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組織 海賊・世界政府 王下七武海 傘下勢力 備考 ジュラキュール・ミホーク サー・クロコダイル バロックワークス 除名 ドンキホーテ・ドフラミンゴ ドンキホーテ海賊団 バーソロミュー・くま ゲッコー・モリア スリラーバーク 除名 ボア・ハンコック 九蛇海賊団 ジンベエ タイヨウの海賊団 除名 マーシャル・D・ティーチ 黒ひげ海賊団 除名 トラファルガー・D・ワーテル・ロー ハートの海賊団 バギー バギー海賊団 ?
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崖の上から何やら声が聞こえてくる。よく聞かなくてもわかる、悲鳴だ。 上で何かあったのだろう。多分この羽音と関係しているに違いない。敵は矢を空に放ち始める。 そして暫らくすると崖の上で小型の竜巻が起こる。 「おや、『風』の呪文じゃないか」 ワルドが呟く。そして崖の上にいた敵は無様にこちらに落ちてきた。それを見て剣を収める。敵は複数の男たちで、どう見ても貴族ではない。 敵を観察していると、 「シルフィード!」 と驚き叫ぶルイズの声が聞こえた。上を見ると月を背にドラゴンが見えた。何だか見覚えがあるような気がするな? ドラゴンがこちらに近づき地面に着地すると背からなんとキュルケが飛び降りてきた。ドラゴンの背を見るとタバサも乗っている。 そうだ、このドラゴンはタバサの使い魔だったな。しかしタバサ、何故パジャマ姿なんだ?本人はそれを気にした様子もなく本を読んでいる。 「お待たせ」 キュルケは髪をかきあげつつ言った。 「お待たせじゃないわよッ!何しにきたのよ!」 ルイズはグリフォンから下りるとキュルケに怒鳴りつける。しかし正直助かったけどな。 「助けてあげたんじゃないの。朝がた、窓からあんたたちが馬に乗って出かけようとしてるもんだから、急いでタバサを起こして後をつけたのよ」 ……実はこいつルイズのストーカーなんじゃないのだろうか?普通ついて来るなんて選択肢は出てこない。 あれか?男をとっかえひっかえしているのはルイズに振り向いてもらうためか?ありえなくもないな…… なるほど、それでパジャマなのか。タバサは健気だな。感心する。実はキュルケの使い魔なのかもしれない。 その後ルイズがこれがお忍びであることをキュルケに告げる。 しかしキュルケはそれを気にした様子はなく、ワルドに近づいていく。どうやらワルドを口説こうと思っているようだ。無理だと思うがな。 そして怪我をして動けない男たちの方へギーシュと共に向かう。勿論尋問するためだ。 しかし初めは騒いでいた連中は私たちが近づくにつれ顔を俯かせ何も喋らなくなった。何故だ? 「ひゃあ、ひゃせほくはちほほそっひゃほかひゃべってほりゃおうきゃ」 ギーシュが力強く何かを言う。何かをだ。もはや何を言っているかさえわからない。おそらくさっきの小石とかだろう。 そして敵が喋らなくなった理由がわかる。ギーシュの見た目だ。はっきり言って直視できない。 私もさっきちらりと見たきりもう見ていない。つまり敵にすら同情されているのだ。可哀想な…… しかしこれでは尋問が出来ない。 「ひゃひほはまってひるんだ。ひゃやきゅひひはまえ」 もう喋るなギーシュ。自分でも気づいているんだろ。自分がどういうことになっているか。 「ひゃ、ひゃやくひゃへってくれ……へらいと」 「もういいギーシュ、わかってるから向こうへいってろ」 ギーシュの肩に手を置き、そう宣言する。 ギーシュは驚いて後ろを向く。つまりあの顔を直視することになる。しかし覚悟を決めていたので取り乱したりはしない。 ギーシュの瞳には涙が溜まっていた。頬が腫れすぎて涙が流れないのだ。 「きっとワルドも少しぐらいなら『治癒』の呪文ぐらい使えるはずだ。行って来い」 やさしく背中を叩くとギーシュはワルドに向けて走り出した。一抹の希望を見出したのだろう。 さて、私が尋問しなければならないな。それ受け止め敵に向き直る。 後ろで「誰だ!?」とか「きゃーーーー!」とかドラゴンの背から何かが落ちる音とかが聞こえてくるが聞こえない振りをする。 嗚咽が聞こえてきても知らない振りをする。こ、ここは範囲ではないから大丈夫だ。が、念を入れて離れておこう。 男たちを二人だけ残してあとは気絶させる。そして二人を引っ張ってギーシュたちから離れる。 引っ張られている男たちは文句を喚き散らしてくるが気にせず運ぶ。 さて十分離れたな。 「さて、お前たちが私たちを襲った理由を話して貰おうか」 「けッ!てめーら襲う理由なんて物取り以外在るかよ!」 やはりその回答か。男を一人蹴り倒す。 「イテェ!何するんガッ!?」 顔も蹴り上げる。さらに腕を足で踏み押さえつけ、デルフリンガーを抜き指を切り落とす。 「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」 考えてみればおかしい。はっきり言ってこいつらが私たちを襲うはずが無い。ただの物取りならなおさらだ。 何故なら平民にとって魔法を使える貴族は本当に恐ろしいもののはずだ。 しかもお忍びとは言ってもワルドやルイズ、ギーシュの格好は貴族であることを隠していない。特にワルドはそうだ。 一人ならともかく3人もメイジが居るともなれば普通は襲わないだろ。 そこを通るやつを襲うにしても相手がどんな奴か確認してから襲うだろうしな。 つまりこいつらは物取りを装って私たちを襲おうとしていた可能性がある。 本当に物取りかもしれないがそうだとしても問題ない。用心するに越したことは無いからな。
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使い魔 魔法使いや魔女、または堕天使が契約によって得る従者。 魔物であったり、精霊、動物など種類は様々である。 主人の命令を絶対忠実に守り、逆らうことは出来ない。 魔力によって呼び出される事が一般的だが、例外もある。 堕天使たちの使い魔 ルシフェル:ヘスパウス、黒翼龍、主従の契約を交わしている。 ヴェルゼヴァウ:ファントム、黒天馬、主従の契約を交わしている。 アスモデウス:ゾディアル、青一角馬、主従の契約を交わしている。 メフィストフィレス:ウェイテル、翼有蛇、主従の契約を交わしている。 マモン:シャオンシャオン、大熊猫、主従の契約を交わしている。 ベルフェゴール:アマデウス、白鴟鵂、主従の契約を交わしている リリス:クレオパトラ、一輪蛇、主従の契約を交わしている バアル:リンカーン、金鬣馬、主従の契約を交わしている アスタロット:アントワネット、白天馬、主従の契約を交わしている ブエル:グレンカイザー、黒鷲馬、主従の契約を交わしている ダンタリオン:ヴィルヘルム、鷲獅子、主従の契約を交わしている ムルムル:ニコラウス、巨大狼、主従の契約を交わしている
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「僕は、結婚式をあげたあと、僕達はグリフォンに乗って帰る。君たちは『イーグル』に乗って帰ってくれ、といったと思うんだが…」 ワルドは絶句する。 「あら、ルイズの結婚なんて格好のネタ逃せないわよ、攻めてくるのは正午なんでしょう? いざとなったらタバサのシルフィードで無理やり逃げるわよ」 タバサは頷く。 「わざわざ危険を押して来たってのに空手で帰るわけにはいきませんからね、ここの勇敢なアルビオン兵士さんたちは六文銭さえあればよいみたいですからね、武器を売る相手ならここほど羽振りのいい相手が見つかる場所は滅多にありませんからね。 最悪、貴族派数人買収しても儲けがでそうですからな…ええ、それは20エキューです…」 ダービーは王党派の兵士たちに武器を売りさばいている。 「なあに、これでも歴戦の船員らさ、火砲飛び交う戦場を強行突破なんてなんどもやってきてらあ、なあ、野郎ども!」 船長の言葉に船員が片手をあげ肯定する。 「非戦闘員の乗ったあの船は人が多すぎるんでな、狭くてかなわん。 無事着港できたのに数人消えていたなどシャレにならなそうだからな」 ワムウはけろりと言う。 「みんながそういうなら残るしかないじゃないか、男として」 ギーシュが呟く。 「やれやれ、僕たちの臣下も馬鹿者だと思っていたけれど、どうやらこんなときにこんなところにいらっしゃった客人たちも利口じゃないね」 ウェールズ皇太子がシャチと共に入ってくる。 「では、ついてきたまえ。結婚式を執り行う」 皇太子は背を向け、歩こうとするが、振り向く。 「そうそう、君たちも出席するのかね?君たちの船は接収したと言ったはずだが… そうそう、今は警備がたまたまいなかったんだな…これは独り言だ。 どちらにせよ、逃げるならそろそろ脱出しておいたほうが吉だと思う」 船長はその言葉を受け、畏まる。 「えー…お前ら…少し重要な話がある。今皇太子様がおっしゃった通り、こんなとこ逃げた方がいい。 だが、俺は残らせてもらう。どこで育て方を間違ったのか、この馬鹿息子はな、親の願いも聞きゃしねえ。まあ、育て方を間違ったのは俺の責任だしな、息子の晴れ姿を見るために残らせてもらう。 あの船なら俺一人いなくても動かせるだろう。ほら、とっとと行きやがれ」 しかし、船員は動かない。 「ぷっ…あはははははは!」 船員は笑い出す。 「何がおかしい!笑ってる暇は無いぞ!これは船長命令だ、とっとと逃げやがれ!」 「おい、ウッド。俺らの船の甲板下に隠してある武器と火薬、片っ端から持ってきやがれ」 「はい、わかりました!機関長どの!」 「何言ってんだバカどもッ!こんなことに付き合うんじゃねえ!」 「何言ってんです船長、この船はあんたの独断専行で動いてきたんだ。あなたなしじゃエンジン1つ動かせないんですよ」 「いつも道り堂々と立って、俺らをコキ使ってください、このままだと俺ら、仕事の邪魔ですから」 「この馬鹿どもめ!俺の息子といい、こいつらといい…だから水兵なんてのは嫌なんだ…クソッ…」 船長は涙ぐんでいた。 皇太子は咳をする。 「ミス・ルイズ、ミスタ・ワルド、彼らの参加は構わないね?」 ルイズは頷く。 「わかった。ではついてきたまえ」 案内された教会は静かで、窓から差し込んだ日光で空気が透き通った水晶のように見える。 教会の席には多くの船員と数人の貴族と一人の大男が座っており、正面の台上には媒酌を務めるウェールズと護衛のシャチが戦時下で出来る限りの正装をして立っている。 教会の扉が開かれ、黒いマントのルイズと、いつもの魔法衛士隊の制服のワルドが手をつないで入ってくる。 こころなしかルイズは人生の晴れ舞台だというのに重々しい表情に見える。 ワルドが歩くのを促し、ルイズは歩を進め、台の上へと昇る。 新婦の冠を頭に乗せられ、黒いマントをワルドに外され、純白のマントを纏わせられる。 「では、式を始める」 皇太子が重々しい声を発する。 「新郎、子爵ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。汝は始祖ブリミルの名において、このものを敬い、愛し、そして妻とすることを誓うかね」 「誓います」 ワルドは頷きながら言う。 「新婦、ラ・ヴァリエール公爵三女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。 汝は、始祖ブリミルの名においてこの者を敬い、愛し、そして夫とすることを誓うかね」 しかしルイズは答えない。 この国の悲しみ。この国に残る兵士の悲しみ。おそらく死ぬとわかっていてそれでも残る船員たちの悲しみ。 残されたものの悲しみ。この悲しみに包まれた荒城で、私はなにをやっているのだろう。 私はどうすればいいのだろう。なぜ彼らはこれほどまでに悲しいのだろう。問う相手もいない。答える相手もいない。 天窓の向こうに見える、あのぼんやりとかすんでいる二つの月、荒城の月にルイズは問い掛けたかった。 「新婦?」 ウェールズがルイズを見る。 声に気づいたルイズはハッと顔を上げる。 「緊張しているのかい?仕方が無い、初めてのことはなんであれ緊張するものだからね」 皇太子はニコリと笑う。 「これは儀礼にすぎんが、儀礼とはそれをするだけの意味がある。では繰り返そう、汝は、始祖ブリミルの名においてこの者を敬い、愛し、そして夫とすることを誓うかね」 ルイズは一拍置いた後、深呼吸し、首を振る。 「お二方には大変失礼をいたすことになりますが、私はこの結婚を望みません」 ワルドの顔が赤くなる。 ウェールズは微笑し、花婿になり損ねた男に告げる。 「子爵、誠にお気の毒だが、花嫁が望まぬ式をこれ以上続けるわけにはいかぬ」 しかし、ワルドは返事もせずルイズの手を取る。 「緊張しているんだ…そうなんだ、そうだろうルイズ…きみが、僕との結婚を拒むはずが無い」 ワルドはルイズの肩をつかむ。 「世界だルイズ。僕達は世界を手に入れるんだ!君は僕にとって必要なんだ! 君の能力が!君の力が!」 ワルドの雰囲気が変わる。その剣幕にルイズが一歩引く。 「私、世界なんていらないわ」 「違う、ルイズ、君に言っただろう。君は始祖ブリミルにも劣らぬ優秀なメイジに成長するだろう! 君はそれに気づいていないだけだ!その才能に!その力に!その強大な、力に! トリステイン、アルビオン、ガリア、ゲルマニア、ロマリア…このハルケギニア全てを火の海に変えることも、支配することも可能な力に!聖地の異端の化け物どもを独り残らず潰し、聖地を我らの手に取り戻すことのできる力が君にはあるんだ!僕には君が必要なんだ!ルイズ!わからないのか!」 ウェールズがルイズとの間に割り込む。 「子爵、君は振られたのだ。いさぎよく引き…」 「ウェールズッ!おまえごとき薄っぺらな藁の城の皇太子が深遠なる目的のわたしとルイズの砦に踏み込んで来るんじゃあないッ!」 ワルドはウェールズの手を強く跳ね除け、ルイズに向き直る。 「ルイズ、どうしても僕と一緒に来てくれないのか?」 ルイズはきっとワルドの目を見る。 「そんな結婚、死んでも嫌よ!あなたが熱烈なラブコールを送っているのは私じゃなくて、ありもしない私の魔法の才能よ!そんな理由で結婚しようだなんて、こんな侮辱はないわ!」 引き離そうとするウェールズをワルドは突き飛ばす。 突き飛ばされたウェールズは杖を抜き、叫ぶ。 「なんたる無礼!子爵、今すぐラ・ヴァリエール嬢から手を離したまえ!さもなくば、我が魔法の刃が君を切り裂くぞ!」 「やってみろッ!この権力の奴隷がッ!貴様の城はもう藁の家だ! 貴族派『レコン・キスタ』中隊隊長ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルドが貴様の藁の鎧を吹き飛ばしてやるッ!」 ワルドも杖を抜く。 一瞬であった。 一瞬の間にいたはずのワルドは掻き消え、護衛のシャチがかばう暇も無いまま、背後からエア・カッターを放っていた。 ウェールズの胴体から血が吹き出す。 シャチが叫ぶ。 「貴様ァッ!それは遍在か!」 ワムウが飛び込みルイズを遮蔽物の後ろに引きずり込む。 引っ張られながらルイズがワルドに向かって叫ぶ。 「ワルド!あんたよくもッ!どうして!」 ワルドは頬の横をゆがめて笑う。 「我々は国境を越えてつながった貴族の連盟だ。ハルケギニアを統一し、聖地の異端の化け物どもを残さず駆逐し、そして聖地を奪還する。その第一歩として君と、ウェールズの命と、その手紙を手に入れたかったのさ。 君はもう大人しく諦めよう、だが手紙は頂かせてもらおうかッ!」 ルイズは杖を構える。 「あなたは昔はそんな人じゃなかったわ!なにがあなたを変えたの!?」 「時間ほど影響を及ぼすものは無い。君がこの腐敗した王党派につくというのなら、 腐りきった貴族たちと一緒に死にたいというなら!いいだろう、ボロ雑巾のようにひねり潰してやる!」 扉から兵士が飛び込んでくる。 「ウェールズ皇太子様ッ!貴族派が正午という時間をやぶり、総攻撃を開始しました!非戦闘員の乗った『イーグル』号は撃破され爆破し、まもなく正門が…ウェールズ様ッ!?」 ワルドは杖を一振りすると、その男の背中が裂け、倒れる。 シャチが憎憎しげに見つめる。 「貴様ら…約束も守らぬ、一片の誇りさえないとは…猫ですらない、泥にまみれた狐であったか!」 「なんとでもいえ、死ねば生ゴミ、死ねば虫ケラ以下だ。敵との約束を無条件に信じるなど鼠でもしまい。 では、大人しく貴様は獲物になってもらおうか、なあに墓は立ててやる。鼠用のな」 ワルドは杖をシャチに一振りする。 そこに、誰かが飛び込んでくる。 「親父ッ!」 目の前で血まみれで倒れる赤鯱に息子は声をかける。 「へッ…バカどもばかりかと思ったけどよ…俺が一番バカだったな… まったく、親に晴れ姿も見せないまま逝かせるなんて、親不孝者…め…」 今にもワルドへ飛び込んでいきそうなシャチをワムウが制する。 「行け、あいつなど俺一人で充分だ。皇太子は死に、国王は危篤。実質指揮するのはお前の役目だろう」 船員たちがシャチに話し掛ける。 「俺らはどうすればいいんですかい、新船長?」 シャチは、目をぬぐう。 「全力で正門の防衛に当たる。行くぞ、野郎ども!」 「合点承知!」 船員たちが出て行き、ワムウはワルドを見たまま後ろの一行に話し掛ける。 「お前らも行ってやれ、こいつは俺が始末してやる。こいつに『ボロ雑巾のようにひねりつぶす』ということがどういうことか教えてやる」 「嫌よ」 ルイズが即答する。 「だって、あんたは私のの使い魔だもん」 ワムウは鼻を鳴らす。 「じゃ、わたしも前線で商売に励まさせていただきましょう。その前に…」 ダービーはある商品をワムウに渡す。 「あなたなら片手でこれを使えるでしょう、料金は後払いで構いませんよ、では」 キュルケやギーシュたちも一緒に出て行く。 「では、人間ごときに、『風』の使い方と『ボロ雑巾のようにひねりつぶす』方法を教えてやるとするか。 ルイズ、デルフリンガー、そして…スレッジハンマーよ」 To be continued.
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No. タイトル マスター クラス 真名 作者 01 結城夏野&アーチャー 結城夏野 アーチャー 須田恭也 ◆0080sQ2ZQQ 02 ドンキホーテ・ロシナンテ&アーチャー ドンキホーテ・ロシナンテ アーチャー ゼオン・ベル ◆bPGe9Z0T/6 03 野獣死すべし 朝倉哲也 アーチャー 朝倉涼子 ◆yYcNedCd82 04 柴来人&アーチャー 柴来人 アーチャー 大和 ◆bPGe9Z0T/6 05 君島邦彦&アーチャー 君島邦彦 アーチャー シーザー・A・ツェペリ ◆0080sQ2ZQQ 06 暁&アーチャー 暁 アーチャー アカツキ ◆ZjW0Ah9nuU 07 アイハラ・リュウ&アーチャー アイハラ・リュウ アーチャー 陽炎 ◆BNxC/Vtkps
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「大丈夫? タバサ」ルイズが改めてタバサに問いかけた。タバサの周りには、かつてイザベラであった塵が舞っている。 いまさっきまで敵対していたとはいえ、実の従兄弟が死んだのだ。普通の精神ならば、いくらか精神に変調をきたしてもおかしくないはずだった。 だが、タバサは、 「大事無い。それよりもあなたたちの傷の治療をしなければ」 そういいきり、淡々と杖を振った。が、ルイズにかけられた治療の速度がいつもと段違いに遅い。それは、 「タバサ。それはイザベラの杖よ」 タバサが振った杖はイザベラの杖であった。あわてた風に取り替えるタバサ。 ようやくルイズの治癒が終わるころ、気絶したはずのキュルケから苦痛の吐息が発せられた。どうやら彼女の意識が回復したようであった。 「大丈夫、キュルケ?」 立てる? と問いかけたルイズだったが、キュルケは目を開き、気丈に微笑んで見せる。 「ええ、少々体力が不安だけれどね。ルイズ、立つのに腕を貸して頂戴」 「ええ、いいわ」 近づくルイズに右手を差し伸べたキュルケは、 「こういうことならもっと体力をつけておけば――」不自然に口調をとぎらせた。 「キュルケ?」 「危ないッ!」キュルケは持てる限りの力で、ルイズとタバサの二人を押し倒した。 ルイズにおおいかぶさるキュルケ。 「いたた、どうしたのよ――ってキュルケ!」 キュルケの背中には、いつの間にか何十本もの大小の純銀のナイフが突き刺さっていた。彼女の意識はすでにない。 「タバサ! 急いで治療を!」ルイズが叫んだ。 「わかった!」 頷いたタバサは足をもつらせながらキュルケのほうへと走りよる。 しかし、 「そのような好機など。与えんよ」 タバサはいつの間にかジョゼフに肩をつかまれていた。 「そんな!」 「いつの間に?」気配はまったくなかった。 このままではキュルケの治療ができない。タバサは力の限りもがく。と同時に、振り返りざまに氷の塊をジョゼフめがけて打ちはなつ。 「?」 だが、ジョゼフはその場から消えうせたかのようにいなくなっていた。ジョゼフの姿を捜し求めるタバサ。 と、そこに、 ルイズの絶叫が響き渡った。 「あなた、何をするつもり?!」 タバサがその方向に目をやると、微動だにしないキュルケを抱きかかえるルイズと、薄ら笑いを浮かべて突っ立っているジョゼフがいた。 「このナイフは私が投げたものだ。だから、しっかりと回収しなくては」 彼は一本一本、勢いよく、キュルケに刺さっているナイフを引き抜き始めた。 ズチュッ。ズルチュチュッ! その度ごとに、キュルケの傷口からどす黒い血液が噴水のように放出されてゆく。 「やめてぇ!」 ルイズは絶叫とともに、彼女を庇いたてるように、いやいやとキュルケを抱える腕を振り回した。そのたびごとにキュルケの赤い血液がルイズの顔に降り注ぐ。一方のジョゼフはそれを愉快そうににやけてみるだけである。 キュルケたちを傷付けずに、ジョゼフのみを攻撃する方法は―― タバサは一瞬の判断のうちに『ブレイド』の魔法を唱え、自分の長い杖に魔法力をまとわりつかせる。 あまりに危険。だが、ジョゼフの意識がルイズに向かっている今が唯一のチャンスでもある。タバサは無言で杖を逆手に持ち、ジョゼフの脇腹めがけて、体当たりをした。 だが、またもやジョゼフはタバサの視界から消えうせた。 「消えた?」 「……でも、この消失は僥倖とすべき。ルイズ、お願い」 ルイズはキュルケを床に寝せ、周囲を警戒する。 タバサは急いでキュルケに治癒魔法をかけ始めた。幾重にも噴出していた血が徐々におさまっていく。 しかし、キュルケが今までに流出させた血液の量も尋常ではない。普段は日焼けで浅黒いキュルケの顔色が、すでに青白く変色している。 「キュルケは後どのくらいで回復する?」 「もうすぐ」 そう応えながらも、タバサはあせっていた。回復してゆく時間が惜しい。いつになく回復が遅い気がする。自分の魔法力では、こんな速度でしか治癒できなかったか? なかなか治らない。今やっと傷口が閉じられた。後は体力の回復をしなければ。 ミシッ。 「今の、何の音?」 「わからない」 ルイズの問いかけに、タバサも周囲を見渡すが、あたりは薄暗く、あまり視界は良くない。タバサが作り出した氷のレンズも、いつの間にか消えうせてしまっていた。 と、天井を見上げたルイズが叫ぶ。 「崩れるッ!」 高さが三メイルほどの、廊下の石造りの天井に、大きな亀裂ができていた。 ルイズたちはその真下にいる。 その瞬間、奇妙な爆発音とともに、天井が巨大な無数の破片となって三人に降り注いだ。 タバサは真上に向け、自分達を包み込むように風の障壁を作り出す。出力は全開。今のタバサのもてる限りの力だ。 だが、巨大な瓦礫の勢いは埋め尽くすかのように雨あられと降り注ぐ。タバサは自分の杖と腕に、支えきれないほどの重力の力を支える結果となった。 「私に任せて!」 ルイズはそういいながら、杖を真上に向ける。 彼女はできる限りの早口で、虚無の魔法を唱えだした。 爆発。 ルイズのエクスプロージョンの魔法である。タバサは自分の杖に科せられていた圧力が急速に減衰していくのを感じていた。 ルイズの魔法により、瓦礫は粉塵となって周囲に吹き飛んだ。ただでさえ良くない視界がなおも悪くなる。 「ケホッ。ゲホッ!」 ルイズがむせる。大丈夫、無事な証拠だ。それよりも。 キュルケは大丈夫だろうか? タバサは床にかがみこみ、寝たままのキュルケを眺めた。 どうやら今の崩落では、キュルケは怪我を負ってはいないらしい。 だが、傷が癒えたのに未だ意識が回復しないのが気にかかる…… タバサが思ったとき、何かが土煙の向こう側で光った気がした。 「何――?」 そうつぶやいたのと、理解したのはほぼ同時であった。 ナイフだッ! それもたくさんの! 空間を埋め尽くさんと空中に並べられたナイフは、ほぼ同時刻に投げられたように、三人を包み込むように配置されている。 まずい! あの量は! 私の風魔法では防ぎ切れない! フライでよける? いや、キュルケを見捨てるわけには行かない! タバサはルイズとキュルケを押し倒すようにして、ナイフに背を向けた。 ドスッ! ドスッ!!! とっさに風の障壁を展開したもの、いくらかが確実にタバサの背に突き刺さる。 「ッ!!!」 電撃を受けたような痛みがタバサを襲う。意識が飛びそうになるのを、かろうじて押さえつける。 「タバサ、しっかり!」 ルイズが近づいてくるが、はいつくばった格好のタバサには、それに応える心理的肉体的余裕がない。 パン、パン、パン…… 緊迫した空気の中、乾いた拍手の音が聞こえる。闇の中から聞こえ出すその音。 タバサとルイズは同時にその方角に振り向いた。 「さすがだ。この危機的状況においても仲間を見捨てないとは。さすはシャルル兄さんの子だ。この俺の相手をするにはそのくらい正義感ぶっていなければな」 「ジョゼフ王……」 「しかし、少しやりすぎたかも知れんな。これでは私が楽しむ前に殺してしまうかもしれん」 ほくそ笑むジョゼフ。 タバサは杖をジョゼフに向けた。ついにこの時がきたのだ。決着をつけるときが。 「王よ、あなたに決闘を申し込む」 「まって! この場はいったん退くわよ!」 ルイズがとんでもないことを言い出した。いったい何故? 「ここは明らかに私達に不利よ。私達の周りにだけ瓦礫が散乱しているし、なによりも私達はあのナイフ攻撃の正体をつかんでいない。ここで戦っても敗北するだけだわ!」 なるほど、確かに言われてみればそのとおりかもしれない。しかし、 「キュルケ、目を覚まして。いったん退く」 肝心のキュルケが目を覚まさない。 「早く、タバサ! キュルケはもう……」 「茶番劇をしている場合か、御二方?」 ジョゼフのせりふが二人を貫き通す。 その言葉と同時に、ジョゼフは懐から銃を取り出した。 「あなた、メイジの癖にそんなものを!」 「そうだ、俺は無能王。この俺にまともな四大系統魔法は何一つ使えやしない。だから、こういうものまで準備したのだ。なに、こうまで近いと素人でも外しやしまい」 ジョゼフは一歩一歩、死刑宣告のように不気味に二人に近づいてくる。 「立ってタバサ! 距離をとって!」 ルイズがタバサを無理やりに立たせる。 タバサはレビテーションの魔法で、倒れたキュルケを引っ張りあげる。 そうしておいてルイズとともに走り出したが、浮かんだキュルケがどうしても遅れていく。 「そう簡単にうまくいくかな?」 ジョゼフは弾丸を発射した。 それは高速でタバサの方角へととび込んできた。 この距離。大丈夫だ。 仰向けにのけぞった瞬間、額を高速の弾丸が掠め飛ぶ。 かわせた! そう思った瞬間、弾丸は鋭い弧を描いて引き返してきたのだった。 とっさに風の魔法で防ぐタバサ。そうしなければ反転してきた弾丸に命中していたであろう。 結果としてキュルケを床に叩き付けてしまった。 しかしそのことを後悔する暇などない。 「タバサ! この部屋に!」 タバサはルイズとともに、最寄のドアを開け、広めの部屋に入り込んだ。 全力で通過してきた扉を閉め、手近にある家具でつっかえを施す。 「この扉の障害がいつまで持つかわからないけど、一旦はジョゼフと距離をおくことができるわ」 「でもキュルケがを置いてきてしまった」 「タバサ、いいにくいけど、キュルケはもう……」 「気にしないで、ルイズ。私はもう気持ちを切り替えている。ただ、あの王の元にキュルケを置いてきてしまった自分が許せないだけ」 タバサはそうルイズに答えた。だが、それは半分正解であり、半分欺瞞でもあった。 キュルケ。ごめんなさい。私と関わり合いにならなければ、こんなところで死ななかったはずなのに…… 「タバサ。ごめんなさい。でも、今はキュルケのことを考えて落ち込んだり後悔している暇はないはずよ」 ルイズの言葉は痛かった。痛かったが、まごうことなき正論であった。 「うん。わかっている。今はジョゼフを打倒することを考えるべき」 タバサの見るところ、ジョゼフが今まで行ってきた数々の挙動。それは明らかに四大系統魔法の範疇を超えた領分のものであった。 で、あるならば。 「スタンドか、虚無の魔法。おそらく両方」とタバサは断定した。 「それって、ジョゼフが私と同じ虚無の使い手かもって事?」 「うん。ジョゼフの突然の出現。ナイフ攻撃。天井の崩落。銃弾の操作。スタンドでは能力が多彩すぎるし、虚無の魔法もしかり」 「そうね。あの天井の崩落。アレは『エクスプロージョン』の魔法だということが考えられるかも」ルイズは考え込むようにして座り込んだ。 「突然の出現とナイフ攻撃は、おそらく同質の能力」タバサは言った。虚無の魔法で、ルイズに思い当たる魔法はないだろうか? 「う~ん。ちょっとわからないわね。出現のほうは、アイツが出てくるまで誰も気づかなかったわけだし」ナイフも、突き刺さる直前までそこに無いかのようだった。 と、そこまで考えたところで、タバサは辺りのあまりの静寂さに気がついた。 ジョゼフが扉の向こうで何かしているとしたら、あまりに静か過ぎる。 と、そのとき。ルイズが急に口元を押さえ、立ち上がった。何か喉を押さえるような動作をしている。 「うごぉぉぉおお……」ルイズが声にならない声を発したと同時に、真っ赤な吐瀉物を大量にぶちまけた。 よく見ると、中にはなぜか大量の釘が入っている! ルイズは口を大きくパクパクと開け、何とか息をしようとしていた。ヒューヒューという呼吸音が漏れる。おそらくあの喉や口の傷では呪文は唱えられないだろう! ルイズは大丈夫? それよりも、彼女はどんな攻撃を受けたの? そうおもったタバサの耳元に、ジョゼフの吐息が発せられた。 「決闘というからにはフェアにいこうじゃぁないか。一対一だ。シャルルの娘よ」 はっとして振り返った先には、すでにジョゼフの姿は無く。 「お前らの察しのとおり、これは、俺が唱えた虚無の魔法の結果だ」 ジョゼフはルイズの足元に立っていた。次の瞬間、 「『加速』の魔法という。そこなルイズとやらはそこまで到達していないらしいな」 ジョゼフはタバサをはさんで反対側の位置に移動していた。 「ちなみに、銃弾を操作したのは別なスタンドだ」 タバサには、王がどう見ても瞬間移動した様にしか見えない。しかし、「加速」という名前からして、実際に移動はしているらしい、とタバサはあたりをつけた。 「そして、そこに無様に転がっている女を攻撃したものが、今装備しているスタンド能力『メタリカ』の力だ」 スタンド能力も、おそらくジョゼフはルイズに触れていないであろう。ならば、今のスタンドも範囲攻撃型の可能性が非常に高い。ならば! 「さて、ここまで死刑宣告にまで等しい俺の能力の告白を聞いてもなお、決闘をする勇気はあるか? いや、この場合は蛮勇か」 ジョゼフはそう言い放った。だが、おそらくジョゼフはタバサが決闘を嫌がったところで、彼女と無理にでも殺し合いを始めるであろう。 タバサは一呼吸おいて、 「決闘に応じる」と応えた。 「ほう」ジョゼフは薄暗く目を輝かせる。 「それはうれしいが、何か策でもあるのか? お前の能力、トライアングルの魔法程度では、今の俺を殺しきることなど不可能に近い」 「策は無いといえば、無い。が、あるといえば、ある」 タバサは自分の杖と、ついでに持っていたイザベラの杖をジョゼフに向け、 「あなたに氷の魔法を放っても、加速の魔法でよけられる。なら、移動範囲すべてを、同時に攻撃してしまえばいい」全魔法力を込め、呪文を唱え始めた。 呪文を唱え続けているタバサの意識の中に、どこからともなく別の意識が流れ込んでくる。すでに、彼女はその意識の持ち主を直感的に理解していた。 その意識はタバサだけに優しく語り掛ける。 ――わかるね、ガーゴイル。いや、エレーヌ。アタシは一度しか手助けできないよ。 「うん。わかってる」 タバサはうなずき、杖を振った。 唱えたものは、本来一人ではできないはずのスペル。 強力な王家が二人以上そろって初めて発動できるはずのヘクサゴンスペルだった。 水の四乗に風の二乗。 この場に、すべてを凍らす絶対零度の奔流が出現する。 その名も、 『ウインディ・アイシクル・ジェントリー・ウィープス(雪風は静かに泣く)』 タバサの周囲の空気が壁となって凍る。さながら卵の殻のように。 「これは、やりおる」 そういうジョゼフの唇が、全身が、見る見る凍傷で黒く、青ざめていった。 「これは、私だけの魔法じゃない……イザベラの分も、キュルケの分もあるッ……」 「確かに一人でできる類の魔法ではない。だからなんだというのだ?」 「もはや、あなたには杖を振り下ろせるだけの腕力はないと見たッ……もう、あなたは魔法を使えないッ!」 「そのとおりだ。何もかにも凍り付いてしまった。だが、その魔法には欠点がある」 ジョゼフは勝ち誇った風にいい放った。 「お前の魔法が放つ絶対零度の寒波は、お前ら自身の杖から発せられている! その分だけ、私よりもお前の凍傷がひどくなるッ! 凍傷で先に死ぬのはお前だッ!」 「くっ……」 「お前が寒さで死ねば、この魔法は解除される。俺はそのときまで待って、体力を温存しておけば良いのだぁ!!!」 「少しでも、あなたに近づいて……」 「おおっと危ない」ジョゼフは楽しそうに後ずさった。 「まあ、近づかれても、射程距離内に入れば、今の俺のスタンド『メタリカ』で反撃する手もあるがな。ここは一つ慎重に行こう。手負いの獣には近づかないに限る」 「ここまできて……」 タバサはついに片膝を突いた。もはや彼女自身に体力が残されていない。 こんなに近くにあのジョゼフがいるのに! ここまで追い詰めているのに! 「ふん、ひやひやさせられたが、最終的には俺の勝利だったな」 そのとき、急にタバサの周囲に炎のカーテンが出現した。 「違うわ」 その声にはっとして振り返ったタバサは、笑いとも泣き顔ともつかぬ顔をし、 「あなたはッ……」 「いい? こういう場合、敵を討つ場合というのは。いまからいうようなセリフを言うのよ」 「貴様は?!」 「我が名はキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー。わが友イザベラの無念のために、ここにいるタバサの父親の魂の安らぎのために、微力ながらこの決闘に助太刀いたしますわ」 キュルケが一歩一歩近づきながら、ファイアー・ボールの魔法をタバサの周囲に当てる。 「貴様らなんぞに負ける要素はなかったはず……」 「いい、私たちはチームで戦うのよ。その意味が、ジョゼフ王、あなたにわかって?」 「そ、のようだな」そういっている間に、ジョゼフの体温はどんどん低下していく。 「これで、チェック・メイトよ、王様」 「……そうか、まあ、いい。だが、何の感情も感じることはできなかった……残念だ……」 その言葉とともに、ジョゼフは氷柱の住人となった。 「あの爆発音はッ!」 「ああ、間違いない、ルイズたちが戦っている音だ!」 ブチャラティたちは急いでいた。彼らが捜索していた東の館に目標は無く、反対側の西のほうから何かの崩壊音が聞こえたからだ。霧が消えた今、ルイズたちに何かの異変が起こっていることは確実と見られた。 二人は二階に設けられた、半ば外に開け放たれたつくりの廊下を中央方面に向かって走る。だが、彼らの行く手をさえぎるように、前方に堂々と身をさらしている男がいた。 「お前は、ボスの精神の片割れ……」 「ドッピオ……」 桃色の髪の毛の男は、確かにドッピオであった。 ドッピオは右手を上げ、二人を制止する。 「おや、王様を殺したのはあなた達ではなかったのですか。ルイズさん達は大金星といえるでしょうね」 「何を言っている?」ブチャラティの問いかけに、ドッピオは己の額を指差した。 「ほらここ、何の痕も無いでしょう? ここには、かつて王様との契約の印が刻まれていたのですよ。だが、今となっては跡形も無い」 ドッピオはそういうと、彼が着ていた上着を脱ぎ始めた。 「だから、もはやジョゼフの契約の呪縛はもう、無い」 上着を脱ぎ捨てたとき、ドッピオはすでに無く、代わりにあの男、ディアボロが佇んでいたのだった。 構える二人。 「とはいえ、お前達には感謝しなくてはいけないな」 「何だと?」 「お前たちが、この世界での私の呪縛を解除したのだ。あの忌々しいジョゼフにかけられた精神を蝕む契約を。だから今までこのディアボロは表に出てこれなかったのだ。この俺、ディアボロを解放したのはお前達だッ!」 ディアボロは持っていた上着を投げ捨て、二人に向かって歩み始めた。 「ブチャラティ……俺はお前を再度殺すことで……未熟だった自分を……ローマであの新入りに殺された自分自身を乗り越えるッ!」 「……ボス……俺たちギャングは殺すなんて言葉はつかわない。すでに殺してしまっているからな……」ブチャラティが冷静に答える。彼の口調は深海の海水のように冷え切っていた。 「ブチャラティ。お前には……あのクソ忌々しい大迷宮を乗り越えて取り戻した……俺の本来の能力で『始末』する……」 「くるぞッ! 気をつけろ露伴!」 そういったブチャラティだが、その実、対策などは何も発案できていない。 「お前らにはっ! 死んだ瞬間を気付く暇も与えんッ!」 『キング・クリムゾン』!! 「我以外のすべての時間は消し飛ぶッ――!」 その瞬間、世界が暗転していった――。 ディアボロ、ブチャラティ、露伴――以外のものがすべて暗黒に覆われていく――キング・クリムゾンが時間を飛ばしている時、はっきりとした意識を持って行動できるものはただ一人、ディアボロのみなのだ――その彼は血をはくように叫ぶ。「あの『新入りの能力』がないお前らに、このディアボロが、負けるはずはないッ!」――過去にただ一体、この能力を打ち破った例外がいたが、そのスタンドは、今この場所には存在しない!――「『見える』ぞッ!ブチャラティ!お前のスタンドの動きがッ!!」――ディアボロは自分がこの時空のすべてを支配していることを自覚しつつ、ディアボロはブチャラティ達に近づく――「なにをしようとしているのかッ!完全に『予測』できるぞッ!」――何も自覚することもなく、惰性のまま攻撃してくるステッキィ・フィンガーズの拳を『エピタフ』で回避し、自らの玉座に向かう皇帝のように、ゆっくりとブチャラティに向く――「このまま…時を吹っ飛ばしたまま『両者』とも殺す! 殺しつくす! ブチャラティ! それにロハンッ!」――ディアボロは勝利を確信しながらも慎重に、かつての裏切り者に向かって、キングクリムゾンの拳を振り上げた――「今度こそ、確実に止めを刺す!」――しかし次の瞬間、暗黒に覆われていたすべてのものが元に戻っていく…… ディアボロにとって、信じがたい現象であった。 「な、なぜだッ?! 俺の『キング・クリムゾン』が、世界の頂点であるはずの我が能力がッ!」 「『解除』されていくだとッ!?」自意識を取り戻したブチャラティにとっても意外であった。 先ほどまで暗黒に包まれていた地面が、建物が元の場所に立ち上がっていった。 暗闇に消え去ったはずの鳥が、再び空を飛翔している。 その空間の中で、露伴が口を開く。 「ブチャラティから聞いていた……お前は自分以外の時間を吹っ飛ばす事ができるそうじゃないか……」 「本当に恐ろしい能力だ。なんてったって、『過程』をすっ飛ばして『結果』のみ残すことができるんだからな……」 「しかし、だ。お前『だけ』が時を吹っ飛ばせるんだ……その能力を完璧に使いこなすには、時を吹っ飛ばした後の未来を『見て』予知しているはずなんだ……時をスッ飛ばしている時に、敵のとる行動が分かっていないと意味ないからな……」 ディアボロは混乱していた。この男はなにを言っているのだ? 「そう、お前は僕達の『未来の行動』を『見てる』はずなんだ……」 このときすでに、露伴は自分の鞄に手を突っ込んでいた。 「僕が『お前に原稿を見せている未来』もね……」 そして、露伴はディアボロの姿をしっかりと見つめ、 「途中の『過程』ををすっ飛ばして、お前が僕の『原稿を見た』という事実だけが残る……」 鞄から自分の原稿を取り出した。 「『ヘブンズ・ドアー』 これで完全発動だ」 ブチャラティはようやくすべてを理解した。 彼はディアボロよりも早く我に返り、次のとるべき行動を行い始めた。 「露伴、ありがとう。本当に君と知り合えて……仲間になれて……本当によかった」 「なんだッ!?何も見えん!」 「これでチェックメイトだ。ボス!」 ディアボロはこのとき、もう視力を失っていた。 もっとも、それがよかったのかもしれない。 なぜなら、絶望しなくて済むからだ。 既に、彼自身の頭に『スタンド能力が使えない』と書かれていたからだ。 「ステッキィ・フィンガーズ」! アリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! 「アリーヴェ・デルチ(さよならだ)!!!」 希望とは、もともとあるものだとも言えないし、ないものだとも言えない。 それは地上の道のようなものである。地上にはもともと道はない。 歩く人が多くなれば、それが道になるのだ。 ~魯迅~ エピローグ 『使い魔は動かない』 街が春の日差しを浴びている。 ネアポリス。 道路工事のため、ただでさえ渋滞で名高いネアポリスの道路に車があふれている。 自動車のクラクションがせわしなくなり響く中、一台の車は郊外の高級住宅地へ向かっていた。 後部座席に座っている20代後半に見える男は、窓から外の様子をじれたように眺めていた。 「まだつかないのか? 相変わらずこの街の道路行政は最悪じゃぁねーか!」 「いつものことでしょう? それにわれわれが言えた口ではありませんよ」 運転手がため息をつきながら男の愚痴に応じる。 この道路工事には、『彼ら』の息のかかった業者が入札に成功していた。 その彼らが道路工事の遅延に不満を言うわけにはいかない。 結局、その道路工事のため、予定より二時間も遅れて、目的地の洋館に到着した。 車に乗っていたその男は、自分のボスの前で、日の光があたる場所を選んで椅子に座っていた。 近くのテーブルには食事が用意され、小人が六人、昼食のピッツァをむさぼっている。 「すまんな、ボス。もうシエスタの時間か……この時間まで何も食わせられなかったから、こいつら今日は仕事しねーな」 「それはいいんです、ミスタ。それより、用件とは? 君の好きな漫画家に関することだとか」 いらだった様子で、向こうの椅子に座った男が尋ねた。部屋の奥にいるため、そこには日光の明かりは届かない。 「そうだ、俺はその漫画家にファンレターを書いたんだ。で、なぜかそいつから俺宛に返事が届いたんだが……」 そう言いながら、ミスタと呼ばれた男は立ち上がり、膝に抱えていた、大きな茶色の封筒を差し出した。中身はかなり分厚い。おそらく、大きめの紙が四百枚以上入っているだろう。 「この手紙は、ボス……いや、ジョルノ。あんたも目を通すべきだ」 久しぶりに旧い呼び名で呼ばれた男は、その手紙の束を読み始めた。 男の表情が見る見るうちに真剣な表情に変わっていった。 その手紙は、このような出だしで始まっていた。 『はじめましてミスタ。君の事はブチャラティから聞いてよく知っている。今から書くことは君にとっては信じられないかもしれないが……』 二週間前。 岸辺露伴はこちら側、つまり地球に帰還していた。 「よし、『使い魔の契約』を解除したぞ」 露伴は己のスタンドで、ルイズの魔法の契約を書き換えた。 ルイズにとって、初の魔法の成果である、コントラクト・サーヴァントの効果を完全に否定したのだ。 「本当にいいのか? ルイズ?」 ブチャラティの、もう何度目になるかもわからない問いかけに、ルイズははっきりと答えた。 「ええ、いいのよ。もう私とって、使い魔は必要なものじゃないわ」 ルイズが露伴のスタンドの補助の元、サモン・サーヴァントの魔法を唱え始める。 彼女の口からは不安なく、力強く呪文が紡ぎ出される。その口調にためらいは無い。 長いが、落ち着いた口調で呪文を唱えた後、 「うまくいったわ」と、ルイズの目の前に等身大の光る鏡が現れた。 「この鏡は、私が新たに使い魔と契約しない限り、あなた達が通行しても閉まらないハズよ」 露伴は彼女に、杜王町につながるように設定していたのだ。 結論から言うと、タバサはあの世界では、母親を助けられなかった。 だが、解毒剤を手に入れられなかった露伴は、ここにいたってある可能性に気がついた。 自分の『天国の門』では、彼女の母の毒を取り除くことはできなかった。 しかし、自分の故郷に、あの町に、食べた者の病気を何でも治してしまう料理人がいたじゃあないか? 一週間後の杜王町。 コンビニ「オーソン」の前からはいる、不思議な横道。 ここは、かつて杉本鈴実と、愛犬の幽霊が住んでいた場所である。 そこに、岸辺露伴と東方丈助がいた。ついでに、広瀬康一と虹村億康もついてきている。 彼らを出迎えている露伴はすこぶる不機嫌だ。それもそのはず、彼の近くにいたのはこの三人だけではなかったからだ。 「いや~。露伴大先生にそんな趣味があったとは……全然気づかなかったッスよ~」 「ま、まあ、露伴先生にもいろいろと事情があったんだし……」 「か、かわいい……」 発言した順に、丈助、康一、億康である。これだけでも露伴を胃痛に追い込めるのに、 「変わった格好……」 「こら、シャルロットや。私の恩人のご友人に向かってそのような事を言うものではありませんわ」 「何で人に化けなきゃいけないの? 私悲しいのね! るーるーるるー」 タバサ、タバサの母、人に変身したシルフィードまでも終結していたのだ 「くそっ! 何でお前なんかに弱みを握られなくちゃならないんだッ! この岸辺露伴が!」 早くも口論をし始めた男二人に、背の小さな男女が止めに入る。 「ほらっ丈助君! もう悪乗りは止めようよ。またうらまれちゃうよ~」 「おちついて」 その間、 一呼吸。 二呼吸。 おまけに三呼吸。 「あなた」 「ブッ!」 「ザ・ハンド!!!」 ガォン! ガォン! ガォン! ガォン! ガォン! ガォン! ガォン! ガォン! ガォン! ガォン! ガォン! 一人の少年が、涙を垂れ流しながら、自力で月まで吹っ飛ぼうとしていた。 どうやら彼には、露伴の『そーいう冗談は死んでもよせ!』というセリフは耳に入らなかったようだ。 「まって!私も飛ぶの~」 星になった少年とひとりの少女はほったらかしておいて、路上での話し合いは続く。 「と、とにかくですね。問題は解決してないんですから」 「ああ。どうしようか、これ」 「オレのクレイジーダイヤモンドでも直せないってのはグレートッスよ~」 「つまり」 「ああ、どうやってもこの『鏡』は閉じない。ということだな」 皆のため息が漏れたことは言うまでもない。 「ブチャラティ! 本当に還るんですか?」 また、そこにはジョルノがいた。ミスタもいる。 「そんなこといわずに、一緒にネアポリスへ帰ろうぜ!」 だが、ブチャラティは、ミスタの言葉にかぶりを振った。 「無理だ。見ろ、この世界じゃ俺の姿は透けて見えるじゃないか。この世界では、俺はすでに死んだ存在なんだよ。ああ、ジョルノには前にも言ったと思うが、俺は元いた場所に戻るだけなんだ」 「そんな……」 「こーいう場合でも、生き返ったといっていいのか? 第二の生活にはとても満足している。だがな、ジョルノ。ミスタ。俺は還らなければならないんだ。それが正しい道しるべに沿った、俺の進むべき道なんだよ」 そういいながら、ブチャラティは静かに、安らかに天に昇っていったのだった…… ルイズ → 使い魔を失った事以外は特に変化なし。だが、いつもの学園生活は、ルイズの自信に満ち溢れた日常に変わっていた。 キュルケ → 死に掛けたことが親にばれ、危うくゲルマニアの実家に戻されそうになる。が、どうにかごまかすことに成功。お腹の傷跡を気にした風も無く、今日も彼氏作りにいそしむ。 タバサ → なぜか岸辺の字と自分の本名を日本語で勉強し始めた。 タバサ母 → いきなりガリアの女王になるも、しょっちゅう王宮を抜け出し、タバサと趣味の旅行に出かける日々。座右の銘は「わたしのシャルロットちゃん、ガンバ!」 ギーシュ → 死にそう。(借金的な意味と、モンモランシーに振られそうな意味で) シエスタ → 観光だと露伴に連れられていった杜王町で、億泰に一目ぼれされた挙句、突然告白され困惑。 岸辺露伴 → ハルケギニア滞在中にたまりにたまっていた、原稿の仕事を超人的な速度でこなす。それがひと段落ついたとき、とある田舎で妖怪のうわさを耳にする。
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特に何も無い毎日が過ぎていった。大盗賊が襲撃してきたりすることはなく、王女が訪問してきたりすることもなく、どこぞに冒険に出かけるようなこともない。極めて平和な日々が続いていた。それに不満があるわけではない。 しかし、そこに大きな満足もない。いや、ほんの数ヶ月前までなら彼はそれに満足していたのだ。授業を適当に聞き流し、昼休みや放課後には女子にちょっかいを出してみる。本命にばれやしないかというスリルにゾクゾクしながらなんてことのない日々を送っていた。 だが、もう以前の彼ではない。世界はそんな生ぬるいものではなく、いつか襲い掛かってくることを知っている。それなのにどうして学院という籠の中にいられるというのだ。時間はあるようで、ない。戦わなければいけないときは、前兆なくやってくる。そのときのために強くなりたい。 敗北を知り、彼はそう思うようになった。 「決闘だ!」 「あんたいきなり何言ってんの?」 キュルケが馬鹿にするような声で言ってやった。ルイズも呆れた目でギーシュを見た。 「だから決闘を申し込むんだよ。受けてくれるかい?」 「誰によ」 この場にいるのは先にあげた二人とシエスタ、そしてンドゥールである。この四人で何をしていたかというと、またあいかわらず魔法の練習だ。爆発の余波を受けていた おかげで真っ黒になったルイズはシエスタから濡れ布巾を受け取り顔をぬぐう。 「まさかンドゥールとやるの?」 「その通り!」 「やってあげてンドゥール」 ルイズがそう言うと、ンドゥールは懐から手袋を取り出し、投げた。それは丸めてあったので空気抵抗が弱く、ひゅるひゅるとギーシュの顔に向かっていった。そして当たる直前、その手袋に向かって水が突き上げた。 ギーシュは背筋が寒くなった。その手袋はなんかやばい。彼はとっさに後ろに下がった。すると、彼の少し前に落ちるはずの手袋が突如動き出して喉元に掴みかかってきた。 「ぐえええ!」 水が詰まった手袋に首を絞められた。ギーシュは暴れるも水の力は強く、手袋は離れない。声が出ないので魔法も使えない。 つまり、どうしようもないということである。 決着。 「というかだね、始めの合図も何もなしに仕掛けるのは反則だと思うんだよ。だからあれは僕の」 「負けよ」 「負けね」 「負けです」 「うん。そうだね」 アハハと乾いた笑いをしてギーシュは水を飲んだ。いまはちょっと小休憩、ルイズも精神力はともかく体力が限界に近かったので食事を摂っている。 疲労があるので食べやすい一口サイズのサンドイッチだ。 「それで、いきなり決闘なんてどうしたの?」 「いやだね、その、アルビオンではフーケに負けてしまったからね。今度は勝てるように鍛えようと思ったんだ。それで本とかを読んだりしてて、次は実戦だと、ね」 「相手が悪いわ。ダーリンが手加減してくれたのもわかるでしょ? もうちょっと実力が近い相手と戦いなさいな」 容赦ない言葉。しかし、それは事実。ギーシュは涙を堪えた。 「しかしだね、他のものと決闘しても普通の魔法ぐらいしかやってこないじゃないか。 もっとこう、こっちが驚くようなことをする相手じゃないと」 「なんで?」 「ガチンコでやりあっても仕方ないじゃないか。裏を掻くようなことをしないとフーケのように実力がはるか上の相手には勝てないだろ?」 「なるほどね」 彼の言うことももっともである。キュルケも実戦の経験、といってもちょっとした喧嘩のようなものであるが、単なる力押しで勝ったのは相手が弱く、馬鹿なときぐらいだ。時には頭を使わなければならないときもある。ギーシュはフーケとの戦いで魔法以外を使うことを知ったのだろう。 「それじゃあ、あんたこの子とやってみなさいな」 キュルケが言ったこの子とは、シエスタ、ではもちろんなくルイズのことであった。 「ちょ、正気かい? 君、ルイズは、その」 「成功率ゼロよ。でもねギーシュ、やりようによっては彼女はあんたに勝つかもしれないわよ」 「なんか腹立つわね。その通りだけどゼロゼロ言わないでよ」 「ルイズ、君はやる気なのかい?」 「当たり前よ。舐めてんじゃないわ。シエスタ、離れてちょうだい」 ルイズはまだ乾いていない髪をゴムで縛り、上着を脱いだ。煤で真っ黒になるため安いマントを羽織っていたのだ。 「さあ、始めましょう。負けは杖を落としたらでいいわよね」 「ああ、まあ、いいよ。けど本当にやるのかい?」 「くどい! さっさと構えなさい」 ギーシュはルイズの剣幕に押され、杖を懐から抜いた。だが、彼は心の中でこの決闘にまったく乗り気ではなかった。それは相手が女性だということもあるが、明らかに力が弱いということが大きな原因だった。大体強くなりたいために決闘を申し込んだのだ。弱いものイジメをしたいためではない。 しかし、彼は気づいていなかった。これとまったく同じ状況に以前遭遇していたことに。 そのとき完膚なき敗北を喫したというのに。 「ワルキューレ!」 まず手始めとして、いつかのように自慢のゴーレムを生み出した。 だが本気ではない。 たったの一体だけだ。 爆発が起こった。それはワルキューレを軽々と吹っ飛ばした。 失敗には違いない。しかし、威力は十二分にある。ギーシュはようやく本気で掛からなければいけないと、理解した。 「すまないルイズ。僕は君を舐めていたよ」 「不愉快ね」 「ああ。これからは全力だ」 詠唱し、杖を振った。すると今度は四体のゴーレムが生まれでた。それぞれ手には短めの棒が握られている。 「行け!」 先ほど倒されたものも起き上がり、合わせて五体ものゴーレムがルイズへと襲い掛かっていった。シエスタが悲鳴を上げるが、ンドゥールもキュルケもルイズ本人も動じることはなかった。 爆発が起きる。ゴーレムが吹っ飛んだ。一体ずつとはいえ詠唱は速く、ゴーレムは近づくことができない。正面からは。 「きゃあ!」 ルイズが羽交い絞めにされた。後ろに振り返ると、ギーシュのゴーレムがそれをしていた。前方に意識を集中させ、背後から忍ばせていたのだ。 「降参したまえ」 「い、や、よ」 ギーシュに応じず、彼女は魔法を唱えた。今度の爆発は超小規模で、ルイズを押さえているワルキューレの肩で起こった。それをさらにもう一度することで、拘束は簡単に解かれた。おまけに止めとばかりに 頭と胴体を爆発で抉る。 「さあ、いくわよ」 ルイズは走り出した。その進行を止めようとギーシュはまだ動けるワルキューレを向かわせた。だが、それすらも爆発で吹っ飛ばされる。これは彼女なりの成長である。 最近の練習のおかげで爆発の規模を調整することと対象を選択することがかなり細かくできるようになったのだ。 「食らいなさい!」 ルイズが杖を振るう。ギーシュは腕で守りを固めたが、無意味。爆発は彼を吹き飛ばした。 「ぐあっ!」 地面に転がる。全身が痛みに呻いていた。馬鹿と鋏は使いようとはよく言ったものだなあ、と、ギーシュは思いながら身体を起こす。と、彼の目に走り寄ってくるルイズが見えた。 このままでは敗退、それは嫌である。三連敗など情けない。ギーシュはどうすべきか頭を悩ませ、逆転の方法を思いついた。 「降参なさい!」 彼の目の前にやってきたルイズがそう命令した。彼女を見上げながら、ギーシュは言ってやった。 「い、や、だ、ね」 「――ッア、」 ルイズの腹を青銅の棒が突いていた。それはギーシュの手に握られている。 彼は土の中に錬金でそれを作り上げていたのだ。 「僕の、勝ちだ!」 そして彼はそのままルイズの杖を弾き飛ばした。くるくると宙を舞い、あとは地面に落ちるだけ。完全な勝利、だと彼は思った。しかしルイズは、勝利を逃すのが我慢ならなかったのか頭が興奮していたのか、おもむろにギーシュをぶん殴った! 「オラァ!」 「へぶ!」 さすがにその反撃は想定できなかった。ギーシュはまともに顎に食らい、杖を放して地面にぶっ倒れた。と、ルイズの杖も地面に落ちた。 「勝ったわ! ちい姉さま、私やりました!」 「いい、いや、ちょっと待ちたまえ! 杖を放したのは明らかに君が先だったじゃないか! これは僕の勝利だ!」 「何言ってるの。勝負は先に杖を地面に落としたほうが負けって決めてたじゃないの」 「そうは言ってもだね、君が殴りかかってきたときにはもう勝負がついてたんだ。 潔く、敗北を認めたまえ」 「潔く? あんたが負けたのよ。あ、ん、た、が!」 「いいや、君だ。勝ったのは僕だ。君が負、け、た、の、だ!」 「違うわ。勝ったのは私。わ、た、し、よ!」 「ぼくだ!」 「わたしよ!」 口論は続くよどこまでも、というわけにはいかないのでキュルケは軽い炎を浴びせてやった。 「落ち着いたかしら。二人とも」 ルイズとギーシュはこっくりとうなずいた。シエスタが急ぎ濡らした布巾を渡す。 結構見た目は悲惨なことになっているがダメージは軽いものであった。 「で、ダーリン、この勝負はどうだった?」 「引き分けだろう」 『そんな馬鹿な!』 「私もそう思うわ。納得しなさい。大体勝ち負けを争うのは二の次でしょ。違う?」 ルイズは口を尖らせ、ギーシュはうつむいた。その通りなのだ。こんな小さなことで争っているのではない。なんとか胸のむかつきを二人は抑えた。 「にしても、二人ともよくやったわよ。強い強い」 「私はあんなもんじゃないもの。手加減してやったんだもん」 「それを言うなら僕だって。わざわざ羽交い絞めしてやったんだぞ。本当ならあの時点で勝負はついていたんだ」 「あら、それを言ったら最初の爆発であんたをぶっ飛ばしてもよかったのよ?」 「なんだと?」 「なによ」 「また口論?」 『イイエソンナコトハアリマセン』 二人は息がそろっていた。 「でもやっぱり修行するにしても全力を出せないんじゃあちょっと問題ありよね」 「そうだな。互いの命を取らないという約束があれば腕は鈍らなくても上達するには 時間が掛かる。アルビオンでのような戦いができればそれに越したことはないのだが」 ンドゥールの言葉にルイズとキュルケ、ギーシュがないないと手を振った。あんなものが何度もあれば修行云々どころの話ではなくなってしまう。 「でも、それに似たようなことならできるわ。ちょっと待ってて」 キュルケはそう言ってその場から離れていった。そして数分後、彼女はどっさりと紙束を持ってきた。 「なんなのそれ」 「これはね、宝の地図よ」 「……また怪しいものを持ってきたね君は」 ギーシュの言葉は全員の心を代弁していた。そんな宝の地図なんていうものは九割九分偽物と決まっているのだ。森林で一枚の葉っぱを探し出すようなものである。 「そんなもの、大抵亜人の巣の奥に宝石が眠ってるとかそんなのだろ?」 「そうよ。だからいいんじゃない」 ギーシュはキュルケの真意がわからなかった。しかし、ンドゥールは理解した。 「その亜人とやらを退治するのが本当の狙いということか」 「正解。さすがダーリン、話が早いわ。チューしましょいだ!」 「寝言は寝て言いなさい」 キュルケの額をルイズが杖で突いたのだった。先は尖っているので痛みはある。キュルケは涙目になりながらも改めて説明した。 「宝探しのついでに亜人と戦って経験を積みましょうってことよ」 「ああ、なるほどね。それなら決闘よりは有効だろう。よし、行こうじゃないか。 亜人退治に」 話はとんとん拍子に進み、シエスタもついて行くと言い出しどうせだからタバサも呼ぼうとなり、大所帯で冒険に出かけることになった。ルイズも最近は訓練と学業だけの生活だったので気晴らしができることが嬉しく、ちょっとわくわくしながら荷を纏めていた。だが、その最中に学院長に呼び出されてしまう。 「何の御用でしょうか?」 学院長室にルイズが入る。中にはオスマンがおり、口にくわえていたパイプを取って声をかけた。 「よく来たの。先日はご苦労じゃった。疲れは癒せたか?」 「は、はい。もう大丈夫です。それで、」 「ああ、呼び出したのは他でもない。アンリエッタ王女に関してのことじゃ。このたび公式に発表されることじゃが来月、王女とゲルマニア皇帝の結婚式が執り行われる ことになった」 喜ばしいこと、とは一概に思えない。ルイズはあの勇敢なウェールズ皇太子を知っている。姫君は彼を愛していたのだ。その人物が散った矢先に好きでもない男と結婚など。ルイズの脳裏に愛しいアンリエッタが思い浮かんだ。 少しも笑ってない。苦しくなった。先ほどまでの心の躍動は消えていた。 オスマンは顔を曇らせているルイズを見やり、思い出したように一冊の本を差し出した。 「これは?」 「始祖の祈祷書じゃ」 それは王室に伝わる伝説の書物。なぜそんなものを、とルイズが尋ねるとオスマンは説明してくれた。 なんでも王族の結婚式では貴族から選ばれし巫女が『始祖の祈祷書』を手に、式の詔を詠みあげる習わしがあるという。その巫女に、ルイズは姫から指名されたのだ。 「その、詔は」 「おぬしが考えるんじゃ」 「わ、私がですか!?」 「そうじゃ。ま、草案は王宮の連中が考えるじゃろうがの。だが名誉なことじゃぞ。 王女自らが示してくださったのじゃ。普通の貴族では式に立ち会うこともできんのにの」 ルイズはアンリエッタのことを思うと胸が締め付けられた。彼女のためなら嫌だとはいえなかった。 「わかりました。謹んで拝命いたします」 「そういうわけで、いけなくなったわ」 ルイズはいざ出発しようとしているキュルケたちに向かって言った。事情を説明すると、彼女らもさすがにそれじゃあ仕方ないかと納得してくれた。肝心の巫女が行方不明になっていては結婚式の段取りに問題が生じる。 学院でじっとしていなくてはいけないのだ。 「それじゃあ、その、ンドゥールさんはどうされるのですか?」 「そうねえ。私としては来てもらいたいんだけど」 「だ、そうだ。ルイズ、俺はどうしたらいい?」 いきなり問われて、ルイズは困った。別にンドゥールがずっとそばにいる必要はない。十分働いてくれたのでここいらで羽を伸ばさせてあげたほういいかもしれないし、亜人と戦いにいくのに彼女らだけではいささか不安。トライアングルが二人にドットが一人とはいえ、魔力が切れてしまえば全員ただの人。 そうなったときにンドゥールがいれば守れるかもしれない。 だから、行かせるべきかもしれない。 「ンドゥール、あなたはどうしたいの?」 「そうだな。どちらでもいいが、強いて選ぶとするなら外へいくほうがいい。いまだに俺はここのことをよく知らないのでな」 その言葉にルイズの胸にぽっかりと穴が開いた。 「そう。なら、行ってきて。ちゃんとキュルケたちを守りなさいよ」 「わかった」 ルイズの心を切ないなにかが走りいく。 あれ、どうしたのかしら、これは。 翌日、ルイズは朝日とともに起き上がり、服を着替えて寝癖を直す。そうしてベッドに座り、チコチコと時計の音を聴いて時間を待つ。だが、いつになっても使い魔は入ってこない。 これじゃあ朝食に遅れてしまう、と思ったときに気づいた。 「そっか、いないんだ」 ルイズは小さく呟き、マントを羽織って部屋を出た。始祖の祈祷書をもつことも忘れない。肌身離さず持ち歩かなければならないのだ。とぼとぼと床を見ながら食堂まで歩いていき、時折彼女はハッとなって後ろに振り向いた。けれどもそこに背の高い男はいない。そのたびに違和感が生まれる。 歯車が噛みあっていないような。 食堂で祈りを捧げ、朝食を取り、今度は教室に歩いていくのだがそのときにも何度も後ろを振り向いた。だがいない。当たり前のはずなのに、なんだか気分が悪い。あの音が聞こえないからかもしれない。 ンドゥールの規則正しい、杖の音が。 教室でいつもの席に座り、授業を受けてもまともに集中することができない。 そばにンドゥールがいない、それだけでなにかがおかしい。 「ミス・ヴァリエール、聞いていますか」 「あ、はい。大丈夫です」 「本当ですか? なら――」 そのときの教師はルイズに問題を出した。それを彼女はすらすらと答えた。 授業は聞いていなくともとっくに予習していたのだ。 その日の授業が終わり、風呂にも入ってルイズは自室に戻った。ばったりとベッドに倒れこみ、ごろごろと回ってから起き上がる。 「ンドゥール」 名前を呼んでも返事はない。この部屋にいるのは自分だけだ。いつも藁束の上で耳を澄ましている男はいない。元々彼とは話すこともほとんどなかった。静けさも何もかわらない。ただ、自分の部屋が異様に広く見えていた。 あの男がいない、それだけ。 それだけであるが、ルイズの心には途方もない寂しさが広がっていた。まるで世界でたった一人しかいないような気分であった。いや、それは真実でもあった。 彼女はゼロのルイズと蔑まれ、いつしか殻に閉じこもるようになっていた。それが、ンドゥールの出現で変わった。 彼女の生活に入り込んできたあの男は静かに殻を壊し、外の世界へ連れ出してくれた。そのぶんフーケやワルドといった危険が迫ったが、彼が守ってくれた。 そして、気づかぬうちに孤独からも救ってくれていたのだ。そのことに気づくと、ルイズはベッドに潜り込み、毛布に包まった。そして名前を呼んだ。 ンドゥール、ンドゥール、と。
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次の日、私はまた薬を飲んでいた。 飲む。ひらすら飲む。ただ飲む。とにかく飲む。 そしてついに飲みきった。 私は打ち勝ったのだ。緑色の秘薬に!何一つ顔色を変えず飲みきったのだ! その後すぐに渡されたさらに色の濃い秘薬はポンフリーに投げつけたくなった。 ポンフリーが言うにはこれを飲まないと衰えた筋肉や傷ついた筋肉が元に戻らないらしい。 もう一回薬を見る。濃い、色がさっき飲んだ薬より濃い。毒薬にしか見えない。 ……我慢だ。これを飲めば明日から普通の生活に戻れるのだ。ここは我慢して飲むべきなのだ。『幸福』になるためには健康な体が必要不可欠だ。我慢するしかないのだ。 口元に近づける。匂いがしない。入っている容器を揺らしてみる。波紋一つ起こらない。 容器を傾けるとゆっくりと垂れてきた。おい。おいおい、これって、 「粘液じゃねえか!」 ねっとりした濃緑の粘液だよ!本当に薬かよ! ポンフリーのほうを向くともういなくなっていた。 「おい、デルフリンガー。ポンフリーは何処に行った……」 デルフに聞いてみる。 「知らね。気がついたらいなくなってたぜ。それより相棒、昨日みたいにデルフって言ってくれよ」 デルフの言葉を黙殺し部屋を見回すが誰一人いなかった。まるで初めからいなかったかのように。無責任すぎないか? 畜生ッ!飲むしかないのか!?飲むしかないんだろうな…… 死なねえよな?医者が患者殺したりしないよな? 「飲まねえのか相棒?それ飲まないとダメなんだろ?」 「お前はこれをどう見る?」 デルフに見せ付けるように容器傾ける。やはり中の液体はゆっくりと垂れる。 「……粘液だな」 「だろ?」 「でも飲まないと治らねえんだろ」 これを飲む私を励ましてくれよ。そんなことは口が裂けても言えないが。 「一気にぐっと飲んじまえば大丈夫だって」 言ったからな。大丈夫じゃなかったら投げつけるからな。 「一気!一気!一気!一気!一気!」 畜生ッ! 大きく口を開きいっきに薬を呷った。 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 「あ゛~~~~~~~~~~~~~……!」 窓が割れる音とデルフの悲鳴が響き渡る。結果:デルフは窓の外に投げられました。 何が大丈夫だあの駄剣がッ!死ぬかと思ったぞ!吐かなかったのが奇跡みたいなものだ! まず薬はねっとりしている。つまり口の中にまとわりつく。しかも咽喉に流れるのが遅い。ゆっくりと流れ落ちていくから咽喉越しは最悪だ! そして味だ。薬は苦い。それは初めに渡された薬からわかっていたことだ。 しかしこの薬はあの苦味を軽く超越していた。まさに苦味レボリューション。これ以上に無いというくらい苦かった。 それが水のようにスルッと口を通り過ぎるのではない。ねっとりと口の中や咽喉にへばりつくのだ。あまりの酷さに涙が零れ落ちたほどだ。 絶対苦くない薬があったに決まってる!趣味を押し付けやがって! 口の中から粘液が全てなくなるのに1時間、苦味が消えるのにさらに1時間かかった。 二度と意識があるときに飲みたくない。 ベッド寝転んで気分を落ち着かせる。気分が悪すぎる。それに腹も気持ち悪い。 寝転んでいれば楽になるだろう。 そう思い寝転んでいるとドアが開く音が聞こえた。ドアのほうに顔を向けるとそこにはルイズがいた。 手にはちょっと大き目の小包を持っている。 「調子はどう?」 あのときのように目の下に隈はなかった。それでも泣き疲れたような顔はしていた。 「ちょっと!すごく顔色悪いじゃない!大丈夫!?」 私の顔を見ると駆け寄ってきて小包を足元に置く。 「心配ない。薬が苦かっただけだ」 やはりルイズらしくない。こちらの心配なんてするような奴じゃなかったのに。 「薬?」 「そこの容器に入ってた薬だ」 ルイズが容器を手に取りまだ中に残っていた少量の残りを見る。 そして何かに気がついたのか容器を傾ける。そして驚いた顔でこちらを見る。 「ヨシカゲ!あんたこれ飲んだの!?」 「あ、ああ」 いきなり大声を出し容器を突きつけてくる。何だって言うんだ? 「信じらんない。これふつう意識があるときに飲むもんじゃないわよ。効果はすごいけど意識がないと飲めたもんじゃないし」 ポンフリー、ここまで徹底的にやられるとある意味清々しいよ。だからといって許すわけではないが。 「で、何しに来たんだ」 それにしてもルイズを見ると後悔の念が沸々と湧き上がってくる。 どうしてもっと早く殺さなかったんだろう。どうしてワルドに拘っていたんだろう。ルイズを殺してからワルドを殺してれば今頃自由だっただろうにな。 これで明日から雑用に逆戻りか。 「ご主人様が使い魔の心配をしたらいけないの?」 「いや、そんなことは無いが」 「それに渡すものがあるのよ」 そういうとルイズは足元においていた小包を開ける。 そこから出したのは、 「私の服じゃないか」 言葉通り私の服だった。そういえば別の服になってるな。そこまで気が回らなかった。 「破けたりこげたりした場所を直しといたわ」 そういって服を渡してくる。偉そうに言うがどうせお前が直したわけじゃないだろ。 そう思いながら服を受け取る。見た目は殆ど変わってない。ちょっと光の跳ね返り具合が変わっているだけだ。 その部分を触ってみる。凄くスベスベしていて明らかに材質が違うことがわかる。もっと材質を近づけようとは思わなかったのだろうか。 懐の部分を探ってみる。あれ?銃はどこだ? 「それとこれ」 そういってルイズが渡してきたものは銃だった。 「服の中に入ってたわよ」 「ありがとう」 そう言って銃を受け取る。これが無くなっていたらどうしようかと思ったぞ。 「それって何なの?」 「お守りさ」 ルイズの問いに適当に返す。 これが何なのか知らせる必要はない。そういえば弾はどうした。これアルビオンに行くときに敵に撃ったはずだから弾を補充しなけりゃいけないんだぞ。 まさかあの道中どこかで落としたのか!? ん?よく考えてみればもっていった記憶が無い。つまりルイズの部屋にあるのか。よかった。 でももしルイズ殺しが成功していたら弾はごっそり無くなっていたという事か。その点については失敗してよかった。 「そ、それでね。あのね……」 ルイズは何かを言おうとして口ごもる。 何だよまだあるのか?もう渡すもん渡しただろう、だったらさっさと帰ってくれないか? 「き、聞きたいことがあるのよ!」 「聞きたいこと?」 ルイズの瞳を見る。顔は赤かったが、その眼は真剣なまなざしをしていた。 ……どうせ碌な事じゃないから帰ってくれ。
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ポルナレフが亀の中で寝ていると、いきなりルイズに叩き起こされ、「三分以内に準備しなさい!ただし質問は許可しないィィ!」と言われた。 やけにハイテンションだな、と思いつつも亀を取り上げてルイズに付いて行くと城門に着いた。 近くの馬車の周りにキュルケ、タバサ、ロングビルの三人がいた。 「おい、一体な…」 「これで揃ったわね。それじゃ行きましょう。」 ポルナレフを完全に無視してルイズが言うと、四人が馬車に乗った。御者はロングビルがやるらしい。 ポルナレフも渋々とだが、一行に従い亀を持って馬車に乗り込んだ。 「いい加減教えろ。今から何処へ行くんだ?」 ポルナレフがやけにどすの聞いた口調でその場にいた全員に尋ねた。 「あら、ヴァリエール、あなたダーリンに何も言わなかったの?」 キュルケがルイズを呆れた目で見た。 「だ、だだだだって早くしないと逃げられちゃうじゃない!」 ルイズが慌てて言った。 「まあいいわ、私が教えてあげるわ。」 ポルナレフはキュルケから宝物庫の壁に穴が開けられ『破壊の杖』と呼ばれる代物が盗まれた事、 そしてその犯人が『土くれ』のフーケであり、その隠れ家もロングビルによって突き止めた事を聞かされた。 「何をしに行くのかは分かった。だが、何故貴様らなんだ?フーケはトライアングルで巨大なゴーレムを使うらしいじゃないか。 勝機はあるのか?貴様らのような年端も行かない生徒に。それに行かせた教師も教師だ。止めるべきじゃないのか?」 「私達は志願したの。しかも一番始めに志願したのはルイズよ。」 ポルナレフがジロリとルイズを睨む。 「それにあたしとタバサを舐めちゃ困るわ。私達は生徒だけど、クラスならフーケと同じトライアングルだし、タバサはシュヴァリエなのよ。」 「シュヴァリエ?」 「そう。位としては低いけど、他の爵位と違って純粋な実績でしか取れない爵位なの。タバサの年で持ってるなんて普通有り得ないわ。」 なるほど、この二人がいれば勝機はあるということかとポルナレフは感心してタバサの方を見ると、タバサは本を読んでいた。 少しは緊迫感を持て、と心の中でつっこんだ。 「そういえば前にミス・ロングビルは土のラインと聞いたし、安心してもいいか。」 「へぇ!そうなんですか!?」 キュルケが驚いてロングビルに聞いた。 「え?ええ。ミスタ・ポルナレフの言う通りですわ。」 いきなり話し掛けられたロングビルは少し動揺しながら答えた。 さて、勿論だがそのやり取りに不快を感じているのが一人いた。 ルイズ・(中略)・ヴァリエールである。 (なんで使い魔の癖にあたしを無視して他の三人を頼りにしてるのよ!見てなさい、この可憐なご主人様がフーケなんてギッタンギッタンのボッコボコにしてやるんだから!) なんだか某区のがき大将に近いことを思いつつ、到着をいまかいまかと待ち構えていた。 そんなルイズをポルナレフは「何故魔法も使えないのに志願したのだ」と小一時間問い詰めたかったが場所が場所なので睨み付けるだけで我慢した。 数時間後、馬車は森の中で止まった。そこから道案内役であるロングビルの意見に従い森の中を歩いて行くと開けた場所に出た。 そこにはぽつんと一軒の廃屋があった。 ロングビルいわく、廃屋はフーケの隠れ家であそこにフーケがいるらしい。 「…さて、どうするべきかな。」 五人は頭を寄せて話し合った。つーか敵陣の目の前で作戦会議とかするなよ。馬車の中で出来たろ。 決まった作戦は一番動きが素早いであろうポルナレフが先行して内部を確認し(「これ位しか役に立てないからな」Byポルナレフ) フーケがいたら挑発、そして土の少ない廃屋内から出て来た所をゴーレムを生成する暇を与えず全員で攻撃するという物だった。 いなかったら中を調べて破壊の杖だけでも取り返す次第だ。 ポルナレフは木陰に隠れて亀からレイピアを取り出すと、(「俺を使ってくれ」とか聞こえた気がするが無視した)ルーンが光だし体が軽くなるのを感じた。 それと同時にチャリオッツを発現させる。視覚が無いのがちょっと残念だが、本体である自分より素早く対応できる。 息を殺し、なるべく慎重かつ素早く廃屋に近付いていった。 側まで来るとさっと壁に背中を張り付け、窓から中を覗いたが中に人の姿は見当たらなかった。 ポルナレフは四人の元まで戻るとその事を報告し、今度は五人全員で小屋に近付いていった。 「罠はないみたい。」 タバサが探知魔法を使い罠が無いのを確認すると、ルイズとロングビルを見張りとして残し、三人は中に入って勇者よろしく廃屋中を物色しだした。 やがてタバサがチェストの中から破壊の杖を見つけた。それを見たポルナレフが驚愕し、 「おいおい、嘘だろ?承太郎!」 と、何の意味もないが何となく鼻を押さえて大声をあげた。 「ジョータロー!?」 タバサが何故か目を輝かせて尋ねた。 「あ、いや。なんでもない。」 「………そう」 タバサが何故かしゅんとなった。 (おいおい、これが『破壊の杖』なのか…?確かに破壊もするし、杖にも見えるが…) そんなタバサを気にもかけずポルナレフがそう思っていると、 「きゃああああああああああッ!」 外でルイズの叫び声があがった。驚いて三人が外に出るとそこには身の丈30メイルはあるであろう土のゴーレムがいた。 「ゴーレム!」 ポルナレフはキュルケがそう叫ぶより早くルイズの元まで駆け寄り、 抱き上げるとゴーレムから距離を取った。その時、ロングビルがいないことに気付いた。 「ルイズ!ミス・ロングビルはどうした!?」 「ミ、ミス・ロングビルなら森の中を偵察してくるって…」 ち、とポルナレフは舌打ちした。 (もし仮にフーケと遭遇したら勝てないだろうに…!何故森の中に一人入って行ったんだ!?勝てる見込みなんて…) ポルナレフはロングビルの無事を願った。 だが、他人の心配などしてはいられない。本体であるフーケが見当たらない限りチャリオッツなんて土のゴーレムには無力である。 「退却」 タバサはそういうと口笛を吹いてシルフィードを呼び出し、四人は急いでそれに飛び乗った。 四人が乗るとシルフィードは高度を上げてゴーレムの射程から外れた。 「さて、やはり俺達にあのゴーレムを止める術は無いようだな…。」 シルフィードの背中でポルナレフが言った。 既にキュルケとタバサがゴーレムに試し撃ちをしたが、実力の差のせいか無駄だった。 「俺は一旦帰るべきだと思う。」 この面子では到底勝てはしない、だから破壊の杖だけでも持ち帰るべきだ、というのがポルナレフの意見だ。キュルケやタバサもそれに同意する。 「ちょっと!ミス・ロングビルはどうするのよ!」 ルイズが怒鳴る。 「ミス・ロングビルは俺達の為に犠牲になった…そう学院には伝えよう。」 ポルナレフは残念そうに言ったが、ルイズはそれに反対した。 「ミス・ロングビルは死んだと決まった訳じゃないわ!見捨てる事なんて出来ない!」 「ルイズ、悔しいけどダーリンの言う通り退いた方がいいわ。ミス・ロングビルを探し出すなんて無理よ…」 「ここは退くべき。」 キュルケとタバサもポルナレフと同じく退くことを主張した。そんな三人に対しルイズは 「もういい!あなたたちだけで帰ればいいわ!私だけでフーケを倒すから!」 と言うとシルフィードから飛び降りた。 「待て!はやまるな!」 ポルナレフは思わず叫ぶと同時にタバサが『レビテーション』をルイズにかけた。 ルイズが地面に軟着陸し、ゴーレムと向かい合う。 そのゴーレムの肩にはいつの間にかフード付きのローブを身に纏った人の姿があった。 「あ、あれはまさか『土くれ』のフーケ!?」 キュルケがそれを見て叫んだ。 「あら。お嬢ちゃん、まさか一人で私の相手をするつもり?」 フーケはルイズが一人風竜から落ちてくるや、杖を構えたのを見てせせら笑った。 「わ、私だってやる時はやるんだから…!」 ルイズの声が震えているのに、ますますフーケは笑った。 「お嬢ちゃん、勇気と無謀は違うのよ?お嬢ちゃんのはただの無謀よ。風竜の彼等みたいに大人しく尻尾を巻いて学院に帰った方が身の為じゃなくて?」 「ふざけないで!」 ルイズは怒鳴った。 「まだ…ミス・ロングビルがまだ森の中にいるのに私達だけで帰れる訳無いでしょう…?生死も分からないのに…死んだとか決め付けて…」 ルイズは精一杯声を出して言った。 「…あーお嬢ちゃんの言いたいことは分かったよ。それじゃあそのロングビルの後を追わせてやるよ!」 フーケのゴーレムは足を上げるとルイズを踏み潰そうとした! ルイズはそれに杖を向け『ファイアボール』を唱えたつもりだったが、いつも通り爆発が起こり、ゴーレムの足は粉々になった。 フーケは少し不快感で顔を歪ませたが、気を取り直して足を再生させるとまた踏み潰そうとした。 ルイズは再度『ファイアボール』を唱えようとしたが、 「痛ッ!」 手に衝撃が走り、杖を取り落としてしまった。 見ると地面から小さなゴーレムの腕が生えていた。それがルイズの手から杖を叩き落としたらしい。 「はッ!二度も同じ手を使うもんかい!」 杖を拾うか?と考えた時には既に遅かった。ゴーレムの足がルイズのすぐ上にまで来ていたのだ。 ゴーレムの足が錬金により鉄に変えられる! (やられるッ!) ルイズは目を閉じ、無駄ではあるが、自然と頭を手で庇おうとした。 ズゥン… ゴーレムの足がルイズを踏み潰した。 「あのお嬢ちゃん…まさか失敗魔法であたしのゴーレムの足を砕くとはねぇ…ちょっと恐れいったよ。」 フーケが独りごちた正にその時、 「いや、まだだ。まだ死んではいない…」 いきなりゴーレムの足元から声がした。 「……?」 「貴様のお陰で助ける事が出来た…貴様が『土』から『鉄』に変えてくれたお陰でな…」 「……?」 フーケはゴーレムの足を退けさせた。 「!な!何故あんたが!?」 ゴーレムが足を退けたそこには気絶したルイズ以外に『もう一人』いた。『いるはずの無いもう一人』は破壊の杖を携えたポルナレフであった。 「『土』や『砂』は切れない。それは粒子が細かいからだ。だから切ってもすぐにくっついてしまう… だが、『鉄』や『岩』ならチャリオッツでたやすく切れる…!」 ポルナレフはギロリとフーケを睨み付けた。 To Be Continued...
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ヴェストリの広場。魔法学院の西側に位置する広場で、日中も薄暗く、それ故に人もあまり寄り付かない。 そんな場所に一人の少女と二人の少年が誰かを待ち受けるように佇んでいた。 少女は広場の中央で腕を組み、少年たちは離れてその様子を伺っている。 「……遅いわね」 「……遅いな」 「……遅いね」 中央で仁王立ちする少女の独り言に、そこから離れて佇む少年たちが答える。 彼女たちは決闘を行なうべく、そしてそれを見守る為に、決闘相手を待っているのだが その相手が一向に姿を現さない。時間だけが緩やかに過ぎていく。 「……来ないわね」 「……来ないな」 「……来ないね」 10分程経過しても未だに相手は現れない。少女は今朝の決闘相手とのやり取りを思い出し、 また無視されたんじゃないかと少し不安になる。 「ひょっとしてさ……」 小太りの少年がボソリと呟き、残りの二人の視線が集まる。 「場所…知らないんじゃないかな?」 「……アンタが連れて来るんじゃなかったの?」 「…知ってると思ったんだ」 少女の質問に被りを振る少年。気まずい空気が流れる。 「使えないデブね」 少女の放った言葉が思春期の繊細な心に突き刺さり、少年は座り込んで嗚咽を洩らす。 人気のない広場に少年の泣き声だけが木霊する。 「オレ……探してこようか?」 広場を包む空気に耐え切れなくなったもう一人の少年が少女に問いかける。 少年の眼から、この場から逃げ出したいと言う感情が溢れ出ていた。 「ダメ。一人にしないで」 普段の横暴さからは到底考えられない言葉を少女が紡ぎ出す。 その眼にはうっすらと涙さえ浮かんでいた。 もう限界だった。 「ここがヴェストリの広場さ」 広場の入り口から聞こえた声。それは悪しき闇を吹き散らす一陣の風。 「ありがとう。助かったわギーシュ」 メイド服を着た少女が、薔薇の造花を持ち泣きはらした顔の少年に感謝を述べる。 少年はそれに手を振って答えると広場の隅に行き、座り込んで再び泣き始める。 その傍には小熊ほどもある大きなモグラが慰めるように寄り添っていた。 「お…遅かったじゃない!!」 「トリッシュ!来てくれたんだね!!」 トリッシュと呼ばれた少女は決闘相手の少女と彼女の主の少年に交互に目をやる。 「……泣いてた?」 「「泣いてなんかない!!」」 殆ど同時に否定し袖で眼を擦る二人。その仕草で泣いていたことは一目瞭然であった。 「ヤッホー!ルイズ来てあげたわよー!」 「キュルケ!アンタなんで来てんのよ!!」 トリッシュたちの後に続いて二人の女性が広場に現れた。 燃えるような赤い髪と、褐色の肌に包まれた豊かな胸の谷間を惜し気もなく見せつける少女と、 透き通る青空のような髪と、雪のように白い肌を持つ少女。 対照的二人。だが、親密な雰囲気が漂う不思議な少女たちであった。 「ちょっとね、向こうがアレなもんだから」 ルイズと呼ばれた少女がキュルケと呼んだ少女の言葉に首を傾げる。 「危険」 青い髪の少女の言葉で尚更訳が判らなくなった。 「と、ともかく!邪魔はしないでよ!!」 「判ってるわ。ちゃんと、負けるところ、見ててあげる」 決闘相手を無視して言い争いを始める二人を見て、トリッシュは一つ溜息を吐くと ルイズの立つ中央へと歩みを進めた。 「遅れて悪かったわね」 近くで聞こえたトリッシュの声でルイズは漸くその存在に気付くと、いつも通りの笑みを浮かべ 嘲りと侮蔑が込められた眼でトリッシュを凝視する。 「てっきり怯えて逃げ出したのかと思ったわ」 「アンタ相手に逃げ出す必要はね~わよ」 ルイズの挑発を意に介さず、トリッシュは逆にルイズを挑発する。ルイズの瞳が怒りに燃えた。 「き、貴族と平民の違いを、ア、アンタの身体に教え込んであげるわ!」 「そのセリフ、聞き飽きたわよ」 頭に血が昇ったルイズが呪文を唱え杖を振り、トリッシュが立っていた場所が爆風に包まれる。 それが開始の合図となった。 「ハズレよ。ヘタクソ!」 トリッシュは魔法が発動する前に横に飛び、爆発を回避してそのままルイズを中心に円を描くように走る。 怒り心頭となったルイズが呪文を唱え、トリッシュの後を追うように爆発が続く。 「逃げてないで戦いなさいよ!この臆病者!!」 ルイズが叫び、広場に敷かれた石畳や広場を囲う壁がルイズの起こした爆発によって穴が開く。 最初は攻撃魔法の呪文を詠唱していたが、どんな呪文でも爆発が起きるので詠唱時間の長い 四系統魔法の呪文を止め、コモン魔法の呪文にルイズは切り替えていた。 コモン魔法の呪文は四系統魔法のルーンを用いた呪文とは違い、唱えるメイジによって違う。 幾つかの、呪文の効果を発揮する為の言葉を入れさえすれば、使用者は各々自由に呪文を 創ることができるのである。 魔法発動の間隔が短くなり、爆発が逃げ回るトリッシュへと徐々に迫る。 しかし、トリッシュは焦ることなく静かな眼でルイズを観察する。 彼女は仲間たちの敵スタンド使いとの戦闘の経験談や、自身の僅かながらの戦闘経験によって、 観察することの重要性を認識していた。 (ルイズの起こす爆発は……銃弾のように『なにか』を打ち出して…それが触れたものを… …爆発させる……その『なにか』が見えないって~のが怖いわね) 例えば炎が襲ってくれば回避や迎撃、防御などの選択肢が生まれるが、なにも見えず感じることもできない ルイズの魔法は、知らなければ防ぎようのない恐ろしい能力である。 事前にルイズのことを知らず、様子見の為に逃げ回ると決めたトリッシュは幸運であった。 「ほらほらどうしたの?もっと早く逃げないと追いついちゃうわよ!!」 向かって来ずに自分の周りを逃げ回るだけのトリッシュを見て、落ち着きを取り戻したルイズが 笑いながら魔法を唱える。余裕ができたのか、命中率も上がり始めていた。 だが、トリッシュは逃げ回るだけ。まるでなにかを待つように――― 「偉そうなこと言っといて逃げ回るだけ?所詮は…う、げほっ!」 トリッシュは、ルイズの精神力(授業で習った)が尽きるか、又は早口で呪文を唱える ルイズがむせて攻撃が途切れるのを、ずっと逃げながら待っていたのである。 体力にも限界がある為、いい加減近づこうと思っていた矢先であった。 「それを……待ってたわ!!」 ルイズが喉を押さえてむせている。この好機を逃すまいとトリッシュはルイズに向かって走る。 距離が縮まり、そのまま殴りかかる寸前にルイズが顔を上げる。笑っていた。 「引っ掛かったわね!」 ルイズの叫びと同時に、トリッシュの左足が、爆発した。