約 1,871,345 件
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/521.html
ディアボロがシエスタに案内されたのは、食堂の裏にある厨房だった。 コックやメイド達が忙しそうに働く様はディアボロがレクイエムをくらう前に居た世界とあまり変わりはない。 コック長のマルトーに会うと、ディアボロとシエスタは事の次第を説明した。 厨房の隅で待っているディアボロに、シエスタはシチューを持ってきてくれた。 「貴族の方々にお出しする料理の余り物で作ったシチューですが……」 「ありがとう」 こっちに来て初めてのんびりできたディアボロ。 初めての精神休息。が、彼はあまりそれを必要だと感じ無い そしてシチューを一秒で平らげるディアボロ。 その姿を目を丸くして見ているシエスタとマルトー、あまりの早食いに驚いたようだ。 「美味いな…あのシェフの料理を思い出す」 「ディアボロさんは他の国からいらしたんですか?」 「……遠い所からな、いきなり召喚されただけだ」 「大変ですね……ここはどうですか?いい国ですよね?」 「まだ外に出た事が無いから何とも言えないが……すまない、もう十杯ぐらいお代わりを貰えるか?」 「ええ、いいですよ。でもどうしてご飯抜きにされちゃったんですか?」 「……ちょっと、機嫌が悪かっただけだろうな」 「それは災難ですわね」 「つまり、お前さんはその貴族の機嫌が悪いってだけで、食事を抜かれることになっちまったわけか!?」 「アレが悪いわけでもないが………」 「け! 勝手に人を使い魔にしやがった癖に何が罰だ! 魔法を使えるだけで偉いと思ってんのかあいつ等!」 シエスタとマルトーかなりディアボロに同情したようだった。 特にマルトーは大の貴族嫌いらしく、まだ怒りが覚めやらぬ様子だ。 シエスタとマルトーは可哀想な人を見る目でディアボロを見つめた。 又しても一秒で食べ終えたディアボロは、空になった皿をシエスタに返して二人に礼を言った。 「美味かった……ありがとう」 「それは良かったです。お腹が空いたら又来てください。 賄い食で良かったら、何時でもお出ししますから」 「ふむ…それはありがたい。だが、タダで食事をもらうわけにもいかない。 私に何か出来ることは無いか?」 取り敢えず、良い人っぷりを二人にアピールするために手伝いを願い出すディアボロ。 「良いって良いって!たくさん作るんだから、今更一人くらい増えたって大したこたない!」 そのマルトーの言葉に彼は首を振った。 (こう言う古い人間は、こうすれば好意を抱くはずだ) 計算高いディアボロ、かなりの策士である。 「融通の効かん奴だな。まあ、悪くはない」 マルトーは呆れながらもディアボロに好感を抱いたようだった。 正にディアボロの計算通りである。 「でしたら、デザートを運ぶのを手伝ってくれませんか?」 シエスタが提案する。 それにディアボロは頷きかけたが、重大な事に気付いた。 (アイテムが一杯で持てんな……差し障りの無い物だけここに置いて行くか) どうせ、誰も盗らないだろうと思うが念には念を入れるディアボロ。 「これを預かってもらえないだろうか?私の大切な物なのだ」 気付かれない様、装備している攻撃用に差込んでいたのDISCを一枚抜いて、マルトーに渡した。 「おう任せな!お前さんの物をギろうとする不届き者が居たら、包丁で成敗してやるよ!」 そのセリフにあるシェフから石鹸で撲殺された記憶を思いだしディアボロは苦笑いした そんなこんなで、ディアボロは今。 片手にデザートの並んだ銀のトレイを持ち、食堂に出ていた。 使用人の制服を薦められたが、ディアボロは着なかった、あの格好に何かの拘りがあるらしい。 デザートを貴族達に配るシエスタに付いて回る間、ディアボロは貴族達から視線を向けられていた。 「何であの平民の変態が居るんだ?」 「平民の変態の考える事なんて俺達には分からないよ」 「それも…そうかぁ?」 そして、ディアボロが配っている途中。 金髪で造花の薔薇をシャツに刺した気障ったらしい貴族が居た。 (髪を三連コロネにすれば、あの裏切り者に少し似るな) などと、ぼんやりと考えるディアボロ。 その似非ジョルノは周りの友人達と一緒に、誰と付き合っているか、という他愛も無い話に熱中している。 (子供の関心は、場所が違ってもあまり変わらないようだな) などと、相変わらずぼんやりと考えながらもディアボロはデザートを配る。 シエスタとディアボロがその集団に近づいて行くと、件の似非ジョルノのポケットから何かが転がり出た。 (小瓶か?) 拾おうとしたが、今のディアボロはデザートの並んだトレイを持っているので、アイテムが一杯!それ以上は持てない。 そのまま放置してディアボロはデザートを配り終えようとしたが。 似非ジョルノの周りの友人達が目敏く小瓶に気づいた。 「おやおや!?それはもしや!モンモランシーの作った香水じゃないかギーシュ!?」 「おお!そうだな友人よ!この特徴的な色合いは間違いない!彼女が専用に調合した香水だ!」 「つまり!つまり!ギーシュはモンモンと付き合っているのか!」 「いやいや!違うぞ友人よ!今ギーシュは下級生のケティと付き合っているはずだ!」 「違う違う!!黙れ!静かにしろ喋らないでくれ!」 似非ジョルノ…ギーシュと言う名前らしい。が、慌てて友人達の口を塞ごうとしたその時。 近くの席から茶色のマントをつけた少女が立ち上がり、ギーシュの席にやってきた。 青ざめながら振り向くギーシュ。 「ケ、ケ、ケティ。これ、これは違うんだ」 ケティと呼んだ少女は無表情で、弁解をしようとしたギーシュの頬を思いっきり殴った。 続いて巻き毛の少女がそれに続く、その少女をディアボロは憶えていた。 使い魔がカラフルな蛙だったのが印象に残っていたのだ。 (何時か、あの蛙を食べてみたいものだ……) と、考えているディアボロの視線の先で、消去法でモンモランシーと言う名前だろうその少女が。 「この嘘吐き!とっとと自殺して地獄に落ちてちょうだい!」 極めつけの絶縁宣言をして去っていく。 食堂に沈黙が流れた。 だが、ディアボロは何事もなかったようにデザートを配っている 「どうしてくれるんだ!? 君のせいで二人のレディの名誉に傷がついた!」 いきなりの罵声が聞こえた。 何事かと視線を声のした方に向けるディアボロ 「すみません!すみません!貴族様お許しください!」 「すみませんですんだら、貴族は要らないんだよ!」 何故かギーシュがシエスタに突っ掛かっている。 (どういうことだ?) 分けの判らない行動にディアボロは一瞬唖然としたが。 すぐに気を取り直して。 (面白い事になりそうだな) 取り敢えず、事の推移を見守る事にした。 怒るギーシュと、謝るシエスタ。 「メイドなんだから、気を効かせて拾ってくれても良いだろう!」 「ごめんなさい…貴族様」 何となしに騒動を見ているディアボロは理解した (つまり、強引に責任転嫁していると言う事か) 冷めた目でそれを見守るディアボロ。 自分の言葉で自身の感情をヒートアップさせているのか、どんどん言葉の調子が跳ね上がって行くギーシュ それに対して、シエスタは半泣きを通り越して、マジ泣きに入りそうであった そして、ギーシュが薔薇の造花の杖を出し構えた。 メイジが杖を出す時は魔法を使う時―――ディアボロは授業でそれを知った。 シエスタも知っていたのだろう、そして、これから自分に何をされるかという事も同時に知る事ができた。 その場で蹲り両手で頭を押さえるシエスタ。 この騒ぎに他の生徒達も集まっていたようだ。 しかし、誰もギーシュのアホな行為を止めようとしない、可哀相なシエスタを助けようともしない。 むしろ見世物を笑いながら見物しているような者達が大多数を占めている。 (私には関係無い、が……恩を売っておくのも良いな) 放置しようと一瞬思ったディアボロだが。 暴虐な貴族の手からシエスタを助ければ、厨房の奴等からかなりの好印象を受けるだろうと打算する。 更に、貴族嫌いのマルトーからは英雄扱いされて毎日豪勢な食事ができるはずだと確信している。 ディアボロはその思考をさっそく行動に移した。 シエスタは泣いていた。 少しだけ視線を上げたが、ギーシュが杖を振り上げていたのを見て再度目を閉じる だが、いくら時間が経っても何も起きない。 恐る恐るシエスタが目を開けると―――― 「そこで止めておけ」 「『ゼロ』のルイズが召喚した平民の変態君じゃないか……邪魔しないでくれたまえ!」 シエスタを守る形でギーシュの前に立つディアボロ 「メイドの泣く姿は、平民の変態君には刺激が強すぎのかい?」 嘲笑を浮かべるギーシュ。 それに対してもディアボロは涼しい顔をしている。 「ふん……便器に吐き出されたタンカスが喚くな。見苦しいぞ?」 その言葉に一瞬でプッツンきたギーシュ。 「いいだろう……いいだろう!まずは君に礼儀を教えてあげた方が良い様だッ!」 そのギーシュの言葉にディアボロは。 ギーシュがディアボロに向けた以上の物凄い嘲りの笑みを浮かべる。 「ククク……笑わせるな。タンカス以下のカスが、私にどんな礼儀を教えると言うんだ?」 「グヌヌヌヌ…!『決闘』だッ!ヴェストリ広場で待っている!準備ができたら来たまえ!逃げるなよ!」 そう言い残したギーシュと友人とその他大勢は大股で食堂を出て、広場の方向へ歩いて行った。 「あ、ありがとうございますディアボロさん!」 喜びの表情を浮かべるシエスタ。 だが、瞬時にさっきよりも暗い表情に切り替わる。 「ですが…関係の無い貴方に迷惑をかけられません……私が行って何とかしてきます」 悲壮な決意を浮かべるシエスタの肩に、優しく言い聞かせるように手を置くディアボロ。 これも吊橋効果を狙ったディアボロの計算である 「お前も災難だったな……それに無関係では無いぞ?あのカスはこの私と決闘したがっている。」 「でも!メイジと決闘をしたら死んじゃいますよ!?」 「何とかなる…心配はするな」 そう短く言い残すと、ディアボロは残された料理を平らげて(その間10秒)食堂を出て行った 朝のハミパDISC発動で学園の地図は頭に入っているディアボロ。彼の足に迷いは無かった。 <<前話 目次 次話>>
https://w.atwiki.jp/familiar/pages/3778.html
864 名前:出会い系は何が起きるかわかりません[sage] 投稿日:2006/08/16(水) 17 22 17 ID xSYTdP6R 今日もトリステイン魔法学院には授業の終わりを告げるベルが鳴り響いた。 「あー、ようやく授業が終わったぁー」 その音で目を覚ました才人は、席を立って思いっきり背伸び、次にあくびをした。 横でルイズが何か言いたそうに拳を握り締めているが気にしない。 授業中に他の女子生徒のスカートを覗こうとして股間を蹴り上げられたことはあっても、なぜだか眠って蹴り上げられたことは無い。 「まったく、あんたときたら」 ルイズは文句を言いたくてたまらなかった。しかしそれでは使い魔を人間だと認めることになってしまう。 ぶつぶついいながら立ち上がると外へ出るためにドアへと歩き出す。 「へいへい」 才人はまぶたをこすりながら悪びれた様子も無く後ろからついていった。 「おーいルイズ、部屋こっちだぞ」 教室から出たところでいつもとは逆のほうへと進み始めるルイズに才人は言った。 「知ってるわよ」 「じゃあどうして、そっち行くんだよ」 ルイズは止まって振り返る。 「うっさいわね、オスマン氏に校長室に来るように呼ばれてるのよ」 「なんで?」 「知らないわよ!」 才人はしばらく考え込んだ。 そして何かにひらめいたようでにやけ顔になる。 「ルイズ、何を破壊したんだ?」 「はぁ?」 ルイズは意味がわからなかったらしく聞き返してくる。 「どういう意味よ」 「いやっほら、お前の魔法、ぷっ、くくく」 「だから何よ!」 ルイズの顔がみるみる険しくなっていく。 「だからさぁ、お前の魔法でなんか壊したんだろ?」 「なんで、私が!」 ルイズの怒りの声も調子に乗っている才人にはまったく聞こえていない。 「たとえばコルベール先生のかつらとか、ぶあっはっはっは!」 自分で言った冗談で才人は腹を抱えて笑い出した、だめなやつである。 「こ、このバカ犬、ご、ごごご主人様になんて、なんてこと言うのかしら」 「まずい!」 言い過ぎたことにさすがに気づいた才人は逃げ出した。 「こらっ! 待ちなさい!」 なんとか振り切ったのだが、遠ざかるルイズからひとつの言葉が耳に届いた。 「晩御飯抜きーーー!」 865 名前:出会い系は何が起きるかわかりません[sage] 投稿日:2006/08/16(水) 17 23 18 ID xSYTdP6R 「ちぇ、ルイズのやつ、あんなに怒らなくてもいいのにな」 プライドだけは妙に高いからな、まったく愛想笑もできねぇのか。 別にあれだけばか笑いされたらルイズじゃなくても普通は耐えられないだろう。 ひとまず才人は部屋に戻ってきていた。 晩御飯のことは別に食堂に行って施しを受ければいいので大して気にしてなかった。 別にルイズがいないのだからイスにでも座ればいいのに寝る場所でもある藁束の上に座り込む。 すっかり使い魔としての生活が身にしみてしまっているようだ。 「あーあ、ひまだなぁ」 ぼーっと窓の外を眺める。 使い魔として与えられた仕事はいろいろある。 主な大きな仕事を言えば掃除は授業前に終わらせてしまう。洗濯は夜、風呂に入った後の残り湯で行う。 なのでこの時間は特にやることは無い、使い魔としての一日の生活では少ない自由時間であった。 「おもしろいことねぇかなー」 才人は何気なく部屋を見まわしてみた。 ベッドにテーブル、鏡台、特に目新しいものはない。 「んっ?」 目線がタンスで止まる。 「あれは」 見覚えがあるものをタンスの上に発見した。 「そういえば一緒に飛ばされてきたんだった」 才人はタンスの上にあるノートパソコンを取った。 「すっかり忘れてた」 ひとまず床に置いて懐かしむように眺める。 少し前、運命の分岐点ともいえる時が思い出される。 「たしか修理に出したのをとりに行って」 うんうん、と首を縦に振る。 「その帰りに変な光についさわっちまったんだよな」 そのゲートこそ使い魔を召喚するゲートだったのである。 あのときほど自分の強い好奇心を呪ったことは無いだろう。 ただそのおかげで充実した時間を過ごせているので満足はしていた。 才人はノートパソコンを開いた。 そして何を思ったのか電源を入れるスイッチを押した。 画面にWindowsのロゴが映しだされる。 「あれ? まだ電源つくのか」 念のためにバッテリー残量を表すランプに目をやる。 ランプは何事も無く光を放っている。 「バッテリーってこんなに持ったっけ?」 才人は首をかしげる。 「エネルギーってのはほっといても消費するよな」 わかるはずも無い疑問に頭をひねってみるがすぐにやめた。 ノートパソコンからたちあがったことを知らせる合図が鳴り響いた。 それを聞いた才人はとりあえずカーソルを動かし始めた。しかしどこをクリックすればいいのかわからない。 「つけたのはいいけど何見りゃいいんだ」 とりあえず記憶の断片を探ってみる。 ソリティア、ハーツなどの備え付けのゲームを最初に思い出したが今更、という感じがするので却下。 次にワードやエクセルを思い出す。打ち込む内容がないので却下。 そして一番使用時間が多いであろうインターネットを思い出す。 「あっ!」 かなり重大なことが頭の中をよぎる。 「そうだ、出会い系に登録したんだった!」 メールがきてるかもしれない、そう考えるとルンルン気分になった。 ネットにつなぐ環境が整っていないのに返事がくるはずもない、そんなこともわからないのであった。 メールをチェックするためにアウトルックをダブルクリック、ウインドウが開かれるとすばらしい光景が目に入った。 866 名前:出会い系は何が起きるかわかりません[sage] 投稿日:2006/08/16(水) 17 24 01 ID xSYTdP6R 新着メールが一件あります。 「や、や、やったあぁぁぁ!!!」 才人は両手でガッツポーズを作り、部屋中にこだまするほどのおたけびを発した。 「俺は犬じゃねえぞおぉぉぉぉ!! 人間なんだあぁぁぁぁ!!!」 奇妙な言葉を連呼し始める。 たとえ犬じゃないとしても、親が子供に「こういう大人は危険だから近づいたらだめよ」と言われる人だろう。 犬のほうがましなようにも思える。 ひとまず興奮冷めやらぬうちにメールの中身を確認することにした。 【はじめまして平賀さん、私は柴江といいます。 同じ日に出会い系に登録したなんて、なんだが運命を感じるんです。よろしかったらメールを交換しませんか?】 「しばえさんか、文が丁寧でいい人っぽいなぁ」 どんなの人なのか想像してみる。 きっとやさしくて家庭的なんだろうなぁ。 都合のいい人物像を想像する、柴江さんにとってはいい迷惑だろう。 備え付けてあった添付ファイルを開く。そして感動から体がプルプル震える。 「きたああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!」 写真に写っている女性の顔は綺麗だった。 優しげな瞳、小さい鼻、髪は黒で肩にかかるくらいの長さ、根っからの日本人の顔だ。 女性の綺麗さを表す言葉でいえば、まさに大和撫子、それがぴったりであった。 年齢は書かれていないので不詳だが目測20歳程度と予想した。 「よし!」 この感動が薄れないうちにさっそく返事を返そうとすると、ドアが開く音が聞こえた。 才人は急いでノートパソコンの電源を切った。 「ねぇ、そんなにやけ顔で何やってるの?」 入ってきたルイズが険しい顔でつっこんでくる。 廊下での出来事もあり、その後才人はお仕置きを受けたものの、メールのことはどうにかごまかしたのだった。 それからというもののルイズの目を盗んではメールのやりとりを楽しんでいた。 柴江さんのことが知りたくていろんなことを聞いた。 趣味、お料理。なんて家庭的なんだと才人は感動した。 特技、お裁縫。なんて家庭的なんだと才人はまた感動した。 好きな食べ物、シチュー。なんて家庭的なんだと才人はこれも感動した。 悩み事、故郷に帰って親孝行するべきかどうか。なんて家庭的なんだと才人はやっぱり感動した。 好きな男の人のタイプ、自分が作った料理をおいしく食べてくれる人。なんて家庭的なんだと才人は繰り返し感動した。 住んでいるところ、少し田舎にある村。なんて家庭的なんだと才人はなぜか感動した。 柴江さんのことを知るたびに惹かれていく、そんな感じで最近の才人の気分は有頂天であった。 おかしい点はいくつもある。 インターネットは見れないのである。 メールのやりとりができるのだから、ネットワークにつながっているはずである。 それにバッテリーもいまだに切れない。ランプは残り少ないこと示す点滅状態にもならない。 しかし魔法があるとんでも世界に来てしまった才人は「まぁ、いっか」とたいして深く考えないのであった。 867 名前:出会い系は何が起きるかわかりません[sage] 投稿日:2006/08/16(水) 17 24 42 ID xSYTdP6R やりとりを始めておよそ十日後、驚くべき内容のメールがきた。 【今度、二人きりで会いませんか?】 「つつつ、ついに来たあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」 二人だけで会うということはデートである。 女性と縁のない才人は彼女いない暦が年齢といっしょというピュアな少年である。 人生初の春が来た! といっても過言ではない。 「あれ? 待てよ……」 ここで最大の難問が待ち受けていることにさすがの才人も気づいた。 「どうやって会うんだ」 別の世界に住んでいる者同士、どっちの世界の場所で待ち合わせをしても、一方はたどり着くのは不可能なのだ。 悩んだ結果、才人はこう返した。 【最近ちょっと忙しいからしばらくは無理なんだ、ごめん】 会わないけどメールは続けたい、相手の気持ちをまったく考えていない心無い文である。 しかし次にきたメールにまた驚くことになる。 【無理ならかまいません。でも、できるなら来てください。 日にちは明日の陽が昇るころ、場所は風の塔の裏です。平賀さんを信じて待っています。】 「へっ?」 才人は混乱した。 風の塔といえばこのトリステイン学院にあるのだから。 「もしかしたら、俺みたくパソコンを持ってこっちに来たのかな」 柴江さんはもしかしたらこの近辺に住んでいるのかもしれない、そう考えた。 たしかに才人の『ノートパソコン』や『破壊の杖』など、物と一緒に飛ばされるという例はたくさんあった。 その夜、才人は終始ドキドキして眠れなかった。 ただ寝すごす可能性がなくなったので返って都合はよかった。 「俺、どうなっちゃうんだろう」 だって夜、人気の無いところだよ、やるしかないだろ、男として! 何もすることがなくて終始妄想していたのは本人だけの秘密である。 868 名前:出会い系は何が起きるかわかりません[sage] 投稿日:2006/08/16(水) 17 27 27 ID xSYTdP6R 長い夜も過ぎていき陽が昇るころ、寝ているルイズを起こさないように細心の注意を払って部屋を出た。 そして風の塔の裏へとやってきた。 ついに大和撫子と表すにふさわしい柴江さんと会うのである、才人は緊張しっぱなしであった。 「まだかな、柴江さん」 突然妄想にふけってにやけ顔なる。 そして某漫画のように、自分を両手で抱きしめて唇を突き出し空中にキスをする。 正直言って今の才人は気持ち悪い。 もしこれを見たら、誰だって声をかけずに一目散に走り去るだろう。 しかし運がいいことに柴江さんがやってきたのは一連の行為が終わりを告げてからだった。 「本当に来てくれたんだ、サイトさん」 後ろから女性の声がする。 才人は小さく咳払いした後、一瞬でまじめな顔をつくりあげた。 「も、もちろんですよ、柴江さん」 そして振り返った。 「はじめま・・し・・・て」 そこには見慣れた人物が立っていた。 メイド服にそばかす、カチューシャはつけてないが見間違えるわけが無い。そこには正真正銘シエスタがいた。 869 名前:出会い系は何が起きるかわかりません[sage] 投稿日:2006/08/16(水) 17 28 03 ID xSYTdP6R 「なんでシエスタが!」 「ひいおじいちゃんの残した言い伝えは本当だったんだわ」 シエスタは感動したように両手を合わせて天を仰いだ。 「どど、どういうことなんだぁ!」 才人は頭を抱え込んだ。 「だ、だって! メール! 写真! なんでえ!!!」 混乱している才人にシエスタはゆっくりと説明する。 「ひいおじいちゃんが残したのは実は『竜の羽衣』だけじゃないんです。名前はわからないんですが、スイッチを押すと綺麗な模様が出てくる物なんです。」 「それってきっとパソコンだ!」 ルイズに初めてノートパソコンを見せたときと同じような感想をシエスタが言ってるのに気づいた。 「ぱそこんって言うんですか?」 「そうだよ」 徐々に冷静を取り戻してきた才人は、メールの内容とシエスタのいろいろな共通点に気づく。 料理や裁縫、ましてはシチューなんていうのはシエスタの代名詞である。 そして両親がいる故郷のタルプは少し森に入ったところにある、つまりちょっと田舎。 柴江の柴は「し」とも読める。江は「え」つまり合わせて「シエ」 シエスタしかいないじゃん! という事実に気づく。 「ひいおじいちゃんが死ぬ1年ほど前のことらしいんですが、ひいおじいちゃんと同じ国の人が村に来たんだそうです」 「俺と同じ世界の人が」 シエスタは話を続ける。 「その同じ国の人がこのぱそこんというものを持っていたんだそうです。しばらく村に滞在していてその人が使い方をひいおじいちゃんに教えたんだそうです。 でも、ある日突然『帰る方法を探す』と言って出て行ったそうです。才人さんの言うぱそこんを残して」 「そうだったのか」 才人は頭で必死に整理をつけていた、しかしまだわからない点がいくつかあるので聞いてみる。 「文字はどうやって打ち込んだの?」 「使い方と文字の翻訳表をひいおじいちゃんは紙に書いて残してくれたんです」 「平賀と柴江っていう漢字は?」 「使い方の紙に名前は二つに分けるって書いてありました。漢字はよさそうなのを適当に選んだんです」 「出会い系のことは知ってる?」 「使い方の紙に文の例として書いてありました」 「本当に来てくれたんだ、才人さん。そう言ってたけどメールの相手は俺だって知ってた?」 「はい。だって……」 「だって?」 シエスタは顔を赤らめる 「ひいおじいちゃんの言い伝えだと、将来の旦那様と会話できるんだって、だから使ってみたんです。そしたら本当に返事が返ってきて」 「旦那様って、やっぱり俺のこと?」 「はい」 シエスタはゆっくりと近づいてきた、そして才人を抱きしめた。 「ちょ、ちょっとシエスタ」 「好きです」 甘い声でそう囁くと目をつむった、そしてゆっくりと顔を近づけてくる。 才人はされるがままにくちづけを交わした。 「サイトさん、言いましたよね。私に対する気持ちを嘘にしたくないって」 シエスタの潤んだ瞳が才人を誘惑する。 「でも、私はもう待てません、我慢できないんです!」 「シエスタ!」 才人は叫んで抱きしめ返した。 目の前にいるシエスタがどうにもいとおしくてしょうがない。 先ほどまで混乱していた才人はどうにも理性をうまく制御できないのであった。 「シエスタ・・・」 「あぁ、私、奪われちゃうんだわ」 870 名前:出会い系は何が起きるかわかりません[sage] 投稿日:2006/08/16(水) 17 29 56 ID xSYTdP6R シエスタの提案で二人は風の塔の中に入って行った。 外ではこれからする行為を誰かに見られてしまう可能性がある、それに2階には倉庫があるかららしい。 シエスタは才人の腕に抱きついている。 才人いわく、脱ぐとすごい二つの大きな山が歩くたびに動いて才人に振動を与えていた。 倉庫に入ると窓がひとつあるだけで薄暗い。 荷物がそこらじゅうに散乱していたが隅の一角の方にシーツがひいてあるのを才人は見つけた。 なるときは積極的になるシエスタが、この時のために前もって準備したものである。 才人はシーツの上にシエスタを押し倒した。 下にいるシエスタを見つめる。 倉庫の薄暗さが魅力をさらに引き立てていた。 唇を奪い、強引に舌を相手に侵入させる。 「…っ・‥はぁ・・・・んっ」 ・・・チュ・・・クチュ・・・・ピチャ 薄暗い倉庫の中に二人のキスの音が鳴り響く。 シエスタは抵抗もほとんどせず、もっとして、と言わんばかりに舌を積極的にからめてくる。 才人は全身にしびれるような快感を感じていた。 一分もの間、たがいの唾液の味を充分に堪能した。 顔を離すと突き出した舌から糸ができる。 「シエスタ……」 見てみるとシエスタの瞳は焦点が合っていない、だけどまだ理性が残ってる気がした。 その理性を奪いたい、そう思い今度は胸への攻撃を開始する。 胸元が大きく開いたメイド服の上から胸を少し強めに揉みほぐす。 「ふぁ」 シエスタの体がピクッと動く。 それを見てもう片方の手でメイド服の胸のあたりをずらす。 そして出てきた桃色の突起物を口に含む。 「あっ‥はぁ・・・んっ・・・くぅ」 乳首を責められたせいかシエスタは声を我慢できなくなったようだ。 その様子をみて才人はうれしくなり執拗に胸を攻めたてる。 「はぁっ・・・んあああっ・・そ・そんなにむっひああ」 言葉をさえぎるために胸をもんでいたほうの手も乳首を責める。 つまんで、揉んで、ひっぱって、押しつぶす。 もう片方も口の中で舐めて、吸い上げて、やさしく噛む。 「んあぁぁぁぁ」 才人の動きのひとつひとつに合わせて身をよじり、声をあらげる。 もっとよがってるところを見たくなり手を胸から離す。 そしてスカートの中へとしのばせようとする。 「あっ、そこは・・・」 恥ずかしいのかシエスタは足を閉ざして進入を阻んできた。 しかし才人のほうが一瞬早く足で手を挟みこむ形になってしまう。 「怖がることないよ」 やわらかい太ももに挟まれながら指を無理やり動かす。 「はあぁぁぁ・・だめえええぇぇぇぇぇ!!!」 シエスタは体を激しく振るえて甘い悲鳴をあげた、どうやら軽くいってしまったようだ。 才人はこの時あることに気づいた。 「シエスタ、下着、着けてないんだ」 下着の上からするつもりだったのだが、秘部を直接責めてしまったのだ。 「はぁ・・・はぁ・・だって、前に・・・えっと、その」 理由はわからないが、言葉を詰まらせる様子を見るともっと困らせたくなってしまう。 「前に?」 しばらく黙っているシエスタだったが、あきらめたのか口を開く。 「前に、火の塔に呼ばれたときにもつけてなかったから、今回も」 871 名前:出会い系は何が起きるかわかりません[sage] 投稿日:2006/08/16(水) 17 30 27 ID xSYTdP6R そういえばそんなことあったな、と才人は当時を思い出す。 プレゼントしたセーラー服を返してもらおうと呼んだのだが、それをシエスタは着てきたのである。 しかもスカートの丈を短かすぎてドロワーズを着るとはみ出てしまう、という理由ではいていなかったのだ。 あの時はシエスタの勘違いで今と同じ状況になりかけたが、ルイズの登場によりそれ以上の進展はなかった。 だけど、今はちがう。 ここまで進展してしまったのだ。 ルイズも出てこないし、今おこなっている行為は勘違いでもない。 『もう、後には引けない』 そんな言葉が頭をよぎる、しかし才人は迷わずある決心をした。 シエスタをずっと愛し続けることを、ずっと守り続けることを。 「才人さん、どうしたんですか?」 その言葉でハッと我に帰る。 見ればシエスタは不安そうにこっちを見ている。しばらく自分の世界に入っていたので心配をかけてしまったらしい。 「なんでもないよ、シエスタ」 言うや否や顔と顔を近づける。そして、今日何度目になるかわからないキスを交わす。 もういいかな、才人は上半身を起こす。 そしてズボンのチャックを開けて性器をとりだした。すでに破裂しそうなほど膨張している。 「うわぁ」 シエスタが驚きの声を上げる。 「いくよ」 性器をシエスタの性器におしつける。秘部からあふれる愛液が才人の性器をぬらしていく。 「きてっ」 シエスタはコクンとうなずいた。 それを見てゆっくりと混入を開始する。 あせらず少しずつ、止まってるように見える速度で混入を続ける。 「んっ・・・んあっ」 閉じている口から悲鳴がこぼれる。 「はぁ、はぁ、全部、入ったぞ」 ようやく性器をすべて混入し終える。膣の締め付けはすごく伝わってくる快感は想像以上だった。 シエスタは息を荒げながら潤んだ瞳を向けている、その可愛さに射精感が絶えず襲い掛かってきた。 「動いて、いいか?」 「はい」 健気に答えるシエスタ、それを見てゆっくりと動き始める。 ゆっくり腰を引き、カリの部分まできたら、また差し込む。 徐々に速度を速めながらピストン運動を開始する。 一挙一動のたびにシエスタは歓喜の声を漏らす。 「あっ、はぁ、いッ、あぁ!」 その甘い響きに理性が無くなり腰の動きを一気に加速させる。 「うあぁ、あぁ、は、はげし、すぎ、ま!」 抗議の声を無視して一心不乱に突き上げる。 一気に射精間が高まってくる。 「シエスタ! でる!」 「サイト、さ、ああああああぁぁぁぁ!!!」 シエスタが逝くのと同時に白濁液を吐き出す。 目の前がチカチカ点滅する、かつてない脱力感がやってくる。 才人は性器を取り出すとシエスタの体に倒れこんだ。 そして、目をつむった。 872 名前:出会い系は何が起きるかわかりません[sage] 投稿日:2006/08/16(水) 17 30 57 ID xSYTdP6R 「バカ犬――――!!!」 誰かの怒鳴り声で二人は目を覚ます。 「なんだぁ?」 寝ぼけ顔で才人はあくびをする 「このバカ犬―――――!!!!!」 再度の怒鳴り声に二人はビクッとした。 ルイズの声だということに気が付いたのだ。才人のことを探しているに違いない。 才人は飛び上がりあたりを見回す、人影らしきものはない。 次に聞き耳をたててみる、怒鳴り声は窓から聞こえてくる。どうやらルイズは外にいるようだった。 怒鳴り声は徐々に小さくなっていく。 「離れたみたいだな」 そう言って、ふぅ、と一回ため息をついた。 「サイトさん」 メイド服の乱れを直したシエスタも起き上がる。 「ミス・ヴァリエールのことなんですが・・・」 シエスタは不安そうな顔をして言葉をにごした。 その様子を見た才人はまっすぐな瞳、真剣な顔つき、迷いの無い心で言った。 「ルイズには、本当のことを言うよ」 「えっ?」 驚くシエスタだったが、才人は気にせず続けた。 「一緒に、タルプの村で、暮らそう」 その後才人はルイズにことのしだいを話した。 何一つ包み隠さずに、何一つごまかさず。 当然のことだがお仕置きを受けることになった。 鞭、拘束具、あらゆる道具を使ったいままでに無いくらい強烈なお仕置きだった。 虚無を唱えられなかったのは奇跡としか言いようが無い。 しかし才人の態度はまったく変わらなかった。 それに我慢の限界がきたルイズは、大声で叫んだ。 「どこへでも勝手に行けばいいのよ! あんたなんかクビよ!!!」 「悪い」 それでも才人の心は変わらなかった。 ここから先は余談になるのだが、才人にかつらのことを言われた次の日からコルベール先生は授業を休んでいた。 心配になった別の先生が研究室をたずねてみると、中から奇妙な声が聞こえた。 「これで、髪が生える、独身生活も終わりだ、わっはっはっは!」 多分もてない原因は髪の毛だけではないだろう。 パソコンのことについては・・・・・・・・・わからずじまいだった。 〔完〕 873 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2006/08/16(水) 17 32 01 ID xSYTdP6R 駄文失礼しました
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/7520.html
前ページ次ページ赤目の使い魔 眩い朝日が、クリストファーの赤い眼球に染み渡る。 彼としては三日ぶりに味わう太陽の光なのだが、怪我で眠り扱けていたせいかそこまでの感慨は沸かない。 そして、沸く程の余裕も無い。 彼は空を見上げ、愚痴るように呟いた。 「…腹、空いたな」 巻き戻る事数分前。 彼はルイズの許に追いつき、適当に言葉を投げかけていたが、彼女は返事どころか振り向く素振りすら見せない。と言うか、怒髪天を突いている彼女には聞こえているかどうかすら疑わしかった。 彼女が唯一言葉を発したのは食堂と思われる部屋に辿り着いた時。 彼女は両手に扉の取っ手を握り、彼に向かってこう言った。 『あんたみたいな奴に、食べさせる飯は無い!』 そして、轟音と供に彼を外に締め出した。 自業自得、と言われればその通りだし、否定するつもりも無い。 今までの様子を見るに、彼女はかなりの癇癪持ちの様だ。こうなる事はある程度予想できただろう。 それに、中々に面白いものを見させて貰ったのだ。 あの打てば響くような反応は、周囲にどうしようも無く狂った人間しか居なかった彼を非常に新鮮な感慨に浸らせた。 よって、彼の心には後悔の念など微塵も浮かんでは居ない。 しかし、三日三晩何も口にしていない身に飯抜きは流石に応える。 あの調子では、今日一日パン一切れですら与えられないのは確実だ。 どうしたものか、と彼は視線を戻す。すると、 「ん?」 彼の視界に、小柄な人影が映った。 遠目に後ろ手なので、細かな所は良く分からないが、体型から見るに女性だろう。 ただ、ルイズやあのキュルケとか言う赤髪の少女とは違い、その身に纏っているのは濃紺のワンピースに純白のエプロンドレス。黒い髪の上にカチューシャまで付けている。 所謂メイド服だった。 確か、昨日ルイズが貴族がどうとか言っていたはずだ。 それならば、彼女はその世話をする使用人であろうか。 彼は暫し考える。 世話。それには様々な物が含まれるのだろう。 掃除、洗濯。そして、食事。 そこまで考えが至ると、彼は獲物を見つけた獣のような喜びに笑みを浮かべる。 そして、その人影へゆっくりと向かっていった。 挨拶程度の声が届く距離に来た所で、彼は言葉を発する。 「やぁ」 「はい? ……ひゃわぁ!?」 畏まった返事と共に彼女は振り向くが、クリストファーの目を見た瞬間にそれは悲鳴の中へと掻き消える。 見えたのは、まだ少女と呼ぶほうが相応しい可愛らしげな相貌。 そばかすが所々浮いているものの、それらは決して彼女の美貌を損なう事は無く、むしろ年齢に似つかわしい初々しさを醸し出している。恐らく、ルイズ達と同年代位だろう。 失礼とも取れる彼女の反応に対しても、クリストファーはまるで笑顔を崩さない。 この外見になってから何十年と経っている彼は、好奇の目に晒される事に最早慣れ切っていた。 しかし、意外な事に少女の表情は直ぐに元の色へと戻った。 「あ……もしかして、ミス・ヴァリエールの使い魔の方ですか?」 今度は、クリストファーが驚く番だった。 思わず言葉を詰まらせる彼に対して、彼女は微笑を浮かべながら言葉を紡ぐ。 「良かった…。目が覚めたんですね」 そう言うと、少女は佇まいを正し、腰を軽く曲げて一礼をした。 「申し遅れました。私、ここで給仕をさせて頂いております、シエスタという者です。先日、あなたの看護をお手伝いしていて…」 成程。と、クリストファーは内心で手を叩く。 眠っていたのだから、一方的な面識があるのは当たり前の事だ。 「へぇ。じゃ、君にもお礼言わなきゃね。ありがと」 「いえ、仕事ですから」 彼女は、心底嬉しそうな表情を浮かべたまま返事をする。 言動から人間性を読み取ると言うのはいささか愚かな行為と言えるが、彼女の一挙一動は彼女が善意溢れる人間だと言うことを、一片の疑いも無くクリストファーに確信させた。 その屈託の無い笑顔に少しバツが悪くなった彼は、とりあえず実力行使で捻じ伏せるのは止める事にした。 どう説明したものか、と思案するクリストファー。 すると、彼の腹部からなんとも情けない音が漏れた。 「「………」」 両者を流れる言いようも無い沈黙。 シエスタの微笑も、クリストファーの笑顔も、そのままの状態で固まっている。 「………お腹、減ってるんですか?」 おずおずと尋ねるシエスタ。 何と言うか、台無しであった。色々と。 「ちょっと、こちらにいらして下さい」 沈黙を是と判断したのか、シエスタはそのまま歩き出す。 暫く呆けていたクリストファーだったが、我を取り戻すと慌ててその後姿を追って行った。 ● ● ● 彼が連れられて来たのは厨房だった。 鍋、オーブンその他諸々の調理器具が所狭しと並んでいる。 これ程の量があれば、ゆうに数百人の食事を賄えるだろう。 何人ものコックやメイドが忙しそうに仕事をしているが、食事も終盤と言う事もあってそれ程の熱気は感じられない。 すると、一人のコックが二人に目を留め、声を掛けてきた。 「よう、シエスタ。手伝いなら必要ないぜ?朝食は粗方片付いたからよ」 丸々と太った身体に、似つかわしい野太い声。 下品とも思える人となりだが、身体にあつらえた衣服は立派な造りをしており、一目でそれなりの地位に居る人間だと言うことが分かる。 「あ、マルトーさん。えっと、そうじゃなくて、実は……」 すると、シエスタは困った様にクリストファーの方を見た。 その様子を見て、クリストファーは自分が名乗っていなかった事を思い出し、コックに向かって手をひらひらと振りながら口を開く。 「クリストファー・シャルドレードだよ。ヨロシク」 コックは、クリストファーを見て、驚きに暫し動きを止めた後、ハッとした表情で言葉を紡ぐ。 「もしかして、こいつが噂の……?」 そんなマルトーの様子を見て、シエスタはいささか自慢げに頷く。 「はい。ミス・ヴァリエールに召喚された、使い魔の方です。」 その言葉により、マルトーの表情に浮かぶ驚愕は最高潮に達するが、それらは直ぐに憐憫のそれへと成り代わった。 クリストファーがその表情の真意を測りかねていると、マルトーは彼へと言葉を投げかけた。 「運が悪かったなぁ、お前。俺も此処で長年コックやってるが、人間が召喚されたなんて一度も聞いた事ねぇぞ?」 そして、マルトーは忌々しげに続きを吐いた。 「しかも、よりにもよってあんな『ゼロ』に呼び出されるなんてな」 その言葉を聞いた瞬間、シエスタは表情が強張らせ、大声で抗議する。 「マルトーさん!彼女を悪く言うのは止めてください!」 「ふん、本当のことじゃねぇか。あんなんじゃ本当に貴族の純血統なのかすら怪しいぜ」 対するマルトーは悪びれもせずに言葉を返す。 そんな彼にシエスタは更に声を発しようとするが、 「料理長!無駄話してないで仕事に戻ってください!」 「おぉ、悪い悪い。じゃあな兄ちゃん。愚痴なら何時でも付き合うぜ?」 厨房の奥から聞こえてきた声によって邪魔をされてしまう。 マルトーも早々に話題を打ち切り、声の許へと走っていってしまった。 シエスタは申し訳なさそうな顔をすると、クリストファーに頭を下げた。 「ごめんなさい。あの人、根は優しいんですけど、貴族の方達を嫌っていて……」 「いやいや。いいよ別に」 それは、正直言って本心だった。 主人と使い魔と言う関係だが、まだそこまでルイズと親しいと言う訳ではない。 と言うか、彼女からしたら寧ろ真逆だろう。 そんな事よりも、気になった事が一つ。 「『ゼロ』って、何?」 その言葉を聴いたシエスタは、若干迷うような表情を見せた後、静かに言葉を口にする。 「……それは、御本人から聞いた方が宜しいかと」 そう言うと、スタスタと先を歩いて行ってしまった。 クリストファーはまだ気になってはいたが、これ以上聞いても無駄だと悟ると、肩を竦めて後を追った。 ● ● ● 「ここで待ってて下さい」 厨房の奥に来たところで、シエスタはクリストファーを手近に置かれていた椅子に座らせると、奥へと駆けていく。 クリストファーはそれを只眺めていたが、不意に周りを見渡す。 玄関口も相当だったが、奥はその数倍は大きい。一体何人が此処の食事で養われているのだろうか。 昨日のルイズの言葉によると、此処は学校と言う事だ そう大した規模では捉えていなかったが、これは考えを修正したほうが良いかもしれない。 と、そこまで考えた所で、シエスタが一枚の皿を手に戻ってきた。 皿には、暖かそうなシチューが並々とつがれている。 「どうぞ、召し上がって下さい。残り物で作った、賄い食なんですけど」 シエスタは微笑みと共に、皿をクリストファーへと差し出した。 クリストファーは交互に皿とシエスタを見る。 「いいのかい?」 「はい!」 クリストファーは暫しの間を置いて、皿へと手を伸ばす。 眼前へと置いた瞬間、シチュー特有の甘い匂いがクリストファーの食欲を駆り立てた。 手を伸ばし、一掬い口へと運ぶ。 素朴ではあるが、賄い食とは思えない程の美味さが口に広がる。 「へぇ、美味しいや」 思わず、率直な感想が漏れる。 味から察するに、中々いい材料も使っている様だ。 残り物で作った物とは言え、流石は元が貴族の食事と言った所か。 見れば、シエスタは嬉しそうに微笑を深め、クリストファーの食事風景を見ている。 そんな彼女を見て、クリストファーの中に少し居心地の悪さが湧き上がる。 「………ちょっと、罪悪感かも」 「え?」 「いや、何でも無いよ」 ● ● ● 皿が空になった所で、クリストファーは手を止める。 「ご馳走様。美味しかったよ」 その言葉を聞いて、シエスタは嬉しそうに笑う。 「良かった……。貴族の方にお出しする食事には負けますけど、口にあって良かったです。ミスタ・クリストファー」 その言葉を聞いた途端、クリストファーは顔を顰めた。 「止めてよそんな呼び方。普通にクリスでいいって」 「そんな! 客人にその様な態度は出来ませんわ!」 とんでもない、といって様子で手をぶんぶんと振るシエスタ。 クリストファーはそんな彼女を見て不満気に呟く。 「えー。でもさ」 そして、何でも無い事の様にクリストファーは言葉の続きを口にした。 「僕達、もう友達じゃん」 「………え?」 その言葉に、シエスタはキョトンとする。 それは驚きのせいであり、決して嫌悪感から来る物ではなかったのだが、クリストファーはそう受け取らなかったらしい。 「……嘘、もしかしてそう思ってたのって僕だけ? 食事もくれたし、僕としてはそんな感じだったんだけど。うわどうしよう。僕物凄く恥ずかしい事言った?」 笑顔で慌てるという器用な技を見せるクリストファー。 そんな彼の様子を見て、シエスタは思わず噴出してしまった。 「うわぁ笑われてるよ僕。仕方ないから笑い返す事で虚勢を張ろうと思うんだけど、そんな僕って滑稽?」 口元を押さえ俯くシエスタに、クリストファーは楽しそうな顔で言葉を紡ぐ。 ようやく笑顔をある程度押さえ込んだシエスタは、苦笑しながらクリストファーへと口を開く。 「申し訳ありません。ミスタ……、じゃなくて、クリスさん」 「略称にさん付けもどうかと思うよ?」 同じく苦笑しながら、クリストファーは言葉を返す。 「いえ。これ以上は流石に歩み寄れませんわ。例え友人でも」 その言葉を聞くと、クリストファーは嬉しそうな笑顔を顔に貼り付け、シエスタへと手を差し出した。 「有難う! そしておめでとう! 君は此処で初めての友人だ! とりあえずシチューのお礼と初回サービスで、良友からのスタートにしてあげるよ」 「まぁ、光栄ですわ」 シエスタもクリストファーの手を取り、楽しそうに微笑んだ。 ――ちょっと変だけど、悪い人じゃないみたい。 彼女は、最早クリストファーの赤い目も鋭い八重歯も、全然気にならなくなっていた。 前ページ次ページ赤目の使い魔
https://w.atwiki.jp/gensouutage_net/pages/3999.html
こっち2//奇襲作戦No.4 ~肉弾戦//八雲 紫-紅 美鈴-紅 美鈴-小野塚 小町- ナミビアの泉//ムーンライトホーン//慧音(人間)-レミリア-慧音(妖怪)-伊吹 萃香- こっち2は山札をシャッフルしました。 賽が投げられて、こっち2の先攻になった。 ナミビアの泉がデッキ(2e83a111)をロードし、ニューゲームが始まりました。 ナミビアの泉は山札をシャッフルしました。 ナミビアの泉 dz こっち2 では 配置:光符「華光玉」 Turn 2 - ナミビアの泉//体力20( 21) 呪力1( 1) 手札7( 6) 山33( 34) スペル0( 1) 配置:産霊「ファーストピラミッド」 Turn 3 - こっち2//体力21( 20) 呪力3( 1) 手札6( 6) 山33( 33) スペル1( 1) 手札:シエスタ//式神「八雲藍」//彩華「虹色太極拳」//式神「八雲藍」//肉弾戦//シエスタ// 配置:式神「八雲藍」 Turn 4 - ナミビアの泉//体力20( 21) 呪力3( 3) 手札7( 5) 山32( 33) スペル1( 2) 配置:転世「一条戻り橋」 Turn 5 - こっち2//体力21( 20) 呪力6( 3) 手札6( 6) 山32( 32) スペル2( 2) 手札:シエスタ//彩華「虹色太極拳」//式神「八雲藍」//肉弾戦//シエスタ//明治十七年の上海アリス// 配置:彩華「虹色太極拳」 起動:彩華「虹色太極拳」 Turn 6 - ナミビアの泉//体力20( 21) 呪力6( 2) 手札7( 5) 山31( 32) スペル2( 3) 配置:必殺「ハートブレイク」 起動:産霊「ファーストピラミッド」 Turn 7 - こっち2//体力21( 20) 呪力5( 5) 手札6( 6) 山31( 31) スペル3( 3) 手札:シエスタ//式神「八雲藍」//肉弾戦//シエスタ//明治十七年の上海アリス//彩翔「飛花落葉」// 戦闘:こっち2 - 彩華「虹色太極拳」 vs 産霊「ファーストピラミッド」 - ナミビアの泉 結果:こっち2 - Dmg 2 3 Dmg - ナミビアの泉 こっち2の体力が+1 (20) - 彩華「虹色太極拳」 こっち2の体力が-1 (19) 配置:彩翔「飛花落葉」 起動:彩華「虹色太極拳」 Turn 8 - ナミビアの泉//体力17( 19) 呪力9( 1) 手札7( 5) 山30( 31) スペル3( 4) ナミビアの泉 いや、20で合ってると こっち2 攻撃側から処理するはずなので こっち2 いや、いいのか ナミビアの泉 相手リーダーの体力が20点以上の場合 ナミビアの泉 ですから ナミビアの泉 あ ナミビアの泉 いえ ナミビアの泉 合ってました ナミビアの泉 すいません こっち2 dsyn 配置:新史「新幻想史 -ネクストヒストリー-」 起動:転世「一条戻り橋」 起動:新史「新幻想史 -ネクストヒストリー-」 Turn 9 - こっち2//体力19( 17) 呪力5( 0) 手札6( 6) 山30( 30) スペル4( 4) 手札:シエスタ//式神「八雲藍」//肉弾戦//シエスタ//明治十七年の上海アリス//光符「華光玉」// 戦闘:こっち2 - 彩華「虹色太極拳」 vs 転世「一条戻り橋」 - ナミビアの泉 結果:こっち2 - Dmg 2 3 Dmg - ナミビアの泉 こっち2の体力が+1 (18) - 彩華「虹色太極拳」 配置:式神「八雲藍」 起動:彩翔「飛花落葉」 起動:彩華「虹色太極拳」 Turn 10 - ナミビアの泉//体力14( 18) 呪力4( 0) 手札7( 5) 山29( 30) スペル4( 5) 戦闘:ナミビアの泉 - 新史「新幻想史 -ネクストヒストリー-」 vs 彩翔「飛花落葉」 - こっち2 結果:ナミビアの泉 - Dmg 0 4 Dmg - こっち2 ナミビアの泉はリーダーを慧音(妖怪)・上白沢 慧音に設定しました。 起動:転世「一条戻り橋」 Turn 11 - こっち2//体力14( 14) 呪力5( 0) 手札6( 7) 山29( 29) スペル5( 4) 手札:シエスタ//肉弾戦//シエスタ//明治十七年の上海アリス//光符「華光玉」//肉弾戦// 戦闘:こっち2 - 彩華「虹色太極拳」 vs 転世「一条戻り橋」 - ナミビアの泉 結果:こっち2 - Dmg 2 3 Dmg - ナミビアの泉 こっち2の体力が+1 (13) - 彩華「虹色太極拳」 配置:光符「華光玉」 起動:彩華「虹色太極拳」 Turn 12 - ナミビアの泉//体力11( 13) 呪力5( 1) 手札8( 5) 山28( 29) スペル4( 6) 配置:包符「昭和の雨」 起動:転世「一条戻り橋」 Turn 13 - こっち2//体力13( 11) 呪力7( 1) 手札6( 7) 山28( 28) スペル6( 5) 手札:シエスタ//肉弾戦//シエスタ//明治十七年の上海アリス//肉弾戦//明治十七年の上海アリス// 戦闘:こっち2 - 彩華「虹色太極拳」 vs 転世「一条戻り橋」 - ナミビアの泉 結果:こっち2 - Dmg 2 3 Dmg - ナミビアの泉 こっち2の体力が+1 (12) - 彩華「虹色太極拳」 起動:彩華「虹色太極拳」 Turn 14 - ナミビアの泉//体力8( 12) 呪力7( 3) 手札8( 6) 山27( 28) スペル5( 6) 起動:転世「一条戻り橋」 ナミビアの泉は三種の神器をナミビアの泉の転世「一条戻り橋」につけました。 Turn 15 - こっち2//体力12( 8) 呪力9( 2) 手札7( 7) 山27( 27) スペル6( 5) 手札:シエスタ//肉弾戦//シエスタ//明治十七年の上海アリス//肉弾戦//明治十七年の上海アリス//肉弾戦// 戦闘:こっち2 - 彩華「虹色太極拳」 vs 転世「一条戻り橋」 - ナミビアの泉 ナミビアの泉は三種の神器の1番目の特殊能力を使いました。 ナミビアの泉は三種の神器の『迎撃UP』を選択しました。 結果:こっち2 - Dmg 3 3 Dmg - ナミビアの泉 こっち2の体力が+1 (10) - 彩華「虹色太極拳」 起動:彩華「虹色太極拳」 Turn 16 - ナミビアの泉//体力5( 10) 呪力7( 5) 手札8( 7) 山26( 27) スペル5( 6) 起動:転世「一条戻り橋」 起動:包符「昭和の雨」 Turn 17 - こっち2//体力10( 5) 呪力11( 0) 手札8( 8) 山26( 26) スペル6( 5) 手札:シエスタ//肉弾戦//シエスタ//明治十七年の上海アリス//肉弾戦//明治十七年の上海アリス//肉弾戦//明治十七年の上海アリス// 戦闘:こっち2 - 彩華「虹色太極拳」 vs 転世「一条戻り橋」 - ナミビアの泉 結果:こっち2 - Dmg 2 3 Dmg - ナミビアの泉 こっち2の体力が+1 (9) - 彩華「虹色太極拳」 起動:彩華「虹色太極拳」 こっち2はシエスタを手札から捨てました。 Turn 18 - ナミビアの泉//体力2( 9) 呪力5( 7) 手札9( 7) 山25( 26) スペル5( 6) イベント(こっち2):シエスタ こっち2は明治十七年の上海アリスを手札から捨てました。 こっち2はシエスタを場から捨札に送りました。 ナミビアの泉は威厳を手札から捨てました。 Turn 19 - こっち2//体力9( 2) 呪力8( 5) 手札6( 8) 山25( 25) スペル6( 5) 手札:肉弾戦//肉弾戦//明治十七年の上海アリス//肉弾戦//明治十七年の上海アリス//香霖堂// イベント(ナミビアの泉):頭突き ナミビアの泉は頭突きを場から捨札に送りました。 イベント(ナミビアの泉):頭突き ナミビアの泉は頭突きを場から捨札に送りました。 こっち2は肉弾戦を手札から捨てました。 こっち2は肉弾戦を手札から捨てました。 こっち2は肉弾戦を手札から捨てました。 こっち2は明治十七年の上海アリスを手札から捨てました。 戦闘:こっち2 - 彩華「虹色太極拳」 vs 包符「昭和の雨」 - ナミビアの泉 結果:こっち2 - Dmg 1 3 Dmg - ナミビアの泉 こっち2の体力が+1 (9) - 彩華「虹色太極拳」 こっち2 ありがとうございましたー ナミビアの泉 ありがとうございましたー ナミビアの泉 サポートこんなにいらない こっち2 うわぁ・・・ ナミビアの泉 すわぁ・・ こっち2 こっちはむしろスペサポが欲しかった ナミビアの泉は山札を丸ごと見ました。 ナミビアの泉は山札をシャッフルしました。 ナミビアの泉は山札を見るのをやめて、山札をシャッフルしました。 こっち2 肉弾上海アリス3なのにスペサポ0w ナミビアの泉 www ナミビアの泉 こっちはスペルがこないから呪力が足りない ナミビアの泉 そもそも受けが戻り橋は重い>< こっち2 普通に受けファーストピラミッド ナミビアの泉 当たらないwwww こっち2 ? ナミビアの泉 あー こっち2 当たりますよ? ナミビアの泉 拡散だと思ってたら ナミビアの泉 集中だったorz こっち2 >< ナミビアの泉 では、戻りますorz こっち2 はいー こっち2 ノシ ナミビアの泉 ノシ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/5945.html
前ページ次ページ異世界BASARA タルブの村へ向かう山道。 村の人々が作った農産品を町へ売りに行ったり、町から帰郷する者が利用する道である。 その道…………の上空を、シエスタと利家を乗せた忠勝が高速で飛行していた。 「うわぁ……初めて乗りましたけど、こんなに速いんですね!」 忠勝の背中に乗ったシエスタが、眼下の風景を見下ろして言った。 「それでシエスタ、ザビーはどうやって帰って行ったんだ?」 利家がそう尋ねると、シエスタは向き直って言った。 「月です」 「月?」 シエスタの口から出た言葉に、利家は首を傾げる。 「はい、ザビーさんは2つの月が重なった時、フネで飛んで行ったんです。まるで月に吸い込まれるみたいに」 「月が……重なって1つになった時に飛び込めばいいのか……」 「あの……それとトシイエさん。言ってなかったんですけど」 と、シエスタが申し訳なさそうに口を開いて言った。 「実は、その時に帰ったのはザビーさんだけじゃないんです」 「何だって!?」 その言葉に利家は驚き、思わず身を乗り出した。 まさかもう1人いたとは…… 「シエスタ、その話を詳しく聞かせてくれないか?」 「は、はい」 シエスタは一度目を閉じ、昔を思い出すように話し始めた。 「……私がその、お兄ちゃんと出会ったのは子供の頃……7歳の頃でした」 それは、10年前。シエスタがまだ7歳の子供だった頃に突如現れた。 その日、シエスタが寝床に着いていると、外からズドーン!!という音と共に、振動が伝わってきたそうだ。 あまりの大きな音に村の人々が音のした方に向かってみると、見た事のない大きなゴーレムと……奇妙な形の槍を持ち、見慣れない……しかし綺麗な服を着た少年が倒れていた。 そして、その少年の介抱をしたのがシエスタの家だったのだ。 「最初見た時は女の子だと思いましたよ。本当に綺麗で可愛かったんです」 シエスタはそう言うと、話の続きを語り始めた。 翌日になると、少年は目を覚ました。 領主がどこから来たのか尋ねたが聞いた事のない国で、その少年もタルブはおろか、トリステインすら知らなかったそうだ。 ただ、『早く自分の国に帰らないと、みんなが心配する』と言っていたらしい。 そこで帰る方法はあるのかと聞くと、少年はこう答えた。 『月が重なった時に、あっちに帰る入り口が現れるかもしれない』と。 聞けばタルブの村に落ちる前、重なって1つになった月に彼の住んでいた国の光景が見えたらしい。 しかし次第にそれが見えなくなり、2つになった時には完全に見えなくなっていたそうだ。 そこで少年は気を失ってしまったのだという。 だから、月がまた1つになる時までに何とかして空へ昇る方法を考えなければならないと少年は言った。 しかし、空に上がるには風石を積んだフネに乗るか、空を飛べる幻獣が必要であった。 少年と共に落ちてきたゴーレムのような物は、動く事は出来たが、飛ぶ事が出来ない。 そこで、お金を貯める為に彼はタルブで働く事にしたのだ。 少年は必死にお金を貯めていった。 農村の仕事の手伝いだけでなく、時には盗賊の討伐にまで出かけて稼いだのである。 「それである日、オーク鬼の討伐に出かけて行こうとしたんです。そこに……」 「そこに?」 「そこにあの人が……歌いながらやって来たんです」 『ザ~ビザビザビ異国の子~♪愛の国からやって来た~♪』 そう、ザビーがタルブにやって来たのである。 ザビーはオーク鬼退治に行く事を知るとこう言った。 『いけまセ~ン。何でも力で解決するのはダメヨ、先ずは話し合う事が大切ネ』 そう言うと、ザビーは一緒にオーク鬼退治について行く事になったのであった。 オーク鬼とは、人の体躯に豚の顔をもつ怪物である。 人間の、特に子供の肉が大好物という厄介なこの連中が、タルブの南にある森に住み着いてしまったのだ。 これではいつ村に被害が出るか分からないと、領主が傭兵を雇い、討伐隊を結成したのである。 そしてその中に、少年とザビーもあった。 討伐隊が森をしばらく進むと、何やら豚の鳴き声が聞こえてきた。それを耳にすると、草むらに息を潜め、慎重にその声の方に近づいていく。 そして草陰から覗き込むと……オーク鬼の集団がいた。 オーク鬼達は、森の一角で食事中だったらしく、何かの生肉を貪っていた。 一体何の肉なのか……それを考えた討伐隊の面々は震え上がる。 先ずは慎重に行動しなければと誰もが考えた。 『オーク鬼の皆サン!ワタシがぁー、ザビーデ~ス!!』 しかしこの男の言葉で、討伐隊全員に戦慄が走った。 突然オーク鬼に呼びかけ、草むらから飛び出していったこの男に皆焦りを感じた。 だがザビーが次に発した言葉に全員が驚愕した。 『ダイジョウブネー、他の皆サン隠れてるけど攻撃はしてこないヨ~』 よりによって隠れている事をオーク鬼達にバラしたのである。 しかし、当のザビーは気にしていないのか、まだオーク鬼に話し掛けていた。 『ホーラ怖くないヨ怖くナーイ』 笑顔で近づいてくるザビーを、オーク鬼達はギロリと睨んでいる。 その内、ボスである1匹が持っていた棍棒をゆっくりと持ち上げ、そして…… 『怖くナ』 笑顔で近づいてきたザビーの顔を、横殴りに振り払った。 ザビーを殴り飛ばしたオーク鬼は、次に隠れていた討伐隊の傭兵に襲い掛かろうとした。 オーク鬼の力は1体が屈強な戦士5人分に相当すると言われている。 まともに戦って勝てる相手じゃないと、全員が慌てて逃げようとした。 しかし、そんなオーク鬼の集団に立ち向かったのが、例の少年だった。 彼は的確にオーク鬼の目や足を、持っていた槍で攻撃していったそうだ。 その立ち振る舞いは凄まじく、見ていた他の討伐隊の話によれば、「オーク鬼も怯んだ程の戦い振り」との事だった。 そしてそこへもう1人…… 『この……ブタヤロウ共ガァ!ヒトが下手にでれば調子に乗りヤガッテエェーー!!!!!』 殴られたザビーが本性を表したのである。 「こうなれば交渉の余地はアリマセーン!!ザビイィィィィーー!!ショーウタァァーーイム!!!!」 ザビーはオーク鬼に負けない程の形相で、両手に持った鈍器を使って殴り飛ばしていった。 後に、討伐隊の面々はこう語った。 『オーク鬼よりも、あの2人の方が鬼みたいだった』と…… 翌日、オーク鬼退治で活躍した少年とザビーは、領主から貰った報酬で風石を買う事が出来た。 2人はその風石を例のゴーレムに詰め込むと、月が重なった晩に飛び立っていったという。 「あ、トシイエさんあれです!あそこが私の故郷ですよ!」 話が終わった頃、一行はタルブの村に到着した。 利家はシエスタの家で「それ」を、黙って見つめていた。 それは、大きい布で、1つの模様が大きく描かれていた。 「不思議な模様でしょう?お兄ちゃんが帰っていく時に私にくれたんです」 「……そうか、あいつもこっちに来た事があるのか」 利家がそう呟いた時、シエスタが口を開いた。 「やっぱりトシイエさんと同じ世界の人だったんですね。あんな綺麗な服、トリステインじゃ見た事ありませんから」 シエスタは思い出すように言うと、利家に問い掛けた。 「その、どうでした?元気でしたか?」 「ん?おう、あいつなら元気だぞぉ!」 それを聞いたシエスタは、安心したように微笑んだ。 「良かったぁ。ほら、最初見たとき女の子みたいって話したでしょう?だからちょっと心配してたんです」 「それなら大丈夫だ!あいつはお前がびっくりする程男らしくなったからな」 そう言うと、利家は再びその布の模様を見た。 七つ片喰の、四国の鬼と呼ばれたあの男の家紋を。 「でもシエスタ、お前それがしやあいつが違う世界から来たと知ってもあまり驚かないな」 「それは、私のお父さんも自分は違う国から来た……っていつも言ってたんですよ。」 「何いぃぃ!?」 まさかまだいたのか!? 利家は驚き、思わず大声をあげた。 「で、でも誰も信じていませんよ!?私のお父さんってちょっと変わっている人なんです」 シエスタも弁解するように言った。 「もう本当に変な父親なんですから……オーク鬼が森に住み着いた時だって…… “わしは無敵だ!!豚人間などに負ける訳がない!!”と言って飛び出して行ったり、 “わしの生まれた国に置いてきた息子もなぁ、無敵なんじゃぞ!!”とか……あれ?」 シエスタはふと、利家が口をポカーンと開けているのに気づいた。 「トシイエさん?どうしたんですか??」 (嘘だ……信じられん……) 利家は目の前にいるシエスタが、名のある家系の血筋である事を信じられなかった。 前ページ次ページ異世界BASARA
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2294.html
「うん。こりゃ無理じゃな」 昼下がりの厨房の片隅でシチューを飲み干して、ジョセフは二秒で言い切った。 ウェールズに言った通り、奇跡が二つか三つは用意できない限りトリステインはアルビオンの脅威を払拭できない。 孟子曰く、天の時は地の利に如かず、地の利は人の和に如かず。 つまり天のもたらす幸運は地勢の有利さには敵わず、地勢の有利さは人心の団結に敵わないという事である。 今のトリステインには天の幸運も地勢の有利さも人心の団結もない。天地人三つで惨敗している以上、結構な数の都合のいい奇跡を用意しなければならないが、いくらジョセフでもそんな都合よく奇跡を用意できるわけではない。 それでも一応、大言壮語を吐いてしまった以上は何かしら奇跡が用意できないか、と情報を集めてみることにした。 アルビオンの地理的条件やレコン・キスタ戦の顛末をウェールズに聞き、オスマンにトリステインや近隣諸国の情報を聞いてみた結果の答えが、冒頭の言葉に繋がる。 「そもそも敵の国が空の上に浮かんでるって時点で反則じゃよなあ。制空権取られて勝てる戦争なんてあるワケないじゃろーよ」 空に浮かぶアルビオンはハルケギニア一の隻数を誇る飛行艦隊に加え、ハルケギニア最強とうたわれる竜騎士団を擁し、空軍戦力で言えば他の国の追随を許さない。しかもこっちからはただ渡航するだけでも日時を選ばなければならない。 「攻守共にパーペキ、じゃな。戦艦と戦闘機は性能も数も申し分なし。これで不意打ちなんか食らった日にゃ手も足も出ずにお手上げじゃ」 第二次世界大戦もベトナム戦争も、左手が義手のおかげで高見の見物を決め込んだジョセフである。太平洋戦争で日本を叩きのめした圧倒的な戦力差が、今になって自分の身に押しかかってくるとなると、流石のジョセフと言えども暗澹たる思いは否めない。 正直な所、異邦人丸出しのジョセフとしては黙って逃げても構わないとは思っている。しかしトリステインを襲うレコン・キスタに紳士的態度を期待できるほど盲目でもない。 「ふうむ。かくなる上は多少無茶な手を取るしかないかもな……じゃがそれってわしのキャラじゃないよーな気がするわい」 空になったシチューの皿をスプーンでこつこつやっていると、後ろから声を掛けられる。 「ジョセフさん、お替りいかがですか?」 「ああ、じゃあもう一杯」 シエスタに皿を差し出すと、花の咲くような笑顔が返って来た。 「はい、少々お待ち下さいね」 ぱたぱたと鍋に向かって走るシエスタの後姿を眺め、ヤレヤレと頭をかいた。 「……キャラじゃなくてもやらなきゃならんかもなァ」 独り言はジョセフだけにしか聞こえることはなく、それから少しばかり時間を置いて戻ってきたシエスタの手には、並々とシチューの注がれた皿と、ポットと二つのカップの乗ったお盆があった。 「お待たせしましたジョセフさん。とても珍しい品が手に入ったので……その、お御馳走しようと」 「珍しい品?」 シチューを見るが、さっき食べたシチューと変わりがないように思える。 「いえ、そっちではなくて。ロバ・アル・カリイエから運ばれた珍しいお茶なんです」 「茶?」 テーブルの上にお盆を置くと、ポットから二つのカップに緑色のお茶が注がれる。 日本でホリィが煎れた緑茶によく似た香りに、ジョセフの目が細まった。 「はい、どうぞ」 「うむ、ではいただくとするかな」 一口飲むと、少し渋い味が口の中に広がる。 「……ふむ。まさかこっちで緑茶を飲めるとは思わんかったな」 ふう、と吐息と一緒に漏れた言葉に、シエスタがきょとんと目を大きくした。 「ジョセフさん、このお茶を飲んだことがあるんですか?」 「ああ、わしの娘が嫁いだ国の茶じゃ。娘がよく煎れてくれた」 「ジョセフさんの娘さんは、東方におられるんですか……」 驚くシエスタを眺めつつ、ジョセフはカップに注がれた茶をぐっと飲み干した。 「うむ、美味い。ほら、シエスタも冷めんうちに飲んじまわんとな」 「え、あ、そうですね。それじゃ、頂きます」 シエスタも一口緑茶を飲んで、ちょっとだけ眉を顰めた。 「うーん……ちょっと、苦いような気がします。香りはいいんですけれど……」 「これはあれじゃよ、何か甘ぁ~い菓子と一緒に食べるとバランスがよくなるんじゃ。クッキーみたいな焼き菓子なんかいいんじゃないか」 「あ、今ジョセフさんいいこと言いました! 三時のおやつにはちょっと早いですけど、固焼きのクッキーがあったはずですから持ってきますね」 そう言ってまたぱたぱたと立ち上がったシエスタが持ってきた皿一杯のクッキーがテーブルに置かれ、しばらく二人で緑茶とクッキーの相性の良さに舌鼓を打つ。 「美味しい! クッキーの甘さがお茶の渋みを和らげて、お茶の渋みがクッキーの甘さを引き立ててるような!」 「ふむ、もうちょっと砂糖を多めに焼いてもいいかもしれんな」 二人の口の中にクッキーが早いペースで飛び込み、シチューの皿も再び空になったところでジョセフは満ち足りたお腹を撫でた。 「ふー、食った食った。いやいやシエスタ、ご馳走さん」 ジョセフの満面の笑顔に、シエスタはぼっと顔を赤くした。 「いえ、そんな……」 「今日は珍しいモンもご馳走になったから、なんかお礼をせにゃならんのォ。シエスタ、何か欲しい物があるならわしに用意できる範囲で用意するぞ」 ジョセフが若くて可愛らしい娘にいい顔するのは今に始まったことではない。シエスタはルイズやキュルケ、アンリエッタの洗練された薔薇のような美しさとはまた趣の異なる、野に咲く花の様な素朴な魅力がある。 黒髪黒目でちょっと鼻が低い面立ちは、日本の少女を思い起こさせる。 「えっと、じゃあ……ジョセフさんが住んでた国の事を聞かせてほしいです」 「わしの国か? そんくらいなら暇な時にいくらでも聞かせてもいいんじゃぞ」 「うふふ、お茶のお礼にジョセフさんのお話を独り占めさせて下さい」 にっこりと無邪気な笑みを見せられては、悪い気がするはずもない。 「よしよし、んじゃたっぷり話すとするか。そうじゃなあ、わしの国でバーベキューに誘われたら要注意という話を……」 その他に激辛の菓子を取引先の店主に渡した時の話や東方の牛肉がスゲエ話をし、厨房の片隅でメイドを思う存分爆笑させて満足した。 笑い過ぎてまなじりに浮かんだ涙を拭うと、シエスタはぺこりと頭を下げた。 「ありがとうございました、とても楽しかったです。ジョセフさんのお話、また聞かせてもらえますか?」 「そりゃあもう。わしの笑い話のストックは108くらいじゃすまんぞ?」 「もし宜しければ、今度は私がお料理作りますから、あの、その……」 もじもじと両手の指を絡ませて顔を赤らめながら、上目遣いでジョセフを見た。 「私と二人で食べてもらえたら、なんて……」 「わしでいいなら喜んで」 今日も今日とてシエスタの好感度を順調に積み上げて、ジョセフは厨房を後にした。 * 「うーんうーん……火……火……」 早々とネグリジェに着替え終わったルイズは、今夜もベッドの上で悩んでいた。 しかし今夜の悩みは使い魔のことではなく、アンリエッタの結婚式で詠み上げる詔を考える為の悩みだった。 トリステイン王室の伝統として、王族の結婚式では貴族から選ばれた巫女がトリステインの国宝である『始祖の祈祷書』を手に式の詔を詠み上げる慣わしとなっている。 アンリエッタは式の巫女にルイズを指名し、オスマンを通じて始祖の祈祷書をルイズに授けた。だが指名された巫女は、詠み上げる詔を考えなければならないと聞いたルイズは、内心役目を辞退したい気持ちで一杯になった。 ルイズは頭の出来は良好ではあったが、如何せん芸術的センスや文才に関しては残念なことに不自由と言わざるを得なかった。 四大系統の火、水、風、土に対する感謝の辞を詩的な言葉で韻を踏まなければならないという高いハードルの前に、ルイズは早速膝を屈しかけていた。 ノートには線を上書きされた文章のなり損ないが何ページも連なっており、ルイズの悪戦苦闘っぷりを雄弁に物語る。 「……うう、そんな事言われても……」 詩を読んであそこがダメだここがダメだとしたり顔で評論するのは簡単だが、こうやって作る立場になってみて初めて、詩人と言うのは偉大だと痛感していた。 しかし敬愛するアンリエッタが直々に自分を指名してくれた光栄を考えると逃げ出す訳にも行かず、頭から煙を出しかねない様子でウンウン唸る以外ないのだった。 「それにしても……国宝なのよね、コレ」 ルイズはもう一度『祈祷書』を最初から最後までめくってみる。古ぼけた革の装丁の表紙からして今にも破れそうで、羊皮紙のページも色あせて茶色く変色している。一枚めくる度に破いてしまわないように細心の注意を払わなければならない。 しかしそれにしても、三百ページあるその本は最初から最後まで全部白紙。六千年前に始祖ブリミルが神に祈りを捧げた時に唱えた呪文を記したものが『始祖の祈祷書』だという伝承が残っているが、それにしたって全部白紙と言うのはいかがなものか。 始祖ブリミルの伝説所縁の品物は、『伝説』の常として各地に何冊も存在している。伝説が本当だとすれば本物は一冊だけのはずだが、所持者は全員自分の祈祷書こそが本物だと声高らかに主張している。 アルビオン王室にも当然『始祖の祈祷書』が存在していた。ウェールズに中身はどんなものか聞いた所、ルーン文字でびっしりと埋め尽くされていたらしい。 それを考えたら、全部白紙だと言うのに祈祷書でございと言い切るトリステイン王室は大した度胸だと感心してしまった。 「……まあそれはさておいて。早いトコ考えなきゃならないのが巫女の辛いところだわ……」 再びノートに向けてペンを構えたその時。 「帰ったぞー」 風呂上りの能天気な使い魔の声に、慌てて祈祷書でノートを隠した。 「ん? なんじゃそれ」 「な、なんでもないわよ」 こそこそと祈祷書の下に隠したノートを枕の下に移そうとするのは意に介さず、ジョセフはルイズの頭を指差した。 「いや、なんでわしの帽子かぶっとるんじゃ」 帽子がトレードマークのジョセフでも、風呂に行く時は帽子を脱いで行く。部屋に置いたままの帽子がいつの間にかルイズの頭の上にあった。 しかし身長195cmのジョセフと153サントのルイズでは頭のサイズも二回りほど違う為、ジョセフなら眉毛の上辺りまでしか収まらない帽子が、ルイズがかぶると両目を覆い隠すくらいになっていた。 「……そこにあったから、なんとなく」 それだけ言って、両手で帽子のつばをつかんでぎゅっと下に引き下げた。 「じゃが部屋の中でかぶっても意味ないじゃろ?」 「……いいの」 そう言うと、帽子を取ろうともせずベッドに寝転んだ。 ジョセフもそのままベッドに歩み寄ると、遠慮なくベッドに寝転ぶ。 「……何勝手にご主人様のベッドに寝てるのよ」 「昨日ベッドで寝ていいって言われたからな」 やっとここで帽子を脱ぐと、大の字になるジョセフの顔へ帽子を乗せた。 乗せられた帽子を枕元に置くジョセフの腕に頭を乗せて、ルイズは赤く染まる顔で憎まれ口を叩く。 「……いいわ、忠誠には報いるところがなければならないもの」 そう言いながらランプに杖を振り、明かりを消した。 それからちょっとの間、ルイズはまだ落ち着かなさげに寝返りを打ったりするが、やがて呼吸が静かになっていき、すとん、と意識を手放した。 規則正しい寝息を立て始めたルイズの寝顔を見ながら、ジョセフは小さく溜息をついた。 「――キャラじゃなくてもやらなくちゃならんか、な」 口の端に薄い苦笑を浮かべ、桃色がかったブロンドの髪を優しく撫でてから、ジョセフも主人の後を追う様に眠った。 * ルイズ達がアルビオンから帰還して十日ほど過ぎた昼下がり。昼食を終えたジョセフは部屋に戻り、ベッドの上で昼寝を楽しんでいた。 ルイズの部屋にはさして物はなく、年頃の少女が住む部屋にしては少々殺風景だった。 この部屋の中で目を引く家具と言えば、天蓋付きの豪奢なベッド、一人分の衣装を収めるにはやや巨大なクローゼット、分厚い本で埋め尽くされた本棚。 他にあるものと言えば、クローゼットの横に引き出しの付いた小机があり、部屋の中央に丸い小さな木のテーブルと二脚の椅子、そして部屋の片隅に無造作に置かれたボロ毛布。 寮の一室にしてはかなり広い空間にそれくらいしか家具がないルイズの部屋は、まあ言ってみれば合理的で機能的と言うことも出来た。 掃除もハーミットパープルがあるし、洗濯も波紋式全自動洗濯ですぐに終わる。しかし主人が授業に行っている間の暇潰しに不自由することはない。 学院の探索は大体終わっているが、厨房に行けばマルトーやシエスタなどの使用人達と無駄話が出来るし、中庭に行けば日向ぼっこしている使い魔達と交流を深められる。ウェールズの部屋に行けば、かつてのアルビオンの情勢を事細かに聞くことが出来る。 しかし暇潰しの手段に事欠かないとは言え、腹も満足した上に初夏間近の陽気にやられて睡魔に襲われるのは致し方ない。 暢気にいびきをかいているジョセフを起こしたのは、扉をノックする音だった。 「……んぁ?」 気持ちよいまどろみから抜け出さないまま、寝ぼけ声で返事する。 「主人なら授業中じゃよ……」 そのまま再び眠りに戻ろうとしたジョセフに、少女の声が届いた。 「あ、あのジョセフさん! 私ですシエスタです!」 「ん? えー、あー……開いとるぞ」 寝ぼけたままのジョセフの声を聞いて、料理が大量に並んだ銀のお盆を持ったシエスタが部屋に入ってくる。 「んむ……どうしたんじゃ、何か用かな」 身を起こしながら目を擦りつつ帽子を被るジョセフに、シエスタはそばかすの浮いた頬を僅かに赤らめながら言葉を掛けた。 「あ、あの……実はですね、最近、マルトーさんにお料理の手ほどきをしてもらってるんですけど、その……もし良かったら、ジョセフさんに食べてもらいたいなって……」 所々言葉をつっかえたり視線をそこかしこに彷徨わせたりしながらも、お盆を持つシエスタの手は揺らがなかった。 「ふーむ。なかなか旨そうじゃがちょっとわし一人で食うには量が多すぎるかなァ」 最近は三食不自由しないジョセフである。厨房に行くのもちょっと小腹が空いた時に行くくらいで、本格的に食事を分けてもらう事も最近では少なくなっていた。 「あ……そうですね、ミス・ヴァリエールやお友達の皆さんと塔でお食事なされてますし……やだ、言われてみたらちょっと作りすぎちゃったかも……」 ウェールズが隠れ住む塔まで五人分の食事を運ぶのは使用人達の仕事の一つであり、シエスタもちょくちょく塔の入り口まで食事を運ぶこともある。しかし黒い琥珀に選ばれていないシエスタは入り口より上に入ることはないのだった。 張り切って作った料理に視線を落とし、肩も落としたシエスタにジョセフはニカリと笑って言葉を続けた。 「こーゆー時は逆に考える。わし一人で食うには量が多いなら、シエスタも一緒に食べりゃいいんじゃよ。な?」 落ち込んでいた顔へ、花開くように笑みが広がった。 「あ、それはいい考えです! それじゃ今からフォークとナイフ取ってきますね!」 「シエスタ、行く前に料理はテーブルに並べて行った方がええと思うぞ」 それから数分後、ジョセフとシエスタはフォークとナイフを手にし、小さなテーブルの上に所狭しと並べられた料理を向かい合わせになる形で挟んでいた。もうそろそろおやつの時間ではあるが、おやつというには本格的なボリュームのある食事である。 ジョセフがまず最初に目を向けたのは血の滴るようなTボーンステーキ。それもサーロインの方からナイフを入れていく。 大きく切り取った肉をこれまた大きく開いた口に入れ、数度噛み締めてから飲み込んだ。 「うむ、旨い! 焼き具合も肉の下ごしらえもバッチリじゃ!」 「わぁ、よかった! ジョセフさんの好物がTボーンステーキだって聞いてましたから、ちょっと頑張ってみたんです!」 「いやいや、これはマルトーの親父が焼いたって言われても疑ったり出来んぞ? どれ、他のも頂くとするか。シエスタもわしに遠慮せず食べてくれ」 そう言っている間にも、ジョセフは他の料理に取り掛かり、かなりのスピードで皿の上を片付けていく。 「うふふ……私が作った料理をそんなに美味しそうに食べてくれるのを見るだけで、満足しちゃいそうです。でも普段だとこんな立派な食事なんて食べれないですから、お言葉に甘えて食べちゃいます」 フライドチキンはフォークやナイフなんか使わずに直接手で持ってかぶりつく。油の付いた指まで舐めるジョセフの様子を、シエスタはスパゲティを取り分けながら嬉しそうに見つめていた。 「はいジョセフさん、このパスタは自信作なんですよ」 「お、こいつも旨そうじゃな。……ふむ、旨い!」 二人で食べようと言いながらも、結局テーブルの上の料理は八割ほどがジョセフが平らげてしまい、最後にデザートのクックベリーパイを残すのみとなった。 「ふー、いやホント旨かった。満足満足」 ワインを飲みながら、パイを切り分けるシエスタへ笑みを向けた。シエスタもジョセフの笑みにはにかみながら、パイをジョセフと自分の皿の上に乗せた。 「あんなに美味しそうに食べて貰えるなら作って良かったなあって思いました。で、その……もし、よかったら、でいいんですけど……」 「ん? またなんか愉快な話を聞きたいんならいくらでも話すぞ」 「あ、いえ……お話もいいんですけど、その……」 膝の上でもじもじと指を絡ませながら、落ち着かなさげに視線を彷徨わせるシエスタ。切り分けられた最初のピースをジョセフが飲み込んだ辺りで、シエスタは意を決して自分の分のパイが乗った皿をジョセフに指し示した。 「も……もし、よかったら……その、あーんってしてもらえたらなーって……。あ! お、お嫌だったらいいんです! ごめんなさい、変な事頼んじゃって私ったら……」 「おお、構わんぞ」 たっぷりと逡巡を繰り返したシエスタの葛藤が馬鹿らしくなるほど、あっさりとジョセフはシエスタの頼みを快諾した。 「そんなんでいいんならお安い御用じゃ。どれ」 あまりにスムーズに進んでいく話に一瞬呆気に取られてしまったシエスタの前から、ジョセフの手が皿を引き寄せる。 そしてフォークで小さく切り分けたパイを刺し、ニカリと笑ってシエスタへ差し出した。 「ほら、あーん」 ジョセフにとっては何気ないお遊び……というか、軽いおふざけレベルの所作だが、シエスタにとっては一世一代の決心とも言える出来事だった。 決闘騒ぎから後のジョセフは、学院で働く平民達にとっては貴族達に一泡吹かせて見せた英雄であり、特に貴族の暴虐から救われた張本人であるシエスタが特別な感情を抱くのは当然とも言える。 そんな相手が、にっこり笑って、あーん。 「え、えええええええあ、あの、心の準備が……!」 予想を上回った展開に慌てはするものの、シエスタとしても願ったり叶ったりのシチュエーションであることは間違いない。 真っ赤になった頬を両手で包み、すー、はー、と深呼吸をしてから、意を決する。 「……優しく、優しくお願いしますね、ジョセフさん」 まるで唇でも捧げるような面持ちで固く目をつぶると、あーん、と大きく口を開けた。 「そんなに身構えんでも大丈夫じゃぞ?」 ちょっと苦笑を浮かべながらも、フォークをシエスタの口へと運ぶ。 「はい口閉じてー」 「ん、む」 口を閉じて、フォークが抜かれて、口の中に残ったパイを、噛んで、噛んで、噛んで、よく噛んで、ゆっくり噛んで、飲み込む。 「…………」 「お味はいかがかな?」 「…………え、ええと」 顔を真っ赤にしたまま、上目遣いでジョセフを見た。 「……もう、一回、お願いします……」 「よしよし」 再びパイが刺さったフォークを、シエスタが口にくわえた瞬間――授業を終えて帰ってきた部屋の主がドアを開けた。 「おうルイズ、お帰り」 暢気に声を出せたのはジョセフだけだった。 ルイズは部屋に戻ってくるなり見えてしまった光景に、無意識に目を見開いていた。 シエスタは、扉の開いた音にふと向けた視線が捕らえたルイズの姿に、少女の直感が閃いていた。これは、まずい、と。 何をどうしなければならないか考えるよりも早く、シエスタは首を静かに後ろに動かして口にくわえられたままのフォークを抜き、必要最低限の咀嚼でパイを飲み込んだ。 パイが喉を通過するのを感じながら、シエスタは自分にクイズを出した。 (問題です! 今にも大爆発しそうなミス・ヴァリエールに御納得していただく方法は? 3択――ひとつだけ選びなさい。 答え1 キュートなシエスタは突如見事な弁明のアイデアがひらめく。 答え2 ジョセフさんが言いくるめてくれる。 答え3 ごまかせない。現実は非常である。 ……私が○をつけたいのは答え2ですが期待はできません……。 ここに来てのほほんとしているジョセフさんがあと数秒の間に都合よく今の危機的状況を把握して『バタフライ伯爵夫人の優雅な一日』の騎士様のように不貞の現場を目撃されたのに間一髪見事な弁舌で言いくるめてくれるってわけにはいきません……。 逆にジョセフさんが何を言っても火に油を注ぐ結果になるかもしれません) おなかにパイが落ちるまでの僅かな時間でそこまで判断を下したシエスタは、今にも滝のように流れ落ちそうな汗を必死のパッチで押し留めつつ、たおやかな微笑みを浮かべて口を開いた。 「――ジョセフさん、今日は本当に有難うございました。ちょっと余っちゃったからっていきなりこんなに料理を持ってきましたのに、全部食べて下さって……」 「ああいやいや、わざわざわしのために作ってくれたんじゃからな。ありがたく食べないとバチが当たるわい」 空気を読んでくれないジョセフの返事に、シエスタの全身からだくだくと汗が流れた。 せっかく『自分がジョセフのために頑張った手作り料理』という点をはぐらかし、『作り過ぎて余ったから食べてくれそうな人に持ってきましたよ』という流れに持っていったのに、当のジョセフがこれ以上ないくらいにぶっちゃけてしまった。 しかも、それだけでは飽き足らず。 『シエスタの口に入ったフォークで』『自分の分のパイを切り分けて』『食べた』。 俗に言う間接キス。 ラブコメの必勝形である。 これがほんの一分前に起こっていたら、シエスタの胸は甘いときめきで満ち溢れていたのは間違いない。 だがこの状況に置いてジョセフのこの行動は、破滅への道を突き進むスイッチでしかなかった。 あと数秒で大爆発するであろうルイズには目もくれず、普段から培われたメイドの技術を完全解放してテーブルの上の皿を目にも留まらぬ早業で盆の上に乗せてしまうと、わなわなと肩を震わせ始めたルイズに一礼して駆け足に限りなく近い早足で部屋を脱出した。 「おーいシエスタ、そんなに慌ててどうしたんじゃ?」 事ここに至ってもまだ、ジョセフは事態の重大さにこれっぽっちも気付いていない。 テーブルの上は綺麗に片付けられ、ジョセフが持っているフォークだけが残っていた。 入り口で立ち尽くしたままのルイズの肩が少しずつ震え始め、段々と大きくなっていく。 やっとここに至って何かおかしいということに気付いたジョセフが、フォークをテーブルに置いてルイズへと歩み寄っていく。 「どーしたんじゃルイズや」 ジョセフが声を掛けても、ルイズは答えない。 俯いたまま、肩を震わせているだけだった。 「おい、ルイズ――」 訝しげな声と共にルイズの肩に伸ばした手を、ルイズは勢い良く振り払った。 「触らないでッ!!」 「なっ……お前、いきなり何を――」 唐突な反応に声を荒立てようとしたジョセフの言葉が不意に途切れた。 俯いたルイズの頬を伝った涙の粒が、床に落ちたのを見たからだ。 「……出てってよ! あ、あんたなんかっ、あんたなんかっ……もうクビよッ!! どこにでもっ……どこにでも、勝手に、行っちゃえばいいんだわ!!」 そう言う間にも、涙の粒は次々と床に落ちて弾けていく。 しゃくり上げながらもただ拒絶の言葉だけを告げるルイズに、ジョセフは小さく溜息をついた。 「……ご主人様がそう言うんなら、しゃーないな」 部屋の隅に立てかけていたデルフリンガーを腰にぶら下げると、泣いているルイズの横を通り過ぎて部屋を出て行き、後ろ手にドアを閉めた。 閉じられたドアを涙で滲む目で睨みつけていたルイズは、遠ざかって行く足音が聞こえなくなってから、テーブルへとキッと視線を走らせた。 そこにあるのは、今しがたまでジョセフが持っていたフォーク。 荒々しい足音を立てながらテーブルに近付いたルイズはフォークをつかむと、叩きつけるように床へフォークを投げ捨てる。 それだけでは飽き足らず、澄んだ音を立てて床をはねるフォークへ力任せに杖を振り上げ、爆破した。 フォークが跡形もなく爆破されたのを確認しようともせずに早足でベッドに向かうと、枕に顔を埋めて、更に泣いた。 ただ悲しかった。ただ泣きたかった。 自分でもどうしてこんなに感情が昂ぶっているのか、少しも理解できない。 ただ、ジョセフがメイドと仲良さそうにしていて、メイドにあーんとしたフォークでパイを食べたのを目撃しただけだ。たったそれだけのことなのに、ルイズの中からは止め処なく悲しさばかりが溢れ続けていた。 何故こんなに悲しいのか理解できない。けれど、どうしようもなく悲しかった。 泣けば泣くほど泣くのは止まらなくなり、涙が出なくなっても嗚咽が止まろうともしない。 涙で湿った枕に顔を突っ伏したまま、泣き疲れたルイズはいつしか気を失うように眠ってしまっていた。 二つの月が鮮やかに輝く頃になった頃、ルイズはやっと目を覚ました。 眠気でぼやけた目で、広いベッドを見渡し――この部屋に一人きりであることをもう一度確認して……再び泣いた。 To Be Contined →
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1024.html
――コオォォォ……―― 広場に、まるで夜明けの海で聞く潮のような深く静かな音が響く。 ――コオオォォォ……―― それは波の満ち干のように静かに、しかしだんだん大きく深くなる。 ――コオオオォォォ……―― 呼吸の持ち主である青年の体には、朝日に照らされ判りにくいが 小さな山吹色の光が輝いていた。 ――コオオオオオオオオォォォ……―― 全身で、細胞一つ毛細血管の果てまで使う呼吸は 震えを生み力となって命を輝かせる! 「(震えろよ心ッ!燃え上がれ魂!!刻め、血潮の鼓動をッ!!)」 生命の迸りは輝きとなり彼の右腕に集中する!! 「るゥオォォッ!!」 呼吸を終えたシーザーが振りかぶり、光り輝く右手で石鹸をたらいの中に突っ込んだ瞬間、 ももももももももも… まるで雲ができるさまを早送りしているように、きめ細かい泡の山が沸きあがってきた。 「(これぞ波紋の応用法の一つ!『シャボン・ランドリー』!!)」 たらいの水と石鹸の表面が波紋によって超高速振動! 分子レベルで振動する界面活性剤は一瞬で繊維の奥まで届き、 服に直に流される圧倒的な振動から生み出される洗濯効果はまさに洗濯革命的小宇宙!! 「…………心が震えねぇ…」 ガックリと肩を落とすシーザーに呼応するように泡の山がしぼんでいく。 この技は彼が弟子入りした直後のこと、波紋の操作を高める修行の際に見つけた特技で、 内弟子扱いであった彼が洗濯当番を命じられたときにこっそり使っていたのだが、 「(すいません…先生、波紋をこんなことに使って…)」 生命の誇りともいえる『波紋』を洗濯に使うたびに自らの師に懺悔していた。 吸血鬼を倒す誇り高き力も台無しだ。 「す、凄いですよっ!シーザーさん、ほら泡がこんなに細かいです!」 少し小さくなった泡の山から一掬い泡を取り、シエスタが満面の笑みで見せている。 シーザーが驚かせたお詫びに洗濯の手伝いを申し入れたのは正解のようだ。 洗濯板は必要ないと言ったときは警戒されていたけど。 「(まぁ…喜んでいるんだし、いいですよね…?先生)」 青空に浮かぶ師はいつものように無表情で、隣にたつメッシーナ師範代が 首を掻っ切るジェスチャをしてギィーッ!ってやっていた。 「(メッシーナァ!てめーのだけは洗わねーかんな!!)」 「…あの、シーザーさん。本当にこれ、魔法…じゃないんですか?」 師範代に毒づいていると不安げに見つめているシエスタに気づき、シーザーは優しく微笑んだ。 「ああ、これがさっき言った僕の特技だよ。僕としては魔法のほうが信じられないんだが」 ハルケギニア大陸。トリステイン王国。トリステイン魔法学院。魔法使い。 シエスタから聞いた情報には未だ実感がわかないのだが、 二つの月。まとわりつく奇妙な獣。空飛ぶハゲとマント集団。悪鬼。メイド。 自ら体験した事柄と同じところにカテゴライズされ情報が連結していく。…最後の二つはどうだろう? 「信じざるを得んよな…」 わずかに反抗するシーザーの心に嫌でもここが異世界だという現実が心を丁寧にすりおろしていく。 「へ?」 「ああいや、こっちの話。ほら残りも入れて」 少し疲れた顔のシーザーは、不思議そうな顔をしているシエスタに洗濯物を入れるよう促した。 しかしそれでも五、六回に分けなければいけない量がある。 「それにしても随分多いな。これはその貴族の子供、という奴らのものなのか?」 「いえ、これは殆どが私たちの洗濯物なんです。シーツとかカーテンなんかは 私たちがやることもあるんですが大抵貴族の方々は魔法で洗濯を済ませるんです」 「ふーん成る程。」 どっかの御伽噺みたいだな、シーザーはそう考えながら洗濯物をより強く振動させた。 もこもこと膨らんでいく泡の山をつつきながら少し強ばった表情のシエスタが口を開いた。 「だから最初シーザーさんを見たとき、私てっきり水のメイジ様の秘密の訓練を見てしまったのかと」 「…それはおかしいだろう」 水の上に立つのが魔法使いなら……いや十分魔法か。 自分の中の常識も若干ズレていることに苦笑するシーザーにシエスタは真剣に否定する。 「いえ、とても集中されていましたし、何より水の上にたつなんてことは魔法以外考えれません」 空を飛ぶ。物を動かす。水上を走る。暗闇を照らす。 火炎放射。吹雪。岩落とし。風起こしなどなど人外かつ常識外な事も魔法は可能にするらしい。 「はー、魔法って便利なんだな。こっちは洗濯以外には吸血鬼を倒すぐらいしかできんなぁ」 未だ表情の硬いシエスタにシーザーはおどけてみせた。 波紋…生命の理に背く邪悪な存在から、力なきものを守る「命あるもの」の強い『勇気』。 故に生命を破壊する事は難しく、生命の理を外れることはできないささやかな力。 だが時には想像もつかない生命の神秘と奇跡を生む力とその気高きあり方にシーザーは誇りを持っていた。 どんなにふざけおどけて卑下しても、心に宿る確かなものには揺らぎ一つない。 だからこの力を嘘つき呼ばわりされても、ジョークのタネとして使っても盛り上がるならそれでいい そのことにためらいはなかった、のだが シエスタが鳩鉄砲喰らったようにキョトンとしていた。 「(……れ?)」 笑われるか呆れられるか構えていたのに、何のリアクションもないシエスタに戸惑った。 まさかスベッたと思い、シーザーが慌ててシエスタの顔を見ると 「あの、吸血鬼って本当にいるんですか?」 真面目な顔して尋ねるシエスタに、おもわず声を立てて笑いそれを見たシエスタが表情を緩めた。 第一陣の洗濯物を洗い終え、新しく水を汲みかえてきたところでシエスタが再び口を開いた。 「だからもし…秘密の特訓で、見てはいけないものだったら。そう考えたら怖くなって… だから助けるのが遅れたんです。ごめんなさいシーザーさん」 再び顔に影を落とすシエスタの発言からシーザーは洗濯物をすすぎながら考えていた。 魔法使い、この世界で力を持つもの。それは外の脅威に直接対峙するのだから 然るべき尊敬と褒賞はあって当然だろう。 だから貴族という然るべき地位と褒賞を得ている、ここまではいい。 だがシエスタの脅え方には少し違和感がある。これでは尊敬というより畏怖だ。 力ある者が畏怖されるには?その力で人々の生活を脅かせばいい。そして然るべきものを奪えばいい。 「(蛮族か、それ以下だな)」 心の中で毒づいた。と同時にある重大なことに気づく。 見知らぬ土地に人を呼び寄せる。ついでに死んだと思われる人間を生き返す。 こんなとんでもない事をするのもその魔法とやらで、同時にその秘密の鍵を握るのは貴族の連中。 「(うはぁ…そいつらから情報を引き出さなければいかんのか…)」 片や伝統と血統という自分以外から受け継がれるものを教育され誇りとする人種。 片や勇気と意思という自分という生命から湧き出る力と自ら定めた使命を誇りとする職種。 はっきりいって互いに別の次元に対してベクトルが特化されている。 どこまでいってもその線は交差しそうにない。 「(もっとも、こんないい娘を脅かすような連中なら端から反りがあわんだろうがな)」 救助が遅れたことで危うく見殺しに仕掛けたこと。壁の如く高くそびえる新たな障害の出現。 まったく関係がない事柄ながら、打ち合わせたようにシーザーとシエスタは同時にため息をついた。 第一陣のすすぎを終えて脱水して(波紋で水分を飛ばせるのだが、しわになるので手動) シエスタが干してシーザーは第二陣に取り掛かる。 「そういえば、さっき『召喚の儀』っていったけど一体それは何なんだい?」 シーザーはほんの少しだけ沈んだ空気を変えるため別の話題をあげた。 「あ、はい。毎年春に行われる儀式で」 「『二年生のメイジが己の今後を占うため使い魔を召喚する儀式』簡単にいえばこうね」 突然聞こえてきた声に身を硬くした二人が建物の影から現れた人物に振り向いた。 燃えるような赤い髪。健康なみずみずしい褐色の肌。着崩されたブラウスからは 豊満な胸とがのぞき薄くひかれた唇のルージュと口元に添えられる指の手入れの念の入れ様、 化粧なれした顔を見てシーザーはどういう人間が見当がついた。 色気に特化しある程度男になれた女性。よく言えばとっつきやすいが本心がわかりにくいタイプ。 シエスタを白や薄い黄色だとするなら明度は白よりの灰色、色は深紅よりも橙に近い赤。 「(化粧で色気を引き出すのはまだまだ子供だな…いや潜在的な不安か?)」 色覚的に捉えたシーザーは何となく自分に似た赤い少女の評価をつけていた。 ちなみにリサリサを80点とすると彼女は47点といったところだろう。失礼な奴だ。 「人のセリフをとるのは無粋じゃないかい?シニョリータ」 これがジョジョの奴だったら殴り合いになっているところだなと思いつつシーザーは来訪者を睨んだ。 「シ、シーザーさんっ?!申し訳ありませんっ!」 慌てたようにシエスタが干した洗濯物もそのままにすぐ少女に頭を下げるが シーザーは赤い少女を睨み続ける。 「あら、平民風情が貴族にそんな不遜な口を聞いて無事でいられると思っているのかしら?」 赤い少女は凄む男など歯牙にもかけないといわんばかりに余裕たっぷりの笑みを浮かべ、 「従わない人間を力で従わせようとする蛮族風情に下げる頭はないな」 横暴な闖入者に刃物のように冷たく鋭い視線を浴びせ続ける男。 にらみ合う男女の間に白刃のように冷たい空気が漂い、巻き込まれた形のシエスタ は成す術なく脅え、地面に落ちた洗濯物とは反対に顔色に真っ白に変えていった。 「……ぷっ」 だがそんな張り詰めた空気にひびが入る。 「……くくくく」 それはじょじょに大きくなり 「「あっはっはっはっはっは!!」」 音を立てて崩れ去った。 「…へ?ふぇ、ふぇえ?!」 突如変わった雰囲気についていけないシエスタが戸惑いの声をあげた。 「やるわねアナタ!蛮族風情なんて啖呵を切れるなんて大したものよ!」 「君こそいい演技だ。だが言い馴れない台詞を無理して使うものじゃないぞ」 笑いながら互いに賞賛しあう二人に今度は困惑の表情でオロオロするシエスタ。 「あたしの名前はキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ ツェルプトーよ。キュルケと呼んでちょうだい」 「判ったよキュルケ。俺はシーザー、シーザー・A・ツェペリだ」 シーザーが右拳を突き出すと、少し不思議そうにして、しかし笑顔でキュルケは右拳をあわせた。 「え…ええと、なにがどうなっているんですかぁ?!」 泣きそうな顔をしているシエスタにシーザーが説明を始める。 「まぁ要するに即席で一芝居打ったんだ。瞳を見て同じものを感じたんでな」 そもそもこの二人、性別の違いはあれど人と好んで接し、価値観の違う異性の心理を 読む事に長けている。場慣れや観察眼の経験値がシエスタとは桁違いだ。 道化を演じることも、真面目になることも、場の流れを自在に操ることもこの二人には容易い。 一瞬のうちに互いにどんな人間かを推測して、それを試すようにアドリブで演じたのだ。 「えと………じゃあシーザーさんわたしを騙したんですかぁ?!」 「そーよ。あなた気をつけなさい、こんな男と一緒にいたら身が持たないわよ。 こいつとんでもない女ったらしで女騙して甘い汁吸ってそうなんだから」 「やかましい、君も共犯だ。あと推測で物事を言うな」 笑いあう二人を見てシエスタから脅えは消え、非難をあげる。 「ひどいです、シーザーさん!私凄く怖かったんですからね!」 「いや俺だけじゃなくキュルケも騙してたろ?」 「関係ありません!そこに座ってください!わたしシーザーさんが殺されるかと思ったんですよ?!」 「いやだから俺は」 「早く座りなさい!」 「はいスイマセン」 有無を言わせない気迫のシエスタに従うのみのシーザー。 落っことしてしまった洗濯物が汚れただの、上から飛び掛ってはいけないだの、 蛙を殴るときメメタァという音で驚かせてはいけないだのと年下の少女に 延々説教される姿ははっきり言ってかっこ悪い。 「泥棒さんは嘘つきさんですよ!嘘つきはエンマ様に色々引っこ抜かれる ってお祖父ちゃんが言ってました!」 具体的にどこを?あと順序が逆だ。どーせキュルケが囃し立てるだろうから聞かないが。 顔を真っ赤にして怒るシエスタと煽るキュルケ。 端から口喧嘩で同盟を組んだ女子に勝てると思わないので素直に説教を受けていた。 「(覚えてろ、キュルケ…)」 いつか同じ目に合わせてやる。はるか遠い未来の頭が上がらないであろう少女の恋の相手を予感した。 もっともその相手は頭の薄い、おっさんだとは…予感していたようなしていないような。 「泥棒なの、アンタ?」 「てめーも同罪だ」
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4782.html
前ページ次ページ虚無の魔術師と黒蟻の使い魔 「え? あの? すいません。何て言いました?」 そんなことを言う目の前の女性に、理不尽な怒りがこみ上げてくる。 しかし、その怒りがどれだけ理不尽なものか十分に理解している故、彼はその怒りを己の心のうちに留めておく。 結局、彼も現実を受け入れるのことが出来ていないのだ。何にでもいいから強い感情をぶつけて、現実から目を背けていたいのだ。 だが、それはしない。 彼は声と感情を押し殺して言う。 「もう一度言う……マチルダが死んだ」 彼は『土くれ』のフーケの協力者だった。 盗賊稼業に手を貸していたわけではない。フーケがその仕事で稼いだ金を預かり、それを食料品や生活雑貨に変えてアルビオンのウエストウッド村に届けていた。 そこにはフーケの妹分とも言うべき存在がいて、その妹分と、彼女が面倒を見ている孤児たちを養うため。 目の前にいる女性。ティファニアこそが、そのフーケの妹分である。 「え? うそ? 何を言ってるんですか××××さん」 ティファニアは何を言っているのか解らないという顔をしている。 事実、その言葉の意味が理解できていなかった。頭がそれを理解することを拒んでいた。 彼は怒鳴りたくなる衝動を抑える。 「事実だ。10日ほど前に、マチルダは死んだ」 マチルダ・オブ・サウスゴーダ。『土くれ』のフーケの本名。 マチルダ自身、長いこと名乗っていない名で、もう名乗る者のいなくなった名前だ。 ティファニアの口からは乾いた笑いが漏れている。 「そんな、××××さん。変な冗談はやめてください。マチルダ姉さんが聞いたら怒りますよ」 ティファニアが信じられないのも無理はない。 彼も信じることは出来なかった。 『土くれ』のフーケが死んだという話を耳にしてから、あらゆる手を尽くして情報をかき集めた。 そのどれもが、フーケが死んだというものばかりだった。 だが、それもマチルダが世間を手玉に取り、死んだと見せかけているに違いないと思った。 きっと、盗賊稼業を辞めてもティファニア達を養う算段がついて、フーケを死んだことにしたのだと。 だが、彼のもとにマチルダが現れることはなかった。 彼はいてもたってもいられなくなり、終に、衛兵の詰め所の死体置き場に潜り込み、フーケの死体といわれるそれを確認した。 黒く焼け焦げたそれは、とてもじゃないが個人を判別できるようなものではなかったが、彼はわかってしまった。 唇が焼け崩れて、むき出しになった歯。少し並びの悪いその歯は、めったに見せないマチルダの笑顔から漏れるそれと同じものだということに。 彼が密かに思いを寄せていたそれと同じものだということに。 「嘘じゃあ、ない。マチルダはもう戻ってこない」 「嘘」 「嘘じゃない。マチルダは……死んだんだ」 ティファニアの口からは、相変わらず乾いた笑いが漏れている。 しかし、それとは別の生き物のようにその目から涙がこぼれていた。 その涙が頬を伝い渇いた口を潤すと、ティファニアの口から漏れるのは乾いた笑いではなく、嗚咽に変わった。 「暫くここにいろ。そんな顔で子供たちの前に出てくるな。あいつらの面倒は見といてやる。それと、落ち着いたら身の振り方を考えろ。あいつから金を預かった分、3ヶ月ぐらいは俺が面倒見てやる。 それを考えられるぐらい落ち着いたら……、あいつがどうやって死んだか、教えてやる」 彼はそう言うと立ち上がり、ティファニアの元から離れていく。 「嘘です……嘘に決まってます!」 ティファニアはその背中に声を飛ばす。 「だって、××××さん、全然泣いてないじゃないですか! ××××さんはマチルダ姉さんのこと……」 ティファニアが最後までその言葉を継ぐ前に、彼は振り返った。 その目には、涙など浮かんではいない。 「……俺はもう泣いた」 それだけ言うと彼はティファニアから目を逸らし、再び歩き始めた。 「あらら。また叱られたわね、ルイズ」 キュルケがからかうように言うと、ルイズの隣へと座った。その隣にタバサも座る。 学院のオープンテラスのテーブルの一つを、3人で囲んでいる。 「うるさいわね。だって仕方ないじゃない。風は最強しか言わないんだもの、あの先生。そりゃあ居眠りの一つもしたくなるわよ」 ルイズはそう言うとだらしなくテーブルに突っ伏した。 ルイズは寝不足だった。 早朝、皆が寝静まっているころに起きると、デルフリンガーを背負って走る。そして、爆発音が他の生徒の眠りを妨げない所まで着くと、デルフリンガーを振ったり、系統魔法の練習をしたりする。 それは夜も行っている。夕食を食べた後、すぐにそれを行う。 そして、それを終え、風呂を浴びた後、寝る前に魔術審議を行う。 就寝時間こそ他の生徒たちと変わらないが、起きるのが早い分、必然的に睡眠時間は短くなる。 「ふあ」 キュルケが欠伸する。 「私も睡眠不足なのよね。睡眠不足は美容の敵っていうけど、アレは美容にいいっていうのよね。アレで睡眠不足だとどうなるのかしら」 「アンタの睡眠不足と私のを一緒にしないでよ!」 「下品」 キュルケの言葉に、ルイズとタバサが突っ込みを入れる。 「私はアンタと違って真面目な理由で寝不足なんだから!」 ルイズが言う。 「ふーん。でも、あんまり根を詰めすぎないほうがいいわよ……タバサも」 キュルケが突然タバサに水を向ける。 タバサはそれに対し、読んでいた本から一瞬目を離しただけだった。 キュルケは、この小さな親友が何か大きなものを抱えていることを、何とはなしに感じ取っていた。 そして、ルイズも。 タバサはルイズのトレーニングに時折付き合うようになった。 初めてタバサがルイズのトレーニングに顔を出したとき、タバサは神妙な顔をして言った。 「もし、あなたの夢の話を話してもいいと思えるときがきたら話して欲しい」 それに対するルイズの返答は沈黙だった。 タバサはシュラムッフェンの恐ろしさを知り、ルイズがそれを話すのを良しとしないことを承知しながらも、そう言った。 言ったのはその一度きり。 タバサにはタバサで、力を手に入れたい理由があるのだろう。 ルイズはそう感じていた。 対するタバサは、ルイズとトレーニングするようになって、ルイズには得体の知れない力があると確信していた。 ルイズは幾ら繰り返そうと、魔法を使えるようになる気配を見せない。爆発の命中精度も上がったかと思えば戻りを繰り返している。 しかし、身体能力が尋常から外れたものになっている。 タバサは自分の身体能力にはある程度の自信がある。実践の中で鍛えられた身のこなし、素早さは、並みのメイジでは並ぶ者はいないと思っている。 現にルイズでもタバサには及ばない。 だが、一方で腕力に劣ることも自覚している。単純な力は、どうしても体格に依存する。タバサの体格では身につかないものもあるのだ。 だがルイズは違う。 ルイズとタバサの体格に大きな違いはない。 だがルイズは巨大な剣を振り回してみせる。その膂力はある程度鍛えられた男に匹敵するのではないか。 ルイズの力は決して人間離れしたものではない。だが、ルイズの体格からは十分に離れたものだ。 ルイズは人間の範疇を超えさえしなければその異常性を悟られることはないと思っている。 だが、タバサの目はそれをしっかりと捕らえていた。 ルイズの持つ得体の知れない力。いつか自分も手に入れる。 タバサの友情が必ずしも純粋なものだけかといえば、それは違った。 不純なものだけかといえば、それも違った。 シエスタが紅茶を3つルイズたちの前に並べる。 ルイズはポケットから色とりどりの飴玉の入ったビンを取り出すと、それを弄り回しながらシエスタの手際を眺める。 シエスタは紅茶を並べ終えると、一礼をし、立ち去ろうとする。 「ちょっと、シエスタ。急いでるんじゃなければちょっと寄ってきなさいよ」 ルイズがその背中に言った。 シエスタは振り返るが、少し複雑な、申し訳なさそうな顔をしている。 ルイズはすぐその表情の意味を悟る。 「あぁ、いいのよ、こいつらのことは気にしなくて」 ルイズはキュルケたちを指して言う。 「こいつら呼ばわりはないんじゃなくって、ルイズ」 キュルケがルイズに言うと、シエスタが恐縮する。 「だからってあなたが恐縮しないでよ。ルイズに文句言っただけなんだから。シエスタって言ったっけ? 私に気をつかわなくったっていいわよ」 キュルケはそう言うが、やはりシエスタの表情から恐縮した雰囲気が取れることはなかった。 「別に呼び止めたからって、特に用があったわけじゃないけど……」 ルイズはそう言いながら自分の手元のビンを見る。 「『おやつの時間だから、食べるといいんだ』」 ルイズはそう言うと飴の入ったビンをシエスタに手渡す。 シエスタは小首を傾げる。キュルケとタバサも奇妙なものを見たような顔をしている。 「なあに? 今の。おやつの時間?」 キュルケが言う。ルイズの言葉も口調も、何か奇妙なものだった。まるで何かの台詞を棒読みしているような。 「ちょっと『本』に出てきた台詞を真似しただけよ。そんな変なものを見たような顔しないでよ!」 ルイズが顔を赤くして言う。 「へえ? タバサは何の本か判る?」 キュルケがタバサに水を向けると、タバサは首を振る。 タバサも心当たりはないと言う。 「今度はどんな本なのよ」 「秘密よ」 キュルケの問いに、ルイズは答えなかった。 モッカニアが言った言葉。その調子が妙にルイズの頭に残っていたため、何となく真似してみたくなったのだ。 「あの……」 シエスタが控えめに声を上げる。 「その本の中で、次はその台詞になんて返すんですか?」 シエスタが少し頬を染めながら言う。 「え? えっと……『甘いものは好かん』って飴を返しちゃうのよね。でもシエスタは食べてよね。べ、別に、このビンを空っぽにして別のことに使いたいだけなんだからっ、遠慮することないわよ」 ルイズがそう言うと、 「はい。いただきます」 シエスタはそう言って笑った。 「好きな色の選んでいいわよ」 シエスタが選んだのは黄色い飴玉だった。 「綺麗……」 シエスタはそう言って、飴を日の光で透かして見てから口に放り込む。 「じゃあ、私も空にするのに協力するわよ」 キュルケはニヤニヤと笑いながら言う。 「別に欲しければあげるけど……アンタは赤いのにしなさいよ」 ルイズの言葉にキュルケは首をかしげながら赤い飴玉を取り出す。そして、タバサにもビンを回す。 「タバサは……青い飴玉を選んでもいいわよ」 ルイズが言う。 タバサはその言葉に素直に従い、青い飴玉を取り出す。 シエスタはそれを見て、髪の色に合わせているのか、などと思っていたが、ルイズはピンクの飴ではなく青い飴玉を選ぶ。ちなみにシエスタの髪の色である黒の飴はない。 「あ、なーるほどね」 キュルケが何かを思いついたらしく、楽しそうにニヤニヤと笑う。 「モンモランシーが言ってたわ。思い出した。おまじないっていうか、ジンクスっていうか」 「な、ななな、何のことかしらっ! 私はさっぱりわからないわ!」 ルイズが慌てて、しどろもどろになりながら否定する。 「何でも、赤い飴をなめると小さくなって、青い飴をなめると大きくなる、なんてねぇ」 キュルケは満面に得意げなニヤニヤ笑いを浮かべる。 「し、知らないわ! は、はは、初耳ね! な、何が大きくなったり小さくなったりするのかしら!」 ルイズはさらにしどろもどろになる。 「でも見直したわよ。タバサにも青い飴をあげるなんてねえ」 キュルケはそう言うと、楽しそうに口の中の飴をころころと転がす。 「でも、シエスタにも赤い飴をあげたほうがよかったんじゃなくって? そうでもしないと追いつけないわよ」 キュルケはルイズとシエスタの胸を交互に指差して笑った。 シエスタも思わず笑ってしまう。 ルイズは相変わらず顔を赤くしてキュルケの言葉を否定していた。 タバサはビンを振り、もう一個青い飴を取り出して口に入れた。 「でさあ、シエスタからも言ってやってよ。あんまり根を詰めすぎるなって」 キュルケはそう言うとティーカップを口に寄せる。 「別に、私は根を詰めすぎとかそんなことないわよ」 ルイズはキュルケの言葉を否定するが、シエスタは心配そうな顔をしてルイズを見ている。 「ミス・ヴァリエール。色々あったとは思いますが、無理して体を壊しでもしたら元も子もないですよ」 シエスタはそう言ってルイズの身を案じる。 シエスタは解ってくれない。ルイズはシエスタに案じられたいのではない。シエスタに頼られたい。そしてそれに応えたいのだ。 それなのにシエスタは心配そうな顔でルイズを見ていることが多い。 ルイズはそれを悔しく思うが、かといって、不快というわけでもなかった。 平民に心配されるというのは、ルイズにとっては憤慨するに足るようなことであるが、それがシエスタだったら不思議と悪い気はしなかった。 「それならば、その……」 シエスタはその続きを言いにくそうに、口ごもる。 しかし、すぐ意を決したように口を開く。 「今度私の村に来ませんか? 何もない所ですけど、すごいきれいな草原があって、その……ミス・ヴァリエールが毎朝毎晩、特訓なさってることは存じてますが、一度ゆっくり休むのも、いいんじゃないかって……」 シエスタの言葉は、最初だけ勢いがあったが尻切れに声のトーンが落ちていく。 「シエスタの村?」 「はい。タルブっていうんですけど……ミス・ヴァリエールには、その……いつも仲良くしていただいてますし……何かお返ししたくて……」 シエスタは言葉の途中から顔を赤くして、俯いて言う。 貴族の娘であるルイズを誘うということ自体が僭越であり、しかもタルブは名の知れた観光地でもないただの田舎の村。 シエスタは、普段メイドとしてルイズから声をかけられない限り、自分からルイズに声を掛けることなどなかった。平民から貴族にメイドとしての職務以外で話しかけるなど、無礼といわれてもおかしくないことである。 だがシエスタは、いつも何かと声をかけてくれるルイズに、自分からも何かしたいと思ったのだ。 「な、何言ってるのよ、シエスタ。私とあなたが仲良くしてるですって?」 ルイズの口からそんな言葉が発せられる。 シエスタは思わずルイズのほうをまじまじと見る。 やはり無礼だったか、そう思ったシエスタの目に映ったルイズは、顔を真っ赤にしてシエスタから視線を外しあらぬ方向を見ていた。 「な、仲良くしてるつもりだったら、『ミス・ヴァリエール』なんて呼ばないで、その……『ルイズ』って呼べばいいんじゃないかしらっ!」 ルイズはそう言うと、赤い顔をさらに赤くする。 シエスタはしばらくルイズの言葉が呑み込めないでいたが、すぐに理解する。 「は、はい。ルイズ様!」 だが、シエスタの言葉にルイズは不満そうに口をとがらせる。 「様付けじゃあ、ミスつけるのと変わらないわよ」 「じゃ、じゃあ、ルイズ、さん……で」 シエスタが言うと、ルイズが顔を綻ばせる。 「それでいいわ、シエスタ。じゃあ、今すぐってわけにはいかないから、夏休みとかまとまった休みに入ったら行ってみようかしら」 ルイズはそう言うと、満足げな笑みを浮かべてティーカップを口に運ぶ。 シエスタもルイズの言葉に花開いたように笑った。 キュルケはそれをにやにやと見ていた。 「忠告しとくけど、女同士は不毛よ」 ルイズは思いっきり紅茶を噴出した。 明くる日。 ルイズは相変わらず教室で欠伸をかみ殺していた。 今は火の授業。 だが、教壇の上には誰もいない。 担当教諭のコルベールが時間になっても現れないのだ。 結局コルベールは定時を10分ほど過ぎてから現れた。 何やら見慣れぬ物体をもって。 またか、と教室内のすべての生徒が思う。 コルベールの悪癖。発明趣味。 時折、意味のわからない発明品を持ってきては、それの説明で授業時間をつぶしてしまう。 生徒の中には、火の系統をすでに捨ててしまっている生徒も少なからずいれば、そもそも勉学にそれほど意欲を持たぬ者もいるので、授業がつぶれること自体にはそれほど不満は出ない。 それでもコルベールが満足するまで教室から出れないというのはいささかの不満がある。 「諸君は火の系統の本質を破壊と看做すものが多いようだが、私はそうは思わない」 コルベールが演説を始める。 キュルケがこれ見よがしに大きな欠伸をする。 彼女は火の系統の術者として、コルベールの言葉には真っ向から反対する思想を持っている。しかしそれはキュルケが特別なのではなく、それが火の術者の一般的な考え。 特別なのはコルベールだ。 ルイズも頬杖をつき、退屈そうにコルベールのほうを見ているし、タバサにいたっては、まるで話を聞かずに本に目を落としている。 コルベールの演説は続く。 「……それで完成したのがこの『愉快なへび君』。……こうしてふいごで油を気化させて……するとこの円筒内に……」 コルベールの演説に眠気を誘われたルイズがうとうととし始めた時、突如、爆発音がした。 「ほら見てごらんなさい! 円筒内で気化した油が爆発する力で、上下にピストンが動いているでしょう!」 眠りを妨げられたルイズが恨みがましい目でコルベールを見る。しかし、その眼は徐々に恨みがましいものから驚きの色へと変わっていく。 「それを動力として、車輪を伝って……ほら! ヘビ君が顔を出して御挨拶!」 ピストンの動きがクランクやギアを介して、最終的に不細工なへびの人形がぴょこぴょこと顔を出していた。 感極まっているコルベールを周りの生徒たちは冷めきった目で見ていた。 だが、ルイズは一人、机から身を乗り出さんばかりにしている。 「おお! ミス・ヴァリエールは興味がおありかな?」 コルベールがそんなルイズを目ざとく見つける。 「あの、先生。たとえばそれを使って車輪を回したりすれば……」 ルイズが恐る恐る言うと、コルベールは我が意を得たりとばかりに破顔する。 「そうなんですよ! すばらしい! よく解りましたね! これを使えばいずれは馬を使わない馬車もできると私は確信しているのですよ!」 コルベールは言うが、周りの生徒たちの反応は相変わらず薄い。馬で曳けばいいものをなぜそうしないのか。コルベールの発明品の意義が理解できない。 しかし、ルイズはコルベールの言葉により一層驚く。 『本』をいくら読んでも、魔法権利よりもよっぽど理解できないモッカニアの世界の科学技術。それが目の前で再現されていた。 (これって、モッカニアの世界でいう『エンジン』よね……) 目の前の禿げ上がった教師は、ルイズの思うよりよっぽど凄い人間なのかもしれない。 エンジンなんていうハルケギニアの人間からすれば「まるで魔法」といったものをゼロから作り上げてしまったのだから。 「すごい……」 ルイズの口から思わずそんな言葉が漏れると、近くに座るキュルケとタバサが奇異の目を向ける。 彼女たちはルイズが注目している、という理由でコルベールの発明品に注目した。 「素晴らしい! これの価値を分かってくれるとは! これの使い方次第ではいろいろな物を動かせるはずなのですよ! 馬車も! 船も!」 コルベールのテンションは右肩上がりで上がっていくが、ルイズの言葉がそれを遮る。 「空だって飛べる」 「そう空だって! ……空ですか? まぁフネの推力にすることはできるでしょうが」 コルベールは己の発明品にいろいろな夢を重ねていたが、空を飛ぶというのはその中にはなかった。 「できるわ」 ルイズは言う。 「風石なしでもその『エンジン』があれば空を飛ぶことはできます」 「ほほう」 コルベールは興味をひかれた顔をしているが、ふと首をかしげる。 「その『えんじん』というのはなんですか」 コルベールの言葉にルイズは己の失言を悟る。 「え、ええと、あれです!」 ルイズはあわてて取り繕う。 「その発明品。『トリステインに吹く熱風!』という意味で『エンジン』なんて名前はどうかなぁって思いまして!」 「どこの言葉なのか知りませんが……まあ、名前の候補の一つにしておきましょう」 コルベールはとりあえず『えんじん』という単語についてはそれ以上聞かなかった。 それよりも本題があった。 「で、ミス・ヴァリエール。あなたはこれを使って空を飛ばせる機械のアイデアがあるのですか?」 コルベールが尋ねる。 ルイズは必死に頭の中、『本』で読んだ記憶を辿る。 「そ、そうですね。まず、できるだけ軽い船を作ってですね、それに翼を付けます」 「翼、ですか? これを動力に羽ばたくわけですか……ちょっと厳しい気もしますが」 コルベールが頭の中で様々な試算をしながら言う。 「いや、羽ばたかないんです!」 ルイズは言いながらモッカニアの『本』の中で、最も理解しがたい科学の知識を総動員する。 「『エンジン』はあくまで前に進むための力で、浮くための力は……」 ルイズは指でこめかみを押さえる。 「えーっと、ほら! 斜めにした紙に息を吹きかけると舞い上がるじゃないですか! 翼に風を当てて上に上がる力にするんです!」 ルイズはうろ覚えの知識を総動員して、正しいのかどうか自分でも解らないことを言った。 殆どの武装司書は飛行機の運転ぐらいこなす。整備は者にもよるが、ある程度の原理は知識としてある。それは当然モッカニアも。 だが、ルイズには『ベルヌーイ』という単語が頭に残ってたりするだけで、原理なんて殆ど覚えてなかった。 周りの生徒たちは、何を言っているんだという目で見ているが、コルベールはあごに手を当てて考え込んでいる。 「ヘビ君を風車に……羽は羽ばたかない……角度を……」 コルベールはぶつぶつと言いながら黒板に次々と絵を描いていく。 ルイズはそれを見てまた驚く。 多少寸詰まりな感があるが、モッカニアの世界の飛行機に近いものがそこに描かれていた。 「うむ! これは飛びますぞ! もっと大きな力を生み出せるような改良が必要ですが……。ミス・ヴァリエール! 素晴らしい。素晴らしいインスピレーションをお持ちだ!」 コルベールはそう言うと、おもむろにルイズに拍手を送る。 それは、生徒たちの沈黙する教室にむなしく響き渡るが、キュルケが不意にその拍手に追従した。 それは、8割ルイズを、2割コルベールをからかう為のものだったが、それが伝染した。 タバサがパタリと本を閉じて、拍手しだしたかと思うと、今まで眠っていたギーシュが目を覚まし、よく解らないが拍手する空気なのかなと思い拍手する。 そこから先は加速度的に拍手するものが増え、最後にはルイズ以外の全員が拍手をしている。 「なんなのコレ?」 ルイズは顔を真っ赤にしながらつぶやいた。 ギトーが教室に入ると、万雷の拍手で迎えられた。 というわけではもちろんない。 それはルイズへの拍手。コルベール以外の者はほとんど、そもそも何故自分が拍手しているかも理解していなかったが。 常に陰気な顔をしてて、生徒からの受けも悪いギトーが、珍しく目を見開いて驚く。 やがて、そんなギトーに気付いたのか、ひとり、二人と拍手をやめ、またコルベール一人の拍手に戻る。 それを見るや、ギトーが一つ大きく咳払いをする。 「いったいなんの授業なのか、ミスタ」 その言葉にコルベールが我に返る。 いや、そう言うには不十分なテンションを引きずっていた。 「おおう! ミスタ・ギトー! 私は素晴らしい才能に出会いました! 見てください! これは私が発明した……」 コルベールがそう言って指差す物を見て、ギトーはまたこの同僚の悪癖が発生したのだなと悟る。 困ったものだと、コルベールのことを思うが、ギトー自身も生徒からは困った教師と認識されていた。 往々にして、人は自分が一番困った人間だなどとは思わず、自分のことはいくら悪くても2番目か3番目あたりと思い込むものであった。 またギトーは咳ばらいをし、コルベールの言葉を遮る。 「私の要件を先に言わせてもらっていいかな。……アンリエッタ姫殿下が急遽、学院に行幸されるそうだ。生徒は歓迎の準備をするように、とのこと」 ギトーがそう言うと、生徒たちから歓声が上がる。 生徒たちはそれぞれに服装の相談などをしながら教室を出ていく。 あっという間に部屋にはコルベールだけが残され、彼も少し寂しげに発明品を抱えて教室を出て行った。 「あれ?」 シエスタは頓狂な声を上げる。 「どったの? シエスタ」 同僚のメイドがシエスタに聞く。 彼女たちは授業が終わった後の教室の清掃をしていた。 姫殿下が学院の設備を見たいと言い出すかもしれないので、急いで全教室を清掃しておけとのことだ。 「いや、この絵が……」 シエスタは黒板を指差して言う。 そこにはコルベールの描いた絵が残っていた。 「なんの絵だろね? なんか魔法っぽいあれじゃねーのぉ?」 同僚はめんどくさそうに言う。 「それより手を動かせい、手をぉ。他のメイドはエントランスとか客間だとかに持ってかれてんだ。くっちゃべってる暇はねぇってのよ」 そう言ってシエスタに雑巾を投げ渡す。 シエスタはそれを受け取ると、黒板に描かれた絵を消していく。 (なんか『竜の羽衣』に似てるような……) そんなことを思ったが、それを口に出すことはなかった。 前ページ次ページ虚無の魔術師と黒蟻の使い魔
https://w.atwiki.jp/moejinro/pages/1655.html
マダム さわやかな朝がやってきました 村の川辺に無残に引きちぎられたワルノスさんの遺体が見つかったようです… マダム /chjoin 冥土 3 (冥土) パンダマット 本当に狼だったのは疑いあう人々だったんだ・・・こうですか マダム 村人の皆様、今日もがんばってください ワルノスはマダム額に肉と書こうとした マダム 6日目スタートです 1 (マダム村) ミクかわいい おはようございます、昨晩 シエスタXX さんが夢枕に立ったのですが、尻尾が生えていたようでどうやら●人狼●のようでしたよ(([ガーン])) 3 (冥土) パンダマット ぉ ワルノス 我が人生が一遍で台無し! 3 (冥土) BBL シエスタさんがCindさんを疑っていたのが村としてなのか狼がラインを切っていたのか 3 (冥土) パンダマット シエスタさん・・・ 1 (マダム村) Cindlitta おはようございますー 1 (マダム村) ミクかわいい 本日ケラヴノスさん吊りを提案したいと思います。 1 (マダム村) xこぅちゃx 【霊媒CO】シエスタさん○ 1 (マダム村) ケラヴノス おはようございます いあん 台無しののかwww 1 (マダム村) ミクかわいい 理由:狼であるシエスタさんではなくCindiettaさんに投票した唯一の人だから 3 (冥土) BBL これはこうちゃさん偽か 3 (冥土) Emula ふむふむ 3 (冥土) マダム 額に肉とかかれた挙句だいなしとか! 3 (冥土) SEIRIOS こうちゃさん破綻かのー 1 (マダム村) Cindlitta 今日という日が迎えられたということは 1 (マダム村) Cindlitta LWですね 3 (冥土) BBL けらさんかな? 1 (マダム村) xこぅちゃx んで、申し訳ない 狼さん、引き分け処理しましょ 3 (冥土) パンダマット ありゃ? 3 (冥土) シエスタXX こ、これは! 1 (マダム村) ケラヴノス ・・・了解しました。狼COです 3 (冥土) シエスタXX PP!! 3 (冥土) BBL 霊媒真偽は直感が当たっていたのか 1 (マダム村) ミクかわいい ぐああああああ 1 (マダム村) xこぅちゃx 動きの悪い狂人で申し訳ない 3 (冥土) BBL やっぱりそこになるのか 3 (冥土) Emula あーケラさんやはりか・・・ 3 (冥土) SEIRIOS おーう・・・ 1 (マダム村) xこぅちゃx ミクさんに投票よろしくね 1 (マダム村) ワルノス やらかしました・・・ 3 (冥土) BBL シエスタさん狼だとそうなりますよね 1 (マダム村) ミクかわいい ではCindlittaさんはケラヴノスさんへともに投票しましょう 1 (マダム村) ミクかわいい お願いできますか? 1 (マダム村) SEIRIOS こっちだぞー 3 (冥土) シエスタXX ケラさんは投票ミスったって言ってたしな 3 (冥土) マダム これ 3 (冥土) ワルノス あれ 1 (マダム村) Cindlitta ふむ… 1 (マダム村) ケラヴノス 了解しました 3 (冥土) ワルノス 間違えてました 3 (冥土) SEIRIOS おつかれさまー 1 (マダム村) Cindlitta 了解しました 1 (マダム村) ミクかわいい ありがとうございます 3 (冥土) マダム ミクカワに3票入ったら 面白いw 3 (冥土) ワルノス 本物だた 1 (マダム村) ミクかわいい キンクリ提案 3 (冥土) パンダマット wwww 3 (冥土) BBL いじめだw 1 (マダム村) xこぅちゃx 同じく提案 1 (マダム村) Cindlitta 他に良い手もございませんしね。仕方ありませぬ 3 (冥土) SEIRIOS www 1 (マダム村) xこぅちゃx 狼さん、本当に申し訳ない 1 (マダム村) ケラヴノス こちらこそ、つたない狼で(汗) 1 (マダム村) xこぅちゃx 後で骨までおいしく食べて下さい 1 (マダム村) ケラヴノス われわれはミクさんで? 3 (冥土) BBL うーん 1 (マダム村) xこぅちゃx ですです 1 (マダム村) ミクかわいい え、えーとふがいない霊で申し訳ありませんでした・・ 1 (マダム村) ミクかわいい 村勢力はケラヴノスさんメモメモ 3 (冥土) BBL ちゃんとログ読まないと行けませんね 3 (冥土) BBL ちゃんと読んだらシエスタさんとChindさんのラインは切れているケラさん狼まではいけた 1 (マダム村) xこぅちゃx まだまだ精進が足りなそうです・・・俺って。 3 (冥土) SEIRIOS この村にすもさんがいたら・・・とか思っちゃう<ミクかわに3 3 (冥土) マダム これ 狂人が 狼COしてもよかったのかな 3 (冥土) いあん 引き分け処理って投票同数を3回?? 1 (マダム村) ケラヴノス 正直、初の狼でここまでいくとは思わなかったw 3 (冥土) BBL まあシエスタさん吊りに持っていけたかは微妙 3 (冥土) マダム 引き分け3回で終了 3 (冥土) マダム だが ミクカワに3票入ったら・・ 1 (マダム村) xこぅちゃx シエスタさん、ごめんよー・・・ Cindlittaはミクかわいいの天丼からエビ天を1本取ってたべた。 3 (冥土) シエスタXX 狂人が狼COしても ミクかわいいは〓■●_~□○0た ミクかわいい 人狼の勝利です!! 3 (冥土) BBL 狐は二匹いたのか! xこぅちゃx やったね! 3 (冥土) マダム 何言ってんだみくかわw SEIRIOS まてぃw 3 (冥土) シエスタXX おわってないしね Cindlitta エビ天が致命傷となったか…。 3 (冥土) パンダマット ひゃぁ!我慢できねぇ!リア狂だぁーっ!! 3 (冥土) パンダマット こうなりませんか 3 (冥土) シンクロ サイレントストーマー! 3 (冥土) シンクロ ですかね? マダム 5分経過 3 (冥土) SEIRIOS ぺぱさんに次ぐ静かなる超狂人が・・・・!? 1 (マダム村) ミクかわいい キンクリはなしかな、のんびりしていましょう~[ニコッ] 3 (冥土) パンダマット ゴクリ 3 (冥土) ワルノス 超狂人って・・・ 1 (マダム村) ケラヴノス 全員でこの村に骨を埋めようw マダム では 時間短縮してもよろしいでしょうか? xこぅちゃx OKっす ミクかわいい お願いします Cindlitta どうぞどうぞ ケラヴノス 短縮で 3 (冥土) いあん ウルトラ狂人w マダム 夜まで時間がありません 皆様今日の尊い犠牲をお選びください(会話はストップです) マダム 投票はsayにてお願いします ミクかわいい ケラヴノスさんでお願いします~ xこぅちゃx ミクかわいいさんで。 マダム 3回同数で 引き分けとなります Cindlitta ケラヴノスさんに投票しまーす ケラヴノス ミクかわいいさんで 3 (冥土) SEIRIOS これSAY投票じゃなったら勝ち目あったかもだよなあ マダム 同数です マダム あと2回ありますが xこぅちゃx 金栗で 3 (冥土) パンダマット ですねぇ・・・ ミクかわいい 巻きましょう マダム 票は変りませんでしょうか? ケラヴノス 同じなので巻きで Cindlitta 変更ありません。 ミクかわいい 変えませんCO xこぅちゃx ああ・・・倍プッシュだ 3 (冥土) シンクロ 悲しさの中に大きな怒りを持つ超狂人 3 (冥土) いあん やっぱ投票は公開じゃないほうがよさげ?? 3 (冥土) BBL 変わったら困るw 3 (冥土) シンクロ そのナも スーパー狂人! 3 (冥土) ワルノス なんかカコイイ 3 (冥土) シエスタXX SAYきついね 3 (冥土) シンクロ キンパツツンツンヘアーに! マダム はい では 配役マクロ作るまでまってね! ミクかわいい まちまち 3 (冥土) SEIRIOS ミクかわが霊媒結果うそついて、狂人COとかも手だった・・・かも。 Cindlittaはミクかわいいの天丼からかき揚げもとってたべた。 3 (冥土) BBL うーん xこぅちゃx んー・・・相当やらかしたなぁ今回・・・。 ミクかわいいは2度〓■●_~□○0た ミクかわいい 人狼の勝利です!! 3 (冥土) SEIRIOS 後付だからんな勇気普通で無理だけどなあ・・・ 3 (冥土) BBL Chindさんが狼COしなかったら吊られませんか? Cindlitta 天丼だけに。 ミクかわいい シッ 3 (冥土) いあん 名前まちがってるよー>BBLさん 3 (冥土) パンダマット ああ狼CO有効ですよね・・ 3 (冥土) BBL あ 3 (冥土) BBL テヘッ 3 (冥土) いあん hいらないw xこぅちゃx ああ 墓場の会話が怖いよぅ・・・ 3 (冥土) シエスタXX あるある 3 (冥土) パンダマット ^p^p^p^ 3 (冥土) BBL ごめんねCindさん ミクかわいい 超怒られてそう xこぅちゃx デスヨネー ミクかわいい ゴメンナサイゴメンナサイ・・・ Cindlitta ビクビク 3 (冥土) SEIRIOS なんて読んだらいいのか実はいまだに知らない ミクかわいい 郷土史見るのがこわい・・・ マダム ではおまたせしました ミクかわいい はい! xこぅちゃx はい! 3 (冥土) BBL シンドリッタ? 3 (冥土) SEIRIOS むしろ私の占い筋のが黒歴史 3 (冥土) ワルノス みんな入ってきたらなぜかみんな超怒ってるとかいうドッキリをしかけたい・・・ ケラヴノス 了解です 3 (冥土) SEIRIOS www 3 (冥土) シンクロ シンクロリッタですか? マダム 村人と狼は 共に引かず 両者引き分けとなりました マダム 引き分けend 3 (冥土) パンダマット wwww 3 (冥土) シエスタXX セイさん 3 (冥土) ワルノス 入った瞬間みんなで[ムカッ] 3 (冥土) ワルノス だけ 3 (冥土) ワルノス [ムカッ] 3 (冥土) BBL w 3 (冥土) シエスタXX 最後誰占ったの? 1 (マダム村) ミクかわいい 〓■●_~□○0 1 (マダム村) ミクかわいい おつかれさまでした~! 3 (冥土) SEIRIOS ケラヴノスさん 3 (冥土) シエスタXX ほうほう 1 (マダム村) Cindlitta しーましェーン! xこぅちゃxは土下座をした ケラヴノス お疲れ様でした! xこぅちゃxは土下座をした 3 (冥土) BBL 惜しかったのか xこぅちゃxは土下座をした 3 (冥土) SEIRIOS シエスタさんは吊りで狙ってた Cindlitta お疲れ様でした 1 (マダム村) シエスタXX おつおつ 3 (冥土) おおかみん お疲れ様です 1 (マダム村) xこぅちゃx ごめんなさーい; 1 (マダム村) BBL お疲れ様でした 1 (マダム村) ミクかわいい 前日の投票の時点で引き分けでしたね~・・・ 3 (冥土) ワルノス お疲れ様でした ケラヴノスはxこぅちゃxを応援した 1 (マダム村) Emula お疲れ様ー シエスタXX おつつ~ 3 (冥土) SEIRIOS もうしょっぱなから疑ってたのに外堀から占ってたw 1 (マダム村) パンダマット お疲れ様です^~ れりか おつかれさまでーす いあん おつかれさま~~~~ マダム では マダム 配役です 1 (マダム村) SEIRIOS お疲れ様~~ 1 (マダム村) xこぅちゃx もうその時点でダメと思っちゃった 3 (冥土) BBL ドンマイですw マダム どーーん マダム 人狼 ケラヴノス シエスタXX マダム 占い師 SEIRIOS 霊媒師 ミクかわいい 狩人 BBL マダム 狂人xこうちゃx 妖狐 Emula 以上でした 3 (冥土) シエスタXX だろうなw 3 (冥土) ワルノス 外堀です[ニコッ]ノ 1 (マダム村) Cindlitta 狂人込みでも霊ロラしたほうがよかったんだろうか… 1 (マダム村) ミクかわいい 狼吊れなくてごめんなさい・・・ 1 (マダム村) BBL 未来日記 5日目 勝ちました 1 (マダム村) BBL 狩人日記 初日 護衛できません 1 (マダム村) BBL 2日目 SEIRIOSさん 理由 護衛をどこにすれば良いのかいつもと違う展開なので迷います。占いの可能性を考慮してSEIRIOSさんを護衛します。 1 (マダム村) BBL 3日目 吊られました 未来日記 今日もSEIさん護衛かな 1 (マダム村) BBL 未来日記 4日目 私の未来ではSEIさん生きていたので護衛します! マダムは拍手をした 1 (マダム村) ミクかわいい かりんちゅBBLさんか!! 1 (マダム村) ミクかわいい よりにもよって狩吊ってたとか・・・ ケラヴノスはマダムに拍手をした 1 (マダム村) ミクかわいい ごめんなさい・・・ 1 (マダム村) SEIRIOS かりんちゅ・・・・! 1 (マダム村) BBL いえいえw 1 (マダム村) パンダマット なんという未来()日記・・ 1 (マダム村) ミクかわいい それいがいは、まぁ・・・ いあん 初日の銃殺はすごかったw 1 (マダム村) ミクかわいい 特に驚きはないかな! 1 (マダム村) xこぅちゃx 信頼勝負でミクさんを吊ろうとか考えたのが悪かった・・・真狂で吊る必要ないもんね・・・ 1 (マダム村) れりか 狩人だったのか 1 (マダム村) BBL なんとなく張っただけですので 1 (マダム村) BBL うーん 1 (マダム村) ミクかわいい ねーSEIさんすごかった~ 1 (マダム村) Emula SEIさんなんで最初にオイラを占ったんだ・・・? 1 (マダム村) BBL 可能性を考慮しすぎてしまいましたね 1 (マダム村) Cindlitta スナイパーSEIRIOS 1 (マダム村) シエスタXX いやあ噛み先が悪かったよ 1 (マダム村) SEIRIOS 目に付いたから。<狐 1 (マダム村) BBL 狐を返してください!! 1 (マダム村) xこぅちゃx すげぇ・・・w 1 (マダム村) ケラヴノス こうちゃさんが最後まで生きてたのがせめてもの救いでしたから結果オーライかと 1 (マダム村) Emula [ガーン] 1 (マダム村) シエスタXX ケラさんには申し訳ない 1 (マダム村) xこぅちゃx 実は 1 (マダム村) xこぅちゃx 役職に立候補してなかったんで 1 (マダム村) xこぅちゃx すっごい迷ってたんですよ 占いで出るか霊で出るか 1 (マダム村) ミクかわいい ぜんぜん霊吊りないから霊に真霊かもとか思っちゃいます・・ 1 (マダム村) ミクかわいい うちは霊媒立候補でしたー! 1 (マダム村) ミクかわいい やっぱ倍率低かったのかな・・ 1 (マダム村) ケラヴノス ようやく最後まで頑張れたので満足です(ぉ) 1 (マダム村) BBL シエスタさんは3日目に霊媒釣る必要ないかといっていたのに4日目で霊媒吊らなくてもいいよね的なことを言っていたので吊りたくなりました 1 (マダム村) SEIRIOS もっと潜伏してカオス村になっちゃえーとか思ってました 1 (マダム村) xこぅちゃx 何を言う、狂なんて立候補0ぞよ 1 (マダム村) BBL とだけ言っておく 1 (マダム村) BBL 初狩人は苦い思い出にw 1 (マダム村) ミクかわいい シエスタさん吊った日、ほんとは開票割るつもりだったのだけれど 1 (マダム村) Emula 初狐は即死に・・・ ケラヴノス マダムさん、引き分け回数はこれで通算何度目でしょうか? 1 (マダム村) xこぅちゃx 割ったら色々と確定になるから 1 (マダム村) xこぅちゃx 割れなかったんよ 1 (マダム村) ミクかわいい 途中で3:1に見えたからシエスタさんに投票しちゃったけれど 1 (マダム村) BBL 怪しかったのか マダム 引き分けは あまりなかったような 1 (マダム村) BBL 気をつけなければ 1 (マダム村) ワルノス それなんですよ マダム 多分過去に1,2かいでは 1 (マダム村) ミクかわいい まだぜんぜん投票すすんでなくてその夜泣きそうでした いあん 自分は引き分けは初めて~ マダム 記憶にあるので1回だけ シエスタXX 2回目 ケラヴノス 珍しいパターンだったようですね 1 (マダム村) ワルノス 投票を先に言うか後に言うか マダム マダム村では 初かな 1 (マダム村) ワルノス 霊媒に提案しておけばよ方と SEIRIOS なんかこう、占えといわんばかりに輝くEmulaさんの姿が目に焼きついた 1 (マダム村) BBL 4人私に投票入って泣きたくなりました;; 1 (マダム村) xこぅちゃx ちなみに、俺って後半の投票は出来るだけ引っ張ってました 1 (マダム村) ワルノス 後悔してます・・・ 一切情報出てなかったっす Cindlitta そういえば いあん ほうほうw Cindlitta シッポがでていますしね。 1 (マダム村) ミクかわいい sayとうひょうなので投票も判断になるのですよね~ パンダマット しかたないね 1 (マダム村) ミクかわいい うまくリードできなかったけれど。。 Emulaの中身が出てきた SEIRIOS イヤアアアアアア SEIRIOS ぐおおお Cindlitta SEIさんが Cindlitta おっことぬしさまになられる。 1 (マダム村) xこぅちゃx あー 狂人つかえねぇと言われてる様が見えるようだ・・・ 1 (マダム村) ミクかわいい ぁー郷土史アップがこわいな・・・w 人狼・村人 引き分けEND 配 役 人狼 ケラヴノス シエスタXX 占い師 SEIRIOS 霊媒師 ミクかわいい 狩人 BBL 狂人xこうちゃx 妖狐 Emula 5日目へ 2012年6月23日全ログへ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/636.html
食堂に向かう道の途中、一人の使用人が尻餅をついていた。 名はシエスタと言い、身に着けたメイド服がよく似合っている、可愛らしい少女だ。 その彼女は今、尻餅をついたまま何かを探しているように、 困惑した表情で何度も何度も同じ風景を見回していた。 「あれ? おかしいなぁ……?」 ポツリと呟いて首をかしげる。 頭の上にクエスチョンマークを浮かべ、脳裏についさっきの出来事を再生し始めた。 ~ゼロの平面4~ 少し前――食堂に向かって足を速めた際、不意に『何か』とぶつかった。 しっかりと前を見て、障害となるものが何も無いと確認したにもかかわらず、 シエスタは正面から縦に細い『何か』にぶつかり、2、3歩とよろめくと重力にしたがって尻から床に落ちた。 「いたたたたた」 腰をさすりながら、シエスタは考える。 感触から、ぶつかった物は一本の棒みたいに細いものだったが、 道先に棒みたいなものはどこにも無かったはずだ。 もし、悪戯好きの貴族がわざと低級な魔法で転ばしたとしたらたちが悪い。 何かしらの因縁をつけ、貴族の立場を利用して虐めるに決まっている。 ぶるっと肩が震え、途端に畏怖の念が真摯なシエスタを襲った。 背筋に凍るような寒気を感じ、顔から血の気が引くのが自分でわかる。 早急に、謝らねば! しかし……一つ、問題があった。 自分とぶつかったはずの何かが、どこにも見当たらない。 呆けた顔で何度も何度も辺りを見回すが、相手の影も、形も、何処にも無いのだ。 「気のせいだったのかな……?」 それにしては、やたらと現実的な衝突を実感した。 でも、今はそんな疑問以上に湧き上がる安堵の念が胸を埋め尽くす。 (きっと疲れていたんだ。幻覚を見るくらいに) 目を閉じて、頭の中に染み渡るように反芻すると、 解ったとばかりにうんうんと頷く。 『ビ――――ッ』 耳を劈くような音が、足元から聞こえてきた。 次の瞬間、シエスタが足元を覗くよりも素早く、 両足に踏まれていた黒い影が滑るように抜け出した。 「え、きゃあっ!?」 足を取られ、再び尻餅をついてしまう。 そして、間髪居れず落ちて低くなったシエスタの視覚を、真っ黒いものが映り、覆い尽くした。 「え? え……? なに、これ……?」 ややおびえたように未知なる物を見つめる。 目の前の黒すぎるそれをシエスタは理解できなかった。 鼻の先すぐにあるそれは、近すぎて輪郭すら見えない。 ただ、それが『貴族』でも『平民』でもないことだけは解った。 ビ――――ッ!! ビ――――ッ!!! 黒いものから、さっき聞こえた音がうるさく響いた。 聞いていたら頭の痛くなりそうな音の襲来に、シエスタは思わず耳をふさぐ。 しかし、音は鳴り止まない。 その代わりに、黒いものはスッと身を引いた。 音がやや遠くなって、じょじょに輪郭が姿を現す。 『それ』は、意外にも人の形をしていた。 ただその上背はかなり低く、人間の子供以下。一メイルもないだろう。 丸々とした頭にはポコッと膨れた団子鼻がついていて、それでなぜか顔のバランスが取れている。 よくよく見てみれば、なかなか可愛らしい形をしている。 そして、体色は頭のてっぺんから足先まで黒一色だ。黒い。 黒すぎる。 身体的特徴から、シエスタはこれに対する一つの情報を導き出す。 これは、つい先日から話題となっていた『ミス・ヴァリエールの使い魔』ではないか? ――と。 そう思うと、ほんのわずかだが恐怖が和らいだ。 未知の魔物ならともかく、メイジの使い魔ならむやみに人を襲うことは無いからだ。 ……だが、どんな見てくれだろうとやはり貴族の使い魔。 しかもあの気の短くてプライドの高いことで有名なミス・ヴァリエールの使い魔。 下手をすれば何を言われるか解ったものではない。 「えっ、と。あなたはミス・ヴァリエールの使い魔ですよね……?」 シエスタはなるべく下手に出て、気分を損ねないようにと気を使った。 尤も、この使い魔に言葉が通じるのかわからないが。 ……ビ――――ッ! くるりと使い魔は背を向けた。 といっても、両面が等しく黒すぎるため、どっちが正面なのかは図りかねる。 「――――あっ!」 シエスタは異変に気づいた。 と同時に、これがこの使い魔をうならせている原因だと、 それは私のせいなのだといっぺんに理解した。 使い魔――Mrゲーム&ウオッチの背面真ん中辺りに、白い足型が スタンプのようにはっきりくっきりへばり付いていた。 「す、すみません! あの、私の不注意で……」 持ち合わせの布でゲーム&ウオッチの背(腹?)を拭きながら、 使い魔ことゲーム&ウオッチの、あまりのぺらぺらさに、シエスタは胸の内で驚嘆していた。 何で立てるんだろう? とか、 何で歩けるんだろうか? とか、 何で音が鳴るんだろうか? とか 何で動きがかたくて、一々ピコピコ言うのだろうか? とか、 何食べるんだろうか? それ以前にものを食べれるんだろうか? とか そんな疑問の数々でさえ、彼(性別もあるのか……?)の立ち振る舞いを見ていればたいした意味など無く、 ただ、『彼は歩けるから歩いてるんだよ』としか答えようが無かった、思いようが無かった。 彼に対するシエスタの第一印象は、不思議とか仰天とか通り越して、もはや『謎』の一言に尽きた。 「こぉ~ら~っ!!」 パタパタとした慌しい足音に2人が同時に振り向くと、 そこには杞憂だったと頭をかがめ、ばらばらと息を吐くルイズの姿があった。 ビ――――ッ♪ 確認するなりゲーム&ウオッチはどこかうれしそうに体をぴこぴこ鳴らし、 横向きのままやや歩きにくそうにルイズに駆け寄ったところで…… 「こぉの、バカッ!!」 ビィ――――ッ!!? ……ルイズに首根っこをおもいっきりつかまれてる。 ご主人(と思っているかは不明。)の突然の出来事に理解不能と必死に手足をバタつかせるゲーム&ウオッチだが、 いかんせん小柄で、しかもぺらぺらな彼はやはり見た目どおり軽いらしく、 首根っこをつかまれたまま人としては小柄で非力なルイズに軽々と宙に持ち上げられてしまった。 「あ、あの~。ミス・ヴァリエール……」 完全に腰が引けつつも、事態を飲み込めないシエスタが恐る恐るルイズに話しかける。 ルイズはやや怒気を含んでいるものの、比較的常識のある言葉でメイドを追い返した。 「あ――、アンタがここでこいつを捕まえてくれたんでしょ?一応お礼は言っておくわ。…………ありがと」 「えっ、ど、どうも。光栄です!」 最後の言葉は彼女が背を向け、やや照れくさそうにもぞもぞとしていた為か、あまり聞こえなかった。 ただ、それはしっかりとシエスタの耳に届いていたらしく、 シエスタはルイズの予想外な答えに驚き、このときだけは貴族への恐怖をどこへやらに投げ捨てた。 「さぁ行くわよ! 全く、私はまだ朝食とってないんだからね!!」 ビ――――ッ! 背を向けたまま、ごまかすように速いペースですたすたと歩き出す。 ルイズに引きずられた真っ黒い使い魔は片手をカタカタ細かく振ってビ――ッと鳴いた。 多分バイバイと言っているのだろう。 なんとなくおかしい光景に、自然と微笑みが漏れた。 片手を控えめに振って応えると使い魔はうれしいのか、 幼子のようにはしゃいで見せると余計にビ――ッとうるさく鳴き、今度は両手をカタカタと振り始めた。 やがて角を曲がってその姿が見えなくなるまで、シエスタは手を振り続けていた。