約 1,939,095 件
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/6214.html
まだ名前のない私。誰の為でもなく、ただ生きている。 それはなんだかとても楽であり、けれど悲しくもある。 しとしと。 雨が落ちる音。 ふやけたダンボールの居心地は、酷く悪い。 けれど此所――いわゆるコンビニエンスストアの側から離れる事で起こり得る、宿や空腹に対する愁いが私を引き止める。 ――――まぁ、どうにかなるだろう。 そんな程度の悩み。 ほとほと。 毛から水が垂れる音。 「……ねこ」 小柄な女の子が、ぽつりと零す。 ……やば、見つかった。 この雨の中を逃げる気力はないのだけれど、どうするべきだろうか。 先日受けた小さな手足からの様々な暴行を思いだしながら、私は相手を観察する。 澄んだ目をした少女だった。 後ろに背の高い少年を従えて、こちらを見据えていて。 なんだかひどく蠱惑的な手で、傘とビニール袋を握っている。 雨の似合う少女だった。 今が冬ならば、降っていたのが雪ならば、もしかしたら彼女に対して永遠の忠誠を誓ってしまったかもしれない。 綺麗な目をした、人形のような少女だった。 「ねこ」 声も、なかなかに素敵。 「……そうですね、猫です」 初めて声を発した彼。 二枚目なのだろう。人間の美醜の感覚は酷く分かり辛いが。 こちらは、能面のような面立ちだと思った。 好きになれない表情だ。 何かを、腹に隠しているような。 こつこつ。 少女がこちらに来る足音。 「行かないのですか?皆さんきっとお待ち兼ねですよ」 「濡れている」 「では傘を一つあげて、相合い傘でもしましょうか?」 「連れて行く」 「はは、相合い傘はお嫌いでしたか。大変失礼致……」 「飼う」 「……マジですか」 「まじまじ」 あれ、なんだこの可愛い生き物。 胸の奥から突き上げて来る、叫びだしたいような泣きたいような笑いたいような感情。 後に、愛情だと気付くそれ。 「あなたのマンション、ペットは禁止でしょう」 「ばれない」 「いや……、まぁ、ばれないでしょうけど。お世話が出来ないでしょう」 ……そうだろうね。 突然黙りこくる女の子。 この光景を、何度繰り返し見た事か。 謝りながら泣く姿を、幾度此所で見送った事か。 別に、野良だって生きていけるのだから。 私が此所にいるのはあなたの所為じゃないのだから。 そんな顔しなくたっていいのに。 おかしな生き物だ、と思う。 「確かに、困難」 あなたの世話で、手一杯。 そう言って、彼に目を向ける。 照れた顔で、手厳しい……と呟くその言葉に、彼女は逆接を被せる。 それでも。 「あなたと二人でなら、頑張れる」 私には、少女の顔は見えない。 けれど、先程私に向けたような、真っ直ぐな目で彼を見ているならば。 「全く……、適いませんね」 彼の負けは必然だろう。 若人よ、こういう時は折れてあげるものなんだ。 偉いね。 「感謝する、古泉一樹」 「長門さんのお願いなら、仕方がありません」 これは私が名付けられる前のお話。 私のご主人である両名が、絆を深める切っ掛けとなる物語。 そして私の一世一代の、彼らの為の奮闘記の始まりでもあるのだ。 まだ、雨は止まない。 かけられたタオルはふわふわで、花の匂いがした。 「……猫だな」 「そう、ねこ。嫌い?」 「嫌いじゃないが、どこでそんなの……」 大きな建物の中に入った。 此所に住んでいる訳ではなさそうだし、《学校》っていう認識で良いのだろうか。 床に下ろされた私は、木の持つ温もりと初めての接触を果たした。 命ある物にしか宿る事のない、暖かさだと思った。 この部屋にいるのは、先程の両名を合わせて5人。 髪飾りを付けた女の子が、興味深げに私を見ている。 悪い気はしないが、そんなに面白い事もないだろうに何を熱心に見ているのだろう。 人間というのは、不可解すぎる。 「有希、この子どうしたの?」 「拾った」 「あら、一目惚れ?」 「そう」 「素敵ね!みくるちゃん、抱かせてもらったら?」 はぁ、と溜め息を吐く先の彼。 また始まったとぼやくその姿は、なぜだろうか、父親と言う言葉を連想させる。 「ひ、引っ掻きませんかぁ?」 「へいき」 多分、と彼女は添えて、私を手渡す。 あうわーとかひゃわーとか言いながら、私をその豊かな桃源郷へと誘って下さった。 なんたる至福の時間だろうか。上手く言葉で表現できない柔らかさがもどかしい。 こんなに優しく抱かれて引っ掻くなんて致しませんよマドモアゼル! 「おとなしいですぅー」 貴女の笑顔の為ならば髭先一つ動かしませんとも。 「長門、それ飼うのか?」 「そう」 「一人暮らしの高校生にそんな余裕はないだろう。少しでも難しいと思うなら、今返して来い」 あ、やっぱりお父さんだ、なんて確信。 娘にせがまれて、どうしようもなくて断る時の顔してる。 「へいき」 「本当か?」 「大丈夫」 「生き物を飼うのは大変だぞ?」 「キョン、有希が大丈夫って言ってるんだから!」 渋々、と言った所か。 彼は「何かあったら言え」と席に座った。 かぱ、と音がする。 《ねこかん》の開く音だ。 コンビニを塒(ねぐら)としていた時に、よく人間に貰った。 本能のまま私は天国から降りて、美味しい音の方へ向かう。 「わかりますか?あなたの餌です」 うるせぇ早く食わせろと鳴いてみるも、ニヤニヤと私を見下ろすイケメンは微動だにしない。 自分より弱い物にいじわるしたらいけませんって、その年になってもわからんのか。 「古泉、動物虐待はよくないぞ」 「おや、心外ですね。そんなつもりはなかったのですが」 紙皿に開けられた餌を摂取しながら、聞くともなしに二人の会話を流す。 ショートカットの少女は、私を見据えて動かない。 そこはかとなく、こそばゆいきもち。 「いじわるは、駄目」 二人で飼うのだから、と長門が漏らした瞬間、《おとーさん》の肩がぴくりと跳ねた。 「長門、今二人でって言ったか?」 「言った」 「それはあれか、同棲的なあれか」 「違う。通い妻」 「おや、嬉しいですね」 「あなたが、通い妻」 「あ、そうですか……」 ふるふると震える拳を握り込み、同じように震えた声で、《おとーさん》は長門にこう言った。 「長門、いいか?年頃の男女が二人きりで一つ屋根の下なんて、何があっても文句は言えないんだぞ? 早く今すぐ早急に、考え直すんだ」 確かに正論。 ていうか、私も女の子と二人暮らしの方が遥かに嬉しいんだけどな。 餌を食べ終えた私は、この部屋を探索しながらそんなことを思う。 「……いや」 長門は後ろから私を抱き上げ、古泉の腕にすがりついた。 ささやかな天国と野郎の腕との間に挟まれた私は、このサンドイッチに疑問しか感じない。 イヤイヤ期だかなんだか知りませんが、反抗するなら父性を逆撫でするやつじゃなくて、 もっとこう、普通にしましょうよ。 「……長門?」 「いや」 あ、この顔はやばい。咄嗟に首を竦めた直後、少し張りが抜けた声が部室に響いた。 「……っもう勘弁ならん!!!!古泉いいかよく聞け俺は一度も貴様を認めてなどいないからな ていうかこれから一切認めるつもりとかないからな俺の目の黒いうちは長門に指一本たりとも 触れさせないぞ。いいか長門お前も聞きなさいまだ意味が分からないかもしれないが男は狼だ という事を覚えておくんだ隙さえ見せればお前なんか一口!それと古泉みたいな羊の皮を被っ た狼は他より数段タチが悪いぞいいかあいつに近寄っちゃいけません通い妻とかもっと駄目絶 対認めませんだーめーでーすッッ!!!!!」 すっさまじい。世間一般の父親ってこんなふうなの? 息切れを隠さずに古泉を睨み付ける彼に向けられるのは、唖然とした表情だったり、呆れ返った顔だったり。 反応はそれぞれだったけど、みんな同意はしていないようだ。 長門も……、ちょっとすねてるように見える。 「き、キョンくん。そんなに心配しなくても……」 「いいえ、朝比奈さん。まだ俺らは未成年です。不純異性交遊は慎むべきでしょう」 「ばっかじゃないの?あんた頭が昭和のカミナリ親父以上に古いのよ!」 「おい失礼だぞ、ハルヒ!」 少女と少年は喧嘩を始めた。 何やら、痴話喧嘩……いや、夫婦喧嘩と呼んで良さそうな雰囲気ではあるが。 どちらも、笑みをたたえた目が隠せていないのが微笑ましい。 「……ながとさん、今のうちに逃げませんか?」 ちょ、おまえさぁ。 出すのに技術がいるようなウィスパーボイスで彼女に甘く囁く古泉は、殴りたくなるほど楽しそうだ。 でも無言で古泉に鞄を渡し、私を抱く腕に力を込める長門は、もっと楽しそう。 だから、私は大声で鳴いて邪魔してやる事も出来たのに。 長門におとなしく抱かれていた。 「では涼宮さん、すみませんがお先に失礼します」 言うが否やのうちに、長門と古泉は全速力で廊下を駆け出した。 「あ、こら!待てコラこいずみぃぃぃ!」 ごめんね、キョン。 でも、ちゃんと見ておくから。 高校生らしい、不純でない付き合い方をさせますから。 だから、私たち二人と一匹の最初のデート。 どうか、許してください。 長門は、直後に聞こえたキョンと朝比奈さんの悲鳴を聞いて、笑いを噛み殺す古泉を不思議そうに見ていた。 なんだか、肺の辺りに空気が入ったみたいな。 言い表しがたい幸福感が、抜けなかった。 皆様に伺いたい。 物語を読むという行為には、往々にして二つの理由が伴う。 私が思うに、それは快楽と空白だ。楽しいから、暇だから、私たちは本を読む。 何も生み出さない、酷く非生産的な行為。 それは、なんだか生きる事に似ているような気はしないかな? 生きてるのなんて、死ぬまでの間の暇潰しだと嘯いたのはだれだったかと思いながら、私は今日も物語を紡ぐ。 出来る事なら、あなたの胸に何かを生み出したくて。 ――宇宙人と超能力者の恋は、何を生むだろう? 「いやぁー、買いましたね。散財の楽しさって一生理解出来ないと思ってたんですけど、 新しい快感に目が眩みそうです。……でも、本は要らなかったんじゃないですか?」 「最重要」 「あ、そうですか……」 私の一言には三つの言葉で返事する事、とは言うものの、古泉の場合はそれ以上の物があるね。 痛々しいまでの反応されなさ。 さて、ロミジュリ張りのロマンスめいた逃避行の後に、この辺りでは一番大きな商店街に赴いたモンタギュー夫妻は、 私のためと思われる様々な物を買い揃えていた。餌入れとかトイレは分かるけど、首輪はいらないんじゃないか……。 「ぬこさまのきもち」と書かれた雑誌に読み耽る長門を置いて、古泉は淡々と設備を整えて行く。 フローリングはひやりと冷たくて、日陰の路面を思い出す。心地よかった、独りの空気を。 一声、鳴かなければならないような気がした。 「……長門さん、呼んでるみたいですよ?」 「……」 ちら、とこちらを確認して、無表情のまま撫でくりまわされた。 無言で顎をくすぐられるのは、ちょっと怖い。 「これ、そんなに気に入ったんですか?」 「……、そう」 瞬間、視線がかち合った。 そんな綺麗な目で見ないで欲しかった。焼かれてしまいそう。 私にはわからない感情が、彼女の瞳から彼の指先から部屋からしがらみから絆から、流れて。 独りを貫き、弱きを厭い、何も作らぬはずだったのに。 孤独を恐れる心が生まれてしまう。愛を求める心が芽吹いてしまう。 永久を願い、永久を厭う、矛盾だらけの感情が、私の毛先から、爪先から、耳から、沁みて滲んで広がって。 あぁ、この人は。 この人達はこんなにも。 「どうしたんですか、そんなにこちらをじっと見たりして」 ご飯ならまだですよ、と笑う彼は、こんなに近くにいる恋人を恐れている。 自分の好意が染み入って、白雪を汚す事を。 拒絶より、享受を恐れている。 彼女は、それを知っている。 自分から歩み寄る事は彼を追い詰める以外の何者でもなく。 手に触れ言葉を紡ぐ事、それも罪だと恐れてる。 ……冗談じゃ済まされない。 こんな、遠慮と気遣いと優しい嘘に塗れた空間に、私もいなきゃいけない? お断りだね。 何故、恐れる。 進めよ、思う通りに。 何故、触れぬ。 手を握って、体温を、愛を紡いで、言の葉を、伝えようとはしないのか。 そんな歪な恋情、許さない。 そんなに純粋にお互いを思っていながら、実らないなんて。 そんな喜劇はいらない。 「……なんか、長門さんに懐きますよね」 その言葉に、長門はついと目線を向ける。どことなく不機嫌めいた古泉に、すこし驚いているように見える。 一線の、手前。 彼に、僕も構ってくださいと言う勇気はない。 彼女に、それを察する技能はない。 それならば、それならば。 私が、やりましょう。 その一線を越えるための踏切板に、スタートを切る合図のピストルに。 当て馬にも、友人にも、悪役にも成りましょう。 拾ってもらった野良猫の、できる限りの恩返し。 ――幸せにしてやろうじゃないの。 私は長門を見上げて鳴くのを止めない。 こうすると、抱き上げてくれる事を知っているから。 そして目論見どおり、長門は私を抱き、古泉の笑みは引きつる。 よし、食いつけ。 「こらこら、長門さんにそんなに迷惑を掛けてはいけませんよ」 「別に構わない」 いえいえ構いましょうよと、彼は私を奪い取る。 「抱き癖が付くとよくないですよ」 「……これは猫で赤ん坊ではない」 「いえいえ、同じような物でしょう。そもそも、猫と赤ん坊の間には切っても切れ ない深い縁があります。僕ら人間が猫を可愛いと感じるのは、猫の体躯が人間の 赤ん坊と構造がそっくりだからと言う話を聞いたことがありますよ。それに発情 期のあの鳴き声と言ったら……」 必死だな、お疲れさん。 「やきもち」 「ちがっ、違いますよ。猫に嫉妬するほど器小さくないです」 「……本当に?」 いや、そのですね。そう言ってあからさまに目を泳がす。 長門に嘘を吐くのは確かに難しいだろうけど。 いくらなんでも動揺し過ぎだろう。 「猫に、やきもち……」 ユニーク、と彼女は少し楽しげ。 流石にもう言い訳する気力はないのか、黙り込む。 私がこの家の力関係を把握した瞬間だった。 「安心して。今の所、私はあなたで満足」 どこまでも男前な長門だった。 「長門さん……」 どこまでも乙女な古泉だった。 ていうか頬を染めるな、気色悪い。 あれ、ていうかむしろ手助けなんかするまでもないんじゃないか。 ちょっと背中押しただけなのにべたべたイチャつきやがって。 しばいたろうか、古泉。 苛つきながら目を向けた先の二人は、当然のように嬉しそうだった。 古泉は笑みを押さえきれていないし、長門の表情も当社比3%増である。 矛を納める以外に、選択肢はなかった。 不意に長門が手を伸ばす。 白い指先が彼の指と絡み合い、その光景は少し神秘的。 当然の結果として、私の肉球はフローリングと感動の再会を果たす。 そして見上げて思うのも、同じ。 一枚の風景画みたいに、綺麗な光景だ。 「いつでもあなたが一番」 指きり、と彼女は目を真っ直ぐ見て宣言する。 「他の誰にも、靡かない。だから、あなたも」 はい、はい、と相槌を打つ古泉は、繋いだ手に力を込める。 それはまごう事なく、祈りだった。 「ずっと隣にいます」 「浮気なんてしません」 「いつでもあなたを守ります」 「絶対に離しません」 約束です。約束です。 小さな長門に縋る古泉の姿は、信者が偶像に誓言する様によく似ていた。 途方もない願いのように聞こえる、小さな小さな祈りだった。 私はただ、その《指切り》を眺めている事しか出来なかった。 ……あれ、指切り? 「古泉一樹、これと《手を繋ぐ》とは同じ物?」 「行為は同じですが、約束をする時に《指切り》と名前が変わります。お互いの 指を全て絡ませて行うのは恋人同士だけで、普通は小指同士を絡ませます」 「そう」 「少しずつ覚えればいいんですよ。わからない事があって当然です」 「感謝する」 いえいえ、と笑う古泉の顔は曇りなどなかった。 指切り、ねぇ。 本当にあれが指切りなのかどうか、判断する術はないけれど。 それで長門が納得しているのなら、私に文句は何もない。 でも手を結んだままニヤニヤと長門を眺める古泉に、私は彼の脛を蹴らずにはいられなかった。 もしかしたら、宇宙人と超能力者の恋で生まれるものは、端で見ていると否応なく感じるストレスと苛立ちだけかもしれない。 けれどきっと、当事者の彼らはきっと何かしら得るものがあるのだろう。 言葉にできない暖かい気持ち。 それを想像する事しかできない私だけれど。 ただ、祈った。 私に指切りはできないけれど、約束する。 大好きな君達のために、精一杯の努力をしようと思います。 空気は甘く、木々は当然のように青い。 そのように、彼らも幸せであったらいいと思った。 これもまた、途方もない祈りなのかも知れなかった。 今、私は再び学校にいる。 何故だと聞かれれば、成り行きだと言う事しか出来ない。 学び舎に不法進入というのは心擽られるイベントではあるが、しかしながら今現在、私は一匹の猫であり、目眩くロマンスとは無縁の生活である。可愛い女子生徒に声でも掛けようものなら追い出されるのが関の山。据膳食わねど高楊枝、と言う風を気取ってはいるものの、実際悔しくて仕方ない。せめて人の姿であったら誤魔化しようもあるのにと、由無し言を誰にともなく吐き捨てる。 実に実に、不愉快極まりなかった。 事の発端を、私は知らない。 しかしながら朝早くから叩き起こされて、涼宮さんのご所望ですからと無理矢理鞄につめこまれた恨み、いつか必ず晴らしてみせる。 何が涼宮さんのご所望だ。人のせいにして私を苛め倒したいだけに決まってる。 古泉なんて長門に嫌われてしまえ。 ふて腐れて部屋の隅で寝そべっていると、派手な音を立てて扉が開いた。 「やっほぉ……って誰もいないか」 あたしサボりだし、とメランコリックな表情で呟く少女。 って、サボっちゃ駄目でしょうが女子高生。 「みくるちゃんはいないし有希はメールしても反応ないし古泉くんは体育だし……」 なんてつまんないの、と小さな声で呟いて机に伏した。 これって、バレたら弄り倒されるオチか。 四つ足の裏に付くクッションに盛大に感謝しながら、私は見つからないようにそっとドアに向かうが。 「……キョンのばか」 ぴたり、と足が止まる。 なんて面白そうな独り言。 盗み聞く以外の選択肢が見当たらない。 「何よ何よ。お昼にちょっと引っ張って行こうとしたぐらいで、そんな大袈裟に怒る事ないじゃない」 ぶすっと膨れたハルヒは、正直に言おう、私の《どストライク》だった。 辛抱たまらん。 「どうせ谷口国木田あたりと中身ない事ぐだぐだ喋ってるだけのくせに……」 私の誘いを断るなんて信じらんないわ、と表情を曇らせている。 その手には、女の子にしてはかなり大きめな弁当が一つ。見た所、中身は入っていそう。 「もう……」 やってられるかー!と、ハルヒは跳ね起きた。 「何よ!馬鹿!鈍感!なんで弁当箱大きいな、とか昼に誘うなんて珍しいな、とか思わないわけ? 大体私はどうしてあんな奴の事で一喜一憂しなくちゃいけないの?こんなの、こんなんじゃ、こんなのまるで……」 まるで、普通の女の子みたいじゃない、と。そう言って、彼女はまた机に伏した。 独り言と言うには、余りに切なく熱かった。殺人的なまでの、ツンデレだった。 これを黙って見ていなければならないなんて……。 世の中間違っている。 手を差し出したい時に手はない、口を出したい時に声はない。 あるのは毛皮と爪と牙。 ……畜生、と悪態を吐く事さえも冗談になってしまう我が身を恨みながら、私は彼女の足に擦り寄った。 「うわ、ななな何!」 やっぱり訂正。恨んでないです、超役得。ハルヒさんの御足、堪能致します。 「猫?あれ、なんで……」 おい古泉なんでとか言ってるぞおい古泉どういう事ですかコノヤロウ。 「あんた、有希の所の猫ね?なんでこんな所に……」 そういえば私が言ったんだっけ、と毛むくじゃらの塊、つまり私を抱き上げた。 「一人でこんな所にいたの?……もう。古泉くんも有希も叱ってやらなきゃ」 どうやら私は全然ご所望じゃなかったらしい。軽くショック。 「……いいわ。折角だから聞いてくれない?私、愚痴る相手がいなくて困ってたのよ」 「……私は?」 「有希?メールも返ってこないし、忙しいんじゃない? それに、キョンに悪意なしでダイレクトアタックしちゃいそうで怖い、し……。ちょっと、授業は?」 自然に会話に混ざる技術、是非とも伝授して頂きたいのですが、流石にちょっとびっくりします。 長門はまるで部室の備品のように、とても自然に立っていた。 最初からここにいました、みたいな顔して。 「……サボタージュ?」 「なんでそんなことするのよ!ちゃんと出なくちゃダメでしょう!」 「メールが」 「そ、それは昼休み中に済ませるつもりだったのよ……」 長門は窓際にあった椅子をハルヒの真横に持って来て、またも当たり前のように腰を下ろした。 私はいつものように長門の膝の上を独占すべく、彼女の足下に向かう。 「話して」 「うーん……」 「話して」 「メールではそう言ったけど、考え直したらちょっとねぇ……」 長門は私を顔の前まで持ち上げる。 一瞬の浮遊感の後に、望み通り足の上に着地する。 テンションが急上昇するも、何やらいつもとは体勢が違って落ち着かない。 っていうか、人間のように座るのは苦しいから勘弁して欲しいんだけどなぁ。 私の腹を左腕で支えながら、右手で私の前足を握る。 嫌な予感しかしないのに、心の奥で喜んでいる私がいた。 そして、長門は話して、と再度告げた。 ……いやね、長門。 「私は猫」 「え?」 「話して」 「いや、有希は有希でしょう……」 「猫」 「ただの猫に相談なんてしないわ……」 「なんと喋れる猫」 私の手をふらふらと動かす。 「ふーん。名前は?」 「……ねこ」 「え、名前それ?今、適当に決めたんじゃないでしょうね」 「……話して」 声色くらい変えようよ。 ハルヒさん面白がってませんか? 長門で遊ぶのやめてください! 「そうね、有……ねこがにゃって語尾につけてくれたら話すわ」 「わかったにゃ」 「……あ、そう」 さりげなくひどい名前が定着してしまいそう。 いや、それよりも。 にゃって……。にゃって…………。 「成績が上がらないわ」 「あなたの成績はとても優秀にゃ。もし不満なら、更に勉強すべきにゃ」 「友達ができないわ」 「私達はあなたの友達にゃ」 「甘い物が食べたいわ」 「現在、私もあなたも食物を所持していないにゃ」 淡々とした、お悩み教室。 このまま延々と続ける訳にもいかないと思ったのだろう。 ハルヒは躊躇しながら、いつもの笑顔からは考えられないほど、おどおどとした態度で言い出した。 「……きょ、キョンが鈍感なの」 「もっとアピールが必要にゃ」 そうそう、言わなきゃ。 長門にさえ伝えられないのに、キョン相手じゃ喧嘩になるのが関の山だ。 しっかり話して、きっちり悩んで、バシッと告白しちゃいなさい。 どうせ両思いなんだからさ。 ハルヒは何故か、頬を赤らめながら呟いた。 「あ、アピールって具体的には?」 「……胸部を露出するにゃ」 そんなアピールは今時動物でもやらない。 全くもって、けしからん。 は、ハルヒの裸なんて全然本当に想像なんかしてないんだから、勘違いしないでよね! 「有希、まさか古泉くんにそんな事やらされてるの?」 「私はねこにゃ。人間の雄に、強烈にアプローチするために適切だと思われる方法の一つにゃ」 「えっと、ちょっと違うような……」 「恥ずかしがるからいけないにゃ。普通にしてればいいにゃ」 「ただの変態じゃない!」 「いやなら違う方法ですればいいにゃ」 「……キョンはきっと気付かないわ」 「その程度の勇気も出せないのなら、あきらめるべきにゃ」 「そこまで言うの……」 語尾が語尾なので、切迫した感じが見受けられない。 まぁ、ハルヒがそんな感じを狙ったんだろうけれど。 あと、しょうがないからフォローもさせてもらう。 胸部露出騒動は、決して古泉の強制ではなかった。 ただちょっと、お互いの価値観に相違があっただけの、どうしようもないあれでした。 まぁ、このお話は今度にしましょう。 「もー、どうしろって言うのよ……」 ……やれやれ、しょうがないなぁ。 本当はとてもシンプルな答えが目の前にあるのに。 あまりにも単純すぎて、誰の心も引きはしない。 遠回りで、傷つけあって、そうじゃないと楽しくないなんて。 人間の恋愛って、本当に難しい。 「そういう相談には、私よりも古泉一樹の方が向いていると思われる」 「そう、かもね……」 そうだわと、ハルヒは言った。 「古泉くん、男の子だしね。もしかしたらそうなのかも知れない」 「彼ならば、きっとあなたによいアドバイスをくれるはず」 「……聞いてくれてありがとね、有希」 瞳の奥が揺れる。 滅多に見られない、極上の顔だと思う。 自分の在り方を根底からひっくり返されたような、ある種儚げで、空虚な表情。 それでも私は知っている。 その目をした後の長門は、いつもより少しだけ素直。 正しく幼子のように、有りのままを口にする。 「……話してくれて、ありがとう」 思った事を、そのままに。 特に彼女は、言わない感情が多いから。 言葉は、相手の心を深く打つ。 ハルヒも、いつものようにではなく。 月のように、微笑んだ。 お互いに違う形で不器用な、何でもできるもの同士。 惹かれ合う事もあれば、喧嘩だってするんだろう。 それでも願う。 彼女らの間に、障害なんてなければよいと。 いつもこんな風にじゃれあって、仲良くしてくれればよいと。 「そろそろホームルームも終わりかしら?」 「あと三分で終了」 「そう!今日はスペシャルゲストもいる事だし、楽しい活動にするわよ!」 どうやら、思いがけない歓待を受けそうだ。 私は苦しい体勢から脱却し、長門の膝の上で丸まった。 朝っぱらから一人でここにいたのだから、このぐらいの事は許されるだろう。 さて、これは古泉とハルヒの面談もぜひ見物しなければならないと訳の分からぬ義務感に追われながら、私は欠伸を一つした。 束の間の平穏を味わうのだって、悪くはなかろうと思いながら。 「……有希、もう一回鳴いてみて」 「にゃー」 「それ、古泉くん以外の男の子の前でやっちゃだめよ。キョンとかキョンとか」 「……?」 結局一歩も進まないままの、喜劇めいた恋愛相談はこれでお終い。 かみさまの気紛れな暇潰しのお相手は、存外、満更でもなさそうに見える。 これも幸福の一つの形だと、彼女にわかったらいいのにとふと思った直後に、睡魔に敗北した。 瞼の裏に映った長門の顔は、無表情からは程遠く、春の雪のような儚さを持っているような。 そんな気がした。そんな夢を見た、気がした。 「しまって!長門さんしまってください!」 「何故?人間の男性として正常な生殖機能を備えているなら、女性の裸体には恐怖よりもむしろ歓喜を」 「しまってください!!!」 古泉の悲鳴は、ご近所一体に響き渡ってもおかしくないだろう大声量であった。 マンションなのだから、もう少し気を使えと思うのだが、私はそれを伝える術を持たない。 古泉は壁際まで一気に下がり、何も見るまいとぎゅっと目を閉じている。 そんな情けない超能力者に、長門は少しずつ近づいて行った。 説明させて頂く前に、まずは古来の形式に則って自己紹介をさせて頂こう。 吾輩はねこである。名前がねこである。 何処で生まれたものか、とんと見当も付かないが、坂下のコンビニなる商店の近くで拾われた事は鮮明に覚えている。 飼われている身として、飼い主たちに対するフォローをするのは義務なのかもしれない。 そんなあやふやな思いから、この日の思い出を語る事にした。 何度でも申し上げよう。決して、二人とも悪くはなかったのだ。 私が長門の異変に気付いたのは、事件の少し前。 継続的に警鐘は鳴っていたにも関わらず、それはどうやら超能力者の耳には届かない仕様だったらしい。 単刀直入に申し上げれば、長門は悩んでいたのだ。 こと古泉に関して言えば、相談相手は私ぐらいではなかろうか。 いや、ハルヒや朝比奈さんにに相談する事もあったのかもしれない。私には窺い知れないが。 そうそう、長門のお話。 何といっても食欲不振が顕著だ。分量だってカレーライスを2杯ほどになってしまった。 そして一番の変化が読む本の種類。 《あなたを魅力的に見せる30の方法》 《草食系男子のオトシ方!》 《衝撃の告白―同性愛編―》 うん、何これ。 「興奮した?性的な意味で」 「僕ムードとか大切にしたいタイプなんですが!」 「そう、あなたはやはりホモセクシュアル」 「違います。どこでそんな言葉を覚えたん……涼宮さんですか!」 「違うのなら証拠の提示を求める」 「あの、僕たち好意を伝えあった仲だと思うのですが……」 「カモフラージュの可能性を捨て切れない」 「そんなわけないでしょう!」 私が思うに、キョン辺りがぼやいたのを、誰かが面白がって大袈裟にした噂だ。 愚痴る友達は選んだ方がいいという教訓になる。 古泉がホモセクシュアルであると耳にした長門が、一体どのような段階を経て半裸で古泉に迫っているのか。 そこには彼女なりの論理が存在し、私や古泉のごとき下賤の民には理解しがたいものなのだろう。 古泉に盾突く長門。大いに結構ではありませんか。もっとやれ、やっちまえ。 ただ、苦言を呈すべきなのはやはり格好だ。 半裸って何、長門さん! 下は制服って何、長門さん! 「僕、何か悪いことしましたか?」 古泉はマジ泣きだった。彼女が半裸で「お前はホモである」と主張している。 泣きたくなる気持ちもわかるし、針の先ほどで良ければ同情もしよう。 ただし、この異常行動の原因は古泉のそんな態度にこそあった。 「何もしていない」 何もしないから、だめなんだって。 「ですよね!じゃあなんでそんな嫌がらせをするんですか!」 違う、古泉。 嫌がらせなんて言っちゃいけない。長門なりに頑張った、精一杯の愛情表現だ。 それをあんたは、踏み躙って泥まみれにしている。 俯いて黙る長門は、私が今まで見た中で、一番悲しそうな顔。 いつだって、いつだってそう。 こいつらは足りない言葉で全てを伝えようとする。 機微を伝える術を持つ古泉は何も言わず、長門は伝える術を持たない。 誰かが助けてやらなくちゃ、一歩たりとも進めない。 まったくもって焦れったい。私が頑張るしか、なくなってしまうではないか。 そんなことのために拾われたんじゃないはずなんだけどなぁ、と思いながらも、世話を焼かずにいられないのは長門の可愛さ故。断じて古泉などのためではないが、結果として古泉が喜ぶ形になるのが実に実に忌々しい。 取りあえず、その辺にあった衣類を彼女の足元まで引き摺る。 恐らく古泉の物であろう。片付けなんて私にだって出来るのに。 「……着るべき、なの?」 話はそれからにしましょうか、長門さん。 素直に着衣する彼女を尻目に、私は古泉を威嚇する。 「ちょっ、僕は何も悪くないでしょう……」 黙りやがれこのホモ野郎。てめぇのその賢い頭使って、少しは解決策見つけようとしろや。 伝える術を持たない私はただただ思う。 なんで聞いてやらない。 なんで話してやらない。 なんで言ってやらない。 長門が欲しいのは、否定でも言い訳でも慟哭でもない。 女心も把握しないで、どうやって世界なんざ守るんだよ。 「どうしてこんな事をするんですか」って。 (嫌がらせだなんて言いやがって) 「僕があなたにキスもしないのは、正直手を繋ぐだけでもいっぱいいっぱいな程に緊張しているからです」って。 (本当はムッツリなくせに。私にだってそれくらいわかる) 「僕はそれほどまでに、あなたを愛しているのです」って。 (長門が求めないからって、言わなくていいわけないじゃないか) 何もしないで伝わると思うなんて、酷い男だ。確かに、言葉に意味などない。 誰もが薄々、サンタクロースの正体くらいには勘付いているその事実。 それでも、人間には言葉しかないのだから。もっと言葉に対して、真剣かつ誠実でいなければならないと言うのに。 甘えるなよ、古泉。長門に甘えるな。今のままのお前なんて、救いようのない阿呆だ。 こんなんだったら、私が。 この私が、長門を――――。 「長門さん……」 「……何?」 「機嫌を直してはくれませんか?」 「私は今、正常な状態にある」 「じゃあ、どうしてそんな……。そんな顔で泣いているんですか?」 泣かないで下さい、お願いします。 そう言って手を差し延べる古泉は、まるでおとぎ話のおうじさま。 我らが白雪姫に躊躇無く触れて、遠くお城に連れて行ってしまう。 「泣いてなどいない。人間にとって泣くと言うのは声を上げ涙を流す事。私はそのような状態ではない」 羽織ったワイシャツをきりきり握り締めて古泉を見上げる長門の目に、涙は確かに浮かんでいない。 浮かんでなど、いないけれど。 「わかりますよ。あなたが泣いているか、いないかぐらいは。だって僕は、あなたが好きで好きでしょうがない」 しがないヒーローですが、なんて気障ったらしく笑って、長門の手を脆い物を持つようにそっと握る。 「先ほどは取り乱してすみません。どうしてそんな事言うんですか?僕の事、信じられませんか?」 白雪姫の無言のSOSを受け取れなくちゃ、王子でいる資格なんて無い。 私は生きている。あなたのキスを、愛の言葉を待っている、なーんて。 まったく、恥ずかしいご主人共だ。 私はどんなに頑張っても、単なる飼い猫で。 こんな状況にもちゃんと応じられる古泉は、やっぱり根っからのヒーローなわけで。 「もういい」 「な、長門さん……」 そんな、とか言いながら情けない顔を晒すそいつの事でさえ、許してしまう長門だから。 「満足」 「何が?え?」 私は抱き締めて撫でくり回して、応援したくなってしまうのです。 「もういいんですか?疑い晴れました?僕、ちゃんと女性に興味のある人だって、わかってもらえました?」 こいつはやっぱり、まだまだ全然わかってないけど。 ま、長門が認めてるならそれはそれで良いでしょう。 「もう一回、好きって言って」 「……っ、今の誰かに教わったんですか?」 「単なる願望」 「光栄です……」 顔を真っ赤にしながら、隠し切れないニヤニヤを零す古泉のだらしない表情! 前言撤回、長門はやっぱり貴様にはやらん! 私は決意も新たに、爪を出し、古泉の靴下を強く踏んだ。 「好きで、痛!痛い、こら!痛、血が!」 「ユニーク」 今日はこのくらいで許してやろう。一応、長門は満足しているんだし。 だから、私は知らない。背後の男女が小さく愛を囁き、抱き締め合っている事なんて。 今までの埋め合わせかのように、好きだの愛してるだの、ピンク色の声が舞い狂っている事なんて。 所詮は蛇足にすぎない。白雪姫は、幸せなのだから。ドワーフ役にすぎない私には、物語には。 何の関係もないお話だ。 「長門さん、長門さん! 好きですよ!」 「もう良い、分かった」 関係ないんだから、腹も立ててはいけません。 自分に精一杯言い聞かせて、私は情報の取得を止めた。 今日も、平和で何よりです。いや、ほんとに。 吾輩はねこである。名前がねこである。 どこで生まれたか、とんと見当がつかぬ。 ある商店の近くで、珍妙な組み合わせではあるが何かと息のあっている宇宙人と超能力者に拾われた。 二人で飼う、なんて名目で半同棲状態。 まぁ詰まるところ、甘さに当てられっぱなしだ。 と、それっぽい言い回しから始めてみるこの話。 私の大切な日常の事だ。 長門がいて、私がいて、ついでに古泉もいて。 もう私にしか語れない、甘やかな日常。 戻らない毎日。 日溜まりのように幸せな、あの休日の昼間の事。 「古泉一樹」 愛すべき我がご主人、長門が恋人を呼ぶ。 ただし、前文から一般的に想像されるようなテンションとは真逆の、絶対零度の目線と口調で。 今度は何をなさってくれやがりましたか、古泉。 「冷蔵庫の中の私のプリンがない」 「え、あのプリンなくなってましたか?」 「白々しい」 うさん臭い笑顔だ。私はこれがどうにも気に食わない。 笑うならきちんと笑えばいいのに、中途半端に顔を捩じるから泣き顔に見える。 まぁ、そんなことはどうでもいいのだけど。 長門はと言うと、名前を書いたのにと珍しく自己主張。 ちなみに名前を書かないと確実に古泉が食べる。 意外と悪戯好き、と呟く長門のかわい――そうな顔を見たのは一度や二度じゃない。 しかし対する古泉はまだ嘯く。 「名前ですか。書いてありましたね。だから僕は手を付けなかった。 実においしそうでしたけどね、焼きプリン。――――にもかかわらず」 まるで、探偵のように。 見得を切ってから。 「いつの間にか消えていた。 まさにミステリーじゃないですか」 肩を竦め、やれやれというような仕草をしてみせる。 満面の笑みは、そいつを知らなければ確実に疚しい所などないに違いないと思わせるほどにはよく作られていた。 僕じゃありませんよ、みたいな。 嘘つき古泉。私はしっかり見ていた。 ぽんと手を打って、そうですよと悪魔がのたまう。 「ねこが食べたんじゃないですか?」 責任擦り付けやがった、このニヤケ野郎。 長門の罪なら喜んで承るが、野郎、特に古泉からの濡衣なんざ死んでもごめんだ。 と、抗議の意を一言で表現する。 「あなたとねこを一緒にしないで。物理的に不可能だし、この子は利口」 私を優しく撫でる長門。 喉がぐるぐると。 貴様の普段の悪行は、宇宙人様にはまるっとお見通しなんですー。 ざまあみやがれと、見えないように舌を出した。 「僕が食べたという証拠はないでしょう」 「ない。でも状況証拠は十分」 「状況証拠だけでは不十分です。疑わしきは罰せずですよ、長門さん」 む、といつも無口な彼女がさらに無口になる。 黙ってても絵にはなるが、私の好みでない事は確か。 こんな黙り方なら尚更だ。 原因のはずの奴は、疑われたままってのも嫌ですし、と普段通り飄々と言う。 「無実証明、しましょうか」 「どうやっ……」 あ、そう言うオチ? なぜ長門の言葉が途切れたか、聡明な皆さんならもうおわかりだろう。 私や皆さまにとって、かなり腹立たしいことだと言うのが第一ヒント。 あぁ、甘ったるい。見てられない。 長門に抱かれたままだったので、古泉に噛み付くのは容易だった。 「……痛」 それを合図のように離れる二人。シカトすんな、馬鹿泉。 「ねぇ長門さん、プリンの味しました?」 「した。やっぱりあなたが食べた」 「おや、おかしいですね。するはずがないのに」 もう一回確かめてください、だとさ。 あぁ、甘ったるい甘ったるい。砂糖吐きそうだ。 長門が幸せそうだから、許してやりますけどね。 ちょっとどころでなく、腹立つけど。 まぁ、たまになら。 私がお邪魔になってしまうほどの戯れ合いがあるのも、悪い事では。 「……何?」 「可愛いなって思ってたんです」 「……不可解」 幸せそうな二人の顔を見ていると、本当に何もかもどうでもよくなってしまって。 私は外にでも出て行こうかと、ぼんやり思った。 ・・・・・・、本当にたまにだけならね! たまには古泉が攻めだって、長門が「あたしのプリン食べたでしょ!!」って言ったっていいじゃない保守。 さて、梅雨のある日、私は散歩に出る。 私は雨の日が好きだ。何と言っても世界の景色全てが素晴らしい。 世間一般の猫は水を嫌がるらしいけれど、わたしにはその気持ちがさっぱり理解できない。 こんなにも世界が優しくなって人気の少ない午後の日を、外に出ないで過ごす? 人生の、失敬、猫生の半分以上を損している。 雨の素晴らしさとか、何処で爪を磨いだら気持ち良いかとか。 そんな本当にくだらない事柄を考察しながら歩いていると、幼めの二つの声が聞こえてきた。 「あー!ねこだねこ!猫がいるよ、ミヨキチ!」 「本当、雨なのにね。あぁ、びしょびしょ……」 小学生と思しき女子が二人、こっちに来る。 一瞬だけ昔を思い出して身を固めるが、彼らのような人間ばかりではないと日々学んでいる最中だ。 しかも、口調からして心配してくれているようだ。もちろん、わざわざ逃げることはしない。 「おとなしー!すごーい、逃げないよ!?」 「きっと飼い猫だよ、首輪もついてるし」 視界が高くなり、雨の匂いが弱くなる。抱き上げらてしまったようだ。 子供の視線の高さは初体験だが、この景色もなかなか悪くない。 世界が広く、見えない素晴らしい出会いがどこかに転がっていそうな。 希望に満ちた、視界だった。 「風邪引くよ。だめじゃない、おうちにいなきゃ」 どうやら傘に入れてくれるらしい。必要ないのに。 「うちのシャミとは全然違うねー。しゃべんないよ、この子」 「鳴く、だよ。映画じゃないんだから、猫はお喋りしないよ」 小学生女子の、たわいもないお喋りを聞く機会にはなかなか恵まれない。 一言一句逃すまいとは思うが、どうやら彼女らは自宅に向けて歩き始めるようだ。 このまま抱かれている事には何の不満もなく、むしろ望ましい展開ではあるが。 そちらは個人的に歩いた事のない道だ。つまり、帰れなくなる。 名残惜しいけれど、そろそろお別れを選ぶべきだろう。 そう決心をして、飛び降りようとしたとき、私の飼い主の声が聞こえた。 「ねこいた。あっち」 「ようやく見つけた……。ってあれ、一緒にいるの彼の妹ではないですか?」 「わー、古泉君と有希だぁー!」 「知ってる人なの?」 どうやら古泉の口調からして、この元気なポニテっ娘はキョンの妹らしい。 似て……ない気がする。似てるのかもしれないけど、性格が違いすぎる。 人間とは斯様に不可解なものだ。なんでおなじ親から生まれてこんなに違うんだ。 思わず二度見するも、邪気のない笑顔がこちらを見つめているのを確認するだけに終わってしまった。 そして気づく。私がいない間になぜ相合傘をしてるのですか、長門さん? いつもより口角が二ミリほど上にありますね。うれしいんですか、相合傘。 幸せなのはわかるけど、小学生の前なんですから自重するとか離れるとかした方がいいと思います。 そう念じても、まぁ通じるとは思っていない。私の思いに関係なく、抱き上げてくれている彼女は自己紹介をした。 「お兄さんのお友達だったんですか。はじめまして。私、彼女の友達の吉村美代子と申します」 「ご丁寧にどうも。古泉一樹と言います」 「長門有希」 お見合いのような空気だ。 いや、お見合いした事ないけど。 「一方的にですが、お名前は存じておりますよ」 くすくすと、と言えばいいのだろう。古泉は気色悪い笑顔とともに語る。 「彼が、あなたと映画に行った時のことを話してくれたことがあります。 いやいや、お楽しみだったみたいですねぇ。そういえば、その映画のできた背景ってご存知で」 「話が長い。後でいい」 長門にしてはきつい言葉だな、なんて思うけど。 そんな子じゃないのは、私以上に古泉がよく知っている。 いやな顔一つせずに、というか一層笑みを深くした。 「濡れてる」 「え?」 そう、濡れ鼠だった私を抱き上げた彼女、ミヨキチが濡れていないわけがない。 猫の癖に鼠とは、これ如何に。 長門は手早くミヨキチから私を引き剥がし、タオルに包み抱きしめる。 「服、乾かすから、来て」 「有希のおうち? ミヨキチ、行こう行こう!」 「これくらいなら大丈夫ですよ? どうぞ気にしないで」 「来て」 「で、でも」 「来て」 「いらしてくださった方がこちらとしてはありがたいです。 長門さん、頑固ですし、きっとあきらめないですよ」 そういえば忘れていたけど、こいつはそこらの女子なら半分は振り返るようなイケメンだった。 すぐそこですからなんて、にこにこしながら言われたら。 「じゃ、じゃあお言葉に甘えて……」 小学生の女の子なんかイチコロだな、古泉、いやロリズミよ。 そうなんじゃないかと思っていたんだ、うすうすと。 いや、長門がそういう系だとか、断じて思ってないけどね? 「ねーねー、有希のおうちどっちー?」 「あっち」 「あのマンションですよ」 「おっきいー!!」 いまだに相合傘のままの二人を羨ましそうにながめるミヨキチの顔は、ありがちな恋に恋する少女のそれではないように見える。古泉を誰かと重ねているような、長門を自分と重ねているような。決して自分はそうなれないと知っているような。 小学生の女子がそんな顔するもんじゃないと思うんだけど、と懸念していると、ばちりと目が合ってしまった。 本当にごめんね。でも幸せそうだろ、そっとしておいてあげてね、と心の中で呟く。 ミヨキチの叶わぬ恋のお相手を夢想しつつ、自己嫌悪。 あぁ、なぜ私は犯罪者の肩を持たなければならないのだろう。 しとしと、から、ざーざーという効果音に変わりつつある、 低い天の涙を見ながら、私はそんな、捻くれたことを思っていた。 マンションまでは、もう少し歩かなければならなかった。 「服、乾くまではこれを」 「ありがとうございます」 古泉を追い出して、着替えている女の子三人を見つめながら、私は姦しさの欠片もないこの空間、雰囲気を楽しんでいた。有希のお洋服可愛いー、とか、これ、どこで買ったんですか、なんて普通の女の子みたいな会話を、ちゃんと成立させている。いささかぶっきらぼう感はあるけれども、丁寧に答える長門に安堵して、孤独にされた古泉でもかまってやるかと部屋を出ようとすると。 「お、おねえさん……」 ミヨキチが大変言いにくそうに不具合を訴える。 「せっかく子供時代の服出してもらって悪いんですけど……ちょっと、きついです」 おなかは見えてるし袖も足りていない。 少しだけ、胸囲も足りていないかもしれない。 確かそれは、今現在、長門が部屋着としているもの。 子供時代の服なんかではない。 それってつまり……、そういうことだ。 「なら、こっち」 情報操作を施したんだろう、彼女にぴったりのサイズの服を出す。 「すみません、ありがとうございます」 恥ずかしそうに言うミヨキチには、悪意の欠片もなかった。 そう言っておこう。思っておこう。じゃなきゃ困る。すっごく困る。 いや、て言うかミヨキチの発達が素晴らしいだけだし。全然、長門とか普通だし。 寂しそうな目で部屋着を見つめる長門から、変な色をしたオーラが出ているような気がした。 みんなでお茶を飲んで、小学校の話をしたり聞いたりして。 そんなまったりした午後は、乾燥機の音を合図として終わった。 「帰れますか?送りますよ」 「だいじょーぶっ!ありがとー、古泉くん!」 「何から何までお世話になってしまって、すみませんでした」 「いい。ねこを見つけてもらったお礼」 言っておくが、私は別に迷子になってたわけじゃない。 飼い主ってのは本当に勝手。そもそも野良だったんだから、心配など無用なのに。 ばーいばーいと傘を振る彼女と会釈をして前を向くミヨキチに、私の手をもってそれをぶんぶん横に振る長門。 そんな小技を仕込んだのはきっと古泉だろう。あとでしばく。 その小さな背中が見えなくなるまで、長門は読めない瞳で彼女たちを見つめていた。 小さなお客さま方のお見送りが終わり、私たちは部屋に戻る事となる。 マンション内で誰ともすれ違わなかったのは、時間帯のおかげだと信じたい。 まず、口を開いたのは長門。 「古泉一樹」 「なんですか?」 「私は今、とても傷ついている」 「……一応、理由をお聞かせ願えますか?」 「服」 「はぁ。服ですか」 「彼女の丈と合わなかった」 「そういうこともあるんじゃないですかね」 かなり珍しいケースだと、思いますけどね。 成長期真っ只中、五歳差と言えば結構な体格差が出て当然だ。 いろいろ、思うところもあるだろう。 「悔しい」 「あの、サイズは人それぞれですし、大きければ勝ちというものでもないですし」 「胸囲が」 「そんなの、関係ないですよ」 「でも、大きいほうが。生物学的に考えても」 「……いいんです、長門さんなら」 時が止まった。 あまーーーーぁい、とか叫んでやろうかと思った。 「恥ずかしい台詞」 「本当の事を言っているだけですよ」 まて、古泉。近い。よるんじゃない待て。長門に近いぞ。顔が近い! 「悩まないでくださいよ、そんなことで。長門さんがどんなスタイルだろうと、どんな性格だろうと、どんな顔だろうと。僕は、長門さんが長門さんだからそばにいるんです。離れたりなんか、しませんよ」 してあげません、とか。 二人の表情がフォンデュのように蕩けていくのが目視出来た。 「……買い物行く」 「あ、照れてます?」 「どちらかというと、あなたのほうが照れてる。顔真っ赤」 「慣れてないんですよ、それだけです。ところで、買い物ほんとに行くんですか?」 「顔の真っ赤なあなたを連れて練り歩く」 「誰かに見られたらどうするんですかっ! 僕が必死に作り上げてきたキャラクターが!」 「スリリング」 もう、長門さんは! と言って長門を抱きしめる古泉。 長門がいまだふぐふぐ言ってるけど、正直くぐもってしまって聞こえない。 聞こえなくて正解だったんだと思う。これ以上は、胸やけを起こしてしまう。 あぁ、どいつもこいつもいちゃこらいちゃこらしやがって。 梅雨だって言ってるだろ。恋人たちの季節には遅すぎて、刺激的な季節にはまだ早いんだ。 独り身の悲しさを霧散させるためには、罵倒をするしか方法はないのかと、天を仰いだ。 見事な夕日だった。 空がオレンジに染まって、小さく千切れた雲が形容しがたい色に染まっている。 こんな夕日を見るのは初めてだった。世界の終わりのような、荘厳さを持っていた。 一瞬だけ、ほんの一瞬だけ。 何もかも忘れて、この空気に溶けてしまいたいと願った。
https://w.atwiki.jp/reina5001/pages/144.html
1. 名無し募集中。。。 2011/06/28(火) 00 35 07.87 0 例外は無いはず 4. 名無し募集中。。。 2011/06/28(火) 00 37 35.40 0 〇〇ちゃ〜ん!!!!!って鼻息荒くして叫んでるキモヲタのやることですから 5. 名無し募集中。。。 2011/06/28(火) 00 38 55.59 0 小春「妄想人がいる(笑)」(まもなくコメント欄閉鎖) 6. 名無し募集中。。。 2011/06/28(火) 00 39 21.97 0 そりゃおっさんどもが無理に十代そこらの女の子に合わせた文章かくとそうなるわな 7. 名無し募集中。。。 2011/06/28(火) 00 41 17.33 0 ヲタが書いてんだぜ当たり前だろ 9. 名無し募集中。。。 2011/06/28(火) 00 41 47.28 0 さも知り合いであるかのような体で書かれてるからじゃないの 11. 名無し募集中。。。 2011/06/28(火) 00 52 07.27 0 キモヲタしか書かないだろあの文章は 12. 名無し募集中。。。 2011/06/28(火) 00 52 57.84 0 ○○ちゃんは頑張ってるからどうのこうの書いてるけどお前そいつの何を知ってんだよ 20. 名無し募集中。。。 2011/06/28(火) 03 01 19.84 0 12 それあややが言ってたわ 19. 名無し募集中。。。 2011/06/28(火) 02 58 37.81 0 数人に一人は長文がいるよな アイドルの気を引こうと必死な長文 読まねーっての 22. 名無し募集中。。。 2011/06/28(火) 03 04 04.57 O コミュ障ばかりなんだろキモオタは 俺は〇〇ちゃんをうんたらかんたら〜 俺は〜 こんなのチラ裏でっせ 23. 名無し募集中。。。 2011/06/28(火) 03 04 49.70 O ○○ちゃん(^_^)☆ 応援してるよ☆ヽ(▽⌒*) 27. 名無し募集中。。。 2011/06/28(火) 03 13 41.67 0 一番気持ち悪いのは上から目線のやつ 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/sdvx/pages/10552.html
いでぃおで結構!/ 諸星なな feat.加藤はるか 「BEMANI PRO LEAGUE -SEASON 2-」配信#4(レギュラーステージリーグ戦 第7・8試合) エンディング曲 Lv CHAIN 譜面属性 BPM TIME Version Genre Illustrator Effect NOVICE 04 0511 151 EG66 FLOOR スティンガー サイバーガスタンク ADVANCED 12 0800 EXHAUST 14 0971 MAXIMUM 17 1781 + 難易度投票 NOVICE 選択肢 投票数 投票 詐称 0 強 0 中 0 弱 0 逆詐称 0 ADVANCED 選択肢 投票数 投票 詐称 0 強 0 中 0 弱 0 逆詐称 0 EXHAUST 選択肢 投票数 投票 詐称 0 強 0 中 0 弱 0 逆詐称 0 MAXIMUM 選択肢 投票数 投票 詐称 0 強 0 中 0 弱 0 逆詐称 0 攻略・解説 譜面・楽曲の攻略についてはこちらへどうぞ 見辛さ解消の為に改行や文頭の編集、不適切なコメントを削除することがあります 名前 コメント ※文頭に[ bgcolor(#aaf){NOV}]、[ bgcolor(#ffa){ADV}]、[ bgcolor(#faa){EXH}]、[ bgcolor(#888){MXM}]をコピー ペーストすると見やすくなります コメント 楽曲やイラストなどのコメントについてはこちらへどうぞ 名前 コメント すべてのコメントを見る
https://w.atwiki.jp/83452/pages/12893.html
梓「私が大人の世界に足を踏み入れてから3ヶ月が過ぎた夏の日の夜9時。とあるマンションの803号室。 大学生活にも慣れ始めて先輩達からサークル加入の許可も得た。一年以上のブランクを経て、放課後ティータイムは復活した。 まだライブはやってないけど、高校時代より幾分か熱心に練習に取り組む私達。 先輩達は色々な人との触れ合いを通して音楽に対する取り組み方が変化したみたいだ。私がびっくりするくらいに。 でも根底の部分は変わっていない。ミーティングと称したティータイムはいまだ健在で、その緩み切った空間は外野を寄せ付けない。 呆れるべきなのか喜ぶべきなのか。悔しいことに喜びの方が大きいみたい。 自室でレポートと格闘している今も頭から放課後ティータイムが離れない。期末試験も近いのに、こんなんじゃあの人に説教できるご身分じゃないや。 頬を軽く叩いて気持ちを切り替えようとしたところで玄関のチャイムが鳴った。こんな時間にこの部屋を訪ねる人は一人しかいない」 唯『こんばんは~、お時間よろしいでしょうか~』 梓『新聞なら間に合ってまーす』 唯『宅配ピザ持ってきましたー』 梓『頼んでませんよ。きっとお隣さんと間違えたんじゃないでしょうか』 唯『お隣さんはお留守みたいでーす』 梓『へー。お姉さんはどこぞをほっつき歩いているのかもしれませんが妹さんはどうしたんでしょうか』 唯『J.S.さんにレポートの応援を要請されたそうでーす。明日提出だそうですがおたくは大丈夫でしょうかー』 梓『たぶん私が取ってない科目ですよ。私は明後日提出のレポートを仕上げているところです』 唯『あら。お邪魔だったかしら?』 梓『もうすぐ終わりますけど……。あなたもレポートや試験勉強で忙しいんじゃないですか?』 唯『さっきまでやっていたのですが……栄養失調で倒れそうなんです。至急このドアを開けてもらわないと生き倒れてしまいます』 梓『それは困りますね。人の部屋の前で寝られては非常に困ります」 唯「たくはいびんでーすっ!」 梓「こんな大きな荷物受け取れませーん」 唯「はかどってるかね、あずにゃん」 梓「ええ、5分前まではすごく」 唯「そんなこと言って、実はバンドのことが頭から離れなくて勉強に集中できなかったとかだったりしてー」 梓「……唯先輩じゃないんですよ」 唯「これは失礼しました」 梓「それで、何の用ですか」 唯「うん。実はね……」 梓「はい……」 唯「トンちゃん分が足りなくなってたんだよ~。お久しぶりトンちゃ~ん」 梓「そっちですか」 唯「おっと、こっちがよかったかな」 梓「いえ、全然」 唯「素直じゃないんだから~」 梓「さてトンちゃん、餌の時間だよ~」 唯「私があげるよ~」 梓「加減してくださいね。……はい、それくらい」 唯「もっと食べたいんじゃない?」 梓「これくらいが適量なんです!」 唯「ご、ごめん……」 梓「用が済んだなら帰ってください。全然勉強進んでないんでしょ」 唯「進んでるよ。見て。レポートと試験対策ノート」 梓「……誤字がいっぱいです」 唯「あれ」 梓「大学に提出するレポートに『あずにゃん』という単語が入ってるのはおかしいと思いませんか」 唯「ありゃ……ボーっとしてたかな」 梓「それと、カラフルにまとめるのはいいんですけど、これ自分でも読めるんですか」 唯「読めるよ~。えっと、7003年、目木径斉はみぞゆうの危械を……」 梓「しょうがないですね。手伝いますよ」 唯「面目ないです」 梓「お茶です」 唯「お、ありがとー」 梓「ひと段落ついたみたいですね」 唯「あずにゃんのおかげだよー。ありがと」 梓「こんな調子でよく一年もちましたね。澪先輩達に手伝ってもらってたんでしょうけど」 唯「そうなんだけどね。去年は一人でもある程度はできたよ」 梓「何で今年は駄目になっちゃったんですか」 唯「うーん、まずはこの暑さがね」 梓「確かに今年は例年になく暑いですね。でもそんなこと言ってもしょうがないですよ」 唯「もう一つの理由。これが大きいと思うんだ」 梓「何ですか」 唯「ズバリ! あずにゃんのせい!」 梓「はぁ?」 唯「あとは憂のせい! あずにゃんと憂が来てから私はすっかり安心しきっちゃって、思う存分だらけられるようになったんだよ」 梓「私と憂は引っ越した方が唯先輩のためになりそうですね」 唯「嘘です。言い訳です。ちゃんとします」 梓「少し操縦を誤ったら簡単に谷底に転落しそうな人ですね、唯先輩は」 唯「上手く操縦してね、あずにゃん」 梓「私には荷が重いです」 唯「あずにゃんの方も済んだかな」 梓「ええ。今日の分は終わりました」 唯「それじゃあ……」 梓「嫌な予感……」 唯「映画見よっ」 梓「やっぱり」 唯「TSUYOSHIで借りてきたの。これ見たことある?」 梓「ないです。有名な作品だってことは知ってますけど」 唯「私も名前だけは聞いたことがあったから興味本位で借りてみたんだよ」 梓「長そうですね」 唯「うん、確かに長いね」 梓「もう遅いですからまた今度でいいじゃないですか」 唯「明日返却なんだよ~」 梓「どうしてこんな時期に借りるんですか」 唯「今までずっと貸し出し中だったからつい」 梓「はぁ、明日が休みでよかったですね」 唯「やったぁ。じゃさっそく。うわぁ、いいテレビだね。映像きれい」 梓「……唯先輩。唯先輩!」 唯「んん……むにゃ?」 梓「終わりましたよ」 唯「おおっ。面白かった……ね?」 梓「内容覚えてますか?」 唯「うん、幾多のすれ違いの末二人は結ばれ……」 梓「結ばれませんでしたね」 唯「うん。そうだったね」 梓「長々やってましたけど、結局のところ二人が素直になれなかった、ってだけの話のように思えますね」 唯「もったいないねー。愛し合ってたのに」 梓「ほんとですね」 唯「でも、主人公とヒロインの話よりヒロインと女中さんの話の方が面白かったよね」 梓「そうですか?」 唯「すごくいい関係だと思わなかった? 自分のご主人様であるヒロインに遠慮なく小言を言う女中さんと、それを無視したり反発したりしながらも結局言うこと聞いちゃうヒロイン」 梓「本当の親子以上にお母さんと娘みたいでしたね」 唯「うん。わがままで周りを振り回してばかりなのに、いつも自分の傍にいて世話してくれたお母さん代わりのおばさんには頭が上がらない。こういうの何て言うんだっけ……もえる、よね?」 梓「確かに微笑ましい関係ですね」 唯「女中さんの出番が減ってきたから終わりの方は寝ちゃったよ」 梓「極端な人ですね。他にも見所はありましたよ」 唯「でも女中さんがいないとつまんない」 梓「一応最後の方も出てはいましたよ、女中さん」 唯「結局どうなったの? 女中さん」 梓「どうって?」 唯「ヒロインとの関係は? そのまま?」 梓「ええ、ヒロインにずっとお仕えするみたいでしたけど」 唯「そっか。うん、それでいいんだよね」 梓「何を期待してたんですか」 唯「うーん、えっとね。もう少し踏み込んだ関係にはならないのかなーって」 梓「踏み込んだ関係ってどういう関係ですか」 唯「私にもよくわかんない。ただ、あれだけ一緒にいて、信頼し合っていても全く関係が変わらないってちょっとさみしいかなーって」 梓「身分も歳もまるっきり違うんですからしょうがないです。それに女同士なんですから。あれが最高の関係だと思いますよ」 唯「そうだよね。ごめん、変なこと言って」 梓「いえ、そこまで変じゃないと思います」 唯「そうかな。ならいいけど。……うぅ」 梓「唯先輩?」 唯「おなか、ペコペコだよ……」 梓「私もです。カップ麺でも食べますか」 唯「おぉ、すまないねぇ。遅くまで付き合わせて、その上お夜食までいただいちゃうなんて」 梓「いいですよ。面白かったですから。○ちゃんでいいですか」 唯「うん、赤いき○ねだね」 梓「私は緑のた○きを。アイスもありますよ。カップ麺の後に食べましょうか」 唯「大盤振る舞いだ。なんかあずにゃんってさ」 梓「あの女中さんに似てる、ですか」 唯「ばれちゃった」 梓「生憎私は唯先輩のお母さんでもなければ奴隷でもありませんよ」 唯「わかってるよ。私もお嬢様でもなければ悲劇のヒロインでもないからね」 梓「そうですね。でも……でももし私があの物語の女中だったとしたら」 唯「どうなるかな」 梓「私だったら……欲におぼれるかもしれないですね」 唯「欲におぼれる?」 梓「唯先輩の言う『踏み込んだ関係』を目指すかもしれません」 唯「あずにゃんが?」 梓「変ですか?」 唯「変じゃないよ。でもイメージできないや」 梓「私、物事に優先順位をつけるのが苦手なんです。できることなら目の前にあるもの全部手に入れたいと思ってしまう」 唯「不器用なんだね」 梓「未熟なんですよ」 唯「ううん。誰だってそういうところはあると思うよ。私だって」 梓「唯先輩も?」 唯「私だって好きな人とはずっと一緒にいたいって思うもん。特別な関係になれるならなってみたいって思うもん」 梓「もし唯先輩があの物語のヒロインだったら男主人公の立つ瀬がないですね」 唯「いいじゃん。そっちの方が面白そうだよ」 梓「唯先輩が将来映画監督になって女中さんメインのスピンオフを制作したらどうですか」 唯「スピンオフって何?」 梓「わからないならいいです。カップ麺できましたよ」 唯「ありがとー。いただきます」 梓「召し上がれ」 唯「あっちっち」 梓「もう、気をつけてくださいよ」 唯「えへへ、お腹がすくとつい、ね」 梓「いやしんぼですね、唯先輩は」 ――――― 梓「真夏の太陽が笑顔でこんにちはする8月21日。 私達はガラガラのバスの後方を陣取っていた。目的地は海。 律先輩、澪先輩、ムギ先輩、憂、純、ドラ美、鍵子、軽音部の新入部員二人、そして私と唯先輩の総勢11人。他の乗客はお婆さん2名。 今年の合宿はムギ先輩の家の別荘ではなく一般の旅館に泊まることになった。 後ろからは律先輩が今後の予定を提案する声が聞こえる。私は寝たふり。 律先輩やら純やら鍵子やらが私に声をかけてきても寝たふり。 別に面倒だから寝たふりをしているわけではない。律先輩ならこの大所帯を取り仕切ってくれるという信頼の表れだ。 リーダーは一人でいい。 もう一つ理由を挙げるとすれば……声を出したら肩にもたれかかるこの人を起こしてしまいそうだから……」 梓(午前中は遊ぶぞー、って例年通りですね、律先輩。と言いつつ夕方まで遊ぶであろうことは目に見えてるけど) 唯「…すー…すー…」 梓(新入生がビビってるのが声だけでわかる。彼女達からしたら大学2年のOGなんて中学校の生徒指導の先生並みに畏怖すべき存在に違いない) 唯「…むみゃぁ…」 梓(ムギ先輩と澪先輩は美人で近付きづらいし律先輩はドラムのパワーアップのためなのか前より若干がっしりした体になった気がする) 唯「…ん…」 梓(……唯先輩は別か) 唯「…ぃ…」 梓(でもこの合宿が終わる頃には先輩達とあの子達も打ち解けているだろう。だって軽音部なんだから) 唯「…ぐびー…」 梓(憂が言うには唯先輩が昨夜布団に入った時刻は10時らしいけど……) 唯「…すん…」 梓(肩がしびれてきた) 唯「…ぅ…」 梓(なんかお婆さん達がこっちを見てる) 唯「…ふ…」 梓(騒いですみません。うるさいようでしたら注意しますから) 唯「…ぁ…」 梓(ものすごい笑顔で見られてる……) 唯「…じゅ…」 梓(私達って周りの人の目にはどんな風に映ってるんだろう) 唯「…にゃん…」 梓(そろそろ起きてください) 唯「だ~る~い~。ま~ぶ~し~い~」 梓「寝過ぎなんですよ。しばらく休んでたらどうですか」 唯「ダメだよあずにゃん。こんなきれいな海を前にしたら、私、もう、我慢できない!」 梓「転びますよ~。待ってくださ~い」 唯「新入部員①ちゃんその水着かーわいいっ」 梓「唯せんぱーい。嫌がってますからよしたらどうですかー」 唯「あ、あずにゃんも今年はついにセパレートなんだ」 梓「今気付いたんですか。まあ大学生ですからね。さすがに去年までのはちょっと……」 唯「でもあんまり成長してな……ぶべぇ!?」 梓「すいません、手が滑りました。このビーチボール磨き方が足りませんね。ズルズル滑ります」 唯「ビーチボールは磨くものじゃないよ……」 梓「そうですね」 唯「あ、新入部員②ちゃん、水着のお尻破れてるぅ~。あはは、うそうそきゃうんっ!」 梓「あ、ムギ先輩がネットを用意してくれたみたいですね。みんなでバレーしましょうか」 唯「うん……そうだね……」 梓(負けたチームが昼食をおごるという罰ゲームを設けて、第一回軽音部対抗ビーチバレー大会が始まった。チーム分けは、澪先輩、唯先輩、憂、ドラ美、新①、新②チームと律先輩、ムギ先輩、純、鍵子、私チームで分かれたのだが) 唯「とぉっ! あれっ?」 梓(唯先輩は置いとくとして、澪先輩と憂のコンビネーションが意外にもぴったりハマっていた) 唯「うぉっと」 梓(ドラ美と新①、新②も運動が得意のようで、そつのないプレーを披露した。一方私達のチームは……) 唯「憂、澪ちゃん、ナイス!」 梓(運動が比較的得意なのは律先輩だけ。しかもチームとしてのまとまりも向こうと比べるとイマイチ) 唯「あ……」 梓(しかし私達だってみすみす昼食をおごるつもりはない。穴は徹底的に突くのが勝負の定石だ) 唯「いいよいいよドラちゃ~ん!」 梓(それでも点差はなかなか縮まらず律先輩はタイムアウトを取った) 唯「みんなこの調子!」 梓(罰ゲームなんて関係ない! このままで終わるのは悔しいじゃないか! あっちの真面目軍団(一人を除く)の鼻を明かしてやろうぜ! 律先輩は熱く檄を飛ばす。私とムギ先輩はどちらかといえば向こう側の人間だと思いたいものだが) 唯「みんな!もう一息だよ!もうひと踏ん張りでタダ飯にありつけるんだよ! ハンバーグもオムライスもスパゲティもパフェもドリンクも好きなだけ頼めるよ! 前部長さんと前々部長さんは太っ腹だからねぇ~」 梓(いえ、今月はピンチです。というか何で唯先輩が円陣の中心にいるんですか。キャプテン気取りですか) 唯「さぁ行こーか」 梓(15対18……。21点先取した方が勝ちであることを考えると中々厳しい。でもこのまま諦めるつもりはない。チームフリーダム(律先輩命名。私も含まれるんですか?)は諦めない) 唯「ほっ」 梓(!? 唯先輩の動きにキレが……。そうだ。この人の上達の速さを侮ってはいけなかった。でも負けるわけには) 唯「さぁもう一点だよみんな!」 梓(19対20……。通常のバレーのように2点差がつくまで試合を続けるタイブレーク方式だからまだ望みはある) 唯「ふおおおおおおおお!」 梓(間の抜けた叫び声ですね! 万事休す!です……) 唯「いくよあずにゃぁぁあぁあん!!」 12
https://w.atwiki.jp/hosyoku/pages/220.html
ドサドサッ 乱暴に投げ出されたあたしは暗い闇の向こうで閉じられる扉を見ていた 体は満足に動かない と、いうか動いているほうがおかしいくらいだ お腹は無残に切り裂かれて、内臓を食べられた空洞が口をあけている そんなに大きくなかったけどあたしにとっては大事な胸もなくなっている 太腿はかじられて骨が見えているし、お尻の肉もない あたし…これからどうなるんだろう… 「いつもながら乱暴よね。レディに対する扱いじゃないよね」 声が聞こえるほうにゆっくりと首を回した 残った部分は動くらしい。生命の神秘…といっていいのだろうか そこにいたのは内臓をはみ出させた手足のない女の子がいた あたしがこんな姿でなければ見た瞬間に吐いてしまってしまっていたかもしれない いまのあたしも似た様な姿だし、第一吐くための胃もない。 「あなたは?」 半分わかっている答えを聞く 「あなたと同じよ。わかってるだろうけど。ちなみにあたしはれっきとした人間の女子高生だったの。 一週間ほど前まではね」 あたしも女子高生… だったというべきなのだろう。この子の言葉に従うなら 昨日下校中に後ろから何者かに襲われて、攫われた 薄れ行く意識の中で、誘拐?それともレイプ?とかいろんな考えが頭に浮かんだけど まさかそれらよりもっと酷い目に遭うなんて思わなかった。 意識を取り戻したあたしは全裸のまま皿の上で縛られていた 胸はピンク色のソースやクリームでデコレーションされて お腹も股間にも綺麗な果物やクリームが塗りつけられていた お尻がひんやりすると思ったら大きな野菜の上に寝かされていた 首を回すと、そこには巨大な嘴を持つ怪物があたしに嘴を向けて… 「で、あちこちついばまれてこうなったと…」 あたしの身の上を聞きながら内臓をブラブラさせている女の子は由子というらしい 同じ高校だったことは話の中で知った 「何でもあたしのとこの学校、定期的に生徒を怪物に売ってるんだって。 で、そのかわいそうな犠牲があたしたちってわけ」 そういえば、入学したときにいたのに思い出せない生徒がいたような… 「攫われるとともに周囲の記憶をいじっちゃうみたい。 多分、他のクラスメートからはあなたはそんな存在になっているはずよ」 そういわれると妙に悲しくなった 友達もお父さんもお母さんもあたしのことはなかったことになっているのか… ふいに涙が出そうになる 「あー、泣かない泣かない。あたしたちみんな似たような生い立ちなんだし。 それにしてもあたしは同じように攫われたのになんで手足だけだったんだろ お腹なんかちょっとついばまれただけで捨てられちゃったし」 「だから言ってるじゃない。あなたのお肉不味そうなんだもん」 下から声が聞こえる 首だけの女の子がしゃべっている構図にはもうなにも感じない なれちゃうもんだなぁ 「あたしはプロポーションもよかったからこうやって全身食べられたのよ しかも、おいしく料理してもらってたのもおいしく食べられるのも じっくりみせてもらってさ」 自慢げに語るけど、首だけになっているからどこかユーモラスだった 「ちょっと、あたしの胸だっても少し待ってくれたら大きくなったのに さっさと食べちゃうほうが悪いってだけよ。あいつら女を見る目ないんだから」 必死で主張する由子がおかしくてついふき出してしまった。 「あら?あなたも、けっこう食べられてるじゃない。 ほら、この子くらい綺麗だとおいしく食べてもらえるんだって」 「そ…そんなことないわよ。あたしのときはたまたま調子が悪かっただけかもしれないし… 第一、あたしってホラ、足も手もスラリとしてたからそこは綺麗に食べてもらったんだって」 「どうだか?ガリガリだから出汁にでもされたんでしょ?」 「ちょ…ムカツク!あなただってたまたま首を切り離して料理されただけで 胴体はその辺に転がってるんじゃないの?ほら、あのロクに食べられてないのとか」 あたしを無視して応酬を続ける二人 「ああ、またあの二人始めたのね」 そういってくる娘が近づいてくる あたしと同様に胴体が空洞になっていたが、残った手足や胴体は キツネ色に焼けていて、網目状の焦げ目があった 「あたしは見てのとおりバーベキューにされたの。 みんな料理されても食べられても残った部分は動くし死ぬことも出来ないから こうやってお互いの味について語り合うしかないのよ」 彼女の顔に覚えがあった 「…やっぱり忘れたのね。麻理よ。中学から一緒だった」 その名前で消えていた記憶が蘇った 「麻理?あなたも…」 そういって再び内臓の消えた麻理の体を見て口ごもった いつのまにか記憶から消えていたのに、こんな形で再会するなんて… 「あなたの姿を見た途端、懐かしくなったのよ。 あたしなんか気がついたときには全裸で縛られたところに 変な調味料を塗られてから首だけ出して大きな釜に入れられたの ゴウゴウ焼ける釜と焼かれる体…あの時はこれで死ぬんだとか思ったけど なかなか死なないのよね」 結局焼かれた体を食べられることになったのだそうだが 「食べ終わった後、こんな状態になった体がお皿の上に残るのって 寂しくて仕方ないのよ。どうせなら全部食べて欲しかったくらい」 それはあたしにも覚えがあった。ようやく食べられるのをやめてくれたと思う反面 残された自分がどうしようもなく惨めになった瞬間だった 「あたしたち、どうなるの?」 「とりあえずここにいる限りは死なないみたいね。 こうやって残っちゃうとなかなか死のうという気にもならないし… ここにいる限りいつまでも若いしね。でも…」 そういったところで妙な感覚を覚えた 「あの…あたし…お腹食べられてるはずですよね?でも…」 そういうと麻理は何かに気づいたようだ 「お腹空いてるのね?由子、あそこへ連れて行ってあげて」 言われた由子は胴体を器用に操りながら隅っこへ行く 「恵…あの首だけの子もときどきは連れて行って上げるんだ あの子は自分で動けないからね」 あれで結構仲はいいんだなあの二人と思っているとついたらしい そこには古い皿とその上に横たわった少女の残骸があった 「あたしたち、このままいるだけだと死ぬことはないんだけど いつまでもいると間が持たなくなるし、生きてることに飽きちゃうこともあるのよ 実際あたしなんか日にちの感覚なくなって久しいし」 どこか安堵した表情を浮かべたまま皿の上に乗る少女を見る 「そんな娘はここに来てあたしたちに跡形もなく食べてもらうのよ 体がなくなればさすがに生きることは出来ないでしょうから」 皿の上の少女が消え入りそうな声で言う 「あたしを食べて…」 その少女の顔を見て、消えかけた記憶が蘇った 「お姉ちゃん?」 随分前に高校へ行ったまま記憶から消えた姉の姿だった 「あたしの体…食べて…あなたなら…」 心の中の理性が必死で止めようとする しかし、湧き上がる感情が止まらない おなかすいた… あたしは満足そうな表情を浮かべる姉の残骸をハイエナのようにむさぼっていた 見る影もない残骸をあさる内臓のない女の子 これを怪物というのかな… どこかぼやけた頭であたしはそんなことを考えた
https://w.atwiki.jp/ogasawara/pages/744.html
No.237 西條華音@ビギナーズ王国様からのご依頼品 暮れも迫る12月のとある日。壬生屋未央は商店街を歩いていた。今日はいつもの胴着ではなく、ジーパンにトレーナーという見慣れない姿である。その姿は変化の証。過去に拘り、周囲と無用な衝突を生んでいた自分からの脱皮でもあり、そして女の子らしくおしゃれをしたいという思いの表れでもある。 初めてのジーパンに多少の履き慣れなさこそあるものの、自分の変化を好ましく思う。かつての自分は心に余裕が無く、5121小隊の皆に迷惑を掛けた。今のこそ、みんなのお姉さんとして心身共に、それに相応しくあらねばならない。そう、お、おしゃれだって率先するのだ。………原さんには敵わないけど。 何せ今は幻獣休戦期の最中であり、来るべき戦いに備える時期と言える。来る3月には、また戦いが始まる。兵士たちはそれまでに気力、体力を充実させねばならない。また、後悔を残さぬよう、やるべき事をやっておかねばならない。自分たちは学兵とはいえ兵士。いつ死の瞬間が訪れても不思議ではないのだ。 そう考え、気合を入れるように拳を握る。瀬戸口隆之の気持ちを確かめる。今、女の決意が為される。今の未央にとって、これが愛の戦装束なのである。 『未央、女として生きるからには不退転の決意が必要なこともあるのですよ』 脳裏に甦る祖母の教え。見ててください、おばあさま。未央はあのたれ目で意地悪なくせに優しくて、でもののみちゃんのことばかり気にして………。自分のぐるぐる具合に気付き、息を吸い込む。 その時だった。当の瀬戸口の声が耳に入る。慌てて未央は身を隠す。今日は本番前に自分が予行練習として、この衣装に慣れようと思っていただけなのに。いきなり標的に出会ってしまうなんて、準備不足もいい処だと己の不運を呪う。 しかし、声の主の姿を見て、そんな思いは吹き飛んでしまう。瀬戸口が女性同伴で歩いて来ていたのだ。二人の距離は近く、仲の良さを感じさせる。 「この借りは高いわよ、隆之くん」 「いつも、高くないか?」 笑みを交わす二人。瀬戸口の方は苦笑気味ではあるが、未央視点では照れ隠しにしか見えない。思わず頭に血が上ってしまう。気付くと、未央は瀬戸口の前に飛び出してしまっていた。 「は、破廉恥です!」 「は? ………お前さん、壬生屋か!?」 瀬戸口は驚き、女性は目を丸くしつつも悪戯っぽい笑みを浮かべて瀬戸口の腕を抱きこむ。未央の額に血管が薄く浮かび始める。 「いや、ちょっと待て! お前も急になんだ!?」 「隆之くん、何、この子?」 未央の肩は怒りゆえに小刻みに震え、歯は食いしばられる。頭を占めるのは女性の発した「隆之くん」という言葉。それは自分よりも彼女の方が瀬戸口との距離が近いことを如実に表している。 「同じ小隊の仲間。それより壬生屋、いつもの胴着はどうした?」 「どうせ、似合いませんよ。あなたは胴着姿かどうかで、私を見分けていたんですね」 「なんなんだ、ちょっと待て!」 瀬戸口は女性の手を振り払い、顔を背ける未央をこちらに向けさせようとする。未央はいやいやと首を振り拒絶の意を表わす。 「あなたはいつも、いつも!」 「そういうお前さんこそ、なんでこっちの話を聞こうとしない!」 容姿共にただでさえ目を引く二人が、大声で言い争いさまは周囲の耳目を集め、視線が集まり始める。眉をひそめる人、興味本位でひそひそと根も葉もない噂を立てる人と様々だ。「じゃ、じゃあねー」と言いつつ、去っていく女性。しかし、当人達が気付く様子はない。 「じゃ、何だと言うのですか?」 「いや、そのだな」 いつもの優男ぶりはどこへやら、まったくもって上手い言葉が出てこない。自分を見つめる未央の眼は真摯そのもの。瀬戸口は焦りを覚える。瀬戸口の態度に焦れ、未央の方が先に口を開く。 「口先だけの言い訳なら要りません」 「あー、そのだな。見違えたんだ」 それはとても短い言葉。しかし、恥ずかしそうな瀬戸口の顔が、その言葉が偽りではないことを証明していた。 「………その、似合いますか?」 「あ、まぁ、うん。しかし、なんか壬生屋といえば、凛々しい胴着かな」 煮え切らない返事に未央は不満を覚えるが、続く言葉にその怒りを静める。おしゃれをわざわざした身としてはがっかりだが、瀬戸口の言葉は普段の彼女を肯定しているものと言える。 「では、着替えてきます」 「あー、ちょっと待った」 「なんです?」 「まぁ、なんだ。今日一日ぐらいその恰好で居てもいいんじゃないか?」 壬生屋未央が召還されたのは、その日のことであった。 /*/ 空中をもがきながらそんなことを思い出し、未央は自分が死ぬのではないかと思い始めた。人は死に際して過去の記憶が走馬灯のようによぎると言われる。今の自分がそうなのではないかと考える。 かつてと同じように、自分を呼ぶ声が再び聞こえたような気がする。気付くと身は空を落下しつつあった。何かをつかもうにも周りには空気しかなく、その手足は虚空をもがくのみである。 そして、急に抱きかかえられる。思ったよりも落ちた高さは無かったらしく、その衝撃は小さい。抱きかかえる手の先にあったのは懐かしい顔。短い期間ではあったが、共に過ごした仲間。 「て、転校生!」 急展開にいまだ混乱しつつも、笑顔を浮かべる妹人の顔が苛立たしく頬を引っ張る。泰然自若とした妹人が気に入らない。また、お姫様だっこなのが恥ずかしくもある。 「まあ、なんというかクラスメイトでした。なんですか貴方は」 周囲を見ると見知った顔がいくつもあることに気付く。取りあえずは「妹人、お知り合い?」の声に応えるとする。 そして皆から送られる誕生日を祝う声。 「また歳をとったな」 そして、それに混じる芝村舞の皮肉としか取れぬ言葉。舞からすれば、事実を告げただけであろう。しかし、舞を知らぬ人が聞けば、誤解を生じる。 「お祝いをしに行くと言ったら国の人たちも一緒にお祝いに来てくれました」 舞を説教しようとも思うが、華音の花が咲くような明るい声に後でいいかと思い直す。正面からの好意がとても嬉しい。こんなにも多くの人に祝ってもらったのはいつ以来だろうか。そして、こんなにも多くの人が自分の為に集まってくれただなんて。「ありがとうございます」と小声で呟く未央の姿がそこにはあった。 「妹人、とりあえず降ろしてあげたら?」 「あ、そうだった。ごめんごめん」 里樹の言葉に、妹人は未央を砂浜に降り立たせる。未央は姿勢を正し、妹人に視線を向ける。涼しげな表情に笑っていない目。 「瀬戸口くんに似てますよ。言動が」 「そうかな」 そして、向けられる木刀の切っ先。未央は笑顔のままなのが、また怖い。(というか、よい子のみんなは真似しちゃいけません!) 「最後も同じに?」 「ゴメン」 未央に危険な気配を感じ、妹人は素直に謝ることにする。心中で瀬戸口さん、またやったのかと、手を合わせる。里樹の制止も今の二人には届かない。 やがて、微笑みあう二人。しかし、傍から見ても友好的には全然見えない。 「あー。見詰め合ってないで、座ってください。プレゼント、いっぱいあります」 皆がどう声をかけるべきか戸惑う中、竜馬の一声で事態は打開されることになる。yuzukiによって未央の席が用意され、皆が未央を囲むように座り始める。未央は沢山のケーキを前に目を丸くし、皆を幸福にさせていた。 「青さんに教えてもらってみんなで作りました。・・・紅茶、煎れましょうか?」 「あ、はい」 ホストらしく主賓に声を掛け、華音は紅茶を未央を皮切りに注いで回る。帝國バトルメードに恥じぬ腕前と気遣いは、未央から微笑みとお礼を引き出す。 「さらにプレゼントがあるよ。さ、みんな渡した渡した」 里樹と華音は声を掛け合い、華音をプレゼントを渡す最初とすると小夜に声を掛ける。 「あの、おめでとうございます」 「誕生日、おめでとうございます。髪飾り、・・・不恰好ですけどプレゼントです。」 「ありがとうございます。ありがよう」 小夜が声を掛け、華音が恥ずかしそうに笑いながら未央にプレゼントを手渡す。未央は感激のあまり、言葉がよれる。 「それと、バレンタインが近いので、未央さんと小夜さんにチョコパイをお持ちしました。」 「ありがとう」 チョコパイの響きに、未央は感動する。ただの板チョコですら第五世界では貴重品である。それをパイにしてくれるなんてどれほどのお金が掛かるのだろうか。髪飾りだけでなくパイまでも。華音の気遣いが心に響く。 「喜んでもらえてとても嬉しいです。」 「嬉しいです」 「小夜さん、先ほど渡したメモ、未央さんに渡してもらえますか?」 未央と笑い合いながら、小夜に向かって華音は声を掛ける。その間に未央は感激の余り、涙を浮かべていた。その姿に慌てハンカチを差し出しながら、華音はメードそのものとも言える好きな人に尽くす喜びを感じていた。 「は、はい、どうぞ! チョコケーキの作り方です!」 「はい・・・。ありがとうございます。どれだけいってもたりないくらい」 未央はハンカチで涙を拭いつつ、小夜の差し出すチョコレートケーキの作成メモを受け取る。 「おおげさだなあ」 青は苦笑し、竜馬はもらい泣きする。信児と耀平は言葉を交わし、ロッドとyuzukiはそれらを微笑ましく思う。ギスギスした空気から始まった宴は、どこかのんびりとした光景へと変わりつつあった。 「さて、もう少し話したいですがそろそろ里樹さんに交代しないとですね。里樹さんもプレゼント準備してくれたんですよ。」 そして、選手交代となり、次なる里樹が腕を振るう。「はい。それでは僭越ながら、まず一つ目」と取り出すみかんを未央の前に置く。 「みかん・・・ですね」 「ふふふ、ところが、このヘタをとると……」 ぱっと見た処、ただのみかんである。不思議に思う未央の前で、里樹がへたをつかみ持ち上げた先には…。 「この通り、中はゼリーになってます」 「わぁ」 「果汁100%、無添加の自然な甘みをお楽しみください」 感嘆と共に、浮かぶは微笑。「素敵ですね」との言葉と共に、頬を興奮で赤く染める。しかし、里樹の魔法は未だ尽きず。周囲が次は何かと待ち望むこの場所で、次なる魔法をつむぎ出す。 「それと、もう一つ」 「はい」 取り出したるはカセットコンロとフライパン。そして、横に置きしはブランデー。 「クレープとオレンジ……実家から送られてきた伊予柑なんですけど、その絞り汁を煮立てます」 「いいにおいですね」 「ここで最後の仕上げです。さぁ、ちょっとご注目」 煮汁にブランデーをさっと加える。ブランデーのアルコールに火が回り、フライパンの上を踊り狂う。火の勢いに一瞬戸惑ったものの、未央を始めとして皆が里樹の手元に視線を集める。 「えー。大丈夫なの?」 「大丈夫大丈夫。フランベって言って、香りをつける作業だから。ほら、ちっとも焦げてないでしょ?」 心配する妹人に差し出した煮汁は確かに焦げ臭い匂いもなく、むしろ香ばしい。 「ほんとだ。魔法みたいだね」 「いやいや、本当の魔法は食べてから。さぁ、お皿に盛って、アイスを乗っけて出来上がり」 「おいしそうですね」 「どうぞ熱々のうちに召し上がれ」 軽やかに各々の皿にソースを盛りつつ、魔法使いは真の魔法を発動させようと笑みを絶やすことは無い。一番初めにお皿を差し出された未央が、恥ずかしそうに口を開く。 「はい……あ、あの。みなさんも、どうか、座って、一緒に食べましょう」 「乾杯してね」 という青の言葉と共に皆がグラスをその手に納める。そして、未央の誕生日を祝う十の声が海岸線に響き行く。華音のフォローで少しの間をおいて小夜の乾杯も加わり、和やかな食事が今、始まる。 小夜や華音、ロッドやyuzukiがケーキやクレープに舌鼓を打ち、微笑んでいる中、里樹はふと妹人が自分を見つめていることに気付く。訊ねてもごまかし、青と談笑を始める妹人に里樹はカチンと来る。 yuzukiの好意でクレープ作りの手を休め、里樹は妹人へとにじり寄る。青の苦笑に意地の悪さを感じ、舞が釘を刺すも青はどこ吹く風である。 /*/ 一方その頃。恋の嵐は他方でも巻き上がっていた。 「で、貴方をめとった物好きはだれですか」 「わたし? あれだけど」 「ま、自分は一発殴ってもよさそうですな」 信児と竜馬のやり取りの中の物騒な言葉に、耀平はショックを受ける。流石に華音は見過ごせないと、釘を刺す。眉を潜める竜馬と耀平の表情に女の子らしく信児は口元に手を当て、笑う。 /*/ また場面は戻り、妹人に近寄る里樹。「どうしたの?」ととぼける妹人に抱きつき攻撃である。小夜はあんぐり、未央は声を漏らし周囲の空気が色づき始める。 「………疲れたから、ちょっと支えて欲しいなーって」 「いいよ・・・」 甘え、甘やかす二人は周りのことは見えてはいない。おかしい。GPMやGPOなら、こんなことにはならない筈である。これはシステムバグだ、バルタザールコインを持って来いとでも言いたいぐらいである。 「まさかあの転校生が恋人なんて」 「人を委員長みたいにいわないでよ」 未央が驚き漏らす言葉に、妹人は苦笑する。 「古くからのお知り合いなんですね」 「未央さん、里樹さんはだいぶ苦労されましたが、前々からだったのですね・・・」 「心の底から驚いてます」 問いかける小夜と華音に頷きつつ、未央にはまだ目の前の光景が信じられない。 /*/ そんな驚きの光景と共に、もう一方も急展開を迎える。 「え、えーと、のこさんとお知り合いだったんですね」 「恋人ですがなにか」 愛想笑いを浮かべようとしつつも、失敗しながら竜馬に声を掛ける耀平。それに受け応える竜馬は愛する人の居る前で、信児と手を組み始める。妹人から差し出される日本刀を、yuzukiは受け取る。近くにいるロッドは気が気ではない。 「それは無い、のこさんの恋人は僕だ」 「どうだか」 /*/ そして、未央、小夜、華音の乙女談義もまた続いている。 「今でも偽装ではないかと思うくらいには」 「偽装ではないですよ。里樹さんの努力が実られたのです。」 そんな話が聞こえたからか、物騒さを助長させた妹人は、更に里樹の提案でピンク空間を広げる。具体的には公衆の面前でキスをした。にこやかに未央に手を振る妹人。 「破廉恥です・・・」 「破廉恥ですね」 「破廉恥ではありますが、ああなるのもなかなか大変だったのですよ。」 各々の感想はありつつも、見解は一緒。すなわち、破廉恥である。 /*/ そして、まだ竜馬と耀平の戦いも続いている。 事態は膠着し、二人は奪い合う女性を見つめる。そして、信児の口が審判を下すかのように開かれる。 「意気地がないけど」 「はあ。なんならいつでも気合注入しますよ」 膝から崩れ落ちる耀平と、気の抜けた竜馬。そしてくすくすと笑う信児。 やれやれとそれを見つめるロッドに、竜馬を酷く冷めた目線で見つめるyuzuki。 気付けば、青と舞が居なくなっている。 そして、未だに妹人と里樹はキスを続け、二人を見る小夜と未央は同時に「破廉恥だ」との言葉を漏らす。 それを見て肩をすくめる華音。 ごく一部が妙なことになりつつも平和な時間がそこにはあった。 /*/ 箱を持つ手が震える。今一度深呼吸をし、チャイムへと手を伸ばす。電子音が鳴り、どたどたと駆け下りる足音と共に少年が転がるようにドアを開けて飛び出してくる。表札には「玖珂」とある。 「おう、巫女さんじゃん。どったの?」 「あ、あの、つ、作りすぎたのでおすそ分けです!」 「お、あんがと」 「そ、それではっ」 「あ、ちょっと待てよ。これの中身は………いっちまったか」 小夜が箱に収まったかわいらしい手作りチョコケーキの味の評価を聞きに戻るのは、もうしばらくの時間が経ってからとなる。 ちなみにふみこ曰く「まぁまぁね」だそうである。 END <<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<< 長い、終わらない、おかしいな?と思いつつ書いていて、容量を見てみたら普段の3倍長でした。終わらない筈です。同時複数進行する3時間ゲームを書く大変さを、久しぶりに思い知らされました。 言い訳にはなりませんが、それにより締め切りを破ってしまいました。依頼者の亜紀さん、秘法館スタッフの方々、申し訳ありませんでした。 直接指名でもない限り、しばらくお休みを頂こうと思っていたので、好きに書きつつ導入部に前回のゲームを絡ませたりとサービスに努めたつもりです。 また、ここで謝罪を。yuzukiさんとロッドさんの出番が無くてすみません。耀平くんは色々頑張れ。 里樹澪さんはもっと人の目を気にした方がいいとお思いました まる それではお読み頂いた事に感謝しつつ、これにておしまい、です。 作品への一言コメント 感想などをお寄せ下さい。(名前の入力は無しでも可能です) 名前 コメント ご発注元:西條華音@ビギナーズ王国様 http //cgi.members.interq.or.jp/emerald/ugen/cbbs_om/cbbs.cgi?mode=one namber=199 type=123 space=15 no= 製作: 刻生・F・悠也@フィーブル藩国 http //cgi.members.interq.or.jp/emerald/ugen/ssc-board38/c-board.cgi?cmd=one;no=878;id=UP_ita 引渡し日: counter: - yesterday: -
https://w.atwiki.jp/ogasawara/pages/1427.html
霰矢蝶子@レンジャー連邦様からのご依頼品 麗らかな昼下がり。長閑な公園。 平穏に包まれて、蝶子とヤガミはベンチに並んで腰掛けていた。 辺りは今迄関わっていた嵐のような出来事が夢だったかのような静けさで、そのギャップにちょっとした虚脱感を二人は覚えていた。むしろ、余りに色々と有りすぎた為に、本当に夢だったような気さえしていた。 「今日は暑いな」 「ですね。寒いところから帰ってきたからそう思うのかもしれないですが。」 ぽつり、ヤガミが呟いた、日常の挨拶のような言葉。少し異国の言葉のように聞こえるのは、まだ日常と非日常の狭間で揺れ動いているからか。 蝶子は、辺りを見回しながら、其れに答えた。公園は爆発した、と聞いたような気がする。それにしては、この公園は長閑過ぎる。きっと別の公園のことだったのだろうか。 「29度だそうだ」 日常の会話は、途切れずに続いた。 「うわあ。じゃあ暑いですね。それは暑い。」 その温度を聞いただけで、暑さが増したように蝶子は感じて、顔を僅かにしかめた。 すると、その様子を見たヤガミが、何故か、ベンチから腰を浮かせた。其の侭、その動作を怪訝そうな顔で見る蝶子から離れ、少し隅の方へ移動し、座りなおす。 「悪かった」 そして、口を開いて出た言葉は何故か謝罪だった。唐突な事に動転する蝶子。目をぐるぐるさせた。 「何がですか。ていうかなんで離れるんですか。」 別に今回の事は私が望んで巻き込まれたわけで、ヤガミが謝る事はないし、しかもその点について謝るなら何故離れるのだろうか。鉄拳が飛んでくるとでも思ったのだろうか。 「いや、体温が。暑いといわれるんだ。俺は」 その言葉に、無言で腰を上げる蝶子。其の侭、キッとヤガミの方を見ると、つかつかと歩み寄り、そして、豪快に――ということはなく、ちょこん、とその隣に腰掛けた。二人の間の距離は30cm。それ以上は近づけなかった。 「そんなのはいいです。ヤガミのせいで暑いなら大丈夫。全然嫌じゃないです。」 そして、その顔を見上げて、せつせつと訴える。ヤガミはその勢いに気圧されて少し仰け反った。 ヤガミの行為を優しさととるか、遠慮ととるか、微妙なところだ。もしかしたらそれらは同一のものなのかもしれない。しかし、どちらにせよ、自分から離れるという優しさも遠慮も、蝶子は求めていなかった。 「そうか」 ヤガミは、その言葉に表情を変えず、頷いた。其の侭、姿勢を戻すと、背もたれに寄りかかって空を見上げた。其の侭、ぼうっとしだす。蝶子もまた、乗り出していた身を戻して、一緒に空を見上げた。 風が流れる。少しばかり火照った頬を、緩やかに撫でて冷ましていく。気持ちが落ち着くとともに、少しずつ、二人の中の日常と非日常が邂逅していく。非日常が、現実味を帯びていった。蝶子は、閉じていた目を開くと、ヤガミの首を見た。 「首は、もう大丈夫ですか?」 蝶子の位置からでは傷口は見えない。自分達の知る日向ではない、別の日向に噛まれた傷。 あの時、日向が説得に応じてくれていなければ――考えるだけで、その恐ろしさに胸が締め付けられる。 「自己再生力がある。問題ない」 蝶子から見えないほうの首を、傾けて見せるヤガミ。確かにその首筋には傷はなく、そして傷跡さえもなく。冒険劇の証拠がひとつ、消えたようで。あれは、やはり夢だったのかと、また思えなくもない。 「そうですか。それはよかった。」 蝶子は腕を伸ばす。その指先は、傷があったはずの場所へ。そっとその輪郭をイメージして、なぞる。少しだけ高鳴る胸は、先程の恐怖の余韻のせいにした。 首すじに触れたとき、ヤガミが少し固まったような気がして、蝶子はヤガミの顔を見やる。すると、彼は驚いて、目を丸くしていた。普段の仏頂面が嘘のような、レアな表情に蝶子までもが驚いて、思わず、手を引っ込める。 「あ、あの。びっくりしましたか。すみません。」 だが、しかしヤガミの反応は意外なもので。 「そこはいやらしくないぞ」 そう、言って微笑んだのだった。 「な、なんですかそれ!」 いやらしいって・・・いやらしいってなんですか、いやらしいってなんですか、イヤラシイッテナンデスカ! 突然の言葉に目をぐるぐるさせて、耳まで赤くなる蝶子。『私、いやらしい子だって思われてたのかしら』、と瞬時に落ち込んだり、『ヤガミが微笑んだわ!ヤガミの癖に!』と怒ってるのか感激してるのか良く分からない心理状態になったり、と思考が頭の中を忙しく駆け巡る。転げまわるといった方が、正しいかもしれない。 「いや、あまりこう、手を繋いだこともあまりなかったから」 「そ、そうですね。」 返された言葉に、すぐさま沈静化していく蝶子。しかしながら、手を繋ぐっていやらしい行為なのだろうか、とまだ落ち着かない頭の中で思わなくもない。 「すみません。人よりなんか、照れやすい方みたいで。」 「手をつないだりとか、そういうの、したくないわけじゃないというか、むしろしたいんですけど。こう、どきどきしてしまって。」 手を繋ぐって、もっと、そう、ぴゅあ、な事じゃないのかしら。 勿論、自分がぴゅあだとかそういうことを言うわけではなくて、もちろんいやらしいわけでもなくて、・・・いやらしくないわよね、私は単に照れ屋だというだけであって・・・。そんな事を考えているうちに、言葉が口から飛び出していき、それに気がついて、もじもじと、頬を朱色に染めた。 「気にするな」 そういって、ヤガミは前を向く。その口から次に紡がれた言葉は。 「お前のペースで、いいじゃないか。時々もどかしいが、そこに惚れた部分もある」 「あ、あう。」 一瞬にして、蝶子を思考停止状態にさせた。 ぼんっと音をたてて赤面する蝶子。ぱくぱくと、口を動かして、なにか言おうとするも言葉が出てこない。恥ずかしさの余り、ヤガミの横顔を見ていられなくて、さっと、前を向いた。 外気の暑さなんて、とっくに何処かに行ってしまった。 さっきから、顔から火が出そうなほど、頬が熱い。もう、感覚が麻痺してしまったのではないだろうか。 心臓がどきどきして、その音で耳が痛い。ヤガミにまで聞こえてしまうんじゃないかと思える程の大音量だ。 これは夢なのか?現実なのか? 先程までの冒険劇の続きに、自分たちは何時の間にか舞い戻ってきたのだろうか? いや、冒険の時よりも、心臓がドキドキいっている。確かに、それを感じる。 これは、夢じゃないんだ。 「あ、ありがとうございます。私も好きです。」 ようやく、言葉が口からこぼれ出たのは、そんな言葉。 そう言ってまた、顔を赤くさせる蝶子。勿論、ヤガミの顔色を伺う余裕なんてなくて。 現実感が、まるでない。夢ならば覚めないでほしいとひたすら願う。 その時、風が二人を撫ぜて行った。 そっと、そっと頬の熱を冷ましていく。 そして、その風の冷たさが、これは現実なのだと、蝶子に囁きかける。 そう、これは現実なのだ。 30cmの距離を隔てて、二人は、前を見ていた。 蝶子はゆっくりと、口を開く。 「あの、ゆっくりで恐縮ですけど、これからもよろしくお願いします。」 言葉を選んで、慎重に。 「あなたとずっと、一緒にいたいです。」 それでも、思いの丈を思うがままに。想いの丈を想うがままに。 「こうやって、同じ景色をみていたい。ずっと。できれば、いつも。」 ヤガミの顔を、見つめた。 「分かった」 頬を人差し指で、かくヤガミ。 「今度、二人で星でも見るか」 「はい。ぜひ。」 蝶子はにっこりと、満面の笑みでほほ笑む。 気がつけば、ヤガミも照れていた。お互いに照れて、頬を朱色に染めている。 そんな、想いが通じ合った瞬間だった。 ヤガミは突如、蝶子を引き寄せ―――膝の上に、乗せた。 二人の距離は、0になる。 「あ、あの。ええと。お、重くないですか!」 予想もしなかった出来事に蝶子は動転し、目を真ん円くしてヤガミを見つめ、頬だけでなく、耳まで朱色から紅色へと染め上げた。 恥ずかしさの余り、自然と大きくなり、上擦る声。 「最近この重さがないと駄目な事に気がついた」 しれっというヤガミ。だが、彼の頬も染まったままだ。 その言葉に、すっかりと、何かの糸をぷつんと切られて、身体の力がへなへなと抜けていく。 「そ、それは、えーと。また。なんと言ったらいいか。」 蝶子は思い切って、ヤガミの胸にぺたっとくっつき、 「う、嬉しいです。」 そう、か細い声で、ヤガミの胸元に囁いた。 そんな蝶子を優しく受け止め、ヤガミはそっと抱きしめた。 最初の暑さはどこへやら、心地よい温もりが蝶子を包み、そっと蝶子は抱きしめ返した。 「ううう、どきどきします。ど、どうしよう。」 いまだに胸は高鳴る。泣きたいくらいに嬉しくて、恥ずかしくて。 こんなに近いのだから、きっとこのどきどきは伝わってるはず。それが恥ずかしくて、またどきどきする。 「離してやりたいが」 「や、やだ!」 ヤガミの言葉に、反射的にすぐさま胸から顔をあげて慌てて訴える蝶子。 思わず言葉使いが、駄々を捏ねるようになる。 それに気づいて、ちょっと頬を赤らめてから、離れまいとするように再びヤガミをぎゅっと抱きしめ、その胸に顔を埋めた。 「すみませんこのままでお願いします。すみません恥ずかしいけどぎゅってするの好きです・・・!」 顔は見えないけれど、ヤガミが照れたような気がした。 「いや、離したくないといいたかった」 その言葉が、嬉しくて照れながらさらに蝶子はヤガミにしがみつく。 「・・・あなたと、無事に帰ってこれて、本当によかったです。」 安らぎを感じながら、蝶子はそう呟いた。 今更ながらに、あの冒険劇が本当のものだったのだと、実感できる。 「墓参りもしなくちゃな。迷宮に行く準備もしよう」 「はい。。。助けてくれた方にご恩返ししないと。」 「ああ」 「迷宮は。私を連れてってくれます?」 「抱きしめてていいなら」 ヤガミの言葉に、若干意地悪そうな響きが混じった気がした。 「だ、駄目なわけないじゃないですか・・・!」 「よかった」 ヤガミは、嬉しそうに笑った。 「行く時は黙って行っちゃ駄目ですよ。絶対ですよ。」 「いつも一緒」「それでいいか?」 「はい。いつも一緒。」 蝶子はうれしそうに頷いて、その言葉を噛みしめるように繰り返した。 そして、ふと、顔を少しあげて上目遣いにおずおずと問うた。 「ヤガミは、いいですか?」 「なにが?」 なにがって、少しくらい分かってほしい。 確認するのが、恥ずかしいし、それに怖いのだから。 「私と、いつも一緒で。いいですか?」 「わ、私照れ屋の上に、結構心狭いですけど。」 ヤガミは、何を馬鹿な事を、というようにふっと笑って答える。 「俺のほうが狭い」 「わ、私のほうが!」 思わず、変なところで張り合う蝶子。 「て、張り合うところじゃないですね。すみません。」 「ああ」 ヤガミは微笑しながら頷いた。 蝶子は恥ずかしくなって、顔を隠すように、頬をヤガミの胸元にすりよせる。 「汗、かいてないか」 しばらくそのままでいると、ヤガミが唐突に口を開いた。 「汗。かいてるかもです。」 突然の問いに、頭に疑問符を浮かべながら答える蝶子。 そしてすぐさま、もしかしたら汗臭いのじゃないかと思い、恥ずかしくなってどぎまぎする。 すんすんと、自分の襟元を嗅いでみる。少し、汗の臭いがするかもしれない。だんだん汗臭いような気がしてきた。 もし汗臭いのだったならばどうしよう、と悲しくなりさえして、蝶子は目をぐるぐるさせだした。 だがそんな蝶子の様子に関係なく、ヤガミは顔を覗き込んできた。 「どこに?」 「ど、どこって。え、え?」 何処、との問いに、汗臭いんじゃなかったのか、と質問の意図が分からずさらに蝶子は動転する。 さらにはヤガミの顔がすぐ傍にあるという事実に、傍から見れば何を今更といった感じであるが、おたおたしだした。 「あ、あの。」 思わず眼鏡を直す、蝶子。 ヤガミはそんな蝶子をじっと見つめながら、どこに、と口の動きだけで、また問うた。 なんとなく、ヤガミの言わんとすることが、理解できたような気がした。 「あ、あの、あのう。それはそれは。顔とか、腕とか。色々。」 それでもまだ真意を測りかねて、蝶子はただ問いに答えた。 が、すぐさま、ええいままよと思い直して、背伸びをしてその頬にキスをする。 くくっと笑うヤガミ。 「あ、あんまりいじわるしないであげてください・・・。」 蝶子は、真っ赤になって俯いた。 ほっぺたとはいえ、初めてのキスだった。 「いかんな。頬にキスされただけで喜んでる」 「まあ、それでいいか」 そう、幸せそうに、ヤガミはつぶやいた。 幸せとは、きっとそんなものだろう、と。こんなものだろう、と。 こんな些細な、それでいて、途轍もなく満たされるもの、かけがえのないもの、大切なものなのだと。 「う、嬉しいですか。ヤガミが嬉しいのは嬉しいです・・・!」 そういって、はにかむ蝶子。そしてちょっと考えるようにしてから、問うた。 「ど、どうしたらもっと嬉しいですか?」 それは裏返せば自分が、どうしたらもっと嬉しいか、でもあって。 ヤガミはそんな蝶子の問いに、何かを言おうとして、口をつぐみ。 そして、すぐさままた口を開いた。 「一緒に昼飯をたべる」 その答えに蝶子は思わずくすっと吹き出した。 そして嬉しそうな笑顔を浮かべて、うなずく。 「はい。喜んで。」 ヤガミは、その笑顔にほっとしたように微笑んだ。そして少し後ろめたそうだ。 もしかして、と蝶子はその顔を見てふと思った。 ヤガミのことを長年見て来た乙女の勘というやつである。 たぶん、ヤガミが考えてたのは、後ろめたいことは後ろめたいことでも、きっとそんな悪いことじゃない。 どこかへ行くとか、そういうのはこの人はもっと分かりにくくするはずだ。 だから、たぶん、この場合は…………さっきの会話からすると、いやらしいことでも考えたんじゃなかろうか、と。 そこまで思い到ってから、蝶子は、ヤガミがいやらしいことを考えてたことに驚いた。 ならば、自分は? 「どうした?」 自分を見ながらなにやら物思いに耽っているような蝶子に、ヤガミは声をかける。 蝶子は、どうしよう、と少しばかり逡巡する。 (え、ええと。頑張れ私。頑張れ。 ) 自分を、叱咤して奮い立たせる。 意を決して、口を開いた。 「すみません。お昼の公園で、すごい、はれんちなんですけど。」 きょろきょろと、あたりを見回して、そっとヤガミの耳元に口を寄せた。そして小声でささやく。 「あ、あの、その。きすしていいですか。」 さっき頬っぺたにはしたけれど、そういう意味ではなくて。 きっと自分のほっぺたはすでに真っ赤なのだろうな、と蝶子は自覚した。 「あ、いや」 ヤガミはそう呟いて、天を仰ぎ―――蝶子の頬に、そっとキスをした。 初めてのことに驚いて、ヤガミの顔を見る、蝶子。 ヤガミの表情は、照れているのが一目瞭然で、蝶子も一緒になって、盛大に照れた。 ヤガミが、蝶子が照れているのを見て嬉しそうに笑うと、蝶子もそれを見て笑う。 そのやり取りは、まさにありふれた恋人同士そのもので。 こうして、心の距離すら、0となったのだった。 作品への一言コメント 感想などをお寄せ下さい。(名前の入力は無しでも可能です) 依頼を引き受けてくださり、ありがとうございました。お忙しい所恐縮です。 照れ悶えて何度も倒れたので、読み進めるのにすごく時間がかかりました・・・でも何度も読み返しました!(笑 とっても嬉しかったです。ありがとうございました! -- 霰矢蝶子 (2009-01-30 14 31 38) 名前 コメント ご発注元:霰矢蝶子@レンジャー連邦様 http //cgi.members.interq.or.jp/emerald/ugen/cbbs_om/cbbs.cgi?mode=one namber=1576 type=1555 space=15 no= 製作:緋乃江戌人@るしにゃん王国 http //cgi.members.interq.or.jp/emerald/ugen/ssc-board38/c-board.cgi?cmd=one;no=1806;id=UP_ita 引渡し日: counter: - yesterday: -
https://w.atwiki.jp/83452/pages/12883.html
梓「私が桜高に入学して1ヶ月が過ぎた。 新歓ライブで感動して入部した軽音部だったが、蓋を開けてみればそこは変わり者の集会所だった。 終わらないティータイム。神出鬼没の顧問。あんまりうまくない演奏。 先が思いやられるもののなんとかこの空間に馴染みつつある私。それがいいことなのかはわからないけど。 淡い期待を込めて部室の扉を開く。今日も桜高軽音部は通常営業だ」 梓「唯先輩」 唯「なんだいあずにゃん」 梓「皆さんは何をなさっているんですか」 唯「見ての通りさわちゃんの衣装の試着会だよ」 梓「澪先輩が泣きそうですが」 唯「泣き出したらりっちゃんが止めてくれるよ」 梓「今日こそちゃんと練習できると思っていたのに」 唯「まあまあ。このケーキをお食べ。おいしいよ」 梓「唯先輩もしゃきっとしてください。いただきます」 唯「そう言いながら食べるんだね。あ、いちごとバナナ交換しない?」 梓「アイデンティティを奪わないでください」 唯「よーし。ここは私が一喝してみんなにやる気を出してもらおうか」 梓「そうしてもらえるとありがたいんですが、唯先輩のキャラじゃありませんね」 唯「そだね。じゃあやめとく」 梓「しまった」 唯「あずにゃん。私、将来おまわりさんのお世話になったらどうしよう」 梓「婦警姿の澪先輩を見ながら何を言っているんですか」 唯「あずにゃん。今は婦警じゃなくて女性警察官と呼ばなきゃダメなんだよ」 梓「はぁ、そうですか。それで、唯先輩は犯罪者志望なんですか?」 唯「そんなつもりは……。ただ、うっかり財布を忘れて食い逃げしたりうとうとしながら運転して人をはねたり……」 梓「唯先輩ならやりかねないですから十分気を付けてくださいね」 唯「もう。さすがの私もそんなダメな大人になるつもりはないよ~」 梓「心配です」 唯「えへへ、ありがとー」 梓「なにがですか」 唯「あずにゃんは心配ないね。今でも十分しっかり者さんだし」 梓「私の場合、見た目で舐められそうです」 唯「大丈夫だよ。これからきっと大きくなるから。そんなに小さいままなんてことはさすがにないよ~」 梓「どこを見て言っているんですか」 唯「成長しないなんてことはめったにないからね~」 梓「どこを見て言っているんですか。どうして律先輩の方を見たんですか」 唯「あずにゃん、この前親孝行したいって言ってたよね」 梓「はぁ、そうですけど」 唯「でもさぁ、あずにゃんのお父さんとお母さんはあずにゃんにどんな子になってもらいたいんだろうね」 梓「わかんないです。うちの親は結構放任主義ですからね。やりたいようにやれ、ってとこだと思います」 唯「うちだってそうだよ~。おかげでやりたい事は何でもできるよ~」 梓「やりたくないことはやらなかった姉と、やれることは何でもやった妹、ですか」 唯「ほんと、どうしてこうも姉妹で差がついたんだろうねぇ。アハハ」 梓「大丈夫です。成長しないなんてことはめったにないですから」 唯「だよね」 梓「唯先輩は先輩後輩関係で苦労したことありますか」 唯「ないよ。だって先輩はいなかったし後輩はあずにゃんが初めてだもん」 梓「そうなんですか」 唯「うん。私、部活は高校が初めてだし、軽音部に入部した時は澪ちゃんとりっちゃんとムギちゃんしかいなかったから」 梓「なるほど」 唯「何に納得したの?」 梓「先輩のいない部活ってすごく開放的ですよね。私も部活は高校が初めてなのであくまで想像ですけど」 唯「あー、私の友達も言ってたよ。先輩が修学旅行でいない時の部活は好き勝手やれて楽しかったって」 梓「そんな状態が一年も続けばどうなるか……ああ、恐ろしい恐ろしい」 唯「あずにゃん、疲れてるみたいだね」 梓「こういうのを五月病と言うのでしょうか」 唯「う~ん私はかかったことないからわかんないや」 梓「ですよね」 唯「羨ましいでしょ」 梓「ある意味」 唯「考えすぎるのはよくないよ。大事なのは、行き先を決めて一目散に駆け出すこと!」 梓「どんなにいい発言も、発言者は誰か、っていうので価値は大きく左右されると思うんです」 唯「私も五月病にかかりそうだよ」 梓「一緒に治しましょう」 唯「要するに練習すればいいんだよね練習!そうすればあずにゃんも満足でしょ」 梓「わかってもらえて何よりです。」 唯「でもね、あずにゃん。私一人の力じゃどうにもならないんだよ」 梓「どういう意味です?」 唯「私が『こんなんじゃ駄目ですーっ!』って言ったところで他のみんなが聞き入れてくれるとは限らない、ってことだよ」 梓「そんな薄情な仲じゃないでしょ、先輩方。それになんかイラっとします」 唯「女子高生は怖いんだよ、あずにゃん」 梓「私からしたら怖い先輩の方がやりやすかったかもしれませんね」 唯「あずにゃんってMなんだ」 梓「殴りますよ」 唯「さーて」 梓「どうしたんですか」 唯「そろそろさわちゃんも飽きてきたみたいだし先に練習始めとこうかなーって」 梓「そうですか。じゃあ」 唯「ちんたらしてんじゃねえぞ、なかのー」 梓「……なんですかそれ」 唯「怖い先輩はいかがですか?」 梓「役者不足ですね」 唯「ぶー」 梓「……しょうがないですね」 唯「ん?」 梓「練習、始めましょうか。唯先輩は忘れっぽいから絶対に忘れないように身体に叩きこんであげます」 唯「優しく……してね?」 梓「やっぱり一人でしてください」 唯「そんなぁ。一緒に弾こうよあずにゃ~ん」 梓「しょうがないですね」 ――――― 梓「私が桜高軽音部に入部してから2ヶ月が過ぎた。 夏が近付き日に日に気温が上昇しているにもかかわらず部室の温度は相変わらず。 私も順調に洗脳されつつある。澪先輩が唯一の良心だ。 でも私だって普通の高校生活は送りたい。だからまともなクラスメート達との交流も怠らない。 今日の体育祭だってクラスのみんなと盛り上がれたらいい。 軽音部のことを考えるのはそれからでいい」 唯「あれ?あずにゃんどうしたの?」 梓「唯先輩こそ何やってるんですか、こんなところで」 唯「いやぁ、テントの中は暑くてどこか涼める場所を探してたら、いい木蔭があったから」 梓「競技、出ないんですか」 唯「午前中に全部終わっちゃったよぉ。私の二人三脚見てくれなかったの?」 梓「ムギ先輩が気の毒でした」 唯「これでもちゃんと練習したんだよ」 梓「そうですか。応援はしなくていいんですか」 唯「ここからするよ~」 梓「さっきまで寝てませんでしたか?」 唯「あずにゃんは真面目だねぇ」 梓「こうして見ると唯先輩が不良に見えます」 唯「あ~体育祭なんてまじだりぃ~」 梓「ちょっと背伸びした男子中学生みたいです」 唯「ひどっ」 梓「唯先輩じゃあワルにはなれませんよ」 唯「じゃああずにゃんがやってみせてよ」 梓「……平沢ァ。たい焼き買ってこいやぁ」 唯「かわいいね」 梓「むぐ」 唯「あずにゃんはどうしてこんなところに?」 梓「飲み物を買いに行った帰りに唯先輩を見かけたので」 唯「へー……」 梓「……飲みたいんですか?」 唯「へへ」 梓「しょうがないですね」 唯「ありがと」 梓「おいしいですか」 唯「午後の紅茶、かぁ」 梓「どうしたんですか」 唯「いやぁ、昔を思い出してね」 梓「何かあったんですか」 唯「昔家族で出かけたときにね、のどが渇いた私はお母さんのバッグの中にあった水筒を取り出したんだ」 梓「はぁ」 唯「いつも通りムギ茶が入っていると思ったんだ。そのつもりで口に含んだら」 梓「紅茶だったと」 唯「想定外の甘さと初めての味に私は」 梓「嘔吐した」 唯「いやちょっとびっくりしただけだよ。嫌な思い出だけどね」 梓「そうですか」 唯「今はムギちゃんのおいしい紅茶を毎日飲んでるから嫌な思い出も忘れちゃってたよ」 梓「市販の安い紅茶が苦い記憶を引きずり出したんですね」 唯「甘い記憶だよ」 梓「ですね」 唯「あずにゃんもここで一緒にサボらない?気持ちいいよ」 梓「サボリと認めちゃいましたね」 唯「二人でサボれば怖くないよ」 梓「怖いです」 唯「あ、ういー!がんばれーっ!!」 梓「ここからじゃ聞こえませんよ」 唯「え~、今目が合ったよ~」 梓「ほんとですか」 唯「うん。それにしてもクラス対抗リレーのアンカーなんてすごいね~」 梓「そうですね。一位ですね」 唯「いいなぁ。みんなにあんなに褒めてもらえて」 梓「唯先輩でもそういうこと気にするんですね。意外です」 唯「去年の栄冠を取り戻したいよ」 梓「去年?」 唯「私、去年の借り物競走で一位だったんだ」 梓「へー」 唯「興味なさそうだね」 梓「いえいえ。それで?指定された借り物はなんだったんです?」 唯「『好きな人』」 梓「……へー」 唯「後で聞いたんだけどね、うちの高校の借り物競走では必ず一枚入ってるレアカードらしいよ」 梓「妙な伝統ですね」 唯「女子高だからこそ、なのかもね。共学だったら色々面倒なことになりそうだし」 梓「……それで、唯先輩は誰を連れて行ったんですか」 唯「和ちゃん」 梓「和さんって唯先輩の幼馴染で生徒会の?」 唯「うん」 梓「面倒なことになりませんでしたか」 唯「え?」 梓「その、変な噂が立ったりとか」 唯「ええと、うん。あずにゃんが想像しているようなことは何も」 梓「本当ですか」 唯「私普段から和ちゃんにはしょっちゅう引っ付いてるし私たちが幼馴染ってことはみんな知ってるから」 梓「しょっちゅう引っ付いてる時点で変な噂が立ってもおかしくなさそうですが」 唯「もしかして私とあずにゃんのことで変な噂が立ったりしてるのかな?」 梓「いいえ、ありませんよ。……今のところは」 唯「まぁ私は構わないけどねー」 梓「私が困りますからこれからは人前で抱きつくのはやめてください」 唯「えぇ~」 梓「じゃあ私はそろそろ行きますね」 唯「えぇ~? 行っちゃうの~?」 梓「行きます。この後出番なので」 唯「そっかー、ならしょうがないね」 梓「しょうがないです。それでは失礼します」 唯「あ、何に出るの?」 梓「……借り物競走です」 唯「……当たりくじ、引けるといいね」 梓「……勘弁してほしいです」 ――――― 梓「私が地べたに張り付いたチューインガムを踏んづけてから3ヶ月たったある日のこと。 休日というのに無駄に早起きした私は外の空気を吸いに行くことにした。 河原沿いの道を自転車で駆け抜けると結構多くの人とすれ違った。 ランニングしているおじさん、犬の散歩をしているおばさん。 涼しげな風と穏やかな朝の陽ざしを全身に受けながら私はしばし解放感を味わっていた。 いたのだが。 私はどうあがいてもこの人から逃げられないのだろうか。私は足をくすぐる猫じゃらしを蹴飛ばした」 唯「お、あずにゃんおはよー」 梓「おはようございます。こんな時間にこんな所で会うなんて思ってもみませんでした」 唯「えへへ、今日は珍しく早起きしちゃってねぇ」 梓「奇遇ですね。私もです」 唯「それからジョギングしよう! って気分になってね」 梓「どうして河原で寝そべっていたんですか」 唯「ちかれちゃって」 梓「何がちかれちゃって、ですか。危ないじゃないですか」 唯「へ? 危ないって」 梓「草むらに女の子が寝そべっているのを見たらそれはよからぬことを……すみません失言でした」 唯「何なの?」 梓「背中、汚れちゃいませんか。湿ってるみたいですし」 唯「帰ったらシャワー浴びるからいいよ~。あずにゃんもおいで。一緒にこの大空を仰ごうよ」 梓「遠慮します」 唯「相変わらずだねぇ」 梓「まぁ……座るくらいなら」 唯「とりゃっ」 梓「うわっ」 唯「えへへ」 梓「はぁ」 唯「雑草もいい匂いでしょ」 梓「ないです」 唯「夏草や えっと……」 梓「兵どもが夢の跡」 唯「そうそう、それ」 梓「私の夢も三ヶ月前に潰えてしまったんでしょうか」 唯「あずにゃんの夢?」 梓「いえ夢ってほどのものはありませんでした。ただ、幻想を追うのはよくないってことがよくわかりました」 唯「げんそう?」 梓「幻想を生み出した人と幻想を殺した人、一緒だったっていうのがひどい話ですね」 唯「よくわかんないけど、私はあずにゃんと初めて会った時、これから楽しくなりそうだなって思ったよ」 梓「……そうなんですか」 唯「うん。だってあずにゃんすごく可愛いもん。いじくり回したらもっともっと可愛くなりそうだなって思ったよ」 梓「……実際どうでした?」 唯「私の予想通り!」 梓「私の顔、すごく疲れてるように見えませんか?」 唯「寝不足? ちょっとここで休んでこうか。付き合うよ」 梓「帰ります」 唯「あ、待ってよぉ」 梓「唯先輩ももう帰ったらどうですか? 憂があたたかい朝食を用意して待ってますよ」 唯「まぁ……そうだねぇ。あっ、あずにゃん自転車で来たんだね」 梓「はぁ、そうですけど」 唯「この時間ならおまわりさんもいないよね」 梓「もしかして」 2
https://w.atwiki.jp/shingekititan/pages/77.html
メモ中 私は以前よりミカサの父と母の不自然さを指摘してきました。(アッカーマン家の謎参照) ミカサの両親は偽装夫婦であり、母が主人で、父は母の家臣に当たる存在ではないか。 だとすると、ミカサの本当の父親が問題となります。 そこで気になるのは、第6話「少女の見た世界」でのグリシャのセリフです。 グリシャ「覚えているかい?君がまだ小さい時に何度か会っているんだが…」 第5話「絶望の中で鈍く光る」のラストでグリシャが明言していますが、エレンとミカサの肉体年齢は同じです。(頭の中身は別) エレンもミカサも目の前で母を殺され(ミカサは父も)、高い身体能力を持ち、黒髪です。 (ちなみに私は、誘拐事件のときにエレンが救出に失敗し、ミカサが死亡したことがあると考えています) 妙に共通点が多いことに加え、ミカサが何度も繰り返す「家族」という言葉。 実は、エレンとミカサは二人ともグリシャの子であり、異母姉弟(兄妹)なのではないでしょうか。 そう考えれば、グリシャがエレンをアッカーマン家の往診に連れてきたのも、仲良くするように言っているのも、一応説明できます。 姉弟(兄妹)を会わせるためです。 また、第71話「傍観者」で、キース・シャーディスの口から、グリシャが壁外から来たことが語られています。 (第71話におけるハンジの妙に激しいキース批判は、読者にキースの告白を疑わせないための心理誘導だと思います) エレンとミカサがグリシャの子だとするなら、二人ともグリシャが壁外から来た後に生まれているわけですから、年齢が近くなるのも当然です。 この仮説では、なぜグリシャはミカサが「小さい時に何度か会った」だけなのかという疑問を説明できなければなりません。 たとえば「壁外から来たグリシャは憲兵団からマークされていて、東洋の一族やアッカーマン家を追う王政の刺客の目をごまかすために、ミカサの両親との接触をなるべく避けていた」、などの理由です。 すると、今度は久しぶりに会うはずのグリシャとアッカーマン家が、どうやって往診の約束を取り付けたのかが問題になります。 これはやはり、ミカサの印(しるし)継承の日付がずっと以前から決まっていたからではないでしょうか。 この仮説の大前提として、グリシャがカルラとミカサ母との二重生活をしていた理由が問題となります。 (私はグリシャのモチーフのひとつがゼウスだと考えており、ゼウスの女好きを表現している可能性もあります) グリシャは「カルラ/ミカサ母との間に子供を作ることだけが目的」であり、「どうしても子供を作らなければならな理由があった」のだとすれば、一応辻褄(つじつま)は合います。 ではその理由とは? グリシャがエレンに自分を食べさせたのは、超大型巨人や鎧の巨人たちのウォール・マリア襲撃直後です。 壁襲撃がエレンへの記憶と力の継承をしなければならなくなった原因だとすれば、グリシャは壁外からの攻撃や壁崩壊に備えるために、特定の女性との間に子供を作っておく必要があったのではないでしょうか。 では、壁外と戦うためにエレンやミカサが必要だったかと言うと、それも疑問が残ります。 11巻第46話「開口」で、ユミルがエレンに、「そんなちっぽけなもんを相手にしてるようじゃ到底適(かな)いっこない」と言っているからです。 ユミルは壁外の存在を知っていたと考えられますので、ここでのユミルの言葉は、「壁外からこの壁を攻撃しに来る相手は、エレンのような巨人一体(+ミカサ)ぐらいで対抗できるような小さな存在ではない」という意味だと見ていいでしょう。 という事は、グリシャが子供を作ったのはその子供を直接壁外勢力と戦わせることが目的ではなく、まず壁内を支配するために子供が必要だったのではないでしょうか。 たとえば壁外勢力が「別の壁」である場合、こちらも壁全体で対抗しなければ彼らの侵攻を止められない可能性が高い。 つまり、「壁を戦争できる国家に作り変える」ことが、グリシャの目的だったとすれば説明できるわけです。
https://w.atwiki.jp/dqff1st/pages/252.html
ネネの演説が途切れた瞬間もっとも蒼ざめた人間。 トルネコは必死になって階段を上がっていった。 (頼む・・・ネネ・・・生きていてくれ!・・・・・・) トルネコはようやく最上階への階段の最後の一段を踏んだ。 トルネコの望みは叶えられなかった。 (ウ・・・ウソだろう・・・ネネ・・・・) トルネコの目に入ったのは妻ネネの頭から血を流して事切れている姿だった。 トルネコは泣いた。大声を張り上げ泣いた。 拡声器は完全に壊れてはいなかったようだ。 トルネコの泣き声が回りに響く。 (ネネ・・・私はお前の仇を打とうとは思わない・・・ 君はそんなことをしても喜ばないだろう? だから君の意志を継いでこの機械で仲間の呼びかけをするよ! たとえ君と同じように死のうとも!) トルネコは無言で立ち上がり拡声器をポケットの中に入れ、フライパンを拾い上げた。 その顔はもう泣いてはいなかった。 そしてネネの目を閉じると頬にキスをし、塔を降りて行った。 【トルネコ 所持品:魔晄銃、フライパン、拡声器 第一行動方針:拡声器の修理 基本行動方針:仲間を増やす】 【現在位置:ナジミの塔屋上】 ←PREV INDEX NEXT→ ←PREV トルネコ NEXT→