約 2,714,664 件
https://w.atwiki.jp/legends/pages/1964.html
この国は無防備だ 平和ボケした国民が大半を占めるこの国は、あまりにも無防備で だからこそ、都市伝説にも狙われやすい この日もまた、UFOの大軍が、このちっぽけな島国に大挙して押し寄せようとしていた 「---視覚結界設置、完了しました」 「あぁ」 「組織」上層部のとある黒服 彼は、押し寄せてくるUFOの団体を双眼鏡で眺めながら…こっそりと、同情していた きっと、自分達ならば楽勝でこの国を占拠できると思っていることだろう 可哀想に 「さて、後は経過を見守るだけだな」 「…よろしいのですか。本当に、我々が手出ししなくても」 「今回、「組織」がすべき事は、現れる都市伝説達が一般人に目撃されないよう、視覚的な結界を張ることだけだ」 海上を飛んでくるUFO達 -----ぼこぼこと、海が泡立ち始めた 来たか 「…あいつら、海外産だとしたら、知らんのかねぇ」 深々と、黒服はため息をつく ぼこぼこぼこぼこ、泡立つ海面 直後、海から発射された放射火炎が、UFOを一機、打ち落とした UFO達の隊列が乱れる 一機を打ち落とした放射火炎はそれだけでは満足せず、次々とUFOを撃ち落していく 反撃するようにUFO達が光線を放っているが、海の中にいるあいつには届きはしないだろうし…届いたとしても、効果はあるまい ぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこ 海面の泡が更に激しく、大きくなって そして、それは姿を現した 漆黒の体、とげとげしい背びれ、長い長い尻尾 ゴツゴツとした肌、鋭い牙 …日本人ならば、知らぬ者がいるはずのない、それが 海外でもよく知られている、それが 怪獣王の姿が、海から出現した 天に向かって、吼える怪獣王 UFO達が光線で攻撃するが、それを受けても涼しい顔をしている じろり その巨大な目が、UFO達を睨んだ 「わかってないな。連中。手を出したらそこまでだ。お前らの人生終了だな」 「都市伝説でも人生と言うのでしょうか?」 んな事は知らん 部下のツッコミを無視して、その黒服は暴れ始めた怪獣王を見つめていた いつ見ても、惚れ惚れとする暴れっぷりだ その巨大な口から吐き出される放射火炎が、長い尻尾での一撃が、次々とUFO達を撃ち落していく …とある、ハリウッドの映画監督は、自分が作成した、宇宙人が地球を侵略する映画の裏話として、こんな趣旨の事を語ったそうだ 「日本にはゴ○ラがいるし、日本は怪獣や侵略者と戦いなれている。だから、被害はほとんど出ていないんだよ」 と その発言が真実であるかどうかはわからない 真実であったとしても、日本からの取材に対する、リップサービス的な発言だろう だがしかし、日本の特撮映画は海外でも人気である その特撮映画の中で、日本ばかりが怪獣や侵略者に襲われ、それを撃退せんと戦っているシーンが多いのは事実 そして、映画監督の発言がネット上で語られて……それは、都市伝説となる 「日本が怪獣や宇宙からの侵略者に襲われても、日本ならばどうにかなる」 怪獣王によって、UFO達は全滅した あの怪獣王は、この国を自分の縄張りであると認識しているらしい 縄張りに入り込んだ蝿を全て叩き落し満足したのか……ゆっくりと、海の中に戻っていっている 夕日をバックにしたその様子は、怪獣映画のラストさながらだ 「…いやぁ、いつ見ても素晴らしい戦いだった」 ふぅ 黒服は、眼福な様子の笑みを浮かべた 映画のような戦いを、双眼鏡ごしとは言え、生で見られる いやぁ、日本の本部勤めで良かった良かった これが、アメリカ支部とか南米支部勤めでは、こうはいかない 「…怪獣王に任せなくても、「組織」の力を持ってすれば、あのUFO集団、どうにかなったのでは」 「この国には最強の怪獣王がいるんだぞ!その活躍の機会を逃させてどうする!!」 さて、今回も戦いの映像は記録したし 後でまた、じっくり楽しむとしようか 国の危機を前にして、怪獣王の戦いを優先させていた上司のそんな様子に 部下は呆れたように、深々とため息をついたのだった 続く予定なんざないので終わる 「単発もの」に戻る ページ最上部へ
https://w.atwiki.jp/legends/pages/1845.html
【上田明也の探偵倶楽部】 ベッドで思い切り寝込んでいる男性。 恐らく高熱が出ているのだろう、氷枕をしている。 まあ俺のことである、今俺は風邪を引いているのだ。 「こんにちわ皆さん、最近自分のここの所の生活がアニメ化できそうでわくわくしている上田明也です。 でも主人公と言うよりラスボスな気もして悶々しています。 探偵兼殺人鬼という厨二病全開過ぎて死にたくなる二足のわらじを履いているし行けると思うんですけどね。 まあ探偵の仕事、なんていっても依頼が来るのなんて週に一、二回ほどです。 しかも、都市伝説で仕事を終わらせてしまうのでお金も手間もかからないと。 殺人鬼の仕事なんてさらなりって奴です。 仕事ですらない。 何を言いたいかって言うとすごく暇なんですよ、ええ。 そんな暇なときはどうしているのかって? テレビかネットでも見て時間を潰すに限りますよ。」 誰かに語りかけるように独り言を呟く。 これを行わないと自分の日常が始まらない気がするのだ。 「マスター、生きてますか?」 いきなりの寝室のドアを開けて飛び込んでくる幼女、俺の契約している都市伝説「ハーメルンの笛吹き」である。 彼女の手の上には緑色のおかゆがこんもりのっかったお椀があった。 「うわ、やめろお前がおかゆなんて作るんじゃ……。」 「つべこべ言わずに食えよおらぁ!」 どうやら俺の昼食らしい。 「うに゛ゃああああああああ!?」 病人という存在の弱さとおかゆに有らざる苦みを口中で噛みしめながら俺はそのまま意識を絶った。 ああ、幾ら都市伝説を使いこなしても駄目な物は駄目なんだなぁ……。 【上田明也の探偵倶楽部5~真夜中の赤い砂嵐~】 あの悪夢のようなランチタイムから一体何時間経ったのだろう? 俺が目を覚ますとまず最初に時計を確認した。 真夜中の十二時。 なんということだ、12時間も眠ってしまっていたらしい。 酷く喉が渇いた。 腹も減っている。 体中が痛い。 頭はまるで捻子を突っ込まれたようだ。 思えば、あの謎の黒服達に追いかけられている夢を見てからずっとそうだ。 只の風邪ではないのだろうか? 「メルー、メルゥ?」 掠れた声で我が愛しの都市伝説を呼ぶ。 「うへへ、……これ以上食えません。」 隣で熟睡していた。 幼女の都市伝説が隣で寝ている。 どんな悪戯をしても問題無いだろう。 成る程、ロリコンたるこの俺にとっては風邪さえ引いていなければ中々魅力的な状況だっただろう。 今すぐ押し倒してこの天使のような頬や この世の美をすべてそこに集約した尻などを好きなだけ愛でてから 本丸に突撃するのも中々どうして魅力的だったろう。 「残念ながら俺も食えません、と。」 意味が違うわ、と一人ボケ突っ込みをしながら俺は冷蔵庫まで比喩じゃなく這っていった。 冷蔵庫を漁ると すっかりカラカラになったトマト ポカリスエット――――――恐らくコレを飲むべきなのだろう 安物の粉チーズ ケチャップ マヨネーズ ソーセージ 鯵の干物 が入っていた。 「ああ………。」 十二時間を無駄に過ごしてしまった後悔を噛みしめながらポカリスエットを胃袋にそそぎ込む。 カラカラに渇いた喉やもう何も入っていない胃袋が急な来訪者に驚いて活動を始めた。 それにしても腹が減る。 スパゲティをゆでることにした。 台所の隅に転がっていたタマネギを適当にバラバラに切り刻む。 カウンターに捨て置かれていたニンニクの欠片なども適当な感じで細かくしておこう。 フライパンにオリーブオイルを引いてゆっくりと暖める。 ジュゥワアアアア! ニンニクと一味唐辛子を入れて炒めると美味しそうな香りが立ち上ってきた。 麺の方も中々上手そうに鍋の中で踊っている。 眠りすぎて腐り落ちそうな頭が作り替えられていく。 鍋の中のゆで汁をお玉一杯、よりちょいと少なめにフライパンに入れる。 油とお湯が混ざって白濁し始めた。 麺の様子を見ると丁度芯が残っている固ゆでの状態だ。 ここで麺をフライパンの中に突っ込む。 白濁した液体と麺は絶妙な具合で絡む。 ここで火を止めてナンプラーと鯵の干物を刻んだ物も混ぜ合わせる。 アンチョビの代わりにはならないだろうが無いよりはマシだ。 皿を出して盛ると中々悪くない出来だった。 箸でにゅるにゅると噛みしめると何とも言えない幸せな気持ちになれる。 「中々良い出来だぞ、上田明也。お前もやれば出来る子じゃないか。」 自分で自分を褒めてから何とも言えない寂しさを噛みしめた。 「……寝るか。」 自分に言い聞かせるように独り言を呟いてから寝室に向かう。 まだ自分の体温が残るベッドに潜り込んで瞳を閉じた。 ちなみに我が探偵事務所はあまり広くないので基本的にメルとは添い寝である。 身体が冷えるので湯たんぽ代わりにメルを引き寄せた。 「だからもう食べられないってヴァ………。」 夢の中でも何か喰っているらしい。 本当におめでたい奴である。 「喰っちまうぞ。」 「うわ、ハンバーグが追いかけてきた!?」 メルが急にうなされ始めた。 ハンバーグに追いかけられる夢って大して恐ろしく思えないぞ。 「………今度こそ寝るか。」 俺はまぶたを閉じて頭の中を空っぽにした。 どれくらい時間が経ったのだろう。 時計を見るとベッドに入ってから30分ほど経過していた。 ―――――――――――眠れない。 仕方ないので隣に寝ている幼女に襲いかかろうかとも思ったが ニンニクまみれの口で襲いかかっても只の嫌がらせだ。 それは自分の美学に反する。 適当にテレビやらネットでもして時間を潰すとしよう。 自分の部屋に入るとテレビをつけて深夜の通信販売番組をながめる。 いかにも吹き替え翻訳っぽい声が面白いのだが結局は同じ番組の繰り返しなのですぐ飽きた。 次はパソコンのスイッチをオンにした。 ヘッドフォンをつける。 何か面白いニュースはないかと探し回ってみる。 「お、俺のニュースじゃないか。」 様々な犯罪についてまとめたサイトの中でハーメルンの笛吹き関係の物を見つけた。 中々噂に尾ひれが付いている物である。 どうやらこの国の人間には俺が警察組織の幹部の子供だと思われているらしい。 どこぞの漫画でもあるまいに警察幹部の子供が悪い奴ばかりみたいな物の見方はやめて欲しい物だ。 しばらくニュースサイトを見て回っていると画面上にいつの間にか知らないウインドウが出てきていた。 タブブラウザを使っているのでリンクで飛ぶときにウインドウが出る事なんてありえない。 カチッ! 試しにそれをクリックしてみる。 「あ/か Yes or No」 「おおこわいこわい。」 都市伝説の赤い窓ではないか。 この町はネットサーフィンものんびりできないらしい。 イエスもノーも押さないで放置しておく。 都市伝説などという物は関わらないに越したことはないのだ。 どうせ放っておけばそのうち消えるだろう。 「スーパーハッカーだかスーパーハカーだかと仲良くなっておけばこういうのも簡単に解決してくれるのか?」 あくまで自分の能力は最低で最高なこのアナログ世界におけるものでしかない。 ひとたび電波だの電子だのネットだの言われてしまうとどうしようもないのだ。 やれやれだ。 自分の無力さを噛みしめながら椅子に背中を預けて目を閉じる。 おっ、良い感じで眠たくなってきた。 キーーーーン なんだ、この妙な音は? どうやら後ろから聞こえているようだ。 くるりと後ろを振り返ってみるとテレビが砂嵐になっていた。 そうだ、さっきからつけっぱなしにしていたのだ。 テレビを消そうとテレビに近づくと画面の奥から何か妙な物が見えてくる。 「今日の死亡予定者 上田明也 左門恭二 下田憂晴 右衞門絹 本日の死亡予定者は以上です。」 「なんですと?」 迷うことなく村正を手にとった。 新品だったがテレビをざっくりと斬りつける。 テレビに刃物が食い込むか否かの瞬間、テレビから真っ黒な手が伸びてくる。 それはテレビを壊されてすぐに消えるかと思った。 どうせあんな手だけでは殺せまい、俺はそう思っていた。 ところがだ。 手は俺を狙うことなく“真っ直ぐに”パソコンへ向かった。 俺は自らの判断の甘さを恥じた。 黒い手が狙って居たのはそれだったのだ。 カチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチ カチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチ カチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチ カチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチ 「――――――しまっ!」 「赤い部屋は好きですか? ニアYes or No」 パソコンの画面は真っ赤に染まった。 「野生の都市伝説が連携とか聞いたことねえぞおい!?」 ベゴン! ベゴン!ベゴン! ベゴベゴベゴベゴベゴ!! 部屋につぎつぎと赤い手形が付く。 どうやらやってしまったらしい。 「っざけるなよ!」 目の前のパソコンを切り刻んで破壊する。 だが赤い手形は増え続けている。 もうパソコンをどうこうしても駄目らしい。 部屋を出ようとした次の瞬間に扉が閉まった。 どうあってもここに閉じ込める気だ。 「つまりだ。」 そのことから、俺は一つの推論を得た。 ビュン! いきなり鉈のような物が俺めがけて振り下ろされる。 いや、鉈ではない。 鉈のような雰囲気のする何かが、と言うべきだ。 「――――――危ねえ!」 間一髪でそれを躱すと鉈が落ちてきた方向を見る。 「……何も居ない?」 確かに、赤い部屋は被害者を血塗れにして殺すがその方法は指定されていない。 つまり血塗れになるならば何でも良いのだろう。 スパッ そう思っていると腕が裂けて非常に良い勢いで血が流れ始めた。 まずい、対策を打たないと……。 そう思った俺はすぐに窓ガラスを壊して部屋を出ようとした。 「赤い部屋と言っても所詮は部屋。 つまりだ。 部屋じゃなくなればあいつは俺に手出しをすることは出来ない。」 バリーン! 華麗に窓ガラスを割って地上2階から飛び出す俺。 下に停めてある誰かのワンボックスカーに飛び降りる………、てあれ? 俺が飛び出した先には先程まで見ていた真夜中の町の風景は無かった。 「赤い部屋は……好きですか?」 広い部屋。 西洋風の広い部屋。 すこし違和感を挙げるとすれば調度も壁も真っ赤な所ぐらいか。 それが異常すぎる事態なのだが。 しかし俺はそれよりも部屋の奥の暗闇から覗く瞳の方が恐ろしい。 暗闇の奥に紅く光る瞳。 あれは一体何なのだ? 「赤い部屋は、本来人々のネットに対する希望や夢を詰め込んだ場所でした。」 悲しげな声が響く。 「何時からだったんでしょう、人々がネットに対して怒りや恨みなどの暗い感情をぶつけ始めたのは。 そうやって私は赤い部屋になったんです。 ここにはそういうネットを通じて人々がはき出したくらぁい感情のたまり場。 だから真っ赤に真っ赤に染まってしまった。 あなたもそうやって暗いところを覗き込もうとしたんでしょう? だから死ぬの。 間違いなく死ぬ。 深淵を覗く物はまた深淵に覗かれている。 それを忘れて貴方は人々が無限に繋がりあうこの電脳世界の暗い場所を見てしまった。 人々の悪意によって貴方は死ぬ。 私のせいじゃない、私にそれは止められない。 ――――――――――――死んで。」 ザクリ 肉が裂ける音がして自分の身体から血が流れ出る。 今度は足か、逃げることも出来ない。 どうやら俺は異世界に連れて行かれてしまったらしい。 異世界にジャンプできる都市伝説なら助けに来てくれるのだろうが……そんな都市伝説俺は契約していない。 無力な物だ。 こうやって対策を考えている内にどんどん血は流れ出していく。 まずい、これは死ねる……! 死ねる、が、まあ良い。 死ぬなら徹底的にあがいてからの方が良い。 すると案外幸運は転がってくる物だ。 「赤い部屋って、どんな都市伝説か知っている?」 「知ってるに決まっているじゃねえか。 被害者は血塗れで死ぬんだろ?」 「正解。だから貴方は即死しない。ゆっくりゆっくり血を流して死ぬ。 人間は本当に脆い。しかしそんな人間の思念が……、私を変えた。 私はもっと良い物として生まれたかったのに……。」 「良い物になることが喜びなのかい?」 「――――――あたりまえじゃない!」 「良い存在になるのが君の喜びなのか。」 「そうだよ。」 俺はわざとらしくため息をついて遠くにいる赤い部屋の主を挑発した。 「――――――――――――くだらねえ。」 こうなれば後は勢いだ。見せてやる、上から目線性悪説。 「全ての人々から喜ばれ愛される善なる存在?良い人?明るいインターネットの未来? バーカ、俺はそんな下らない物認めないぞ信じないぞ。 良い存在?善良なる存在?誰が決めた?誰が決める? それを決められるのは誰なんだ?そうだよ、お前だって解っているだろう? ………そうだ、それは決められない。 お前の価値を決定するのはネットに関わる人々全てなんだよ。 万人共通の幸福や万人共通の正義なぞ有るわけがない。 人は誰しもが不完全で不公平な自分だけの秤を数千年前――――お前が生まれるずっと前からだ、 プラップラプラップラ振り回してきているんだ! お前の在り方を勝手に歪められた? 冗談は休み休み言えという物だ。 世界に存在する全ての物は互いに影響を与えあいながら生きているんだぞ? そんな中で純粋培養された揺るぎない存在などあり得るはずがない。 お前の最初の願いですら恐らく誰かによって設定された物であってチッポケなお前自身の願いなど……」 どんな台詞も締めが肝心。 「――――――――――――――――――端から無かった。」 キリッ いかにも俺は格好良い台詞を言いましたよって顔をするのが肝要。 「……………うぅ、でも私は!」 それでも何か言おうとする赤い部屋の主。 しかし言葉は続かない。 「なんだ!なんだっていうんだ!答えられるか? いいや、お前は答えられないね! お前は自分という存在について自分で考えたことがない。 何になりたいかは考えても己が何であるかは考えてもみていなかった! そんなお前が答えられるわけゴォッッフウウウウウウウ!!!」 俺は勢いよく吐血した。 辺りがドンドン真っ赤に染まっていく。 DANDAN身体冷えていく! ……駄目だ、死ぬわこれ。 「…………大丈夫?」 赤い部屋の主がこちらに近づいてくる。 あ、意外と美人だ。 ロリコンじゃなければ……、いや、俺ロリコンだったっけ? うん、あれは合法ロリだ。 そういうことにしておこう。 「大丈夫なわけ無いだろうが!あと少しで死ぬわ! お前のせいだ!どうしてくれる! そうやってお前は何人もの人間を殺してきたわけだ。 俺もその中の一人になるってか?そうだろうな、俺の命は只今消失しそうだからな!」 「私のせいじゃない!そういう風に貴方達がしたんでしょう? 私は………。私は人を殺したくなんて無いし赤い部屋をもっと楽しいところにしたかった!」 「貴方達って誰だよ!人間か?下らないね、それこそ下らない。 人間程度に左右されてんじゃねえぞ!」 怒鳴りつける。 こちらが普通の人間じゃないと解っているらしいしついでに脅してみよう。 ちなみに彼女が俺に左右されているのに人間に左右されるなと説教されているのはかなり理不尽だ。 「ひぅうッ!」 ビクッとなった。 割と可愛い声しているじゃないか。 「まったく、俺を殺す割には大したことのない奴じゃないか。 楽しいところにしたいなら楽しいところにすればいいじゃねえか! 他人なんて関係無い!もっと!もっと自分で楽しいこと探してみろよ! 他人から与えられる物だけを娯楽として享受するような人格に、知性に、本物の娯楽なんて味わえない。 結局大事なのは自分だろうが! それともあれか?人間に依存する形でしか存在できない都市伝説だから人間の思うとおりにしか動けないってか? それなら誰か良く解らない噂じゃなくて俺に依存してみる気は無いか? きっと楽しい物が見られるぜ?」 立ち上がって赤い部屋の主を抱き寄せる。 赤い瞳、青みがかった髪、白い絹のワンピース。 なんだなんだとても可愛いじゃないか。 まあ合法ロリの範囲だ。 「もう一度言おうか、俺に頼ってみろよ。」 耳元でささやく。 細い首筋と滑らかな肌が触れていて心地よい。 「う、う、うるさぁい!」 もう半狂乱気味にわめく赤い部屋の主。 人間と話したことがあまりなかったのだろう。 しかし俺も時間がない。血がない。仕方がないし仕方もない。 彼女に対して仕上げを行おう。 「でもな、聞いてくれ。ここからが………、大切なんだ。」 「どうせなんか説教するんでしょう?ていうか何よ!なんでそんだけ血を流しているのに死なないのよ! おっかしいんじゃないの?死ぬんじゃないの?馬鹿よ!アンタ馬鹿!知らない、私は何も知らないんだあ!」 「そうだ、その通りだ。俺は馬鹿だよ。お前の言うとおりだ。」 「………え?」 「俺、子供の時はそこそこ良いところのお坊ちゃんとして育って居てさ。 家族も優しかったし友達も沢山いたしそこそこ幸せに過ごしていたんだ。 でも、都市伝説と契約する為にそれら全部捨てちゃった。 将来は弁護士にでもなってから親父の会社継いで人の数倍幸せな生活しようと思っていたのにだ。 なんでだと思う?」 「………あんたが馬鹿だからじゃない。」 「そう、そうなんだよ。でも………。」 おぅふ、マジで意識がなくなってきた。 ここからが勝負だ。 「でも?……でもどうしたのよ? 死んだの……?ねぇ、何か話してよ………。」 よし、良い感じで心配している。 このまま少し死んだふりしていれば良い。 おお、良い感じに傷がふさがり始めた。 出血死のタイミングはこいつが握っているんだからこいつに殺したくないって思わせれば上出来だ。 「……ああ、気を失っていたのか? どこまで話したっけ? そうだ、俺が馬鹿だという話だ。 その通り、お前の言うとおりに俺は筋金入りの馬鹿なんだ。 でもな、それでも欲しかった物がある。 たとえ馬鹿と言われても、どんなにねじ曲がった手段でも、目指す物がある。 愚かで結構、邪悪で結構、弱者で結構、なんであっても結構だ。 でも、譲れない物があった。お前にはあるか?俺にはそれがあるんだ。」 「な、何よ?」 「そうだな、愛………かな?」 おおくさいくさい。 うわ、赤い部屋の主も固まってる。 引いてるよこれドン引きされてるよ。 高校の頃ロリコンがばれかけた時と同じくらいやばいってばこれ。 しかしここで幼女とか言ったら呆れられる、それは冗談じゃなく俺の死に繋がる。 まったく困った話だよ。 「………愛なの?」 聞き返してきた。 どうやらまだなんとか俺は生きていて良いらしい。 「ああ、愛だね。都市伝説の力を俺が求めたのも全部それだよ。 俺はね、他人の心の痛みがわからないんだよ。 どれだけ必死になっても全く解らない。 言葉としては解るんだよ? でも実感としては解らない。 そんな俺には心の底から安穏とできる居場所なんて無かった! 他人の痛みが解らない人間だから他人に理解して貰えないなんてルールはないはずだ! 狂ってるよな、狂ってる。でも逆に考えればそんな自分の心の痛みを解ってくれる恋人がいればそれは何にも優先する。 だから、お前も俺と一緒に来ないか?」 「………今、恋人居ないの?」 「居ない。なってくれるか? なってくれるとすごく嬉しい。」 おお、外道外道。 返事はない。 代わりに契約書のようなものが目の前に落ちてきた。 すでに二つの都市伝説と契約しているけれど……、何故だろう。 俺の器はまだ広がる気がするんだよ。 サインに自らの名前を書く。 全身の血管が膨張していくような感覚だ。 脳髄が揺さぶられて内蔵一つ一つがひっくり返っているんじゃないか? ああ、吐きそうだ。酷い嘔吐感に俺は襲われて居るのか。 しかし、それでも、未だ俺が正気を失うことはない。 正気なんてとっくに失っていたか? それにしてもまだ自分が化け物じゃないって解る、良いことだ。 それにしてもどこまで都市伝説を突っ込めば俺の身体は破裂するんだ? 「ところでお前をなんて呼べば良い?」 名前というのは大事だ。 「好きにすれば?」 ぶっきらぼうに返事をされた。 ははは、愛い奴め。 他人に名前を任せるのは自らの在り方を決定されるような物だというのに。 「そうか、じゃあお前は今日から茜さんだ。とりあえずこの部屋から出してくれ。 愛しているぜ。」 やった俺、よく頑張った。 「ん、解った……。感謝してよね。」 かくしてこの俺上田明也は都市伝説の助け無しで赤い部屋からの生還に成功したのであった。 厳密には赤い部屋自身の能力で帰って来たのだが細かい所は良いんだよ。 【上田明也の探偵倶楽部5~真夜中の赤い砂嵐~ fin】 朝、目が覚めると俺は思いきり自室の椅子で眠っていた。 ネットゲームでいうと寝落ちだ。 面倒な事件もひとしきり区切りがついたのでとりあえず自分にナレーションをすることにした。 「……と、いうお話でした。 メルにはばれていません。 ばれたら修羅場です。 つーか俺の身体ってなんなんでしょうね? 知らない間に勝手に都市伝説に対する容量が増えているとかね。 俺は身体があると言うよりは生体都市伝説運用装置とでも言った方が良い状態みたいだしさ。 ほんとうにやっていられませんよ。 次回の上田明也の探偵倶楽部は豪華三本立て! オムニバス形式のお話を予定しております。 それじゃ来週もまた見て下さいね? じゃんけんポーン! グーの貴方はチョーラッキー! うふふふふふー……、ガクリ。」 カタ ヴィーン…… 急に目の前のパソコンが動き出す。 「あ/か」 まただ。 どうやらまだ俺を眠らせてくれないらしい。 「あなたは私のことが好きですか?」 やれやれ、といった感じで肩をすくめると俺はとりあえずイエスを押した。 【上田明也の探偵倶楽部 続く】
https://w.atwiki.jp/legends/pages/925.html
―第9章 幻想乃少女― ―あの施設、絶対何かいる!そう考えた俺は早速あの施設に行くことにした。 夜、天照の『転移』でレジャー施設に入り込んだ俺は、迷うことなくあの時感じた気配を頼りに流れるプールに行ってみた。 すると、誰もいないはずのプールの縁に一人蹲る少女がいた。ああ、「彼女」がそうか。俺の脳裏には数年前に起きたあの痛ましい事件がフラッシュバックされていた。 どこぞの都市で起こった流れるプールの排水溝に少女が吸い込まれて死んでしまったあの痛ましい事件を― とりあえず俺は彼女に声をかける。 「何故こんなところにいるんだ?」 「何故って、じゃあ貴方は何故こんなところにいるの?」 質問を質問で返すな。とりあえず俺は― 「俺は涼みにここに来たんだ。」 「嘘、ほんとは私のことを見極めて、危ない存在だったら※すつもりでしょう?でも私は消されるわけにはいかない。何故なら…」 「何故なら?」 「これから貴方を※してしまうからよぉっ!!」 そう言って彼女は流れるプールの水を操り始めた! 「天照!『転移』だ!早くしろ!ぐあっ!」 俺は水に包まれてしまった。そしてその水は俺を流れるプールの排水溝に引きずろうとしている。その時― 俺を包んでいた水が姿を消した。そして俺はすぐ近くに降り立った。どうやら『転移』が成功したようだ。 「よし!天照、すぐに『結界』だっ!」 「はいっ!」 瞬間、景色が反転する。 「なあ、どうして俺を※そうとしたんだ?」 「五月蠅い!!人間なんか信用できない…信用なんかしたくない!!あの時だって係員が排水溝の蓋が開いてるのを気づいてくれたら私は生きていられたかもしれないのに…」 そう、あの事件はプールの監視員が愚図だった事、そしてプールの管理体制が極めて杜撰だった事が複合的に組み合わさって起こった極めて残念な事故だったのだ。彼女が人を憎むのも無理はない。 「だから私は人間であるあなたを※す。※して※して※しまくって人間達に復讐するのよぉっ!」 ―可哀想な子供だ。たったの7歳で死ななければならなくなるなんて夢にも思わなかったのだろう。だからこそ― 「俺はっ!お前のことを心配して…」 「五月蠅ぁい!!私が貴方の事を信用する訳ないじゃない?」 「それでもっ!俺はお前を信じたいっ!お前が人を※すような事を少なくとも俺は望んでいないっ!」 「五月蠅い、五月蠅い、五月蠅ぁい!!!私はっ!…私はっ!」 瞬間、俺は彼女に抱きついていた。 「少なくとも俺は復讐に駆られるお前を見ていて無性に「人の優しさ」というのを伝えたかった…俺じゃあ親代わりにはなれないが…一緒n」 「…うっ、うぇーん!」 「Σお、おい!泣くなよ!困っちまうだろうが…」 「だって…だって、親でもない人にそんなこと言われたら…」 「まあいい、お前さんにはもう戦う意思はないみたいだし、天照、『結界』を解いてくれ。」 瞬間、景色が元に戻る。 「で、お前さんはどうするんだ?一緒に来るか?」 「それは私と「契約」するってこと?」 「…好きにするといいさ、少なくともお前さんに※しは似合わない。それでも復讐を遂げるって言うなら―俺は容赦しない。」 そう言うと、今度は少女が俺にしがみついた。 「べ、別にあんたと離れたくないって訳じゃないんだからねっ!ここじゃ居場所もないし、ここの利用者も私のせいで減ったなんてなれば寝覚めが悪いから仕方なく…ってひゃあっ!」 俺は思わず彼女を抱きしめていた。別にロリコンだからではない。ただ、この子は俺が守ってやらなければならない、そう思ったからだ。言っておくがロリコンじゃないぞ!! 可愛い女の子に復讐なんて言葉は似合わない― 「ば、馬鹿ぁっ!離れなさいよっ!」ぼかっ!いてぇ…普通に殴られた。 「という訳で、改めて契約成立だな?これからもよろしく頼む。そういえばお前…」 「どうしたの、急に?」 「なんか一気に成長してないか?さっきまで股下あたりだった背が一気に胸元まで来てるぞ?」 「どうやら「私の止まっていた時間」が動き出したみたい。言うなれば一気に見た目と中身が成長したってところかな?」 …つくづくなんでもありだな。 「それで?お前さんの「能力」は?」 「有名な都市伝説「花子さん」のちょっとした上位互換ってところかな。」 「ほう、それで?」 「水を操る力はそのままに、「花子さん」では制限となっていた「領域」が「女子トイレ」から「水のある場所」ならどこでもよくなったの。」 「それなりにチートだな…俺戦わなくて良かったな…という訳でこれからよろしくな」 「ええ、よろしくね」 数年前のあの事件を胸にしまいながら、俺は新たなる仲間とともにこれからの事を考えていた― 前ページ次ページ連載 - 結界都市『東京』
https://w.atwiki.jp/legends/pages/3431.html
小学校二年の時、あたしの見ているモノに他の人は気付いていない事に気が付いた。 顔が人間の犬が歩いている事、女子トイレの奥から三番目が常に使用中な事、音楽室の絵が瞬きしている事、階段の段数かたまに変わる事。誰も気にしていなかった。 小学校三年の時、ソレが都市伝説と呼ばれる存在だと気が付いた。 小学校四年の時、人を襲う都市伝説とそれと戦う契約者と呼ばれる人達がいる事を知った。 小学校五年の時、姉が死んだ。いつもの様に夜遊びに出かけ、どこかのクラブで殺された。次に母が行方不明になった。 次に父が死んだ。覚せい剤で狂った集団に殺された。次に母が帰って来た。行方不明になっていた時の記憶は無いようだったが、タコを毛嫌いするようになっていた。 そして、母が死んだ。いつの間にか母のベッドの下にいたストーカーに斧で殺された。 全て契約者の犯行だと教えられた。 「あたしでも契約者になれますか?」 『あなたが望むなら。こちらであなたと相性の良い都市伝説を見繕う事もできます。』 「組織は、悪い都市伝説や契約者を退治しているんですよね?」 『ええ、そのような事もしています。』 「その悪い奴らは殺しても良いのですか?」 『任務にもよりますが、あなたが望むならそのような仕事だけをさせてあげましょう。』 「そうですか。黒服さん、あたしを組織に入れてください。」 「良いですよ。我々は穏健派の様に甘く無いので、あなたのやりたい仕事が沢山できますよ。」 小学校六年、あたしは人を不幸にする化け物とその契約者を殺す事にした。 「単発もの」に戻る ページ最上部へ
https://w.atwiki.jp/legends/pages/1132.html
※ただしイケメンに限る 都市伝説:「※ただしイケメンに限る」 契約者名:平唯(タイラ ユイ) 効果:対象がイケメンだと判断したら何をしてもその対象には許される 契約条件:※ただしイケメンに限る 破壊力:E(胸キュン的な意味ではA) 持続力:A スピード A(光の速さで貴方の心を撃ち抜きます) 精密動作性:?(肌のきめ細やかさ的な意味ではA) 射程距離:A(眼に入りさえすればどこまでも、まっくらならば無意味) 成長性:A(イケメンは磨けば磨くほどに光ります) 契約コスト:E(※しかもイケメンに限る) 追記 本来人格の無い都市伝説だが契約の際に窓口になるための会話用の人格を備えている。 カタカナの混じったガラの悪い独特のしゃべり方をする。 見た目は壊れかけのブリキのおもちゃのようである。 契約者の平唯にしか見えない。 平唯 学校町から遠く離れたとある町に住む高校3年生。 趣味は男装と甘い物でその為には労苦を厭わない。 男装をした彼女は超が付くほど美形なのだが 普段の彼女は黒縁眼鏡と三つ編みの髪が特徴の図書館で詩集でも読んでいそうな女の子だ。 運動神経0、勉強は元々苦手だったが従兄に教えられて得意になった。 頭の回転が速いのは家系らしい。 身長150cm(男装時はシークレットブーツ装備) 体重4●kg Aカップ ページ最上部へ
https://w.atwiki.jp/legends/pages/961.html
―第45章 悪夢への対策― 俺は二人に緊急召集をかけた。嫌な予感が的中する前に対策を…!! 十分後、二人が来た。 「一体どうしたの?」 「俺達を呼び出すなんて…何かあったのか?」 「ああ、単刀直入に言う。作戦中止かもしれない事態が起こるかもしれない。これを見てくれ。」 そう言って俺はモニターを見せる。 「これは…?」 「一体なんなんだ?」 「実は、『組織』の一部勢力が≪夢の国≫ごと『組織』への反抗勢力を一網打尽にするらしいんだ。」 「そんな事、どうやって…?」 「それなんだが、これはあくまでも推測の域をでない。可能性として考えられるだけだが…」 「一体なんなんだ?早く教えrぐはぁっ!!!」バキゴキグシャメメタァ!!! 「少し言葉を慎め。俺はこれと関連があると見ている。」 そう言ってモニターにあの廃ビルとその跡地の写真を出した。 「これがどうかしたの?」 「これはつい先日の事だが、一軒の廃ビルが音もなく消失したんだ。だが倒壊したわけじゃない。瓦礫も見つかってないからな。」 「じゃあ一体何が…?」 「俺はこのビルはとある都市伝説の力によって消滅したと考えている。その名を―」 「その名を?」 「『鮫島事件』だ。」 「鮫…島…事件……?なんなの、それ?」 「詳しい事は俺にもわからないが、能力としては多分範囲内のものをまるで最初からなかったかのように消去してしまう、途轍もなく恐ろしい能力らしい。」 「イテテテテ…そもそも、何でこのビルが消されたんだ?」 「それはだな、元々このビルは『組織』の拠点の一つだったんだ。しかし、そこに居た黒服達共々≪夢の国≫に取り込まれた。どういう意味か分かるか?」 「いや、全く?」 「だろうな。≪夢の国≫の勢力圏となってしまった拠点など、最早不要と考えたのだろう。そこで≪夢の国≫の工作員を『組織』の拠点ごと抹消した、という所だな。」 「まさか、それに用いられたのが…?」 「ああ、恐らく『鮫島事件』だろう。ちなみに、これが町内で発動されてしまえば、最悪学校町そのものが地図上から消える事になるかもしれない。」 「そんなっ…!」 「だから作戦変更だ。もし『鮫島事件』が発動されそうになったら、俺が単騎で止めに行く。例え、それが原因で『組織』の粛清対象になったとしてもだ。」 「じゃあ私たちはどうすれば!?」 「お前らは…純粋に祭りを楽しめ。」 「お前だけに良い格好h」 「まだ分からねぇのか!?戦力は分散させた方が良い。お前らには神社の方の護りをお願いしたいんだ。他にも契約者が居るかもしれないしな。」 「…分かったわ。その代わり、絶対に生きて帰ってきてよ!」 「ああ、約束しよう。」 こいつらのためにも、生きて帰らなければ…。 前ページ次ページ連載 - 結界都市『東京』
https://w.atwiki.jp/legends/pages/3249.html
瓦礫の山の前に立つ宏也 剣を折られ、体中切り刻まれた状態で落下していったハンニバル 恐らくは、あの瓦礫の山の下敷きになっているだろう ………だが、死んでいるはずがない まだ、生きているだろう あの男は、不死身の男 不死身の狂人 …あの程度で、死ぬはずもない ざわり、髪を伸ばしながら、宏也は油断なく瓦礫の山を睨みつける 既に、再生も終わっているはずだ ならば、あちらも、こちらの隙をうかがっているはず…… 直後、瓦礫の山の一部が、吹き飛んだ そこから、再生した剣を手にしたハンニバルが飛び出してくる 心臓に刺さっていた辰也のナイフも、いつのまにか抜けていて…あれだけ宏也が切り裂いてやった体も、完全に再生していた 「---ったく、化け物が!」 迫る剣閃を、伸ばした髪で受け止めていく 切り刻まれた髪があたりに飛び散り、二人の視界を塞いだ ……いや 視界が塞がれたとしても…ハンニバルに対して、それは意味がない 「っ!?」 「…外したか」 宏也の腕を、ハンニバルの剣がかする いつのまにか外されていた、ハンニバルの眼帯 「最強の目」が姿を現し、宏也を睨みつける 奪う為に他者に与え、そして実際に奪った、ありとあらゆる「目」に関する有利な都市伝説を混ぜ合わせた、最強の目 視界を塞がれようと、意味をなさない それは、獲物を絶対に捕らえ、逃がさないのだ 「はて、お前は接近戦闘はさほど得意ではなかったはずだが」 「なぁに、地獄を見せられたんでね」 笑って見せながらそういって、ハンニバルに殺意を向ける その殺意は、現実となって、ハンニバルに襲い掛かる 伸びた髪の全てがハンニバルを捕らえ、引き裂かんと荒れ狂う しかし、ハンニバルは暴風のように襲い掛かってくるそれらを、全て切り落とした かすかに右半身を掠ったものの、たいしたダメージにならず、即座に再生される 二人の攻撃の余波が、辺りの瓦礫を破壊し、轟音を立てていく 瓦礫だけではない 壁に、床に、天井に 無数の切れ跡が刻まれていく それほどまでの、攻撃のぶつかり合い 殺意のぶつかり合い そして、一方からは、激しい憎悪もまた、ぶつけられる 「…ったく、余計な事口走りやがって」 「ふむ?……私はただ、事実を伝えただけだがね?」 それが、余計だと言うのだ 舌打ちしながら、一瞬でも動きを止めようと、脚を狙って、攻撃する しかし、左足を狙ってのその攻撃は、即座に撃ち落され、不発に終わる 変わりに、宏也の攻撃をかいくぐりながら接近してきたハンニバルの剣が…宏也の肺を、貫く 「っぐ!?」 「事実を伝え、認識させる事は、悪い事ではあるまい?」 肺を貫いた剣が引き抜かれる それは、続けてもう一つの肺も貫いた 大量に出血する宏也から、ハンニバルは距離をとる 「あれは、私の息子だ。息子に、父親が事実を伝えるのが悪だとでも?」 「----っ、の」 ……ばちばちと 赤い、どこか禍々しさを感じさせる光が、宏也の傷口に発生する 体内に埋め込まれた賢者の石が、致命的な傷を再生させていっているのだ 「……お前を、辰也の父親とは認めねぇ!!!」 殺意が乗った髪が、ハンニバルを襲う 想定外のスピードだったのか、完全に避ける事を諦め、右半身を犠牲にするハンニバル 右半身が、原形も残さないほどにズタズタに切り裂かれ……しかし、やはり即座に再生する ほぅ、とハンニバルがどこか感心したような声をあげた 「…なるほど、賢者の石か。はて、どこで手に入れたのか…」 どこか楽しげに、宏也を見つめるハンニバル …その身を解体して、賢者の石を手に入れようか、とも考えているかもしれない 不完全なものとは言え…賢者の石は、貴重な存在なのだから 「……父親とは認めない、か?……だが、あれは私の血を分けた存在だ。誰が否定しようが、あれが私の息子である事に代わりはない。お前とて、その事実を知っていたからこそ……気づいていたからこそ、あれを私から遠ざけたのだろう?」 「煩ぇよ、この腐れ外道が…………確かに、血の繋がりはあるだろうよ、だが」 ざわりと 殺意が膨れ上がる 四方八方から襲い掛かる攻撃を、ハンニバルは全て撃ち落していく それでも、宏也は攻撃の手を緩めない 時折、かすかに掠るその攻撃は、徐々に深くなっていく 「てめぇに、辰也の父親を名乗る資格なんざ、存在しねぇよ!!」 そして 宏也の攻撃が……とうとう、完全に、ハンニバルを、捕らえた 「ぐ、ぬぅ!?」 さぁ、全てズタズタに引き裂いてやる 宏也の殺意が、ハンニバルを押しつぶそうとする ……その時 ハンニバルが、鞘を あの古めかしい、しかし、豪華な装飾のなされたそれを……宏也の髪から、引き剥がしたのが、見えた 「………?」 疑問に思いながらも、しかし、躊躇無く、ハンニバルの全身を切り裂いた宏也 このチャンスを、逃すものか 不死身の狂人? だが、真なる不死身など、そうそう存在する訳でもない それこそ、神に呪われて不死になったのだという彷徨えるユダヤ人や彷徨えるオランダ人ならともかく…それらもまた、神が降臨した時には許され、不死ではなくなるのだ…、いかに都市伝説の力を得たとはいえ、完全なる不死など存在しないのだ ならば 死ぬまで、殺すまで 反撃の機会など与えない その心壊れ尽くすまで、殺し続けてやる 再生し続けるその体を、切り裂き続ける 攻撃の手を緩めようとしない宏也 …だが 「っ!?」 すぱぁん、と 右肩に、大きな裂傷が出来た 赤い光と共に再生していく傷 すぱぁん、すぱぁん…と 似たような傷が、宏也の体に生まれ始めた 「な……っ」 「やれやれ、私は遠距離戦闘は苦手なのだがね?」 切り裂かれながらも、剣を降るハンニバル …その一振り一振りが、衝撃波を生み出し、宏也の体を切り刻む このまま攻撃をくらい続ければ…賢者の石の力を、使い尽くしてしまう ハンニバルの動きを封じたその状態は、しかし、宏也にとっても、行動を制限するものになってしまったのだ 宏也は舌打ちし、ハンニバルを解放すると、さらに距離をとる ……再生の、速度が 徐々に、遅くなっていっている ………このままでは…………まずいかもしれない 「…父親を名乗る資格、か………では、お前はあれから、私という父親を奪うつもりかね?」 それに、対し ハンニバルの再生速度は…まったく、弱まっていない ほんの数秒程で、その体は無傷な状態へと戻ってしまう 駄目だ あの再生を封じる手段を見つけなければ …勝ち目など、存在しない 「…っは…………てめぇが何を言おうが、てめぇに父親なんざ名乗らせねぇよ……何だったら、俺があいつの父親になってやらぁ」 劣勢の状態を隠すように、どこか軽い調子で、そういって 出血によって、頭に血が上った状態も、少し改善されて …宏也は、ハンニバルを飲み込んだ都市伝説を見極めることに、集中し始めた 決闘は、まだ始まったばかり されど、戦況は明白なりて………--------------- to be … ? 前ページ次ページ連載 - 狂科学者と復讐者
https://w.atwiki.jp/legends/pages/1483.html
陽光が降り注ぐ静かな部屋。 青年は本を開き、文字を目で追っていた。しかし、 ……静かすぎる。 思い、ふと彼は本から視線を上げ、――ため息を一つ。 「……契約者よ」 青年が声をかけた先、彼と契約している少女は机に突っ伏し、腕を枕にして寝ている。その周囲にはシャープペンシルや消しゴムが転がっており、腕の下には問題集が敷かれている。 「お姉ちゃーん」 青年の隣で絵本を開いていたリカちゃんも声をかけるが少女は起きる気配がない。 完全に寝入っている。 「…………」 青年は指に挟んでいた栞をおもむろに放り投げた。 栞はひらひらと空中を舞っていたが、突然光りを纏い急加速、急上昇、次いで急落下。 居眠りしている少女のど頭にぶち当たった。 ゴス、 と紙が人体に当たったにしては少々不自然な音がして、 「――ってぇ!?」 寝入っていた少女が飛び起きた。 「何すんだよ!?」 「課題はどうした課題は」 少女の抗議に青年は下敷きになったせいでしわくちゃになった問題集を指さして言う。 少女はそれを見て数秒考え、 「あーーー、寝ている間に妖精さんが」 「やってくれるわけないだろう」 「もしかしたらそんな都市伝説がいるかもしれねえじゃねえか!」 そんな二人の会話を聞いていたリカちゃんが興味津々で、 「いるの?」 「……前例がないわけではないはずだ」 「ほらな? いるんだろ?」 記憶を辿るように目を細めて言われた言葉に少女は喜色を浮かべる。が、 「今ここにそんなものはいない」 青年のもっともな言葉に「うー……」と少女が唸っていると、リカちゃんが首をカックンと傾けながら問いかけた。 「ねーねー、お姉ちゃん。がっこうは?」 今日は平日、時刻は真昼間である。いつもなら少女は学校にリカちゃんを鞄に放り込んで持っていき、青年は軽い変装をしつつ現在≪組織≫管轄の喫茶店へと暇つぶしに出かけている時刻だ。 「んー? なんかインフルエンザの流行とかで学校閉鎖なんだよ」 「いんふるえんざ?」 少女の答えに疑問が返る。 「病気だな」 青年の簡潔な返答にんー、とリカちゃんは数秒悩み、 「あかいくつとあかまんとのおじさんみたいになっちゃうの?」 「あっははは! 確かにアレは病気と言えなくもないな! うん!」 「しかし違う、風邪みたいなものだ。人から人に移るので広がりすぎると学校が閉鎖される」 よく分からないとでも言うように逆方向へと首を傾けるリカちゃんを見て少女は笑いかけ、 「学校は休みになるけどその代わりに学校から『勉強しやがれこの野郎』って課題出されるんだよ」 やってらんねー。と伸びをする。 「でもしっかりやっててえらいの」 「それが普通なんだ」 「怖い怖い監視がいるしなー」 少女は居眠りも出来やしねえし遊ぶにしても今はちょっと危ないしな。と愚痴をこぼす。 俺も出来の悪い妹を持った感じだ。と青年は肩をすくめ、 「まあ、インフルエンザくらいなら治療できなくもないんだが、今は≪マッドガッサー≫の問題もある。 下手をすると学校閉鎖になっている原因には奴らの影響もあるかもしれん」 ん? と少女が青年に質問する。 「都市伝説を知らない人間にも被害が出てるってことか?」 「ないわけではないだろうな」 質問内容を肯定する青年。 「そりゃー、何も知らない人間は驚くだろうなー。 男が女になるだけならともかくもう一つの効果がでたら洒落になんねえぞ?」 青年はリカちゃんに栞を回収させながら、 「表沙汰にはならないように≪組織≫が動いているだろうな」 「かくしてるの?」 リカちゃんから栞を受け取って彼はん、と頷き、 「表沙汰になれば混乱が起こるからな。それを防ぐためには被害の完全隠蔽が一番だ。 最悪、女体化を求める人間がこの町に大量にやってきて町中皆仲良くマッドガッサーたちの物になる。ということもあり得んわけではないのだしな」 「……そんなことになったら大変だよな。なんか、いろんな意味で」 わざとらしく重く告げられた言葉。青年はその意見には頷きつつ、 「ところで契約者。――課題が進んでないようだが」 「人がこの町の人々を憂えることを名目にして現実逃避してるっつーのにTさんはそんなに俺を苦しめたいのか!」 青年は抗議の声を軽く聞き流し、 「人々を憂えるなら現実から逃避するな」 至極真っ当なことを言った。 「うるせー、Tさんに分かるか? このつまらない課題をただひたすらに解いていく虚しさが!!」 「俺も一応大学までは行ったクチだから分からんでもない。――そうだな、全部終わったら地下カジノに連れて行ってやる」 青年がご褒美を提示すると、 「俺はTさんを信じてたぜ!」 途端に心変わりして課題に勤しみ始めた契約者。それを見て青年は苦笑し、本へと目を戻す。 何故か、せっかく女になったんだし今こそ白雪姫を白雪姫その人にコーディネート……いやいや、舞妓さんをここで再現というのも……と聞こえたが、まあ向こうで姫君たちと話す会話の種だろう。外出しづらい今の状況ではこのくらいの楽しみは必要だ。 うむ、と青年は頷き、聞こえてきた声の内容、その発想の元を与えた人間について考える。 ……あれは、少なくとも直人の動きではなかったな。 最初に俺が放った白光、あれの避け方もさることながら、その後に現れた≪コーク・ロア≫の支配型を沈めた一撃。……格闘技の類だろうか? もしそうだとしたら相当の使い手だと彼は思う。 そして、 黒服さんからの情報ではマッドガッサー一味のもう一人の接近戦要員は都市伝説に頼らないでも≪組織≫の黒服と戦える強さを持っており、『服の上からではわからない程度に、しかし確実に鍛えられたすばらしい筋肉。邪法の流派に囚われさえしなければ、すばらしきブラザーになったであろう』というものだった。 後半いろいろ無視して考えると、 ≪コーク・ロア≫の被支配型、支配型を生身で倒す強さを持っていて、都市伝説の契約者では――おそらく――なく、そして初めに会った時、彼は知り合いが女体化していることに対してほとんど驚いてはいなかった。以前から≪日焼けマシーンで人間ステーキ≫の青年と知り合いだったことから多少のことには慣れていた。と考えることもできるが、 ――あの時感じた良くない気配…… 「……情況証拠が多いな」 怪しい、と思う。 契約者とはウマがあっているみたいだが、少し警戒する必要があるかもしれん。 思わず出ていた呟きに「どーした?」と問いかけてきた契約者へなんでもないと答え、青年は意識を文字列を追うことへと集中させ始めた。 前ページ次ページ連載 - Tさん
https://w.atwiki.jp/legends/pages/2987.html
「何故、お前は出かける度に傷負って帰ってくるんだ」 「聞かないでくれ。今回の件については、むしろ俺がどうなっているんだと誰かに叫びたい」 ---とまれ 至近距離での爆発に巻き込まれただかで怪我をして帰ってきたエーテルの治療も終わり このところ数日間続けている訓練を、はじめる事にした ……あの、表現しがたい色をしているうえ、若干びくびく蠢いていたような塗り薬…当然、ロレーナ製だ。そうでなければ、あんな奇怪な治療薬が存在するはずない…で傷が治った事実に、エーテルが複雑な表情をしているが それに構っている時間は、ない 「…とりあえず、今日の訓練も大体はいつも通りだが…」 かすかに、エーテルが笑う 「……本当なら、あんまり他人の前では見せたくないんだが。こっちの方が、やる気がでるだろうしな」 刹那 エーテルの姿が……ハンニバルに、変わった 隣に立っていた辰也が、ぴくり、かすかに反応したことに、宏也は気付いた 当然だ、ハンニバルの姿を見て、辰也が反応しないはずがない ……ここに、ハンニバルが来るはずがない これは、ハンニバルではない …どうやら、エーテルは光を操る能力を持っているらしい つまり、これは 「光の屈折でも利用して、姿を変えてるのか?」 「…ご名答。まぁ、本当に姿だけ、だけどな」 それじゃあ、と いつも通りの訓練が、始まった (----やっぱ、刃物系とは相性悪ぃな、俺の能力は) 切り裂かれる己の髪を見ながら、宏也はこっそりと苦笑する …並大抵の刃物では、切り裂くのも難しい髪ではあるが それでも、エーテルが使うような光剣では、あっさりと切り裂かれる ………恐らく、ハンニバル相手でも、同じ結果だろう 本人の力量と剣の切れ味が合わさり、それこそ、人体を一刀両断できるだけの威力が、あの剣にはあるのだから 宏也自身は、ハンニバルが戦闘を行っている場面を見たことは、ない しかし、辰也やヘンリエッタ、それにジェラルドやイクトミの証言を聞いた限りでは、そうらしい …だからこそ、余計に自分は、体内に「賢者の意思」を仕込むことで、それに対抗しようとしているのだが… どれだけ、相性が悪かろうとも あの男は、自分が殺す そう、決めたのだ ………これだけは、辰也に譲れない 譲ってはいけない 辰也とハンニバルを、再び対面させてはいけない ーーーっひゅん、と 音もなく忍ばせていた髪を、一気に速度をあげてエーテルに向かって放つ 数十本纏めたものではなむ、一本だけ --それでも、宏也の髪は、軽く人体を切断しうる威力を持っている しかし それは、ギリギリのところでエーテルに感知され、切り落とされた やはり、駄目か もっとギリギリの位置まで忍ばせてから、一気に巻きつけて切断した方が… (……ま、それだと暗殺っぽいがな) 正直、自分はだまし討ちの方が性にあっている このように真正面からの戦いも不得意ではないが……「組織」幹部を何人か殺した時は、そのような手段で殺したものだ 都市伝説同士の戦いは、都市伝説同士の相性や本人の戦闘能力ももちろん大事だが……「自分がどんな都市伝説と契約しており、どんな能力を持っているのか」と言う事も、非常に重要だ 能力を知らない相手ならば、不意を討って殺す事も容易い ……今回の相手となるハンニバル相手では、それは使えない ハンニバルは、こちらの能力を把握している 逆に、こちらは未だに、ハンニバルが何と契約して飲み込まれた存在なのかすら、わからない ……正直、厄介だ (元「教会」所属ってんなら、そっち方面からたどるって手もあるが…) あちらが、情報を漏洩するとは思えない だから、推察するしかないが …「教会」に所属するには、それに相応しい都市伝説である必要性があるのだ そうなれば、ある程度は絞れる 「っと!?」 向かってきた光のメスに、思考を中断させられた ギリギリでそれをさけ、距離をとる (あぁ、本当やりずれぇ。あの野郎本人相手となるともっとタチ悪いんだろうけどよ) ……まぁ、わかりきっていた事だ それに、自分はまだ、辰也と比べればマシだろう 辰也は、近接戦闘訓練など、受けた事ないのだし…… (……ん?) ---その瞬間 違和感に気付いた 辰也の気配が、完全に消えている 「-----------っ!!」 通常ならば、「13階段」の能力以外、まともな戦闘手段をもっていない辰也 そもそも、階段がなければ能力は使えない 一応、教会裏の庭の先の山の中であるここにも………少しは、階段らしきものがある それを使えば、発動できなくもない…が、そもそも、相手がその階段の上を通過しなければ発動できない訳で エーテルも、辰也のその能力に付いては、把握している 奥の手については把握していないだろうが…自分が「組織」に報告しなかったのだから…、辰也には、あの能力は使わないように言っている 今の辰也でも、まだ「あれ」を使うには早いだろう ヘタをしたら、飲み込まれる ……だから この訓練において、辰也はうまく、「13階段」の能力を発動する手段を探していた だが …ハンニバルの姿を見て 冷静さが、そがれたか? 急いで、辰也の姿を探す 運がいいと言うべきか、悪いと言うべきか それは、すぐに見付かった エーテルの…「ハンニバルの姿をとった」エーテルの、その背後 気配を完全に消して、気づかれる事なく…そこまで、接近していた辰也 手に握られているのは、鋭利な形をした、石 エーテルが、背後に回りこんでいた辰也に気付いた、その瞬間には 辰也が握る石が、エーテルの喉元に向かっていって……------ 「辰也っ!!」 ---ぴたり 辰也が振るった石の切っ先は………エーテルの喉元ギリギリで、止まった 「---っぶな」 驚いたせいだろうか エーテルの姿が、元に戻った ---すぅ、と 辰也が纏っていた殺気が、消える 完全に、気配を消していた そして、急所狙いの、一撃 「組織」にいた頃の…宏也と関わりだしてすぐの頃の辰也の姿を思い起こさせる光景だった 「………っ」 それを、辰也自身、自覚したのだろう 手に持っていた石が……からん、と 音を立てて、落ちた 表情が、かすかに青ざめている どう、声をかけるべきか 宏也が迷った、その時 「…ひっひ、そろそろ、食事が出来たよぉ」 かけられた声 振り返れば、魔女の一撃たるロレーナが、辰也達を呼びに来ていた …さほど長い時間訓練していた覚えもなかったのだが、もうそんな時間か 「ほぉら、治療薬も持ってきたよぉ?飲んでから来ればいい」 「いらねぇ。これくらいどうって事ねぇよ」 す、と ロレーナが取り出したどす紫色の治療薬を拒否する辰也 …その雰囲気は、「組織」を抜けた後の、普段の辰也に戻っている 「おやおやぁ?あんたが怪我してたら、恵が心配するよぉ?」 「………ジャッカロープの乳でじゅうぶ」 「ジャッカロープなら、恵に連れられてもう食卓にいるけど?」 ……… ………… 無言で、ロレーナから治療薬を受け取った辰也 一気に飲み干し…… ……あ、味に痙攣してる 「…男だな」 「まぁ、ベタ惚れだからな」 …元の性別? まぁ、気にするな そもそも、恵は生まれてくる性別を間違えたような存在だ 「………なぁ」 「うん?」 辰也の意識がこちらに向いていない隙に…とでも、思ったのか こっそりと、エーテルが宏也に尋ねる 「…「組織」内で、とある資料が紛失した」 「へぇ?」 「……H-No.96。つまり、広瀬 辰也の、「組織」での任務記録だ。正直、重要性の低い資料だ………だが、だからこそ、データベース上の記録まで完璧に消されていた、と言うのが引っかかってな」 「どうして、俺にその話を?」 俺には関係ない、とでも言うような宏也に 射抜くような視線を向けて、エーテルは続ける 「…その資料を持ち出したのは。データベース上のデータまで抹消したのは…もしくはさせたのは、お前なんじゃないのか?」 「………何故、そう思う?」 「その記録の内容を……俺は、完全ではないが、少しだけ把握している」 …ぴくり かすかに、宏也は反応を示す それに気付いて、さらにエーテルは続けた 「…やや、不自然に感じる点があった。お前も、それに気付いて…………?」 す、と 宏也が、話を打ち切らせるように、制するように、手をあげる 「……忘れてくれ、その事は…………間違っても、辰也には、気付かせるな」 「自分の任務の事だ。本人が気付いている可能性があるだろ?」 「…それはそうだがな」 だが その奥にある「真実」には、まだ気付いていないはずだ それを、気付かせる訳にはいかない 「……あいつは、知らないままでいいんだよ」 知らないままでいい 知らぬままの方が、幸せな事もある 絶対に、辰也に気付かせてはいけない その真実を、悟らせてはいけない …宏也の様子に、エーテルは首を傾げた 彼もまた、あの資料でかすかに感じられる不自然な点…かすかな違和感には気付いていた しかし、その奥の奥の真実には、まだ気付いていない 広瀬 辰也…H-No.96の、「組織」所属中の、任務 常に、誰か他の契約者、もしくは黒服と組んでの任務である その任務は、たった一つを除いて……全て、暗殺任務 そこまでは、解くに不自然ではない そもそも、辰也の「13階段」は、暗殺向きの能力なのだから ………しかし その任務で、共に組んだ相手は ただの二人を残して、全員、その任務中に命を落としているのだ そう、まるで 辰也の任務を確実に成功させる為の、捨て駒にされていたかのように to be … ? 前ページ次ページ連載 - マッドガッサーと愉快な仲間たち
https://w.atwiki.jp/legends/pages/3658.html
千勢姉ちゃんのマンションに来た次の日に買った寝間着を洗濯してベランダに干して、俺は一息をついた。 空は青く、街の東西を分けている川が光を反射しているのが目に刺激的だ。春が近付いている3月の気候はまだ長袖じゃないとつらいけども厚着をするほどでもない。 「モニカとフィラちゃん、元気にしてっかな……?」 千勢姉ちゃんやモニカと会って、フィラちゃんと再会して、徹心のおっちゃんやら≪神智学協会≫やらのゴタゴタの話を聞いたあの日から二日が経っていた。 フィラちゃんとモニカは、千勢姉ちゃんの所でこれからの行動方針を話してた次の日には≪首塚≫の持つ別荘――この永取市の北にある山の中にある小屋へと行っちまった。 せっかく仲良くなれた分、こんなにすぐに居なくなちまうと少しさびしいんだけどなぁ。 まあしょうがないんだろう。≪神智学協会≫の追っ手がモニカをまだ探しているのかもしれないんだし、山篭りしてた方がきっと見つかりづらいし安全だ。 二人が出ていく時にTさんと千勢姉ちゃんがくれぐれも気を付けるように言ってたのが妙に印象に残ってる。 「……まだ、何にも終わっちゃいねえんだもんな」 俺だってこの千勢姉ちゃんのマンションから動かないほうがいい状態らしい。なんでも俺やリカちゃん、Tさんは≪神智学協会≫側からどの程度の危険因子とみなされているか分からないから、しばらくは様子見した方がいいだろうとの事だ。 「しっかし、二日も経っちまうとなー」 昨日の内にやり残してた部屋の掃除も済んじまってぶっちゃけ暇だ。外に出てるTさんと千勢姉ちゃんがうらやましい。 「まあ、何もしなくて良いってのも悪かねえけどな」 リカちゃんとケウが陽のあたるところで寝そべっているのを見て、なんとなく思う。 ――ああ、平和だ。 「春休みで暇だし、しばらくここでのんびり過ごさせてもらおうかなー」 俺もケウの長く感触の良い毛に突撃すべく、室内に帰還した。 ● 永取市の東側、商業区内にTさんは居た。 この街に来た時に降りた駅を中心点として、ここ二日の間永取市の地勢を把握するためにTさんは千勢を伴って舞から頼まれる品物の買い物がてら街を歩きまわっていた。 永取市は見た限りでは普通の街だ。都市伝説やそれに類する者達の気配もこの二日間常に探っているが感じとれない。それだけこの街に居を構えている徹心が危険な都市伝説に対して目を配っているのだろう。 それに……。 「師匠、高部徹心が永取市にわざわざ異界の入り口を設けているのは、以前この街で大規模な都市伝説事件が起こったからだと言っていたな?」 隣を歩いていた千勢が頷く。 「ああ、そうだ」 「その事件は≪神智学協会≫が絡んでいたのか?」 「正解だ。以前、この街には都市伝説としての≪神智学協会≫が裏で持つ、ロッジがあった」 「ロッジ……」 「研究施設、と言い変えてもかまわないぞ」 そう言って皮肉気に千勢は笑う。 「都市伝説として以外に存在する一般社会におけるの神智学協会の保有するロッジとは全く違い、実際に力があるロッジだ。そこで≪神智学協会≫の研究班が大規模に実験を行っていた」 研究班、と呟き、Tさんはこの数日で得た情報を確認のために口にする。 「たしか今はオルコットの起こした内紛の過程で吸収されている部署だな?」 「そうだ、元々研究班とオルコットの派閥は密接な関係を持っていたようでな、モニカとその両親も研究班に所属していた事になる。 ≪神智学協会≫は先の内紛で所有するロッジが完全に機能を停止しているが、永取市にあるロッジは日本国内にあるロッジの中では最大規模のロッジでな。その分色々な機能が付属していたようで、完全に調べ尽くせてはいないらしい。≪組織≫でも封印処理を施して放置しているそうだ」 「そのロッジの中から何かオルコットの目的を果たす為の手段を探る事はできなかったのか?」 問いかけると、千勢は首を左右に振った。 「だめだな。いくらか都市伝説化した資料の残骸は見つけたが、具体的な事は何も……ただ、全体的に人体実験関係の資料が多かったと徹心が言っていた」 人体実験……。 モニカに対して行われていた実験もそうして資料の一部になったのだろうか? そう考えてTさんは重い息を吐いた。 「……目的は分かっているのに手段が掴めないというのは、不気味だな」 「まったくだ」 少なくともモニカが重要なファクターになっているらしいことは確かなのだが……。 「師匠、≪神智学協会≫の現在の構成は高部徹心からもらったこの書類の通りでいいのか?」 「ああ、その書類は私が送った最新のデータを基に作成している。それなりに正確なはずだ」 だとすれば、とTさんは書類の内容をおおざっぱに思い返す。 現在の≪神智学協会≫は内紛で勝利したオルコット派と、それの傘下にある研究班、という組織構成だ。 オルコット派とは言っても所属している人材は少なく、その実態は≪神智学協会≫の長オルコットとその側近の集まりというものだった。その総人数は今現在ではオルコットも含めて五人という事だ。 ただし、実際の兵力としてそれらを換算した場合、その認識は致命的な誤認になる……。 その五人の中には≪冬将軍≫、それに≪テンプル騎士団≫であるユーグも含まれている。それぞれが別々に一組織形体を作り上げる事が可能な能力を持つ者達だ。 それに加えてオルコットと残り二人……。 後の二人の側近はそれぞれ男と女と言う事くらいしか分からないらしい。『外から見て大まかに能力を把握出来る≪冬将軍≫とユーグとは違い、個人戦闘に特化しているのではないだろうか?』と書類にはまとめられていた。 そして、研究班……。 多数存在した≪神智学協会≫の部署の中で、内紛後も唯一オルコットがその存続を許した部署である。研究班が所有する戦力は普通の人間による武装戦力のみと書類にはあった。 元々研究班はオルコットが≪神智学協会≫を設立した当初に目的としていた、世界の在り方の改変を成す為の都市伝説研究を行う為の部署として設立された。現在に至るまでその両部署間の交流はあったようで、オルコットが内紛を誘発して他部署を粛清する動きを見せ始めた初期段階にはすでにオルコット派の傘下に収まっていたらしい。 ……研究班の今の長の名はウィリアム・ウェッブ……か。 モニカを使った実験を黙認、または推進したのはこのウィリアムという名の研究班の長だろう。碌でもない人間に違いない。 モニカが狙われているという事で、高部徹心が密かに千勢のマンションを去った由実とモニカの動向を追ってはいるが、≪フィラデルフィア計画≫の回復までの間は藤宮由実を無理に説得しておいた方が良かっただろうか……。 Tさんは僅かな気がかりと共にそう考え、今更か、とため息を吐いた。 ● 何やら難しい顔をしているTさんを見て千勢は苦笑した。 ……昔から思慮深げな奴だったが、成長すると様になるものだな。 今の彼からは貫録すら感じる。 電車用の鉄橋と車道が並走している街一番の大鉄橋。その先にあるマンションを見通すように目を細めて、千勢は定期連絡の為に携帯を取り出した。 通話を繋ぐ。相手は徹心だ。 「徹心、モニカやフィラちゃんの様子はどうだ?」 外から気配を探らせているだけだから詳しい事までは分からないよ? と断りが入り、徹心は報告を開始した。 『この二日間は何事も無く過ごせているみたいだ。今は藤宮君が買い物にでも出かけているのかな、小屋の中にモニカ君を隠している』 そうか、と千勢。 「山の中の小屋に隠して外出しないのならば、土地勘の無い者にはまず見つかる事はないだろう」 『うん、それに小屋には隠蔽用の技術が仕込まれているらしい。僕の遣わした兵も意識させていないと認識を外される』 「それはまた……手の込んだセーフハウスだ」 千勢は感心したように呟いた。徹心はそれと、と言って、言い辛そうに述べる。 『高坂君が僕に依頼していた、伏見君とTさん、リカ君のこの件からの離脱策だけど……残念ながらこれが絶対に安全という方法は無い』 「やはりか……」 千勢としても半ば判かっていた事だ。しかし実際に言われると軽く落胆する気持ちは拭えない。 「まあ、あそこまで堂々と名乗ってしまっているのだしな。海外にでも放りだせば可能かもしれないが」 『あまり下手に動くと≪神智学協会≫が何か企んでいる事が他に漏れるかもしれない。それをするのは僕は反対だ』 「分かっている。モニカの今後にも関わる事、慎重に行きたいのは私も同じだ」 子供に優しいのは私の性向だな、とおどけて言うと、徹心から申し訳なさが漂う多少沈んだ声音が返って来た。 『君にとって弟子や舞君がどれほど大事な存在かは分かっているつもりだ。けど――』 「くどいぞ徹心」 千勢はそう言って微苦笑を浮かべた。決まり悪そうに長い黒髪をかき回し、 「舞が申し出て、馬鹿弟子もリカちゃんも賛同した事だ。もとより私には口を出す権利なんてないのさ。けど、まぁ……」 言葉を飲みこんで頬を歪めた。 「……笑うか? ××を戦えるように育て上げたこの私が、今更戦場から遠ざけたいと思う事を」 返答は即座、口調は真摯なもので、 『笑わないさ。笑う事なんて出来ない。それが親というものなんだろう?』 千勢は失笑した。 「親とは笑わせる。アレの両親は息子を護って死んだよ」 『君が拾って育て上げたんだ。高坂君、君も親なんだよ。だからこそ――』 「分かった分かった」 長くなりそうな説教を断ち切るために携帯を切る。 説教くさい奴だ……。 そう思っていると、携帯を切るのを待っていたように、Tさんが声をかけてきた。 「何か藤宮由実達に変わりはあるか?」 「いや、徹心の話では今のところは問題無いようだ」 「そうか」 「早く戻ろう、舞に言われていた必要な品も買った事だしな」 ケウの毛で遊ぶからとリボンを大量に買った袋を軽く掲げて揺らす。この二日、ずっと缶詰状態の舞は暇を持て余している事だろう。 「急いで帰ってやろう。きっと喜ぶ」 「ああ」 ● 千勢の部屋があるマンション。その隣にあるビルから飛び移り、マンションの最上階を目指して静かに、しかし迅速に移動する者達が居た。 ≪神智学協会≫所属の者達、ユーグ、エレナ、弘蔵だ。 彼等はマンション最上階、舞やリカちゃん、ケウの居る部屋の前にまで来ると、素早く突入の準備を始めた。 エレナが金属製の棒を構え、ユーグが白系統の質素な衣服の上にバフォメットの加護である黒い影から引き出した鎧を瞬時に纏う。 準備が完了したのを確認して三人は頷き合った。 玄関の正面に立った弘蔵が懐から包丁のような刃物を抜き、扉へと狙いを付けて、構えた。 ――刃が振り下ろされる。 前ページ次ページ連載 - Tさん、エピローグに至るまで