約 2,674,181 件
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/2010.html
ント小ネタ あれは何なんだろう? 爆発の煙が晴れてようやく見えてきたのは、赤くてウサギの耳みたいなのがついたちっちゃいゴーレムみたいなもの。 というより、動くのこれ? 私、錬金使えないのよ!? 「おい、ルイズが変なゴーレム召喚したぞ」 「どうせ動かせないんだから意味ないじゃん」 黙れ外野! ……落ち着くのよルイズ。今は外野に構っている時間はないわ。とりあえず、現状を確認すると 1・召喚には成功した。 2・でも動かない。 3・生物じゃない=使い魔として機能しない。 ……うん。現状確認終了。次にやることは決まっているわね。 「ミスタ・コル――」 「契約しなさい」 即答!? ……いえ、諦めては駄目よルイズ。一生がかかっているんだから。 つまりはもう一度、サモン・サーヴァントを行えるように説得すればいいのよね。この使い魔(仮)はゴーレム。つまり、生きていない。 「……あのー」 新しい使い魔を召喚するためには前の使い魔が死ななきゃいけないけど、これはそもそも生きてないわ。 「……すいません」 ならば、これは単なる失敗。サモン・サーヴァントは失敗したのよ。つまり、もう一度サモン・サーヴァントを行えるって事よね! よし、これで行くわよ! 「お、お願いします。気付いて下さい~」 「さっきからうるさいわよ! 一体なんなの……よ?」 あれ? 気がつくと回りのみんなが下がって杖を構えている。青い髪の娘なんかは後ろに氷の槍まで待機させてるし。 「いったい、どうしたのかしら?」 「そ、それが僕にも分からなくて……」 「「うーん……」」 とここで気付いた。今、私は誰と話しているのだろう? 声はすぐ隣からしているのだが、確か全員、私から離れている筈だ。 「…………」 なるべく驚かないように恐る恐る、隣を見てみると、そこには先ほどの赤いゴーレム。右手を顎(?)に当てて、何でだろう? という感じで首(?)を傾げている。 うん、ぶっちゃけ動いてた。 そして、そんな私の視線に気付いたのか、赤いゴーレムは、慌てて頭をこちらに下げてきた。 「あ、おはようございます。僕はロボまるっていいます!」 それからが大変だった。ロボまるに敵意が無いと分かるやいなや、ミスタ・ツルッパゲがロボまるを解体しようとするわ、青い髪の娘――タバサがロボまるを気に入りさりげなく奪おうとするわ、ロボまるの人気(主に女子からの)に嫉妬したギーシュが「僕のゴーレムの方が強い」とか言いながらいきなり決闘を申し込むわ、返り討ちにあうわ、ロボまるの最も効率の良い食事が「竜の血」と呼ばれる物だという事が判明し、またハゲが暴走するわ、フーケのゴーレムを倒すわ、ワルド倒すわ、レコンキスタを一緒に倒すわ、進化するわ……。 とにかく、いろいろな事があった。今では私も魔法を使えるようになった。私の使い魔 のロボまるも今やカスタまるとなり、伝説のガンダルーヴとして使い魔達の憧れの的になっているそうだ。 最近はロボまるの任務が多くて離ればなれになる事が多いけど、いつも心は一つ。 「ロボまる! 私の詠晶の時間を稼いで!」 「うん、分かったよルイズ!」 ファイアナックル!! 完 -「ロボットポンコッツ」のロボまるを召喚 小ネタ
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2245.html
ゼロと使い魔の書 第六話 かちゃり、とスプーンを置く音が、活気ある厨房の中でやけに大きく聞こえた気がした。 「ありがとう、とてもおいしかった」 琢馬はいつもと変わらぬ様子で、隣のシエスタに告げた。 「ふふ、お粗末さまでした。また食事を抜かれてしまうようなことがあったら、いつでもいらして下さい、タクマさん」 「恩に着る。ところで何か俺でも手伝える事はないか?ご馳走になりっぱなしというのも気が引ける」 今まで他人に気を遣うといったことがあっただろうか。この世界にきてから色々と初めての体験が多い。それら全ては、 その時抱いた感情とともに革表紙の本にあますことなく記されていく。できれば、後から読み返したくなるような記述を残したいものである。 「そうですね……でしたら、デザートを運ぶのを手伝ってくださいな」 手伝いの内容は過去の体験を思い返す必要もない、シエスタがケーキを配る間、銀のトレーを持っているというごくごく簡単なものであった。 中央のテーブルに差し掛かったところで、耳障りなはやし声が聞こえてきた。 「なあ、ギーシュ!お前、今は誰と付き合ってるんだよ!」 取り巻きの中央の金髪の少年に、その言葉は向けられていた。 少し、意外に思った。中世の貴族が付き合うといったら結婚前提で、軽々しく誰それに乗り換えるなんてことは絶対にない事だと思っていたが、どうやらここら辺の事情は今までいた世界とあまり変わらないらしい。 「つきあう?僕にそのような特定の女性はいないのさ。薔薇は多くの人を楽しませるために咲くのだからね」 肩をすくめる動作と共に吐き出されたセリフに周りの友人がややあきれたような笑みを返しているところを見ると、一夫多妻というわけでもないらしい。 友人の反応まで総合すれば、普通の高校の教室でも充分ありえそうな光景である。 彼らの盛り上がりが最高潮に達したのと、シエスタが彼らにケーキを配るのとはほぼ同時であった。 大げさな身振り手振りを交える金髪の少年のポケットから見覚えのある小瓶が落ちる。確かモンモンランシーという女学生が昨日廊下の影で彼に渡していたものだ。 「シエスタ、一人で配るのは大変かと思うが、先に行ってくれるか?」 シエスタは小瓶に視線を落とし状況を理解したようで、軽くうなずくと一人でケーキ配りを続けた。 「落とし物です。旦那様」 拾ってよく見ると、きらきらと朝の光を反射した紫色の液体はとても美しかった。 しかし、金髪の少年は自分が思ってもみなかった行動に出た。 「これは僕のじゃない。君は何を言っているんだね?」 声色や表情から、そしてThe Bookの記述から、はっきりと嘘だと分かった。 この金髪の少年が何を考えて今のようなことを言ったのか。大方この小瓶が誰かと付き合っている証拠となるような代物で、それを誰にも知られたくないがために嘘をついたといったところだろうが、 別にそんな経緯には興味がない。が、ここでただ引き下がるのは自分の記憶力を否定されたようで面白くない。 「失礼しました。私はてっきり、昨日モンモランシー様が『あなたのために調合したの……愛しているのなら受け取って、ギーシュ』というお言葉と共にギーシュ様に渡されて、 『もちろんさモンモランシー。薔薇のように美しい君からのプレゼントを受け取らなかったら、きっと始祖ブリミルの怒りに触れてしまうだろうね』とギーシュ様がおっしゃったものだと思っていましたが、 私の勘違いのようで、申し訳ありません」 金髪の少年の顔は始め赤くなり、続いて青くなり、最終的ににごった白色になった。 「意外!それはモンモランシー!」 「気取ったこと言ってると愛想つかされるぜ!」 「違う。いいかい?彼女の名誉のために言っておくが……」 再び喧騒に包まれるかと思われたが、茶色いマントの一年生がギーシュのところまで来て涙目で恨みがましい視線を向けたことで一瞬にして沈下した。 「ギーシュ様……やはり、ミス・モンモランシーと……」 「彼等は誤解しているんだ、ケティ。僕の心の中に住んでるのは君だけ……」 「このきたならしい阿呆がァーーッ!!」 その一年生は外見からは想像できない嫉妬に狂った咆哮をあげると、何も入っていないワイングラスで金髪の少年を殴りつけた。 幸いというべきか、ガラスの破片は少年だけに突き刺さったようだった。 一年生が元の席に戻るのと入れ違いになるように、金色の巻き毛の少女が少年のもとにやってきた。 ガラスで切ったらしい傷を押さえながら、少年は続いてやってくる人物に目を見開いた。 「モンモランシー。誤解だ。彼女とはただ……」 「やっぱりあの一年生に手を出していたのね?」 「いや、だから……」 「この二股かけて遊んでる堕落した男がァーッ!!」 少女は空の皿で少年の頭を殴りつけた。広間の誰もが注目するようなひどく大きい音と共に皿は割れ、少年はテーブルへ突っ伏した。 静寂が食堂の一角を支配する。 取り巻き達が囃し立てるかと思ったが、彼らはお互いの顔を見合わせるばかりで何も言おうとしない。さすがにいたたまれなかったらしい。 「あのレディたちは、薔薇の存在の意味を理解していないようだ」 ポケットからハンカチと薔薇を取り出すと、少年は顔の血を拭い、こちらを睨みつけた。 「おい、君、こちらへ来たまえ」 薔薇を軽く振りながら言った。 一歩踏み出すと同時に、少年はいきなり拳で殴りかかってきた。よけられたが、よける必要性を感じなかった。クレイジーダイアモンドのラッシュを受けた自分にとっては ものの数には入らない。 拳が左頬に入る。鈍い音がしたが、大したことはなかった。しかし造花のとげで切ったらしく、一筋の血が頬を流れる。 「痛いか、平民。君はその程度の怪我で済んでいるが、君のおかげで二人のレディが傷ついてしまったんだぞ?」 短い、息を呑むような音が聞こえた。見るとシエスタがこちらを見ていたらしく、口を手で覆っていた。心配そうな顔をしていたので、とりあえず落ち着かせることにした。 「おい、なんて顔してる。不安なのか?ケーキ配りなら、悪いがもう少し待ってくれ。俺はちょっとこのマンモーニと話があるんだ」 彼女を仕事に戻そうとしたら、少年が割り込んできた。 「おい、今なんて……」 「まあまてよ。新しくいくつか言葉を覚えたからって、人の話に割り込むのはマナー違反だ。落ち着いて彼女に説明させてほしい。あとでちゃんと君の話は聞いてあげよう。それともなにか?いそいでいるのか?専属のベビーシッターでも待たせているのかい?」 そう言うと、少年の顔に血管が浮き出てきた。どう反応するか少し興味があったが、怒り方は貴族も何も関係ないらしい。 もう一回殴りかかってくる、かと思いきや、少年は無理に落ち着けるように肩を上下させ深呼吸すると、憎しみがこもった視線を自分へ向けただけだった。少し意外だった。 「いいだろう……貴族に対するその口のききかた、勇気だけは認めてやろう。だがお前、『覚悟』はあるんだろうな?」 少年は薔薇を琢馬へ突きつけた。 「これからお前に『決闘』を申し込む。五分後、ヴェストリの広場でだ。よもや逃げたりしないだろうね?」 「五分だな。わかった」 気取ったしぐさで立ち去る少年を眺めていると、後ろから声をかけられた。 「タ、タクマさん、あ、あなた殺されちゃう……」 シエスタだった。もうケーキは配り終えたらしい。 「それほど、強いのか?」 「貴族の方を本気で怒らせたら……」 「なら、シエスタは人に責任を押し付けるような人間に、命乞いするべきだと?」 シエスタは唇を噛んで迷うような素振りを見せた。きっと、この世界では貴族と平民の格差は絶対なのだろう。自分と住んでいた世界が違うこの少女はおそらく、自分の問いに答えることができない。 だがそれでも考えを変えるつもりはなかった。 「命乞いするような人間は、一生負け犬なんだ」 琢馬はシエスタに背を向けた。 ヴェストリの広場がどこにあるかは知っていた。一瞬、ルイズのことが頭に浮かんだが、関係ないと考え直し、食堂の出口へと向かった。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2261.html
・・・ あったかい。 ルイズは他人の背中の上で目を覚ました。 久しぶりの感覚だ。 最後におんぶされたのはもう何年前のことだろう。 確かあの時も泣き疲れて、そして、あの人は後ろを振り向いて 「目ェさめたか?」 目の前にあったのはッ!いかつい顔ッ!! ルイズは韻竜も裸足で逃げ出すような速さでその顔にビンタを喰らわした。 使い魔の兄貴(姉貴)!!~夜が来る!(前編)~ 「イッテェェェェ!!!な、な、何をするだぁーーーー!! 「い、いいいいきなり変な顔見せんじゃないわよ!!」 「変だとォ!?テメェ、感謝の言葉ならまだしもそんな事言うか、ええ、オイ!?」 「あんたに何感謝しろって言うのよ!変態!痴漢!バカッ!バカッ!!早くおろし、て・・・」 「イテェ、イテェ!!やめろっ、てェ・・・」 ルイズは抗議するようにエルメェスの頭を両手で叩いた。 エルメェスは思わず両手で頭を守った。 ということは、 「ええぇぇぇぇえええぇぇ!!!??」 支えを失ったルイズの体は引力に従い、ゆっくりと落ちていく。 「だあぁぁあ!!『キッス』!!」 ルイズの体は突然、宙に浮いた。 答え、③、③!③!!③!!! (何?今の電波。) それよりもいまのルイズにはもっと気になる事がある。 なんで自分の体は浮いてるのだろう。 使い魔である彼が受け止めたワケではない。 空中で何かに支えられている。 支えられている、という実感はあるがそれが何なのかはわからない。 ゆっくりと彼のほうを見ると両膝を地面について、頭を抱え込み後悔のポーズをとっていた。 「これ、あんたがやったの?」 そう聞くと彼は力なくうなずいた。 「とりあえず契約は成功してるようだし、簡単な自己紹介と、さっき何をしたのかをサクッと話して頂戴。」 ルイズは自分のベッドに座り、そしてエルメェスを椅子に座らせた状態でそう切り出した。 (隠そうと思ってたんだがな・・・) 事故になりそうだったとはいえ、スタンドを使うのは軽率だったかもしれない。 いかつい顔をもっといかつくし、エルメェスは今の事態について考える。 ここが学校ということは危険な状況に立つことはそんなにないだろう。 キュルケの手助けを借りれば多少危険な状況でも回避できる。 計算通りに運べていればあと三ヶ月は隠しとおせるはずだった。 「ねぇ、聞いてるの!?自己紹介よ!自己紹介!!」 せかすようにルイズが言うが、その言葉はエルメェスの耳には届かない。 (いや、逆に考えてみよう。こいつを落として傷つけていたとしたら、今度は間違いなくキュルケの魔法を喰らっていただろうな。) 「ちょっと、自己紹介だってば!」 言葉が通じていないのか、もしかして難聴者なのか、一切返事が返ってこないことにルイズは戸惑っていた。 エルメェスとしては無視している感覚はない。深く考えすぎていて周りが見えていないだけ、ただそれだけである。 「ねぇ!?・・・ねぇ、ってば・・・聞こえてる?」 一向に反応を見せないエルメェスに、心細くなったのだろうか、ルイズが少しずつ少しずつ近づいて行く。 (そう考えると、スタンドは出して正解だった。でも、この場はごまかせるのか?) 二人の距離はだんだんと近くなっていき、そして最後にはルイズがエルメェスの顔を横から覗き込む形になった。 「・・・」 「・・・」 朝から騒々しく動き回っていた二人の間に今日最初の静かな時間が流れる。 ルイズは初めて自分の召喚したエルメェスの顔を直視した。 気絶している横顔ならば見たが、こうやって活動をしている顔を見るとまた違った雰囲気が見られる。 自分やほかの学生たちよりも少し荒々しい顔の創りや、この辺りでは見たことのない珍しい化粧もはっきりと見えた。 鼻がやや高く、その鼻の上部、深めの彫りの中にある目はひざの上で組んでいる手をずっと見続けている。 額とあごには妙な黒い線が入っている、きっと化粧の一種だ。何のためのものかはわからないがきっと最初の予想通り旅芸人としての、もしくは民族的なものなのだろう。 唇にも化粧は施してあり、黄緑色に近い色の口紅が塗ってある。緑という人間の顔につけるには程遠いおかしな色なのに不思議と違和感は感じられない。 頭には変な石。これも黄緑色で結いこまれた髪の黒によく映えている。 服も特徴のあるものを着ている。相当黄緑が好きなのだろう、上に羽織っている服も黄緑色と来ている。内側の服は材質はわからないが暖かそうだが、袖は無く生地は脇までで止まっている。首もとの生地は丸まっていてやはり保温性には優れていそうだ。 上着はいいとして、内側の服は何を目的として作られた服なのかまったく見当がつかない。暖を取るための服にも見えるが、下の方を見るとふくよかな膨らみの下、へそは上着の下でしっかりと露出されている。 「ッて、胸?」 もう一度確認してみるが確かに胸がある、しかも自分よりも数段大きい。ためしにつついてみるが、やはり本物の胸の感触だ。 何故男の胸がこうも豊かに膨らんでいるのか、そういう種類の人間なのか。 よくわからないが気に食わないのはその胸のサイズだ。主人である自分がそこそこ、まぁ良く言えばスレンダーな体型なのにこれはないだろう。 偽物かもしれない、いや偽物のはずだ。きっと何か詰め物をしているはず。 偽るということは良くないことだ、ルイズは自分の誇りを貫き通すため、真実を確かめるためにエルメェスの胸をそっと揉んでみた。 それはいつも無理やり押し当てられるキュルケのそれとよく似ていた。 勘違いかもしれない、と一心不乱に揉み続けるルイズ。 今後のことを考え続け、そんなことにも気づかないエルメェス。 エルメェスがルイズの奇怪な行動に気づいたのはそれからしばらくたってからだった。 「ヘイ、テメェ。あたしの胸でいったい何をしてんだ。」 とりあえず今後のことについて主人であるルイズと話そうと思い、顔を上げたエルメェス。 そんな彼女が最初に見たものは、涙目になりながら自分の胸を揉みしだくルイズだった。 いくら男勝りとはいえ、エルメェスも所謂普通の女の子である。そんなことをされればどうなるかは考え付くところだろう。 しかしルイズはというと、『一心不乱』を体現するように我を忘れてエルメェスの胸を揉み続けている。 前記されている通り、エルメェスは常人よりも少しだけ沸点が低い。ゆっくりと拳を握り、ルイズの頭の上にもっていく。 結果は当然、 「人の話を聞けェェ!!!」 鉄拳制裁である。 「痛ッ―――――!!あにすんのよ!!!」 「それはこっちの台詞だ!つーかなんで人の胸ずっと揉んでんだよ!!」 「なんでって胸、やっぱりこれ胸なの!?詰め物とか牛の油とかじゃなくて。でも何で男に胸が必要なのよ!!」 「オイ誰が男だ、誰が。」 ああいえばこういう、その言葉がよく似合う光景が展開されていく。 「どっからどう見ても男のくせに、何よ、私を馬鹿にしてるの!?」 「男だァー!?ざけんなコンチクショー、どっからどう見ても、ただの艶やかなお姉さんだろうが」 「誰が艶やかだ、誰が!」「あたしだ、あ・た・し!!」 「ルイズー、エルメェスー?何かあったのー?」 『すっこんでろ!!!』 ひとしきり騒いだあと、二人はまた元の位置につく。 そのころにはもう、二人とも体力も残り少なくなり、肩で息をしていた。 「で・・・あんた、名前は?」 「エルメェス。エルメェス・コステロだ。」 TO BE CONTINUED・・・
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2579.html
反省する使い魔! 第十一話「アヌビス◇ビート」 時は既に夕方。夕日で照らされた城下町。 多くの人々がにぎわうなか、 夕日のように赤い綺麗な髪をしたキュルケと 赤とはまた対称的な青い髪をしたタバサが 城下町を歩いていた。いや、探索していた言ったほうが この場合は正しいのかもしれない。 「………いないわ、どこに行ったのかしら」 「……………あの二人が乗ってきた馬は まだ街に置いてあるからいるのは確実 もしも馬で学院に戻ろうとしたら見張らしてる シルフィードが教えてくれる」 「そう……よね……、さっきの仕立て屋の話から 推測するとまだこの近くに居るはずだし……… もう、一体どこ行ったのよルイズたち…………」 キュルケは苛立ちと不安を顔に表しながら、 出店をやっている街人に聞き込みをしながら ルイズと音石を追っていたが、 いつの間にか同じところをぐるぐる回っていることに 気付き現在に至る。 「………………」 タバサは何か言いたそうな目でキュルケを見ていたが 親友であるタバサの視線の意味をキュルケは ちゃんと理解していた。 「タバサ、貴方が言いたいことはわかるわ 『学院に戻ってあの二人の帰りを持つのも1つの手』 って言いたいんでしょ?でもそれじゃだめなのよ…… 一刻も早く彼に会って直接言わなきゃ私の気がすまないのよ ごめんなさいタバサ、こんなことに貴方を付き合わせて……」 「別にいい」 「……ホントにありがとうタバサ」 【ガシャーーーーーンッ】 「「!?」」 突然、どこかのガラスが割れるような音が鳴り響いた。 いや、ガラスだけじゃない。ガラスの音に続いて ガラガラっと木材が崩れ落ちるような音が二人の耳に入った。 「タ、タバサ。今の何!?」 キュルケとタバサは周囲を見渡した。 そして気付いたことがある。 見渡す限りどうやら自分たち以外、 さっきのガラスや木材の音に気付いている者はいないらしい。 つまり…………、 「こっち…………」 タバサが指差した先、それは二人の丁度背後にある 路地裏に入る入り組んだ道だった。 つまり、音の発信源は路地裏の先から鳴り響いたようだが キュルケとタバサのいる位置で丁度音が 街の賑わいでかき消されてしまったのだろう。 「なにかあったのかしら?」 「……………」 キュルケは最初、ゴロツキとかの喧嘩かと推定したが 考えているうちにあることに気付いた。 「そういえば………この路地調べてなかったわね……」 キュルケの言葉にタバサもコクリと頷き 手に持っていた本を懐にしまった。 「嫌の予感がするわ………。タバサ、行ってみましょ!」 キュルケとタバサはそのまま路地裏に駆けて入っていった。 その先には恐ろしい敵がいるとも知らずに………。 そしてその音の発信源。夕焼けに照らされた路地裏。 発信源は音石が武器屋の出入り口の扉を突き破った音だった。 わざと突き破ったわけじゃない。 何気ない街巡りに突然現れた敵によって弾き飛ばされたのだ。 「いってぇぇ……、レッド・ホット・チリ・ペッパーで 咄嗟に防御してなかったら首が飛んでたぜ………」 「ひ、ひィィィ!?」 音石が吹っ飛ばされた勢いで一緒に吹っ飛ばされた店主は 頭を抱えながら震え上がっていた。 「ふっふっふっふ、惜しい…… やっぱりそう簡単にはいかないわね…… でもまあ、そうでなくちゃ面白くない……」 突き破った扉の奥の店の中から剣を持ったルイズが 不気味な笑みを浮かべながら近づいてきた。 「………ルイズじゃねぇな、どうなってやがる?」 「ひィィィッ!!なんてこった!! よりによって『あの剣』を抜いちまうなんてっ!! もうだめだァ……おしまいだァ………」 音石の後ろで震え上がっている店主が まるでこの世の終わりのように絶望していた。 「おいじじィ!『あの剣』って言ったな!! どうゆうことだ、説明しろ!!あの剣が原因なのか!? あの剣は何だってんだっ!!?あれも魔法なのか!?」 音石はゆっくりと接近するルイズに警戒しながら 店主の胸倉を掴み上げ問いただした。 「ひィッ!?あ、あの剣は今朝入荷された代物で、 見ての通り美しい刀身が目立った値打ちモノなんですが 出荷先が言うにはなんでも道端に落ちてあったらしんですわ! そ、それどころかその時、あの剣を拾った仕事仲間が 突然、その場所に居合わせた仲間連中に襲い掛かったそうなんです」 店主の説明に音石は眉を潜ませたが、 聞いていくうちにあることを理解した。 「剣を拾った瞬間襲い掛かったッ!? つまりあの剣に操られたってことか!? 今のルイズみてぇによぉ!!」 「そ、そうなんです!! で、でもその時は運よく仕事仲間が連れていた馬が驚いて、 その操られた仕事仲間の剣を偶然蹴り飛ばしたんですぜっ!! そしたら操られていた仕事仲間も正気に戻って 事無きを得たそうなんですわ!!」 「なんでそんなやべぇ剣をこんな店に置いてんだッ!!?」 「厄介払いされたんですわ!! 入荷された時、あっしもその事を説明されて……… さ、最初は断ったんですぜ!? 『そんなあぶなっかしい剣をウチに置けるか!!』って…… で、でも出荷先の連中に……… 『見た目は上等なんだ、うまく扱えれば高値で売れる』って そそのかされて………ついつい受け取ってしまったんですわ!!」 「結局てめぇのせいでもあるんじゃねーかコラァッ!!?」 音石が店主の胸倉を掴む力がより一層強くなった。 「う……く、くるじィ………勘弁してくだせぇ……… あ、あっしだって処分するつもりだったんです…… 『思い返してみればこんなモノを 誰かに売っ払う自体が間違ってる』って……… あっしにだって……げほっ…商人としての誇りがありやす 客は騙しても、危険な目に遭わすことなんて絶対にしやしません!! さっきだって、どう処分するか店奥で考えていたところを あんた等が来て………そしたらあの貴族様が勝手に……… なにも……あっしにだけ全責任があるわけでもありませんぜ……」 「………チッ!」 忌々しいがコイツの言うとおりだ。 そう判断した音石は店主の胸倉を掴む手を解き 店主はその場で尻餅をついた。 「げほっ……げほっ……」 「おいオヤジ、最後にひとつだけ教えろ。 あの剣から手を離せば元にもどるんだな?」 「う……げほっ、へ、へい!少なくとも あっしはそう聞いています………」 「……わかった、とっととどっかに避難してろ ガラじゃねぇが、俺がどうにかしなくちゃいけねぇようだ」 音石の言葉に店主は安堵の息を吐き、 その場からすたこらさっさと走り去っていった。 (さて…と、あのおっさんが助けを呼んで 大勢人だかりが出来たり、この街の衛兵が来たりすると いろいろめんどくせぇからな…………。 とっととルイズ助けてこの場からバイバイしたいんだが………) 「そろそろいいかしら?」 店主を見送った音石の背後から ドスのきいたルイズの声が耳に入り込む。 (……いやな気分だ、『簡単にはいかない』。なぜかそう思っちまう) ゆっくりと首を後ろに向けると5メートル程離れた位置で 店の扉の瓦礫の上に乗っている剣を持ったルイズが 自分を見下していた。 「ああ……、わざわざ待ってくれて………」 首だけを後ろにしていた音石は ゆっくりと体も前に向けようとする………次の瞬間!! 「ありがとよっ!!!」 体を半分のところまでゆっくりと振り向かせていたところ 音石はそこから一気に素早くルイズのいる前方に向き直った。 しかしただ向き直ったわけじゃない! 体の回転の軸を利用し足元の瓦礫をルイズ目掛けて蹴り飛ばしたのだ!! 「っ!?小癪な真似をッ!!?」 蹴り飛ばしたことによって大量に飛散した瓦礫の山。 操られているルイズは予想外の攻撃に対抗手段もなく 手に持つ元凶である剣で体をガードした。 「もらったァッ!!」 ガードしたことによって隙が出来た瞬間を音石は見逃さず すかさずレッド・ホット・チリ・ペッパーを発現し ガードしているルイズの手に持つ剣を 力尽くで叩き落すつもりで手刀を振り下ろした。 「このタイミングならその剣での反撃もできねぇぜ!!」 「甘いわァッ!!」 「なにィッ!!?」 勝利を確信していた音石は驚きの声を上げた。 なんとルイズは身を低くして後ろにステップすることによって レッド・ホット・チリ・ペッパーの攻撃を回避したのだ! 「ば、ばかなっ!?ありえねぇ!! 俺のレッド・ホット・チリ・ペッパーの攻撃をかわすなんて……」 音石は驚異的なスピードを誇る自分のスタンドの攻撃を かわされたことによって驚きを隠せないでいた。 強力なスタンド使いならともかく、相手はあのルイズだ。 あんな温室育ちの子供に回避されるなんて普通では考えられない。 「お前がここぞって時に詰めが甘い奴で助かったぜ……」 「んだとぉ……!?」 身を低くしていた体勢を立て直し、 操られているルイズは醜悪な笑みを浮かべて自分を見ていた。 音石はそんなルイズを睨む。 「たしかに今の攻撃はオレを正確に捉えていた…… だがご親切にお前はオレに教えてくれていたんだよ…… 『今から攻撃するぞ』ってなァッ!!!」 「………チッ!!なるほど。そういうわけか……」 音石は理解した。そして頭に数十秒前の自分の行動を回想する。 『もらったァッ!!』というあの掛け声。 あの発言は攻撃する前に発したため それに反応されてしまったせいでレッド・ホット・チリ・ペッパーが 攻撃するよりもさきにあのルイズは回避行動に移すことが出来たのだ。 「今度はこっちの番だな、ハアァッ!!」 今度は操られているルイズが音石に飛び掛り 剣による連続斬り攻撃を仕掛けてきた。 (ルイズが小柄なだけあってちょいと素早いな……だが!!) しかしその剣による攻撃もむなしく レッド・ホット・チリ・ペッパーが全てをガードした。 しかもなんとそのガードというのが両腕の指一本だけという 並のスタンドとは桁外れな実力あってのものだった。 操られているルイズはその防御法に 肝を抜かれたのか眉を深くひそめ、音石と距離をとった。 「………驚いたな。承太郎のスタープラチナでさえ 両コブシを使ってガードしたというのに……… それを指でガードするとは、大したスタンドだ……」 その操られたルイズの言葉に今度は音石が眉をひそめた。 「承太郎………だと!?それにスタンドって………まさかお前!?」 「ふんっ、今更気づいたのか? ああ、だがまあ、自己紹介もしてなかったな、くっくっく そう!俺は冥界の神『アヌビス』のカードを暗示としているスタンド!! よぉ~~~~~~~~~~~~~くっ!!覚えておくんだなァッ!!」 ウッシャアッ!!っと雄叫びを上げ、 操られているルイズもといアヌビスが剣を横に薙ぎ払ってきたッ! 「ぬおぉッ!?」【ガキィンッ】 ルイズを操っている正体がスタンドだったということに 驚いた音石は反応が遅れてしまい、咄嗟に腕でガードしたものの 勢い良く弾き飛ばされてしまった。 「くそっ!」 このまま地面に倒れたりでもしたら確実に追撃してくる! そこで音石はレッド・ホット・チリ・ペッパーの両腕を おもいっきり地面に叩きつけうまいこと体勢を立て直した。 「しかもどうやら貴様も承太郎のことを知っているようだな。 そこらあたりには驚いたぜ、一体どういう因縁だこれは?」 「そんなもん俺が聞きたいな」 「ふん、まあそんなもんはどうでもいい おれはより強い相手と戦ってさらなる高みを目指すだけだァ!! うっしゃァッ!!!」 咆哮と共に操られているルイズ曰くアヌビスが その手に持つ剣で勢い良く横に薙ぎ払ってきた! しかしその時の音石にはフッと薄ら笑みが浮かび、 手に持つギターをビイィィィンっと鳴らした。 「てめぇなめてんじゃねーぞ! そんなすっトロイ攻撃が何度も俺に通用すると思ってんのかァ~? この音石明さまによぉ~~~~~~~~ッ!!!」 こんな薙ぎ払い、刀身を手刀でルイズの手から弾き飛ばしてやる! そうすりゃあルイズも元に戻るだろ~よ~~! レッド・ホット・チリ・ペッパーの素早く強力な手刀が アヌビスの刀身目掛けて振り下ろされた。 捕らえた!!そう音石は確信した。 だが音石は知らない。アヌビスの真の恐ろしさを……… 真の凶暴さを彼はまだ知らないのだ! 「なっ!!?」 音石は目を疑った。 さっき弾き飛ばされたとき、実は頭を打ったのではとも思った。 そう思ったほうが気が楽だからだ。 それほどまでに、自分の目に入った光景を受け入りたくないのだ。 薙ぎ払いのスピードが一気に上がったのだ!!! 「なぁにいいいいいィィィィィィッ!!!??」 「間抜けめっ!! 貴様の動きはもうほとんど『憶えた』わァ!!! 死ねぇぇぇ!!!」 その瞬間、すべてがスローモーションに 動いているような錯覚を音石はその身に味わった。 (このタイミング…。だめだ、間に合わない! なんてこった。こんな隠し玉を持っていたなんて…… くそったれが、俺の判断ミスだ。 もっと……慎重にやるべきだったんだ。 相手の能力もまだ完全にわかってもねぇのに…… ちくしょう、いてぇんだろーなァ…、 腹切られるのって…………………) その瞬間、音石は死を覚悟した。 あーあ、あの世に行ったら 形兆にボゴボゴにされるだろーなー…… 「ファイヤーボール!!」 「「!?」」【ドゴォォォンッ】 その時だ! 音石とアヌビス、二人の間に火球が突っ込んで 地面に当たって爆発した! 煙が立ち上がり、その中から音石とアヌビスが それぞれ反対側の方向に、対峙した状態で 飛び出してきた。 「チッ、邪魔が入ったか…」 アヌビスのルイズの口からそんな言葉が漏れる。 音石は危うく死を迎えかけたことに冷や汗をかきながら 火球が飛び出した方向を見た。 「…………………………キュルケ?それにタバサまで……」 「……はァい、昨日ぶりねオトイシ」 「……………」 そう、入り組んだ路地裏の一角から現れたのは 杖を構えているキュルケとタバサだった。 「わけは……さっきそこですれ違った 武器屋の店主から聞いたわ…… ヴァリエールが操られているらしいじゃない」 「………正直、半信半疑だった。剣が人を操るなんて…… でもこの状況で確信に変わった」 キュルケの言葉にタバサが続けてしゃべる。 そんな二人をアヌビスに操られているルイズが睨む。 殺気の篭った形相。今のルイズの顔をうまく言い表すなら これが適任だろう。 「あ~ら、キュルケに………タバサじゃない。 奇遇ねぇ。それとも私を追ってきたの? もしそうならこんな嬉しいことはないわ………。 わざわざ私に殺されに来てくれるなんてね!!」 アヌビスが宿主であるルイズの記憶から キュルケとタバサに異様な威圧感を纏った声を投げ掛ける。 そしてそのまま剣を振り上げ、二人のほうへ駆け出した。 音石はアヌビスが自分からキュルケたちに 標的を変えたことを理解すると同時に咄嗟に叫んだ。 「ルイズの手から剣を離させるんだ! そうすりゃあルイズは元に戻る!!」 音石が咄嗟に敵の情報を簡単に教えると キュルケが不適に微笑んだ。 「魔法は既に完成してるわ! ルイズ!聞こえてるかわからないけど 火傷したって文句言わないでよね! できる限りは手加減してあげるから! ファイヤー・ボール!!」 キュルケがアヌビスに杖を向けると 杖からバスケットボール並の火球が現れ ルイズの剣目掛けて襲い掛かった。 それに続いてタバサもなにかを発動しようする………が! 「だめだキュルケ!そいつに同じ技は通用しねぇ!!」 「えっ!!?」 【ピクッ!】 音石の言葉にキュルケの口から疑問の声をあげ、 タバサはその声に反応し咄嗟に魔法の発動を止めた。 そして次にキュルケの口からは疑問から驚愕の声が出る! 「うっしゃあァッ!!!」【ぶぅわっ】 「嘘!?私のファイヤー・ボールが掻き消された!?」 アヌビスは、剣を大きく振り下ろすと キュルケの放った火球をスイカ割りのように 真っ二つにし掻き消したのだ! キュルケが驚いたのと同様に タバサも音石もその光景に肝を冷やした。 (なんてスタンドだ。 さっき一回見ただけなのに もうほとんど『憶えて』やがる!!) 音石がアヌビスの真の恐ろしさを実感するも その間にアヌビスはキュルケの元に辿り着いていた。 「あっ……」 「死ねぇぇッ!!!」 キュルケは自分のファイヤー・ボールが あっさりと掻き消されたことの驚きの衝撃からか 猛スピードで迫りくるアヌビスが もう自分の目の前まで接近してきていることを 認識するのがひどく遅れてしまっていた。 認識したときにはもう振り上げていた最中で 死の恐怖に対する悲鳴を上げる暇すらも失っていた。 だが幸運はまだ彼女を見放してはいなかった。 【ドンッ!】「えっ!?」 【シュンッ!】「チィッ!!」 アヌビスから空気を斬る音が鳴る。空振ったのだ! 横にいたタバサがキュルケの体に体当たりし タバサ自身もその勢いで回避に成功したことによって! 「あ、ありがとうタバサ!」 「後で。今は距離を取らないと………」 「逃がさん!!」 「「!!?」」 突き飛ばしたことで地面に倒れこんでいる二人を アヌビスが体勢を整えられる前に斬ってかかってきた! (間に合わない………!) タバサは魔法の詠唱を始める しかし距離があまりにも近すぎる! どんな凄腕のメイジだろうと間に合わない距離を 既にアヌビスは見切っていたのだ!! 「もらった!二人まとめて!!」 「させるかよッ!!」 「ぬぅッ!!?」 アヌビスは気づいていなかった。 いつの間にか音石も自分に接近していたことに。 レッド・ホット・チリ・ペッパーのラッシュが アヌビス目掛けて襲い掛かる。 「ほう、この小娘の体なのにも 関わらず本気で攻撃する気か?」 「情けねぇが、てめぇが手加減して 勝てる相手じゃないって実感したんでなァ!! ルイズには悪いが全力でやってやる!!!」 「くっはっはっ!おもしろい!! だが忘れたか!?貴様の攻撃は完全に『憶えて』いるんだぞ!!」 【ガンッガンッガンッギンガンッガンッ】 レッド・ホット・チリ・ペッパーの拳と アヌビスの剣での攻防が炸裂する。 「・・・・すごい」 キュルケかタバサ、どちらの口から漏れたのかわからない しかしスタンド同士の目にも留まらぬ攻防が 二人を呆然とさせた。 (くそ、やべえぞ。さらに『憶えて』やがる! 最初は俺のほうが攻めてたのに………、 徐々に防御に追いやられてるっ!!!) 【ガァッッンッ!!】「うおぉっ!!?」 とうとう、レッド・ホット・チリ・ペッパーの攻撃が はじき返され、ボディがガラ空きの状態になってしまう。 「はっーーーーはっはっはっ、勝ったッ!!」 「いや、そいつはまだ速いんじゃねーのか?」 「!?」 「そらよ!!」【シュバババババッ!】 「なっ!?貴様いつの間にこれだけ無数のナイフを!!」 「てめぇがキュルケたちに気を取られてた間に こっそり武器屋から拝借させてもらったぜっ!」 なんと音石はアヌビスの死角にナイフを隠し持っていたのだ。 アヌビスがナイフに驚き、反応が遅れたおかげで すぐさまレッド・ホット・チリ・ペッパーの素早い動きで 無数のナイフをアヌビス目掛けて飛来させた。 「おのれ、くだらん小細工ぅ!!」【ガキィンガキガキィン】 アヌビスはナイフを剣であい程度防御し サイドステップで見事にナイフを回避した。 すぐ傍で見ていたキュルケは驚愕した。 なんて事!これも通用しないなんて!! 「なるほどな。なんとなくわかってきたぜ。 お前の憶える仕組みが…………。」 「なにィ?」 「え!?」 「……………………」 音石の言葉にそれぞれが反応を示した。 一体どういうこと!? キュルケの頭にそんな疑問が浮かび上がると それに答えるかのように音石が解説を始めた。 「アヌビス。どうやらお前、 俺のスタンド攻撃を完全に『憶えて』対処しても、 『それとはまったく違う攻撃』には憶えるまで 対処が遅れるようだな。違うかァ、ええおい?」 「……………!?」 アヌビスを通して、ルイズの顔の眉が潜まる。 「お前は俺のレッド・ホット・チリ・ペッパーを 上回るスピードを持っているのにも関わらず さっきのナイフをわざわざ横に避けてまで回避した。 レッド・ホット・チリ・ペッパーのスピードを 上回ってる状態なら、あのまま一気に 俺に斬りかかる事なんて簡単の事だろ? だがお前は『避けた』。なぜだ?簡単だ。 俺のナイフの攻撃はお前が『憶えた攻撃』とはまったく違う 『憶えていない攻撃』だからだ。 互いに『剣』を持った戦士同士の戦いで 片方が突然途中で『槍』に持ち変えることによって、 今まで対剣による戦闘スタイルが変わるようにな………。 う~ん、自分で言ったのになんだが……… ど~もなんかこの例えいまいちだなァ~……」 ビィィィィィィンっとギターの弦を指で弾く。 今、音石の顔には焦りが消えていた。 いや、消えただけじゃない! その顔はむしろ勝利への確信! 余裕の笑みをその顔に浮かべていた!! しかしそれと対照的に、 アヌビスを通してのルイズの顔は 音石の余裕に対しての怒りからなのか 形相と殺気がさらに濃くなっていた。 「確かに鋭いやつだ。褒めてやる。 だが今更気付いたところでもう遅い!! 貴様のスタンドもナイフも完璧に憶えたのだ!! もう俺には通用しない! 絶っ~~~~~~~~~~~~~対に負けんのだァ!!! さらにそれだけじゃねぇ! これから俺がやるとっておきのダメ押しに 貴様は絶望することになる!!」 するとアヌビスはルイズの懐から『なにか』を取り出し 空中に放り投げ、落ちてくるところをキャッチした。 そしてアヌビスの剣と、落ちてきた『モノ』……、 『杖』をクロスさせポーズをとった!! 「『ルイズの魔法』プラス『アヌビス神』 二刀流!!!!!」 この行動に音石の余裕の笑みは消えた。 「操ってる宿主の能力も扱えるのか!?」 「その通り!!この小娘の魔法はどうやら ちょいと特殊なようだが、扱えないことはない!! 俺は貴様を完璧に超越している!!!」 「………かかってきな」 「…………………何?」 「かかってきなって言ったんだぜアヌビス。 さっきからよぉ~、ギャーギャーうるせぇんだよぉ~ そんなに自信があるならさっさとかかってこいよ。 それともあれか?弱い奴ほど良く吠えるって奴か? はっはっはっ、お似合いかもなァ~。 他人操らなきゃなーんにもできねぇような なまくら野郎にはよぉ~~………」 「……………………………」 音石の言葉にアヌビスは物凄い形相で黙り込んだ。 キュルケは音石の妙な自信が理解できなかった。 何か策だあるのだろうか? そんなものがあの剣に通用するのか? キュルケは不安に惑わされた。 彼女自身、自分の自慢の魔法がハエをつぶすかのように あっさりと掻き消されたからであろう。 隣にいるタバサも押し黙った状態で 音石の考えを考えているようだ。 キュルケの不安が渦巻くなか、 音石のアヌビスの間の空間に爆発が起こった!! (これはルイズの魔法!?いつも失敗してる爆発!!) いつも授業で散々な目にあってきた この失敗魔法が今これほどまでに 恐ろしいと思ったことはなかった。 (このままじゃオトイシは…… この爆発で舞い上がった煙にまぎれたあいつに!) そう思った瞬間。キュルケが手に持つ杖に力が入った。 正直に言うと怖い。足がすくんで仕方がない。 アレほどまでに凶暴で凶悪な相手に自分に何ができるのか? ありとあらゆる不安が彼女の中で渦巻いた。 でも助けなければ!まだ自分は彼に昨日の償いをしていない。 このまま彼とお別れするかもしれないなんて……… そんなの絶対に嫌だ! 気が付けば、キュルケのすくんでいた足は いつの間にか立ち上がっていた。 そして彼女は、隣で自分を制止していた 友人タバサを振りほどき、煙の中に入っていった! 音石は余裕の表情をとっていたとは裏腹に 内心ではかなり焦っていた。 (やべぇな…、『アレ』さえ成功すれば勝算はあったが ルイズの魔法を使える上に、爆発で視界を遮るとは 予想外だったぜぇ~~~……。 だがもう覚悟を決めなくちゃいけねぇ…… ここが正念場だぜ。さあどうくる?後ろか?) 音石は後ずさりながら周囲を警戒していると 背中になにかがぶつかった。 目を後ろに向けて見ると、そこにあったのは建物の壁だった。 これ以上の後退はできないということを物語っていた。 しかしまさにこの時! 音石の脳裏に実に奇妙な発想の物語が出来上がった! ギャァァァン!!ギャァァァァァァァァァァァァンッ!!! (!………この音、彼の楽器の………) 煙の外にいるタバサの耳には 音石のギターの音が届く。 煙の外にいるタバサに聞こえたのだ。 当然この音は煙の中のキュルケやアヌビスにも届いている。 (これは…………位置を教えている?) (後ろは壁だ。だがこれは追い詰められてるんじゃねぇ。 逆だ!後ろに壁があることによって 本来警戒するべき範囲が半分にも減らすことができた!! きやがれアヌビス。てめぇをおびき寄せるための 『エサ』は撒いてやったぜ!!) 【…………………………………………………………………………… …………………………………………………………………………… …………………………………………………………ザッ】 「そこか!!」 音が聞こえたのは音石の位置にして右側のほうだった。 しかしそこにいたのは………。 「ま、待ってオトイシ、わたしよ!」 煙が少し晴れてくる。 そこにいたのは間違いなくキュルケだった。 「てめぇ……、なんで煙の中に入ってきやがった!?」 「説教なら後でいくらでも聞かせてもらうわ! でもあなたの役に立ちたいの! わたしは昨日、あなたに失礼なことをしたわ。 あなたに言われるまで気付かなかった! わたしはあなたの言う通り、 無意識のうちに男を暇つぶしの道具に扱っていた。 だから償いたいの!貴族として!一人の女として!!」 「……………お前」 その時キュルケは気付いた! 音石の前に影があったのだ。 しかしその影の上には誰も立っていない。 ………………つまり! 「オトイシ、上よ!!」 「なにィ!?」 音石とキュルケはバッ!と上を見上げた。 そしてキュルケの言う通り、 奴は思いっきりジャンプしていた! なにかを踏み台にしたのか、 アヌビスは上空7メートル程の高さで 落下する勢いで剣を振り下ろそうとしていた!! 「気付いたかァッ!!!だがもう遅い!! 貴様らに避ける暇はぬぅあァいッ!!!」 「いいえ!誰も避けたりはしないわ!! 逆よ!この場でアンタを迎え撃つ! ルイズも助ける!オトイシも助ける!! くらいなさい!『ファイヤー・ボール』!!!」 キュルケの手に持つ杖から 先程よりもさらに強大な火の玉が発射された! 「間抜けがッ!!忘れたか!!? その魔法は完璧に『憶え』たのだっ!! 例え空中だろうと、俺には通用しない!!」 「ええ、誰もあんたに同じ技が通用するとは思ってないわ。 でもわたしが狙ったのはあんたじゃない! 私たちが今こうして背にしてるこの壁よ!!」 【ドグォッン!】 「な、なんだとぉ!!?」 キュルケの火球は壁に衝突し、 その時飛び散った壁の『残骸』がアヌビスに襲い掛かったのだ。 その衝撃で煙は一気に晴れ、アヌビスは攻撃を中断し ガードしたものの、音石たちとは少しズレた位置に撃ち落された。 「今よオトイシ!あなたにどんな『策』があるのか私は知らない。 でも私は信じてる!あなたがルイズを救うことができる男だって!」 キュルケの言葉を合図に、音石は一気に駆け出した。 狙うルイズの手に持つ邪悪な剣、アヌビス神!! 「見直したぜぇ~キュルケ。 まったくお前は……、俺には勿体ねぇほどのいい女だよぉ!! いけェ!レッド・ホット・チリ・ペッパー!!!」 レッド・ホット・チリ・ペッパーが手刀を振り下ろす。 「なめるなァ!!『憶えて』いない壁の残骸ならまだしも、 完璧に『憶えた』貴様のスタンドには! 絶~~~~~~~~~~~~~~~~~対に負けんのだァッ!!」 怒りの雄叫びとともに、 アヌビスは剣を横に向けて防御体勢をとる。 (この手刀を受け止めて一気に反撃して切り刻んでやるっ!!) 「アヌビス、剣のお前に教えてやるぜ。 そういうのを世間様じゃあァ~『墓穴を掘る』って言うんだよ。 それがてめぇの敗因よぉ~~。」 「『敗因』?『敗因』だとぉ~~~~~!?」 「てめぇは俺のスタンドにしか警戒していない! それがお前の敗因だぜ!そしてもうひとつ! 俺が武器屋からくすねてきたのがナイフだけだと思ったかァ~~?」 その時、アヌビスは宿主であるルイズの目を疑った。 なんと、音石の持つギターのカゲから剣が現れたのだ! 「な!?その剣は………」 「ルイズの記憶から知ってんだろぉ~~? 実はギターを持ってると見せかけてずっと隠し持っていたんだよぉ こいつを……インテリジェンスソード……」 「デルフリンガー様をよぉ!!」 音石の後に、デルフリンガーが続けて叫ぶ。 そしてそのまま一気に鞘から引き抜き、 左手のルーンを光らせ、音石はデルフリンガーを 力一杯振り上げた。 【キーーーーーー…………ン】 ルイズの手に持っていた凶剣が、宙を舞う。 「まさか……スタンドではなく、 本体が、この俺を弾き飛ばすとは……… なるほど。恐ろしいのは奴のスタンドではなく……… あの男そのものだったのか…………ぬかったわ……」 アヌビスの剣はそのまま地面に突き刺さった。 アヌビスの呪縛から解放され、 倒れこもうとしたルイズを音石が支えた。 体中あちこちを戦いの影響で擦りむいているが どうやら気を失っているだけのようだ。 「キュルケ、悪いがルイズを見てやってくれ。タバサも」 キュルケとタバサはそれぞれ頷き、ルイズの元に駆け寄った。 手に持つデルフリンガーを地面に置き、 音石はアヌビスの元に向かった。 「おいアヌビス。 スタンドなんだから剣の状態でも話せんだろ? てめぇに聞きてぇことがある」 音石はこの時、その剣の後ろにうっすらと 犬の頭をした体が人間の怪物が見えていた。 おそらくこれがアヌビス本来のビジョンなのだろう。 「……ふん、敗れてしまっては仕方がない。 しかし予想は付くぞ。どうやってこの世界に来たのか…。 貴様はそれが聞きたいんだろう?」 「……………何か知ってるのか?」 「生憎となにも知らんな。 承太郎に敗れ、ナイル河に沈み、絶望していた時 いつの間にかこの世界にいたんだ」 「ちっ、使えねぇな」 ペッ!と音石は地面に唾を吐き捨てた。 すると今度はアヌビスのほうから話しかけた。 「さあ、これで十分だろ?………やれ」 「ああン?」 「俺は貴様に敗れたのだ。もう未練はない 俺を貴様のスタンドで破壊しろ 最後に貴様のような強者と闘えてよかった。 さあ、破壊しろ。もともと俺はスタンドだ 死など存在せん。ただ無に還るだけよ………」 「……………わかった。レッド・ホット・チリ・ペッパー」 音石がスタンドを発現させる。 そして手で触れるのは危険と判断し、 剣を足で大きく蹴り上げる。 そして落ちてきたところにラッシュをぶち込んだ。 【バゴバゴバゴバゴバゴバゴバゴバッキーーンッ】 「……………………………あれ? なんで俺まだ生きてんだ?」 「まだ刀身がちょっぴり残ってるからだろ?」 「ん?おお、ホントだ!!………………って ちょっと待てぇぇぇぇぇぇッ!!!!?? なんでこんなちょぴっと残してんの!?? 俺めっちゃかっこ良く腹くくってたのに これじゃ台無しじゃねぇーーか!!」 「はァ?おまえ剣の分際で人様に こんなシンドイ思いさせといて楽に死ねると思ってんのか?」 「え?ちょっと待て。まさかこの展開は……………」 「おらいくぞ…………、シューーーーーートォォォォッ!!!!」 「やっぱりいいィィィィィィィィィィィィ!!!?」 音石のレッド・ホット・チリ・ペッパーが アヌビスをうまく破壊しないようなテクニカルな蹴りで 遥か彼方へと、蹴り飛ばしていった。 「キュルケ、タバサ。急いでここを離れようぜ ややっこしいことが起こらないうちによぉ~~……」 音石がそういうと、デルフリンガーを拾い上げ鞘に納めた。 二人もその意見に賛成した。 「そうね、さすがにそろそろ野次馬が 湧いてくるかもしれないし、急いで離れましょう」 「………ついてきて、私の使い魔で脱出する」 タバサが口笛を吹くと、 街の空からタバサの使い魔、シルフィードが現れ 音石、ルイズ、キュルケ、タバサの4人を背負い 街から速やかに脱出した。 この時、竜に乗っての空の飛行に音石はちょっと興奮した。 ついでにアヌビスはというと…………、 【ヒューーーーーーーーン】 「ヒィィィィィィィィー、またこんな扱いかァーー!! 誰か今度こそ止めてくれぇぇぇぇぇぇぇぇ!!! あっ!屋根だ!!ラッキーッ。おっとだが落ち着け! エジプトでの二の舞は御免だ、透過能力解除!! おっけぇ!これでばっちしィィィィ!!」 【カーンッ】 「よぅし!屋根に当たったァ!!」 【スルスルスルスル】 「おお、屋根の斜面を滑る滑るぅ!!」 【ヒュー】 「おっほほーい。落ちる落ちる!」 【ボチャン】 「…………………………へ?」 【プーーーーンッ】 「お、おい。なんだこの桶の中の泥は? なんでハエがこんなに集ってる? はっ!ひょっとしてここって………… ぎゃああああああああああああッ!!!! よりによって牧場の屋根にぶつかって! 肥溜めに落ちちまったァァァ!!!うげぇ!!バッチィ!!! ぬぅああ!!どんどん沈んでいくぅ!! だ、だれかァーーーーー、助けてくれぇぇぇぇぇぇ!! 不潔だよーーーーーーーーーーーーーっ、うぷっ……………」 この肥溜めを肥料として撒き散らされた畑には 時々、変なうめき声が聞こえるという奇怪現象が起こったという……
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/528.html
崖の上から何やら声が聞こえてくる。よく聞かなくてもわかる、悲鳴だ。 上で何かあったのだろう。多分この羽音と関係しているに違いない。敵は矢を空に放ち始める。 そして暫らくすると崖の上で小型の竜巻が起こる。 「おや、『風』の呪文じゃないか」 ワルドが呟く。そして崖の上にいた敵は無様にこちらに落ちてきた。それを見て剣を収める。敵は複数の男たちで、どう見ても貴族ではない。 敵を観察していると、 「シルフィード!」 と驚き叫ぶルイズの声が聞こえた。上を見ると月を背にドラゴンが見えた。何だか見覚えがあるような気がするな? ドラゴンがこちらに近づき地面に着地すると背からなんとキュルケが飛び降りてきた。ドラゴンの背を見るとタバサも乗っている。 そうだ、このドラゴンはタバサの使い魔だったな。しかしタバサ、何故パジャマ姿なんだ?本人はそれを気にした様子もなく本を読んでいる。 「お待たせ」 キュルケは髪をかきあげつつ言った。 「お待たせじゃないわよッ!何しにきたのよ!」 ルイズはグリフォンから下りるとキュルケに怒鳴りつける。しかし正直助かったけどな。 「助けてあげたんじゃないの。朝がた、窓からあんたたちが馬に乗って出かけようとしてるもんだから、急いでタバサを起こして後をつけたのよ」 ……実はこいつルイズのストーカーなんじゃないのだろうか?普通ついて来るなんて選択肢は出てこない。 あれか?男をとっかえひっかえしているのはルイズに振り向いてもらうためか?ありえなくもないな…… なるほど、それでパジャマなのか。タバサは健気だな。感心する。実はキュルケの使い魔なのかもしれない。 その後ルイズがこれがお忍びであることをキュルケに告げる。 しかしキュルケはそれを気にした様子はなく、ワルドに近づいていく。どうやらワルドを口説こうと思っているようだ。無理だと思うがな。 そして怪我をして動けない男たちの方へギーシュと共に向かう。勿論尋問するためだ。 しかし初めは騒いでいた連中は私たちが近づくにつれ顔を俯かせ何も喋らなくなった。何故だ? 「ひゃあ、ひゃせほくはちほほそっひゃほかひゃべってほりゃおうきゃ」 ギーシュが力強く何かを言う。何かをだ。もはや何を言っているかさえわからない。おそらくさっきの小石とかだろう。 そして敵が喋らなくなった理由がわかる。ギーシュの見た目だ。はっきり言って直視できない。 私もさっきちらりと見たきりもう見ていない。つまり敵にすら同情されているのだ。可哀想な…… しかしこれでは尋問が出来ない。 「ひゃひほはまってひるんだ。ひゃやきゅひひはまえ」 もう喋るなギーシュ。自分でも気づいているんだろ。自分がどういうことになっているか。 「ひゃ、ひゃやくひゃへってくれ……へらいと」 「もういいギーシュ、わかってるから向こうへいってろ」 ギーシュの肩に手を置き、そう宣言する。 ギーシュは驚いて後ろを向く。つまりあの顔を直視することになる。しかし覚悟を決めていたので取り乱したりはしない。 ギーシュの瞳には涙が溜まっていた。頬が腫れすぎて涙が流れないのだ。 「きっとワルドも少しぐらいなら『治癒』の呪文ぐらい使えるはずだ。行って来い」 やさしく背中を叩くとギーシュはワルドに向けて走り出した。一抹の希望を見出したのだろう。 さて、私が尋問しなければならないな。それ受け止め敵に向き直る。 後ろで「誰だ!?」とか「きゃーーーー!」とかドラゴンの背から何かが落ちる音とかが聞こえてくるが聞こえない振りをする。 嗚咽が聞こえてきても知らない振りをする。こ、ここは範囲ではないから大丈夫だ。が、念を入れて離れておこう。 男たちを二人だけ残してあとは気絶させる。そして二人を引っ張ってギーシュたちから離れる。 引っ張られている男たちは文句を喚き散らしてくるが気にせず運ぶ。 さて十分離れたな。 「さて、お前たちが私たちを襲った理由を話して貰おうか」 「けッ!てめーら襲う理由なんて物取り以外在るかよ!」 やはりその回答か。男を一人蹴り倒す。 「イテェ!何するんガッ!?」 顔も蹴り上げる。さらに腕を足で踏み押さえつけ、デルフリンガーを抜き指を切り落とす。 「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」 考えてみればおかしい。はっきり言ってこいつらが私たちを襲うはずが無い。ただの物取りならなおさらだ。 何故なら平民にとって魔法を使える貴族は本当に恐ろしいもののはずだ。 しかもお忍びとは言ってもワルドやルイズ、ギーシュの格好は貴族であることを隠していない。特にワルドはそうだ。 一人ならともかく3人もメイジが居るともなれば普通は襲わないだろ。 そこを通るやつを襲うにしても相手がどんな奴か確認してから襲うだろうしな。 つまりこいつらは物取りを装って私たちを襲おうとしていた可能性がある。 本当に物取りかもしれないがそうだとしても問題ない。用心するに越したことは無いからな。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1781.html
アルビオンが消えてから数日、フーケはワルドが雇ったがあっさり死んでしまった傭兵の金で適当に町を回っていた。 しばらくは休暇、というつもりだったがそんなわけにはいかない。彼女には彼女の、盗賊行為をしなければならなかった理由があるのだ。 しかし、派手に動き回っていたらまた討伐されるかもしれないのでもっと大人しい方法で金を手に入れなければならない。 そんなわけで、彼女がとった手段は、実に真っ当な怪物退治だった。 ハルケギニアには人間、動物、それと亜人と呼ばれるものがいる。 この最後のものは知能は低いが人間より力が強く、徒党を組み、時には小さな村を滅ぼしたりする種族もいるので非常に迷惑な存在なのだ。 通常は領主が自腹を切って兵隊を出すのだが、ケチはいる。 いつか出すといっていつになっても出さず、村人が逃げ出すしかならなくなったりするのだ。そのため賞金を出してでも、近くに住み始めた亜人を倒してもらう町や村があったりする。 ちなみにどこが困ってるのかはお触れが出ているので簡単に知られる。 ある日の朝、フーケは宿屋の食堂で軽い食事を取ったあと、壁の張り紙を見た。 近隣の森でオーク鬼が住み着いている。そんなものがいくつもあった。彼女はそのうち、謝礼金が一番高いものに目を付けた。二、三人の子供がすでに食われているらしい。危急。 フーケは店員からペンを借りてその張り紙に丸印を付けた。こうすることでダブルブッキングを防ぐのだ。あとはこの村に向かい、村長などの代表と話をつける。 失敗した場合はまた新しい張り紙が張られるという仕組みになっている。 どこぞより失敬してきた馬を駆り、フーケはその村に向かった。 到着したのは正午過ぎ、被害はまだ甚大ではなく、家屋は綺麗なままだった。 だが、村は太陽の輝かしい光でも払い去ることのできない重苦しい雰囲気に包まれていた。もうこれだけでも災厄に襲われたというのがわかる。その上、村の人々はみな自分の家に隠れこんでいて誰一人出てこない。 フーケはため息をつきながら馬で村の中を進んでいき、代表者の住居らしい、一番大きな家屋の前で止まった。馬を降り、扉を叩く。 「ノックしてもしも~し。村長さ~ん、いる?」 少しして、扉が静かに開いた。中にはやつれた老婆がいた。警戒心丸出しで扉に手を掛けたままだ。 「なにようですか? 近くにオーク鬼が住み着いてますんでお嬢さんみたいなのはとっとと逃げたほうがよろしいですよ」 「そういうわけにはいかないんだよね。そのうっとおしいのを退治しにきたんだから」 フーケは懐から杖を取り出し、ひょいひょいっとまわした。メイジであるとの表現。 これで普通の平民ならばひれ伏すのだ。目の前の老婆もえらくすばやい動きで頭を下げた。フーケは彼女に尋ねた。 「それで、どこにいるの? そのオークどもは」 「はあ。この村から東に行ったら山がありまして、そのふもとにある泉の近くにきゃつらは住み着きました。ですが、その、」 「なに? どうしたんだい?」 「いえ、あなたさまはお一人で来られたのですか?」 それは、予想をしていた質問だった。オークというものは人間よりはるかに力が強く、頑強な身体を持っている。 メイジであれば一対一であればまず負けることはないが、相手の数は二桁を越えているとの話だ。詠唱中に攻撃をされるか、魔力切れにでもなればそこで終わりである。 「そんなに不安かしら」 「いえ、そうではないんです」 あれ? フーケは疑問に思った。 「さきほど、剣士さまがオークどもの住処を尋ねてきたのです。その方のお仲間だと思ったのですが、違うのですね」 「……ええ。まあ、違うわね。にしても、剣士なんだね?」 「はい。腰に剣を差していたので違いないかと」 「ふーん。ま、行ってみるさ」 フーケは老婆と別れ、その住処に向かった。 泉に着くと、フーケは周りを探った。醜悪な外見をしているオーク鬼の姿はないが、嗅ぎなれた匂いが鼻腔をくすぐった。それは血と脂が混ざり合った匂いだ。 死体を見たり作ったりしたことは何度もある。だから瞬時にそうだとわかるのだが、妙だと彼女は思った。 フライで空に浮かび、ぐるーっと森を上空から探索する。と、すぐに大きく広がっている血だまりを発見した。 それが一つであれば、老婆の言っていた剣士のものだと当たりがつくが、驚くことに二桁はあった。若干高度を下げると、豚の顔によく似た頭部も転がっている。 間違いなくオーク鬼のものだった。 これは、とんでもない腕前のやつがいるもんだねと感心していたが、もう一つ奇妙なことに気づいた。オーク鬼の体の断面が、切ってできるものではないのだ。 なんというか、潰したというのがしっくりとくる。滅茶苦茶切れ味が悪ければこうなるのもわかるが、そんな鈍らを持ち歩くような腕とは思えない。 一体何者だろうか、彼女が推理をしているとオーク鬼の鳴き声が聞こえてきた。フーケはすぐさま呪文を唱えて再び空に舞い上がり、声のした方向へ向かった。 そして、彼女が見た光景はこれまで見てきたものよりも不可思議なものだった。 まず彼女は剣士を見つけた。黒い眼鏡をかけ、深緑色のコートを羽織り、腰には剣を差している。しかし、抜いてはいない。手ぶらのままだ。 彼の前方にはオークが三体いる。だが、うち傷だらけの一体、A、は背を向け、仲間B、Cと対面している。そして、Aは手に持っていた棍棒でBに殴りかかったではないか。 Bは肉体からは想像のできない俊敏な動きでそれを避けるが、それにも勝る動きでAは追いすがり、再度棍棒を振るった。しかし、背後からCに攻撃を食らいばったりと倒れてしまった。 そこからはBとCのたこ殴り。Aはすぐさまミンチにされ、息絶えた。 BとCは興奮していたために気づいていなかった。Aが攻撃された際、口からひも状の何かがずるりと抜けていったことに。二体のオーク鬼は息を荒くして剣士を睨んだ。 Aにこういう行動を取らせたのがそいつだとわかっているからであろう。フーケは、いよいよ抜くのか、と、期待したが、男は一切剣に手を触れることはなかった。 ポケットからさくらんぼを出して、レロレロと舌の上で転がし始めた。挑発しているのだった。 オークたちは激昂し、男に走っていった。しかし、目の前に奇妙な人のようなものが浮かび上がり足を止めてしまった。 それは緑色のなにか、人の形ではあるが、人間ではない。 質感からしてゴーレムでもない。得体の知れない何か、若干透けていることから像とも呼べる。 フーケは興味の視線をそこに向けていた。 これから何が起こるのか、子供みたいにわくわくしていたのだ。 緑の何かが手を胸の前で合わせた。その中央に、宝石のようなものが出現する。 そして、打ち出した。 オーク鬼たちはその銃弾のようなものを無数に食らい、背後に吹っ飛んだ。だが威力はさほど大きくはないようで、血だらけになりながらもオーク鬼は起き上がった。 加勢してやろうかしら、そうフーケが考えたがその必要はなかった。またしても宝石をその緑の何かは打ち出したのだ。 今度は頭に集中的に食らい、脳漿を巻き散らかして死亡した。もう一体も同じ末路をたどる。 なんともあっけないことに、剣士は村人を苦しめていたオーク鬼を一掃してしまったのだった。 フーケは迷ったが、男の目前に降りた。文句もあることなので話をしてみる。 「あんた、ちょっといいかい?」 「ああ。いいよ。なにかなメイジの人」 男はさして動揺した様子はなかった。フーケが覗いていたことに気づいていたのだろう。 「さっき、オークになにをやったんだい? 緑色の何かが宝石みたいなものを打ち出していたけど」 「まあ、ちょっとした技みたいなものかな。魔法ではないよ。あれは僕の使い魔というか友達みたいなものだけどね」 「ふーん」 フーケはじろじろと男を舐めるように見つめた。上から下、どこをみても杖を持ってはいない。となると、メイジではないということだ。 詠唱を唱えていなかったことからもそう推測できる。 「念のために確かめるけど、村の依頼でこいつらを片付けに来たんだよね」 「そうですが?」 「あんた、マナーを知らないの? 印をつけてなさいよ。被っちゃったじゃない」 「それはすみません。なにぶん、最近こういうことを始めたもので。文字はなんとか読めるようになったんですが」 フーケは考える。最近始めたというのはどうでもいい。それよりも文字をなんとか読めるようになった、この点だ。 体格や顔つきからして青年、二十を越えていると思われる。それなのに、文字を読めなかったとはどういうことだ。まともな教育を受けていなければそういうこともあるが、彼の服装やたたずまいからしてそこらの農家の息子とは考えられない。それに身にまとう雰囲気、物静かではあるが奥に潜む気高さは隠せない。貴族ではなく戦士だ。 「ま、いいわ。とりあえず村に戻ったら? オーク鬼も片付けたんだから」 「いや、まだ終わってはいない。親分が残っています」 「親分?」 男は緑色の人を出した。 「このオーク鬼どもも、風雨を凌ぐ必要がある。洞窟。そこにまだ何体か残っています」 「へえ。まあそうだわね。んじゃあそこへ行くか。案内しておくれ」 「あなたも来るんですか?」 「そりゃあね。このままあんたに任せてもいいけど、それだとここまで来た意味がなくなっちまうんだよ。誰かさんが決まりごとを守ってくれなかったんでね」 フーケの言い分を男は聞き入れ、案内を始めた。距離はそうなく、すぐに二人はその洞窟にたどり着いた。中からは独特の腐臭が漂ってきている。 獲物をここで食い散らかし、死骸をほったらかしにしているのだろう。 フーケは脳裏に、子供が食われている場面を想像して胸糞悪くなった。 そりゃあ、こいつらだって生物なのだ。生きるためには飯を食わなければならない。 それがたまたま人間だっただけ。自然の摂理といえばそこまでだが、それでも嫌なものは嫌なのだ。 「そんじゃあ退治を始めようじゃないか。あたしがやってもいいかい?」 「どうぞ。油断をしないように」 「わかってる。女だてらに経験はあるんだ」 フーケはまず、人間大のゴーレムを作り出して中へ向かわせた。戦えば簡単にやられてしまうだろう。案の定、フーケはゴーレムが破壊されたことをすぐさま察した。 しかし、これで目的は達せられた。 あとは、仕上げだけだ。 中から豚に似た鳴き声とともにオーク鬼がやってきた。複数、ゴーレムをけしかけてきたメイジをぶち殺すため。だが、彼らの目の前には広い空間があるだけだった。 メイジはいない。どこだ、と、彼らが首を回し探し始めていると、大きな拳で叩き潰された。 赤と黒と透明な液体が飛び散った。即死。 地響きを聞き、さらに奥からオーク鬼がやってくる。それらも続々とゴーレムの拳に圧殺されていった。 フーケは、オーク鬼がやってこなくなったので、最後に洞窟を埋めることにした。最初からこれをやってもよかったのだが、馬鹿力を使って掘削作業を始めることもある。数をだいぶ減らす必要があったのだ。 「見事。あなたはメイジでもなかなかの実力者のようですね」 「まあね。これでもトライアングルなんだよ」 「トライアングル?」 「強さの基準だよ。ドット、ライン、トライアングル、スクウェア、その順番だ。あんたはそんなのも知らないの?」 男は肯定した。 本当に奇妙な男だ。魔法と縁も所縁もなければ知らなくても当然ではあるが、彼は妙に戦いなれている。これほどの力があれば傭兵になったりしたこともあるのではないか。彼女はそう思っている。 「まあ、とにかく村に戻るかい。金を払ってもらう必要があるからね」 「分け前はどうします?」 「五分五分ってことにしたいけどほとんどあんたがやってくれたからねえ。六:四でいいさ」 村に戻り、フーケと男は金銭を受け取り、それだけでなく瑞々しい果実も渡された。 お礼の気持ちだと、オーク鬼に息子を殺された夫婦からのものだった。旅をしていると保存食料ばかりになるので、こういうものは非常にありがたい。 男と分け合い、お互い馬に乗って村を離れていった。 「あんた、これからどうするんだい?」 フーケがさくらんぼを食べている男に尋ねた。どうやら好物らしく、レロレロと舌の上で転ばせていた。 「ん……そうだな、特になにもありません。目的はあっても、当てはないんです」 「目的?」 「帰郷です。僕は、信じられないでしょうけどこことは違う世界から来たんです」 男は空を見上げた。青い空に、薄っすらと白い二つの月があった。 「ふーん。じゃあ、どうやってこの世界に来たんだい。まさか知らないのかい?」 「知りませんね。気づいたらここにいたんです。最初はあの世とさえ思ったものです。なにせ、死ぬほどの怪我をしていましたから」 「あんたが? まだ戦いなれていなかったとかで?」 「いえ、相手が強力すぎました。時間を止める能力を持っていたもので」 フーケは信じられない、といった視線で男を見つめた。彼もそれに気づいた、 と、再び緑色の人型をした像を出現させた。 「これはスタンド。名前は『法王の緑―ハイエロファント・グリーン』です。あなたも見たでしょうが、さっきの宝石を撃ちだす技や身体をひも状にして生物の体内に潜り込むことができます。 仲間には考えを読み取ることができる人、炎を操る人、尋常ならざるパワーとスピードをもったやつ、様々です」 なんと荒唐無稽な話だろうか、とはフーケは思わなかった。 世の中には人知を超えたやつがいる。それに彼の話に出てきた、炎を操る人物が気になった。そんなやつがいるのなら、逆の場合もありえるのではないか? 「あんたさ、戦った連中はその時間を止めることができるやつだけなの?」 「いや、違います。その男にはたくさんの部下がいました。夢を操るやつ、ギャンブルをして敗北者から魂を抜き取るやつと。中でも一番印象深かったのは、水を操る男でしたね」 フーケは心臓が飛び跳ねてしまいそうだった。やはり、そうなのだろうか。 二人は面識があるというのか。 「どうして、印象深かったんだい?」 「誇り高かったからと、それと、」 男は黒のメガネを外した。両目に複数の傷があった。 「こんなものを残してくれましたから。仲間がいなかったら、僕は殺されていたでしょう」 「へえ。そいつってどんな名前だったの?」 「たしか、ンドゥール」 やはり、そうだった。人差し指を奪ったあの使い魔とこの男とは繋がりがあった。 フーケは考える。ンドゥールのことはもう憎んではいない。かといって忘れ去ることができたわけではない。 どういうわけか別れてから日増しに彼の顔を思い出す回数が増えてきていた。できたらもう一度顔を合わせてみたい。 なぜそんなことを思うのか、おそらくそうすることで自身の感情に気づくことができる。とはいえ、学院に出向いてしまえば捕まってしまう。 お尋ね者なのだから。 そこに現れたこの男、こいつとンドゥールには因縁がある。その、運命ともいうべきものに身を任せていたらいつか、また、相まみえることができるかもしれない。 「ねえ、ちょっと話があんだけどさ」 「なにかな?」 「あんたさ、あたしと一緒に仕事してみないかい? 地理とか詳しくないんだろ?」 男はメガネを掛け直し、尋ねた。 「それはありがたいことですが、理由がわからない。あなたにとってメリットがないように思えます」 「そんなことはないさ。あんたのその、スタンド。それのことを知りたいのさ。詳しくね。ま、好奇心さ」 「好奇心は猫を殺す、とも言いますが。まあいいでしょう。これからよろしくお願いします。それで、なんと呼べばいいんですか? メイジの人」 「そうだねえ」 フーケ、と呼ばれるわけにはいかない。ロングビルも偽名として使っていたことで知っているやつはいる。ならば、一つしかない。 「マチルダ。そう呼びな。で、あんたの名前は?」 「花京院。花京院典明」 「それじゃあ、ノリアキ。これからよろしく頼むわね」 フーケ、もといマチルダが花京院という旅の仲間を得てから数日が経った。 短い間だが、彼女は彼を信用できる人物だと評価した。ワルドのように、己のためだけに行動する悪人ではない。直感といわれればその通りではあったが、それでも経験という裏打ちがある。マチルダはアルビオンを追い出され、ある理由で金を稼ぐことをしていた。 最初はそれこそ食堂や酒場の給仕だったがそんなものではとても足りず、そのため盗賊に身をやつしていた。どこぞの屋敷に潜伏することもあった。 そこでは身体を求めてくる男もいた。偶然自分がメイジだと知った人物は、あくどい取引を持ちかけてきたりもした。ひどい目に遭ったことは一度や二度ではない。 そのたび意地と誇りで乗り越えてきた。 だから、わかる。花京院は悪人とは程遠い性質の男だと。なおかつそこらにいる高慢な貴族とも、卑屈な平民とも違う。理不尽が存在する世界と対等に戦おうとする高潔な精神を持っている。 それがゆえに、恐ろしいとも感じた。 死ぬときはあっさり死ぬのだこういうやつは。 「飲まないんですか?」 「いいや、飲むさ。ただ考え事をしていただけだよ」 マチルダは目の前のジョッキを煽った。度数のきつい酒を一気に嚥下する。 大きくゲップをする。 「あんたこそ飲まないのかい?」 「僕は遠慮しておきますよ。故郷だと二十にならないと酒はだめでしたので」 「なんだいつまらないね。ま、あたしもへべれけになって食われちゃたまらないから程ほどにしとくけど」 そう言ってジョッキを下ろし、店員につまみを頼んだ。盛況なため時間は掛かる。 来るまでゆっくり待とうと彼女が背筋を伸ばしたとき、食堂の扉がけたたましく開かれた。 客も店員も扉を見た。入ってきたのは、まだ年端もいかない男の子だった。少年は店内を見回し、ぴたりとマチルダの席で視線を止めた。 「なんだろうね」 マチルダが花京院に尋ねる。 「わかりませんよ」 花京院が答える。 少年は荒い息のまま二人に近づいてきた。そして、両手をテーブルにたたきつけた。 「なんだい坊や」 「あ~……あなたた、ちい~………」 花京院が水を出した。少年はそれをぐっぐと飲み干し、二人を睨むほど目を尖らせて言った。 「あの、あなたたちに、是非ともお願いがあるんです! 聞いてください!」 「……そうだね。言ってみなよ」 そう尋ねると、少年は周囲を見回した。 「ここではちょっと、その、できません」 「ふうん」 マチルダは立ち上がり、店員に金貨を放った。 「ま、部屋で話そうじゃないか。ノリアキ、行くよ」 「はい」 少年は瞳を子供らしく、らんらんと輝かせた。 マチルダの部屋に着くと、少年がまずどこから来たのか尋ねた。なんでも、彼は以前亜人を退治した村の一人であるらしい。小声で用件を話し始める。 「俺の村、実は亜人が住み始めたとき、すぐに領主になんとかしてくれって請願したんだ。だけど、あの領主は金がもったいないからって、兵隊なんか送っちゃこなかった。それで、もう逃げるしかないって時に、あなたたちが倒してくれたおかげで、生活に不安はなくなったんだ。けど、」 「けど?」 「その、亜人がいなくなってから、領主のやつがやってきたんだ。 よくわからないけど、視察だとかいってた」 マチルダは、なんとなく彼が抱えていることに気づいた。 それでも最後まで聞く。 「あいつは、領主は一通り村の中を回った後、俺の家に来て、姉ちゃんを差し出せっていったんだ」 「正確に言えば、奉公に来いっていったんだろ?」 「うん。でも、俺、聞いちまったんだ。あの領主のところにいった女の人は、誰一人帰ってこないって。だから、」 「だから、あたしたちにその領主から姉ちゃんを助け出してくれ。こういいたいのかい?」 少年は大きくうなずいた。マチルダは、しゃがみこんで少年と視線を合わせた。 「いいかい。仮にその領主の話が本当で、あんたの姉さんが二度と帰ってこないとする。 それで、なんであたしらが行かなくちゃならないんだ」 「お金なら払う! あいつが、姉ちゃんと引き換えに置いていった金貨があるから!」 「いくらだい?」 「エキュー金貨で十枚!」 「足りやしないよ。全然足りやしない」 少年の瞳が潤み出した。水が流れる。 「いいかい坊や。この国でメイジに逆らうってことがどうなるか、わからないほど馬鹿じゃないだろ。大体その領主の館だって警備はしっかりしてるから命の危険だってある。 仮に成功して、上手く逃げおおせてもあたしらはお尋ね者になって国を追われちまう。 もうここじゃあ生きていけない」 「な、なんでもする! 俺が全部けしかけたんだって言えば――」 「馬鹿言ってんじゃないよ!」 マチルダの一喝で空気が震えた。 「あんたみたいな子供の言い分なんか誰が聞くもんかね。笑われるのがオチさ。 それにね、なんでもするって言ったね。あんた、なんにもできないからあたしらに頼みにきたんだろ。大事な姉さんを助けることができないから、自分が無力だから、ガキだから!」 「マチルダ」 花京院が肩を叩いた。彼女はようやく興奮していたことに気づき、少年の顔を見た。 涙と悔しさ、無力さでくしゃくしゃになっていた。 懐からハンカチを取り出し顔を拭いてやる。 「あのね、坊や。あたしらは正義の味方でもなんでもないんだよ。世の中にはそんなのいやしない。救いが欲しかったら、自分が救わなくちゃならないんだ」 そう言って、マチルダは少年の手を握った。真っ黒に日焼けしてまだ幼いのに関節は節くれだち、肉刺もつぶれている。ところどころ皮もはげていた。 彼は、いや、彼が住む村の人々は毎日毎日懸命に生きていただけだろう。 気まぐれな天気に悩まされ、虫に果実を食われないように注意をする。 大収穫の年もあれば不作の年もあっただろう。飢饉だってあっただろう。それでもひたすら生きるために農耕に精を出していた。それだけなのに、亜人の恐怖に曝され、絶対的上位に位置するくそ貴族に家族を奪われていく。 まじめに、ただまじめに生きていただけなのに、不幸は襲ってくる。 世界は理不尽だ。 くそったれだ。 「坊や。お家に帰りな」 「そんな――」 「帰るんだよ。残念だけど、あたしらはなんの力にもなれやしないんだ」 少年が宿を去ってしばらくしてから、マチルダは部屋を抜け出した。代金を布団に置き、地上にレビテーションで降り立つ。そして音を出さないように厩舎に入って自分の馬を連れ出し、町を出た。 空を見上げると二つの月が輝いていた。昔、彼女が少女だったころ、助けをあれに求めたことがあった。もちろんなんの返事も返ってこなかった。 残酷な現実が襲ってきたのだ。 「なにしんみりしてんのかしらね。あたしは」 馬を走らせながらぼやいた。誰に言うでもない。自分に向けての質問だったのだが、答えが真後ろから返ってきた。 「わかりません」 マチルダはぎょっとして後ろを振り向いた。半馬身ほど遅れて花京院が走ってきていたのだった。考え事に集中していたあまりに蹄の音に気づけなかったとは。 馬の速度を少しずつ落とし、花京院に尋ねる。 「あんた、あたしがこれからどこへ行くかわかってんのかい?」 「ええ。わかっています。領主の館に向かうのでしょう?」 「……そうだよ」 舌打ちをした。なぜ数時間悩みまくった答えを見抜かれているんだか、はなはだ不可解なことだった。 「悔しそうな顔をしてましたからね。あんな顔をするのはいい人ですよ」 悔しくなるほど嬉しそうに笑っていた。マチルダはぷいと顔を逸らす。 「あたしゃ、結構悪いことしてるんだけど」 「悪いことをするから悪人ではないでしょう。罪人ではありますけど。僕の友達に教師を脅かしたり食い逃げしたりするやつがいましたけど、そいつはいいやつでした」 「いまからするのはそんなもんじゃないんだけどね」 夜明け近くになると二人は森に入り、休息を取った。別にそのまま走り続けていてもよかったのだが、先に馬のほうが限界になった。睡眠中をたたき起こされたので疲労がたまっているのだ。 マチルダは適当なところにマントを敷き、その上にごろんと寝転がった。さっきまでは存在してなかった睡魔がにじり寄ってきている。 寝ると決めればすぐに眠れるようになったのは便利なことだった。もういい年だからこれは重要なこと。 滲む視界の端に花京院がいる。寝付く前にたずねることにした。 「あんた、抵抗ないの? これからするのは押し込み強盗みたいなもんなんだよ?」 「常識的には許されることじゃない。けども、圧倒的強者が弱者を踏みにじることも許されることじゃないでしょう。僕の友達なら、むしろ進んで殴りこみにいきますね。 僕も一緒にいきますが」 「ぶっ飛んでるわね」 「同感です」 花京院の笑いを耳にし、マチルダは眠った。 古い夢を見る。いまだアルビオンの貴族であった夢。 母に甘えていただけの夢。蝶を追いかけ回していた夢。 それを、一歩引いた視線で見ている。 このときは想像もしていなかった。全てが変わるとは。 目覚めたとき、まだ太陽は真上にあった。マチルダは身体を起こし、固まった筋肉をほぐした。首を回すと花京院がスープを作っていた。 彼女が目を擦り、近づいて中身を見ると野菜や肉が詰め込まれている。 「なんだいこれ?」 「寄せ鍋です。そこらに生えていた野草と、ウサギの肉を煮込んだだけ。調味料は入ってますけどね」 「毒草はないよね」 「ありません」 器に盛ってもらい、マチルダは受け取った。食べてみると珍しい味だが、まずくはない。むしろ美味かった。マチルダが野宿で料理をせずにすんだのは初めての経験。誰かとともに旅をするというのも初めてか。 食べ終えた後に水を飲み、腹をこなすと馬に乗り、二人して領主の館に出発した。 絢爛豪華な館、門柱も立派なものだ。細かい銀細工が施されている。よく磨かれており、夕日の赤い光がきらきらと反射していた。 そこへ、一台の馬車がやってきた。二頭の白馬に引かれ、手綱を握っているのは黒尽くめの御者だ。窓はあるが、カーテンが引かれているため中のものが外を覗けないようになっていた。 鉄門が開かれ、馬車は敷地に入っていった。マチルダと花京院はその様子を物陰に隠れて見ていた。 「いつ行動を起こしましょうか」 「夜だね。別にあそこにいる子だけを助けるのならいまでもいいんだけど、たぶん被害者はまだ館の中に残ってる。全員を助けないと意味がないからそれまでは調査だね」 マチルダは杖を振り、地面から小さなゴーレムを生み出した。手の平サイズのそれはとことこと塀に近づき、見掛けからは想像できない握力で上っていった。そして、中に入るが、 「チッ」 「どうしました?」 「犬型のガーゴイルがいるね。生物か魔力をこめられたものを自動的に襲っているみたいだ。 これじゃあ調査ができないよ」 「なら、僕がやりましょう」 花京院は『法王の緑』を出現させた。 「あんた聞いてなかったのかい? 魔力に感知するんだからそれでも結果は同じだよ」 「いえ、これは魔法じゃないんです。だから大丈夫だと思いますよ。それにいざ狙われたら消せばすむことです」 そう言って彼はスタンドを向かわせた。 ひゅるひゅるとひも状になり、物陰から中に入っていった。花京院の推測は当たっていた ようで、ガーゴイルの足音は聞こえてこない。少し時間が経過すると、花京院はスタンドを消した。 「どうだい?」 「……衛兵は数名いますが、むしろガーゴイルというやつの数が多いです。射程距離の問題で深く潜ることができなくて、すいません」 「かまわないさ。で、女の姿はあったかい?」 「……ありません。キッチンにも潜り込ませましたが、それも男でした」 なるほどね。マチルダは奥歯をかみ締めた。多くの奉公人を集めておきながら女性は誰一人見えなくなっているということはどこぞに監禁されている可能性が高い。おそらく人目につかない地下。 「ノリアキ、やりかたは決まったよ」 マチルダは杖を一振り。地面に穴を開けて花京院ともぐる。 「なるほど。ガーゴイルもモグラなんかにまで反応するわけにはいきませんからね」 「そう。抜け穴ってのはあるもんなのさ」 マチルダは崩落が起こらないように天井を鉄に変えて補強していく。そうしてゆっくりと館の真下に近づいていった。 やがて、二人の目前に大理石の壁が現れた。マチルダは耳を当て、拳でドン、と、叩く。 音の響きで中が空洞か、それとも違うかを調べるのだ。 まるであの男みたいだ、と、マチルダは思った。 「ここ、なんかの部屋だわね。入るよ」 「わかった」 花京院がスタンドを出現させたことを確認し、魔法を唱えた。たちまち壁の一部が砂になり、人が一人通れるほどの穴が開いた。と、二人の鼻に吐き気をもよおす悪臭が漂ってきたではないか。 マチルダは、次に現れる光景を想像しながら、歩み入った。まさしく、予想していた通りだった。 そこにあったのは、人の群れ。一人ではなく、十を越えている。それも全て裸の女。やせ細り、瞳はくぼみ、唇や髪からは水分が失われていた。 無傷のものは一人もおらず、細かな傷が幾重にもつけられていた。何度も責め苦を与えられていたのだろう。心はとうに擦り切れ、意識はあるものの彼女らに視線を向けるものはほとんどいない。 生かされているだけ、殺しはしていない。 コレクションだ。 マチルダの心は震えた。表と裏、国に尽くし、平民を守ろうとするものがいれば逆のものもいる。 世界各国、こういう連中はどこにでもいる。特別なことではない。特別なことではないからこそ、腸が煮えくり返る。なぜ悪が栄える。なぜ善が虐げられる。 「花京院……頼むわ。この子達を外に連れ出して」 「わかった。あなたはどうする?」 「ここで、報いを受けさせる」 マチルダの声は静かだった。静かであるからこそ、その怒りは空気中によく浸透した。 土の系統でありながら、心は燃えていた。地獄の業火が暴れていた。 音のよく響く地下の廊下を男、モット伯が歩んでいる。肥え太った身体。 服は着ておらず、杖を差した黒光りしているパンツだけを身に着けている。 おかげで白豚のような肉体が露になっていた。 彼の後ろには、一人の少女が付き従っていた。彼女は衣服、下着すら身に付けていない。しかし、彼女はかわいらしい顔に華やかな笑みを浮かべていた。もちろん喜んでいるわけではない。『魅了』をかけられているのだ。 そのため彼女は恥辱を感じることなく、透き通るような肌や淡い茂み、膨らみ始めた柔らかな胸を晒していられるのだ。 「ここだ」 モット伯は廊下の行き止まりにある扉を開いた。後ろの少女を中に入るように促し、自身も一緒に入った。中は彼に痛めつけられ、張り裂けんばかりの悲鳴を上げていた女性の成れの果てがいる。反応をしなくなれば、その都度彼は新たに女性を花のように摘んでくる。殺していないのは常人であれば鼻を曲げたくなる悪臭、この男にとってはどのような香水にも勝る甘美な香りのもとである排泄物を出させるためだ。 男は杖を抜き取り『魅了』を解く。少女の顔は寝起きのようにぼんやりとしていたが、ゆっくりと目の前のモット伯に焦点を合わせた。 そしてすぐに一糸纏わぬ己の姿に気づく。 「―――イヤアアア!」 両腕で自身を抱きしめてしゃがみこむ。次に悪臭に気づき、周りの女たちを目にした。 かわいらしい顔が恐怖に歪む。モット伯は下品な笑みを浮かべていた。 「どうした。先輩たちにあいさつをしないといけないだろ」 「そ、そんな、こんなのって………」 声が震えていた。周りの女たちが心を破壊されているのは一目瞭然だった。虚ろな視線を向けるもの、ピクリとも動かないもの、死人ではないだけ。 「さあ、私のために泣いておくれ。心を奮わせる歌を歌ってくれ」 彼が腕を掲げた。 モット伯は詠唱を始めた。目の前の可憐な少女からの叫びを心から期待し、いざ魔法を使おうとした。が、杖がひょいっと奪われてしまった。 「ああ?」 背後を見た。そこに、見知らぬ女がいた。 彼は疑問に思う。自分はこんな女を買ってはいない。好みは成長期に入りかけた年頃なのだ。こんなすでに熟してしまった女は必要ない。まて、それよりもなんでこの女は服を着てるんだ。 「貴族様。あたしはさあ、別に正義の味方ってわけじゃないんだよ」 突如女が語りだした。いきなりなんなんだ。 「でもさあ、こんなくそったれな悪行を見過ごせるほど人でなしでもないんだよ」 女は歩み寄り、股間を蹴り上げた。モット伯は激痛に悶え、地面を転げまわった。 少女はこの豹変した事態を喜べばいいのか、わからなくなっていた。 「これを羽織っておきな」 女はマントを少女に渡し、ゆるりと無表情のままモット伯に近づき、顔を蹴っ飛ばした。歯が飛んだ。 「さて、耳が腐るような悲鳴を上げられて気分を害しちまったね。黙りな」 喉仏を爪先で潰す。余計大きな悲鳴が上がった。彼は一方的に与えていた恐怖を、逆に与えられる立場となった。 「醜いったらありゃしないね。あとは、あんたたちがやっちまいな」 あんたたちとは誰のことだ。モット伯は痛みに苦しみながらも考えることができた。 考え、考え、答えは出なかった。それでも知ることはできた。女の言うあんたたちに殴られたからだ。 ひい、と怯えて周りを見るとなんと自分がとことん破壊した女どもがこちらへ虚ろな眼球を向けているではないか。 使い物にならなくなったというのに、なぜこんな気力がある。 彼の首が後ろから締め付けられる。それを振りほどくも、今度は前から左右から女の手が伸びてくる。鈍重な動きであることが余計に恐怖を掻きたてた。 まるでアンデッドだ。 女のような悲鳴をあげ、彼は必死の形相で部屋を飛び出していった。赤絨毯の廊下を犬のように四足で這っていく。やがて階段に着き、必死で登ったら金で雇った衛士を見つけることができた。息も絶え絶えに彼はそいつに今起こったことを話して地下に向かえと命令したが、動こうとはしなかった。顔を向けず、じっと外を見ていた。モット伯が激昂して掴みかかろうとした瞬間、二の腕に鋭い痛みを加えられた。 ナイフで切られたのだ。 いま、彼の目の前に衛士の顔が映った。 黄土色の粘土でこねられた顔だった。 「ゴゴ、ゴーレムか!」 「その通りだよ」 けつを蹴られた。 モット伯は強烈な痛みに飛び上がり、尻を押さえながら振り向いた。女がいた。 己の杖を取り上げた女が。よくよく目を凝らすと、どこぞで見たような顔だった。 というよりも、誰かの特徴と一致しているのだ。モット伯は思考を巡らし、ようやく彼女の右の人差し指が欠損していることに気づいた。 それは絶望を意味していた。 「つつ、つつつ、『土くれ』のフーケ!?」 「大正解だよ!」 女、フーケは衛士の服を着たゴーレムからナイフを奪い、モット伯の足に投げつけた。太腿に深く刺さる。 「痛いいいい! なんで、どうして!?」 「言ったはずだよ。あたしゃ、正義の味方でもなんでもないけど、人でなしでもないってね」 フーケの瞳には炎と氷があった。焼き尽くされてしまいそうな炎の怒り、覆ることはない、絶対零度の意思。明確な殺意。 モット伯は理解する。己の死が間近に迫っていることを。 「ガガ、ガーゴイル!」 叫んでも返事はない。青銅の犬の足音は聞こえてこない。 「あたしの仲間がやっておいてくれたよ。さあ、仕上げだ」 フーケはパチン、と、指を鳴らした。 途端、館が火に包まれた。外の塀も中庭も、赤一色の世界が出来上がった。 「ここ、こんなことをして、一体お前になんの利益があるんだ! お前は盗賊だろ!」 「少なくとも、腹の虫は治まるね」 そう言って杖を振るうと、彼女のゴーレムがモット伯を抱え上げ、歩き出した。 行く先は地下である。 「よ、よせ! 助けてくれ! 金を払う! 二度とこんなこともしない! だから、だから、命だけは!」 「駄目だね。どんだけ詫びてもあの子達の心は戻ってこない。だから、」 フーケは恐ろしく冷たい声で命令した。 「地獄で詫び続けな」 「待て! 待って! まってくれ! たすけて! いのちだけは――」 モット伯の声は止んだ。 轟々と燃え盛る館の中、フーケ、マチルダはため息をついた。 一夜明けた朝、マチルダと花京院は館に勤めていた衛士、それと料理人などに向けてこう脅した。 「この子達を元々住んでいた村に戻しな。もし、どっかで売ったり捨てたりして家に帰れなかったら、あんたたちを殺しに行くからね。それもただ殺すだけじゃない。 指を潰し、腕を潰し、足を潰し、性器を切り取って亜人に食わせてやるからね。肝に銘じな」 全員がその言葉にはい、と、うなずいた。 なにしろ相手は大盗賊である『土くれ』のフーケ。逆らおうはずもなかった。 幽閉されていた女子たちは館に連れてこられたときの服を着込み、予め盗んでいた馬車三台にバラバラに乗り込んだ。足も弱っており、精神も壊されていたためそれだけでさえ難儀なことだった。 「じゃあいきな。くれぐれも、事故を起こすんじゃないよ」 「はい!」 馬車が順に出発していった。マチルダと花京院がそれを眺めていると、一番後方の馬車の窓が開き、少女が顔を出した。彼女はなにがしかの言葉を大きな声で言い、頭を下げた。マチルダは小さく手を振った。 彼らの視線の先にあるものが広い草原だけになってから、マチルダは花京院に尋ねた。 「あんた、これでよかったと思うかい?」 「と、言うと?」 「あの子達、村に戻ったところでどうにもなんないわ。同情はされるだろうけどすぐに厄介者扱いにされるかもしれない。そうでなくても心がまともになるのにどれだけかかるかわかったもんじゃないわ」 殺してやったほうが、あの子達のためだったかもしれない。世の中はまこと理不尽でくそったれ。 マチルダは髪をかきあげた。風になびいた。左手の薬指にあるルビーが朝日を反射する。 「ねえ、ノリアキ。どうなの?」 花京院は答えた。 「わかりません」 「ずるいわね」 「ですが、彼女たちには無数の選択肢が生まれました。これから生きていくのは困難でしょうが、それでも未来があります。それを与えたあなたは、立派なことをしたと僕は思いますよ」 マチルダは小さく笑い、言ってやった。 「あんたもでしょ。それは」
https://w.atwiki.jp/hespaus/pages/55.html
使い魔 魔法使いや魔女、または堕天使が契約によって得る従者。 魔物であったり、精霊、動物など種類は様々である。 主人の命令を絶対忠実に守り、逆らうことは出来ない。 魔力によって呼び出される事が一般的だが、例外もある。 堕天使たちの使い魔 ルシフェル:ヘスパウス、黒翼龍、主従の契約を交わしている。 ヴェルゼヴァウ:ファントム、黒天馬、主従の契約を交わしている。 アスモデウス:ゾディアル、青一角馬、主従の契約を交わしている。 メフィストフィレス:ウェイテル、翼有蛇、主従の契約を交わしている。 マモン:シャオンシャオン、大熊猫、主従の契約を交わしている。 ベルフェゴール:アマデウス、白鴟鵂、主従の契約を交わしている リリス:クレオパトラ、一輪蛇、主従の契約を交わしている バアル:リンカーン、金鬣馬、主従の契約を交わしている アスタロット:アントワネット、白天馬、主従の契約を交わしている ブエル:グレンカイザー、黒鷲馬、主従の契約を交わしている ダンタリオン:ヴィルヘルム、鷲獅子、主従の契約を交わしている ムルムル:ニコラウス、巨大狼、主従の契約を交わしている
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/3173.html
「ドラゴンクエスト」より、竜王を召喚 使い魔の中の使い魔-01 使い魔の中の使い魔-02
https://w.atwiki.jp/wahamuda84g/pages/321.html
ホーティックは、その人柄の良さで部下からの信頼が厚い。(というか他の幹部衆が適当すぎるだけ。) そしてとにかくキャラが薄い、作者も「ふう、これで全員書いたぞ!」 と思った時点でまだ書いていない事を気付くほどだ。 戦術は最強の1ターンキル、ゆえに仏教用語で75分の1秒を表す『刹那のホーティック』と呼ばれるほどだ。 相手がホーティックに抱く印象も、『な、なんて1キルをするんだ!』という戦術のインパクトで彼自身の印象は余りつかない。 彼の容姿や言動もとにかく普通、他のメンバーが『身長240センチ』やら『浅黒く変色した左腕の紫コート』だのと濃すぎる中でただの美形では薄くなるのも当たり前といえる。 ……ゴメン、ホーティックのネタが全く思い付きません。 詰め合わせに戻る。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1197.html
次の日、私はまた薬を飲んでいた。 飲む。ひらすら飲む。ただ飲む。とにかく飲む。 そしてついに飲みきった。 私は打ち勝ったのだ。緑色の秘薬に!何一つ顔色を変えず飲みきったのだ! その後すぐに渡されたさらに色の濃い秘薬はポンフリーに投げつけたくなった。 ポンフリーが言うにはこれを飲まないと衰えた筋肉や傷ついた筋肉が元に戻らないらしい。 もう一回薬を見る。濃い、色がさっき飲んだ薬より濃い。毒薬にしか見えない。 ……我慢だ。これを飲めば明日から普通の生活に戻れるのだ。ここは我慢して飲むべきなのだ。『幸福』になるためには健康な体が必要不可欠だ。我慢するしかないのだ。 口元に近づける。匂いがしない。入っている容器を揺らしてみる。波紋一つ起こらない。 容器を傾けるとゆっくりと垂れてきた。おい。おいおい、これって、 「粘液じゃねえか!」 ねっとりした濃緑の粘液だよ!本当に薬かよ! ポンフリーのほうを向くともういなくなっていた。 「おい、デルフリンガー。ポンフリーは何処に行った……」 デルフに聞いてみる。 「知らね。気がついたらいなくなってたぜ。それより相棒、昨日みたいにデルフって言ってくれよ」 デルフの言葉を黙殺し部屋を見回すが誰一人いなかった。まるで初めからいなかったかのように。無責任すぎないか? 畜生ッ!飲むしかないのか!?飲むしかないんだろうな…… 死なねえよな?医者が患者殺したりしないよな? 「飲まねえのか相棒?それ飲まないとダメなんだろ?」 「お前はこれをどう見る?」 デルフに見せ付けるように容器傾ける。やはり中の液体はゆっくりと垂れる。 「……粘液だな」 「だろ?」 「でも飲まないと治らねえんだろ」 これを飲む私を励ましてくれよ。そんなことは口が裂けても言えないが。 「一気にぐっと飲んじまえば大丈夫だって」 言ったからな。大丈夫じゃなかったら投げつけるからな。 「一気!一気!一気!一気!一気!」 畜生ッ! 大きく口を開きいっきに薬を呷った。 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 「あ゛~~~~~~~~~~~~~……!」 窓が割れる音とデルフの悲鳴が響き渡る。結果:デルフは窓の外に投げられました。 何が大丈夫だあの駄剣がッ!死ぬかと思ったぞ!吐かなかったのが奇跡みたいなものだ! まず薬はねっとりしている。つまり口の中にまとわりつく。しかも咽喉に流れるのが遅い。ゆっくりと流れ落ちていくから咽喉越しは最悪だ! そして味だ。薬は苦い。それは初めに渡された薬からわかっていたことだ。 しかしこの薬はあの苦味を軽く超越していた。まさに苦味レボリューション。これ以上に無いというくらい苦かった。 それが水のようにスルッと口を通り過ぎるのではない。ねっとりと口の中や咽喉にへばりつくのだ。あまりの酷さに涙が零れ落ちたほどだ。 絶対苦くない薬があったに決まってる!趣味を押し付けやがって! 口の中から粘液が全てなくなるのに1時間、苦味が消えるのにさらに1時間かかった。 二度と意識があるときに飲みたくない。 ベッド寝転んで気分を落ち着かせる。気分が悪すぎる。それに腹も気持ち悪い。 寝転んでいれば楽になるだろう。 そう思い寝転んでいるとドアが開く音が聞こえた。ドアのほうに顔を向けるとそこにはルイズがいた。 手にはちょっと大き目の小包を持っている。 「調子はどう?」 あのときのように目の下に隈はなかった。それでも泣き疲れたような顔はしていた。 「ちょっと!すごく顔色悪いじゃない!大丈夫!?」 私の顔を見ると駆け寄ってきて小包を足元に置く。 「心配ない。薬が苦かっただけだ」 やはりルイズらしくない。こちらの心配なんてするような奴じゃなかったのに。 「薬?」 「そこの容器に入ってた薬だ」 ルイズが容器を手に取りまだ中に残っていた少量の残りを見る。 そして何かに気がついたのか容器を傾ける。そして驚いた顔でこちらを見る。 「ヨシカゲ!あんたこれ飲んだの!?」 「あ、ああ」 いきなり大声を出し容器を突きつけてくる。何だって言うんだ? 「信じらんない。これふつう意識があるときに飲むもんじゃないわよ。効果はすごいけど意識がないと飲めたもんじゃないし」 ポンフリー、ここまで徹底的にやられるとある意味清々しいよ。だからといって許すわけではないが。 「で、何しに来たんだ」 それにしてもルイズを見ると後悔の念が沸々と湧き上がってくる。 どうしてもっと早く殺さなかったんだろう。どうしてワルドに拘っていたんだろう。ルイズを殺してからワルドを殺してれば今頃自由だっただろうにな。 これで明日から雑用に逆戻りか。 「ご主人様が使い魔の心配をしたらいけないの?」 「いや、そんなことは無いが」 「それに渡すものがあるのよ」 そういうとルイズは足元においていた小包を開ける。 そこから出したのは、 「私の服じゃないか」 言葉通り私の服だった。そういえば別の服になってるな。そこまで気が回らなかった。 「破けたりこげたりした場所を直しといたわ」 そういって服を渡してくる。偉そうに言うがどうせお前が直したわけじゃないだろ。 そう思いながら服を受け取る。見た目は殆ど変わってない。ちょっと光の跳ね返り具合が変わっているだけだ。 その部分を触ってみる。凄くスベスベしていて明らかに材質が違うことがわかる。もっと材質を近づけようとは思わなかったのだろうか。 懐の部分を探ってみる。あれ?銃はどこだ? 「それとこれ」 そういってルイズが渡してきたものは銃だった。 「服の中に入ってたわよ」 「ありがとう」 そう言って銃を受け取る。これが無くなっていたらどうしようかと思ったぞ。 「それって何なの?」 「お守りさ」 ルイズの問いに適当に返す。 これが何なのか知らせる必要はない。そういえば弾はどうした。これアルビオンに行くときに敵に撃ったはずだから弾を補充しなけりゃいけないんだぞ。 まさかあの道中どこかで落としたのか!? ん?よく考えてみればもっていった記憶が無い。つまりルイズの部屋にあるのか。よかった。 でももしルイズ殺しが成功していたら弾はごっそり無くなっていたという事か。その点については失敗してよかった。 「そ、それでね。あのね……」 ルイズは何かを言おうとして口ごもる。 何だよまだあるのか?もう渡すもん渡しただろう、だったらさっさと帰ってくれないか? 「き、聞きたいことがあるのよ!」 「聞きたいこと?」 ルイズの瞳を見る。顔は赤かったが、その眼は真剣なまなざしをしていた。 ……どうせ碌な事じゃないから帰ってくれ。