約 2,263,500 件
https://w.atwiki.jp/tetuji/pages/18.html
レース>けいはんな 2007 初レースとしてC4に出場。 2周目の1コーナーで隣の人と接触し、後続の落車の原因を作る(マジです)。 3周目、前の人をコーナーで膨れてぶつかりそうになりながら抜く。 4周目、伝説のインアウトアウトコーナリング。出口でコースアウトするかと思った。 C4にも関わらず、あまりのダメっぷりに落ち込んだのか、なかなか戻ってこなのであった…。
https://w.atwiki.jp/genshikenss/pages/283.html
筆茶屋はんじょーき1 【投稿日 2006/04/22】 筆茶屋はんじょーき 時は泰平の江戸時代 所は将軍様のお膝元たる江戸市中 一軒の茶屋を舞台に、物語は紡がれます… 荻上屋、通称”筆茶屋”では、看板娘の千佳が、こまねずみのように動き回っている。 もともと主人の道楽で始めたこの店は、開業初日から閑古鳥が鳴くようなありさまだった。 しばらくして、千佳と名乗る娘が切り盛りするようになっても、周囲の反応は冷ややかだった。 無口で無愛想。挨拶にもろくにできないような娘。 それが当時の彼女の評価だった。 しかし時間が経つにつれ、それが誤解だと周囲も気がついた。 確かに無口で無愛想ではあったが、それが彼女の極端な内気さによるものだと、内面はよく気が付く優しい娘だとしれた時、彼女とその店は、そこに欠かせない物になったのだった。 そのせいか、この店は妙に常連の多い店でもあった。 一番の常連は、この店の用心棒を自負する、笹原であった。 空腹で行き倒れていた所を救われた彼は、その恩に報いるべく、連日通いつめていた。 そうなれば、千佳の側でも無視するわけにはいかず、結局、団子と茶の報酬で、笹原の行為に報いることになったのだった。 ”筆茶屋はんじょーき” その日も”筆茶屋”は賑わっていた。 看板娘の千佳が、あちこち駆け回る。 そんな中、笹原はのんきに茶を啜っていた。 今日は一人ではなく、同じ長屋の住人である斑目が傍にいた。 「しかしよ、笹原。毎日毎日数本の団子と茶で、このように退屈を強いられるというのは、すこし安すぎはしないかね。お前ならもっといい仕事があるだろうに」 斑目が笹原の奢りの団子を口にしつつ、笹原に話し掛けた。 「そうでもないですよ」 笹原は苦笑する。 実の所、笹原自身にも、なぜこの仕事を続けているのかわからない。 ただ、彼女の力になりたい、そう思ったのだ。 笹原がその理由を知るのは、ずいぶんと先のことになる。 笹原と斑目の二人は、共に無言で茶を啜る。 ゆったりとくつろいだ雰囲気。 ろくに茶も飲めない貧乏浪人には、それが極上の甘露に思われた。 とはいえ、いつまでものんびりもしていられないのが、斑目の現実。 長屋の自分の部屋には、納期の迫った内職が待っている。 少々憂鬱になりながらも、 「ごちそうさん、また来るわ」 斑目はそう言い残して立ち上がり、長屋に向けて歩き出した。 「今度は奢りませんよ?」 笹原の軽口に笑って手を上げる。 やり取りに気を取られた所為か、斑目は向こうから歩いてきた、無頼な格好をした男と肩が触れた。 「失礼」 そう言って斑目は歩き出そうとする。 しかし相手は、斑目の肩を掴むと、顔面にこぶしを叩き込んだ。 斑目はもんどりうって倒れこむ。 「おう、人にぶつかっておいて、詫びの仕方もしらんのか?」 男が凄む。 「いや、だから失礼と…」 「それで済むわけがねーだろうが!」 大声で怒鳴りつける。 「おい、どうした」「なんかあったのか?」 その声を聞きつけたらしい、同じように無頼な格好をした男が集まってくる。 「ああ、人にぶつかっておいて詫びの一つもしない奴を、こらしめてんだ」 「ふん…確かに、逆さに振っても金の音もしねえ奴に見えるな」 「やっちまえよ」 男たちは、今だ状況について行けずに固まっている斑目の、胸倉を掴んで引きずり起こす。 笹原はようやく騒ぎに気付くと、慌てて立ち上がり、駆けつけようとして、 「やめんか!!」 凛とした女性の声に固まった。 それは笹原だけではなかった。 見渡せば、男たちも野次馬も、斑目まで固まっていた。 女が一人、男たちへ近づく。 「天下の往来で喧嘩か?まったく、見苦しい。どこか他でやれ」 女は自分よりも背の高い男たちを、真っ向から睨みつけて命令した。 「お嬢ちゃん。余計な事に口を挟まない方がいいぜ」 男の一人が、にやにやと笑いながら女に手を伸ばす。 女がその手を掴んだ瞬間、男は空中に弧を描き、背中から地面に叩きつけられた。 地面でのたうち回る。 「この女!!」 もう一人が殴り掛かる。 女はそのこぶしを難なく避け、足を払う。男がひざをつく。次の瞬間には首筋に手刀を食らって気絶した。 「そなたはどうする?」 女が問うと、残った男はいまいましげに顔をゆがめ、 「おぼえてやがれ!」 と、芸の無い捨て台詞を残して逃げ出した。 やんやの喝采の中、女はへたり込んでいた斑目を見下ろす。 「大事無いか?」 真剣そうな声に、斑目はただうなずく事しか出来なかった。 女の傍に、若い優男が近づく。 「咲ちゃん、危ない事はやめてよ。心配したよ」 「それなのに手を貸してはくれないのだな」 優男の笑顔での言葉に、咲と呼ばれた女はすねたように答えた。 「だって手を出したら、咲ちゃんは怒るし…あれくらいなら平気でしょ?」 「その物言いは気に入らん」 そのような会話を続ける二人を、斑目はぼんやりと見上げていた。 正確には咲だけを。 胸がうるさいほどに高鳴る。顔が赤くなる。呼吸すら忘れてしまう。 ふと咲が斑目を見た。斑目の様子に不審を感じたのか、心配そうに顔を近づける。 「本当に大事無いのだろうな?お主」 斑目はがくがくと首を縦に振る。 出番を無くしてしまった笹原も、二人を見つめていた。 正確には優男だけを。 何気ない動作一つ一つが、その男の強さを感じさせた。 自分の強さを確かめたい衝動が、笹原に沸き起こる。 吸い寄せられるように近づく。 優男と目が合う。 足を止める。 優男が無造作に近づく。一歩、また一歩。 そして笹原の間合いぎりぎりで足を止める。 睨みつける笹原に、優男は、無邪気な、一点のかげりも無い笑顔で、笑いかけた。 ごく一瞬の忘我。 気が付いた時には、すでに優男の足が間合いを割っていた。 呆然とする笹原に、優男は軽く一礼すると、背中を向けて咲の下へ歩いていった。 「何をしていたのだ?高坂」 「別に?」 二人のやり取りの声が遠い。 それほどに笹原は、自身のうかつさに憤慨していた。 同時に深く恥じ入る。 (気を逸らされた。もし実戦なら、俺は死んでいた。…くそ、なにが御宅流の目録だ。俺は、まだまだ、弱い…) 二人が去り、野次馬たちが散ってしまっても、笹原と斑目はいまだ固まっていた。 「あの…大丈夫ですか?」 荻上の声に笹原は我に返る。 「あ、ああ、大丈夫。ごめんね、心配掛けて…ほら、斑目さん」 言いながら、斑目を引き起す。 「別に心配なんてしてません」 荻上はぶっきらぼうに返すと、斑目の着物についた土ぼこりを払う。 「可憐だ…」 どこか遠くを見つめながら、斑目はぼそりと呟いた。
https://w.atwiki.jp/fantomdorapoke/pages/18.html
「フハハハッ!!雑魚のポケモン共を集めたところで、俺様を倒す事は出来んぞ!」 「そうかな!?やってみなきゃわかんねぇ!」 東京都練磨区、とある空き地は今日も騒がしかった。なにやら二人の少年が両手にニンテンドーDSをもって通信対戦をしているようだ… 「終わったな、所詮、のび太はクズなのだ!」 「ま…負けた…」 のび太と呼ばれた眼鏡の少年は対戦に負けたショックから泣き顔でうなだれる。端から見ればのび太が相手の少年の前でひれ伏しているようだった。 そんな彼を見下ろす少年…彼の名はブロリー…ではなく剛田武、知っている者は皆、彼の事をジャイアンと呼ぶ。 「ホント弱いよなのび太って…同じレベルのポケモン使って1ダメージも与えられないなんてまさに奇跡の戦術だよ君は。」 「うっ…」 敗者であるのび太を第三者として対戦を見ていた少年、骨川スネ夫は汚い物を見る目で吐き捨てる。悪い魔法使いのように濁ったその声で言われるとのび太は腹が立って仕方なかった… 彼らが今行った通信対戦、それは「ポケットモンスタープラチナ」、最近発売されたゲームソフトだ。のび太はこのゲームが限り無く弱かった。ジャイアンと何度か対戦した事があるのだが一勝もした試しがない。約三分後、カップラーメンが一つ出来るぐらいの時間になればジャイアンはのび太を倒している…そんな光景が何度も続いていた。 「くそ…何が悪かったんだ?何が理由で負けたんだ?」 「理由?ああ、それは全部さ、使うポケモン、技構成、相性、君は全てにおいておマヌケなのさ。」 「そ、そんなぁ…努力値っていうのもちゃんとやったのに…」 「どうせ全部意味の無い所に振ったんだろ?」 「‥‥‥‥‥‥‥‥‥」 図星、実はハピナスに攻撃の努力値を振るなど、とてもかっこいい事をしていた。全くの無意味である。聞けばのび太はポケモンのステータスの表示の見方が分からないらしい…もう一度一年生に戻って数の見分け方を覚えろと言ってやりたいところだ。 しかしのび太はよせば良いのにジャイアンにまた対戦を申し込んだ。のび太いわく今度はもっと強くなって勝つらしい… 高らかにジャイアンに宣戦布告を言い渡した後、のび太は逃げるように空き地を離れた。多分今の自分の顔はラディッシュのように赤いだろう…のび太はそう思いながら彼なりの全速力で家の方に駆けて行った。 「!!!」 一瞬、身が固まる。前方約5m…奴が来たのだ。 「きっとそんな感じで、世界には新種の生物が増えていくんだ。人間達が地上から居なくなった後にね。」 「へぇ~!流石デキスギさん、物知りね。」 「僕なんかまだまだ分からない事だらけさ。」 二人の男女が仲良さそうに会話しながらこちらに向かって来る。源静香、出木杉英才、二人とものび太など微塵も気がつかない。のび太は通りすぎて行く二人の後ろ姿を睨みながらブツブツと念仏のように嫉妬の言葉をこぼした。 「デキスギ…ソコニイナクチャイケナイノハボクダ、キミジャナイ…」 出木杉と一緒に並んで歩く少女静香に対して、のび太は恋心を抱いている。その為彼女が他の男と仲良さそうにしているのを見るのは若すぎる彼には爆発しそうな嫉妬心を抑えるのに必死だった。二人の姿が見えなくなり、のび太はその場を足早に立ち去る… 向かう先は青い友人の待つ自分の家、彼ならこの嫌な気分を吹き飛ばしてくれるに違い無い。彼の不思議なポッケの力で… ようやく家に到着するとのび太はただいまも言わずに階段をかけ上がって行く。ドタドタと響く足音が、彼の慌ただしさを表現していた。 「ドラえもーーん!!」 二階にある部屋のドアを持てる力の限りスライドさせ、のび太は目の前に居る青き身体に飛び付く。その奇妙な物体は好物のどら焼を食べていたようだ。食事の邪魔をされたのが不快だったのか、はてはのび太に触れられるのが嫌だったのか、あるいは両方か、青いヤツは温かくない目を彼に向けた。名をドラえもんという。狸のような外見だが、実は猫をモチーフにしているロボットだというのはあまりにも有名な話である。 野比のび太といえば重度を超えたトラブルメーカーだ。今度は何を持ち込んだのやら、ドラえもんは心底うんざりしていた。 「ドラえもん!ジャイアンに!」 「ジャイアンにポケモンバトルを仕掛けて負けた。今度戦う約束をしたから絶対に勝てる道具を出して…かい?」 「よくわかったね…」 「長い付き合いだからね。伊達に一年も同居してないよ。」 ドラえもんは22世紀の未来で生み出され、そしてのび太の居るこの時代にやってきた。目的はのび太を優秀な人物にする事、しかし彼はずっと変わらない…自分が来たのは逆効果だったのかもしれない…最近ドラえもんはそう思うようになっていた。 (のび太君の為にも、あれを使うしかないか…) ドラえもんは何も声に出さず、胸のポケットに手を入れた。思いの外あっさりと道具を出してくれる事が、のび太は純粋に嬉しかったようだ。足をバタつかせて道具の登場を待つ… 「異次元世界移動マシーン!!」 「わあ…」 ドラえもんがその名を言うと、ポケットから大きな板のような乗り物を取り出した。その形はあのタイムマシンに擬似していた。 「これを使うと、僕たちが居る世界とは違う世界に行けるんだ。もちろん、ゲームの世界にもね!」 「えっ!?じゃあ…その…ポケモンの世界にも行けるの?」 「うん!その為に出したんだ。」 この時、のび太はかつてない程興奮していた。ポケモンの世界…彼は何度かそれに憧れていた。本物のポケモンと会いたいと何度も思った。当然それは不可能な事だ…現実とは残酷なものである。しかし、ドラえもんにはその不可能を可能にする力がある。夢にまで見たポケモン世界へ行く時が来たのだ。 「ドラえもん!みんなも誘って良い!?」 「あっ、うん。」 「やったぁ!!」 子供とは無邪気なものだ。のび太はすっかり本来の目的を忘れていた。ゲームではなく、リアルでジャイアンを倒す!次にスネ夫だ!その後は憎き出木杉をじっくりと料理してやる!最後は静香と二人勝ちだ!のび太の強く意気込む。先ほどまでとは別人のように活気に満ち溢れていた。 数十分後、のび太の部屋には五人の少年少女と一匹の狸が集まった。のび太、ドラえもん、ジャイアン、スネ夫、静香、そして出木杉…本物のポケモン世界で冒険が出来る…彼らものび太と同じように興奮を隠せなかった。 一同はドラえもんが出した異次元世界移動マシーンに乗り込む。すると、まず出木杉が口を開いた。 「ポケモンの世界って、どこに行くんだい?」 「金銀!」 「やっぱり金銀だね。」 「二人がそういうなら私もそれで良いわ。」 「ええ~…僕はプラチナが良かったのに…」 「なんか言ったかのび太?」 「ん?僕なんか言ったけ?さあ行こう金銀の世界へ!」 ジャイアンに睨まれ、のび太はしぶしぶ了承した。意外にも行く先のポケモン世界はポケットモンスター金銀の世界、すなわちジョウト地方に決まった。何故金銀か?答えは簡単だ。彼らはそのゲームを噂でしか知らず、プレイした事が無いのだ。ルビー、サファイア、ダイアモンド、パール、プラチナと知っている世界に行くよりも、未知なる世界へ行きたい気持ちの方が大きかった。 「ルールはどうする?」 「先に殿堂入りした奴が勝ちで良いんじゃね?」 「それでいこう!」 ドラえもんはマシンのタッチパネルのような物を動かし、向かう世界を設定する。そして手元のレバーを引いた。 「行くよ!ポケモンの世界へGO!」 ドラえもんのテンションの高いかけ声と共に、マシンは発進する。まるで瞬間移動のように部屋から全員の姿が一瞬にして消えた…
https://w.atwiki.jp/dorads2/pages/53.html
すでにハヤテデッキが載っていたためαをつけた。αの意味はそれだけなのであまり気にせずに。 ジャイアンの友情 9 ほのおのこぶし 2 つきぬけるやり 2 あやかしこうもり 4 キラーウルフ 4 かみそりとかげ 4 ライオンかめん 1 ネズレンジャー 4 のろいのカメラ 3 ミニドラえもん 2 忘れろ草 3 タイムふろしき 2 スネ夫の代わりにジャイアンの友情を採用した。チームが完成すればパワー+20されるので強気で攻められる。 速攻性を重視しているため、スネ夫のコレクションを入れていないが、魔物が多く、全体的にコストも少なめにしておいたので、困ることはほぼない…はず。また、スネ夫のヒステリーの効果はタイムふろしきに任せることにした。 攻めにくい状況になったらのろいのカメラで直接ダメージを与えるが、忘れろ草でリセットしてしまおう。 ミニドラえもんは数少ない回復要因だが、攻撃的なものに替えるのもあり。 使用キャラは誰であれ、さまざまな攻撃方法が可能。ただ、しずかは避けるべきだ(カードのHPから考えて当たり前のことだが)。
https://w.atwiki.jp/dorakura-baseball/pages/12.html
さんじはん 投手 右投げ右打ち 概要 ドラクラベイスターズのリリーフエース候補。平均球速140kmの直球とカットボール。しこたま遅いチェンジアップを武器に三振の山を築く。安定した投球が魅力でしこたま登板する予定。
https://w.atwiki.jp/i_am_a_yandere/pages/1631.html
729 :ぽけもん 黒 22話 ◆/JZvv6pDUV8b :2010/06/11(金) 13 04 38 ID XfAuM+yJ ランの爪が僕の頭部目掛けて振り下ろされ、響く悲鳴。 その悲鳴の主は、あろうことかランだった。 僕の頭部目掛けて振り下ろされた一撃は、僕の頭のすぐわきを穿っていた。 僕は無傷だった。 ランは絶叫しながら、頭を抱えてその場に蹲る。 「ラン?」 シルバーが怪訝そうな声をあげ、ランに駆け寄る。 すぐに、いくつかの悲鳴が続いた。 倒れていたポポややどりさんも、頭を抱えてうめいている。 まだ生き残っていたロケット団員の内の何人かも同様だ。 ただでさえ意識が朦朧としている上にこの急展開。 僕はさっぱり事態についていけていなかった。 僕は頭に特に何も感じるところはない。 それはランに声をかけているシルバーも、数人のロケット団員も同様のようだった。 特定の人間だけが苦しんでいる? 苦しんでいる人達の共通点はなんだ? 女性ということ? いや、違う。ロケット団員に、僕らと同じように困惑している女性がいた。 じゃあ、なんだ? 苦しんでいるロケット団員を眺める。 そこで気づいた。 今苦しそうにしているのは、みんなポケモンじゃないか? そう思ってみてみると、苦しんでいるのは皆一様にポケモンのように見える。 「ラン、引くぞ」 シルバーも未だ何が起こっているかよく分かっていないようだったけど、苦痛に呻くランを背負うと、林の中に走っていった。 この判断の早さはさすがというべきだろうか。 彼が林に逃げ込む直前、彼と目が合った。 僕は彼の目から何も読み取ることは出来なかった。 僕は数瞬呆然としていたが、辺りに満ち溢れる苦悶の声で正気を取り戻す。 立ち上がり、フラフラとポポとやどりさんの下へ歩く。 遠くからでもよくない状態だということは分かっていたけど、近付くとよりはっきりと容態が伝わってくる。 二人とも、息も絶え絶えだ。 頭のほうの原因は分からないけど、二人とも、重度の火傷を負っていることは明らかだ。 特にポポは酷い。ランと直接ぶつかった右の翼は酷く焼け爛れ、まさしく、焼き鳥と呼んでも差し支えの無い状態になっている。 焼き鳥だ。ははは、焼き鳥か。 こんな悲惨な状況なのに、何故だか、急に可笑しくなってきた。 「ご、ゴールド?」 リュックから取り出した火傷治しを患部に吹きかけていると、ポポが苦しそうに僕の名前を呼んだ。 「なんだい?」 僕は震える声で何とか答える。 笑えて笑えて、こんなことをいうのも一苦労だ。 僕の尋常ならざる様子に怯んだのか、それとも、傷が痛むのか、震える声でポポが言う。 「ゴールドは……早く二人を追うです……。ポポは、いいですから……」 「ふ、ふふっ、二人? 二人って誰のこと?」 ポポは青ざめた顔で続ける。 「さっきの、二人組みです。……ゴールド? 大丈夫、です?」 どうやらポポはこんな状況にも関わらず、僕の心配をしてくれていたらしい。 ポポの真剣な顔がまた可笑しい。 「ああ、いいんだよ。くっく……だって毒が塗ってあったんだ」 「……毒……です?」 「そう! 毒! 僕のあのナイフにはねえ、猛毒が塗ってあったんだよ! 掠っただけでも死ぬようにってね!」 僕はもう堪えきれず、お腹を抱えて笑い出した。 この日のために用意した、特別なポケモンの毒。 旅の準備をしているとき、何気なくリュックの底に入れた毒ナイフは、僕の最も望んだ形で使われた。 「毒、毒、毒だよ! はっはっはっは! 毒って! はははははは! だからほっといても死ぬんだよ! うふふ、あはははは!」 「ごー……るど?」 「そうだよ! 死ぬんだよ! ひーっひっひ!」 不意に暖かいものに包まれた。 気づかないうちに、やどりさんが這ってここまできていたらしい。 火傷はポポに比べれば大したことないけど、謎の頭痛は感じているのだろう、鎮痛な面持ちだった。 730 :ぽけもん 黒 22話 ◆/JZvv6pDUV8b :2010/06/11(金) 13 05 15 ID XfAuM+yJ 「ゴールド、もう……」 「やどりさんも笑おうよ! こんなにおかしなことはないよ! だってシルバーは死ぬんだよ!」 子供の頃からの、一度は諦め、忘れた宿願がようやく叶うんだ。 嬉しくないわけが無い。 ……いや、本当は分かっている。 シルバーは何も悪くなかった。 僕は無実の親友を、愚かな勘違いで十年間ずっとうらみ続けて生きてきて、そして間抜けにも全てが手遅れになってから、ようやく真実を知った。 勘違いしただけならまだしも、勘違いから愚行を成し遂げてしまった。 稀代の馬鹿だ。当代きっての大馬鹿者だ。 こんな滑稽な話はない。 こんなにも笑えるのは、それは僕がとんでもなく滑稽だからだ! 僕はやどりさんに背中から抱きつかれたまま一通り笑い、そしてそのまま気を失った。 女の子の呻き声で目が覚めた。 僕は焦げた地面に倒れていて、隣にはやどりさんが、前にはポポが倒れて呻いていた。 起き上がって周りを見てみると、ロケット団は死体以外はもうどこにもいなくなっていた。 でもまだ日は高い。そんなに時間がたったわけではなさそうだ。 仲間に生じた異変に、僕達に構っている余裕なんか無かったのかな。 もしかしたら二人が撃退してくれたのかもしれない。 僕はといえば、あんなに愉快だったのが嘘のように、最悪な気分だった。 脳みそが鉛になったみたいだ。 きっと、それは焦げ臭い地面で寝たせいだけじゃないだろう。 僕は、気絶する前のことをできるだけ考えないようにした。 途中だったポポの翼の治療を機械的に行い、呻く二人を起き上がらせると、二人に肩をかして何とか歩き出した。 僕の手持ちの道具で出来る治療なんかたかが知れてる。あくまでも応急処置だ。 ちゃんとした治療を行うために、そして二人の頭痛の原因を確かめるためにも、急いで病院にいく必要があった。 ポケギアを取り出し、救急車を呼ぼうとする。 「……あれ? 圏外!?」 しかしこともあろうに画面には圏外の文字。 おかしい。旅のルートはすべて電波状態が良好なように整備されているはずなのに。 ロケット団に電波塔が倒されたりしたのだろうか。 しかし、これで俄然まずいことになった。 まさかこの一刻を争うって時に、救急車が呼べないなんて。歩いてポケモンセンターまで行けというのか。 ……立ち止まっている余裕は無い。 ここからだと桔梗市に戻るより、丁子町に行ったほうが近い。 だから僕は丁子町に向かうことにした。 しかしポポの火傷のダメージは、思ったよりもずっと酷いらしい。 通行所を越え、数百メートル歩いた頃には、ポポはもう歩くどころか自分の力で立つことすらできなくなった。 ポポは青い顔をして苦しげに息を吐いている。 飛行用の器具でポポを僕の背中にしっかりと固定すると、ポポを背負って僕達は再び歩き出した。 さらに、大きな誤算があった。 丁子町へと続く道を進んでいた僕達の前に現れたのは、湖。 そういえば、ここを通る以外に丁子町へと行く方法は無かったんだ。 意識が錯乱していたとはいえ、僕はなんて馬鹿な判断をしたんだ。 頭を抱えてその場に蹲り、そのままじっとしていたい欲求に駆られたけど、そんなことをしている場合じゃない。 背中のポポから、どんどんと命が失われていっているようで、怖かった。 その恐怖が、この状況から逃げだしたくて今にも消えてしまいそうな僕の正気を、かろうじて繋ぎとめていた。 しかしポポは飛ぶことなんてとてもじゃないけど出来ないだろうし、やどりさんも頭痛のせいで念力は使えそうになさそうだ。 なす術がないじゃないか。 湖を前にして途方に暮れる僕に、やどりさんが言った。 731 :ぽけもん 黒 22話 ◆/JZvv6pDUV8b :2010/06/11(金) 13 06 13 ID XfAuM+yJ 「……私が……泳ぐ……だから……捕まっていて」 息も絶え絶えだ。 言葉を話すのも辛そうなのに、泳げるわけが無い。 しかしポポの容態を考えると、とてもそんなことを行っている余裕は無かった。 僕はポポにチラと目をやると、意を決して水に飛び込む。 ポポが悲鳴を上げた。僕も呻き声を漏らす。 全身の火傷に水がしみる。 一刻も早く病院に行ったほうがいいのは僕も同じようだった。 やどりさんに捕まると、やどりさんはすいすいと進みだした。 さすが水ポケモン。その名前は伊達じゃないらしい。 しかしさすがに消耗しているようで、進むごとにペースはドンドン落ちていく。 僕が呼びかけるも、次第に答えてくれなくなった。 向こう岸が見えてくる頃には、もはや泳いでいるのか漂っているのか分からない速さになっていた。 首を後ろに回すと、真っ青な顔をして目を閉じているポポが目に入る。 唇は紫に変色しており、息は荒く、か細く、震えている。 今にも消えてしまいそうだ。 体温が大分下がっているみたいだ。体の半分も水に浸かってはいないのに。 仕方が無かったとはいえ、ポポを水に入れたのは失敗だったかもしれない。 しかし、この状態では湖を前にして留まり、体力の回復を待つわけにはいかなかった。 一刻も早い治療が必要だった。 焦燥が苛立ちに変わる。 僕は判断を誤ってはいないはずだ。 ……もう向こう岸は見えている。 僕も寒さでかじかんで、手足の感覚があまりないけれど、それでも泳いで向こう岸にたどり着くことは出来ないだろうか。 自分一人ならまだしも、ポポを背負ったこの状況で。 いや、リュックが浮き袋の役割を果たしているから沈むことは無い。 ならば行けるはずだ。 「やどりさん、やどりさんは一人なら向こう岸にたどり着けそう?」 「……いや、だ」 「え?」 「ゴールドを置いていくくらいなら、私も一緒に死ぬ」 一瞬の間が空き、気がついた。 やどりさんには僕達を見捨てて一人で助かってと言っているように聞こえたのか。 言葉が足りなかったな。この状況では誤解するのも無理は無い。 「違うよ、そうじゃなくて、僕はポポを背負ってこのまま自力で向こう岸を目指す。やどりさんは自分一人ならもっと速く進めるんじゃないかないかと思って」 言葉にして気づいた。これ、結局僕達を見殺しにして一人で進むってのと変わらなくないか? やどりさんにもやはりそのように聞こえたようで、厳しい声で答える。 「……ポポを置いていこう」 「……え?」 「ゴールド、冷静に考えて。湖を渡っても、町まではまだ何キロもある。ポポはもうもたない。どうせダメなら……」 「そんなことはない!」 「ゴールド!」 水面が声で波立った。 シンと静かになった空気を切り裂くように、冷たい声で続ける。 「ここで、ポポと一緒に死ぬ気?」 「……う……し、死なない」 「なら……」 「でも! ポポも死なせない!」 「ゴールド! お願い! 聞き分けて!」 「嫌だ! 絶対に嫌だ!」 頭では分かっている。もう駄目だ。 でも、諦めることなんてできない。 ここでポポを見捨てるくらいなら、いっそこのままポポと心中したほうがマシだ。 やどりさんの背を離れ、リュックを下にして泳ぎだす。 向こう岸が見えるとはいえ、僕の今の体力から言って、その距離は絶望的なほど遠い。 それでも、懸命に手足を動かすしかなかった。 732 :ぽけもん 黒 22話 ◆/JZvv6pDUV8b :2010/06/11(金) 13 06 41 ID XfAuM+yJ 「どうしたー? 大丈夫かー?」 遠くから唐突に、男の声が聞こえてきた。 半ばうかされたように振り向くと、遠くにボートが見えた。 釣り人みたいだ。助かった! 「助けてくださいー! 怪我人がいるんですー!」 渾身の力で声をはりあげた。寒さでみっともなく震えていたけど、今はそんなこと気にしている場合ではない。 僕に呼びかけたのでなくても構わない。僕に気づいてもらわないと。 「待ってろー! すぐ行くぞー!」 聞こえたか不安だったけど、しっかりとした声が返ってきた。 エンジン音とともに、水しぶきを上げてボートがこちらに近付いてくる。 三人で浮かんで待っていると、ボートはあっという間に僕達のところにたどり着いた。 釣り人のおじさんはすぐに僕達をボートの上まで引き上げてくれた。 「たまげたなあ。お前らどうしてこんなところに。それにこのひでえ怪我」 「あの、僕達、旅の参加者で、それで、ロケット団に襲われて」 「ロケット団! 奴らもうこんなところまで……しっかし、ロケット団に襲われてよく助かったなあ」 「運がよかったんです。でも、この通りパートナーは重症で、それに、ポケモンの様子が変なんです。皆頭を押さえて苦しがって……だから早く病院に連れて行かないと」 「そういや、今日は一人もポケモンを見なかったなあ。いつもは必ず餌をくすねてくんだが……っておめえ、これ酷い怪我じゃねえか! なんでこんな状態で水になんか入れた!」 「で、電話が通じなくて、どうしようもなかったんです。僕じゃ治せないし、すぐに病院に連れて行かなくちゃと思って」 いつの間にか僕は涙声になっていた。 説明をしているうちに岸にたどり着いた。 おじさんと協力して二人をボートから降ろす。 「電話が通じねえって……あれ、ほんとだ。おかしいなあ」 おじさんも自分の携帯電話を取り出し、不思議そうに画面を眺めている。 「いつもならこんなことねえんだが……。しょうがねえ、俺の車に乗れ! ポケモンセンターまで連れて行ってやる」 「あ、ありがとうございます!」 「礼は後だ。いいから早く乗せろ!」 急いで二人を車に乗せ(車の中が水浸しになって申し訳なかった)、町に向かうが、町のが近付くにつれ、様子がおかしいのに気づいた。 「……なんだ……煙?」 おじさんの声で視線を前方に移すと、確かに進路上から煙が上がっていた。 まさかここもロケット団に? 町を襲うなんて全盛期のロケット団でも滅多にやらなかったことだ。 多分違うと思いつつも、唾を飲む。 そういえば、復活後のロケット団は以前にまして過激になっていると聞いたような気がする。 市街地に近付くにつれ、事故が目に入るようになってきた。 それも一件や二件ではない、いたるところで事故が起きている。 「こりゃあ一体……」 おじさんも言葉を失っている。 「多分、原因不明の頭痛と関係あると思います。運転中に急に頭痛に襲われて……」 「朝、町を出るときはなんともなかったのに……」 そのまま車を走らせていく。 幸運なことにというべきか、警察の整理のお陰というべきか、道路を通ることが出来たのはありがたかった。 ようやく見えてきたポケモンセンターの前にはすさまじい人だかりがあった。 人がポケモンセンターに納まりきらず、道路に毛布がしかれ、寝かされている。 皆、一様に苦しそうな表情を浮かべていた。 人だかりの奥から、拡声器によって拡大された声が聞こえてくる。 「頭痛の原因は現在調査中です! 通常の怪我を負った患者を優先して治療していますので、ご協力ください!」 やはり、皆一様に頭痛に襲われているらしかった。 ただでさえ多発した事故のせいでパンク状態の病院に、治療のめどが立たない頭痛患者が山ほど押し寄せてきたんだ、病院は大混乱に陥っていた。 「助けてください! 大怪我なんです!」 人だかりの前まで来た僕は、ざわめきにかき消されないように、精一杯の声をはりあげた。 僕の声は届いたようで、すぐにタンカを持った人達が人ごみを掻き分け、病院の中から躍り出る。 僕が少し離れたところで止まっている車を指差すと、すぐに二人は車から運び出され、タンカに乗せられて病院の中に入っていった。 「ありがとうございます」 僕はおじさんに深々と頭を下げた。本当に、感謝してもしきれない。 733 :ぽけもん 黒 22話 ◆/JZvv6pDUV8b :2010/06/11(金) 13 07 14 ID XfAuM+yJ 「おじさんがいなければ、今頃、僕達は……」 「気にすんな。怒鳴って悪かった。てっきりお前がパートナーよりも自分の功名心を大事にする屑トレーナーかと勘違いしちまってな」 「いえ、そんな、本当に、なんとお礼を言ったらいいか……」 「お礼なんていい、いい。その代わり、困ってる奴を見たら、今度お前が助けてやればいい。俺も、昔旅に参加したとき、人に助けてもらったことがあってな。 それより今はパートナーの傍にいてやれ。ポケモンセンターに来たからもう安心だとは思うが、どうも様子がおかしいしな……」 おじさんも随分と困惑した様子だ。 確かに、この光景はどう見ても異様だ。誰もが言い知れぬ恐怖を覚えているだろう。 「はい、本当にありがとうございました」 もう一度おじさんに頭を下げると、僕は病院に入っていった。 病院の中は外より酷い状態だった。 頭痛にも個人差があるらしく、外に寝かされているのは比較的経度の人だったらしい。 多くの人は頭を抱えてのた打ち回り、いたるところから呻き声や叫び声が聞こえてくる。 人ごみを掻き分け、治療室の前までくると、僕はそこのベンチに腰を降ろした。 酷く疲労していたせいか、それとも安堵のせいか、こんな酷い喧騒の中にも関わらず僕はすぐに意識を失った。 誰かの呼びかけで目が覚めた。 目を開けると、目の前にはやどりさんが立っていた。 しばらく頭が回らず、ぼんやりとやどりさんを見ていたが、彼女は何も言わず僕の前に立っている。 そういえば、あんなに騒がしかったポケモンセンターがすっかり静かになっている。 「やどりさん?」 「なに」 「大丈夫なの?」 「うん」 そう答えるやどりさんにはまったく苦しそうな様子はない。本当みたいだ。 よく頭が回らず、ぼんやりとしていると、ちょうど職員の方が通りかかった。 彼女の説明によると、始まった時と同様に、唐突にポケモンの原因不明の頭痛は治まったという。 原因は相変わらずわからないが、ポケモンセンターの収容能力を超えているし、とりあえず症状は治まったので帰宅してもらった、と。 それで静かになっているのか。 尤も、多発した事故の治療のため、平時に比べて忙しいのは変わらないらしい。 ポポは見た目どおり重症だけど、治療すればちゃんと元に戻るらしい。 ポケモンセンターについた以上、命の危険はないと思ったけど、それでも一安心だ。 やどりさんの治療はもう終了したそうだ。 僕のほうも、順路を外れてこんなところにいる理由の説明を、郊外でジム戦に向け戦闘訓練をしていたらロケット団と偶然遭遇し、そして今に至るということにしてごまかして説明した。 ポポの治療が終わるまでここに泊まっていってもいいということになり、いつものように一室を割り当てられた。 割り当てられた部屋に入り、ベッドの端に腰を下ろす。 今は乾いてはいるものの、先ほどまで水浸しの服を着て、その上椅子に座りながら寝ていたので、体の節々が痛い。 それも加わって、ますます気分は重い。 やどりさんは僕の隣に座り、心配そうに僕の顔を覗き込んでくる。 「ゴールド、大丈夫?」 もちろん大丈夫じゃない。でも、彼女に心配をかけたくない。 だけど、彼女に気を使うのも億劫だった。 「うん、大丈夫だよ。服を洗いに行くついでにお風呂にいってくるから」 そういって、会話を終わらせる。 リュックは防水のため、中に水は入っておらず、幸い、換えの服がないということはなかった。 僕についてきたやどりさんと脱衣所の前で別れると、のろのろと服を脱ぎ、洗濯機の中に放り込んだ。 浴室には当然なんだけど、ほとんど誰もいない。 いつもなら広い浴槽を独り占めできることに少しは高揚感を覚えそうなものだけど、今の僕はまったく心躍ることもなく、ただ作業的に入浴を終えた。 734 :ぽけもん 黒 22話 ◆/JZvv6pDUV8b :2010/06/11(金) 13 07 46 ID XfAuM+yJ 脱衣所から出ると、すぐ前に相変わらず心配そうな顔をしたやどりさんが立っていた。 「遅かったから、おぼれてるかと思った」 「ははは、まさかそんな……」 あながちありえないとも言えなかった。 部屋に戻ると、すぐに床に就いた。 なかなか寝付けないが、何もする気になれず、布団に包まって丸くなっていた。 浅い眠りを何度か繰り返していると、いつの間にか外から日が差していた。 しかし起きる気になれず、壁のほうに向き直ると、またそのままぼんやりとし、眠るともなく、起きるともなく時間を潰す。 「ゴールド、ゴールド、朝ごはん、食べに行こう」 やどりさんが僕を呼ぶ声も、寝たふりをしてやり過ごした。 布団にこもっていても、一向に疲れが取れる様子は無い。 それどころか、ずっと横になっているせいでむしろ体は凝ってだるくなり、頭もますます曇っていく。 それでも、僕に動き出そうという気は起きない。 昨日から、僕は暗雲の中にいた。 今まで思い続けたことがすべて嘘だった。 そして僕は十年近い間、ずっと無実の罪を負い、苦しんで生きてきた親友を殺してしまった。 僕の今までの思いはいったいなんだったのだろう。 正義も何もない。僕はただの人殺しとなってしまった。 警察にすべてを告白すべきだ。 それはわかっている。 でも、僕はどうしようもない屑だった。 捕まりたくない。 まさか、こんなことになるなんて、思ってもいなかった。 僕は、罪の意識に、そして自分がしでかしたことの恐ろしさに責めさいなまれていた。 様子のおかしい僕を心配してくれているとはわかっていても、後ろにいるやどりさんの気配がうっとおしかった。 一人にしてほしかった。 昼食の誘いも、寝たふりでやりすごした。 日が暮れてきた頃だろうか、ちょっと前からいなくなっていたやどりさんが、人を連れて帰ってきた。 まさか警察? 寝たふりを続けていたけど、脈拍が俄かに速くなるのが分かった。 「ゴールドさん? 若葉ゴールドさーん?」 やどりさんではない、女性の声で呼びかけられる。 僕は目を強く瞑り、耳を閉ざした。 「昨日からこんな調子なんですよね?」 「はい」 女性の問いにやどりさんが答える。 「ゴールドさーん、起きてくださーい」 今度はそう呼びかけながら、僕の体を揺すってきた。 「どうしたんですかー?」 きっと僕が答えるまでこの調子で僕に構ってくるのだろう。 そう判断した僕は、意を決して目を開けた。 薄暗い室内に、白い服があった。 看護婦さんか。 僕は人知れず胸をなでおろした。 「……ほっといて下さい。具合が悪いんです」 相手が看護婦さんだと分かれば、僕がもう関わる理由はない。 ぞんざいにそう返答する。 「どこが悪いんですかー」 しかし相手は猫なで声で聞いてくる。 そりゃあ相手は看護婦。具合が悪いと言ったら原因を求めるのが当然だ。 「いいからほっといて下さいよ……寝てれば治りますから」 僕はそう言って、頭まで布団をたくし上げた。 ふう、とため息をついたのが聞こえてくる。 735 :ぽけもん 黒 22話 ◆/JZvv6pDUV8b :2010/06/11(金) 13 08 18 ID XfAuM+yJ 「困りましたねー。これじゃどうしようもないですよ」 「だからほっといて下さいって言ってるじゃないですか」 「そういわれましても、昨日からずっとこんな調子なんでしょう? お体を悪くしますよ?」 いっそ、悪くしたかった。 そのまま体調を崩して死にたかった そうして、一切の責任から逃げたかった。 「……ポポちゃんも心配してますよ」 そこで予期せぬ名が挙がった。そういえばポポはどうなったのだろう。 僕の疑問は言葉にする前に回答が返ってきた。 「目を覚ますなり、ゴールドさんを探して大変だったんですよ。一度見に行かれたら、安心されると思いますよ」 大変な騒ぎになったのは想像に難くない。 が、僕はそれでも行く気は起きなかった。 「しょうがないですね、それじゃ点滴しましょうか」 どうやら、ここにいる限り僕が体調を崩すすべはないらしい。 どんな抵抗を試みても、外部からの措置により治されてしまう。 「大丈夫ですよ、ちゃんと自分で食べれますから」 「それじゃあこれをどうぞ」 布団をはぐって顔だけ出した僕の眼前に、プラスチックの白いボトルが差し出される。 表面にはなにやら英字が印刷されていた。 「これは?」 「総合栄養ドリンクです」 昔食べた怪我治療用の食事が思い出された。 どうしてポケモンセンターという施設はこう怪しいものを開発(採用?)するスキルに長けているのだろうか。 こんな得体の知れないものを飲みたがる半病人がいるもんか。 「他にはないんですか?」 「他といいますと……これですとか」 そう言って看護婦さんが取り出したものはパッケージを水色にした以外は先ほどのものと同じように見えるものだった。 「これは?」 「総合栄養ドリンク、朝専用です」 「……朝専用?」 「はい。朝に相応しいすっきりとしたのど越しとキレにひたすらこだわった意欲作です」 栄養ドリンクに何を求めているのだろうか。 いったいどこに需要があるのだろう。市販されているわけでもなさそうだし。 「……さっきのでいいです」 「そうですよね。今は夕方ですものね」 そういう問題じゃない。 「ではどうぞ、ぐいっと」 看護婦さんに押し付けられ、僕はしぶしぶボトルのチューブを加える。 一口吸い込んだ瞬間、僕の口腔内に濃厚なフレーバーが充満する。 何これ、甘っ! 苦っ! あ、生臭っ! 何これ生臭っ! あ、でも酸っぱっ! 五つの味覚と複雑な香りが瞬時に僕の口内から脳天へ突き抜ける。 どう考えても人が飲むものではなかった。 「そーれいっきっ! いっきっ!」 看護婦さんは手拍子をしながら僕を囃し立ててくる。 いや何考えてるんですかあなたは! 「……いっき、いっき」 やどりさんまで、控えめではあるもののそれに唱和した。 何を考えてるんだこの人たちは。 というかこれを一口でも口に入れたことがあるのかあなたたちは! 特に病院関係者! 採用した人! 抗議しようと口を離しかけたその瞬間。 「……ちゃんと飲まなきゃ、だめ」 やどりさんの念力によって無理やり内容物が押し込まれる。 ちょ、ま、ま、あぁっ! 一瞬間のうちに、僕は今までの人生でおおよそ摂取したことのないようなおぞましいものに蹂躙され尽くした。 736 :ぽけもん 黒 22話 ◆/JZvv6pDUV8b :2010/06/11(金) 13 08 53 ID XfAuM+yJ 「これで、ゴールドも、元気に、なる」 荒い呼吸をして伏している僕を前に、やどりさんは安心げにそう言った。 僕が元気になったように見えますか、やどりさん。 「明日も調子が悪いようでしたらお申し付けくださいね。今度は朝専用をお届けします」 看護婦さんはそういって上機嫌で出て行った。 キレとかのど越しとか、そういう領域の飲料ではない気がするんですけど…… 明日はちゃんと食事を取ろう。 僕は固く決意した。 翌朝……の前に。 前日寝すぎたせいか、夜中の二時という中途半端な時間に目が覚めてしまった。 そのまま寝なおそうかと思ったけど、そこで僕は、僕の寝ているベッドの前に椅子を持ってきて、そこに座っているやどりさんに気がついた。 そーっと顔を見たら、目をつぶっている。 座ったまま寝ているらしい。 思えば、やどりさんはずっとこうして僕のことを見守ってくれていたのか。 申し訳ない気分になった。 なんだか寝付けなくなってしまった僕は、そっとベッドを抜け出し、身支度をしてポケモンセンターの前に来た。 誰もいない道路を、街灯がむなしく照らしている。 そこには、僕が来たときのような喧騒はまったくなかった。 あの時の記憶は鮮明に思い出されるが、あまり現実感がない。 現在の情景もあいまって、全部夢だったようにすら思える。 「……ゴールド」 いつのまにか、僕の後ろに来ていたやどりさんに声をかけられた。 「ごめん、起こしちゃったかな」 「……大丈夫、なの?」 そういえば、昨日に比べて気分は大分よかった。 考えたくないが、もしかしたらあの栄養ドリンクが効いたのかもしれない。 「う、ん。結構よくなったとは思うよ」 「……そう」 そこからしばらく沈黙が続く。 僕は黙って空を見上げていた。 町がすっかり寝静まっているおかげで、星々が綺麗に見える。 不思議なほど、心の中から澱みが消えていた。 「やどりさん」 「……何」 「僕、警察に全部話そうと思う」 「…………そう」 「ごめん、結局こんなことになってしまって」 「いい」 「え?」 「あなたが決めたなら、それで、いい」 彼女はそう言って、柔らかく微笑んだ。 それだけで、僕は少し救われた心地がした。 「……ありがとう」
https://w.atwiki.jp/litenovel/pages/29.html
僕の前には少女が立っている。身に纏うは萌える若草の色で少女と着物を分ける赤いラインが印象的だ。マンションのベランダに立つ姿はくすんだ空に良く映えていた。 彼女の前で伸ばした手は切られ、叩かれ(はたかれ)、曲げられて、結局のところ狭い空間で固定される。彼女の思惑通りに形作られ、きっと何年も何十年も掛けて育つのだろう。 「しかし、見た目十六の美少女が盆栽ってどうなんでしょう? 華道とか、茶道とか、和の趣味なら沢山あるんじゃないですか?」 右手に持った選定バサミで余分な枝を落とし、左手に持った針金で枝を形作っていく。手つきは慣れたもので、盆栽は野生的な装いを優美に変えていた。 「ほな、日本庭園のひとつやふたつ、買おておくれやすぅ」 僕のほうに向く時も厭くまで(あくまで)しなやかに、はんなりと。彼女の濡れ烏色の髪がさらりと舞った。 「無茶なこと言わないでください。歯牙ないプログラマの安月給じゃ、あなたを養うだけでも精一杯なんです」 僕は弱い抗議の声を上げる。彼女は手に持っていたハサミと針金を棚に置いた。コトリ。ベランダにも一匹いた。 そして、リビングに座っていた僕に向かって歩きながら言う。 「重々承知してはります。あんさんは駆け出しのペーペー。うちがここに居させてもろてるのはあんさんの善意に他なりまへん」 左手で右の袖を押さえると、右手を僕の顎に添える。 僕の前には彼女がいる。顎に手が添えられているだけだ。でも、僕はその先を期待して動けなくなる。 あぁ、抵抗しなくては。 そう思うものの僕は彼女から目を離すことができなかった。彼女流に言えば「赤こ赤こ」なった瞳が妖しく光る。 僕はこの瞳に逆らうことは許されない。望んだこととは言え、少し悔しい。 彼女はゆっくりと顔を寄せてくる。赤い唇に意識が集中する。ゆっくりと近づいてくる唇……僕は……。 「えぇーい。駄目です! 真昼間ですよ。夜にしてください、夜に」 目を瞑って身体の制御権を取り戻すと、彼女をトンと軽く突き飛ばした。 「まぁ、いけずなお人やわぁ。うちの心は知っとるくせに。ほんに関東の男は」 言っていることは恋人同士か、僕に好意を寄せる女の子の言葉だけど、実際にやろうとしていることは違う。真昼間からやられたら僕は疲れ果ててしまって今日一日無駄にする。やるときは寝る直前だ。そこなら時間を無駄にせず、体力を回復することができる。 彼女は身を起こすと、もう一度ベランダを見た。 「今日はおてんとさんもよろしいわぁ。天皇さんのお庭に行ってお散歩でもしまひょ」 踵を返すと音も無く足を運び玄関に向かう彼女。玄関の扉を開けると光が差し込んでくる。いつの間にか晴れたようだ。 彼女は「勝姫」という。 僕の十数倍は生きている日本の吸血鬼だ。 「天皇さんのお庭」と言うのは僕が住んでいるマンションの近くにある新宿御苑のことだ。明治時代に天皇家の御料地となったが、その後東京都に下賜されて今ではみんなの憩いの場になっている。 「厭きないですね、勝姫も」 「別に散歩はうち一人でいいんどすえ? そないなこと言わはるんでしたら、来なはんな」 プイ。そう言って足を速めて先に行ってしまった。 「あ、待って下さい」 僕は勝姫の後ろを歩きながら、梅雨の晴れ間を楽しんでいた。 新宿御苑の散歩道は舗装されていて、ゴミ一つ落ちていない。実に綺麗なものだ。いや、誰かがトマトを落としたのだろうか。つぶれたトマトが一つだけ落ちていた。あれも少ししたら片付けられるだろう。 後姿を見て勝姫のことを考える。 吸血鬼と言えば太陽や大蒜(にんにく)、信仰心のある十字架が弱点で有名だが、勝姫は全然平気だ。流石に胸を木の杭で打ちぬかれたら死ぬだろうし、銀の銃弾で撃たれたら怪我をするだろうけど、それは吸血鬼じゃない普通の人間と同じことだ。 勝姫の父親はキリスト教の敬虔な信者として有名な人だ。随分前に殺されてしまったけど。 そんなこともあってか、勝姫は西洋の吸血鬼とは異なる性質を持つ。太陽の下の散歩は大好きだし、大蒜たっぷりの餃子も食べるし、信仰心のある十字架に至っては勝姫が身に着けているほどだ。でも、血を吸う所は西洋の吸血鬼と一緒だし、肉を食らうから「鬼」であることに変わりは無い。 僕は眷属(けんぞく)になってから時々勝姫を自分のものにしたいと考えるようになった。眷属になる前は正直係わり合いになりたくなかった。確かに見た目は美しい少女だが、やはり人間とは違う。人間が狼に恋することがないように、吸血鬼にも恋することはなかったのだと思う。しかし、僕は勝姫と同じ世界に存在するようになり、恋をした。それも人間だったときとは異なる、いや、人間だったときよりも激しい感情。力を得たが故の劣情。勝姫を僕のものにするという征服欲。そう言ったものが新たに湧き出てきていたのだ。 とは言っても勝姫に逆らうことはできない。僕に出来ることと言えば、感情の狭間で揺れるだけ。 僕が考えにふける間にも勝姫はいつものお散歩コースを辿る。勝姫の後を僕はついていく。ゆったりとした仕草で歩く勝姫は非常に絵になる。濃い緑の中に着物の淡い緑が調和する。時折当たる木漏れ日が淡い緑を白く輝かせ木綿の柔らかな質感を伝えてきた。 そういえば勝姫は何も言わないけれど、僕との生活をどう思っているのだろうか。必要だから仕方なく一緒にいるのか、それとも僕に興味を持っているから、好意を寄せてくれるから一緒にいるのか。僕としては一緒に居てくれればどちらでもいいと思うけれど、本当のところはどちらなんだろうか。 そんなことを考えながら歩いていると、前を歩いていた勝姫が立ち止まった。 「どうかしましたか?」 見れば勝姫は森の奥に視線を向けていた。目を細め、見えない何かを見ようとしている。僕も視線をそちらに向けるが何も見えない。木々が生い茂るだけだ。 「おハナ、大丈夫どすえ?」 周りを見ても花なんか咲いていない。足元を確認するが踏み潰してもいないようだった。 「花なんて咲いてないみたいだけど」 「違うてはります。そのハナやありまへん」 勝姫は自分の鼻を指差した。あ、そういうことか。 僕は鼻をくんくんさせるが、何も臭わない。強いて言えば排気ガスが僅かに臭う程度だ。 「酷う酷う臭うてはります。うちの好かん臭いが」 言い終わらないうちに森の奥へ進んでいく。僕は勝姫の後を急いで追った。勝姫は着物だと言うのにまるで滑る様に移動する。見た目ではゆっくりと歩いているように見えるが、小走りでやっと同じスピードだ。 奥に進むと都会の森の中とは思えないぐらい当たりが鬱蒼(うっそう)としてきた。なぜか上からの光も地面に降り注いでいない。さっきまで雲ひとつ無い快晴だったというのに曇ってしまったのだろうか。 しばらく木を避けながら走ると勝姫が止まっていた。 僕は急いで近寄る。勝姫の前には赤い塊があった。赤くブヨブヨした塊。あれが臭いの原因なのか。 勝姫は袖で鼻と口を覆う。よっぽど臭いがきついらしい。 「唐柿(からがき)やありまへんか。なんでこないなところに……」 「唐柿?」 「今風ならトマトさんと言わはります。まっこと、けったいな食べ物どす」 なんだか分からなかった物体も勝姫の言葉を聴いて分かった。あれは「トマト」なのだと。しかもおびただしい数の。水分をなくして張りがなくなっていた。腐っているようにも見える。 しかし、それにしては腐ったような臭いはしない。どちらかと言えば鉄の臭いが辺りに立ち込めていた。親しみのある臭いのようにも思えるが、トマトからそんな臭いがするはずもない。 ビシュ。トマトの一つが破裂した音がした。それを皮切りに次々とトマトが何かを撒き散らす。 「確かになんでトマトがこんなところに」 本当に異様な光景だった。砂山のように盛り上がったトマトはあちらこちらで破裂しているため、蠢いて(うごめいて)いる様にも見える。トマトが動くはずは無いのにおかしな話だ。 「ほんに嫌やわぁ。天皇さんのお庭だというのにこないに汚しはって。あんさん、放下し(ほかし)といておくれやす」 うわ。山盛りの腐ったトマトを片付けるなんて僕の仕事じゃないだろうに。でも、妙な責任感のある僕は見てしまった以上、このトマトをどうにか片付けなければならない。 どうやってトマトを片付けようか考えようとしたが、僕にある疑問が沸く。そもそもどうしてこんなところに大量のトマトが持ち込まれているのだろうか。それに見た目はトマトかもしれないが、臭いは違う。この臭いは間違いなく血の臭いだ。 「これって、もしかして、もしかする?」 僕は恐る恐る聞いてみた。勝姫は眉を顰めた(しかめた)まま、目を伏せるように頷いた。 「人を食うてはります」 「でも、なんだってトマトが人を襲っているんだ?」 本当に謎だった。勝姫と会ってから毎日謎な事だらけだったが、なんとか納得できた。しかし、トマトが人を襲うなんて悪い冗談にしかならないようなことが現実に起きるとは思っても見なかった。 「こんトマトは『桃太郎』さん、言わはる種類。研究用に植物園で育てられていたもんやと思います。それがこん街の悪い気に当てられて血ぃを吸うようになりはったんかもしれへんなぁ」 暢気な口調で状況分析をして僕に伝えてくる。 「そういうのは早く言ってください。普通に片付けようとしてたら食われていたってことじゃないですか!」 勝姫はポンと手を叩くと僕のほうを見た。 「それもそうや。堪忍なぁ」 いや、絶対に許さない。わざとだ。僕が睨むと勝姫は案の定、目をそらした。 勝姫への追及は後にするとしても、目の前の仏様と悪い桃太郎をどうにかしなければならない。仏様をこのままにしておいたら罰が当たる。 ベトベトにつぶれていくトマトは最早一つも原型を留めていなかった。今は人間の形が見えてくるほどになっている。ほとんどのトマト果汁は地面に染み込んでしまったのだろう。 あ、そう言えばトマトはどうやって人間を食べていたんだろうか。トマト果汁で溶かしていたのか、それとも牙でも生えていて人間を食べていたのだろうか。今となってはトマトなのか血なのか判別すらできない状況だ。 僕がそんなことを考えながら躊躇していると、トマト果汁にまみれた死体が動いたような雰囲気があった。もうトマトが爆発しているわけではないし、あれだけの流血量から見たら生きている可能性なんて皆無だ。そのはずだ。……いや、そのはずだった。 たった今、僕の考えは否定された。赤い汁にまみれた死体が起き上がってきたのだ。 立ち上がるたびにポタリと落ちる汁。でも、決して汁は途切れることが無い。汁の下から人間の姿らしいものは出てこない。 「桃太郎さん、一丁上がりどすな。ほな、五郎はん」 勝姫はにっこりと笑う。 「やっておしまいなさい!」 ビシっとトマト製桃太郎を指差すのはいいが、僕は突撃する気は起きなかった。 見た目は赤いペンキを大量に掛けられた人間だ。しかし、ペンキよりも色がくすんでいて、ところどころがボコボコ泡を吹いている。どう見ても腐ってるし、汚い。あれを引っかいたり、噛み付いたりするのはごめんだった。 僕が躊躇っていると桃太郎が動いた。僕は構えて勝姫の前に出る。これでも一応眷属ではあるから主人を守る義務感みたいなものがある。 僕の方に走ってくる桃太郎はいきなり跳躍した。上から攻撃するつもりなのか。 顔を上げ桃太郎を目で追うが、上から攻撃をしかけるにはちょっと行き過ぎている。後ろに回りこむつもりなのか。僕はそれに気がつくと勝姫と入れ替わるように身を返した。 しかし、僕の想像とは反対に着地した桃太郎はこちらには目もくれずまっすぐ遠ざかっていく。もしかしたら、勝姫のオーラみたいなものを感じて逃げたのかもしれない。 「あれは人に害を及ぼすもんどす。追っかけて逝わし(いまし)ましょ」 勝姫の声と同時に僕も動いていた。 森を抜けて芝生のあるエリアまで戻ると、そこはパニックになっていた。あのトマト製桃太郎が人々を襲っている。いつの間にか増えて三体はいるようだ。色々なところに散らばっているところを見ると、僕たちが追いかけていた桃太郎以外にも居たみたいだった。 桃太郎に襲われたと見られる人から赤いトマトが湧き出ていた。先ほど見た光景が思い出される。全身をトマトで覆いつくされた人間の姿。桃太郎に襲われると、襲われた人も感染して新しい桃太郎になるという仕組みなのだろうか。 「これはまずいですね。汚いとか言っている暇はないみたいです。勝姫、あの鬼の弱点って分かりますか?」 僕はいつものように勝姫に敵のデータを聞く。その間にカラーコンタクトを外し、隠していた赤い目を露出させた。服の下に隠しつけていた手甲から両刃の剣を引き出す。戦闘準備完了だ。 「まず、桃太郎はんだけあって、あのドロドロした奴は非常に強力な神さんの力に溢れとります。直接触れてはなりまへん。あと、中々しぶといお体のようどす。足を切って動きを封じなはれ。うちが最後にどんど焼きにしはります」 勝姫は赤い目で敵の本質を見抜く。自分で戦う能力を持っていないから、僕みたいな眷属が戦うのだ。そして、眷属にはそれだけの力がある。 「了解。行って来ます」 一番近い桃太郎に狙いをつける。その桃太郎は必死で逃げようとして転んでしまった女の子を襲おうとしていた。僕は足の筋力を一時的に増加させる。日頃の運動不足からいつも筋力を強化しておくと歩けないほどに破壊されることがあるからだ。 桃太郎が女の子に襲いかかろうと手を伸ばした。 僕は咄嗟にその手を掴んだ。 「ぐあぁあ!」 焼け付くような痛み。「何してはりますの!」後ろで勝姫の叱咤の声が聞こえる。咄嗟のこととは言え忘れていた。こんな身なりでもこいつは聖なる存在なのだ。僕ら鬼と相対するもの。信じられない話だが、こうやって身を焼かれるとよく分かる。 僕は焼け付く手を放さず、女の子のほうを見た。女の子は少し放心しているようで、桃太郎から目を離せずにいる。 「逃げて。はやく!」 僕が叫ぶと女の子は我に返り、立ち上がって逃げていく。 十分に離れたことを確認すると僕は手を離した。掌を確認すると痛み以上にすごいことになっていた。皮膚はもちろんのこと、肉まで溶けて骨が白く見えていた。これはひどい。 「やったな!」 逆恨みもいいところだが、僕は両手の手甲につけられた刀を確認する。手甲に仕込まれているものだから、あまり長くはない。相手の間合いに入り、掴まらないように足を切断しなければならない。 幸い桃太郎の動きは直線的なようだから、隙をつけば片足ぐらい切断できそうではあるが、油断は禁物だ。何せ相手は硫酸のお化けのようなものだから切断するときも慎重に慎重を重ねなければ色々なところが溶けかねない。 僕は痛みが続く溶けた手を確認する。ゆっくりと白い煙が上がって再生が始まっているようだが、流石に祝福された赤い液体の影響で再生速度が鈍い。 桃太郎は僕に向き直る。真っ赤な液体で覆われた顔の真ん中に黒い穴が開いた。あれが口なのだろうか、方向の定まらない牙が蠢いている。 『鬼め……邪魔立てするか』 頭に響くような声。これは音ではない。しゃべっているのも目の前の桃太郎ではないのだろう。 「これはこれは彦五十狭芹彦命(ひこいさせりひこのみこと)。お久しゅう。あんじょう、お方さん(おかたさん)のお力やったんか。明け透けやなぁ。ほんに野暮なお人やわ」 勝姫がいつの間にか僕の後ろに立っていた。眉がよっているところを見ると、結構怒っているらしい。 『懐かしい臭いだ……。微かな吉備の臭い。まだ血が残っていたか』 なにやら因縁を感じさせる言葉。彦五十狭芹彦命と言う皇子は桃太郎のモデルになった人物と言われている人だ。桃太郎の物語が大和朝廷と吉備国の戦争を伝えたものだとも言われている。だとすると勝姫は吉備国の子孫なのかもしれない。 「そないなことは、どうでもよろしゅうおすえ。お方さん、狂われなはったか。天皇さんのお庭でこないなこと、許されることやおまへん」 ピシリと言い放つ言葉。トマトの桃太郎はそれだけで固まったかのように見えた。もっとも鬼に注意されるとはご先祖さんも思っていないだろうから、驚いただけかもしれないが。 『ほお……。飼われて主になついたか。良いことだ。……だが、その赤い目は節穴か。ここに住み着く鬼どもが見えぬとは』 皇子の言葉は新宿の空に染みる。皇子の言う鬼が何か僕も勝姫も分かっていた。この半年間、それと戦ってきたのだから。 この街は「気枯れ」している。いわゆる「穢れ」と同じ意味だ。 「気ぃ無うなっているだけどす。お方さんの様に気ぃ無うなったら(のうなったら)放下すことばかりやしたら、国の形になりまへん。わずかばかり、お知恵が足り取らんと違はりませんやろか」 相手を持ち上げている言葉遣いではあるが、言っていることは馬鹿にしているとしか思えないような言葉だ。相当頭に来ているらしい。こめかみが震える。ヒクリと。桃太郎もそんな感じに見える。 『鬼が言うてくれる。お前に神気が分かるとも思えぬがな。……まぁよい』 話をしている間に周囲には人がいなくなり、いつの間にか三十人ほどの桃太郎に囲まれていた。目の前の桃太郎も口を閉じてしまい、後ろに下がるとどれが皇子かわからなくなった。もっとも皇子は実体化しているわけではないのだろうけど。 とにかくピンチに陥ったことは確かだった。 突破しようにも相手は触れたら溶けてしまう聖なるトマト。僕と勝姫のどちらかが犠牲になったとしても突破出来そうになかった。 「もうおしゃべりタイムは終わりですね」 さて。 「僕が道を切り開きますから、後についてきてください!」 そういうと手を交差させてトマト人間に突っ込む。トマト人間はゆっくりと僕に掴みかかろうとするが、対峙した瞬間に両腕を斜めに振り払う。四つ切。続けて振り下ろした反動を利用し、前方宙返り。後ろから迫ってくるトマトに踵落しでぶっ潰す。トマトの腐汁が飛び散り、僕の肌を焼く。 伏せるように着地すると回し蹴りをして左右のトマト人間を転倒させ、倒れてくる頭を目掛けて手甲の刀を突き刺した。 すぐに引き抜くと両腕を伸ばし、回転しながら正面に現れたトマト人間に二連撃を食らわせる。これで五体。一瞬ではあるが脱出口が開ける。 「勝姫!」 僕が叫ぶと勝姫は僕の背中と肩を踏み台に空へ飛び上がる。華奢な身は脱出口を通り、軽やかに赤い輪の外へ着地した。僕はそれを見届けると再び閉じた輪に目を向ける。 五体を倒しただけではあるが、赤い輪は何やら怒りに満ちているように見える。先ほどのように簡単に倒すことができないかもしれない。 赤い頭の隙間からチラリと勝姫の姿が見えた。こちらを見ている勝姫の目は冷たい。僕が突破できなければ見捨てる気なのだろう。彼女にとって僕は換えのきく食べ物兼護衛に過ぎない。溶けても彼女を守りたいと思った僕の感情は彼女には伝わらない。伝えたところでどうにかなるとも思えないが。 赤泥に塗れた腕が僕に伸ばされる。まずは刀を封じるためか腕が押さえられた。強い力がいくつも加わる。服を通じて染み込んで来た腐汁が皮膚を溶かす。 もう駄目かもしれない。このまま僕も赤く溶けて混ざってしまうのか。暗い考えに囚われていく。 「悟郎はん!」 叱咤するような声。勝姫の叫びが僕を覚醒させた。目が覚める。 勝姫を守っただけでは満足できない。ドクンと。僕の心臓が鳴る。 何のために守るのか。何のために戦うのか。僕の奥底にある本能が叫ぶ。 「うおぉぉぉ!」 言葉にならない叫びを上げて、服が、肉が引き千切られるのを構わず腕を振り払う。音を立てて筋繊維が千切られるのが分かった。 ブラリと力の入らぬ両手を見る。幸いにも手甲から伸びた刀は外れていない。 僕は体を回転させると両腕を鞭のようにしてトマト人間に叩き付けた。重さで勢いを増した刀が頭を叩き割る。脳を潰されたトマト人間は芝生に転がった。 僕はこのやり方に手ごたえを感じると体を回転させながら、赤い輪に突っ込む。大きく伸びた刀は赤い腕を切り刻む。時々飛び散る赤い汁が僕の顔を溶かしていく。 さらに回転を加え、次の獲物に右腕の刀が当たる。首筋に刀が食い込むと肘からブチリと僕の腕が二つに分かれる。溶けた筋繊維が激しい動きについていけなくなったらしい。左腕も見ればユラユラと力なくゆれていた。 僕は足を確認する。両方の足はジーンズこそ赤く濡れてはいたが筋力は問題ないようだ。包囲網は一点を狙っていたお陰もあって大分崩れてきている。痛みで朦朧とするため、痛覚を感じないように体内麻薬も限界まで放出していた。あと数分で脳が使い物にならなくなるかもしれない。 顔を上げると若草色の着物が見える。こちらをまっすぐに見据えていた。僕は最後だと言わんばかりに足に力を入れると、赤い壁の中を突き抜けるように走った。 途中、髪の毛がひっぱられ、頬がひっかかれ、わき腹が抉られたが、勝姫の赤い目に引かれるように通り抜ける。 気がつけば赤い輪の包囲網を突破していた。 「よお、きばりやした。あとはうちに任せておくれやす」 勝姫は僕の前に一歩踏み出すと右手をトマトの泥山に向けた。 一言。 何かを呟いたかと思うと、勝姫の手から炎が飛びだす。龍を思わせるかのような炎は生き物のように赤い泥山を絞り上げた。炭化した臭いが辺りに広がる。 何分も炎は焼いていただろうか。 勝姫が炎をしまった時には赤い泥はどこにもなく、ただ黒い焦げ跡だけが残されていた。凄まじい怒りの痕跡が感じられた。 「ほな、帰りまひょか」 僕は勝姫の笑顔を見た瞬間、安堵感が広がった。 「えぇ、帰りま……」 役目を終えたことを知った僕は最後まで言えずに気を失ってしまった。 頭が撫でられる感触が僕に伝わる。やわらかで小さな手は心地よかった。 目を開けると勝姫の顔が近くにある。見えた視界から考えると僕はリビングのソファーに寝かされ、膝枕をしてもらっているらしい。ふと思い出したように右手を動かす。動いた感触があった。 ゆっくりと持ち上げて顔の前に右手を翳すと、溶けてなくなっていたはず右腕は元通りになっていた。どういうわけか服まで修復されている。 「どうかしなはったか?」 勝姫が不思議そうな顔で覗き込んだ。僕は右手を握ったり開いたりして問題ないことを確かめるとゆっくりと勝姫の膝枕から起き上がった。 そして勝姫の方へ体を向ける。 「桃太郎は?」 僕の記憶では桃太郎は勝姫が炭にしたはず。だが、僕の腕や服にはそもそも桃太郎と戦った形跡がない。一体あれからどうなったのだろうか。 「桃太郎? あぁ、桃太郎侍なら今からどすえ」 勝姫が指差すテレビを見ると確かに時代劇が放映されるところだった。いや、そうではなくて。 「テレビではなく、あの赤いドロドロに溶けたトマトの妖怪で、彦五十狭芹彦命が操っていた奴です」 綺麗な眉が山になる。本当に知らないと言った表情を返された。 「悪い夢でも見はったんやなぁ。ほんに硬い枕で堪忍や」 白を切っているかどうかわからない。勝姫の細められた目の奥は僕では読み取ることが出来なかった。ただ「赤い」ことしか分からない。 「ふわぁ」 勝姫が口元に手を当てて欠伸をした。 「……今度はあんさんが枕になっておくれやす」 そういうと僕の膝に頭をのせる。まだ承諾の意を表したわけではないが、拒否しようとも思っていないのだから、そのまま受け入れた。 すぐに眠りについた勝姫から視線を外し、窓の外を見ると赤い月が上っていた。すでに夜になっている。僕はどこから夢を見ていたんだろうか。勝姫の赤い目を見たときからか。それとも森の中に踏み込んだときか。 それにしても夢にしてはリアル過ぎた。今でも肉の千切れる嫌な感触が残っている。……ような気がする。 でも、肉体は再生しても服までは再生できないだろうから、やっぱり夢だったのかと思う。 夜空から勝姫に視線を戻すと、淡い緑色の着物に赤い飛沫みたいな模様が見える。 「あれ? この着物ってこんな模様だったかな」 疑問に思うも着物の模様なんて僕は詳しくないし、近くで見たわけじゃなかったから自分の記憶に自信が持てなかった。 まぁ、いいか。きっと夢だったに違いない。もう一度眠ればいい夢を見れるかもしれない。 あぁ、そう言えば勝姫に血をあげなきゃ。 でも、もう眠い。おやすみ。勝姫。 僕と勝姫は折り重なって眠った。
https://w.atwiki.jp/hengokurowa/pages/228.html
平安京の開けた通りにて相対する二人の女性。 一人は一言で例えるならば、彼女は『精悍』の言葉ががよく似合うだろう。 青みがかかった銀髪と、黒のジャケットと言った衣装は大人びた姿を引き立たせる。 「何故だ……」 だが、そんな彼女は今は狼狽しながら転がって襲い掛かる攻撃を回避する。 相手は宙を舞う鳥のように、血染めの月をバックにするかのように空高く逃げていく。 距離は五メートルかそこいら程度だが、空に逃げられては素手の現状では完全な間合いの外。 どうあっても素手だけで届く状況ではない。 月をバックに空を舞うのは黒を基調とした軽装に黄金のラインが施され、 白マントを羽織った緋色の髪の女性。 その手には短刀が握られており、それらすべてが彼女にとって見覚えのあるものだ。 忘れるはずがない。嘗ての禍根であり、今を共に生きる親友なのだから。 「何故君が刃を向けるんだ───ソーン!」 だからこそ彼女、シルヴァは理解できなかった。 空の世界を脅かす強大な力を排除する形で安寧を保つ、 全空最強の騎空団『十天衆』の彼女が何故狙ってくるのか。 少なくとも今のソーンは、そんなことはしないはずだと。 「……私は、十天衆の誰よりも強くなくちゃいけないの。」 「え?」 簡単な話だ。シルヴァが知る『今のソーン』ではないということ。 天星器に唆されたことで本物の化け物になろうとした魔眼の射手。 強くなり続けて、自分が踏み躙ってきた人の為にも化け物になろうとする。 十天衆も、身を寄せる騎空団の団長すらも倒して誰よりも頂を目指す。 シルヴァたちを裏切らないで済むと、悪魔の囁きを信じ続けたあの頃の彼女。 弓を持ってない都合射手からは離れてしまっているが、今の彼女には関係なかった。 化け物だと証明できれば、それでいいのだ。 「私は強い……誰の手の届かないぐらい、高みにいないといけないの!」 暴走と言えばそうだが殺し合いに乗るとは少々違う。 ただ強さを証明する、純粋にそれだけが今の目的になる。 でなければ、此処に来る以前の十天衆が生きてることへの説明がつかない。 あくまで最強を示すだけであり、最低限のブレーキは備わってる状態だ。 では、十天衆に匹敵してるわけではない相手と戦う理由はないのでは。 彼女を知ってる人物ならそう思うだろうし、実際のところその通りだ。 だが、此処で相対するシルヴァは彼女が知るシルヴァよりも未来の存在。 自分が知る彼女よりもずっと強くなっていることが、魔眼の視覚だけでも察せられる。 ほんの小さな確率でも戦うべき相手だと思えたのであれば、戦うつもりだ。 「君に何があったかは分からない……だがソーン、 もし其処へ行こうとするのなら、私がやることは一つだ。」 化け物になるというのなら撃ち落として絶対に止める。 あの時メフォラシュでソーンと戦ったときにそう告げた。 彼女がどんな理由でもう一度其処を目指すのかは理解できないが、 全身全霊を以って彼女を人の領域に引き戻す。そう決めたことだ。 一度だけ、しかも入念な準備をして一か八の賭けでもぎ取った一勝。 あれを勝ちと呼べるものではないのは自分でも分かっている。 今回も彼女の本来の武器である魔導弓ではないというのを鑑みても、 勝てるかどうかと言われると頷けるものではないだろう。 (だからと言って、諦めるつもりはない。) 憧れてるなら追い続けろ。 歩みを止めてしまえば追いつくことなんてありはしない。 一度しか勝てなかったなら、二度目を掴みとるだけ。 「ッ!」 思考を纏めているとソーンは襲い掛かる。 鳥のように急降下する相手に防具もないシルヴァは避けるしかない。 最強の弓使いと呼ばれた彼女とは言えども短刀の技術力は、 少なくとも同じ十天衆のカトルには遠く及ばないだろう。 しかし彼女は元々狩人としての技術が備わっている人物。 短刀を使うことになる機会は少なからず存在してることにくわえ、 飛翔術による飛行で自由な移動が可能だ。 「逃がさない!」 避けてもすぐに旋回しソーンは背後を狙う。 振り向きながら咄嗟に回し蹴りをするも、 宙を舞いながら今度は頭に踵落としを叩き込まれる。 「グッ!」 脳を揺さぶる威力だが、やはり格闘技は専門外。 意識が飛ぶような一撃には至らず怯むことはなかった。 頭上の足を掴もうとするも、蹴りの反動で一回転して回避しつつ再び空へを舞う。 こうなっては捕まえようがない。 (分かっている。弓だけが強くて彼女は十天衆ではない。) 空を自在に舞う飛翔術や魔眼と呼ばれるほど異常な視力、 多くの人が喉から手が出るほど欲したであろう技術や才能。 それらを併せ持った人物だからこそ、全空最強の騎空団が一人とも言える。 嘗て彼女に憧憬、ないし嫉妬してしまったのもそういうところだ。 (真っ向勝負で挑んで勝つのは極めて困難だ。なら───) シルヴァは彼女から逃げるように走りつつ、背負うデイバックの中へと手を突っ込む。 有事の際に何か取り出せるようにと、最初に開けっ放しにしていたのが功を奏した。 だから取り出す際に開けるという動作が必要なく、ソーンは僅かに動きに遅れる。 背負った状態では何が取り出されるかはシルヴァ自身にも分からない。 完全にギャンブルだ。彼女は基本支給品も殆ど把握できてない状況で、 武器となりうるものを引かなければならないということになる。 上空から迫る彼女に対して、手にしたそれを取り出す。 (これは───) 引いたのが武器だったので、接近するのをやめる。 ソーンにとってその武器は恐らく銃だとは察したのだが、 (あれは───銃……よね。) ただ素直に銃と受け止めていいのか悩む。 いや、確かに彼女は銃の知識は詳しくない。 拳銃ならエッセル、狙撃銃ならシルヴァの方が理解がある。 銃らしき引き金もあるし銃床もあり、スコープも備わってる。 あれが銃ではない、と言い切るのは流石に出来ないものだ。 一方で、銃でありながら弾丸を装填するべき部分が存在せず、 その代わりに緑色に輝く何かが入ってるのが外からでも伺える。 銃身も剣のように細く、そも円筒状ですらなく中が見えている状態。 剣や鈍器と言われると少し納得してしまう程に普段見ない形状の武器。 (でもあれは間違いなく銃。それもシルヴァの得意な狙撃に使うもの。) 形勢逆転とも言えるが、此処で逃げるわけにはいかない。 本当の化け物が、勝てる勝負だけするわけがないのだから。 (確か団長も、これと似たようなものを持っていた。もしそうなら……) シルヴァにとってこの武器を使うのは初めてだが、似たものを見たことがある。 団長が装備していた銃の武器と酷似した形状のそれは、紛れもなく銃だと。 すぐに構えながら、彼女のいる空へと銃口と思しき部分を向けて引き金を引く。 思ってる通りの武器であれば、ソーンなら当てずとも勝機のある武器だと。 引き金を引いた瞬間、その予想通りの答えが出る。 「ッ!?」 なぜならその銃が発射したのは確かに弾丸だが、 緑の光条を強く放つ、光の弾丸だったからだ。 名をアダマント・レイ。存在しない空島の記憶を宿した化身が握る、 超磁力で加速させた弾丸が光条となる銃───要するにレールガン。 勿論こんなのを当てれば普通に一撃で命を奪い取る代物。 しかしシルヴァに当てるつもりはないし、寧ろ当てずとも勝てる。 (しまった、眼が……!?) その理由がこれである。 視界が闇に覆われて、何も見えない。 ソーンにとって最も弱点となりうるのは───光。 魔眼は異常な視力を発揮するが、それが仇となる。 強い光に対して、彼女の魔眼は常人以上にダメージが大きい。 本来ならば閃光弾レベルの威力でもなければ、 彼女へこれだけの決定打を与えるのは厳しいだろう。 見知らぬ武器を前に注視しつづけた結果の産物である。 (やはり、分の悪い賭けばかりだ。) 綱渡りとも言える賭けをして、 ようやく勝てる見込みが出てくる。 あれから強くなったものの、やはりまだまだだ。 そう自嘲しながら銃を捨ててると同時に跳躍して近くの塀へ、 更に高い門へと次々に飛び移り、そこからもう一度跳躍。 空を舞うソーンの頭上へと到達し、その背に蹴りを叩き込む。 「ッ!」 視界が闇の中回避などできるわけがない。 自分よりも遥かに洗練されてる足技。 苦痛に顔を歪めながら地面に叩き落される。 視力が少し回復して立ち上がる頃には、シルヴァが目の前に立っている光景。 この間合いで下手な格闘技よりも優れた彼女の足技を相手に、 短刀も落とした現状相手できるかと言われると流石に不可能である。 「シルヴァ……」 「ソーン、私は言ったはずだ。 君が本物の化け物になろうとするなら、 私はどんな手を使ってでも君を撃ち落とす。 もう誰にも化け物とは呼ばせない。私にも、君自身にもだ。」 『我から見れば、うぬはこの上なく人らしいがな。』 十天衆を下す連戦の最中。オクトーに言われた言葉。 誰よりも強くあろうと、化け物でいようとしている姿は、 この上なく人間に見えていたのかもしれなかった。 「シルヴァ……」 起き上がった彼女へと手を差し伸べる。 誰の手にも届かないぐらい高みにいた自分へ、 差し伸べられるその手は、自分以上に高く存在する月か太陽かのように。 「君が全空最強の十天衆であろうとも関係ない。 どんなに高く舞おうとも、私が必ず君を皆の場所へと───」 「別に、それに問題があるとは到底思えないな。」 「ウグッ!?」 苦悶する声と共にシルヴァの表情が歪む。 彼女を背後から腹部を貫く、銀色のシミターに近しい剣。 噴き出した鮮血が、ソーンの顔に飛沫する。 「シルヴァ!?」 倒れる彼女を抱きとめ、視力を大分取り戻して漸く相手の姿がわかる。 刺したのは、和をイメージとした白と黒の色合いを基調とした服の人物。 二人にはジンやオクトーと言った『侍』のような姿をしている風貌とも言うべきだろう。 渋みのある顔は人に受けそうだが、今の声もあってすぐに彼を理解する。 今の凶行がなくとも、この男は間違いなく危険だと感じ取れるほどのものが。 「化け物を、頂を目指す。それの何がいけないのかね。 私にとって天下や頂とは興味はないが、乱世ではままあることだ。」 「誰、だ……!?」 脇腹を抑えながら訪ねる彼女の首を男は掴む。 女性とは言え大の大人を軽々と片手で持ちあげる。 「なに、通りすがりの収集家だよ。 君達が欲しい物を持っているのでね。」 「どういう、ことだ……!?」 モノが欲しいのであればそこの銃を拾うはず。 だがそちらではなく直接自分達を指しての言葉。 何が言いたいのか、二人には理解が追いつかない。 「離し───」 起き上がろうとするソーンを足で腹を踏みつけ抑える。 地面との板挟みで、起き上がることもままならない。 「ッ……!」 「君個人では、有り触れた凡百の音色しかない。 だが、十天衆の君がいれば話は変わるというものだ。 十天衆の君に一つ宝を預けよう。それを育てて、いずれ私が受け取りに行こう。」 「何を言って……」 先程から何が言いたいのかさっぱり分からない。 理解してはいけないと脳が拒絶してるような気もするが、 それを抜きにしても、彼の言葉は難解さを極めている。 「君には『過去』を贈ろう。怪物には仲間も、朋も必要ないのだから。」 嘗てオクトーと戦う以前に、 サラーサに向けて言った言葉。 誰とも知らない男に言われると同時。 「そして───『絆』を貰おう。」 次の言葉を紡ぐと同時に、彼女の全身に炎が奔った。 【シ■ヴァ@グラン■■■ファ■■ジー ■亡】 「■■■■───ッ!!」 言葉にならないような悲鳴を上げる。 燃え盛る彼女に手を伸ばそうとしてもそれは届かない。 届いたとしても、とても触れられるものではないのだが。 「君には贈った『過去』がある。大切に育んでくれたまえ。」 燃え盛るシルヴァを適当に放り投げて、門の方へと向かう。 するべきことを済ませた彼に、この場に留まる理由などない。 「アアアアアッ!!」 普段なら絶対に聞くことのない、 叫び声と共にソーンは短刀を拾い上げてを振るう。 最早戦術も何も考えてない、ただの単調な一撃。 取るに足らない攻撃を静かに避けて、首に手刀を放つ。 「君が怪物になった時、改めて会おうではないか。 何、巡り合うとも。君が怪物になれば直々に貰いに行くのだから。」 昏倒する彼女を置いて、今度こそ去る。 ついでとばかりに、珍しい銃を回収しながら。 (『過去』を育て、やがて怪物へと至る。 その時に得る『十天衆』の称号はきっと格別なのだろう。) 欲するものを探して、奪う。 身も蓋もない言い方をすれば駄々をこねる子供と同じ。 だがそのままの状態で戦国乱世を生き抜いてしまった梟は、 此処でも不変の、永遠に満たされない欲求を満たし続ける。 (だが、何を壊し、何を得ようとも、私が満たされることはない……) 最初はこの男は殺しあいに興味なかった。 いや、現在も殺し合いに於いては一切の興味はない。 この男の欲に底はなく、一つの成就では決して満たされることもない。 生も死も恐れるものでもない。死に時であれば躊躇なく自決を選ぶ狂人。 だが意味はあった。興味深い『十天衆』と言うその肩書きを。 そして、自分がまだ知らぬ宝誰かが持つ可能性を彼は知った。 故に探す。自分のあくなき欲を満たせる宝を持った存在を。 松永久秀……かの戦国乱世から招かれた、天下独尊の男。 現世であろうと辺獄であろうと、その欲望は不変である。 【松永久秀@戦国BASARA】 [状態]:健康 [装備]:火薬@戦国BASARA、シャルティエミラージュ@テイルズオブデスティニー2、アダマント・レイ(残量19/20)@御城project:Re [道具]:基本支給品、ランダム支給品×0~1 [思考・状況] 基本方針:欲するものを手に入れる。何処であろうと私は不変だとも。 1:珍しいものを探し、手に入れる。それだけだ。 2:殺し合い? 興味などないので勝手にやりたまえ。 3:怪物となった彼女から貰う『十天衆』の肩書こそ欲しいものだ。 [備考] ※参戦媒体はアニメ版です(参戦時期は現時点では未定)。 「ソ-、ン……」 掠れた声で誰かが彼女を呼ぶ。 誰かは分かる。未だ燃える親友の声だ。 「シルヴァ!?」 彼女の声に、松永を追わずに其方へ駆け寄る。 分かっている。この状態では既に手遅れなことぐらい。 支給品にもこの状態をなんとかできるものはなければ、 今から水をかけたところで、遠からずその命は尽きる。 だからと言って、聞かずに放置するわけにはいかない。 「君は、化け物じゃ、ない……人で、あってくれ。」 全身を焼かれながらも、それでも振り絞った最期の言葉。 それは義妹のことでも、団長のことでもなく、ただ親友を想う言葉一つ。 松永とは真逆の、人であることを願いながら今度こそ命が燃え尽きる。 嘗ての絆を取り戻すことができた瞬間に、その絆をあの男に奪われた。 「シルヴァ……シルヴァ───ッ!!」 魔眼の射手には二つの分岐点があった。 一つ目は頂に至ろうと暴走した彼女を止める物語。 二つ目は悔恨を終わらせようと故郷で決着をつけた物語。 だが何方も灰となって消え、第三の道を歩むことになる。 彼女の心は人か化け物か。親友か仇敵の言葉のどちらの通りに至るのか。 どちらへ転ぶか分からない、辺獄の道を。 【シルヴァ@グランブルーファンタジー 死亡】 【ソーン@グランブルーファンタジー】 [状態]:殺意(絶大)、精神疲労(絶大)、ダメージ(中) [装備]:なし [道具]:基本支給品、ランダム支給品×0~2 [思考・状況] 基本方針:人であるようにしたい。でも…… 1:あの人(松永)だけは許せない。 2:弓が欲しい。 [備考] ※参戦時期はソーン最終後~4アビ習得フェイトまでの間です。 ※魔眼は大きくて一エリアのみです。 ※飛翔術は高くて五メートルが上限です。 ※周囲にシルヴァの短刀@グランブルーファンタジーがあります。 シルヴァのデイバックは焼失しました 【シルヴァの短刀@グランブルーファンタジー】 ソーンの支給品。狙撃手としての立場の都合と近接は徒手空拳の都合、 全くと言っていい程使われることがないシルヴァが腰に携える短刀。 特別優れた能力や逸話が残されてると言ったものは特になく、 ソーンに光の反射で合図を送るためのものとしての運用をされてる。 【アダマント・レイ@御城project:Re】 シルヴァの支給品。ゲーム上ではラ・ピュータの初期装備。 バルニバービ国の技術を結集して造られた鉄砲。 超磁力で加速させた弾丸が光条となり敵を貫くので、 鉄砲とは言うが形状も性能も最早レールガンの類になる。 【火薬@戦国BASARA】 松永が相手を燃やす、爆破する際に用いる黒色火薬。 没収されなかった代わりに支給品の数を減らされている。 【シャルティエミラージュ@テイルズオブデスティニー2】 松永久秀の支給品。ゲーム上ではアクアラビリンスに潜んでいる、 リオン・マグナスの幻影から勝利することで手に入れる武器。 ソーディアン・シャルティエに酷似した幻体の剣で、地属性の力がある。 その力は本物にも劣らないようだが、元のシャルティエの人格はない。
https://w.atwiki.jp/nicorpg/pages/3351.html
永遠はあるよ… 34話で雑魚敵として登場する。 元ネタはかつてのちのKeyスタッフの多くが在籍していたTacticsから発売された PCゲーム「ONE」のキャラのみずか。主人公・折原浩平をえいえんの世界に導く案内人である。 その姿は、浩平の幼馴染である長森瑞佳の幼少時代の姿をモチーフとしている。 モチーフになった瑞佳が語尾に「~だよ」「~もん」を連発することから、 劇中「だよもん星人」などと言われ、彼女もファンから「だよもん星人」と呼ばれている。名称はここから。 ニコニコ動画では、MUGENの神キャラの一人である「イグニスUnknown(~アンノウン)」が有名。 良AI、強力なアーマー等、並キャラを遥かに凌ぐ性能を備え、全画面即死攻撃の「えいえんのめいやく」でほとんどの敵を葬り去る。 また、とあるトーナメントで優勝したことから神オロチの嫁と呼ばれることも。 なお、ニコニコRPGの視聴者から、これはイグニスUnknownではないのか?という指摘があるが、 グラは2001年ごろ黄昏フロンティアが発売した同人格闘ゲーム「EFZ」のものである。 (イグニスUnknownのグラはこれの色違い。EFZでは白いワンピース=通常型と同じ姿である) ただし、未使用技に「むにかえろう」等、イグニスUnknownの持ち技を保有している事から見ても、 他の登場キャラと同様、あくまでクロスオーバー的な意味での「EFZのみずか」でしかない) Unknownの技はEFZアーケードモードのボスとして登場する時のもので プレイヤー仕様Unknownとは見た目こそ似ているものの性能面では一線を画した極悪な技を連発する。 えいえんの世界 ONEの設定の根幹であり、だよもん星人ことみずかが案内人として浩平を誘い込んでいる世界。 死後の世界のようであり、この世界に誘い込まれる人間はその1ヶ月前から人々の記憶から消えていく。 だれもが行くことができるが、戻ることは難しい。 ニコニコRPGでは、だよもん星人の特殊技「えいえんのせかい」によって与えられる状態異常「永遠」にその設定が反映されているようで、「永遠」状態になったキャラは行動不能となる。 一応自然治癒はするが、確率は1%ととても低く期待できない。 だよもん星人がドロップするアイテム「キャラメルのおまけ」により、永遠状態を回復することができる。 キャラメルのおまけ 完成版にて、だよもん星人を倒すと低確率で落とすアイテム。「永遠」状態を回復できる唯一の手段。 原作のキーアイテムで、幼少時の主人公がある人物に送ったカメレオンのおもちゃである。 えいえんの世界(およびその案内人のみずか)についての主人公のモノローグにて、 「いまさら、キャラメルのおまけなんて、いらなかったんだ」 という一文があることから来ていると考えられる。 キャラメルのおまけとは人によって解釈が様々に存在するため、何の比喩なのかは明確な答えはない。 その場面では主人公が、「ずっと子供であり続けること」(=「えいえんのせかいやみずか本人」)を否定していることから、RPGにおいても永遠から帰還できる効果がついているのだろう。 【対策】(オワタ、喰われを除く) 強力な全体攻撃に加え、全体の時間停止などが危険。捕縛も効かず、能力低下なども一部しか効かないので強力な技で一気に倒してしまった方がいい。 HPが高く、精神力の高いキャラであればダメージもある程度抑えられてどうにかなるのではないかというレベル。全体気絶などを持ってないが恐らくコイツが1番危険なタイプなのは間違いない。 ステータス MHP MMP 攻撃力 防御力 精神力 敏捷性 経験値 所持金 4300 10 200 160 520 220 7200 1400
https://w.atwiki.jp/hebinotomo/pages/7.html
かきこんでね!