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「よくやったぞトップガンダー!」 謁見の間に戻ったトップガンダーを帝王の実に嬉しそうな声が出迎えた。 目を覚まさないよう薬を打たれたフェイトとアルフも運び込まれる。 「よもや生け捕りに成功しようとは……素晴らしい戦果だ! この功績を賞しお前には暴魂の位を与えよう」 「……必要ない」 困難な任務を成功したというのに、トップガンダーには喜ぶ様子は全くなかった。 それどころか落ち込んでいる様子さえ見られる。 「オレは殺すつもりで撃った。それなのに銃弾は止められ昏倒させるのが精一杯。 こんな様で昇進などしてはオレは自分を許せない」 「ほう……見上げた心意気だな」 先ほどとはまた違った喜びを含ませながら帝王は言う。 それは慢心する様子の見られないトップガンダーの有り様に対する喜びだ。 「ならば暴魂への昇進はあずけておく。お前の今後の働きに期待するぞ」 「お任せを」 短い言葉だけを残しトップガンダーは部屋の隅へと下がる。 かっこつけやがって、とモンスター軍団の方からつぶやきが漏れたが彼は完全に無視した。 魔法帝王リリカルネロス第3話 「主よ生きて!哀しみの女使い魔アルフ」 ここ謁見の間は帝王が各軍団に指令を下す場であるが他の用途にも用いられることがある。 しばしばこの広々としたスペースを利用してパーティーが催される他、他の軍団員を排して 帝王が何らかの実験を行う研究室となることもある。 そして今まさにここは研究室と化していた。機材が持ち込まれた後、各軍団の軍団長だけを残し 残りの軍団員は帝王の邪魔にならないように退室する。 本来は帝王1人で調査が行えるのだが、各軍団に魔法に関する情報をある程度共有させるため 軍団長は残されているのだ。 スキャナーで2人の肉体を精査しつつ、採取したアルフの血液の解析結果を眺めて帝王は呟いた。 「この女……人間の遺伝子が含まれておらんな」 「しかし帝王、それではどうやって人間の姿に?」 〈マスター〉 クールギンの問いに、帝王の傍らに置かれた杖が明滅しながら答える。 〈この女性は使い魔、魔導師が動物を加工し契約によって使役する存在です〉 「なんやあ?随分おしゃべりな杖でんな」 「レイジングハートという名前だ。実に優秀な道具よ」 〈お褒めに与り光栄です〉 有り体に言ってレイジングハートは今の主人が気に入っていた。障害を省みず、目的に向かって 突き進む姿勢を持った人間というのは善悪問わず彼女にとって好ましい人間なのである。 そして帝王の持つ資質、そこにも惹かれていた。 もともと独自の魔法を使っていたとはいえ、トップガンダーが帰還するまでの間に彼女の中に 記録されていた基本的な魔法をいくつも修得してしまった能力の高さ、帝王には驚くべき魔法の才が あると言えるだろう。 前の主人には悪いが、レイジングハートは自分を使いこなしてくれるであろう今の主人に忠義を尽くす ことを既に決めていた。それ故に魔法文明が存在するミッドチルダという世界、ジュエルシードなど 彼女が持っている情報については既に帝王に提供済みだった。 「つまり……狼が本来の姿で、魔法によって人間に化けている、と?」 〈マスターの推察通りです〉 「つくづく何でもありですな、魔法というやつは……」 帝王とレイジングハートの会話を聞いていたバルスキーは思わずぼやく。 尚、あらかじめ地球以外の世界についての情報をレイジングハートから聞いていた帝王は 地球外生命体の生態にかなり期待しており精力的にデータを取っていたのだが、 地球人、地球の狼との生物学的な差違はほとんど見られず密かに落胆していた。 「ううむ、検査で分かることはこれ以上はないか……各軍団、戦闘員を召集せよ。 この2人を覚醒させ余が直々に尋問する」 『ははっ!』 (うう……アタマ痛い……) 深刻な頭痛を感じながら目を覚ましたアルフは何があったのかを思い出しながら周囲を見渡し、 10秒近くその思考を完全に停止させた。 もっとも、薄暗く圧迫感のある空間の中で奇怪な怪物やらロボットやらの集団に囲まれた状況で 目を覚まして驚かない者などいないだろう。 「え……あれ……何コレ……?」 今、アルフはゴーストバンク内部の謁見の間にいた。 彼女を取り囲むネロス帝国の戦闘員は皆一様にアルフ達を注視している。 「目を覚ましたか」 声のした方を見ると、醜悪な老魔導師が玉座に座っているのが目に入った。 その姿を、その目を見た瞬間アルフは全身に怖気が走った。単純な魔力量だけではない、もっと 恐ろしい何かが目に見えぬ威圧感となって迫ってくるようだった。 いや、それだけではない。玉座の側に控えている銀色の甲冑の人物や大砲をたくさん体に付けた傀儡兵、 今この空間にはアルフの直感に『戦ってはいけない』と囁く存在が複数いた。 (そうだ、フェイトは…!?) 意識を失う直前に何があったかを思い出したアルフが思わず周囲を見渡すと、フェイトはすぐに 見つかった。玉座を前にフェイトは右側、アルフは左側に配置されており、その周囲を隙間無く ネロス帝国の戦闘員が取り囲むような構図となっている。アルフから少し離れたところでフェイトも ちょうどかぶりを振って起きあがろうとしているところだった。 その様子を見てにやりと笑った帝王は高らかに宣言する。 「余は神!全宇宙の神ゴッドネロスである!!」 『ネロス!!ネロス!!ネロス!!ネロス!!』 「ひっ!?」 「何!何なの!?」 ゴッドネロスに応えて響き渡る大音声。結構怯えていたアルフはその勢いに腰を抜かしかけ、 ぼうっとしていたフェイトの意識は一気に覚醒させられる羽目となった。 あまりのボリュームに頭痛を感じたフェイトが思わず頭に手をやると、側頭部に大きなたんこぶが 出来ている。完全なる奇襲で意識を刈り取られたフェイトはどこで頭を打ったのかまったく記憶に ない。それどころかここがどこで何故自分達がここにいるのか、それすら見当がつかなかった。 熱烈なネロスコール、左手を振ってこれを止めさせた帝王は呆然としているフェイトとアルフに 厳かに語りかけた。 「余はこの地球の真の支配者、ゴッドネロス。お前達、名は何という?」 「え……?その……フェイト…テスタロッサです。こっちは私の使い魔のアルフ」 「………」 少し躊躇したが、教育係であるリニスからそれなりに礼儀作法という物も教わっていたフェイトは、 問われたことに答えないのは失礼だろうと考えて自分と、しゃべろうとしないアルフの名を答えた。 フェイトは『地球の支配者』という帝王の言葉を額面通りに受け取っていたのである。 (フェイト……こいつらやばいよ……) (そうだね。まさかこの世界を支配している人に目を付けられるなんて。ここにロストロギアを 規制する法律はないと思うんだけど……やっぱり強盗って事になるのかな。どうしよう…) (……いや、そういう意味じゃないんだよ) フェイト・テスタロッサ。時の庭園という閉鎖された世界で育ってきた彼女にはちょっと天然で 世間知らずなところがあった。こいつらまともな連中じゃないからやばい、というアルフの主張は フェイトには届かなかったのである。 念話で語り合う主従をよそに、帝王が右手のレイジングハートを微かに振ると空間にフェイトとバーベリィの 交戦映像が映し出された。続いて映像はジュエルシードで巨大化したザケムボーとの戦いに切り替わる。 「フェイト・テスタロッサ、そして使い魔アルフよ。雄闘バーベリィを撃墜し、結晶体ジュエルシードを 強奪。また余の所有するジュエルシードを狙ってザケムボーと交戦、これを撃破。我が帝国の領土内での お前達の身勝手極まる振る舞いは万死に値する」 そこで帝王は一旦言葉を切り、フェイト、アルフの順に視線を向ける。 「その……ごめんなさい。私達、どうしてもジュエルシードが必要だったんです」 「謝ってすむと思ってんのかよ!」 「そうだそうだ!」 「このガキ!ネロス帝国を舐めてるのか!!」 思わず謝罪が口に出たフェイトに帰ってきたのは、周囲からの罵声だった。 「チビが少し空を飛べるからって調子に乗りやがって!」 「モンスター軍団舐めとったらいてまうで!!」 「やめんかお前達!!帝王の御前だぞ!」 バルスキーの一喝により、場は静まり返る。 何事もなかったように帝王は話を続けた。さりげなく、それでいて少女達の運命を左右する重要な話を。 「帝国の定めに照らせば極刑が妥当。だがお前達ほどの実力、殺すには惜しい。余に仕えよ」 「はん!黙って聞いてりゃどいつもこいつも勝手な事を……え?」 周りじゅうから好き勝手に怒鳴られ続けていい加減イライラしていたため反射的に言い返してしまった アルフだが、聞き捨てならないことを耳にしていたことにすぐ気付いた。 『殺す』、帝王ゴッドネロスははっきりそう言った。改めて周囲を見渡すと、気のせいかさっきよりも 自分たちに向けられる殺気のような物が強くなっている気がする。 アルフの背を嫌な汗が流れ落ちた。狼の姿をしていれば全身の毛が逆立つような感覚だろうか。 「ごめんなさい、私達にはやらなければならないことがあるんです」 本能的に今が非常にまずい状況だと気付きつつあるアルフはさらにもう一度周囲を見回して出口を探す。 だが室内を埋め尽くす戦闘員に隠されて壁際の様子は見えない。一方、根が素直なフェイトは思わず 正直に返答を返してしまっており、アルフは内心気が気でなかった。 (ちょっとフェイト!そんな馬鹿正直に答えたらまずいよ!) (どういうこと?) フェイト・テスタロッサは極めて優秀な魔導師である。次元世界において公権力を行使する 時空管理局でも彼女に勝利しうる魔導師は限られてくるだろう。 だがしかし、彼女にはあまりにも経験が不足し過ぎているのだ。 自分を手ひどく扱う母親でさえ慕い続ける本来は優しすぎる少女、人の善意を信じてやまない 彼女には掛け値無しの悪というものがどういうものかを理解する能力が欠けていた。 今フェイト達の前にいるのは純然たる悪と言ってよい存在だというのに、まさか本当に殺しはしない だろう、という甘い見積もりがフェイトの中にはあったのだ。手加減の効かないライフルでの狙撃で 自分が墜とされたことに気がついていれば、あるいはフェイトももう少し警戒したのかもしれないが。 「ふむ、拒否するか……ならば仕方あるまい」 帝王がすっと目を細めた瞬間である。 「きゃあっ!」 ヨロイ軍団烈闘士タグスキー、タグスロンの兄弟がフェイトを地面に引きずり倒した上でその背中を 踏みつけ、それぞれの得物である太刀と長刀を交差させてフェイトの首に突きつけた。 白く華奢な首が床と二本の武器で挟まれ、フェイトは身動き一つ出来なくなる。 目にも留まらぬ早業であった。 「フェイトォォォ!!!」 絶叫し、飛びかかろうとするアルフ。その瞬間的な加速はタグ兄弟に一歩遅れてアルフを取り押さえ ようとしていたバンコーラとガマドーンが反応出来ないほどのものだったが、アルフの拳がタグスキーに 届くことはなかった。彼女の全身にまとわりつく青白い燐光がその動きを封じたのだ。 「ぐっううう!バインドか!!畜生、離せ!」 「アルフ……!」 急加速を強制的に止められて、アルフは一瞬息が詰まる。 止めたのは帝王の魔法、レイジングハートから得た情報により修得したばかりのリングバインドだ 魔力、構成ともに強力なその呪縛は、有能な使い魔であるアルフにも簡単には破れそうにない代物だった。 (実に便利なものだな……これなら生身の人間がバーベリィを墜とすことも可能か) 地球の全てを支配せんとする帝王であったが、ここ最近は未知の技術との接触に驚きの連続だった。 ジュエルシードの発見に始まる魔法文明の産物の取得、類い希なる戦闘能力を持った魔導師という存在、 そして今自らの手で振るったインテリジェントデバイスの性能。全てが新鮮であった。 レイジングハートは帝王の意志を読みとり、極めてスピーディに、そして強力に魔法の行使を補助する。 結果、デバイスを通して行使された魔法は帝王がこれまで使っていたものに比べ全てが圧倒的なものとなる。 威力、スピード、精度。帝王自身が自らの魔法に驚嘆するほどデバイスの効果は高かった。 そしてそれは同時に帝王の中に新たな疑念を呼び起こす。 この『インテリジェントデバイス』で武装した集団と戦った場合、帝国は勝利し得るのか? 故に事には慎重に当たらねばならない。魔法と、それを行使する者についての情報がもっと必要だ。 暴れながら悪態を突き続けるアルフを冷たい目で見据えると、傍らに控える秘書Sに声をかけた。 「例の物を」 「はい」 帝王の命に従い秘書Sが短めの黒いベルトのような物を持って来る。 恐ろしく強力なバインドに絡め取られ自由なのは口だけであるアルフは、得体の知れない物を持って フェイトに近づく女を見て一際大きな怒声を上げた。 「あんたたち!汚い手でフェイトに触るんじゃ…」 「黙れ」 「あっぐうう…!」 忠実な使い魔を黙らせるために帝王はアルフの首のバインドを締め上げた。 バインドを破るべく頭の中で組んでいた魔法の構成も同時に吹き飛んでしまう。 「が……は………!!!」 呼吸を完全に封じられ、苦悶の表情でもがくアルフの姿はフェイトに耐えられるものではなかった。 自分の首に刃物が突きつけられていることも忘れて彼女は叫ぶ。 「やめて!お願い、アルフを助けてください!」 「ふむ……」 少女の涙ながらの懇願もどこふく風といった様子で、帝王はバインドをゆるめない。 それを見てニヤニヤと笑う者も周囲には多くいた。 「お願いします!何でもしますから、アルフを殺さないでっ!!」 「全てはお前達次第だ……おとなしく余に従えるか?」 「従います!従いますからっ!!」 「ならばよかろう」 帝王が軽くレイジングハートを振ると、ようやくアルフの首のバインドが緩む。 もっとも緩んだだけでバインドは未だ首に巻き付いているし、四肢は身動き一つ出来ないままだ。 「ガハッ!ガフッ…ハァ…ハァ…」 「アルフ……」 少し咳き込みながらも呼吸を再開するアルフを見てほんの少しだけ安心したフェイトだったが、 事態は何も改善していない。帝王がその気になればアルフを即座に殺せることにはかわりはなかった。 「タグスキー、タグスロン。剣を引け」 『はっ』 タグ兄弟が各々の得物を首下から外したため、ほんの少しだけ死が遠のいたフェイトは 床に伏せた状態から身を起こし、青ざめた顔のままでその場に座り込んだ。 帝王が視線を向けるとうなずいた秘書Sはフェイトに近づき、持ってきたベルトのような物を その首に巻き付ける。今更抵抗する気のないフェイトは黙ってそれを受け入れた。 厚さに似合わないずっしりとした重みが、虜囚の身であることをいやでも彼女に教える。 首に付けられたそれにそっと触れると、誰に聞くとも無しにフェイトは呟いた。 「これは……首輪?」 「その首輪には受信機と爆弾を仕掛けておる。ある電波を一定時間受信しなければ爆弾が 作動してお前の頭は粉微塵だ。当然無理に引き剥がしても爆発する。 これが何を意味するか分かるか?」 「………!!」 自分の首に付けられた物の正体を聞いて愕然とするフェイトには答える余裕など無い。 「余の帝国から逃れることは決してできんということだ。お前には知っていることを洗いざらい吐いて もらう。お前がどこの組織に所属しているか、その組織の戦力はどれくらいか、何故ジュエルシードを 集めていたのか……全てをな。まずはそうだな、お前の所属する組織について答えてもらおう」 「あ…………う…………」 「どうした?答えよ」 「……それ……は………」 「貴様……帝王がお尋ねになっておられるのだぞ、早く答えんか!」 ドランガーの怒声に思わず身を竦ませるフェイトは、ショックの大きい事態が続いてパニックに陥り 言葉が詰まってうまく答えられないようにも見える。 見かねた豪将ビックウェインは思わず止めに入った。 「おそれながら帝王に申し上げます。いくら腕が立つとはいえ相手はまだ子供、 少し落ち着かせた方が良いのでは」 「何甘いこと言うとるんや。ガキなんて脅しつけたらすぐ素直になるで」 「2人とも、やめよ」 フェイトとアルフの置かれた状況にいささか同情的なビックウェインと弱者への哀れみなど 欠片も持たないゲルドリングの意見が一致することなどなさそうだったため、帝王は言い争いになる前に 早々に会話を打ち切らせる。そして少しばかり思案した上で後者の意見を採用することにした。 「時にフェイトよ――――」 レイジングハートに込める魔力を少しだけ強めながら、帝王は言葉を続ける。 「随分と使い魔をかわいがっているようではないか」 「………!!」 言外に込められた意味を悟ったフェイトは思わずアルフの方を向く。 未だ空中に縛られたままのアルフは泣きそうな顔でフェイトを見ていた。 (フェイト、あたしはどうなってもいいから……自分のことだけ考えて…) アルフから苦しそうな声の念話が届く。殺されかけても尚フェイトのことだけを考える健気な使い魔。 もう限界だった。フェイトには耐えられなかった。 「…うう……私たちがジュエルシードを集めているのは、……うっぐすっ…母さんが… あれを求めている…から……です…」 脅迫に屈し母プレシアを裏切っている、その事実がフェイトの心を切り刻み、堪えきれなくなった 彼女は嗚咽混じりに答えを返した。プレシアの役に立つ「いい子」であるため、ずっと封印してきた 涙が目からこぼれ出す。 母のためだったらどんなことでも耐えられた。どんなに辛い目に遭わされても、命の危険を感じる戦いでも。 だからといってアルフを自分のせいで死なせるわけにはいかない。彼女もフェイトの大事な家族なのだ。 家族を失うこと、それだけはフェイトには耐えられなかった。 (母さん、ごめんなさい…ごめんなさい…!) だがもう1つ、フェイトが屈した理由がある。それは「死ぬのは嫌」という思いだ。 貴重な情報源をそう簡単に殺しはしないというネロス帝国側の事情をフェイトが知るはずはない。 今彼女が感じているのはアルフが殺された後、自分も殺されるだろうという恐怖だった。 ちなみにフェイト自身はそのことに気付いていない。いや、その事実を直視しないようにしていた。 我が身可愛さで母親を売った、と認識することはフェイトの全てを崩壊させかねないのだ。だから彼女は 無意識のうちに都合のいい理由に飛びついた。「アルフを助けなければならない」という理由に。 もっとも、秘匿すべき情報を吐きプレシアを裏切っているというだけでフェイトが苦しむ理由としては 十分だった。 こんな暗いところで理不尽に命を奪われ、母さんの下に帰れないのだけは嫌だ。 例え母さんを裏切ってでも母さんの下に生きて帰りたい。だけどそんな私が許せない。 矛盾した思いがフェイトを責める。幼い心は既にちぎれそうなほど打ちのめされていた。 「では次は―――」 しかし尋問は始まったばかりである。苦痛と絶望に満ちた時間は当分終わりそうになかった。 「ふむ、こんなところか……これ以上の情報は得られないようだな」 尋問の途中で何度もアルフの首が締め上げられ、その度にフェイトが泣き叫びながら 「本当にこれ以上は知らないんです!」と訴える場面があったが、 どうやら帝王は満足したらしくフェイトとアルフはなんとか生き延びることが出来た。 「ゴチャック、お前はフェイトを牢に連れていけ。ビックウェイン、見張りにはお前が当たるのだ」 「はっ!」 「了解!」 「小娘だからといって決して気を抜くことは許さんぞ」 「もちろんです帝王」 戦闘ロボット軍団烈闘士ゴチャックが泣きはらした真っ赤な目でうずくまるフェイトを抱え上げると、 同じく戦闘ロボット軍団である豪将ビックウェインは、至近距離での魔法で2人同時に機能停止 させられることを警戒し、少し距離を置いてからゴチャックに続く。 何度も殺されかけたアルフは、グッタリとした様子でフェイトの名を呟くことしかできなかった。 もう念話を送る気力もないのだった。 「フェイト…」 (アルフ…ごめんなさい、私のせいで…) 念話が届かなくなるまでフェイトはアルフに謝り続けた。 「さて使い魔アルフよ、余はお前達の使う魔法にも興味がある。どれほどの事が可能なのか、どういう 局面において有効なのか……実地試験に協力してもらうぞ」 協力、などと言っているが実際には命令である。 フェイトの命を握られたアルフに逆らえようはずもなかった。 「何で、何でこんなことを……」 どうしてこんな酷い真似が平然と出来るのか。アルフはそう思って呟いたのだが、帝王は 何故魔導師であるフェイトではなくアルフを使って魔法についての調査を行うのか、 という意味と受け取った。 「知れた事よ、魔導師は使い魔を切り捨てることが出来るが使い魔は己の主を裏切れん。 フェイトの命が惜しくばお前は余に従うほか無いのだ」 「悪魔め……!」 「悪魔?違うな、余は神だ。全知全能なる神、ゴッドネロスだ! フフフ…ハァーッハッハッハッハッハッハッ……」 帝王の高笑いが木霊する中、アルフは絶望と屈辱に涙をこぼした。 戦闘員達が退出し、人気の無くなった謁見の間で帝王は金色のプレートを取り出し それに話しかける。 「これで分かったであろう?何者も余に逆らうことはできんということがな」 「……………………」 「主の身を守りたいのであれば……どうすべきなのかは分かるな?」 「…………Yes,…sir…」 寡黙なインテリジェントデバイスが悲劇的な運命に囚われた少女のために出来ることは、 帝王に従い所有するデータを供出することだけだった。 牢屋。それはネロス帝国において最も稼働率の低い施設と言っても過言ではない。 軽微な軍規違反には電磁鞭などによる制裁が加えられ、また反逆をはじめとする重度の違反者は直ちに 処刑されるため、ネロス帝国の戦闘員が牢に入れられることはまず有り得ない。 人質を取る、情報を吐かせるなどの目的で捕虜を捕らえた場合でも、ゴーストバンクの位置が 万に一つでも知られないように外部の施設が使われる。 今回のように、ゴーストバンクに連れ込んで帝王が直接尋問するなどと言うことは滅多にない。 これは、未知の魔法技術に対する帝王の関心の高さを表す事例と言えるだろう。 つまるところ、その滅多に使われない牢屋に今フェイトはいるのだった。 「母さん……アルフ……ごめんなさい……ごめんなさい………」 絶望感に苛まれるフェイトをよそに、牢の前では2人の戦士が話し合っている。 「しかしビックウェイン、あなたほどの方が見張りなどと…」 「その考え方は危険だぞゴチャック」 1人は右手のボウガンが印象深い鈍色の戦士、豪将ビックウェイン。数々の武勲を立て、 伝説の巨人の異名を持つ男。右腕から発射される矢は何人もの要人の命を奪い、頑強なボディと 剛力による比類無き戦闘能力は一つの国家そのものを終焉に導いたことさえある。 そしてもう1人は白色の装甲に身を包む烈闘士ゴチャック、格闘戦のエキスパートで ビックウェインの愛弟子でもある。彼は歴戦の勇者である師を深く尊敬していた。 「魔法という未知の技術にこの歳でバーベリィを下すほどの実力、武器を奪い仲間と引き離し枷を 付けたからといって決して油断はできん。帝王がわしに見張りを命じられたのはフェイトが脱獄を 図った際に即座に抹殺できると見込まれてのことだ」 「申し訳ありませんビックウェイン!私の考えが足りませんでした」 「まあ地味な仕事には違いないがな、戦場に赴くよりはずっと気が楽だ」 微かな自嘲を込めて笑うビックウェインだが、ゴチャックはその意味に気付かない。 「何をおっしゃいますか、あなたらしくもない」 「わしらしくない、か……確かにそうだな。ところでフェイト、今の話は聞いていたと思うが」 ゴチャックの方を向いていたビックウェインに視線を向けられるが、フェイトはどんよりと濁った瞳の まま視線を落とし目を合わせようとはしなかった。 「実のところわしもお前のような幼子の命を奪うのは忍びない。くれぐれも軽率な行動は慎んでくれ」 「…………はい」 フェイトは消えそうな声で返事をするのが精一杯だった。 その様子を見ながら、自分との余計な雑談がビックウェインの任務の妨げになってはいけないと考えた ゴチャックは退出することにする。 「それではビックウェイン、私はこれで」 「うむ。研鑽を怠るなよゴチャック。まだ見ぬ強敵が来る可能性はあるのだからな」 「無論です。ビックウェインもお気をつけて」 ゴチャックを見送りながらビックウェインは先ほどの尋問でフェイトが白状したことを思い出す。 特に気になるのはフェイトを差し向けたというプレシア・テスタロッサのことだ。 プレシアにはこれ以上フェイトのような魔導師の配下はいないが、傀儡兵なる無人兵器を所有している らしい。フェイト自身は実際に戦闘を行っているところを見たことはないそうだが、少なくとも 大きさはネロス帝国の戦闘ロボットよりはかなり大きいとか。 いわば魔法で動くロボットであるこれら傀儡兵がどれほどの戦闘能力を持つのか、ビックウェインは そこが気になっていた。 基本的に本拠地から離れる機能は持たないそうだが、フェイトが知らないだけなのかもしれない。 それにしてもこの娘もよくよく運がない、ふとビックウェインはそう思った。 聞けば、フェイトは母親に喜んで貰いたい一心でジュエルシードの回収に精を出していたのだという。 それがネロス帝国に捕らえられ、おそらくは母と再会することは二度とないだろう。 ひとたびゴーストバンクに入り込んだ者が逃れることなど有り得ないし、 事によってはプレシアと戦いになりその命を奪うことになる可能性もある。 もしかしたら脱走を図ったフェイトをビックウェイン自身が殺すことになるかもしれない。 (母と子の絆をブチ壊してその命を奪う、か。いい加減うんざりだ) 誰にも話していないことだが、実はビックウェインは戦いばかりの人生に嫌気が差してきている。 当人は戦いをあまり好まない穏やかな性格なのだが、いざ敵を前にすればその電子頭脳の中枢に刻まれた 闘争本能が目覚め、相手の死が決定的になるまで戦いをやめることはない。 そうして何人もの未来ある若者達の命を奪ってきたことをビックウェインは悔いていた。 だが、悔いたところで彼に何が出来よう。戦闘ロボットは主人の命に従い戦うことしかできないのだ。 「私達は……」 「ん?」 自らの人生について思索していたビックウェインに、今度はフェイトの方から話しかけてくる。 「私達は……これからどうなるんですか…?」 床の方を見つめながらフェイトが呟く。 彼女が何を聞こうとしているのかビックウェインにはすぐに分かった。 『生きてここを出られるのか』フェイトの質問の意図はそこにある。 「……帝王は自分の敵には決して容赦しない恐ろしいお方だ。そして裏切りも絶対に許さない。 刃向かう者は尽く死ぬことになる」 「………」 「だが服従する者には寛容さをお見せになる。それが真に有能な者なら尚のことな。 もしあの女、アルフといったか。あいつが帝王のために役に立って見せたらお前達の処遇も 少しはよくなるやもしれん」 もっともネロス帝国から逃れられる可能性はゼロだろう、ビックウェインはそう思ったが ここで今以上にフェイトを絶望させる気は彼にはなかった。真実を伝えることより隠すことの方が 時には残酷だが、優しい心根のこの豪将は今は生きる希望を持たせた方がよいだろうと考えたのだ。 「そう…ですか……」 「ああ。お前はまだ若い、全てに絶望してはいかん。生きている限り希望は必ずある」 「あり…がとう…ございます……うっうう…」 ゴーストバンクで目を覚ましてからまだ3時間も経ってないはずだが、まるで何日も 地獄を味わわされていたような心境だったフェイトは、この帝国で初めて触れた優しさに 堪えきれずまた泣き出してしまった。 (いかん、慰めてやるつもりだったが泣かせてしまったぞ!どうすればいい!? こいつは100人の兵士を相手にするよりも厄介だ!) さしもの伝説の巨人も泣く子には勝てないのか。 しくしくとすすり泣くフェイトを前に攻めあぐねているビックウェインだったが、 聴覚センサーがこちらに近づいてくる足音を感知したためそちらに意識を向けた。 足音が随分軽いため、戦闘員ではないとビックウェインは判断する。 ほどなくして彼の予想通り、ローブに身を包んだ1人の女が姿を現した。 「失礼いたします、ビックウェイン様。捕虜の世話をするように命じられて参りました、 ウィズダムと申します」 「モンスター軍団の奴隷女か、いいところに来てくれた!わしは戦闘には自信があるが 子供の扱いなど知らんのだ。その娘の身の回りのことはお前に任せたぞ」 「かしこまりました」 泣いている子供にオロオロする豪将、などという醜態を晒さずに済んで内心ほっとするも、 子供の涙一つ止めてやれない自分の不甲斐なさに怒りも感じるビックウェインであった。 優しい心の持ち主にネロス帝国は住みづらい。 それが例えビックウェインのような強者であっても。 牢屋に入れられたフェイトとは違い、アルフにはかなりの自由が認められていた。 単なる発信器だけが内蔵された首輪を付けられたものの、フェイトの投獄されている区画以外は ゴーストバンク内では自由な行動が許されている。脱走の危険はないと読まれているからだ。 使い魔は主を決して裏切れない、帝王の言ったとおりである。フェイトという鎖がある以上 アルフはどこにも逃げることは出来なかった。 しかもどういうわけかフェイトに念話が通じない。ゴーストバンクを構成する建築素材のせいなのか、 あるいは何らかの阻害装置があるのか、その理由はアルフには見当がつかなかった。 ただ、使い魔と主の精神的な繋がりからフェイトの哀しみと絶望が伝わって来るばかりである。 ちなみに現在の彼女の身分は帝王直属の秘書KとSの更に下に位置する。 帝王直属といえば聞こえはいいが実際には彼女たちは帝国における雑務を行うことが多く、 各軍団から仕事を頼まれることもしばしばである。 それより更に下のアルフは、言ってみれば全軍団から好き放題に扱き使われる立場であった。 各軍団の様々な任務に従事し、魔法の力を役立てると共に魔法の運用についての情報を収集する、 それがアルフに与えられた任務である。 特に急ぎの仕事はないのか出撃命令が出ていないため、今アルフには考え事をする時間が 与えられていた。暗い通路に座り込んで使い魔は考える。自分と主が生き長らえるためには どうするか。いや、自分はどうなってもいい、フェイトを生かすためにはどうするべきか。 自分が考え事に向いているとは思っていないが、今回ばかりは頭を使わざるを得ない。 とにかく落ち着いて、状況を整理することから始めることにした。 そもそも、この世界に魔法は存在しないはずだ。事前の調査でも魔法文明は確認できなかったらしいし、 今の今までジュエルシード以外の魔力を感じたことはなかった。 だがゴッドネロスが持っていたのは明らかにインテリジェントデバイス、ミッドチルダを中心とする 魔法文明によるものだ。 しかしゴッドネロスは『魔法について調査』、確かにそう言っていた。 自身がミッドチルダ式とおぼしき魔法を使っていたにも関わらず、である。 (……辻褄が合わないね) 魔法文明の無い世界にいる魔導師、存在しないはずのデバイス、そして自分自身が使っていた ミッドチルダ式の魔法をよく知らないらしい。ということはミッドチルダについても知らないのだろうか。 アルフは帝王についていくつかの可能性を考えてみる。 自分たちと接触する前に他の魔導師と接触があった? ジュエルシードと同様に事故でデバイスが流れ着いた? 別世界の出身である次元犯罪者? ――――いくら考えても答えは出ない。情報が少なすぎるのだ。 考えが煮詰まってイライラしてきたアルフは、それよりもこれからどうするべきかを考えることにする。 脱走する?有り得ない、フェイトが殺される。 戦ってフェイトを奪い返す?不可能だ。帝王の実力は明らかに自分の上を行くし、謁見の間にいた 連中の中にも見るだけで震えを感じるような奴らが何人もいた。 獣ならではの本能的な勘が、彼らが自分より強いと教えていたのだ。 どうあがいても反抗は無謀である。そこでアルフは大胆に発想を転換することにした。 いっそのこと服従し、帝王に媚びを売ってみせればどうだろうか。 先ほどの部屋にずらりとそろっていた怪物達の中に魔力を発する者は1人もいなかった。 今まで見た限り、この帝国には帝王以外に魔法を使う者はいないらしい。 ここでアルフは閃いた。 帝国に仕えろ、ほんの一言だがゴッドネロスは自分たちを勧誘していた。フェイトとアルフの能力を 欲しがっていたのだ。仮に心変わりして帝国に仕えると言ったら、あの男は自分達を受け入れるだろうか。 ……そんな甘い相手とは思えない。むしろ裏切り者など信用できない、と殺されるかもしれない。 だがもし魔導師の部下というのが、帝王が欲してやまない物だったならば―――― (あたし達を戦力として組み込もうとするかもしれない!) 突破口はここしか思いつかなかった。すなわち、帝国のために役に立ってみせること。 帝王がフェイトとアルフを殺したくないと思うまで。 方針は決まった。 脱出の算段は後回しだ。まずは帝王に気に入られてフェイトの身の安全を確実なものとしなければ。 「ここにいたかアルフ」 自らの思考に没入していたアルフはその声に現実に引き戻された。 顔を上げてみると、目の前に暗い色の軽装甲を身につけた男が立っている。 (こいつ、いつの間に!?) いくら考え込んでいたからといって、この至近距離まで接近に気がつかなかったことに衝撃を受けた アルフだったが、それも仕方のないことかもしれない。 「仕事だ。俺達と一緒に来てもらおう」 彼の名はガラドー。ヨロイ軍団爆闘士の地位にあり、忍びのガラドーの異名を持つ男だった。 (フェイト………あたしはこれから悪いことをたくさんすると思うよ。もう笑ってあんたの前に 立てない薄汚れた存在になるかもしれない。だけど、だけどね。あんただけは絶対守ってみせるから。 フェイトの命だけは絶対に守るから!) 届くことのない念話でアルフはフェイトに語りかける。彼女に聞いて欲しいわけではない、これは誓いだ。 主を守るための、哀しい使い魔の誓い―――― 「で、あたしは何をすりゃいいんだい?」 武装を格納し、普通のワゴン車に偽装したダークガンキャリーの車内でアルフはガラド-に尋ねた。 現在車内にはガラドーとアルフ、それにヨロイ軍団の軽闘士・影が3人いる。 影は忍びのガラドーに付き従う下忍のような存在でそれなりの数がおり、諜報をはじめとする多方面で ヨロイ軍団を支えていた。 「この写真を見ろ」 アルフが手渡された写真を見ると、そこには1人の人物が写っている。一目で日本人と分かる黒髪の 少女、年齢はフェイトより3~4歳上だろうか。 「その写真の娘が今回の標的だ。もうすぐこの道を通り帰宅する」 「標的……?」 標的という言葉にアルフは嫌な予感がしてくる。 「伊集院宗徳という男がいた。その男はネロス帝国の秘密を知っていたため豪将ブライディに 始末され、財産も全てネロス帝国が奪った。家族も全員殺したはずだった」 恐ろしい事実を何でもないことのように淡々と語るこの組織の有り様に、アルフは改めて戦慄する。 「だが一人取りこぼしがあった。そこに写っている伊集院の孫娘だ。お前の今回の任務はその娘を……」 ガラドーはアルフの方に目もくれず衝撃的な言葉を告げた。 「抹殺することだ」 「あ、あなた達、一体なんなんですか!?私をどうする――」 「……すまないね」 アルフが小さく呟くと、結界で隔離された薄暗い廃屋に一条の閃光が走る。 殺意を持って放たれた魔法は、帰宅途中に拉致された哀れな少女の体をたやすく突き抜けていった。 それだけで、立った一発の魔法を撃ち込んだだけで。伊集院唯は動かなくなった、永遠に。 あっけないもんだ、アルフはそう思った。 それは自分の手で消してしまった命のことだけではない。 契約の際に与えられたヒトとしての倫理観、自分の中にある一線のことでもある。 (考えてみりゃあたしは昔野生の狼だったんだ、命を奪うなんてなんでもないことだ。 なんでもないことなんだ……) 肉食動物は他者の命を奪って生きる。そう、昔に戻っただけだ。 だけどフェイトはどう思うだろうか。 ………関係ない。 例えフェイトに嫌われようが、恐れられようが。アルフに止まる気はなかった。 『どんな手段を使ってもフェイトを守る』 その誓いのためなら、どれだけ血にまみれても平気に思えた。 いや、平気だと思いこもうとしていた。 「存外思い切りがいいな。もう少し躊躇するかと思ったが」 「フェイトのためだ……なんだってやってやるさ」 「それに手際もいい。便利だな、魔法というやつは」 高速での飛行に結界による隠蔽、人間をたやすく抹殺しその殺害手段の痕跡は残さない。 実際に目にした魔法の威力にガラドーは舌を巻いた。 特に指定した相手だけをとりこむというこの結界魔法―――本来は魔力を持つ者だけを選別する らしいが―――があれば、困難な暗殺任務も極めて安全に、そして一切の目撃者を出すこともなく 確実に遂行できるようになるだろう。 (この技術が完全に我が帝国の物となれば世界の支配も容易な物となるな) 念のため、目を見開いたまま動かない少女の瞳を覗き込みさらに脈と呼吸を確認しようとする。 その時言いしれぬ悪寒を感じたガラドーは横っ飛びに大きく跳ねた。 「スティンガーレイ!」 間髪入れずに降り注ぐ光の弾丸。5発撃たれたスティンガーレイは3人の影とアルフ、そして 一瞬前までガラドーがいたところを寸分の狂い無く撃ち抜いていた。 魔法に対する防御手段を持たない3人の影は、それだけで昏倒する。 アルフは瞬間的にフィールドを張りながら身を捻るも、たやすくフィールドを貫いた魔法はアルフの右腕を 撃ち抜いていった。非殺傷設定による痛みとしびれが右腕から正常な機能を奪う。 「何者だ!」 誰何の声を上げながらガラドーが光が降り注いできた上方を見上げると、そこには黒いバリアジャケットを 身に纏った少年が浮いていた。 (この小僧、こいつは何故宙に浮いている!よもやアルフにまだ仲間がいたか!?) (何で魔導師が!?ちゃんと結界張ってたし、この世界にはには他に魔導師なんて……まさか!) もともと封鎖用の結界ではなかった上に、人を殺したことによる動揺を押さえ込もうとしていた アルフは結界への侵入に気づけなかった。だが、目の前の魔導師の正体に見当がついたときアルフの 顔から一気に血の気が引いた。相手が悪すぎるからである。 「時空管理局執務官クロノ・ハラオウンだ」 (やっぱりか!) 嫌な予測が当たって内心焦りまくっているアルフをよそに、少年は怒りを押し殺した静かな声で 語りかける。それは荒々しい態度となって外側に現れる怒りではなく、内側で冷たく激しく 燃えさかる氷のような激怒であった。 サーチャーが検出した結界の反応を調査しにやってきてみれば、使い魔らしき人物が殺傷設定の魔法で 人を殺した現場に出会ってしまった。あとほんの少しだけ早くここに来ていれば、術者に気付かれ ないための潜入ではなく結界の破壊を伴う突入を敢行していれば、殺人を阻止できたかもしれないのだ。 故に彼は静かに怒り狂っている。殺人を犯した犯罪者に、そして犠牲者を救えなかった自分自身に。 「管理外世界での魔法の使用、及び殺人の現行犯で……お前達を逮捕する!おとなしく投降しろ!!」 数多の次元世界において治安維持を行う組織、時空管理局。秘密裏にロストロギアの回収を行っていた フェイトとアルフにとっては最も出会いたくない相手だった。まして執務官といえば相当の腕利きのはず、 仮にフェイトとアルフの2人でかかっても勝てる可能性は低いだろう。 (なんて最悪のタイミングで現れるんだよこいつは!) 執務官であれば類を見ない危険な組織であるネロス帝国とも、もしかしたら渡り合えるかもしれない。 出会う状況が違えば、彼はフェイトとアルフを助けてくれただろうか。 だが管理局に助けを求めるなどという選択肢は今のアルフには許されていなかった。 まず第一に殺人の現場を目撃されてしまったこと。そしてもう一つ、何よりも重要なのは ここで管理局に投降などしようものならフェイトの命はないということだ。 実のところ、念話を使えばガラドーに気付かれることなく執務官とコンタクトをとることも可能なのだが、 精神的に追いつめられておりいささか視野狭窄に陥っているアルフはそこまで頭が回らなかった。 (やるしかない!あたしとフェイトが生き残るにはそれしかないんだ!けど……) オオカミの姿に変身しながら、アルフはチラリとガラドーの方を見る。 不意を打っての射撃魔法をよけ損ねたアルフや影達と違って、ガラドーは今の一撃をかわしていた。 魔法というアドバンテージを除いて単純な戦闘の技量で考えればアルフより上だろう。 ではアルフとガラドーで力を合わせれば執務官に勝てるだろうか?答えは否であると言わざると得ない。 ガラドーは魔法についての知識が不足している、アルフの実力は執務官には及ばない、 そしてアルフとガラドーの間には連携を取れるような信頼関係は存在していないためだ。 アルフとしては撤退を考えたいところだが、目の前の執務官がそれを許してくれるとは思えない。 だが、それよりも問題なのは隣にいるガラドーだった。この状況で『ネロス帝国に敵対する魔導師』が 現れるというのはアルフにとってかなりまずいと言える。アルフを助けに来た、とも考えられるからだ。 「アルフ、あれはお前達の仲間か?」 「え?ち、違うよ!言ってみれば敵!敵だよ!」 ここで管理局と仲間だなんて思われてはアルフとフェイトの命はいきなり消えることになりかねない。 アルフは大慌てで否定した。 「だったらその言葉を証明してもらおうか。アルフ、あの小僧を殺して見せろ」 「ええ!?ちょっと待って、執務官てのはすごい腕利きなんだ。あたし1人じゃ無理だよ!」 「無論お前一人にやらせようとは思っていない、俺もやる」 そう答え、右腰の短刀を逆手に構えたガラドーは視線を周囲に走らせる。目に入るのは 力尽き崩れ落ちた3人の影、幾多の戦場を共に駆け抜けた頼れる部下達の惨状だ。最早死んでいると しか思えないほどピクリとも動かない影達の姿はガラドーを激怒させるには十分であった。 「我が軍団の影が3人も……小僧、貴様の命だけで償いきれると思うな!」 「黙って聞いていればお前達っ!」 自分を無視して勝手な会話を続ける2人にクロノの怒りも臨界点に達しようとしていた。 特に、その会話内容はクロノの神経を逆撫でする。戦場に置いては感情をコントロールするよう 心がけていても、未だ若いクロノでは己の激情を完全に制御することはできないのだ。 「どうしてそんな簡単に…人の命を奪おうとするんだぁっ!!」 さて時刻は執務官とネロス帝国のファーストコンタクトが行われるほんの少し前、ユーノ・スクライアと 2人の男達は人気のない山中を歩いていた。いずれも、バリアジャケットを身に纏っている。 「それじゃあ少なくとも2つ以上の出入り口があるということになるのかな?」 「多分そうだと思います。僕があの傀儡兵と接触した場所はここから随分と離れていますから。 すいません、あの時意識がハッキリしてたら入り口があった場所も分かったんですけど」 「まあそう気にするなよ、無事に帰れただけでも幸いってもんだ。そうだろ?キール」 「クラッドの言う通りです。民間人の君がそこまで責任を感じる必要はありません」 「……ありがとうございます」 「ま、オレ達に任せとけば安心だって」 ノリの軽い赤毛のクラッドと物静かな銀髪のキール、2人の武装局員の仕事はユーノの証言を 基に現場の調査を行うことだった。 ユーノがブルチェックに掴まれてネロス帝国に連れ込まれたときは彼の意識が朦朧としていたため、 どこに帝国に入るためのゲートがあったのかまでは覚えていない。そこでまずは帝国から連れ出された ときのゲートがあった場所の付近を捜索することにしたのだ。ちなみに近隣の山々にも他の武装局員達が 派遣されており、それぞれ2人1組で調査に当たっている。アースラにはサーチャーという優れた 情報収集装置があるが、地下深くに存在する施設や念入りに隠蔽された出入り口を探すのはサーチャー には向いていないこと、ジュエルシードの捜索にも回さなければならないことから武装局員が 現地調査を行うことになったのだ。また本来ユーノは来るはずではなかったのだが、探索系は得意だ、 足手まといにはならない、実際に敵を見たのは自分だけだ、ジュエルシードを掘り出した者としての 責任が、などとあれこれと理由を付けて同行を希望しついにはリンディの許可を取り付けてしまった。 責任感が強すぎるのも考え物だ、とは最後まで難色を示した執務官の言葉である。 なお言うまでもなくネロス帝国の本拠に近づくこの行為は危険極まりない。リンディも有事の際には直ちに 撤退するように命令してはいるのだが、調査を行う現場の人間は『魔法文明を持たない現地の組織』を 甘く見ていた。彼らはまだ知らない。魔法と渡り合う質量兵器がどれほどのものかを。 そして彼らは気付いていない。今まさに背後から脅威が近づいていることに。 山中を一人の戦士が走っている。三日月の鍬形を兜に付け、腰に1本の太刀を差した青い鎧の侍、 その名をヨロイ軍団暴魂チューボという。 ヨロイ軍団はネロス帝国の中で最も勤勉とも言える集団である。 薬物やサイボーグ化による肉体の強化だけには頼らず、自らの技量を高めるため厳しい鍛錬を己に課す者 ばかりだ。チューボもまたその例に漏れず、時間が空いているときにはトレーニングを欠かさない。 現在は走り込みの真っ最中であった。 鎧の重さを感じさせない軽快な動きで走り続けるチューボの本日の予定は、ゲート8を出て 険しい山中を駆け抜けた後、日課の素振りをこなしてゲート6から帰還というものだった。 だが、目的地であるゲート6の近くでおかしな光景を目にする。 大人2人に子供1人、奇妙な服装と派手な髪が特徴的な3人組だ。 この一帯はネロス帝国の勢力圏であり、表向きは資産家の私有地ということで立ち入りも禁じられている。 外部とは道路も繋がっておらず、ここまで来るには険しい山林を越えてこなければならない。 万に一つ、山で迷った人間ということもあるが、登山用の装備などは持っていないし疲労の様子も見えない。 (まさかどこかの組織の密偵か?) ブルチェックが逃がした動物から情報が漏れるかも知れない、帝王はそう危惧していた。 このタイミングでゲート6の近くに姿を現すということはあの時の動物と関係がある可能性は高い、 そう結論づけたチューボは気配を殺し、前方の3人の様子を探ることにした。 ヨロイ軍団の軍団員は戦闘ロボット軍団や機甲軍団のような高性能のセンサーは持たないが、 目や耳は常人よりは遥かにいい。チューボは見た目に反して静かに動くと、どうにか3人組に 気付かれることなく会話が聞こえる距離まで近づくことに成功した。 「ところでユーノ君、その質量兵器満載のバケモノってどれくらい強いんだ?」 「ジュエルシードに取り込まれた生物を一蹴していましたから……半端な防御魔法は突破 されるんじゃないでしょうか。まさかクラッドさん戦う気なんですか!?」 間近でブルチェックが暴れるのを見たユーノには自殺行為に思えた。人間大の傀儡兵が装備する レベルとは思えない威力のあの大砲を連射されれば、防御魔法ごと粉々にされそうな予感がする。 「心配するなよユーノ君、管理局の魔導師はそのための訓練を受けてるんだぜ?」 「いやでも、僕らの知ってる質量兵器とはスケールが違うんですって!」 クラッドは敵を甘く見ている。自信に見合うだけの実力があるのならばいいのだが、ユーノはまだ 彼らのことをよく知らない。もしクラッドが敵の実力を過小評価しているのならそれはとても危険な ことだ。甘い見積もりが死を招きかねないことを、ユーノはつい先日体験したばかりである。 「クラッド、交戦は可能な限り避けるよう言われたでしょう?」 対してキールは冷静だった。 「ネロス帝国というのが次元犯罪者の隠れ蓑になっている可能性もあります。我々の任務があくまでも 調査だということを忘れないように」 「次元犯罪者ならユーノ君の魔力に気付かないわけはないだろ?」 「それはそうですが…」 3人は気付かない。ネロス帝国の名を口に出した瞬間周囲の空気が変わったことに。 暴魂チューボがこの3人をネロス帝国のことを探る者、すなわち敵と判断したのだ。 「ま、オレ達がその気になれば辺境世界のマフィアなんざイチコロだぜ」 「―――随分と勇ましいことだな」 「何!?」 「誰だ!?」 聞き覚えのない声に思わず振り返るキールとクラッド。いつのまに接近されたのか、青い甲冑の 男が背後に立っていた。その特徴的なフォルムはユーノにも見覚えがある。ブルチェックの手に よってゴーストバンクから連れ出される際、ブルチェックとチューボは通路ですれ違っていたためだ。 (クラッドさん、キールさん。あいつ、ネロス帝国の中で見かけました!) (ということはあれがとんでもない戦闘力の傀儡兵ですか。見たところ接近戦仕様のようですが) (言葉を話すって事は確かに人間並みの知恵はありそうだな) ユーノからの念話を受けて、クラッドとキールは油断無くチューボを見据えながら 愛用のストレージデバイスを稼働状態に切り替える。 「ほう、なかなか面白い手品だな……それはデバイスとかいう奴か」 カードが杖に変わるのを見てチューボは感心したように呟いた。 「時空管理局次元航行艦アースラ所属、武装局員クラッド・ゲイナスだ!」 「同じくキール・ベリオース。あなたがたにはロストロギア不法所持の疑いがかかっています。 よろしければ少しお話を聞かせてください」 すでにやる気十分のクラッドを目線で制しながら、キールはやや穏やかにチューボに話しかけた。 デバイスの起動を見た相手の反応が少し気になるが、今はそれにこだわらないことにする。 ちなみに時空管理局の名を出したのは次元犯罪者である可能性を考慮したためだ。次元犯罪者か 管理外世界の特異な集団なのか、それを探ることは今後の捜査のことを考えると重要なのである。 「言っている意味が理解できんが……名乗りを受けたとあっては応えねばなるまい。 俺はヨロイ軍団暴魂チューボ。貴様らは何者だ?」 ネロス帝国を探る者には死を。それは帝国においてごく当たり前のことである。相手がCIAやKGB のような地球の組織の諜報員ならばチューボもそれに従い直ちに斬りかかっただろう。 しかし今チューボの前にいるのは明らかに今まで戦ってきた敵とは違う。 魔法の存在をネロス帝国が察知し、魔導師なる者を捕縛したのはつい昨日のことだ。そしてその直後に 現れた新たな魔導師。2人の武装局員と1人の民間協力者がチューボから可能な限り情報を得ようと 考えているのと同様に、チューボもまた情報を得ようとしていたのだった。 「もしや時空管理局をご存知ない?」 「知らんな。何を目的とした組織だ?」 時空管理局の名は出すべきではなかったかもしれない。キールは内心しくじったと思っていたがそれを 表には出さずあくまでもにこやかに時空管理局について説明した。設立理念、行動目的、散逸した ロストロギアの危険性など。もっとも規模や戦力についてはぼかしつつだが。 「以上が時空管理局の概要です。信じられないとは思いますが……」 「地球外から来た魔法を使う治安維持機関か。信じがたい事だが…まあ納得することにしよう」 普段なら一笑に付すか一刀のもとに切り捨てる与太話だが、実際に別の世界から来たという捕虜を 見ている以上聞く価値のある話だとチューボは思っていた。 「……あの、本当に信じて貰えるのですか?」 まだなんの証拠も見せていないのに信じると言われたことに、キールの方が疑問を持つ。 チューボの反応は奇妙なものだった。『別の世界』の存在を知っているのに『時空管理局』を 知らない、そんなふうにも受け取れる。 「納得すると言ったはずだ。それで、お前達がここに来た目的は?」 (なあユーノ君、あれ本当に傀儡兵か?なんか俺、人間が会話してるとしか思えないんだが) (あの鎧の中に機械じゃなくて生物が入っている可能性もあるとは思いますが……) 一方、交渉事に向かない性格のクラッドと民間人であるユーノは会話に口を出さずチューボの様子を 観察していた。 (というかクラッドさん、そのデバイスにスキャン機能無いんですか?) (ああ、そういえばあったような) (クラッド……あの鎧の中身は人間ですよ。あなたまだ気がついてなかったんですか?) (分かってんなら先に言えよ!) 抜け目のないキールは会話しながら既に簡単なスキャンを実行していたのだった。 不満そうなクラッドをよそにキールは会話を続けていく。 「ジュエルシード、あなた方が回収した青い結晶体のことです。あれは先ほど説明したロストロギアの 中でもかなり危険な物なんです。下手をすればこの世界だけでなく他の世界をも巻き込んで次元災害を 起こすほどに。そうなればこの世界の全ての人間が死に絶えることにもなりかねません」 「ほほう…世界を滅ぼすほどの力か…」 おぼろげながらチューボにも全貌が見えてきた。つまるところ時空管理局は別世界の官憲で、帝国の 保有する結晶体ジュエルシードを回収しに来たのだ。そしてジュエルシードには核兵器どころではない 破壊力が存在するという。そこまで分かればもうこの3人には用はない。あとは己の職務を全うするだけだ。 「大体の所は理解できた……これ以上は貴様らを殺してから調べるとしよう!」 「なっ!?」 言いながらチューボは太刀を抜き放ち、身も凍るような殺気を放ちながらそれを構えた。 ネロス帝国を探る者には死を。それは帝国においてはごく当たり前のことなのだ。 『帝国がジュエルシードを回収したこと』を何故か知っていて、わざわざ『ゲート近く』に来る ような不審人物を生かしておく理由はチューボには存在しない。 太刀を構えたチューボに、高ランク魔導師にも似た凄みをキールは感じた。 「やはり危険な組織でしたか!ユーノ君、君は離れていてください!」 「は、はいっ!」 非戦闘員であるユーノを下がらせ、このコンビにおいては前衛を担当するクラッドが前に出る。 「田舎マフィア程度がっ!管理局の魔導師なめんなよ!!」 「暴魂チューボ、いざ参るっ!!」 かくしてほぼ同時刻、二カ所に置いてネロス帝国と時空管理局の戦いの火蓋が切って落とされたのだった。 ついにその姿を見せた時空管理局。 激突する次元世界の正義と地球の悪。 果たしてアルフは生き延びることが出来るのか? そして囚われのフェイトの運命は! 魔法帝王リリカルネロス 次回「守れ! 秘密基地」 こいつはすごいぜ! 提 供 桐原コンツェルン ヒュードラ製作委員会 フェイトと首輪の組み合わせに芸術性を見出す会 このSSは、暮らしの中に安らぎを、桐原コンツェルンと ご覧のスポンサーの提供でお送りしました。 戻る 目次へ 次へ
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その為なのはのシールドは限界を超え無惨にも砕け散り、その身に何度も衝撃が走り膝を付いて苦しんでいると なのはの脳に一つの詠唱が浮かび上がり、痛みに耐えながらゆっくりと確実に立ち上がるや躊躇する事なくその詠唱を口にした。 「十戒の鼓動…喜死の召雷、幻妖の棲烈が齎せしは御滅による安息と知るがよい!!」 すると骸骨の頭上に光の魔法陣が現れ、其処から幾重にも光が降り注いで骸骨の身を貫いていき、それが終えたと同時になのはは右手を向けた。 「ファントム!デストラクション!!」 次の瞬間、骸骨は魔法陣に飲み込まれ暫くすると大爆発、周囲を眩しい光で包み込み、暫くして落ち着くと其処に骸骨の姿はなかった。 ファントムデストラクション、本来ではミリオンテラーを用いて放たれる光の広域攻撃魔法なのであるが、 なのはは神とユニゾンしている為に特別に使用する事が出来たのである、だが当然魔力の消費も激しい為、おいそれと扱える代物ではないが… それはさて置き、なのはのファントムデストラクションを目の当たりにしたレザードは威力もさることながら その広域攻撃魔法の正体を瞬時に理解した事により、苛立ちとも言える表情を浮かび上がらせていた。 「貴様のような小娘が…神の魔法を扱うとはな!!」 不届き…一言で表すのであればこれ以上の言葉が見つからない、それ程までになのははレザードの怒りを買っていた。 一方でなのはは自分の体の調子を調べ、まだイケると判断し構え始めレザードと対峙するのであった。 「なっ……何なんだ…この戦いは………」 一方此方はミッドチルダ宙域で待機しているクラウディアと、全地域からの情報が集うアースラを利用して戦況をモニタリングしているクロノ達の姿があった。 だがなのはとレザードの戦いは一同を驚愕させるどころか、フィクションなのではないのかと錯覚してしまうほどであった、それ程までに二人の戦いは常軌を逸していたのだ。 この時フェイトはゆりかごでなのはが言った言葉を思い出していた、…確かにこれ程の戦いに自分達が参加しても、ただ足手まといになるだけであると。 一方ではやては二人の戦いにおけるミッドチルダへの影響を懸念していた、二人の攻撃はあのドラゴンオーブの砲撃と大差無いと感じていたからである。 だが…だからといって二人を止める手立ては無く、更にレザードに対抗出来ているのは今のなのはしかいない…そう実感している時である、クロノの下にクラウディアからの連絡が届く。 その内容とは本局からの入電で、現在ミッドチルダ宙域に大規模な次元振の予兆を感知、 早急に手を打たなければミッドチルダは次元断層に飲まれ消滅すると言うものであった。 この次元災害は恐らくなのはとレザードの戦いによって引き起こされたものと考えられる、 だがこの場にいる全員で、もしくは全戦力にて二人の戦いを止めようとしても不可能、まさに無駄の一言である。 このまま滅びをただ待っている事しか出来ないのか…一同は奈落に突き落とされたかのような表情を浮かべている中、クロノが一石を投じる一言を呟く。 「…手が無い訳じゃないんだ」 場の沈黙を破るこの一言にクロノは説明を始める、十年前ジュエルシード事件のおり中規模の次元振が起きたことがあった、 その時提督であったクロノの母リンディは次元振の進行を抑えつけていた事があり、今回はそれを全員で行う事により進行を抑えつけるというものであった。 「しかもこの場には指折りの魔導師に騎士が複数いる、試してみる価値は十分にあるハズだ!!」 それに今ここで動かなければどのみち二人の戦いにより確実に滅ぶ、ならば少しでも次元振の進行を抑え、なのはがレザードを倒す事に賭けた方が無難であると。 するとこの場にいる更に通信を聞いている全員がクロノの案に賛同し早速クロノの指示の下、 機動六課メンバー、クラウディアチームを中心に魔導師達や騎士団達が一斉に移動または転送していき、 ミッドチルダ全域に広がるとアースラ及びクラウディアから齎された情報を基に魔法陣を張って一気に魔力を解放、次元振の進行を抑え始めたのであった。 管理局または教会騎士団が必死に次元振の進行をくい止めている頃、なのははレザードに対して肉弾戦を仕掛けていた。 なのはの持つレイジングハートは常にA.C.Sドライバーを起動させている状態に近く、先端の魔力刃も相応な威力を誇っているからである。 それにあの手の存在は肉弾戦を苦手としているハズ、かつての自分もそうであった為の決断であった。 だがレザードも負けてはいない、グングニルという強力な槍に周囲を飛び交う本のページも相当な威力があるからである。 それに神の力を得た為、肉弾戦においても十分な実力を発揮する事が出来るようになっていた。 そんな戦力の中でなのはは再度接近して魔力刃を左上に突き上げるように攻撃、レザードの左頬を掠めるが、 がら空きとなった腹部にレザードが右手に持つグングニルの突きが襲い掛かる。 しかしなのははすぐさま半歩下がりながらレイジングハートを下ろし柄を使ってグングニルを防ぎ、 更に前転して左のハイヒールによるかかと落としでレザードを蹴り かかとの鋭利な部分がレザードの右鎖骨に突き刺さるが、レザードは攻撃に耐えながら左手で抜き取りなのはごと押し飛ばすと、 本のページを飛ばしてなのはに斬り掛かる。 一方なのはは空中で体勢を立て直しレザードに目を向けた瞬間ページが次々に襲い掛かり、 一枚一枚がなのはの身を切り裂き頬に血が垂れるが動じる事無くレザードに押し迫り そのまま魔力刃で心臓を貫こうとしたところ、レザードはグングニルにマイトレインフォースを纏わせて魔力刃を防ぎ 更に右に薙払いなのはを吹き飛ばそうとしたが、前宙の形で防がれ頭上からなのはの魔力刃が振り下ろされるかに見えた。 だが既になのはの行動を予測していたレザードは柄を逆手に持ち替え切り上げて魔力刃を受け止めた。 なのはは歯噛みしながら一端距離を置き更に攻撃を仕掛け、接近するや否や何度も突き刺そうとしたが、 レザードは滑るようにして後方へ躱しつつ躱せぬ攻撃をグングニルで防ぎ、更にレイジングハートを引いた瞬間に合わせて振り上げなのはの胸元を深く傷つけた。 血が溢れ出し痛みも相当なものであるハズなのになのは臆する事なく、先程傷付けた右肩を狙って魔力刃を突き刺し 更にディバインバスターを発射させてレザードを吹き飛ばすが、 レザードも負けず吹き飛ばされ痛みに耐えつつもクロスエアレイドを放ち、なのはの両肩や腿を撃ち貫いた。 最早二人の攻撃には非殺傷設定などされておらず殺られる前に殺る…そんな骨肉の争いを続けていた。 そして瓦礫を背にして身を隠したなのはは深く傷つけられた胸元や肩腿などにフィジカルヒールを施し治療をしていた。 だがキャロやシャマル程の回復力は無い為、応急処置程度過ぎないのだが放っておくよりはマシである。 そんな治療をしている中で今までの戦いを振り返るなのは、此方の攻撃はレザードに通じているハズ…神とユニゾンした事によりアストラライズが可能となった。 だがレザードのポーカーフェイスは此方の精神力を著しく削る、何故なら今までのように効果が無いという不安感を掻き乱すからだ。 「そんな事は無い…絶対に通じているハズだ……」 それに余り時間も残されてはいない、ユニゾンには一定の時間が決められている、しかも今は神との強制的なユニゾン、 体に対する負担も半端ではない、だからこそ早急にレザードを倒さねばならない。 …迷っている時間はない、そう心の中でなのはは覚悟を決めると立ち上がりレザードを姿を確認すると対峙し始めるのであった。 一方でレザードはなのはの実力に舌を巻いていた、今まで二回ほど対峙してきたが、その中でもダントツの実力を誇っていた。 それは神とユニゾンしているから…最初はそう考えていた、しかし幾度か交えてなのはの気迫が尋常ではない事に気がつく。 恐らくは此処で全ての終止符を打つ覚悟で戦いに望んでいる、だがそれは此方にも言えた… 「巡りに巡る因縁…此処で決着を付けよう……」 アグスタ…いや本人は知るハズがないであろう八年前の撃墜事件からの因縁にケリを付ける、その為にレザード自らが封印していた魔法…それを用いる覚悟を決め レザードは飛び出し宙に浮くとなのはが瓦礫から姿を現しその姿を見据えながら対峙した。 「頃合いでしょう…」 「そうね…」 お互い覚悟を決めた表情を浮かべ対峙していると、先になのはが動き出しレザードの懐に入るや否や右のインパクトキャノンをレザードの頭部目掛けて撃ち抜いた。 だがレザードはその場から動かずなのはの攻撃に耐えていると続けてアクセルシューター更にショートバスターを撃ち放つ、 しかし尚もレザードは攻撃を耐え続けており、不安感を抱く表情を浮かべるなのはであったが、 逆にチャンスではないかと発想を変えてレザードの胸元目掛けてディバインバスターを撃ち抜く、すると――― 「カオティックルーン!!」 レザードはなのはのディバインバスターに耐えながら左手をなのはに向け足下に魔法陣を張ると、 魔法陣は一気に広がりを見せてクラナガン全地域は、環状の魔法陣が帯のように幾重にも張られているドーム状の結界に包まれた。 カオティックルーン、レザードが自らの意志で使用する事を禁じた魔法の一つで、この結界にいるだけで身体能力を20%減少させる結界魔法である。 その効果によりなのはの身体能力は低下、何かが全身にのし掛かっているのような…まるでかつて施されていた能力リミッターと同じ感覚を覚えていると、 目の前にいるレザードがグングニルを振り下ろしなのはは地面へと叩きつけられるが、そしてゆっくりと立ち上がりレザードを睨み付ける。 「この程度で…私を倒せるとでも―――」 「まだ、この程度で終わるものか!スペルレインフォース!!」 次の瞬間レザードの足下に黄色の魔法陣が現れ、レザードを黄色く照らし始めると、レザードの体から溢れる白金の魔力が更に輝き出し周囲を照らし始める。 スペルレインフォース、レザードが自らの意志で封じた魔法の一つで、魔法陣内に存在する者の魔力を1.5倍に高める切り札であり、 レザードにとっての希望の一手、この世界にとっては絶望の一手とも言える支援魔法である。 だがレザードの魔力強化はそれだけでは終わらなかった、今度はレザードに向かってまるで流星のように魔力が集まり強化していく、 その光景になのはは目を丸くする、何故ならばそれはなのはが良く知っている方法で魔力を集めているからだ。 「まさか…私の収束技術を!!」 「フフフッ貴様にとってこれほどの屈辱はないだろう!!」 地上本部での戦いの折になのはが見せた収束技術を用いて魔力を高め、更にそれによってミッドチルダを崩壊させる。 この収束技術こそ、この世界で収穫した技術の中で最高の利であり、またなのはの技術を使わざるを得ないと言う最悪の害でもあった。 それ程までプライドの高いレザードが使わざるを得ない相手、なのはは其処まで強くなりまた、驚異と感じていたのだ。 「だが…それももう終わる!」 するとレザードは右手を天にかざし魔力が右手を介して天を貫くと、詠唱を始める。 「我招く無音の衝裂に慈悲は無く!」 辺りはレザードが放つ光に包まれなのはは右手で光を抑えながらもレザードを睨みつけていた。 そしてレザードから放たれた光は次元海にまで及び、続いて光を中心に移送の魔法陣が7つ張られ光が伸びていた。 「汝に普く厄を逃れる術も無し!!」 すると魔法陣から直径数百メートルの隕石を呼び出す、スペルレインフォースに収束技術を用いた魔力強化により 本来の大きさの隕石より巨大な隕石を召喚する事が出来たのだ。 そんな巨大な隕石の一つが引き寄せられるようにしてミッドチルダに落下、なのはの下へ迫っていた。 「この世界ごと消滅するがいい!メテオスウォーム!!!」 曇天の空を打ち破るように巨大な隕石は真っ赤に燃えながら迫っていた。 その光景を目の当たりにしたなのははカートリッジを全て消費、自身にオーバルプロテクションを張り、 続いて目の前に自身最大の直径数十メートルあるラウンドシールドを張り攻撃に備えた。 そしてシールドと隕石が接触した瞬間に爆発、激しい爆音と共に衝撃波が走り、なのはの周囲を吹き飛ばし高速道も薙ぎ倒した。 だがそれだけには止まらす衝撃波は尚も広がりを見せて海岸線に到着、大波を生み出し海は更にうねりをあげ始めた。 そうこうしている内に二発目が直撃、先程と同じ規模の衝撃波が走り更には大きなクレーターが形成、 続いて三発目が直撃するとクレーターに巨大な亀裂が走り、その亀裂は地割れとなって周囲の倒壊した建物などを飲み込んでいき、 四発目には地割れは更に悪化、しかも海では津波が発生し海岸線は壊滅的な被害を被っていた。 場所は変わり此処は首都クラナガンから南方に位置する海上上空、周囲には次元振の進行を止める為に局員が必死に行動しており、 その中心ではクロノがモニターを通し二人の戦いを観察しつつ同じく次元振の進行を必死に阻止していた。 現在ミッドチルダ全域には管理局魔導師及び教会騎士団が陣を張って次元振の進行を抑えており、 二人の戦いに局員達を巻き込まれないよう注意・指示を送っていたのだが、その考えは既に終わりを告げていた。 レザードの放つメテオスウォームの威力はクロノの予想を遙かに超えた威力で、最初の一発目でクラナガン付近で陣を張っていた局員達は全滅、 そして二発三発と続き四発目の際に生じた津波においては、クロノとその周囲は難を逃れたのだが、他の局員は波に飲まれて姿を消し去ったのだ。 「悪夢だ……」 夢なら覚めて欲しい…そう心底思いながらモニターに目を通すクロノ、このまま局員達の数が減り続けば次元振が起きる可能性が高い、 いや…事態はもっと深刻である、レザードのメテオスウォームによる影響によりミッドチルダの地軸が歪み始め先程まで微弱だった揺れが大きくなってきているのだ。 その直後である、五発目の隕石が直撃し地軸の振動に更なる激しさが加わり、レザードが岩肌を顕わにした山岳地帯が音を立てて崩れ落ち、 近くで作業を行っていた騎士団の連中が山崩れに巻き込まれその光景をメルティーナやルーテシアが目の当たりにして思わず目を背けた。 そして六発目が直撃すると、西地区上空では衝撃波に巻き込まれバラバラになった魔導師が雨のように降り落ち、 その雨の中で必死に進行を押さえつけようとしているエリオとキャロ達、 地上東地区ではスバルの目の前で建物が倒壊、近くにいた騎士団を押し潰しスバルは作業を中断して助け出そうとしたが、 今回の作戦の要である事を自覚させるようにティアナが説得、苦しみ後ろ髪を引っ張られているかのような表情を見せながらも作業を続ける姿があった。 一方北地区ベルカ領で作業しているはやては空を見上げていた、上空には黒い雲、海は荒れ狂い、山は崩れ、森は激しく音を立てて燃え続け、町並みは潰れていった… 局員達も疲弊している、それは機動六課の面々も例外ではない、だがレザードのメテオスウォームは まるで世界を繋ぎ止めようとしている軛を外そうとしているように思えた、それ故か小さくぽつりと言葉を口にする。 「終焉ってこんな光景を指すんやろうな……」 誰もが絶望するであろうこの状況、しかし局員達の目にはまだ敗北の色を宿してはいなかった、 何故ならば彼等の前にあるモニターには、攻撃を耐え続けているなのはの姿が映し出されていたからだ。 今も尚なのはは戦い続けている、決して諦めず不屈の意志、心で… それが彼等の支えとなりまた、支えようとする意志となっているのだ、だからこそ諦めない! はやては弱気になりそうになった自分を恥じるように、頬を強く叩くと気合いを入れ直して作業を続けるのであった。 一方終焉を演出している発端では六発目の隕石に耐え抜いているなのはの姿があった、 …しかし張られているシールド・バリアには亀裂が走りなのはも立っているのがやっとと言った様子を見せていた。 だがメテオスウォームは七つの隕石で攻撃する広域攻撃魔法、後一つ耐え抜ければ此方に勝機が見えるとなのはは判断していた。 一方レザードはなのはの様子を確認後、右手を高々とかざし見下ろすような目線でなのはに語りかけていた。 「貴様の仲間が必死になって次元振を抑えているようです、健気だと思いませんかぁ?!」 だがそれも無意味になる…レザードの意味深な言葉を合図に頭上に存在する雲から直径数キロの、今まで類を見ない程の巨大な隕石が姿を現し息を呑むなのは。 レザードはこの世界ごとなのはを消し去ろうとしている、結界これ程の大きさの隕石でなければ不可能であると判断した為だ。 「貴様ごときになぁ!我を倒す事などなぁ!!不可能なのだよ!!!」 そう言ってかざした手を振り下ろし、隕石は加速を続けながらなのはと接触、今までとは比べ物にならない程の大爆発を起こし 生まれた衝撃波が土煙と混ざり合って走り海を越えると大津波を作り出しまた 衝撃波自体も山や森を吹き飛ばしながらミッドチルダ全土に響き渡った。 その為、作業を行っていた騎士団及び局員達は為す術なく衝撃波、もしくはそれによって引き起こされた災厄に飲み込まれ、 この未曾有の災害の発端となった地クラナガンは、建物の残骸は砂地と化し草木すら生えそうもない更地と言う名のクレーターとなって消滅したのであった。 「フフフ…フハハハハハハハハハ!!!」 この地で響き渡るのはレザードの笑い声のみ、既に勝利は確信しており、そろそろこの世界も終わりを告げるであろうと考えていると 辺りに響いていた振動が小さくなっていることに気がつく、だが世界崩壊への予兆だろうと考えていると体に不調を感じた。 「くっ!やはり…やりすぎましたか……」 いくらレザードが神の肉体と魔力を持っているとは言え先程のメテオスウォームは十分にレザードの体力を削るものであった。 だが憂いであったなのはを消し去る事が出来た以上、問題はないだろうそう判断した時――― 《Restrict.Lock》 突然の電子音が耳に入るや否や体中を桜のバインドで縛られ、それを行った正体がブラスタービットであると分かった瞬間 更地の一部が盛り上がり其処から右の袖が半袖左に至っては肩から失った上着に、 スカートも左の部分膝まで失い更に腰までスレットのように破れたバリアジャケットを羽織るなのはの姿があった。 「ありがとうレイジングハート」 《No.problem》 「貴様…あれに耐え抜いたと言うのか!!」 流石のレザードは驚愕の表情を隠せないでいると、なのはは一歩前に出てレザードを睨みつける。 …自分一人では耐えきれなかったかもしれない、だがあの時自分を応援してくれる仲間の声が聞こえた、 それを聞いたから自分の心は折れる事もなく、また守られ支えられた為にレザードの攻撃にも耐え切れたのだと、凛とした表情で答えた。 「バカなっ!そんな事が!!」 「あなたには分からないでしょう」 人を蔑み他人を見下し他者を踏み台にし自分しか賞賛しない…そんな性格の“人間”では一生理解する事は出来ないであろう。 当然レザードはなのはの言葉に耳を貸さなかった、他人の思いが自分を強くするなどありえるハズがないのだと自負しているからだ。 「たとえ貴様がそうであっていたとしても、この崩壊した世界では無意味だ!見ろ!!」 人と呼ばれた存在はいなくなり、文明も消滅したと言っても過言ではない程に崩壊している、 恐らくこの世界で存在しているのは自分と貴様のみ…そんな世界の中で貴様の戯言が通じるハズがない、 レザードはバインドに縛られたままであってもなのはを挑発していた。 「…私はみんなが生きているのを信じる!」 「現実を見よ!この荒廃した世界を!貴様の役目は終わったのだよ!!」 《―――まだ終わっていない!!》 突然の通信に驚くなのは、それがユーノであった事に気が付くとユーノの言葉の真意を確かめる、 なのはが必死に攻撃を耐え続けている頃、ユーノはクラウディアに赴きあるプログラムを配信したという。 それは無限書庫に存在する石のエネルギーをクラウディアの魔導炉で増大させてから使って攻撃を防ぐというものである、 だがこの作戦は石自体を犠牲にしなければならない、当然その中に含まれる情報も失われる事も指す。 しかし司書長であるユーノは人命救助を優先にして石を提示、起動させて見事みんなを守ったのだという。 するとなのはの下に次々に連絡が入る、フェイトを筆頭にはやて・スバルやティアナ、ヴィータ、シグナム、シャマルに ザフィーラを真ん中に置き右にエリオに左にキャロと機動六課メンバーが次々に連絡を送り最後にはクロノの姿もあった。 「なのは、後は頼んだ!」 「任せて!!」 みんなからの連絡を受けて元気を取り戻したなのはは、そのままレザードを見上げレイジングハートを向ける。 「今度は…こっちの番!!」 そして一歩前へ踏み出すと足下に巨大な三角形が三つ均等に並ぶ桜色の魔法陣を張り巡らせ更に目の前にも同じ魔法陣を張り巡らせる、 続いて背中の六枚の翼が巨大化して更に足元のくるぶし辺りにある翼は地面に突き刺さっていた。 すると目の前の魔法陣に桜色の魔力が集い始める、だがその光はなのはの周囲だけではなかった、 北地区、南地区、東地区、西地区と次々に使用された魔力がなのはの下へ向かい、ドラゴンオーブが放たれた場所からも魔力が集い始めミッドチルダ全土の魔力が集った。 その為に収束された魔力は魔法陣の面積を大きく越え更に環が出来ており、まるで土星を彷彿としいた。 …そして完成された魔法を前になのははレイジングハートを大きく振りかぶる。 「全力!全開!!スターライト……ブレイカアアアアァァァァ!!!」 渾身の力を込めて放たれたスターライトブレイカーは容易くレザードを飲み込み巨大な直射砲となって天を貫き次元海に到達、更に上昇して二つの月の間を通り過ぎていった。 そして地上では撃ち放たれたスターライトブレイカーの影響により雲が晴れ、夜空や二つの月が垣間見え、 二つの月の間から桜色の光を確認、するとその延長上に黒い物体を発見し、黒い物体は静かに地上へと落ちていった。 一方でなのはは勝利を確信した様子を浮かべるが、体に掛かる負担により、膝を付きレイジングハートを支え棒に肩で息をしていた。 すると其処にグングニルを杖にして近付くレザードの姿があった、どうやらここまで歩いてきた様子である。 そしてなのはを睨みつけるとグングニルを大きく振りかぶり、なのはに向かって突き刺す構えを見せた。 「貴様のような小娘に…我が力が負けるハズがないのだ!!」 そして振り下ろされたグングニルはなのはの腹部に迫り貫く…ハズであった。 だがグングニルはなのはに触れる手前で崩壊した、流石のオリハルコンも威力に耐えきれなかったようである。 この結果に歯噛みし苦虫を噛んだ表情を浮かべる中でなのは凛とした表情でレザードを睨みつけ一言告げた。 「いくら貴方が世界を滅ぼす力を持っていても…私の心を折る事なんて出来ない!」 「なんだと?!」 「心は…魂から生み出されるもの…だから心を支配出来る存在なんて何処にもいないんだから!!」 それはこの体になった事でハッキリ解ったことがあり、力で魂を支配する事が出来ないように 力で心を屈服させる事など出来はしない、心は心で魂は魂とでしか触れ合うことが出来ないと… そんななのはの言葉を聞きレザードはある二つの影と重なる、それはかつて自分と対峙した王女、そして自分が愛した愛しき者レナスである。 自分がこの世界に来る間際に放たれた言葉の意味、恐らくこれが答えなのだろう… だから他者が所有する事が出来ない、たとえ世界を滅ぼす力を持っていても、神の力とは万能では無いのだから… レザードは全てを悟った瞬間、体が青白く光り出しまた少しずつ光の粒子と化していた。 それはレザードが全てを受け入れた意味であり、そして全てが終わりを告げる合図でもあった。 「私の…負けです……」 静かに…だがハッキリとした口調で敗北を宣言すると、レザードの体は加速度的に粒子化していき、その中で振り返るようにして目を瞑る、 …悪くない人生であった、自分の本能に任せたまま、やりたい事を好きなだけ行った、だが…惜しくらむは初恋の存在を手中に収める事が出来なかった事ぐらいか… だがそれでもレザードの心は晴れた気分であった、恐らくそれは心から悟り死を受け入れたからであろう。 レザードは自分の意志が微睡みの中に溶けていきながら広がっていく死の感覚を堪能していると、 体は完全に光の粒子となり静かに音も無く崩れ去り消滅したのであった。 レザードの死を見届けたなのはは、緊張が抜けたのかその場に座り込む、すると体が輝き出し光と共に二つの魂が解放される。 その時である、なのはの周囲から転送用の魔法陣が現れ其処から次々に機動六課のメンバーが姿を現す、その中にはユーノの姿もあった。 「ユーノ…」 「なのは…お疲れ様」 ユーノはなのはに近付き手を差し伸べるが、どうやら体が思うように動かないようで差し伸べられた手を触れるだけで止めるなのは。 するとなのはの状態を察したユーノは膝を付き、なのはと同じ目線に座る中で二人は流浪の双神に目を向けた。 「有り難う流浪の双神…」 「我等は力を貸したに過ぎない、奴を倒したのはなのは、貴方の“不屈の心”よ」 イセリアクイーンは優しい笑みを浮かべながら激励を送ると、続いてガブリエセレスタが言葉を交わす。 今回の戦いによりミッドチルダの地軸はズレたまま、今は崩壊前の予兆として静かであるがすぐさま崩壊が始まるであろうと。 其処で流浪の双神が力を使って地軸だけでも修復するという、流石にあれだけの戦いを行った為、 かなりの力を消費してはいるが地軸を修復するぐらいであれば可能であると告げられた。 「お願い出来ますか?」 「あぁ、任せておけ」 ユーノの言葉に力強く答えると早速流浪の双神は足下に魔法陣を張り右手で触れる、 すると魔法陣から一筋の優しい光が延び地面と接触すると地上全体が光に包まれ、そして暫くすると 光が落ち着き始め一同は辺りを見渡すと全土を覆っていた灰色の雲は晴れ、荒れていた海も落ち着きを取り戻していた。 「では我等は行く、もう…会う事もないだろう」 「…さようなら、我等を従わせた強き心の持ち主達よ……」 流浪の双神は軽く別れの挨拶を交わすとそれぞれ赤と青の光の玉に変わり上空を上っていき暫くして音も無く消えていった。 それを見上げながら本当に全てが終わったのだと実感し始めるなのは達であった。 暫くしてユーノはなのはの左肩に手を回し、続いてフェイトが右肩に手を回して優しく立ち上げると 東の空が徐々に明るくなり始め夜明けが近いことを告げていた。 「なのは、夜明けだよ…」 「うん、とっても綺麗だね…ユーノ」 「これは…この風景はなのはが守った景色なんだよ?」 「うん…ありがとうユーノ、そして―――」 「…なのは?何か言った?」 ユーノの問い掛けに小さく首を振るなのは、そして朝日を見つめ笑みを浮かべていた。 一方でクロノは朝日を眺めながらこれからの事を考えていた。 「…これからが大変だ」 ミッドチルダの再興、管理局の立て直し、魔法に対する対策など問題は山積みであるとクロノは朝日を見つめながら話し、 その言葉にはやては頷き他のメンバーも同じく頷いていた、そしてフェイトはなのはに目を向けながら言葉を口にした。 「頑張ろうね、なのは―――」 だが…なのははフェイトの言葉に一切反応せず、眠りについたかのように瞳を閉じていた… しかし…なのはの表情は安らぎに満ち溢れており、優しい笑みを浮かべたままであった……… 前へ 目次へ 次へ
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余裕 「彼」が立っていたのは森の中。 夜の冷たい風が吹きぬけ、がさがさと葉がこすれあう風景は、これから始まる狂気の殺人ゲームの空気を的確に表現する。 しかしながら、「彼」はその場に似つかわしくないほど、ひどく落ち着いていた。 「…ひとまず、支給品とやらを調べてみるか」 「彼」――セフィロスは、持っていたデイバッグをどんと地面に置くと、その中身を調べ始めた。 目の前で唐突に命を奪われた、金髪の少女と鎧の男。 明らかに異常な光景だったが、それは彼の心を震わせるには至らない。 何故なら、当にセフィロスは殺しまくっていたから。 軍人だから、というわけではない。 確かにソルジャークラス1stという栄光は、彼が斬り伏せた数多の人間の血によって塗り固められたものである。 しかし、この男の「殺した」とは、そういう人が人を殺すこととは違う。 強いて言うなら、道端を歩く虫を殺すのと同じ感覚。 セフィロスにとっての人間は、犬や猫などの動物と同じ。 何故なら、当のセフィロスが人間ではないのだから。 「武器として使えるのは――これか」 『 クロスミラージュ 「機動六課」前線フォワード部隊の一員が用いる、拳銃型インテリジェントデバイス。 通常形態のガンズモード、クロスレンジ用のダガーモード、ロングレンジ用のブレイズモードに変形』 見覚えのある武器だったのは幸いであろう。 これはティアナの使用している二挺拳銃のデバイスだ。 各種レンジに対応したモードが備え付けてあり、あらゆる戦況でそつなく使用することができる。 しかし、それでも尚、セフィロスには腑に落ちないところがあったようだ。 「…よりにもよって銃か…」 ソルジャーは銃を使わない。彼らの超人的な肉体を活かすのは、銃ではないからだ。 普段剣で戦っている彼にとって、銃はあまり使い慣れたものではない。どうしても不便な印象が残る。 ダガーモードがあるだけましかもしれないが、それも正宗に比べれば絶望的なリーチ差だ。 せめてレヴァンティンならばよかったのだが。 そんな思考が、セフィロスの脳裏をよぎった。 愚痴っていても始まらないので、彼は再び荷物を漁り始める。 新たに見つけたのは、1枚の紙切れ。 一般に言うトレーディングカードゲームだ。聖職者のような服装をした、中年の女性が描かれている。 『 治療の神 ディアン・ケト デュエルディスクにセットすることで発動可能。自分のライフポイントを1000回復する』 ライフポイントを回復する、ということは、要するに治療のためのものなのだろう。 セフィロスはそう解釈することにした。 「それにしても…何故そのデュエルディスクとやらも付属していないんだ…」 そしてまた愚痴をこぼし、ため息をつく。 それらしいものが見られない以上、どうやら今のところ、この治療用具は宝の持ち腐れらしい。 まったくもって装備に不満が多すぎる。 しかし、これが基本なのだろう。でなければゲームとしては面白くない。 少なくとも、傍観している側からは。 ならば、欲しいものは相手から奪い取れ、ということか。 「…クロスミラージュ・セットアップ」 セフィロスはそう呟き、待機状態のクロスミラージュをアクティブにする。 すぐさま、ティアナが愛用していたハンドガンの片割れが姿を現した。 「今は俺がお前を使うことになっている」 『Yes,Sir.』 あまりにあっさりとした返答だ。 普通の人格型デバイスなら、持ち主以外が使用する時には何らかのリアクションを示すだろう。 であれば、何らかの改造が施されているということか。 メモリーを消去するなり、あるいは、誰が所有者であろうと命令を聞くようにするなり。 「技は何が使える?」 だとすると、機能の方にも何らかの変化があるのかもしれない。 そう判断し、ひとまずセフィロスは問いただす。 『クロスファイアシュート、ファントムブレイザー、…』 読み上げられた名称は、全てティアナが用いていた技のもの。 どうやら彼女個人のテクニックである幻術魔法以外は、一通り使用できるらしい。 「十分だ」 そう独りごちると、セフィロスはデイバッグを持ち上げた。 そのまま周囲を見回し、適当な木の洞を見つける。 そこそこに大きな木の根元にぽっかりと空いたそこは、人1人が入るには申し分ない大きさだ。 セフィロスはそこにデイバッグを投げ入れると、自身もその中に入り、どっかと腰を落ち着かせた。 あぐらをかいて座ること数分。参加者の名前が載った名簿を読むことすらしない。 『どうされるつもりですか、サー?』 クロスミラージュが問いかけた。 常人を遥かに凌駕した、侵略者ジェノバの力をその身に宿す魔人。 そのセフィロスは、今後この狂気渦巻く戦場でいかに立ち回るつもりなのか、と。 「特に何も」 返ってきた返事は、あまりに予想外なものだった。 『What?』 無口なはずのクロスミラージュが、たまらず聞き返す。 「俺は特に何もしない。じたばたするよりは、周りが殺し合ってくれた方が楽に生き残れるだろう」 セフィロスはそう答えた。 彼は知っている。 こういう極限状態ならば、必ず何人かは、制限時間切れの死亡を避けるために進んで殺人者となることを。 自分が無理に動く必要はまるでない。手間がかかるだけだ。 普通は思いつかない戦術。それをすんなりと思いつけるほどに、セフィロスは落ち着いていた。 人が死んだ? 目の前で殺された? そんなこと、元より知ったことではないのだから。 『もしも、敵に見つかった時は?』 「さすがにその時は反撃するまでだ」 逆に、自分が誰かを殺すことにも心は痛まない。 そもそも彼にとって殺人は願望だ。自分の住む星の人間を皆殺しにし、支配することがジェノバの――そして、セフィロスの悲願。 『仮に、お知り合いが攻撃を仕掛けてきた時は?』 クロスミラージュは尚も問いかける。 脳裏に浮かぶのは、機動六課で共に戦った者達。あの会場にも見られた、孤独な自分を受け入れてくれた人達。 ジェノバとしての使命を受け入れて以来できた、初めての仲間。 誰よりも、全てのきっかけとなった、あの短い茶髪の女。 「…どうにでもなるさ」 しかし、非情な声で、セフィロスは答えた。 【一日目 AM0 13】 【現在地:H-1 森林】 【セフィロス@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使】 [状態] 健康 [装備] クロスミラージュ@魔法少女リリカルなのはStrikerS [道具] 支給品一式・魔法カード「治療の神 ディアン・ケト」@リリカル遊戯王GX [思考・状況] 基本 事態を静観し、潰し合うのを待つ 1 とりあえず禁止エリアだけを警戒すればいいか 2 向かってくるのならば、六課の連中だろうと問答無用で殺す 3 一応食料は探しておこう [備考] ※能力・思考基準はゆりかご攻防戦直前です ※ヴァリアブルバレットは、コツが分からないので使用不可です 002 本編投下順 004
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準決勝戦:試合場【豪華客船】結果 このページではダンゲロスSS3準決勝戦、豪華客船の試合結果を公開します。 投票結果 試合SS キャラクター名 得票数 準決勝戦【豪華客船】SSその1 “ケルベロス”ミツコ 5票 準決勝戦【豪華客船】SSその2 赤羽ハル 25票 コメント 「それでは豪華客船のゴージャスマッチ・投票状況について、大会実況の私、佐倉光素と」 「解説の埴井きららが紹介するよ!」 「この試合も皆様から大変なご好評を頂き」 「有効投票数30票!」 「なんと第二回戦以降の全試合が投票数30票超え達成です!」 「観客のみんなありがとー!」 「そんな投票いっぱい注目度満点の豪華客船」 「ミツコさんの追撃をかわして」 「赤羽選手がランアンドガンの速攻逃げ切りを決めました!」 「戦術の違う試合で、どっちも楽しかったね!」 「ということで準決勝戦、豪華客船の試合を制したのはー」 「「頂きに至る契約者!赤羽ハル選手です!!!」」 「「おめでとうございまーす!!!」」 “ケルベロス”ミツコ 負債を換金するわけにはいかないというロジックはとても美しかった この展開は予想出来なかった。すげーなぁ!素直にそう思います。 あれ?最終回、最終回は?! 赤羽ハル スタイリッシュ悪! SS1はじわじわと真綿で首を絞めるように近づく決着、SS2は最後まで息もつかせぬ緊迫感。実にいい勝負でした。甲乙つけがたいですが、戦闘描写でぐいと惹きつけられたその2に投票します。 うおー暑い!と唸るほどの派手な戦いと作戦勝負。とても燃えました!そういえば何気に1にも2にも黒田さんの名前が出てるのが 息もつかせぬ攻防と「豪華客船を換金できる」という大きなアドバンテージの存在を前提とした互いのダイナミックな策略が素晴らしかったです。智広さんも良かったね……! 3つの人格に異なる戦闘スタイルという執筆者泣かせのキャラクターもこの人の筆力にかかればタイマンで濃厚なバトルを演出する格好の対戦相手でしか無かった。エクセレントなSSでした。 赤羽くんのスタイリッシュ換金アクションが良かったのと、ちひろさんを絡めた両者の性格・スタイルの差異が非常に魅力的だった。相手の主人公性を出しぬきつつ首尾よく自らの願いをかなえようとする赤羽くんは流石 その1は合間に挟まる小ネタ等で飽きさせなくさせてはいるのだが、戦闘における理論最善手ではある兵糧戦はどうしても見せ場が少なくセコく思えてしまう 美しい。 納得出来ない部分も多くあります。小さなビル程はあるはずの豪華客船を断ち切れる実力なら、ミツコもその調子で断ち切れるのでは、とか。赤羽は選手として参加しているのに、大会側がわざわざ契約するメリットがよくわからない、とか。でも読んでいてテンションが上ったのはこちらです。 その1:約5カ月の超長期戦を繰り広げたり負債を換金してしまう設定等なかなかおもしろかった。しかしこいつらトイレとか睡眠は普通にしてたんだろうか。 その2:両者リングアウト勝ちを狙った上で直接ガチバトルを行うシチュエーションがなかなか好み 甲乙付けがたい純粋な戦い。 片や究極の持久戦、片や至高の破壊戦。 悩みましたが、やはり船は壊れてナンボだろうという偏った好みでこちらに。
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高町なのはとフェイト・ハラオウンは前回の戦闘から後、ずっと同じ悩みを抱えていた。 新調と共に性能が向上した相棒達を手に、意気揚々と守護騎士達へと挑んでいった、前回の戦い。 今度こそ彼女達を止められると思っていた。今度こそ話し合えると思っていた。 だが、その先に待っていたのは勝利ではなく、手痛い敗北。 フェイトは烈火の騎士の策謀により敗れ、クロノは乱入者の手により撃墜された。 完敗だった。 これで二度目の敗北、力が無ければ守護騎士達を止める事はもちろん話し合う事すら出来ない。 更なる力を、二人は欲していたのだ。 フェイトは病室で安静を強いられている間ずっと、なのはは平穏な日常の中でずっと、考え続けていた。 どうすれば強くなれるのか。守護騎士達を、止められるだけの力はどうすれば手に入るのか。 フェイトが退院を果たしたその日、二人はこの先どうすれば良いのかを話し合う為に、高町家へと集まった。 そして、前回の戦闘が記録された映像データを見直し、自身達の至らぬ点と敗因を調べていった。 勿論その映像の中には、クロノが撃墜される瞬間やフェイト自身が撃墜される瞬間が鮮明に記録されており、それ等のシーンを見る度に二人は陰鬱な表情を浮かべていた。 そうして見終えた映像データ。 映像の終了と共に、二人はどちらともなく溜め息を吐いていた。 至らぬ点は山のように存在した。だが、それらの点が直接敗因へと繋がっている訳では決して無い。 フェイトも撃墜されたとはいえ、ヴァッシュの活躍によりその穴は完全以上にフォローされた。 一度見直してみても自分達は優勢であったと、なのはとフェイトは感じていた。 敗因はただ一つ、終盤にて唐突に現れた一人の男。 易々とクロノを撃墜し、ヴァッシュを打ち倒し、十数人の魔導師が形成した強固な結界魔法を一撃で切り裂き、あの完全包囲の状況からの逃亡を容易く果たした男。 それは、二人の目から見ても異質な存在であった。 この男が居なければ恐らく、自分達は守護騎士達の目論見を阻止する事が出来ていた筈。 殆どチェックメイトとも云えた戦況が、一人の男の手により惨敗へと転がり落ちていったのだ。 改めて客観的に見てみると分かる。それはまさに悪夢のような出来事であった。 得なければならないのは、更なる『力』。 守護騎士も、あの謎の男だって止められる『力』。 高町なのはとフェイト・ハラオウンは苦渋の敗北から自身の弱さを知り、心の底から『力』を欲した。 そして、彼女達が考え付いた、更なる『力』を手に入れるその方法とは――― □ ■ □ ■ この日の管理局本局はある種の緊張感が漂っていた。 いや、緊張に身体を固まらせている者が多数いると言った方が良いか。 そこら辺を歩く隊員の半数程が、そわそわと落ち着かない様子を見せていた。 それもその筈。本日の管理局本局にはある有名士官が訪来する予定なのだ。 その有名士官とは、管理局に入隊した者ならば殆どが知っている人物であった。 ある者は尊敬をある者は畏怖を……それぞれがそれぞれの想いでその士官を出迎えようとしていた。 「だぁ~かぁ~らぁ~、僕は嫌なの! 何が楽しくてそんな危ない事をしなくちゃいけないのさ!」 そんな緊迫感が充満する管理局の中、その男は普段通りの恰好心持ちで歩いていた。 男の姿はド派手の一言。天へと伸る金髪とその痩躯を包む赤コートが、見る者全ての眼に突き刺さる。 何だあの恰好は? と、道行く人々の殆どが困惑を浮かべる。 お洒落な姿の若者達が闊歩する市街地ならまだしも、殆ど全員がお決まりの軍服を身に纏っている管理局ではその姿は取り分け目立っていた。 道行く人々の視線を集めつつ、男は後ろに数人の少年少女を引き連れながら白色の廊下を進んでいく。 「良いじゃないですか、ヴァッシュさん! 減るものでもないし」 「減る減らないの問題じゃないの。怖い、痛そう、やりたくない。てか、君達だって充分過ぎる位に力を持ってるだろ? これ以上つよくなってどーすんのさ」 「……私達はまだ弱いよ。弱いから強くなりたいんだ。強くなくちゃ、シグナム達は止められない」 「フェイトちゃんの言う通りです。このままじゃ……ダメなんですよ。もっと、もっと、もっと強くならなくちゃ。そうじゃなきゃ、ヴィータちゃんも、誰も、止められないんです」 男―――ヴァッシュはなのはとフェイトの言葉に思わず押し黙ってしまう。 ただ単純に、意志も理由もなく力を求めるだけだったら、ヴァッシュが彼女達の要望に応える事はなかっただろう。 しかし、彼女達は違う。 他を護る為に、力を欲している。敵である筈の守護騎士達を止めたくて、その為に、力を欲している。 それはまるで、人々を護る為に銃をとったある男のように。 それをヴァッシュも気付いている。気付いているからこそ、口では反対しながらも、本気で拒否をしようとしない。 半ば引きずられるように、殆ど無理矢理にではあるが、何やかんやでなのは達の言う通りに管理局本部まで来てしまっている。 「フェイトがこれだけ頼んでんだ、良いだろヴァッシュ! 見舞いにだって一度も来なかったんだし」 「うっ……い、いや、そこをつかれるとキツい所だけどね、アルフ」 「良いじゃないか。フェイトもなのはもちゃんとした考えが在っての事だ。修行を付けてやれば良い」 「ク、クロノまで……。で、でも、そう都合よく訓練室があいてるとは限らないじゃん。僕の得物を他の人に見せる訳にはいかないし」 「その辺は心配しなくても良い。執務管権限だ、数日くらいなら貸切出入り不可にだって出来る」 「だってよ、ほら何も問題無し。さ、フェイト達に修行付けてあげてよ」 「あ~、あ~! それって職権乱用じゃないか!」 「僕は使える権利を使っているだけだ。何も悪い事はしていない」 「クロノ……ユーノは僕の味方だよね」 「は、はぁ……確かに可哀想だとは思いますけど……」 四人の少年少女に一人の使い魔、更にそこに加わるはド派手な金髪頭……当然の事ながら周囲から浮きまくっているその集団。 道を歩けば誰しもがその集団へ視線を向ける。人々の注目を一心に集めながら、集団はギャアギャアと騒がしく進んでいく。 ―――そんな彼等を遠巻きに眺めている老女が居た。 「あら、あの子達は……」 好奇の表情で集団を見詰める人々の中に、その老女は紛れていた。 団子結びにされた白髪に、数々の皺が刻まれた顔。 その顔には柔和な微笑みが張り付いていて優しげな印象を他者に与える。 動きはゆったりと落ち着きに包まれていて、だがその立ち居振る舞いには無駄がない。 「そう、彼女達がPT事件を解決した」 老女は赤コートの男の後ろを歩く二人の少女を見詰めながら、一人言葉を零す。 その瞳はまるで子供を見守る母親のように暖かく、それでいて綺麗な宝を目の前にしたかのような喜びに満ちていた。 老女は左腕に巻かれた腕時計で時間を確認。まだ予定の時間まで暇がある事を確かめ、行き先を変更する。 その顔に浮かんだ悪戯っ子のような微笑みに、気が付く者はいなかった。 □ ■ □ ■ 「じゃ、僕達は此処で観戦させて貰ってるよ。二人とも頑張ってくれ」 「頑張ってね、フェイト!」 「なのはも頑張って。……それと怪我しないよう気をつけて下さいね、ヴァッシュさん」 数分後の管理局本部・訓練室。 備え付けのスピーカーから聞こえた観戦者達の声は、言うだけ言って直ぐに切れてしまう。 どうしてこうなった、と心中で呟きながらヴァッシュは溜め息一つ。 うつむき気味だった顔を上げて、前方に立つ二人の魔法少女へと視線を向ける。 それぞれのデバイスを起動させ、バリアジャケットも形成し終えている二人。表情もマジ、その様子は完全に臨戦態勢といった様子であった。 そんな二人を見て、再び溜め息一つ。そしてヴァッシュは意を決した。 大きく息を吸い込み腹の底に力を溜め、二人をしっかりと見詰める。 「えー、それでは今から訓練を始めさせて頂たいと思います。ちなみに、僕は誰かに物を教えるなんてしたことがないし、魔法も使えない。 だから僕は、僕の経験に基づいた『強くなる方法』しか教える事が出来ないし、それで本当に君達が強くなれるかは分からない。 それでも良いっていうんなら、僕は君達の訓練に付き合おうと思う。以前、僕の魔法訓練にも付き合ってくれた事だしね」 「「はい、よろしくお願いします!」」 「ハ、ハハ、本当にやる気満々だね……」 元気一杯の返答に引きつった笑みを浮かべながら、ヴァッシュは自身の拳銃を取り出した。 そのトリガー部に人差し指を引っ掛け、器用にクルクルと回転させる。 「そうだね、先ずは君達の実力が知りたい。初めは、軽く模擬戦といこうか」 そのまま拳銃を弄ながら、ヴァッシュは口を開いた。 引きつった笑みは何時しかなりを潜め、及び腰だった身体も今や自信に満ち溢れている。 「ルールは簡単。協力してでも良いから、僕に一度でも攻撃を命中させられれば、君達の勝ち。僕は……そうだな、君達に向けて六回引き金を引ければ勝ちって事でどうだい?」 そう言うヴァッシュの表情に普段のおちゃらけた雰囲気は欠片も存在しなかった。 真っ直ぐに真剣な瞳で二人の魔導師を射竦めながら、拳銃から六発の弾丸を抜き、ホルスターへと戻す。 その視線を受けた魔導師達も、ゴクリと唾を飲み込み、それぞれの相棒を両手で握る。 彼女達の見た事のない彼が、そこに立っていた。 名前一つで砂の惑星を震撼させるガンマン・『人間台風(ヒューマノイドタイフーン)』がそこには立っていた。 「OKかな? それじゃあ、模擬戦開始だ」 人間台風の口から開戦の合図が飛び出た瞬間、なのはとフェイトの二人は行動を開始していた。 なのはは、両の足首に備わった桜色の翼を羽ばたかせ上空へ。 フェイトは、地面を蹴り抜くと同時に高速移動魔法を使用してヴァッシュの背後へ。 それぞれの攻撃を命中させる為に行動を開始し―――だがそれよりも早く、ヴァッシュの右手が動いていた。 「1、2」 なのはがアクセルフィンを稼働させるよりも早く、フェイトがソニックムーヴを発動させるよりも早く、ヴァッシュは拳銃を抜いていた。 そして、銃口をピタリと二人へ向け、引き金を二度引く。 「これで、二回アウトだ」 笑顔と共に紡がれた言葉は、二人の魔導師を驚愕させるに充分過ぎた。 一歩とすら、動く事が出来なかった。いや、動くどころの話ではない。知覚する事だって出来なかった。 動き出そうと身体に力を込めたその時には、白銀のリボルバーが此方を向いていたのだ。 高速戦闘に慣れた魔導師ですら知覚不能の早撃ち。それがヴァッシュの持つ、単純明快ながら最強の必殺技。 勿論、なのは達もその早撃ちを警戒していた。 警戒していたからこそ、初手で先ず距離を離そうと、死角へと回り込もうと、思考していたのだが―――その早撃ちは二人の予測を遥かに上回っていた。 (これが……ヴァッシュの、本気。シグナムを倒した、技) 雷光の魔導師は突き付けられた銃口を前に、思わず感嘆の感情を沸き立てていた。 シグナムが倒される映像を通して、この早撃ちを何度も見て来た。 自分が撃墜された後、何が起きたのか。 あのシグナムを、たった一人で、魔法すら使わずに倒したヴァッシュの力とはどういった物なのか。 入院中のベッドの上、バルディッシュにダウンロードした映像で、何度も何度も見て来た。 コレがヴァッシュの力。守護騎士すら圧倒する、魔法とはまた別域の力。 スゴい、とフェイトは素直に感じていた。 (……こんなにスゴかったんだ、ヴァッシュさん……) 横に立つ高町なのはもまた、フェイト同様の驚嘆と、そしてその驚嘆以上の悲しみを感じていた。 以前の世界でヴァッシュがどんな日常を送っていたのか、なのはは彼自身の口から聞いた事がある。 それは銃と弾丸が物を言う世界。土地も、空気も、人々の心すらも渇き切った荒涼の世界。 一欠片のパンを賭けて、コップ一杯の水を賭けて、殺し合いが起きるという、想像すら難しい荒れた世界。 その世界で生き抜く為にはこれ程までの力が必要なのか。 これ程までの力が必要とされる世界でヴァッシュは生き抜いていたのか。 その世界は、こんなにも優しいヴァッシュに銃を持たせ、これ程までの力を求めさせるような世界なのか。 ヴァッシュに対して悲しみが、ヴァッシュが居た世界に対して怒りが、沸いた。 「さ、残りは四回だ」 白銀のリボルバーを突き付けたまま、飄々とした笑顔を浮かべるヴァッシュ。 対する二人も、それぞれの得物を力強く握り締め、薄い笑みを浮かべる。 「いくよ、ヴァッシュ」 「いきますよ、ヴァッシュさん」 少女達から告げられた宣戦布告に、ヴァッシュは笑みを変えずに答えを返す。 「どうぞ、御自由にってね」 その言葉と同時になのはは空へと羽ばたき、フェイトはヴァッシュの背後へと移動する。 なのはは飛行魔法で間合いは空け、フェイトは高速移動魔法間で合いを詰める。砲撃戦と近接戦、二人はそれぞれの得意とする間合いへとヴァッシュを引き込んだ。 「ハアッ!」 ヴァッシュに対する初手は、高速移動の勢いそのままに振るわれた袈裟斬りの一閃。 赤コートの右肩口から左脇腹へと、漆黒の戦斧を斜めに振り落とす。 だがその攻撃は、地面へと張り付くように体勢を下げたヴァッシュには命中せず、そのトンガらがった頭髪を掠めるに終わる。 「3」 直後、フェイトへと突き付けられる銃口。 振り向きもせずに構えられたというのに、その銃口はフェイトへとピタリと矛先を向けていた。 その反応の早さ、狙い付けの早さと正確さに、フェイトの表情が歪んだ。 再度、振るわれるはバルディッシュ。 相対する男との間にあるポテンシャルの差は、十秒にも満たない時間で理解させられた。 しかしながら、勝利への条件はフェイトの方が遥かに有利なのだ、引く訳にはいかなかった。 左足を一歩踏み出し、更に距離を詰めながら重心を低く、前へ。 左足へと力を限界まで溜め込み、一気に開放。手首を返して、振り下ろされていたバルディッシュを逆袈裟に斬り上げる。 シフトウェートを活用しての一撃。その速度は先の袈裟切りよりも更に早く、だがそれでもガンマンは容易く反応してみせる。 平型のバレルを楯のように掲げて、バルディッシュを受け止めた。キィン、という甲高い金属音が訓練室に響き渡る。 (銃身で―――!?) その特異な造形からしてバレル……いや、拳銃自体が相当に頑丈な造りになっているのだろう。 だが、そもそも拳銃のバレルは敵の攻撃を防ぐ為に存在する訳ではない。防いだ所で刃が滑ってしまい、鍔迫り合いに持ち込む事など到底不可能な筈だ。 その筈なのだが、この男はその不可能な筈の事象を、前を向いたまま、易々とやってのけた。 先のシグナムとの戦闘から引き続き、フェイトを相手にも、銃身で近接武器を受け止めるという超絶技巧をやってのけた。 交差したリボルバー銃とバルディッシュを挟んでフェイトとヴァッシュは均衡を見せる。 フェイトが放った渾身の一撃は、ヴァッシュの顔に張り付く余裕の笑みを崩す事すら、出来なかった。 「っとお!」 が、次の瞬間、その笑顔は脆くも崩れ去る事となる。 その笑顔を崩したのは、横合いから飛来した桜色の魔弾。 淡く発光する野球ボール大の球体が、空気を切り裂きながら、数瞬前までヴァッシュの顔面が在った空間を通過していったのだ。 「なかなか容赦のない攻撃するねって、おおおおおおおお!?」 すんでのところで弾丸を回避したヴァッシュは、狙撃主が居るであろう方向へ顔を向け、次の瞬間には絶叫を迸らせていた。 視界に映るは、容赦なく迫る計六発もの魔弾―――アクセルシューター。 上下左右様々な角度から包み込むように時間差で急迫するそれ等を、ヴァッシュは一つ一つ身体を捩って捻って、何とか回避。 「フェイトちゃん!」 全方位から攻撃すらも避けられた事に驚愕しながらも、なのはは攻撃の手を止めようとしない。 意識を集中させ、魔弾を操作し続けながら、フェイトへと声を上げた。 ツーカーで通じ合う二人だからか、ただそれだけの言葉でフェイトもなのはの考えを理解する。 誘導弾の回避に意識を集中させているヴァッシュの、その頭上へと移動するフェイト。 バルディッシュのカートリッジが一回二回とリロードされ、掲げられたフェイトの左手へと金色の魔力が集結していく。 「プラズマ……スマッシャー!!」 放たれるは、電光を纏った直射型の砲撃魔法。 ヴァッシュがその砲撃に気付いたのは発射される一瞬前。しかし、回避をしようにも周囲は誘導弾で囲まれており、迂闊に動く事ができない。 そうこうしている内に発射される砲撃。 閃光と轟音を撒き散らしながら直線する砲撃魔法が、誘導弾の回避に手間取っているヴァッシュへと、唸りを上げて近付いていく。 攻撃の命中を、勝利を、確信するフェイト。 そして、ヴァッシュへと砲撃が直撃する寸前―――ドガンという、耳をつんざく轟音が空気を震撼させ、ヴァッシュの周りを包囲していた魔弾が唐突に消え去った。 同時にプラズマスマッシャーがヴァッシュの立つ地面へと直撃。爆音と爆煙で周辺の全てを覆い隠す。 (避け、られた……!?) 砲撃の先から命中の手応えは感じられない。またもやだ。またもや、寸前で回避された。 完全に逃げ道が絶たれた絶望的な状況から、どんな奇術を用いてか、ヴァッシュは再び回避に至る。 まるで悪夢のようなしぶとさだ。 「まだまだ! エクセリオン、バスター!」 易々と裏切られた確信にフェイトが動きを止める最中、なのはは攻勢を緩めようとしなかった。 濛々と立ち込める砂埃の中心へと、全力の砲撃を叩き込む。 なのはには確信があった。アクセルシューターが消滅させられたその時には、ヴァッシュが必ずフェイトの砲撃を回避するという確信が。 だからこそ、攻撃の手を止めずに砲撃を撃ち込む。 攻撃範囲を優先させた砲撃で、点ではなく面でヴァッシュを追い立てる。 「4、」 桜色の極光が砂埃そのものを吹き飛ばす寸前、砂埃から横っ飛びに飛び出す人影があった。 その人影は地面と平行に身体を投げ出しながらも、空中に茫然と浮かぶフェイトへと銃口を合わせており、一回引き金を引く。 「5!」 そして、右肩から地面へと落下しながら、銃口を移動。 砲撃を撃ち放っているなのはへとその矛先を向け、再度引き金を引いた。 「これで5回アウト―――あと1回でゲームオーバーだ」 前転の要領で横っ飛びの勢いを殺したヴァッシュは、地面へと右膝を付けた体勢で座り込み、チェックメイトを宣言する。 全方位から迫るアクセルシューターを消滅させたのは、ヴァッシュが行った超速の銃撃。 上空で砲撃の体勢を取るフェイトを視認したその瞬間、ヴァッシュはクイックローダーを使用し、閃光の如く速度で弾丸を補充。 上下左右で飛び回る六発の魔弾を瞬く間に撃ち落として、プラズマスマッシャーを回避。 そうして、続いて発射されたエクセリオンバスターを横っ飛びで避けながら、二人を狙撃。 数秒の戦闘でヴァッシュが見せ付けたのは、人間離れした反射神経と動体神経、銃技。 クロスレンジでの攻撃も、砲撃魔法も、誘導型射撃魔法も、コンビネーションアタックすらも、当たらない。 全てを見切り、際どいながらも全てを避けきる。 これぞまさにザ・スタンピードの面目躍如といった所か。 「……なのは、一気に攻め込もう」 「うん、全力全開でいくよ」 砂の惑星で発生する争い事に首を突っ込んでは場を掻き回し、逃げ回り、何だかんだで終結へと収めていく。 そんな日常を送り続け、それでも尚生き延びてきたヴァッシュだからこその、驚異的しぶとさ。 そのしぶとさを前にして、魔導師達も最後の賭けへと打って出る。 このままでは敗北は必至。せめて、せめて一矢を報いたい。 そう思う二人は、ほぼ同時に動き出す。 『Sonic move』 『Accel Fin』 互いに挑むは近接戦。 フェイトはクロスレンジからの直接攻撃を、なのははクロスレンジからの零距離砲撃を、唯一の勝機と考える。 ヴァッシュの銃技と反射神経の前に、遠距離、中距離からの射撃砲撃魔法は余りに部が悪い。 ならばと開き直っての近接戦闘。 その場から消え失せたと錯覚する程の加速を持ってフェイトがヴァッシュへと肉迫し、バルディッシュをその脳天へと振り下ろす。 その一撃は身体を捻るだけで回避されるも、回避により生まれた隙を突いて、ワンテンポ遅れて飛来したなのはがレイジングハートを突き付ける。 既に発射シークエンスは整っている。 あとはなのはが一念するだけで桜色の奔流が撃ち出されるのだが―――それよりも早くヴァッシュが動いた。 右手の拳銃をレイジングハートへと横殴りに叩き付け、射線を無理矢理にズラしつつ、銃口をなのはへと定める。 「Jack Pot―――「まだ!」 今回、勝利への確信を裏切られたのはヴァッシュの方であった。 決め台詞と共に引き金を引き絞ろうとしたその時、リボルバーに大きな衝撃が走り、銃口があらぬ方向へとそっぽを向く。 逆に突き付けられるは、赤色の宝玉と金色の装具。 なのははヴァッシュの行動に反応し、対応をしてみせたのだ。 唐突に発生したレイジングハートへの横ベクトルに、体勢を崩し欠けるなのはであったが、両脚に力を込め何とか持ち直す。 続いて腰を軸に身体を回転させ、レイジングハートの穂先でヴァッシュのリボルバーを弾き、逆に砲口を突き付け返した。 この反撃は予想していなかったのか、ヴァッシュの顔に驚きの感情が浮かぶ―――が、直ぐさま拳銃を操り、真横から砲口を打ち据える。 三度ズレる射線。 今度の一撃にはなのはも即座の対応ができない。何とか体勢を直そうとするも、遅過ぎる。 そうこうしている内に引き金は引かれてしまい、 「6。僕の勝ちだね」 魔法少女達の敗北が決定された。 口惜しげに俯くなのはとフェイト。そんな二人へと交互に視線を飛ばしながら、ヴァッシュは口を開く。 「まぁまぁ、そう落ち込まない。なかなかどうしてやるもんだよ。何回かヒヤリとするとこもあったし」 拳銃を中折りし、リボルバーへと弾丸を補充しながらヴァッシュは飄々とした笑みと共に語っていく。 「それに言ったでしょ、この模擬戦はまだ初まり。本番はまだまだこれからだよ」 この模擬戦を通してヴァッシュは二人の実力を、そして将来開花するであろう才覚を知った。 ヴァッシュはただのガンマン。人の指導など殆どした事がない。 だから単純に、考えた。この才覚を伸ばしてやれば良いんだと、考えた。 「さあ、特訓開始だ!」 ホルスターへと戻される白銀のリボルバー。 ヴァッシュは朗らかな笑顔と共に高らかな宣告を発した。 高らかに声を上げるヴァッシュを見詰めながら、フェイトは思う。 この圧倒的な力に僅かでも良いから近付きたいと、フェイトは思う。 守護騎士達を止める為、アンノウンと称される謎の男を止める為―――フェイトは力を欲した。 今回の闇の書に関する事件、自分は管理局の魔導師として戦いに挑んでいた。 最初は親友を助けたい一心で、今は世界を守る為、そしてこんな自分に暖かい世界を教えてくれた皆の為、血塗られた力で戦う事を決意した。 でも、その先に待ち受けていたものは二度の敗北。 一度目の戦闘はデバイスの性能差が如実に出たと言えるかもしれない。カートリッジという未知の武装に追随する事が出来なかった。 ただ二度目の戦闘は完全に自身の油断が招いた結果だ。 二対一という有利な状況、ヴァッシュの助けもありあのシグナムを戦闘解除寸前にまで追い詰めたのだ。 なのに、だというのに、一瞬の隙を突かれ逆転された。 悔やんでも悔やみきれない、重く大きな罪悪感がフェイトの心を縛り付けていた。 だから、力を手に入れようと思った。 少しでもヴァッシュの手助けが出来るよう、力を手に入れようと思った。 守護騎士すら撃墜するその力に、少しでも近付きたいと思った。 フェイトは、思う。 強くなってみせると―――フェイトは思った。 高らかに声を上げるヴァッシュを見詰めながら、なのはは思う。 この圧倒的な力に僅かでも良いから近付きたいと、なのはは思う。 守護騎士達を止める為、アンノウンと称される謎の男を止める為、そして何よりヴァッシュの力になる為―――なのはは力を欲した。 ヴァッシュは全てを背負おうとする。 他人から力を借りようともせず、悩みを打ち明けようともせず、ただ一人全てを背負い込んで苦悩する。 アンノウンとヴァッシュの間に何らかの因縁が存在する事は、なのはも気付いていた。 アンノウンと遭遇したその夜から、ヴァッシュが険しい顔を浮かべるようになった事も、なのはは気付いていた。 問い掛ける事は出来なかった。 励ます事も出来なかった。 普段見せる明るい表情とはまるで違う、寒気すら覚える程に張り詰めたヴァッシュの表情に、言葉が見つからなかったのだ。 だがら、力を手に入れようと思った。 少しでもヴァッシュの手助けが出来るよう、力を手に入れようと思った。 守護騎士すら撃墜するその力に、少しでも近付きたいと思った。 なのはは、思う。 強くなってみせると―――なのはは思った。 ―――彼女達が最強へと至る為の長く険しい道。 ―――その道の終点に辿り着くまで、彼女達は数多の苦難を、苦境を、死線を潜り抜けていく事となる。 ―――だが、これが、この模擬戦こそが、第一歩目であった。 ―――彼女達が最強へと至るその道の、第一歩目であったのだ。 前へ 目次へ 次へ
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貴重な貴重なサービスシーン・なのはロワ出張編 ◆Vj6e1anjAc 空気が白い。 無色無臭であるはずの大気が、色と匂いを伴っている。 視界を遮るのは不透明な白。 鼻腔をくすぐるのは硫黄の臭気。 すなわちそこに漂うものが、本来大気中にあるはずのない異物であるということ。 そして白くて硫黄の匂いに混じっているのであれば、それすなわち温泉の湯気と見て間違いなかった。 『それで、これからどうされますか?』 「もちろん、ルーテシアと明日香を止めに行く。それが当面の目標だよ」 湯煙の中で響くのは人の声。 少年とも少女とも判然としない、高い人間の声だった。 ちゃぷ、ちゃぷ、と。 男性風の機械音声と会話する声の傍らで、温泉の水音が静かに鳴る。 見ればそこにあるものは、湯船に浸かる1つの人影。 更に注意して見てみれば、その有り様が見て取れた。 不透明な水面から覗くのは、すべすべとした華奢な肩。 線の細い印象を与える白い肌は、まるで新雪に覆われた枝のようだ。 水滴を湛えた鎖骨の溝には、鮮やかな色の長髪がへばりついている。 官能的な首筋をなぞり、肩を伝って水面に浮かぶのは、艶やかに光るハニーブラウン。 さながら本物の蜂蜜のような、扇情的な煌きがそこにはあった。 滑らかな髪に、しなやかな肌。凛と鈴のように響く声。 湯船にその身を預けるのは、果たしていかほどの上玉か。 絶世の美女? 傾国の美女? はたまた下界に舞い降りた女神だろうか? 「とはいえ僕1人では、万が一交戦状態になった場合、恐らく明日香には太刀打ちできない。反撃の手段がないからね」 嗚呼、されど現実とは冷酷にして無情。 確かにその肌は美しい。 確かにその髪は美しい。 確かにその声も美しい。 そして湯気の向こうのその顔も、下手な女性よりもよほど美しい。 されど、ここは男湯だ。 男湯に女性は入ってこない。 「だからその前に、できるだけ多くの仲間を集めないと」 無限書庫司書長、ユーノ・スクライア15歳。 いくら肌が綺麗だろうが、いくら身体が細かろうが、いくら髪の毛が長かろうが、いくら声変わり前のような声をしていようが、いくら女顔をしていようが、残念極まりないことに、彼はれっきとした男性なのであった。 よくよく確認してみれば、その胸板はとりわけがっしりしたものではなかったものの、到底女の乳房と呼べるような代物でもなかった。 世界はこんなはずじゃなかったことばかりである。 「いい具合に疲れも取れてきたし、あとは魔力の回復を待って、それから市街地の方へに向かおう」 行き先に指定した市街地は、2人が消えていった方向だ。 傍の床に置いた三角形のデバイス――バルディッシュ・アサルトへと告げる。 彼がこの非常時に、暢気にも風呂に入っていたのには、そういう理由があった。 兵は拙速を尊ぶ。 ただし、腹が減っては戦はできない。 この場合減っているのは腹ではなくスタミナだったが、どちらにせよ万全な状態には程遠い。 間違いなく強敵であろう明日香と向き合うには、どう考えても十分とは言えなかった。 故に魔力と体力が回復するまで、この温泉施設で休息を取ることにしたのだ。 湯の成分は傷を癒すのにも適していたし、身体中の泥汚れを落とせたのも、都合がよかった。 『しかし相手は曲がりなりにも、あのリインフォースを模した存在です。頭数を増やしただけで、そう簡単に倒せるでしょうか』 そう告げるバルディッシュの声のトーンは、心なしか低く感じられる。 ユーノにとっては6年前。バルディッシュにとっては10年前。 思い返すその姿は、かつて目覚めた闇の書の闇。 戦斧の主たるフェイトを下し、なのはの攻撃をほぼ完全に無力化した最悪の強敵――完全覚醒を遂げた夜天の書・リインフォースの姿だ。 AAAランクの魔導師2人がかりでも、ほとんど傷らしい傷をつけられなかった相手である。 全ての参加者に制限の課せられた現状では、そうそう太刀打ち相手がいるとも思えない。 「あれは見た目を真似ているだけであって、中身まで完全に再現されているわけじゃない。 実際、元々の明日香には魔力が感じられなかった……今の彼女に発揮できるのは、ジュエルシード1個分の魔力だけだよ」 それでも、ユーノに絶望はない。 あれはあくまで天上院明日香が、ジュエルシードの力を借りて具現化したに過ぎない存在だ。 確かにジュエルシードの魔力量は、十分に驚異的な存在ではある。 闇の書事件よりも更に以前、なのはとフェイトが1個のジュエルシードを取り合い、結果暴走させてしまったこともある。 その時に周囲に発生した凄まじい衝撃波は、2人を容易に吹き飛ばしていた。 だが、あくまでそれだけだ。 ジュエルシード1個だけでは、かつて夜天の書が有していたパワーには及ばない。 何せその時のリインフォースは、スターライトブレイカーの一撃で、海鳴市の中心部そのものを飲み込んだのだから。 「それに、彼女の制限はまだ残っている」 自分達を縛る能力制限が、首輪によって機能しているものならば、当然明日香にも発揮されているはず。 そうなれば更に能力は落ちる。 一対一では歯が立たなくとも。 「強敵でも、決して勝てない相手じゃないよ」 信頼できる仲間達と共に戦えば、必ず勝機を掴むことができる。 「……もっとも、戦わずに済むに越したことはないんだけどね」 最後の一言は、苦笑と共に発せられた。 そしてそれで終わりと言わんばかりに、ざばっと身体を湯船から起こした。 当然休憩時間の全てを、風呂場で費やすわけがない。そんなことをしていてはのぼせてしまう。 あとは湯冷めに注意しながら、ロビーのマッサージチェアあたりで過ごすつもりだ。 ひた、ひた、ひた、と足音を立て、石畳の床を歩いていく。 他に客もいないので、タオルを腰に巻くことはしていない。 色白でスマートな全裸体が、惜しげもなく披露されているということだ。 一歩一歩足を進める度、小ぶりな尻が左右に揺れる。 適度に引き締まったそれは、よくよく見れば男のそれだが、遠目には女の美尻に見えなくもない。 すらりと伸びた細い両足が、そのイメージをより駆り立てるのだろう。 されど現実は非情である。詳細な描写は敢えて省くが、前の方に目を向ければ、それも否応なしに理解させられるだろう。 大事なことなので、もう一度言うことにする。 世界は本当に、こんなはずじゃあなかったことばかりだ。 ◆ ユーノの魔力がほぼ完全に回復し、それから温泉を出て駅にまでたどり着いた頃には、既に夕方に差し掛かっていた。 西の地平から照りつける陽光が、少年の横顔に橙を宿す。 同年代の男に比べて色白な肌は、容易く黄昏の色に染まった。 斜陽の中で身に着けているのは、普段仕事の時などに着用しているスーツだ。 要するに入浴する前から着ていたもので、本来ならその時点での身体同様、思いっきり土汚れだらけになっていたはずのものである。 普通なら、当然そんなものを風呂上がりに身に着けるはずもないのだが、温泉に洗濯機があったのが幸いした。 入浴し更に休憩をしているうちに、スーツは綺麗さっぱり洗い上がっていたのだ。 明日香の攻撃の余波で、所々擦り切れていたのは気になったが、浴衣よりは動きやすいということで、こうして再び着用したのだった。 ちなみに服が洗い上がるまで着ていた浴衣も、一応デイパックに入れてある。 「確かにそう書いてあったんだよね、バルディッシュ?」 そしてそのスーツを身に纏ったユーノは、車庫の扉の前に立っていた。 『はい。Ms.ブレンヒルト共々、確かに確認しました』 既に命を落としてしまった仲間の名前。 自分を守るために犠牲になり、救えぬまま逝ってしまった娘。 その名を耳にしてしまうと、どうしても表情に影が差す。 ユーノの目の前にあるそれは、今は亡きブレンヒルト・シルトが、彼と合流する前に調べたものだ。 その時そこには立て札があり、恐らく主催者側からのメッセージが刻まれていた。 残り15人になるまでこの扉は決して開かない。もし無理に開けようとすればそれ相応の罰を与えようではないか――と。 そして今も、立て札そのものは存在している。 「で、その後で壊されてしまった……と」 ただし、粉々のスクラップとして、だが。 どうやらブレンヒルトらが離れた後に、立て札は何者かの手によって破壊されてしまったらしい。 実はその実行犯は、つい数分前までその場にいたスバル・ナカジマであり、 今から走って追いかければ、十分に追いつけるような距離にいたのだが、それを知らないユーノにとっては、まるきり意味のない話だ。 「恐らくこれを壊した人は、この中に入っているものが、その条件に見合うだけの武器だと考えていたと思う」 『それを悪用されないようにするために、立て札を破壊した、と?』 「多分そう。ただの八つ当たりにしては度が過ぎているからね」 木片を摘み上げながら、ユーノがバルディッシュの問いに答える。 もちろんこの立て札を壊した動機が、もっともらしい記述を抹消して、中身にそういうものがあると悟られないようにするための隠蔽工作ではなく、 ただ単に開かない扉にイライラし、衝動的に壊してしまっただけという可能性もあるにはある。 しかし仮にそうだとするなら、ここまで粉砕する必要はない。せいぜい足で蹴っ飛ばすくらいの方が自然なはずだ。 故に後者の可能性を切り捨て、前者の仮説を信用することにする。 「でも……それでも、これはちょっと詰めが甘いよ」 『どういうことですか?』 微かに眉を細めたユーノに、バルディッシュが再び問いかけた。 「あのメッセージを隠すということは、確かに、中にそれだけの条件が必要な何かが入っている可能性を、ある程度隠すことができる。 でもそれは、この扉が危険なものであるということまで隠してしまうことなんだ」 要するに、こういうことだ。 立て札は完全に壊されてしまっている。であれば、もうそこにあるメッセージを読むことはできない。 それは確かに、『残り15人になるまで開かない』という思わせぶりな記述を隠すことには繋がる。 だがそれでは同時に、『無理に開けようとすればそれ相応の罰を与える』という記述までも隠してしまうということに繋がるのだ。 そうなればそうとは知らぬままに、うっかり開けようとしてしまった者が、主催者に罰を与えられる――なんて事態になりかねない。 罰則の詳しい内容までは分からないが、もし万が一首輪の爆破などだったとしたら、それだけで死人が出てしまう。 本来立て札を壊すと決めたからには、絶対に対策を立てておかなければならない事態なのだ。 『成る程、確かにこのままにしておくわけにはいきませんね』 「そうだね。だから、それを防ぐためにも……と」 言いながら、ユーノが踵を返す。 後頭部でリボンによって纏められた、ハニーブラウンの長髪がふわりと揺れる。 振り返りその場を離れ目指した先は、何らかの攻撃の余波によって半壊した駅員詰所。 無事な部分をがさごそと探り、程なくして見つけたのはセロハンテープ。 そのままそれを拝借し、元の車庫の前へと戻る。 「どうせここにこの車庫があるだけで、どうしても怪しさは拭いきれないものなんだ。ならいっそ開き直って……」 ぶつくさと独り言を口にしながら、デイパックからメモ帳を取り出した。 続いて筆記用具を取り出し、切り離したページに文字を書き込む。 ミッド語、日本語、ついでに英語。 3通りの言語で同じメッセージを書き込むと、それをセロハンテープで扉に貼り付ける。 「……とりあえずはこれでよし、と」 ――危険。触るな。 3つの言葉で書かれた張り紙を、車庫の扉に貼り付けた瞬間。 そういえばもうすぐ放送の時間だと、頭の片隅で思い出した瞬間。 それがその首に巻かれたリングから、三度目の放送が流れた瞬間だった。 【1日目 夕方(放送の瞬間)】 【現在地 E-7 駅・車庫の前】 【ユーノ・スクライア@L change the world after story】 【状態】全身に擦り傷、腹に刺し傷(ほぼ完治)、明日香が心配 【装備】バルディッシュ・アサルト(待機状態/カートリッジ4/6)@魔法少女リリカルなのはStrikerS 【道具】支給品一式、ガオーブレス(ウィルナイフ無し)@フェレットゾンダー出現!、 双眼鏡@仮面ライダーリリカル龍騎、ブレンヒルトの絵@なのは×終わクロ、浴衣、セロハンテープ、首輪(矢車) 【思考】 基本:なのはの支えになる。ジュエルシードを回収する。フィールドを覆う結界の破壊。 1.ルーテシアと明日香を探しに市街地へ向かい、見つけたら説得する。 2.Lや元の世界の仲間達など、共に戦う仲間を集める。 3.ジュエルシード、シャマルの捜索。 4.首輪の解除。 5.ここから脱出したらブレンヒルトの手伝いをする。 【備考】 ※JS事件に関連した事は何も知りません。 ※プレシアの存在に少し疑問を持っています。 ※ルーテシアはマフィアや極道の娘であり、自分が刺された原因は破廉恥な行いをしたからだと思っています。 ※結界を壊す一つの手段としてジュエルシードの力の解放を考えていますが、実際にやるかどうかはまだ分かりません。 ※平行世界について知りました(ただしなのは×終わクロの世界の事はほとんど知りません)。 ※会場のループについて知りました。 ※E-7・駅の車庫前にあった立て札に書かれた内容を把握しました。 【全体の備考】 ※E-7・駅の車庫の扉に、「危険。触るな」とミッド語・日本語・英語で書かれた張り紙が貼られています。 Back 一人分の陽だまりに 僕らは居る 時系列順で読む Next 現れるブルーアイス 破滅をもたらす「白夜天の主」 Back 一人分の陽だまりに 僕らは居る 投下順で読む Next 現れるブルーアイス 破滅をもたらす「白夜天の主」 Back 白き覚醒 ユーノ・スクライア Next Lを継ぐ者/Sink
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第二回戦:試合場【鍾乳洞】結果 このページではダンゲロスSS3第二回戦、鍾乳洞の試合結果を公開します。 投票結果 試合SS キャラクター名 得票数 第二回戦【鍾乳洞】SSその1 山田 7票 第二回戦【鍾乳洞】SSその2 偽原 光義 21票 第二回戦【鍾乳洞】SSその3 オーウェン・ハワード 11票 コメント 「それでは鍾乳洞の技巧戦・投票状況について、大会実況の私、佐倉光素と」 「解説の埴井きららが紹介するよ!」 「第二回戦にはいって早速、熱い戦いが繰り広げられましたね!」 「ばーんと2万字オーバーが来たしね!」 「そんな第二回戦最長の偽原選手、票の方もしっかりと伸びました!」 「最初の一日だけはみんな並んでいたんだけど」 「スタートダッシュでは負けていなかった山田、オーウェン両選手でしたが」 「二日目からはぐんぐん偽原さんが伸びていって」 「最終的には大差での勝利をもぎ取りました!」 「準決勝もきっとすごいことになるね!」 「ということで第二回戦、鍾乳洞の試合を制したのはー」 「「終わらぬ悪夢!偽原光義選手です!!!」」 「「おめでとうございまーす!!!」」 山田 その1:参加者ゆえのアドバンテージではあると思いますが、URLの解法は非常に気に入っています。存在する設定を大事にする姿勢に好感を覚えました。 その2:シュールストレーミングのくだりなどギミックとして面白いものが多々見られましたが、勝つことよりファントムすることが第一義なのが重荷になっているようには思えます。 その3:えぐく反則的な能力利用法をやってしまった以上、この先どうバランスを取っていくのかが気になることろではあります。 しかし3者とも事前準備型なのはメタが回って面白いなあ。 3つとも面白かったけど、小道具とか走法とかのよくわからない小ネタが面白かったので。オチも皆それぞれ良かったけど1のが好き 途中ちょっと推敲不足というか、締切きつかったのかな?って部分があったが、結末が素晴らしかった。偽原の迎えるエンディングとして申し分ない。 そろそろファントムルージュを凄い怖いとはしゃぐのうっとおしかったんですよね 突然外部テキストを引用してる意味はわからないけど、まあファントムルージュ封じのアイデアは見事だったし、読後感もいいので。今回全体的にダーティSS多いから、バッドエンドでないSSが余計に良いものに感じられる 悩んだけれど、ファントムルージュの呪縛を解いてくれた功績は大きい 偽原 光義 外道でしたが、クッソ面白かったです。 ファントムルージュつええ ファントムルージュ 歌っていたせいで前半の印象が薄い以外は一番良かった ファントムルージュ。 一回戦に続き極悪かつ容赦の無い展開、そしてファントムルージュ。しかし三者三様に全力を振り絞った戦術の数々がとにかく素晴らしく、悔しいけれどこれに入れざるを得なかった。 なかなか壮絶な展開で目をつむりたくなるほどだけど、なぜか続きが気になる魅せ方のうまい展開の連続でした。これが正史になると思うと胃が痛いが、なんといっても面白い。悔しい。各キャラを一番うまく描き上げていたと思うのでこちらに投票。 主題歌という、ファントムルージュ未視聴者には絶対思いつけないだろうギミックを組み込んだ恐るべきマンチ戦術がさすがでした。聴いてなかったけど、たぶん朗読ウケもすごかったんじゃないかな。怖いわあ。それ以外にもゲス極まりない拷問パートやシュールストレミング召喚など、ファントムに頼りきらない面白さが見事でした。あと宣伝ありがとうございます!(あやまだ) 『味わい』。本来このSSはリング等のようなホラー系にジャンル分けされるSSなのだと思う。日常に潜む恐怖を基調としたホラー系で仲間が襲われ犠牲になるのは当然であり、お約束でもある。サバンナに続き非日常系試合会場という不運に”恵まれながら”高い構成力でリカバーしている点高く評価したい。タツジン どうしてこんなになるまで放っておいたんだ! 全参加者に見せ場を作りつつ、三つ巴戦をうまく制している。文字数が多いが、読ませるだけの筆力もある。アキカンと一時協定に至る背景が説明されなかったのがやや難か。 ファントムルージュ…… 一刻も早く中の人がファントムルージュの呪いから解放される事を祈ります。 オーウェン・ハワード 短いながらも三人の戦術がバランスよく書けてたと思います。ファントムルージュなんてなかった。 やはりオーウェンさんがファントムルージュへの対策をたてないのはおかしい と、ほかのSSでは感じました アキカンすき 悩んだけど、アキカンの格好良さで。 そして米軍が動き出す……! 一番短く一番スマートだった。アメリカ陸軍にPRが渡ってしまったのは非常に危険な気もするが。
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「ドラなの」第2章『第97管理外世界』←この前の話 『ドラなの』第3章「誕生会」 「「はやてちゃん、お誕生日おめでとう!」」 十数人の歓声に続いて『パンッ、パンッ』と室内に轟く銃声・・・・・・じゃなかったクラッカーの破裂音。 そして頭から肩まで瞬時に出現した7色の紙テープを装備させられることになった八神はやては、身内・友人達を見回して 「みんな、ありがとう!」 と彼女の持てる精一杯の笑顔を返した。 検査から4時間を経て開催されたはやての誕生日会は総勢16人(ザフィーラ、アルフは犬形態で外なため、実質的には14人と2匹)と大規模なものであった。 さすがにここまで来るとそれなりの広さを持つ八神家でも収容しきれない。そのため会場は海鳴町でも1、2を争う豪邸であるすずか邸で行われていた。 そして金持ちであるからに――――― 「ああっ!ドラ屋のどら焼きがあんなにいっぱい!」 遠くから見てもメーカーがわかるらしい。 パーティーに呼ばれていたドラえもんが山と積まれたそれをロックオンすると、ミサイルもかくやという正確さとスピードで肉薄。目標に食らいついた! 「気に入ってもらえたかな?しずかちゃんから『ドラちゃんはどら焼きが大好きなのよ』って聞いて取り寄せたんだけど・・・・・・」 すずかに問われたドラえもんは 「うん!うん!」 と大きく頷いて見せる。 「もう大、大、大好き!これをくれるなら何でもやっちゃう!」 「うん、良かった。喜んでもらえて」 すずかはドラえもんの本当に美味しそうな食べっぷりに無邪気な笑みを浮かべるが、そこにスネ夫がほの暗い笑みを隠しながら介入する。 「じゃあこれから毎日どら焼き奢るからさ、僕の所来ない?」 「え?毎日!?どうしよっかな・・・・・・」 身を乗り出して考えてしまうドラえもん。しかし危険を感じ取ったのび太が駆けつけた。 「もう、そこは考えないでよぉ~!」 「ハハハ、ごめんごめん。じゃあスネ夫くん、明日からお願い―――――」 「ってそっちなの!?」 そんな風にドラえもん懐柔計画が進む中、スピーカーで拡大された声が武力介入した。 『それではこれより、はやてちゃんの誕生日を祝して、一曲贈りたいと思います!』 即席に作られた壇上に立ってマイクを握るは、剛田たけしことジャイアン! その宣言にシグナムなどの守護騎士一同も、結婚式場レベルの豪華な食材が並ぶ机を囲っていたなのは達も一斉に血の気が失せた。 みんなの思いはただ1つ。 「「(ここで歌われたら死人が出る!)」」 歌エネルギー(音波による振動エネルギー)が外部に逐一逃げていく野外ですら恐ろしいのに、それが乱反射するであろう室内では壮絶な地獄が予想された。 しかし───── 「いよ!待ってました!気張っていきや!」 シンとした会場に上がる1つの歓声。 「はやてちゃんありがとう!」 はやての発破にジャイアンはさらに気分を良くしたようだ。持ち込んだラジカセを操作しながら礼の声を上げた。 「「(はやてちゃぁぁぁん!)」」 全員の心の悲鳴が響き渡る。 はやてはあの歌の恐ろしさを知らないのか!? しかし主賓が言った以上、もう誰にも止められない! こうなってしまっては彼女らは次善の策を講じるしかなかった。 『(フェイトちゃん!)』 『(うん!)』 念話による通信で瞬時に意志疎通を図った2人はそれぞれ待機状態の己のデバイスに命ずる。 「レイジングハート、物理防御バリア展開用意!最優先モード!」 「バルディシュ、対光波・音波バリア展開準備!」 『Alright.』 『Yes sir.』 両デバイスが同時に応じる。 ジャイアンの歌は時として"物理破壊を伴う"。そのため室内では落下物(例えば頭上に輝くシャンデリアなど)に対処するため、なのはのシールドは遮音以上に大切な生命を守る最終防衛ラインだ。 しかしそれだけしても遮音と物理防御の効果があるのは近くにいた静香とアリサ、守護騎士一同、そしてはやてだけだろう。 すずかやのび太達は肩を落としながら壇上前に集っており、距離が有りすぎる。 しかし視線を戻したなのはは、はやてが効果範囲から出ようとしている所を目撃した。 『(は、はやてちゃん!バリア張るから効果範囲から出ないで!)』 しかし彼女は 『(ウチのために歌ってくれるのに、聞かないなんて出来へん。それに"大丈夫"やて)』 と自身たっぷりに返信。 こちらに対応できる力があることを知らない静香、そして念話を解せないアリサも道連れに効果範囲から出てしまった。 「ど、どうするなのは!?」 フェイトが焦って呼び掛けてくる。 なのはが回答に詰まっていると、今度は守護騎士達が動いた。壇上前へと。 「シグナム!どこへ!?」 「ヴィータちゃん!シャマルさんも!」 2人の呼び止めに彼女らが振り返る。 「我ら守護騎士。"死する"時は、主(あるじ)と共に」 とシャマル。 そしてシグナムも 「・・・・・・最期になってしまったが、テスタロッサ。お前のような勇敢な魔導士に出会えて良かった」 と辞世の句のように告げる。 続いてヴィータが 「なのは、教導隊入り頑張れよ。"上"から応援してるからな」 と決めた。 台詞回しは申し分ない3人だが、足が震えていることがフェイトには少々滑稽に映った。 ともかく3人は効果範囲から出ていってしまった。 ・・・・・・不意に、俯いたなのはが呟く。 「―――――フェイトちゃん、私、間違ってた」 「へ?」 「相手の短所も受けれなきゃダメだよね」 どこか清々しい表情を浮かべたなのははレイジングハートを胸ポケットへ。そして空いた左手を差し出してきた。 「"いこう"、フェイトちゃん」 その吸い込まれるような菩薩の微笑にフェイトの生存本能がオーバーライド。"いこう"が例え"逝こう"だろうと受け入れる覚悟を決めた彼女は、その手を取った。 (*) 『よぉし、みんな!準備はいいかぁ!?』 「「おぉーーー!!」」 自棄(ヤケ)になった人々は歓声を返す。 そして彼ら彼女らはこれから起こるであろう惨劇を予想して、ある者は竦み上がり、またある者は現実逃避に走る。 さらにこうゆう時(死期)は普段絶対に言えないことも言えるものだ。フェイトは彼女の大親友に最期の告白を行おうとしていた。 「なのは、実は私、なのはのことが─────」 「フェイトちゃん?」 その決意がもう少し早くて、もう少し早く言っていたならこの先の未来は違ったかも知れない。 しかしそうはならなかった。 周囲が身構える中、ジャイアンが大きく"腹式呼吸"。マイクを持つ右手の小指がピンと立つ。 そして───── "瞳閉じれば 出逢えるのは何故─────" 聞こえてきたのは一曲の歌だった。 それは半年以上前に聞いたダミ声でも何でもない。透き通る春の風とも呼べばいいだろうか?それほどまでに暖かい歌声だった。 気づいた時には聴衆達はその歌に体を預けていた。 もうここにはあのガキ大将と怯える子供達などいない。舞台と客席が一体となり、ただ1つの歌があった。 曲は流れるようにサビへと突入。歌手、剛田たけしは手のひらを広げた左手を客席のただ一人、八神はやてへと向けて歌い上げる。 "─────蒼い地球を守りたい!君だけのために~!" その熱を含んだ熱唱にはやては恥ずかしそうに微笑み返した。 こうした時を過ごして歌という名の永遠は、曲の終了という終わりを告げた。 しかし観客達は興奮冷め止まぬように盛大な拍手と歓声とを彼に送った。 「明らかに上手くなっている!」 「たけしさんステキぃーーー!」 「アンコール!アンコールを!」 そんな歓声にジャイアンはいつもの調子に戻って 「ありがとう!心の友よ!」 と歓声に応えた。 だがそれは止まない。 「「もう一曲!もう一曲!」」 と彼へのコールを続ける。 彼は初めてのことに涙し、声を張り上げる。 「いよっし、じゃあ一曲だけだ!だがこれはみんなで歌えよ!」 「「おぉ!!」」 再びジャイアンは腹式呼吸。その歌を紡ぎ出した。 "ハッピーバースデートゥーユー、ハッピーバースデー・・・・・・" 誰もが知る誕生日に歌う定番曲『ハッピーバースデートゥーユー』。しかしそれは全く違った、だが温かくウキウキしてくる曲に聞こえる。これがあのジャイアンに眠っていた真の実力なのであろうか? そして武、なのは、フェイト、アリサ、すずか、シグナム、ヴィータ、シャマル、のび太、スネ夫、ドラえもん―――――全員の声が一人の少女に向けて唱和した。 「「♪ハッピーバースデー、はやてぇ~!♪」」 それと同時に少女は棒状のライター、いわゆる「チャッカマン」の火を、ロウソクのように吹き消した。 途端に剛田武のコンサートホールは 「「おめでとう!」」 と歓声溢れるパーティー会場へと戻った。 (*) ジャイアンの歌の種明かししよう。 結論を言ってしまえばドラえもんは今回何もしていない。 これの主な関係者はジャイアン自身と"八神はやて"その人だ。 実ははやてはここ半年魔導の力が使えなくなって空いてしまった時間を様々なことに投資していた。 教育の充実によって短期化が遥かに進んだミッドチルダでは11歳ですでに中学卒業レベルの学問をこなしており、ある程度社会進出しても遜色ない歳と見なされているという。 もちろん管理局で戦技教官や執務官をやるだけなら、見合った技能と日本クラスの道徳観を持ち、義務教育を全うすれば何の問題もない。 しかしはやては『命令されてその通りに動く"手駒"にはなりたくない』という強い思いがあり、管理局の局員養成校『ミッドチルダ防衛アカデミー』の士官候補生になるため勉学に時間を投資していた。 そんなとき、はやてはある噂を耳にした。 「ジャイアンがまたリサイタルをやるらしい」 学校中を瞬時に駆け巡り、生徒達を恐怖のどん底へと叩き落としたその噂。 しかしはやてはこれを好機とした。ジャイアンは歌が物凄く下手なのは知っていたし、時として物理破壊を伴う彼の歌は丁度バリアジャケットの"対音波防御性能"のテストに最適だったのだ。 そして周囲の聴衆が耳を塞ぐなか開催されたリサイタル。 光波・音波防御(対閃光手榴弾設定とも言う)を最大に設定したバリアジャケットを着用したはやてはその歌を普通に聞くことができた。 そして彼女は聞いているうちにそれほど悪いものでもない事に気づき始め、さらに言えば彼に天性のものを感じていた。 重心の低い体型。 日々大きな声を出すことによって鍛えられた肺活量と喉。 溢れる体力と気力。 ほぼ全員耳を塞いでいるのに挫けないで歌い続ける不屈の心などなど・・・・・・ それでも現状全く上手くない。ジャイアンにとって最大の悲劇は、初期値がアンバランスすぎて誰も真面目に聞けなかったことがもっとも大きい。 最後にははやては素で拍手を送っていた。 それからはジャイアンと歌で意気投合。週に2~3回のペースで歌の練習を開始した。 場所は学校の裏山。お陰で裏山から聞こえる歌を怪物の鳴き声と誤認した周辺住民が 「裏山に怪獣が住み着いたらしい」 と噂し、恐れられたが問題ない。 それが2ヵ月前。はやても歌の知識はほとんどなかったが、図書室で借りた"ウガ"とかいう出版社の出したあの本で何とか埋め合わた。 例えば今までやっていた胸式呼吸から腹式呼吸への転換などがその対処法だ。 ジャイアンは聞いて、アドバイスをくれる人がいて気分よく練習できる。 またはやても、未だ実用化されていない音波振動兵器(音波により対象物質の共通振動数を伝えて、共振によって内部から破壊するとされる兵器)の論文を書けそうなほどのデータを集める事ができた(これは『ミッドチルダ防衛アカデミー』の入学論文のためである)。 余談だがジャイアンの歌は超広域に渡る周波数の音波を発しており、どんな理屈か電磁波にも変換され、ギガヘルツ帯の携帯電話やデバイスのアクティブ・レーダーを妨害するなどECM(エレクトロニクス・カウンター・メジャー。電子妨害手段。)に近い能力を発揮することもあったという。 ともあれ、こうしてジャイアンの歌のスキルは格段に進歩。今に至っていた。 「はやてちゃんがそんなことをやっていたなんて・・・・・・」 シャマルがはやての説明に驚いたように口元を押さえる。 「シャマル、お前はずっと近くにいたのにこんな危険な行動も把握できていなかったのか?」 シグナムに非難のセリフをかけられ 「ごめんなさい・・・・・・」 と済まなさそうに謝る。 「プライバシーって言うから・・・・・・」 「プライバシー?・・・・・・ああ、あれか。難しい世の中になったものだ・・・・・・」 シグナムは何も考えずとも主を守るだけで良かった過去をほんの少し懐かしく思った。 しかしこれこそ"道具"である自分達、守護騎士システムに与えられた一人の人間として生きることの自由と独立の代償。甘んじて受け入れねばならぬものだった。 「ま、結果オーライってことで!な?」 「・・・・・・はい。わかりました。しかしあまり無理はなさらないでください。主に何かあったらと不安になってしまいます」 「了解や♪」 はやてがおどけて敬礼して見せる。この様子だとまだなにかやっているかもしれない。 しかしシグナムは口では言っても不思議と不安な気持ちにはならなかった。彼女の周りには我ら守護騎士だけでなく、頼もしい友人達がいる。 何かあっても、命を張ってでも助けようとしてくれる友人が。 我らが主は本当に、そういう得難い大切な人達に恵まれていた。 「はやてちゃ~ん、それにみんな~、ビンゴ大会始めるわよ~!」 アリサ・バニングスがビンゴカードの束を持ってこちらに呼び掛けてくる。 はやてはそれに 「今行くで!」 と応えると、小走りするように向かった。 しかしシグナムはその元気な後ろ姿に、もうすぐ魔導の力がなくなることを彼女が聞いて、どんなに落ち込んでしまうかと思うと気が気でなかった。 (*) 時空管理局艦船 L級巡察艦 56番艦『アースラ』 第97管理外世界近傍の次元空間で待機するこの艦艇では、艦長であるクロノ・ハラオウンがある人物と通信を行っていた。 『─────そっか・・・・・・はやてちゃんの病気はやっぱり・・・・・・』 「ああ。詳しい検査結果を見たが管理局の技術では太刀打ち出来そうにない。しかし原因はほぼ特定した。間違いなく闇の書だ」 『・・・・・・なるほど、それで珍しく連絡してきたってことか』 「そうだ。君の活躍にも"ちょっぴり"だが期待しているからな」 クロノの嫌味がかったセリフに画面の中の彼は 『ちょっぴりは余計だな。これでも無限書庫の司書なんだよ』 と苦笑いしてみせる。 『まぁ、実を言えば1週間ぐらい前に闇の書に関連しそうな古文書がここで発掘されたんだ。今は急ピッチで解読作業に掛かってるんだけど、こっちは見ての通り設備も人員も限られてるからなかなか進まないんだ。本局に行けば解析チームがいるんだけど・・・・・・』 彼のいる場所は砂漠の真ん中に一張りの中規模のテントがあるだけという寂しい場所だった。 「そこは第12管理外世界か。それなら近いから個人転送でアースラに来い。本局までの足ならこれが一番速い」 『うん。ここの発掘は本業の人達に任せてこれから古文書を持っていくよ。受け入れのほうをお願い』 「了解した。歓迎するよ。しかし出港は明日、はやてに検査結果を知らせてからだ。だからまだ急がなくてもいいぞ」 『いや、すぐに行くよ。こんな埃っぽい姿じゃなのは達に会わせる顔がないし、僕も早くシャワーでも浴びたい』 「最後の行水から1カ月と言ったか?水ならアースラにたっぷりある。必ず入れ。本艦の中で異臭を撒き散らすことは許さんからな」 『ハハハ、手厳しい。それじゃあ後で』 若き考古学者はそう告げると、通信を閉じた。 シレンヤ氏 第3章後編へ
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仮面ライダーリリカル龍騎 クロス元:仮面ライダー龍騎 序章『TIMEVENT』 第一話『戦の始まり』 第二話『仮面ライダー』 第三話『新たな力』 第四話『龍の再誕』 第五話『龍騎』 第六話『蛇と蟹』 第七話『夜の騎士』 第八話『激闘』 第九話『ライダー交代』 第十話『香川研究室』 第十一話『完全復活』 第十二話『プレシア・テスタロッサ』 第十三話『集結』前編 第十三話『集結』後編 第十四話『砕け散る鎧』 第十五話『再起の時』 第十六話『白き翼・ファム』 第十七話『回転VS回転』 第十八話『真司の冤罪』 第十九話『病院の怪』 第二十話『現れる戦神』前編 第二十話『現れる戦神』後編 第二十一話『星と虎の邂逅』 第二十二話『蘇る雷』 第二十三話『疾風』 第二十四話『風、雷、そして力』 NANOSING クロス元:HELLSING 最終更新:08/03/30 第一話『VAMPIRE』 第二話『MURDER CLUB』 第三話『ANGEL DUST』(1) 第三話『ANGEL DUST』(2) 第三話『ANGEL DUST』(3) 第四話『DEAD ZONE』(1) 第四話『DEAD ZONE』(2) 第四話『DEAD ZONE』(3) 第四話『DEAD ZONE』(4) 第五話『BALANCE OF POWER』(1) 第五話『BALANCE OF POWER』(2) 第五話『BALANCE OF POWER』(3) 第六話『ELEVATOR ACTION』(1) 第六話『ELEVATOR ACTION』(2) 第六話『ELEVATOR ACTION』(3) 第六話『ELEVATOR ACTION』(4) 第六話『ELEVATOR ACTION』(5) 第六話『ELEVATOR ACTION』(6) 幕間『CROSS FIRE』 第七話『AGE OF EMPIRE』(1) 第七話『AGE OF EMPIRE』(2) 第八話『CALL TO POWER』 第九話『ULTIMA ON LINE』 魔法少女リリカルマジンガーK s クロス元:マジンカイザー、UFOロボ グレンダイザー 最終更新:09/07/14 第一話『魔神再臨』 第二話『激突! 雷光VS魔神』 第三話『魔神と魔法』 第四話『お引っ越し、そしてグレンダイザー復活』 第五話『新たなる力、起動!』 第六話『機械獣襲来!』 魔法少女リリカルなのは ―Minstrel Song― クロス元:ロマンシングサガ ミンストレルソング 最終更新:08/02/16 Event No.00『最終試練』 Event No.01『ミッド臨海空港』 Event No.02『高町なのは』 拍手感想レス :NANOSING楽しみです!!アーカードに期待大です!! :十七話の蟹が飛ぶな!!!に吹いた。電王ネタ満載の龍騎の更新がんばってください TOPページへ このページの先頭へ
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Lyrical Magical Stylish Mission 05 Rock Days 「イィィヤァァ!!」 「ぶち抜けぇ!!」 ダンテのスティンガーミサイルの如き刺突が兜の割れたブレイドの脳天を一撃の下に刺し貫き、爆砕する。 その硬直を狙った二体目のブレイドは、なのはの放ったディバインバスターの直撃を受け、そのエネルギーに耐え切れなかったか、溶けるように消滅していく。 「GAAAAAAAAAA!!」 二体を犠牲に二人に生まれた僅かな隙、その隙を逃すまいと、残る一体のブレイドが地面をぶち抜いて、地中から空中にいるなのはめがけて疾風の如き勢いで迫る。 だが、そんな決死の特攻も全てダンテとなのはの掌の上で踊らされているのだということに、残念ながらブレイドは最後まで気付くことはなかった。 「ハッ、見え見えだぜ?」 「もうちょっと考えたほうがいいよ?」 背中に目がついているかのような正確無比な銃撃がなのはを狙った爪を腕ごと吹き飛ばし、その衝撃で体勢が崩れたブレイドに、なのはの一撃が炸裂する。 強烈な魔弾は狙いたがわずブレイドの頭を直撃し、勢い余って大地に強く叩き付けた。 「やれやれ、毎日毎日律儀なことだ」 「ホントです。ちょっとぐらい休ませてくれてもいいと思うんですけどね」 「全くだぜ」 最後のブレイドを撃破したなのはは、ダンテの隣に降りてくる。今回も二人は悪魔の群相手に傷一つ負わない完勝を見せていた。 最初の方こそ、慣れない共闘にいらぬ傷を負ったりすることもあったが、今では完璧なコンビネーションを見せるまでに至っている。 ダンテの言うとおり、毎日毎日現れる悪魔に体力や魔力は削られるものの、いざ魔界に行ったときに必須となるコンビネーションをここまで高められたのだから、差し引きで言えば大幅なプラスであろう。 「今日はこれで全部みたいですね」 「そうだな、周囲の瘴気も消えたみたいだし、今日はこれで打ち止めだろ」 ダンテはリベリオンをギターケースに仕舞い、なのはもまたバリアジャケットを解いて、完全にこの場での戦闘が終わったことを再確認する。 ダンテとなのはの邂逅から三日、ブレイドやフェティッシュ、デス・シザースといったダンテ曰くある程度上等な連中が割と頻出するようになっていた。 「ふぅ……」 「お疲れかい?」 疲れた様子のなのはに意味もなくニヤニヤしながら、ダンテは側にあった自動販売機で缶コーヒーを買い、一本をなのはに向って放る。 なのははそれを受け取り、ブラックであることに顔を顰めながらダンテに聞き返した。というか、普通疲れている相手には甘いコーヒーではないのか。 「ダンテさんは疲れないんですか?」 「ヘイ、この程度で疲れてたら魔界になんて行けないぜ」 「うー……努力します」 口を尖らせて言う。ブラックコーヒーの苦さにか、体力面においては圧倒的に劣る自分への苛立ちか。おそらく両方であろうが。 そんななのはに、ダンテは苦笑しながらもガラじゃないアドバイスなんぞをしてみる。 「なのは、お前さんはもう少しペース配分を覚えな。全力で戦い続けてたらあっという間にヘバっちまうぜ」 「ダンテさんにそれを言われるなんて……」 「俺はいいんだよ、俺は」 どこかコントじみたやり取りも大分板についてきたようで、なのははダンテのリアクションに一々腹を立てることもなくなっていた。 最も、ダンテにしてみればそれは少しばかりつまらないことなのだが。 「もういいです」 「Huh? そうかい」 「はぁ……帰りましょう」 「だな」 二人の共闘が始まってから三日、ダンテはその間高町家に居候という形を取り、なのはとともに海鳴に出現する悪魔の掃討に当たっていた。 ダンテ曰く管理局のちょっかいも最初の二回を除いて行われてはいない。なのははクロノやフェイトのことが気がかりだったが、ダンテは気分良さそうだった。 「敵、強くなってますよね」 「そうだな、最初に比べりゃ上等な連中が出てきてる。もうすぐかな」 「そうですか……後どのくらいか、分かりますか?」 「さあなぁ、まだわかんねーな」 「そうですか」 ダンテはいつでも構わなかったが、なのははもう少し時間が欲しかった。 コンビネーションこそかなりのレベルまで上がってきているけれど、なのは自身の戦闘力という面から見れば、大して成長していないことが自分でも痛感できるからだ。 「……私、強くなってますか?」 それでも気になるのはしょうがないと言うべきだろうか。なのはは多少不安げにダンテを見上げ、聞く。 なのはからすれば当然の疑問だが、ダンテにとってはなのはがこんなことを言い出すのはひどく意外だったようだ。 「ヘイどうした? 今さら臆病風にでも吹かれたか?」 「そんなんじゃないですけど……気になるじゃないですか」 「そんなもんかねぇ。吹き飛べとかぶっ散れとかぶち抜けとか言ってるガキからは想像も出来ねーな」 「……そんなこと言ってましたっけ」 記憶がないが、確かにさっきも止めを刺す際にそんなことを言った気もする。ダンテはさも面白おかしく感じているのか、腹を抱えて笑いながらなのはの頭に手を置いた。 「仮に、足手まといだから諦めろって言ったらお前は諦めるか?」 「まさか。魔界に行く日までに並んでみせますよ。一度決めたことを諦めるほど、私人間出来てないんです」 「クックック、本当に面白いぜお前。まあそうだな、その日が来たらプレゼントを一つやろう。それまで頑張りな」 「ダンテさんからのプレゼントですか……楽しみにしてますね」 「ハッハッハ、欲しけりゃもうちっと頑張りな」 「分かってますよ」 頭に置かれたダンテの手を無造作に払いのけつつ、なのはは決心を新たにした。その顔には、隣で歩くダンテが浮かべるような、大胆不敵で且つ凶悪な笑顔が浮かんでいたとか。 「プレゼントかぁ……何くれるんだろう」 夜、自室でぼんやりと考え事。ダンテは今日も飽きずに士郎と酒盛りをしている。 そんな狂乱の宴に参加する気はさらさらないなのははダンテを放置して自室で休んでいた。 「ダンテさんがまともな物くれるとは思えないけどなぁ……」 それでも、楽しみではあった。 ベッドにうつぶせになって色々想像をめぐらしていると、携帯電話が慣れた着信音を響かせる。 「……アースラ? 誰だろ」 着信画面を見てみると、アースラからの電話だった。おそらくクロノがまた何か言って来るのだろう、あるいはフェイトが説得しようとしているのかも知れない、なのはは渋々電話を取る。 疲れているが、無視して何度もかけられ、安眠を妨害されるのは避けたかった。 「もしもし?」 「なのは? 良かった、もう寝てるかと思った」 だが、聞こえてきたのはクロノでもフェイトでもない声だった。その声に覚えのあったなのはは多少驚きつつ、返事をする。 「ユーノ君?」 「そうだよ」 「どうしたの?」 「エ……じゃない、クロノから色々聞かされたよ。また何かやらかそうとしているらしいね?」 苦笑を感じさせるユーノの声。どうやら、ユーノもまたクロノに言われてなのはを説得しようとしているらしい。 「あー……まあね」 「良かったらでいいんだけど、詳しく話してくれないかな」 「うー……ゴメン。ぶっちゃけちゃうと、今回のことはユーノ君には関係ないし、巻き込んじゃうから」 どうしたもんかと少しの間逡巡したが、やはり話さないほうがいい。なのははそう決断する。 「やっぱりそうだよね」 「ゴメンね」 「ううん、大丈夫。なのはがそう言うときは何言っても無駄だって分かってるし」 「あははは……」 ユーノもまた、まともに説得する気はなかったらしい。あっさりと折れてくれたことに余計な体力を使わなくて済むとなのはは安堵する。 「それでも、手伝えることってないかな?」 「うーんと……手伝ってくれるなら助かるけど、やっぱりいいよ。ユーノ君はユーノ君の好きに動いて。私たちがやってることは管理局から見ればいけないことだし、それに巻き込みたくないから」 「そうか……」 ユーノの助力は確かにありがたい、けれど、何の関係もないユーノが犯罪者になる可能性があることをさせたくはなかった。 予想はしていたのだろうが、それでも残念そうな声色になのはは慌てて何かないかと考える。そして閃いた。 「……あ、じゃあさ」 「ん?」 「治癒魔法、教えて」 「……唐突だね」 「今閃いたからね。この先必要になりそうだけど、クロノ君には聞けないし」 「それもそうか」 なのはは治癒魔法を使えない。知ってる中で使えるのはクロノとユーノぐらいであるが、当然ながらクロノには聞けない。 だが、魔界に行くことになったなら当然ながら傷を負うことが考えられるし、その傷を放置したまま連戦するほどの体力はなのはにはない。 「……分かった。いつがいい?」 「明日にでも。朝早く魔法の練習してるから、その時がいいな」 なのはは早朝訓練の時間と場所を告げて、二人の通話は切れた。 なのはは朝学校に向かい、ダンテはひとしきり家で士郎や恭也と本人曰く遊んだ後、街をフラフラ散歩する。悪魔が昼間に出ればなのはは学校を抜け出してダンテと共に戦い、出なければ授業中は寝て過ごす。 その後、ダンテがなぜか学校に迎えに来て一緒に帰り、悪魔が出るまでもしくは夕飯までみっちり組み手。それ以降、悪魔が出るまでは家でなのはは休みつつ、ダンテは酒盛りをしつつ待機という生活が続いていた。 ちなみに、深夜に出た場合はダンテ一人で戦うことになっていた。 最初こそ深夜は出なかったものの、ここ最近は毎日のように出ており、人界と魔界を隔てる境界が薄くなってきたことを如実に表していた。 「さて……今日はどこに行くかな」 そんなわけで、なのはが学校に行くのを見送った後、士郎と恭也をボコボコにし、気分のよくなったダンテはあらかた把握したこの街の地図を頭に思い浮かべながら呟く。 そろそろ、門を開いても大丈夫そうな場所を検討しないといけないのだが。 「うーん……どこもダメそうだな、おい」 やはり、街中に開いたらどこで開いても被害が大きくなりそうである。とすれば海上しかないのだが。 「気が乗らねーなぁ、帰ってきたときに海に落ちるのは勘弁だぜ」 どこか無人島でも付近にあればそこが一番いいのだが、臨海公園から海を眺めてみてもそれらしきものは見えなかったし、なのはや士郎に聞いてもそんなものは近くにないと言われている。 「……しょーがね、海上にすっか」 ダンテは渋々決定し、臨海公園へとやって来た。確か、モーターボートの貸し出しを行っていたはずだ。 ギターケースの奥底に虎の子の札束が入っていることを確認し、ダンテは貸しモーターボート屋へと歩き出す。 「おいオヤジ、船一艘売ってくれ」 「は? 何言ってんだ兄さん」 「俺は物分りの悪いやつが嫌いでね。なに、誰もタダでとは言ってねーよ、コイツでどうだ」 どがっ! とテーブルに叩き付けた札束の山。少なく見積もっても、モーターボート三艘は優に買える金額だろうか。 オヤジは今までに見たことも無い金の山に目が飛び出るほど驚いているようだ。 「……一艘でいいのかい?」 「ああ。ただし、いつ俺が来ても最高の状態で出れるようにしとけ」 「お安い御用だ。毎度アリ」 ダンテのよく知る情報屋に近い臭いを感じ、顔を顰めながらも、このタイプの人間は仕事はきっちりこなすだろうと思い、ダンテはこれ以上用はないと踵を返す。 さっさと翠屋に行って口直しのパフェを食べなくては。 「じゃあな。そのうちまた来る」 「ああ、兄さん。船の名前はどうするよ」 背中にかけられた声に舌打ちするが、車やバイクと違って船は名前をつけるもんだということを思い出す。 せっかく買ったんだし、派手にぶちかますことになるだろうから、景気付けに最高にクールな名前をつけてやるのも悪くない。 「あー……そうだな、Devil May Cryにしといてくれ。出来る限り派手に、ロックな感じでな」 サラサラと紙に綴る。悪魔も泣き出す船、ダンテとなのはが魔界に行く際に使うにはふさわしい名前だろう。 「デビル・メイ・クライ、ね。確かに承ったぜ。ところで兄さん、コイツはどー言う意味なんだ?」 「……悪魔も泣き出す、そんな意味だ」 「へぇ……ハハハ、確かに兄さんに睨まれたら悪魔も泣き出すかもな」 「こんないい男捕まえて失礼だなオイ」 門を開くための足は確保。手は既にダンテの手中にある。後は機をみて飛び込むだけだ。 ダンテは今度こそスッカラカンになった財布を情けない顔で見つめ、翠屋にツケで食わせてもらうことにした。 カッ、カッ、カッ……定期的に黒板から聞こえてくる堅い音と、教師の説明の声のハーモニーががなのはの眠気を誘う。 今日もまたダンテにひどくしごかれることだろう、そう考えたなのはは眠気に逆らわずに堕ちていく。 そして――― 「…………」 「せんせー?」 チョークを握る手がプルプルと震えている。最近急激に素行が悪化したなのはだが、優しさに定評のある担任は何か事情があるのだろうと随分見逃してきたつもりだった。 「すー……すー……」 だが、やはり目に余る。小学生からこんな調子で行っては、中学高校とどうなるか分かったものではない。ここは、やはりビシッと決めるべきだ。 最初のほうはうつらうつらしながら必死に耐える様子を見せていたなのはだが、ここのところは遠慮も何もあったものではなくなっていた。 授業の開始の起立、礼、着席のときは回りに起こされ渋々起き上がり、着席の瞬間眠りについている。終わりの時は起きないことが多々。 そのくせ、突然授業中に立ち上がって 「先生、トイレに行ってきます!」 という完全に事後承諾の発言を残し教室から逃走、そのまま数十分帰って来ないことも数度。いくらなのはたちの担任がおおらかだと言っても、物には限度というものがあるのだ。 「……いいですか、皆さん。皆さんもこれから先、中学高校となると授業で寝てしまうことはあるでしょう。先生もありました」 プルプル震える手でチョークを握り締めながら、担任は児童たちに向き直る。その顔を見た数名が小さな悲鳴を上げたことなど、これからすることに比べれば瑣末なことだ。 手のひらの中でバキャッ! と音を立ててチョークが二つに割れる。それを見た児童たちが後ずさりしたのも、これからすることに比べればどうでもいいことだ。 「ですが……やはり授業中に寝るのはいけないことです。どうせやるならもっと隠れる努力なりをしないといけないのです」 完全にブチキレた声色をしている。光が眼鏡に当たって目が外から窺えないのも、それを助長している要因であるのは間違いない。 「せ、せんせー?」 「覚えておきなさい……度を超すと、こうなるんですっ!!」 教師の右手が閃く。短くなったチョークは本来の目的を忘れ一筋の閃光と化し、無防備に晒されたなのはの頭部へと吸い込まれるように突き進む。 だが、それより早く、慣れた感覚にカッと目を見開いたなのはがいた。 パキィン チョークの砕け散る軽い音がする。 「Sweet……Baby!!(最高だぜ、ベイビー!!)」 咄嗟に振り抜いたのはもちろんレイジングハート―――ではなく、ただのものさし。 ダンテのリベリオンよろしく振り抜いた後肩に担ぎ、椅子と机、そして机に広げてあった二時間前の教科書の上に足を乗せて、なのはは最高の笑顔で言い放った。 もちろん、左手は手招きを忘れていない。 「…………」 「…………」 時が止まった。当然だが。周りの児童たちはポカーンと口を開け、唯一なのはの隣に座っていた男子だけがなのはの打ち抜いたチョークの破片を浴びて顔を抑え蹲っている。 「……高町、さん?」 「あ、あは、あはは、あはははは……」 何が起こったのかを理解し、なのはは笑うしかなかった。 「廊下に……立ってなさあああああああああああい!!!!!」 「ごめんなさーーーーーいっ!!!!」 廊下におっぽりだされるという初めての経験をして溜息をつく。そして、聞こえてきた声に更に溜息をついた。 「Cool. Bravo. Absolute」 「……レイジングハート、それ、褒めてるの?」 「Of course」 「…………」 ダンテとの訓練は着実に成果を上げているようである。 「Let s Rock!」 シン・サイズを三体纏めてぶち抜いた魔弾が、軌道を変えて地中から飛び出してきたブレイドを叩き伏せる。 「イィィィヤアアァ!!」 その隙を逃さずにダンテの兜割がブレイドを両断。悲鳴を上げて土くれに還るブレイドにはもはや一瞥もくれず、ダンテは次なる相手へと走っていく。 「ハアッ!!」 「Bingo!」 斬り上げで上空に吹き飛ばしたところになのはの魔弾が炸裂し、哀れなヘル・スロースが元の砂となって大地に降り注ぐ。 真下にいたダンテは、砂の嵐を受ける前にもう一体のヘル・スロースの元へ移動しており、剣が分裂したかのような連続刺突で反撃の暇を全く与えずに撃破。 そのまま剣を突き刺し、剣を軸にコマのように回転して周囲の敵を薙ぎ払う。一通り吹き飛ばした後、遠目から炎を吐こうとしていたフェティッシュに向けて突撃。それを邪魔しようとするヘル・プライドと斬り結ぶ。 「Rock it!!」 ダンテがヘル・プライドやフェティッシュを相手にしている背後から襲いかかろうとしていたアビスをなのはが放ったディバインバスターが焼き尽くし、放り投げられた鎌が哀れな悪魔に直撃する。 「ハッハァ!!」 「Blast!!」 止めとばかりにダンテが炎を纏う拳を大地に叩きつけ現界した灼熱地獄に、上空から無数の白光が槍と化して突き刺さる。 白い槍に縫い付けられ、地獄の炎で焼かれた悪魔たちは灰すら残さずに消滅していった。 「Too easy!」 「……ヘイヘイなのはよぉ、さっきから俺の台詞取るんじゃねーよ」 「え、あ、あのー……」 なのはは上機嫌に決めポーズまでとったりしていたが、消えゆく炎の中から出てきたダンテはいまいち消化不良といった感じであった。 それもそのはず、先ほどまでから言おうとしていた台詞を全てなのはが取っていたのだから、スタイリッシュを標榜するダンテにとっては余り面白い事態ではない。 「そーいうの、嫌いなんじゃなかったのか?」 「……つい勢いで」 「まあ……いいんだけどよ」 なのははまたやってしまったと自己嫌悪に陥る。最近、ダンテの影響のせいか、学校でも時々口走ってしまうのだ。 「……ダンテさんのせいですからね」 「ハッハッハ、いい傾向じゃねーかよ」 「絶対そんなことないですっ! 友達にも引かれるし、やめろって言われるし、私だってやめたいですよ!」 思わず口走った台詞を聞いた友人の反応は例外なくドン引き。なのははそのたびに悔い改めようと誓うのだが、どうしてもテンションが上がると言ってしまうようだ。 「ユーモアを理解しない友人たちだな」 「普通の友達と言ってください」 なのはは半眼になって呻く。なのはみたいなごくごく普通の小学生がいきなり「Com n winp!(来な、ノロマ野郎!)」なんて口走ろうものなら、意味のわかる人も分からない人も例外なく引くに決まっている。 ちなみに、言ったのはドッジボールの時間。ボールを持った男子相手に言ってのけた。 さらに間の悪いことに、なのはには英語を理解できる友人がいる。アリサは始めてなのはが言ったのを聞いたとき、目をつり上げて割と本気で説教した。 あのときのアリサは結構本気で怖かった、なのはは後にすずかに語っている。 「今日は終わりですか?」 「多分な」 「じゃあ、帰りましょう」 「そうするか」 ダンテは武器を仕舞い、なのははバリアジャケットを解く。一連の動作は、戦闘が終結したことを知らせる二人の間の取り決めみたいになっていた。 「なのはさぁ、最近また何かやってるでしょ」 「え……えーっと、その……」 「で、また言えないと」 「う……ゴメン」 喫茶翠屋、店外に設置されたテーブルに、なのは、アリサ、すずかの三人が座っている。そこで、最近授業中や日常生活での様子がおかしいなのはにアリサが詰め寄っている場面である。 「まあまあアリサちゃん」 「わかってるけどさ」 「ゴメンね」 以前、PT事件のときも似たようなやり取りがあったのだが、今回は輪をかけて二人は心配をしている。何せ、なのはの言動が急激に悪化しているのだから。 もっとも、その元凶は事件というよりは近く関わっている人間の影響なのだが、そんなのを二人が知る由もなく。 「ヘイ、お嬢さん方。相席させてもらっていいかい?」 平和なテーブルに突如現れた赤いコートを纏った大男。なのはは愕然とし、アリサとすずかは状況についていけず呆然としている。 なのはに悪影響を与えまくった元凶、ダンテがパフェを片手に佇んでいた。 (ちょっと! 何しに来たんですか!?) (周りを見てみな。混んでるんだよ) なのはは思わず念話で聞いてしまう。随分キツイ口調だったが、ダンテの言に渋々周囲を見回すと、中も外もダンテの言うとおり満席だった。 ならば、知った顔のいるテーブルにお邪魔するというのも仕方のないことかもしれない。なのはは嫌々ながらダンテを席に通す。 「あ……この前なのはを迎えに来てた人だ」 「そういえばそうだね」 なのはにとって不幸だったのは、ダンテ自身は覚えていなくても、アリサとすずかはダンテのことを覚えていたことだった。 それもそのはず、三人で帰ろうとしたら校門のところにいたこの男がなのはを迎えに来たと言い放ったのだから。 結局なのははダンテと共に帰り、二人はそのことについて随分議論を交わしたりした。激論だった。曰く、彼氏。ありえない、知人。それこそおかしい。等々。 「えーっと……はぁ、この人はダンテさんって言って、お父さんの昔のお友達なの。それで、今はウチに泊ってるんだ」 なのは、もうどうにでもなれ。まあ、この二人がいるなら余り妙なことは言わないだろう。多分。凄く不安だが、こうなってしまったら変に追い出すのもおかしい。 「そうなんだ」 「うん。ホラ、ちょっと見た目が怖いじゃない? だからこの間は言わないほうがいいかなって思って……」 ダンテが迎えに来た翌日、なのはは随分問い詰められたものだ。結局逃げ回って答えなかったツケがここで回ってきた。 「ふーん?」 「な、なに?」 「いやまさか、なのはにこんな大きな彼氏が出来るなんて思ってもいなくてね」 「ちょ! アリサちゃん!?」 「Easy does it. 落ち着けよ。詳しく聞かせてくれ」 「ダンテさん!!!」 ドガン! とテーブルが割れる勢いで手を叩きつける。衝撃でダンテのストロベリーサンデーが一瞬浮いた。 「ヘイヘイ、そう怒るなよ」 「……誰のせいだと」 「それよか、そっちの二人は紹介してくれねーのか?」 「……アリサちゃんとすずかちゃん。私の親友だから、ちょっとでも怪しいそぶり見せたら本気で怒りますからね」 「アリサ・バニングスです」 「月村すずかです」 「ご丁寧にどうも。俺はダンテ、いつまでこの町にいるかはわからねーが、一つヨロシク」 二人の挨拶に、ダンテは芝居がかった会釈で返す。なのはは本気でとっとと失せて欲しいと思ったが、親友二人はそれを許してはくれないようだ。 「それでそれで、なのはとはどういう関係なんですか!?」 「あー……そりゃー」 いつの時代も女の子の興味はこの話題が一番なのだろうか。ダンテは困ったようになのはを見る。なのはは半眼でダンテに対して釘を刺す。 「妙なこと言ったらほんっきで怒りますよ」 「なのはは黙ってて。是非ホントの事を教えてください」 「ホントってなぁ……照れるよな、なのは?」 「キャーやっぱり!」 「ダンテさんっ!!!!!」 なのは激怒。ダンテちょっとビビる。やはり、女の怒りには勝てそうもない。ダンテは本気で、まだプレゼントであるあれを渡していなくて良かったと思った。 この辺一体が吹き飛んでてもおかしくない怒りようだ。 「オーライ、俺が悪かった。だから落ち着けよ」 「なのはー」 「うう……」 二人でいるときならまだここまで怒鳴ったりはしなかっただろう。 周囲の客もなんだなんだと好奇の目を向けてくるし、喉は痛いし、なぜかなのはが悪いみたいになってるし、踏んだり蹴ったリとはこのことである。 「……そういえばダンテさん、さっきなんとおっしゃったんですか?」 「さっき?」 「ほら、英語で」 「ああ、『Easy does it』落ち着けよって意味だ」 「なのはがこの間言ってたね」 「ちょ! アリサちゃん!?」 「そりゃもう、ダンテさんにそっくりな感じで」 「へぇ?」 「し、知らない。知らないんだから!!」 「Easy does it. 落ち着けよ、テーブルが割れるぞ」 「割れないよ!!!!」 どちらかというと、テーブルが割れるより先になのはの血管が切れそうである。ダンテはそれを見て爆笑していた。止めろよ。 あの後、すずかとアリサが用事があるとのことで解散となり、なのはとダンテは並んで高町家へと帰っていた。 「うう……ひどい目にあった」 「いやー楽しかっだっ!?」 散々なのはをからかって楽しんだダンテに仕返し。思いっきり踏んづけてやった。もっとも、驚いて声が上ずっただけで、ダンテ自身はケロッとしているのであるが。 「ヒデェなおい」 「どっちが」 やれやれ、とダンテは頭を掻きながらなのはの隣を歩く。さっきから頭を抱えたり唸り声を上げたりダンテの足を踏んづけたり、中々どうして傍目で見るには面白い行動を繰り返している。 そんなダンテの内心にも気付かないなのはは明日の学校が憂鬱で憂鬱で仕方なかった。あの二人のことだし、余りおおっぴらに吹聴はしないだろうが、それでも心配は心配だ。 あの二人以外にもダンテの姿を目撃している人物は大勢いるのだから。 「明日どうなるんだろう……」 「なんだ、それなら心配いらねーよ」 「……ダンテさん?」 「明日、出るぞ」 こともなげに言う。なのはは一瞬ダンテが何を言っているのか理解できなかったが、いよいよとばかりに気を引き締め――― 「……でも、夜に出るなら学校は行かなきゃダメじゃないですか」 「あ、そっか」 「…………」 「だから、その可哀想な人を見る目はやめろっての」 なんとも締りのない出発予告になってしまったとか。 「痛たたた……」 「やれやれ、大丈夫か?」 道場に寝っ転がったなのはは、体を苛む鈍痛に顔を顰める。今もまた、ダンテに投げ飛ばされたのだ。 「大丈夫です」 「ならばよし。時間も時間だし、そろそろ終わるか」 「そうですね……」 日課の組み手が終わりを告げる。組み手というか、相変わらずダンテが一方的になのはを攻撃し、なのはがそれをひたすら防ぐという内容だったのだが。 慣れてきて、何とか反撃してやろうと試みたが、全く出来なかったことになのはは内心悔しがる。 「どうだ、ちったあ身についたか?」 「そりゃもう。日々の実戦で実感してますよ」 「ソイツは良かった」 それでも、攻撃ではなく防御と回避、それに通じる危機察知能力を鍛えてくれたダンテになのはは感謝していた。 なのは自身も言ったとおり、日々湧き出る悪魔との戦いで感覚は昇華され、短い期間の割には随分と信頼できるレベルにまでなっていたからだ。 それはもう、今日の授業中が証明している。 「初日なんざ、アてられただけでビビッて足が竦んでたのによ。大した成長だぜ」 今日なんかは、反撃まで入れようとしてきたのだ。ここ数日のなのはの成長にダンテは内心驚嘆していた。 これならば、自身がかつて使った武具を預けることも出来るだろう。この間言ったプレゼントだ。 「そんなお前に、約束のプレゼントだ」 ダンテはどこからか取り出した白く発光する篭手と具足をなのはの前に置く。 「……これが、ですか?」 「ああ。コイツはベオウルフっていう魔具でね。頑張ったお前さんにやろう」 「……どうやって使うんですか?」 「腕と足に填めるんだ」 「大きすぎますけど」 「ベオウルフが認めれば、サイズは勝手に修正される。なに、今のお前なら大丈夫だ」 言われるままに、なのははベオウルフを装着しようとして、大きすぎて無理だったためにダンテに付けてもらう。すると、ベオウルフが激しく震え、発光する。 「きゃっ……あ、あれ?」 「ハハハ、合格おめでとう、ってな」 「凄い……」 なのはのサイズにあわせて小さくなったベオウルフが、なのはの手足で光り輝く。ひょんなことから得た新たな力に、なのはは興奮を隠さずにダンテに向かって聞く。 「で、どうやって使うんですか?」 「そのまま殴れ、って言いたいんだがな。お前さんがそれを使って殴っても大して効果は出ないだろう。こればっかりはしょうがない」 どうしても腕力的な意味で、なのははダンテどころか一般人にも大きく劣る。それはもう、子供だししょうがないことだ。 それでも、出鼻を挫かれたなのはは少しガッカリした様子でダンテを問い詰める。 「じゃあなんで」 「ソイツはスンゲー頑丈だからな。咄嗟のときはソイツで防御しな。そのためのもんだと思え」 「……成る程」 しかし、さすがに意味もなく渡したわけではなかった。レイジングハートは確かに頑丈だが、万が一壊れた場合なのはは戦う手段を失うことになる。 ダンテ自身が知る上級悪魔の攻撃の威力から考えて、最悪の事態にならないないためにもダンテは盾としてベオウルフを預けたのだ。 「コイツはオマケだ。外に行くぞ」 「へ?」 ダンテ、なのはを連れ立って庭へ。ニヤニヤ顔のダンテと、理由が分からないなのはが庭の開けた場所へ出る。 「思いっきり地面を殴ってみろ。掛け声は”Go to the hell”だ」 「はぁ……」 「いいか、全力だぞ?」 「分かってます……Go to the hell!!」 掛け声の意味も理解しないまま、全力で拳を地面に叩きつける。すると、インパクトの瞬間ベオウルフが強く輝き、上空を含むなのはの周囲に白光が吹き上がる。 「え、えええ!?」 「ヴォルケイノ、お前が使えそうなベオウルフの技の中でも最強のもんだ。ここぞってときに使いな」 範囲や威力はダンテが使うときに比べて数段下がるが、元々攻撃力に特化したベオウルフの技だ。なのはが使ったとしても、十分通用する破壊力である。 ダンテはそう判断した。 「あ、ありがとうございます」 「なに、いいってことよ」 「ところで、あの掛け声ってどういう意味なんです?」 「地獄へ落ちろ」 「……良かった、学校で言わなくて」 なのははダンテの言った言葉を覚えていた。意味もわからなかったが、これだけは使わなくて良かったと本気で思った。場面にもよるだろうが、確実に人格を疑われる。 「……掛け声言う意味、あるんですか?」 「ああ、ある。言うのと言わないのじゃ威力が違うんだ」 「ホントですかそれ」 「無論、嘘だ」 無言で振るわれたベオウルフの一撃がダンテの腹に炸裂する。 「いてぇな、おい」 「知りません」 魔界突入まで突然ながら残り一日。なのはは、成長した自分に確かな手ごたえを感じていた。 「ところで、これ着けたまま今日明日生活するんですか?」 「もちろんだ。マミィやフレンドに聞かれたらファッションだって言うんだぜ?」 その夜、なのはがダンテをボコボコに殴ったとか殴らなかったとか。 前へ 目次へ 次へ