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メニュー トップページ 更新履歴 澪×律スレ りつみおシリーズ#00 SS1 澪×律 まとめ1 澪×律 まとめ2 澪×律 2 二人はいっしょ SS2 澪×律 2 まとめ1 澪×律 2 まとめ2 澪×律 2 まとめ3 澪×律 3 髪の長い男の子 SS3 SS4 SS5 SS6 SS7 SS8 たまにはいいよね? 澪×律 3 まとめ1 澪×律 3 まとめ2 澪×律 3 まとめ3 澪×律 4 SS9 SS10 SS11 SS12 SS13 SS14 SS15 SS16 SS17 SS18 SS19 SS20 SS21 SS22 SS23 SS24 SS25 SS26 SS27 SS28 SS29 SS30 告白【第1話】 SS31 SS32 告白【第2話】 SS33 SS34 澪×律 4 まとめ1 澪×律 4 まとめ2 澪×律 4 まとめ3 澪×律 5 SS35 歌詞 SS36 SS37 SS38 SS39 SS40 SS41 SS42 SS43 SS44 SS45 SS46 SS47 SS48 SS49 SS50 SS51 SS52 SS53 SS54 澪×律 5 まとめ1 澪×律 5 まとめ2 澪×律 6 SS55 SS56 SS57 SS58 SS59 SS60 SS61 SS62 SS63 SS64 SS65 SS66 SS67 澪×律 6 まとめ1 澪×律 6 まとめ2 澪×律 別荘地 SS68 SS73 教訓 SS74 SS75 SS76 澪×律 別荘地 まとめ1 澪×律 別荘地 まとめ2 澪×律 7 SS69 SS70 SS71 SS72 澪×律 7 まとめ1 澪×律 別荘地 8 SS77 SS78 SS79 SS80 SS81 SS82 澪×律 別荘地 8 まとめ1 澪×律 別荘地 8 まとめ2 澪×律 別荘地 9 SS83 SS84 SS85 SS86 SS87 SS88 澪×律 別荘地 9 まとめ1 澪×律 別荘地 9 まとめ2 澪×律 別荘地 9 まとめ3 澪×律 別荘地 10 SS89 SS90 SS91 卒業 SS92 SS93 澪×律 別荘地 10 まとめ1 澪×律 別荘地 10 まとめ2 澪×律 別荘地 11 SS94 SS95 もっと 澪×律 別荘地 11 まとめ1 澪×律 別荘地 11 まとめ2 澪×律 別荘地 12 SS96 SS97 SS98 SS99 SS100 SS101 澪×律 別荘地 12 まとめ1 澪×律 別荘地 12 まとめ2 澪×律 別荘地 13 別れは唐突に...... SS102 SS103 SS104 SS105 澪×律 別荘地 13 まとめ1 澪×律 別荘地 13 まとめ2 澪×律 別荘地 14 SS106 澪×律 別荘地 14 まとめ1 澪×律 別荘地 14 まとめ2 澪×律 別荘地 15 SS107 SS108 SS109 澪×律 別荘地 15 まとめ1 澪×律 別荘地 15 まとめ2 澪×律 別荘地 16 SS110 SS111 SS112 SS113 SS114 SS115 くさい仲 澪×律 別荘地 16 まとめ1 澪×律 別荘地 16 まとめ2 澪×律 別荘地 17 SS116 SS117 SS118 SS119 澪×律 別荘地 17 まとめ1 澪×律 別荘地 17 まとめ2 澪×律 別荘地 17 まとめ3 澪×律 別荘地 18 SS120 SS121 SS122 SS123 SS124 SS125 SS126 SS127 SS128 SS129 SS130 SS131 SS132 SS133 SS134 SS135 澪×律 別荘地 18 まとめ1 澪×律 別荘地 18 まとめ2 澪×律 別荘地18 まとめ3 澪×律 別荘地 19 SS136 SS137 SS139 SS140 SS141 SS142 SS143 SS144 SS145 ジャンル別19 澪×律 別荘地 19 まとめ1 澪×律 別荘地 19 まとめ2 澪×律 別荘地 19 まとめ3 澪×律 別荘地 20 SS146 SS147 20-198 20-200 SS148 SS149 20-439 SS150 冬の明日 SS151 20-872 SS152 澪×律 別荘地 20 まとめ1 澪×律 別荘地 20 まとめ2 澪×律 別荘地 20 まとめ3 澪×律 別荘地 21 SS153 地獄のクリスマス SS154 SS155 SS156 SS157 SS158 SS159 SS160 SS161 SS162 SS163 SS164 SS165 SS166 SS167 SS168 SS169 SS170 SS171 SS172 SS173 SS174 澪×律 別荘地 21 まとめ1 澪×律 別荘地 21 まとめ2 澪×律 別荘地 21 まとめ3 澪×律 別荘地 22 SS175 SS176 SS177 SS178 SS179 SS180 SS181 SS182 SS183 SS184 SS185 SS186 SS187 SS188 SS189 澪×律 別荘地 22 まとめ1 澪×律 別荘地 22 まとめ2 澪×律 別荘地 22 まとめ3 澪×律 別荘地 23 SS190 病澪JOKER SS192 SS193 SS194 SS195 SS196 SS197 SS198 SS199 澪×律 別荘地 23 まとめ1 澪×律 別荘地 23 まとめ2 澪×律 別荘地 23 まとめ3 澪×律 別荘地 24 SS191 SS200 SS201 SS202 SS219 SS203 SS204 SS205 SS206 SS207 澪×律 別荘地 24 まとめ1 澪×律 別荘地 24 まとめ2 澪×律 別荘地 24 まとめ3 澪×律 別荘地 25 SS208 SS209 SS210 大人 澪ちゃんの髪 パイナップルのマネ 恋の方程式 SS211 SS212 ナキムシ おそろ SS213 おまじない SS214 SS215 カレシ ラブホ 休日 休日の夜 ハジメテ 雨の日 シャボン SS217 ポニーテール 13日の金曜日 SS218 ペット おあずけ ごほうび ミドリ 流れ、で 首輪 ここ掘れワンワン 澪×律 別荘地 25 まとめ1 澪×律 別荘地 25 まとめ2 澪×律 別荘地 25 まとめ3 澪×律 別荘地 26 26 アマガミ 抱き枕 御守り オヤユビ うっかりっちゃん 一ヶ月 律のお願いを断ってみた 五月雨 乾燥肌 SS219 タオルドライ 洗濯日和 SS220 合鍵 彼女の起こし方 ポッキーゲーム! にがて 化粧ノリ SS221 プリン 夕空モノローグ SS222 素直じゃないから 卑怯者 澪×律 別荘地 26 まとめ1 澪×律 別荘地 26 まとめ2 澪×律 別荘地 26 まとめ3 澪×律 別荘地 27 サマーセーター 汚したシーツ 宝物 SS223 助手席 一切合財 体温計 カモメ 隠し事 SS224 赤ワイン ロマンス 真っ昼間 SS225 昼下がり 青ジャージ シンリャク者 カンチガイ 分かち合いたい痛み 未成年の主張 さいしょのころ 普通の晩餐 素敵な旦那様。 ろくがつ SS226 百合色の未来 SS227 澪×律 別荘地 27 まとめ1 澪×律 別荘地 27 まとめ2 澪×律 別荘地 27 まとめ3 澪×律 別荘地 28 28 SS228 28年目の昼下がり 彼女のスキなトコ 天の川とカラメルソース ミルキー・ミルキー・ウェイ SS230 気にしすぎ 大好きをありがとう SS229 夏の胸騒ぎ お泊りダイエット まばたき 不意打ち 天気予報 澪×律 別荘地 29 タオルケット 深夜電力 フラッシュバック、夏。 理由のワケ 夏の日 SS231 相席 おめでとう SS232 いつまでも放課後 澪×律 別荘地 30 30 月明かりと彼女 SS233 澪×律 別荘地 31 SS234 澪×律 別荘地 32 すべりだい 冬の日 メリクリ 澪×律 別荘地 33 SS235 SS236 SS237 おめでとう(澪ver) SS238 SS239 SS240 SS241 澪×律 別荘地 34 幸せポイント 痕 SS242 SS243 澪×律 別荘地 35 SS244 澪×律 別荘地 36 だいきらい SS245 澪×律 別荘地 37 SS246 SS247 ずっといっしょに… カレーのちラヴァーズ 澪×律 別荘地 38 SS248 SS249 澪×律 別荘地 39 雨の川 短編集1 短編1 短編2 短編3 短編4 短編5 短編6 短編7 短編8 短編9 短編10 短編11 短編12 短編13 短編14 短編15 短編16 短編17 短編18 短編19 短編20 短編21 短編22 短編23 短編24 短編25 短編集2 短編26 短編27 短編28 短編29 短編30 短編31 短編32 短編33 短編34 短編35 短編36 短編37 短編38 短編39 短編40 短編41 短編42 短編43 短編44 短編45 短編46 短編47 短編48 短編49 短編50 短編集3 短編51 短編52 短編53 短編54 短編55 短編56 短編57 短編58 短編59 短編60 短編61 短編62 短編63 短編64 短編65 短編66 短編67 短編68 短編69 短編70 短編71 短編72 短編73 短編74 短編75 短編集4 短編76 短編77 短編78 短編79 短編80 短編81 猫の日 短編82 短編83 短編84 短編85 短編86 短編87 短編88 短編89 ラフメイカー 短編90 短編91 短編92 短編93 いめちぇん!! 澪「律の首筋(*´Д`)ハァハァ」 短編94 短編95 短編96 短編97 短編98 短編99 短編100 短編集5 短編101 短編102 短編103 短編104 短編105 夜のりったんみおたん 短編106 短編107 短編108 短編109 短編110 雨の中かき消された細い声が 短編111 短編112 短編113 短編114 短編115 短編116 短編117 短編118 短編119 短編120 短編121 短編122 Good smell 短編123 短編124 短編125 短編集6 短編126 短編127 短編128 短編129 短編130 短編131 短編132 短編133 短編134 短編135 短編136 短編137 あのあと 朝チュン 短編138 短編139 短編140 短編141 短編142 短編143 短編144 短編145 短編146 短編147 短編148 短編149 短編150 短編集7 短編151 短編152 短編153 短編154 短編155 短編156 短編157 短編158 短編159 短編160 短編161 短編162 短編163 短編164 短編165 短編166 短編167 短編168 短編169 短編170 短編171 短編172 短編173 短編174 短編175 短編集8 短編176 短編177 短編178 短編179 短編180 短編181 短編182 短編183 短編184 短編185 短編186 短編187 短編188 短編189 短編190 短編191 短編192 短編193 短編194 短編195 短編196 短編197 短編198 短編199 短編200 短編集9 短編201 短編202 短編203 短編204 短編205 短編206 短編209 短編207 短編208 短編210 ローソン ツインテール 14日の土曜日 夢のあと レポート 成長 マスターキー お気に入り スコール 27 短編211 ユビサキ 短編212 おさそい 短編集10 短編213 ハムエッグトースト 朝ご飯は律澪の味 梅雨前線 短編214 ふたりのセカイ 彼女の好きな所 たなばた 短編215 カチューシャと笑顔 イントゥ・ザ・ナイト 短編216 29 短編217 みぎてとひだりて シングル 短編218 ビフォー 短編219 長編 ROCK!! イノセント Two of us 歌 Friends 過去スレ 雑談版 お知らせ 感想・考察 同人誌 AA リンク pixiv 唯×梓スレwiki 唯×紬スレwiki 平沢姉妹あったかまとめwiki りっちゃんを応援し隊まとめwiki けいおん!K-ON! ※本スレwiki 紬が百合ノートをまとめているようです けいおん!でエロパロ保管庫 ここを編集
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日曜の昼下がり。 暇だから唯の家に押しかけたら、もっと暇だった。 私はベッドに寝そべって、 唯は椅子の背もたれに胸をつけて、とりあえず漫画を読んでいる。 ぺらりぺらりと、安い紙をめくる音ばかり。 あとは呼吸や心臓の鼓動。 外で子供の遊ぶ声は、あまりしなかった。 ころがって、ベッドにうつぶせる。 枕にあごをのっけると、唯の匂いがした。 石鹸とか香水の強い匂いじゃなくて、 あっためたミルクのような匂い。 作為的な香りとは違う自然なやつだから、 唯の匂いというほかない。 意識的に、鼻呼吸。 唯とじゃれている時を思い出した。 やっぱり暇だ。とてつもなく。 何という漫画を読んでいたのかも忘れたが、 いつの間にかページには裸の男女が描かれていた。 女は霧のかかったように白い男の股間に顔をうずめて 口をもごもご動かしている。 男が女に、アイスを舐めるみたいにと言うと、 女は頷いて霧に舌を這わせ始める。 うげぇ、と思う。 アイスを食べるたびに思い出してトラウマになりそうだ。 ふと、唯もこれを読んでいるのだなと思う。 純朴そうな顔で、こんなものを本棚にため込んでいるとは。 唯のほうを見る。 今は、真剣な顔で少年マンガの展開を見守っているようだ。 視線に気づいたのか、唯が顔を上げる。 溜め息でも吐きたそうな目でぼーっと私を見ていたけれど、 急にはっとした様子で椅子を立って、どたどたと駆けてきた。 私の手から漫画がひったくられる。 唯はさっさと私の読んでいた漫画を本棚に戻してしまって、 悩ましそうに首をぐりぐり回してから、ベッドに腰かけた。 せわしく髪を掻きながら、唯は漫画を読むのを再開する。 真っ赤な耳がちらちら覗いた。 私は完全に暇つぶしの手段を奪われて、ぼーっとするほかない。 枕にあごをうずめ、目は開けたままで、何も見ない。 唯がページをめくる音は、ちょっとずつ静かになっていく。 やがて、とん、と厚めの音で本は閉じられた。 ぼふぼふ布団を膝で踏みながら、 唯が私の背中にまたがってきた。 両肩に手を置いて、肘を背中につき、 膝が慎重に片方ずつ腰に乗ってくる。 寝転がり続けて、腰がこってきたところだ。 背中で丸まる唯の重みが心地いい。 唯が不満そうに、私の後ろ頭にこつんと頭突きをぶつけてきた。 それから、体重をぎゅ、ぎゅっとかけてくる。 しょうがないなと思いつつ、 私はベッドに潰れてやった。 へふへふ勝ち誇ったように笑ったあと、 唯もどさりと私の上に潰れた。 しょうもない遊びだ。 それでもちょっと楽しくなってしまうのは、 私たちのヒマ度が危険値に達しているからだろう。 このままでは命が危ない、とふざけたことを考える。 私もすこし、へふへふ笑った。 唯がだるそうに首を持ち上げ、あごを私の頭にのっけてくる。 あごを枕にのっけるために不自然に曲げた首がつらくなってくる。 結局枕に顔をうずめ、私は完全につぶれきった。 唯も同じように、私の頭に顔面をくっつける。 鼻が押しつけられているのが分かる。 枕をずらして、呼吸をしやすくする。 私がすっと息を吸うと、唯の胸もふくらんだ。 一緒になって、はあっ、と溜め息まじりに吐き出す。 声はしなかったけれど、重なった体が私たちの笑い合ったことを伝えた。 唯の顔が、ずりずり言いながらまた私の横に落ちてくる。 鼻で息をしなくても、やわらかい唯の匂いを感じる。 すーすー、すーすー。 耳もとの呼吸が、だんだん遅く、深くなっていく。 さっきは少しだけ退屈がまぎれたような気がしたけれど、 まったくもって単なる気のせいでしかなかったみたいだ。 絶望的な暇のなか、 人型布団の温もりの下で、私も眠りに落ちていく。 唯の顔が、少しこちらを向いた気がした。 けれど、そんな体勢はかなり不自然だから、 頬にかかる寝息は無視し、私の錯覚ということに片付けた。 ―――― ものすごく長い時間、眠ったような感じがする。 砂糖を入れたミルクの匂いが、鼻いっぱいにしみついている。 視界がはっきりしてくると、間近で唯が眠っていた。 そういえば、唯を子亀のように乗せたまま寝てしまったのだ。 この体のままならない感じはそれが原因か。 唯の匂いが甘すぎて頭がくらくらする。 長時間鼻に入れたせいもあるけれど、 いつもより匂いが強いような気がした。 まばたきを繰り返しつつ、唯の顔を見る。 幸福にまみれた寝顔は、けっこうな量のよだれをシーツに垂れていた。 匂いのもとはあれか。 上に乗っている唯が起きないよう、慎重に右手を動かす。 そっと、シーツに乗った十円玉大のよだれだまりに指を触れる。 指先に冷たい水気がしみつく。 想像外の冷たさに、ちょっと驚いた。 指を離そうとすると、これも予想以上に粘っこく伸びてきた。 少し楽しくなってくる。 爪ですくいあげて、親指と人差し指でぬり合わせる。 お風呂場でボディソープを塗るのと似ているけど、 感触も匂いも音も違う。 ひとり、テンションが上がってくる。 右手をもう少し近くに持って来れないだろうか。 唯が上手いことブロックされていて、確かな匂いや味やら、 知りたいことは分からないままでいる。 好奇心がうずく。 まさかこのままでは終われない。 私の目が自然と、 今もよだれを溢れさす唯の口元に向かう。 おだやかな寝息を吐く唯の口。 私は首を頷くように傾けて、そこに鼻を近づけた。 唯の寝息にあわせて、鼻呼吸をする。 無邪気なミルクの匂いが鼻をくすぐった。 あたたかく吹きつける息が顔の横へ滑っていく。 さらに鼻を口に近づける。 唇がかすかに触れている気さえした。 無理な体勢に首が痛むが、かまってはいられない。 今度は息を吸ったときにあわせて、鼻から吸い込んでみる。 唯の唾液の匂いが、脳天に直撃した。 私は思わず熱い息を吐いていた。 いけないと感じても、 いけないからやめようというところまで頭は回らなかった。 口角から伝うよだれに目をやった。 舌がべろりと吐き出されて、あごがぐいと前に押される。 なにか想いにつき動かされる。 それは間違いなく、好奇心などという子供じみた感情ではない。 そして少なくとも、同性の友人に抱くべくものではないと分かっていた。 でも、でも。 私の舌はツンと尖って、唯の頬を伝うよだれの線をなぞっていた。 匂いからは想像もつかないほど、それは薄味だった。 舌ですくい上げた唯のよだれが、口の奥へじれったく流れる。 まったくの無味か。 けれど少しだけ甘いように思うのは、本当にただの錯覚か。 もっと量がないと、分からない。 おそるおそる、唯の寝顔をうかがう。 さっきまでよりも強く目を閉じているように見えた。 なぜか、大丈夫だと判断した。 もう一度、唯の寝息を吸いこむ。 薄く開いた唯の唇に、舌をねじ込む。 ぬるぬると唇の間を這って、舌の裏側にある唾液の池を目指す。 くちびる同士が合わさったが、今はどうでもいい。 唯がうめいた。怖くて目を閉じる。 舌が暖かい感触に包まれる。 ほら、と誰かに自慢したくなった。 ほら見ろ、やっぱり甘いじゃないか。 少し調子に乗りかけたとき、 唯の前歯が私の舌をきつく噛んだ。 震えながら目を開ける。 唯の目はじっと私を見ていて、 舌にしっかりと噛み付いて離してくれない。 そのまま、唯は私の上に顔を持ってくる。 舌がひどく引っぱられた。 そしてさらに、私の顔をつかんで無理矢理に上を向かそうとしてくる。 肩を浮かして、なんとか唯の要求に応えると、 ようやく私の舌を放して、頬をもごもご動かし始めた。 私は間抜けたらしく、口を開いたままそれを見守る。 やがて、唯の顔がおりてきて。 すぼめた口が、私の開けている口の中にすっぽりとおさまった。 その口が、またもごもご動くと、 とろりとハチミツをかけるように、 唯のよだれが舌に落ちてきた。 もう、私の抱いていた唯の純真なイメージは完璧に崩れていたけれど、 私はごくりと、渡された唾液を飲みこんだ。 それを確認してから顔を上げ、唯はへふへふと笑った。 そしてもとのように私をベッドに組み伏せて、 また、昼寝を再開した。 唯が私の上で眠っている。 眠っていてさえ、私の上にいる。 勝ち誇ったような笑いを思い出しつつ、 かなわないと悟った。 潰れてやったと思っていたが、 どうも否応なしに潰されていたらしい。 私はまだおさまりのつかないものを抱えながらも、 唯がこうして眠ろうと言っているのだから、 こいつが満足するまで今は眠っていようと思った。 おしまい 戻る
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依頼! 風のアルビオンを目指せ! その① ラ・ヴァリエールの屋敷にある中庭の池に浮かぶ小船の上ででルイズは泣いていた。 そこはルイズが一番安心できる場所。 秘密の場所。 そこに一人の若者が現れる。 「泣いているのかい? ルイズ」 十六歳の彼は優しく微笑むと、六歳のルイズに手を差し出した。 魔法が使えないという事で家族に色々言われて、悲しくなって、でも彼は違う。 彼はルイズにとても優しくしてくれる。 だから、ルイズは彼の差し出した左手を握った。 ――あれ? 彼の左手はやけにゴツゴツしていた。おかしいな、もっとスラリとした手だったはず。 手の甲を見てみれば、なぜかルーンが刻まれてたりする。 ――あれ? あれ? 十六歳になったルイズは相手の顔を確認した。 承太郎だった。 無表情だった。 「オラァッ!」 「えっ」 そして突然ぶん投げられた。 「ほれほれ、早く『レビテーション』を使わないと池に落っこちるぜ」 「イィィィヤァァァァァァッ!!」 悲鳴が上昇し、そして落下する。 ルイズの眼前に冷たい池の水が迫り――! ドテチン。そんな情けない音を立てて、ルイズはベッドから転げ落ちた。 パチパチとまばたきをして、ここがトリステイン魔法学院の寮の自室だと確認する。 「……夢、か」 何て夢だろう。何でいきなり彼が承太郎なんかに変わったんだろう。 その挙句……ぶん投げられるなんて。 そういえばフーケのゴーレムと戦っていた時、あんな風に投げられた。 あの時は緊急事態だったし、ある意味仕方のない事だったけど、今思い出すとフツフツと怒りが込み上げてくる。 そこでルイズはまだソファーで眠っている承太郎に忍び寄った。 帽子のつばに目が隠れていて起きてるのか眠っているのか解らないが、これだけ近づいても反応が無いって事は寝てるって事だよね。 絶対そう、間違いない、うん、そうに違いない。 「あの時の恨み、思い知りなさい! コォォオオオッ!」 力いっぱい息を吸い、ギュッと拳を握って振り下ろす。 ツンデレオーバードライブ! それはまさにツンデレという精神エネルギーを凝縮したツンデレ疾走!! 『弾くツン』と『くっつくデレ』のうち、『弾くツン』を一点集中した流法! いかに好感度が高まりつつあっても、ツンが発動したからには問答無用。 ツンっと突っぱね弾くエネルギーを右拳に集中した一撃が放たれたのだ! 承太郎の鳩尾にルイズの拳が触れる直前、その手首を背後からカルーク掴まれた。 「へ?」 振り返ってみると、スタープラチナが背後に立って┣¨┣¨┣¨┣¨していた。 「何の……つもりだ? ルイズ」 眠っていたと思っていた承太郎が帽子のつばを上げながら睨んでくる。 「こここ、これは、あの、ちょっと起こして上げようと思っただけよ!」 「ほーう。この世界じゃ人を起こす時は鳩尾を殴るもんなのか。 明日からてめーを起こす時……そうさせてもらおう……」 こうして今日もご主人様としてのイニシアチブを取れない一日が始まるのだった。 土くれのフーケを捕らえ、破壊の杖を取り戻したルイズとキュルケとタバサ。 この三人の噂は学院中に広がったが、同時にこんな噂も広がっていた。 ・ゼロのルイズは特に何も活躍していない。 ・ゼロのルイズの使い魔があの奇妙で強力な魔法でフーケをやっつけたらしい。 ・なんだルイズがすごいんじゃなくて使い魔がすごいんじゃないか。 そんな空気を嫌ってか承太郎は授業への参加を拒んだ。 その日の授業は疾風のギトーによる、風が最強である所以を講釈されたのだが、承太郎はそんな事知る由もなかった。 厨房の裏で薪を割りを、シエスタに料理をもらい、そしてコルベールの自室を訪ねる。 「やあジョータロー君、いらっしゃい」 「邪魔するぜ。…………」 「あはは、すまんね、臭いだろう? 色々な薬品を研究しているからねぇ」 コルベールの自室は本やら研究器具やらで満たされ、さながら化学室のようであった。 「紙タバコだがね、あれはまだできとらんよ。試作品を作ってる最中だ」 「いや……シエスタにこの学園で一番歴史に詳しそうな教師を教えてもらってな、まだたいして日は経っちゃいないが……何か解った事はあるか? 俺の世界の事でも……ガンダールヴの事でもいい」 コルベールは謎の液体が入ったフラスコをいじりながら答えた。 「魔法は『火』『水』『風』『土』の四系統ではなく、元々は五系統あり、それぞれがペンタゴンの頂点を指していたと言われている。 その失われし頂点の一角こそ『虚無』の系統。 ガンダールヴとは伝説の虚無の魔法使いの使い魔の事なのだ」 「虚無の、魔法使いだと?」 「だが、現在において虚無系統の魔法は確認されておらん。 君の手に現れたルーンは、ガンダールヴのそれと非常によく似ておる。 が、虚無の魔法使いが存在しない以上、残念ながら君がガンダールヴであるという確証は無いなぁ」 「……ルイズが魔法を使えない理由は、ルイズが『虚無』系統のメイジだからとは考えられないか?」 「ハハハッ、これはまた突飛な事を思いつくね」 「ルイズは『火』も『水』も『風』も『土』も使えねー。 そして俺が虚無のメイジだけが呼び出せる使い魔なのだとしたら……」 「面白い仮説だね。だがミス・ヴァリエールは魔法は使えない」 「もし、失われた虚無の魔法の呪文や使い方を知る方法があったら、コルベール、あんたは虚無の魔法を使えると思うか?」 コルベールはフラスコから目を離し、しばし黙考した。 「うーん、どうだろう。解らないな。私は火のトライアングルメイジだし、使い方が解ったとしてもさすがに虚無までは……」 「ルイズの系統が虚無だとしたら、虚無のドットメイジになるという可能性は?」 「可能性は限りなく低いが、まあ否定し切る事はできないね。 なぜなら虚無は失われている。誰も試す事すらできない魔法なのだから」 これ以上虚無だのガンダールヴだのの情報を得るのは難しそうだった。 承太郎は他に何か役立つ情報はないかと考えつつ、部屋を見回し、それを見つける。 「臭うと思ったら……これか」 それはフラスコに入った液体だった。しかも以前、嗅いだ記憶のある匂いだ。 「それは竜の血液だ」 「竜の血?」 コルベールが答えたが、承太郎にはとても血の匂いには思えなかった。 なぜならこの匂いはよーく身に覚えのある匂いだったからだ。 そんな承太郎の困惑に気づかずコルベールは講釈を続ける。 「昔、すさまじい雄叫びを上げて、見た事もない二匹の竜が東の空より現れ、一匹はその場から消え去り、もう一匹はどこかに落下したという。 その時に流したと言われる血液を偶然入手してなぁ、その複製に取り組んでいる最中なのだよ」 「これが血液? だがこの匂いは……『ガソリン』ッ!」 「ガソリン? 何だねそれは」 「破壊の杖同様、俺の世界にある特殊な燃料だ。車やバイクを動かすのに使う……」 「くるま? ばいく? それはいったい何だね? ちょっと話してみてくれ」 異世界の道具に興味を惹かれ、コルベールが真面目な顔して問いただしてきた。 「やれやれ……その代わり、この竜の血について知ってる事をあらいざらい――」 「いや、今話した以上の事は知らんよ。なぁに後で調べとく。さ、話なさい。 くるまとは何だね? 何をする物だね? どんな形だね? さあ、さあ、さあ!」 「……やれやれだぜ」 承太郎が解放されるのは夕食時になってからだった。 そしてコルベールの授業はその日すべて自習となった。 その理由を知る生徒はいない。 そんなこんなで結構普通だったか普通じゃなかったかよく解らない一日の最後、今日という日を普通じゃなかったと決定づける出来事が訪れた。 場所、ルイズの部屋。 ノック、初めに長く二回、それから短く三回。 フードの女、室内に入ってきてディティクトマジック(探知)をかける。 フードを脱ぐ。 品評会前日とまったく同じ行動パターンでやって来たのは、王女アンリエッタだった。 「ルイズ! あなたにしか頼めない重要な依頼があるの!」 その時承太郎は我関せずといった態度でソファーに寝転がっていたそうな。
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469 :~お菓子と、男と、女ふたり~ [sage] :2007/03/17(土) 21 35 33 ID tfngQ5h3 彼の好物はお菓子である。 どれぐらい好きなのかということの実例を挙げると、 朝昼晩の食事をせずに500円分のお菓子を食べることで済まそうとした、 ということがある。 それを毎日繰り返していたわけではないが、週に一回、 土曜日になると近所のスーパーに出かけてお菓子を買う。 そしてそのお菓子を当日の食事代わりにする。 それでも彼の体は均整がとれていた。 彼が20代で、まだ若いこともあったが、 彼は毎朝5時から行う体操を欠かさなかったことも原因だった。 彼は自身の住む村の役所に勤務していた。 近くにある高校に通い、卒業すると同時に勤務を始めた。 役所での仕事は年に数回ある祭りや、盆と正月に役所の前を 時節のもので装うことと、書類整理と清掃作業ぐらいのものだった。 退屈ではあったが、村の外にいる友人から聞かされる 中小企業の現状を聞いていると、自分は充足している、と思った。 彼には大きな悩みが無かった。 父親と同居している、愛着のある家もあった。 母親とは死別していたが、十年以上昔のことを気にかけるほど 神経質な性格をしていたわけではなかった。 彼が執着していることは、自分が興味のあるものだけだった。 働き始めてからローンで購入した、通勤に使用する50ccのバイク。 町の古本屋で購入した本と、それを読むための時間。 毎週の楽しみである、カロリーを無視して食べるお菓子。 そして、彼が愛する女性。 彼には、同じ職場に勤める同僚で、恋人でもある女性がいた。 二人きりで村の外に出かけて夜を過ごし、翌日の朝に帰ってくる、 ということを何度も繰り返した。 結婚指輪を送るために、彼は何ヶ月も貯金をしていた。 彼女に対して結婚を匂わす発言をしたときも好意的な反応が返ってきた。 ――きっと、上手くいく。 そう彼は考えていた。 470 :~お菓子と、男と、女ふたり~ [sage] :2007/03/17(土) 21 36 11 ID tfngQ5h3 三月の第一週目の、土曜日。 彼は朝の九時に、村に一つだけあるスーパーへ来ていた。 いつものように彼はお菓子が陳列している棚へ向かい、 500円分の商品をカゴの中に入れた。 そして、そのまま店員が立っているレジへ向かい、カゴを置いた。 「いらっしゃいませ!」 レジに立っている女性の店員が挨拶をした。 店員は頭を上げると、男に向かって挨拶をした。 すべての商品のバーコードを読ませた後、店員はこう言った。 「504円になります」 男がちょうどの金額を払い、店員が中身の詰まった買い物袋を手渡した。 すると、女性店員が男に向かって声をかけた。 「いつも買い物をされてますよね? お菓子が好きなんですか?」 そう店員に言われて、男は恥ずかしくなった。 いい年をした男性が毎週のようにお菓子を買っていく。 その行為は他人からすると奇特にしか見えないだろう。 男がなんと答えようかと考えていると、店員が小さな箱を取り出した。 これは何か、と聞くと女性店員からこのように言われた。 「私が作ったクッキーです。 誰かに試食を頼もうかと思っていたんですけど、 一人も食べてくれなかったんです。 ですから、もしよろしければどうぞ」 男に受け取らない理由は無かった。 一言礼を言い、箱を受け取る。 箱はとても軽かった。しかし軽く振るとコトコトと音がした。 「今度、ぜひ感想を聞かせてください」 店員の言葉に対して頷くと、男は買い物袋と小さな箱を持って店を出た。 471 :~お菓子と、男と、女ふたり~ [sage] :2007/03/17(土) 21 37 24 ID tfngQ5h3 三月の第二週目の、土曜日。 男は小さな箱を持って、スーパーに来ていた。 先週、女性店員から受け取ったクッキーの箱だった。 店内に入り、先週話をした店員を捜す。すぐに見つかった。 先日と同じようにレジに立っている。 「いらっしゃいませ」 と言って店員が頭を下げた。 男が、ありがとう、と言って手に持っていた箱を店員に差し出すと、受け取ってくれた。 「あのクッキー、美味しかったですか?」 美味しかったよ。また作って欲しい、と男が言うと、店員は満面の笑みをつくった。 その日も先週のように男はお菓子が並んでいる棚の前に行って、 適当なものを選ぶことにしたが、あることに気がついた。 クッキーの箱が一つも置かれていない。 しかし、男は特に気にすることも無かった。 もともと商品は多く並んでいたわけでもないし、売り切れということもある。 棚に置かれていたものをカゴに入れる。 店内を歩き、女性店員が立っているレジに買い物カゴを乗せる。 女性店員がすべてのバーコードを読ませて、買い物袋に詰める。 そして、男はちょうどの金額を女性店員に渡す。 レジから吐き出されたレシートを受け取ると、店員が箱を取り出した。 「あの、またクッキーを作ったんです。 もしよろしければ、どうぞ。 また来週会えたら感想を聞かせてください」 わかった、と男は頷いて、箱を受け取った。 「ありがとうございました」 女性店員の声を聞きながら、男は自動ドアを通り抜けて、家路に着いた。 472 :~お菓子と、男と、女ふたり~ [sage] :2007/03/17(土) 21 38 56 ID tfngQ5h3 三月の第三週目の、土曜日。 男はスーパーにバイクで乗りつけた。 その手には、小さな箱が握られている。 先週、女性店員に手渡されたクッキーは、とても美味だった。 焼け具合、かおり、共に問題が無かった。 一口に収まるほどの大きさのそれを頬張ると、バターのなめらかさ、 ほどよい甘さが口の中に広がった。 気がつくと、四枚入っていたクッキーは全て男の胃の中に収まっていた。 男が店内に入ろうとすると、後ろから声をかけられた。 振り向くと、女性が立っていた。 クッキーを作ってくれた女性だった。 その日は、セーターにジーンズという格好をしていた。 男は箱を女性に手渡した。 美味しかった、と感想を言ったが、言葉足りない気がした。 あれほどの美味しいものを作ってもらったのに、「美味しかった」の一言では味気ない。 本当に美味しかった、と再び言った。 「そんなに美味しかったんですか。ありがとうございます」 何かお礼をしたい、と女性に向かって男は言った。 女性は数回まばたきをして、右手を下唇にあてた。 数秒の沈黙のあと、彼女は口を開いた。 「それじゃあ、私の家に来てくださいませんか? またクッキーを作ったんです。 今度は一味改良を加えたんですよ」 また美味しくなったのか、と男が聞いたら女性は首を右に傾けた。 「それは、食べてみてからのお楽しみです」 女性はほほえみを浮かべた。 女性の自宅はスーパーからそう遠くない位置にあるという。 男はバイクを駐輪場に置いたまま、女性と一緒に歩き出した。 473 :~お菓子と、男と、女ふたり~ [sage] :2007/03/17(土) 21 41 07 ID tfngQ5h3 四月の第一週目の、土曜日。 目の下にくまを張り付かせた女性が、駐輪場に何も停まっていないスーパーへとやってきた。 あからさまな落胆の表情をして、女性はスーパーのドアをくぐった。 店内を何周か見てまわったあと、その女性は女性店員の一人に声をかけた。 人を捜しているんです、と言って女性は写真を店員に渡した。 女性店員はその写真を一目見て、女性に写真を差し出した。 「すいません。私では、力になれません。 先月の中旬にこのお店に来たことは覚えていますけど、 それから『このお店の中』では見たことがありません」 女性店員はすまなそうに頭を下げた。 そうですか、と言って女性は表情を沈ませた。 とぼとぼといった調子で立ち去る女性の姿を見ながら、女性店員は一言つぶやいた。 「もう、彼はあなたの前には現れません」 女性店員は、下を向いた。 そして、勝ち誇ったような、嬉しくてたまらないといった表情を浮かべて、わらった。 終 ーーーー
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ここは会場内の湖畔、そのほとりには無数の人影があった。 いや、厳密には人影ではなく、無数のゴブリンとそれに陵辱される一人の娘の姿があった。 「う、うげええぇぇぇ……もう、やめてぇ……お願いだからぁ……もう、出さ、な…でぇ…」 陵辱されている娘、女武闘家は嘔吐しながら力ない声でゴブリンたちへそう嘆願した。 しかし彼らが手を緩めることなどない。 それは彼女自身、自分の身をもって理解していることだった。しかしそれでも、その苦痛から彼女は嘆願せずにはいられなかった。 そしてゴブリンたちはそんな彼女をあざ笑い、またも彼女の身体に自らの精を流し込んでいった。 それにより女武闘家が再び悲痛な声を上げる、そんなおぞましい光景がここには広がっていた。 しかしそんな光景が突如として終わりを迎えた。 見回りをしていたゴブリンたちが、謎の黄色い弾により吹き飛ばされたのだ。 それにより先ほどまで女武闘家を陵辱していたゴブリンたちはその手を止め、自らの武器を手に取りその場へと向かったのだ。 そしてそこには、奇妙な格好をした男がいた。 黒地に金の刺繍が施された着物にすだれのようなものが付いた冠、そして顔全体を巨大な呪符のようなもので覆っていた。 まるで中国の皇帝とキョンシーを混ぜたような見た目をした男が、そこに立っていた。 そしてゴブリンたちは気づいた。彼が自分たちを襲った者だと気づき、数の暴力に任せて彼に襲い掛かった。 しかしそれは悪手だった。男はそのまま彼らゴブリンたちを様々な技で葬っていったのだ。 丁度男の目の前にいたゴブリンは抜き手で無数の風穴を開けられ、 あるゴブリンは気弾を込めた掌底で身体を跡形もなく吹き飛ばされ、 またあるゴブリンは空中で繰り出された回し蹴りで周囲にいた仲間ごと頭をはね飛ばされ、 そして遠くにいたゴブリンは彼の手から放たれた気弾によってすべて薙ぎ払われてしまった。 中でも一番悲惨だったのはこのゴブリンたちを率いていたリーダーだろう。 彼は男の放つ無数の技を食らった挙句、全身を骨も残らずチリにされてしまったのだから。 そうしてその男は体術のみでゴブリンたちをすべて殺害してしまった。 その光景を、女武闘家は一言も発さず、まばたきもせずに見つめていた。 魅了されていたのだ。彼の放つ技一つ一つに。 曲がりなりにも武闘家であるから分かったのだ、彼の放った技の美しさとその威力に。 そして、彼の衣服には一つたりともゴブリンたちの血が付いていないことに気づいたのだ。 そうして彼女が男の姿に魅了されていると、その男がこちらに近づいてきた。 全身を汚辱にまみれた姿を見られたくないと思った彼女は男から逃げようとしたが、男のほうが早く彼女のすぐ近くまで来てしまった。 そうすると突如男が口を開いた。 「其方、なかなかいい目をしているのぉ……」 「憤怒、絶望、憎悪、屈辱、………そして力に対する渇望が透けて見えておる」 「余はそのような淀んだ目をした人間が大好きでの、何なら其方に技を授けてやろうか?」 目の前にいた男は女武闘家にそう言い、彼女をじっと見降ろしていた。 お前に自分の技を授けてやると、彼はそういったのだ。 そして彼女はその言葉に対し、即座に答えた。 「……ぜひともお願いいたします……!貴方のことを、師匠と呼ばせてください……!」 師匠と呼ばせてくださいと、貴方の技を授かりたいと、そう答えたのだ。 そして男は高笑いをしながら彼女の答えを受け取ったあと、自身の名を教えた。 「はっはっはっはっ!余に師事を仰ぐか!余はマオタイ、我が剛の拳の極意を、とくと味わうがよい」 そうして彼女に自分の技を教えるといったマオタイだったが、彼女に対して顔をしかめた雰囲気でこう言った。 「まずは、そこの湖で体を清めよ。そのままでは栗の花臭くて、教える気にはならぬ」 その言葉に若干ショックを受けた女武闘家だったが、その通りだとも思ったので彼の言うとおり自分の身体を洗いに行った。 そして先ほどまでゴブリンに襲われていたため確認できなかったデイバッグの中に、丁度衣服が入っていたのでそれを着ることにしたのだ。 これからの自分の成長に胸を躍らせながら……。 そして彼女が体を洗っている間、マオタイは…… 「ふむ、やはり余の身体から力が失われておる…、これもあの主催者の仕業か……。全く、忌々しいものよ……!」 自分の身体に起きた変化について苦々しい雰囲気を出しながら確認をしていた。 (しかし、余の身体に起きた変化を確認するために小鬼どもを始末したが、とんだ拾い物をしたものよ) しかし彼は呪符で隠した顔から笑みを浮かべていた。何故ならば、彼は面白い拾い物をしたからだ。 (あの小娘、女武闘家といったか?あれは、磨けば光る逸材よ……) (必ずや、余の覇道を支える程の拳士、ひいては余の悲願たる"王楽浄土"の礎となる存在だろう……) そう、彼は女武闘家の中にある才能を見出していたのだ。そしてその才能を開花させれば、必ず自身の役に立つ拳士となると、そう確信していた。 故に彼は女武闘家を助けたのだ。自身の覇道を助ける、一つの駒として、そして自らが求める『とこしえの楽園』のための礎として。 そして彼のもとに、身体についた汚辱を洗い流し、また新しい衣服を身にまとった武闘家が走ってきた。 「身体を清めてまいりました!では、稽古をつけさせていただけますか?」 「そうか、では早速稽古をつけさせてやろう。覇を掴む、最強の拳をその身に刻むがよい」 ―― こうして、かつて小鬼により道を閉ざされた武闘家は仙界の魔皇によってその才覚を見出され、再び武の道を歩み始めた。 ―― その先に待ち受けるのが、彼の意志によってすべてが決定される『偽りの理想郷』であっても、今の彼女にそれを知る由はない…………。 【女武闘家@ゴブリンスレイヤー】 [状態]:陵辱による疲労(中)、ゴブリンへのトラウマ(大)、マオタイの技に対する心酔 [装備]:カンフースーツ@現実 [道具]:基本支給品、ランダム支給品×2 [思考・状況]基本行動方針:ゴブリンたちへの雪辱を晴らすため、マオタイに師事を仰ぐ。 1:何という技の数々……!この人に師事を仰げば私も……! 2:ゴブリンたちは皆殺しにする……しなければならないんだ……! [備考] ※参戦時期はゴブリンスレイヤーによって救出され、馬車で他の犠牲者とともに移動していた時期 ※元の衣服はゴブリンたちの手でズタズタにされたため、カンフースーツを着用しています。 ※魔皇マオタイを『異国の武闘家』だと思っています。 【魔皇マオタイ@モンスター烈伝オレカバトル】 [状態]:健康、力を封じられたことに対する怒り(大) [装備]:邪帝の酒器@モンスター烈伝オレカバトル [道具]:基本支給品、ランダム支給品×2 [思考・状況]基本行動方針:主催者を打倒し、『どんな願いもかなえる力』を奪う。 1:余の覇道を邪魔するか、痴れ者め! 2:『どんな願いでも叶える』か……ならばその力、余がすべていただこう。 3:こやつ(女武闘家)は、磨けば光りそうだ……。 [備考] ※制限により『無影暗殺拳』、『七死七殺拳』などの相手を即死させる技の効果が無効化されています。 また本来の姿である『邪帝』への変化もできません(正確にはそのために必要な『邪帝白酒』が没収されています)。 『支給品紹介』 【邪帝の酒器@モンスター烈伝オレカバトル】 黒と金の菱形模様をした盃で、彼が『邪帝』に変化するために必要な道具の一つ。 これに彼特製の『白酒』を注ぐことで『邪帝』への変化を果たすのだが、 肝心の酒とそれを作るための『魔麹』が手元にないので、今のところ只の盃である。
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ゆっくりたちの地雷行進 11KB 虐待 不運 番い 野良ゆ 現代 独自設定 ゆっくりが地雷で死ぬSS 加工所公式サイト、キッズページで「しゃかいこうけん」という項目をクリックすると、こんなページが出てくる。 【加工所はアフリカの土地で、ゆっくりを使った地雷除去を行っています】 ゆっくりんピースの活動などにより、一部では悪い印象を持たれているのも事実。 イメージ戦略の一環として、こういうこともしているようだ。 右下にはかわいくデフォルメされたれいむとまりさが、笑顔で喋っているイラストが付いている。 そのセリフは? れいむちゃん「れいむたちはみんなのためにがんばりたいよ!」 まりさちゃん「ゆゆ~ん♪ かこうじょのゆっくりはこんなところでもかつやくしてるんだね!」 ● どん、どん、どん、どん……。 ゆっ、ゆっ、ゆっ、ゆっ……。 太鼓の音が響く。 かつての内戦地。じりじりと暑く草一つない亜熱帯アフリカの大地にて。 横一列×十行に並んだゆっくりたちが一糸乱れぬ調子で前進していた。 ひとつドンと鳴るたびに一歩進む。機械のように、ただただリズミカルに進む。 (おちびちゃん! れいむは、れいむはぜったいにしなないよ……!) 横のゆっくりとの間に、スキマはまったくない。ほっぺとほっぺをくっつけて、決して遅れないよう進んでゆく。 どんどん。ドン! 「ゆびっ!!」 どんどん。ドン! 「ぼっぢょっっ!!」 どんどんどん。ドン! 「ゆがぼべ!!」 立て続けに三匹、永遠にゆっくりした。れいむの頬に、爆風と爆音。ゆっくりの断末魔が突き刺さる。 そして餡子の底から不快になる死臭が風に乗ってやってくる。 しかしどのゆっくりもまったく歩みを止めようとしない。 はねるたびに、大地の暑さによって染み出てきた汗がとびちる。 どんどんどん。 突然に、風が一吹きあった。 「ゆゆっ! まりさのおぼーしさん! まってね!!」 このまりさは、ただちょっとお帽子を取りたかっただけだ。 「ぺぎょっ!!」 そこで小さい爆風。まりさは中枢餡を爆破されこの世を去った。 止まったり列を離れたりしたゆっくりはどんな理由であれ、体内にうめこまれた爆薬でぶち殺されるのである。 自由な行動を許しては、地雷の除去はままならない。 どんどんどん。 一歩おきに、地雷に殺される可能性がある。その恐怖。 どのゆっくりも泣きそうな顔をして、死への道をただただ進むのだ。 顔を真っ赤にして号泣して、それでも死にたくないから止まれない。 「むっぎょおおおお!!! ぼういやああああ!!! ばちゅおうぢにがえるううううう!!!!」 また爆風。 このぱちゅりーのように恐怖のあまり狂って、走ったり暴れたりするゆっくりもいた。 恐怖に耐えられないゆっくりも、列からずれ次第爆破される。珍しくない出来事だ。 どんどんどん。 死と隣り合わせの極限状態。また。しずかに、ただ太鼓の音だけが響きはじめた。 れいむは祈りながら、一歩ずつ慎重に進む。地雷がないように、あっても何かの間違いで爆発しないように。 交通の発達とともに世界中に繁殖したゆっくり。 れいむはこの暑く草もまばらな土地から少し南の、あるジャングルで生まれ育ったゆっくりだった。 雨が多いことが熱帯雨林に住む上での唯一の難点である。 しかし食べ物が多く、なんといっても越冬する必要がないことがゆっくりの繁殖を許した。 それぞれの力は弱くても種全体としては力強いゆっくりは、凶悪な外来種としてここでも猛威をふるっているという。 そんなれいむが地雷除去ゆになったのは、人間さんたちのゆっくり狩りが原因だった。 豊富に繁殖した熱帯雨林のゆっくり。そこのゆっくりを使うのが量の面でも、コストの面でも良いと担当職員は考えたのである。 れいむは捕えられたあの時を、いつも反芻している。 あの時ふらんに捕まってさえいなければ、今だってゆっくりできたはずなのに。 ~~~~~~~~~~ ツルや低木がごちゃごちゃと並ぶ中、高い木の根元、そこに巣をつくってれいむたちは暮らしていた。 夫のまりさ、そして十五匹のおちびちゃん。食べ物は豊富で、最高にしあわせーな家庭であった。 「「おちびちゃんたち、おかーさんとおとーさんはかりにいってくるよ!」」 「「「「「ゆっくちいってらっちゃい!!」」」」」 天使のような子供たちの笑顔。れいむとまりさもついついにっこりしてしまう。 しかしこれが親子でした最後の会話となってしまった。 おちびちゃんとふれあったあの日々。れいむは、もうずいぶん前の事の様な気がしている。 育ち盛りの赤ゆを抱えたれいむとまりさ。沢山ごはんを採るため群れで有名な狩りスポットへ行こうとした。 ぱぱいやさんも生っているゆっくりした場所。しかしそれが運の尽き、そこはすでに地獄だった。 ゆっくりが集まることを見越して、捕獲用ふらんが大量に放たれていたのだ。 「しね! しね!」 「「「うー☆」」」 「ゆんやあああ!!! ありちゅをたべにゃいでええええ!!」 「おぢびぢゃああああああんんんん!!!!」 「ばりざおいしぐないよおおおお!!!」 「でがばらぢんぼおおおおお!!!」 「みんなあああ!!! みんなにげでえええええ!!!」 逃げ回るゆっくりはいとも簡単に捕まり、次々と巨大なバケツに放り込まれている。 重量がない子ゆ・赤ゆは軽過ぎて地雷除去ができないので、食べられるか殺されるかだ。 にげてと叫ぶ長ぱちゅりーも、まばたきした一瞬に連れ去られ、バケツ行きになった。 ふらんが群れのみんなを捕まえている! 捕まって食べられてしまう、そんなの冗談じゃない! れいむはまりさにふりかえった。 「ゆゆ! ゆっくりしないで、れいむたちもにげるよ!」 自分達も逃げないとゆっくりできない目にあいそうだ。はやく逃げなければならない。 しかしまりさの返答は、漢気あふれる勇敢な物。みんなのことを考え命を捨てる、そんなゆっくりにしかできない答えだった。 「まりさは……にげないよ! れいむとおちびちゃんたちだけでにげてね!! まりさはふらんとたたかって、むれのみんなをまもるよ!!」 「ま、まりさ!! なにいってるの!? いくらまりさがむれでいちばんつよいからって!」 まりさは成ゆ三匹を相手にしてなお無傷で立つ。この群れ十年に一度の戦士だった。 その自信もそこからきているのだろう。まゆげはキリリと伸び、表情は自信に満ち溢れている。 れいむは悲しくなり涙を浮かべたが、これが自分の愛したまりさだと思うと、それ以上止める気にはならなかった。 まりさならふらんたちを倒せるかもしれない。 「わかったよ……、でも、ぜったいいきてかえってきてね! まりさがしんだられいむもおちびちゃんもないちゃうよ!!」 「もちろん! しんぱいしないでね! ふらんなんてちょちょいのちょ……おそらをとんでるみたい!!」 まりさはキリリとした顔のまま、ふらんにおさげを掴まれあわれバケツ行きとなった。 「ばりざああああああああ!!!!」 れいむも同じ道をたどったことは言うまでも無い。 ~~~~~~~~~~ (ぜったいにいきのこって、おちびちゃんとゆっくりするよ! ぱぱいやさんをたべて、ゆっくりするよ!) つがいのまりさはあっけなく爆死したが、れいむはまだ死んでいない。 れいむは希望を持っていた。地雷除去ゆたちは、がんばったゆっくりから群れに帰れるとふきこまれている。 だが現実、ゆっくりがおうちに帰ることはは二度とない。 ゆっくりを働かせるための口実だろう。この土地の地雷処理が終われば次の土地に輸送されるだけである。 地雷を踏んでしまうその日まで、この地獄は終わらないのだ。 「Back!」 人間さんの鋭い掛け声とともに、ゆっくりたちは反転する。 Go aheadで進み、Backで戻り、Waitで止まる。その三つ以外の事は求められない。地雷処理ゆ全てだ。 (ゆふぅ、かわいいれいむはきょうもいきのこれたよ) 反転したゆっくりたちは、自分が歩いてきた土をまた踏むことになる。 念のためということで、一つの場所を何度も往復するのだ。 一度踏んだ土の下に地雷は無いはずだからと、ゆっくりたちもここにきてやっと安堵の表情を見せる。 ただ運よく何週間も地雷除去を続けているゆっくりはそんな簡単に安心できず、不安そうな顔をしている。 ここから死ぬゆっくりも沢山いるのだともう知っているのだ。 その瞬間、れいむの視界はスローモーションになった。 大きな音。大きな音。どこから? それは、れいむの下から。 「ぶぎょっ!!」 れいむの体の真下。餡子の重みで地雷が爆発した。 筋餡も中枢餡も、なにがなんだかわからないぐらいまざりあって、粉々にふきどんだ。 れいむは死んだ。走馬灯を見る暇すらなかった。 軍事上の理由から複数回踏まなければ爆発しない地雷、誤作動により爆発できなかった地雷。 二度目以降でも爆死するゆっくりはいる。 しかしなんてことはない。ゆっくりが死ぬのはいつものこと。 人間さんも、周りのゆっくりも、れいむの死などなかったかのように行進を続けた。 行進が終わったあと、残されたのは死んだゆっくりたちのバラバラになったおかざりと、ぶちまけられた大量の中身だけであった。
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希苑組SS 合計点<+5> タイトル<点数/コメント> 希苑組SS合計点<+5>タイトル<点数/コメント> 桂珪馬+夢見崎ルウク登場オサレSS『神のみぞ知る』<+5> 桂珪馬+夢見崎ルウク登場オサレSS『神のみぞ知る』<+5> 俺の大叔父に珪郎さんという人が居て、 この人はよくふらりと本宅に遊びにも来たりもするのだが、 正直なところ、俺はあの人の事が少し苦手だ。 珪郎さんは強い。 元々は桂家の外の魔人で(その時は名前も今とは違った)、 ばあちゃんの末の妹に婿入りしたのだが、その時から既に化物みたいに強かったらしい。 EFB能力の直撃を受けてもゲラゲラ笑いながら無傷で復活してきただとか、 一人の転校生を6年間休まず攻撃し続けて恐怖とストレスで過労死させただとか、 ほとんど冗談みたいな伝説をいくつも持っている。 少なくとも家長のばあちゃんよりは強いらしいから、実際にヤバいのだろう。 更に言うと、その全てが愉快犯だという。ニャルラトホテプみたいな人だ。 まあ幸いな事に、孫世代の俺や珪乃姉さんに対しては、 かなりの悪意混じりとはいえ、割と気さくに接してくれている。 もっとも――だからといって俺の苦手意識がなくなるわけではない。 それに俺が珪郎さんの来訪を歓迎できない理由は、もう一つある。 「見えたぞ、バッドエンディングが!」 「……」 「さぁ、死に急げ!!」 「……なぁ」 「飛び降り自殺か…… シナリオ自体はありきたりだけど、いいエンディングだなぁ……」 「……なぁ珪馬。俺その類のゲームはやった事ないから分からないけどさ。 それ多分、そういうゲームじゃないと思うんだが」 この家では厄介な客は全部俺に任せるというルールができたのかもしれない。 珪郎さんの孫の、桂珪馬。 俺と年の近いはとこだが、俺はこいつも全く好きになれない。 「……現実(リアル)の人間がボクに話しかけるなよ。 せっかくのエンディングの余韻が台無しになる」 「……」 また沈黙が続く。 こいつがこの部屋に来てから、もう4時間近くになるだろうか。 珪郎さんが向こうの部屋で伯母さんや伯父さん達と 話し合ったり殺し合ったりしている間中(こっちまで呪詛が飛んできていい迷惑だ) 俺はこの珪馬が黙々と携帯ゲーム機のボタンを押する様しか見ていない。 「フフフ、次の攻略対象はお前だ!」 (……死んだ珪悟さんがこういうのよくやってたけど) 煎餅をボリボリと齧りながら、特にやる事もなく珪馬のプレイを観察する。 女の子の絵が出てきて、要所要所での主人公の行動を選択するゲームだ。 だが珪馬の攻略法が絶対に間違っている事も、何時間か見ていて大体分かった。 こいつはただただ、仲良くなった女の子を奈落に突き落とす事だけに楽しみを見出しているのだ。 (もし俺が女だったら) (こいつみたいな男は絶対殺してるな……) 俺に限った話じゃない。実際にそう考えてる連中も多いはずだ。 こいつの攻略対象はゲーム内のキャラクターに限らないのだから。 「あのさ、さっきの話の続きだけど」 「結局、何十人殺したんだ? 生徒会だけならともかく…… そいつらの家族とかまで『処刑』してたのってお前なんだろ。 珪乃姉さんからの又聞きだけどさ」 「……」 反応すら返さないか。 この野郎。いい度胸だ。 「いくら桂が殺人鬼の集まりでも、さすがにやり過ぎだろうが。 あの事件だけで桂がどんだけ恨み買ったと思ってるんだ」 「……」 「珪郎さんが毎日みたいにうちの家族と殺し合ってるのもそのせいだぞ。 本人は楽しいんだろうけど」 俺も人を殺してないわけじゃあないが、取り合えず常識は持っているつもりだ。 DPも得られない一般人殺しなんか、リスクとリターンが全く釣り合わない。 珪兆伯父さんは昇進が遅れると泣いていたし、こいつが桂の悪名を高めたせいで、 俺はともかく珪乃姉さんまで関係者からの復讐に晒されるかもしれない―― 「ぶっちゃけ怒ってるんだよ俺は。 お前がいつもやってるみたいなゲームなら何人殺しても責任なんてないだろうけどな。 現実はゲームみたいに何事もなしじゃあ済まないって分かってるのか」 「……。 ゲームみたいに?」 くるり、と珪馬が振り向く。 中性的にも思えるくらい整った顔が、俺の目をじっと見つめる。 「現実なんてヌルゲーだ。 ゲームと現実を一緒にするな。 ゲームの方こそ、現実みたいに甘くないんだ」 「なんだと……」 「2つ間違いがある。さっき何十人『殺した』って言ってたけど、 僕は殺してなんかいない。彼女達が勝手に死んだんだ。 それに希苑組の他の連中はともかく、彼女達を『処刑』した覚えもない。 僕はただ『攻略』しただけだ」 衝動で金属バットに手が伸びるが、途中で抑える。 俺の理解の範疇を超えた価値観だ。 それはつまり、結局ゲーム感覚……って事じゃあ、ないのか。 「ゲーム感覚の一体どこが悪いんだ? 恋に破れれば死ぬ。発狂する。そうでなくとも、心に消えない傷を抱える…… そんなの、ギャルゲの中では当たり前の事だ。ヒロインの恋のチャンスは一度しかない。 現実(リアル)の連中が『恋愛』だと言い張ってるリスクのない恋愛もどきなんかより、 ギャルゲの中の恋愛の方がよほど真剣だと思わないのか? 現実(リアル)女は愛だとか恋だとか結婚だとかをすぐ口にするくせに、 実際にゲーム感覚で本気の恋愛をしている奴が、この世に何人いる?」 「へえ……! ゲームのし過ぎで退化したかと思ってたけど、意外とよく回る口だな。 言葉通りゲームの中だけに閉じこもってりゃあ、死なずに済んだ奴もいるかもな!」 「ふん。珪一の方こそそう思ってるんじゃないのか? 人の一人くらい死なないで、何が恋愛だ」 「は……?」 「話は変わるが」 さっきからずっと、まばたきすらしていない。 珪馬の目が細くこちらを射抜く。 . . . . . . 「お前は羨ましいな。何しろ両親がいない。 親なんてギャルゲの主人公にとって一番不要な存在だからな。 恋愛なら尚更だ……そう思ったんだろ?」 こいつ―― 金属バットを掴んで、 「………………………。 ……殺すなよ、ルウク。 そいつはそれでも対霊能力はかなり高いからな」 振り抜いた凶器は、珪馬の頭蓋に達する寸前で止められている。 「悪霊――」 「死ぬぞ」 ――警告されなくても分かっている。 名目上は、こいつらは桂の分家だ。 だけど珪郎さんはあまりに強く、それでいてなお力を集め続けた。 もう分家の方が、本家の連中なんかよりも遥かに強くなってしまったのだ。 桂一門の家系は……その力だけを、珪郎さんに利用されただけなのだと。 奴らはなんでも利用する。 恐ろしい副作用があるという『強化魔人』の力まで。 「珪乃さんに甘やかされすぎて弱くなったな、桂一。 お前の方こそ現実(リアル)に生きるつもりなら、 少しは現実を見たらどうだ」 「何を言って……」 「このままじゃお前ら本家は食われるままだって言ってるんだ。 いつまで安全な位置にいるつもりなんだ? お前も十分戦えるはずだ。いつになったらお前自身が動くんだ? 僕を異常だとあげつらっておいて――お前自身はどうなんだ!!」 気迫に圧される。 なんだ……こいつは。小さい頃からこんなだったか。 ただのゲームオタクだと思っていたのに…… 「まったく、落ち着いてゲームもできないな。 外で攻略してくる」 部屋を出て行く珪馬の後姿を、俺は呆然と眺めているしかなかった。 霊能力ではない。人の心の奥底を見抜き、抉る能力。 女の子ならあるいは、今の言葉で恋に落ちただろうか……? そう考えると、虐殺で敵に回してしまった相手がどれだけの人数だろうと―― 心理戦であいつと戦う事など、信じられない無謀に思えてきた。 「……。 俺か……」 ……俺は奴みたいに強くはない。 今はまだ、傍観する事しかできない。
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☆ ☆☆ 「…遅い」 今、私はこうを待っている ――が まだ来ない、まぁ…こうだから仕方ないけど…… “ん~!、いい天気だっ!、今日は特別気分がいい、ほら!、だから映画に誘っちゃおうかな!”…という かなり意味不明な誘われ方をされた時はどうかと思ったけど… 「やっぱりこうはこうね……」 ……ちょっとはきゅんと来たんだけどなぁ…と、あれ?、誰かが手を振ってるけど… よおく目を凝らすと、まだ遠くの方だけど何かを叫んでこっちに走って来ている 「や~ま~と~~!」 やはりこうだった、、、必死に走ってこっちにぶんぶん手を振っている…様に見える ……そうこうしてる間にご到着ね、さて…どんな言い訳をしてくれるのかしら? 「ごめん!、家の前で赤ジャケイケメンがバカ重い剣ゴリゴリ引きずっててさ…」 「……」 「え…と、男三人がトイレに入ってキーを振り上げてたのね…」 「………」 「…ごめんなさい」 …あら、今回は早かったのね、いつもこうの言い訳楽しみにしてる感もあったのだけど、、 「まぁ、いいわ…行きましょ」 「ありがとごぜえますだ…」 田舎のじいちゃんばあちゃん風に御礼を言うとか…絶対反省してないわね……まぁ、そんなとこも含めて好きになったんだけども 「で、今日は何の映画を――」 あー…寒い、、さっさとどこでもいいから入りたいわ… そう思いながら鼻をすすりながらこうの後ろをついて行く 「言い訳はいいわけ!、ってかw……」 びゅうぅぅ…! 「え?」 その時丁度強めの風が吹いて、(本当に)こうの声が聞こえなかった 「な、何でもないヨ」 こうの声は何故か弱々しい、それに語尾が変だ 「……風が吹いてて聞こえなかったの、だからもう1回言って?」 「だ、だから何でも無いって!」 「そう言われると俄然気になるわね……」 じぃっとこうを見つめ、その反応を待つ 「う、うるさいわーい!、何でもないったら何でも無いの!」 ……いや…何で逆ギレ? ☆ 「……で、何の映画なの?」 数分後、ようやく落ち着いたこうに聞いてみた 「んー…恋愛モノか特撮モノか迷ってるんだよね」 「じゃ、特撮モノは却下で」 こうの返事にすかさず言葉を返す 「オウフ」 こうは槍が体に刺さった様なリアクションをする、いや、実際に槍が刺さった人見たこと無いけど 「……冗談よ、こうと見られるのなら何だっていいわ」 「あ…あー、うん…そうなの?」 “うん”と答え、微笑えんだあとふと思う、〈何だって~~〉はまずかったかしら、言ったあとに思うのもあれだけど…… 勝手に気まずくなって、周りを見渡すとカップルが多いことに気が付いた 「あーらら、気付いちゃったか…」 ばつが悪そうに呟くこう、間が悪い事に聞こえちゃったわよ…… 「いやね、何か知んないけどカップルの聖地?、がここら辺にあるんだってさ」 「ふーん……そうなんだ」 相変わらず嘘が苦手なのね……声、高くなってるわよ、、ふむ…なるほど、そう言う事か 「―でさ、映画を見た後にね…」 ……急に立ち止まって私にむけて話すのはいいけど、こっちを向いて話したらどうなの? 「私と――」 このままではまずいと思ったのかどうかは知らないけど、こうは勢いよく振り向く 「そk、うわっ?!」 しかし振り向く途中で足がふらついてそのまま地面に―― 「 ほ げ ー ー っ ! ! ! ! ? 」 ばったーんっ! 勢いよく転び倒れてしまった……しかも頭から 「ちょっ、こうっ?!、、大丈夫っ!?!」 ☆ ☆ 「う…ん……?」 「…大丈夫?」 こうが気絶してから、30分後、彼女はようやく私の膝の上で目覚めた 「ここは…?」 キョロキョロと辺りを見回すこう、しかしここは前も後ろも壁だらけだ、少し右に歩けば道に出るけど人通りは少ない 「路地裏、病院まで運ぶのめんどくさくて」 「…ひざまくらかぁ……」 彼女は私の膝を撫でながら、普段では考えられないか細い声を出す 「まずかった?」 「うんにゃ、最高だよ」 「……そう、良かった」 見慣れない彼女の心からの笑顔に妙にどきどきして、思わず視線を逸らす 「でも危なかったぁー……火サスか土ワイだったら間違いなく死んでたよ…」 「地面に石やら突起物やらが無くて良かったわね」 私の言葉にこうは鳩が豆鉄砲を食らった様なすっとんきょうな顔をしていた。何でそんな顔をしているのか疑問に思っていると 「…やまとが私のネタにノるの初めて聞いた」 ……あぁ、そうか、、そうだった気もする 「それだけ心配したって事よ…後でちゃんと病院行きなさいよ?」 「うん……でも、もう間に合わないなぁ…映画、入れ替え制だから最後の回だったんだよね…」 こうはしょんぼりとした表情とか細い声で悔しがる 「……そう」 …なら、それなら―― 「じゃあ――…」 ちゅ……っ… 彼女の唇に軽く触れる程度のキスをする、舌だの何だのを入れない文字通りの軽いキス……確か こんなのバードキス…とか言うんだったかな?、、後で調べてみよう 「………え?…」 こうはぽかんと口を開け、目をぱちぱちとさせまばたきを繰り返す 「……したかったんでしょ?、前倒しよ」 「え、や、うん…はい」 そしてこうは赤面しながら再び目を閉じる 「………?」 「ん~~~…」 そして唇を突き出して、何やら私にアピールをし始めた 「……何してるの?」 「え?!、続きしてくれるんじゃないのっ?」 驚いてこうはがばっと起き上がって私に疑問をぶつける、そのあとすぐに頭を抱えうずくまった 「そんなのいつでも出来るし、それに今ようやく目覚めたばかりでしょう?、そんな中でディープキスだの ナンだのしてたらイっちゃうどころか逝っちゃうわよ?、ほら今だってこんなだし」 「あー…うん、、いやぁ…すいません…」 「………」 こうはやけに畏縮した、少し…言い過ぎたかも……あーダメだなあ…こんな…ダメだダメだ ☆ 「――ありがとね、やまとがいなかったらどうなっていた事か!」 にかっ!、っと元気な笑顔を向けるこう、、でもさっきの笑顔は…それ以上だった 「…うん、無事で良かった」 あの後、しばらくしてあの路地裏を出て、2人で帰り道をぶらぶらと歩いている、、まぁ……こんなゆったりと した時間もいいかもしれない……その前はかなりギリギリだったけど…ホントあの時はどうなる事かと思った 「…今日はごめんね、あーあ…今日割引き日で1000円だったんだったけどなー……」 「……こうを膝枕したし、寝顔見れたから別にいいわよ」 「そか…でもやまとのキスで帳消しになったけどね」 こうはにへらっ、っと笑ってみせた……『にへらっ』って何だろう…自分で言っておいてなんだけど 「―…そう、私の価値は1000円だって言いたいのね」 わざと冷たい口調でこうに向かって喋ってみる 「は?!、やっ??、ばっ、そんな!、やまとは1000円以上だよっ!!、いや、人をお金で表したらいけないんだよ、うん!」 「……ごめん、私が悪かった」 ……まさかこんなにうろたえるとは思わなかった 「でも、ホントなんだよね?…本当に私とえっちしてくれるんだよね!?」 こうの両目はきらきらと眩しく輝いている、“いつでも出来る”なんて言っちゃったから後に引けない感もある…気がする というか…えっちとは言ってないような…まぁいいか 「……うん」 「色々と注文付けるよ?」 「…注文にもよるわね」 「――やっぱり緊縛プレイは外せないよね、露出プレイもいいな、、でも私お腹が弱いんだった、アナルもいいし、旧スクや裸エプロン、 着物、路地裏もいいよね、いや、普通にベッドでもいいかも?、お風呂であらいっこもいいなぁ、、それと―」 「……ホント懲りないわね、あなた」 ……でも、そんなあなたを好きになった私も――… コメントフォーム 名前 コメント 2424しまくり>< 超よかった!GJ -- 名無しさん (2010-03-25 17 37 30)
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第10話「はじまりのあさ」 ズレた断層が隆起して30分ほどが経過していた。 真乃は波に打ち上げられていた小野寺を発見。小野寺の生存は希望的だった。めぐるはしゃがみ込み、海を見つめていた。八宮一家やカイト、春生や灯織も小野寺の姿を探し続けていたが、真乃が小野寺を発見したことをカイトたちに報告する。 「小野寺さん・・・・生きていたのか・・・・」 めぐるが小野寺に伝えることができた言葉を呟いた。その言葉は小野寺との決別ではなく、この場で無事に居たことによる奇跡だった。 強い風が吹き、波が荒くなる。波の飛沫が8人と横たわる小野寺を濡らす。 「人間は海から来たのに、なぜ海では生きられない・・・・」 カイトは岩場の上に立つ自分の足を睨みつけ、悔しさを嘆いた。 マスクをつけている裕太は膝の上で握った拳をブルブルと振るわせている。 「・・・・僕のせいなの?」 「違う・・・・クソッ」 カイトは頭を振り、裕太の言葉を否定した。春生は自分の意志で走ったのだ。 「違う、まだ・・・・」 めぐるも同じ気持ちだった。ケースをギュッと握りしめ、立ち上がろうとする。浩一郎とジュリ、カイトと裕太は、そんなめぐるの背中を見つめていた。 一行は浩一郎を先頭にぬかるんだ陸地を歩いている。めぐるは浩一郎に合わせるように後ろを歩いており、裕太もめぐるに合わせるように後ろを歩いている。ジュリは裕太、灯織はジュリ、春生は灯織、真乃は春生の後ろをそれぞれ歩いている。 小野寺を背負って最後尾を歩いていたカイトが、速度を上げてめぐるの横に並んだ。 「ねえ、これって何?」 「ふっ・・・・」 カイトは行く手にある小高い場所を見た後、目を瞑って下を向いた。 元々は巨大な工場だったが、陥没と沈下で原形を留めておらず、辛うじて倉庫らしき建物の屋根が地上に出ている。 カイトは背負っていた小野寺を下ろし、腰掛ける。めぐるたちも傍に腰を下ろす。 申し合わせたように8人の視線が、めぐるが手にしているケースに向く。 「貸してみろ」 カイトはめぐるからケースを受け取り、中からハードディスクを取り出す。 ハードディスクをスマートフォンに繋ぐと、画面にフォルダが現れた。 太陽が沈み始め、ただでさえ薄暗い空がいっそう暗くなってきたので、画面から放たれる光がどこか幻想的でもある。 カイトがフォルダを開くと、膨大な量のファイルが出現する。 「あっ」 カイトは重要度を示す星マークが付けられている1つのテキストファイルを開いた。そこには世界地図があり、地図上に無数の矢印と数字が書き込まれている。 数字の①が書かれた場所は、田所博士の基地からさほど離れていない。 「地図?」 「それ、何?」 めぐると裕太はスマートフォンに表示されている世界地図を見つめる。スマートフォンのバッテリー表示は7パーセント残っているが、カイトはサイドのボタンを押し、オフにすると「・・・・バッテリー切れだ」とカイトは言い、スマートフォンをしまった。 「何でだよ」 裕太が胡坐をかいたまましょんぼりして嘆く。しかし、カイトはファイルが何かを理解したらしく、顔には僅かに笑みを浮かべていた。 「おっさんとトンデモ博士は、沈む場所だけでなく、隆起する場所も調べて、データ化してた・・・・」 カイトは小野寺を見やる。小野寺は「はい」とまばたきを1回する。 「・・・・正解」 「・・・・日本以外の陸地が戻って来るってそういう意味?」 めぐるは小野寺の手を握る。 「よかった・・・・ありがとう小野寺さん!」 「数字が隆起する順番」 「最初に隆起する場所に行けば・・・・」 「行ける距離なの?」 「地図上は遠くないが・・・・」 カイトは瞬時に計算した。 めぐるは小野寺の手をさらにぎゅっと握る。 「小野寺さん、行けば助かるよね?」 「助かるかも」 「・・・・・・・・」 小野寺はまばたきをしない。つまり行ったところで生き残れる保証はないということだが、9人は可能性に賭けることで一致した。 「私は行ってみたい」 「僕も」 「私も」 「俺も」 八宮一家と真乃は隆起する場所へ行きたがっている。 「可能性があるなら行こうよ!」 「はぁ・・・・はぁ・・・・うっ!はぁ・・・・はぁ・・・・」 灯織は隆起する可能性があるなら行くようカイトに伝えるが、カイトは走ってジャンプし、傾いた建物の屋上へ登っている。 「コケは北に生える」 カイトが岩場に付着していたコケを見つけ、コケが東側に生えやすいことから、おおよその方角は把握していた。 「うっ!」 カイトが傾いた建物の屋上のフェンスを飛び越えた。 「ふっ・・・・」 カイトは海を見つめると、下にゴミや瓦礫が散乱しているのを見つけた。カイトは屋上から飛び降り、6階のフロアの手前で着地した。 「俺は持ってる」 カイトは下に散乱しているゴミや瓦礫を見つめる。 朝靄の中、9人はゴミや瓦礫を寄せ集めて作ったイカダに乗っていた。風を捕まえて進めるようにボロギレで作った帆も立っている。 浩一郎と春生、カイトと裕太が木の板をオール代わりにして漕いでいる。横たわる小野寺。めぐると真乃、ジュリと灯織は2人ずつ背中をくっつけ、足を伸ばしながら振り返り、一晩過ごした場所を見つめている。既にほとんどが海中へと姿を消していた。 当初の予定だった1時間半が過ぎた頃、カイトが手を止めた。 「・・・・あとどのくらい?」 「もう着いてる」 「えっ?」 「この辺りのはずだ」 「陸地なんてどこにもないですよ?」 裕太は四つん這いでイカダから顔を突き出し、海面を覗き見た。めぐるは真乃の背中にくっつけた状態で、やはり海面を見る。しかし、日本列島以外は陸地などどこにもない。あるのは見渡す限りの海と多種のゴミだけだった。 「隆起はするが、それが今とは限らない・・・・だろ?」 カイトは小野寺に尋ねるでもなく、自分が出した結論で自分を納得させるために口にした。小野寺は自分への問いかけではないと理解していたが、まばたきを1回する。 小野寺は今すぐ浮上しないことなどデータから分かっていた。だが、自分と博士の計算が合っていないかもしれない可能性に賭けたのだ・・・・。小野寺は、この時ばかりは博士と自分の計算が正しかったことを恨んだ。計算通りだと浮上するのはまだまだ先の話だった。 「じゃあ、いつ?」 「今日か10年後か・・・・100年後か・・・・」 「・・・・えーっ?」 めぐるは陸地がいつ隆起するのかカイトに質問し、カイトが今日か10年後か・・・・100年後かと答え、裕太は少しがっかりした。行先を失った9人に疲労がドッと押し寄せる。 突然、カイトが立ち上がる。その視線は40メートルくらい離れた場所に浮かんでいる銀色の物体を捉えていた。 「・・・・俺は持ってるぞ!」 カイトは再びイカダを漕ぎ始める。浩一郎と春生、裕太も訳が分からないまま、カイトの真似をして漕ぐ。めぐるとジュリはカイトが見ていた方角をじっと見つめていた。 その物体が何なのか、八宮一家と灯織は間近に来ても分からなかった。 「Finally.we can meet」 カイトがその銀色の物体を手繰り寄せ、イカダに引き上げる。裕太とジュリは気球を見つめる。 「これって、気球!?」 「飛べるの?」 それは気球だった。とは言え、八宮一家と春生、真乃と灯織はカイトから説明を受けても、これが気球だとは信じ難い様子だ。なぜなら、普通はあるはずの人が乗るゴンドラではなく、見慣れない太陽パネルのようなものがぶら下がっているからだ。 「ああ、直ればな」 カイトはぺちゃんこの気球を修理すると復活した。裕太と春生はぺちゃんこの気球が復活するとは思えなかった。しかし、カイトの眼にはいつものように自信がみなぎっていた。 太陽がテッペンに昇りかけていた。火山灰に覆われた空から陽が僅かに漏れる。 「すごい!!」 裕太は復活した気球を見て褒めた。バーナーが火を吹き、みるみる気球が膨らんでいく。カイトが調べた結果、落下したのは風向きによるもので、特に大きな損傷がない事が分かっていた。 「・・・・さすがカイト!」 「・・・・でも、乗るところが・・・・」 めぐるが不安な表情で尋ねる。どう考えても9人が乗れるとは思えなかった。 「1人なら乗れる」 カイトは平然と言うと、気球に点検用としてついているフックを自分のズボンのベルトループに装着する。 「えっ?」 「長い付き合いだったな」 カイトはワイヤーを掴み、パネルに足をかけた。 「気まぐれな付き合いはおしまいだ」 カイトはバーナーの火力を強め、気球を上昇させる。 八宮一家と春生、真乃と灯織は浮かび上がるカイトと気球を茫然と見上げた。 「え・・・・」 カイトがイカダと結んでいたロープを解くと、気球は一気に上昇した。 「おっさんを頼んだぞ。じゃあな」 「私たちは?」 「そのまま頑張れ」 カイトは笑いながら敬礼のポーズをした。 「・・・・嘘でしょ」 「あ・・・・」 裕太がジョークではないと認めざるを得ないほど気球は高々と舞い上がっていた。 気球の影が8人を覆う。もはや小さくなっていくカイトを見送る事しかできない。 気球が風でクルリと向きを変え、裏面にあったカイトのロゴが露わになった。 裕太は気球に描かれているカイトのマークを見やる。 「カイトのマーク付いてた・・・・カイトの気球なんだ・・・・」 カイトを乗せた気球は雲を突き抜け、上昇を続けた。 「うまくいく流れだ」 カイトの目は相変わらず自信に満ちているが、裏腹に吐く息は白く、高度の上昇に伴い、気温が低下していることが窺い知れた。 「1つくらい、基地が生きてるはず」 めぐると裕太の傍で「ピピッ」と音がした。 「あ・・・・」 2人はイカダの上にカイトのカバンが置いてあることに気づく。めぐると裕太は顔を見合わせた。めぐるはカバンをそっと開けて、中からカイトのスマートフォンを取り出した。 スマートフォンは電源がオンになっており、地図アプリが開かれていた。 「・・・・裕太、これって・・・・」 「カイトのだ・・・・」 「バッテリー切れたって・・・・何で・・・・?」 気球は上昇を続けていた。高度1500メートルを超え、気温がマイナス0度に近づく。 カイトは寒さで震え、手がかじかむ中、カイトは必死で気球を操った。 「俺は持ってる・・・・」 気球は火力を緩め、高度を保っていた。 寒さで汗が凍り始め、カイトの表情に余裕がなくなっていく。 「はっ!うっ・・・・」 カイトと気球を強い横風が襲った。 「はぁ・・・・はぁ・・・・はぁ、はぁ、はぁ・・・・いつも風は俺の味方」 カイトは風にあらがわず身を委ねた。小さなパラシュートを開き、風を捕まえる。 気球は急激に水平移動を開始した。 速度で寒さがさらに増す。カイトは目を細め、寒さに耐えていた。 「・・・・俺は持ってる・・・・負けなしだ!」 ピーッとアラームが鳴った。気球のアンテナが基地局からの電波をキャッチしたのだ。 「捕まえた!」 その電波が気球から地上へ拡散された。 専用のアンテナを内蔵しているカイトのスマートフォンが気球からの電波を受信し、画面にアンテナマークが表示された。 「ネットにつながった!」 「本当だ・・・・!」 「そのための気球だったんだ」 「えっ?」 「インターネットが世界中で使える、そのための気球があるのよ」 「おかげさまです」 めぐるたちはネットに繋がったことで感激した。GPS機能が作動し、画面に陸地があった頃の地図が表示される。その中央ではカイトのアイコンが点滅を始めていた。 風で気球が流されていく。行く手に火山灰を巻き込んだ巨大な雨雲がある。 上昇気流に乗ってしまい、気球は急激に高度を上げていく。 カイトは寒さと酸素の薄さで意識が遠のく寸前だ。 「・・・・俺ならやれる・・・・くっ・・・・負けるわけない・・・・うっ・・・・」 カイトは火力をさらに弱め、下降しようとするが、手がかじかみ、思うように動かせない。 カイトは、下降は無理だと判断し、火山灰を避けるために襟で顔を保護した。 しかし、火山灰で電波が遮断されてしまった。 裕太はカイトのスマートフォンを手にしていた。だが、突然ネットが切断され、アンテナマークもカイトのアイコンも消滅する。 「あっ、切れた」 「えっ・・・・」 「カイト・・・・」 八宮一家と春生、真乃と灯織は不安げに空を見上げ、カイトの身を案じた。 小野寺もおおよその状況は把握できており、7人と同じくカイトを心配してずっと遥か上空を見つめていた。ふと小野寺が何かの音に気づく。 「んっ?」 「あ・・・・」 目をパチクリさせ、指を動かす。めぐるがそんな小野寺の様子に気づいた。めぐるは小野寺が何かを伝えたいのだと直感で悟った。しかも、何か良い知らせを・・・・。小野寺の目は曇っておらず、僅かに輝いて見えた。 めぐるは耳を澄ました。裕太もめぐるの様子を見て真似をする。シーンと静寂が包む。7人にも何かが聞こえた。 「オスプレイだ!」 「あの・・・・」 めぐると裕太が遠くの空に飛んでいるオスプレイの姿を見つけ、2人はほぼ同時に叫んだ。 浩一郎とジュリ、真乃と灯織、それに春生は右手で手を振り、「おーい」と1人ずつ掛け声をあげている。 めぐると裕太も必死で手を振る。オスプレイの姿が次第に見えていく。 「おーい!おーい!」 めぐるたち7人は大きく手を振った。 「おーい!」 「GPSで来たんだ!カイトが呼んだんだ!」 「おーい!」 裕太はLEDライトを点灯させ、オスプレイに向かって振った。 「今、助けます!何人いますか?」 8人の存在を目視したらしく、オスプレイはグングンと近づいて来る。 「8人!そしてもう1人!」 大きく手を振っているめぐるが叫んだ。 イカダの20メートルほど頭上でホバリングするオスプレイを見上げながら、八宮一家と真乃に安堵の笑みがこぼれた。めぐるは春生と灯織、それに小野寺を見た。小野寺の顔も僅かにほころんでいるようだった。 「カイトは先に気球に乗りましたよ」 救助船に向かうオスプレイの機内に、八宮一家と春生、灯織、真乃、小野寺の姿があった。小野寺は毛布に包まれ、点滴を受けている。めぐると裕太はジェル状の食べ物を胃に流し込んでいた。 オスプレイに乗っためぐるたちはマスクを着用しており、新型コロナウイルス感染予防対策の徹底のためだと考えられる。 「Oh i know」 「でも、何でカイトはもっと早く、この人たちを・・・・」 助けてくれたのはカイトの仲間たちで、構成メンバーの大半は20代から30代の若者。国籍はアジア系、アフリカ系、インド系、ヒスパニック系とバラバラのようだった。 「たまたま近くにいた時に、カイトからの発信を見つけたの。あなたたちはとてもラッキーだったわ」 アジア系の女性が流暢な日本語で話しかけてくれた。 「偶然にかけた?」 「あいつは、偶然なんかにかけない」 裕太はカイトが偶然にかけた事をめぐるに質問し、めぐるはカイトが偶然なんかにかけないと答えた。 めぐると裕太が空の向こうを見つめている。 「カイト・・・・」 「大丈夫よ」 めぐるは裕太の左肩に右手を置く。 「いつかまた、フラッと空から降りてくる・・・・全てお見通しな顔して・・・・」 「・・・・うん」 裕太は強く頷き、小野寺がまばたきを1回した。 火山が至る所で噴火し、僅かに現存していた日本列島以外の陸地の欠片までも粉々になってしまう。白頭山の頂上や高い山々だけが海面から僅かに顔を出していた。火山から吐き出された溶岩は海へと流れ、大量の蒸気を発生させていた。 「白頭山が・・・・」 八宮一家と春生、真乃と灯織は変わり果てた日本以外の世界をオスプレイから眺めていた。めぐるとジュリの出身国のアメリカが消滅した悲しさを感じる余裕などなかった。心にぽっかりと空いてしまった大きな穴に、自分もろとも吸い込まれてしまいそうな、そんな喪失感に襲われていた。 マスクをしている裕太が突然目を閉じてバタリと倒れる。 「裕太!?裕太!」 「大丈夫か?」 「Are you OK?」 「気を失ってるようです」 アジア系の女性が裕太の額に手を当て、熱を測った。 裕太は高熱に驚くと同時に、辛い表情をしている裕太の顔に気付き、言葉を失った。 日本の首都東京では、世界中を襲った未曽有の災害の影響を少なからず受けており、小さな地震が頻繁に起きていた。 「ファイト!ファイト!ファイト!ファイト!」 この都心にある大きな病院に裕太は搬送された。めぐるは倒れた裕太に声をかけた。裕太の他にも多数のケガ人や病人が運び込まれており、院内は人で溢れ、様々な言葉が飛び交っている。 裕太が治療を受けている間、めぐるたちは待合室で待機していた。備え付けのテレビではニュース番組が流れており、男性キャスターが深刻な表情で喋っていた。 「人類が未だかつて経験したことがない最大の天変地異により、日本国外は北海道や日本海側の陸地の部分、それに沖縄本島の一部と共に、その姿を海中へと消したのです」 気象衛星ひまわりからの映像が映し出される。白頭山の火山灰で靄がかかっている。靄の向こうには、部分的に水没している日本列島や北朝鮮西部の姿が見えるが、それ以外は一面の海で、陸地の姿はどこにもない。 「死者、行方不明者も、過去に類のない数字が予測されますが、把握には日数を要する見込みです。一方、福島県、関東、東海南部、紀伊半島、大阪府、奈良県、四国、九州南部が中心となり、今後の領土問題について、近々国際会議が開かれる模様です」 アメリカのバイデン大統領が御前崎港でインタビューを受けている。その顔には疲労の色が濃く出ている。 多くの報道陣が集まっており、カメラのフラッシュが瞬く。ホワイトハウスが崩壊し、多くの政治家が死亡した中、急遽大統領を押し付けられたバイデン大統領だったが、彼なりに懸命に働き、何よりアメリカ国民を見捨てず、最後の最後までアメリカに留まったことが称賛され、彼はヒーローとして喝采を浴びていた。二世議員とバカにされたバイデン大統領の姿は、もうそこにはなかった。 医師の最善の治療により、裕太は意識を取り戻した。 「急患です」 「行きます。説明をお願いします」 裕太はベッドで上半身を起こし、病室の外で会話している日本人の男性医師と通訳の外国人女性を見つめていた。両者とも深刻な顔をしており、裕太は不安になる。 話を終え、男性医師が裕太の側へやって来る。男性医師が話を切り出しにくそうだったので、裕太は自分から尋ねた。 「先生は何て・・・・?」 「PCR検査の結果ですが・・・・新型コロナウイルスの感染症を起こしていて、陽性が確認されたそうです」 裕太はオスプレイへ乗り込む前、新型コロナウイルスに感染しており、PCR検査を受けたところ、陽性であることが明らかになり、彼は入院することになってしまった。裕太が新型コロナウイルスに感染した経路は不明だが、おそらくカイトたちと共にインドのとある洞窟へ訪れた際、新型コロナウイルスに感染したと考えられる。 裕太の心の声「しばらくは入院でしょうか?僕は東京の医療機関で留まることになるのか、食べ物には慣れるでしょうか・・・・瞬時にそんなことを考えていました。」 「・・・・悪いんですか?」 「このままだと、重症化して命を落とす危険があるそうです」 「!」 「・・・・助かるには、入院する必要があります」 「はぁー・・・・」 裕太は現実を受け入れることができず、呆然と病室の壁を見つめる。静かな部屋に暖房の音だけが聞こえている。 「ゴホンゴホン!」 裕太はマスクをしたまま咳き込み、額には熱さまシートが貼られている。裕太はベッドの上で目をつむり、祈るようなポーズをしている。 窓から入る月明かりが、また何かを失うかもしれない裕太を寂しく照らしていた。 東京に本格的な秋が到来した。紅葉が散る街にはハロウィンの飾り付けをしている。 裕太の病室にも軽めの飾り付けがしてある。裕太はベッドに横たわり、天井を見つめていた。深夜だが、眠ることができない。新型コロナウイルスの影響で頭が痛むのだ。 傍らには充電器に接続しためぐるのスマートフォンがある。気を散らすためにスマートフォンに手を伸ばそうとした時、ピコンと着信音が鳴った。 「・・・・・・・・」 裕太はスマートフォンを手に取り、1通のメールを受信している事を確認した。送信者は見知らぬメールだったので、迷惑メールだと思い、削除しようとして手が止まった。メールのタイトルが「鷹森危機管理大臣からのメッセージ」だった。 「あ・・・・」 裕太はメールを開く。改めて見ると、メールアドレスはastray_kite@gmail.comとなっている。 「カイト・・・・?」 裕太は記載してあるURLをタップした。すると動画が再生された。 ざわめきの声が聞こえてくる。カイトがスマートフォンを手にしてムービーを撮影しているようである。その背景からおそらく、裕太たちの元から去ったその後に立ち寄った日比谷野外音楽堂の様子だと思われる。 「はじめたぞ」 カイトの声が聞こえ、カメラが音楽堂の方へ向く。 「異常な動きを続け、世界各国を海底に沈めようとしていた地殻の変動は、終息に向かっていることが・・・・観測されました」 音楽堂から危機管理大臣の鷹森沙織が現れ、彼女は世界中を海底に沈めようとしていた地殻変動が、終息に向かっている事を報告していた。 「今回の、未曽有の災害によって、多くの尊い命が奪われました・・・・」 カメラはホロホロと声を震わせている鷹森危機管理大臣を映し、今回の未曽有の災害で、多くの犠牲者が出たことを報告していた。 「災害でお亡くなりになった方々と・・・・その・・・・ご遺族に対しまして、心から・・・・ご冥福をお祈りいたします・・・・」 鷹森危機管理大臣は災害で亡くなられた人や、その遺族に対して、心からご冥福をお祈りする言葉を言う。 「我々、日本国民と外国人は・・・・この試練を乗り越え・・・・心を1つにして・・・・世界の再建に、取り組まなければなりません・・・・」 鷹森危機管理大臣は日本人と外国人が、極限状態の中で試練を乗り越え、心を1つにして世界の再建に取り組む事を発表する。 裕太の顔が歪み、鼻をすすってまばたきをすると、目から涙が溢れた。 裕太はその涙を拭う。裕太たちの元から去ったカイトがスマートフォンを鷹森危機管理大臣に向け、彼女からのメッセージの動画を撮影していたのだと理解し、寂しさと驚きが沸き起こった。 動画はまだ続いている。 「日本に避難している外国人全員が、帰国できる日も・・・・必ずやって来ることでしょう・・・・」 鷹森危機管理大臣は世界中を襲った未曽有の災害の影響で、日本に避難していた外国人全員が帰国できる日は必ずやって来ると思っている。 裕太の呼吸が荒くなる。しゃっくりが出て止まらなくなった。拭っても拭っても涙が溢れ続ける。裕太は動画を視聴中にスマートフォンから目を逸らし、上を向いて涙を拭い続けた。 めぐるたちが東京へ来てから、約3か月が経った。 夕暮れ時、都心の街並みを人々が歩いている。レストランはどこも賑わっており、渋谷のスクランブル交差点は人出で街巡りをする観光客で混雑していた。そんな中を1台の自転車が走り抜けていった。 商店街内に賃貸マンションが数軒ある。世界各地に被災した国の人たちを受け入れるための住宅が用意されており、ここもその1つだった。 坂道を登る自転車。めぐるは立ち漕ぎをして一気に登り切る。ハンドルに装着された浩一郎のLEDライトが道を照らしていた。 めぐるはマンションの前に自転車を停めた。 退院したばかりの裕太はソファーに座って、パソコンをカタカタと操作していた。 ドアの開く音と足音でめぐるが帰ってきた事を察する。 「ただいま」 「ママのクラウドやSNSに保存されていた資料、集めましたよ」 めぐるはショルダーバッグを下ろすと、裕太の方へと駆けた。 「やった!見ていいのかな?」 めぐるは裕太の隣に座った。浩一郎とジュリは出張で出かけており、留守にしている。 「たぶん、指輪にパスワードがありましたから」 遡ること2年前、ジュリの指輪にパスワードが彫ってあることに気付いたのは裕太だった。2人はどうすべきか迷った末に、思い切ってアクセスすることに決めた。約1か月をかけて裕太がジュリのクラウドやSNSに保存してあった記録を収集したのだ。 めぐるは裕太に顔を近づけ、パソコンの画面を覗き込んだ。 裕太がフォルダーを開くと、ジュリが保存していた多数のファイルが画面に広がった。 「すごい量ね」 「・・・・パパや僕らの記録にもなっています」 裕太が日付の古い順にクリックした。 「うわっ、お母さん!」 0歳のジュリが病室のベッドで横になっている写真が出てきた。その後も10歳のジュリが川で泳いでいる写真、ジュリが金メダルを取っている時の写真、浩一郎とジュリがハワイ旅行の時の写真などが次々と画面いっぱいに広がる。めぐるや裕太の生まれてからの軌跡も全て残っていた。 動画ファイルも多数あった。裕太がファイルの1つをクリックすると映像が流れ始める。 日曜日の朝、自宅の台所にて、9歳のめぐるが浩一郎の作った山芋料理を食べている。 「ははっ、お前山芋なら、どんな時でも食えるんだな」 「お父さんの作ったのが美味しいんだよー」 「どこへ行っても大丈夫なように、何でも、食えなきゃダメだぞ」 「大丈夫。私お父さんのお嫁さんになるから!」 「めぐる、浩一郎は渡さないわよ」 「ママ怖いー!」 めぐるは画面を見ながら涙を堪えていた。 裕太が次々とファイルをクリックする。家族で遊園地に行った映像、裕太がゲームの大会で優勝した映像、ジュリがめぐると裕太に読み聞かせをしている映像、めぐるが授業参観日に家族についての作文を読んでいる映像・・・・。 「・・・・こんなに残してたんだね」 「・・・・そうですね」 めぐると裕太の背後にある壁には写真が数枚貼ってあった。大地震の後に神社の境内で撮影したもの、国男のトラックでドライブ中の1コマ、シャンシティで食事している風景など・・・・。 めぐると裕太の目に涙が出る。それは悲しさや懐かしさの涙ではなく、感謝の嬉し涙だった。 「・・・・ありがとう」 めぐると裕太の思いは共通していた。旅の途中に出会った国男の肉体はもう側にはいないが、思い出としていつまでも心の中に刻まれ、記録として永遠に残り続けるのだという事・・・・。そして、そうである限り、いつでもまた会えるのだ。 それから、7年後の2028年7月21日。名古屋の街はいつにも増して活気で溢れていた。港がある名古屋市港区も、人気ファッションブランドが多く集まる名古屋市中区も、名古屋市中村区にある跨線橋・ささしま米野歩道橋さえも、街の至る所に五輪の装飾がされていた。 メインスタジアムの名古屋グランパスエイトでは、夏季オリンピックの開会式が行われていた。2028年の夏季オリンピックは当初、アメリカのロサンゼルスで開催する予定だったが、7年前に世界中で起きた未曽有の災害でロサンゼルスが水没した影響により、2028年の夏季オリンピックの開催地がロサンゼルスから日本の名古屋に変更されている。 「America!」 アナウンスが会場に響いたり、歓声と拍手が一段と大きくなる。満員の観客がスタンディングオベーションで迎えた。 大きなアメリカの国旗を掲げた旗手を先頭に、アメリカ選手団や日本選手団が入場してくる。その数は100人に満たないが、選手たちはアメリカの国旗や日の丸を振り、実に堂々と胸を張って進行していた。 日本人の男性アナウンサーが興奮を抑え切れない様子で実況する。 「堂々と行進するのは、日本代表とアメリカ代表です!アメリカ代表が1996年のアトランタオリンピック以来、32年ぶりに五輪の舞台に戻ってきました!」 進行する日本選手団の中に、17歳になった裕太の姿があった。裕太は周りにいる観客を見て左手を振っている。 既に入場した選手も、これから入場する選手も、全ての国の選手たちが大きな拍手を送ってくれていた。 VIP席から拍手を送っていたバイデン大統領の胸には熱いものがこみ上げていた。 一方、札幌、福岡、ソウル、武漢、ロンドン、ベルリン、ニューヨーク、ロサンゼルスは7年前に起きた未曽有の災害によって水没している。 「アメリカ国土の人口は、震災後、いったん消滅しましたが、2年後の・・・・新島誕生をきっかけとして、帰国者が現れ、今こうしている間にも、1人また1人と・・・・戻ってきています」 隆起した小さな島と溶岩によって、かつてハリウッドの街・ロサンゼルスがあった場所には少しばかりの陸地ができていた。この広さは東京ドーム4個分ほどの陸地は当然ながら海に囲まれている。仮設の港や商店街が建設され、カリフォルニア絶景公園と名付けられた広場が整備されていた。ここには仮設住宅があり、120名ほどの外国人が住んでいる。アメリカの人口は大震災直後に消滅したが、2年後の新島誕生をきっかけとして帰国者が現れ、今こうしている間にも、1人また1人と戻ってきていた。 商店街の店先に1台のテレビがあり、人だかりができている。 画面にはオリンピックの開会式が映っており、アメリカ選手団に向けて全員が熱い視線と拍手を送っていた。 この日、港には数隻の船舶が停泊しており、オリンピック開催に合わせて、復興を記念したイベントが開催されていた。このイベントのために仙台、東京、大阪、広島、松山、鹿児島などの地区をはじめ、日本へ避難した外国人が、ごく一部ではあったものの、一時的に船舶で帰国していた。 1隻の大型客船がイベントのメインステージとなっており、船上では3Dホログラムで再現されたロサンゼルスの街並みが映し出されていた。サード・ストリート・プロムナードや商業ビル、映画館などが忠実に再現されており、集まった多くの人々が歓声をあげている。 「世界の復興、そして、オリンピックでの各国の選手団の健闘を祈って、あらゆるメディアに残された情報を集め、採掘し・・・・在りし日の世界の姿を、出来うる限り、アーカイブへ保存しました。どなたでも、世界中から、情報を閲覧することができます。どうぞ、アクセスしてみて下さい」 拍手が巻き起こる。観客の1人がポケットからスマートフォンを取り出す。 日本のどこかで、外国人がパソコンを見ている。 動画サイトのようにサムネイルがズラッと並んでいる。そのうちの1つをクリックすると、ページが切り替わり、動画の再生画面になる。 降り積もる雪、北海道新幹線、K-POPダンス、武漢華南海鮮卸売市場、ハリウッド映画の看板、花笠まつり、実弾射撃体験。 次々と世界の風景が映し出される。 やがて、日本のごく普通の家族の映像へと切り替わる。 国男の家、和室。 誕生日会が開かれており、撮影しているのは国男の娘だ。 国男とばあさん「祝ってくれてありがとう」 国男「この店も、ばあちゃんと始めて40年になりました」 ばあさん「ほら、じいちゃん、もっと用意してたでしょ。これを機に、タバコやめるとか」 国男「やめやめ、店も惰性でやってるだけでいつ閉めるかも分からん」 ばあさん「ほら、じいちゃん、かっこつけだから、みんなありがとうねー」 孫のりおが入ってくる。ロボット犬を持っている。カメラを見る。 りお「じいじ、じいじ」 国男の娘「あっりお!今ばあちゃんとじいちゃんを撮りようけん、もーう」 小さな通り。立ち止まって、スマートフォンで映像を見ている男性。 北海道マラソン、札幌テレビ塔、マンハッタンの高層ビル、チーズケーキ、麻婆豆腐、プロレス、オークランド・アート・フェスティバル。 次々と世界の風景が映し出される。 やがて、日本のごく普通の家族の映像へと切り替わる。 海辺で波と遊んでいる叶恵と大地。叶恵は大地を抱っこして、カメラに寄ってくる。 叶恵「決めた。私の力は、この子のために使う」 カメラが縦に揺れる。叶恵は海を見つめている。 叶恵「この世に必要ない命などない。一緒に作ろうよ。この子にも尊厳を与える・・・・理想郷をさ」 浅田「はい・・・・」 浅田は冷静に返事をする。 海岸で映像を見ている人々。 恐山、白頭山、スミレ、ハイビスカス、イエローストーン国立公園、鉄道、砂浜、ブランデンブルク門。 次々と世界の風景が映し出される。 やがて、日本のごく普通の家族の映像へと切り替わる。 めぐるが授業参観日に作文を読んでいる。 「大概、お母さんが帰ってきた日は、車で遠出して、みんなでごはんを食べます。海の幸は港町まで行って、おいしい専門店があると聞けば、何時間かかってでも、そこへ駆けつけてます。新鮮で、おいしいものには目がないんです」 船上の男子中学生が、映像を見続けている。 海外のとある公園。 子供の頃のカイトが凧を飛ばしている。 糸を放してしまい、凧が飛ばされる。糸を追いかけるカイトは、速く走れるように履いていたスカートを脱ぐ。 動画共有サイトにアップされた動画。 カイトの動画のタイトル画面が出てくる。 富士山にある高山植物を紹介している。その男性は、YouTuberとしてデビュー間もないカイトだ。画面に向かって説明している。横にはフジハタザオ。 「フジハタザオは、ここ富士山にしかない、準絶滅危惧種に指定されている、貴重な植物です。花言葉は「共に生きる」」 映像を見ている女性。 ナイトクラブ、金魚すくい、花火、ディスコ、カラオケ、コンサート、行列、手を繋いで歩く外国人親子。 若いカップルが交差点でキスをする。高校生が改札でキス。棺桶で眠っているおじいちゃんに娘がキス。若い革命家の女性が政治家のポスターにキス。幼い男の子がメスの猫にキス。 若いハンサムな男性がカリフォルニア絶景公園のベンチに座って本を読んでいる。公園はただ広いだけで、4つのベンチと1体の銅像以外は何もない。 男性は最後のページを読んでいる。 「小野寺さんと田所博士のアーカイブにあった情報とは・・・・日本列島以外の文明を持った人類が住むすべての陸地は沈没するが、約100年の年月をかけて、再び隆起するという事実でした。しかも、2年以内にどこが、5年以内にもどこが、10年後、50年後にどこが・・・・と詳細に記されていて、そのデータの通り、世界中の陸地の一部が隆起し始めたのです。そんな事実を受けて、大震災から2年後、日本の首都・東京ならびに、関東地区をはじめとする日本の都市を含む我が国による日本会議が行われ、世界領土の保全が、条約に定められました。日本中が、世界の陸地の再生を待ってくれたんです。それもこれも、全ては田所博士と小野寺さんの、正しい研究予測のおかげ。私と弟は、そんな小野寺さんと共に過ごせた日々を・・・・誇りに思う」 男性は本を読み終えた。本を閉じると、表紙に目をやる。著作者として「八宮めぐる、八宮裕太」の名前がある。 男性は懐かしむように微笑むと、ズボンのポケットから何かを取り出す。それは浩一郎やめぐる、ジュリや裕太たちと撮った写真だ。春生や灯織もいる。 男性は当時ジュリに川で助けられた男の子だった。男性が男の子の時に父親と共に北へ行って、極限状態の中で生き延びたと思われる。 男性の前方に、この広場の中央に1体の銅像が建っている。とても凛々しい顔をした女性だ。プレートには「田所雄美博士」と記されていた。 名古屋グランパスエイトでは連日熱戦が繰り広げられていた。 隣接する選手村のプールには選手たちの姿がちらほらと見受けられた。 水面がキラキラと光っている。そのキラキラを急上昇した泡が邪魔する。 裕太が目を瞑り、水中に潜っていた。裕太は胡坐をかき、微動だにしない。裕太は本番前に緊張をほぐすための瞑想をしているのだ。 逆立った髪がユラユラと揺れ、ブクッブクッと鼻から気泡が出る。 eスポーツの会場は熱気に包まれていた。 ユニフォームに着替えた裕太を先頭に、チームメイトたちが試合会場へ向けて歩いている。程よい緊張感が漂う中、裕太は「楽しみましょう!」と笑顔でチームメイトに声をかけた。 満員の観客が選手の入場を待ちわびていた。 いよいよ両チームの選手が入場してくる。裕太はフィンガーズ・クロスをしながら入場してきた。 決勝へ勝ち進んだ裕太が率いる日本チームと、エストニア代表チームが向かい合う。行われるのは5対5の団体戦だ。 「いよいよ決勝です!eスポーツ初代オリンピックチャンピオンに輝くのは、日本かエストニアか」 実況アナの興奮はすでに最高潮だ。 モニターの前に着席する両チーム。ヘッドセットを装着し、コントローラーを握る。 観戦用の巨大モニターに「スタート」の文字が表示され、ゲームが始まった。 5対5で殺し合いをし、敵の陣地を奪うか相手を全滅させれば勝利というルールだ。 裕太もチームメイトも真剣な表情をしている。 大画面で繰り広げられる熱いバトルに観客は大興奮していた。 裕太が操るキャラが攻撃して敵を倒し、味方を救う。 裕太の操るキャラは敵陣深く攻め込む。敵に囲まれるが、必殺技で一気に敵を粉砕する。 裕太はガッツポーズ。悔しがる相手チームの選手たちはヘッドセットを外し、天を仰ぐ。 「よっしゃ!」 会場はフィニッシュの花火で光る。 裕太はチームメイトたちと抱き合った。観客も大盛り上がりだ。 裕太は表彰台の真ん中に立っていた。両サイドにチームメイトたちが並ぶ。 裕太が大会委員長から金メダルを首にかけてもらうと、この日一番の大歓声が沸き起こった。裕太は声援にフィンガーズ・クロスで応える。 「日本と海外の二重国籍を持ちながら、日本代表を選んだ選手たちに、惜しみない拍手と、歓声が贈られます」 裕太と共に持っている金のトロフィーが高々と上げられた。 「別に日本代表だって、どっちでもいいんですけどね」 裕太は金のトロフィーを見つめていた。 客席には裕太を観戦している22歳のめぐるとその保護者の浩一郎とジュリがいた。 「おめでとう裕太」 「よかったな裕太」 「・・・・裕太おめでとう・・・・次は私ね」 めぐるはネックレスをしていた。どうやら大人の女性にはネックレスが似合うと思う。明日はめぐるの誕生日で、23歳を迎えることになる。 めぐるが会場を出ると、彼女のスマートフォンが震えた。登録していたカイトの動画共有サイトのチャンネルが更新されたことの通知だ。 「彼も元気そうね」 めぐるはスマートフォンを見ながら前に進んだ。 日本のとある豪邸。 小野寺がリクライニングの車椅子に乗っていた。前にはデュアルモニターがある。 モニターに映る画面がYouTubeのページに切り替わった。 小野寺は左手の親指でクリックする。 そろそろとカーソルが動いた。 「そろそろ、ライブ、始め・・・・ます」 小野寺はカイトのチャンネルにログインしていた。画面から、1日1本のペースで新しい動画がアップされていることが分かる。そんな小野寺の傍らにはカイトのスマートフォンがあった。 このスマートフォンの中に「あんたに俺のチャンネルを託す」と小野寺へのメッセージが残されていた。 カイトのチャンネルの運営は、小野寺だけでなく、カイトの意思を受け継いだ見知らぬ者たちも手伝っていた。小野寺はカイトとチャットで会話する。 陸上競技場・トラックにジャージ姿のめぐるがいた。 めぐるはジャージのファスナーをおろして上着を脱ぐ。 フィールドではパラリンピックの他競技が行われていた。まもなくめぐるの出場する走り幅跳びも開始される。 小野寺がクリックすると、カイトのアバターが映し出された。 「勇気ある決断をした君へ、この曲を贈る」 小野寺の側にガラスのショーケースがある。中には春生のレコードがあった。頭だけ動かすとレコードプレーヤーの針がおりる。 レコードが回り、流れる水と鳥のさえずりが流れ始める。レコードは割れた箇所が修復されており、修復部分がリズムとなって曲にアレンジが加わっていた。 めぐるは走り幅跳びのスタートラインに立っていた。 「ふぅー」 大きく1つ深呼吸をすると、ゆっくりと両手をあげて手拍子を始める。 めぐるに合わせて観客も手拍子を始めた。その手拍子の輪は徐々に大きくなり、やがて全体へと広がった。 巨大な手拍子を全身に浴び、ただ1人だけ手拍子をやめためぐるは、一点を見つめ、集中力を高める。聞こえていた手拍子がフェードアウトしていき、やがて無音となった。 めぐるの心の声「時の流れはとどまらず、移り変わってゆき、美しい風景や人もまた、いつかは失われ、また新しい風景や人へと、姿を変えてゆく。」 競技場の観客席の中段、出入口付近に黒い鍔帽子をかぶったカイトらしき人物が座っている。その視線はめぐるを見つめているようである。その人物の前を他の観客人数が横切る。カイトらしき人物が立ち去った後、カイトに雰囲気が似た人物の姿は見当たらなくなっていた。 カイト以外にも裕太と春生、灯織と真乃、浩一郎とジュリも観客席のどこかに座ってめぐるを見つめている。 めぐるは構えのポーズから、軽くジャンプ。手をぶらぶらさせてリラックスする。 めぐるの脳裏に大地震が起きてからの様々な出来事がフラッシュバックした。 めぐるの心の声「私が生まれた国は古来。アメリカ合衆国と呼ばれ、国名もそれに由来する。」 更衣室で死んでいったチームメイトたち。 神社の境内での浩一郎との再会。 意地悪なコンビニ店長。 めぐるの心の声「私は、たまたまこの時代に、たまたま日本生まれの浩一郎、アメリカ生まれのジュリから生まれ、たまたま起こった出来事の中で、たまたま出会った人々のおかげで生きてきた。」 イノシシと格闘する浩一郎。 山を登り続けるジュリ。 舞い降りて来たカイト。 めぐるの心の声「私が今、ここに立てているのは、その中で居合わせた、賢明なる人々の恩恵からなる、礎があるからだ。それは家族であるし、集団、大きく言えば国家ということかもしれない。」 大谷のカレー。 矢を射って助けてくれる国男。 救命イカダでジュリたちとの再会。 海にできた道を走る春生。 めぐるの心の声「私の名前はめぐる。どんな時も巡り合えるようにと、父母の願いから名付けられた。私は私を生かし、私たちの礎となった、賢明なる人々の思いと共に生きる。これから先、生まれてくるであろう、賢明なる人々のために・・・・。」 めぐるは上体をのけぞらせるとピタッと止めた。 グッと体勢を低くし、ダッと駆け出す。 めぐるは遊園地でメリーゴーランドに乗っていた9歳の頃を思い出す。 浩一郎がビデオカメラでめぐるを撮っている。 浩一郎がめぐるを呼ぼうと手を振っている。 めぐるの心の声「様々な出来事が起こっても、目を覆いたくなる出来事から、一歩も動けないと思う時でも、私は常に前を向いて、一歩でも前へ進む。」 めぐるの走るスピードが、幼少期の自分と重なるように加速した。 めぐるの右足が踏切ラインをガシッと力強く踏み、地面から離れる。 めぐるの心の声「陽は沈み、しかしまた、必ず昇るのだから。」 めぐるは高々とジャンプした。 太陽の逆光の中、歩くように飛んでいるめぐるのシルエットが浮かぶ。 めぐるは砂場にザザーッと着地した。大歓声が会場を包み込んだ。
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250物語7 儀式 234 名前:えっちな18禁さん[sage] 投稿日:2009/04/05(日) 05 50 05 ID 5k/IFSnD0 250物語。久しぶりなので文体が変わってるかも知れません。 突然始まりますが、端折ってる部分は適当に補ってください。エロまで到達してません。 儀式の場は、暗い洞窟内に移った。 シェリル、祭司達に続いて、神官や近衛兵たちが入っていき、 アルトもそれに倣い洞窟内に足を歩みを進め、儀式の進行を見守った。 洞窟の中央で白い薄布の長衣を着たシェリルが祭司から渡された捧げ物を 神への言葉とともに祭壇へと捧げている。 たいまつに薄暗く赤い灯りではアルトからの距離ではあまりよく見えないが、 神官に儀式の意味を学んでいたので、シェリルの一挙一動を興味深く観察していた。 ふいにシェリルが白く輝きだした。 天井の穴からちょうど頂点に上った満月がシェリルを照らしているのだ。 その姿、動きや表情、支配される場の神々しさにアルトは息をのんだ。 白く浮かび上がったシェリルが祭司の声に唱和し、洞窟内にこだましていた。 その歌にも聞こえる澄んだ音声に身をゆだねようとしていたところ、 ふと、アルトはシェリルをはさんで対角線上の近衛兵が じわりと中央へと近づくいていくのを目にした。 きらりと、持っていないはずの刀が明りを反射したのが見えた瞬間、 アルトは反射的に走り出した 「シェリル!」 「この、あばずれめ!」 アルトは刀を振り上げた男とシェリルの間に割って入り、 たいまつで刀を受けたが、2分され失速した刃がアルトの左腕を切り裂いた。 男の勢いを殺した隙に、アルトが男を足でけり飛ばすと、 他の近衛兵が近づき、取り押さえた。 アルトがシェリルを振り返ると、儀式を続けていたシェリルがちらりと目をやり 目と目があった。 うなづくようにまばたきで合図を送ると シェリルは再び儀式に無心な、まるで憑依されたかのような表情になった。 シェリルが無事儀式を続行するのを見届けたアルトは 神官に連れられ、傷の治療のために洞窟を後にした。 幸い、毒は塗られていないようであったが、 傷により治療後から発熱し始めたアルトは、儀式へ戻ることなく、床へ臥した。 目を合わせるだけで存在を感じ合えるシェリルの 人でないかのように神々しい女王の表情を思い出し、胸がざわりとしたが 夜遅いこともあり、熱にうなされたアルトの意識は次第に遠のいていった。 怪我が大きなものではないことを見てはいたが、 儀式を終え、首謀者洗い出し捜査の指示を出したシェリルは アルトの下へと急いだ。 アルトの命に別状はなく、眠っているとの報告を聞いたが、 それでも彼の顔が見たい。 熱と痛みにうなされてはいるが、うす明りに照らされたアルトの血色は良く、 ほっとしたシェリルは体の力が抜けていくのを感じた。 シェリルは、自分が十分な世話が出来ないことを分かっていたので 看病をしている女官を下がらせることも出来ず アルトに縋るたい気持ちを抑え、ただアルトの枕もとに静かに坐した。 自分の近くにいれば、いずれアルトを危険にさらしてしまうとは分かっていたが いざその時が来てしまうと、怖くて、悲しくて、悔しくて仕方がなかった。 眠る愛しい男の顔を眺めながら、 別れの時を決断しなければならないのだろうかと、 シェリルは疲れた頭でぼんやりと考えた。 神がいるとしたら、とても残酷な存在だ。 泡沫の幸せを与えておきながら、それを自らの意思で破壊させるのだから。 しかし、自分の幸せに縋りついて、彼を道連れにすることはきっと、もっと苦しい。 #### 日が高くなり始めた頃、アルトが目を覚ました。 馴染みの蒼い瞳を目にしたアルトから安堵の笑みがこぼれた。 「シェリル……陛下、お怪我は召されませんでしたか?」 シェリルがベールとマスクをしているのに気づいたアルトは とっさに女王陛下への会話に切り替えた。 「ええ、おかげ様で。礼を言うわ。無事、儀式も終えることができました。」 シェリルの瞳が微笑み返してくれたが、マスクに覆われない顔が見たい。 抱きしめてその無事を実感したい、と思い、アルトは周囲の者を下がらせようとしたが シェリルが制止した。 「目を覚ましたばかりです。まだ暫くはゆっくり休みなさい」 シェリルがすっと立ち上がり去っていくのを 留めたい気持をもてあましながら、アルトは見送った。 病床でかいた汗を流してすっきりしたアルトは、 腹が空いていることに気づいた。 もともと、怪我をしただけなので、食欲は旺盛なのだ。 女主人として客人はもてなすとのことで このオアシスについてから儀式で同伴できない場合を除いて 毎食をシェリルとともにしていたが 今日はさすがに無理だろうと思いながら、アルトは食卓へ向かった。 シェリルと最後に食事をしたのは一昨日の夜で、大して時間は経っていないのだが 明るい食卓がやけに懐かしく感じられた。 オアシスに来て初めて、シェリルと食卓を囲んだにも関わらず その温かさがアルトの心に沁みついていたのだった。 シェリル不在の食卓にアルトが無自覚に意気消沈していたところに、シェリルがやって来た。 入口でマスクとベールを外し、テーブルへ向かうシェリルは、 光のもとで色素の薄さが際立ち、絵画の中の妖精のようだ。 アルトは妖精の羽を捕まえに行きたい焦燥感を我慢し、その挙動を見守った。 「何よ?」 久しぶりに会うのがくすぐったいのか、アルトに見つめられるのが落ち着かないのか シェリルが照れ隠しにしたふてぶてしい態度で羽が消えた。 「…い、いや!…無事で良かった。儀式、最後まで見れなくて悪かったな」 「いいの。依頼の件ならどうにでもなるわ。そんなことより、アルト、怪我はいいの?」 包帯の巻かれたアルトの左腕を心配そうにシェリルが見やった。 「このくらいの怪我は珍しいものじゃない。 そんなに、心配するなよ、シェリル。」 表情を曇らせるシェリルを抱きしめに行こうとしたアルトの腹が鳴り、 二人は顔を見合わせて笑った。 「そうね、いっぱい食べて、怪我を治さないと」 食卓についたアルトは、用意された水でひとまずの乾杯を促した。 「お水で乾杯?」 「お前、昼は酒飲まないだろ」 「それはそうだけど」 クスクスとシェリルが笑い、アルトの釣られて笑った。 「「カンパ~イ」」 「まずは、「お疲れ様!」」 水で喉を潤し、二人は陽の光りを存分に浴びた食事を開始した。 「あの洞窟の仕組みは良く出来てるな。 ちょうど夜半に月光が射すのに合わせて天窓が開けてあった。 …美しかった。儀式の時はどんなこと考えてたんだ?」 「神の恵みと民と国家の平安と繁栄を、と言いたいところだけど、 残念ながら、次の手順で頭がいっぱいよ。ある意味、無心ね」 「まあ、そんなもんだよな…」 「ふふっ。洞窟はなかなか良かったでしょ?これが王家の歴史の重みよ。 あんた一人だけで調査が終わるとは思ってないから、 ぼちぼちやって引き継げるようにしておいてちょうだい」 アレこれと会話を交わしつつ食事をしていたアルトは 視界に干し肉をつまむシェリルの指先が入り、どきりとした。 そして、シェリルが肉を口にするのを意識してしまう。 (禁欲は終わったんだな) アルトは、自分の考えた事に、心の中で苦笑いをした。 肉を食む唇さえ、妖美だ。 食事を終える頃になり、シェリルがうとうととし出した。 昨晩は一睡もしていなかったらしいので 疲れのたまった心身には無理もない。 「シェリル、もう寝ろ」 「ん~~~~、口を清めたら」 眉根を寄せて、目をしょぼしょぼとさせる 滅多に見られない幼い様子が、愛らしい。 不純な自分を申し訳なく思いながら、アルトはシェリルを洗面場へと連れていった。 握った手も、手を添えた華奢な肩も漂う甘い香りも、悩ましかった。 耐えきれずアルトがシェリルを後ろから抱きすくめると、 ふわりと今にも眠りそうなシェリルの顔がほころんだ。 その可憐な様子を見て、今は休ませてやらなければ、と ほとんど表に出てきそうな、己の奥に燻る欲を押さえてアルトは決心した。 ともすると寝込みすら襲ってしまいそうだったので シェリルの世話を女官に任せて、後ろ髪をひかれつつアルトは離宮を離れた。