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(注)何の罪も無い、純粋で心優しいゆっくりが酷い目に遭います。 ゆっくり姉妹 前編 ある秋の休日、僕は自宅の庭でデッキチェアに寝そべり、のんびりと過ごしていた。 夏が終わった事を実感させる爽やかな風が心地よい。 すぐ側のテーブルに用意しておいたクッキーを食べながら紅茶を飲む。 とても穏やかな時間。だが、同時に孤独な時間でもあった。 誰か、訪ねて来てくれないかな、と思っていると、突然やかましい声が響いてきた。 「ちょうちょさん! ゆっくりまってね!」 子供のように甲高く、キンキンと頭に響く声。声の主はゆっくりまりさだった。 どうやら蝶を追いかけてここまでやって来たらしい。『まって、まって』と騒ぎながら、蝶の後ろを飛び跳ねている。 僕の家は森に囲まれているので、リスや鹿が庭に迷い込んでくることはあったが、ゆっくりは初めてだった。 小さく溜息をつく。確かに先程、来客を願ったが、こんなのが来るとは。 僕は騒がしい奴や、むやみやたらに動き回る奴が嫌いだった。 だが、身体を起こして追い払うのも億劫だったので静観することにした。 そのうち蝶と一緒に庭から出て行くだろう。 しかし、そんな僕の思惑とは裏腹に、まりさは僕の存在に気がついたようだ。 ヒラヒラと逃げていく蝶を放って置いて、ぴょんぴょんと僕の方に向かって来る。 そして、太陽のように輝く笑顔でお決まりの台詞を言う。 「ゆっくりしていってね!」 まりさは『してやったり』と言わんばかりの達成感に満ちた顔で僕を見つめている。 勝手に人の庭に入ってきて、ゆっくりしろとはどういう事だ。 鬱陶しい、と思ったが、相手をするのが面倒なので、僕はただ冷ややかにまりさを見下ろしていた。 相手にされないと分かれば何処かへ行ってしまうだろう。 「ゆゆぅ…」 まりさは何らかの反応が返ってくる事を期待していたのだろう。 僕の顔を上目遣いに見つめながら、寂しそうにしている。 『ゆっくりしていってね!』とでも言い返して欲しかったのだろうか。 さあ、もう行ってくれ。僕はお前の言うとおりゆっくりしたいんだ。静かにね。 だが、その時。まりさはテーブルの上にあるクッキーを発見した。 「ゆ! おいしそうなクッキーだね! まりさ、クッキー大好き!」 だからどうした。早く消えてくれ、だんだんイライラしてきた。 「いいなあ…たべたいなあ…」 まりさは、ちらちらと僕の顔に甘えた視線を投げかけてくる。 これは駄目だ。何らかの行動で拒絶の意思を表さないと、こいつはここでクッキーをねだり続けるだろう。 そこで僕は、この甘ったれた人面饅頭の顔に、飲みかけの紅茶を無言でぶちまけた。 「ゆ゙ぎゃあ゙あ゙あ゙!!あづい゙!!!!あづいよ゙お゙お゙お゙お゙!!」 淹れたてではないが、それでも80度くらいの熱い紅茶を突然浴びせられ、まりさは苦痛に転げまわる。 そして、泣きながら庭の外の森に逃げていった。 これでゆっくりできる。僕はそう思いながら、高く見える秋の空を仰ぐ。 青い空に映える、ふかふかの絨毯のようなうろこ雲が美しかった。 まりさが森に消えてからも、僕は何をするでもなくデッキチェアの上で過ごしていた。 僕には、仲の良い友人や恋人などはおらず、熱中するような趣味もなかったので、休日はいつもこんな調子だった。 こうやってのんびりと過ごす事は好きなので、まあまあ幸福だったが、時々、無性に寂しくなる事があった。 『犬でも飼えば、寂しさを感じなくなるのかな』 そんな事を考えながら目の前に広がる森を眺めていると、不思議なものが見えた。 ぽよんぽよんぽよん 木々の間を縫って、二つのボールがこちらに跳ねて来ているのだ。 目を凝らしてよく見ると、それはボールではなく、二匹のゆっくりである事が分かった。 顔面にうっすらと赤い火傷の跡がある、金髪に黒い帽子のゆっくり。 こいつは先程のまりさだろう。そしてもう一匹は黒髪に赤いリボンのゆっくり、ゆっくりれいむだ。 なるほど、仲間を連れて仕返しにやって来たということか。 そんな事を考えているうちに、二匹のゆっくりは庭に侵入し、僕のすぐ側まで接近していた。 遠くから見ると二匹とも同じ大きさに見えたが、こうして近くで観察するとれいむの方が一回り大きい。 まりさはれいむの陰に隠れて、不安げに僕の様子を伺っている。 それかられいむに向かって、小さく『おねえちゃん…』と呟いた。この二匹、どうやら姉妹らしい。 れいむは自分の後ろで縮こまっている妹に優しく微笑み『大丈夫だよ』と言った後、僕の方に向き直る。 「おにいさん!」 れいむは、大きくは無いが良く通る声で僕に話しかけてくる。 『まりさにあやまってね!』とか『ゆっくりしね!』なんて罵詈雑言を吐くつもりだろうか。 さて、どうしたものかな、と思っていると、れいむの口から意外な言葉が発せられた。 「まりさが勝手にお庭に入ってごめんなさい!」 ゆっくりが謝罪してくる、なんて事はまったく予想していなかったので、思わず目が点になる。 「もうこんな事が無いように、よく言って聞かせるから、まりさを許してあげてね!」 れいむはそう言うと僕に向かって深々と頭を下げた。僕は驚いた。そして、ただ純粋に感心した。 ゆっくりは、どれもこれも自分勝手で、品性の欠片も無い頭の悪い生き物だと思っていた。 だから、今まで僕はゆっくりがどんなに話しかけてきても、まともに相手をしたりしなかった。 不愉快な思いをすることが分かりきっていたからだ。だが、このれいむの殊勝な態度はどうだ。 人間の能力に個人差があるように、一口にゆっくりといっても、 頭の良い者や、運動能力に優れる者など、固体差があるのかもしれない。 僕は、この利口なれいむに強い関心を持った。 「君は、わざわざそのことを僕に伝えるためにここに来たのかい?」 「ゆ! おにいさん 話せたの?」 まりさは、僕がれいむに話しかけるのを聞いて、驚いていた。 先程、自分がどんなに話しかけてもまったく喋らなかったので、僕が言葉を話せないと思っていたらしい。 だが、こんな奴の事はどうでもいいので無視する。 「うん! そうだよ! 悪いことをしたら、謝らなくちゃいけないんだよ!」 れいむが、人間のテリトリーを侵す事が良くない行為である、と理解している事に嘆息する。 「でも、僕の庭に勝手に入ってきたのは、君じゃなくてまりさだよね?」 僕がそう言いながらまりさを冷たい瞳で睨むと、まりさはれいむの陰にあわてて隠れる。 「や、やめてね! まりさをいじめないでね! まりさをいじめるなら、かわりにれいむをいじめてね!」 れいむの大きな瞳がまっすぐに僕を見つめている。 真剣な眼差し。妹が苛められるくらいなら、自分が身代わりになる、と本気で言っているのだ。 僕はこの妹思いの優しいれいむに、心から感動していた。良い子にはご褒美をあげよう。 「れいむちゃん。クッキー食べる?」 妹が苛められるかもしれない、と警戒しているれいむに、僕は柔らかく微笑んでクッキーを差し出す。 その甘い香りの力で、れいむの緊張は幾分か解けたようだ。そろりそろりとこっちに近づいてくる。 「わあ! 美味しそう! 食べてもいいの?」 れいむはすぐにクッキーに貪りつく様な真似はせず、僕の顔を見上げて尋ねる。 「遠慮しなくていいよ。沢山あるから好きなだけお食べ」 「うん! むーしゃ♪ むーしゃ♪ しあわせー♪」 美味しそうにクッキーを頬張るれいむの姿を見ていると、自然と頬が緩む。 可愛い。ゆっくりとはこんなに可愛い生き物だったのか。 今までゆっくりの事を真剣に見たことなど無かったので、気がつかなかった。 それに、必要以上に大騒ぎせず、落ち着いている所も良い。 僕は『このれいむと友達になりたい』と思った。 そうすれば、時折僕を襲う寂しさから救われるような気がする。 ぼんやりとそんな事を考えているところに、耳障りな甲高い声が響く。 「ま、まりさも食べたいよ!!」 こいつ、まだいたのか。すっかり忘れていた。 まりさは、僕の周りをスーパーボールのように飛び跳ねながらクッキーを催促している。 それにしても、でかい声だ。おまけに、ラッパのようにトーンが高いので、頭が痛くなる。 「おにいさあん!! まりさも食べたいよお!!」 まりさは再び金切り声を上げる。それでも僕が無視していると、 我慢が限界に達したのか、テーブルに飛び乗って勝手にクッキーを食べようとする。 下品な奴だ。とても、利口なれいむの妹とは思えない。それに、お前には食べていいなんて言ってないよ。 まりさと同じように、我慢の限界に達した僕は、無言でまりさの身体を掴むと地面に向かって叩きつけた。 「ゆ゙ぎゃっ!!」 まりさはグシャという音と共に顔面から地面に激突し、口から少量の餡子を吐き出す。 僕はあまり力が強い方ではないので、死にはしないだろう。別に死んでしまっても構わないが。 「いだい゙い゙い!! いだい゙よ゙お゙!! うあ゙あ゙あ゙ん!!」 まりさは地面に突っ伏したままの姿勢でわんわん泣き出した。やかましい奴だ。少しは賢いお姉さんを見習え。 そう思いながられいむの方を見ると、れいむは『信じられない』といった表情でぶるぶると震えていた。 しまった、と思った時には遅かった。ぱっちりとした綺麗な瞳から、ぽろぽろと涙がこぼれ落ちる。 「ひ、ひどいよ! おにいさん! どうしてこんな事するの!? まりさ! 大丈夫!?」 れいむは倒れているまりさに駆け寄り、その体を起こした後、悲しそうな表情で僕を見つめる。 その視線に心が痛みながらも、僕はある事に驚いていた。 このれいむは、感情が高ぶっても『ひどい゙い゙い゙い゙い゙!!』と発音が濁ったり、 『どぼじでごんなごどずるのぉぉぉ!?』といったような間抜けな言葉を発しないのだ。 この事で僕は、ますますれいむが好きになった。 だが、このままではそのれいむに嫌われてしまう。 うるさいまりさに腹が立ったとはいえ、もう少し良く考えて行動すべきだった。 まったく、短気は損気とはよく言ったものだ。 「ご、ごめんね、れいむちゃん。まりさがテーブルに飛び乗ろうとしたから、止めさせようと思って…そしたら…その…手が滑って…」 我ながらなんと苦しい言い訳。地面に叩きつけておいて手が滑ったもクソも無い。 もっとも、そこらに雲霞のごとくいる馬鹿なゆっくりなら、これでも納得したかもしれないが。 「お゙ね゙え゙ぢゃあ゙ん! いだい゙! いだい゙よぉ!」 まりさは濁った目玉から汚水を垂れ流しながら、まだぎゃあぎゃあ喚いている。 クソ饅頭が、黙ってろ。れいむの僕に対する印象が、ますます悪くなるだろうが。 「た、確かにテーブルに飛び乗るのはお行儀が悪いけど、これはやり過ぎだよ…」 れいむはまりさの 傷を舐めながら、そう呟く。やはり、手が滑ったなどという戯言は通用しないらしい。 人間の嘘を見抜く事が出来る、賢くて可愛いれいむ。まったく、惚れ惚れする。 「まりさ、歩ける?」 「う、うん…」 まりさがよろよろと動き出すのを見て、れいむは安心したように、ほっと息を吐く。 「おにいさん…れいむ達、もう帰るね…」 「え!? ちょっと待って、もっとゆっくりしていきなよ」 僕は、まりさを体で支えながら庭から出て行こうとするれいむを引きとめようと手を伸ばす。 しかし、れいむは僕の指先が体に触れそうになると、びくっと身をすくませた。 れいむの瞳には、うっすらと涙が浮かんでいる。そんなに僕の事が怖いのか。 このまま森に帰してしまったら、二度と僕の前には姿を現さないかもしれない。 そう思った途端、僕はれいむを捕まえていた。 「は、はなして! おうちかえる!」 僕に抱えられているだけでも恐ろしいのか、れいむはぶるぶると震えている。 まったく、嫌われたものだ。少し、悲しい気持ちになる。 だが、僕はこのれいむが気に入ったのだ。どうしても、友達になりたい。 そのために僕が思いついた方法は、れいむを誘拐する事だった。 今は怯えているが、美味しいものを食べさせ、たっぷりと可愛がってやれば、三日ほどで今日の事など忘れてしまうだろう。 賢いと言っても、所詮ゆっくりの餡子脳だ。たかが知れている。 もう少しソフトなやり方もあるだろうが、 ゆっくりという生き物の単純な性格を考慮すると、これがベストだと思う。 僕は、あやすようにれいむの頭を撫でながら、家に向かって歩き出す。 「今日からここがれいむちゃんのお家だよ。とっても広いし、食べ物も沢山あるから、ゆっくりできるよ」 その時、僕の足に何かが猛烈な勢いでぶつかってきた。まりさだ。 「お゙ね゙え゙ぢゃんをがえ゙じでぇぇぇ!!!」 こいつにはなんの興味も無い。しかし、まりさを殺してしまえば、れいむは僕の事をさらに恐れるようになるだろう。 それは避けたいので、僕はしつこく体当たりしてくるまりさを軽く蹴飛ばして、素早く家の中に入り、扉に鍵をかける。 ゆっくりの力では、どんなに頑張ってもこの家に入ることは出来ないだろう。 「まりさあ! たすけてぇ!!」 れいむの悲痛な叫びが聞こえたのか、扉の外でまりさが狂ったように騒いでいる。 だが、家の奥に進むとその耳障りな声も聞こえなくなった。 「まりさぁ…まりさぁ…」 れいむは僕の腕に抱えられたまま、うわ言のように妹の名を呼んでいる。その顔は、悲しみと恐怖の涙でぐしょぐしょだ。 可哀想なれいむ。でも心配しなくてもいいんだよ。これからは今までよりもっとゆっくりさせてあげるからね。 六日後。 夕刻。僕は仕事から帰ると、一目散にれいむの部屋に向かう。 ポケットから部屋の鍵を取り出し、シリンダー錠に差し込んで回す。 かちり、という小さな音がした後、ドアを開ける。 この部屋は、ほとんど使っていなかった客間を、れいむがゆっくりできるように、改装したものだ。 ふかふかのベッド、輝くガラステーブル、革張りの椅子、全てゆっくり用のサイズに合わせてあつらえた逸品だ。 だが、れいむはその豪華な設備をどれも利用せず、冷たい床の上にぽつんと座っていた。 「ただいま。れいむちゃん」 「お、おかえりなさい。おにいさん…」 僕が声を掛けると、れいむはひきつった笑顔で挨拶を返す。ゆっくりらしくない、不自然な作り笑顔。 六日前、れいむはこの部屋に連れてこられてから、しばらくの間は『外に出して欲しい』『まりさに会わせて欲しい』 と泣きついてきたが、僕にまったくその気が無い事を悟ると、すぐに大人しく、従順になった。 しつこく喚いて、まりさのように暴力を振るわれることを恐れたのだろう。れいむは、いつも僕の顔色を伺ってビクビクしていた。 「今日は美味しいケーキを買ってきたよ。ほら見て、苺が乗ってるんだよ」 僕は小脇に抱えた箱から、大きなショートケーキを取り出し、 ケーキナイフで食べやすいサイズに切って、れいむの前に置いてやる。 れいむは、葬式のように沈痛な面持ちでケーキを口に含むとゆっくりと咀嚼する。 「むーしゃ…むーしゃ…しあわせ…」 そう呟くれいむの顔は、少しも幸せそうじゃなかった。 六日前、クッキーを食べさせた時のれいむの笑顔を思い出して、あまりの違いに、少しイラっとする。 そのケーキは、あんな安物のクッキーとは違う、一流の洋菓子店で買った高級品だぞ。なんだ、その態度は。 それに、この六日間、毎日美味しい食事を与えて、風呂にも入れてやり、こんなにも上等な部屋に住まわせてやってるのに、 まったく僕の事を好きになろうとしない。三日で誘拐された事を忘れると思っていた僕の計画は、既に破綻していた。 れいむは僕が思っていたよりもずっと賢く、そして臆病だったのだ。 れいむと僕の関係は、友達と言うには程遠く、奴隷と主人のようであった。 僕はこんなにもれいむのことを可愛く思っているのに、れいむが僕に抱いている感情は恐怖のみ。 そのことが、たまらなく不愉快だった。 「ねえ、れいむちゃん…」 「ご、ごめんなさい!」 どうやら、れいむにも僕が不快を感じていることが伝わったらしい。 僕の表情と声色が変わった事を敏感に察知して、謝罪の言葉を述べる。 怯えた瞳と卑屈な態度がますます僕をイラつかせた。 「何で謝るの? 僕、まだ何も言ってないよ」 「で、でも…おにいさん…怒ってる…」 「怒ってないよ」 「ご、ごめんなさい…」 「謝らないでよ」 「ごめんなさい…ごめんなさい…」 「謝るなって言ってるだろ!!!」 僕は思わず、れいむの頬を平手で打ちつけていた。パシーンという乾いた音が部屋の中にこだまする。 しばしの静寂の後、れいむはふるふると震えだす。 「いたい…いたいよぉ…まりさ…助けて…まりさぁ…」 れいむは全身の水分が無くなるんじゃないかと思うほどに大量の涙を両の瞳から溢れさせ、 ただひたすらに、ここにはいない妹に助けを求めていた。 まりさ、まりさ、か。この六日間、れいむは何かにつけてその名を口にした。 食事の時は『まりさ、お腹すかせてないかな』 雨が降れば『まりさ、濡れてないかな』 寝る前には『まりさ、ひとりでも寂しくないかな』 まりさまりさまりさまりさまりさ… 六日前、僕はまりさに何の関心も無かった。 生きていようが死んでいようが、どうでも良かった。 だが、今は違う。僕は、まりさに嫉妬していた。 「ねえ、れいむちゃん。そんなにまりさに会いたい?」 ぼくの言葉により、れいむの憂いに満ちた泣き顔が、驚きと期待を含んだ笑顔に変わる。 「会いたいよ! 会わせてくれるの!?」 僕はれいむの問いを無視して、さらに尋ねる。 「まりさの事、好き?」 「うん! 大好きだよ! だって、れいむの可愛い妹だもん!」 ひまわりのような笑顔。まりさの事を話しているだけでも幸せらしい。 僕がどんなに笑わせようと努力しても、下手糞なな作り笑いを浮かべるだけだったれいむが今、楽しそうに笑っている。 でも、れいむを笑わせたのは僕じゃない。まりさだ。僕の心の中に、何かドス黒い感情が渦巻きだす。 「そうなんだ…じゃあ、まりさが死んじゃったら悲しい?」 『まりさ』と『死』。れいむにとって決して結び付けたくない二つのキーワードが同時に現れた事により、 晴れ晴れとしていた表情が、急に雨模様になる。 「ま、まりさが死ぬなんて、考えたくないよ!」 「でも、考えておいた方がいいと思うよ」 「そんな必要ないよ! まりさは元気だし、足も速いから、れみりゃにだって捕まらないんだよ!」 胸を張って誇らしげにそう言うれいむ。妹の自慢をするのが楽しいのだろう。 『れみりゃ』というのは、確か、空を飛ぶゆっくりで、れいむやまりさの天敵だったと思う。 「それはすごいね。じゃあ、人間にも捕まえられないのかな?」 「そ、それは無理だよ…。でも、まりさはとっても可愛いから、人間も意地悪なんてしないよ!」 「そうかな? 少し前、その可愛いまりさを地面に叩きつけた人間がいなかったかな?」 れいむはぎょっとして僕の事を見上げる。その顔は、死人のように青ざめていた。 「お、おにいさん…さ、さっきから…どうしてそんな事ばっかり聞くの?」 れいむの声が震えだす。本当に賢い奴だ。 『まりさ』『死』『人間』この三つのヒントで、僕の質問の真意に気がついたらしい。 「どうしてって? れいむちゃんは頭がいいから、もう分かっているんじゃないのかい?」 「し、しらないよ! れいむには、全然わからないよ!」 れいむは涙目で、いやいやと左右に首を振る。 分からないんじゃない、分かりたくない、の間違いだろう? 仕方が無い。駄々っ子のれいむちゃんにも分かるように、はっきりと言ってやろう。 「じゃあ教えてあげるね。僕、まりさを殺そうと思うんだ」 れいむの時間が止まる。僕は、じっとれいむの顔を見つめ続ける。まるで、この部屋の全てが凍りついたようだった。 壁掛け時計の秒針がカッチコッチと時を刻む音だけが、無情に響いている。 カッチコッチカッチコッチカッチコッチカッチコッチカッチコッチ 10秒ほど経ったところで、れいむの時間が再び動き出す。 「やめてぇぇぇぇぇぇええええええええ!!!!!! まりさを殺さないでぇぇぇえええええ!!!!!!」 魂の慟哭。この世の悲しみと苦しみ、そして恐怖をごちゃ混ぜにして塗り込んだような瞳。 そして、そこから溢れる絶望の涙を見た瞬間、小さな復讐を達成した暗い喜びが、僕の全身を駆け巡った。 「れいむちゃんが悪いんだよ。まりさの事ばっかり喋って、いつまでたっても、僕の事を好きになってくれないから」 「そんなことないよおおおおお!!!!!! れいむ、おにいさんのことが大好きだよおおおお!!!!!!」 れいむは必死に僕の脹脛に擦り寄ると、足の甲にキスをする。そして、哀願するような瞳で僕を見つめる。 この嘘つきめ。そこまでしてまりさを殺されたくないのか。 「本当かい? 嬉しいなあ。それじゃあ、僕とまりさ、どっちの方が好き?」 「ゆっ!?」 僕の意地悪な質問により、れいむが固まり、小刻みに震えだす。 どう答えればまりさを救う事が出来るか、懸命に考えているのだろう。額から滝のような汗が流れ落ちている。 時折、誰かに助けを求めるように視線を左右に動かすが、もちろん誰も助けてはくれない。 やがて、れいむは意を決したかのように、ゆっくりと口を開く。 「お、おにいさんの方が好きだよ!」 「そうか。れいむちゃんの気持ちは良く分かったよ」 にっこりと微笑んで、頭をよしよしと撫でてやると、れいむは大きく安堵の溜息をつく。 その顔には、自分は正しい答えを選んだんだ、という達成感が浮かんでいた。 僕は、そんなれいむの様子を見ながらほくそ笑む。 分かってないな。正しい答えなんて、最初から無かったんだよ。 その事を教えてやるために、僕はれいむに語りかける。 「僕の方が好きなら、まりさは殺してもいいよね?」 れいむの表情が一瞬で凍りつく。 こんな展開になるとは、まったく予想していなかったのだろう。 しばし口をパクパクと開閉させ、再び叫びだす。 「だめだよおおお!!! なんでそうなるのおおお!?」 なんでもクソもない。れいむがどんな答えを選ぼうと、 最初から僕はまりさを殺すつもりだった。これはもう決定していた事だ。 泣き叫ぶれいむを無視して、庭に向かうためドアノブに手をかけようとすると、 れいむがジャンプしてドアノブに噛りついた。なんとしても僕をこの部屋から出さないつもりらしい。 凄まじい執念、いや、妹を思う姉の情愛、と言うべきか。恐れ入った。 「困ったなあ。これじゃ、外に出られないよ」 涙を流しながら、必死にドアノブに噛み付いているれいむを見ながら、僕はにやにやと笑う。 もう『れいむをゆっくりさせてやろう』とか『れいむに嫌われたくない』などという気持ちは無くなっていた。 その代わり、僕の心の中に、暗く歪んだ欲望が蛇のように鎌首をもたげ始めていた。 『大好きなれいむの顔を、苦しみや悲しみでもっと歪ませてやりたい』 こういうのを、サディズムと言うのだろうか。 思えば、それ程悪い事をした訳でもないまりさに乱暴したり、怯えるれいむを無理やりさらったりしたのも、 僕の心中深くに埋もれていた、サディストとしての才能の片鱗がそうさせたのかもしれない。 まりさに対する嫉妬も、もうどうでもよくなっていた。 僕が今、まりさを殺そうとしているのは、ただ純粋にれいむを苦しめてやりたいからだ。 目の前で、最愛の妹をズタズタに切り刻まれて殺されたら、れいむはどんな顔をするだろうか。 その素晴らしい光景を想像して、僕は勃起していた。 「ゆぐぐぐ…うがぐぐ…」 やがて、れいむが苦しそうにうめきだした。 ゆっくりには鼻が無い、つまり、息を吸うのも、吐くのも口だけである。 れいむは、その唯一の呼吸器官をドアノブで塞いでいるのだ。当然、息が出来ない状態である。 無呼吸状態をいつまでも続けられる生き物などいない。 僕が何もしなくても、後数秒もすれば、れいむはドアノブを放すだろう。 「ぷはぁっ!」 思ったとおり、酸欠で紫色になったれいむが床に落ちる。一分間は呼吸を止めていただろうか。 ゆっくりとしては驚異的な時間、無呼吸で過ごしたれいむは、時々ひきつけを起こしながら荒い息を吐いている。 僕は、頑張ったれいむの背中を優しくさすってやる。 「お疲れ様。それじゃ、行ってくるね」 「ま、まって…ごほっ! やめ、やめて…げほっ! ごほっ!」 まだ呼吸が回復していないのに、無理に喋ろうとして激しく咳き込むれいむ。 僕は、動けないれいむを残して部屋の外に出ると、一応鍵をかける。 それから、庭に向かって歩き出した。 後編に続く このSSに感想を付ける
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※もう何番煎じかもわからない・・。短いです。 制裁? 倒れていた花瓶を起こす。よし、割れてはいないようだ。 片付けは終わりだ。思ったより荒らされてなくてよかった。 あとは、こいつ。 「じじい!!れいむのこえがきこえないの?ばかなの?」 下手人もとい下手饅頭。 れいむとかいう種類らしい。 最近になって現れ始めたゆっくりの中でもポピュラーなやつだそうだ。 仕事から帰ってきたら部屋の真ん中でゆーゆー歌ってやがった。 「じじいはれいむのびせいをきけたんだからおかしちょうだいね!!」 こいつらって毎回こんなだから潰されるんだって。 「ゆゆーん!!もうおこったよ!!みのほどしらずなじじいはゆっくりしね!!」 頬を膨らませ、ぽふぽふと俺の足にタックルかましてきた。 乳酸溜まりまくりで疲れた足に心地いいようなそうでもないような。 「あ、そうだ。」 「じじいは!ゆっくり!!しね!!」 れいむを掴む。口を塞ぐ感じでこう。 「ゆぎゅ!!」 机の上に載せる。 一度やってみたかったんだよなあ。 「ゆゆ!!おかしがあるよ!!やっとこうさんしたんだね!!」 机の上にあった濡れせんに反応した。 「むーしゃ・・・なにこれ?おせんべさんじゃないの?」 俺はというと、両手を高々と上げ、片足立ちになる。 俗に言う、鶴のポーズだ。 「こんなのおせんべさんじゃないよ!!ちゅうとはんぱなおかしはゆっくりしね!! ぷぷー♪じじいなにしてるの?ほんとうにゆばかさんな」 「ヒャウッ!!」 すぱーーん!! いい音だ、やはり平手打ちはいい・・・。 「・・・・ゆ?」 打たれた本人は状況が飲み込めない様子。 頬が赤みを帯びていく。 「い”!!・・・い”ぃ”ぃ”ぢゃ”い”よ”」 「(゚Д゚)ホワァ!!! 」 「うぎっ!!」 二発目は逆から。右頬を打たれたら・・・ 「なんとやらァ!!」 「ぴっ!!」 今度は頭から打ち下ろす。 「やべ・・・じだがんじゃったあ!!」 「キャオラッッ!!!」 顎を掬い上げるように打つ!! 「じだぢぎれじゃう”ううううう”!!」 「病み付きになっぢゃううううう!!」 追撃、追撃、追撃。 あ、舌千切れてやがる。 何発打っただろうか。手を止める。 「ひょ・・・・ひょぼほ・・・ゆっひゅりいい・・・」 舌無しれいむはひゅふひゅふ息を吐いている。 白かった肌は内出血(餡?)により全身黒く染まり、丸かった体はでろんと爛れたように弛緩している。 ここまでやって皮が破れなかったのは自分でも驚きだ。 何で平手打ちかって? この間里で開かれた、「紅☆美鈴の護身術講座」で、「拳を痛めないから初心者にもオススメ☆」と教えられたからだ。 加工場製のゆっくりサンドバッグとか持たない俺は満足に練習も出来なかったから、丁度よかった。 「おへひゃいれふ、ひゅるしてくらはいぃぃ・・・」 「あ、ありがとな。ほれ。」 戸を開けて、放り出してやる。 さて、夕食にするか。 翌朝、玄関先の地面に黒い線が引いてあった。 辿っていった先に、ぺっらぺらになった件のれいむがいた。 ああー、あんだけぶっ叩いたからなあ。皮の組織なんてぐずぐずだったろう。 そんでここ砂利道だし。這い出した瞬間に石に引っかかってぷちっと。 「な”んであ”ん”ござんででるのおお!!!!とか言ってたんだろうなあ。」 やべ、お隣さんに今の聞こえたかも。 名も無きれいむよ、次生まれ変わる時には願わくは濡れせんのうまさがわかるようになるといい。 虫がたからないうちに餡子片付けよっと。 〈fin〉 あとがき 久しぶりの投稿になります。こんな短い駄文にお付き合いいただきありがとうございます。 ゆっくり連環腿の時が拳打だったので今回はビンタです。 ゆっくりの肌がもちもちしてるところを想像したらぶっ叩きたくなったもので・・。 美鈴の護身術講座とかあったらいいなぁ。上級コースになったら寸勁とか打てたらいいなぁ。 全ての虐待ファンの方に感謝を。 またお目にかかる機会があったらよろしくお願いします。 今までの作品 紅魔館×ゆっくり系8 ゆっくりゃバーガー 虐 ゆっくり加工場系18 ゆっくり連環腿 虐 薬 道 慧音×ゆっくり系5 ゆっくり奇々怪々(上) 慧音×ゆっくり系6 ゆっくり奇々怪々(中) 慧音×ゆっくり系9 ゆっくり奇々怪々(下) その他 にちょりは仲良く暮らしたい。 by 少女Q このSSに感想を付ける
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※使い古されたテンプレを用いています。 「ゆっくりしていってね!」 家に帰ると下膨れの生首がいた。黒い帽子をかぶり、金色の髪をした全長が三十センチほどのそれは跳ねながら私の方 へと寄ってきた。生首が跳ねながら寄ってくるのは出来の悪いホラー映画のようで、滑稽でもあり恐ろしくもあった。 「おにいさんはゆっくりできるひと?まりさはおなかがすいたよ。ゆっくりごはんをよういしてね!」 生首が何かを言っていたが、私はドアを閉めてその場を立ち去った。 「そりゃゆっくりだな。間違いない。」 友人は私が持参した安い酒を注ぎながら自信ありげに言った。あの後私は謎の生命体がいる部屋に入る気になれず に友人宅を訪れた。 「知っているのかい。」 「今の時代にまだ知らない奴がいる方が驚きだ。新聞でもゆっくりの被害について散々取り上げている。ほら。」 渡された新聞には確かに生首らしき生き物の写真が載っていた。悪夢は現実だということに戸惑う私をあざ笑うかのよう に彼は続けた。 「ゆっくりというのはなぜか生きている饅頭だ。見た目は人の生首だが中身は餡子が詰まっていて、 人間の言葉を話す。時々食料や住処を求めて人里に出没するそうだ。新聞も読んでいないようだし、 お前もゆっくり対策をしていないんだろう。」 「どうすればいいと思う。」 「普通の人なら踏み潰して黙らせてからゴミに出すな。」 あっけらかんと友人は言った。確かにセイブツではなくナマモノであるならばそれは正しい判断だろう。説明が本当である ならば外から入ってきたそれらは落ちた饅頭に等しい。食べようと思えば食べれるだろうが、無理して食べるほどのものでも ない。でもあれを踏み潰すとなると気が引ける。口をふさいでもゴミ捨て場で暴れられては困る。殺すのは別にかまわない が衛生的で安全なゴミへの出し方はないだろうか。 私の考えがゆっくりの殺害方法へシフトしていったとき、再び友人が喋り出した。 「そういえばゆっくり処理機でもう使わないのがあったな。お前にやるよ。」 友人は手にしたお猪口に酒を注いだ。口元が邪悪に歪んでいる。おそらく、笑っているのだろう。正直、彼の こんな表情を見たのは初めてだった。 「………サンキュ。持つべきものは友達だな。」 友人からゆっくり処理機を受け取った後、家路をたどりながら思った。あれはお猪口ではなく口を針金で固定された ゆっくりだったと。今頃あれはアルコールで混濁した意識の中彼に何をされているのだろうか。 家の戸を開ける。 「ここはまりさのおうちだよ!しらないおにいさんはゆっくりでていってね!」 やはり夢ではなかった。部屋の中には生首の饅頭がいた。最初は不気味に思えた生首も今となっては処分に手間の かかるゴミとしか思えない。 「ここでゆっくりするならたべるものをもってきてね!まりさはかんだいだけどゆっくりしてたらおこるよ!」 無視して部屋の中を調べる。本棚から本がこぼれていたりゴミ箱が倒されたりしていたので、片づけておく。 「おそうじしてくれているんだね。でもはやくたべるものをもってきてね!そうしたらまりさのめしつかいにしてあげるよ! こうえいにおもってね!」 元々物が少ないせいかゆっくりの被害はあまりなかった。ゆっくりの届くところには缶詰しかなかったため、食料も 無事だった。窓から逃がしてもよかったが、他の人に迷惑をかけたらいい気分はしないのでここで処分することにする。 友人からもらったゆっくり処理機は透明な箱だった。ただし、上の面だけは鉄でできており、ハンドルの付いたネジが 飛び出している。使い方は一目見て理解した。 ゆっくりを捕まえて箱の中に入れる。 「ゆ?せまいよ!ここじゃゆっくりできないよ!はやくだしてね!」 ゆっくりがわめく。五月蠅い。私はハンドルを回していく。天板がゆっくりと降りてくる。 「はやくだしてっていってるでしょ?わかんないの?ばかなの?」 まだ自分の立場が分かっていない。はやる気持ちを抑えながらゆっくりとハンドルを回す。 「ゆっ?おかしいよ?てんじょうがおちてくるよ!ゆっくりさせてね!ここからだしてね!」 やっと気づいたようだ。大丈夫、すぐに殺したりはしないよ。そこで好きなだけゆっくりさせてあげるよ。死ぬまで。 心臓の鼓動が高ぶり、熱い血が体中を巡っていることが分かる。 「ゆぐーっ!ゆぐーっ!」 体を膨らませて必死で抵抗している。どれだけ膨らんでも押し返せるわけないのに。ああ、なんて可愛いんだ。 「うううぅぅぐるじいいいいぃぃだずげでぇぇ」 だんだんとゆっくりの形が歪んでいく。箱を倒して表情を見る。ゆっくりは涙を流しながら助けを求めるような眼をしていた。 ところどころ皮が裂けて、中身の餡子が見えている。そんな眼で見るなよ。もっと苦しめたくなっちゃうだろ。 「いばならゆぐじであげるよ………ゆっぐじだずげでね………」 この状況で助かると思っているんだ。あっけなくちゃつまらないからね。ゆっくり、ゆっくりといじめてあげるよ。 私はゆっくりを放置して戸棚へ向かうと、マッチを手に戻ってきた。 「ぐひゅー………ぐひゅー………」 もはや息も絶え絶えといったところだ。私は火をつけたマッチをゆっくりを潰している鉄板の上に落した。 「ぐぎいいいぃぃぃぃぃぃ」 ゆっくりの絶叫が響く。まだまだ元気いっぱいだね。ゆっくりしていってね。 「ぐぐぐ………げぶっ………ごぼっ…どぼじで…ごんな………」 餡子を吐き尽してゆっくりは動かなくなった。そろそろ夜が明けようとしていた。当初の目的を忘れ一晩中ゆっくりの相手 をしていたようだ。 「どうしてこんなことするかって?」 私はゴミになったゆっくりに向かって言った。 「予想以上に君が可愛らしすぎたんだ。」 朝の陽射しの中、私は友人の笑みの意味が分かった気がした。 終 後書き 「万能お兄さん」の人に憧れて書いてみた。 SS書くのって難しいと痛感した。 お目汚し失礼いたしました。 このSSに感想を付ける
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その日は縁日だった、何気なく立ち寄ったゆっくり屋で、私は子ゆっくりを買うことにした 子ゆっくりはテニスボールくらいの大きさで、みんな元気に跳ね回っていた 私は隅っこにいた、ゆっくりれいむを一匹買うことにしたのだが 「いやだよ!まりさとはなれたくないよ!」 「そうだよ!まりさはれいむといっしょにいたいよ!」 などと、野良ゆっくりだった頃の友達だろうか?れいむを連れて行こうとする私にまりさが抗議をする 怒ったテキ屋の兄ちゃんが、ゆっくり棒で軽く殴るが連れて行かせまいと、れいむの前に立って体を膨らませて威嚇している ゆっくりの美しき友情に心底感動した私は、当初の予定を変更して、この仲の良いゆっくり達を全て買い取ることにした 「一匹飼うのも二匹飼うのもそう変わりません、仲の良い友達同士、離れ離れにするのは酷なことですからね、二匹とも買い取りましょう」 「そうか、いやぁ~すみませんね、お兄さん」 仲間と離れ離れにならず、みんなで一緒にいられると聞くとゆっくり達はとても喜んでくれた 「ゆゆ~!ありがとうおにーさん!」 「まりさたちをゆっくりかわいがってね!」 君達を可愛がる?そんな事をする気は毛頭無い こうして二匹のゆっくりを購入した後、途中で射的をしたり、綿飴やりんご飴を買ったりして家路についた 道中、ゆっくり達は歌を歌ったり、仲間と一緒にとび跳ねたりして楽しそうにしていた 見ていると本当に心がなごむ、愛らしい姿なんだろう、最も私には不快にしか映らないが お腹がすいたというので千切った綿飴を少しあげると、喜んで食べてくれた 「おにいさんはゆっくりできるひとだね!れいむとってもゆっくりできるよ!」 「おいしいおかしだね!とってもおいしいよ!」 普通のゆっくり達ならお菓子を奪い合ったり、喧嘩をするが、このゆっくり達は平等に綿飴を分け合って食べている ゆっくり達の顔はどれも名前の通り、安心しきった、ゆっくりとした表情をしていた あぁ、早くこの顔を絶望に歪ませたい 家に着くと、ゆっくり達はさそっくお家宣言を始めるゆっくり達 「おっきなおうちだね!れいむたちのゆっくりプレイスにするよ!」 「まりさたちにぴったりのおうちだね!」 家に入るとすぐに自分たちのお家宣言をする、これはゆっくりの悪い癖だ、このセリフのせいで虐待されたゆっくりはどれだけ居るのだろうか? ともかく玄関先で騒がれては近所迷惑になってしまう、私はゆっくり虐待用の部屋にゆっくり達を連れていき、籠から出してやる ゆっくり達は無邪気に飛び跳ねながら楽しそうにしている虐待し甲斐のあるゆっくり達だ 「おにいさん!おなかへったよ!」 「ごはんをもってきたらまりさたちのおうちでゆっくりしてもいいよ!」 何がおなか減っただ、身の程をわきまえないとひどい目にあうということを教え込んでやる 楽しそうに飛び跳ねているれいむの髪を掴んで、乱暴に持ち上げる 「いっ!いたいよおにいさんゆっくりおろしてね!」 痛みに顔をしかめながら、れいむは私をぷくーと膨れて睨みつけてくる お友達が痛い目に逢っているのを見るなり、まりさもぷくーと膨れて怒っている 「おにいさん!れいむのかみをつかむのやめてあげて!」 友達が痛い目にあうと、自分のことのように怒る、良い子だな本当に、だからこそ痛めつける 「ははは、すまないね僕は良いゆっくりにも、悪いゆっくりにもとても厳しいお兄さんなんだ 特にこのれいむは心の汚れた悪いゆっくりだから、特別痛めつけてやるんだよ」 私の滅茶苦茶な説明を聞くなり、れいむは涙声で反論する 「ひどいよ!ひどいよ!れいむはいいゆっくりだよ!」 うるさいゆっくりだ、お仕置きが必要だな、私は素早くポケットから縫い針を取り出すとれいむの後頭部に軽く突き刺す もちろん、これで殺すわけではないあくまで浅く突き刺す、しかしれいむにはとても痛かったようだ 「ゆ゛っ゛!いだぁい!」 れいむの声がうるさいので、泣きわめくれいむにゆっくり用の猿轡をつけると、加工所のベストセラー商品、透明な箱に入れる ちなみに、この透明な箱の底には薄く水が張っておいた、少しでもゆっくりに不快な気分になってもらうための一工夫だ 中でれいむはふごふご言っているが無視 まりさはれいむを傷つけた私に向って怒鳴り始めた 「ひどいよおにいさん!まりさたちのおうちからでていってね!」 馬鹿なゆっくりだな、ここは先祖代代受け継いできた家だ、貴様らの家だと笑わせるな 「ここが君のうち?馬鹿言わないでくれ、先祖代代受け継いできた家なんだぜ 君みたいな身の程知らずの馬鹿には死ぬまで苦しんでもらうよ」 私はまりさの帽子を取り上げると、まりさの頭を針で何度も突き刺す 「ゆゆっ!いだいおにーさんやめて!やめて!」 まりさは針から逃げようと右往左往逃げ回る、愉快な奴だ 軽く蹴り飛ばすと「グッびゅ!」と鳴きながら転がっていく 箱の中でれいむがまたふごふご言いだした、大事なお友達が痛めつけられるのをよく見とけ、ボケが 痛みで動けないまりさをれいむと同じ様に、透明な箱に入れる そして、箱の中に河童印の唐辛子スプレーを吹きかける 「ゆぎゅっ゛つ゛!い゛だぁ!」 体中に焼けるような痛みを感じて、鼻水と涙を流しながらまりさは悶え苦しむまりさ 苦し紛れに飛び跳ねているから、透明な箱中に鼻水や涙が飛び散っている、汚いゆっくりだ さて、少し運動もしたし腹が減った夕食にでもしよう 私は虐待部屋から出るとすぐ、食事を始めた 炊き立てのご飯に昨日のカレーの残りと温泉卵を乗っける、独り身だと夕食なんたこんなもんだ 食べ終わるとすぐに私はゆっくり虐待部屋に向かう 食事の間中も頭の中はゆっくりを痛めつけることで一杯だった、こんな私は巷で話題のゆっくり虐待脳なのだろうか? 私は虐待部屋に戻ると、透明な箱に入っていたれいむとまりさを乱暴に引きづり出した れいむは箱から出るなり私に体当たりをしようとする、しかし、長い間底部が水に浸かっていたせいか、ふやけてうまく跳ねれない かといって、罵詈雑言を吐こうにも猿轡を噛んでいてはそれも叶わない、結局膨らむだけにしたようだ 一方まりさはさっきのスプレーでのどを痛めたのか、しきりに咳をしている ざまぁみろゴミ虫め 「君達も疲れているだろう、このダンボールの中で寝なさい」 出来るだけ優しく言ってやったが 「ん~!んんむんむ~!」 「おにいさんのいうことなんかきかないよ!とっとときえてね!」 だそうだ、人の好意も素直に受け取れない糞ゆっくりは…こうだ! 二匹の髪を掴むと、ダンボールの中に手加減して叩きつける 「ゆ゛っ!ひどいよおにーさん!」 「ん゛ん゛んぅ!ん゛~む゛ぅん!」 「ゆっくりできてないよ!れいむだいじょうぶ!れいむ!」 まりさは体が少しへこむ程度で済んだが、れいむは違った 水を吸ってふやけていた底部が破けて、餡子が滲み出できている 痛みに身をよじって体を揺らしている、おおきもい、きもい こんなに痛がるなら猿轡を外してからやればよかった、そうすればれいむの苦しむ声をたっぷり聴くことができたのに 少し軽はずみな行為をしてしまった事を恥じながら、れいむの猿轡を外す 「ゆ゛ぅえ゛っぐ…ひ゛っぐれ~むのあしが!」 「おちついて!ゆっくりなおるからおちついてね!」 「ゆっぐ…ひっ…ぐ…ゆっゆ」 「おちついて!だいじょうぶだよれいむ!」 ゆっくりにとっての足の部分が破けたショックで、過呼吸気味のれいむを落ち着かせようと、まりさが頬擦りを始めた 頬擦りはゆっくり達の友愛の証でこれをする方もされる方もゆっくりできるらしい しかし、私に貴様らをゆっくりさせる気は全く無い ゆっくり共の入ったダンボールを持ち上げると、上下左右に素早く小刻みに揺らす 中のゆっくり達はピンポン玉のように、あっちに飛んだりこっちに飛んだりして、ダンボールにぶつかる度に悲鳴を上げているいる これなら、ゆっくりピンボールとか作ったら売れそうだな 「じしんだよ!こわいよいやだよ!」 「いだいよ!いだっひぅあしがいっだいよぉ!」 まりさは地震と勘違いしてしまったようだ、眼を固くつぶって震えながら転がっている、馬鹿な奴だな れいむの方は揺れて転がることで傷口がどんどん広がっている、漏れ出す餡子の量も多くなってきている ここで殺すのもありだが、もう少し生かしてやることにした ダンボールから二匹を出すと、まりさが私に泣きついてきた 「おにーさん!このままじゃれいむがしんじゃうよ!いままでのことゆるしてあげるかられいむをなおして!」 「まりさだけでもにげて!このままじゃまりさがゆっくりできなくなるよ!」 「れいむはだまっててね!まりさはれいむといっしょじゃなきゃゆっくりできないよ!」 この言葉には普通の人なら感動するだろうが、私には骨の髄までゆっくり虐待の血が流れている どんな感動的なことをしたとしても、それがゆっくりなら虐待するまでだ 「なるほど、まりさはれいむのことを治してあげたいんだね?」 「そうだよ!ゆっくりしないでれいむをなおしてね!」 「しょうがないな、私なりのやり方で治してあげるよ!」 私は素早くれいむを仰向けにすると、濡れてふやけた底部の皮をむりやり剥ぎ取る 「ゆっ!いだい!いだぁい!いだい!」 「れ…れいむになにするのー!しね!しね!」 まりさは顔を真っ赤にして私に突撃してくる、それこそ私を殺すつもりの体当たりだったのだろう しかし、しょせんはゆっくり、痛くもかゆくもない、むしろぷにっとして気持ちいい だが、ゆっくり風情が人間様に楯突くとはどういうつもりだ 私は力の差を教えるためにも、まりさを捕まえると、右目の部分に噛み付き、引きちぎった 口の中が程よい甘さでいっぱいになる、しかし私は辛党だ、ゆっくりなど食べても不快な気分にしかならない 嫌々、何度か咀嚼してすぐに吐き捨てる、左目は縫い針で何度も突く、突き刺すたびに目からは餡子とは違った、透明な液が噴出する 言葉にならない叫びを発するまりさを思い切り殴りつける、後頭部がへこんで口からボトボトと餡子をおう吐し始めた ふぅ…すっきりした、たまにはこんな風にワイルドに痛めつけるのも悪くない 第一、れいむに関しては本当に直してやるつもりだったんだ、それを死ね、などと言われたら少しくらい怒ってもしかたないではないか 「こないでぇ!いじめるのはまりさにして!こないで!」 「ぎぃ!う!うっぷうっ…おぇ~」 さて、れいむはというと、さっきまりさにやった折檻がよほど恐ろしかったようだ 足のない身で、必死に私から離れようとしている まりさの方は、噛みちぎられた右目のあった場所と口から、命の源の餡子を垂れ流している 左目はどんより濁って、なにも映してはいないようだ しかし、れいむの「いじめるならまりさにして」発言は良く聞こえたようだ 「びどぉい!でいむびどいよ!」 と、餡子を口から飛ばしながら叫んでいる、それから一分とかからずまりさは息を引き取った まりさが死んだことを確認すると、私はまりさの底部をれいむのように剥ぎ取った 私は、逃げようとするれいむに近付くと、出来るだけ穏やかな表情を作って話しかける 「れいむ、今から私は君の体の治療をする、痛くするつもりは毛頭無い けど、もし逃げようとしたり、泣いたり、私を不快にするようなことをしたら、ただではすまないよ」 「わわかったよ!にげないしなかないよ!」 それなら良い、私はまりさから剥ぎ取った底部をれいむの底部に張り付ける、ぴったりとはいかなかったが ゆっくりは単純でいい加減な生物だ、すぐに癒着するだろう 「これで大丈夫、しばらく動かなければきちんと歩けるようになるよ」 「ゆっ!それじゃあうごかなふぎゅ!」 すかさずれいむを踏みつける 「何かしてもらったら、普通はありがとうございましたって言わないかな?」 「ゆぐ…ありぎゃとうごじゃいまちた!」 痛みに耐えてれいむはお礼を言った、この男に逆らえば絶対にゆっくりできない、というのがゆっくりブレインにもよく分かった それからしばらくすると、れいむの皮とまりさの皮はきっちり癒着して、普通の状態に戻っていた 「良し、治ったね、それじゃあちょっとジャンプしてくれ」 「ゆっ!わかったよ!ぽよーん!」 なるほど、きちんと癒着しているようだジャンプ力も問題ない れいむが不快な擬音を口にして飛び上った瞬間、私はれいむの底部をけり上げた 「ゆぎゅ!」 移植したばかりだった、れいむの底部は簡単に破れた 痛みに悶絶するれいむを無視して、まりさの死骸から口を削ぎ落とす そして底部の破れた場所に、無理やり押しあてる 「ぎゅぅ!!!いふぁい!いだいぢだい!」 「黙れ、殺されたいか」 「ぎゅ!っつ…ん…む」 私のことを本当に恐れているのだろう、れいむはすぐに静かになった それから五分後、れいむは底部に口を持つ、世にも珍しい二つの口を持つゆっくりになっていた その結果に満足した私は、れいむを小さな透明な箱に入れると、今日一日の疲れを癒すべく寝室に向かった 一方れいむは、男への怒りで体中が爆発しそうだった 透明な箱はれいむのサイズより一回り小さかったが、男に無理やり押し込められた、身動き一つ取れない なんで可愛いれいむがこんな目に会わなきゃいけないの? 腹立たしげにれいむは呟いた 「「ゆっくりできないよ!」」 れいむは驚愕した、自分の体から死んだはずのまりさの声がしたのだ 「「まっまりさ!いきてたの?」」 しかも、不気味な事に自分の言うことを真似してくる これは、まりさの霊がれいむを祟りに来たんではないか そう思うと、体中から冷や汗が出てくる 「「れっれいむはわるくないよ!」」 「「しんでるくせにふざけないでね!」」 「「まねしないでよ!」」 「「ねぇ!やめてよ!」」 「「れいむはわるくない!ほんとだよ!」」 「「おねがいだから!まねしないでね!」」 「「やめてやめてれいむはわるくないよ!」」 れいむは朝まで自分の発した声に怯えていた 私は朝起きると、朝食をしっかり取ってから虐待部屋に直行した 中ではれいむが何やらぶつぶつ言っている、そして同時に死んだはずのまりさの声も聞こえてくる、どうやら成功したようだ 「おはようれいむ、昨日はよく眠れたかい?」 「「おにーさん!たすけて!まりさがどこかにいるよ!れーむのまねをするよ!」」 私は塩水をたっぷりれいむにかけてやった 「「ぎゅぅ!からいよ!くるしいよ!」」 「朝のあいさつはおはようございますだろ、言ってみなさい」 「「おはようございます!」」 「よろしい」 れいむは辛い辛いと騒いでいたが、いきなり真っ青になって私に体の異変を訴えてきた 「「ゆ゛っ!へんだよ!すっごくへんだよ!」」 「何が変なんだい、言ってごらん、れいむ」 「「れいむのあしがあじがわかるんだよ!へんだよ!おかしいよ!」」 私は苦笑してれいむの疑問に答えてやった 「それはね、君にまりさの口を移植してやったからさ、君の足にはまりさの口があるんだよ」 「「そそんなはずないよ!いやだよおくちはひとつでいいよ!」」 真実を教えてやったのに、そこまで言うなら仕方ない、れいむを透明な箱から取り出すと床に落とす ゆっくりの底部は頑丈で弾力がある、普通のゆっくりならこれ位痛くもかゆくもない しかし、れいむは違った 「「いだぁい!いだぁいよなんで!」」 れいむの底部には、まりさの口が付いていた ゆっくりの口はそう頑丈じゃない、裏返してみると何本か歯がへし折れていた 騒ぐれいむを無視して、私は一メートル四方の超巨大透明な箱を持ち出す 中にたっぷり塩を入れると、その中にれいむを放り込む れいむは底部を塩の床につけるなり、辛い辛いと騒ぎだした 騒げば騒ぐほど、底部の口から塩がれいむの体内に入っていく あと数分もすれば、このれいむは大嫌いな塩でお腹いっぱいになれるだろう 「ゆっくり味わって食べなよれいむ、塩はたくさんあるんだから」 「「いや!たすけて!ゆっくりできないよ!からいよ!くるしいよ!たすけて!」」 二つの声で何かに助けを求めるれいむ ゆっくりにとって、塩は大量に摂取すれば死の危険性もある食糧だ、帰ってくる頃には苦悶の表情で死んでいるだろう 朝から愉快なものが見れた私は、虐待部屋から出た後すぐにゆっくり加工所に向かった そう、私はゆっくり加工所で働いているのだ、家に帰っても虐待、職場でも虐待 私はこの世で最も幸せな男なのではないだろうか、といつも思う 自分の本当に好きなことを職業にできたのだから 作:ゆっくりな人 以前書いた虐待 ゆっくりカーニバル 臭い付きゆっくり(上) 臭い付きゆっくり(下) このSSに感想を付ける
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現代もの ゲス、レイパー、ドス バッジ設定あり 俺設定 虐待分薄め? 「ゆっくりの失踪事件、ですか?」 渡された資料に目を通しながら、俺は編集長に言った。 都内にある、とある出版社の編集部。俺はここでゆっくりの総合雑誌である『月刊ゆっく り』の作成に携わっている。 ゆっくりの生態から飼い方、取引価格の相場に法改正の動き、愛でに虐待と何でもござれ の雑誌だ。愛でと虐待のページがそれぞれを好む読者への配慮として閉じられているため、 全体の半分が袋とじという妙な外見となっている。 五十代も半ばを過ぎた上司は、かけた眼鏡を押し上げてから俺の言葉に頷いた。 「ペットの盗難事件じゃ……ないようですね」 最初に考えたのはそれだ。 希少種や有名なブリーダーのしつけを受けたゆっくりは高値で取引される。それを狙った 犯行がかつて流行ったが、労力の割りに合わなかったのか、すぐに下火になった。 現在起こっているゆっくりの盗難は極端な虐待派か、極端な愛で派のどちらかというのが 実際のところだ。 今回もそんなところだろうと思ったが、資料によると被害を受けているのは―― 「失踪しているのは野良が大半だ。飼いゆっくりのケースもあるが、報告は少ない。 加工所の野良対策部からの情報が23件、飼い主からの情報が5件だ」 「……これ記事にする価値、あるんですか?」 俺はそう言わずにはいられなかった。ゆっくりが、特に野良がいなくなることなど珍しく も何ともない。 現代日本に突如として現れた謎の動く饅頭、ゆっくり。奴らは生物として、種として、異 常と言えるほどに弱い。 他の動物に食料にされ、池や川に落ち、車に轢かれ、辛味を食して中身を吐き、人間に潰 される。 今回もどうせ人目につかないところで死んだのだろう。 しかし編集長は、そんな俺の考えを見通したかのように言った。 「ただ死んだのならば無いだろう。だが死んだのではなく『いなくなった』のだ。 仲間であるゆっくりの目の前で、忽然と消えたらしい。 飼いゆっくりの方は、飼い主が直接目にしたケースが無いから何とも言えないが……」 言うなれば、ゆっくりの神隠しか。俺はこの件に興味を持った。 どこから来たのか解らず、言葉を話し、中身は餡子。そんな不思議ナマモノに、新たな不 思議が加わるかもしれない。 子供のような好奇心に感情を揺らされ、俺は笑みを浮かべていた。 「分かりました、締め切りはいつですか?」 「雲をつかむ様な話だからな、そもそも記事にならないかもしれん。 取りあえず二週間後としておくが、形にならなくても報告はしてくれ」 他の仕事も有るが、終わる目処は付いている。差し当たっての問題は無いだろう。 俺は編集長に頭を下げ、自分のデスクに戻った。 タバコを咥え、火をつけようとすると隣のデスクの同僚から「禁煙です」と言われた。 そんなことは分かってるよ、癖だちくしょうめ。ちょっと前から喫煙所以外では吸えなく なった。世間での流行りらしい。 俺はタバコを箱に戻すと、混沌としたデスクの上を整理し始めた。 結局その日は、資料を読むのと、事件に遭った飼い主に取材のアポを取るので終わってし まった。 ――ゆっくり失踪事件―― 「八雲出版『月刊ゆっくり』のものですが」 2日後、静かな住宅街にある一軒の家の前で、俺はインターホンに向かっていた。 取材に応じてくれた飼い主の一人の家だ。かなり大きな庭付き一戸建てである。裕福な家 庭なのだろう。 ここの夫人はゆっくりれいむを一匹飼っていたが、一月ほど前に失踪したらしい。 機械越しに二、三言葉を交わした後で、飼い主である夫人の案内でリビングに通された。 金をかけている。家の中に入っての第一印象はそれだった。家具はどれも気品漂うものだ。 茶を淹れると言って席を離れようとした夫人に、飼っていたゆっくりの写真は無いか、と 尋ねた。 「それでしたらアルバムが有りますので、持って参ります」 「いえ、一枚だけで結構ですので、なるべく新しいものをお願いします」 あら残念、とばかりに夫人は肩を竦め、リビングから出て行った。 危ないところだった。電話での態度からすると、夫人はれいむを溺愛していたようだった。 アルバムを見ながらの解説付きゆっくり自慢なんてのは堪らない。 「これが、私の飼っていたれいむです」 戻ってきた夫人から差し出された写真には、しつけ度最低を表す銅色のバッジをリボンに 付けた、バスケットボール程のでっぷりと肥え太ったゆっくりれいむが写っていた。 下膨れの身体に、にやけた口元。垂れた目尻に、つり上がった目元。そして撮影者を見下 すような視線。 栄養状態が良かったからか肌のツヤ、髪質は申し分ないものの、間違いないだろう。素人 の金持ちがゆっくりを飼うと、甘やかしてしまって大概はこうなる。こいつはゲスれいむ ――『でいぶ』と呼ばれる存在だ。 出された紅茶を一口飲んでから、俺は本題を切り出した。 「それで、失踪していたゆっくりの話ですが……」 それからが大変だった。よくもここまで舌が回るものだと感心するほど、夫人は飼ってい たれいむについて語り始めた。 自分がどれほどゆっくりを可愛がっていたか。 どれほど可愛かったか。 失踪したことでどれほど自分が悲しんだか。 それらを延々と語った。 「食事は毎日最高級のゆっくりフードを三回、おやつには有名なパティシェ監修のケーキ を与えていましたわ。 それでもグルメなんでしょうね。より美味しい食べ物をねだって来て、その時の眼差し が愛らしくて……」 こちとらコンビニ弁当が主食だというのに、いい身分だ。挙句にそれにさえも満足できな いとか、甘やかすにもほどがある。 「れいむに食べさせるために、評判のお菓子屋を回るのが趣味になってしまいました。 でも可愛いれいむのためですもの、苦労も喜びのうちですわ」 飼い主は嬉々としてやっているし。親バカならぬ飼い主バカだ。仕事柄この手の人間には よく会うが、何度目でもうんざりする。 「部屋はすぐに庭に出れる日当たりの良い二十畳ほどの部屋を与えてあげましたし、庭の 外にも出たいと言うので塀にれいむ用の出入り口を作ってあげました。 とってもきれい好きで、少しでも部屋が汚れるとちゃんと掃除の必要があると伝えて来 ますのよ」 俺の部屋なんてボロアパートの6畳1R……やめよう、これ以上は自分が惨めになる。 それときれい好きなら自分で掃除ぐらいしろと。 「自尊心も強くて、おもちゃで遊んであげようとすると、それは自分のものだと主張して、 小さな身体で必死にじゃれついてきて、本当に可愛らしかったものです。 他にも……」 じゃれてるんじゃなくて、攻撃していたんだろう。れいむが飼い主と自分の立場を理解し ていたとも思えないし。あ、遠い目してる。これは止まらないな。 だが聞きたいのは失踪の瞬間の状況だ。これ以上このマシンガントークに付き合ってはい られない。夫人に目をやると、涙を流して悲しみに嘆いている。俺は気づかれないよう溜 め息をついて、気合を入れるように紅茶を飲み干した。既に冷めてしまっている。 それから何とか夫人を宥め、失踪当時の状況を尋ねたものの、大した情報は得られなかっ た。 その日れいむは昼食を食べるといつものように(午後の日課らしい)家の外に出かけてい ったが、夕食の時間になっても帰らない。飼いゆっくりの証であるバッジには発信機が付 いているため、それを頼りに探したが見つかったのはバッジだけだった。近所の公園に落 ちていたバッジは無理やり外された様子も無く、周囲には何の痕跡も無かった。 そこで夫人は公園に住んでいる野良のゆっくりに尋ねてみたという。 野良ゆっくりたちは、確かにバッジを付けたれいむが来ていたこと。 そのれいむは「自分をゆっくりさせろ」と繰り返し、非常にゆっくりできなかったこと。 現れてしばらくしてから、れいむは突然消えたこと。 以上のようなことを久しぶりの「あまあま」に舌鼓を打っていた野良たちは、食事の邪魔 をされたことに気分を害しながらも餡子まみれの口で答えたらしい。 その野良を命の危険があるところまで叩きながら聞いたというので、間違いは無いだろう。 最初は野良が食べている「あまあま」が、自分の飼いれいむだと思ったらしい(結局ただ の饅頭だったとか。ゆっくり好きの人間が与えたのだろう)。 愛で一辺倒の飼い主かと思ったが、飼いれいむを食われたと勘違いして怒り心頭だったと はいえ、中々ワイルドなことをするものだ。 自身もゆっくりを飼っているのに野良にはそんなことができるのか、とそれとなく言って みたが 「ウチのれいむと薄汚い野良ふぜいを一緒にしないで下さい!」 と烈火のごとく怒られてしまった。藪蛇だったか。 収穫はそれだけだった。結局何も分かっていないに等しい。 その後も何日かけて被害に有った飼い主のうち、アポの取れた人に話を聞いたが、有力な 情報は無かった。 共通点といえば、飼い主は揃って飼いゆっくりを甘やかしていたことぐらいだ。 そして必然的に、その全てが筋金入りのゲスゆっくりだった。ゆっくりに筋も金も無いが。 ある飼い主を訪問したときは、そんなゆっくりのホームビデオを延々と見せられて辟易し たものだ。 食事、部屋、飼い主の対応。ありとあらゆる環境に対して文句を言い、飼い主を罵倒する。 無能だ。この奴隷が。じじい。ばばあ。 貧弱な語彙であらん限りのい悪態をつく。 こんなゲスをよく可愛がれますね、とリニア長野ルートばりの限りなく迂遠な言い方で尋 ねてみたが 「いやあ、この素直じゃないところが可愛くてね。ツンデレっていうやつ? 内心では感謝しているのに口を開けば憎まれ口が出てくるのが良いんだよ」 と根本から理解していないようだった。ダメだこいつ、もうどうにもならない。 「仕方ない……野良をあたるか」 最後に尋ねた飼い主の家を出た後、タバコに火を点けながら俺は呟いた。 報告件数こそ多いものの、野良よりも飼いゆっくりへの調査を優先させてきた。 飼いゆっくりならば話を聞く相手が人間だから、まともな情報が期待できると踏んだのだ が、あてが外れた。 ゆっくりが直接の情報源となると信頼性に欠けるが、連中は失踪の瞬間を目の当たりにし ているのだ。 ペット自慢ばかりで肝心の目撃証言の出ない飼い主を相手にするよりは幾分マシだろう。 取材を始めた時とは正反対の思いを持って、一番近い現場に足を向けた。 「「ゆっくりしていってね!!」」 「はいはいゆっくり」 俺の目の前には赤リボン饅頭と黒帽子大福。ゆっくりれいむとまりさの番だ。 お決まりの挨拶に、本日5本目となるタバコの煙を吐きながら適当に返した。 ここは団地の中にある公園。ちょっとした林があるため、野生動物が数多く棲む中々良い 場所だ。 目の前の饅頭が大量に住み着いてなければ、だが。 「おじさんはゆっくりできるひと? れいむといっしょにゆっくりしていってね!」 都会に住む野良には珍しく、中々純粋な個体のようだ。 俺は仕事柄相手にする機会が多いが、基本的にゆっくりは好きではない。 生意気だったり、媚びたりする態度が気に入らないし、仕事も当初は政治部を希望してい たのだ。 だがこのれいむを見ていると、少しは考えを改めてもいいかもな、と思う。 「にんげんさんはあまあまをもってきてね! そうしたらまりさがいっしょにゆっくりし てあげるよ!」 前言撤回。やはりゆっくりは嫌いだ。 「ちょっと聞きたいんだが、この辺りで最近突然いなくなったゆっくりっているか?」 ゆっくりでも取材の相手だ。一応の礼儀として、まずは平和的に尋ねる。周囲の目もある し、それで情報が得られれば、それに越したことは無い。 だが短い目で見れば、ゆっくりは暴力で従えた方が良い。どうせこの十数分、一度きりの 関係である。信頼させて情報を引き出すなど非効率的だ。 「じょうほうりょうとしてあまあまをもってきたらおしえてやらないこともないよ!」 人が優しく聞いているのに、いきなり見返りの要求か。やはり饅頭相手に礼など意味のな いものだ。この仕事を始めてからそう思うのは何度目か。それでも一度目は礼儀なんても のを考える俺は、律儀なのか馬鹿なのか。多分、後者だろう。 「はやくしてね! さっさとしてね……ゆぐぐ!?」 「質問に答えろ」 たわ言を抜かしたまりさを踏みつけ、俺は再度尋ねた。相手が無礼を望むならこちらも相 応のやり方をするまでだ。 足もとにれいむが体当たりを仕掛けてきたが、持ち上げて八つ当たり気味に地面に叩きつ けた。 ぴくぴくと痙攣しているし口から餡子が漏れているが、死にはしないだろう。あと30分 ぐらいは。 足もとのまりさがれいむ、れいむと騒がしくなったので踏む力を強めた。 「騒ぐな叫ぶな喚くな。れいむのようになりたくなかったら、聞かれた事に答えろ」 「わがりまじだぁぁぁ! なんでもごだえまずぅぅう!」 だから静かにしろって言ってるだろうが。二度とここを訪れる事は無いだろが、周囲の人 間に白い目で見られるのはやるせない。 一部興奮するような目で見ているもの、同調するような視線を送ってくる者もいるが。 違う。あくまで取材の手段だ。俺に虐待趣味は無い。 「この辺りで、最近突然いなくなったゆっくりはいるか? 事故で死んだとか何処かに行って帰って来なくなったとかじゃなく、他のゆっくりが見 ている前で消えたやつだ」 靴の裏でぐりぐりとまりさをえぐる様にして聞くと、恐怖に導かれてぽつぽつと喋り始め た。 「い、いなくなったのはありすだよ! とってもびじんで、とってもゆっくりしてたよ! みんながありすのことがだいすきで、ごはんやたからものをあげていたよ!」 美ゆっくりなのを利用して、他の野良に貢がせていたのか。中々ゲスなようだ。 「まりさもいつかありすとすっきりして、ゆっくりした赤ちゃんがほしかったよ! ありすはいつも「ゆっくりさせてね」っていっていたから、まりさとの赤ちゃんがいれ ばゆっくりできたはずだよ!」 お前れいむと番じゃなかったのか。浮気か、ありすが失踪したかられいむに乗り換えたの か。どちらにしろ碌な個体じゃないな。 「でもある日いきなりいなくなっちゃったんだよ!」 ありすのおうちにあったごはんやたからものは、みんなでわけたよ! あまあまおいし かったよ! のうこうなかすたーどだったよ!」 野良のくせに甘いものなんて蓄えていたのか。 それもどうせ貢がせたものだろう。 「これだけおしえてあげたんだから、まりさをはなしてね! さっさとはなしてね! お わびにあまあまちょうだいね!」 これ以上はこいつから聞ける情報は無いだろう。そう判断した俺は、目玉にタバコを押し 付けて火を消し、悲鳴をあげるまりさを踏み潰した。 しまったな。殺すつもりまではなかったのだが、ついイラっとしてやってしまった。 周囲には数匹のゆっくりが怯えた表情でこちらを見ている。自分達を害する存在を目の当 たりにして逃げるなり隠れるなりしないのは愚かとしか言いようが無い。 だが、更に情報が欲しい俺には好都合だ。とりあえず友好を示そうと、俺は微笑みながら ゆっくり達に向かって歩いていった。 その後近くに住む他のゆっくりを何匹か尋問してみたが、似たようなことしか聞けなかっ た。 ありすが消える瞬間を見たやつもいたが、まるで役に立たなかった。 目の前で突然消えた、ということを拙い語彙で言うだけだったのだ。 それにしても無礼な饅頭たちだった。人の笑顔を見て、引きつった表情で逃げ出すのだか ら。その結果、公園に餡子の山が出来てしまった。 残ったゆっくりは甘いものが食べられるのだから、感謝してほしいものだ。 そんな事を考えながら、俺は次の現場に向かった。 そうして10余りを回ったところで一旦職場に戻った俺は、頭を抱えていた。 進展は無い。幾つかあった目撃証言も、消えるようにいなくなったという意味のものばか りだ。ゆっくりの言語能力では詳しい説明など無理だったのだ。 俺はデスクで取材のメモを読み返しながら、何か発見はないか、と考えていた。 一匹目。飼い。ゲスれいむ。目撃者は野良。失踪当時、その野良は饅頭を食していた。 二匹目。飼い。れみりゃ。目撃者野良さくや。「じゅーしーなでぃなー」を野良れみりゃ と食していた。 三匹目。飼い。ゲスまりさ。目撃者無し。現場に残ったバッジに餡子が付着していた。 「……ん?」 ふと思い立って、更に読み進める。 四匹目。野良。ありす。貢がせ。目撃者野良れいむ。巣にカスタードの蓄え。 五匹目。野良。ゲスまりさ。目撃者無し。巣に甘味。 六匹目。野良。ゲスまりさ。目撃者野良まりさ。周辺のゲスの憧れ。 「何だこれは……どういうことだ」 七匹目。野良。ドスまりさ。群れを奴隷のように扱う。目撃者群れの多数。巣に大量の甘 味。 八匹目。野良。レイパーありす。目撃者被害者の野良まりさ。 九匹目…………。 …………。 異常だった。失踪したゆっくりのほぼ全てがゲス。それはまだいい。 問題なのは、その現場のほとんどには甘味が関係していること。飼いゆっくりならまだし も、目撃者となった野良にとって甘味は縁遠いものだ。 野良ゆっくりが甘味を手に入れる手段は少ない。最もありえるのは人間から貰うことだが、 事件のほぼ全ての場合で、関係したゆっくりが、しかも愛想の良くない都会の野良が甘味 を受け取っていたなどという偶然があるだろうか。 次に考えられるのは同族食いだが、これはゆっくりの間で禁忌とされている。可能性とし ては低い。 嫌われもののゆっくりが制裁されて食われたということは考えられるが、周囲のゆっくり に好まれていた貢がせありすやゲスの憧れ的存在だったまりさ、他のゆっくりに襲われて も撃退可能なドスなどの場合には可能性は薄くなる。 何か有るのかも知れない。俺は席を立った。 次の現場ではれいむが失踪していたが、やはりゲスで、失踪後発見した甘味を周囲の仲間 で食べたという。それはいなくなったれいむだったんじゃないか、と直接の目撃者のゆっ くりを含め、身体に聞いたが否定された。 その後さらに幾つかの現場で同じ事をしたが、結果は変わらなかった。 それに、最初に訪問した飼い主は、自分の目で、目撃した野良がゆっくりではない只の饅 頭を食していたことを確かめている。 やはり同族食いではないと考えるべきだろう。 俺はもう一度メモに目を通した。 れいむの場合は饅頭。おそらく中身は餡子だろう。 れみりゃは「じゅーしーなでぃなー」。おそらく調理された肉。 まりさは餡子。 ありすはカスタード。 現場に残っていた、目撃者である野良が食べていたものは、どれも『失踪したゆっくりの 中身』だ。ほぼ間違いなく、失踪ゆっくりは目撃ゆっくりに食われてしまったのだろう。 しかし目撃ゆっくりは同族を食べていない。いや、『食べたと思っていない』。彼らが食 べたのは『ただの饅頭』、もしくはその中身だ。 目撃ゆっくりは失踪ゆっくりを食べた。 しかし同族食いを認識していない。 目撃ゆっくりが食べたのは失踪ゆっくりの中身もしくは饅頭。 失踪ゆっくりは消えるようにいなくなった。 つまり―― 「ゆっくりがただの饅頭になった……?」 ゆっくりは飾りで互いを識別する。親子でもなければ、目の前で飾りが外されても、それ が誰だか分からなくなってしまう。 もっとも識別が出来ないだけで、「ゆっくりできないゆっくり」とは認識できるのだが。 もしも別のゆっくりが飾りのない、目も口も髪も無い「ただの饅頭」に突如変化してしま ったら、その瞬間を実際に見ていたとしても、ゆっくりが消えて饅頭が残ったように見え ないだろうか……? 「馬鹿馬鹿しい」 とは思いつつも、俺はその考えを捨てきれないでいた。普通ならありえない。だが相手は 普通の存在ではない。ゆっくりだ。もともとが動く不思議饅頭なのだから、普通の饅頭に なってしまうことだってあるかもしれない。 だが何故ゲスゆっくりばかりなのか? 俺は加工所の研究部へと電話をかけた。ゆっくりに関することなら、やはりあそこが一番 だ。 何と言ったらいいものか悩んだが、ストレートに 「ゲスゆっくりが普通の饅頭に変化する事例について知らないか」 と聞いてみた。これだけ聞いたら、正気を疑われるかもしれない。相手も戸惑っていたが、 思い当たる節があったのか、一人の研究者を紹介してくれた。 三日後、俺は都内のある大学の研究室を訪ねていた。部屋の入り口でノックをし、いらえ を聞いてからドアを開ける。 「いらっしゃい。待っていましたよ」 迎えてくれたのは、見たところウチの編集長よりも若い男だった。それで教授だというの だから大したものだ。互いに名刺を出して挨拶をする。 勧められた革張りの応接用ソファに腰かけ、ぐるりと部屋の中を見渡す。 普通の部屋だ。正直、拍子抜けした。 ゆっくりの研究者と言うから、その研究室たるや、ありとあらゆるゆっくりグッズで埋め 尽くされ、壁一面が水槽に改造されていて、各種のゆっくりが飼育されている。そんな光 景を想像していた。 それがどうだ。ドアノブに子ゆっくりのカバーなんて掛かっていないし、ゴミ箱はホーム センターで売っているプラスチック製のものだ。掛け時計は振り子にゆっくりが使われて いないし、観葉植物に刺してある栄養剤も普通。本棚は流石にゆっくり関係の本で埋め尽 くされているが、ゆっくりの入った水槽なんてものも無い。 出された茶菓子は饅頭だったが、まさかこれが……? 「ゆっくりではありませんよ」 はっとして顔を上げた。目の前にはまだ若い教授がにこにこと笑って座っている。 「ここに初めて来た人は、みんな同じことをする。部屋にあるものが、ゆっくり製じゃな いかって部屋を見渡すんです。だがそんなものは見当たらない。そこでお茶菓子には饅頭 を置いておく。するとお客さんはこう思うんです。ひょっとしたらこれがゆっくりじゃな いか、ってね」 どうやらこの教授の悪戯に、ものの見事に引っかかってしまったようだ。俺は苦笑するし かなかった。 「そりゃあ実験室では大量のゆっくりを保管していますがね、ここには赤ゆっくり一匹い ませんよ。自分の研究対象を無碍に扱うことはしませんし、虐待趣味は僕にはありません。 大体、誰よりもゆっくりの不可解さを知っている僕に言わせれば、あれを食べるなんて 蛮勇もいいところだ」 二人で一しきり笑いあったところで本題を切り出すと、教授は表情を引き締めて一つのビ デオを取り出し口を開いた。 「ゆっくりが単なる饅頭に変化する事例についての話、ということでしたね。一般の雑誌 の方からそう言われたので、些か驚きました。口で説明する前に、実際に実験の様子を見 てもらった方が早いでしょう。これは先日学会で発表したばかりのもので、研究誌以外の 記者さんに見せるのは初めてなんですよ」 そう言って再生されたビデオは一匹のまりさを飼育した実験経過を収めたものだったが、 その内容は凄まじいの一言に尽きた。 与える食事は最高級、部屋は広く快適で、飼育員はまりさの望みは何でも聞き、奴隷とし てまりさに扱われ、そして自身もそう振舞っていた。 数日前にれみりゃを甘やかして育てていた飼い主を訪れた際に、れみりゃのホームビデオ を見せられたのを思い出した。その飼い主はお嬢様に仕える下僕と言った態度でれみりゃ を飼っていたが、このビデオのまりさに対する飼育員の態度はそれを遥かに超えている。 ブラウン管を叩き割りたい衝動を抑えきれなくなった頃、『それ』は起こった。その時画 面の中ではまりさと飼育員が会話をしていた。 「どれいはさっさとごはんをもってくるんだぜ! まりさをさっさとゆっくりさせるんだ ぜ!」 「分かりました、まりさ様。まりさ様がゆっくりすると私もゆっくり出来ますので」 この「まりさがゆっくりすると自分もゆっくり出来る」というのが、ビデオの中で飼育員 が事あるごとに言っていた言葉だった。それに対してまりさは「かんだいなたいど」で笑 いながら許可してやる、というのが毎度のパターンだった。 「どれいのくせにゆっくりするなんてなまいきだぜ!」 だが今回は違った。飼育員はまりさをゆっくりさせようとしているにも関わらず、まりさ はそれに異を唱えたのだ。 「しかしまりさ様、まりさ様をゆっくりさせるのが私の役目です」 「うるさいんだぜ! まりさがゆっくりするのはとうぜんなんだぜ! なんでそれでどれいをゆっくりさせてやらなきゃいけないんだぜ! どれいのゆっくりなんかどうでもいいんだぜ! まりささえゆっくりできればいいんだぜ! わかったらどれいはゆっくりせずに、まりさをゆっくりさせるんだぜ! このよでただひとりゆっくりできる、えらいまりささまをゆっくりさせ…………」 まりさが意味のある言葉を喋れたのはそこまでだった。いや、言葉に限らず、何か意図の ある行動を一切取れなくなった。電源の落ちたロボットのように、全ての活動が止まって しまったのだ。 「ゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆ ゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆ ゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆ ゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆ ゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆ」 数秒後、突如としてまりさが痙攣し始めた。目の光は消え、口は半開きになり、「ゆ」の一文字だけを壊れたテープレコーダーのように繰り返している。 精神崩壊でも起こしたのか、と俺は思ったが、事態はそんな単純なものではなかった。 まりさの壊れた声が続く中、まりさの帽子が無くなってしまった。輪郭がぼやけたかと思 ったら、空気に溶けるようにして消えてしまったのだ。 それだけでも自分の目を疑う光景だったが、まりさの変化はまだ終わらない。 帽子に続くように髪の毛が消え、目玉と口が周囲の皮に包まれるように消えた。 「開始から12日と5時間37分。実験成功」 飼育員の声がしたかと思うと、カメラがまりさにズームアップする。飼育員はまりさを回 転させて全方向を見せ、最後にまりさをナイフで切り、切断面をカメラに向けた。 そこには皮に包まれた黒い餡子だけが有った。もうまりさには帽子は無い。髪の毛も目も 口も無い。小麦粉の皮で餡子を包んだだけの存在、ただの饅頭になった。 「いかがでしたか?」 教授がビデオを止め、穏やかな声で尋ねてくる。俺は先ほどまで見ていたものに呆然とし、 どういうことか、と返すので精一杯だった。自分の喉から出たのを疑問に感じるほどに震 えた声だった。 俺とは対照的に平静な教授は、少し考えてから更に問いを重ねた。 「あなたは、ゆっくりは何故ゆっくりなのだと思いますか?」 質問の意図が分からない。俺は口を閉ざしているしかなかった。何しろビデオの内容だけ で、思考回路は糸口が見えないほど絡まってしまった。復旧には時間がかかる。 「聞き方が悪かったですね。ゆっくりをゆっくりたらしめている本質は何だと思います か? 刃物ならよく切れること。馬なら早く長い距離を走れること。人間なら二本の足で 歩くことと発達した知能でしょう。ではゆっくりでは?」 教授の落ち着いた声を聞いているうちに、ようやく少し冷静さを取り戻してきた。俺は考 え、口を開いた。 「……飾りを着けていること?」 「それは特徴的なことですね。ですがゆうか種のように飾りを持たない種もいますし、人 間も飾りを着けることはあります」 「饅頭であること」 「確かに大部分のゆっくりは饅頭ですが、ただの饅頭を見て、これはゆっくりだ、とは思 いません。本質とは言えないでしょう」 「人の言葉を喋ること」 「中々良いところを突いてきましたね。ですがそれは人間が喋ることが前提ですから、ゆ っくり自身には関係の無いことです」 そうして思いつくままに答えてみたが、どれも正解ではないようだった。俺は諦めて、投 げやり気味に言った。 「…………分かりませんね、降参です。そもそもゆっくりなんていう人間と饅頭を混ぜた ようなものに、本質なんてものあるのですか? 何を言っても人間か饅頭、どちらかの本 質になりそうな気がしますが。ゆっくりはゆっくりっていう生き物だからゆっくりなんで しょう」 教授は俺の言葉を聞いて、にこりと笑った。 「正解です」 「はい?」 「今あなたが言った通りですよ。『ゆっくりはゆっくりという生き物だからゆっくり』。 ナゾナゾのようですが、これに尽きます。その名にあるように、ゆっくりと言う言葉がゆ っくりの全てです。正確には『他者をゆっくりさせる』というのがゆっくりの本質と言え るでしょう」 俺はなるほど、と頷いた。ゆっくりは他者に出会うと、挨拶として「ゆっくりしていって ね」と言う。ゆっくりさせてね、ではなく、ゆっくりしてね、でもない。他者をもてなす ための言葉である「ゆっくりしていってね」。それはどんな種のゆっくりでも、赤ゆっく りでもゲスでも変わらない。 「れみりゃ種は相手が人間でも、自分に仕えることを要求します。それは本人の言うとこ ろの『えれがんとなおぜうさま』に仕えることが、相手にとってゆっくりできることだと 考えているからです。ゲスもそうです。自分をゆっくりさせることで相手がゆっくりでき ると信じているのです」 全ては相手をゆっくりさせるため。それこそがゆっくりの存在意義。かつて『ゆっくりは 棚に仕舞われたまま忘れられた饅頭が変化したものだ』と言われたことがあった。人をも てなすために作られた饅頭が存在を忘れられ、その無念の思いからゆっくりになるのだと いう。何を馬鹿な、とその時は一笑に付したが、今ではそんな話を信じてもいい気持ちに なる。 「ゆっくりが初めてこの世に現れた時、現在のように脆弱でもありませんでした。感情の 起伏は乏しく、表情の変化も皆無でした。 しかし人はそのようなゆっくりを望まなかった。異物であるゆっくりを排除する理由を 正当化するために、または保護欲を満たすために脆弱なゆっくりを求めた。嗜虐心をくす ぐるような、あるいは与えた愛情に反応するような変化のある感情と表情を求めた。その 結果、ゆっくりは人の望む存在へと進化しました。全ては人をゆっくりさせるために。 ゆっくりは自身の性質がどんなに変化しても、他者のゆっくりを望むものなのです。 しかしビデオのまりさは違います。他者ではなく、自分がゆっくりすることだけを考え てしまった。そしてそれを当然のことと考えてしまった。そうなってしまったゆっくりは、 最早ゆっくりであることの本質を失ってしまった。だからゆっくりではなくなってしまっ たのです」 そう述べた教授は、どこか寂しい目をしていた。 単なる実験材料に向ける、無機質な目ではない。この人はこの人なりに、ゆっくりに思い 入れがあるのだろう。 記事が出来たら雑誌を一冊届けると約束をして、研究室を辞した。 帰りがけに教授は実験論文のコピーを渡してくれたが、ひどく難解な内容だった。日本語 で書かれているのが救いだが、読むのに四苦八苦だった。取材やデスクで記事を書いてい た時間よりも、これを読むのに費やしたほうが長かった。おかげで出来上がりは締め切り ギリギリになってしまった。 そんな苦労に関わらず、出来た記事はオカルト色の強いものになってしまった。論文は学 術的な格調高い文章だったが、大衆読者を意識して書くと、どうしてもそうなってしまう のだ。 もっとも、ゆっくりの存在自体がオカルトとも言えるので、問題は無かった。「そんなも んだ」で全てがすむ。それがゆっくりというものだ。深く考えないほうが、あの不可思議 な存在を楽しめる。 都内にある、とある出版社。俺は今日もここでゆっくりについての記事を書く。配属され た当初は早く別の部門に行きたいと考えていたが、最近では好奇心を刺激してくれる良い 職場だと思えるようになった。 タバコが吸えないのが難点だが。 相も変わらず散らかったデスクで、いつもと変わらず原稿に向かう。今書いている記事は 虐待派と愛で派の討論企画についてだが、見事なまでに平行線の論議で、まとめるのが大 変そうだ。どちらも自分の主張こそ正しいと言っているが、きっとゆっくりはどちらの扱 いをされても満足なのだろう。 ゆっくりは他者をゆっくりさせることが望み。虐待派はゆっくりを虐待することでゆっく りできるし、愛で派は愛でることでゆっくりできる。究極的には根本は同じ。どちらも自 分がゆっくりすることを考えている。 人間なのだからそれで良いと俺は思う。自分の人生を、自分のために生きられないなんて 真っ平だ。比べて、そう生きた結果饅頭になるだなんて、ゆっくりはなんて不自由な生き 物なのだろう。 そんなことを考えてると、向かいのデスクの同僚が壁に貼られた「禁煙」の紙を指で叩い て示してきた。どうやら無意識のうちにタバコを咥えていたらしい。 俺は箱にタバコを戻すと、軽く溜め息をついて仕事を再開した。 このSSに感想をつける
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ゆっくり教 3KB 注意 ※地方によって著しく生態が違うゆっくり(場所によっては何も食わなくても平気で生きられるゆっくりが居る事もある)が居る世界の話です 19××年。 ゆっくりが何処からともなく世界に現れ、人々を困惑させた時期。 「これで金儲けできるんじゃね?」 一人の若者がそう考え、その考えを実行に移した。 『ゆっくりは神の御使いであり、ゆっくりが目で見た物、耳で聞いた事の全てが神に伝わっています』 ゆっくり教なる新興宗教が日本の何処かで出来上がった。 聖書をパク……若者なりの解釈をして、ゆっくりを混ぜ込んだ奇怪極まる宗教。 そのパク……引用して作り上げられた、ゆっくり教の有名な言葉を一つ挙げよう。 『ゆっくりに見せるために、ゆっくりに善行をするよう気をつけなさい。そうでないと、天に居られる我等が神から、報いが受けられません』 ゆっくりをゆっくりさせれば死後に天国に行ける、との因果関係が不可解な教え。 だがこれが流行した?何故か? まだ世間によく知られていない摩訶不思議なゆっくりの生態に加え、日本に終末論が流行っていた事もあったのか? 熱病に冒されたように、ゆっくり教は信徒を増やした。 …………………… 何処かの街にある一つの建物。 ゆっくり教団が構えている教会の一つである。 外から見える部分は簡素で、中から見える所も簡素、取り柄と言えば大きさだけな建物。 中では一人の男性信者が数匹のゆっくりに供物捧げていた。 「そろそろ時間ですね、ゆっくり様。お受け取りください」 「むーしゃむーしゃ、しあわせ~」 男性信者のゆっくりに対する供物は、ゆっくり教が教える基本的な善行の一つだ。 供物を与えられ、笑顔で食べるゆっくりと、それを笑顔で見る信者。 そこに…… 「ゆはぁゆはぁ…ここがゆっくりきょうかいだね」 「ゆへぇゆへぇ…ここならゆっくりできそうだよ!」 れいむとまりさが現れた。 ゆっくりにしては辛い長旅だったのだろう。息を荒げて疲労困憊の様子である。 ゆっくり教を聞いてやって来たゆっくりなのだろう。 荒げていた息を落ち着けると、信者の目の前にぽよんぽよん跳ねて来た。 「これはこれは…ゆっくり様、遠くからお出で頂……!?」 にこやかに対応しようとした信者の顔が凍り付いた。 原因はまりさの帽子から現れた子ゆっくり達である。 「れいみゅおにゃかすいちゃよ」「おにいしゃんのおうちにもどらにゃいの?」 「いまからあまあまをもらうからなかないでね」 あまあまをもらうと聞いて、表情を更に険しくする信者。 それに気付かぬ母れいむは、愚図る子ゆっくりに優しく語り掛ける。 父まりさは安心させるように子ゆっくりの顔を舐めようとして――― 「なかないでねおぢ!!!???」 信者に踏まれた。 強烈なストンピングに内容物の半分が噴出。床に盛大に餡子を散らしながら絶命。 突然のあんまりにもあんまりな攻撃に、母れいむが絶叫しようとした所を。 「悪魔め!この世から去れ!」 激した信者の言葉と共に踏まれ、父まりさの後を追う事となった。 「ぴゃぴゅ!?」「れいみゅぴゃ!!?」 最後に何かいえた子ゆっくりも親と一緒に床の餡子になった。 「ゆっくり達を真似た悪魔め!地獄で永劫の苦しみを味わえ!」 床に転がる餡子の残骸に吐き捨てると、信者はモップとバケツを取りに行くためその場を去った。 …………………… 来るゆっくりは全て拒まず受け入れる。 それがゆっくり教会だが、例外もあり…… ゆっくり教では、子を産むゆっくりの存在を認めていない。 ゆっくり教の教えでは、神が遣わしたゆっくり達は単体で完結しており、増える事が無ければ減る事も無い。 それに、人間の行いを見て聞くだけのゆっくりは、人間に向かって何かを要求する事も無いのだ。 それから外れたゆっくり達は、ゆっくり教の中では悪魔として定められている。 「ゆっくりを騙り人間を堕落させる存在」 あのゆっくり親子は、その例外だったのだ。 ―――――――― 信者はゆっくりが売られているペットショップを、世界中に悪魔をばら撒いてる所だと認識。 ペットショップにペンキをぶちまける過激派もいるそうな。 前作 『ふたば系ゆっくりいじめ 84 暇人二人の旅行』 『ふたば系ゆっくりいじめ 79 暇人二人のゆっくりいじめ』 『ふたば系ゆっくりいじめ 64 酷い暇潰し』 【ふたば系ゆっくりいじめ 58 ドスまりさがぶっ殺される話】 トップページに戻る このSSへの感想 ※他人が不快になる発言はゆっくりできないよ!よく考えて投稿してね! 感想 すべてのコメントを見る 原始ゆっくりが居るのか!? だったら崇拝者がいるのも分かるなww -- 2018-01-24 14 17 14 なかなかイイ新興宗教だww -- 2014-03-18 18 28 25 こいつら迷惑な集団だな -- 2012-12-12 21 44 55 ある意味すげぇwwwww -- 2011-12-23 10 13 46 すごい世界だな -- 2011-05-28 15 13 59
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俺とゆっくりの話 2の続きです 善良なゆっくりがいます 注意 「ふふふ…れいむ、いままりさがすっきりさせてあげるからね…」 「Zzz…Zzz…」 ゆっくりとれいむに忍び寄るまりさ しかしもう少しというところで後ろの戸が開いた 「ゆゆっ!?」 「なんだおまえ、まだ起きてたのか?」 あのおじさんだった、なんで寝てないんだよこの腐れほもさぴえんすが 「すこしねむれなかっただけだよ!!おじさんはまりさとれいむをあんみんさせてね!!」 「眠れないんだろ?俺も仕事がひと段落したんだが眠れなかったんだ、少し話でもしようぜ」 「…いいよ、でもたのしくなかったらすぐねるからね」 その人間は何個か飲み物とお菓子のようなものを持って来てまりさに進めた まりさはもしかしたら毒が入っているかも…と考えたが自分はこの家で一番偉いれいむと夫婦の関係だ、その自分を殺すことはないだろう… その時のお話の殆どはこの人間の仕事の愚痴とかだった 正直そんな話をまりさが聞いても面白くない、だが出されたお菓子は美味しかったので黙って聞いた 「そんなにいやならしごとなんてやめればいいんだよ…」 すこし眠くなってきたまりさが言う 「そうもいかん、仕事をしないと俺もれいむもお前もゆっくりできなくなるからな」 ゆっくりするためにゆっくりできない「仕事」をする?まりさにはますます理解できない だがさいごに人間の言った言葉だけは理解できた気がした 「お前は俺が嫌いだと思う、俺もお前は嫌いだ、でも俺はお前に死んでほしくない、だから早く人間のルールを覚えてほしい、俺のためでもお前のためでもない、れいむのためにな」 結局人間より先に寝てしまいれいむとすっきりできなかった 次の日、人間は仕事に行った 今がれいむとすっきりするチャンスだ だがれいむにさそわれて散歩に出かけている今、すっきりすることはできない、さすがに草すらない路上ですっきりするのはためらわれた 「れいむぅ!たすけて!!たすけてね!!」 その時一匹のちぇんが飛び出してきた、しかも帽子がない まりさはとっさにれいむをかばい、ちぇんを攻撃した 「だめだよ!!かざりのないゆっくりできないちぇんはゆっくりどっかいっt「だめだよ!!まりさ!!」」 なぜだれいむは止める?自分は飾りのないゆっくりできない奴を追い出そうとしただけなのに? 「どうしたのちぇん!!これじゃあどのちぇんかわからないよ!!」 「わからないちぇんはゆっくりでていっt…「うるさいよ!!!!」」 しかも怒鳴られた、こんなに怒鳴られたのは初めてだ 「やせいのちぇんのかぞくにぼうしをとられたんだよ、よくわからないよ…」 このちぇんはシルバーバッチを持つちぇんだ、飾りをなくしたら人間かゴールドバッチを持つゆっくりの所に行けばいいことは知っている 「ごめんねちぇん、ちょっとおしりみせてね!!」 ちぇんのおしりにはバーコードのような模様が焼き付けられていた、れいむはこの模様が本物だと理解した 「じゃあちぇんはゆっくりついてきてね!!いっしょにかこうじょにいこうね!!」 「かかかかこうじょーはだめだよ!!ゆっくりできないよぉ!!」 「だいじょーぶだよ!ゆっくりできないのはわるいゆっくりだけだよ!!」 まりさはいきたくなかったがれいむはみょんを連れて加工場まで向かってしまった 仕方なくまりさもついて行くことになった 加工場まで来たれいむはゆっくり専用入り口で係員を大声で呼ぶ、係員は一瞬怪訝そうな顔をしたがれいむがゴールドバッチをつけているのを見るとすぐに笑顔になった 「どうしたんだい?」 「このちぇんが帽子を取られちゃったみたいなの!!」 「おにいさん!ちぇんのぼうしをつくってほしいよ!わかってねー!」 「はいはい、わかったよ、10分程まっててね!」 そう言って係員はちぇんを抱えて奥の部屋へと消えていった このときまりさは理解した、れいむは帽子のないゆっくりを助けてあげると言って加工所に引き渡したのだ 加工所に子供を売る(もしくは自らを売る)ことでお菓子をもらって飢えをしのいだという話もある、さすがれいむだ、自分の妻になるだけあって頭もいい 「さすがだね!れいむ!!ちぇんをうっておかしにするなんてれいむはあたまがいいね!!」 「なにいってるの!?まりさ!!だいじななかまをうったりはしないよ!!」 「ゆ?」 しばらくたってさっきのちぇんが帽子をつけて出てきた 「ゆっくびっくりぃ!??!?!?!???!ぱぴぷぺぽろろっか!?!?!?!?」 このとき、まりさの餡子脳は完全に破壊された 加工場がゆっくりを助けた、れいむは帽子のないゆっくりを攻撃しようとしなかった 何もかも理解できない ちぇんがれいむと加工所の職員にお礼を言っている、そんなのはどうでもいい ここは加工所だ、それは間違いない、なのになぜあの人間はれいむに優しく微笑み、ちぇんの帽子を作ったのか? ありえない アリエナイ ソウカ、ヤットワカッタ、アイツラハユックリジャナインダ… 「ゆゆゆゆゆうふふふのうかりんにかっちゃったぁ!」 まりさが体内のぺにぺにを戦闘準備させ、れいむにおそいかかる 「やめてね!!まりさ!!どうしたの!?」 だがまりさは止まらない、あわててれいむは加工所の職員の後ろに隠れた 「うふふふふふぎゃあ!!」 職員の足にぺにぺにを突き刺さん勢いで突撃するまりさ まりさのぺにぺには真っ二つになった 「ふんじゃらhf8うえghvsばvsじゃヴぁjhvばhscぺにぺにますたーすぱーくっC言語!!!」 そんな言葉を残し、ぺにぺにから精餡子を噴き出しながらまりさは絶命した 俺が仕事から帰ってすぐ、加工所の職員がれいむを連れてやってきた れいむはふさぎこんで一言もしゃべらなかったが加工所の職員から大体話は聞いた、そしてその理由も 最近分かったことでまだ市販の飼育書にもほとんど乗っていないことだが野生のゆっくり(特に一番生意気な亜成体)がゴールドメダルをもつ飼いゆっくりと一緒にいると壊れることがあるらしい 詳しい話だと野生ゆっくりの常識では考えられない行動を飼いゆっくりがとり続けるため餡子が一時的に麻痺し、気絶してしまう そのご何らかの結論を出すことができれば復活するが多くは精神的に壊れてしまうらしい しかし壊れてもれいむとすっきりしようとするとは…やつは真剣にれいむを愛していたんだろうな… そのご、れいむは三日間、何も食べようとはしなかった。まりさは自分が殺したという罪悪感が募っていたのだろう 日に日に痩せて行くれいむが心配になった俺は今日も食べようとしないなら無理やりにでも口に入れてやろうとした だがその日れいむに助けてもらったというちぇんがお礼を言いにやってきた、帽子に金色のバッチを付けて ちぇんに励まされ、何とかれいむは持ち直すことができた いまではれいむとちぇんは夫婦として仲良く暮らしている、とはいってもお互い飼い主がいるから毎日一緒に遊んだりお泊りしたりする程度だが… ちなみに野生ゆっくりまりさの間に「かこうじょにいくとむりやりぺにぺにからすっきりさせられてころされてしまう」といううわさが流れ加工所をより一層怖がるようになったのはただの余談である あとがき なんか最後、いろいろ狂ってる内容になった やっぱ自分は戦争もの書いている方がいいのだろうか? 8月19日 2209 セイン このSSに感想を付ける
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前編 四日目 女心と秋の空。 井戸の上空にひたすら広がる青い空を仰ぎ見て、れいむはそんな常套句を思いだしていた。 昨日までのしとしと降りは霧散消散。 いまはからっとした陽光に包まれた穏やかな秋晴れ。 昨日から寝ていないゆっくり二匹にとって、その朗らかな心地よさは毒のようなもの。重たい目蓋をこじあけて、死を意味する居眠りを何とか堪えた。 その日差しが直接入り込むにはまだ時間が早かったが、入り口付近を淡く白い光が包み込んで、井戸の中はほの暗い。 井戸の腐ったような胸に詰まる臭いも今はそれほど強くはなかった。 乾燥した空気が井戸の底までおりてきて、ゆっくり二匹の湿りきった体に心地よい。 陰干しされたゆっくり二匹。 体から水気がゆっくりと蒸発して、元のもちもちとした肌が戻ってきた。 同時に、昨日から続いていた落下もようやく止まって一安心。 大分底に近づいてはいたが、井戸の上から見下ろせばまだ十分視界に入る位置だった。 「すっきりー!」 晴れやかに宣言するれいむ。 まりさはうつむき加減で言葉は発しないが、悪くない気分らしい。吐く息がゆっくりと穏やかだった。 「かゆいのは、大丈夫?」 「……うん」 れいむの言葉に、弱弱しい声をだして頷くまりさ。 と、同時にそれと同じ角度で頷いていたれいむ。 あれ、どうしたんだろう? 意図しない自分の動きにハテナマークを浮かべるれいむ。きょろきょろと視線を走らせて、ようやく気がついた。 ゆっくり二匹のふっくらしたほっぺた。 ぴったり強くこすり合わせていたその小指ほどの先端が、今見るとまりさの頬とぴったり皮膚が繋がっていた。その皮膚を通じて、まりさの動きに引きづられていたゆっくりれいむ。 「ゆっくりー!?」 驚愕のれいむ。 雨でぐずぐずになった皮をこすりあわせているうちに結合していたらしい。 皮自体は乾燥して弾力を取り戻したが、お互いのほっぺは強固にくっついたまま。 二匹は思わず視線を合わせた。 「くっつくよ!」 れいむが叫ぶと、その頬の動きのままにびろんとのびる二人の皮。 奇怪な有様だったが、ゆっくりれいむは妙に嬉しそう。 「これじゃあ、ずっといっしょだね!」 れいむの言葉にこめられた親愛に、まりさは頬を吊り上げてかすかな笑顔。 わずかな仕草なのに、心の底からの嬉しさがほっぺのつながりと通じてれいむに伝わってくる。 相変わらず状況は絶望的で、体力は落ちていくばかり。おなかもぺこぺこ。 でも、目の前のゆっくりと再び親友に戻れた。それだけで単純なゆっくり二匹の心は晴れやかだった。 「……おなかすいたね」 続くまりさの呟きも、声色自体は疲れ果ててはいたが、口調自体はいつものもの。 れいむもお腹はぺこぺこだ。壁にはりついたムカデやナメクジをぺろぺろ舐めとっても何の足しにもならないし、美味しくない。 でも、自分はまだいい。消耗しきったまりさの方が心配だった。落下してから何も口にしてないのではいだろうか。 「まりさ、右のほっぺに蟻さんがいるよ!」 その言葉に、ぺろんと伸びるまりさの舌。 まりさの顎の方へ向けて行進していた蟻たちが一瞬で姿を消した。 だが、すぐに顎の傷のほうから次々と蟻たちが出現しては、引き続きまりさの舌に飲み込まれていく。 「もっと沢山たべたい……」 蟻んこでは腹の足しにならないのだろう。まりさの虚ろな表情に元気は戻らなかった。 我慢している顎の傷の痒みは相当のものらしく、言葉が尽きるなり、ごしごしと患部を壁にこすりつけるまりさ。 顎の付近から、ぶわっと羽虫が舞い上がった 寄るところもなく宙を漂う羽虫。だが、まりさの蠢動が治まるなり顎の傷のあたりへ戻っていった。 「ゆううう!」 途端に、またびくびくとむずかりだすまりさ。その顎には我が物顔に再び行進をはじめる蟻の行列。一様に極小の餡の粒を背負っている。 どうやら、わずかに開いた傷口から漂う甘い香りが、井戸の住民たちにかぎつかれたようだ。恐らくは、傷口が虫たちにほじくりだされているのだろう。 そんな様子は自分からでも確認できるらしく、暗い眼差しで虚空を眺めるゆっくりまりさ。 れいむは少しでもまりさの気持ちが紛らわせようと口を開いていた。 「ここからでたら、虫さんは全部つぶしてあげるからね!」 「……」 「そして、美味しいものを沢山たべようね!」 「……」 「野いちごとか、沢山食べようね!」 ひっきりなしに話しかけるれいむ。 太陽を一杯に浴びた野草や、まるまるとした昆虫、リスなどの小動物。その味わいを夢想する。 その中でも最近食べた一番美味しい食べ物はあれだろう。 ぼんやりと、れいむは回想に入る。 数ヶ月前、月明かりに誘われて家の周りに遊びに出たゆっくりれいむとその姉妹。 野犬の遠吠えも聞こえない、静かな満月の夜だった。 家の入り口近くに何匹も連なって月の鑑賞会。まん丸な月を眺めるゆっくりたち。息を吸い込んでお月様のように丸く膨らんだり、ぴょんぴょんと跳ねて少しでもお月様に近づこうとしたりと、思い思いに楽しんでいる。 だが、突如として月明かりに影が差す。 見上げたゆっくりたちの視線の向こうに、月を背負ったシルエットが一つ浮かんでいた。 「ゆ?」 その正体がわからなくて首を傾げるゆっくりたち。 ニンゲンに似た体つきだけど、それにしては手足が短い小さな体。ぱたぱたとはためく翼もニンゲンのものじゃなかった。 目をこらすと、 朧な月の光にその姿が浮かび上がってくる。 丸い顔に満面の笑顔を浮かべて、短い手足を一杯に広げた生き物。誰かにおめかしされたのか、ピンクの服と帽子、 そして赤いリボンが愛らしい。 幼子のような笑顔のまま、その生き物は鳴いた。 「うー! うー!」 その可愛らしい生き物はご機嫌そのもの。だが、ゆっくりたちは気がつかなかった。意味のわからない呟きをもらすその口元に輝く、剣呑な牙を。 それは、紅魔館に最近住み着いたゆっくり亜種だった。空を飛ぶ吸血種で、その上に幼児のような体と手足がある、極めつけの希少種。 主に似たその生き物を、紅魔館の者は親しみをこめ、こっそり「れみりゃ」と呼んでいた。 そんなれみりゃは、発見されたからずっとメイド長咲夜に世話をされてきた筋金入りの箱入り娘。いつもは館の奥で大切にされていて、単独での外出が許されていなかった。たが、今日は素敵な満月。ついつい心踊る月明かりに誘われ、抜け出してきたのだろう。 つきっきりで世話をする咲夜の姿も、今日はどこにも見当たらない。 過保護な従者のいない久しぶりの自由を謳歌して、ご機嫌なれみりゃ。うーうーと、幸せそうに月夜を飛び続ける。 気がつけば、ずいぶん遠くまできていた。 くーくーと鳴り始めるお腹の虫。そろそろ戻ろうかなと迷い始めていた。けど、帰ればこの楽しい夜が終わってしまう。 そこで出くわしたのが、いつも餌として与えられているゆっくりれいむの一群だった。 まさに渡りに船。 「ぎゃおー♪」 ご機嫌に、怪獣のような叫びを発するれみりゃ。 咲夜が怪獣のキグルミを着て演じた台詞をそのままなぞっただけの幼い咆哮。 ゆっくりたちは奇妙な闖入者に戸惑って、逃げるべき相手か、判断がつかなかった。 だが、そんなゆっくりたちは次の台詞で震撼する。 「たーべちゃうぞー!」 宙から、ふわりとこちらへ飛んでくるれいりゃ。その口の牙が月光を帯びて鈍く光った。 「ゆっくりやめてね!」 慌てて、一目散に家へと逃げ込むゆっくりたち。 だが、出入り口は一つ。一度に入れるのはせいぜい二匹まで。 「はやくしてね!」 最後尾のゆっくりれいむが急かすが、その声が不意に止む。 れみりゃに牙を突き立てられ、引きずられていくゆっくりれいむ。 「お゛があざーん……!」 ぱたぱたとはためく翼の音とともに、母を呼ぶ声も遠ざかる。 「うー♪」 見守るゆっくりたちの前で、れみりゃは捕らえたれいむを抱え込む。 同時に、れみりゃの口からじゅうううと鈍い音が響きだした。 「ゆ、ゆゆゆゆゆゆ!?」 自分の体に何が起こっているのかわからないゆっくりれいむ。 だが、みるみる頬がこけ、皮がビロビロに伸びはじめてようやく気づく。れみりゃは、ゆっくりの中身を急激に吸い上げていた。 「い゛や゛あ! ゆっぐりじでよおお! ずわ゛な゛い゛でええええ!」 しかし、言われてジュースを飲むのを止める幼児などいない。 うまうまと、たっぷりの甘さを味わいながらちゅーちゅーと吸い続けた。 次第に、白目をむくゆっくりれいむ。 「ゆ"っゆ"っゆ"っ」 細かく痙攣を始めるが、れみりゃはジュースの器がどうなろうが一切気にとめない。喉の渇きのまま、最後まで一気に飲みきるだけ。 ふにゃふにゃにのびたれいむの、最後の雫を吸い込もうとれみりゃが一呼吸したそのとき。 猛然と転がる岩のようなゆっくりがいた。 「ゆっ! ゆっ!」 異変に気づいたお母さんれいむだった。 ぷっくり膨らんだからだを揺すって、どすどすと入り口かられみりゃに向けて一直線。 「うー?」 只ならぬ振動に顔をお母さんれいむに向けるりみりゃ。 瞬間、お母さんれいむは飛んだ。 月夜を背景に、膨らんだ全身をばねにして見事な飛翔。 そのまま、れみりゃの顔面へと飛び込んでいく。 ぺちっと、情けない音がれみりゃの顔面で響いた。 もんどりうって倒れる一団。 「うあー! うあー!」 れみりゃはうつぶせ倒れこんで、起き上がりもせずただ泣き叫ぶ。 これまで、食事といえば昨夜が手配したゆっくりれいむかゆっくりまりさ。お嬢様に粗相のないよう、処理されたものばかりだった。 だからこそ、まさか獲物に反撃されるとは夢にも思っていなかった。 ショックでわんわんと泣き出すれみりゃ。いつもなら、ダダをこねていれば光の速さで咲夜が飛んできて自分を慰めてくれる。 でも、ここは紅魔館から遠く離れたゆっくりたちの巣。 絶望的にれみりゃは孤独だった。 「うあ!」 唐突にれみりゃが感じた激しい指先の痛み。 見れば、一匹のゆっくりれいむが復讐だとばかりに噛み付いている。振り払おうとするその腕に、さらに噛み付く別のゆっくり。 続いて、背中にどすんとのっかった重みはお母さんれいむ。息がつまって、れみりゃの体がのけぞる。その隙に残りのゆっくりたちも意を決して競って背中に乗り上げてきた。もうれみやは飛ぶどころか、起き上がることすらできなくなる。 「うっ……!」 もういやだ、早く帰して。今日はプリンのお夜食なんだから、もう帰る! そんな思いをこめてゆっくりたちを見つめる。 だが、紅魔館自体を知らないゆっくりたちに容赦する理由は微塵もない。 「うっ!」 れみりゃの短い叫び。 見れば、指先に噛み付いていたゆっくりれいむがついにその丸い指先を噛み切ったのだ。 指先からほくほくと、肉まんの湯気。 「うっ……うっ!」 赤く灼熱した焼印を押し付けられたような指先の激痛。 苦痛から、もはや声にならない悲鳴がれみりゃの口をつくが、むーしゃむーしゃと味わうれいむには聞こえていないかのよう。 「おいしいよ!」 ほくほくの笑顔でそのお味を家族にご報告。 その言葉が契機になって、一斉にゆっくりたちが殺到する。 あんぐりと、れみりゃの指先やほっぺにくらいついた。 「う゛っ、あ゛ーっ!」 れみりゃは元々柔らかい肉まんのようなものなのか、強く噛み付くとゆっくりに、抗うことなくぽろぽろと千切られていく。 「むーしゃ、むーしゃ」 一斉にれみりゃを咀嚼するゆっくりたち。 はふうと、同時に吐き出される至福のため息。 「しあわせー!」 「ゆっ! ゆっ!」 わが子の嬉しげな様子を穏やかな視線で見つるのは、お母さんれいむ。 れみりゃがもう何もできなくなったことを確認して、その翼を口でぺりぺりと剥ぎ取る。 咥えたまま向かった先は、れみりゃに吸われてぺしゃんこになったわが子の元。そっと、くわえてきた翼をわが子の前へ置く。 けれど、もはやわが子は目も見えていないようだった。白目をむいて震え続けるだけのゆっくりれいむ。 お母さんれいむは、無言で我が子を見下ろしていた。 れみりゃを味わっていたゆっくりれいむの一匹が、その様子に気づいて駆け寄ってくる。 「早くよくなってね!」 元気付ける言葉は、虫の息となったれいむにも聞こえたのだろう。 応えるため、口を緩慢に開こうとする。 「ゆっ……く……」 だが、もれたのは言葉にならないあえぎだけ。 やがて、言葉の代わりに大きく吐き出される吐息。あえぎ声。 それっきり、ゆっくりれいむは動かなくなる。 きょとんとその様子をうかがう子供たち。何が起こっているのだろうと小首を傾げる。 お母さんれいむは頬をすりよせて、抜け殻となったわが子の目を閉じてあげた。 沈痛な沈黙。 「ゆっ!」 短い呟きが、わが子の亡骸に向けられて静かに響いた。 やがて、お母さんれいむはくるりと振り向く。皮だけと成り果てたわが子から離れて、れみりゃのもとへ。 「うー!」 うつぶせにむせび泣いていたれみりゃと静かに向かい合う。 相変わらずの無表情のまま沈黙を守るお母さんれいむ。 すると、れみりゃを味わっていたゆっくりれいむのうち一匹が、れみりゃの指先を見つめてぽよんと飛び跳ねた。 「ゆっくり治っているよ!」 見れば、千切られたばかりの指先がじわじわと元に戻りつつある。吸血種ならではの再生力だった。 その様子を、相変わらずじっと見つめるお母さんれいむ。 お母さんれいむは声もなく動き出し、れみりゃの服の襟首をくわえ込む。そのまま、ずりずりと家の方へ引きずり出した。 ゆっくりれいむたちは不思議そうに母親の行動を眺めていたが、そのうち一匹が母親の意図を悟る。 「まいにち、ごちそうだね!」 その言葉で他のゆっくりたちも気づく。れみりゃは一晩で元通り。食べ過ぎなければ、いつだって美味しいご飯になるということを。 一斉にれみりゃに飛び掛るゆっくりたち。れみりゃの翼を、耳を、指を、靴の先を、それぞれ思うがままに咥えて、一心不乱に家の方向へ。 「うっ! うっ!」 異常なゆっくりたちの団結に、怯えて泣き叫ぶれみりゃ。だが、もう遅い。れみりゃの姿は、ゆっくりとれいむたちの住処へと消えていった。 それから数ヶ月、豊かな食生活が続いたゆっくり一家。 だが、その幸運も不意に消えてしまった。 いつも家の中に縛られて転がっているれみりゃが可哀想だと、ゆっくり家族たちが気を利かせて日向ぼっこ。 「うー! うー!」 家の方が居心地がいいのか、出ていきたがらない素振りのれみりゃだったが、日向でゆっくりさせてあげないと体に毒だと無理やり引っ張り出す。餌にすら親切なゆっくり一家だった。 逃げないよう縄でがんじがらめにして、お天道様の下に転がしておく。 「うあああーっ!」 嬉しいのか大声ではしゃぎ、のたうちもがくその声を背に、ゆっくりたちは気ままに遊び場へ散らばっていく。 日没まで存分に遊んで帰ってきたゆっくちが見たのは、れみりゃを縛った形のまま地面に横たわるロープと、そのロープを覆いつくさんばかりの真っ白な灰だった。 これは何だろうと疑問の答えを見つけるよりも早く、灰は草原を吹きぬける風に舞い上がげられる。 そのまま、近くを流れる小川へ押し寄せられ、流されていった灰。よくわからないので、ゆっくりたちはすぐに忘れる。 結局、逃げられたと結論づけて、今日もお母さんれいむの待つ家の中へ、ゆっくり姉妹は仲良く連れ立って入っていった。 おいしい食べ物のことを思い出して、だらりとれいむがよだれをたらしているうちに、時刻はいつしか夜を迎えていた。 今日は誰も井戸をのぞきこんだりはしなかったが、明日もこの小春日和が続けば、ゆっくり仲間か暇なニンゲンあたりが ふらっとこのあたりを通りかかるかもしれない。 それまで、耐えられるよねと自分に自問する。 全身は、力をこめ続けていたせいで、がちがちにこわばっていた。身じろぎするたびに体がきしんで痛みが走る。 眠らないでいた頭はぐらぐらと揺れて気が遠くなりそうな程。ぼんやりとなる瞬間もあるけど、死ぬよりはマシと思うしかない。 それに、嬉しい兆候もあった。 お昼に少し元気を取り戻したものの、日暮れ前にはもうぐったりして動けなくなっていたゆっくりまりさ。 だが、夜が深まるにつれて何やらもぞもぞと体を動かしていた。 まりさが先に力尽きることが最大の不安だっただけに、その復活はれいむにとっても望ましいことだった。 後は誰か、誰でもいいから、この井戸を覗き込んでもらうだけ。 そうだ、お願いの言葉を今からきちんと考えないと。 どことなく前向きなゆっくりれいむ。 そのれいむの思考を邪魔する、カサカサというまりさからの音と、時折の「ゆ……」とうめき声。 だが、れいむは気づかないまま、助け出されたときのお礼の仕方をのんきに考えはじめていた。 五日目 考えすぎたのが悪かったのだろうか。朝から、れいむの頭は朦朧としていた。 眠らないまま、どれだけの時間を過ごしただろう。 力を抜かない、眠らない。 それだけを守って、それだけしか許されないこの世界で生き抜くうちに、れいむは少しずつ現実とつながる意識が薄れていた。 空が明るくなって、かろうじて五日目に入ったことはわかる。 けれど、もう何年も閉じ込められているような気分だった。 この空虚でゆっくりと流れる時間を、一人だけで過ごしていたら今頃心が壊れていたかもしれない。 だが、隣にぴったりとくっつくまりさの存在が、れいむの心に頑張らないとと、わずかな種火となってくすぶった心を焦がしている。 昨日からちょっと調子が悪いらしくて、話しかけても何も応答が無い。 でも、いるということだけで心強いのだ。 「れいむう……」 そのまりさが、一日ぶりに自分から話しかけてきた。 井戸の暗闇から届く、のったりと間延びした呼びかけ。 「どうしたの、まりさ!」 そのことが嬉しくて、応じるれいむの声は弾んでいる。 まりさの次の言葉は中々発せられなかったが、ゆっくり待った。 「……ようやく、かゆい理由がわかった」 時間を大分おいた一言は、れいむに「よかったね!」の合いの手を躊躇わせるほどに疲れきった声。 どうしたのだろうと訝りつつ、やはりまりさの言葉を待つしかないゆっくりれいむ。 そのとき、ゆっくりれいむはわずかな光を感じた。 見上げると井戸の縁を、太陽がわずかに踏み越えようとしている。 ほかほかのお日様がでれば、まりさも元気になるかな。 「あのねえ」 まりさの呟き。 日差しはどんどん高くなる。光の領域が、井戸の縁から内側へ、みるみる広がってきた。 「れいむ、きらいにならないでね……」 よくわからない言葉がれいむの困惑を誘う。 さらなる説明を求めようとした、その時。 ふっくらとしたお日様の気配が二人を包んだ。ゆっくり二匹の元へ届いた、晴れやかな日差し。 光に照らし出されたまりさは、口を半開きにして惚けたような顔。 そして、顔半分を覆いつくす黒。 目を凝らすと、その黒い帯は光を受けて一斉に動き出した。 「ゆーっ!」 黒い帯。それは、まりさの顔にたかる幾百もの虫たち。地虫、羽虫、カトンボ、ゲジゲジ。数え切れないほどの虫たちが光の襲撃を受けてうごめき、逃げ惑い、光から隠れた。 最も手近なまりさの中へ。 まりさの右のほっぺに開いた無数の穴へと、我先にと逃げ込んでいた。 「ゆっ! ゆっ! ゆううううっ!」 目の前10cmで繰り広げられる光景のおぞましさに、満足な叫びもあげられないゆっくりれいむ。 虫たちはまりさの傷口から入り込み、中身を食い荒らしながら、奇妙な巣を勝手につくりあげていた。 まりさは、もう心が消えうえせたかのように、微動だにしない。開いた口からだらだらとよだれをたれ流して、右頬だけがぷるぷると微妙に震えている。 その虚ろな目が、怯え震えるれいむを見つめていた。 れいむは「れいむ、きらいにならないでね……」というまりさの言葉を思い返す。 きっと、今自分はまりさを化け物を見るような目で見ているのだろう。 「しっかりして、まりさ! 外にでたらすぐに治療しようね!」 真正面にまりさの惨状を見据えて、心を燃え上がらせての激励。 ほのかに、まりさの瞳に生気が戻る。 「ありが……」 だが、お礼の言葉は最後までいえなかった。 「うっぐ!」 言葉を遮ったのは、まりさの口からわらわらと巣立つ羽虫たち。 凍りついたれいむに、なぜか笑いかけるまりさ。 「……卵産みつけられちゃった」 気を失いそうになるれいむ。 まりさからは、低い笑い声がもれてくる。 「うふふ……うふふ」 これまで聞いたことの無い、奇妙な笑い方。 もう、れいむの言葉は届きそうに無かった。 それに、その虫たちを見ているとれいむに浮かぶ不安が一つ。 まりさの餡を全部食べ尽くしたら、この虫たちはどうするのだろう。 答えは、まりさと連結した自分のほっぺた。おどろくほど容易い進入経路。 「だずげでえええ! 今ずぐ、だずげでえええええええ!!! だずげでええええええええ!!!」 幼子のように泣き叫ぶも、声を聞き届けて顔を覗かせるものなど誰もいない。 ただ、驚いた羽虫たちをぶわと舞い上がらせただけ。 やがて、惨劇を見せ付けた太陽は井戸の外へ、早々に引っ込んでいく。 後には泣きじゃくるれいむと、まりさの乾いた笑い声。 そして、それを覆い尽くす虫たちの気ぜわしい羽音や足音だけがいつまでも響いていた。 六日目 何度目か、すでにれいむはわからなくなりつつある太陽の出現。 昨日、叫び疲れてぐったりと力を使い果たしたれいむ。もう、口を開くのも厭わしい。 まりさも虫たちに蹂躙にされるがままになっていた。 もううめきすら聞こえない。生きているのか、死んでいるのか、もう判別のつけようがなかった。 ゆっくりれいむは、そんなゆっくりまりさを見つめながら、自分の最期を見つめる思いだった。 きっと、自分もこんな死に様なのだろう。 ありありと見せつけられた絶望。 だが、先ほどまでの狂おしい恐怖はすでに感じなくなっていた。何もかも、あやふやな夢の中にいるよう。ぼんやりと、厚い膜を張ったような精神状態。 心が磨耗しきっていた。 もうすぐまりさのように、うふふ、うふふと笑える幸せな世界に旅立てるのだろうか。 先に行けて、まりさはもいいなあと、れいむはまりさをうらやましくさえ感じていた。 だが、れいむがやっかむ必要もないだろう。 そのときは、確実に近づいていた。すでに、自分を取り巻く全てに何の現実感も感じられなくなりつつある。 だから、れいむは妄想か夢を見ているかと思い込んで見逃すところだった。 はるか井戸の上には、見下ろす一人の女性の姿。 「久しぶりに昔の家にきてみたら、こんなところに……あなたたち、何をしているのかしら」 耳障りのよい、落ち着いた女性の声。 井戸に響き渡る、待ちかねた来訪者の声だった。 「ゆっ! ゆゆゆゆっ!」 助けて、出して、ごめんなさい、お願いします。言うべき感情がれいむの口をあふれて、まったく形をなさない。ただ興奮と哀願だけが噴出して始めていた。 声をかけてきた女性は、逆光でよくわからないにがサラサラの金髪に、白いケープが目に入る知的で楚々とした印象。 自分たちに降りた蜘蛛の糸を握る唯一の人物。 「勝手に入ってごめんなさい! 出られないの! お願い、助けてください!」 「あら、かわいそうに」 ゆっくりに向けられた女性の声色は心底哀れんでいるようだ。 優しい人かもしれない。 ゆっくりれいむは期待と不安の眼差しで女性を見つめる。 「心配しなくていいのよ。今、助けてあげるわ」 逆光で顔立ちはわからないが、その女性はにっこりと微笑んでいた。 その笑顔に、沸き立つ安堵の想い。知らず、体の力が抜けかけるゆっくりれいむ。 だが、ここで沈んでは何にもならない。必死に堪えた。 「待っててね。今、家からロープか何かもってくるから」 身を翻して姿を消す女性。 でも、れいむに不安はない。女性の言葉は心底の同情に満ちたものだったから。 しばらくして、言葉の通りに戻ってきた女性。 「ありがとう、おねーさん! お願いします!」 ゆっくりまりさの言葉に小さく頷いて、女性は井戸の上からするするとロープを下ろしていく。 あと、ちょっと。あとちょっとでれいむの口が届きそうになる。 あーんと、大きく口を開くゆっくりれいむ。 その口が届こうとする、そのまさにほんの手前。 「ところで、ここからじゃ暗くてよく見えないのだけど、あなたたちのお名前を教えてもらっていいかしら?」 女性の機嫌を損ねたくなくて、れいむはロープを噛みに行く動作を止めた。 「ゆっくりれいむと、ゆっくりまりさだよ!」 疲れ果て、声を出すのも億劫だったが、精一杯の愛嬌をこめて応えてみせる。 「へえ、良くあなた方の組み合わせを見かけるけど、だいぶ仲がいいのね」 なぜだか、突然始まる女性の世間話。 早く、早く! れいむの心の声が鐘楼のように鳴り響くが、ここで焦って全てを台無しにするわけにはいかなかった。 「うん、親友だよ!」 正直に答える。 すると、ロープの先端がプルプルと震えだした。 震えているのはロープと、その根元を握る女性の手。 女性は不意に笑い出した。まりさのような、乾いた笑い方だった。 「アハハハ。ホント、あなたたちはいつも仲がいいわよね。守矢神社のときもそう。私のことを放って二人で解決しちゃうくらいだし。本当にまりさとれいむは仲良いわね」 ゆっくりに、女性の言葉の意味はわからない。 ただ、ふつふつと湧き上がる怒りだけが伝わってきた。 「おねーさん、ロープをもう少しのばしてね!」 只ならぬ気配に不安になったれいむが思わず催促してしまう。 それが引き金だった。 「……あら、手が滑ったわ」 恐ろしいほどの白々さを響かせる声。 それとともに、ロープは一気にゆっくりれいむの元へ届き、そのまま丸ごと井戸の底へ落ちていった。 「ゆっ、ゆー!」 れいむの絶叫の最後に、着水したロープの音が無情に響く。 「どうじで、ごんなごどずるのお……」 涙目で見上げると、女性は無表情でゆっくりたちを見下ろしていた。 唯一の蜘蛛の糸が、この瞬間明らかに断ち切られようとしている。 「おねーさん、怒らせていたらごめんなさい! だから、お゛ね゛がい゛! もう一回、お願いじまずうううう!」 れいむにできるのは、同情を誘う哀願のみ。 それでも、井戸の上の女性に効くかどうかは、すでに疑わしくなりつつあった。 「私なりに考えてみたのだけど、せっかくそこでゆっくりしているのに、お邪魔するのは悪いわよね?」 女性の気を遣ったような言葉が放たれるが、その根底に横たわるのは隠そうともしない悪意。 「やだあっ! もうここでゆっくりじだぐないいい! だがら、だずげでぐだざあい!!!」 「でも、大丈夫。今、素敵なお友達をそっちにおくるから、もっと楽しくなるわよ」 会話ではなかった。 ゆっくりれいむの嘆願を存在しないものとして、にこやかに語りかける女性。 優しげに井戸に響く女性の言葉が消えるやいなや、何かを投げ込んでくる。 ひゅうううと、井戸の空気を切る何かが、れいむの顔へ一直線。 そのペラペラの物体が光を透かして、れいむにはそれが何かわかってしまった。 自分と向き合って落ちてくるのは、同じゆっくりれいむ種。ただし、中身がこそぎ落とされた上に、頭を切り落とされたゆっくりのデスマスク。 ぺちゃりと落ちて、身動きできないれいむの顔に張り付く。お互いの唇を重なって、ぺったりと。 「む、むぐううううう!」 同種の死骸といきなりのマウストゥマウスに、声にならない悲鳴。 「喜んでもらえて嬉しいわ。それじゃあ、リクエストにお答えして、もう一匹、お友達がそっちにいくわよ」 すでにひどい衝撃を受けているゆっくりたちへ向けて、さらに何かを投げ入れた女性。 れいむがデスマスクを払いのけるのと同時に、ぺっちゃっと水っぽいものが落ちてきた。 れいむは顔面で受け止めたそれの正体に気づく。 「ゆっ! ゆっくりパチュリー!?」 すでに亡骸となっているゆっくりパチュリーだった。いや、パチュリーが死んでいるのはよくあることなので、さしては驚かない。 問題は、その頭部。 ご自慢の三日月の飾りをつけた帽子が破れ、頭全体がぐちゃぐちゃに中身をかき回されていた。 死に顔は歪みきった苦悶の表情。どんな苦痛を経れば、こんな顔で死ぬのだろうか。 井戸の上から見下ろす女性、アリスの微笑みはお茶会に呼ばれた淑女のように楚々とした笑顔だったが、れいむには空恐ろしくて仕方なかった。 不意に、れいむの鼻腔をつんとした臭気が突き上げる。 気がつけば、周囲にたちこめた甘く腐ったような匂い。 パチュリーの中身が発酵して、強いにおいを放っていた。 その腐った餡はパチュリーを受け止めた二匹の顔のあちらこちらに飛散して、嫌な匂いをこびりつかせる。 「ゆっ!?」 ぶうんと喧しい音。れいむの耳元で騒ぎだす虫たちだった。匂いの強さに惹かれ、わらわらとれいむへも忍びよる虫たち。 見たことも無い大きさのムカデが、まりさの頬からにょっきりと頭をのぞかせる。 「や゛あ゛あ゛! よ゛ら゛な゛い゛でええええ!」 我を忘れ、いやいやと餡子を振り落とそうとするれいむ。 それが致命的だった。 ずるりと、壁からずり落ちるゆくりれいむの体。その動きを止めてくれていたまりさも、すでに押し返す力はない。 二匹とも、ずり、ずり、ずりと下がっていく。 「ゆぐうう! ゆぐうううううう!」 踏ん張ろうとしても、もう遅い。 落下は加速的に早まって、どんどん近くなる水面。遠くなる外の世界。 やがて、井戸に派手な水音が響き渡った。 その反響が収まると、もうゆっくりれいむたちは井戸の上から見えなくなる。 満足げに見届けたアリスは、井戸の上に新たな板を敷き、重石をのせた。 「それじゃあ、ゆっくりしていってね」 くすりと品のいい笑顔を残して、アリスは去っていく。 後には、もう何年も忘れ去られたような古井戸だけが残されていた。 七日目 井戸の底は、光の欠片もない真の暗黒。 出口はすでに閉ざされ、れいむは完全に日時の感覚を失っていた。 ここは井戸の底。にごりきった水面から、頭一つだけ上に離れた壁面。 朽ち果て、崩壊した石壁のでっぱり。そこへゆっくりれいむは口をひらき、顎が外れんばかりにくらいついていた。 れいむのほっぺにくっついたまりさは半身を水面に沈めている。 時折、ぶくぶくと気泡を吐き出して、虚ろな目で浮き沈みを繰り返す。 水に沈んだことで虫たちはある程度外に逃れてはいたが、代わってボウフラたちにまとわりつかれていた。 むわっと、淀んだ水の匂いがきつい。 そんな有様に、れいむはもう終わりが近づいてきたことを自覚しはじめる。 石積みブロックに喰らいついている顎も、がくがくと小刻みな震えが止まらない。 井戸は完全に封印されて、もはや人目につくことも望めなかった。 「うふふ……」 あぶくの合間に、相変わらずの親友の笑い声。 おそらく、ゆっくりまりさはもうダメだろう。 まりさの心が死んでしまうまでに、まりさへ大好きだったことをもっと伝えておけばよかった。 喧嘩してひどいことを言ったことを、謝りたかった。 でも、もう届かないし、口を離せば即座に二匹とも水面に転がり落ちるだけ。 ボロボロとひっきりなしにれいむの涙が零れ落ちていた。もう、何もかもが手遅れ。 せめて、死ぬ前にお母さんに会いたい。 会って、あの柔らかい体に飛び込んで大変だったよと、今までの話を伝えたい。 可哀想に、ゆっくりお休みと、受け入れてくれるお母さんの胸に甘えながら死にたい。 とっくに叶わなくなった、哀れな夢。 もう全てを諦めて、水に沈んでしまおうかと、何度も考える。 けれど、その惨めさが悔しくて悔しくて、れいむは結局石壁にかじりついていた。 このまま、果てて死ぬだけだとわかりきっていた、無駄な抵抗。 どれぐらい時間がたっただろう。 ほんのりと明るさを感じていた。 見上げるゆっくりれいむ。鮮烈な光を放つ天から、小さな、人に似た存在が何体も連れ立っておりてくるのが見えた。 天使というものだろうか。 ああ、自分は死のうとしているのだ。 なぜだか冷静に、れいむは天使たちを眺めていた。 天使たちはれいむの下に回りこむと、その体を掴む。 浮遊感。 ゆっくりれいむは井戸から静かに上昇していく。 ああ、ここから出られるなら、死んでもいい。 安らかなれいむの表情。 外の日差しの強さを感じながら、れいむはゆっくりと目を閉じる。 白く霞みがって遠のく意識。 その心地よさに身を任せていた。 「これで、いいのかしら?」 アリスは人形たちに引き上げさせているゆっくりれいむを見やりながら、傍らのゆっくりまりさに語りかけていた。 そのゆっくりまりさは、井戸の中にいるまりさと別の個体、アリスが最近飼いならしているゆっくりまりさだった。 「ありがどううううう!」 今は仲間の姿を見つめながら、アリスに涙声でのひたすらにお礼を繰り返している。 アリスに唇に苦笑がこぼれていた。 「私は本当にまりさに甘いわね」 昨日の夜、ゆっくりれいむたちの様子を夕食の話題に伝えたところ、仲間を助けて欲しいと泣きすがられてしまった。 どれだけひどくそのほっぺを抓りあげても、一向に黙ろうとしない。「箱」で脅されても「おねがい、だずげであげで!」と泣き喚かれて、アリスも少しだけの譲歩。 やがて人形に抱えられて、気を失ったゆっくりれいむが運び上げられてくる。 「まったく、暢気なものね」 楽しげにゆっくりれいむのほっぺたを、白く形のよい指先で弾いて遊ぶ。 れいむは昏睡したように起きる気配もない。 つづいて、れいむのほっぺたにくっついてまりさが姿をあらわした。 太陽の下、主だった虫たちはぽとぽとと井戸へ落ちていく。水をくぐったことも少し虫を減らしたのだろう。少しだけ、マシなまりさの顔。 「ゆ……?」 そのおかげか、光の眩さに目を覚ますまりさ。瞳にやんわりと光が戻ってくる。 やがて、視覚した目の前の光景に、光が強くなるまりさの瞳。 そこは、夢にまでみた外の世界だった。風がそよそよ心地よく、草むらの青い匂いが薫る森の中。 外にでたの……? 目を凝らしても変わりはない。 紛れもなく、外の世界だった。 ……助かったんだ。 救出を認識するなり、心の奥底から蕩けそうな安堵感に包まれてじんわりと涙がにじむ。 「ゆ、ゆっくりいいいい……」 続く喜びに体が震えていた。 心にこみあげる暖かさに、ほろほろと涙が止まらない。 幸せな気分で流す涙は、なんて気持ちがいいんだろう。 こうして見える全ての景色は、いきなり奪われて、奇跡の果てにようやく戻ってきたあたりまえの世界。 いや、もうあたり前の世界には見えなかった。 世界がこんなに素敵なことに、ゆっくりまりさは気づいてしまっていた。 果てしない空、どこまでも跳ねてゆける自分の体、愛情を確かめ合える友達。それがどれだけ貴重なことか、まりさには心から知ることができた。 さあ、この素晴らしい世界で、心行くまでゆっくりしよう。 まずは、ゆっくりと何をしようかな。 思いつくことは沢山ある。ずっと井戸の中でしたいと熱望していたこと。美味しいものを食べる、遊びまわる、安全な場所でゆっくりする…… だが、それにも増してまずしなければならないことがある。自分を許し、励まし続けてくれたゆっくりれいむに感謝と改めてお詫びをすること。本当にありがとう、そしてごめんなさいと、蕩けるまでゆっくり全身をこすり合わせたい。 その後はひたすらゆっくりしよう。体は大分ぼろぼろだけど、仲間たちに虫をとってもらってゆっくり休めば、きっとまた元に戻れる。 ゆっくりとした日常に戻れる。それだけで、もう涙が止まらない。 とめどなく頬を伝う暖かな落涙。 アリスはそんなまりさにそっと顔を寄せていた。 ようやく、まりさはアリスに気づく。 れいむをひっぱりあげる、人形たちの姿にも。 「……お姉さんが、助けてくれたの?」 「そうよ」 アリスの簡潔な言葉を受けて、心を突き上げてくる感謝の思い。 「あっ、ありがどう……! ほんとに、ほんとに、あ゛り゛がどうううううう!」 最後の力を振り絞ったゆっくりまりさの言葉を、アリスは優しげな眼差しで受け止めていた。 「あらあら。涙で顔がくしゃくしゃよ。女の子がそんな顔を汚しちゃだめよ」 「うん」 茶目っ気たっぷりに語りかけられて、ゆっくりまりさははにかんだ笑みで頷いた。 「それじゃあ、しっかり顔を洗ってきましょうね……」 「ゆ?」 アリスの言葉の意味を問い返す暇もなく、まりさに近づく影があった。 薄皮一枚で繋がるまりさとれいむの間をすうと抜けた影は、アリスの上海人形。 上海人形が両腕に抱えるのは、鈍く銀色の輝きを放つ、大きな大きな断ち切り鋏。 「ゆ?」 次の戸惑いの声がまりさの口からもれたとき、すでにその体は落下を始めていた。 断ち切られていた自分とれいむとの皮膚の結合。 下には、何も無い空間が口をあけているだけ。 それからの光景は、やけにゆっくりと見えた。 再び、井戸の口に沈み込む体。あと10cmでもずれていれば、縁にあたって外に転がり出るというのに、 体はすっぽりと井戸の中央。 すぐさま、暗闇が視界を支配する。 落下を続けながら天を見上げるゆっくりまりさ。 井戸の口はどんどん小さくなって、かつての光景のように遠ざかっていく。 もう、一緒に落下を耐えた友達はそこにはいない。 どこまでも落ちていく。 あれえ、夢かなあ。 惚けた台詞を呟くやいなや、底に着水して激しい水しぶき。 思ったより衝撃がないのは、水中に住む先客がまりさの体を受け止めれてくれたからだった。 井戸の底からぷかぷかと浮かぶのは、無数のゆっくりまりさたち。 すでに中身が井戸に溶け出して、ぶよぶよに膨らんだ皮だけが浮かんでいる残骸だった。 アリスが捕まえて、懐かなかったゆっくりまりさの成れの果て。 この井戸は、アリスの処分場となっていた。 しかし、まりさにそんなことはわからない。わかりたくもない。 「ゆ……ごぼ……ごぼぉ……」 まりさの体にできた虫食いの空洞から生まれる盛大なあぶく。 そのわき立つ水面の向こうで、閉ざされた井戸の天井をぼうっと眺めていた。 水をすった皮がぶよぶよに膨らみ始め、自分の皮で覆われていく視界。 ぎゅうぎゅうの皮におしこまれ、目の玉がとびだしそうに痛い。まるで、巨大な綱で常に締め上げられているよう。 間断ない痛みは、虫にたかられていた時以上に時の進みをゆっくりと感じさせた。 死ぬほど苦しい。でも、自分を殺すこともできない。 もう考られること一つ。いつ死ねるのかなということだけ。 中身の完全な腐敗、溶解まで後一週間ほど。 まりさのゆっくり生活は、ようやく折り返し地点を過ぎたところだった。 後編
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博麗霊夢は、境内の森の裏の湖畔で釣りをしていた。 霊夢の釣りの腕前は、幻想郷に住む人間においては、1、2を争う程の腕前の持ち主であった、 まあそれも無理の無い事だった、博麗神社の夕食のグレードはその日の釣果に大きく左右されるのだから。 ここには食料が豊富にある、さまざまな魚、たくさんの野草、いろいろな獣、そして最近増えてきた「ゆっくり」・・・。 霊夢は、「ゆっくり」という生き物が多少苦手だった、彼女にとって、ゆっくりはまっすぐすぎる、 しかし、何事にも例外という物は存在する、そしてそれはゆっくりの中にも・・・。 「れいむ・・・。」 「分かってるわよ。」 霊夢は荷物の中の、もぞもぞと動く大き目の鞄にきびすを返すと、自分の後ろ手の森に注意を走らせる、 ごそごそと鞄から出てきた金色と肌色のまるっとした生物・・・ゆっくりアリス(以下ありす)である、 ゆっくりアリスは他のゆっくりよりは知能が高いが、霊夢と行動を共にするこのありすはとりわけ物分かりが良かった、 霊夢からすれば、自称都会派のありすは、そのプライドをくすぐってやりさえすれば、とても扱い易いゆっくりだった、 まあいつも接している面々が面々だ、至極当たり前の話だ。 「ゆっくりがいる・・・。」 「ええ、近くに来てるわ・・・。」 きぃきぃ煩い鳥の鳴き声と、ごうごうという風のうねり、そして小さいが確かに存在する気配・・・、 瞬間、二人が声を上げる。 「「うえッ!!。」」 二人は上空の木々の上に動く物体を確認する、ゆっくりれみりゃだ! そしてそこに居たのは、標的の姿を確認し、もはや興奮を隠さない二人。 「れっれっれっ、れみりゃ!!!」 「おっおっおっ、おにく!!!」 二人は既に叫んでいた、そしてさすがのれみりゃもこの異常な状態に気付かざるを得ない。 「うー! う? うーっ! うーっ!」 危険を感じたのか、身を翻し飛び去ろうとするれみりゃ、しかし二人はその時既に行動に移っている、 霊夢はビー玉大の陰陽玉を二発打ち出していた、それは正確にれみりゃの羽の付け根を打ち抜き、れみりゃは力なく墜落する、 そしてその墜落の地点と思われる場所を目掛け、猛然と飛び跳ねるありすの姿、 そして、ドサッという音とほぼ同時に「ハァ…、ハァ…。」という荒々しい吐息が撒き散らされはじめる、 「れみりゃあああ!かわいいよおおおおっほおお!」 「うーっ!!うーっ!!」 「よろこんでくれてうれじい゙いい゙いぃ!そのしたったらずもがわい゙いい゙いっふうぅぅ!」 「ざぐやー!!ざぐやあぁ!!」 「うおっほおおぉぉぉぅ!!かわいいイ゙ってねイ゙くよイ゙くよイ゙グすっきりー!!!」 「う…、う…。」 (・・・残念ね、咲夜が興味あるのはちゃんと体が付いてる本物だけ・・・それに毎度毎度咲夜に出てこられちゃ堪んないわよ。) そんな事を考えつつ、数十メートル先のゆっくりによるゆっくりの陵辱現場に、ゆっくりと向かう霊夢、 「ぼうしがわい゙いぃ゙ぃ!!、イ゙くよイ゙くよすっきりー!!!」 「ゔ…ゔ…ゔあ゙ぁ゙…。」 「あおじろいかみもがわい゙いぃ゙ぃ!!、イ゙くイぐイ゙くすっきりー!!!」 「………ゔー…。」 いつも思うが、その気になったありすは凄まじい、本物もびっくりだわね・・・、などと考えつつありすに声を掛ける霊夢。 「はーい、そろそろ終わりよー。」 「んふふふふすっきりー!!!・・・・・えー、もうなの?」 「そう、お茶受けになってみる?」 「・・・・・しょうがないわね・・・。」 ありすが体の下のれみりゃから飛び降りる、そこには半分以上朽ちてなおぴくぴく動き続けるれみりゃと、 そこから十数本生えた茎、そしてそこに付いた大量のれみりゃの仔たち、 巫女は手際よく茎を根元から引きちぎり、大きな財布のような物に突っ込んでいく、 これはスキマポケットといい、ある妖怪から間借りしたスキマと現実をつなぐ道具で、ある河童を口車に乗せ作らせた物だ。 (持つべき物は友達よね・・・。) そして巫女は仔れみりゃを捕獲し終えると、おもむろにれみりゃに齧りついた。 「むーしゃ。むーしゃ。」 「・・・・・あいかわらずきもちわるいわ、さいあくだわ・・・」 「・・・食べ物はね、腐りかけがいちばん美味しいものよ・・・・・しあわせー!!」 霊夢の胃腸の頑丈さは、幻想郷に住む人間においては、1、2を争う程の頑丈さの持ち主であった・・・。 そして短い食事は終わり、二人は湖に放置してきてしまった釣り竿の場所へと戻って行った、 霊夢も食べられなかった部分はスキマポケットに放り込んである、 この道具にゆっくりの骸や宴会の食べ残し、野草等を放り込んでおけば、中のゆっくりたちは適当な栄養と 長い半自動スキマツアーによる適当な恐怖でいい感じに育ち、ポケットの中に手を伸ばせば食べ頃のゆっくりに当たるのだ、 ああ、なんて便利な道具なんだろう。 ゆっくりが幻想郷に出現してからというもの、博麗神社の台所事情は確実に好転していた、 二人はある意味で相性のいいコンビだった、 ありすは大喰らいの他のゆっくりと違い、すっきりさえさせていれば、咲夜たちが宴会に持ち込んだお茶菓子の残りで十分に食わせていける、 それに霊夢は加工所などに頼らずともゆっくりを増やせるわけだし、ありすは安全に、確実にすっきりできる、 しかし、ゆっくりたちの間ではこのコンビの脅威は語られていない、 なぜなら、この二人から逃げおおせたゆっくりは、現在のところ、いないからだ。 かなりぶっ飛んだ設定ですが、「そうなのかー」ぐらいのノリでとらえてくれれば嬉しいです。 それと巫女ファンの人、ごめんなさい。
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※今までに書いたもの 神をも恐れぬ 冬虫夏草 神徳はゆっくりのために 真社会性ゆっくり ありすを洗浄してみた。 ゆっくり石切 ありすとまりさの仲直り 赤ゆっくりとらっぴんぐ ゆねくどーと ※今現在進行中のもの ゆっくりをのぞむということ1~ ※注意事項 まず、上掲の作成物リストを見てください。 見渡す限り地雷原ですね。 なので、必然的にこのSSも地雷です。 では、地雷原に踏み込んで謙虚ゲージを溜めたい人のみこの先へどうぞ。 _______________________________________________ 弥生、三月。 朗らかな陽射しが大地にあまねく生命を祝福する、緑の季節がまた巡り来た。 「春ですよー!」 高らかに歌声を響かせる春告精が誘うのは、西からの柔らかい風と、その風が伝える優しく力強い春の息吹。 野山を鎖す白い雪は足早にどこかへと消え去って、大地はモノトーンから草花の鮮やかな彩へとその装いを変えている。 その多様な彩の合間に目を配れば、冬の厳しい環境を潜り抜けて春の恵みにありつくことが出来た多くの命の歓喜の様子と、 余裕を得た彼らが新たに生み出した真新しい命を見つけることもできただろう。 「むーしゃむーしゃ!」 「むーしゃむーしゃ!」 遠く妖怪の山にまで連なる広大な山地の一角、杉林の斜面。 ここにも一組、生まれて始めての冬をなんとかやり過ごした一組の生命が早速がつがつと集めてきた昆虫や草花を頬張っていた。 草木は枯れ果て、昆虫も姿を消す冬場はゆっくりにとって忍耐に次ぐ忍耐の季節だ。備蓄食料の在庫管理を怠って、敢え無く おうちの中での餓死を迎える家族の存在もそう珍しいことではない。 だから、そうした食事制限の一切から解放される春の訪れはとても幸せであるもののはずだった。 「むーしゃむーしゃ、へっくちょん!」 「むーしゃむーしゃ、はっくちょん!」 だが、斜面に掘り抜かれたおうちの奥底で備蓄の残余を食い尽くす勢いで食料に向かう二匹には何か、ゆっくりがゆっくりで あるために重要不可欠なものが足りない。 足りないだけでなく、語尾に余分なものがついていた。 「ゆゆっ。おかしいよれいむ! しあわせー!なごはんさんなのに、おあじがぜんぜんしないよ! へっくちょん!」 「ゆゆっ!? おかしいねまりさ! しあわせー!なごはんさんなのに、れいむもおあじがしないよ! はっくちょん!」 口に含んだご飯のかけらを飛ばしながら、ぎゃあぎゃあ騒々しく言い交わす二匹。実にゆっくりできていない。 そう、二匹に足りないのは「しあわせー!」だ。 腹いっぱい、おいしいごはんを食べているはずなのに、何故かしあわせー!を感じない。 むーしゃむーしゃをいくらしても、しあわせー!の代わりに出てくるのはゆっくりできないくしゃみばかりなのだ。 「「これじゃむーしゃむーしゃしあわせー!できないよ! ぷんぷん、ぷく……へっくちょん!!」」 誰が悪いのか、なんでくしゃみが止まらないのか。 ここにいるのはれいむとまりさの二匹だけなのだから、向ける相手は勿論どこにもいない。 とにかくやり場のないゆっくりできない気持ちを表現しようと二匹は「ぷんぷん、ぷくー!」としてみようとしたが、 頬を揃ってぷっくり膨らませたところでくしゃみが止まるわけでもなく。 吸い込んだ空気を残らず吐き出し、二匹は少し困った顔をお互い相手に向け合った。 「れいむ! まりさはかぜさんかもしれないよ! へっくちょん!」 「まりさ! れいむもかぜさんかもしれないね! はっくちょん!」 馬鹿は風邪を引かないというけれど、ゆっくりだって風邪を引くものらしい。 そういえば、あんまり気にしていなかったけれどどちらも少し涙っぽい目をしているようだ。 実にゆっくりとした感覚でようやく自分と相手の身体の異常を感知し、二匹は「ゆんっ!」と揃って頷いた。 「「おねつをたしかめようね! すーり、すーり!」」 わざわざそう宣言して、二匹はお互いぴったりすりすりと身体を寄せ合う。 といっても、親愛の表現や繁殖行為と違って、すり合わせるのはおでことおでこ。 難しい顔をつき合わせて「ゆゆゆ……」と唸り、額を突きあわせること数秒間。 「おねつはないみたいだね! へっくちょん!」 「じゃあかぜさんじゃないね! はっくちょん!」 すっと身を離した二匹は一瞬ぱぁっと笑顔を咲かせ、でも流石に直後のくしゃみに何にも問題が解決していないことに気付いたらしい。 すぐに顔を曇らせて、「ゆぅぅん」と慰めあうように身をすり合わせた。 『はーりゅでーしゅよー♪』 本当なら嬉しいはずの、春の訪れを告げるそんな声も今日のところはちっとも心が躍らない。 ごはんはおあじがしなくて、だからいっぱいたべてもおいしくなくて、おなかがいっぱいになるだけではあんまりゆっくりできなくて。 風邪なら、おなかいっぱい食べていたらその内治ってしまうけれど、風邪でないなら治し方だってわからない。 さっきの呼び声も、なんだかちょっとゆっくりできない感じがした。 空を飛んでいるはるさんは一人だけのはずなのに変に重なって聞こえたし……おみみも少し、おかしくなっているのかもしれない。 おうちの外に見える世界はとーっても蒼く晴れ渡っているけれど、二匹の心の中はどんより分厚い雲で覆われて、しあわせのおひさま なんてほんの少しだって目にすることはできなさそうだった。 というかそろそろ、二匹の心の雨雲からおめめを抜けて大粒の雨が降り出しそうな。 「ゆう、こういうときは……」 涙目まりさはどうしたらいいか考える。 これが何なのか、どうしたらいいか、まりさとれいむにはわからない。でも、物知りのぱちゅりーなら知っているかもしれない。 そうだ、物知りのぱちゅりーは色々まりさやれいむが知らないことを知っている。この間だって言っていた。 はるさんはとってもゆっくりできるけど、ゆっくりできないこともあるって。 『はーりゅでーしゅよー♪』 ゆっくりできなくなったのは、春さんが来てからすぐじゃなくて、このお声が重なって聞こえるようになってからのことで…… あ、ちょっと待て。このお話はなにか関係あるような気がしてきた。 ……ええと、それはなんだっけ? 「……そうだ! ぱちゅりーが、はるさんのあいだはかふんしょうさんになることがあるかもしれないっていってたよ!」 「ゆゆっ。かふんしょうさん?」 思い出した! まりさが狭いおうちの中でぴょこんと飛び上がって喜ぶと、れいむがびっくりした顔でずるずるっと反対側の壁までずり下がった。 まりさはぱちゅりーのお話を知っていて、れいむはそのお話を全然知らない。 何故って、冬篭りを終えて無事春を迎えた群れのみんなが初めて広場に集まった時、年長さんのぱちゅりーがまりさたちみたいな 初めて春を迎えるゆっくりたちに色々春の過ごし方を教えてくれたのに、れいむは陽気に中てられてゆぅゆぅ寝息を立てていたもの。 「ゆゆっ。そっか! れいむあのときすーやすーやしてたもんね! へっくちょん!」 「あのときっていつかわからないよ。ゆっくりせつめいしてね! はっくちょん!」 少し、得意げな顔でふんぞり返ったまりさにれいむは気分を害したらしい。 ぷくー、と膨れる番の姿にまりさは楽しそうにくすくすと笑って、でもそれ以上は意地悪せずに素直に教えてあげることにした。 「ぱちゅりーはおはなさんがとってもゆっくりできているときに、かふんさんがいっぱいとびだすと、ゆっくりかふんしょうになるって いってたよ!」 花粉症になると、匂いがわからなくなったり、味がわからなくなったり、くしゃみが出たり、涙が出たりするらしい。 それって風邪さんとどう違うの?って質問も当然出たけれど、そこはぱちゅりーも上手く説明はしきらない様子で。 『むきゅ、それはほんとうにかふんしょうさんになっちゃったらわかるわ。とにかく――しちゃだめよ』 なんて誤魔化していたのも、まりさはついでに思い出した。 「……ゆぅ。そういえば、ほかのせつめいもそんなかんじでおわっちゃったようなきがするよ……っくちゅん!」 ぱちゅりーは確かに物知りだけど、あまりその知識は役に立たないような。 そんなことに思い至って、まりさは小さめの溜息を吐いた。うん、ぱちゅりーを頼りにするのは少しだけ考え直したほうがよさそうだ。 もっとも、その場にいたけど全く話を聞いてなかったれいむは全く違う感想を抱いたらしい。 「じゃあ、いまはおはなさんはゆっくりできてるんだね! それはとってもゆっくりしてるよ!」 ゆっくりしているのは、いいことだ。 それがおはなさんだって、まりさやれいむに食べられるむしさんだって、ゆっくりしている時は邪魔しちゃいけない。 それでまりさやれいむたちが少しゆっくりを我慢しなくちゃいけないとしても、他人のゆっくりを台無しにするのはとっても ゆっくりできないことだった。 そんな純粋なれいむの喜びには、まりさとしても少しも異論はない。 ――とてもたいせつな何かを忘れてしまっているような気が、ほんの少しだけしたけれど。 でも、そんなの、思い出せないならどうでもいいことなんじゃないだろうか。 「「おはなさん、かふんさん、はるさん、ゆっくりしていってね……へっくちょん!」」 だから、まりさはそれ以上考えなかった。れいむはもとより知らないのだから、何かを思うこともなかった。 とにかく自分のゆっくりは、後回しだ。かふんさんが思う存分ゆっくりしたら、自分もその後でゆっくりできるはずだから。 『はーりゅでーしゅよー♪』 まりさとれいむが春と野山の草花に向けて投げかけた心からの祝福に応えるように、またおうちの外からそんな声がやっぱり 幾重にも重なりあって聞こえた。 二匹はそれを春からの返事なのだろうと、漠然と信じた。 もちろん春という季節が、なにがしかの言葉を紡ぐことなんてありえないのだけれど。 「れいむ。はるさん、とってもゆっくりしてるよ!」 「まりさ。はるさんにもういっかいごあいさつしようね!」 しかし、信じたれいむとまりさは何とかして春の顔を見たくなった。 見て、きちんと笑顔で挨拶に答えてあげたくなった。 だからいそいそとおうちの玄関まで這い出して、もう一度、お花さんにも負けない満面の笑みを咲かせてお決まりの挨拶を投げ返す。 「「ゆっくりしていって……ゆげぇ!?」」 ……投げ返す、つもりだったのだけど。 その挨拶半ばにして、お外を眺め渡した二匹の顔が奇妙な声と共に歪んだ。それはもう、傍から見ていてこっけいなほどに。 どう見てもゆっくりできていない顔立ちを見せて、二匹はその場で凍り付いてしまった。 『ゆーっきゅり、しちぇいっちぇねーー!』 おうちをぐるりと取り巻く『春』は、愕然としたままのれいむとまりさに向けて確かに言葉を返した。 驚愕に揺れる二匹の目にもそれらは確かにとってもゆっくりとした笑顔で咲き乱れていた。 ……ただ、その『春』たちが咲き乱れている場所が、失望だったり絶望だったり諦観だったり逃避だったり、とかくゆっくりには 程遠い顔をした群れのゆっくりたちの頭に生えた茎の上だったりするのだが。 『はーりゅでーしゅよー!』 みんなの頭に鈴生りに生る『春』は、眼下の親の悲歎なんか気付きもしない様子で愛らしい声を揃えて春を謳う。 その頭に被るのは、一様におそろいの三角帽子。親の種類なんてまるで関係ない。 それは形も違えば色も違う。赤ちゃんたちのお帽子は、つばのない白い三角帽子に大きな赤いリボンが付いている。 (『かふんしょうさんにかかったら、はるですよー、っておこえがきこえてるあいだはおうちをとじまりしておそとにでちゃだめよ』) ……そういえば。 目にしたものの衝撃から立ち直らないままのまりさは、ようやくのことであの日ぱちぇりーが教えてくれたことの続きがどんなもの だったかを思い出していた。 (『そうしないと、からだにたまったかふんさんのせいではるさんのあかちゃんができちゃうから、きをつけてね』) そうだ。ぱちゅりーは『はるさんのあかちゃん』ができるといっていたんだ。 教えをぼんやりと思い出すうちに、頭頂部のむずむずとした痒みと、身体からどんどん餡子が抜けていく感覚が同時にまりさを襲った。 ここまで来たらさすがに、まりさの頭でも深く考えなくたって分かる。 「どおじでごんなごどになっでるの……?」 それでも自分の頭を確認するのが怖くて、ほんのわずかばかりの期待を込めてまりさは隣のれいむの方をちらりと見た。 「「……ゆげげっ」」 ちらりと見て、やっぱりこっちを縋るような目で見ているれいむと視線が衝突して、そのままお互いの頭の上へと視界を移動させて、 それから同時に小さな悲鳴と少量の餡子を口から吐き出した。 二匹の期待も空しく、真っ白な雲が漂うお空を背景にしてすらりと伸びた緑の茎。 そこに鈴生りに生るのはれいむともまりさとも形も違えば色も違う小さな赤ちゃん、三匹ずつ。 未だ目覚めぬその小さな赤ちゃんたちのお帽子は、つばのない白い三角帽子に大きな赤いリボンが付いている。 つまり、群れのみんなが浮かない表情で見上げている赤ちゃんたちと全く同じ種類の、ゆっくりの赤ちゃん。 極めつけは、この子達の背に生えた昆虫のような羽だ。こんなもの、この群れのゆっくりには一匹だって生えていないのに。 どうしてこんな事にと聞いても応えてくれそうな相手はいない。 よく見ると、今のこのことお外に出ていたのは自分と同じで春を迎えたのは生まれて始めての若いゆっくりしかいないようだったから。 つまり、大人のいうことをきちんと聞いていなかったお子様ばかりだったということで――まりさはこれからはきちんと、年を取った ゆっくりの言うことは聞いておこうと心に決めた。 ……それは今この場の問題を解決するには遅すぎる決意だったけれど、これからのゆん生にはとても大切なことではあるはずだ。 特に、そう。たとえば望まずして出来てしまった子の育児とかのために。 「ゅっ……」 「……ゅきゅっ……」 せっかくの陽気だというのに、『これから』を想像してげっそり疲れきってしまったまりさとれいむが見上げる先。 普通のにんっしんっならありえない速さでゆっくりとしての形を成してゆく赤ちゃんたちが、早くもごにょごにょと意味を成さない 音の羅列を口から漏らし始めている。 実際に茎から生れ落ちるのはまだ先のことだろうけど、この分なら目を見開き元気な挨拶を『両親』に向けて放つのは遠くない。 「……れいむ。ふゆごもりようのごはん、まだのこってたっけ」 「うん、まだのこってるよ……」 感情の篭らないぼそぼそとしたまりさの問いかけに、応えるれいむの声も似たようなもの。 それを耳にしたまりさは「そう、よかった」と呟いて、別に今更残っていなくても大丈夫かと思いなおした。 かふんしょうさんで赤ちゃんが出来てしまった以上は、今更お外に出る制限なんてないのだから。 お外にさえ出てよいのなら、ごはんは幾らでも集められる。季節はもう、寒くて野山にごはんの乏しい冬ではないのだし。 「「「「「「ゅきゅ……ゅきゅっ。ゆゆっ!?」」」」」」 そう。それはとても忌々しいことではあるのだけれど。 陰鬱な想いを消せないままに、まりさは頭上にその声を聞いた。 「「「「「「おきゃーしゃん? おきゃーしゃん、ゆっきゅりしちぇいってにぇ!」」」」」」 そう。忌々しいことに、春はまだ、目覚めたばっかりなのだ。 * * * 「おお、子宝子宝。おつむの中身同様、春めいたことで実に結構な騒ぎですね」 春だというのに暗雲たちこめるゆっくりプレイスを見下ろす木の枝で、一匹のきめぇ丸が嘲笑とも苦笑ともつかない笑いを 右往左往するゆっくり達に向けている。 いや、ひょっとするとそれは憐憫、もしくは共感に類する笑みだったのだろうか。 覇気のない笑顔を浮かべるきめぇ丸の頭の上には、ごたぶんにもれず白い帽子を被った赤ちゃんを実らせた茎が伸びていたのだから。 「「「ゆーゆゆー♪」」」 きめぇ丸は知っている。 今頭の上で楽しげに歌声を合わせているこの子達は、春の終わりには前触れもなく風に誘われるようにしていなくなってしまうことを。 人里や多くのゆっくりの間では、初春に突然大量発生し、初夏までにいっせいにどこかに姿を消してしまうと思われている準希少種、 ゆっくりりりー。 それがこの赤ちゃんたちの名前だった。 彼女たちは背中に生えた透き通った翅に五月の風をいっぱいに受けて、どこか根付くべき土地を求めて旅立ってしまうのだ。 そしていつかどこかの大地にたどり着き、そこに根を下ろし、雨にも溶けず鳥獣や昆虫にも食われずに済んだ一握りの子供だけが、 ゆ木となって森を作るという。 そうしてゆ木となったりりーほわいとたちは、歌うことなく、しゃべることすらなく春までひたすらに静かに過ごす。 実は付けないがゆっくりの好む味の葉を多く大地に落とす森として、多くのゆっくりを惹きつける。 「おお……おろかおろか」 「「「ゆっ♪ ゆっ♪」」」 やはりこの年に成体になったばかりの若いゆっくりとして、うかつにもその罠に引っかかってしまったきめぇ丸は頭上のわが子を リズミカルに揺らしながら、今度ははっきりとした自嘲の笑いを口元に浮かべた。 そう、あまあまな落ち葉こそがりりーのゆ木が集まるこの森の罠だ。 春に枝いっぱいの白百合に似た花を咲かせ、多くの花粉を飛ばし――落ち葉の味に惹かれてやってきたゆっくり達に、わが子を 数多宿らせるための。 きめぇ丸は同族に教わった知識をなぞって軽いため息をつき、湿度の高い視線を背後に聳える木の幹へと向けた。 上空から見れば枝葉にすっぽり覆い隠されたその部分の樹皮に、顔のような凹凸が隠されていることにどうしていま少しばかり 早く気づくことができなかったのだろう 「はーるでーすよー♪ ゆっくり、していってね♪」 「おお、拒絶拒絶。子供を育てるということまで含めて、悉く拒絶させていただきます」 その顔のような凹凸――ゆ木となったりりーの成体の歌声に、きめぇ丸は酷く嫌そうな口ぶりで応じた。 そして、なんの躊躇もなく茎を赤ちゃんごと幹、りりーの顔のある部分のすぐ傍へと叩き付ける。 声もなく弾ける、三匹の赤ちゃんゆっくり。飛散した微量の餡子が、りりーの顔をわずかに汚した。 りりーはわが子の無残な末路に一瞬不満そうに目を細めて――しかしすぐに、何事もなかったかのように花のような笑みを咲かす。 「はーるでーすよー♪」 「おお、非情非情。まああれだけ実が生っていれば十分なのでしょうかね……」 不本意に生まれた子だ。育てず、異物として排除するゆっくりはこのきめぇ丸に限ったことではない。 だからこそ、膨大な花粉を飛ばし、数多の子供を作らせる。 別に気にする必要も感じないのだろう、無邪気なゆ木りりーの歌声にきめぇ丸こそ呆れた、いささか非難を含む目を声の主へと向けた。 地上から聞こえるのは、多くの嘆きと幾らかの怒り、そしてたくさんの幼過ぎる歌声と、末期の言葉。 理不尽な子宝を得て育てようと決意するもの、間引くことに決したもの、つがいや姉妹間で意見が纏まらず争いとなったもの、 春から若ゆっくりの間に――多くはこの森に対する無知、油断による――不幸が齎されたゆっくりプレイスはいつも以上に賑やかだ。 そんなゆっくりプレイスの喧騒と、ゆ木りりーの歌声とを聞きながら、きめぇ丸はふわりと空へと飛び上がる。 花粉の季節そのものは、もうじき一応の収まりを見せるはずだ。収まったら、またここに来よう。 きっとその頃には、ある程度育った子供とその若い親を中心にもっと素敵で、悲劇的な光景が幾つも繰り広げられているだろうから。 地上を一瞥したきめぇ丸は、最後に心底からの笑いを見せた。 春が、赤ちゃんが、通常のゆっくりが言うようにひたすらゆっくりできる存在だというならば。 「おお、祝福祝福。赤ちゃんといっしょに、ゆっくりしていってね!」 地上で失意に打ちのめされる若いゆっくりたちに、それができないはずがないのだから。