約 1,317,248 件
https://w.atwiki.jp/cscs/pages/1190.html
ランスロット・エアキャヴァルリー (輪廻の翼(ヴァンガードスターター)) UNIT U-085 赤 3-4-1 M エース(2) 速攻 高機動 武装変更〔ランスロット〕 (自動A) このカードにキャラがセットされている場合、このカードがいる戦闘エリアには、「エース」を持たない敵軍ユニットは出撃できない。 ナイトメアフレーム 専用「枢木スザク」 Sサイズ [4][1][4] 出典 「コードギアス反逆のルルーシュ」 2006 このカードから武装変更できるカード ランスロット&紅蓮弐式 ランスロット(MVS装備) ランスロット・コンクエスター ランスロット・アルビオン
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/892.html
前ページ次ページゼロのアトリエ アルビオン大陸のサウスゴータ地方、シティオブサウスゴータと港町ロサイスを結ぶ街道の枝道。 普段は誰も通らないその枝道を、土くれのフーケが歩いていた。 顔や手足につけられた無数の傷、それに対する応急処置が未だ生々しい痕としてその姿を晒している。 「さて、あの娘は元気にしてるかね」 ようやく森の中の集落にたどりつき、フーケはいつものように遊んでいる子供達に挨拶した。 「よう」 しかし、帰ってきた答えはフーケの触れてはいけない傷に触れてしまう。 「マチルダのおばちゃん!」 フーケの全身が一瞬固まり、しかるのちにゆっくりと手が伸びて、 その許しがたい発言をした子供の頬が掴まれ、愉快な顔が形成される。 「私はまだ二十三よっ!言ってあったよねえ?今度言ったらコロスってさあ」 あまりの迫力に恐怖を感じたその子供は、驚愕に目を見開く。 「あーごめんごめん、お姉ちゃんちょーっとやりすぎちゃったかなー?」 穏やかな笑みを浮かべるフーケだが、子供は目の端にいっぱい涙を溜めて、 フーケが手を離すと同時に大声を上げて火のついたように泣き始めた。 「うえ゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙!!」 「あー…その、何だ…」 さすがに後悔して何とか泣き止ませようとしたフーケだったが、 あやせばあやすほど泣くばかりでちっとも要領を得ない。 泣き声を聞きつけたのであろうか、誰か一人、駆けてくる姿があった。 草色のワンピースに流れるような金色の光をのせて必死に駆けてくるその少女は、 まるで絵画の世界から飛び出してきたような、凄絶なまでの美しさを放っている。 その少女はフーケに気付き、花咲くように破顔してその胸に飛び込んだ。 「マチルダ姉さん!」 フーケの頬にかかったその耳が、彼女にエルフの血が混じっている事実を思い出させる。 「ティファニア」 フーケもようやく、外に向けての『土くれのフーケ』としての鎧を解いた。 「もう、マチルダ姉さんったらまた無茶したの?」 「ああ、ちょっとドジっちまってね」 傷だらけのその様子に、ティファニアは咎めるような調子で指をさす。 「だから使い魔を使ってってアレほど言ったのに」 「言ったろう?あんたの『お友達』が見つかるまでは、私も使い魔を使わない、ってね」 「もう、変なところで律儀なんだから」 ティファニアはマチルダ姉さんを心配して、ことあるごとに使い魔を使うように忠告してきたのだが… マチルダ姉さんは『自分が使い魔を召喚するのはティファニアの後』という幼い日の約束を守り続けている。 「けど、無事でよかった」 「使い魔が必要なのは私よりも、あんたの方だと思うけどねえ…」 「いいんです、何も憶えてないなんて、きっと大切な事じゃなかったんです」 マチルダ姉さんの勧めに、きっぱりと答えるティファニア。 ティファニアは、召喚したはずの使い魔と、使い魔に関する記憶を全て失っていた。 『マチルダ姉さん』とて、ただ、ティファニアの書いた一通の手紙で知っているだけだ。 『お友達』を召喚しようとしたら、平民を召喚してしまった事。 その左手に、見たこともないルーンが刻まれた事―――そしてその手紙の後、 ティファニアの使い魔などまるで初めから存在しなかったかのように消えてしまった事。 「私は、ただここでひっそりと生きていければいいんです」 「そうかい。まあ、私はあんたが良ければそれでいいんだけどね」 状況がそれを許してくれる限り、この娘には平穏の中で生きていて欲しい。 『マチルダ姉さん』は、柄にもなく始祖ブリミルとやらに祈りたい気分になった。 ゼロのアトリエ ~ハルケギニアの錬金術師24~ 「ちっ!」 不利を悟ったワルドが、ヴィオラートたちから距離をとり始める。 「今日の所は引こう。だが勝利を収めるのは我々『レコンキスタ』だ」 ワルドは素早く『フライ』のルーンを詠唱し、礼拝堂のステンドグラスをぶち破って…逃げた。 「逃がさないよっ!」 ヴィオラートが反応し神聖文字を飛ばすが、わずかに届かず…ワルドは、礼拝堂の外へと逃れる。 「おのれ!待て!」 ウェールズが後を追おうとするが、 「待ってください」 ヴィオラートがそれを引き留めた。 「ウェールズさんには、これから果たすべき義務があるでしょう?」 ウェールズは我に返り、ヴィオラートに向き直る。 「それに…『遍在』を追っても、あまり意味がないんじゃないですか?」 「そうだった。裏切りに目を奪われ、我を忘れていたようだ。礼を言う、ヴィオラート殿」 落ち着いたウェールズに、ヴィオラートは三つほどのケーキが入った袋を渡し、 「あたし特製のケーキです。何て言ったらいいのか、わかりませんけど…」 そこで言葉に詰まり、心の底から搾り出すように言葉をつむぎ出す。 「憶えてますから。それで、ちゃんと伝えますから」 ウェールズは悟りきった目線をヴィオラートに贈り、 「アンリエッタには、ウェールズは最後まで勇敢に戦って死んだと。そう伝えてくれ」 それだけ言い残し、ヴィオラートたちの元を去っていった。 これをもって、ようやくヴィオラートの策全体が完全なる終焉を迎えることとなる。 もしこのワルドが本体で、なおかつ十分な行動力を保持したまま捕まるような事があった場合、 ヴィオラートの嘘が証明される…このワルドが本体である事が証明される確率が万分の一でも発生する。 そのリスクを、ほんのわずかな綻びを作らぬために、ワルドはここで取り逃がす必要があった。 一度取り逃がせば、ヴィオラートが、ルイズが、ウェールズが次に会うワルドが本体であっても、 今現在取り逃がしたワルドが本体である事を証明する機会は永遠に失われる。 ヴィオラートの完全勝利が確定した瞬間であった。 「ルイズちゃん」 結婚式を挙げようとした婚約者が『遍在』で、皇太子の暗殺を企んでいた。 放心するルイズに、しかしヴィオラートは声をかける。急ぐ必要がある。 「ヴィオラート…」 ルイズは何もかもがないまぜになった顔でヴィオラートに振り返った。 「ルイズちゃん、色々お話したい事はあるけど、今は時間がないの」 「時間?」 本当は時間を取ってあげたいが、ここで時間をかけると全てが水泡に帰してしまう。 とりあえずルイズを生きながらえさせるために、ヴィオラートは渾身の力を込めてまくし立てる。 「そう。ワルドさんが敵で、罠を仕掛けたとすると、もうすぐ敵がやってくるんだよ」 「え?え?」 「だから、早く出ないと。アルビオンを」 「どうやって…グリフォンは使えないし、船はないし…」 「大丈夫!これがあるじゃない!この小ささなら、敵も見つけられないと思うよ!」 そう言って取り出だしたる物体は、ああ、見慣れたホウキとフライングボードではないか。 「え、いやでも、それじゃあアルビオンを出るなんて…」 「フライングボードはともかく、ホウキでこんな高い空を飛んだことはないけど…」 「ちょ、ないって、それじゃあまるで実験飛行ってことに…」 「大丈夫!あたしがホウキに乗るから、ルイズちゃんはフライングボードにつかまってればいいよ!」 「そ、そう言う問題じゃ…」 「滑空するだけなら全然問題ないよ!むしろ楽しいかも!」 ルイズの命を守る為、ヴィオラートは半ば強制的にルイズをフライングボードに乗せ、 思いっきり加速度をつけて押し出した。黄ばんだ部分を押されたフライングボードは勢い良く飛び出し、 あっという間にアルビオンの蒼空の中の黒い点となって消える。 「さて、あたしも行こうっと」 ヴィオラートはホウキに乗って思い切り駆け、そして飛んだ。いや、発進した。 「ひーーーーーーーーーーーーえーーーーーーーーーー」 「わー!たのしーなー!ねえ、ルイズちゃん!こんな体験めったに出来るものじゃないよ!」 人間の体感する速さではない…少なくともこの時代の人間が体感したことのない速さに、 完全に恐慌状態に陥るルイズと、レアな体験とばかりに大はしゃぎで、 見たものがそれだけで癒されるような満面の笑みを浮かべるヴィオラート。 「あっちがラ・ロシェールって街かな!樹が見えるよ!ねえ、ルイズちゃん!」 高揚するヴィオラートは、とりあえず相手が話を聞いているかどうかは関係ないようで、 見たものや感じた事をいちいちルイズに報告し始めた。 「いーーーーーーーーーーーーやーーーーーーーーーーーー」 ルイズの悲鳴が、いつまでもアルビオンの空にこだまする。 「あら?」 「どうした?何かあったのかい?」 シルフィードに揺られ、アルビオンを目指していたキュルケは、 何か凄く速くて小さい桃色のものとすれ違った事に気付いた。 「ちょっと、あれヴァリエールじゃないの?」 「?」 そう言った時には既に、ルイズは空の彼方へと吸い込まれていた。 「何か小さい点が見えるけど…これじゃ何なのか判別できないね」 「何かあったのかしら。ヴァリエールだけがあんな…」 キュルケの発言を遮るかのように、今度は錬金術師の能天気な声が空から降ってきた。 「うわーい!皆来てくれた…」 全部言い切らぬ間に、そのホウキも遥か彼方へと消えてゆく。 「なんにせよ、合流した方がいいでしょうね…」 キュルケはタバサを促し、二人の消えた方角…ラ・ロシェールへと進路を向ける。 今回。ルイズは体を張って、二つの教訓を得た。 まず一つは、ヴィオラートの楽しいと他の人の楽しいはかなり違ったものである、という事実。 もう一つ、ヴィオラートには二度と逆らわないでおこう、という真理。 この二つの教訓はルイズの深い深い心の底に刻み込まれ、生涯上書きされる事はなかった。 前ページ次ページゼロのアトリエ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1719.html
アンリエッタ一行はそのまま一泊し、翌日宮殿に戻るらしい。教師達 は王女や枢機卿、そして護衛の衛士隊の寝床を確保する為に四苦八苦し ていた。全ては書類の処理を滞らせたオスマンに責任がある、のだが、 誰もその事には触れなかった。学院長室に女っ気がないと仕事が遅れる のはいつもの事だからである。 生徒達には、王族に何か粗相があってはならぬ、と翌朝まで寮内待機 が命じられた。当然ながら、使い魔も出歩く事はできない。というより、 主人が命じれば、基本的に使い魔は言う事を聞いておとなしくしている。 あくまで“命じれば”であり、“基本的には”であるのだが。 Mr.0の使い魔 —エピソード・オブ・ハルケギニア— 第十七話 「なぁ、旦那。部屋を出るのはまずいと思うんだが」 「指示があったのは生徒に対してだけだ。それに、ルイズは何も言わなかっただろう」 デルフリンガーを携え、クロコダイルは寮を抜け出していた。 先ほどの青年は姫の護衛であるから、明日になればこの学院を去って しまう。それはつまり、相対して評価するチャンスを一つ失うという事 だ。こうして巡り会った機会をフイにするのはもったいない。 なお、この独断行動にルイズが何も言わなかったのは、部屋に戻って からも相変わらず惚けたままだったからである。決してクロコダイルの 行動を容認したわけではないと、彼女の名誉の為に付け加えておこう。 「次の機会があるかどうか、怪しいからな。とりあえず挨拶ぐらいはしておきたい」 「理由はどうすんだ? 役に立つかどうか試しに来ました、なんて直球だと間違いなくキレるぜ」 「主人を見ていたのが気になった、とでも言えばいいさ。これでも一応、使い魔だからな」 月明かりに照らされた中庭の一角。 件の青年は、思ったよりも早く見つかった。 「やあ、ミスタ・クロコダイル。こんな所におられましたか」 というより、向こうもクロコダイルの事を探していたらしい。笑顔で 手を挙げる様子はいたって普通の好青年であるが、裏で何を企んでいる かわかったものではない。野心の一端を垣間見た事もそうだが、対外的 にはルイズの使い魔で通る筈のクロコダイルに、わざわざ敬称をつけて 呼びかけたのだ。おまけにどこで聞いたのか、名前まで知っている。 「これはこれは。まさか姫殿下直属の護衛の方に声をかけていただけるとは」 「そう畏まらないでください。第一僕の方が若輩のようですし、遠慮は不要ですよ」 「そうか……では、まず名前を教えてもらえないか。こちらだけ知られているのも不公平だろう」 「これは失礼。僕はワルド、ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。 魔法衛士隊でグリフォン隊の隊長を任されている、風のスクウェアメイジです」 羽帽子を脱ぎ、優雅に一礼するワルド。 一方で、クロコダイルは聞き覚えのある名前に記憶を手繰った。 「ワルド……確か、一年前のワイバーン討伐の候補も同じ名前だったな」 「おや、その話をご存知でしたか。恥ずかしながら、僕なのですよ」 照れくさそうに笑ったワルドは、一転してまじめな顔つきになった。 「実は、少しお手合わせ願えないかと思いましてね」 「手合わせ?」 「強いと噂の人がいると、どうにも自分より上か気になってしまって。 スクウェアの【固定化】を打ち破ったあなたの力、ぜひ見せていただきたい」 朝方デルフリンガーの検証を行った平原で、クロコダイルとワルドが 対峙する。彼我の距離、およそ10メイル。 いち早くサーベルのような杖を抜き放ったワルドは、全く身構えない クロコダイルに眉根を寄せた。 「杖を構えないのですか?」 「残念ながら、おれはメイジじゃない。期待に添えるよう努力はするがね」 「……わかりました。手加減は、なしですよ」 「いいだろう」 冷たく静かな夜の空気に包まれた二人は、互いに闘気を滲ませ、眼前 の敵を睨みつける。 溢れる気迫を汲み取ったデルフリンガーが、鞘の中でぶるりと震えた。 ——……ォーン 澄んだ風に乗って、どこからか獣の遠吠えが響く。 それが、引き金。 「はぁッ!」 風を纏ったワルドが飛び出した。【フライ】を使い、地表すれすれを 滑るように飛ぶ。二つ名の『閃光』のごとき鋭い突きが、クロコダイル めがけて繰り出された。 「ふん!」 突きが胸に達する寸前、クロコダイルが左手を振るう。あまりに遅い 迎撃は、普通ならばよくて相打ちだ。しかしクロコダイルにとっては、 この距離こそが必殺の間合い。 杖の切っ先が、クロコダイルの胸を貫く。 ワルドは目を見開いた。杖は一切の抵抗を感じさせる事なく、相手の 体を貫通したのだ。しかも左手のかぎ爪は止まる気配を見せない。 「くっ!」 慌ててもう一度【フライ】を唱えながら、ワルドは全力で前に飛んだ。 互いの体がぶつかる寸前、クロコダイルの上半身が弾ける。未だに形を 保つ爪がマントに引っかかった所で、ようやく【フライ】が発動。砂塵 を突っ切って間合いを広げたワルドは、着地と同時に大きく息を吐いた。 (話半分だと思ったが……確かに、化け物じみた能力だな) 背筋を冷たいものが奔る。【フライ】が少しでも遅れていれば、鋭い かぎ爪がワルドの体に食い込んでいた。幸いにマントの裾が少し破れた 程度ですんだものの、へたをすれば致命傷だ。 視界の中央に捉えたクロコダイルの体は、再び砂を集めて復元を終え ている。ワルドは、まるでサンドゴーレムでも相手にしているような錯 覚を覚えた。それもとびきり強力なヤツを。 振り向き様、クロコダイルが右手を振り上げる。 「【砂漠の宝刀】!」 「【ウィンド・ブレイク】!」 攻撃は全くの同時。二人の中央で砂の刃と空気の波がぶつかり合い、 一瞬の拮抗が生まれる。しかし“面”を押し流す【ウィンド・ブレイク】 と“線”で切り裂く【砂漠の宝刀】が力のバランスを保ったのは、ほんの 僅かな時間だった。二つに分断された風がクロコダイルを、多少勢いを 減じた砂がワルドを襲う。 「ちぃ!」 サンドバッグを殴ったような音が響き、クロコダイルの両腕、肩から 先が吹き飛んだ。瞬時に砂と化した腕はすぐに復元できたものの、受け 流していなければ肩や腕の関節を破壊されていただろう。普通の人間は まず間違いなく戦闘不能である。 「ぐぅッ!」 馬に体当たりされたような衝撃を喰らって、ワルドは数メイルも後ろ に弾かれた。地面を切り裂く切っ先が、先ほどの激突で幾分鈍っていた のが幸いだ。放たれた直後のあれを受けていたら、今頃左右真っ二つで 転がっている。 「やり、ますね。ミスタ」 「子爵もな」 どちらからともなく、獰猛な笑みが浮かぶ。まだ、幕引きには早い。 クロコダイルが右手を、ワルドが杖をそれぞれ構え——。 「そこまでだ、御両人」 岩陰から現れた老人の一声が、二人を止めた。 「初めまして、と言うべきだろうな。私はマザリーニ、この国の枢機卿を務めておる」 そう自己紹介した老人——マザリーニは、一切の表情を浮かべない顔 をクロコダイルに向ける。唯一感情を読み取れる彼の目は、国の利害を 追求する冷たい眼光が見え隠れしていた。 「なるほど……貴様の差し金というわけか」 殺気の混じるクロコダイルの視線にも動じず、マザリーニは平然とし たものだ。随分と肝の据わった老人である。 「この年でも耳は健康でね。陰口から何から、いろいろと聞こえてくるのだよ。 その中に、『メイジを上回る異能の平民』などという話があった。 正直どこのほら吹きが流したかと思ったが、それでも少し気になったのだ」 以前の本塔破壊事件については、今や学院で知らぬ者はない。出入り する人間がその話を聞きつけたとしても、またその者が外部に噂を持ち 出したとしても、別段おかしな事ではないのだ。 国の上層部にまで伝わっている、というのは少々驚きだが。 この世界の情報網を甘く見ていたと気づかされ、クロコダイルは奥歯 を噛み締めた。 「そう身構えてくれるな。別に君を害するつもりはない」 「今の所は、だろう」 「そうだな。今の所は、だ」 プレッシャーの応酬で、周囲の空気が蜃気楼のように歪む。横で二人 の対話に耳を傾けるワルドの目には、確かにそう見えた。全身が鉄の鎧 でも着せられたように重い。 それに気づいたマザリーニが、軽く息を吐いて苦笑した。 「少しおふざけが過ぎたか。失礼した、ミスタ・クロコダイル」 「……いや。それより、用件は何だ。あまり遅くなると、主人の癇癪が爆発するんでな」 無断で部屋を出た時点で癇癪も何もないのだが、実際がどうであれ今 のクロコダイルにはどうでもよかった。何かしら軽口を叩けるのは余裕 がある証拠で、見せ方次第では相手の対応も変わってくる。 クロコダイルの言葉をどう受け取ったか、マザリーニはくるりと踵を 返した。 「ここでは落ち着いて話し合いもできまい。続きは部屋の方でしよう」 マザリーニに宛てがわれていた客間は、ベッドと机と椅子があるだけ の質素な部屋だった。生徒の部屋でももう少し何かしら物があるのだが、 彼にとってはどうでもいいようだ。木製の椅子に腰掛け、マザリーニは ワルドに視線を送る。 「さて……ワルド子爵、説明を頼めるかね」 「かしこまりました」 今まで沈黙を通していたワルドが、杖を手に【サイレント】の呪文を 唱えた。壁や床、天井に限定するよう効果を調整するその技術は、風の スクウェアの面目躍如といった所か。最後に【ディティクトマジック】 で効果のほどを確かめると、ワルドは鋭い目つきでクロコダイルに向き 直った。 「ミスタ・クロコダイルには、僕と一緒にアルビオンに赴いていただきたい」 「アルビオンだと?」 召喚された直後のオスマンとの対話の中で、クロコダイルはその名を 聞いた事がある。あの時目にした地図には、北西の海の上に島国として 描かれていた。 「アルビオンは、現在紛争の真っ最中です。 王家を主君にする王党派と、その王家を叩き潰そうとする貴族派とのね。 現在は貴族派優勢で戦況が推移しており、王党派が潰えるのも時間の問題でしょう」 「まさか、その負けそうな王様を助けろ、なんて言うんじゃあるまいな」 「いえ、これはあくまで知っておいてほしい情報です」 あからさまにアルビオンの王を見下したクロコダイルの物言いだった が、ワルドは気分を害した様子はなく、淡々としている。マザリーニも 同様だ。 「内紛すら手に負えない王家ではその先もたかが知れている。 それより問題は、貴族派がアルビオンの政権を手にしてからだ」 「国としては、このトリステインよりも小さかろう。何が問題になる」 「確かに、国土や人数ではこちらが多少優位です。 しかしかの国の軍備は、残念ながらトリステインを凌ぐ優秀な物が多い。武器も、人も。 我が国は、連中がこちらに矛先を向けた場合に備え、隣国ゲルマニアと同盟を結ぶ事にしました」 (ゲルマニア——あのお姫様が訪問していた国だな) なるほど、国同士の同盟を結ぶというのは悪くない。利害関係の一致 さえ確定すれば、政治や軍事である程度の融通が利く。仮にアルビオン がトリステインを攻めたとしても、利益が認められる間はゲルマニアが 援護してくれるだろう。過剰な期待は禁物だが、少なくとも牽制ぐらい にはなる。 「このパレードは、ゲルマニアと同盟を結びに行った帰りというわけか」 「そうです。が、この同盟締結にあたって懸念事項が見つかりました」 「懸念?」 「実は、同盟にあたってゲルマニアの皇帝と、姫様が結婚する事が条件となったのですが」 「政略結婚ぐらい、別に珍しくもなかろう……まさか、御破算になるようなスキャンダルでも?」 「その火種が、アルビオンに眠っているのですよ。姫様の愛を綴ったラブレター、という形でね」 アンリエッタがアルビオンの皇太子、ウェールズ王子に宛てた手紙。 それを回収しに行くのだ、とワルドは言う。現在ワルドは貴族派の内部 にスパイとして潜り込んでおり、潜入はそう難しくない、とも。 たかが手紙と侮るなかれ。邪魔な人間のマイナスイメージを強調して 追い落とす、というのは、意外に役に立つ戦術なのだ。クロコダイルの アラバスタ乗っ取り計画——【ユートピア作戦】でも、偽の王と王軍を 仕立てて町を破壊させ、反政府感情をとことん煽った。 だが、とクロコダイルは考える。その程度の事は相手も考えつく筈。 仮にその手紙が存在していなくとも、偽の手紙をでっち上げれば同盟の 妨害は可能である。実物がない場合でも、口先三寸で揺さぶりをかける 程度の事は簡単にできるのだ。 処分が容易いならそうするにこした事はないが、わざわざ戦地に潜り 込んで回収するほどのものではない。クロコダイルが自分の考えを口に すると、ワルドは「う」と言葉に詰まった。 「どうした、子爵」 「いや、その……まいったな。枢機卿、申し訳ない」 「どういう事だ」 クロコダイルの殺気のこもった視線が、マザリーニを貫く。 しかしマザリーニはまるで気にした風もなく、笑みを浮かべた。 「見事。そこまで考えが及ぶとは……少々君を侮っていたようだ」 「一度ならず二度までもおれを試した、というわけか。 それで、認めてくれたのか? これ以上試験を続けるつもりなら、おれは降りるぞ」 「わかった、わかった。正直に話そう」 両手を挙げて降参の意を示したマザリーニの顔から、表情が消える。 「本当に回収して欲しいのは手紙ではなく、王党派が持つ指輪とオルゴールなのだ」 「婚約指輪や恋人からの贈り物、なんて笑えん冗談じゃあなかろうな?」 「そんなガラクタではないさ。 各国王家に伝わる始祖の秘宝……『風のルビー』と『始祖のオルゴール』だ」 ...TO BE CONTINUED
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/3818.html
貴族議会《レコン・キスタ》による反乱に揺れる、天空の王国アルビオン。 ルイズたちがアンリエッタ王女から授かった任務は、国王ジェームズ1世・皇太子ウェールズら《王党派》を、 どうにかしてトリステインに亡命させる事である。そのために、空港の町ラ・ロシェールへまず向かうのだが……。 「でも、戦時中の国にトリステインの貴族が入国していいものかしら?」 「なあに、戦時中でも物資の行き交いはあるようだし、僕がついていれば大丈夫さ。 婚前旅行の舞台としては、少々血なまぐさいかもね。僕のルイズ」 「こっ、婚前旅行だなんて、そんなまだ早いわ」 「年はちょっと離れてはいるが、僕ときみは許婚同士じゃないか!」 ワルドは、グリフォンにルイズとらんまを乗せ、両手に花状態であった。 シリアスなときは決めるものの、普段は結構女好きの俗物らしい。 「……けっ、ギーシュといいおめーといい、トリステインの貴族はこんなのばっかりかよ。 ちゃんと前を見てグリフォンを運転しやがれ」 「いやいや、こーしていれば、僕らが密命を受けて動いているとは思われないんじゃないか? あるいは僕が《レコン・キスタ》に潜入して、内側から奴らを探り、 きみたちを密かにニューカッスルに送り込むという策も、ないではないし……」 トリステイン魔法学院からラ・ロシェールまでは、早馬でも二日かかる。 だが、このグリフォンならその倍以上の速度で行ける。今夜には着くだろう。 アルビオン行きのフネ……飛行船が出港するのは、三日後の朝なのだが。 「っつっても、《王党派》はまだ何百人か残ってんだろ? 王様と皇太子はもちろんだけど、 そいつらも敵の包囲から脱出させねーとなー」 「捲土重来・王政復古のためにも、《王党派》の人員はなるべく救出したいのはやまやまだが、 ニューカッスルは十重二十重に包囲されているらしい。いくらかの犠牲はやむを得まいな……」 先を急ぎながら策を練る一行。時刻は日没、断崖に挟まれた街道を抜ければ、もうじきラ・ロシェールの町だ。 しかし突如、その前の地面に火矢が射込まれる。 そして夕闇の中、それを目印として何十もの矢が降り注いだ! 「きゃあっ! き、奇襲よ!!」 「くそっ、盗賊か!? 『エア・シールド』!!」 ワルドの魔法でぶわっと風の盾が作られ、矢の雨を逸らす。 敵は崖の上にいるようだ。ワルドは風の盾を周囲に纏ったままグリフォンを急上昇させ、敵を見下ろす。 「グリフォンに乗るほどの貴族を襲うとは、命知らずな奴らだな! しからば道掃除をしてやろう、『ウィンド・ブレイク』!!」 敵の集団に竜巻を叩き込み、混乱したところへグリフォンを急降下させ、一気になぎ倒していく。 らんまもデルフを抜き払い、すれ違い様に峰打ちで盗賊どもをぶちのめす。 ルイズはワルドにしがみついているが……。 「ほらルイズ、あいつらの足元の地面に『錬金』をかけてみろ!」 「え、でも私は」 「いいから、こーいうときには役に立つって!」 ルイズが言われるままに『錬金』をかけると、地面は爆発して盗賊どもを吹き飛ばし、敵は崖下へコロコロと落ちていく。 「へへっ、お見事。与えられた才能は活用しなきゃーな、ご主人様」 「……あんまり、嬉しくない……」 ものの10分ほどで、盗賊は蜘蛛の子を散らすように逃げ去った。 「ふん、歯ごたえのない連中だ。メイジもいなかったし、ただの食い詰め者どもかな」 「アルビオンには、こういう連中がうようよしているんでしょうね。傭兵だの蛮族だの、亜人だのが……」 「……いや、新手みてーだぜ。気をつけろ」 らんまはかすかな羽ばたきの音を聞きつけ、その方向へちゃきっとデルフを構えた。 ワルドとルイズも警戒する。だが、その背後の地面がもここっと盛り上がった! がしっとらんまの背後に、何者かが組み付く! 「「!! しまっ……」」 だが、そいつの正体は。 「ああっ、『おさげの女』ミス・ランマよ!! かわいいぞおぉぉぉぉぉ!!」(すりすりすりすり) 「どわああああ、ギーシュ!? てってめーは、いきなり湧いて出るんじゃねえーーーっっ!!」(どかっ) 「って、何でギーシュが!? あ、ヴェルダンデも」 ばっさばっさと舞い降りてきたのは、タバサの使い魔の風竜・シルフィードだ。 「やっほー、ルイズにランマちゃーん、お元気? 私たちにナイショでお出かけなんて、水臭いわよ」 「キュルケにタバサ、何でここまで!?」 「貴女たちが心配なのと、そこのイケメンが気になってね。よろしく、ワルド子爵」 どうやら、ギーシュの使い魔ヴェルダンデの鼻で、ルイズの持つ『水のルビー』を嗅ぎつけたらしい。 理由はともあれ、強力な仲間だ。一行は合流して、ラ・ロシェールの町に入る。 山あいの町ラ・ロシェールは、かつてスクウェア・クラスのメイジが岩山を切り拓いて作ったという。 人口は多くないのだが、各地から集まる旅人でいつも賑わっている。 フネの発着場は岩山の上に聳え立つ『世界樹(イグドラシル)桟橋』である。 ワルドとルイズはフネの予約をし、一番上等な宿『女神の杵』亭で部屋を取る。 「じゃあ、私とランマ、キュルケとタバサ、ワルドとギーシュの部屋割りでいい?」 「おおルイズ、なぜ僕ときみが別々の部屋なんだい?」 「あのねワルド、自重してよ。わ、私たちはまだ、そんなのじゃないんだから」 ルイズが頬を染め、らんまやキュルケはニヤニヤする。 「んじゃワルド、このブタとこいつの荷物を預かっといてくれ。傷はほとんど治ってるみてえだぜ。 お湯かけたら全裸のバンダナ男になるから気をつけろよ。水をかければブタに『戻る』から」 「ああ、分かったよミス・ランマ。僕のルイズの護衛、よろしく頼む」 ワルドはらんまに殴られて気絶したままのギーシュを引きずり、部屋に入っていった。 ルイズとらんまも、部屋に入って荷物の整理をする。 それから風呂を浴びて汗を流し、夜の食事をしてから就寝となる。 「ふーっ、やれやれ。まぁ二日ばかり休んで、英気を養おうぜ。ここんとこ事件続きだもんなあ。 んじゃ、おやすみルイズ」 「おやすみ、ランマ。……ワルドとは、本当にまだそんなのじゃないんだからね」 「わあってるって、俺は別にヤキモチなんて妬かねーよ。 それに惚れられても困るぜ、元の世界に帰らなきゃならねえんだしさ。へへっ」 「……ふんだ、ランマのバカ」 らんまの答えに、ルイズは不満げであった。少しはヤキモチを妬いて欲しいらしい。 翌朝、朝食後。 ワルドはこのところ魔法をたくさん使ったので、魔力を溜めると称して部屋でゴロゴロしている。 ギーシュは同室のワルドとチェスをしているらしい。なんかじじむさい。 残る四人娘は、一階の食堂のテーブルでだべっている。タバサは本を読むばかりだが。 「……アルビオンへ行くったって、戦場でしょ? 大丈夫なの? 「まあ、ワルドが何か用があるってことでな。詳しい事情は聞かないでくれ」 「はいはい、大体の事情は推理できるし、私も言わないでおくわ。危険な物見遊山もいいか。 でも今度の内乱だって、『博打王』ことジェームズ1世の失政によるものじゃない。 プリンス・オブ・ウェールズは有名だけど、彼一人で《レコン・キスタ》は止められないわよ。 各国も見放しちゃっている状況だもんねえ」 「……『博打王』って、聞くからにろくでもなさそうな響きだなー……」 「一応、トリステインの先王陛下の兄君でもいらっしゃるんだけど……」 と、二階の部屋でどたばたと暴れる音がする。ワルドの部屋のあたりだ。 「てっ、てめーっ、ここはどこだここはっ! いきなりあんな電撃食らわせやがって、死ぬかと思ったじゃねえか!!」 「いやいや、すまなかったねリョーガくん。まあこのとおり謝罪するから、服を着てくれないか」 「ん? あの声は。」 「良牙とワルドじゃねーか、ブタにお茶でも零しちまったか? まぁ、気がついてよかったぜ」 らんまたちは食堂を出て、良牙の様子を見に階段を上がった。 「……で? ここはラ・ロシェールって港町で、これから浮遊大陸のアルビオンへ向かうだと?」 「ああ、そうさ。きみはミス・ランマの友人だろう、協力してくれると嬉しいんだが」 「友人じゃねぇよ。あいつは……乱馬は俺のライバルだ! あいつのお蔭で、俺がどれだけ不幸な目に遭ったか……くっ」 ワルドとギーシュの前で、拳を握り締める良牙。そこへ、噂のらんまが現れる。 「よー、良牙。すっかり治ったみてえだな、よかったよかった」 ぎん、と良牙はらんまを睨む。 「てめー乱馬! こないだお前があかねさんの悪口を吐いたから、俺があんな目に遭ったんじゃねーか!! 今ここであの暴言を取り消せ、でないと俺の気が晴れん! そしたら協力してやってもいいぜ」 まあ確かに、事件の発端は自分の暴言だ。らんまは渋々、良牙の要求を承諾した。 「……わあーーったよ、取り消すって。あかね、ごめんなー」 「ふん、よかろう。どーせ俺もお前も、地球に帰らねばならん身だしな。ここは協力してやるぜ」 しかし、ルイズは首を傾げる。 「ねぇ、アカネって、あんたの許婚の『男』よね。乱暴者でカナヅチとかなんとか。 リョーガの恩師かなんかなの? 悪口言われてそんなに怒るなんて」 「何だと、あかねさんは「わー待て待て良牙、おめーが喋るとややこしくなるっ。 ほら、ブタに『戻って』ろよっ」(ばっしゃ) そんなこんなで、割と平和な一行であった。 さて一方、目指すアルビオンのニューカッスル城では。 「議長閣下、もうすぐ『スヴェルの夜』。明日の夜にはラ・ロシェールから物資が届きます。 ニューカッスルももう一押しというところですな」 「うむ、ボーウッド卿。そして《王党派》を潰せば、次は小国トリステインを狙う。 そこを足がかりとしてハルケギニアを統一し、《聖地》を奪回するとしよう」 この議長閣下と呼ばれた男こそ、《レコン・キスタ》の首領オリヴァー・クロムウェル。 三十過ぎの痩せぎすの男で、もとはただの地方司教、しかも平民出身者に過ぎない。 だが今や、彼はアルビオンのほぼ全土を掌握し、さらにはハルケギニアの統一すら画策していた。 「ふん、しかし《人魚の肉》は危険性が大きすぎるか。やはり、この《アンドバリの指輪》が一番だな。 見ていろよ、私を侮った王族も貴族も平民も、ことごとく私の膝下に這い蹲らせてやる」 いかにも悪そうに笑うクロムウェル。その指にあるのは、水の精霊の力が凝縮された秘宝だ。 トリステイン王国のラグドリアン湖から二年半ほど前に盗み出され、クロムウェルの革命戦争で活躍してきた。 その力は『死者に仮初の命を与え、操る』というものなのだ。 ちなみに《人魚の肉》を用いても死者を復活させる事はできるが、魂のない悪鬼になり、人肉を食ったりする。 その点《アンドバリの指輪》ならば、死者とは思えないように動き、思い通りに操れるのである。 「そしてもうひとつ……アルビオンに隠された『始祖の秘宝』。 それは選ばれた者から、伝説の『虚無』の力を引き出すというが……」 その頃、地球の日本国東京都練馬区、天道道場では。 「うーむ、なかなか見つからんなあ、手がかりは……」 天道一家と早乙女夫妻、それにコロン・シャンプー・右京・小太刀らは茶の間に集まり、八宝斎の蔵書を引っ張り出して、 早乙女乱馬を異世界に引きずり込んだと推測される『銀色の鏡』についての記述を捜していた。 しかし、もう何日間も捜しているのに、それらしいものは見当たらないのだ。天道なびきはうんざりして諦めた。 「あーもう、本当に乱馬くん、『銀色の鏡』ってのに入ったわけ? 何も状況証拠がないでしょーが。 普通に寝ている時に賊が忍び込んで、熟睡する女の子・らんまちゃんを連れ去ったんじゃないの?」 「でも、足跡も気配も全く残ってなかったのは確かね! 窓には鍵かかってたあるよ!」 「然様、いかにわしでも、隣で寝ている我が息子(女体化)が攫われて、気付かないなどとゆーことが……」 「あるじゃないの、今こーしてっ」 はー、と皆は溜息をつく。乱馬(と良牙とPちゃん)が帰ってこない日常は、なかなか寂しいものであった。 「……それにしても、もう失踪から20日を過ぎちゃったわねえ」 「むー、八宝斎のじじいまでいつの間にかおらへんし、こんなんうちには解読でけんわぁ。 何やねんこのミミズがのたくったよーな字ぃは」 「それ、おじいちゃんの直筆ね。まぁおじいちゃん自身も自分の字が読めないぐらいだし、右京には無理よ」 そこへ、ひょーいと小さな老人・八宝斎が帰ってくる。 「たっだいまーっと。おお皆、わしの秘蔵コレクションを勝手に広げて、なーにしとるんじゃー?」 「「お・お師匠さま、お帰りなさいませっ」」 「あらおじいさん、お帰りなさい。どちらまでお出かけでしたの?」 二人の弟子、早雲と玄馬は平伏するが、天道かすみは全く動じない。八宝斎も素直に答える。 「んー、よぉ分からんが、銀色の鏡っぽいものに飲み込まれてのー、どこぞの村に迷い込んでおったんじゃ。 ああ、あれは実に筆舌に尽くしがたい体験じゃった……!」 意外すぎる発言に、皆が色めき立つ。 「『銀色の鏡』!? そ、それよおじいちゃん!! 何があったの、詳しく聞かせて!」 「うむ。……あれはもう、《胸》だの《ちち》だのとゆう言葉では言い表せん。 そう、いわば革命。《胸革命(バスト・レヴォリューション)》と言うべきじゃろう。 あの大きさ、柔らかさ。それに反して持主の華奢、清楚にして可憐なことといったら……」 「……いやあの、本気で何やっておられたんですか、お師匠さま」 天道早雲は、つっこまずにはいられなかった。 (続く)
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4890.html
前ページ次ページスナイピング ゼロ 「あぁルイズ、懐かしいルイズ!」 「いけません姫様、こんな下賤な所にいらっしゃっては!」 アンリエッタは歓喜の笑顔を浮かべ、勢いよくルイズに抱き付いた。膝をついていたルイズは、そのまま仰向けに 引っ繰り返ってしまう。 「止めてルイズ、そんな堅苦しい行儀は! 貴女と私は立場を超えた、お友達じゃないの!」 「私などには勿体無い言葉です、姫殿下」 「ここには枢機卿も母上も、甘い汁を吸おうと寄ってくる宮廷貴族もいないのです。私にとって心を許せるのは一人だけ、 ルイズだけよ。そのルイズにまで余所余所しい態度をとられたら、私は・・・」 そう言うとアンリエッタは膝をつき、目に涙を浮かべる。衝撃のスクープ映像に、セラスは驚いた。リップは懐をゴソゴソ しているが、カメラを持っていない事に気付き残念そうにしている。ルイズがハンカチを取り出し、手渡した。 「その通りです、私と殿下はお友達。宮廷の中庭で蝶を追いかけたり、クリーム菓子を取り合って掴み合ったりしてた時から、 それは変わっていません」 「ありがとう、ルイズ。あ、そう言えば私達が『アミアンの包囲戦』と呼んでいた一戦は覚えてるかしら?」 「姫様の寝室でドレスを奪い合った時ですね、勿論覚えています。どちらが姫の役をするかで揉めて取っ組み合いになって、 姫様のボディー・ブロー → ガゼルパンチ → デンプシー・ロールの3連コンボで私は気絶しちゃって」 「そして私が椅子に座って真っ白になってた所を侍従のラ・ポルトに見つかって大騒ぎになったのよね、あははははは」 とても子供同士の喧嘩とは思えない昔話に、セラスは呆れた顔で見つめていた。隣ではリップが口元に手を当ててクスクス と笑っている。そこで気になった事を、セラスは尋ねた。 「あの、マスター。その、王女様とはどう言う関係で?」 「姫様が幼少の頃に、遊び相手をさせていただいたのよ」 ルイズは懐かしむように答えると、アンリエッタに向き直った。 「でも驚いたわ、ルイズがそんな昔の事を覚えてくれていたなんて・・・私の事など、とっくに忘れていると思ってた」 「何を言います姫様、忘れる訳など決してありえません! 悩みなど無い楽しい日々は、今も記憶に深く刻まれています!」 それを聞くと、アンリエッタは立ち上がった。ベットに腰掛け、溜息をつく。 「貴女が羨ましいわルイズ、自由って素晴らしいわね」 「何をおっしゃいます、姫様は王女じゃないですか!」 「王国に生まれた姫など、良いものではありません。籠に飼われた鳥も同然、飼い主の機嫌で右に行ったり左に行ったり」 アンリエッタは月を見上げながら、もの悲しげに言った。そしてルイズに振り返ると、手を握る。 「実は私、結婚する事にしたの。相手はゲルマニアの皇帝、アルブレヒト三世」 「ゲルマニア!? 何故ですか、何故あのような成り上がり共の国に!」 「あの、マスター」 「何よセラス、今は話中よ」 「そんなに大声を出すと、隣に聞こえちゃうんじゃ・・・」 ハッとして、ルイズはドアを見る。数秒ほど待つが、隣人から反応は無い。どうやら外出中らしい。一安心すると、 ルイズはアンリエッタに顔を戻す。 「すいません、失礼をば。えっと、どこまで話しましたっけ?」 「皇帝に嫁ぐ所までよ、ルイズ。でも仕方が無いの、同盟を結ぶためだから。それよりルイズ、そちらはどちら様なの?」 そこで初めて、アンリエッタは二人に目を向けた。二人は黙って、アンリエッタを見つめ返す。 「二人は私の使い魔です、姫様。赤い服がセラス、黒い服がリップです。女王陛下の前よ、眼鏡を外しなさいリップ」 いい加減な説明をされながら、リップは眼鏡を外す。アンリエッタは二人を見ると、キョトンとした目でルイズに向き直る。 「魔乳と乙女にしか見えませんが・・・」 「魔乳と乙女です、姫様」 セラスとリップが並んで、軽く一礼する。それを見ると、アンリエッタは小さく笑った。 「貴女って昔から変わってるなって思ってたけど、相変わらずみたいねルイズ。人を使い魔にするなんて、初めて聞くわ」 (本当は人じゃなくて吸血鬼なんです・・・でも黙っとこ) そう思っていると、アンリエッタは溜息をもらした。気になったルイズは、声をかける。 「姫様、どうかなさいましたか? なんだか、元気が無いように見えますが」 「・・・実は今日ルイズには、頼み事が有って来たの。とある人から、手紙を受け取る任務を受けてもらうために」 「手紙・・・ですか? えっと、因みに手紙の持ち主は今どこに?」 「持ち主はウェールズ皇太子、場所はアルビオンのニューカッスル城です」 「皇太子って、あのプリンス・オブ・ウェールズ様がですか!?」 「そうです。現在のアルビオンの政治情勢は、ルイズも知っていますね」 ルイズは即座に頷く、知らない者などいない。今アルビオンでは王党派と貴族派による戦争が起こっており、すぐにでも 反乱軍が勝利を収めそうだ。もし王室が倒されれば、次はトリステインに侵攻してくると言う噂も出ている。 「そのために、トリステインはゲルマニアと同盟を結ぶ事にしたのです。ですが、その同盟を妨げる材料が一つあります。 それが、ウェールズ皇太子が持つ手紙。それは、私が以前にしたためた物なのです・・・」 「姫様が、ですか・・・。どんな内容の、手紙なのでしょう?」 「それは機密です。ですが手紙をアルビオンに奪われたら、婚姻は解消され同盟が破棄されるのは間違い無い。そうなると、 トリステインだけでアルビオンに対抗しなくてなりません」 言い終えると、アンリエッタはベットに座ったまま両手で顔を覆った。ルイズはドンと胸を叩いて、声高に宣言する。 「お任せ下さい姫様、地獄の釜や竜のアギトの中に入る・・・のは流石に無理ですが、手紙を受け取るくらいは容易い事です。 このルイズ・フランソワーズ、必ずや任務を遂行してみせます!」 セラスはビクッと体を震わせると、主人を見つめる。リップは壁際に座り、王女を見つめる。二人の脳内では弱々しい声で 『マジですか?』と弱音が浮かんでいる。 「引き受けて、くれるんですか? この私の、力になってくれますか?」 「はい! なにせ私には、『土くれのフーケ』を捕らえた優秀な使い魔がいますから!」 「これが、誠の友情と忠誠なのですね。感謝するわ、ルイズ・フランソワーズ」 アンリエッタは立ち上がると、セラスの前に立つ。ゆっくりと手を掴むと、明るい声で言った。 「頼もしい使い魔さん、どうか私の友達をよろしくお願いしますね」 「え・・・あ、はい。よろしく、お願いします」 曖昧に返事をし、差し出された左手の甲に牙を見られないよう口付けをする。リップにも言葉を交わし、口づけをした。 その時、ドアの向こうから笑い声が響いてきた。キザッたらしい声に振り向くと、ドアが勢いよく開かれる。 「その任務、このギーシュ・ド・グラモンにも参加させていただこうじゃないか!」 「ギーシュ、あんた盗み聞きしてたの!?」 現れたのは、以前モンモランシーにフラれてセラスと決闘したギーシュだった。薔薇の造花を銜えたまま、器用に 喋り始める。 「姫殿下、是非とも我がギーシュ・ド・グラモンを任務に加えていただけないでしょうか?」 「グラモン? と言うと、あのグラモン元帥の」 「息子でございます、殿下」 ギーシュが立ち上がって一例すると、アンリエッタは優しく微笑んだ。 「貴方も私の力になってくださるのね、お父様の血を受け継いで勇敢だわ。お願いします、この不幸な姫を助けて下さい」 「ありがとうございます殿下、名を呼んでくださって歓喜の極み!」 ギーシュは感動の余り、両膝をつけて両手を天に仰いだ。『映画プラトーンのようだ』とは、セラスの感想である。 「大丈夫なの、この子は?」 さっきまで黙っていたリップが、口を挟む。目線の先には、仰向けで気絶したギーシュの姿が。ルイズの指示で、セラスが 廊下に引きずり出す。 「では明日の朝、アルビオンへ出発します。」 「道中は危険に満ちていますから、気をつけて行動してください。アルビオン派の者達には、決して捕まらないように。 もし捕まったら拷問によって情報を吐かされ、消されてしまいますからね」 そう言うとアンリエッタは机に座り、手紙を書き始めた。手を止める事無く最後の一行を書き終えると、杖を振って封蝋 をし花王を押す。手紙を掴むと、ルイズに手渡した。 「ウェールズ皇太子に面会できたら、この手紙を渡してください。目的の手紙と交換してもらえるはずです」 ルイズが了解の意思を示すと、アンリエッタは右手の薬指から指輪を抜き取りルイズに手渡した。 「『水のルビー』です、お守りに付けていなさい。この指輪が、貴女達をアルビオンの荒ぶる風から守る事でしょう」 翌日の朝、セラスとリップは塔の壁に寄り添い、隣合って座っていた。ルイズは馬小屋で、人数分の馬に鞍を付けている。 ギーシュは出発の準備に手間取っているのか、まだ来ていない。 「何か、変ですね・・・」 「何が?」 空を見上げていたセラスの質問に、リップは聞き返す。 「綺麗な空に、綺麗な太陽。まるで、何処かのリゾートみたいだなって思って」 「・・・確かに」 リップの返答に、セラスは再び空を見上げる。 「来たの間違いですかね?」 自分の意思で召喚された訳では無いのだが、セラスはそう言った。懐から弾丸を取り出し、リップは面倒臭そうに答える。 「私がどう思おうが、関係無いわ。いったん闘争が始まってしまえば、任務だの何だの・・・どうでもよくなるから」 指先で弄びながら、じっと弾丸を見つめている。 「とにかく、任務を果たしたいです」 「・・・気を抜かずに、主人を生かして連れ帰らないとね」 マスケット銃を正面に構え、リップは笑みを浮かべた。ハルコンネンと共にセラスの背中に背負われたデルフリンガーは、 黙って二人の会話に耳を傾けている。そうしていると、ギーシュが塔の入り口から走り出て来た。 「やあ待たせたね、ちょっと身だしなみに時間が掛かってしまって」 そう言った割には、外見に目だった変化は無い。違う所と言えば、靴が乗馬用なくらいだ。 その時、馬小屋からルイズの悲鳴が響いた。セラスは即座に立ち上がり、主人の元へと走る。 「ちょっと、どこ触ってるのよ! や、離しなさいよ!」 「どうしたんですかマスターって、何ですかソレ!?」 そこには巨大なモグラに押し倒される、ルイズの姿が。セラスの後を追って馬小屋に入ったギーシュは、爽やかな笑みを 浮かべながらモグラをルイズから引き離す。 「紹介しよう、僕の使い魔ジャイアントモールのヴェルダンデだ。ヴェルダンデ、ミミズは沢山食べてきたかい?」 「全く、酷い目にあったわ。自分の使い魔くらい、キチンと躾けなさいよね」 不満を口にしながら、ハンカチで顔に付いた泥を拭き落す。因みにリップはモグラを見た途端、外へ走り出して行った。 どうやら、モグラは苦手らしい。指輪をハンカチで拭うと、ルイズは自分の馬に乗り上がった。 「セラス、馬の用意が出来たからリップを連れて来て」 「あ、はい」 小走りで馬小屋を出ると、すぐにリップを見つけた。長身で羽帽子を被った貴族と、向かい合っている。 相手の正体に、セラスは気付いた。たしか、朝の王女訪問の時に護衛をしていた・・・ 「私は女王陛下の魔法衛士隊、ワルド子爵だ。君達の任務に同行するよう命を受けたんだが、ルイズはいるかな?」 「馬小屋にいるけど・・・」 リップの胡散臭い物を見る目を気にした風も無く、ワルドは軽く礼をする。そこでセラスに気付くと、歩み寄る。 「君もルイズの使い魔だね、初めまして。私はルイズの婚約者、ワルド子爵だ」 婚約者、と言う言葉にセラスは思考が止まる。マスターの婚約者? この20歳以上の男が、18歳未満のマスターの? 黒い一つ目の妖怪が登場しそうな雰囲気になりかけた時、馬に乗ったルイズとギーシュが馬小屋から出て来た。 「ワルド様!」 「おやルイズ、久しぶりだね」 近寄ってルイズを馬から抱き上げると、クルクルと回し始めた。使い魔の前で赤ん坊のように扱われている事に、 ルイズは顔を赤く染める。 「ワルド様、降ろして下さい。私はもう子供じゃありません」 「これはすまない、嬉しくてつい。あと、彼らを紹介してくれないかね?」 ルイズを地面に降ろすと、ワルドは帽子を目深に被って言った。 「学友のギーシュ・ド・グラモンと、使い魔です。金髪がセラス・ヴィクトリア、黒髪がリップバーン・ウィンクル」 ルイズは交互に指差しながら説明した。ギーシュは全貴族の憧れである魔法衛士隊の隊長に、深々と頭を下げる。 セラスは軽く頭を下げ、リップは余所見をしている。 満足げな顔でワルドが頷くと、口笛を吹いた。すると朝靄の中からグリフォンが飛び出し、ワルドのそばに佇む。 幻獣にビビるリップに気付かず、ワルドはルイズに手招きする。 「おいでルイズ、乗りなさい」 爽やかに笑う許婚に、ルイズは断りの言葉が言えなかった。 門を出て出発するルイズ達を、アンリエッタは学園長室から見つめていた。隣ではオスマンが椅子に座り、頬杖をついて ボ~っとしている。部外者が見たら、痴呆症と勘違いされそうだ。 「彼女達に加護を与えてください、始祖ブリミルよ・・・オールド・オスマン、貴方は祈らないのですか?」 「姫、見ての通り老いぼれは横乳・・・ではなくて、祈る王女の姿に見惚れておる所ですじゃ」 下手な誤魔化しに呆れると、アンリエッタは溜息をつく。そこで何かを思い出したのか、真剣な顔でオスマンを睨む。 「実は先ほど王宮から連絡があったのですが、チェルノボーグの牢獄からフーケが脱走したとか。ご存知ですか?」 「いや、初耳ですな。確か城下で一番に監視と防備が厳重だと聞いとるが、何か不備でもありましたかな?」 「門番の話では、不審な人物に風の魔法で眠らされたとか。私と魔法衛士隊が不在の隙を狙われた、つまりは城下に 裏切り者がいると言うこと。これは由々しき事態です、オールド・オスマン」 「なるほど、アルビオン貴族が暗躍しとると考えられますな。確かに、一大事ですな」 首の骨をコキコキと鳴らしながら、面倒くさそうに答える。アンリエッタは、その姿を不安そうな顔で見つめる。 「オールド・オスマン、なぜ貴方はそれほどまでに余裕の態度でいられるのですか? いくら杖は振られ、我々には 待つ事しか出来ないと言っても・・・」 「なあに、あの者達なら道中どんな強敵に阻まれようとも、任務を達成できますからの」 「者達とは、ワルド子爵のことですか? それともギーシュ?」 オスマンは首を横に振る。残るは、ルイズのみ。 「まさか、ルイズと使い魔が!? ルイズは魔法が使えないし、使い魔は平民ではないですか!」 「姫は始祖ブリミルの使い魔の一人『ガンダールヴ』をご存知ですかな?」 「一通りは知っていますが・・・まさか彼女達が?」 そこまで喋って、オスマンは言い過ぎたと気付いた。なんとか誤魔化そうと、例え話に言い換える。 「彼女達がガンダールヴと言うのでは無くてですな、『ガンダールヴ』並みに使えると言う意味ですな。ちょっと勘違い させてしもうたかな? あと、彼女達は異世界から来たと申しておりましたぞ」 「異世界、ですか? 彼女達は、ハルケギニアの者では無いと?」 「そう、どこか別の世界の住民。その言葉を、この老いぼれは信じております。余裕の態度は、それが証拠ですじゃ」 アンリエッタは、窓の外を眺めた。手の甲に、その彼女達の唇の感触が残っている。何故か少し冷たい感覚に疑問を抱き ながら、手を合わせ無事を祈った。 前ページ次ページスナイピング ゼロ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/6433.html
前ページ次ページ虚無のパズル ギーシュやキュルケが騒いでいる頃、ティトォたちは『桟橋』へと続く、長い長い階段を上っていた。 そうして丘の上に出ると、そこには山ほどもある巨大な樹があった。夜空に隠れて、てっぺんが見えないほどである。 四方八方に枝を伸ばしていて、枝のそれぞれに、まるで木の実のように、大きな船がぶら下がっている。 「これが『桟橋』?あれが『船』?空を飛ぶ『船』なの?」 ティトォが驚いた声で言うと、ルイズは怪訝な顔で聞き返した。 「そうよ。海に浮かぶ船もあるけどね。あんたたちの世界じゃ違うの?」 「ぼくらのとこじゃ、空を飛ぶのは『飛行機』って言うんだ」 もっとも乗ったことはないんだけどね、とティトォは付け加える。 ティトォたちの世界の『飛行機』とは、高度に発達したメモリアの技術で作られた乗り物で、 巨大な丸い機体に、たくさんの小さなプロペラが付いている。 バーロゲンと呼ばれる新物質が反重力場を6000倍の収縮率で起こし、ジェットで自由に向きを変えられるのだ。 もっともこれは飛行機を売り込みたい旅客会社の触れ込みで、真っ赤なウソであるので、本当かどうなのかは誰も知らないのだった。 話を戻そう。 樹の根元には、各枝に繋がる階段があって、鉄のプレートが行き先を示していた。 ワルドが目当ての階段を見つけ、駆け上がった。 階段を登る三人を、大きな木の影に隠れて見つめる者がいた。 白い仮面と、黒いマント。フーケを脱獄させた、あのレコン・キスタの貴族であった。 貴族はティトォを見つめながら、黒塗りの杖を懐から取り出したが…… しかしなにを思ったか、杖をおさめると、きびすを返した。その姿が、風のように夜の闇に消えた。 階段を上がった先には、一本の枝が伸びていた。その枝に添って、一艘の船が停泊している。 帆船に似た形状で、空に浮かぶためだろうか、舷側にも羽が突き出ている。 船はロープで枝にぶら下がっていて、枝の端からタラップが甲板に伸びていた。 ワルドは船上に降りると、甲板で酒瓶を抱えて眠っている船員を怒鳴りつけた。 「船長はいるか!」 「な、なんでえ、おめえら!」 酔っぱらって濁った目をした船員は、あわを食って跳ね起きた。 ワルドは答えず、杖を引き抜いてみせた。 「緊急の用件である。船長を呼んでもらおうか」 「き、貴族!」 杖を見た船員は、あわてて船長室へすっ飛んで行った。 しばらくして、寝ぼけ顔の初老の男がやって来た。彼が船長らしかった。 「女王陛下の魔法衛士隊体調、ワルド子爵だ」 ワルドが名乗ると、船長の目が丸くなる。相手が身分の高い貴族と知って、急に愛想のいい笑顔になった。 「これはこれは。して、当船にどういったご用向きで……」 「アルビオンへ、今すぐ出航してもらいたい。これは王室の勅命だ」 「無茶を言いなさる!今宵は『スヴェル』の月夜!アルビオンはまだ遠い、今から出航などしては、とても風石が足りませんや!」 「風石って?」 ティトォは小声で、横のルイズに尋ねる。 「『風』の魔法力を蓄えた石のことよ。それでフネを空へ浮かばせるの」 「子爵様、当船が積んだ『風石』は、アルビオンへの最短距離分しかありません。それ以上積んだら、足が出ちまいますゆえ。したがって、アルビオンがもっとラ・ロシェールに近付くまで待たないと出航できません。途中で地面に落っこちてしまいまさあ」 「足りぬ『風石』の分は、ぼくが補う。ぼくは『風』のスクウェアだ」 船長と船員は、顔を見合わせた。それから船長がワルドの方を向いて頷く。 「ならば結構で。運賃は弾んでもらいますよ」 商談が成立し、船長は矢継ぎ早に命令を下した。 「出航だ!もやいを放て!帆を打て!」 もやい縄を解かれ、『風石』の力で宙に浮かんだ船は、帆にぶわっと風を受け、ぐんぐんと上昇した。 ラ・ロシェールの町がみるみるうちに小さくなって行く。 「アルビオンには、いつ着くんですか?」 ティトォが尋ねると、 「明日の昼過ぎには着きまさあ」 と、船長が答えた。 「明日の昼……」 ルイズが緊張した顔つきになる。 「どうやって王党派と連絡を取ったらいいのかしら。王党派が陣を置くニューカッスルは、貴族派に攻囲されてるって話じゃない」 「陣中突破しかあるまいな。フネが着くスカボローの港から、ニューカッスルまで馬で一日だ」 「貴族派の反乱軍のあいだをすり抜けて?」 ティトォが尋ねる。 「それしかないだろう。まあ、反乱軍もトリステインの貴族にはそうそう手出しできまい。包囲の目を盗んで、ニューカッスルの陣へ向かう」 ルイズは緊張した顔で頷く。 「とりあえず、今日は休んだ方がいい。明日に備え、体力を残しておくんだ」 そう言うと、ワルドは二人を船室に送り、自分は後甲板へ向かった。『風石』の魔力の補助をするためである。 ティトォは船室に座り込むと、うつらうつらと眠りに落ちた。 ルイズも眠ろうとしたが、緊張して、なかなか寝付くことができなかった。 ふと、船室の丸窓から外を見ると、ワルドのグリフォンがフネと並んで飛んでいるのが見えた。 その背中に、白い仮面を付けた人影が見えたような気がして、ルイズは目をぱちくりとさせた。 しかしもう一度見ると、人影らしきものは消えてなくなっていた。 見間違いだったのかしら、と、ルイズはふたたびベッドに横になった。 「アルビオンが見えたぞー!」 船員の大声で、ルイズとティトォは目を覚ました。 窓から差し込む光が眩しい。 二人が寝ぼけ眼をこすりながら、甲板へ出ると……、船の進路の先に、巨大な雲が浮かんでいた。 いや、雲だけではない。雲の切れ間から、黒々と大陸が覗いていた。 地表には山がそびえ、川が流れている。大河から溢れた水が、空に落ち込んでいる。その際、落ちた水は霧となり、霧は雲となり、すっぽりと大陸の下半分を覆っていた。 「これが浮遊大陸アルビオン。太洋の上をさまよう『白の国』よ」 ルイズがそう言うと、ティトォは息を呑んだ。 巨大な雲に包まれたその大陸の姿は、なるほど『白の国』と呼ぶにふさわしい、圧倒的な光景だった。 「驚いた?」 ルイズはぽかんと口を開けているティトォの顔を見て、少し嬉しそうに言った。 ティトォやアクアには驚かされてばかりだったので、ティトォの驚く顔を見ると、なんだか無性に愉快な気分になるのだった。 「うん。こんなの、見たことないよ」 甲板の上にはワルドのグリフォンもいて、羽をつくろっていた。どうやら飛ぶのに疲れて、フネの上で羽を休めていたようだ。 海の上に浮かんでいるアルビオンが、ハルケギニアに近付く周期などをルイズが得意げに説明していると、鐘楼に登った見張りの船員が、大声を上げた。 「右舷上方の雲中より、フネが接近してきます!」 ティトォは言われた方を向いた。なるほど、ティトォたちの乗ったフネより一回り大きいフネが一隻、こちらに近付いてくる。 フネの舷側に開いた穴からは、大砲が突き出ていた。 「大砲なんか積んでるよ。軍艦かな」 ティトォがとぼけた顔で呟くと、ルイズは眉をひそめた。 「いやだわ、反乱軍……、貴族派の軍艦かしら」 後甲板で、ワルドと並んで操船の指揮を取っていた船長は、見張りが指差した方角を見上げた。 黒くタールが塗られたフネは、まさに戦うフネを思わせた。距離を取って併走すると、舷側に並んだ二十数個もの大砲の口が、こちらを向く形になった。 「アルビオンの貴族派か?お前たちのための荷を運んでいるフネだと、教えてやれ」 船員は指示通りに手旗を振ったが、返ってきた返事は砲弾であった。 ボゴン!と鈍い音がして、フネの鼻先を砲弾が通り過ぎた。 突然の威嚇に船長が泡を喰っていると、見張りの船員が青ざめた顔で駆け寄ってきた。 「あのフネは旗を掲げておりません!」 船長の顔も、みるみる青ざめる。 「してみると、く、空賊か?」 黒船のマストに、四色の旗流信号がするすると登る。停船信号である。 船長は歯がみした。このフネにも武装がないわけではないが、空賊の戦闘艇とやり合えるとはとても思えない。 船長はすがるようにワルドに視線をやったが、ワルドは首を振るだけだった。 「魔法は、このフネを浮かべるために打ち止めだよ。あのフネに従うんだな」 船長は天を仰ぎ、「これで破産だ」と呟くと、停船命令を出した。 フネが止まると、黒船もこちらの舷側に停船した。 黒船の舷側には、フリントロック銃を持った男たちが並び、こちらに狙いを定めている。 ただならぬ様子に、ルイズは怯え、後じさった。 後甲板にいたはずのワルドは、いつの間にやらルイズのそばに来ていて、震えるルイズの肩を抱いてやっていた。 「空賊だ!抵抗するな!」 黒船から、メガホンを持った男が大声で叫んだ。 鉤の付いたロープが放たれ、ルイズたちの乗ったフネに引っかかる。 手に斧や極東などを持った屈強な男たちが、フネの間に張られたロープを伝ってやってくる。その数およそ数十人。 ワルドのグリフォンが、こちらに乗り移ろうとする空賊たちに驚きギャンギャンと喚いたが、その瞬間、グリフォンの頭が青白い雲で覆われた。 グリフォンは甲板に倒れ、寝息を立てはじめた。 「あれは確か、本で読んだ……、そうだ、『眠りの雲』風系統の呪文だったかな。向こうには魔法使いもいるのか」 ティトォは緊張した面持ちで、空賊たちを見ていた。 どすんと音を立て、甲板に空賊たちが降り立った。 その中から、派手な格好の一人の空賊が、一歩前に出た。 グリース油で汚れて真っ黒になったシャツをはだけ、そこから赤銅色に日焼けしたたくましい胸板が覗いている。 ぼさぼさの長い黒髪は、赤い布で乱暴にまとめられ、無精髭が顔中に生えている。 腰布に曲刀と小型のフリントロック銃を差し、左目に眼帯を巻いていた。 しつらえたかのような空賊姿であった。どうやらこの男が、空賊の頭であるらしかった。 「船長はどこでえ」 荒っぽい仕草と言葉遣いで、辺りを見渡す。 「わたしだが」 震えながら、それでも勢一杯の威厳を保とうとしながら、船長が名乗りを上げた。 「フネの名前は」 「トリステインの『マリー・ガラント』号」 「いい名だ」 空賊の頭はにやっと笑うと、船長から帽子を取り上げ、頭に乗せた。 「よろしい。今からおれが船長だ。乗組員を全員、甲板に集めな。おかしな真似したら、心苦しいがここでフネを降りてもらうことになるぜ」 ほどなくして乗組員たちと、ルイズたちが甲板にひとかたまりに集められた。曲刀や拳銃を持った空賊たちが、周りを油断なく取り囲んでいる。 「頭!積荷は硫黄ですぜ!」 フネを探り回っていた空賊の一人が、大声で駆け寄って頭に報告した。 「そうか、硫黄か!こりゃ結構!『新しい秩序』とやらを建設するには、火薬と火の秘薬が大量に要るだろうからな。黄金並の値がつくだろうよ!」 頭が興奮して叫んだ。空賊たちからも、ほうと溜息が漏れた。 「貴族派に売りつけるつもり?」 突然声が上がり、空賊たちはいっせいにそちらに顔を向けた。 マリー・ガラント号の乗組員たちも、驚いた顔で声の主を見つめていた。 声を上げたのはルイズであった。空賊たちが貴族派に与する者と知って、思わず口が出てしまったのだった。 「おや、貴族の客まで乗せてるのか」 頭は、船員たちに混じったルイズとワルドの姿を見て言った。 ルイズに近付き、顎を手で持ち上げた。 「こりゃ別嬪だ。お前、おれのフネで皿洗いをやらねえか?」 男たちは下卑た笑い声を上げた。ルイズはその手をぴしゃりとはねつけた。 「薄汚い貴族派の反乱軍が、わたしに触れるんじゃありません」 燃えるような怒りを込めて、男を睨みつける。 空賊たちは、おお、怖い怖い!などとおどけて笑い出した。 ルイズは怖くて、小さく震えていたが、気丈にも空賊たちを睨み続けた。 マリー・ガラント号の船員たちは、びくびくしながらルイズを見つめている。 ワルドは冷静を装っていたが、その顔はには隠しきれない緊張の色が浮かんでいる。 ティトォは、空賊の頭の顔をじっと見つめていた。そして、無意識にこめかみを指でトントンと叩きはじめると、 「カツラ……」 と、呟いた。 ぴくり、と頭の眉が吊り上がった。 この緊張した雰囲気にそぐわないティトォの発言に、船員たちはティトォのことを見つめた。 ティトォは注目を受けていることにも気付かないようで、どうにも空賊の頭のことが気になってしかたないようすであった。 「若ハゲ……、違うな……、もしかして……、いやでも、なんでまた……、ううん……」 なにごとかぶつぶつ呟き続けるティトォに、船員たちは哀れみの目を向けた。 かわいそうに、恐怖でおかしくなっちまったのか。 ルイズは呆れた目を向けた。 こいつ、何に気を取られてるのか知らないけど、今の状況分かってんのかしら。 空族の頭が、ルイズとティトォとワルドを指差した。 「てめえら。こいつらもフネに運びな。……ご立派な貴族様だ、たんまりと身代金がもらえるだろうぜ」 空賊に捕らえられたルイズたちは、空賊のフネの船倉に押し込められていた。 『マリー・ガラント』号の乗組員たちは、自分たちのものだったフネの曳航を手伝わされているらしい。 ルイズとワルドは杖を取り上げられ、ティトォはライターを取り上げられた。 したがって、鍵をかけられただけでもう、手足が出なくなってしまった。 杖のないメイジは、ただの人である。ルイズは余り関係なかったが。また火の気のないところにいるティトォも、魔法は使えなかった。 やがて、扉が開き、太った男がスープの入った皿を持って現れた。 「飯だ」 扉の近くにいたティトォが、受け取ろうとしたとき、男はその皿をひょいと持ち上げた。 「質問に答えてからだ。お前たち、アルビオンに何の用なんだ?」 「旅行よ」 ルイズは立ち上がり、腰に手を当てて、毅然とした声で言い放った。 「トリステイン貴族が、いまどきのアルビオンに旅行?いったい、何を見物するつもりだい?」 「そんなこと、あなたに言う必要はないわ」 ルイズは顔を背けた。 「威勢のいいこった。トリステインの貴族は、気ばっかり強くてどうしようもねえな」 男はせせら笑うと、皿と水の入ったコップを寄越した。ティトォはそれを受け取ると、ルイズの元へ持っていった。 「ほら」 「あんな連中の寄越したスープなんか飲めないわ」 ルイズはそっぽを向いた。 「食べないと、身体が持たないぞ」 ワルドがそう言うと、ルイズは渋々といった顔で、スープの皿を受け取った。 三人は一つの皿から、同じスープを飲んだ。 飲んでしまうと、やることがなくなった。 ルイズは気丈に振る舞っていたが、よく見ると肩が小さく震えている。本当は怖くてたまらないのだ。 ティトォはそんなルイズを少しでも安心させようと、声をかけた。 「ルイズ」 ティトォは、服の襟に手をやって、隠していたものをルイズに見せた。 「いざとなったら、これ、使うから」 ルイズとワルドは、ティトォの手に乗ったものを覗き込んだ。 「剃刀?こんなものを隠し持っていたのか。でもこれじゃ、とても武器にはならんよ」 ワルドはかぶりを振った。 しかしルイズは、ティトォが『いざとなったら』何をするつもりなのかを悟って、息を呑んだ。 小さな剃刀は、武器としては役に立たない。 しかし、首筋や脇の下などに走っている、重要な血管を傷付けるのには十分であった。 死ぬか、心臓が止まるか、心に死ぬほどの衝撃を受けるかすれば、ティトォたち不死の三人は『入れ替わる』。 ティトォは自ら命を絶つことで『存在変換』を引き起こし、身体の中に眠っている攻撃特化型の魔法使い・アクアの力を借りるつもりなのだ。 「……やめてよ」 ルイズは顔をそむけて言った。 ルイズは、アクアが死んでしまったときのことを思い出していた。 悲しくて、苦しくて、目の前が真っ暗になった。 死んでも『入れ替わる』だけだというのは、頭では分かっているけど。でも、もうあんな思いはしたくない。 「わたし、いやだわ。そんなの」 ルイズが目を伏せるのを見て、ティトォは言った。 「いいんだよ。ぼくらは普通の人間とは違うんだ。常識も、倫理もね」 ティトォは少しだけ笑った。ルイズがそんなふうに考えてくれるのが、嬉しかったのだ。 「でも『換わる』必要はないかも。ちょっと気になることがあるんだ」 「何よ?」 「あの空賊の頭、変装してる」 ティトォの言葉に、ルイズは怪訝な顔をした。 「変装?」 「うん。あのぼさぼさの黒髪、カツラだよ。もみあげのあたりに、ちらっと金髪が覗いてた。それに、あごに糊の跡があった。多分、付けヒゲ」 ルイズは目をぱちくりさせて、ティトォの話を聞いていた。あの空賊の頭に顎を掴まれたとき、かなり近くで顔を見たというのに、ルイズはぜんぜんそんなことには気付かなかったのだ。 反対にティトォは、空賊の頭からはわりと離れた場所にいたはずであった。 「きみは、あの距離からそこまで観察したのか」 ワルドは感心したような、呆れたような声を上げる。 「でもなんで、空賊が変装なんかするのよ」 「うーん。もしかしたら……」 ティトォがなにか言いかけたとき、扉が開き、痩せぎすの空賊が現れた。 「頭がお呼びだ」 三人が通されたのは、立派な作りの部屋だった。後甲板にしつらえられたそこは、空賊船の船長室らしい。 豪華なディナーテーブルの向こうに、先ほど話題にしていた空賊の頭が座っていた。 大きな水晶の付いた杖をいじっている。こんな格好なのに、メイジらしかった。 頭の周りには、柄の悪い空賊たちがニヤニヤ笑いを浮かべて、こちらを見守っている。 先ほどの痩せぎすの男が、ルイズを後ろからつついた。 「頭の前だ、挨拶しろ」 しかしルイズはきっと頭を睨むばかり。頭はにやりと笑いを浮かべる。 「気の強い女は好きだぜ。子供でもな。それに威勢もいい。なんだっけな、『薄汚い貴族派の反乱軍が、わたしに触れるんじゃありません』」 ぎしっと椅子を揺らすと、頭はテーブルに身を乗り出した。 「お前たち、王党派のものか」 「ええそうよ。わたしたちはアルビオンの王室への使い。トリステインの貴族の代表としてやってきたわ。つまりは大使ね。大使としての扱いを要求するわ」 「ほう?なにしに行くんだ。王党派なぞ、明日にでも消えちまうよ」 「あんたらに言うことじゃないわ」 「貴族派に付く気はないかね?あいつらは、メイジを欲しがっている。たんまり礼金を弾んでくれるだろうさ」 「死んでもごめんよ」 ルイズは毅然と言い放った。頭は、くっくっと忍び笑いを漏らす。 「忠義深いのは美徳だがね、お前たち無事ではすまねえぞ。王党派が陣を張るニューカッスルは、貴族派に完全に包囲されている。さてはて、どうやってニューカッスルへ向かうってんだ?」 口を開こうとしたルイズより先に、ティトォが答えた。 「ぼくも心配だったんですけど。どうも、思ったよりかんたんに王党派と接触できそうです」 ティトォは、そう言ってかまをかけた。 「なんだてめえは」 頭はわずかに眉根を寄せて、胡散臭そうにティトォを睨んだ。人を射すくめるのに慣れた眼光だった。しかしティトォは物怖じした風もなく、頭に恭しく一礼した。 「失礼、閣下。ぼくは彼女の使い魔です」 「使い魔?」 「はい」 ティトォは、まるで貴族を相手にしているかのような丁寧な態度だった。 ルイズはそんなティトォをじろりと見る。 なにその態度。 こんな奴らに、そんな礼儀正しくすることないでしょ。 おまけに、閣下ってなに。なんなのそれ。 空賊に媚を売るなんて、トリステイン貴族の使い魔のすることじゃないわ! 不機嫌を顔全体を使って表現したルイズは、ティトォを陰険な目で睨みつけた。 頭はテーブルに肘を乗せて、ティトォを見ていたが……、やがて、わっはっは!と豪快に笑うと、立ち上がった。 突然の頭の変貌ぶりに、ルイズは戸惑い、頭の方を向いた。 「いやはや、きみの目を見ていると、なんだか自分がひどい間抜けを演じてるみたいに思えるよ。まるで、何もかも見透かされているようだ」 そう言うと、頭はルイズとワルドの方に目をやった。 「失礼した。貴族に名乗らせるのであれば、こちらから名乗らなくてはな」 その言葉に、周りに控えた空賊たちが、一斉に直立した。 頭は縮れた黒髪をはいだ。ルイズはあっと息を呑んだ。 それは、ティトォが言ったように、カツラであった。 眼帯を取り外し、付けひげをびりっとはがすと……、現れたのは、金髪の凛々しい若者の姿であった。 「わたしはアルビオン王立空軍大将、本国艦隊司令官……、艦隊とは言っても、既に本艦『イーグル』号しか存在しない、無力な艦隊だがね。まあ、その肩書き寄りはこちらの方が通りがいいだろう」 若者は居住まいを正し、威風堂々、名乗った。 「アルビオン王国皇太子、ウェールズ・テューダーだ」 ルイズは口をあんぐりと開けた。ワルドも驚いたようで、呆けたように立ち尽くしていた。 ウェールズは、にっこりと魅力的な笑みを浮かべると、ルイズたちに席を勧めた。 「ようこそ、アルビオン王国へ。いや、大使どのには、誠に失礼いたした。甲板でのやり取りで王党派への御用向きと当たりを付けたのだが、外国から我々へ使者が送られるなど、なかなか信じられなくてね。きみたちを試すような真似をしてすまない」 そこまでウェールズが言っても、ルイズは口をぽかんと開くばかり。いきなり目的の王子に出会ってしまったので、心の準備ができていないのだった。 「その顔は、どうして空賊風情に身をやつしたのか、といった顔だね。いや、金持ちの反乱軍には続々と補給物資が送り込まれる。敵の補給路を絶つのは戦の基本。 しかしながら、堂々と王軍の軍艦旗を掲げていたのでは、あっという間に反乱軍のフネに囲まれてしまう。まあ、空賊を装うのも、いたしかたなしだ」 ウェールズは、イタズラっぽい顔で笑った。 「もっとも、きみには見透かされていたようだったけどね」 ウェールズの言葉に、ルイズはティトォのほうへ振り返った。ティトォは、まったくいつも通りのとぼけた顔をしていた。 「……知ってたの?」 ルイズが尋ねる。 「うん、まあ。確証はなかったけど、カツラの隙間から金髪がちらっと見えたし、ウェールズ皇太子は金髪碧眼って聞いたから」 「金髪碧眼なんて、珍しくないだろ?」 ウェールズが言う。 「でも、変装する空賊なんて、身分を隠したい人以外いませんよ。例えば、王党派の生き残りとか。 有力な王党派貴族は既にほとんどが倒れたと聞きました。その中でこれくらいの年格好の若者と言えば、皇太子くらいのものです。 あと、このフネに乗り移る時に、側舷に銃弾がめり込んでいる裂け目を見ました。黒い塗膜の下に、白い塗膜がありました。この黒船の黒い塗装は、ここ一年ほどに施された真新しいものです。 だから、軍艦を空賊船に偽装したんじゃないかと。敗残兵が空賊に身をやつしたのかとも思ったんですけど、だったら軍の装備じゃなくて、わざわざ揃いの曲刀だの斧だのに持ち替えてるのはおかしいし……」 あれやこれやと疑問点を並べ立てるティトォに、ウェールズが感嘆の声を漏らした。 「いやはや!驚いたね、まったく」 「ええ、ほんとに……」 突然、ルイズがティトォの向こう脛を蹴飛ばした。 あう、とティトォは痛みに姿勢を崩す。 「ルイズ?」 よろめいたティトォがルイズの方を見ると、ルイズと目が合った。 ルイズは無表情であったが、鳶色の瞳の奥に、怒りの色が浮かんでいた。 「ねえティトォ、あなたのその、なんて言うのかしら。観察眼?驚かされるばかりだわ」 がすがすとティトォのすねに蹴りを入れながら、淡々とルイズは言った。 「な、なんで蹴るのさ」 わけが分からず、ティトォが尋ねる。完全に及び腰だ。 「あなたって、なんでもお見通しなのね。恐れ入っちゃう。で、何も知らないわたしが怯えてるのを横目で見てたってわけ?へえ。はあ。ふうん」 ぴたりとティトォを蹴る足が止まった。 ぶるぶるぶる、とルイズの身体が小刻みに震えだした。 あ、まずい。とティトォは思った。 これはルイズが爆発する予兆なのだ。 「いいいいいいい言いなさいよねええエエエエッッ!!わかってたんなら!わたしに!早く!教えなさいッ!」 ものすごい剣幕で、ルイズはティトォを蹴りまわした。 「いやだって!確証があったわけじゃないし!あう。あうあう」 ティトォは身体を小さくして、ルイズの攻撃に耐えた。 「使い魔と!主人は!一心同体なのッ!なにか気付いたら、その都度報告しなさい!なんなのもう!わたし一人怖がって、ばかみたいじゃないッ!この!くの!」 「ごめん。痛い。やめて。あう」 ウェールズは、この騒ぎを唖然と見ていた。空賊……、王立空軍のものたちも、ワルドも、ぽかんとした顔をしている。 そんな視線に気付くと、ルイズは顔を赤らめて、やたらめったらに踊っていた足を止めた。 ルイズはコホン、と一つ咳払いをする。 「……失礼いたしました、殿下。アンリエッタ姫殿下より大使の任をおおせつかりました、ルイズ・ド・ラ・ヴァリエールです。 こちらは、わたくしの使い魔にございます。そしてこちらが、トリステイン王国魔法衛士隊、グリフォン隊隊長、ワルド子爵にございます。」 居住まいをただすと、ルイズは努めて優雅に一礼し、ティトォとワルドを紹介した。 しかし、空軍のものたちがルイズを見る目は気抜けしたものだった。 正直、誤魔化せてなかった。 しかしウェールズは気を取り直すと、 「ふむ、姫殿下とな。して、どのようなご用向きで?」 と、ルイズに尋ねた。見なかったことにするつもりのようだ。 「あ、はい。その。姫殿下より密書を言付かって参りまして……」 ルイズは慌ててアンリエッタの手紙を取り出し、ウェールズに差し出そうとしたが……、 ふと躊躇うようにして、おずおずと口を開いた。 「あ、あの……、その、失礼ですが。ほんとに皇太子様?」 ウェールズは笑った。 「まあ、さっきまでの顔を見れば無理もない。僕はウェールズだよ。正真正銘の皇太子さ。なんなら証拠をお見せしよう」 ウェールズは、ルイズに右手を差し出した。その薬指には、指輪が光っている。 「この指輪は、アルビオン王家に伝わる『風のルビー』だ。きみが嵌めているのは、アンリエッタが嵌めていた『水のルビー』だろう?」 ウェールズは、ルイズの指に光る『水のルビー』を見つめながら、言った。 ルイズは頷いた。 「水と風は共鳴しあって、虹を作る。王家の間にかかる虹さ」 ウェールズはルイズの手を取ると、『風のルビー』と『水のルビー』を近付けた。 ふたつの宝石は、共鳴しあい、石と石の間に虹の橋をかけるはずであった。 しかし…… 「……む?」 キィン、キィン、と甲高い音が響く。 宝石が共鳴している音だ。 しかし、ふたつの宝石の間に、虹の橋は架からなかった。 現れたのは、巨大な円の虹だった。 円の虹が、ルイズ、ウェールズ、そしてティトォの三人の真ん中に現れたのだ。 ルイズとウェールズは、それぞれの指に嵌まった『ルビー』が、共鳴して震えているのがわかった。 「おかしいな。石が、こんなに強く震えるなんて……」 ウェールズは困惑して呟いた。 ルイズもわけが分からず、ティトォを見る。 ティトォは、心臓の辺りを抑えていた。その顔には驚きの色が浮かんでいる。 ティトォは、誰にともなく呟いた。 「まさか……」 共鳴してる。 『星のたまご』が。 前ページ次ページ虚無のパズル
https://w.atwiki.jp/trinity_kristo/pages/517.html
偽福音書の1つで、初期キリスト教の異端であるエビオン派によって用いられた。エピファニオスがエビオン派について、彼らは『マタイによる福音書』を受入れて、これを『へブル人福音書』と呼んだ、と述べているところから、いわゆる『ヘブル人福音書』としばしば同一視されてきたが、現在は異なるとする意見が強い。断片からの推定によれば,その内容は,共観福音書の素材を混合し、伝説的粉飾を加えたもので、ギリシア語で書かれ、エビオン派の根拠地ヨルダン東岸の地方において2世紀に成立したらしい。 内容としては、『マタイによる福音書』を改変したものである。 エビオン派 Ebionites 初期ユダヤ人キリスト教徒の一派。エルサレムの原始キリスト教団が紀元70年のエルサレム滅亡直前にヨルダン川東岸へ脱出し、以後教会史の主流を外れてその地に成立したもの。その呼称はエルサレム原始教団の自己表示〈貧しい者たち〉(《ローマ人への手紙》15:26など)にさかのぼるとされる。イエスの処女降誕を拒否し、正典福音書を改竄するなど独特の教義と祭儀を形成し、やがてシリア、パレスティナのグノーシス主義的洗礼運動の中へ解消していった。
https://w.atwiki.jp/monosepia/pages/4990.html
ちょっと今、調べています。まだまだ拾います。 アルビノ〔言葉で検索〕 / 黒人 / 白人 / 黄色人 / 白子 / 【黒いアテナ】 ● 【嘘だらけのヨーロッパ製世界史:岸田秀著】 ● アルビノ〔Wikipedia〕 動物学においては、メラニンの生合成に係わる遺伝情報の欠損により 先天的にメラニンが欠乏する遺伝子疾患、ならびにその症状を伴う個体のことを指す。対義語はメラニズム。 症状のことは先天性白皮症(せんてんせいはくひしょう)・先天性色素欠乏症・白子症などと、個体のことは白化個体・白子(しらこ・しろこ) [1]などとも呼ぶ。またアルビノの個体を生じることを白化(はくか・はっか)とか白化現象という。 また、植物学の分野においては、光合成色素を合成できない突然変異個体のことを指す用語として用いられる[2] 。このような個体は独立栄養が営めないため、種子中の栄養を使い切ってしまった時点で枯死することになる。 ------------------------------ ● ジョニー・ウィンター〔Wikipedia〕 ■ ユダヤの起源と白人のご機嫌 「虚空と君のあいだに(2009.1.11)」より 知ってのとおり、人類の起源はアフリカである。 枕にこぼしたヨダレのように、アフリカの中央部から人類は広がっていったんだ。 この時点で人種というものは存在しないが、勢力図が拡大する上で環境による個性が生まれた。赤道直下で肌色が濃いものや、北上する上で肌色が徐々に薄まったものなどの個性である。 その個性が出てきた中で、「アルビノ種」という変異体が生まれた。 目の色素が残っているので完全なアルビノ種ではないが(白変種、白子)、この個体の多くは、当時のホモサピエンス生息地は紫外線が強い環境下であったため、その動物社会という組織の中で、迫害を受けた。 つまり、これが差別の始まりである。 差別を受けた個体は、共同体を作るようになり、その中で種の固定化が行われた。愛玩動物や熱帯魚、農作物などで現在も行われることと同じことが人間で行われたわけである。数代も掛け合わせて種を固定化するという作業ですね。 差別が、そうなる特殊な環境下を作り上げたわけだ。 これが、白人の誕生であり、ここで初めて「人種」という区分けが生まれた。 反論として遺伝的に白人種が生まれたとは考えられるか?それも違う。 白人種と黒人種のハーフである次期大統領を見ればわかるとおり、白人形質は圧倒的な劣勢遺伝である。 そもそもコーカソイド=白人人種郡の起源はモンゴルやキルギスが発祥の地とされている。日本人などのモンゴロイドとルーツは同じことになるが、こんな状況で優性遺伝でもない白人種が確立されたとされる説が主流となってい(※ ママ 「し」の誤記?)まっているわけである。 イヌイットなどでもわかるとおり、寒い地方へ行ったから肌色素が薄くなったわけではない。 ■ グレートジャーニーとアルビノとの関係について教えて下さい。 「人力検索はてな(2004.12.5)」より / 魚拓 【回答】より ヨーロッパ民族というのは白人種であるが、白人種というのは人類最初の被差別民族だったというのが私の考えである(高野信夫著「黒人→白人→黄色人」がその基礎になっている)。 ☆ 古代アフリカ・エジプト史への疑惑〔Web無料公開〕 近代ヨーロッパ系学者による“古代史偽造”に真向から挑戦! -------------------- どちらかというと、「アルビノが忌み嫌われ…」云々というおとぎ話をどこで仕入れられたのかに興味がありますが、「白いから追い払われた」のではなく(それではそもそも日差しの強い赤道近くで生き延びるコト自体ができません)、生存域を拡大した結果北方にたどり着いた人々が、紫外線の少ない北方に適応するためにより退色の薄いものを選択した結果、白人種になった、と考えるのが妥当です。 (※ 生き延びることは出来ない、と言っているが、現在もアフリカで生まれ生活しているアルビノに関してはどう考えるのだろうか、成人している人々も大勢いるようだが・・・) -------------------- 最近では一元的発祥説が有力になっています。更に遺伝学の方面からも一元的発祥説を補強する研究も盛んです。B型肝炎ウィルスの起源からみた人類移動の歴史のような研究も進められ、非常に興味深い展開を示しています。 しかし、このような人類の発祥・起源説の展開と人種の優秀性とか、アルビノとかを結びつけて考えるのは、全く根拠のない虚妄説としか云えません。 そもそも後者のような観念が生まれたのは、たかだか千年、最長見積もっても二千年と遡ることはありません。 対して人類の発祥は600万年レベルの進化の歴史です。 両者を同一レベルで結びつけて考えること自体、虚妄といえないでしょうか。 後者のような観念が生まれたのは・・・以降が理解できません。アルビノという観念が生まれたのは・・・、という事でしょうか?観念が生まれたのがいつか、という事ではなく事実だけに興味があるのですが・・・。 -------------------- とりあえず、「白人」と「アルビノ」は全然違うものだ、ということをまず認識されると良いかと思います。 白人とアルビノが全然違うとなぜ言えるのか、を教えて下さい。素朴な疑問として程度の違いはあれアルビノと白人が同じような身体的特性を持っているのではないか?と思えます。つまり突然変異的(アルビノ的)に生まれた白人種が追放され、環境に適応していくうちに逞しくなったのでは、と考えたのです。別に科学的根拠や思想背景がある訳ではないので間違っているなら間違っているで明確な否定が欲しいだけです。 ■ 「黒人」のアルビノが「白人」になった・1――「白子混血説」(前半) / 後半 「アルビノについてのマニアックな知識をひけらかすブログ(2011.9.18)」より ■ 「退化」か「進化」か 「アルビノについてのマニアックな知識をひけらかすブログ(2011.9.19)」より おそらく高野はビュフォンの「退化の理論」を知らなかっただろうと僕が考えた理由は、皮膚の色の変化を「進化」と表現するか「退化」と表現するかの違いです。ビュフォンは、白い肌の人たちから始まった人類が気候に応じて白→黄色→黒と変化していったプロセスを「退化」ととらえています⇒。このプロセス自体は「白人起源論」と矛盾しないというか、「退化」ととらえておけば「白人」たちにとっても別に都合悪くありません。この「退化の理論」は、五大人種を提唱したことで有名な形質人類学の創始者・ブールメンバッハには影響を与えた模様ですが(ポリアコフ 1985 230)、ラマルクやダーウィンがどうだったかは僕は知りません。 ただ、高野がもし「退化の理論」のことを知っていたとすれば、「環境への『適応』を『退化』ととらえて、自分たちに都合のよい恣意的な解釈をする白人学者」とか言ってそうな気がするので、やっぱり知らなかったんじゃないかなぁと思います。 ● 高野信夫, 1977,『黒人→白人→黄色人――人種の起源』三一書房 ■ 黒人の夫婦に白人のように真っ白な赤ちゃんが生まれる! 専門家「極めて異例だ」 「ロケットニュース(2010.7.21)」より ■ 黒人の両親から生まれてきた白人にしか見えない兄弟 「ぱるぷんてにゅーす(2009.9.4)」より ■ 白人と黒人の両親から、肌の色が違う双子の男の子が生まれる 「らばQ(2008.7.20)」より ■ 成長するにつれて少女の肌が褐色から白へ変わり、17歳で白人への変身を完了(画像あり) 「なんでも評点(2009.8.11)」より ■ 両親は白人なのに肌の色は黒!過酷な運命をたどった女性の実話を映画化! 「シネマトゥデイ(2009.11.11)」より ▲ 【映画】白人の両親の間に生まれながら肌の色は黒!過酷な運命をたどった女性の実話を映画化! 「2ch 芸スポ速報+ ダイジェスト(2009.11.25)」より ■ 東アフリカに広がる「アルビノ狩り」の恐怖 「ニューズウィーク日本版(2010.11.11)」より ▲ アフリカに広がる「アルビノ(人間)狩り」…アルビノの人肉が高値で取引 「痛い2ちゃんねるニュース(2010.11.11)」より ☆ 人間のアルビノ(先天性白皮症)は色素が薄い白人とは全く関係ありませんか? 「Yahoo!知恵袋(2012.4.7)」より 【回答】 la_rendicion_de_bredaさん 関係ありません。アルビノは現に黒人にも黄色人種にも多くいます。 目立つというのもありますが、未だに「アルビノの人の臓器を食べる不老になる」など迷信が残り、人身売買で高く売れるため被害者が絶え間せん。 白人で色素がとても薄い方はアルビノではなく(染色体異常)、「亜メラニン」というのが多く身体に存在するからです。人にはメラニンと亜メラニン二つのメラニンがあります。 ■ 白人はこうして生まれた? 「ITスペシャリストが語る芸術(2007.3.1)」より 白子は2~3万人に1人しか発生しないので、とてもではないが集団を形成することはない。ただ、上にあげた本では、なぜか白子が大量発生したとある。もう古い本なので見てはいないが、そのようなことは起こるとは考えにくいし、証拠もないと思う。 また、白子は色素がないので紫外線の影響を強く受け、最初に人類が住んでいたアフリカでの生存は難しい。また、白子は視覚障害を持つ場合がほとんどであり、生存し、さらに子供を作り育てるということが、原始時代に可能であったとは考えにくい。 今では、宇宙人、地底王国、超能力などと共に、トンデモ学説とみなされているかもしれないが、私も仕方がないと思う。 【上記エントリーに対するコメントから】 人類の起源はアフリカ単一起源だと考えます。白人種が初めから存在したような他地域起源説はヨーロッパ製世界史ではないでしょうか。 ■ 白人起源≒単なる寒冷適応?〔 川井孝浩〕 「るいネット」より しかし、アフリカ東部だけがアルビノ比率が異常に高い理由については、何も解っていません。一説には、アフリカにおけるこのようなアルビノ種の人々は差別。迫害を受けた歴史を持ち、隔離された人々がアフリカを出て拡散した人類の系譜であるとの話があります。しかし、アルビノのみの集団が生き残り拡散適応した、というには少し無理があるように想います。 現生人類は多地域進化と同時に幾度もの混血を得て現在に至るので、その意味においても純粋な白人というもの自体が作られた定義に過ぎない事も、付け加えておく必要があるでしょう。 ■ ~肌色による外圧適応~ 「生物史から、自然の摂理を読み解く(2010.12.9)」より / 魚拓 同緯度にも関わらず、肌の色が違う民族がいる。ということに対して、水蒸気説が考えられます。 上記の追求で肌の色はUV-Bに大きく影響を受けることがわかっています。 UV-Bは短波でオゾン層だけでなく雲や霧等の水蒸気にも反射し拡散します。 そこで、やはり肌色の地域差というのは、気候=地形的特徴に関係があると考えています。 -------------------- ■ 白人起源は、迫害の歴史が始まり? 「るいネット」より -------------------- ■ ユーラシア東部では、高緯度でも皮膚が白くならないのはなぜ? 「るいネット」より ドイツと同じ緯度というと、モンゴル高原からバイカル湖周辺に当たる。 モンゴル高原は草原であるから、降水量は少なく、湿度は低い。ということは、水蒸気に吸収されず、高緯度でもそれなりに日射は強いということになる。モンゴル人は(乾燥地帯なので)あまりお風呂に入らないので、赤っぽい皮膚をしているのかと思っていたが、日射が強いからか。 ▼ ☆ 嘘だらけのヨーロッパ製世界史 [単行本] 「Amazon.com」より カスタマーレビューより 岸田秀の歴史観を一言でいえば「目には目を」です。彼は同じ方法論で日本と中国、韓国の現状についても分析しています。何と中国と北朝鮮はかつての大日本帝国が“目指した”白人勢力からのアジア開放を受け継いでおり、本質的には同じだというのです。さすがにこれには抵抗を感じます。 勿論岸田秀の主張にも一理あることは認めざるを得ませんし、何を指摘しても「無意識ではそうなのだ」と言われるような気がします。しかし、日本がアジア開放を言い出したのは戦争が始まってからであって、当時の日本人も最初からそれを目標にしていたわけではありません。アジア開放はそれを正当化するための後付の理屈の筈です。 岸田秀は経済や思想だけでは歴史は語れないと言っています。もっともです。歴史は縄のように様々な事情が絡み合っているものだと想います。しかし、私には岸田秀は唯幻論だけで歴史を語ろうとしているように思えるのです。 By 鞘町流市 ■ ■[書評][お勉強]岸田秀『嘘だらけのヨーロッパ製世界史』:あきれた。こんなトンデモ妄想垂れ流し読んで目が穢れたぜ 「山形浩生 の 経済のトリセツ(2011.12.25)」より 準トンデモ本黒いアテナをネタに、岸田がどうしようもない歴史妄想を垂れ流すだけの、ホンッと情けない本。なんでも、アフリカではみんな黒人だったんだけど、その中に白人が生まれたので差別されちゃって、それでその人たちはアフリカを逃げてヨーロッパにでかけたんだって。だからいまの白人はその時のうらみで、仕返しに黒人差別するんだってさ。 あほくさ。 ----------------------------------- ■ [書評]嘘だらけのヨーロッパ製世界史(岸田秀) 「極東ブログ(2007.5.23)」より 別の言い方をすると、各論点のサマリーとコメントに留めておけばいいのに、彼にとっては関心や関係性があるのだろうが、普通の知識人には関係のない話が諸処にぐちゃぐちゃと脈絡なく書き込まれてこれが辟易とするにはする。特に、黒人の一部がアルビノ(白子)となって白人が発生した説については、事実上本書と関係ないので、そのあたりは笑ってスルーして読むといいだろう。 とはいえ、岸田の思い入れの側からこの本を読むと、特に、近代日本史の関連で読むと、実に奇妙な味わいのある本ではある。率直にいうと、ある種の狂気のようなどろっとした迫力があってかなり気持ち悪い。ただ、この部分に本書の真価があるという評価もあってもいいのかもしれない。私は率直に言うと、その部分については触れたくない。それとかなり率直に言うと、本書は高校生とかあるいは現代では大学生か、そのレベルのお子様に読ませるにはかなり危険な本だと思う。岸田はある経緯を経てああいう知的怪物になったのだが、その怪物性だけを若い知性に移植しがちな強さが本書にはある。 ----------------------------------- ■ 世界は『嘘だらけのヨーロッパ製世界史』でできている。アメリカは罪悪感を正当化するため、他の国におせっかいをし続けなくてはいられない 「株式日記と経済展望(2007.9.26)」より (※ ページ別立て) 誤った歴史観なら誤ったものとして残せばいいと思うのですが、誤っていないからマッカーサーは本を回収して燃やしたのだ。しかしこのような事は文明国が行うべき事ではなく、アメリカでは進化論すら否定するキリスト教原理主義の国なのだ。だからこそ安倍総理の「戦後レジームの脱却」ということは歴史を書き換えであるとアメリカは警戒したのだ。 ヨーロッパ人やアメリカ人が、このようにアジア・アフリカで傍若無人な振る舞いを続けてきたのは、古代においては白人は被差別民族であり奴隷として使われた怨念があるからだと「黒いアテナ」では言う。スペインやポルトガルの船はイスラムやアフリカの船を見かけるや襲いかかり、アフリカやアジアの王国を次々と滅ぼしていった。なぜ白人国家がこのように凶暴なのかは遠い過去の怨念があったからだろう。 .
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1378.html
翌日、『竜の羽衣』こと零式艦上戦闘機を学院に運ぶべくシルフィードで学院に戻り オスマンに竜騎士隊を手配してもらいゼロ戦を運んだのだが それを見たコルベールが妙にテンパった様子で頭を…もとい顔を輝かせて『ゼロ戦』に寄ってきた。 ちなみに輸送代はギーシュの遺産+オスマンに負担させた分で全額出したので問題無い。 彼の生き甲斐は研究と発明であり、ドラゴンに運ばれてきたゼロ戦を見て、好奇心を刺激されスッ飛んで駆けつけてきた。 息切れしながら走り、ただでさえ少ない髪の毛がヤバイ事になってるのも気にしない。 「き、きみ…これは…一体何だね!?」 汗まみれの顔で質問攻めにしてくるので非常に鬱陶しい。いっその事老化させちまおうと思ったのだが その心を読んだ他の三人が悲しそうな顔をしているので止めた。 やはり、これ以上髪が減るのは見るに耐えないらしい。 「…この前、言ってたエンジンを積んでるやつで、オレんとこじゃあ、飛行機ってやつだ」 「ひこうき…?飛行というからにはこれが飛ぶというのかね!?詳しく説明してくれたまえ!!」 顔を寄せてくるコルベールをスタンドで阻む。弟分でもないオッサンの顔を至近距離で見る趣味は無い。 「そうだが…それ以上寄ると毛を抜くぞ、てめー」 ~5秒後~ 「調子乗ってスイマセンでした」 綺麗に土下座するコルベールの姿がそこにあった。 「次、その顔で寄って来たら全滅させっからな…」 スーツに中年の汗が付くと言うのは非常に避けたい事なのでこっちもこっちで結構必死だ。 土下座を終え顔を上げると、ゼロ戦の近くに寄りあちこちを探り始めそこからまた質問攻めを始めた。 「いや、ホントすまなかったからそれだけは…それでこれは羽ばたくようにできていないが、どうやって飛ぶんだね!?」 「エンジンでそこのプロペラが回って推力を得て飛ぶ」 「なるほどよく出来ておる!私の作ったエンジンでも、これと同じものが飛ぶようになれば…」 半分陶酔したような顔をしているコルベールに三人娘が引いているが当の本人は気にしていない。 「では早速飛ばして見せてくれんかね! ほれ! もう好奇心で手が震えておる!」 もうスデに彼の頭の中ではゼロ戦と自分が作ったエンジンを積んだ飛行機が大隊を組んで飛行している姿が映っているらしい。 今にも「バンザーーーーーイ」と叫んで何かに特攻しそうだったが、とりあえずガソリンが作れるかどうかを言う事にした。 「その為の燃料…風石みたいなもんなんだが、ガソリンっつーもんがねぇと飛ばねぇんだよ、そいつは」 「ガソリン…なんだね?それは」 今にも『しぶいねぇ…』と言いたげな顔のコルベールを無視し、ゼロ戦の燃料タンクを開き 固定化のおかげで化学変化を起こさずに僅かに残っていたガソリンの臭いをかがせた。 「ふむ…嗅いだ事のない臭いだ…温めなくてもこのような臭いを発するとは…… 随分と気化しやすいのだな。これは、爆発したときの力は相当なものだろう」 「火気厳禁だ。仮にこのタンクが満タンで、そこに少しでも火が入ると、この周りが吹っ飛ぶ」 「私が作った愉快なヘビ君に使ってた油では駄目なのかね?」 「ありゃ駄目だな。オレんとこじゃ石油っつーやつから精製したモンがガソリンになるんだが。こっちに石油はあんのか?」 「石油とだけ言われてもな…どういったものなんだね?」 「化石燃料…だったな。地下に埋まってるモンで『粘り気のある黒い液体』ってとこだ。もちろん燃えるが…そのままだと煙とかがスゲーって聞いたな」 一方こちら三人娘。科学的話をされてもサッパリ分からないので完全に放置食らっている。 「……今日の晩ごはんなんだろ」 「……よく、あの臭いをかいだ後でそんなこと言えるわね」 「……はしばみ草!」 「黒い燃える液体か…自然に湧き出したりするものかね?」 「普通、掘って採掘するもんだからな…無いとはいえねぇだろうが」 「とりあえずサンプルを採って私の研究室に来たまえ。それと…君達三人は分かってるだろうね?」 コルベールが妙に体を捻らせ三人を指差しつつ、ズキュゥゥゥゥンというような音を出しながら、三人娘に窓拭きを命じた。 研究室は本塔と火の塔に挟まれた一画にあった。お世辞にも綺麗とは言えない。むしろボロいという表現が適切な掘っ立て小屋である。 「自分の部屋では追い出されてしまってね」 そう説明されるが、この臭いだ。そりゃあそうだろうと思う。 回りを一瞥するが、、本棚や天体儀はまだいい。オリに入ったヘビやトカゲなどがいて、妙な異臭が漂いそれに顔を顰めた。 「なあに、臭いはすぐに慣れる。しかし、ご婦人方には慣れるということはないらしく、この通り独身なんだがね」 「ヤローでも慣れたくねぇよ…で、ガソリンなんだがどうにかなりそうか?」 「難しいな…石油というのがあれば錬金できるかもしれないが…それに近いものでもいい」 「化石燃料っつーぐらいだからな…こっちに石炭はあんのか?石炭も化石燃料のはずだぜ」 「石炭か…それなら用意できる…おもしろい!調合は大変だがやる価値はあるな!」 「頼む」 「しかし、東の地の技術は素晴らしい…私も何時の日か行ってみたいものだ」 「期待させたようでわりーが、こいつぁ別の世界の技術だ」 東の地という事で通してもよかったが、ガソリンの精製をやってくれる者に偽りで通すのは、恩を仇で返す事になる。 リスクはあるが、他のヤツにベラベラと話すようなタイプでもあるまいと判断し事実を話す事にした。 「別の世界…なるほど。確かに君が取ったミスタ・グラモンへの言動、行動、そしてその能力。その全てが我々ハルケギニアの常識から掛け離れている」 「あのマンモーニか…あいつにオレを平民だからっつーナメた理由で、殺す気があったからな。 悪いが見せしめも兼ねて始末させて貰った。ここのマンモーニどもじゃあ、ああでもしねぇと後が鬱陶しい」 ぶっちゃけ、コルベールの耳が痛い。彼自身はそうでもない方だが プロシュートが召喚されたとき、やり直しを要求したルイズを突っぱねて契約させたという理由がある。 貴族がいくら神聖だの、重要だの言ったところで、呼ばれた方からすれば、いきなり拉致され一方的に奴隷契約を結ばれるようなものだ。 命を救われたという恩義があったからよかったようなものの、そうでなければどうなっていたか分かったものではない。 魔法学院、下手すればトリステインは今頃老人の死体だけという事もありえただけに、少々背筋が寒くなった。 『炎蛇』の二つ名を持つコルベールであるが、何故か、過去に捨てたはずの軍人としての本能が『悪魔憑き』の能力の前には歯が立たないと警告している。 火を出した瞬間、死亡確定だからなのだが、体温の上昇で老化速度が変わる事はコルベールには知りようの無い事だ。 そう考えているコルベールを射抜くような目で見ているプロシュートに気付いたのか、話を戻す。 「私は、周りから変わり者だの、変人だの言われていて、未だに嫁さえこない。しかし…このコルベールには信念がある!」 いい年こいたオッサンが15の少年のような目をして熱く語り始めている姿を見て少し引いたが、言ってる方は構わず話を続ける。 「ハルケギニアの貴族は、魔法をただの道具……それでも使い勝手のいいような道具ぐらいにしかとらえておらん だが、私はそうは思わないのだよ。魔法は使い方次第で変わる。伝統や既存の考えに拘らず、様々な使い方を試してみるべきだとね」 それを聞いて、なにかわからんがコルベールが未熟ながらもエンジンを作れた理由を納得した。 能力の応用という、ここにおいては珍しい事ができる存在。 スタンド使いが最も必要とさせられる能力。それをコルベールは持っていた。 「能力の応用…ホルマジオがよく言ってる、くだるくだらねーは使い方次第って事だな」 「やはり君は別の世界の人間のようだね。そのホルマジオ君という人にも会ってみたいものだよ」 「……そいつぁ無理だ」 「別の世界だからなのだろう?分かっているよ。だが何時の日か君の世界との道を「違う」」 ちょっとトリップしているコルベールの言葉を遮る。 「……そいつはもう死んでるんでな」 「………拙い事を聞いてしまったようだね」 「気にするこたぁねー。…『覚悟』の上での結果なんだからよ」 組織から離反した事を後悔など微塵もしていない。 そんな事をすればホルマジオとイルーゾォの覚悟を汚す事になる。 「それで、ガソリンの他にもう一つ頼みてぇ事があるんだが…日食って何時起こるか分かるか?」 「日食…か。前に起こった時期を調べれば大体は特定できるだろうが…余裕があれば調べてみよう」 「つ…疲れた…」 よろよろとベットにボテっとルイズが倒れこむ。 そりゃあ学院の窓拭きやっていたのだから疲れも溜まるというものだ。 もちろんプロシュートは生徒でもないので、そんな事は知ったこっちゃあない。 「姫様の結婚式までもうすぐなのに…詔も考えなくちゃいけないのに…どうしよう」 「つまり、まぁ何も思いつかなくてヤバイってわけか」 ぶっちゃけ、どうでもいいため殆ど聞いていない。 「そうなんだけど…なにも思いつかないから困ってるのよ」 どうでもいい。と言おうとしたが、そんな事を言えば確実にこじれるので一応聞く事にした。 「じゃあ、考え付いたとこだけ言ってみな」 その後、ルイズが前文と各属性への感謝を読み上げるが 「そりゃ詩じゃなく、形容詞や諺だろ」 という突っ込みにあえなく爆沈させられたのは割愛させていただく。 ベッドに倒れたまま、床に藁の上に布を重ねた即席布団で寝ているプロシュートにルイズが尋ねた。 ちなみに、ベッドに寝ていいと言ったが 「んな事できるか」 の一言に一蹴させられている。 「組織ってとこで…何やってたの…?」」 「…どうしても聞きたいってのなら教えてやらねーでもないが…後悔すんなよ?」 「わたしは、あんたの使い魔なんだから…そのぐらい知っておく義務があるのよ」 少しばかり躊躇ったが、きっぱりと言った。 「暗殺だ」 「…あ、暗殺って…こ、殺すやつよね…人を」 「そりゃあな」 暗殺という言葉にビビったが、よくよく思い出してみれば 『ブッ殺すと心の中で思ったなら』発言などがあるために真実味があった。 「な、何で…そ、その…暗殺なんてやってたの…?」 「あそこで、生きるための手段だ。別に趣味でやってたわけじゃねぇよ」 趣味では無いと聞き安心したが、やはり殺しである事に少しだけ嫌な感じがする。 「それで、組織に信頼を裏切られて離反したんだったのよね…逃げようとは思わなかったの?」 「そこで逃げるようなヤツなら暗殺チームなんぞに属してねーよ。 殺すっつー『覚悟』を持ってるからには殺されるかもしれねぇっていう『覚悟』も持ってなけりゃあいけないんだからな…」 「…元の世界に帰っても…暗殺とか…するの?」 「さぁな、ボスが生きてたら報いを受けさせるために殺るだろうが…それが終われば、他人の命令で殺す気にはなれねぇな」 当然、リゾット達が生きていても、それに加わる気は無い。 そう言うとルイズがベッドから降り、即席布団の上で腕組んで寝ているプロシュートの横に寝てきた。 「狭いんだが、何やってんだ」 文句に答えずに、怒ったような声で続ける。 「わたしが、帰らないでって命令しても…帰るの?」 「あいつらは仲間通り越して家族みてーなもんだったからな。日食が来る時期が分かんねー。来れば、そん時決める」 「家族か…そりゃあ帰りたいわよね…」 自分とて家族、特にカトレアの安否が不明になればスッ飛んで駆けつけるはずだと思う。 だから、それ以上何も言えなかった。 しばらく沈黙が続いたが、片方が口を開いた。 「ま…オメーもペッシみてーなもんだからな」 要は弟分扱いなのだが、兄貴属性的に未熟な弟分を放って帰るってのもどうかと思い始めている。 短期間で成長させられればいいのだが、経験上それがそう巧くいかない事をよく知っているため、結構悩むところである。 ペッシ=マンモーニ扱いされた事により何らかのリアクションがあるかと思っていたがルイズはスデに夢の世界に突入して子供のような寝息を立てていた。 「……このマンモーニが」 ペッシと違うのは、ギャング的説教で叩き込めれないとこだ。 ギャング世界に漬かりきっていたため、それを封印して成長させるとなると結構な事だった。 数日後 トリステイン艦隊旗艦『メルカトール』号がラ・ロシェール上空に艦隊を率いて布陣していた。 艦隊戦を行うわけではない。新生アルビオン政府がゲルマニア皇帝とアンリエッタの婚礼に出席する大使を乗せた艦隊の出迎えに出ているのである。 「やつら遅いではないか。艦長」 そうイラついた声で呟いたのは、艦隊総司令『ラ・ラメー』 「獅子身中の虫ですからな。虫は虫なりに着飾っているのでしょう」 そう返すのは『メルカトール号』艦長フェイヴス。この男もアルビオン嫌いで通しているため似たような状態だ。 「左舷上方より艦隊接近!…確認しました。アルビオン艦隊旗艦『ロイヤル・ソヴリン』級…『レキシントン』です」 鐘楼に登った水平の報告に、ラ・ラメーと艦長がそちらを見ると、巨大な艦が後続艦を引きつれこちらに降下してきていた。 「あれが『ロイヤル・ソヴリン』か…なるほど、あの艦を奪われたのでは王党派が太刀打ちできんわけだ」 あえて、現在の艦名であるレキントンとは言わないのが彼なりの意地である。 「戦場では会いたくないものですな…こちらの戦列艦が小型艦艇のようにしか見えません」 「正面からぶつかればな…そうでなければ、やりようはある。……もっとも今砲撃されれば成す術は無いが」 「は…?今なんと?」 「いや、ただの杞憂だ」 砲撃云々の部分は、聞こえない程度の呟きだったのでフェイヴスには聞こえていない。 そこにアルビオン艦隊の旗流信号を確認した水兵が内容を報告した。 「レキシントンより旗流信号を確認しました。『貴艦ノ歓迎ヲ謝ス。アルビオン艦隊旗艦『レキシントン』号艦長』以上です」 「こちらは提督を乗艦させているというのに、艦長名義での発信とは…」 「あの艦があるにしろ…元々我が艦隊とアルビオン艦隊では 空挺戦力に差がありすぎるのだから仕方あるまい。返信だ。『貴艦隊ノ来訪ヲ心ヨリ歓迎ス。トリステイン艦隊司令長官』、以上」 『メルカトール』のマストに旗流信号がのぼるとアルビオン艦隊から大砲が一定の間隔を開け放たれた。 儀礼用の空砲だが、その空域の空気を震わせるのは十分だ。 「…よし、答砲だ。順に7発」 「よろしいのですか?最上級の貴族なら11発と決められておりますが」 「向こうは、艦長が旗流信号を出してきたのだろう?司令長官でもないのに11発撃つ必要はあるまい」 くだらない意地と言えばそうだが、フェイヴスもそれが気に入ったのかにやりと笑ってラ・ラメーを見つめると命令を出した。 「答砲用意!砲数7発、順次射撃!準備出来次第撃ち方初め!」 「ハルケギニア中に恥を晒す事になる…か」 そう低く呟くのはレキシントン号艦長ボーウッドだ。 正直、この作戦には乗り気ではないのだが、軍人である自分には命令に拒否権は無い。 まして、戦死したはずのウェールズもそれに関わっているとなると… 艦隊司令長官のサー・ジョンストンが何か喚いているが聞いていない。 実戦経験の無い司令長官など飾りもいいとこである。空なら自分がルールブックだ。 「左砲戦準備!気付かれるなよ」 「Sir!Yes Sir!左砲戦準備!」 それと同時に、轟音が鳴り響きトリステイン艦隊より答砲が放たれる。 「作戦開始だ!『ホバート』号乗員は速やかに退避!退避が完了し次第『ホバート』号を自沈させよ!」 その瞬間軍人の顔に変化した。ここまでくれば後戻りは出来ない。そうなればただ、作戦を遂行するのみである。 答砲を発射しているメルカトール号の艦上が騒がしくなる。 アルビオン艦隊、最後尾の旧型艦が炎上、轟沈したからだ。 「旗流信号を確認しました!『『レキシントン』号艦長ヨリ トリステイン艦隊旗艦。我ガ方ノ『ホバート』号ヲ撃沈セシ、貴艦ノ砲撃ノ意図ヲ説明セヨ』以上です!」 「撃沈だと!?馬鹿なッ!至急返信!『本艦ノ砲撃ハ答方ナリ。実弾ニアラズ」 そう送るが、すぐさまレキシントンより返答が返された。 「タダイマノ貴艦ノ砲撃ハ空砲ニアラズ。我ガ艦隊ハ貴艦ノ攻撃ニ対シ応戦セントス」 その瞬間ラ・ラメーが悟った。そして瞬時に命令を下す。 「…謀ったな!!全艦に伝達!砲撃に備えよ!!」 艦隊に指令が行き渡ると同時にアルビオン艦隊から轟音が鳴り響いた。 「て、敵艦発砲!!……『ニーベルング』!『ヴァレンシュタイン』!『ケルンベル』!被弾!!」 「こ、この距離で大砲が届くだと…!?閣下!至急アルビオン艦隊に砲撃の中止を!」 「…無駄だ。我々は奴らに嵌められたのだ!」 「では、応戦ですか?」 「我々は浮き足立っている…準備万端のアルビオン艦隊と浮き足立った我々では勝ち目はあるまい。降伏か撤退しかあるまいが…降伏は性に合わん、逃げる事にしよう」 続けざまにレキシントンから砲撃が撃ち込まれ各艦が被弾していく。旗艦は今のところ健在だが何時撃沈させられるか分かったものではない。 「伝達。『旗艦ガ最後列ニ残リ味方ノ撤退ヲ援護スル。各艦艦長ノ裁量ニヨッテ戦域ヲ離脱セヨ』…以上だ」 メルカトール号より右舷大砲が砲撃を行うが射程外からの砲撃だ、届くはずもない。 放物線描き数発着弾した砲もあったが、そんな勢いの無い砲弾ではレキシントンの分厚い装甲に阻まれ殆ど被害らしきものを出してはいない。 メルカトール号同様に残り撤退を支援する艦もあったが、次々と被弾し撃沈させられていく。 「『ヴァレンシュタイン』大破轟沈!『ホーランド』沈みます!」 次々と僚艦が沈められていくが、旗艦は各所に被弾しながらも未だ健在であり、何とか踏みとどまっていた。 しかし、火災を起こし火薬庫に引火するのも時間の問題である。 「…味方は脱出できたか?」 「『ロイヤル・ソヴリン』の砲の射程が思いのほか長かったため…脱出艦艇は約4割程度かと…その内、何隻が無傷かは…」 「…全滅よりはマシといったところだろう、本艦も退避命令を……」 そこに、トドメの砲撃が撃ち込まれ船体が大きく揺れた。 「…間に合わん…か、旗艦に乗り合わせた者には悪いことをしたな」 ラ・ラメーとフェイヴスが向かい合い敬礼をすると同時に甲板がめくりあがりメルカトール号が爆沈した。 「思いの他、敵艦隊の行動が早かったですな」 被弾しながら射程外に離脱していくトリステイン艦隊を見送りながら、上陸作戦の指揮を取るワルドが呟いた。 「の、ようだな子爵。だが、旗艦を初め主力艦をほとんど撃沈したのだ。 すでに勝敗は決した。…しかし、制空権を抑えておきながら、あの作戦にレキシントンを使う必要があるのかね?」 「恐らくガンダールヴも出てくるでしょう。ヤツの奇妙な魔法ならレキシントンがいくら巨大でも数分で制圧されますな」 「それほどのものかね…」 「それに、私が新たに召喚した使い魔ならばレキシントンなど無くとも、十分です」 そこにレキシントン号の艦上から万歳の叫びが聞こえボーウッドが眉をひそめる。司令長官のサー・ジョンストンまでそれに混じっているのが拍車をかけた。 「トリステインの司令長官は、乗艦を犠牲にしてまで味方の撤退を支援したというのに、我が方の司令長官がアレではな…」 戦力そのものの差と奇襲という戦術上の優勢、それが無ければどうなっていたかと思い、思わずそう呟く。 「艦長、彼が来たようです。御紹介した方がよろしいですかな?」 「ああ、頼む」 扉が開きボーウッドが視線をそちらに向けると、アルビオン艦隊司令長官よりも長官らしい佇まいの人影が入ってくるのを見た。 トリステイン艦隊 ― 大破轟沈6割 残存艦艇中 中破4割 小破5割 健在艦艇1割 司令長官ラ・ラメー以下旗艦『メルカトール』号乗員全員『戦死』 閃光のワルド ― ザ・ニュー使い魔! 戻る< 目次 続く
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1925.html
女盗賊が投獄された地下の監獄。 杖もない、金属もない、身動きもとれないで脱出は不可能だと早々に決め付け、観念した女盗賊。 眠りにつこうと思っていた刹那、階段の上からコツコツと靴の音が聞こえてくる。 「『土くれ』だな」 男は低い声を出した。 「あんた、何者?」 フーケは男に問い掛ける。男は質問には答えずに 「再びアルビオンに仕える気はないか?」 「ふざけたことを言わないで、それ以上そんな話をするようなら助けに来てもらったところ悪いけど死んでもらうよ」 半透明で薄緑色のゴーレムのような物体が現れる。 「物騒だな、勘違いをするな。アルビオンの王家に仕えろと言っているのではない。あそこの王家はもうすぐ倒れる」 「バカどもがドンパチやってるらしいからね」 「その片方のバカの誘いだ。トリステイン貴族などという枠を越え、この世界を憂う貴族たちの連盟だ。目的はハルケギニアの 統一、そして最終的には『聖地』を奪還する。手始めにあそこの風石と造船技術を頂く。造船所のお上は掌握済みだ、 最後の詰めに、そしてこの先の夢をキャンバスに描くためにお前のような優秀なメイジが一人でも多く欲しい」 フーケは肩をすくめて笑う。 「バカ言わないで、夢は寝ながら描くものよ。私は貴族が嫌いだし、ハルケギニアの統一なんかには興味が無いわ」 男は更に低い声を出す。 「断っても構わん。牢獄に転がっている死体にまで頼むほど人材は足りていないわけではないからな」 フーケはため息をつく。 「なら最初からそう言いなさいよ」 「そうか、なら話は早い」 男はフーケに杖を投げつけ、衛兵から奪ったであろう鍵で扉を開け、拘束具を外す。 「好きに脱出するんだな、三日後にラ・ロシェールの『サンジェルマン』で待っている」 フーケは男に杖を向ける。 「あんた、私をバカにしてるんじゃないの?殺すなんて脅した後に杖を渡されてそのまま従うほど従順じゃないね。 『ジャッジメント』!」 フーケのスタンドが檻を破壊し、杖からは男に向かって石礫が飛ぶ。 しかし、そこに立っていた男はもう影も形もなく、今度は数人『その男』が階段から降りてくる。 「『土くれ』、なかなか頭の回転が速いが、相手の属性もクラスもわからないまま攻めるのは感心しないな」 数人の『男』が同時に同じ声を出し、エコーのように響く。男は重なり合い、一人になる。 「『偏在』かい、一瞬で消えたのは魔力温存のため当たる前に引っ込めたのかい?」 「『偏在』の部分はその通り」 「ずいぶんと余裕だね、偏在は偏在に重なれない、あんたが本体だってのはわかりきってるのにね!」 もう一度フーケは石礫を飛ばす。 今度こそ男の体を捉らえる。 そして、男の体は消える。 「なッ!これも『偏在』!?」 今度は一人増えた『男』が階段から降りてくる。 「どうだい、力の差というものがわかったかな?これで断るようでも、ここの裏に墓標くらいは立ててやる」 フーケは再度ため息をつく。 「わかったわよ、完全敗北ね。当面の間は大人しく従ってあげるわよ」 「そうか、ではラ・ロシェールでな」 男は重なり、今度こそ一人になり、そして、今度は一人も居なくなり、消えた。 * * * 「で、ワムウ、わかってるの?ふざけたことしないで大人しくしてなさいよ?」 「ああ、大体わかった。この国の姫が学校の視察に来るのか、また騒がしくなりそうだ。俺は適当なところにいる」 「そうはいかないわよ、使い魔と主人は一心同体、あんたも出ないと失礼に当たるのよ」 「面倒だな」 「だから大人しくしてなさいって言ってるのよ」 ルイズはワムウに言い聞かす。 先ほどコルベールが珍妙な格好で授業に割り込み、姫殿下が行幸されると伝えて今日の授業は中止となった。 姫殿下が通過するというだけでその街道はさながらパレードで、近隣の一般人が多く集まっていた。 王室の紋章の入ったレリーフが街道に並べられ、ユニコーンの引く馬車の中からアンリエッタ姫が手を振る。 「トリステインバンザイ!」 「アンリエッタ姫殿下バンザイ!」 「マザリーニ枢機卿バンザーイ!」 「君に会えてよかった!」 脇の民衆から歓声が沸きあがる。 馬車は魔法学院の正門をくぐり、整列した生徒が一斉に杖を掲げる。 アンリエッタ姫が馬車を降りると、歓声があがる。姫は優雅に手を振る。 ワムウが呟く。 「あれがそのアンリエッタ、か」 いつもならば姫を呼び捨てにするなんてといってすごい剣幕でまくしたてるルイズだが、ルイズはその呟きには答えなかった。 視線の先には姫の近衛兵であろう羽帽子をかぶり、グリフォンにまたがっている貴族がいた。 ワムウは鼻を鳴らし、ルイズが見とれている隙に人ごみから抜け出していった。 * * * 日も沈み、二つの月が部屋を照らす。 鍵をかけないことが暗黙の了解となっている窓が外から開き、ワムウがルイズの部屋に入ってくる。 てっきり、途中でいなくなったことについてなにか言われるとでも思っていたが、 ルイズは放心状態で入ってきたことにも気づかないようであった。 が、ワムウは気にも留めず、部屋に来る目的であった先日買った剣を拾い再度窓から出て行こうとした。 その時、ドアが規則正しくノックされる。 ルイズはハッとしたように立ち上がり、ドアを開ける。 そこには頭巾を被った少女が立っていた。 「静かに」 少女は呟き、杖を出す。 それを一振りすると光の粉が部屋に舞う。 「ディテクトマジック?」 魔法の正体にルイズが気づき、怪訝な顔をする。 「どこに耳が、目が光っているかわかりませんからね」 と頭巾の少女は返事をし、頭巾を外す。 その少女は、昼間歓迎式典を行った相手である 「お久しぶりね、ルイズ・フランソワーズ」 アンリエッタ姫であった。 彼女は感極まったようにルイズを抱きしめる。 「ああ、ルイズ、ルイズ、懐かしいルイズ!私の友達のルイズ!」 「姫殿下、こんな下賎なところにお越しになられるなんて…」 「ルイズ、そんな堅苦しい行儀はやめてちょうだい!あなたにまでよそよそしい態度をとられたら、私死んでしまうわ!」 「ああ、そんな姫さま…」 二人は昔話に花を咲かせる。ワムウはそれをつまらなそうに眺める。 「……忘れるわけ無いじゃない、あの頃は毎日が楽しかったわ。なんにも悩みなんてなくって」 アンリエッタはため息をつく。 「姫さま?」 「あなたが羨ましいわ、王国に生まれた姫なんて、籠の鳥も同然…飼い主の機嫌次第であっちにいったりこっちにいったり…」 憂鬱げに外の月を眺め、呟く。 「ルイズ、私結婚するのよ」 「…おめでとうございます」 アンリエッタの陰のある言葉にルイズは手放しでは喜べなかった。 「…あら、そこに立っているのはどなた?」 アンリエッタはワムウに気づき、尋ねる。 「私の使い魔です、姫さま」 アンリエッタは感嘆の声を上げる。 「すごいじゃないルイズ、こんなすごい亜人を召還したなんて!あなたって昔から変わってると思ったけれど… こんな使い魔みたことないわ!」 「そ、そんな…確かにすごいことはすごいですが私の命令に従うことなんて滅多に無くて…」 「そんな謙遜することないわよ」 「まだ数日しか立ってないのに決闘騒ぎに色々と言えない事まで…もし使い魔にするならイモリかこいつを選べと言われたら 迷わずイモリを選びますわ」 ルイズは憮然とする。それに合わせるようにアンリエッタはため息をつく。 「どうしたんですか姫さま」 先ほどからの過剰ともいえるおかしな様子にルイズが尋ねる。 「…いえ、なんでもないわ・・・ごめんなさい、あなたに相談できるようなことではないのに…」 「なんでもおっしゃってください、姫さま。そんな様子ではとんでもないお悩みを抱えているんでしょう?」 「いえ、話せません…悩みがあるなんてことは忘れてちょうだい、ルイズ」 「そんな、私を友達なんて呼んでいただいたのに、悩みを話せないのですか?」 ルイズは語勢を強める。 アンリエッタは嬉しそうに微笑む。 「嬉しいわ、ルイズ。今日初めて私を友達と呼んでくれて。わかりました、そこまで言うのなら話しましょう」 「外しても構わないか?」 ワムウは面倒ごとに巻き込まれるのは勘弁だと思い、なおかつこの姫には大してよい印象を持っていなかった上での発言だったのだが 「あら、人語も介するのね!お気遣いは嬉しいけれども使い魔と主人は一心同体、外さなくて構いませんよ」 やんわりと一蹴される。 そして、静かに話し始める。 「これから、話すことは、他言無用ですよ…私はゲルマニアの皇帝に嫁ぐことになったのですが…」 「ゲルマニアですって!あんな野蛮な成り上がりどもごときのうすっぺらな藁の家が深遠なる姫様の砦に踏み込んで来るのッ!」 ルイズが甲高い声をあげ、語を荒げる。 「ええ、でも仕方ないの…反乱を起こしたアルビオンの貴族がこのまま順当に王家を倒せば、トリステインに攻め込んで くるでしょう……地理上は隣接しているようなものですし、ゲルマニアの軍事力は驚異的、ガリアとは政治的主張が 似通っています…あの反乱軍は腐敗した王家を倒すのが目的だといっていますが、その建前で同じような政治形態の トリステインに攻めてくることはリンゴを幹から切ったら地面に落ちるくらい確実なの… それで、軍事的庇護を受けるためにゲルマニアと同盟を結ぶのに私が嫁ぐことは致し方ないのです……」 アンリエッタは手で顔を抑え、下に向ける。 「そうだったんですか…」 ルイズは沈んだ声で言う。 「それで、礼儀知らずのアルビオンの貴族派どもは私の婚姻を妨げるための材料を血眼になって探しているのです」 「…では、もしかして姫様の婚姻を妨げる材料があるのですね?」 ルイズはその意味を察し、尋ねる。 アンリエッタは悲しげに頷き、ひざまずき、顔を両手で覆う。 「おお、始祖ブリミルよ、この不幸な姫をお救いください…」 ルイズの顔は紅潮し、興奮した様子でまくしたてる。 「では姫さま!その婚姻を妨げる材料とはなんなのですか!」 アンリエッタは呻き声を出すように呟く。 「…私が以前したためた一通の手紙なのです…それがアルビオンの貴族派に渡れば、それをゲルマニアの皇帝に届けるでしょう」 「どんな内容なのですか?」 「それはいえません…ですが、それをゲルマニアの皇帝が読めば、この私を許さないでしょう。そうすれば婚姻は潰れ、 あのアルビオンの貴族派にトリステイン一国で立ち向かうことになります…それだけは避けなければなりません…」 ルイズはアンリエッタの手を取る。 「して、その手紙はどこにあるのですか?私、姫さまの御為とあれば鬼が島でもヒンタボ島でも夢見が島でも向かいますわ!」 「それが…現在火中にあるアルビオン王家のウェールズ皇太子が…」 「プリンス・オブ・ウェールズ?あの凛々しい皇太子様が…では、姫さま!この『土くれ』のフーケを捕らえた ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールとその使い魔にその任務、お任せください!」 「ああ、そんな無理よルイズ!現在火中であるアルビオンに赴けなんて危険なこと、頼めるわけがありませんわ!」 「何をおっしゃいます! 姫さまとトリステインの危機とあらば、私見過ごすわけにはいけません!」 ルイズは強い意思を伝える。 「この私のためにそこまで言って下さるの!これが誠の忠誠と友情というものなのですね!ありがとうルイズ!」 アンリエッタは感涙したように眼を手で拭う。 ワムウが自分たちの言葉に酔っている2人の話に割り込む。 「俺も行くのか?」 「当たり前でしょ、連れて貰えないとでも思ったの?」 「断る。受身の対応者である悲劇の姫気取りの尻拭いなど俺がやるようなことではない」 ルイズは顔を紅潮させる。 「なななな、なに言ってんのよあんたは!すみません姫さま、私の教育が悪くて…」 「言った通りだ、若いとは言え姫なのだろう?心酔している者も多くいるようだしな。一国で事を構えられるだけの国力と軍事力を 整えるなり、アルビオンに介入して反乱の目を摘んでおくなり、開戦を察知して安全なうちに手紙を回収することもできた。 だが、それを怠ったのはお前の責任だ。結婚による同盟も一つの選択肢であることを割り切っているならともかく 敗戦が確実になるまで行動をおこさず、悲劇の姫を気取っているような奴にただで手を貸すほど暇でないんでな」 「ワムウッ!姫様になんたる失礼を!謝りなさい!」 「いえ、ルイズいいのです。彼の言うとおりです、これは私の責任です…ただで、とおっしゃいましたね? ならば…母君からいただいたこの『水のルビー』を差し上げましょう。どうか、ルイズをお守りください」 アンリエッタは右手の薬指から指輪を引き抜き、ワムウに差し出した。 「そんな姫さま、畏れ多い…」 「ワムウッ!姫殿下になにをしたァーーッ!」 ギーシュが扉を開けて現れ、ワムウを怒鳴る。 すかさずワムウが殴り飛ばし、片方の手で指輪を受け取る。 「いいだろう、この依頼引き受けた。他言無用だったな?こいつは終了まで軟禁でもしておけ、なんなら証拠も残さず食うが」 ワムウの物騒な発言と拳を意に介さず、ギーシュはアンリエッタの前にひざまずく。 「姫殿下!その任務、どうかこのギーシュ・ド・グラモンにもお申し付けください!」 「あら、グラモンといえば…ワイルドキャット……じゃなくて…西部の投手でもなくて…」 「グラモン元帥の息子です、姫殿下!」 「知ってますわよぉおお!あなたも、私の力になってくれるとおっしゃるのですか!」 「ええ、もちろんです!加えて貰えるとしたらこれはもう望外の喜びに違いありません!」 「ではお願いしますわ、ギーシュさん」 ギーシュはひざまずいたまま深く礼をする。 「では、明日の朝に出発してください。貴方たちに始祖ブリミルのご加護かありますように」 * * * ラ・ロシェールの『サンジェルマン』。 一人の男と一人の女。 「…それで、お前には『女神の杵』亭を襲ってもらう。狙いはワルドとルイズ以外…たぶんあの使い魔だけだろう、その殺害だ」 「使い魔一人殺すのに私を使うのかい?自分を過信してるわけじゃないが、随分無駄な使い方だね」 「あの使い魔を舐めるな、『ゼロの使い魔』だ、なにが起こるかわからん。それにお前一人だけではない」 「やれやれ、あんたは敵の実力を過信しすぎじゃないか?まあ、軍人なんてのはそれがお似合いなのかもしれないけどね せいぜい丘の向こうの見えない敵に怯えてな。それで、私以外に襲うのはどんな連中なんだい?」 「お前と同じ貴族くずれのメイジだ、『同じ』、な。報酬の先払い分だ」 女は報酬の袋を開け、中身の量をみて驚く。 「使い魔一人殺すのにこんなに金を積むなんて、軍人の貴族さんは違うわね」 「相方も同額だ、文句は無いだろう。それに、戦争と暗殺と人脈に金を惜しむほど馬鹿なことはない。 コストパフォーマンスを考えればお前たちの力量ではむしろ割安だ」 フーケは袋をしまい、話を再開する。 「で、その相方とはいつ落ち合えるんだい?」 「二日後の同じ時間で先ほど言った『女神の杵』亭で下見も兼ねてもらう」 「わかったわ、任務はワルドとルイズ以外の殺害ね、あんたの言うように好きなように暴れさせてもらうさ」 「暴れるだけなら相方の方が上だ、対象以外の尊き犠牲がどれくらいでるか…ああ、心が痛むな」 「心にもないことを、じゃあ私は行かせて貰うよ、ここの勘定も報酬に含めときな」 女は店を出、扉の鈴が鳴る。 残された男は呟く。 「ふむ、勘定か。やれやれ、自腹など払うのもな、俺への報酬とさせていただこうか」 男は、一瞬のうちに姿を消していた。