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吉澤由美:地獄に将軍はいるか1 攻略 合計40枚+00枚 上級05枚 炎帝テスタロス×2 オオアリクイクイアリ×2 地獄将軍・メフィスト 下級13枚 クリッター 黒蠍-棘のミーネ×2 黒蠍-罠はずしのクリフ 神殿を守る者 魂を削る死霊 首領・ザルーグ×2 深淵の暗殺者 メタモルポット 闇の仮面×2 黄泉ガエル 魔法08枚 押収 大嵐 サイクロン スケープ・ゴート 月の書 手札抹殺 貪欲な壺(D) 早すぎた埋葬(D) 罠14枚 死のデッキ破壊ウイルス ダスト・シュート×3 はたき落とし×3 マジック・ドレイン×3 魔の取引×3 リビングデッドの呼び声(D) エクストラ00枚
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クリフトとアリーナの想いはPart8 796 :恋までの道のり1:2008/02/29(金) 22 08 30 ID AKCtT8B80 フレノールからエンドールまでの道程は、旅に出て以来最も険しいものであった。 フレノールから南下し、立ちはだかった山脈をようやく越えたと思えば、そこには乾いた砂漠が広がった。 幸いにも砂漠ではバザーが催されていたため、そこでしばしの休憩と物資の調達をすることができたが、 エンドールへ続く旅の扉までは、この砂漠と、そのむこうに広がる広大な草原を越えなければならなかった。 その上、エンドール領に入った途端、ホイミスライムとさまよう鎧の群れに襲われ、 さすがに集中力の切れかけていた先頭のアリーナが右腕をやられた。 すぐさまクリフトが回復呪文を唱えたが、クリフト自身も疲労していたため、その効果は不十分であった。 深夜にエンドールに着くと、すぐに宿を取り、宿専属の医師を呼びつけて治療に当たらせた。 「姫様、痛みますか。」 医師が部屋を出ると同時に、クリフトが青ざめた顔でアリーナを覗き込んだ。 「平気・・・ブライは。」 「先程お休みになりました。お疲れだったのでしょうね。」 クリフトはアリーナの体に毛布をかけた。 「クリフト、あなたも疲れているでしょう。私は平気だから休んで。」 アリーナはできるだけ明るい声で言ったが、クリフトは首を縦に振らなかった。 「私がついていながらこんなことに・・・。武術大会までに、私が必ず治します。」 クリフトはベッド横の椅子に腰掛けると、アリーナの右肩に手を添えた。 しかし、アリーナはその手を制した。 「だめ。クリフトまで倒れたら元も子もない。」 「しかし・・・私の責任です。やらせてください、私の気がすまないんです。」 クリフトの声が一瞬震えたように思えた。 こうなってしまうと、この男はどこまでも自分を責めてしまうことをアリーナは知っていた。 アリーナはひとつ大きくため息をつくと、クリフトの腕を引き寄せて言った。 「じゃあ、治療はいいから今夜はここで寝て。」 クリフトは自分の耳を疑った。 「へ!?なっ・・・何をおっしゃるのですか!冗談にも程があります!」 クリフトの顔がみるみるうちに紅潮する。 「冗談じゃないよ。弱ってる時って心細いものだもん。前は一緒にお昼寝してたでしょ。」 「あ・・・あれはっ・・・まだ幼かったからっ・・・。」 ろれつの回らなくなったクリフトの慌てぶりがおかしくてたまらなかったアリーナだが、 あえて笑いをこらえ、クリフトを更に引き寄せて囁いた。 「そばにいてほしいんだけど・・・・駄目?」 悪ふざけではなかった。 実際、腕っ節では己のほうが上であると自負しているアリーナにとっても、クリフトは実に頼もしい親友であった。 それが、この旅に出てからというもの、アリーナの中には今までとは違う感情が芽生え始めていた。 それが何であるのか薄々気づいてはいたものの、この機会にはっきりと確かめたいという思いがあった。 クリフトは澄んだスカイブルーの瞳をしばらく泳がせていたが、やがて意志を持った表情でアリーナに向き直った。 「しっ・・・失礼します!!」 大袈裟とも言えるほどの素早さで、クリフトはアリーナの隣に潜り込んだ。 アリーナに背を向け、体を小さく丸めたクリフトの耳は茹でたように真っ赤だ。 アリーナは小さく吹き出すと、なるべく肩に負担をかけないように体を寄せ、クリフトの耳元に顔を近づけた。 アリーナの吐息が首筋に触れると、クリフトの体はびくりと大きく跳ねた。 クリフトのにおいがする。昔から大好きだったにおい。 子供の頃、風邪を引いたとき、クリフトの枕が欲しいと女官に言いつけて笑われたっけ。 昔と違って広くなったその背は、心なしか強張って細かく震えている。 暖かい。アリーナはその心地よさに目を伏せた。 「ひっ・・・姫様、あなたというお方はっっ・・・・!!」 「・・・ん?」 アリーナの鼻先にクリフトの碧髪がさらりと触れる。 「わっ・・私にはですね、こんな状態は拷問ですよっっ・・!あなた様が肩を負傷されていなければっっ・・も、もうとっくに私はっっ・・・・!!!」 うわずった声でクリフトが必死に呟くと、アリーナは心臓を掴まれるような切なさを覚えた。 「ん・・・。ごめん。優しいね、クリフトは・・・。」 アリーナは体を離し、自由になるほうの腕を伸ばして燭台の火を消した。 しばらくすると、クリフトは隣で静かに寝息を立て始めた。やはり相当疲れていたのだろう。 アリーナは腕をかばいながら上体を起こすと、その無邪気な寝顔にそっとキスをした。 クリフト。その名が、なんだか今までとは違った響きに聞こえる。 私の、好きな人。 END
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クリフトとアリーナへの想いはPart.9 826 名前 826 「誓い」  Mail sage 投稿日 2009/03/23(月) 12 48 08 ID vWhmkfyK0 日がすっかり落ちてきた。 どこまでも続く大地に、不安を覚えてきた二人。 「クリフト・・・もう私、疲れたわ・・・」 いつになく長時間歩いたアリーナが力なく言う。 「姫様・・・どうか希望をなくしませんよう。神は私たちを見捨てはしません」 クリフトは、大袈裟ながらもアリーナを元気づけようと精一杯だった。 「・・・姫様、あちらに小さな集落が見えます!」 クリフトが遠くを指差した。 自分の我侭で無理矢理にクリフトを連れ、城を飛び出したアリーナは まるでその罰でも受けているかのような絶望感さえ感じていたが、 視界の先に見える小さな明かりに、思わず「良かった・・・」と漏らした。 小さな村に入る。 「まずは宿屋、宿屋よ! 今すぐ柔らかなベッドで横になりたいわ。足が棒みたい」 今にも座り込みそうなアリーナを気遣い、クリフトは素早く宿屋の看板を見つけると、 足早に駆け寄り、手配をするべくその扉を開けた。 しかし、その先に人の気配はなかった。 「もし・・・泊まらせていただきたいのですが。誰かおりませんか?」 返事はない。 カウンターの先の部屋は手入れがされている様子だが、誰もいない。 「姫様、申し訳ありません。今、宿に人がおりませんゆえ、教会にて尋ねて参ります。 さしつかえなければ姫様もご一緒に」 クリフトが申し訳なさそうに言う。 「・・・・・わかったわ」 子供じみた事ばかりを言ってちゃいけないわねと、アリーナもそのあとに着いて行った。 「もし、誰かおられますか?旅の者ですが」 クリフトは教会の扉を開け、声を張って尋ねる。 アリーナは、その姿を凛々しくさえ感じた。 正直、クリフトがこんなに頼りになると思っていなかった。 というより、知らない地に行ってみたいという自分の我侭に、 これほどまでに真剣に付き合ってくれるとは思ってもみなかったのだ。 ほどなくして、シスターの声が返ってきた。 「お待たせしてしまいましたね。こんな小さな村へようこそいらっしゃいました。 見たところ旅のお方のようですね。どうぞ、ゆっくりしていってくださいな」 シスターは、ランタンを手にゆるやかな足取りで二人のもとにやって来た。 クリフトはシスターにお礼の言葉をかけると、 教会に掛けられた大きな十字架に向かい、祈りを捧げた。 アリーナもあわててクリフトに寄り添い、同様にする。 目を開けたクリフトは、アリーナほうに目をやった。 アリーナの安堵している表情を見て、クリフトもやっと顔がほころぶ。 アリーナもひととおり祈りを捧げ終えると、クリフトと目を合わせた。 「それにしても、このような辺鄙な所へおいでなすったのには、何か事情がおありなのですか?」 突然の問いかけに、アリーナはぎょっとする。 ――クリフト、どうかこの人の前で私の事を姫様などと呼ばないで。 「いっいえっ!そのような事は一切合切ございませんっ・・・!!」 即座に答えると同時に両掌を突き出すクリフト。 その姿はどう見ても訳ありだ。 そんなクリフトに小さなため息をつくと、 アリーナは教会の片隅に置いてある白く美しい布に目をやった。 ――あれは、花嫁が使うヴェールだわ。 今までの疲れなんてすっかり忘れ、アリーナは自分の花嫁姿を思い浮かべる。 その隣には、正装しているクリフトの姿。 「見てクリフト。あんなところにヴェールがあるわ・・・」 普段のアリーナからは想像もできないくらい、静かで女らしいその物言いに、 クリフトは思わず胸を締め付けられた。 無意識に、アリーナはその手をクリフトの腕にからませる。 クリフトは息をのんだまま、動けずに赤面していた。 「シスター、あのヴェールは?」 アリーナが尋ねると、シスターは静かに語った。 「かつて、とある恋人達がこの地に訪れました。 訳あって結ばれることが叶わないその愛を、永遠のものとするために、 ここで夫婦の誓いをたて、小さな結婚式を挙げたのです。 あのヴェールは、その二人のために、私が縫ったものなのです」 クリフトは、シスターの話した二人と自分達とを重ねては、振り払う。 そして、胸の苦しみに耐えていた。 アリーナは、クリフトの腕に身を委ねたまま、黙って静かにヴェールを見つめていた。 シスターは二人の様子を悟ったのか、そのヴェールを手に取ると、 アリーナのもとに歩み寄った。 「もしあなた方がここで永遠の愛を誓いたいのなら、 どうぞこのヴェールを使ってくださいな」 シスターが優しく二人に微笑みかける。 アリーナは、クリフトの方を真っ直ぐ見ると、 「クリフト、ここで私のために愛を誓ってくれる?」 と目を見開いて問いかけた。 それは、クリフトにとって、あまりにも突然な言葉だった。 自分はただ、姫様を見守っていられるだけでいい、 この気持ちに気づいてくれなくてもいい、 ずっとそう思っていた。 増して、アリーナのほうから愛を誓って欲しいと言われるなんて、 夢にも思っていない事だったのだ。 しかし、クリフトの脳裏には身分不相応の行動に対する罪悪感が浮かぶ。 アリーナは、困惑するクリフトに、真っ直ぐに気持ちをぶつけた。 「私、クリフトの事大好きよ。クリフトの気持ちも知ってる。 本当は、ずっとずっといつも一緒にいたいの。 でも、ブライや父様は、それはいけない事だなんて言うの。 私に相応しい男の人がいる筈だ、なんて言って何もかも勝手に決めてしまうつもりだわ。 そんなの絶対に嫌よ。私、一緒になるならクリフトでないと嫌! ・・・だから、この機会に・・・きちんと、愛を誓って欲しいの」 ――姫様。 クリフトはその言葉を呑みこんだ。 「そんなにも、私の事を・・・」 目に涙さえ浮かべ、今すぐにでもアリーナを抱きしめたい衝動にかられつつも、 シスターの手前、クリフトはできるだけ冷静を装い、アリーナをまっすぐ見据えると、 「・・・わかりました」 とだけ返事をする。 その一言に、クリフトからの誠実な愛情をしっかりと感じ取ったアリーナは、 目を輝かせて微笑んだ。 「そうだわ!じゃあここで、簡単でいいから式を挙げたいわ!」 我ながら名案、といいたげに胸元に両手を合わせるアリーナに、 クリフトは思わず絶句した。 「あら、嫌なの?」 その様子を見たアリーナが詰め寄る。 「いえっ、とんでもありませんっ」 ――ああ、いつもの流れだ・・・ 「では、私も二人の愛を祝福しましょう」 シスターの優しい言葉で、クリフトはアリーナの我侭をそのまま受け入れる形となった。 アリーナは嬉々としていた。 少々唐突ではあったが、 ドレスも、指輪も、招待客もない二人だけの儀式が、始まった。 ヴェールをアリーナの頭にふわりと乗せると、シスターは 祭壇に立ち、その中央に置かれた聖書を開いて、その一節を読み上げる。 愛は寛容であり、愛は親切です。また人をねたみません。 愛は自慢せず、高慢になりません。 礼儀に反することをせず、自分の利益を求めず、 怒らず、人のした悪を思わず、 不正を喜ばずに真理を喜びます。 すべてをがまんし、すべてを信じ、 すべてを期待し、すべてを耐え忍びます。 ・・・愛は決して絶えることがありません。 クリフトは、その言葉のひとつひとつを、改めて胸に刻み込む。 アリーナは、聖書の言葉など普段は眠くなる筈だが、この時ばかりは 真剣に聖書の言葉に耳を傾け、幾度も頷いた。 シスターは聖書を読み終わると、神に祈りを捧げた。 「クリフトさん、アリーナさん。 あなた達はお互いを生涯の夫、妻と定め、 健やかな時も病める時も互いを愛し、助けあい、 生涯変わず愛し続ける事を誓いますか?」 その問いかけに、クリフトがしっかりした口調で答える。 「はい、誓います」 アリーナもまた、静かに誓いをたてる。 「はい、誓います」 シスターは二人の言葉に深く頷くと、二人の手を重ね、神に祈りを捧げた。 「では、誓いの口づけを」 その言葉に、クリフトはハッとした。 姫様に口づけなんてしていいものだろうか? 戸惑うクリフトを気にも掛けず、アリーナはクリフトの方を向くと、 膝を曲げて頭を低くし、顔の前に下がるヴェールを開けるよう促した。 そのままにさせるわけにもいかず、 クリフトは躊躇しながらも、そのヴェールを静かに開ける。 アリーナが顎を軽くあげ、目を閉じて待っている。 心が定まらず、視線が泳いでしまったクリフトは、思わずシスターを目が合った。 「・・・何か?」 首を傾げるシスターに、 「いいいやっなんでもありませんっ」と素っ頓狂な声をあげた。 アリーナの方を見た。さっきの姿勢のまま、クリフトからの愛の証を静かに待っている。 クリフトは手を震わせながらその細い肩に手をおくと、 ゆっくりと顔を近づけ、アリーナの顔を見た。 ――姫様、本当にお綺麗でいらっしゃる。 大きく息を吸い込み、クリフトは一大決心をした。 シスターが、クスリと笑う。 幾多の恋人達の愛の儀式に立ち会ってきたが、 誓いの口付けでこんなにも真剣になっている新郎など、見たこともなかった。 そしてまた、額にキスを受けて不満をあらわにした表情の新婦も。 紙とペンを手に取り、シスターが誓約書を書いてくれた。 「まあ、誓約書まで!嬉しいわ」 アリーナの表情が一転して、ぱっと明るくなった。 シスターからクリフトへ、クリフトからアリーナへ、ペンが渡される。 和やかな雰囲気の中、シスターが二人に改めて祝福の祈りを捧げた。 二人は、互いの目をみつめ、喜びを分かち合った。 まるで夢をみているかのような、小さな結婚式だった。 アリーナは、ヴェールをシスターに手渡すと、心を込めて感謝の気持ちを伝えた。 「シスター・・・今日は私たちのために本当にありがとう この誓約書は私たちの宝物です」 クリフトが誓約書を胸に抱き、深く頭を下げる。 「いいのですよ・・・お二人とも、どうぞお幸せに。 どんな事にも負けてはなりませんよ。愛は決してこわれることがないのですから」 シスターは、ヴェールを受け取ると、二人を暖かく見守った。 愛は決してこわれることがない。 その言葉を深く胸に刻みつけ、二人は肩を寄せ合った。 教会の奥にたたずむ女神像もまた、彼らを祝福しているかのように、優しく微笑みかていた。
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ロボカイ ブリジット 聖騎士団ソル ミリア=レイジ S子さん(アシスト) ザッパ ジョニー 梅喧 ディズィー クリフ=アンダーソン アバ スレイヤー シャロン(スレイヤー登場演出) 蔵土縁紗夢 テスタメント ザトー=ONE パラケルス/フラメントナーゲル(武器) ソル=バッドガイ カイ=キスク エディ ポチョムキン イノ ジャスティス アクセル=ロウ リープ(背景) レオパルドン ラオウ(アシスト) エイプリル(メイ勝利演出) ネクロ(アシスト) ウンディーネ(アシスト) ヴェノム ガブリエル(ポチョムキン勝利演出) チップ=ザナフ メイ ・ロジャー
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クリフトとアリーナの想いはPart7 818 :太陽の申し子 1/17 ◆XJ3Ut0uuQQ :2007/10/18(木) 18 31 54 ID 3msyz0ss0 ここは、サランの街外れにある医療院。 まだ少年の面影を残す年若い神官が、額に汗を浮かべながら回復呪文を唱えていた。 「クリフトさん、呪文だけでいけそうですか?」 横から心配そうに覗き込んでいるのは、神官よりも幾分か年上に見える、白衣を着た青年。 「はい、何とか…。」 先ほどから、クリフトは、木から落ちて大怪我をした子供に回復呪文を施していた。 クリフトの、繰り返し呪文を唱える澄んだ声が辺りに響き渡る。 それとともに、子供の泣き声も小さくなっていった。 しばらくして、クリフトが 「さ、これでもう大丈夫ですよ。」 と声をかけると、子供は、クリフトに礼を言い、嬉しそうに医療院から駆け出して行った。 「こら、そんなに慌てて走るとまた怪我をしますよ!」 クリフトは走り去る子供に笑いながら声をかけた。 「クリフトさん、お疲れになったでしょう。少し、休憩にしませんか。」 後ろから、白衣の青年に声をかけられ、クリフトは振り向いた。 「レオンさん。午後の患者は、これでおしまいですか?」 「いえ、ここで患者がおしまいになるなんてことはありませんよ、ご承知のとおり。 でも、無理矢理にでも休憩していただかないと、あなたはいつまでも治療を続けますから。」 レオンと呼ばれた若い医者の言葉に、クリフトは赤くなった。 クリフトは、この春に神学校を卒業し、一人前の神官となった。 神官にとって癒しの技を行なうことは、神に祈りを捧げることとならんで、重要な努めの1つだ。 そのため、クリフトは、城で神官としての努めを行なう傍ら、月に何度か、 主に貧しい医療院を周っては、今日のように治療の手伝いをしていたのであった。 「あれだけの大怪我を呪文だけで完治するなんて、さすがですね。 クリフトさんのおかげで、いつも本当に助かってますよ。」 レオンは、クリフトのカップに紅茶を注ぎながら微笑んだ。 クリフトは、若年にもかかわらず回復呪文については稀なる能力を持っていた。 その能力に敬意を払ってか、レオンら現場の医者達は、クリフトが嫌がるのもかまわず、 自分達より年下のクリフトに対し、目上の者に対する礼儀をもって接していた。 レオンからカップを受け取りながら、そんな、とクリフトは首を振った。 「こちらの医療院にも、本当はもっと頻繁にうかがえればいいんですが…。」 「いいえそんな。だって、クリフトさんは他の医療院も回ってらっしゃるのでしょう。 ただでさえ、お転婆姫のお世話で大変だというのに…。」 レオンは不満そうに眉をひそめた。 クリフトが、若輩かつ平民の出自でありながら、国王の一人娘であるアリーナの家庭教師を 務めており、元気溌剌な姫君に常に振り回され気味なのは、皆が知る事実であった。 クリフトは、困った顔でカップを置いた。 「姫様は、一部の心無い者が噂するような、我が侭なお転婆姫じゃないですよ。 周りが、小さいことに大騒ぎしすぎなんです。」 国王の唯一の実子にして、亡き王妃の忘れ形見。 そうである以上、周囲の者がアリーナの身辺に気を配るのは、ある程度当然と言えた。 しかし、最近の、お付の女官達の反応は、どうも過敏に過ぎるようだ。 アリーナは、今年11歳になったが、ほとんど城から外出することさえ出来ない。 クリフトが見る限り、アリーナの鬱憤はだいぶたまっているようだった。 アリーナのような生気溢れる少女を、無理矢理抑えつけようとすれば反発を強めるだけだ。 ―――どうして、そんな簡単なことが、あの人達には分からないんだろう。 心配性の塊のような女官長の顔が目に浮かんで、クリフトは眉をしかめた。 「…さん。クリフトさん、もう一杯お茶をいかがですか?」 レオンに声をかけられ、クリフトは自分が物思いにふけっていたことに気がついた。 「も、申し訳ありません、ぼーっとしてました。ありがとうございます、いただきます。」 レオンはクリフトに紅茶を注ぎながら笑いかけた。 「アリーナ姫のことをお考えだったのですか?クリフトさんは家庭教師の鑑ですね。」 意味ありげにからかいを含んだレオンの口調に、クリフトは赤面した。 最近、城の者にも同じような口調でからかわれることがある。 しかし、クリフトにとってアリーナは、いまだに初めて会った頃と同じ、小さな姫君であった。 ―――遅くなってしまったな。 城に戻り、廊下を急ぎ足で歩いていたクリフトは、いきなり後ろから飛びつかれて喉を詰まらせた。 「がほっ、姫様、お手をお放し下さい!」 「あれ?何で分かっちゃったの?」 ひょい、と後ろから覗き込んだのは、太陽色の髪をした少女。 「…城の中で、このようなマネをされるのは姫様以外におられません。」 クリフトは、襟元を正しながら、アリーナを厳しい目で見据えた。 「お城の中を走ってはなりません、と何度も申し上げたはずでしょう。 ましてや、人に後ろから飛びつくなんてとんでもないことです!」 腰に手を当ててアリーナに説教するクリフトと、それをふくれ面で聞いているアリーナ。 城の中では既におなじみの光景で、人々は微笑みながらその横を通り過ぎていった。 「…だって、最近、クリフトってば忙しいばっかりで全然遊んでくれないんだもん…。」 アリーナは、頬を膨らませた。 「あ…。」 ―――そういえば、最近は、姫様とゆっくりお話しする機会もなかったな…。 クリフトはアリーナの様子を見て反省し、ふと、今日のレオンとの会話を思い出した。 ―――レオンさんにも、姫様がどんな方なのか、知っていただきたい…。 「姫様。今度、姫様も一緒にサランに行けるよう、女官長様にお願いしてみましょうか。」 「えっ、ほんと!?」 クリフトの言葉に、顔を輝かせたアリーナを見て、クリフトも自然と笑みが浮かんだ。 ―――姫様には、本当に笑顔が良く似合う。 太陽の申し子のような少女。 アリーナには、いつも笑顔でいて欲しい―――クリフトは心からそう思った。 「何をたわけたことを言っているのですか。アリーナ様を場末の医療院に連れて行くなど!」 ある程度は予想はしていたことではあるが、女官長の返答はけんもほろろであった。 「場末の医療院」という女官長の言葉に、クリフトは思わずかちんときたが、 クリフトが致命的な発言をする前に、後ろから渋い声がかかった。 「エマ殿。今のお言葉は聞き捨てなりませんのう。」 「…ブライ様!」 いつの間にか、後ろには宮廷魔術師のブライが立っていた。 城の中では大臣に等しい地位を有するブライに、女官長は慌てて礼の形を取った。 「王国の実情を知るということも、王位継承者として欠くべからざる勉強ですぞ。」 あごひげを撫でるブライに、女官長が忌々しげな目を向けた。 「…分かりました。ただし、私の選んだ女官を1人同行させていただきますからね!」 「え~、イーダが付いて来るの~。」 アリーナの元に報告に行ったクリフトに、アリーナは顔をしかめた。 「これ、そう文句を申されますな。これでも、随分苦労したんですぞ。」 隣でアリーナを諌めるブライに、クリフトは改めて頭を下げた。 「ブライ様、先ほどはどうもありがとうございました。」 「いや、最近の女官達は、さすがに行き過ぎじゃと、わしも思うておった。」 ブライは、アリーナに聞こえないよう小さな声で答えると片目をつぶった。 「わしも同行したいところじゃが、都合が悪い。姫様の御身の安全、しっかり頼むぞ。」 当日の朝、クリフトは苛々しながら城の広間でアリーナ達を待っていた。 既に、太陽は高く昇っている。 ―――急患が出てなければいいけれど…。 クリフトは、心配そうにサランの方角に顔を向けた。 随分待たされた後に現れた、正装姿のアリーナと女官を見てクリフトは絶句した。 レースのドレスに包まれたアリーナは、完全な仏頂面だ。 女官のイーダは、クリフトがいつもの神官服を着ているのを見て眉根に皺を寄せた。 「行き先が貧しい医療院だとしても、王族の訪問を軽々しく考えてもらっては困りますね。」 クリフトはむっとしたが、言い合う時間も惜しく、キメラの翼を取り出すと2人に声をかけた。 「では、参ります!」 医療院に着いた瞬間、クリフトは、体をこわばらせた。 辺りに漂うのは、紛れもなく血の臭い。 「レオンさんっ!?」 医療院のドアを開けたとたんに飛び込んできた、目の前の光景に立ちすくむ。 そこにいたのは、全身血まみれになって呻いている大勢の子供たちだった。 「遅い!クリフトさん、何やってたんだ!!」 両手を血に染めて患者を治療していたレオンが、いつもの敬語も忘れて怒鳴った。 「すいません!一体何が起こったんですか!?」 クリフトは、レオンに駆け寄ると、目の前の少女に全力で回復呪文を唱え始める。 レオンは、隣の少年の血に染まったシャツをメスで裂きながら、荒々しく答えた。 「魔物だよ…!くそっ!サランの周辺は、まだ安全だと思っていたのに…!」 レオンの向こうでも、何人かの医師が忙しく治療を続けていた。 「こいつらが、いつも魚を捕ってる川に、魔物が出たんだよ。」 「…!」 貧民街では、親の稼ぎだけで家族が食べていけるような家はなく、 働く年齢に満たない幼い子供たちでさえも、木の実や魚を捕るなどして家族の口を養っていた。 今日もそうやって子供たちが魚を捕っていたところに、魔物が襲撃してきたというのだ。 ふと、レオンは目を上げた。 「…なんだ、えらい場違いにちゃらちゃらしてるのがいるじゃないか。」 クリフトは、そのとき初めて、アリーナ達を連れてきたことを思い出した。 「おい、あんた、そんな格好でそこに突っ立っていられたら治療の邪魔だ!」 レオンがイーダに向かって怒鳴った。イーダの顔が紫色に変わる。 「ななな、なんて失礼な…!クリフト、姫様に向かってこのような扱い、許されませんよ!」 イーダの言葉に、レオンの手が止まった。 「姫様…?クリフトさん、あんた、王女をここに連れてきたのか…?」 「す、すいません、事前にお伝えしなくて…。却ってお気を使われると思って…。」 「―――王女様のご準備で、こんなに遅かったのか。そのために…。」 クリフトは、レオンの視線を追って、息を飲んだ。 奥のベッドに蒼白い顔で横たわっていたのは、先日、クリフトが治療に当たった子供。 「…ついさっき、息を引き取ったよ。」 レオンが、クリフトの後ろから声をかけた。 「教会の医療院に運ぼうかとも思った。でも、あんたを待った方が早いと思ったんだ…!」 レオンの口調が乱れた。 「―――ちくしょう!何で今日に限って、あんた、こんなに遅いんだよ…! 所詮、あんたも、お気楽なお城の人間だったのかよ!」 涙ながらにレオンが叫んだ言葉に、クリフトは答えるすべもなかった。 「…クリフト。もう我慢がなりません。姫様をお城に連れて帰ります。」 クリフトに、怒りに震えた声でイーダが告げた。 クリフトは、はっと我に返り、アリーナを振り返った。 アリーナは、こわばった表情のまま、何も言葉を発しなかった。 「申し訳ありません、イーダ様、姫様…。」 クリフトが言い終わるのを待たず、イーダはキメラの翼を宙に放り投げた。 レオン達の適切な治療と、クリフトの懸命の回復呪文で、他の子供達の命は何とか助かった。 全てが終わった後、クリフトは、先ほどの子供の亡骸の前に佇んでいた。 そのときになって、クリフトは、子供の名前さえ聞いていなかったことに気がついた。 クリフトの頬を涙が伝い落ち、治療の際の返り血と混じって服に赤い染みを作った。 クリフトが帰るときも、レオンはほとんど口をきかなかった。 クリフトも、レオンにかけるべき言葉を見つけられなかった。 クリフトは城門の前に降り立つと、疲れた体を引きずるようにして城門をくぐった。 部屋に帰ると、クリフトは、ベッドの端に座り、頭を抱え込んだ。 体は疲れ切っていたが、横になろうという気にならなかった。 先ほどの、小さな骸が目に浮かぶ。 あの子が生死の境で必死に戦っているとき、自分は城で、のんびりと立ち呆けていたのだ。 ―――所詮、あんたも、お気楽なお城の人間だったのかよ! レオンの言葉が脳裏に蘇った。 ―――やっと正式な神官になったというのに…こんなんじゃ、失格だ。 そのとき、部屋のドアが小さくノックされた。 のろのろとドアを開けると、そこには肩を落としたアリーナの姿があった。 アリーナは、無言でドアの前に佇むクリフトをすがるような目で見上げた。 「クリフト…ごめんなさい。」 クリフトはアリーナから目をそらした。 「……姫様が謝られることなど、何一つございません。」 正直なところ、今は、アリーナの顔を見たくなかった。 クリフトはアリーナに背を向けた。 「もう夜も遅うございます。お部屋に、お戻りください。」 背後では、しばらく沈黙があった。 「…あの子、私のせいで死んじゃったんでしょ…。」 アリーナの言葉に、クリフトははっとして振り向いた。 アリーナの目には、涙がいっぱい溜まっていた。 「本当に、ごめんなさい…!」 クリフトは何か言おうと口を開いたが、アリーナはそのまま夜の闇に走り去っていった。 「…!」 クリフトは、拳でドア枠を強く殴った。 ―――そうか、レオンさんの言葉を、姫様も聞いていたんだった…。 今日の出来事にアリーナがショックを受けなかったわけがない。 なのに、自分はアリーナにあんな態度をとって…こともあろうに泣かせてしまった。 アリーナの笑顔を守りたい、と思っていたはずなのに…。 ―――ああ、もう、何もかも、最悪だ…! クリフトは、やけくそな気分でベッドの上に倒れ込むと、いつの間にか眠ってしまった。 翌日、重い気持ちで城に上がったクリフトは、アリーナが部屋から出てこないという噂を聞いた。 ―――昨日のことが、原因に違いない…。 クリフトは、後悔の念に苛まれながらアリーナの部屋に向かったが、控えの間で女官達に阻まれた。 「クリフト。何をしに来たのですか。」 息せき切ったクリフトに、イーダが冷たい視線を向けた。 「…姫様が、お部屋に篭られているとお聞きして…。」 「姫様は、お可哀想に、昨日の無礼な振る舞いに心がお疲れになってしまったのです。 部屋には誰も入れないよう仰せつかっております。特に、クリフト、あなた。」 イーダの視線が冷たさを増した。 「あなたは、今後姫様に近づかないよう。もう、家庭教師もしていただかなくて、けっこうです。」 クリフトは女官の顔を凝視した 「…どういうことでしょうか?」 「姫様のご希望です。姫様は、あなたの授業をお受けになりたくないそうですよ。」 クリフトは、自分の耳を疑った。 ―――姫様が、私に、会いたくないと…? 「分かったら、とっととお下がりなさい。」 イーダはクリフトの表情を見て満足そうな笑みを浮かべると、控えの間の出口を指差した。 結局、アリーナは1週間ほど部屋に篭り、その後、通常の生活に戻ったようであった。 しかし、クリフトは、女官達の壁に阻まれ、アリーナにひと目会うこともままならなかった。 生憎、頼りになるブライは王命でエンドールに行っており、1ヶ月は帰ってこない。 ―――姫様は、完全に私をお見限りになってしまわれたのだろうか…。 今までも、アリーナがクリフトに対し感情を爆発させることは多々あったが 最後はアリーナの方からクリフトに仲直り(?)を申し入れてくるのが常であった。 ―――今回は、いつもとは違う。私は、姫様のお心を傷つけてしまったんだ…。 クリフトはため息をつくと、机に突っ伏した。 アリーナに会えないまま日々が過ぎ、再び例の医療院の訪問日が巡ってきた。 クリフトは、最後に会ったときのレオンの表情を思い出し、憂鬱な気持ちで城を出た。 医療院の前に降り立つと、クリフトは、深呼吸して医療院の扉を開けた。 扉の開く音に、治療をしていたレオンが振り向いた。 「あ、あの…。」 とっさに言葉に詰まるクリフトに、レオンが満面の笑みで駆け寄った。 「クリフトさん!よく来てくれました!」 クリフトは、ぽかんと口を開けて、レオンを見返した。 「あのときは、大変失礼しました。余りの出来事に動転していて…本当にお恥ずかしい。」 クリフトに紅茶を勧めるレオンに、クリフトは、おずおずと尋ねた。 「あの…レオンさんは、私のことを怒ってらっしゃらない…?」 レオンは頭をかいた。 「考えたら、クリフトさんはこちらの状況を知らなかったんだから、どうしようもないですよね。 そもそも、クリフトさんには善意で来ていただいているのに…申し訳ないったらない。」 クリフトに向かって頭を下げるレオンに、クリフトは首を振った。 「いいえ、レオンさん、やはり私がいけなかったんです。 我々の奉仕活動は、神に対する義務であって、気まぐれな施しであってはいけないのに。 …なのに私は、心のどこかで、善意の奉仕活動だからと甘えていたように思います。」 神官失格です、とうつむくクリフトに、レオンは 「相変わらず真面目なんだから」と、笑った。 「…ところでね、クリフトさん。最近ちょっと気になることがありまして。」 レオンが、ふと気がついたように話題を変えた。 「…気になること?」 「ええ。先日、子供達が襲われた川のほとり、 あの辺りで、最近、魔物の死骸が頻繁に見つかるようになって。」 「それは、また物騒な…魔物同士の縄張り争いでもあったんでしょうか?」 いぶかるクリフトに、レオンは首を振った。 「魔物同士の争いであれば、勝利した魔物が徘徊していると思うんですが…その様子もない。 子供達が言うには、最近、あの辺りはめっきり魔物が減っているそうです。」 「…不思議ですね…城の兵士が周辺を見回っているという話も聞きませんが…。」 2人は、首をひねって顔を見合わせた。 レオンに許されたことで、クリフトはだいぶ明るい気持ちになって城に帰ってきた。 城門をくぐったクリフトは、そこではっと足を止めた。 アリーナが、兵士達の鍛錬場から帰る途中らしく、珍しく1人で城内を歩いていた。 クリフトはしばしためらったが、アリーナに声をかけるチャンスは今しかない。 思い切って、アリーナに呼びかけた。 「姫様…!」 アリーナが振り向き、クリフトの姿を見てにこやかに手を振った。 ―――あれ…? アリーナは、自分のことを避けていたのではなかったか。 困惑するクリフトに、アリーナは駆け寄ると大きな擦り傷のできた腕を差し出した。 「ちょうど良かった、クリフト、ホイミお願い!ちょっと派手にやっちゃって。」 条件反射的に回復呪文を唱えながら、クリフトはアリーナをこっそり観察した。 アリーナの表情からは、クリフトに対する何の屈託も見られない。 クリフトは、それに力を得て、アリーナに小さな声で呼びかけた。 「姫様…先日は、大変申し訳ありませんでした。」 「え?なんのこと?」 アリーナがきょとんとしてクリフトを見上げた。 「先日、姫様が私の部屋にいらっしゃったとき、大変失礼な態度を…。」 「あ、そんなこと。いいよ、私が悪かったんだもん。」 何でもないことのように答えるアリーナに、クリフトは、解せない気持ちで尋ねた。 「では、姫様が、私の授業をお断りになられたのは…。」 アリーナがぎくりと体を強張らせ、口の中でもごもご呟いた。 「いや、別に、それは、なんていうか…。」 と、そのとき、クリフトは、アリーナの上腕にかすかな傷跡があるのを発見した。 ほとんど消えかかっていたが、優れた癒し手であるクリフトは、それを見逃さなかった。 「その傷は…。」 アリーナは、はっとしたように腕を隠すと、じりじりと後ろに下がった。 「姫様、そちらの腕を見せてください。」 「だ、大丈夫!この間、ちょっと鍛錬で張り切りすぎちゃって、もう治ったから!」 そして、慌てて空を見上げると 「わ、もうこんなに暗くなってる!部屋に戻らなきゃ!クリフト、回復呪文ありがとう!」 そう言って、クリフトに二の句を告げる暇を与えずに走り去っていった。 ―――姫様のあの傷。兵士との鍛錬でできたものではない。 癒し手としていろいろな傷を見てきたクリフトにはよく分かる。 薬草で治療をしたようだったが、あれは、確かに、鋭い牙による咬み傷の跡だった。 ―――川のほとり、あの辺りで魔物の死骸が見つかるようになって――― クリフトの脳裏に、先ほどのレオンとの会話が閃いた。 ―――姫様、何てことを…! クリフトは、息を飲んだ。 その日の夜、クリフトはアリーナの部屋の外壁の下に息を殺して潜んでいた。 しばらく待っていると、夜の闇の中を、太陽色の輝きが降ってきた。 アリーナは音もなく地面に着地すると素早く周囲を見回し、 懐からキメラの翼を取り出して空に放り投げた。 ―――まったく、キメラの翼など、どこから調達したんだか…。油断も隙もない。 クリフトも、苦笑しながらキメラの翼を取り出した。 クリフトは、サランの近くにある川のほとりに降り立った。 案の定、そこには、川岸を行ったりきたりしているアリーナの姿があった。 ―――本当に、無茶をされるお方だ。 クリフトは、ため息をつきながらアリーナの方へ踏み出した瞬間、ぎょっと足を止めた。 闇に光る2つの目。 アリーナの前に、つちわらしが現れたのだ。 しかし、アリーナは臆する風もなくつちわらしに向き直ると、見事な飛び蹴りをかました。 そして、よろめくつちわらしに、休みなく手拳を叩き込む。 ―――姫様、す、すごい…! クリフトは恐怖も忘れ、アリーナの技に見入っていた。 アリーナの攻撃に息も絶え絶えになったつちわらしは、大きく口を開けて上を向いた。 ―――まずい、確か、つちわらしは仲間を呼ぶ習性が…。 クリフトは思わず剣を手に、前に飛び出していた。 「クリフト!?」 アリーナの目が驚愕に見開かれる。 「姫様、お気をつけ下さい!新手が来ます!」 クリフトの言葉が言い終らないうちに、新たに、つちわらしが2匹現れた。 「くっ!」 アリーナが、弱っていた1匹にとどめの一撃を加えると、新しい1匹に向き直った。 その間に、クリフトはアリーナの背後に回り、もう一匹と対峙する。 クリフトも、今までに何度か魔物に遭遇したことはあるが、一対一で魔物と戦った経験はない。 情けないと思いながらも、足が震えて止まらなかった。 つちわらしは、威嚇するように口を開けると、両腕を上げて攻撃をしてきた。 ざしゅっ 何とか直撃は免れたものの、右腕に痛みが走り、思わずひるむ。 アリーナが、クリフトを振り向いた。 「クリフト、大丈夫…きゃっ!」 よそ見をしたアリーナに、もう1匹のつちわらしが攻撃を仕掛けてきた。 「姫様!!」 クリフトは叫んだ。 ―――姫様を傷つけるなんて…! 目の前の魔物に対して激しい怒りがわき、恐怖が消えた。 クリフトは、つちわらしに向かって剣を構えた。 後ろではアリーナが反撃に転じた音がする。 ―――早く、こいつを倒して、姫様に回復呪文を唱えて差し上げなければ…! つちわらしが、再びクリフトめがけて突っ込んできた。 必死に繰り出したクリフトの剣は、つちわらしの心臓を貫いていた。 全てが終わった後、川のほとりは今までの喧騒が嘘のように静まり返っていた。 聞こえるのは、川のせせらぎと、風に揺れる芦のそよぐ音だけだ。 「やっぱり、今日会っただけで、クリフトにはばれちゃったんだねー。」 クリフトに回復呪文を唱えてもらいながら、アリーナが明るく笑った。 「姫様…1週間お部屋に篭られていたのは、壁に穴を開けるためですか。」 「あたり。さすがクリフトだー。やっぱり、部屋に呼ばなくて良かった。」 「では…私を家庭教師から遠ざけたのは。」 「女官達はごまかせても、クリフトには、すぐにばれちゃうと思ったの。」 クリフトは、空を仰いでため息をついた。 「姫様…。どうしてこんなことを。」 「だって、魔物がいなくなれば、あの子達も、もうあんな目に合わないじゃない。」 アリーナは平然と答えた。 「だからと言って、姫様ご自身が、こんな危険なことをなさらなくても…。」 「だって、エマに、お城の兵にサランの周りを見回って欲しいって頼んだのに、 エマったら『そのようなこと、姫様がお考えになる必要はありません』って、 全然聞こうとしてくれないんだもの。」 アリーナは、憤然とした顔でクリフトを見た。 「だったら、自分でやるしかないじゃない!」 クリフトは、アリーナをまじまじと見つめた。 ―――このお方は…。 幼い頃からこうだった。 アリーナは、どんな大きな壁に突き当たっても、絶対にへこたれない。 必ず自分の力で解決しようと立ち向かうのだ。 ―――なんて、お強いのだろう…。 まるで、太陽の申し子のように、強く、明るく。 この少女の成長を、自分はこれからも身近で見守っていきたい。 クリフトは心からそう思った。 これは、光り輝くものへの、純粋な憧れ。 その想いは、まだ、恋と呼ぶには余りにも漠然として。 「…姫様。私は、これからも姫様のお側で、お仕えして良いのでしょうか…。」 クリフトは思わずそう口に出していた。 アリーナは、ぱっと顔を輝かせた。 「当たり前じゃない!ずっと前からそう約束してるでしょ!」 クリフトはアリーナに微笑み返すと、ふと表情を改めた。 「ただ、姫様。夜抜け出しての魔物退治は、おやめくださいね。」 「え…。」 不満そうなアリーナにクリフトは諭した。 「来週には、ブライ様がお戻りになられます。そうしたら、ブライ様から兵の見回りを お願いしてもらいましょう。それまでは、私が、こちらを見回りますから。」 「えええー、クリフト、1人で大丈夫なの~?」 疑わしそうに見上げるアリーナにクリフトはムッとした顔をした。 「こう見えても、剣の扱いはけっこう得意なんですよ。」 アリーナはまだ疑いの残る目をしていたが、クリフトは、決めの一言を放った。 「これを納得していただけないようでしたら、壁の穴の件は公にせざるを得ませんね。」 「ひどーい!それって、脅迫っていうんだよー!」 クリフトはにやりと笑った。 「脅迫けっこう。さ、お城に帰りますよ、姫様。」 クリフトは、ぶつぶつ言うアリーナの手を取ると、キメラの翼を取り出した。 しばらくして、サランの周囲を兵が巡回するようになり、魔物の出現は激減した。 同じ頃、クリフトは家庭教師の任に戻り、同時に、女官長が更迭された。 多分、ブライが後ろで動いたのだろう、とクリフトは推測したが確かなところは分からない。 女官長直属の女官達も一掃され、アリーナは以前よりも自由に外出できるようになった。 今では、ときどきクリフトと2人で医療院を訪れ、治療を手伝ったりもしている。 クリフトは、幸せそうなアリーナを見ながらも、心ひそかに思っていた。 ―――いつかきっと、この方は、もっと広い世界に飛び立とうとされるだろう。 そのときも、やはり、自分は、アリーナの側にいたい。 この輝く太陽の申し子を、できる限り側で支えていきたい。 クリフトの中の気持ちが、別の形に変わっていくのはもう少し後のこと…。
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クリフトとアリーナの想いは Part4.2 413 :煩悩神官が現れた! ◆cbox66Yxk6 :2006/03/04(土) 12 23 39 ID H6mbFy2M0 「ねぇ、お聞きになって?クリフト様のお噂」 クリフト? アリーナが屋根の上で昼寝をしていると、開け放たれた窓から女官の声が聞こえてきた。 「あぁ、あのお噂。何でも、想い人がいらっしゃるとか」 「えぇ!? そうなんですか?残念です~」 女官たちの黄色い声に、アリーナは身を起こす。 (もしかして、私たちのこと、ばれちゃったの?) 臣下と姫の恋愛は、秘めたる恋。ばれると後々面倒なことになりそうなので、気をつけていたつもりなのに。あぁ、どうしよう。 「でもねぇ、相手のお方、年増だっていうじゃない?」 あ、そう。私とのことじゃなかったのね・・・って、喜んでる場合じゃないわ!! (クリフト~・・・!!) アリーナが急に立ち上がったので、隣で丸くなっていたネコはびっくりして抗議の唸り声を上げた。しかし、アリーナから漂う異様な殺気に怯え、一目散に逃げていった。 「クリフト、許すまじ」 その日、久しく聞こえなかった爆音がサントハイム城に響き渡った。 クリフトの、浮気者、浮気者、浮気者!! 怒りに身を任せながら、長い廊下を歩いていたアリーナは、行く手にふたつの人影を認めた。 30代半ばぐらいの妖艶な雰囲気を持つ美女が楽しげに笑うその視線の先には、照れたように頭を掻くクリフト。 (ちょっと、何なのよ? あの親しげなようすは) アリーナが、むっとした表情でふたりを見据えると、こちらに気がついた美女と視線が合った。 清潔感漂う白い衣服から溢れんばかりの色気が漂っている。彼女はにっこり笑うと、クリフトの腕に手をかけ、耳に何事かを囁いた。 (なに、べたべたしてんのよ~!!) 慌てて振り返ったクリフトを睨み付けると、アリーナは踵を返した。 めちゃくちゃ、おもしろくなかった。 「姫様、おまちください」 足早に歩くアリーナをクリフトが追いかけてきた。 (クリフト、やっぱり私のことを?) 内心、嬉しく思ったアリーナだったが、次の一言を聞いて悪鬼のごとき形相に変わった。 「また、お城の壁を壊されたそうですね。いいですか?いま、サントハイムの財政は・・・」 この場面で、お説教? お城の壁? 財政? 一体、誰のせいだと思ってんのよ~!! 悔しすぎて涙が浮かんできた。 クリフトはしばらく財政がどうのと小言を繰り返していたが、黙り込んだアリーナを見て息を呑んだ。 「姫様?」 じわりと浮かんだ涙。瞬き一つしないで、こちらを見つめている瞳。 「クリフト」 ぎゅっと引き結んでいた唇から自分の名前がこぼれた時、クリフトはなぜか逃げ出したい衝動に駆られた。 なんだかよくわからないけど、すごくまずい気がする。 思わずあとずさった瞬間、体の前後に強い衝撃を覚えた。 (ぐえっ・・・) 暴れ牛鳥に突撃された時を思い出すかのような衝撃。目から火花が飛び、目の前が暗くなった。 「クリフト・・・」 遠のきかけた意識が、アリーナの声で呼び戻される。 漸く戻ってきた視界で、クリフトは自分のおかれている状況を知った。 前には、自分の胸に顔をうずめる姫様。後ろは壁。 (そうか、姫様にタックルされて壁に激突したんだな) 二重に受けた衝撃の謎が解け、妙に納得してしまう。 のんきにそんなことを考えたが、おかれている状況を冷静に考えれば、平静でいられなくなった。 「ひ、姫様、おやめください。誰かに見られたら・・・」 慌てて離れようとするが、アリーナはイヤイヤをするように首を横に振った。 クリフトは途方にくれた。 どうしてこんな事態に陥ったんだ? 医務官のマチルダ女史と話していたら姫様が現れて、壁を壊した件をお諌めしなくてはと思って追いかけてきたらこの事態? 噂を知らないクリフトにしてみれば青天の霹靂ともいえる。 クリフトはとりあえず落ち着かせようと、アリーナの髪を撫でた。クリフトの服を握り締めていた手が少し緩む。 「いったいどうされ・・・」 「あの人だれ?」 クリフトの言葉を遮って、アリーナが尋ねた。 あの人?あぁ、マチルダさんのことか。姫様が人のことを気にするなんて珍しい。 そこまで思い至って、クリフトは気づいた。 「姫様、もしかして、嫉妬されました?」 自分でも意地悪な質問だと思った。 アリーナは赤くなった頬を膨らませて、ぷいっと横を向いた。よくよく見ると耳まで赤くなっているようだ。 (う、かわいいかも) 不謹慎と思いつつも、頬が緩む。その気配を感じ取ったか、姫様が声を荒げる。 「誰なのよ!」 クリフトは笑いながら答えた。 「サランの町で医者をなさっていらっしゃるマチルダ女史ですよ。先月やめられた医務官の跡を引き継いで、先週からこちらにお勤めです。私も神官という立場上、何かとお付き合いがございまして・・・」 クリフトの説明に納得をしたのか、しないのか。まっすぐ見つめてくるアリーナにクリフトは 落ち着かない気持ちになった。 (お願いですから。そんな瞳でみないでくださいよ) 理性がとびそうだ。 クリフトがさりげなく体を離そうとすると、アリーナは逆に距離を詰める。 「クリフト・・・」 アリーナの唇が迫る。クリフトは必死になって逃げようとする。 「姫様、ちょっと、あの、その、こ、こんなところで・・・」 もう何を言っているのか、わからなかった。とにかく、必死で逃れようとした。 それを拒絶ととったのか、アリーナは少し落ち込んだ顔で身を引いた。 「クリフトは、私のこと、嫌いなのね」 「そんなわけないじゃないですか!!」 即行で答えてから、しまったと思う。これでは、収まりがつかないではないか。 もっとうまいかわし方があったはずなのに。 内心焦りまくりのクリフトをよそに、アリーナは瞳を輝かせた。 「ね、それって好きってこと?」 「え、まぁ、そうことになりますか、ね」 歯切れの悪い言葉に、アリーナは顔をしかめる。 「もう、はっきりしてよ! 私が好きなら・・・キスして」 キスしてくれなかったら、クリフトのこと諦めるから。 そう言って、瞳を閉じる。 クリフトが息を呑むのがわかった。 (勢いでこんなことをしてしまったけど、キスしてくれなかったらどうしよう) アリーナはちょっと後悔していた。 薄目を開けてちらりと確認すると、困った顔をしたクリフトが盛大にため息をついていた。 (あちゃー、やっぱりやりすぎちゃった?) ほんのちょっとでいいから、困らせてみたかっただけなんだけどな、とひとりごちる。 いっそ、冗談にして流してしまおうかな、と口を開きかけた瞬間、肩をつかまれ強い力で引き寄せられた。 額にふわりとあたたかい感触。 驚いて目を開けると、しかめ面をしたクリフトと目が合った。 「はい、キスしました」 普段の彼からは想像がつかないようなぶっきらぼうな物言い。 アリーナは笑った。どんなに怒ったふりをしても、照れているのが一目瞭然で。 「耳、赤いよ」 アリーナの言葉に、クリフトはうなだれた。 (もしかして、クリフトに勝った?) すごく嬉しいかも。 アリーナはニコニコ笑いながら、クリフトに抱きつく。 「大好き」 そして、クリフトが何かを言いかける前に、全速力で走り去っていった。 途中、アリーナが喜びのあまりはなった回し蹴りが柱を一本粉砕するにいたったが、このことが後々クリフトの責任となったのはいうまでもない。 取り残されたクリフトは、片手を口に当てて呟いた。 「拷問です・・・」 アリーナは知らない。王とクリフトの間にある約束を。 ―――手を出したら『男性機能喪失』 この約束は旅が終わった今でも生きていた。 つい先日も王自らが「忘れてはいまいな」と忠告してきたくらい、確実に生きていた。 (姫様、お願いですから、これ以上惑わさないでくださいね) 先程のアリーナの様子を思い出して、クリフトはひとり赤くなる。 薔薇色の唇が誘うように開かれていて・・・。 クリフトはブルブルと頭を振ると、思考を追い払った。 だめだ、だめだ、だめだぁぁーーー!! その日、珍しい光景が見られた。 いつも冷静で穏やかなクリフトが何かを呟きながら、城の廊下を全力で走り去っていく姿は、サントハイムの椿事として後世にまで語り継がれることになる。 クリフトが走り去ったあとの廊下に複数の人影が現れた。 「ち、クリフト様も意気地がないわねぇ」 「ほんと、わざわざアリーナ様を煽ってあげたっていうのに」 「残念ですぅ~」 クリフトとアリーナの秘めたる恋。 実はバレバレだということに本人たちだけが、気がついていなかった。 「陛下、未遂ということでよろしいですな?」 ブライの問いかけにサントハイム王は悔しげにのたまう。 「いいや、だめだ。あれは手を出したんだ」 ブライはため息をつく。 陛下も往生際が悪い・・・。 嫌じゃ、嫌じゃ、嫌じゃ・・・と幼児のように駄々をこねる王の背中をぽんぽんと叩きながら ブライは奇声を上げて走り去った青年を思う。 「難儀なヤツよのう」 サントハイム王国は、今日も平和だった。 (終)
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困ったときには口笛を 原題:Give a Little Whistle 作曲:リー・ハーライン* 作詞:ネッド・ワシントン* 楽曲:『ピノキオ』(1940年) バリエーション ピノキオ 英語 クリフ・エドワーズ(ジミニー・クリケット) ディッキー・ジョーンズ(ピノキオ) 日本語 ?(ジミニー・クリケット) 辻治樹(ピノキオ) ピノキオの良心となったジミニー・クリケットが困った時には口笛を吹いて自分を呼んでほしい、と伝える歌。 ゲーム ピノキオ (ゲーム) スーパーファミコン版『ピノキオ』のステージBGMとして使用。ジミニー・クリケットが登場するステージ2で流れる。
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クリフトとアリーナの想いはPart8 909 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/04/01(火) 00 46 21 ID NhYKsMHB0 「話ってなあに?クリフト」 風通しの良い部屋の窓の外を眺めてアリーナが訊ねる。 「突然ですが…」 神妙な面持ちをしたクリフトが呟いた。 「王の命で今日からスタンシアラに配属される事になりました…」 思いがけない一言に窓から身を乗り出していたアリーナはあと少しで転落するところだった。 「え…ちょっと待ってよ!本当に突然過ぎるにも程があるわ!お父様ったら頭のネジでもはずれたんじゃないかしら?」 「まあそういうわけですので今日でこの城…姫様ともお別れになるのでご挨拶に参りました」 そういってクリフトはアリーナを見つめた。 クリフトの奥深い蒼の瞳に吸い込まれそうになったが、アリーナはハッと我に返った。 「ねえ…嘘よねクリフト?」 アリーナは震えた声でクリフトに問いかける。クリフトは重々しく口をあけた。 「…今までありがとうございました。このクリフト、姫様に仕える事ができたことを一生誇りに思います。 いつまでも何があろうとも、私はこの国、王、民、そして姫様のご多幸をお祈り致します…」 帽子をとり深深と礼をしてアリーナに背を向けると、部屋の出口へと歩いていった。 「……っ…いやよ!待って!」 アリーナの不意打ち電光石火にクリフトはよろめく。 涙を流し、クリフトの腕にしがみつきながら「行かないで」と懇願するアリーナはクリフトの異変に気付く。 何とクリフトは笑っているのだ。 「な…なにがおかしいのよ!」 「う…あ、すみません、今日何の日か知ってます?」 アリーナはキョトンとしたまま沈黙が続く。 「エイプリルフールですよ、姫様」 「なっ…騙したわね!」 目の端を吊り上げながらアリーナは猛々しくクリフトに馬乗りになった。 「今日だけは嘘ついても良い日なんですよ姫様♪」 ニッと笑うクリフトに怒る気も失せたアリーナはクリフトの頬に軽くキスをした。 尾張…orz
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クリフトとアリーナへの想いはPart.9 766 名前 737  Mail sage 投稿日 2009/02/19(木) 20 24 25 ID DUt+8+Wo0 エンディング後 二人の関係とくに進展なしで読んで下さい。 『違和感』 「えっ!!クリフト病気なの!?」 サントハイム場の教会の中でアリーナの声が響き渡った。 見かけないな、とは思っていたが。 「病気ではありません。ただの風邪です。」 クリフトの上司である司祭は穏やかに答えた。 「2日間寝込んでいましたが、もう熱も下がっていますよ。 大事をとって今日は休ませていますが・・・。 よろしければお見舞いにおいで下さい。喜びますよ。」 クリフトの部屋の扉―――― “コンコン” ノックをするが返事がない。 「クリフト?入るわよ。」 アリーナはゆっくり扉を開けた。 クリフトの部屋は静寂に包まれていた。 机とイスと書棚とクローゼットとベッドと。 アリーナはこの部屋には何度も来たことがあるが、いつも思う。 地味で質素な部屋である。 クリフトはベッドで眠っていた。 生成り色の地味な寝巻きを着ている。 アリーナは音を立てないようにそっとイスに腰かけた。 (制服を着てないクリフトを見るの久しぶりかも) わずかに寝息が聞こえてくる。 表情も穏やかだった。 (よかった、大丈夫そうね) 時折、窓の外からさわさわと木の葉が揺れる音が聞こえる。 静かな空間。 アリーナはとくにすることもないのでぼんやりとクリフトの顔を見ていた。 目、鼻、口・・・ 「!」 (これって・・・・・・・・・・・・ヒゲ?) アリーナはクリフトの口の周りに生えているうぶ毛に気づいた。 (ク、クリフトにもヒゲが生えるんだ・・・・!) 考えてみれば当たり前である。クリフトは男だ。 年端のいった成人である。髭も生えていて当然だ。 しかしクリフトに髭という発想が全く湧かなかった。 思い返せば、アリーナはクリフトの寝覚めを見たことがない。 旅の最中はアリーナが目覚める頃にはいつもクリフトは既に服を着込んで準備万端だった。 (ミントスの町で倒れた時は生えてたっけ?? でも、あの時はそれどころじゃなかったし・・・・!!) クリフトの口元のうぶ毛を見つめる。もやもやとした気分になる。 クリフトは男で自分は女。変に自覚させられてしまった。 なんだか妙な違和感を覚えた。 無意識にアリーナはクリフトのその無精髭に手を伸ばす。 指先と頬が触れそうになった、その瞬間。 「姫・・・・・・・」 アリーナはびくっと手を引っ込め、身をこわばらせた。 クリフトは動かない。ただの寝言だったようだ。 鼓動が早くなる。なんだか居ても立ってもいられない気分になり、 アリーナは音をたてないように、クリフトに気づかれないように、逃げるように部屋を出た。 帰り際、足早に去ろうとするアリーナを司祭が見かけた。 「アリーナ姫。もういいのですか?」 「あ・・・、ええ、もういいわ。眠ってるみたいだから。起こすのも悪いし。」 アリーナは小走りに去っていった。 次の日。 あの時から感じた違和感が消えない。 アリーナはなんとなくけだるかった。 気を取り直して、息抜きにと城内を散歩する。 1Fをあてもなくフラフラと歩いていると後ろから声がした。 「姫様っ!」 クリフトが駆け寄って来た。神官服を着たいつものクリフトだ。 「く、クリフト!風邪は大丈夫なの?」 クリフトの顔を見る。頬に髭はなかった。思わず目を反らす。 「はい。おかげさまで。 それより姫様、神父様に聞いたのですが、昨日お見舞いに来てくださったとか。」 「あ、うん。そうよ・・・・。」 「起こして下されば良かったのに。」 クリフトは自分を見つめている。違和感が強くなる。クリフトと目が合わせられない。 「いいのよ、よく眠ってたし!」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 微妙な沈黙。時間にしてみれば僅かなのだが、妙に長く感じる。 「わ、私、部屋に忘れ物しちゃった!じゃあねクリフト!」 アリーナは小走りにかけだした。 なんだか動悸が早い。 あの時から感じた違和感が消えない。 <つづく> 2009.2.23へ続く
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前ページ次ページ三つの『二つ名』 一つのゼロ 焼け爛れた天井の掃除を終えて、クリフは念動で操っていた雑巾を手元に降ろした。 「よっ……と」 あれから、クリフ達は教室に残って、ルイズの起こした爆発の後片付けをしていた。 周囲の人間に被害を及ぼすことだけはなんとか阻止することに成功したものの、なぜか十分に集まりきらなかったサイコキネシス では抑えきることができず、爆発の圧力が上に逃げて教室の天井を大きく焦がしてしまっていた。 「……ふむ」 クリフは手の中の雑巾を見つめ、確かめるように握った。 ……なんだろうか。雑巾は今、自分が操作した通りに確かに動いていた。しかしさっきもそうだが、なぜか力が入りきらない。思 い切り念力を込めると、すっぽ抜けるようにパワーが拡散してしまう。 「どしたのクリフ?」 隣に立つヴォルフが、不思議そうな面持ちでこちらを見つめてきた。 「いや、なんでもない。……それより、一応掃除はしたけれど、こうして見るとすごく目立つなぁ。色が変わってて……」 石製の天井は茶色く変色していて、下から眺めると明らかに自己主張してしまっている。 「ま、そんなもんじゃないの? あとはプロでないとどうにもならないでしょ」 「ふむ。……まあ、言われただけの事はしたか」 これ以上は天井の石畳ごと変えでもしなければ直せないので、諦めることにした。 「終わったよ。ルイズちゃん」 そう言って振り向くが、ルイズは隅に座り込んで膝を抱えている。 「? どうしたんだい? さっきから」 「ほら、終わったって言ってるじゃない。何を落ち込んでるのよ」 しかし、ルイズは顔を上げようとしない。 教室には、シュヴルーズと他の生徒はすでにいなかった。クリフ達三人とルイズ、そしてお目付け役として手を上げて自ら居残っ たもう二人の人間がいるだけだ。 「……すごいのね、本当に杖も使わないで……」 そのうちの一人―――朝、部屋の前で挨拶を交わしたキュルケはあんぐりと口を開いて、クリフを見つめていた。 「うん? ああ、一応言ったけど、そのエルフっていうのじゃないよ、僕は」 「へえ……」 興味深そうな顔をして、こちらをジロジロ見てくる。うーん、好奇の目はあまり好きではないんだが。 ルイズの爆発を止めた時、運悪く近くにいたこのキュルケに一連の行動を目撃されていたのが悪かった。他の生徒達に気づかれる ことはなかったが、イメージを強くするためについ空中で手を握ったせいで、なにかをした、と勘付かれたらしい。 どうせルイズにはバレてしまっていたので時間の問題かと思い、あまり人には言いふらさないで欲しいと含めた上で、自分の『力』 を少しだけ見せてやったのだが……。 「先住魔法ではない?」 他のもう一人、青い髪色のタバサという少女がポツリと呟いた。この子はどういうわけだか知らないが、キュルケと共に残ってい た。 「その……そもそも、魔法じゃない。人間に隠された能力、というか……」 「……人間の能力?」 「うーん、ちょっとばかり才能はいるけど」 一応、ハチャメチャな魔法と違って、念動力は理屈と説明がついている。世間一般にはもちろん知られているわけもなく、ただの インチキのような扱いはされてはいるが、各先進国トップやエグリゴリのような裏組織の間では、科学的な研究で解明された事実が 知られている。 「僕のは、やたら極端ではあるけどね。そこそこ便利だよ、ほら」 そう言って、手の雑巾を空中に飛ばしてバケツに突っ込んでから、浮かせたままギュッと絞った。 「例えばこんなふうに、手が汚れないとかね。普通にやるより疲れちゃうけど。今みたいに、手の届かないところを掃除するには使 えるかもね」 怖がられてはいないようなので少し調子に乗って披露してみせると、タバサは真剣な面持ちで宙に浮かぶ雑巾を見ている。ううむ、 魔法が使えるのにどうしてこんなに興味を持たれているんだろう? 「ねえ、他には? エルフ達みたいに、すごい火力とか」 キュルケがさらに質問を投げかけてくるが、 「火力? ……いやあ、そんな事はできないよ。僕が出来るのは、念動力だけさ。大したことはないよ」 と適当にお茶を濁しておくことにした。うん、別に嘘は言ってないし。隣で(よく言うわよ……)とでも思っているのかジト目で ヴォルフが見てくるが、バカみたいに自慢しまくってもしょうがない。それに、人に危機感を持たせない程度に留めておくのが無難 なのだ。 「ふーん……。なるほどね。それで、他の人はどんな……」 「いや、それより。ルイズちゃんが落ち込んでるんだけど、どうしてだろうか?」 話題を逸らしつつ、さっきからどんよりとしてるルイズを見やる。 「さあ、知らないわ。大方、召喚が上手くいってたから他の魔法も使えるって調子に乗ってたんじゃないの?」 キュルケがそう言うと、図星だったのかピクッとルイズの肩が震えた。負のオーラを強くして、いじいじと地面をいじりはじめる。 「……彼女は魔法が使えないのか? ……そう言えば、はじめて会った時も飛ばずに歩いていたな。でも、寝るときに指を鳴らして 灯りを消していたけど」 ふと、昨日の事が思い起こされる。 「灯りを消したのは、そういうマジックアイテム。この子は魔法が全然一っつも使えないで、失敗して爆発ばっかりしてるのよ。だ から『ゼロ』のルイズ」 「……なるほど。それであの小太りの少年は……」 「ああ、あれはマリコルヌっていって、ルイズのことあんまり言えない程度の……ぷっ、クク、ククク……」 マリコルヌという少年の話の段に入ったところで、急にキュルケが笑い出した。 「え?」 「ぷぷ……ちょっとごめんなさい、思い出し笑い。でも、「デブが感染る」なんて、ヴァリエールも結構言うじゃないの」 ああ、この子もさっき噴き出していたな、そういえば。 「ま、とにかくそういうわけで落ち込んでるんでしょ、あの子は。まぐれで召喚に成功したからって調子に乗ってちゃ、ねえ。ゼロ のくせに」 ちょっと意地悪げにルイズに聞こえるように言う。ここから見えるルイズの額にぴしっと血管が浮かんだ。あ、怒ってるな……。 「ほら、なにしょげてるのよ。さっさと起きなさい」 キュルケがつまらなそうに呼びかけると、ルイズは不承々々といった顔で立ち上がった。その口から、不満げにぼそりとこぼす。 「……なんでよ。召喚は、成功してたのに……」 「そんな都合のいいわけないじゃないの、せっかく人が止めてたのに。無理して張り合って、周りに迷惑かけてちゃしょうがないで しょ」 キュルケの言葉に、むうー、とうなり声を出してさらに落ち込む。 「なによ、いちいち気にしてるんじゃないわよ。日常茶飯事じゃない」 「ま、まあまあ。元はと言えば、僕が騒いだのが発端なんだから、その辺で……」 と、クリフはルイズに助け舟を出すことにした。 「あら、主を庇うなんて、ちゃんと使い魔してるじゃない? そう言えばあなたも、すごく驚いてたわね。魔法を見たのは初めて?」 キュルケはさっきのクリフの狼狽ぶりを思い出したのか、少し意外そうな顔で振り返る。 「そりゃ、まあ。初めてだよ」 あんな無茶苦茶なもの、見た事なんてあるわけがない。物理法則を完全に無視して……やりたい放題だ。 「でも、あなたも『念力』を使えるんでしょう?」 「それはそうだけど……本当に錬金するなんて、あまりにも……。そうだ、魔法と言えば。ルイズちゃんに聞きたい事があったんだ。 いいかい?」 「……なに?」 ルイズが俯いていた顔を上げて、クリフを見た。 「召喚……今も、正直夢を見ているみたいなんだけど……その召喚も魔法なんだろう? どういう原理かは分からないけど、君は僕 達をここに呼び出した。じゃあ、逆に僕らを元の世界にも戻す魔法もあるはずだろ?」 そう聞くと、ルイズとキュルケは揃ってぽかん、とした顔をして、お互いの顔を見合わせた。 ……あれ? 「え……? そんな魔法、ないわ?」 「ええ。召喚する魔法はあるけど、呼び出した使い魔を元に戻す呪文なんて、聞いた事もないし」 ……。え。……嘘だろ? 「使い魔を戻す必要なんて、これまでなかったわけだし。普通は、死ぬまで主人と一緒よ」 ……し、死ぬまでって……。 「そもそも人間を呼び出すこと自体、前例がないわね。あなた、元の場所に帰りたいの? まあ、そりゃそうよねぇ。ヴァリエール の一方的な召喚で呼び出されたわけだし」 「ちょ、ちょっと。あなた使い魔やるって言ったじゃない!? まさか、やっぱり帰るなんてこと…」 ルイズが慌てだした。いや、使い魔はいいんだけど、その……。 そこで、今まで黙って成り行きを見ていたヴォルフが口を開いた。 「落ち着きなさい、お嬢ちゃん。アタシ達には向こうに置いてきた仲間、ファミリーがいるのよ。女の子が二人ほど、ね。そのまま 放っておくわけにもいかないでしょ?」 「え……」 「命を救われたらしいことはもちろん感謝してるわ。でも、おいてけぼりにしちゃってるんだもの、しかも結構危ないところに。…… そうよ、そういやクリフ、アタシ達が殺られたあとどうなったのよ? ていうか殺られたの知ってた?」 ヴォルフがこちらを見る。 「……ああ。ユーゴー達には、あまり見せたくないショッキングな映像だったよ……」 「げ。じゃあ、完全に死んでると思われてるじゃないのー。あーもー心配だわ……」 「あの後、僕が囮になって二人を逃がして……一応、タカツキ達に合流できたみたいだけど。そこで意識が途切れた」 「あ、じゃあやっぱクリフも殺されたのね、あのチビジジイどもに。あーもームカつくわー。でも、アンタがあれぐらいの敵に遅れ を取るなんて、油断大敵よ?」 「いや……レッドキャップスは確かに強力だったが、僕はキースにやられた」 「ええ!? キースが前線に出てきたの? ヤバイじゃない、洒落になんないわよ!? じゃ、じゃあユーゴー達危険じゃない! いくらあの坊や達でもひとたまりもないわよ!」 「ああ……なんとか逃げ切ってくれていることを祈るしか、ないな……」 「ああー! もうどうしよー! ホントに心配だわ、ユーゴーとキャロル死んじゃうわよー!? それに隼人君だって、超タイプだ ったのにー!」 「……ま、まあタカツキ達も心配だけど……」 別に僕は、人の趣味をどうこう言う気はないけどさ。 そこで、会話に置いていかれたキュルケが口を挟んだ。 「……事情は知らないけど、なんだか大変な時に呼び出されたのね。あなた達」 「ん? ああ、すまない、こっちの話をしてしまって」 「別にいいわよ。それより、どうするのよヴァリエール? ちょっと聞いただけでも殺すとか殺されるとか、あなたの使い魔達が物 騒な事言ってるけど」 キュルケが隣のルイズを見下ろした。ルイズはちょっと青い顔をして立っている。 「え、えと……その……」 「まずいんじゃないの? よく分からないけど、なんだかあなたのせいで……人が死ぬ……かも?」 「え、そ、そんな!? ……で、でも! 呼び出した使い魔を元の場所に戻すなんて……」 「そうね、そんな呪文ないわよね。うーん……」 キュルケが考え込むように顎に手をやった。 そこでふと、ヴォルフがぽん、と一つ手を打って口を開く。 「あ。そうだわ、ちょっといいかしら」 ヴォルフは考えるように少し宙を見上げて、ひげをいじった。少し間を開けて、続ける。 「アタシ少しアイディア思いついたんだけど……お嬢ちゃん、なんか聞いてたら召喚って魔法なんでしょ? 一応」 「え? そ、そりゃそうよ。コモン・マジックの一種だけど……」 「コモンだかコモドだか、そういう詳しいことはどうでもいいんだけど。それをね、もう一度――やってもらえないかしら?」 そう言って、ルイズを見つめる。ルイズの口から、え、と声が漏れた。 「できるでしょ? それは一回成功してるんだから、いくらでもできるでしょ」 「え、あ……え?」 「それをやって欲しいのよ。上手くいけば、ユーゴーとキャロルもこっちに連れてこれるんじゃない? そうすればアタシ達も帰る 必要がなくなって、お嬢ちゃんも使い魔がいなくならないどころか増えて万々歳。……ワーオ! 我ながら誰もが納得のビックアイ ディアじゃない!?」 自分の言葉に驚くように、ヴォルフが手を打った。 ……なるほど! そうか、その手があった。僕達が帰れるかどうかはおいても、確かにそれならユーゴー達については解決する。 迎えに行くのではなく、こちらへ呼べばいいわけだ。 「ヴォルフ、それだ。よく思いついたな」 「ぬっふっふ! すごいでしょー!? アタシ天才かも!」 いや、それはないけど。 「というわけで、もっかいだけ召喚してちょうだいなお嬢ちゃん? これでとりあえずはなんとかなるってすんぽー……あら?」 ヴォルフの提案に、ルイズがふるふると頭を振った。キュルケも横目にルイズを見て、それに同意する。 「え? なんで?」 「で、できないわよ。朝食のあとに、言ったでしょ?……使い魔は一人一つ。それが死ぬまで、新しいのは召喚できないって」 「え、嘘! そうだっけ、そんなこと言ってた!?」 「も、もう。誰も全然聞いてないじゃない、言ったわよ。……残念だけど、それはできないわ」 「なんでよ!?」 「なんでもなにも、そういうものなの!」 「えー!? じゃ、じゃあ……ダメなの?」 ……。そうなのか。そういえば、そんなことをチラッと言っていたような。まあ、そんなに都合はよくないか。 「ダメよ、できないわ。だって、呪文が完成しないのよ」 ルイズの言葉に、隣のキュルケも頷く。 「そうよね、それも聞いた事ないわ。普通は無効化されちゃうもの」 「ツェルプストーも知らないわよね? やっぱりゲルマニアにも前例がないのね、わたしも知らないわ」 「えー、嘘。せっかく思いついたのに……。じゃーどうしましょ。あ、でも! アタシ達、三人いるじゃない!? 一人一つっての から外れてるし、なんとかなったりとかして!?」 「そ、そうだけど……。でも、無理よきっと。普通に考えてできるはずないし……」 「分かんないじゃない、やってみたの!?」 「や、やってはいないけど……」 しつこく食い下がるヴォルフに、思わずたじろぐルイズ。 「じゃあ一回だけ! 一回だけでいいから、ちょっとやってみてくんないかしら?」 「で、でも……」 「女は度胸、何でも試してみるものよ! この通りよ、ね、ね、いいでしょ!?」 「なによそれ……。別にいいけど。じゃ、ちょっとどいて」 ルイズが杖を手に取った。小さな杖を空中で振って、呪文を唱える。 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。我の運命に従いし、『使い 魔』を召喚せよ。……っと」 最後に大きく杖を振り下ろす。 「……ね。絶対無理に決まってる……って……」 ルイズの目の前に、光る鏡のようなゲートが現れた。 「……うそ?」 呆然と呟いたルイズの前で、ゲートから神々しい光が零れている。 「……できちゃ……った?」 「……ええ!? ヴァ、ヴァリエール!? 成功したの!?」 キュルケが目を丸くする。 「……!」 さっきまで会話にまったく加わらなかった、青い髪のタバサが立ち上がって声なき驚きを示した。 「…………」 隅に座っていたキクロプスは、いつでも抜けるようにさりげなくナイフの柄に手をわずかにかけ、警戒する鋭い目を鏡に向ける。 「できたみたいね……? ……って、よっしゃあ!」 そして、ヴォルフが野太い声を出してガッツポーズをした。 「鏡……? こ、これは……」 クリフはじっとゲートを見つめた。思いつきとはいえ、本当にできるとは。まさか、ユーゴー……? 「シャア! 来い来い来い、ユーゴー! キャロル! 出てきなさい!」 まるでばくちの出目に興奮するかのように、ヴォルフは腕を振りまくっている。 その時、ゲートの先で何かの影が動いた。やがてそれは、ゆっくりと人の形をとりはじめる。鏡のようなゲートが二次元から三次 元に盛り上がって――それは倒れ伏すようにして、こちらに現れた。 ごとり、と床に転がる。 ……。 「……」 「……」 「……」 「……」 「……」 「…………」 全員が、声を出さなかった。というよりも、予想外の流れに口を半開きにしたままだった。 ゲートが光を失い、閉じる。後には何事もなかったかのように、普通の空間があるばかりだった。 しばらくの間、沈黙が続いた。ようやくのことで、なんとかヴォルフが声を絞り出す。 「……誰これ?」 ゲートから出てきたのは。 ユーゴーでもキャロルでもなく、黒髪で青いパーカーを羽織った、知らない少年だった。 「お、男の子だわ……」 「……こ、これは誰だい?」 「し、知らない……。わたし知らない……」 「……増えた。……召喚は成功?」 「…………アジア系だな。……顔が平たい」 「……へ、平民増やしてどうするのヴァリエール……」 「そ、そんなこと、わたしに言われても、し、知らない……」 眠ったように目をつぶって倒れている少年を囲んで、一同はごにょごにょと話し合う。 「あ、でもこの子けっこう可愛い顔つきね。アタシの好みからはちょーっと外れるけどなかなかイケルわ」 「え!? あ、あなた男の人でしょ? なんで男の子が……」 「アタシそういう趣味の人なのよ。心は乙女」 「……ご、ごめんなさい、ちょっと絶句しちゃったわ……」 「こら、ツェルプストーに余計な事漏らさないでよ。なんだかわたしが恥ずかしいわ」 「細かいことはいいじゃないの。それよりどこの子かしら?」 「ふむ。見た感じではアジア系コーカソイドに間違いはなさそうだが……キクロプス、どう思う?」 「…………確証はないが、……中国と韓国ではないな。タイでもない。……特徴からして、日本人だと思うが……」 「ううむ……襟から服のタグが覗いてるな。……これは日本語か? 見覚えがある」 「…………おそらく」 「……日本? ……あなた達の国?」 「いや、なんというか僕の国ではないんだけど」 「けっこう可愛いパーカーねぇ。ボーイッシュでいいカンジ」 「……ま、まあ人の趣味はそれぞれよね……」 「ちょっとやめてよ、わたしまで変な目で見られてるじゃないの」 「正直に言うことはいいことよお嬢ちゃん? アタシは自分のパッションに生きてるだけよ」 「……あなたの国でもないの? ……あなたも?」 「…………違う。俺は、国籍自体……ないが」 「アタシも違うわよ。でも、アタシの国の男の子もいいのよこれが。特にローティーンとハイティーンの間は最高よ。ウブな感じが たまんないの」 「さっきからなんの話をしてるんだお前は。……たぶん、彼は僕達が来た国と同じところから来た」 「……違う国なのに同じところ?」 「…………そうだ」 「いやキクロプス、誤解を招く。僕達はその、旅行者みたいなもので……」 「こうなんていうのかしら、保護欲? 可愛い男の子ってからかったりちょっかい出したくなるのよねー」 「やめてってば、変な話はしないでよばか」 「あ、でもあたしそれ分かるかも……」 「ちょ、ちょっとツェルプストー!? なんでオカマに同意してるのよ」 「あら、あなた分かる? そういうの」 「少しだけ期待させてみたり、そういう素振り見せたら反応が面白いのよねー。赤くなっちゃったりして」 「そうそう、それよ。照れる姿が可愛いのよもう」 「やめてよもう! ばかじゃないのあんた達! なにナチュラルに意思疎通してるのよ」 「……旅行者? 滞在先の国の人?」 「そういうことになるね。まだ確実じゃないけど、たぶん日本人らしい」 「あらお嬢ちゃんにはまだこういう話は早いかしら? そういやお嬢ちゃんもウブそうね?」 「…………心拍も正常。……目立った外傷は見当たらん」 「だって無意味に身持ちの固いトリステイン女だもの。男の子のことなんてなにも知らないのよこの子?」 「……この人も、あなた達のように『念力』が使えるの?」 「あんたが男をとっかえひっかえでおかしいだけでしょ! 普通はそうなの!」 「いや、それはないと思うが……普通の少年のようだけど」 「とっかえひっかえなんてしてないわ。あたしは大勢来る中からつまらない男を切ってるだけ。こう見えても、見る目だけはあるつ もりよ」 「…………武器の携行はなし。持ち物はバッグが一つ、……中にはノートPCだ」 「アタシは純情も信念があって悪くないとも思うけど。でも、まったく男を知らないってのも考えものねぇ。コロッと騙されちゃう わよ?」 「……この人は純情?」 「やっぱりそうよね、なにも知らないのは危ないわよね。ヴェリエールも少しは男を見る目を養ったらどう?」 「ああ、確かに素朴な少年そうだ……って、なに? ああ、おいヴォルフ、会話が混線するからあとにしろ。混乱する」 「うるさいわね! 大きなお世話よ! わたしはそういうの、ちゃんとするの!」 「…………あとは筆記用具が少々。……PCは電源が入っているようだ……今、点ける」 「なんだか危なっかしい意見ねぇ……。乙女もいいけど王子様なんてホントにレアよ? だいたいの男は自分のこともキチンとでき ないヘナチョコばっかりだし」 「……ヘナチョコ?」 「あなたに比べたらそりゃだいたいはヘナチョコだわ……。でも、男って意外と頼りにならないわよねー。いざってなるとダメなの よ」 「ヴォルフ、やめろって。……さ、さあヘナチョコかどうかは知らないけど、さすがにヴォルフよりは……僕も人のことは言えない けど」 「そ、そうなの? ……で、でもわたしはその辺はちゃんと将来のために、遊んだりなんてしないでいたいの! 大事なことだもの!」 「…………点いたぞ。……立ち上がりがずいぶん早い。……高そうだな」 「あらら、これは頑固そうねぇ。でも、そういうの重いとか言って逃げるナメた男もいるのよねぇ、ヤるだけヤってるくせに。気を つけなきゃダメよ? 時々とんでもないのいるから」 「……あなたもヘナチョコ?」 「あーいるわそういうの、価値のない男。ヴァリエール、あなた何も知らないからひどい目に合いそうで心配になってくるわ。あ、 ちょっとなにそれ!? マジックアイテム!?」 「う……。ま、まあその、あんまり体力には自信ないかな……。ところで、彼はまだ起きないのか?」 「あーーーーーーもーーーーーーうるさーーーーーーーい!!!!」 ルイズが思い切り大声を上げると、ぴたりとこんがらがりはじめた会話が止まった。 「……急にヒステリーもよくないわよ、男に低く見られるわよ?」 「違うわよばか! もう、何の話だか分からなくなってきちゃうもの! ちょっといったん、ストップ! 話を戻しましょ。とりあ えず、これはなに?」 ぴっと倒れたままの少年を指差した。 「これってひどい言い方じゃない? あなたが呼び出したんでしょ、ヴァリエール」 「そ、そうだけど! なんで来るのよ、来れるのよ!? おかしいじゃないの、一人につき一つのはずでしょう!?」 「あたしに言われても知らないわ……。どういうことなのかしら?」 キュルケも分からないらしく、首をひねる。 「……とりあえず、起こしてみようか」 クリフは軽く少年の肩をゆすった。すると、うう、とうめいてから少年が目を開けて身を起こした。 「……え? あれ、ここどこ?」 ぽかん、としてこちらを見つめてくる。 「……えーと。やあ、僕はクリフ・ギルバートという。君は?」 「へ? お、俺? 俺は……平賀才人……」 「なるほど、サイト君。……だ、そうだ」 振り返ってみる。が、一同は黙ってこっちを見ているので、クリフは才人という少年と会話を続ける。 「ところでサイト君。君は日本人か?」 「え? え? に、日本人……ですけど…・・・。え? なんで? 誰?」 「まずは落ちついてくれ。混乱していると思う。僕もそうだった。……だが、……慌ててもはじまらない」 「はへ? いや、ちょっとなんですか? が、外国の人?」 「そうだね、僕は君にとって外国の人だ。だが、言葉は通じてるな……? ふむ。君は英語が堪能なのか。まあ、今はこの際それは 置いておこう。それより、どこか怪我はないか?」 「言葉……? いや、怪我はない……ですけど。え、ちょっとわけわかんねえ」 「うん、その通りだ。わけがわからないことだろう。だが、冷静にだ。いいか、冷静に。……よし。じゃあ説明をしよう。……ルイ ズちゃん?」 再度振り返り、ルイズを見る。 「え? わ、わた、わたし?」 ルイズは急に話を振られて、少し声を裏返した。 「君が呼んだ少年だ。おそらく、彼は……君の使い魔ということになる。この場合、君が説明するのがいいと思う」 「え、で、でも、でも……?」 「慌てないで、落ちついて。君は主人だろう? 大丈夫だ、問題ない」 主人、と言われてルイズははっとした。きりりと顔を引き締める。 「い、いい!? ちょっとそのまま、動いちゃダメよ!」 「えっ? な、なんだよ、ええ? あ、こっちも外人……?」 「動かないで! ……我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール! 五つの力を司るペンタゴン! こ の者に祝福を与え、我の使い魔となせ!」 そう言ってルイズはつかつかと才人に近寄り、杖を額に置く。え、いや、違う、彼に説明を……? 「おわっ? な、なにをする」 「いいからじっと。そのまま……」 「ちょ、ちょ、え? おわ、な、なになに?」 「動かないでってば!」 ルイズは両手で才人をがっしりとホールドし。 そして、唇を重ねた。 少しして、すっと離す。 「……うう、もう……ちょっと、ツェルプストー! なにニヤニヤ見てるのよ!」 「見てないわよ。まあ、あなたもがんばりなさいよ」 「なにをがんばるのよ! もう、なんだか心の準備できてなかったから、すごい恥ずかしい! ちょっと見ないでよ!」 ルイズが顔を真っ赤にしてわめいてる後ろで、少年は放心して呆然としているようだ。うむ、確かにビックリするよな、彼にとって は同年代みたいだし。特に日本人はキスの習慣があまりないって聞くな。 「……!? うおわぁあああ!? あ、熱っ、あっつぅー!? 痛ってぇー!?」 そのうちに、才人は手の痛みに床を転がりはじめた。……僕達より不意打ちの度合いがひどくてちょっとかわいそうかもしれない……。 「あら、ちょっとだらしないわね。あの程度の痛みでそんなに騒ぐなんて」 ヴォルフが肩をすくめる。いや、それは少々酷じゃないかなぁ……。 「はあ、はあ、痛ってぇ……。な、なんなんだちくしょう……!? い、意味がわかんねえ……マジでわかんねえ……!?」 才人は混乱に満ちた目をしていた。 前ページ次ページ三つの『二つ名』 一つのゼロ