚かしくも全く気付かなかった。 ぶ厚いメイド服に秘匿された真実を、モット伯は一目で見抜いたに違いない。 食後、退出する段になると、シエスタが一人、屋敷の外まで見送ってくれた。父の友人は気を利かせたつもりらしかった。 よく手入れされた庭園が、規律正しく並ぶ魔法灯と月明かりとで、ぼんやりと浮かび上がった。 二人は無言だった。 言いたい事が有る筈なのだが、それをどう言って良いか判らず、また口にして良い物かどうかも判らなかった。 「あの……――――」 口火を切ったのはシエスタだった。噴水に二つの月が揺れていた。 「ありがとうございます。ミスタ・グラモン」 「え?」 「伯爵からうかがいました。私の事を心配して、様子を見に来て下さったんだって」 「ああ……」 確かにその通りだ。だからと言って、何が出来ると言う訳でも無い。 「ふふ。でも、私、てそんなに見ていて不安ですか?そりゃあ、自分でも少しドジな所が有るとは思いますけど」 「あー、いや……そのなんだ。そう言う訳では無くてね……僕が心配しているのは……」 「心配しているのは?」 ギーシュは言葉に迷った。 自分の心配事は極めて口にし辛い上、当のシエスタも判っている筈だった。 「……私、大丈夫ですから」 正面を向いたまま、シエスタは言った。 「私、今まで貴族が怖かったんです。魔法を使えない私達には、メイジはとても恐ろしくて、いつも怯えて暮らしていました」 その言葉は、世間知らずな魔法学院の少年を当惑させた。 平民達が異国の軍隊に蹂躙される事も、オーク鬼の餌にされる事も無く、平穏な日常を営めるのは、貴族が身を張り、血を流しているからだ、と言う自負が有る。 平民が貴族を畏怖するのは当然としても、恐怖されていると言うのは、意外であり不本意でもあった。 「貴族は別に――――」 獲って喰いはしない。 そう続けようとして、ギーシュは言葉を飲む。この娘は今正に、獲って喰われようとしているではないか。 ああ、モット伯よ。 貴方はどうして、もっと相手を選ばなかったのだ。 どうして、こんなにも性急な方法を選んだのだ。 階級間の対立が王権に益する事など有りはしないのに。 「でも、今は怖くありません」 「何故?」 「ミスタ・グラモンと話していて判ったんです。貴族にも沢山、怖い物が有るんだ、て。苦しい事、辛い事が有るんだ、て。私達と変わらない、人間なんだ、て」 「……貴族が恐れるのは、不名誉だけだよ」 「ええ。判っています。例え、どんなに怖い物が有っても、ミスタ・グラモンは絶対に逃げないんですよね。だから、私も怖くありません」 私は大丈夫ですから――――シエスタは同じ言葉を繰り返した。 「心配なさらないで下さい。あの……きっと、伯爵も大事にして下さると思いますし……その……大丈夫ですから」 「シエスタ……?」 その言葉に、シエスタは俯く。 名前で呼ぶのは初めてである事に、この時、ギーシュは気付かなかった。 「すみません」 顔を上げた時、シエスタは笑顔を浮かべていた。 「もう、お手伝いが出来無くなってしまいまして。でも、大丈夫。ミスタ・グラモンなら、絶対、空さんに勝てます」 どこか、ぎこちの無い笑みだ。 「頑張って下さい。ミスタ・グラモン!」 そして、門衛が門扉を閉じた。 ギーシュは嘆息する。 自分は何をしに行ったのだろう。本当に、判らない。 厨房から飛び出した時、何をしたかったのかは判る。シエスタを取り戻したかったのだ。 そこに有るのは衝動だけで、どんな思慮も計画も有りはしなかった。 シエスタはモット伯が正規に雇用している。 実の所、彼が進んでその契約を破棄してくれる方法を、ギーシュは知っている。 だが、取引の材料となる物が手に入れられるかどうかは、判らない。 そして、その後は? 「結局――――」 自分がいまいち、踏ん切りを付けられないのは、相手が誰になるにせよ、最終的にシエスタを手元に置いておけない事が、判っているからだろう。妾にするなら、現状と変わらない。 では、愛を囁く? 冗談ではない―――― ギーシュは内心で頭を振る。 身分が違う。住む世界が違う。人品卑しからぬ紳士は、相手を選ばず膝を折ったりはしないものだ。 そもそも、ギーシュの様な相続権を持たない貴族にとって、結婚とは一つの武器であり、立身出世の道具だ。 平民の娘が自分の将来に約束してくれるのは、身の破滅でしかない。 「忘れ給え。ギーシュ・ド・グラモン」 ギーシュは独白した。 青春よさらば。 脳裏にシエスタの笑顔が浮かぶ。 頑張って下さい――――あべこべに、自分を励まし、見送った顔が浮かぶ。 「よし。決めた――――」 結論を得ると、とっ散らかっていた頭が、すっきりした。 「あの娘を助ける!」 例え、自分の物にはならないにせよ、あの娘は相応の相手と結ばれるべきだった。凡庸だが誠実な男と契りを交わすべきだった。 それは、断じてモット伯では無い。 善は急げ。善でなくとも急げ。レビテーション。ワルキューレに鞭を打つ。三つの車輪が土を蹴立て、小砂利を跳ね飛ばす。 時間が無い。 時間が無い。 急げ。 急げっ。 急げっ! 魔法学院の門へ、ギーシュは文字通り飛び込んだ。バンプを拾った際に、コントロールに失敗した。ワルキューレは横転。ギーシュも地面に投げ出される。 これは兜を被った方が良いのだろうか。 苦鳴と共に立ち上がりながら、そんな事を考えた。 眼前には杭が立っている。後、1メイル前で転倒していたら、頭を打ち付けた事だろう。 これでは遠からず、事故死しかねない。 ワルキューレを起こして、夕暮れの女子寮塔に向かう。 「あら――――」 途中、ルイズに出会した。 「ねえ、空を知らない?」 「ミスタがどうかしたのかね?」 「誰かに呼び出されてから、帰って来ないの」 誰だろう? ヴィリエが決闘を挑んだ、と言う噂は聞いている。彼の仲間か? ともあれ、今はそれ所では無い。 「所でミス・ヴァリエール」 お願いが有るのだが――――その先を言う必要は無かった。 連絡を取って貰おうとした目当ての人物が、本塔の方から現れたからだ。 「どうなってるのかしらね、全く」 豊かな胸を反らせて、キュルケはぼやいた。 「夜食にと思って、蝸牛を料理させようとしたのに。厨房に誰も居ない、ですって。本当にどうなっているのかしら」 その言葉に、ギーシュは青くなった。 空が居ない。呼び出し。料理人が居ない。そして、シエスタは主に厨房で働いていた――――それらの事実か、頭の中で綺麗に繋がる。 恐らく、シエスタを連れ戻しに行ったのだ。 モット伯は自分の様な学生とは違う。本物の貴族だ。 万が一、平民に敗れでもしようものなら、何としてでも相手を殺すか、さもなくば自ら命を絶つ事を強いられる。 何故なら、力を以て君臨するメイジが無力な平民に敗れると言う事は、家名ばかりでは無く、全ての貴族の名誉を、ひいては王権を汚す事に他ならないからだ。 故に、貴族は自身に刃を向けた平民を、絶対に許さない。 空が自分とモット伯爵との区別も付けられない人間とは思いたくない。そこまで無分別な人間とは思いたくない。 だが、分別の有る男が、学生とは言え貴族に決闘を申し入れる物だろうか。 思えば、あの男は常に異質だった。 まるで、異世界から来たかの様に、社会の規律も秩序も顧みない。 反骨それ自体を旨としているきらいさえ有る。 「ミス・ツェルプストー!」 ルイズと二、三、皮肉を応酬。どことなく余裕を感じさせる相手の態度に、聊か戸惑いを見せながらも立ち去るキュルケを、ギーシュは慌てて呼び止める。 急がねばならない理由が、一つ増えた。 「済まない。実はお願いが有るのだが……」 街道から僅かに外れた草むらを、奇怪な一団が進んでいる。 先頭は車椅子。更に長短太細まちまちな覆面男が計六人。 薄闇の中、緊張感と殺気とを撒き散らしながら進む。 草むらの中を、街道と併走する様にして剥き出しの地面が続く。まるで道路だ。 それは、そうだろう。つい、この間までは街道だった場所だ。 馬蹄に踏み荒らされ、ぬかるんだ足場を嫌って、騎手が、御者が外れを選ぶ内に、街道は少しずつ移動する。 「こいつは、おでれーた」 車椅子の背で、デルフが身を震わせる。 「たったこれっぽっちの平民引き連れて、貴族の邸にカチ込もうなんて。正気かい、相棒。どうなるか判ってるんだろうね?」 「さてなあ」 空は暢気に嘯いた。 シエスタ奪回を、空はそれ程、難しい事と考えていない。問題は、その後だ。 まさか車椅子を含む平民集団にしてやられた、とは言えないから、表立った裁きは無いだろう。 だが、力を以て君臨する貴族が、不逞の輩をそのままのさばらせておいては支配が揺らぐ。必ずや、裏で報復措置に出る。 マル風Gメンや暴力団、某国や米軍の間を立ち回って来た空にとっては何でもない事だ。 しかし、今、後にゾロゾロと着いて来ている料理人供は、一人も助かるまい。家族縁者に累が及ばぬ様、自ら首を差し出す羽目になる公算が大きい。 それを避ける為に、最もてっとり早いのは、目撃者全員を消してしまう事だが、それはそれで話が大きくなる。 噂話に聞いた、“土塊のフーケ”とやらはミスリードに使えるかも知れないが……。 「ま、楽しみにしとき、デル公。たっぷり血い、吸わせたるからな」 「相棒。なんだか、俺の事を誤解してるみたいだねえ」 後にはマルトー始め、緊張した面持ちの料理人達が続く。筋者の事務所に殴り込む素人衆の心境だろう。 邸が近付く。 茂み深くに入ってベースを張る。道具と撤退の手筈を確認。 「ええか?今回はシエスタを連れ戻したら、それで勝ちや。ここに居る全員帰れへんでも、シエスタ一人帰ればええ。状況によっては、ワイはお前等見捨てて、あいつ一人連れて逃げる。それで文句有る奴は帰れ」 全員が堅い動作で頷く。異論が有ろう筈も無い。 「お前らに難しい作戦言うても無理やろ。シンプルに行く。ワイが先導するから、少し間置いて着いて来い。目に付いた奴は速攻でどつき倒せ。躊躇すなや。相打ち上等で突っ込め。メイジ相手に迷ったら死ぬで。ええな」 空は武器を配る様に命じる。 太い麺棒や脱穀の棒、スコップ。扱いに熟練を要する刃物を避けて、鈍器で統一する。 「良し。気合い入れて行くでっ……!」 『ブッ殺ッッッ!!』 凶悪な平民達の物騒な唱和が、闇苅に溶けた。 * * * 「秘宝の魔道書?」 「何それ?」 その名を口にすると、キュルケばかりでなく、ルイズも興味を示した。 「前に話してくれたじゃないか。召喚実験で偶然、呼び出された魔道書。ツェルプストー家の家宝を、君は持っているんだろう?」 「ああ、あれね。嫁入り道具として持たされてるのよ」 「どんな魔道書なの?」 深く追求しないでくれ。 心の中でギーシュは嘆く。あまり女の子に聞かせられる内容では無いのだ。 「殿方を高ぶらせる魔力を帯びた魔道書」 苦悩する少年と対照的に、キュルケはさらりと言った。 「まあ、私には必要無いんだけどねー。色気も“ゼロ”なあんたには、正に秘宝かも知れないわね」 「ななな、何言ってるのよ!不潔よ!不潔!さすが、色ボケのツェルプストーの家宝ね。サイテーだわ」 蔑む様なルイズの目に、ギーシュは頭を抱える。自分はマリコルヌとは違う。女の子に蔑まれたり、踏まれたりして悦ぶ性癖は無いのだ。 そう。薔薇に白い目を向けたり、あまつさえ踏み躙る様な少女が居るものか。熱烈な視線、黄色い歓声こそ我が本望。 その点でケティは理想だった。ちょっとした事でも驚き、ささやかな事でも喜んでくれた。幸せを享受する天性に恵まれた女の子だったのだが……。 「いやいやいや。今はそれ所じゃないっ!」 不意に頭を振って叫ぶギーシュに、二人は目を瞬いた。 「ミス・ツェルプストー。君にとって、それが必要な物で無いなら、都合が良い。その魔道書を、譲ってはくれないか?」 「……不潔――――」 「誤解しないでくれ給え、ミス・ヴァリエール!僕は疚しい目的で言っいるのではない。ある重大事の解決に、なんとしても、それが必要なのだ。事によったら、君の使い魔だって、関係しているのかも知れないのだよ」 「空が?」 「ダーリンが?」 モット伯爵は以前から言っていた。 ツェルプストー家に伝わる魔道書が欲しい。手に入るのなら、全財産を費やしても構わない、と。メイド一人の身柄と引き替えなら安い物だろう。 空が無茶をする前に、シエスタを連れ帰る。それしか無い。 「空が?ねえ、どう言う事よ?」 「済まない。今は説明している閑が無い。どうだろう、ミス・ツェルプストー。たった今、必要なんだ」 「……別にいいけど、貴方お金有るの?」 「う……無い。無いが、後日なんらかの形で、必ず恩は返す。何でも言ってくれ給え」 「なんでも?」 キュルケの瞳が、怪しく光った。 「何でもだ」 「そう。なら、私と付き合って。そうしたら、魔道書は差し上げるわ」 その一言に、ギーシュは凍り付いた。 嫁入り道具である魔道書を差し上げる。だから、付き合いなさい――――その意味する所は何か。 つまりは、ただの交際では無いのだ。恐らく、結婚を前提として、と言う枕詞が付く。 ギーシュは震えた。顔色がみるみる青くなり、体中から汗が噴いた。 こちらは嫁入り道具をくれ、と言っているのだ。決して不当な要求では無い。当然と言っていい。 それに、ゲルマニアの大貴族にして大資産家のツェルプストー家令嬢なら、伯爵家の四男坊としては望外の相手。全く申し分無い。申し分無いのだが……。 目線がストンと落ちる。褐色の乳房に引っかかって止まる。 本当に彼女は申し分が無い。申し分無いおっぱいだ。 だが、何故だろう。ギーシュはキュルケがどこか苦手だった。 薔薇を観賞するばかりで無く、摘み取った挙げ句、押し花にしてしまいそうな勢いには、一種の恐怖を覚える。 ええい、何を迷っている、ギーシュ・ド・グラモン!―――― ギーシュは自らを叱咤する。 シエスタの貞操が危ういのだ。 空の身だって危ういのかも知れないのだ。 危急の時、グラモン家の男が、おっぱいを怖がっていてどうする! 勇気を持つのだ! 突撃! 突撃! 突撃! 「――――判った」 杖を持たずに尖塔から飛び降りる気分で、ギーシュは答えた。古びたアルヴィー人形のぎこちなさだ。 途端に、笑い声が弾けた。 「冗談よ、冗談。今、私はダーリン一筋だもの。秘宝の魔道書ね。ちょっと待っていなさい」 フライで自室に向かうキュルケを、ギーシュは呆然と見送った。 安堵の吐息が漏れ、思わずその場にへたり込みかけた。 「助かった――――」 と思ったのも束の間だ。 「ねえ、空がどうしたの?」 今度はルイズが絡んで来た。 「だから、今は時間が……」 「ツェルプストーが戻るまでの間に、説明しなさいよ」 「えーと、シエスタと言うメイドが居るのだが……」 「あの、変な靴履いたメイドでしょう。それがどうかしたの?」 「そのメイドが、モット伯に引き抜かれてだねえ」 「“あの”モット伯爵?」 絶妙な口調だった。 モット伯に関する悪い噂と、ルイズが彼を軽蔑する所以が、余すこと無く、たった一言に集約されている。 モット家と親交が有るギーシュとしては、少し複雑な気分になった。 「どうも、穏便ならざる方法も使ったらしい。そこで――――」 「お待たせ」 と、キュルケが戻った。 手には羅紗の袋。中身を取り出す。表紙は極めて扇情的なイラストだ。 ルイズは耳まで赤くして顔を背け、ギーシュは食い入る様に眼を開く。 「確かに」 「一つ貸しよ」 「判っている」 再び袋に収められた魔道書を手に、ギーシュは高速型ワルキューレのステップを踏む。 「ちょっと、待ちなさいよ!話がまだ……」 「ミスタ・空がモット伯の邸に乗り込むかも知れない!」 「!……なんですって!ちょっと……!――――」 ルイズの声を置き去りにして、ギーシュはワルキューレを加速する。 道を急ぎながら、ギーシュは魔道書の表紙を思い出す。 凄い。本当に凄い。 現実をそのまま切り取ったかの様な画風。写実主義の絵画など問題にならない精緻さだ。 どんな画材を使えば、あの発色が得られる。 あの印刷技術は一体なんだ。 いかなる神技が、あの奇跡を実現したのかは判らない。だが、なるほど、モット伯が執心するのも頷ける。 モット伯の邸が見えて来る。様子がおかしい。喊声が聞こえて来る。 遅かった――――! どうする? どう話をつける? 身の程知らずな料理人供はともかく、空は助けたい。 そう考えているのは、ギーシュ一人では無かった。 ルイズとキュルケだ。いまいち事態は飲み込めないが、空が本当にモット伯邸へ乗り込もうとしているなら捨て置けない。 二人は女子寮塔を、タバサの部屋へと駆け上る。 丁度、その時、タバサは自室で逆立ちしていた。続いて、脚を曲げ、体を腕立ての要領で後に伸ばし―――― 「無理」 潰れた。 “風”を面で捉える。その技術が極めて難しいだけでは無い。 仮に、両掌を床に固定出来たとしても、空と同じ姿勢を取るには、並外れた腕力が要る。 「タバサ!居る!」 目の前で、扉が勢いよく開いた。 頭上を見上げると、そこにはキュルケと、ルイズが居る。 「黒――――」 返事をする代わりに、タバサは呟いた。 ――――To be continued 前ページ次ページ虚無の王
https://w.atwiki.jp/magamorg/pages/5710.html
電神竜シエスパーザ UC 水 (5) 5000 サイバー・ドラゴン ■ブロッカー ■このクリーチャーは攻撃できない ■このクリーチャーのパワーはマイナスされない (F)シノビの技も、竜の前では無力だった 作者:マイルス 代理作成:まじまん 評価
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/2598.html
その日、モット伯はウキウキだった。 どのくらいウキウキかというと、人の目がなければ踊りだしそうな程、ウキウキだった。 王宮の勅使として訪れたトリステイン魔法学院で、予想以上の掘り出し物をお持ち帰り、じゃなくて、買い入れたのだ。 平民の若く美しいメイド。 珍しい黒髪に黒い瞳の少女だ。 レアだ。 メイド服の上からで、実際に確認したわけではないが、巨乳だ。間違いない。 すばらしい、実にすばらしい。 ディモールト・すばらしい!! 「ディモールト?」 魂に浮かんだ言葉に、首を捻るモット伯。 深く考えてはいけない。作者の心の声だ。 とにかくだ、もちろんそのメイドを買い入れたのは、雑用のためだけではない。 夜の相手もさせる気満々だ。 いいぞ、大いに賛成だ。 すでに件のメイドには、湯浴みを命じてある。 今頃は、この扉の向こうで湯上り姿でスタンバっているはずだ。 つまり、扉を開ければ、そこには桃源郷、パラダイスが! いざ往かん、天国へ! モット伯が意気揚々と扉に手をかけたその時。 「ちょっと眠ってもらうね♪」 そんな囁きを耳元で聞いて、彼の意識は闇におちた。 ……おや? なにやら、くすぐったくって目が覚めた。 まず最初に目に入ったのは、毎朝、起きる時にかならず見ている、見慣れた天蓋だった。 いつの間に自分の寝室に戻ったのだろう。 モット伯はぼんやりと思いながら、体を起こそうとしたが、動けなくなっていた。 それもそのはず、ベッドの天蓋を支えている四本の柱それぞれに、手足が縛りつけられている。 次に自分の鼻の頭をくすぐる、細い指を見つめた。 横を見ると。 「お・は・よ。って言っても、まだ夜だけどね」 顔の上半分を青い布で隠した男が、クスクスと笑っている。 気がつけば、モット伯はパンツ一丁だった。 「き、貴様!! 一体何のつもりだ!?」 喚き立てるモット伯の口に、青覆面の男が人差し指を乗せる。 「あんまり五月蝿いと、殺すよ」 そんな物騒な言葉を、甘く囁く。 モット伯が固まる。蛇ににらまれた蛙だ。 「あなたが買い入れたメイドだけど、学院に戻してあげてよ」 「なんだ、お前。あの娘の知り合いか」 「質問に答えてほしいな。死にたいの?」 「ふん、脅しか……だが、断る! このジュール・ド・モット、賊に屈するような軟弱な貴族ではない。『波濤』の二つ名は伊達ではないわ! 恐れたか? 恐れおののいたか? ならばさっさとこの戒めを解いて、平身低頭、床に頭を擦りつけるように詫びんか、この無礼者!!」 自分の台詞に酔いしれるモット伯。この男、自分の状況が見えていない。 青覆面の男は、困ったちゃんを見るような生暖かい目でモット伯を見ると、ちょっと考えた。 「……ちなみに、彼女にどんな事をするつもりだったのかな?」 「ふふん、この我輩自慢のテクニックで至上の快楽を与えつつ、あーんな事やこーんな事をして、ゴートゥヘブンする予定に決まっておろうが」 「ふーん。それって」 青覆面の男は隠されていない口元を僅かに吊り上げると、モット伯のむき出しの太股を、触れるか触れないかの絶妙な加減で撫でる。 「あひゃ」 「これよりも、い・い・の・か・な」 「え、ちょ、おま、な、なにを、ら、らめぇ、そこはらめぇ、あーーーーっ!?」 チュンチュン。 鳥のさえずりが聞こえてくる。 とうとう朝になってしまった。 どんな心変わりだろうか、結局、モット伯が現れなかった事を不審に思いつつも、貞操を守れた事にホッと胸を撫で下ろすシエスタ。 徹夜だが仕方ない。 仕事を始めるためにメイド服を身に着ける。 しかし、今回無事だったからといって、次回も無事とは限らない。 正直、貴族とはいえ、あんな好色中年親父に手篭めにされるなど、死んでも嫌だった。 どうせなら。 シエスタは、憧れの人の顔を思い浮かべ、さめざめと泣いた。 別れがつらく、マルトーさんに伝言を頼んではいたが、やはり最後にもう一目会っておくべきだった。 「アオさん……」 「呼んだ?」 ガチャリとドアが開き、青覆面の男が顔を出した。 シエスタが思わず悲鳴を上げそうになるのを、男が素早く手で口を塞いだ。 「落ち着いて、シエスタ。僕だよ」 「その声は……アオさん!? そんな、まさか本当に!?」 感極まったシエスタは、アオに抱きつくと、今度こそ声を上げて泣いた。 落ち着かせるように彼女の頭を撫でる。 「で、でも、なんでアオさんがここに? それにその格好は?」 「君を迎えにきたんだシエスタ。格好は、まあ、気にしないでくれ。ここを去るまでの間だけだから。それと名前も秘密ね。 さ、学院に帰ろう。マルトーさんたちも待っているよ」 「そ、そんな無理です。あの伯爵様がお許しになるはずがありません」 「彼ならOKしたよ」 「嘘!?」 半信半疑で私服に着替えたシエスタは、アオに連れられて、屋敷の玄関までやってきた。 するとそこには、屋敷中のメイドと、顔を赤らめたモット伯が待っていた。 「じゃ、僕らは帰るから」 「は、はい、どうかお気をつけて」 モット伯自らが扉を開け、アオに対して礼を尽くす姿に、シエスタが目を丸くする。 アオが横切ろうとした時、モット伯が、その腕を掴んだ、というか絡みついた。 「次は、次はいつ会えますか?」 中年の親父が、乙女のように瞳を潤ませる姿は、その、なんだ、かなりきつい。 アオはその手をやんわりと解くと、微笑みながら。 「いつでも会えるさ、君がいい子にしていればね。わかったかい?」 モット伯は、アオの手を両手で握り、『はい! はい!』と何度も頷いた。 そして、立ち去るアオの後姿に、ハンカチを振りながら見送ったのだった。 いつまでも、いつまでも。 「い、一体、何があったんですか」 ようやくその姿が見えなくなったところで、シエスタは思い切ってアオに尋ねた。 なんとなく想像はついたが、なにがなんでもアオの口から否定の言葉が聞きたかった。 アオは覆面を外すと、優しく微笑むだけだった。 「君は赤ずきんを知っているかい?」 「知ってるよ、狼に食べられちまうんだろ」 「なら、青ずきんは?」 「青ずきん?」 「青ずきんはね、狼を、 食べちまったのさ」 ~ゼロのぽややん外伝~ The アニメ版 青ずきんちゃん どんとはらい
https://w.atwiki.jp/moejinro/pages/1534.html
10日目 ナナツボシ は言った 朝になりました 今日は皆顔を合わせることができましたが不穏な空気は消えていないようです… ナナツボシ は言った 村人の皆様、今日も1日がんばるのです! ナナツボシ は言った 昼の部スタート! 3 (なむなむ) orika えええええええ 3 (なむなむ) xこぅちゃx まだ続くよねぇ 1 (ナナツ村) TeaRabbit うに? 3 (なむなむ) ROWLEYS `; ゙;`;・(゚ε゚ )ブッ!! 1 (ナナツ村) ヨロイモグラ 真霊媒出ずに噛まれたわけか・・・ 1 (ナナツ村) MB …ん? 1 (ナナツ村) TeaRabbit ★占い結果greoさん真っ黒な狼さんでした 1 (ナナツ村) TeaRabbit 占い理由:あっれぇ!?ということは?ROWさん狐?そんな馬鹿な 3 (なむなむ) Cate まだGJ? 1 (ナナツ村) ヨロイモグラ ですよねー 1 (ナナツ村) TeaRabbit ってことに 1 (ナナツ村) ヨロイモグラ TEAさん偽で見てます 3 (なむなむ) ROWLEYS というかなんなのこの村 1 (ナナツ村) grep TeaRabbitさんをずーっと真視していたばっかりに 3 (なむなむ) orika 狐だよね、この状態だと 3 (なむなむ) ウツボン これは狼が狐待ちでございますねー 3 (なむなむ) リュファ ・・・? 展開が変? 1 (ナナツ村) TeaRabbit いやいや・・・ 1 (ナナツ村) MB 真霊は絶対でてるでしょう バーバラさんが真霊でない限り 1 (ナナツ村) grep こんな長引いてすみません 1 (ナナツ村) MB 昨日私はTEAさん狐でGrepさん狼の場合を考えてしまいましたがこの場合、ROWさんがGrepさんに○出してること考えると 3 (なむなむ) Mrチキン 狩人がこんだけわかってるのに生きてて 1 (ナナツ村) ヨロイモグラ 昨日やたら勝利確定してる風に言ってたのであやすぃかった 3 (なむなむ) Mrチキン しかもGJ出すってどんな展開だw 1 (ナナツ村) MB 真占いどこいったになってしまうのでありえないパターンでした。ごめんなさい。 3 (なむなむ) xこぅちゃx 狩人じゃないからじゃ? 3 (なむなむ) シエスタXX まあウサギさんは●だすしかないでしょ 3 (なむなむ) Cate ですね 3 (なむなむ) Mrチキン ウサギさん吊って終わりの状況ですしねぇ 1 (ナナツ村) ヨロイモグラ ぬぅ 1 (ナナツ村) MB だからTEAさん狐かつGrepさん狼はあり得ない 3 (なむなむ) xこぅちゃx ってことは狐1狼1が残ったのか 1 (ナナツ村) MB 狐は確定で死んでるんじゃないですかね 1 (ナナツ村) TeaRabbit ・・・・ん~どう言えば分ってもらえるやら 3 (なむなむ) xこぅちゃx んー?良く分からんなぁ 3 (なむなむ) orika 予想外の事態が発生しすぎだよこの村 1 (ナナツ村) ヨロイモグラ では今日誰も死人が出なかったのは 1 (ナナツ村) ヨロイモグラ 狩人が生きてるからでは 3 (なむなむ) ROWLEYS 全然ね、内訳わかんなさすぎなんですよ。・゚・(ノ∀`)・゚・。 1 (ナナツ村) MB そうなるんじゃないですかね 1 (ナナツ村) grep そう思います 私がもぐらさんを守りました 3 (なむなむ) xこぅちゃx 狼が狩人食わない時点で狐居ますよって 3 (なむなむ) xこぅちゃx 言ってるようなもんじゃないの?これって。 3 (なむなむ) orika 1.狩人が実は生きてる 2.狐がいるよ この二つだよね? 1 (ナナツ村) TeaRabbit ええ、もうあきらめましょう 1 (ナナツ村) ヨロイモグラ TeAさん吊りしかないと思います ほかに可能性ある? 3 (なむなむ) ウツボン 2じゃないかなー 1 (ナナツ村) grep ないですね 1 (ナナツ村) TeaRabbit そうです、僕がキツネでしたw 3 (なむなむ) Cate ばらしちゃった 3 (なむなむ) orika ちょ、ラビットさーーーん 3 (なむなむ) ROWLEYS ちょおおおお。・゚・(ノ∀`)・゚・。 3 (なむなむ) ウツボン 村人は狐がちか狼かちか、それともあえての引き分け狙いくらいしかないぞ 1 (ナナツ村) ヨロイモグラ では狼は誰になります? 1 (ナナツ村) TeaRabbit greo 3 (なむなむ) ウツボン ここは分散して引き分けを狙うんだ!>村人 3 (なむなむ) ファン 狼が狐探ししてないから居ないと思う 1 (ナナツ村) TeaRabbit さんじゃないですか? 3 (なむなむ) Cate あれ、負け確定だ… 3 (なむなむ) シエスタXX ありえん 1 (ナナツ村) TeaRabbit 真占いどこ行ったのでしょうね~ 1 (ナナツ村) MB GrepさんはROWさんの○ですね 3 (なむなむ) orika どうしてこうなった…? 3 (なむなむ) シエスタXX 狐いないっしょ 3 (なむなむ) orika いないと今日の朝のはなにさ 1 (ナナツ村) ヨロイモグラ ここでgrepさんが占い噛む意味あるのかな 3 (なむなむ) Lumiya 狐いたら村絶望状態だけど・・・正直わからん! 3 (なむなむ) xこぅちゃx 狐居るはず 3 (なむなむ) ROWLEYS ほんと真占どこいったのかしらねー(棒 3 (なむなむ) xこぅちゃx 居なかったら、狼は狩人食えばいい 3 (なむなむ) orika おまえか 3 (なむなむ) シエスタXX GJじゃない? 1 (ナナツ村) TeaRabbit 4COだったから出なかったとか? 3 (なむなむ) orika ・・・・では、rowさんが真だとしたら 1 (ナナツ村) grep 私吊って明日お二人のどちらか噛まれた その場合のみ村負けです 3 (なむなむ) xこぅちゃx わざわざ何故gjされに行く狼が居るとは思えないんよね 3 (なむなむ) シエスタXX ウサギさんが狼として勝つには 1 (ナナツ村) MB ROWさんのシンクロさん●が正しかったということはシエスタさんが真霊だったってことですかね…? ほんとに…?w まぁTEAさんに投票しますが… 1 (ナナツ村) grep 狐はcateさんかチキンさんだと思ってます 個人的に 3 (なむなむ) シエスタXX わざとGJ狙いで混乱させるとおもうけどなぁ 3 (なむなむ) シエスタXX 狩人噛んだって ナナツボシ は言った 5分経過(残2分) 3 (なむなむ) シエスタXX 負確定じゃね? 1 (ナナツ村) TeaRabbit ここで足掻く必要もないでしょう、村の選択にゆだねます 3 (なむなむ) Cate grepさん私のことずっとにらんでるなぁw 1 (ナナツ村) MB チキンさん狼だと身内切りということになるのでないと思うのですが… 霊いない状態でしたし 3 (なむなむ) xこぅちゃx でも、狩人噛まないと余計に確定だし。 1 (ナナツ村) ヨロイモグラ 村が勝つ可能性があるのはTeaさん吊りかな 絶望村だったら終わるけど 3 (なむなむ) シエスタXX 狐いると思わせれば 1 (ナナツ村) MB 絶望村って真占い潜伏ってことですか? 1 (ナナツ村) grep 了解です 3 (なむなむ) シエスタXX 自分が釣り逃れられるとふんだんじゃないかなぁ? 3 (なむなむ) ROWLEYS (゚д゚)(。_。)(゚д゚)(。_。) ウンウン ナナツボシ は言った 残り1分 1 (ナナツ村) TeaRabbit いきなりのカオスでしたからねぇw 3 (なむなむ) シエスタXX まあ 3 (なむなむ) シエスタXX 確信ないけどねw 3 (なむなむ) xこぅちゃx んー、もう分からん・・・w 1 (ナナツ村) TeaRabbit 潜伏狐で勝ったことがあったので 1 (ナナツ村) ヨロイモグラ 誰吊っても村の価値がない状況 だと お もう 1 (ナナツ村) ヨロイモグラ 勝ち 1 (ナナツ村) TeaRabbit 占いに出てみたのですけれど ナナツボシ は言った 20秒前 1 (ナナツ村) TeaRabbit ここまで信頼されるとはw 1 (ナナツ村) MB それは真占い潜伏ということにw 1 (ナナツ村) ナナツボシ -------STOP-------- ナナツボシ は言った -------STOP-------- ナナツボシ は言った 夜まで時間がありません 皆様今日の尊い犠牲を選ぶのです!(会話はストップです) ナナツボシ は言った 投票は私へtellでするのです! grep は ナナツボシ に言った 海産物さん 吊り MB は ナナツボシ に言った TEAさんに投票します ナナツボシ は grep に言った ええええええ ヨロイモグラ は ナナツボシ に言った TeaRabbitさんでお願いします grep は ナナツボシ に言った 誤爆です grep は ナナツボシ に言った TeaRabbitさん 吊り ナナツボシ は grep に言った ちょっとおもしろかったw 2 (がぶがぶ) TeaRabbit 少しは面白くなったかな? 2 (がぶがぶ) リュファ () TeaRabbit は ナナツボシ に言った greo様に一票お願いいたします TeaRabbit3 grep1 2 (がぶがぶ) TeaRabbit 票がブレることなんてないでしょうし、あっても同数 2 (がぶがぶ) TeaRabbit もう少しだったのですが…狩人呪われろー ナナツボシ は言った さようなら TeaRabbitさん あなたの勇姿は忘れない・・・。 3 (なむなむ) リュファ あ。 ナナツボシ は言った 日が沈み始めました よい子も悪い子も寝る時間なのです! TeaRabbit は言った その選択があなた達の意思ですか、ならば… TeaRabbit は言った 己が目にこの姿、しかと焼き付けよ! ナナツボシ は言った 役職行動の方は私までTELLするのです! 3 (なむなむ) TeaRabbit 空腹モーションで失敗したーーーーー!? 3 (なむなむ) Cate おつかれさま。 3 (なむなむ) シエスタXX おつん 3 (なむなむ) TeaRabbit ウサギがIN! 3 (なむなむ) リュファ おつかれさまー。 3 (なむなむ) ナナツボシ おつおつー 3 (なむなむ) Lumiya お疲れ様ですの 3 (なむなむ) ファン 御疲れ様ですぅ 3 (なむなむ) orika おつかれさまですー 3 (なむなむ) xバーバラx おつかれさまでした 3 (なむなむ) Mrチキン おつかれさまー 3 (なむなむ) ウツボン おつかれさまですー 3 (なむなむ) シエスタXX さあどうなるかな 3 (なむなむ) ROWLEYS |ω’)お疲れ様ですん 3 (なむなむ) xこぅちゃx お疲れ様ですよー 3 (なむなむ) orika おれ、このゲーム終わったら寝るんだ 2 (がぶがぶ) シンクロ 3 (なむなむ) TeaRabbit 結果は残念ですが面白かったかな 3 (なむなむ) ROWLEYS フラグたってるたってるw grep は ナナツボシ に言った ヨロイモグラさんを狩人がガッチリガードォォ! 3 (なむなむ) orika …んー、フラグになってるようななってないような ナナツボシ は grep に言った 最後の最後まで・・・がっちりガードォォォォ 2 (がぶがぶ) TeaRabbit greo様…素晴らしい狙いでした 3 (なむなむ) Mrチキン オリカさんがオリバさんに見えたとは言えない 3 (なむなむ) ROWLEYS (; ・`д・´) ナ、ナンダッテー!! (`・д´・ ;) 3 (なむなむ) orika あなた疲れているのよチキンさん 3 (なむなむ) リュファ どんな変わった寝方をするんですか。 3 (なむなむ) シエスタXX 馬鹿な・・・早すぎる・・・ 3 (なむなむ) Mrチキン なんかオリカさんが急にパンデモス♂にみえて・・・ 2 (がぶがぶ) シンクロ これはもう 運がなかったなぁです;; 3 (なむなむ) ウツボン オリカさんを縛り付けることは何者にもできない・・・ 3 (なむなむ) orika チキンさんが末期です 3 (なむなむ) シンクロ ウキンさんですか・・・! 3 (なむなむ) Mrチキン あ、それはデフォルトです 3 (なむなむ) orika 俺が謎の存在になっていくんだがどういうことだこれは 3 (なむなむ) ROWLEYS アワワ ヽ(´Д`;≡;´Д`)丿 アワワ 3 (なむなむ) Cate 配役が気になる… 3 (なむなむ) ウツボン シンクロさんはネコミミでもつけるといいよ! 3 (なむなむ) Lumiya なんというカオス霊界 3 (なむなむ) ウツボン しかも脳波コントロールできる! 3 (なむなむ) シンクロ 脳派ネコミミって 3 (なむなむ) シンクロ いい代物なのですか?わかりません 3 (なむなむ) orika それが機械のいう事か! 3 (なむなむ) シンクロ ボクはネコミミの前にスキンヘッドにしたいです 3 (なむなむ) シンクロ 身長184~でHAGE頭 3 (なむなむ) orika なんとぉー! 3 (なむなむ) シンクロ ・・・これはもう 親しみやすいかと! 3 (なむなむ) リュファ シンクロさんはコグニートじゃなくてスクイードでしょう。 3 (なむなむ) シンクロ スクミーズです? 3 (なむなむ) ウツボン 質量を持った残像とでもいうのか!? 3 (なむなむ) ナナツボシ 頭にぐりってさすんですね 3 (なむなむ) TeaRabbit キンクリさん来ないですねぇ、他の村にいるのかな? MBは眠りについた 3 (なむなむ) orika ディアボロはいま大冒険に出ているそうです 3 (なむなむ) シエスタXX ゆっくり行こうぜ ブラザー 3 (なむなむ) Mrチキン さっきレクイエムさんにやられてました 3 (なむなむ) ウツボン GER! ナナツボシ は言った -------STOP-------- 1 (ナナツ村) ナナツボシ -------STOP-------- ナナツボシ は言った すがすがしい朝がやってきました 村人は昨日のまま全員元気な姿で顔を合わせることができたようです 3 (なむなむ) orika なんか「俺にチ近づくなー」とかいってましたね ナナツボシ は言った 村人勝利 fin 3 (なむなむ) orika あおわた 3 (なむなむ) Lumiya おぉ 3 (なむなむ) xこぅちゃx お疲れ様でしたー 3 (なむなむ) Cate おお シエスタXX は言った いえーい 3 (なむなむ) あかみさと おお ナナツボシ は言った おつかれさまでしたー ヨロイモグラ は言った うおおおおぉおぉおおお 3 (なむなむ) Mrチキン おつかれさまー ROWLEYS は言った ワーイヽ(゚∀゚)メ(゚∀゚)メ(゚∀゚)ノワーイ 3 (なむなむ) ウツボン 俺の剣をしゃぶれ! 3 (なむなむ) xバーバラx おつかれさまでした 1 (ナナツ村) TeaRabbit お疲れ様です 1 (ナナツ村) MB お疲れ様でした よくわからない村だった… 3 (なむなむ) ウツボン おつかれさまでしたー ヨロイモグラ は言った おつかれさまでしたぁー! grep は言った お疲れ様でした 3 (なむなむ) orika そうなるとひとつ前のGJはなんだったんだ 1 (ナナツ村) xバーバラx おつかれさまでした grepはそろそろヤヴァくなってきた 1 (ナナツ村) Cate お疲れ様でした 1 (ナナツ村) ウツボン おつかれさまでしたー ナナツボシ は言った では orika は言った おつかれさまでしたー なんかいろいろすごい村だった 3 (なむなむ) Mrチキン まぁなんだ。ウサギさんの出した唯一の●を見てみるといい ナナツボシ は言った さっそく 役職発表です 3 (なむなむ) ファン ふつーにモグラさん護衛のGJでしょw 1 (ナナツ村) Lumiya 初っ端から頭抱えたくなる展開で泣いたよ!! ナナツボシ は言った 以上 敬称略! ナナツボシ は言った 妖狐 Mrチキン ナナツボシ は言った 人狼 シンクロ リュファ TeaRabit ナナツボシ は言った 狩人 grep 狂人 xこうちゃx ナナツボシ は言った 占い師 ROWLEYS 霊媒師 シエスタXX ナナツボシ は言った 配役 1 (ナナツ村) ヨロイモグラ 途中までTeaさん完全に信じてた 1 (ナナツ村) TeaRabbit greo様…素晴らしい狙いでした!呪われろ! orika は言った チキンさん!? ナナツボシ は言った 配役 ドン! シンクロ は言った HAEEEE!です! Mrチキン は言った うへへ 1 (ナナツ村) シンクロ ログ見ればわかりますが 1 (ナナツ村) MB シエスタさんが思いっきり偽にしか見えなかった 1 (ナナツ村) シンクロ 最初に噛みましたね ナナツボシ は言った おもしろかったよ!今回は! 1 (ナナツ村) シンクロ ウキンさんを。 1 (ナナツ村) Mrチキン 初噛みで狐ばれてるんだぜ orika は言った 最初は狐噛みだったのかやっぱり ナナツボシ は言った ではでは 1 (ナナツ村) シエスタXX まだまだ甘いなチミだち! ROWLEYS は言った ●2つ引きって(/ω\) grep は言った ありがとうございました 1 (ナナツ村) ヨロイモグラ シエスタさん真だったのか! 3 (なむなむ) xこぅちゃx では、落ちますねぇ ナナツボシ は言った これにて ナナツ村 完! 3 (なむなむ) xこぅちゃx お疲れ様でした! 1 (ナナツ村) MB 占いに狐いるならそりゃばれるんじゃないですかね 1 (ナナツ村) TeaRabbit 真占いが黒出しまくるおかげで黒出せなかったのよ! 1 (ナナツ村) ウツボン やっぱ内訳真霊狂狼であってたのかー! 1 (ナナツ村) orika アレ、共有の発表ない? 1 (ナナツ村) シンクロ SAYで 1 (ナナツ村) リュファ 最初に妖狐を発見できたところまではよかったのに。 1 (ナナツ村) シンクロ 発表ありましたって 共有さんがないですね 3 (なむなむ) リュファ おやすみなさーい。 1 (ナナツ村) ウツボン あそこの信頼度差さえなければ・・・ 3 (なむなむ) ウツボン お疲れ様ですー 1 (ナナツ村) Lumiya 村人だけとなんか繋がってました!! 1 (ナナツ村) あらぐむ おつかれさまでーす 3 (なむなむ) Cate おつかれさまでした 1 (ナナツ村) シンクロ 狩人さんがいなければ 1 (ナナツ村) シンクロ 勝てていたのにです・・・ 1 (ナナツ村) MB …?騙り役職の内訳が狂狼狼だったのか 1 (ナナツ村) TeaRabbit あの時僕が吊り計算を間違えていなければ・・・! 1 (ナナツ村) grep トンチンカンな狩人でした すみません 1 (ナナツ村) Mrチキン 最終的に良い仕事したからOKかとw 1 (ナナツ村) ROWLEYS |ω’)カサカサ 1 (ナナツ村) MB 最後GJ起きなかったら負けてたかもしれない 1 (ナナツ村) リュファ ウサギさんはじっくり考えてよくやっていたと思います。 1 (ナナツ村) orika GJまじGJ 1 (ナナツ村) ヨロイモグラ 正直最後のほうまでROWさん偽だと思ってた・・・ 1 (ナナツ村) MB 狩人GJでしたね 1 (ナナツ村) ROWLEYS |ω’)シクシク 1 (ナナツ村) Mrチキン Teaさんいつ●だすのかなーって思ってましたw 1 (ナナツ村) シエスタXX 実は初霊媒だったり 1 (ナナツ村) Mrチキン ばれてるのわかってたしorz 1 (ナナツ村) TeaRabbit もう、諦めて思いっきり狩人さんほめちぎりましたよw 1 (ナナツ村) orika 初共有楽しかったです 1 (ナナツ村) orika それじゃ、おやすみなさいー 1 (ナナツ村) Mrチキン おつかれさまー 1 (ナナツ村) grep お疲れ様です 1 (ナナツ村) ヨロイモグラ おつかれさま~ 1 (ナナツ村) ROWLEYS おやすみなさーい(’∇’) 1 (ナナツ村) ウツボン おつかれさまですー 1 (ナナツ村) Cate お疲れ様でした 9日目へ 2012年5月12日全ログへ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/5513.html
前ページ次ページゼロの社長 ルイズ達の教室が、爆発の煙に包まれてた丁度そのころ、おなじく別の部屋では別の理由でちょっとした騒ぎになっていた。 いや、騒ぎというには人数が少なすぎる。 その現場、学院長室には2人の人間がいた。 その部屋の主であり、このトリステイン魔法学院の学院長のオスマン。 そして、本を持ってこの部屋に駆け込んできたコルベールである。 「…なるほど。やはりミス・ロングビルを退席させて正解じゃったようじゃな。 ミスタ・コルベール。」 「ええ、やはり彼は、伝説の使い魔『ガンダールヴ』あの左手に刻まれたルーンは、この本に記されているそれと、全く同じなのです。 その、ガンダールヴを召還したという事は、ミス・ヴァリエールは…」 「まだ、その結論を出すには早いと思う。じゃが、その事実は我々の中だけに秘めておくべきじゃ。少なくともまだ、今は…」 場所が変わって、ここはアルヴィーズの食堂。 ルイズは、自身の起こした爆発により、めちゃくちゃになった教室の片づけを命じられ、それが終わったのは、丁度お昼休みの前であった。 ちなみにその片付けはルイズのみで行われ、海馬はただ眺めていただけだった。 「あ~…疲れたぁ。…手伝ってくれても、罰は当たらないんじゃないの?あんたは私の使い魔でしょうに…」 ルイズは最後まで手伝わなかった海馬に対し愚痴をこぼした。 大声で文句の一つも言いたいところだが、疲労のためそんな元気もないようである。 だが、海馬はといえば 「なぜ俺がそんなことをしなければならん。自分で起こした事だ。自分で片付けるのは当然だ。」 と、さも当然のように返した。 当然反論があがる…かとも思いきや、疲れすぎて、む~…と返すのが精一杯のようだった。 「ところでルイズ。貴様の爆発魔法についてなのだが…」 海馬の想像。それはルイズの魔法こそが、失われた虚無の系統ではないか?というものだった。 海馬の瞳によって確認された周りのメイジたちの属性とは明らかに異なるルイズの属性。 細かい魔法の知識はないため、確証というものはないが、調べて見る価値はあるのではないかと、伝えようとしたところで 「失礼します、ミス・ヴァリエール。」 そこに、2人分のお冷が運ばれてきた。 シエスタだった。 なれた手際でお冷と皿、ナイフ、フォークなどを並べていく。 「瀬人さんも、お疲れ様です。あ、すみません。お話し中に割り込んでしまったでしょうか。」 「いや、かまわん。…ふむ、忙しそうだな。」 「ええ、やっぱりお昼時は流石に忙しいですね。あっ、いけない、それでは瀬人さん。また」 そう言うと足早にシエスタは去っていった。 さて、昼食にするかと机の上の皿に載った料理に手を伸ばそうとしたとき 「セト…?あのメイドと知り合いなわけ?」 ぐったりとテーブルに伏せていたルイズが聞いてきた。 「その体勢は、非常にマナーがなっていないぞ、ルイズ。」 ぐっと起き上がり、ルイズは同じ質問を返した。 「アンタ、結構人付き合い悪そうなのに、意外ね?」 「昨日貴様を医務室に連れて行った後に、道端で出会ってな。寝床を借りて朝食をもらった。それだけだ。」 プツン…と、何かが切れる音がした気がした。 が、海馬は全く気にせず、皿にとった魚のパイ包みを口に入れようとしていた。 「へぇ…アンタはご主人様が気絶している間に、他の女のところにホイホイと転がり込んだわけ…?」 怒りのオーラで髪がゆれているように見えたのは、気のせいではないだろう。 だが、当の海馬は気にする風でもなく 「ルイズ。食事は静かに摂るものだ。あと椅子の上に立ち上がるものではない。 そのフォークの持ち方もなっていないぞ。」 ブチッ!っと言う音は回りの生徒にも聞こえたようで、周りの生徒達が恐る恐るそこから離れていく。 「ふぅん…それで朝ご飯もいらなかったわけ。もう食べてたんだもんねぇ…そりゃお腹も空いていないわけよねぇ…。」 「ルイズ。そんなことよりさっさと食事を終えろ。あとで図書室で調べなくてはならん事がある。 おい、ナイフを逆手に持つな。そんなマナーもないのか。」 ルイズの怒りが有頂天。 怒りをそのまま言葉にしたような文句がルイズの口から飛び出した。 「あ…アンタって人はあぁぁぁぁぁぁ!!!この馬鹿使い魔!!!ごっ…ご主人様をほっぽらかして、メイドのところに潜り込んでたわけぇぇ!?」 「待てルイズ。何か様子がおかしい。」 しかし海馬には効果がないようだ! 海馬の視線は少し人だかりが出来ている辺りに向いていた。 時間は少しさかのぼり数分前。 クラスメイト数人と会話しているギーシュのポケットから、香水の小ビンが落ちん、それをシエスタが拾いギーシュに返そうとしたのだが、 ギーシュは急に顔色を悪くし、 「これは僕のじゃないな。」 と、シエスタに手で向こうへ行くように促したが、 ギーシュの友人がその香水がモンモランシーのものであることに気が付いた。 結果、ギーシュの二股が発覚し、付き合っていた両方の女子にばれるという結果になったのである。 ギーシュはケティという後輩の少女に顔面をはたかれ、 モンモランシーには香水を頭からぶっ掛けられるという悲惨だが明らかに自業自得な結果に終わった。 一通り事が終わったと感じたシエスタが仕事に戻ろうとすると 「まちたまえ。君の軽率な行動のせいで、二人のレディの名誉に傷がついた。 どうしてくれるんだね。」 「え…そんな…」 言いがかりも甚だしい。が、それもギーシュが精神的に子供である証拠であろう。 もちろん、そんなことがこの言いがかりの正当性を認めるものでは全くないが。 「いいかい?僕は小ビンを渡そうとしたとき、知らない振りをしただろう?話を合わせるくらいの機転を効かせても良いんじゃないか? ふん、そんなことも出来ないとは、これだから平民という奴は…」 「そこまでにしておくんだな。」 調子に乗り始めたギーシュとシエスタの間に、いつのまにか海馬がいた。 「自分の不注意で二股がばれた事を、他者に責任を押し付けるなど、恥知らずもいいところだ。 そんなことをしているほど暇なら、貴様はさっさとあの二人に泣きついて許しを請いに行け。」 ギーシュは思い出していた。というよりも忘れられない。忘れられるはずもない。 さっきの授業でクラスメイトのマリコルヌを侮辱した、ゼロのルイズの使い魔。 「なんだい。その平民をかばうのかい?平民同士中のいい事だね。」 「知ったことか。俺が気に入らんのは、貴様のその腐った性根だ。家の中で引きこもりながら好き勝手やっているならば構わん。 だが、俺の目の前でそんな醜い性根を晒すな。反吐が出る。」 「君は…本当に貴族に対する口の利き方がなっていないようだね。いや、礼儀を知らないというべきか。」 「無能に尽くす礼など無い。」 「いいだろう!ならば君に礼儀というものを教えてやろう!決闘だ!」 ざわっ…と、食堂に不穏な空気が流れた。 決闘は禁止されているだろ!とか、貴族と使い魔だから問題ないとか、野次を言う連中は好き勝手に喋っている。 「貴族の食卓を平民ごときの血で汚すわけにはいかないからね。ヴェストリの広場で待っているよ。逃げたければ構わないがね。」 そう言うとギーシュはバラを振りかざしながら、取り巻きの生徒達とともに去っていった。 「ふん…この俺に決闘(デュエル)を挑むとは…身のほど知らずもいいところだ。」 まだ詳しくはわかっていないが、ギーシュのカードとしてのスペックを見れば、下級モンスターでも倒せる程度のものだ。 実験台にもなると、海馬は内心思っていた。 だが、シエスタは違った。 ぶるぶると震え、海馬に懇願した。 「瀬人さん、今すぐ謝って、決闘なんか止めてください。 決闘なんかしたら殺されちゃう!貴族の方を相手に本気で怒らせたらどうなるか…」 「シエスタ…ヴェストリの広場とはどこだ?」 「ッ!?言えません!早く逃げてください!」 「『風』と『火』の塔の間にある中庭よ。」 シエスタと海馬が振り向くと、そこにはルイズが仁王立ちしていた。 「全部見てたわよ。あんたそこらじゅうに喧嘩を売って歩いてるんじゃないわよ。」 「では、あれを見て見ぬ振りをしていろと?」 「あんたがただの平民であればね。」 ふっ、と微笑で返すルイズ。 だが、シエスタにはその様子がふざけているようにしか見えない。 「ミス・ヴァリエール、ふざけてないで瀬人さんを止めてください。決闘なんて…」 だが、ルイズはシエスタを無視した。 「セト、私の使い魔への命令として聞きなさい。必ず勝ってきなさい。出来ないとは、言わせないわよ。」 「ミス・ヴァリエール!?」 「ふん、当然だ。」 そう言うと海馬は、ヴェストリの広場へと向かっていった。 シエスタはルイズが貴族であることも忘れて言った。 「どうして…どうして止めないんですか!このままじゃ瀬人さんが!」 「あんたがアイツとどういう知り合いだかは知らないわ。でも、あんたはアイツの事を知らない。」 「何を…。っ!貴族の面子とか、プライドですか!?そんなことのために瀬人さんを殺させる気ですか!?」 「落ち着きなさいよ。私は私の使い魔が、海馬瀬人が負けるなんて事は想像できない。」 そう、自分の常識を覆した『人間の使い魔』であり、不思議な『眼』を持ち、そしてドラゴンを召喚したあの使い魔。 そんな常識破りの存在が、たかだかドットのメイジごときに敗れる? そんな可能性なんかない。 ルイズはそう思っていた。 「この決闘は、あんたに悪気はないだろうけど、原因はあなたにもある。 あんたにはこの決闘を見る義務があるわ。来なさい、私と一緒に。」 「…わかりました…」 ルイズとシエスタも、海馬の後を追うように、ヴェストリの広場へと向かった。 学院の西側に位置する、ヴェストリの広場。 普段は日もあまり当たらず、あまり人気のない広場である。 しかし、今は噂を聞きつけた生徒達で、あふれ返っていた。 囲むように円形に広がる生徒達。 その中には、ルイズ、シエスタはもちろん、キュルケ、タバサ達もいた。 そしてその円の中心に立つ二人。 決闘の主役であるギーシュと海馬。 今まさに、決闘が始まろうとしていた。 前ページ次ページゼロの社長
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1147.html
アルビオン空軍工廠の街ロサイス。 そこに元レコン・キスタ総司令にして現アルビオン皇帝、オリヴァー・クロムウェルは側近とともに来訪していた。 目的はアルビオン空軍本国艦隊旗艦『レキシントン』号の改装の視察である。 『レキシントン』はアルビオンが革命戦争(と、レコン・キスタでは先ほど終結した内戦を呼んでいる)の際に、反旗を翻した船で、元の名を『ロイヤル・ソヴリン』という。 「何とも大きく、頼もしい艦ではないか。このような艦が与えられたら、世界を自由に出来るような、そんな気分にならんかね? 艤装主任」 「わが身に余りある光栄ですな」 『レキシントン』号の艤装主任にしいて、艤装終了後は艦長となるサー・ヘンリー・ボーウッドが気のない返事を返した。 ボーウッドはクロムウェルを快く思っていない。彼は軍人であり、上官の命令に服従するが故にレコン・キスタに組したが、心情的にはアルビオン王国側だったのだ。 「見たまえ、あの大砲を! 余の君への信頼を象徴する、新兵器だ。アルビオン中の錬金魔術師を集めて鋳造された、長砲身の大砲だ! 設計士の計算では……」 「トリステインやゲルマニアの戦列艦が装備するカノン砲の射程のおおよそ一・五倍の射程を有します」 「そうだな、ミス・シェフィールド」 ボーウッドは途中でクロムウェルの言葉を引き継いだ長髪の女性を見つめた。冷たい雰囲気のする、二十台半ばくらいの女性だった。 細い、ぴったりとした黒いコートを身に纏っている。見たことのない、奇妙ななりだった。マントもつけていないため、メイジでもないらしい。 クロムウェルは満足げに頷くと、ボーウッドの肩を叩いた。 「彼女は、東方の『ロバ・アル・カリイエ』からやってきたのだ。エルフより学んだ技術で、この大砲を設計した。彼女は我々の魔法の体系に沿わない新技術をたくさん知っておる」 「なるほど。しかしながら、たかが結婚式の出席に新型の大砲を積んでいくとは、下品な示威行為ととられますぞ?」 この『レキシントン』は国賓としてクロムウェルを始めとする神聖アルビオン共和国(新たなアルビオンの国名だ)の重鎮の御召艦としてトリステイン王女とゲルマニア皇帝の結婚式に参加する予定である。 親善訪問に新型の武器を積んでいくなど、相手国への遠まわしな脅迫であり、砲艦外交ここに極まれり、である。 アルビオンの伝統、ノブレッス・オブリージュ…高貴なる者の義務を信奉する彼にとって、そのような下品な真似は虫が好かないのだった。 「ああ、君には『親善訪問』の概要を説明していなかったな」 何気ない風を装って呟くと、クロムウェルはボーウッドを二言、三言耳打ちした。それを聞いたボーウッドの顔色が変わる。目に見えて蒼白になった。 「馬鹿な! トリステインとは不可侵条約を結んだばかりではありませんか! このアルビオンの長い歴史の中で、他国との条約を破り捨てた歴史はない!」 激昂するボーウッドに、クロムウェルは静かに言い聞かせた。 「ミスタ・ボーウッド。それ以上の政治批判は許さぬ。これは、議会が決定し、余が承認した事項なのだ。いつから君は政治家になった?」 ボーウッドは軍人であり、彼にとっての軍人とは命令を忠実に執行する物言わぬ番犬である。こういわれては黙るほかにない。 「……アルビオンは、ハルケギニア中に恥をさらすことになります。卑劣な条約破りの国として、悪名をとどろかすことになりますぞ」 ボーウッドが苦しげにいうと、クロムウェルは鼻で笑った。 「ハルケギニアは我らレコン・キスタに統一されるのだ。聖地をエルフから取り戻した暁には、そんな些細な外交上のいきさつなど、誰も気に留めまい」 「条約破りが些細な外交上のいきさつですと? 貴方は祖国を裏切るつもりか!?」 ボーウッドがクロムウェルに詰め寄ると、その脇に控えていた男がすっと杖を突き出し、ボーウッドを制した。その男の顔を見て、ボーウッドが声を上げる。 「で、殿下?」 果たしてそれは、討ち死にしたと伝えられる、ウェールズ皇太子であった。咄嗟に膝をつき、ウェールズの差し出した手に接吻する。その手は氷のように冷たかった。 クロムウェルは満足そうに頷くと、周囲に促し、歩き出した。ウェールズもその後に続く。 ボーウッドは呆然と立ち尽くしていた。 クロムウェルは傍らを歩く貴族に話しかける。ワルドだった。羽帽子を被り、失われたはずの左手は義手が取り付けられている。 「子爵、君は竜騎兵隊の隊長として、『レキシントン』に乗り組みたまえ」 ワルドは密かに安堵した。空の上でなら、あの男…リゾットと出会うことはあるまい。 「目付け、というわけですか?」 クロムウェルは首を振ってワルドの憶測を否定した。 「あの男は決して裏切ったりはしない。頑固で融通が効かないが、だからこそ信用できる。余は魔法衛士隊を率いていた、君の能力を買っているだけだ。竜に乗ったことはあるかね?」 「ありませぬ。しかし、私に乗りこなせぬ幻獣はハルケギニアに存在しないと存じます」 だろうな、と言ってクロムウェルは微笑んだ。それから、不意にワルドの方を向いた。 「子爵、君の目的は何だ? 君の忠誠を疑うわけではない。が、トリステインにいても栄華は極められただろうに、何故こちらに裏切った?」 「『聖地』です。私の探すものはそこにあると思いますゆえ」 「信仰か。欲がないのだな」 元聖職者でありながら信仰心の欠片も持たないクロムウェルは笑った。 ワルドは首から提げたペンダントを開き、その中の肖像画を見る。綺麗な女性の肖像だった。それを見ていると、ワルドの心が……リゾットによって恐怖に打ちのめされた胸の奥が、再生されていくのだった。 しばし極小の肖像を見つめた後、ワルドは呟いた。 「いえ、閣下。わたしは世界で一番、欲深い男です」 第十七章 真実を探す者、真実を待つ者 キュルケたち一行は焚き火を取り囲み、リゾットの話す異世界の話を聞いていた。 自分が魔法のない異世界から来たこと、スタンドと呼ばれる異能力を持つこと、そしてスタンド使いがこちらの世界に召喚されていること。 タバサとキュルケは既に聞いていたので、ギーシュとシエスタに対する説明が主なものだったが、四人とも興味深げに耳を傾けていた。 「う~ん……。突飛もない話だなあ」 「月が一つしかなくて、貴族のいない世界っていわれても、想像できませんね……」 「でも、事実。そう考えたほうが色々なことが筋が通る」 半信半疑といった二人に、タバサが淡々と付け加える。 「まあね、僕もあの館でいろんな変な道具を見てなければ笑い飛ばしていたところだったけど……」 「信じられなければ、信じる必要はない。今までどおり、東方から来たと思ってくれていても一向に構わない」 「い、いえ、信じます! リゾットさんは意味もなく嘘をつく人じゃないって、分かってますから!」 慌ててシエスタが取り繕うが、リゾットに嘘は通じない。半信半疑レベルであることは表情や仕草から分かっていた。 「無理しなくていい。信じられないのが当然だからな」 「……はい」 内心を読み取られたことが恥ずかしいのか、シエスタは顔を赤くしてうつむいた。 「ま、相棒はどこから来たって相棒ってことよ!」 「そうですね。……あ、私、ご飯の様子見てきますね!」 「次はどこへ?」 リゾットの話は終わったと判断して、タバサが次の行き先を尋ねる。 「そろそろ、学院へ一旦戻ったほうが良いと思うんだが。学院を勝手に抜け出してしまったことだし。キュルケ、君はどう思う?」 DIOの館で財宝探しの目的を達成したギーシュはさっきから黙っているキュルケに話題を振ってみた。キュルケは答えず、爪の手入れをしていた。 無視されたことにギーシュは少し苛立つ。 「聞いているのかね?」 ギーシュが多少、声を荒げると、やっとキュルケは顔を上げた。 「……え? ごめんなさい、ちょっとぼんやりしていて、聞いてなかったわ」 「だから、僕はそろそろ学院へ戻るべきだと思うんだが、君はどうかね?」 「そうね…」 そういったきり、心ここに在らずと言った風情でまた押し黙ってしまう。ここ数日、夕飯などの自由な時間になるとキュルケはこんな調子だった。流石にリゾットも心配になる。 「大丈夫か? 疲れてるなら、今日はもう寝た方が……」 「大丈夫。ダーリンに気遣ってもらえて嬉しいわ」 頬を染めて笑うが、その笑顔にも妙に影があった。横で見ていたギーシュはそれを見てどきりとする。 今のキュルケは酷く儚げで、普段とは全く雰囲気が違っていたからだ。要するに、今までとは違う意味で色気がある。 (いかんいかん、僕にはモンモランシーがいるじゃないか) 頭を振って、ギーシュは今の感覚を振り払う。 「キュルケの体調も良くないようだし、リゾットには悪いがもう帰ろうじゃないか」 「そうだな……」 リゾットも同意する。しかし当のキュルケが顔をあげて反対した。 「大丈夫よ! 少し考え事をしていただけ! いつもどおりよ」 「……本当に体調は悪くないんだな?」 「ええ」 リゾットが真偽を確かめるため、キュルケの顔を覗き込む。キュルケは心臓の鼓動を抑えるのに苦労した。 「……嘘はついてないな。分かった。信じよう」 タバサは読んでいた本越しに二人を見て、首を傾げた。 実際、キュルケは体調が悪いわけではない。ただ、彼女は悩んでいただけだ。 手がかりが見つかればリゾットが喜ぶと思うが、それは同時にリゾットが元の世界へ帰る日が近づくことを意味する。それは嫌だった。 昼間はやることがあるので考えないようにしているのだが、こういった空いた時間になるとそれらが浮かび上がり、キュルケの思考はそこに流れるのだった。 「確かにギーシュの言うことにも理がある。もう一ヶ所回ったら一度戻ろう」 「あの貴族の娘っ子もそろそろ機嫌を直してるかもしれないしな」 リゾットがデルフリンガー、タバサと最後の一箇所を選び始めると、シエスタが明るい声を上げた。 「みなさーん、お食事ができましたよー!」 シエスタは、火にかけた鍋からシチューをよそって、めいめいに配り始めた。いい匂いが鼻を刺激する。 「こりゃ旨そうだ! と思ったら本当に旨いじゃないかね! 一体何の肉だい?」 ギーシュがシチューを頬張りながら呟いた。皆も口にシチューを運んで、旨い! と騒ぎ始めた。シエスタが微笑んでいった。 「オーク鬼の肉ですわ」 途端、全員シチューを吹き出した。今日の昼間、オーク鬼を倒したところなのでまさか……という気分になる。 「じょ、冗談です! 本当は野うさぎです! 罠を仕掛けて捕まえたんです!」 予想以上のリアクションにシエスタは焦って撤回する。キュルケなどは思いっきり咳き込んでいた。 「お、驚かせないでよね。でも、あなた器用ね。こうやって森にあるもので、おいしいものを作っちゃうんだから」 「田舎育ちですから。これは私の村に伝わるシチューで、ヨシェナヴェっていうんです」 シエスタは褒められたのが嬉しいのか、鍋をかき混ぜ、自分の皿にもよそいながら嬉しそうに説明する。 (ちなみに当初、シエスタは貴族の面々に遠慮して最後に一人で食事していたが、リゾットの「チームを組んで行動しているのに平民も貴族もない」という意見で、全員で食べるようになった。) 「父から作り方を教わったんです。食べられる山菜や、木の根とかを入れて、煮る。父はひいおじいちゃんから教わったそうです。私の村の名物なんですよ」 安心したのか、タバサがお代わりを要求し、シエスタはシチューをよそった。 おいしい食事を食べれば当然、みんな和む。リゾットは学院を出発してから一週間ほどたった今までの成果を振り返った。 あれからいくつかの場所を回ってみたが、いずれもハズレで、DIOの館以上の成果はなかった。 ケニー・Gを倒し、タバサが目覚めた後、館を探索したところ、黄金を始めとする大量の財宝・美術品の他に書物や電化製品、そしれそれに増して危険な品々が発見された。 財宝・美術品についてはギーシュとキュルケがしかるべきルートで換金し、書物に関しては好きなときに閲覧させてもらえるという条件で学院へ寄贈する予定だった。 美術品はいずれも地球ならば数十万から数千万ドルの値がつく品々だったが、美術品の値段は周囲の評価で決まる。 そのため、ハルケギニアでは売れないのでは、とリゾットは思ったが、キュルケに言わせるとそれならそれで売り方があるらしい。 残りの様々な物については使えそうな物、売れそうな物は持ち出し、使えそうにない物に関しては館に残した。 売却額がいくらになるか知らないが、DIOという人物は相当な資産家だったらしい。財宝だけでも大貴族が目を剥くような財産になる、とキュルケは断言していた。 (ルイズはどうしているだろうか……) 自分の恩人のことを考え、夜空を見上げる。月は変わらず二つ、そこにあった。と、そのリゾットの前に、新たな皿が出された。 見ると、シエスタが申し訳なさそうにはしばみ草のサラダが入った器をリゾットの前においている。 「ええと、ミス・タバサがどうしてもリゾットさんにこれをって……」 リゾットはタバサを見る。同志に対する親愛の視線が返ってきた。もちろん、その手にははしばみ草のサラダを持ち、黙々と食べている。 もはや抵抗する意思をなくし、リゾットは覚悟を決めてはしばみ草を食べた。 「……?」 想像した衝撃は襲ってこない。苦いことは苦いが、耐えられる苦さだった。 「シエスタ、これに何か特別の調理をしたか?」 「いいえ、何も?」 となると、考えられるのは自分がはしばみ草に慣れつつあるという可能性だけだ。人間の適応能力の高さに驚きながら、リゾットははしばみ草を食べ続けた。 食事の後、再び最後の一件を選ぶ。 「やはりここか……」 リゾットは一枚の地図を選んだ。 「なんというお宝だね?」 地図を突き出す。タルブ村の位置が示してあった。 「『竜の羽衣』だ。これで終わりにしよう」 シエスタがぎくりと身体を震わす。 「い、行くんですか? 本当に大した事ないものなんですよ?」 「何よ、貴方。知ってるの? タルブってどこらへんなの?」 キュルケの質問にキュルケは焦った声で呟いた。 「ラ・ロシェールの向こうです。広い草原があって……、私の故郷なんです」 翌朝、一向は風竜の上でシエスタの説明を受けていた。 しかしやはりどこか要領を得ない。とにかく、村の近くに寺院があり、そこに『竜の羽衣』と呼ばれるモノが存在しているという。 空を飛べるらしいが、マジックアイテムでもないインチキのものらしい。妙に恥ずかしそうなので、問いただしてみる。 「実は……、それの持ち主、私のひいおじいちゃんだったんです。ある日、ふらりと村に現れて、その『竜の羽衣』で東の地から私の村にやってきたって、皆に言ったそうです」 「すごいじゃない」 キュルケは素直に感心したようだ。シエスタは言葉を続ける。 「でも、誰も信じなかったんです。ひいおじいちゃんは、頭がおかしかったんだって、皆言ってます」 「どうして?」 「誰もその『竜の羽衣』で飛んでいるところを見たことがないんです。ひいおじいちゃんは『もう飛べない』といって住み着いちゃって。でも、大事なものだったらしくて、お金をためて貴族に『固定化』の呪文までかけてもらってました」 「変わり者だったのね。さぞかし家族は苦労したでしょうね」 「いえ、『竜の羽衣』以外ではいい人だったので、皆には好かれていたそうです」 「インチキじゃあなあ…」 ギーシュはため息をつく。だが、黙って聞いていたリゾットは、逆に『竜の羽衣』に興味が湧いた。 「俺の世界から来たものは大抵、使い方を知らなければインチキにしか見えないものばかりだ。知らべる価値はある」 「『破壊の杖』もそう」 タバサが同意する。 「問題はそれが村の名物ってことだな。仮に何かの手がかりでも、持ち出すわけにはいかない……」 リゾットの呟きに、シエスタは悩みながら答えた。 「でも……、私の家の私物みたいなものだし、リゾットさんがもし、欲しいなら、父に掛け合ってみます」 「まー、実物をみてみねーとなんともいえねーわな」 デルフリンガーが締めくくりを言って、風竜はタルブの村へと羽ばたいた。 さて、一方その頃、魔法学院。 未だにルイズは授業にも出ず、部屋、食堂、浴場、トイレの四箇所をローテーションする生活を続けていた。 リゾットがヴェストリ広場にテントを張っているとの話を聞いて訪れたが、そこはもぬけの殻だった。モンモランシーによると、リゾットはギーシュ、キュルケと授業をサボって宝探しに出かけたという。 何だか楽しそうで、余計に泣けてきた。自分は仲間はずれなのか、とますます落ち込み、今日もベッドの中で泣いていた。 リゾットが使っていた毛布を頭から被る。それを見ているとますます泣けてくるのだが、手放すこともできないのだった。 そんなある日、学院長のオスマンがルイズの部屋を訪れた。ルイズは慌ててガウンをまとい、ベッドから降りる。 オスマンは身体の具合を尋ねると、次に詔の出来具合を尋ねた。ルイズはうつむいて首を振った。 「その顔を見ると、まだのようじゃの」 「申し訳ありません」 「まだ式までは、三週間ほどある。ゆっくりと考えるがいい。そなたの大事な友達の式じゃ。念入りに、言葉を選び、祝福してあげなさい」 ルイズは頷いた。自分のことで手一杯で、詔を考えるのを忘れていたことを恥じた。 (ダメね、私。姫殿下は私との友情を思ってくださって、巫女の大役をくださったというのに……) オスマンはルイズをしばらく眺め、立ち上がった。 「ところで使い魔のリゾット君はどうしたね? ケンカでもしたのかね?」 きゅっとルイズは唇をかむ。そんなルイズを見て、オスマンは優しい微笑を浮かべた。 「若い時分は些細なことでケンカをするものじゃ。時には素直に気持ちをぶつけてもいいんじゃないかの。リゾット君は大人じゃし、聞いてくれると思うがのぅ。ともかく、ちゃんと話し合わんことには、始まらんぞ」 そういって立ち去る。ドアが閉まった後、ルイズは呟いた。 「些細なことじゃないもん」 それからルイズは机に向かって始祖の祈祷書を開き、目を閉じると詔の作成に精神を集中させる。 目を開くと、ぼやけた視界に映る白紙のページに、何か文字のようなものを見えた。驚いて目をこするともう消えていた。 気のせいかとおもって再び精神を集中する。だが、なかなか集中できない。 これじゃダメだ、とおもって祈祷書を閉じた。落ち着いて、自分の今するべきことを考える。オスマンやキュルケの言っていたことが頭の中をぐるぐると回る。自分は何をすべきか、それを考えると、リゾットと話し合うことから始めるべき気がした。 「……そうよね。今のままじゃ、私は逃げてるだけだもんね…」 何故逃げていたのか? 要するに『覚悟』がないからだ。自分の使い魔と向き合うのを恐れていたからだ。 自分の使い魔を恐れるメイジがどこにいよう? ルイズは椅子から立ち上がった。着替えて外へ向かう。自分の使い魔を追うために。 リゾットたちはタルブ村の寺院を訪れ、『竜の羽衣』を見ていた。木で出来た奇妙な寺院の中に安置された、その濃緑の塗装を施された『竜の羽衣』は『固定化』の呪文のお陰で作られたそのままの姿でそこに存在していた。 キュルケやギーシュは、気のなさそうにそれを見ていた。タバサだけは好奇心を刺激されたのか、興味深そうに見つめている。 やがてリゾットがポツリと呟いた。 「珍しいな……」 「珍しい?」 リゾットの隣にいたシエスタが不思議そうに問い返した。 「どこの博物館だったかな……? 一度見たことがある。日本がまだ帝国だった頃に作成された戦闘機だ」 「あの…リゾットさん?」 シエスタはよく分からない単語を呟くリゾットを心配そうに伺う。リゾットはシエスタを見た。 「お前の曽祖父はインチキなどではない。これは空を飛ぶ。お茶を飲んだときに話しただろう? 飛行機だ」 「アレなんですか!?」 シエスタは目を輝かせる。タバサも目を見張って驚いていた。だが、横で聞いていたギーシュは吹き出した。 「冗談は止めてくれよ、リゾット。これはカヌーか何かだろう? それに翼をくっつけただけのインチキさ。大体、こんな翼じゃ羽ばたけない。羽ばたかないで空に浮かべるもんか」 「あたしもそう思うんだけど……違うの?」 キュルケさえも否定的だった。それほどそれはハルケギニアの技術からはかけ離れていた。説明するのが難しいので、リゾットは答えない。 「シエスタ。すまないが、曽祖父の残したものは、他にないか? 日記とかは?」 「えっと、あとは大したものは……、お墓と、遺品が少しですけど」 「それを見せてくれ」 シエスタの曽祖父の墓は、村の共同墓地の一角にあった。白い石で出来た幅広の墓石の中、一つだけ黒い石で作られ、その趣を異にしている。 「ひいおじいちゃんが死ぬ前に作ったものだそうです。異国の文字でかいてあるので、誰も読めなくって…。なんて書いてあるんでしょうね」 「やはり日本式の墓だな……。生憎、日本語は読めないが、シエスタの曽祖父は日本人だったんだろう」 「相棒、日本って何だい?」 デルフリンガーが興味深げに聞いた。 「日本は…トリステインとか、ゲルマニアとか、そういうのと同じ国名だ。そういえば…」 シエスタの黒い髪と瞳をまじまじと見る。リゾットに見つめられ、シエスタは頬を染めた。 「な、何でしょうか? そんなに見つめないでください……」 「その髪と瞳の色は、曽祖父から受け継いだのか?」 「は、はい! どうしてそれを?」 再び寺院に戻り、リゾットは『竜の羽衣』に触れた。すると兵器に反応して左手の甲に刻まれたルーンが光り、中の構造や操縦法が流れ込んでくる。 『竜の羽衣』の周りを一周しながらメタリカを展開し、各機関の隅々まで潜行させる。飛ばない原因は燃料切れと判明した。 「この世界にもガソリンがあるのか…? コルベール辺りに相談してみるか……」 見ると、タバサはプロペラを杖でくるくると回していた。ギーシュは胡散臭げに『竜の羽衣』を見ている。キュルケはまた何か考え事をしていた。時折リゾットを見て、ため息を吐いている。 キュルケの様子がおかしいので話しかけようとした丁度その時、シエスタが生家から帰ってきた。 「ふわ、予定より、三週間も早く帰ってきてしまったから、皆に驚かれました」 学院勤めの平民の大半は王女の結婚祝いに特別休暇を出される予定だったことを、リゾットは思い出した。 「ひいおじいちゃんの形見、これだけだそうです」 シエスタは古ぼけたゴーグルをリゾットに手渡した。 「日記とか、あればよかったんですけど、残さなかったみたいで。ただ、父が言っていたんですけど、遺言を遺したそうです。 何でも、あの墓石の銘を読めるものが現れたら、その者に『竜の羽衣』を渡して、『竜の羽衣』を陛下にお返しして欲しい、だそうです。陛下っていうのはやっぱり、日本という国の陛下なんでしょうか?」 リゾットは頷いた。 「確か今も日本には皇帝がいたはずだ」 「そうなんですか…。ええと、実は私、お父さんにリゾットさんがひいおじいちゃんの国を知っているみたいだって言ったら、お渡ししてもいい、と言われました」 「いいのか? 俺に日本語は読めないが…」 「ええ…。その、陛下という方にお会いしたときに『竜の羽衣』をお返ししてくれるなら、構わないと思います。それに……」 シエスタは声を潜めた。 「管理も面倒だし……、大きいし、拝んでる人もいますけど、村のお荷物らしいんです」 少し考えて、リゾットは貰うことにした。これを動かせれば相当な機動力を確保できるからだ。 「分かった。ありがたく貰おう。もしも飛ばせるようになったら、一度、この村に見せに来ないとな……。お前の曽祖父の汚名を晴らすことで、恩を返すことにしよう」 「はい……。天国のひいおじいちゃんも竜の羽衣が飛ぶ姿を見れば、喜ぶと思います」 「ああ。そうだ。こいつの本当の名前を教えておこう。『ゼロ戦』だ」 「『ゼロ』? ミス・ヴァリエールと同じですね」 シエスタがそういって微笑むと、リゾットは頷いた。 「そうだな。『ゼロ』の使い魔の俺に相応しいかもしれない」 その日、リゾットたちはシエスタの生家に泊まることになった。貴族の客をお泊めすると言うので、村長までが挨拶にくる騒ぎになった。 リゾットはシエスタの家族を紹介された。父母に兄弟姉妹。八人もいる兄弟の一番上の姉がシエスタだった。 その不気味な目が恐ろしいのか、リゾットはあまり近寄られなかったが、シエスタは家族に囲まれて楽しそうだった。 その様子を眺めていて、唐突に十八のときに捨てた家族を思い出し、リゾットは戸惑った。 リゾットはゼロ戦の置かれた寺院…つまり神社の前で剣を振っていた。シエスタたち家族を見ていると、どう対処すればいいのか分からない、奇妙な感覚に襲われるからだ。 暗殺のときはこういった感傷を殺すこともできるが、今、この場で暗殺者の思考になるのは流石にためらわれた。 それでもゼロ戦の近くに来ているのは、やはり自分の世界へ戻ることを渇望しているからかもしれなかった。 どちらにせよ、剣を振るときはそれに集中し、雑念を捨てられた。 気がつくと、タバサが境内の階段に座ってこちらを見ていた。本を抱えているが、読んではいない。 「……どうした?」 剣を振りながら問いかける。タバサはしばらく沈黙を貫いた後、口を開いた。 「寂しいの?」 「!!」 リゾットは虚を突かれ、剣をとめた。 「どうしてそう思う?」 「分からない。だけど、貴方を見ていてそう思った」 リゾットは考えた。自分は寂しいのか、と。そうかもしれないが、よく分からなかった。 「よく分からない」 「そう……」 しばらく沈黙が流れる。 「……お前が俺を寂しいと感じるのは……自分自身が寂しいからか?」 「!!」 今度はタバサが虚を突かれる番だった。やはりしばらく考える。 「…よく、分からない」 「そうか……」 また沈黙が流れた。いつの間にか辺りには西日が射していた。 次に口を開いたのはタバサだった。 「貴方が私を信じるように、私も貴方を信じている。貴方は一人じゃない」 「お前も一人じゃない」 二人は同時に、お互いにしか分からないほど、かすかに笑った。 「私はもう行く。貴方に会いたい人が別にいるから…」 後半部に少し今までと違う感情を含ませ、タバサは去っていった。 見送るリゾットの後ろから、声がかかる。 「ここにいたんですか。お食事の用意ができましたよ。皆で食べましょう」 シエスタだった。家に帰ってきたせいか、いつものメイド服と違う、茶色のスカートに、木の靴、そして草色の木綿のシャツといった私服を着ていた。 「ミス・タバサを知りませんか? どこかに行っちゃって」 「いや、もう戻った…」 「そうですか。じゃあ、行きましょう」 神社からシエスタの生家へと歩いていく。途中で、一面に草原が広がっていた。夕日が草原の向こうの山に沈んでいく。 リゾットは故郷のシシリー島を思い出した。シシリー島でも海の向こうの山へ太陽が落ちていくのだ。 「……まるで草原が海みたいに見えるな」 「そういえば、リゾットさんは海の近くで生まれたんですよね」 リゾットが頷くと、シエスタは草原に向かって両手を広げた。沈む夕日が辺りを幻想的に染め上げる。 「この草原、とっても綺麗でしょう? 私、小さい頃から好きなんです」 「そうだな……」 シエスタは両手を広げたまま、草原の中へ分け入っていく。くるくると回ったかと思うと、草原の中に倒れ、見えなくなった。 「おい…?」 声をかけるが、返事がない。仕方なく、リゾットもシエスタが消えた辺りに分け入って行く。と、手をつかまれた。リゾットもそれがシエスタだと分かっているので、掴ませてやる。 「捕まえた……」 シエスタにいつもの純粋な笑みを浮かべられ、リゾットはどうしていいか分からなくなった。特に今日はその度合いが大きかった。 しばらくそのまま、シエスタはリゾットの手を握っていた。だが、やがて離す。その顔は寂しげに曇っていた。 「なんて…ね。無理ですよね。リゾットさんは私なんかじゃ捕まえられません。どうしても、元の世界へ帰るつもりなんでしょう?」 「ああ……」 リゾットは頷いた。 「帰って、何をするんですか? 誰か、待っている人でもいるんですか?」 リゾットはどう答えようか迷った。いつものように拒絶で返すことも出来る。だが、シエスタは真剣に、彼女なりに『覚悟』を決めて訊いている。だからリゾットも答えることにした。 「いない…。家族とは皆、別れた。仲間たちは皆、死んだ」 「それなら、どうして帰るんですか? ずっとこの世界にいても…」 「仲間はただ死んだんじゃない。裏切られて、殺された」 シエスタを怯えさせないように、なるべく感情を込めず、平坦に言う。それでもシエスタはびっくりしたようだった。 「だから俺は裏切った奴に復讐しなければならない。殺された仲間はそうなることも『覚悟』して戦った。だから、これは敵討ちじゃない。俺自身の納得の問題なんだ。 『恩には恩を、仇には仇を』。恩を受けたら必ず返すように、俺たちの『誇り』と『信頼』を踏み躙った奴に、俺は報いを受けさせなければならない。そうしなくては次に進めない。 少なくとも今、俺はそう思ってる」 「……それでリゾットさんは幸せになれるんですか?」 気がつくと、シエスタは涙を流していた。それを見てもリゾットは淡々と答える。 「俺は幸せという結果を求めてはいない。納得のいく、俺の中の真実を求めているだけだ。その真実を、俺はまだ見つけてはいない」 「分かりました……」 シエスタは涙をぬぐった。 「じゃあ、待ってます。貴方が真実を見つけるまで。その真実が、帰らなくてもいいっていう結論であることも、あるんですよね? なら、私はそれを待ちます。私は何の取り柄もないけど、待つことは出来ます」 「待っても、期待に答えられるかどうかは、分からない」 「いいんです。勝手に待つだけですから。でも、偶にでいいから、少しは私を見てください。一緒にお茶を飲んだり、一緒に働いたりしてください。それだけでいいんです」 「分かった……」 シエスタが歩き出す。リゾットはその後について歩いた。暗い気分だった。仕事以外で他人に涙など流させたくはない。 不意に、シエスタが振り向いた。もう涙を流してもいない。それどころか微笑んでいた。 「さっき、伝書フクロウが学院から届いたんです。サボりまくったものだから、先生方はカンカンだそうですよ? ミスタ・グラモンは顔を真っ青にしてました」 クスクスと笑う。だが、その内側がまるで戻ったわけではないのはリゾットには分かる。他人の感情を察せると言うのも問題だ、とリゾットは思った。 「あ、そうそう。私のことも書いてありました。学院に戻らず、そのまま休暇をとっていいですって。そろそろ、姫様の結婚式ですから。だから、休暇が終わるまで、私はここに居ます」 リゾットは頷いた。 「ねえ、リゾットさん。あのゼロ戦、もしも飛ばすことが出来たら、一度でいいから、私も乗せてくださいね」 「…ああ。もちろんだ」 翌朝、リゾットたちはゼロ戦をロープで作った巨大な網に乗せた。ギーシュの父のコネで、竜騎士隊とドラゴンを借り受け、それで学院までゼロ戦を運ぶことになった。 ギーシュは「どうしてこんなものを運ぶんだ?」と怪訝な顔をしていたが、リゾットの頼みについに折れた。竜騎士隊を呼んだり、網を作ったりの諸経費がかかったが、DIOの財宝を売った金からすればそんなものは何の問題にもならないという。 事件は、学院への帰途で起きた。 「…………?」 シルフィードの上のリゾットは左目に違和感があることに気がついた。しきりに目を擦るが、違和感は取れない。 「どうしたの、ダーリン?」 「左目がおかしい…。目が霞む」 「疲れてるんじゃないか? 君はいつも一番負担がかかるところで戦ってたしな。疲れて当然だよ」 「寝る?」 仲間が心配そうに声を掛けてくる。大したことはない、と言おうと思った途端、左目が像を結ぶ。 「!?」 どこかの森の中だった。オーク鬼が見える。この視点を持つ人間は必死に逃げている。オーク鬼の向こうに、倒れた馬と、廃墟らしき礼拝堂が見えた。 「何だ…、これは?」 「ちょっと、ダーリン。どうしたの?」 キュルケが焦ったようにリゾットの肩をゆする。 「ルイズの視界か?」 『使い魔は主人の目となり、耳となる』という言葉を思い出し、呟いた。だが、これでは逆だ。 「おい、相棒、左手を見ろ!」 デルフリンガーの声に右目の視界を落とすと、左手のルーンが武器を握ってもいないのに光り輝いてた。 だが、そんなことは問題ではなかった。今、問題なのは、この視界の持ち主であるルイズがオーク鬼に襲われているということだ。 辺りを見回すと、森の木の陰にまぎれて見えにくいが、打ち捨てられたらしき礼拝堂が見えた。 「タバサ、あの礼拝堂の門から50メイルほど離れた場所の上を飛んでくれ」 タバサは理由も聞かずに頷いた。リゾットがそうしろというのだから何か理由がある、と信じた上での行動だった。 その上にシルフィードが到達する。 「レビテーションを!」 叫ぶと同時に、リゾットはデルフリンガーを抜き、シルフィードから飛び降りた。 「ちょっと、ダーリン!?」 キュルケは慌ててレビテーションをかけながら、リゾットを見送った。 ルイズは逃げていた。 厨房のマルトーからどうやらリゾットたちがタルブ村に回るつもりらしいと聞き出し(マルトーは貴族嫌いだったが、ルイズの真剣な様子に渋々教えた)、タルブ村へと馬で駆けた。 だが、ちょっと近道をしようと思って普通の人間が通らない封鎖された道を通ったのが運の尽きだった。 捨てられたその開拓村は、オーク鬼の住処になっていたのだ。 オーク鬼は身の丈2メイルほどもあり、体重は標準の人間の優に五倍はある。突き出た鼻を持つ顔は豚そっくりで、二本足で立つ豚、という表現がしっくり来る姿をしていた。 数はおおよそ十数匹もおり、人間の子供が大好物というこの怪物は、自分から飛び込んできたこの餌に狂喜して襲い掛かった。 それでもルイズは杖を振って爆発を起こし、何匹かのオーク鬼に軽くない怪我を負わせた。 だが、多勢に無勢、逃げるしかなくなり、追い詰められていった。 ルイズとオーク鬼では体力が段違いの上、歩幅にも相当の開きがある。あっという間に追いつかれた。 「……な、何よ。あんたたち! 無礼よ! さっさと私に道をあけなさい!」 精一杯の虚勢を張るが、オーク鬼はにやにやと笑うだけである。 「この…っ! 道をあけないと…!」 杖を振り上げる。オーク鬼たちは少しひるんだようだが、自分たちの多勢を信じ、すぐに持ち直した。 獲物をなぶるように、一匹のオーク鬼が前に出、振られようとするルイズの杖を弾き飛ばした。その衝撃でルイズは転んでしまう。 ルイズは自分の死が避けられないことを感じた。恐怖が心の奥から湧いてくる。だが、それでも立ち上がった。杖はもう飛んでいってしまったため、両手に石を持って立ち上がる。 「私に触るな! 汚らわしいオーク鬼め!」 こんな連中に流す涙などない。自分は貴族なのだ。フーケにもワルドにも決して屈さなかった自分が、この程度の敵にどうして屈することができよう。その矜持がルイズを支えた。 だが、身体はどうしようもなく震える。知らず、自分の使い魔の名を呼んでいた。 「リゾット……」 来ないことは分かっている。だが、その名前はルイズの身体から勇気を呼び起こしてくれる気がした。 「リゾット…!」 再び名を呼び、石を握りなおす。オーク鬼たちはそんなルイズを眺めるのに飽きたのか、巨大な棍棒を振り上げた。ルイズも石を振り上げた。 「(リゾット、ごめん……)」 最後に心の中で謝罪した。石が届くより早く、棍棒はルイズの頭を砕く。それがはっきり分かった。だが、現実はそうならなかった。 オーク鬼が悲鳴を上げると、背中から無数のナイフを吹き出した。そのナイフは後ろに控えていたオーク鬼たちの顔面に突き刺さり、オーク鬼は次々と倒れていく。ルイズの眼前のオークもナイフに引っ張られるように仰向けに倒れた。 戸惑うオーク鬼たちの真ん中に、黒い影が落ち、光が一閃した。その一撃で、オーク鬼たちは首をはね飛ばされ、地面に倒れていく。 黒い影は攻撃の手を休めず、残ったオーク鬼を切り裂いていき、ものの十数秒で残らず倒してしまった。 「ルイズ、呼んだか?」 黒い影がルイズの前で止まり、名を呼ぶ。リゾットだった。いつもと同じ、何事もないかのような無表情だった。 その顔に安心すると同時にそんな自分が憎らしく、駆けつけてくれたことに喜ぶと同時に今まで不在だったことが腹立たしく。 緊張が解け、とにかくいろんな感情が吹き出たことで、ルイズは泣き出した。しゃくりあげながら、目頭から真珠のような大粒の涙をボロボロとこぼし、泣いた。 「一週間以上も、どこ行ってたのよ! もう、馬鹿使い魔! 馬鹿リゾット! 馬鹿イカ墨!」 「すまない……」 「宝探しとかいって、ご主人様に無断で行くんじゃないわよ!」 「……クビじゃなかったのか?」 「使い魔をクビにできる主人がいるわけないでしょ! 使い魔が主人を変えることも出来ないのと同じよ! もう、馬鹿! あんたが悪くないことくらい、私だって分かってるわよ。あんたと違って馬鹿じゃないんだから!」 理論は滅茶苦茶で筋も何もないが、とにかくこうなってしまえばルイズの方が強い。何しろリゾットは恩を返す身であり、基本的にルイズには下手に出ざるを得ないのだから。 そこに、シルフィードに乗ったキュルケたちが追いついてきた。 ギーシュは泣いているルイズと、それを見ているリゾットを見て、にやにや笑いを浮かべた。 「きみ、ご主人様を泣かせたら、いかんのじゃないかね?」 キュルケは複雑そうな顔をしていた。ルイズが元に戻るのは嬉しいのだが、リゾットがまたルイズにかかりっきりになってしまうと思うと実に寂しい。 (まあ、でも、とりあえずはいいか。ルイズがあのままじゃ、私も色々つまらないし) こう思ってしまう辺りが、キュルケの人の好い所である。 タバサは首をかしげ、不思議そうな顔をしていた。でもとりあえず、二人を指差して思いついた言葉を言っておく。 「雨降って地固まる」 三者三様の視線を送られながら、ルイズは大いに泣き続けた。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2014.html
トリステイン王宮と同じ月の光がトリステイン魔法学院を照らしているころ。 学院の図書室では、露伴がマンガを製作していた。 図書室は吹き抜けのある二階建ての本棚がある巨大な部屋で、まさにトリステインの未来の頭脳を養うにふさわしい威容を示している。 本の収蔵量は、トリスタニアにある王立アカデミー図書館に次いで国内第二の収蔵量を誇る。 その奥の一角、個人勉強部屋。 本来なら貴族しか入室が許されないのだが、岸辺露伴にとって、そのような規則を守る必要性などまったく感じ合わせてはいない。 そうしてすっかり個室の常連となった岸辺露伴とタバサが、同じ机で顔を突き合わせて、なにか真剣な会話を交わしていた。 その机には、白地に黒い線が縦横に丹精に描かれている紙が置かれている。 露伴の生原稿だ。 よく見ると、軍服を着た男性が四コマ枠ぶち抜きで、大げさに帽子をかぶりなおしている姿が描かれている。 原稿は完成寸前だが、フキダシのせりふ部分がまったくの空白になっている。 岸辺露伴は少し考え事をした後、その原稿の白い部分を指し示しながら、上機嫌そうに静かに話し出した。 「ここは、『我が国の魔法技術は世界最高峰に達している。不可能な事は無いと断言して良いだろう』ってな感じで」 「この軍人メイジの狂気を垣間見せるような?」 タバサの返答に対し、露伴がうれしそうにうなずいている。 「そうそう。欲をを言えば、彼の熱狂的な愛国心も表したいな」 タバサは首を左二十度にかしげて考えた後、原稿を見据えたままポツリとつぶやいた。 「なら、『ゲルマニアの魔法技術は世界一ィィィィイイ! できんことはないイイィーーーーーーーッ!!』というのは?」 タバサの表情はあくまでも無表情だ。右手に持った羽ペンも、原稿を抑えている左手もも微動だにしていない。 だが、露伴は彼女の語彙の感性に共感していた。 「うん、いいね。それでいこう」 タバサにとっては、読書以外にもうひとつの趣味を見出していた。 露伴のアシスタントとして、彼のマンガのセリフを入れる事だ。 露伴にとって、ハルケギニアの文字はコルベール先生に教わっているので、ある程度の読み書きができる。 だが、教えられる語彙に偏りがありすぎるために、学術的な表現は相当なレベルに達しているものの、マンガのセリフなどの細かい言い回しなどは、まだまだ苦手なのだ。 なので、マンガらしい、口語的でわかりやすい口調はタバサが考えたほうが良い状況が続いている。 そのとき、不意に図書館の個人勉強室のドアがノックされた。 誰だろう? 普通の学生ならば、露伴には怖がって近づかないはず…… そう思いながら、タバサはドアを開けようと立ち上がったが、それよりも早く、一人の少女が部屋のドアを開け、二人だけの空間に闖入して来ていた。 「あのぉ……露伴さん? 失礼します」 そういいながら、部屋におずおずと入ってきたのは、黒髪がきれいなメイドだった。 「どうした? シエスタ?」 露伴は疑問を感じながら、部屋に入ってきた少女に向き直った。 「この図書館は貴族以外入れない場所なんだぞ? それは知っているはずだろう。 こんな奥まで来て、見つかったらどうするんだ?」 そのせりふはそっくりそのまま露伴にも向けられるべき言葉であったが、それはご愛嬌である。 「知合い?」 傍らにいたタバサがつぶやく。その表情は無表情そのものといっても良かった。が、かなり長い時間を図書室で付き合った岸辺露伴には、彼女の紙一重な表情の変化を読み取ることができた。 (タバサはなぜか不機嫌そうだ) 「そうだ。タバサも食堂で何度か会っただろう? この学院の厨房で働いている、シエスタだ」 「貴族の皆さんは、目立たない私のことなんかいちいち覚えていませんですよね」 そのメイドは、少しだけ残念そうに、タバサにたいしてお辞儀をした。 シエスタのしぐさに、タバサは少しばかり罪悪感を感じた。 「ミス・タバサ、御無礼を失礼いたします。私はミスタ・露伴に話があってきたのですが……」 「かまわない。私のことは気にしなくていい」 タバサはそういいながら、手近な本を取り出し、読み始めることにした。 だが、聞き耳を立てながら。 彼女の知らない間に、岸辺露伴はどのような人間関係を築いているのだろうか? トリステインの人間は、たいてい露伴のことを、『ロゥアン』と呼ぶ。 そのほうが呼びやすいし、彼の名前のスペルから読むと、まずそのような呼び方になってしまうのだ。 だが、このメイドの少女は。トリステイン人にも関わらず、彼のことを見事に『ロハン』と言ってのけた。 それだけ長い時間、露伴と過ごしてきたのだろう。 タバサは、本を読むふりをしながら、露伴と少女の会話を盗み見ることにした。 シエスタは学院の厨房にいるはず。ただそれだけで、ああも露伴とうまが合うようになるだろうか? あの、人嫌いの露伴が? 気になる…… ……ちょっとだけ……あくまで、ほんの少し。 タバサの視界に、露伴に近寄っていくシエスタの姿が映った。 「で、用ってのは?」 露伴がシエスタに椅子を勧めながら話しかけている。 「今月出版された、露伴さんの『ピンクダークの少年』のことなんですけど……」 シエスタは緊張しながらも、ようやく話の本題に入っていた。 だが、タバサという貴族がいるためか、露伴に進められた椅子は丁寧に断り、立ったまま話している。 その状態のまま、露伴のそばに立ち、彼の前の机に、彼女が持ち込んだ漫画、『ピンクダークの少年』を開いた。 そして、シエスタ自身は露伴の肩越しに屈み込み、とあるページを指し示している。 「これなんですけど……」 タバサが本のページをめくる。 (なんというか、近い…………私になく、シエスタにあるものが……) パラッ。 (露伴の顔に……はっきり言ってしまえば…………胸的なものが……) パラッ。 パラッ。パラッパラッパラッパラッ。 そのとき、タバサは不意に自分の方向を見た露伴を目が合ってしまい、胸が高まってしまった。 このドギマギは断じて恋心ではない。 タバサは思わず、露伴の視線を避けてしまった。目を中空に泳がせている。 「あのさ、タバサ。君は本を上下を逆に読むのがすきなのかい?」 「……勘違い。なんでもない」 タバサの頭から蒸気があがる。彼女の顔は見事に茹で上がった。できたてほっかほかである。 彼女は手に持った本を上下にひっくり返し、顔全体を埋めるかのように、本を目線の近くに持ち上げた。 露伴は、タバサがそんなに本を近くに寄せて文字を読んでいることを見たことがないので、おかしいと思った。 いつもは、もう少し離れて読んでいた気がする。 第一あの距離では、ろくに本を読めないんじゃないか? まるで顔を隠しているようだ。 「タバサ、そんなに本が近いと、目を悪くするぞ」 露伴にしては珍しい、他人に対する気遣いは、顔を真っ赤にしたタバサに拒絶された。 タバサが手に持った本のせいで、露伴には彼女の顔色の変化がわからない。 「…………関係ない」 「まあ、いいか」 きょとんとした表情のシエスタと露伴が、改めて会話を再開した。 「この道具、『ヒコウキ』でしたっけ? アレとほとんど同じものが、私の故郷、タルブ村に祭られているんです」 「……詳しく話を聞かせてもらおうじゃあないか」 「私のひいおじいちゃんが持っていたものなんですけど……なんでも、ひいおじいちゃんはその『竜の羽衣』にのって、東の空からやってきたって言うんです。でも、村の人は誰一人信じなくて……露伴さんのマンガを見るまでは、私もあんまり信じていませんでした。でも、露伴さんのかいた『飛行機』が、その竜の羽衣にそっくりなんです」 「その『竜の羽衣』とやらはまだ村にあるのかい? あるのならぜひ見てみたい。君に案内してほしいな」 「はい、ひいおじいちゃんが高いお金を払って『固定化』の魔法をかけてもらっていましたから竜の羽衣は綺麗なままで私の村にあります……私は、露伴さんに『竜の羽衣』を見てほしいんです。そして、ひいおじいちゃんが言っていたのが本当のことなのかどうか、ぜひ確かめてほしいんです!」 そのとき、一人の教師が息も荒々しく、彼らの元に走りよってきた。 シエスタは凍りついた。 同時に、いくら興奮していたとはいえ、貴族しか入れない図書室に侵入してしまったことを後悔した。 彼女の中で、ひそやかに心で描きつつあった将来の夢が、見る見るうちに悪い方向へと偏向されていく。 (怒られる! いえ、それで済めば儲け物だわ。 悪ければ奉公を辞めさせられるかもしれない! そのような失態で辞めさせられた暁には、故郷のタルブ村にもいられないわ。 きっと故郷からも追い出されてしまうでしょう! そして私は当てもなく世界中をさまようの。 そのあげく、わけもわからない異世界の村に流れ着いて、 『あうあう』とか『なのです』とか言い続ける毎日をおくる羽目になってしまうのよ!) シエスタの脳内が大変なことになってることなどお構いなしに、走り寄ってきた教師、ミスタ・コルベールは露伴に向けて鼻息も荒々しく、たたきつけるように情熱と疑問を投げかけた。 「ミスタ・ロハン! 今月出版された君のマンガ。その中に出た『空飛ぶ機械』のことなのだがね!」 そういいながら、彼は手に持った大きな包みをテーブルの上に乗せ、開けていった。 なかには、何か機械のような、おもちゃのような、珍妙なものだ。 露伴はあわてて原稿を片付けながら、不機嫌そうにコルベールを見やった。 だが、それも一瞬のこと、露伴は彼の持ってきた包みの中をみて、とても驚いた。 「そ、それの動力機構は……」 シエスタもそれを見たが、何がなんだかわからない。 タバサも本を読むのをやめ、コルベールの持ってきた『物』を盗み見た。 それは、精巧な歯車がいくつも重なり合って作られており、上部に一つあけられた穴から、コルベールの杖が刺さっていた。そして、なぜか、上部から不細工な蛇の人形が頭を覗かせている。 「とりあえずこれを見てください、ミスタ・ロハン! まだ試作途中なのですが……」 コルベールはそういい、その『物』に突き刺さった杖をつかみ、発火の魔法を唱え始めた。 発火の魔法と同時に、その物の蛇の人形が上下に動き始める。 「これは、油を気化させたものを、『発火』の魔法で爆発的に燃焼させるのです。それでできた上下運動を、この部分で、上部の蛇君が上下するようにしているのです。私が平民の皆さんでも自由に使えるような動力を考えているものなのですが……」 「すごいぞ、君。『エンジン』の原型だな、これは。コルベール、君はなかなかの天才じゃあないか」 露伴が感心したようにうなずいた。しかし、シエスタとタバサには、この『物』の、いったい何がすごいのかまったくわからない。 「それでですぞ、ミスタ・ロハン! あの、君がマンガの中で描いた、『空飛ぶ機械』の推力は、ひょっとして、このような機構を用いているのではないのですか? 君のマンガの中では、『空飛ぶ機械』は平民が操作していた。やはり、君の『空飛ぶ機械』は、平民でも使えるものなんでしょうか?」 「あ、ああ。アレは僕のいた世界感を描いたものだ。だから、あの機械も実在する。そして、コルベール。君の言うとおり、あの飛行機はエンジンという内燃機関を使用した推進機械だ。君のそれを高度に発達させたものだね」 「おお! 貴族だけではなく、万人に使いこなせるような技術が君の世界には充満しているのだね!」 コルベールは目を輝かせて露伴の両手を握り締めた。 そういいながら、コルベールの精神は自分の世界に入りつつあった。 露伴が、思い切り引いている事実にはこれっぽっちも気づけていない。 「私は常々思っていたのだよ。このハルケギニアの世界では、『火』は破壊と情熱、混沌の代名詞だ。 だが、それだけではあまりにも虚しい。 私は『火』系統のメイジとして、『火』系統にも何か創造的な役割も持っているはずだ、何か持ちたいと考えているのだ。君の世界では私の理想が実現しているようだ。なんとすばらしい! 私も一度君のいた世界にいって、それらのものを実際にこの目で見てみたいよ!」 露伴の目がきらりと光る。 「実物が見られるかもしれないぞ?」 「なんですと!」 「なんでも、このメイド、シエスタの故郷には飛行機に非常によく似たものがあるらしい。ひょっとすると、そいつは僕と同じく、何らかの方法で、僕の世界から召喚されたものかも知れない。そいつは僕も興味がある。どうだ? 僕達と行ってみないか?」 「そうなんですか! では、ぜひご一緒しましょう! ミス・シエスタ、案内をお願いします! ミスタ・マルトーには私から言っておきます」 「ええ?」 目を白黒させるシエスタとは逆に、タバサはこの勢いのあるやり取りを見つめていた。 「なんだい? タバサ。君も行きたいのかい?」 タバサは露伴に向かってこくりとうなずいたが、コルベールは無情にもそれを拒否した。 「だめです、ミス・タバサ。今回の探索行は何週間もかかるかもしれない。君の飛行機に対する好奇心は、私個人としてはとてもうれしいと思います。だが、私は教師として、学生の君にそんな長期な休みを取らせるわけにはいきません」 シエスタが、素っ頓狂な声を出して会話に割り込む。 「そ、そんなに私の村にいるつもりなんですかぁ~?」 「いいじゃないか、シエスタ。里帰りだと思えば」 タバサは、コルベールが優しく、だが真剣な眼差しでそう諭すので、仕方なく学院に留守番することにした。 でも。 今夜は、人に変化させたシルフィードと、はしばみ茶で(強制的に)飲み明かそう。 タバサは心の奥でそう決意した。 そのとき、学院の広場で一匹の青い竜が身を震わせていた。 ビクッ!!! 「きゅい!」 「もぐもぐ、もぐぐもぐ?」 (どしたさー、シルねえ?) 「きゅい、きゅいきゅいきゅい!」 (今、背中をものすごい悪寒がよぎったのだわ!) 「もぐぐ! もぐぐぐぐぐ。もぐもぐもぐぐもぐ」 (そりゃいけねーさ! この学院に、俺っち達、竜族の風邪を治せる人間なんてあまりいないさ。シルねえは今日は早めに寝るといいさー) ========⇒ To Be Continued...
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1154.html
グゥゥゥゥ~~ッ 大きな音を立ててギアッチョの腹が鳴る。 「チッ・・・」 何も食べずに食堂を飛び出してきたのだ。腹が減るのは当たり前で ある。他に食うものがないというのなら、彼もあれを食べる事に抵抗は ない。しかし、あれがルイズ―主から出されたものだというのなら、 例え飢え死にしようが絶対に!口をつけるわけにはいかない。 ギアッチョはそう決意していた。 「しょぉぉおがねーなぁぁあ」 ギアッチョの口からは無意識に戦友の口癖が飛び出していた。実際の ところ問題は切実である。早いところ安定した食糧確保の方法を 考えなければ飢え死には免れない。 ――貴族のガキ共から日替わりでメシを奪うか? と思ったが、食堂には入りたくないし、毎日そんなことを続けていれば 間違いなく問題が起こる。 「プロシュートの野郎ならよォォーー 今ここで奴らを皆殺しにしそうな もんだが」 自分以上にキレっぱやいものはいないということに気付いていない ギアッチョである。 「あ、あのー・・・」 ギアッチョの後ろで声がした。 「ああ?」 色んな要因でかなり気が立っているギアッチョは、気だるげな声を 上げて肩越しに後ろを見た。 そこにいたのはメイド服を着た黒髪の少女だった。 「何か・・・用か?このオレによォォ~~~」 「す・・・すいません その・・・失礼かとは思ったのですが 食堂での お二人のお話を聞かせていただきました」 ――大人しそうなツラしやがってよォォーーー 堂々と盗み聞きって ワケかァァ~~? ギアッチョが発する殺気の量が更に上昇する。それに気付いたのか、 少女は慌てて本題を口にした。 「そっ、それでですね!あの、よろしければ厨房に来ませんか?賄い食 ですが料理をお出しします」 「・・・・・・」 ギアッチョは少女に向き直ると、その眼を覗き込む。少女はちょっと 驚いたようだったが・・・瞳に嘘は感じられなかった。 「・・・いいだろう 世話にならせてもらうぜ」 罠ではなさそうだ。ギアッチョは素直に好意に預かることにした。 「・・・こいつはうめぇな」 「貴族の方々にお出しする料理の余りで作ったシチューなんですが、お口に 合われたならよかったです」 「ああ マジによォォ~ 助かったぜ ルイズのヤローに出されたエサは ブチ割っちまったからな・・・」 「凄い握力なんですねギアッチョさんって・・・ 私ビックリしました」 どうやら、シエスタにはトレイ自体は見えていなかったらしい。単純にトレイを握り つぶしたのだと思っているようだった。 「ところでよォォーー 何故オレを助けた?」 ギアッチョにはそこが解らなかった。ルイズの物言いから察するに、ここでは 貴族と平民には絶対的な上下関係がある。今オレを助けたことで貴族――ルイズの 恨みを買う危険性もあったはずだ。するとメイドの少女――シエスタと名乗った―― はニコリと笑って言った。 「ギアッチョさんは平民でしょう?平民が平民を見捨てるような時代になってしまえば、 私達はおしまいです。貴族の圧政に耐えるためには、私達平民は常に団結して いなければならないんです」 ――何も考えてない小娘かと思ってたがよォォー・・・ ギアッチョは少し感心した。 「それに・・・ 貴族にあんなに堂々と逆らう人なんて初めて見たんです それが その・・・なんていうか 格好よくて」 シエスタは少し照れたように眼を伏せる。こう言われてはギアッチョも悪い気はしない。 「なるほどな・・・気に入ったぜェーーシエスタ! 改めて自己紹介するがよォォー オレの名はギアッチョだ ここに来るまでは、遠いところで暗殺稼業をやってたッ 気に入らねえ奴がいるならよォォ~~ いつでも暗殺してやるぜ」 「暗殺・・・!?ギアッチョさんて 殺し屋さんだったんですか!?」 普通なら、ここで殺人者に対する拒絶が心の中に芽生えるであろう。しかし シエスタは、というよりシエスタ達は違った。純粋に「凄い」と思ったッ! だって平民である。単なる平民がそんな凄まじい技量を持っている!シエスタと 話を聞いていた厨房の平民達は、そんな男が自分達の仲間であることに「誇り」と 「勇気」を感じた!! 「『我らの剣』ッ!オレぁおめーが気にいったぜ!!おら!こんな余りモンで よかったらいくらでもおかわりしてくんなッ!!」 マルトーというらしい四十がらみのコック長がガシッとギアッチョの肩を抱く。 厨房は一転熱気に包まれた。当のギアッチョはというと、これがまんざらでもない ようだった。ギアッチョが生きていた頃は、チーム以外の人間と親しくするなど ありえないことだった。知っての通りリゾットチームは暗殺を生業にしていたが、 その報酬だけでは毎月生きていくこともかなわなかった。ギアッチョを含めて メンバーはそれぞれが色んな表の仕事を転々として何とか糊口をしのいでいた のだが、彼らは暗殺に対する報復などに四六時中警戒しなければならない身で ある。敵の刺客はどこに潜んでいるか分からない。仕事仲間にさえも気を許す ことは出来なかった。彼らが心を許せる相手は、リゾットチームの仲間のみ だったのである。 ――ここは・・・違う ここではギアッチョはただの平民だ。暗殺者という職業、ボスへの反逆者という 立場、命を狙われる身という立場・・・、ここではその全てがリセットされている 事にギアッチョは気付いた。今、ギアッチョは真っ白だった。―もし。もし永遠に イタリアへ帰れないのなら。ここでの行動全てが――トリステインの平民としての ギアッチョの境遇を決することになる。それを理解したギアッチョは、自分が 突然何も無い宇宙の真ん中に放り出されたような眩暈を感じていた。 ――どォォォすりゃいいんだよッ!!!クソッ!!! ギアッチョは――自分がどうするべきなのか解らなくなってしまった。昨日、 ルイズはギアッチョを元の世界に帰す方法について、「私は知らない」ととても 悲しげな声で答えた。その声はまるで、そんな例は古今東西ありえないとでも 言外に告げているかのようにギアッチョに聞えた。 ――どォすりゃあいいんだッ!!ええッ!?教えてくれよッ!!リゾット!! プロシュート!!メローネ!!ホルマジオ!!イルーゾォ!!ソルベ!! ジェラート!!ペッシッ!!ええおいッ!!答えてくれよッ!!! ギアッチョがいくら問いかけても――彼らは答えてはくれなかった。 ギアッチョが心中凄まじい葛藤をしていたその頃、シエスタはルイズによって 厨房の外に呼び出されていた。 「・・・あ、あの・・・何の御用でしょうか・・・ミス・ヴァリエール・・・」 ギアッチョを厨房に招いていることは、ルイズにはとっくに気付かれていた ようだった。ルイズはうつむいたままシエスタに言う。 「・・・これからも あいつに料理を出してやってくれないかしら」 「えっ!?」 シエスタは驚いた。そもそもギアッチョ用にあの貧相極まる食事を出させた のはルイズなのだ。まさかギアッチョの剣幕に怯えたわけでもあるまい・・・ シエスタは内心首をかしげながらも、 「・・・分かりました、ミス・ヴァリエール。ご用命とあらば、喜んでお世話を させていただきます」 と答えた。ルイズは「よろしくお願いするわ」とだけ答えると、返事を待たず 歩き出した。ルイズは見ていた。厨房の窓から、馬鹿騒ぎする料理人達と その輪の中心にいるギアッチョを。 ――あいつの居場所は・・・私の隣じゃない ルイズは悲しげにそう呟いてその場を後にした。 ←To Be Continued?
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1183.html
「ねえ、ちょっと聞きたいんだけど…洗濯ってどこでやればいいの?」 「はい?」 ~奇妙なルイズ 空条徐倫の場合~ シエスタはテーブルクロスを両手で抱えながら、先ほど声をかけてきた女性『空条徐倫』と一緒に洗濯場へと歩いていた。 「ルイズ様が平民を呼び出してしまったと、厨房でも噂になっていましたよ」 「あー、そうなの?」 徐倫は苦笑いしながら、このハルケギニアに召喚された瞬間を思い返した。 『来いッ!プッチ神父!』 加速し続ける時間の中で、父も、友も、自分に求婚してきた男も、皆バラバラに切り裂かれて散っていった。 自分自身の体からも血が流れ出て、体が冷たくなっていくのが分かる。 エンポリオ少年に最後の望みを託し、ほんの一瞬、時間が加速し尽くす直前に、千分の一秒だけでも時間稼ぎをすべく、空条徐倫はプッチ神父の前に立ちはだかった。 そして無惨にも五体をバラバラに切り裂かれ、意識が虚空に消えていったのだ。 (目が覚めたらファンタジーの世界?何の冗談?それとも夢?) 今自分が生きていることに感謝すればいいのか、それとも取り残されたエンポリオを心配すべきなのか。 徐倫の思考は、召喚されてからずっとループし続けていた。 「…夢じゃないのね」 「え?」 「あ。何でもないわよ、こっちの話」 徐倫が空を見上げる、その仕草を見て察したのか、シエスタは話を変えることにした。 「トリスティンは自然に溢れていて、住みよい所ですよ」 「ありがと、確かに空気は美味しいわね」 昨日ルイズから聞いた話では、元の世界に返す魔法なんて存在しないし、使い魔を呼び出すゲートを開く『サモン・サーヴァント』は使い魔が死ななければ唱えられないと言う。 ちょっとだけふて腐れていた徐倫は、シエスタの言葉を短く返した。 徐倫が慣れない洗濯をしている頃、ルイズはキュルケ達と共に授業を受けていた。 疾風のギトーが、相変わらず『風の魔法こそが最強である』と、慢心に満ちた講義をしている。 そこでルイズが手を挙げて質問した。 「先生、質問があります」 「なんだね…君が質問とは珍しいな、まあいい、言ってみたまえ」 「エア・ニードルとエア・カッターでは、どちらが強力なんですか?」 ギトーは、思いがけない質問に数秒ほど考え込むが、生徒達に言い聞かせるように答えた。 「面白い質問だ、いいかね、両方とも風の刃であることには違いないが…」 呪文を詠唱し、小さなつむじ風でノートのページを何枚か宙に浮かせる。 「エア・カッターは風の刃だ、目に見えぬ鋭い刃が、広い範囲に展開される」 ギトーの前後左右にばらまかれたノートがの紙が、空中で切り裂かれる。 「エア・ニードルは密度の高い風の刃を作り、我々メイジの杖を、名だたる魔剣よりも鋭い刃とする」 ギトーは宙に舞う紙切れに杖を当てる、すると紙切れはバリバリッと音を立て、跡形もなく散った。 「このように、どちらが強力か議論しても意味はない、使いどころが違うのだ」 何人かの生徒は納得したように頷くが、ルイズは更に質問した。 「…では、エア・カッターで起こした竜巻に、エア・ニードルを付加することは考えられますか?」 そう言われてギトーは言葉に詰まる。発想はともかく、そんなシチュエーションはなかなか考えられないからだ。 「考え方は悪くはないが、効率が悪い、水の魔法を重ねたウインドウ・アイシクルの方が効率は良いな」 「そうですか…ありがとうございます」 「どこからそんな発想が出てきたのだね?」 「いえ、ちょっと思いついただけです」 「ユニークな使い方を思いつくのは結構だが、その前に魔法を使えるようになって欲しいものだな」 ギトーの言葉に苦笑いするルイズ、魔法云々は仕方がないとしても、まさか魔法衛士隊の隊長に殺されそうになりましたとは言えない。 (スタープラチナはエア・カッターでは傷つかないけど、エア・ニードルなら傷つく…)ルイズ苦笑いしつつも、自分の『スタープラチナ』の能力を分析していた。 しばらくすると授業終了の鐘が鳴り、本日の授業が終わった。 「ルイズ、あんた明日はどうするの」 キュルケが声をかける、明日といえば虚無の曜日だ。 「明日?」 「あんたの使い魔、服とか買ってあげなきゃいけないんでしょ?」 「あ、そっか」 「それにしてもルイズには驚かされるわ、やっと召喚したと思ったら平民を召喚するなんて、始祖ブリミルもビックリよ!」 「うっさいわね!」 思わず声を荒げるルイズ。 やっとの事で召喚したのが平民、しかも女性。 中庭で召喚してしまったため当日のうちに全校生徒に知られてしまった。 しかも、コルベール先生も召喚の瞬間を目撃していたので、言い逃れも出来なかった。 コントラクト・サーヴァントを余儀なくされ、ファーストキスは同姓に…思い出す度にブルーになる。 「怒らないでよ、明日はタバサが町に用事があるって言うから、シルフィードに乗せて貰いましょ」 ルイズは悩んだ、シルフィードに乗せて貰うのは嬉しい、しかし他人の使い魔に乗せて貰うのは癪だ。 メイジの実力を見るには使い魔を見ろと言われるが、平民を召喚した自分と、風竜を呼び出したタバサの実力差を見せつけられてしまう。 と、考えたところで、タバサの用事というのが気になった。 タバサは読書の虫と言われる程、読書が好きで本を手放さない、休日は部屋に引きこもって印象がある。 「タバサの用事って何かしら」 「入荷日って言ってたけど」 「何の?」 「さあ」 明日になれば分かるだろうと、キュルケが話を切り上げて食堂に向かった。 ルイズは徐倫を呼びに部屋に戻ると、徐倫が取り込んだ洗濯物を畳んでいるところだった。 「徐倫!夕食の時間よ、あんたも食堂までついて来なさい」 やれやれと言いたげな表情で、徐倫がルイズの後をついて行く。 ルイズ達が食堂に着くと、奥の給仕口からシエスタが顔を出すのが見えた。 「ルイズ様、徐倫様の分もお食事を準備させて頂きますが、皆様と同じものでよろしいのでしょうか」 シエスタに徐倫を紹介しようとしたところで、逆にシエスタから声をかけられ、ルイズは驚いた。 「あー、悪いけどこんな豪勢なの食べられないわ、厨房でまかないの料理でも分けて貰える?」 「それでよろしいんですか?では徐倫様、こちらへどうぞ」 「ありがと、あ、さっきも言ったけど徐倫で良いわよ、様なんて付けられるのは苦手なの」 シエスタと徐倫が普通に会話しているのを見て拍子抜けするルイズ、そこで思わず徐倫の肩を掴んでしまった。 「ちょっ、ちょっと待ちなさい、何私を置いて話を進めてるのよ、って言うか何でシエスタが徐倫の事知ってるの?」 昨日と今朝は厨房から分けて貰ったパン(日持ちする固い奴)を徐倫に渡しただけで、徐倫を食堂には連れて行っていない、シエスタとは面識がないはずだ。 「洗濯場はどこかと聞かれたんです」 シエスタが笑顔で言う。 「あ、そ、そうなの、それじゃ徐倫はまかないを分けて貰いなさいよ」 「そうさせて貰うわ」 ルイズの想像では ルイズ『使い魔とはいえ人間に餌を食わせるわけにはいかないわ、一人分の料理を追加して頂戴』 徐倫『ルイズ…田舎から出てきた私をそこまで気遣ってくれるの?』 シエスタ『わあ、ルイズ様は貴族の鏡でいらっしゃいます!』 …と、なるはずだったのだ。 「ではルイズ様、食事が終わる頃、こちらに徐倫様をお連れします」 有能かつ気の利くご主人ざまを演出しようと、穴だらけの計略を用いたルイズは、肩を落としてため息をつきつつ、手招きするキュルケの元へと歩いていった。 「ルイズ様…疲れてるんでしょうか…」 「くだらないことでも考えてたんじゃないの」 「まあ」 シエスタは、徐倫のぶっきらぼうな態度に驚いた。 閑話休題。 食事を終えると、徐倫がシエスタに連れられてルイズの元へとやってくる。 ルイズの近くに座っているのは、キュルケ、タバサ、ギーシュ、モンモランシー、平たく言えばいつものメンバーだ。 「やあ凛々しいお嬢さん、ルイズに召喚されたとは災難だね」 「災難よ」 徐倫はギーシュの言葉に素っ気ない返事を返した、ルイズはそれが気に入らないのか、少し唇を尖らせると。 「あんたねえ、使い魔なんだからもうちょっと使い魔らしい事言いなさいよ、例えば…」 「『ゼロのルイズに召喚されて光栄です』」 「そうそう、ゼロの…ってちょっと待ちなさいよ今言ったの誰!?」 どこからか聞こえてきた声が、自分を侮辱する内容だったので、ルイズは立ち上がって周囲を見た。 別のグループがルイズ達を嘲笑の目で見ながら、食堂を出て行った。 おそらく彼らが言ったのだろう。 「…あー、そういえば聞きたかったんだけど、さっきから何度か『ゼロの使い魔』って言われるのよね、ゼロって何?あだ名?」 徐倫の何気ない質問に全員が固まる、ルイズは一瞬の硬直の後、ハァーとため息をついた。 「ま、ここで話すのもなんだから、皆でルイズの部屋に行きましょう、アフターディナーティーも悪くないわ」 キュルケが提案すると、ルイズ以外の皆が頷いた。 「ちょっと待ちなさいよ、なんで私の部屋なの」 「だって貴方、授業に出てたんだから、その使い魔さんにトリスティンのことを何も教えてないでしょ?」 「そりゃそうだけど…」 ワゴンを押して食器を片づけていたシエスタが「後ほどお菓子をお持ちします」と言ったのをきっかけに、皆はルイズの部屋へと歩き始めた。。 途中、空に見える二つの月を見て、徐倫は考える。 プッチ神父はどうなったのだろうか、この世界は神父が望んだ世界なのか? エンポリオは?アナスイは?エルメェスは?そして…父は… 「徐倫、何してるの、行くわよ」 「はいはい、ご主人様」 考えても仕方がない。今はとにかくこの世界の情報収集に努めようと頭を切り換えて、徐倫はルイズの後をついて行った。 目次
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/2693.html
前ページ次ページとある魔術の使い魔と主 「あなたの名前はなんて呼べばいいのかな?」 暗かった道は、朝日が差し込んで次第に明るくなる。その朝日が二つの人影をぼんやりと映し出す。 このような時間に歩き以外の移動手段を持たないのは、端から見れば家出コンビだと思わせる二人はしかし、この国の住人ではない。 安全ピンを体中に纏わせてる白いシスターと、ワイシャツと黒ズボンを身につけた、いたってシンプルな学生少年。 そう、この世界に紛れ込んだ上条当麻という少年を、元の世界に戻すために送られた魔術師達。 インデックスと土御門元春だ。 二人は真っ直ぐに伸びている道を黙々と歩いていたのだが、堪らずインデックスが声をかけた。 「ん? 好きに呼んでいいんぜよ」 名称など今更どうでもいいと言えるが故、土御門は素っ気なく答えた。 「じゃあとうまのことをとうまと呼んでるから、もとはるでいいのかな?」 あぁ、と土御門はインデックスの提案に頷く。 話の流れが止まり、再び沈黙が支配する。このような明朝から話す内容など限られているからだ。 彼らはこの世界にたどり着いてからまだ半日と経っていない。 二人は、タルブ村のとある戦闘機の前から侵入することになった。 世界と世界とを繋ぐゲートには、元々こちら側にある物が関わってくる。もっとも、どうやってその戦闘機が移動したかを考えると埒があかないので、詮索しないことにした。 時刻は深夜ぐらいだろうか?。周りは物の輪郭がうっすら見える程度の暗さであり、寝静まっている。 土御門は、ここで上条当麻の情報収集をしたとしても、あまり効果的ではないと判断した。そのため、早々にこの村から去り、より大きな町を目指して道のりを歩き始めたのだ。 タルブ村がそのとある少年と深い係わり合いがあることを知らないまま……。 互いに「必要悪の教会」に所属している二人。直接出会ったことは今までないが、ある程度の事はそれなりに知っているようだった。 故に、今更詳しい自己紹介とかをする必要性はない。 短い会話のキャッチボールを終えた二人は、足をただ進める。もとより体力はある二人。通常よりやや早い速度で歩いていても、疲れを見せる様子はない。 そんな中、土御門は考えていた。 一体アレイスターが何を考えて当麻をこちらの世界へ呼んだのかと。 そんな中、インデックスは考えていた。 当麻はまた新たな女の子をいちゃいちゃしているのではないかと。 両者は自分の世界に閉じこもりながら、 目の前の地平線から新しい町が見えてきた。 「これがトウマさんの世界の服装なんですか?」 くるっ、とシエスタは体を一回転する。その際ふわっ、とスカートが宙に浮かぶ。 ズバッ、と頬を赤く染めた当麻は首をすばやく横に動かした。 「あぁ、き、気に入ってくれたか?」 「はい! こんな素敵なお洋服……ありがとうございます!」 当麻は以前貰ったマフラーのお礼としてセーラー服をプレゼントすることにした。 とある少年とは違い、当麻はギリギリラインではなく、むしろゆったりとした感じな服装をチョイスした。 ただ、夏という事もあり、胴の丈はちらりとおへそが見えるか見えないか辺りで切る事にした。ただ、スカートは膝上数センチと、少し長めだ。 必死にシエスタから裁縫を習った当麻の傑作品とも呼べる代物である。 日本人寄りのシエスタにはやはりと言うべきか、とてもよく似合う。やはり制服は女性の可愛さを引き出す必須アイテムだと当麻は感じた。 もちろん、シエスタが下着を身につけていないのは知らない。 「これでわたしにも属性っていうのがついたのかな……?」 シエスタの顔が赤く染まり、手をもじもじとしてるその言葉に、当麻は面食らったかのように目を丸くする。 「えと……何をおっしゃっているのですかシエスタさん……?」 「わたし聞いたのですよ、義姉義妹義母義娘双子未亡人先輩後輩同級生女教師幼なじみお嬢様金髪黒髪茶髪銀髪赤髪青髪 魔乳怪乳爆乳巨乳豊乳貧乳微乳無乳虚乳ロングヘアセミロングショートヘアボブ縦ロールストレートツインテールポニーテールお下げ三つ編み二つ縛りウェーブくせっ毛アホ毛 制服保母さん看護婦さんメイドさんシスターさん軍人さん秘書さん踊り娘ロリツンデレヤンデレおしとやか一途ドジッ娘 白ゴス黒ゴス病弱アルビノ電波系妄想癖二重人格女王様お姫様キャミソールガーターベルト男装の麗人メガネ目隠し盲目眼帯包帯エルフハーフエルフ吸血鬼 とかそういう属性があるんですよね?」 「あのー……、それは誰から聞いたのでしょうか?」 思わず聞き返してしまった。まさかこのようなところでも、ジャパニーズ文化が浸透しているのだろうか? いや、そんな事はありえないとわかっていても、なぜかそう思える所がこの世界の不思議な部分だ。 「えと……ローラとドミニックですけど?」 あいつらか、と当麻はあらぬことをシエスタに吹き込んだ二人に対して怒りのオーラが沸いてくる。 二人は、以前とある騒動で知り合いとなった金髪とオレンジ髪のメイドさんであった。 というか、そんなことまで知っている彼女らに対して日本人ではないかという錯覚を覚えてしまう程。 それだけ彼女らには親近感というのが感じられた。 「それでその……わ、わたしはどんな属性なのですかね?」 そんな事を考えているとは知らないシエスタがさらに質問を重ねる。 「……はい?」 当麻は返答に困った。 本人の目の前で、さすがに属性について自分の思っていることを言うのは失礼だとはわかっている。しかし、上目遣いでキラキラ輝かせるとなるとこのまま黙っているのもいかがなものかと思ってしまう。 えぇい、どうする俺!? と究極の選択に悩んでいた当麻であったが、 不意に、後ろから飛び蹴りが襲いかかった。 ドゴッ! という鈍い音と共に壁際まで追いやられる当麻。キャッ、と短い悲鳴をあげたシエスタがその足の持ち主へと視線を向ける。 「ああああんたは~、ななななにご主人様の存在をカンッペキに無視して、メメメイドといいいいいちゃいちゃしてるのかしら?」 こめかみをひくひくと動かしているルイズが、ずかずかと当麻へと近寄る。 「いや、別にいちゃいちゃなど断じてこの上条当麻は――」 「なんか言ったかしら?」 必死に説得を試みようとしたが、ギロリと睨まれただけでハハーッ、と土下座モードに入る。 その突き出た背中に、ルイズは足を乗っける。 「あんたは、いつからそんな頭が高くなったのかしら!?」 隣で「ラ・ヴァリエール嬢! 落ち着いてください!」と腕にしがみつくシエスタをうっとうしいと感じたのか、ルイズは彼女を薙ぎ払う。 「だいたいあんたもそうよ! 一体何のためにここにきたのよ!」 ルイズに指摘されて、シエスタは「あ」と気付いたようだった。 「へぇ~、中世ヨーロッパな外見なんだね」 タルブから一番近い町、ラ・ロシェールに着いたインデックスは、同行者の土御門元春の周りをうろちょろしながら観光者気分を味わう。 「俺らとそんな変わらないんぜよ、もっと異世界人なのを予想したんだけどにゃー」 異世界、と言っても自分達とは大差がない。普通の人間ばかりで、自分達と違う点を挙げるのが難しいくらいだ。 時刻も朝が過ぎて、そこそこ賑わいだす時刻。新しい世界という事もあり、インデックスはさらに見るもの全てに目を輝かして眺める。 この点に関しては、上条当麻を捜す時は便利である。 訪ねたらいきなり拳が飛んできたりとか、出会った瞬間襲われるそうなイメージはない。むしろ友好的に手伝ってくれそうである。 しかし、 決定的な問題点があった。 「wカラtgd」 「トイミgm6qアルマ」 すなわち言語だ。 当然のように、彼らが話している言葉は土御門には理解できない。それこそ、宇宙人が話しているようにも感じられる。 このような事態に陥る事は、容易に想像できた。しかし、指摘されたアレイスターは「問題ない」の一言で済ましたのだ。 あの世界最高の科学者であり、世界最強の魔術師である人間が問題ないと言ったので、気にしない事にしたのだが……。 (チッ……アレイスターは一体何を考えているんだ?) まさか魂のボディランゲージ一つでこの世界にいる上条当麻を捜すなど不可能に近い。 まずは他人とのコミュニケーションが一番。そうでなくては話にならない。 どのような思惑があるのかを考えながら、彼は町の中を突き進む。 「4ajチマヤmwtbf」 「あ、あれ一体なんなのかな?」 「シュチpuh58ox」 ぴたっ、と土御門の足が止まった。 今の会話の流れで、明らかおかしい言葉が混じっていた。 ――すなわち、日本語だ。 「にゃぁぁぁぁぁああああああ!」 ズバッ! と振り返り、絶叫する土御門に周りの視線が一斉に集まる。 といっても、そちらに気をかける余裕はない。 「異世界式迷子は自力で救わないと次のイベントに進めないというオチかにゃー!?」 たびたび言うが、ここではコミュニケーションをとれる手段が魂のボディランゲージしかない。 あなたはそれだけで白いシスターを探しています。一体どこにいるのでしょうか。と聞けますか? 「無理ぜよ!」 ウガー、と両手で頭を抱えて悩み出す。 あのインデックスの事だ。ここで待っていればきっと戻ってくるはずだと脳は答えを導いたのだが、 なぜか早く見つけないととんでもない事になってしまうと体が訴えてくる。 周りの人が思わず近寄って『大丈夫ですか?』と聞こうした瞬間、 土御門はガバッ! と起き上がり、辺りを見渡す。 「確かあいつは何か興味をそそるような物を見つけたはずなんぜい!」 この一見特に変わったものがない普通の町。ならばインデックスが興味津々に足を向けてしまうような物は、土御門自身も気付くはずだ。 ぐるりと体を一回転してそれらしい場所を探す。 「あったにゃー!」 ビシッ、と土御門が指した先には、空を飛んでいる飛行船が今まさに降りようとしていた。 「で、あんたはこいつと一緒にタルブの村で夏休みを過ごしたい。そういうわけ?」 なぜか当麻と一緒に土下座の態勢でいるシエスタ。繰り返し言うが、スカートの中身はもちろん何もない。 「えっと……まぁ簡潔に言うのならー……」 「却下」 ビシッ! といつの間にか手にしている鞭をシエスタの目の前の床にたたき付ける。 たいていの人間――しかも平民であるから今の威嚇で反論の一つも出てこないのが普通だ。 しかし、今日のシエスタは違う。 当麻からプレゼントを貰い、後押しされた恋する乙女に階級の差など関係ない。 シエスタは敵対する貴族に肩を震わせながらも必死に言葉を紡ぐ。 「ト、トウマさんだって人間です! いつまでも使い魔の仕事をやらせるのはあんまりだと思います!」 もっともな反論なのだが、今のルイズはそのような事では納得してくれない。 「なによ! 使い魔の仕事は使い魔にとって本望なのよ! それなのにトウマが嫌がるわけないじゃない!」 「それはルイズさんの勘違いです! ……へぇ、それならトウマさん本人に聞きましょうか?」 「うっ……いいじゃないの! さぁ、早く答えなさい!」 「トウマさん、もちろんわたしと一緒にタルブ村に行きたいんですよね?」 「あー、えっとー……」 二人の視線が自分に集中し、思わず口を濁す。 正直以前もこんな事あったよなー、と思いながらどうやらどちらかを選ばなければならないようだ。 その時だ。 タバサが、窓から颯爽とルイズの部屋に侵入してきた。 「あータバサってうぉあ!?」 暢気に返事をしようと思った矢先、突然腕を引っ張られる。 「きて」 小さくぽつりとタバサは呟く。 その華奢な体からは想像できない力で当麻は腕を引っ張られる。 侵入した窓から再び外へと出て、待機しているシルフィードの背中にうまく乗ると、 「少しばかり、借りてく」 という言葉を残し、そのまま去って行った。 突然の出来事に、ポカンという擬音が似合うような格好でルイズとシエスタは口を開いている。 窓から出発したシルフィードはもう小さな点になっている。とてもじゃないが、今更呼び戻すのは不可能だ。 そして、入れ違いに一匹のフクロウが同じく窓から侵入してきた。そしてルイズの肩に乗ると、お届け物の合図として頭を突く。 「イタッ……、もうなんなのよ……!」 混乱していたその頭を突かれてルイズは不快感をあらわにする。 まさに電光石火の早業――という程のものではないが、こちらの言い分を聞かないまま人の使い魔を借りていく行為に関しては納得がいかない。 嫌々フクロウが口に加えている小さな書簡を取ると、それを眺める。 最初はあまり興味のなさそうにしていたが、そこに押された花押を見て、態度を一変、真剣な眼差しへと変えた。 「ルイズさん……?」 思わずシエスタが聞き返す。当麻の事などもうどうでもいいような態度に、事の重要性を感じた。 「ねえ」 「なんですか……?」 読み終えたルイズがシエスタに声をかける。一体何事かと、シエスタは思わず恐る恐るな思いで聞き返してしまった。 「あなた、これから暇?」 「え? 私は実家に帰るつもりですけど……」 「そう、だったらお願いするわ。できれば一緒に来てくれるかしら?」 何処へですか? と聞くシエスタに、ルイズはアンリエッタから貰った手紙を差し出した。 「ゼー、ハー……インデックス……悪いが俺の目から離れないでくれ……」 「見て見てもとはるー、でっかい飛行船があるんだよ! てか凄いでっかい樹! イグドラシルといい勝負かも!」 疲労感に襲われて、肩を上下に動かしながら叱ろうとしたが、目をキラキラ輝かせているインデックスの耳には入らない。 ここは港町と呼ばれているラ・ロシェールの核といってもおかしくない場所、飛行船場だ。 巨大な樹が四方八方に枝を伸ばして、そこに幾多の飛行船がぶら下がっていた。 そのうちの一つの飛行船の前に二人は立っていた。 インデックスは土御門のワイシャツをぐいぐい引っ張って、彼の視線を船体へと向けさせる。 「あれはガリア王国行きらしいんだよー」 そういって指差すインデックスに、土御門は「は?」と目を丸くする。 「インデックス……お前、読めるのか?」 「うん、魔導書はもともと異世界のルールについて書かれた物だからね。たまたま運がよかったのかな? この世界の字で書かれた魔導書があるんだよ」 ご丁寧に翻訳つきでね、と付け加える。 インデックスには瞬間記憶能力というスキルがある。それにより、彼女の頭には十万三千冊という莫大な量の魔導書を抱えているのであった。 (だとしても……) おかしい。 わざわざこちらの世界の言語を使うのはおかしい。いや、そもそも使える上に翻訳してしまうのがおかしいのだ。 これがアレイスターが大丈夫だと言った理由なのだろうか? 土御門はインデックスから情報を引き出そうとする。 「なぁ、その魔導書は一体誰が書いたんだ?」 「ん? スタウリー・クローレイア。私が生まれた後に出来た魔導書なんだよ? 地球では使えない内容ばっかりだったけどね」 聞き慣れた事のない魔術師。そんな名も知らぬ魔術師が書いた魔導書をなぜインデックスが覚えているのだとアレイスターが知っているのだろうか? (いや、それとも……) 別の可能性を見出だす土御門。どっちみち考えても答えは見つからない。 とりあえず、この件に関しては保留にしても問題ない。王国、と言う限りには相当大きい場所である。ここに滞在するよりもヒントが見つかるかもしれない。 「王国ということは相当でかい場所なんだにゃー。ちょいと無賃乗船さして貰うんぜい」 「おー!」 罪の意識など感じない二人は、出発の準備をしている飛行船にこっそりと乗船するのであった。 前ページ次ページとある魔術の使い魔と主