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:HALO-THE REQULIMER- クロス元:HALO 最終更新:08/07/13 LV0 Trailer LV1 First contact LV2 START LV3 SPARTAN LV4 Inter Mission I 魔法少女リリカルなのはNumberS『仮面の男』 クロス元:仮面ライダー 最終更新:08/12/01 第一話 拍手感想 TOPページへ このページの先頭へ
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リリカルなのはARC THE LAD クロス元:ARC THE LAD2 最終更新:08/06/04 『第一話:炎に消える真実』 『第二話:ミッドチルダの車窓から(前編)』 『第二話:ミッドチルダの車窓から(後編)』 拍手感想レス :待ってました! これからも頑張ってください。 応援してます。 :アークザラッドクロス、面白かったです。エルクの活躍に期待してます。応援します。 TOPページへ このページの先頭へ
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敏腕時空捜査官 リリカルヒューズ VS 機動六課 クロス元:サガフロンティア裏解体真書「ヒューズのクレイジー捜査日誌」 最終更新:08/02/22 第一話「依頼」 TOPページへ このページの先頭へ
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【レッドドラゴンサイド】四話「武の在り方」Aパート 【市街地】 「グルオオオオオオオ!!」 「ハアッ!」 「すごい…あれが達人同士の…」 ヴェイトとブレードライオンの剣戟戦は熾烈を極め、お互いの剣が激突と鍔迫りを繰り返し火花を散らす。 ディードはそんな二人の戦いに完全に魅入っていた。 そして幾度か激突した後、二人は間合いを取って睨みあう。 「やるなヴェイト…その剣技…天然理心流か…」 「この流派を知っているとは…貴様…元地球人か?」 「違う…俺は強敵を求め、世界中を流離う剣豪だ。だから地球の流派も全て頭にある。」 「何?」 【ブレードライオンの回想】 俺が住んでいた世界は治安が悪く…戦争が絶えなかった… 物心付いたころから殺戮の世界で生きていた俺は、剣の才能に恵まれ、手に入れた日本刀と、自分の卓越した剣腕を振るい…多くの敵を切り殺してきた… (日本刀を振るい、沢山の軍人を斬る少年(ブレードライオン)) そして一ヶ月前…俺の前にAAMONのドクトルGと出合った。 奴は… 「お前を最強の剣士にしてやる。その代わり、我々の指定した人間を斬るのが条件だ。」 とな… そして俺は改造手術を受け、愛刀とライオンの合成怪人となった… ……… 「俺は最強の剣士になった!何もかも切り捨てることができる最強の剣士に!俺はこれからも俺自身の強さと剣の為に人を斬る!俺が最強であるために…」 「違う!」 「ん?」 「剣術は、剣士同士が切磋琢磨するためにあるもの…己の愉悦や憎しみというくだらない個人的な感情のために剣を振るい人を斬るなど言語道断!この私が…「仮面ライダー」の名の下に貴様を切り捨てる!!」 「(龍が…あんなに熱く…)」 ディードは、凶剣を振るうブレードライオンに対し、怒りを剥き出しにするヴェイト=龍の姿に驚く。 「面白い…貴様の言葉と俺の言葉…どちらが正しいか証明してやる…ライダーヴェイト!貴様に決闘を申し込む!」 「何!?」 「二週間後の午後0時!煉獄山の頂上に来い!そこが決闘の場所だ!待っているぞ!」 ブレードライオンはそう言い残し、姿を消した。 「…」 ヴェイトは変身を解除し、龍に戻る。 「龍…」 「…」 龍は持っていたツインブレイズをディードに返す。 「龍、どうしたんですか?」 「今の俺では…奴には勝てない…」 「え?しかし…」 「奴は本気を出していなかった…もし本気で戦っていたら…俺は負けていたかもしれない…」 龍の額から一筋の冷や汗が流れる。 ディードはこんな龍の姿を見るのは初めてだった。 「(龍が…怯えている?)」 「こうなったら…あれを会得するしかない…」 「あれ…とは?」 「天然理心流・無明剣だ!」 天然理心流・無明剣… 篭手、胴、面と三回に渡って素早い突きを繰り返し、引く度に横に払う、別名「三段突き」と呼ばれている剣技。 見ている者には、あわせて一つの突きにしか見えないほど素早い。 これを会得した人物は、新撰組一番隊組長・沖田総司のみと言われている。 「だが、俺は無明剣を会得した人間をもう一人知っている。」 「え?」 「俺の剣術の先輩である、霧山流という人だ。」 「龍の、先輩?」 「百年に一度の天才といわれた剣術家で、無明剣を会得した二人目の人間だ。 だが、今は…」 「今は?」 「…なんでもない。とにかく戻るぞ。」 「はい!」 【陸士部隊支部訓練所】 「ああ!?決闘を申し込まれただ!?」 口を大きく開けて驚くノーヴェ。 「ああ。」 「決闘なんて、変わった怪人もいるもんだね。」 「そうっスねぇ~」 セインとウェンディは感心する。 「俺は無明剣を会得するため、暫く山に篭る。」 「シャッハ、悪いが俺が不在の間、皆の面倒を頼むぞ。」 「はい!この身にかけて!」 「龍!」 胸に握り拳をあて、体育座りから立ち上がるディード。 「何だ?」 「私も…付き合います。」 「駄目だ。」 即答だった。 「!?」 「お前はお前の腕を磨け。」 「…分かり…ました…」 数時間後、龍はテント、毛布、食糧、そして流から貰った名刀「長曾根虎徹」を持ち、煉獄山の隣にある山である地獄山に向かった。 【三日後 陸士部隊支部食堂】 「…」 「ノ~ヴェ~、最近あんまり食べないっスけど、どうしたんスか?」 「なんでもねぇよ…」 「分かった!龍が三日も帰ってこないから寂しいんスね!」 「だーかーら!違う!あたしはあいつが大嫌いなんだよ!」 「そのツンデレがいつまで続くか…」 「…ねぇ。」 楽しそうにノーヴェをからかうウェンディにオットーが話しかける。 「何スか?」 「ディードは?」 「ああ、ディードなら…」 【地獄山ふもと】 「…」 ディードは重箱を両手で持ち、黒い長袖を着、ジーパンを履いていた。 ディードは昼食を自分で作り、龍に届けようとしていたのだ。 「(ちゃんと、龍の口に合うかな?)」 そんなことを考えながらディードは山に登り始める。 【地獄山河原】 ディードは二十分ほど歩き、テントが張られ、焚き火が燃えている河原に着いた。 辺りを見回すと、胴着を纏い、虎徹を正眼に構えた龍の姿を見つけた。 「居た…りゅ…!」 ディードが声をかけようとした瞬間、彼女は龍の姿に驚いた 龍の道着はボロボロになり、体は泥に塗れ、刀の柄には血が滲んでいたのだ。 「龍!」 ディードは急いで龍の傍に駆け寄り、重箱を地面において龍の刀を彼の手から強引に奪い取り、刀身を傷つけないようにそっと重箱の隣におく。 そして彼女は刀を放した彼の掌を見る。 「ディード…」 「…!」 龍の掌は無数の血豆が潰れ、見るからに痛々しい。 ディードは思わずハンカチを取り出して二つに裂き、龍の両手に巻きつけた。 「こんなになって…」 「気にするな…俺は改造人間だ。」 「でも…」 「俺は無明剣を会得しなければならない。休んでいる暇はないんだ。」 「…」 「…だが。」 「え?」 「飯を食う暇はある。」 龍はディードが持ってきた重箱を見つめる。 「流石に、三日連続で蛇やムカデは飽きてきた。」 「蛇?ムカデ?」 「今度演習する時、食わせてやる。」 「あ…はい…」 ……… 四十分後、二人はテントの前で重箱の中身を全て食べ終えた。 「ふう…中々美味いな。初めて作ったとは思えん。」 「本当…ですか?」 「ああ。」 「龍は声がとても低いから…分かりにくいです。」 「そうか…」 少しの間黙る二人。 三分ほど経った後、流石に何か気まずいと思ったのかディードが口を開く。 「そういえば…」 「ん?」 「流と言う人は…どういう人だったんですか?」 「そうだな…三十一歳の若き天然理心流指南免許、奥義「浮き鳥の位」の域に達し、沖田総司しか会得し得なかった無明剣を会得…絵に描いたような剣術の天才さ。」 「今は、どうして?」 「…」 龍はうつむき、目を細める。 「…龍?」 「死んだよ。」 「え?」 【龍の回想 病院 流の病室】 流さんは、心臓に病を持っていた…そして…病が悪化した二週間後、流さんは… 「流さん!流さん!」 「龍…武のあり方を…忘れるな…」 (目を閉じ、安らかな顔で眠りに付く流) 「流さん!流…さん…うわあああああああああああああ!!」 ……… 「流さんは…師範や俺を含む同門の仲間たちに見守られながら…亡くなった…」 「…ごめんなさい。」 「フン…珍しいこともあるもんだな。冷徹なお前が謝るとは。」 龍は立ち上がり、地面に置かれている虎徹を手に取る。 「無明剣…未完成だが見てみるか?」 「!、はい、喜んで。」 「よし…」 龍はテントに後ろのテントに入り、焚き火用の薪を一本もって中から出てくる。 そしてディードから離れると、手に持った薪を空高く投げ、即座に剣を正眼に構える。 そして薪が目先の高さまで落ちてきた瞬間、「でやぁーーー!!」という掛け声と共に三段突きを放った。 三段突きを受けた薪は三つに切断され、地面に落ちる。 「ふう…」 「すごい…三撃の突きをあそこまで速く…」 「それじゃあ駄目だ…」 「え?」 「無明剣の剣閃は、見ているものには見えないほど素早いんだ。どんなに速かろうが、三段の突きが他人の目に見えるようでは不完全だ。ブレードライオンには勝てない。 俺はもう暫くこの山に篭る。」 「そう…ですか…」 「ただ…」 「え?」 「我侭を言えば、これから食事は届けて欲しい。蛇とムカデだけでは、持たない。」 「…!、分かりました。」 【一週間後 夜】 【陸士部隊支部 食堂】 「ねぇ…ディードは?」 「ああ、龍にご飯届けに言ったっスよ。」 「…」 「…」 眉をひそめるオットー、そして面白く無さそうな顔をするノーヴェ。 「ノーヴェ~、ノーヴェもご飯作って持ってったらどうスか?」 「だっかっら!そんなんじゃねぇ!?」 【地獄山 河原】 「…うん、このマリネは美味かった。また作ってきてくれ。」 「はい。」 「…ふっ。」 「?」 「お前は…笑うようになったな。」 「はい…自分でも驚いています…」 「これも剣術のおかげか?」 「それと…」 「ん?」 「龍の…おかげです…」 「…」 龍はマグカップに入ったコーヒーを飲む。 「おだてても、給料は上がらないぞ。」 「私は…」 「まぁいい、今日は遅い。泊まっていけ。毛布はもう一枚ある。」 「…え?ええ!?」 「とって食いはしない。安心しろ。」 「は…はい…それは信じてます。」 【テント内】 テントの中。 二人は毛布に包まり、眠っている。 いや…ディードはそうでもなかったが… 「(なんだろう…ドキドキする…)」 ディードは頬を桜色に染めながら隣で眠っている龍の顔を覗き込む。 「(そういえば…龍はまだ十八歳…寝顔がまだ…幼い…)」 結局、龍を意識してディードは一睡も出来ず、徹夜してしまう。 夜が明け、少し眠そうに支部に戻った後、ウェンディ達に誤解されたのは言うまでもない。 【決闘一日前】 決闘一日前の夕方… 「…」 (薪を空中に投げ、剣を正眼に構える龍。) 「でやあああああーーーーーー!!」 (そして目前に薪が落ちてきた後、三段突きを繰り出す。今度は近くで見ているディードの目にも突きは一段にしか見えない。その完璧な無明剣を受けた薪は、粉々に砕け散った。) 天然理心流・無明剣が完成した。 「龍!」 「ああ、手応えはあった!俺が三人目の無明剣の会得者だ!後は…明日の決闘を待つのみ…!」 「明日は、私も付いていきます。貴方の特訓の成果…この目で見て見たい。」 「分かった。頼むぞ。」 【決闘当日 煉獄山頂上】 煉獄山頂上。 既にブレードライオンが右手の大きな刀を研ぎながら、龍を今か今かと待ち構えていた。 「…来たか。」 ブレードライオンは龍の剣気を察し、立ち上がる。 そしてブレードライオンが見つめている地平線の向こうから、剣道着を身につけ、愛刀・虎徹を腰に差した龍とナンバーズスーツを着たディードが現れた。 「久しぶりだな、ブレードライオン。」 「ん?」 ブレードライオンは傷だらけの龍の姿に驚き、龍の体から発せられる未知の力を感じ取った。 「ヴェイト…貴様、なにか技を身に付けてきたな?」 「…変身。」 龍はブレードライオンの台詞を無視し、ディードを後ろに下がらせてヴェイトに変身した。 ヴェイトは虎徹を鞘から抜き、正眼に構える。 「…」 「戦えば分かる…か…面白い。」 ブレードライオンも右手の刀を構え、刃が冷たく光る。 「ブレードライオン、一騎打ちだ。剣術家同士の戦いに、余計な小競り合いは入らない…!」 「面白い…我が奥義・獅子ノ麗牙(ししのれいが)で貴様を殺してやる…!」 それだけ会話をした後、二人は膠着状態に入る。 そして五分後、木々に止まっていた小鳥の群れが一斉に飛びだった瞬間、二人は一斉に駆け出した。 「獅子ノ麗牙!グルオォォォォォォオ!!」 「天然理心流…無明剣…でやああああああーーーーー!!」 二人はすれ違いざま、お互いの必殺技を振るいあった。 結果… 「ぐっ…あ…!」 ヴェイトが胸部に強烈な斬撃を受けて膝を着き… 「…クックックック…「己の愉悦や憎しみというくだらない個人的な感情のために剣を振るい人を斬るなど言語道断!」…か…」 「ああ。武術は人と人とが切磋琢磨するもの…武のあり方を間違えた貴様に剣を持つ資格はない!」 「見事だ…皇…龍…!」 ブレードライオンの体が三つに分断され、爆発する。 ヴェイトの勝利だ。 「…」 戦いを終えたヴェイトは龍に戻り、そんな龍の傍に離れていたディードがやってくる。。 「帰るぞ、ディード。」 「はい。」 二人はそれだけ言葉を交わすと、ノーヴェ達が待っている陸士部隊支部へと帰っていった。 前へ 目次へ 次へ
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「アグミスより入電。深海にて目標を発見しこれを撃破。結晶体を回収して帰投するとのことです」 「おお、さすがはアグミスだな」 「ストローブ2号より増援要請、単機では火力が足りないようです」 「ダーバーボ、ブルチェック、直ちに向かえ!」 「了解!」 メガドロンの号令の下、戦闘用ワゴン車ダークガンキャリーが物騒な戦士を満載して走ってゆく。 ブルチェックの手によって謎の高魔力結晶体がネロス帝国にもたらされてしばらく、機甲軍団の 結晶体捜索はかなりの成果を上げており、集まった結晶体はすでに6つにもなる。得体の知れない獣や 歩行する大樹、あるいは動植物と融合していない高エネルギー体の形で発見されたそれら全てを、 機甲軍団は火力でねじ伏せてきた。 結晶体の確保に成功した後、傷ついた動物が出てきた場合かいがいしく傷の手当をする ブルチェックが見られたが、それはこの際関係ないだろう。 一見すると順調である。ネロス帝国の繁栄を阻む者は誰もいないかのようであった。 だが、彼らは知らない。その結晶体『ジュエルシード』を求めているのがネロス帝国だけではないことを。 魔法帝王リリカルネロス 第2話「翔く魔導師!娘よ、母の願いを!」 「なんなんだよ、あの鬼婆!!もう11個も集めたっていうのに、何が『いつになったら全部揃うの?』だ! フェイトがどんだけ苦労してると思ってんだよ!」 「アルフ、母さんを悪く言わないで。私が時間をかけすぎてるのが悪いんだから」 とある高層マンションの一室で、そんな会話を行う2人組の姿があった。 片方は鮮やかな橙色のロングヘアーの女性。アルフと呼ばれたその人物は今にも泣き出しそうだった。 頭から突き出た獣の耳とふさふさした尻尾が彼女が人間でないことを示している。 「だってフェイト!あんなのってないよ!今度こそ褒められるかもって思ってたのになんでそんなに ボロボロにされなきゃいけないんだよ!」 もう一方は金髪の長い髪を二つに分けた少女、名はフェイト。アルフの言葉通り、フェイトの体には 至る所に真新しい傷が見える。その傷はフェイトが最も敬愛する人物によって与えられた物だった。 フェイト・テスタロッサは魔導師である。母プレシア・テスタロッサの命を受け、この地球でロストロギア、 ジュエルシードを探していた。彼女は文字通り身を削りながら戦い、21個あるジュエルシードのうち これまでに11個を回収している。全ては母のため、母に喜んでもらうため、だがフェイトのその思いが 報われることは一度としてなかった。 (今までだってずっと冷たい態度だったけど、ここに来てそれが加速している。このままじゃフェイトは あの女のせいで――――――) フェイトに生み出された使い魔であるアルフには、プレシアに対する思い入れは一切無い。むしろ、 フェイトの労苦に報いずただ徒に彼女をいたぶるその姿に憎悪すら感じていた。 本当は優しい人なんだ、ジュエルシードが全部集まればきっと優しい母さんに戻ってくれる、 フェイトは一貫してそう主張し続けていたが、アルフにはとてもじゃないがそうは思えなかった。 むしろジュエルシードが全て集まったら、あなた達はもう用済みよ、などと言って自分とフェイトを 始末しようとするのではないか、とまで考えている。 「フェイト……あの女のとこにいちゃダメだよ。私これ以上フェイトがボロボロになるのを見たくないよ。 ねぇ、2人で一緒に逃げよ?誰の手も届かないところにさあ」 「ダメだよアルフ、ちゃんとジュエルシードを集めなきゃ。……私なら大丈夫だから」 「フェイトぉ……」 フェイトの意志は固い。身も心もボロボロになりながら、それでも彼女は母を信じ続けている。 自らの傷を省みずひたむきに突き進む少女を前に、アルフは心の中で誓っていた。 絶対にこの子を守ってみせる。どんな手を使ってでも―――――― 「ダムネンよ、お前が持っているそれはなんだ?」 このところ姿を見せなかった帝王が謁見の間に現れて、いつものように「余は神!」と宣言した後のこと。 唐突に話を振られたモンスター軍団爆闘士は混乱していた。ぎょろりとした大きな目が不安げに 視線を彷徨わせる。 「お、オレですか?」 「おうダムネン。何持っとるか知らんが帝王のお言葉や、はよ出さんかい」 帝王が興味を持つ物など持っていたか?と焦ったダムネンだが、出撃して数の減っている機甲軍団を見て 思い出した。数日前手に入れたブツのことである。 「もしかしてコイツですか?」 そう言って深紅の宝石を差し出す。 「うむ……それだな」 自分が間違ってなかったことに安堵しつつ帝王に宝石を献上するダムネン。 帝王は指でそれを摘むと、光に透かすようにのぞき込んでいる。 「なんやダムネン、あんなもんどこで見つけてきた」 「この間のフェレットですよ、ブルチェックが持ち込んできたアレの首についてたんです。あんな高価そう な物を動物が持っててもしょうがないんで俺が使ってやろうと、まあブルチェックが部屋から出た後に」 「ガメた、と」 『食うて寝て果報を待つ』などと公言してはばからないモンスター軍団であるが、それは逆を言えば一瞬の チャンスを逃さず物にするという思想でもある。 爆闘士ダムネンは隙を逃さずお宝を手に入れていたわけだ。 せっかく手に入れた宝石を手放すのに抵抗がないわけではないが、タダで手に入れた物が帝王への賄賂と なるなら安い物だ。 「余の考えが間違っていなければ、これの使い方は……」 しばらくの間しきりに何かを呟きながら宝石を摘んだりにらんだり帝王だったが、そのうち動きを止め 何かを考え込む様子で瞳を閉じてしまった。 「……………………」 「帝王…?」 「静かにしろ、帝王の邪魔だ」 宝石を握りしめ黙り込む帝王の様子を不審に思ったバルスキーが声をかけるが、 何かに気付いた様子のクールギンが制止する。 一同が沈黙して帝王の行動を見守る中、全身に魔力をみなぎらせた帝王はかっと目を見開くと 『呪文』を唱えた。 「起動せよ!」 「Stand by ready. Set up」 瞬間、宝石が光を放ち一回り巨大な宝玉に姿を変えた。 『おおおおお!?』 意味不明な現象に驚愕する一同の前で、浮き上がる宝玉を掴む黄金の鉤爪が現れる。 さらにがちゃがちゃと耳障りな金属音を立てながら生えてくる人骨のような部品。 光が収まった後には、血のように赤い宝玉で飾られた白色の杖を持つ帝王の姿があった。 「帝王、それはいったい?」 「ふむ……これもまた魔法に関わるもののようだな。時を同じくして現れた結晶体とこの杖。 何らかの関係があるやもしれん。早急な調査が必要だ。時に……」 目をすっと細めた帝王がモンスター軍団長に視線を向ける。 「こんなものを持つ者がただの動物というわけはあるまい。いずこかの組織が諜報のために 送り込んだ者やもしれん。手抜かりだなゲルドリング」 「げえっ!?……いやいや帝王。たかが動物一匹に出来る事なんてありませんで」 「この杖に発信器が仕掛けられていたらどうする?このゴーストバンクの位置が 特定される可能性もあるではないか!」 帝王ゴッドネロスは徹底的な秘密主義者である。自分自身の過去をほぼ完璧に消すだけでなく、 ネロス帝国の存在が誰にも知られないよう常に情報の隠蔽を怠らない。 ネロス帝国と取引のあるごく一部の死の商人であっても、その本拠地であるゴーストバンクの ことまでは知らないほどである。 ゴーストバンクはその所在を知られないために通信等を妨害する素材で防護されているが、 未知の技術によるこの『杖』に対応しきれているかどうかは分からない。 それ故に帝王は怒りを露わにしているのである。 「いやっ、それは……そもそもブルチェックのやつが持ち込んだのが発端でっせ!」 「隅から隅まで調べた、そう報告したのはお前だったな」 「余計なこと言わんでええ!」 貴重品を献上しててっきりお褒めの言葉が来ると思ったら逆に懲罰の話である。 更には横からのクールギンの言葉に、ゲルドリングの焦りは加速する一方だった。 (何や、最近こんなんばっかりやがな。大体動物1匹でそんなに大騒ぎすることも…… ヤバイ、帝王の目つきが厳しくなってきとる。ありゃマジや、何とかせな………あっ、そうや) 「帝王、あの動物の調査したんは実はダムネンとザケムボーでして」 「えええ!?軍団長そりゃないですよ!」 「やかましい!軍団長が罰を受けそうなときは身を挺して庇うんが部下の務めやろが!」 「たまには戦闘ロボット軍団みたいに『責任はワシが取る』とか言ってくださいよ!」 「そんな殊勝なこと言うたらワシはワシでなくなってしまうわ!」 「ええい黙れい!!」 途端に始まる醜い争いを一喝して中止させた帝王は、苛立った様子で裁定を下した。 「ダムネン、ザケムボー両名は烈闘士へ降格とする」 「ひぃー、そんなあ……せっかく激闘士まであがったのに」 「お前なんかマシだろ!?オレは2階級下がるんだぞ! おそれながら帝王、その宝石を確保しておいたオレの方が罰が重いのは何故ですか!」 「黙らんかい!お前ら帝王のお言葉に逆らう気か!」 「ダムネンよ、お前が直ちにその宝石を提出していればあの獣を逃す事もなかったからだ。 そしてゲルドリングよ、調子に乗るな。モンスター軍団に失態が続けばお前への制裁も 考えねばならんのだぞ?」 「……!!もちろんわかっておりますがな!!」 「先の獣から情報を手に入れた何者かがゴーストバンクへの侵入を図るやもしれん。 各員警戒を怠るな!」 ふう、とため息をこぼしながら帝王は呟く。 「お前達に魔力を感知する機能を与えておかなかったのは余の過ちであったか」 「帝王!一大事です!!」 出撃中の戦闘機型機甲軍団員ストローブが飛び込んできたのは場が解散しようとした頃だった。 「何事だ」 「結晶体の回収中にバーベリィが未確認の敵と交戦、撃墜されました!」 同時に室内に運ばれてくるバーベリィ。ヘリコプター型のアイデンティティとも言える背中のローターは 醜く折れ曲がり、体の所々が土にまみれひしゃげている。また背中には大きく切り裂かれた痕がある。 バーベリィは倒れ伏したまま体を痙攣させ、起きあがることもできない様子だった。 「まことに申し訳ございません…!」 「未確認の敵とは何だ?」 クールギンに問われたストローブだが、その言葉は要領を得なかった。 「人間……だと思うのですが、あれが人間かどうかは正直理解しかねる物がありまして」 「もうよい、記録を出せ」 「はっ!」 帝王の命を受け、バーベリィの記録をモニターに映し出す。 その光景は先行したバーベリィの報を受け、第二陣としてストローブが合流する少し前のものだった。 偵察中に発見した不審な物体、それはかなりの広範囲に渡ってそびえ立つ巨大な樹木群であった。 昨日までここは普通の森林だったはずだが、たった一日で木の大きさが3倍ほどに跳ね上がっている。 おそらく例の結晶体だとあたりを付けたバーベリィなのだが――――――― それ以上にとんでもない物を見つけてしまった。 「本部、大変だ。子供が空を飛んでいる!」 『……バーベリィ、何を言っている』 ひどく困惑した通信が返ってきた。 金髪の少女が空を飛んでいる。ローターもロケットブースターも無しに空を飛ぶその少女が 呆気にとられるバーベリィの前で高出力のビームらしきものを照射すると、一本の樹木にそれが当たり、 探し求める結晶体が幹から飛び出しふわりと空に浮かんだ。同時に巨大化していた樹木群が縮み、 森は普段の姿を取り戻していく。 「空を飛ぶ子供がビーム砲を発射……結晶体が出てきた!?」 『どうしたバーベリィ、回路が狂ったか!報告は正確にしろ!』 「結晶体を狙う敵が出現………だが所詮は子供一人、オレ一人で十分だ」 『おいバーベリィ!』 「通信を切ったか……戦闘状態に入ったのか?」 バーベリィの通信相手だった豪将メガドロンは、高射砲型の頭をひねっていた。 報告は今ひとつ意味が分からない。しかし、敵が居るのは間違いない様子だった。 「メガドロン、どうしたのですか?」 「バーベリィが何者かと交戦を開始したようだが状況が不明瞭だ、ストローブを急行させろ」 「了解」 ストローブが急いでいる頃、そこでは空中戦が行われていた。バーベリィと、黒衣の少女、 魔導師フェイト・テスタロッサとの青い結晶体をかけた戦いが。 「ジュエルシードは……渡さない!」 「ジュエルシード?それがあの結晶体の呼び名か!」 「知らずにあれを欲しがるの!?」 背中から生えたローターで飛行する乱入者の姿があまりに予想外だったため一瞬とまどった フェイトだったが、すぐに思考を切り替えて戦いに集中することにした。 邪魔が入る可能性は考えていたし、そのための訓練も受けてきたからだ。 一方のバーベリィは実戦経験ではフェイトの比ではなかったが、『高速飛行する人間』との戦闘は 未経験である。まして魔法というものには無知も同然だった。 「くらえ!」 バーベリィから発射される小型ミサイル、人間に直撃すれば粉微塵に吹っ飛ぶのは間違いない。 それをフェイトは戦闘ヘリですら不可能であろう挙動で回避する。 スピード自体はバーベリィの方が上だろうが、小回りの良さから来る瞬間的な機動性はフェイトの方が 上であった。 奇怪な能力を持ってはいるようだが所詮は子供。そう侮っていたバーベリィは驚愕していた。 そして同時に怒りが沸いてくる。 「人間が、何故空を飛んでいる」 彼にしてみれば許し難いことであった。ネロス帝国の中でも空を飛べるのはストローブとバーベリィのみ。 これまでも各国の空軍と渡り合い戦闘機やヘリを数多く落としてきている。 いわば空は自分たちの縄張りなのだ。 だというのに、目の前のこの娘は飛行用の装備など持たないまま空を飛び、あまつさえ自分たち ネロス帝国に刃向かってくる。 「あなたこそいったい何!?」 叫びながら発射される金色の光弾、フォトンランサーがバーベリィを掠めていくが、掠めたくらいでは ダメージになっていないのかバーベリィは動きを止めない。 「効いてないの……?なら、これで…!」 「Photon Lancer Multishot」 フェイトの周囲に浮かび上がる8基のフォトンスフィア、それぞれが10発ずつのフォトンランサーを 生みだし、周囲にばらまく。 「うおわぁっ!」 先ほどの単発の攻撃とは違って、さすがに広範囲にばらまく高速弾は回避しきれなかったのか、 バーベリィの体に20発あまりのフォトンランサーが突き刺さる。 「終わった…?」 「効かんな!」 倒したかと思い油断したフェイトにミサイルによる返事が返ってくる。 電気を帯びない純粋な魔力攻撃はバーネリィを驚かすことは出来ても、その鋼の体にはダメージと ならなかったのだ。 「Defenser」 不意を突かれたフェイトを、自動的に展開された防御魔法が守る。 だが爆発による衝撃は大きく、防壁越しにくる衝撃は直撃すればどれほど危険かを感じさせてくれる。 ――直撃すれば死亡する可能性あり―― バルディッシュからの警告はもっとはっきりその危険性を伝えていた。 今まで感じたことのない寒気がフェイトの背筋を走る。 「バ、バリアだと!?」 そしてバーベリィは眼前の光景が信じられなかった。 人間がバリアを張り、しかもミサイルが通じないほどの強度であるなど。 ネロス帝国にもそんな技術はなかった。 「くそっふざけるな!機甲軍団の雄闘が子供一人に!」 (手加減なんてできる相手じゃない……全力でどうにかしないと!) 恐るべき相手に対し、お互いに高速で飛び回りながら隙を探す。フェイトはその中で相手の正体を推測する。 ヘリのようなローターでの飛行、全く感じない魔力、防護服と言うよりは全身が機械そのものに見える外見。 感情豊かに喋る点を除けば傀儡といえなくもない。フェイトはフォトンランサーが通じなかった理由に 思い当たった。 (そうか、あれがこの世界の傀儡兵なら魔力攻撃じゃ意味がないんだ。だったら!) 「Scythe form Setup」 フェイトの杖が姿を変え、光の刃が大鎌の形をとる。それと同時に飛行速度が落ちるフェイト。 「疲れてきたか、スピードが落ちているぞ!」 それを好機と見たバーベリィは一気の勝負をかける。彼はフェイトの罠にかかったのだ。 「もらっ……」 「Blitz Action」 「たぞ……?」 フェイトの背後を取ったはずのバーベリィだったが、体当たりをしようとした瞬間その姿を見失った。 「Scythe Slash」 「ぐあっ…!」 敵が瞬間的に凄まじい加速をして自分の背後に回り込んだことに考えがいったのは、背中を深く 斬りつけられてからだった。 「敵が斬りつけると同時に内部に電流を流され……機能の大半がやられました…」 ジュエルシードと呼ばれた結晶体が少女の杖に吸い込まれる映像を流しながら、バーベリィは報告を 続ける。交戦記録はストローブが救援に来たところで終了していた。 「ストローブ、お前は敵の姿を見たのか?」 「いや、オレが到着したときにはもういなかった。バーベリィの交戦記録はすぐにチェックしたんだが オレ達では何が何やら分からなかった」 バルスキーの問いに答えるストローブは、しきりに首をひねっている様子だった。 それも当然のこと。高魔力結晶体なるものを集めだしたとはいえ、機甲軍団の捜索方法は目視による 異常な生物の発見に頼っている。センサーに反応もしないエネルギーが相手では判断のしようがない。 この映像を唯一理解しているのはやはり帝王だけだった。 「これは魔法だ。余の操るものとはまた異なる戦闘用……しかも高度に洗練されている」 「魔法!?こ、これが……」 「魔法とは、人間にこれほどのことを可能とさせるものなのですか?」 バルスキー、ドランガーは驚きを隠せない。 「これほどのものは余も知らぬ。よもやバーベリィを上回るとはな……恐るべき力よ」 「だからといって小娘一人に墜とされるなんぞ軍団の恥さらしとちゃいますか?」 ゲルドリングの嫌味な言い方に腹は立つが、その内容はドランガーにも理解できる。 失敗者には罰を。これはネロス帝国における不変のルールだ。 「帝王。この者の処置、いかがなさいましょう」 バーベリィの首もとに剣を突きつけながら、ドランガーが尋ねる。 「本来ならば銃殺。……だが偵察飛行には欠かせぬやつだ、より強力なパワーを与えよ」 「ありがたきお言葉、痛み入ります。連れて行けぃ!」 ダーバーボとストローブに両腕を掴まれたバーベリィはそのまま改造室へと連れて行かれた。 その光景を横目で見ながらクールギンが進言する。 「帝王。この娘、捨て置くわけにはいきません。至急討伐すべきかと」 「それやったらワシらに任せや!ここらで汚名返上しとかんといかんからな」 それに対し名乗りを挙げたのはゲルドリング。無論帝国の未来を考えて、などということはなく 帝王に媚びを売っておかないとマズイという打算からの発言だった。 「帝王!我がモンスター軍団の精鋭ならばあんな小娘の一人や二人どうということはありませんで」 「いや、ここは我が戦闘ロボット軍団に任せていただこう」 さらに出撃を表明するバルスキー。 なおヨロイ軍団は名乗りをあげていない。自分たちが格闘技や剣、槍など近接戦闘に 特化しているが故に、空を飛ぶ相手との戦いに向いてないことを理解しているからだ。 また機甲軍団も、すでに結晶体探索の任務を帯びている上、バーベリィが撃墜されたことで 慎重になっているためか沈黙を保っていた。 「そもそもモンスター軍団に空を飛ぶ相手を落とせる者がいるのか?」 「あのガキかてずっと飛んでるわけやないやろう、地上に降りた時を狙えばええんや」 「我が軍団には射撃に優れた者も多い。飛行する相手といえども遅れはとらん」 「討論はそれまでだ。決着は勝負で付けろ!」 白熱するバルスキーとゲルドリングの言い争いをクールギンが止める。 「よっしゃあ、バンコーラ、来い!」 「おお!」 「トップガンダー!」 「………」 ゲルドリング、バルスキーの呼びかけに応えてモンスター軍団暴魂バンコーラは勢いよく、 戦闘ロボット軍団雄闘トップガンダーは静かに人混みをかき分けて出てくる。 バンコーラは両肩に甲羅のようなプロテクターを持ったモンスターで、自在に伸びる腕を武器とする。 一方、漆黒のボディに隻眼の戦士トップガンダーは、愛用の狙撃銃で常に一撃必殺を成し遂げてきた 凄腕のスナイパーである。 任務と、軍団の名誉をかけて2人の戦士が向かい合う。 「よし、はじめ!」 クールギンの言葉を受けて鳴り響くファンファーレを切欠に、一気に距離を取る2人。 同時に周囲にいた者達が揃って部屋の隅まで退き、謁見の間は簡易コロシアムとなった。 ネロス帝国ではしばしばこのような任務の取り合いが起こる。帝王直々の困難な任務を無事成功させれば 上の階級へと昇進できる可能性が高く、腕に覚えのある者達は我先にと志願するのだ。 そして志願者が複数の場合、多くは決闘によって任務の受領者が決められる。 いわば御前試合とも言えるこの戦いは帝王も認めており、強者こそが正義であるネロス帝国の 在り方を示す物と言えよう。 円を描くように互いの間合いを計るバンコーラとトップガンダー。ひとしきり睨み合った後、 トップガンダーが勝負の形式を申し出た。 「この銃を、オレより速く手にすることが出来るかどうか。それが勝負だ」 「よぉーし、いいだろう」 スナイパーでありながら正々堂々とした戦いが好みであるトップガンダーは、銃や剣のような 武器を持たない相手にはしばしばこのような形式での立ち会いを望む。 伸縮自在の腕を持つバンコーラは、随分自分に有利な勝負が来たものだと内心で笑いながら快諾した。 「おい」 合意が成立したトップガンダーは帝王に仕える秘書Kを呼ぶと、自分の銃を手渡した。 「これを向こうに置け」 「はい」 受け取った銃を二人から離れた場所に置いた秘書Kが壁際まで下がると、バンコーラはすり足で少しずつ 動き出した。 「………………」 「………………」 対してトップガンダー全く動きを見せない。 現在バンコーラと銃の距離は2メートル、既に目標は彼の射程の中にあった。 対してトップガンダーからは、5メートル近くの距離がある。 (……いける!) 相手が勝負を捨てていると思ったバンコーラは一気に勝負を付けることにした。 だがトップガンダーはバンコーラが腕を伸ばそうとした瞬間ジャンプ! 一部の無駄もなく組み上げられた機械の肉体が持つ瞬発力は、バンコーラの予測を越えて凄まじい。 あたかも黒い弾丸のように打ち出されたトップガンダーは転がりながらライフルを掴み、 立ち上がると同時に構える。その銃口はバンコーラを捕らえていた。 「う……まいった…」 「勝負あり!」 クールギンの声が響く。 「何やっとんやアホンダラ!」 「さすがだなトップガンダー」 去りゆくバンコーラの後ろ姿に罵倒を投げかけるゲルドリングと、満足そうに頷くバルスキーが 対照的だった。 「トップガンダー、お前のその狙撃銃であの娘を倒せるか」 「……………」 「トップガンダーはこれまで帝王の邪魔になる世界各国のVIPを取り除いた必殺のガンマン。 軍団長の名にかけてお約束いたします。そうだな?トップガンダー」 戦闘ロボット軍団長バルスキーはトップガンダーを高く評価している。沈黙を保っているからといって 任務に恐れをなしているとは微塵も考えてはいない。 事実、口を開いたトップガンダーから出た言葉は現状を冷静に分析し、勝利を目指す戦士のものだった。 「帝王、今のままでは心許ない。銃のパワーアップの許可を」 「なんや、小娘一人にびびりおって。そのごつい銃は飾りかい」 「なんだと!」 ゲルドリングが一々入れる嫌味に、戦闘ロボット軍団の中でも血の気の多い者達は怒りを露わにする。 しかし当のトップガンダーは一切無視して話を続けていた。 「バーベリィのミサイルを受け止めたということはあの娘の防御力は戦車並かそれ以上! あのバリアを貫くには今以上のパワーが必要だ」 「よかろう、お前の望むようにするがいい」 だがトップガンダーの要求は止まらない。 「それともう一つ、あの結晶体をお貸しいただきたい」 「言葉が過ぎるぞトップガンダー!あの結晶体は今や帝国の最重要捜索目標、 軽々しく手に入れられると思うな!」 思わず声を荒げるドランガーを軽く手を振って制すると、帝王はトップガンダーに尋ねた。 「あれは戦闘ロボット軍団が持ったところで意味のない物。何故にお前が欲しがるのだ」 「理由は一つ、あの結晶体のあるところに必ず娘は現れる」 「なるほど……」 トップガンダーがもし暗殺に失敗すれば帝国はジュエルシードを1つ失うことになるが、 仕損じ無しのスナイパーが後れをとるはずがない。それにあの娘を仕留めた後、死体から 先ほどの杖のような未知の技術に関する情報が得られるかもしれない。帝王の決断は早かった。 「よかろう、だが失敗は許さんぞ。必ずやあの娘を葬るのだ!そして任務遂行後は娘の死体と装備品の 回収を怠るでない。よいな?」 「しかと承った」 「なんてこった……」 「あんまりだ……」 妖しげな蒸気が漂うモンスター軍団の本部。その片隅では2人のモンスターがどんよりとした空気を まとって落ち込んでいる。 セミ型モンスターのザケムボーはどこかに飛んでいきたい気分だった。飛べないが。 一方のダムネンもやけくそ気味に暴れたい衝動に駆られていた。こんな時には弱者をいたぶるような 仕事で憂さを晴らしたいものだが、生憎とそんな任務の予定はなかった。 そこに通りがかった電磁鞭の怪物、雄闘ガナドーンが2人に声をかける。 「お前ら、軍団長の召集がかかってるぞ。手の空いてる奴は全員来いってよ」 戦闘ロボット軍団がトップガンダーの銃を強化している頃、モンスター軍団ではゲルドリングによる ありがたい訓辞が行われていた。悪巧みとも言う。 「戦闘ロボット軍団だけに手柄を持っていかれてたまるかい。お前ら、ワシの顔を立ててみい!」 要は他人の手柄を横取りしてこいという話である。実にモンスター軍団らしい話であった。 任務の正式な受領者で無かろうが、多少命令違反しようが、確かな成果さえ上げれば帝王はそれを 認めてくれるため、軍団間での足の引っ張り合いに近いこういう自体も時には起こる。 また四つの軍団が鎬を削るこのネロス帝国の中でも、ゲルドリングは特に労せず成果を得るのを 好む幹部であった。他の軍団の手柄を横取りというならなお気分がいい。 「あの娘の首を持ってくれば下げられた階級も元通りかもしれねえな」 「よし、トップガンダーの手柄を横取りしてやろうぜ」 そして軍団員もまたそれに倣っている。ダムネンとザケムボーはさっそく新しい手柄を求めて 動き出そうとしていた。 もともと成長が早い代わりに寿命が短いモンスター軍団は、過去のことにあまりこだわらない。 目の前にチャンスがあるなら以前失敗したことはさておきそれに全力投球するのだ。 立ち入る者のいないネロス帝国の領域、採石場にカモフラージュされた演習場で トップガンダーはただひたすらに待っていた。 無造作に転がされたジュエルシード、それにターゲットが食いつくのはいつになるか。 1時間後か、1日後か、1ヶ月後か。 スナイパーは獲物が罠にはまるまでひたすら待ち続ける。ロボットであるが故の、人間を遥かに上回る 鋼鉄の忍耐。唯ひたすらに待ち続ける。 トップガンダーは常に任務を一人でこなしてきた。彼なりの「殺しの美学」の故である。 戦いにおいてはフェアプレイ、それがトップガンダーの信条だ。 標的がもし年端もいかぬ娘ではなく一人前の戦士であるならば、彼は狙撃による暗殺ではなく 正々堂々とした立ち会いを望んだだろう。 しかし、いくら特異な能力を持っていても所詮は子供。全力を傾けて殺し合いたい、トップガンダーに そう思わせることは出来なかった。ネロス帝国においては、女子供は無力な物という認識が一般的な ため、彼にとってフェイトは「獲物」であって「敵」とは成り得ていない。 そのためにジュエルシードを囮として使い、待ちの戦法を取っている。 だが、心静かに標的の到来を待つトップガンダーの集中をかき乱す者達がいた。 (あいつらは何をやっている) 降格されたばかりのモンスター軍団烈闘士ダムネン、ザケムボーの両名がジュエルシードの周りを ウロウロしている。離れた場所に隠れているトップガンダーにはまったく気付かない様子だった 自分の任務を邪魔されるのは何よりも気に入らない。 足元に銃弾を撃ち込んで追い払おうとしたそのとき、ジュエルシードがまばゆい光を放ちだした。 「うわあああ!何だこりゃあ!」 帝王が手にしたときと同じ輝き。それがザケムボーの体を包むと、彼の体は全長6メートルを越える 巨大なセミの姿となっていた。 『ううおおおおおなんか分からんが力が漲ってきたあああああ!!!!』 「ザ、ザザザケムボー!?」 『トップガンダーがなんだああああ!!今のオレならあんな小娘の1人や2人いいいい。 捻りつぶせええるううううおおおおおおおお!!!!』 「おいザケムボー!落ち着け!!パワーアップしたのは分かったから超音波やめ……うぎゃああ!」 ブルチェックの発見した犬のように巨大化して暴れ回るザケムボーの攻撃が、 ダムネンに命中したのが見える。 「成る程、機甲軍団に探させるわけだな」 欲望に反応するとかいうあの結晶体の力は、おそらく生物でなければ反応しないのだろうと トップガンダーは見当を付ける。 戦闘ロボットが持ったところで意味がない、という帝王の言葉もあった。 しかしこのまま放っておくわけにはいかない。どうしたものか―――――と考えていたところで 予想外に早く来た客の姿が目に入った。 「ジュエルシードが発動してる」 「すぐ見つかってよかったじゃないか」 長距離探索魔法によってジュエルシードのおおまかな位置を捕捉したフェイトとアルフは、目的の エリアに近づく途中で強大な魔力の発動を感じた。ジュエルシードが何らかの原因によってその力を 解き放った証だ。 前回正体不明の敵にフェイトが襲われたことで警戒を強めたアルフは、別行動をとるのをやめ 常にフェイトのそばにいるようになっていた。 「あれだね?」 「うん」 遠くに見える巨大な虫がジュエルシードを取り込んでいるのは間違いない。 今までに虫と融合した例はなく、また巨大昆虫というのは生理的に受け付けないものがあった2人だが、 封印自体はいつもと変わらないだろうと思っていた。 しかし近くまで寄ったとき彼女たちは驚愕することになる。 『おおおお!来たな、ネロス帝国に刃向かう小娘え!』 「しゃ、しゃべったあ!?」 「まさか、人間なの!?」 今まで12個のジュエルシードを回収してきたが、融合した生物が人語を解したケースは無かった。 前回のような邪魔が入る可能性を考えて行動を共にしていたアルフとフェイトだが、こんなことは さすがに予想外だった。 『おれはモンスター軍団烈闘士ザケムボオオォォォ!!!』 「モ、モンスターだって?」 「人間じゃないの!?」 フェイトは何となく前回遭遇したヘリ型傀儡兵の関係ではないかと思ったが、今は詮索するべきでは ないと判断し、念話での通信に切り替えて戦闘に突入した。 (さすがにロストロギアだ、訳分かんないもんが出てくるね) (とにかくあれを封印しないと) (オッケー、まずはあたしからいくよ!) アルフは人から狼の姿に変わると、数発の光弾を放ちながら相手の様子をうかがうことにした。 ザケムボーが鈍重な体を揺すってそれを回避しようとしたところで、金色の呪縛がその全身にからみつく。 バインドで縛られた巨体にアルフの魔法が容赦なく撃ち込まれる。 『なんだこりゃ……いてえっ!』 ザケムボーが痛みに仰け反ると、バインドが軋みだす。 このうっとおしい縄だか鎖だかを外さないと動くこともままならないと、いささか弱くなった頭で 考えたザケムボーは全身の筋肉に力を込める。力に満ちた今の自分ならこんなもの壊せるはずだという 自信があった。 『こんなものおっ!』 雄叫びと共にバインドは引きちぎられた。 (嘘!フェイトのバインドをこんなにあっさり!?) (確かにパワーはすごいけど……付け入る隙はあるはず) 眼前の怪物との戦闘に集中するフェイトとアルフは、自分たちが観察されていることに気付いてなかった。 離れた崖の上に潜んでいたトップガンダーは慎重に標的の動向を探る。 (小娘1人かと思っていたが、モンスター女とつるんでいたか) 戦闘に際し狼の姿になるアルフ。ネロス帝国の常識で言えば、人の姿と人以外の姿を持つ彼女は 『モンスター女』にカテゴリー分けされる。 それにしては変身後の姿は随分と綺麗な物だ、と遠目に見たトップガンダーは素直に感心した。 そして同時にジュエルシードをエサにした作戦が無駄にならなかったことを喜んでもいた。 (囮としては十分すぎるほど役に立ってくれているな) というより、そもそもザケムボーは戦力としてまったく役に立っていなかった。 『どうだあああパワーアップしたオレの力はああああ!!!!』 ザケムボーの巨大な腕が薙ぎ払ったのはフェイトが数秒前にいた空間だった。 『くらいやがれええええ!!!』 超音波があさっての方向に放たれる。 『うおおおおお!!』 吐き出された溶解液がジュウジュウと音を立てて地面を溶かす。宙に浮いているアルフは 吹き上がる酸性のにおいに思わず顔をしかめた。 ザケムボーは明らかに自分の力を持て余していた。大きすぎる自分の体をうまく動かせず、 強化された超音波も溶解液もすばしっこく立ち回るフェイトとアルフにはかすりもしない。 砕かれ、溶かされるのは周辺に転がる岩や地面ばかりであった。 『くっそおおおおこいつらなんで当たらねええええええ!!!』 (フェイトの言ったとおりだね、こいつパワーはすごいけど制御は全然だ。 あたしがかき回しとくからその間に封印を) (分かった、ケガしないでね) (こんなノロマな攻撃、当たりゃしないよ!) 上空へと上がるフェイトと低空に残るアルフ。ザケムボーは羽が生えてはいるが空が飛べないため、 射程外に逃れたフェイトはひとまずおいてアルフから叩くことにした。 『おまえがどこのモンスターかしらねえがああぶっつぶしてやらああああ!!!』 「あんたみたいなのと使い魔を一緒にするな!」 怒りと共に叩きつけられるフォトンランサーの散弾。バーベリィと違い生身の体であるザケムボーには、 魔力による攻撃が激しい痛みとなって襲いかかる。 もしザケムボーが人並みの知恵を持たない生物であったならば、ジュエルシードの波動に身を任せて 本能的な魔法防御を修得していたかもしれない。 しかしなまじ融合後も意識が残ったために、ジュエルシードは「手柄を立てる力が欲しい」という ザケムボーの邪な願いをパワー偏重のアンバランスな強化で叶えることとなってしまった。 あるいは魔法というものをもっとよく知っていれば、これほど魔力に対する防御がおろそかに ならなかったかもしれない。 『痛ええええええええ!!!!』 巨大なセミが叫びながらもがく様は快いものではなかった。 (これだけデカイとクルもんがあるねえ……) (すぐに終わらせるから……………いけるよアルフ) (了解、ぶちかましてあげな!) 「撃ち抜け、轟雷」 ザケムボーの視界のはるか上方、空に作られた金色の魔法陣の中でフェイトは厳かに唱える。 アルフが時間を稼いでくれたお陰で、魔力の収束は十分過ぎる程だ。 「サンダースマッシャー!!!」 高出力のビーム砲、とバーベリィが評した砲撃魔法は、苦痛にのたうち回るザケムボーを貫いていった。 「それじゃあ封印封印っと。さっさと終わらせてこんな薄っ気味悪いもんがいるとこ離れよう」 「うん。……バルディッシュ」 「Sealing form. Set up」 地べたに転がりひくひくと痙攣するザケムボーの巨体に何重ものバインドをかけた上で、 フェイトは杖を変形させた。バルディッシュから放たれた光がザケムボーの額に当たると 禍々しく輝く結晶は光を失って浮かび上がり、フェイトの方へと一直線に飛んでいく。 「……!!Defe…」 ――――――ガアンッ!――――――― ジュエルシードがバルディッシュに吸い込まれようとしたそのときだった。 固いもの同士をぶつけ合ったような音と共にフェイトの体が跳ね飛ばされたのは。 「……え?……フェイト!!」 一瞬アルフは何が起こったか理解できなかった。 しかし、1秒にも満たない思考でフェイトが攻撃されたことを理解したアルフは、意識を失い落ちていく 主を守るため飛び出す。 完全な奇襲。アルフの魔力で強化された五感も野生の勘も、完全に気配を絶った狙撃手の前では 役には立たなかった。 平時ならば防壁を張るであろうバルディッシュも、ジュエルシードの回収に処理能力を割いていた この時だけは対応しきれなかったのだ。全てはトップガンダーの予定通り。 フェイトが生きていること以外は。 (このライフルでも貫けなかっただと!?) トップガンダーの優れた視力は、通常のライフルを上回る大きさの弾丸が少女のこめかみを捉えるも、 その防御を突破できず鈍器で殴られたような衝撃を与えたに留まったのをはっきり確認していた。 バルディッシュが咄嗟に発動しようとした防御魔法がギリギリのところでフェイトの命を救ったのである。 (魔法とは人間にここまでの防御力を持たせるのか……だが衝撃を防ぎきることは出来なかったようだな) 墜落していくフェイトを、アルフが抱きかかえるのが見える。 (そしてモンスター女、お前もこれで終わりだ) 1人目の標的はエサに食いついたところを狙い撃ち。2人目はお荷物を抱えている。 ネロス帝国で最高のスナイパーが外す道理はなかった。 フェイトの跳ね飛ばされた方向から狙撃手の位置に見当を付けたアルフは、フェイトを庇うように 抱きかかえながらその方向にプロテクションを張る。 その刹那。 ぎいんという衝突音と共に、展開されたプロテクションに巨大な弾丸が深々と突き刺さっていた。 しかもその弾道はアルフの額を捉えている。 だが、逃走を図る暇もなく、2発目の弾丸がすぐそこまで来ているのが見えた―――――― (ヤバ…!) 全く同じ弾道を辿ったそれはプロテクションに刺さった1つ目の弾丸を後ろから押し込む。 拮抗したのはほんの一瞬のこと。防壁を突き破った銃弾はアルフの頭蓋に叩きつけられ、 痛撃をもって彼女の意識を奪い去る。 トップガンダーの技量のなせる神業であった。 僅か数秒にも満たない攻防が終わり、現場に転がっているのは頭部への凄まじい攻撃により 撃墜された少女と狼女。そしていつのまにか地面に落ちていたジュエルシードだけである。 しかしトップガンダーの胸中には勝利の喜びはなかった。 「3発撃ってあいつらはまだ生きている………この勝負、オレの負けだ……」 どんな相手も一発で仕留めてきた凄腕スナイパー、そんなプライドはたった今砕かれた。 殺し屋である自分に狙われて生き延びている。それ故に彼は自分が敗北したと感じていた。 気絶した2人にとどめを刺すつもりはトップガンダーにはない。 「………本部、聞こえるか、こちらトップガンダー。目標の娘とその仲間のモンスター女を 生け捕りにした。直ちに回収部隊を送ってくれ」 だからといって見逃すつもりもなかった。ネロス帝国の戦闘ロボット軍団として、任務を放棄 するような真似は出来ない。それに、せっかく生きたまま無力化したのだからこの2人から情報を 吐かせるべきであるし、その内容にもトップガンダーは興味があった。 一体何者で、何故こんな力があるのか。そして、正面から闘えばどれほどの力があるのか。 彼にしては珍しく好奇心というものが沸いていた。 なお後年、友と思っていた同僚に裏切られたトップガンダーはフェアプレイの精神への執着を強め、 任務の達成よりも自分の美学を重んじるようになってしまうのだがそれはまた別の話である。 一方その頃。 「それであなたは、ジュエルシードを自分で回収しようとこあの世界に行ったのね?」 「はい……」 次元航行艦アースラ、その中では管理局に救助されたユーノがリンディ・ハラオウン艦長、 クロノ・ハラオウン執務官の2人に事情聴取を受けている。 ようやく安心できる場所に来れたというのに、ユーノの表情は暗いままであった。 「偉いわ」 「だが無謀すぎる」 穏やかな口調のリンディとは対照的に、クロノは糾弾するかのような口振りだった。 「民間人1人でロストロギアを回収しようだなんて……」 「分かってる、分かってるよ!」 苛立ちをぶつけるように声を荒げるユーノ。年齢の割には落ち着いている彼にしては珍しいことだった。 「僕が甘かった…!あんな、あんな恐ろしいものが…!」 「落ち着いて話してみて、あなたが何を見たのか」 やたらと甘い茶をあおりつつ、ユーノは話していく。 自分が垣間見た、第97管理外世界『地球』の闇に潜む存在について。 「ユーノ君、あなたの話を総合すると……あの世界には発動したジュエルシードと融合して魔力による 防御を備えた生物を物理的に破壊するほどの質量兵器が存在して、それを装備した多数の傀儡兵は 人間並みの高度な思考力を持つ、しかもその傀儡兵達を保有しているのはおそらく反社会的な組織… ということでいいのね?」 「生体兵器らしい怪物もたくさん見ました」 「目眩がするような話だな……どういう世界なんだ」 「魔法技術がないのにそこまで発展してるなんて、世の中広いわね」 ため息をつきながら、リンディは2杯目のお茶を自分のカップに注ぐ。無論砂糖とミルクもたっぷりと。 「これから……どうなるんですか?」 「いかに犯罪的な組織だろうと、その力が管理外世界に留まる限り私たちが手を出すわけには いかないわ。だけど…」 「魔法技術のみならずロストロギアまで手にしているというなら話は別になる。管理局が介入する 理由としては十分だ」 ユーノの問いにリンディが答え、さらにクロノが続ける。 実際のところ、ロストロギアであるジュエルシードとユーノから奪ったインテリジェンスデバイスを 所有していることは間違いないのだが、魔法そのものを使うのかどうかまでは定かではない。 ネロス帝国という組織が魔法を全く使えなかった場合、この案件に介入すること自体が管理外世界への 不当な干渉として問題化する可能性もある。執務官というエリートの経歴に泥がつくことになるかも しれない。だがクロノには手を引くつもりは全くなかった。 「暴走すれば、複数の次元を巻き込む大災害が起こるかもしれない……そんなことは絶対に止めなくちゃ いけないんだ」 決意を新たにするクロノ。一方ユーノもまた一つ決めていたことがあった。 それは、民間協力者としてここに残りジュエルシード回収に携わること。 「あのっ……できれば僕にも協力させてください!」 「気持ちは嬉しいけど、それはできない」 しかしユーノの申し出はクロノにばっさり切り捨てられた。 「局所的とはいえ魔法を上回る威力の質量兵器、当然非殺傷設定なんて存在するわけがない。 下手をすれば局員だって犠牲となるかもしれないんだ。民間人を関わらせるわけにはいかない。 大体君だって自分が無謀なのは分かったって言ったじゃないか」 「だけど……僕が発掘してしまったロストロギアなんだ、もう十分に関わってる! 1人だけ帰って結果を待つだけなんて我慢できない!」 「そういう話じゃないんだよ!安全性の問題なんだ!」 なにやら熱くなって口論に発展しかけてるユーノとクロノを止めるために、リンディは大人らしく 折衷案を出すことにした。 「それじゃあユーノ君の身柄をしばらくアースラで保護するというのはどうかしら。 話を聞く限りサポート系はなかなかできるみたいだし」 「艦長!」 「もちろん現場に出るのは厳禁よ。それでいいなら、だけど」 「あ、ありがとうございます!」 こうなってしまうとクロノは諦めざるを得ない。上官の決定だからだ。 「はあ……なんでこうなるんだ」 「ため息なんてついてる暇はないわよクロノ、これから忙しくなるんだから。 さしあたってはユーノ君、あなたがその帝国に遭遇した場所の座標を教えて貰えるかしら」 「はい!」 時空管理局、ついに地球への介入を始める。 ネロス帝国との激突までのタイムリミットは、近い――――――― 囚われの身となったフェイトとアルフ。 主を救うため、使い魔の決死の作戦が始まる。 そして混乱の中、ついに姿を現す時空管理局。 戦えアルフ!フェイトを救えるのは君だけだ! 魔法帝王リリカルネロス 次回「主よ生きて!哀しみの女使い魔アルフ」 こいつはすごいぜ! 提 供 桐原コンツェルン 翠 屋 時 空 管 理 局 このSSは 暮らしの中の野望、桐原コンツェルン 出番の全くない翠屋 ご覧のスポンサーの提供でお送りしました。 戻る 目次へ 次へ
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それは小さな願いでした。 微笑みを交わしあうこと…… そっと触れあうこと…… だけど、私たちを迎えたのは戦いの時。 奪われてしまった力…… 傷ついてしまった魔導の杖達。 まだはっきりつかめない、戦うべき相手と 自分たちにできること。 だけど、それでも私たちは…… 宇宙の騎士リリカルなのはBLADE…… 始まります 敵から予想外の攻撃を受け、倒れたなのははまだ眠っていた。 すでに検査は終わっている。後は目が覚めるのを待つだけだという。 エイミィはリンディと二人で本局の廊下を歩きながら、なのはの容態を報告する。 「検査の結果、怪我はたいしたこと無いそうです。」 「そう……。」 エイミィの報告に、リンディは一言だけ返事を返す。 「ただ……魔導師の魔力の源、『リンカーコア』が極端に小さくなってるんです」 「……じゃあやっぱり、一連の事件と同じ流れね」 「はい。間違いないみたいです。」 最近立て続けに発生していた「魔導師襲撃事件」。 リンカーコアが小さくなるという症状は、その被害者に共通していた。 「休暇は延期ですかね。流れ的に、うちの担当になっちゃいそうだし」 「仕方ないわ。そういうお仕事だもの」 二人はそう言い、ツカツカと歩きながら苦笑する。 「……さて。後はもう一つの問題ね……」 リンディは目的地である部屋のドア前で立ち止まった。 「テッカマン……ですか。」 リンディは一言「ええ……」と返事をし、ドアを開ける。 部屋の中にいるのは管理局から借りた服を着て、ぽつんと座っている男だ。 「気分はどう?Dボゥイ」 「…………。」 第3話「お引越し、そして理由無き敵前逃亡」 「ん……」 医務室で目を覚ますなのは。 ゆっくりと横を見ると、暗い表情をしたフェイトが座っていた。 手には包帯を巻いている。シグナムにやられた傷だろう。 「あの……ごめんね。せっかくの再会が、こんなで……怪我、大丈夫?」 自分のせいでは無いのに謝罪するなのは。 「ううん。こんなの、全然。それより……なのはは?」 「私も平気。フェイトちゃん達のおかげだよ!」 なのはは「元気元気!」と笑いながら腕を動かして元気さをアピール。 二人はしばらくお喋りし、しだいに気まずい雰囲気も無くなっていった。 「ところでフェイトちゃん」 「何?なのは」 少し真剣な表情になるなのは。フェイトは「何だろう?」と聞き返す。 「私を助けてくれたあの……テッカマンさん?のことなんだけど……」 フェイトは「やっぱりその話題か」という顔をする。 「それが、まだよくわかって無いんだ。今リンディさんが取り調べしてるらしいけど……」 「そっかぁ。味方……だよね?」 「うん……多分……」 恐る恐る聞くなのはに答えるフェイト。だがやはり自信は無く、「多分」としか言えなかった。 「もう一度聞くわ。あなたは記憶喪失なのよね?」 「そうだ。何度も聞くな」 取調室でDボゥイに尋問するリンディ。 「なら、ラダムって何なの?貴方が頻繁に口にしていたらしいけど……」 ちなみにこれはフェイトからの情報だ。 「俺が倒すべき敵だ。」 「記憶喪失なのにそれは覚えてるのね。ちょっとおかしく無いかしら?」 「俺が覚えているのは、クリスタルを使ってテッカマンに変身できる事と、ラダムを滅ぼさなければならないという事だけだ」 Dボゥイの話を聞き、「はぁ」と溜め息をつくリンディ。 「……わかりました。それは信じます」 「…………。」 これ以上尋問しても埒が明かない。リンディは諦めて次の話へと進むことにした。 「じゃあ、ここからは貴方へのお願いなんだけど……いいかしら?」 「お願いだと?」 聞き返すDボゥイ。 「ええ。聞いてくれるかしら?」 同時にエイミィが二人にお茶を出す。しかもDボゥイの分までミルクと砂糖をいれ始めるリンディ。 「あ、ああ……」 Dボゥイはこの異様な飲み物を凝視しながら返事を返す。 「ふふ……よかった。まぁ、まずはお茶でも」 そう言いこの緑茶に砂糖とミルクを入れた異様な液体を飲み始めるリンディ。 「…………(ゴクッ)。」 リンディを見たDボゥイも、ソレを恐る恐る口に運ぶ。しかし…… 「ん?……なかなか……いけるな。」 「そうでしょ~?この味がわかってくれて嬉しいわ」 Dボゥイの反応に喜ぶリンディ。 横でエイミィが「マジかよコイツ……」というような青ざめた顔でDボゥイを見つめているが、そこは割愛しよう。 「で、Dボゥイ。私達に協力して欲しいんだけど……」 本題に入るリンディ。 「協力だと?」 「ええ。今回の『魔導師襲撃事件』の解決に手を貸して欲しいの。」 そして魔導師襲撃事件の全容を説明するリンディ。 「あの赤いテッカマンもこの事件に関わっているみたいなの。どうかしら?」 しばらく考えるDボゥイ。本来ならこんな組織に協力してやる義理は無いが 確かにエビルと決着をつけるにはその方がいいかもしれない。 しかも協力するならば当面の住居まで用意してくれるらしい。リンディは巧みな話術でDボゥイを引き込む。 「……いいだろう。協力してやる。」 「本当?感謝するわ!じゃあ、これから……」 「ただし!」 「……え?」 リンディはDボゥイの返答に「よろしく」と言おうとするが、大きな声で遮られてしまう。 「ラダムが現れた時はそっちを優先させてもらう!」 「…………。」 再び真剣な表情に戻るリンディ。そして…… 「わかりました。どうやらそれが貴方の目的みたいだしね……」 リンディは少し考えたが、その条件を飲む事にした。 ちなみにラダムについても「倒すべき敵」としか教えてもらえなかったという。 ラダムを放っておけば大勢の人間が死に、地球は死の星になる……と。にわかには信じ難いが、まぁ信じるとしよう。 「バルディッシュ……。ごめんね、私の力不足で……」 「いっぱい頑張ってくれて、ありがとう。レイジングハート……今はゆっくり休んでてね……」 傷だらけになったデバイスを眺めるなのはとフェイト。 そしてユーノとクロノが、二人のデバイスの状態と今回の敵が使ってきた魔法の説明をする。 あれは「ベルカ式」というらしく、魔力を込めた弾丸で一時的にパワーを跳ね上げる物だという。 「そういえば……ベルカの騎士って……」 フェイトもシグナムの言葉を思い出し……。 同刻、八神家 「じゃあ、お先にお風呂入らせてもらうわ」 シャマル・ヴィータ・はやての三人は浴室へと向かう。もちろんはやてはシャマルに抱き抱えられながらだ。 「シンヤはいいとして……シグナムは入らないのかよ?お風呂好きが珍しいな」 まるでホストのようにソファに座って足を組んでいるシンヤをちらっと見て、シグナムに質問するヴィータ。 「ああ。明日の朝入らせてもらう。」 その言葉を聞き、三人は浴室へと入っていった。 「……今日の戦闘かい?」 三人が風呂に入ったのを見計らって、おもむろに口を開くシンヤ。 「敏いな。その通りだ」 シグナムは服を上げる。 すると、腹辺りにできた傷が目につく。フェイトの斬撃がかすっていたのだ。 「まさかシグナムの装甲を撃ち抜くとはね……」 「良い師に学んだのだろう。それよりも……」 シンヤを睨むシグナム。 「お前が兄さんと呼んでいた、あの白いテッカマンは何だ?」 「ふふ……聞いての通り、僕の兄さんさ。しかも双子のね」 さらっと答えるシンヤ。 「……いいのか?我らに協力したために実の兄と戦う事になっても。」 「もちろんさ。兄さんは俺以外には殺せない……いや、俺以外には殺させない……。」 ニヤッと不敵に笑うシンヤ。シグナムは黙ってシンヤの話を聞いていた。 数日後、海鳴市。 「ここが俺の家……か。」 なかなか豪勢なマンションを見てぽつりと呟いたDボゥイ。 「そうよ、Dボゥイ。もう貴方は家族も同然なんだから、もっと堂々としなさい」 リンディも笑顔で言う。 「そういう訳だ、Dボゥイ。この荷物運ぶの手伝ってくれ」 「ああ、わかった。」 そこへ大きな荷物を持ったクロノが現れ、Dボゥイに手伝うように言う。Dボゥイは仕方ないと思い、それを手伝う。 なのはとフェイトは二人でマンションの玄関から外を眺めてお喋りしている。本当に楽しそうだ。 数分たって、Dボゥイが荷物を運び終えると、リビングに赤い子犬とフェレットが立っているのが目に入る。 赤い犬の方にはどこか見覚えがあるが…… 「新形態、子犬フォーム!」 子犬はどこか聞き覚えのある声でそう言った。 「お前……アルフか!?」 「そうだよ、Dボゥイ!」 Dボゥイは軽く驚く。まさか子犬にも変身できるとは…… 「なのはやフェイトの友達の前では、この姿でなくちゃならないんだ」 今度は頭を掻きながらフェレットが口を開く。 「……お前は?」 「僕だよ、ユーノ・スクライア!」 「(そういえば居たな……そんな奴)」 思ったが口には出さない。この雰囲気で存在自体忘れていたなんて流石のDボゥイにも言える訳が無い。 「……お前らも、大変なんだな。」 Dボゥイは少し同情しながら言った。 「うわぁ~!アルフ小さい!」 「ユーノ君、久しぶり~!」 そこへなのはとフェイトが入ってくる。二人はすぐにアルフとユーノを抱き抱える。 微笑ましい光景だ。こんな平和な日常、Dボゥイのいた世界では有り得なかっただろう 「なのは、フェイト。友達だよ」 今度はクロノがリビングに戻ってきて、笑顔でそう伝える。 「こんにちわ~」 「きたよ~」 さらにその直後、リビングにアリサとすずかが現れる。二人共満面の笑みだ。 そしてリンディの申し出でなのは達はなのはの家族が経営している喫茶翠屋に行く事になった。 クロノとエイミィ、そしてDボゥイは留守番だ。 「ロストロギア……闇の書の最大の特徴はそのエネルギー源にある。」 皆がいなくなった後、リビングに闇の書の画像を表示しながら説明を始めるクロノ。 「闇の書は魔導師の魔力と、魔法資質を奪うために、リンカーコアを喰うんだ。」 「なのはちゃんのリンカーコアも、その被害に……?」 質問するエイミィ。 「ああ、間違いない。リンカーコアは魔力を喰う事でそのページを増やしていく。 そして、最終ページまで全て埋めることで、闇の書は完成する……」 「もし完成したら、どうなるんだ?」 今度はDボゥイが質問する。 「少なくともろくな事にはならない……。」 「そうか……。そんなことにエビルは協力しているのか……」 エビルは一体何のためにそんなことに協力しているのだろうか? いや……そんなことはどうでもいい。エビルは倒せばいいだけだ。目的など知った事では無い。 「……エビル?あの赤いテッカマンか……?」 Dボゥイの一言を聞き逃さなかったクロノ。 「ああ。奴は俺がこの手で倒す……!」 「…………。」 言いながら拳を握りしめるDボゥイ。クロノは何も言わずに黙ってそれを見つめていた。 まさかこの時「倒す」=「殺す」などとは思っていなかったのだから……。 数時間後、ハラオウン家。 「フェイトか。」 「あ……おかえり、Dボゥイ」 空も暗くなり始め、Dボゥイが海鳴市の散策から帰ってくる。まぁ散策といってもただの散歩だが。 「提督とクロノは?」 テレビを見ているフェイト以外の人影が無い事に気付いたDボゥイ。 「さっき本局へ行ったよ。今日は遅くなるって……」 Dボゥイは一言、「そうか。」と返す。 「それにしても……この世界は本当に平和なんだな。」 「え……?」 突然の言葉に反応するフェイト。 「いや、ラダム樹が一本も生えていなかったからな。」 「……ラダム樹?」 聞き慣れない単語だ。 「いや、何でも無い。気にしないでくれ」 「う、うん……。」 Dボゥイもうっかり口を滑らしそうになったことに気付く。油断は禁物だ。 同刻、海鳴市。とあるビルの屋上。 屋上の扉を開け、ヴィータが走ってくる。 それを見たシグナムが「来たか。」と呟く。 「うん。今、何ページまで来てるっけ?」 「370ページ。この間の白い服の子で、だいぶ稼いだわ」 ヴィータの質問に闇の書をパラパラとめくりながら答えるシャマル。 「おし、半分は越えたんだな!ズバッと集めて、早く完成させよう!それで、はやてとずっと一緒に、静かに暮らすんだ!」 一同は再び決意を固め、ヴィータの顔を見る。 「そろそろ行こうか。もう時間もあまり無い」 そこでシンヤが言う。それを聞いた一同は頷き、シグナムとヴィータはネックレスを、シャマルは指輪を掲げる。 「ゆくぞ、レヴァンティン!」 シグナムの体を騎士甲冑が包んでいく……。 「クラールヴィント!」 「グラーフアイゼン!」 それに続き、シャマルとヴィータもデバイスを起動。三人の体を光が包み、次の瞬間には変身が完了していた。 そして…… 「テックセッタァーッ!!」 それに続いてシンヤも赤いクリスタルを掲げる。同時に赤い装甲を身に纏い、テッカマンエビルへと変貌する。 「それじゃあ、夜明け前にまたここで!」 「ヴィータ、あまり熱くなるなよ」 「わかってるよ!」 次の瞬間、ヴォルケンリッターとエビルの5人は光の如き速度でその場から飛び去っていた。 一方、アースラ。 エイミィは本局メンテナンススタッフであるマリーからの通信を受けていた。何やらデバイスの様子がおかしいらしいが…… 『部品交換と修理は終わったんですけど、エラーコードが消えなくって……』 モニター越しに困った表情で相談するマリー。 「エラーって……何系の?」 『必要な部品が足りないって……今データ送りますね』 マリーが送信ボタンを押すと、すぐにデータの一覧が届く。 「お、きたきた……ってこれ!?」 エイミィも届いたデータを見て驚く。 「エラー解決のための部品 CVK-792を含む システムを組み込んで下さい」 『2機共、このメッセージのまま、コマンドを受け付けないんです』 エイミィは驚いた顔でパネルを叩く。 「(レイジングハート、バルディッシュ……本気なの? CVK-792……ベルカ式カートリッジシステム……!)」 モニターに表示された『お願いします』という文字。エイミィはその文字を見つめる……。 「もう3時か……」 闇の書とテッカマンブレードの出現によりクロノ達はさらに仕事が増え、今日も遅くまで残業だ。 魔導師襲撃事件は正式にアースラメンバーが対応することとなった為、 執務官のクロノと提督兼艦長のリンディの多忙さはさらに加速している。 「もうフェイトも寝てるだろうな。」 コンピュータのパネルをカタカタと叩きながら呟く。クロノも兄として妹を心配しているのだ。 その時…… ピピピピピピッ 通信が入る。誰かと思いながらモニターに回すクロノ。 『クロノ!』 「か、艦長?どうしたんですか?」 相手はリンディだ。たとえ母親といえど仕事中は敬語で話す。 『辺境の世界に、テッカマンと思しき反応が確認されました』 「何だって!?」 『クロノ。わかってると思うけど、フェイトちゃんもなのはちゃんも今は戦えません。行ってくれるわね?』 レイジングハート・バルディッシュは修理中、さらに持ち主は睡眠中と来た。ならば今動けるのはクロノのみ。 「わかりました。すぐに向かいます。」 そう言い、通信を切ったクロノはS2Uを手に立ち上がろうとするが…… ピピピピピピッ 再び鳴り響く通信。 「くそ、誰だこんな時に!」 クロノは苛立ちながらも通信に出る。 しかしモニターには何も表示されない。つまり音声のみということか。 「はい、もしもし!」 『クロノか。俺だ』 「Dボゥイか!?」 『ラダムのテッカマンが現れた。すぐに出動させてくれ!』 「ああ、わかってるよ!僕も今から行くところだ」 こうしてクロノとDボゥイは二人でテッカマンが現れたという辺境の世界へと向かうのだった。 「ふん……テックランサァーーーー!!」 見渡す限り何も無い世界。 エビルは巨大な龍のような敵にテックランサーを突き刺し、切り刻む。 龍の血が飛び散り、体の中身はえぐられ、肉が飛び出す。 龍は悲痛な叫び声をあげる。もう助からないだろう。かなりグロテスクな光景だ。 「もういいわ!止めてシンヤくん!収集できなくなっちゃう!」 そこでシャマルが叫び、エビルの攻撃をストップさせる。 ストップさせた理由の一つとして、これ以上こんな酷い光景を見たくは無いというのもあるが…… シャマルは動けなくなった龍のリンカーコアの収集を開始する。 「フン……毎度ながら敵にトドメを刺せないのはつまらないね……」 「そう言わないの。シンヤ君はいつもやり過ぎなのよ。私達の目的は殺す事じゃ無いのよ?」 残酷なエビルに戒めるように言うシャマル。 「……そんなことはわかっている。ただ、殺せないのはつまらないと言っただけだよ」 「シンヤくん……。」 シャマルは溜め息をつきながらエビルを見る。元々残酷な性格なのだろう。何を言っても無駄だ。 『ブレイズキャノン』 「……な!?」 次の瞬間、彼方から飛んでくる光に気付いたシャマルは咄嗟に飛びのく。 「シンヤくん!?」 だがエビルは微動だにせず、ブレイズキャノンの直撃を喰らう。 そして光が晴れ…… 「ククク……やっぱり来てくれたね?兄さぁん!!」 エビルは全くの無傷だ。シャマルも「ぎょっ」とする。 それもそのはず。いかに魔導師であれ人間が放った、しかも「非殺傷設定」付きの 魔法に当たった程度では、核爆発にも堪えるテッカマンの装甲を傷付けるのは不可能だろう。 「シンヤくん……大丈夫なの?」 「当たり前だ。最強のテッカマンであるこの俺がたかが虫けらの技に当たった程度で死ぬ訳が無い」 シャマルはエビルがさらっと言った「虫けら」という言葉に対し少し暗い顔をする。 戦闘になると態度や言葉遣いなど……いろいろと残酷になるのは今に始まった事では無い。 エビル。この男だけは敵に回したくは無い。シャマルはそう思った。 「シャマル。お前は先にこの場所から離れろ。奴らは俺が片付ける」 「う……うん。わかったけど、くれぐれも殺さないでね?」 「ああ。極力ね」 「……じゃあ、ここは任せるわね。」 はやての未来を血で染めたくは無い。だから「殺さないように」と念を押し、シャマルは戦線を離脱した。 「……片方には逃げられたか。」 遠くでシャマルが離脱したのを見て、クロノが言う。 「……エビルッ!」 だがもうそんなことは眼中に無く、Dボゥイの頭は目の前のエビルでいっぱいだった。 そんなDボゥイの目の前にスラスターを一気に噴射させ飛んでくるエビル。 「また会えたね?タカヤ兄さん」 「シンヤ……いや!テッカマンエビルッ!!」 エビルは人間の姿に戻り、ゆっくりと歩いてくる。 「嬉しいよ。また兄さんと戦えるなんて」 「……ああ、俺も嬉しいさ。お前をこの手で殺せるんだからな!」 二人の距離はわずか1m程にまで縮まっている。クロノはすぐ側でそれを見ているが…… 次の瞬間、二人は一気にジャンプし、10mほど距離をとった。お互いの手に輝くのは緑と赤のクリスタル。 そして…… 「「テェックセッタァーーーーーーーーーッ!!!」」 二人の体を赤と緑の光が包み…… 「テッカマンブレードッ!」 「テッカマンエビルッ!」 二人はそう名乗った。クロノは変身したエビルにS2Uを構えるが、エビルの姿はすぐに消える。 「なに!?」 空を見上げれば、緑と赤の閃光が凄まじい速度でぶつかり合っている。 あまりに速過ぎる動きのせいで、スラスターの光がそう見えるのだ。 「クソ……これじゃ照準が定まらない……砲撃も、バインドも……!」 クロノは空で戦う二人を見て、何もできない自分に苛立ちを感じる。 Dボゥイ……いや、ブレードがエビルを弱らせた所をバインドで拘束、本局へ連れ帰るしかない。 「Dボゥイ……!」 クロノは悔しい表情をしながらDボゥイの名前を呼ぶ。 「うおおおおッ!!」 テックランサーを分割し、両手に持ったランサーでエビルを攻撃する。 「甘いよ兄さんッ!!」 エビルはテックランサーで片方のランサーを弾き、もう片方のランサーをラムショルダーで受ける。 そして二人はその場所から再び距離をとる。 「くらえッ!」 エビルは短剣の嵐をブレードに見舞う。 「そんなもの!」 だがブレードはそれをダブルランサーで弾いて弾いて弾きまくる。そうしながら距離をつめ…… 「うおおおおおッ!!」 再びダブルランサーを一本のテックランサーに合体させ、振り回しながら突進。 「チッ!」 それを自分のテックランサーで受け止めるエビル。 お互いのテックランサーは激しい火花を散らしながらぶつかり合い、睨み合うエビルとブレード。 二人はまた離れ、再びテックランサーでの突進でぶつかり合う。それがしばらく繰り返される。 「……これならどうだ!」 埒が明かないと踏んだブレードは自分の装甲を変形させる。足や肩、手などといったあらゆる装甲がスリムになってゆく。 「クラッシュイン……トルゥーーーーーードッ!!!」 次の瞬間ブレードはさらに速い、まさに光のような速度に達していた。 それは凄まじい速度で空を駆ける。ブレードが通った後は、まるで空に緑色の絵を描いたかのように輝く。 「うおおおおおッッ!!!」 「く……ぐぁッ!」 右から、左から、あらゆる方向から飛んでくる閃光に翻弄されるエビル。360゚からの攻撃にさらされ、エビルの装甲に傷が入っていく。 「……調子に乗るなァッ!」 だが、流石にエビル相手にずっと同じ攻撃が通用する訳も無く、ついにテックランサーで受け止められる。 ブレードはすぐに変形を解除、テックランサーでエビルを斬ろうとするが…… 「死ね!ブレェーーードォッ!!」 エビルは一瞬できた隙を突いてブレードの胸にテックランサーを突き刺す。 「ぐぁあああッ!」 その衝撃でブレードはこれまた凄まじい速度で地面に落下。近くにいたクロノはそれにより生じた砂埃にむせる。 「おい……クロノ……!」 ブレードは自分が地面に落下・激突することでできたクレーターからはい出るように立ち上がる。 「なんだDボゥイ?」 「俺がテックセットしてから……何分たった……?」 「え?……多分、もうすぐ30分くらいだ。それがどうかしたのか……?」 「そうか……!」 ブレードは再び凄まじい速度で空へと飛び上がった。 「(そろそろ決着をつけないと……俺は……!)」 ブレードはエビルと同じ高度で静止。エビルとの距離は……だいたい100mくらいか。 そしてブレードの両肩の装甲が開き、中から巨大なレンズのような物が飛び出す。 「……なんだ?何をする気なんだ、Dボゥイは……!」 クロノは地上で目を見開く。 「エビルゥーッ!!」 ブレードは叫びながら両腕を広げる。まるで何かを発射するような体制だ。 そして両肩のレンズ状の物体が光りを吸い込み輝き出し…… 「ハハハハハッ!滑稽だね、兄さん!」 それを見たエビルは高らかに笑い始める。 「まさか俺のPSYボルテッカの効果を忘れた訳じゃ無いだろう!えぇ!?兄さぁんッ!!」 エビルも笑いながら、ブレードと同じように両腕を広げる。同時に胸のボタンのような物が光を吸い込み、輝き始める。 「これで終わりだ、エビルゥーーーッ!!」 「これで最期だ、ブレェーーードォッ!!」 そして…… 「ヴォォルテッカァァァーーーーーッッ!!!」 「PSYボォルテッカァーーーーーーーーッッ!!!」 刹那、二人の体から放たれた光が衝突する。凄まじい衝撃に、周囲の物全てが吹き飛びそうになる。 「な……なんて威力だ……!これは……スターライトブレイカーなんかの比じゃないぞ……!」 『プロテクション』 クロノも衝撃だけで吹き飛びそうになり、S2Uで障壁を張る。まさか、直接攻撃された訳でも無いのに、 ましてや味方の放った攻撃の衝撃に堪えるために障壁を張るなんて初めてだ。 「クソ……障壁が……!」 だが例え障壁を張ろうが、反物質粒子の塊であるダブルボルテッカに堪えるのは少しばかりきつい。 だんだんとS2Uの障壁は脆くなってゆき、今にも吹き飛ばされそうだ。 何度も言うが、これはあくまで衝撃に過ぎず、攻撃された訳では無い。 「「うおおおおおおおおッッ!!!」」 二人は叫びながらお互いのボルテッカをぶつけるが、ブレードが放った緑のボルテッカは次第に威力を失っていく。 そして代わりにエビルの発した赤いボルテッカは威力を増していき…… 「終わりだね……兄さん!」 「……!?」 エビルのPSYボルテッカはブレードのボルテッカを吸収・無効化し、そのままブレードに直撃する。 「ぐぁああああああああああああッッ!!!」 大きな叫び声と共に再び地面に落下するブレード。 クロノはすぐにブレードに駆け付ける。 「大丈夫か、Dボゥイ!?」 「う……ぅ……」 ブレードはフラフラと立ち上がる。 「まだ戦えるよな?兄さん。威力は絞ったはずだぞ?」 エビルが挑発的に言う。ブレードとクロノはそんなエビルを睨み付ける。 「まだ……戦える!」 「Dボゥイ……!」 ブレードは再び飛ぼうとしたが、そうは行かなかった。 「う……ぐぁあああ!」 突然頭を抱えて苦しみ出したのだ。 「ふふ……タイムアウトだよ、兄さん」 「……ッ!!」 ブレードは最後に一瞬、エビルを睨み付け、そのままスラスター全開で立ち去った。それもクロノを置きざりにして。 「Dボゥイッ!?」 「ハハハハハッ!お前はブレードに見捨てられたのさ!」 エビルはクロノを見てまた高らかに笑い出した。 「(そんな……Dボゥイ……!)」 クロノは悔しい表情で笑いながら立ち去っていくエビルを見るしかできない。 理由無き、敵前逃亡……。 戻る 目次へ 次へ
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第二回戦:試合場【鍾乳洞】結果 このページではダンゲロスSS3第二回戦、鍾乳洞の試合結果を公開します。 投票結果 試合SS キャラクター名 得票数 第二回戦【鍾乳洞】SSその1 山田 7票 第二回戦【鍾乳洞】SSその2 偽原 光義 21票 第二回戦【鍾乳洞】SSその3 オーウェン・ハワード 11票 コメント 「それでは鍾乳洞の技巧戦・投票状況について、大会実況の私、佐倉光素と」 「解説の埴井きららが紹介するよ!」 「第二回戦にはいって早速、熱い戦いが繰り広げられましたね!」 「ばーんと2万字オーバーが来たしね!」 「そんな第二回戦最長の偽原選手、票の方もしっかりと伸びました!」 「最初の一日だけはみんな並んでいたんだけど」 「スタートダッシュでは負けていなかった山田、オーウェン両選手でしたが」 「二日目からはぐんぐん偽原さんが伸びていって」 「最終的には大差での勝利をもぎ取りました!」 「準決勝もきっとすごいことになるね!」 「ということで第二回戦、鍾乳洞の試合を制したのはー」 「「終わらぬ悪夢!偽原光義選手です!!!」」 「「おめでとうございまーす!!!」」 山田 その1:参加者ゆえのアドバンテージではあると思いますが、URLの解法は非常に気に入っています。存在する設定を大事にする姿勢に好感を覚えました。 その2:シュールストレーミングのくだりなどギミックとして面白いものが多々見られましたが、勝つことよりファントムすることが第一義なのが重荷になっているようには思えます。 その3:えぐく反則的な能力利用法をやってしまった以上、この先どうバランスを取っていくのかが気になることろではあります。 しかし3者とも事前準備型なのはメタが回って面白いなあ。 3つとも面白かったけど、小道具とか走法とかのよくわからない小ネタが面白かったので。オチも皆それぞれ良かったけど1のが好き 途中ちょっと推敲不足というか、締切きつかったのかな?って部分があったが、結末が素晴らしかった。偽原の迎えるエンディングとして申し分ない。 そろそろファントムルージュを凄い怖いとはしゃぐのうっとおしかったんですよね 突然外部テキストを引用してる意味はわからないけど、まあファントムルージュ封じのアイデアは見事だったし、読後感もいいので。今回全体的にダーティSS多いから、バッドエンドでないSSが余計に良いものに感じられる 悩んだけれど、ファントムルージュの呪縛を解いてくれた功績は大きい 偽原 光義 外道でしたが、クッソ面白かったです。 ファントムルージュつええ ファントムルージュ 歌っていたせいで前半の印象が薄い以外は一番良かった ファントムルージュ。 一回戦に続き極悪かつ容赦の無い展開、そしてファントムルージュ。しかし三者三様に全力を振り絞った戦術の数々がとにかく素晴らしく、悔しいけれどこれに入れざるを得なかった。 なかなか壮絶な展開で目をつむりたくなるほどだけど、なぜか続きが気になる魅せ方のうまい展開の連続でした。これが正史になると思うと胃が痛いが、なんといっても面白い。悔しい。各キャラを一番うまく描き上げていたと思うのでこちらに投票。 主題歌という、ファントムルージュ未視聴者には絶対思いつけないだろうギミックを組み込んだ恐るべきマンチ戦術がさすがでした。聴いてなかったけど、たぶん朗読ウケもすごかったんじゃないかな。怖いわあ。それ以外にもゲス極まりない拷問パートやシュールストレミング召喚など、ファントムに頼りきらない面白さが見事でした。あと宣伝ありがとうございます!(あやまだ) 『味わい』。本来このSSはリング等のようなホラー系にジャンル分けされるSSなのだと思う。日常に潜む恐怖を基調としたホラー系で仲間が襲われ犠牲になるのは当然であり、お約束でもある。サバンナに続き非日常系試合会場という不運に”恵まれながら”高い構成力でリカバーしている点高く評価したい。タツジン どうしてこんなになるまで放っておいたんだ! 全参加者に見せ場を作りつつ、三つ巴戦をうまく制している。文字数が多いが、読ませるだけの筆力もある。アキカンと一時協定に至る背景が説明されなかったのがやや難か。 ファントムルージュ…… 一刻も早く中の人がファントムルージュの呪いから解放される事を祈ります。 オーウェン・ハワード 短いながらも三人の戦術がバランスよく書けてたと思います。ファントムルージュなんてなかった。 やはりオーウェンさんがファントムルージュへの対策をたてないのはおかしい と、ほかのSSでは感じました アキカンすき 悩んだけど、アキカンの格好良さで。 そして米軍が動き出す……! 一番短く一番スマートだった。アメリカ陸軍にPRが渡ってしまったのは非常に危険な気もするが。
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「お久しぶりです。なのはさん。前にお会いしたのは春だったから、もう半年近くになるのね」 「お久しぶりです。騎士カリム。そうですね。まだ春の花が咲いていた頃ですから」 穏やかな午後の日差しの差し込む、アーチ状の中世にタイムスリップしたような錯覚を覚えるクラシカルな部屋で、 なのはは若干の緊張を感じていた。 ふと目の前に座る金髪の女性がふっと窓の外を見た。つられるようになのはもその視線を追う。 岸壁から切り出されるように建てられた聖王教会の、中庭に面したこの部屋からは、手入れの行き届いた庭木の 艶やかな姿が見える。 ここミッドチルダでも、故郷の桜に似た桃色の花をつける木が春の代名詞となっている。それと競い合うように 黄色の小さな花をつける木々が晩夏の代名詞であり、中庭に無数に植えられた”晩夏”が、庭を黄金色に染め上げている。 なのはは、機動六課が解散した時のことを思い出していた。 あの時は世界が桃色に染め上げられていた。その色は出会いの色、そして別れの色。 そして、今。黄金に染め上げられた世界は、なにを象徴するのだろうか。 「そうだな」 「クロノ君もひさしぶり……だね」 ふと感傷に浸るなのはの横合いから、静かな男性の声が聞こえた。ふっと目がそちらに向かう。 制服姿に身を包んだ黒髪の青年は、ゆっくりと白磁のティーカップを手に取っていた。 なのはの幼馴染みと言っていい旧知の青年は、なのはの感傷的な視線にふと小首をかしげた。 この場にいる人達は、信頼の置ける友人ばかり。そして、年齢に似合わず全員が重要人物でもあった。 なのはは目を細めて微笑を浮かべた。よくよく考えれば、あの時フェレットに変化した魔導師と会わなかったら、 金髪の少女と出会わなかったら、そして目の前の黒髪の青年 ―当時は少年だったが― に出会わなかったら……。 自分はここにいなかった。 運命と言う名の出会いをふと感じる。 「で、わざわざ僕達を、それも秘密裏に呼び出すということは、やっかいな話かな? 結婚でもするのか?」 紅茶に口をつけたクロノがティーカップを置いて、鋭く光る切れ長の瞳をなのはに向けた。 あまりにも若すぎる昇進のため、必然的に身につけざるを得なかった彼の処世術。 報告に訪れる局員を必要以上に戦かし、厳格な雰囲気で極度の緊張を強いる独特の眼光も、なのはには馴染んだ物だった。 ”石化光線”と裏で揶揄される眼差しを、栗色の髪の戦技教導官は露とも気にとめずに、同じく手にしていた ティーカップを置いた。 「うん、実はちょっと問題があって」 他人がどう見ようが言葉を発した黒髪の青年は場を和ませようと、ある意味冗談じみた言葉を選んだつもりだった。 が、目の前に座るなのはの表情は冴えなかった。真っ赤になって反論してくるだろうと思っていたが、意に反するなのはの 態度にクロノとカリムは思わず顔を見合わせる。 不撓不屈の闘士でもある栗色の少女の戸惑ったような表情はついぞ見たことがない。 「話をきかせてもらえるかしら?」 カリムの言葉に頷いたなのはは、人払いを打診した後、持参した資料を空間ディスプレイに投影し、説明を始めた。 説明が進むにつれ、黒と金の実力者の表情が、急速に固くなっていく。 § § § § § § § § § § § 「以上が、ユーノ君が無限書庫で集めて、分析してくれた資料なの」 説明を聞き終わったクロノは腕を組んで天井を見上げ、カリムは空間ディスプレイの映像を見つめていた。 内容を咀嚼するかのような無音の時間が過ぎる。 「……」 時計の音がやけに大きく聞こえる中、しばらくしてクロノが深く息を吐き出した。 ゆっくりと金色の髪を持つ女性に目を向ける。 「……超弩級のロストロギアか。騎士カリム、預言書になにか記述はありましたか?」 「今年の物はまだ……」 「そうですか」 騎士カリムのレアスキル《預言者の著書》の言葉を期待した問いかけは、申し訳なさそうな表情で、ゆっくりと黄金の髪が 左右に揺れることで霧散した。 JS事件の予言が見事的中したカリムの能力には、事件後、より注目と重要性を認められるようになった。 だが、その預言は年に一度しか実行できず。今年の預言はいまだ機が満ちていなかった。 漆黒の髪の提督は、若干気落ちしたように眼を細める。 じっと手元のカップに眼を落としてクロノはため息を吐く。 「全長20Kmの亜光速宇宙船か……やっかいだな」 「でも、まだ質量兵器を持っていると決まった訳ではないのですよね?」 カリムの疑問は同時になのはの希望でもあった。 まだ、この宇宙船の目的が分かっていない。それにただ飛んでいるだけであって、積極的に影響を及ぼそうともしていない。 さらに言うと、滅んだ世界の直接の要因は件の宇宙船が手を出したわけでもなく、次元震による被害とそれによる 天変地異だった。 言うなれば、たまたま通りがかっただけかもしれない。 だから危険度の判断は調査がすんでからではないのか? と、なのはは思う。 確かにリスク管理の意味から言うと、ゆりかごに数倍する未知の宇宙船の存在を、危険度最上位のロストロギアとみなす、 はやての判断は正しいのだろう。 甘いのかもしれないが、それでもなのははこの船が害をもたらす船とは考えられなかった。 船体に描かれた”じてんしゃ”と言う文字。それがどこか心の中に引っかかっていた。 実は今回の報告は、リスクを重く見たはやてがアレンジした。 本当は当の本人が自分で報告に来る予定だったのだが、緊急の捜査に手を取られてしまい、 結果的に比較的身の空いているなのはに、この役が舞い込んだ。 なのははクロノがどのように判断するか知りたかった。はやてと同じ判断なのか、それとも違うのか。 問い掛けるようななのはの視線の先の、クロノは難しい表情を崩さなかった。 「いや、問題はそこじゃないんです」 「?」 クロノは、意外な言葉を口にした。 ユーノの報告書で示された、強力な質量兵器、ないしはミッドチルダ文明が持っていないオーバーテクノロジーによる 兵器の存在の可能性。 カリムも聖王のゆりかごに数倍する宇宙船からもたらされる攻撃は想像したくはなかった。 時空管理局はJS事件が引き起こした混乱と深刻な傷跡から、まだ立ち直ってはいない。そんな状況下において、 影響力の未知数なロストロギアの対処など正直言って手に負えない。 しかし、クロノの眼は持っているかもしれない質量兵器には向いていなかった。 空間ディスプレイを操作して、”じてんしゃ”と描かれている写真をクローズアップする。 「この船は今も亜光速で飛んでいる。それはいいとしよう。で、どこを飛んでいる?」 「違う次元のどこか……? あれ?」 クロノの顔がなのはに向けられた。 自分に対する問いかけと理解したなのはは、指をあごに当てて考えた。 そして唐突に、クロノの言いたいことが分かった。 確かに、失念していた。というより考えることすらしていなかった。その宇宙船が今、どこを飛んでいるのか。 なのはの目を丸くした表情にふっと笑みをこぼしたクロノは、空間ディスプレイを操作してミッドチルダの光景を写す。 「そうだ、実は僕達はそこで思考停止しているんだ」 「思考停止……」 「なのは、君は不思議に思わないか? ミッドチルダにせよベルカにせよ、テクノロジーにばらつきがあることを」 「え? テクノロジーのばらつきって?」 ミッドチルダの外からやってきたなのはとしては、見る物がすべてであって、それが真実だと思っていた。 だから、こういうものだ。と、雛鳥が初めて見た物を親であるとインプリンティングするかのように疑問すら持っていなかった。 だが、次元航行船の艦長として長きにわたり実戦をくぐり抜け、幾多の世界を見てきたクロノは違っていた。 眉に深い思慮の皺を刻みつけた若き提督は、自嘲するかのように笑った。 「そうだ、フロートキャリアやライディングボードみたいな装置を持ちつつ、地上ではタイヤ走行の車が大半だ。 アースラもクラウディアも宇宙空間に浮かび次元航行すらこなすことができるが、光速の半分で飛ぶことすら適わない」 「そういえばそうだね」 クロノの手が空間ディスプレイを次々と操作して、道路を、そして道行く通行人の姿を遠景で捕らえる。 つぶやくような言葉に、なのはがはっとしたような表情を浮かべた。 確かに、地球とあまり変わらないテクノロジーもあれば、ガジェットのようにどう考えてもオーバーテクノロジーとしか 思えない物もある。 「それは僕達が魔法という能力に早くに気がつき、実用化したことと、質量兵器への忌避感からくるんだ。 質量兵器に直結しそうな技術は意図的に封印している」 「クロノ提督、それは……」 再び、クロノが”じてんしゃ”と描かれている写真に戻し、じっとなのはを見つめた。 そしてクロノの言葉に、危うい物を感じるカリムがそっと揶揄する。 彼女には、クロノの言葉に、もう少し踏み込めばひょっとすると、取り返しの付かない領域に 踏み込んで行ってしまうのではないか? という焦りのような、もどかしさの様な物が感じられた。 黒髪の提督は若く才覚に溢れた英雄の一人である。密かな崇拝者も多い英雄が現体制の、特に質量兵器に関する在り様に 意義を唱えた場合、今のがたがたの組織にとてつもなく大きな影響を与えてしまう。 多大な功績を挙げた機動六課の発起人の一人でもある彼は、数多くの教え子を持つ高町なのは戦技教導官、 そしてその戦技教導官と真っ向から戦える数少ない魔導師で、幾多の功績を挙げているフェイト・T・ハラオウン執務官、 さらに機動六課を率いJS事件を解決させ、時空管理局最大級のロストロギアのマスターである八神はやて特別捜査官を含め、 有数の強烈な人材に影響力を持っている。 義弟曰く、”レジアス中将亡き今、管理局最大最強のクロノ派”ではあるが、頂点に立つ若き提督が自分に厳しい人間であるため、 派閥を作ったりすることもなく無用な軋轢は起きていない。 だが、そんな暗黙の派閥の筆頭自らが、好ましくない方向に舵取りを始めたら、場合によっては管理局が 大きく分かれてしまうことにもなりかねない。 カリムの、心配そうな光を帯びた視線にクロノは苦笑をうかべ、友人であり、彼女の義弟でもあるヴェロッサがそれとなく 言っていたことを思い出す。 『今のクロノ君だったら、管理局を乗っ取れるんじゃないかい?』 あまり目立つと、無用な混乱を招くぞ。と言う彼なりの憂慮だった。その言葉を聞いて自分の影響力について 考え込んだ記憶がある。そして今、騎士カリムの眼にも、あの時のヴェロッサと同じ色が浮かんでいた。 姉弟そろって同じように心配してくれる視線に、まだまだ信頼されてないな。と自戒しつつ、大丈夫ですよ。と軽く 両手を挙げた。 カリムはクロノの漆黒の夜のような眼に、しっかりとした信念を感じて口をつぐんだ。 「気がついてるか。なのは。僕達の言う”次元世界”とはなんなのか」 「えっと、次元空間を隔てて独立する、それぞれの世界とそのつながりだっけ?」 「そうだ。じゃあ、このミッドチルダとなのはの第97管理外世界。この間にはどんな関係があるか分かるか?」 なのははクロノの問い掛けに、幼い頃にも似たようなことがあったなとデジャビュを感じながら、ミッドチルダに来て 最初の頃の教育課程で習ったことを頭の底のタンスから取り出した。 その一般的かつ意図的に問題点を隠蔽する言葉にクロノは頷いた。 ミッドチルダの今の教育体系では疑問をできるだけ持てないように、抽象的な言葉で教え込んでいる。 だが、そんな付け焼き刃の小細工はいずれ矛盾を露呈し、必ず気がつく人間がいる。 そう、自分のように。 「あ、え、そういえばあまり気にしなかったよ」 「そうか、じゃあ、聞き方を変えてみよう。なのは。 ミッドチルダのあるこの次元世界に地球はあると思うか? そしてその地球は、なのはのすんでいた第97管理外世界の地球と 同じだろうか? それとも、違うのだろうか?」 クロノの質問は、なのはも以前考えていた。しかし、目の前の現実と、魔導師としての実務でいつしか考えることを忘れていた。 そもそも、物理的にどれほど遠くても、次元転移すれば行き来は可能であって、感覚的にはそれほど遠くに感じる物でもなかった。 「……難しいね。でもその聞き方をするってことは、同じなんだね」 「……そうだ」 クロノの意図していることはなのはにも分かる。ユーノに出会い、そしてフェイトに出会い、目の前の青年に出会った。 簡単に言うと異次元人で別の惑星の人間。当時の言葉で言うとエイリアンとか宇宙人と同じ。 でも、映画で見るおどろおどろしい異星人のイメージは何もなかった。普通の人と同じ。何の気負いもせずに お友達になりたいと思い、実際に無二の友人となった。 地球に居を構えたフェイトやはやてと共に中学時代を過ごし、そして、ミッドチルダに移り住んだなのはにとって、 次元世界は身近な物でしかなかった。 ちょっとハワイに行ってくる。的な感覚と何も変わらない。 「なのは。実は僕達の言う”世界”はすべて同じ宇宙の中にある。そして次元が異なるというのは、 その”世界”の時間軸を含めた慣性座標系が異なるということを意味してるんだ」 「うーん、さすがに、よく分からないよ」 「すまなかった。そうだな、端的に言うと、それぞれの世界の位置関係ははっきりと決まっていない。 次元空間的に隣接していたとしても、次元座標が分かったとしても、実際の宇宙空間の座標ははっきりとわからない。 さらにそれぞれの星系は恐ろしいスピードで移動している。そして、今は各次元世界の座標的な関係を正確に計測していない。 だから、亜光速宇宙船が、今どこを飛んでいるか、どの次元世界に影響を及ぼすか分からないんだ」 なのはは、クロノが報告を聞いてから、ずっと険しい表情を崩さなかった理由がようやく分かった。 亜光速宇宙船に積んでいるかも知れない武器よりも、その宇宙船がどこを飛んでいるかが問題だと言うこと。 そして、現在のミッドチルダの次元世界の管理方法から考えて、どこの次元世界がその宇宙船に最も近いのか。 それとも観測済みのどの次元世界とも遠く離れているのか分からない。 要は、超弩級のロストロギアなのに、何も分からないことが、判断の根拠が何も無いことが問題だということ。 敵か味方か分からない。 どこにいるのか分からない。 いないかもしれない。 いつ来るのかも分からない。 来ないかもしれない。 でも、確実に存在している。 並べてみると指揮官にとっては頭の痛い問題だった。自分が戦隊指揮官であれば迷わず広域探査魔法をかける。 まずは相手を認識できないと交渉も戦いもままならない。 しかし、広大な宇宙に飛んでいる船を探索する便利な探査魔法があるわけもなかった。 それこそ砂漠から一粒のダイヤを探し出すよりも困難で、まず不可能だった。 そこまで考えて、ふとユーノの言葉を思い出した。ユーノからこの資料を受け取ったときに、 頭をかきながら『どうせクロノのことだから、さっさと座標を出せとか言うんだよね』と言っていた。 「あ、ユーノ君が言ってたのはそれか」 「ん?」 「その資料の最後に、ユーノ君がミッドチルダを起点とした大体の位置関係を書いてるの。なんでも旧暦の極秘資料だから、 精度は不確かだけど。って」 「なにぃっ!? それを早く言えっ!」 「ふぇぇ」 クロノはなのはの言葉に、提督としての仮面をかなぐり捨てて、少年時代に戻った時のように声を荒げた。 その迫力に、子供時代を思い出したなのはは思わず涙目になってしまう。なんとも情けない表情はとても部下達に 見せられないものだった。 静かな会話から、いきなりきゃんきゃんと騒々しくなった二人の掛け合い漫才じみた様子を見て、 カリムは、静かな微笑を浮かべ、冷え切った紅茶に口をつけた。この子達はまだまだ大丈夫だと。 § § § § § § § § § § § 「……なるほど。しかし、これではまだ不正確すぎる。もう少し正確な座標系を計測しないと」 「クロノ提督、でも表だって活動するには、大掛りすぎます」 「そうですね」 クロノがユーノの記述した資料と、管理局の次元世界チャートを見比べながら、雑多なデータを放り込んでは計算をしていた。 しばらくして手を止めた後、大きくため息をついた。 幸いなことと言って良いかどうかは分からないが、現在位置はミッドチルダからは遙か遠くに離れた場所らしい。 が、放置しておくといずれ管理世界の一つに接近する可能性がある。 その意味で言うと時空管理局の提督という立場から、このロストロギアを無視することはできなくなってしまった。 ただし、未知の宇宙船の軌道はあくまでも二千年前の資料からの類推が多く、精度はかなり悪い。 方向転換をしていれば根本から計算が狂ってしまう。 しかもこの船の現在位置を計測をしようとすると、かなり多くの機材を投入する必要があり、おいそれと手を出すことができない。 そもそも、このロストロギア自体を公開するかどうかも問題がある。 判断、決断が必要なことが山ほどある。 ただ、今の目撃情報も何もない不確定情報だけであれば、提督と言う自分の立場と裁量の範囲で秘密裏に調査することは可能だ。 カリムの言葉を聞きながらクロノは考え込む。 「機動六課の復活って駄目かな」 「それは僕も考えたが、名目がない。根拠がユーノの報告書だけ、さらに言うと推測でしかない現状では、 あれほど大掛かりなものは不可能だ」 「そっか」 腕を組んで悩むクロノになのはが声をかけた。 機動六課。ある意味伝説じみた部隊ではあるが、今の状況証拠だけでは、一気に再編成することも不可能だった。 これが、当時の闇の書の様に、ロストロギアとして確固たる危険性を認知されているのであれば、緊急対応として設立の 可能性もあるが、今の段階は、この宇宙船をロストロギアとして認定することは困難だろう。どう考えても情報が少なすぎる。 「クロノ提督」 「なんでしょう? 騎士カリム」 「それでは聖王教会からの依頼ということで特別調査隊を編成するように打診しましょう」 「いや、それは……」 「さすがにメンバーは絞る必要がありますが、今は混乱期でもありますし、比較的人事異動はやりやすいと思います」 クロノとなのはが眉をしかめて考え込んでいると、横合いからカリムが悪戯っ子のような表情を浮かべて、軽く手を叩いた。 確かに時空管理局と聖王教会は太いパイプがある。カリム自身も管理局で将官の地位を持っている。 しかし、管理局内部にも聖王教会の力が大きくなりすぎることを危険視する人間も多い。現状でこそ関係が良好ではあるが、 公的機関がひとつの宗教に染まってしまう危険性は、クロノも十分に理解していた。 「ロストロギアに関連する起動六課の功績は計り知れないものがありますし、似たような組織形態はとれると思いますが」 「たしかに、そうですが」 「では、聖王協会からのロストロギア探索の打診ということではいかがでしょう? 打診を受け、自発的に体制を整えるという形で 部隊編成は可能だと思います。ちょっと裏技も使わせていただきますけど」 「騎士カリム、裏技は頻繁に使えるものじゃありませんよ」 「わかっています」 カリムは義弟が管理局側の人間でもあり、クロノの友人でもあるので、若き提督の苦悩をよく理解していた。 聖王協会側から部隊編成に影響を及ぼす方向ではなく、あくまでも打診という形にすることで、主導権を管理局、 すなわちクロノに渡した。 クロノは、そのこまやかな配慮に感謝しつつも、苦笑いを隠せなかった。 聖王協会が把握していて管理局が把握していないロストロギアがあるかもしれないという、神経を使うでっち上げを行う 必要があるが、カリムの提案はかなり魅力的でもあった。 「……わかりました。なんとか調整しましょう。ですが、今すぐに、というわけには……」 「ええ、もちろんです。ということでなのはさん。しばらくはこちらに任せていただけますか?」 「はい。よろしくお願いします」 カリムは思案顔のクロノににっこりと微笑みかけ、そのあと、姿勢を正してなのはを見つめた。 目の前で繰り広げられる会話で二つの大きな組織が動くことを感じたなのはは、神妙な顔つきでカリムの言葉にゆっくりと頷く。 § § § § § § § § § § § 「う~ん、やっぱ新造艦の匂いはええな~」 比較的こじんまりとしたブリッジの全景を、一目で見渡せる場所に設置してある真新しいシート、即ち艦長席に座ったはやては 思いっきり伸びをした。微かに残る殺菌用のオゾンが独特の臭いと、同時にまだ体に馴染んでいないシートが、 新しい環境に来たことを強烈に訴えかける。 彼女の前には操舵席、航法管制兼通信、そして情報分析要員の特殊シートが整然と並び、主の着座を今か今かと待っている。 「そうだね、はやてちゃん、新しいからなんかわくわくするよ」 はやての横に立っていたなのはが、子供じみたはやての所作に軽く微笑みを浮かべた。 全天パネルの光に縁取られた、幼馴染みの顔を見上げたはやてがにんまりと笑った。 なのは達がいるのはL級をベースに機動性と情報処理能力を大幅に強化した、LU級巡航艦「サーブラウ」の艦橋だった。 秋に進水し、艤装、試運転が終わったばかりの新造船になる。 「しかし、クロノ君もやるなぁ、よくこのメンバーを集めたわ」 「ほんとだね。まさか”特殊部隊”になっちゃうなんてね」 「特殊部隊! ほんまにそうやなぁ」 はやては、なのはの言葉に、思わず噴き出した。確かにそうだ、この部隊は特殊部隊と言うしかない。 思わずヴィータが持ってきた地球の古い映画を思い出す。誰しも一目置く精鋭だが癖のある隊員で構成された小部隊で 敵陣深く乗り込んで、幾多の困難を乗り越え見事難攻不落の敵基地を破壊するというオーソドックスなストーリー。 確かに自分たちも全員規格外で一癖も二癖もある。まさに、映画そのものではないか。と、はやてはなかなかこぼれる笑いを 止めることができなかった。 「統合幕僚監部特務機動隊。だよ。なのは、はやて」 「にゃはは」 なのはと顔を見合せて笑っていると、圧縮空気が軽く抜けるような音と共にブリッジの入り口が開いて、長い金髪の幼馴染が 入ってきた。 言葉の上では異称を窘める内容だが、その表情は穏やかな笑みに彩られていた。 なのはがクロノとカリムに状況を説明した後、クロノは次元管理局で精力的に動いたらしい。 JS事件で被った被害の復旧や組織の再編で、上層部は慌ただしく動いていたが、特に変わった情報はなのは達に元には 聞こえてこなかった。それだけに年末に突然辞令が出た時には驚いた。 管理局直轄の機動六課。一番端的に示したのが、正月の地球で出会ったクロノの言葉だった。 名目上の部隊長は統幕議長でもあるミゼット・クローベルが兼任し、実質的な部隊長としてはやてが任命されていた。 義妹であるフェイトですら初耳であったことを考えると、相当上位レベルで秘密裏に協議されていたのだろう。 なのは、はやて、フェイトと管理局のSオーバーランクの武闘派魔導師を集中させた体制が発表された時の、声にならない反響は 相当の物があった。 辞令が出てから三か月あまり。突然の配置転換での引き継ぎやら、調整で忙殺されたが、ようやく本格的に部隊が稼働できる条件が 整った。 「機動六課でも非常時はアースラに本部を置いてたけど、最初から次元航行船が本部設定って、あったかな?」 「うーん、ないとおもうけどなぁ。どやろ?フェイトちゃん」 「たぶん、はじめてだと思うよ」 三人は顔を見合わせた後、ブリッジを見渡した。 統合幕僚監部特務機動隊には隊舎が無い。いや、形ばかりの隊舎はミッドの統合幕僚監部の一角に置いてあるが、実質的な本部は このサーブラウになる。 つくづく異例ずくめの体制に、上のほうの一部は相当気合いが入っていると三人は苦笑いを浮かべた。 特に部隊結成式の際に、部隊長の挨拶ということで壇上に上がったミゼットの、普段の温和な雰囲気を一変させる演説に三人は 唖然とした。 部隊も人員こそ16名と最小規模だが機動力と攻撃力にウェイトを置いており、機動六課時代と同じく、なのはが アタッカー部隊隊長でフェイトがウイング部隊の隊長に任命されている。 そして、部隊の特徴を把握した時、『誰がこれ抑えるねん、私か? 私なんか? そもそも真ん中と後ろが私だけやんかっ』と、 はやては頭を抱えてしまった。この時ばっかりは、クロノのお尻から尖った黒いしっぽがあるに違いないと真剣に思った。 そしてはやての守護騎士4名は、さすがに全員引き抜くのは無理だったのか、主任医務官としてシャマルが任命されている以外は 部隊には配属されていない。 はやてとなのはに辞令が出て自分に出てないことを知ったヴィータは相当いらだったようで、 『なのはとはやてが居て、なんであたしが選ばれてないんだっ!』 と腕まくりをして人事部に怒鳴りこもうとしていた。 シグナムが一喝しなければ、本当に殴りこんでいたに違いない。 その代わりに、なのはとフェイトの部下達は小隊長クラスの人材で構成されていた。 特に副隊長のアクセラ、サイオン両名は教導隊に配属されても違和感が無いほどの能力の持ち主で旧知の仲でもあった。 「あ、そうや、。フェイトちゃん。情報はもらえたんかな?」 「うん、もらえたよ」 ふと、はやてが閃いたように顔をフェイトに向けた。 フェイトは一人時空管理局次元観測センターに、ロストロギアの予測データを入手しに行っていた。 はやての言葉に頷いたフェイトは船体中央部にある作戦司令室に二人を誘う。 「どうだった?」 情報管制用のパネルが壁一面にこれでもかと言うほど設置された部屋の、円形で並べられている備え付けのシートに腰を 落ち着けるなり、はやては目を輝かせてフェイトに食いついた。 フェイトははやての勢いに苦笑しながら、持って帰ってきたデータキューブをコンソールにセットしてチャートを立体表示させる。 星図らしき光点と説明用の注釈がなのは達の前の空間に広がり、そして画面の端から、ゆっくりと赤い円筒状の線が伸びてくる。 ユーノが存在を予測した亜光速宇宙船、認識名”リドレー”の推定航路だった。 「運がいいのか悪いのかわからないけど、第124遺棄世界のそばを通る可能性が高かったみたい。今観測網を広げてるみたいだよ」 「124ってどこらへんや?」 「えっと、ミッドの近くになるね」 フェイトが、はやての言葉を受けて、コンソールを操作する。 推定航路の先端が拡大され、星図と重なる。ミッドチルダと第124遺棄世界の二つの光点が拡大され、位置関係が示されていく。 近いと言っても、測定不能な次元世界や、違う銀河系と想定されるような次元世界に比べて、の話だが 「うーん、だとすると、かなり神経つかわなあかんのかな」 「どうかなぁ、近いって言っても、さすがに距離感が分からないよ」 なのはは、そこに示されている数値を読み取って、頭の中で換算する。光の速さで五千年という基準が、どうにもぴんと来ない。 ふと我に返って第97管理外世界を調べて見たが、測定不能との表示がむなしく踊った。 やっぱりよく分からない。 小首をかしげていると、フェイトが徐に”リドレー”の位置を点滅させ、ため息をつくようにつぶやいた。 「で、どうやってコンタクトを取るか。だね」 「フェイトちゃん。それやけど、そこを通るかどうかも、まだわからへんのやろ?」 「うん。実はそうなんだ」 思案顔のフェイトにはやてが、航路計算の諸元をチェックしながら声をかけた。 このデータはユーノの分析データを元にした、最も可能性の高い航路の計算結果ではあるが、あくまでも予測値あるため、 元々の方向性に微妙な狂いがあると、まるっきりでたらめになってしまう。 今の軌道はあくまでも、前提に狂いがないと仮定した場合の物だった。 パラメータを少しいじって、シミュレートした結果を数パターン重ねてみて、航路予測が上下左右に乱舞するのを見たはやては げんなりしたように、シート備え付けの簡易テーブルに突っ伏した。 「部隊の指揮やら作戦立案はできるけど、さすがにどこ飛んでるかどうかも分からんもんを探す作戦はわからんなぁ」 「大丈夫だよ。今、シャーリーが、航空宇宙研究所で観測データを貰いにいってるから」 「そないな部署あったっけ?」 「あるよ。次元航行船の設計とか、空隊向けのデバイスとか開発してる所なんだ」 「へー、技術系にも目をむけなあかんかなぁ」 はやての情けない口調にくすっと笑ったなのはが天井の発光パネルをつけ、部屋を明るくする。 暗闇に慣れた目を瞬かせながら、はやてはなのはの言葉に首をかしげた。あまり聞いたことのない部署名だった。 はて、時空管理局にそんな部署があったかな? と眼をぱちくりさせる。 なのはがよく知った部署の様に話すのを聞いたはやては、 そういえば戦技教導隊は新装備のテストとかやってたし、その関係やろなぁ。と漠然と理解した。 「だけど、こうしていると、なんだかなつかしいね」 「なのは……」 「フェイトちゃんとはやてちゃんとわたし。家族みたいなもんだもんね」 「そやな。ずいぶんいろんなことがあったけど、なんだかんだで、ずっと一緒やしな」 「うん」 はやてが、呆けたように意識を宙にとばし、フェイトがデータを操作して難しい顔をしている。そんな二人を眺めていたなのはが、 ゆっくりと微笑んだ。 ふっと顔をあげた二人は、なのはの言葉に顔を見合せて、なのはと同じように笑みを浮かべる。 確かに、この三人で何かをしようとするのは懐かしい気がする。 中学に通っていた頃、並行して嘱託魔道師として時空管理局で働いていた。その時は一緒だったが、一人前になってからは 別々の道を選び、そして歩んできた。 よく考えれば、10年程しか経っていないのだが、その間の濃密な経験は地球でいたころの何十倍にも感じられていた。 そのうえ、なのはには養子とはいえ子供までできている。 ふとはやてが思い出した。 「そういや、ヴィヴィオはどうしたん?」 「ヴィヴィオは実家に預けてきたよ。ちょうど春休みだし、アイナさんもたまにはお休みとって貰いたいし」 「そっか」 「うん」 基本的にミッドチルダの高町・ハラオウン家は通いで六課時代からの知り合いであるアイナが ホームキーパーとして来てくれている。 家人両名が留守がちなので、アイナに頼る頻度も高く、ほとんど毎日お世話になっていた。 今回の辞令で、出張が長引きそうだと判断したなのはとフェイトは、アイナの休みを兼ねて、春休みの間はヴィヴィオを なのはの実家に預けることにした。 もし春休み中に帰ってこれなかったら、リンディに後のことを任せている。 ヴィヴィオにその話をした時、半ベソをかきながらも気丈に頷くのを見て、思わず貰い泣きしかけたなのはが涙眼で小さい体を 抱きしめた。 その時の情景を思い出したのか、なのはの表情が曇る。 しんみりしそうな雰囲気を変えようと、あわててフェイトが手を叩いた。 「あ、そういえば、正月は皆で集まってね。桃子さんとか、大はしゃぎでね。楽しかったよ」 「やろうなぁ、目に浮かぶわ」 「はやてちゃんもくればよかったのに」 「いや、それはさすがに迷惑やろし」 「カレルとリエラもヴィータやザフィーラに会うのを楽しみにしてたんだよ」 フェイトの配慮に、なのはがくすっと笑って感謝の目を向ける。 海鳴の高町家には何度か顔を出してるので、ヴィヴィオ自体も気後れするようなことはなかったが、せっかくなので、と 忙しい大黒柱をなんとか呼び戻したハラオウン家も新年の挨拶がてら集まることになった。 総勢十三人にも膨れ上がった新年会は想像した以上に賑やかで、クロノ酔い潰し事件や、アルフを筆頭に子供達の大騒動と 休みはあっという間に過ぎ去った。 そんな正月の短い休みの話で盛り上がっていると、はやてのコンソールに呼び出しのコール音が響いた。 「八神部隊長、ただいま戻りました」 「はやてちゃん、ただいま帰りましたー」 「あ、シャーリー、リイン。ごくろうさん」 フェイトと同じように航空宇宙研究所で、観測データを確認に行っていた二人からの連絡だった。。 しばらくして作戦司令室に入ってきたシャリオがリインを肩に乗せたまま、早速データを展開し始める。 シャリオの踊るような指先が次々とデータを展開し、様々なウインドウが広がっていく。 なのは達はその様子をじっと見つめる。 やがて、できました。というシャリオの言葉と同時に、立体表示された製図に新たな情報が書き加えられていく。 「このように第124遺棄世界の恒星を利用した重力カタパルトで、観測衛星を加速させて”リドレー”の捕捉を試みました」 「簡単に言うと、宇宙船の前に蜘蛛の巣状に張り巡らせた網を広げたんですよー」 「なるほど」 「へぇ」 観測衛星は五か月前、即ちなのはが報告した一か月後には射出されていた。 たった一か月で衛星を手配して観測体制を整える、その動きの早さにクロノの本気度が感じ取れる。 そもそもフェイトが入手してきたデータ自体がクロノが計算させたデータでもある。 シャリオとリインフォースが交互に説明するのを、なのは達は真剣な表情で聞いていた。 「で、結論はどうやってん?」 「百機の観測衛星を飛ばして、一機だけ観測に成功しましたっ」 「ほんまか」 第124遺棄世界を示す光点から、青い細線で描かれたメッシュが、”リドレー”の予測航路に重なるように広がり、メッシュの 最外縁部の角の一点がグリーンに点滅する。 そして、航路予測の赤い円筒が消え、かなり外れた所にぽつんと赤い光点が輝く。次々とその光点に関する補足説明が 空間ディスプレイ上に広がっていく。 「これが”リドリー”……」 「ええ。これで次元転移も可能になります」 「っちゅうことは……」 「うん」 シャリオとリインフォースの、どこか誇らしげな表情を見て、よし。と気合を入れなおし表情を改めたなのは達三人は 勢いよく立ちあがり、顔を見合せて頷いた。 「ほな、統合幕僚監部特務機動隊。活動開始やっ!」 はやての宣言で、新しい部隊の本格的な始動が始まった。 § § § § § § § § § § § 「八神副隊長! 船の近くに転移させた調査機器がすべてロストしました!」 「なんやて」 次元空間中で微速前進しているサーブラウのブリッジに、シャリオの緊迫した声が流れる。 操舵担当のルキノも、航法担当クルーとして新たに配属されたメイフェアも思わず、艦長席に座るはやてを見つめた。 できるだけ相手を刺激する気がないはやては、事前に用意していた光学迷彩まで組み込んだステルス性能の極めて高い探査機を 五機、次元転移で”リドレー”の周囲に送り込んだ。が、探査データを送り始めたかと思った次の瞬間には すべての探査機器が沈黙した。 作戦司令室に詰めているなのはとフェイトから通信がオープンになる。 「ちょっとまずい状況かな」 「敵と認識されちゃった……かな? 八神副隊長」 「そうかもしれん。けど、こないあっさりと、あのステルスを破るってことは、普通のレーダーやないなぁ。この船でも厳しいで」 なのはとフェイトが空間ディスプレイの向こうで難しい表情を浮かべる。 確かに探査機器を送り込んだことは、相手の気分を害する可能性がある。なのでできれば気取られずにすむような機体を選んだ。 ミッドチルダの通常の艦船では、ほとんど判別不能なレベルの物のはずだった。 が、問答無用で全機を一気に捕捉し破壊してくるとなると、既に敵対状況になっていると考えても差し支えない。 そして、わかることがいくつか。 まだ、宇宙船は”生きて”いること。 懸念していた兵器を持っている可能性が高くなったこと 高度なステルス機器を即座に認識し、迎撃できるテクノロジーを持っていること。 どれ一つとして安心できる状況ではなくなってきた。 はやては、手持ちの人材と機器を頭に浮かべ対策を考え始めた。 シャリオ達は顔を見合わせた後、副隊長の思考の邪魔にならないように、それぞれのコンソールに向かう。 「シャーリー、今までの情報で宇宙船の構造ってわかるやろか?」 「やってみます」 固いはやての声にシャリオが振り返って、頷いた。 シャリオは、複雑なコンソールを呼び出して、探査機から送られてきたわずかな情報から”リドリー”の構造を構築していく。 次第に”リドリー”の全容が浮かび上がってくる。 今までに見たどのタイプの次元航行船とも異なる全長20Kmの尖鋭的な姿。中央部後方は直径で4Kmはあろうかと思われる 巨大なリングを持ち、そこからは6Kmにも及ぶ円筒形の、主砲だろうか? が存在を強烈に主張している。 未知だった”リドリー”の圧倒的に巨大な姿が明らかになるにつれ、驚きの声が上がっていく。 そして特筆すべきは、船体上部に生えている巨大な樹。そして、”リドリー”を取り巻く呼吸も可能な空気の層。 どれもこれも今までとスケールが違っていた。 「未知のバリアーに包まれていますので、完全ではありませんけど……」 「なんや、あれは……木……か?」 「……としか見えませんね」 シャリオの手が目まぐるしく動く中、はやての唖然とした声が響いた。 ぴんと張ったヴァイオリンの弦はじくような音がして、を作戦司令室からの通信が繋がり、シャリオの横の空間ディスプレイに なのはの姿が浮かぶ。 「船内に転移可能なエリアはある?」 「ちょっと待ってください。……あります! 船内に大空間が。あ、大変です! 生命反応がありました」 「……そっか」 なのはの言葉に、頷いたシャリオは”リドリー”の構造ブロック図に変えていく。辛うじてバリアーの内側に入った機体から 送られてきたデータの断片を分析していたシャリオは、しばらくして歓声を上げた。 が、生命反応という言葉の意味を理解して声を失った。その場にいた全員が硬直する。 これで、”リドリー”をそのまま破壊するオプションも失ってしまった。 そして、なのはの意図に気がついたはやてが、コンソールに手を叩きつけて立ち上がる。 「あかん、なのはちゃん、それはあかん」 「でも、今の状況だと、わたしが強行偵察するのが一番だと思うの」 「危険すぎる、そんなん許されへん」 はやては厳しい表情と声で空間ディスプレイに映るなのはを見つめる。 なのははディスプレイの向こうで、静かにはやての眼を受け止めている。 確かになのはの言うとおり防御能力に長け、経験豊富な人間を偵察に出すことは一瞬考えた。だが現時点では、あまりにも相手の 情報が少なすぎる。そのうえ問答無用で攻撃される状況だ。 この状況下で、部下に『突入せよ』などと口が裂けても言えない。 それに、今の段階で、そこまでの犠牲を考えなければならない様な背水の陣を引く必要もない。 「でも、このままだと敵だと誤解されたままになっちゃうよ」 「しかしなぁ。……分かった。ちょい待ち、コンタクトをとってみるわ」 はやての判断は”一端退却して体制立て直し”らしい。しかしなのはの判断は違った。 作戦司令室でシャリオの情報を確認していたなのはは、生命反応があるという時点で、ただのプログラミングでの迎撃ではないと 考えていた。 であれば、こちらから通信をするか、出向いて状況を確認するか。 なのはの真剣な表情を見て、ふぅとため息をついたはやては、メイフェアに相手とコンタクトがとれるかどうか確認させた。 通信用の小型ポットを次元転移させてみたが、結果は芳しくなかった。 じりじりとした時間が過ぎる中、ヘッドセットをつけてコンソールに向かっていたメイフェアが、はやての方を振り返って 首を振った。 「だめです、隊長。通信ができません。相手のバリアー外からはコンタクトできず、内側に入ったら即座に破壊されます」 「そっかぁ、わかった」 メイフェアの困惑した表情に頷いたはやての横に空間ディスプレイが展開され、真剣な表情のなのはが映る。 「はやてちゃん、やっぱりわたしが行くよ」 「はやて、私も一緒にいくから。危険も半減するし、どんな対応でもとれると思う」 「フェイトちゃん」 なのはの言葉に重なるように、もう一つのディスプレイが展開してフェイトの姿を映し出す。 ディスプレイの向こうで、なのはがびっくりしたように横を向いた。 はやては、上長命令で止めることもできたが、この二人の意見が合っている時に権限を使う気にはなれなかった。 冷静にリスクを計算する。 「一人より二人。だよ。なのは、はやて。私たち二人いれば大丈夫。……でもはやてはだめだよ。部隊長なんだから」 「フェイトちゃん……こないなことになるんだったら、誰か他の人に現場隊長してもらうんやった」 作戦司令室で驚きに丸くなった目のなのはは、フェイトがくすっと笑って、バルディッシュを取り出したのを見て、 顔を見合わせてぷっと吹き出した。 確かに、金髪の幼馴染と一緒であれば何が起きても大丈夫。なのはもゆっくりとペンダント状にしているレイジングハートを 取り出して見つめる。艶やかなルビーの様なレイジングハートがなのはの期待に応えるかのようにきらりと光った。 フェイトはディスプレイの向こうで複雑そうな表情を浮かべたはやてに笑いかける。 これまた、幼馴染の言葉に苦笑を浮かべたはやては、苦虫を噛み潰したような表情で頬をかいた。 「もぅ、しゃーないなぁ」 「もし、私たちがロストしたら、即座に次元転移で、ミッドチルダへ……ね」 「フェイトちゃん。縁起でもないこというんやったら、許可せぇへんで」 「大丈夫だよ、はやてちゃん。なんとなく、そんな気がするんだ」 「なのはちゃんがそこまで言うんやったら、ま、えっか。でも危険を感じたら即座に引き上げること。これは守ってや」 「うん、わかった」 艦長席のはやては、幼馴染の頑固さに、翻意をあきらめた。 まあ、確かにあの二人、それも今はリミッターなどという無粋な制限も受けてない。 管理局の誇るS+クラス、今だと二人ともSSクラスに上がってるに違いない無敵のツートップであれば、何があっても 帰ってこれるだろう。 はやては決断すると、矢継ぎ早に指示を出し始める。 軽く敬礼したなのはとフェイトは副隊長に体制を整えるように指示を出しながら、サーブラウの転移ルームに急いだ。 「転移ポイントの設定完了です。用意はいいですか?」 「うん、大丈夫」 「ん」 「気をつけて行ってくるんやで。危険を感じたら、即座に転移すること。ええか、ほんまにわかってるか?」 「うん。大丈夫だよ、八神隊長」 「それでは転移します」 バリアジャケットになり、レイジングハートとバルディッシュを握ったなのはとフェイトは、はやての念押しに苦笑して、 でも一分の隙もない敬礼を返し、そしてメイフェアの言葉に頷いた。 転移ルームに円形の魔方陣が広がり発光を始める。 回転を始めた魔方陣の周りに陽炎のような揺らめきが広がると同時に、なのはとフェイトの姿が消えた。 「転移、成功と思われます」 「なのはちゃん、フェイトちゃん、無事に戻ってきてや」 メイフェアがコンソールを確認した後、振り返ってはやてに報告する。 その言葉を聞いたはやてはコンソールの上で手を組んで額を乗せる。今はただ二人の無事を祈るしか無かった。 § § § § § § § § § § § 本来であれば転送に関しては衝撃も何も無いのだが、少々無理矢理突入したことも影響しているのか、なのはもフェイトも 体中を走った乗り物酔いの様な不快感に顔を顰めた。 次元空間特有の暗い空間を抜けた次の瞬間、閉ざされた瞼に、明るい光が差し込んでくるのを感じた。 転移の違和感が抜けたなのはとフェイトの耳に、そよぐ風が揺らした葉鳴りの音がする。 それこそ、ミッドチルダの高原に、みんなでピクニックに行った時のような、さわやかさを感じる。 髪がそよ風でなびき、マントをはためかせる。そして鼻腔をくすぐる草や花の香り。 ゆっくりと目を開けるた二人の前に、真っ白いシロツメグサが満面に咲いている草原が広がっていた。 「え? ここって……、フェイトちゃん?」 「なのは、ここは……」 あわてて周りを見渡すと、空は青々と広がり、白い雲がゆっくりと流れている。 所々、大地に突き刺さった航空機の様な物の残骸があり、何らかの金属のカタツムリを模したような建造物がある。 そして遙か向こうには巨大な樹が見える。たぶん船体上部に出ていた樹なのだろう。 (これが”リドリー”の船内なの?) なのはとフェイトは、その、あまりにも平穏すぎる、そして船の中としては異質すぎる光景に呆然としていた。 《master!》《sir!》 レイジングハートとバルディッシュが同時に点滅し、己の主人の注意を引く。なのはとフェイトがはっと我に返った。 その時、二人に声がかけられた。 「ねえ、君たち誰?」 不意に声をかけられたなのはとフェイトは、ターゲット陣内に突入して、呆けてしまうと言う致命的なミスをした自分に、 心の中で叱咤した。 瞬時に声の方を振り返り、レイジングハートとバルディッシュを構え、相手に突き付ける。 だが、目の前に立っている存在を確認し、眼からの情報が頭の中で結実した時、なのはは唖然とし、フェイトが呆然とつぶやいた。 「え? エリオ?」 前へ 目次へ 次へ
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高町なのはとフェイト・ハラオウンは前回の戦闘から後、ずっと同じ悩みを抱えていた。 新調と共に性能が向上した相棒達を手に、意気揚々と守護騎士達へと挑んでいった、前回の戦い。 今度こそ彼女達を止められると思っていた。今度こそ話し合えると思っていた。 だが、その先に待っていたのは勝利ではなく、手痛い敗北。 フェイトは烈火の騎士の策謀により敗れ、クロノは乱入者の手により撃墜された。 完敗だった。 これで二度目の敗北、力が無ければ守護騎士達を止める事はもちろん話し合う事すら出来ない。 更なる力を、二人は欲していたのだ。 フェイトは病室で安静を強いられている間ずっと、なのはは平穏な日常の中でずっと、考え続けていた。 どうすれば強くなれるのか。守護騎士達を、止められるだけの力はどうすれば手に入るのか。 フェイトが退院を果たしたその日、二人はこの先どうすれば良いのかを話し合う為に、高町家へと集まった。 そして、前回の戦闘が記録された映像データを見直し、自身達の至らぬ点と敗因を調べていった。 勿論その映像の中には、クロノが撃墜される瞬間やフェイト自身が撃墜される瞬間が鮮明に記録されており、それ等のシーンを見る度に二人は陰鬱な表情を浮かべていた。 そうして見終えた映像データ。 映像の終了と共に、二人はどちらともなく溜め息を吐いていた。 至らぬ点は山のように存在した。だが、それらの点が直接敗因へと繋がっている訳では決して無い。 フェイトも撃墜されたとはいえ、ヴァッシュの活躍によりその穴は完全以上にフォローされた。 一度見直してみても自分達は優勢であったと、なのはとフェイトは感じていた。 敗因はただ一つ、終盤にて唐突に現れた一人の男。 易々とクロノを撃墜し、ヴァッシュを打ち倒し、十数人の魔導師が形成した強固な結界魔法を一撃で切り裂き、あの完全包囲の状況からの逃亡を容易く果たした男。 それは、二人の目から見ても異質な存在であった。 この男が居なければ恐らく、自分達は守護騎士達の目論見を阻止する事が出来ていた筈。 殆どチェックメイトとも云えた戦況が、一人の男の手により惨敗へと転がり落ちていったのだ。 改めて客観的に見てみると分かる。それはまさに悪夢のような出来事であった。 得なければならないのは、更なる『力』。 守護騎士も、あの謎の男だって止められる『力』。 高町なのはとフェイト・ハラオウンは苦渋の敗北から自身の弱さを知り、心の底から『力』を欲した。 そして、彼女達が考え付いた、更なる『力』を手に入れるその方法とは――― □ ■ □ ■ この日の管理局本局はある種の緊張感が漂っていた。 いや、緊張に身体を固まらせている者が多数いると言った方が良いか。 そこら辺を歩く隊員の半数程が、そわそわと落ち着かない様子を見せていた。 それもその筈。本日の管理局本局にはある有名士官が訪来する予定なのだ。 その有名士官とは、管理局に入隊した者ならば殆どが知っている人物であった。 ある者は尊敬をある者は畏怖を……それぞれがそれぞれの想いでその士官を出迎えようとしていた。 「だぁ~かぁ~らぁ~、僕は嫌なの! 何が楽しくてそんな危ない事をしなくちゃいけないのさ!」 そんな緊迫感が充満する管理局の中、その男は普段通りの恰好心持ちで歩いていた。 男の姿はド派手の一言。天へと伸る金髪とその痩躯を包む赤コートが、見る者全ての眼に突き刺さる。 何だあの恰好は? と、道行く人々の殆どが困惑を浮かべる。 お洒落な姿の若者達が闊歩する市街地ならまだしも、殆ど全員がお決まりの軍服を身に纏っている管理局ではその姿は取り分け目立っていた。 道行く人々の視線を集めつつ、男は後ろに数人の少年少女を引き連れながら白色の廊下を進んでいく。 「良いじゃないですか、ヴァッシュさん! 減るものでもないし」 「減る減らないの問題じゃないの。怖い、痛そう、やりたくない。てか、君達だって充分過ぎる位に力を持ってるだろ? これ以上つよくなってどーすんのさ」 「……私達はまだ弱いよ。弱いから強くなりたいんだ。強くなくちゃ、シグナム達は止められない」 「フェイトちゃんの言う通りです。このままじゃ……ダメなんですよ。もっと、もっと、もっと強くならなくちゃ。そうじゃなきゃ、ヴィータちゃんも、誰も、止められないんです」 男―――ヴァッシュはなのはとフェイトの言葉に思わず押し黙ってしまう。 ただ単純に、意志も理由もなく力を求めるだけだったら、ヴァッシュが彼女達の要望に応える事はなかっただろう。 しかし、彼女達は違う。 他を護る為に、力を欲している。敵である筈の守護騎士達を止めたくて、その為に、力を欲している。 それはまるで、人々を護る為に銃をとったある男のように。 それをヴァッシュも気付いている。気付いているからこそ、口では反対しながらも、本気で拒否をしようとしない。 半ば引きずられるように、殆ど無理矢理にではあるが、何やかんやでなのは達の言う通りに管理局本部まで来てしまっている。 「フェイトがこれだけ頼んでんだ、良いだろヴァッシュ! 見舞いにだって一度も来なかったんだし」 「うっ……い、いや、そこをつかれるとキツい所だけどね、アルフ」 「良いじゃないか。フェイトもなのはもちゃんとした考えが在っての事だ。修行を付けてやれば良い」 「ク、クロノまで……。で、でも、そう都合よく訓練室があいてるとは限らないじゃん。僕の得物を他の人に見せる訳にはいかないし」 「その辺は心配しなくても良い。執務管権限だ、数日くらいなら貸切出入り不可にだって出来る」 「だってよ、ほら何も問題無し。さ、フェイト達に修行付けてあげてよ」 「あ~、あ~! それって職権乱用じゃないか!」 「僕は使える権利を使っているだけだ。何も悪い事はしていない」 「クロノ……ユーノは僕の味方だよね」 「は、はぁ……確かに可哀想だとは思いますけど……」 四人の少年少女に一人の使い魔、更にそこに加わるはド派手な金髪頭……当然の事ながら周囲から浮きまくっているその集団。 道を歩けば誰しもがその集団へ視線を向ける。人々の注目を一心に集めながら、集団はギャアギャアと騒がしく進んでいく。 ―――そんな彼等を遠巻きに眺めている老女が居た。 「あら、あの子達は……」 好奇の表情で集団を見詰める人々の中に、その老女は紛れていた。 団子結びにされた白髪に、数々の皺が刻まれた顔。 その顔には柔和な微笑みが張り付いていて優しげな印象を他者に与える。 動きはゆったりと落ち着きに包まれていて、だがその立ち居振る舞いには無駄がない。 「そう、彼女達がPT事件を解決した」 老女は赤コートの男の後ろを歩く二人の少女を見詰めながら、一人言葉を零す。 その瞳はまるで子供を見守る母親のように暖かく、それでいて綺麗な宝を目の前にしたかのような喜びに満ちていた。 老女は左腕に巻かれた腕時計で時間を確認。まだ予定の時間まで暇がある事を確かめ、行き先を変更する。 その顔に浮かんだ悪戯っ子のような微笑みに、気が付く者はいなかった。 □ ■ □ ■ 「じゃ、僕達は此処で観戦させて貰ってるよ。二人とも頑張ってくれ」 「頑張ってね、フェイト!」 「なのはも頑張って。……それと怪我しないよう気をつけて下さいね、ヴァッシュさん」 数分後の管理局本部・訓練室。 備え付けのスピーカーから聞こえた観戦者達の声は、言うだけ言って直ぐに切れてしまう。 どうしてこうなった、と心中で呟きながらヴァッシュは溜め息一つ。 うつむき気味だった顔を上げて、前方に立つ二人の魔法少女へと視線を向ける。 それぞれのデバイスを起動させ、バリアジャケットも形成し終えている二人。表情もマジ、その様子は完全に臨戦態勢といった様子であった。 そんな二人を見て、再び溜め息一つ。そしてヴァッシュは意を決した。 大きく息を吸い込み腹の底に力を溜め、二人をしっかりと見詰める。 「えー、それでは今から訓練を始めさせて頂たいと思います。ちなみに、僕は誰かに物を教えるなんてしたことがないし、魔法も使えない。 だから僕は、僕の経験に基づいた『強くなる方法』しか教える事が出来ないし、それで本当に君達が強くなれるかは分からない。 それでも良いっていうんなら、僕は君達の訓練に付き合おうと思う。以前、僕の魔法訓練にも付き合ってくれた事だしね」 「「はい、よろしくお願いします!」」 「ハ、ハハ、本当にやる気満々だね……」 元気一杯の返答に引きつった笑みを浮かべながら、ヴァッシュは自身の拳銃を取り出した。 そのトリガー部に人差し指を引っ掛け、器用にクルクルと回転させる。 「そうだね、先ずは君達の実力が知りたい。初めは、軽く模擬戦といこうか」 そのまま拳銃を弄ながら、ヴァッシュは口を開いた。 引きつった笑みは何時しかなりを潜め、及び腰だった身体も今や自信に満ち溢れている。 「ルールは簡単。協力してでも良いから、僕に一度でも攻撃を命中させられれば、君達の勝ち。僕は……そうだな、君達に向けて六回引き金を引ければ勝ちって事でどうだい?」 そう言うヴァッシュの表情に普段のおちゃらけた雰囲気は欠片も存在しなかった。 真っ直ぐに真剣な瞳で二人の魔導師を射竦めながら、拳銃から六発の弾丸を抜き、ホルスターへと戻す。 その視線を受けた魔導師達も、ゴクリと唾を飲み込み、それぞれの相棒を両手で握る。 彼女達の見た事のない彼が、そこに立っていた。 名前一つで砂の惑星を震撼させるガンマン・『人間台風(ヒューマノイドタイフーン)』がそこには立っていた。 「OKかな? それじゃあ、模擬戦開始だ」 人間台風の口から開戦の合図が飛び出た瞬間、なのはとフェイトの二人は行動を開始していた。 なのはは、両の足首に備わった桜色の翼を羽ばたかせ上空へ。 フェイトは、地面を蹴り抜くと同時に高速移動魔法を使用してヴァッシュの背後へ。 それぞれの攻撃を命中させる為に行動を開始し―――だがそれよりも早く、ヴァッシュの右手が動いていた。 「1、2」 なのはがアクセルフィンを稼働させるよりも早く、フェイトがソニックムーヴを発動させるよりも早く、ヴァッシュは拳銃を抜いていた。 そして、銃口をピタリと二人へ向け、引き金を二度引く。 「これで、二回アウトだ」 笑顔と共に紡がれた言葉は、二人の魔導師を驚愕させるに充分過ぎた。 一歩とすら、動く事が出来なかった。いや、動くどころの話ではない。知覚する事だって出来なかった。 動き出そうと身体に力を込めたその時には、白銀のリボルバーが此方を向いていたのだ。 高速戦闘に慣れた魔導師ですら知覚不能の早撃ち。それがヴァッシュの持つ、単純明快ながら最強の必殺技。 勿論、なのは達もその早撃ちを警戒していた。 警戒していたからこそ、初手で先ず距離を離そうと、死角へと回り込もうと、思考していたのだが―――その早撃ちは二人の予測を遥かに上回っていた。 (これが……ヴァッシュの、本気。シグナムを倒した、技) 雷光の魔導師は突き付けられた銃口を前に、思わず感嘆の感情を沸き立てていた。 シグナムが倒される映像を通して、この早撃ちを何度も見て来た。 自分が撃墜された後、何が起きたのか。 あのシグナムを、たった一人で、魔法すら使わずに倒したヴァッシュの力とはどういった物なのか。 入院中のベッドの上、バルディッシュにダウンロードした映像で、何度も何度も見て来た。 コレがヴァッシュの力。守護騎士すら圧倒する、魔法とはまた別域の力。 スゴい、とフェイトは素直に感じていた。 (……こんなにスゴかったんだ、ヴァッシュさん……) 横に立つ高町なのはもまた、フェイト同様の驚嘆と、そしてその驚嘆以上の悲しみを感じていた。 以前の世界でヴァッシュがどんな日常を送っていたのか、なのはは彼自身の口から聞いた事がある。 それは銃と弾丸が物を言う世界。土地も、空気も、人々の心すらも渇き切った荒涼の世界。 一欠片のパンを賭けて、コップ一杯の水を賭けて、殺し合いが起きるという、想像すら難しい荒れた世界。 その世界で生き抜く為にはこれ程までの力が必要なのか。 これ程までの力が必要とされる世界でヴァッシュは生き抜いていたのか。 その世界は、こんなにも優しいヴァッシュに銃を持たせ、これ程までの力を求めさせるような世界なのか。 ヴァッシュに対して悲しみが、ヴァッシュが居た世界に対して怒りが、沸いた。 「さ、残りは四回だ」 白銀のリボルバーを突き付けたまま、飄々とした笑顔を浮かべるヴァッシュ。 対する二人も、それぞれの得物を力強く握り締め、薄い笑みを浮かべる。 「いくよ、ヴァッシュ」 「いきますよ、ヴァッシュさん」 少女達から告げられた宣戦布告に、ヴァッシュは笑みを変えずに答えを返す。 「どうぞ、御自由にってね」 その言葉と同時になのはは空へと羽ばたき、フェイトはヴァッシュの背後へと移動する。 なのはは飛行魔法で間合いは空け、フェイトは高速移動魔法間で合いを詰める。砲撃戦と近接戦、二人はそれぞれの得意とする間合いへとヴァッシュを引き込んだ。 「ハアッ!」 ヴァッシュに対する初手は、高速移動の勢いそのままに振るわれた袈裟斬りの一閃。 赤コートの右肩口から左脇腹へと、漆黒の戦斧を斜めに振り落とす。 だがその攻撃は、地面へと張り付くように体勢を下げたヴァッシュには命中せず、そのトンガらがった頭髪を掠めるに終わる。 「3」 直後、フェイトへと突き付けられる銃口。 振り向きもせずに構えられたというのに、その銃口はフェイトへとピタリと矛先を向けていた。 その反応の早さ、狙い付けの早さと正確さに、フェイトの表情が歪んだ。 再度、振るわれるはバルディッシュ。 相対する男との間にあるポテンシャルの差は、十秒にも満たない時間で理解させられた。 しかしながら、勝利への条件はフェイトの方が遥かに有利なのだ、引く訳にはいかなかった。 左足を一歩踏み出し、更に距離を詰めながら重心を低く、前へ。 左足へと力を限界まで溜め込み、一気に開放。手首を返して、振り下ろされていたバルディッシュを逆袈裟に斬り上げる。 シフトウェートを活用しての一撃。その速度は先の袈裟切りよりも更に早く、だがそれでもガンマンは容易く反応してみせる。 平型のバレルを楯のように掲げて、バルディッシュを受け止めた。キィン、という甲高い金属音が訓練室に響き渡る。 (銃身で―――!?) その特異な造形からしてバレル……いや、拳銃自体が相当に頑丈な造りになっているのだろう。 だが、そもそも拳銃のバレルは敵の攻撃を防ぐ為に存在する訳ではない。防いだ所で刃が滑ってしまい、鍔迫り合いに持ち込む事など到底不可能な筈だ。 その筈なのだが、この男はその不可能な筈の事象を、前を向いたまま、易々とやってのけた。 先のシグナムとの戦闘から引き続き、フェイトを相手にも、銃身で近接武器を受け止めるという超絶技巧をやってのけた。 交差したリボルバー銃とバルディッシュを挟んでフェイトとヴァッシュは均衡を見せる。 フェイトが放った渾身の一撃は、ヴァッシュの顔に張り付く余裕の笑みを崩す事すら、出来なかった。 「っとお!」 が、次の瞬間、その笑顔は脆くも崩れ去る事となる。 その笑顔を崩したのは、横合いから飛来した桜色の魔弾。 淡く発光する野球ボール大の球体が、空気を切り裂きながら、数瞬前までヴァッシュの顔面が在った空間を通過していったのだ。 「なかなか容赦のない攻撃するねって、おおおおおおおお!?」 すんでのところで弾丸を回避したヴァッシュは、狙撃主が居るであろう方向へ顔を向け、次の瞬間には絶叫を迸らせていた。 視界に映るは、容赦なく迫る計六発もの魔弾―――アクセルシューター。 上下左右様々な角度から包み込むように時間差で急迫するそれ等を、ヴァッシュは一つ一つ身体を捩って捻って、何とか回避。 「フェイトちゃん!」 全方位から攻撃すらも避けられた事に驚愕しながらも、なのはは攻撃の手を止めようとしない。 意識を集中させ、魔弾を操作し続けながら、フェイトへと声を上げた。 ツーカーで通じ合う二人だからか、ただそれだけの言葉でフェイトもなのはの考えを理解する。 誘導弾の回避に意識を集中させているヴァッシュの、その頭上へと移動するフェイト。 バルディッシュのカートリッジが一回二回とリロードされ、掲げられたフェイトの左手へと金色の魔力が集結していく。 「プラズマ……スマッシャー!!」 放たれるは、電光を纏った直射型の砲撃魔法。 ヴァッシュがその砲撃に気付いたのは発射される一瞬前。しかし、回避をしようにも周囲は誘導弾で囲まれており、迂闊に動く事ができない。 そうこうしている内に発射される砲撃。 閃光と轟音を撒き散らしながら直線する砲撃魔法が、誘導弾の回避に手間取っているヴァッシュへと、唸りを上げて近付いていく。 攻撃の命中を、勝利を、確信するフェイト。 そして、ヴァッシュへと砲撃が直撃する寸前―――ドガンという、耳をつんざく轟音が空気を震撼させ、ヴァッシュの周りを包囲していた魔弾が唐突に消え去った。 同時にプラズマスマッシャーがヴァッシュの立つ地面へと直撃。爆音と爆煙で周辺の全てを覆い隠す。 (避け、られた……!?) 砲撃の先から命中の手応えは感じられない。またもやだ。またもや、寸前で回避された。 完全に逃げ道が絶たれた絶望的な状況から、どんな奇術を用いてか、ヴァッシュは再び回避に至る。 まるで悪夢のようなしぶとさだ。 「まだまだ! エクセリオン、バスター!」 易々と裏切られた確信にフェイトが動きを止める最中、なのはは攻勢を緩めようとしなかった。 濛々と立ち込める砂埃の中心へと、全力の砲撃を叩き込む。 なのはには確信があった。アクセルシューターが消滅させられたその時には、ヴァッシュが必ずフェイトの砲撃を回避するという確信が。 だからこそ、攻撃の手を止めずに砲撃を撃ち込む。 攻撃範囲を優先させた砲撃で、点ではなく面でヴァッシュを追い立てる。 「4、」 桜色の極光が砂埃そのものを吹き飛ばす寸前、砂埃から横っ飛びに飛び出す人影があった。 その人影は地面と平行に身体を投げ出しながらも、空中に茫然と浮かぶフェイトへと銃口を合わせており、一回引き金を引く。 「5!」 そして、右肩から地面へと落下しながら、銃口を移動。 砲撃を撃ち放っているなのはへとその矛先を向け、再度引き金を引いた。 「これで5回アウト―――あと1回でゲームオーバーだ」 前転の要領で横っ飛びの勢いを殺したヴァッシュは、地面へと右膝を付けた体勢で座り込み、チェックメイトを宣言する。 全方位から迫るアクセルシューターを消滅させたのは、ヴァッシュが行った超速の銃撃。 上空で砲撃の体勢を取るフェイトを視認したその瞬間、ヴァッシュはクイックローダーを使用し、閃光の如く速度で弾丸を補充。 上下左右で飛び回る六発の魔弾を瞬く間に撃ち落として、プラズマスマッシャーを回避。 そうして、続いて発射されたエクセリオンバスターを横っ飛びで避けながら、二人を狙撃。 数秒の戦闘でヴァッシュが見せ付けたのは、人間離れした反射神経と動体神経、銃技。 クロスレンジでの攻撃も、砲撃魔法も、誘導型射撃魔法も、コンビネーションアタックすらも、当たらない。 全てを見切り、際どいながらも全てを避けきる。 これぞまさにザ・スタンピードの面目躍如といった所か。 「……なのは、一気に攻め込もう」 「うん、全力全開でいくよ」 砂の惑星で発生する争い事に首を突っ込んでは場を掻き回し、逃げ回り、何だかんだで終結へと収めていく。 そんな日常を送り続け、それでも尚生き延びてきたヴァッシュだからこその、驚異的しぶとさ。 そのしぶとさを前にして、魔導師達も最後の賭けへと打って出る。 このままでは敗北は必至。せめて、せめて一矢を報いたい。 そう思う二人は、ほぼ同時に動き出す。 『Sonic move』 『Accel Fin』 互いに挑むは近接戦。 フェイトはクロスレンジからの直接攻撃を、なのははクロスレンジからの零距離砲撃を、唯一の勝機と考える。 ヴァッシュの銃技と反射神経の前に、遠距離、中距離からの射撃砲撃魔法は余りに部が悪い。 ならばと開き直っての近接戦闘。 その場から消え失せたと錯覚する程の加速を持ってフェイトがヴァッシュへと肉迫し、バルディッシュをその脳天へと振り下ろす。 その一撃は身体を捻るだけで回避されるも、回避により生まれた隙を突いて、ワンテンポ遅れて飛来したなのはがレイジングハートを突き付ける。 既に発射シークエンスは整っている。 あとはなのはが一念するだけで桜色の奔流が撃ち出されるのだが―――それよりも早くヴァッシュが動いた。 右手の拳銃をレイジングハートへと横殴りに叩き付け、射線を無理矢理にズラしつつ、銃口をなのはへと定める。 「Jack Pot―――「まだ!」 今回、勝利への確信を裏切られたのはヴァッシュの方であった。 決め台詞と共に引き金を引き絞ろうとしたその時、リボルバーに大きな衝撃が走り、銃口があらぬ方向へとそっぽを向く。 逆に突き付けられるは、赤色の宝玉と金色の装具。 なのははヴァッシュの行動に反応し、対応をしてみせたのだ。 唐突に発生したレイジングハートへの横ベクトルに、体勢を崩し欠けるなのはであったが、両脚に力を込め何とか持ち直す。 続いて腰を軸に身体を回転させ、レイジングハートの穂先でヴァッシュのリボルバーを弾き、逆に砲口を突き付け返した。 この反撃は予想していなかったのか、ヴァッシュの顔に驚きの感情が浮かぶ―――が、直ぐさま拳銃を操り、真横から砲口を打ち据える。 三度ズレる射線。 今度の一撃にはなのはも即座の対応ができない。何とか体勢を直そうとするも、遅過ぎる。 そうこうしている内に引き金は引かれてしまい、 「6。僕の勝ちだね」 魔法少女達の敗北が決定された。 口惜しげに俯くなのはとフェイト。そんな二人へと交互に視線を飛ばしながら、ヴァッシュは口を開く。 「まぁまぁ、そう落ち込まない。なかなかどうしてやるもんだよ。何回かヒヤリとするとこもあったし」 拳銃を中折りし、リボルバーへと弾丸を補充しながらヴァッシュは飄々とした笑みと共に語っていく。 「それに言ったでしょ、この模擬戦はまだ初まり。本番はまだまだこれからだよ」 この模擬戦を通してヴァッシュは二人の実力を、そして将来開花するであろう才覚を知った。 ヴァッシュはただのガンマン。人の指導など殆どした事がない。 だから単純に、考えた。この才覚を伸ばしてやれば良いんだと、考えた。 「さあ、特訓開始だ!」 ホルスターへと戻される白銀のリボルバー。 ヴァッシュは朗らかな笑顔と共に高らかな宣告を発した。 高らかに声を上げるヴァッシュを見詰めながら、フェイトは思う。 この圧倒的な力に僅かでも良いから近付きたいと、フェイトは思う。 守護騎士達を止める為、アンノウンと称される謎の男を止める為―――フェイトは力を欲した。 今回の闇の書に関する事件、自分は管理局の魔導師として戦いに挑んでいた。 最初は親友を助けたい一心で、今は世界を守る為、そしてこんな自分に暖かい世界を教えてくれた皆の為、血塗られた力で戦う事を決意した。 でも、その先に待ち受けていたものは二度の敗北。 一度目の戦闘はデバイスの性能差が如実に出たと言えるかもしれない。カートリッジという未知の武装に追随する事が出来なかった。 ただ二度目の戦闘は完全に自身の油断が招いた結果だ。 二対一という有利な状況、ヴァッシュの助けもありあのシグナムを戦闘解除寸前にまで追い詰めたのだ。 なのに、だというのに、一瞬の隙を突かれ逆転された。 悔やんでも悔やみきれない、重く大きな罪悪感がフェイトの心を縛り付けていた。 だから、力を手に入れようと思った。 少しでもヴァッシュの手助けが出来るよう、力を手に入れようと思った。 守護騎士すら撃墜するその力に、少しでも近付きたいと思った。 フェイトは、思う。 強くなってみせると―――フェイトは思った。 高らかに声を上げるヴァッシュを見詰めながら、なのはは思う。 この圧倒的な力に僅かでも良いから近付きたいと、なのはは思う。 守護騎士達を止める為、アンノウンと称される謎の男を止める為、そして何よりヴァッシュの力になる為―――なのはは力を欲した。 ヴァッシュは全てを背負おうとする。 他人から力を借りようともせず、悩みを打ち明けようともせず、ただ一人全てを背負い込んで苦悩する。 アンノウンとヴァッシュの間に何らかの因縁が存在する事は、なのはも気付いていた。 アンノウンと遭遇したその夜から、ヴァッシュが険しい顔を浮かべるようになった事も、なのはは気付いていた。 問い掛ける事は出来なかった。 励ます事も出来なかった。 普段見せる明るい表情とはまるで違う、寒気すら覚える程に張り詰めたヴァッシュの表情に、言葉が見つからなかったのだ。 だがら、力を手に入れようと思った。 少しでもヴァッシュの手助けが出来るよう、力を手に入れようと思った。 守護騎士すら撃墜するその力に、少しでも近付きたいと思った。 なのはは、思う。 強くなってみせると―――なのはは思った。 ―――彼女達が最強へと至る為の長く険しい道。 ―――その道の終点に辿り着くまで、彼女達は数多の苦難を、苦境を、死線を潜り抜けていく事となる。 ―――だが、これが、この模擬戦こそが、第一歩目であった。 ―――彼女達が最強へと至るその道の、第一歩目であったのだ。 前へ 目次へ 次へ
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その為なのはのシールドは限界を超え無惨にも砕け散り、その身に何度も衝撃が走り膝を付いて苦しんでいると なのはの脳に一つの詠唱が浮かび上がり、痛みに耐えながらゆっくりと確実に立ち上がるや躊躇する事なくその詠唱を口にした。 「十戒の鼓動…喜死の召雷、幻妖の棲烈が齎せしは御滅による安息と知るがよい!!」 すると骸骨の頭上に光の魔法陣が現れ、其処から幾重にも光が降り注いで骸骨の身を貫いていき、それが終えたと同時になのはは右手を向けた。 「ファントム!デストラクション!!」 次の瞬間、骸骨は魔法陣に飲み込まれ暫くすると大爆発、周囲を眩しい光で包み込み、暫くして落ち着くと其処に骸骨の姿はなかった。 ファントムデストラクション、本来ではミリオンテラーを用いて放たれる光の広域攻撃魔法なのであるが、 なのはは神とユニゾンしている為に特別に使用する事が出来たのである、だが当然魔力の消費も激しい為、おいそれと扱える代物ではないが… それはさて置き、なのはのファントムデストラクションを目の当たりにしたレザードは威力もさることながら その広域攻撃魔法の正体を瞬時に理解した事により、苛立ちとも言える表情を浮かび上がらせていた。 「貴様のような小娘が…神の魔法を扱うとはな!!」 不届き…一言で表すのであればこれ以上の言葉が見つからない、それ程までになのははレザードの怒りを買っていた。 一方でなのはは自分の体の調子を調べ、まだイケると判断し構え始めレザードと対峙するのであった。 「なっ……何なんだ…この戦いは………」 一方此方はミッドチルダ宙域で待機しているクラウディアと、全地域からの情報が集うアースラを利用して戦況をモニタリングしているクロノ達の姿があった。 だがなのはとレザードの戦いは一同を驚愕させるどころか、フィクションなのではないのかと錯覚してしまうほどであった、それ程までに二人の戦いは常軌を逸していたのだ。 この時フェイトはゆりかごでなのはが言った言葉を思い出していた、…確かにこれ程の戦いに自分達が参加しても、ただ足手まといになるだけであると。 一方ではやては二人の戦いにおけるミッドチルダへの影響を懸念していた、二人の攻撃はあのドラゴンオーブの砲撃と大差無いと感じていたからである。 だが…だからといって二人を止める手立ては無く、更にレザードに対抗出来ているのは今のなのはしかいない…そう実感している時である、クロノの下にクラウディアからの連絡が届く。 その内容とは本局からの入電で、現在ミッドチルダ宙域に大規模な次元振の予兆を感知、 早急に手を打たなければミッドチルダは次元断層に飲まれ消滅すると言うものであった。 この次元災害は恐らくなのはとレザードの戦いによって引き起こされたものと考えられる、 だがこの場にいる全員で、もしくは全戦力にて二人の戦いを止めようとしても不可能、まさに無駄の一言である。 このまま滅びをただ待っている事しか出来ないのか…一同は奈落に突き落とされたかのような表情を浮かべている中、クロノが一石を投じる一言を呟く。 「…手が無い訳じゃないんだ」 場の沈黙を破るこの一言にクロノは説明を始める、十年前ジュエルシード事件のおり中規模の次元振が起きたことがあった、 その時提督であったクロノの母リンディは次元振の進行を抑えつけていた事があり、今回はそれを全員で行う事により進行を抑えつけるというものであった。 「しかもこの場には指折りの魔導師に騎士が複数いる、試してみる価値は十分にあるハズだ!!」 それに今ここで動かなければどのみち二人の戦いにより確実に滅ぶ、ならば少しでも次元振の進行を抑え、なのはがレザードを倒す事に賭けた方が無難であると。 するとこの場にいる更に通信を聞いている全員がクロノの案に賛同し早速クロノの指示の下、 機動六課メンバー、クラウディアチームを中心に魔導師達や騎士団達が一斉に移動または転送していき、 ミッドチルダ全域に広がるとアースラ及びクラウディアから齎された情報を基に魔法陣を張って一気に魔力を解放、次元振の進行を抑え始めたのであった。 管理局または教会騎士団が必死に次元振の進行をくい止めている頃、なのははレザードに対して肉弾戦を仕掛けていた。 なのはの持つレイジングハートは常にA.C.Sドライバーを起動させている状態に近く、先端の魔力刃も相応な威力を誇っているからである。 それにあの手の存在は肉弾戦を苦手としているハズ、かつての自分もそうであった為の決断であった。 だがレザードも負けてはいない、グングニルという強力な槍に周囲を飛び交う本のページも相当な威力があるからである。 それに神の力を得た為、肉弾戦においても十分な実力を発揮する事が出来るようになっていた。 そんな戦力の中でなのはは再度接近して魔力刃を左上に突き上げるように攻撃、レザードの左頬を掠めるが、 がら空きとなった腹部にレザードが右手に持つグングニルの突きが襲い掛かる。 しかしなのははすぐさま半歩下がりながらレイジングハートを下ろし柄を使ってグングニルを防ぎ、 更に前転して左のハイヒールによるかかと落としでレザードを蹴り かかとの鋭利な部分がレザードの右鎖骨に突き刺さるが、レザードは攻撃に耐えながら左手で抜き取りなのはごと押し飛ばすと、 本のページを飛ばしてなのはに斬り掛かる。 一方なのはは空中で体勢を立て直しレザードに目を向けた瞬間ページが次々に襲い掛かり、 一枚一枚がなのはの身を切り裂き頬に血が垂れるが動じる事無くレザードに押し迫り そのまま魔力刃で心臓を貫こうとしたところ、レザードはグングニルにマイトレインフォースを纏わせて魔力刃を防ぎ 更に右に薙払いなのはを吹き飛ばそうとしたが、前宙の形で防がれ頭上からなのはの魔力刃が振り下ろされるかに見えた。 だが既になのはの行動を予測していたレザードは柄を逆手に持ち替え切り上げて魔力刃を受け止めた。 なのはは歯噛みしながら一端距離を置き更に攻撃を仕掛け、接近するや否や何度も突き刺そうとしたが、 レザードは滑るようにして後方へ躱しつつ躱せぬ攻撃をグングニルで防ぎ、更にレイジングハートを引いた瞬間に合わせて振り上げなのはの胸元を深く傷つけた。 血が溢れ出し痛みも相当なものであるハズなのになのは臆する事なく、先程傷付けた右肩を狙って魔力刃を突き刺し 更にディバインバスターを発射させてレザードを吹き飛ばすが、 レザードも負けず吹き飛ばされ痛みに耐えつつもクロスエアレイドを放ち、なのはの両肩や腿を撃ち貫いた。 最早二人の攻撃には非殺傷設定などされておらず殺られる前に殺る…そんな骨肉の争いを続けていた。 そして瓦礫を背にして身を隠したなのはは深く傷つけられた胸元や肩腿などにフィジカルヒールを施し治療をしていた。 だがキャロやシャマル程の回復力は無い為、応急処置程度過ぎないのだが放っておくよりはマシである。 そんな治療をしている中で今までの戦いを振り返るなのは、此方の攻撃はレザードに通じているハズ…神とユニゾンした事によりアストラライズが可能となった。 だがレザードのポーカーフェイスは此方の精神力を著しく削る、何故なら今までのように効果が無いという不安感を掻き乱すからだ。 「そんな事は無い…絶対に通じているハズだ……」 それに余り時間も残されてはいない、ユニゾンには一定の時間が決められている、しかも今は神との強制的なユニゾン、 体に対する負担も半端ではない、だからこそ早急にレザードを倒さねばならない。 …迷っている時間はない、そう心の中でなのはは覚悟を決めると立ち上がりレザードを姿を確認すると対峙し始めるのであった。 一方でレザードはなのはの実力に舌を巻いていた、今まで二回ほど対峙してきたが、その中でもダントツの実力を誇っていた。 それは神とユニゾンしているから…最初はそう考えていた、しかし幾度か交えてなのはの気迫が尋常ではない事に気がつく。 恐らくは此処で全ての終止符を打つ覚悟で戦いに望んでいる、だがそれは此方にも言えた… 「巡りに巡る因縁…此処で決着を付けよう……」 アグスタ…いや本人は知るハズがないであろう八年前の撃墜事件からの因縁にケリを付ける、その為にレザード自らが封印していた魔法…それを用いる覚悟を決め レザードは飛び出し宙に浮くとなのはが瓦礫から姿を現しその姿を見据えながら対峙した。 「頃合いでしょう…」 「そうね…」 お互い覚悟を決めた表情を浮かべ対峙していると、先になのはが動き出しレザードの懐に入るや否や右のインパクトキャノンをレザードの頭部目掛けて撃ち抜いた。 だがレザードはその場から動かずなのはの攻撃に耐えていると続けてアクセルシューター更にショートバスターを撃ち放つ、 しかし尚もレザードは攻撃を耐え続けており、不安感を抱く表情を浮かべるなのはであったが、 逆にチャンスではないかと発想を変えてレザードの胸元目掛けてディバインバスターを撃ち抜く、すると――― 「カオティックルーン!!」 レザードはなのはのディバインバスターに耐えながら左手をなのはに向け足下に魔法陣を張ると、 魔法陣は一気に広がりを見せてクラナガン全地域は、環状の魔法陣が帯のように幾重にも張られているドーム状の結界に包まれた。 カオティックルーン、レザードが自らの意志で使用する事を禁じた魔法の一つで、この結界にいるだけで身体能力を20%減少させる結界魔法である。 その効果によりなのはの身体能力は低下、何かが全身にのし掛かっているのような…まるでかつて施されていた能力リミッターと同じ感覚を覚えていると、 目の前にいるレザードがグングニルを振り下ろしなのはは地面へと叩きつけられるが、そしてゆっくりと立ち上がりレザードを睨み付ける。 「この程度で…私を倒せるとでも―――」 「まだ、この程度で終わるものか!スペルレインフォース!!」 次の瞬間レザードの足下に黄色の魔法陣が現れ、レザードを黄色く照らし始めると、レザードの体から溢れる白金の魔力が更に輝き出し周囲を照らし始める。 スペルレインフォース、レザードが自らの意志で封じた魔法の一つで、魔法陣内に存在する者の魔力を1.5倍に高める切り札であり、 レザードにとっての希望の一手、この世界にとっては絶望の一手とも言える支援魔法である。 だがレザードの魔力強化はそれだけでは終わらなかった、今度はレザードに向かってまるで流星のように魔力が集まり強化していく、 その光景になのはは目を丸くする、何故ならばそれはなのはが良く知っている方法で魔力を集めているからだ。 「まさか…私の収束技術を!!」 「フフフッ貴様にとってこれほどの屈辱はないだろう!!」 地上本部での戦いの折になのはが見せた収束技術を用いて魔力を高め、更にそれによってミッドチルダを崩壊させる。 この収束技術こそ、この世界で収穫した技術の中で最高の利であり、またなのはの技術を使わざるを得ないと言う最悪の害でもあった。 それ程までプライドの高いレザードが使わざるを得ない相手、なのはは其処まで強くなりまた、驚異と感じていたのだ。 「だが…それももう終わる!」 するとレザードは右手を天にかざし魔力が右手を介して天を貫くと、詠唱を始める。 「我招く無音の衝裂に慈悲は無く!」 辺りはレザードが放つ光に包まれなのはは右手で光を抑えながらもレザードを睨みつけていた。 そしてレザードから放たれた光は次元海にまで及び、続いて光を中心に移送の魔法陣が7つ張られ光が伸びていた。 「汝に普く厄を逃れる術も無し!!」 すると魔法陣から直径数百メートルの隕石を呼び出す、スペルレインフォースに収束技術を用いた魔力強化により 本来の大きさの隕石より巨大な隕石を召喚する事が出来たのだ。 そんな巨大な隕石の一つが引き寄せられるようにしてミッドチルダに落下、なのはの下へ迫っていた。 「この世界ごと消滅するがいい!メテオスウォーム!!!」 曇天の空を打ち破るように巨大な隕石は真っ赤に燃えながら迫っていた。 その光景を目の当たりにしたなのははカートリッジを全て消費、自身にオーバルプロテクションを張り、 続いて目の前に自身最大の直径数十メートルあるラウンドシールドを張り攻撃に備えた。 そしてシールドと隕石が接触した瞬間に爆発、激しい爆音と共に衝撃波が走り、なのはの周囲を吹き飛ばし高速道も薙ぎ倒した。 だがそれだけには止まらす衝撃波は尚も広がりを見せて海岸線に到着、大波を生み出し海は更にうねりをあげ始めた。 そうこうしている内に二発目が直撃、先程と同じ規模の衝撃波が走り更には大きなクレーターが形成、 続いて三発目が直撃するとクレーターに巨大な亀裂が走り、その亀裂は地割れとなって周囲の倒壊した建物などを飲み込んでいき、 四発目には地割れは更に悪化、しかも海では津波が発生し海岸線は壊滅的な被害を被っていた。 場所は変わり此処は首都クラナガンから南方に位置する海上上空、周囲には次元振の進行を止める為に局員が必死に行動しており、 その中心ではクロノがモニターを通し二人の戦いを観察しつつ同じく次元振の進行を必死に阻止していた。 現在ミッドチルダ全域には管理局魔導師及び教会騎士団が陣を張って次元振の進行を抑えており、 二人の戦いに局員達を巻き込まれないよう注意・指示を送っていたのだが、その考えは既に終わりを告げていた。 レザードの放つメテオスウォームの威力はクロノの予想を遙かに超えた威力で、最初の一発目でクラナガン付近で陣を張っていた局員達は全滅、 そして二発三発と続き四発目の際に生じた津波においては、クロノとその周囲は難を逃れたのだが、他の局員は波に飲まれて姿を消し去ったのだ。 「悪夢だ……」 夢なら覚めて欲しい…そう心底思いながらモニターに目を通すクロノ、このまま局員達の数が減り続けば次元振が起きる可能性が高い、 いや…事態はもっと深刻である、レザードのメテオスウォームによる影響によりミッドチルダの地軸が歪み始め先程まで微弱だった揺れが大きくなってきているのだ。 その直後である、五発目の隕石が直撃し地軸の振動に更なる激しさが加わり、レザードが岩肌を顕わにした山岳地帯が音を立てて崩れ落ち、 近くで作業を行っていた騎士団の連中が山崩れに巻き込まれその光景をメルティーナやルーテシアが目の当たりにして思わず目を背けた。 そして六発目が直撃すると、西地区上空では衝撃波に巻き込まれバラバラになった魔導師が雨のように降り落ち、 その雨の中で必死に進行を押さえつけようとしているエリオとキャロ達、 地上東地区ではスバルの目の前で建物が倒壊、近くにいた騎士団を押し潰しスバルは作業を中断して助け出そうとしたが、 今回の作戦の要である事を自覚させるようにティアナが説得、苦しみ後ろ髪を引っ張られているかのような表情を見せながらも作業を続ける姿があった。 一方北地区ベルカ領で作業しているはやては空を見上げていた、上空には黒い雲、海は荒れ狂い、山は崩れ、森は激しく音を立てて燃え続け、町並みは潰れていった… 局員達も疲弊している、それは機動六課の面々も例外ではない、だがレザードのメテオスウォームは まるで世界を繋ぎ止めようとしている軛を外そうとしているように思えた、それ故か小さくぽつりと言葉を口にする。 「終焉ってこんな光景を指すんやろうな……」 誰もが絶望するであろうこの状況、しかし局員達の目にはまだ敗北の色を宿してはいなかった、 何故ならば彼等の前にあるモニターには、攻撃を耐え続けているなのはの姿が映し出されていたからだ。 今も尚なのはは戦い続けている、決して諦めず不屈の意志、心で… それが彼等の支えとなりまた、支えようとする意志となっているのだ、だからこそ諦めない! はやては弱気になりそうになった自分を恥じるように、頬を強く叩くと気合いを入れ直して作業を続けるのであった。 一方終焉を演出している発端では六発目の隕石に耐え抜いているなのはの姿があった、 …しかし張られているシールド・バリアには亀裂が走りなのはも立っているのがやっとと言った様子を見せていた。 だがメテオスウォームは七つの隕石で攻撃する広域攻撃魔法、後一つ耐え抜ければ此方に勝機が見えるとなのはは判断していた。 一方レザードはなのはの様子を確認後、右手を高々とかざし見下ろすような目線でなのはに語りかけていた。 「貴様の仲間が必死になって次元振を抑えているようです、健気だと思いませんかぁ?!」 だがそれも無意味になる…レザードの意味深な言葉を合図に頭上に存在する雲から直径数キロの、今まで類を見ない程の巨大な隕石が姿を現し息を呑むなのは。 レザードはこの世界ごとなのはを消し去ろうとしている、結界これ程の大きさの隕石でなければ不可能であると判断した為だ。 「貴様ごときになぁ!我を倒す事などなぁ!!不可能なのだよ!!!」 そう言ってかざした手を振り下ろし、隕石は加速を続けながらなのはと接触、今までとは比べ物にならない程の大爆発を起こし 生まれた衝撃波が土煙と混ざり合って走り海を越えると大津波を作り出しまた 衝撃波自体も山や森を吹き飛ばしながらミッドチルダ全土に響き渡った。 その為、作業を行っていた騎士団及び局員達は為す術なく衝撃波、もしくはそれによって引き起こされた災厄に飲み込まれ、 この未曾有の災害の発端となった地クラナガンは、建物の残骸は砂地と化し草木すら生えそうもない更地と言う名のクレーターとなって消滅したのであった。 「フフフ…フハハハハハハハハハ!!!」 この地で響き渡るのはレザードの笑い声のみ、既に勝利は確信しており、そろそろこの世界も終わりを告げるであろうと考えていると 辺りに響いていた振動が小さくなっていることに気がつく、だが世界崩壊への予兆だろうと考えていると体に不調を感じた。 「くっ!やはり…やりすぎましたか……」 いくらレザードが神の肉体と魔力を持っているとは言え先程のメテオスウォームは十分にレザードの体力を削るものであった。 だが憂いであったなのはを消し去る事が出来た以上、問題はないだろうそう判断した時――― 《Restrict.Lock》 突然の電子音が耳に入るや否や体中を桜のバインドで縛られ、それを行った正体がブラスタービットであると分かった瞬間 更地の一部が盛り上がり其処から右の袖が半袖左に至っては肩から失った上着に、 スカートも左の部分膝まで失い更に腰までスレットのように破れたバリアジャケットを羽織るなのはの姿があった。 「ありがとうレイジングハート」 《No.problem》 「貴様…あれに耐え抜いたと言うのか!!」 流石のレザードは驚愕の表情を隠せないでいると、なのはは一歩前に出てレザードを睨みつける。 …自分一人では耐えきれなかったかもしれない、だがあの時自分を応援してくれる仲間の声が聞こえた、 それを聞いたから自分の心は折れる事もなく、また守られ支えられた為にレザードの攻撃にも耐え切れたのだと、凛とした表情で答えた。 「バカなっ!そんな事が!!」 「あなたには分からないでしょう」 人を蔑み他人を見下し他者を踏み台にし自分しか賞賛しない…そんな性格の“人間”では一生理解する事は出来ないであろう。 当然レザードはなのはの言葉に耳を貸さなかった、他人の思いが自分を強くするなどありえるハズがないのだと自負しているからだ。 「たとえ貴様がそうであっていたとしても、この崩壊した世界では無意味だ!見ろ!!」 人と呼ばれた存在はいなくなり、文明も消滅したと言っても過言ではない程に崩壊している、 恐らくこの世界で存在しているのは自分と貴様のみ…そんな世界の中で貴様の戯言が通じるハズがない、 レザードはバインドに縛られたままであってもなのはを挑発していた。 「…私はみんなが生きているのを信じる!」 「現実を見よ!この荒廃した世界を!貴様の役目は終わったのだよ!!」 《―――まだ終わっていない!!》 突然の通信に驚くなのは、それがユーノであった事に気が付くとユーノの言葉の真意を確かめる、 なのはが必死に攻撃を耐え続けている頃、ユーノはクラウディアに赴きあるプログラムを配信したという。 それは無限書庫に存在する石のエネルギーをクラウディアの魔導炉で増大させてから使って攻撃を防ぐというものである、 だがこの作戦は石自体を犠牲にしなければならない、当然その中に含まれる情報も失われる事も指す。 しかし司書長であるユーノは人命救助を優先にして石を提示、起動させて見事みんなを守ったのだという。 するとなのはの下に次々に連絡が入る、フェイトを筆頭にはやて・スバルやティアナ、ヴィータ、シグナム、シャマルに ザフィーラを真ん中に置き右にエリオに左にキャロと機動六課メンバーが次々に連絡を送り最後にはクロノの姿もあった。 「なのは、後は頼んだ!」 「任せて!!」 みんなからの連絡を受けて元気を取り戻したなのはは、そのままレザードを見上げレイジングハートを向ける。 「今度は…こっちの番!!」 そして一歩前へ踏み出すと足下に巨大な三角形が三つ均等に並ぶ桜色の魔法陣を張り巡らせ更に目の前にも同じ魔法陣を張り巡らせる、 続いて背中の六枚の翼が巨大化して更に足元のくるぶし辺りにある翼は地面に突き刺さっていた。 すると目の前の魔法陣に桜色の魔力が集い始める、だがその光はなのはの周囲だけではなかった、 北地区、南地区、東地区、西地区と次々に使用された魔力がなのはの下へ向かい、ドラゴンオーブが放たれた場所からも魔力が集い始めミッドチルダ全土の魔力が集った。 その為に収束された魔力は魔法陣の面積を大きく越え更に環が出来ており、まるで土星を彷彿としいた。 …そして完成された魔法を前になのははレイジングハートを大きく振りかぶる。 「全力!全開!!スターライト……ブレイカアアアアァァァァ!!!」 渾身の力を込めて放たれたスターライトブレイカーは容易くレザードを飲み込み巨大な直射砲となって天を貫き次元海に到達、更に上昇して二つの月の間を通り過ぎていった。 そして地上では撃ち放たれたスターライトブレイカーの影響により雲が晴れ、夜空や二つの月が垣間見え、 二つの月の間から桜色の光を確認、するとその延長上に黒い物体を発見し、黒い物体は静かに地上へと落ちていった。 一方でなのはは勝利を確信した様子を浮かべるが、体に掛かる負担により、膝を付きレイジングハートを支え棒に肩で息をしていた。 すると其処にグングニルを杖にして近付くレザードの姿があった、どうやらここまで歩いてきた様子である。 そしてなのはを睨みつけるとグングニルを大きく振りかぶり、なのはに向かって突き刺す構えを見せた。 「貴様のような小娘に…我が力が負けるハズがないのだ!!」 そして振り下ろされたグングニルはなのはの腹部に迫り貫く…ハズであった。 だがグングニルはなのはに触れる手前で崩壊した、流石のオリハルコンも威力に耐えきれなかったようである。 この結果に歯噛みし苦虫を噛んだ表情を浮かべる中でなのは凛とした表情でレザードを睨みつけ一言告げた。 「いくら貴方が世界を滅ぼす力を持っていても…私の心を折る事なんて出来ない!」 「なんだと?!」 「心は…魂から生み出されるもの…だから心を支配出来る存在なんて何処にもいないんだから!!」 それはこの体になった事でハッキリ解ったことがあり、力で魂を支配する事が出来ないように 力で心を屈服させる事など出来はしない、心は心で魂は魂とでしか触れ合うことが出来ないと… そんななのはの言葉を聞きレザードはある二つの影と重なる、それはかつて自分と対峙した王女、そして自分が愛した愛しき者レナスである。 自分がこの世界に来る間際に放たれた言葉の意味、恐らくこれが答えなのだろう… だから他者が所有する事が出来ない、たとえ世界を滅ぼす力を持っていても、神の力とは万能では無いのだから… レザードは全てを悟った瞬間、体が青白く光り出しまた少しずつ光の粒子と化していた。 それはレザードが全てを受け入れた意味であり、そして全てが終わりを告げる合図でもあった。 「私の…負けです……」 静かに…だがハッキリとした口調で敗北を宣言すると、レザードの体は加速度的に粒子化していき、その中で振り返るようにして目を瞑る、 …悪くない人生であった、自分の本能に任せたまま、やりたい事を好きなだけ行った、だが…惜しくらむは初恋の存在を手中に収める事が出来なかった事ぐらいか… だがそれでもレザードの心は晴れた気分であった、恐らくそれは心から悟り死を受け入れたからであろう。 レザードは自分の意志が微睡みの中に溶けていきながら広がっていく死の感覚を堪能していると、 体は完全に光の粒子となり静かに音も無く崩れ去り消滅したのであった。 レザードの死を見届けたなのはは、緊張が抜けたのかその場に座り込む、すると体が輝き出し光と共に二つの魂が解放される。 その時である、なのはの周囲から転送用の魔法陣が現れ其処から次々に機動六課のメンバーが姿を現す、その中にはユーノの姿もあった。 「ユーノ…」 「なのは…お疲れ様」 ユーノはなのはに近付き手を差し伸べるが、どうやら体が思うように動かないようで差し伸べられた手を触れるだけで止めるなのは。 するとなのはの状態を察したユーノは膝を付き、なのはと同じ目線に座る中で二人は流浪の双神に目を向けた。 「有り難う流浪の双神…」 「我等は力を貸したに過ぎない、奴を倒したのはなのは、貴方の“不屈の心”よ」 イセリアクイーンは優しい笑みを浮かべながら激励を送ると、続いてガブリエセレスタが言葉を交わす。 今回の戦いによりミッドチルダの地軸はズレたまま、今は崩壊前の予兆として静かであるがすぐさま崩壊が始まるであろうと。 其処で流浪の双神が力を使って地軸だけでも修復するという、流石にあれだけの戦いを行った為、 かなりの力を消費してはいるが地軸を修復するぐらいであれば可能であると告げられた。 「お願い出来ますか?」 「あぁ、任せておけ」 ユーノの言葉に力強く答えると早速流浪の双神は足下に魔法陣を張り右手で触れる、 すると魔法陣から一筋の優しい光が延び地面と接触すると地上全体が光に包まれ、そして暫くすると 光が落ち着き始め一同は辺りを見渡すと全土を覆っていた灰色の雲は晴れ、荒れていた海も落ち着きを取り戻していた。 「では我等は行く、もう…会う事もないだろう」 「…さようなら、我等を従わせた強き心の持ち主達よ……」 流浪の双神は軽く別れの挨拶を交わすとそれぞれ赤と青の光の玉に変わり上空を上っていき暫くして音も無く消えていった。 それを見上げながら本当に全てが終わったのだと実感し始めるなのは達であった。 暫くしてユーノはなのはの左肩に手を回し、続いてフェイトが右肩に手を回して優しく立ち上げると 東の空が徐々に明るくなり始め夜明けが近いことを告げていた。 「なのは、夜明けだよ…」 「うん、とっても綺麗だね…ユーノ」 「これは…この風景はなのはが守った景色なんだよ?」 「うん…ありがとうユーノ、そして―――」 「…なのは?何か言った?」 ユーノの問い掛けに小さく首を振るなのは、そして朝日を見つめ笑みを浮かべていた。 一方でクロノは朝日を眺めながらこれからの事を考えていた。 「…これからが大変だ」 ミッドチルダの再興、管理局の立て直し、魔法に対する対策など問題は山積みであるとクロノは朝日を見つめながら話し、 その言葉にはやては頷き他のメンバーも同じく頷いていた、そしてフェイトはなのはに目を向けながら言葉を口にした。 「頑張ろうね、なのは―――」 だが…なのははフェイトの言葉に一切反応せず、眠りについたかのように瞳を閉じていた… しかし…なのはの表情は安らぎに満ち溢れており、優しい笑みを浮かべたままであった……… 前へ 目次へ 次へ