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「んほおおおおおおおおッ!」 「すーりッ!すーりッ!んむほぉ!」 戸を開けるとお茶の間はクライマックスであった。 窓を割って家に侵入したれいむとまりさは床を泥で汚し、 障子を破り、1週間分の食料を食い散らかし、瓶に入った水を撒き散らした後 ちゃぶ台の上で絡み合い、今フィニッシュを迎えようとしていた。 「す、すすッ!すっきりするよ!すっきりするよ!」 「ま、まりさもすっきりするのぜ!するのぜぇぇl!」 汗と涎と謎の液体を撒き散らしながら恍惚の表情を浮かべる二匹。 ヌメヌメと蠢く饅頭は家の明かりが反射してテカテカと光っている。 そのヌメヌメした饅頭がこちらに気が付き、ブサイクな顔になる。 「んほぉッ!なにみ゛てるの゛ぉ!?ここは・・・れいむの・・・ゆっくりほぉ!」 「なにみてるほぉんのぜへぇ!んんっすっすっき!ぷれいす!んほぉ!」 お約束のお家宣言をはじめようとするが、クライマックスだったので すっきりとお家宣言のどちらを進行すればいいのかわからず、二つの行動が混ざる二匹。 結局、見られながらするのも悪くないのぜ、という結論に落ち着いたのか ニヤニヤとこちらを見ながらすっきりを再開する二匹 「むほぉッ!まりさ!すっきりするよ!ゆっくりした赤ちゃんを産むよほぉおおぉぉッ!」 「んっほぉぉぉぉッ!れいむぅぅ!ゆっくりしていってね!ゆっくりしてい゛っ・・・」 人間はすっきりする寸前を見計らってまりさを蹴り飛ばし、となりにダルマの置物を置いた。 「すッ!すすすっき・・・ゆゆっ!?」 れいむが何時の間にやら隣に居るのがまりさでは無くダルマという事に気が付き 恍惚の表情から一転、クワッと白目を剥いた。 「だれ゛な゛の゛ッ!?ゆっぐりじないで!・・・・すっきり、ゆげぇッ!?」 スケベDVD鑑賞中、突然男優のアップに切り替わった所で絶頂を迎えてしまった時の如く テンションの低いすっきりでフィニッシュを迎えてしまったれいむ。 急激に熱が引いていく体からすっかり冷たくなった謎の液体をポタポタと滴らせ、無表情でダルマを見つめている。 一方、まりさは蹴られた事にすら気が付いておらず、うつ伏せになって必死に畳に体を擦り付けていた。 「すっ!すっ!すっ!すっ!」 もはや頭の中はすっきりの事しかないらしく、隣にはれいむが居ない事にも気が付いていない。 歯をむき出し、目を血走らせながら一心不乱に畳相手のすっきりに勤しむまりさ。 そんなまりさの後頭部に足を乗せると全体重をかけて一気に踏み潰した。 粘液だらけで湿っていたので皮は破裂せずに全身の餡子が体の下の方へ移動し、特大のうんうんを漏らした。 「すっ!すっぽろぉッ!!」 上半分を踏み潰されたまりさは動かなくなったが、 一回小さく痙攣すると次の瞬間狂ったように足の下で何度も跳ね上がった。 足をどけてやると上半分をペラペラさせながら奇声を発し、壁に体当たりを繰り返してる。 れいむの方を見ると植物型のにんっしんをしており 茎から生えてきた子供は全員れいむ種であるが、何故か全員無表情で遠い目をしている。 すっきりの相手がダルマだったからであろうか?よくわからんがおめでとう。 そんなれいむがこちらに気が付いた。 「ゆっ!さっきからうるさいよ!ここは・・・」 「ここはお前たちのゆっくりプレイスでいいよ」 「ゆっ!?」 「でも今からお兄さんのゆっくりプレイスにするよ、嫌なら勝負だ」 「ゆ゛ゆ゛っ!」 とんとん拍子で進んでいく話に対応できないれいむ ここはれいむのゆっくりプレイスと言ったものの実は人間のゆっくりプレイスという事は理解していた。 しかし、何故かここはれいむ達のゆっくりプレイスであるらしく、 それを人間が横取りしようとしていて勝負をしなくてはならない。 そういえばまりさは何処に?子供が居ては勝負どころではない。 実はれいむのゆっくりプレイスでは無いことを人間に伝えた方がいいのだろうか? しかしそれでは、れいむ達のゆっくりプレイスになったこの場所を手放すハメになる。それはこま 「ゆぴぃ!」 考えがまとまる前に人間の平手打ちがれいむの頬を打つ。 倒れこみ体が平たくなるれいむ。 その時、頭のてっぺんが突っ張るような感覚・・・ 頭から生えた茎が撓っているのだ。このままの体勢では茎は折れてしまう。 「ゆっくりおきるよ!ゆべっ!?」 れいむが起き上がった途端に再び人間の平手打ちが入る。 その衝撃に叩かれていない方も頬までブルブルと震えた。 また地面に倒れこみ茎が撓る。 「起きるんだ、これからお前を10回殴る」 「どぼじで!?」 「理解しなくていい、そうしたらまりさの怪我も治してやるし、お前たちをお前たちの巣まで送ってやる」 わけがわからない。 ふと見ると、まりさは上の部分がペラペラになって奇声を発しながら壁にすりすりを繰り返している。 一体何があったのか?しかし自分があと8回殴られれば、この馬鹿な人間は自分のゆっくりプレイスを 横取りされかかっていた事にも気が付かずに無事に巣に返してくれるどころかまりさも治療してくれるらしい。 人間は思っていた以上に力はあるが、頭は足りないようだ。 「ゆっくりりかいしたよ!とっととれいむを巣にかえしてね!」 結論から言うと、それかられいむは2回の平手打ちで根をあげた。 ゆっくりが死ぬ程の力で殴ったわけでは無い、加減をして潰れないように配慮をした。 にもかかわらず、今れいむは頭から生えた茎が撓り、折れそうになっているのも 負傷したまりさが徐々に動かなくなって壁に横たわり痙攣をしはじめたのにも関わらず。 起きようとせず、頬を膨らませ人間からもまりさからもそっぽを向いていた。 「どうした?まだ2回だぞ?」 「ゆっ!れいむはいたいのはもういやだよ!」 「茎が折れそうだぞ?このままだと子供が危ないぞ、それでもいいのか?」 「人間さんがもうなぐらないなら、おきあがってあげてもいいよ!」 「まりさはどうするんだ?ゆっくりじゃあの怪我を治すのは無理じゃないのか?」 「まりさがかってにああなったんだよ!れいむがゆっくりすればまりさはなおるよ!」 「そうしていても巣には帰れないぞ?夜になれば山道は捕食種だって出るぞ?」 「なにいってるの?ここがれいむのゆっくりプレイスだよ!人間さんはとっととでていってね!」 人間は何も言わずにれいむの頭から茎をむしり取った。 「ゆげぇ!!な゛に゛じでる゛の゛ぉぉぉ!!れ゛い゛む゛の゛おぢびじゃんがあああ!」 身を震わせ大粒の涙を撒き散らしながら号泣するれいむ。 この村では野生のゆっくりが家を荒らせば殺すことにしている。 しかしこの人間は家を荒らされても、毎回さっきのようにルール付きの暴行を加え巣に返していた。 ただ殺すよりも、人間への恐怖を植えつけて群に返したほうが、子に、群のゆっくり達に 人間は危険だという認識を植えつける事ができ、こういった事態を未然に防げると考えたからだ。 実際、いままで進入してきたゆっくり達はこの暴行に耐え、巣に帰って二度と里に下りては来なかった。 しかしこのれいむは耐えられる筈の痛みを拒否し、自分の番や子を見捨てようとしている。 おままごと感覚でまりさと番になり、人間の家に侵入し、自分勝手に子を宿した。 そして今、身を震わせて泣き喚き、被害者面をしている。 この村の生活はあまり裕福ではない。一週間分の食料は笑い事では済まされない。 村の中ではゆっくりに対して破格の対応をしていたこの人間を持ってしてもこのれいむは許せなかった。 「ぎげぇ!にんげんざん!おぢびじゃんをがえぜええええ!」 目を血走らせながら人間の足に噛り付くれいむ。 人間はそれを振りほどく、れいむは壁にあたり「ぽてん」とシュールな音を立てた。 「ゆげぇッ!い゛だい゛!」 そんな音とは裏腹に大声をあげるれいむ。それを無視して人間は部屋から出た。 暫くして戻ってくると手には黄色い液体が入った小瓶が握られていた。 それに赤ゆっくりの茎を入れる。無表情だった赤れいむ達の顔がすぐさま形相を浮かべる。 「い゛だぃぃぃぃ!い゛だぃぃぃぃ!」 振りほどいただけなのにさっきから死にそうな声で苦しんでいるれいむ。 もう赤ゆっくり達の事など眼中に無いようだ。舌を伸ばしぶつけた頬を必死に舐めている。 れいむは放置してまりさの治療をする事にする。 床にこんもりと盛られた餡子を鷲づかみにしてまりさのあにゃるから体に戻してやる。 無言で痙攣を繰り返すだけになっていたまりさの目が「んほぉ!?」と見開いた。 それから下半身?に寄った餡子を全身に行き渡るように整えてやり、頭からオレンジジュースをかける。 ぐったりとしていたまりさだったが、徐々に「なんかあまいのぜ」と言い出し回復した。 「もっとよこすのぜ」と言い出した辺りで平手を喰らわせ、ちゃぶ台の上に乗せる。 「ゆっ?ゆっ?ごはん?」 「手短に言うぞ、理解できなければお前はもう死ぬしかない、いいな。」 「どぼじで!?」 「お前らは俺のゆっくりプレイスを勝手に荒らした。わかるか?」 「わから・・・・わかるのぜ!」 本能でスッとぼけようとしたが、いとも簡単に自分を瀕死にさせた上、今こうして回復させている事に 圧倒的な力の差と今自分が置かれた立場を理解したのか、すぐさま訂正するまりさ そして自分の隣で苦悶の表情を浮かべている赤ゆっくりと畳を転げまわるれいむの姿を見つけガタガタと震えだした。 「お前は俺に何をした?言ってみるんだ」 まりさは困った顔をして震えていたが、やがてボソボソと喋り始めた。 「人間さんの巣へいったれいむをつれもどしにここにきたんだけど・・・ きがついたらこんなことになっていたのぜ・・・ゆっぐりごべんなざい・・・」 馬鹿には違いないがれいむと違って救いようの無い馬鹿では無いらしい。 恐らくれいむを止めに家に侵入したものの、ゆっくりにとっては珍しい品々に気を取られ 遊んで腹を膨らませその勢いですっきりに突入したのであろう。 「まりさはどうなってもいいから・・・れいむとおちびちゃんだけはたすけてほしいのぜ・・・」 「無理だな、れいむを見逃すつもりは微塵も無い」 「お、おぢびじゃん・・・・だけじゃ・・・しんじゃうのぜ・・・」 まりさの代わりに赤ゆっくりだけ助けても到底生き残ることはできない。 れいむも助けてもらわなければ、結局赤ゆっくりの末路は死である。 「お前と赤ゆっくりで帰ればいいだろ」 「ゆっ・・・れいむを見捨ててまりさは帰れないよ・・・」 「ぞっ!ぞうだよ!ゆっくりれいむをたすけてね!」 いつの間に話を聞いていたのか、さっきまで死にそうな顔をしていたれいむが 畳の上を跳ねながら喚いている。 「おちびちゃんはれいむがゆっくりそだてるよ!まりさはここでゆっくりしていってね!」 「ゆゆぅ・・・れいむ・・・」 「決まったな」 人間はまりさを透明な箱に入れ、ゆっくりでも部屋の全体を見渡せる机の上に置いた。 「お前は帰してやる。少しここで待っていろ」 透明な壁に顔を押し付けるまりさ 「やめてね!まりさがれいむのかわりになるからね!れいむはたすけてね!」 「ま゛り゛ざがや゛る゛っでいっでるでじょおお!ゆっぐりりがいじでねぇぇぇ!」 汁を撒き散らしながら暴れまわるれいむ。畳の上を転がりまわり、飛びはね、叫んだ。 人間はそれをただジッと無表情で見ていた。 やがて息を切らし「ゆひゅーゆひゅー」喚き疲れて肩?で息をするれいむ。 「気が済んだならはじめるぞ」 「ゆ゛っ!!ぎい゛でね゛!どうじで!わ゛がっでぐでな゛い゛の゛!?」 まりさが身代わりになると言っているんだからそれでいいではないか れいむはもう痛い目にはあいたくない、まりさが「やる」と言っているのだ。 何故こいつは理解できない?馬鹿なのか?死ぬのか?何故だ何故何故・・・ 「ぎっ、ぎげぇぇぇ!れ゛い゛む゛はい゛や゛だって゛い゛っでる゛でじょおおおお!!」 「駄目だって言ってるでしょう」 人間はれいむを座ったままの姿勢で両足に挟んだ。 村はずれにはゆっくりを殺す為の様々な器具を持っている変わった村人がいるが そんな気の利いたものはここには無い。”見せしめ”は全て素手で行わなければならない。 「まりさ、群に戻ったられいむがどうなったかゆっくりと話して周れよ」 人間は無造作に両手の爪をれいむの額に当てると一気に掻き毟った。 「ゆ゛っ!!ぎゅっ!ばっ!ばばっ!やべっ!でっ!がっ!」 バリバリと音を立てながら少しずつ削れて行くれいむ、やがて乾いた音は湿った音になり 掻き毟るたびに餡子がしぶきの様に飛び散った。 縦、横、斜め、あらゆる方向かられいむの顔面を掻き毟る人間。 「やめてね!人間さん!れいむはいたがってるよ!ゆっくりさせてあげてね!」 箱の中から人間に懇願するまりさ、人間はそんなまりさの声には一切耳を貸さず一心不乱に作業を続けた。 やがて5分もするとれいむは叫び声もあげなくなり、時折ゆ゛っ!とくぐもった声を漏らすだけになった。 人間は立ち上がりれいむを先程とは比べ物にならない程の強さで蹴り飛ばした。 パァン!と乾いた音が響き、れいむは壁にへばりついた後、 少し間を置いてからズルズルと餡子の跡を残しながら床に落ちた。 「さっきより強く蹴ったのに「いたい、いたぁい」って言わないんだな」 れいむの口から発せられるのは荒い呼吸音だけである。 「かひゅー、かひゅー」と苦しそうに苦悶の表情を浮かべている。 顔の皮はズタズタに引き裂かれ、目はこぼれてしまいそうな程見開かれている。 それを受け止める瞼はもうその機能を果たしていない。 歯はむき出しになっており、ガチガチと音を鳴らしている。 「ゆ゛っ・・・ゆ゛る゛・・・じでっ!ごっ・・・!ごべな゛ざい゛」 目を泳がせながられいむの口から初めて謝罪の言葉がひねり出された。 しかし全てが遅すぎた。人間は構わずれいむの顔面の傷口に手を突っ込んだ。 「ゆ゛っ!ゆ゛ゆ゛ん゛や゛ぁぁぁぁ゛!!」 掻き毟りと蹴り飛ばしの上を行く激痛に再び声をあげるれいむ。 このまま引き散って終わりでいいだろう。ネチネチと痛めつける趣味も無い。 まりさは涙を流しながられいむの事を叫んでいる。その涙は箱に溜まる程だ。その時である。 「ゅ・・・・・」 ちゃぶ台の上から声が聞こえる 「お゛っ!おぢびじゃん!!に゛ん゛げんざん!れ゛い゛む゛の!おぢびじゃんをみで!ゆっぐりじでぇぇぇ!」 れいむが赤ゆっくりの声に気がつき、注意をそらそうと叫んだ。 黄色い液体に浸けた赤ゆっくりが早くも産まれようとしていた。 母体から赤ゆっくりの生った茎を切り離しても糖分を含んだ液体に浸けておけば問題なく赤ゆっくりは産まれる。 「ゅ・・・・がっ」 しかし今回赤ゆっくりに浸けたのは塩素、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、リン酸などのイオン、 クレアチニン、尿酸、アンモニア、ホルモンを含む塩分が豊富な黄色い液体である。 ボトリ、と茎から切り離された赤ゆっくりは弾むことなく、地面に着いた部分は平らになりそのまま動かない。 「れ゛い゛む゛のおぢびじゃんはがわいいでじょ!!それをあげるがら!れいむはだずげでべ!」 れいむからはこの梅干のような赤ゆっくりが見えていないのか、 かひゅかひゅと傷口から空気を漏らしながら、自信ありげにれいむはゲラゲラ笑った。 この糞饅頭は産まれた子供を自分の身代わりにするつもりのようだ。 空気漏れをおこす糞饅頭の前に梅干を置いてやる。 「ゆ゛っ!?な゛に゛ごれ゛」 赤ゆっくりの目は虚ろで、歯を食いしばりプルプルと小刻みに震えている。 赤ゆっくりは前に進む事ができないので体を転がすと地面に接していた部分が粘土のように平たくなっている。 「ゅ・・・っ・・・じ・・・ね゛」 「ゆ゛ゆ゛っ!!」 赤ゆっくりは思った。ゆっくりしたいがゆっくりできない。ゆっくりできないのは何故か? ゆっくりを産んだのはお母さんである。お母さんは自分を存分にゆっくりとさせる存在だ。 それなのに産まれる前から全身に激痛が走り、ロクに動く事もできない、言葉も発せられない、 きっとゆっくりできない親から産まれたからだ。だからそんな親はゆっくりと言わず急いで死ねばいい。 「じ・・・ね゛!じ・・・じね゛ぇぇぇ!」 「ゆがぁぁぁぁ!」 小さい梅干から発せられる殺気にれいむはしーしーを漏らしながら、尻で後ずさりした。 壁に頭をぶつけ、ビクッと体を振るわせて、横方向に後ずさる。 そこには人間の足、手には茎が刺さっていた小瓶が握られている。 「だずげで!あ゛れ゛を゛ごろ゛じでぐだざい!おでがいじばず!」 「駄目だね」 小瓶に入った液体をれいむに垂らす。 「ぴっみゅぅぅぅ!!」 塩分を豊富に含んだその液体はれいむの傷口から体内に侵入した。 れいむに焼けるような激痛が走る。 春先に丸々太って窓に体当たりを繰り返す蝿のように部屋中をのたうち回るれいむ。 人間は目の前に跳ねてきた時を見計らい足で踏みつけ動きを止めた。 「はびゅっ!?」 目はギョロギョロと動き回り、舌はだらりと垂れ下がっている。 足から何とか脱出しようとあらゆる方向に体を揺さぶるれいむ。 しかしゆっくりの力では人間の力には到底適わない。 「じっじね゛ぇぇぇぇ!ゆ゛っぐり゛ごろ゛じはぞぐざに゛じね゛ぇぇぇぇ!」 もはや何故こんな目にあっているのかもわからないようだ。 いや、初めからわかっていなかったのかもしれない。 「じに゛だぐな゛い゛!じに゛だぐな゛ぁぁぁぁい!」 見る人によってはかわいらしい顔に見えるらしいその顔の面影はもはやない。 気がつけば、箱の中のまりさは餡子を吐いて気絶している。 どうやら暫く無駄な時間を過ごしたようだ。まりさが見ていなければこの虐待には何の意味も無い。 「じに゛だぐな゛い゛!じに゛だっ・・・ゆ゛ん゛っ!!」 人間はれいむを踏みつける力を強めた。 「わかったよ、そこまで言うなら殺すのはやめにしてやるよ、だから黙るんだ」 「ゆっ!ゆゆゆゆ!ゆっぐりりがいじだよ!ゆっぐりだまるね゛!」 汚い顔面からこぼれそうな笑みを浮かべるれいむ。 実際、眼球はこぼれかかっているが・・・ このクソ饅頭はどんなに痛めつけても反省はせず、ただ理不尽だと叫んで死ぬだけであろう。 人間はここで名案を思いついた。そんなに死にたくなければ、ずっと生き続ければいい。 ただし、ゆっくりなど二度とできないが・・・ 「ゆっ・・・?」 まりさが目を開けると周りには赤ゆっくり達が居た。全員れいむ種である。 「「「「ゅ・・・ゅ・・・」」」」 全員いびつな顔をしており、時折フルフルと身を震わせ、言葉もロクに喋れないようだが 先程の梅干のような痛々しい姿に比べたら随分とマシになっていた。 そんな赤ゆっくり達がまりさの横でゆっくりと体を揺らしている。 恐らくはすりすりのつもりなのだろう。 「おっ・・・おちびちゃん・・・!に、人間さんが治してくれたの!?」 「そうだ、オレンジジュースだと溶けて死んでしまうかもしれないと思ったからこれを使ってみた」 人間の手元の壷の中に入っているのは蜂蜜であった。 梅干のようになった赤ゆっくり達の体を蜂蜜でコーティングしたのだ。 それをゆっくり吸収して干からびた粘土のような体は幾分か回復した。 と、行っても普通の赤ゆっくりには程遠い、そしてこれからもこれ以上の回復の見込みは無いだろう。 「ゆっ!まりさ!そんなゴミクズはほおっておいてとっととこっちへきてね!」 「ゆゆっ!?れいむ!?どぼじで!?」 まりさと赤ゆっくり達が入った箱の隣にはそれよりやや小さいサイズの箱がありその中にれいむは居た。 れいむもまた皮に爪の跡が薄っすら残っているが、先程とは比べほどにならないほど元気になっていた。 「れいむはゆっくりはんせいしたよ!だからもっとあまあまをちょうだいね!」 人間は無言で壷の蜂蜜をすくいれいむに垂らす。 それを大きく開けた口で受け止めると、身を震わせて喜んだ。 「うめっ!めっちゃこれうめっ!じあ゛わ゛ぜッ!」 「ゆゆ!どういうことなの?人間さん!?ほんとうにれいむをゆるしてくれたのぜ!?」 「そんなワケ無いだろ、これから仕上げだ」 れいむは人間が殺さないと言い、手当てをはじめたので勝手に許されたと思っていただけだった。 人間はガムテープをれいむの口に貼った。 「ゆむぅ!?ゆゆゆゆゆゅ!?(なにしているの!?)」 そして箱に壷に入った蜂蜜をどんどん流し込んでいく。 「ゆ゛ゆ゛ゆ゛ゆ゛ゆ゛ゆ゛!?ゆ゛ゆ゛ゆ゛っ!?(やめてね!おぼれるよ!!)」 あっという間に箱の中は蜂蜜で満たされた。粘液の中を漂うれいむ。 人間は箱の蓋を閉め針金を使って蓋を固定している。 「ゆ゛っ!ゆ゛!ゆ゛ゆ゛ゆ゛ゆ゛ゆ゛」 息ができずにもがくれいむ。しかし口を塞がれて蜂蜜を飲み込む事ができない。 これでは餡子を吐き出して気絶して苦しみから逃れる事もできない。 「ゆ゛っ!!む゛っ!!むごっ!!ばびひ!!」 苦しさから物凄い勢いで体を収縮させるれいむ。高速でのぷくぅ!とぷひゅるる!の繰り返しである。 顔を真っ赤にし狭い箱に体を押し付けてもがいている。 ゆっくりの餡子脳でも即座に理解した「出口は無い」 しかしそれでも無い出口を求めて箱の中で身をくねらせ続けた。続けるしかなかった。 そしてもうひとつ理解した。 粘液の中では溶けて死んでしまう事もできなかった。 これからずっと箱が壊れるまでの数ヶ月、あるいは数年かを窒息の苦痛に顔を歪ませながら動き続けるだろう。 それから数時間後、人間とまりさ達はゆっくりの群を目指し、夜の山道を進んでいた。 「置いていくぞ、はぐれたらすぐに捕食種が来るだろうな」 赤ゆっくりを帽子に乗せすり足で進むまりさと比べて人間の足取りは速かった。 「ゆっ!まってね!人間さん!まりさはそんなにはやくうごけないのぜ!」 「知らないね」 人間にとってまりさはもう必要では無くなっていた。このれいむの箱だけで群のゆっくりの脅しには十分だ。 この箱を群の集落の中央に設置すれば、馬鹿なゆっくりでも毎日人間の怖さを痛感するであろう。 ゆっくり達が巣を捨て山から離れればそれはそれでもいい、そうしたらこの箱と同じものを山の至る所に設置しよう。 そうすれば山を住処にするゆっくりなど今後現れないだろう。 「ゆぅ!まってね!ゆっくりしていくのぜ!人間さん!」 まりさが通った地面には餡子がこびりついている。 足の裏の皮が破れたのであろう。人間との距離は更に広がっていく 「ゅ・・・ぉ・・・が・・・ぢゃ・・・」 「ぎょ・・・・ゎ・・・ぃ・・・ょ・・・」 赤ゆっくり達も帽子の上でガクガクと震えだした。人間の姿はもう豆粒ほどの大きさになっている。 れいむはまだ死んではいない、人間が帰ったらゆっくりと箱から出してあげればいい おちびちゃん達もどんどん回復している。 きっとこの調子なら他のゆっくりと同じようになるのにはそう時間はかからないだろう。 でも今は足が凄く痛くて、周りはとても暗くて、どうしようもないくらい怖かった。 「ゆっくり!ゆっくり!ゆっくり!」 呪文のようにゆっくりを連呼するまりさ、 果たして群のゆっくり達は、れいむを箱から出すのに協力してくれるだろうか? 全然ゆっくりしていない赤ゆっくり達は群のゆっくりに歓迎してもらえるだろうか? これだけ餡子を漏らしたまりさを捕食種は見落としてくれるだろうか? 「ゆっくり!!ゆっくり!!ゆっくり!!」 まりさは声を張り上げた。もう人間の姿は見えない。 餡子の匂いに気がつかなくても、この声は捕食種に届いたかもしれない。 また少し、まりさの生存の可能性が減った。 おしまい このSSに感想をつける
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutau2/pages/1866.html
『お目覚めはゆっくりと』 ※現代にゆっくりがいる設定です 東京近県の衛星都市。 比較的地価の安いこの地域は、学生やフリーター、若手の新入社員達が多く住んでいる。 だから、専門学校を卒業して間もないような人間でも、 このあたりで部屋を借りつつ、"ゆっくり"と暮らすのも可能だった。 * * * 8畳フローリング・ロフト付き。 そんな間取りの部屋の中央で、1匹のゆっくりれみりゃが座っていた。 その傍らには、クレヨンや画用紙や積み木といったものが散乱している。 れみりゃは、大好きな玩具に囲まれながら、 幸せそうにだらしのない下ぶくれスマイルを浮かべていた。 「うー♪ ぷっでぃーん♪」 自然と口から漏れるのは、大好きな言葉。 れみりゃは、この部屋の主の人間とともに暮らし、実にゆっくりとしていた。 その証拠に、れみりゃの体は標準的なものに比べて、はるかに"ふとましかった" ふくよかな四肢ははちきれんばかりにプヨプヨしており、 お腹はぷっくら膨らみ、下ぶくれ顔にはさらに二重顎のおまけがついている。 「うー♪ ぽかぽかしてきたどぉー♪ そろそろだどぉー♪」 太陽から差し込む温かい光。 ポカポカの陽気を受け、部屋の中はエアコン無しでも温かい。 れみりゃは、その気温と太陽の光を確認してから"うーしょ、うーしょ"と重たそうに立ち上がり、 小さな黒い羽をパタパタ動かして、重たい体を浮き上がらせた。 「ぱたぱた~♪ う~☆」 れみりゃが、ご機嫌で飛んでいく先、 そこは部屋の角にあるベッドの上だった。 「おねぇーさーん♪ あさだっどぉー♪」 ベッドの上には、部屋の主である人間が眠っている。 れみりゃには、この部屋で"ゆっくりする"ためにいくつかの対価……すなわち勤めが課されていた。 朝になったら起こすというのも、比較的夜行性のれみりゃの役目の一つだ。 「……ん、うん……すぅ……すぅ……」 ベッドで寝ている人間は、わずかなリアクションだけをして、また健やかなな寝息をたてはじめてしまう。 その寝顔に下ぶくれ顔を近づけ、ぬぼぉーっと覗くれみりゃ。 れみりゃは、起きない人間のために、次なる手段をとることに決めた。 「しょーがいなどぉー♪ とくべつさーびすだっどぅ♪」 人間を踏まないように、れみりゃはよいしょとベッドの上に着地する。 短くて柔らかい足は、ちょうと人間の首を中心にして、左右に置かれていた。 れみりゃは、それからドスンと、まるで尻餅をつくように尻から座り込む。 大きなお尻の下には、ちょうど人間の顔があった。 「……うぷっ」 それまで定期的な寝息を立てていた人間の口から、反射的な吐息が漏れた。 それから、れみりゃは尻を顔に乗せたまま、左右に尻を振るように体重を移動する。 それはまるで、尻を顔に擦りつけるような所作だ。 「でびぃーのかわいいおじりぃー♪ あさから、くんかくんか☆できるなんてしあわせもんだどぉー♪」 ご機嫌満悦の微笑みを浮かべる、れみりゃ。 "うーうー"とリズムを刻みながら、お尻を揺らしていく。 「……うぁ?」 ふと、れみりゃはお尻のあたりがムズムズしているのを感じた。 れみりゃは、そのムズムズに促されるように、少しだけいきむ。 「あーぅあぅー♪ でび☆りゃ☆ぶぅーーー♪」 "ばっぶぅーーーー!" 豪快な音をたてて、れみりゃの尻から黄色いガスが勢いよく放出された。 「うー♪ でちゃったどぉー♪」 れみりゃは、照れながら、それでいてどこか得意そうに、顔を赤らめて笑う。 その直後、れみりゃの体はゴロンと前転して、布団の上に着地した。 「うー!」 驚き、目を見開くれみりゃ。 何が起きたかわからず左右をきょろきょろしてから、 れみりゃは背後へ振り向いて元気に叫んだ。 「うっうー☆おはようさんだどぉー♪」 そこには、気だるそうに上半身を起こして、片手で頭を押さえている部屋の主がいた。 「……おはよう、れみりゃ」 "自分のおかげで、今日も部屋の主が起きられた" そう考えているれみりゃは、どこか誇らしげだ。 大好きな人間に構っても追うと、朝の支度を始める人間のまわりをピョコピョコついて回る。 一方の当の人間はというと、れみりゃを適当にあしらいながら、洗顔に着替えにと、テキパキすませていく。 「……物騒な事件が続くなぁ」 人間は、新聞を開いて、ジャムを塗ったパンと野菜ジュースを口にする。 "未確認ゆっくりまた出現!" "未確認ゆっくり第4号、第21号と交戦" "ゆっくりと人間の共存は可能なのか?" "鏡の中に現れたゆっくりが人間を襲う!?" 記事を流し読みで済ませて、オートマティックな所作で朝食を終える人間。 テキパキ食器を洗い終えて、ふと一息。 この後、温かいコーヒーを一杯飲んで家を出るのが、この人間の毎日だった。 コーヒーに、ふーふー息を吹きかけて、人間は今の時間を確かめようと机の上へ視線を移す。 「……あれ、時計は?」 そこには、置いてあるはずの時計が無かった。 いわゆる電波時計という奴で、仮にれみりゃが起床役を忘れていても、きちんとアラームが鳴る代物だ。 量販店で買った安物ではあったが、あるはずのものが無くなっているというのは何とも気持ち悪い。 コーヒーを冷ますのをやめて、人間はあたりを探し始めた。 すると、人間の様子から事態を察したのだろう。 れみりゃが、机の上に立ち、人間の前にバンザーイと両手を上げた。 「う~~♪ あのゆっくりできないジリジリは、でびぃーがぽぉーいしといてあげたどぉ♪」 "ぽぉーい♪" その言葉を聞いて、人間は溜息をついた。ああ、またやってしまったのかと……。 人間は肩を落として、ゴミ箱の蓋を開ける。 すると、中には探していた電波時計が確かに入っていた。 「あれもぽぉーい☆これもぽぉーい♪ ゆっくりできないものはみんなぽいするのぉー♪ ぽぉーい♪」 「ぽーいぽーい♪」と物を投げ捨てるジェスチャーを織り交ぜながら、 "うぁうぁ"楽しげに踊り出す、れみりゃ。 それとは対照的に、人間は電波時計と一緒に捨てられていたものを見つけて、顔を青くした。 「ああっ、ボクのケータイ!!」 人間は、最近買い換えたばかりの携帯電話が乱雑に捨てられていたのを見て、慌ててそれを取り出す。 液晶をオンにすると、待ち受け画像と今日の日付、それにアラームが鳴っていた履歴が表示された。 どうやら、れみりゃはアラームが鳴ったものをまとめて、"ぽーい"してしまったらしかった。 壊れていないことにほっと胸を撫で下ろしてから、人間はケータイ電話をポケットに移す。 れみりゃはといえば、相変わらず誇らしげに胸をはり、人間の足下でニコニコしている。 どうやら頑張ったご褒美を欲しがっているらしい。柔らかくて短い手で、人間の服の裾を引っ張っている。 「でびぃーがんばってぽぉーいしたどぉー♪ ごほうびに、ぷっでぃ~ん☆ふたちょもってきてぇ~ん♪」 れみりゃからすれば、全くの善意の行動だったのだろう。 怒られるという不安は全く感じていないようだった。 本来ならば、しっかりここで教えておくべきなのだが、 ケータイに表示された予想外の時刻の前では、そんな余裕は無かった。 人間は冷蔵庫を開けてプリンを取り出すと、それをれみりゃに手渡す。 れみりゃはプリンを掲げて喜び、部屋の中央に座ってプリンを開ける。 「はぁ……いってきます……」 「うーうー♪ ゆっくりおつとめしてくるがいいどぉー♪」 プリンをがっつきながら、れみりゃは靴を掃き終えた人間に手を振った。 そうして、プリンを食べ終わると、れみりゃはパタパタ飛んで、ロフトの上に向かう。 ロフトの上には、収納用の段ボール箱と、ゆっくり用のおもちゃ箱、 そして人間の赤ん坊用のベビーベッドが置かれていた。 ベビーベッドには、ひも付きの札がひっかけてあり、 そこには汚い平仮名で大きく"こーまかん"と書かれていた。 「でびぃーはこれからおねむするどぉー♪ おやすみだっどぉー♪」 れみりゃはそのベビーベッドで横になり、目を瞑る。 それから、うぴーうぴーと鼻提灯を出しながら眠り始めるのに、さして時間はかからなかった。 * * * それから、数時間が経った。 れみりゃはタオルケットにくるまりながら、相変わらず寝息を立てている。 幸せそうにヨダレを垂らしているれみりゃ。 その顔に、突如"こぶし"がめり込んだ。 「ゆっくりしね☆」 「う、うびぃー!?」 いきなりの痛みに、れみりゃは起きあがり、 赤くなってヒリヒリジンジン痛む顔に手をあてる。 「うぁ~~! でびぃーのえれがんとなおかおがぁ~~~!」 目が覚めるとともにより明確になる痛みに、れみりゃは涙を浮かべて叫んだ。 「うー! おねぇーさま、ようやくおきた! おそい!」 「う、うぁ!?」 涙でにじむ視界の中、れみりゃの視線の先には、ゆっくりフランがいた。 このフランもまた、れみりゃとともにこの部屋に住んでいるゆっくりであった。 「うー! おねぇーさまをいぢめるふらんは、でびぃーがやっづげでやるどぉー!」 れみりゃはグシグシ涙とヨダレををぬぐってベビーベッドから出ると、 その手をぐるぐる振り回して、フランの下へドタバタかけていく。 だが、フランはそんなれみりゃの姿を見て、 キランと目を輝かせたかと思うと、手に持った棒で逆にれみりゃを殴り飛ばした。 「くりゃえ~☆ れ~ばてぃん☆」 「!!??」 "れーばてぃん"の直撃を受けたれみりゃは、叫ぶことさえできずに、床に倒されてしまう。 フランはそんなれみりゃの上に馬乗りになると、べしべしその頭をたたき出す。 「うーー! ふらんちゃん、やべでぇーー!」 「うー☆しねしね! ゆっくりしね!」 れみりゃの戦意は、あっという間に粉砕されてしまった。 だぁーだぁー泣き叫び、フランに許しを請うのが精一杯だ。 「うー! もぉーぶただいでぇー! でびぃーは、ゆっぐりおねむしてただけだどぉー!」 一方、フランは電波時計をれみりゃの前にドンと置いて指を指す。 時刻は午後4時。ちなみにれみりゃの起床時間は、午後3時と決められていた。 「もうおきるじかん! おねぇーさま、ゆっくりおきる! そしてしぬ☆」 「ぷんぎゃー!」 フランは最後に大きな一発をれみりゃにお見舞いすると、 "うー☆"という天使の笑顔に戻って、"こーまかん"と名付けられたベビーべッドへ上る。 「う、うぁ、うぁぁ……」 れみりゃは、痛む体を何とか起こして、 ベビーベッドでタオルケットをかけるフランに抗議の叫びをあげた。 「う、うー! そこはでびぃーのこーまかんだどぉー! ふらんちゃんはつかっちゃだめだどぉー!」 「うー、ゆっくりねる……つぎのしごとまで、しえすた……」 れみりゃの我が侭などどこ吹く風。 フランは涼しい顔を浮かべたまま、健やかな眠りに入っていく。 れみりゃは、何とか"こーまかん"を取り戻して再び眠ろうと考えたが、 先ほどまでの攻防の後では、フランに逆らうほどの勇気も無かった。 「さくやぁー! さくやぁどこぉーー! ふらんちゃんがいぢめるどぉーー!!」 れみりゃに残された手は、泣いて助けを呼ぶことだった。 なお、この部屋を借りている主、すなわち現在働きに出ている人間の名前は"さくや"ではない。 無償の愛で自分に尽くしてくれる存在、さくや。 れみりゃ種にとって、その名前を叫ぶことは本能的なものであった。 故に、仕方の無い側面もあるのだが、これから眠ろうとするフランからすれば、その騒音はたまったものではない。 それに、あまり五月蠅くしては、アパートを借りている人間にも迷惑がかかる。 困り者の姉が我が侭を言った時、ブレーキ役となるのが自分の役目だと、フランは考えていた。 故に、フランはベビーベッドから出て、 前のめりでわんわん泣いているれみりゃの尻を蹴飛ばした。 「ゆっくりしね☆」 「ぶひぃー!」 フランのその考え自体は間違っていないのだが、 そのやり方は少々過激で、主の人間からも度々注意はされていた……。 しかし、れみりゃに対して過激な言動に出てしまうのは、 れみりゃがさくやを呼ぶのと同じく、フラン種にとっての本能だ。 れみりゃへの愛情・愛着・信頼があったとしても、 あるいは、そういった感情があればこそ、フランはれみりゃに対して過激な行動に出てしまう。 「うぁぁーー! うぁぁー! でびぃーのぷりてぃーなおじりがぁーー!!」 「おねぇーさまもちゃんとしごとする……そうじとせんたくしなきゃだめ」 両手で尻をさするれみりゃに対し、冷静に告げるフラン。 それに対し、れみりゃは仰向けになると、泣きながらダバダバ手足を振り回し始める。 「でびぃーはおぜうさまだからいいんだもぉーん! そんなのさくやがやってくれるもぉーん♪」 フランは、大きく息をはいた。 しかし、それは残念だからでは無い。 聞き分けの無い姉に対して、今日もこれから"姉妹水入らずの肉体的コミュニケーション"を行える喜びからだ。 「う、うぁ!?」 キラーン☆と光るフランのルビー色の瞳に、れみりゃは反射的にビクっと体を震わせた。 「かぞくのるーるをまもれないやつは、ゆっくりしね!」 フランはそう叫ぶと、段ボール箱の中に入っていた小さな"あまあま"のヌイグルミを、れみりゃの口に押し込んだ。 口を塞がれ、"んーーんーー"とさくやの名を呼ぶこともできないれみりゃ。 その様子を確認して、うんうんと頷くフラン。 そうしてフランは、背中をゾワゾワ走る愉悦に身を任せるのだった。 * * * 薄暮の空の下、れみりゃ達の主の人間は、自転車を横に歩いていた。 自転車のカゴの中には、近所のスーパーで買った食品や日常雑貨が入っている。 「まいったなぁー、もう遅刻できないよ……やっぱり分担を変えるしか……」 主の人間は、結局今朝遅刻してしまい、上司からたっぷりしぼられてしまった。 元々、この人間は朝に弱く、遅刻をしがちだった。 より確実に起きられるよう、れみりゃにお願いをしたが、どうにも成果は上がらない。 妹のフランに頼めばより確実なのだが、 フランは、昼頃まで夜~朝シフトのバイトに出ており、それは難しい。 バイトといっても、いかがわしいものではなく、深夜のラジオ出演や雑誌関係の仕事が殆どだ。 いわゆる、タレントペットならぬ、タレントゆっくりなのだ。 その出演料は意外とバカにならず、"共同生活"を行う上で大いに助かっている。 実のところ、仕事が忙しい月に関して言えば、この人間の正規の月収さえ上回ることもあった。 そんな折、一人だけ働くフランに負い目を感じてか、それとも姉としてのプライドがあってか、 れみりゃにも家事という名の仕事を与えてみたが、なかなか上手くはいかない。 予想はしていたが、目覚まし係というのも向いていなかった。 「……うん?」 ふと、とある光景が目に止まり、人間は足を止めた。 自転車をアパート共有の駐輪場に置いてから、小走りでその現場へと向かう。 その現場は、アパートの目の前の電柱だった。 そこに、数人の小学生らしき子ども達が集まっている。 思い思いのバッグを持っていることからすると、学校帰りというよかは、塾帰りなのかもしれない。 そして、彼らの中心には、縄跳びのロープで電信柱に巻き付けられた、ゆっくりれみりゃがいた。 れみりゃの体はしっかり固定されており、うびーうびーと濁った寝息を立てている。 そのふとましい姿、何かあった時のため帽子に刺繍したアップリケ型の飼育証明を見て、 "間違いなく我が家のお嬢様だ"と主の人間は確信した。 「おい、こいつなんだよ?」 「こいつ、ゆっくりだろ? どっかのペットかな?」 「これ見てみろよ! 眠っていたらつねって起こせってさ」 少年が指差した先、電柱に一枚のメモが貼り付けられている。 そこには、平仮名で"ねてたらつねっておこす。それいがいしたらゆっくりしね"と書かれていた。 その文字を見て、主の人間には察しがついた。 姉妹喧嘩……というには一方的な、フランの制裁が行われているのだと。 そんなことを知らない少年の一人が、むぎゅーとれみりゃの頬を引っ張った。 その痛みには、寝ぼけ眼でれみりゃが目を覚ます。 「う~~! でびぃーのきゅ~どなほっぺがじんじんするどぉ~~!」 赤く腫れた頬をさすろうとするが、手はロープで固定されているため動けない。 しばらく"うーうー"難儀した後、れみりゃは痛みから逃げるように目を瞑って浅い眠りへ落ちていく。 「おっ、起きたぞ」 「でも、また寝ちゃったぞ?」 「なんか面白いな、こいつ♪」 少年達は、次々にれみりゃの頬を抓ったり、引っ張ったり、叩いたりしていく。 見ると、れみりゃの頬にはあちこちに赤く腫れた後がある。 おそらく、この少年達の前にも、同じようなことをした人がいたのだろう。 最初はおそるおそるだった少年達も、 起きてはまたすぐ寝てしまうれみりゃに対し、徐々に警戒感を無くして力を入れていく。 「うぁぁー! やめるんだどぉーー! さくやぁぁーーー!!」 れみりゃはとうとう泣き叫びだし、目の前の少年達へ敵意をあらわにしだした。 れみりゃのボリュームの大きな声に、びくっと後退する少年達。 少年達は、れみりゃが動けないのを再確認してから、れみりゃへ文句を言い始めた。 「なんだよ、このデブ! ここに起こせって書いてあったから起こしてやったんだぞ!」 「うー! でびぃーはおでぶさんなんかじゃないどぉー! こういうのは"ふとましい"っていうんだどぉー♪ これだから、ものをしらないしょみんはいやなんだどぉー♪」 説明してやれば美的感覚の無い少年達も、自分の凄さを認めるに違いない。 そして、あふれだすエレンガントさとカリスマにひれ伏して、ぷっでぃ~んを持ってくるに違いない。 れみりゃはそうとでも考えたのか、余裕の笑みを浮かべはじめた。 しかし、そんな事が起こるはずもなく。 少年の一人が、怒りの形相でれみりゃへ向かい、拳を振り上げる。 ここに来て、ようやく危険を感じ取ったれみりゃは、本能に従って絶叫した。 「なんだと、この!」 「さくやぁぁーー! たすけてぇぇーーー!! ああああーーー!!」 さすがにこれはやりすぎだ。 距離を置いて見ていた主の人間は、そう判断して、すたすたとれみりゃ達の下へ歩いていく。 その際、主の人間は、物陰に隠れているフランの姿を見つけた。 おそらく、ひどいめにあっている姉の姿を楽しみつつも、適度なところで助けに入るつもりだったのだろう。 主の人間は、やれやれと心中で肩をすくめた。 フランは頭の良いゆっくりであり、事実その能力もゆっくりとしては最上級のものだが、 自分の力を過信しすぎてしまうのが困ったところだ。 本当の危険が迫った時には、いかにフランといえどどうすることも出来ないのだ。 現に、この少年3人の前にフランが現れたとしても、いざ喧嘩になってしまえばフランに勝ち目は無い。 後でちゃんと話そう。 主の人間がそう決めたと同時に、れみりゃが主を発見して希望の声をあげた。 「う、うぁ! お、おねぇーさんだどぉー♪」 泣き叫んでいたのも忘れ、あっという間に喜色満面になるれみりゃ。 一方、驚いたのは少年達だ。 「「「え?」」」 少年達は、れみりゃに接していたのとは異なり、すっかり萎縮してしまっている。 少年達にも、れみりゃが飼いゆっくりであるのは何となく理解できていた。 もし自分たちがいじめていたのを見られていたら。 もし、さらに電柱に巻き付けたのまで自分たちだと思われたら……。 目の前のお姉さんに、親に、先生に、しかられる光景……。 いやそれ以上に、せっかく勉強したのに受験に影響するかもしれない、 損害倍賞の裁判を起こされ支払いを命じられてしまうかもしれない……。 なまじさかしかったが故に、少年達は最悪のケースを連想して震え上がっていた。 「え、あの、ご、ごめんなさい」 「こいつ……じゃない、このゆっくり、お姉さんのものなんですか?」 萎縮する少年達に無かって、主の人間は微笑んだ。 ただし、目だけは笑わずに。冷たく見下ろす視線を心がけて。 「うん、確かに。そのれみりゃはボクの家族だよ」 少年達は、目の前の女の冷たい目と威圧感、それに"家族"という言葉に恐怖した。 そこから、どれだけ自分たちへ怒りを持っているかを察し、 このまま見過ごしてはくれないだろうことを覚悟した。 「うー♪ ばかなしょみんも、これでゆっくりわかったどぉー♪ でびぃーをこあいめにあわせたぶん、たっぷりおねぇーさんにいぢめられるがいいどぉー♪」 一方、れみりゃはすっかり調子に乗っていた。 「うー♪ これでようやくぐっすりできるどぉー♪」 フランに少年達に、自分を襲った理不尽な恐怖は取り払われた。 これでもう安心だと、れみりゃはすっかり気を抜いていた。 だから、突如お尻に走ったムズムズ感を押さえることもできなかった。 "ばっぶぅーーーー!" 驚いて少年達が振り向き、さらに一様に鼻を押さえる。 れみりゃは、豪快な放屁を放って、恥ずかしそうに赤面した。 「う~~♪ あんしんしたら、でちゃったどぉ~~♪」 どこか誇らしげな、れみりゃの笑顔。 その笑顔を見ているうちに、主の人間の中にふと芽生える感情があった。 「……ねぇ、みんな。最近このれみりゃ運動不足なんだ。良かったらもう少し遊んであげて」 何気なく放たれた、主の人間の言葉。 少年達は目を丸くし、れみりゃは耳を疑いながら冷たい肉汁の汗をダラダラ流した。 「う、うー?」 「でも、ひどいことしたらダメだよ! ボクの大切な家族なんだからね!」 主の人間は、それだけ言うと、れみりゃに背を向けてアパートの方へ歩いていく。 「お、おねぇーさん? おねぇーさんまつんだどぉー!!」 れみりゃは必死に叫ぶが、それが聞き入れられることはない。 主の人間の姿は、そのままアパートの自室へ消えていった。 その代わりに、れみりゃの視界に入ってきたのは、ニヤニヤと不気味に笑う少年達だった。 * * * 「うー、おねぇーさま、だいじょぶ?」 人間が部屋に入ると、窓からフランが入ってきた。 仕掛け人の割には、姉のれみりゃのことを心配してソワソワしている。 「大丈夫だよ。それより仕事までちゃんと寝といた方がいいよ?」 「うー、わかった」 人間は、フランの頭を撫でてやり、それから冷蔵庫を開けた。 そこからプリンを3個と、オレンジジュースの入ったペットボトルを取り出す。 それから風呂場へ行き、桶を持って出ると、 そこに冷蔵庫から取り出したものとタオルも入れ、短い廊下を歩いて玄関へ向かった。 扉の外からは、れみりゃの声が今も聞こえていた。 "おねぇーさんたすげでぇーー! ごぁいひとがいぢめるよぉぉーー!!" ああ、この声だったらきっと自分もすぐ起きられるんだろうな。 主の人間は、そんなことを思いつつ、玄関のドアを開けた。 おしまい。 ============================ 自分の憧れのライフスタイル(?)を書いてしまった結果がコレだよ! まぁ近所の子どもにいじめられていたら助けると思いますが。 たぶん、子ども相手に大人げなくマジギレしちゃうかもです; あと一部に特撮ネタが無駄に入っていますが、ご容赦を。 『仮面ライダーゆケイド』とか妄想してました。 by ティガれみりゃの人 ============================
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<< ゆっくりズvs >> 初投稿です。 俺設定発生。 『ありえない奴』が出てきます。 賢いゆっくりが登場します(ゆっくりの出来る事超えてる?)。 ドスがでます(それ以外のゆっくりは漢字を使えません)。 人間が負けたりします。 描写に不自然なところがあると思います。 無駄に長いです。 陽が地平線に沈む頃、一匹のうーぱっくが空を飛んでいた。 「う~♪う~♪」 体であるダンボールには黒くて丸い物体が大量に入っている。 運び屋としての一面もあるうーぱっくは、報酬さえ払えば何でも運んでくれる便利な存在だ。 このうーぱっくも、とある人から依頼を受け荷物を運んでいる最中だった。 が 「う~♪う~♪―――うっ!?!?」 その時突風が! うーぱっくはたまらず体勢を崩す。 「うー!!うー!!」 しかし大きく揺れた際に荷の一部が地上に落ちてしまった。 「うー!!う~……」 何たる失態。運び屋としてあってはならないミスだった。 しかし大部分は無事であるのだし、黙っていれば雇い主にはばれないだろう。 「うー♪」 気を取り直したうーぱっくは、再び高度を上げ目的地に向かって行った。 某所の山の中。 とある洞窟の中。 非常に広い洞窟の中に数え切れないほどのゆっくりがひしめき合っていた。 それもそのはず。 山中のゆっくりが集まっていたからだ(一般的な普通種のみで捕食種は除く)。 この山のゆっくり達は、一匹のドスの群れに属していた。 ざわざわと騒ぐゆっくり達だったが、一段高い場所にこのゆっくり達を率いてきたドスまりさが現われると静かになる。 そして、ドスまりさがゆっくりと口を開く。 「よく聞いてね! みんなで話し合った結果……山を降りて人間を攻撃する事にしたよ!」 その言葉を聞いたゆっくり達は喜んだ。 今まで人間と関わりあう事を禁止していたドスがついに思い腰を上げたのだ。 ―――だが、ドスをそうさせたものはなんだったのだろうか? するとドスの後ろから数十匹のゆっくりが姿を現した。 そして、そのどれもがドスほどはいかないが、普通種では考えられない大きさになっている。 それぞれのゆっくりは二メートル近くあり人間より大きかった。 このゆっくりたちは、ある日突然急激に大きくなり、ドスの持つ特殊能力などは使えないが、 ゆっくりにはないほどの運動能力(ゆっくり基準)と高い知能(あくまでゆっくり基準)を持つようになっていた。 このように頼もしい仲間が増えた普通サイズのゆっくりたちはドスに要求した。 『もっとたくさんの食べ物を』 『もっと広い家を』 『もっとよいゆっくりプレイスを』 加え彼らはこれより少し前に、山の麓で村を作り始めた人間によって住処を追われ、その際に多くの仲間を殺されていた。 そのこともゆっくり達を駆り立てた要因かもしれない。 今までは人間にやられるだけだった。 だが、もうそれはおしまいだ。 この山にいるゆっくりおよそ1000。 この巨大なゆっくり達。 そしてドスまりさの存在。 今こそ―――戦いのとき! 「明日人間の村を攻めるよ! みんなのゆっくりプレイスを取り戻すよ!!」 「「「「「「えいえい、ゆーーーーー!!!!」」」」」」 洞窟にゆっくり達の声が響き渡っていた。 文々新聞、一面 『巨大ゆっくり、村を強襲!!』 先日、幻想郷某所の村にドスまりさや巨大ゆっくり十数匹が村に攻め入るという事件が発生した。 この村は先月、森を切り開いて作られた村で、今後の森林開拓の足がかりとなるはずの場所だった。 村を襲った巨大ゆっくりは普通サイズのゆっくりを従えており、その数は1000を超えていた。 村人は必死に戦ったが、数や巨大ゆっくりの大きさに圧倒され、村は現在無人状態。 ゆっくりに占拠されてしまっている。 今後、加工所の職員や有志を募り、ゆっくりの駆除に乗り出す模様だ。 『まさかのゆっくり! 人間が敗北!!』 今日昼過ぎ。 村を占拠するゆっくりを駆除するため、有志の鬼井さんや加工所の人間が村に乗り込んだ。 だが、ゆっくり達は村の周りにバリケードの杭を建て、人間の侵入を阻み、 村の中から投石攻撃を繰り出してきた模様。 さらにはうーぱっくを使っての空中投石もあったの事。 それをかいくぐり何とか村にたどり着くものの、入り口を守る巨大ゆっくり達に追い返されてしまったそうだ。 中には腕の骨を折るなどの重傷を負った職員もいる。 今後、増長したゆっくり達が近辺の村の制圧に乗り出すのも時間の問題とされており、 近辺の村や加工所は対策に追われている。 『ゆっくりは何が目的なのか? ゆっくりと村を改築中』 村を占拠したゆっくり達だが、なにやら村に穴を掘っている模様。 ゆっくりは地中に巣を作る習性があるため、そのための穴とも考えられる。 同時に、森の木々を使って杭を作り、村の外周警備をさらに固めた模様。 夜間はみはりを立てる用意周到さで、やはり何かを企んでいるのは確実といえる。 『ゆっくりの群れが拡大。それに対し河童達になにやら動きが』 ゆっくりが人間の村を占領したという噂は、周囲のゆっくりにも伝わったようで、 多くのゆっくりが村を目指して移動してきている模様。 群れはさらに多くなり、今では1500ほどのゆっくりを確認した。 一方、増え続けるゆっくりに対し、人間の盟友である河童達が何やら動きを見せている。 なんでも、外から流れ着いた『あるもの』を使って、日々怪しい実験を重ねているらしい……。 夜。 森のふくろうが鳴いている。 それに混じり「だいたいみんなひどいよ。わたしはおんなだよ」という愚痴が聞こえる。 虫達の声に加え、どこからともなく「そーなのかー」という声も聞こえる。 「ちーん、ちーん」という言葉は変だが綺麗な声も聞こえる。 そんな幻想郷の住民の声を無視し、その『視線』はある村に向かっていた。 村の様子を見る。 モノクロ―――紫外線探知 『視えない』 村の様子を見る。真っ赤―――光源探知 『視えない』 村の様子を見る。黒―――熱探知 『視えた』 わずかな熱移動を示す青い小さな塊。 拡大する。 同時に視聴精度も向上させる。 視えた。 聴こえた。 視線の主は村に向かって駆け出した。 「ゆ、ゆ、ゆ」 夜、満月が浮かぶ空。 ゆっくりに占拠された村。 村の入り口にはところどころ太めの杭が打ち込まれており、人間の侵入を防ぐ働きをしていた。 といっても人間から見れば気休め程度にしかみえないのだが……。 その周辺を警備する夜警ゆっくり達。 「ゆ、ゆ、ゆっくりいじょうな~し!」 村の中は畑や家がたくさんあるが、畑は無残に食い荒らされ、家の襖は破かれ外から丸見え。 家の中も荒らされ放題だった。 さらに、村の奥にある広場には大穴が開いていた。 ここ数日でゆっくり達が掘った穴で、いずれここに多くのゆっくりが来る事を見越して作った住居だった。 その地下は非常に広く掘られており、1000以上のゆっくりが暮らせるように考えられていた。 しかしいまは建設途中なので中には誰もいない。 ゆっくり達は村を占拠すると、ここを自分達にあったゆっくりプレイスにしたのだった。 家の中では何匹ものゆっくりが寝ており、その広場の横にある村一番の大きな家では、 ひときわ大きい……おそらく二メートル以上あるゆっくりまりさとれいむがいびきをかいていた。 このまりさとれいむは、今回村を襲った巨大ゆっくりの一匹で、占領の際人間と最も戦った功労を認められ、 前線基地のリーダーとして村に居座っていた。 「ゆびゅ~……まりしゃしゃまは……さいきょ~……なんだじぇ~……」 「ゆ~……まりさ~……かっこいいぃぃ~……」 時折薄ら笑いを浮かべつつ寝言言っている。 「ゆ、ゆ、ゆ、ゆっくりいじょうな~し」 入り口のれいむはさっきから馬鹿正直に点呼を繰り返している。 と、同じ見張りなのにうとうとしていた成体まりさが目を覚ました。 「ゆ~……れいむうるさいよ!ゆっくりねむれないよ!」 「ねたらだめでしょーーーー!!まりさもゆっくりみはってね!」 「まりさはねむいんだよ!よるはゆっくりねむるんだよ!」 「りーだーにいいつけるよ!」 「ゆっ……」 「うごかないからねむくなるんだよ! まりさはれいむゆっくりしないでこうたいしてね!」 「ゆ……ゆっくりりかいしたよ……」 「ゆっくりちゃんとみはってね!」 「ゆっくりりかいしたよ!」 れいむの剣幕にまりさは眠たい目を無理矢理あけて、れいむと見張りを交代する。 眠ってゆっくりできないのは苦痛だったが、リーダーに告げ口されて『永遠にゆっくりできなくなる』のはもっといやだった。 普通種のゆっくりは夜行性ではないため、夜間は巣の中で寝るのが普通である。 だが、このゆっくり達は夜の見張りを立て、夜間の襲撃に対処するという事をしていた。 このれいむとまりさの他にも、見張りを行なっているゆっくりは村の外周各所にいる。 全てが二匹一組で構成されており、警備には万全を期していた。 「ゆ、ゆ、ゆ、ゆっくりいじょ―――」 この瞬間までは 「ゆ?まりさ?」 突然聞こえなくなったまりさの声。 れいむは不審に思いまりさが歩いていた方へと向かう。 「まりさ?ゆっくりでてきてね?」 火からちょうど死角になっているところ、その小さな暗黒に――― 「まりさ?」 体を中心から上下に真っ二つにされたまりさが横たわっていた。 まだかすかに生きているのか「ゆ……ゆ……」とうめき声をもらしつつ、体をびくんびくんと痙攣させている。 「ゆ“ーー!?」 驚いたれいむは背を向け、異常を報せようと村に走ろうとした時――― 何かに口をふさがれ、そのまままりさと同じ暗闇の中に引きずられていった。 「~~~~~~!!」 ぐしゃ 最後の見張り役であるゆっくりまりさが潰れる。 口を押さえられている為に声も出せない。 中身の餡子が地面に飛び散る。 だが、まだ生きている。 「ゆっ、ぐじ……じ、だ、げっ……」 既に虫の息で悲鳴も上げられないが、体は痙攣し、その顔は苦痛でゆがんでいた。 まりさを杭に突き刺した人物は、続いて村の中へと歩を進めていった。 村の中にある一軒屋。 本来ならば人間が住むこの場所は、いまやゆっくりによって蹂躙されている。 居間の中心に布団が投げ出され、その上にゆっくりの家族が寝ている。 父まりさ、母れいむ、赤まりさ三匹に赤れいむ二匹だ。 「ゆ~……。ゆ~……」 「ゆゆゆゆゆ~……」 この日も日中は、畑の野菜を腹いっぱい食べたり、村の広場で他の家族と遊んだりした。 遊ぶほかにも、この村の拡張工事も手伝い、仕事の汗をかいた。 誰にも邪魔される事なく、最高のゆっくりプレイスでずっとゆっくりする……そんな夢が今まさに現実となっていた。 「ゆふふふ……まりしゃぁ~れいむしあわせ~」 母れいむが寝言を呟く。 その時だった。 ヒュンッ 「ゆ~……ゆぶぇっ!?」 突然の衝撃と圧迫感。眠気で朦朧としているが何かがおかしいことはわかった。 「ゆ、ゆっくりおき……ゆゆっ!?」 体が動かせない。よく見ると自分達は丸ごと何かに包まれてしまっているようだった。 家族の周りに網のようなものがまとわり付いている。 しかも包まれた衝撃で、布団からはじき出され部屋の隅まで来てしまっている。 「ゆ! ゆっくりやめてね! ゆっくりやめてね!」 何がなんだかわからないがこのままではゆっくり出来なくなると思い、暗闇に向かって叫ぶ。 「ゆぅ~……れいむ?」 「ゆ! まりさ! なんかへんだよ! ゆっくりできないよ!」 「ゆ……? ゆ!? なんでうごけないの!? れいむはゆっくりはなれてね!」 まりさとれいむはお互いの真正面を見つめあう感じで密着していた。 「だめだよ! れいむはうごけないよ! まりさこそゆっくりしないではなれてね!」 「まりさはうごけないっていってるでしょぉおおお! れいむがゆっくりはなれてね!!」 「れいむだってうごけないっていってるでしょぉおおおお!!」 二人がお互いを罵り合っていると。 「ゆ“~~~……」 と小さな声が聞こえた。 「「ゆ?」」 二人は一旦喧嘩をやめて不思議な顔をする。 そして視線を下に向けると…… 赤いリボンがわずかに動いているのが見えた。 なんと二人の間に赤れいむが挟まってしまっているのだ。 「ゆゆっ!! れいむのおちびちゃん!? ゆっくりしないででてきてね!」 「ゆ“ーーー!!」 なにやら体を動かしているが子れいむは出てこない。 「れいむ! れいむがまりさとこどもをはさんでるからでれないんだよ! ゆっくりどいてあげてね!」 「れいむはうごけないっていってるでしょ!! まりさこそゆっくりしないではやくどいてね!!」 再び言い争いが始まってしまう。 「ゆ~ん……うるちゃいよぉ~……」 「ゆっきゅしねらりゃれぇないよぉ~……」 他の子ゆっくり達が両親の声に目を覚まし始めた時だった。 シュルルルル 家族を包んでいる網の端側ががすごい勢いで回転を始めた。 それに対し反対側の網の端っこは家族を包み込むようにしっかりとホールドされていた。 結果、網はねじれるようになる。 雑巾を絞る感じだ。 そしてそれは中にいるゆっくりを――― 「ゆゆ!! なんかきつくなってきたよ!!」 「ゆっ! おちびちゃん! ゆっくりしないではやくでてね!」 「ゆ“~~~~~!!!」 網はどんどん家族を締め付けて行く。 「ゆ!! あみさんゆっくりしないでやめてね! れいむたちつぶさないでね!!」 「ゆ“ーーーきゅるちぃーーー!」 「まりぢゃだち“ちゅぶりぇちゃうにょー!」 「たずげでえ“え”え“え”え“え”!!」 赤まりさ達も外側から網によって両親に貼り付けられる。 「うぎぎぎぎぃぃぃ……」 まりさは潰されまいと全身に力を入れた。 その時。 ブチャ と、れいむとまりさの間から音がした。 「ゆ?」 二人が目線を下げてみると…… 二人の体の間にあったリボンの下から黒いものが染み出ていた。 「「……」」 「ゆびぃぃぃぃぃ!!! おきゃあちゃんとおちょうちゃんがいみょーとちゅぶちちゃあああああ!!」 「ゆびぇぇぇぇぇーーーん!! まりちゃ“のいも”ーどきゃあああーー!!!」 「ぴゅだりはゆっくぢじねぇえええ!!」 「「どぼじでそ“ん”な“ごどい”う“お”お“お”お“お”お“ぉ”ぉ“ぉ”!!」」 子れいむの罵倒に両親は涙を流しつつ弁解する。 そんなことしている間にも網はどんどん締め付けを強くしていく。 「ゆぐぐ……」 「ゆっぐ、り……でぎにゃ……」 すでにどのゆっくりも声を上げられない。そして 「……ゆびゃ!!」 網は両親の体を切り裂き食い込む。最後に子れいむたちの体を巻き込み一本の綱のようになる。 限界まで網が細くなると、まきつきは自動的に止まった。 家族を圧殺した網からは、なんともいえない甘い匂いが漂っていた。 「ゆぅ~?」 一番大きな家で寝ていた巨大まりさは目を覚ました。 原因は強烈に匂ってくる甘ったるい匂いだった。 「ゆ! これはあまあまのにおいだね!!」 あまあまのにおいに釣られ、まりさは夜の村に飛び出した。 ちなみにれいむはね入りが深いのか眠ったままだった。 「ゆんゆん……ここから匂うね!」 一番近くの民家に飛び込む。 そこには床にこびりついた大量の餡子があった。 「ゆっゆ~ん♪ あまあまさんゆっくりたべるよ!」 なにやら綱のようなもからあまあまは染み出ているようだ。 まりさはその上からあまあまを舌で嘗めとっていく。 「うっめ! これめっちゃうっめ!!」 その時、舌に妙な感触が。 「ゆ?」 それはリボンだった。それもよく見るれいむのリボン。 「ゆゆ~?」 広がる餡子。 その中かられいむのリボン。 よくみると黒い帽子のようなものも混ざっているような? 「……ゆ“ーー!?!?」 まりさは自分が食べたものに気がついた。 「どぼじでみ“ん”な“しんじゃっでる”の“ぉ”ぉ“ぉ”!?!?」 まりさは外に飛び出し他の家を見て回った。 綱のようなものから餡子が染み出している。 無造作に踏み潰された塊。 何かに真っ二つにされた体。 共通している事は、どの家にいるゆっくり達もすでに永遠にゆっくりしている事だ。 「見張りはどうじだぁぁぁーー!!!」 入り口のほうに向かう。 しかし、入り口はもっと酷かった。 体が上下に裂かれたれいむとまりさが杭の上に突き刺さっていたのだ。 他は家の中のゆっくり達と同じく、潰されたり無残に引きちぎられたりしていて全員死んでいた。 「ゆ“うううううう~!!!!」 恐ろしい光景の連続に、完全に我を失ったまりさは愛しのれいむの元へ逃げ戻った。 「でい”ぶ~~~~!!びん“な“じん”じゃっでるの“ぉ”ぉ“ぉ”お“お”お“お”お“お”」 しかし、れいむは全く反応しない。 まりさに背を向けて眠っている。 「でい“ぶ”! ざっざどお“ぎでね“!!」 れいむは寝ている。 「ゆ“っぐりお”ぎろぉ“ぉ”ぉ“ぉ”ぉ“!!!」 まりさがれいむに体当たりした。 と ズルッ 「ゆ“!?」 れいむの体が真横に真っ二つになり、上半分が床に滑り落ちた。 「……」 訳がわからなかった。 いつものように寝て。 あまあまの匂いがしておきたらみんな死んでいて。 戻ってきたられいむもすでに死んでいた。 すでにまりさの脳はパンクしかけていた。 だから―――後ろに立っていた死神にも気づかなかったのだ。 目の前にある丸い『モノ』。 熱探知すると今の状態がはっきりわかる。 発熱する周りの赤い部分。 その中央にあるわずかに温度が低い丸い部分。 これは極度の興奮状態と芯まで冷える恐怖に支配された状態だ 死神は突然姿を現すと、持っていた槍でまりさの体の芯―――温度が低い丸い部分を軽く一刺しした。 「ゆびっ!!」 …… ……しんじゃう? まりさしんじゃう? …… やだ やだやだ やだやだやだ しぬのはいやだ!!! しぬ! しんじゃう! なにがどうなってるの!? れいむのからだもどうなってるの!? みんなどうなってるの!? なんでまりさがこんなこわいめにあうの!? どすのせいだ どすがここをつかわせてあげるなんていったせいだ どすがにんげんをこうげきするなんていったせいだ どすがわるいのに まりさはわるくないのに まりさはにんげんをたおせるつよいゆっくりなのに ゆっくりしてたのに これからもゆっくり、するの……に もっ、と……ゆっく……りぃ――― 死神は動かなくなった『モノ』を見ている。 その表情は仮面の下に隠れていてわからなかった。 次の日の朝 森の中を移動するゆっくりの集団がいた。 その数、ざっと1500。 成体、子、赤ゆっくり。加えて巨大ゆっくり。そしてドス。 巨大化した普通種が数十匹いた。 皆食料を持っており、楽しそうに会話を楽しみながら移動している。 「きょうはゆっくりお引越ししようね」 ドスの大きさは3メートル以上もあった。 ドスと巨大ゆっくりを中心とした群れは、その数のせいもあって、まさしく民族大移動のようだった。 「うばったにんげんたちのむらにいくんだね!」 「みょーーーん!」 「おっきいれいむたちがいればにんげんなんかいちころだもんね!」 「これからはありすが、にんげんたちにとかいはがどういうものかゆっくりおしえてあげるわー!」 「おっきいみゃみゃだしちゅき~」 「おちびちゃん!あぶないからぼうしのなかからでるんじゃないぜ! ゆっくりしてるんだぜ!」 「このまえのにんげんたちもばかだったよねー」 「わかるよー。ちゃんたちがこわいんだよー」 「やっぱりにんげんなんてたいしたことないんだぜ!」 「もっともっとゆっくりぷれいすをひろくしようね!」 彼らは人間に宣戦布告し、手始めにふもとの村を乗っ取った。 緒戦は大勝した。 その後の襲撃も軽くいなした。 もはやゆっくり達の思考は、『人間は自分達でもあっさり倒せるもの』に変わっていた。 そして今日は、その更なる下準備のため、乗っ取った村へと引越しをしているのだ。 「どすやおっきいみんながいればあんぜんだね!」 「どす~みゅらにはまだちゅかにゃいの?」 「もーちょっとだよ、もう少し待っててね!」 「ゆ~♪ に~んげん~なんか~♪ よわい~♪ よわい~♪」 「にんげんのやさいはすべてまりささまがいただくんだぜ!」 「いなかもののにんげんなんてありすにかかればいちころよ!」 「はやくゆっくりぷれいすがひろがるといいね~」 「ゆ~♪ ゆゆゆゆ~♪ ゆ~♪」 「ゆっくりはつよさをあっぴるなどしてない……」 と、雑談に花咲かせている。 中にはにんっしんしているゆっくりも混ざっているが、ドスや巨大ゆっくりまりさの帽子の上や中に入りゆっくりしている。 ゆっくりたちは明るい未来を夢想してやまなかった。 ドスがいる 大きなゆっくりもいる 何より自分達は人間に勝った。 もっともっと、ゆっくりプレイスを広くしていこう そして、そこでいつまでもゆっくりしていよう そんな…… 都合のいい白昼の夢を見続けていた。 やがて村へと到着する一行。 「ゆっくりついたよ!」 一番に村に入った巨大ゆっくりまりさが元気よく挨拶する。 だが、いつもと様子が違う事に気づく。 いつもならゆっくり達がゆっくりしている声が家や広場から聞こえているはずだった。 「ゆ? ゆっくりしていってね!!」 さらに大きな声で挨拶する。が、村からは応答がない。 「ゆゆ? みんなゆっくりねてるのかだぜ?」 「まりさ~どうしたの~?」 巨大ゆっくりれいむが尋ねる。 「みんなのこえがしないんだぜ!」 ぞろぞろと森を越えて姿を現すゆっくり達。 「まだみんなゆっくりねてるのかな~?」 「ゆ~そんなことないはずだよ! 少なくともみはりのみんなはおきてるはずだよ!」 「みょーーーん?」 「みんなどうしたの!」 姿を現したドスが巨大ゆっくり達に尋ねる。 「むらのようすがへんなんだぜ!」 「わからないよー。みんながどこにもいないんだねー」 「ゆゆ? それはほんとう?」 ドスは一番近い民家を覗いてみた。 「ゆ? 中に誰もいませんよ」 民家の中はものけのからだった。 ドスは考えた。 「ゆ~……みんな! 大きい子についていきながら村の中を見回るよ! ぱちゅりーは何人かで食料を新しい巣に運んでね! 「「「「「ゆっくりりかいしたよ!」」」」」 ドスは役割分担を決め、村の検索隊と持ってきた食料を運搬するチームに分けた。 大きいゆっくりは今ではドスの補佐役といった感じで、群れのみんなはドスの指示を素直に受け止め的確に行動して行く。 そんな仲間達を頼もしく思いながら、自分も村の見回りを始めた。 「むきゅ? あれはなにかしら?」 食料運搬を任された、参謀巨大ぱちゅりーは妙な事に気がついた。 この参謀ぱちゅりーも巨大化したゆっくりなのだが、体の弱さはあまり改善されておらず、やはり頭を使う事多かった。。 ぱちゅりーが見たのは、自分達のやってきた森の木に村側を向いて付いている『黒いモノ』だった。 虫の匂いも草の匂いも土のにおいもしない。 舐めてみたが何の味もしない。 「むきゅきゅ~?」 「ゆ~! ぱちゅりー。ゆっくりしないではこうぼうよ~」 「むきゅ! ゆっくりいくわね」 考えてもよくわからないので、とりあえず与えられた仕事をこなす事にした。 ドスたちは村の中を探すが、先遣隊のゆっくり達はどこにもいなかった。 「ゆううう……みんなどこにいったんだろう……?」 「どす! こっちにもいなかったんだぜ!」 「こっちもいなかったよ!」 その時だった。 「ど、どすーーーー!!」 「「「「「ゆぎゃああああああああああああ」」」」」 「ゆ!?」 それは広場に作った新しい巣に食料を運びに行った参謀巨大ぱちゅりーと他のゆっくりの声だった。 声はとても切羽詰った様子で、ゆっくり出来ていない感じがした。 「ゆ!ぱちゅりーのこえだよ!ゆっくりしてないよ!」 「みんな行くよ!」 ドスたちは広場へと向かった。 村の一番奥にある広場にドス達は到着した。 「どうしたのぱちゅりー!?」 「むきゅ~~~~……」 「ごんなのがいはじゃないわあ“あ”あ“あ”あ“あ”あ“あ”あ“あ”」 「べにいいいいいいいいいいいいいいいずうううう!?!?!」 広場のすぐ入り口で参謀巨大ぱちゅりーと普通サイズのゆっくり達が錯乱状態になっていた。 周りに運んでいた餌が散乱している。 「どうしたんだぜみんな!!」 「わからないよー! ゆっくりしてよぉーー」 「あ、あれ……」 参謀巨大ぱちゅりーは目を閉じたまま上を見上げるように顔を向ける。 ドスはゆっくりと視線を上げた。 「!!!」 それはゆっくりにとっては悪夢のような光景だった(ゆっくりから見ると)。 広場には一本の木が生えている。 そして、その柱に貼り付けられているもの。 皮。 ゆっくりの皮。 ゆっくりの髪飾り。 中身の餡子を失ったデスマスクと髪飾りが棒に貼り付けてあったのだ。 その中にはひときわ大きい皮と髪飾りもある。 おそらくこの村を守っていた巨大まりさとれいむのものだろう。 そしてその木の根元には、そのゆっくり達の中身であったであろう餡子が固まっておいてあった。 その中には歯や目、舌なども混じっていた。 ゆっくりの餡子の塊の上に立つ、ゆっくりの皮をまとった木。 かつてゆっくり出来た広場は、死臭漂う地獄となっていた。 「どうな“っでるのお“お“お“ぉ“ぉ”ぉ“ぉ”ぉ“!?!?!?」 「おう“ぇえええええ」 「……」 「わがら“な”い”よ”ぉ“ーま”り“さ”がぁーーーー」 ドスはかろうじて正気を保ったものの、広場に来た普通ゆっくり達は相当ショックを受けたようで、 気絶するものや餡子を吐いてしまうものもいた。 「どすーーー」 先ほどの絶叫を聞きつけた他のゆっくり達が広場に集まってきていた。 「ゆ~。どす? なにがあっ…………びゃあああああああああああああ……うまい~」 「ゆ”ゆ”ゆ”ーーー!?!?」 「まりざがあ“あ”あ“あ”あ“あ”あ“あ”!!!」 「どうじでごんなごどになっでるのぉ“ぉ”ぉ“!!!」 「えれえれえれえれ」 「ゆーーー!! あかちゃんゆっくりあんこはかないでね!! ゆっくりできなくなるよ!!」 「ごんなんじゃゆ“っぐりでぎないいいいい!!!」 「い“や”だぁ“ぁ”ぁ“ぁ”ぁ“あ”あ“あ”ぁ“ぁ”ーーーーーー!!」 「ゆびぇ!! ふまないでええええー!?!? あか“ち”ゃんがあ“あ”あ“あ”!?」 広場にやってきてその惨状を見たゆっくり達はたちまち大混乱に陥った。 錯乱して精神異常をきたすもの。 ただただ絶叫するもの。 赤ゆっくりには特に刺激が強かったようで、既に餡子を吐いて絶命したもの。 混乱して飛び跳ねる他のゆっくりに潰されるもの。 その様子を見てわけもわからずわめくもの……。 まさしく、阿鼻叫喚の地獄絵図だった。 「み、みんな! ゆっくり落ち着いてね!! 大丈夫だからゆっくりおちついてね!!!」 ドスはみんなに呼びかけるが、あまりに数が多いためその声は喧騒にかき消されてしまう。 補佐役の巨大ゆっくり達でさえ、何匹かは気絶したり、わめき散らしたりしてしまっている。 ドスがただおろおろしていると、参謀巨大ぱちゅりーが言った。 「む、きゅ……どす……おーらよ、ゆっくりおーら……」 参謀巨大ぱちゅりーもクリームを吐いているが、容量が多い分まだしゃべれる余裕があった。 「ゆ! そうだったよ!」 ドスのもつ特殊能力『ゆっくりオーラ』。 ドスの体から発せられる特殊なオーラによって、周りにいる生物をゆっくりさせる力があるのだ。 「ゆ~。みんなゆっくり、ゆっくりしていってね~」 ホワワワワ~~ン 怪しげな効果音(心象風景)と共にオーラが発せられる。 オーラは広場全体を包み、やがてゆっくり達が落ち着きを取り戻す。 「「「「「ゆ~ゆっくりぃ~~~」」」」」 しかし、これには最大の弱点があった。 そろいもそろってみんな「ゆっくり~」な状態になってしまうため、群れを混乱に貶めた原因であるモノを片付ける事ができないのだ。 かといってこのままゆっくりオーラを止めたら、再び群れは大混乱になってしまう。 「(ゆ~……このままじゃどうにもならないよ)」 オーラはいつまでも出せるものじゃない。 しかも連続して出す事も不可能だ。 再び群れが混乱に陥ったら納める事は出来ないだろう。 「(ゆ“~~~誰がたすけてぇぇぇぇ!!)」 ドスが心の中で助けを叫んだ瞬間だった。 シュバッ ズガーン 「ゆ!!」 突然の爆発音。 ドスはオーラを出す事も忘れそちらの方向を振り返った。 燃えていた。 ゆっくりの皮と髪飾りが貼り付けられた木が。 その下にあった餡子も燃えていた。 ゆっくりには火葬という概念はない。 仲間たちの死体はありがたく食料とするか、そのまま土に返すかである。 ドスもなんとかして仲間の死体を丁寧に葬るつもりだった。 しかし、今その死体が火の中で燃えている。 ゆっくりのデスマスクは炎の中であぶられ変形し、火で焼かれる苦痛でないはずの表情を歪めているようだった。 「ど、ど、ど、どうなっでるのお“お”お“お”お“お”!?」 「ゆ~? どす~? ゆっくりしていってね!」 ゆっくりオーラがなくなったため一部のゆっくり達が意識を取り戻す。 ゆっくりオーラでゆっくりしたゆっくり達は、先ほどまでの記憶なんぞ忘れてしまっている。 「ゆ~!! きれいなあかあかだね~!」 「でも、ちょっとあちゅくてゆっくりゅできにゃいね」 「ゆっくりはなれるよ! ゆっくりみるよ!」 「ゆ~ゆ~ゆ~! とってもあかるいよ~」 その下で燃えているものが何なのか判別できないゆっくり達は、真っ赤に燃え上がる木をみて楽しそうな声を上げている。 「みんななによろこんでるのぉぉぉ!? まりさたちが燃えちゃったんだよおおお!?!?」 「ゆ? なにいってるのどす? まりさたちなんかいないよ?」 「そーだよ。 れいむたちきれいきれいみてるんだからじゃましないでね!」 「ゆっくりさせてくれないどすはゆっくりしね!」 「な“ん”でぞん“な”ごどい“う”の“ぉ”ぉ”ぉ“ーーー!?」 燃えてるものが何なのかわからないゆっくりたちはドスを罵倒する。 そんな広場の状況を『彼』は静かに観察していた。 広場の状況を確認する。 彼は仮面をつけていた。 仮面は目の部分がモニターとしての役割も果たしており、ゆっくり達を認識するとデータを映し出した。 <対象危険指数> 『普通種ゆっくり―――危険指数……データ化不可』 『巨大ゆっくり―――危険指数100/01』 『どすゆっくり―――危険指数100/05』 <対象処理方法> 『普通ゆっくり―――放置』 『巨大ゆっくり―――放置』 『どすゆっくり―――作戦対象個体:捕獲(最優先)』 続く
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その5より 「おおおにいさん!! きょきょきょうは、れれれいむをぎゃくたいしてね!!!」 翌日、れいむは男の足音が聞こえてくるや、男の言葉を待たずして、精一杯の声でそう叫んだ。 そうでもしないと、奮い起した勇気がいつ萎んでしまうか分からないからだ。 現に、今のれいむは朝から一度も震えが止まらなかった。 しかし、言ってしまった以上、後戻りはできない。する気もない。 自分の存在意義がかかっているのだから。 「ほう、ようやくお前の出番が来たか。待ちくたびれたよ」 男はさも嬉しそうに、扉越しに声をかける。 対して、まりさとありすは、何を馬鹿な事を!! と言わんような口調で、れいむに詰め寄ってくる。 「れいむ!! なにをいってるの!! ゆっくりばかなことはいわないでね!!」 「そうよ、れいむ!! れいむがぎゃくたいされることはないわ!! ここは、まりさととかいはのありすに、まかせておけばいいのよ!!」 まりさもありすも、予想通り、れいむを止めにかかる。 しかし、ここで虐待を止められるわけにはいかないのだ。 まりさと対等になるためにも。 ありすより先に、まりさにプロポーズするためにも。 「まりさ、ありす、ゆっくりありがとう!! でもれいむはへいきだよ!! きょうは、ゆっくりしていってね!!」 「ゆぅぅ!! うそつかないでね、れいむ!! こえがふるえてたよ!! れいむがいじめられることなんてないんだよ!! きょうはまりさにまかせてね!!」 「もうきめたんだよ、まりさ!! それに、いつまでもまりさとありすにたよってばっかりじゃいられないよ!! ゆっくりりかいしてね!!」 「れいむこそゆっくりりかいしてね!! れいむがいじめられること、ないんだってば!!」 「なんといわれても、れいむのかんがえはかわらないよ!! おにいさん!! ゆっくりはやく、れいむをつれていってね!!」 埒が明かないと感じたれいむは、さっさと男に連れて行けと要求する。 いつまでもまりさやありすと話をしていると、せっかく奮い立たせた勇気が萎えてしまいそうになるのだ。 そのため、多少強引ではあったが、れいむは二匹との会話を切り上げた。 「ふふ、久しぶりに、れいむを苛め倒すことが出来るよ。楽しみで仕方がないぜ」 男はれいむの部屋の鍵を開けると、扉を開けた。 その手には、一月ぶりに見る、恒例の箱が収められている。 この部屋と虐待部屋を行き来するのに、かつて男が使っていたものだ。 れいむはそれを見るや、体が委縮してしまう。これから虐待をされるのだと、否応なしに思い知らされるのである。 「さあ、れいむ。この箱の中に入れ」 男が木箱の蓋を開けて、命令してくる。 両壁からは、突然まりさとありすの声が聞こえなくなった。 何を言っても無駄だと気づいたのだろうか? それはそれで好都合だが、いざ声が聞こえてこないと不安になってくるのも事実だ。 生物(?)の心理とは、本当に不思議なものである。 れいむが完全に入ったことを確認した男は、木箱の蓋を閉める。 そして、れいむに一言言葉をかけた。 「お前だけは、利口なゆっくりだと思っていたのに、どうやら俺の見込み違いだったようだな」 利口なゆっくり。 この場合、頭がいいという意味ではなく、卑怯・狡猾という意味であろう。 二匹に虐待を任せ、一匹気楽に過ごしていたれいむに対する皮肉であろうか? 何とでも言うがいいと、れいむは心の中で反発した。 男は知らない。 虐待されることこそが、れいむの望みであることを。 これこそが、自分がこれから生き残る上での最善の方法であることを。 虐待されることは、すなわち将来への布石なのだといういことを。 自分が勝者だとおもっているであろう男は、れいむから見たら自分に従って動くピエロのようなものであった。 男の規則正しい足音が聞こえ始めた。移動を開始したのだろう。 これから一か月ぶりに、れいむは虐待を受ける。 れいむは、再度耐えしのぐ決意を固めた。 およそ一月ぶりに受けた虐待は、予想通り、死んだ方がマシといえるほど苦しいものであった。 それでもれいむは必死に歯を食いしばり、男の責苦に耐え続けた。 悪魔の拷問ような一時間が過ぎた時、れいむはあまりの激痛に意識を手放してしまった。 それでも男はきっちり時間どおり終えて、部屋に戻してくれた。 れいむが目を覚ましたのは、翌日の朝方であった。 虐待を受けてから、丸々20時間近く眠っていたことになる。 昔は虐待を受けても、ここまで長く休息を取ったことはなかった。 やはり、久しぶりの虐待に、体が付いてこなかったのだろう。 れいむは起き上がると、未だ痛みの引かない体を引きずりながら、ドッグフードと水の置かれている部屋の隅に向かい、もそもそと食べ始めた。 まりさとありすはまだ寝ているのか、物音一つ聞こえなかった。 少し残念ではあるが、れいむももうひと眠りしたいので、好都合でもあった。 何しろ、れいむは今日も男の虐待を受けるつもりなのだから!! まりさやありすに言えば、絶対に反対されるだろう。昨日の様子を見て入れば、考えるまでもない。 しかし、虐待を一回受けた程度でまりさと対等になったなどというおこがましいことは、さすがにれいむも考えていなかった。 まりさの受けた回数と同じとまではいかなくとも、少なくとも一週間分くらいは虐待を受けなくては、まりさと同じ位置に並べない。 だからと言って、ありすがいつまりさに告白するか分からない以上、三匹で順番に虐待されるなんて、悠長なことは言っていられない。 ほんの一月前までは、毎日のように虐待をされ続けてきたのだ。 それでも、れいむは生きている。悔しいが男の加減は、それだけ正確なのだろう。 これで障害が残ったりするなら考え物だが、そんなこともない以上、れいむは今日も明日も明後日も虐待してもらわなければならない。 そのためには、まず体力を回復させることが、何をおいても重要である。 れいむは食べ終わると、再び男がやってくるまで、眠りについた。 「れいむ!! いいかげんにやすんでよ!!」 「そうよ、れいむ!! これいじょうむりはやめてね!!」 れいむが虐待される決意をしてから、一週間が経過した。 まりさとありすは、2〜3日はれいむを説得し続けたが、れいむが以前のありすのように意志を曲げないと分かると、次第にれいむの心意気をくんでくれるようになった。 しかし、それでいて二匹のこのセリフ。れいむを行かせまいと必死で止めている。 納得したというのに、二匹がれいむを止める理由。 それは、れいむがこれで一週間連続で虐待をされ続けているためである。 どんなに止められようと、れいむは虐待され続けた。 男もそんなれいむの狂気じみた様子に、何か思うところがあったのだろうか? れいむの言い分を聞いて、毎日虐待をし続けてくれた。 しかし、虐待を受けているというのに、れいむは嬉しかった。 自分の思い通りに事が運んでいることに満足していた。 れいむにどんなにやる気があろうと、目下最大の懸念は、男がれいむを指名してくれるかというものであった。 如何に自分から名乗り出ようと、れいむを心配するまりさとありすも必ず名乗りを上げてくる。 心配してくれるのは嬉しいのだが、この時ばかりは、二匹のお節介も鬱陶しいと思わざるを得なかった。 気分屋の男だ、その日の気分次第ではれいむを虐待してくれないかもしれない。まりさやありすを選ぶかもしれない。 しかし、れいむには時間がないのだ。最短でまりさと対等にならなければならないのだ。 それを男は見据えているかのように、れいむを虐待してくれる。 れいむは、すんなりと事が運ぶことに満足し、今日も虐待の痛みに必死で耐えた。 虐待が終わり、れいむは部屋に戻された。 いつもなら食事をしてすぐに寝付くのだが、今日のれいむは中々寝られなかった。 嬉しかったのだ。 れいむの目安としていた一週間が終わったのだ。 これでやっとまりさとありすに、負い目を感じることはなくなる。 まりさと同じ高さに立てる。 そう考えると、ついついニヤケ面になってしまい、体の痛みも忘れてしまいそうになる。 そんなれいむに、両隣から声が掛って来た。 「れいむ!! だいじょうぶなの!?」 ありすの声である。 余程心配だったのだろう。 れいむの企みを知らぬありすは、必死にれいむの名を呼び続けてくる。 「れいむ!! あしたはぜったいにまりさがぎゃくたいされるからね!! これいじょう、れいむがいくんだったら、ぜっこうだよ!!」 まりさの言葉。 絶交とは、温和なまりさがよく口にしてきたものである。 危なかった。ノルマが達成した後で助かったものだ。 まりさと一緒になるために頑張っていたのに、そのまりさに嫌われてしまっては、本末転倒である。 「ゆっ……わかったよ、まりさ……あしたは……まりさにまかせる…ね……」 「ゆっ!?」 今まで頑として、まりさの言葉に耳を傾けなかったれいむが、いきなり素直になったのを受け、まりさは言葉を詰まらせた。 しかし、れいむの言葉はまりさにとっても、嬉しかったのだろう。 久しぶりに、まりさの声が落ち着きを取り戻した。 「ゆうぅ!! やっとれいむが、まりさのいうことをきいてくれたよ!!」 「ごめんね……まりさ………しんぱいばっかり……かけて」 「まったくだよ!! ゆっくりはんせいしてね!!」 「ゆっくり……はんせいするよ……」 「れいむ!! あしたはまりさだけど、そのつぎはありすがいくからね!!」 「ゆっ……ゆっくり…りかいしたよ……ありす……がんばってね……」 「まったく、しょうがないわね!! あとはとかいはにまかせなさい!!」 「おねがいね、ありす……でも……そのつぎは………またれいむがいく……からね」 「なにいってるの、れいむ!! れいむはしばらくおやすみよ!!」 「そうだよ、れいむ!! あとは、まりさとありすにまかせてね!!」 「だめだよ……れいむだって……まりさとありすの……やくにたちたいよ……ゆっくりなかまはずれは……やめてね」 「ゆぅぅ……やっぱりれいむはいじっぱりだよ!!」 まりさは最後に困ったような言葉を吐きながらも、最終的にはそれを認めてくれた。 元々、れいむが虐待をされることに反対だったわけではなく、れいむの行き過ぎる行いに対して苦言を呈していたのである。 れいむがしっかりと順番を守ってくれるのなら、まりさはれいむの意志を尊重してくれるつもりなのだ。 やはり、まりさは最高のゆっくりである。 この一週間、地獄の苦しみに耐えたかいがあったというものだ。 これで、準備は整った。 後はありすより先に、まりさに告白をするだけ。 しかし、物事にはタイミングというものがある。 少しでも確率を上げるためにも、その時に告白するのがベストだろう。 あの呑気でお人よしのれいむは、この時もうすでに存在していなかった。 世の物事すべてを損得の計算で考えられるように変わってしまったのである。変わらざるを得なかったのである。 それだけこの異常な空間が、れいむを変えてしまったのである。 しかし、れいむは自分が変わってしまったことに気付きもしない。いや、例え気づいていても、どうも思わないだろう。 すでに賽は投げられたのだ。 もう振り直しは出来ない。どの目が出ようと、突き進無以外道はない。 れいむは、そのまま少しの間二匹とお喋りをし、その後すぐに意識は深い深い海の底に落ちていった。 自分の成功を信じながら。 れいむの無茶苦茶な一週間が終わり、まりさとありすを含めて、三匹でサイクルを組んで虐待される日々が始まった。 すでにまりさ→ありす→れいむと一回り虐待は終了しており、今日はサイクルが始まってから、れいむが二回目の虐待を受ける日であった。 それと同時に、れいむが例の作戦を実行に移し出すと決意した日でもあった。 今日、男の虐待から戻ってきたら、まりさに告白しよう。 れいむはそう決めていた。 そのタイミングを選んだ理由はいくつかある。 一つ目は、虐待帰りだということである。 普通に告白をするより、虐待を受け心身ともに疲れている方が、まりさの気を買えるだろうという、れいむなりの考えである。 それなら、虐待一週間を終えたすぐの方がいいのではと思うかも知れないが、これについても、れいむなりに思うところがあった。 あの場で告白してしまったら、れいむの考えを見透かされる可能性があったからである。 見透かされるとは、虐待を受け続けた理由が、まりさに告白するためだとバレテしまうことを意味する。 そんなことを知られては、計算高いゆっくりだと、逆に引かれてしまいかねない。 しかし、数日置けば、さすがにそこに結びつけることはなくなるだろう。 二つ目は、あまり悠長に構えている時間もないということである。 作戦はただ告白するだけでなく、ありすより先にするというのが根幹の部分にある。 れいむも出来ることなら、もっと時間を置きたいのだ。 虐待のノルマを達成したといっても、それは所詮れいむだけが考えていることである。 まりさからすれば、れいむなんてまだまだ苦しんでないよと感じられるかもしれない。 だからこそ、今後もっと虐待を受け続けていけば、それだけまりさに近づくことが出来るのである。 しかし、悠長に構えていてありすに先を越されてはたまらない。 そういった様々な要素を考えまとめ、れいむは今日まりさに告白することを決意したのである。 男に虐待部屋に連れてこられ、今日も虐待が始まった。 その日れいむに怯えはなかった。 いざ告白を決意しても、ちゃんとまりさに伝えることが出来るか不安でいっぱいなのだ。 それに、ちゃんと告白できたとしても、まりさがれいむの告白を受けてくれるかどうかも分からない。 その気持ちが、虐待の不安を押し退けてしまったのである。 体が虐待に慣れてきたことや、虐待内容が以前行われた事の繰り返しであるということも、れいむにあまり不安を与えない要因となったのだろう。 れいむは、虐待の痛さに必死で耐えながらも、頭の中では今後のことばかりを考えていた。 虐待は終了し、れいむは部屋に帰された。 いよいよ告白の開始である。 痛さと疲れはあるものの、ゆっくりのくせにアドレナリンでも出ているのか、れいむはそれをほとんど感じなかった。 ゆっくりは思い込みの生物であるという学説がある。 思考のすべてを今後のプロポーズに費やしたれいむは、自分が痛いということを忘れてしまい、それが体にも影響しているのかもしれない。 ある意味羨ましい体である。 と、れいむがどういうふうに切り出すか悩んでいると、当のまりさの方かられいむに声をかけてきた。 「れいむ!! ゆっくりだいじょうぶだった?」 「ゆぅ!! ゆっくりだいじょうぶだよ!! ぜんぜんへっちゃらだよ!!」 いつも通りのやり取りであるが、れいむは言葉にしてからしまったと思った。 虐待後を狙ったのは、苦しみながらも告白することで、まりさの気を最大限引き寄せる効果を狙ってのつもりだったのに、うっかりと普通に話をしてしまった。 考えに夢中で痛さを感じないのも良しあしである。 こうなったら作戦実行日を変えるか? いや、やはりそれは出来ない。 ありすがいつ告白してくるか分からないのだ。あまり時間はかけたくない。 それに、せっかく今日に計画を合わせてきたのだ。 れいむは気持ちの面でも最高潮に達している。今なら、れいむの有りっ丈の気持ちをまりさに伝えきることが出来る。 れいむは、無駄な事を考えることは止めた。 最初から出鼻を挫かれたのだ。もう怖いものなどありはしない。当たって砕けろ!! いや、砕けたくはないけど、そんな意気込みで言え!! 本心をまりさにぶつけることにした。 「まりさっ!!」 「ゆっ!? なあに、れいむ?」 「れいむは、まりさがだいすきだよ!! まりさのことを、ゆっくりあいしているよ!! れいむといつまでもゆっくりしていってね!!!!」 「!!!」 言った!! 言ってしまった!!! もう後には引けない。賽は投げられた。 れいむの愛の告白に、まりさは何も返事を返してくれなかった。 しかし、一瞬、言葉に詰まった様子を見せた。相当驚いているのだろう。 こんな場合だというのに、告白なんてしてくるんだ。無理もない。 れいむは緊張で、喉(?)が乾いて仕方がなかった。 一刻も早く、水を飲みたい。 しかし、まりさの返事を聞くまでは、なんとか我慢するつもりだった。 壁越しの告白のため、姿は見えないのだが、水を飲んでしまったらまりさに振られる気がしたのだ。 様は願掛け、気分の問題である。 30秒が過ぎ、一分が経過しても、まりさは一向に口を開かなかった。 さすがにれいむも焦りだした。 やはり、まりさはれいむのことを好きじゃないのか? れいむじゃ、まりさには釣り合わないのか? 様々な感情が去来する。 しかし、ようやくまりさが口を開いて来た。 考えが纏まったのだろう。 「れいむ……れいむのきもちはうれしいよ」 「ゆっ……」 「まりさもれいむがだいすきだよ……」 「ゆゆっ!!」 「……」 そう言って、まりさは再び沈黙してしまう。 大好きだよ。 愛の告白をして大好きを言われたのだから、普通に考えれば、れいむの気持ちを受け止めたと考えていいのかもしれないが…… その後の間が嫌な気分にさせる。 なんとか傷つけないように断る手段を考えているような気分を感じさせる。 れいむは、やはり自分ではダメだったのかと弱気になった。 しかし、次の瞬間…… 「だから!! だから、まりさといっしょに、いつまでもゆっくりしていってね!!!」 …… ……… ………… れいむは唖然としてしまった。 もう十中八九、玉砕を覚悟していた。 それなのに、まりさはれいむの気持ちをしっかりと受け止めてくれた。 れいむは、ただただ感情を整理できず、言葉を詰まらせた。 「れいむ、どうしたの?」 何も話してこないれいむが気になったのだろう。言葉をはさんでくる そんなれいむの心情に気付かないのが、まりさらしいと言えばまりさらしい。 れいむは、とにかく何か話さなければ、言葉を掛けなければと、考えを纏め上げようとしたが…… 「ゆ……ゆゆ………ゆゆ……」 「ゆっ?」 「ゆ……ゆあああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁああああぁぁぁぁぁあぁぁ――――――――――――んんんんんん!!!!!!!」 「れ、れいむ!! どうしたの!!」 一気に感情が爆発してしまった。 爆発は涙となって、れいむの目から止めどなく溢れてくる。 嬉しかった。まりさが自分を選んでくれたのが。 嬉しかった。あの虐待された日々が、無駄ではなかったことが。 嬉しかった。れいむにはっきりと居場所が出来たことが。 れいむは、今までの自分の行動を振り返り、延々と泣き続けた。 「れいむ、なきすぎだよ!!」 「ゆぅ……ゆっくりごめんね、まりさ!! でも、れいむ、すごくうれしかったんだよ!!」 「まりさもうれしかったよ!! れいむがすきといってくれて!!」 「まりさ!!」 「れいむ!!」 ようやくれいむは泣きやんだ。泣きやむまで、実に10分もの時間を費やしてしまった。 れいむは水が飲みたかったことも忘れ、まりさとの話に興じ始める。 「れいむ!! いまはできないけど、けっこんしきはここをでられたらゆっくりしようね!!」 「ゆぅ!! そうしようね!!」 「それから、れいむはまりさのおうちにゆっくりくるといいよ!!」 「ゆゆっ!? いいの!!」 「あたりまえだよ!! れいむのおうちはまだできていないんでしょ? それに、れいむはまりさのおよめさんだもん!! いっしょにくらすのは、ゆっくりあたりまえだよ!!」 「ありがとう、まりさ!!」 「まりさのおうちはおっきいよ!! にんげんさんのおうちみたいにおっきいから、ゆっくりたのしみにまっててね!!」 「ゆっ!! ゆっくりたのしみだよ!! ゆっくりはやく、まりさのおうちにいきたいよ!!」 「あと、おちついたら、はねゆーんにもいこうね!!」 「ゆっくりたのしみにしてるよ!!」 人間のお家と同じくらい大きいとは、まりさも大げさに出たものだ。 まあ、所謂物の例えだろう。 しかし、れいむは「うそつかないでね!!」なんて、無粋なセリフを吐くつもりはない。 まりさは、れいむを喜ばせるために言っているのだろう。れいむだって、そのくらい分かるつもりだ。 こんな幸せなひと時を、自分から壊す必要はない。 自分の居場所が出来たばかりか、出会ったときからずっと好きであったまりさと、これからは永遠にゆっくりすることが出来るのだ。 れいむの頭の中は、まりさとの会話でいっぱい幸せいっぱいで、何にも考えられなかった。 しかし、次にまりさが言った言葉が、れいむに重要なことを思い出させた。 「ありす!! ありすも、まりさとれいむを、ゆっくりしゅくふくしてね!!」 「!!!」 そう、作戦が完璧なほどに決まったことで浮かれまくってしまい、すっかりありすのことを忘れていたのである。 れいむはなんと言葉をかければいいか分からなかった。 そもそも勝者であるれいむが、敗者であるありすにかける言葉なんて、どれも陳腐に聞こえるだろう。 裏切ったれいむの言葉なんて、都合のいい言葉としか感じないだろう。 事実、れいむの心の中は、ありすへの優越感で満たされている。 何とか考えずにいようとしても、すぐに思考の中に入り込んできてしまう。 とても甘美な麻薬のようなものだ。 れいむの口から出る言葉も、自然とありすを見下すものになってしまうだろう。 しかし、ありすへの背信行為をしておきながらも、ありすとは親友でいたい。嫌われたくない。 これもまたれいむの本音だった。 それは、勝者だからこそ持ち得ることが出来る、自分に甘く都合のいい考えである。 ありすのことを全く考えてない、自己中心的な思考である。 しかし、例えそれが分かっていようと、れいむはありすとの友情も諦めきれなかった。 それだけありすのことが好きだったのだ。 ありすは、まりさの言葉に、なかなか返事を返さない。 一体、どんな心中でいるのだろう。 自分を裏切り、まりさを手に入れたれいむに、仕返しでも考えているのだろうか? それとも、まりを諦めきれず、虎視眈々とまりさを奪う算段でも整えているのだろうか? 何とかありすに言葉を掛けなければならない。 親友でいてもらうためにも。 れいむが、なんて声をかければいいのだろうと、頭を悩ませていると、ようやく当の本人から反応が返ってきた。 「おめでとう!! れいむ!! まりさ!!」 その言葉に、特に棘があったようには聞こえなかった。 いつものやさしさに満ちたありすの声に聞こえたきがする。 心から祝福しているような気がする。 「ゆっ!! ありがとう、ありす!!」 まりさが祝福を受け、感謝の意を示す。 「けっこんしきには、ぜったいにありすをよんでね!!」 「あたりまえだよ!! ゆっくりかならず、ありすをよぶよ!!」 「ゆっくりれいむをたいせつにしてね!!」 「ゆっくりやくそくするよ!! れいむをいつまでもかわいがるよ!!」 その後、まりさとのやり取りを終えると、ありすはれいむにも声をかけてきた。 「れいむ、おめでとう!! まりさとゆっくりしてね!!」 「ゆっ……ありがとう、ありす……」 「けっこんしても、ありすとはしんゆうでいてね!!」 「ゆぅぅ……」 ありすはれいむを祝福してくれた。 そればかりか、れいむに対して、親友でいてくれとまで言ってくる。 れいむは自分でありすを裏切っておきながら、ありすの寛大な態度に居たたまれなくなった。 それと同時に不審に思った。 ありすは悔しくないのだろうか? 悲しくないのだろうか? れいむがありすの立場なら、決して自分を許さないだろう。 なのに、ありすは祝福してくる。れいむが最も望んでいた言葉をかけてくる。 腑に落ちなかった。自分に都合がよすぎる。 昔のれいむなら、その言葉に何ら疑問を抱かなかっただろう。 しかし、今のれいむは、物事を計算で見るようになってしまっている。 ありすの言い分は、そんなれいむを納得させるには、あまりにも納得の出来ない言葉だった。 折角想いに想っていたまりさと一緒になることが出来たのだ。 なのに、つまらないことで将来への希望を壊されるようなことは、絶対にあってはならない。 本当にありすは自分たちを祝福してくれているのか? 何か不穏当な考えを持っているのではないか? もしありすが何らかの手で自分を陥れようとしているのなら、何が何でも防がなくてはならない。 例え、今後ありすとの友情が壊れようと。 れいむは、ありすの真意を測ることにした。 一夜明けた翌日、今日はまりさが虐待される日である。 男はまりさを虐待部屋へと連れていった。 今がありすと話す絶好の機会である。 れいむは、ありすのいる壁際の方に行くと、真意を質すべく、核心をぶつけた。 「ありす、おきてる?」 「ええ、ゆっくりおきてるわ!!」 「ありす!! れいむ、ききたいことがあるよ!!」 「なにかしら?」 「きのうのことだよ!! ありすは、れいむにまりさがとられて、かなしくないの?」 「……」 「まりさがすきじゃなかったの?」 「……」 「れいむをうらんでいないの?」 「……」 「ねえ、どうなの、ありす!!」 れいむの問いに、ありすは中々反応を示さない。 れいむはゆっくりとありすが言葉を出すまで待ち続けた。 ようやくありすが口を開いて来たのは、一分後であった。 「……くやしいわよ!! かなしかったわよ!! ありすはまりさがすきだったんだもの!!」 ありすは、自分の隠していた感情のすべてをぶつけるかのように、大きな声で叫んできた。 これには、さすがのれいむも、少なからず動揺した。 ありすがこうまで生の感情を出してくるとは思わなかったのだ。 「それじゃあ、どうして……」 「……だって、しょうがないじゃない!! これはこいのかけひきなんだもの!!」 「ゆっ?」 「れいむは、じぶんのことをどうおもってるの? ありすのことをうらぎったとおもってる?」 「ゆぅぅ……それは……」 「さいしょはありすもそうおもったわ!! れいむにうらぎられたって!! でも、じっさいはそうじゃない!! まりさはだれのものでもないんだもの!! まりさにこくはくするのは、れいむのじゆう!! それをうけるのもまりさのじゆう!! そこのありすのはいるよちはないわ!!」 「……」 「ありすがまりさにさっさとこくはくしなかったのもいけなかったしね!! まりさのあいてが、れいむならなっとくだわ!! それに、まりさはれいむのことがすきだったみたいだから、こくはくしてもたぶんふられていたけどね!!」 「ありす……」 「だからありすはあきらめたの!! かこをふりむかないことも、とかいはのたしなみよ!! だから、れいむがきにすることはないわ!! これからもありすのしんゆうでいてね!!」 「……ありす!! ありがとう!! ありがとう!!」 「かんしゃすることなんてないわよ!! ここからでられたら、まりさいじょうにすてきなゆっくりをみつけてやるんだから!!」 「ありすならきっとみつけられるよ!!」 「ありがとう、れいむ!!」 れいむはここに来て以来、三回目の衝撃を受けた。 自分はなんて小さいのだろう。ありすと言葉を交わし、嫌というほど思い知らされた。 自分は決してそんな風に考えられない。 ありすの立場なら、絶対に嫉妬をせずにはいられない。 しかし、ありすはどこまでいってもありすだった。 優しく他人を思いやれるゆっくりだった。 本当に心の底から、れいむとまりさを祝福してくれていたのだ。 れいむは、ありすを疑ったことを悔いた。 そして、同時に感謝した。 こんな最高のゆっくりと知り合えたことを。 ありすと親友になれたことを。 「ありす!! れいむとありすはいつまでもしんゆうだよ!!」 「もちろんよ!!」 れいむは、今最高に幸せだった。 隣には愛するまりさと、親友のありす。 例え姿は見えなくても、スリスリ出来なくても、心が繋がっている。 それが感じられるだけで満足だった。 しかし、今日の幸せはそれだけに留まらなかった。 まりさが虐待を終えて帰ってきた。 それと同時に、壁越しに男からとんでもない一言が飛び出してくる。 「お前たち。今日でお前らの虐待は終了する」 「!!!」 突然の男の発言に、れいむは驚きのあまり、餡子を吐いてしまいそうになった。 何とか飲み込んで、事なきを得たが。 「ゆっ!!! ほ、ほんとうなの!?」 「ああ。飽きてきたしな。明日、部屋から出してやるよ!!」 「ゆうううぅぅぅぅぅぅぅ―――――――!!!!!」 れいむが雄たけびを上げる。 まさか、婚約した翌日に、この辛く苦しい虐待まで終わることになるとは!! 人間でいえば、盆と正月とクリスマスがいっぺんに来たようなものである。 「やったああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――――――!!!!」 遂に、遂にここから出られるのだ。 まりさとありすに会えるのだ。 スリスリ出来るのだ!! 隣では、二匹とも感無量なのか、一言も言葉を発しなかった。 「それじゃあな」 そう言って、男の足跡は遠ざかっていく。 れいむは、すぐさま二匹に声をかける。 「まりさ、ありす!! でられるんだよ!! やっとここからでられるんだよ!!」 「ゆう!! ながかったよ!!」 「やっと、ここからでられるのね!!」 「まりさ!! あしたはいっぱいすりすりしようね!!」 「ゆっ!! そうだね。れいむ!!」 「あしたがたのしみね!!」 「ゆっくりたのしみだよ!!」 れいむの頭の中には、男が嘘を付いているという考えは一切ない。 別に昔の純粋なれいむに戻ったという訳ではなく、単に嬉しすぎて頭が回らないのだ。 もっとも、男はちゃんと出してやるつもりなので、考えたところで、れいむの杞憂に終わるのだが。 早く明日が来ないだろうか? れいむは浮かれて、なかなか寝付けなかった。 その7へ
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警告* 原作キャラがゆっくりを永遠にゆっくりできなくします。 紅くて冥い悪魔の館。門番の妖怪ももちろん紅くて悪魔的。コッペパン一個の低燃費なんて都市伝説。黒白の鼠も姿は見えず、本日の業務は無事に終了するお時間。 「お疲れさま。今日の差し入れは期待していいわよ」 こんな平和な時間には、大抵どこからともなく悪魔的完璧メイド長がバスケットを提げて現れる。ばさりと布を広げれば、門の前も瀟洒なティールームに早変わり。 「地震の異変の時に、桃をたくさんもらってきたから、タルトにしてみたわ」 「まあ! それは楽しみですね」 「あとサンドイッチもあるから」 「ちょうどおなかが空いていたんですよ」 ポットとカップを並べ、甘い香りを漂わせる布を捲ると、バスケットにはトマトと蒸し鶏をくわえた、紅白の縁起のよさそうな丸っこい下膨れのナマモノがおさまっていた。生意気にもからしマヨネーズのレタスだけ器用に残して、パンも具もぐっちゃぐちゃに食い散らかされていた。敷いておいた布も運命的にずれて、ソースは飛び散りレタスはべっちょり、バスケットはシミだらけ。 「うっめ! これめっちゃうっめっ!」 「咲夜さん」 「そうね、やっぱりタルトでお茶にしましょう」 さすがは瀟洒なパーフェクトメイド。微塵も動じず、もう一つのバスケットの布を取る。 「むーしゃ! むーしゃ! しあわせー!」 「ゆっくりおいしかったね!」 もう一つのバスケットにも、先ほどのものより二回りほど小さい丸っこい連中がごろんごろん詰まっていた。そこにタルトが入っていたことを示すのは、桃の匂いと飛び散ったシロップ、散らかった生地の残骸だけ。 「ずいぶん革命的なピーチタルトですね」 「おいしかったよ! おかわりもたべてあげるよ!」 丹誠込めたお菓子が、ゆっくりごときの餌になったのはもったいない。だが、衝動で饅頭潰しに走るような人材が、悪魔の館にいようはずもない。顔を見合わせる人間と妖怪は、その美貌に悪魔的な笑みを浮かべた。西瓜より大きいゆっくり一匹に、ソフトボールほどの小ゆっくりが四匹。全部で五匹、全員紅白。美鈴は口々にもっとよこせとわめきちらす子れいむをバスケットに戻し、咲夜は大きいれいむを両手で持ち上げた。柔らかい饅頭の頬に、しなやかな手指が食い込んでもにゅっと歪む。サンドイッチを散々に食い荒らした大れいむは満足げに身震いし、パンくずとトマト汁をあたりに飛び散らせる。咲夜の頬と美鈴の腕にもトマト汁が飛んだが、それは時間が止まっている間に奇麗になっていた。 「ねえ、サンドイッチ美味しかった?」 「おいしかったよ! もっとたべられるから、れいむたちにおかわりもってきてね!」 瀟洒に微笑むメイド長に、大れいむは頷くようにもにもに蠢く。 「美味しいのは当然ね。私のだもの」 「れいむがみつけたんだから、れいむのおかしだよ!」 「そう言うと思ったわ」 何の根拠もないゆっく理論に従って、えっへん、と威張るように斜め上を向く紅白まんじゅう。ここまでの対話はお互いに全くの予定調和。互いに主張は譲るつもりはなかったが、少なくとも悪魔的な人妖二人は、瀟洒なティータイムもお茶菓子も、いづれも諦めるつもりもなかった。 「これ、みんなあなたの子供?」 微笑む咲夜のとなりに座っている美鈴が、タルトの入っていたバスケットを宙ぶらりんの紅白に見せつけた。四匹の子ゆっくりは下膨れの皮も髪の毛もシロップでべとべと、生地のかけらで粉だらけ。紅茶といっしょに二人のおなかにおさまるはずだった桃のタルトを食い荒らして満腹の子れいむたちは、バスケットを揺すられてゆぅゆぅと喜んでいる。 「あ! おかーさんだ!」 「おいちかったね!」 「おかーさん、あまいのもっとちょうだい!」 「うん! れいむのあかちゃん! みんなかわいくてごめんね!」 「四匹ですね。咲夜さん、四は縁起のいい数字なんですよ」 「そうね、色々な意味で」 「ええ、色々な意味で」 悪魔的に笑みを交わすと、美鈴はまずその一匹を取り上げた。掌のうえで、ぷぅぷぅと頬を膨らませてゆっくりしている。 「あなたたちがサンドイッチとタルト全部食べちゃったから、私たちこのままじゃゆっくりできないの」 「ゆっくりできないひとにはようはないよ! れいむたちをゆっくりはなしてね!」 両側から挟むようにしっかり掌を押しあて、持ち重りのする母れいむを顔の高さまで持ち上げる咲夜。その表情は、普段通りのパーフェクトメイド。美鈴も掌サイズの子れいむをもにもに弄ぶのにも飽きてバスケットに戻し、飛び出さないよう傾けて、四匹まとめて転がして遊んでいる。ゆっゆっと嬉しそうに転がる子ゆっくり。その様子を慈母のような顔して眺める美鈴。ただ、挟まれて持ち上げられたままの母れいむだけが、ぷーと頬を膨らませて不満そう。 「あなたに用が無くても、私たちにはあるの。ねえ、簡単なゲームをしましょう。あなたがうまくすれば、おいしいものでおなかいっぱいにしてあげる」 「ゆ! ゆっくりするよ! れいむはどうすればいいの?」 食べ物で釣ればゆっくりは入れ食いである。目の色を変えた母れいむは、中空でぶるんぶるんと震えて咲夜を急かす。声を張り上げるたびに、口の端についていたパンくずが飛び散るが、横合いから美鈴が目にも留まらぬ早業で叩き落とす。 咲夜さんが瀟洒にこぼしたパンくずなら、華麗に唇で奇麗にしてあげられるのに。美鈴は密やかに唇を舌で湿らせる。 「慌てないの。あなたはゆっくりしていなさい。問題はあっちのおねえさんが出すから」 「ゆっ! おねえさんはやくしてね!」 いい加減手が疲れてきた咲夜は細いおみ足を見せつけるように横座り、母れいむを膝に乗せる。普段採っている餌とは比べるべくもないごちそうで満腹、優しそうなおねえさんたちに遊んでもらえて、しかもこの後はおいしいものでおなかいっぱいにしてもらえる。まさにゆっくり状態であった。餡子脳のゆっくりれいむの親子はもはや逃げることさえ考えていないが、瀟洒なティータイムのためには、どうしても全員をゆっくりさせる必要があった。美鈴は静かにバスケットに布をかけると、ゆっくりゆっくりうるさい母れいむを膝に乗せている咲夜の向かいに座り直す。大胆なスリットから覗くおみ足は超彩光。膝が触れ合うほどの距離で、人妖の二人は悪魔的な笑みを交わす。その表情は、膝のうえにドまんじゅうさえのっていなければ、ソフトネチョでイカロで春ですよー、寸前でさえあった。 「ゆっ! くらいよ!」 「おかーさーん、どこー」 バスケットを覆う布の下から、ぶちこわしな声が次々にあがる。布をぽこぽこ持ち上げて、子れいむが跳ねている。ゆっ、と伸び上がってバスケットを覗こうとする母れいむを、咲夜はしっかり抱えなおす。 「問題! このなかでゆっくりしているあなたの赤ちゃん、全部でいくつ?」 「ゆ! かんたんだよ! れいむのかわいいあかちゃんは4つ!」 可愛い子供の数を間違えるはずなど、あるはずもない。こんな簡単なことでおいしいものでおなかいっぱいになるなんて、自分はなんてゆっくりできるゆっくりなのだろう。母れいむは答え合わせの瞬間まで、そう確信していた。 「残念、三匹でした〜」 「ゆ゙?! な゙ん゙でへる゙の゙ぉ゙!」 自信たっぷりの母れいむの回答に、美鈴はさっと布を剥ぎ取った。不正解を告げられた母れいむが目を見開いて必死に覗き込んでも、バスケットの中には、不思議そうな顔をした子れいむが三匹、ゆっくりしているだけ。 「あなたたちっ、おねーちゃんはどうしたのっ」 「ゆ〜? くらくてわからなかったよ〜?」 「これは手品っていうのよ。もう一回やってみる? 次はおいしいものでおなかいっぱいにできるかしら」 咲夜はバスケットに飛びつこうとする母れいむを抱え込み、ゆっくりと頬を撫でる。美鈴は抱えられている母れいむによく見えるよう、バスケットを傾けるが、中で頬のシロップを舐めあったり、髪の毛についたタルト生地をついばんだりしているのはどうしても三匹。母れいむは頬を膨らませて上下にぷーぷー揺れている。可愛い赤ちゃんはなぜか一匹減っているが、さっきのサンドイッチよりも美味しいものがおなかいっぱい、の誘惑にゆっくりブレインが抗えるはずもなかった。 「ぜったいこたえるよ! こんどはゆっくりにしてね!」 「ええ、ゆっくり答えていってね」 再びバスケットに布をかけると、美鈴は母れいむの眼前に指をつきつけて尋ねた。 「次の問題はとってもゆっくりですよ。このなかでゆっくりしているあなたの赤ちゃん、全部でいくつ?」 「ゆっ! 3つだよ!」 母れいむは自信たっぷりに縦に震えると、先ほど数えた可愛い我が子の数を答える。 「どうかなぁ? じゃーん! 二匹でしたー」 美鈴が勿体つけて手をわきわきさせながら布をめくると、その中では何が起きているのか わからない顔をした子れいむが二匹ゆっくりしていた。 「ゆ゙ぎゅう゛?!」 思わず大口開けて目を見開き、餡子を飛ばして声をあげる母れいむ。 「あんまりゆっくりしているから、どこかに行ってしまったんじゃないかしら?」 「ゆ、ゆ、おねーちゃんがいないよ?」 「おかーさん、おねーちゃんどこー?」 きょときょと周りを見回す二匹の子れいむ。バスケットの中には、タルトの食べカスのほかは、影も形もリボンもない。 「ねえ。」震える母れいむの少し膨れた頬をしなやかな指先でなぞりながら、悪魔の館のメイド長が悪魔のように囁いた。「赤ちゃんはまた増やせばいいと思わない? タルトとサンドイッチ、美味しかったでしょう」 「もっと、おいしいもので、ゆっくり……」 母れいむの餡子脳に甘やかな悪魔の囁きが這いずり込んでいく。膝のうえの重たいゆっくりが繰り返すのを待って、咲夜は続ける。 「もうゲームを諦めるなら、赤ちゃん探しに行ってもいいのよ。それとも、おいしいものでおなかいっぱいになるゲームを続けたい?」 先ほど平らげたごちそう、そしてこれからおなかいっぱいにしてもらえるはずのごちそう。母れいむの心配は、手品、ごちそう、おなかいっぱい、という3つの単語で簡単に揺らぐ。 あかちゃんがどこかに行ってしまったのは、おねえさんのてじなだね! もっとおいしいものでおなかいっぱいになったら、あかちゃんのぶんももらってみんなでゆっくりしよう。ゆっくりブレインはあっさりと、手品で消えた子供よりも、悪魔のゲームを選んだ。 「ゆっくりつづけるよ!」 「あなたたちのおかあさん、消えたおねえさん探すより、ごちそう一人占めしたいって。ひどいお母さんねー」 バスケットの中の子れいむをのぞき込み、鈴を転がすような声で、母れいむの決断を悪意を含ませめて伝える美鈴。その言葉に、子れいむたちは頬をふくらませてぽいんぽいん跳ねて口々に不満の声をあげる。 「ゆっ! おかーさんひどいよ! ゆっくりしてないでおねーちゃんさがしてね!」 「そんなおかーさんはおかーさんじゃないよ! ゆっくりやめてね!」 「うるさいよ! おかーさんはみんなのごちそうのためにがんばってるよ! おねーさん、こんどはごちそうだよ! ゆっくりにしてね!」 美鈴がバスケットの中で暴れる子ゆっくりが見えなくなるように布をかぶせるのを見、母れいむは咲夜の膝のうえで急かす。 「問題! 今二匹いた赤ちゃんは、何匹になっているでしょう」 膝にバスケットを乗せ、腕を組んで笑顔の美鈴。しなやかな腕がたっぷりした質感の膨らみを持ち上げ、たわませている。その手が動いていないことだけを確かめ、母れいむは正解を確信して口の端を釣り上げ、自信たっぷりに声を張り上げる。 「ゆっ、ゆっ、2つだよ! あかいおねーさんゆっくりしてたもん!」 「はずれたから、可愛い赤ちゃんはとうとう一匹になっちゃいました〜」 満面の笑みを浮かべて布を剥ぎ取る美鈴。バスケットの中では、とうとう一匹になった 子れいむが、ゆんゆん泣きながら姉妹を探しているばかり。 「ゆ゙っぐり゙?!」 目を剥いて跳ねようとする母れいむを、咲夜はがっちり抑え付ける。涙を浮かべ、口の端から餡子を溢れさせる母れいむに、美鈴は子れいむを取り出すと、空のバスケットをひっくり返して底を叩いてみせた。タルトだった食べカスがぱらぱらこぼれるが、後は何もおちてこない。欠片を払い、掌のうえの子れいむを軽く揉んで弄びながら、美鈴は花のほころびるような笑みを浮かべる。咲夜を見上げるが、とても優しい笑顔を見せるばかり。子れいむの金切り声が聞こえる。母れいむはもう、何がなんだかわからなくなっていた。 「ゆ゙あ゙あ゙あ゙ん゙! お゙ね゙ーぢゃ゙ん゙がみ゙ん゙な゙い゙な゙い゙よ゙ゔ! お゙がーざん゙の゙ばがあ゙あ゙あ゙!」 あたまいたい。おねえさんたちはかんたんなげーむでおなかいっぱいになるっていったのに、にこにこしてるだけで、いじわるなてじなでれいむにちっともごちそうをくれない。あたまはぐらぐらするし、むずかしいてじなであかちゃんがいなくなっちゃった。 「最後の問題は、とっても簡単。3匹の赤ちゃんは、どこへどうやって行ったでしょう」 美鈴の白い手が翻り、泣きわめく子れいむを手首のスナップだけで垂直に跳ね上げ、手の甲と手の平を交互に返しては受け、お手玉のように遊んでいる。 「ゆ゙っぐり゙、ゆ゙っぐり゙じでね゙!」 半泣きの母れいむに、優しい声をかける咲夜。その笑顔は人間でありながら、悪魔で瀟洒。 「ええ、もちろんよ。特別ゆっくりにしてあげるから……ゆ っ く り 理 解 し て ね 「ゆ゙ 音が消え、母れいむは見た。紅い髪のおねえさんが、子供を掴んだ手を、大きく開いたままのの口に押し込んでくるのを。見えているのに、ゆっくりボディは動かない。自分に何が起きているのかもわからず、目を見開いたままの可愛い子れいむがゆっくり近づいてくる。しかし、母れいむは目を閉じることも、口を閉じることもできない。これから起きることをゆっくり理解した母れいむだが、視線を反らすことも、悲鳴をあげることもできなかった。母れいむに許された事は、ただ子ゆっくりを握った美鈴の拳が近づいてくるのを見つめ続けることだけだった。だが、絶望の瞬間はすぐには訪れなかった。 子れいむは、確かに近づいてきては、いる。だがそれはあまりにゆっくりしており、美鈴の手が大口あけた母れいむに触れるまで、母れいむの認識では三日はかかっていた。そして、翌日になって、口の奥の餡子に拳が沈みはじめた。体内に異物がゆっくりと潜り込んでいく。身体を形成する餡子をゆっくりと引き裂かれる激痛が、ゆっくりゆっくり一週間かけて母れいむを苛む。拳が餡子を十日にわたってまさぐり、二週間かけて押し広げた。 母れいむは手品で子供たちがどこへ消えたかを、文字通り身を引き裂く激痛をもってゆっくり理解した。簡単なゲームなんて、やるべきではなかったのだ。やめる機会もあったのに、あんな人間の言うとおりにするべきではなかったのに。餡子のなかに子供を残し、美鈴の手はたっぷり一週間かけて餡子を混ぜて穴を塞ぎ、五日で引き抜かれた。 そして、音が戻った。 「ゆ゙ぐ……ゆ゙っぎゅ……り゙……」 「正解は、あなたがゆっくりになっている間に、餡子のなかに詰め込んだ、でした!ゆっくり納得できました?」 美鈴の正解発表は、白目を剥き、痙攣している母れいむには聞こえていない。 「ゆ゙ぶ」 「おっと」 餡子を吐こうとする口を美鈴の掌が塞ぎ、そのまま指を突き立てて縫い止める。咲夜さんの膝の間に手を突っ込んで腿の感触を満喫しながら、四匹ぶん重くなった母れいむを片手で軽々と持ち上げる。妖怪だけに、腕力勝負は人間のメイド長とは比べ物にならない。程良くお肉のついたおいしそうな腕に、極めて実用的な、形のいい筋肉が浮き上がる。 重荷が退いて、ぽんぽんとエプロンを払う咲夜に片目を瞑って見せると、静かに気の流れを整え、饅頭に送り込んでいく。気が注がれるにつれ、脱力して下膨れに垂れていた皮がぴんと張ってきた。やがて、時間感覚だけを引き延ばされ、時間の拷問で精神から縊り殺されそうになっていた母れいむの目に僅かに光が戻る。 「ゆ゙っぐり゙や゙べでね゙!」 当然、殊勝な言葉が出てこようはずもない。 「やめてあげたいけど、あなたたちが全部食べちゃったから、私たちお茶の時間にゆっくりできなくなったのよね」 「れ゙い゙む゙だぢがみ゙づげだん゙だも゙ん゙! れ゙い゙む゙だぢの゙ごぢぞう゛だよ゙!」 咲夜の言葉に、美鈴の手の上でたっぷり膨れた母れいむが濁った声を張り上げる。もちろん、ただこんな饅頭に憎まれ口を利かせるためだけに気を使ったわけではない。気による加熱は、炎での加熱と違って食材を痛めず、ふっくらと調理することができる。ゆっくりに機能が戻ったのも、弾幕と料理は彩と美である、を自認する美鈴の洒落っ気だった。 餡子が内部から加熱されていくにつれ、ぷっくり膨れた頬は次第に紅潮し、ゆっくりイヤーまで赤く染まり、力無く睨み付けていた目がめちゃくちゃに動きはじめる。 「だれのごちそうですって?」 「れ゙い゙む゙だぢの゙ごぢぞお゙お゙お゙ぶぶぶぶぶ」 熱を持った餡子が膨張して皮がぱんぱんに張ってきた頃には、紅白饅頭もすっかり紅一色に染まり、耳の穴から湯気をぶすぶす噴きはじめた。噴き出しそうになる灼けた餡子は、料理も鉄人、紅美鈴がしっかり押しとどめて一片も無駄にしない。 「ごべん゙な゙ざびぃ゙! お゙ね゙え゙ざん゙の゙ごぢぞお゙れ゙い゙ぶだぢがだべばじだあ゙!」 「はい、よく言えました」 「れ゙い゙ぶどあ゙がぢゃん゙しん゙じゃう゛う゛! ゆ゙っぐり゙ゆ゙る゙ぢで゙ね゙!」 「ゆ゙ぐゔ! あ゙ちゅ゙い゙よ゙!」 「あ゙ぢゅい゙よ゙! ぜま゙い゙よ゙!」 「でら゙れ゙な゙い゙よ゙! ゆ゙びゃ゙あ゙あ゙ん゙!」 「だじゅげでお゙がーぢゃ゙ーん゙!」 赤く茹だってやかんのようにぐらぐら震え、耳から頭頂部から激しく湯気を噴く母れいむの目が、次第に白く濁っていく。気絶状態で中の餡子に埋め込まれ、ふっくら蒸し上げられていく子れいむたちも遅まきながら意識を取り戻すが、今や母親の胎内は灼熱の棺桶と化していた。口々に助けを求めて金切り声をあげ、狂ったように暴れるが、子ゆっくりには灼けた餡子を掘り進んで逃れる程度の力はない。そして、人妖の二人は調理をやめるつもりはさらさらなかった。次第に途切れていく子れいむの悲鳴とともに、母れいむの視界も白く染まっていく。 「ゆ゙ぼぼぼぼぼ! お゙でえ゙ざん゙! でいぶを゙ゆ゙っぐり゙だぢゅげでね゙!」 膨張した餡子で針でつつけば破裂しそうなほど膨れた母れいむは、美鈴の掌のうえで濁った悲鳴をあげ、ひっきりなしに湯気を噴いている。既に子れいむたちの悲鳴は聞こえなくなっていた。 「泥棒は助からないけど、あなたのおなかいっぱいに詰まってる美味しいものは、私たちが食べるから安心なさい」 「ゆ゙ぶぶぶ! も゙っどゆ゙っぎゅり゙ぢだがっだよ゙ぼお゙!」 おいしく蒸し上げられ、機能を失う寸前の餡子で、この二人には自分たちを助けるつもりはないことをゆっくり理解した母れいむだが、もはや流す涙も蒸発し、かわりに湯気を噴き出すばかり。 「相変わらずの食神ね」 「いやいや」 「ゆ゙ぎゅ゙ゆ゙ぎゅぶぶぶゆ゙ゆ゙びゅ゙ぎゅぶゆ゙ぶゔ!」 やがて、悲鳴が止まった。ぱんぱんに膨れた母れいむは赤く染まり、完全に白目になってぴくりとも動かない。口を押さえていた手を慎重に離すと、湯気が勢いよく噴き上がる。すっかり蒸し上がり、白い蒸気をもくもく噴いているれいむをバスケットに載せると、咲夜がナイフをくるりと回して渡す。美鈴は器用に飾りを剥いで母れいむの頭部に刃を突き立て、くるりと切り開く。蓋のように取り外した頭頂部は、即席の皿にはやがわり。もうもうと湯気を立てる餡子に、鉄沙掌がぞぶりと潜り込む。 「うーん、この辺に入れたはずなんですけど……」 ずぶずぶと餡子をかき回すたびに、白い湯気がもうもうと立ち上る。掘り出した子れいむの周りの餡子を落とすと、母親の餡子越しに食べ頃に蒸されたためか、まだ僅かに息があるのようで、小さく痙攣している。功夫を積んだ妖怪の美鈴は顔色一つ変えずに平らげることができようが、人間が手づかみで食るはあまりに熱い。先ほど使ったナイフを子れいむの底から深々突き立て、咲夜に返す。串刺しにされた子れいむは白目を剥いたまま、僅かにゆ゙ぎゅう゛とか鳴いた気がするが、食べ物の恨みは深いものだ。 蒸したての蒸しまんじゅうを、満面の笑みを浮かべてもふもふ頬張る美鈴。メイド長は飲み頃のまま時間が止まっていた紅茶を白いカップに注ぎ、受け取った串刺しの蒸しまんじゅうを別のナイフで切り分けては、一口ずつ口に運んでいく。 「長寿を祈願して、大きいももまんに小さいももまんをたくさん詰めて蒸すんですよ」 「妖怪がもっと長寿になってどうするのよ」 「そうですねえ、妖怪も長生きしてゆっくりするんじゃないでしょうかね」 「やだやだ、人間もゆっくりしたいものね」 悪魔の館の悪魔的なお茶会は、主が寝ている間にもゆっくりと続いていく。
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ゆっくりいじめ系110 髪飾りの続きです。 前の騒動の際に拾ったゆっくり霊夢。 こいつは仲間の死を見たせいか、仲間を殺してしまったせいか、ずっと固まったまま動かない。 口に物を入れれば食うし、生きてもいるようだが心が死んでしまっている。 俺自身も痛みを与えたり、髪飾りを死んだゆっくりの物交換してみたりと色々な方法を試みたが、何一つ反応を見せない。 「こうなったら代案ならぬ代餡として、中身でも入れ替えてみるか……? でもなぁ……」 それではつまらない。このゆっくり霊夢だからこそ期待できるものがあるのだ。 悩んでいても大して良い案は浮かばずに数日が過ぎた。 今日も今日とて歩きながら考えていると、道脇の草むらで何かが動いた。 「ゆぅ……くりぃ……」 ゆっくり魔理沙だった。どうやら傷ついて餡子が減っているらしく、かなり皮のたるみが目立つ。 別にどうでもいいか、と無視しようとした時、ふと妙案が思い浮かび、足をゆっくり魔理沙の前で止める。 「おい、大丈夫か? しっかりしろ!」 「ゆっ……りぃ……」 うーむ、我ながらうそ臭い演技だ。しかし、ゆっくり魔理沙の方は本当に重体らしく、返事をする元気すらない。 おそらく何らかの理由餡子を吐き出してしまったため、生きていくぶんの餡子が足りていないのだろう。 「よいしょっ、と……!」 ゆっくり魔理沙を抱え上げて、家に走り帰る。早くしなければ死んでしまうかもしれないのだ。 「待ってろ……! すぐに助けてやるからな!」 家に帰り、ゆっくり霊夢用の餡子とオレンジジュースを与えると、ようやく危機は脱したように見えた。 さっきよりも少しふくらみ、顔ツヤも良くなっている気がする。 「ありがとぅ……おにいさん……」 「無理に喋るな。とりあえず、ここでゆっくりしていけよ」 「うん、ゆっくりしていくね……」 ゆっくりぱちゅりーぐらいのか細さである。これは休ませておいた方がいい、と判断し、その日は俺も就寝した。 寝る前にゆっくり魔理沙をあえて、ゆっくり霊夢の近くに置いておいた。 次の日、ゆっくり魔理沙の様子を確認すると、本調子ではなさそうだったが、昨日よりかは随分良くなっていた。 「どうだ? 身体はもう大丈夫か?」 「ゆっくりやすめたから、すこしだいじょうぶになったよ」 やはり、答える声にはゆっくり種特有の無駄な元気さはない。もう少し置いてやるべきかな。 「ゆっ、おにいさん、あのこどうしたの?」 「ん、ああ、ゆっくり霊夢か……」 ゆっくり魔理沙は置物のように鎮座したゆっくり霊夢を気にしていた。ゆっくり同士の連帯感故だろうか。 思惑通りに事が進んでいる。俺はいくらか考えたふりをして話してやった。 「あのゆっくり霊夢は家族がみんな死んでしまって、酷い目にあったんだ。それで動かなくなっちゃったんだ……」 簡潔すぎるほど簡潔だが、ゆっくりに小難しい話をしても分からないだろう、と判断して適当にまとめた。 「……ゆっ!」 傷が癒えきっていない身体で飛び跳ね、ゆっくり霊夢の隣に行くゆっくり魔理沙。そして、いつもの言葉。 「ゆっくりしていってね!」 「………………」 相変わらず、反応しないゆっくり霊夢。……よし、実験開始。 「なあ、ちょっといいか?」 「ゆ?」 「このゆっくり霊夢を見ててやってくれないか? 食べ物はちゃんと渡すし、見てるだけでもいいんだが」 「いいよ! ゆっくりみてる!」 心なしか元気が戻ってきているように見える。やけに聞き分けがいいところにが何かありそうだ、と感じさせる。 『ゆっくり同士の交流で心は戻るか』という目論見であるが、どちらに転んでもどうでもよかった。 その日から、俺は朝食と昼食二匹分の食べ物を渡し、仕事をして、夜にまた食べ物を渡しながら一日の経過を聞くという生活になった。 ゆっくり霊夢は自分から食べようとはしないため、誰かが与えてやらなければならなかったが、それはゆっくり魔理沙がやってくれた。 ゆっくり魔理沙もゆっくり霊夢のことが気になるらしく、傍から見ていても姉のように甲斐甲斐しく世話をしている。 それが理由なのか、近頃ではゆっくり霊夢が微妙に反応を示し始めている。 小さくだが「ゅ……ゅ……」という声が聞こえるのだ。それを聞いて、ゆっくり魔理沙は嬉しそうに語りかけたりしている。 ゆっくり魔理沙は出来ないことも弁えているらしく、「れいむをあらって、すっきりさせてあげて」などと頼まれた。 ゆっくり霊夢は動かないので、ゴミや埃が積もって汚れてしまうのだ。 ついでにゆっくり魔理沙も洗ってやろうとすると、「まりさはいいよ」と拒否したので無理やり洗ってやった。 くすぐったそうにしながらも、暴れずに大人しくしているゆっくり魔理沙。 ゆっくり種としてはその聞き分けの良さ、おとなしさは奇妙というか異常であった。 俺は今までの経緯や行動から、ゆっくり魔理沙の事情をだいたい予測していた。確証を得るために語りかける。 「なあ、魔理沙。お前、仲間からいじめられたりしてたんだろ。だから、あんなに傷ついてたんじゃないか?」 「…………」 ゆっくり魔理沙はゆっくり霊夢が乗り移ったかのように黙り込む。やがて、ゆっくりと口を開いた。 「まりさはね、ぼうし、なくしちゃったんだ……」 「そうか……」 それだけ聞けば何があったのかは予想できる。そして、現在のゆっくり魔理沙は帽子をつけている。 「他のゆっくりから取ったのか?」 ゆっくり魔理沙は一瞬迷ってから、言った。 「しらないゆっくりの、しんじゃったゆっくりのぼうし、ひろったんだ」 「知らなくて、しかも死んでるなら別にいいんじゃないか? 誰も使わないわけだし」 俺はてっきり、生きているゆっくりから帽子を奪ったから、いじめやリンチにあったんだと思っていたのだが。 むしろ、帽子やらリボンやらがないと、元いた群れであっても仲間扱いされなくなるのは前回の実験で判明したことだ。 「しんじゃったゆっくりのぼうしだとね、みんなからきらわれちゃうんだ……」 嫌われる……? どういうことだ。帽子をかぶってるのにいじめられただと? まさか、ゆっくりは分かるのか。そいつに合っていない髪飾りや、死んだゆっくりの髪飾りを使っているのが。 これは、非常に興味深い。俺はゆっくり魔理沙から当時の状況を詳しく聞くことにした。 ゆっくり魔理沙の言ったことをまとめてみると、 1、「帽子を失くす」といじめられた。群れから無視される立場となる。 2、「生きている他のゆっくりの帽子」を奪ったら、仲間として認められた。しかし、帽子を奪い返されると、以前の立場に逆戻り。 3、「死んでいるゆっくりの帽子」をかぶったら、群れの仲間どころか、行く先々のゆっくりに攻撃された。で、倒れて拾われる。 という経過らしい。 ……成る程。ゆっくり種の髪飾りにはここまで意味があるとは。驚愕の思いを隠しきれない。 そして、ゆっくり魔理沙がゆっくり霊夢を世話するのも、群れから追い出されて寂しかったからだろう。 しかし、もしもゆっくり霊夢が目を覚ましたら、どんな行動を取るのだろう。 それはそれで楽しみである。 「ゆっくりしていってね!」「ゆぅ!」 ある朝、二匹分の声で目が覚めた。まさか、と思い居間へ確認しに行くと、そこにはゆっくり魔理沙とゆっくり霊夢が仲良く並んでいた。 「おにいさん、ゆっくりおはよう!」「ゆっ!」 「……帽子、気がついてないのか?」 ゆっくり魔理沙の言うことが真実なら、ゆっくりには死んだゆっくりの帽子を判別する能力があるみたいなんだが。 「だいじょうぶだよ! ゆっくりしてるよ!」「ゆゅ!」 と、そこで気づく、家にいたゆっくり霊夢は大きさであれば、それなりに成長してる個体のはず。 しかし、先ほどからまるでほとんど喋ってしない。精々、「ゆ」の一文字文ぐらいだ。 思い浮かんだのは幼児退行という言葉。しかし、そんなのゆっくりにも起きるのか? 疑問を持ちながらも、さらなる観察を続けることにした。 「ゆっくりしていってね!」「ゆっ!」 最初に気づいたのは、このゆっくり霊夢は「ゆっくりしていってね!」と一切言わないことだった。 ゆっくり子霊夢ですら「ゆっくりちていってね!」と返事するのに、何度も呼びかけても何も返さない。キョトン、としたままだった。 ゆっくり種としての常識でもぶっ壊れてしまったのだろうか。 個の識別は出来ているようである。ゆっくり魔理沙は当然としても、俺ですら家族の一人のように反応する。 しかも、言葉の識別も出来ているらしく、「お~い」と呼ぶと普通に寄って来て、「ご飯だ」と言うとやたらと速く寄って来る。 何故だか身体能力もあがっているらしく、己の背丈を越えるほどの跳躍力を見せることもあった。 それに引っ張られるように、ゆっくり魔理沙の能力も上がってきている。単純に傷が癒えた、というだけでは説明がつかない。 傷の治りが妙に早かったり、語彙が増えたり、知能が上がっているような気配すらある。 ゆっくりとしての禁忌を破ったからなのだろうか。よく分からない。 こうなってくると、最早ゆっくりとは違う種とすべきか! と一人盛り上がってみたが、即断するにはまだ早い。 近頃では二匹が仕事を手伝ってくれるようになった。仕事といっても農作業だが。 「おんがえしだよっ!」「ゆ~!」 と言っては泥だらけになるのも構わず、文句も言わずにせっせと働いている。いや、楽だね。 今日もまたゆっくりたちが俺の手伝いをしていると、草むらから音がした。ぴょん、と飛び出る塊。 「ゆっくりしていってね!」 野生のゆっくり魔理沙であった。それだけなら別にどうということはないのだが、今はまずい。 「ゆ……!? ゆっくりしねぇ!」 「ゆぐぅ!?」 野生ゆっくりが、俺のところのゆっくり魔理沙を見た途端、人格が変わったように体当たりをしてくる。 相手が大きかったこともあり、吹っ飛ばされるゆっくり魔理沙。野生ゆっくりは攻撃の手を緩めない。 「ゆっくり! しね! しねっ! しねぇぇっ!!」 「ゆぶっ! ぎゅぶ!」 鬼のような形相で攻撃し続ける野生ゆっくりと、口から餡子が出始めているゆっくり魔理沙。 放置するのも面白いのだが、まだやってもらわねばならないことがあるので助けようとする。 と、そこへ駆けつけるゆっくり霊夢。ゆっくりとは思えない速度で野生ゆっくりにぶつかる。 「ゆーーーー!!!」 「ぐべぇ!?」 二倍近く体格差があったように見えるのだが、それを物ともせず、今度は野生ゆっくりが弾き飛ばされる。 どれほどの力が込められていたのか、野生ゆっくりは木にぶつかると、餡子を撒き散らして潰れた。 普通のゆっくりとは比べ物にならない力の強さである。普通のゆっくりだと、集団で攻撃してようやく一匹を潰せる程度の力だ。 ゆっくり霊夢は野生ゆっくりのことなど眼中になく、すぐさまゆっくり魔理沙のところに駆けつけた。 「ゆ゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛!?」 ゆっくり霊夢が悲痛な叫び声を上げる。何事か、と見てみれば、ゆっくり魔理沙の皮が破れて餡子が飛び出していた。 どうやら、吹っ飛ばされた時に木の枝にひっかけてしまったらしい。 「ちっ……まずいな。大丈夫か?」 「ゆぅぅ……」 だらり、と返事も出来ずにへたりこんでいるゆっくり魔理沙。そこまで、餡子の流出が大きいのかとも思ったが、何か違う。 身体がぶるぶると震るわせ、悪夢にうなされているように「ゆっ、ゆっ、ゆっ」と呻いている。 とりあえず、症状を観察するのは後回しにしてゆっくり魔理沙を家の中に運び込むことにした。 一応の手当ては終了した。傷口にテープを貼り、オレンジシュースを飲ませておく程度のものであったが、応急処置にはなる。 状態が良くなったわけではないが、傷よりも精神的に弱っているようだった。 「みつかった……みつかっちゃたよぅ……」 涙を流すわけでもなく、生気の抜け落ちた顔でぶつぶつと呟き続けている。 ゆっくり種の禁忌を犯しているゆっくり魔理沙は、制裁を恐れているのだろう。 「大丈夫だって。襲ってきたやつは潰しただろ? もう来ないんじゃないか?」 「そうかな……?」 怯え切った顔つきだ。俺としてもゆっくり種にそこまでの探知能力はないと思う。第一発見者がいなければ犯罪は露呈しない。 「もう、ゆっくりできないできないよぅ……」 なおも呟き続けるゆっくり魔理沙。どうしたものかな、と思った時、 「ゆぅ、ゆっ、ゆ、ゆっくり、しない、でね!」 なんとゆっくり霊夢が喋り始めた。ぴょんぴょん、と跳ねながら、頑張って話そうとしている。 「ゆっくり、しなくても、だいじょうぶ、だよ? おかー、さんは、れいむが、まもるよ!」 たどたどしく、けれど、はっきりと宣言した。 母親と認識していたことにも驚きだが、「ゆっくりしなくていい」とはゆっくり種としての存在意義に関わるのではないだろうか。 「さっきのは、ちがう、ひと。れーむたち、とは、なんかちがうの」 どうやらゆっくり霊夢は明確な境目を他のゆっくりに感じているらしい。 これは……面白い。その背中を押してみるべきだろう。 「そうだ、違うぞ。。あいつらはお前たちみたいなのが嫌いなんだよ」 「? どーして?」 「お前たちの髪飾り、リボンや帽子は死んだゆっくりのものでな。普通のゆっくりはそういうのを許さないらしい」 「だから、おかーさんを、いじめたの?」 「そうだ」 簡潔に伝えてみると、ゆっくり霊夢は身体をぶるぶると震わせ始めた。 怒りの感情かもしれないが、そこには何かしらの決意みたいなものが感じられた。 「じゃ、れーむは、ゆっくりじゃなくていい! そんなこというひと、みんなおいはらうよ!」 「へぇ……」 そっちの方向へ行くのか、と俺は感心していた。種であることよりも親を守る。 もしかすると、自分が既にゆっくり種から受け入れられないと分かっているのかもしれない。 「お前はもうゆっくりしないのか?」 「しないよっ!」 「じゃあ、お前は今度から『ゆっくりまんじゅう』っていう名前にしてみたらどうだ? ゆっくりとは違うってことで」 「ゆっ!? ゆっくりまんじゅう! れーむはゆっくりまんじゅうだよ!」 思いのほかあっさり承諾した。むしろ、喜んでいる。俺としては、人づてに聞いた小噺から思いついたものなんだが。 これで、本当にゆっくりとは違うものになったんだろうか、明日はどうしてみようか。 そんなことをワクワク考えながら、俺たちは眠りについた。 夜中。声と気配で目を覚ます。ゆっくりまんじゅうたちのいる部屋からしているようだ。 「なんだ……まさか!?」 急いで、居間に繋がっている扉を開けようとする。が、何かにつっかえているらしく、僅かの隙間しかできない。 その隙間から声が聞こえてきた。 「おかーさん! おかーさん! やめぐっ!?」 「ゆ、ゆゆ……」 「ゆっくりしないでね!」「ゆっくりできないよ!」「すっきりさせてね!」 まんじゅうゆっくりたちとは別の無数の声。俺は事態を察して、扉からではなく、窓から外に出て、玄関へと向かった。 「うわっ……」 表から見ると、玄関は開け放たれており、何匹ものゆっくりが部屋に入ろうとしていた。 しかし、既に入っているやつが多すぎて入れていない。それでも、まだ部屋の中に入ろうとしている。 「邪魔だ! どけっ!」 玄関周辺のゆっくりを潰して道を作る。ようやく、部屋の中を見るとそこには床一面にゆっくりが蔓延っていた。 「ゆっくり!」「ゆっくりできないやつはしね!」「じゃまなひとはどっかいってね!」 どうやら、俺には全く感心を抱いていないようだ。ゆっくりまんじゅうたちを目で探してみると、 「ゆぅ! ゆっ!? ゆぅぅぅぅぅ!!」 多くのゆっくりに圧し掛かられているまんじゅう霊夢がいた。 力で押し返そうとしているが多勢に無勢。潰されてはいないが、完全に身動きを封じられていた 「おかーさん! おかぁ、さん!」 その声で今度はまんじゅう魔理沙を探すと、テーブルの上で何匹かゆっくりがまとまっていた。 まさか、とテーブルに手を伸ばすが、玄関からでは遠く、突っ込むにはゆっくり達で動けない。 「ゆ、ゆ……ゆ。ごめんね、ごめんね……」 テーブルでは魔理沙が頭から食べられていた。何度も謝罪の言葉を呟きながら。誰に向かって謝っているのだろう。 「ゆっ、ゆっ! あのひとたち、へんなゆっきゅだよ! しんじゃえばいいのに!」 「みたよ、おひるにここのおうちでゆっくりしてたよ! ゆっくりじゃないのになまいきだよ!」 他のゆっくりよりも嬉々として、ゆっくりまんじゅうたちに攻撃を加えている二匹のゆっくり魔理沙。 あれは、もしかして昼間の野生ゆっくりの家族だろうか。現場を見られていて、仲間に場所を伝えたというわけか。 第一発見者がいなくても、第二発見者がいれば犯罪は露呈するか。くそ、あの後、周辺を警戒しとくんだったな。 「れーむもおかーさんも、だれにもめーわくかけてない! やめて、やぶぎゅ!?」」 動き回ってゆっくりたちを引き剥がそうとするが、さらに多くのゆっくりに圧し掛かられて、餡子が出そうになる。 「ゆっ、くりぃぃぃぃ!!」 その光景を見た魔理沙は最後の力を振り絞って、もう半分以上、無くなっている身体で飛んだ。我が子を守るため。 霊夢の近くに落ちる魔理沙。その衝撃と気迫に驚いて、群がっていたゆっくりたちはわらわらと散っていく。 「おかー、さん? おかーさん!? おがーざぁん!?」 「ごめんね……ごめんね……」 「 あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!?」 最後まで謝りながら息絶えていく魔理沙。泣きすがる霊夢。 「ようやくしんだの? ばかなの?」「あとひとつ、つぶせばゆっくりできるね!」「すっきりしようね!」 口々に汚く罵るゆっくりたち。流石に見ていて腹が立った。俺がやってみたかったのに。 先ほどの、場所を教えたゆっくり魔理沙がまんじゅうへと寄ってくる。 「ゆっくりたべるよ! どいてね!」 餡子を食う気だろう。完全に余裕の笑みを浮かべている。 「おいしそう~♪ あ~ぐぎゃ!?」 ゆっくり魔理沙は食べようとして突如、吹き飛ばされた。壁にぶち当たって、中身が飛び散る 「ゆっくり!? ど、どうしたのぉ!?」「ゆっくりしんじゃったよ!」 「ゆっくり……」 ゆっくりたちが声した方を見る。ゆっくりたちの認識において、そこには潰され、食べられる予定の獲物しかいないはずだった。 「ゆ、ゆ!?」「ゆゆゆ!?」「ゆぅ!?」 「ゆっくり、するなぁぁぁぁっ!!!」 そこにいたのは狩人だった。否、狩人という言葉すら生ぬるい。それは戦士だった。 周囲のゆっくりを比較にならない力と素早さによる体当たりで叩き潰すまんじゅう。その凄まじい勢いにゆっくりたちは恐慌を来たす。 「い゛や゛ぁ゛ぁぁ!?」「おうぢがえる! おうぢにがえりだいよぉ!」「だじでぇぇっ!!!」 先を争って俺の方、すなわち玄関へとへ向かおうとするが、数が多いのが災いして思うように動けない。 その様子を見てから、俺はまんじゅうに声をかけた。 「おい、まんじゅう。一人で出来るか?」 「ひとりで……ひとりでできる! まかせて! みんな、ゆっくりできなくさせるよ!」 「だ、そうだ。お前ら、全員そこの『まんじゅう』にやられちまえよ」 指でまんじゅうを指し示してやってから、ゆっくりと玄関の扉を閉める。外にいたゆっくりもついでに放り込んでおく。 俺自身もイラついていたのだ。気分的には収穫しようとした果実を目の前で掻っ攫われた気分に似ている。 中の様子を窓から見てみる。 多数のゆっくりが外に出ようと扉に張り付いているが、結局開かず、後ろから来た他のゆっくりに潰されている。 「だぢでぇぇ!! ごごがらだじでぇ!」「 ゆ゛っぐり、じだいよおおおお!」「まんじゅういやぁぁ!!」 皆が逃げようとすればするほど、潰されていくゆっくりたち。しかし、後ろから今だ危機が迫っているのだ。 「ゆっ、くりぃ!」 まんじゅうは上空から勢いをつけて、一匹のゆっくりを叩き潰す。広がる餡子。見せつけるようにまんじゅうはそれを食べた。 「むしゃり! むしゃり! ぺっ!」 リボンを吐き出す。さらに震え上がるゆっくりたち。 髪飾りを盗った許せないゆっくりがいると知って群れで潰しに来たはずなのに。しかし、現実は過酷だった。 「どうじでぇ!? どうじでこうなるのぉ!?」「ゆっぐりざぜでね!?」「「まんじゅうはこないでぇぇぇぇ!」 「どうして? ゆっくりたちがれーむの、ゆっくりまんじゅうのおかーさんをころしたからだ!!」 今更、たわ言を抜かしていたゆっくり魔理沙を潰す。それは母に似ていても、決定的に母ではなかった。 「まんじゅう!?」「まんじゅうごわ゛い゛!」「ま゛んじゅう゛、やべでぇ!」 「ぼうしやリボンをなくしたゆっくりは、まんじゅうになってイジメられるんだ! おぼえとけ!」 「お゛ぼえ゛る゛! お゛ぼえ゛る゛がら゛だずげでぇぇ!」「ゆっぐいじだがっだよ゛う゛!」 「じにたくないよ゛おお゛お゛お゛お゛お゛!」「ぎゅっぐりぃ!!」「おがあざぁん!」 まんじゅうは飛び上がって、扉に群がっているゆっくりに思い切り体当たりをぶちかます。その勢いで扉が開け放たれた。 既に大半のゆっくりはやられていたが、それでも残ったゆっくりが我先にと逃げ出していく。当然、仲間に潰されたゆっくりもいた。 「まんじゅう゛ごわい! ま゛ん゛じゅうごわいよぉ!」「ま゛んじゅうなりだぐな゛いぃぃぃ!!」 「ずっぎりじだがっだだげなのにー!!」「い゛や゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!???」 それぞれがまんじゅうに対して恐怖を口にしながら、どこかへ行った。 「いいのか、そこそこの数を逃がしたけど」 まんじゅうの狙いは分かっていたが、あえて聞いてみる。 「いいよ。あれで、まんじゅうがこわいっておもってくれれば、いいんだよ」 やはり計算してやっていたか、と少し感心していると、まんじゅうが俺の方を向いて小さくお辞儀をした。 「なんだ、どうした?」 「おとーさん、いままでそだててくれて、ありがとう。ここにいると、ゆっくりがいっぱいきて、めーわくがかかるからどこかにいくね」 「何……?」 俺ってお父さん扱いだったのか、と思いながら、なんとなくある推論が思い浮かんだ。 このゆっくり霊夢、もといゆっくりまんじゅう霊夢は、本当にゆっくり種とは違うものに変質しまったのではないだろうか。 きっかけは先日の惨劇であり、髪飾りを変えたことかもしれない。 しかし、俺や元ゆっくり魔理沙と暮らすことでゆっくりとしての常識を失っていったのかもしれない。 あの身体能力はそんな中でも生き残るために発揮されている、所謂「火事場の馬鹿力」だろうか。 そうだとすると、その寿命は長くは保てないだろう。 これはこれで興味深い事例であった。 俺はまんじゅうに、餞別として潰れたばかりの餡子を包んでくれてやった。 面白いものを見せてくれた礼でもある。 「元気で、とは言えないが、まあなるべく死ぬなよ?」 「うん。おとーさん、おかーさんのぶんまでしなないよ。ばいばい」 どこか穏やかな顔つきでまんじゅうは、消えていった。 その後、やけに強いゆっくりとして、まんじゅうの存在はたまに人々の噂にされることもあったが、死んだかどうかは分からない。 普通に考えて、いくらまんじゅうでも敵の数が多いと生き残れないのではないか、と思う。 それでも、時折だが山からある叫び声が聞こえるそうだ。そう、 「ま゛ん゛じゅ゛う゛ごわ゛い゛い゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛っ!!??」 と。 ここらで一つ、後書きっぽいものをどうぞ。 ゆっくりに「まんじゅうこわい」と言わせたかった結果がこの長文だよ! 「髪飾りの失くしたゆっくり」だと長いので適当に名前をつけてみたら、「まんじゅう」になった。反省している。 「ゆっくりまんじゅう」を正式名称にしたのは、流石に「ゆっくり」って言葉がついていないとマズイだろ、という判断から。 地の文で書く時、または他のゆっくりが呼ぶ時には「まんじゅう」になります。「饅頭」に非ず。 「まんじゅう」の脳内設定も一応書いておきます。使っても使わなくても、どっちでも構いません。 名称だけ使うとかも大丈夫です。設定改変もご自由に。 ……そもそも、こんな設定を使ってくれる人がいないだろうけど。 「ゆっくりまんじゅう」 髪飾りを失くしたゆっくりのこと。 髪飾りが無くなったゆっくりは種として迫害される運命にある。特に仲間の死体から髪飾りを盗んだ者は絶対に許されない。 「ゆっくりまんじゅう」は、それでも生き残るために変化した突然変異型ゆっくり。 髪飾りを失くしただけでは変異しないが、他のゆっくりったいによって迫害されることで変異することがある。 身体能力や知能は通常のゆっくりを遥かに凌駕するが、それは体内餡子の糖分を使っているため。 故に、通常のゆっくりよりも寿命は短く、中の餡子も甘みがなくて不味い。 「ゆっくりするな!」などの「ゆっくり」という言葉に対して否定的な言葉をぶつける。 自分から他のゆっくりを襲うことはしないが、襲われたら相手がれみりゃであろうと、群れであろうと死ぬまで戦う。 子ゆっくりであろうと容赦せず、相手の餡子を食らうことも平気でする。
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※舞台は何故かゆっくりが当然のように存在している外界です。 ※オリ設定満載です。 ※ぬるいじめです。そして割と愛で気味です 数年前に突如現れ、急速に社会に浸透していった(ような気のする)ゆっくりと呼ばれる新たなる生命体。 人間の生首が膨張したような容姿のそいつらは饅頭のクセに生きていたり、どこから来たのは全く不明だったりとあまりに謎が多すぎる。 が、目新しいものや珍しいものを好む人々はその「ゆっくりしていってね!」とか「ゆーっ!」などと珍妙な鳴き声をあげる未知の存在をあっさりと受け入れた。 そして私はそんな不思議に満ちた生物とはこれと言った縁もない普通の女子大生だ。 「やっぱり頑張った自分へのご褒美は塩辛に限るわ。む~しゃむ~しゃ、うめ~」 忌々しい試験期間を無事かどうかはまだ分からないが乗り切った私は、昼間っから大学の敷地内のベンチで塩辛をつまみながら、ビールを飲んでいた。 「んぐんぐんぐ・・・ぷはぁ!ZUNビールうめぇ!めっちゃうめぇ!」 彼氏は居ないし、友達も女同士の友情そっちのけで男とデート。 そんなわけで私は一人寂しくビールをかっくらっていた。何で大学でとか、そんな野暮なことは聞くな! 「ゆっくりしていってね!」 「んあ?」 すると突然何者かが声をかけてきた。 声の主のほうに視線をやるとそこには体高20cm程度の、赤いリボンがトレードマークの餡子生命体“ゆっくりれいむ”がいた。 「なんだ、ゆっくりか」 イケメンだったら良かったのに。まあ、イケメンが昼間からこんなところで酒盛りしてる奴に声をかけてくるわけがないんだけどさ。 「ゆゆっ!おねーさんはゆっくりできるひと?」 「ゆっくりせざる得ない人だよ、悪いか?」 人間の気持ちなんて何一つ理解しちゃいないド饅頭をねめつけつつ、ビールを胃袋に流し込む。 「ゆ!よかったね、おねーさん!れいむがゆっくりできるおねーさんといっしょにいてあげるよ!」 「そうかい、そうかい・・・そいつはどーも」 鬱陶しそうに、なおかつ投げやりに応えるが相手は所詮餡子脳生物ゆっくりだ。邪険にされていることに全く気付いていない。 そして、ぽよんとベンチに飛び乗って私の太ももに頬を摺り寄せると・・・ 「ねえ、おねーさん!それちょうだい!」 厚かましくも私の自分へのご褒美の塩辛を要求してきやがった。 「だめだめ、あんたにやる塩辛はないよ」 しっし、と手を振ってあっちに行けと訴えるが、れいむは全く諦めようとしない。 「ゆううううう!!」 ぷくぅっと頬を膨らませて私を威嚇し始めた。 結構膨らむのな。見た感じ体積が1.5倍くらいにはなっている。 とは言え、そんなものが私に有効なわけが無い。 「おいおい、人にもの要求するときに態度か、それ?」 苦笑しながら膨らんだ頬を突いてみる・・・・・・柔らかい! 「おおぉ・・・!」 あまりに触り心地が良かったので、調子に乗って突っつきまくる。 「ぽーにょぽーにょぽにょ、アホまんじゅう~♪」 「ゆっ!おえーさん、やめ、やっ、や、ゆっくりっ、やめてね!」 そんな感じで遊んでいると、れいむは相変わらず頬を膨らませながらも嫌そうな表情を浮かべて文句を言ってきた。 「やだ」 満面の笑みを浮かべて即答してやった。 と言うか、そんな風に言われたら・・・やるしかない、って気分になるじゃないか! 「うりうりうりうりうり~♪」 「ゆうぅ~!おねーさん、おねがいだよ!ゆっくりやめてね!」 もう頬を膨らますのを止めていたれいむは、目に少し涙を浮かべながら懇願する。 しかし、そのうっとうしくも愛らしい表情が私の中に眠るSっ気に火をつけた。 「や~だ~」 つんつんつんつんつんつんつんつんつんつんつんつんつんつんつんつんつんつんつんつんつんつん・・・ 「ゆぅぅぅぅぅっぅぅぅぅぅううううううう~!?」 手を止めるつもりが微塵も無いことを悟ったれいむは少しずつ後ずさって行く。 そして、私の手はそれを追いかけながら執拗に頬を突きまくる。 「ゆううううううううう!?」 ぽろぽろと涙を零しながらも必死に後退し続けたれいむは、勢いあまってベンチから落下してしまった。 「ゆぐっ!?」 「あ・・・お~い、大丈夫か?」 落下したれいむの様子を伺うためにベンチから身を乗り出すと、底の部分を空に向けた逆立ちのような格好でれいむがひっくり返っていた。 「ゆわああああああああああん!おねーさんのばかぁ~・・・!ゆっぐ・・・!・・・ゆっぐ」 あらら、大泣きしちゃったよ。 その姿は流石に可哀そうだったし、私自身調子乗りすぎた節もある。 だから、れいむを抱え上げると膝の上に乗せて、頭に怪我が無いか見てあげた。 「あ~・・・ここ、ちょっとコブになってるなぁ~」 「ゆっ!?おねーさん、いだいよお゛お゛お゛お゛!」 どうやらコブに触れてしまったらしく、れいむはまた大声で泣き始めた。 「あははははは~・・・悪い悪い。さっき欲しがってた塩辛あげるから、それで許してくれないか?」 その言葉を聞いた途端、れいむはとても嬉しそうに微笑む。もしかして、私はゆっくりの嘘泣きに騙されたか? まあ、いいかと心の中で呟きながら、塩辛の蓋を開け、箸でつまんで膝の上のれいむの口へ持っていってやった。 「ゆゆっ!むーしゃむーしゃ、しあわ・・・ゆうううううう!?」 れいむは4,5回咀嚼してから、クワッと目を見開いて、塩辛を吐き出した。汚いなぁ・・・そしてもったいない。 「ゆんゆんっ!おねーさん、こんなしょっぱいのたべられないよ!!」 「ん?そうか、口に合わなかったかぁ~」 「ゆぅ!ほかにないの?!」 よっぽど口に合わなかったのか頬を膨らませて怒りをアピールしながらも舌を出しっぱなしにしている。 器用なやっちゃ。 「他?そうだなぁ・・・」 ガサゴソと近所のスーパーの袋を漁ってみると、何故か売っていたジョロキア、たこわさ、焼きスルメ、カカオ99%のくそ苦いチョコレート、メントスとダイエットコーラなどが出てきた。 あとは500mlのZUNビールが4本ほど入っている程度だ。 「じゃあ、たこわさでも食うかい?」 「ゆぅ?それおいしいの?」 「ああ、美味しいよ」 首をかしげるれいむに微笑みながらたこわさを取り出してさっきと同じように口の中に放り込んだ。 「むーしゃむーしゃ、しあわ・・・ゆぎゅうううううう!!?」 あ、また吐き出した。人の膝の上で吐き出すものだから私の安物のジーンズが汚れてしまっている。 「あんたねぇ・・・食べ物を粗末にしすぎだよ?」 また、さっきと同じように舌を出しているが、今度はこきざみにぷるぷる震えている。 「だ、だっでぇ・・・ごんなのだべでないよ゛っ!」 「えー、美味しいのに・・・」 そう言って私は2口ほどたこわさを食べる。うん、やっぱり美味しい。 「おねーさん!ちょこあったでしょ?れいむちょこがたべたいよ!」 ああ、本当に厚かましくて可愛いなぁ~。だが、あのチョコは私の夜のおやつなんだ。 「えー」 「ね、おねーさん?」 露骨に嫌そうな顔をする私を潤んだ瞳で上目遣いに見つめてくる。 う~ん、別に可愛いとは思わないな。 「よし、じゃあ・・・お姉さんとじゃんけんで勝負して私が100勝するまでに1回でも勝てたらチョコをあげようか?」 「ゆ!じゃんけんってなに?ゆっくりできるもの?」 おおう、嬉しくなるほど予想通りの反応。とりあえず、私はれいむにじゃんけんのルールを教えてあげた。 「それなららくしょーだよ!おねーさんがいっぱいかつまでにれいむがいっかいかればいいんでしょ?」 「ああ、そういうことだ。それじゃ、さっさと始めるよ?」 そう言うとれいむは思いっきり空気を吸い込んだ。 「じゃんけ~ん、ぱー!」 れいむを見ると思いっきり頬を膨らませている。ちなみに、これは手の無いれいむのために私が決めてあげたグーのポーズだ。 「ゆぅ!まけちゃったよ!」 「よし、一勝!でも、まだまだ99勝もしなくちゃならないからなぁ~・・・」 「ゆゆっ!こんどはまけないよ!」 「よし、それじゃ2回目。じゃんけ~ん、グー!」 グーを出し、れいむを見てみると下を向いて両目を閉じている。これはれいむにとってはチョキに相当する。 「やった、2勝目!」 「ゆううう!また負けちゃったよ!」 「まあまあ、まだまだ先は長いんだし。三回目行くよ?じゃんけ~ん、チョキ!」 れいむは背中を向けている。別にじゃんけんに飽きたわけではない。これがパーのポーズなのだ。 「よし、三連勝!でも、先は長いなあ~」 「ゆゆ!またまけちゃった!でも、まだまだがんばるよ!」 そんな感じで、私とれいむは15分ほどひたすらじゃんけんを続けていた。 そしてその間に私が事前の呼吸や、向きの変更を見てれいむの手を把握していることに気付くことは無かった。 「はっはっは!98連勝!」 「ゆううううううううう・・・」 流石にここまで負け続けてはのん気なれいむも涙目にならざる得ない。 「どぼぢでがでないのおおおおおお!もうやだ!おうちかえる!」 「まあまあ、あと2回だけなんだし。頑張ろうや、な?」 ぽろぽろ涙を零しながらもれいむが「う゛んっ!」と勝負に合意するのを確認すると、再び掛け声をかけた。 「じゃんけん、パー!」 一方のれいむは下を向いて目を瞑っている。つまり、チョキだ。 「ゆ?ゆゆっ!れいむかったの!?」 信じられないといった風な表情で私に確認をとるれいむ。その姿に思わず噴き出しそうになるのをこらえながら応えてやる。 「ああ、そうだよ。お前の勝ちだ。だからチョコレートを食べても良いぞ?」 「ゆゆっ!やったね!これでゆっくりできるよ!」 じゃんけんが終わって、再び膝の上に戻ったれいむは歌らしき何かを口ずさみながら、私がチョコレートを差し出すのを待っている。 「ゆっくりできるよ~、ちょこれーと♪とっても~あまいよ、ちょこれーと♪」 ごめん、このチョコは凄く苦いんだよ。 「はいよ。今度は吐き出すなよ?」 「ゆ!そんなことしないよ!むーしゃむーしゃ、しあわ・・・ゆぶふぇええええええ!!」 奇声を上げながら、れいむは今日一番と言っても過言ではないほど盛大にチョコレートを吐き出した。 エレエレエレエレエレエレエレ・・・。 うわぁ、ついでに餡子も吐き出しやがったよ。ジーパンがグチョグチョだわ・・・まあ、いいけど。 「おいおい、あんた吐き出しすぎ・・・」 呆れながら、お仕置きの意味も兼ねてれいむの両頬をつまんで引っ張ってやる。 「ばっへぇ・・・あほほえーほいがかかったんあほん!」 しかし、この饅頭柔らかいっすねぇ!本当に皮が良く伸びる。 そうやって調子に乗って引っ張っていると 「ほへーはん、ゆっふひやべでね!」 「びろ~ん、びろ~ん、びろりろり~ん♪」 ああ・・・このほっぺの柔らかさは反則だわ。すごく気持ち良い。 「ゆゆっ!まりさのれいむになにをするんだぜ!」 「んあ・・・?」 不意にどこからともなく声が聞こえてきた。辺りを見回して声の主を探すと、そこにはゆっくりまりさが私の足に懸命に体当たりしていた。 「まりふぁ!」 「れいむ、もうすこしのしんぼうだぜ!まりさが、すぐにたすけるんだぜ!」 そう叫びながら必死に体当たりをしているが、全く痛くも痒くもない。それどころか、まりさが作用に対する反作用でダメージを受けている。 その様子を見ていると、なんとなく気の毒になってきたので、私はメントスとダイエットコーラを掲げて、まりさも一緒にゆっくりしないかと提案した。 もちろん、れいむの頬を引っ張るのも止めてあげた。すると、あっさり私のことを許してくれた。 「ゆ!まりさもおねーさんといっしょにゆっくりするぜ!」 「も」とは言うものの、れいむはそんなにゆっくり出来てなかったけどね。 「はいよ」 まりさの口にメントスを10粒ほど放り込んでやる。 「うっめ!めっちゃうめぇ!」 「ゆ!れいむもほしいよ!」 「チョコを全部食べてからだよ」 「ゆううううううううううう!」 「ははっ、冗談だよ。ほら、口をあけて?」 今度はれいむの口にメントスを放り込む。 それから独り酒のつもりが思いのほかにぎやかな酒になったな、などと思いながら2匹にダイエットコーラを飲ませてやった。 「「ゆ~♪」」 口の中にメントスを貯めたまま、コーラを口に含んだ2匹は見た目は意地汚くて見苦しいが、非常にゆっくりしているように見えた。 確かにそう見えたのだが・・・ 「「ぼぉ!?ぼぉぼぼぼおおおおおおぼぼっぼぼおおお!?」」 突然、2匹そろってコーラを噴水の如く吹き上げた。それも、ちょっとゆっくりの常識からは考えられないほどの勢いで。 「・・・・・・はあ、何なんだよ、これ?」 私はコーラまみれで呆然とするしかなかった。そして、傍らではコーラを吹き終えた2匹が再びエレエレしている。 テストも終わったので人通りは少ない。とはいえ、流石にあの噴水が人目を引いたらしく、人が集まってくる。 そうして、いつの何か出来上がっていた人だかりに気付いた私はスーパーの袋と2匹を抱えて、自宅へと逃げ帰った。 「っち、ここじゃゆっくり出来ないね!!」 「で、とっさに連れて帰ってきたけど・・・どうするよ、これ?」 現在独り暮らしをしているアパートに戻って、コーラまみれの体と衣服をどうにかするために風呂場に向かった私は、今になってここがペットの飼育禁止であることを思い出した。 いや、そもそも飼うつもりなんて微塵もないんだけど・・・どっちにしてもこいつら、どうしたものか? 「ねえ、おねーさん!れいむたちべとべとだからからだあらってね!」 「それからみんなでゆっくりしようね!」 なんと言う厚かましさ。だが、そこが良い。何だかくせになるのものがある。 そのゆっくりっぷりを見ていると「さっきのコーラ噴射のことをもう忘れてるのかよ」とか「何で途中でこいつらを捨てなかったんだ」とかそんな疑問は些細なことのように思えてくるよ。 「・・・まあ、何とかなるか?」 とりあえずさっさと服を脱いで、お湯をためながられいむとまりさを洗ってあげる。 「ゆ~、ゆ~♪」 「気持ち良いか?」 「ゆ!すっごくきもちいいよ!」 「そうかそうか。そりゃ良かった。でも、お前ら水苦手なんじゃなかったっけ?」 「ずっとつかってるとあぶないよ!でも、みずあびはすきだよ!」 浴場の床にあぐらをかいて、足の上にれいむを乗せた格好で、桶に溜めたぬるま湯でタオルを濡らして、丁寧にれいむの体を拭いてやる。 まりさはその傍らで、気持ちよさそうに目を細めるれいむをじっと見守っている。 「ゆゆっ!おねーさん!そのぬるぬるすごくきもちいいよ!」 当然といえば当然だが、こいつらにとってボディソープやシャンプー、リンスを使うのは初めての体験だろう。 そのあまりの気持ち良さにうっとりとしている。途中、シャンプーが目に入って絶叫していたのはご愛嬌か。 2匹を洗い終えてから、私自身の髪や体を洗い、それから2匹と1人で湯船につかる。 と言っても、れいむとまりさを湯の中に放り込むわけにはいかないので、れいむには風呂桶に入ってもらい、まりさは私が抱きかかえることにした。 外よりもずっと温かい風呂場でほっと一息をつく。 「おねーさん、すごくやわらかいね!」 生意気にも私の胸に頬ずりしながらそんなことを抜かすのは抱きかかえられているまりさ。 「・・・ん~、そうか?」 もっとも、そんなことを言われたところで自分では良く分からないのだが。 「うん、れいむのほっぺよりきもちいいよ!」 普通なら「パートナーに怒られるぞ」とか「ゆっくりと比べんじゃねえ」とか「もう、まりさってばえっちぃ」とでも反応するところなのだろうか。 しかし、私はれいむの頬の触り心地を思い出しながら、痴漢をする男の心境がなんとなく理解できるなぁ、なんてことを考えながら「そりゃ、どうも」と適当に返事しておいた。 それからまりさの頬をひっぱって、その柔らかさにしばし感動し、「愛でお兄さんはおっぱいフェチなんだろうか?」などとくだらないことを考えながら、風呂から上がった。 私が着替えのためにリビングに向かうと、先に体を拭いてやったれいむとまりさがソファの上でゆっくりしていた。 なんとなく枕にしたら気持ちよさそうだな、と思った時にはすでに2匹を枕にしていた。 そして、ちょっと昼寝のつもりが6時まで寝てしまった。れいむとまりさには「おもくてあんこがもれそうだったよ、ぷんぷん!」と怒られた。 それなら起こして言ってくれればよかったのに、と反論したら「おねーさんがぜんぜんおきなかったんだよ!」と更に怒られた。 でも、晩飯を一緒に食べようと提案したらあっさり許してくれた。流石は餡子脳だ、可愛いなぁ。 そんなわけで現在午後7時13分。テーブルの上にはしょうが焼きと味噌汁とほうれん草のおひたしと梅干の乗ったご飯、それかられいむとまりさのために作ったおにぎりが置かれていた。 私が手を合わせて「いただきます」と言うと、れいむ達もそれに倣う。 「「いただきま~す!」」 ちなみに、れいむ達のご飯は握りこぶし大のおにぎりが5つ。 右から焼きスルメおにぎり、塩辛おにぎり、たこわさおにぎり、カカオ99%チョコおにぎり、そしてジョロキアおにぎり。 具になりそうなものが無かったので、見ての通り、さっき酒のつまみに買ってきたものを入れてみたのだが・・・ 「む~しゃむ~しゃ、しあわせ~!」 「うっめ、これめっちゃうめぇ!」 焼きスルメは好評。若干辛みがあるとは言え、子どもで平気で食べられるものだからさすがに大丈夫だったようだ。 「ゆ!かたい!かたいよ!」 「かみきれないよー!」 と、思ったんだが・・・どうやらゆっくりの歯ではスルメを噛み切れないらしい。 どれだけ貧弱なんだお前ら。 「むーしゃむーしゃ、しあわせ~!」 「うっめ、これめっちゃうめぇ!」 次の塩辛おにぎりとたこわさおにぎりは意外に好評だった。 どうやら、ご飯がいい具合に辛さなどのゆっくりが苦手とする味に対する緩衝材になったらしい。 けれど、おいしそうにおにぎりを食べる二匹を見たとき、正直ちょっとだけつまらないなぁと思ってしまった。 虐待趣味は無いつもりだったんだけどなぁ・・・。 「れいむ、にんげんのごはんはおいしいね!」 「そうだね、まりさ!つぎのおにぎりもきっとおいしいよ!」 次のおにぎりはカカオ99%チョコレートおにぎり。人間だったらこの組み合わせを見ただけでしかめっ面をしそうな代物だ。 「むーしゃむーしゃ、しあわ・・・ゆぎゅううううううう!!」 「うっめ、これめっちゃうげえええええええええええええ!!」 やっぱり、このチョコレートの苦みはゆっくりにとっては毒にも等しいものらしい。 ご飯のおかげでさっきのようにエレエレすることはなかったが、テーブルの上を苦しそうに転げまわっている。 「おーい、大丈夫か~?」 「ゆべっ!だいじょうぶじゃないよ!どうしてにがいのいれるの!」 「ひどいんだぜ、おねーさん!まりさたちおこるぜ、ぷんぷん!」 もう何度目になるかもわからない怒りのアピール。このぷくぅと頬を膨らませる姿が可愛くて仕方ない。 「あはは、余ってたもんだから勿体無いと思って、ついね・・・ごめんな」 顔の高さで手を合わせて少し頭を下げるようなしぐさを交えつつ、素直に謝るとれいむ達はあっさりと許してくれた。 「ゆぅ・・・はんせいしてるならいいよ!」 「れいむ、さいごのいっこもたべちゃうんだぜ!」 「ゆ、そうだね!むーしゃむーしゃしあああああああああああああああああああああああああああああああ!!」 「うっめ、これめっちゃああああああああああああああああああああああああああああああ!!」 何だその絶叫?と突っ込んでやりたいところだが、この後エレエレするのは火を見るより明らかなので、その前に二匹の頭を掴んで、互いを正面から密着させる。 エレエレエレエレエレエレエレエレエレエレエレエレエレエレエレエレエレエレエレエレエレエレエレエレエレエレエレエレエレエレ・・・ エレエレエレエレエレエレエレエレエレエレエレエレエレエレエレエレエレエレエレエレエレエレエレエレエレエレエレエレエレエレ・・・ 本日何度目になるかも覚えていないエレエレタイム。しかし、今回は2匹の口がぴったりとくっついているので、それが周りのものを汚すことはなかった。 「・・・エレエレエレエレ・・・むーしゃむーしゃ、しあわせ~!」 「・・・エレエレエレエレ・・・うっめ、これめっちゃうめぇ!」 「エレエレしたものを、食うなっ!!」 気がついたときには電光石火の突っ込みでこピンを放っていた。 ゆっくりで遊ぶのに夢中になっていて、気がつけば日付が変わっていた。 そのことに気づいた私は思わず顔をしかめる。 「うわぁ・・・もうこんな時間か。さっさと寝よ」 明日は1限目から授業があり、それに夕方からはバイトもある。 だから今日は早めに寝て明日に備えるつもりだったのだが・・・新しいおもちゃの魔力は想像を絶するものだったのだ! 帰宅した時点ですでにお気に入りのピンクのストライプ柄のパジャマに着替えていた私は電気を消して、もそもそと布団にもぐりこむ。 が、私の枕元でれいむたちが泣きじゃくるので簡単に寝付けなかった。 「ゆううううう!くらいよおおお!こわいよおおお!!」 「おねーざん、あがるぐぢでえええええええええ!おばげがででぐるよー!!」 こいつらがやたらと怯えているのには理由がある。 その理由というのは8時ごろから観始めた『ゆ霊の盆踊り』という映画だ。 登場人物が全員ゆっくりで、その斬新過ぎる試みと、どうしようもない演技と、ホラーとは無縁のふざけた笑顔などさまざまな要素があいまって映画史に名を残した伝説の作品だ。 もちろん、映画関係者どころか、映画に関する知識なんてろくに持ち合わせていない一般人からも非難轟々。 そんなわけで、本来ならば映画館で上映されることすらありえなかったのだが、この作品には有名な美人女社長率いるゆっくりカンパニーという強力な後ろ盾があったため、無事上映にこぎつけたという。 聞くところによれば、この映画は「ペットのゆっくりと一緒に鑑賞できる」&「(良くしつけられた)ゆっくりの館内限定貸し出し」というサービスを行っていたらしい。 そして、私はその目的も効果も存分に味わう羽目になった。 「おばけさんこわいよおおおおおおお!!」 「あ、ありすこわいいいいいいいい!」 「で、でいぶがあああああああああ!!」 「おねーざんー、ごわいいいいいいい!!」 「「ごれじゃゆっぐぢでぎないよ!!」」 などなど、終始こんな調子で泣き叫びながら、私にすがり付いてくる。 そりゃ、この作品が上映される前のゆっくりの知名度が低かったころなら、この姿にだまされて飼いたくなる人もいただろうな。 以上が今までにも毎日のように接してきた宵闇をこの2匹が恐れる理由だ。要するにお化けが怖いらしい。 どうせ、ほっときゃそのうち寝るだろ。 そう判断した私は心頭滅却して2匹の泣き声を風の音か何かと思い込んで、とっとと寝ることにした。 「はいはい、おやすみ」 「「おねえざあああああああああああああああああああああああああん!ねぢゃいやあああああああああああ!!」」 そんな感じで、翌朝・・・ 「「「「「「ゆっきゅりちちぇっちぇね!」」」」」」 「・・・なに、このちょーてんかい?」 朝の日差しにたたき起こされた私の寝ぼけ眼に映ったのは産まれたてと思しきゆっくりの赤ん坊。 その数れいむ種3匹、まりさ種3匹の6匹。 「おねーさん!れいむのあかちゃんかわいいでしょ!」 「すごくゆっくりしたこだよ!これでおねーさんもゆっくりできるね!」 すまん、私にも・・・というか私でもわかるように説明してくれ。 「ゆゆっ!れいむたちね、よるすごくこわかったんだよ!」 ああ、怖がってるの無視して電気消して寝たからなぁ・・・・・・で? 「だからね、れいむとはなしてたらわかったんだぜ!おねーさんはゆっくりしたいからむしするんだって!」 まあ、睡眠ってのは人間の三大欲求なわけで、確かにその欲求を満たしたかったから無視して寝るという選択をゆっくり的に解釈すればそうなるだろう。 「それでね、おねーさんはゆっくりできればれいむたちをむししないんだよ!」 ・・・なぜ決定事項なんだ? 「だからまりさたちのゆっくりしたあかちゃんをみせてあげることにしたんだぜ!」 つまり、そういう事らしい。 ・・・・・・どういうことだよ。 「あぁ、やっぱりゆっくりの考えることはわからんわ・・・」 私はこのおちびもを捨てた場合の処理代やら、飼う場合の餌代やらを計算しながら頭を抱えることしかできなかった。 ---あとがき?--- たまにはぬるいじめでも、と思って書いてみた結果がこれだよ! どうでもいいことだけど、作中のおねーさんはドスなおっぱいの持ち主です。 byゆっくりボールマン 続き このSSに感想を付ける
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前 音を立てないように戸を引く。僅かな隙間から覗こうとしたものの、覗く前から何となく状況は 読めた。 「う゛――――――! あがぢゃん、れみりゃのあがぢゃん! げんぎだずんだどー!」 ホントに喚いていた。 簡単な想像をすれば、騒いでから誰も居ないことに気づいて、何故自分が怒鳴っていたのかを思 い出した、というところだろう。単純な思考をめぐらせるだけでこのおぜうさまの行動には理由が 付けられる。犬とか猫よりも格段に行動理念が明確で助かる。 さきほどれいむが騒いでいたのにも気づいていなかったのなら、と俺はガラリと大きく扉を開放 し玄関に侵入する。すぐさま閉めたのは、れいむがこちらに興味を持たないようにするためだ。 「あがぢゃんんん!」 ピクリとも動かないチビれみりゃ。その顔の近くに身体を寄せて、必死に呼びかけている。格好 は差し詰め腕立て伏せをするようなものだ。人間ならば涙を誘う悲愴感に満ちた《御涙頂戴》的な シーンだが、生憎残念なことに主人公はおぜうさま。あっという間に喜劇へと変貌する。 醜いケツと、餓鬼臭く婆婆臭く乳臭くニラ臭い、ともかく臭うようなカボチャパンツを惜しげも なくこちらへ見せ付けている。今にも毒ガスを放出しそうな体勢だ。出来れば惜しんで欲しいもの だが、そんな高尚な行動を取ることは到底出来ないだろう。 ――蹴りたいケツ。 しようと思ったことは直ぐ実行に移す性質(タチ)なのだ。だがおぜうさまはこれから先も諸々 甚振られねばならないので、ひっそりと後ろによって助走なしに蹴り飛ばす。 「うぢゃっ、ぶぶびっ!!」 先ほど外からぶつかった玄関扉に、今度は中からぶつかった。おぜうさま、完全制覇ですよ。お めでとうございます。しかし、『ぶぶびっ』て。そんな叫び声があるとは知らなかった。流石、豚 まんらしい叫びだ。 人間で言えば、確実にムチ打ちになる勢いで顔面から衝突していったおぜうさま。外の世界で、 安全性の実験で自動車を壁にぶつけるというものがあったと記憶しているが、まさにその様に類似 している。ぐしゃんとぶつかって、ばねのように全身が縮み上がり、反発するように跳ねながら、 再び地面とキスをした。そんなに地面が好きなのか。結婚して《にんっしん》でもすればよい。 おぜうさまは地面にキスしたまま起き上がる気配はない。だが、耳をすませば、居間から聞こえ つづけているれいむの《御食事》の音――つまり『うっめ、めっちゃうっめこれ!!』であるが― ―に挟まれて、頻りにうう、ううと唸っている声が聞こえる。半気絶状態なのだろう。それなら都 合がよい。 先ほどおぜうさまを引き摺ってきたときに使った縄を、そこでのたれ死んでいるように横たわっ ているチビれみりゃの首に回す。何とか生きているようだが、おぜうさまと違ってまだ子供だった 所為で、虫の息といってもいい状態だった。あれだけ耳元で汚い豚の鳴き声のような声で騒ぎ立て られても反応が無かったのも納得できる。 だが、この作業は意外にも苦労した。動くはずのない者を縛り上げるのに、どうして苦労するの だと思うかもしれない。 考えてもらいたい。れみりゃの首って何処なんだ? 結局、人間の首のように際どく括れている顔の下あたりに縄を回した。間違っていたら、ぜひと も御教授願いたいところだ、次回以降の教訓にしたいと思う。 チビれみりゃは目も当てられない状態だった。顔の皮は再生過程のままで、じわりと肉汁が垂れ ていた。俺にあれだけ伸ばされて千切られたのだ、仕方ない部分だろう。足と腕に力の欠片も無く 、持ち上げども重力に逆らうことも出来ず垂れ下がるのみだ。表情は苦悶に満ちたものだったが、 ぐずるようにえぐえぐと泣いているようだったので、このあたりは流石《くされみりゃ》と言った ところだ。本物の紅魔館のバカ御嬢も身体だけは丈夫で、頭がよろしくない雰囲気を漂わせている 乳臭い幼女なので、これは大きな共通点なのだろう。だが、瀕死状態であるのは間違いなかった。 さて、猶も気絶しているようなおぜうさまの、ケツの穴あたりをもう一度蹴った。 「んぎゃん!?」 「起きろ、ボケ豚まん」 「ううう……、いだい、いだいど……」 「黙れ。さっさと起きろ」また一蹴り。 「うう……、な、なにずるんだどぉ」 家に連れ込まれた直後には欠片も無かった、弱気な態度で俺に言う。《こーまかんのあるじ》は 影を潜めた。――といっても、ハナからこいつは《あるじ》では無いので、虚構の高腰であったの だが。 「ほら、お前のあかちゃん。元気になったみたいだぞ」 俺はおぜうさまに極上の笑顔(自称)を輝かせて、縄を持った手を高々と掲げる。飛んでいるよ うに周期的に上下させるのも忘れない。 「う? う、うっ、うーー! れみりゃのぷりぢーなあがぢゃんだどー! おにーさん、はやくれ みりゃにわたすんだどー!」 「いいのかい?」 「わたすんだどー! はやくしないど、さぐやにいいづげるどー!」 赤ん坊を自分の腕に抱きたいのはゆっくりも同じなのは良くわかる。だが、首をだらしなく下に 垂らし、動く気配のないチビれみりゃである。先ほどまで、自分が叫んでも反応を見せなかったチ ビれみりゃが、そんな短時間で元気になるはずがないではないか。 「ホラ」 薄笑いを浮かべながら、おぜうさまの足元へチビれみりゃを投げやる。もちろん、首の縄の端は 俺の手の内だ。 「う?」 チビれみりゃが力なく床に転がる。叩きつけられた格好だが、呻き声ひとつ上がらなかった。 「う――――――――――――! あがぢゃん、さっぎはげんぎだっだど――――――!」 あれの何処を見れば元気なのだろうか。もっとも、これは実に予想通りの反応であり、俺は満足 である。 では、次のプランへと移ろうではないか。 おぜうさまがチビれみりゃにすがり付こうとする瞬間に、持っている縄を強く引く。 「うぎゃおお!」 飛び込むような体勢だったおぜうさまは、今日何度目かわからない床への接吻をした。もし俺が チビれみりゃを引っ張らなかったらどうなっていたものか。おそらくおぜうさまは自分の赤ん坊を 自分のキスで潰し殺すところだった。感謝して欲しい。 床に突っ伏しているままだと諸々不都合が生じるので、嫌悪感を我慢しておぜうさまの身体を引 き起こし、服の後ろ側に刀を通し先端を床に突き刺す。身動きをとらせないようにしながらもこれ から起こる事態から目を逸らさせないようにするという、一石二鳥の戦略だ。れみりゃのぜぐぢー なおべべがああと叫んだが、無視、無視。おべべの時点でセクシーさの欠片も無いのではないだろ うか。手と足を前方に放り出して奇妙なまでに正筋を伸ばし、肉汁の涙をだらだらと垂れ流す様は 、見ていても気持ちがいいものだ。 おぜうさまの視線がこちらに向いていることを確認して、縄を揺すり始める。ぐらん、ぐらん。 揺れるチビれみりゃ。 「なにずんだどー!! ぷりぢーなれみりゃのあがぢゃんをはだずんだどーー!!」 はいはい、ぷりちーぷりちー。薄笑いを浮かべて言ってやる。瀕死の肉まんのどこが可愛いのだ ろう。 言葉でおぜうさまをからかっている間に、チビれみりゃは豪快に回転し始める。最初のうちは、 外界の遊園地とかいう一大遊戯施設に備わっている《バイキング》なる乗り物のように、振り子の 動きをしている。徐々にぐるんぐるんと力を込めながら円を描くようにまわす。《観覧車》とかい う乗り物の動きだが、その回転速度は《観覧車》の比ではない。 「う゛っ、ううううううううううううう!!!」 遠心力が(人間で言うところの)首の付け根あたりに負荷されているせいで、気絶していて今ま で何にも反応を示さなかったチビれみりゃが苦悶の表情だ。こいつがどういう仕組みで息をしてい るのかは分からないが、とりあえず息は苦しいと見える。それだけでこの作戦はある程度の成功で ある。これで何の反応も無いのであれば、こいつは呼吸をしていないとも言え、俺の《首探し》の 努力は水泡に帰すのだ。 否、もしかすると、首が千切れてしまう痛みに悶絶しているのかもしれない。だが、そんなこと はどうでもいい。苦しみさえすれば無問題。 「やべでえええええええええ!! あがぢゃんをはだぶびでびえぇええ!!」 五月蝿いので、チビれみりゃの回転中心を少しおぜうさまの方にずらしてやる。勢いをつけて廻 っているチビれみりゃと感動の御対面を果たした。高速で、だが。 チビれみりゃの身体はその衝撃でぐらつき始める。見ればおぜうさまの足元に肉塊が転がってい た。じっくりと視線を其処にあててみると、それはチビれみりゃの足だった。どちらの足か不明で はあるが、足がもげたことだけは明らかだ。脆いものだ。 「ああああああああああああああ゛!! はやぐっ、はやぐやびぇどぅんだどおおおおおおおお! !」 回転は秒速一回転を越しそうになったそのときだった。 『ぶぢん』聴いたこともないような鈍い音。 『びしゃああ』何かが弾けるような音。 そして、縄の先端が軽くなった気がした。 「あれまぁ」 時代がかったような呟きは御愛嬌。何せ、縄の結び目には何の影もなかったのだから。 想像通りの結果で恐縮だが、チビれみりゃは退化してしまったのだ。簡単に言えば、《くびもげ 》。遠心力に耐えられなくなったれみりゃの身体は、その力の集結点である縄の結び目、すなわち 首の付け根に集まり崩壊してしまったのだ。 頭の部分を探そうとしたが、此れはあっさりと見つかった。 俺の足元に黒い影があった。持ち上げてみると、頭部だけのゆっくりでいうところの《足》が餡 でぐずぐずになっている。胴体が離れたのだからこうなるのは仕方が無い。 今度は表情を確認する。口はへの字に歪み、目からはチビれみりゃの脳みそである餡が吹き出て いた。眼球はどこかへ吹き飛んだらしい(翌日明るくなってから、天井にへばりついている小さな 油脂の塊をふたつ見つけた)。 最早ゆ、とも、う、とも言わなくなった肉まんである。 反応を示さなくなった肉の塊には興味はない。親であるおぜうさまの許に放り投げてやった。 ぐしゃり、と言って床に臥したチビれみりゃだった物は、衝撃に耐え切れず形を変えた。 「う? う、うう……」 騒ぎ始める前に後ろの支え棒を取り外す。切っ先で後頭部に切れ込みが入ったのだが、目の前に 転がった肉の塊に視線を取られて痛みを感じなかったようだ。 「う゛あ゛――――――――――――!! う゛あ゛――――――――――――!! う゛あ゛― ―――――――――――!! でびりゃど、ぶりっぢーなあがぢゃんがあああああああ!!」 おぜうさまは豆大福のような手で持ち上げようとするが、チビれみりゃの頭は既に形を維持する ことすら出来なくなっていたようで、おぜうさまの指の隙間から餡がぼたぼた零れていった。これ では再組成は不可能だ。 「どうぢでええええええええええ!!」 それでも諦めきれないのか、おぜうさまは何度も何度も我が子を抱きとめようとする。必死な姿 は人間であれば涙を誘う。しかし、これで二回目になるが、ゆっくりが必死になったところで生み 出されるものは喜劇の台本でしかない。おぜうさまの叫びはファンファーレのようだ。 どれくらいの間そうしていただろうか。辛うじて残っていた皮は餡と一体化しており、その餡も バラバラになっている。山の形に盛ることすら出来ないほどに解れてしまった餡は、チビれみりゃ の絶命を如実に示していた。 「ううううああああああああ!! あがぢゃん、どうぢでぢんだんだどおおおおおお!! どうぢ でだんだどおおおおおおおお!!」 慟哭。そう称するに相応しい絶叫。最も、何度も言うことだが、主人公がおぜうさまなので、喜 劇なのには変わりが無い。 「あがぢゃああああああああああああああああ!!」 止まらない肉汁の涙。口からも零れているが、そんなことも気にする素振りがない。仰向けにな ってじたばたと動きながら、俺の足元で駄々を捏ねるように喚いている。おぜうさまの品格の欠片 もなく、ただ喚くだけの肉饅頭。ただ、我が子の死を嘆いている。 「あがぢゃああん……。ううううううあああああああああ……」 うつ伏せに向きを変え、しゃくり上げるように泣くおぜうさま。慟哭は弱まってきたが、肉汁の 涙を止まるところを知らない。 「うう…、あああ……。……」 大人しくなってきた気がする。おぜうさまの顔の近くに耳を持っていく。 「ぅぅ……。zzz….」 寝やがった。 身体を丸く屈めて、何かから自らを防御するような格好を取ったまま動かない。泣き疲れたにし ても、寝てしまうのは早すぎやしないだろうか。 もう少し様子を見ようと思って眺めてみたが、全く動く素振りもない。動いているのはおぜうさ まの背中くらいのもので、穏やかな上下動を繰り返している。 これは安眠状態に入り込んでいるとみても問題は無さそうだ。 一分もしないくらいで、自分の子供が死んだことも忘れて、穏やかな眠りの世界に飛び込んでい けるとは、流石餡子脳。その他のゆっくりと違って小豆の餡ではなく肉まんであるゆっくりれみり ゃ種だが、この肉餡は小豆餡よりもバカらしい。『うあー、うあー』とか『たべちゃうどー』が会 話の大半を占めていることでも大方の予想は付いていたが、ここまで来ると呆れる。呆れ果てる。 開いた口が塞がらないとは、当にこのことだ。 「zzz」 餡子脳には解からないだろうと思う速度で体勢を仰向けに変えてやる。 「zzz」 思わず、噴出すかと思った。 おぜうさまの寝顔は、よくゆっくりが《すっきり》している真只中で見せるという《アヘ顔》で あった。肉汁を口の端からだらだらと零して、目はすっかりへの字になり、蛙がへばりついている 状態を裏側からみたような体勢だ。気の緩みは全身から溢れんばかりで、油断も隙も全く無い。 黒い感情が頭を擡げてくるのは、時間の問題だった。 深呼吸をひとつ。右足を高く上げて――。 「うぎゃおおおおおおおお!!」 腹のど真ん中を踏みつけてあげる。 おぜうさまは嬌声をあげてもんどりうちながら玄関を這い回る。その姿はさながらスリッパのよ うなもので潰されながらも致命傷には至らなかったリグル――もとい、御器齧(ごきぶり)のよう だった。 悶え狂っている状態のおぜうさまは、先ほどまで必死に蘇生させようとしていた(といっても気 休めにもならない状態だったが)チビれみりゃの上を何往復もしていたことは気づかなかった。そ もそもおぜうさまの《処置》を受けた段階で絶命していたので、当のチビれみりゃは痛くもかゆく もなかっただろう。せめてもの救いだった。 「う゛―――――――――――――――――――!!! 嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼 嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼 嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼!!」 十分にビブラートを利かせた絶叫は喧しいことこの上ない。黙れの意味を込めて後頭部を蹴飛ば したが、火に油を注ぎこむどころか、火に油をぶちまけることになった。想定内なので問題ないが 、このおぜうさまは本当に俺の期待を裏切らない躍進を遂げてくれる。 「ホラ、立て。この糞肉饅頭」 「うううう!! うぞづぎ!! うぞづぐやづはざぐやにごろざれどぅんだどーーー!!」 鼻水をだらだら零しながら(おぜうさまはあらゆる場所から汁を零すんだなあ、と感心する)俺 に殴りかかろうとする。 ――はて。 「俺、何か嘘吐いたっけ?」 「れびじゃどあがぢゃ、がえぢでくでどぅんぢゃーーー!!」 文章として成立している雰囲気が全くない。おぜうさまの態度で辛うじて、俺がチビれみりゃを 美辞におぜうさまの許に返す約束をしていたのだが、その約束を破ったから《ざぐや》とやらに殺 られるらしい。 それは敵わないということで、俺はややも、反省タイム。 一秒。 二秒。 ――。 ――――。 ――――――――。 ポクポクポクポク――――。 チーン。 「んな約束してねーだろーが!!」 間違いない。遡っても、俺の口から『返してあげるよ』なーんてことは一言も言っていない。 「れびりゃどあがぢゃ!! ゆっぐりじねえええええええ!!」 《ん》の発音は鼻づまりのせいで全く聞き取れなくなった。それでもおぜうさまはゆっくりふらん の真似事をするように、俺に体当たりを仕掛けようと駆け出した。 どて、どて、どて……。 何とも重たい足音を響かせて近づいてくるおぜうさま。《亀よーりぃ、おーそーい、おぜうーさ ぁまー♪》と童謡『こいのぼり』の音階に替え歌をつけて歌いたくなる。 だが。 「そーれい!」 俺の手には得物があるということを失念されては困るのだ。 「うう゛!?」 おぜうさまはくぐもった声を上げた途端、急に身長が縮んだ。およそ、先ほどの半分になった。 「あああああああああああああ!! れみりゃのがもじがどよーだあじど、くびでだうえずどがあ ああああああ!!!」 自分の身体と顔を鏡で凝視したことがないということは、酷くかわいそうなことなのだ、と此処 にきて俺は痛感した。おぜうさまの腰の何処がくびれていて、おぜうさまの足の何処がほっそりと しているのだろうか。 俺は走ってくるおぜうさまの脇に素早く(一歩分しか動いていないが、それでも充分だった)寄 ると、支い棒代わりだった刀を横にして構えた。ただ構えていたところに、予想通りの動きでどて どておぜうさまがゴールテープを切る要領で突っ込んできた。 その結果がこれだよ。 おぜうさまは(人間で言うところの)臍のあたりから身体がぱっかりと分かれてしまった。外の 世界では超高性能の医療器具としてMRIというものがあるが、そのようになった。つまりはおぜうさまの肉体断面図を作ったようになっているのだ。 MRIは俺も幻想郷で一度だけお目にかかったことがある。何でも香霖堂に流れ着いたところを永遠亭の女医が河童のサポートの下医療器具として設置したそうだ。河童のにとりがMRIを知っていたことにも驚いたが、今MRI技師として活躍しているのは輝夜姫その人だそうだ。あのニートがよく働き口を見出したと思う。 まあ、そんなことはどうでも良い。 おぜうさまは、まだ自分の身に何が起こったのか理解できていないようだ。腰の切り口で床に起 立し、きょとんと正面を見据えている。下半身は肉汁を零しながら無残に倒れている。 五秒ほど経過しただろうか。 「う、うううう、うううううううううううううううううううううううううううううううううううう うううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううう うううううううううううううううううううううううううううううううううううううう!!!!!! ??????」 超絶的大絶叫。 腰の切り口が只ならぬ安定感を維持しているため、おぜうさまが手をばたばた振ってもなかなか 倒れない。この様は、さながら《太陽の塔》のようだった。 「うううあああああああ!! いだいいいい゛!! だずげでえええええええええええ!!」 コツを掴んだのか、周期的な腕の振り方を初めて五秒ほど経って、おぜうさまは顔面から倒れた 。必死すぎた腕の振りを止められなかったが、右腕は辛うじて床に付く事ができた。それでも頭が 重すぎるがゆえに、おぜうさまの右腕はひしゃげてしまった。人間で言えば複雑骨折をしてしまっ たようにくしゃくしゃになった。 「うぎゃああああああああ!! いだあああいいどおお、いだいどおおおおおおおお!!」 今更ながら、よくぞ餡子と皮だけの構造で痛覚神経を構成しているものだと感動を覚える。右腕 を抱え、かつ下半身に断続する痛みに耐えている。口からは相変わらず肉汁を垂らしているが、此 処にきてついに頭部に込められている餡が零れ始めた。どうやら、先は長くなさそうだ。 「いだいどお……」 声が小さくなってきた。この体勢では(表情が見えなくて面白くないから)まずいので 仰向けになおす。 「だず、げでええ。いだいんだどおおぉぉぉ……」 そりゃあ、痛いだろう。腕がぐちゃぐちゃになって、胴から下を失っている。だが、切り口から 餡が零れ出ている気配がない。俺の一刀両断が良かったのだろう。 俺はひとついいことを思いついたので、暫し玄関を離れる。背後からは声量をだいぶ落としたお ぜうさまの叫びが聞こえているが、餡子が漏れてこない限り、失餡子死はありえない。ゆっくりふ らんではないため、自殺することもないだろう。 向かった先は前の物置。香霖堂から大量の食器を買ったときに、運搬用にと使ったダンボールが あったはずだ。 探すと、折りたたんだ状態の大きなものが四つあった。これなら巧くいく。 「だずげでぇ……」 ぐじゃぐじゃになった顔をこちらに向けて、激痛に喘いでいる。やはり餡子は出てこない。これ くらいなら、後で水溶き片栗粉か何かで応急処置をして、それが馴染んでくれば痛みは感じなくな るだろう。しかし、腕は切断処理しかないだろう。あんなにぐちゃぐちゃの腕を再生させる術は無 い。 いや、違う。おぜうさまには再生能力があるはずだ。このままでは腕はおろか、下半身まで再生 されかねない。これは予定を変更すべきだろう。 思い立ったが吉日である。 ダンボールは片隅に放り捨て、俺は台所方面に向かった。 ○ 台所に行く前に、俺は黙祷をせねばなるまい。 その理由は、今話していられるほどの時間がない。おぜうさまの再生を阻止せねばならないのだ 。とりあえず、気持ちの全くこもらない黙祷を捧げた。 ○ 材料は辛うじて揃えられた。今から治療されるおぜうさまのガキのせいで台所がぐちゃぐちゃに なっていたことを失念していたのだ。 硝子鉢も小さなものは全て割れていた。饅頭の体当たりごときで扉が開いてしまうとは全く思っ ていなかった。食器と共に台所のセット一式も仕入れねばならなくなってしまったのは、かなり腹 立たしいことである。 粉も撒き散らされていたので、床に散らばっているものをかき集めて、どうにか使用できるほど の分量になった。 さて、おぜうさまの様子は。玄関扉を完全に開け放した。 風雲急を告げる、とまではいかないものの、それでもゆっくりしてはいけない状況である。 腕は再生が始まっており、既に二の腕の半分が形成されていた。腰より下は全く再生されていなかったのには安堵した。 「うううああああ……」 泣きは収まりかけていた。耳栓の代わりに鼻紙を耳に詰め込んだが、然程意味は無かった。大き な身体の痙攣も見られない。身体は脆いわりに生命は丈夫である。下半身はただの肉の塊になって いる。てっきり此方側も上半身が再生して二人になるものかと思っていたが、そうではなく頭の残 っている方のみが再生するようだ。蜥蜴の尻尾と同じらしい。 泣き続けているおぜうさまの腕をとり、水で溶かした粉に《隠し味》を合わせたものを塗りたく って包帯をきつく巻いた。麻酔剤のようなものを持っていればより項が得られそうなものだが、生 憎ここは永遠亭ではない。そこの辺りは我慢だ。 「うう……。う、うう?」 胴体で直立して、きょとんと俺を見つめるおぜうさま。その(本人曰く)つぶらな瞳は潰してや るか抉り取ってやりたいものだ。 「うう!! いだぐなぐなっだどー!! もうへーきだどー!!」 それは良かったな、と俺は青筋を立てる。その視線に気づくわけもないおぜうさまはさらに続け て、 「うーうー! はやぐぶっでぃーんもっでぐるんだどー!」 また!? 「お前、もう忘れたのか? ウチにプリンはな」 「ぶっでぃーんだどー! ぶっでぃーんをはやぐよごずんだどー!!」 「話を聞きやがれ!!」 「ぶぎゃっ!?」 折角半殺しで止めてやったが、もう飽きた。このバカに付き合うのは。チルノの話に付き合って いるよりも面倒だ。 今蹴飛ばしたのは、顔面。丁度(人間で言えば)鼻の辺り。後頭部を床にぶつけ、すぐさま背中 を打ちつけて飛んでいく。地獄車になったおぜうさまは、逆立ちの状態で玄関扉に直撃した。 しかし、倒れてこない。 不思議に思った俺は近づいてみる。 もう、おぜうさまは絶命していた。 身体の幅が二倍になっている。扉にへばりつくようになったおぜうさまは、くっついたまま落ち てこない。完全に床と同化してしまったように見える。 腰の部分を指で掬うが、ねっとりと脂っぽいおぜうさまの身体は、平面的にこびりついている。 床に近い、頭の方を見てみる。こちらはさらに惨劇だ。頭はえびせんべいのように薄く広がって いる。やはり中身の詰まっていない頭であったのだろう、餡子は漏れ出ていなかったが、顔面が顔 面の体裁をたしていない。 完全に絶命し、家には静寂が訪れた。 本当は、傷口の処理に使った粉の《つなぎ》として、チビれみりゃを使ったことを教えてから殺 したかったのだが、こうなっては仕方が無い。 ○ おぜうさまとチビれみりゃの残骸を処理して居間を通過し台所に戻った。 瓦斯台(これもにとりちゃんの御蔭)の下からは濛々とした湯気が立っている。火は先ほど消し てある。 まさかこんなことになるとは思っていなかった。扉を完全に閉めていればよかったのかもしれな いが、後の祭りとはまさにこのこと。 おぜうさま関係の作業に余裕があると踏んでいた俺は、熱いお茶を飲もうと湯を沸かしていた。 その間にでもれいむはまりさを食べ終わって、それこそゆっくりしていると思っていた。それは先 ほどおれにおぜうさまがどうしていたのか教えてくれたことから、ほぼ改心していたと思い込んで いた。 しかし違った。所詮ゆっくりはゆっくりであり、人間の家はすべて見つけたゆっくりのもの、と 言う考えは捨てていなかった。 ここからは俺の予想である。 まりさをすべて食べつくしたれいむは、俺がスキマを作っていた扉の隙間をすり抜けて台所へ突 入した。そこはおぜうさまの暴虐の残骸が充分のこっていたが、然して気にしていなかったのだろ う。最初はゆっくりとしていたらしい。床の一箇所に食べ残した餡子が零れていた。 その後、れいむは興味をそそられるものを見つけた。見つけてしまった。 それは、俺が瓦斯台に掛けていた薬缶である。これはかなりの大柄なもので、作り置きの茶をつ くるのには最適なものだった。 たまたまおぜうさまが遊んでいた踏み台を使って、俺は吊棚から薬缶を取り出し、その踏み台を 放たらかしにしていたのだ。それを使ってれいむは瓦斯台の手前に攀じ登った。 この薬缶は、湯が沸いたことを報せる汽笛のような装置が付いていた。れいむはこの音に驚いた のだろう。我が家の玄関扉は防音性に優れており、この音を聞くことは無かった。 れいむは必死になってこの音の正体を見破ろうとして、バカなことをした。薬缶へ体当たりを繰 り出した。 金属製の薬缶は、饅頭のれいむの皮膚をくっつけた。 あつい、あっつい!! れいむの叫びは俺には聞こえるわけもない。 顔をくっつけたまま暴れてしまったのだろう、れいむはバランスを崩した薬缶ごと床に落ちてい く。お湯はその衝撃で少し漏れてしまった。お湯はれいむの川を薬缶から剥がした。それはれいむ を薬缶の熱さから解放するに充分だったが、その所為で確実にれいむの寿命は縮まった。 れいむは床に背中から落ちた。衝撃が大きかったのだ。身動きは取れなかった。 その上から、蓋の開き落ちた薬缶がれいむに蓋をした。 熱湯を浴び、その上からもうもうとした熱風を込めた薬缶が体を覆う。 俺が薬缶を持ち上げたその中で、れいむは蒸し餡饅の出来損ないになっていた。 皮はぐずぐず。餡子も溶け出しており、手で持つことは出来なかった。 俺は包丁二本でかき集め、まりさの帽子を入れておいたコンポストに投げ入れた。 本当は数年間の範囲で苛め倒すつもりだったが、そう巧くはいかない。だが、蒸し煮されるとい う貴重な経験をして死んでいったれいむの苦しみは、俺の気持ちを晴らすに充分だった。 これから、どんなゆっくりがここに来るか、今から考えるだけでも楽しみだ。 ※あとがき この「ゆっくりいじめスレ」には初めての投稿になります。 PNは決めておりませんでしたが、とりあえず『春巻』と名乗ります。 元々は「幻想郷のキャラをいじめるスレ」に投稿しておりました。 作品は後で下に記しますが、ゆっくりいじめ自体はこれが2作品目です。ほとんどの作品がゆっ くりいじめではないので、ゆっくりのWikiには、1作品しかないでしょうけど。 ですが、これ以降ゆっくりいじめ、幻想郷キャラいじめ小説は書きません。もう時間が取れない ので、残念ですが引退いたします。後はROM専で失礼します。 これからも、ゆっくりがいじめられ、虐待され、虐殺される世界でありつづけることを祈って、 最後の挨拶といたします。 ここまで拝読まことにありがとうございました。 春巻 ※過去の作品(ゆっくりいじめ以外も含む) 春巻リリーホワイト 2作品 すわこちゃんの歯磨き 放置プレイ(因幡てゐいじめ) 豊穣を祈れ ~傲岸不遜たる秋姉妹へのディリジョン~ 迷子の迷子のかえるちゃん(すわこたんいじめ) 胡瓜と人参の悪夢(因幡てゐ・河城にとりいじめ) 因幡てゐVS.ゆっくりれーせん このSSに感想を付ける
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ゆっくり水攻め 川に近いゆっくりの巣(横穴式、築半年)を発見したので良い事を思いついた。 スコップを持ってきてゆっくりの巣の周りを掘り起こして、土を入り口の周りに積み上げる。 当然、母ゆっくりが警戒してくるので、「水が入らないように壁を作ってるんだよ。」と言っておく。 するとこちらをやさしい人間と思って警戒をとき、さらには手伝いまでしてくれる。 ゆっくりが寝静まるまでその作業を行い、巣から寝息が聞こえてきたら本番だ。 ただちに川から溝を掘り進み、入り口の手前につくった穴に大量の水を貯める。 十分水がたまったところで巣の入り口と、臨時のダムを連結し水攻め開始。 なんとか巣から出ようとするゆっくりの様子が観察できるが、流れる水に阻まれて外に出られない。 「ゆ゛っく゛りし゛た゛いよ゛お゛お!!」と愉快な悲鳴が聞こえてくる。 母ゆっくりが体を張って水の浸入を防ごうとするが、圧力に耐え切れずに崩壊。 親子で協力して一生懸命集めた食料も、頑張って作った草のベッドも、中の良い親子もまとめて水に沈んでしまう。 入り口から饅頭のなれの果てが浮いてきたら作戦成功。 ポイント: 天気が悪くなりそうなときは巣の入り口が塞がれてて分かりにくいぞ!晴れの日に探そう! 入り口から下り坂の巣をみつけよう! なるべく川の上流のほうから水を引くこと! 巣の入り口手前のため池は大きいほど一気に殲滅できるぞ! ため池を作らない場合はじわじわとした水攻めが楽しめるぞ!
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ある日の人里まで続く道。 お爺さんとお婆さんが人里で売るための野菜を荷車に乗せて押していました。 決して良くはない道にお爺さんとお婆さんは休み休み進みます。 人里までまだまだ距離があるころ、お爺さんとお婆さんは森の近くで休憩していました。 「ばあさんや、大丈夫かね?」 「大丈夫だよ、じいさんや。」 「急がないと今日中に帰れないからがんばろうか。」 お爺さんとお婆さんは昼までに人里に着かないと野菜を売れません。 荷車にいっぱい乗った野菜はお爺さんとお婆さんには辛い重さでしたが、これを売らないと生活が苦しくなるので仕方ありません。 お爺さんとお婆さんがまた荷車を押そうと腰を上げたとき、森から顔を出したものがいました。 「ゆっくりしていってね!」 「おやおや、ゆっくりじゃないか。」 最近森や人里に現れるようになったゆっくりです。 老夫婦に近づいたゆっくりはみんな黒い帽子を被っていました。 「たしか、ゆっくりまりおといったか。」 「ゆっくりまりさですよ、おじいさん。」 「まりさだよ!ゆっくりおぼえてね!」 名前を間違われたまりさはプンプンと頬を膨らませます。 その様子に老夫婦は孫を見るような目で見つめます。 「ゆっくりしたいんだけどねぇ。これを運ばないと行けないんだよ。」 ゆっくりまりさに諭すように語り掛けるお爺さん。 お婆さんはまだ小さい子まりさを手で持って撫でてあげています。 嬉しそうな子まりさを見て微笑んだ後、リーダー格のまりさがおじいさんに向かいます。 「おじいさんはゆっくりあるくといいよ!」 「おもいものはまりさたちがもつね!」 「しかし、これは本当に重いよ。」 「だいじょうぶだよ!まりさたちにまかせてね!」 「そのかわり、ちょっとだけそのうえのおやさいほしいの!」 「うれのこりでいいからね!」 「ははは、しっかりしてるのぉ。まぁ売れ残っても持ち帰るのは大変だからの。運んでくれたらあげるよ。」 「ありがとう!」 まりさたちは老夫婦が運んできた荷車の後ろと前に分かれます。 後ろのまりさは頬で必死に荷車を押します。 前の魔理沙はお爺さんが持っていた舵棒を咥えて引っ張ります。 荷車に乗った赤ちゃんまりさの掛け声のもと荷車は動き出しました。 「ゆっくち!ゆっくち!」 「おかーしゃんがんばっちぇ~!」 「ゆーしょ!ゆーしょ!」 「みんながんばろうね!」 まりさ達のがんばりをお爺さんとお婆さんはほほえましく見守ります。 決して早い足取りではありませんでしたが、人里には昼前に着くことができました。 お爺さんとお婆さんは野菜を荷車から降ろして売り始めます。 まりさ達は老夫婦の変わりに声を張り上げて客を呼び込みます。 珍しいゆっくりの客引きに主婦が集まり、野菜がどんどん売れていきました。 そして・・・ お爺さんとお婆さんが変えるころには持ってきた野菜は全部売れてしまっていました。 「ごめんねぇ、あなた達の分取って置いたらよかったわね。」 「いつもはこんなに売れないから油断してたよ。」 「ゆゆゆ、しょうがないよ!いっぱいうれてよかったね!」 「そーだよ!たのちかっちゃよ!」 貰える野菜がなくなったので親まりさは残念がりますが、赤ちゃんゆっくりは客引きが楽しかったのか、 「いっぴゃいうれちゃね!」 「まりしゃたちのおかげだね!」 「たのちかっちゃね!」 と、売れていく野菜のことを思い出しながら喜んでいました。 そんな子まりさ達の様子を見て親ゆっくりも笑顔になります。 「たのしかったね!」 「うん!しゅっごくたのちかったよ!」 そんな様子を見ていたお爺さんは何かを思い出したかのようにお婆さんに耳打ちします。 お婆さんはお爺さんの提案に頷き、親ゆっくりのもとに向かいました。 「ねぇねぇ、まりさ。」 「ゆゆ、おばあさん!まりさたちはもういくよ!」 「いっぱいうれてよかったね!」 「まちゃてちゅだうよ!」 「ありがとうね。でね、お願いがあるんだけど。」 「どうしたの?」 「私達の家にね見た目が悪くて売れない野菜があるのよ。」 「おばあさんと二人で食べてるんだけど何時も余ってね。」 「よければもらってくれないかね。」 老夫婦の提案にゆっくり達は顔を見回せ、その後嬉しそうに飛び跳ねます。 「おじいさんいいの!?」 「ああ、いいとも。」 「おばあさんいいの!?」 「もちろんだよ。」 「ゆ~、どっちもありがと!」 老夫婦とゆっくりは仲良くお爺さんの家に向かいます。 そうしておじいさんとおばあさんはゆっくりには持ちきれないほどの野菜を与えました。 「こんなにいっぱい!これならしばらくゆっくりできるよ!」 「また、おいで。まだまだあるからね。」 「またくるよ!ゆっくりまっててね!」 「その代わり働いてもらうよ。」 「お爺さんは厳しいわよ。」 「もちろんだよ!がんばっててつだうよ!」 老夫婦とまりさたちは別れました。 老夫婦は老後の楽しみが増えたのが嬉しいのか今日は少し夜更かししてしまいました。 野菜をいっぱい抱えて巣に戻るまりさ達の前にゆっくりれいむが現れます。 「ゆっくりしていってね!」 「ゆっくりしていってね!」 「すっごいね!おやさいがいっぱいだよ!」 「おじいさんにもらったんだよ!」 「ゆゆ、にんげんにもらったの?!」 「そうだよ!おてつだいしてもらったの!」 「まりさたちがんばったもん!」 「あかちゃんもがんばったよね!」 「しゅっごくがんばっちゃよ!」 まりさ達はれいむにどうやって野菜を貰ったか詳しく説明します。 れいむは驚きました。 人間は今まであったことがありませんでしたが怖い生き物だと思っていました。 まりさはそんな人間からおやさいを貰ったというのです。 「ほんとう!?」 「ほんとうだよ!おじいさんががんばったおれいにってくれたんだよ!」 「おばあさんもすっごくよろこんでたよ!」 「ゆゆ、おてつだいしたらもらえたんだね!」 れいむはそう言うやいなやぴょんぴょんとどこかへ飛び跳ねていきました。 まりさ達は不思議に思いましたが、もう周りは暗くなり始めていたのでゆっくりいそいで巣に戻りました。 れいむはぴょんぴょんと森を飛び跳ねます。 やがて大きな木の下までやってきました。 周りに他のゆっくりがいないか確認してから木の根元に向かって話しかけました。 「ゆっくりしていってね!」 「・・・ゆっくりしていってね!」 れいむが話しかけてしばらくして返事がありました。 すると、木の根元にあった枯葉や枝が取り除かれていきます。 やがて外のれいむよりも大きいゆっくりれいむが顔を出します。 「おかえり!はやくいえにはいってゆっくりしようね!」 どうやら大きい方が親れいむで外にいるのは子れいむのようです。 親れいむは子れいむが中に入るまで外で警戒します。 やがて、自分も巣に入ると穴を塞ぎました。 親れいむが戻ると、中では先ほどの子れいむが他の子れいむに何かを話しかけ、それを聞いた他のれいむは大はしゃぎしていました。 「ゆゆ、どーしたの?」 「おかーさん!れいむね!とってもいいはなしをもってきたよ!」 「ゆ!なになに!」 「あのね!・・・」 そう言って先ほどのまりさの家族から聞いた話をゆっくり聞かせます。 親れいむはそれを聞いても素直には信じれませんでした。 「ゆゆ、ほんとうにまりさたちはそういったの?」 「そうだよ!まりさたちいっぱいおやさいもってたよ!」 「おかーさんれいむたちもやろうよ!」 「そうだよ!おやさいいっぱいもらおうよ!」 怪しむ親れいむに対して、他の子れいむはもう貰ったときの事を考えています。 親れいむはそれでも怪しみますが、子れいむの、 「ゆっ!おかーさんはれいむをしんじないの?」 という言葉で我が子を疑ったことを恥じ、 「あしたみんなでゆっくりしようね!」 「ゆっくりしようね! と、子供達に明日子れいむの聞いた通りにやってみようと言いました。 子れいむと親れいむは明日おやさいがいっぱいもらえるとうれしそうに話しあいます。 やがて、赤ちゃんれいむが船を漕ぎ出したのを見て、みんなで集まって眠りました。 次の日、れいむたちは人里近くの道にやってきます。 「まりさたちはおおきなにもつをはこんだっていってたよ!」 「ここでだれかくるまでまっていようね!」 れいむたちは茂みに隠れて人が来るのを待ちます。 けれども、道を通る人はほとんど軽装でれいむたちの助けを必要としてそうな人はなかなか現れません。 「ゆぅ・・・なかなかこないね。」 「まりさたちもこんなにまったのかな・・・」 「もうすこししたらくるよ!ゆっくりまとうね!」 そうやってれいむ達は目当ての人が来るのを待ちました。 昼を過ぎ、茂み近くの草原で虫や花を食べて人が来るのを待ちます。 虫や花もおいしく、日々を過ごすには問題ありません。 しかし、人間の作る野菜はとてもおいしく、運よく食べれたゆっくりはそれを周りのゆっくりに話して聞かせます。 何匹かはそれを聞いて人里に取りに行くのですが、そのゆっくり達が帰ってきたことはありません。 ですから、どんなにおいしくても、ゆっくりは我慢するしかありませんでした。 それをまりさたちは人から貰えたと言うのです。 れいむ達はまだ味わえぬ野菜の味を想像しながら茂みでじっとしていました。 「ゆゆっ!あのひとたちならてつだえそうだよ!」 一匹の子れいむが人里に向かう一行を発見します。 その人たちはまりさ達の言うように荷車を数人で押してゆっくりと進んでいました。 れいむたちはまりさの言っていた人たちだと思い茂みから出てその人たちの前に止まります。 「ゆっくりしていってね!」 「なんだぁ、またゆっくりか。」 「ゆゆっ?」 なんだか人間達の反応がおかしいと親ゆっくりは気づきます。 しかし、子れいむ達は気づかなかったようで、 「れいむたちがそのにもつはこぶよ!」 「ゆっくりてつだわせてね!」 子れいむは我先にと人間を押しのけて荷車を押します。 人間達は何か言いたそうでしたが、重かったので手伝ってくれるのはうれしく、いっしょに荷車を押して生きました。 「ゆ~っくり!ゆ~っくり!」 「ほらほら、がんばれ、がんばれ。」 子れいむ達だけ頑張らせるわけにも行かず、親ゆっくりも荷車を押します。 れいむ達がいたのは人里からすぐの所だったので、大した苦労もなく、目的地に着きました。 「おら、ここまででいいぞ、ありがとな。」 「ゆっくりがんばったよ!」 やりとげた達成感から人間の周りを嬉しそうに飛び跳ねるれいむ達。 人間はそれを迷惑そうにしながら荷車の中身を確認します。 それを見たれいむ達は野菜をくれるものだと思い、荷車を見ている男の周りで止まりました。 しかし・・・ 「ん、もういいぞ、ありがとな。」 「ゆっくり!?」 話しかけた男はれいむにお礼だけをして他の男と話し始めました。 聞いていた話と違う!! れいむは頬を膨らませて怒ります。 「おじさん!じょうだんはやめてよね!」 「ああ?」 「れいむたちにおやさいちょうだいね!」 「そうだよ!れいむたちがんばったよ!」 「そんなこと言ってないぞ。」 「にんげんはたすけるとおやさいくれるんだよ!」 「しょーだよ!ゆっくちちょうだいね!」 話しかけられた男はれいむ達が何を言っているのかと戸惑います。 そのとき、一匹の子れいむが男の後ろの家に野菜が置いてあるのに気づきました。 「ゆゆっ!おやさいだ!」 「れいむをだまそうだなんてばかなおじさんだね!」 「みんなでゆっくりわけようね!」 「あ、こら!」 れいむ達は男の足元を抜けて、野菜に飛びつきます。 「むーしゃ、むーしゃ、しあわせ~!」 「ちあわちぇー!」 初めて人間の野菜を食べた子れいむ達はそのおいしさに頬が解けそうです。 親れいむは野菜のおいしさと子れいむ達の喜びを見て、頑張ったかいがあったと思いました。 そこに、先ほどの男がやってきます。 「おい。」 「ゆっ!おじさんありがとね!」 「れいみゅたちはしゅっごいちあわせだよ!」 「このおやさいはかぞくでわけるよ!」 「・・・」 男は親ゆっくりを捕まえると荷車に向かいました。 「ゆゆっ!おじさんなにするの!」 「うるせぇ!おまえたちも悪いゆっくりだったんだな!」 「おかーしゃんをはなちぇー!」 「ゆっくりかえしてね!」 足元で体当たりをする子ゆっくり達を無視し、男は荷車に乗った箱を開けます。 そこには死なない程度に潰されたゆっくりれいむやまりさが詰まっていました。 「ゆぎゃああああああああ!」 「ゆっ!おかーさんどうしたの!」 「まだ空きがあってよかったぜ。」 親れいむが子れいむ達に逃げてという前に、男は素早く親れいむを箱に入れて重石を載せました。 「ゆぎゅぅ!」 絶妙な重さで親ゆっくりを拘束する重石。 男は動けないことを確認すると、足元の子ゆっくりを捕まえだしました。 親れいむは子ゆっくりが一匹でも逃げれるように願います。 そして、同じように重石を乗せられているゆっくり達の目線に気づきました。 れいむ達は先ほどまでゆっくりの詰まった箱を人里まで運んでいたのです。 嬉しそうに話すれいむ達の声を中のゆっくりはしっかりと聞いていました。 苦しそうな顔をしながらも睨み付けてくるほかのゆっくりを見ながら、親れいむは自分達の過ちにやっと気づきました。 れいむ達を全部捕まえた男は建物に荷車を運びます。 そこは円柱のような建物で真ん中には穴が開いています。 その下には尖がった山があり、上の穴から落ちてきたものを大体均等に麓まで運びます。 麓には山を囲むように檻がありました。 もし、穴から何か落ちてきたら麓の檻の中に入るでしょう。 その檻には既に何匹かのゆっくりが檻に入れられていました。 しかし、男が入ってきてもゆっくり達は反応しません。 そのゆっくり達は何かを我慢するように必死に流れてくるものを口に運んでいました。 開いている檻の前に来ると男は箱を開けてゆっくりを取り出して檻に入れて行きます。 一つの檻に数匹ずつ、男は手際よくゆっくりを詰めていきました。 先ほどのれいむ達は赤ちゃんを除いて運よく同じ檻に入りました。男がそうしたのかもしれませんが。 全部のゆっくりを入れると男はゆっくりに聞こえるようになります。 「お前達にはここでこれから暮らしてもらう。餌は上から降ってくるから好きなだけ食え。ずっとそこに置いてるからいつでも食えるぞ。」 男の声に酷いことをされると思っていたゆっくり達は安心します。 しかし、先に入っていたゆっくりの声が聞こえないのが気になります。 それも、檻の中で泣き始めた子ゆっくりの泣き声で霧散しました。 必死にあやす親ゆっくり達。 子を持たないゆっくりは先ほどのれいむ達を睨み付けました。 睨み付けられた親れいむは泣き叫ぶ子れいむ達をあやしながら、 「ごめんなさい。ごめんなさい・・・」 と、つぶやき続けました。 ゆっくりに説明した男は部屋から出て行きました。 そしてゴゴゴゴゴと何かが動き出す音が聞こえます。 「ゆゆっ?」 泣いていた子ゆっくりも泣き止み何が起こるのかと身を寄せ合います。 やがて、中央の穴から何かが落ちてきました。 「ゆゆゅ!ごはんだよ!」 ゆっくり達は男の言っていたごはんだと喜びます。 男の言っていたご飯は山に落ちて、大体均等に麓の檻の中に行き渡りました。 ゆっくりはやってきたご飯と強烈な臭いを味わうことになりました。 「ぐざいいいいいいいい!」 「ゆっぐりでぎないいいいいいい!」 「だずげでえええええええええ!」 先ほどまでの喜びもどこへやら、ゆっくりはその臭いから逃げ出そうと跳ねます。 しかし、頑丈な檻はビクともしません。 ここは人間の出した生ごみを処理する施設だったのでした。 人里から集められた生ごみは天井から落とされて悪さをして捕まったゆっくりに食べられます。 ここに来たゆっくりは死ぬまで生ごみ処理をすることになるのでした。 先ほどゆっくりに説明を聞かせていた男が仲間の下に戻ります。 その手には赤ちゃんゆっくりの入った箱を持っています。 「だちちぇええええええええ!」 「おがああああああぢゃああああああん!」 「ゆ゙うううううううううう!」 親から話された赤ちゃんゆっくりは箱の中で泣き叫びます。 しかし、男は慣れているのかまったく気にすることなく、先に準備して待っていてくれた仲間に声をかけます。 「すまんな、遅くなった。」 「きにするない。で、今日はどうだ?」 「大量、大量。」 そういって箱を揺すります。 「「「や゙め゙ぢぇ゙え゙え゙ええええええええ!」」」 「今日は一人一匹で大丈夫そうだな。」 男達は今日の収穫を喜びます。 男達の前には油を引いた鍋がありました。 男が説明しているときに火をつけたのか、油が飛び跳ねており、その熱さを物語っていました。 「んじゃいれるぞ。」 「おう、油を飛び散らせないようにな。」 箱を持っていた男は赤ちゃんゆっくりを箱から鍋に移します。 赤ちゃん達は助かったと顔を綻ばせて油の敷かれた鍋に落ちました。 「あ゙ぢゅいいいいいいい!」 「ぎゃあああああああああ!」 「ゆ゙っぐり゙いいいいいいいい!」 急に足元を襲う熱さに赤ちゃんゆっくりは逃げ惑います。 しかし、それを二本の棒が邪魔をします。 「おっと、じっくり焼かないとな。」 菜ばしを持った男達が逃げ惑う赤ちゃんゆっくりを捕まえようとします。 捕まった赤ちゃんは鍋に押さえつけられました。 「ゆ゙ぎゃああああああああああ!」 「ゔぎぇええええええええ!」 「ゆ゙っ!、ゆ゙ゅ!ゆ゙!」 そんなやり取りを数分繰り返すと、赤ちゃんゆっくり達は綺麗に焼きあがりました。 「どうやらできたな。それじゃ、いただきますっと。」 男達は赤ちゃんゆっくりを熱さに気をつけながら口に入れます。 赤ちゃんゆっくりを味わった男達の顔はみなしあわせそうでした。 「やっぱりうまいなぁ。赤ちゃんゆっくりは。」 「この仕事をやってる人しか知らない秘密だけはありますよね。」 「普通は気味悪がってたべねぇからな。こんなにおいしいんだが。」 「みんなが食べると俺達の仕事が無くなっちゃいますよ。」 談笑しながら赤ちゃんゆっくりを味わう男達。 鍋からはだんだんと赤ちゃんゆっくりが居なくなっていきました。 「ゆぐっ!おかーしゃんくさいよ!」 「がまんしてね!たべないとこのままだからね!」 「ゆ゙うううううう!」 建物の中では生ごみの臭いを何とかしようとゆっくりたちが生ごみを必死に食べていました。 しかし、食べても食べても生ごみは減りません。やっと減ったと思ってもまた新たにゴミが落ちてくるのでした。 「ゆぎゅうううう!もっどゆっぐぢじでね!」 「ま゙り゙ざだぢはまだゆっぐりじでないよ!」 「うう、おぇ゙ええええ!」 「れいむ、がんばってね!」 「ゆううううう、まだぐざぐなっだあああああ!」 そんなゆっくり達の悲鳴も聞く人は誰も居ません。 臭いで死ぬことはなく、傷つくこともないこの場所ではなかなか死ねないゆっくり達は少しでもゆっくりしようと必死で生ゴミを口に含みます。 それが無駄な行為であることにゆっくり達は死ぬまで気づきませんでした。 今まで書いた作品 ゆっくり水攻め ゆっくりの川流れ 天井のゆっくり ゆっくりまりさの水上生活 ゆっくり訓練 ぶるぶる とりもち 子ゆっくり きめぇまる 湖のまりさ このSSに感想を付ける