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居間に移動するとまなぶは居間の中央にお座りの姿勢になった。学ぶの視線を追うとテレビを見ている……テレビが映っている。ニュース番組か……あれ、 見た事ある風景……建物……それも極最近のはず……建物のエンブレムを見て直ぐに思い出した。ワールドホテル本社ビル…… その出入り口に警察の捜査員が入っていく様子が映されていた。 ひより「ワールドホテル……巨額の脱税容疑……なんですかこれは……」 まなぶ「フン、コン……ゥワン」 まなぶは興奮している。 かがみ「……な、何よ、これ、こんな事があって良いの……つかさ……こなた……みゆき……松本さん……」 急にかがみさんも動揺し始めた。 『柊けいこ容疑者が搬送さましたが共犯の木村めぐみの行方は一向につかめていません、これに対して国税局は特別手配を警視庁に……』 テレビのアナウンスが居間に響き渡る。 すすむ「一流企業の不祥事か……よくあることだな」 佐々木さんは冷静だった。 ひより「ワールドホテル……かがみさん何か知っているのですか、そういえばたかしに会ったのもあの場所、つかさ先輩、高良先輩もそこに居たみたいだし……なんでも そのホテルの傘下になるとか言っていましたけど……」 かがみ「佐々木さん、ひより、話しの途中で悪いわね、私……行かなきゃ……事務所に、法律事務所に行かないと……ダメよ、こんなのを許したら絶対にダメ」 かがみさんは急いで身支度をすると飛び出すように玄関を出て行った。 佐々木さんはテレビの電源を切ると近くの椅子に腰をおろして溜め息を付いた。まなぶは半開きになっていた扉を抜けて診療室の方に行ってしまった。 ひより「佐々木さん、かがみさんのあの慌て様、動揺していたし、何かご存知ですか?」 佐々木さんは座ったまま話しだした。 すすむ「彼女が何故動揺しているのかまでは分からない、だが一つ言えるのは捕まったホテルの会長、柊けいこ、逃走中の木村めぐみは我々の仲間だ」 ひより「仲間……お稲荷さん、それはまなぶさんから聞いた、だけど、あの時は一人だって……」 すすむ「けいこは人間になった、だからまなぶは分からなかったのだろう……人間にならなければこんな事はしなかっただろうに……」 ひより「どう言う事ですか……」 すすむ「知りたいのか……」 佐々木さんは悔しそうに両手に握り力を込めていた。 すすむ「けいこはあのホテルの前会長と結婚をして一緒になった」 ひより「……柊……けいこさんはその為に人間になったのですか……」 すすむ「……そうだ、そして彼女の夢が人間と我々の共存」 ひより「共存……それって、つかさ先輩と高良先輩がしようとしているのと同じ……」 すすむ「つかさんと利害が一致したのだろう、けいこがつかささんを利用したようなものだな」 ひより「……でも、それと脱税とどう関係するのか分からない……」 すすむ「……けいこの経営する工場や特許に目がくらんで事件を捏造したとしたらどうだ」 ひより「まさか、ありもしない犯罪を捏造なんか出来ない、ここは日本っスよ」 すすむ「けいこはホテルを、会社を大きくするために我々の知識を使いすぎた……人間の短すぎる寿命で焦ったのだろう、早過ぎる、早過ぎたのだ……あと百年いや千年……」 佐々木さんの拳に力が更に籠もった。 まさか、そんな事があって良いのか。かがみさんはそれを見抜いて外に出たのかな。 すすむ「たかしの憎しみを解いたつかささんは良くやった、それだけで仲間の殆どはつかささんの意見に賛成するだろう、問題は我々でなく人間側の方だ、けいこが捕まった 時点で人間と共存に賛成する仲間は居ないだろう……私もその一人だ」 ひより「そ、そんな……」 すすむ「逃亡しているめぐみはこの地球を去る計画をしている、けいこに止められていたが、このままではめぐみの計画が実行されるかもしれないな」 ひより「そ、そんな事が出来るの、だったら何故もっと早く、一万年前でも千年前にでも出来たじゃないですか、何故今になって……」 すすむ「少なくとも高度な電波通信が出来る技術が必要だった……そう言えば分かるかな」 電波通信技術……なるほどね。 ひより「それで、佐々木さんは帰るつもりですか……」 すすむ「……そうなるだろう、知恵の付いてきた人間とこれ以上住むのは危険だ……」 一番聞きたくない答えだった。 ひより「本当に、いのりさんは諦めるの?」 すすむ「……彼女は別に好きでも何でもない」 ひより「佐々木さん……それは本心で言っているの?」 するとまなぶや小林さんも帰ってしまうのだろうか…… 佐々木さんは黙ったままだった。帰る計画があったなんて、ここに来て全てが終わってまうのか。私が、皆がやってきた事が全て徒労に終わるとうのか。 まなぶ「なぜ今まで黙っていた……」 診療室から人間になったまなぶが入ってきた。 すすむ「……聞いていたのか、どうした、急に人間になって……」 まなぶ「……まつりさんと会う約束をしたからこれから出かける所だった」 すすむ「そうか……」 まなぶ「私は本星には行かない、ここに残る」 すすむ「おまえはこの星の生物ではない……」 まなぶ「いいや、この星で生まれてこの星で育った、見たこともない故郷に帰るつもりはない」 すすむ「まつりさんがおまえを受け入れるとは限らないぞ」 まなぶ「その為だけに残るわけじゃない……」 まなぶはそのまま飛び出すように玄関を出て行った。 すすむ「ふっ、今日はやけに慌しいな……二人も飛び出すように出て行った……」 苦笑いともとれるような微笑だった。 すすむ「田村さん、君に呼吸法を完全に伝授するのは出来そうにない……小早川さんやかがみさんから教わるといいだろう、特に小早川さんには呼吸法の他に いくつか整体法も教えてある……役に立ててくれ……」 ひより「……帰るのは何時になるのです、気が早いですね……」 佐々木さんは何も言い返してこなかった。皮肉のつもりで言ったのに。 ひより「でも、ちょっと嬉しいかな、少なくともお稲荷さんの一人はこの星を気に入ってくれたのだから、他に残るお稲荷さんもいるといいな……」 すすむ「まなぶは君の教育で完全に人間に染まってしまった……」 ひより「そうするように言ったのは佐々木さんでしょ?」 すすむ「そこまでしろとは言ってはいない……」 ひより「それに私はまなぶさんにそんな大した事は教えていませんよ、逆に彼から教えてもらった方が多いかも」 私は笑った。 すすむ「埒もない……」 呆れたような顔だった。 埒もないって、めちゃくちゃって意味だっけな、今じゃ余り使わなくなった言葉を言うなんて、改めて彼は永い間生きていたのを実感した。 佐々木さんは私を睨みつけてきた。 すすむ「もう私達を放っておいてくれ……お節介だ」 ひより「もう何度もその言葉聞いています、今更そんな事言っても放っておけない、コンの時もそうだったように……仲間じゃないっスか」 すすむ「仲間……か」 佐々木さんは私をみたけど何も言ってこない。やっぱり私じゃダメなのだな……今度いのりさんを連れてこないと。 ひより「すみません、お邪魔しました、ホテルの不祥事ともなれば「レストランかえで」も何らかの影響があるかもしれません、心配なので私も帰らせてもらいますね」 私は立ち上がった。 すすむ「仲間……我々をそう言うのか……君に時間のないのは分かっている……私の下らない話を聞いてくれるか……聞いて欲しい……」 何だろう、急に私を引き止めるなんて…… どうせ私が行っても何も出来ないし……話を聞く位なら私でも……私は席に着いた。 ひより「時間はあります……なんですか、その話って」 佐々木さんの話し、それはこの日本に来た時の出来事だった。 すすむ「千年くらい前、私達がこの日本に来たのは……そう、夏、丁度このくらいの季節だった、大陸を離れ、この日本に流れ着いた…… 追われて逃げて来た私達を当時の人々は手厚く迎えてくれた……そのお礼に私達は彼らに少々の知識と技術を教えた、すると彼らは私達を お稲荷様と崇めてしまった、当時の仕来りだったのだろう、私達に生贄として生娘を私達に差し出した……私達は拒否したのだがな、 拒否をすると彼女達は人柱にとして埋められてしまうと分かった、だから彼女達を保護する目的で受け入れた…… その中に特に私の世話をしてくれた子がいてね……似ている……いや、容姿、声、仕草……性格までも同じだった……そして彼女は巫女だった……」 ひより「その似ている人っていのりさんですか?」 佐々木さんは頷いた。 千年前に会った人、勿論今生きているはずはないよね……その人といのりさんが瓜二つだった。ここまではよくあるお話。でも好きな人と瓜二つなら迷う必要はないような 気がするけど…… すすむ「いのりさんを見ると千年前が昨日のように思い出す……」 遠くを見ている様に居間の一番遠くを目が向いていた。 ひより「好きな人がいのりさんに似ているなら話しは早いっス、その人と同じように接すれば良いじゃないですか」 すすむ「彼女は柊いのり、千年前の巫女とは違う、偶然に遺伝的な一致が起きたに過ぎない……」 そうだろうね、千年も経てばそんな偶然は起きそう、かがみさんが言うようにお稲荷さんはややこしい。 ひより「私達人間ではそう言うのを生まれ変わりって言うのですよ」 佐々木さんは笑った。 すすむ「はは、生まれ変わりか、古典的で非科学的だな……」 なんだかその言い方が気に入らなかった。 ひより「非科学的、私から言わせて貰えば、呪いに錬金術、変身……挙げ句の果てには記憶消去まで、まるでファンタジーやゲームの世界に迷い込んだみたい、とても科学とは無縁っスよ」 すすむ「それは君がそれらを理解していなからだ」 ひより「だったら生まれ変わりも同じ、私達は何も理解していない、生まれて、死んでその先なんて分からない、理解出来ない、それともお稲荷さんは知っているの?」 佐々木さんの笑いが止まった。そして直ぐには答えなかった。 すすむ「私達もその答えを知らない……だから宇宙を旅してきた、その答えを探すために……君達も何れこの地球を飛び立つ時がくる、私達と同じ目的でな……」 気が付くつと佐々木さんの目が潤みだした。 すすむ「私は彼女を救えなかった……助ける方法を知っていても手段がなかった、あの時たかしは生まれたばかりだった、それでも私は必死で薬を作ろうとした…… 彼女は日に日に衰弱して行くばかり、これほどもどかしい事はない、分かるだろう、君なら私の気持ちが……」 そうか。私がかがみさんを救おうとしたように千年前の佐々木さんも……分かる、分かり過ぎるくらいに…… ひより「佐々木さん、今、貴方の目に出ているのが涙ってやつですよ」 佐々木さんは目頭を手でつまみ、その手を広げた。指に付いている水滴、涙をじっと見つめていた。 ひより「それが涙を流すときの感情……大切な物を失った時と得た時に出るものです……私には分かります、佐々木さんが故郷に帰ったらもう一度涙を流しますよ、 大切な物を失う涙を、どうせ流すなら大切な物を得た涙の方がいいと思いませんか?」 佐々木さんは手についている涙を見たまま動かなかった。私もこれ以上何を言って良いのか分からない。 ひより「下らない話しなんてとんでない、とても素敵で悲しいな話でした……今度いのりさんを連れてきますね……私……失礼します、」 ただ自分の手を見ている佐々木さんに礼をして整体院を出た。 お稲荷さんが涙を流すのを初めて見た。つかさ先輩やかがみさんはもう見たのだろうか。でも見たと言っても人間の姿だから特段珍しい光景ではない。 千年前の恋人か……私に同意を求めていて悲壮に満ちていたあの姿は流石にもらい泣きしてしまった。いのりさんと逢う度に懐かしさと悲しさが同時に来たに違いない。 逢いたいけど逢えないか……拒み続けていた理由が分った……解決できるだろうか……それにはいのりさんに佐々木さんの全てを話す必要があるような気がする。 そうでないといのりさんは決められない…… そんな事をしたらまつりさんの二の舞になるかも……それとも受け入れてくれるかな……どちらにしろいのりさん次第か…… そういえばまなぶはまつりさんと会う約束をしたって言っていた。まさか……告白する気なのだろうか。佐々木さんとまなぶの会話だとそう取れる言い方だった。 佐々木さんとの話しで気にていなかったけど、これはこれで凄い事かもしれない……成功するのだろうか……失敗しても故郷には帰らないって言っていたっけ。 それなら失敗したら私が……あれ、失敗したらどうすると……私ったら何を考えている。失敗を前提にしているなんて…… 『ブーン、ブーン』 ポケットから振動を感じた。携帯電話だ。私は考えるの止めて携帯電話を手に取った。ゆーちゃんの名前が出ている。出る前から用件は分かるような気がした。 ひより「もしもし……」 ゆたか『あ、ひよりちゃん、今何処にいるの?』 ひより「整体院を出て駅に向かっている所……」 ゆたか『丁度良かった、今から家に来られないかな、相談したい事があるのだけど』 ひより「それってワールドホテルの脱税事件の話しかな……」 ゆたか『テレビのニュース見たの……つかさ先輩達大丈夫かなと思って……私達が心配してもしょうがないけど……』 やっぱりこの話しか。ゆーちゃんの所までなら歩いて行ける距離だ。 ひより「いや、心配するだけで意味はあると思うよ、分かった、そっちに行くから」 ゆたか『ありがとう、待っているね』 私は駅から泉家に進路を変えた。 泉家に付くとゆーちゃんが出迎えてくれた。 ゆたか「いらっしゃい、待っていたよ、私の部屋で話そう、あっ、そうそう、みなみちゃんと高良先輩もこっちに向かっているから」 ひより「高良先輩……」 ゆたか「そうだよ、高良先輩が来ると頼もしく感じるよね……」 そうか、みなみちゃんが今までの事を話してくれたのか。高良先輩からもいろいろ聞けそうだし。もしかしたら何か解決策が見つかるかもしれない。 ひより「そうだね……」 ゆたか「後、宮本さんにも携帯電話をかけたのだけど……マナーモードになっていて連絡取れなかった、整体院に行っていたでしょ、留守だったの?」 マナーモード……さては勝負をしているのか、それとも既に勝負が付いているのか…… ひより「彼は今まつりさんと会っている、邪魔したら悪いよ……」 ゆーちゃんは驚いた顔で私を見た。 ひより「人間に長時間居られるようになったし、この前のような失敗はないと思うよ……どうしたの、そんなに驚いて……」 ゆたか「う、うんん、急な話しだったから……」 今度は心配そうな顔で私を見た。 ひより「……私も急な話しだった」 ゆたか「大丈夫なの?」 ひより「大丈夫って何か?」 ゆたか「え、えっと、その、ひよりちゃんは宮本さんの事を……」 ひより「それはこの前話したと思ったけど」 ゆたか「あ、そ、そうだったね、ごめんね、蒸し返しちゃって……そ、それより、大変な事になっちゃったね」 ゆーちゃんは慌てて話題を変えた。謝るなんて、そんなに私怒っていたかな…… ひより「佐々木さんから聞いた情報だと……」 みなみちゃんと高良先輩が来るのか…… ひより「二度手間になるから二人が来てから話すよ……」 ゆーちゃんはまた心配そうな顔になった。 そして二人が来るのを待って私は整体院で佐々木さんと会話した内容を説明した。 みゆき「故郷……本星に帰ると言われるのですか……いささかそれに関しては疑問もありますがそう言われる理由も納得できます……私達の計画は失敗したのですから」 みなみ「疑問?」 みゆき「いいえ、技術的な疑問なので気にしないで下さい」 ひより「失敗って、お稲荷さんとの共存ですか?」 高良先輩は頷いた みゆき「はい、狐に成っている間を私達人間が保護する代わりにお稲荷さんの持てる知識の全てを私達に提供する……しかし提案者であるけいこさんがああなってしまっては」 肩を落とす高良先輩。 みゆき「私は知りたかった、彼等の持つ知識が……まだ何一つ教わっていません……せめて、かがみさんを救ったあの薬の調合だけでも……知りたかった……」 ひより「あれはつかさ先輩が作ったのですよね、調合と言うよりレシピではないでしょうか?」 高良先輩は微笑んだ。 みゆき「そうかも知れませんね……つかささんは覚えているでしょうか……」 ひより「メモとか残っていればある程度わかるのではないでしょうか、私のネタ帳みたいに」 みゆき「そうですね……今度聞いてみましょう」 みなみ「これからどういたら……」 みゆき「帰りたいと言うお稲荷さんがいれば協力するのが良いと思います、留まるお稲荷さん……そういえば宮本さんが残ると言われましたね、そちらも協力すべきでしょう、 しかし驚きました、かがみさんの婚約者、小林さんがお稲荷さんだったとは……彼は昨日、事務所の方に挨拶に行きました……恐らく彼も残るでしょう……」 ひより・みなみ・ゆたか「婚約ですか!!」 みゆき「はいそうですが……」 高良先輩は驚いて眼を丸くした。 みゆき「聞いていませんでしたか、とっくにご存知かとおもっていました」 恋人だったとは聞いているけど婚約したとまでは聞いていなかった。まったく……かがみさんは一番肝心な事を教えてくれないのだから…… ひより「するとあとは……佐々木さんをどうするか」 みゆき「そうですね、あとつかささんの恋人、ひろしさん……彼も意思をはっきりとしていません」 ひより「ひろしって真奈美さんの弟とか言っていましたよね……」 高良先輩は頷いた。 みゆき「つかささんのひろしさんの想いは確かです、出来れば彼には残って欲しい……いのりさんの方はまったく存じないですが……」 ひより「いのりさんもかがみさん同様奥手で……あまり表にだしません、つかさ先輩の方が積極的で驚きです……」 つかさ先輩はひろしに自分から告白したそうだ。もっとも高良先輩は直接本人から聞いたのではなく、泉先輩から聞いたと言っていた。その泉先輩も松本さんから聞いたらしい、 ……ある意味恥かしがりやなのは柊姉妹の共通項なのかもしれない。だけど行動力からするとまつりさん、つかさ先輩、かがみさん、いのりさんの順番だろう。 最初に決まると思っていたいのりさんと佐々木さんが未だにぐずっているのはそのせいかもしれない。 みゆき「そうですね、人は見た目とは違いますね……私はつかささんとひろしさんのお手伝いを致します」 ひより「でも……人類の運命を変える計画が……柊四姉妹とお稲荷さんの恋愛手伝いになってしまったなんて……高良先輩も幻滅したのでは?」 高良先輩はにっこり微笑みながら話した。 みゆき「そうでもありません、誰かと誰かが好きなれば、その間に子供が生まれ、その子供が世界を変える……同じ事です」 ひより「物は考えようってことっスか……」 かがみさんに聖人君子と言わしめるだけのことはある。そんな考え方は私には出来ない…… みゆき「私はひろしさんの友人である小林さんと相談するつもりです、彼なら協力してくれるような気がします」 ひより「気をつけて下さい、今、かがみさんが小林さんの法律事務所に行っています、きっと頻繁に通うようになると思いますよ、かがみさんも法律でつかさ先輩達を助けようと しているみたいですから……かがみさんはまだ小林さんの正体を知りません」 みゆき「そうですね、むやみに小林さんと接触すればかがみさんに気付かれてしまいますね、分かりました、私も注意します」 みなみ「ゆたか、さっきから何も話していない、大丈夫、顔色もあまり良くない」 ゆたか「え、うんん、大丈夫だよ、でも、今日はちょっと気分が良くないかも」 みなみちゃんの言うようにさっきからまったく話していない。私が来た時はあんなに元気だったのに。高良先輩とみなみちゃんが来た辺りから静かになったような…… みゆき「長居は小早川さんに負担がかかりますね、話しは煮詰まりました。各々持てる力を尽くしましょう、小早川さん、お大事に」 高良先輩は帰り支度をし始めた。 みなみ「本当に大丈夫?」 ゆたか「うん、後で例の呼吸法をするから大丈夫……ありがとう」 呼吸法か…… ひより「その呼吸法、少し見学していいかな、全然上手くならなくて……」 ゆたか「良いけど……参考になるかな」 みなみ「ひよりが一緒なら安心、私もみゆきさんと帰る……お大事に……」 みなみちゃんも帰り支度をした。 ゆたか「ゴホ、ゴホ……あ、あれ……おかしいな……」 皆が帰った後、ゆーちゃんの呼吸法が始まった。でも……私と同じようなミスを連発……集中できないのだろうか。 ひより「私が居るからかな、私も帰った方が良さそうだね」 私は帰り支度を始めた。 ゆたか「ひゆりちゃん……皆は話題にもしなかったけど……佐々木さんが帰る理由って千年前の恋人を助けられなかったから?」 私は帰り支度を止めた。 ひより「それが全てではないと思うけど……理由の一つだと思う」 ゆたか「私にはそんな話し一度もしなかった……」 ひより「そうかな、佐々木さんはゆーちゃんに整体術まで教えている、かがみさんにも教えなかったのだから……」 ゆたか「うんん、そんなんじゃなくて……」 何が言いたいのかな…… ひより「そんなんじゃなくて?」 復唱して言い返した。 ゆたか「千年越しの恋なんて……敵わない」 ひより「そうだろうね、彼を地球に残ってもらうのは至難の業かもね」 ゆたか「ひよりちゃん、もう良いよ、帰って……」 ひより「へ、?」 あれ、急にどうしたのかな…… ひより「あ、弱気になっていた、私とした事が、高良先輩が言っていたね、持てる力を尽くすって」 ゆたか「何も分かっていない」 何も……何もって。それは何って聞くともっと怒りそう……ここは一先ず退散としますか。 ひより「分かった、帰るけど……いのりさんを佐々木さんに会わす日を決めないと、あまり時間がないみたいだから急がないと……」 ゆたか「……私はもう何もしない、ひよりだけですれば……」 な、何があった。私がいけないの。何故。分からない。 ひより「ちょ、ちょっと、かがみさんだって手伝ってくれているだから今更……お、落ち着いて」 ゆたか「ひよりのバカー!!」 ゆーちゃんは私の荷物を持つと私の背中を押して部屋からだ押し出した。そして、荷物を廊下に放り投げるとドアを閉めてしまった。 私はドアをノックした。だけど何も反応は返ってこない。 ひより「帰るけどまた連絡するから……」 私は放り投げられた荷物、鞄を取ると玄関に向かった。 そうじろう「何かあったのかい、騒いでいたけど……」 心配そうな顔でおじさんが出てきた。 ひより「い、いいえ何でもないっス、ゆーちゃん、しばらくそっとしておいて下さい」 そうじろう「あ、ああ……」 おじさんはゆーちゃんの部屋の方を見ていた。 ひより「お邪魔しました」 私は泉家を出た…… 追い出された理由が分からない。最後は呼び捨てにまでされてしまった。何も分かっていないって言われたって……それじゃ分からないよ…… 私は歩きながらゆーちゃんが豹変してしまった原因を考えている。 いや、豹変したわけじゃない。気が付かなかっただけなのかもしれない。いつからだろう。思い当たらない。 それじゃゆーちゃんとの会話から読み取るしかない。どんな話しをしたかな…… みなみちゃんと高良先輩が来る前にまなぶの話しをした。それから二人が来てから佐々木さんの話しをした……佐々木さん…… ゆーちゃん千年前の恋人を教えてくれなかったって言ったな……あっ、前にもまなぶ、コンの話しをしなかったとか言っていた。そうか、佐々木さんが私ばかりに話すものだから 私に焼餅を焼いているのか。ふふ、やっぱりゆーちゃんだ。まだまだ子供だな~焼餅なんて、佐々木さんが好きならそう言ってくれれば……あれ? …… ……好き? 佐々木さんが好き、ゆーちゃんが? 私の歩みが止まった。 ゆーちゃんは佐々木さんが好き……え、なんでこんな結論が出る。佐々木さんはいのりさんが好き……ゆーちゃんは佐々木さんが好き、いのりさんは佐々木さん……三角関係……の成立…… ひより「えー!!」 思わず声に出して奇声を発した。 そういえばかがみさんの病気が治って直後だったかな、ゆーちゃんが変な質問をしてきたのは。私がまなぶを好きじゃないかって。だからさっきも…… 私がまなぶが好きならゆーちゃんの立場を理解出来ると思った。だから私に相談したかった。だけど私はまなぶの恋を否定して、ゆーちゃんの気持ちも気付かなかった。だとしたら…… だとしたら、あの態度は理解出来る。 私は振り返り泉家に引き返した。ゆーちゃんもバカだな、それならそうとハッキリ言わないと分からないよ。戻ってゆーちゃんと話さないと…… 再び足が止まった。 話す……何を。ゆーちゃんに何を話す。佐々木さんが好きならどうすれば良い…… 私はその答えを持っていない。 三角関係なんて……まだ恋愛もろくにした事のない私がそんな高度な恋愛の手解きなんぞできるわけがない…… 今頃になって。こんな差し迫った時期に突然そんな事を言われても……何で佐々木さんなんか好きになるの。私達はお稲荷さんと柊家四姉妹をくっ付けるキューピット役じゃなかなったの。 私はさっさとまなぶをまつりさんに会わせて……違う……会わせたのではなくまなぶが会いに行った……自分の意思で。 正直羨ましかった……うそ……そんな事って …… …… 力が抜けて持っていた鞄を落とした。 私もまた……まなぶを好きになっていたって事なのか……そんなバカな…… その後の事はよく覚えていない。気が付くと自分の部屋のベッドに寝ていた。そして落としたはずの鞄が机の上に置いてあった。自分で拾ったのも覚えていないのか… お稲荷さん……最初は好奇心から始まった。そして疑問は生じてそれが確認に変わった。私はそれらを遠目で見ていると思っていた。ゲームのプレーヤーで居ると思っていた。 気が付いた時、私はゲームのキャラクターになっていた。当事者になっていた。いつからだろう。 かがみさんの病気が分かった時辺りからか……いや、もっと前だったかもしれない。でも今それはどうでもいい。問題は私もゆーちゃんも柊姉妹と同じ立場になっている。 同じ位置なら持ち上げるられない。誰も助けられない、いや、自分を助けて欲しい。 私はいったいどうすれば……誰かに助けを求めるしかない。しかも当事者じゃない人に……そんな人は居るのか。 居る……それはみなみちゃんと高良先輩そして泉先輩……この三人は一連の話しを全て知っている。それでいて私やゆーちゃんみたに深く立ち入っていない。 でも泉先輩はレストランかえでの事で私達にかまっていられないし、距離が遠すぎる。する事は一つしかなかった。 私は岩崎家の玄関の前に立っていた。アポは取っていない、しかもあれから一日しか経っていないしまだ自分の心の整理がついていなかった。しかし時間がない。 高良先輩の家が向かいで助かったかもしれない。もし、彼女が留守でもそっちに行ける。 私は呼び鈴を押した。おばさんが出てきた。 ひより「こんにちは……」 ほのか「あら、田村さん……いらっしゃい、みなみね……」 私を玄関に入れてくれた。と言う事は、みなみちゃんは居る。 ほのか「今ね、みゆきちゃんも見えているの」 ひより「そうですか……」 高良先輩も…… 私はおばさんに居間の入り口まで案内された。おばささんは入り口の前で振り返り人差し指を立てて口元に近づけた。 ほのか「静かにね……」 囁くような小声で言うとおばさんは静かにドアを開けた。 私の耳にピアノの音色が入ってきた…… 私は音を立てないように静かに居間に入った。おばさんはそのままゆっくりとドアを閉めてくれた。ピアノの方を見るとそこにはみなみちゃんが演奏していた。 演奏に集中しているのか私には気付かず静かにピアノを弾いている。そして、ピアノの前に椅子に座っているのは……高良先輩……。 私の気配に気付いたのか高良先輩は後ろを振り向いた。そして私の顔を見るとにっこり微笑み手招きをした。高良先輩の座って居る所にゆっくり移動すると 高良先輩は横に体を移動して私の座るスペースをつくってくれた。私はそこに導かれるように腰を下ろした。 みなみちゃんは演奏を続けている。目を下に向けているのか目を閉じて瞑想しながら弾いている様に見えた。 静かな曲……だけど聴いたことがない。クラッシックかなにかだろう。こんな曲を聴いている場合ではない……逸る気持ちを抑えながら演奏が終わるのを待った。 『パチパチパチ』 演奏がおわると高良先輩が拍手をした。 みゆき「素晴らしい演奏でした」 みなみ「ふぅ……」 集中していたのがほぐれたのかみなみちゃんは息を吐いた。そして頭を上げ私達が座っている方を向いた。 みなみ「ひより……いつから……」 演奏しているのを見られて恥かしかったのか少し顔を赤らめていた。 みゆき「ついさっき、ですね、田村さん」 ひより「は、はい……」 みゆき「どうでしたか、みなみさんの演奏……」 ひより「え、ええ、良かったっス……」 みなみ「ありがとう」 みなみちゃんは立ち上がり私達の席に近づいた。 みなみ「連絡もしないで……どうして……」 私の表情を見て只事ではないのを察したのかみなみちゃんの表情も険しくなった。そんな私達を見た高良先輩は…… みゆき「何か大事なお話のようですね、分かりました」 高良先輩は立ち上がった。帰るつもりなのか…… ひより「……待ってください、高良先輩も聞いて欲しいっス……私、どうして良いか分からない……」 みなみちゃんと高良先輩は顔を見合わせた。 みゆき「どうしたのですか、昨日はあんなに元気でしたのに……今日の田村さんは……」 みなみ「今日のひよりは昨日のゆたかみたい……」 みなみちゃん、間違ってはいない、多分昨日のゆーちゃんも同じような心境だったに違いない。それなのに私は…… みなみちゃんはピアノに戻り椅子に腰を下ろした。 みなみ「いったい、どうしたの?」 何て言えば……誤解されるのは嫌だ。恥かしいけど、ありのままを話そう。 ひより「まなぶと一緒に行動していくうちに、笑ったり怒ったりしていくうちに、……私、まなぶの事が好きになってしまった…… 何ででしょうね、こんなのは私も想像もしていなかった……昨日ゆーちゃんが怒り出して、その怒った理由を探っていたら気付いたのです…… 昨日、まなぶはまつりさんに会いに行った、告白をしているのか、それとも……そんなのを考えていると苦しくなる……もうこれから先の事も考えられなくなってしまった」 みゆき「田村さん……」 高良先輩は悲しい目で私を見ている。 ひより「ゆーちゃんも同じです、ゆーちゃんはまなぶが現れる前から佐々木さんと会っていました……だから彼女も、ゆーちゃんも佐々木さんを好きに……」 みゆき「よく話してくれました……これは凄く大事な事……ですけど、時間はそんなにありません……」 ひより「だかから、だから此処に来ました……」 高良先輩は何も言わず私を悲しい目で見ていた。 みなみ「……まさかひよりがそうなるなんて……どうして、ひよりは遠目でいつでも観察していた、感情を入れるなんてなかった……」 ひより「分からない……分からないよ」 みなみちゃんは立ち上がった。 みなみ「私はゆたかに警告した、人と人を繋げるのは危険って、繋げようとすればするほど相手を意識して、何時しか相手を好きになってしまうって、 ラブレターの代書を依頼すると、書いた人が相手を好きになってしまう……そんな話しをして注意した、だから私はゆたかにあれほど……」 みゆき「みなみさん、もう過ぎてしまった事を言っても始まりません……それだけ田村さん達は真剣だったと言う事です……責められません」 興奮気味のみなみちゃんを諭すような優しい口調だった。 みなみ「は、はい……」 みなみちゃん……そんな警告をゆーちゃんにしていたのか……私はその警告を聞いていたら止めていただろうか…… みゆき「素晴らしいではありませんか、誰かを好きになるなんて……それは掛け替えない事です」 みなみ「でもそれは一対一の話し……人間は二人同時に愛するなんて……それはお稲荷さんでも同じはず……」 高良先輩は私を見ると眼鏡を掛けなおした。 みゆき「お稲荷さん達は一部を除いてこの地球を去ろうとしています、それもそんなに時間はありません、宮本さんが残るにしてもまつりさんと会っているのであれば時間はありません、 選択肢は二つです……自分の気持ちを宮本さんに伝えるか、このまままつりさんと宮本さんの縁組を続けるかです…… どちらも強い決断が必要になります……そしてその結果はどうなるか分かりません」 ひより「二つ……」 みなみ「みゆきさん、それならひよりも分かっていると思います、選べないから相談しにきた……」 みゆき「それではみなみさん、貴女が選んであげて下さい……」 みなみ「え……それは……」 みなみちゃんはおどおどするばかりで答えなかった。そんなみなみちゃんを見て高良先輩はにっこり微笑んだ。 みゆき「実は私もどちらが良いのか分かりません」 ひより・みなみ「え?」 みゆき「結果が分からないので私は責任はれません……困りました、これでは決める事は出来ませんね」 ……まるで私の心を弄んでいるような……そんな風にすら感じる高良先輩の発言だった。でも何故か怒るような気持ちにはならなかった。 まさに他人事……これは私が今までしてきた事……高良先輩は知ってか知らずかそれを私にしている。 みなみ「ふ、ふざけないでもっと真剣になって下さい」 みなみちゃんは少し怒鳴り気味になっていた。 みゆき「私は真剣です、真剣だからこそ選べない……選ぶのは田村さん、貴女なのだから」 ひより「私?」 高良先輩は頷いた。 みゆき「恋愛は自由です、二人の関係に他人は一切口を挟めません……でも、もう田村さんは選んでいます、ですよね?」 高良先輩は微笑んだ。 ひより「私は……まだ……」 みゆき「そうでしょうか……目を閉じて自分に問うてください……」 ひより「自分に……問う……」 私は目を閉じた。 私はまなぶが好きだった……これは変えようのない事実。それは誤魔化しようがない。このまままなぶとまつりさんを手伝っても自分が惨めになるだけ…… いや、手伝うも何も……まなぶが告白してもう二人は既に……そうだよ、これが私の目的だった。 気付くのが遅すぎた。私には何かをする時間なんかない…… 私は目を開けた。 ひより「もう、なにもかも遅すぎでした、終わりです……私の目的は達しました、私はもういいです、ゆーちゃんを助けてあげてください、ゆーちゃんにならまだ時間がありそうだから」 高良先輩はがっかりした顔になり首を横に振った。 みゆき「なぜ小早川さんが登場するのです、田村さんの問題なのですよ……さぁ、もう一度目を閉じて」 私は目を閉じなかった。そしてどうでも良くなった。もう全てが終わった。 ひより「お手数を掛けました、」 私は立ち上がり部屋を出ようとした。 ドアの前に高良先輩が立ち塞がった。 ひより「あの、出られないのですが……」 高良先輩は何も言わず首を横に振った みなみ「み、みゆきさん……」 高良先輩の意外な行動にみなみちゃんは驚いている。 ひより「……帰りたいのですが……退いてください」 みゆき「だめです、そのまま帰ってはいけません」 さっきまでの笑顔が嘘のように必死になっている……これはどこかで見た光景だ…… あれは……小林さんを引きとめようとしたゆーちゃん……いや、もっと前に見たことがある。コミケ事件の時、つかさ先輩が泉先輩を庇った時だ。 みゆき「私は田村さんにまつりさんと争えとは言っていません、ただ、本当に好きならば伝えて欲しい……」 なんださっきとはまるで違う、二つの選択肢と言っておいて今度はもうこれしかないって言わんばかりの言い様だ。 ひより「争うも何も……結果は見えています、私がバカでした、相談するまでもなかった……」 みゆき「かがみさんが死期を知りながら婚約をしました……結果は分かっているはずなのに、なぜ分かりますか」 ……知っている。私は本人と話した。 ひより「分かります、でも、かがみさんと私とでは比べても……」 みゆき「同じです……結果が分かっていても構わない、好きなら相手にそれを伝える……それだけ、それで良いではありませんか」 ひより「……伝えて、その先に何があるのかな……」 みゆき「その先にある物……奇跡です」 奇跡なんて言葉を平気でつかうなんて。 ひより「奇跡はこの前起きたばかりっス……何度も起きますか?」 みゆき「起きますとも、今私達がこうして話しているのも奇跡なのですから」 ……それ、いのりさんに似たような事を言ったかな…… 高良先輩はドアを開けた。 みゆき「止めてすみませんでした、もう私の言う事はありません……」 ひより「……それは伝えたい事を言えたからですか」 みゆき「はい!」 さっきの笑顔が戻った。 ひより「失礼します」 お辞儀をすると私はドアを出た。 みなみ「待って」 岩崎家を出てしばらくするとみなみちゃんが走って私を追いかけてきた。私は立ち止まった。 ひより「みなみちゃん、どうしたの?」 みなみ「さっきはすまなかった、ひよりの気持ちも知らずに……」 ひより「それって、警告の事……ラブレターの代書を例にするなんて……リアリティがあったよ」 みなみ「私が警告したら止めた?」 それを今考えていた。 ひより「ゆーちゃんは止めなかった、だとするとやっぱり私も止めなかったかな」 みなみ「そう……」 ひより「そんなのを聞くためにわざわざ追いかけてきたの?」 みなみ「ちがう……みゆきさんの言った事……正しいと思う」 相談しに行って二人が同じ結論を出した。 ひより「踊らされているような気がするけど……気付いたら携帯電話を持っていたよ……」 みなみちゃんに携帯電話を見せた。 みなみ「ひより……」 ひより「さっき会う約束をした……やってみるさ、九分九厘ダメだだろうけどね……」 みなみ「まさか、告白を……」 ひより「ふふ、まつりさんには悪いけど、本気で行かせてうらう」 みなみ「ふふ、ひよりをその気にさせるなんて、みゆきさんは凄い」 みなみちゃんの笑いをみて私は我に返った。そうか、そう言うことだったのか ひより「高良先輩はかがみさんとつかささんの好いとこ取りをした……やられた……」 みなみ「冷静で客観的に考え、更にひより自身の身になって考えないとできない……」 他人事で考えても、ただその人の身になって考えただけでもダメだって事か……高良先輩は私とゆーちゃん、二人でしてきた事を一人でしてしまった。 高良みゆき、ここにもう一人、憧れの先輩が私に加わった。 みなみ「邪魔をしてしまった……最後に、宮本さんに、どうやって想いを伝える?」 ひより「素直に率直に、そして簡潔に……好きです……」 みなみちゃんの顔が赤くなった。 ひより「な、なんでみなみちゃんが赤くなるの、まったく、告白するのは私の方だよ」 みなみちゃんは頷いた。そして赤くなった顔を元にもどして改まった。 みなみ「結果は私からは聞かない、いってらっしゃい」 ひより「そうさせてもらうね……行ってきます……」 私は歩き出した。約束した場所に向かって。 約束の場所。それはそこしか考えられなかった。そう、彼と出会った町にある神社…… もちろんそこはまつりさんのテリトリーであるのは百も承知。でもそれはまつりさんに対しての当て付けでも宣戦布告でもない。そこが告白するに相応しいと思っただけだった。 移動時間を考慮したつもりだったけど約束の時間よりかなり早く来てしまった。日は西に傾いている。 風もなく人の気配もない。ここってこんなに静かだったかな…… 一人で神社の倉庫なんて来るのは初めて、って言うよりゆーちゃんがまなぶを見つけなければ私はここに居なかった。 つかさ先輩の旅の話しを聞いたのはその後、切欠はつかさ先輩じゃない。私にとって、全てはここから始まった。 つかさ先輩は私達がしてきた事を知っているのだろうか。私がしよとしている事になんて言うのか。 四苦八苦したわりにはつかさ先輩に先を越されてしまったし、私もミイラ取りがミイラになってしまった。それに何一つ達成していない。 それどころか今までしてきた事を壊そうとしている。私っていったい何がしたかったのかな…… 『ザッ、ザッ、ザッ……』 足音……こんな所に来るのは約束をしたまなぶ以外考えられない。慌てて時計を確認する。まだ時間ではない。 足音はどんどん私に近づいてきた。 ちょっと待って、まだ何も心の準備が出来ていない…… 後ろを振り向いて確認する余裕すらない。身体が熱く成ってきた。胸の鼓動も速くなる、その鼓動が全身に伝わるのが分かるくらいに……こんな状況で告白出来るのか。 つかさ先輩はこんな状況で告白したと言うの。この場から逃げたくなってきた。 足音は私のすぐ後ろで止まった。 まなぶ「お、もう来ていたのか、私の方が早いと思ったのに……」 やっぱりまなぶだ。普段ならすぐに話すのになぜか後ろを振り返ることすら出来ない。 まなぶ「実は私も連絡を取ろうと思っていた、すすむの様子が少しおかしい、私と会おうとしない……言い合いをしたのがいけなかったのか、それとも私が出た後で 何かあったのか、それが知りたかった……」 あった、あったけど……今はそれを話している余裕はない。 ひより「私は個人的に用があって……それで呼んだの」 まなぶ「個人的に……珍しいな、そんなの今まで無かった……それで個人的な用って何?」 なんだ、どうして、言えない。このままでは何も言えないで終わってしまう。ただ言うだけじゃないか。簡単じゃないか。 まなぶ「それに、さっきから後ろを向いているけど……何かそこにあるのか?」 そう、みなみちゃんには言えた。あれが練習だと思えば…… 私はゆっくり振り返った。そこにはまなぶが立っている。いままで普通に接してきた。まつりさんが好きなお稲荷さん……宮本まなぶ……今までとそう変わる訳はない。 まなぶは私に何か言いたかったのかか口を開けたが私の顔を見た瞬間口が閉じた。そして私が話しだすのをじっと待っている。 ひより「今更かもしれない、もう遅いかもしれない、だけどやっと私自身の気持ちに気付いた……私は……私は……」 頭では分かっていてもその先が声にならない。手を突っ込んで喉の奥から引っ張り出したい…… ひより「まなぶの事が好き」 力を振り絞って告白した。さぁ、もうあとは野となれ、山となれ!! まなぶは一回溜め息を付いた。 まなぶ「……知っていた」 ひより「えっ!?」 思いもよらなかった返事…… ひより「……な、なんだ、知っていたの……か」 まなぶは頷いた。 私は苦笑いをするしかなかった。彼は知っていた…… まなぶ「私はすすむと違って人の感情を読める、強い感情ほど見つけるのは容易い……」 ひより「……何時から、何時から私は……」 まなぶ「それすらも気付かなかったのか……私が人間になって初めて会った時にそれを感じた」 そうだったのか……もう私はそんな時から…… まなぶ「君は自分の課した仕事のために自分の感情を抑えていたのかもしれない……何度か気付かせようとしたけど……気付かなかった」 ひより「はは、私って、自分の事になるとまるでダメダメだね……」 笑うしかない…… まなぶ「遅かった……」 ひより「……遅かった……の?」 まなぶ「私は彼女に、まつりさんに交際を申し込んだ……そこで彼女の気持ちが分かった……」 ひより「……あ、あ……まつりさん、受け入れた……」 まなぶは何も言わない……負けた……完全に負けてしまった……私はもう此処に居てはいけない。 ひより「そうですか、分かりました、幸せに成って下さいね……さようなら……」 まなぶ「待って、さようならって、まさか、二度と私と会わないつもりなのか……」 ひより「……私が居ると何かと誤解を生みますよ……今、こうして居るのを見つかったら……」 まなぶ「田村さんにはまだいろいろ教えてもらわないといけない……人間の事、先生だったでしょ……」 それに、好きな人が他の女性と会っている所なんか見たくない…… ひより「……先生……それは佐々木さんに頼まれて……それにならまつりさんだって教えられます」 まなぶ「……君じゃないと、田村ひよりじゃないとダメだよ、それにまだ君には最後の仕事が残っている、すすむを救ってくれ、帰るにしても、残るにしても、 あのままだと彼は救われない、私も協力させてもらう」 ひより「……最後の、仕事……」 まなぶは頷いた。 まなぶ「田村さん、君とは好き嫌い関係なくこれからも付き合わせてもらうよ、先生だからね」 微笑むとそのまま帰って行った。 静けさがまた戻った。もう日が暮れそう。 恋愛感情無しに異性と付き合えるだろうか…… 出来るさ、ついこの間までそうだった。 そう思った時だった、僅かに涼しい風が私の頬を撫ぜた……もう夏が終わる…か。 なんだろう、思いっ切り深呼吸がしたくなった。失恋したはずなのにこの清清しさは…… まなぶの態度がよかったのもあったかもしれない。だけどそれだけじゃない。相手に想いを伝える……か 結果はどうでもよかったのかもしれない。高良先輩の言っていた奇跡ってこの事かな…… 私はしばらく余韻に浸った。 さて、まなぶの言うように私にはまだ仕事、ミッションがある。ゆーちゃんと佐々木さんを救わないと…… 二人の気持ちは痛いほど分かる。だけどその感情に溺れてはいけない……いや、分かるからこそ他人事でいないといけない。 出来る、私も高良先輩のようになれる。つかさ先輩そして、かがみさん……力を貸して、もう一回……奇跡を。 もう時間もない。急ごう……最後のミッションへ…… 『ピンポーン』 呼び鈴を鳴らした。もう日はすっかり暮れている。遅いのは分かっているけど、それでもゆーちゃんに会いたかったから。 そうじろう「お、田村さん……」 ドアを開けたのはおじさんだった。 ひより「こんばんは……夜分失礼します……ゆーちゃん、小早川さんはいますか?」 おじさんは険しい顔をした。 そうじろう「昨日から部屋から一歩も出ていなくてね、食事も食べようとしない……」 ひより「会えますか?」 そうじろう「……会えるとは思うが話しをしてくれるかどうか、さっきまで岩崎さんが居てくれたのだが効果はなかった……すれ違わなかったかい?」 みなみちゃん……みなみちゃんが来ても何も効果ないなんて……かなりの重症だ。 ひより「いいえ、きっと駅ですれ違ってしまったのかもしれません」 そうじろう「そうか、とりあえず上がってくれ」 私は家に入ると真っ直ぐゆーちゃんの部屋に向かった。 そうじろう「いったい何があったのだろう、知っているなら話してくれないか」 おじさんは私を呼び止めた。 ひより「誰もが一度は経験する事ですよ、恥かしくて誰にも話せない……苦しくて、切なくて……ここまで言えば分かるでしょうか」 そうじろう「そうか、それじゃ私の出る幕はなさそうだ……遅くなるようなら車を出すから時間は気にしないでくれ」 ひより「ありがとうございます」 おじさんはゆーちゃんの部屋を一度見るとそのまま居間の方に向かって行った。 『コンコン』 ドアをノックしても反応はなかった。三回ノックしても反応がなかったので私はドアを開けた。 ひより「ゆーちゃん入るよ……」 部屋が暗い……私はスイッチを入れて部屋を明るくした。ベッドの布団が膨らんでいる。布団を頭から被って寝ているようだ。私は部屋に入りゆっくりドアを閉めた。 ひより「こんばんは……」 ゆーちゃんは返事をしない。まだ怒っているのだろうか。 さてどうする。いや、どうするもこうするもない。する事は一つしかない。それもう決めてきた。 ひより「聞いているでしょ……そのままで聞いて……昨日ゆーちゃんから追い出されてから考えてね、それで分かった、私はまなぶが好きだった…… ゆーちゃんの言った通りだったよ、自分自身に嘘を付いていた、だからその歪が一気に噴出した……それで……さっきまなぶに会って……告白した」 ゆたか「こ、こくはく……」 小さな声で言うと布団を払いゆっくり立ち上がった。私の目をじっとみつめるゆーちゃん。 ゆたか「そ、それで、どうなったの……」 ひより「いや~見事に振られた、空振り三振っスね」 私の笑顔を見るとゆーちゃんの目が潤み始めた。 ゆたか「……みなみちゃんの言っていたひよりちゃんの覚悟ってその事だったの……でも、なんで、なぜ笑うの……振られたのに悲しくないの、悔しくないの、切なくないの……」 ひより「多分その全てが正解……だけど何故かスッキリしたよ」 ゆたか「スッキリ……分からない」 ひより「相手に私が好きだって伝えられたから」 ゆたか「伝えられたから……それだけで……それだけでいいの?」 ひより「いいとは言わないけど、しょうがないじゃん」 ゆたか「しょうがない……」 ゆーちゃんは肩を落としてベッドに座った。 ひより「このまま此処に居ても何も変わらない、時間がけが過ぎて佐々木さんは故郷に帰ってしまう、どうする?」 ゆたか「どうするって言われても……」 ひより「告白もお別れも言えなくなっちゃうよ」 ゆたか「でも佐々木さんは……」 ひより「そう、佐々木さんは千年前の恋人を忘れられない……それをいのりさんに重ねている、でも考えようによっては重ねているだけでいのりさんを好きな訳ではないかも」 ゆたか「そ、それは……」 ひより「一日の恋が千年の恋に負ける理由はないよ、断ち切ってあげようよ千年前の恋人はもう居ないってね……その後はゆーちゃん次第」 ゆたか「どうやって、断ち切るの」 ひより「私と同じ事をすればいいよ、その後……どうなるか私にも分からないだけど、後悔はしないと思う」 ゆーちゃんは私を見た。 ゆたか「ひよりちゃんのその表情を見ていると少し落ち着いた……」 ゆーちゃんの顔色が少し良くなった。 ひより「みなみちゃんが来ていたって聞いたけど」 ゆたか「うん……私、悪い事しちゃった、寝たまま話しを聞くなんて……ひよりちゃんも昨日は追い出してごめんなさい……」 ひより「うんん、別に構わないよ、そのおかげで私はまなぶの恋に気付いたのだから、それよりみなみちゃんは何を話したの?」 ゆたか「昔の話の話し」 ひより「昔の話し?」 ゆたか「うん……ひよりちゃんにも話すって言っていたから……話すね」 ひより「うん……」 ゆたか「みなみちゃんが中学生の頃、お友達にラブレターの代筆をたのまれた、最初は断ったのだけど親友の頼みとあって断りきれなくて 結局引き受けたって……文章を考える上で、恋人になったつもりで考えていくうちに……」 ひより「考えていくうちに、相手を好きになってしまった……私達と同じだ……」 ゆたか「うん……みなみちゃんは二通のラブレターを書いた、一通は代筆を頼まれた親友の分、もう一通は自分が書いた本当のラブレター…… 出すつもりはなかった、だけど親友にその手紙が見つかってしまって、それからは親友と話すこともなくなって……ラブレターも渡される事はなかった……」 あの話は本当にあった話だったのか……みなみちゃんがあまりのめり込まないのは自分の経験があったからなのか。 ひより「友情も恋も失っちゃったね」 ゆたか「自分の経験が活かせなかったって悔やんでいた、私もなんて言って返していいのか分からなかった……」 ひより「……みなみちゃんの場合は私達に当てはまらない、みなみちゃんは頼まれて代筆した、私とゆーちゃんは誰からも頼まれなかった、同じようで違うよね」 ゆーちゃんは黙ってしまった。話しを元に戻さないと。 ひより「お稲荷さん達が故郷に帰る日はそんなに遠くないみたい……どうするの」 ゆーちゃんは黙ってままだった。だけどさっきまでのゆーちゃんとは違う、顔色はもう元に戻っている。ただ踏ん切りがつかないだけ。なら背中を押してあげるだけだ。 ひより「ゆーちゃんはもう決めているんでしょ、」 ゆたか「で、でもそれが正解かどうか……」 ひより「高良先輩が言っていたよ、恋愛に正解はないって、やってみるといいよ」 ゆーちゃんは私を見上げた。 ゆたか「ひよりちゃんもそうやって決断したんだ……」 私は頷いた。 ゆたか「そうなんだ……凄いね……私も出来るかな……」 ひより「出来ると思うよ、私も出来たのだから」 ゆーちゃんは立ち上がった。 ゆたか「私……やってみる……でもひよりちゃんに手伝って欲しい」 ひより「私に出来る事なら」 ゆたか「それじゃね……」 『グ~~~』 私のお腹が鳴いた…… 『グ~~~』 続いてゆーちゃんのお腹も鳴いた……私達二人の動きが止まった。 ひより「そういえば昨日から何も食べていない……」 ゆたか「私も……」 ひより「と、取り敢えず腹ごしらえしようか、腹が減っては軍はできないって言うし……兵法の基本だね」 ゆたか「別に戦いに行く訳じゃ……」 ひより「いいや、恋愛は戦いだよ、ささ、戦闘準備」 ゆーちゃんは笑った。 ゆたか「ふふ、台所見てくるね、少ししたら来て」 ひより「うん」 笑顔で足取りも軽くゆーちゃんは部屋を出て行った。元に戻った。でもこれは元に戻っただけ。さてこれからが本番、気を引き締めないと。 軽食を食べて再びゆーちゃんの部屋に戻った。 ひより「話しの途中だったね、それで私は何を手伝えば?」 ゆたか「うん、神社の倉庫に佐々木さんを呼んでほしい……」 ひより「佐々木さんを呼ぶ……私が、何故、ゆーちゃんが呼べば良いじゃない?」 ゆたか「だって、恥かしいでしょ……」 顔を赤らめるるゆーちゃん。 ひより「恥かしいって……その先にもっと恥かしい事をするでしょ、それじゃ告白なんて出来ないよ」 ゆたか「……ひよりちゃん、私を手伝ってくれるって言ったでしょ、それとも手伝ってくれないの」 いつになく言い寄って来た。何かあるのだろうか。訳がありそうだけど…… ひより「分かった、手伝うよ……それで呼んだらどうするの」 ゆたか「呼んだら佐々木さんを置いてそのまま離れて……」 恥かしいからか……それなら最初から一人ですればいいような気がするけど……これが手伝いになるなのかな。 ひより「離れてもゆーちゃんと佐々木さんの行く末は見させてもらうよ」 ゆたか「分からないようにしていれば……いいよ」 いや、もう考えるのはよそう、ゆーちゃんはその気になったそれでよしとしよう。 ひより「OK、分かった、それで決行の日時は?」 ゆたか「今度の日曜、午後四時ぴったりで」 四日後か…… 佐々木さんを確実に来てもらうようにしないといけない。明日整体院に行こう。私は帰り支度をした。 ひより「午後四時ね、分かった、食事ありがとう」 ゆたか「もう遅いよね、電車も少なくなるし車で送るね」 え、ま、またあの運転を……体験するのか…… ゆーちゃんは部屋を出た。 ゆたか「おじさん、車を貸して……」 結局、私の家はそんなに遠くないと言う事でおじさんに送って貰う事になった。 そうじろう「ありがとう……」 ひより「どうしてお礼なんか、何もしていませんけど」 車は私の家に向かっている。ドアを開けた時のおじさんの表情とはちがって明るい顔になっていた。 そうじろう「ゆーちゃんだよ、君が来てから明るくなった」 ひより「いえいえ、私の前にみなみちゃんが来てくれていましたから……」 そうじろう「どっちでもいい、良かった……」 ひより「いいえ、まだ終わってはいませんけどね」 車は赤信号で止まった。 そうじろう「ふふ、ゆーちゃんも、もう、そんな歳になったのか……早いものだな」 ひより「そ、そうかな、私達が遅いだけかも、他はもっと……」 おじさんは笑った。 そうじろう「ふふ、こなたにしてもそうだった、まさか友達の所に行くとは思わなかった、つかさちゃん……初めて見た時は一人で何かするような子には見えなかった、 こなたを誘ってレストラン経営か……しかも上手くやっている、驚いているよ」 ひより「そうですか……私もゆーちゃんも憧れの先輩の一人ですよ」 そうじろう「これは失礼した」 信号は青になり車は再び走り出した。 ひより「あの、おじさんの時はどうだったのですか」 そうじろう「私か……私は悩んだりしたりしなかった、対象は一人しか居なかったから……君に語って聞かせるほど経験は豊富ではない」 ひより「奥さん一筋って事ですよね、素晴らしいじゃないですか」 そうじろう「ふ、そのかなたは去った……こなたも、そして今度はゆーちゃんも、皆私から去っていく……」 しまった、余計な事を言ってしまったか。 ひより「す、すみません、悲しい事を思い出させてしまって……」 そうじろう「いや、楽しいかった事も同時に思い出したよ……こなたやゆーちゃんが居なければ田村さんにも会えなかった……確か漫画を描いていると聞いたが、 漫画で食べていく気はあるのかい?」 ひより「い、いえ……まだそこまでは考えていません……」 そうじろう「そうか……その信号を右だったな」 ひより「はい……」 それからおじさんは家に着くまで何も話さなかった。 おばさん……かなたさんはもう亡くなっていたのをつい忘れていた。 もし、お稲荷さんの薬があったら、おばさんは救えただろうか…… もう二十年以上前の話じゃないか、私も生まれていないのにそんな事できるわけない。 もし、佐々木さん達が帰るとき、お稲荷さんの仲間が迎えに来るならかなたさんや真奈美さんくらい生き返らせてもらいたい。 その時佐々木さんとの会話を思い出した。人が亡くなった後どうなるかと聞いたら分からないと答えが返ってきた。 つまり死んだ者を生き返らせた事なんか一度もなかったって言っている。 かがみさんの病気を治し、この宇宙を自由に飛び回れる力をもってしても生き返らせるって無理なのか…… そもそもそんな事って可能なの…… 結局お稲荷さんも私達人間と同じ、私達より進んでいるれけど、どんぐりの背比べなのかもしれない。この宇宙の謎に比べたら…… 次の日、私は整体院を訪れた。呼び鈴を押すとまなぶが出てきた。 まなぶ「いらっしゃい……すすむだね、診療室にいるからそのまま入って」 まなぶが居るのか、まなぶは知っているのだろうか、ゆーちゃんの恋を……ここなら佐々木さんに声は届かない。 ひより「一つ聞きたい事が……ゆーちゃんについて」 まなぶ「小早川さん……彼女がどうかしたの?」 ひより「い、いや、人の感情が分かるなら……何か読み取れるかなって」 まなぶ「大人しい子だけど、芯はしっかりしている……それがどうかした?」 ひより「い、いや、何でもない、佐々木さんに会わせて貰うね」 まなぶ「どうぞ」 まなぶはゆーちゃんの恋を知らない……あんなに悩んで苦しんでいるのに、私の場合は自分でも気付かなかった感情を読み取っていた。どうしてだろう…… かがみさんみたいに心を読み取られない方法を知っているのか……まさか。 『コンコン』 診療室のドアをノックする。 すすむ「どうぞ」 私の顔を見た佐々木さんはうんざりするような顔になっていた。私もこれ以上お節介を焼くつもりはない。これが最後。 ひより「こんにちは……実は折り入ってお願いがあって来ました、電話でもなんですので直接話したくて……」 すすむ「そろそろ来るとは思っていた……私の気持ちは変わらない」 あの時の涙は嘘だったの……そう言いたかったけどここは堪えた。 ひより「はい、ですから最後のお別れと言う事で……明後日の午後四時、神社の奥倉庫に来て頂けませんか」 すすむ「……それは私もしようと思っていた……分かったその時間に行くとしよう」 ひより「ありがとうございます、それでは失礼します」 そのまま診療室を出ようとした。 すすむ「そ、それだけなのか?」 ひより「はい、私の用は終わりました、佐々木さんは何かあるのですか?」 すすむ「い、いや、無い……いや、呼吸法を、最後に呼吸法を教えよう」 意外だなって感じだ。私が淡白だったから。それだけではないはず。 ひより「本当ですか、嬉しいです、ゆーちゃんも連れてくればよかったかな」 すすむ「いや、彼女はもうマスターしている、もう私の教える必要はない」 いのりさんではなくあえてゆーちゃんの名前を出したのに何の反応もない。恋愛は私同様かなり鈍い……でも、これは責められないか。 それから私は佐々木さんに一時間ほどの練習を受けた。 すすむ「今日は完璧だ……そのリズムを忘れないように」 ひより「はい……」 私は帰り支度をした。 すすむ「も、もう帰るのか……」 ひより「はい……」 すすむ「そうか……短い間だったが世話になった」 ひより「こちらこそ、この呼吸法は私達人間が見つけたって言いましたよね、でも、それを知っているのは、教えられるのは佐々木さんだけです、 残ってくれれば何人も助けられますね」 すすむ「……そう、そうかもしれない」 すこし肩を落とした。 やっぱり……全くこの地球に未練がないって訳じゃなさそう。 ひより「最後に質問いいですか、死んだ人間を生き返らす方法ってあります?」 すすむ「……なぜそんな質問をする」 ひより「私には二人ほど生き返らせたい人がいるので、方法があるのかどうかくらい聞いてもいいですよね」 すすむ「分からない、だが少なくとも私達の知識にはそれは無い……だがこの知識はここに来てから変わってない、あれから四万年経過している……」 ひより「故郷の仲間が見つけているかも?」 佐々木さんは少し考えた すすむ「……いや、それはない、四万年程度で理解できるほど生命は単純じゃなさそうだ」 ひより「ですよね、だから佐々木さんも帰ると決め付けないで最後まで考えて……私達の寿命は短いのですから……私が言えるのはそれだけです、それでは明後日……」 私はそのまま整体院を出た。 日曜日の午後三時三十分。神社の入り口で待っていると佐々木さんがやってきた。 あれから誰とも連絡は取っていない。もう私の出来る事はし尽くした。 これで私の関わるミッションは全て終わる。小林さんとひろしさんは私が直接関わっていないから高良先輩にお任せだ。あとは時間が解決してくれる。 すすむ「場所は知っている……別に待っていなくても……」 ひより「もしもがありますからね……行きますか」 倉庫の広場に付いた。 ひより「私が居てはなにかとやり難いでしょ、私は帰りますね……」 すすむ「……何から何まで世話になったな……」 ひより「さよならは言いませんから……」 私は広場を出て茂みの中に入り回り道をして広場出口の反対側に出た。ここなら誰にも見つからない。 さて、ゆーちゃんの手伝いは終わった。この後の展開を見るだけ……そう、見るだけ…… 午後三時五十九分……そろそろ時間。 『ザッ、ザッ、ザッ』 出入り口の方から足音が聞こえる……来た、ゆーちゃんが来る…… すすむ「いのりさん……」 いのり「佐々木さん……」 えっ……そ、そんな…… そこに来ていたのはゆーちゃんではなくいのりさんだった。 ば、ばかな、ゆーちゃんが来ないと、ゆーちゃんを先に会わすのが私の目的だった。私の様な失敗はさせまいと思ってゆーちゃんを最優先にしたんだ。 これは何かの間違えだ。私は茂みを掻き分けようと前に出た。 「邪魔したらだめ」 後ろから小声で私を止める人がいる。後ろから手が伸び私の腕を掴むとグイグイと茂みの奥に引っ張り込まれた。すごい力だ……いや、後ろから引かれているから力が出ない。 いのりさんと佐々木さんが見えなくなるまで移動すると手を放した。後ろを振り向くとゆーちゃんが立っていた。 ひより「ゆーちゃん!!」 ゆたか「やっぱりひよりちゃんはこうすると思った、来て良かった」 ひより「良かったって……ま、まさか、最初からいのりさんを会わすつもりだったの……どうして……」 ゆたか「だって、そう言ったらひよりちゃん反対するでしょ」 笑顔で話すゆーちゃん…… ひより「当たり前じゃない、これじゃ私と同じじゃないか、バカ、ゆーちゃんのバカ……お人好しすぎだ……」 ゆたか「まだ、二人が結ばれるなんて決まっていない……私は確かめるの」 ひより「確かめるって……何を?」 ゆたか「いのりさん佐々木さんの恋人の生まれ変わりかどうか……そうなら二人は結ばれる、違っていれば私にもチャンスがある……」 ひより「そんなおとぎ話みたいな話なんてないよ……」 ゆたか「だから確かめるの……生まれ変わりだったら素敵でしょ……」 ゆーちゃんは目を輝かせて広場の方に歩いてった。 ゆーちゃんは絵本を書いた事をあるのを思い出した。メルヘンやファンタジーはゆーちゃんの大好物。 ゆーちゃんに千年越しの恋話はしてはいけなかった……でも、あの時はまさかゆーちゃんが佐々木さんを好きになっているなんて知らなかった。 遅い……そう、遅い。たかしが私に言った言葉を思い出す…… 先読みしていたつもりだった。だけど現実はその先を進んでいる。所詮恋愛の手助けなんて…… ゆーちゃんは自分を犠牲にしてまつりさんと佐々木さんをくっ付けようとしたのか。 違う。 ……ゆーちゃんのあんなに喜んでいる姿なんて久しぶりに見た。犠牲になるような人があんな嬉しそうな顔になるのか…… ゆーちゃんはそれを選んだ……私はそれをただ見守るしかない……それなら見させてもらう、いのりさんが生まれ変わりかどうか。 私はゆーちゃんの後を追った。 ゆーちゃんの隣に並んだ。そしてゆーちゃんの目線を追った。そこには二人が居た。佐々木さんは立っている。いのりさんがしゃがんでいる。しゃがんでいる所は、 コンが入ったダインボールを置いた所だ。 すすむ「本当にあの時は助かりました、コンが行方不明になって、そのまま居なくなってしまったら……」 いのり「始めは私が世話をしました、途中から、コンの記憶が無くなっていたと分かった時からはまつりが主に世話をしました……まつりがあんなに世話焼きなんてすこし驚いた、 ところで今、コンはどうしています?」 コンの話しをしているのか…… すすむ「元気にしていますよ……」 いのりさんは立ち上がった。 いのり「そうですが、今度また会ってみたいですね、引越しされると聞きましが、どちらへ?」 すすむ「え、そ、それは……」 いえる筈はない。遠い星へ、故郷へ帰るなんて。 いのり「言えないのでしたら無理には……遠くに行くのですね」 すすむ「は、はい……」 小さな声で返事をした。 いのり「それなら一つ聞いていいですか、とても下らない質問です、笑っちゃうくらい……」 すすむ「それは何ですか……」 いのりさんは少し照れながら話し始めた。 いのり「私の妹が一人旅に出て不思議な体験をした……一匹の狐に化かされて、それを切欠に仲良くなった……そしてその狐に命を救われたと……自分の命を引き換えにね」 すすむ「……妹さんがそんな話しを……」 いのり「そんな話は誰も信じない、もちろん私も最初はそうだった……でもね、同じ話しを妹は田村さんにもしたらしく……田村さんご存知かしら……」 すすむ「知っています、私の患者でもありますから……確かあの時此処にも居ましたね……」 いのり「……その田村さんがコンをその狐に似ていると言い出しね……笑っちゃうでしょ」 すすむ「ふふ、大学生と言ってもまだまだ子供ですよ……」 いのり「そう、普通なら作り話で終わってしまう……でも、妹は、つかさは違う、今まで目で見た事、体験した事しか話さなかった、それに嘘を付いたり騙したりする様な事もしない」 これは……私が苦し紛れに言った話しをしている。 いのり「コンは賢かった……どこかの救助犬か警察犬と見間違うくらい、それ以上かもしれない……私も田村さん同様に私もつかさの会った狐と酷似していると思うのです」 この話は知らなかった。いのりさんもかがみさんと同じようにコンの正体を見抜いていた…… すすむ「只の賢い犬です……私が躾けましたから……」 いのり「それともう一つ、私のもう一人の妹が倒れて病院に担ぎ込まれた……検査の結果は脳腫瘍、それもかなり危険な種類のものと診断されました…… それがたった一晩で何事もなかったように退院、誤診となったようですが……私はその後、病院で確認しました、倒れた時に撮影されたCTスキャンに、かがみの脳には しっかり病巣が移っていました……かがみが病気だったのは何となく分かっていた……奇跡が起きたとしか思えません」 いのりさんはそんな事まで調べたのか……いのりさんは気付き始めている。お稲荷さんの存在に……そのヒントを出したのは……私…… すすむ「それと、妹さんの狐の話しと何か関係あるのですか……私には荒唐無稽でさっぱりです」 いのり「かがみはコンに助けられた……」 すすむ「ふ、ふふ、はははは、い、いのりさん、傑作だ、お別れの余興にしては上手い話ですよ、一生忘れられそうにない……」 大笑いしている佐々木さんだった。 それにしても惜しい所までいっていた。でもいのりさんがたかしを知っている筈もない。それでホッとして佐々木さんは笑っているのか。 いのり「それとも、佐々木さん、貴方が治してくれた-」 すすむ「ふふ、治したのは私ではありませんよ……」 いのり「では誰ですか、お礼が言いたい……」 すすむ「それは、たか……」 佐々木さんの笑いが止まった。 『バカ!!』 心の中で私は叫んだ。ゆーちゃんはクスリと笑った。そしていのりさんもクスっと笑った。 ゆーちゃんは佐々木さんを好きじゃないのか。二人がああして仲良く話しているのを見ていて何とも思わないのかな。 私だったら……私ならそんな光景は見たくない。その場を離れてしまいたい気持ちになる。ゆーちゃんときたらまるでドラマを見ているように平然としている。 本当にゆーちゃんは佐々木なんが好きなのか……まなぶもゆーちゃんの感情を読み取っていないみたいだったし…… まさか、最初からゆーちゃんは佐々木さんが好きではなかった…… いのり「……今のはボケていない……ですよね」 いのりさんの声で現実に引き戻された。ゆーちゃんの気持ちはさて置き、この二人の動向に目が離せない。 佐々木さんはどう話そうか苦慮している。 いのり「かがみもつかさも助けられたようですね、最後に分かっただけでも良かったです」 すすむ「……君は何とも思わないのか……私がそうだったとして、恐れないのか……」 いのり「ふふ、これでも巫女のはしくれですよ、神社に祭られているものを恐れたりしません」 佐々木さんの目がやさしくいのりさんを見つめる。 すすむ「……その言葉、千年前にも聞いたことがある……」 いのり「はい?」 佐々木さんは三歩後ろに下がった。いのりさんは首を傾げて佐々木さんを見ている。 すすむ「これから起きる事を全て受けいれらるなら君に私の気持ちを全て話そう、拒絶するなら私は故郷に帰る」 いのり「な、何を?」 いのりさんは両手を口元に持ち上げて不安げな表情になった。 すすむ「その目で確かめて下さい、その後は君の好きなように……」 佐々木さんの体が淡い光に包まれた…… 佐々木さんは狐になる姿をいのりさんに見せるつもりなのか。そんな事をしたら……そんな事をしたら。 私はその姿を見て逃げ出した。まつりさんは気を失って自らの記憶を変えてしまうほどのショックを受けた…… まさか、佐々木さんは自分が故郷の星に帰る理由をつける為に…… 腕が熱い…… 気付くと私の腕を力強くゆーちゃんの手が握っていた。ゆーちゃんを見ると瞬きをする間も惜しむように佐々木さんを見ている。 いのりさんは……いのりさんは佐々木さんを見ている。逃げることなく、気を失う事もなく……ただ狐に変わっていく様子を見ていた。私とゆーちゃんと同じように。 そこには狐の姿の佐々木さんが居た。この姿を見たのは記憶を消されたので覚えているのは夢の中だけ。その夢の中の狐と同じ姿がいのりさんの前に立っていた。 狐はゆっくり歩き出しいのりさんの目の前まで近づくとお座りをしていのりさんを見上げた。 いのりさんは狐を見ているだけだった。だけど逃げ出さない。そして気も失っていない。いや、そのどちらも出来ないほどの状態なのかも。 やはり早すぎた。もっと時間をかけてからこうすべきだった。ゆーちゃんの手が私の腕から放れた。ゆーちゃんも私と同じ様に考えているのかもしれない。 いのりさんと佐々木さんは数分間動かず沈黙が続いた。 『ク~ン』 佐々木さんは一回悲しげな鳴き声を上げた。しかしいのりさんは何も反応を見せなかった。佐々木さんの頭が項垂れた。そしてそのままの状態で立ち上がりいのりさんに背を向けた。 ゆたか「そ、そんな……」 小さな声でゆーちゃんが呟いた。佐々木さんは諦めたと思っている……私もそう思った。終わりだ…… 佐々木さんはゆっくりと歩き出していのりさんから離れていく。 あれ、いのりさんは離れて行く佐々木さんを目で追っている……いのりさんにはまだ意識がある。 いのり「ま、待って……」 しかし佐々木さんは止まらなかった。 いのり「待って、佐々木さん、佐々木……すすむさん」 ささきさんは立ち止まった。そして振り向いた。 佐々木さんの名前を呼んだ。いのりさんはあの狐を佐々木さんだと認識している…… いのり「その姿のままで帰ると危ないですよ、車やいたずらっ子がいますから」 いのりさんはにっこり微笑んだ。 佐々木さんはゆっくりといのりさんに戻っていく。いのりさんはしゃがんだ。そして佐々木さんはいのりさんの目の前で止まった。 いのり「……元に戻れるまで此処にいますから……貴方の気持ちを聞かせて……」 その言葉を聞くと伏せてゆっくりと目を閉じた。その姿をいのりさんは見守っている。 ゆたか「ふぅ~」 ゆーちゃんは溜め息を付くとその場を離れて茂みの奥に行ってしまった。私もすぐにその後を追った。 ゆーちゃんは私を引っ張り込んだ所で止まっていた。 ひより「いいの、最後まで見届けなくて……」 ゆたか「もう、あの二人は大丈夫……だからもう私は要らない……」 ゆーちゃんは大丈夫には見えない。 ひより「いのりさんに全て話したみたいだね、だから今日まで四日も間を空けた」 ゆーちゃんは首を横に振った。 ゆたか「うんん、いのりさんには今日、此処に佐々木さんが来るって……それしか言っていない」 するといのりさんは私の話した情報だけで佐々木さんを理解したのか…… ゆーちゃんには酷だけど、確かめなければならない事がある。 ひより「佐々木さんを好きだったの?」 ゆたか「もう……知っていると思ったけど……何でそんな事聞くの」 少し不満げで口を尖らしていた。 ひより「まなぶがゆーちゃんの心をまるっきり知らなかったから……彼の能力は知っているかな?」 ゆたか「……かがみ先輩の病気を宮本さんから教えてもらった時、彼から直接私に話があった、佐々木さんを好きなんでしょって……彼には嘘は言えない、見透かされている、 だから彼と約束をした、佐々木さんには絶対に話さないようにって、私の気持ちは佐々木さんには知られないように……だからひよりちゃんに話さなかったと思う」 佐々木さんに知られないように、それだと余計にゆーちゃんの言っている事が矛盾する。 ひより「……それなら私を佐々木さんの出迎えをさせたのは何故、私が佐々木さんに言ってしまうって思わなかったの?」 ゆーちゃんは首を横に振った。 ゆたか「それはないよ、私が佐々木さんに告白をするって思っていたから、そう思っているかぎりひよりちゃんは佐々木さんに言わない、そうでしょ、ひよりちゃん?」 ひより「最初から決めていたの……か」 悩んでいたのは選択ではなく方法だった。 ゆたか「ひよりちゃんの勘違いを利用させてもらちゃった……」 ゆーちゃんは申し訳なさそうに俯いた。今更そんな表情をされても私は困るだけだ。 ひより「どちらにしてももう私達のミッションは終わった、あとはかがみさんとつかさ先輩だけど、それは高良先輩に任せるしかない……すっきりしたよ なんだかお腹減っちゃったね、何か食べに行こうよ」 私が行こうとした時だった。 ゆたか「まだ終わっていない……」 ひより「終わっていない……なんで、終わったでしょ……それとも未練ができちゃったなんて言うの……?」 ゆーちゃんは首を横に振った。 ゆたか「私……ひよりちゃんに謝らないと」 ひより「……さっきの事なら気にしないよ」 ゆたか「違うの、私……ひよりちゃんの記憶を奪った本当の理由を言わないといけない、それを言うまで私のミッションは終わらない」 ひより「ふふ……それも、もう終わった事でしょ、それで私が態度を変えるなんてないから」 私は笑って返した。 ゆたか「秘密にしたかった訳でもない、一人で解決したかった訳でもない……そんな事じゃないの……本当はね…… ひよりちゃんが佐々木さんを好きになるのが嫌だったから……これ以上ライバルを増やしたくなかったから……だから記憶を消した、そうだとしても変わらない?」 笑いが止まった。そしてはゆーちゃんを見た。高校時代から変わらないその姿……まだまだ子供だと思っていた。 今までゆーちゃんがやってきた事を総合すると、彼女は目的の為には手段を選ばない……そんな感じだ。 子供のようなあどけなさの影に小悪魔的な冷酷さが潜んでいる…… ゆたか「彼との恋が実らなかったのはきっと罰が当たったからだね……ごめんね……ひよりちゃん……」 でも人間はそんなもの。だから人間は面白い……その程度で私の気持ちは変わらない。 ひより「ゆーちゃんと同じ人を好きになるのは止めた方が良さそうだね~何をされるか分からないや……」 少し皮肉を込めて笑いながら話した。これが私の答え。 ゆーちゃんは私の顔を見ると目が潤み始めて、涙が零れだした。 ゆたか「何で、何でそんなに優しいの、もっと怒っていいのに、突き飛ばしてもいいのに……ひよりのバカ……ばか……」 ゆたかはその場に泣き崩れた。こんなに激しく泣く姿を見るのは初めて。 それもそのはず、ゆたかは大切な物を失い、同時に大切な物を得たのだから…… それは私も同じ…… 同じだからゆたかの気持ちは分かる。分かるけど溺れない、溺れればきっとゆたかとの友情はなくなる、みなみちゃんの友人の時の様に。 落ち着いたら食事しに行こう、少しお酒も入れようか。 今は涙が涸れるまでゆたかを見守ろう。いのりさんの様に…… 倉庫広場をいのりさん達が先に出たのか、私達が先に出たのかは分からない。だけど私達が神社を出たのはもう日が暮れて街灯が点く時間だった。 それから暫くしてワールドホテル秘書、木村めぐみが自首した。つかさ先輩の家に匿われていたそうだ。もう一人、柊けいこを助けるためにそうしたと聞いた。 その木村めぐみさんに全てのお稲荷さんを故郷に帰す計画を託された泉先輩。 いろいろ四苦八苦したみたいだったけど無事任務を終えた。 そして、残ったお稲荷さんは……まなぶ、佐々木さん、小林さん……そして、最後につかさ先輩の恋人、ひろしも残る事になったそうだ。 柊四姉妹全てがお稲荷さんと結ばれる……これも何かの縁か運命なのだろうか。 だとしたら私とゆたかがどんなにもがいても叶うはずはない。 私とゆたかは大学を卒業すると同時に引越しをすることになった。それはにまつりさんやいのりさんに遠慮した訳じゃない。私はまなぶや佐々木さんに何回も会っている。 ゆたかも会っているみたいだけど、さすがに佐々木さんには会い難いと言っていた。 私達と入れ替わるようにつかさ先輩と泉先輩が戻ってきた。店ごとの引越しだそうだ。それを一番喜んだのは泉先輩の父、そうじろうさんなのは言うまでもない。 つかさ先輩は引っ越した店、レストランかえでの隣に洋菓子店を開いた。 それから間もなくいのりさんが結婚、あとは順番につぎつぎと結婚をした。 私とゆたかは同居している。そして同じ仕事をしている。 始めは違う仕事をしていた。ゆたかがふと思いついた物語が面白かったのでそれを私が漫画に描いてみてコミケに出してみたらたら意外とうけてしまった。 これが切欠となり私とゆたかはコンビで漫画界にデビューすることになった。まさかゆたかとこんな形でコンビになるとはは夢にも思わなかった。 それからは目まぐるしく時間が過ぎていく。学生時代がスローモーションに感じるほどに…… 十年後…… 私はつかさ先輩に呼ばれて洋菓子店つかさに来ていた。もちろんゆたかやみなみも一緒、いや……陸桜学園祭のチアリーディングメンバー全員が呼ばれた。 何でもつかさ先輩がピアノの演奏を皆に聞かせると言うのだ。皆が集まるのはあの時以来かもしれない。 私は約束の時間よりもかなり早く店に来ていた。あの出来事を直接つかさ先輩に話したかったから。 つかさ「……そんな事があったの、そこまでは知らなかった……」 私の恋、ゆたかの恋、そしてかがみさんの病気……そこで私達がしてきた事、つかさ先輩にはどれも初めて聞く話だったようだ。 ひより「ゆたかは話さないでって言っていたけど、もう時間も経っているし……」 つかさ「そうだね、もうあれから十年くらいかな……時間が経つのは早いね……でも不思議、ひよりちゃんとゆたかちゃんがコンビを組んでいるなんて、ゆたかちゃんは みなみちゃんと一緒に仕事をすると思っていたけど……」 ひより「それを言うなら私も同じですよ、泉先輩はかがみさんと一緒に何かすると思っていましたけど」 つかさ先輩は笑った。 つかさ「そうかもしれない、こなちゃんとお姉ちゃん、あんなに仲がよかったのに、私とと一緒に仕事をしているのはこなちゃんたよね、私の店と隣だし、 お菓子もレストランに提供しているから毎日のように会っているよ」 私は辺りを見回した。 ひより「あの、旦那さんは?」 つかさ「あ、ひろしね、ひろしはお休み、同性だけで会う方が気兼ねしなくていいでしょって、子供を連れて実家に行くって」 ひろしさんは結婚式に会っているだけだった。一度いろいろ話してみたかった。 ひより「そうですか……そういえばつかさ先輩だけ柊の姓なんですよね……」 つかさ「そうなの、だからひろしにお父さんの仕事を引き継いで欲しいって……ふふ、面白いでしょ、お稲荷さんが神主をするかもしれないって」 ひより「そうですね、ふふ……」 私達は笑った。 つかさ「それでね、まつりお姉ちゃんはね……」 その時、私の表情を見たつかさ先輩は話すのを止めた。 つかさ「ご、ゴメン、今の話は止めておくね」 私はまだ諦めていないなのだろうか。つかさ先輩でも分かるほど表情に出たのか。もっとも今のつかさ先輩は昔とは違う。結婚もしているし一児の母でもある。 細かい表情の変化を見逃さないのかもしれない そうだった。私はつかさ先輩に一番に会いに来たのを思い出した。今そのチャンス。この期を逃すわけにはいかない。 ひより「つかさ先輩、一つ聞いて良いですか」 つかさ「どうしたの、改まっちゃって?」 ひより「実は、このお稲荷さんの話しを漫画にしたのですが……私の話しをつかさ先輩が知らなかったと同じように私もつかさ先輩の話しを詳しく知りません、 出来れば話して欲しいのですが……良いですか?」 つかさ「えっ、ま、漫画に……するの、私は構わないけど……皆が、特にお姉ちゃんが何て言うか、あの時の事、忘れていないでしょ?」 覚えている。 ひより「でも、この案を考えたのはゆたかです、」 つかさ「ゆたかちゃんが……」 ひより「それに事前に許可を得れば何も問題ない、皆が反対したら是非つかさ先輩に説得の手伝いをしてもらおうと思って……当事者の一人が賛成すれば説得力がでるでしょ?」 つかさ「でも……ひろしやすすむさん、ひとしさん、まなぶさんが何て言うか……だたでさえ正体を知られるのを嫌がっているし」 ひより「彼らはもう人間なのですよね、お稲荷さんじゃないでしょ」 つかさ「え、う、うん、そうだけど……」 困惑するつかさ先輩だった。 『ガチャ!!』 お店の玄関が開いた。今日は貸し切りって聞いていたけど…… こなた「やふ~、ひよりん、早いね……」 ひより「泉先輩……久しぶりです」 つかさ「いらっしゃい」 泉先輩は不機嫌な顔をした。 こなた「ひよりん、もう先輩は止そうよ、それにね、上の名前で呼ばれちゃ未婚だってバレちゃうでしょ」 ひより「へ~先輩もそんな事気にするようになったんだ」 こなた「う、うるさ~い、ひよりんには言われたくない!!」 今日呼ばれたメンバーで未婚なのは私、泉先輩…そしてゆたか……の三人だけ。 あのかえで店長も結婚をした。そのせいもあるのだろうか、最近は泉先輩も気にするようになったようだ。 つかさ「別に良いじゃない、結婚が全てじゃないよ」 こなた「結婚して幸せいっぱな人に言われても説得力ないよ……で、二人で何を話していたの?」 相変わらず切り替えの早い泉先輩。 つかさ「ひよりちゃんがね……お稲荷さんの話しを漫画にしたいって……プロになったのだし、あの時みたいな冗談じゃ済まないと思うの」 私よりも先に話されてしまった。つかさ先輩も切り替えが早くなったな…… 泉先輩の目が輝き始めた。 こなた「私に内緒でそんな面白そうな企画をするなんて、つかさの話しなら私に聞くべきじゃないかな、つかさじゃ肝心な所が抜けるから」 つかさ「こ、こなちゃん……まだ決まった訳じゃなくて……」 『ガチャ!!』 ゆたか「こんにちは~お久しぶりです……えっ!?」 店の扉が開いた。ゆたかが入るな否や泉先輩が駆け寄った。ゆたかは驚いて一歩下がった。 こなた「ずるい、私に内緒で漫画を描くなんて、何で私をスタッフにしないのさ、私の大活躍の場面をいっぱい、いっぱい入れようよ」 ゆたか「え、ひ、ひより、もしかして、もう話しちゃったの?」 ゆたかは驚いた顔で私を見た。 ひより「い、いや、何て言うのか、タイミングが悪かった……本当はつかさ先輩だけに……」 つかさ「ゆたかちゃん、ひよりちゃん本当に良いの、お稲荷さんの話しを物語にするには二人の失恋を……あっ!!!」 慌てて両手で口を塞いだ。しかしもう遅かった。泉先輩が聞き逃すはずはない。 こなた「しつれん……失恋だって……」 益々目を輝かせてゆたかと私に駆け寄った。 こなた「そんな話は初耳だな……どう言う事かな……お二人さん」 つかさ「ご、ごめんなさい……つ、つい……」 顔の前で両手を合わせて謝るつかさ先輩。 ゆたか「別に構いませんよ、内緒にするつもりはありませんから」 あっけらかんと答えた。私はゆたかのその表情を見て愕然とした。どう言う事…… ゆたか「私……五年前に彼に会って、その時の気持ちを話した、彼、全く気付いていなかったって驚いた……でもね……彼はそれでもやっぱりいのりさんを選んでいたって……」 微笑みながら、恥じらいも無く淡々と話す。あの時のゆたかが嘘のようだ。 こなた「彼って誰……いのりさんが好を選んでいたって……え、え……ま、まさかゆーちゃんの好きだった人って……」 ゆたか「そう、佐々木すすむさん」 泉先輩は絶句した。 つかさ「ゆたかちゃん……」 ゆたか「一時は落ち込んで……苦しくて、泣いて、もがいていたけど、初恋の殆どは実らない……どうにもならない事がこの世にはあるって、そう割り切れた……」 ゆたかにとってあの時の出来事はもう過去の話し。ただの思い出になったと言うのか。 私はゆたかが結婚しないのはまだ失恋を引き摺っているのだと思っていた。違う……ただ縁がなかっただけ…… 十年も一緒に仕事をしていて、同居して気付かなかった…… こなた「それで、ひよりんは……どうなの?」 ひより「私?」 ……私が好きだったのは宮本まなぶ……い、言えない。ゆたかのように言えない。何故…… こなた「なにもったいぶっっちゃって、ひよりんらしくない」 ひより「い、いや、なんて言うのか、その、あの……」 だめだ、やっぱり言えない……どうして、あの時、私だって割り切れた。そうだったはず。 『ガチャ』 かがみ「オース……」 みゆき「こんにちは」 かがみさんとみゆき先輩…… みゆきさんはあれからお稲荷さんの薬を作ろうと日夜研究している。ところがつかさ先輩は作った方法を記録に残していなかったので全く研究が進んでいない。 でも、最近はすすむさんが手伝ってくれている。すすむさんは薬の化学式を知っている。それをみゆきさんに教えたそうだ。でも答えは分かっていても どうやって合成するのかが見当もつかないらしい。ただつかさ先輩はたかしから教えてもらった材料だけは覚えていたのでそれをヒントに試作をしていると聞いた。 もし、あの薬が完成すればノーベル賞は確実。ガンバレみゆき先輩。 みゆき先輩は研究所で知り合った人と結婚した。 つかさ「ゆきちゃん、今日は来られないって聞いたのに……ありがとう」 みゆき「つかささんの初演ですものね、行かない訳にはいけません」 こなた「やふーかがみ、おひさ」 泉先輩はかがみさんのお腹をじっと見ている。 かがみ「な、何だよ、会うなり失礼だろ!!」 こなた「……三人目……だったかな」 かがみ「四人目よ、そ、それがどうかしたか」 こなた「お盛んですこと……ねぇ、みゆきさん」 みゆき先輩はクスリと笑った。 みゆき「羨ましいかぎりです」 かがみ「盛んで悪いか……って、みゆきまで……」 こなた「まぁ、かがみがエロいのは最初から分かっていたけどね」 かがみ「なんだと、さっきから聞いていれば、私が妊娠する度に同じ事を言っているじゃない……もう許さない」 泉先輩はお手上げのポーズをした。 こなた「懲りないね~」 かがみ「一回殴らないと気がすまない……」 かがみさんは拳を振り上げた。 こなた「あ、あ、そんなに怒ると、お腹の赤ちゃんに障るよ……」 かがみ「う・る・さ・い」 こなた「キャー」 ゆたか「かがみ先輩、危ないですよ」 みゆき「ふふ、泉さん……」 泉先輩は逃げ出した。それを追いかけるかがみさん。お店を所狭しと追いかけっこをし始めた。それを楽しそうにみゆき先輩とゆたかが見ている。 ふとつかさ先輩をみると目が潤んでいる。私が見ているに気付いたつかさ先輩は慌てて人差し指で目を拭った。 ひより「どうかしましたか?」 つかさ「うんん、何でもない……何時になっても私達って変わらないなって……真奈美さん……お稲荷さん達と出会っていなかったら、お姉ちゃんとこなちゃんは追いかけっこなんか していなかった……そう思ったら自然に涙が」 かがみさんは自分の旦那がお稲荷さんであるとことをもう既に知っている。驚くことも無く、恐れることも無く、ただ自然に受け入れたと……。 つかさ「私、今思ったのだけど、ゆたかちゃんはひよりちゃんの為に漫画の企画をしたかもね」 皆はかがみさんと泉先輩の死闘に夢中になっている。私とつかさ先輩だけで話している状態になっていた。 ひより「私の……為に……ですか」 つかさ「まなぶさんの正体を知らないのはまつりお姉ちゃんだけなの……こなちゃんの言うように私では伝わらない、どうかな、 ひよりちゃんからまつりお姉ちゃんに全てを話してもらえないかな……コンは亡くなったって事になっているし……」 ひより「それならかがみさん、いのりさんでも……泉先輩でも」 私は透かさず帰した。 つかさ「うんん、身内の話しは親身に聞いてくれない……それにこなちゃんはコンに一切関わっていないでしょ……恋の話しは話す、話さないはひよりちゃんの自由だよ」 ひより「で、でも……」 何故か素直に引き受ける気になれない。 つかさ「無理にとは言わない、まだ時間はあるからゆっくり決めて……」 そう言うとかがみさんと泉先輩の方に駆け寄っていった。 つかさ「お姉ちゃん、こなちゃん、もういい加減にして!!」 笑いと、怒号が飛び交う、何が何だか分からない締りのゆるい光景……確かにあの時のまま、何も変わらない……そして、私も…… いや、私は変わってしまった。もうこのゆるい空間には入れない…… 私は皆に気付かれないように店を出た。 ひより「ふぅ~」 溜め息をついた。折角つかさ先輩が呼んでくれたけど、ピアノの演奏を聴ける状態じゃない。帰ろう。 「田村さん?」 駅に向かって歩き出して暫くして私を呼ぶ声がした。振り向くとかえでさんだった。 ひより「こ、こんにちは……お久しぶりです……」 かえで「久しぶりね、半年ぶりかしら……たまには私の店にも来てよね、っと言っても忙しそうね……漫画の連載をしているって聞いたわよ」 ひより「そんな事ないですよ、今度食べに来ますから……」 かえで「ところで、つかさに呼ばれたのよね、何故反対方向に?」 ひより「え、えっと……用事を思い出しましたので帰ろうかと……失礼します」 私はかえでさんに会釈をして立ち去ろうとした。 かえで「まちなさい……本当に失礼だわ」 叱り付ける様な厳しい声だった。背筋が伸びて立ち止まった。 かえで「貴女、つかさの友達でしょ、演奏を聞く前に帰るって……何の用事なの、親でも亡くなったか」 ひより「い、いいえ……」 かえで「それなら問題ない、戻りましょ」 ひより「……い、いいえ、戻れません、このまま帰ります……」 かえでさんは溜め息をついた。 かえで「つかさが何故演奏会をするのか知っているのか?」 ひより「知りません……」 かえで「別れた親友が好きだった曲……店を切り盛りして、しかも子育てをしながら練習した曲よ、それを聴かずに帰るのか?」 別れた親友……誰だろう。別れたって……少なくとも私の知っている人ではない。 ひより「親友って誰です、お店のスタッフの人ですか」 かえでさんは首を横に振った。そして空を見上げた。 かえで「彼女ははるか彼方……そしておそらくもう二度とつかさと会うことはない、生きている間はね……」 空を見つめて……はるか彼方……宇宙……そうか…… ひより「故郷に帰ったお稲荷さんですか……もう地球の事なんか忘れますよ……私達より遥かに進んだ世界、きっとパラダイスでしょうから」 かえでさんは首をまた横に振った。 かえで「彼等の故郷は災害に見舞われて危ないらしいわ……彼らは故郷を救おうと必死になっている」 ひより「まさか、お稲荷さんの知恵と技術があれば必死になる事なんかないですよ」 かえで「どんな災害かは聞いていない、例え聞いても私には理解できないかもしれない、それとも自らの過ちが招いた悲劇か、どちらにしても自然は計り知れないわ、 そして彼等も万能ではないって事……同じ災害が我々人類に来ない事をいのるばかりね……つかさはそんな友人を想いピアノを弾こうとしている……聴いてみる価値はあるわよ」 かえでさんってこんな感性を持っているのか……意外な一面を見た。料理人としてのかえでさんしか知らなかったので新鮮に感じた。 でも……答えは変わらない。 私は首を横に振った。 かえでさんは私をじっと見た。 かえで「よく似ている……私の古い友人もそうだった……その未練たっぷり表情がそっくりだわ……」 ……私は顔を隠すように俯いた。 かえで「……その友人はもうこの世にはいない……自ら命を絶った」 辻さんの事を言っているのか ひより「わ、私は……そんな事なんかしないです」 かえで「それなら行きましょう」 ひより「い、いいえ……」 かえでさんは店の方向を見た。 かえで「分からず屋ね、それじゃあの子に頼もうかしら」 私はかえでさんの見ている方向を見た。 ゆたか「ひより~」 ゆたかが私の名前を呼びながら走ってきた。息を切らしている。ずっと此処まで走ってきたのか…… ゆたか「ハァ、ハァ……どうしたの、急に居なくなっちゃって……つかさ先輩も心配しているよ」 かえで「演奏も聴かないで帰るってさ……」 ゆたかはかえでさんを見て会釈した。そして直ぐに私の方を向いた。 ゆたか「ど、どうして……」 私は何も言わない。言えなかった。 かえで「私じゃ手に負えない、後は頼むわ、先に行ってるわよ」 ゆたか「はい……」 かえでさんはゆたかの肩を軽く叩くとそのままつかさ先輩の店に向かって行った。 ゆたかは直ぐ近くの公園に私を連れて行った。 ゆたか「どうして?」 同じ質問をしてきた。 ひより「それは私が聞きたい、もう忘れかけていたいたのに……蒸し返すなんて酷いよ」 ゆたか「私は……」 ひより「可笑しいよね、完全に振り切った筈なのに……笑い話には出来ない、あの場所にいると惨めなだけだよ」 ゆたかは何も言わなくなった。慰めの言葉は今の私には辛く苦しめるだけ。 ひより「帰る、そろそろ演奏始まるよ……ゆたかも戻った方がいい」 私はゆたかから離れた。 ゆたか「人一倍の好奇心、どんな危険を冒してでも自分の好奇心を満たすために探求する」 私は立ち止まった。ゆたかは更に話した。 ゆかた「遠目でただ観察しているようで気が付くと自分からのめり込んでしまって身動きが取れなくなってしまう不器用な子」 ひより「な、いきなり何?」 ゆたか「高校時代、ひよりはよくこんな事を言っていたよねキャラの分析……でもね、一人だけ言っていない人が居るのを知っている?」 ひより「……いや、ネタ帳に私の知人は全て書いた……最近会った人は忙しくて書いていない」 ゆたかは歩いて私に近づいた。そして人差し指を私の胸に向けた。 ゆたか「ひより、自分の事は一言も言わなかったね」 ひより「自分の事……書く必要なんかないよ、私は私だよ……」 ゆたかは私に顔を近づけにっこり笑った。 ゆたか「……二年前にアシスタントなった小島さん、好きなんじゃないの?」 ひより「な、何をこんな時に……好きじゃない……彼とは仕事で付き合っているだけ」 ゆたかは首を横に振った。 ゆたか「やっぱり、何も分かっていないね……だからまりさんに先を越されちゃうの」 カチンと来た。 ひより「勝手にそう思ってればいい、お稲荷さんの話しはゆたか一人でやれば……私はもう協力しないから」 ゆたか「そうやって気付かない、自分が傷ついているのさえ気付かない、人一倍傷つき易いのに……かがみ先輩の時も、いのりさんの時もそうだった、そんなに傷だらけになって……」 ゆたかの目に光るものが…… ゆたか「かがみ先輩を救ったのはつかさ先輩じゃない、ひよりだよ、いのりさんとすすむさんを結んだのも、まつりさんとまなぶさんも……そして私も救ってくれた」 ひより「ゆたかを救った……私が?」 ゆたか「うん……ひよりの好奇心は全部外に向けられちゃって、自分には全く関心ないみたい、だから人が出来ないような無茶をする、 普通は逆なのに、私にはそんな真似出来ない、うんん、つかさ先輩だってかがみ先輩だって出来ない……凄いよね、憧れの人は直ぐ側に、目の前に居た、 それに私に物語を作る才能があるのを見つけてくれたのもひより、私はひよりから沢山の物を貰った……」 私はそんな事をした覚えもつもりもない。でも、ゆたかの流している涙は嘘をついているようには見えなかった。 ゆたか「外に向けられた好奇心、それの十分の一、うんん、百分の一でも自分に向けてみて……そうすれば今、何をすべきかわかると思う」 自分に好奇心があるのは知っている。それに自分の分析は何度もしている……今更そんな事をしたって…… ひより「私はもう戻れない……」 ゆたかは目を拭うとにっこり微笑んだ。 ゆたか「そう、それも良いかもね」 ひより「それじゃ先に帰っているよ」 私は立ち上がった。 ゆたか「あっ、そうそう、つかさ先輩が演奏する音楽はラヴェル作曲、亡き王女のためのパヴァーヌ」 ひより「ラヴェル……クラッシック、難しそうだね」 ゆたか「うん、彼が若かった頃の作品……逸話があってね……彼は晩年、交通事故で記憶を失ってしまって作曲活動ができなくなってしまったの、ある日、たまたまこの曲を聴いた彼が 素晴らしい曲だね、誰が作曲したのか……そう言ったって……ネタかもしれないけど……でもその曲はこの話しを納得させるだけの力があるよ、 オーケストラ用にも編曲されているけど、私はピアノの方が好き」 ひより「……なんでそんな話しを?」 ゆたか「記憶を失っても自分の作曲した曲をすばらしいと言った……人の感性や好みや性格って記憶で決まるものじゃないって……私はひよりの記憶を奪った……だけどそれは 私の目的にはまったく意味のない行為だった……それが分かったから、ひよりも聴けば何か分かると思って……話した」 ゆたかは腕時計を見た。 ゆたか「もうシナリオは出来ているよ、主人公はつかさ先輩とひよりがモデル……ひよりが手伝わないのは残念、私の話しをイメージ化して漫画に出来るのは ひよりだけだから……あ、もう戻らなきゃ」 ゆたかは走って公園を去っていった。もっと話しを聞きたかったのに…… 公園を出て私は分かれ道で止まった。 駅へと続く道……家に帰る道。もう一方はつかさ先輩のお店へと続く道…… 何故立ち止まる。私はもう帰るって言ったのに。駅に向かえばいいじゃないか。でも、私の中のもう一人の私が帰るなと言っている。 かえでさんとゆたかの言葉が頭の中で何回も繰り返して再生される。 私は……どうすればいい……いや、私ならどうする。 自分に問うか……そういえばみゆき先輩もそんな事いっていたっけ。 もちろん面白い方を選ぶに決まっている。とっちが面白い…… このまま帰れば締め切りが近い漫画の仕上げをすることになるか…… 亡き王女のためのパヴァーヌ。どんな曲なのだろう。そしてつかさ先輩はちゃんと弾けるのだろうか。興味が湧く……それを確かめるだけも…… ひより「ふふ、分かった、悩む必要なんか無かった、こんな時、私なら行く場所は決まっている」 年甲斐も無く独り言を呟いた。まだ間に合うかな…… 私は走り出した。 お店の入り口にゆたかが立っていた。 ひより「まだ……間に合うかな……」 ゆたか「待っていたよ、来ると思ってた」 笑顔で話すとゆたかはドアを開けた。 ゆたか「どうぞ、皆も待っているよ」 店に入るとテーブルは片付けられていた。そして椅子がピアノを囲むように並べられていた。そこに皆が座っている。そしてピアノの席にはつかさ先輩が座っている。 ピアノはこの日のために買ったそうだ。この演奏が終わった後はこのままこの店に置き定期的にみなみが来て演奏をするらしい。 みさお「これで全員だよな……早く始めようぜ」 気付くとみさお先輩、あやの先輩も来ている……私は空いている席をみつけて座った。かえでさんと目が合った。彼女は頷くとつかさ先輩の方を向いた。 ゆたかがつかさ先輩に合図を送った。 つかさ「今日は皆来てくれてありがとう……私がこの曲を弾くのは、別れた友人の為、亡くなった親友の為……そして、なによりひよりちゃんに聴いてもらいたい」 私……に つかさ「まだ少しぎこちないかもしれないけど……聴いてください」 つかさ先輩はみなみ方を向いた。みなみはつかさ先輩に向かっておおきく頷いた。そしてつかさ先輩も頷く。 椅子に座って大きく深呼吸、そして目を閉じて精神集中……目を開けると両手をピアノの鍵盤に添えた…… この曲……メロディ……聴いたことがある……静かな曲だった…… 私がみなみの家に行った時に聴いた曲じゃないか……あの時の状況が……思い出が蘇って来る。 つかさ先輩はみなみと違って目を大きく見開いて鍵盤から一時も離さずに見ている。目を閉じる余裕がない。身体もすこし強ばって緊張しているのが私にも伝わるほどだ。 必死に弾いている。みなみの時の様な優雅さは感じなかった。必死に……静かな曲とは対照的…… そう、あの時の私も同じだった。必死に考えて、考えて……行動していた。 でも……何だろう、あの時は静かな曲のイメージしかなかったのにメロディが私の心に染み込んでいくような……そんな感じがした。 私の目が自然に閉じていく…… 真奈美さん、故郷に帰ったお稲荷さん達……もう二度と逢えない……そんな切なさが……つかさ先輩の想いが伝わってくる。 私は考えるのを止めて音楽に、陶酔したい。 つかさ「片付けまでさせちゃって……もう良いから皆帰って……」 演奏会が終わり私、ゆたか、かがみさん、泉先輩、かえでさん、あやの先輩が残って店の片付けをしていた。 こなた「良い音楽聴かせてもらったからこのくらいはしないとね」 かがみ「こなたにしてはまともな事言うじゃない」 こなた「この後のスィーツが楽しみだな~」 つかさ「分かってる、ちゃんと皆の分もあるから」 かがみ「やっぱり、それが目当てだったか……あんたは昔から変わんないな」 呆れるかがみさんだった。 つかさ「お姉ちゃんももういいから、これ以上動くと赤ちゃんに障るから……」 かがみ「この位なら大丈夫、この後、佐々木さんの整体で体調を整えるから」 話しは遅れたが佐々木さんはお稲荷さんが故郷に帰った後、整体院を再開して今日に至っている。いのりさんはもちろんその助手として働いている。町でも評判のオシドリ夫婦だ。 秘術は普段見せないが、病気で苦しんでいる人を見ると惜しげもなく使っている。そのおかげで整体院は大盛況だ。 こなた「そんな事言って、かがみもつかさのスィーツが目当てなんでしょ?」 かがみ「な、何でそうなのよ」 泉先輩は笑った。 こなた「ふふ、その仕草、図星だね、かがみも昔から変わらないじゃん」 かがみ「か、変わらなくて悪かったな!!」 皆が笑った あやの「でも……お稲荷さんだなんて……今でも信じられない」 かえで「そうね、夢の世界って感じ」 あやの先輩はワールドホテルに出店している喫茶店で働いていた。しかしけいこさんが逮捕、謎の失踪をしてからはレストランかえでで働くようになった。 泉先輩が引き抜いたそうだ。お稲荷さんの話しを最初は信じなかったが。すすむさんやひとしさんに会うと信じるようになった。 ひより「最後のテーブルの位置、ここでいいですか?」 つかさ「そこでいいよ……ありがとうこれで全部元通り、約束通りケーキをご馳走するね」 あやの「私はコーヒーを淹れる」 二人は厨房へ向かった。 ケーキとコーヒーが皆に振舞われた。 こなた「ひより、演奏会前と違って元気があるじゃん」 ひより「……そうですか、あまり変わりませんよ」 かがみ「そうね、なにか吹っ切れたような清清しさがあるわね……つかさのピアノで何か変わった?」 変わった、確かに変わった。十年間のもやもやしていた雲が晴れた。 ひより「つかさ先輩、私、まつりさんに話しますよ……全て」 つかさ「ほ、ほんとに……」 ゆたか「ひより……」 つかさ先輩とゆたかの二人の表情を見て泉先輩が首を傾げた。 こなた「まつりさんに何を話すの」 ひより「まつりさんに、お稲荷さんの話しをする、そしてまなぶの正体を話す、彼は昔コンだった……って」 さらに泉先輩は首を傾げた。 こなた「その話しをするのに何故つかさとゆーちゃんが驚かなきゃならないの?」 ひより「それは……私がまなぶを好きだったから」 こなた「な~んだ、好きだったんだ……え」 かがみ「なっ!?」 かえで「え?」 あやの「うそ?」 四人は仰け反るように驚いた。 かがみ「ちょと、あの時言ったわよね、あれは間違いだって……なぜ、嘘をついたの……」 ひより「嘘はついていません、あの時点では……まつりさんとまなぶをくっ付けようとしているうちにまなぶの魅力に気付いてしまった、ミイラ取りがミイラっスね…… 十年前、私は彼に告白をした……それで終わったと思っていた、でも、それは思っていただけ、私未だ心の整理がついていなかった……」 私はゆたかの方を向いた。 ひより「つかさ先輩の演奏を聴いて分かったよ、私は確かに小島さんが好き、だけどまなぶのミッションを終わらせないと先に進めない……まだ途中だった」 ゆたかは何度も頷いた。 こなた「ま、まさかひよりんが恋愛を語るなんて……」 泉先輩はあんぐり口を開けて呆然と私を見ていた。 かがみ「い、いや、私がもっと早く気付いていれば、もっと違った展開があったかもしれない」 ひより「かがみさん、タラレバはもう止めて下さい、私は私なりに全力だったのですから……」 そう全力だった…… ひより「ゆたか、私の最後ミッションが終わった後、小島さんにアタックするつもりだけど」 ゆたか「何で私にそんな話しを私に?」 泉先輩は私とゆたかを交互に見てオロオロしだした。 ひより「い、いや、もしかしてゆたかも好き……なんて事はないよね?」 もう三角関係は嫌だ、ここははっきりしておく。 ゆたかはにやりと笑った。 ゆたか「ふふ……私が本当に好きだったら、愛していたら黙っているよ……ひよりに先を越されないようにね」 ……そうだった、ゆたかは恋の為なら手段を選ばないのを忘れていた。要らない心配だった。 ひより「ふふ、そうだったね」 私も笑って帰した。 こなた「……ゆ、ゆーちゃん、なんか恐い……ど、どうしたの……なんかすごく挑戦的だよ……そんなのゆーちゃんじゃない……」 かがみ「それだけゆたかとひよりが成長したって事よ……あんたもいつまでも二次元に逃げていないで少しは現実に帰ってらどうなのよ、そうしないと何時までも独り者よ」 こなた「う、うぅ……」 唸り声を上げる泉先輩、言い返せない。こうなったらかがみさんの独壇場だ。 かがみさんは横目で泉先輩をじっと見る。 かがみ「そうやって黙って座っていればまずまずなのにね……ふぅ」 溜め息を付くかがみさん。 かえで「いやいや、どう見てもまだお子様でしょ……」 追い討ちをかけるかえでさん。 かがみ「もう三十路を超えているのにお子様なんて……こなたってお稲荷さんじゃないの、本当は幾つなの?」 ここぞとばかりに畳み掛けるかがみさん。 こなた「……う、うるさ~い、女は三十路からが良いんだよ!!」 叫ぶと目を潤ませて私とゆたかにに駆け寄ってきた。 こなた「私に彼氏を……愛のキューピット様……」 私とゆたかは顔を見合わせた。 ひより・ゆたか「お断りします!!」 こなた「そんな……」 かがみ「無理を言うな、彼氏が居ないのにどうやってくっつけるんだ」 皆、笑った……私も笑った。こんなに笑ったのは久しぶりかもしれない。 こなた「うぅ……ひよりん……ひよりんだけは仲間だとおもっていたのに……」 ひより「あ、あの、まだ告白もしていないのに……気が早過ぎますよ……」 泉先輩はゆたかの方を向いた。 こなた「ゆーちゃんは、ゆーちゃんは居るの?」 ゆたか「……はい、心に決めた人ならば……」 泉先輩は絶句して硬直してしまった。 あやの「誰なの……その人は?」 ゆたか「出版社のマネージャの……」 ひより「え、まさか田所さん?」 ゆたかは顔を赤くして頷いた。 ひより「……あの人苦手だな……締め切り厳しいし……」 ゆたか「そんな事ないよ、とってもいい人だよ」 かえでさんが急に立ち上がった。 かえで「田村さん、小早川さんの恋が実るように、そしてこなたに彼氏ができるように……はなむけにワインを持ってくるわ、丁度三十年物が手に入ったのよ、皆であけましょ」 つかさ「え、手に入るの大変だったて言っていたけど、いいの?」 かえで「今出さずして何時だすのよ、グラス用意しておいて」 かえでさんは店を出て行った。隣のレストランに取りに行ったにちがいない。 つかさ「あのワイン、店で出すためじゃないのに……」 ワイングラスの準備しながら話すつかさ先輩。 あやの「え、出すためじゃないのなら何の為のに、私はてっきりお得意様のためかと……」 つかさ「旦那さんと一緒に飲むために買ったの、かえでさん忙しくて結婚式していないから……」 ゆたか「そんな大事なワイン飲めないよ……」 かがみ「それなら私は飲まないわ、お腹の赤ちゃんも居るしね、こなた達は分けてもらいなさい、かえでさんの結婚を祝うワイン……三人のはなむけにピッタリよ」 あやの「そうね、私も止めておく、車だしね」 つかさ「それじゃ二人は葡萄ジュースにしておくね、乾杯の時用に」 つかさ先輩は冷蔵庫からジュースの瓶を取り出した。それと同時にかえでさんが戻ってきた。 かえで「フランス、ボルドー産の三十年物よ」 こなた「……そんな事言われても分かんないよ、早くちょうだい」 かえで「こらこら、慌てるな、コルク栓を開けるところが良いのよ、見ていなさい」 かえでさんはコルク栓に栓抜きを慣れた手つきで差し込むと引っ張った。 『キュー シュポン!!!』 綺麗な音と共にコルク栓が取れた。つかさ先輩がグラスを持って来た。 かえで「いい香りね……」 ワインをグラスに注ぐ。三分一くらいの量だった。 こなた「けち臭いな~」 かえで「本来ワインは香りを楽しむものなのよ……足りなければまた注ぐわよ」 グラスをつかさ先輩が皆に配った。 かえで「つかさの演奏を聴いて思った事がある……私はつかさに会わなければ自分の店を持とうとは思わなかった、そしてこの町でまた店を開くなんて思いもしなかった、 そして……ここに居る皆は知っているようにお稲荷さんとの出会い……不思議ね、田村さんと小早川さんもそうでしょ」 ゆたか「はい、彼らとの出会いが無ければひよりと同じ仕事をするなんて無かったかもしれません」 こなた「私もつかさと同じ仕事をするとはね……」 かがみ「私はひとしと一緒にはならなかった……」 かえで「一つの出来事が与える影響は大きい、本人が自覚していなくても何かをすれば水面に投げた石の波紋の様に広がっていく、これからもきっとそうなるわ、 良い事も、悪い事もね……これまでの事に感謝しつつ、三人のこれからの門出に……乾杯」 皆『乾杯』 こなた「うげ~何この味……しぶい……これならボジョレーヌーボの方が飲み易いや……」 泉先輩が今にも吐き出しそうな顔をしている。 かがみ「バカね、その渋みが良いんじゃないの……まだまだお子ちゃまには分からない味ね」 かえで「こなた、もう少し味覚を鍛えなさい、それじゃホール長としては落第よ」 こなた「かがみとかえでさんが居るとやり難いよ~つかさ~何とかして~」 つかさ「ワインは料理にもお菓子にもつかうの……こなちゃん、私もそう思う……もう少し味覚を……」 こなた「えー」 泉先輩がいうように少し渋かった。大人の味と言われればそれまで。泉先輩は自分の気持ちに正直すぎる。それが子供と言われてしまうのかもしれない。 だけど……それが泉先輩の良い所でもある。同じ物が長所にも短所にもなるなんて。 面白い。やっぱり戻ってきて正解だった。私は久しぶりにネタ帳を手に取った。 シナリオはゆたかだけに書かせるのは勿体無い。私も参加させてもらう。 つかさ「それよりお姉ちゃん、独立するって聞いたけど」 かがみ「子供が生まれて落ち着いたら、ひとしが準備をしている」 かえで「それは初耳ね、よ~し、今日は前祝だ、店からお酒もってくるから」 つかさ「ちょ、今日は飲み会じゃ……」 制止する間もなくかえでさんは出て行った。 つかさ「しょうがない、おつまみも用意しないと……」 ひより「演奏会、良かったです、私の中が変わりました」 つかさ「ありがとう」 つかさ先輩は厨房へと向かって行った。 それから夜遅くなるまで下ネタから宇宙論までまったく何を話しているのか分からなく程いろいろな話しをした。 次のページへ
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ID JD84J+LaO氏による小ネタ つかさは、柊家に嫌気がさして家出したようです つかさ「眼鏡割ってあげるからしばらく泊めて」 みゆき「帰れ」 ------------------------------------------ 闇。 暗くどこまでも続きそうな漆黒の中で、さらに黒を上塗りするようなやり取りが続いていた。 月に照らされる二人の人物は共にパジャマであり、それだけを見れば少女達の微笑ましい逢瀬にも思える。 しかし、シチュエーションというのは時に期待を裏切ることがある。 見る人が見れば、その綺麗に飾られた玄関が戦場の一角に見えたはず。少女達は目をそらさない。 「そう‥‥」 殺気。 その言葉が、この場の全て。一部の人を印象付ける一片の言の葉。 ひらり、とショートヘアの女の子がバックステップした。 片足で着地。そして着地した衝撃をバネにして再び目の前の人物へと目標を定めると、 「なら、全身の骨ぇ音がしなくなるまで割ってやるよっ!!」 突進。さらに左の拳が前へと突き出された。 静まり返った街中にその拳の命中音は聞こえない。見ると、指2本分くらいの差で避けている。 間一髪。しかしそれは同時に無駄の一つも見当たらない回避行動だ。 相手が自分の左をすり抜ける。そのスキを逃さず、取り出されたのは一筋の鈍い煌き。 鉄。警棒のような、相手を打撃で倒すためのシンプルな武器。 「甘いですよ、つかささん」 あくまで淡々と。 まるで子供に童話を語りかけるような抑揚のついた口調で、その凶器を相手の後頭部に向かって振り下ろした。 刹那、金属音が響く。それは繰り出した一切の無駄の無い攻撃が受け止められた証拠だ。 「そんなもので私に勝てると思ってるの?」 「ふふっ‥‥あまりに早く決着がついてしまっては面白くないではありませんか」 「上等っ!」 片方は鉄棒、そしてつかさの手にあるのは・・・杖のような、木の棒。 だが鋼の一撃に耐えているところを見るとかなりの硬度なのは間違いない。みゆきの手にある鉄棒と何ら遜色ないだろう。 こうなるとお互いの持ち物については五分と五分。 しかし、一対一(サシ)の対決においては大きな差となるこの状況。 体勢。 つかさは突っ込んだ時に力を込めるため、姿勢を低くして相手へと向かっていった。 そこに武器が振り下ろされて。当然、その反動を受け止めなければならない。 しかし未だ低い体勢のつかさが足で踏ん張ることは不可能。防衛手段として、とっさに片ひざをついてしまった。 一方で、攻撃を受け止められたとはいえ、あと数センチで命中していたという状態のために上から全体重をかけることの出来るみゆき。 ぎりぎりぎり、と鉄と木が奏でる擦り潰すような音。 「ふっふ、いつまで持ちますかね‥‥?」 「・・・っ!ちょっとこれは見くびってたかも、ね・・・」 でも、と呟いた彼女は少し深く息を吸い込んで、 「‥‥其は地を這いし大蛇。憑き絡み喰らう者とする。我が手に携えしは虚空の煌き。目覚めよ、白き光華!」 「‥‥っ??!」 とっさに後退。先ほどのつかさのように玄関から外へとバックステップをしたその瞬間。 鼓膜を貫くような音が走った。 「ライジングラウンド!!」 ばきん。 紡がれた言の葉が威として弾けた。 威力は丁度つかさのもっているステッキを点とした時の半径一メートルほど。しかしその射程内にあった家具やドアは全て一つの色へと変わっていた。 黒。焼き尽くされた後に残る黒。それは狭い範囲とはいえ当たってしまえば絶命は避けられないと相手に悟らせるには十分すぎるものだ。 「危なかった‥‥」 炎に属した呪文かと思ったが、目に写ったのは閃光。 全てを焼ききるほどの雷撃だった。 「これは‥‥私も手加減などとは言ってられないみたいですね‥‥!」 持っていた鉄棒を目の前へと投げ捨てた。 己の背へと手をやる。 再び腕を伸ばした時、その手には先ほどとはまた違う煌きを放つ武器が月光を浴びていた。 甘かった。武器に杖を持ち出したのは、攻撃のためではなく術の力を強めるためか。 しかし今のやりあいで相手の主な攻撃手段は術だと判明した。加えて相手の武器の素材。 「行きますよ」 そう言って更に距離を離すと、一息ついてから構えた。 刀。斬り、付き、二通りある攻撃方法のどれもが相手に致命傷をもたらしかねない一撃必殺の日本刀。 相手の攻撃手段が詠唱不可欠な術だと分かった以上、こちらが接近戦に持ち込み詠唱するヒマを与えなければいい。 更に相手の武器は木で出来ている。幾ら硬度の高い木であれ、鉄と比べれば次元が違うはず。 杖で応対してきたのなら、その杖ごと斬り伏せればいい。 「地鍔爪斬(ちがくそうざん)!」 刀を地面に這わせ、つかさに走りよる。 この技は通常の剣の間合いよりも1メートルほど離れた場所でも発動可能だ。切り上げと同時に地のエネルギーを自分と相手の間に壁を成すようにして吹き上げ、攻防一体の攻撃となる。 つかさは迎え撃とうとしているのか、少し構えを取っただけでそれ以上の動きは見せない。 致命傷とはならなくとも、敵の第一波は確実に防げる上に後々の攻撃に繋がる非常に有利な形で終わらせることが出来る。 隙が出来れば、相手をこの凶器で切り刻むだけだ。 あと三歩、あと二歩、あと一歩。 射程距離に近づいていく刹那、敵の声を聞いた。 「何勘違いしてるのゆきちゃん、まだ私の攻撃は続いてるよ?」 瞬間、足元に何かが絡みつく感触。 痛み。 「っあ!!」 足元を見る、そこには先ほど捨てた鉄棒が電気を帯びてパチパチと光を放っていた。 動けない。体が痺れる。 「どう?あの呪文は雷撃のほかにも周りの鉄や水を帯電させることが出来るんだ。すごいよね~」 無邪気な笑みを浮かべたのも一瞬。終わりの呪文(ことば)が聞こえてくる。 「狂気の集約、地の慟哭。紅蓮の焔より賜りし法は揺らぐこと無き絶対の絆。連鎖の理、普遍への回帰。我ここに断罪となりし戒めを示さん。汝の楽園は苦と熱波と死の先にあると知れ‥‥ボルケーノドライブ!!」 唸るようにして地から炎が吹き上げたかと思うと、みゆきへと襲い掛かる。 しかしその目に絶望は無く、未だ闘志がぎらぎらとまるで視野できるかのようだった。 「‥‥鉄。刀だって、鉄なんですよ」 全身に力という力を込めてようやく立ち上がると、地面に刺したままの剣を振り上げた。 剣にまとわりつく、眩いばかりの光。 「まさか、私の地電流のエネルギーを全部刀に集約して‥‥」 「いきますっ!!」 光り輝く刀を、その何十倍もの体積を持つ炎へと振り下ろした。 ずずん、という地鳴り。 つかさが事態を把握した頃には、既にエネルギー同士が衝突していた。 力はまさに五分と五分。散っていた力を集約した刀と、強大なエネルギーの奔流。 「くく・・・っ」 汗が滴り、ぽたぽたと落ちていく。 エネルギーを纏っているとはいえ、相手の術をこらえるための刀を握っているのは自分以外の何者でもない。 となると当然握っているみゆきに負担が生まれる。 ふと。 背後に殺気を感じた。目の前の炎に勝るとも劣らない、強烈な殺気。 「なっ、つかさ‥‥さん‥‥」 術を唱え終わったつかさが背後にいた。勿論、杖を構えて。 一方で術を必死で抑えているみゆきには成す術が無い。 しかし杖という殺傷能力の低い武器なら。 術者が元いた場所を離れたということは、もうこれ以上術の威力が強くなることはない。弱まる一方だ。 つかさがみゆきの身体を行動不能にするまで殴打するのが先か、それともみゆきが弱まっていく炎を押し切って未だ纏ったままの雷の剣でつかさを貫くのが先か。 しかしその半分同士の確率論は、次の瞬間意味のないものへと化した。 つかさが杖を抜く。 正しくは、鞘から引き抜いていく。 そう、つかさが持っている杖というのは術の威力を強化するという術者に特化したタイプの武器。 その実態は、中に刀が用意されている仕込みの杖。 「じゃあね、ゆきちゃん」 細い杖に用意されていただけあって普通の刀よりも細身になっているそれは、やすやすとみゆきの身体を貫いて。 同時に、先ほどまでみゆきが必死に支えていた術が正しく命中し─── 物凄い地鳴りと爆発音と共に爆ぜた。 「・・・ふぅ」 もはや廃墟と化したみゆきの家。 あたりを見渡す。住居という原型はもはやとどめていない。 「これじゃあ泊まれないよね‥‥ぁ、そうだ!」 困り果てたつかさだったが、もう一つの選択肢が現れた。 この家のすぐ近く、2つ離れた後輩の家へと───。 ‥‥つ づ き ま せ ん。
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かがみ「やっと着いた~」 つかさ「結構遅くなっちゃったね」 今日は土曜日、この柊かがみ・つかさ姉妹は親友である泉こなたの家に来ていた。 ただ親の仕事の手伝いが入ってしまったため、少し来るのが遅れたのだ。 もう一人の親友である高翌良みゆきは、もうすでにここに来ているはずだ。 こなたの父親であるそうじろうに挨拶をし、二階のこなたの部屋へ向かう。 かがみ「こなた、みゆき、入るわよ」 つかさ「おじゃましま~す」 ノックをして二人がドアを開ける。 みゆき「あら、かがみさんにつかささん。こんにちは」 中では奇妙な光景が広がっていた。 こなたの身体を、みゆきが自分の膝の上に乗せて抱き締めているのである。 かがみ「み、みゆき……何してるの……?」 普段ならあり得ない光景に、二人は戸惑っていた。 更に、みゆきの中にいるこなたが放った言葉が、更に二人を混乱させた。 こなた「み、みゆきおねーしゃん、ちょっとくりゅしいよぉ……」 二人「!?」 みゆき「あ、ごめんなさい、こなたさん」 呂律の回っていないこなたの喋り方、みゆきがこなたを名前で呼んでいること…… 二人には、何が何だか分からなかった。 つかさ「ど、どーゆーこと??」 みゆき「泉さんに退行催眠を掛けたんです。今の泉さんの精神は、4歳にまで戻っています」 しばらくの沈黙。そして…… 二人『えぇぇええぇええ!!?』 絶叫。 こなた「あぁー、かがみねぇしゃんとつかしゃねぇしゃんだー」 ててて、とかがみとつかさの基に歩み寄る。 こなた「こんにちわっ」 こなたが左腕を上げ、笑顔で挨拶をする。一方、二人は衝撃的事実に固まっていたが、やがて……。 つかさ「か、可愛いぃぃぃぃぃっ!!」 つかさが動き出した。それから、こなたを抱きしめ、抱き上げそのまま振り回す。 つかさ「可愛いよおぉぉぉぉっ!!」 こなた「わーい、コーヒーカップみたーい♪」 かがみは呆然と見ていたが、そっとみゆきに近づき問いただす。 かがみ「ちょっと、どーゆーことよ?」 みゆき「どうもこうもありません。昨日テレビで見た事を試してみましたら本当になってしまって……てへ☆」 かがみ「てへ☆ じゃないわよ……」 つかさとこなたは未だに回っている。 つかさ「あはは、バルサミコ酢~~♪♪♪」 こなた「うぇ~……」 楽しんでるのは、もはやつかさだけだった。 かがみ「ちょっとつかさ! こなたが気持ち悪がってるでしょ!」 つかさ「あ……」 つかさからこなたをふんだくるかがみ。 かがみ「大丈夫? こなた?」 分岐 A:カオスルート→このまま進む 分岐 B:催眠ルート→リンク先へ かがみがこなたの肩を軽い力で叩くと、抱き締められるままになっていた少女はゆっくりと目を開いた。 「あれ、かがみ? もう来たんだ」 唐突に態度が変わった事に驚きながらも、その理由に気がついたかがみはみゆきを見て口を開いた。 「私はこなたの肩を叩いた。これが催眠術を解くための条件だったのよね?」 「ええ、仰るとおりです。個人差もあるそうですが、刺激によって覚醒するのは共通しているようですね」 「そうなんだ。じゃあ、私がこなちゃんを振り回している間に、元に戻っちゃってたかもしれない?」 つかさの疑問の声によって、三人の視線がこなたに集まる。 こなたは困ったように笑った後、頬を掻きながら答えた。 「っていうかさ、実は催眠術の影響を受けたっていうのは嘘だったんだよね」 「えっ?」 三人の声が完全に重なる。そんなはずはないという不審は消える事なく、かがみはこなたを睨みつけた。 「信じられないわよ。さっきまでのが演技だったって言うの?」 「そうだよ。アニメで幼児退行したシーンとかも見たことあるからさ、それを思い出しながらね」 「つまり、私の催眠術は失敗していたわけですか……」 みゆきは残念そうに俯いたが、反対につかさは明るい調子で会話に加わった。 「でも、良かった。こなちゃんが元に戻れずにあの状態が続いていたら、大変だもん」 「確かにね。あのままじゃ、普段以上に迷惑をかけられそうだったわ」 「おおっと。まるで、いつも私が迷惑をかけてるみたいな言い草だね」 「事実でしょ。今日も宿題を写させて欲しいと言って、ノートを持ってくるように頼んだのは誰?」 「あはは。つかさ、じゃないかなぁ」 こなた達が談笑をするなかで、みゆきだけは顔を合わせようとはせずに、独り言を呟いていた。 彼女は立ち上がると、部屋の隅にある姿見の前にまで移動して座りなおした。 「正しい手順を踏んだのに、失敗するはずがありません。私は十年前に戻る。十年前の私を取り戻す――」 中央の穴に糸を通した五円玉を使い、みゆきは催眠術を再度試した。 「みゆきさん、もうやめときなよ」 こなたの後に、かがみも呆れた口調で続く。 「そうよ。やっぱり、そういう番組はやらせなのよ」 かがみ達の説得に応じたのか、数秒のタイムラグがあってから、みゆきの呟きが停止した。 「ゆきちゃん。それよりもクッキーを焼いてきたから、一緒に食べようよ」 呼びかけに反応したみゆきは上半身を捻り、三人のほうへと顔を向け、その表情に不安をにじませた。 「あの、どちらさまでしょうか?」 悔しさを抑え切れなかったための演技だろうと、全員が思った。 しかし、真顔で喋るみゆきからは冗談のような雰囲気がまるで感じられず、本気で怯えているように見えた。 「まさか、本当に?」 そう言いながらつかさがみゆきに近づこうとしたのは、刺激を与えさえすれば元に戻るという話を思い出したためだった。 「こ、来ないでください。こんなトコロにつれてきて、みのしろ金でもようきゅうするつもりですか!?」 「落ち着いてよ。そんな声を出したら、近所に住んでいる人から通報されちゃうかも知れないでしょ」 「来ないでくださいと、言ったはずです!」 体格で勝るみゆきは油断をしていたかがみを突き飛ばし、制止の声を振り切って部屋から飛び出した。 「待ってよ。みゆきさん」 こなたは慌てて追いかけたが、階段を降り、玄関まで行っても彼女を見つけられず、そこで一足の靴がなくなっているという情報を得ただけだった。 遅れてやってきた二人に対してこなたが質問をすると、消えたのはつかさの靴であるらしいとわかった。 靴を間違えるほどの動揺をしていたか、あるいは『現在の自分が履いている靴さえ知らない』のだろう。 このまま放っておくわけには行かない。 しかし、行き先もわからない人間を三人だけで探し出せるはずもなかった。 人海戦術。それがこなた達の考えた、最良にして唯一の手段だった。 「どうか、みんなが暇を持て余していますように……」 こなたは部屋に戻って携帯電話を取り出すと、祈るような気持ちで電話をかけた。 まずは一人目。かがみ達の携帯には登録されていない、異国から来た少女へと。 こなた「あ~もう!なんでこんな時に限ってみんな用事があるのさぁ!!」 バイトにデート、犬の散歩に原稿〆切とことごとく玉砕。 同じ家に住む父親のそうじろうにお願いしても、「精神年齢が8歳」と言おうものなら、何をしでかすかわからない。 従妹のゆたかは……みゆきのスピードには追い付けないだろう。 最後の望みをかけ、「み」のところに登録されている友達へと電話を掛けようとした時だった。 みゆき「あの……皆さん……」 なんと、みゆきが自分から戻ってきた。 先ほどまでの怯えた様子もなく、いつもの高翌良みゆきだ。 かがみ「みゆき、戻ったの?」 みゆき「はい……途中で転んでしまって……あ、つかささん、靴、すみませんでした……」 つかさ「ううん、ゆきちゃんが無事ならそれでいいよ」 そういうのは靴が戻らなかった場合に言う台詞だ、とこなたとかがみがツッコみかけて、やめた。 そして、こなたの部屋に戻ってきてから。 こなた「ちゃんと催眠にかかってないってサイン、出してたんだけどなぁ」 つかさ「サインって?」 こなた「なんで4歳の私がかがみとつかさを知ってるのかって話だよ」 かがみ「ああ、そういや見た瞬間に名前言ってたよな……」 みゆき「お待たせしました」 リビングからみゆきが戻ってきた。 みゆきは新しい催眠道具を探してきますと言い、こなたに許可を得て探させてもらったのだ。 そんな彼女が持っているのは、ローソクとマッチ。 みゆき「今度こそ、泉さんを4歳に戻します」 / みゆき「あなたは4歳の自分に戻る……あなたは4歳の自分に戻る……」 そう呟いているみゆきの正面で、こなたは虚ろな瞳で、揺らめくローソクの炎を眺めていた。 瞳までは騙し切れまい、かがみは今度こそ催眠が成功すると確信した。 そしてもう一つ、つかさがこなたと同じように、虚ろな瞳でローソクの炎を眺めていることに気が付いた。 と、みゆきがローソクの炎を吹き消した。これで催眠が掛かるはずだが…… ロウソクが消えても、二人は黙っている。何も反応が無いが、どうしたのだろうかと、かがみがつかさの頭を触れようとしたときだった。 二人は突然立ち上がり、こなたは口を開け、つかさは両手を上げ、万歳をしたのである。 かがみ「二人とも……?」 みゆき「成功したんで――」 みゆきの言葉が終わる前に事態は急変した。 つかさ「さようなら」 かがみ「へ……?」 それは一瞬だった。つかさの身体が光だし、煙になってしまったのだ。残ったものは着ていた衣服とリボンのみ。 かがみ「え……、え……?」 そしてその煙を口を開けていたこなたが吸い込んでいく。 みゆき「(゚Д゚)」 この異様な光景にみゆきは開いた口が塞がらないようだ。かがみはというと……。 かがみ「いや……嘘よ……つかさ……」 よろよろとつかさが居た場所に歩み寄り、ぺたんとその場に座り込んでしまった。 かがみ「つかさ……つかさぁ……つかさあぁぁぁぁっ!!」 つかさの衣服を抱きしめ号泣する。それもそのはず、何しろ目の前でいきなり意味不明な現象で消えてしまったのだから……。 みゆき「よしっ!」 かがみ「よしっ、じゃないわよ!!」 みゆき「あいたっ><」 かがみが高速でみゆきを殴りにかかる。 かがみ「何て事してくれたのよ! 世界に一人しか居ない私の大事な可愛い妹、その名もつかさなのよ!! 返してつかさを! つかさを返してよ!!」 みゆき「ちょ……苦しいでふ……そんな事言われましても知りませ――」 かがみ「ああぁぁぁぁぁぁっ!!!」 みゆきの胸倉をつかみ、激しく揺さぶるかがみ。 ???「落ち着いて、お姉ちゃん!」 かがみ「え?」 かがみは耳を疑った。今の声は正しくつかさの声……どこに居るのか!? こなた「お姉ちゃん、私なら大丈夫! こなちゃんの中に居るから!」 そこには、つかさの声でこなたの姿をしたこなたが居た。 かがみ「これは一体……」 みゆき「意味が分かりませんね^^;」 かがみ「(#^ω^)」 ガッシ、ボカ! みゆきはその場に倒れた。 かがみ「でも、信じられないわね…つかさ一体どこにいるのよ…」 かがみはこなたの肩を掴んで瞳を覗き込んだ。 掴みかかられた瞬間にこなたから出たのはこなたの声。 こなた「ちょ、かがみ!?」 かがみはこなたの瞳の中を見て目を疑った。 なんと中にはつかさがいたのだ。しかも何故かちゃぶ台まで完備されている。 つかさの座っている席にはハンドルらしきものがあるようだ。 つかさ『気持ちいいよー、冷蔵庫もついてて快適だよー、お姉ちゃんも乗りなよー』 かがみ「…どーやって乗るのよ…」 かがみ「なんとかしなさいよみゆき! 元に戻せぇっ!」 みゆき「ばたんきゅう」 かがみ「寝んなあぁぁあぁっ!!」 こなた「いや、かがみが殴って気絶させたんでしょーが」 かがみ「あんたも! んな平然としてないでもっと危機感ってのを持て!」 こなた「そんな心配しなくても大丈夫だって。これ結構楽し――」 カクーン かがみ「ひっ!? こなた、こなた!!」 プヒュー つかさ「ほら、私とこなちゃんの意識いつでも切り替えられるんだよ。すごいでしょー」 かがみ「すごくない! ていうか何よ今の音!?」 こなた『今の私の体は私とつかさが交代で動かすロボットみたいなもんだからー』 かがみ「なアホな……答えになってないし」 こなた『ちょっと喉かわいたし麦茶でも飲んでこよーか。つかさ、れっつらごー』 つかさ「はーい。こなちゃん号はっしーん!」 バタム かがみ「……おいこら、起きろ元凶」 かがみ「起きろ、デカ乳女」 ガタン!! みゆきを起こそうと、身体を揺さ振っていたかがみだったが……突然、閉められていたドアが勢いよく開けられたので、何事かと振り返る。果たしてそこにいたのは……。 かがみ「ゆたかちゃん?」 そこには涙目で、少し怒った様子のゆたかが、かがみとみゆきを睨み付けていた。少し可愛いと思ったのは内緒だ。byかがみ。 ゆたか「何ですか……何なんですか……」 かがみ「ゆたかちゃ――うぉっ!?」 ずんずんとかがみに歩み寄ると、かがみの胸倉を掴みにかかる。普段の彼女からは想像も出来ない行動だった。 ゆたか「あの理解できない現象は何なんですか! 先輩達の仕業ですよね!! 何て事してくれたんですか! 世界に一人しか居ない私の大事な可愛いお姉ちゃん、その名もこなたお姉ちゃんなんですよ!! 返してお姉ちゃん! お姉ちゃんを返してよ!!」 かがみ「ちょ……苦しいわ……そんな事言われても私の仕業じゃ――」 ゆたか「ああぁぁぁぁぁぁっ!!!」 かがみの胸倉をつかみ、激しく揺さぶるゆたか。その力はかがみよりも強い……そう、まるで鬼神の如く。 ゆたか「お姉ちゃんが……お姉ちゃんがあぁぁぁあぁぁぁっ!!」 かがみ「落ち着い……て、ゆたかちゃん……全ての元凶は……そこで気絶しているみゆき……よ……」 その事実を知ったゆたかは、掴んでいたかがみを離し、スライディングでみゆきに近づく。 かがみ「いたっ!」 急に離されたかがみは頭から後ろにゴッチーン! ゆたか「高翌良(笑)先輩……あなたという人は!! 起きてください」 ゆたかの おうふくビンタ !! 3かい あたった!! みゆき「ぱちくり」 かがみ「やっと起きたわね……いたたた」 ゆたか「先輩! 早くお姉ちゃんを元に戻してください! お願いします><」 みゆき「…………」 みゆきは虚ろな目で辺りを見渡している。寝ぼけているのだろうか? みゆき「ここはどこだ……? 私は誰だ? 私は何のためにここに居る? ……逆襲だ」 かがみ「(#^ω^)」 ゆたか「(#^ω^)」 かがみとゆたかの メガトンパンチ !! みゆきは倒れた。 「ウチらの出番だな!」 かがみ「…あの声…どっかで聴いたような…」 その時壁の一部が剥がれ、山○正之っぽいBGMとともに中から2人の人陰が現れた。 みさお「日下部みさおッ!」 あやの「み、峰岸あやの!!」 みさお・あやの「ヤッt…背景コンビ、只今参上!!」 かがみ「今違うことを言いかけたな!!」 ゆたか「お願いです!お姉ちゃんを元に戻してきてください!」 かがみ「そうよ、つかさを元に戻してきてよ!!」 みさお「って言われてもなー」 あやの「どうやって元に戻したら…」 ガッシ!ボカ!! かがみ「じゃあ何しにきたんだ!」 かがみの こうげき! かいしんの いちげき!! みさお「わ、わかったよ、そこに倒れてるピンク色に代わって何とかするってヴぁ…」 あやの「みさちゃん、本当に大丈夫なの?」 みさお「……多分…これで何とかできる…と思う」 みさおはポケットから何かを取り出した。 かがみ「おいっ、何だこれは」 みさお「……秘密兵器?」 かがみ「何で疑問系…」 そのときゆたかは変な視線を感じた!! ゆたか「……!?」 みさお「いっけー!メカの素だってヴぁー!!」 ゆたか「え…?むぐっ…!!」 解説しよう! ゆたかはメカの素を食べることにより、中で小型メカを次々と作り、発進させることが出来るのだ!! ゆたか「んが~(泣)」 みなみ「みなみ、みなみ、みなみ、みなみ…」ゾロゾロ かがみ「中からちっこいの出てきた!…って、この展開はまさか…」 ドッカーン!! こなた「うしょーん!?」 つかさ「おぉねぇぇちゃぁぁぁぁぁぁん!(泣)」 みさお「勝利のポーズ!」 みさお・あやの「ヤッターヤッターヤッt」 かがみ「……こなたとつかさを返せええぇぇぇぇええええええ!!」 かがみは イオナズンを唱えた! 背景の群れをやっつけた! みゆき「では本題に戻りましょう」 かがみ「うおっ!? しぶとい……」 みゆき「か、かがみさん……まさか本気で?」 かがみ「それは置いといて、収拾つけられるのコレ?(色んな意味で)」 みゆき「任せてください」スック みゆき「スターz」 かがみ「念仏は唱え終わったか」 みゆき「ちょ、まっ」 ガッシ、ボカ! みゆき「三度目のスイーツ(笑)」バタッ かがみ「ったく、どいつもこいつも壊すことしか頭にないし……」 ゆい「やほーこなt……」 かがみ「あ、成実さん」 ゆい「何がどーなってんのコレ」 かがみ「色々すったもんだがありまして」 ※状況説明中 ゆい「なるほどねぇ」 かがみ「警察の力でなんとかなりませんか?」 ゆい「おっけー! お姉さんにまっかせなさーい!」 かがみ「うっわ、なんとかなるんだ」 ゆい「ん?」 かがみ「いえなんでも」 ゆい「ところでー」 かがみ「はい?」 ゆい「どいつもこいつも壊すことしか頭にないって、かがみちゃんも含まれてるよねぇ?」 かがみ「……」 ゆい 「とりあえず警察の力でゆたかだけは元に戻せたよ」 ゆたか「ありがとう、お姉ちゃん……まだ口の中にみなみちゃんの味が……」ペッペェッ かがみ「こなたは? つかさは?」 ゆい 「知らんがな(´・ω・)」 ゆたか「そんなぁ」 かがみ「はぁ……役立たずですね」 ゆい 「カチンと来た、じゃあかがみちゃんは何か役に立ったの? 殴ったり愚痴言ったりしてるだけじゃない」 かがみ「必要ないキャラは削除」ピッ ゆい 「アッー!」ヒューン かがみがボタンを押すと、ゆいの下に穴が出来、そこにゆいは落ちた。 ゆたか「ばいばい、お姉ちゃん」 みゆき「ワカメの再生力は伊達じゃない」 かがみ「みゆき、復活したからには全て元通りにしてもらうわよ」 みゆき「こんなこともあろうかと……」 かがみ「あろうかと?」 みゆき「…………………」 みゆき「もう、良いじゃないですか。かがみさんはつかささんが好き、こなたさんが好き。その二人が一つとなって何の不満があるんです?」 かがみ「それも……そうね……」 ゆたか「私はこなたお姉ちゃんだけが良いのにぃっ!」 かがみ「ばいばい」ピッ ゆたか「アッー!」ヒューン かがみ「ところで肝心のこなた+つかさは背景コンビにやられちゃったんだけど……」 みゆき「もう、一々うるさいわね」ピッ かがみ「へ? アッー!」ヒューン みゆき「さてさて、これからどうしましょう? うふふ」 高良みゆきは考えた。この破綻した世界を元通りにする手段はあるのか。 「もちろん、あるはずですよね。思いつきだけで行動してしまうなど、私らしくありません」 自分自身の性格について、彼女はよく理解していた。 この悪夢の発端はみゆきが催眠術を試そうとした事だ。それならば、解決の方法が存在することは必然。 床に転がる肉片と深い穴の中で叫び声をあげる友人達を交互に見つめながら、みゆきは推理を口にする。 言葉にする事で、自分の考えをまとめようとして。 「私はこうなる事を――最悪の事態を予測できた。では、どうして今のような状況に?」 考えられる原因は二つしかなかった。まずは、みゆきが何かを間違えたという可能性。 しかし、それはまずありえないと言ってよいだろう。つまり、もうひとつの答えこそが正しい。 「私は自分に催眠術をかけて、このありえない空想の世界を体験している?」 その仮説を信じるのならば、みゆきの催眠状態さえ解けばよいことになる。 「ちょっとー。聞こえているんでしょ、みゆき。ここから出しなさいよ」 かがみの声が部屋に響き渡ったが、集中したみゆきの耳には届かない。 彼女が次に動き出すのは、起こすべき行動を見つけたときのみ。そして、それには数分とかからなかった。 みゆきは床の上に転がっているロウソクを手に取ると、マッチを使い火を点けた。 「私は目を覚ます。催眠術の効果は終わり、この世界も同時に終わる」 彼女が火を吹き消した瞬間、世界は闇に包まれた。 あらゆる感覚が消えた一瞬の後、黒い空間の中でみゆきは声を聞いた。 「――みゆきさん?」 「はい。なんでしょうか」 まばたきをしながら呼びかけに答えたみゆきは、目の前に後輩たちがいる事に驚いた。 「あっ、気がついたみたい。高良先輩、大丈夫ですか?」 「ええと、なるほど。どうやら上手くいったようですね」 一人で納得をするみゆきに、ひより達は首を傾げながらも安堵の溜息をつく。 「お姉ちゃん達。先輩が起きたみたいだよ」 振り向いて無事を伝えるゆたかの視線を追うと、そこにはみゆきの知り合いが集まっていた。 「ゆきちゃん。気分はどう?」 「みゆきったら。自分を実験台にして大成功。でも、催眠が解けません――なんて、笑えないわよ」 「まあまあ、そういうドジも萌え要素だって」 「余暇ったデス。一次は胴なるかと思いマシタ」 つかさにかがみ、こなた。そしていくつかの語句の発音がおかしいパティが微笑んでみゆきを見ていた。 一人で催眠術の練習をして元に戻れなくなったみゆきを偶然に発見したのは回覧板を届けに来たみなみで、助けを求めて今集まっている全員を呼んだのだと教えられた。 「皆さん、ご心配をおかけしました」 みゆきが深々と頭を下げたとき、ふと、自身の履いているスカートが焦げているのを見つけた。 「あの……どうして服が焦げているのか、どなたかご存知ですか?」 「さあ? アイロンがけに失敗した事に、そのとき気がつかなかっただけじゃない」 かがみは常識的な意見を語り、つかさもその言葉に頷いた。 「そうだよね。タバコの火やロウソクなんて置いてないし」 ロウソク――その単語に、みゆきは嫌な予感がした。 完全に吹き消したと思っても、再び火が勢いを取り戻すのを見たことがあった。 「ん? あれ、焦げてなんかいないよ。みゆきさんの見間違いじゃないの」 こなたの言うのを聞いた数人がみゆきの衣服を眺め、それが正しいことを確認した。 しかし、みゆき自身の目ははっきりと、服が黒く変色していくのを捉えていた。 これは現実の出来事ではない。そう認識できたが、同時にみゆきにとっては紛れもない現実の痛みだった。 たとえ偽りの世界の出来事であっても、みゆきにだけはその影響が継続しているのだ。 おそらく、向こうの世界では火事になっている。それを消し止めなければいけないと、みゆきは思った。 「すみませんが、私が催眠術をかけるのに使った道具を持ってきてください。急いで戻らなければいけないんです」 分岐 A:火事だ!→そのまま進む 分岐 C:火事じゃない?→リンク先へ みなみ「持ってきました……でも、向こうに戻って何を?」 みゆき「新世界の神になってきます」 かがみ「( ゚д゚) ……」 みゆき「なんでもありません。向こうに長く居すぎて狂った言動が伝染してしまいました。それでは」 みゆき「と、戻ってきたはいいものの……こうも八方を火に塞がれていてはどうしようも―― ……皆さん、もう焼かれてしまっていますか。私の不注意で……すみません。 それにしても、こんな状況とはいえ好き勝手に発言できるというのは悪くないものですね」 ………… みゆき「……こちらに来てから熱さを感じませんね。 服が焦げて、さらには目の前で人が燃えてさえいるのに。不思議なことも――」 ピコーン(電球) みゆき「なるほど。向こう――この世界では火事になっている。この世界は催眠術によってのみ訪れられる世界。 つまりは私の夢。夢だと確信しているから熱くない、という暗示……。 もっとも、熱くないとはいえ火事は火事ですよね。このままここにいたら痛みを感じないまま焼死してしまいますね」 ピコーン(電球) みゆき「焼死してしまう、というのもまた暗示……ですか。厄介ですね。 一歩間違えば冗談ではなく新世界の神になってしまいます……。 ちなみにこれは私の夢なので実際に泉さんたちが亡くなっているわけではありません……? 何でしょうかこの頭の中に響いてきたメタ的なセリフは。それはともかく」 キョロキョロ みゆき「……さて、どうしましょうか。助けが欲しい、と願えば助けが来るんでしょうか?」 みゆき「助けてください、お願いします><」 みゆきがお願いすると、目の前にポンッと何やら杖の様なものが現れた。 みゆき「これは、子供向けアニメによくある“マジカルステッキ”という物ですね、わかります」 みゆきはその杖を広い天にかざす……が何も起きない。 みゆき「魔法の言葉ですか……それに衣装も必要ですよね……」 しかし、この炎の中……衣装など見つかるわけもなく、仕方なくみゆきは自身の着ている服を破り、いかにも魔法少女の様なひらひら衣装を作った。そして……。 みゆき「……プリチー・エッチー・イヤバカン! 全ての現象よ、元にもどーれ♪」 ピカー! 辺り一面が眩しく光る、世界を戻せと輝き叫ぶ!! 次第に、火は消え、死んでしまったこなたも復活し、穴に落ちた三人も元に戻り、つかさもこなたから出て来た。何もかも元通りだ。 かがみ「あれ? こなた……つかさ!」 こなた「元に戻った?」 つかさ「そうみたいだね」 ゆたか「こなたお姉ちゃあぁん!!」 ゆい 「わーお^o^」 みさお「ヴぁぶー」 あやの「いくら乙」 全員無事なようだ。みゆきのこの世界の役目は終わった。 みゆき「もう、大丈夫みたいですね……泉さん、私に猫騙しをしてくれませんか?」 こなた「ん? うん」 パチン!! そこでみゆきの意識は通常世界に戻った……。 みゆき「……ふわぁ」 みゆきが目が覚ましたとき、高良家に集まっていた人間は一人も欠けていなかった。 催眠術で自分だけの世界に行ったあと、そこで彼女が何をするのか説明していなかった事もあり、全員が心配そうな顔をしていた。 みゆきは衣服に何の異常もないことを確かめると、全員を見て言った。 「安心してください、これてすべて終わりました」 「よくわからないけど、何かやり残したことでもあったの?」 かがみの問いに、みゆきは頷いて答える。 「ええ。なにがあったのかを説明すると、長くなってしまうのですが……」 みゆきはそう前置きしたが、ここまで来て詳細を知らないまま帰ってしまえるほどに無関心な者はいなかった。 「では、順を追ってお話しますね。きっかけは、昨晩の催眠術特集のテレビでした――」 みゆきの話をたっぷり三時間は聞いたこなた達は、既に太陽も沈みかけていることを知って帰る事にした。 帰宅ルートごとに別れた仲間は、三々五々帰っていく。 それを見送ってから、玄関の三和土で靴を脱ぎ、居間に戻ったみゆきは催眠術に使った道具が無くなっている事に気がついた。 いったい、どこに? 深く考えるまでもなく、そんな物に興味を示すであろう人物は一人しかいなかった。 みゆきが物語っている最中に帰ってきた母親が犯人に違いない。 大事にならないうちに、早く止めなければ。 「お母さん?」 思考にふけっていたみゆきの背後から声をかけたのは、みゆきの母親であるはずのゆかりだった。 「あの、まさかとは思いますが……」 「お母さん。私、お腹空いちゃった。晩御飯はまだ?」 完全に手遅れだった。みゆきは溜息をつきながら、ゆかりを元に戻すために猫だましを――。 刹那、みゆきは腕をつかまれた。 眼前で手を打ち合わせ、ショックで目を覚まさせようとした試みは失敗に終わる。 「ねえ、ちゃんと聞いてた?」 「も、もちろんですよ。今から作りますね」 みゆきはそう答え、隙を突いて再度――腕をつかまれる。 その後もみゆきの挑戦は繰り返されたが、まるで意識していないようなのに必ず妨害をされてしまう。 「あーあ、明日は学校か。面倒くさい。行きたくないなー」 「是非! 是非とも、そうしてください。一日くらい休んだって構いませんよ」 みゆきの願いも空しく、翌日の学校では娘の予備の制服に身を包んだ婦人の姿が目撃されたという。 終わり。
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お誕生日は、大切な日。 だれでも知っていることだけど、それでも私には特に。 冬に生まれてくるには、私の体はちょっとだけ小さかったみたいで、だからお 母さんはとっても苦労したんだって、物心ついた頃におねえちゃんから聞いた。 最近はだいぶ良くなったっていっても、それでもたまにわがままを言ってしま うこの体のことだ。小さい頃なんて、もっともっと大変だったんだろう。そう 思ってお父さんとお母さんにごめんねって言ったら、笑いながら頭を撫でてく れたから安心した。 だから私は、他のひとよりも少しだけ、誕生日を大切に思っている。お母さん だって、お父さんだって、お姉ちゃんたちだって、今朝家の前を通り過ぎたネ コさんだって、がんばって生まれてきて、がんばって育ててもらったに違いな いのだから。そんな私も、とても健やかに、とはいかないけれど、二度目の制 服に袖を通すくらいに大きくなった。なかなか出来なかったお友達もできて、 新しい学校にもすっかりなじんだ………と思う。 最近買ってもらった携帯電話に、お知らせのメッセージが一つ。少しだけ暑さ を忘れる夏の夜、私は窓から星空を見上げながら。 「どうしようかなあ―――」 そう呟いた。 * 「誕生日プレゼント?」 「うん、考えてみたんだけどなかなか決まらなくて………」 「ふーむ」 急な相談にも頭を悩ませてくれているのは、同じクラスでお友達の田村さん。 体のこともあって、中学校の頃からなかなか人と遊ぶことができなかった自分 と、入学してからずっと仲良くしてくれている人だ。今でも人とお話しするの が少し苦手だから、こうやって相談できる友達がいるというのは自分にはとて も嬉しいこと。 「んー、でも、私よりも小早川さんのほうが、岩崎さんと仲いいしなあ。私じ ゃあ中々決められないかもだー」 そもそも私リアルでの人間関係狭いしなー、って涙を流しているけど、私なん かよりよっぽど人付き合いは上手いと思う。こなたお姉ちゃんとだってすぐに 仲良くなっていたし―――お姉ちゃん曰く、「ルイトモだよゆーちゃん」と言 っていたけれど―――、だからきっと私に思いつかない考えを出してくれるか も、と思ったのだ。 「それにしても、随分早くから誕生日のこと考えるんだねー。たしか岩崎さん の誕生日って、九月だったよね?」 「うん、そうなんだけど………ほら、私ってドジとかよくするから」 周りの人には迷惑をかけていると思うし、それを抜きにしてもいつも「ありが とう」の気持ちでいっぱいだ。だから、その分「ありがとう」をできる時には、 目いっぱいの感謝を込めたいと思っていたりする。それに加えて、私はあまり 要領が良くないから、お誕生日に間に合わせるためには少し早くから行動して おかないといけないというのもあったり。 「センパイならそういうの、『萌え要素だ!』って言うんだろうけどねー。っ ていうか、岩崎さんもそうだと思うんだけど、私は別に迷惑をかけられてるな んて思ってないんだヨ?知ってるかな、『友情は見返りを求めない』ってや つ」 「あはは、それは知らないけど、なんとなく分かるよ」 「うんうん、それならいいのさ」 なぜか知らないけど、田村さんは嬉しそうだった。それから色々考えてみたけ ど、やっぱりなかなかいい案は浮かばない。三人寄れば文殊の知恵って言うけ ど、いつもの三人が集まったらこっそり相談している意味が無くなってしまう。 今決めなきゃいけないことじゃないけど、でも後に伸ばしていたら、喜んでも らえるものが―――ありがとうって伝えるのに一番いいものが、思い浮かばな くなってしまうかもしれないし。どうしよう、どうしよう。うんうんと声を出 してみるけど、それだけじゃどうにもならなかった。そうすること二十分くら い、田村さんが顔を上げる。 「―――ダメダメ!このままじゃアレだよ、存在が固定行動に固着しちゃうっ てヤツになっちゃうよ」 難しいことを言っていた。アハハ、最近やったゲームのウケウリなんだけど、 と照れて、一息。 「やっぱ私たちだけじゃ、すぐにはムリかもしれないよね。だからさ、頼りに なるセンパイに意見を聞いてみるってのはどうかな?」 * 「うーん、文殊の知恵かと思ったんスけど」 「甘いわね、ひよりちゃん。女三人寄れば姦しいって言葉もあるのよ」 「船頭多くして船山登る、ということわざもありますし………」 ううーと田村さんが頭を抱えているのは、いい案が思い浮かばないからじゃな くて、お姉ちゃんの部屋で繰り広げられている終わりの見えない話し合いにつ いてだった。田村さんをフォローしていたかがみ先輩と高良先輩も、議論がま た湧いていると見るやそちらに参加して、ベッドの上には途方にくれている私 と田村さんが残されている。 「私はやっぱり、何かお料理を作ってもらうとかがいいかな」 「あのねーつかさ、プレゼントっていうのは後に残るから価値があるのよ。料 理とかはあくまでプラスアルファ!」 「にひひ、さっすがかがみん、プレゼントにコダワリアリ、だねー。近いうち に誰かにあげたりするのカナー?」 「う、うっさい!別に他意は無いわよ!っていうか、そういうアンタこそどう なのよ」 「うーん、やっぱカーディガンとかカナー、キャラ的に」 「あんたの意見はなんか裏の意図が有りそうで嫌だわ………」 「ゆきちゃんは何がいいと思う?」 「そうですね、みなみさんは読書が好きですから、やはり本を贈ると喜ばれる のではないかと―――」 「ちっちっちっ、みゆきさん、それじゃフラグは立たないよ?こう、大事な時 には意外性のあるプレゼントで興味を惹くことによって」 「あんたねー、和やかな誕生日になんて妄想を抱いてんのよ」 誰かが意見を出して、それにかがみ先輩がつっこみを入れて、お姉ちゃんがか らかって、みゆき先輩が軌道修正。それの繰り返し。私は、さすがお姉ちゃん たち、色んな意見が出るなあと思って見ているんだけど、田村さんは「今は同 人のネタはいらないんスよー」と言ってうなだれていた。自分も何か意見を出 さないと、と思って考えてはみるんだけど、そう思えば思うほど頭の中はこん がらかってしまって、どうにもまとまらない。ただ、みなみちゃんに「ありが とう」を伝えられるものを渡さなきゃ、という思いだけが強くなってくるのだ。 お姉ちゃんがつかっている、ふわふわの枕を抱いてみる。こんな風にあったか くて柔らかいものを思いつくことができたらいいのに。 白熱する議論で、中々まとまりが出ないことに疲れたのか、かがみ先輩が大き く息を吐いた。 「ふう。こういうのって難しいわよねー、やっぱ相手がいるってだけで重みが 違うわ」 「ですね。自分が欲しいものを相手が欲しがっているとも限りませんし」 プレゼントで悩んだことがあるのは、私だけではないみたい。やっぱりみんな、 仲のいい人にモノを贈るなら喜んでもらいたいし、逆にがっかりさせてしまっ たらとても落ち込んでしまうことになるんだろうなあ。私もこれまで何度かプ レゼントを贈ったけれど、簡単に決めることができたのは一度もなかった。い つだって、その人が何が好きだったかとか、何を欲しがっていたかとか、いっ ぱい考えていたと思う。私の場合は、贈る相手は家族ばかりだったから、調べ るのも大変じゃなかったんだけど。 「うんうん、そうだよー。私もみんなにプレゼントあげるときはすごく悩むん だから」 「こなちゃんに貰ったのって確か―――」 「マニアックな意図が込められたものばっかだった気がするわね」 意図を理解できるセンパイはそれを受け取る資格があるんスよ、と田村さん。 他の人も否定しないところを見ると、きっと本当のことなんだろう。 「でもでも、それも基本的にはちゃんと喜んでもらうこと前提に選んでるんだ からねっ、その辺は勘違いしてもらっちゃ困るよかがみん」 「はいはい。応用的にはそうじゃないとしても、ちゃんと感謝してるから大丈 夫よ」 泣き付いたお姉ちゃんの頭を撫でて、かがみ先輩はこっちに向き直った。 「でも、こなたじゃないけど、やっぱり大切なのは気持ちだと思うわよ、ゆた かちゃん。私はみなみちゃんとそんなに話したことがあるわけじゃないけど、 いい子だって事は分かったからね」 「ええ、私は小さい頃からお付き合いさせてもらっていますけど、とっても思 いやりのある子です。きっと、こんなに自分のために考えてくれていることを 知ったら、すごく喜ぶんじゃないかと」 もしかしたら、恐縮してしまうかもしれませんけど、と言って高良先輩は笑う。 他の先輩たちも同意見みたい。そんな中、こなたお姉ちゃんが田村さんを見て、 「おっ、何か嬉しそうだねえひよりん。何か思うところがあるのかな?」 そっちを見ると、どこか照れくさそうに笑っている田村さん。 「なはは、センパイにはお見通しッスねー。いや、私は誕生日もう過ぎてるん スけど、その時の事を思い出しまして。私はすっごく手の込んだ絵本を貰った んスけど、今みたいに色々考えて作ってくれたんだなーと思うと、こう、込み 上げて来るモンがあるんスよー。最初に相談してもらえたのも嬉しいですし。 あー、ゆたかちゃん好きだー!」 「ひゃあっ」 急に横から抱きつかれて驚いてしまう。でも、こんなに喜んでもらえたなんて 私も嬉しいから、 「私もひよりちゃんの事好きだよー」 抱きつき返して、抱き合った。プレゼントってやっぱりすごいんだ。今まで仲 の良かった人と、もっと仲良くなれてしまう。 「めでたしめでたし、これにて一件落着!」 「アンタがまとめるな!それに、結局プレゼントは決まってないんだし。―― ―まあ、でも」 「これなら、私たちがいなくても決められそうですね」 「やっぱり一件落着だね、こなちゃん」 「うむ!」 微笑ましく視線を送られてちょっぴり恥ずかしかったけれど、嬉しいほうが大 きかった。ひよりちゃんはとってもあったかくて、ずっと抱き合っていられそ うな気がした。だから、 「うん、そうしよう」 すんなり、考えはまとまったのでした。ありがとう、お姉ちゃんたち。 * 一ヶ月は短すぎるくらいで、要領の良くない私は、その日に向けて必死にがん ばった。プレゼントするものを決めて、ひよりちゃんにその事を話して、せっ かくだから二人で合わせようと言う事になって、今日はみなみちゃんの家で誕 生会。みなみちゃんのお母さんの作ってくれたケーキとごはんをご馳走になっ て、少し犬と遊んで。 「お誕生日おめでとう!」 「おめでとうー!」 みなみちゃんの部屋で、改めてもう一度おめでとう。 「うん………ありがとう」 大げさではないけれど、喜んでくれているのがわかる。ひよりちゃんは前に 「怖そうに見える」って言っていたけど、今はみなみちゃんがどう思っている かちゃんとわかっているみたいで、私と顔を見合わせて笑った。 「それでね、プレゼントなんだけど―――」 後ろ手に持っていた紙袋を前に出す。ひよりちゃんも、同じ紙袋。でも、中身 は少し違うのだ。みなみちゃんもさっきから気になっていたみたいで、気取ら れないようにしているけれど、それもわかってしまうのは、それだけ付き合っ てこれたことの証。 「ゆたかちゃんと一緒に作ってみたんだー。慣れてないからちょっと出来には 自信がないんだけど」 「開けてみて、みなみちゃん」 二つの袋を手渡す。うん、と言って開けられたその中には、 「マフラーと、手袋………」 「えへへ、ちょっと季節はずれだけど。マフラーは私、手袋はひよりちゃんだ よ」 取り出して、みなみちゃんはその感触を確かめるように胸に抱いている。喜ん でくれたみたいだね、とひよりちゃんに目を向けると、満点だよっ、と親指を 立てていた。何をプレゼントしよう、手作りの方が気持ちを込められるよね。 そう思って頭に浮かんだのが、前の冬に見たみなみちゃんの姿だった。あの時 みなみちゃんはマフラーをしていなくて、ちょっと寒そうだなあと私は思って いたのだ。お姉ちゃんの部屋で抱き合っていた時に考え付いたから、やっぱり お姉ちゃんたちのおかげだ。嬉しそうにしてくれているのを見ながら、私たち はもう一組の紙袋を取り出す。 「それでね、ちょっと趣向を凝らしてあるんだよ、みなみちゃん」 「うん、これ思いついたのはひよりちゃんなの」 私の袋からは、さっきと同じマフラー。ひよりちゃんの袋からは、さっきと同 じ手袋。それを二人で交換する。みなみちゃんは頭にハテナマークを浮か べている。 「ふふふ、これで三人お揃い!ペア………じゃなくて、トリオルックの完成だー!」 言ってひよりちゃんは、前に私にしたようにみなみちゃんに抱きついた。おろ おろしているみなみちゃんがおかしくて、助けを求めるようにこちらに視線を よこされるけど、いじわるして私も抱きついてしまう。こうなるとみなみちゃ んもどうしようもなくて、真っ赤になりながら、おずおずと私たちの背中に手 を回していた。傍から見たら変に見えるかもしれないけれど、私はとても幸せ だった。 「次はゆたかちゃんの誕生日だからさ、みなみちゃん」 「あ………うん、分かった。それで、ちゃんとお揃い」 「楽しみだなー、早く冬にならないかなあ」 九月の半ば、手袋をした私と、マフラーをしたひよりちゃんと、両方を身に着 けたみなみちゃん。私は、三人で揃って歩く冬の日を、とても待ち遠しく思っ たのだった。 お誕生日、おめでとう。
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クズのような自分なんかとは、ちっとも釣り合わない彼女ができたら、どうする?wwwwww 考えてみ?wwwwwwwwwwww 頭が良くて、美人で、スタイルが良くて、運動も出来てさwwwwwwww 全然、もう全然自分なんかとは毛色の違う人なんだよwwwwwwww 君だったらどうする?wwwwwwwwwwww 俺の場合は、有頂天になったねwwwwwwwwwwwwww 朝、通学路を歩く俺は、目の前に愛しの彼女を見つけたwwwwwwwwww テンションが一気にMAXwwwwww思わず駆け寄って、その細い背中に声をかけたwwwwwwww 「みゆきさんwwwwwwwwwwwwドゥフッwwwwwwドゥフッwwwwwwwwww」 肩をぽんっと叩くwwwwwwww 桃色の髪を跳ねさせて、彼女は振り向いたwwwwww 大きなめがねと、ぱっちりとした瞳wwwwww そして、弾むような爆乳wwwwwwwwww そう、皆のアイドルwwwwww みゆきさんだwwwwwwww 「ああ、おはようございます」 みゆきさんはふわりと笑ったwwwwww俺も釣られて笑うwwwwwwエフッwwwwエフッwwwwwwww 「珍しいですね、今日は遅刻しないんですか」 「みゆきさんに一刻も早く会いたかったからさwwwwwwビックバーンwwwwww」 というと、みゆきさんは照れたように笑って、顔を伏せたwwwwww その頬は紅く染まっているwwwwwwww俺もつられて紅くなるwwww自分で言っといてwwww自分で言っといて紅くなるからwwww みゆきさんと俺は、最近付き合いだしたwwwwwwwwwwww ある日、突然みゆきさんが、俺に告白してきたのだwwwwwwww それはもう驚いたねwwwwwwwwなんてったって、憧れの女性から告白されたんだからwwwwww 俺はもうはしゃぎまくりでOKしたwwwwwwww そして今に至るwwwwwwww そうそう、とみゆきさんは俺に顔を向けたwwwwwwww 「この間ですね、こなたさんと面白い出来事がありまして」 「泉の野郎がどうかしたんですか?」 「こなたさん、突然『私、かがみんと付き合うことになったから』と言い出しまして」 「ありえそうですね」 「私驚いてしまって、動揺するやら、おめでとうと言うやら、それはもう、慌てたのですが」 「慌てるみゆきさんも可愛いですよ」 「実は、それは嘘だったんですね」 オチも何もない話wwwwwwwwだが、俺はげらげら笑ったwwwwwwみゆきさん可愛いよwwwwww 「だけど、泉の野郎、太い奴ですね。みゆきさんに嘘を吐くなんて」 と俺が言うと、みゆきさんはぼそぼそ唇を動かしたwwwwwwww 「あの、私だけ抜け駆けしてしまったから、こなたさん、ちょっと驚いてしまったようで……」 「抜け駆け? どういうことですか?」 あの、その、とみゆきさんはしどろもどろwwwwwwドロヘドロwwwwww面白いよねwwwwwwww 「私だけ、恋人ができてしまったから……」 心臓が跳ね上がったwwwwwwそういう彼女は、とても美しかったwwwwwwwwwwww ひらりと桜が待ったwwwwwwwwwwそういえば、もうそんな季節だwwwwwwww みゆきさんの頭に、桜の花びらがついたwwwwww俺はそれを目で追いながらwwwwww 「俺は、みゆきさんに絶対、嘘なんか吐きませんよ」 と言ったwwwwwwwwww言ったったwwwwwwww みゆきさんの顔は、桜よりも紅くなって、はい、と呟くと、さらに俯いたwwwwwwwwwwww 学校に到着して、俺とみゆきさんはそれぞれのクラスに向ったwwwwwwwwww 机のうえに鞄を置くと、勝手に顔が笑ってしまうwwwwwwww 何て幸せなんだろうwwwwwwふわふわして、現実感がないwwwwww ずっとこんな日々が続けばいいのになぁwwwwwwwwwwwwwwww と、思っていた矢先、腹に激痛が走ったwwwwwwww ぐるぐると腹が鳴るwwwwwwwwぐるぐるぴーぴーwwwwwwww どうやら、腹を壊しているwwwwwwww 恐らく、朝にカレーを食べたせいだろうwwwwww 調子に乗ってコーラとか飲んだからwwwwwwwwww俺の馬鹿wwwwww 俺は慌てて、トイレに向ったwwwwwwwwwwww だが、トイレは全部空いていなかったwwwwwwwwww 朝にうんこする奴多すぎwwwwww家で済ませろやwwwwwwって俺もかwwwwwwww 一人つっこみをいれてる間も、腸内運動は激しいwwwwwwwwww 元気なそれは、もう入り口まで迫っていたwwwwwwwwww 俺は、やむをえず、女子トイレに駆け込んだwwwwwwww 幸い、女子トイレには誰もいなかったwwwwwwww 俺は個室に飛び込んで、臨戦体勢wwwwwwww うんこは軽やかに飛び出たwwwwwwwwww えも言われぬ快感の後、さあっと血の気が引いたwwwwwwww これ俺変態じゃんwwwwwwww女子トイレでうんこするとか完全なる変態じゃんwwwwwwww 俺は、慌ててトイレから脱出を試みたwwwwwwww だがそのとき、がやがやと、誰かがトイレに入ってきたwwwwwwww 俺は慌てて個室に隠れたwwwwwwww 女子ってのは、何でこうも集団でトイレに行くのかwwwwwwww 聞くつもりもないが、自然に会話が聞こえてきたwwwwwwww 「ねー、くさいよねー。……って、本当に臭くない?」 「ハンバーグみたいな匂いがするねぇ~」 「ちょっ、つかさ、表現が生々しい……」 どうやら、トイレに入ってきたのは、みゆきさんたちと仲が良い、泉と、柊姉妹の三人のようだったwwwwwwwwww 三人はトイレはしないで、洗面台のところで雑談しているwwwwwwwwww 俺は何となくその会話に聞く耳を立てたwwwwwwだって気になるんだもんwwwwwwww 「みゆきさんもやるよねー。まさか本当にするだなんて」 「ね、私、すっごく驚いたよぉ」 どうやら、みゆきさんのことを話しているwwwwwwww ますます聞く耳を立てた俺の鼓膜に、衝撃的な言葉が飛び込んだwwwwwwwwww 「罰ゲームとはいえ、まさか本当に告白するとはねー」 罰ゲーム?wwwwwwwwwwwwww どういうことだ?wwwwwwww みゆきさんは、俺に罰ゲームで告白したのか?wwwwwwwwww その瞬間、頭の中で、ジグゾーパズルが完成したみたいな感覚がしたwwwwwwwwwwww そうだwwwwwwwwww考えれば、当たり前だwwwwwwww 俺のような劣等生を、みゆきさんが好きになって、あまつさえ彼女から告白してくるなんてwwwwwwww ありえないんだwwwwwwwwそんなことwwwwwwww 俺は、がちゃりと扉を開けたwwwwwwwwひぃっ、という短い悲鳴が上がって、三人はこちらを見たwwwwwwww 俺は彼女たちには一瞥もせず、溜息をついて、トイレから出たwwwwwwwwwwww その日の帰り道、後ろから声をかけられたwwwwwwww みゆきさんだwwwwwwwwww 笑顔で、駆け寄ってきたwwwwww俺は、その笑顔に、胸が痛んだwwwwww 全部、嘘の癖にwwwwwwww頭が良い人は、演技も上手いのかなwwwwwwww みゆきさんは言ったwwwwwwwwww 「今日の夜、暇ですか? お話したいことがあるんです」 ほらきたwwwwwwと、俺は心の中で言ったwwwwwwwwww 「坂の上の、桜の木の前で待っていて欲しいんです」 その場所は、俺がみゆきさんから告白を受けた場所だwwwwwwww よりにもよって、そんなところを選ぶなんてwwwwwwwwww 嫌味な人だよwwwwwwまったくwwwwwwww 「来てくださいね」 みゆきさんは、暗い顔の俺を覗き込んだwwwwwwwwww 俺は、無理に笑顔を作って、 「ええ、行きます」 と言ったwwwwwwwwww みゆきさんは照れくさそうに笑うと、ぽてぽてと、走り去ってしまったwwwwwwww 俺はその後ろ姿を見ながら、自嘲的に笑ったwwwwwwww 「振られるってわかってるのに、行くかよ」 次の日、みゆきさんは学校に来なかったwwwwwwwwwwww ぽっかり空いている机を、廊下から見て、俺は苛立ったwwwwwwww 何であんたが、逃げるんだよwwwwwwww 逃げたいのは、俺だwwwwwwww ぬか喜びさせて、本当は嘘だったなんてwwwwwwww 俺は馬鹿みたいじゃないかwwwwwwwwwwいや、馬鹿なんだけどwwwwwwww そのとき、がつん、と後頭部を殴られたwwwwwwww 驚いて振り向くと、柊姉妹の、姉が俺を睨んでいるwwwwww その後ろには、妹と、泉がいたwwwwwwww二人も、俺を睨んでいるwwwwww 「なんだよ」 「なんだよじゃないわよ。あんた、昨日みゆきの約束ほったらかしたわね」 「ああ、そうだよ」 「そうだよ、って、あんたねぇ」 「うるさいな」 俺は、きつい口調で言ったwwwwwwww 「全部、嘘だったんだろ。罰ゲームだったんだろ。何で行かなきゃいけないんだよ。どうせ、振られるのによ」 俺よりもきつい口調で、柊姉は怒鳴ったwwwwwwww 「馬鹿!」 廊下を歩く人たちが、皆一斉に俺たちを見たwwwwwwww そんなこともお構い無しに、柊姉は言うwwwwwwww 「みゆきみたいに初心な子が、例え罰ゲームでも、好きでもない男に本当に告白すると思う?」 「ど、どういう意味だよ」 「あの子はね、前からあなたのことが好きだったのよ。それを、いつまでも悩んでいるから、私たちが無理矢理告白させたの!」 ぐらりと頭のなかが回ったwwwwwwww 天地がひっくり返ったようだったwwwwwwwwww 心臓がばくばく鳴って、ぐるぐる混乱するwwwwwwww 柊姉は教室を覗き込むと、言ったwwwwwwww 「みゆき、来てないの?」 「あ、ああ、今日は、来てない」 「昨日連絡したときは、もう帰る、って言ってたのに。まさか、あの子……」 俺は、柊姉の次の言葉を待たずに、走り出したwwwwwwwwww みゆきさんはきっと、まだ、あそこで待っているwwwwwwww 俺は確信を持って、そう思ったwwwwwwwwww 何故なら、俺はみゆきさんに言ったからだwwwwwwww 俺は絶対に、嘘なんか吐かない、とwwwwwwwwwwwwww 桜が雨みたいに舞っているwwwwwwww その下に、みゆきさんはいたwwwwwwwwこちらに背をむけて、ぼうっと立っているwwwwww 坂を全力で疾走した俺の心臓は、はちきれそうだったwwwwww ぜいぜいと息を吐きながら、俺はみゆきさんの細い背中に、声をかけたwwwwwwww 毎朝、そうしているようにwwwwwwwwww 「みゆきさん」 みゆきさんは振り返ると、少し驚いて、それから、ふわりと笑ったwwwwwwww 「来てくれたんですね」 「すみません、みゆきさん。俺」 「謝らないでください」 ぴしゃり、と遮られるwwwwwwww みゆきさんの目の下には、隈ができていたwwwwww 昨夜から、今まで、彼女はずっと、俺を待っていたのだwwwwwwww 胸がずきりと痛んだwwwwwwwwww 深呼吸するみたいに、あるいは桜の香りを楽しむみたいに呼吸して、それからみゆきさんは話し出したwwwwww 「昨夜、私はあなたに別れ話を持ちかけようとしていました」 当然だwwww俺のような馬鹿男wwwwwwふられて当然だwwwwww だけど、何でだ?wwwwww当然だと思うのに、すごく、悲しいwwwwwwww みゆきさんは、言葉をつむぐwwwwww 「そして、また、正式に告白しようとしていました」 みゆきさんの桃色の髪が、桜の花びらに混じって、風に流れたwwwwwwww 「だって、私は、いつだって正直なあなたに、嘘を吐きたくなくなかったんです。きっかけの罰ゲームは、私の意志ではない。だから、この関係は、一旦リセット。そして私は、罰ゲームでなく、あなたに、本当の気持ちを伝えたいのです」 聞いてくれますか……? みゆきさんは静かにそう言ったwwwwwwww ぱっちりとした、だけど少し疲れた目が、俺を真っ直ぐに見据えるwwwwwwwwww 俺の答えは、決まっているwwwwwwwwwwwwww 桜が、頑張れ、とでも言うみたいに、風に傾いだwwwwwwww 終わり
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ゆたかの実家にお邪魔させてもらえると言う事で、今私はゆいさんが運転する車の後部座席にゆたかと並んでいた。 普段住んでいる泉さん宅とは違うもう一つのゆたかの家を目指していた。 私とゆたかの座高の差が大きいものだから、ゆいさんいわく「あはは、ゆたかとみなみちゃんを見てると姉妹みたいに見えるよお!でも本当のお姉さんは私だかんね!?」だそうだ。 それを聞いたゆたかは「またお姉ちゃん、そうやって私を子ども扱いするぅッ!」と、雪見大福みたいに、ほっぺをまん丸くぷく~っと膨らませるのだった。 高校初めての夏休み。 太陽はギラギラと輝き地面をちりちりと焼いていて、時折吹く風が何とかそれを冷まそうとするも、結局それが原因で風までもが炎のように熱を持って暴れまわっている。 それに対してこの車の中はよくエアコンが利いていて、外界の熱波など今の私たちには全然関係ない。快適そのもの! の、はずなんだけど、どうしてだろう……。ゆいさんの車に乗ると、すごくめまいがしてくるように感じるんだ……。 そもそもはゆたかの体調を気遣った結果、涼しく快適になってるはずんだけれど、あれ?この車、タイヤがキュルキュル言いいながらカーブを曲がってるよ?。 なんだか目が回ってくるから、遠くの景色を見ようと窓の外を覗いてみた。 元気よく作物が育ちつつあるのどかな田園風景と、青々とした低い山々に囲まれた、私が住んでいる都会の住宅街とは正反対に、自然ゆたかな町並みが広がっていた。 あ、今私、ダジャレを言ったかもしれない。ふふ、「自然ゆたか」なんてね……。 ん?……うあっ、ゆたかが腐ったバナナを見るような目でこっちを見てるっ。ひょっとしたら知らず知らずのうちに声が出ていたのかも。うわ~、やっちゃった~……。 「みなみちゃん、顔が真っ赤だよ。もしかして暑い?」 「えっ?う、ううん、心配いらないよ。ゆたかこそ冷房が効き過ぎて寒くはない?」 「全然。大丈夫だよ。あのね、もうすぐ私の家なんだ」 少しだけ山を登り、何件かの家が並んでいる中の、外壁が薄いピンク色に塗装された少しおしゃれな家が、ゆたかの家だった。 私や泉さん宅ほど大きな建物ではないものの、庭の広さは私の家の庭よりもずっと広くて、都会の窮屈さを思い知らされた。 「ふいー、到着ー!我が家に着いたよ~」 「ゆいさん、ありがとうございます」 「みなみちゃん、こっちだよ!」 ゆたかの母親であるゆきさんとの挨拶も終え、私はゆたかの部屋に案内されていた。 私の殺風景な部屋とは違い、とても女の子らしい部屋だ。 デスクの上にはノートパソコンが置かれ、ぬいぐるみがいくつかベッドに並んでいた。 私の部屋にもこのくらい沢山のぬいぐるみがあったらいいのに。 「ここすごく田舎でしょ?キツネもたまに出るんだよ」 「それはすごいね、一度見てみたいな。いい所だと思うよ。私の家じゃ、あり得ない」 「えへへ。でもね、あんまりお外には遊びに行けなくて、いつも家にこもってパソコンとかしてたから……」 「そっか……」 ゆたかの趣味がパソコンと言うのは、初めは違和感があったけれど、そうなるのも無理は無いのかもしれない。 私は立ち上がり、ゆたかの部屋を一望した。 机の上には中学時代の頃の写真や、泉さんと一緒の写真などが飾られている。 幼いゆたかは今以上に幼くて、あぁ、本当にゆたかったらかわいいなあ。 本棚の中には何冊もの絵本がしまわれていた。 そのうちの、背表紙の無い奇妙な一冊。画用紙の端をひもでまとめ、本のように閉じられた手作りのものがある。 「あ、みなみちゃん。じつはそれ、私が始めて書いた絵本なんだ……」 「絵本?……本当だ、かわいいね。読んでもいい?」 「うん、読んでみて。妖精さんのお話だよ」 私は絵本を読み終え、窓の外を覗いた。 あれだけ強く輝いていた太陽も、すでに山の裏に隠れてしまい、雲を真っ赤に染めていた。 空高くに見える飛行機雲が、とても涼しそうに浮かんでいる。 まあ、飛行機雲が浮かんでる高度なら、涼しいを通り越して極寒だと思うけど。 「ねえ、みなみちゃん。ちょっと外に散歩に行かない?見せたいものがあるんだ」 「いいよ。私もここを冒険してみたい」 ゆたかはカッターナイフをポケットにしまうと、小さくやわらかい手で私の手を引っ張り、家の玄関を出た。 相変わらず外の空気は蒸し暑く、私が着ているシャツが少しべとつく。 ゆたかと繋いだ手も同じように汗で濡れ始めて、お互いの汗が混ぜ合わさって……。 あ、これ以上なにか考えると、田村さんと同じになりそうだからやめよう。 ゆたかは山に続く道路を進んでいく。 周りの森の中だけはすでに夜みたいに暗くなっていて、人が入り込むのを拒んでいるように見えてならない。 大きな岩を目印にして、ゆたかは不気味な森の中の獣道へと私を連れて行く。ここまで来るともう、人間の来るべきところでは無い気がしてくる。 「ゆたか、どこへ連れて行くの?」 「秘密の場所。みなみちゃんだけにしか教えてあげない、私しか知らない場所だよ」 ゆたかは大きなブナの木の前で立ち止まった。樹齢はもしかしたら千年以上たつかも知れないほどの、とても巨大な大木だ。 でもなんだろう?ゆたかの見せたいものって。この木の事なんだろうか? 「みなみちゃんみなみちゃん。ここだよ。この穴をくぐって行くの」 「え?この根っこの隙間の穴?こんな所に入るの?」 「うん……。見せたいものがこの中にあるの。信じて、みなみちゃん」 もちろん。 ゆたかがこんな所にまで連れてきたのだから、よっぽどすごいなにかがここにあるはずだ。 ゆたかがそうまで言うなら、何を疑うと言うのか。 私は迷うことなく、木の根元にぽっかり口を開いた穴の中に、四つんばいになりながら頭から突っ込んだ。 暗い、前が何も見えない。土のにおいが鼻をつく。冷たい地面が、私の火照った手のひらから熱を奪う。 長いトンネルを潜り抜けると、赤く染まった夕焼けと、草原と、それから目の前には町があった。 私に続いてゆたかが愛くるしい顔をひょっこりと穴から出した。 「ようこそ!みなみちゃん、ここは妖精の国だよ!」 「妖精の国!?」 町から人が飛び出してくる?ん?人?あれは……飛んでる!?ミツバチみたいに小さな妖精たちが、こっちの方へ向かってくる! 「お帰りなさいませ、女王様」 「ただいま、みんな」 本当に、妖精の国……。 「ゆたか、ここはどこなの?」 私は妖精たちが作ってくれたスープを飲みながら、ゆたかにたずねた。 ゆたかはサラダを食べる口を一旦とめて、うんとね、と口元に指を当てながら悩んだ。 「私もはっきりした事はわかんないんだけどね、多分、私たちが暮らしてる世界とは違うと思うんだ。ここには日本みたいな森もあるし、川も流れるし、雨も降るんだけど、やっぱりちょっと違うんだよ。 最初にここに来たのが、幼稚園年長さんのときにお母さんに連れられて来たの。 あの時は私は、どこかの遊園地だと思ったんだよ。でも、小学生になって世の中の事が少し分かってきた頃に、ここがどれだけ特別な場所なのか分かったんだ。 最近はこなたお姉ちゃんの家に暮らしてるから、なかなか来れなかったけど、その前はいつもここに来て遊んでたんだよ」 「じゃあ、女王様っていうのは?」 「女王様は、代々受け継がれてるの。私はお母さんから……。この町はね、私が作ったんだよ」 歓迎される私たちに、妖精3匹が自分の体よりも大きなビーフシチューを運んでくる。 この妖精の国のお城の中には、沢山の妖精たちがいた。 ゆたかに聞きたいことや突っ込みたい事は、百も千もあったものの、それよりまず私の心がこの異常事態に対応仕切れておらず、心臓バクバク。 でも、なんだか楽しい。ここはひとまずそれでいいか。 時間が過ぎるのを忘れて、もう真っ暗な夜になっていた。 「みなみちゃん、こっちに来て!」 「うん!」 「ほらきれいでしょ?ここからこの町が一望できるんだよ!ほら、あそこには公園があって噴水もあるんだよ!それからあそこには観覧車があって……、あっちにはね湖もあるんだよ!全部私と妖精さんたちで作ったの」 「湖まで作ったの?すごい」 「そうだ!みなみちゃんの銅像をあの公園に立てよう?」 「え?い、いいよ。ちょっと恥ずかしいし……」 「大丈夫だよ、妖精さんたちはやさしいし、外の世界とは別々だし。それに直ぐに出来るよ」 「う、うん。じゃあ……立てて」 ゆたかの一言で作業は始まった。 手際のいい妖精たちの仕事はあっという間だった。 銅像を作るために私の体を妖精がじっと見つめている。そんなに見られると、妖精とは言え、すごく恥ずかしいよ……。 一時間後には、私がドレスを着た姿の銅像が、公園の広場に立てられた。 見ていて、顔から火が出そうなほど立派な銅像が……。うぅっ、私こんなに美人じゃないよ……。 そんな時間もあっという間に過ぎ、ゆたかがそろそろ帰ろうか、と言う一言で私は現実の世界を思い出した。 また穴をくぐって、大きなブナの木の根元から這い上がった。 しんと静まり返った森の中は、あの妖精の国の賑やかさを夢だったかのよう思わせる程不気味で、冷たい現実が私に強引にでも目を覚ませと耳元で訴えているような感覚だ。 「みなみちゃん、どうだった?」 「すごく、わくわくした。こんな所があったなんて、今でも信じられない……」 「私はお母さんにこの場所を教えてもらったの。それ以来私は、誰にもここは教えてこなかったけど、みなみちゃんだけには教えてあげたかったんだ」 「ありがとう、でもすごすぎるよ。こんなの秘密にするなんて、私、自信がないよ」 「大丈夫だよ。あのね、みなみちゃん、私はお母さんから女王様を受け継いだの、だから次は、みなみちゃんに女王様になってもらいたいの」 「え!?そんな……、私、無理だよ……。どうして?ゆたかはもう、女王様は嫌なの?」 「ううん、そうじゃないんだけど……。いつまでも私じゃあいけないと思うんだ。私はもう十分楽しんだんだよ。だから次はみなみちゃんに、なって欲しいの」 「ん……。でも、私の家からじゃ遠くて」 「ここに来るのはたまにで良いんだよ、一年に一回でもいいし、十年に一回でもいいの。だから、みなみちゃんにこの国をあげる」 ゆたかはポケットに入れていたカッターナイフを使い、ブナの木に何かを刻み始めた。 暗くてよく見えないため、途中から私の携帯で照明を照らした。 ブナの木の表面には「岩崎みなみ」と、文字が刻まれていた。 そしてその文字が、杉の木に吸い込まれるようにすうっと消えてしまった。 「あれ?みなみちゃんここどこ?」 「ゆたか?そんな、ゆたかがここに連れて来たんだよ?」 「え?あれ?あれ?みなみちゃん、怖いよ……」 そんな、そんな。女王が受け継がれれば、先代女王は今までの事を全部忘れてしまうって言うの? なんて悲しいんだろう。いや、本当は私の夢だったんじゃないだろうか?全部私一人の妄想だったんじゃないか? もういい。何も考えないで帰ろう。 わたしはゆたかの肩を抱いて、ゆたかの家へと戻った。 やっぱり、家族の人は私たちが帰るのが遅い事を心配して、私とゆたかは黙って謝った。 ゆきさんに妖精の国のことをさりげなく聞いてみたが、何の事か分かっていない様子だった。 私はゆたかの部屋にひかれた布団の中で、今日の事を思い出していた。 ゆたかはどうして私に、あの国を託したんだろう? 明日また、あそこに行ってみよう。 「ここだ……」 私はまだ日が昇るか昇らないかという早朝に、ゆたかの家族に気づかれないようこっそりと家から抜け出し、大きなブナの木の前に立っていた。 やっぱり根元にはぽっかりと穴がある。私は大きく息を吸うと、柔らかな土の穴の中へと潜っていった。 穴を抜けると、広い草原があった。夢じゃない。 ただ、昨日見た町も、湖も、お城も、そして私の銅像も何も無い。ひたすら地平線の向こうまで続く野原が広がっていた。 「女王様、いらっしゃい!」 どこからか妖精たちが私のところへ集まり、私を迎え入れてくれて、ちょっとうれしい。 そうか、今度は私がここの国を建てなくちゃいけないんだ……。 でもね、ゆたか。私にはゆたかみたいな創造力や、創作意欲はないんだよ。 私にはお城や町を作れる程の意気込みはないんだ……。 妖精たちには悪いけれど、この国はしばらく草原のままだと思う。 ごめんゆたか。本当に……。でもここは好き。 本当に一年に一回しか来れないかもしれないけど、誰か継承者が出来るまでいつまでもここの女王になり続けるからね。 ~これは昔のおはなし。 お友達がつくれない、ひとりの女の子がいました。 それは体がよわく、いつもびょうきにかかっていたので、いえのそとにでられないからです。 お友達がいないので、いえのそとに出たいとも思っていませんでした。 いえの中からそとを見ると、男の子たちが走りまわっていました。 でも女の子は、どうせ私は走れないから、と思ってそとに出ようともしませんでした。 ある日のよる、ようせいさんが女の子のいえの中にこっそりはいりこみました。 「ねえねえ、私たちの国においでよ、びょうきなんてふっとんじゃうよ」 女の子はようせいさんにつれられて、ようせいの国にやってきました。 そこではようせいさんたちがいっぱいいて、女の子をかんげいしました。 この国では、女の子は走りまわることができました。 ようせいさんたちと、のはらをかけまわりました。 「ほら、走るってたのしいでしょ?みんなとあそぶっておもしろいでしょ?」 おんなのこはようせいの国からかえっても、いえのそとで走りたくて、しかたありませんでした。 だから、いえからとびだし、ようせいの国のようには走れなくても、走りました。 するとたくさんの子供たちが、女の子にはなしかけます。 「ねえ、いっしょにあそぼうよ!」 女の子には、あっというまにお友達ができました。 女の子はしあわせでした。 ようせいさんは、森の中から、そんな女の子のようすを、いつまでもいつまでも見つづけました~ 私は隣で眠る娘に、絵本を読み聞かせていた。 今年で5歳になる、私の大切な宝物だ。髪は緑色で、私に似ていて、本当にかわいいたっらもう、ゆたかと比べようがないくらい! このゆたかが描いた絵本は、昔、初めてゆたかの家に行ったときに読ませてもらったものだった。 今ではこの絵本が出版されていて、多くの子供たちに夢を与えている。ゆたかの夢は叶ったのだ。 「ママ、この妖精の国、私知ってる!行ったことあるよ」 「ふふ、本当?」 「うん!あのね、ゆたかおばさんの家の近くなの」 「そう。またおばさんの所に行こうね」 この子も、ゆたかみたいに夢のある子に育ちそうだなぁ。 妖精を見たことがあるなんて、言うんだから。 あぁ、私も妖精に会ってみたいな。こんな絵本みたいにどこかに妖精の国があったら、どんなに楽しいだろうな。 「それでね、私が女王様なんだよ?覚えてないの?」 「そう、さ、そろそろ寝よう」 この絵本を読むとなんだか、とてもなつかしい感じがする。 お休みなさい、妖精の国の女王様。
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いかにも梅雨らしい、今日はそんなぐずついた空模様の日だった。 予報通りの曇り空からは雨がぽつぽつと控えめに落ちてきている。 雨に濡れないように、苦心して歩く人々の視線が空に向くことはない。 そんな、どこか物憂げな大気に包まれた街のファミリーレストラン。 その一角で、私は怒りに声を荒げていた。 「……でも!そんなのってないじゃない!」 「ま、まあまあかがみん、落ち着いて。ここ、外、外」 時刻はそろそろランチタイムも終わろうかという頃。 平日のせいか雨のせいか閑散として、それでも親子連れやカップルで それなりに賑わう店内、気がつけば私は全員の注目の的となっていた。 キッチンの奥からも、エプロン姿の渋い男性が苦い顔を覗かせている。 当然、私は意気消沈して、握り締めた拳からは力が抜けていき、続いて耳の熱くなる音が聞こえた。 「よろしいよろしいー、羞恥に戸惑うかがみんもかわいいよ」 テーブル対面のこなたがニヤニヤと私を見つめる。 蛍光灯に照らされた肌はひどく不健康な色をしていた。 聞けば、大学も2年目に入って手の抜き方を完璧に覚えたらしく、 最近はネトゲ三昧の生活を送っているとのことだ。 しかし、試験期間になると他大の私に泣きつくのはどうかと思う。 「……気色わるい言い方すんな」 お祭りの、そのあとは 「―――さて、それでは話を整理しようか………どったの?かがみん」 「いや…アンタがそんな物言いをするなんて、って……」 「ああこれ?いやー!最近ハマってる探偵物のアニメがあってねー」 「…………」 「あれ?もしかして呆れてる?」 「……いや、アンタのことだからどーせそんなとこだと思ってたわよ」 「さっすがかがみん!あたしのことよーーっくわかってるねえ」 「もう、いいから続けて」 「りょーかーい。さて、それでは話を整理しようか……」 「もういいって……」 「で、かがみんがそんなに怒ってる理由だけどさ」 そう、とにかく私は怒っている。 「つかさが一人暮らしを始めることにしたから、じゃなくて」 つかさは次の春に専門学校を卒業する。 早々と都内で就職先を見つけたつかさは、その近くで一人暮らしをすると言い始めた。 まあ、都内と言っても職場から家まで1時間もかからないし、 わざわざ引っ越さずに実家から通えばいいとは思った。 でも自立するのは悪いことじゃないし、それは怒った理由じゃない。 「急な話だったから、でもなくて」 つかさは、夏休みに入ったら、つまりあと一ヶ月もしたら一人暮らしを始めると言った。 そして、それを聞かされたのが今朝。 まあ、今の学校もバイト先も引っ越せば近くなるし、 早くから生活の基盤を作っておくのも悪くないと思う。 急な話だったけど、つかさは働いて自力でお金も貯めてたみたいだし、 無計画なわけじゃないから、それも違う。 「ひとえに……なんの相談も無かったから、ってこと?」 ……そうよ。 そんな話、つかさは一言も私には話してくれてなかった。 お母さんやお父さんに、いのり姉さんまつり姉さんにだって相談していたのに。 そんなのって、あんまりじゃない。 「つかさはかがみんに話したら止められる、って分かってたんじゃない?」 たしかに、そうかもしれない。。 私ならたぶん…ううん、絶対にまず反対したと思う。 それでも、つかさが本気で考えてることなら、私だって一緒に考えたい。 キツいこと言うかもしれないけど、手助けもしてあげたい。 けど……だけど、つかさがそれを拒むんだったら……私…… 本当は、つかさに嫌われてるんじゃないかって思えて。 そう思うと、頭ん中がぐしゃぐしゃになって…… 「で、つかさとケンカして家を飛び出して、愛する私に頼ってきたんだね」 愛する、は余計よ。 呟いて少し目線を上げると、いつものようなどこか泰然とした笑顔で、こなたが私を見澄ましていた。 不意に、その少し細めた瞳に心臓が衝き動かされ、私は慌ててコーヒーカップに手を伸ばした。 カップの中でスプーンがカラカラと音をたて、一口にも満たない冷めたコーヒーが喉を通り過ぎていく。 そうして平静を装った次の瞬間にはもう、こなたの表情はいつもの剣呑なものに戻っていた。 雨音が、少しだけ耳に障る。 「でも、かがみんは仲直りがしたいんだよね? なら今言ったことをつかさにも話せばいいじゃん」 かがみんの気持ちを素直に伝えればいいんだよ、と芝居がかった調子でこなたは言う。 たしかに、それを伝えればきっとつかさは私を許してくれるし、 つかさが理由を話してくれたらきっと私だって理解できる。 姉妹なんだから、ずっと一緒だったんだからそれくらい分かってる。 でも、なぜだろう。 わからないけれど。 「……それは、イヤなの」 心底驚いた、というようにこなたは目を見開いた。 構わず私は続ける。 「なんでだろ、わかんないわよ。 頭の中ぐちゃぐちゃで全然わかんない……だけど……だけど、イヤなのよ」 私の気持ちが、その素晴らしい解決策を良しとしなかった。 胸の中のモヤモヤが疼いて、心がざらついて、私は自分の本音をつかさに伝えることを拒んでいた。 隠していたつかさが悪いと思ってる? ひょっとして、自分が姉だからなんて思ってる? それは一体なぜなのか、次々に仮定を浮かべてはそれを否定していく。 初めての戸惑いに、私の感情は闇に囚われたように出口を見失っていた。 「なるほどねー」 そんな苦悩もどこ吹く風といった調子で、こなたは妙に納得したように頷いていた。 「……は?」 当然、ワケが分からず私の口からは疑問の声が洩れる。 「いやーかがみんがなんで怒ってるのかわかっちゃったのだよ。それはもう、ピコーンと」 こなたは口を猫のように丸めながら、人差し指を立てた両手を頭の上でぐるぐると回している。 その動作にツッコむ気力は、今の私には無い。 「聞きたい?ねえ、聞きたい!?」 楽しくてしょうがない、そう顔に書いてある。 その屈託の無い笑顔は、まあ嫌いじゃないけど。 けど、今はムカつく! 「……自分で考える」 その答に満足したようだったこなたは、すぐに震える携帯を手に席を外した。 私はと言えば、まるで見当もつかない答を探してさ迷っていた。 今までの会話を探っても、あらためて自分に問いかけても、それらしいものを見つけることはできない。 なんでつかさに謝れないのだろう、このモヤモヤは一体なんなのだろう。 頭を抱えても抱えても思考の道筋すら見つけられず、ついに、私は震える左手を伸ばした。 「すいません……この豆乳仕立てのミルクレープを一つお願いします」 ケーキがテーブルに届けられ、私が紅茶を淹れたところでこなたが席に戻ってくる。 黙ってテーブルに着くと、フォークを片手にした私をじっと見つめた。 「……言いたいことがあるなら言えばいいじゃない」 なんというか。 「……それで頭が回るなら、いいと思うよ」 見透かされてるなあ、私。 「…ちょっと食べる?」 「うん、ありがとー」 心持ち大きめににケーキを切り分けて差し出す。 それを一口でほおばって、こなたは喋り始めた。 「…ひょっと……聞ひたいんあけど……」 「いや、どっちかにしなさいよ、ほら」 紅茶でケーキを飲み下し、再びこなたは喋りだす。 「いやごめんごめん……んでさあ、かがみんとつかさってケンカしたことあるの?」 私が目をぱちぱちさせていると、少し慌てたようにこなたは続ける。 「いやーだって私の知る限り二人のケンカなんて初めてだったからさ。 そこんとこ、どーだったのかなーって思って」 「ケンカねえ…」 何か拾い物もあるかもしれないし、糖分が頭に回るまで時間もかかるし、 少しくらい脱線してもいいかな。 そんなことを、考えていた。 「どうだったかな……あ!そうそう、一度だけあったわね」 「おおー!聞かせて聞かせて!ね、ね!」 身を乗り出して、目を輝かせてこなたは私につっかかる。 その姿を視界に収めながら、私の意識は既に記憶の海へと没入していた。 あれはたしか…… 「えっと……あれは、ちょうど今くらいの季節で、たしか小1だったかしら……私は……」 ………… あたしは、つかさが嫌いだった。 このかわいらしい妹はどこへ行くにも後ろからついてきて、 でも一緒にいたらかわいがられるのはつかさばっかり。 あたしがお守りしないといけないし、そのせいであたしは好きなことできないし。 こないだだって、あたしがかわいいって言われた髪形マネされて、けっきょくつかさがほめられてた。 だからね。 「おねえちゃーん、おまつり楽しいね!」 絶対に、今日は一緒にいてあげないんだから! 「…お母さん、あたしちょっと一人で色々見てくるね!」 「ま、待ってよお、おねえちゃーーん」 お母さんの注意する声からも、追いかけてくるつかさからも逃げて、あたしは走り出す。 待って、待ってというつかさの声も遠くなり、あたしはお祭りの騒ぎの中でやっと一人になれた。 おこづかいの1000円を握りしめて、 どんな楽しいことをしてやろうかと考えると胸がドキドキする。 射的とか、わなげとか、かたぬきとか…くじびきじゃちょっともったいないな。 わたあめもおいしそう、だけどたぶん後でお母さんが買ってくれる。 お祭りの魔法があたしの胸をいっぱいにして、見える景色がぜんぶキラキラかがやいていた。 そしてそんな中であたしの心はいつしか、ある屋台に吸い寄せられていた。 「おっ!お嬢ちゃん一人?一回三百円だよ!やってくかい?」 勇気を出して、期待に心おどらせて、あたしのチャレンジが始まる。 初めての金魚すくい。 もらった一枚のアミはすぐ破けてしまい、あたしのチャレンジは終わった。 「やったあ!取れた!取れたよおかあさん!」 となりで、あたしと同じか少し小さいくらいの女の子が大声をあげた。 彼女はお母さんに頭をなでられながら、幸せそうに笑っている。 あたしはその姿を、自分と重ねていた。 「おじさん、もう一回やります!」 アミとおわんを両手に抱いて、あたしは注意深く水面を見つめた。 さっきの失敗でわかった。 やみくもに振り回してたら、アミはすぐに破けてしまう。 だから、アミは横にしてなるべく水とぶつからないように、狙いを定めてすぐに金魚をつかまえる! さっと水中にアミを差し込むと狙い通り、あたしは金魚をすくい上げた。 「やった―――あ!」 小さな水音を残して、金魚はプールへ帰って行った。 「惜しかったねえ、お嬢ちゃん!掬ったらすぐお椀に入れないとな!」 「おじさん、もっかい!」 すぐにあたしは最後の300円を差し出す。 「毎度あり!特別だ、お嬢ちゃんに教えてやろう!お椀はもっと水に近づけたら簡単だぜ!」 おじさんの言葉にしたがって水面ギリギリまでおわんを近づける。 再び狙いを定めて、さっきよりも鋭くアミを水の中へ。 一匹の金魚をアミからおわんのなかへ滑り込ませる。 アミは破けたが、もう金魚が落ちていくことはない。 そしてあたしは勝者のようにおわんを掲げた。 あたしはとうとう、金魚をすくったのだ! 「おめでとう、お嬢ちゃん!今袋につめてやるからな!」 おじさんが金魚をビニール袋に入れている間に、あたしの頭はぐるぐると回っていた。 名前はどうしようか。 どこで飼おうか。 池がいいかな? 水槽のほうがいいかな? あ、お母さんもお父さんも許してくれるかな? みんななんて言うかな? ほめてくれるかな? ほめてくれたら…いいな! 「はいよお待たせ……おや、またかわいらしいお嬢ちゃんが来たな!」 ……? 「おねえちゃん、やっと見つけたー!」 ……つかさ。 「わあー、金魚、おねえちゃんが取ったのー?すごいね!」 「……ま、まあね」 「いいなー、わたしもやってみたいなー!」 「じゃ、じゃあコツを教えてあげる!」 「ホント!?ありがとう、おねえちゃん!」 「いい?アミはこう、横にして…おわんは水に近づけるの…」 「ははは、毎度あり!お姉ちゃんはすっかり金魚掬いの達人だな!妹ちゃんもがんばれよ!」 このときあたしは喜びのあまり、いつも抱いていたつかさへの気持ちをすっかり忘れていた。 全てが楽しいことにさえ思えていた。 つかさにほめられることも、頼られることも。 あたし自身がつかさにお姉ちゃんとして接するのも。 屋台のおじさんの軽口さえも。 そしてつかさはすぐに3回のチャレンジに失敗して、あたしに泣きついてくる。 「おねえちゃん、わたしダメだったよー!」 「あはは、しょうがないわねー」 あたしが取った一匹がいるから。 そう口に出す、その瞬間だった。 「ははは、しょうがない!たくさん遊んでくれた、かわいらしい妹ちゃんにサービスだ!」 そう言って、おじさんは金魚を2匹ビニール袋に入れてつかさに押しつける。 つかさがとまどいながら嬉しそうに、とてもとても嬉しそうにそれを受け取ると、 あたしの中で何かが弾けた。 仲良くやれよー、とあたしたちを見送るおじさん、手に持った金魚、 となりを歩くつかさ、全てが遠くに感じた。 あたしには1匹、つかさには2匹。 あたしはすくって、つかさはもらって。 つまりは、そういうことなのだと思う。 ―――つかさちゃんお姉ちゃんと同じ髪にしたの?やっぱりかわいいわね――― ―――つかさちゃんまたかわいくなって、浴衣も似合うのねえ――― かがみちゃんはしっかり者で偉いわ。 お姉ちゃんなんだからつかさちゃんを守ってあげないとね。 「―――あ!お母さん、お父さん!」 気がつけば、あたし達は両親のもとへ帰り着いていた。 かけ足でつかさはお父さんに飛びつき、お父さんはつかさの頭をなでる。 「見て見てお父さん!かわいいでしょー」 お父さんは2匹の金魚とつかさを交互に見て、ほほえんだ。 「ああ、かわいい金魚だね。二匹も取るなんてすごいぞ」 いつの間にかそばにいたお母さんが、あたしに喋りかける。 「かがみも、かわいい金魚ね。つかさのこと見てくれてありがとう」 耳鳴りの向こうで、つかさの声が聞こえる。 違うよお父さん、お姉ちゃんは取ったけど、わたしは取れなかったから… お父さんがあたしを見てほほえむ。 つかさはお日様のように笑う。 あたしの手から、ビニール袋がこぼれ落ちていった。 水がざあっと流れ出して、石畳に広がっていく。 お母さんは、何か喋りながら慌ててしゃがみこんだ。 「―――ない……!」 金魚が水を求めて必死に跳ね回り、みんなが疑問の顔をあたしに向ける。 「―――いらないよ!そんなの!」 やがて金魚は力尽きて、その動きを止めた。 「なんで!なんでいっつもつかさばっかり!そんなのずるいよ!」 お父さんお母さんが何か言っていたが、何も耳に入らなかった。 「やだ、もうやだ!お父さんもお母さんも嫌い!嫌い!」 あたしはただ、つかさを睨み続けていた。 「……つかさなんて、つかさなんて……」 その顔は驚き、そして怯えていた。 そして次の瞬間のつかさの表情を、たぶん、私は一生忘れられない。 「つかさなんて、大っ嫌い!」 あたしは走り出した。 お祭りの人波から人波をぬって、お父さんお母さんから逃げるように。 誰よりも、つかさから逃げるように。 つかさは涙をぽろぽろとこぼしながら、あたしを見つめていた。 あたしには、それが何よりも恐ろしかった。 何か大切なものを壊してしまったような気がして、胸がずきずきと痛んだ。 その気持ちの正体を知るのは本当に怖くて、 瞳に焼きついたつかさの泣き顔を忘れるために、あたしはただ走り続ける。 でも、どれだけ走ってもそれはあたしの心から離れない。 そのうちに疲れきってしまったあたしは、川のほとりでフェンスに背中を預けて腰を下ろした。 泥まみれの足にスリ傷がたくさんついていて、じわじわと痛む。 買ってもらったばっかりの浴衣は、すそが破けてしまっていた。 なんだか不意に泣けてきたので、上を向いて鼻をすする。 すると、あんまりにも星空が綺麗で、なぜかあたしはつかさのことを思い出していた。 そのうちに視界がぼやけてきたので、浴衣の袖で顔を拭う。 拭っても拭っても涙は止まらないので、あたしは体育座りになって膝に顔をうずめた。 喉から声が漏れ出して、止まらなくなる。 我慢できなくなって、あたしは大声をあげて泣きだした。 遠く遠くのほうからお祭りの声が聞こえる。 夜の静寂とかすかな喧騒に包まれながら、 いつまでも、いつまでもあたしはその場所で泣きじゃくっていた。次のページへ
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「死亡フラグ」を口にすると死ぬ。 それがこの世界の掟である。 「マークト・フォー・デス」。 「死亡フラグ」の英語、"Marked For Death"をそのままとった、 仮想現実シミュレーションゲーム。 とある大学の研究チームによって開発されたこのゲームは、 大きな研究施設の一室に置かれたスーパーコンピュータを基盤にして動く。 このチームの研究題目は、 「リアリティ性の高い仮想現実の実現に関する研究」と銘打ってある。 具体的には、3D技術によるリアルなグラフィックスの実現と、 人間の意思をコンピュータによって正しく解釈するインタフェースの実現、というところだ。 この研究で特に心を砕いたのは、後者だという。 コンピュータ科学における数ある難題の中でも、 人間の意思を解析するのは特に難しいこととして知られていた。 必要な基礎知識の範囲も非常に広く、 脳科学、認知科学、言語学、さらには量子力学にまで及んだそうだ。 当然というべきか、研究が最低限形になるまでには気の遠くなるほどの年月と労力がかかった。 細かい調整を重ねた末、数十年を経てようやく使い物になるレベルまで到達したという。 チームは、この技術を何かに応用することを考えていた。 その第一段階として、まずはゲームを作成してみようということになった。 会議においてチームのメンバーから色々な意見が出される中、 ある若きメンバーの考えた「死亡フラグ」というアイディアを中心に案がまとまっていった。 二、三段階の試作を経た後、なんとかゲームは形になり、 仮完成という名目でこの「マークト・フォー・デス」が日の目を見ることになったというわけだ。 このゲームのテストとして、研究チームは被験者を十人程度募った。 実際に集まったのはきっかり八人。 このニュースをたまたまインターネットで見かけた作家・泉こなたが興味を持ち、 友人や知り合いに声をかけた結果、こうなったというところである。 ちなみに、被験者には、一人につき十万円の謝金が支払われることになっている。 このゲームの実行中に、万が一バグやエラーなどが起きた場合、 被験者に重度の障害が残ったり、最悪死に至る可能性があるため、かなり高く設定されているのだ。 「にしてもリアルだな」 みさおが呟く。みさお、といっても現実世界にいるみさおではない。 スーパーコンピュータの置かれた部屋には、透明で大きいカプセル状のブースが十数個設けられている。 現実のプレイヤーたちは、各自個別のブースの中に入って座った格好になり、 ブース内の装置によって睡眠状態になっている。 さらにプレイヤーの頭には機械が取り付けられており、 それがプレイヤーの意思を解析し、中央のスーパーコンピュータに情報を送る。 このようにしてプレイヤーの意思がゲームに反映されるのである。 また、各プレイヤーの身体は、予めコンピュータによって3Dモデルを生成してあり、 ゲーム中ではその3Dモデルを自分の身体として行動することになる。 「なあ」 「……」 「ったくよー。そんな黙り込まなくてもいいじゃねえか」 みさおが座る隣にはかがみが座っている。 二人は家の中。木造でわりかし広く、屋根が高い。 高めについた窓からは、キラキラとした太陽の光が注ぎ込み、部屋全体を照らしている。 CGとはいえ、現実世界のそれとは区別が付かないほどのリアルさだ。 「……下手なこと言わない方がいいでしょ」 「だからビビりすぎだってヴぁ柊は。死んだってホントに死ぬわけじゃねえんだし」 みさおの言うとおり、この世界での死は現実世界での死ではない。 プレイヤーがゲーム内で死亡すると、頭部の機械とコンピュータとの接続が切れる。 この接続状態は、別室、もといモニター室で監視されており、 接続がOFFになったプレイヤーが確認されたら、スタッフが起こしに行くことになっている。 つまり、ゲーム内で死亡しても、現実世界で目を覚ますだけだ。 「……ビビってるわけじゃないわよ」 「そーかー?」 「……」 「はあ~。そんなに勝ちてえか?ったくー」 ここでゲームのルールを確認しておく。 ゲームはサバイバル方式である。 ゲーム内で死亡フラグとなる行動を起こしたプレイヤーは、 何らかの形で死亡し、ゲームオーバーとなる。 ちなみに行動とは、意思と発言というふうに定義されているらしい。 死亡フラグをうまく回避し、最後まで生き残ったプレイヤーが勝利するというわけだ。 「……」 かがみは沈黙しながら考える。 なぜ自分は今黙っているのだろうか。 勝とうとしている、というわけではない。 元はと言えばこなたの気まぐれに巻き込まれて参加することになっただけのゲームだ。 そんなゲームに本気で挑戦している気はない。 だとすると、自分は……死を恐れているのか? そうなのだろうか。 そうだとしたら……情けない。日下部にもそれを見透かされていることになる。 まあ、理由などどうでもいいのかもしれない。 とにかく余計な会話はしないことだ。 「しりとりしようぜ、しりとりの『り』」 「……リボン」 「おいふざけんなよバカヤロー」 みさおはなおもかがみに話をさせようとする。 しかし何度諭してもかがみは自分の意見を曲げようとない。 みさおは内心腹が立ってきていた。 「ちっとは話そうとしよーぜ、せっかく私がガンヴぁってんのに」 「……あんた死んでもいいの?」 「……いいよ、別に」 「こんなどうでもいい場所で?」 「……はいはい、無駄だな、そーだな」 みさおは思い切り口を尖らせる。 どうすりゃいいんだよ…… と、その時。 ドスン! 「!」 何かが大きな音を立てて家の外壁にぶつかった。音の発生源は家の外のようだった。 「何だ?見てくっか」 みさおはヒョイと立ち上がり家を出ていく。 いつもの癖で、かがみははいはい、と見送る。 が、その刹那、かがみは気付いた。 このまま行くとみさおの身に何が起きるか。 「あ、ちょっ……」 しかしそれだけ言うのが関の山だった。 家を出てすぐの所で、みさおの体が突き飛ばされた。 獣だ。馬のような姿をした獣は、何事も無かったかのようにそのまま走り去っていった。 ……ここはRPGの世界か何かか。 そう思って家の中を見てみると、確かに向かいの壁には剣が立て掛けられている。 隅には宝箱も二、三個置かれている。 RPGのそれらしくはあるが、自分がその主人公などと考えると妙な気持ちだ。 「……安直に行動したらああなるのよね」 かがみはそう言うと軽くため息をついた。 暫くじっと座っていたが、やがて何かを思い出したように立ち上がり、 向かいの壁に立て掛けられていた剣を持ち出して外へと繰り出した。 「日下部さん」 「んあ……?」 静かに目を開くみさお。 顔を横に向けると、そこには白衣に身を纏った人物がいた。 スタッフが自分を起こしに来たらしい。 「残念でしたね」 困ったような笑顔でスタッフは話しかけてきた。 「マジかよって感じだな。今の気持ちを一言で言ったら」 「そうですね」 スタッフが同調を返したところで、みさおは部屋を見回す。 周囲の状況を確認すると、みさおはがっかりしたような口調で言った。 「……まだ皆寝てんな」 「はい」 「……ぶっちゃけ私ビリ?」 「……残念ながら」 自分が一人目の脱落者か。 はぁあ、とみさおはあくびのようなため息をついた。 「ちぇ……結局柊の言うとおりじゃねーか」 「かがみさんですか?」 「うん」 スタッフ、もといみゆきの返答に頷くと、みさおはもう一度大きなため息をついた。 「みなみちゃん、後ろはもういいから……前を洗って……」 「ゆたか……」 ウヒヒ、という笑顔を浮かべ、妄想をノートへと絵にしている少女は、田村ひより。 ここはごく普通の民家の一室。 ひよりが(如何わしい)漫画を描いているこの部屋には、 机・椅子、本棚、ベッドに、樹木をかたどったコート掛けがある。 「やっぱ岩崎さん×小早川さんは至高だー…… TSもいけるしーもちろん岩崎さんが……でそんで……ぐふぅ~」 自らの妄想に酔いしれマニアックな言葉を発するひより。 やがて疲れてきたのか、立ち上がるとふらふら廊下を歩いていった。 「あ、ここ寝室だー」 小早川ゆたか。とある民家の一室を見回している。 「…仮想現実とは思えないほどの生活感」 隣に立つ岩崎みなみが呟く。 ゆたかとみなみは偶然にも、同じ道路の交差点からスタートした。 現実世界での仲の良さが影響したのかもしれない。 スタート地点から数十メートルの地点にこの家があり、 二人は多少躊躇しながらも玄関の扉を開け、上がってきたわけである。 「入っちゃおうか?」 「…ゆたかが入りたいなら」 ゆたかはうん、と頷くと軽い足取りで部屋に入り込んだ。 みなみがそれに続く。 ゆたかはそれとなく部屋の中央に立ち、みなみはベッドに腰を下ろした。 「まるでここに引っ越してきたみたいだね」 「…うん」 ゆたかは笑顔でみなみに話しかける。 みなみは照れているような様子で言葉を返した。 それを見てさらに微笑むゆたか。 ふと、机の方に視線をやる。 するとある物が目に留まった。 「何だろう?」 そこには一冊のノート。 側にはシャープペンシルや消しゴムが転がっており、 誰かが何か筆記活動をしていたことが窺える。 「ちょっとトイレに」 「うん」 みなみはそう言って部屋を出た。丁度いいというタイミングだ。 「……見ちゃおっかな」 ノートを手に取ってみる。 パラッ 興味本位で開いたノート。その1ページ目には…… 「うう……」 頼りない声を漏らす少女。 ここは洞穴の中。 放物線状に切り取られたその入り口からは、カラッと乾いた日差しが入り込む。 その光が当たらぬ、入り口脇の陰になるところに、 その少女は心細く佇んでいた。 「誰も来ないよね……?来ないでね……」 少女の目は入り口を力なく凝視する。 油断してはならない。 油断などすれば、外でうろついている猛獣共が入り込み、自分はたちまち襲われて死んでしまう。 ここにたどり着く前、平野の方で一匹の猛獣が暴れ狂っているのを見た。 その平野からここはそう遠くない。あの猛獣の脚なら三分もあれば着いてしまうだろう。 「ふぅ……」 ため息を一つ。手に持った盾に視線を下ろす。 洞穴の前の草むらに落ちていた物だ。 ……もし自分にもう少しだけ勇気があれば、こんな所で縮こまってなどいないのに。 双子の姉のように──もっと勇敢ならば。 「お姉ちゃん……」 ポツリと出た呼び名は洞穴の冷気へと溶けていく。 その言葉には、いくつもの願いが込められていた。 ガサッ。 その時、洞穴の入り口から何かの物音が聞こえた。 「……!」 反射的に盾で身を隠すつかさ。 何かが入ってきてる!猛獣かもしれない! 恐怖で震え始めるつかさ。 不運にも、その予想は的中していた。 「グォウウウウ!」 獰猛な顔つきに、おどろおどろしい咆哮。 猛獣と呼ぶにふさわしいその生物は、岩陰で何者かが盾に隠れているのを確認する。 その皮を剥ぎ取ってやろうと、爪を尖らせ、勢いよく前脚を上げた。 来る!次の瞬間にはこの盾は外され、そして…… 「ギァアアア!」 猛獣はなおも叫び声を上げる。もはや絶体絶命だ。 盾の奥で目をつむり、つかさは最期を覚悟した。 が、少し経ってもその爪がやってこない。 何だろう? 何が起きたか確認したい。でも怖い……いや、見たい! 勇気を出して盾から顔を出す。 すぐさま、つかさは目を見開いた。 自分が一番来てほしいと望んでいた人物がそこにいたからだ。 カツカツ…… 誰かの足音がする。この部屋に向かってきているようだ。 いけない! なぜかはわからないが、本能的に危機感を覚えたゆたかは慌ててベッドへ駆け寄り、 布団に潜り込んだ。 「よーしまたやるかー……あれ、何でノート開いてんだろ」 部屋に入るなり、ひよりは真っ先に机を見て言う。 しまった!ノートを閉じ忘れていた! ゆたかは布団の中で小刻みに震え出した。 「ん?あっれー、誰かいる?」 視線を移したひよりは布団が盛り上がっていることに気付く。 中に誰か人間が入っていることがありありと伝わってくる形状だ。 「誰だろ……あ゙っ!」 さらにひよりは気付いた。 この中に隠れている人間は自分のノート……もとい、自分の生き恥を見てしまったのだ。 「……」 しばらく固まるひより。 どうする。この中にいる人間は自分の見られたくないものを見てしまった。 このまま放っておけば…… やがて、ひよりはそろりと動き出すと、部屋の隅のコート掛けへ手を伸ばした。 何も物がかかってなければ重量は1kgもない。持ち上げるのは容易だ。 その棒状の物体の矛先を布団のふくらみへと向ける。 そして静かに振りかぶり……そのふくらみに向けて力いっぱい叩きつけた。 ガスッという鈍い音がした。 中からの声はない。 反応を確認しようと、もう一度叩く。 また何も聞こえない。 幾度か反復するうち、ひよりは完全に理性を失っていた。 見られた見られた見られた!! 何度も、執拗に殴打する。 その物体がふくらみに当たるたび、鈍い音とともに自分の両手首に鈍痛が走る。 布団もシーツも、赤色の血が滲んでシミになっている。 しかしそんなものに構っている余裕は無かった。 生き恥の目撃者を消し去るだけで精一杯だった。 「ロン、タンピン三色!」 威勢のよい声を上げ、横に並んだ13枚の牌を倒す女。 真っ直ぐ正面の敵を見据えた彼女の顔には、自信満々の笑みが浮かんでいる。 「チッチかよ……オラ」 女の真向かい、対面の椅子に座る男は、投げ上げるようにして十本の点棒を女に渡す。 外は雨。 日もとうに沈み、室内の電灯のみが光る中、 その雀荘では組の生存を懸けた博打──麻雀が行われていた。 場は既に南三局が終了したところ。次でオーラス、すなわち最終局。 現在のトップは青髪の女、泉こなたである。 この博打の取り決めは…… 勝負は半荘1回。つまりは一発勝負。 レートは……千点につき十億円。 麻雀では一万点の規模で点数が争われるから、 少なくとも百億円単位の金銭がやり取りされることになる。 泉こなたとともに卓を囲う三人……宮河組の下っ端二人に組長の宮河。 宮河組の資産は約250億円。千点につき十億円というレートは危険な域である。 泉こなたの単独トップでゲームが終了するようなことがあれば、 宮河組は全財産を失い、滅亡することは必至だ。 対して泉こなた自身はどこの組にも所属していない。 彼女は同じく滅亡の危機に瀕する成実組の代打ちとして呼ばれたのだ。 泉こなたの席の後ろには、成実組の控えが立ち、賭けの行方を見守っている。 そもそもこの勝負は成実組組長──成実の策略を発端としていた。 このままでは滅亡の刻がただ迫り来るのみ、どうにかして大量の金を得なくては…… そう考えた成実が、文字通りギャンブルとして、 この組の生死を懸けた麻雀の挑戦状を宮河組へ突きつけた次第だ。 ──という設定である。 南四局。オーラス。 持ち点4万3000点、二着を離して単独トップの地位にいるこなたにとっては、 ここさえ凌げば全てが安心に終わるという局だ。 絶対に振り込んではならない。 振り込む、とは敵のアガリ牌を切ってしまうこと。すなわち点数を奪われること。 点数さえ守りきれば勝ちが決まるのだ。 自動卓によって山が積まれ、各プレイヤーは牌を取り手元に並べていく。 最終局スタート。 卓には、これまで以上に重苦しく緊張の波が漂っていた。 トン、トン…… 足音。 まずい! 自分の手には鈍器。シーツには染みついた血液! これを見られては……! ひよりはパニックに陥る。 不幸にも、パニックが収まらぬうちにその人物が部屋の前まで到着してしまった。 「…?」 部屋を一瞥したみなみは、一瞬自分の目を疑う。 田村さんが何か手に持ってこちらを見ている。 表情が不自然だ。引きつった、笑顔のような、困惑のような…… そしてゆたかは……? 布団の一部が膨らんでいる。あれがゆたか……? まさか! 「あっ……」 みなみが悲鳴に近い声を上げかけたその瞬間、ひよりは反射的に絶叫した。 「ああああああ!!」 気付かれた! 自分が中の人間を殺したことに!! 狂獣のように目をむき、鈍器を持ったままみなみへ突進するひより。 「んぃっ…!」 間一髪交わすみなみ。そのまま部屋から逃げ出す。 「待ってえええええぇぇぇぇぇぇ!!!」 すかさずその後を追うひより。 部屋を出ようとすると、棒が出入り口の壁に引っかかった。 「おあぁっ!!」 咄嗟に棒を後方へ投げ捨て、みなみを追いかける。 投げられた棒はゆたかの死体に最後の一撃を見舞った。 民家から出て数十メートル離れた地点。 みなみは必死になって走る。 その後方約50m、ひよりが死に物狂いでみなみを追っている。 みなみからひよりは見えない。 むしろ見てはいけない。後ろを振り返る余裕はない! がむしゃらに走り続けるみなみ。息も絶え絶えである。 すると間もなく交差点に差し掛かった。 左だ! そう直感し左折するみなみ。 体を左に向ける。そのとき一瞬、考えが頭をよぎった。 今この体勢なら追っ手の姿を確認できる! 左の道に入りきる直前、みなみは素早く首を左へ回した。 自分の走る速度ゆえ視界は常にぶれている。 が、はっきり見えた! 自分を殺そうと凄まじい形相で追いかけてくる女の姿が! その殺気と迫力にみなみは一瞬たじろぐ。 と、その拍子に足の力が抜け、豪快に転倒した。 まずい!追いつかれる! 左腕に必死の力を込め立ち上がろうとするみなみ。 しかし脚に力が入らず上手く立ち上がれない。 何とか膝をつき、再び走り出そうとしたその時。 すぐ耳元に誰かの息遣いが聞こえる。 これは…… 後ろを向けず震え上がるみなみ。 首に鋭い刃物が刺さった。 みなみはその場に倒れこみ動けなくなってしまった。 十三巡目。局は既に終盤へと差し掛かっている。 今のところ他の三人に動きはなし。 このままいけば、自分のトップで終了という最も理想的な形で勝負が決まる。 外面には平静を装いながらも、こなたは心が躍っていた。 大丈夫だ。この局は他の誰もアガらない。 誰も点数を増やせない。 それに、今の自分の手牌。 ピンフの一向聴だ。あと五巡もすればアガれるかもしれない。 アガれれば自分のトップが確定するうえ、さらに敵と点差を広げることができ、 その分成実組の収入も増えて一石二鳥というわけだ。 冷静を装う顔に、僅かな笑みが浮かぶ。 次巡。有効牌を引いてくる。 来た!これで聴牌! あと一枚でアガれる。あと一枚有効牌を引いてくればアガれる! こなたは自分の勝利を確信した。 この局、自分がアガる!他の誰にもアガらせはしない! 手牌の中から「北」を指にかかえる。 場には既に二枚切れている。局の始めから手牌の中でずっと温めていた安全牌だ。 そして踊る手つきでそれを河に捨てる…… その時。真向かい、対面に座る宮河がニヤついて言った。 「ロン……」 ビクッ、とするこなた。 宮河が静かに牌を倒す。 その牌姿を見て、こなたの顔色は急激に青ざめた。 「スッタンツーイーソー……親のトリプルだ。わかるな、14万4000点」 「…………」 トリプル役満……!? あり得ない! 三本の矢を縦に連ねるほどの難易度だ! ……まさか。すり替えたのでは? 自分の見ていない隙に、仲間同士で手牌を…… 「……何やってんだ。払えよ」 「……払えるわけないじゃん」 「点数のことなんざ言ってねーよ。金出せっつってんだコラ」 勝利を確信した途端に没落。 なんてことだ。こんな不幸があってたまるか…… そうか。これが死亡フラグってものか。 油断は禁物だった。 そういえば、自分は勝てる!と豪語していたキャラクターほど、後でやられることが多かったっけ。 自分は絶対大丈夫って思ってたのに。随分甘く見てたんだなー…… 「……いくら?」 「1310億」 「……1310億はありませんね」 控えが残念そうに言葉を濁す。 「じゃあ何を差し出す」 宮河が脅しをかける。 負けた。敗者は勝者の言うことを聞かなくてはなるまい。 しかし……こんなヤツの言いなりになるのは癪だ。 それなら…… こなたはチラッと後ろを向き、控えに合図を送る。 控えが了解したという風に頷くのを確認すると、こなたは静かに口を開いた。 「……私は女だから」 「だから何だ」 宮河がドスを利かせて返す。 それに構わずこなたは言葉を続ける。 「潔くなくてもいいよね」 そう言い終えると同時に、控えは懐から銃を素早く取り出し発射した。 銃弾はこなたの頭を貫き、その卓に流血した青髪の死体を残していった。 「……もしかしなくてもこれやばくないか、私」 事を終えてから数分後、冷静さを取り戻し始めたひよりは、 自分の引き起こした一連の事柄を思い起こしていた。 「うわー……やっちゃったよ……どうすればいいんだろこれ」 理性が戻るにつれ、段々と今までやったことの意味がはっきり見えてくる。 そうだ。自分は二人の人間を殺してしまった。 しかも……あんなくだらない理由で。 「そういや……このゲーム参加してんの八人だっけ…… 私あの中の誰かを殺しちゃったんだよなー……」 あの中の誰か、そうはぐらかしてみたが、その候補は一人しか思い浮かばない。 あの布団の中にいた人物── 小早川ゆたかだ。 自分は小早川ゆたかを殺した。 そしてそれを目撃した岩崎みなみも殺した。 「……死亡フラグかー……」 誰にともなく呟きながら、ひよりはその場に座り込んだ。 まさか、こんな形で二人が死ぬなんて。 ゆたかの死因は自分が鈍器で殴り続けたこと── 結果的にはそうなったが、そもそもゆたかの死が確定したのは、もっと前。 あのノートを見たときだ。 「見てはいけないもの」を見てしまった人間は死ぬ。 某死のマンガに出てきた規則のような文言であるが、 これは死亡フラグという観点からすれば立派な法則だろう。 ゆたかがあのノートを見た時点で、既に死亡フラグが立っていたのだ。 あとはどうやって死ぬか。 そしてそれがあの時自分のやったこと── 自分がゆたかを死なせる役目を担うこととなった、ということ。 なんて残酷なんだ。 小早川さんの運命はあの時決まったんだ。 そして岩崎さんが死ぬのも決まったんだ…… そこまで考え終えると、ひよりは左手に持った物をじっと見た。 漫画用のペン。その細いペン先には、インクの代わりに赤い液体が染み付いている。 「……こんなん考えても意味ないね。自分の罪は自分で償わないと」 ひよりはそのペン先を自分の側へ向ける。 そして首の付け根に当てると、横へ勢いよく動かし、自らの首を引き裂いた。 「寒い……」 カチューシャをつけた女は身震いしつつ足をとられながら、歩いていた。 極寒の雪山。小屋は見当たらず、吹雪を凌げる洞穴もない。 「どうしてこんな所に……」 靴の中にはもうかなりの量の雪が入り込んでいる。 それが足を冷やし、自分の動きを鈍重にさせる…… 不運だ。この世界に飛ばされてきて早速これでは。 死亡フラグを立てる立てないも無いものだ。 と、歩いているうち、遠方に町並みを見つけた。 桜の木が咲いているのが見える。雪も積もってはいないようだ。 希望が見えた。あの町に行けば助かるかもしれない。 「どのぐらいで着くかな……」 あやのは急ぐように、町へ向かって一歩踏み出した。 その時。 ガラガラ 「ひやぁっ!?」 足元が崩れ落ちた。一面の白化粧で判らなかった。 今足をついた所は断崖絶壁ではないか。 「あああああっ!!」 手を伸ばして崖に掴まろうとするが虚しく、叫び声とともにあやのは奈落の底へと落ちていった。 「ひよひよー」 自分のニックネームを呼ばれ、田村ひよりは徐に目を開いた。 すぐに横を振り向くと、想定していた通りの人物と、その隣にみゆきもいた。 「泉先輩も脱落ッスか」 「うん。麻雀で負けた」 「脱マーッスか?」 「いやいやいや!ないから!」 「お二人とも、非業の死という感じでしたね」 みゆきが話しかけてきた。 「まーねー、ってかひよひよもなんだ」 「いんやー私のは色々ひどいんスけどね……」 「どんなだったの?」 「うーん……言わないでいいッスか?」 「えー」 答えをはぐらかされがっかりするこなた。今度はみゆきに問いかけた。 「みゆきさん知ってるんじゃないの?」 「え、ええと、一応……」 「なんだぁ知ってるんじゃん!ってゆーかなんで知ってるの?」 「この施設にはモニター室というのがありまして、そこで……」 「えぇー!?見てたんスか!?」 ひよりが驚きと同時にまずいというような顔つきになる。 すかさずこなたが食らいついた。 「えー何何!?どんな感じだったのみゆきさん?」 「いいい言わないでくださいッス高良先輩ー!」 「え、ええ……」 二人の間で板ばさみになり、みゆきの困惑はしばらくの間続いた。 かがみは猛獣の動きが一瞬鈍ったのを看取すると、 その脚に切り込んだ剣を引き戻し、今度は飛び上がって首に斬りかかった。 猛獣は再び悲鳴を上げる。 横で見ているつかさは驚きっぱなしで、何も言えずに口をぽかんと開いていた。 猛獣は首を切り裂かれ、その場に倒れこむ。 かがみはその挙動をじっと観察し、よしと判断するとつかさの方を向いた。 つかさがあっという顔をする。いきなり顔を向けられて驚いたようだ。 それを見て無意識にかがみは顔をそらす。 二人の間で沈黙が続く。やがて、かがみの方から口を開いた。 「あんたも大変な所に来たわね」 つかさはほっと一息つき、安心した様子で返答する。 「お姉ちゃんは?」 「同じよ。私は家の中からのスタートだったけど」 「家?」 「うん。日下部と一緒に」 「日下部さんは?」 「初っ端からヘマして死んだわ」 「そうなんだ……」 先ほどまでの沈黙が手の平を返したように、今度は会話が弾み始めた。 「あんた誰かに会わなかった?私以外で」 「誰も……」 「孤独だなー……まあ私も日下部しか会わなかったけどさ。あとつかさ」 「そうなんだー……こなちゃんとかどうしてんのかな」 「いつも漫画やらアニメやら見てるし大丈夫じゃない?」 「そうかもねー」 二人は会話に夢中になる。と、ここでつかさが何か思い出したように言った。 「あ、そういえば。お姉ちゃんさ、どうしてここに来たの?」 「んーそれは……」 その時だった。 「!」 かがみの身体が宙を舞った。 猛獣はまだ死んではいなかった。最期の力を振り絞り復讐したのだ。 2メートルほどの高さまで浮いた身体が、再び地面に着く。 咄嗟のことで受身も取れず、かがみは頭から落下し、その場に倒れこんだ。 同時に猛獣も力尽きたようにぐったりとなった。 「あ……」 再び元のような頼りない声を上げるつかさ。 姉は無事か? 確かめたい。しかし体が動かない。 足をすくませていると、まだ辛うじて意識を保っているかがみが口を開いた。 「……死亡フラグね」 姉の口から意外な単語が出たからか、つかさはきょとんとした。 「死亡フラグ?」 「あんたを助けようとしたのがいけなかったみたい……まあいいんだけど」 「そんなの……」 「いいの。別に勝ちにこだわってやってるわけじゃないし。これが正解だったと思う」 「……」 「あんた、勝つかもよ」 「勝ったって……」 「こだわらないか。ああもう無理。ごめん、落ちるわ」 そう言うとかがみは完全に力を失い、動かなくなった。 何もかもが突然起こり事態も呑み込めず、つかさはおろおろするしかなかった。 それと同時だ。 どこからか、聞き慣れたような声が響いてきた。 「えーつかささん。たった今あなた以外の全ての参加者がゲームオーバーになりました。 優勝おめでとうございます。これから接続をお切りし、現実に戻させていただきます。 お疲れ様でした。」 声の主を探そうと必死に辺りを見回しているうちに、つかさは突然意識を失い、倒れこんだ。 「じゃあ別に優勝記念とかいうわけじゃないけど、かんぱーい!」 「「かんぱーい!!」」 大学から少し離れた町にある、ごく普通の居酒屋。 こなたの掛け声に続き、九人の女たちが手元のジョッキを鳴らし合わせた。 「優勝記念じゃないっつったけど、つかさは優勝だねぇ」 「え、えーっと……喜んでいいのかなあ?」 つかさは照れたような困ったような顔をする。 「いいんじゃない、優勝なんだし」 「そ、それじゃあ……ありがとう」 「よっ、日本一ぃ!」 「そ、そんな持ち上げ……」 「つーか日本一って何だよ」 こなた、かがみ、つかさも三名が和気藹々としている隣のテーブルでは、 別の三名がこれまた異様な雰囲気に包まれていた。 「ほんと!!ごめん!!マジで!!」 「いいよいいよ大丈夫だから……」 「……」 勢いよく頭を下げて謝罪しているのはひより。 向かいに座るはゆたかとみなみ。 ゆたかは謝るひよりをなだめるのに手一杯、みなみは呆然とそれを眺めている様子だ。 「いやー許してくれてるのはわかってるんだけどもーなんか……自首してきたい気分だわ」 「自首って……」 「……田村さん、落ち着いた方が」 「だめだーもう全然落ち着けないやー、誰か私を止めてー!!」 「わかったよー止めるから落ち着いてー!」 酔っ払い、突然暴れだすひより。 ゆたかとみなみはそれを見て慌てふためく。 さらにその隣のあまり目立たないテーブルでは、 二名の女による会話が細々と続いていた。 「なんてーかさ、ここでもこんな扱いなんて無いよな」 「そういうこと言っちゃ……」 「でもさー開始即行でゲームオーヴぁーだぜ?酷いにもほどがあんだろー」 「そうねえ……」 確かに二人とも、ゲームが始まってほんの一分も経たぬ内に脱落となった。 ただし、みさおは慎重さを欠いたのが原因で、 あやのはそもそもスタート位置が過酷だったのが原因である。 「ちぇーひそかにトップ狙ってたのに」 「まあまあ……」 「もーヤケ飲みだっ!あやののカシスオレンジいただきぃー!!」 「ええええっ!?」 「せっかくトップとったんだしさー、何か命令していいよ?つかさ」 「命令ー!?できないよー」 「何でもいいからさー」 「何でもいいが一番困るだろ」 初めのテーブル。 三人による会話の勢いがまだ途絶えぬ傍らで、じっと黙って座り込んでいるもう一人の女。 彼女は両手の指を絡ませながら、漠然と思考を巡らせていた。 今回のゲームを全てモニターで見ていたが、その結果は予想以上に残酷だった。 助かろうとして死んだ者、見てはいけないものを見た結果死んだ者、 仲間を助けようとして死んだ者…… 皆がゲーム中どれほど気付いたかは知らないが、これらの行動は全て死亡フラグ。 プレイヤーが死亡フラグとなりそうな行動を起こした時、 プログラムは「フラグ」をONにする。 そう、そもそもフラグというのはコンピュータ用語。 プログラム中、何か条件分岐が必要になったとき、 その分岐する方向を決めるためのスイッチのことだ。 フラグがONになったプレイヤーは、その後の行動に対して逐一「評価値」を計算される。 評価値とは言い換えれば死亡フラグらしさの数値だ。 プレイヤーが死亡フラグを思わせる行動を起こすたびに評価値は加算されていく。 そしてその値がある一定の数字を超えた時……プレイヤーの死が確定する。 このプログラムのコードを見たときから、ゲームでいくつもの悲劇が起きることを予測していた。 恐らく、何気ない発言が命取りになり、突然死するか、事故死するだろう、と。 そして実際はその想像を遥かに超えていた。 ある程度覚悟していたとはいえ、実際に目にしてみるとショックだった。 皆、まるで初めからそう決められていたかのように、 不意を打たれ、あるいは恐怖に脅かされ、悲惨な死を遂げていった。 運命の掌に踊らされたかのように。 運命。 その言葉を浮かべた時、全てを悟ったような気がした。 そういうものなのかもしれない。 あの仮想現実の中で生きるか死ぬかは、きっと本人の意志には関係がなかったのだ。 全て運命によって決まっていたのだ。 そしてもしかしたら、それはあの仮想現実の中に限らないのではないだろうか。 この現実世界においても、そのような見えざるルールが…… 運命は神の手によってもたらされる──というようなことをよく耳にするが、少し違う気がする。 本当は、周囲の環境によって、あるいは他人の気まぐれによって。 そういうものによって、運命は決まるということだ。 この地球上に生まれた全ての人間、いや全ての生命が、 互いに接近し遠ざかりながら、運命を紡ぎ合っているのかもしれない…… 「みゆきさーん?」 こなたが怪訝そうな顔で話しかける。 「あ、えっと」 「何考えてたのかなー?」 「いえ、何でも」 「そーぉ?まいーや、というわけで誰がみさきちのおトイレを覗きに行くか皆でジャンケーン!」 「ええっ!?」 たちまち我に返ったみゆきは、今まで考えていたことを忘れ去り、 そのまま会話の中へと混ざっていった。 居酒屋の上空は既に茜色に染まり、上弦の月がうっすら顔を出している。 町のから騒ぎは、そのなされるがままに、雲ひとつない空の彼方へと溶けていった。
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663 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2008/01/29(火) 14 57 24.93 ID W7BF0USO かがみ「2時間レスがつかなかったら、こなたは貰っていくわ」 こなた「無理でしょ」 664 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2008/01/29(火) 15 57 40.20 ID .k.b3Dco とりあえず阻止しておく 666 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2008/01/29(火) 17 34 35.24 ID W7BF0USO こなた「やっぱり阻止されたね。残念でしたかがみ~ん、あれ? かがみ?」 かがみ「…………」 こなた「し、死んでる……!」 668 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2008/01/29(火) 18 46 37.22 ID IN8jLbo0 666 阻止されてショック死かwwwwww 700 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2008/01/30(水) 12 37 35.20 ID v1mY.6SO つかさ「よーし、2時間レスがつかなかったら、こなちゃんは私のものだよ~」 こなた「姉妹揃って私を何だと思ってるんだか……ま、無理だろうけどね」 701 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2008/01/30(水) 12 43 56.85 ID jwO6nkDO 約七分で阻止 707 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2008/01/30(水) 14 58 06.77 ID v1mY.6SO 701 こなた「なんという阻止力……残念だったねつかさ。つかさ……?」 つかさ「う……酷いよ……私はただ……うっく……こなちゃんと買い物に行ったり……お風呂に入ったり、一緒に寝たり……ぇっく……したかっただけだったのに……」 こなた「つかさ……。それぐらいじゃ、やってあげるよ?」 つかさ「ダメだよ、阻止された人がどうなるか……こなちゃん知ってるでしょ?」 こなた「あ……あの時…… 666」 つかさ「じゃあね、こなちゃん。短い間だったけど……楽しかっ」 つかさはその場で水の用に溶けてしまった……。 こなた「つ、つかさ……。ぺろっ……これはバルサミコ酢!!」 710 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2008/01/30(水) 17 33 04.92 ID v1mY.6SO みゆき「うふふ」 こなた「みゆきさん、あんたまさか……」 みゆき「お二人とも無謀過ぎるんですよ、二時間なんて無理に決まっています」 こなた「いいよみゆきさん! 私なら好きにして良いから!」 みゆき「泉さん。気持ちは嬉しいのですが、それでは何の価値もありません。泉さんならこの気持ち分かっていただけますよね?」 こなた「みゆきさん……」 みゆき「今から1時間、これより下に書き込みが無かったら、泉さんは私が貰います」 こなた「なんて無謀な……」 711 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2008/01/30(水) 17 50 38.24 ID jwO6nkDO ……ごめん、みゆきさん! 714 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2008/01/30(水) 18 33 32.33 ID v1mY.6SO みゆき「うっ……!」 みゆきの眼鏡が割れる。容赦ほど微塵も無く!! こなた「みゆきさん!!」 みゆき「ま、まだです……。たかだか眼鏡が割れただけです……!」 こなた「もういいよ! それだけで済んだんだからこれ以上……」 みゆき「これからが本番です、泉さん」 こなた「みゆきさん!」 みゆき「眼鏡が割れたことで……、私の特殊効果が発動しました……」 みゆき「これより三十分間、書き込みが無かったら……泉さんは私が貰います……!」 こなた「どうしてそこまで……」 みゆき「決まってるじゃないですか……、愛しているからですよ……」 こなた「……!」 みゆきのその笑顔は、こなたが見たどんな笑顔より輝いていた……。 みゆき「三十分……、私は勝ちます……!」 715 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2008/01/30(水) 18 48 27.20 ID jai7mkAO みゆきざまぁwwww あ…れ…?おれ、シンデ…ル? 718 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2008/01/30(水) 19 01 17.88 ID v1mY.6SO みゆき「っ!!」 こなた「みゆきさん!」 倒れるみゆきを全力で受け止めるこなた。 みゆき「はぁ……はぁ……泉……さん」 こなた「みゆきさん、もう喋らないで! 今救急車を……」 こなたが携帯をポケットから取り出そうとするが、みゆきはそれを止める。 みゆき「泉さん、もう……手遅れです」 こなた「ダメだよ、死んじゃやだぁ!!」 みゆき「泉さんに、お願いがあります……」 こなた「何……?」 みゆき「私を……、どうかお味噌汁の具に……」 みゆきはそう言うと、静かにこなたの腕の中で……ワカメになった。 こなた「こんなの……、こんなの食べられないよ!!(いろんな意味で)」 721 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2008/01/30(水) 19 28 10.94 ID lm0zhgE0 みなみ「あと1時間……書き込みが無かったら……ゆたかは私のもの……」 ゆかり「でもゆたかちゃんが書き込んじゃったらどうするの~?」 みなみ「ビクッ!」 722 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2008/01/30(水) 19 40 58.13 ID mwkolp.0 ゆたか 721「みなみちゃん、ごめんね……」 782 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2008/02/01(金) 07 56 13.83 ID AqQlxsSO みなみ「今から3分間……レスがつかなかったら……ゆたかは私の嫁……」 ゆたか「…………」 その時、水晶玉の様に透き通った瞳が、私をじっと見つめていた。 どうしたの……ゆたか……? 783 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2008/02/01(金) 08 11 37.48 ID AqQlxsSO みなみ「ゆたか、私やったよ……」 ゆたか「……みなみちゃん」 ゆたかは少し困ったような顔をしていた。……何故? ゆたか「私、みなみちゃんの事は大好きだよ。このままお嫁さんになってもいいくらい」 みなみ「ゆたか……!」 ゆたか「でもね、少しがっかりしちゃった……」 みなみ「え……」 ゆたか「みなみちゃんは知ってる? 一人の女の子の為に、命を賭けた三人の女の子の話」 みなみ「し、知らない……」 ゆたか「じゃあ教えてあげるね……。 666 707 718。あの時のワカメ御飯、すごく美味しかった」 みなみ「こ、これは……」 ゆたか「みなみちゃんが賭けた時間はわずか3分……」 みなみ「私は……」 ゆたか「私も、お姉ちゃんみたいに愛されたかったな……」 みなみ「ゆたか、私は間違ってた!」 ゆたか「みなみちゃん?」 みなみ「今から8時間……。ゆ……、『ゆーちゃんはこなたの嫁。⊂(^ω^)⊃』と書かれなかったら、ゆたかは私の嫁……(///)」 ゆたか「みなみちゃん……私うれしい!!」 みなみ「ゆたか、私……頑張るから……!」 ひより(こ、これはまさかの展開ッス!! 阻止されませんよーに!!) 784 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2008/02/01(金) 08 55 02.79 ID 8wC22WEo ゆーちゃんはこなたの嫁。⊂(=ω=.)⊃ 8時間がんばりな 785 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2008/02/01(金) 09 47 31.15 ID BkSplUDO 783それさえ言わなければいいわけだね。支援! 786 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2008/02/01(金) 10 59 30.44 ID 8wC22WEo あと5時間いけるんじゃね? ゆーちゃんは俺の嫁。⊂(^ω^)⊃ 790 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2008/02/01(金) 17 52 09.06 ID AqQlxsSO みなみ「……やったの?」 ゆたか「みなみちゃぁん!!」 ゆたかがみなみに抱き着く。 ゆたか「凄い、凄いよ! 8時間以上も!!」 みなみ「ゆたか……。皆が……皆が私達を認めてくれた……」 ゆたか「私なんだか……嬉しくて涙が……」 みなみ「ゆたか……」 みなみがゆたかをやさしく抱き返す。 みなみ「私で……良いよね?」 ゆたか「うん、みなみちゃん。改めてよろしくね(///)」 みなみ「こ、こちらこそ……(///)」 ゆたか「ところで、お嫁さんになるのは良いんだけど、何をすれば良いのかなぁ」 みなみ「わからない……ごめん」 みなみの言葉に、クスッと笑うゆたか。 ゆたか「しょーがないなー、みなみちゃんは。まだまだこれから時間はあるし、二人で考えよ?」 みなみ「うん……」 ゆたか「でも、お嫁さんになったからには先ずやることがあるよね」 そういうと、ゆたかは目を閉じ、少し背伸びをしてみなみの顔に近づける。 みなみ「……」 みなみもそれに従い、目を閉じ……そして……。 ひより「うつくしい……」 物影からその光景を、食い入るように見ているひより。その目はキラキラに輝いている。 ひより「これぞ私が求めていた美ッス! これに勝るものはないッス!!」 ひより大絶賛中。そしてスケブとペンを取り出し……。 ひより「さっそくこのネタを……」 しかし、ひよりの手は動くことはなかった。 ひより「いや、ダメッス。あんな幸せそうな二人をネタにしたら、バチが当たるッスよ」 ひよりはスケブとペンをしまい、その場を去る。 ひより「私に出来ることは、あの二人の幸せを願うことだけッス……」 796 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2008/02/01(金) 20 00 50.93 ID Qx6iucQ0 790 GJ! できればバッドエンドも見てみたいなww 798 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2008/02/01(金) 20 18 17.88 ID AqQlxsSO 796 一応考えてあったんだけどねww ちょっとまってて 802 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2008/02/01(金) 20 46 09.64 ID AqQlxsSO 796リクエスト BADEND発動キー『ゆーちゃんはこなたの嫁⊂(^ω^)⊃』 みなみ「っ!!」 みなみの身体に電流が走る。そしてそのまま崩れるように倒れていく。 ゆたか「み、みなみちゃん!?」 みなみ「――っあ、――!!」 俯せに倒れているみなみは身体が痛いのを抑えて、なんとかゆたかの方を向くが……様子がおかしい。 みなみ「――、――!」 ゆたか「え? みなみちゃん?」 必死に口を動かすが、声が出ない……。みなみは涙を流しそうになったが、その姿をゆたかに見せてはイケないと思い、それを我慢した。自分が起こりえない奇跡を賭けたのが悪かったんだ、それが理由でゆたかを余計に悲しませたく無かった。 ゆたか「みなみちゃん……。ごめん……わだしが……あんなごど言うがら……」 みなみは精一杯の力を出して、ゆたかの涙を指で拭き取る。 ゆたか「みなみちゃん……?」 みなみ「――――」 みなみはゆっくりと首を横に振り、ゆたかの謝罪を否定する。そして、最高の笑顔で何かを言った。 みなみ「――い――て――る」 そう呟くと、みなみは光の粒子になり消えていった……。 ゆたか「私も……私も愛してるよ……みなみちゃん!!」 ゆたかには、みなみの最後の言葉を理解できたらしい。そしてゆたかは、みなみの粒子が消えるまでその場に立ち尽くしていた……。 844 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2008/02/02(土) 22 22 28.10 ID KhT7c/Q0 まあなんだ、喧嘩はすんな。 これでも食って落ち着け つ餃子 845 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2008/02/02(土) 22 34 11.99 ID 4JNlX2co うめえ! 846 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2008/02/02(土) 22 35 12.38 ID Vq04DQSO 腹痛い……うっ……! 847 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2008/02/02(土) 22 52 42.66 ID K3tXiPU0 つかさ「餃子にはやっぱバルサミコ酢があうね♪」 848 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2008/02/02(土) 23 17 09.94 ID dwHG16AO 誰か救急車を早くー! 849 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2008/02/02(土) 23 26 24.56 ID Vq04DQSO ゆたか「これが例の餃子だね」 こなた「そーだよ、早く捨てない……」 ゆたか「ぱくっ」 こなた「ちょちょちょ! 何食べてんの!?」 ゆたか「ま、間違えちゃったぁ……うわぁぁぁぁ」 こなた「ぎゃあぁぁぁぁ!! ゆーちゃんが溶けたぁぁぁー!!」 850 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2008/02/02(土) 23 27 23.53 ID VGu0KFk0 ひかげ「餃子…食べても…いいのかな…」 851 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2008/02/02(土) 23 32 06.16 ID K3tXiPU0 かがみ「こなた、あ~んしてww」 こなた「いやあああ!!そ、その餃子は・・ぎゃああああああ!!」 チュドーン 852 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2008/02/02(土) 23 32 22.59 ID B/n.4vE0 ひなた「大丈夫よひかげちゃん。生ゴミよりは安全だから」 853 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2008/02/02(土) 23 44 02.59 ID Vq04DQSO つかさ「えへへ☆ ミートボールと餃子の肉をすり替えてみたよ」 ―――――― みさお「へへ、ミートボール♪ ミートボールぅ♪」 かがみ「そのミートボールいただき!!」 みさお「あ! なにすん……」 ティウンティウンティウン みさお「ひ、柊……?」 ――――― つかさ「あんれぇー?」 854 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2008/02/02(土) 23 48 11.46 ID jkj7SQwo つかさ「こなちゃーん、おねーちゃーん、ゆきちゃーん。ごはんだよー」 みゆき「つかささん、この匂いは…」 こなた「おぉ!餃子だ!」 かがみ「ちょっとつかさ、これ大丈夫なの?」 つかさ「冷凍物だけど大丈夫だよ」 ガサガサ つかさ「ほら、宇都宮産に浜松産。ちゃんと国産のもの使ってるよ」 かがみ「浜松?そんなとこで餃子作ってたかしら」 みWiki「静岡県も餃子の生産量は多いですよ。 静岡市は県庁所在地の中では第2位の餃子消費量ですし、 かがみさんのおっしゃった、浜松市は餃子学会というものが存在しますし、 B-1グランプリでは浜松餃子も出ていますよ」 浜松餃子はお野菜が多くてとても健康的なんですよ」 かがみ「さすがみゆきね。じゃ、食べましょ…って、無い!」 つかこな「ごちそうさまー」 こなた「みゆきさんの話長いから先に食べちゃった」 つかさ「ごめんねー」 855 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2008/02/03(日) 00 05 00.41 ID Dkv6VAA0 こなた「こちらに、今話題の毒餃子があります。焼きたてです」 かがみ「ふむ」 こなた「こちらには、私が作った本物そっくりの偽物があります。 材料は純国産、同じく焼きたてです」 かがみ「…」 こなた「えや!シャッフル!ついでにミキサーGO!!」 かがみ「…食べなさいよ」 こなた「え…」 かがみ「食べ物の無駄は許されないわ、こなた」 こなた「いや…、さすがにコレは…かがみん、どうぞ!」 かがみ「食べなさい?こなた」 つかさ「食べなきゃだめだよ?こなちゃん」 みゆき「自己責任ですね。こなたさんには食べる義務があります」 こなた「ははは…や、こ、これはさ…ね?」 かがみ「もったいね~」 つかさ「もったいね~」 みゆき「もったいね~」 こなた「ひぃぃぃぃ!ゴグ…モグ…モギュ…ごくん…」 wiki~公共高良機構です。 みゆき「みなさん、食べ残しはいけませんよ?」 856 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2008/02/03(日) 00 07 39.10 ID Qe/brX20 こなた「へえ、今日のお弁当は餃子なんだ。めずらし~」 つかさ「そーなんだよ。食べる?」 こなた「うん、食べる!」 ぱく こなた「って、まずっ!!何ぞこれ!」 つかさ「今日はお姉ちゃんがお弁当担当だったからね」 こなた「こんなの食べられないよ!水っ!水~っ!」 つかさ「はい」 ごくごく こなた「ゲホッ、ゴホッ・・何これ・・・これ水じゃない・・でしょ?」 つかさ「そーだよ。バルサミコ酢だもん。あはは♪バル酢~☆」 こなた「バルサミコ酢・・ガハッ」 バタッ 857 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2008/02/03(日) 00 54 36.76 ID s5zSfsDO なんという餃子スレ 182 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2008/02/08(金) 17 27 44.13 ID xHZxtgc0 みさお「なぁ、あやや」 あやの「…え?…私?」 みさお「そうそう。あやのだからあやや。あやのあだ名ないじゃん?だから今考えた」 あやの「みさちゃん、舐めたらあかんぜよ?」 かがみ「…スケバン刑事かよ…ひゃ!?こなた!?」 こなた「かがみが\(=ω=.)/透けパン穿いてる~♪」 …ざわざわ…ざわざわ…ざわ…ざわ…ざわ…ざわ… かがみ「ちょ、なわけあるな!みんなこっちみんな!鼻血出すな! こなた!辺りにばらまくなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」 183 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2008/02/08(金) 17 38 45.45 ID TH50dI.o 182 つかさ「お姉ちゃん、学校で勝負パンツだなんて……」 229 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2008/02/09(土) 17 47 51.79 ID 3dPN04U0 かがみ「もう6時…、そろそろおやつの時間ね」 230 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2008/02/09(土) 17 58 23.65 ID 3lxYLISO みゆき「かがみさん?おやつは3時ですよ?」 231 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2008/02/09(土) 18 07 37.05 ID Fw1j/e.0 つかさ「お姉ちゃんのおやつの時間は、15分間隔なんだよ」 232 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2008/02/09(土) 18 10 19.49 ID 3lxYLISO こなた「じゃあさ~授業中はどうしてるの~食べてたら怒られるよ?」 233 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2008/02/09(土) 18 14 43.53 ID Fw1j/e.0 かがみ「黙りなさい」 234 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2008/02/09(土) 18 24 25.62 ID oC7DxxE0 こなた「次にかがみは『ブチ[ピーーー]わよ・・・アンタら・・・』と言う!」 237 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2008/02/09(土) 18 47 24.32 ID 3dPN04U0 かがみ『「ブチのめすわよ…あんたら…」?』 251 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2008/02/09(土) 21 06 43.27 ID dxpLJFco 「日下部みさお」だけのキャラソンが来月出るんやね。 背景コンビは解消か?w 255 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2008/02/09(土) 21 27 34.35 ID avD1gIs0 251 あやの「あ、もしもし、ランティスさんですか?あ、あの、日下部みさおの単独CDの 件についてなんですけど…え、あ、私はみさおの姉で、みさえと申します。 …はい。あ、用件はですね、CDのリリースのキャンセルをお願い致したく …ええ。その、家庭内の事情と申しますか、大変申し訳ないのですが…はい。 それは充分理解しています。…すいません。…はい。…えっ!?良いんですか? …あ、はい…はい。それでは、よろしくお願いします」ガチャ… こうですか>< 259 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2008/02/09(土) 21 41 54.91 ID Je8oZtko あやの「あ、もしもし、ランティスさんですか?あ、あの、日下部みさおの単独CDの 件についてなんですけど…え、あ、私はみさおの義姉で、あやのと申します。 …はい。あ、用件はですね、CDのリリースのキャンセルをお願い致したく …ええ。その、家庭内の事情と申しますか、大変申し訳ないのですが…はい。 それは充分理解しています。…すいません。…はい。…えっ!?良いんですか? …あ、はい…はい。それでは、よろしくお願いします」ガチャ… 261 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2008/02/09(土) 21 51 53.09 ID dxpLJFco 259 ランティス「ああ、あやのさんですか。以前はどうも。そうですかぁ、家庭の事情じゃ仕方ありませんね。 それじゃあ発売中止ということで」 ガチャ…。 ピポパ…。 ランティス「あ、営業さんですか?みさおさんのCD発売中止になりましたんで、そのあとに予定していた あやのさんの単独CDも中止になります。ええ、残念ですけど。それでは」 262 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2008/02/09(土) 21 53 32.75 ID Je8oZtko 今回の教訓 人を呪わば穴二つ 263 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2008/02/09(土) 21 55 27.45 ID dxpLJFco 262 うまい締めだw 264 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2008/02/09(土) 21 55 28.05 ID VUjapOg0 みさお「…(なんで…)orz」 あやの「…(私まで…)orz」 266 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2008/02/09(土) 22 02 06.78 ID ZLEPXsgo 264 穴二つ……前と、後ろっすか………… ……いかーーん!自重しろ、自重しろ私ーーっ!! 272 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2008/02/09(土) 22 17 44.19 ID dxpLJFco 266 穴二つ……。 きよたか→そうじろう←ただお の順でいいのかな……w 273 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2008/02/09(土) 22 39 44.54 ID Je8oZtko 266, 272 お前ら… 278 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2008/02/09(土) 23 27 20.79 ID VB3ii8o0 なぜチョココロネが好きなのか・・・ かなたとそうじろうが「こなた」と命名した真実とは・・・ 生まれる前から現在まで、泉こなたの生い立ちを毎号詳しい図解や本人からの生話を収録 創刊号はこなたんキーホルダーがついて560円 らきゴスティーニ☆ 279 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2008/02/09(土) 23 38 09.57 ID ZLEPXsgo 278 『泉こなたFACT FILE』なら創刊号特別付録はバインダーだろ常考 748 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2008/02/20(水) 10 41 03.62 ID 0zd94oAO つかさ「うっかり先生殴っちゃったよ。でもそんなの関係ねぇ、関係ねぇ~♪」 749 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2008/02/20(水) 15 22 07.04 ID tiXM.USO ななこ「ちょっと職員室行こか?」 147 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2008/02/28(木) 17 31 22.38 ID YdxHM.o0 かがみ「ここに21匹のこなたがいます。このこなたを4つの囲いで囲む時、全ての囲いに こなたが奇数になるように囲むにはどうすればいいでしょうか?」 回答は複数あるから考えてみて 151 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2008/02/28(木) 18 41 01.00 ID YdxHM.o0 かがみ「答えの一つは21匹のこなたをこうやって四重にして囲む」 ┏━━━━━━━━━━┓ ┃┏━━━━━━━━┓┃ ┃┃┏━━━━━━┓┃┃ ┃┃┃┏━━━━┓┃┃┃ ┃┃┃┃21こなた┃┃┃┃ ┃┃┃┗━━━━┛┃┃┃ ┃┃┗━━━━━━┛┃┃ ┃┗━━━━━━━━┛┃ ┗━━━━━━━━━━┛ かがみ「もう一つは3つの囲いにそれぞれ奇数匹のこなたを入れて、その3つの囲いをのこりの一つの囲いで囲むのよ」 ┏━━━━━━━━━━━━━━━┓ ┃┏━━━┓┏━━━┓┏━━━┓┃ ┃┃7 こな ┃┃7 こな ┃┃7 こな ┃┃ ┃┗━━━┛┗━━━┛┗━━━┛┃ ┗━━━━━━━━━━━━━━━┛ かがみ「あと、こんなのもあるわね」 ┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓ ┃ ..┏━━━━━━━━━━━━━━┓┃ ┃ ..┃.. ┏━━━━━━━━━┓┃┃ ┃ ..┃.. ┃.. ┏━━━━┓┃┃┃ ┃2こなた┃6こなた ┃6こなた┃7こなた... ┃┃┃┃ ┃ ..┃.. ┃.. ┗━━━━┛┃┃┃ ┃ ..┃.. ┗━━━━━━━━━┛┃┃ ┃ ..┗━━━━━━━━━━━━━━┛┃ ┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛ かがみ「こんなところね。誰も正解できなかったみたいだから、囲いの中のこなたは私がもらうわね」 152 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2008/02/28(木) 18 42 24.60 ID p88uezw0 こなた「なにこの人達私が21人とか分裂とかあたまおかしいんじゃないの・・・」 つまりモヤっとってわけだが 156 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2008/02/28(木) 18 49 58.76 ID QLPmuT.0 151 こなた「モヤっとーっ!!モヤっとーっ!!!かがみんのいじわるうっ」 ポーン ポーン ポーン ポ(ry かがみ「ちょっ、待っ・・こなた、痛いって!」(TT)る~ 194 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2008/03/01(土) 00 31 35.19 ID eaYxko60 こなたの家に泥棒が入った。やがて、3人の女子生徒が容疑者として浮かび上がった 3人の言い訳はこうだ。 かがみ「私は犯人じゃない」 みゆき「つかささんは犯人じゃありません」 つかさ「私が犯人です……」 この後、3人のうち2人が嘘を言っていると判明した。 さて、犯人は誰か? 195 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2008/03/01(土) 01 43 35.16 ID AFlPe6M0 194 単純に考えればかがみだよなー。でももしかしたらこれはミスリード??? 196 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2008/03/01(土) 02 18 16.13 ID 92a6BwM0 誰か一人が本当の事を言ってるとして、それで他二人との矛盾を検証…… かがみとつかさが共犯だな 197 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2008/03/01(土) 02 21 26.46 ID 92a6BwM0 むぁちがえた…… 198 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2008/03/01(土) 03 10 02.30 ID eaYxko60 ああ説明が足りなかった 犯人は1人です 199 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2008/03/01(土) 05 04 55.52 ID Rc.Yb2DO ウソをついた場合、みんなの言い分はこうなるな かがみ「私は犯人じゃない」→「私が犯人」 みゆき「つかさは犯人じゃない」→「つかさが犯人」 つかさ「私が犯人」→「私は犯人じゃない」 ということで、ウソをついてるのはかがみとつかさで、犯人はかがみだね 200 :嘘解答 :2008/03/01(土) 11 01 47.03 ID ht5hLNY0 194 「わかった。犯人はかがみだよ」 こなたの言葉には淀みがなく、友人の罪を問い詰めているとは思えないほど冷静だった。 真面目な表情のこなたからは冗談ばかりを言う普段の姿が想像できず、二人が驚いた。 二人だけが。 「……確かにね。みゆきの言葉だけが正しくて、犯人は私だと思えるのかもしれない」 一片の動揺すら見せなかったかがみはそう言うと、部屋の中央から隅へと移動した。 その足取りはあまりにも堂々としていて、こなたは自信を失いかける。 みゆきとすれ違う瞬間にさえかがみの視線がこなたに向けられていた事も、その不安を後押しした。 移動を終えたかがみは、部屋の入り口からは最も遠い、逃げ場の無い場所に立つことになる。 かがみは壁に背を預けると、小さな探偵少女に視線を向けて、再び口を開いた。 「私は、こなたを悲しませるような事は、絶対にしない」 それを聞いて、こなたの胸がずきりと痛んだ。 たとえ、三人の内から一人を選ぶ必要があったとしても、他の二人を疑うべきだったのではないか。 後悔がこなたの理性を麻痺させて、謝罪の言葉を口にしかけた。 それが声にならなかったのは、直前で残り二人の顔を見たためだ。 犯人はこの中にいる。 そして、謝るということは真犯人が他にいると認めることで、今度は二人を疑わなければいけない。 「――ですが、理論上はあなたが犯人のはずです」 こなたに代わって追求を続けたのは、みゆきだった。 彼女ならば感情に惑わされず、理詰めで事件を解決してくれるだろうと、つかさは期待をしていた。 その期待は裏切られない。 ただし、彼女と対峙しているのが別の誰かであったなら、という限定付きで。 「二人が嘘を言っている。そして私も嘘つきの一人。でもね。嘘をつかなくても真実を偽ることは出来る」 かがみの言おうとしている事に気がついたのは、みゆきだけだった。 しかし三人はかがみを見つめていて、みゆきの異変に気づいたのもまた、一人だけだった。 「そんなに慌てないでよ。もうちょっと、みゆきらしく振舞ったら?」 「何を言っているのか、わかりませんね。そもそも私が焦る必要はないでしょう」 事態を把握できていないつかさは、睨み合う二人を交互に見る。 かがみが次の言葉を放ったのは、こなたが同じようにして、かがみに目を向けた瞬間だった。 「だって、犯人はみゆきでしょう?」 今度こそ、部屋の空気が凍りついた。 201 :嘘解答 :2008/03/01(土) 11 05 49.86 ID ht5hLNY0 「簡単にまとめてあげる。 私は犯人じゃない、というのは嘘で、「私が犯人」という意味になる。 つかさの言った「私が犯人」というのは、「私は犯人じゃない」という意味になる。 そこまでは、こなたがたどり着いた真相と同じ。 でもね、『嘘ではない』みゆきの言葉だけは私達の言葉とは違うのよ。 私とつかさは自分の事についてのみ語っているけど、みゆきは他人についての話をしている」 「それが何か問題なのでしょうか? つかささんが犯人ではないと言っただけなのですが」 「そうね。みゆきは『つかさが犯人じゃない』とだけ言った。つまり、残り二人については何も語っていない」 結論を告げることに抵抗があるのか、かがみはそこで黙ってしまった。 長い沈黙の時間があり、続きを聞く覚悟を決めた部屋の主は、呟くようにして言った。 「つまり、共犯の可能性があるってこと?」 かがみはゆっくりと頷いた。 「私は犯行の手助けをしてしまった――いえ、させられた」 「アリバイ作り?」 つかさが尋ねる。 「ううん。頼まれて、部屋の合鍵を貸したの。こなたの誕生日パーティーの準備を、こっそりやるために」 「えっ? ちょ、ちょっと。いつの間に合鍵なんて作ったのさ!?」 突然とんでもない事を言い出した友人にこなたは詰め寄るが、かがみは話を聞いていなかった。 「私だけが持っていい物だったのに、考えなしに他人に使わせて、こんな事件になってしまった」 「……かがみが持つのも許してないんですけど」 かがみが涙目になったかと思うと、彼女は腕を大きく広げ、こなたとの距離を零にした。 「こなた。私を殴って。そうしなければ、私はこなたと抱擁する資格さえ無い!」 「いや、もう抱きしめられてるから。力入れすぎだから。かがみ、聞いてる? かーがーみー」 「あ、あのー。こなちゃん。ゆきちゃんに逃げちゃったんだけど……」 / 「――怪盗やみゆきともあろう者が、盗みに失敗した上に、犯人であることまで露呈するなんて」 「ごめんなさい、お母さん。後付の条件を出したのに、『実行犯は一人』と変換されてしまいました……」 「怪盗やみゆきの腕も落ちたものね。そろそろ引退の時期なのかしら?」 「そ、そんな。もう一度だけチャンスを!」 「そうね。あなたは私の可愛い娘ですものね。一度くらいのミスは許してあげます。でも、今度失敗したら」 「はい。次こそは、必ずや」 (柊かがみ……その子とは、またどこかで対決する時が来る様な気がするわ) ~終~ 293 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2008/03/02(日) 20 32 10.84 ID PNw6NcDO 腹黒こなたん 男「人間なんて悪人ばっかだ!」 こなた「そんなことないよ。世の中にはちゃんと善人もいるよ」 男「はん、そんなこと……」 こなた「ただし、割合は『善人2%、悪人70%、偽善者28%』くらいだけどね」 男「い、いくらなんでも人間そこまで腐ってねー!!」 こなた「はっはっは。そーいう君は本当はいい人なんだねぇ」 つかさ「こなちゃん……黒いよ……」 294 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2008/03/02(日) 20 34 45.34 ID P6j1nVYo こなた「お前が言うなよカス」 つかさ「・・・・・・」 295 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2008/03/02(日) 22 16 14.32 ID AnpjNwAO ゆたか「確かにお姉ちゃんの言う通りつかさ先輩黒いよねぇ~」 こなた「お前もだカス」 296 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2008/03/02(日) 22 16 31.99 ID PFlzPASO みゆき「これは一本取られましたね、つかささん」 つかさ「……なにこのワカメ」 301:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします:2008/03/03(月) 10 03 14.66 ID dsGUIkSO 今日は3月3日……何かの日です 302:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage]:2008/03/03(月) 11 53 54.23 ID IbxyIkco 301 耳の日 303 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage]:2008/03/03(月) 12 20 22.22 ID u3OLHADO 眼鏡を取ったのび太の目の日 304:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします[sage]:2008/03/03(月) 12 23 39.76ID dsGUIkSO かがみ「こなたの口の日よ♪」プニプニ こなた「ちょ……やめれ」 かがみ「柔らかくて気持ち良いわー♪」 331 :ゆーちゃん何聞いてるの? :2008/03/04(火) 06 15 56.36 ID 4zOlhMDO こなた「今日はゆーちゃん、何聞いてるのかな?」 ゆたか「Do you know、Michael Jackson?」 こなた「ああ。そういえばゆーちゃん、お父さんに『英語の教材買って』って頼んでたっけ。 ……てゆーか『あなたはマイケル=ジャクソンを知ってますか』って」 ゆたか「No! SIRIMASEN!!」 こなた「お父さーーーーん!!偽物掴まされてるよーーーー!!!」 333 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2008/03/04(火) 15 54 41.66 ID UPOd4YY0 331 ゆたかならパティに教えてもらえるだろ 334 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2008/03/04(火) 17 52 42.17 ID rGm7EQAO パティ「I like boys love」 ゆたか「I like boys love」 パティ「Goodトテモイイ発音デシタ」 ゆたか「本当!?アメリカでも通じる?」 パティ「モチロンデス(意味ハ通ジナイト思いマスガ)」 ゆたか「I like boys love~」 337 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2008/03/04(火) 21 23 14.78 ID UPOd4YY0 ゆたか「I like boys love~」 ひより(小早川さん……あなたまでこの道に入ってしまいましたか……) パティ「安心してクダサイ、ヒヨリ! ワタシが英語の指導しただけデス」 ひより「いやいやいや指導の仕方何か間違ってるよ」 339 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2008/03/04(火) 22 18 20.16 ID DHpM.Oc0 337 ゆたか「I like boys love~♪」 こなた「ぬおっ!ゆーちゃんがいつの間にか染まってる!?」 そうじろう「あ~。これじゃあゆきに怒られちまうなぁ」 こなた「お父さん!そんな悠長なこと言ってないで早くなんとかしてよ!!」 そうじろう「でもどうやって説明するんだ?あの様子だとたぶん何も知らないで使ってるぞ?」 こなた「わ、わかってるよぉ……(どうする?どうする私!?)」 421 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2008/03/06(木) 19 06 33.80 ID 1Iqv9wAO みなみ「(たまにははっちゃけたい………人は居ないかな)」キョロキョロ みなみ「(よし誰も居ない)」 みなみ「魔女っ娘みなみんが困っている人を守ってあ・げ・る」 みなみ「(言っちゃった///)」 ゆたか「魔女っ娘みなみん助けて~」ニヤニヤ みなみ「/(^o^)\ナンテコッタイ」 422 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2008/03/06(木) 19 21 30.39 ID PuoNTGY0 421 ゆかり「うぷぷぷぷぷぷ……も、もう限界……きゃはははははははは」 522 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2008/03/09(日) 20 41 23.26 ID vkPMxIk0 かがみ「今日のこなたは何色だっほい♪」バサッ こなた「ひゃ!?」 かがみ「・・・・・・穿いてない」 こなた「もうかがみに全部盗られちゃったから無いんだよ!! パンツ返してよ!!」 かがみ「こなた・・・・・・」 こなた「うっ・・・ひっく・・・・・・」 かがみ「じゃあスカート貰うわね♪」 こなた「いやあぁぁぁぁぁぁっ!!」 523 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2008/03/09(日) 21 07 16.59 ID DIRMUaA0 522 みさお「ち、ちびっこ絡みの柊超変態伝説!?」 562 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2008/03/10(月) 22 57 57.70 ID tpG5bcAO このスレ補正でキャラ対戦させたら誰が1番強いのだろうか ブチ切れあやの 暴走かがみ 酢の戦士つかさ(黒)やみゆき様 幽霊見えちゃうこなた オワタみなみちゃん まぁ対男子ならただおさんが最強だが 566 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2008/03/11(火) 00 08 32.05 ID Sb7D2.k0 562こうですか>< 眠れる獅子は、或いは羅刹か、ディコティックガールあやの こなたの為なら死をも超える、不退転巫女、かがみ 不可思議パワーは誰が為に、ミスティックバルス、つかさ(酢戦士) 黄色いりぼんは鬼の印、ベルセルクバルスつかさ(黒) 内に秘めしは闇の花、咲くは魔性の地獄花、デストロイドwiki、みゆき 望まぬながら、見えるは死魂、見たき魂いずこある、ソウルサーチャーこなた 全ては3秒でケリがつく …お前もミートボールにしてやろーか!?ブラッディボーラーみさお 八百万の薔薇ノ神、喰らうはヤツか!ヤツなのか!?シャーマニックゲイ、ただお みなみは英文にしたかっけど思い浮かばず。無念 シャーマニックゲイはないだろ…と書いといて思う あとかなたさんはいじるの恐いので辞退した。 582 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2008/03/11(火) 21 57 15.77 ID 8QjkYmc0 ー改☆悪ー こなた、すまない。俺、こんな生活、耐えられないよ。 お前は強い子だ。俺なんかいなくてもやっていける。 先立つ不幸を許してくれ、こなた。 おや…あれがあの世か。 …あそこにいるのは…かなたか?出迎えにきてくれているのか? おーい、かな…?…え…ちょ…あれは 「お、お前…こなた…か?」 「えへへ…お父さん。先立っちゃった不幸をお許し下さい」 「お前…」 「エロゲーもダメ、漫画もダメ、同人誌も…生きてる意味ないよ、こんな世界…」 「…気違イに刃物がまかり通る世の中だからな。しかし…」 「お父さん、これからは3人で仲良くやろ!」 「…そうだな。今更言っても仕方がない。いくか!かなたの許へ!」 「うん!」 「あーあー、昔はアグネス好きだったんだけどな~」 ーー 『…発見された遺体は、この家に住む作家の泉そうじろうさんと、 娘の女学生、こなたさんと思われ、外傷や争った痕跡のない事等から、 自殺とみて警察は…』 自殺じゃないわ。殺されたのよ、法律に。こなた達は何も悪くないのに。 私、弁護士になって、困っている人を守りたかった。 でも、無理ね。一番守りたかった人がいないなんて…無理。だから お父さん、お母さん、姉さん、つかさ 先立つ不幸をお許し下さい。 待っててね、こなた ーー 『次のニュースです。鷹宮神社で発見された2つの遺体は…』 決まれば不幸の連鎖なんてもんじゃねー! 583 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2008/03/11(火) 22 08 12.57 ID .B8nvwSO 582 法律が決まってしまえば有り得る話だな 何とかして止めれないもんかね? いっそスレ住人全体で反対するとかいいかも この話のそうじろう・こなた・かがみ・つかさみたいな人を出さないために 584 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2008/03/11(火) 22 12 07.43 ID pEpewoSO あぁ、あの日本人を弱体化する法律ね。 嘘だと言ってくれって話だな…… 585 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2008/03/11(火) 22 13 03.90 ID xZw2wgDO 582 583kwsk 586 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2008/03/11(火) 22 23 44.15 ID fO.zHts0 ヒント:児ポ法 587 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2008/03/11(火) 22 57 46.09 ID pEpewoSO 俺は勘違いしていたようだ 588 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2008/03/11(火) 23 04 10.62 ID TblDiKw0 ちょww人権擁護法案でしょww 589 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2008/03/11(火) 23 23 08.41 ID SbZoDrs0 保護の名のもとに 「もしもし!?岩崎さんすか!?」 「…田村さん?…そんなに慌て」 「た、大変ス!ゆーちゃんが、ゆーちゃんが!」 「ゆたかが…ゆたかが何?」 「警察に捕まったっス!」 「え…」 「ネットで何か書き込んだしらくて、そしたら相手が外国人だったらしくて」 「どういう…」 「ゆーちゃん、最近2ちゃん見てるって言ってたっスから、もしかしたらそこで…」 「2ちゃん…」 ゆーちゃんを保護してください>< 590 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2008/03/11(火) 23 59 13.92 ID xZw2wgDO このバカなゆとりにも解るように簡単に言ってください お願いします>< 592 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2008/03/12(水) 00 28 47.59 ID /8Oj5oDO 簡単に言うと ほとんどのアニメを児童がどうだのこうだのぬかして 規制するクソ憲法 593 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2008/03/12(水) 00 49 46.62 ID KvX/TkAO 592 それは違うほうだww 簡単にいうと発言に気をつけてねー口の悪い人は逮捕してテレビで名前を公にしちゃうよーってやつ 詳しくはみwikiさんに電話して聞け 594 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2008/03/12(水) 01 03 01.50 ID wYjRbww0 593 みwikiさんの電話番号おせーてくだし 595 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2008/03/12(水) 01 03 19.19 ID NfKuQeE0 590 「差別発言で傷つけられました><」 と、申し出れば、差別発言された方を捕まえる事ができる。 と言うのが、この人権保護法案の主旨たるもので、これが誰の為の法案かと言うと、 日本人ではなく、 591の言われた通り、その国の方に対してのモノなのです。 尚、彼らの言う「差別だ!」発言は、正論でも言い返してくる、言わば決まり文句。 彼等的には、優遇されない=差別、と考えて頂いて間違いありません。 日本人自ら日本人に圧力をかけようとする法案、とても解せるものではありませんが これを敢えて推し進める売国政治家や市民団体が多いのもまた事実。 案が通れば日本は暗黒時代に入る、これは言い過ぎ、誇大妄想の類ではありません。 今、日本が直面している、危機、なのです。byみゆき 702 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2008/03/15(土) 22 47 29.56 ID DN6E6AAO みなみ「私には二つの島が無い……あるのは平らな海だけ……」 703 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2008/03/15(土) 22 59 40.48 ID 1i2gY6M0 702 ゆかり「しかも干上がりそうよね…ぷぷぷ」 704 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2008/03/15(土) 23 05 02.78 ID sjeoPwSO 702 みゆき「ふぅ……、肩が凝りますね」 705 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2008/03/15(土) 23 39 32.32 ID Xh5ywsAO 702 ただお「う、うほっ?」 842 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2008/03/18(火) 23 28 43.21 ゆたか「いいなぁみなみちゃんはムネおっきくて…あたしなんかペッタンコ‥」 こなた「むむ~っ、まったくだ、けしからん!(モミモミ」 みなみ「やっ、やめてください泉センパイ////」 こなた「ええでわないかええでわないか、ゲッヘヘ」 かがみ「やめんかエロオヤジ!(パシッ」 こなた「あ痛っ」 Oo。}みなみ「……。」 ゆたか「みなみちゃん?」 みなみ「飲まなきゃ!(ゴクゴクゴク…」 牛乳に相談だっ!! 843 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2008/03/18(火) 23 39 17.92 そうじろう「飲むかい?俺の牛乳」 844 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2008/03/18(火) 23 39 38.65 ダウトダウト
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わたしは人より恵まれてるという事に、小さなころから気がついていました。だからわたしは、欲というものが人よりも少なかったのです。知識を得る事は好きでしたが、欲というほどのものではありませんでした。 けど、稜桜学園に通い始めてから、わたしに一つの欲が生まれました。それはわたしの中でとても大きくなり、自分では押さえることはできなくなっていったのです。 - Desire - 出会いは一年生の時。正直に言いますと、当時のわたしは彼女が少し苦手でした。気まぐれで奔放、わたしと合う要素など何もないと思っていました。 でもなぜか、わたしは徐々に彼女が気になり始め、その行動を目で追うようになりました。そして、少しだけでも彼女と話がしたいと思い、その機会を持とうとしましたが、なかなか上手くいきませんでした。 そうこうしてるうちに、彼女に仲のいい友達ができた事を知りました。同じクラスのその子と彼女は、お昼ご飯も共に食べるようになったようで、楽しそうな声をよく耳にするようになりました。 それから少し経ち、彼女とお昼を食べる友達がもう一人増えました。委員会で話した事のあるその人は、わたしを見かけると「一緒に食べない?」と誘ってくれました。しかしわたしは、何故か「少し用事がありますので」と断ってしまったのです。彼女と親交が持てる、願ってもないチャンスだったというのに…。 その年の夏休みは、溜息ばかりついて過ごしていました。考える時間が増えると、どうしても彼女の事を思ってしまうのです。どうしてここまで彼女にこだわるのか、いくら考えても答えは少しも見えてきませんでした。 二学期が始まり、また毎日学校で彼女と会うことができるようになりました。しかし一度距離を置いてしまうと、どうしても近づく事ができなってしまいました。気ばかり焦り、無駄な時間が過ぎていきました。 再び機会が訪れたのは桜藤祭の時でした。彼女とその友達の班の進行がひどく遅れていたのです。彼女自身は悪い意味で適当で、その友達は頑張ってはいるのですが、不器用というか要領が悪いというか…わたしは実行委員として彼女達を頻繁に手伝うようになりました。そしてごく自然に親交を持つ事ができたのです。 こうしてわたしは彼女とその友人、泉こなたさんと柊つかささんかがみさんと友達になる事ができました。 それからの学校生活はとても充実していました。泉さんと友達となる事ができた。ただそれだけで、こうも自分の気持ちが高ぶるとは予想もしていませんでした。でもそれを知られるのはとても恥ずかしく思え、わたしはいつも一歩引いた位置で泉さん達を見ていました。 泉さんは日常の些細な疑問をよくわたしにぶつけてきました。友達となる以前から、泉さんはオタクと呼ばれるような人だとは知っていましたから、会話が大変なのではと勝手に思っていました。ですが泉さんは時々わたしが理解できない事を話すものの、ほとんどはわたしがたまたま答えを知っているような質問ばかりを振ってきました。 しばらくして、泉さんは泉さんなりにわたしとの接点を探っていたのではないかと思うようになりました。わたしが最初泉さんを苦手だと感じていたように、泉さんもわたしに苦手意識を持っていたんじゃないか。その溝を彼女なりに埋めようとしてるのではないかと、思ったのです。 二年生になり、泉さんの事が少しずつ分かるようになってきました。知らない人にも物怖じしない。言いたいことは少しも遠慮せずに言う。意外と友達思いな面もある。コミュニケーションやスキンシップなどの方法に少し問題があって、かがみさんに良く怒られている…そんな泉さんのおかげで、わたしは退屈など感じることなく過ごす事が出来ていました。 少し経ったとき、わたしは前々から考えていた事を実行してみました。今まで泉さんと名字で呼んでいたのを、こなたさんと名前で呼んでみる事にしたのです。かがみさんやつかささんは名前で呼んでいるのに、泉さんだけ名字はおかしい等理由は有りましたが、急に呼び方を変えたことで泉さんがどういう反応を見せるのかを見たい。それが一番の理由でした。 しかし、泉さんは特に反応を示す事はありませんでした。というか、わたしが呼び方を変えたことすら気付いていないようでした。結局わたしは数日で呼び方を元に戻しました。 泉さん自身は自分がどう呼ばれるのかをほとんど気にしない人のようでした。わたしは泉さんが友達の中でわたしだけさん付けで呼んでいる事を、少し気にしていました。しかし、少し考え方を変えたときから、それは気にならないどころか嬉しい事だと思えるようになりました。わたしは友達の中で泉さんだけを名字で呼んでいる。そして泉さんはわたしだけをさん付けで呼んでいる。それはつまり、わたし達はお互いを特別な呼び方で呼んでいるのではないか、と思ったのです。もちろん、わたしのただの自惚れに過ぎないかもしれせんが。 二年生も終りに近づく頃、わたしは自分の中に今までにないような気持ちが膨らむのを感じていました。泉さんの事をもっと知りたい。少しでも多くの時間を共に過ごしたい。そう思うようになってきたのです。一年生の当初からあった欲、泉さんを知ったときに生まれた欲、それは友達になった事では少しも満たされていませんでした。その時に初めて、わたしはとても欲深い人間だという事に気がついたのです。 三年生になり、受験生となったわたしの周囲は、とても慌しくなってきました。その中でも泉さんは自分のペースを崩すことなく過ごしていました。かがみさんはその事についてよく泉さんに意見していましたが、泉さんはあまりちゃんと聞いていないようでした。進路や受験をまるで他人事のように受け止めている泉さんを、わたしも少し心配でした。このまま進路も決まらずに卒業するのではないか?など、よからぬ考えが頭から離れませんでした。 二学期が始まってすぐのある日の放課後、わたしは委員会の人に「いつまで泉さんと付き合っているの?」と聞かれました。わたしはその質問の意図がつかめず、どういうことなのかと問い返しました。その人は泉さんの成績の事を持ち出してきました。そして、あまり良くない生活態度の事も。そして、それがわたしにとっての悪影響になると。その人は言いました「友達は選んだ方がいいよ」…わたしは頭の奥の方が熱くなるのを感じていました。 冗談じゃない。わたしが嫌々泉さんに付き合ってるとでも言うのか。泉さんと友達でいる事を決めたのはわたしだ。あなたじゃない。泉さん自身にならともかくあなたにそんな事を言われたくない。泉さんの事を何も知らないくせに。 その人がその場からいなくなった後も、わたしの頭の熱はなかなか冷めませんでした。これほどまでに人に強く意見した事などいつ以来だったでしょうか。少し頭が冷えるのを待って、私はその場を離れようとしました。その時にばつの悪そうな顔でこちらを見ている泉さんに気がつきました。 わたしが声をかけるより早く、泉さんが「みゆきさん、大丈夫?」と話しかけてきました。わたしはその質問には答えず、逆に泉さんにどこから聞いていたのかを質問していました。泉さんはわたしから目を逸らして、最初の方から聞いていたと素直に答えてくれました。わたしが何を言うべきか迷っていると、泉さんがもう用事がないなら一緒に帰ろうかと、誘ってくれました。 泉さんの提案で、わたし達はバスを使わず徒歩で駅に向かう事になりました。そして、気がつきました。泉さんと二人きりで下校するのは、これが初めてではないかと。 しばらくは二人とも無言で歩いていました。わたしは、先ほどの事を泉さんがどう思ってるのかそればかり考えていて、何か適当な事も話す事は出来ませんでした。 「さっきのアレ、わたしのために怒ってくれたのかな?」 駅まで半分ほど来た辺りで、泉さんは唐突にそう聞いてきました。わたしはは黙ってうなずきました。そのわたしを見て泉さんは目を瞑ってしばらく考えるような仕草の後、いつもと同じ笑顔を浮かべわたしに向かって親指を立てて見せ、こう言いました。 「いやーおしい。女同士じゃなかったらコレ絶対フラグ立ってたね」 わたしはそんな彼女に対し、苦笑するしかありませんでした。 そこまで書き終えると、みゆきはシャーペンを置きノートを閉じた。 「こんなの書いて、どうするんでしょうね…」 自嘲気味に呟くと、ノートを引き出しの奥の方にしまいこむ。 未だに自分は満たされていない。それどころかどんどん乾いていくようだ。 「まるで恋みたいですね」 恋愛経験など皆無だというのに。ましてや自分たちは女同士だというのに。なぜかみゆきはそう感じた。そして、そう思った自分が可笑しくなり、クスクスと控えめに笑った。 泉さん達はどうなのだろう。みゆきはふとそう思った。彼女たちも自分と同じように、欲を満たすために友達としているのだとうか。 きっとそうだ。妙な確信を持って、みゆきは自分の考えを肯定した。四人が四人とも欲を満たそうと求め合うからこそ、わたし達はここまで友達でいられたのだろう。そしてこれからもそれはきっと、変わりはしないだろう。 みゆきは晴々とした気分で消灯をし、布団に潜り込んだ。今日はきっといい夢が見れる。そして、明日もきっと。 明日は卒業式。旅立ちの時、巣立ちの日と人は言う。 違う道を歩んでいこうとも、欲深いわたし達は望むがままにお互いを求め合うのだろう。 満たされることなく、いつまでも。 - 終 -