約 1,317,248 件
https://w.atwiki.jp/blueroses/pages/23.html
本編の進み具合によって出たり消えたりする レアファントム出現は特定のMAPのみ 妖精の森1 市街地 妖精の森5 妖精の森3 幻想の泉3 黄泉の原1 市街地(二回目) 黄泉の原3 試練の丘3 妖精の森1 敵 ノーマ LV7×2 LV5×1 LV4×2 フーラー LV6×2 経験値 CORO EXP-3000 CORO-2000 宝箱 無し レアファントム おそらく無し 市街地 敵 ノーマ LV10×1 LV8×2 LV7×2 フーラー LV9×2 LV7×2 べゴマ LV10×1 LV8×2 経験値 CORO GETITEM EXP-8000 CORO-7000 GETITEM-チョコドーナツ 宝箱 無し レアファントム おそらく無し 妖精の森5 敵 ノーマ LV10×4 フーラー LV11×2 ラフレン LV12×2 LV11×2 LV10×2 経験値 CORO(レアファントム込み) GETITEM EXP-12000(15000) CORO-9000(12000) GETITEM-メープルクッキー 宝箱 無し レアファントム ちいさなヌシ(フーラー系) Lv18 スパイクグローブ 撃退法 雷が弱点ではあるがマヒ無効 しかし、眠りが効くのでミレーユで眠りをかけてやれば楽になる 妖精の森3 敵 ノーマ LV14×2 LV12×1 フーラー LV13×2 ベゴマ LV14×2 スロラー LV13×2 LV12×3 経験値 CORO(レアファントム込み) GETITEM EXP-16000(21000) CORO-12000(16000) GETITEM-メープルクッキー×2 宝箱 レアファントム はやてキング(スロラー系) Lv20 ヘルスネックレス 撃退法 名前通り速さが高く、攻撃力も結構高いので何回か攻撃を食らう事前提でマヒ頼みボルトで攻めるのが一番だろう 幻想の泉3 敵 ノーマ LV19×1 LV16×1 LV15×1 フーラー LV18×1 LV17×2 LV16×1 LV15×1 ベゴマ LV19×2 LV18×1 ラフレン LV14×3 経験値 CORO(レアファントム込み)) GETITEM EXP-24000(36000) CORO-15000(25000) GETITEM- 宝箱 無し レアファントム くいしんぼう(ノーマ系) Lv24 ウィングヘルム 撃退法 速さの高いジェイラス、ミレーユあたりで毒をかけて、防御の高い奴がリーダーになりながら魔法で攻めればすぐに撃破できる 黄泉の原1 敵 ノーマ LV18×2 LV17×4 ベゴマ LV19×2 スロラー LV19×2 LV18×2 LV17×2 経験値 CORO(レアファントム込み)) GETITEM EXP-32000(47000) CORO-20000(32000) GETITEM- 宝箱 レアファントム あばれんぼう(ビクフト系) Lv28 ガントレット 撃退法 眠りが効くので楽勝だが、防御がかなりあるため魔法しかまともにダメージにはならないだろう 市街地(二回目) 敵 バノーマ LV20×2 LV19×2 ベゴマ LV23×2 ダ・ヨーセ LV24×2 LV22×2 LV21×2 LV19×2 経験値 CORO(レアファントム込み) GETITEM EXP-45000(90000) CORO-24000(54000) GETITEM- 宝箱 レアファントム こあくま(デ・ヨーセ系) Lv30 クイーンヒール 撃退法 マヒが効くためボルトやブリジット、ジャックのサポートでマヒにすれば楽勝 黄泉の原3 敵 ラフレン LV27×1 LV26×2 LV25×1 スロラー LV25×1 LV24×2 ハオギス LV27×2 LV26×1 LV25×2 LV24×2 経験値 CORO(レアファントム込み)) GETITEM EXP-119800(179800) CORO-26000(51000) GETITEM- 宝箱 ラトリス(アリシア):プラチナサーベル プラカブ:白金のブーメラン ラブル:エンプレス キュリー:白金の扇 アルビオン:カーマインスピア レアファントム えーせーへー(ベゴマ系) Lv35 妖精の指輪 撃退法 弱点もなく詠唱妨害無効をもっているが眠りが効くので眠らせて物理攻撃でいじめてやれば楽 試練の丘3 敵 バノーマ LV28×3 LV27×1 LV26×2 ビクフト LV29×2 ハオギス LV29×2 LV28×1 LV27×3 経験値 CORO(レアファントム込み) GETITEM EXP-180000(270000) CORO-32000(48000) GETITEM- 宝箱 ラトリス:お菓子詰め合わせ プラカブ:お菓子詰め合わせ ラブル:お菓子詰め合わせ キュリー:お菓子詰め合わせ アルビオン:お菓子詰め合わせ レアファントム しょーぐん(ブレドナイト系) Lv50 ロードヘルム 撃退法 LV30あたりあれば魔法、スキル全力使用で難なく倒せる、リーダーはアルビオン付き物理キャラで行けばダメージも大した事はないだろう どうしても辛い時は眠りが効くので活用するといい
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4013.html
前のページへ / 一覧へ戻る / 次のページへ 《父よ、御心ならばどうぞ、この杯を私から取りのけて下さい。 しかし、私の思いではなく、御心が成るようにして下さい》 (新約聖書『ルカによる福音書』第二十二章より) 時はヤラの月半ばの深夜、ところはスカボローから50リーグ手前の丘陵地にある谷間の隘路。 『東方の神童』松下率いる『千年王国』軍団1000人と、『東方の王』バエル率いる66個の悪魔軍団が激突する! その谷の奥、月光も射さぬ暗闇の中では、『虚無の担い手』ルイズが街道の石畳に座っていた。 切り札の『虚無の呪文』を長々と詠唱しながら、アルビオン大陸を縦横に走る『霊脈』をとらえ、魔力を吸い上げているのだ。 ―――――この丘陵地は上空から見ると、頭をスカボローに向けて仰向けに横たわった女性の体にやや似ていた。 隘路を挟んで並んだ双丘は、かつては『妖精女王の乳房』と呼ばれ、平民から信仰の対象にもなったという。 その中心にいるルイズが呪文を唱えるたびに、そこに集まる霊脈の力は強まる。霊脈の上には、街道が走っている。 活性化した霊脈の周りでは大地が熱を持ち、降り積もった雪が溶けて春の草花が咲き乱れ、蟲たちが目を覚ましている。 40リーグも彼方に駐屯していた七万の軍勢は、その魔力に魅了され、ルイズの方へと引きずり寄せられていた……! 「おお、俺は呼ばれている」「召されている」「彼女が喚(よ)ばわっているぞ!」「うわーっ、たまらん!いい気分だ!」 「俺が必要とされているんだ!」「いいや、呼ばれたのはこの俺だ!」「ばかな、俺だ俺だ!」「あたしが呼ばれたのよ!」 「彼女を迎えに行こう!」「そうだ、あそこへ帰ろう」「彼女のもとへ還ろう!」「そうだそうだ!」 将軍も士官も兵士も捕虜も、老いも若きも男も女も、人も亜人も動物も幻獣も、さかりがついたように駆け出す! 彼らはみな猛り立ち、勇み立ち、いきり立ち、熱狂し、本能に衝き動かされて走り出す! ああ、誰も彼もが彼女に召し寄せられ、喚び寄せられる! 地響きを立て、荷物を打ち捨て、七万人と無数の獣たちが40リーグ先のルイズの胸元へ、飛ぶように駆けてゆく! 竜や幻獣、軍馬などは、騎手を振り落とす勢いで先を急ぐ。亜人は大股で走り、牛や犬がそれに続く。 アルビオン軍四万が前に、反乱したトリステインの兵やサウスゴータ市民や捕虜たちが後になり、ぞろぞろと駆けてゆく! 《谷神は死せず、これを玄牝と謂う。玄牝の門、これを天地の根と謂う。 綿綿して存するごとく、これを用いて勤(つ)きず》 (『老子道徳経』より) 「「むぅ、なんじゃあこの異様な気配は!? 魔力が吸い取られる心地じゃ! マツシタよ、その谷間には、いったい何がおる!?」」 「さあな、聖母なのか大淫婦なのか! まあ待っていろバエル、今に分かる!」 『炎の杖』を振るう松下は、驚くべきことに大悪魔バエルと互角に渡り合っていた。 教団兵は次々と魔法や銃弾を放って、増え続ける悪霊を撃墜する。対抗して悪霊も魔法を放ち、兵士たちを撃ち殺す。 デカラビアは鳥の使い魔を無数に召喚して悪霊たちの目玉を突つかせ、ブエルは水メイジらとともに負傷者を治癒する。 『ヴィンダールヴ』で潜在能力を引き出されたケルベロスに組みつかれ、さしものバエルもよろめいた。 「「ええい埒が明かん、無理にでも押し通るぞい! 開けゴマ、じゃ!」」 しびれを切らしたバエルの三つの口から、おびただしい蛙とネズミとイナゴが吐き出される! 《第六の天使が、その鉢の中身を大河ユーフラテスに注ぐと、川の水が枯れて『日の出る方角から来る王たち』の道ができた。 私はまた、竜の口から、獣の口から、そして、偽預言者の口から、蛙のような汚れた3つの霊が出て来るのを見た。 これはしるしを行う悪霊どもの霊であって、全世界の王たちのところへ出て行った。 それは、全能者である神の大いなる日の戦いに備えて、彼らを集めるためである。 …汚れた霊どもは、ヘブライ語で『ハルマゲドン(メギドの丘)』と呼ばれる所に、王たちを集めた》 (新約聖書『ヨハネの黙示録』第十六章より) 松下は『炎の杖』を再び回転させて『青銅の蛇』に変え、蛙とネズミとイナゴを呪力で押し返す。 地面やケルベロスのたてがみからは無数の蛇が湧き出し、蟲どもを呑み込んで退治する。 「ははははは、動物を操る『ヴィンダールヴ』に、その術は効かないぞ!」 だが、東の空から激しい羽音が轟き、アルビオン軍にいた竜や幻獣などが飛来する! その眼はぎらぎらと輝き、谷間へ向けて一直線に急降下だ! 「「ひょひょひょ、そちらこそ命運尽きたのうマツシタ! アルビオン軍がこちらに近づいて来るぞ!!」」 しかし、谷間からはぶしゅーーっとガスが噴出され、蚊トンボのように竜たちがぼたぼたと落ちる。 それを浴びたバエルや悪霊どもも、体がしびれて動けなくなる。松下たちは無事だ。 「「な、なんと、このわしが動けんとは……!!」」 やがて彼らは、石化してしまった。『霊脈』から溢れ出た、強力な大地の霊気のようだ。 それに続いて、ぐらぐらと地震が起こる。ルイズは魔力を目いっぱいに溜め込み、ついにゆっくりと立ち上がった。 「……始まったか! よーし諸君、散開して二つの丘の上に登れ! 前方で陥穽と塹壕を守っている者たちには、『錬金』で作った油に火をつけるよう伝えろ! アルビオン軍の本隊が来るぞ!!」 トランス状態に入ったルイズが歩むたびに、膨大な魔力によって大地が揺れる。まるで巨人が歩いているようだ。 口からは『虚無の呪文』が紡がれ、両手は神々しく天に向かって挙げられている。 その右手には杖が、左手には『始祖の祈祷書』があった……。 「《バガビ ラカ バカベ ラマク カヒ アカバベ カルレリオス……》」 松下がルイズのそばに駆け寄ると、ルイズはすーーっと左側の丘に飛び上り、その頂に立つ。 そして松下も、右側の丘の頂に『魔女のホウキ』で飛び上がる。 「メシア、先ほどの戦いでの殉教者は185名。それと、第四使徒ギーシュがモグラのように穴を掘って逃げました」 「分かった、第二使徒シエスタ。殉教者は祝福されて天国に入り、背教者は裁かれるだろう。 ではタルブでの如く、ぼくの体を支えてくれ。バエルとの戦いでかなり傷を負い、魔力を使ったからな」 「はい、メシア!」 ルイズと松下は双丘の上に向かい合って立ち、谷間を挟んで同一の呪文を詠唱する。 ケルベロスは二体の悪魔を左右に配し、四肢を踏んまえて隘路を守るように立つ。 街道の向こうからは、七万人の男女と禽獣が、信じがたい速さで駆けて来る! 彼らは皆、ルイズに呼び寄せられているのだ! 陥穽に嵌った亜人や獣たちを踏み潰し、泥と油と火の中を潜り抜け、40リーグを駆け抜けて、彼らはやって来た! Bagabi Lacha Bachabe Lamac cahi achababa Karellyos Lamac Lamac Bachalyas Cbahagi Sabalyas Baryolas Lagoz atha Cabyolas Samahac atha femyolas Harrahya ついに『虚無の呪文』は完成し、彼らの足下の地面がすっぽりと消失した。 二つの丘の挟間から、『横たわる女性』の丘陵が真っ二つに裂ける。 彼女の胸部から股間まで、巨大な『虚無の深淵の裂け目』が開き、七万人をまるごと混沌の奈落へ呑み込んだ。 その中はあらゆる異なる時空間とつながっており、入ったものを何処とも知れない時空へ転移させる。 始祖ブリミルは、かつて異なる世界から『虚無の門』を潜り、このハルケギニアにやって来たという。 これこそが、極めて不安定で不完全ながら、その門なのだ! 『虚無』とは世界を構成する極微の粒子を操作し、奇跡を起こす魔法。 ルイズが失敗だと思い込んでいた『爆発』も、その粒子が僅かに動いて衝突したために起こったに過ぎない。 『解呪』は自然ならざるもの、呪いを退去させる魔法であり、『幻影』は逆に自然ならざる幻影を招来する魔法。 いずれも『虚無』の魔法の中では、下級のものだ。 だが、この『虚無の門』は上級に属する大魔法。 ルイズがこの撤退戦で溜め込んだ多大なストレスを解き放ち、半日以上かけて呪文を練り上げ、 アルビオン大陸中の『霊脈』とリンクして魔力と血を吸い上げ、メシア・松下の力も借りてようやく発動できた代物だ。 「「汝ら、我らが召喚せし者たちよ!!」」 「「我らは汝らを必要とせず!! 速やかに、在るべき場所へ還れ!!」」 「「異邦人はその故郷に、敵は地獄に、獣は野山に還れ!!」」 「「我らが開きし『虚無の門』を通りて還れ、『送還』!!!」」 二人の力強い声が、闇の中に雷鳴の如く轟き渡る。 『虚無の門』の暗黒が渦巻いて銀色に輝く『送還の門』となり、あらゆるものを呑み込んでゆく。 バエルが、ホーキンスが、悪鬼が竜が亜人が幻獣が牛馬が士官が兵士が捕虜が男が女が、ことごとく呑み込まれる! アルビオン大陸の底が抜け、彼らは無限の深淵へと落下し、奈落の底へ消え失せた。 ある火竜は、いつの間にか生まれ故郷の火竜山脈上空を飛んでいた。 ある軍馬は、いつの間にかゲルマニアの東に広がる草原地帯を走っていた。 石化したバエルと悪鬼は地獄の宮殿に帰り、トリステイン軍の捕虜たちはトリスタニアの練兵場に戻っていた。 『アンドバリの指輪』によって反乱した人々も呪いから解放され、サウスゴータや故国へ戻される。 そしてアルビオンの軍勢は、底知れない地獄へ送られて、堕ちていった……。 それを見守りながら、ルイズの口は『祈祷書』に現れた始祖の言葉を呟く。 『おお、これは我が故郷を思い、編み出したる、大いなる「送還」の魔法。 されど、これを用いて我ブリミルは帰還することあたわざりき。 我にとりて、もはや、かの荒れ果てたる地は故郷にあらざるか? ああ、なれど我が子孫よ、これを覚えよ。 いつの日にか、我がこの世界に現れし場所「聖地」をエルフの手より奪回せよ……』 「ほうほほう、素晴らしい! 『虚無』とはこういう力なのか! とても勉強になったよ!」 その場所から約4リーグ後方の空中、ゲルマニア艦隊旗艦の甲板にて。 オペラグラスと『千里眼』で大異変を見守っていたブラウナウ伯爵は、上機嫌に笑った。 「大悪魔バエル王をも打倒し、七万の軍勢もガダラの豚よろしく、雪崩を打って溺れ死んだか! 小人の王様(アルベリッヒ)と巨人の女王様(タイターニア)が、母なる地獄の釜の蓋を開いたか! ああ、素晴らしい! 本当に素晴らしい!! キキキキキキキ」 「は、伯爵、大丈夫かね?」 「いやいや侯爵、いたって正常ですよ僕は。さて、気を取り直して、後始末をさせてもらいましょうか。 まず、言霊には言霊を、歌劇には歌劇を。ジュリオくん、あの『銃』を持って来てくれ」 「はい、ダニエルさま。ここにございます」 ジュリオが差し出したのは、古ぼけたマスケット銃。新開発のライフリングも施されていない、ただの猟銃だ。 しかし、ダニエル・ヒトラーの『ガンダールヴ』と魔術を組み合わせれば、恐ろしい兵器となる。 「さ、諸君、歌声を合わせて《呪歌》を唱え、戦争と狩猟を讃えよう。 《Das Wild in Fluren und Triften,Der Aar in Wolken und Luften…》」 《Mein Sohn, nur Mut! 耐えよ、勇気を持て! Wer Gott vertraut, baut gut! 神を信じる者は行わん! Jetzt auf!In bergen und Kluften, いざ行かん!山にも谷にも喜びは溢れ、 Tobt morgen der freudige Krieg! 明日こそ、うれしき戦の日! Das Wild in Fluren und Triften, 森や牧場の獣ども、 Der Aar in Wolken und Luften, 空を翔け行く鷲や鷹、 Ist unser, und unser der Sieg! 勝利は我らがものなるぞ! Lasst lusting die Horner erschallen! 角笛よ、高らかに鳴れ! Wir lassen die Horner erschallen! 角笛よ、森に谺せよ!》 (カール・マリア・フォン・ヴェーバー作曲のドイツ歌劇『Der Freiscutz(自由射撃/魔弾の射手)』より) マスケット銃に込められているのは『魔弾』。嵐の悪魔ザミエルの呪いを受け、自在に獲物を仕留める弾丸だ。 ヴェーバーの歌劇の舞台は三十年戦争終了頃のボヘミアで、作られる魔弾も七つきりだが、 元来の18世紀の伝説では七×九、つまり六十三発の『魔弾』が作られたという。 それに歌劇では、射手の恋人アガーテは魔弾から守られるが、本来の伝説では彼女は撃たれて即死し、射手は気が狂う。 「僕に恋人などいないし、悪魔は僕の下僕だ。六十三発の全てが僕の意のままに命中する! まあ、『ガンダールヴ』の僕には一発で充分かな。距離は4リーグ、問題なし。 恋人とは違うかも知れないが、ヒロインのルイズ・フランソワーズもついでに始末するか。 松下の体を支えている、あの女信者もな! さあて、鉄の杖は振るわれ、審判の日の最後のラッパは、今こそ鳴るぞ!」 マスケット銃を構えると、ダニエル・ヒトラーの右手にある『ガンダールヴ』のルーンが強い光を放つ。 「《Es sei!!bei den Pforten der Holle! よかろう!地獄の門にかけて!》 自分で蓋を開けた魔女の釜の底へ、地獄へ堕ちろ、松下一郎!!」 運命の魔弾が一発、マスケット銃から放たれた! 双丘の頂上にて。 松下は満身創痍で力を使い果たし、目を閉じてぐったりとしている。シエスタは松下の体を抱きかかえるように支える。 ルイズは微動だにせず、あの『始祖像』のように両手を広げて立ったまま気絶している。 何が起きたのかは分からないが、あの悪魔どもとアルビオンの大軍は、メシアの奇跡によって残らず地獄へ消え去ったのだ。 食い止めるどころではない、殲滅だ。これでスカロンやジェシカたちも逃げ延びられるだろう。 トリステインがガリアとゲルマニアに攻め込まれても、故郷のタルブだけはきっと無事だ。 このメシアが、神の祝福を受けてこの世界に現れた人類の救世主が、その知恵を以って都市を築きあげた『聖地』なのだから。 そうだ、『千年王国』では平民も貴族も王族も、みな同胞となる。貧困も病気も、様々な悪徳もそこでは見られない。 老人も不具の人も蔑まれず、自由な人民が共に和して、主なるメシアのもとで賢い政治を行うようになろう。 ブリミル教会が説いてきた偽善的な教えは、この新しい真理にすぐ塗り替えられる。悪はことごとく滅び、罪は赦される。 世界は一つとなり、千年、いや未来永劫に渡って、神とメシアの支配による繁栄が続く。時は止まり、歴史は終焉を迎えるのだ! シエスタは狂おしいほどの歓喜のあまり、思わず叫んだ。 「ああ、メシア! 戦いは、世界革命はこれからです! この輝かしい勝利の福音を世界中に告げ知らせ、誰もが成し得なかった地上天国を完成させましょう!」 だが、凶弾が背後から、ルイズ・フランソワーズの胸を貫く。 その血が噴き出すより早く、松下一郎の心臓に『魔弾』が命中し、貫通する。 そしてもちろん、彼を抱きかかえていた第二使徒・シエスタの胸をも。 「………え」 「………う」 「………!」 三人は同時に倒れ、丘の下の谷間にまだ開いていた『送還の門』へと崩れ落ちる。 事態を一瞬で理解したシエスタの、呪わしい断末魔の絶叫が、最期に響いた。 「神よ、神よ、何故我を見捨てたもうた!!」 その声を残して、三人は何処とも知れない奈落の底へと堕ちていった……! 残された『千年王国』軍団に、空から鉄の雨が降り注ぐ。 ゲルマニア軍の艦隊からの機銃掃射だ。やがて焼夷弾や爆弾も次々と落下し、一木一草も残さず焼き払われる。 さてその頃、スカボローにいるトリステイン軍の総司令部は、焦りに焦っていた。 フネはある、あるにはあるが、ありったけの風石をかき集めても、ぎりぎり本国へ戻るには足りない。 このまま出港しては海に落下してしまう。小型船で総司令部だけ出発しようとしたが、それを知った兵士たちが暴動を起こす。 そこへ、見覚えのある十数隻の艦隊が港の外の空中に現れた。旗は青地に白百合、トリステイン王国の旗だ。 「おお、あれは我がトリステインの軍艦だ! ロサイスから脱出して、生き残っていたか!」 「そうだ、もう助けが来るころだと思っていた! 万歳、始祖ブリミル万歳!!」 「これで帰れるぞ! アンリエッタ女王陛下万歳!!」 「おーい、ここだ! ここだ! 助けてくれーっ!」 しかし、するするとトリステインの旗は降ろされ、代わってアルビオン共和国の三色旗と帝政ゲルマニア国旗、 それに『鉤十字(ハーケンクロイツ)』の旗が掲げられる。将軍や兵士たちの表情が、凍りついた。 数十隻に増えた艦隊は揃って横腹を向けると、火砲の口を港に向けて、一斉に砲弾を放った。 (つづく) 前のページへ / 一覧へ戻る / 次のページへ
https://w.atwiki.jp/moshinomatome/pages/15.html
私の心は煤けた掛け時計なんだと思う。 時を刻む事を止めてしまってから、もう長い時間が経つ。私の心はあの時あの場所であっさりと壊れてしまった。 私は原因を探った。 長い時間をかけてようやく答えに行き着いた。ゼンマイが一つ足りないみたいだ。なぜ、外れてしまったのだろう。 私は足りないゼンマイを探した。いろんな所にいった。いろんな人と話した。 それでも、ゼンマイは見つからなかった。 疲れたから、諦めた。 私はゼンマイの代替品を探すことに決めた。 希少な宝石。ヴィンテージワイン。壮大な絵画。上品なドレス。そして、魔法の宿った世界に一つしかない不思議な道具。 あたりをつけたものは、全部盗んだ。 だけど、どれもゼンマイの代わりにはならなかった。 私はやっぱり欠けたゼンマイが欲しい。 心が悲鳴をあげた。 そして、私は目覚める。 トリステイン学院の保健室に、私はいた。 学院長室の扉がノックされた。 「オールド・オスマン。よろしいでしょうか?」 「入りたまえ、ミス・ロングビル」 上司の許可を得たロングビルは、入室するとオスマンに一礼をした。 「勝手なお休みを二日も頂いてしまい、申し訳ございませんでした。私の健康管理が至らなかったばかりに…」 「なに、気にすることはない。今回は相手が悪すぎたよ。のう、土くれのフーケ?」 ロングビルの眉間にシワがよった。 「何をおっしゃっているんですか?」 「そうか。この二つ名は、いまだに馴染みがないのか。では、こう呼ぼう。マルチダ・オブ・サウスゴータ君」 ロングビルの顔が蒼白になった。それはかつて捨てた、いや、捨てざるを得なかった彼女の貴族としての名だった。その名を知るものは、もうこの世にはいないはずだ。 この老人はどこまで知っているのだろたう? ロングビルの表情が代わる。もはや、従順な秘書の姿を偽る意味はない。 「あなた、知ってたの?私が、土くれのフーケだって事を。秘書として雇う前から」 「いいや、知ったのは最近のことじゃよ。君と町の居酒屋で出会ったのは本当にただの偶然だ。君を雇うと決めた事にも、それは関係ない。君が優秀な人間に見えたからじゃ。 ただ、トリステイン学院は歴史の古い由緒正しい学院じゃ。素性の分からない者を雇うわけにはいかないじゃろ?だから、勝手に調べさせてもらった。それで分かったのじゃ、君の正体がな」 「で、どうするつもり?私の身柄を王室に引き渡すの?あなたが欲しいのは名誉?それとも、私に懸かった報奨金?」 「こんな年寄りが、今更、金や名誉で動くと思うかね?」 「じゃあ、何が狙いよ?私の体?あんた、まだ枯れてなかったんだ」 オスマンは首を横にふる。 「ワシは君の本当の笑顔が見たい。希代の盗賊と知りながらも、君を雇い続けたのは、それが理由じゃ。あの日…、そう、初めて君と出会った日、酒に酔った君はころころとよく笑っとった。じゃが、ワシには寂しい笑顔にしか見えなかった」 「何を言ってるの?とうとうボケが始まっちゃったわけ?」 土くれのフーケが嘲笑う。しかし、それは自嘲を含む笑顔だった。 オスマンは席を立ち、ロングビルの側によると、いつの間にか涙を浮かべていた彼女の両肩を握った。 「君が本当の名を捨てた理由はよくわかる。そして、その後、君が盗賊としての道を歩まざるを得なかった理由もな。君は寂しかったんじゃ。だからこそ、わしはその偽りの笑顔を無くしたい…」 「……何が言いたいのよ?」 「これからも、私の秘書として働いてくれるね?」 「は……?あんた、頭の中身、温まってるんじゃない?」 反抗的な言葉を吐きながらも、ロングビルの瞳からは涙が零れ続けた。 「焦る必要など、どこにもない。君はまだまだ若いんじゃ。『居場所』などすぐに見つかるよ。もしかしたら、この学院こそが君の居場所かもな。仕事に取り組む様は、君によく似合っているよ」 長年、かすりもしなかった。必死に探したのに。 だけど、ひょっとしたら見つかるのかも知れない。 ゼンマイの手懸かりを見つけたロングビルが鳴咽を漏らす。 「これからも、よろしくお願いします…。オールド・……オスマン」 彼女が学院の保健室で寝ていた間、この老人は魔法を用いて、せっせとロングビルの心を揺らし続けた。人間ならば成長の過程で必ず備わる精神の障壁、それがロングビルの心から完全に取り除かれるまで、それは執拗に行われた。 ロングビルの心は彼女の知らぬ間に、生まれたての小鳥のような状態に陥っていたのだ。 そんな無垢な心にインプリンティングがなされた。 全ては老人の思惑通りである。 涙を流し続けるロングビルは、老人の瞳が怪しく光るのを、歪んだ視界の為に見逃してしまった。 「オールド・オスマン。ですけど……、いい加減、セクハラはご遠慮下さいね……」 確かにオスマンはセクハラまがいのことをよく行っていた。 しかし、それも仮の姿に過ぎない。 ピエロを演じていれば、まわりの人間は面白いくらいに騙されていく。 長い人生経験から、オスマンはそれを良く知っていた。 ガンダールヴによる初号機とのシンクロに致命的な欠陥が潜んでいたことに気付いたのは、フーケ事件から間もない頃だった。 ある日、トリステイン学院から歩いて三十分程の場所に広がる平原で、シンジが初号機の戦闘訓練を行っていたところ、なんの前触れもなくルーンの輝きが失せた。そして、初号機の両肩が不自然な形で沈み込むと、それを最後に、その巨体は完全に沈黙してしまったのだ。 いくら意識を集中しようとも、ルーンが光を取り戻すことはなく、シンジは慌てて学院に戻るとオスマンに相談を持ちかけた。 だが、彼も頭を傾けるだけで、これといった答えは出なかった。 しかしながら、オスマンと共に初号機の擱座する場所まで戻ると、ルーンは何事もなかった様に発光を始め、あっさりと初号機とのシンクロが確立されたのだ。 「どういうことなんでしょうか?」 「ふむ…」 オスマンはしばし逡巡した様子を見せると、何かに閃いたようで、口を開いた。 「明日の夕方、わしの前で、オーガとの同調を試してくれんか?」 「原因が掴めたんですか?」 「どうじゃろな。明日には、はっきりするかも知れん」 翌日、約束の時間に現れたオスマンの前で、シンジは初号機の起動を試みた。しかし、またもや、ルーンの反応がなく失敗に終わった。 「ふむ、やはりな…」 「なにか分かりましたか?」 オスマンが夕焼けに染まった月を指差した。 「神々の黄昏が起きている。おそらく、それが原因じゃな」 シンジが困った様な顔をした。 「月とエヴァに何の関係があるんですか?」 「この世界にも、この世界なりの事情というものがあるんじゃよ。ま、なんにしても、一日に三時間はオーガの使役を封じられるということじゃ。それと、このことは胸の内に秘めときなさい。誰にも話すんじゃないよ」 シンジにもその理由は良く分かった。 もし、再びフーケの様な存在が現れ、この弱点を悟られた場合、敵がその隙をついてくるのは間違いない。 「そうですね。後、剣の練習も始めてみます。せっかく、マゴロクソードを頂いたことですし」 オスマンが頭をぼりぼりと掻く。 「君は呆れるくらいに真面目じゃな」 「ルイズさんが言ってました。ご主人様を守ることが、使い魔に課せられた最も重要な仕事だって。だから、やれることはなんでもやっておきたいんです」 「君はミス・ヴァリエールの事が好きなのかね?」 「もちろんです。色々と良くしてくれますし。ぼくは一人っ子ですから、なんか、優しい姉が出来たような感じで…、素直に嬉しいんです」 オスマンの意図した質問の内容から考えれば、シンジの言葉はまるで見当はずれだった。 オスマンは恋愛感情の有無について尋ねたのである。 「そうか。ならば、精進を怠らないようにな」 シンジが微笑む。 「はい!」 三日経って、オスマンの憶測が事実に違いないと証明された。 何度試しても、神々の黄昏時には初号機とのシンクロが確立されなかったのだ。 ちなみに、この世界の一日の周期は地球と同じ二十四時間である。そして、神々の黄昏はそれよりも短く十九時間おきに発生する現象だ。 その為、一日毎に神々の黄昏の発生期間は微妙にずれていくことになる。 非常に対策の立てづらい欠点だった。 シンジは重なり合う月に向かって、ルーンをかざした。 ガンダールヴ、そして、空に浮かぶ二つの月。 異世界であるはずのハルゲキニアで、エヴァに干渉する事柄がいかなる理由で二つも存在するのであろうか。 「ぼくがこの世界に召還されたのは、本当にただの偶然なのか……?」 トリステイン国の姫殿下――アンリエッタが、ゲルマニア国訪問の帰りに、トリステイン魔法学院を行幸することになったらしく、学院内が騒然とした空気に包まれた。 あちらこちらで、慌しく歓迎式典の準備が行われている。 どうやら、本当に急な話だったらしい。 学院の生徒たちは、少しでも姫殿下の御覚えが良くなる様にと、必死に自分の杖を磨いていた。 シンジはというと、特に興味がわくことも無かったので、学院の隅に見つけた人気の無い静かな場所でマゴロクソードの素振りを行っていた。 先日、ガンダールヴの更なる能力に気づいたシンジは、暇を見つければ、剣の練習に勤しんでいるのだ。 剣を握るだけで、ルーンが輝きだし、シンジの身体能力が飛躍的に上昇する。 空を舞う小鳥の羽根の動きがスローモーションの様にくっきりと見え、身体は今にも飛べそうなくらいに軽くなり、両手に握った双剣マゴロークソードが、まるで自分の身体の延長にあるような一体感を覚えた。 全ての武器を使いこなした伝説のガンダールヴ、おそらく、彼もこの能力を開花させた人間だったのだろう。 正門の方から、斉唱と歓声が聞こえた。 例の姫殿下一行が到着したに違いない。 「行かなくていいんですか?」 シンジは、芝生にぺたんと座り込み本を広げているタバサに尋ねた。 「興味ない」 タバサは貴族なのだから、王室から領地を安堵されている立場のはずだ。常識的に考えて、歓迎式典に参列しないのはまずいのではなかろうか。 しかし、彼女はそれを全く意に介さない様子だった。 「他の人たちはすごい楽しみにしてましたよ」 「そう」 タバサの瞳は本のページに向けられたままだ。 「本、好きなんですか?」 「うん。碇君は?」 「好きなほうだと思いますよ」 タバサは自分のポケットから文庫本を取り出すと、シンジに差し出した。 「おススメ」 「貸してくれるんですか?」 タバサは小さく頷く。 シンジは礼を言って、本を受け取るとそれをぱらぱら開いた。 「なんだ、これ?」 ページには、今まで見た事も無い意味不明な記号の羅列が記載されているだけだったのだ。 「これなんですか?」 「本」 「あ、じゃなくて、この記号のことなんですけど…」 シンジはページを指差しながら、腰を下ろすタバサによく見える様、本を差し向けた。 「ハルケギニア語」 「はい?」 「今、私達が話してる言葉」 「日本語ですよね」 自分自身の口から出た言葉で、はたと気付くものがあった。 文化も風習も文明の源も違うハルケギニアの公用語が日本語などということがありえるのだろうか。いや、まず、ない。 では、自分がハルケギニア語を話しているのかといえば、そん感覚は微塵もなかった。 自分が口に出す言葉を、何度反芻しても、やはり、日本語に間違いない。 今、自分に起きている不可解な事態をタバサにも理解してもらえる様に、シンジは出来るかぎり丁寧に説明した。 しばしの間、青い瞳が虚空を泳いだ後、タバサはシンジの左手に刻まれたルーンを指差す。 「ルーンの特殊能力」 シンジはまじまじとガンダールヴのルーンを見つめた。 「なるほど…。このルーンにかかれば、なんでもありなんだな」 しかし、ガンダールヴの力も文字の理解にまでは及ばないようだった。 「勉強」 「しろってことですか?」 シンジの言葉を受け、タバサは小さく頷いて応えた。 「いや、大丈夫ですよ」 「駄目」 「でも、全く不便を感じてないですし…」 「いずれ、困る」 確かにタバサの言うことは正論だった。 電話もパソコンも無線機もないハルケギニアの通信手段と言えば、早馬と手紙になる。 シンジは早馬を使用できるような身分ではないので、手紙が唯一の通信手段だ。つまり、遠くの誰かと意思疎通を計る為には文字の読み書きが必須条件である。 「そうですね。勉強やってみます」 タバサが、彼女には珍しくまだ幼さの残るその顔に微笑みを浮かべた。 「頑張って」 「ハルケギニア語を覚えたら、また、改めて貸してください」 シンジは借りたばかりの文庫本をタバサに返した。 しかし、二週間後、シンジはこの文庫本を再び借りることになってしまった。 その短い期間にハルケギニア語を全てマスターしたからである。取っ掛かりを掴んだ後は、単語、文法、慣用句などを乾いたスポンジの様に吸収するシンジの姿があった。 原因は、またもやガンダールヴにある。語学勉強に励むシンジに呼応したガンダールヴの進化システムが、シンジの頭蓋骨に納まる大脳のブローカ野を作り変えたのだ。 目に見えない変化が自分の体に起きていることを、この事をきっかけにして、シンジはようやく実感し始めた。 悲劇は、近い。 その日の夜、シンジは寝具の上に座り込んで、ルイズを見つめていた。なんだか、ルイズは激しく落ち着きがなかった。 「なにか、あったんですか?」 「ううん、なんでもないの」 ルイズの目が泳いでいる。歓迎式典の最中に何かがあったのは間違いなさそうだ。 そのとき、ドアがノックされた。 「誰ですかね?」 ルイズの顔がはっとした。思い当たる人物がいるようで、彼女は慌しくドアを開く。 ドアの向こうには、真っ黒な頭巾をすっぽりと被る少女が立っていた。 辺りをうかがうように首を回すと、そそくさと部屋に入ってきて、後ろ手に扉を閉めた。 「貴方は……?」 ルイズは驚いたような声を上げた。 頭巾を被った少女はしっと言わんばかりに、口元に人差し指を立てた。 それから、頭巾と同じ漆黒のマントの隙間から、魔法の杖を取り出すと軽く振った。同時に短く魔法を詠唱すと、光の粉が部屋に舞う。 「……探知魔法?」 ルイズが尋ねると、頭巾の少女が頷く。 「どこに耳が、目が光っているか分かりませんからね」 魔法による盗聴や盗撮の心配がない事を確認した少女が頭巾を脱いだ。 現れたのは神々しいばかりの高貴さを放つ少女だった。すらりとした気品のある顔立ちに、薄いブルーの瞳、高い鼻が目を引く瑞々しい美貌を持っていた。 「姫殿下!」 ルイズが慌てて膝をつく。 シンジは、寝具にあぐらをかきながら、ぼけっとその様子をみつめていた。 アンリエッタは涼しげな心地よい声で言った。 「お久しぶりね。ルイズ・フランソワーズ」 「姫殿下!いけません。こんな下賎な場所へ、お越しになられるなんて……」 ルイズはかしこまった声で言った。 「ルイズ、そんな堅苦しい行儀はやめてちょうだい!あなたとわたくしはお友達じゃないの」 「もったいないお言葉でございます。姫殿下」 ルイズは緊張した声で言った。 「やめて、ここには枢機卿も、母上も、あの友達面して、寄ってくる欲の皮の突っ張った宮廷貴族たちもいないのですよ! ああ、もう、わたくしには心をゆるせるおともだちはいないのかしら。幼馴染の懐かしいルイズ。あなたにまで、そんなよそよそしい態度をとられたら、わたくし死んでしまいますわ」 「姫殿下……」 ルイズは顔を上げた。 「幼い頃、一緒になって宮廷の中庭で蝶を追いかけたじゃないの!泥だらけになって!」 はにかんだ顔で、ルイズが応えた。 「……ええ、お召し物を汚してしまって、侍従のラ・ポルト様に叱られました」 「それだけじゃないわ。クリーム菓子を取り合ってつかみ合いのケンカをしたこともあったわね」 ルイズが笑い声を漏らした。 「でも、感激です。姫様が、そんな昔のことを覚えて下さっているなんて」 アンリエッタは深いため息をつくと、ベッドに腰掛けた。 「忘れるわけないじゃない。あの頃は、毎日が楽しかったわ。なんにも悩みなんかなくって」 深い、憂いを含んだ声だった。 「姫さま?」 ルイズは心配になって、アンリエッタの顔を覗き込んだ。 「あなたが羨ましいわ。自由って素敵ね、ルイズ」 「なにをおっしゃいます。あなたは姫さまじゃない」 「王国に生まれた姫なんて、籠に飼われた鳥も同然。自由なんてどこにもないわ」 アンリエッタは、窓の外の月を眺めて、寂しそうに言った。それから、ルイズの手を取って、にっこりと笑って言った。 「結婚するのよ。わたくし」 「……おめでとうございます」 アンリエッタの声の調子に、なんだか悲しいものを感じたルイズは、沈んだ声で言った。 そこで、アンリエッタは寝具の上に座ったシンジに気づいた。 「あら、ごめんなさい。もしかして、お邪魔だったかしら」 「お邪魔、どうして?」 「だって、そこの彼、あなたの恋人なのでしょう?随分、幼いようだけど、ルイズは年下が趣味だったのかしら?」 「いやだわ、姫様。彼は、私の使い魔です」 「使い魔?」 アンリエッタはきょとんとした面持ちでシンジを見つめた。 「人にしか見えませんが……」 話題に上ったシンジが立ち上がる。軽く会釈をしてから、口を開いた。 「はじめまして。ルイズさんの使い魔で碇シンジと言います。あと、ぼく、人間です」 アンリエッタはシンジに微笑みかけた。 「こちらこそ、よろしくね。だけど、ルイズ。まさか、人を召喚するだなんて……」 「この子、こう見えても、結構、頼りになるんです。姫様も学院の外に安置されているオーガを御覧になられたんじゃないですか?」 「オーガ?あの紫色の悪趣味な銅像のことかしら?」 「あれは銅像ではございません。この子が使役する使い魔です。おそらく、この子はハルケギニア最強の使い魔ですわ」 ルイズが胸をはる。 ご主人様から賞賛の言葉を戴いたシンジは顔をほころばせていた。 「動くのですか……?あれが?」 アンリエッタがため息をつく。 「あなたって昔からどこか変わっていたけど、相変わらずみたいね」 「お褒めの言葉として頂戴いたしますわ」 ルイズは砕けた微笑を浮かべた。 「そういえば、姫様とご結婚される幸運な殿方はどなたで?」 「……ゲルマニアの皇帝です」 「ゲルマニアですって!」 ゲルマニア嫌いのルイズが驚嘆した。 「あんな野蛮な成り上がりどもの国に!」 ルイズの口から差別的な言葉が出てきたことに、シンジは軽いショックを受けた。 なぜなら、あのキュルケもゲルマニアの貴族だったからだ。 知り合いまで一緒くたに卑下された気分になり、シンジは例えようのない居心地の悪さを感じていた。 「そうよ。でも、仕方がないの。ゲルマニアと同盟を結ぶためなのですから」 つまりは政略結婚だ。 先日、アルビオン内において有力貴族達が反乱を起こし、今にも王室は倒れそうであった。反乱軍が勝利を収めたら、【新生アルビオン】がトリステインに進攻するのは間違いない。 反乱軍が『ハルケギニア統一』、そして『聖地奪回』を旗印にしている為だ。 聖地とは始祖ブリミルに由縁する由緒ある土地なのだが、今では亜人種である【エルフ族】に占有を許してしまっている。 エルフは強力な民族で、今までにも各国が聖地奪回の為、散発的な進攻を度々行ってきたが、全て敗退に終わっている。 アルビオンの反乱軍首脳部は、聖地奪回の為にハルケギニア統一が必須事項と考えていた。しかし、ハルケギニアの国々は全くもって手を取り合おうとはしない。 その為、武力による統一を図ったのだ。 「そうだったんですか……」 ルイズは淋しそうに呟いた。アンリエッタが、その結婚を望んでいないのが、彼女の態度から明白だった。 「いいのよ、ルイズ。好きな相手と結婚するなんて、物心ついた時から諦めていますわ…」 「姫様……」 「礼儀知らずのアルビオン反乱軍は、トリステインとゲルマニアの同盟を望んではいません。二本の矢も、束ねずに一本ずつなら容易に折れますからね」 アンリエッタが俯く。 「したがって、わたくしの婚姻を妨げる為の材料を、血眼になって探しています」 ルイズが息を飲む。 「姫様には、材料になりうる存在の心当たりがあるんですね……?」 アンリエッタが後ろめたそうに頷いた。 「それは…?」 ルイズが尋ねると、両手で顔を覆いアンリエッタが苦しそうに呟いた。 「……わたくしが以前したためた一通の手紙なのです」 「手紙?」 「そうです。それがアルビオンの反乱軍に渡ったら……、彼らはすぐにゲルマニアの皇室にそれを届けるでしょう」 「手紙の内容は?」 「……それは言えません。でも、それを読んだらゲルマニアの皇室は、このわたくしを赦さないでしょう。婚姻の話は潰れ、ゲルマニアとの同盟は反故。となると、トリステインは一国にてあの強力なアルビオンに立ち向かわらなければならないでしょうね」 ルイズがアンリエッタの手を取った。 「畏れながら、申し上げます。わたくしめが必ずその手紙を奪還して見せますので、御詳細を…」 「……アルビオンにあります」 ルイズが口元に手を寄せた。 「では、すでに敵の手中に?」 「いえ、手紙を持っているのは、アルビオンの反乱軍ではありません。反乱軍と骨肉の争いを繰り広げている、王家のウェールズ皇太子が……」 「わかりました。私が必ずその手紙を受け取ってきましょう」 ルイズは真顔になり、きっぱりと言った。 「無理です、ルイズ!今、アルビオンでは苛烈な戦争が行われているのよ。そんな所に赴くのは危険過ぎます!」 しかし、ルイズは微笑む。 「トリステインの危機を放ってはおけません。それに姫様の御為とあらば何処なりとも向かいますわ」 アンリエッタに予感めいたものが浮かんだ。 この少女と少年ならば、あるいはやり遂げるのではなかろうか。 もちろん、何の根拠もありはしなかった。しかし、アンリエッタの中に巣くっていた不安の糸が断ち切られ、ふっと力の抜けた彼女がその場にくずれ落ちた。 「ありがとう……。…わたくしの親友なるルイズ」 その時、ドアが乱暴に開かれ、金髪の少年が飛び込んできた。 もちろん、ギーシュである。 「姫殿下!その困難な任務、是非ともこのギーシュ・ド・グラモンに仰せつけますよう」 アンリエッタに向かい恭しく膝を落とすギーシュに、ルイズが怒鳴った。 「あんた、盗み聞きしてたのね!」 「グラモン?ひょっとして、グラモン元帥の……?」 アンリエッタがきょとんとギーシュを見つめた。 そして、ギーシュが頷く。 「息子でございます」 「あなたも、わたくしの力になってくれるというの?」 「何をおっしゃいます。忠誠を誓うべき主は、貴女以外に見当たりません。貴女が仰せられるのであれば、例え怨嗟轟く戦場でも赴きましょう」 熱っぽいギーシュの口調に、アンリエッタは微笑んだ。 「貴方のお父様も勇敢な貴族ですが、貴方もその猛き血を受け継いでいるようですね。では、お願い致します。この不幸な姫をお助け下さい」 「この杖に賭けて…!」 ギーシュの様子を眺めていたルイズがため息をつきつつ、アンリエッタに言った。 「では、明日の朝、アルビオンに向かって出発いたします」 「旅は危険に満ちています。アルビオンの貴族たちは、あなた方の目的を知ったら、ありとあらゆる手を使って妨害するでしょう」 アンリエッタは机に座ると、ルイズの羽ペンと羊皮紙を使って、さらさらと手紙をしたためた。 アンリエッタは、自身の書いた手紙を見つめるうちに、悲しげに俯いた。 「姫様?」 怪訝に思ったルイズが声をかける。 「……なんでも、ありません」 アンリエッタは手紙を巻くと、杖を振る。すると、どこから、現れたものか、巻いた手紙に封蝋と花押がなされた。 その手紙をルイズに手渡す。 「ウェールズ皇太子にお会いしたら、この手紙を渡してください。すぐに件の手紙を返してくれるでしょう」 それから、アンリエッタは、右手の薬指から指輪を引き抜くと、ルイズに手渡した。 「母君から頂いた【水のルビー】です。この指輪が、アルビオンに吹く猛き風から、あなた方を守りますように…」 朝もやの中、オールド・オスマンの助力を得たシンジとルイズとギーシュは、コルベールと共に初号機の改造に取り組んでいた。風石を装甲板に取り付けているのだ。 風石とは風系統の魔力が込められたものである。 先日、シンジがシエスタと共に城下町へと出かけた時、彼は主人から受け取った全財産をはたいて、【風石】を買えるだけ買っておいたのだ。 その時、シンジには見慣れない羽帽子をかぶった長身の男が現れた。 その姿に気付いたルイズが立ち上がる。 「ワルド様……」 ワ 第四話 ル ド、来訪 終わり 男 第伍話 の 戦い へ続く
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/7016.html
前ページ次ページ虚無と賢女 空を往く黒い船―――空賊船の船倉に、ルイズたち三人は捕らえられていた。ルイズは不安そうに、ワルドは興味深そうに周りに積まれた食料品や火薬樽、砲弾をキョロキョロと見回し、エレアノールは二人とは対照的に目を閉じて船倉の壁に背を預けて座り込んでいた。 落ち着き払ったその様子に、ワルドは興味を引かれたのかエレアノールへと近寄る―――もっとも、積まれた荷物によって大して広くないので数歩移動するだけのことだった。 「このようなとき大体の者は慌てふためくのだが……ミス・エレアノール、随分と落ち着いているね?」 エレアノールはうっすらと目を開けると、目の前にやや前かがみで立っているワルドへ顔を向ける。狭い船倉の中での会話のため、やや離れたところに座り込んでいるルイズにも聞こえており、その声に二人の方へと顔を向けていた。 「慌てたところでどうにもなりませんから……。それに、彼らは身代金が目的である以上、私たちに危害を加えることも避けるでしょうね」 エレアノールは自分の言葉の欺瞞に胸中で苦笑する。杖とマントから貴族であることが分かるルイズやワルドと違い、せいぜい付き人の格好でしかないエレアノールは身代金を請求できるほどの価値はない。言い換えれば、エレアノールには危害を加えても空賊たちにはデメリットが大してなく、そして彼女は自分が女性であるための不利なことを十分に認識していた。 (こんなことを考えるのは……『カルス・バスティード』に入ると決めたとき以来ですね) ―――胸中に在りしの日の自分を思い浮かべる。 賞金首になったとき、その金額と目立ちやすさ―――整った顔立ちと周囲から浮き上がる育ちの良さが災いし、賞金稼ぎたちの格好の的となっていた。彼らに追い詰められかけたエレアノールは、地上で唯一、法が全く及ばない『カルス・バスティード』へ逃げることを決断した。そして、ならず者が集う無法地帯という悪評が広まっていた場所に自分が入れば、どのようなことが起こるか想像し、悲愴ともいえる覚悟を決めていた。―――しかし、悪評とは裏腹なことに、結局そのようなことに遭うことはなかったが……。 「なるほど、君は実に冷静沈着だね。これからのことを考えて、動揺するものとばかり思っていたが」 調子は明るかったが、抑揚のない声のワルド。恐らくは、ワルドもエレアノールが何を考え、そしてこれから何が起こりうると想像しているか正確に洞察しているようであった。 「一度、似たようなことがあったときに覚悟をしていますから。―――ところでワルド子爵」 「うん? 何かね?」 「これからのことを……、彼らへ接触するためのことをどう考えておられますか?」 念には念を入れて『王党派』という言葉を使わなかったが、ワルドも―――そしてルイズも『彼ら』の意味を理解して頷く。 「僕もそれなりに考えていたが、この船が空の上にある間は動きようがない。しかし、『マリー・ガラント』号という獲物を手にした空賊が次にすることは、獲物を持って帰ることだ」 「動くのはそれから、ですね。……しかし、お二人の杖も私の武器も取られていますが?」 ルイズとワルドの杖と、エレアノールのデルフリンガーと逆剣は捕らわれたときに真っ先に没収されていた。しかし、それ以外の物品―――アンリエッタ王女の密書や水のルビー、そしてエレアノールのトラップカプセルはそのまま残されていた。 エレアノールの問いに、ワルドはどこか愉快そうな―――悪戯が成功した子供のような笑いを浮かべて、ズボンの裾から一本の細いタクト状の杖を取り出す。 「軍人たるものは、予備の杖を持っているものさ。君の武器は連中から奪い取ればいい」 ワルドの考えにエレアノールは納得して頷く。武器をもたないと『ガンダールヴ』の効果は発揮されないが、彼女は無手での戦いもそれなりに自信があった。そのように考えをまとめていると扉が開き、ワルドは杖をとっさに服の中に隠す。船倉の中に、スープが入った皿をもった太った男と、対照的に細身の男が入ってきた。 「飯だ」 太った男が皿を差し出され、一番近くにいたエレアノールが受け取ろうとするがルイズが口を挟んだ。 「あんたたちが寄越したスープなんて飲めるわけないでしょ!」 ルイズは腰に手を当てて、毅然とした声で言い放つ。その様子に二人の男は呆然とルイズを見つめたが、やがて面白そうに笑いだす。 「ははは、随分と強がるじゃねーか? 度胸の据わったお嬢ちゃんだ!」 ルイズはフンっと顔を背ける。太った男は笑いながら、改めてスープをエレアノールへと差し出して受け取らせる。 「ところでよう、お前さんたちはアルビオンに何の用なんだ?」 「旅行よ」 細身の男の問いにルイズは顔を背けたまま答える。男たちはお互いの顔を見合わせ、首を振ったり頷いたりする。 「トリステイン貴族が内乱中のアルビオンに旅行ねぇ? そんなのが信じられるって、本当に思っていやがるのか?」 「信じるも信じないも、本当なのだから仕方ないじゃない!」 徐々にヒートアップするルイズを、細身の男は両手を上げて押し留める。 「まぁまぁ、落ち着けって。……実はな、俺たちはアルビオン貴族派と協定を結んで、商売させてもらっているんだ。それで、王党派に味方しようとする酔狂な連中を捕まえる密命も帯びているのさ」 『アルビオン貴族派と協定』という言葉に、ルイズは一瞬顔を強張らせる。エレアノールはワルドへ一瞬視線を向けるが、動くなというニュアンスを含んだ視線を返されただけだった。 「じゃあ、この船はやっぱり反乱軍の軍艦なのね?」 「いやいや、俺たちは雇われているわけじゃねぇ、あくまで対等な関係で協力しあっているのさ。……で、本当のところは、どうなんだい? 王党派ならこのまま貴族派に引き渡すし、あくまでも旅行と言い張るのなら身代金をもらうまで解放しない。だが、トリステイン内部の貴族派ならこのまま港まで送ってやるよ」 その言葉にエレアノールはルイズへと視線を向ける。もし、ルイズが貴族派であると言えば、解放されて物事は上手く収まる。 (ですが、ルイズは決して嘘をつこうとしないでしょうね) 誰よりも誇り高い貴族であろうとするルイズの姿を側でずっと見ていたゆえに、エレアノールはそのように考えてしまう。召喚された頃に比べて、思考や言動などが多少丸くなったところがあるが、根本的なところはそうそう変わっていないと感じていた。 案の定、ルイズは怒りに満ちた眼差しで細身の男を睨んでいたが、一瞬だけエレアノールに視線を向け、ややその怒りの色は静まった。 「―――旅行よ。私たちは王党派も貴族派も関係ないわ!」 ルイズの声は激発しそうな感情に震えていたが、どうにかそれを押しとどめていた。 「それじゃあ、楽しい旅行もここまでだな」 「勝手にすればいいじゃない! さっさと身代金を請求するなりして、解放してもらいたいわ!」 太った男と細身の男は再び顔を見合わせると、小声で短い会話を交わす。 「……頭に報告してくる。その間にゆっくり休んでおくんだな」 そう言い残すと、二人の空賊は船倉から出て行った。扉が閉められ鍵のかかる音が室内に響き、その音と同時にルイズはその場に座り込む。 「……ルイズ様」 「黙ってて」 ルイズはエレアノールの方を振り返らずに顔を伏せる。二人と、そしてワルドは言葉を発せず、深い沈黙が船倉を支配する。その重苦しい雰囲気に耐えられなくなったのか、ルイズは伏せていた顔を上げてエレアノールとワルドへと振り返る。 「……分かっているわよ、貴族派だって言えば良かったことぐらい。でも……あんな連中に、私たちは恥知らずの反乱軍の協力者ですって嘘を言うくらいなら死んだ方がマシだわ」 それは真っ直ぐな―――そして愚直な貴族の矜持。ルイズがルイズであるための高いプライドに、エレアノールは何も言えず物悲しそうに頷くだけだった。むしろ、激昂して王党派への使者と名乗り上げないに言葉を考えて選び、我慢しているのだと受け取っていた。 (そういえば……、アンリエッタ王女の密書は、何故取り上げられなかったのでしょう?) 杖とデルフリンガーを取り上げられた際、ルイズが持っていた密書―――アンリエッタによって施されたトリステイン王家の紋章による封印も見られていた。空賊たちが貴族派と結びついているのなら、トリステイン王家の密書を放っておく理由はない。エレアノールが考え込んでいると、ワルドがルイズへ寄って行きその肩を叩いた。 「いいぞ、ルイズ。流石は僕の花嫁だ、素晴らしい誇りだよ」 褒め称えるワルドに、ルイズは複雑な表情を浮かべてうつむいた。一方、エレアノールはそんなワルドのただ褒めるだけ言葉にラ・ロシェールで聞いたキュルケの言葉を思い出した。そのときは大して気にしていなかったが、今のやり取りはそのときのキュルケの評価―――一方的な偏見に満ちていたが―――を証明していた。 ワルドへの評価を思い返し終えたとき、再び扉が開いた。開けたのは先ほどの細身の空賊だった。 「なんだ、まだ食べてなかったのか? 頭がお呼びだ、後で新しいスープ入れなおしてやるから早く来い」 空賊の頭は後甲板の上に設けられた立派な部屋で、ルイズたち三人を待ち構えていた。室内には豪華なディナーテーブルが置かれ、その一番上座に大きな水晶のついた杖をいじりながら、部屋に入ってきた三人を迎える。 「よう、内戦で混乱しきっているアルビオンに旅行したがっているって部下に言ったらしいが、そんな酔狂な言い訳が信じられると思っているのか?」 「酔狂も何も、本当なんだから仕方ないじゃない」 ニヤニヤ笑う頭に、ルイズはツンっと顔を背ける。その様子に頭は、やれやれとばかりに両手を広げて大げさなため息をつく。 「そうか、あくまでアルビオン旅行と言い張るわけだな? ……ところで、トリステインの貴族は旅行中に王家の紋章で封印された 手紙を持ち歩く掟があるのかい?」 頭の言葉にルイズは叩かれたような衝撃を受けて、半歩ほど後ずさりする。無意識のうちの、服の中に納めている密書の上に右手をあてる。 「な……、何のことよ?」 その声は上擦り、身体は明らかに震えていたが、気丈にも視線を頭から背けずにいた。 「王家の紋章は四つ―――ゲルマニア皇帝の紋章やロマリアの都市国家群の紋章を含めても、覚え切れないほどの数じゃねぇ。それに隣国の紋章なら俺も一目で分かる。まぁ、余計な話はこれくらいで、本題に入るが―――」 頭の視線は目に見えて迫力を増した。ルイズの返答次第では、ただでは置かないと雄弁に物語る眼光であった。 「―――お前さんたちが、トリステイン王家の密使というのは分かった。それで、誰にその密書を渡すつもりだ?」 エレアノールは室内に目線を回して再確認する。頭の他に七人の空賊、そのいずれも杖か剣状の杖を持っており、さらに全く隙を見せようとせずにこちらの動きを逐一見張っていた。 (仮に私が飛び掛っても、恐らく頭にたどり着く前に彼らの迎撃を受けて……良くて相打ち) 通常の手段では状況の打開は不可能と結論付けたエレアノールは、懐に入れているトラップカプセルに意識を向ける。直接的な殺傷能力は皆無に等しいが、一度に集団を無力化するのに適しているアイス系のトラップ。覚悟を決めて、トラップカプセルの操作を始めようとしたとき、震えていたルイズが机を大きく叩いて頭を見返した。 「私はルイズ! ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール! 私はトリステイン王室からアルビオン王国―――ジェームズ一世陛下とウェールズ皇太子へ遣わされた大使よ!! 薄汚い反乱軍と手を結んでいるあんたたちなんかに用は無いわ!! さぁ、分かったら早く私たちを解放しなさい!! それとも、あんたたちの独断で一国の使者を勝手に拘束して、トリステイン軍の介入を招きたいの!?」 ルイズの叫びは部屋中に鳴り響いた。その声の大きさに頭は目を瞬かせ、周囲の空賊たちも呆気に取られていた。しかし、気を取り直した頭は、再び人を射抜くような視線をルイズへと向ける。 「大層な名乗りだったが、手の震えを隠すなり抑えておけば文句なしの合格だろうなぁ」 「―――ッ!」 頭の指摘に、ルイズは動揺を顔に浮かべながら震える両手の拳をギュッと握り締める。 「それに……、確かに俺たちは貴族派のお偉いさんたちに黙って一国の使者をどうこうすることは出来ねぇが―――」 チラっと意味ありげな視線を窓の外へと向ける。その視線が意味することにエレアノールとワルドは気付き、そして続いてルイズも気付いた。ここは空の上を航行する船、数千メイル下は一面に広がる大洋。落とされれば当然命はないし、遺体すらどこかの海岸に流れ着くことも難しいだろう。 「―――密書だけ見つけた、持ち主はどこに行ったのかさっぱり分からねぇ……という話もよくあることだ。つまりだ、お前たちがトリステインからの使者だからと言っても命の保障は全く無い。それよりどうだ? その密書を手土産に貴族派に降る、というのはよ? 俺たちならお偉いさんに口利きできるぜ?」 「誰が反乱軍に頭を下げるものですか!! そんなの死んでもイヤよ!! 密書だって、あんたたちに奪われるくらいなら、このまま一緒に飛び降りてやるわよ!!」 その誘いにルイズは真っ直ぐに頭を見つめたまま、胸を張って否定する。その身体の震えは続いており、恐怖に抗おうと必死になっていた。 ルイズを見守っていたエレアノールはその様子に限界が近いと判断し、トラップカプセルを操作してアイスの設置場所を定める。あとは設置して起動させるだけとなったとき、唐突に頭は笑い始めた。大声で―――そして、それまでの粗野な雰囲気が一切感じられない、どこか若々しくも爽やかな笑いだった。 「トリステインの貴族は、気ばかり強くてどうしようもないな! まぁ、その度し難さも、どこぞの国の恥知らずどもより何百倍もマシだがね!」 頭は愉快そうに笑いながら立ち上がる。それと同時に、周りの空賊たちも一斉に直立した。 「―――失礼した。今までの対応が、一国の大使を迎える礼節に相応しくなかったことを許してもらいたい」 礼儀正しい口調で言い終えると同時に、頭は縮れた黒髪に手を置いて一気に剥ぎ取った。続いて眼帯を取り外して付け髭をはがすと、そこには一人の凛々しい金髪の若者の姿があった。 「私はアルビオン王立空軍大将、本国艦隊司令長官―――といっても、本艦『イーグル』号しか存在しないから、この肩書きはほぼ無意味に近いな」 若者は苦笑しながら姿勢を正すと、威風堂々たる名乗りを上げた。 「アルビオン王国皇太子、ウェールズ・テューダーだ。アルビオン王国へようこそ、トリステインの若き大使殿」 その状況の移り変わりの速さに、ルイズたちは呆然とお互いの顔を見合わせた。 「ええっと……、そういうことでございましたか?」 ウェールズの説明を聞いて、ルイズはぼけっとしながらも頷く。状況の変化にまだ頭がついていっておらず、つい先ほどまでの生死と誇りをかけたときと、今との落差に未だに呆然としていたが。 「一艦だけという限られた兵力を運用するのでしたら、確かにこれ以上の策はありませんね」 「トリステインでも殿下の智勇は鳴り響いておりましたが、それがただの噂ではなかったことに感服しました」 一方、エレアノールとワルドはその説明を聞いて、納得と感心が入り混じった表情で頷いていた。補給路を攻撃しつつ可能な限り敵の目を誤魔化して追撃と討伐を防ぐこと、離反者が続出したために相手を念入りに試すようになったこと。共に兵法と政略に則った事柄であった。 「ははは、少々悪乗りが過ぎてしまったようだね、ミス・ヴァリエール」 ぽかんとしたまま―――半分放心状態のルイズにウェールズは、気の良さそうな微笑みを向ける。周囲の護衛たち―――無論、空賊の扮装をしたままである―――も、呆れと同情の入り混じった苦笑を浮かべていた。ルイズの精神的な復活が完了していないと判断したのか、ワルドは一歩前に出ると優雅に頭を下げる。 「こちらの密書はトリステイン王室―――いえ、アンリエッタ姫殿下より言付かって参りました」 「ふむ、姫殿下とな。君は?」 「トリステイン王国魔法衛士隊、グリフォン隊隊長ワルド子爵。そしてこちらが―――」 ワルドは続けてルイズとエレアノールの紹介を続ける。その際、ルイズは慌てて、エレアノールは慣れた様子で礼を取った。その手際良く、そして礼節に則ったワルドの立ち振る舞いにウェールズは笑いながら褒め称え、そして笑顔を引き締めてルイズへと視線を向ける。 「―――して、その密書を拝見させてもらえるかい?」 「は、はい! ……あ、あの、その、失礼ですが、本当に皇太子様でいらっしゃいますか?」 その言葉にウェールズは笑った。周囲の護衛たちの中にも、苦笑を通り越して声を上げて笑う者もいた。 「まぁ、さっきまでのことを考えれば無理もない、正真正銘のウェールズだよ。何なら証拠をお見せしよう」 ウェールズはルイズへと歩み寄りながら、自分の指にはめていた緑色の宝石がはまった指輪を取り外した。そして、ルイズの手を取り、その指にはまっている水のルビーへと自分の指輪と近づける。次の瞬間、二つの指輪は共鳴しあって虹色の光を振りまいた。 「この指輪は、アルビオン王家に伝わる風のルビーだ。君のはめているのは、アンリエッタがはめていた水のルビー。水と風は虹を作る、王家の間にかかる虹さ」 「大変、失礼をいたしました」 ルイズは一礼をして、密書―――アンリエッタの手紙をウェールズに手渡す。ウェールズは愛しそうにその手紙を見つめ、そして封印の花押に接吻した。その様子にエレアノールは、二人が両思いであったことを感じ取った。 ウェールズは一通り手紙を読み―――途中何度か顔を上げてワルドやルイズに尋ねることもあった―――、そして最後の一行まで目を通すと微笑んだ。 「―――了解した。姫の望みどおり手紙をお返ししよう。ただし、今は手元にない……ニューカッスルの城に置いてあるんだ。面倒をかけることになるが、君たちにはニューカッスルまで足労願いたい」 海賊船改め軍艦『イーグル』号は、『マリー・ガラント』号を曳航しつつ浮遊大陸アルビオンの海岸線と雲海を巧みに利用して、航海を続けていた。訓練された歴戦の軍人とクルーが操る『イーグル』号に対し、『マリー・ガラント』号のクルーは明らかに練度で劣っていたために、『イーグル』号側から十数人ほど乗り込んで代わりに操舵していた。 三時間ほど航海が続き、二隻の船は目的地であるニューカッスル近辺にたどり着いたとき、突然の轟音と振動が大気を揺らし、二隻の船をも小刻みに揺らしていた。何事かと、周囲を見回したルイズたち三人は、一隻の巨艦を視界に捉える。 「かつての本国艦隊旗艦『ロイヤル・ソヴリン』号だ。今は貴族連盟『レコン・キスタ』と自称する叛徒どもの旗艦『レキシントン』と名前を変えている」 歩み寄ってきていたウェールズは、微笑を浮かべながら三人に説明する。その間も『レキシントン』号は、断続的に砲撃を続けていた。 「あのように、空からニューカッスルを封鎖して、たまに砲撃を加えて嫌がらせをしてくる。忌々しいことに、我々の手持ちの戦力では対抗することは不可能だ」 「では、どのようにして城に戻るのですか?」 「それは簡単なことさ―――」 エレアノールの問いに、ウェールズは浮かべていた微笑に茶目っ気のニュアンスを交えて答える。 「ニューカッスル城のような古い城にとっては典型的な話になるのだが、秘密の抜け道―――ここアルビオンに限れば秘密の港があってね。そこから出入りするのさ」 ウェールズの言葉と同時か一瞬遅れて、『イーグル』号と『マリー・ガラント』号は大陸の下へ潜り込むように針路を変えた。 たちまち、周囲を白い雲が包み、そして大陸の下に完全に潜り込む頃には日の光すら差さない完全な暗闇に包まれた。その中を二隻の船は地形図を元に測量と僅かな魔法の明かりだけで進み、やがて頭上に現れた大穴―――ウェールズは秘密の港へと続く抜け道と説明した―――へと入っていった。 「……すごい」 ルイズは船員たちの手慣れた様子と大穴にポツリと呟き、エレアノールも「ええ」と頷いた。そして二隻の船は、大穴―――発光するコケに覆われた巨大な鍾乳洞の奥にある港へ到着し、岸壁に艦体を寄せてその動きを止めた。 「ほほ、これはまた、大した戦果ですな。殿下」 港に到着すると同時に出迎えに現れた背の高い老メイジは、『マリー・ガラント』号を見て顔をほころばせた。それは、心の底から嬉しいと言わんばかりの晴れやかな表情であった。ウェールズもまた、同じように晴れやかな表情を浮かべて老メイジの言葉に頷く。 「喜べ、パリー! 硫黄だ、硫黄!」 ウェールズの叫びに、港のあちこちから一斉に歓声が上がる。歓声は集まっていた兵士たちが上げていた。老メイジ―――パリーもまた感極まったように泣き始め、ウェールズと心底楽しそうに話し始める。王家の誇りと名誉、栄光ある敗北、そして明日の正午に始まる反乱軍の全面攻撃。それが二人の会話の全てであった。 「―――して、その方たちは?」 「トリステインからの大使殿だ。重要な用件で、王国に参られたのだ」 パリーはウェールズの言葉に一瞬、怪訝そうな表情を浮かべてルイズたち三人を見つめたが、すぐに顔つきを改めて微笑み、歓迎の礼を行い今夜開かれる祝宴への招待を申し出た。 「これが姫から頂いた手紙だ。このとおり、確かに返却したぞ」 城内にあるウェールズに部屋へと招かれたルイズたちは、その場でアンリエッタの手紙を受け取った。その手紙は何度も読まれていたらしく、既にボロボロになっていたが大切に扱われていたことは見て取れた。ルイズは深々と頭を下げる。 「ありがとうございます」 「明日の朝、非戦闘員を乗せた『イーグル』号と『マリー・ガラント』号がここを出港する。それに乗って、トリステインに帰りなさい」 ルイズは手紙をジッと見つめて、そして決心したように顔を上げて口を開き、どこか躊躇うようにウェールズへ問いかける。 「あの、殿下……。先ほど、栄光ある敗北とおっしゃっていましたが、王軍には勝ち目はないのですか?」 「ないよ、我が軍は三百、敵軍は五万。万に一つの可能性もありえない。今の我々に出来ることは、大陸統一と聖地奪還という馬鹿げた大義名分でハルケギニアを戦乱の嵐に巻き込もうとする反乱軍の夢想家どもに、現実の辛さを知ってもらうための尖兵として散ることくらいだ」 絶望的な戦力差と、確実に迫った戦死という未来をあっさりとウェールズは答えた。そして、自分も真っ先に死ぬつもりだと言葉を続ける。ルイズはウェールズの覚悟に絶句し、エレアノールは驚きを含めた感銘を受けていた。 (誇りと名誉のために死すらも厭わない……。王族にも立派な方が居られるのですね) 魔物たちで混乱する国を省みずに王宮でのん気に宴を開き、そして会場に現れた魔物に食い殺された母国の王族と貴族たち。騎士や貴族たちに見捨てられて、逃げ込んだ離宮で山賊に殺された大国の王族たち。エレアノールの世界での王侯貴族である彼らと比べると、目の前のウェールズと彼に従う三百の王党派たちはその心根に天と地ほどの差があった。 エレアノールがそのような感慨にひたっていると、ルイズは意を決したように顔を上げてウェールズへと向き直った。 「殿下……、失礼をお許しください。恐れながら、申し上げたいことがございます」 深々と頭をたれて一礼したルイズは、そう口火を切った。アンリエッタとウェールズが恋仲ではないかと問い、彼女のためにもトリステインに亡命すべきだと主張し、ウェールズはそれを丁重に断る。途中でワルドがルイズの肩に手を置くが、彼女の剣幕は収まらなかった。 「ルイズ様……、もうお止めください」 見るに見かねてエレアノールがルイズに声をかける。その制止にルイズはハッとした表情で振り返った。 「ウェールズ皇太子は覚悟を決めておられます。もう、私たちには何も言うべきことはありません」 「エレアノール!!」 興奮して大声を上げるルイズ。エレアノールはジッとルイズを見据え、そして首を振る。それでも、ルイズは何かを言い返そうと口を開くが、それよりも早くウェールズが押しとどめる。 「いや、ミス・エレアノールの言うとおりだよ、ラ・ヴァリエール嬢」 ルイズは寂しそうに俯き、ウェールズはそれを慰めるように肩を叩いた。 「そろそろ、パーティの時間だ。君たちは我らの王国が迎える最後の客だ、せめて笑顔で参加してほしい」 「……はい」 ルイズも自分に出来ることは何もないと理解したのか、小さな声で頷く。もっとも、納得はしていないことは、その表情から明確に伺えた。そして、一礼をしてから部屋の外に出た、続いてワルドもルイズを追うように出て行く。 「まだ、何か御用がおありかな?」 最後に残ったエレアノールに、ウェールズは不思議そうに尋ねる。エレアノールは頷くと口を開き―――何か逡巡するような沈黙があったが、やがて意を決したように表情を整える。 「失礼を承知でお伺いします。……先ほど、尖兵として散ると申されていましたが、その覚悟は確かなものでしょうか?」 「ああ、当然だ。ハルケギニア全土を巻き込むような戦乱の世が到来すれば国土は荒れ果て、そこに住まう民草は戦火で苦しむ。我らにそれを押し止める力は既にないが、その流れを可能な限り遅くするだけの努力をする義務は残っている」 「それならば―――」 エレアノールの言葉に、ウェールズは微笑みながら応じていた―――少なくとも最初は。しかし、二人の会話が進むに連れて、ウェールズの表情から微笑みが消えて有能な軍指揮官としての表情に切り替わり、そして最後は驚愕と賞賛の混じった表情へと変わっていた。 「ミス・エレアノール……、もう時間はほとんど残っていないが、パーティが始まる前に父上にも是非会ってほしい」 ウェールズの真摯な願いに、エレアノールはゆっくりと―――そして確かな意志をこめて頷いた。 パーティは、城のホールで行われた。園遊会のように着飾った出席者たち、包囲下の城とは思えないほどの豪華なごちそうの数々、それは滅びると分かった上での諦観がもたらした空疎ながらも華々しいパーティであった。 「……エレアノールは一体何をしているのかしら?」 ルイズはワルドと共に会場の隅に立って、華やかなパーティを見つめていた。そして、未だに姿を見せないエレアノールを探し、キョロキョロと見回していた。そして、否応なしに明るく振舞おうとする出席者の姿が視界に入り、ルイズの気持ちをさらに陰鬱なものとする。 そうこうしていると会場の端で貴婦人たちから歓声が上がり、釣られて視線を向けたルイズは国王であるジェームズ一世とそれに続いてウェールズが会場に入ってきたことに気付いた。そして――― 「え? エレア―――ノール?」 ウェールズに続いて会場入りしたのはエレアノールであった。エレアノールの方もルイズたちの姿に気付くと軽く頭を下げた。 「おのおのがた。パーティは楽しんでおるのかの?」 ジェームズ一世は会場の奥に置かれた簡易玉座に腰掛けると、集まっていた貴族や臣下たちをグルリと見回した。その隣にウェールズが姿勢良く立って待機し、エレアノールはその横に数歩の距離を置いて立った。 「陛下! 我らは存分に楽しんでおりますとも! 是非とも、陛下も最後の宴を楽しんでいただきたいものですぞ!」 初老の貴族が笑いながら答えると、会場のあちこちから屈託のない失笑と笑い声が湧き上がる。ジェームズ一世もまた、会場の笑い声に同意するように笑い、そしてゴホンと咳払いをする。途端に会場中の参加者たちは一斉に直立して姿勢を正した。 「諸君―――忠勇なる臣下の諸君、これから告げることを聞いてもらいたい。そして、ゆっくりと考えて決断して欲しい」 ジェームズ一世は一息深呼吸すると、臣下の名前を一人一人呼び始めた。最初は戸惑っていた臣下たちも、やがて名前を呼ばれた者から前に進み出て、玉座の前に並び始める。彼らは例外なく年若い―――せいぜい三十代までの者たちであった。その数が百人ほどになったところで、ジェームズ一世は呼びかけを終えた。数度深呼吸を行って息を整える。 「そなたたちに、この無能な王からの最後の命を告げる。今まで朕に付き従って果敢に戦い抜き、明日も最後まで戦おうと覚悟を決めている者にとって過酷な命かもしれんが―――」 前に進み出た百人の者たちも、名前を呼ばれなかった者たちも固唾を飲んでジェームズ一世の言葉に聞き入っていた。 「―――そなたたちは明日、反乱軍『レコン・キスタ』の総攻撃の前にこの城を離れるがよい。そして『レコン・キスタ』が滅びるか、そなたたちが倒れるときまで戦い続けることを命ずる」 会場中からどよめきが沸き起こる。特に明日の決戦に参加するなと通告されたに等しい百人から、大きなどよめきが起こっていた。 そして、一人の貴族が百人の中から進み出て、ジェームズ一世の前で礼を取る。 「陛下! 我らは明日の総攻撃に対し、貴族としての誇りに満ちた華々しい戦いをする所存です! それを何故、今さら逃げ出すように仰られるのですか!?」 その言葉は会場中の臣下や貴族と全く同じ意見であった。同調するように頷く者や、同じように前に進み出る者もいた。彼らに対し、ジェームズ一世は目を細めて見つめて、やがて脇に控えていたウェールズに顔を向けた。ウェールズは小さく頷いて一歩前に踏み出す。 「そうだ、逃げ出すのだ! ―――だが、陛下は命を惜しんで逃げろ命じたわけではない!」 「しかし……!?」 「明日の総攻撃で我らは全滅するだろう! これは避けられぬ未来だ! しかし、我らが全滅したあとに何が起こる? 愚昧なる反乱軍『レコン・キスタ』どもはハルケギニア統一と称して戦乱を撒き散らす! ならば―――」 ウェールズの言葉は会場中に染み渡るように響いていた。誰もがその言葉に聞き入っていた―――ルイズとワルドも同じように聞き入っていた。だが、ワルドはどこか昏く冷たい視線を、ウェールズに向けていた。 「―――我らはそれを阻止する責務がある! 明日、アルビオン王家は滅びるだろう! だが、この責務だけは何としても果たさなくてはならない! 例え臆病者と貶されようが、責務を遂行するための誇り高き者たちが我々には必要なのだ!!」 誇り高き者、その言葉に会場中の臣下と貴族たちは一斉に頭を下げる。しかし、何人かの貴族は直立したまま、ジェームズ一世とウェールズを見つめていた。 「恐れながら殿下……明日の総攻撃に対し二百人では、あっという間に城は落とされてしまいます。それでは、反乱軍どもが余計に勢いづくだけかと」 「その通りだ。……だが、安心したまえ」 ウェールズはずっと控えたままだったエレアノールに、前に進み出るように右手で指示する。エレアノールは深く頭を下げて完璧な作法で礼を取り、前に進み出た。 「既に聞き及んでいる者もいるだろうが、彼女はトリステインから来訪された大使の一人、ミス・エレアノールだ。彼女は深慮遠謀と称するに値する知略でもって我らに策を授けてくださった。その策を用いれば、明日の総攻撃に対して十分な戦果を上げることができると保障しよう!! 明日、反乱軍どもを迎え撃つ者たちも、脱出して戦い続ける者たちも―――」 そこでウェールズは言葉を区切り、会場の者たちの様子を確かめるように見回す。誰も彼もがウェールズの言葉に心酔し、見つめ返していた。 「―――奴ら脳裏に我らの勇猛さを刻み込む機会は十分に与えられている! 今宵はよく、食い、飲み、歌い、踊り、楽しもう!そして明日は死して反乱軍への猛威となり、生きて『レコン・キスタ』どもへの脅威となる終わりと始まりの日である!!」 「「「アルビオン万歳!!」」」 ウェールズの宣言に、会場中から一斉に大声で唱和が起こった。誰もが感極まったように涙を流し、そして誇らしげに万歳を唱和に参加していた。ただし、ルイズとワルド、そしてエレアノールは参加せずに、ただ彼らを見つめていた。 ルイズは複雑そうな視線で、彼らとエレアノールを交互に見つめていた。 ワルドは冷たい眼差しで、ウェールズとエレアノールを見つめていた。 エレアノールは感情を押し殺した表情で、死地に残ることになる二百人の臣下たちを見つめていた。 一騎の竜が月明かりの中、アルビオンの大地に影を落としながら疾駆していた。街道からも点在する村や街から外れ、さらには哨戒しているアルビオン竜騎兵たちの飛行ルートからも外れて飛んでいる竜は、何度かコースを修正しつつも確実に、大陸の端―――ニューカッスル城へと目指していた。 その竜に騎乗しているのは三人、そして足に掴まれている一匹のジャイアントモール。 「ねぇ、タバサ……本当にルイズたちはニューカッスル城にいるのかしら?」 三人のうち、キュルケは不安そうに一番前に座るタバサへと声をかけ、それに対しタバサは振り返ることなく頷く。その手には普段なら読んでいるであろう本の代わりに、一枚の紙が開かれていた。 「でも、乗っていた船はスカボローに到着してないのよ? 途中で何かあったとしか思えないわ」 「エレアノールとワルド子爵の二人なら多少の障害は突破できる」 紙に目を落としながらシルフィードにコースの修正を指示する。フーケからエレアノール、そしてタバサへと託された反乱軍の配置図と行軍予定表は精確なもので、これまで発見されることもなく敵地であるアルビオン大陸の上を飛ぶことが出来た。 「貴女の推理じゃ、ワルド子爵は裏切り者なのでしょ? いつまでもルイズの護衛を続ける―――」 「うぅむ……、理屈の上では確かに説明がつくが、本当にトリステイン魔法衛士隊の隊長が反乱軍どもに通じているとは信じられないのだが……」 最後尾に座るギーシュに自分の質問を邪魔されて、キュルケは不機嫌そうにため息をついた。 「ワルド子爵の目的は不明。でも目的を果たしたあと、それを報告しようとするのは確実」 「……なるほど、だからニューカッスル城なのね。港で水夫たちが、包囲軍の本営に総司令官クロムウェルがいる、って言っていたわね。それに、貴女の推理が間違っていても、ウェールズ皇太子に会うためには、ニューカッスル城に立て篭もっている王党派までたどり着かないといけない」 ラ・ロシェールからアルビオンまでの間にギーシュから聞きだした密命の内容に現時点までの状況を加味し、キュルケはそのように推理する。タバサも早いうちに同じ考えに至っており、スカボローの港での情報収集を早々に切り上げて、ニューカッスル城へと向かうことにしていた。 「まったく、ツェルプストーたるこのあたしが、ヴァリエールのルイズにアルビオン大陸で振り回されるなんて―――屈辱だわ」 キュルケの何ともいえない感情が入り混じった呟きは、夜風へと流れて消えていった。 前ページ次ページ虚無と賢女
https://w.atwiki.jp/testhuston/pages/662.html
シドニー湾 マップ一覧へ マップ詳細 種類 水中 作戦名 出現 デラーズ紛争編のみ 解説 一年戦争時のコロニー落としによって消滅したシドニーの跡地。 地形 備考 マップ 宇宙 0% ・中央に唯一の足場。 #ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (map_slave.gif) 地上 5% 砂漠 0% 森林 0% 冷地 0% 水中 95% 曲 優勢 強襲揚陸波 通常 THE WINNER 劣勢 ソロモンの悪夢 特殊部隊 連邦軍 機体番号 キャラクター メカ 武装A 武装B カスタム 備考 隊長機 サウス・バニング(R) ジム改 ブルパップ・マシンガン シールド(ジム寒冷地仕様) 予備弾倉 2番機 ディック・アレン パワード・ジム ハイパー・バズーカ(ジム改) シールド(ジム寒冷地仕様) 駆動系チューニングβ 3番機 コウ・ウラキ(R,Ver.1) ガンダム試作1号機 ブルパップ・マシンガン なし オプション・ブースター 4番機 チャック・キース ザクII後期型/連邦仕様 MMP-78マシンガン なし 5番機 一般兵 水中型ガンダム/HA 水中用偏向ビーム・ライフル なし 艦長 ニナ・パープルトン アルビオン 部隊名 アルビオン隊+α 出展 機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY(第1話 ガンダム強奪) ジオン軍(両雄激突編) 機体番号 キャラクター メカ 武装A 武装B カスタム 備考 隊長機 アナベル・ガトー(UC) ガンダム試作2号機 なし なし ゲリラ作戦 一定時間経過後登場 2番機 ボブ ザメル なし なし 定置迎撃 初期位置は中央の小島 3番機 ゲイリー ドム・トローペン ラケーテン・バズ なし ミノフスキー粒子散布装置 4番機 アダムスキー ドム・トローペン ラケーテン・バズ なし ロングレンジスコープ 艦長 ドライゼ U-801 部隊名 トリントン基地襲撃部隊 出展 機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY(第1話 ガンダム強奪) CPU部隊 連邦軍 機体番号 キャラクター メカ 武装A 武装B カスタム 備考 隊長機 マスター・P・レイヤー ジム・スナイパーII/WD ロケットランチャー なし アクティブ・サスペンション 2番機 レオン・リーフェイ ガンキャノン量産型/WD ロケット・ランチャー なし アクティブ・サスペンション 3番機 マクシミリアン・バーガー ジム/WD 100mmマシンガン なし アクティブ・サスペンション 艦長 一般兵 ミデア後期生産型 部隊名 ホワイトディンゴ隊 出展 機動戦士ガンダム外伝 コロニーの落ちた地で… ジオン軍 機体番号 キャラクター メカ 武装A 武装B カスタム 備考 隊長機 ヴィッシュ・ドナヒュー グフ クラッカー シールド(グフ) アクティブ・サスペンション 2番機 一般兵 ゴッグ なし なし なし 3番機 一般兵 ゴッグ なし なし なし 艦長 一般兵 ガウ 部隊名 荒野の迅雷+α 出展 機動戦士ガンダム外伝 コロニーの落ちた地で…
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4526.html
前のページへ / 一覧へ戻る / 次のページへ 《L an mil neuf cens nonante neuf sept mois 1999年7の月 Du ciel viendra un grand Roi deffraieur 空から恐怖の大王が来るだろう Resusciter le grand Roi d Angolmois. アンゴルモアの大王を蘇らせ Avant apres Mars regner par bon heur. マルスの前後に首尾よく支配するために》 (『ミシェル・ノストラダムス師の予言集(百詩篇)』第10巻72番) 始祖ブリミル降臨暦6243年、第一月であるヤラの月、トリステイン王国にて。 降臨祭が明けて二日目の深夜、首都トリスタニアのシャン・ド・マルス練兵場に、突如一万人以上もの人間が出現した。 ルイズと松下が死ぬ間際に発動させた『送還』の魔法により帰還できた、トリステインの敗残兵であった。 「……こりゃア、何が起きたんだ」「こ、ここはトリスタニアじゃないかっ?」 「本当だ! 俺たちはさっきまでアルビオンにいたはずなのに」「おーい、水を一パイくれっ」 口々に驚きの声を上げる兵士たち。首都の警備兵たちも驚愕し、彼らに質問を浴びせる。 「お前らは、アルビオンに出征していた……」 「おい、いったいどうしたんだ? 何が起こったんだ!? 武装や荷物はどうした?」 「「「……は、敗戦だ! とうとう輝かしいトリステインが滅ぶ時が来たんだ!!」」」 「敗戦!? 何がどうして!?」 「早くアルビオンで何があったのか、話してくれっ」 青褪めて騒ぎ立てる彼らを通じて、ゲルマニアの裏切りと自軍の惨敗が伝えられ、首都と宮中に激震が走る。 時を同じくして国境警備隊からは、規模は不明ながらガリア・ゲルマニア両国で兵団が集結し始めたとの急報も届く。 混乱と恐慌は、増幅された。 「……では、ガリアとゲルマニアとアルビオンと、ひょっとしたらロマリアも敵に回ったということか!?」 「ハルケギニア全土が敵では、どう考えても勝てませんぞ! この国はまるっきりお仕舞いです!」 「わしは自分の領地を守らねばなりませんので、これで失礼させていただきます! ご武運を!」 「やはり、あんな悪魔使いの異能児を用いたりするからですよ! 枢機卿!」 「女王陛下、この責任をどう負われるおつもりか!? 貴女がこの無謀な戦争を推し進めたのですからな!」 大混乱に陥る宮廷、早々と逃げ出す一部の貴族や市民。居残って国を守ろうとする人々が彼らを止め、騒乱が起こる。 朝になると市内では流言蜚語が飛び交い、早くも暴動が発生し、あちこちで火の手が上がる。 アンリエッタ女王は、亡国の危機という重圧に、震えながら耐えていた。 目を閉じて奥歯を噛み締め、気付けに強い酒を一杯あおる。そして傍らに控える『鳥の骨』に諮問した。 「……これは、どういうことでしょうか、マザリーニ」 「例のアドルフ・ヒードラー・フォン・ブラウナウ伯爵の罠ですな、おそらく。 また敗残兵がここへ帰還できたのは、知られざる『虚無の魔法』によるものと推測されます。 マツシタはゲルマニアに始末されたようですが、きっとミス・ルイズ・フランソワーズも殺されたか、捕虜にされたか。 やれやれ、我々の王国もここで潰えてしまいますかな」 枢機卿は飄々としたものだ。アウソーニャの都市国家が繰り広げてきた抗争の歴史は、このロマリア人をよく教育していた。 おお、ルイズが。唯一の親しい友人が、『虚無の担い手』が、『始祖の祈祷書』が、『水のルビー』が奪われた。 かき集めた将兵も軍需も艦隊も、ほぼ失ったわけだ。敗残兵は捕虜だったため武装解除されていた。 ……だが、王冠はまだ、ここにある。母たる太后も、枢機卿もいる。それに『風のルビー』も。 「トリステインの王家には、美貌があっても杖がない!」「「杖を振るのは枢機卿、灰色帽子の鳥の骨!!」」 「杖を受けるは太后陛下」「「あれあれ、そこはいけませぬ!!」」 「鞭を受けるは女王陛下」「「あれあれ、そこはなりませぬ!!」」 押し寄せる群集の卑猥な野次と投石が、王城とマザリーニの豪邸に向かって飛ぶ。 どうやら騒ぎを煽動している人間が複数いるらしい。これもゲルマニアの策略だろうか? だがよく見れば、彼らに混じって煽動しているのは、悪魔や妖怪どもだった。 「守銭奴坊主、要の信心ほっぽって、市民の血税いくら着服しやがった!」 「あんたの失脚は占い師たちに予言されているぞ!」「お前が鳥の骨なら、女王陛下は籠の鳥だ!」 「正しい裁判ねじまげて、あんたにゃ法律なんか無いも同じか!」 女王は蒼白な顔を上げ、再度諮問する。 「……枢機卿。我らが生き残る方策を考えて下さい。命があれば取り返しはつきます」 「よろしい、ならば降伏です。ガリアよりはゲルマニア、いえロマリアに、この国を寄進するのですな」 「少しは躊躇して欲しいですわね。テューダー王家のように玉砕はしたくありませんが、降伏は早すぎませんこと? いつぞやのようにゲルマニア皇帝に嫁入りするのも、もう御免ですわよ。……ああ、王になどなるんじゃなかったわ」 「いつの世も、そう思わぬ王はおりませぬ」 ふ、と女王は笑う。父とも頼む宰相だ、彼の呼吸はわきまえている。少しは心に余裕が生まれた。 「待機させておいたマンティコア隊を出しましたが、市民は興奮しており説得は困難です。 陛下、暴動鎮圧のため、『眠りの雲』など非殺傷魔法の使用許可を」 「許可します。いま我々が首都を捨てるわけにもいかないでしょう。 急ぎ消火活動にも勤め、力づくでも市民に平静を取り戻させて下さい」 マザリーニとて、このまま死ぬ気もないが、易々と降る気もない。 ロマリア出身でありながら、先王アンリと前宰相、そして愛する太后マリアンヌから、 国政とアンリエッタを託された身なのだ。既にこの大乱を奇貨として、中央集権制国家に再編する案すら脳中にある。 文武百官が直ちに再召集され、政府はその日のうちに、国内の全権を女王に集める『国家非常事態宣言』を発令した。 首都の貴族や騎士や有力市民をかき集め、太后までも引き出して秩序の回復に努める。 さらに全国の貴族に檄を飛ばし、総動員体制で国家防衛に当たるよう求める。逆らえば逆臣として粛清だ。 ゲルマニアもガリアもアルビオンも、トリステイン侵攻作戦がこの時期に露見するとは予測していなかったはずだ。 本格的に侵攻軍が集結するまでに、次々と手を打たねば。 「暴動を煽動している連中は、反戦派の牙城である『高等法院』の庁舎に集結しています!」 「リッシュモンはラ・ロシェールにいるし、彼が呼び寄せているわけでもないだろうが……鎮圧を続けろ!」 「デムリ財務卿には、各国諸侯への贈賄工作を……」 「既に手配してあります。こういう事は早め早めにするものですぞ、陛下」 「流石ですね。有能な臣下を持っていると助かります」 「必要なのは時間と味方です。ガリアもゲルマニアもロマリアも領邦の寄せ集めで、一枚岩ではござらん。 こんなこともあろうかと、この『鳥の骨』めは蓄財と人脈作りに精を出しておるのですよ、陛下。 一応亡命先もいくつか用意してあります。陛下と太后、それに私のね」 王家と血縁のラ・ヴァリエール公爵家は、ルイズの件で枢機卿に背く可能性もある。 艦隊と竜騎士団を擁するクルデンホルフ大公国は、ゲルマニアとも関係があるゆえ亡命先としては微妙。 やや遠いが、オクセンシェルナあたりなら旧交もあるし、敵の手も届きにくいだろうか。 ともあれ、味方は多いに越したことはない。死に物狂いでこの国を守らねばならないのだ。 「時に陛下。我らはマツシタを使ったことで、ロマリアから『異端容疑』をかけられる懸念がござる。 予定通りド・ゼッサールらを奴らの根拠地タルブとラ・ロシェールに向かわせ、滅ぼさせますか?」 「いいえ、彼らはいまや貴重な戦力です。この際味方につけなければなりません。 それにアルビオンのゲルマニア軍が我が国に降下するには、通常あの軍港を襲うしかありません。 マンティコア隊には首都の治安回復を任せ、女子銃士隊には私の護衛と伝令を担わせます」 冷静に国力を比較すれば、トリステインなど両大国の相手ではない。軍事的衝突はなるべく避けたい。 だがガリアとゲルマニアを止められるほどの権威ある存在となれば、ハルケギニアにはただ一人しかいない。 「私が教皇聖下との折衝をし、調停を願いましょう。この突然の侵略は、我が国に対する重大な誓約違反行為。 神と始祖ブリミルの名にかけて誓った同盟や条約をこうもあっさり破るなど、神聖冒涜もいいところです!」 「ロマリアは現在ゲルマニアと友好関係にありますゆえ、聖下が聞き届けられるかは微妙ですが……。 今のところ、有効な手はそれしかありませんな」 「教皇聖下……いえ、あのヒードラーが何を企んでいるかは知りませんが、 始祖ブリミルの加護を受けた四大王国は、一時的に断絶することはあっても必ず復活し、六千年以上続いてきました。 王家の存続は、神と始祖の定めた神聖なる秩序の一つ。決していいようにはされませんよ」 ふん、と女王は鼻を鳴らす。強気にならねばやっていけない。 翌日、深夜。 市内の暴動はなかなか収まらないが、女王は枢機卿の勧めで就寝することにした。気力を保たねばならない。 ……ふと、寝室の窓から冷たい風が吹き込んだ。 アンリエッタが何者かの気配を感じて室内を見回すと、部屋の隅に黒いローブを纏った人影が立っているではないか! 「だ、誰です!? いつの間に……?」 人影はごく小柄で、身の丈はせいぜい140サントほど。まるで子供のようだ。だが手には大きな杖を持っている。 侵入者はフードを脱ぐと、丁重に挨拶する。青い髪が夜風に揺れた。 「女王陛下、夜分失礼する。私はガリア王国の花壇騎士、『雪風』のタバサ」 「……貴女は確かルイズの学友でしたが、ガリアの……? 私を捕らえに来たのですか、それとも暗殺?」 「どちらでもない。陛下をお救いに参上した」 あまりに意外な話に、アンリエッタの口には言葉がない。ガリアは敵方に回ったのではなかったか? しばし間を置いてから、タバサは無表情のまま、再び口を開いた。 「……タバサとは世を忍ぶ仮の名前。私の本名はシャルロット・エレーヌ・オルレアン。 四年ほど前、無能王ジョゼフによって暗殺された王弟、オルレアン公シャルルの一人娘」 「なんと! ……そう言えば確かに、面影がございますわ。ガリアの王族はみな青い髪ですし……。 シャルロット姫はあの時に殺されたとも聞き及んでおりましたが、貴女がそうだったなんて!」 かつてガリアとの宴でシャルロット姫と多少の挨拶を交わしたことはあるが、なかなか快活だった。 それがこのように、別人のように感情を失くしてしまうとは。 「我ら『オルレアン派』は、あなた方の味方。マザリーニ枢機卿をこちらに呼んでいただきたい」 急ぎ枢機卿が女王の寝室に呼び寄せられると、タバサ……否、シャルロットは訥々と語り出した。 自分が仇敵ジョゼフとその娘イザベラに酷使されていること、毒薬により正気を失った母親が旧オルレアン公邸にいること。 そして、そんな自分たちに同情する貴族や平民、すなわち『オルレアン派』も少なからずいることを。 「先日魔法学院がアルビオン側の夜襲を受けて休校となったので、ガリアに帰国中、この陰謀を知った。 ジョゼフは先だっての誓約を破棄し、ゲルマニアと共にこの国に兵を進めて滅ぼす算段。 けれど、その折の混乱に乗じて、我らオルレアン派は挙兵する。 すでに私の母は、部下が救出し保護している。これは大きな賭け。敗北すれば死あるのみ」 シャルロットの瞳には、復讐の黒い炎が宿っていた。 アルビオン遠征に始まったこの戦禍の連鎖は、ハルケギニア全土に拡大するかも知れない。 正直言って自分が女王になる気は薄いが、憎いジョゼフを殺すためなら、クーデターの神輿にでもなってやろう。 アンリエッタの疲れた顔には喜色が浮かぶ。これは天佑というものだ。 「そ、それは大変心強いことですわ! 貴女が即位してガリアが味方につけば、ゲルマニアもアルビオンも容易には攻め込んで来ないでしょう」 マザリーニも、オルレアン派のことは耳にしている。利用できるものは何でも利用せよ、だ。 彼女が嘘を言っている素振りはないが、その旗頭が単身やって来るとは、流石に驚いた。 「それで、詳しい手筈は? シャルロット殿下」 「サン・マロンに集結中の『両用艦隊』を内応により奪取し、国内の反ジョゼフ勢力を糾合して決起する。 混乱する首都リュティスとヴェルサルティル宮殿を、同時にオルレアン派の花壇騎士団が制圧する。 ジョゼフとイザベラは捕縛して、幽閉ないし殺害。……ただし、失敗する公算もある。 そこで旧オルレアン公領、つまりラグドリアン湖南岸地域を、本クーデターの根拠地としたい。支援を要請する」 しばし枢機卿と相談した後、女王は彼女の提案を受け入れた。 「よろしいでしょう。仮にジョゼフを討ち漏らしたとしても、広大なガリアを分断させられます。 我が国の生き残りを賭けて、全力でオルレアン派を支援いたします。ご即位の際は、私が承認いたしましょう」 シャルロットはぺこりと一礼した。 「感謝する。オルレアン派もトリステイン王国を支援し、ゲルマニアの脅威を退けることを約束する。 『両用艦隊』の上陸目的地は、ダングルテール。艦隊が海上の国境線に触れた時点で、クーデターを開始する。 ……では、私はひとまず、高等法院に潜んでいる悪魔どもを退治して来る」 シャルロットはひらりと窓から飛び出すと、風竜に乗って高等法院へとまっしぐらに飛んで行った。 ほっ、と女王は溜息をつき、まずは安堵する。しかしアニエスの件といい、ダングルテールとはなにかと縁があるようだ。 「そう言えば……百年以上前、ガリアとトリステインでこんな予言が囁かれましたね。 いつか恐ろしい大王が天から降臨し、戦乱の世に『アングルの地(ダングルテール)の大王』を蘇らせると」 「はい。また予言によれば、その名はシーレン……CHYREN、これを並び替えるとHENRYC(ヘンリ、アンリ)。 アンリ王の御子、アンリエッタ女王陛下のお名前に合致いたしますぞ」 枢機卿は、にやりと笑って女王陛下の呟きに答えた。 《Au chef du monde le grand Chyren sera, 偉大なシーレンが世界の首領になるだろう Plus oultre apres ayme, craint, redoubte 『さらに先へ』が愛され、恐れ慄かれた後に Son bruit loz les cieulx surpassera, 彼の名声と称賛は天を越え行くだろう Et du seul titre victeur fort contente. そして勝利者という唯一の称号に強く満足する》 (『ミシェル・ノストラダムス師の予言集(百詩篇)』第6巻70番) (つづく) 前のページへ / 一覧へ戻る / 次のページへ
https://w.atwiki.jp/bjkurobutasaba/pages/917.html
ボンジュール、アルビス! アルビスちゃんは高貴な貴族ですわ! でも「米が無ければクッキーを使えばいいじゃない」と 言って民衆の怒りを買いギロチンされました。 南無 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4152.html
前ページ次ページもう一人の『左手』 雲と霧の白い闇を抜けると、一抹の光さえ差さない、真の闇がそこに待っていた。 浮遊大陸アルビオンの“真下”である。 四人の少年少女を乗せたシルフィードは、ためらうことなく、その暗黒の中に身を紛れ込ませた。 「タバサ! 待ってくれっ!! 風見さんを置いて行く気かっ!?」 才人が必死に叫んでいる。 だが、待つわけには行かない。 自分たちが大陸の下側に逃げ込んだのは、確実に目撃されているだろう。 少なくとも、先程のフネを乗艦とする竜騎士が追って来れない程度の距離を、この暗闇の中で稼がねばならない。 貴族派の空軍は、大陸の下側には入って来ないと風見は言っていたが、いくら何でも、100メイルや200メイル程度の距離なら、たちまち竜騎士に臭いを辿られ、追いつかれてしまう。少なくとも3~4リーグは距離を稼がねば、安全とは言えないはずなのだ。 だが、そこから先は? タバサは唇を噛みしめる。 ニューカッスルの正確な座標を知っているのは、風見だけだ。 こんな暗闇の中を、闇雲に飛び回ったところで、何ら埒があくわけではない。風韻竜シルフィードといえど体力には限界がある。いつ頭上の岩塊に、頭をぶつけるかも知れない危険な闇の中を、無限に飛びつづけるわけには行かない。 ――どうする? タバサは、その怜悧な頭脳を働かせる。 (危険だけど、一度、アルビオンの地上に出るしかない) 幸い、こっちにはヴェルダンデがいる。 さっきのフネから飛び立ったはずの竜騎士をやり過ごし、シルフィードが抱えるジャイアント・モールに地上に向けての穴を掘らせ、地上に出る。 穴の向こうが貴族派の陣かも知れない――いや、アルビオン貴族派のほとんどは、ニューカッスル周辺に陣を構えているはずだ。城から少し距離を置けば、“上陸地点”としては逆に安全といえるかもしれない。 しかし、ニューカッスルの座標どころか、自分たちの現在位置さえ読めない現状では、地上に出るリスクは避けられない。 ――どうする? 昨夜、出立の前に地図上で確認した時、ニューカッスル城は、大陸から突き出た岬の突端に築かれていたはずだった。つまり、アルビオンの内陸に飛べば飛ぶほど、目的地から距離を取れる事になる。 最悪、ラ・ロシェールに帰還するという選択肢も考えつつ、タバサは、あと1リーグ直進したのち、地上への縦穴を掘る決意を固めていた。 (カザミに頼りすぎだった) タバサの奥歯が、ぎしりと音を立てた。 「……まただ、また、おれは……風見さんを見捨てちまった……!!」 才人がへコんだ声を出している。 「あの時と……同じだ……あの時と……っっ!!」 「黙って」 タバサは、いつになく硬い声で才人を制する。 たとえ傍らにいるのが貴族だろうが平民だろうが、この少年は誰はばかる事無く自分の心情を吐露する事をためらわない。そんな彼のことを、タバサは決して嫌ってはいなかった。 「あなたの気持ちは分かる」 だが、それでも、時と場所は選んでもらわなければならない。 ここはもはや、平和な魔法学院ではないのだから。 「でも、いまは黙って。――あなたの、その呟き声さえ、追っ手の竜の耳には聞こえてしまう」 一寸先さえ見えない闇の中で、一同がぎょっとした気配が伝わってくる。 それも当然だろう。 彼らの中で、一番ドラゴンの生態に詳しいのは誰かと訊かれれば、間違いなく、竜を使い魔としている、この少女なのだから。 「心配要らない」 だが、黙れと言ったはずのタバサ自身は、何故か口を閉ざさなかった。 「カザミは死んでない。絶対に生きている」 いや、タバサ自身、なぜ才人にこんな事を言っているのか、よく分かっていなかった。 「タバサ……!?」 いつになく雄弁な彼女に、キュルケが訝しげな声をあげる。 当然だ。人を慰めるなんて、どう考えても自分の任ではないはずなのだ。だが、何故か彼女の口は、言葉を発することをやめられなかった。 「わたしはカザミを信じている。だから、あなたも信じなさい」 タバサのその声に、もはや硬い響きはなかった。 そして、今はそんな情況ではないと分かっていてなお、タバサは何故か、今の自分が不愉快ではなかった。 (ぐっ……!!) 8発目の砲弾を食い止めたV3は、ようやくシルフィードが大陸の真下側に潜り込んだ事を確認した。 (ようやく行ったか……まったく……!!) その事実は、激痛の中、彼に束の間の安堵をもたらす。 だが、V3の仕事は、これで終わったわけではない。むしろこれからなのだ。 あのフネの注意を惹きつけ、シルフィードへの追っ手を極力引き受けねばならない。 彼は、ハリケーンに跨ると、ジェット・ノズルの出力を最大に上げた。 竜騎士を、近代空軍に於ける艦載機だと見なすならば、フネは航空母艦というべき存在であろう。ならば、やるべき事はただ一つだ。 ――フネを制圧する。 すでに数騎の竜騎士たちが、フネを発進したのをV3は目撃している。間違いなくシルフィードへの追跡隊であろう。だが、それでも眼前で母艦が攻撃されれば、奴らも追跡どころではなくなるはずだ。 (殺しはせん。ただ、少し手荒い真似はさせてもらうがな) 心中にそう呟いた瞬間だった。 その砲弾が飛来したのは。 「っ!?」 その一発を喰らった瞬間、V3は全身が、骨の髄までバラバラになりそうな衝撃を覚えた。 躱せなかったのだ。――仮面ライダーV3ともあろう者が。 さっきまでの火砲とは全く違う。威力も、速度も、命中精度も。 おそらく、この砲撃を弾幕に混ぜられていたら、さすがのV3もシルフィードを庇いきれなかったに違いない。風竜かV3か、どちらかが確実に死んでいただろう。 直撃の衝撃でハリケーンから落ちなかったのが、まさしく僥倖という他はない。 こんな砲弾をハルケギニアで撃てる者は、おそらくただ一人。 いや、推測するまでもない。V3はこの一撃を、かつて何度も喰らった覚えがあったのだから。 「あいつ……か……!!」 ――改造人間カメバズーカこと、平田拓馬……!! エレクトロ・アイの透視装置を、望遠に切り替える。それと同時に改造人間探知回路であるOシグナルを開く。だが……その瞬間、V3は愕然となった。 (反応が……二つ……!?) 誰だ!? カメバズーカと俺以外に、まだハルケギニアに改造人間がいるというのか!? 一気に上昇し、フネを眼下に収める高度までハリケーンを駆る。 そこからフネに飛び降り、一息に制圧する予定だった。 相手が人間なら知らず、改造人間ならば、自分のの鉄腕を振るうに不足な相手ではない。 バダンによって魂を抜かれた再生怪人ならばともかく、意思持つ二人の改造人間相手に、まともに戦えるかどうか――それはもはやV3にとって、どうでもいい事だった。 (何故だ……!! 何故、貴様らは……!!) 何を目的として、異世界の争乱に力を貸し、血を流す事を厭わないのか。改造人間のパワーを、ただの人間に振るうということの意味を、何故考えようとしないのか。 それがV3――風見志郎には、どうにも許せないのだ。 だが、その瞬間、彼のあらゆる思考は、一気に吹き飛んだ。 フネの上甲板に立っていた二人の改造人間――カメバズーカと、もう一人の男。 ZX以外の仮面ライダーは、総勢9人。 その中で、彼と結城丈二――ライダーマンが直接知るデストロン以外に、少なくとも10社の“秘密結社”が、かつて世界征服を目指して、改造人間を量産している。だから当然、カメバズーカの隣に立つ者がV3の知らない怪人であっても、不思議はなかった。 しかし、そこにいたのは、彼のあらゆる想像を超えた存在だった。 「俺……だと……!?」 見間違えるわけがなかった。 赤い仮面。 緑の複眼。 立てた襟。 二本のマフラー。 レッドボーン。 そして……ダブルタイフーン。 「しまっ……!!?」 驚愕のあまり動きが止まった瞬間だった。 そこにいた、もう一人のV3のベルトから、凄まじい指向性エネルギーが発射されたのだ。 (逆ダブルタイフーン……だとぉ!?) その刹那、彼は眼前が真っ白になったのを感じた……。 「おい」 「なんだ?」 「本当によかったのか? あれは一応、“お前”なんだろう?」 カメバズーカが、呆れたように傍らの男に話し掛ける。 そこには、紺色のYシャツに白いベストに身を包んだ、精悍な相貌の男が立っていた。 逆ダブルタイフーンは、変身のために使用する全エネルギーを放出するため、三時間は変身が不可能になるほどの壮絶技である。カメバズーカとしても、まさかこの男が、“自分自身”に対し、ここまでやるとは思っていなかった。 だが、 「風見志郎は、一人でいい」 そう呟いた“風見志郎”は、眉一筋動かさなかった。 暗黒の中を、二隻のフネが音もなく進む。 王党派の巡洋艦『イーグル』号が、アルビオン上空で拿捕した『マリーガラント』号を引き連れ、ニューカッスルの地下侵入港に向かっているのだ。 「貴族派というが、所詮あいつらは、空を知らぬ無粋者さ」 そう言って、ウェールズはルイズに笑いかけた。 だがワルドは、そんなウェールズを横目に、全く別な事を考えていた。 ニューカッスル城に王党派を追い詰めて、かなりの日数が経つ。 にもかかわらず、浮遊大陸の真下に、こんな侵入口が存在していた事に気付かなかったとは、迂闊にも程がある。 王党派の城塞すべてに、このような地下港があるのか。それともニューカッスルにだけ、こんな、フネさえ侵入可能なほどの天然の縦穴が、存在していたのか。 (おそらく後者か) 王党派の城塞全てに、こんな大規模設備の用意があったなら、いくら何でも、貴族派の誰も、その存在を知らないなどという事は在り得ない。いや、それ以前に、ここまであっさり王党派も、制空権を奪われたりはしないはずだ。 なら、王党派が、ニューカッスルに逃げ込んだのも、あながち考え無しではなかったという事か。 この大穴を利用して、密かに兵站の補給を続け、可能な限り篭城を長引かせる。その間にハルケギニアの列国に、対レコン・キスタの世論が沸騰すれば、救援さえもあながち期待できない話ではない。……あくまでも糸のように細い期待ではあるが。 空賊たちが、王党派の偽装だったと判明した時は、さすがのワルドもほっと胸を撫で下ろした。常識的に言えば、ワルドの大博打は、どう考えても外れる確率のほうが高かったからだ。 このまま“大使”を名乗り、ニューカッスルまで連れて行ってもらえば、目的の全てを、ほぼ問題なく達成できるだろう。いや、城外の貴族派と上手く連絡を取り合えば、今日・明日中にも、城に貴族派の軍を手引きできるかもしれない。 自分の強運に驚きながらも、ワルドはむしろ沈鬱な表情を崩さず、言った。 「まるで空賊ですな、殿下」 「まさに空賊なのだよ、子爵」 「喜べ、パリー!! 硫黄だ、硫黄!!」 「おお、硫黄ですと!? 火の秘薬ではござらんか!! これで我々の名誉も守られるというものですな!!」 老メイジと抱き合うようにして喜びを分かち合うウェールズ。 「先の陛下よりお仕えして60年……こんな嬉しい日はありませんぞ殿下。叛乱が起こってからは苦渋を舐めっぱなしでありましたが、なに、これだけの硫黄があれば……!!」 「そうだ。――まだまだ我々は戦えるぞっ!!」 聞くも凛々しい、その王子の宣言に、うおお~~っと、地下港に集まった兵たちの歓声が上がる。 その光景に、ルイズも少女らしい興奮を押さえきれなかったようだ。 「そうよそうよ!! レコン・キスタみたいな反乱軍に、由緒正しい王家の人たちが負けるなんて、そんなこと、神と始祖がお許しにならないわ!! ね、子爵さまっ?」 「ああ、ぼくもそう思うよルイズ」 だがワルドは、婚約者に向けた笑顔の下で、彼らを罵倒せずにはいられなかった。 (この、馬鹿めが) アルビオンに住む国民一人一人の事を考えるならば、こんな内戦など、長引いたところで、まさしく百害あって一利もありはしないのだ。 戦が長引けば長引くほど、包囲軍は、戦費や糧食を、ニューカッスル現地民から徴収し、銅貨一枚の見返りすら支払う事はない。そして、内戦の結果、彼ら平民にもたらされるものは何か? 何もありはしない。 残るものは、戦場となって焼き尽くされた田畑であり、糧食として軍に奪い尽くされた収穫であり、兵卒として徴用された農村の壮丁たちの死体だけだ。 しかも、季節はこれから冬を迎える。 食糧や家畜を奪われ、働き手の若者を失い、冬を越せなくなった大量の農民が、文字通り、難民として都市部に流入するだろう。そして彼らは、仕事と食物を奪い合い、結果として恐るべき不景気が、アルビオンを見舞うはずだ。 無論、レコン・キスタの大幹部の一人として、ワルドは、何らかの対応策を打つつもりではあるが。 この内戦が、レコン・キスタによる一方的な侵略戦争であることは承知している。 だが、それでもワルドは、わずかなプライドを掲げて、勝ち目のない戦争をやめようとしない眼前の王党派たちに、言い知れぬ怒りを覚える。 (なぜ、降伏しようとは思わないのだ) その問いの答えは簡単だ。 ――こいつらは死ぬことに酔っている。名誉を守るという大義名分に酔っている。 この連中は、一日早く戦が終われば、その分だけ、民のこうむる戦禍も少なくなるなどとは、おそらく考えた事もないのだろう。 ウェールズという男に何の恨みもないが、それでもこの瞬間に、ワルドの中で、ウェールズに対する、一分の情は消えたと言っていい。 (この王子を殺せば、王党派は瓦解する) ワルドは、ウェールズ暗殺のための具体案を腹の中で練り始めた。 その時だった。 不意の地響きが、地下の鍾乳洞を改築した、この港にまで響いてきた。 「殿下! 貴族派の空襲です!!」 初々しい少年兵が、伝令として駆け込んでくる。 空襲? 貴族派空軍の艦砲射撃か? ワルドは、妙に納得してしまった。 何隻の戦艦が雁首そろえてやってきたかは知らないが、少なくとも2隻や3隻ではなかろう。二個艦隊か三個艦隊は編隊を組んでいるはずだ。にもかかわらず、この地下施設の耐震強度はどうだ? まるでシェルター並みではないか。 周囲を見回すと、やはり怯えた兵など一人もいない。不安げな顔をしているのは、ルイズだけだ。 ルイズのその様子に気が付いたのだろう。 ウェールズは、動揺のカケラも感じさせない陽気さで、少女に話し掛ける。 「はははっ、気にすることは無いよ、ラ・ヴァリエール嬢。奴らの砲撃くらいでは、このニューカッスルの地下宮殿はびくともしないさ」 「地下宮殿、ですか?」 「ああ。このニューカッスルにとって、本当の堀や城壁は、この分厚い岩盤なのさ。地上の施設がどれだけ灰になっても、痛くも痒くもない。なぜなら武器庫も食糧庫も居住区すらも、すべて、この広大な鍾乳洞の中にあるのだから」 「それじゃあ、殿下」 「ああ、我らがニューカッスルを最後の拠点としたのは、この難攻不落の地下宮殿があるからさ」 それを聞いて、――ワルドは、頬が緩むのを懸命にこらえた。 ウェールズの言うことが本当ならば、もはやこの城は陥ちたも同然だ。 地下港の出入り口になっている縦穴を、貴族派のフネで一気に制圧し、地上と地下の両方から、兵団を同時に送り込めばいい。ものの二時間もあれば、呆気なく決着はつくだろう。 「しかし、やられっぱなしというのも業腹だ。我らがテューダー朝アルビオンにも、人なきに非ずということを、貴族派の謀反人どもに教えてやろう」 ウェールズは、にっこりとルイズに笑いかけると、一転した厳しい声で、伝令の少年に叫び返す。 「V3を出撃させろ!! 叛徒どもを、一人たりとも生かして返すなっ!!」 「……ぶい……すりー?」 きょとんとした顔でルイズは、金髪の王子さまを見上げる。 いや、呆けたように見えたのは、その刹那だけだ。 次の瞬間には、彼女が必死になって何かを思い出そうとしているように見えた。 しかし、ワルドは知っている。その名を持つ存在が、何を意味しているのかを。 (ばかな……このニューカッスルに、“奴”がいるというのか……!?) そんな情報は聞いていない。 だが、在り得ない話ではない。アルビオン王家が、始祖の“虚無”を受け継ぐ家系である限り、可能性は100%絶対にないと言い切れる話ではないのだ。 そして、その推測を裏付けるようにウェールズは笑う。 「我が従姉妹が召喚せし、無敵の使い魔さ。彼がいるかぎり、我々がレコン・キスタを駆逐して、再びアルビオンに君臨する事も、決して夢ではないだろう」 前ページ次ページもう一人の『左手』
https://w.atwiki.jp/savagetide5th/pages/578.html
Cambion カンビオンはフィーンド(通常はサキュブスやインキュブス)と人型生物(通常は人間)の間に生まれた子供である。カンビオンは両方の親の相を引き継いでいるが、その角、皮革のような翼、筋骨逞しい尾は異世界の血統を明らかに示している。 彼らは最も愛情深い定命の親たちですらぞっとさせられるような邪悪さと堕落を持つ冷酷な大人に成長する。若い頃ですら、カンビオンは定命の者に君臨する立場こそ自らに相応しいと考えている。 カンビオンの種族特徴については下記に示す。 カンビオンの種族特徴 カンビオンのキャラクターは下記の種族的特徴を有する。 クリーチャー種別 カンビオンのクリーチャー種別は人型生物ではなくフィーンドである。 能力値上昇 君の【魅力】の値は1上昇する。 年齢 カンビオンは彼らの血筋に応じて1,000年以上の寿命を生きる。 属性 ほとんどのカンビオンはその片親たるフィーンドの属性を引き継いでおり、悪属性である。彼らの多くは救いようもなく悪であるが、すべての者が衝動的な破壊行動に駆り立てられるサイコパスだというわけではなく、悪の衝動を抑えつつ、自らの目標を達成するために冷静に長期的な計画を立てて行動する者たちも多数存在する。またごく僅かながら、その生来の悪の性情をすさまじい意志の力で抑えつけて別の道に踏み出した者もいるが、そうした者は自らの選んだ道を秘密にしていることが多い。 サイズ カンビオンの体格は基本的に定命の親のそれを引き継いでおり、背中からは蝙蝠のような翼を生やし、逞しい尾を有している。君のサイズ分類は中型サイズである。 移動速度 君の基本歩行移動速度は30フィートであり、また30フィートの飛行移動速度を有する。 暗視/Darkvision 君は60フィート以内の薄暗い光を、あたかも明るい光であるかのように見ることができ、暗闇の中をそこが薄暗い光の中であるかのように見ることができる。君は暗闇の中で色を見分けることはできず、灰色の濃淡しか識別できない。 生来の呪文発動/Innate Spellcasting カンビオンはアクションによってプロデュース・フレイムの初級魔法を発動することができる。それに用いる生来の呪文発動能力は【魅力】である。 フィーンドの祝福/Fiendish Bless 5レベル以降、アーマー・クラスにボーナスを得る。このボーナスは特殊な計算を用いる。この特徴以外の要因すべてによって決定されるアーマー・クラスを算出した後、【魅力】修正値に等しいボーナス(最低+1)を加算するが、このボーナスによるアーマー・クラスは最大でも20までしか上昇しない(元々の要因によって20を超えているなら何のボーナスも得られない)。これはシールド呪文などの一時的な要因による上昇に対しても同様に計算される(シールド呪文による上昇を加算した後で、最大20までの範囲でこの特徴によるボーナスを加算すること)。 言語 君は共通語を読み、書き、話すことができる。 副種族 カンビオンにはフィーンドの片親に応じたいくつかの副種族が存在する。 スポーン・オヴ・グラッズド 特にデーモン・ロードのグラッズドは、フィーンドと契約を結んだ人型生物との生殖行動が大好きであり、多元宇宙のあちこちに混沌を植え付けるべく、彼を手助けする数多くのカンビオンたちの種親となっている。こうしたグラッズドの申し子であるカンビオンたちは、木炭のように黒い皮膚、割れた蹄のある脚、6本の指を持つ手、そしてこの世のものならぬ美しさをその特徴としている。デーモン種に属するクリーチャーは君の放つオーラを通じて即座に君の血筋に気付くであろう。 能力値上昇 君の【知力】の値は1上昇する。また【魅力】の値はさらに1上昇する(合計で2上昇する)。 生来の呪文発動/Innate Spellcasting 3レベルに達すると、オルター・セルフ呪文を発動することができるようになる。この呪文に関する君の生来の呪文発動能力は【魅力】である。いったん使用すると、大休憩を取り終えるまでは再びこれを使用することはできない。 この世のものならぬ美しさ/Unearthly Beauty 君は〈説得〉と〈ペテン〉技能に習熟し、これらの技能を用いた能力判定には習熟ボーナスの2倍を適用することができる。 言語 君は奈落語を読み、書き、話すことができる。 ヒューマン・ボーン 君の片親は人間であり、カンビオンの中では最も一般的な種族である。君は赤い皮膚と大きな角を持つ。 能力値上昇 君は任意の3つの能力値について1ずつ上昇する。このとき、【魅力】を選択するのであれば、種族特徴としての上昇分と合わせて合計2上昇させることもできる。あるいは、特技の選択ルールを採用しているのであれば、能力値を上昇させる代わりに特技を1つ修得することもできる(その場合、カンビオン共通の能力値上昇である【魅力】の1上昇も失う)。 生来の呪文発動/Innate Spellcasting 3レベルに達すると、ディテクト・マジック呪文を儀式として回数無制限で発動することができるようになる。 言語 君は地獄語か奈落語のどちらかを読み、書き、話すことができる。またそれとは別にもう1つの言語も修得している。 エルヴン・ボーン 君のハーフエルフ・カンビオンであり、エルフの親と同じ皮膚の色をしている。君はエルフと同じ成長速度で成長するが、最終的には1,000年以上の寿命を生きる。 能力値上昇 君の【敏捷力】の値は2上昇する。 フェイの血筋/Fey Ancestry 君は魅了状態にされるのに抵抗するセーヴィング・スローに“優位”を持ち、また魔法で眠らされることはない。 エルフ武器の訓練/Elf Weapon Training 君はロングソード、ショートソード、ショートボウ、そしてロングボウに習熟している。 生来の呪文発動/Innate Spellcasting 3レベルに達すると、ミスティ・ステップ呪文を発動することができるようになる。いったん使用すると、大休憩を取り終えるまでは再びこれを使用することはできない。 言語 君は地獄語か奈落語のどちらかを読み、書き、話すことができる。またそれとは別にエルフ語も修得している。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/5733.html
前ページ次ページいぬかみっな使い魔 いぬかみっな使い魔 第21話(実質20話) タイン陣地を撤退したレコンキスタ首脳陣は、敵の追撃をなんとか振り切る ことに成功し、撤退を続けていたものの下がり続ける士気に頭を抱えていた。 「将兵に脱走が相次いでおります!」「いかがいたします、閣下!」 「脱走に歯止めをかけられません!」「かなりが敵に取り込まれております!」 「敵は3万5千ほどにも膨れ上がっている模様です。」 「わがほうの数はすでに2万5千にまで減りました。」 「これ以上の撤退は士気の決定的な低下を引き落とします。」 「さいわいもうすぐスコットランドの主城スコッチ城だ。」 「ここで踏みとどまって反撃するべきだ!」「うむ、そうですな。」 「スコッチ城は防御に適している。」「追撃が迫っているしな。」 レコンキスタは、スコットランドの中心都市にして最も堅固な城砦都市、 スコッチ城を目指し、何とか無事に入城した。一部の部隊はここを 素通りすると、シティ・オブ・サウスゴータに向かっていた。 連合艦隊が残した駐留戦力が申し訳程度に過ぎないと看破し、 一気に取り戻す予定で急行している。そこでも反撃の準備を整える予定だ。 いまだ保有している小さな港もさほど遠くない距離にあり、 そこをレコンキスタ残存艦隊の基地とした。 問題は二つ。 一つは、件の港は小さい規模であり、レコンキスタ艦隊の半分しか停泊できない点。 残りは交代で上空警戒任務に出すしかない。元から撤退援護に必要なので 今は問題ではないが、後々艦を停泊させるため盤木を土メイジに作らせている。 これらは敵が攻め寄せたらすぐに破壊されてしまいかねないものでしかないが、 無いよりはあったほうがずっとましなのである。風石の消耗がまったく違う。 もう一つが、この城に蓄えられた兵糧が心もとないことだ。 サウスゴータに向かった部隊が奪還に失敗すれば。あるいは連合艦隊が兵糧を 奪いつくしていれば。さらに言えば兵糧の輸送に失敗すれば、彼らに未来は無い。 綱渡りのような状況が続いている。 そんな幕僚達の動揺しまくっている中でただ一人、いや、二人だけが泰然と構え、 落ち着き払っていた。まるで、この程度なんでもないとの態度である。 「やれやれ。君たちは、忘れてしまったのかね?」 レコンキスタ首魁、オリヴァー・クロムウェルが一言述べると、 その場がぴたりと静まった。 「…閣下?」 「我々は、旗揚げの直後から、長いこと寡兵で多くの敵と渡り合ってきた。 先日までのようにより多くの戦力で戦えたことなど、ごく最近になってからだ。 この程度の戦力差など、何だというのかね?」 その通りであった。王国軍に始めて勝てたのは、レキシントンの戦場での事。 それまで彼らは、地方の一揆か大き目のゲリラと大差ない存在であったのだ。 彼らレコンキスタは長いこと少ない戦力でより多くの王軍に勝利してきた。 クロムウェルの巧妙もしくは卑劣な作戦と王軍のなかから頻繁に現れる裏切り者の 活躍、豊富な資金と補給によって幾度と無く劇的な逆転勝利を成し遂げてきたのだ。 それまでと比べれば、いまだいくつもの都市を支配し、2万5千もの地上戦力と 大艦隊を持っている状況ははるかに良い。 「な、なるほど。」「しかし、士気の低下は深刻です。」「何とかせねば。」 「さよう、戦いになりませぬ。」「現状では敵が来ただけで降伏しかねませぬ。」 クロムウェルは一つうなずくと、脇に立つ青年と何事か相談し、うなずいた。 「良かろう、閲兵の準備を。私自身が将兵の士気を鼓舞するとしよう。 そう、その時には何か景気付けになるものを。そうだな、演説開始前に 全員に金貨2枚を支給。ワインを一杯与え、演説の後皆で乾杯するとしよう。」 その日の朝。レコンキスタ地上戦力全軍に対して閲兵が行われた。 その場で提供された酒は、一旦とあるテントに集められた。 その作業に従事した人夫達の中に、一人の黒髪の青年が混じっていたのであるが、 誰も特に気にしなかったという。 そう。アンドヴァリの指輪から滴った雫がぶどう酒の樽に入っても、 気にするものはいなかった。クロムウェルは演説と乾杯の後、 全軍の見守る中一人の伯爵を“虚無の魔法”によって生き返らせた。 それを見た将兵達は熱狂的な喝采を上げ、レコンキスタの士気は回復したのである。 マジックアイテムで虚無の担い手を装っているとの噂は、 彼らの頭からきれいに消え去っていた。 第9日目早朝、ランスの港。この時、啓太は一人のゲルマニア商人と会っていた。 「やあ、トルネコさん、良く来てくれました。アンリエッタ姫殿下の軍事教師 をしております川平啓太です。よろしくお願いしますよ。」 「これはご丁寧に、ケータ殿。早速商談に入らせていただいてよろしいですかな?」 「ええ、時は金なり、リソースは常に足りない。手っ取り早いのは大歓迎です。」 戦争とは数の暴力と数の暴力が鬩ぎ合うものである。 現実世界よりも個人の力量差が与える影響が顕著なハルケギニアにおいても それは変わらぬ真理であり、兵多ければ勝利の基本則は変わらない。 作戦で局所的に優位を作り、敵軍の士気や統制を崩壊させて勝利しようとしても、 数の差が絶対的に違えば話にならないのである。 となれば、数の暴力を維持しなければならない。すなわち、膨大な兵員を 食わせるための兵糧、武器弾薬、各種秘薬を必要なだけ集め、与えねばならない。 啓太は、各地で戦利品を獲得させ、大雑把な量で言えば充分すぎるほどの 物資を手に入れさせているのであるが、いかんせん細かいところではどうしても 足りないものが出てきてしまう。そのため、購入という手段も必要なのだ。 啓太は、華々しい戦闘の裏でこういった地味な部分に関しても抜かりなく 手配りをしていた。その一つが、このトルネコという太った大商人との商談だ。 本籍はゲルマニアで、ツェルプストー家の武装商船に混じってただ一隻、 他の商会から参戦している大型武装商船の持ち主だ。アルビオン内にも 多数の支店を持っているとのことで、啓太は大商人トルネコを呼んだのである。 平民出身で魔法がろくに使えないそうなのだが、大手柄を立てて貴族に叙勲され、 立派なマントを羽織ってそろばんの飾りがついたごつい錫杖を持っている。 最近ゲルマニアの商人系貴族で流行っている正義のそろばんという武器だ。 ゆったりとした上着の下には、戦地のためか軽めの鎧を着込んでいるようだ。 体の動きに無駄や隙がなく、歴戦の戦士である事にうなずける。 「このリストが当商会がすぐに供給できる主な商品の品目と量です。 こちらは多少の時間がかかるもの。こちらは確約は出来ぬものの供給できる見込み のある品のリストです。連合艦隊に必要そうなものを選びましたので、 他にもご入用な物がございましたら承ります。物によっては他から買い取る等して ご提供できるかもしれません。」 「ほう、これはすばらしい。これで時間がだいぶ節約できます。 おい、これを頼む。不足物資のリストと照合して(後略)」 啓太は、すぐにリストを薬草クラブ員達に渡し、あれこれ指示を出して 買取物資のリストを作らせ始めた。艦隊の参謀達とはすでにある程度の 相談を済ませ、段取りは整えてある。というより、参謀達のあまりに低劣な 補給計画に関する能力を知ってしまい、泣きたくなってしまってから数日たつ。 以後啓太は、各種の現代的な補給計算法などのレクチャーを 姫様や薬草クラブ員達はおろか将軍や提督、参謀達にする羽目になった。 この時代、補給計画とは将軍や提督の経験則による非常に大雑把なものでしかない。 正面戦力の必要物資の量等は割と正確に推し量れても、必要物資が距離や時間 などにより幾何級数的に増える事や、攻撃力が距離の二乗に反比例して減る事も あまり理解されていない。そんな連中を教育して補給計画立案の補助まで しなければならないのだから事実上の作戦参謀たる啓太の負担は 相当なものである。ストレスも溜まりやすいといえる。 しかし啓太は、とある事情からストレス解消の最大の方法を失っていた。 故に、ある種のイジメを薬草クラブ員達にすることでストレス解消をしていたのだ。 だが、それも限界に来ていた。これ以上は啓太とクラブ員、双方が持たない。 ゆえに。 啓太は、薬草クラブ員達にとある褒美を与えることを計画していた。 啓太の前述した悩みゆえにちょっとばかり伸びていたのであるが、 リストの中に書いてあったとある品名に気づいた時。 「これは!」 バ イ ア グ ラ !! ご褒美の即日渡しが1ミリ秒で決まった。 いや、秘薬の名前自体はもっと別のものだ。しかし、自動翻訳能力を 付与された啓太のノウミソは、その比較的レアな秘薬の効果を理解したとたん、 バイアグラという名前以外には認識できなくなった。 なってしまったのである。 「おや、ケータ殿、なにか秘薬のリストに問題でも?」 啓太が突然大声を上げたので、トルネコは心配そうに聞いてきた。 薬草クラブ員達も手を止めて啓太のほうを見た。 「い、いや、それほどの事ではありません。おいみんな、作業の手を休めるな! 物資の調達と輸送にはどうしても注文してからタイムラグが生じる。 となればあらかじめ手配しておかなきゃ必要なときに物資が 届いていない事になる。物資の不足は戦場で致命的な隙をさらす 原因となる事はわかるだろう。時間との勝負だ、急げ!」 「「「「サー・イエス・サー!」」」」 啓太の一喝に、薬草クラブ員達は作業を再開した。 「見事な統制ですな。トリスティン魔法学院の生徒達は、みなこのように 即戦力となる優秀なものたちばかりなのですか。素晴らしいですな。」 トルネコが、感心したように言う。 「ええ、優秀です。即席で叩き込んだんですが、皆訓練にかじりついてくれます。 うん、がんばってくれてるし、これは例の褒美をやらないとな。」 「「「「(キュピーン)!!!!」」」」 突然機嫌が良くなった啓太の言葉に、薬草クラブ員達の目が光った。 啓太の言うご褒美とは、高確率でエロイ事関連なのである。 間接的にエロイ事、すなわち女にモテるために有用な金や知識の供与等も含めれば その確率はさらに高くなる。その啓太が提示した今回の褒美は。 ある意味非常にでかかった。 薬草クラブ員達は、さらに猛然と作業を進めた。 「ほう! これはこれは。トリスティンの優秀さを垣間見させてもらいましたよ。」 トルネコがさらに褒める。 「はは、褒めすぎですよ、トルネコさん。さて、話を商談に戻しますが。 その、こちらの入手が不確実な秘薬のリストについてですがね。」 啓太は、勤めてさりげなくトルネコに探りを入れた。 「なんでございましょう?」 「ええ、ここからここまでの秘薬が欲しいのですが。量は、これくらい、かな。」 啓太は秘薬リストの一角を指差し、取り出した別の紙に品目と量を書いていく。 「どうです、いつぐらいまでにお願いできますか?」 啓太の目は、大いなる期待に輝いていた。 「そうですな、アルビオンの親交の在る商会と交渉して手に入り次第、ですな。 ものによっては私自身がダンジョンに直接もぐって探してきます。 期待されても困りますが、早ければこの期日、遅ければこう、(中略)それ以降は 短期間ではまず難しいためにですな、値段は(後略)」 「ふむ、おおよそ(後略)」 ダンジョンに自ら乗り込んで商品を手に入れるという、商人としては およそありえない発言であったが、地下深くの洞穴でのみ手に入る秘薬も 注文リストにあったので、啓太は特に気にすることもなく詳しい商談に移った。 そして。 勤めてさりげなく、バイアグラ(仮称)の注文交渉を織り込んだのであった。 そして。それからしばらくの後。 すなわちアルビオン上陸9日目の朝、ランス港郊外。 啓太は、数十人の漢達を前に、訓示を垂れていた。 「諸君! ついにこの日が来た!」 マントをまとったメイジ達が整列する前を、威圧的にのし歩く。 「4つのレコンキスタ艦隊を撃破し、4つの港を陥落せしめ、 レコンキスタに占領されしロンディニウムを襲撃して捕虜を奪還し、 各地の資源集積地を襲って軍需物資を手に入れ… 我々トリスティン軍はまさに獅子奮迅、連戦連勝街道をひた走った!」 集まった漢達の顔に、強い誇りと自負が浮かんだ。 1週間前には祖国を小国と揶揄していた卑下の色は、もはやかけらほども無い。 「アンリエッタ姫はアルビオン王女として、アルビオン親征艦隊司令に正式になり、 レコンキスタから開放された多くの艦艇と人員が、ゆるぎない忠誠を誓ってくれている!」 先日、念のためにと啓太が正式な辞令をアルビオン国王ジェームズ一世に 求めるように進言し、直ちにその辞令と、アルビオン王国王位継承権 第2位の認定書が送られてきたのだ。これによって、トリスティン艦隊は 名実共にアルビオン王女の直卒する親征艦隊となり、寝返ったアルビオン艦隊への 正当な指揮権が発生し、取り込み工作は実に簡便な作業へとなった。 さらに、新たな“国王候補”が誕生した事により、多くの変化が在った。 王国を滅亡させるためには国王と皇太子、首都の3つを同時に押さえねばならない。 首都は押さえ、二人をすでに追い詰めている…はずだったのに、 強い戦略眼と指揮能力、巨大なカリスマを持(っているようにみえる)ち、 巨大な戦力を手にしたアンリエッタという皇太子の予備が出現したのだ。 これをも倒さねば目的を果たせないのだからレコンキスタは消沈もする。 逆にアルビオン陣営には希望と士気の上昇がもたらされていた。 今では、レコンキスタをきりきり舞いさせている“強い王女”が。 “未来の強い女王候補”が予備として存在しているのだ。アンリエッタ王女は、 敵の後方霍乱のみならず、ガリア傭兵3千と補給物資を送ってくれ、 両軍が対峙している戦場にも一度現れ、レコンキスタ艦隊に損害を与えてくれた。 アルビオン将兵の彼女への信頼は、すでに熱狂の域にまで達していた。 それらの作戦を練り、提示することで、軍師としての地位を確定しつつある “アンリエッタ姫の軍事関連教師”である啓太は、戦闘の合間の補給と 休養のこの日…ナゼか、意欲満々な連中を前に訓示を垂れている。 「全ての作戦は、全ての戦闘は、今日この作戦の為の準備でしかなかった!」 全員、それを知って作戦の協約に署名した、固い結束を持つ連中だ。 中には、元帥の息子たる土のトライアングルメイジまでいたりする。 「わずかな齟齬が、この作戦の失敗にと繋がる。故に、間違いは許されない! 全員、充分な睡眠をとり、必要な秘薬と道具を用意してきているな!?」 啓太は厳しい目つきで、薬草クラブ員を中心として、 同じ志を持った王軍や空軍の高級士官たちを見つめる。 「段取りはきちんと頭に入っているな? よし、では、作戦開始!」 かくして、彼らは… アンリエッタ王女殿下が最初に入る事になる『 お 風 呂 』 の新築作業に入ったのであった。 事の起こりは、ラ・ロシェールに到着した晩に船上で一泊した時に遡る。 フネを降りて、女神の杵亭にて休もうとしたアンリエッタ達女性陣を、 マンティコア隊隊長ド・ゼッサールが止めたのだ。 「殿下。現在ラ・ロシェールにはレコンキスタに雇ってもらおうと アルビオンに向かう傭兵が多数おります。さらに、レコンキスタの間諜も 多数潜んで虎視眈々と監視をしております。アルビオンに攻めあがるには、 ここを拠点とする事になりますからな。となりますと、レコンキスタへの 示威行為をしているトリスティン艦隊は敵とみなされましょう。 暗殺を警戒せねばなりませぬ。襲撃しやすい地上の宿では危険すぎます。 ご不自由をおかけしますが、今夜は船室でお休みください。」 最もな話である。啓太も、すぐに賛同した。収まらないのはルイズだ。 「それでは姫様がお風呂に入れませんわ! それにベッドにせよ食事にせよ姫様に ご不自由をおかけすることになるますわ! 警備を強化すればよい話でしょう!」 これも最もな発言だ。王女となれば身奇麗にしてその美貌を公開するのは公務だ。 美しい姫のために、と将兵は勢いづき、士気が上がる。 薄汚れた姫では士気が上がらない。これは戦術上の大問題なのだ。 姫様付きの女官となればその辺りを心配するのは責務である。 「そこは濡れタオルで拭いて洗面器で髪を洗うなどしていただいて、ですな。 工夫していただきたい。無論、入浴券は数倍お出し出来ますので。」 船の上における入浴券とは、銭湯のチケットとは違う。 洗面器を持って所定の場所に行くとお湯を一杯くれる、というものだ。 洗面器一杯のお湯で口をゆすぎ、顔を洗い、体を拭かなければならない。 量が少ないために結構コツがいる。船の上では水も燃料も貴重で、 水兵程度なら週に1枚、下士官で2枚、士官で数枚という配給態勢だ。 蒸気船時代以降の海軍であれば話は別だ。蒸気機関の余熱で海水を温め、 毎日でも風呂に入れるのであるが、ここはハルケギニア。 空の上では海水すら入手は難しく、雨を集めてわずかに風呂用水にしている。 港で停泊中といえど水事情は余りよくない。世界樹が生えるのはなぜか 岩山の上で川が遠い上に井戸を掘っても岩又岩。人工的に作られた鉄塔の港でも、 さびを防ぐために乾燥した土地が選ばれる。港は真水を得にくいのだ。 故に水はまず飲料水、それも長期移動のフネに積み込む飲料水に回される。 港は農業に今ひとつ適さない事が多いから生鮮食料も遠くから運ぶ事になる。 必然的にフネでは飲み水は配給制となって1日の量が決まっており、 食事も出航後日が経つにつれ生鮮食品が減り、カビや虫の沸いたビスケットと 硬い乾燥肉だけ、なんて事になる事が多い。 だから上陸して思う存分飲み食いでき、ゆっくり風呂に入れる上陸は、 船乗りにとって何よりの休暇であり娯楽なのである。 意外な事に女を抱けるから、というのはあくまで副次的な理由なのだ。 ちなみに、庶民は蒸し風呂に入るのが普通だが、蒸し風呂は出た後冷水を 大量にかぶるのが常だ。垢をこすり落とすタオルをゆすぐのにも水が必要だ。 蒸し風呂だから温水は少なく済んでも水が大量に必要なのは 風呂に共通する補給上の問題なのである。 なおも抗議していたルイズに、啓太が懇々と諭した。 「ルイズ。これから姫様は当面こんな状況が続く事になる。 なにしろ、俺たちはレコンキスタの勢力圏に殴り込みをかけるんだ。 敵地で油断は出来ない。ずっと船にこもってもらうことになる。 幸い今日は、味方の港にいる。失敗してお湯を使いすぎても、 港から多少は補充できる。訓練のためにはいい条件だ。がんばれ。」 「それは…」 まっとうな事を言われて、言いよどむルイズに、アンリエッタが声をかけた。 「ルイズ、ルイズ、私のルイズ。国を守り民を守るは王族の義務。 そのために戦地におもむくことも義務。ほうっておけばアルビオンを 蹂躙した後に、トリスティンに襲い掛かるであろうレコンキスタを倒し、 後顧の憂いを払うのも義務。幸い私は、勝利の目算を得られた上で 戦いに望む事が出来るのです。望外の幸運です。わずかな不自由が 何だというのでしょう。この程度、甘んじて受けねばなりませぬ。」 「姫様…!!!」「きょろ~!?」 毅然としたアンリエッタに、ルイズは尊敬と感動の眼差しを浮かべた。 二人して試練に打ち勝つのがどーのこーのと手を取り合って感動している。 その二人を見て、ともはねが 「お姫様、かっこいいです!」 とうんうんうなずいていた。 その脇で啓太は、暖かいまなざしで彼女達を見守っていた。 生徒が成長していくのを見るのは、師として実にうれしいことだからである。 (「とはいえ、こんな不自由をいつまでもさせるわけに行かないよな。」) うれしくなった啓太はそんなふうに考えた。 そして啓太は、さらに考えを進める。 (「早めに姫様だけでも帰れるようにするか? ごく短期間の援護だけして 後はアルビオンに自力でがんばってもらえば…いや、それだと領土を得られない。 となると、絶対に暗殺されない方法でお風呂に入ってもらう? キュルケみたいに小型のバスタブを持ち込んで入るとか? 姫様が満足するかな? 宿で暗殺される可能性の要素はアレとコレとソレと…あ!」) 啓太が、残り湯大作戦なるものを思いつき、色々と画策しだしたのには。 こんなきっかけがあったのであった。 「と、いうわけでだ! 有志を募りたい!」 ある日啓太が執務室で計画を打ち明けると、皆が一斉につり込まれ、たりはしなかった。 「浴場を作って、褒美に二番風呂を使わせてもらう?」 「覗き部屋を作るわけでもないのにそんなかったるいことはなあ。」 「姫様たちの後に入れるだけじゃあ、さすがにやる気が起きないよ。」 「そりゃまあ名誉といえばいえるけど、2番風呂ってだけだろ?」 口々に否定の言葉を吐く薬草クラブ員達に、啓太はちっちっちっと指を振った。 「わかっていないな、君たち。2番風呂には入れるって事はだ。いいか。」 機密保持のために盗聴防止魔法を常動でかけているのに、 さらに耳を寄せさせ、声を潜めて言う啓太である。 「例えば。姫様が使った洗面器やタオルで、体を洗える!」 「おお!?」「なに!?」「姫様の洗面器で!?」「それは!」 早くも数名の男子が、前かがみになった。 「さらに。王族が入るとなれば、当然風呂用椅子を用意するよな?」 「あ、ああ。」「そ、そうだな。」「う、うん。」 「当然姫様はその椅子に座る。湯着だけのお尻で座る! 2番風呂となれば! その椅子にほお擦りなんか出来ちゃうんだぞ!」 湯着とはいわゆる脇や下が大きく開いていて体をこするタオルなどを 入れやすい、うすでの服だ。申し訳程度に体を覆う布地の裾は短く、 当然ながら下着=ぱんつはつけず、事実上椅子には生尻で座ることになる。 「「「「「う、うおおおおおおおおおおお!!!!!」」」」」 雄たけびが上がった。 すでに、ほぼ全員が前かがみである。 「さらに。あの高貴なアンリエッタ姫だけでなく、キュルケやタバサ、 ルイズなんかも一緒に入ってもらう予定だ。お姫様二名に女官が二名。 あとは、護衛としてともはねにも行って貰うかな。よりどりみどり!」 「「「「「う、うおおおおおおおおおおお!!!!!」」」」」 再び雄たけびが上がった。 「そしてもちろん! 風呂の残り湯、すなわちアンリエッタ姫たちが その身を浸し、汗を流した浴槽のお湯は、俺たちが好きにしていいわけだ!」 「「「「「う、うおおおおおおおおおおお!!!!!」」」」」 三たび雄たけびが上がった。 「そそそそ、それは、匂いをかいだりしてもいいのか!?」 「おう、嗅げ嗅げ!」 「ひ、姫様のあんなところやこんなところを浸したお湯を触っても!?」 「おう、触れ触れ!」 「あああああ、あまつさえ、のののののの、飲んだりしても!?」 「おう、飲め飲め!」 「ううううう(鼻血)」「す、すごいよ啓太君!」「い、生きてて良かった!」 「一生ついていきます!(鼻血)」「先生と呼ばせてください!(鼻血)」 「俺は今、モーレツに感動している!(滂沱の涙)」「俺もだ!(滂沱の涙)」 「お、おれ、一生壷に入れて宝物にするよ!」「俺も!」「おれも!」 「おう! 土メイジに頼んで固定化かけてもらいな!」 このあたり、純情な童貞少年達の心理を見事に突いた啓太の作戦勝ちである。 なお、建築員たちは童貞ではなくなっているものも多いが、1回のみな上に 素人童貞であることには変わりが無かったりするので注意されたい。 熱狂の最中とはいえ、中には冷静な奴も少しはいる。 金髪の風メイジ、レイナールが疑問を呈した。 「で、でも、それだけの物を建てるとなると、結構秘薬がいるよ? それに、数時間で作るとなると、さすがに僕達だけじゃあ数が足りない。 それに設計図は? 装飾は申し訳程度で質実剛健に行くとしても、 必要なものは結構多いよ?」 「大丈夫だ。設計図は風呂屋作ったときのを取ってあるし、秘薬も在る。」 啓太は、自信たっぷりに言った。 「人数は、集めればいい。お前達は名門男子だ。コネはあるだろう? それに、いくらなんでも俺たちでお湯を使いきれるわけが無い。 残ったお湯は一般水兵さんたちなんかにも分けてやらくちゃな。有償で。」 「それは!」「な、なんだかものすごく高く売れそうだな!?」 「下手をすれば1万エキュを超えるお金になるかも!?」「うん!」 「1万で済むか、売り方によっちゃ軽く数万になるぞ!」 「それって城が買えちゃわないか!?」「田舎なら結構な領地が!?」 「おい、コレってかなりすごくないか!?」「すごい!」 口々にうなずきあう男の子達である。 「あとな。お湯の処理が終わった後は、そろそろともはねのシャンプーを してやらなくちゃいけない時期だな、と思ってるんだが、 何分時間は節約しなきゃならん。お前らと一緒にいれさせていいか?」 「「「「「う、うおおおおおおおおおおお!!!!!」」」」」 今まで出最大の雄たけびが上がった。 それまで興味なさそうにしていた連中を中心として。 前ページ次ページいぬかみっな使い魔