約 1,317,259 件
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/3667.html
「何処に目が光っているか分かりません。パーティーが終了してしばらくしたら、ご相談があります。 ルイズ、ワルドとともに、学院長室に集合してください」 アンリエッタ姫殿下は、珍しく真剣な表情で、らんまにそう告げた。 やがて『フリッグの舞踏会』は終了し、ルイズたちは自室に引き上げ、地味な服に着替える。 良牙はワルドの攻撃でダメージを負っていたため、ブタのまま秘薬を塗ったあと、タオルで巻いて寝かせた。 こいつの異常な生命力なら、数日すれば治るだろう。いずれ一緒に地球に帰らなくては。 そして深夜。三人は密かに、学院長室の前に集合する。 「俺とルイズと、ワルドか。何の相談だろうな」 「さあ、あの方はいつもこんな調子よ。おちゃらけているかと思えばぱっとシリアスになって、 枢機卿も顔負けの政治的判断をやってのけたりするそうだもの。 王族はそんなもんじゃなきゃ、やってられないのかもね。ガリアの無能王もそうなのかも」 「頼もしいじゃないか。我々がお守りする甲斐のある方ってことさ」 中からオールド・オスマンが『魔法探知』の呪文をかけ、本人確認をしてから入室を許可する。 アンリエッタとマザリーニ枢機卿が三人を出迎えた。まずマザリーニが口を開く。 「ようこそ皆さん、お呼び付けして申し訳ない。しかし、ちと大事でしてな。 ここは学院で最も結界の強い場所の一つ、密談にはちょうどよろしい」 学院長秘書が怪盗をやっていた、なんて環境だが、まあ常識的にはそうだろう。 「このワルドも、ということは、何か荒事ですかな? 品評会の優勝者もおいでですし」 「ええ、お察しの通りですわ、ワルド子爵。ミス・ランマも荒事には向いておられるようですし、 ルイズは私のお友達。こんなことを頼めるのは、あなたたちだけ……」 そう言うとアンリエッタは、ぽろぽろと涙を零し出す。オスマンが話を受け、続ける。 「あー、わしがちょいと話を進めておこう。アルビオンで貴族の反乱が続いておるのは知っちょるな? 最新情報によれば、もうアルビオンのほとんどは貴族議会派の反乱軍《レコン・キスタ》に占領され、 《王党派》は国王陛下及び皇太子殿下とともに、国の端のニューカッスル城に篭城しておられるとか」 アルビオン。空に浮かぶ島国で、トリステインと同じぐらいの大きさがある古い王国。 その程度のことなら、らんまも噂話に聞いていた。 「その王様たちを、救出すりゃーいいのか?」 「ランマ、敬語よ敬語っ。誰の御前だと思ってんのっ」 マザリーニが痩せた指で口髭をひねる。 「さて、そこが政事の難しさ。アルビオンのテューダー王家は我が国の王家とも血縁関係にあり、 救出して差し上げたいのは肉親の情。それに奴らの唱える『貴族共和制』だの『聖地奪回』だの、 ハルケギニアの統一だのといった理想主義は、諸王国にとって見れば既成秩序を根幹から揺るがす思想……ふぅ」 と、ひとつ溜息をつく。 「さりながら、陛下や殿下を亡命させれば、強大な《レコン・キスタ》と正面から戦わねばならぬ。 残念ながら我がトリステインは軍事的には弱小国、彼らの空軍には敵わないだろう」 アンリエッタは涙を拭き、ようやく口を開いた。 「なんとか王族の亡命の手助けをしようと、ガリアやゲルマニアにも打診したのですが、 空の上を攻めるのは、かなりの難事業。なかなか色よい返事はもらえません。 もはや《王党派》の運命は、神と始祖ブリミルにお任せする他ありません。彼ら自身もそう願っているようです」 「では、我々は何をすればよろしいので?」 「テューダー王家が滅びようと亡命して来ようと、《レコン・キスタ》の次の狙いはこの小さなトリステインでしょう。 国家防衛の布石として、私は近々、ゲルマニア皇帝アルブレヒト三世に嫁ぎます。 両国が連合して、《レコン・キスタ》の侵略行為を押さえ込もうという戦略です」 「何ですって!? あの野蛮な成り上がりどもと!?」 「これは国策だ、ミス・ヴァリエール」 叫び声をあげるルイズを、マザリーニが静かにたしなめた。オスマンも無言で肯く。 「……けれど、それには一つ、障害があるのです。 私は以前、アルビオンのウェールズ皇太子に一通のお手紙を差し上げました。 他愛もない、幼い少女の恋文。けれどそれが公表されれば、ゲルマニア側は婚儀を拒むかもしれない。 あなた方は、その手紙を取り戻すため、アルビオンへ潜入していただきたいのです」 「恋文……では姫様は、ウェールズ殿下のことを……」 「勿論、かの地は戦場。道中にもいろいろ危険はあろう。また公表できぬ任務ゆえ、表立っての褒美はやれぬ。 しかし、これは我が国を守るための……」 グダグダ続くマザリーニの話を遮り、らんまが声をあげる。 「おーし、分かった。手紙は取り返してくるし、王様も皇太子も救い出してくる。 姫様と皇太子が婚約して、一緒に《レンコン喫茶》とやらをぶっ潰しゃあいいんだろ」 ルイズも皆も、思わず唖然とする。何だレンコン喫茶って、いやそれより。 「……ランマ、だからねえ……」 「俺にゃー、困っている人は見殺しにゃできねえ。政治の話はよくわかんねえし、 もし王様の方が悪玉なら、ぶん殴ってでも改心させてやらー。それで万事解決だろ?」 自信満々で、敬語も使わないらんまが『にへっ』と笑う。それを見て、アンリエッタも微笑んだ。 「私は、一人の女である前に、国の責任者。私のエゴでこの国を戦火に晒したくはないの。 ……でも、助けられるものなら助けて差し上げたいわ! 愛しいあの方を! それに反乱軍は粗野で乱暴で、蛮族や亜人まで手下にした《ならず者ども》だって聞いているもの!!」 「へへっ、そのセリフが聞きたかったんだ。大丈夫、愛と正義は必ず勝つもんですから」 ワルドが感心した様子で、顎鬚を撫でる。 「……ま、ミス・ランマの言う事も、よく考えればもっともです。 どうせ奴らが攻めてくるなら、不遜ながら《王党派》を抱えていれば、錦の御旗になりますぞ。 我らはアルビオンの王家を助け、王政復古のために戦うのだ、と。他の国々の賛同も得られるでしょう」 アンリエッタはマザリーニやオスマンとしばらく相談し、再びルイズたちに向き直る。 「では、改めてお頼みいたします。ルイズ、ワルド子爵、ミス・ランマ。 できる限りのことをして、彼らを残酷な運命から救い出してください。けれど、あなたたちも命を大切にして下さいね。 ルイズは私の、ただ一人の《お友達》ですもの!」 そう言うと彼女は、身分証明の代わりに、指に嵌めていた『水のルビー』の指輪をルイズに渡す。 トリステイン王家の秘宝で、アルビオンの王家には『風のルビー』が伝えられているという。 「アルビオン行きの船が出るのは、月に何度か訪れる『スヴェルの夜』の翌日。次の便まであと五日ほどあります。 港町ラ・ロシェールまでは早馬で二日ほど。急がねばなりませんが、まだ準備が必要かも知れません。 我々はひとまずトリスタニアに帰ります。ワルド子爵は学院に残り、出発の準備を整えてください」 「承知いたしました、姫殿下、枢機卿」 ぞろぞろと学院長室から出て行くアンリエッタたち。しかし、くるっと彼女は振り返る。 「あ、それと、ミス・ランマ」 「はい?」 「鉄の棍棒のジュリエットちゃんは、もう私のものですわよ」 「ああ、いーですよもう。戦う時は、峰打ちでデルフリンガーを使いますからっ」 翌朝。姫殿下一行はようやく、王都トリスタニアへ帰還する。オスマンも用があるとかで、秘書と一緒に王都へ向かう。 馬でも三時間ほど、昼には王宮に到着するだろう。学院は緊張感から解放され、いつものように騒がしい。 だが……。 「え? シエスタさんが、学院を辞めた!?」 メイドのシエスタの姿がない。らんまが使用人たちに訊ねると、昨夜貴族に連れて行かれたのだという。 「あ、ああ……姫殿下の一行にいた、モット伯っていやらしい中年貴族にさ。 行儀見習いなんて言ってたけどよお、どうせ《お妾》だよ、あのスケベ野郎の慰みものに……!」 「宮廷の勅使もしているそうだけど、いい噂聞かねえんだよなあ、あのくるくる眉毛」 「何人も平民の女ばっかり集めて、ハーレム作ってんだってよお! けっ、いけすかねえ」 「まあ仕方ねえべよ、貴族に逆らったら平民は生きていけねえ……」 「マルトー親父も、娘みてえに可愛がってたのによお。よく気のつく、いい娘だったもんなぁ。 あんなのにかどわかされちまって、親父も塞ぎこんで寝込んじまったよ」 学院の使用人からの評判も、あまり芳しくない人物のようだ。悪い貴族の、見本のような親父なのだろう。 「マルトーのおっさん!! 本当か、シエスタさんが……」 「おお、ランマか。『我らの剣』よ、本当さ。まったくいやな世の中だぜ、貴族ばっかり威張りやがって。 そりゃ貴族の魔法はすげえし便利だけど、平民あっての貴族じゃあねえかなあ、ちくしょう」 ベッドに臥せるマルトーの声は弱々しい。ずい、と近くの使用人にらんまが詰め寄る。 「おい、使用人を辞めさせるんなら、学院長の許可が必要なんだろ! あのじじいは何してくれてんだ!!」 「し、知らねえよ! 俺らみてーな下っ端が、そんな事知るかよ!! どーせカネか女か、女の下着で釣ったんだろうぜ。どっちもセクハラじゃあ知られてる。 シエスタは、物みてえに買われていって、あいつに飼われるのさ」 へっ、と笑った使用人を、らんまは張り手で吹っ飛ばした。 らんまの顔が、怒りに燃えて赤く染まる。シエスタは恩人であり、平民の仲間であり、なにより普通の女の子だ。 そんな女の子が、変態親父にいいようにされるなんて、想像したくもない。 「どこだ! その変態貴族の屋敷は!! 俺がシエスタさんを連れ戻して来てやる!!」 モット伯の屋敷は、学院から一時間ほど歩いたところにあった。そこへ近付くのは、二人の少女。時刻は昼過ぎ。 「なあ、やっぱりルイズがついて来ることはねえって。授業サボったんだろ?」 「ふん、あんたは私の使い魔じゃないの。一人で外をフラフラしちゃいけないわ。 モットはスケベ親父でも伯爵よ、連れ戻すための交渉だったら、公爵家令嬢の方が箔がつくでしょ。 それに身柄を買い受けるなら、おカネがいるんだし。なんならワルドを呼んできて、実力行使させようかしら」 らんまが苦笑する。女の敵、ということで、男嫌いのルイズもこの件には立腹しているようだ。 「そんなのは、俺がやるよ。さすがにデルフは持ってきてねーけど、中に入りゃあ武器ぐれーあるだろうし。 それにワルドにはあんまり関係ねえ話だろ。大体、正面から頼もうって言って返してくれるわきゃねえよ」 「まぁ、そうだろうけど……」 「じゃあ、潜入用にこれ着てくんねーかな。髪は纏めて、こんな感じにして……」 二人はメイド服を着込み、使用人になりきる。らんまは手馴れたものであった。 ルイズに話をさせるとボロが出るので、らんまが門番に近付くと要件を告げる。ぶりぶりのぶりっ子演技で。 「ああ? モット伯さまにお会いしたい? なんだ、てめえら?」 「あのっっ、私たちは魔法学院のメイドなんですけどっっ。 昨夜モット伯さまが、ここで面倒を見て下さるとおっしゃられたので、急いで来たんですぅ。 ここに連れてきて下さった人は急ぎの用事があるとかで、もう帰ってしまわれてぇ。お屋敷に入れて下さぁい。 それであの、シエスタさんって人が、先に来ているはずなんですうっ」 ルイズは、あまりのらんまの豹変ぶりに頬を引きつらせる。初老の門番は特に怪しみもせず、門を開いた。 「はぁん、伯爵さまの慰みものが、また来やがったか。可哀想になぁ。 ほれ、入っていいぜ。武器なんか持ってねえだろうし、持ってたっておめえらなら、どうってこたねえしよ」 屋敷の中は広くて豪勢だが、あまり人はいないようだ。さらわれた女の子たちは、地下にでもいるのだろうか? 「あっさり潜入できたわね。でも、どーすんの? モットのとこへ踏み込んで、コキャッと始末しちゃう?」 「始末はしねーって。ひとまずシエスタさんを取り戻せばいいんだ。 まあ股間を使い物にならなくするぐれーは、そのあとで当然しとくけどな。 ……あのっ、そこのかっこいいお兄さんっ。モット伯さまはどちらかしらっ(きゃはっ)」 「あんた、立派に女の武器を活用してるじゃない。……私だって、もう少し胸があれば……」 モット伯やシエスタたちは、昼間から地下の大浴場で沐浴しているらしい。なんと不埒な、破廉恥な。 らんまはとりあえず、壁に掛けられていた剣と短剣を拝借し、武器にする。ルイズには一応、杖がある。 「この階段を降っていけば、大浴場か。教訓を踏まえて、下に男物は着ているけどよ。 ……そういや、モットも当然メイジだよな。何使いだっけ?」 「確か、水のトライアングルよ。二つ名は『波濤』。数年前に奥さんを亡くしてから女狂いみたいになって、 平民の女の子を掻き集めているそうよ。表面的には『行儀見習い』ってことで、それは認められてはいるわ。 でも、もう何十人といるはずなのに、誰もこの家から戻ってこないとか……」 二人の背筋がぞぞっとする。まさか、死体で人形を作っているとか、悪魔の生け贄にしているなんてことはあるまい。 きっと、多分。ただのヒヒ親父だ、それで充分だ。 しかし、そこへ絹を裂くような乙女の悲鳴が響き渡る!! 「ランマ! あの声は!」 「ああ、シエスタさんの声だ!! 地下から聞こえてきたぜ!」 らんまは『ガンダールヴ』で強化された脚力を用い、ルイズを抱えあげて地下へ走る! ばんっ、と大浴場の扉を開けると、大きな浴槽にお湯が張ってある。そこには異様な怪物がいた。 身長は2メイルほど。体は赤黒くて体毛はなく、ぬらぬらとした粘液に覆われ、血管が無数に浮き出ている。 眼はぎょろりと大きく飛び出して鼻はなく、大きな口には牙が並ぶ。まるで蛙人間、いや半魚人だ! そいつの大きな右手の指が、裸のシエスタの右腕を掴んでいた。取って食おうというわけらしい。 「きゃ、きゃあああああ!!? なに、なにこの化け物!?」 「シエスタさんっっ!! くそっ、間に合え!」 らんまが短剣を投げ、怪物の右手首に突き立てる。怯んだ隙にらんまは剣を振りかぶって跳躍し、右手を切り落とす! シエスタは気絶して、お湯を浴びて男になった乱馬の胸に倒れこむ。怪物はおぞましい叫び声をあげる。 三人は怪物から距離を取り、浴槽から上がった。 「何なんだ、こいつは!? おいモット、どこだ!!」 「し、知らないわ。こんなの、私は知らない。本で読んだ事もない」 蒼白な顔をしたルイズは、メイド服を脱ぎ捨てた乱馬の腕にしがみついた。歯の根があわない。 浴場の奥の方から、男の声がした。中年の貴族、モット伯だ。 「それはな、『なりそこない』というんだよ、お客さんがた」 「も、モット伯! あんた、ここでいったい何をしているの!?」 モットはそれに答えず、静かに、呟くように喋る。豪奢な服を着ているが、よく見ると眼が少し、ぎょろりと大きい。 「水の国トリステインの北の端、ダングルテール(アングル地方)に小さな村があった。 そこに数百年前、いや千年も前だったか、人魚(マーメイド)が漂着したそうだ。 上半身は女、下半身は魚。醜いものも美しいものもおるが、その本性は人食いの化け物……」 モットは浴槽から短剣を拾い上げ、自分の手首に切り傷をつける。 「その肉を食らえば不老不死となり、死ぬほどの傷を受けても必ず治る、とか」 その傷は、すうっと塞がり、瞬く間に消えた。 (続く)
https://w.atwiki.jp/msrw/pages/80.html
第9弾 百式 クィン・マンサ ガンダムサンドロック改 フリーダムガンダム エターナル プロヴィデンスガンダム カラミティガンダム ストライクダガー EI-01 EI-27 EI-28 キングキタン 宇宙怪獣・上陸艇 宇宙怪獣・合体怪獣 ムゲ・ゾルバドス ダリウス大帝 ムーンコンドル オコゼニア 期間限定追加ロボット Zガンダム ZZガンダム キュベレイMk-II(エルピー・プル専用機) νガンダム ジャスティスガンダム ガンバスター ヱルトリウム 試験初号機 仮設5号機 正規実用型2号機 ガウェイン 蜃気楼 斬月 神虎 ランスロット・アルビオン ガイキング ライディーン
https://w.atwiki.jp/creationwords/pages/88.html
アルビノ 英語:Albino メラニン色素が欠乏した遺伝子疾患をもつ個体の名称。 概説 遺伝情報の欠乏により酵素が不活性となり、メラニン色素(黒色・赤色のもと)が生成されないことで起こる疾患。肌は白色傾向にあり、目の色も青色や灰色といった色になる。動物全般で発生し、人間での発生率は2万人に1人と言われている。また、動物のアルビノ個体で印象的な赤色の目は、アルビノで必ずしも発生するわけではない。 差別問題 アフリカを始め、いまだにその外見の違いから差別が絶えない。
https://w.atwiki.jp/imperatorgiren/pages/448.html
ジョン・コーウェン 番号 階級 NT値 戦艦 航空 車両 MS MA 041 少将 ○ ○ × ランク 指揮 魅力 射撃 格闘 耐久 反応 E D C B 15 13 11 8 10 7 A 16 14 12 9 11 8 S 参入条件: アライメントゲージが大きくLAW寄りで加入 味方会話キャラ: 敵戦闘時会話キャラ: 友好キャラ: 専用機: 寸評: 超有能な指揮官兼艦長で総大将であるブレックスの能力を(魅力を除いて)上回る。 そんな彼の欠点はずばりブレックスの存在感を奪いかねないと言う事。 最低でもアルビオン、出来ればそれ以上の戦艦に乗せて第一線で活躍させたい。
https://w.atwiki.jp/samarqand1800/pages/54.html
概要 パカンダ諸王国連合の建国者。元はイレミ・トライアングルの一氏族の長であったが、七代目政権下のウマムスタンからの支援を受けて力を蓄え、ブガンダ連邦の内戦発生と共に、軍を率いて介入し地域に安定を取り戻すとともに、自身は帝皇の座に上り詰めた。 主な身分 シンボリ皇王国帝皇→パカンダ諸王国連合初代帝皇(諸王の王) パカンダ諸王国連合(ブガンダ連邦)二代目大統領(1968-1990年) パカンダ諸王国連合(ブガンダ連邦)首相(1963年‐1990年) 諸王国会会長 シンボリ族族長 作中の動向 + ... 前史 パカンダ諸王国連合は南ヌビア(アザニア)とブガンダ地域に大きく分けられる。 そのうち、南ヌビアは1877年にアルビオンによって占領され、1947年のジュバ会議で北ヌビアと一体となって独立する機会が訪れたが、救世教徒が人口の多くを占める南部と啓示教徒が人口の多くを占める北部とでは宗教対立が予想され、また南北で経済格差があることからそれらが火種となり、内戦へと発展する事態が懸念されたことから合意は見送られ、アルビオン支配下の南ヌビアはアルビオン領ブガンダ植民地と統合され、ミスル支配下の北ヌビアはヌビアとして独立した。 一方、ブガンダ地域では、1890年にアルビオン植民地となったものの南ヌビアのような直接統治ではなく、間接統治の保護領であったことで保護領の中心的存在であるブガンダ王国を始めとして、ブニョロ、アンコーレ、トロなどの諸王国の統治体制は維持されていた。その影響でWWⅡ後、民族運動と独立運動が盛んになっても連邦制を主張するブガンダ王国と保護領内に残存する諸王国と単一国家制を支持する王国を持たない諸地域とで対立が発生して、更に南ヌビアが合流したことで混乱が生じ、独立が遅れることとなる。 シンボリ族の興隆 ルドルフが族長を務めていたシンボリ族は1958年にアルビオンによってキリニャガのイシオロからトゥルカナへと強制移住させられた遊牧民の少数民族の中の一氏族であった。この氏族は強制移住させられた事からも分かる通り、植民地時代は迫害され、キリニャガが独立しても周囲の武装した遊牧民から攻撃され、何かと不遇な立場にあった。 転機となったのは1961年、ウマムスタンの六代目カガンであるマーベラスサンデーは任期を満了し、カガンの座を次世代へと譲り渡し、腹心であり親友でもあるマヤノトップガンと共に考古学者として人類の起源を調べるためにアフリカ大地溝帯探査計画の一環として東アフリカのイレミ・トライアングルを訪れたことであった。六代目カガンはこのシンボリ族を不遇に思ったのか、自分達が持つ知識から日々の生活に役立つ道具の作り方から商売での交渉を円滑に進めるコツ、政治知識……そして、戦う術を教えた。 その結果、シンボリ族は急速に力をつけ始め、僅か半年ほどでそれまで自分達を攻撃していた周囲の武装遊牧民を逆に攻撃し始め、更に半年もすると周囲の武装遊牧民を全て併合し、イレミ・トライアングルにおいて最大の武装集団に成り上がった。同時にシンボリルドルフは一地域を支配するだけの氏族の長から一つの王国の長、国王になりたいという野心を持ち始め、力を蓄えながら機会を伺っていた。 登極 1962年、アルビオン領ブガンダ植民地が連邦制支持派の意見が通ったことでブガンダ連邦として独立した。だが、国内では相変わらず、連邦制支持の王党派と単一国家制支持の人民会議が争いを続けており、1963年にブガンダ国王が初代大統領に就任したその半年後には首相の人民会議議長が憲法を停止して連邦制を廃止、更にこれに反対した大統領兼ブガンダ国王を排除したことで暴動が発生。ブガンダ連邦は独立からたった一年で血を血で洗う内戦に突入した。 その混乱の最中、南ヌビア地域南東部からシンボリルドルフの号令の下、シンボリ族がブガンダ連邦へ侵入を開始し、短期間で南ヌビア地域とブガンダ地域の旧国境線一帯を占領し、連邦を南北に分断することに成功した。さらに南ヌビア地域の中心都市ジュバを占領したシンボリルドルフははシンボリ皇王国建国宣言と自らの帝皇即位式を行い、次いでブガンダ地域に存在するブガンダ王国を始めとした数々の諸王国に対し、「人民会議を排除することに協力するのと引き換えにシンボリ皇王国を認めろ」という外交交渉(恫喝)を行った。諸王国はシンボリ皇王国の圧倒的な軍事力の前に要求を断れず、シンボリ皇王国はブガンダ連邦に正式に加入した。その後、シンボリルドルフは約束通り、南ヌビア地域を根拠地としていた人民会議を撃滅し、ブガンダ連邦に平穏を取り戻すことに成功する。 パカンダ諸王国連合の成立 その後、シンボリルドルフは首相に就任し、5年ほどかけて諸王国の王室にシンボリ族を送り込み、諸王国を完全に掌握する。1968年には初代大統領の跡を継いで二代目大統領に就任すると大統領の権限を大幅に強化し、国内宗教勢力安定化のためにマーベラス論を推奨するように指導した。更にブガンダ連邦からパカンダ諸王国連合へ国名を変更すると自らを「諸王の王」と名乗り、中央集権体制を構築するとともにかつて味方した連邦制支持の王党派を一掃し、婚姻外交によって親戚同士となった諸王達に帝皇への忠誠を誓わせて一枚岩とした。 ウマムスタンとの関係深化 また、同時期に先の内戦時、アフリカへの影響力を強めようとした核実験の実施により国際的に孤立していた七代目カガンの支援によって国家を成立させた見返りとして、ウマムスタンとの貿易を拡大して積極的に工作機械などを導入することで工業化を推進。この際、ウマムスタンの有力企業、カブール自動車やアスタナ化学、ラフモン金属が進出してパカンダ各地の鉱山や油田を開発し、ヘラート建設がサール・エ・ポール重工製の重機を使ってプラントを建設した。さらに、70年代は各種天然資源や加工食品の輸出、80年代はカブール自動車やカリモフ電気機械工業の下請け、90年代から2000年代にかけては逆にパカンダに進出した企業の現地工場を買い取って、新たに国営企業を設立し、更にはウマエト連邦崩壊によってウマムスタンが買い漁った技術のうち、あまり注目されなかったものをおこぼれとして貰い受けてそれを基に兵器技術の研究開発を行った。 アビシニア帝室との婚姻 1974年、パカンダ諸王国連合の隣国の一つである帝政アビシニアで政変が発生、アフリカ統一機構初代議長でもあったアビシニア皇帝が陸軍のクーデターにより逮捕・廃位され、処刑された。この事件のしばらく後、最後のアビシニア皇帝の孫であるアビシニア皇女がパカンダ諸王国連合を電撃訪問し、アビシニア皇帝への即位と帝冠評議会の発足を発表、クーデターを起こした臨時軍事行政評議会との対立を表明した。 さらに、パカンダ諸王国連合の支援を受けてアビシニア皇女がアビシニア西部のガンベラを軍を率いて攻め落とすと、ルドルフは自身の子(皇太子)をアビシニア皇女と結婚させ、現在のパカンダ諸王国連合という名のアビシニア-シンボリ合同帝国を作り上げる。 この合同帝国において正統アビシニア帝国の領土はガンベラとその一帯(ガンベラ州)程度で力関係としてはシンボリ(パカンダ諸王国連合)の方が圧倒的に上であったが、アビシニア帝室には下剋上でのし上がったシンボリにはなかった権威というものがあり、それ故に対等の婚姻関係となり、合同帝国の成立は円滑に進んだ。 ルドルフ専制の終焉 1990年、自身の最大の側近であったシリウスシンボリによる民主化運動が発生、専制君主制から立憲君主制への移行、帝皇を含めた諸王国の国王の象徴化を求めた。この運動に対してルドルフは諸王国連合の安定を崩す危険な試みとして、民主化運動の弾圧とシリウスシンボリの拘束・処刑を国軍を率いるシンボリクリスエスに命じた。 この頃のルドルフは文字通り国家の全権限を握っており、そして、それらの権限に関する仕事を一人で決済していた。そのせいで片頭痛、夜ふかし気味、肌あれが常態化し、更には古今東西の独裁者にありがちなパラノイアの初期症状が現れ始めており、時々過激な手段を使い、名誉欲や自尊心の高さが見え隠れするものの国の発展とシンボリ族……、ひいてはそれらと交わった諸王国とその民の安定を思う賢帝から只の暴君へと変貌し始めていた。 シンボリクリスエスはルドルフの命令に忠実なシリウスに次ぐ側近と知られており、そのため、多くの人がクリスエスがルドルフの命令通りにシリウス排除に動き、シンボリ族の同士討ちが発生し、そこからかつてのような内戦へと発展するのではないかと危惧したが、世間の予想と反し、クリスエスは民主化運動側に同調し軍を率いてルドルフの拘束を行った。 その後、シンボリ王室を事実上乗っ取っていたアビシニア皇女と、シリウスらシンボリ族の重鎮たちの思惑が部分的に一致し、皇太子と正統アビシニア皇女の娘でルドルフの孫、弱冠15歳のモンニ皇太孫への譲位が行われることとなる。 作中人物との関係 モンニ 皇太孫。彼女からは非常に慕われていた。 アビシニア皇女 義娘。自身の統治の裏で権勢を強めていた。 シリウスシンボリ 幼馴染であり最大の側近。。 忠誠心からルドルフを重荷から開放するために民主化運動を引き起こす。 シンボリクリスエス 第二の側近であり、軍の司令官。 内戦時の人民会議の撃滅では勿論、ルドルフ専制下での連邦制支持の王党派排除でも活躍したことから『仕事人』と呼ばれていた。 民主化運動ではシリウス側に付き軍を率いてルドルフの拘束を行った。
https://w.atwiki.jp/gods/pages/67978.html
アルビダ バルト海で活動した伝説上の女海賊。 別名: アビルダ アルビルダ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4815.html
前ページ次ページ鋼の使い魔 魔法学院はその建物構造として、巨大な五つの塔とそれ繋ぐように作られた屋根を主として出来ており、それに付随するように大小の建物が作られている。 さて、それらの建物をぐるりと囲む塀の正面が空けられ、本塔の出入り口までの直線上に、各々に着飾った生徒と教師達が並ぶ。 やがて街道から学院の敷地内へゆっくりと入ってきた、幻獣らに率いられた王女一同が到着すると、整列した者はみな杖を掲げて迎えた。 敷かれた緋毛氈に音もなく足を下ろす王女アンリエッタ、そしてそれに続くマザリーニが、衛兵や護衛の幻獣騎兵に見守られながら本塔入り口前のオスマンの元まで静か に歩いていく。 直立してきびきびと杖を上げ、永代の忠誠を示そうという若者達に、アンリエッタは手を振って答える。 賑やかしくも厳かな雰囲気を作っている歓迎式典の外側にたむろする人影があった。木陰の元に座り本を広げたタバサ、その脇に立つキュルケ、そしてギュスターヴであ る。 キュルケとタバサは留学生である為、この歓迎式典への参加は強要されなかったし、ギュスターヴにいたっては一使い魔というのが形式上の身分である。列席できるわけ もない。 キュルケは居並ぶ生徒の隙間から覗けるアンリエッタの容貌をつぶさに観察していた。 「へぇ。あれがトリステインの王女様ね。結構綺麗だけど、私には負けるわね」 いかにも自信に満ちたゲルマニア娘らしく、髪をかきあげて鼻で笑って見せたキュルケ。 しかしギュスターヴは、その様がなぜか滑稽な感じがして、笑っては悪いと思いつつも、篭るように笑い声が出てしまう。 キュルケはそんな、熟成された大人の男の雰囲気を持ちながら、どこか青年のような振る舞いを見せるギュスターヴを見せられて、自分が何か変な事をいったのではない かなどと思えて、逆に恥ずかしい気持ちがする。 「あら、お笑いになるなんて酷いわミスタ」 「いやいや…」 詫びるように手を出すギュスターヴだが、顔は綻んでいる。余計に自分がただの小娘のようで、キュルケの頬がほのかに羞恥に熱を佩びるようだ。 そんな様を脇に見ていたタバサは、さて、二つ名らしい冷静な一言を友人に献上する。 「柄じゃない」 「ぅ…」 冷や水を浴びせるような物言いに、別にいいじゃないと言えば、柄じゃない、と先とおなじ調子で返されて、こちらは微熱も冷めるというものだ。 そんな和気とした娘達のやり取りを尻目に、ギュスターヴは整列しているはずのルイズを目で探していた。 そのチェリー・ブロンドは遠目からでも目立つから、労もなく見つけることが出来た。 しかし、どことなくであるが、ルイズの視線は緋毛氈の上を進む王女から外れているように思えた。さて、ではルイズは何を見ているのだろうか。 ギュスターヴは次に、馬車の周りに待機している護衛たちに目を向けた。数騎の見慣れぬ動物にまたがり、それでいて規律による制御を纏った男の中に、一際立派な一つ を見つける。 獅子の体躯に大鷲の頭と羽根を持った獣に騎乗し、視線は窺えぬほど大きく立派な羽帽子を被った男だ。 (あの男…) 帽子の影から輪郭に沿って揃え切られた顎鬚が見える。 (王族の護衛なのだから、相当に腕は立つのだろうな) 一剣士として興味はあったが、さて、何ゆえルイズの視線を集めているのかは想像できない。 むしろギュスターヴは、今オスマンから礼を受けて一言二言交わしているアンリエッタとマザリーニに興味を移す。それは勿論、ここに並ぶ貴族らのそれとは、二色三色と 意味を変えたものだ。 (あれが宰相と、王女か) ギュスターヴの目に、トリステインの屋台骨を支える枢機卿は、あだ名される『鳥の骨』よろしく、肉体から力が絞り尽きかけているかのように見える。対照的に、手をオスマ ンに取られたアンリエッタは、血と育ちが作る高貴を惜しみなく振りまいていた。しかし、 (王女に政をする人間が持つ『鋭さ』がない…。宰相の負担も相当なのだろう。王女も政治に興味があるというわけじゃないのだろうな) 時に稚いほど繊細な空気を持っていた、年離れた妹を思い出す。 (マリーも政治に興味は持たなかったな…) あれはあれで、周りに同族の男達がいたからそうであれたのだが。 (…未練ったらしいと、お前は笑うか?フィリップ) 果たして、友に託した妹は、健在であるのだろうか? 『アンリエッタ来訪』 アンリエッタの行幸せし魔法学院の晩餐は、それに見合う規模の食事を用意するべく、地下の厨房も平時以上の繁忙を見せた。 厨房を仕切るマルトーは勿論、メイドに復帰していたシエスタなど、有能を買われて平メイドから昇進、同輩達を指揮する立場に置かれて走り回って過した。 そんな夕食も終わり、生徒達も各々の部屋に戻って思い思いに過す頃。 ルイズは式典からずっと、心ここにあらずという状態で、部屋の中でも机に向かったかと思えば、ぼんやりと外を眺め、かと思えばベッドに倒れこんでゴロゴロしたり、と まったく落ち着きがない。 ギュスターヴは、放っておけば治まるだろうと相手にせず、コルベールからもらった端切れの紙を使って、文字の練習をしていた。 「嬢ちゃん。いい年なんだからちっとは落ち着いたらどうよ?」 たまらず声をかけたデルフだったが、ルイズは答えずやはり落ち着かずフラフラと部屋を彷徨っていた。 ギュスターヴが字を紙一杯に書きつけた頃、何者かが扉を叩く。 「誰か呼んでるぞ」 「うん。……このノックの仕方は……」 ゆっくり二回、素早く三回ノックする、それを三回繰り返してから、客人はそっと扉を開けて室内に入ってきた。 その姿は顔はおろか足先まで覆い隠すほどのローブを纏っていた。かろうじて、体の線から女性らしい事がわかる。 室内に入ることが出来た客人は、懐から水晶のついた立派な杖を抜くと、外壁や窓に向かって杖を振った。 「ディティクト・マジック…?」 「どこに目や耳が潜んでいるから判りませんから…」 「その声は…」 客人がローブを脱ぐ。 ギュスターヴは目を見開いた。その正体は昼間、遠くから観察していた、王女アンリエッタその人に相違いなかった。 「お久しぶりね、ルイズ」 「アンリエッタ殿下?!」 客人の正体に衝撃を受けたルイズは、さっきまでのフラフラ振りも吹き飛んで、床に跪いて王女を迎える。 アンリエッタはそんなルイズを見て、身を屈めて抱きしめた。 「やめてちょうだいな!ルイズ。貴女と私はお友達じゃないの」 「勿体無いお言葉です。殿下」 「もう!そんな堅苦しい挨拶は止めて頂戴。ここにはあの辛気臭い鳥の骨も、政から逃げる事しか考えていない母上も居ないんだから。友人にまでそんな素振りをされたら 、私は悲しくて死んでしまうわ!」 「そうは言いますが、殿下」 「幼い頃、一緒に遊んでくれたでしょう?宮廷の庭を二人して蝶を追いかけたり、侍従に召し物を汚して叱られたり…」 まさに懐かしむようにアンリエッタは幼い日々の思い出を諳んじてみせる。 「…ええ。クリーム菓子を取り合いしたり、ドレスの奪い合いで喧嘩もしましたわ」 「懐かしいわ…あの頃は。今ほどにあれこれと目に付かなくて」 すっかり蚊帳の外に置かれたデルフとギュスターヴ。デルフはカタリと鳴って聞いた。 「お嬢ちゃん。お姫さんとはどんな知り合いなのよ?」 「口を慎みなさいボロ剣!…ご幼少の頃、恐れ多くも遊び相手を務めさせて頂いていたのよ。でも、その頃の事など、もうお忘れになられていたと思っていました」 「忘れたりしませんとも。あの頃は毎日が楽しかったもの」 アンリエッタとルイズはベッドに腰掛け、更なる思い出話や巷に溢れている他愛もない噂について語り合い始める。その様は年頃の町娘とそれほど違いはない。 アンリエッタは次第に日々の愚痴を零していく。宰相と母マリアンヌ女王の間を行き来するように扱われていること。そんな日々に鬱憤を貯めたあげく、今日は旧友と会うた めに抜け出してきた事も。 「…御政務を耐えるご心痛、察しいたします、殿下」 「ふふ…。貴方がうらやましいわ、ルイズ」 ふ、と無意識に自嘲の笑みが出る。魔法も使えぬ私を羨んでくれるなど、お優しい。 「何をおっしゃいます。殿下は唯一無二のトリステイン王女じゃないですか」 「王国の姫なんて自由もない、籠の鳥よ?声一つで、何処にでも行かされるのだから…」 声の調子が落ちて、アンリエッタの視線が遠く窓を見ている。二つの月はいつの夜も明るく高い。 「…結婚するのよ、わたくし」 「……おめでとうございます」 アンリエッタの雰囲気から、ルイズもそれが快いものと思っていないことを察した。 「風の噂で聞いているだろうけど、アルビオンが内乱で滅ぶそうよ。聖地奪還を謳う賊軍が、あの白の国から飛び出て蝗のようにハルケギニアを食い尽くしていくでしょう。 そうなれば、小国トリステインは火をつけた枯葉のようにたやすく燃え尽きるのです」 「…はい」 「ですから今回のゲルマニア訪問も、私のゲルマニア皇帝との結婚を条件に軍事同盟を結ぶことになったのです」 「あの蛮族!ゲルマニアなどにですか!」 「仕方がありません。世の流れですから…」 話し込むと人は周囲の状況を良く忘れていく。年若い娘達なら尚の事である。 話の輪の外に置かれた一人と一本。デルフが小声でギュスターヴに問いかけた。 「なぁ相棒。これってものすげー大事な話なんじゃね?ふつー、国の大事な話をお嬢ちゃんみたいな小娘に話すもんじゃーねーと思うんだけどよ」 「まぁな。よっぽど友人と話す言葉が欲しかったんだろう。聞き及ぶ限り、王女は女王や高官にいいように使いまわされているらしいしな」 (母親には政務を押し付けられ、高官には人気取りや取引材料に使われ、か…。面倒なものだ。お飾りも身代わりも嫌なら自分で行動すればよいものを。怠惰な娘だ) 「……それにしても、ごめんなさいな、ルイズ」 「なんでしょうか?」 「そこの彼、恋人でしょう?二人の時間に割って入ってしまって、つい懐かしくて粗相をしてしまいましたわ」 「えっ?!ちょっ、違います!」 「あらそうなの?」 とんでもない誤解だと、ギュスターヴは声を殺して笑う。 「笑うんじゃないわよ!姫さま、あれは私の使い魔でございます」 「使い魔?」 改めて、ギュスターヴは衣を直して背を伸ばし、深く礼をする。 アンリエッタはそれをしげしげと見ていた。 「人にしか見えませんが…」 「正真正銘の人です。多少、剣が使えます」 多少ね…、と、謙遜させる様を笑うギュスターヴと、それをルイズが睨んで返す。 そんなやり取りをきょとんとした顔でアンリエッタは見ていた。 「そう…。あなたって昔から少し変わっていらしたものね」 「いえ、別に好きでこれを使い魔にした訳では…」 「でも、メイジと使い魔は不可分の関係といいますから」 「それは、そうなんですけど…」 自分の部屋なのに妙に居心地の悪さを感じるルイズであった。 しかしアンリエッタは、そんなルイズと、ギュスターヴを交互に見てから、静かにため息を吐いた。 「いかがなさいました?」 「何でもありませんわ。…嫌ね、わたくし。こんな事話せることじゃないのに」 「何の事かは存じませんが、お悩みならお聞かせくださいませ」 「いいえ、話せませんわ!忘れてくださいな」 「いけません!先ほど言ってくださったではありませんか!友人と呼んでくれたではありませんか。友人と思ってくださるなら、悩みのお一つもお聞かせくださいませ」 アンリエッタとルイズの会話が、徐々に熱を佩びていく。傍目には明らかにアンリエッタが引き金になっているのを見てとれるギュスターヴとデルフは、 対照的に冷めた気分でそれを眺めていられる。 「痛いなぁ、嬢ちゃんたち」 (芝居がかってるなぁ。無意識にやってるならとんでもない娘だ…) 「…今から話す事は誰にも話してはいけません」 アンリエッタが話を始めようとドレスのすそを直していた。ルイズはギュスターヴに視線を向ける。 「ギュスターヴ、席を外してくれる?」 「ん…あぁ」 部屋主が出ろという以上、ギュスターヴはデルフを持って廊下に出た。 「何はなしてんだろーなー。あの二人」 廊下に出たものの、それなりに会話の内容は気になる。 「さぁな」 (暫く時間を潰すにも夜中だしな…コルベール先生のところにでも…) さてどうしようか…と足を踏み出そうとした時、隣の部屋の扉がきぃ、と開き、部屋の中から声と共にギュスターヴを手招いた。 「はぁい。夜分遅くごきげんよう」 「キュルケ」 「部屋閉め出されちゃったんでしょう?しばらくうちに来ない?」 キュルケの部屋はルイズよりももっと色彩を落とした、シックなしつらえの調度品が使われていた。しかし部屋の各所には色の派手な使い方をしていて、情熱的な ゲルマニア人らしい感じである。 キュルケの部屋には先客が居た。タバサである。 「どうしてタバサがいるんだ?」 「この子、私の持ってるレイピアを貸してくれって言うのよ」 「レイピアを?どうして」 タバサはホットワインの注がれたカップを置いて答えた。 「剣の練習に使いたい」 「おいおいちびっ子。こんなお飾りだらけの剣で練習なんてできるかよ」 無造作に部屋に置かれていたレイピアを、ギュスターヴは小枝を拾うように持ち上げる。 「…まぁ、素振りに使える程度の代物だな」 「酷い言い草ねぇ。せっかく部屋にお招きしたのに」 「ははは…いや、助かった。夜中じゃ行く宛もないからな」 床を這うフレイムがきゅるきゅると呻って足元にいる。 「ところで、誰がルイズを訪ねてきたのかしら?背格好の感じだと若い人みたいだけど」 「さぁな。俺が言うことじゃない」 「そ。じゃあ、自分で調べちゃうわ」 タバサにキュルケがなにやら耳打ちをしている。 「剣と交換」 「もぅ、吝嗇ね~。ま、いいわ。剣の代金は実家から払ってもらってるし」 やにわにタバサが立ち上がり、ルイズの部屋と隣接する壁に杖を振って魔法をかける。 すると壁の向こう側から徐々に話し声がはっきりと聞こえてくる。 「音を遮断する『サイレント』の応用ね」 「まったく…好きにしろよ」 参ったギュスターヴは黙って椅子の一つに座り、キュルケとタバサもベッドに座って隣の声に耳を傾けた。 ルイズの部屋から聞こえてくる。二人の声に神経が注がれる。 「好きな相手と結婚できるなんて、始めから思ってないわ。そうでしょ?ルイズ」 「えぇ…まぁ…」 「アルビオンのおぞましき貴族達は、王家を堕落した存在と糾弾し、アルビオン統一の後のために他の王家の瑕を探しているのです」 「まさか。誇り高きトリステインの王家に、そのようなものがありましょうか!」 「……そうであればどれ程良いのでしょうかね」 「…ま、まさか……」 「…ええ、あります。一つだけ」 「それは一体…」 「わたくしが以前、アルビオンにおわすウェールズ王太子にしたためた一通の手紙です」 「し、しかし恐れながら、手紙一つで大事になるのですか?」 「おそらくは。あれに書かれた内容は受け取り様によってはゲルマニア皇室との婚約が破棄されるようなことが書いてあるのです」 「そのような物が…」 「まだ王軍が持ちこたえているうちは、問題ないでしょう。しかし月を跨ぐ事無く王軍は壊滅するだろうと聞きます。そうなれば手紙が反乱軍の手で 白日の下に晒されてしまう。そうなればこの国は終わりです…」 やがてすすり泣くアンリエッタの声がキュルケの部屋から聞こえる。 「ミスタ・ギュス。よろしいかしら」 「何だ?」 キュルケの目は聞こえてくる泣き声とあわせるには実に冷めている。 「『昔送った手紙が見つかったら私は恥ずかしくて生きていけないわ!』って言ってるように聞こえるんだけど、気のせいかしら?」 「俺に聞かないでくれよ」 ギュスターヴも少しうんざりした風情だ。 「うちの皇帝と婚約っていうと、客人はアンリエッタ王女ね。昔の手紙一つで同盟を反故するようなナイーブな人物じゃないわよ」 「詳しいな」 「まぁね。うちもゲルマニアじゃ上から数えたほうが早い家格のつもりよ」 事実ゲルマニアという都市国家群の中で、ツェルプストーは皇帝に一言物申せる程には権力を持っている。それで居ながら皇帝に目をつけられないのは、 ツェルプストー家自体の視線が対面するラ・ヴァリエール、率いてトリステインからの防衛に向けられているからである。 ふたたび聞こえてくる話し声。それは先ほどよりも激しい語調になっている。 「ああ、ルイズ!ルイズ・フランソワーズ!わたくしは、わたくしは一体どうしたら良いのでしょう?!戦に乱れるアルビオンにある手紙を消し去るなど、わたくしには出来ません!」 「姫さま…姫さま。このルイズ・フランソワーズめに一つの考案がございますわ」 「なんでしょう?」 「不肖このルイズ・フランソワーズ。アルビオンには幾らかの土地勘がございます。それにあと数日でアルビオンがハルケギニアに最も近づく『スヴェル』の日になります。 ですから…」 「いけません!友人をアルビオンに赴かせるなんて、そんな危険な事、とても頼めませんわ!」 「いいえ、行かせて下さいまし!このルイズ・フランソワーズ、姫さまの御命であれば地獄の釜の底でも、毒龍の肺腑の中でも行く所存。姫さまとトリステインの危機を 見過ごすことなど出来ません!」 「わたくしのために、そこまで行ってくれるなんて…嬉しいわ、ルイズ!わたくしは始祖から無二の友人を与えられて光栄ですわ」 「勿体無きお言葉です、姫さま…」 隣で聞いていた三人と一本。そのやり取りの酷さに今度はキュルケが深いため息を漏らした。 「…ミスタ」 「聞くな」 実際ギュスターヴもさらにうんざりしている。 「……ルイズもお姫様も、なんだか随分夢みたいな事言ってる気がするんだけど。ルイズが本当にアルビオンに土地勘があるか疑わしいわ」 「地に足つけて旅行したわけじゃないはず」 タバサが補足的に続ける。 「こんな事を王族が言ってるから、トリステインは国力を落とすのよ。見栄ばかり強くて、中身が伴わないんだもの」 「っていうかよー。お嬢ちゃんが行くっつーことは、相棒と俺様もついていかなきゃならないんじゃね?」 「そうね。ルイズがついてこいって言ったらそうなるわねぇ」 その言葉にギュスターヴは深いため息を漏らすのだった。 やがてルイズの部屋からアンリエッタが出てゆき、その頃合を計ってギュスターヴも部屋に戻るべく、キュルケの部屋を辞した。 「また何かあったら来てね。いつでも待ってるわ~」 ひらひらと手を振るキュルケを振り切って、ルイズの部屋へ戻る。 「…もう帰ったのか、王女は」 「ええ。ところで、明日は朝一で出かけるわよ」 「……どこへ」 もうどこに行くかは判っているのだが、盗み聞きしていたとは言えない。 「それは明日になったら教えるわ。だから今日はもう寝るのよ」 細かい話をするわけでもなく、ルイズはいそいそと寝支度を始め、さっさとベッドに入ってしまった。 灯りも消され、ギュスターヴとデルフだけが暗い部屋にたち残される。 明かりも消されてどうしようもない。ギュスターヴはいつもの寝床に入り、デルフを立てかけると、デルフが鳴って話しかける。 「なー相棒」 「ん?」 「本当にアルビオンに行くのかね」 「行くんだろう。本人が行くって言うんだから」 「相棒は納得できるのかよ」 「……正直言えば、余り納得はいかないさ」 「そりゃそうだわな」 「……でも、ルイズをつれて外国を見に行くっていうのは、悪くないと思うんだ」 「随分と余裕だな相棒。アルビオンは内乱で荒んでるんだぜ?しかも死に掛けの王軍の中に飛び込まなくちゃいけないんだぜ」 「そうだな……」 物思うギュスターヴ。 (ルイズももう少し冷静だろうと思ったんだがな…王女の過分な期待に負けたかな) 「…まぁ、最悪ルイズが生きて帰ってこれればいいんだろう」 「おいおい、たかが子守で死なれちゃ、『ガンダールヴ』も形無しだぜ」 「はは、そうだな。…んじゃ、俺は寝るぞ」 やがてデルフも静かになり、ギュスターヴの意識も、深い睡魔の中に沈んでいった。 ルイズとギュスターヴがアルビオンへ行く事になった、そのちょうど一週間前。 トリスタニア郊外に聳え立つ、寒色で塗り込められた巨大な建物が建っている。 トリステイン最大の監獄チェルノボーグである。 その監獄の奥の奥。夜闇を差し引いても暗い一室に、今より数十日前から人が入った。 時間も夜遅く。そこに収監された女性は、寝汗をじっとりとかき、悪夢に苛まれているように呻きながら、浅い眠りに身を窶している。 廊下の向こうから聞こえてくる。きぃ、きぃという何かを押している音が、やがてその部屋の前で止まった。 「起きろ。『土くれのフーケ』」 人気の殆どない監獄の中で、その声は実にはっきりと響き、フーケの意識を現実に引き戻した。 「うぅ……誰だい。こんな夜中に」 明り取りの松明の影に浮かぶ一人の男。その顔は仮面を被っていて様相は判らない。男が押していたのは、木で出来た車椅子だった。 「よほど貴族達に嫌われたようだな」 粗末なベッドに横たえていたフーケ。筵のような毛布の下に残した足の両脛から下は、生気のない黒紫色に変質し、力なくだらりとベッドの上にあるだけだった。 「収監時に足を切られ、水の魔法で表面だけ治されたな。失血で死にはしないが、一生をその足で歩く事は、もうない」 ぎりり、とフーケがその麗しい小顔を歪める。覚悟していたとはいえ、貴族相手に続けた盗みの果てが、これだった。 「人が寝ているのを起こして、言いたい事はそれだけかい」 「まぁ待て。私はお前を助けに来たのだよ」 ククク、と笑い声を殺しながら、男は監獄の鍵を開けて車椅子と共に入ってくる。 「我らの仲間になるのなら、お前をここから出してやろう。『マチルダ』」 その一言はフーケの顔色を吹き飛ばした。 「何故その名で私を呼ぶ」 「再びアルビオンを拝みたければ首を縦に振るがいい。でなければこの場でその首を落とすだけだ」 男が抜いたのは黒い杖。わずかな明かりに浮かぶ杖先をフーケは睨んだ。 「これだから貴族っていうのは嫌いだよ。強制なら命令すればいいじゃないか」 「そうだな。なら、『われらの仲間になれ』」 静かにベッドに寄せられた車椅子に乗り移り、フーケは悠々と監獄を抜けた。 「…で、その『我ら』っていうのはなんなのさ」 「我々は国を越えて繋がる貴族の連盟なのだよ。今ある腐敗した王家を打倒し、ハルケギニアを統一してエルフに奪われた聖地を手にするために」 「夢物語だね、そんなの…。エルフに勝てるものかい」 「なんとでも言うがいい」 「で、そんな志篤い貴族様方のグループにも、名前があるんだろう?」 「ああ」 きぃきぃ、と車椅子の車輪が鳴る。 「『レコン・キスタ』だ」 前ページ次ページ鋼の使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1665.html
浮遊大陸アルビオンの北東部に位置する港町、スカボロー。 其処より更に200リーグ北東、大陸から突き出した岬の先端に聳え立つは、名城と謳われしニューカッスル城。 5万の敵に幾重にも取り囲まれ、度重なる戦艦からの砲撃を受け傷付いて尚、その威容は損なわれる事が無い。 その姿は正しく、この地にて最後を迎えんとする王党派の誇りを代弁するものであり、同時に彼等の墓標としてはこれ以上無く相応しいものであった。 そして、その巨大な墓標を包囲する5万の貴族派兵士の中、傭兵達は迫る突入の時へと思いを馳せ、損得勘定に精を出す。 「……どうせあの戦艦が1発ブチかました後だろ? 生き残りなんか居るもんか」 「解らねぇぞ、風の魔法で砲弾を凌いでいるかもしれねぇ」 「俺達を先頭にして突っ込ませるって聞いたが、ありゃガセか?」 「さあな……ま、上手くやりゃ生きて城内に入れるさ。そしたら後はお宝だ。連中が持ち込んだ財宝がどれだけ在るか……」 「馬鹿、財宝なんざロンディニウムの連中が粗方かっぱらっちまったじゃねぇか。こんな場末の城に目ぼしいお宝なんか在るもんか」 「いや。連中、結構な荷物抱えて此処に入ったからな。もしかしたら……おい、何だこの音?」 突如、何処からか轟きだした律動音に、彼等は揃って周囲を見渡す。 見れば他の兵達や指揮官の貴族すらも、この不気味な重低音の発生源を探して忙しなく首を動かしていた。 やがて兵の1人が、南東の方角より接近する奇妙な物体をその視界に捉える。 「見ろ、あれだ!」 その声に、彼等は一斉に彼の指す方角へと向き直った。 物体はその間にも驚くべき速度で距離を詰め、瞬く間に彼等の頭上へと差し掛かる。 そしてその巨体が、更に上空に浮かぶレコン・キスタ旗艦『レキシントン』の影に重なった瞬間――――― 白い尾を引く無数の火球と共に、鋼鉄の異形が地へと放たれた。 「話には聞いてたけど……凄いな」 地上の混乱を銃座から見下ろしつつ、身震いするかの様にギーシュは呟く。 その声はローターの轟音に遮られて誰の耳にも届く事はなかったが、ブラックアウトの機内に居る一同、多少の差異は在れど似た様な心境だった。 「……あれはゴーレムなのかい?」 ワルドが爆炎と土煙に覆われる地上を呆然と眺めつつ、傍らのルイズへと問い掛ける。 ルイズは曖昧な笑みを浮かべると、困った様に答えを返した。 「まあ……そんなところです」 次いで頭上を見上げ、轟然と空に浮かぶ巨大な戦艦を睨む。 釣られてワルドも頭上を見遣ると、その顔に険しい表情を浮かべて呟いた。 「アルビオン空軍旗艦『ロイヤル・ソヴリン』号だ……貴族派に乗っ取られたらしいな」 その名前ならルイズも聞いた事が在る。 ハルケギニア最強と謳われるアルビオン空軍、その艦隊中枢である巨艦『ロイヤル・ソヴリン』号。 その巨体に見合わぬ高速性を持ち、百を超える砲門と無数の竜騎兵を積んだ、空中の動く要塞。 聞き齧っただけの話だが、トリステイン空軍はあの怪物との戦闘を想定した際、実に6隻の戦列艦が必要との結論に達したという。 しかも確実に勝てるという訳ではなく、少なくとも同等に戦うにはそれだけの戦力が必要との事だ。 正しく、空軍大国であるアルビオンを象徴する艦といえる。 しかしそんな化け物が頭上に浮かんでいるにも拘らず、不思議とルイズは恐れる気にはならなかった。 それは根拠の無い自信などではなく、ブラックアウトに対する絶対の信頼から来るもの。 傍らのワルドへと目を遣れば、彼もまた確信に満ちた笑みを浮かべていた。 「大丈夫だ。この状態で砲撃すれば、味方を巻き込んでしまう。代わりに連中が寄越すのは……」 その時、コックピットのすぐ外側を、紅蓮の火球が掠め飛んだ。 反射的に横を見れば、其処には十を超える竜騎兵の姿。 アルビオンが誇る火竜騎兵だ。 「来たぞ!」 「ブラックアウト!」 ルイズが叫ぶより早く、ブラックアウトは戦闘機動を開始した。 速度を上げつつ、左にスライドして火球を遣り過ごす。 出し得る最高速度で『ロイヤル・ソヴリン』号の影から飛び出し、敵兵の頭上を飛び越えると同時に、砲声と共に降り注ぐ散弾を振り切ってニューカッスル城へと直進。 速度を落とし、挑発するかの様にテールを振る。 果たして、竜騎兵達は激昂したのか、一様にブラックアウトとの距離を詰めてきた。 味方が射線に入る為に『ロイヤル・ソヴリン』号は砲撃を中止し、ブラックアウトは低速を保ったまま悠々と低空を飛び抜ける。 やがて竜騎兵達はブラックアウトをブレスの射程に捉え、一斉に火球を発射しようと愛騎に指示を下す、その直前。 突如としてブラックアウトが進路を変え、急減速と共に彼等の眼前で急激な右旋回を行う。 そして追従が間に合わず、ブラックアウトを追い抜いた彼等の目と鼻の先には、悠然と佇むニューカッスル城の姿。 次の瞬間、彼等は城の至る所から打ち上げられた魔法の弾幕に飛び込み、原形を留めぬ肉片となってニューカッスルの空へと散った。 「どうやら味方だと判断したみたいだ」 「そうね」 機内で壁へと身体を固定しつつ言葉を交わす、ギーシュとキュルケ。 口調こそ普段と変わらぬものの、双方とも顔色は悪い。 急激な戦闘機動で気分を悪くしたらしい。 タバサは何時の間にか、壁際のベルトを使って確りと身体を固定していた。 銃座から覗く狭い空を見詰めていた彼女の目に、粗い岩肌が映り込む。 「……大陸の下に入った」 「あら、ホント」 やがて白い雲が視界に移り込んだ頃、ギーシュが慌てて銃座の窓を閉める。 同時にコックピットに居るルイズとワルドの視界が雲に閉ざされ、忽ちブラックアウトの周囲は白い闇、続いて大陸の陰に入った事による漆黒の闇に覆われた。 「……この使い魔は、周りが見えているのかな?」 「ええ……ほら」 ふと洩れたワルドの呟きに、ルイズはモニターを指差す。 其処には『城塞直下に船影探知』と表示されていた。 更に、詳細な情報が次から次へと表示されては消えてゆく。 「この情報によると、不明船舶はニューカッスル城直下から降下してきたとありますわ。恐らくは王党派の船でしょう。大陸下方に秘密の港でも在るのでは」 凄まじい早さで表示されては消えてゆく情報の量とその詳細さ、そしてそれを正確に読み取るルイズ。 その両者に対しワルドは内心、驚嘆の念を抱かずにはいられなかった。 久し振りに会った婚約者は、昔からは考えられぬ程に成長している。 強力な使い魔を従え、大量の情報を苦も無く処理するその姿に、心無い侮蔑の言葉に傷付いていた少女の面影は見受けられない。 彼女は、本当に成長した。 自分はどうか? 自分がこれから為そうとしている事は、果たして成長の結果と胸を張って言えるものだろうか? そんな自嘲の念を抱くワルドを余所に、ルイズは内心で冷や汗を拭っていた。 この情報の読み取りは普段からデルフによって叩き込まれていた技能だったが、デルフのサポート無しでの読み取りはこれが初めてである。 しくじった時の事を考え内心では戦々恐々としていたのだが、何とかそれを面に出す事無く情報の内容を伝えたのだ。 思わず軽く息を吐くルイズ。 その時ブラックアウトが減速し、前方の暗闇に淡い光が浮かび上がった。 「何だ……?」 「あれは……船の舷側?」 やがてはっきりと暗闇に浮かび上がったそれは、紛う事無き船だった。 甲板には複数の人影が動き回り、此方を指差しながら何事か怒鳴っている。 ブラックアウトはその喧騒を無視し、船首近くで静止するとそのまま上昇を開始した。 「成る程、この港から出航して貴族派の物資輸送船を襲っていたのか」 感心した様に呟くワルド。 直後、眼前に大勢の人間が犇く広場が姿を現した。 やはり彼等も、突然の侵入者に慌てふためいている。 ブラックアウトはゆっくりと広場の上に移動すると、ギアを出して極力静かに着地した。 そしてローターの騒音が幾分和らいだ頃、先ほどの船が後を追う様に彼等の昇ってきた縦穴から現れる。 舷側を此方に向け、全ての砲門を開いたそれは、妙な真似をすれば即座に撃つとの意思を如実に表していた。 やがてその舷側に金髪の精悍な青年が現れ、完全にローターの停止したブラックアウトへと叫ぶ。 「杖と剣を捨て投降せよ! ここは我等アルビオン王家と英雄達の墓! 汚す事罷りならぬ!」 砲と、矢と、剣と、杖と。 ありとあらゆる武器、そして魔法に囲まれる中、巨大な機体から人影が歩み出る。 黒い羽根付き帽に、グリフォンの刺繍の入った黒いマント。 髭を生やした端整な容姿の男。 続いて歩み出たのは、桃色の髪も目に鮮やかな少女。 この思わぬ2人の来訪者に、周囲の王党派兵士達は一瞬だが呆気に取られる。 其処に、港へと走り込んできた伝令の兵が声高に叫んだ。 「ほ、報告! 叛徒どもは巨大な蠍のゴーレムによって混乱状態! 敵戦線が崩壊を始めています! 蠍を投下した竜の行方は……う、うわッ!?」 報告の途中でその兵は、行方を眩ませた『竜』が目の前に居る事に気付き、盛大に声を上げる。 そんな中、ルイズは1歩前へと踏み出し、毅然と声を張った。 「トリステイン王女、アンリエッタ姫殿下より大使の任を受けて参りました、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールと申します。不躾ですが、ウェールズ皇太子にお取り次ぎ願います」 ルイズ達がウェールズと共に彼の居室へと向かった後、キュルケ、タバサ、ギーシュの3人はデルフを携え、ニューカッスル城の宝物庫へと向かっていた。 デルフが今までに見た数々の城の構造から大まかに当たりを付け、その案内に従っての宝物庫探索という妙に信頼性に欠けるものだったが。 しかし意外や意外、彼等は見事に宝物庫へと辿り着いてしまった。 既に敗北を目前に控えた為か、見張りすら立たない其処はそれなりの鍵と固定化が掛けられてはいたが、デルフのトーチによって呆気無く口を開く。 そして侵入した宝物庫は眩く輝く金銀財宝ではなく、朽ち掛けた木製あるいは鉄製の箱が所狭しと並んでいた。 つい最近運び込まれたらしきものから埃を被ったものまで様々な箱が置かれる中、亜人型へと変形したデルフがそれらを纏めてスキャンする。 数秒ほどして、彼は部屋の一角を指差した。 「ギーシュ、壁際の赤い箱の下、鉄製の蓋」 「解った」 「んでキュルケの嬢ちゃん、あのチェストん中を適当にひっくり返してみてくれ」 「何でアタシは嬢ちゃんって付けるのよ……」 「私は?」 「俺とタバサの嬢ちゃんは見張り」 「楽」 そして数分後、彼等の前には2つの物体が鎮座していた。 「……銃ね」 「……銃だな」 「……銃」 「……銃だね」 それはデルフが見せた映像と然程変わらぬ型を持つ銃と、側面に幾つもの穴が開けられた漆黒の銃だった。 ギーシュがそれを持ち上げようと試み、予想以上の重さによろめく。 「お、重ッ」 「馬鹿、落とすなよ」 「む、向こうの兵隊は皆、こんな物を持っているのかい? 随分と精強なんだな」 何とか2つの銃を担ぎ上げた彼等は、こそこそと宝物庫から顔を出した。 人気の無い通路を宛がわれた部屋目指し、忍び足で歩く彼等の姿は成る程、火事場泥棒と呼ぶに相応しい。 やがて何とかキュルケとタバサの部屋へと辿り着いた彼等は、荷物を降ろすと同時に深い溜息を吐いた。 「何とかなったわね……うん、なかなか……クセになりそう」 「僕はもう御免だ……」 「なかなか楽しい」 3人が各々好き勝手に感想を述べる中、デルフは其々の銃を手に取り状態を確かめる。 キュルケ達も興味が湧いたのか、近寄ってきては物珍しげに2つの銃を覗き込んだ。 「……しかし見れば見るほど薄気味悪い銃ね。何と言うか……『骨』みたい」 「そうかな。僕には随分と頑丈な造りに見えるけど」 「構造とか、そういう問題じゃないのよ。その、上手く言えないんだけど」 「……不気味」 「そう、そうなのよ。良く解らないんだけど、不気味としか……」 そう言って、心底気味が悪いといった様子で後ずさるキュルケ。 タバサも同意なのか、キュルケ曰く『骨』を思わせる銃を身動ぎもせずに見詰めていた。 デルフは銃に目を落としたまま、そんな2人へと語り掛ける。 「強ち外れでもねーぞ。コイツは十分に曰く付きだ」 「へえ」 「そうなの?」 興味深げに訊き返す2人と無言のまま銃を見詰めるタバサに、デルフはその銃の異名を告げた。 「コイツの渾名はな、『ヒトラーの電動鋸』ってぇのさ」 ルイズは宛がわれた部屋の窓から、月明かりに照らされる敵の布陣を眺めていた。 既にスコルポノックによる攻撃は鳴りを潜め、敵の前線は2リーグほど後退した所で踏み止まっている。 地中からの奇襲を警戒しているのか、地面の一部を鉄に錬金する程の念の入れ様だ。 この強力な援軍に王党派は歓喜の声を上げ、貴族達は次々とルイズに賞賛を浴びせたが、彼女の心は重く沈んだままである。 「何で……何で死のうとするのよ……」 ルイズには恋人の哀願さえも振り切り、自ら死に赴こうとするウェールズの、その姿が理解出来なかった。 何故、最愛の女性の許へと向かおうとしないのか、その理由が理解出来なかった。 否、理解はしていたが、それを認める事が出来なかった。 「おかしいわ……こんなの絶対におかしい……」 何故、愛し合う者同士が引き裂かれなければならないのか。 何故、あんな恥知らずどもが我が物顔でのさばっているのか。 何故、これ程までに誇り高き者達が死ななければならないのか。 「絶対におかしいわよ……ねえ、そう思うでしょ」 ルイズは、今は地下の港で羽を休めるブラックアウトを思い浮かべ、小さく呟く。 何故か脳裏に浮かんだのは、婚約者であるワルドではなく、強大な己の使い魔の姿だった。 「時間は在る……」 ルイズはウェールズとの会話を思い出す。 3日後の朝、非戦闘員を乗せた船が退避する際に於いて、彼女達はその護衛の役を託されていた。 現在、王党派が有する船は地下で見掛けた『イーグル』号、只1隻のみ。 とても非戦闘員全てが乗れる大きさではないものの、ともかく乗れるだけの人員を乗せてラ・ロシェールへと向け出航するとの事。 その航海中の安全を確保する為、ルイズ達は今暫くこのニューカッスル城に滞在する事となったのだ。 「説得しなくちゃ……」 そう呟くルイズの耳に、遠雷の様な爆発音が届く。 ふと顔を上げれば、敵陣から少々離れた位置に爆炎が上がっているではないか。 どうやら敵の斥候がスコルポノックに発見され、砲撃を受けたらしい。 その揺らめく炎を眺めていたルイズは、背後で音も無く閉じられる扉に気付く事はなかった。 僅かなランプに照らされるだけの暗い通路を、彼は夢遊病者の様な足取りで歩んでいた。 その顔はまるで仮面を被ったかの様に無表情であり、深く思慮に沈む内面を表に晒さぬ様、分厚い壁を外皮に貼り付けている。 全てが予想外だ。 予定では、アルビオンへと到達するのは2日後の昼前だったのだが。 まさかルイズの使い魔が、半日足らずで学院からアルビオンまで飛べるだけの速度と持久力を持っていたとは。 ふと彼は足を止め、窓から覗く遠方の焔を見詰めた。 あの焔の根元ではどの様な惨劇が繰り広げられているのかと思考しつつ、彼は視線をずらして月を見上げた。 ……しかし、お蔭で時間は出来た。 総攻撃が始まるのは3日後、その間に頃合を見計らってウェールズを…… 其処まで考えた時、彼は舌打ちと共に表情を歪める。 何て事だ。 肝心な事を忘れていた。 自分は『イーグル』号の出航と共に、アルビオンを離れる事になっていたではないか。 これでは残って、彼等を誘き出す事が出来ない。 思わず拳を握り締め、それでも何とか思考を落ち着かせて計略を練る。 ……かといって、暗殺の事実を他国に洩らす事だけは避けねばならない。 即ち、『イーグル』号出帆以前に暗殺を実行するのは不可能。 だが。 脳裏に浮かんだ案に、彼は拳に込める力を更に増した。 それは良心の呵責と、覚悟の足らぬ己に対する憤りから来る力。 ……だがそもそも、それは『イーグル』号が出帆すればの話だ。 脱出すら出来ず、この城に存在する全ての者達が『戦死』してしまえば…… 敵陣の外れから再び、轟音と共に土煙が噴き上がる。 その様を見詰めながら、彼は自らの主君たる少女の姿を思い浮かべた。 ……他に頼る者が居なかったのだろうが、だからといって自らの親友を戦地に送り込むとは。 貴女が余計な真似さえしなければ、彼女は―――――ルイズは死なずに済んだものを。 幾ら強力な使い魔を従えているとはいえ、彼女は魔法の使えないメイジだ。 自身の目的からすれば、彼女の価値は只の平民と変わりが無い。 しかしそれでも、思い出の中の彼女は幼く、謂わば妹の様な存在なのだ。 甘い考えとは自覚しているが、出来る事ならば殺したくなどない。 しかしそれも、最早叶わぬ願いだ。 月に照らされたその顔に、悲壮な決意が浮かび上がる。 そして一瞬にして無表情の仮面を被った彼―――――ワルドはマントを翻し、通路の先の暗闇へと消え去った。 「出航は明後日の朝だ。それより早く出る船なんざ……いや、待てよ」 そう言うと無骨ななりをした船員は、別の枝に停泊している船を指す。 「あすこの『アケロン』号なら明日の昼過ぎには出るぜ。明後日の早朝にはスカボローに着く」 それを聞いたフーケは男に銀貨を3枚握らせると、話を付けるべく『アケロン』号へと向かった。 他よりも幾分若い『アケロン』号船長が言うには、アルビオンが最接近する頃合を見計らって到着する様に出航するという。 明日の昼にもう一度顔を出す事を伝え、2枚ほど金貨を置いて宿へと戻るフーケ。 その顔には明らかな焦燥が浮かんでいた。 こんな事なら、もっと頻繁に顔を出しておくんだった。 『銀のゴーレム』と『異常な強さの子供』も気掛りだが、何よりも現状で貴族派の調査対象になっているというのが不味い。 仮面野朗の話ではウエストウッドの事には触れなかったが、連中の手が及べば同じ事だ。 その前に彼女達を、あの地から遠ざけなければならない。 だが、何処へ? 彼女は足を止め、宙に浮かぶ月を眺める。 アルビオンはすぐ其処だというのに、待つ事しか出来ない自身がもどかしく、唇を噛み締めた。 ……もし、あの子に何かあってみろ。 あの仮面野朗、生かしてはおかない。 あらゆる手段を用いて、レコン・キスタとやらの重鎮どもを殺し尽くしてやる。 視線を月から離し、フーケは足早に宿を目指す。 今は休まねばならない。 明日はアルビオンへと向かうのだ。 そして一刻も早く、ウエストウッドへと向かわねば。 そう考える彼女の顔は、盗賊『土くれのフーケ』のものではなく、元アルビオン貴族『マチルダ・オブ・サウスゴータ』のものだった。 広大な地下空洞に、人が倒れる鈍い音が響く。 ある者は全身を切り刻まれ、ある者は心の臓を一突きにされ、またある者は意識を失ったまま縦穴へと消え。 最初の1人が絶命してから然程間を置かず、秘密港の番をしていた数名の兵と『イーグル』号船内に残っていた十名程の乗組員達は、その全てが物言わぬ骸と成り果てていた。 やがて『イーグル』号の甲板に、写し取ったかの様に似通った風貌の人影が4つ、円陣を組む様に集まる。 白い仮面に隠され表情は伺えないが、その足運び、周囲への警戒を絶やさぬ様子は、彼等が鍛え抜かれた軍人である事を伺わせた。 一同は見事なまでに揃った足並みで、船内へと消えてゆく。 そして数分後。 轟音と共に船体が震え、『イーグル』号は重力に引かれるまま、音も無く眼下の闇へと墜ちていった。 更に数秒後、上へと繋がる扉が暴力的な音と共に歪み、次いで港が静寂に包まれる。 何処からか吹き込んだ風が明かりを吹き消し、地下空洞は完全な闇へと沈んだ。 「娘っ子、そりゃお前さんの我侭ってもんだ。あの王族の兄ちゃんにも命を掛けるだけの理由が在るのさ」 「何よ、それ……そんなの解んないわよ……」 ルイズは夜間の内にキュルケが持ち帰ったデルフに、ウェールズを説得する為の助言を求めていた。 しかしルイズにとっては予想外な事に、デルフはウェールズを説得する事に消極的。 問い詰めた結果、デルフが吐いたのが先程の台詞である。 どうやら彼は、ウェールズの考えに肯定的であるらしい。 「亡命したって、今度はあの王女サマに火の粉が降り掛かる。それなら此処で、火種諸共消えちまった方が利口だ。王女サマは無事ゲルマニアの王サマと結婚、同盟締結。めでたしめでたし」 「何処がめでたいのよ! 好きでもない奴と結婚するのよ!」 「それが王族の義務って奴だろーに」 その言葉にルイズが反論しようとしたその時、デルフが鋭くそれを制した。 「待て、お客さんだ」 そう言ってデルフは口を噤み、只の剣として振舞い始める。 同時に扉がノックされ、ルイズが誰かと問えばワルドとの答えが返ってきた。 入室を促し扉が開いた瞬間、その向こうから喧騒が届いた気がするが、それも扉が閉じた瞬間に消え失せる。 「やあ、ルイズ……どうしたんだい、何か不安でも?」 「ワルド……」 優しく微笑むワルドに、ルイズは視界に滲むものを自覚しながら、叫ぶ様に言い放った。 「ワルド、貴方も……貴方も、ウェールズ皇太子の言ってる事が理解出来るの? 何で、あの人達は自分から死のうとするの?」 「……そうだね」 ワルドは一瞬たじろいだが、直ぐに平静を取り戻すと真顔になって答えを返す。 「……皇太子はアンリエッタ姫殿下を心から愛しているんだろう。だからこそ、姫殿下に危害が及ぶ様な真似は出来ない。此処で王族としての誇りを示しつつ、名誉在る死を遂げる事を望んだんだ」 「……貴方も同じ事を言うのね」 ルイズは哀しげに首を振り、ワルドから視線を逸らして窓の外を眺める。 その瞬間、ワルドの表情から一切の感情が消え失せた。 「皇太子も、他の人達も、貴方も……皆、解っていない。残される人の気持ちなんか、欠片も考えてないんだわ」 ゆっくりと、音を立てずにレイピアを模した杖を引き抜き、小さくスペルを唱える。 「王族としての誇り? 名誉在る死? それは恋人より大切なものなの?」 風の渦を纏った杖を、静かに肩の高さまで持ち上げ、其処から僅かに腕を引く。 「……そんなのおかしい。最愛の人より大切なものなんて、在る訳が無いわ」 足に込めた力を解放し、ルイズとの距離を一瞬で詰め――――― 「ねえ、ワルド―――――」 その心の臓目掛け、杖を突き出した。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/401.html
前へ / トップへ / 次へ 桟橋が見えた。 背後で燃え盛る町が、煌々と桟橋を照らし出している。 さらには月のおかげもあって、隅々まで夜目が必要がないほどくっきり見えている。 桟橋は山ほどもある巨大な樹であった。枝には確かに船がイカリをおろすようにぶら下がっている。 その中の一艘が、今まさに出撃するのだといわんばかりに帆を張り始めている。 急いで樹に開いた穴に入る。中がうろのようになっていて、階段がついている。 「む?」 異常な殺気が、バビル2世を捕らえた。 ケツの穴にツララをぶっこまれたような殺気だ。 何かがバビル2世めがけて吹っ飛んできた。精神集中も間に合わず、樹の外へ吹っ飛ばされた。 くるくると回転してネコのように着地する。しかし、間髪いれず何かが呪文を唱えた。 「おまえはあのときの!」 奇襲を仕掛けて来たのはあの白仮面であった。だが、次の瞬間バビル2世でさえ避けようもない速さで、雷が放たれていた。 電撃がバビル2世を捕らえた。 バチバチッとバビル2世の身体に火花が走った。が、それだけであった。 効かなかったことを確認した白仮面が慌てて身を翻す。 「どうやらこの世界の魔法も電撃ならば吸収できるらしいな。」 それを聞いたのかどうか、白仮面はすでに逃げ出していた。一瞬追いかけようと考えたバビル2世だったが、船は枝につないだ もやい綱を解いているところであるらしい。 「ずいぶん焦っているな。」 いったい何が起こったのかと訝しくも思ったが、早く乗らなければ船が出てしまう。あとでロプロスで追いかけてもよいが、目指す アルビオンとやらの広さがどの程度かわかっていない以上、バラバラになってしまえば落ち合うのも一苦労だろう。せめて落ち合う 場所を決めておけばよかったのだが、今更な話である。それにバラバラに行動するなどという話はなかったのだから。 白仮面はその間に姿を消している。しょうがない、今は船に乗るのを先決すべきだろう。 リスのように超巨大樹を駆け上る。あっというまに目的の枝まで移動して、出発直前の船に飛び乗った。 「ひゃあ!」 甲板に着地したバビル2世を見て船長らしき酒臭い男が尻餅をついた。酒臭いにもかかわらず妙に顔が青い。 「やあ、すまない。」 「な、なんだ、てめえは。」 どやどやとルイズたちが甲板に現れた。 「ビッグ・ファイア!」 バビル2世の顔を見て、ルイズたちが叫んだ。 「よかった。なんとか間に合ったようだね。」と、ロリコンがほっとしたように言う。 「子爵様、お知り合いで?」 その様子を見て船長が尋ねる。ああ、と頷き事情を説明しているロリコン。 ったく今日は何て日だ、町には化け物が出るし、博打では負けるし、船に飛び乗ってくる野郎がいるし、とブツブツ呟く船長。 船はその間に空中に一瞬沈み、すぐに風石が発動して宙に浮かんだ。帆と羽が風を受け膨れ上がり、船が動き出した。 「ところで、アルビオンとやらにはいつごろつくんだい?」 ロリコンに尋ねると、「明日の昼頃らしい」との答えが帰ってきた。 「ところで、あなたはこの船にずっといましたか?」 「ああ、いたよ。船長に船を早く出すなら乗せてくれないかと交渉していたが?」 「ふむ。」 何が気になっているのか問うバビル。それを見ていたルイズが横から口を挟んだ。 「なにが気になっているのかしらないけど、ワルド様はずっとわたしたちと一緒にいたわよ?」 「そうか。なに、ちょっと似た人間をさっき見たんでね。」 ごめんごめん、と疑った人間の婚約者をなだめる。だがどうも腑に落ちない。なにしろ魔法の世界だ。なんでもありでもおかしくはない。 ならばここは心を無理矢理読んで…、と精神集中を始めるが、 「ちょっと!ビッグ・ファイア、なにやってるのよ!」 ルイズにすぐに気づかれてしまい、お叱りを受けて止めさせられた。おまけに説教が長く続きそうであった。 しょうがない、ここは話題を変えようと、 「ところで、今回の目的であるところの、ウェールズ王子の行方は?」 「わからん。生きてはいるようだが……」ロリコン首を振る。 「まあ、ここで答えの出ぬ問いを言っていても仕方があるまい。ここはアルビオンに着き、直接無事を確かめる以外に方法はない だろう。だが、王子のいるニューカッスルは包囲され落城寸前だとも言う。はたして、間に合うかどうか…」 そして、翌日昼――― 「アルビオンが見えたぞー!」 という見張り船員の声に外へ出るバビル2世たち。目の前に白い雲が広がり、その上に黒々と大陸が覗いていた。大陸ははるか 視界の続く限り伸びている。地表には山が聳え、川が流れている。川が空中で霧となり、雲となって消えていた。 「すごいな。」 思わず呟くバビル2世に、「驚いた?」と自分の功績でもないのにかわいらしい胸を張るルイズ。 「浮遊大陸アルビオン。ああやって、空中を浮遊して、主に大海の上をさまよっているわ。でも月に何度かハルケギニアの上に やってくる。大きさはトリステインの国土ほどもあるわ。通称、白の国。」 「ふむ。」感心して頷くバビル2世。 「それで、この大陸が通るルートはいつも同じなのかい?」 「ええ、同じみたいよ。詳しいことは知らないけど……」 「ひょっとすると、空中にこの大陸を浮かばせているレールのようなものがあって、その上を滑っているのかもしれないな。」 「なによ、レールって。ビッグ・ファイアの世界にあった道具?」 道具というか、道みたいなものだよというと納得するルイズ。もう一度大陸を見ると、霧は雲となり、大陸の後ろをたなびいている。 あれが雨雲になって、ハルケギニアに大雨を降らすのだ、とルイズが説明してくれた。 ふと横を見るとギーシュが風呂敷の中身を広げて弄っていた。 「やあ、ギーシュ。」 「ああ、ビッグ・ファイアか。」 ようやく原理がわかったよ、ここを押すと風が吹き込んで火のついた炭を燃え上がらせるんだね、とふいごを弄って説明するギーシュ。 「でも、これをどうしろって言うんだい?」 「それは、きみの二つに名について考えるべきだ。」 「二つ名?青銅かい?」 「ああ。よく、青銅の特性について勉強すべきだ。それがわかれば…」 だが、突然の見張りの声に、バビル2世の声はかき消された。 「右舷上方の雲中より、船が接近してきます!」 バビル2世がその方向を見たときにはもう遅かった。雲を利用してすでに大砲の射程距離にこちらを捕らえた空賊が、手を伸ばせば 届くような距離にまで近寄って来ているところであったのだ。 「……なんか臭い…」 「いやねぇ、髪に匂いが移っちゃうわ」 ルイズが呟く。メイジとわかると身代金を取れると踏んだ空賊は最上級の扱いで超上等の迎賓室へルイズたちを案内してくれた。 つまり杖を取り上げられ、倉庫兼弾薬庫に蹴るようにして押し込められ、完全に閉じ込められたのである。もうこうなっては手も足も でない。達磨と一緒だ。 鍵はもちろんこちら側にはついていないので、扉を強引に開ければ即座に空賊たちが丁寧に出迎えてくれるだろう。バビル2世は ともかく他の5名はあっというまにこの倉庫へ逆戻りに違いない。 「まあ、逃げ出すのは陸についてからでもできるだろう。今は停戦するのを待ったほうが懸命じゃないかな?」 「ああ、たしかに。風石はいずれ尽きるだろうから、港に戻らざるを得まい。僕は風魔法を使えるし、油断を見計らって船を奪い、 切れた風石を補充すればすぐにでも逃げ出せるはずだ。」 タバサも風系統のメイジだったはずだが、うんともすんとも言わず本を読んでいる。「ハッピー三国志」なる本だ。ものすごく内容が気に なる。 「ところで…」 とロリコンが口を開く。「僕とみんなの距離が微妙に開いているのはなぜかな?」 言わなくてもわかるだろう、と視線が突き刺さる。 「へ、閉鎖空間だからっていたずらなんかしないよ!」 「どうだか。」 「わたしは、まあ、ストライクゾーン外でしょうけど、あんまり近寄りたくないし。」 「……同じ空気を吸うだけで、妊娠。」 「ぐはあ!」 ロリコンがまたもや激しくダメージを受けている。 「そうだね、「どうせ死ぬんだ!」とか言いながら襲われるかもしれないしねえ」 「ルイズはいいでしょうけど、タバサは縁もゆかりもない人にされるのはねぇ」 「犬猫以下…見境なし…」 「あまり言ってやらないほうがいいんじゃないかな?仮にもぼくの主人の未来の夫だろう?」 「きみたちはほっとくと無茶苦茶いいよるな」なぜか関西弁交じりになるロリコン。 「……お前ら、捕虜の自覚はあるのか?」 気づくと呆れたように、痩せぎすの空賊が扉を開けていた。 「おかしらがお呼びだ、来い」 「王党派?」 何をいってるんだこの女は、と言いたげに問い返してくる。例えるならば東京都庁前で「これが東京タワーですか?」と聞いてきた 頭の軽そうな女を見るような、そんな感じだ。 「ええ、そうよ。」 「もう一度聞くが、本当に王党派なのか?トリステイン貴族が、いまどきのアルビオンにきて、王党派の援軍だって言うのか?」 空賊たちがこりゃあおもしろいものを見たとばかりにどっと笑った。 「そんな、明日にでも消えちまうようなところに加勢に行ってどうするんだ?葬儀屋が儲けるだけだぞ?悪いことはいわねぇよ、貴族派 につくんだな。あいつらは今、メイジが喉から手が出るほど欲しいんだ。たんまり礼金がもらえるぞ。」 「死んでも嫌よ!」 「絶対に?」 「絶対にノゥ!!!わたしはメイジ。ノゥとしか言わないのが貴族よ!」 「ならばきみの心変わりを誘発しよう。」 おかしらが指を鳴らして合図をすると、周りの連中が一斉に剣を抜いた。 「完全武装空賊!この命知らずたちにキミは勝てるというかね?」 「イエスッ!」 「ノーとしか言わないはず!?」 「もういいから話を進めましょう、ウェールズ王子。」 ザッと空賊たちの顔色が一瞬で変わり、真顔になってバビル2世を見た。 「な、なに言ってやがる!」 「だ、だれがウェールズのアホボンだ!」 「そうだ、あの変態王子なんかとうちのおかしらをいっしょにするな!」 「あんなアンポンタンと間違えやがって!」 「お前ら、とりあえず減給!」口々にウェールズを罵る部下たちに冷たく言い放つおかしら。 おかしらが閻魔帳に採点しながら立ち上がった。ルイズたちは話の急展開振りに戸惑い、顔を見合わせた。 「驚いたな。まさかばれるとは思っていなかったんでね。失礼した、貴族に名乗らせるなら、こちらから名乗らなくてはね。」 周りにいた空賊が、減給…とぼやいていた連中も含め、一斉に直立した。 縮れた黒髪をはぎ、眼帯を取り外し、髭を剥がす。現れたのはりりしい金髪の若者であった。 「私はアルビオン王立空軍大将、本国艦隊司令長官…といってもすでにこのイーグル号しか残っていないがね。」 若者は居住まいを正し、威風堂々と名乗った。 「アルビオン王国皇太子、ウェールズ・テューダーだ。アルビオン王国へようこそ、大使殿。」 「つまりぼくたちは試されていた、ということですね、王子。」 「その通りだ。吉良邸に討ち入る同志を何度も試した大石内蔵助ではないが、とてもではないが外国に我々の味方の貴族がいる とは思わなかったものでね。きみたちを試すような真似をしてすまない。」 ここまで来ても状況のつかめていないルイズの代わりに、ロリコンが優雅に頭を下げて言った。 「姫殿下より、密書を言付かってまいりました。」 「ふむ、姫殿下とな。きみは?」 「トリステイン王国魔法衛士隊、グリフォン隊隊長、ワルド子爵。 」 それからロリコンはルイズたちを次々紹介していく。 「そしてこちらが姫殿下より大使の大任をおおせつかったラ・ヴァリエール嬢とその使い魔の少年でございます、殿下。」 「使い魔?ふむ。私の変装を見破ったのが使い魔か。これは君たちにばれたのは不幸中の幸いだったというべきだろうかな?」 と、何かに気づいたようにバビル2世の格好を見るウェールズ。ルイズが慌てて手紙を取り出そうとして、躊躇し王子を見る。 「あ、あの……その、失礼ですが、本当に皇太子様?」 ウェールズは笑った。 「まあ、さっきまでのこともある。無理もない。僕は正真正銘のウェールズだよ。なんなら証拠をお見せしよう。」 ウェールズはルイズに、自分の薬指に光る指輪を外して渡した。ルイズの指に嵌っていた水のルビーが共鳴しあい、虹色に輝いた。 「この指輪の石は王家に伝わる風のルビー。そしてキミの指についているのはアンエリッタの嵌めていた水のルビーだ。そうだね? 水と風は虹を作る。王家の間にかかる虹さ。」 「大変、失礼をばいたしました。」 ルイズは一礼をして手紙をウェールズに渡す。ウェールズは愛おしそうに手紙を見つめ、花押に接吻した。が、中を読み始めると、 表情に曇りが出た。そして顔を上げ、真剣な顔で 「姫は結婚するのか?あの、愛らしいアンリエッタが。私の可愛い……従姉妹は……」 ワルドは無言で頭を下げる。ウェールズは再び視線を手紙に戻す。そして最後の一行まで読むと微笑んだ。 「了解した。姫の願いに答えよう。何より大切な姫から貰ったものだが、姫の望みは私の望みだ。そのようにしよう。だが、手紙は 今手元になくニューカッスルの城にあるんだ。姫の手紙を空賊船につれてくるわけには行かないのでね。それに……」 ウェールズは笑っているような、泣いているような、耐えているような顔のまま言った。 「それに、僕のほうからも君たちに頼みがあるんだ。始祖から伝えられたという王家の秘宝を賊に渡すわけにはいかない。きみたちに、 ぜひ持ち帰ってもらいたいんだ。多少、面倒だがニューカッスルまでご足労願いたい。」 雲中を通り、大陸の下に出てニューカッスルの秘密軍港に到着した。 途中、巨大戦艦「レキシントン」なる反乱軍の旗艦の目をやり過ごし、慎重に隠密潜行を行った末の到着であった。 それはまさに「空賊」であった。 無事城に到着した一行は杖と武器を返され二手に分かれた。いつの間にかデルフリンガーまで回収されていたらしい。ロリコンたちは こちらのメイジたちと王女の代理として歓談、一方ルイズとバビル2世はウェールズに案内され粗末な彼の居室へと迎えられた。何を 話したのか、ルイズだけが中に迎え入れられたため詳細はわからない。魔法をかけているのだろう。超感覚をもってしても中の様子は 細々としか聞こえてこない。やがて扉が開き、ルイズが手招きをしてバビル2世を呼んだ。その表情で、なんとなく中でどんなやり取り が行われていたか察せられた。 「仕事よ、ビッグ・ファイア。」 先ほどの通り、王家の秘宝を処分したいのだという。できれば持って帰って欲しいが、無理ならば完全に破壊して欲しい。とのことで、 極秘に行う必要があるため、ウェールズとルイズ、そして使い魔であるバビル2世のみがその任に当たることになったのだ。 粗末なベッドを移動させ、椅子を代わりに足の部分に当てて置く。するとタペストリーのかかった壁が割れ、入り口が開いた。 中は天然の洞窟を利用した通路になっており、長い階段が備えられている。 そこを降りながら、ルイズはつい気になったことを聞いてみた。 「それで、アルビオン王家の秘宝とはいったい何なのでしょうか?」 ルイズはいくつか噂に聞いたことがあった。始祖から伝わった宝が、それぞれの王家に伝わっている、と。たとえばトリステインには 始祖の祈祷書なる書物があるという。アルビオンについて聞くのは… 「まさか、始祖のオルゴール…でしょうか?」 「半分、正解だ。」 ウェールズは笑って答えた。屈託のない、いい笑顔であった。育ちのよさがその笑みからにじみ出ているようであった。 「秘宝は二つあるんだ。一つはオルゴール…だがそれは先の戦いで行方知れずとなった。」 50mほど降りてホールに出る。竜が臥せたような意匠が施された門と子供をかたどったらしい石像がそこにあった。 ウェールズはその石像に深く一礼をした。 「さあ、まず入り口まで戻りましょう」 「え?戻るんですか?」 往復し今度は門を指でなにやら字を書くようになぞった。 「私もこの字の意味は知らないんだ。ただ、次期王位相続者にのみ門の開け方が代々教えられ伝わってきたんだ。」 再往復する3人。ルイズは半分嫌気が差していた。が、表に出すわけにもいかず粛々と従っていた。 ふとルイズはバビル2世がどこかで見た何かを思い出そうとしているような顔をしていることに気づいた。 『ちょっと!そんな顔するんじゃないわよ!』 『い、いや、そうじゃなくてどこかでこれと似たような話を…』 『シッ!静かに。ここであとは門が開くまで待たないといけないんだ。場合によっては半日でも、1日でも…』 が、そのときはやけにあっさりと開いた。 「やはり…」 なにがやはりなんだろうか?そう思うルイズ。ウェールズ王子は奥へと2人を手招きする。 「やはりそうだったのか。この服、ラ・ヴァリエール嬢の使い魔のものとよく似ていると思わないかい?」 「こ…これは、人?でしょうか…?」 「いや、これはどうも超精密なゴーレムやガーゴイル、らしい。実際のところよくわからないんだ。」 ブルルルル、とバビル2世の背中でデルフリンガーが震えた。何事かと鞘から抜こうとするがでてこない。 無理矢理ひきぬくと、いつもの調子はどうしたのか異常に怯えた様子で 「あれはやばい/あれは起こしちゃダメだ/よく覚えてないけどやばいんだ/起こしちゃいけない!/」 「インテリジェンスソードか。珍しいな」ウェールズ王子が気づいてこちらを見る。 「そこの剣、きみはなにかこれについて知っているのかい?王家では始祖の使い魔と言われているんだが。私も胸にルーンが刻ま れているのを確認したよ。」 「伝説の始祖の使い魔ですか!?」 「そ、そうなんだよ/だからやばいんだ!/そいつは起こしちゃいけねえ!/」 その時、ルイズは気づいた。始祖の使い魔が震えていることに。 「う、動いている!?」 「目覚めやがったのかよ!/おしまいだ、畜生め!/」 それの目が開く。 ゆっくり立ち上がり、手に持った羽扇子をふわっと舞わせる。白いスーツを着、口髭を生やした細身の男のようなゴーレムが目覚めた。 「おお、コウメイ様が…!」「げぇっ!コウメイ!/」 「お久しぶりです、バビル2世様。」 コウメイ、と呼ばれたそれは優雅にバビル2世に向かい、会釈したのであった。 前へ / トップへ / 次へ
https://w.atwiki.jp/tokusa/pages/270.html
■稲本潤一(WBA05-06H)(リペイント) re0022.jpg ■フィギュアデータ メーカー エポック シリーズ - チーム ウェスト・ブロムウィッチ・アルビオンFC シーズン 2005-2006年 ユニホーム ホーム 発売年 -年 その他 リペイント作品(譲渡品) ■フィギュア感想 ペイント自体は丁寧に仕上げてありますので満足な一品です。しかしながらWBA時代のイナに全く思いいれが無いだけに微妙なコレクションとなっていますね。 ■その他 参考:稲本潤一【wikipedia】 .