約 2,714,630 件
https://w.atwiki.jp/legends/pages/4202.html
第七話 【一天死海】 学校町に海はあるか? この質問には簡単な答えが返ってくる。 ない。 たった一言で終わる回答。 面白みも何もないが、地図を広げて目を皿のように調べてみても学校町には海はない。 だが、一八〇度異なる答えをする可能性を持つ者達は存在する。 都市伝説と戦うために都市伝説と契約した能力者達――通称、契約者。 彼らならばこう答えるかもしれない。 もしかしたら、と。 ◆ □ ◆ □ ◆ 「一緒についてきてくれないか?」 江良井卓はかつての同僚からこう告げられた。 体がもたないとの理由で三年前に転職した同僚。彼から母親が亡くなったから搬送を頼むとの連絡が来たのは二ヶ月近く前のことである。 つつがなく葬儀は終わり、同僚は小さくなった母親を家に連れて帰っていった。 四十九日を終え、納骨してから江良井の職場を訪れた元同僚は憔悴しきった表情になっていた。 最初は母子家庭であることは同僚と働いていた頃に聞いたことはある。最愛の母を亡くした精神的疲労からくるものだと思っていたが違うようであった。 「嫁の話、覚えてるか?」 「ああ。別居中だったな」 元同僚がまだ同僚であった頃――転職よりもさらに前の今から七年前に結婚していた。 同僚の妻も江良井と同じ葬儀社で事務員を務めており、順調に交際を重ね結婚を機に退職。 江良井が知る限りでは仲睦まじい理想の夫婦であった。 義母の葬儀に顔を見せぬことを不思議に思った別の同僚が尋ねると、妻とは別居中であり、協議離婚の話し合いをしている最中だとのことであった。 穏やかな元同僚と元事務員の意外な展開に驚きつつも、夫婦生活を続けていればそういうこともあるだろうと納得していた。 「違うんだ、本当は別居なんかしちゃいない。協議離婚なんてのも嘘だ。そうしておいた方が皆も納得しやすいだろ」 「……どういうことだ?」 「お前だから言うけどな、三年前から行方不明なんだよ。海に行くって言ったきりずっと……」 元同僚の言葉に嘘は感じられない。そもそも嘘を吐く必要性などない。 どうして自分を誘ったか。 江良井からしてみればこれだけが不明な点である。 「どうして俺に?」 「お前だからだよ。お前なら口が堅いだろうし、何があっても動じないじゃないか」 「買い被りだ」 「それでもお前なら信用できるからな。それにお前は――」 ――あいつのこと、好きだったろ? その呟きは口には出さず。 南区の繁華街を抜け、北区へとふたりを乗せた車は進む。 「何処に連れて行く気だ?」 「決まってるだろ」 江良井の問いに、元同僚は初めて顔を向ける。 共に働いていた間、一度も見せたことのない辛そうな顔を。 「海だよ」 それきり何も言わず、北区へ。 ◆ □ ◆ □ ◆ ふたりは北区に到着していた。 端的に言うと北区どころか学校町に海はない。 ここで休憩を、というわけでもないらしい。ここが目的地のようだ。 「あいつが居なくなってから親戚知人、心当たりのある場所もない場所も全部行ったし勿論警察にも行った。それでも手掛かりは全然なかった。他に男でもできたのかとも思ったさ。それならそれでいいと思ってたんだ。……それがな、お袋の初七日によ、手紙が入ってたんだ」 手紙は謝罪から始まっていた。 突然いなくなったこと。 連絡を絶ったこと。 義母の見舞いへ行けなかったこと。 葬儀に参列すらもできなかったこと。 そして、今でも自分がどれだけ愛しているかということ。 そして最後に日にちと場所が記してあり、そこで逢いたいと締めくくられていた。 最初は行くつもりはなかった。 母が亡くなってそれどころじゃなかったこともある。 今頃手紙一通寄越しただけでふざけるなと言う感情もあった。 それでも行くつもりになったのは、便箋には濡れた跡が見えたからだ。それはきっと涙の跡。 突如行方をくらませた彼女は何を想い、手紙を書いたのだろうか。 「何時に来いと書いてあったんだ?」 「今が約束の時間だ」 「場所は間違いないんだろうな」 「ああ、間違えるはずがねえ。ここの神社がお気に入りらしくてな。――ここでプロポーズしたんだ」 「……だが、誰も――」 がくん、とふたりの膝が崩れる。 咄嗟に足元を見ると、無数の白く透明な手がふたりの足を掴んでいた。 「な、なんだこりゃあ!」 学校町の別の姿を知らぬ元同僚はわからぬことだが、江良井にはその手が都市伝説であると見抜いた。 ふたりの足を掴むその手は都市伝説『白い手』。 遊泳を楽しむ人間を海底――あの世へと引きずり込む都市伝説だ。 手を振り払おうとするがどのような物理法則に従っているのか足は掴まれているが手を触ることができない。 何本もの白く透けた手が地面から伸びてきて、彼らふたりは引きずり込まれた。 存在しないはずの――海へ。 ◆ □ ◆ □ ◆ 一体どれだけの間引きずり込まれていたのか。 体感時間ではほんの一瞬のような気もするし、一時間近く引きずり込まれるような感覚。 上下左右全てが反転と回転を繰り返し、着いた先は学校町では見たこともない風景――海であった。 多少の酩酊感はあるものの引きずり込まれた際に感じた感覚の反転はない。 つまり、何かあってもいつも通りに戦えるということだ。 「――ッ!」 元同僚が叫ぶ。 その先には白装束に包まれた女が立っていた。 かつての元事務員であり、元同僚の妻である。 どうしていきなりいなくなった? 今までどこにいた? 一体何があった? 言いたいことは山ほどあったろう。 全ての疑問をおいて、元同僚は呼びかけた。 「家に帰ろう」 どうでもいいとは言わない。 だがそれら全てよりも元同僚はふたりで帰ることを望んだ。 ――ごめんなさい 白装束の女は寂しそうに呟いた。 ――わたしは帰れないの。あなたとは一緒にいれないの 「どうしてだ? 誰かに言わされてるのか?」 ――いいえ。わたしはもうあそこにはいられない 「いつ帰ってきてもいいように家はそのままだ。服も化粧品も食器も。お前が大事にしていたマイセンの食器も。近所の目が気になるって言うなら引っ越してもいい。別の県に引っ越してそこで一からやり直そう、な?」 ――違う、そうじゃないわ 「どうしてだ?」 元同僚は同じ言葉を繰り返した。 泣きそうな声で。 誰も聞いたことのないような辛い声で―― 「男が……できたのか?」 妻が失踪してから考えないようにしていた最悪の言葉を口にした。 三年前、妻がいなくなってすぐに思いついてしまった最悪の事態。 江良井を始めとした同僚達にも悟られたくないから三年前、彼は葬儀屋を辞めて妻を探し続けた。 もしもそうだったなら自分はどうすればいいか。 何度も否定し、何度も考え込んだ事態。 そして出した結論。 「だったらその男と会わせてくれ。そいつと話しをしてみてそいつの意思も固いようなら俺は身を引く」 無事でさえいてくれたなら。 自分を押し殺し、出した結論。 だが、考えたくもないその想像を彼女は否定した。 ――わたしはもう〈そちら側〉の住人じゃないの 元同僚にはわからぬ言葉であったが、江良井は彼女が何を言いたいのか正確に理解した。 この世界を〈こちら側〉と呼ぶなら〈あちら側〉は別の世界。 今、彼女は〈そちら側〉と言った。 そちらとは――こちら。この世とあの世。 彼女はすでにこの世の住人ではなかった。 「いつ、死んだんだ?」 ――新婚旅行の時に引きずられて それは『白い手』に引きずられてから四年の間、都市伝説と成りながらも共に過ごしていたことを意味する。 「何を言ってるんだよ」 「死ぬ直前に契約してすぐに飲み込まれたか?」 一切口調の変わらぬ江良井にどこか苦笑するような雰囲気で彼女は頷く。 『白い手』に引きずられた直前、いつかどこかで誰かから聞いた都市伝説の話を思い出した。 『都市伝説と戦うために都市伝説と契約した能力者』の話を。 引きずり込まれる海の中、その話を思い出した彼女は『白い手』に契約を持ちかけ、契約は完了した。 彼女は都市伝説についてもう少し知っておくべきであった。 心の器と呼ばれるものが存在することを。 己の容量以上のものと契約すればどうなるかを。 そして何より、契約者は都市伝説と対抗するために別の都市伝説と契約するということを。 かくして彼女は飲み込まれ、『白い手』となった。 自我が残り、ある程度の自由が利いたのは彼女にとって幸いだったのか否か。 少しずつ引きずられ、彼女は海へとその身を委ねることになる。 彼女が書いた手紙にあった跡。 それは涙ではなく海水であったのだ。 「そんなことはどうでもいい……俺と、やり直そう!」 ◆ □ ◆ □ ◆ 数年前、マクドナルドでバイトの女の子に対して通常とは逆の順番で注文したらどうなるか試した人がいた。 つまり「店内で、バニラシェークのMサイズと、 マスタードソースのナゲットとポテトのSサイズとチーズバーガー下さい」という風にね。 すると、レジの女の子はすっかり頭が混乱してしまって、 何度も注文を聞き返し、おまけに最後に「店内でお召し上がりですか」と聞いたそうだ。 面白い。 そこで、僕も試してみた。 「店内で、ペプシコーラのMサイズと、ポテトのMサイズ、あとフィッシュバーガーをお願いします。」 バイトの女の子は顔を挙げて言った。 「あいかわらずの性格ね。」 別れた彼女だった。 「僕らの時間も逆にたどれないかな?」 突然泣き出す彼女。 「おい、いきなり泣くなよ。こんなとこで・・・・」 「ごめん。でも逆にたどるなら、始まりは涙でしょ?」 僕はまわりの目も気にせず、彼女にキスをした。 ◆ □ ◆ □ ◆ 元同僚はどのような経緯でこのコピペを見つけ、ネットロアとして契約できたのかはわからない。 能力は限定条件下での時間の巻き戻し。 その条件下とは「別れた女との再会」――すなわち、今。 ふたりを淡い光が包む。 元同僚は彼女に何かを訴え、彼女は涙を見せる。 光の中、江良井はふたりの姿が少しずつ若返ってきていることに気がついた。 「時間が巻き戻っているのか……?」 何かに気がついた江良井が元同僚の肩に手を置こうとするが、光に阻まれる。 「やめろ、それ以上能力を使うな」 淡く優しい光は全てを阻む。 渾身の力を込めた一撃も、江良井の言葉すらも。 ふたりの姿が一年前のものになり、二年前のものとなる。 時間の巻き戻るペースはゆっくりと早くなり、光に包まれたふたりが三年前の姿まで戻るのに時間はかからなかった。妻が失踪し、仕事を辞めた三年前。 「装備、メタルキングの剣」 己の都市伝説を拡大解釈し、白銀に輝く巨大な剣を召喚する。 ゲーム中で最高の攻撃力を誇る剣を上段にかまえ、元同僚めがけ真っ直ぐに振り下ろす。 都市伝説には都市伝説を。 一縷の望みを託した一撃すらも光によって阻まれる。 その間にも巻き戻りは進む。 ――と、突如彼女の体がぶれた。 彼女の体を無数の手が掴んで離さない。 「まさか……飲み込まれた直前に戻ろうとしているのか?」 江良井の考えは正しかった。 時間の巻き戻しとはやり直しを意味する。 『白い手』に飲み込まれた彼女はすでに都市伝説と成っていた。 元同僚が巻き戻したのは人間時代の彼女ではなく、都市伝説と化した彼女。 今まさに彼女はまた新たに飲み込まれようとしているのだ。 今度は、元同僚すらをも巻き込んで。 『離れろ、離れろ! 離せ! 離せええええええええええええ!!』 彼女と自分とにまとわりつく手を剥がすが、剥がす先から別の手が新たに掴みかかる。 飲み込まれた彼女が抑制していた頃とは違い、手はただそこにあるものを引きずり込むだけだ。 「――ニフラム」 ゲームでの説明をするならば、ニフラムとは敵一グループを光の彼方へと消し去る呪文である。主にアンデッド戦で良く使用される。 今、江良井が唱えたのは半透明の『白い手』を霊的なものと見做したからであり、その判断は正しい。 だが、ふたりを包むのは『白い手』とは別の都市伝説。 メタルキングの剣の一撃すら無効にした都市伝説に無意味な行為だと、江良井はわかっていたのかもしれない。 かくして、しっかりと掴んだ『白い手』は淡い光の中、ふたりを引きずり込む。 海の底――幽冥へと。 「……どうして今になって戻ってきた?」 海から戻り、新婚生活を営んでいた彼女。 突如行方をくらませ、突如夫の前に姿を現した彼女。 本当に彼女は生前の彼女だったのだろうか。 溺死した彼女の心残りに『白い手』が呼応し、顕現したのだとしたら? 淡い光は消え、白く透明な手も消え、ふたりも消えた海辺。 答えるものはいない。 海を見る江良井の表情は心なしか沈んでいた。 ◆ □ ◆ □ ◆ 後日、北区のとある神社でふたりの男女の溺死体が発見された。 男女共に死後数年経過しているようで、身元の調査も難航しているらしい。 わずか十数行でまとめられた新聞記事を見て小さく溜息を吐いた江良井の耳に何かが聞こえた。 それはきっと――潮騒。 了 前ページ次ページ連載 - 葬儀屋と地獄の帝王
https://w.atwiki.jp/legends/pages/2600.html
喫茶ルーモア・隻腕のカシマ 解説とか、言い訳みたいな話 二度目を読むなんて事は、まず無いと思いますが もし、そういう事があるならば…… 個人的には黒歴史メモとして大活躍なページです 我が厨二のチカラ、とくと味わえ! って、感じです <童貞魔術師> 篇 + ==クリックで展開 碓氷サチについて 本当は、さっちゃんの歌の都市伝説が関与しているとミスリードさせといて 実はただ単に不幸な子でしたっていう展開をハッキリさせるつもりだったけど そんな余裕はなかったぜ! 輪の予知能力について 輪廻転生の都市伝説から考えて、どうやったらそんな能力になるんだよ! って自分で思ってたけど…… 前世の記憶を持っているということは…… ⇒ある程度、相手の行動を推測できる ⇒同じ様なシチュエーションなら、相手の行動を予測できる ⇒相手からは、限定的な条件での予知の様にも見える ⇒2度目の失敗を予知 あとは、同じ様な人生を繰り返してきた事から 繰り返しを避けようとする能力としての予知……みたいな という思考回路でこんな能力になりますた 本当になんか……すみません……考え過ぎました まあ、実際のところ……この限定的な予知能力が無くても話は回せたハズなので、余計な設定だった…… そういう事もあり、あまり使わない方向で…… 初期プロットの段階では、不思議な子供だなって思ってもらう事を重要視していた様です <隻腕の鹿島> 篇 + ==クリックで展開 ボクサーの発言内容について 読み返してみると、ネタバレ的な発言ばっかしています 香取=カシマについて 一応フェアな内容になる様に、唐突な展開にならない様に……ということで事前に ① 結婚すれば姓が変わる(ボクサー談) ② 婿養子をとれば鹿島・弟は道場の後を継がなくて良い(鹿島姉 談) ③ 香取と鹿島姉が結婚(鹿島 談) といった具合に、ヒントの様なものを用意しておきました 今回登場したキャラの姓について 神宮の名前からとっています 鹿島神宮 東国三社のひとつ武芸の神である 武甕槌神(タケミカヅチ)を祭神とする布都御魂剣が国宝として保管されている 香取神宮 東国三社のひとつ武芸の神である 経津主神(フツヌシノカミ)を祭神とする神名の「フツ」は刀剣で物がプッツリと断ち切られる様を表すもので刀剣の威力を神格化した神である経津主神の神魂の刀が、布都御魂剣であるとされることもある 石上神宮 日本最古設立の神宮のひとつ布都御魂剣が御神体として祀られている 現在、布都御魂剣と呼ばれる剣は2本あるわけですよ そして、この三社がそれぞれに布都御魂剣というもので繋がっている、というのもまた面白い 物語の内容と直接的な関係は無いですが、裏設定ということで…… <トート> 篇 + ==クリックで展開 登場人物と対応するタロットカード 登場人物 番号 カード名 和名 シークレット・ネーム カードの意味 輪 0 The fool 愚者 エーテルの精霊 自由 童貞魔術師 I The Magus 魔導師 力の賢者 行為とコミュニケーション ジャック III The Empress 女帝 万能の主の娘 慈悲 マスター VIII Adjustment 調整 真理の支配者の娘・バランスの保持者 見守る事 サチ X Fortune 運命 生命力の支配者 流れと共にある事 ボクサー XII The Hanged man 吊られた男 万能の水の霊 苦しみ カシマさん XIV Art 技 生命の運び手・調整者の娘 統合 輪は、子供であり自由な愚者 童貞さんは、そのままの意味から魔導師 ジャックは、初期設定から慈悲深いことになっていて、雰囲気的にも女帝 マスターは、全体の調整役であり、輪を見守る者 サチは、作中の解説どおりで、運命に流されるタイプ ボクサーは、ネタとして吊られた男 カシマさんは、技術指南役として技、二つの都市伝説融合として統合 こんな感じで設定してあります 抜けているカードについては 他の書き手さんのキャラクターで埋めていくことも考えていましたが 話が長くなり過ぎる感もあったので割愛させてもらいました 恋人、欲望、悪魔といった面白そうなカードも使ってみたかったところではあります <剣心一致> + ==クリックで展開 この手紙には元ネタがありますので、正直に告白しておきます 先ずは、タイトルにもした「剣心一致」 これは「鹿島神傳直心影流、島田虎之助」の言葉で 剣道をやっている場合には、よく目にするそうです 次に、「この想いは、オレの宝だ」 これは「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のドクの手紙に書かれているもので ここ最近、25周年記念の話題があったので懐かしさに任せて検索していたら発見し なんだか、色んな汁が出たので思わずパクりました 「ではマーティー とうとう君に別れを言う時が来たようだ 君は常に誠実でやさしい友達で私の人生を大きく変えた 君との友情は小生の宝だ」 そして、「キミという弟子を手放したくないが為に、渡せずにいたもの」 漫画もしくはアニメの「ARIA」から、アリシアさんの灯里ちゃんに対する気持ちです 弟子に追い抜かれるのを恐れる師もいれば、弟子とずっと一緒にいたいと思う師もいる そして、弟子に全てを託す師もいる……色々です 最期に、「されど、心は──ここにあり」 「ヴィーナス&ブレイブス」というPS2のゲームがありまして (PSPでリメイクされて、2011年1月20日発売予定らしいです 宣伝です、布教活動の一環です、このゲームの布教をする組織に所属しています、義務です) 私はこのゲームが大好きで、自作のSSで動画とか作っちゃう程に、痛々しい程に好きなんですが このゲームのクロニクルモードの最後に 「我等の旅は続く、されど答えはここにあり」 というセリフがあります 8年くらい前のゲームなんですが、この言い回しがずっと心に残っていて ずっと使いたかったのです 他にも本編で使用した 「大事なのは間合い、そして退かぬ心だ」 というセリフもこのゲームが元ネタです まあ、タネを明かせばこんなものです 今回、8割がたは借り物で出来ています むしろ、10割と言っても過言ではない様にすら思えます ひどいです 他にも解説しないと、ちゃんと説明できていない部分があった様な気もしますが 考えることをやめます なぜなら……ふ、雰囲気……そう、雰囲気で分かるはず! 賢い皆さんなら分かるはず! 前ページ次ページ連載 - 喫茶ルーモア・隻腕のカシマ
https://w.atwiki.jp/legends/pages/2279.html
「とりあえず、薬は補充しといたからな。お前、ここんとこどれだけ「組織」の黒服能力使ってんだよ」 「使いたくて使ってんじゃねぇよ。使わざるを得ない状況が続いてんだ」 …明日からの連絡を聞き終え、ハーメルンの笛吹きの処遇について若干悪巧みをした後 黒服Hのピルケースにどす黒い錠剤を詰め終えた辰也 さっさと帰る準備をし始める そんな辰也に、黒服Hは申し訳無さそうに笑った 「…悪ぃな、お前に、あの連中みたいな真似をさせて」 「お前に死なれたら、こっちも不便なんだよ。「組織」の情報はお前から仕入れるのが速い」 「スーパーハカーもいるだろ?」 「流石に「組織」関連のコンピュータは、気軽に入れる場所じゃないらしいからな」 現在、辰也は都市伝説や都市伝説組織に関わる様々な「情報」を商品に、ある程度の取引をしている …それくらいしか、自分ができる仕事が思い浮ばなかったのだ、血生臭い物を除けば 後はせいぜい、誠の友人だと言う「仲介者」から流される仕事くらいしか、できない 仲間達と生活するうえで、自分だけが働かないと言う状況も嫌で、辰也はそうやって生活していた 「組織」の情報も、貴重な商品だ 「……それに。「俺達の復讐」は、まだ終わっちゃいないだろ?」 「…………まぁな」 くっく、と黒服Hは暗く笑う 二人の共通の「復讐相手」は、まだ残っている もう、あと残り3,4人といったところだが…それら全員に復讐を終えるまで、黒服Hは死ぬつもりはないだろうし、辰也も黒服Hを死なせるつもりはない 黒服Hが復讐の為に「組織」に居続けていることを、辰也はよく知っているし 今、復讐に向けて「切り札」を体内に仕込み…それが原因で、「組織」でのメンテナンスをまともに受ける訳にはいかない状態になっているのも ここ最近の黒服Hの不調が、そのメンテナンスを受けていないのが原因である事も、よく知っている だからこそ、黒服Hの体を保つ為に、辰也が薬を精製して、それを渡しているのだから 「んじゃあな。「組織」の監視切ってるとは言え、「第三帝国」と関わってる事がバレないとも限らないから、気をつけとけ」 「わかってるさ」 黒服Hを置いて、部屋を出る すると、ドクターが辰也が部屋を出るのを待っていたようだった 腕を組み、じっと見つめてきている 「…あの馬鹿が迷惑かけたな。それじゃあ」 「少し、待ちたまえ。できれば、彼に渡した薬を分けてもらえるとありがたい」 彼を治す意味でも、というドクターの言葉に 辰也は一瞬、悩んだようだったが…ピルケースに入りきらなかった分の、その錠剤を渡した どす黒いそれを、ドクターはじっと見詰める 「…何の薬だね?」 「都市伝説存在固定剤。「組織」があいつに投与していた物より効果は薄いが、代わりに常習性は薄まっている」 「組織」で黒服Hがメンテナンスの度に投与されていた「都市伝説存在固定剤」 …それは本来、都市伝説になりかけた存在を、強制的に都市伝説として存在を固定する物 それによって都市伝説になった存在は、その薬を摂取し続けなければ生きられない、薬を切らせば死ぬ……劇薬のような薬でもある 「彼は、この手の薬で都市伝説化した存在と言う訳でもあるまい。この薬のせいで黒服になるとは思えないからな…何故、この薬が彼に必要なのか、わかるかい?」 「……さぁな」 視線を逸らし、辰也は曖昧に答えた …確信はないが、心当たりはある だが、それを口にするつもりは、今のところはなかった 口に出してしまえば、それが確信に変わってしまうような、そんな錯覚すら、覚える 「少なくとも、あいつはその類の薬を飲まないと、体が持たない。特に、「組織」の黒服としての能力を使った後が、きついみたいだな。体の内部がゆっくりと消滅していくらしい」 「……消滅?」 「あぁ。今は何やったんだか、即座にそれが修復される状態みてぇだが…」 それが、「切り札」の力なのだろう …何を、体内に仕込んでいるのか、それに関しても心当たりが出てきてしまう 「それじゃあ、渡すもんは渡したし、帰るぞ。あの馬鹿が何かセクハラの類をやらかそうとしたら、殴って止めとけ。それでも止まるかどうかは知らんが」 「患者に暴力をふるうつもりはないがね」 苦笑するドクターに、辰也は背を向けて… ……ふと、思い出したように、告げる 「そうだ、あの小さな餓鬼二人…それの、妹っぽい方。あいつ、何の都市伝説の影響を受けてる?」 「…?どう言う事だい?」 「本人が気づいてるかどうか知らねぇが、何か、本人が契約してんのと、別の都市伝説の気配が中にあるぞ」 お前達の身内の能力じゃないのか?と やや、警戒したように言ってくる辰也 ドクターは、その言葉に難しい表情を浮かべる 「……まぁ、俺の言葉を信じるも信じないも、あんた次第だがな」 と、それだけ告げて 今度こそ、辰也は診療所を後にしたのだった to be … ? 前ページ次ページ連載 - 黒服Hと呪われた歌の契約者
https://w.atwiki.jp/legends/pages/2507.html
【上田明也の探偵倶楽部19~ヨフケノディテクティブ~】 「ぅおーおぉー、りすとぅざみゅーじぃっく♪ ぅおーおぉー、りすとぅざみゅーじぃっく♪ おーざたーぁあぁーいむ♪」 「所長うるさい。」 「ドゥービーブラザーズを歌っている人間に五月蠅いとはずいぶんな言い様じゃないか。 素直に音楽を聴いてくれよ。」 「CDの曲聞こえて無いじゃないですか」 「なるほどね。」 先程から俺が歌っている曲は「The Doobie Brothers」の「Listen To The Music」だ。 このバンドは1971年にデビュー、1972年に俺の歌っているこの曲で一躍有名になった。 音楽性としてはサザン・ロックと呼ばれるアメリカ南部の音楽のカラーを強く打ち出している。 初期はとにかく豪快で明るいサウンドが中心だったのだがジェフ・バクスターやマイケル・マクドナルドの加入を経て 静かに聞かせるタイプの音楽が中心になっていく。 この変化には賛否両論であったが1978年にはグラミー賞をとっている。 これからアメリカの南部を回る以上、このバンドの曲を外すことは出来ないと思うのだ。 みんなだって函館に来たらさぶちゃんの『函館の女』を聞こうとするだろう? え、さぶちゃんを知らない? 駄目だなぁ。 「そういえばお兄ちゃんの英語の発音が変になってるよ?」 「ジャスラッ●対策かな?」 「ジャス●ック?なぁにそれ?美味しいの?」 「穀雨ちゃんも大人になれば解るよ。」 「ふぅん。」 禿との戦いが終わった後、俺はすぐにニューヨークを離れた。 お気に入りのフィアットに最低限の荷物を載せてメル&穀雨とアメリカ横断旅行を楽しもうと思っていたのだ。 普段は探偵家業が忙しいので休暇も兼ねている。 とりあえず向かう先はケンタッキー州。 できるだけ都市伝説と関係なさそうな場所でのんびり過ごしたいのだ。 その点ケンタッキー州は最適である。 アメリカという土地自体、都市伝説がさほど多いというわけではない。 その中でもケンタッキー州はUMA等の事件が割と少ない。 精々ビッグフットレベルである。 これならば俺もメルも穀雨も平和で楽しい休暇が過ごせるという物である。 「マスター、でもドゥービーブラザーズってカリフォルニア出身ですよ?」 「こまけえこたぁ気にするなよ。 どうせケンタッキー出身で俺の好きな歌手なんて居ないんだ。 南部の雰囲気味わえれば良いんだよ。」 「マカロニウェスタンみたいな適当さ加減を感じますねえ……。」 「うっせぇ。」 「メルちゃん、そういえばケンタッキー州ってどんな所なの?」 「えっとねー、ケンタッキーフライドチキン創業の地だったかなあ?」 「わーい、私フライドチキン大好き!お兄ちゃん絶対に行こうね!」 「ケンタッキーはどこでも食べられるんじゃないかなぁ?」 「むぅ……!」 穀雨吉静は食いしん坊だ。 その小さな身体の体積の3~4倍は平気な顔をして平らげてしまう。 当然、食費も馬鹿にならない。 しばらくは今回の依頼の報酬のおかげで大丈夫だろうが我が家の財政が意外と逼迫しているのも事実である。 「天下の名探偵上田明也が何みみっちいこと言っているんですか。」 「まぁ、お前にそう言われるとそうするしかないんだけどさあ。 しばらく別行動だった分しばらくはお前の言うこと聞いてやるよ。」 「それはそれはありがたい。」 「Zzz………。」 「あれ、寝てる?」 「仕方ないですね、もう夜の十一時です。」 時計を見てやっと気付いた。 もうそんな時間だったのだ。 「あれ?もうそんな時間か。この辺りに宿は……?」 「あ、見て下さいよ所長、ケンタッキー州です。」 「ほぅ、ここがか……。」 俺の見つけた看板には『ケンタッキー州へようこそ』の文字が躍る。 どうやらここが第一の目的地らしい。 「おー、ユナさん?こっちでFBIの捜査官が使ってるホテルとか無いー?」 とりあえず俺はホテルの予約をすることにした。 完全にそれを忘れていたのだ。 まさか子供を連れて車中泊をするわけにはいかない。 「言えるわけ無い、そりゃそうだ。 いや、宿の手配を忘れていてさ。 うん解ったー、切るぜ。 え?ああー、ケンタッキーには着いたぜ、了解。 ホテルは良い部屋手配してくれよ?」 幼女二人を連れている怪しげな東洋系の男を泊めてくれるホテルなど何処にもない。 だから今回は適当にFBIの権力を貸して頂くことにしたのだ。 と、いうかユナさんのコネである。感謝。 「持つべきモノは友人だね。」 「物?」 「モノ。」 「モノですか。」 「そうだよ、人はモノだ。それよりも早く行こうぜ。 ケンタッキーの我が家が待っている。」 と、言った所で。 プスン、プスンプスン…… まるで気の抜けたコーラを開けた時のような情けない音を立てて 俺の愛する赤いフィアット500は物の見事にエンストした。 「あれ?どうしたんですかこれ。」 「エンジン止まったねぇこれ。」 「……………。」 メルからの冷たい視線が突き刺さる。 どうやら今晩は野宿が決定したようだ。 さて、それから数十分後。 穀雨を『赤い部屋』の中に連れて行き、俺はメルと二人きりで車の中で休憩していた。 不運というより他にない。 「ところで所長、いいやマスター。」 「なんだね、ハーメルンの笛吹き。」 「これからどうするんですか?」 「親切な人に助けて貰うかJAFでも呼ぶか、どっちが良いか考えて居た。」 「成る程、マスターは相当天体観測がお好きなようだ。」 時刻は夜である。 しかもこの辺りは相当な田舎道だ。 俺達の頭上を行き交うのは空に瞬く星ばかり。 人っ子一人通りはしない。 「いやしかし実際冷えてきたな。」 「はい、そうですね。」 「人肌が恋しくなったりはしないかい?」 「変態。」 ずいぶんご機嫌斜めなようだ。 「そういえば気になっていたんですけど赤い部屋ってどんな都市伝説なんですか? 私会ったことが無いんですよね。」 原因はそれらしい。 「まあ便利なだけだよ。俺の容量は空いていたから使ってみただけみたいな。」 「ふぅん。」 「もしかして怒っている?」 「別にそれほど怒っちゃ居ないですよ、ただ自分の命を狙った都市伝説をなんでわざわざ使うのかと……。」 成る程ねえ、と呟きながら俺はシートを倒す。 確かに俺らしくはないか。 昨日の敵は今日の友。 なんて嘘だ。 敵は敵である。 「俺が人肌恋しくなった。ちょっと膝の上に座れ。」 「えー?」 「ふん、命令だ。」 「そう言われるとしがない都市伝説は契約者の命令に従うしかないんですけどね。」 とりあえずメルの怒りを誤魔化す為に少しばかり甘えてみる。 メルが運転席まで移動してきて俺の膝の上にチョコンと座った。 ふむ、相変わらずミルクのような甘い香りがする。 少しウェーブのかかっている金色の髪は手触りも滑らかで絹のようだ。 「怪我の調子は大丈夫か?」 「ええ、サンジェルマン伯爵のおかげで。」 「それは良かった。……ところでお前少し背が伸びたか?」 「ええ、いくらか人間っぽくなっちゃいましたから。」 「元々人間だったんだろう?」 「まあ……。」 大して覚えていませんけどね、そう付け加えて彼女は笑った。 ハーメルンの笛吹きは元々子供達の大量失踪事件が都市伝説化したものだ。 故にハーメルンの笛吹きは死んだ子供達の無数の自我と肉体を持つ都市伝説であり メルもその集合体のうちの一つとして俺の前に現れたに過ぎなかった。 「最初の百数十人の内の一人なんだっけ?」 「ええ、その子と同じ顔、同じ姿、そしてそれに都市伝説の自我。 それらが合わさって私になりました。」 沢山の姿沢山の意志沢山の自我。 沢山沢山沢山沢山沢山沢山沢山。 一人殺しては葬列に取り込み、 二人殺しては提灯をかざして、 三人殺しては祝杯をあげる。 殺した子供の自我と肉体を取り込み続ける群体。 それがハーメルンの笛吹きである。 その中でもメルは、“彼女”は、最初にドイツはハーメルンで死んだ子供達の一人である。 ……と聞いたが本当かどうかは知らない。 数十分後。 相変わらず俺とメルは無駄話を続けていた。 そんな時だった。 「メル、そういえばさっきから妙な気配がしないか?」 「え?」 草木も眠る丑三つ時。 悪意を持った誰かの視線を確かに感じるのだ。 辺りを見回しても確かに何も居ないが絶対に何かが俺の周りに居る。 根拠もない確信ばかりが頭の中を支配していた。 「私はまったく何も感じませんよ?」 「いや、そんな筈は……。」 ピチャリ 真後ろで水のしたたるような音が響く。 やはり何か居る。 「うわあっ!?」 思わず情けない声を出してしまった。 怖い。 ひどく寒気がするせいだろうか? 「どうしたんですか?マスター変ですよ?」 うん、解っている。 「ちょっと外を見て回ってくるよ。」 声が震えているのが解る。 理由も解らずに俺は恐怖を感じている。 「駄目です、今のマスターの精神状態で外に出たら危ないですよ。」 「いいや、いい行かないと……。ここ、声がするんだよ。」 「声?」 メルが俺の持っていた都市伝説についてまとめられたファイルをパラパラとめくり始めている。 だがこの状況に於いてそんな悠長なことをしている時間はない。 急いで行かないと。 何処へ? 急いで行かないと。 何処へだ? 急いで急いで急いで急いでとにかく急いで外に出るんだ。 「とにかく行ってくる、お前はここで待っていろ!」 俺はメルを振り払うと車の外に出た。 ピチャピチャ 車を出ると遠くからメルの声が聞こえる。 急いで戻らないと。 その為にはこの訳のわからない声を消さないと行けないのだ。 誰だ? 一体誰が俺につきまとっているんだ? そもそもさっき俺を呼んでいたのは本当にメルか? メルの声ってどんな声だったっけ? ピチャピチャ ああ、思い出した。 このピチャピチャとした声が特徴だったんだ。 待て、そんな訳がない。 これは俺につきまとっている物の声だ。 くそっ、訳がわからない。 「マスター、こっちです。」 そうそうこっち。 これが彼女の声だ。 声のする方向に向かうとしよう。 そう思うと俺の意識は一気に遠のいていった。 「しまった……。」 ハーメルンの笛吹きことメルは己の失態を悔いていた。 彼女は無理矢理にでも上田明也を止めるべきだったのだ。 「うわああああああああ!?」 「マスター!」 遠くから彼女の契約者の悲鳴が聞こえる。 彼女はその方向に走り出した。 メルは不慣れな森の中を駆け回る。 しかし、声がしたはずの方向に彼女の契約者の姿はない。 その時、彼女の脇を一陣の風が通り抜けた。 彼女の目にはそれがはっきりと映っている。 人のような姿をしたそれは彼女に向けてにやりと笑った。 『じゃあな。』 それはメルに向けて“上田明也”の声、しかも英語ではっきりとそう言った。 「これはひどい…………。」 メルが慌てて車のあった場所に戻るとそこには大量の鉄くずが転がっていた。 彼女は鉄くずを掻き分けて先程読んでいた都市伝説についてのファイルを探す。 「人にだけ気配が感じられる。 人間に姿を見ることは出来ない。 人の声真似が可能。 高速移動を可能とする。 そしてアメリカに生息している。」 今までに見た特徴を呟きながら彼女はファイルの中を探し続ける。 「あった………。」 謎の都市伝説の正体に当たりの付いたメルは再び走り始めた。 彼女の推測が正しければ彼女に与えられた時間は少ない。 問題は上田明也がどこに居るかである。 それが解らなければ彼女にはどうしようもない。 メルは考えた。 大声で呼びかけるのはどうだろう? いいや、相手が声真似で答えてくる可能性がある。 鼠を使って探すことは出来ないか? いいや、大量の鼠に対してそこまで複雑な条件設定は不可能だ。 そもそもだ。 メルと上田が契約しているのならば本能的にその繋がりをたどることは出来ないだろうか? そう考えたメルは直感に従って走り始めたのである。 「はっはっは、あまりべたべたするなよハルカ…………ッて!あれ? 俺は十二人の妹たちと添い寝していたはずなのに! 何処へ行った! 俺の妹たちは何処に行った!もっというとハルカは何処に行った! 大和撫子は幻想だったのか? 夢か!夢幻だったのか!? 俺だってハルカちゃんとチュッチュしたいんだよぉ!」 目を覚ますと、俺はパンツ一丁のまま荒縄で身体を縛られて巨大な冷蔵庫の片隅に転がされていた。 そこら中に氷が張っていて寒い。 冗談じゃなく寒い。 だが先程と違って頭の中はハッキリしている。 どうやら俺は新手の都市伝説の攻撃に嵌ってしまったらしい。 俺を攻撃した都市伝説に対処する為にそいつの正体を推理してみよう。 まず、メルには奴の気配を感じ取ることが出来なかった。 これは重要なヒントだ。 メルは生物を操る操作系の都市伝説である以上、生物の気配には敏感なのだ。 そのメルが気付かなかったということは隠れたりするのが得意なのだろう。 次に俺だけが奴の気配を感じ取りながらも、最後まで姿を確認できなかった。 これは先程のヒントの補足になる。 姿を隠すのが得意ということのさらなる証明になるだろう。 寒気、これも重要なヒントだ。 襲われた対象が寒気に襲われる都市伝説など少ない。 ほらほら、大分限られてきた。 それと俺を誘った声。 他者の声真似が出来る相手らしい。 そして俺が冷蔵庫の中でハムのように転がされているこの状況。 敵の正体は完全に把握した。 「あいつの正体はウェンディゴだな……。」 説明しよう。 ウェンディゴとはアメリカ北部からカナダにかけて生息する都市伝説だ。 というより妖怪だ。 本来旅人に数日の間つきまとって旅人の精神を消耗させるだけの存在である。 しかし伝承によっては人を食うとも伝えられており危険な妖怪なのだ。 人の声を真似たり風よりも速く走るとも伝えられている。 ちなみに氷の精なので炎に弱いそうである。 「蜻蛉切……。」 力なく俺の所有する刀の都市伝説の名前を呼ぶ。 精神が消耗しているので切れ味が鈍っているようだが荒縄を切るのにはこれで十分だ。 自分を縛っている縄を切り裂くと俺は辺りを見回した。 先程言った通りウェンディゴは炎に弱い。 俺は自分と同じように洞窟の中に捕まえられているはずの人々を探し出すことにした。 服は後だ。 「マスター!マスター!」 メルは上田を呼びながら走り続ける。 彼女は確かに上田の捕まっている洞窟に近づいていた。 彼女のとった選択は過ちではなかったのである。 契約したからというだけではない。 上田明也とメルは一緒に様々な死地をくぐり抜けた故に強く繋がっていたのかもしれない。 「――――――あそこだ!」 メルの目の前には大きな洞窟が広がっていた。 恐らくここに上田が居るのだろう。 そうおもってメルは真っ直ぐ走った。 「おっと、動くな。静かにしてくれ。」 その声と共に後ろからぬるりと手が伸びて走り出したメルを捕まえた。 「まったくよぉ、久しぶりの人間かと思ったら不味そうな男なんてなあ……。 もう一人いた都市伝説を捕まえた方が良かったよねえ。」 ウェンディゴは不機嫌だった。 最近中々食事にありつけず、ひさしぶりに捕まえた人間は成人男性だったのだ。 牛や鶏もそうだが若くて瑞々しい方が美味しい。 前に捕まえた人間は干し肉にしていたがどうにも困った物である。 とりあえず彼は目の前の新しい獲物に満足することにした。 「あいつがウェンディゴか……。」 俺は相も変わらずパンツ一丁で森の奥に座っていた。 視界の中では大きめの鳥を手に持ったウェンディゴが一匹で洞窟の中に入っていくのが見える。 「3、2、1…………ドカァーン!」 洞窟の奥から火柱が噴出した。 ウェンディゴが身体を火だるまにしながら転げ回っている。 どうにか狙い通りになったらしい。 俺は縄でしばられた状態から脱出した後、俺と同じようなウェンディゴの被害者を捜していた。 すると、都合良く干し肉に加工された哀れな犠牲者を発見することが出来た。 さらにそこら辺にあった枯れ草や服に仕込んだ後に没収されていた手榴弾も回収。 冷蔵庫の電線をショートさせて干し草に点火、 その後、哀れな干し肉を燃料にして火を点け、冷蔵庫内部を高温にしてバックドラフトを発生させた。 冷蔵庫を開ければ一発で火だるまである。 人とは便利な物だ。 全部狙い通り。 あとは服を着て車に戻るだけである。 ガチャリ なんて楽な戦いだったのだろう。 『動くな、動けば撃つぞ。』 最後の最後に思わぬ敵が現れたことを除けば。 『ウェンディゴの契約者か。』 『ああ、そうだよ。』 体格の良い黒人男性が俺に散弾銃を突きつけていた。 あのウェンディゴには契約者が居たのだ。 『日本人かい?運が悪かったな、あいつはグルメでね。人間以外食えないんだ。 ソテーが大好きなんだよ。』 『その前にあいつの方がソテーになったみたいだが?』 『おいおい、契約者を得た都市伝説がそれ位でくたばると思うかい?』 「うぐ、くっそ……!一杯食わされた!」 ウェンディゴだけが日本語で話しているように聞こえる。 しかし俺の後ろをとった黒人男性が英語でそれに返事している所から見るとこれはテレパシーみたいな物なのだろう。 『おいウェンディゴ、餓鬼の都市伝説はどうした?』 「あ?そんなのしらねーよ。お前がおびき寄せておいてくれたんだろう?」 『その後急に洞窟に向かっていたんだよ、見ていねえのか?』 「……え?」 『え?』 俺は口笛を吹いてハーメルンの笛吹きの能力を発動させた。 「うりゃあああああああああ!!」 メルがその小柄な肉体に見合わぬ勢いで黒人男性に体当たりを決める。 グモ、と蛙が潰れたような音をあげて彼は吹き飛ばされた。 近くの木に身体をぶつけ、脳髄を零して全身の関節があらぬ方向に曲がっている。 まあ即死だ。 俺が手に入れたハーメルンの笛吹きの能力には二つある。 一つは鼠や子供を操る能力。 もう一つは最初の能力の効果を受けている者の姿を効果を受けていない者から隠す能力。 どちらもハーメルンの笛吹きの童話をモチーフにした能力である。 俺は洞窟に仕掛けを施して脱出した所でメルと出会って 前者の能力を応用してメルの身体能力を極限まで引き出し、 後者の能力を利用してメルの存在を隠していたのだ。 「本来、ウェンディゴは北アメリカに住んでいる都市伝説だ。 アメリカ南部に野生のウェンディゴが生息しているなんてあり得ない。 よって、お前には契約者が居る可能性がある。 だからそこの男の存在だって予想済みだったよ。」 俺はウェンディゴの方に向き直る。 「それじゃあ綺麗に騙して並べて揃えて殺して爆(バラ)してやるよ。」 さっき使い忘れた手榴弾をパンツから取り出すと 俺はそれのピンを抜いて契約者を失ったウェンディゴに投げつけた。 チェックメイト。 【上田明也の探偵倶楽部19~ヨフケノディテクティブ~fin】
https://w.atwiki.jp/legends/pages/4954.html
姿を現した両手足が無い、まるでダルマのようにも見える女性に、久信は親しげに話しかけた。 「修実姉、どこかに体ぶつけてない?」 「ありがとう久くん。大丈夫よ」 修実(よしみ) というらしい女性からはあまり大きくはないが、よく通る声で返事がくる。 犬はしばらく不具の女性を見つめ、やがて携帯からはほっとしたような調子で言葉を寄越した。 『よし、二人とも無事だな。じゃあしばらくはこのアパートの部屋を使ってくれ。警察のほうで手を回して手に入れた物件だ。見た目はぼろいし曰く付きの幽霊アパートだが、探知にも引っかからないような細工をしてある。その点は安心しろ』 「ひどい宣伝文句だな」 外から見上げるアパートから住人の気配が感じられないのはその曰くのせいなのだろうか。 ともあれ、どんな曰くのある物件だろうと、追っ手を気にすることなく身を隠すことができる場所というのは今の久信たち姉弟にはありがたい。 「ありがとう昌夫」 『いいさ。事情が事情だしな』 昌夫が明るく応えると、それまでじっと話を訊いていた犬が、やおら立ち上がって背を向けた。 野良生活に回帰するのか、そのまま振り返らずに去っていく犬を見送る久信の耳に昌夫の声が届く。 『ここにあの町の生き残りが逃げてきてるのは確かなようだ。捜索は俺の部署と、あとは俺の犬たちが担当するからお前たちはあまり動くなよ? またさっきみたいなことがあってお前たちがどっかの組織に捕まっちまうと、俺みたいなぺーぺーには口出しもできなくなるからな』 「分かってるよ」 久信の即答に、電話の声は数秒沈黙した。やがて、 『修実のことで必死なのは分かるがな……あんまり無茶をするなよ?』 「ああ、善処する」 『……また連絡いれるから、今日はさっさと休んでおけ』 呆れたように言葉を残して切れた携帯をしまい、久信は修実を背負い直してアパートの敷地に入った。 事前に逃亡生活の用意がされる手はずになっていると聞いた部屋は一階の一番端の部屋だ。そこに行き着くまでに通る一階の外の部屋にはやはり他の住人の気配がない。 よくこれで潰れずにアパート経営を続けていられるな。 あるいは、このアパートを潰すことができないような加護か呪いがかかっているのかもしれない。 こんな物件の存在を認める代わりに、有事の際はこうして隠れ家として使えるように契約してるのかもな。 お互いに傷つけあわずに存在できるということは実にいいことだ。 鍵を開けると、古アパ―トらしい、軋んだ音を立てて扉は開いた。 1Kの部屋の内部にはほとんど荷物がなかった。 作りつけになっている空の本棚を素通りして居間に行くと、中央にはいまどき珍しいちゃぶ台が一つ置いてあった。その上にはダンボール箱が一つ放り出してあり、それらの他には荷物らしきものはない。 久信はダンボールの中に薬缶などの小物と、簡単に食べられる食料が詰め込まれているのを確認する。 「昌夫が警察に手を回して逃亡生活に必要そうな最低限のものは用意してもらったらしいから、とりあえず今日は飢えることはなさそうだ。持つべきものは犬のおまわりさんだ」 「あまり悪口を言ってはだめよ」 背中から窘めてくる姉の言葉に、けど、と久信は返す。 「実際昌夫は俺たと似た憑き物筋で、犬神憑きの契約者じゃないか。しかも警察で仕事中も犬を使う。 こう、まさに犬のおまわりさんって感じがしない?」 「そうだけど、でもやっぱり褒め言葉には聞こえないもの。あまりそういうもの言いはよくないわ」 「そういうもんかな」 久信は修実部屋の内部を見せるように一通り棚や冷蔵庫を開ける。電気や水が届いていることに少し感動しつつ、久信は今に戻ってちゃぶ台の横に配置されていた新品と思しき布団を片手で広げ、その上に修実を下ろした。 修実が付け根から無くなっている手足を動かして布団の上で落ち着くのを待ってから、久信は警察内に非公式に存在する対都市伝説課に中学卒業後すぐ勤め始めた友人のことを思いつつ、話しの続きを口にする。 「アイツの話だと、最近は警察組織の表の方でも上の地位につく契約者がいるらしいよ」 「そうなんだ。ちょうど警察組織ができあがった頃に回帰してきている気がするわね」 たしかに、この国に警察機構が初めて作られた時、一度崩した秩序を再編するまでの時間稼ぎとして、現在都市伝説と呼ばれるような妖物と契約した者たちが多く活躍していたという話は聞いたことがある。 社会がある程度安定してからは、逆に社会を不安定にさせる要因になり得る都市伝説の存在は公の場から消失していたが、どうもここ最近そういう状況にも変化が見られるようだ。 「もしかしたら、そのうち都市伝説課が公然と設置されるのかもしれないな」 もしそうなれば、姉のような特殊な存在も、少しは生きやすくなるだろう。 「そうなったらそうなったで、混乱は起こると思うわよ。そうしたら犠牲は出ずにはいられない。それならこれまで通り、専門家は専門家で別の組織として在ったほうがいいのかもしれないわね」 そうかもしれないし、違うのかもしれない。自分たちのように生まれた時から都市伝説との関わりを続けている者には世の中の大多数の立場になった考えかたはできないことは承知のことだ。 「ともかく、警察もこの程度には都市伝説に対する対処法や協力関係を作れているってことで、いいんだろうな」 おかげで追われている立場のはずの自分たちはこうして力を抜いて休んでいられるのだ。それでいい。それに、久信たちにはそれ以外のことについて考えられるような余裕は今のところない。 あまり悩んでいてもしかたないと言えばしかたないんだけど……。 思いながら部屋に改めて視線を巡らせる。 最低限の掃除をされているだけの部屋は家具もほとんどない。部屋の真ん中に置かれているちゃぶ台とダンボールなどは、余計に寂しさを印象付けている気がした。 目を楽しませて心に癒しをくれるのは修実姉だけだな。 しみじみと修実に目をやっていると、修実は布団の上で傷を隠すように丈が余っている衣服の袖を揺らした。 「あんまり見ないで……ね?」 ほんのり赤く染めた顔で彼女は、こちらもまた付け根から無くなっている足をもぞもぞと動かす。 修実の言葉に弾かれるように、久信は目を逸らした。 「ごめん、そんなつもりじゃなかったんだ」 「……ん、分かってる」 修実は微笑して、傷口が隠れるような位置を確保する。 「ごめんね久くん。お姉ちゃんに付きあわせちゃって。おかげでいろんな組織の人たちに追われることになっちゃって」 「俺は自分で行動するって決めたんだからいいんだ。それに今の状況はほとんどあの事件のせいなんだから修実姉が謝ることなんて何もない」 強めに言って、ダンボールの中からカップラーメンと、湯を沸かすための薬缶を引っ張り出した。 ダンボールの中に詰め込まれていた食料は、その全体量や彩りを考えていない同じ種類のカップ麺を雑多に詰め込んだラインナップから考えて、久信1人用のものだろう。 事前に食料は一人分でいいなんて言っておいたのは間違いだったか。 今更悔んでも後の祭りだ。少し危険ではあるが、明日あたりに周囲を気にしながら追加の食事を見繕うのもありだろう。 修実は今の状態になってから、食事も排泄も不要になっていた。それは一般的な生物とは活動のための燃料からして全く別のモノに変わってしまったということを端的に示しているように久信には思われる。 その変化がいいものなのかどうなのかは分からない。ただ、日常生活を送ることも難しい状態の姉にとっては、煩わしさから少しでも解放されることは悪いことではないだろう。追われる立場にある今となっては買い出しに走らなくてもいいという状態は便利であるともいえる。 楽観的に考えすぎか。 自嘲気味に内心呟く。そう、久信たちは現在、様々な都市伝説系組織に追われる立場にあり、この部屋に辿り着く前に追ってきた黒服のような者たちから危険人物としてマークされ、今は逃げ隠れる身である。 友人である見塚昌夫(みつかあきお)と、彼が勤める警察内の対都市伝説専門の部署の協力がなければ、今頃どこかの組織に捕まっているか、討伐されていたのかもしれない。 「そりゃ面倒な状況になったもんだな、とは思うけどさ。だからって謝らないでよ。それなら俺なんか何度謝ったって足りないんだから」 「……ごめんね、ありがとう」 小さい謝罪と感謝の言葉に頷くだけで応えて、久信は湯気を上げた薬缶の火を止めた。 「何にせよ、気を付けないとな。警察も大っぴらに俺たちを庇えるってわけじゃないんだし」 その理由は久信たち姉弟が追われている理由と同じものだ。 「面倒なことに、追われる理由については何も言い訳できないから」 そう、 「修実姉のせいで町一つが壊滅したっていうのは、結局のところ否定できないってのが性質が悪い」 修実はダルマのような体を小さく震わせて、もの悲しげに眉を曇らせた。 前ページ次ページ連載 - コドクノオリ
https://w.atwiki.jp/legends/pages/1450.html
人肉料理店とその契約者 10 夕暮れ時の町を歩く三人の女性。そのうち若い二人は土埃にまみれていた。 「本日の特訓とゆー名の虐待終了っと……さっさと帰って風呂はいろ…」 「なーにが虐待ぢゃ?まだまだ無駄な動きが多いから余計疲れるんぢゃよ」 「ですが2対1でも敵わないとのは少々ショックでしたね」 年の功ぢゃよ、と答えながら歩く姿は、疲れ一つ見えない。二人を相手にして息も切らさなかったのだ。軽く化け物じみている。 「戦闘経験の差、ですか。殆どの攻撃をいなされましたからね」 「年の功で岩だの丸太だの投げてくんのかよ……あれ?あそこに居るのって……」 「どうしたんぢゃ?」 視界の隅に見覚えのあるヴェールがちらつく。 あれは確か、【爆発する携帯電話】の契約者と一騒ぎあった時に見た姿。 「やっぱあん時の司祭さんか。こんばんはー」 「……?ああ、あの時の。こんばんは。どうしました?そんな泥だらけで」 向こうもこちらに気付いたようだ。しかし流石に全身真っ黒なのを真っ先に聞かれた。 「あ、いやこれは…」 「どうぞお気になさらずに。ちょっとはしゃいでいただけですよ」 「はしゃぐ?」 「まぁ、うちのばーちゃんのちょっとは死に繋がるけどな……そーいえば携帯のにーちゃんは元気?」 あまり続けたい話題でもなかったので話しを逸らす。 だがその問いに驚いたような顔を見せる司祭。 「どしたの?なんかあった?」 「……いや失礼。彼も変わりありませんよ」 「そう?会う度に鼻血噴いてたからさ。ちょっと心配になってなー」 「彼は、あまり女性が得意ではありませんから」 「少年も同じ様なものですよね?」 「やかましいっ!」 オーナーの生乳見てぶっ倒れた事がある手前、下手に笑えない。 ……しかしあれはヤバイ。乳的にも出血的にもヤバイ。流石に心配にもなるというものだ。 「ところで、『携帯』のにーちゃん、と言いましたか……何処で彼の能力を?」 ほんの一瞬、二人に気取られない程度に目を細め、問う。 「あれ、聞いてない?コーク・ロアの契約者、一緒に倒したんだけど」 「…ああ、なるほど」 確かに、二人組の女性に助けられた、と言っていた。その答えに司祭の仮面を被り直す。 「あなた方の事でしたか。ご迷惑をおかけしました。私からもお礼を言わせてもらいますよ」 「いえ、ああいった者を止めるのが、この町に来た目的ですから。気にしないで下さい」 「そーいや、あん時居なかったみたいだし、携帯のにーちゃんと契約してるわけじゃないんだよね? 司祭さんはなんの都市伝説なの?」 「……!」 少年の問い掛けに、マリ・ヴェルテは考える。 …どうしてこの二人は、自分が都市伝説だと知っているのか? 【爆発する携帯電話】の契約者が喋った?……いや、多少面識がある相手とはいえ、彼が仲間の能力を簡単に話すわけがない。 それに、もし知っていればこんな世間話などしていないだろう。 何かしらの都市伝説、と気付いているが、自分が【マリヴェルテのヴェート】だとは気付いていない? ……恐らくは何らかの感知能力。それでどんな都市伝説なのか気になった、といったところか。 (面倒ですね…やりますか?しかし……) 完全に油断している今ならば、仕留めるのはたやすい。 ……だが、周りに人が多過ぎる。 「………」 「司祭さん?」 「何故、私が都市伝説だと?」 「へ?あの、それは……」 「私の都市伝説としての性質のようなものです。ある程度まで近付けば、相手が人か、それ以外なのか判るんですよ」 こちらの緊張が伝わったのか、オーナーが一歩前に出つつ答える。 「気に障ったのであれば謝罪します」 「そ、そうそう!別に無理に聞き出すつもりなんかないから!」 どうやら戦う必要はなさそうだ、とマリ・ヴェルテは思う。 今の姿は善良な司祭。絶好の隠れ蓑なのだ。一瞬で姿を変えられるとはいえ、目立つのはまずい。 なによりも教会から近すぎた。先程からちらほらと見知った礼拝者の顔も見える。 「そうでしたか。申し訳ありませんが、その事は「あたしは気になるねぇ?」……!?」 これ以上詮索される前に、さっさと会話を終わらせて立ち去ろう そう思い話し始めた時、それを阻む者が居た。 「ばーちゃん!?」「ひきこさん?」 マリ・ヴェルテの言葉を遮って放たれた声。 それを発したのは、今まで一言も喋っていなかった少年の祖母だった。 「ばーちゃん!いきなり何を」 「お前さん達はは少し黙っちょれ。今、あたしが話しとるのはこの男ぢゃよ」 そう言って少年を押し退けると、マリ・ヴェルテの二、三歩前で立ち止まる。 「どういった意味でしょう?」 「そのまんまの意味ぢゃよ。あんたが一体何の都市伝説なのか……教えてもらえないかねぇ?」 微笑んだまま、しかし明らかな敵意をもって相対する二人。 「……断る、と言った場合は?」 「さあ?どうなるのかねぇ……」 マリ・ヴェルテのヴェールが揺らめく。 ひきこさんが爪先で間合いを計る。 そしていきなりの急展開に完全に蚊帳の外な二人。 「これは……参りましたね?」 「参りましたね?じゃねーよ!ナニしてくれてんだあのババァ!? あれか?新手の都市伝説【KYババァ】か!?折角丸く治まりそうだったっつーのに!」 「元々好戦的な方だったのではないでしょうか?ひきこさんの挑発にもあっさり乗りましたし。 あと、もう少し落ち着いて下さい?」 「この状況で落ち着けるかっ!?っつか冷静に分析してんじゃねえ!?止めるぞ、あの二人!」 今にも激突しそうな自分の祖母と知り合いを前にして、どうにかして止めようとする少年。 それとは対象的になぜか動かないオーナー。 「いえ、止める必要はないと思いますよ?」 「はぁっ!?何言ってんだよ!早くしないと……!」 そのまま無言で司祭の後方を指し示すオーナー。吊られて少年もその方向に目をやる。 そこには小さな影が迫って来ていた。 「ここでやりますか?」 「いんや、ちょいと人が多いからのぅ。あんたがよけりゃ場所を移したいんぢゃが?」 睨み合ったままじりじりと移動する司祭と老婆。 「ええ、いいですよ。こちらとしても好都合です」 「ほんなら……………………………っ!」 いきなり動きを停めたひきこさんに怪訝な顔をするマリ・ヴェルテ。 …誘っているのかもしれないが、叩き潰してしまえば問題無い。そう思い直し、全身に力を込め――― 「あー!しさいさまだー!」「どこどこ?」 「ほんとだー♪」「あたち、キレイー?」 ―――襲い掛かろうとした所で、場の雰囲気をぶち壊す声が響いた。 僅かに覚えのある、舌足らずな喋り方におもわず足を停めるマリ・ヴェルテ。確かハロウィンの時、教会に来ていた子供達だ。 「しさいさまーごほんよんでー」「あーわたしにもー」 「えーあそびいこうよー」「これでもかー?」 割と予想外の事態に、どうするべきか考えていると、目の前の老婆がいきなり距離を詰めてきた。 「チッ!やる気「どれどれ、このババが絵本でも読んでやろうねぇ♪そっちの子は肩車でもするかの?あ、お嬢ちゃんべっこうアメ食べるかい?」 そのまま、すっ、と横を帰ってり過ぎ子供達へと向かう。その顔には、先程とは違う満面の笑みが浮かんでいた。 「………ちょっと待て」 「なんぢゃ?あんたまだおったんか。ほれ、帰っていいぞい」 「んなっ!?」 あっさりと言い放つ。もはや眼中にないらしい。ぷるぷると震える司祭を尻目に子供達へと向き直る。 「おばーちゃんだれー?」「えほんよんでくれるの?」 「ぐるぐるまー♪」「アメ、ウマー」 「ほっほっほっ、ババと一緒に遊ぼうねー♪」 そのまま子供達を連れて去っていくひきこさん。後に残されたのは呆然とするマリ・ヴェルテと、諦めた表情の身内二人。 「予想通りですね」 「なんか一人ヘンなの混じってなかったか?」 「ナメてんのかてめぇら!?」 「キャラが変わってますよ、司祭様?」 「お、落ち着いて?ばーちゃんの『アレ』はほぼ病気みたいなもんだから……オーナー!司祭さんと教会まで転移!!」 「承知しました」 「ってオイ!ちょっと待t」 なんか言ってた気もするが今は無視。それよりも優先すべき事がある。子供達の救出だ。 「……本読んだりお菓子やるくらいならまだいいよ? 『高い高い』とかいって10㍍もぶん投げられたり、肩車したままムーンサルト(三回転)やられた日にゃートラウマ確定だ……!」 幼少の頃に受けた数々の仕打ちが蘇る。本人は好意からやっているのだろうが、やられた方からすれば恐怖以外の何物でもない。 …しかし問題点はこちらの言うことを素直に聞いてくれるかどうか。祖母の子供好きは、ある意味本能レベルである。 最悪、力ずくで引きはがすしかない……可能かどうかは別として。 「やるしかねーか……」 オーナーが戻って来るのを待っている暇は無い。救助が遅くなる程、子供達の心に傷が刻まれる危険が増える。 溜息と共に歩き出す少年であったとさ。 終 前ページ次ページ連載 - 人肉料理店とその契約者
https://w.atwiki.jp/legends/pages/192.html
私はだぁれ? あなたは無邪気にそう尋ねる あなたはだぁれ? あなたは無邪気にそう尋ねる あなたが何者なのか 私が何者なのか それは、誰にもわからない だって、私たちはまだ生まれてすらいないのだから Red Cape 「…赤マント、何書いてるですか?」 「うぉ!?……あぁ、何だ、君か」 トイレの個室に響く若い男性の声 普通に考えれば、変質者以外の何者でもない しかし、彼は平然とそこに存在していた 声をかけた少女も、彼を変態扱いする様子はない この異常な光景も、二人にとってはごく普通の日常なのだ 「あぅ、またヘタッピなポエムですか?」 「ヘタッピとは失礼な。これでも、雑誌連載を頼まれている身だぞ?」 ふふ、と真っ赤なマントを纏った青年が笑う そんな青年を、真っ赤なハンテンを着た少女は、やや胡散臭げに見上げていた 赤と赤 似たような衣装を纏っているからか それとも、出現場所が同じ女子トイレであるからか 二人は、いつからか共にいる事が多くなった 仲良し、と言ってもいいだろう 考えた事を、互いに好き勝手言い合える仲と言う奴だ 「マイナー雑誌のちっちゃなコーナーもらっただけで、何いい気になってるですか。 どうせ、赤マントのポエムなんて読んでいる奴いないのです!」 「何だと!?確かにファンレターは一通ももらっていないが、私のポエムに世の熟女は萌え萌えだぞ!」 「訳わからんのです。しかも、熟女萌えだったですか、お前」 「ふん、熟女の素晴らしさはお子様にはわかるまい」 「あぅあぅ、私の方が赤マントより年上なのです!」 「はっはっはぁ、聞こえんなぁ。そんな外見で言われて説得力があると思うか」 あぅあぅあぅ ぽかぽか、だだっこパンチを繰り出そうとしてくる赤いはんてんを、赤マントは片手で押さえ込む いつもの、ほのぼのとした夜の光景である 誰もいなくなった学校の女子トイレ 二人はいつも、こんな調子だった …しかし 今夜は、その平穏が静かに壊された 「……む!?」 「あぅ!?」 ぴくり 彼らは、感じ取った …自分たちとは違う、都市伝説の、気配を 「赤いはんてんよ、何者かがこちらに近づいているようだぞ」 「あぅ、私もわかるのです。しかも、契約者付きなのです!」 「うむ、むしろ、契約者だけがこちらに近づいていると言うべきか」 二人とも、それなりに年季の入った都市伝説である 気配で、何となくわかる …さて、どうしようか 二人は、顔を見合わせた 「赤いはんてんよ、今近づいている都市伝説及びその契約者、私たちに対して友好的だと思うか?」 「あぅ、わかんないのです。私たちも昔は人を襲ったりしてましたから」 「うむ。しかし、ここ数十年は自粛しているではないか。今更退治などされたくはないな」 ひとまず、二人は姿を隠す事にした 静かに、侵入者を待ち受ける …こつんっ 入り込んできたのは、一人の少女 小学生くらいだろうか? 真夜中の学校の女子トイレに一人で入り込み、きょろきょろと辺りを見回している …異常な光景である こんな真夜中に、こんな年頃の少女が一人でやってくるなど そして、二人には、わかった 彼女から、微かに感じる…都市伝説の、気配を 「………」 「………」 普通に考えれば…都市伝説的に普通に考えれば、ここで、少女を無視すればいい そうすれば、厄介ごとには絡まれずにすむ この少女の目的が何であれ、関われなければそれでいいのだ 関わってはいけない …しかし しかし、だ 赤マントも赤いはんてんも、都市伝説である 都市伝説であるが故に、一種の強迫観念を持っていた だから 我慢など、できなかった 「赤いはんてんが欲しいですか?青いはんてんが欲しいですか?」 口を開いてしまったのは、赤いはんてん 彼女の方が、こう言うシチュエーションにおいて、うっかりと習性がにじみ出やすかったのだ 赤マントが慌てて口を塞ぐが…時、既に遅し にたり 少女が笑った 「…見ぃつけた!」 「むぅ、赤いはんてんよ、君のせいで見付かってしまったじゃないか」 「あぅぅぅぅぅぅぅ、ご、ごめんなさいなのです!」 見付かってしまったからには、仕方がない 二人はふわり、少女の前に姿を現した にやり、笑っている少女 …ぞくりっ その笑顔に、二人は悪寒を覚えた 無邪気なはずの笑顔に…確か悪意を、覚える 「ううむ、ロリは無邪気な癒し系が一番。邪悪ロリは好みではないのだが」 「…熟女萌えに加えてロリコンでもあったですか。どこまで変態ですか、お前は」 馬鹿な会話をしながら、二人は戦闘体制をとった 長年のカンが、この少女は敵だと告げてくる そして、事実、少女は二人にとって敵であった 都市伝説と契約した少女 契約相手を召喚すべく…歌いだした 「赤い靴履いてた女の子 異人さんに、連れられて行っちゃった」 「…『赤い靴』か!?」 童謡に噂される都市伝説 赤い靴を履いていた女の子は誘拐され、異国に連れて行かれた… 事実とは違う、語られる噂 それが都市伝説となり、それはこの世に生れ落ちる ……ず、と 背後に感じた気配に、赤いはんてんは慌てて逃げようとした しかし 「あぅ!?」 「赤いはんてん!?」 がしり 男の手が、赤いはんてんの細い首を掴んだ 異国人風の男はニヤリと笑い…っふ、と赤いはんてんごと、姿を消す くすくすくすくすくすくすくすくすくす 女子トイレの中に、少女の笑い声が静かに響く 「…お嬢さん、赤いはんてんをどこにやったのかな?」 「くすくす…知らない」 くすくすくすくすくす 少女は無邪気に邪悪に笑う そして、にんまり笑って、赤マントを見上げる 「あんなちっちゃな子、私の『赤い靴』に捕まったら、逃げられるはずがない。 次は、あなたの番よ」 「ううむ、外見年齢はアレだが、彼女は実際の所結構なロリババアだぞ。 それに、外見年齢だけでも、君の方がはるかに幼い訳だが」 一瞬は動揺したものの、すぐに冷静さを取り戻した赤マント その様子に…少女は、不機嫌そうな表情を浮かべた ぎろり、赤マントを睨みあげる 「…何、余裕ぶってるの?あなたの相方、どうなっても知らないわよ?」 「うむ、君が自分の都市伝説に自信を持っているのはよくわかったのだが…」 ひらりっ 赤マントは、優雅にマントを翻す マントで口元を隠した状態で…笑った 「今は、君自身の身の安全を考えたまえ 私が知っている限り、赤いはんてんは強き都市伝説だ そして、私は………君相手ならば、100%、君を傷つけることなく無効化できる自信があるのだよ」 「…っふん、やれるもんなら、やってみなさいよ」 少女が、警戒したように構えてくる 今、気付いたが、少女は真っ赤な靴を履いていた 恐らくは、あの靴を通して、あの都市伝説本体の力が彼女にも備わっているのだろう …だが、それでも 赤マントは、この少女に負けるつもりはなかった 負けるはずなど無い そう、確信していた 「さぁて………赤いマントは、いかがかな?」 「あぅぅぅぅ!?く、苦しいのです!離せなのです!!」 じたばたじたばた!! 首を絞められ続け、もがく赤いはんてん ぱっ、と その言葉に反応したように、手が離された 「あぅ!?」 べちっ!! 急に離されたせいで、尻餅をついてしまう赤いはんてん 痛みに、涙が目尻に浮かぶ 「あぅ…痛いのですよ。ここ、どこですか?」 そこは、トイレのようだった …そして 赤マントの気配を、遠いような近いような、よくわからない位置に…感じた 「…なるほど。これがお前の能力ですか」 瞬時に、赤いはんてんは赤い靴の能力を読み取った 異国に相手を連れて行く その拡大解釈なのだろうか 彼は、相手を異国ではなく「異空間」に連れ込む 恐らく、現実にはここは元いた女子トイレでしかないのだろう 世界の裏側、とでも言うべきか 自分は、本来移動すらしてないのだ 相手は、自分と赤マントを分断させるのが狙いだったのだろう 甘く見られたものだ 立ち上がり、赤いはんてんは赤い靴を睨み上げた 「甘く見ないでほしいのです。お前なんて、やっつけてやるのです!!」 ぴ!と赤い靴を指差す赤いはんてん …赤い靴からの返事は、ない むっとして、再び口を開こうとした、その時 「……………う」 「あぅ?」 かくくん 赤い靴が何か言ったようだが、よく聞こえなくて、赤いはんてんは首をかしげた …直後 赤い靴が、叫ぶ 「いやっほぉおおおおおおおお!!!!!!! 強気ロリっ子さいこぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!」 「……あぅぅぅぅうううううううう!!?? へ、変態なのです!?ロリコンなのです!?」 がびびびびん!! 目の前の男が、自分の相方並かそれ以上の変態である事を、赤いはんてんは少女的本能で感じ取った 色々と、激しく身の危険を感じる!! 「あ、赤いはんてんが欲しいですか!?それとも、青いはんてんがほしいですか!?」 「HAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHA!!!どちらでも構わんさぁ!!! さぁさぁさぁ!!カモンカモーン!!!」 ばっちこーい!の体勢をとる赤い靴 そんな赤い靴を前に…赤いはんてんは己のはんてんに手をかけた ばっ!と赤いはんてんを、翻し…ひっくり返して、身に纏う 赤いはんてんを裏返すと、それは青いはんてんになり …青いはんてんを身に纏った瞬間、赤いはんてんの姿が劇的に変わる!! 「……何ぃ!?」 「さぁて……変態は、お仕置きしちゃうわよぉ?」 話し方すら、がわりと変わり 少女の姿をしていた赤いはんてんは…ナイスバディグラマーな大人の女性へと、変貌した っが!!と、赤い靴の襟首を掴み、拳を振り上げる!! 「せ、成長しただとーーーーー!!?? 10歳以上は皆ババァ!!ババアに興味はねぇーーーっ!!」 「煩いわねぇ、手加減しないわよっ!」 っが!! 青いはんてんの拳が、吸い込まれるように赤い靴の顔面に直撃した がっ!ごっ!どすばきっ!! 容赦なき連続パンチが、赤い靴に叩き込まれる!! 激しい連続パンチのラッシュ 女性のその容姿からは想像も出来ない怪力が、赤い靴を逃がさない …数分後 そこには、全身に斑点のような青痣を作った赤い靴が、倒れていた 直後 ぐらり、視界が揺らぎ…青いはんてんは、元の女子トイレに戻ってきた 「うむ、そちらも終わったようだね」 背後から声をかけられる 振り返ると…もごもご動く麻袋を背負った赤マントが、爽やかな笑みを浮かべて立っていた 「そっちも終わったのね?」 「うむ、当然であろう。少女相手であれば、私は無敵だ」 はっはっは、と赤マントは笑う …赤マントの都市伝説には、いくつかのパターンが存在する 今、もっとも有名なのは、子供を切りつけ、赤いマントを着たように血塗れにさせる事だろう だが、この赤マントは違う 古き時代に生まれた彼は……「人攫い」 真っ赤なマントを羽織った男が、女の子を連れて行くという人攫いの都市伝説から生まれた存在だ 一瞬で少女を連れ去る為の力 彼は、赤い靴の契約者の少女を、一瞬でこの麻袋に詰め込んでしまったのだ 戦闘的ではないが、少女相手ならばほぼ無敵の力である 「…うむ、見事な青痣だらけ。相変わらずむごいな」 「だって、こいつ変態だったんですもの」 ひらり 青いはんてんは、はんてんを裏返し…赤いはんてんに、戻った 「色々と身の危険を感じたのです。これは正当防衛なのです!」 「うむ、まぁ、正当防衛に変わりはないな…さて、この二人はどうしようか」 「あぅ、慈悲深く、女の子の方は学校の門のところにでも捨てて置くのですよ。 赤い靴は、全裸で電信柱にでも縛り付けて『人攫いです』とでも書いて放置しておくのです!」 「はっはっは、相変わらずの鬼畜ロリめ」 こうして、二人の平穏な夜は護られた 二人は、今のところ人間と契約するつもりはない 契約者と都市伝説の戦いになど興味はなく、ただのんびりと生きたかったから …ただ、同じトイレの都市伝説である、とある花子さんからの話を聞いているだけで 二人は、充分だったから それに、二人は、二人一緒にいる事が何よりも楽しかったから …そこに、人間が入り込んで欲しくは無かったのである どうして戦うのですか わからない、と彼女は泣いた どうして戦うのですか 私も、わかりません どうして、私たちは戦う運命にあるのでしょう 生まれてしまった私たちですが、ただ、平穏に生きたいだけなのに Red Cape 前ページ連載 - 花子さんと契約した男の話
https://w.atwiki.jp/legends/pages/2543.html
【電磁人の韻律詩22~世紀末中華料理店『北斗神軒』~】 カラコンコロン 笛吹探偵事務所のドアが開いてベルが鳴る。 「ココが笛吹探偵事務所アルカ?予約していた魁ダヨー!」 「あれ、お嬢ちゃん迷子?ここは探偵事務所でお菓子屋さんじゃないよ?」 恋路がその珍客に出会って最初にかけた言葉はそれだった。 「失礼な小娘ネ、コレデモ立派な成年女子ヨ。」 「え?」 「私が依頼の予約をしていた魁アル、笛吹は何処に行ったカ?」 「あ、魁さーん!もう来たんですか?予約より一時間早いですよ? 笛吹さんなら今はNYに出張してます。」 「そうだったカ?そりゃあ済まなかったネ。うっかり忘れてたヨ」 「い、依頼者の方?」 「そうアル、さっきからそう言ってるネ。」 事務所の奥から向坂が出てきて彼女に応対する。 どうやら彼女は笛吹探偵事務所に来た依頼人らしい。 しかし恋路はそれを信じられなかった。 何故なら、目の前に居る「セイネンジョシ」はどう見てもバスなどの公共交通機関を半額で乗れそうな外見だったからである。 「ほんっっとうに申し訳ございませんでしたあ!」 「良いアル、この程度気にしていたら今まで生きてこられないヨ。」 「あのね、恋路ちゃん。この人は学校町の名物中華料理店『北斗神軒』の店長で、 近くの道場で子供たちに太極拳を教えている魁喬さんって言うんだよ。 この人の酢豚がすっごく美味しいの!」 「ちなみにNYに弟子が二号店出したね、今度NY言ったラヨロシクタノムヨ。」 「あの、ちなみにおいくつなんでしょうか……。」 「ふっ、女性は秘密を纏って美しくなるネ。」 恋路はますます目の前の女性のことが解らなくなっていた。 戸惑っている様子の恋路を見て向坂が話を切り替える。 「ところで今回の依頼ですが……。」 「オット、話してなかったネ。最近私の店の周りに都市伝説が出て困ってるヨ。 退治して欲しいネ。」 「成る程……、どのような都市伝説でしょうか?」 「エットー、夕方歩いてたら追いかけられたラシイネ! 口が裂けてたらしいヨ。 それと女性しか狙わないらしいアル! 卑劣ネ!女性の敵アル!」 「それは魁さんが直接会った訳じゃないんですか?」 「私が太極拳教えている子供が追いかけられたらしいアル! 許せないヨ!」 「成る程、……解りました。」 向坂は魁の話を紙にメモするとすばやく笛吹に電話する。 「笛吹さん、魁さんがいらっしゃいました。 はい、都市伝説関係です。 はい、はい、……明日君は別件で今出てます。 ………え?」 「どうしたアルカ? 笛吹が居るなら替わって欲しいアル。」 魁は小さな手を電話に伸ばす。 向坂はとりあえず魁に受話器を渡す。 「笛吹君?ニューヨークに居るノカ?」 「はい、そうなんですよ。貴方のお弟子さんの店にも行きましたよ。」 「キイタネ、君には少し辛みタリナカタカ?」 「いえいえとんでもない、素晴らしい味でしたよ。」 「そうやって甘いこと言っているとあの馬鹿弟子つけあがるネ。 もっとガツーンいったげなきゃダメヨ!」 「はぁ、すいません……。 ところで依頼の件なんですけど、そこに居る恋路に任せても良いですかね? 話を聞いた所、都市伝説退治をすればそれで大丈夫みたいですし。」 「ワカッタネ、君が言うんだタラこの子に任せルヨ。」 「じゃあよろしくお願いします。」 プツッ 電話は切れた。 魁はニコニコと微笑みながら恋路の方を見る。 「聞いてたカ?恋路チャン。あんたに何とかして貰うことにナッタヨ。 ヨロシク頼むね。」 魁はそう言って恋路と握手した。 「さてさて、ここかなぁ?」 恋路は地図を確認しながら辺りを見回す。 しかし場所はあまり解っていない。 地図を読むのが苦手なのだ。 依頼人の話から考えると出没する都市伝説は恐らく口裂け女だろう。 「しかし、女の子しか狙わないって……どうよ?」 相手がもし口裂け女だとするならばだ。 自分が綺麗かどうかを女の子にしか聞かないなんておかしな話だ。 自分が綺麗かどうかなんてそれこそ異性に聞けば良いではないか。 恋路は違和感に囚われていた。 「ねーねーおねーちゃん、わたし綺麗?」 「――――――!」 恋路は驚いて後ろに飛び退く。 彼女の背後に立っていたのは唇を塗りたくった女の子だった。 「口裂け女!?」 恋路はその子供を警戒する。 もしかしたら子供の姿の口裂け女だって居るかもしれない。 そう思っていたのだ。 「ふ、ふ、ふぇえええええええん!」 恋路が大声を出したせいで驚いてしまったのだろう。 女の子は泣き始めてしまった。 「……あれ、口裂け女じゃない?」 「えええええええええん!」 どうやら自分はこの少女を泣かせてしまった。 なんとか宥めようと思って恋路は少女の近くまで寄る。 すると、脅えた目をした少女は走りってそのままどこかに行ってしまった。 「あちゃあ、……悪いことしちゃったか。」 恋路はバツが悪そうに頭を抑える。 子供を泣かせてしまうというのはあまり気持ちの良い物では無い。 「あの、すいません。」 「なんですか?」 そう思っていると彼女は後ろから声をかけられた。 「ゴホッゴホ!さっきこの辺りに女の子は居ませんでしたか? 口紅を塗りたくっていたと思うんですが……。 ああ、彼女は僕の妹なんですよ。まだやんちゃ盛りで……。」 彼女に声をかけたのはマスクをした青年だった。 どうやら風邪を引いているらしい。 恋路はその青年に少女が向かった方向を教えると近所の公園で少し休むことにした。 「どうしたネ、恋路ちゃん。 なんかちょっと落ち込んでるミタイネ。 調査も一日や二日でそう簡単に見つかる訳じゃないしそんなに落ち込むナヨ。」 「あ、魁さん。」 公園で休んでいると急に魁が現れた。 魁は暖かい缶コーヒーを恋路に投げて寄越す。 「魁さん、私、都市伝説と戦うのはまだしもこういう探偵の仕事って上手くできないんですよ……。 その上、さっきは普通の女の子を口裂け女と間違えちゃったり……。 向いてないのは解ってたんですけど……、凹むっていうか。」 「私ダテ若い頃上手く行かないことアッタネ。 でもその度に必死で努力したヨ。 駄目でも駄目駄目でも駄目駄目駄目でもとりあえず目の前の壁に身体ごと突っ込んでミルネ。 意外とその壁も罅入ってたりするヨ。 マァ、コーヒー飲め。」 「ありがとうございます……。」 恋路の飲んだコーヒーは苦かった。 缶を見てみるとブラックだ。 「魁さん……。」 「糖分と脂肪は乙女の敵ヨ。」 「はい……。」 しかし糖分大好き娘である恋路は苦い物が苦手だ。 ますます凹んだ気持ちになる恋路であった。 「それじゃあ私ももうイクヨ、店の仕込みアルね。」 「はい、私ももうちょっとこの辺りを探し回ってみます。 日没まであと少し有るんで。」 そう言ってそれぞれベンチから立ち上がろうとした時だった。 「キャアアアア!」 どこからか子供の悲鳴が聞こえる。 「あれは……。ってアレ?恋路ちゃん!」 「ちょっと様子見てきます!」 魁が声を出す前に恋路は走り出していた。 先程聞こえた声に彼女は聞き覚えがあった。 そしてそれが正しかったとすれば、彼女はとんでもないことをしてしまったかもしれないのである。 「何をやっているの!」 「おや?」 彼女の予想は正しかった。 悲鳴を上げていたのは先程会った口紅の少女。 そして、 「何をやっているの、聞いているの!」 口紅の少女に襲いかかる都市伝説は…… 「口裂け女、いいえ。 ――――――――――――口裂け男!」 「おやおや、ばれちゃったか。」 男は口元も裂けんばかりに――いや実際裂けているのだが―――笑う。 その姿は間違いなく都市伝説。 この街に巣くう怪異。 「残念だなぁ、今日はこの可愛い女の子に僕が綺麗かどうか聞こうと思ってたんだがね。 ほら、子供の感性ってピュアで美しいだろう? だから子供に聞いて美しいと言われれば僕は自分が美しいと自信を持てたんだが……。 邪魔が入ってしまった。」 「そんな下らないことはどうでも良い!早くその子を放してやれ!」 「嫌だね、これから彼女には僕が綺麗かどうか判定して貰わねばならない。」 恋路は少女を救おうとすばやく走り寄る。 しかし、口裂け男はそれに気付いて鋏を少女に向けた。 「おぉっと!下手に近づいてみろ、子供がどうなっても知らんぞ?」 「子供を人質に取る気か!」 「当たり前だ何が悪い!」 「ゲス野郎め……………。」 恋路は憎しみ一杯に口裂け男をにらみつける。 彼女の拳では遠くの相手を倒すことが出来ない。 彼女が人間だった頃に修めていた拳法はあくまで護身術であって、 相手の攻撃が自分に向いた時にそれは始めて意味をなす類の物なのだ。 「僕は足が速いからなあ、このままこいつを人質にして一旦逃げさせて貰うぜ? お前が何者だろうと僕の速さに敵うわけがない。 それじゃあな!」 そう言って口裂け男はクルリと後ろを向いて逃げ出す。 恋路は、自分が黙っていたからと言って人質が安全とは限らないことも理解はしていた。 しかし動けなかった。 人間であった頃の彼女ならばもしかしたら子供ごと都市伝説で攻撃したのかもしれない。 だが今の彼女にそれはできなかった。 「オイ、待てヨ。」 「なんだガキィ!」 「その子置いてイクネ、そしてこの辺りにもう二度と出没しないと誓うなら許してやルヨ。」 「な、何言ってんだぁ?」 いつの間にか、口裂け男の後ろに子供が一人立っていた。 いや子供ではない。 魁喬だ。 「……何時から、其処に?」 恋路はポツリと呟いていた。 恋路は一応、人間であった頃は武術を嗜んでいた。 だからなのか人の気配とかそう言う物にはとてつもなく敏感である。 しかし、彼女は魁喬がそこにいたことに今まで気付かなかったのだ。 「五月蠅い男アル、言うこと聞かないならこうダヨ!」 「え………」 「――――――――――――裡門頂肘!」 低い体勢から、全身の体重を肘一カ所に集めて口裂け男の顎を打ち上げる。 その勢いを利用して彼女は飛び上がると口裂け男の肋骨の隙間に靴の先端で蹴りを打ち込む。 遠くへ吹き飛ばす蹴り方ではない。 靴の先端を肋骨の隙間に引っかけて男を地面に叩き落とすような蹴り方だ。 「脳と肺を少しばかり弄らせて貰ったアル、ろくすっぽ立てない筈ヨ。」 「ガハッ……!なんだこれ……ゴホッゴホッ!」 「ほら、そこの少女、あのお姉ちゃんの所に行って守って貰うネ。」 少女は頷くと恋路の下に駆け寄った。 恋路は少女を抱きかかえると口裂け男と魁喬から距離を取る。 「ちくしょう、なんだこの化け物!」 そう言って口裂け男は恋路の方へ逃げてきた。 さすが口裂け女の系列の都市伝説だけあって動きは速い。 「そこをどけ!」 鋏を振り回して道を空けるように脅すが恋路はそれに応じるつもりはない。 恋路は少女を自分の後ろに立たせる。 彼女は腰を軽く落として左半身だけ前にむけた基本的な構えをとった。 口裂け男が鋏を振り下ろす隙を狙って彼の腕をつかみ取り、そのまま腰を一気に落として背後に回る。 まず最初に手首をひねり、次に片手で固定して肘を破壊、足払いをかけて体勢を崩した所で一気に肩を外した。 「ギャアアアアアアアアアア!!!」 口裂け男が叫ぶ。 いくら都市伝説と言っても間接を壊されると痛いのだろう。 腕を押さえて悶絶している。 「おー、なかなか上手ネ。何かヤテイルと思ってたがヨーロッパの方の技か。」 魁喬が前から近づいてきて感心したように言う。 「あ、どうも子供には目の毒だとは思ったんですけれど仕方なくて……。」 「良いよ良いよ、キニスルコトナイネ。お嬢チャン、もうこんな時間アル。 早くお父さんお母さん所に帰るアルよ。」 「は、はーい……。」 魁喬にそう言われると少女は帰ってしまった。 恋路は組織に電話を入れて口裂け男を回収してもらうと魁喬と一緒に事務所の辺りまで帰ることにした。 「あの……依頼達成できていないので報酬は……。」 「報酬は別に良いヨ、君が居たから見つかったネ。それより……ワタシの道場来る気ないアルカ? 基礎は出来ているみたいだからすぐに八極拳覚えられるヨ。」 「へ?」 「考えておいて欲しいアル、悩み事とか有ったら訓練するのが一番ヨ!」 「はぁ……。」 「それじゃあもうそろそろ店に着くんでサヨナラアル。じゃーな。」 「解りました、考えておきます。あ、……さようなら。」 恋路は自分の手をジッと見て考え込む。 「単に守るだけじゃ誰かを助けられないよなぁ」 自分ももっと強くならなくてはいけない。 恋路はとりあえず急いで家まで帰ることにした。 【電磁人の韻律詩22~世紀末中華料理店『北斗神軒』~fin】 前ページ次ページ連載 - 電子レンジで猫をチン!
https://w.atwiki.jp/legends/pages/4259.html
既に出ている都市伝説を使用しても良いの? すでにスレ内に登場している都市伝説と同じ都市伝説を使って話を作りたいのですが、それっていいのですか? ぜんぜんかまわないぞ。口裂け女や私のような人面犬花ちゃんのようなトイレの花子さんも複数体登場している。基本的に使用する都市伝説の個数制限は無しだ でも例外はあるのですよね? そうね……半ば暗黙の内にそうなっているけど、歴史に名を馳せたりした固有の人物そのものが都市伝説化しているような場合、その個人を被って出している作者はいないように思われるわね。 なるほど、確かに人面犬のような種族ではなく、特定個人を都市伝説化しているとなると、複数いると具合が悪くなることもあるのかもしれないな。もしwiki内検索をかけて使用したい特定個人名を持つ都市伝説が被ってしまった場合、スレ内にお伺いをたてるのが賢明だろう あくまで現時点の話なのでこれからそこら辺の事情も変わって来るのかもしれませんね うむ、スレは生き物だからな。必要があればその都度色々と改変が行われることだろう。 * 前ページ次ページご新規さん向けガイドライン-Q A
https://w.atwiki.jp/legends/pages/1518.html
【上田明也の綺想曲6~Grateful Dead Greatful Days~】 「お前ら、夕食は何が良い?」 「酢豚食べたい、お母さん。」 「牡蠣の塩辛と米が有れば何も要らないよ、お母さん。」 「ハンバーグ食べたいです、お母さん。」 「お前ら全員飯抜きな。」 マッドガッサーの捕獲に失敗してからと言うもの、俺はみんなにお母さんと呼ばれ続けていた。 っていうかサンジェルマンは何故家で飯を食っているのだろうか? 「おい、サンジェルマン。」 「え、帰れッて?解った解った。」 奴は本当に米と塩辛だけを食った後に出て行きやがった。 「はい、と言うわけでお前らに夕ご飯を作ってやりたいと思います。」 「「ご飯マダー?」」 流石に子供が二人も居るとうっおと……、噛んだ。 うっとおしい。 「今日はお前ら希望を取り入れて酢ハンバーグにしたいと思います。」 「「それはない」」 なんでこいつらは妙な所で息が合っているのだろうか。 「お前ら酢ハンバーグが不味いと思っているらしいな、ならば良いだろう。 あれがいかに美味しいか子供の時に嫌いだったうどんに大好きなカルピスを混ぜて自爆した俺が教えてやる。」 「食う気が萎える枕だわ。」 「マスt……お母さんの失敗談ですね、どうみても。」 「うるちゃい、お前らは俺の作った飯を豚の如く食えばよいのだ。」 フライパンを取り出して油を引いて火にかける。 クックックドゥーンの酢豚の素を棚から出しておく。 冷蔵庫には丁度ハンバーグのこね終わった奴があるのでそれを使おう。 まず鶏肉の煮物で出来た煮こごりと酢豚の素を混ぜて薄めの餃子の皮の中に包む。 そしてそれをさらにハンバーグの中に入れてフライパンへ…… 紹興酒をフライパンに加えて蓋をして肉に火が通るまでユックリ待ちましょう。 「できたぞてめえら酢ハンバーグ!」 「「やんややんや」」 「さあ食べろ。」 「「いっただきまーす。」」 子供達は酢ハンバーグに齧り付いた。 「うわ!中から酢豚のたれが!しかもハンバーグと調和している!」 「マスターって運動、ていうか肉体を使った作業以外一通り出来ますよね。 これも味付け良いのに野菜が不揃いだったり……。」 「余計なお世話だ。」 二人がご飯を美味しそうに食べているのを見ていると心が落ち着く。 片方は凶悪な都市伝説だしもう片方も凶悪な都市伝説の契約者なのになあ……。 そういえば凶悪なんて誰が決めたんだろうか? それが凶暴なのか邪悪なのかなんて自分たちではなく他人が決めた基準におけるものでしかない。 俺達を受け入れない他人の集合体が数を頼みに振り回したルールに過ぎない。 さて、その法に従う必要はあるのだろうか? その法から逃れればきっと今俺は可愛い二人のロリに飯をつくっている心優しいお兄さんに違いない。 世間一般のルールでは人でなしの俺でも今ここを支配しているルールの下では優しい人間で居られるのだ。 「お前をまともな人間にしたかった。でも駄目だった。俺はもう諦めるよ。 お前と絶交するわけじゃないけどさ、諦めた。俺には無理だ。俺の身が保たない。」 そう言った友人が高校の頃に居た。 しかし世間一般のルールで救われなかった少女が今目の前に二人居る。 世間一般のルールに迫害された人間と都市伝説がいる。 そう言ってくれた友人のことは尊敬しているが彼の気持ちに報いることはできなさそうだ。 「美味いか?」 「美味いよ、上田明也。」 「美味しいです、マスター。」 「なら良いんだ。」 思えば橙もずいぶん家に慣れたものだ。 最初はメルや俺ともぎくしゃくしていたんだがな。 まあそこらへんはサンジェルマンのおかげと言うことにしておこう。 彼女のボロボロの身体をある程度治したのもあいつだしな。 「ああ、そうだ。薬飲ませるから来い。」 「はーい。」 橙は生まれた時から眼が見えなかったらしい。 眼の病気か何かで眼球を摘出するしかなかったそうだ。 だから彼女の目は義眼である。 人形のように可愛らしい彼女だが人形みたいな美しい眼という形容の仕方はあまりしない方が良いのだろう。 「マスター、私白湯用意しておきますね。」 「ああ、ありがとうよ。」 「ハーメルンの笛吹き、ありがとう。」 橙が薬を飲み終わると適当にテレビをつけて番組を見る。 最近はサンジェルマンの特訓のおかげである程度能力を制御できるようになったらしい。 テレビ位なら能力を使ってみても問題は無い。 ただしお笑い番組を見ているときは問題だ。 「はいはいはいこんにちわ~。」 若手の漫才コンビが出てきた。 最近実力をつけているコンビらしい。 「あははははははははは!!!」 出てきた直後に橙が笑い出す。 「………あれ?どうしたの?」 「橙、それは何秒先だ?」 「橙さん、貴方の笑いの壺ってキャハハハハ!!!」 そう、彼女はどうも数秒先の映像に反応してしまっている時があるのだ。 今のようにお笑い番組だと数秒後のギャグで突然笑い出す時がある。 家に来た時はそもそもあまり笑わなかったからまあそれよりはマシと思うことにしている。 「……また間違えた。」 「気にするな、まあゆっくり使い方に慣れれば良いさ。」 「はい……。」 気にしているのだろうかしょんぼりしはじめる。 「馬鹿おめえそんなの仕方ないだろうが!一々気にしないの!」 「そうですよ、橙さん!」 「解ったわ……。」 そういや施設内ではテレビも見せて貰えなかったらしい。 可哀想とか安い言葉を吐くつもりは無いがすこし胸が痛む。 その後、気を取り直してその後しばらくテレビを見て大体10時か9時には就寝である。 以前までは夜遅くから動き回っていたのだが最近は大分警戒されるようになってしまった。 組織の人間と戦って負けるつもりは無いがもしあの秋刀魚男が現れたり宝石を投げつけた男が居たりすればメルが揺らぐ。 ……俺は揺らぐのだろうか、否、揺らげるのだろうか? 人間をやめることは楽だ。俺は楽をしすぎた。 あのコーラ男くらい割り切った奴だと戦いやすいのだがな。 それにあの禿でマッチョな黒服に来られたらぶっちゃけ勝てる気がしない。 そもそも自分の能力がもう割れているというのが痛い。 こちらが妙な動きをしなければ相手だって手を出さないのだ。 それで良い。 メルと一緒にベッドに入ると橙も入ってきた。 「なんだ、まだ夢を見るのか?」 「良いじゃない、どっちでも。」 ちょっと怒ったように橙は言う。 しかしあまりベッドに居られると俺としては襲いかかりたくてしょうがなくなるのだから許して欲しい。 実験でに与えられていた薬の副作用で悪夢を見ているそうだ。 薬の名前は確か"Ω to α"、都市伝説の侵食を進める薬だそうだ。 試作品の物を調整も兼ねて無理矢理与えられたのが身体に負担になっているとサンジェルマンからは聞いた。 薬を使わなくても都市伝説との信頼関係一つだと思うがまあそれはそれだ。 今は"Rev-00"とかいう薬で効果を抑えているそうだ。 「これって本当はすっごい機密事項なんで何処で手に入れたとか秘密ですよ?」 そう言っていたが奴のことだからくすねたかそもそもその薬の製造に一部関わっていたのだろう。 考え事をしていたら幼女二名とも俺の隣で寝てしまった。 仕方ないので俺も寝ることにする。 でもその前に首が冷えないようにタオルケットを二人の首に掛けて…… 掛けようとしたが腕枕中だったので下手に動けない。 そっと動くことにしよう。 秋の朝は割と冷える。 一番最初に目を覚ました俺は布団の中で冷たい空気を入れないように注意しながら布団を出た。 ついでにメルと橙を抱き合わせておく。 おお、これは非常に百合百合しい。 カメラで撮っておこう。 撮影タイムが終わるとさっさと一階に向かう。 エプロンをして味噌汁の出汁をとる。 今日は煮干しで出汁をとろうか。 味噌はいつもの物で良いだろう。 「おふぁようございま~す。」 6時50分にメルが起きる。 二人でねざましテレビの占いを見てキャイキャイ騒ぐ。 ちなみに俺とメルの星座は双子座である。 橙は射手座らしい。 「……おはよう。」 橙も起きた。 只今7時20分。 みんなで朝食を食べ始める、食べ終わる頃にはサンジェルマンも来ていたりしてそれなりに賑やかである。 ご飯を食べ終わると橙はサンジェルマンと修行を始める。 午前中も午後も特にやることは無いからひたすら世界文学全集とか六法全書とか読んだりメルと修行していたりする。 気分次第では町に出かけるのだがハプニングに巻き込まれやすいのが問題である。 その日はちょっと出かけて帰ると午後五時になっていた。 「ご飯作っておきました。」 サンジェルマンの手料理がテーブルに広がっていた。 「ぼくも手伝ったよ!」 橙も手伝ったらしい。 「あー、総菜買って来ちゃった。」 「良いからもう食べましょうよマスター!」 「はい、じゃあお前ら椅子に座れ。」 みんなで席に着くと両手を合わせて俺はこう言う。 「それじゃあ、頂きます。」 「いただきまーす。」 「頂きます、サンジェルマンさん。」 「ふはは、存分に召し上がれ。」 「お前も命に感謝しろ。」 「マスターが言うと怪しいです。」 「上田明也が綺麗なこと言うと不自然だぞ。」 困った奴らである。 だがそんな日々も悪くない。 平凡だけれど偉大な日々。 素直に感謝することにしよう。 【上田明也の綺想曲6~Grateful Dead Greatful Days~ fin】