約 1,324,972 件
https://w.atwiki.jp/hshorizonl/pages/469.html
← その時七草にちかが取った行動は。 別にメロウリンクを庇おうとしたとかそういうものではなかった。 彼女はただ手を伸ばして、体を前のめりにしてメロウリンクを突き飛ばそうとしただけ。 手が触れて、メロウリンクの大柄な体を微かに押し退けた。 けれどそれでも充分。 異能生存体の近似値たるメロウリンクのスキルは発動条件を達成。 確定していた死に砂粒程とはいえ誤差(ノイズ)が紛れ込んだことで生存率が多少引き上がったことが功を奏し。 彼の損傷は胴体に多少の裂傷を負う程度で済んだ。 重傷なことには変わりないが命を落とすことに比べれば雲泥の差、これ以上ない僥倖だろう。 ――しかし。 いつだって彼らの中にある因子が守るのは本人だけだ。 因果律さえねじ曲げるその幸運は。 極まれば神の後継と呼ばれるにも至る驚異の遺伝子、その近似値は。 彼らの周りにいる人間に対しては空寒いまでに冷酷である。 「…マスター」 「ぅ…ぁ、ぐ……ぅ」 にちかは手を伸ばした。 体を前のめりにしてメロウリンクに触れた。 その結果メロウリンクは難を逃れたが。 七草にちかは逆に…迸る死に巻き込まれることになってしまった。 「…アーチャー、さん……っ。……私の体……どう、なってます……?」 「それ以上喋っては駄目だ」 「…っ。あー……、……やっぱ、そういうことかぁ」 伸ばした手諸共に。 彼女の体は呪いに呑まれた。 極度に肉体を損傷すると人間の体は脳内麻薬を分泌し苦痛を和らげてくれる。 だからにちかは最初、本当に自分の容態が分からなかった。 しかしメロウリンクの顔を見て理解してしまう。 いつになく焦ったようなその顔。 それを見て…悟ってしまった。 「…これ。もう、ダメなやつかぁ……」 そして無情にもその言葉は的を射ていた。 にちかの体には今右腕がなかった。 右腕諸共に肩口から脇下までの肉をごっそりと吹き飛ばされていた。 完全な致命傷だ。 こうしている間にも明らかに危険な量の血液が傷口から毎秒流出し。 にちかの声にはごぼごぼと泡立つような音が混ざる。 「アサシン――例の麻薬(クスリ)は残っているか」 「…まだ薬効が残っているかは分かりませんが――」 唯一七草にちかを救命する手段は。 ウィリアム・ジェームズ・モリアーティが持つ地獄への回数券を彼女に急いで服用させることだ。 しかしウィリアムが持っていた量はごく少量であり、しかも既に先程口に含んでしまっている。 よって完全状態の薬効には程遠いが、それでも試さない理由はない。 ただ。 「させると思いますか?」 ウィリアムの口内にある地獄への回数券で七草にちかを救えるかという命題には絶望的な解答が存在していた。 そもそも試せない。 アルターエゴ・リンボは未だ健在であり、彼を止められる者も居ないのだ。 そんな状況で回数券の受け渡しなどができる道理はなく。 誰も七草にちかの死を覆せない。 誰も…リンボの嘲笑を止められない。 「いやはや――実に善いものを見せていただきました。 年端も行かぬ娘の命懸けの献身、本来守るべき存在に命を救われた男の焦燥! 大枚叩かねば見られぬ極上の見世物でございましたよ。惜しみない拍手を贈らせていただきましょう」 乾いた拍手の音を響かせながら。 リンボは本物の獣のように眦を細めた。 人の形をした生き物が浮かべるには邪悪過ぎるその貌は。 笑みという表情が必ずしも好意を示す訳ではないという言説を悍ましい程明確に裏付けていて。 「しかし、しかしィ。この拙僧、こうも出来の良い演目を観せられると…自分で筆を足してみたくなる性分でしてな?」 魔力横溢。 魔力収束。 呪力収斂。 嗤う太陽が全てを塗り潰す予兆が破滅的にこの殺戮領域を満たしていく。 「生娘のちっぽけな勇気もその死の意味も! ――皆平等に殺して差し上げる!」 これが撒き散らすのは災いのみだ。 アルターエゴ・リンボも彼の盟友たる暗黒の悪霊も。 悪意に塗れた災禍を手当り次第にばら撒いて、人の幸福や当たり前の日常を踏み躙ってこれで善しと笑うのだ。 アシュレイ・ホライゾンはリンボを人造惑星(プラネテス)の魔星達になぞらえたが全く的確な表現だと膝を打つ他ない。 これは最早蘆屋道満ですらないのだ、厳密に言えば。 かつて蘆屋道満だったものの成れの果て、自らに宿業を植えた魔人。 「屑星は消え淡光は翳り。策謀は機能せず近似値は無能のままに終わる! 甘露、甘露! 贅を極めた今宵の晩餐、骨まで食べ尽くさなければ罰が当たるというもの! ンンンン――それではこれにて!」 そして終わりがやって来た。 全ての物語を呑み込み。 全ての生き様を踏み躙り。 後に何も残さない呪いの化身たる暗黒太陽が煌々と漆黒に煌めいて。 「ご馳走様ァ~~~~~ッ!!」 283プロダクションに連なるアイドル達とそのサーヴァント。 死を待つのみの七草にちかを含めて四人と三体。 彼らの命運は哄笑の内に呑み込まれ、獣(ケダモノ)の胃袋に堕ちることで幕を閉じるのだった。 ――だが。 その結末に否を唱える影がある。 「見つけた」 声が響く。 夜の闇を切り裂く凛とした声。 呪い溢れる暗黒の中でも鋭く響く声。 それと同時に、あり得ざる現象が生じた。 天に浮かんだ暗黒太陽。 臨界に至った悪霊左府の象徴が―― 「相変わらずのようで安心したわ。そうでなければ斬り甲斐がないものね。こと貴方に関しては」 瞬きの内に両断された。 断末魔の声が轟く中。 太陽の残骸の中から地に着地したのは一人の女だった。 数多の刀剣を携えた美女。 その面を見知るのは、アシュレイのマスターたるにちか。 だが。彼女だけではない。 「ほう」 心底驚いた…という顔だった。 メロウリンクに追い立てられた式神が浮かべた驚愕とも違う。 真実、予想だにしなかったという顔。 可能性の一つとしてすら考慮していなかった…そんな顔だった。 「覚えのある気配を辿ってみれば案の定。 此処に揃った面子には言いたいことも聞きたいことも諸々あるけれど。 まずはこう言わせてもらいましょう」 そんなリンボに女は最初笑っていたが。 すぐにその表情から笑みは消え。 研ぎ澄ました刃のように鋭く剣呑な怒気が覗いた。 「――追い付いたぞ、外道! キャスター・リンボ!」 「ンンンン何たる偶然! 何たる因果! よりにもよって貴様か――新免武蔵ィ!」 女武蔵とリンボ。 空へ至りし剣士と一切嘲弄の肉食獣。 下総に始まりギリシャ異聞帯に途切れた因縁の両者が再び交わった瞬間であった。 ◆ ◆ ◆ 「り…梨花ちゃんのセイバーさん! 来てくれたんですか!?」 「目一杯飛ばしたつもりだったんだけど…ごめんなさいね。間に合ったとは言えないわ」 新免武蔵が此処へ駆けつけるまでにあったこと。 大前提として彼女は先刻、最強生物カイドウが統べる領域"鬼ヶ島"へ踏み入りそして完膚なきまでに敗北した。 鬼ヶ島にカイドウは不在であったにも関わらずだ。 相性差と地の利の差を最大限に活かした戦闘の末、武蔵は一矢こそ報いたものの敗北。 瀕死の重傷と霊骸による汚染を浴びながら中野区の路上に放り出された。 マスターの令呪である程度快調はしたものの…それでも万全には程遠い。 おまけに。 鬼ヶ島が常世とは切り離された異空間であるためか――古手梨花との念話が機能しない。 更に特定の主従に生殺与奪を握られている状態でもあり、むしろ非常にまずい状態が続いていた。 「貴方のお姉さんから安否確認の文があったでしょ」 「あ…」 「本当は貴方達と合流するまで護衛していてあげたかったんだけどね。 ちょっと不味い魔力を感じたから…放っておくわけにも行かなかったの。 一応安全な所に留まっておくよう釘は刺したけど、無責任と言われても仕方ないわ」 「そ…そんなことないですよ。現に私達、その……セイバーさんが助けてくれなかったら――全滅、してたわけじゃないですか」 「…助けた、か」 虚ろな目をして横たわる少女を見やる。 彼女は、今自分が話している七草にちかと同じ顔。 そして同じ姿をしていた。 双子などではない。 完全な同一人物…それがどういう絡繰りなのかまでは武蔵には分からなかったが。 確かなのは一つ。 自分がもうあと数十秒でも早く此処に着けていれば。 間に合っていれば。 彼女が犠牲になることはなかっただろうという事実のみだった。 「あの外道とは浅からぬ因縁があるの。私が引き受けるから…貴女はあっちのにちかちゃんの所に行ってあげて」 「っ…わ……分かりました……!」 ただ。 逆に言えばそれは――七草にちかが行動を起こさなければ。 彼女がメロウリンクが黙って殺されることを善しとしていたならば、武蔵は完全に手遅れの状況に参じることになっていたということでもある。 にちかの行動に驚いたリンボは一旦手を止め嗜虐のままにそれを嘲笑った。 その時間が無ければ。 アルターエゴ・リンボによる終幕の一撃が放たれるまではもっと早かっただろう。 であればさしもの新免武蔵も間に合わなかった。 近似値だけでは避け得なかった死のさだめ。 七草にちかがそれを一寸の勇気で捻じ曲げた。 それがリンボの勝利を狂わせ。 新免武蔵の失態を最低限で留めたのだ。 「…助かったよ、セイバー。本当に何と礼を言ったらいいか分からない」 武蔵が暗黒太陽、悪霊左府を斬り伏せたことにより。 アシュレイもまた呪詛の束縛から解放された。 その体はあれほど長い間制圧されていたというのに傷一つない。 永久機関と化した彼の回復力、癒しの炎の凄まじさが窺えたが…そんな賞賛の言葉をかけたとて今の彼は喜ばないだろう。 「話は後にしましょう。悪いんだけど…あっちの入れ墨男の相手は任せてもいい?」 そう言って武蔵は先刻まで星奈ひかるが奮戦していた方を指し示す。 そちらから歩みを進めてくる影があった。 星奈ひかるを討ち倒し勝者となり、されどそれでは満足しない男。 殲滅に全身全霊を懸けている猗窩座がひかるに免じて矛を収めるようなことなど有り得ない。 彼自身相当な疲弊を抱えてはいるものの。 まだ戦いを続ける腹積もりのようだった。 「分かった。アイツは俺が引き受けるから…リンボの相手は頼んだ」 そう言ってアシュレイは猗窩座の方へ。 そして新免武蔵は――アルターエゴ・リンボと相対す。 中野区で突如轟音と地震のように大きな揺れが轟いた時から警戒は始めていた。 だが七草はづきを護衛し続ける方針を変えようとは考えていなかった。 それを一も二もなく変更したのは…彼女自身も言っていたように、隣区から"覚えのある"強大な魔力反応を感じ取った瞬間のことだ。 瞬時に分かった。"奴"であると。 武蔵は厭離穢土の惨劇を知っている。 もしもあの次元の災禍が発生しているというのであれば放置はできない。 捨て置けば必ず最悪の結果が生まれる。 だから己の方針を曲げた。 そしてその決断は結果的に…"この世界の"七草はづきの妹であるにちかを守ることに繋がった。 そうでない方のにちかは、助けられなかったが。 「此処で逢ったが百年目。今回こそは斬らせて貰うわよ、リンボ」 武蔵、宿敵を睥睨。 鷹の目を思わす鋭い眼光。 天眼の眼光に射抜かれたリンボは「ンン」と嗤って―― ◆ ◆ ◆ 武蔵の乱入によりリンボから余裕は失われた。 猗窩座が此方へ来る最悪の展開もアシュレイが防いでくれている。 彼らの働きによってようやく、意識ある者達が七草にちかに駆け寄る隙が生まれた。 田中摩美々と櫻木真乃はリンボの第一打の時点で気絶している。 よって正確な意味で駆け寄れたのはウィリアムを除けば…もう一人の七草にちかのみだった。 “傷口が回復しない…やはりこれだけの量では無茶か……” ウィリアムは倒れたにちかに回数券の残りを服用させたが。 傷口が多少蠢くような様子はあったものの、完全な回復までには至ってくれなかった。 そしてそれは…最早彼女を救命する手立てはないということを意味している。 「…だい……じょうぶ、ですよ。見た目ほど痛くないんです、なんでか知りませんけど……」 彼女にもう一画令呪を使わせるなりして付近の病院なりに駆け込むか? 否、無理だ。隣区が丸ごと吹き飛ぶ異常事態が起こった以上、その手の機関がまともに機能している筈はないし。 仮に機能し続けていたとしても、にちかの負った傷はあまりに致命的過ぎる。 失血も臓器への損壊も…いずれも現代の医学力を以ってしても手に余る致命傷だ。 医術の心得も一通り修めているウィリアムですら、これを救えるかと言われたら首を横に振るしかないだろう。 「なんて顔してるんですか…死にそうって言っても、自分ですよ……。 そんなそっちが死にそうな顔しなくても、いいでしょ……もう一人の、わたし……」 「…ッ。こんな時に何言ってるんですか馬鹿! に……憎まれ口もいい加減にしたらどうなんですか!?」 偶像・七草にちかにとって。 目の前で今にも命の灯火が消えそうになっている"七草にちか"は紛れもなく自分自身だが。 だがしかし、完全に自分と同じ存在だとして同一視できているわけではなかった。 それは考えるまでもなく当然のこと。 「大体…なに格好つけてるんですか。あなたは私なんだから……っ、うんとぴーぴー泣いて騒いでなきゃおかしいじゃないですか!」 自分の姿形をして自分の声で喋り自分の名前を名乗る存在。 そんな不可解な存在が目前に居たとしても、この"自分"自身の意思を離れて動いたり喋ったりしている時点でそれは決して同一人物にはなり得ない。 なればこそ当然。 死のうとしているのが他でもない自分だからと言って、ニヒルな表情など出来やしなかった。 「そんな悟ったみたいな顔して死ぬとか…そんなキャラじゃないでしょ、私(にちか)は」 今から何時間か前にはお互いの地金を晒して感情をぶつけ合った相手。 思い出すとむかむかしてくる部分はないでもなかったがそれでも。 そうまでして語らった相手が…自分とは違う道程を辿った人間が。 目の前で血肉を撒き散らして死んでいくという光景は純粋に心が痛かった。 「…ううん、もう一人の私」 そんな偶像(にちか)とは裏腹に。 死にゆく少女(にちか)はひどく静かだった。 恐怖がないわけじゃない。 しかしそれ以上に凪いでいた。 「たぶんもう死んでたんですよ、七草にちかは。 眩しいものに背を向けて人間になったあの日に。 私の中の可能性、なんて――無くなっちゃってたんです」 界聖杯を争奪する聖杯戦争。 その参加者の条件は可能性の器たること。 偶像であることを放棄した少女が。 人間であることを選んだ少女が辿り着いた答えはつまるところそれだった。 「だから…まぁ。落ち着くとこに落ち着いた……みたいな感じじゃないですかね、……これも。 そう考えたら……いろいろ、諦めも……」 「――はぁ!? ふざけないでくださいっ、何スカしてんですかこの馬鹿女!」 だが。 「見ててくれるって…言ったじゃないですか!」 輝くことを選んだにちかはそれを声をあげて拒絶した。 そんなふざけた話はないし、もしあったとしても許さないと。 駄々をこねる子供のように感情を剥き出しにして、涙で赤くなった目を見開き吠えていた。 「それに私言いましたよね、なみちゃんみたいになってやるから見てろって! 才能なしの石ころのくせに約束まで破るんですか!?」 「………」 「勝手に…諦めてないで……っ。 見ててよ、私のこと。見てろよぉ……!」 「…はは」 強がって言ったわけじゃない。 あの時。もう一人の自分と話して。 改めて思ったことだった。 母もいない、姉もいない世界で人間として…石ころとして生きていく自分は。 この地に落ちても眩しく輝き飛び立とうとする自分(にちか)に比べて…あまりにもちっぽけだったから。 きっと七草にちかは本来偶像(アイドル)になるべきだった存在で。 それなのに輝くことに背を向けてしまったのだから、きっとあの時"七草にちか"は死んだのだと。 そう思った。そう思ったまま死んでいくつもりだった。 …でも。こうして他でもない自分自身にぐちゃぐちゃの顔で泣かれ怒られるとそんな斜に構えた考えも自然と奥に引っ込んでしまう。 「しょうがないなぁ…。見ててあげますよ、ちゃんと……ずっと」 声が漏れる。 声に血の泡立つ音が混ざるのが本人としては気になった。 こんな時くらい格好良く行かせてくださいよと神様に文句を言う。 「だから…勝手に諦めちゃうとかは、……ナシですよ。もしそんなことしたら…私がさっきのキモい太陽みたいになって、死ぬまで祟りますからね」 「じゃあ…そっちこそ」 自分のことでこんなに泣けるのか。 他人事のように見上げる自分の顔はそんな茶化しが言えないくらいぐちゃぐちゃで。 「ちゃんと……約束。守ってくださいね」 「ま…私も……、自分が、なみちゃんみたいなアイドルになって活躍してるってのは……きっと、悪い気分じゃないはずなんで。 飽きるまでは…ちゃんと約束守って、見ててあげますから」 「飽きるまでは――じゃダメでしょ。ずっとです。ずっと。勝手に約束変えないでください」 「…はいはい。そういう約束でした、もんねー……」 "羨ましい"とは多分違う。 今人生をやり直せるとしたって自分はきっとアイドルにはならないだろう。 だけどそれとは別に。 アイドルを目指して夢破れてそれでも羽ばたこうとするもう一人の自分の姿は…やっぱり、すごく眩しかった。 「…だから頑張れ、"七草にちか"。私じゃない私(あなた)」 「っ…頑張ってやりますよ、目いっぱい! だから見てろよ……"七草にちか"!」 精々頑張れ七草にちか。 自分にないもの全部を持ってるあなた。 不思議と妬みはなかった。 ただただ眩しくて。自分とは思えない程凄いなと感じられて。 だから…まぁ。死後(あっち)なんてものがあるのなら、約束くらいは守ってやろうとそう思えた。 「………」 もうだいぶ息も苦しくなってきた。 視界はとっくに掠れて何も分からない。 そんな状態で、気配だけを頼りに自分のサーヴァントの方を見る。 メロウリンク=アリティ。 この一月を共にして、最後はらしくもなく身を挺して助けてしまった相手。 「アーチャーさん…ちゃんと居てくれてます……?」 「…あぁ。俺は此処だ、マスター」 「よかった。ちょっともう…物とかよく見えなくなってきてて」 この一月。 鬱陶しく感じることもたまにはあったけど不思議と嫌だと感じたことはなかった。 姉も母ももういない自分とただ一人一緒に過ごしてくれた彼。 家族みたいだったなんて面と向かって言うのは気恥ずかしさが過ぎてできないけども。 それでも…この世界を去るにあたって最後に話すのは彼であるべきだとにちかは思った。 「ごめんなさい、ダメなマスターで。がっかりしたでしょ?」 「そんなことはない。マスターがお前でなかったなら…俺は今此処に居ないのだから」 「あんなの…誰でもできることですよ。もう一人の私でも、摩美々さんでも、真乃さんでも……誰でも」 「ああ。確かにそうかもしれない」 だが、と。 メロウリンクは彼女の目を見て続けた。 「それでも俺は、マスターがお前で良かったと思う」 「…そう、ですか。なら……まぁ、ちょっとは報われますねー……」 にちかにしかできない行動ではなかったかもしれない。 偶像として輝き人々を魅了する者達ならば。 誰もが眩しい善性のままに実行できた行動だったのかもしれない。 それでも――それでも。 メロウリンクは彼女の行動を尊いものだと断言し。 お前がマスターで良かったと迷いなく死にゆく少女に言った。 「アーチャーさん」 「…なんだ」 「最後に…その。こんなこと、言うの……いい歳して、マジで恥ずかしいんですけど……」 薄れゆく意識の中それでも笑うにちか。 「…手を。握ってもらっても……いいですか」 「…あぁ。お安い御用だ」 何もかもが血と一緒に流れ出たみたいに曖昧な中で。 彼の手の感触だけが唯一鮮明だった。 だから子供みたいに握り返してしまう。 ぎゅ…と。力なく、それでも精一杯力を込めて。 「…今までありがとうございました、アーチャーさん。いろいろ」 「礼を言うのは俺の方だ」 「ホントいろいろありましたけど…一ヶ月、楽しかったです。 アーチャーさんは……どうでした? こんな生意気なだけのガキと一つ屋根の下なんて……嫌だったでしょ?」 その問いかけに対して。 「そうだな」 メロウリンクは…苦笑した。 「俺も、楽しかったさ。にちか」 その言葉を聞いた瞬間に。 七草にちかの体から力が消えた。 ふっと脱力していく中でもまだ意識は残っていて。 それでもつないだ手が離れないように固く握ってくれている"彼"の感触は分かって。 お兄ちゃんが居たならこんな感じだったのかなぁと思った。 死ぬのは今でも正直怖いけど。 これなら少しはましな心地で逝けそうだ。 残ったなけなしの意識も感覚も薄れていく。 でも。 最後にひとつ。 これだけは言いたくて。 もう動かない体に、必死に祈って。 「なら……よかったです」 そう言って笑った。 あぁ。 よかった。 最後に、笑えて。 女の子もアイドルも。 やっぱり笑顔が大事、ですもんね。 【七草にちか(弓)@アイドルマスターシャイニーカラーズ 死亡】 ◆ ◆ ◆ 「今宵は退きます。さしもの拙僧も無策で天下の新免武蔵と死合いたくはないもので」 決着の舞台をあっさりと捨てた。 武蔵の眉間に皺が寄る。 リンボはそれに気圧されることもなく嗤っていた。 「逃がすと思う?」 「逃げますので。気張るだけ無駄かと思いますよ。 その暇があるのでしたら…貴女の愚鈍さで救えなかったあの小娘に線香の一本でも供えて来ては如何か」 「はぁ…本当変わらないのね貴方。相変わらず誰かの腸を煮えくり返らせることしかしない。いえ、できないのかしら」 アルターエゴ・リンボの最も悪辣な所は、引き時を弁えていることだ。 自分が圧倒的に優位な立場であれば迷走もするが…そうでない時は撤退も日和見も善しとする。 武蔵はリンボが隙を見せれば即座に斬るつもりだったが生憎彼は弁えていた。 新免武蔵が目前に居ることの意味を理解しているからこそ油断しない。驕らない。 彼程の使い手に正々堂々逃げを選ばれると、さしもの武蔵も攻めあぐねてしまう。 「そういうわけでランサー殿。拙僧はそろそろ退きますので、御身も早々に決断をなさるがよろしい」 アシュレイと戦いを続けている猗窩座。 彼の全身に甚大な疲弊が刻まれていることにリンボは既に気付いていた。 アシュレイが発揮する火力も上限突破は不可能なれど決して生易しい次元にはない。 あれ程疲弊した体で相手取るには手に余る。 となると賢明なのは大人しく退くことだが、大上段から命令すれば彼の不興を買うだろう。 だから彼自身の理性に任せる物言いをした。 リンボは猗窩座という英霊個人に対しては然程興味がない。 だからこその、半ば放任じみた態度なのだった。 「戦果は上々。これならば我らが王様方も満足してくれるでしょう」 何しろ英霊一体にマスター一人。 決して小さな戦果ではない。 残せた爪痕は大きい。 「とはいえ…。折角女武蔵(あなた)という新たな役者も馳せ参じて下さったのですし。 此処は作法に倣い、盛り上げの一つでもして舞台袖へ戻るとしましょうか」 今宵の戦い。 283プロダクション側の勢力は敗北した。 ベルゼバブを撃破はできたものの。 それが去った後にやって来た脅威に彼らは押し潰された。 その結果が一体と一人の犠牲だ。 これでも犠牲を少なくできた方であるというその事実が、何より明確に彼らが敗北した事実を示している。 「恐るべき母(ママ)に鬼ヶ島を統べる最強生物。 母に従う子供達(チルドレン)と、龍王に傅く百もの獣達。 美しき獣たる我にそこで戦う修羅の鬼、そして多弁な道化。 何に怖じることもなく。誰に傅くこともない、まさに究極の軍勢なれば」 リンボの体が宙へと浮く。 そこに理屈を与えることに意味はない。 理屈を求めた時点で彼の手中だ。 彼はリンボの名を冠するアルターエゴ。 呼吸するように誰かにとっての悪夢を描く道化師。 「我らは"海賊同盟"。今宵の勝利に酔いながら、今後もこの都で悪事(わるさ)を働きましょう」 大仰に両手を開きながらリンボは芝居がかった口上を紡ぎ続ける。 「挫きたければ来るがいい。討ち倒したくば挑むがいい! 歓迎しましょうその全てを。玩弄しましょうその全てを! 貴様らの方舟は最早、我らにとって許容する余地のない戯言と化した!」 海賊同盟――彼らは名を聞くのも初めてだろう単語は。 しかしリンボが所属する陣営であるという時点で、彼らとの今後の激突を予期させた。 そしてまさしくその通り。 この世界で聖杯戦争に臨む限り、誰もかの軍勢との縁を切り離せない。 ビッグ・マム。そしてカイドウ。 二人の皇帝から成る大軍勢。 既にそれは盟を結び終えており。 じきに鏡の世界から飛び出して――この東京を更なる恐怖に陥れる。 「――始めましょう、海賊(われら)と方舟(きさまら)。どちらが生存るか死滅るか!」 ◆ ◆ ◆ 陰陽師が消える。 その姿を、消えゆく嘲笑を。 機甲猟兵は睥睨していた。 七草にちかは死んだ。 偶像を諦め、人間として生きることを選んだ少女は死んだ。 奴(リンボ)によって殺された。 その事実がメロウリンク=アリティの中に一つの炎を灯す。 ドス黒い、粘り付くような闇色の炎。 人はそれを。 復讐心と呼んだ。 「――アルターエゴ・リンボ」 メロウリンク=アリティ。 彼が持つもう一つのクラス適性。 「逃げたければ逃げろ。笑いたければ笑っていろ。忘れたければ忘れても構わない。 だが」 それは――復讐者(アヴェンジャー)。 「俺は。お前を決して忘れない」 死化粧の準備は整った。 彼の聖杯戦争は敗北で幕を下ろし。 そしてこれより戦争ではなく逆襲劇が幕を開ける。 血の通わない少女の手を握り締めメロウリンクはまた一つ、帰らぬ命を胸に刻んだ。 【杉並区(善福寺川緑地公園)/二日目・未明】 【セイバー(宮本武蔵)@Fate/Grand Order】 [状態]:ダメージ(中)、霊骸汚染(中)、魔力充実、 令呪『リップと、そのサーヴァントの命令に従いなさい』 [装備]:計5振りの刀 [道具]: [所持金]: [思考・状況] 基本方針:マスターである古手梨花の意向を優先。強い奴を見たら鯉口チャキチャキ 0:梨花を助ける。そのために、まずは… 1:おでんのサーヴァント(継国縁壱)に対しての非常に強い興味。 2:アシュレイ・ホライゾンの中にいるヘリオスの存在を認識しました。 武蔵ちゃん「アレ斬りたいいいいいいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ。でもアレだしたらダメな奴なのでは????」 3:櫻木真乃とアーチャーについては保留。現状では同盟を組むことはできない。 4:あの鬼侍殿の宿業、はてさてどうしてくれようか。 5:アルターエゴ・リンボ(蘆屋道満)は斬る。今度こそは逃さない。 ※鬼ヶ島にいる古手梨花との念話は機能していません。 【七草にちか(騎)@アイドルマスターシャイニーカラーズ】 [状態]:精神的負担(極大)、決意、全身に軽度の打撲と擦過傷、顔面が涙と鼻水でぐちゃぐちゃ [令呪]:残り二画 [装備]: [道具]: [所持金]:高校生程度 [思考・状況]基本方針:283プロに帰ってアイドルの夢の続きを追う。 0:…私、は。 1:アイドルに、なります。……だから、まずはあの人に会って、それを伝えて、止めます。 2:殺したり戦ったりは、したくないなぁ…… 3:ライダーの案は良いと思う。 4:梨花ちゃん達、無事……って思っていいのかな。 [備考]聖杯戦争におけるロールは七草はづきの妹であり、彼女とは同居している設定となります。 【ライダー(アシュレイ・ホライゾン)@シルヴァリオトリニティ】 [状態]:全身にダメージ(極大)、疲労(極大) [装備]:アダマンタイト製の刀@シルヴァリオトリニティ [道具]:七草にちかのスマートフォン(プロデューサーの誘拐現場および自宅を撮影したデータを保存) [所持金]: [思考・状況]基本方針:にちかを元の居場所に戻す。 0:ランサー(猗窩座)を止める。 1:今度こそ、Pの元へ向かう。 2:界奏による界聖杯改変に必要な情報(場所及びそれを可能とする能力の情報)を得る。 3:情報収集のため他主従とは積極的に接触したい。が、危険と隣り合わせのため慎重に行動する。 [備考]宝具『天地宇宙の航海記、描かれるは灰と光の境界線(Calling Sphere Bringer)』は、にちかがマスターの場合令呪三画を使用することでようやく短時間の行使が可能と推測しています。 アルターエゴ(蘆屋道満)の式神と接触、その存在を知りました。 割れた子供達(グラス・チルドレン)の概要について聞きました。 七草にちか(騎)に対して、彼女の原型はNPCなのではないかという仮説を立てました。真実については後続にお任せします。 星辰光「月照恋歌、渚に雨の降る如く・銀奏之型(Mk-Rain Artemis)」を発現しました。 【アーチャー(メロウリンク・アリティ)@機甲猟兵メロウリンク】 [状態]:全身にダメージ(大・ただし致命傷は一切ない)、マスター喪失、疲労(大)、アルターエゴ・リンボへの復讐心 [装備]:対ATライフル(パイルバンカーカスタム)、照準スコープなど周辺装備 [道具]:圧力鍋爆弾(数個)、火炎瓶(数個)、ワイヤー、スモーク花火、工具 [所持金]:なし [思考・状況]基本方針:マスターの意志を尊重しつつ、生き残らせる。 0:…にちか。 1:アルターエゴ・リンボ(蘆屋道満)への復讐を果たす。 2:『自分の命も等しく駒にする』ってところは、あの軍の連中と違うな…… 3:武装が心もとない。手榴弾や対AT地雷が欲しい。ハイペリオン、使えそうだな…… 4:少しだけ、小隊長のことを思い出した。 [備考]※圧力鍋爆弾、火炎瓶などは現地のホームセンターなどで入手できる材料を使用したものですが、 アーチャーのスキル『機甲猟兵』により、サーヴァントにも普通の人間と同様に通用します。 また、アーチャーが持ち運ぶことができる分量に限り、霊体化で隠すことができます。 アシュレイ・ホライゾンの宝具(ハイペリオン)を利用した罠や武装を勘案しています。 ※マスターを喪失しましたが、単独行動スキルにより引き続き現界の維持が可能です。 【田中摩美々@アイドルマスター シャイニーカラーズ】 [状態]:気絶、疲労(大)、ところどころ服が焦げてる [装備]:なし [道具]:白瀬咲耶の遺言(コピー) [所持金]:現代の東京を散財しても不自由しない程度(拠出金:田中家の財力) [思考・状況]基本方針:叶わないのなら、せめて、共犯者に。 0:ただ、プロデューサーに、生きていてほしい。 1:もう一人の蜘蛛ではなく、そのマスターと話がしたい 2:プロデューサーと改めて話がしたい。 3:アサシンさんの方針を支持する。 4:咲耶を殺した人達を許したくない。でも、本当に許せないのはこの世界。 [備考]プロデューサー@アイドルマスターシャイニーカラーズ と同じ世界から参戦しています 【アサシン(ウィリアム・ジェームズ・モリアーティ)@憂国のモリアーティ】 [状態]:心痛、覚悟、『地獄への回数券』服用 [装備]:現代服(拠出金:マスターの自費)、ステッキ(仕込み杖) [道具]:Mとの会話録音記録、予備の携帯端末複数(災害跡地で入手) [所持金]:現代の東京を散策しても不自由しない程度(拠出金:田中家の財力)→限定スイーツ購入でやや浪費 [思考・状況]基本方針:聖杯の悪用をもくろむ主従を討伐しつつ、聖杯戦争を望まない主従が複数組残存している状況に持って行く。 0:…私は。 1:いずれはライダー(アッシュ)とも改めて情報交換を行う。 2:『彼(ヒーロー)』が残した現代という時代を守り、マスターを望む世界に生還させる。 3:"割れた子供達"、“皮下医院”、“峰津院財閥”。今は彼らを凌ぐべく立ち回る。 4:いざとなればマスターを信頼できるサーヴァントに預けて、手段を選ばない汚れ仕事に徹する―――だが、願わくばマスターの想いを尊重したい。 5:乱戦を乗り切ることが出来たならば、"もう一匹の蜘蛛(ジェームズ・モリアーティ)"の安否も確認したい。 [備考] ※ライダー(アシュレイ・ホライゾン)とコンタクトを取りました。以後、定期的に情報交換を試みます。 ※櫻木真乃およびアーチャー(星奈ひかる)から、本選一日目夜までの行動を聞き出しました。 【櫻木真乃@アイドルマスターシャイニーカラーズ】 [状態]:疲労(大)、精神的疲労(極大)、深い悲しみ、強い決意、気絶、サーヴァント喪失 [令呪]:喪失 [装備]:なし [道具]:予備の携帯端末 [所持金]:当面、生活できる程度の貯金はあり(アイドルとしての収入) [思考・状況]基本方針:どんなことがあっても、ひかるちゃんに胸を張っていられる私でいたい。 0:――ひかるちゃん。私、私… 1:優しい人達に寄り添いたい。そのために強くありたい。 2:あさひくんとプロデューサーさんとも、いつかは向き合いたい。 3:アイさんたちがひかるちゃんや摩美々ちゃんを傷つけるつもりなら、絶対に戦う。 [備考] ※星野アイ、アヴェンジャー(デッドプール)と連絡先を交換しました。 ※プロデューサー、田中摩美々@アイドルマスターシャイニーカラーズと同じ世界から参戦しています。 【猗窩座@鬼滅の刃】 [状態]:全身にダメージ(大)、疲労(大) [装備]:なし [道具]:なし [所持金]:なし [思考・状況] 基本方針:マスターを聖杯戦争に優勝させる。自分達の勝利は――――。 0:????? 1:プロデューサーに従い、戦い続ける。 【アルタ―エゴ・リンボ(蘆屋道満/本体)@Fate/Grand Order】 [状態]:気分高揚、魔力消費(中)、霊体化して撤退中 [装備]:なし [道具]: [所持金]:なし [思考・状況] 基本方針:この東京に新たな地獄を具現させる。 0:地獄界曼荼羅の完成に向けて準備を進める。 1:いやはや見ごたえのある良い舞台でしたなぁ。 2:計画を最終段階に移す。フォーリナーのマスターを抹殺する。 3:式神は引き続き計画のために行動する。 4:…のつもりでしたが、やめました。祭りの気配がしますぞ、ンンン――。 5:式神にさせるつもりだった役目は本体が直接担うことに変更。何をするつもりかはおまかせします。 6:それはそうと新たな協力者(割れた子供達)の気質も把握しておきたい 7:“敵連合”は静観。あの蜘蛛に邪魔されるのは少々厄介。 8:機会があればまたプロデューサーに会いたい。 ◆ ◆ ◆ そして。 この戦端に参加することのなかった男。 腕からまた一画消えた刻印を見やる彼。 かの地で未だ戦い続ける修羅、猗窩座の行動は彼の一存で決まるだろう。 戦いの継続か。 それとも撤退か。 或いは彼自身も戦場に姿を現すのか。 それはまだ分からない。 だが一つ確かなことは。 男はもう、戻れないということだった。 【杉並区・戦場近辺/二日目・未明】 【プロデューサー@アイドルマスターシャイニーカラーズ】 [状態]:覚悟、魂への言葉による魂喪失、魔力消費(中)、??? [令呪]:残り一画 [装備]:なし [道具]:リンボの護符×10枚、連絡用のガラケー(グラス・チルドレンからの支給) [所持金]:そこそこ [思考・状況]基本方針:“七草にちか”だけのプロデューサーとして動く。……動かなくてはいけない。 0:????? 1:にちか(騎)と話すのは彼女達の安全が確保されてからだ。もしも“七草にちか”なら、聖杯を獲ってにちかの幸せを願う。 2:283陣営を攻撃する中でグラス・チルドレン陣営も同様に消耗させ、最終的に両者を排除する。 3:白瀬咲耶が死んだことに悲しむ権利なんて、自分にはない。 4:『彼女』に対しては、躊躇はしない。 5:序盤は敵を作らず、集団形成ができたらベスト。生き残り、勝つ為の行動を取る。 6:神戸あさひは利用出来ると考える。いざとなれば、使う。 7:星野アイたちに関する情報も、早急に外部へ伝えたい。 [備考] ※チェス戎兵を中心に複数体のホーミーズを率いています。中には『覚醒者』であるグラス・チルドレンのメンバーや予選マスターの魂を使った純度の高い個体も混じっています。 ※今回の強襲計画を神戸あさひ達が認知しているのか、またはその場合協力の手筈を打っているのかは次のリレーにおまかせします。 時系列順 Back 吉良吉影は動かない Next Surprise MOM Logic 投下順 Back 吉良吉影は動かない Next Surprise MOM Logic ←Back Character name Next→ 105 引奈落 ライダー(カイドウ) 117 Surprise MOM Logic 105 引奈落 ライダー(シャーロット・リンリン) 110 チルドレンレコード 北条沙都子 127 Pleasure of the Certainty Witch 105 引奈落 アルターエゴ・リンボ(蘆屋道満) 117 Surprise MOM Logic 114 逆光(前編) 櫻木真乃 118 タイムファクター(前編) アーチャー(星奈ひかる) GAME OVER 114 逆光(前編) 七草にちか(弓) GAME OVER アーチャー(メロウリンク=アリティ) 118 タイムファクター(前編) 114 逆光(前編) 七草にちか(騎) ライダー(アシュレイ・ホライゾン) 114 逆光(前編) 田中摩美々 アサシン(ウィリアム・ジェームズ・モリアーティ) 109 緋色の糸、風に靡く(前編) プロデューサー 114 逆光(前編) ランサー(猗窩座) 112 拍手喝采歌合 セイバー(宮本武蔵)
https://w.atwiki.jp/nishiparo/pages/82.html
29 「おいおい。ちゃんと押せよな《俺の敵》」 「何だってあんたはそんな粋な格好で、山になんか来たりするんだよ」 そして一体全体何の因果で持ってぼくは、真夜中に中年の尻を押さねばならないんだ。 もうとっくのとうで日付は変わっているだろう。 崩子ちゃんの先導で山道を、そして道なき道を歩いて数時間、『あの人とは一番会いたくないな』そんなぼくの心を呼んだようにして、 「よう――俺の敵」 曲がり角を曲がったその先に――狐面の男がいた。 いつもと変わらない風ではあったが、それなりにここまで、この人なりに一応の苦労はしたんだろう。 すっ転んだらしい。 鮮やかな白い着流しは派手に汚れて、ところどころ泥だらけになっていた。 気配を感じたわけじゃない。 わかっていただけだ。 少女がバタフライナイフ片手に疾駆する前に、ぼくはその折れそうなほど頼りないけど、何よりもいま頼りになるその肩に両手を置く。 壊れ物を触るようにして優しくそっと手を置く。 「いいから。とても残念なんだけど、今更のこの人の、こんなのには、ぼくは誰よりも、胸を張れるほどに慣れてるよ」 ほんとにマジで。 胸を掻き毟りたくなるくらい。 「でも、お兄ちゃん」 「ほんとに、いいから。でも、ありがとう、崩子ちゃん」 不満そうにして首だけを振り返らせた少女の肩に、ぼくはほんの少しだけ、崩子ちゃんにだけ伝わるように指先に力を込める。 「……お兄ちゃん」 戯言遣い。 恥も外聞もなく名乗っておいてなんではあるが、このシーンでの適切な言葉が、ぼくの卑小な脳髄には、浮かんで来てはくれなかった。 だから誤魔化すみたいにして“言葉では伝えられないものがある”などという言葉に無様にも頼ってみたが、 「はい。お兄ちゃんがそう言うのなら」 幸いなことに聡い崩子ちゃんには、言葉では伝えられないものが、これはどうやら伝わってくれたようだった。 ぼくの手に小さな手を重ねて、夜目にもわかる潤んだ瞳で見つめてくる。 「…………」 ああ、ちっくしょう。 塔アパートに速攻帰って抱きしめたい。 朝まで寝ないでごろんごろんと枕と戯れ転げ回りたい。くっそう。ほんとに。どうしてぼくはこんな山で遭難しちゃってるんだよ。 そして、 「くっっくっくっ。見せつけるじゃないか《俺の敵》。犯罪の臭いがぷんぷんと臭ってくる。ふんっ。俺もこれは嫌いな臭いじゃないぜ」 どうしてこのおっさんはここに、どうせ意味もないのに、居ちゃったりするんだよ。 大体から犯罪の臭いって『あなたには負けますよ』と、ぼくは声を大にして言っておきたいところだ。 勝ったら人間終わる気がする。 それは《人類最終》などではなく確実に《人生最終》だ。 介錯はみいこさんに頼もう。するとならば未とどけ人は鈴無さんこそが適任だろうな。 などと。 ぼくが益体もない選考を進めているうちに、 「まあ、そんなことよりも、だ」 本当に慣れてはいるのだが狐面の男に、いつも通りの自分勝手に話題を変えられた。哀川さんとこういうとこも本当によく似てる。 それなのにあの人は聞き上手だったりもするのが、父親とは微妙に絶妙に絶大に違うとことではあるが。 「…………」 あれ? そうするといつも哀川さんには、ぼく、意図的に話を聞いてもらえてないということでは? 「…………」 如何様。 そもそもで哀川さんの胸をときめかせるような血湧き肉躍るスペシャルトークなど、端からぼく如き戯言遣いに用意はないのだけれど。 「…………」 あんまり深く考えるのは止めにしとこう。 真実は残酷だ。 いつだって人の心を無遠慮に我が物顔で傷つける。 まあ、でも、それでも、――傷つく心があるのは多分だけど良いことなのだ。良いことは決してなくならない。 四年前のぼくとはもう違う。 なくなら、ない。 「メインの会場は頂上ってのがセオリーだ。歩きながら話すとしようぜ」 狐面の男は背を向けて、おそらくは頂上へと、光の存在など許さぬという濃い闇に、一歩一歩と粛々と耽々と爛々として歩き始めた。 ぼくたちなど見向きもしない。 ついて来るのが当たり前だと言う風に、四年前の澄百合学園のときのように、悠然と傲慢な背を見せて歩いている。 もっとも、 「…………」 この最悪な人からすれば、ぼくたちがついて行こうが行くまいが『それは同じこと』、ただの一言で済んでしまうとても些細な問題だ。 問題にもならないそんな取るに足らない問題。 「会場ってなんです?」 「……『会場ってなんです?』ふんっ。詰まらん質問をするなよ《俺の敵》。決勝戦に決まってるだろ?」 「はあ?」 「お前、ひょっとして本当に知らんのか? 潤からは聞いてないのか? お前の周りには今回も大勢登場人物がいるのだが――――」 いくらでも。 そう言ってから狐面の男は、くつくつと愉しそうにして笑う。 けれどその面を外してみれば、詰まらなそうな顔があるんじゃないかと、ぼくは曖昧々になんとなく思ったりした。 でも当然のようにどちらにも意味はない。 それはこの男にとっては、狐面の男にとっては、西東天にとっては、どちらでも、どちらで合っても、変わらず同じことだからだ。 「ふんっ。言っちまえばジャンプ的展開って奴だな」 「はあ?」 地味に屈辱である。 仮にも戯言遣い足る者が立て続けに二度も間の抜けた返事をしてしまった。 しかし。 そんな地味に打ちひしがれているぼくに構わず、一切合切で構わず、狐さんはあらすじと言うか設定を、ちょっと得意げに語っている。 「四方八方から山に入った戦闘狂どもが、各々が所持しているコインを、殺し奪い合って頂上を目指すわけだ」 「何のために?」 「《俺の敵》。それに拘ったら八十年代ジャンプ黄金期はねぇ。細けぇことはいいんだよ。バトルしてトーナメントすれば部数は伸びる」 「それはわかりますが」 キン肉マン万歳。 キャプテン翼万歳。 聖闘士星矢万歳。 あと他には…………え~~っと、ああ、なんだっけ? きまぐれオレンジロード? っても。 この人本当に漫画好きだよなぁ。 「四年前もそれをちょいとばかりやってみんだが、ありゃ、正直言っちまうと、何名かはかなりの、力不足を否めなかったからな」 全員そこそこにはインパクトは残せたんだがまだまだ生温かった。 んだそうである。 なんだよ。 四年前のあれってごちゃごちゃと、日常では遣わない名詞や修飾語のオンパレードだったけど、結局はあんたの趣味だったんじゃん。 「ノイズなんか雑魚キャラ扱いだったしな」 うん。 それついてはぼくも、切実に思ったりしたことがある。 対戯言遣いを想定した階段。 つまり。 わざわざこのぼくなんかのために、十三段しかない段の一段を潰してくれたわけだが、それはスタートと同時に豪快に踏み抜かれた。 まあ。 後になってから客観的に考えてみると、別段、彼ひとりだけが一方的に悪いわけではない。 それこそジャンプ漫画として、考えでもすれば、タメにタメて登場した《人類最強》の、噛ませ犬は必要だったわけである。 ぶっちゃけ。 まさかの助っ人で登場してくれた出夢くんだって、敵側として登場すれば、ああなっていた可能性が、まったくなかったわけじゃない。 あの《人喰い》にですらその危険は、僅かではあったろうが厳然と存在していた。 ならばノイズくんが、あのような結果に終わったのは、ある意味で、あらゆる意味で、もうそれは、仕方がないしどう仕様もない。 でも。 だったら。 あんなメチャメチャに思わせぶりな初登場するなよなぁ。出オチキャラって思えば十二分に面白かったけど。 「ふんっ。それでとりあえず、今回は捻らず、直球でメンバーを集めてみた」 「メンバー?」 「言うなれば《真・十三階段》ってとこだな」 「…………」 きっと番号は好きなの取り放題だろう。 欠番がイッパイイッパイ命一杯いるからなぁ。あれからほとんど埋まってなかったんだろう。カリスマはあっても人望がない人だから。 「理想に近いメンバーが揃った。面白さを損なわずに知的集団になったと思うぜ」 「損なわずって」 そりゃ戦闘に強いってだけじゃ、物語の登場人物としては弱いけどさぁ。 選考基準が面白さに偏っている気がするんだよな。 この人の場合はどちらでも同じこととか、また失敗しても、どうせ何事もなく言うに決まってるんだろうけど。 「それとリーダーというか司令塔が、前回はこれといって居なかったのに気づいた」 「え? 今頃になって?」 「ふんっ。なんせ前回は放任主義だったからな」 あんたはそういう能力がないだけだろ。 前回は各々一段一段がバラバラに、手前勝手に縦横無尽、シッチャカメッチャカの大騒ぎだった。 挙句に軽いクーデターまである始末。 この人に管理能力ゼロなのは、処理能力もゼロなのは、責任能力もゼロなのは、四年前に完膚なきまでに実証されている。 ヘタレて最終回を迎えそうになった駄目大人。 あえてリーダーというのなら、それは木の実さんだったろうが、それでも手に余る、どいつもこいつも皆くせの強い連中だった。 「…………」 今回も彼女は階段に入っているだろうが、彼女以上に仕切れる奴など、果たしておいそれといるのだろうか。 ぼくに振ってくるということは、ぼくも知っている人物なんだろうけど。 う~~ん。 るれろさん辺りかな? それとも意表を突いて絵本さんとか。――それは意表を突いているだけか。敵のも味方のも。 「萩原子荻」 「はぁ?」 しまった。この台詞三度目だ。 「萩原子荻が《真・十三階段》のリーダーだ」 「……子荻ちゃんは承諾したんですか?」 「ふんっ。『子荻ちゃんは――」 「ストップっ!!」 「あん? なんだよ《俺の敵》。人の台詞を遮るたぁ、礼儀ってもんがわかってねぇぜ」 「あんたが子荻ちゃんとか言うなっ!!」 礼儀知らずということは重々承知しているが、そこは何があっても、この戯言遣いの全身全霊全存在を懸けて断固阻止する。 「ケチケチすんなよなそのくらい。別にお前のもんってわけでもねぇだろうが」 「ぼくのもんだっ!!」 雄々しくも山に木霊するぼくの声。 「くっくっくっ。だとよ、萩原子荻って姉ちゃんは、戯言遣いのお兄ちゃんのもんらしいぜ、崩子ちゃん」 「はっ!?」 狐面の男の台詞にではなく、ぼくはすぐ隣りから聴こえてくる、カチャンカチャンと、格好よくバタフライナイフを操るその音で、 手を繋いでいる崩子ちゃんの存在を、遅まきながらで思い出したりした。 「崩子ちゃん?」 「…………」 呼びかけても反応すらしてくれずに無言。眼をまったく持って微塵も合わせてはくれない。暗闇を見つめたままである。 面白くなかったんだろう。 自分と同じ年頃の娘が、保護者であるところのぼくに、露骨に可愛がられている。 思春期は反抗期。 面白くなかったんだろう。 カチャンカチャンという音が妙に冷たく感じられた。 少しだけ力を込めてきた崩子ちゃんの手が、ぼくに言葉以上のものを語りかけてくる。――許してください申し訳ありませんでした。 そういう気持ちを込めて“きゅっ”とぼくは少女の手を握り返した。 「そ、それはそれとして」 くっ。 ドモっている自分がメチャクチャに恥ずかしい。見透かしているかのような狐さんの眼がすげぇ気になる。 「子荻ちゃんは承諾したんですか?」 「……ふんっ。萩原子荻が承諾したかが聞きたいんだな?」 ちゃん付けで呼ぶと話が先に進まないのを狐さんも悟ったのだろう。ぼくのお気に入りの生徒の名前を普通に言った。 と。 それは置いておくとして、少なくとも昼間には、子荻ちゃんにそんな、《真・十三階段》のリーダーを引き受けた素振りはまるでない。 あの娘がぼくを本気で騙そうと思えば、それは造作もないことだろうけど、それだと事態があまりに急転しすぎているような? 「まだ言ってない」 「はぁ?」 もうぼくは『しまった』なんて思わない。今夜は何度だってこの間の抜けた相槌で通してやる。 「所謂事後承諾という奴だな」 「……おい」 「まあ、こういうのはさっきお前がした『ぼくのもんだ』発言と一緒だ。言っちまえばこっちのもんだ。後のことは後でどうとでもなる」 「…………」 ぼくは狐さんの尻を押していた手を離すと、すたすたと、崩子ちゃんを伴いながら無言で追い越す。――蹴ってやった。 狐さんに肉体的に直接的に攻撃するのはこれが初めてである。 「うっおおっ!?」 ごろんごろんと後ろでんぐり返しをしながら、狐面の男は凄い勢いで坂道を、途中、木にガンガンぶつかりながら転がり落ちていった。 これでしばらくは、駄目大人も行動できまい。 ぼくはそれを最後まで見ることもなく、代わりに、決意を込めた眼で振り返り頂上を仰ぐ。 「…………」 しかしジャンプ黄金時代か。 「行こう、崩子ちゃん。……戦いはこれからだぁ!!」 あのノリは哀川さんや狐さんだけではなく、このぼくにしたって男の子、決して嫌いなノリというわけではない だがやはり。 女の子には理解できないのだろう。 週間“少年”ジャンプ 「わたしはいま、お兄ちゃんと物凄~~く、温度差を感じています」 可憐な少女である崩子ちゃんのその声と手は、ふわりと吹いた夜風よりも確実に冷たかった。 終了
https://w.atwiki.jp/k-onvip/pages/650.html
340 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/08(火) 20 35 30.19 ID +MG46Btp0 【さよなら!?軽音部】 それは、夏休みが終わったばかりのことだった。 桜高の文化祭は9月下旬。 軽音部の5人は日々の練習に励む…ことなく、いつものように放課後ティータイムを過ごしていた。 「はぁ…私達ももう受験を考える時期かぁ」 澪が窓の外を見ながら、ぽつりとつぶやいた。 そんな澪の横顔を見ながら、律が紅茶をすする。 「夏は思ったように勉強できなかったなぁ」 律もまた、遠くを見るような眼をしていた。 「みなさん、もう第一志望は決めたんですか?」 梓は3年生4人に軽く目配せをして、尋ねた。 342 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/08(火) 20 40 57.62 ID +MG46Btp0 「第一志望?どこにしようかなぁ」 唯がのんきな表情でクッキーをかじる。 「大学ってどこにあるんだろう」 ポリポリとおいしそうにクッキーを食べている。 「おい唯。まさかオープンキャンパスに一回も行ってないのか…?」 澪は心配そうな顔をして、近くにあったケーキに手を出した。 わずかながら、手が震えている。 「うん!」 澪の手が一際大きく震えた。 ガチャン!と音がしてフォークがテーブルの上に落ちた。 「じゃぁ、受験勉強も?」 「うん!もちろん!」 澪は今度はケーキをテーブルの上に落とした。 344 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/08(火) 20 43 46.44 ID +MG46Btp0 ムギからもらった台拭きでテーブルを拭きながら、澪は唯に言った。 「追試の時みたいに、教えるなんてことはできないんだぞ」 さすがの唯も、心配そうな顔をしていた。 「受験勉強はそれぞれの志望大学にあわせて勉強をする」 「うん」 「だから、唯につきっきりでは教えられないんだ」 「そんなぁ…」 唯は悲しげな眼を閏わせて澪を見つめた。 その表情に、澪は自分まで悲しくなってしまった。 「今からでも遅くないよ。少しづつでいいから、勉強する習慣をつけよう」 「ホント!?私頑張るよっ!」 精一杯の励ましの言葉を掛けた甲斐があった。 どうやら唯は勉強する気になってくれたようだ。 とりあえず、今はそれでいい。澪はそう心の中でつぶやいていた。 346 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/08(火) 20 47 29.77 ID +MG46Btp0 「ところでさ、文化祭のことだけど」 律が二人の間に割って入る。 「私達4人の最後の舞台なんだ。今まで一番のにしようぜ!」 「そうですわ!まずは文化祭ライブを最高のものにしましょうよ」 ムギも律に加勢する。 残りの3人もそれに頷く。 「決まりだな!よし、そうと決まれば練習だっ!」 その時、音楽室のドアが開いた。 347 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/08(火) 20 48 13.17 ID +MG46Btp0 入ってきたのはさわ子先生だった。 律はテンションの高いまま、さわ子に声をかけた。 「おっす!さわちゃん!」 だが、律の元気のいい挨拶は、スル―された。 5人は拍子抜けしてしまった。 さわ子の表情は暗かった。 「今日はね、みんなに大事な話をしなくちゃいけないの…」 さわ子は5人の近くの椅子に腰を下ろした。 そしてすこし下を向いてためらっていたが、決心したように顔を上げ、言った。 「軽音部は今日で廃部になります」 348 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/08(火) 20 53 34.00 ID +MG46Btp0 最初、5人はさわ子が何を言ったのか理解出来なかった。 少し経ってから、澪がさわ子に尋ねた。 「それは、本当なんですか?」 「えぇ、本当よ」 間を置いてさわ子は答えた。 澪の表情が曇る。 「ちょっと説明が必要なの。いいかしら」 「はい」 5人を見回してから、さわ子は説明を始めた。 「ご存知の通り、私はあなたたちの顧問。つまり軽音部の顧問よ。 でも、吹奏楽部の顧問でもあるわ。それも知ってるわよね?」 5人は頷いた。 349 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/08(火) 20 54 25.62 ID +MG46Btp0 「その、私が顧問をしている吹奏楽部が、今年全国大会へ出場するのよ」 「ぜっ、全国大会?」 「全日本吹奏楽コンクールよ。今年は10月の25日にあるわ」 「すごい!全国大会なんて!」 息を弾ませて喜ぶムギを見ながら、さわ子は複雑な表情を浮かべた。 「吹奏楽部への指導は、私ではなく外部講師の先生がしてくださっているの」 「さわ子先生は教えてはいなんですか?」 「えぇ、主に私は裏方ね。お金のこととか、連絡とか」 「でもそれが廃部と関係あるの?」 ずっと黙っていた唯が口を開いた。 少しの間、沈黙が流れた。 「これからは、吹奏楽部が音楽室を独占することになったの」 ぽつりと、さわ子が言った。 350 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/08(火) 20 58 26.18 ID +MG46Btp0 「え、なんで…?」 律は色を失った。 「学校として、これまで高い実績を出してきた吹奏楽部を支援していこうと決めたのよ」 「でも、独占なんて!」 梓が声を荒げた。 「吹奏楽部は部員が100人以上いるのよ。かたや軽音部は5人。勝ち目は無いわ」 「でも、さわ子先生」 ムギが手を上げながら、おしとやかに言う。 「それなら音楽室以外の教室を使えば練習は出来ます。存続はできるわ」 だが、さわ子の表情が一段と暗くなった。 「言い忘れていたわ…私は今日で軽音部の顧問をやめるの」 音楽室は凍りついた。 351 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/08(火) 20 59 07.13 ID +MG46Btp0 「ど…どういうことですか?それ…」 澪の声は震えている。 「外部講師の意向なのよ。吹奏楽部に専念してほしいと」 「そ、そんなの断れば!」 「そんなことしたら、私はこの学校を辞めさせられるわ!」 「え…?」 突然のさわ子の大声に、5人はたじろいだ。 「吹奏楽部はこの学校の顔なの!校長先生も、ぜひ吹奏楽部だけに熱意を注いでほしいと…」 「そんな…私達はどうなるの?」 5人は泣きそうになった。 352 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/08(火) 20 59 57.87 ID +MG46Btp0 「ごめんね…ごめんね…」 だが、5人が泣く前に、さわ子は泣き崩れた。 「ホントに、ごめんね…何も出来なくてごめんね…」 「さわ子先生のせいじゃないよ。私達頑張るから」 唯はさわ子の背中をさする。 その唯も涙を流していた。 「私物は、出来れば今日中に撤去してくれると嬉しいわ」 さわ子は涙を拭きながら、そう言った。 そして、出て行った。 「私も、出来るだけ頑張ってみるから」 そう言い残して。 353 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/08(火) 21 05 13.67 ID +MG46Btp0 残された5人は、無言で音楽室の片付けを始めた。 沈黙の嫌いな律は、スネアドラムをケースにしまいながら、ため息をつく。 「今度から、ティータイムはムギの家でやるしかないなっ」 冗談のつもりだったのだが、誰も笑ってはくれなかった。 律も自分で言っていて、虚しくなったので、喋るのをやめた。 「今日、みんなで食事しよう」 一通り片付いたのを確認して、澪が言った。 4人は黙って頷いた。 澪を先頭にして、5人は音楽室のドアまで歩いて行く。 澪がドアを開けた。 ドアの前には、1人の女の子が立っていた。 354 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/08(火) 21 08 09.31 ID +MG46Btp0 その女の子は、すらりとした身長で、黒ぶちのメガネをかけていた。 「あなた達、軽音部?」 突然の質問に、5人はたじろいだ。 「そ、そうですけど…」 「私は吹奏楽部の部長です。少し話があるんですが、いいですか?」 「いいですけど…」 5人はドアから出ることなく、またテーブルの近くに腰を下ろした。 少し離れた所に、吹奏楽部の部長が座った。 「今、お茶入れますから」 ムギはその場を離れた。 かまわず、部長はいきなり切り出してきた。 355 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/08(火) 21 09 56.49 ID +MG46Btp0 「山中先生から、話は聞きましたよね」 「はい」 山中先生。そう、さわ子の名字だ。 普段下の名前で呼んでいたので、4人は違和感を感じた。 「はっきり言いましょう。私達吹奏楽部は、あなた達に対して不満を持っています」 部長はは続けた。 「私達は、毎年毎年夏のコンクールに向けて、休みなしの練習を続けてきました。 あなた達のように、だらだらと過ごすことなんてとんでもない。怠慢です。 そして、今年はついに全国大会へと出場を果たすことができました。 今まで関西大会止まりだった私達の悲願です。それが達成されたんです」 部長は目を輝かせていた。 だが、すぐにまた汚いものを見るような目で、4人を見た。 356 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/08(火) 21 15 23.64 ID +MG46Btp0 「私達が今まで音楽室を必要としてなかったと思っているんですか? あなた達はふざけたことにしか使っていませんでしたよね? もう我慢できませんよ。こんなだらだらとしか活動していない弱小部が何で音楽室を使えるんですか? 山中先生はあなた達の顧問をしてくださっていたようだけれど、それも、どれだけ私達の迷惑になったことか…」 ムギが横から恐る恐る紅茶を置いた。 それを無視して部長は続ける。 「今すぐにでもここを出て行って下さい。と、言いたいところだけど…」 部長は指を組み、不敵な笑みを浮かべた。 「条件を飲むなら、あなた達は部活を続けられるわ」 5人は顔を上げた。 「ホントに!?」 「本当よ」 「ど、どんな条件なの?」 357 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/08(火) 21 17 19.94 ID +MG46Btp0 「文化祭の、お手伝いよ」 「お、お手伝い?」 唯がすっとんきょうな声を上げた。 「そう、お手伝い。文化祭では、もちろん私達吹奏楽部も演奏するわ。 でも、今年はコンクールの全国大会が10月にあるの。 だから、コンクールメンバーはそっちにつきっきり。練習時間はあまりないわ」 「それで私達にどうしろと…」 部長はまず律の方を見た。 「あなた、ドラムやってるのよね?」 「あ、あぁ。そうだけど」 「ポップスステージでドラムやってもらうわ」 「えぇ!?」 律の反応を無視して、今度は澪とムギを見た。 358 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/08(火) 21 19 15.88 ID +MG46Btp0 「あなたはベースね。そのままベースをやってちょうだい。そっちのあなたはピアノね」 2人はすごすごと頷いた。 部長は最後に梓と唯を見た。 「あなた達ギターはいらないわ。いろんな雑用をやってもらうから、よろしく」 「ざ…雑用…」 梓は放心状態になってしまった。 「ギター弾いちゃだめなの?」 「あなた、往生際が悪いわよ。部活を続けたいなら、おとなしく言うことを聞いていればいいのよ」 部長は唯を一蹴した。 365 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/08(火) 21 38 25.14 ID +MG46Btp0 最後に5人を見回して、部長は言った。 「最初の合わせは3日後にあるわ。譜面はこれ。ちゃんと練習してこなかったら、承知しませんからね」 部長はテーブルの上に沢山の譜面を置くと、音楽室を出て行った。 部長が出て行った後の音楽室は、台風が通過した後のように静かだった。 5人は顔を見合せた。 「とりあえず…首は繋がったってことだよな?」 律が一言一言確認しながら言う。 それに頷きながら、澪が答える。 「あぁ…よし、譜面見てみようか」 366 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/08(火) 21 40 32.61 ID +MG46Btp0 澪はいくつかベースの譜面を取って開いた。 曲は全部で三曲。よくあるメドレーものや、最近流行った曲などがあった。 決して難しはなかった。だが、時間がもう無い。 それに、吹奏楽部と合わせるなんて初めての経験だ。 澪は焦り始めた。 「2人とも、すぐにでも練習を始めよう。今は出来ることをやるしかない」 律とムギが頷く。 澪は梓と唯の方を向いた。 「2人はどうする?」 「私達は…」 梓は言いかけて、唯の顔を見た。 今にも泣きそうだった。 まずい、と梓は思った。 「今日の所は帰ります」 「そうか」 「澪先輩、律先輩、ムギ先輩、頑張ってください!」 2人は音楽室を出た。 368 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/08(火) 22 06 36.95 ID +MG46Btp0 学校を出た2人は無言のまま、駅前を歩いていた。 梓は唯の顔を見たいと思った。 だが、唯の顔は髪に隠れて見えない。 結局、2人は別れ道まで無言で来てしまった。 道の真ん中で、なんともなしに歩みを止める。 最初に口を開いたのは、唯だった。 「私達、嫌われてるのかな?」 「えっ?」 いきなりだったので、梓は反応できなかった。 「前に、クラスで吹奏楽部の子が話してるのを聞いたことがあるんだ」 「…なんて言ってたんですか?」 聞きたくなかった。でも会話が途切れるのはもっと嫌だった。 「吹奏楽部の敵、自己満足の迷惑部。とか言われてた…」 「ひ、ひどいですぅ!あの人達は何も分かってないんですぅ」 そう言いながらも、梓は心のどこかで『やっぱり…』とつぶやいていた。 369 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/08(火) 22 12 17.53 ID +MG46Btp0 無理もない。 思い返してみれば、彼女達はちゃんとした部活動をしてこなかった。 それでも、文化祭のライブはちゃんと成功させてきた。 人気もそれなりに出ていた。 しかし、現実は酷だった。 「とりあえず、今日はゆっくり休もう」 「はい。唯先輩、お手伝い頑張りましょうね」 「うん…じゃぁね、あずにゃん」 そう言って、唯はとぼとぼと歩き始めた。 背中に背負ったギターが、なんだかとても悲しげに見えた。 15 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/27(日) 22 38 46.97 ID rc729EAk0 澪は自分の部屋で譜読みを始めていた。 「よし、大体これで弾けるようにはなったな」 あとは吹奏楽部との合わせをどのようにこなしていくかだった。 だが、合わせるということに関しては多少の自信があったので澪は気にはしなかった。 「ムギはいいとして…」 澪の頭の中に律の姿がよぎる。 「律…大丈夫かな」 心配ではあったが、やる時はやる律だと信じて澪は眠りについた。 16 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/27(日) 22 43 33.35 ID rc729EAk0 3日はあっという間に過ぎてしまった。 その間は普通に軽音部は音楽室を使えたのだが、ほとんど個人練習となってしまっていたのである。 5人が音楽室に入ると、すでに吹奏楽部が合奏を始めていた。 外部講師らしき人が指揮を振りながら、ジロリと5人を見た。 「君達かい?お手伝いさんというのは」 「そうです、先生」 5人ではなく、部長が質問に答えた。 「遅かったわよ。早く持ち場について」 「よし、一旦通すか」 澪、ムギ、律の3人は、隙間を通りながら指定の持ち場についた。 「じゃ、最初はゆっくりから始めるからな」 外部講師が指揮棒を振り上げた。 17 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/27(日) 22 47 14.55 ID rc729EAk0 始まって3秒で曲は止まった。 「ドラム、それ違うよ」 「え?そ、そうですか?」 「ちゃんと譜面見てごらん」 「は、はいっ」 「じゃ、もう一回」 再び指揮棒が振り上げられる。 だが、また同じ場所で止まった。 「君、いい加減にしてくれないかな。これじゃ曲がはじまらないぞ」 あちこちから嫌な視線を感じる。 (もう…嫌だ…) だが、律は涙目になりながらも 「頑張ります」 としか言えなかった。 19 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/27(日) 22 52 09.64 ID rc729EAk0 結局、合奏は律のドラムのためにほとんど進まなかった。 「気をつけ!礼!」 「ありがとうございました!!」 部長の号令で合奏は終わった。 澪とムギは特にとがめられることはなかった。 外部講師が音楽室を出ていくと、それに部長が付いていく。 2人が音楽室を出ると、突然罵声が飛んだ。 「ドラム!なにやってんだよ!」 「ひぃっ!!」 「文化祭までもう時間が無いのよ?分かってるの!?」 澪達は、ただ目を伏せていることしかできなかった。 合奏の片づけが終わったころ、部長が戻ってきた。 「軽音部の5人、ちょっと廊下に来て」 21 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/27(日) 22 55 28.90 ID rc729EAk0 部長は1人1人をじろじろと見た。 そして、律のところで視線を止めた。 「あなた…やる気あるの?」 「………」 「ちゃんと練習してきたの?」 「………」 あまりに沈黙が続くので、澪は黙っていられなくなった。 「律、黙ってないで何か…」 言いかけて、澪は言葉を失った。 「うっ…うぐっ…」 律は大粒の涙を廊下にこぼし続けていた。 22 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/27(日) 23 00 37.02 ID rc729EAk0 「泣いて許される問題じゃないのよ!!」 突然部長が大声を出したので、周りにいた吹奏楽部員も思わず固まった。 だが、律は泣き続けた。 「ご…ごめんなさい…うぐっ」 「何がごめんなさいよ!下手くそ!下手くそドラム!!」 「そ、そこまで言わなくても…」 梓が部長に言う。 「雑用は黙りなさい!!」 「ひっ…」 部長の怒りはさらにエスカレートした。 「毎日音楽室でティータイム!?ばっかみたい!!笑っちゃうわ!!」 「もう止めてくれ!!」 23 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/27(日) 23 05 21.35 ID rc729EAk0 澪は床に両手をついて頭を下げていた。 「今まで音楽室を占領していて、申し訳なかった。この通り、謝る」 部長は澪を軽蔑の眼差しで見下ろした。 「だから、もう許してやってくれ。必ず本番までには何とかする」 「何とかですって…?私が信じると思ってるの?」 「信じてくれ!!どうか、この通り、頼む!」 澪は頭を床にこすりつけていた。 その目には、大粒の涙が溜められていた。 部長はしばらく黙っていたが 「次は無いわよ」 と言って、音楽室へと戻って行った。 26 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/27(日) 23 11 28.49 ID rc729EAk0 「み、澪ちゃん…」 頭を下げたままの澪に、唯が近づく。 「澪…もうやめてくれ…」 律が澪の肩に手を掛ける。 「私が悪かったんだ。下手くそドラムの私が…」 「下手くそなんかじゃない!!!」 「っ!?」 澪はいきなり顔を上げ、律をきっと見つめた。 「お前のドラムは下手なんかじゃない!!」 「で、でも…」 「見せてやるんだ!!あいつらに。お前の、律のドラムを!!」 「そうよ、りっちゃん!!」 「律先輩!」 律は後ろ振り返った。 みんなが、みんなが律を見ていた。 「みんな…」 27 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/27(日) 23 17 58.97 ID rc729EAk0 その日から、律の猛特訓が始まった。 メトロノームを常に使い、正確なビートを刻むことに、ただひたすら、邁進した。 「まだ、まだできる…」 そして、文化祭当日。 律は見事にすべての曲のドラムを叩き切った。 ドラムソロでは割れんばかりの拍手までを誘った。 (やった…澪、やったよ…) 律は端の方の澪を見た。 澪もまた、律に視線を送る。 (ドラム、よかったぞ) 本番が終わり、再び5人は部長に呼びだされた。 28 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/27(日) 23 24 41.05 ID rc729EAk0 「素晴らしかったわ」 最初の一言が、それだった。 「あなた達のこと、あまりにも見下していたわ」 そう言って、頭を軽く下げた。 「…ごめんなさい」 5人は黙っていた。 「さっきの本番で…感じたの。音楽の本当の楽しさを」 部長は律を見た。 「田井中さん…あなたのドラム、最高だったわ」 29 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/27(日) 23 25 23.12 ID rc729EAk0 そして、残りの4人に視線を移した。 「あなた達も…本当にありがとう。あなた達がいなければ、本番をこなせなかったわ」 部長は律の手を取った。 「これからも、同じ音楽をやるものとして、頑張りましょう」 こうして、軽音楽部と吹奏楽部のわだかまりは解消された。 そして、軽音部は廃部という危機を免れたのである。 「こちらこそ、ありがとう」 満面の笑みで、律は応えた。 Fin
https://w.atwiki.jp/ao-ohanashi/pages/848.html
「やっと見つけたよ、雪華綺晶…」 「何故? いえ、どうやって? あなたがここにいるのですか……蒼星石のマスター…!」 どうやら夢の世界から辿り、あのたくさんの扉の中から正解を見つけられたらしい。 見渡す限りの石畳の中に星空がどこまでも広がる世界。 その中央に十数メートルはある巨大な蓋がない砂時計があり、 よく見るとこの世界の夜空は巨大な砂時計の中に削られているようだ。 星空が絶え間なく漆黒の砂に変えられ、下に落ち続ける砂時計。 その前に悠然と雪華綺晶は立っていた。 「…以前、鏡の中から覗かせて頂いた時から随分印象が変わりましたね……痩せましたか…」 「何、ちょっと体が持たなかっただけだ」 「一体どんな手段を使ってこのフィールドにたどり着いたのです…」 「海外に飛んで買った脱法ドラッグをありったけ試したのさ」 「………」 俺は痩せた体を自分で支えるかのように左腕を右手で持った。 「夢の世界に繋がれば、後はこの指輪と蒼星石との絆が必ず導いてくれると信じていた。 だから、後はどうやって夢の世界に蒼星石やドールたちの協力なしで入るかが焦点だった。 大半はハズレもいいとこだったけど…… アヤワスカによるソーマ・ヨーガ(薬物瞑想)だけは俺を自我の狭間にぶっ飛ばしてくれたってわけさ」 「……………」 「呆れただろうね。でも、俺には前に進む道が無かった。 だから、『道を切り拓く』ことにしたんだよ。 世界の神秘は君たちを作った錬金術や西洋の秘法だけじゃないってことかな」 雪華綺晶が沈黙を破る。 「…いえ、呆れてはいません…ただかわいそうな人だと…」 「傷つくねぇ」 「他意はありません…それで、何をしに来たのですか……?」 獰猛な笑みを浮かべる雪華綺晶。 「…私は器を求めてきました。肉でも無機でもない空っぽの器…… ……そしてそれはミーディアムとドールの絆にあると見ました… エーテルから解放されたアストラル…コーザルのくびきを断ち切ったメンタル…… その素材が自ら来てくれるとは……好都合です… 復讐に狂う心はここまで自らの泉を濁すのですね……かわいそう」 俺も構わず歯を見せて笑う。 「復讐のために来たんじゃないよ」 「…では?」 「君に俺の精神を食ってもらうために来たんだ」 「……!」 雪華綺晶に左手を突きつけるかのように甲を向けた。 「この指輪は、まだ蒼星石との絆としての力を果たしている。 砂漠に落とした針を見つけるような確率で君のフィールドを探し当てたのも、 蒼星石との共鳴があったからと考えるべきだろうね。 君の中に蒼星石は生きている。だったら、俺は君の中の蒼星石に会いに行く」 左手をそのまま握り締める。 「君の中で蒼星石と永遠を生きるんだ」 雪華綺晶は戸惑った様子こそ見せないものの反応が鈍い。 少しの間があった後、 「……正気の沙汰とは思えません…」 と、言い放った。 「…私はあなたの駒鳥を殺した憎むべき雀でしょう…… …そして、あなたを取り込んだ力で他のお姉様たちをも吸収し、至高の少女になる……」 「それは悩んだよ。蒼星石を倒した君は憎みきれないほど憎い。 でもね、真紅たちが君を倒せたとしても蒼星石の精神が戻ってくるとは考えにくかった。 キャンディー・ボトルを無意識の海という混沌の中で割れば二度と中身は戻らない。 だったら……俺は…俺は、君に勝ってもらいたい。君にアリスになってもらいたい」 雪華綺晶が今度は愉快そうに口の端を持ち上げた。 「何にせよ奇妙な形で利害が一致しました… 今日からあなたは私の中に存在し続ける……」 「殺したいほど憎い相手の中で生きるのも嫌な話だけどな」 笑い声こそ上げないものの、さも可笑しそうに口を開けて雪華綺晶は俺に手の平を向けた。 「焼き菓子、フライ、蜂蜜はビーカー……鳴る鐘の音はセント・ピーター…」 俺の右眼が熱く熱を持つ。そして体中に白い茨が絡まっていく―― 「火箸でつまんで火鉢にポン……鳴る鐘の音はセント・ジョン…」 熱と茨に対する嫌悪感が次第に薄れ、再び俺の意識は暗闇に沈んでいった。 街中に一人寝転がっていた。 知っている街並みのようだが思い出せない…… スクランブル交差点の真ん中に寝転がっていて大丈夫なのだろうか。 水を吸った砂袋のように重い体を横に向けると、昼間なのに車どころか人一人居ない。 ああ……じゃあ、いいんだ…誰にも迷惑がかからないなら、このまま眠ってしまおう―― 『……っく…えっく……マスター……ますたぁ…ごめんなさい』 体中が総毛立つような感覚が走った。 自分で手の甲を噛み、刺激で体(と、言っていいのだろうか)を覚醒させる。 今のは蒼星石の声だ! 蒼星石がどこかで泣いている! 蒼星石が、この世界にいる!! 倦怠感を振り切って起き上がると、周囲をじっくり見渡した。 ここは俺のアパートからそう遠くない街、蒼星石と暮らした街だ。 勿論、人が居ないことから雪華綺晶の内包宇宙のようなものなんだろうが…… 俺は自分のアパートに向かって走り出した。 走った。走った。ひたすら走った。息が切れ、もんどりうって倒れても、少し深呼吸をしてひたすら走った。 体が重いのも、記憶が薄くなったのも。 無意識の海から雪華綺晶のフィールドへ、雪華綺晶のフィールドから雪華綺晶の内包宇宙へと 精神が体からあまりに遠くなってしまったからだろう。 だがそんなことはどうだっていい。蒼星石。蒼星石。蒼星石。蒼星石が泣いている。 俺は途中転げそうになりながらアパートの階段を登ると、勢いよく自分の部屋のドアを開いた。 「……! マスター!」 「やっと会えたな、蒼星石……」 駆け寄ってくる蒼星石をぎゅっと抱きしめる。 お互いの存在を確かめ合うかのような長い長い抱擁。 「最初の頃、涙は見せられないって言っておいて。随分泣き虫になったんだな蒼星石」 「だって……マスターはこの世界に居ないし… それに、ここに来てるってことは雪華綺晶に取り込まれたってこと……」 「いいんだ」 蒼星石の涙を優しく拭う。 「もういいんだ。 アリスゲームとか勝者とか敗者とか、何が正しいとか正しくないとか。 もうそんなことはどうだっていい 俺には蒼星石だけ居てくれればそれでいいんだ……」 「マスター……」 「誰にも、何にも邪魔されず、ここで暮らしていこう」 俯く蒼星石。 俺に飛びついてきた拍子に落ちた帽子を拾って髪を指で梳く。 その時に左指の指輪が熱を持ち、薄い光を放った。 蒼星石が驚いた表情で顔を上げた。 「まさか、自分で雪華綺晶に取り込まれに……?」 「雪華綺晶が俺を吸収しに来る前に負けたら、蒼星石が消滅すると思ってね」 「……マスターはバカだよ。僕なんかのために人間を捨てちゃって」 「バカな俺は嫌い?」 そう聞くと、やっと蒼星石に笑顔が戻った。 この笑顔を見るために、死ぬような思いをした気がする。 でも、もう現実のことなんてどうでもいい。 俺の腕の中で笑う蒼星石。これだけで十分。 この幸せが、永遠よりも永遠に続くことを祈った。
https://w.atwiki.jp/tsurucale/pages/757.html
『読楽』1月号 (徳間書店) エマノンシリーズ新作『さよならモイーズ』(梶尾真治)が掲載。挿絵を描いています。
https://w.atwiki.jp/vocaloidchly/pages/1155.html
作詞:電ポルP 作曲:電ポルP 編曲:電ポルP 歌:初音ミク 翻譯:reiminato 緊緊握住你的手 就像不想分開一般 但如果想要獨處的心情並不是假的話 希望你能告訴我會這麼做的理由 水藍色的天空不會拒絕任何人 現在只有我一人 真的只有我一人嗎? 那個理由明明誰也不知道的 沒有停止之處的顏色將我的身影隱藏了起來 連同眼淚 不行 好痛 好痛 胸口說著「好痛」 不能再這樣緊抱著你了 好痛 好痛 所以想要說出「好痛」 但不管什麼話語都無法傳遞給你…一定的 忘記了橙色的天空的美麗 為什麼只有我一人? 真的只有我一人嗎? 那個理由明明誰也不知道的 鳴響起的聲音將你的話語給徹底消除了 「再見」 不行 好痛 好痛 你也說了「好痛」 再這樣下去就不能繼續待在你身邊了 好痛 好痛 所以想要說出「好痛」 拜託你 請你將你的手…放開 不行 不在了 不在了 你真的已經不在了 再這樣下去我也無法忍受了 你在我身邊 真的好奇怪呢 染上了淚水… 好想見你 好想見 雖然好想見你 但我不想再這樣撒嬌下去了 如果跑在天空上就能再度相逢的話 我會等著那個時候到來的 再見 還會重逢的 總有一天,在這裡 與你 再見 在重逢之前 真的只是短短的再見
https://w.atwiki.jp/ercr/pages/1969.html
発売日 2001年3月2日 ブランド CRAFTWORK タグ 2001年3月ゲーム 2001年ゲーム CRAFTWORK キャスト ??? スタッフ 企画・原案:CRAFTWORK,長岡建蔵 構成・脚本:石埜三千穂,長岡建蔵 キャラクターデザイン:長岡建蔵 原画:長岡建蔵 組立:長縄 CG:長岡建蔵,長縄,荻原純,FlyingShine 背景:長縄,小原彰夫 音楽:さっぽろももこ(キラキラヒカル!) デザイン:長岡建蔵 演出:CRAFTWORK 協力:VisualArt s TOKYO,小林英茂(HIDESHIGET!!),玉手峰人(TAMATEX D.D.),津田くみえ,まなべあや,田所広成(STONE HEADS),小川健一(たまちゅ堂),あやせまい(たまちゅ堂),山口則章,氏賀Y太(異形波倶楽部),Navi,上野公園にいたおじさん 制作:CRAFTWORK,VisualArt s co.,Ltd. 監修:長岡建蔵 ©CRAFTWORK,VisualArt s 主題歌 「さよならを教えて」 原詞:長岡建蔵 訳詞・作曲:さっぽろももこ(キラキラヒカル!) 編曲:一矢(I ve) 歌唱:MELL
https://w.atwiki.jp/city_blues/pages/156.html
「じゃあ、行ってくるから。手はず通りに頼むぜ。あとスーパー行くとかいって外には出ないようにな」 「はいはい。うっかり死なないようにね」 はいは一回、と心中で呟きながら、俺はあばら家を出る。鍵の束をポケットにねじ込み、庭に置いてる自転車を脇目に歩き始めた。 ここ<新宿>で俺に与えられた日常は、かって佐藤十兵衛という人間が過ごしたそれと似ているが、何処かが致命的に違うというもの。 学校はある。学友もいる。教師もいる。ケータイだって普通に使えるし、ネットも当たり前に繋がる。社会活動に不自由は一切感じない。 何故か俺と会わないように立ち回っていたが、先日ついに発見し佐藤十字軍(クルセイダーズ)高位聖職者という己の役職を再認識させてやった親友・高野くんもいる。その最愛のビクトリアもな。 俺の知る人物の皮を被ったNPCは俺に関する記憶を大幅に削減されていたが、元から深く心が繋がった連中というわけでもない。僅かな時間で、俺に心服あるいは屈服させる事は容易だった。 だが俺の家はなかった。当然妹の萌(もえ)もおらず、俺の頭が『自分の家がある』と認識している場所にはグレードがだいぶ落ちた一軒家が建っていた。 富田流の道場もなく、文さんもいなかった。こればかりは、正直こたえる。あんなおせちを作れてしまうようなオッサンでも、俺の中では大きな存在になっていたんだなって……。 「ってそんな事思わんわ! 喋り相手が減っただけだっちゅうの!」 気持ち悪う!(『喧嘩商売&喧嘩稼業』を読破し、たまに出てくる墨文字がフキダシ外に表示される漫画的表現を想像してください) 色々と環境が変わったとはいえやる事は同じだ。目的達成の為に頭を回し、実行手段として喧嘩を選ぶ。喧嘩には良心はいらず、貴卑の取捨も不要。 とはいえこの聖杯戦争、俺の視点からすれば『色々と』で片付けられるほど些細な変事ではない。 先ほど俺を見送ったセイバー……比那名居天子をおだてて聞き出した、サーヴァントや聖杯戦争に関する知識を思い返す。 新宿に来た時点で頭の中に基本的な知識が入ってくる感覚を覚えたが……あまりに突拍子もない内容で、同じく突拍子もない存在のセイバーに裏付けてもらう必要があったのだ。 どうもこの聖杯戦争、本来は魔法使いや魔法少女のような連中が行う闘争らしい。 事前知識もなくいきなり巻き込まれた俺のような奴が何人いるかはわからないが、基本的にはマスターたる者は魔術に類する神秘を学んでいるはず。 例えば化学を超越した現象の突発、例えば効能が実在する呪術、例えば異形の怪物の使役。その他、思いもよらぬ術を使う相手もいるだろう。 俺の喧嘩相手にも、流石に脇からビームを出すような敵はいなかった。 戦闘において俺にはその手の神秘に対する心構えが出来ていない。早急にマスター達の戦力がどの程度のもので、俺をどれだけ上回っているのかを把握する必要があるだろう。 ポケットの中の鍵の一つに意識が移る。昨夜、この不思議な鍵を通して告げられた本戦開始の通知は、全てのマスターに届いている事だろう。 目の前の往来に広がる通勤通学途中の人間の中にも、俺と同じように息を潜めて獲物を狙うマスターが存在するかもしれないのだ。 「簡単に尻尾を出してくれる馬鹿が多けりゃいいんだが」 連日ニュースで報道され、開始直後に討伐令を出されるほど派手に動き回る者ばかりでもないだろう。 二組の愚か者たちがやらかした凶事に共通するのは、NPC100人以上の殺害。 各マスターが魂食いをやらなければならない状況に陥ったとしても、これを目安に極力行為を抑えるはずだ。 もっともサーヴァントは埒外の存在。自分の存在維持が危うくなればマスターの抑えが利かなくなることも十分にありうる。 遠坂凛とセリュー・ユビキタスの擁するサーヴァントは特に制御が難しいであろうバーサーカー。暴走の原因も大方想像はつく。 「持ち馬の手綱の握り方にも気を遣わなきゃならんが、相手の馬と鉢合わせたらどうにもならないってのがな……」 実はこの俺、サーヴァントという存在がどの程度頼りになるのか試した経験があった。 セイバーに「一日実体化してていいから、隙が出来たときに攻撃してみていい?」と提案したら自信満々で快諾してきたので、寝ている時に忍び寄って金剛を打ち込んでみたのだ。 打ち込んだ瞬間、巨岩……それも金剛石の感触を"金剛"を放った俺の拳の方が感じた。冷や汗をかく俺にセイバーは片目を開け、「もう、寝てる時はやめてよ。次は怒るわよ」とだけ告げて二度寝。 対人間の技術では、文字通り蚊に刺されたほどにもダメージを受けない怪物。マスターの数がわからない以上、こんな化け物が新宿にどれだけ潜んでいるかもわからないのだ。 金剛が効かない事に、自信の喪失すら起きない程の絶対的な差。俺は聖杯戦争において、戦略が意味を成さないことを即座に理解した。 全ての主従を撃破し、聖杯を手にする必勝戦略を構築したとしても、サーヴァントの持つ突出した多様な力はその戦略を飴細工のように粉砕するだろう。まさしく神話の英雄や怪物のように。 一戦に勝利する為の戦術が役に立たないとは思わないが、長期的な視点に拘る事はかえって敗北を招く予感がある。 「ま、ビビってても何にもならんわな。……おっ、いたいたスライムベス」 定刻通りにいつもの横断歩道で信号待ちをしている赤シャツのヤクザを発見し、背後に忍び寄る。 ヤクザが振り向く前に、背中にセイバーから預かった二つの小岩の片方を突きつけて囁く。 「振り返ったら殺す」 「!? その声……テメー、妻夫木聡似の……」 「今は向井理と名乗っている」 赤シャツが硬直し、俺の一挙一動に集中する。向かい合うよりこの体勢の方が、情報を引き出すには都合がいい。 室内に踏み込む前に俺とセイバーの会話を盗み聞く抜け目なさを持ち、その他愛ない会話の内容も覚えているこの赤シャツ、やはり俺が襲撃した事務所にいた連中のブレイン役のようだ。 佐藤クルセイダーズを動員し、こいつと他2名ほどに絞って素行調査を進めさせたのは正解だったか。 赤シャツが硬直し、俺の一挙一動に集中する。向かい合うよりこの体勢の方が、情報を引き出すには都合がいい。 室内に踏み込む前に俺とセイバーの会話を盗み聞く抜け目なさを持ち、その他愛ない会話の内容も覚えているこの赤シャツ、やはり俺が襲撃した事務所にいた連中のブレイン役のようだ。 佐藤クルセイダーズを動員し、こいつと他2名ほどに絞って素行調査を進めさせたのは正解だったか。 「お前ら、筋モンにあんな真似してタダで済むと」 「そういう定型文はいいから。もう聞き慣れてるから。今日はちょっと聞きたいことがあってお邪魔しました」 「何を聞きたいか知らねーが脅されたくらいで答えるとでも……」 「そんな事言っていいんですかな? 倒れているあなたたちを見かねて救急車を呼んであげたのはこの向井理なんですよ」 倒したのもテメーだろ、と言いたそうな気配が伝わってくるが、続く俺の声を聞いて赤シャツはその言葉を飲み込んだ。 「襲撃の際に暴漢に組員全ての携帯を盗み見られ、全員の家族構成や交友関係を抜かれたかもしれないというのに大した自信だな」 「……ま、まさか」 「今日は俺の相棒である胸板だけ成宮くんにそっくりなダークナイトちゃんはここにはいない。誰のそばにいると思う?」 「良子に手を出す気か……」 良子というのが誰かは知らないが、勝手に勘違いしてくれたようで何よりだ。 俺は信号が変わったのを確認し、「歩けよ」と促して横断歩道をゆっくりと渡りながら情報を引き出す。 赤シャツは俺の望む情報を持っていた。とある事件の噂の真偽と、事件が起きた場所の情報だ。 都合のいい事に、セイバーからの"おつかい"の帰りに寄れる位置にある。 俺はスライムベスを解放し、振り向く事が出来ず歩いていく雑魚モンスターが視界から消えるのを確認して目的地へと向かった。 ◇ "おつかい"を終えた俺は、先ほど得た情報を頼りに一棟のビルに辿り着いた。 <新宿>にまことしやかに流れるゴシップの一つ、『メイドがヤクザを壊滅させた』という噂の出所がここだと知る人間はそう多くないだろう。 赤シャツの情報が正しければ、その噂は大筋で真実。同系列の組連中の必死の隠蔽も虚しく拡散されたが、なんとか噂で止められた、という話だ。 たった一人に事務所に乗り込まれて組員皆殺しとなれば、面子以前に親組織の面目さえ立たない。警察はもちろん、商売敵にも内密に処理する必要があったのだろう。 赤シャツからスリ盗った金バッジをビルの管理人に見せ付けて入れてもらった事務所は完全に清掃されていたし、清掃の際にも下手人の身元特定に繋がるような物証は見つからなかったらしい。 実際に現場に入った赤シャツの話では、その虐殺ぶりは人間業とは思えなかったとの事だ。唯一の手がかりとなるのは監視カメラの映像。 残念ながら事務所内には設置されていなかったが、エントランスのカメラがメイド服を着た女と飾り気のない服装の少年の姿を捉えていた。 管理人室でその映像を見ながら、その容姿と挙動を記憶する中、ふと疑問が浮かんだ。 「……ねえおじさん、このホールのカメラってこれ映したときと今で何か変わりある? 映してる場所から見えないように隠してたかって質問だけど」 「いえいえ! 何もいじっちゃいません、取り付けてからずっと、カメラはむき出しのままです」 「ま、予想的中か」 俺の言葉の意味が分からず困惑する管理人をよそに、俺は映像を再生し続ける。 女の視線が、カメラを射抜き……そのまま歩き去る。監視に気付いていながら放置しているのだ。 ヤクザの溜まり場を襲撃して武器を奪っておきながら、あえて映像を残していく。つまり、身元が割れる心配をハナからしていない。 圧倒的な戦闘力と合わせて考えれば、間違いなく外からこの<新宿>に足を踏み入れたマスターとそのサーヴァントと見ていいだろう。 さらに言えば……と、俺の思考が止まる。ケータイが甲高いソプラノの悲鳴を上げた。かって打ち負かした柔道家、金田保の絶叫というイカした着メロだ。 「あっ、若衆さんもそれDL購買したんですね。ネットで流行ってるやつ」 「流行には敏感でね」 管理人が反応したように、金田の悲鳴は某サイトで着メロとして好評発売中。俺の為の軍資金稼ぎとして役立っている。 これが相当数売れる事が、この街が少しずつ暗い雰囲気になってきているひとつの証明と言えるのかも知れないな。 着信相手を確認すると、まさにこの着メロの販売サイトの運営を任せている佐藤十字軍の男からだった。 彼には俺がビルに入った後の周辺の監視を任せていた。回線を繋ぎ、報告を無言で聞いて「ご苦労」と労い立ち上がる。 「うちの組系統の人間以外で、嗅ぎつけてここまで来た奴っていたかな?」 「はい、外国人の男が一人、つい昨日。追い返しましたけどね」 「多分同じ奴だと思うんだけど、そいつが外に来てるってさ。俺が追い払うから、おじさんは仕事に戻ってね」 返事を待たず、部屋を出る。懐から小岩を取り出して握り締め、一応カメラに映らないように考慮しながら、エントランスから外に出た。 自動ドアが開いて外に一歩踏み出してすぐ、来訪者の姿は発見できた。 俺から見てもとんでもなくガタイのいい、屈強な男。喧嘩も強そうだ。マスターとしての目で見れば、サーヴァントでないことだけは分かる。アサシンといった様子でもない。 表情と服の下に隠れた筋肉の緊張具合から即刻の交戦意思がない事を察し、臆せず歩み寄ってくる俺を、男は驚いたように見つめていた。だが隙はない。 「魔術師って感じじゃねえな」 「君は……」 「現代格闘富田流。セイバーのマスター、佐藤十兵衛だ」 躊躇なく名乗った俺に、男の驚きの表情が更に深まる。まだ、決定的な隙は生まれない。半端な修羅場をくぐってきた奴ではないらしい。 ポケットに突っ込んだ両手を握りこみ、いかなる事態にも即応する為、『無極』による自己暗示で外面には出ない部分を研ぎ澄ます。 だが男は豹変して牙を剥くこともなく、朗らかな笑顔を浮かべて名乗り返してきた。同時に、空間が歪んで二人目の男が姿を現す。 「僕はジョナサン・ジョースター! 彼はアーチャーのサーヴァント、ジ……」 「マスター、真名は隠さないとダメだ。出会ったばかりの敵マスターには特にな」 「日本語上手いな……しかしアンタ、サーヴァントを連れ歩いてるのかよ」 霊体化させても、優れたマスターならば発見しそのサーヴァントのマスターを特定できるかもしれないと危惧して一人でここまで来たが、流石に無用心だったか。 一応の緊急避難策はあるが、相手がサーヴァントでは殆ど役には立たない。今後は慎もう、と心に決め、俺はジョナサンに話しかけた。 「戦いに来たってわけじゃなさそうだけど、聖杯戦争の参加者同士だ。聖杯を求めて殺し合うってんならこっちもサーヴァントを呼ぶが……」 「安心してくれていい。僕には聖杯を求めるつもりは一切ないからね。ここには、別の用事があって来たんだ」 「んん? 聖杯欲しくないのに聖杯戦争に参加してるの? なんで?」 「参加したのは偶然だよ。僕はこの聖杯戦争を止めたいと思っている」 「キリストの血を受けた杯が、教圏でもない場所に出現して敬虔な教徒でもない人間を相争わせ、勝ち残ればなんでも願いを叶えると言い出す。どう考えても信用に足らないと思わないか。 聖杯の力は本物だとしても、その力を発揮する為の手段にしても、本当に持ち手の為に力を発揮するのかどうかも、はっきり言って疑わしい」 ……予想はしていたが、"志願して参加している人間"ばかりでない以上、願いがないマスターもいるのか。 俺にしたって、負けるのは絶対に嫌だが欲しくもないニンジンを餌に走らされるのは面白くない。 ジョナサンは感情で、そのサーヴァントは理屈で、この聖杯戦争を頭から否定しようとしている。 俺達を呼び寄せた存在の詳細さえ明確になれば、他のサーヴァントを全て打倒して聖杯に至るよりはむしろ現実的で理性的な考えといえるだろう。だが……。 「今、このビルの中で他のマスターとサーヴァントが映った録画を見てきた。ヤクザを皆殺しにしたふざけた服装の女と、俺とそう変わらない歳の男だ」 「……僕たちも、その噂の真偽を確かめにここに来た。十兵衛君はよくあの管理人さんから聞き出せたね」 「まあ、ちょっとしたコネでね。で、聖杯を獲るためなら魂喰いもやるような奴が、最低三人はいると分かったわけだ。願い事が叶うと言われりゃ、すがる奴はもっと大勢いるだろう」 「そうだろうな。それで?」 「それでってアーチさん。言わなくても分かるでしょ……俺だってアンタらが本気で聖杯戦争止めたい!言ってるのは分かるけどさ、そういう連中は納得しないだろってこと。 そいつらはどうするの? 言う事聞かない奴はドンドンぶっ倒していくってんなら、結局聖杯戦争やってる事にならないのかな?」 「大丈夫! 願いは結局、自分の力で叶えないと叶ったことにはならない。万能の願望器を獲得する為だけに手段を選ばず努力するという事は、願いを自分の手で叶える事への諦め……いや冒涜だ。 そうやって叶えられた願いは、必ず本人を不幸にする。それを分かってもらうまで、僕は夢や祈りを持つ人たちに何度でも語りかけるよ。一人の男として、その為の労を怠るつもりはない!」 こいつ……マジモンじゃねーか……。正直憧れるほどカッコよくはあるが、実際に目の前にいると非常に扱いに困るタイプの人間だな。 ジョナサンさんにはジョナサンさんなりに、こういう言葉をスッと吐けるに至るまでの悟りや経験があったんだろうが、正論をぶつけられれば、歪んだ人間はよりその歪みを増す。 諭された人間の大半はジョナサンの真意を理解しようとせず怒り狂い、その怒りを周囲にぶつけるだろう。傍にいて愉快な事になる人間とは思えんな。 俺はなるべく彼と深く関わることを避ける事を避けるべく、「管理人さんに映像を見せてもらえるようお繋ぎしましょうか?」と敬語で提案する。 「いや……その必要はなさそうだ」 「ん? うおっ」 空中で、何かが弾ける音。音を立てた物が何なのか認識して、生理的嫌悪感が湧き上がる。 一つは銃弾。地面にめり込み、アスファルトを砕いて砂煙を上げる。そして空中で銃弾の軌道を変えたのは……爪。 もう一つは誇張なしに、人間の爪だった。発砲音がしなかった事から、消音器を付けた銃から撃ち出されたであろう凶弾に"自分で"反応できたのはこの場において一人だけ。 アーチャーのサーヴァントを見れば、左手薬指の爪が剥がれていた。恐らくは、サーヴァントとしての能力だろうな。 銃弾を撃った人間が狙ったのは、どうやらジョナサンだったらしい。アーチャーの視線をなぞり、襲撃者の姿を探す。 見つけた。"普通"の格好をしていたので一瞬気付くのが遅れたが、ヤクザ事務所が入っていたビルの向かいの建物の3階……マンションの一室のベランダから銃を突き出す女は、間違いなくあのメイド。 狙撃の失敗を気にする事なく不適に嗤いながら、一息に飛び降りる。空中で不自然に減速し、着地と同時に背後に少年……サーヴァントを実体化させて。 「50m圏内にサーヴァントがいるのは分かっていたが、マスターの方から姿を現してくれるとはな」 「やっぱり張ってたか……わざわざメイド服着てカメラに映って、噂も自分で流してマスター釣りってとこかな?」 「彼女がそうか。十兵衛君、サーヴァントを呼ぶか、逃げるかした方がいい」 「はいはいっと。じゃあ逃げさせてもらおうかな」 『金剛』を撃つべく握り締めていた右手を開き、ポケットから抜く。同時に小岩を握る左手も抜いて宙に掲げ、意識を集中させた。 次の瞬間、未体験の感覚が体に走る。高所から飛び降りた時の逆、言わば浮遊感か。同時に視界も、地上が急激に離れていくという生身の人間には一生視れないものへと広がっていく。 唖然とするジョナサン達を見下す俺を、力場を纏った小岩が上へ上へ運ぶ。やがてビルの屋上、さらにその上空へ達した所で、体を振って小岩を放す。 かなり危うかったが、なんとかフェンスを掴んで屋上に辿りつくことが出来た。流石に足の震えを自覚しながらも携帯を取り出し、通話履歴を遡る。 「さて、どうなることやら……」 コール音を聞きながら、俺は眼下を注視した。 ◇ 「凄いな……吸血鬼だってあんなには跳べないぞ」 「あのマスターが魔力を発した感じはなかった。彼のサーヴァントの恩恵だろうね。それよりこっちだ、マスター」 感嘆するジョナサンに注意を促して、アーチャー……『ジョニィ・ジョースター』は敵対者を睨みつけた。 同じように舞い上がる十兵衛を見上げていた女も、銃を仕舞ってバーサーカーを一歩前に出させる。 相対した状態では、魔力を帯びない銃弾などサーヴァントに対しては無力。 マスターを狙おうとする僅かな隙でさえ、サーヴァントに突かれれば即座に死が待っている。 臨戦態勢に入った女の名は『ロベルタ』。人間として限界値に達したと言っても過言ではない軍事技術を持つ猟犬であり、聖杯に連なる神秘などとは無縁の存在。 しかしバーサーカーのサーヴァント『高槻涼』と共に、討伐令を出された二名に迫る量のNPCと交戦した経験から、ロベルタはサーヴァントの逸脱した力を十全に理解していた。 やり場のない憎悪を滾らせた瞳でジョナサンとアーチャーへの殺意を噴出させるその姿は、猟犬というより狂犬か。 一方のマスター、ジョナサンは従者の忠言にも関わらず、その視線をロベルタたちに向けていない。ビルの屋上から、ロベルタが飛び降りてきたマンションの一室を注視している。 「ジャバウォック。殺しなさい、過分な程に」 「マスター! 目の前の敵に……マスター?」 「君は、何故NPCを殺した?」 ビキビキと体格を変貌させて怪物じみた姿に変わっていくバーサーカーを恐れる事もなく、ジョナサンは静かに問いかけた。 アーチャーが気付く。ロベルタがいた部屋からは死臭が漂い、ベランダには生新しい血痕が残されている。 問われたロベルタは鼻で笑う。どのNPCの事か、と。 「武器を奪う為。狙撃に適したポイントを確保する為。聖杯戦争に勝つ為に、羊も狐も狼も、殺す理由しかないわ」 「その殺戮は本当に必要だったのか? 他人を害せずに同じ成果を上げる事は出来た筈だ。聖杯戦争における闘争とは違って」 「必要かどうか、なんて考える必要こそない。私の道に転がっていたものを排除しただけ――――」 「そうか」 ロベルタの悪辣な嘲弄が止まる。理想論を振りかざす偽善者を哂わんとする表情が凍りつく。 初めてロベルタを見据えたジョナサンの顔には、甘さなど一片もなかった。 ジョナサンが件の噂とその出所を知ったのは、拠点とする新宿御苑で子供達と遊んでいたある日、少女の一人を迎えに来た母親が暗い顔をしていたのを気にして話しかけた時だった。 セリュー・ユビキタスと違い、ロベルタは魂喰いをやりすぎることには注意を払っていたが、殺したNPCの縁者を根絶やしにするほど徹底していなかった。 故に、"家を飛び出してヤクザの舎弟になった息子を心配して定期的に連絡を取っていた母親"が"息子と連絡が取れなくなり、他人に助けを求める"イベントの発生を防げなかった。 NPC……否、自分と関わりのない人間などいくら殺しても心は痛まない、という境地に達しているロベルタには、それが理解できない。 ジョナサンの、彼が闘争の人生において見てきた"他人を踏みつける事自体に快楽を覚える外道"への率直な殺意……宿敵からも「完全に甘さを捨てた」と言われたその"熱"を理解できない。 「君に言葉は通じない。君が擁し、殺戮に利用されるサーヴァントは傀儡。ならば僕は、君を殺そう。聖杯戦争も君の願いも関係なく、君が他人に流させる涙をこれ以上増やさない為に」 「―――ッ!! バーサーカーッ!!!」 ロベルタには、もはや余裕は微塵もない。殺戮者として"死"に深く接してきた彼女の直感は、己の死を明確に予感させていた。 ジャバウォック、と親しみを込めて己のサーヴァントの愛称を呼ぶことさえなく念話を走らせる。バーサーカーの行動は素早い。 ロベルタの体を掴み、眼にも止まらぬ速度で走り出す。人気のない陰闘に適した場所から、往来へ向けて走り出す。 聖杯戦争のセオリーに明らかに反した暴挙は、しかし決して暴走ではない。 「逃げたのか!?」 「いや、違うな。ここで戦えば負ける、と察して僕たちが全力を出せない場所に誘いこもうとしている。周囲にサーヴァントに触れただけで死ぬような人間が大勢いるところへね」 「ジョニィ! 力を貸してくれ!」 「ああ。行こう、ジョジョ」 即座に顕現させた宝具……『スローダンサー』に跨ったアーチャーはジョナサンを同乗させ、死してなお共にある愛馬を疾走させる。 アーチャーにとっても、ロベルタは救うべき、諭すべき迷い人ではない。己の道を過ったのみならず、その過ちを誇り正義と信じて疑わない者にかける慈悲はない。 聖杯を破壊するためでも、聖杯を求めるためでもなく対象に向けられる二つの殺意は、押並べて漆黒にして黄金。 【西新宿方面(京王プラザホテル周辺)/1日目 早朝8時】 【ジョナサン・ジョースター@ジョジョの奇妙な冒険】 [状態] 健康、激しい義憤 [令呪] 残り三画 [契約者の鍵] 有 [装備] 不明 [道具] 不明 [所持金] かなり少ない。 [思考・状況] 基本行動方針:聖杯戦争を止める。 1.殺戮者(ロベルタ)を殺害する。 2.聖杯戦争を止めるため、願いを聖杯に託す者たちを説得する。 3.外道に対しては2.の限りではない。 [備考] 佐藤十兵衛がマスターであると知りました。 拠点は四ツ谷・信濃町方面(新宿御苑周辺)です。 【アーチャー(ジョニィ・ジョースター)@ジョジョの奇妙な冒険】 [状態] 左手薬指の爪喪失 [装備] 宝具『スローダンサー』展開中 [道具] なし [所持金] マスターに依存 [思考・状況] 基本行動方針:聖杯戦争を止める。 1.殺戮者(ロベルタ)を殺害する。 2.マスターと自分の意思に従う。 [備考] 佐藤十兵衛がマスターであると知りました。 拠点は四ツ谷・信濃町方面(新宿御苑周辺)です。 【ロベルタ@BLACK LAGOON】 [状態] 健康 [令呪] 残り三画 [契約者の鍵] 有 [装備] 銃火器類多数(詳細不明) [道具] 不明 [所持金] かなり多い。 [思考・状況] 基本行動方針:聖杯を獲るために全マスターを殺害する。 1.ジョナサンを殺害する為の状況を整える。 2.勝ち残る為には手段は選ばない。 [備考] 特になし。 【バーサーカー(高槻涼)@ARMS】 [状態] 異形化 宝具『魔獣』発動(55%) [装備] なし [道具] なし [所持金] マスターに依存 [思考・状況] 基本行動方針:狂化。 1.マスターに従う。 [備考] 『魔獣』は100%発動で完全体化します。 ◇ 「ん? 移動するのか?」 『ちょっと十兵衛聞いてる? これちゃんと声通じてるのかな? 私の電話の着信音変えてよ。趣味悪すぎ……』 俺の携帯からわざわざ移してやった着メロへの文句を言い出したセイバーからの苦情を聞き流しながら眼下を眺めていたが、状況が動いた。 かなりの速度で移動し始めたが、通勤通学ラッシュの時間は過ぎたとはいえ何故人気の多い方でドンパチやろうというのか。 ともあれここから視認できない場所で戦闘を始められては貴重な観戦のチャンスを逃す事になる、と俺はセイバーから預かった"小型の要石"を拾い、電話口に要請を飛ばす。 「わかったよ。お経みたいな感じの曲を探してやるから今日は我慢してくれ。それよりまた石の操縦頼むぜ。さっきは上昇しか出来なかったけど、電話で細かい指示しながらなら違うだろ」 『契約のパスが繋がってるのを利用して、要石を握るマスターからの信号を受けて適当に操作しただけだもの。こちらからは見えないんだから、それに頼ってるとどんな事故が起きるか分からないわよ』 「そりゃそうだ。うーん……仕方ない。霊体化して、こっちに来てくれよ。一回、サーヴァント戦は二人で見といた方がいいと思ってたしな」 『そうね。アーチャーとバーサーカーなんて相手にするにはちょっと物足りないけど、いい宝具や暴れっぷりを見るのはきっと楽しいわ』 聖杯戦争の本戦が始まった初日に、俺が一人で出歩いたのはこの要石を使った緊急避難が上手くいくか試すためでもあった。 情報を得てすぐ、罠がありそうなところに飛び込んだ勇み足も窮地に作用しなけりゃどうせ役に立たないと思っての賭け。 結果として、要石を遠隔操作して俺の護身や逃走に使うのは無理があると分かった。 さっきの狙撃の際も、俺が狙われていればこの要石は防壁として銃弾の前に飛び出すはずだったが、多分間に合わなかっただろう。 先ほどの場面を生き残れたのは運によるもの。この運に頼るようでは、喧嘩稼業は名乗れまい。 「俺らしくもなくちょっと焦っちゃったかな。ま、切り替えていこーか」 『すぐ行くから、ゆっくりしてなさい』 「ああ……ところでなんか、めっちゃ環境音聞こえるんだけど。家の中にいるんだよね?」 『……』 「ちょっと。ねえ、なんか"とっくとっくと~くとっくしまる"って聞こえるんだけど。遠ざかっていく感じなんだけど」 『それはそうでしょうね。降りて、家に買い物袋を持っていってる途中だから。置いたらすぐ行くからゆっくりしてなさい……あっ、とくしまるが走り出した。ふふん、面白い』 「新宿にもやってきた移動スーパーとくし丸に行ってんじゃねえか!!」 『愉快な音楽が聞こえてきたから窓から覗いたら……なんとスーパーまで出かけなくても買い物が出来る大権能が家の前を走っていたわ』 「走っていたわじゃなくて!! スーパーに行くなってとこじゃなくて外出するなってとこが大事なの!」 チッ、と舌打ちが聞こえた。このセイバー、不良天人と名乗るだけあって性格が非常に悪い。いや悪いというよりはタチが悪い。子供だ。一体何故この俺にこのサーヴァントが……。 チッチッと舌打ちを繰り返すセイバーに戦慄しながら、忘れていた"おつかい"の報告を思い出す。 このまま電話を切ってしまうと経験上、セイバーは約束は守って合流しに来るだろうがかなり不機嫌になっていて報告しても流れてしまう可能性が高い。 おつかいと言っても俺が気になって申し出た事だけに、セイバーの意識がそこから逸れてしまうのは避けたかった。 「まあ、たまにはいいよ」と小さく呟いて(ここで恩着せがましく許可を出すと、さらにこじれる)、「金ももっと渡しとこうかと思ってたし」(これはやや大きめに)と追撃して、セイバーが息を飲むのを確認。 畳み掛けるように、"おつかい"の報告を行った。 「預かった要石、1個だけ新宿駅に沈めてきたぜ」 『ああ、そういえばそんなことするって言ってたわね。どうだった? やっぱり邪魔、入ったかしら』 「今のところは、何の接触もない。俺の勘が外れたか、当たってても様子見されてるか。それとも関心すらないほどセイバーの能力を舐めてるかだな」 『……最後はないわね。十兵衛、言葉には気をつけなさい』 「俺だってセイバーの能力の凄さは信用してるさ。大天使ミカエルみてーなお人だもんな」 本心から、そう発言する。日本に住んでて、地震を甘く見るような奴は救いようのない楽観主義者くらいだ。 その地震を司る神様の手下となれば、比那名居天子を敬う事に微塵の疑問もない。俺個人が実際敬うかどうかは別として、だが。 ミカエルにしては若干胸囲が寂しいセイバーは俺の言葉が満更でもないらしく、「じゃあね」と言ってから電話を切った。 より詳しい返答は、サーヴァント戦を見終わってから一緒に新宿駅に寄れば期待できるだろう。 「あのサーヴァントの言う通り、聖杯戦争をやれと言われて聖杯戦争だけやるのは馬鹿らしいからな」 負けるのは絶対に嫌だが、欲しくもないニンジンを餌に走らされるのは面白くない。 聖杯戦争から生還するにあたって、知らなければならない事は何か? 己が使い魔との最善の関係構築法? 強敵に勝つ為のサーヴァント戦の骨子? 聖杯と呼ばれる物が具体的に何なのか、その正体? 俺の答えは、それら全てに○をつける、だ。その上で、もう一つ付け加えよう。 「黒幕の思惑」 最初からそれが示されている陰陽トーナメントやアンダー・グラウンドとはワケが違う、姿も声も見せない相手の真意を探る。 その為に俺が注目したのが、この新宿という偽りの街。何故、現実の新宿ではいけなかったのか。 わざわざ街の住民をNPCとして作り出し、個々の意思を持たせて活動させる必要がどこにあったのか? 疑問に思った俺は、この新宿を方々歩き回って調べ、俺が知る現実の世界に存在しない要素を探した。 現実になく、偽りの新宿にだけある物を探せば、聖杯戦争を"ここ"で行う理趣も読めるのではないか、との期待を込めた放浪。 見つけたものは多くある。だがその中で最も大きかったのは―――歴史。 「"魔震"。過ぎた事、みてーに謂れているが……こんな震災は、この<新宿>にしかないはずだ」 隠しようにも隠し切れない、未だ傷痕を残す大災害。 このフィールドがそれによって壊滅的被害を受け、復興の目処すら立たない魔界だったのならば、この歴史設定にも意味があるだろう。 聖杯戦争は今よりもっと単純で、人目を気にすることすらない激戦が毎朝毎夜繰り広げられる真の意味での"戦争"となっていたはずだ。 だが、ここ<新宿>は人目では現実の新宿と変わらないほどに復興している。現実と同じように誂えた世界で、"なかった事にした"要素を何故盛り込んだのか。 「聖杯が顕現する、という現実離れした要素を誘発するため。復興させて取繕ったのは"現実離れしすぎないようにするため"だ」 ならば、セイバーの……大地を操る程度の能力で、その隠蔽に―――"魔震"の震源地である新宿駅の地下に―――介入しようとすればどうなるか。 間違いなく、黒幕は姿を現す。明確に禁則としていない以上、建前の罰則ではなく本音の接触をせん、と。 どのような形であれ、その過程を経なければ俺は掌の上で踊らされるだけ。そんな事なら死んだ方がマシ、とまでは決して言わんが……。 「頭を抑えつけられるのだけは、どうにも我慢がならん」 せめて抑える相手の顔は知りたいもんだ、と一人ごち、俺はビルの非常階段を降りはじめた。 【西新宿方面(京王プラザホテル周辺 ビル非常階段)/1日目 早朝8時】 【佐藤十兵衛@喧嘩商売、喧嘩稼業】 [状態] 健康 [令呪] 残り三画 [契約者の鍵] 有 [装備] 不明 [道具] 要石(小)、佐藤クルセイダーズ(10/10) [所持金] 極めて多い [思考・状況] 基本行動方針:聖杯戦争から生還する。勝利した場合はGoogle買収。 1.セイバーと合流する。 2.アーチャー(ジョニィ)とバーサーカー(涼)のサーヴァント戦を見学。 3.聖杯戦争の黒幕と接触し、真意を知りたい。 4.勝ち残る為には手段は選ばない。 [備考] ジョナサン・ジョースターがマスターであると知りました。 拠点は市ヶ谷・河田町方面です。 金田@喧嘩商売の悲鳴をDL販売し、ちょっとした小金持ちになりました。 セイバー(天子)の要石の一握を、新宿駅地下に埋め込みました。 佐藤クルセイダーズの構成人員は基本的に十兵衛が通う高校の学生。 高野照久@喧嘩商売、喧嘩稼業が所属させられていますが、原作ほどの格闘能力はありません。 【市ヶ谷・河田町方面/1日目 早朝8時】 【比那名居天子@東方Project】 [状態] 健康 [装備] なし [道具] スーパーの買い物袋、携帯電話 [所持金] 相当少ない [思考・状況] 基本行動方針:聖杯戦争を異変として楽しみ、解決する。 1.一旦家に帰ってからマスターと合流する。 2.自分の意思に従う。 [備考] 拠点は市ヶ谷・河田町方面です。 時系列順 Back DoomsDay Next 征服-ハンティング- 投下順 Back “黒”と『白』 Next Turbulence ←Back Character name Next→ 00 全ての人の魂の夜想曲 佐藤十兵衛 16 カスに向かって撃て セイバー(比那名居天子) 00 全ての人の魂の夜想曲 ジョナサン・ジョースター 16 カスに向かって撃て アーチャー(ジョニィ・ジョースター) 00 全ての人の魂の夜想曲 ロベルタ 16 カスに向かって撃て バーサーカー(高槻涼)
https://w.atwiki.jp/touhoukashi/pages/5894.html
【登録タグ PresTTTo Reincarnation a-TTTempo さ 曲 笑顔 茶太】 【注意】 現在、このページはJavaScriptの利用が一時制限されています。この表示状態ではトラック情報が正しく表示されません。 この問題は、以下のいずれかが原因となっています。 ページがAMP表示となっている ウィキ内検索からページを表示している これを解決するには、こちらをクリックし、ページを通常表示にしてください。 /** General styling **/ @font-face { font-family Noto Sans JP ; font-display swap; font-style normal; font-weight 350; src url(https //img.atwikiimg.com/www31.atwiki.jp/touhoukashi/attach/2972/10/NotoSansCJKjp-DemiLight.woff2) format( woff2 ), url(https //img.atwikiimg.com/www31.atwiki.jp/touhoukashi/attach/2972/9/NotoSansCJKjp-DemiLight.woff) format( woff ), url(https //img.atwikiimg.com/www31.atwiki.jp/touhoukashi/attach/2972/8/NotoSansCJKjp-DemiLight.ttf) format( truetype ); } @font-face { font-family Noto Sans JP ; font-display swap; font-style normal; font-weight bold; src url(https //img.atwikiimg.com/www31.atwiki.jp/touhoukashi/attach/2972/13/NotoSansCJKjp-Medium.woff2) format( woff2 ), url(https //img.atwikiimg.com/www31.atwiki.jp/touhoukashi/attach/2972/12/NotoSansCJKjp-Medium.woff) format( woff ), url(https //img.atwikiimg.com/www31.atwiki.jp/touhoukashi/attach/2972/11/NotoSansCJKjp-Medium.ttf) format( truetype ); } rt { font-family Arial, Verdana, Helvetica, sans-serif; } /** Main table styling **/ #trackinfo, #lyrics { font-family Noto Sans JP , sans-serif; font-weight 350; } .track_number { font-family Rockwell; font-weight bold; } .track_number after { content . ; } #track_args, .amp_text { display none; } #trackinfo { position relative; float right; margin 0 0 1em 1em; padding 0.3em; width 320px; border-collapse separate; border-radius 5px; border-spacing 0; background-color #F9F9F9; font-size 90%; line-height 1.4em; } #trackinfo th { white-space nowrap; } #trackinfo th, #trackinfo td { border none !important; } #trackinfo thead th { background-color #D8D8D8; box-shadow 0 -3px #F9F9F9 inset; padding 4px 2.5em 7px; white-space normal; font-size 120%; text-align center; } .trackrow { background-color #F0F0F0; box-shadow 0 2px #F9F9F9 inset, 0 -2px #F9F9F9 inset; } #trackinfo td ul { margin 0; padding 0; list-style none; } #trackinfo li { line-height 16px; } #trackinfo li nth-of-type(n+2) { margin-top 6px; } #trackinfo dl { margin 0; } #trackinfo dt { font-size small; font-weight bold; } #trackinfo dd { margin-left 1.2em; } #trackinfo dd + dt { margin-top .5em; } #trackinfo_help { position absolute; top 3px; right 8px; font-size 80%; } /** Media styling **/ #trackinfo .media th { background-color #D8D8D8; padding 4px 0; font-size 95%; text-align center; } .media td { padding 0 2px; } .media iframe nth-of-type(n+2) { margin-top 0.3em; } .youtube + .nicovideo, .youtube + .soundcloud, .nicovideo + .soundcloud { margin-top 0.75em; } .media_section { display flex; align-items center; text-align center; } .media_section before, .media_section after { display block; flex-grow 1; content ; height 1px; } .media_section before { margin-right 0.5em; background linear-gradient(-90deg, #888, transparent); } .media_section after { margin-left 0.5em; background linear-gradient(90deg, #888, transparent); } .media_notice { color firebrick; font-size 77.5%; } /** Around track styling **/ .next-track { float right; } /** Infomation styling **/ #trackinfo .info_header th { padding .3em .5em; background-color #D8D8D8; font-size 95%; } #trackinfo .infomation_show_btn_wrapper { float right; font-size 12px; user-select none; } #trackinfo .infomation_show_btn { cursor pointer; } #trackinfo .info_content td { padding 0 0 0 5px; height 0; transition .3s; } #trackinfo .info_content ul { padding 0; margin 0; max-height 0; list-style initial; transition .3s; } #trackinfo .info_content li { opacity 0; visibility hidden; margin 0 0 0 1.5em; transition .3s, opacity .2s; } #trackinfo .info_content.infomation_show td { padding 5px; height 100%; } #trackinfo .info_content.infomation_show ul { padding 5px 0; max-height 50em; } #trackinfo .info_content.infomation_show li { opacity 1; visibility visible; } #trackinfo .info_content.infomation_show li nth-of-type(n+2) { margin-top 10px; } /** Lyrics styling **/ #lyrics { font-size 1.06em; line-height 1.6em; } .not_in_card, .inaudible { display inline; position relative; } .not_in_card { border-bottom dashed 1px #D0D0D0; } .tooltip { display flex; visibility hidden; position absolute; top -42.5px; left 0; width 275px; min-height 20px; max-height 100px; padding 10px; border-radius 5px; background-color #555; align-items center; color #FFF; font-size 85%; line-height 20px; text-align center; white-space nowrap; opacity 0; transition 0.7s; -webkit-user-select none; -moz-user-select none; -ms-user-select none; user-select none; } .inaudible .tooltip { top -68.5px; } span hover + .tooltip { visibility visible; top -47.5px; opacity 0.8; transition 0.3s; } .inaudible span hover + .tooltip { top -73.5px; } .not_in_card span.hide { top -42.5px; opacity 0; transition 0.7s; } .inaudible .img { display inline-block; width 3.45em; height 1.25em; margin-right 4px; margin-bottom -3.5px; margin-left 4px; background-image url(https //img.atwikiimg.com/www31.atwiki.jp/touhoukashi/attach/2971/7/Inaudible.png); background-size contain; background-repeat no-repeat; } .not_in_card after, .inaudible .img after { content ; visibility hidden; position absolute; top -8.5px; left 42.5%; border-width 5px; border-style solid; border-color #555 transparent transparent transparent; opacity 0; transition 0.7s; } .not_in_card hover after, .inaudible .img hover after { content ; visibility visible; top -13.5px; left 42.5%; opacity 0.8; transition 0.3s; } .not_in_card after { top -2.5px; left 50%; } .not_in_card hover after { top -7.5px; left 50%; } .not_in_card.hide after { visibility hidden; top -2.5px; opacity 0; transition 0.7s; } /** For mobile device styling **/ .uk-overflow-container { display inline; } #trackinfo.mobile { display table; float none; width 100%; margin auto; margin-bottom 1em; } #trackinfo.mobile th { text-transform none; } #trackinfo.mobile tbody tr not(.media) th { text-align left; background-color unset; } #trackinfo.mobile td { white-space normal; } document.addEventListener( DOMContentLoaded , function() { use strict ; const headers = { title アルバム別曲名 , album アルバム , circle サークル , vocal Vocal , lyric Lyric , chorus Chorus , narrator Narration , rap Rap , voice Voice , whistle Whistle (口笛) , translate Translation (翻訳) , arrange Arrange , artist Artist , bass Bass , cajon Cajon (カホン) , drum Drum , guitar Guitar , keyboard Keyboard , mc MC , mix Mix , piano Piano , sax Sax , strings Strings , synthesizer Synthesizer , trumpet Trumpet , violin Violin , original 原曲 , image_song イメージ曲 }; const rPagename = /(?=^|.*
https://w.atwiki.jp/kaeuta-matome/pages/209.html
元ネタ:SAYONARA(さよなら銀河鉄道999 -アンドロメダ終着駅- Mary Macgregor) 作:ヤジタリウス SAREO-san, your peaceful life it s the end SAREO-san, don t be afraid don t feel sad Anyhow, divoece will come And you should face hard truth Keep your cool SAREO-san So your wife she lost her way and she s broken your heart You can t stand it All of your memories were lies Don t worry, would you believe it Your heart will heal little by little Hereafter, you ll live in happiness Not loser SAREO-san, your promise it s shattered SAREO-san, don t suffer distress fight back your tears Even if you might idle your time away you ll make comeback in time You are the man SAREO-san Don t worry, would you believe it Your heart will heal little by little Hereafter, you ll live in happiness Not loser SAREO-san, your peaceful life it s the end SAREO-san, don t be afraid don t feel sad Anyhow, divoece will come And you should face hard truth Keep your cool SAREO-san SAREO-san If your suffering had gone very pleasure would come to you Keep your smile SAREO-san SAREO-san 検索タグ アニメ フルコーラス ヤジタリウス 不倫サレ 銀河鉄道999 メニュー 作者別リスト 元ネタ別リスト 内容別リスト フレーズ長別リスト