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前ページ次ページ三つの『二つ名』 一つのゼロ 焼け爛れた天井の掃除を終えて、クリフは念動で操っていた雑巾を手元に降ろした。 「よっ……と」 あれから、クリフ達は教室に残って、ルイズの起こした爆発の後片付けをしていた。 周囲の人間に被害を及ぼすことだけはなんとか阻止することに成功したものの、なぜか十分に集まりきらなかったサイコキネシス では抑えきることができず、爆発の圧力が上に逃げて教室の天井を大きく焦がしてしまっていた。 「……ふむ」 クリフは手の中の雑巾を見つめ、確かめるように握った。 ……なんだろうか。雑巾は今、自分が操作した通りに確かに動いていた。しかしさっきもそうだが、なぜか力が入りきらない。思 い切り念力を込めると、すっぽ抜けるようにパワーが拡散してしまう。 「どしたのクリフ?」 隣に立つヴォルフが、不思議そうな面持ちでこちらを見つめてきた。 「いや、なんでもない。……それより、一応掃除はしたけれど、こうして見るとすごく目立つなぁ。色が変わってて……」 石製の天井は茶色く変色していて、下から眺めると明らかに自己主張してしまっている。 「ま、そんなもんじゃないの? あとはプロでないとどうにもならないでしょ」 「ふむ。……まあ、言われただけの事はしたか」 これ以上は天井の石畳ごと変えでもしなければ直せないので、諦めることにした。 「終わったよ。ルイズちゃん」 そう言って振り向くが、ルイズは隅に座り込んで膝を抱えている。 「? どうしたんだい? さっきから」 「ほら、終わったって言ってるじゃない。何を落ち込んでるのよ」 しかし、ルイズは顔を上げようとしない。 教室には、シュヴルーズと他の生徒はすでにいなかった。クリフ達三人とルイズ、そしてお目付け役として手を上げて自ら居残っ たもう二人の人間がいるだけだ。 「……すごいのね、本当に杖も使わないで……」 そのうちの一人―――朝、部屋の前で挨拶を交わしたキュルケはあんぐりと口を開いて、クリフを見つめていた。 「うん? ああ、一応言ったけど、そのエルフっていうのじゃないよ、僕は」 「へえ……」 興味深そうな顔をして、こちらをジロジロ見てくる。うーん、好奇の目はあまり好きではないんだが。 ルイズの爆発を止めた時、運悪く近くにいたこのキュルケに一連の行動を目撃されていたのが悪かった。他の生徒達に気づかれる ことはなかったが、イメージを強くするためについ空中で手を握ったせいで、なにかをした、と勘付かれたらしい。 どうせルイズにはバレてしまっていたので時間の問題かと思い、あまり人には言いふらさないで欲しいと含めた上で、自分の『力』 を少しだけ見せてやったのだが……。 「先住魔法ではない?」 他のもう一人、青い髪色のタバサという少女がポツリと呟いた。この子はどういうわけだか知らないが、キュルケと共に残ってい た。 「その……そもそも、魔法じゃない。人間に隠された能力、というか……」 「……人間の能力?」 「うーん、ちょっとばかり才能はいるけど」 一応、ハチャメチャな魔法と違って、念動力は理屈と説明がついている。世間一般にはもちろん知られているわけもなく、ただの インチキのような扱いはされてはいるが、各先進国トップやエグリゴリのような裏組織の間では、科学的な研究で解明された事実が 知られている。 「僕のは、やたら極端ではあるけどね。そこそこ便利だよ、ほら」 そう言って、手の雑巾を空中に飛ばしてバケツに突っ込んでから、浮かせたままギュッと絞った。 「例えばこんなふうに、手が汚れないとかね。普通にやるより疲れちゃうけど。今みたいに、手の届かないところを掃除するには使 えるかもね」 怖がられてはいないようなので少し調子に乗って披露してみせると、タバサは真剣な面持ちで宙に浮かぶ雑巾を見ている。ううむ、 魔法が使えるのにどうしてこんなに興味を持たれているんだろう? 「ねえ、他には? エルフ達みたいに、すごい火力とか」 キュルケがさらに質問を投げかけてくるが、 「火力? ……いやあ、そんな事はできないよ。僕が出来るのは、念動力だけさ。大したことはないよ」 と適当にお茶を濁しておくことにした。うん、別に嘘は言ってないし。隣で(よく言うわよ……)とでも思っているのかジト目で ヴォルフが見てくるが、バカみたいに自慢しまくってもしょうがない。それに、人に危機感を持たせない程度に留めておくのが無難 なのだ。 「ふーん……。なるほどね。それで、他の人はどんな……」 「いや、それより。ルイズちゃんが落ち込んでるんだけど、どうしてだろうか?」 話題を逸らしつつ、さっきからどんよりとしてるルイズを見やる。 「さあ、知らないわ。大方、召喚が上手くいってたから他の魔法も使えるって調子に乗ってたんじゃないの?」 キュルケがそう言うと、図星だったのかピクッとルイズの肩が震えた。負のオーラを強くして、いじいじと地面をいじりはじめる。 「……彼女は魔法が使えないのか? ……そう言えば、はじめて会った時も飛ばずに歩いていたな。でも、寝るときに指を鳴らして 灯りを消していたけど」 ふと、昨日の事が思い起こされる。 「灯りを消したのは、そういうマジックアイテム。この子は魔法が全然一っつも使えないで、失敗して爆発ばっかりしてるのよ。だ から『ゼロ』のルイズ」 「……なるほど。それであの小太りの少年は……」 「ああ、あれはマリコルヌっていって、ルイズのことあんまり言えない程度の……ぷっ、クク、ククク……」 マリコルヌという少年の話の段に入ったところで、急にキュルケが笑い出した。 「え?」 「ぷぷ……ちょっとごめんなさい、思い出し笑い。でも、「デブが感染る」なんて、ヴァリエールも結構言うじゃないの」 ああ、この子もさっき噴き出していたな、そういえば。 「ま、とにかくそういうわけで落ち込んでるんでしょ、あの子は。まぐれで召喚に成功したからって調子に乗ってちゃ、ねえ。ゼロ のくせに」 ちょっと意地悪げにルイズに聞こえるように言う。ここから見えるルイズの額にぴしっと血管が浮かんだ。あ、怒ってるな……。 「ほら、なにしょげてるのよ。さっさと起きなさい」 キュルケがつまらなそうに呼びかけると、ルイズは不承々々といった顔で立ち上がった。その口から、不満げにぼそりとこぼす。 「……なんでよ。召喚は、成功してたのに……」 「そんな都合のいいわけないじゃないの、せっかく人が止めてたのに。無理して張り合って、周りに迷惑かけてちゃしょうがないで しょ」 キュルケの言葉に、むうー、とうなり声を出してさらに落ち込む。 「なによ、いちいち気にしてるんじゃないわよ。日常茶飯事じゃない」 「ま、まあまあ。元はと言えば、僕が騒いだのが発端なんだから、その辺で……」 と、クリフはルイズに助け舟を出すことにした。 「あら、主を庇うなんて、ちゃんと使い魔してるじゃない? そう言えばあなたも、すごく驚いてたわね。魔法を見たのは初めて?」 キュルケはさっきのクリフの狼狽ぶりを思い出したのか、少し意外そうな顔で振り返る。 「そりゃ、まあ。初めてだよ」 あんな無茶苦茶なもの、見た事なんてあるわけがない。物理法則を完全に無視して……やりたい放題だ。 「でも、あなたも『念力』を使えるんでしょう?」 「それはそうだけど……本当に錬金するなんて、あまりにも……。そうだ、魔法と言えば。ルイズちゃんに聞きたい事があったんだ。 いいかい?」 「……なに?」 ルイズが俯いていた顔を上げて、クリフを見た。 「召喚……今も、正直夢を見ているみたいなんだけど……その召喚も魔法なんだろう? どういう原理かは分からないけど、君は僕 達をここに呼び出した。じゃあ、逆に僕らを元の世界にも戻す魔法もあるはずだろ?」 そう聞くと、ルイズとキュルケは揃ってぽかん、とした顔をして、お互いの顔を見合わせた。 ……あれ? 「え……? そんな魔法、ないわ?」 「ええ。召喚する魔法はあるけど、呼び出した使い魔を元に戻す呪文なんて、聞いた事もないし」 ……。え。……嘘だろ? 「使い魔を戻す必要なんて、これまでなかったわけだし。普通は、死ぬまで主人と一緒よ」 ……し、死ぬまでって……。 「そもそも人間を呼び出すこと自体、前例がないわね。あなた、元の場所に帰りたいの? まあ、そりゃそうよねぇ。ヴァリエール の一方的な召喚で呼び出されたわけだし」 「ちょ、ちょっと。あなた使い魔やるって言ったじゃない!? まさか、やっぱり帰るなんてこと…」 ルイズが慌てだした。いや、使い魔はいいんだけど、その……。 そこで、今まで黙って成り行きを見ていたヴォルフが口を開いた。 「落ち着きなさい、お嬢ちゃん。アタシ達には向こうに置いてきた仲間、ファミリーがいるのよ。女の子が二人ほど、ね。そのまま 放っておくわけにもいかないでしょ?」 「え……」 「命を救われたらしいことはもちろん感謝してるわ。でも、おいてけぼりにしちゃってるんだもの、しかも結構危ないところに。…… そうよ、そういやクリフ、アタシ達が殺られたあとどうなったのよ? ていうか殺られたの知ってた?」 ヴォルフがこちらを見る。 「……ああ。ユーゴー達には、あまり見せたくないショッキングな映像だったよ……」 「げ。じゃあ、完全に死んでると思われてるじゃないのー。あーもー心配だわ……」 「あの後、僕が囮になって二人を逃がして……一応、タカツキ達に合流できたみたいだけど。そこで意識が途切れた」 「あ、じゃあやっぱクリフも殺されたのね、あのチビジジイどもに。あーもームカつくわー。でも、アンタがあれぐらいの敵に遅れ を取るなんて、油断大敵よ?」 「いや……レッドキャップスは確かに強力だったが、僕はキースにやられた」 「ええ!? キースが前線に出てきたの? ヤバイじゃない、洒落になんないわよ!? じゃ、じゃあユーゴー達危険じゃない! いくらあの坊や達でもひとたまりもないわよ!」 「ああ……なんとか逃げ切ってくれていることを祈るしか、ないな……」 「ああー! もうどうしよー! ホントに心配だわ、ユーゴーとキャロル死んじゃうわよー!? それに隼人君だって、超タイプだ ったのにー!」 「……ま、まあタカツキ達も心配だけど……」 別に僕は、人の趣味をどうこう言う気はないけどさ。 そこで、会話に置いていかれたキュルケが口を挟んだ。 「……事情は知らないけど、なんだか大変な時に呼び出されたのね。あなた達」 「ん? ああ、すまない、こっちの話をしてしまって」 「別にいいわよ。それより、どうするのよヴァリエール? ちょっと聞いただけでも殺すとか殺されるとか、あなたの使い魔達が物 騒な事言ってるけど」 キュルケが隣のルイズを見下ろした。ルイズはちょっと青い顔をして立っている。 「え、えと……その……」 「まずいんじゃないの? よく分からないけど、なんだかあなたのせいで……人が死ぬ……かも?」 「え、そ、そんな!? ……で、でも! 呼び出した使い魔を元の場所に戻すなんて……」 「そうね、そんな呪文ないわよね。うーん……」 キュルケが考え込むように顎に手をやった。 そこでふと、ヴォルフがぽん、と一つ手を打って口を開く。 「あ。そうだわ、ちょっといいかしら」 ヴォルフは考えるように少し宙を見上げて、ひげをいじった。少し間を開けて、続ける。 「アタシ少しアイディア思いついたんだけど……お嬢ちゃん、なんか聞いてたら召喚って魔法なんでしょ? 一応」 「え? そ、そりゃそうよ。コモン・マジックの一種だけど……」 「コモンだかコモドだか、そういう詳しいことはどうでもいいんだけど。それをね、もう一度――やってもらえないかしら?」 そう言って、ルイズを見つめる。ルイズの口から、え、と声が漏れた。 「できるでしょ? それは一回成功してるんだから、いくらでもできるでしょ」 「え、あ……え?」 「それをやって欲しいのよ。上手くいけば、ユーゴーとキャロルもこっちに連れてこれるんじゃない? そうすればアタシ達も帰る 必要がなくなって、お嬢ちゃんも使い魔がいなくならないどころか増えて万々歳。……ワーオ! 我ながら誰もが納得のビックアイ ディアじゃない!?」 自分の言葉に驚くように、ヴォルフが手を打った。 ……なるほど! そうか、その手があった。僕達が帰れるかどうかはおいても、確かにそれならユーゴー達については解決する。 迎えに行くのではなく、こちらへ呼べばいいわけだ。 「ヴォルフ、それだ。よく思いついたな」 「ぬっふっふ! すごいでしょー!? アタシ天才かも!」 いや、それはないけど。 「というわけで、もっかいだけ召喚してちょうだいなお嬢ちゃん? これでとりあえずはなんとかなるってすんぽー……あら?」 ヴォルフの提案に、ルイズがふるふると頭を振った。キュルケも横目にルイズを見て、それに同意する。 「え? なんで?」 「で、できないわよ。朝食のあとに、言ったでしょ?……使い魔は一人一つ。それが死ぬまで、新しいのは召喚できないって」 「え、嘘! そうだっけ、そんなこと言ってた!?」 「も、もう。誰も全然聞いてないじゃない、言ったわよ。……残念だけど、それはできないわ」 「なんでよ!?」 「なんでもなにも、そういうものなの!」 「えー!? じゃ、じゃあ……ダメなの?」 ……。そうなのか。そういえば、そんなことをチラッと言っていたような。まあ、そんなに都合はよくないか。 「ダメよ、できないわ。だって、呪文が完成しないのよ」 ルイズの言葉に、隣のキュルケも頷く。 「そうよね、それも聞いた事ないわ。普通は無効化されちゃうもの」 「ツェルプストーも知らないわよね? やっぱりゲルマニアにも前例がないのね、わたしも知らないわ」 「えー、嘘。せっかく思いついたのに……。じゃーどうしましょ。あ、でも! アタシ達、三人いるじゃない!? 一人一つっての から外れてるし、なんとかなったりとかして!?」 「そ、そうだけど……。でも、無理よきっと。普通に考えてできるはずないし……」 「分かんないじゃない、やってみたの!?」 「や、やってはいないけど……」 しつこく食い下がるヴォルフに、思わずたじろぐルイズ。 「じゃあ一回だけ! 一回だけでいいから、ちょっとやってみてくんないかしら?」 「で、でも……」 「女は度胸、何でも試してみるものよ! この通りよ、ね、ね、いいでしょ!?」 「なによそれ……。別にいいけど。じゃ、ちょっとどいて」 ルイズが杖を手に取った。小さな杖を空中で振って、呪文を唱える。 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。我の運命に従いし、『使い 魔』を召喚せよ。……っと」 最後に大きく杖を振り下ろす。 「……ね。絶対無理に決まってる……って……」 ルイズの目の前に、光る鏡のようなゲートが現れた。 「……うそ?」 呆然と呟いたルイズの前で、ゲートから神々しい光が零れている。 「……できちゃ……った?」 「……ええ!? ヴァ、ヴァリエール!? 成功したの!?」 キュルケが目を丸くする。 「……!」 さっきまで会話にまったく加わらなかった、青い髪のタバサが立ち上がって声なき驚きを示した。 「…………」 隅に座っていたキクロプスは、いつでも抜けるようにさりげなくナイフの柄に手をわずかにかけ、警戒する鋭い目を鏡に向ける。 「できたみたいね……? ……って、よっしゃあ!」 そして、ヴォルフが野太い声を出してガッツポーズをした。 「鏡……? こ、これは……」 クリフはじっとゲートを見つめた。思いつきとはいえ、本当にできるとは。まさか、ユーゴー……? 「シャア! 来い来い来い、ユーゴー! キャロル! 出てきなさい!」 まるでばくちの出目に興奮するかのように、ヴォルフは腕を振りまくっている。 その時、ゲートの先で何かの影が動いた。やがてそれは、ゆっくりと人の形をとりはじめる。鏡のようなゲートが二次元から三次 元に盛り上がって――それは倒れ伏すようにして、こちらに現れた。 ごとり、と床に転がる。 ……。 「……」 「……」 「……」 「……」 「……」 「…………」 全員が、声を出さなかった。というよりも、予想外の流れに口を半開きにしたままだった。 ゲートが光を失い、閉じる。後には何事もなかったかのように、普通の空間があるばかりだった。 しばらくの間、沈黙が続いた。ようやくのことで、なんとかヴォルフが声を絞り出す。 「……誰これ?」 ゲートから出てきたのは。 ユーゴーでもキャロルでもなく、黒髪で青いパーカーを羽織った、知らない少年だった。 「お、男の子だわ……」 「……こ、これは誰だい?」 「し、知らない……。わたし知らない……」 「……増えた。……召喚は成功?」 「…………アジア系だな。……顔が平たい」 「……へ、平民増やしてどうするのヴァリエール……」 「そ、そんなこと、わたしに言われても、し、知らない……」 眠ったように目をつぶって倒れている少年を囲んで、一同はごにょごにょと話し合う。 「あ、でもこの子けっこう可愛い顔つきね。アタシの好みからはちょーっと外れるけどなかなかイケルわ」 「え!? あ、あなた男の人でしょ? なんで男の子が……」 「アタシそういう趣味の人なのよ。心は乙女」 「……ご、ごめんなさい、ちょっと絶句しちゃったわ……」 「こら、ツェルプストーに余計な事漏らさないでよ。なんだかわたしが恥ずかしいわ」 「細かいことはいいじゃないの。それよりどこの子かしら?」 「ふむ。見た感じではアジア系コーカソイドに間違いはなさそうだが……キクロプス、どう思う?」 「…………確証はないが、……中国と韓国ではないな。タイでもない。……特徴からして、日本人だと思うが……」 「ううむ……襟から服のタグが覗いてるな。……これは日本語か? 見覚えがある」 「…………おそらく」 「……日本? ……あなた達の国?」 「いや、なんというか僕の国ではないんだけど」 「けっこう可愛いパーカーねぇ。ボーイッシュでいいカンジ」 「……ま、まあ人の趣味はそれぞれよね……」 「ちょっとやめてよ、わたしまで変な目で見られてるじゃないの」 「正直に言うことはいいことよお嬢ちゃん? アタシは自分のパッションに生きてるだけよ」 「……あなたの国でもないの? ……あなたも?」 「…………違う。俺は、国籍自体……ないが」 「アタシも違うわよ。でも、アタシの国の男の子もいいのよこれが。特にローティーンとハイティーンの間は最高よ。ウブな感じが たまんないの」 「さっきからなんの話をしてるんだお前は。……たぶん、彼は僕達が来た国と同じところから来た」 「……違う国なのに同じところ?」 「…………そうだ」 「いやキクロプス、誤解を招く。僕達はその、旅行者みたいなもので……」 「こうなんていうのかしら、保護欲? 可愛い男の子ってからかったりちょっかい出したくなるのよねー」 「やめてってば、変な話はしないでよばか」 「あ、でもあたしそれ分かるかも……」 「ちょ、ちょっとツェルプストー!? なんでオカマに同意してるのよ」 「あら、あなた分かる? そういうの」 「少しだけ期待させてみたり、そういう素振り見せたら反応が面白いのよねー。赤くなっちゃったりして」 「そうそう、それよ。照れる姿が可愛いのよもう」 「やめてよもう! ばかじゃないのあんた達! なにナチュラルに意思疎通してるのよ」 「……旅行者? 滞在先の国の人?」 「そういうことになるね。まだ確実じゃないけど、たぶん日本人らしい」 「あらお嬢ちゃんにはまだこういう話は早いかしら? そういやお嬢ちゃんもウブそうね?」 「…………心拍も正常。……目立った外傷は見当たらん」 「だって無意味に身持ちの固いトリステイン女だもの。男の子のことなんてなにも知らないのよこの子?」 「……この人も、あなた達のように『念力』が使えるの?」 「あんたが男をとっかえひっかえでおかしいだけでしょ! 普通はそうなの!」 「いや、それはないと思うが……普通の少年のようだけど」 「とっかえひっかえなんてしてないわ。あたしは大勢来る中からつまらない男を切ってるだけ。こう見えても、見る目だけはあるつ もりよ」 「…………武器の携行はなし。持ち物はバッグが一つ、……中にはノートPCだ」 「アタシは純情も信念があって悪くないとも思うけど。でも、まったく男を知らないってのも考えものねぇ。コロッと騙されちゃう わよ?」 「……この人は純情?」 「やっぱりそうよね、なにも知らないのは危ないわよね。ヴェリエールも少しは男を見る目を養ったらどう?」 「ああ、確かに素朴な少年そうだ……って、なに? ああ、おいヴォルフ、会話が混線するからあとにしろ。混乱する」 「うるさいわね! 大きなお世話よ! わたしはそういうの、ちゃんとするの!」 「…………あとは筆記用具が少々。……PCは電源が入っているようだ……今、点ける」 「なんだか危なっかしい意見ねぇ……。乙女もいいけど王子様なんてホントにレアよ? だいたいの男は自分のこともキチンとでき ないヘナチョコばっかりだし」 「……ヘナチョコ?」 「あなたに比べたらそりゃだいたいはヘナチョコだわ……。でも、男って意外と頼りにならないわよねー。いざってなるとダメなの よ」 「ヴォルフ、やめろって。……さ、さあヘナチョコかどうかは知らないけど、さすがにヴォルフよりは……僕も人のことは言えない けど」 「そ、そうなの? ……で、でもわたしはその辺はちゃんと将来のために、遊んだりなんてしないでいたいの! 大事なことだもの!」 「…………点いたぞ。……立ち上がりがずいぶん早い。……高そうだな」 「あらら、これは頑固そうねぇ。でも、そういうの重いとか言って逃げるナメた男もいるのよねぇ、ヤるだけヤってるくせに。気を つけなきゃダメよ? 時々とんでもないのいるから」 「……あなたもヘナチョコ?」 「あーいるわそういうの、価値のない男。ヴァリエール、あなた何も知らないからひどい目に合いそうで心配になってくるわ。あ、 ちょっとなにそれ!? マジックアイテム!?」 「う……。ま、まあその、あんまり体力には自信ないかな……。ところで、彼はまだ起きないのか?」 「あーーーーーーもーーーーーーうるさーーーーーーーい!!!!」 ルイズが思い切り大声を上げると、ぴたりとこんがらがりはじめた会話が止まった。 「……急にヒステリーもよくないわよ、男に低く見られるわよ?」 「違うわよばか! もう、何の話だか分からなくなってきちゃうもの! ちょっといったん、ストップ! 話を戻しましょ。とりあ えず、これはなに?」 ぴっと倒れたままの少年を指差した。 「これってひどい言い方じゃない? あなたが呼び出したんでしょ、ヴァリエール」 「そ、そうだけど! なんで来るのよ、来れるのよ!? おかしいじゃないの、一人につき一つのはずでしょう!?」 「あたしに言われても知らないわ……。どういうことなのかしら?」 キュルケも分からないらしく、首をひねる。 「……とりあえず、起こしてみようか」 クリフは軽く少年の肩をゆすった。すると、うう、とうめいてから少年が目を開けて身を起こした。 「……え? あれ、ここどこ?」 ぽかん、としてこちらを見つめてくる。 「……えーと。やあ、僕はクリフ・ギルバートという。君は?」 「へ? お、俺? 俺は……平賀才人……」 「なるほど、サイト君。……だ、そうだ」 振り返ってみる。が、一同は黙ってこっちを見ているので、クリフは才人という少年と会話を続ける。 「ところでサイト君。君は日本人か?」 「え? え? に、日本人……ですけど…・・・。え? なんで? 誰?」 「まずは落ちついてくれ。混乱していると思う。僕もそうだった。……だが、……慌ててもはじまらない」 「はへ? いや、ちょっとなんですか? が、外国の人?」 「そうだね、僕は君にとって外国の人だ。だが、言葉は通じてるな……? ふむ。君は英語が堪能なのか。まあ、今はこの際それは 置いておこう。それより、どこか怪我はないか?」 「言葉……? いや、怪我はない……ですけど。え、ちょっとわけわかんねえ」 「うん、その通りだ。わけがわからないことだろう。だが、冷静にだ。いいか、冷静に。……よし。じゃあ説明をしよう。……ルイ ズちゃん?」 再度振り返り、ルイズを見る。 「え? わ、わた、わたし?」 ルイズは急に話を振られて、少し声を裏返した。 「君が呼んだ少年だ。おそらく、彼は……君の使い魔ということになる。この場合、君が説明するのがいいと思う」 「え、で、でも、でも……?」 「慌てないで、落ちついて。君は主人だろう? 大丈夫だ、問題ない」 主人、と言われてルイズははっとした。きりりと顔を引き締める。 「い、いい!? ちょっとそのまま、動いちゃダメよ!」 「えっ? な、なんだよ、ええ? あ、こっちも外人……?」 「動かないで! ……我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール! 五つの力を司るペンタゴン! こ の者に祝福を与え、我の使い魔となせ!」 そう言ってルイズはつかつかと才人に近寄り、杖を額に置く。え、いや、違う、彼に説明を……? 「おわっ? な、なにをする」 「いいからじっと。そのまま……」 「ちょ、ちょ、え? おわ、な、なになに?」 「動かないでってば!」 ルイズは両手で才人をがっしりとホールドし。 そして、唇を重ねた。 少しして、すっと離す。 「……うう、もう……ちょっと、ツェルプストー! なにニヤニヤ見てるのよ!」 「見てないわよ。まあ、あなたもがんばりなさいよ」 「なにをがんばるのよ! もう、なんだか心の準備できてなかったから、すごい恥ずかしい! ちょっと見ないでよ!」 ルイズが顔を真っ赤にしてわめいてる後ろで、少年は放心して呆然としているようだ。うむ、確かにビックリするよな、彼にとって は同年代みたいだし。特に日本人はキスの習慣があまりないって聞くな。 「……!? うおわぁあああ!? あ、熱っ、あっつぅー!? 痛ってぇー!?」 そのうちに、才人は手の痛みに床を転がりはじめた。……僕達より不意打ちの度合いがひどくてちょっとかわいそうかもしれない……。 「あら、ちょっとだらしないわね。あの程度の痛みでそんなに騒ぐなんて」 ヴォルフが肩をすくめる。いや、それは少々酷じゃないかなぁ……。 「はあ、はあ、痛ってぇ……。な、なんなんだちくしょう……!? い、意味がわかんねえ……マジでわかんねえ……!?」 才人は混乱に満ちた目をしていた。 前ページ次ページ三つの『二つ名』 一つのゼロ
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クリフトとアリーナの想いはPart7 871 :いのちをだいじに 1/8 ◆e.sLpeggy2 :2007/11/03(土) 10 55 29 ID nHoEIJ8h0 クリフトがザオリクを覚えてからというもの、蘇生はもっぱらクリフトの役割となった。 蘇生確立が5割のザオラルよりも、より多くの魔法力を使うとはいえ、 クリフトのザオリクの方が効率が良いのは致し方ない。 最初はザオリクを唱えるたびに肩で息をしていたクリフトも、 戦闘中、誰かが倒れ伏すたびに駆けつけて蘇生呪文を唱えているうちに、 当初のぎこちなさが消え、蘇生までの時間も早くなってきた。 しかし、勇者は、それにつれてクリフトの口数が少なくなってきているのに気が付いていた。 ある日、勇者はクリフトが一人のときを選んで、クリフトに声をかけた。 「クリフト。最近、悪いな。お前ばっかりに蘇生をまかせちまって…。」 クリフトは面食らった顔をした。 「ソロさん。いきなり何をおっしゃるかと思えば。」 「いや、みんな気軽にお前にザオリクほいほい頼んでるけど、 他の奴ら、蘇生呪文を使うのが、どんなにきついもんかってわかってないんだ。」 まあ、お前一人に押し付けてる俺も同罪だけどな、と勇者は頭をかいた。 クリフトは、そんな勇者に首を振った。 「別に、今ではもう、ザオリクを使うこと自体は、私の体の負担にはなってませんよ。」 「…だって、お前、最近疲れてないか?」 「いいえ、全く。ザオリクもコツを覚えればそれ程きついものでは…。」 とクリフトは言いかけ、低い声で独り言のようにつぶやいた。 「そう、むしろ、それが問題なんだ…。」 「何?なんか言ったか、クリフト?」 「いえ、なんでもありません。とにかく、私は大丈夫です。」 クリフトはにっこり微笑むと、歩み去った。 勇者は、釈然としない気持ちのままその場に取り残されたが、そこに声をかけた者があった。 「ソロさん…。」 「ミネア。」 ミネアからの提案を聞いて、勇者は驚いた。 「ザオラルを学びたい?」 ミネアが真剣な顔で頷く。 「ええ、お願いします。ザオリクは無理でも、ザオラルを覚えれば、 クリフトさんの負担を少しでも軽くできるかもしれない…。」 「…ミネア、お前、いい奴だなー。」 感心した顔をする勇者に、ミネアは赤くなった。 「そうじゃないんです…ただ、今のクリフトさんを見ていると…危ういような気がして…。」 勇者は、ミネアの言葉に顔を曇らせた。 「ああ…確かに、何かこう、いっぱいいっぱいっていう感じはするな…。」 勇者とミネアは心配そうに顔を見合わせた。 それから、数ヶ月が過ぎた。 「ミネアも、ザオラルを覚えたの!?すごいじゃない!」 恥ずかしそうに、ザオラル習得を告げたミネアに、皆が拍手喝采した。 クリフトは、驚いたようにミネアを見ると、複雑な表情をした。 勇者は、クリフトの表情に気づき、わずかに眉をひそめた。 「これで、3人目か~、旅が効率よく進むようになるわね~。」 マーニャが嬉しそうにミネアに笑いかけた。 ライアンがそれに呼応して頷く。 「ふむ。前は誰かが戦死するたび教会のある街や村まで戻っていたからの。」 「それに、私は、教会よりも、クリフトさんのザオリクの方が好きですね。」 「そうね、クリフトの蘇生呪文って、何だかほんわりと暖かくて、柔らかいのよね。」 「ああ、あれは不思議に良い心地がするものじゃて。」 そこから、一行は、クリフトからザオリクを受けたときの感想に花を咲かせ始めた。 当のクリフトは皆の会話に参加せず、表情を硬くして前を向いている。 勇者とミネアは、気遣わしげに、そんなクリフトと会話をしている仲間を交互に見ていた。 アリーナが、仲間達の言葉に目を輝かせた。 「へー、クリフトのザオリクって、そんなに気持ちいいの?」 「そうか、アリーナ姫は、まだ一度も蘇生呪文を受けたことはなかったか。」 「そりゃーそうよ、この子、いつも有り余るほど回復呪文かけてもらってるもの。」 マーニャは笑ったが、アリーナは悔しそうに頬を膨らませた。 「えー、でも、そんな気持ちいいなら、今度私もザオリク受けてみたいって」 「いい加減にしてください!」 アリーナの言葉を遮って、クリフトの叫びがあたりに響いた。 場がしん、と静まり返った。 クリフトは、立ち上がり、体を震わせていた。 アリーナは、驚いたように目を見張ってクリフトを見上げた。 クリフトが、このように激しい感情を顕にすることはめったにないことだ。 勇者が、首を振って小さなため息を吐いた。 「いいかげんにしてください、姫様も、皆さんも…!」 クリフトは、震える声で言った。 「蘇生呪文が禁呪とされていることの理由が、今なら良く分かります…。 ザオリクのせいで皆さんは、生命の尊さを忘れてしまっています。 …命を手放すということを、そんなに簡単に考えないで下さい!」 皆、言葉もなくクリフトを見つめていた。 「こんなことなら、私は、もう、蘇生呪文は使いません!!!」 そういうと、クリフトは皆から顔を背け、足早にその場を立ち去っていった。 「…クリフトが怒るのも当たり前だ、お前ら、能天気なこと言いやがって。」 勇者が不機嫌そうに皆をにらみつけた。 「軽々しく、死んだらどうとか言うもんじゃねえよ。」 ミネアも、厳しい顔をして頷いた。 他の仲間達は、うなだれ、あるいは面目なさそうに首をすくめた。 「とにかく、アリーナ、行って謝って来いよ。」 アリーナが、勇者の言葉に不服そうな顔をする。 「え、なんで私だけ?みんなで一緒に行こうよ!」 「いいから。他の奴らとお前では、同じこと言っても罪の重さが違うの!」 「…何それ。訳分からない。」 ぶつぶつ言いながらも、アリーナは立ち上がると、クリフトの後を追った。 アリーナは、すぐにクリフトを見つけた。 クリフトは、森の外れの木にもたれかかって、ぼんやりと空を見ていた。 その表情の暗さに、アリーナはギクリとなった。 後悔の色を顔一杯に浮かべ、アリーナはクリフトに駆け寄った。 「クリフト!」 クリフトは、はっとしたように体を起こした。 「姫様…。」 アリーナは、クリフトの袖をつかんで見上げた。 「ごめん、ごめんね、クリフト。…無神経なこと言って。」 クリフトは、驚いたようにアリーナを見ると、悲しげに頭を垂れた。 「申し訳ありません…。姫様が、謝られる必要など、ないんです。」 「だって…。」 クリフトは首を振った。 「違うんです…本当は、問題があるのは、私の方なんです。」 「え…?どういうこと?」 アリーナは首をかしげた。 クリフトは、ため息をつくと、遠い目をして空を眺めた。 「蘇生呪文を覚えてすぐの頃は…呪文を使うのが、本当に辛かった…。 仲間の死に顔が目の前にちらついて、しばらくは眠れませんでした。」 クリフトは自分の手に目を落とした。 「…なのに…今は、何も感じないんです。」 「…。」 「仲間の血塗れで息をしていない体、見開いたまま動かない瞳、 そんなものを目の当たりにしても、夢に見ることもなくなりました。 私が、その前にひざまずいてザオリクを唱えれば、彼らは息を吹き返す。 死が一体なんだというのだ、と、どこかで思っている自分がいるんです。」 クリフトは、両手を握りこんで目をつぶった。 「死の呪文と蘇生の呪文を当然のように繰り返していくうちに、 私は、自分が、だんだん人の生死に無関心になっていくことが怖い。 このままでは、私は…!」 「クリフト!!」 アリーナの強い声に、クリフトははっと我に返った。 「あ…。」 アリーナは、真剣な顔でクリフトを見上げていた。 「す、すいません、姫様…。」 アリーナは、ゆるゆると首を振ると、クリフトの手をとった。 「ううん…私こそ、ごめん、クリフト。…私、知らなかった。 クリフトが、蘇生呪文のたびに、そんな辛い思いをしていたなんて…。」 「いえ、そんな、姫様…。」 「でもね、クリフト。」 アリーナは瞳に強い光を宿してクリフトを見た。 「クリフトは、命を軽々しく考えてなんかいないわよ。」 「え…。」 「みんな、言ってたでしょ。クリフトのザオリクは暖かいって。 教会の神父さんなんかより、ずっと気持ちが良いって。 それは、きっと、クリフトが命を大切に思ってるから。 クリフトの、命を大切に思う気持ちが、呪文に溢れてるからなの。」 「そんなことは…。」 否定しようとするクリフトを、アリーナは遮った。 「私は、ずっと昔からクリフトを見てるもの。分かるの。 この先、何があっても、クリフトが命をおろそかにすることなんて、ない。」 自信たっぷりにそう言うと、アリーナはにっこりと微笑んだ。 「姫様…。」 クリフトは、呆然とアリーナを見ると、アリーナに手を伸ばしかけた。 しかし、はっとしたようにその手を握りしめた。 「クリフト…?」 アリーナが不思議そうにクリフトを見上げた。 クリフトは、泣き笑いのような顔でアリーナを見た。 「姫様…どうもありがとうございます。 ご心配をおかけして、本当に申し訳ありませんでした。」 アリーナは明るく笑った。 「クリフトったら、またそんな馬鹿丁寧なの、やめてよ! このパーティの中では、私達、主人と臣下じゃなくて、 同等の仲間でいたいと思ってるんだから!」 「…同等の……仲間、ですか…。」 クリフトが呟いた。 その表情は、影になっていてアリーナからは見えなかった。 アリーナは、うんうんと頷くと、笑顔を浮かべた。 「そう、大切な仲間!だから、私ばっかり特別扱いもナシ!」 「…。」 くすり、とクリフトの口から笑いがこぼれた。 「何?」 「いえ…。」 クリフトは顔を上げると、アリーナに向かって微笑んだ。 「…ありがたいお言葉、どうもありがとうございます。」 アリーナは両手を振り上げた。 「だからー、そうゆうのがダメなんだってばー! もうっ、みんなのところに戻るよ、クリフト!!」 アリーナの背中を見ながら、クリフトは、口の中で何か小さく呟いた。 しかし、先を行くアリーナにはその言葉は聞こえないようだった。
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クリフトのアリーナの想いはPart12.5 864 1 名前 1/4 Mail sage 投稿日 2013/03/15(金) 21 59 54.30 ID 13C6jMX90 山麓です。こぼれ落ちる妄想が止められない。婚約後の妄想。 一方の神官は憂いに満ちた青い瞳を落とし、一方の老魔術師は黒い瞳を宙に仰がせていた。 身分違いのお姫様とお付きの神官の話はおとぎ話のように「めでたし、めでたし」という結末を一旦迎えていた。 しかしおとぎ話とは違い、神官の憂いは新たな局面を迎えていた。 「私めが職業柄、性格上、全く経験なく、奥手である事が要因の一つと認めますが……」 「姫様にそのような知識を得る機会を与えなんだ、教育係としての儂にも責任はある事は認めよう。しかしお主の知識でどうにか出来ぬのか」 「出来ていれば憂いていません。それに姫様に対して、恐れ多くも……」 「恐れ多くも何も、お主は姫様の許婚。接吻一つでつまずかれると、それからどうするつもりじゃ」 ブライの言葉で顔を真赤すると、クリフトは下を向いて沈黙した。その生真面目で奥手な神官の様子に、老魔術師は大きなため息を吐いた。 最後は背中を優しく叩かれながら慰められ、部屋を出たクリフトは、本を片手に王宮の廊下を歩いていた。 「あっ、やっぱりクリフトだ」 軽快な足音と共にアリーナが近づくと、クリフトに腕を絡めていた。 「姫様、このような……」 「もう、クリフト」 「そうでした」 もう長年の習慣だが、婚約した今では必要のない説教をしようとしたクリフトに対して頬を膨らませて、アリーナは抗議するように見上げた。 「そういう所がらしいのだけど……、クリフト何かあったの? 」 変わらない笑みの中に、引っかかるものを感じたアリーナは心配そうな表情を浮かべた。 「何もありません」 己の心の中を見透かされたように思ったクリフトは慌てて、心配させないように否定した。その様子にアリーナは少し考えると、再びまっすぐクリフトを見つめた。 「クリフト、今から大丈夫? 」 「ええ、大丈夫ですが」 「ちょっと付き合って」 アリーナはクリフトの手をグイッと引っ張った。 「クリフト大丈夫」 倒れこんだクリフトをアリーナは心配そうにのぞき込んでいた。 「大丈夫です。少し酔っただけですので」 「良かった」 あの後、二人は騎乗の人となっていた(乗馬出来ないクリフトはアリーナの後ろに必死にしがみついていただけだが)。そして城の見える丘の上に二人はいた。 「クリフト……、何かあったの? 」 不安そうな表情を浮かべたアリーナにクリフトは頬を染めながら優しく微笑んだ。 「姫様にご心配かけて申し訳ありません。ただ自分の不甲斐なさに心を痛めていただけです」 「どういう事? 」 「本を読んで知識があるというのに、何も出来ない事に。恋し方は分かっているのに愛し方が分からない事に。今も姫様に触れる事を恐れ多いと思ってしまう事に」 クリフトの指先がアリーナに触れる前に空回りした。 「私も似た事考えていた。クリフトが好きというのは分かっているけど、どうすればいいか分からないの」 空回りしているクリフトの指先を、アリーナは両手で包んだ。 「姫様」 クリフトはゆっくり起き上がると、震える一方の手でアリーナの手に重ねた。 「クリフト、そんなに恐れなくてもいいよ。私は大丈夫だから」 切なげに見つめるアリーナの瞳から、クリフトは目が離せなかった。そしてアリーナにそのような瞳をさせる自分に対しての自己嫌悪に陥っていた。 「こういう不安な時に、世の中の恋人同士はどうやって安心感を得るの? 」 「ここにいますという愛情表現によってでございます。私も知識上でしか知りませんが」 「だったら、二人で一緒に学んで行きましょ。いつもクリフトの方が先に進んで悔しかったけど、今度は一緒に進めるし。では一番最初は何から始めたらいいの?」 「では目を閉じて頂けませんか。そのすぐ出来るかは分かりませんが……」 真っ赤になって視線を落としたクリフトにアリーナは笑いながら目を閉じた。 丘の上、二人の姿はゆっくり一つになった。
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947 HappyValentine?1/5 ◆XJ3Ut0uuQQ [sage]2007/02/14(水) 18 06 03 ID QVgloC+a0 「大好きなのに…ひどい…。」 「…俺も……好き…んだ…、アリーナ。」 ―――風にのって途切れ途切れに聞こえてきたのは。 想い人と、勇者の声だった―――。 なぜ、昼寝などしてしまったのだろう。クリフトは心から後悔した。 一行は、朝早く街を出発すると、昼過ぎ、森の近くにある泉のほとりで小休止を取った。 クリフトは、前日、教会から借りた本を徹夜で読み切ったため、頭が重く、 気持ちの良い木陰を見つけると、軽く睡眠をとるつもりで横になった。 うとうととしている最中に、ふと、愛しの姫様の声が聞こえた気がして、 クリフトは起き上がった。 そして、アリーナと勇者の上記の会話を聞いてしまったのである。 姫様が…ソロさんを…? クリフトは、足元が沈み込むような感覚を覚えた。 それ以上2人の会話を聞くことに耐えられず、クリフトは立ち上がった。 と、足の下で枯れ枝がぽきりと音を立てた。 青ざめたクリフトの視線の先には、驚いた顔をして、こちらを振り向いた勇者とアリーナ。 勇者の手には、ファンシーな柄の、チョコレートの小箱が握られていた。 「…っ!すいません、立ち聞きするつもりでは…!」 クリフトは叫ぶと、身を翻してその場を走り去った。 後ろの方でアリーナが何か叫んでいるのが聞こえたが、クリフトは振り返らなかった。 走って走って、森の奥まで来ると、クリフトは地面に膝をついた。 そのまま、苦しそうに荒い息をつく。 心臓が、痛い。しかし、この痛みは走ったせいではなかった。 アリーナから想いを込めて勇者に渡されたのであろう、チョコレートの小箱の 鮮やかな色彩が、目に焼きついて離れない。 自分が、決して超えることのできなかった一線。 しかし、アリーナと勇者は互いに手を差し伸べ、軽くその線を越えて見せた。 クリフトは、震える手で顔を覆った。 勇者は、大切な友人だ。 この命を、危ういところでつなぎとめてくれたのは、勇者だった。 禁断の呪文に慄く自分を叱咤し励ましてくれたのも、勇者だった。 勇者はクリフトに、同世代の男友達はお前が初めてだと言って笑ったが、 それはクリフトも同じだった。 …ソロさんならば、姫様のお相手として、申し分ないじゃないか…。 自分にとって大切な人同士が結ばれる。これ以上喜ばしいことはない。 そう自分に言い聞かせながらも、体中の血がそこから流れ出ているかのような するどい胸の痛みは、消えなかった。 どれくらい、その場でうずくまっていたのか分からない。 がさがさと音がして、茂みの向こうから青いとんがり帽子が表れた。 「あー、クリフト、やっと見つけたー!」 「…姫様…。」 今、一番会いたくなかった人。…それでいて、一番会いたかった人。 クリフトは、思わずアリーナの顔から目をそらした。 アリーナは、そんなクリフトの様子を見て、うつむいた。 「…クリフト、さっきの話、聞いてたんでしょ…なんで何も言わないの?」 ずきり、と、胸がうずく。 分かっていても、愛する人の口から残酷な事実を伝えられるのは辛かった。 しかし、クリフトは、何とか笑顔を作って見せた。 「…姫様、私は…姫様がお幸せなら…何もいうことはございません。」 「じゃあ、クリフトは、私とソロのこと、怒ったりしてないの…?」 アリーナの言葉に、クリフトの笑顔がこわばった。 まさか。 長い間、隠し続けてきたと思っていた、この胸の想い。 もしかして、この想いは、アリーナに伝わってしまっていたのだろうか…? 蒼白な顔でアリーナを見つめるクリフトに、アリーナは言った。 「だって、私たち、クリフトの分まで、チョコレート食べちゃったのに。」 …は? なんですと? 口をぽかんと開けたクリフトに、アリーナは慌てた顔をして一気にまくし立てた。 「ち、違うの!私は、ちゃんとクリフトにもあげようって言ってたのよ! でもね、チョコレート、開けてみたら、可愛いんだけど少ししか入ってなくて…。 ソロが、3人で分けたら、いくらにもならないって言い始めて…。」 「ええと…姫様…?」 クリフトは、どこかで魔物がメダパニを唱えたのかと思ったが、その様子はない。 混乱した頭を片手で支えると、何とか話を整理しようと努力しながら尋ねた。 「どうも、その、話が見えないんですが…。」 「だから、今朝、宿のおじさんが、バレンタインデーだからってチョコレートくれたの。 そのとき、私とソロしかいなかったから、あとでクリフトにも分けてあげようね、って 言ってたのに、クリフトどっか行っちゃうんだもの。」 「…それでは、先ほどの、姫様とソロさんの会話は…?」 クリフトは、おそるおそる聞いてみる。 「わ、やっぱり聞いてたんじゃない。」 アリーナは赤くなった。 「ソロが、お前そんなに言うんだったら、お前の分をクリフトに分けろっていうから、 私はチョコレート大好きなのに、そんなのひどいって言ったの。そしたら、ソロも、 俺だってチョコレート好きなんだって言うから………結局、2人で全部食べちゃったの!」 本当にごめんなさい!と上目使いで手を合わせるアリーナを前に、 「~~~~。」 クリフトは、がっくりと頭をたれた。 自分は、よっぽど間の悪い星のもとに生まれて来たに違いない。 一体どういうタイミングで聞けば、その会話の流れの、あの部分だけ、 ピンポイントで耳にすることができるんだろう。 「クリフト、…やっぱり怒ってる?」 アリーナは、膝の間に顔をうずめてしまったクリフトをおろおろ見ていたが、 クリフトはいつまでたっても顔を上げようとしない。 しばし無言の時間が流れた後、アリーナは思い切ったように口をきっと引き結ぶと、 クリフトの顔を両手でがしっと挟み、無理矢理上を向かせた。 突然のアリーナの行動に、驚いたように目をしばたかせたクリフトに、 アリーナはゆっくりと顔を近づけた。 「!?!?☆※★△×!!!!」 クリフトの頭の中は真っ白になった。 しばらくして顔を離すと、アリーナは、えへっと笑った。 「ソロがね、食べちゃったものは仕方ないから、 クリフトには香りだけでも味見させてやれって。 ね、どうだった?おいしかった?」 「…………勘弁、してください…。」 「え、何、きゃー!クリフト、しっかりして!」 そのままクリフトはずるずると倒れ込み、気を失った。 ―――その後、クリフトが、「味見」の口止料として、 勇者に山ほどチョコレートを買わされたのはいうまでもない―――。
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クリフトのアリーナへの想いはPart5 599 :【気球】1/3 ◆cbox66Yxk6 :2006/07/14(金) 14 57 01 ID ZTKjQEVd0 トルネコから、アリーナの誕生日祝いが届いた。 「ほう、これが気球か」 サントハイム王は目を輝かせている。 「して、どのように操るのじゃ?」 サントハイム王は興味津々になっている。 「このガスのつぼを・・・」 サントハイム王はブライの説明に聞き入っている。 クリフトは様子をうかがっている。 アリーナは黙って見守っている。 クリフトはそっとアリーナの手を握った。 クリフトと視線を交わしアリーナが頷いた。 クリフトとアリーナはこっそり逃げ出した。 クリフト流気球活用法・その1 身代わり 600 :【気球】2/3 ◆cbox66Yxk6 :2006/07/14(金) 14 58 21 ID ZTKjQEVd0 クリフトとアリーナは気球に乗り込み、大空へ飛び立った。 「クリフト・・・大丈夫?」 心配げに覗き込んでくるアリーナに、クリフトは穏やかな微笑を向ける。 「はい。怖くないといえば嘘になりますが、でも私はいま幸せですよ」 「幸せ?」 「高いところが苦手なので、周りの景色を愉しむ余裕はありません。ですが・・・」 クリフトは真摯な眼差しをアリーナに向ける。 「貴女だけを視界にとどめて置けるなら、気球も悪くないですね」 クリフト流気球活用法・その2 口説き文句 601 :【気球】3/3 ◆cbox66Yxk6 :2006/07/14(金) 14 59 31 ID ZTKjQEVd0 アリーナとサントハイム王が嬉々として気球に乗り込んだ。 「じゃあ、クリフト。後はお願いね」 「はい」 クリフトの目の前で気球が大空へと飛び立っていく。 アリーナとサントハイム王はピクニックに出かけた。 クリフトは政治的手腕を遺憾なく発揮している。 大臣は賞賛の眼差しを送っている。 執政官は尊敬の眼差しを送っている。 クリフトのサントハイムにおける称号があがった! クリフトはサントハイムの「できる男」になった! 好感度が10あがった! 尊敬度が10あがった! 信頼度が10あがった! 腹黒さが50あがった! アリーナとの結婚に一歩近づいた。 クリフト流気球活用法・その3 地盤固め
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クリフトとアリーナの想いはPart7 262 :ザオリク1/7 ◆XJ3Ut0uuQQ :2007/04/11(水) 11 32 12 ID B8WosjmC0 クリフトと勇者がザオラルを覚えてしばらく経った。 旅はますます厳しさを増し、出会う魔物の強さも日に日に上がって来る。 それに伴い、好むと好まざるとにかかわらず、2人が蘇生呪文を使用する場面も増えてきた。 しかし、蘇生呪文といっても、ザオラルの生還率は50%に過ぎない。 「ねえクリフト、あんたさ、この際、ザオリク覚えちゃってくれない?」 なので、ある日の夕食時、マーニャが口にした要望はもっともしごくであった。 しかし、クリフトは首を横に振った。 「ザオリクは特殊な呪文ですから…。フィールドで使うのは無理なんですよ。」 「へー、そうなの?単にザオラルの強力版だと思ってたわ。」 意外そうな顔をするアリーナに、クリフトは解説を始めた。 「ザオラルもザオリクも、死者の魂の呼び戻しと言う点は共通しているんですが、 その方法が根本的に違うんですよ。」 「どういうこと?」 「ザオラルは、人間が、自らの清浄な気と意志の力を高めて、それによって発動する呪文で 呼び戻しを行なうんですが、ザオリクは、その場に神の御力そのものを呼び奉ることによって、 それを行なうんです。…ザオリクは、呪文と言うより、むしろ儀式に近いですね。」 「…うーん。難しくて、よく分からない…。」 眉間に皺を寄せるアリーナ。 「要するに、ザオラルは人間の力だけど、ザオリクは神の力ってことですかしら。」 ミネアが首をかしげた。 「そのとおりです、ミネアさん。故に、ザオリクは100%の蘇生が可能なんです。 ただ、神の御力を呼び奉るには、聖域が必要になります。例えば教会などがそうですね。 逆にそういう場所であれば、術者自身の能力はそれほど必要ないんですよ。」 「そういや、教会とかではフツーの神父さんが軽々と蘇生させてるもんな。 あれは、教会が聖域だからできるってことなのか。」 と勇者がうなずき、マーニャは口を尖らせた。 「そうすると、つまり、フィールドじゃ聖域がないから、ザオリクは無理ってこと?」 「そうですね、教会と同レベルの聖域を、一人の人間が無から作り出すと言うのは、 まず不可能に近いと思います。…物の本には、遥か昔に勇者と旅をした賢者が、 フィールドでザオリクを使ったなんて話もありますが、伝説の域を出ないですね。」 クリフトの話に、皆、感心したようにほーともへーともつかない声を出した。 「そもそも、私の場合…。」 クリフトは、そこでふと口をつぐんだ。 「クリフト?どうしたの?」 アリーナの問いにクリフトは、なんでもありませんと首を振ると、心の中でつぶやいた。 ―――闇を身の内に飼う私が、神の御力を呼び奉るなんて話、問題外だ…。 数日後、一行は、ゴッドサイドに向かうことになった。 クリフトは、目的地に近づくにつれ、難しい顔をして考え込む時間が増えていた。 勇者もまた、ゴッドサイドの南にそびえる天空の塔を眺めながら、 いつになく物思いにふけっているようだった。 魔物に最も敏感な2人が、他に気を取られていたせいかもしれない。 気がついた時には、一行は、強力な魔物達の群れに囲まれていた。 非常事態として全員で戦闘を開始したが、この周辺の魔物は手ごわかった。 しばらく戦っているうちに、トルネコ、ミネアは倒れたまま動けなくなった。 ブライもマーニャも魔法力を使い果たして、膝をつき、肩で息をしている。 ライアンは、満身創痍ながらもやつざきアニマルの群れに切り込み、1頭を切って捨てたが、 これをすかさずブラックマージが蘇生させた。 「こしゃくな奴らめ!…魔物の癖に、蘇生呪文を使うとは!」 「魔物には魔物なりの神様がいるってことかしらね!」 マーニャは歯を食いしばって立ち上がると、鉄扇を手にライアンの助太刀に駆け寄った。 勇者とアリーナ、クリフトは、背中を互いに預けながら、健闘していた。 しかし、クリフトのベホマで回復しながらも、3人の体力もそろそろ限界だった。 繰り出した剣をかわされ、勇者の足がよろめいた。 その瞬間、横からオーガーが鉄球を振り上げ、痛恨の一撃が勇者を直撃した。 「がはっ!」 勇者は、後ろで闘っていたクリフトともども吹き飛ばされ、2人は岩壁に叩きつけられた。 「クリフト!ソロ!」 アリーナが顔色を変えて叫んだ。 「げほ、げほ…。ソ、ソロ、さん、大丈夫、です、か?」 クリフトは、咳き込みながら口中の血を吐き出すと、そばに倒れている勇者ににじり寄った。 回復呪文をかけようと勇者に手を触れた瞬間、クリフトの背筋がヒヤリとした。 勇者は、息をしていなかった。 「ソロさんっ!?」 そのとき、アリーナの悲鳴が聞こえた。 「きゃあぁ!」 クリフトが振り向くと、アリーナが、じごくのもんばんの鎌に右肩を切り裂かれ、鮮血に染まっていた。 「姫様!!」 ベホマの詠唱を始めたクリフトに、アリーナが絶叫した。 「だめっ!!だめよ!クリフト!先に、ソロにザオラルして!」 「…っ!」 確かに、ここでアリーナを回復させても、残りの仲間の状態でこの魔物達を倒すのは困難だろう。 ベホマズンを使える勇者を蘇生させれば、勝算はある。 しかし、勇者蘇生の確率は半々だ。 クリフトに、ザオラル2回分の魔法力は残っていなかった。 1発で勇者が生き返らなければ、全滅である。 ―――ならば、姫様だけでも…。あるだけの魔法力で回復させて、スカラを使えば、姫様なら逃げ切れる…! 回復呪文のため、再びアリーナに向けて右手を挙げたクリフトを、アリーナの強い声が引き止めた。 「クリフト!」 アリーナはクリフトに向かって首を振ると、苦痛に息を切らせながらも、にこりと微笑んでみせた。 ―――大丈夫。クリフトのこと、信じているから。 アリーナの笑顔がそう言っていた。 ―――クリフトなら、ソロのこと、必ず生き返らせてくれる。 敵は、こちらの戦力が尽きかけているのを知って、獲物をいたぶって遊ぶことに決めたらしい。 それ以上の攻撃はして来ずに、のんびりとこちらを伺っていた。 クリフトは、魔物達を横目で見ながら唇を噛んだ。 ―――ここで、蘇生呪文を成功させなければ、姫様も皆も、おしまいだ。 しかし、姫様は、自分を信じて、全てを託してくれた。 その姫様の信頼に応えられなければ、自分は一体、何のためにここにいるのか。 クリフトの目に、強い決意が浮かんだ。 クリフトは、胸のクルスをつかむと目を瞑り、全身全霊を込めて祈った。 神よ、私自身は、あなたの加護を求めるに値しない者ですが、今だけ、力をお貸しください。 姫様のために――誰よりも、気高く清らかな心を持ったあの方を、助けるために―――。 どうか、神よ―――! クリフトは、必死に神へ祈りながら気を込めて勇者に手をかざした。 と、クリフトの右手から白い光が溢れ、勇者とクリフトを包み込んだ。 魔物達が、その光の眩しさに目を覆って悲鳴を上げる。 その悲鳴に、闘っていたマーニャ、ライアンが振り向き、倒れていた者達も顔を上げた。 周囲に漂う魔物達の瘴気を吹き払い、そこに出現したのは、紛れもない清浄な空間。 一同は、信じられないという顔をして、光とクリフトを見つめていた。 「これは…まさか…。」 震えるクリフトの目の前で、白い光が一点に集約し始める。 次の瞬間。 まばゆい閃光が辺り一面にはじけ散ると同時に、凄まじいエネルギーの爆発が起きた。 「きゃあ!!」「うわっ!」 皆の悲鳴が上がるなか、クリフトは、崩れ折れた。 閃光が徐々に収まり、周囲の風景に輪郭が蘇ってきたとき、勇者が、呻きながら体を起こした。 「…な、んだ?今のは…。」 「ソロ!」 アリーナは喜びの声を上げたが、同時に、クリフトが倒れていることに気づき、息を飲む。 勇者も、自分の横で動かないクリフトに気づき、慌ててその体を引き上げた。 「おい、クリフト!大丈夫か!」 揺さぶられて、クリフトは、うっすらと目を開けた。 「…ああ、ソロさん、生き返って…良かった。…大丈夫です、目が眩んだだけ…。」 そして、クリフトはアリーナを振り返って右手を上げると、 「姫様、すいません…。もう、魔法力が、これしか…。」 アリーナに向かってホイミを詠唱した。 「…よく分からないけど、助けられたみたいだな、クリフト。」 勇者は立ち上がりながら魔物達を睨みつけた。魔物達は、今の不可解な出来事に怯えたように後じさる。 「おかげで、体力も魔法力も満タンだぜ。」 勇者は両手を上げると、ベホマズンを唱えた。 強烈な回復の光が皆を包む。 倒れていたトルネコ、ミネア、膝を付いていたブライが、ゆっくりと起き上がった。 マーニャとライアンが、光に包まれながら、不敵な笑みを交わす。 蒼白い顔をして、ぐったりと岩壁に寄りかかっていたクリフトの頬にも赤みが差した。 アリーナが立ち上がって、クリフトに駆け寄った。 勇者の手の中で雷が音を立て始めた。 「…お前ら、覚悟しろよ…!ギガデイン!」 聖なる雷の爆音が、その場に響き渡った。 その後、体力を回復した勇者一行が、混乱した魔物達を殲滅するのに、さほど時間はかからなかった。 戦闘後、薬草を使って皆の怪我の手当てをしていたクリフトに、勇者が尋ねた。 「クリフト。さっき俺を蘇生させたとき、いったい何があったんだ? なんかいつもと違って、全身にものすごい力がみなぎって…、爆発しそうな感じだったぜ。」 「私も、…自分では受け止めきれないほどに大きな…そして聖なる力を感じました…。」 考え込みながら、クリフトが答えた。 「あれは…。もしかして、ザオリク、だったのではないかと…。」 「…え?で、でも、クリフト。ザオリクはフィールドで使えないんじゃ…?」 驚愕の表情の勇者に、クリフトは困ったように首を傾げた。 「はい…そのはず、なのですが…。」 横で話を聞いていたアリーナが、うれしそうに両手をぱちんと打ち合わせた。 「クリフト、すごいじゃない!それって、クリフトが自分で聖域を作り出したってことよね!」 伝説の賢者様と同じよ!と目をきらきらさせるアリーナを、クリフトは、眩しそうに見つめた。 ―――聖域を作り出したのは、自分の力ではない。 アリーナが、自分を信じてくれたから…アリーナの信じる力こそが、聖域を生み出したのだ。 「クリフト?泣きそうな顔してどうしたの?」 アリーナが不思議そうにクリフトの顔を覗き込む。 「…いいえ、姫様。なんでもありません。」 神の愛は、もはや望めない自分だと思っていた。 それでもいいと、仕方ないことだと、思っていた。 しかし、アリーナが信じてくれれば、自分は、奇跡さえ起こすことができる。 ―――姫様。あなたが信じてくださる限り…私は、神の赦しを求めても…よいのでしょうか? クリフトは、胸に手をあてて空を見上げると、そっと目を瞑った。
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プロフィール 職業: デュエリスト LV: 140 最近の趣味: ラテールでLV上げ!!! 好きなラテールBGM: 寺 ひとこと とうとう140になりなすた!!!!!!!!!!!!!! これからジャッジメントを楽しんじゃうんだぜ(´∀`)(。・ ω )ゞ GMからひとこと 140Lvおめでとうございます。 サブクラスとなって新しいラテールの世界観を見ることとなるでしょうね。 一度目標を立てたら必ずこなす、これがクリフさんのかっこいいところですねw (クリ手140%作り上げた天才っていうのはクラスの皆には内緒だy・・・!) これからも頑張ってほしいと思います!
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困ったときには口笛を 原題:Give a Little Whistle 作曲:リー・ハーライン* 作詞:ネッド・ワシントン* 楽曲:『ピノキオ』(1940年) バリエーション ピノキオ 英語 クリフ・エドワーズ(ジミニー・クリケット) ディッキー・ジョーンズ(ピノキオ) 日本語 ?(ジミニー・クリケット) 辻治樹(ピノキオ) ピノキオの良心となったジミニー・クリケットが困った時には口笛を吹いて自分を呼んでほしい、と伝える歌。 ゲーム ピノキオ (ゲーム) スーパーファミコン版『ピノキオ』のステージBGMとして使用。ジミニー・クリケットが登場するステージ2で流れる。
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クリフトのアリーナの想いはPart11 397 名前 従者の心主知らず フレノール編 1/11 Mail sage 投稿日 2010/11/16(火) 06 35 50 ID kcgnFnNt0 最近クリフトが独り言を教えてくれなくなって、ちゃんと聞こうと決めたのはお城を出てからのこと。 でも気づいたの。 私が知りたいのは独り言の内容もあるけど、どうしてクリフトが独り言を教えてくれなくなったかってことなのよ。 ちっちゃなころは私の後ばっかりついてきて何でもお話してくれたのに。 お説教も多かったけど。 でも私は今別のことで頭がいっぱい。フレノールでメイを助けた後ご褒美と言わんばかりのビッグニュース! 「バザー?砂漠?面白そう!行きましょ!」 「世界各地をめぐるバザーのことは聞いたことがありますが実物は。ちょっと興味がありますね。南の砂漠か。ふむ……」 「でしょでしょ?」 「クソガキめまたもやよけいな事を……。話しかける村人はよーく選ばないといけませんな。老人アホ詩人クソガキ以外の……」 「南の砂漠のバザー!すてきなひびきよね。さっ早く行きましょう!」 「…………。…………」 「どしたのクリフト?なにこっち見てんのよ」 「い、いえその、砂漠は気温も高く体調を崩しがちですので、姫さまはだいじょうぶだろうかと……」 あれ、今回はすんなり教えてくれた。変なの。 「なにいってんのよ!だいじょーぶだいじょーぶ!」 「まーったくクソいまいましい村人め!どうしてこう次から次へといらんことをふきこむか!砂漠がどうした!バザーが何だ! 城へ戻るのがまたおくれるではないか!?」 ブライの何かに火がついたみたい。 「姫っ!!」 「はいっ」 ま、まけないわ。私負けない。 「い、いいじゃない!おくれるだけで帰らないわけじゃないのよ!?だったらいいじゃない!!私ぜったい行くもんっ!!!」 「いーや今日という今日は言わせてもらいますぞ!!だいたい姫さまは危機感というものが足りなさすぎるのですじゃっ!!!」 両者にらみ合い!! 「あ、の……おふたりとも……」 隣でクリフトがおろおろしてるのがわかる。 クリフト邪魔しないで。ここに私の一生がかかってるの。 「……はあ。まったくもって、嘆かわしい……」 先に目をそらしたのはブライのほう。つまり私、勝ったのね?勝ったのね??じいに勝ったわっ!! クリフトがため息をついたのがわかった。ため息っていうか、ほっとしたのね。たぶん。 「……ブライさま、非常に備えて買い出しと情報収集をしてまいります。事件が落ち着いて再開した店もありますし」 「……ああよい、わしも行こう。黄金の腕輪に関しても少し話を聞きたいしの」 「えー早くバザーに行きましょうよー!」 じいがまた私をにらんだ。ふ、ふーんだ、勝負は私の勝ちだもんねっ 「姫さま、砂漠は今までとは比べものにならない過酷な環境のようです。準備をしっかり整えてから参りませんと……」 クリフトが口をはさんできた。今度はクリフトのお説教が始まりそう。 「あーもう、わかったわよー」 フレノールは相変わらずおおさわぎ。にせの姫メイを私たちが助けたって話題でもちきりなんだって。 あれ、そういえば私もお供をふたり連れてるけど、誰も私が姫って気づかないのね。 「それはまあ……しもじもの者にはアリーナ姫の気品など感じとれないのでしょう」 「そうですとも!にせ者がいなくなってまったくせいせいしましたぞ!あー空気がうまいっ」 ふーん、そういうものなのかな。 ふふ、本物のお姫さまもここにいるって知ったらもっとおおさわぎになるんだろうな。 正体バラしちゃう?って言ったらクリフトとじいふたりに止められた。ちぇっ。 お買い物をすませたあと、ふと気がつくとクリフトが足を止めてぼーっとしてた。 「クリフト、どうしたの?」 「いえ、少し景色を……落ちついて見るとなかなか美しい町ではありませんか」 「んーそういえばそうねー」 クリフトは噴水のほうを向くとやっぱりぼーっとしてる。手を胸に当ててぎゅっとした。あれ、くせなのかな。 「なにクリフト、噴水に何かあるの?」 「い、いえ、何でもありません!」 出た、クリフトの何でもありません。なーにが何でもありませんよ、あるくせに。今日っこそは聞きだしてやるわ。 「ねえクリフト、前からずっと気になってたんだけど、なんでそうやって思ったことはっきり言わないの?」 「そ、それは……口に出すまでもないささいなことだからです……」 「でも今まではなんでも聞けば教えてくれたじゃない」 「それは……」 なんでクリフトが困ってるのよ。今までみたいに教えてもらえなくって困ってるのはこっちなのに。 「姫さま、クリフトの考えることなぞ姫さまには難しいかおもしろくないかのどちらかでしかありませんぞ」 ブライが口をはさんできた。 むう、そうかもしれないけど、気になるじゃない。こういうの、なんかもやもやしていやなのよ。 そしたらクリフトが私を見て言ったの。やけにまじめな顔で。 「姫さま、申し訳ありません。その……以前のように二重のご説明にならぬよう適切な言葉を選ぼうと思うのですが、 未熟な私ではなかなかすぐに対処できないものでして……」 「…………」 「先ほどは確かに噴水を眺めていたのです。このような美しい町並みに整えるにはどのような過程を踏んでいるかなど」 「だったらそう言えばいいじゃない。わからなかったらもう一度聞くからいいわよ」 「……申し訳ありません……」 「っもう、だから謝らないでって言ってるじゃない。別にクリフトのこと責めてるわけじゃないのよ?」 「…………申し訳ありません……」 「だーかーらー」 「フン。このアホタレめ」 結論。クリフトはほんっとにまじめでかたくって、難しいことばっか考えてるってことで。 でも、きらいじゃないのはなんでだろう。かたい人ってキライなはずなのにな。 そうこうしてるうちにお昼を回っちゃって、少し日が傾いてきちゃったの。今から行くと今日中に砂漠に着かないんだって。 私はそれでも行きたかったんだけど、野宿って聞いたらまたじいが騒ぎ出して。テンペのときでたくさんって。 クリフトはなんにも言わなかったけど、結局付近を散策しただけでまたフレノールに泊まることになっちゃった。 夜。 あーあ。つまんなーい。眠れなーい。早く明日にならないかなー。 早く明日にするには寝ればいいってわかってるんだけど、全然眠くないの。 そうだ。今からこっそり出かけちゃえばいいのよ。目が覚めてるうちに。 あ、でも。 私はなんとなく扉に向かって声をかけてみた。 「クリフトー、いるー?」 「…………なんでしょうか」 やっぱり返事が返ってきた。返事がないのを期待してたのに。私は思わず飛び起きて扉のほうまでずんずん歩いた。 「ちょっと、なんでいるのよっ」 「なんでって、呼んでおいてそれはあんまりです」 「だから普段みたいにお部屋で休んでって言ってるじゃない!」 「ですから12時までとお約束したではありませんか」 「そんな約束してないもんっ」 「姫さま、少し声のトーンを……ブライさまに聞こえてしまいます」 「……約束なんかしてないもん」 そう、クリフトは旅に出てからずっと夜は私の部屋の前で見張ってるの。 サランでもテンペでもこのフレノールでもっ 私はもともと一人で旅に出るつもりだったのに、いやんなっちゃう。 「……第一、この宿は造りがよすぎるんです」 …………は? 「宿の造りがいいのとクリフトが見張ってるのと何の関係があるのよ!」 「床も扉もきしみません。足音も扉の音も聞こえにくいんです」 「………………」 「それに今回の一件は非常口を逆手に取られたわけですし、もしまた同じことが起こってはこのクリフト……」 「…………」 「いえ、ともかく、せめて周囲が寝静まる時間までは警備を」 「そんなこと言って、どうせまた私が一人で抜け出さないよう見張ってるんでしょ?」 「……………………」 クリフトは返事をしない。なんで返事しないのよ……。 「やっぱりそうなんじゃないっ!」 「違います!姫さまがお一人で宿を出られるなど想定の範囲外でした!私はただ…………おそばに……」 私は黙って着替えを始めた。なんだか無性に外に出たいの。 今外に出てもバザーには行けないのわかってるけど、ここにはどうしてもいたくないの。 「姫さま……?」 「…………」 「姫さま、何をなさって……まさか、今から外出されるおつもりですか?!」 当然じゃない。これ以上クリフトに見張られるのはいや。勘が鋭いのもいや。もういやなのよ……。 そう、私はサランで宿に泊まったとき、どうしても一人で冒険したくてこっそり抜け出したことがあった。 今度こそうまくいくと思ったのに、やっぱりクリフトに見つかっちゃったの。 ブライも起きてきて、あのときはさんざんしかられた。 お城の外に出ても私は自由じゃなかった。 ブライにお説教されて、クリフトに見張られて、結局お城にいるのとおんなじ。 私に自由なんてなかった。 クリフトは頭がいいから、私はいっつも難しい話でよくわからないうちに説得させられちゃうの。 こないだ話したときはわかり合えたと思ったのに。 クリフトだけは、私のことわかってくれてるって思ったのに……っ ――自由って、なに?―― 「姫さま、外出されるのなら私も行きます!」 いやよ、こないで。 「お願いです、どうかおそばにいさせてください!」 なんでよ。私のことなんかほっといてよ。 「お願いです……っ」 「………………」 「姫さまっっ」 なんで……。 私は扉を開けた。そしたらすぐ目の前でクリフトが両手をぎゅっとしてた。背が低いのは膝立ちしてるせい。 暗くてもわかった。泣きそうな顔してる。でも私を見たらぱっと明るくなって。 「姫さまっ」 「…………」 「ああ、お召し替えをなさって……やはり外出されるおつもりだったのですね。 今夜は雲一つない空なんです。きっと月や星がきれいですよ。さあ、早く行きましょう」 「………………」 なんで……。 クリフトは軽い足取りで非常口の扉を開けた。 結局私はクリフトと一緒に外に出た。クリフトは黙って私のあとをついてくる。 きっと私が少しでも町の外に出ようものなら引き止めるために。難しい話で説得させるために。 バザーに行けないのなら他に行くとこなんかなくて、なんとなく明るいほうに向かってたら噴水に出た。 クリフトといっしょに歩くのがいやで、台に座ったら少しひんやりした。クリフトは私の前で片膝をつく。 「姫さま、眠れなかったのですか…?」 「………………」 「少し風がありますね、寒くはありませんか?」 「…………」 「姫さま……」 クリフトが私を見てるのがわかったけど私は見なかった。見たくもなかった。 でも、あれこれ考えたり悩んだりするのもいや。だから思い切って聞いた。 「……クリフトは、いやじゃないの?」 「?なにがでしょうか」 「クリフトは、仕事が好きなの?」 「??姫さま??」 「だって、家来じゃなかったらこんなとこまで来なくていいし、眠いの我慢して私を見張ることもないし」 「………………」 「好きな本だっていっぱい読めるし、それに今だって、私のわがままに付き合ってここまで来なくても…っ」 なんでだろ、最後のほう泣きそうになっちゃった。言葉が続かない。 「私はいやよ。決められた人生なんて、死んでるのとおんなじ。姫なんてちっともうらやましくなんかないっ」 「姫さま……」 私はクリフトを見た。クリフトはきっとお説教を言うんだ。きっとまた難しい顔してるんだ。 そう思ってたのに、なんで……?クリフトはまた泣きそうな顔してた。泣きたいのはこっちなのに。 なんで……。 「…………もし、私が……」 クリフトが話し始めた。やけに低い声。 「もし私が、仕事が好きで、家来という立場に忠実だったなら、今ここに、私と姫さまはいません」 「………………」 「サランにもテンペにも行くことはなかったでしょうし、そもそも姫さまが城を出ることなどなかったでしょう。 力ずくででも城にお連れするか、それが叶わなければ王様に申し上げて兵を出させたかもしれません」 「…………」 「ですからこれは、私の意志なのです。私がそうしたくてしていることなのです。 ですから、今こうして姫さまとご一緒しているのも、私が望んでしたことなのです」 やけにゆっくりしゃべるクリフト。いつもみたいにお説教モードじゃない。 言ってることはきっと難しいことなのに、今日はやけに耳に入ってくる。 でも……。 「そんなのうそよ」 「うそではありません」 「私が外に出るってわかったから仕方なくついてきてくれたんでしょ?」 「違います、私も外に出たかったんです」 「でも、私が外に出なければクリフトも外には出なかったでしょ?」 「当たり前です」 …………。 「やっぱり外に出たいんじゃないんじゃない」 「いえ、私は……私は姫さまと外に出たかったんですっ」 「…………え?」 「っ…………」 「なんで……なんで私と外に出たいのよっ」 「それは…………その…………」 「ほらやっぱり。なんでそうやって、最後まではっきり言わないのよっ」 「……………………」 口ごもるクリフト。また泣きそうな顔してる。やっぱり今日はいつもみたいにお説教モードにならない。 なんで……。それもわかんない。もうクリフトのこと、わかんない。 私はクリフトをにらんだ。でもクリフトは……さっきとは全然違う顔をしてたの。 泣きそうな顔じゃなくて、難しい顔でもなくて、なんだかもどかしくなるような、寂しそうな顔……。 何かを訴えるような、助けを求めるような…………私は…………クリフトから目が離せなくなった。 「姫さま……お願いです……」 「……………………」 「私を、置いていかないで下さい……っ」 言いながらクリフトは下を向いた。手で胸をぎゅっとしてる。 苦しそう。声が震えて……クリフト、泣いてるの……? 「クリフト……」 いっつも難しいことばっか考えてて、私が何かする度に飛んできてお説教と手当てして。 いつの間にか大人になって、背もぐんと伸びて、お仕事の話をするようになって、遠い人になって。 でも、たまにちっちゃなころみたいによわっちいことを言うから。 やっぱり私の知ってるクリフトだって、私が守ってあげなきゃなって、そう思わせてくれるから。 ああ、だからだ。だから私、クリフトのこときらいにならなかったんだ。 「あ、あの……ブライさまも、です……」 …………ぷ。 なんだか必死になってるクリフトに笑っちゃった。 クリフトは上目遣いで私を見上げてくる。やっぱり泣いてた。 ちっちゃなころと重なる。弱虫クリフト……。 「もう、いいわよ。わかったわよ。しょうがないから連れてってあげる」 「ひ、姫さま……」 「もちろんじいもね」 「あ、ああ、ひめさまぁ……」 「ちょっとクリフト、なんて情けない顔してるのよ」 「はっ申し訳ありませんっ」 「ふふふ」 肩の力が一気に抜けた。さっきまで悩んでたことも、どうでもよくなっちゃった。 夜のフレノール。 「このまま帰るのもなんだし、散歩でもしよっか」 「え?あ……はいっ!」 大げさに返事するクリフト。もう、子どもなんだから。ほんとにあのころに戻ったみたい。 「静かね……。これがふつうなのかな?」 「でしょうね。王家の、それも姫君がこのような遠方の地を訪れることなどまずございませんから、 昨日まではそれほどのさわぎだったのですよ」 「ふーん、そんなもんなのかな」 「そんなもんですよ」 ふと気がつくとクリフトはやっぱり噴水を見てた。よっぽど噴水が好きなのね。 「クリフトー、そんなに噴水が好きならずっと見てていいのよ。私はもうちょっと散歩してくるからー」 「ひ、姫さまお待ちください!私も行きます、行きますからっ!」 「ふふふ、まーったくクリフトはー。いいわよ、噴水でもう一回休みましょ」 「えっあっ」 私は噴水の台に座った。クリフトはまた片膝をつこうとしたから隣に座りなさいって言って座らせた。 何か言うたびにあわてるクリフトを見てなぜかほっとする。いつもだったらいらいらするのにね。 風がふいてる。少しだけ水しぶきがかかった。なんだかきもちいーい。 明日は南の砂漠のバザー。それからエンドールの武術大会。それから……。 いつまででも旅していたい。お城なんかなくなっちゃえばいい。 だって、一度でもお城に戻っちゃったらもう二度と外には出られないような気がするから。 そう思って、ふとクリフトを見た。クリフトは……両手を膝に乗っけてかたまってた。 「ちょっとクリフト、そんなにかたくならないでいいのよ」 「は、はいっ」 「っもう、もっと普通に座ってよ。なんだか私がお説教してるみたいじゃない」 「も、申し訳ありません……」 「んもうー」 「ねえクリフトー」 「……なんでしょうか」 「クリフトはだいじょうぶなの?」 「…………なにがでしょうか」 「お城を抜け出しちゃってさ。お仕事はだいじょうぶ?神父さん心配してない?」 クリフトは私を見た。驚いた顔してる。 「だって、私はともかくクリフトは今までずっとお仕事してたわけだし、まじめだし、みんなに期待されてるし。 あんまり長い間外に出てたらお咎めを受けたりしない?」 「姫さま……」 クリフトは目をそらした。あ、難しい顔してる。大人のクリフトに戻っちゃった。 「姫さま……」 「なあに?」 「これはずっと黙っていたことなのですが……」 「え、なに?」 「姫さまが外に出られたこと、王様は黙認していらっしゃいます。姫さまにも私にもお咎めはございません」 「え?」 「王様もやはり本心では姫さまに外にでてほしくないようです。ですが、あのまま自由を奪うよりはと。 他の大陸には渡らないという条件付きだそうですが、大陸中は好きに回ってよいそうですよ」 「…………」 「黙認というより、なかば公認のようなものですね。私もつい先日ブライさまからうかがったばかりですが」 「ブライが?」 「ええ。その話をされていたのは姫さまがお城を出られるときだそうですよ。 王様も甘いとこぼされていましたが、ブライさまも今回のことは認めていらっしゃるのですよ」 「うそ……」 「ですから姫さまに城に戻るよう厳しくおっしゃるのは、心から姫さまのことを心配されてのことなのです」 「うそよ……」 「うそではありません。その証拠に、今日ここまで来られて明日は南の砂漠に行くではありませんか。 今朝口論となった際、あまり長引かせずにブライさまのほうから切り上げた、それが何よりの証拠ですよ」 「…………」 「認めていらっしゃいますよ、王様もブライさまも」 「………………」 お父さまもじいも、私が外に出たこと認めてるの?許してくれてるの…? 「クリフトぉ……」 「はい」 「私、外に出ても、いいの…?」 「はい」 「っ…………」 やだ、泣きそう。 「アリーナ姫さま、姫さまの人生は決められてなどいません。道は誰の前にも開かれています。 神は、乗り越えられない試練をお与えにはなりません。ですからどうか、姫さまの思うままに……」 「ばか」 「姫さま?」 「ばか……」 クリフトのばか。ばかクリフト。クリフトのくせに。そういうこといわないで。ほんとに泣いちゃうから。 「…………よかった…………よかったぁ……っ」 「はい…………私は幸せ者です…………」 「クリフトも?あそっか、クリフトも強くなりたいって言ってたものね」 「え?あ、ああ、そんなふうに言っていたこともありましたね」 「ちょっと、忘れてるってどういうことよ。いっしょに強くなるんだからね?」 「はい、姫さま」 「うん!」 クリフトは少しだけ緊張がとけたみたい。やっと普通に座ってくれた。手で水をすくってる。 クリフトの手から水がこぼれ落ちた。きらきら光ってる。きれいだなー。クリフトは大きくため息をついた。 「クリフト?」 「い、いえ、その…………今夜はとても、その……………………いい夜ですね」 「?うん、そうだね」 「クリフトクリフトー!」 「どうしました?」 「おじいさんがね!おじいさんがね!」 「はい」 「あんなおじいさんも見たことがあるなんて!エンドールの武術大会!出たーい!見たーい!エンドールに行きたーい!」 「エンドールですか。これはまた険しい道ですね」 「えへへ」 クリフトが笑いながら言うから私もつられて笑っちゃった。 お城の外に出てもいい。お父さまからお許しが出た。 もしかしたら、もしかしたら、エンドールの武術大会にだって行けるんじゃないかって気になってきた。 クリフトったらもっと早く言ってくれればよかったのに。 でもいいわ、しょうがないから今回だけは許してあげる。 ――心の中で、ありがと―― 「やはり一国の姫君がおしのびで旅するなど危険すぎる……。なんとかしてお城に戻っていただかなくては!」 「やだブライ、まだ言ってるの?」 「ええもちろんですとも。アリーナ姫さま。そろそろお城へ戻る決心をなさいませ。フレノールでの一件もありましたし これ以上旅を続けるのは危険です」 「何言ってるのよ。私またぐーんと強くなったのよ!ブライもクリフトもちゃんと守ってあげるわ。心配しないで」 「ま、まもっ?……ふう、やれやれ。どうあっても聞かないとおっしゃるのですな?」 「もちろんよ!」 ブライはまた大きなため息をついた。 「まったくもって、姫と旅をしていると命がいくつあってもたりませんわい」 「ふふふ」 ブライも認めてくれてる。やっぱりクリフトの言ったことはほんとうかも。 ねえクリフト。私はクリフトのほうを見た。 「日やけ止め……熱さましとえーと水筒も持ったし……。さあアリーナ姫!準備は万全です。何でも言ってくださいね!」 「うん!」 さあ、今日は砂漠のバザー!
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レッドクリフタイアップ企画 ワールド対抗!10万本の矢 1. 本イベントはワールド対抗戦で、“赤壁の矢”を集めた本数で競います。開催期間中、各フィールド及びダンジョン(プライベートダンジョン含む)にいる敵NPCを倒すと、一定の確率でイベントアイテム《赤壁用矢羽》(せきへきようやばね)、《赤壁用木材》(せきへきようもくざい)、《赤壁用藁》(せきへきようわら)を獲得できます。 ※イベントアイテムを敵NPCから獲得できる確率は毎週アップしていきます。 2. 開催期間中、長安にいる各勢力のNPC“募兵役”の付近に、武将NPC“曹操”、“周瑜”、“諸葛亮”が登場します。所持品にイベントアイテムがある状態で、所属勢力の武将NPCに話し掛けると納品できます(下の表を参考に納品してください)。イベントアイテムを渡すと、まれに武将NPCから映画『レッドクリフ』に関連した特別なアイテムをもらえます。 所属勢力別、納品できるイベントアイテムプレイヤーの所属勢力 魏 曹操 赤壁用矢羽 呉 周瑜 赤壁用木材 蜀 諸葛亮 赤壁用藁 ※ イベントアイテムは全て重複取得可能、取引可能です。 ※ 自分の所属する勢力の武将NPCに対してのみ、その勢力に応じたイベントアイテムを渡せます。 ※ イベントアイテムは4月23日(木)の定期メンテナンスで消滅します。 ※ 本イベントで登場する武将NPCには納入できません。 3. 各国の武将NPCに《赤壁用矢羽》、《赤壁用木材》、《赤壁用藁》が一揃い渡されると、“草船借箭の計”が成功したことになり、そのワールドは“赤壁の矢”を1本獲得できます。詳しくは下の図をご覧ください 自分のワールドが集めた“赤壁の矢”の総数と、各勢力が集めたイベントアイテムの個数は、長安南門付近のNPC 街の守衛 横に登場する、NPC 南斗 に話し掛けると確認できます。 また、各ワールドが集めた“赤壁の矢”の総数とイベントアイテムの個数は、以下よりご確認いただけます。 4. イベント終了時点で集められた“赤壁の矢”の本数で順位が決まります。順位に応じた賞品をご用意していますので、優勝を目指して奮闘してください! イベントの順位、賞品、配布方法などの詳細は、本ページにて追ってご連絡いたします。 各ワールドが獲得した赤壁の矢http //www.gamecity.ne.jp/sol/event/090316_arrows.htm