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685 代打名無し@実況は野球ch板で sage 2011/06/04(土) 23 56 08.79 ID LTiJ3KA3O オリックス/今季初の4連勝 広島は8連敗で交流戦最下位 http //mainichi.jp/enta/sports/baseball/news/20110605k0000m050050000c.html ★ようわからんけど飛んだなあ 686 代打名無し@実況は野球ch板で sage 2011/06/05(日) 00 00 41.68 ID /DxZvrVI0 オレの飛距離はスゴいでぇ! 687 代打名無し@実況は野球ch板で sage 2011/06/05(日) 00 04 07.49 ID 5E0qtPkp0 686 生チタン飛びます、とかお前はコント55号かグフフ(笑い) 696 代打名無し@実況は野球ch板で sage 2011/06/05(日) 09 05 16.93 ID oN1Q+lcA0 岡田監督ご機嫌…4連勝最下位脱出よ http //www.daily.co.jp/baseball/2011/06/05/0004139062.shtml 697 代打名無し@実況は野球ch板で sage 2011/06/05(日) 09 11 25.59 ID b1j2G+4S0 ★岡田指令は「全部『待て』よ」。 ★上機嫌で人気メニューの「そばスペシャル」を・・ B級うまいんよ 698 代打名無し@実況は野球ch板で sage 2011/06/05(日) 09 14 49.79 ID NYpbcvsN0 広島風お好み焼き店でそばスペシャルとか、おっかしいやろ?えっ! 699 代打名無し@実況は野球ch板で sage 2011/06/05(日) 09 27 31.50 ID gMXFg8UH0 (岡田監督のトークはみるみるヒートアップしていった) (指揮官のテンションは上昇一途) 700 代打名無し@実況は野球ch板で sage 2011/06/05(日) 09 44 39.94 ID /hUgHu7J0 696 ★いやな(先制点の)取られかたやったしなあ。二回なあ。(勝ち越したのは)取られてすぐ後やったなあ ★おお、あと2試合やなあ 701 代打名無し@実況は野球ch板で sage 2011/06/05(日) 10 12 21.42 ID 5BSArC0A0 696 ★(岡田監督のトークはみるみるヒートアップしていった) 702 代打名無し@実況は野球ch板で sage 2011/06/05(日) 10 35 28.73 ID Cj9Oq9XX0 696 >名古屋の某チームの応援歌ではないがハマの星座に雲を掛け、鯉釣ってとくれば…。金子千で虎を倒さなアカンのよ。 デイリーちゃんが竜ヲタなんは、隠してるけどわかるわ。 (その後、猛牛が阪神相手に馴らされることが決まる)
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妊娠したいのになかなかできない。こうして悩んでいる男女は不妊症でなくても多くいます。 体の問題はもちろん、体が健康的でも心の問題によってもなかなか妊娠できない傾向になるようです。 妊娠したいという気持ちででいっぱいになってしまうと焦りをうみます。 その焦りがストレスとなってしまって、余計になかなかできなくなってしまうのです。 したがって心に余裕を持つためにも上手くストレスをため込まない方法を見つけて解消する事を考えてみましょう。 強いストレスは女性の排卵障害や生理不順をひき起こして妊娠できない状態を作ってしまう事があります。 ストレスを全く感じる事なく生きていく事はなかなかできませんが、和らげたり、自分なりにうまく解消することで排卵障害や生理不順までいかせない事が大切です。 自分なりの方法でも構いませんので、リラックスできる時間を意識して作る事で改善できる事もあります。 一番大切なのは夫婦がたくさん、会話をする事です。 心のモヤモヤは深刻にならない内にに口にしましょう。そうする事で気持ちはスッキリするはずです。 http //sei08ryoku.info/
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Dayz Epoch (KongariBacon版) Kongaribacon 1 紹介 PVEサーバ(PVP/盗難禁止) →見つけ次第「kongaribacon form」にて報告すれば盗まれたものが戻ってきます。 再起動時間 AM8 00 12 00 PM16 00 24 00 →5分前には、ログアウトしておきましょう。 チャットログの見方 チャットモードでキーボードの「PageUp」「PageDown」を押すことで見ることができます。 humanity値の稼ぎ方 -ゾンビー退治 … +? -AI(バンデット)退治 … +20 -TroubledCivilian遂行 … +? (水筒 / 血液パック / モルヒネ / 車の部品 等必要) ※ハンマーがあればSurpri*** をあけることができるみたいです。 トレーダーシティー情報(トレーダーシティーの購買) -TraderCityStary … だれでも利用可能 →スナイパーNPC … Humanity値 30000以上? -TraderCityKlen … Humanity値 7500以上 -HeroCamp … Humanity値 15000以上 -TraderCityBash … Humanity値 10000以上 車両の連結方法 ・車両に向かってカーソルを持っていき、マウスホイールを動かすと「TOW」と出るので それをクリックし、自分の乗ってきた車の白い文字をクリックすれば連結できます。 「最初のTOWは、後ろに連結したい車両」 ※連結できない場合は、入り直せば出てきます。 建築 ・自分の拠点を作りたい!という方は、「30meter Plot Pole」40GOLDをTraderCityStaryで買いましょう! ・ヘリの着地場→鉄の床が必要! 道端の廃車(サルベージ) ・Toolbox + Crowbar で車を修理する部品が手に入ります。(分解に少し時間がかかる為周りに注意) (ガソリンも手に入ります。) ・部品を分解すると「ScrapMetal」が手に入ります。 食べ物の確保 ・野生に「兎」「豚」「馬」「猪」「犬」「鶏」「その他」がいるので、 銃等で倒しHuntingKnifeで肉を取りましょう。焼いて食べることも可能 魚は、海岸沿いで釣り竿を使えば釣れます。(時間がかかります) ※肉は、そのまま食べると感染症になることもあります。 アバター変更アイテム ・装着の際は、かばんの中に貴重品を入れておかないようにしよう。(消えます) ・たまに骨折をするので「Morphine Auto Injector」を所持しておきましょう。 自転車作成 ・Wheel x2 ScrapMetal x 2 (Toolbox にて作成可能) ※リスタート後消滅してしまうので使用しない時は分解しましょう。 ガソリンスタンド自動給油 ・Generator を設置し JerryCan で補給すると電源が入り自動給油ができるようになります。 ※FuelBarrel は、飛行機の燃料みたいです。 AI偵察ヘリ(Playerを発見次第攻撃してきます) ・対処:逃げる or 撃墜(たまにAIが生き残っている場合は襲ってくるので注意) ・AIからの戦利品は、たまにいいのがあります AI偵察武装車両(同上) ・武装車両を持っていないならとにかく隠れた方がいい! トレーダーシティ購入 ・Klen コメント欄 ・情報が間違っていた場合は下記にコメントお願いします。 名前 コメント
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赤い○で囲んであるところをクリックしてください。 次に保存する場所ですが好きなところでOKです。 ※管理人のオススメとしてはデスクトップがオススメ 圧縮解凍ソフトがない人がいるかもしれませんね。 圧縮/解凍とは? 任意のデーターを圧縮して、データーサイズを小さくすることです。又解凍とは圧縮したデーターを元に戻して使えるようにすることです。 詳しいことはここのHPで紹介してます。 そこで解凍ソフトを手順に沿ってダウンロードしてください。
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エポックでは、鍵付きの金庫とカモフラージュされた箱が追加されています。 それぞれに関して、簡単に明記しておきます。 鍵の暗証番号は自動的に決められるので、画面に表示された暗証番号は忘れないようにメモを取りましょう。 Pasonal safe トレーダーから購入する事が出来る、4ケタの鍵付きの金庫です。 金が100oz入ったアタッシュケースが必要です。 収納容量 武器 = 20 アイテム = 200 バックパック = 10 Lockbox ビジネススーツゾンビが極まれにドロップする、3ケタの鍵付きのカモフラージュされた箱です。 全然出ない割に、収納容量もたいしたことはありません。 収納容量 武器 = 20 アイテム = 50 バックパック = 5
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-スカイプについて -スカイプダウンロード方法 -質問 対応するregion、endregionプラグインが不足しています。対になるようプラグインを配置してください。
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61 :私は人がわからない ◆lSx6T.AFVo :2010/06/28(月) 14 20 22 ID Gejk2pPM 放課後、私は斎藤ヨシヱの元を訪れることにした。 まだ人の減らない本校舎を抜けて、一階の隅にある長い渡り廊下を目指す。 本校舎と部活棟を繋ぐ通路は、この一本しかない。そのことが、部活棟の存在を更に希薄にしている気がした。 そもそも、この高校は部活動があまり盛んでない。 体育系文化系を問わず、どの部活も平等に弱小で、県大会出場はおろか地区大会一勝すらしたことがなかった。 その上、まがりなりにも進学校で通っているため、大半の生徒が部活ではなく勉学に走ってしまう。かくいう私も、その内の一人だった。 本当は、仲間達と共に汗をかき、切磋琢磨し合いながら部活動に打ち込んでいく、そんな学生らしいことに憧れていたりするのだが、自分じゃそういうことが出来ないのはわかっていた。私は、少し違う。 渡り廊下に着いた。 寒風から守ってくれていた本校舎を出て、寒空の下へと身を投げこんでいく。 前々から言っていることだが、私は寒いの苦手だ。 冬の寒さに首を縮こませながら、一刻も早く目的地に着いてしまおうと、足早に渡り廊下を進んで行く。 そして、しばらく歩いていると、老朽化の目立つ、黒ずんだクリーム色の壁が視界に入ってきた。 部活棟の壁だ。 私は、目の前の建造物を見上げてみる。 62 :私は人がわからない ◆lSx6T.AFVo :2010/06/28(月) 14 21 30 ID Gejk2pPM この部活棟は主に文化系部活のためのものだった。 体育系部活に関しては、利便性を考慮してグラウンド前に設置されているプレハブ小屋が使われている。 一般の生徒でこの部活棟を訪れる者は、まずいない。 学内で仲間外れにされたように位置する此処は、校門とは真逆の方向にあるし、寄り道するにも少し遠すぎる。 私自身、斎藤ヨシヱのことがなかったら一生訪れなかったかもしれない。 ここの唯一の入口であるガラス戸を開け、中に足を踏み入れる。 その瞬間、世界から全ての音が消えた。 本校舎から聞こえていた居残っている生徒の声も、グラウンドや体育館からの部活動の喧騒も全て。 どうして、放課後の部活棟はこんなにも静かなのだろうか。 私はここを訪れる度にそう思った。 廊下に連なる部室の扉の中にも、部活動に勤しんでいる生徒達が沢山居るはずなのに。辺りはまるで防音対策がされているかのように静まり返っていた。耳鳴りがしてしまうほどだ。 やけに足音の響くリノリウムの床の上を歩きながら、茶道室を目指す。 茶道室は、この部活棟の最上階である二階の一番奥に位置していた。 階段を昇り、夕日が差し込むオレンジ色の廊下を歩いた。 茶道室には直ぐに辿り着けた。 私はサムターン式の鍵がついた扉の前に立ち止まり、ドアノブに手をかける。鍵はかかっていないようだ。 なるべく音をたてないように、ゆっくりとドアノブを手前側へと引いていく。 キィ、と金属が軋む音をたてながら、扉は開いていった。 徐々にひらけていく視界。 その中に、斎藤ヨシヱは居た。 彼女は窓枠に肘をつき、湯呑みを片手に持ちながら、気怠そうに虚空を見上げていた。 63 :私は人がわからない ◆lSx6T.AFVo :2010/06/28(月) 14 22 37 ID Gejk2pPM いつもの彼女だ。最後に会った時から何ひとつ変わっていない。 なのに、私は彼女に声をかけることが出来ずにいた。 この室内を支配する静寂を破ってしまうことで、目の前に映るこの優美な光景も壊れてしまう気がしたのだ。 斎藤ヨシヱは美しい人だった。 鋭い光を宿した切れ長の瞳。 しみひとつ無い、白雪のように真っさらな肌。 背中にまで垂れる長い髪は、その素肌とは対照的に墨を零したように真っ黒で、何を塗ったらそうなるのか白い光輪がとりまいている。 およそ高校生らしい幼さの残る可愛さなどは微塵も無く、完成された美術品のような、気品を感じさせる美しさが彼女にはあった。 呼吸をするのを忘れていたことに気付く。それほどまでに、目の前の光景に目を奪われていたらしい。 しばしの間、斎藤ヨシヱの整い過ぎた横顔を見つめる。 どのくらいの時間が経っただろうか。 彼女は漸く私に気付いたようで、その切れ長の瞳をゆっくりと私の方へと移動させた。 そして私を視認すると、薄く口角を吊り上げて、いつもの人を小馬鹿にしたようなシニカルな笑みを浮かべる。 「こんにちは。久しぶりね、タロウ君」 氷を連想させるような、冷え切った声。 「こんにちは、斎藤先輩。本当にお久しぶりですね」 私は軽く会釈をすると、靴を脱いで畳に上がった。 そして部屋の隅に積まれている紫座布団を一枚持って、彼女の前でそれを敷き、その上に座った。 それきりだった。 二人の間に、特に会話は無い。 斎藤ヨシヱは気が向いた時にしか私と話さないし、私自身も無理に彼女と話をしようとは思わなかった。 一日中会話をしないまま、そのままお開きになるなんてことも、決して少なくはない。 私は、彼女の側に置かれている急須等のお茶セットを見た。 今日は、お茶を出してくれないみたいだな、と思った。 茶道室を尋ねた時は、必ず最初に彼女がお茶を出してくれるかどうかを確認するのが常だった。 斎藤ヨシヱは、機嫌が良い時は私にお茶を振る舞ってくれるのだ。 今日は出してくれないみたいだけど、別段不機嫌という風にも見えないので、可もなく不可もなくといったところなのだろう。 64 :私は人がわからない ◆lSx6T.AFVo :2010/06/28(月) 14 24 05 ID Gejk2pPM 私は彼女の機嫌確認を終えてしまうと、何となく手持ち無沙汰になり、いたずらに視線をさ迷わせていた。 ふと、斎藤ヨシヱの脚が目に入る。 スカートから伸びる彼女の長い脚には、ソックスが着けられていない。 そのせいか、陶磁器のように白い肌が、畳の緑色に反してよく映えていた。 斎藤ヨシヱは畳に上がる時、必ずソックスを脱ぐ。 理由は知らない。 何故ソックスを脱ぐのかを聞いてみたかったりするのだが、彼女の脚に多大なる感心を寄せていることを悟られてしまうのは非常に不本意なことなので、未だに聞けずにいる。 私が彼女の脚をまじまじと見つめていると 「二週間振りくらいかしら」 と、斎藤ヨシヱが不意にそんなことを言った。 一瞬、独白かと思って黙っていたのだが、彼女がちらりと私に視線を寄越したことで、どうやら話し掛けていたらしいことに気付く。 「ええ、そのくらいになると思いますよ」 慌てて相槌を打ってみたけれど、彼女は何の反応も示さずに、黙ってお茶を啜った。 会話を広げる気は無かったみたいだ。 しかし、せっかく見つけた会話の糸口。このまま終わらせるのも少し惜しい。 私は自分から話し掛けてみることにする。 「そういえば、斎藤先輩って茶道部なのにちゃんとしたお茶をたてたりしませんよね」 私は、彼女の側に置かれている電気ポットを見ながら言った。 「もしかして、本当はたてれなかったりします?」 「別にたてれないわけじゃないわよ」 私の問いに、斎藤ヨシヱはあっさりと否定する。 「ただ、お茶をたてるのには色々と準備が必要で凄く面倒なの。その上、大して美味しくもないからたててないだけ。最初に興味本意で一度やったきりで、それからは触ってもないわ」 「随分とまあ、茶道部員らしかぬ言い草ですね」 「そうね」 そこで再び、彼女との会話が途切れた。 毎度思うが、斎藤ヨシヱとの会話はいつも絶望的なまでに広がらない。 彼女は基本的にお喋りじゃないし、加えて気まぐれだからなあ。それとも、まだ私との好感度が高くないのかしら。 65 :私は人がわからない ◆lSx6T.AFVo :2010/06/28(月) 14 25 25 ID Gejk2pPM そうやって次の会話のタネを考えていると、ふと、頭の隅にひっかかるものがあった。 そういえば、彼女に聞きたいことがあった気がする。 なんだったっけ。 しかし、意外とすぐにそれは思い出せた。 「斎藤先輩。ひとつ聞きたいことがあるんですけど、よろしいでしょうか?」 斎藤ヨシヱは何も言わず、目だけで先を促した。 それでは、と私は居住まいを直し、しっかりと彼女の瞳を見据えた。 なるべく真摯な態度で聞かなければ、ふざけていると思われるかもしれないからだ。 私は真面目っぽく、重々しい口調で言った。 「斎藤先輩は、私が誰かから好かれるような人間に見えますか?」 ゆらゆらと湯呑みを揺らしていた彼女の手が、接着剤みたいにピタリと止まった。 それから長い間をおいて、探るように聞く。 「それは、どういう意味の好きなのかしら?一概に好きと言っても、様々な意味の好きがあるけれど」 「うーん、そうですね……」 私は、ふむと顎を撫でた。 「しいて言えば、ライクではなくラブのほうの好きです」 「Love」 彼女は流暢な発音で言い直した。 「つまりは恋愛の好きということね」 「そうなりますね」 「そう」 彼女は持っていた湯呑みをコトリと盆の上に乗せた。 「……そう」 そして悲しげに目を伏せて、そっと口元を手で覆う。 私に背を向けるようにくるりと半回転すると、小さく肩を落とした。よく見るとその肩は小刻みに震えている。 「……先輩?」 斎藤ヨシヱの突然の異変に、私は大いに戸惑った。 いきなり、どうしてしまったのだろうか。 お腹でも痛くなってしまったのだろうか、と最初に思った。 いや、そうじゃない。 私は思い直す。 どうせ私のことだ。無意識の内に彼女を傷付けることでも言ってしまったのかもしれない。昔から、そういうことは多々あった。 「すいません、先輩。気を悪くさせてしまったみたいで」 私は思わず、彼女の肩に手を伸ばした 「……んっ?」 のだが、異変に気付き、伸ばした手を途中で止める。 何か、聞こえた。 「……ふっ、ふふふ……」 それは、押し殺すような小さな笑い声。 斎藤ヨシヱの口元から、くつくつと笑い声が漏れ出ていた。 66 :私は人がわからない ◆lSx6T.AFVo :2010/06/28(月) 14 26 45 ID Gejk2pPM 「……やだぁ、おかしい……くくく……お腹、お腹痛い……たっ、タロウ君……ちょっと待って……」 …………。 待てと言われたので、おとなしく待つことにする。 それから、十分後。 そこには、いつも通りの皮肉な笑みを浮かべた斎藤ヨシヱがいた。 しかし、その笑顔はどこか不自然に歪んでいる。というか、全然シニカルじゃない。頬の辺りがぴくぴくと引き攣っている。 「ちょっとタロウ君。いきなり笑わせないでくれるかしら。あたし、こう見えても結構キャラって重視するほうなのよ」 そうだったのか、と私は思った。 それなら随分と申し訳ないことをしてしまったみたいだ。 すいません、と私は素直に頭を下げる。 「本当よ、全く。もうあんなこと言うのは金輪際止めてよね。あんな……あんっ……くっ……ふふっ……あはは」 ……さらに十分後。 「ああー、笑った笑った。こんなに笑ったのは久しぶりね。ありがとう、タロウ君。おもしろかったわよ」 「……どうも」 斎藤ヨシヱは急須を手に取ると、湯呑みにお茶を注ぎ、私に手渡してくれた。 私は、ありがとうございますと礼をして、湯呑みを受け取った。 どうやら機嫌が良くなったらしい。 確かに、彼女は過去に例が無いくらい上機嫌に見えた。 別にニコニコと微笑んだりしているわけじゃないが、何と無く楽し気なオーラが発せられているのを感じる。 「それで、質問だったわね」 そんな和やか雰囲気とは打って変わって、斎藤ヨシヱの顔が急に真剣なものに変わる。 切替の早い人だな。 私も幾らか緊張しながらも、聞く姿勢を整えた。 「質問は、あなたが異性から好かれるかどうか、で合ってるわよね?」 「はい」 「そう」 彼女はそこで、思い出し笑いのように一度笑ってから、ゆっくりと口を開いた。 答が告げられる。 「そんなの、無理に決まってるじゃない。あなたみたいな人間が誰かに好かれるなんて、不可能よ」 量刑を宣告する裁判官のような口調で、斎藤ヨシヱはそう断言した。 彼女の宣布に、私の心がずんと沈むのを感じる。 不可能、か……。 薄々、そんなことを言われるのではないかと予想はついていたけど、実際に言われるとやはり傷付く。 そんな、不可能とまで言わなくても……。もうちょっと、希望を残す言い方をしてくれてもいいじゃないか。 67 :私は人がわからない ◆lSx6T.AFVo :2010/06/28(月) 14 28 10 ID Gejk2pPM しかし斎藤ヨシヱは、そんな傷心中の私にも構わず続けた。 「いい、タロウ君?人間関係に置いて最も重要なのは相互理解よ。相手のことを理解し、相手にも自分のことを理解してもらう。そういう感情的な対応を含む、個人と個人との関係において人間関係は成立しているの 「あなたにはわからないと思うけど、他者を理解するのはとても難しいことなのよ。自分ならともかく、相手を完全に理解するなんてそれこそ無理なのだから当然ね。 「けど、人間というのはそれでも相手を理解していこうとしていく。そういう性を持つ生き物なの。けれど、あなたは――」 斎藤ヨシヱは、不敵に微笑む。 「他人どころか、自分のことすら理解していないじゃない。そんな人間が誰かに好かれるかだなんて、ちゃんちゃらおかしい話ね。本当、戯言も甚だしい」 斎藤ヨシヱは、まるでそのことが不変の真理であるような言い方をした。 一片の毀れも感じない、揺るぎのない自信を感じる。 彼女はきっと、私が人に好かれるのと明日地球が滅びるのとじゃ、間違いなく後者を選ぶことだろう。 「……はぁ」 私はそこで一度、大きく溜め息をついてみせた。 勿論、わざとだ。 自分の不機嫌さをこれっぽっちも隠そうともしない。 こういう態度をとるのは我ながら珍しいことなのだが、しかし彼女の言い方はとても癪に障った。 さすがに、今のはカチンときた。 「あら?どうしたのタロウ君。なんだか怒っているみたいだけど」 「怒っているんです」 誰だって、二日連続で化け物扱いされたら不機嫌にもなるだろう。 私は苛立ちを含んだ口調で言った。 「先輩は時たま、私のことを何の心も無いロボットみたいに言う時がありますけど、はっきり言ってそれは間違いですよ。全然違います。 「確かに、私には人がわからない時がありますよ。それは認めますけど、だからと言って、そのことが私に感情が無いということに繋がるわけではないでしょう?現に今だって、先輩の言葉に怒っているじゃありませんか」 「それも演技かもしれない」 「演技って――」 腹の底から込み上げて来た言葉を、なんとか飲み込む。 少し、熱くなりすぎていた。私らしくもない。冷静になれ。 心を落ち着かせるために、長く、深い息を吐いた。 68 :私は人がわからない ◆lSx6T.AFVo :2010/06/28(月) 14 30 07 ID Gejk2pPM 斎藤ヨシヱは、そんな私の様子を冷めた目で見ながら、愚者を説き明かすように続けた。 「だっておかしいじゃない。感情はあるのに人がわからないなんて。はっきり言って矛盾してるわよ」 「矛盾?」 私は繰り返した。 「そうね……」 何やら思案顔で彼女は言う。 「タロウ君、あなた痛覚はある?」 「あるに決まってるじゃないですか」 「あら、そうなの?それは驚きね。けど、それなら話が早いわ」 斎藤ヨシヱはそう言うと、いきなり自らの腕に爪をたて、思い切り皮膚を引き裂いた。 荒々しい切傷が一つ出来、赤黒い血が一筋、白い肌を伝っていく。 「タロウ君。あなたはこの傷を見て、これがどの程度の痛みかがわかる?」 「えっ?ああ、はい」 忽然の出来事に、呆気にとられていた。 「まあ、漠然とですが一応」 「そうよね。では何故、あたしが負っている傷を、当事者でないタロウ君が憶測することが出来るのか。それは、まず大前提としての“痛覚”それと“経験”があなたにはあるからよ」 「“痛覚”と“経験”、ですか……」 何やらまた小難しい話が始まったな。 「あなたは今、過去に経験したことのある同程度の切傷を想像し、それをあたしに投影することによって一時的に痛覚を共感しているの。だから、この切傷の痛みがわかる」 「この言い方だと“経験”が絶対必要みたいに聞こえるけれど、実際はそうじゃない。実を言えば、この“経験”の方は大して重要じゃないの。 「なぜなら、相手と同じ経験をしたことがなくたって、過去に自分が経験したことのある“他の類似した経験”を相手に投影すればいいだけの話なのだから。十二分に用は足りるわ。 「つまり、マザーボードである“痛覚”さえあれば、後はいくらでも勝手がきく。そのことはわかった?」 私は頷いた。 多少こんがらがりはしているが、なんとか理解出来た。 これは、生理痛を使って例証してみればわかりやすい話だ。 女性固有の苦しみである生理痛を、男性である私が経験するのは身体の構造上不可能なことであるが、彼女の言うマザーボードである“痛覚”さえあれば、相手の眉をしかめた顔、お腹をさする動作などを見て 今までに自分の経験したことのある、例えば腹痛などの痛みを想像し、それを相手に投影することによって、想像上ではあるが、一時的に生理痛の苦しみを共感することが出来る。 69 :私は人がわからない ◆lSx6T.AFVo :2010/06/28(月) 14 31 41 ID Gejk2pPM 他者との痛覚共感。 彼女が言っているのは、おそらくそういうことだろう。 けど―― 「それがなんだって言うんですか?」 話はわかるが、言いたいことがわからない。 寓話のつもりで話しているのなら、何かしらの教訓や諷刺があるはずだ。 「相手を理解するというのも、それと同じことなの」 斎藤ヨシヱの論説は続く。 「つまり、今言ったことを高度に応用させたものが他者を理解するということなのよ。自分の持っている“感情”を相手に投影し、共感する。簡素に言ってしまえば、そういうことになるわね。 「だから、そのセオリーでいけばおかしいのよ。“感情”があるのに、人がわからないというタロウ君が。 「さっきも言ったけど、大元の“感情”さえあれば、個人差はあるけれど、それなりに他者を理解することは出来るわ。普通、あなたほどの異常者は生まれない。 「“感情”があるのに人がわからない。タロウ君はそう言うけど、あなたはこれを矛盾と言わずに何と言うのかしら」 斎藤ヨシヱはそう言って、貶るように私を見た。 その瞳には絶対の自信を感じる。 彼女は本当に自分に自信がある人なんだな、と思った。 しかし、彼女のそれは、少し盲目的過ぎる気がした。 斎藤ヨシヱは間違っている。私はそう確信する。 確かに、彼女の言うことはそれらしく聞こえた。私自身、ふむふむと頷き返してしまった程だ。 けど、それは只それらしく聞こえただけに過ぎない。 なぜなら、彼女は私に心が無いということを前提に話を進めていたからだ。 私には心がある。 その反例が存在する時点で、まず話の前提自体が成立していないのだ。前提が崩壊しているなら、論理も崩壊している。斎藤ヨシヱの見解も、一笑に付すべきものであるのに違いはない。 独断と偏見に満ちた教条主義的な考え。 はっきり言って、先輩は間違っています。 私が一言、そう言ってしまえばいいのだ。 70 :私は人がわからない ◆lSx6T.AFVo :2010/06/28(月) 14 33 28 ID Gejk2pPM そう思っているのに、なのに―― 私は何も言えなかった。 理由はわかっている。 心の奥底で、彼女の言葉に納得してしまっている自分が居るからだ。 きっと、その時点でもう駄目なんだろうな。 認めたくはないが、私も異常者なのかもしれない。 「それでも、私にはちゃんと心があります」 そう言う私の声も、どこか力弱く感じた。 それから、気まずい沈黙が流れた。 いや、それは思い違いだろう。 気まずいと感じているのはきっと私だけだ。斎藤ヨシヱは、そういうことを気にするような人ではないし。 そんな彼女が口を開いたのは、唐突だった。 「さっきはああ言ったけど、あなただって、もしかしたら誰かと付き合えるかもしれないわよ」 そう言う斎藤ヨシヱの声には、幾らかの親しみが感じられた。どうやら、彼女なりにフォローしてくれているらしい。人を慰めるなんて、斎藤ヨシヱにしてはかなり珍しいことだった。 「そもそも人間というのは社会に適応するための表明的な人格、所謂ペルソナを着けて生きている。そのくらいは知っているわね? 「それを踏まえて言えば、恋愛なんてのは所詮、互いのペルソナを好き合っているのに過ぎないのよ。見ているのは相手の仮面だけ、中身なんて誰も見ちゃいないわ。 「だから、タロウ君も仮面を着けてしまえばいいのよ。視界を確保する穴さえ塞いでいるような分厚い仮面をね。いえ、あなたの場合は仮面どころか、甲冑でも着けなきゃ駄目でしょうけど 「でもタロウ君、忘れないで。嘘っていうのはつくのは簡単だけど、つき続けるのは至難の業よ。あなたは嘘に綻びが生まれぬよう、常に最大限の注意を払わなくてはいけない。 「幸い、タロウ君は決して容姿が良い方じゃないけど、壊滅的ってほどでもないし、あなただって頑張れば――」 と、斎藤ヨシヱは、何故かそこで一度言葉をつぐんだ。 それから独り言のように、ぶつぶつと呟き始める。 「いや……でも、タロウ君だしな……しかし……うまく騙せば……けど……やっぱり……厳しいか?………………」 そして、遂に何も言わなくなった。 フォロー失敗。 なんだかなあ。人を慰めるなんて、慣れないことをするからだよ。 71 :私は人がわからない ◆lSx6T.AFVo :2010/06/28(月) 14 35 01 ID Gejk2pPM しかし、斎藤ヨシヱはやはり泰然自若としていた。 「まあ、いいじゃない彼女なんか出来なくたって。タロウ君は今の所はまだ、クラスでうまくやれているのでしょう?だったらまずは、その奇跡に感謝しなくちゃ。そもそも、あなたが恋人だなんて高望みしすぎなのよ」 「そうかもしれませんね」 と言いながら、私は出された湯呑みに手を出していないことに気づき、ぐいっとそれを飲み干した。 お茶は既にぬるくなっていた。 「話は変わるけど」 斎藤ヨシヱが聞く。 「どうして、突然こんなことを聞く気になったの?自分が誰かに好かれるかなんて、随分とあなたらしかぬ質問だったけど」 「ああ、それはですね。実を言うと、昨日私に人生初の恋人が出来まして」 「へー、よかったじゃない。さすが、たろうくんね」 「……信じてませんね」 「やあねぇ、信じてるわよ」 そう言って、斎藤ヨシヱはけらけらと笑った。 私は驚いた。 嘲笑以外の彼女の笑顔を見るなんて、果たして何時以来だろうか。 色々と辛辣な言葉を浴びせはしたが、やはり根っこの部分では相当に機嫌が良かったらしい。 何がそんなに嬉しかったのだろうか。 「さてと」 斎藤ヨシヱは近くで転がっていたソックスに手を伸ばし、それを身につけ始めた。 どうやら、今日はもうお開きらしい。 いや、今はそんなことはどうでもいいか。それよりも―― 私は彼女の下半身を凝視した。 ソックスを履く時、斎藤ヨシヱがいい感じに膝を曲げているので、でスカートの中が見えそうになっている。 見えそうになっているのだが、何故か見えない。 これは、おかしい。 私は首を傾げた。 さりげなく首を動かしたりして角度を変えてみたりするが、やはりどの位置から見ても、うまい具合に彼女の足先が邪魔になってどうしても見えない。 まるで全年齢対象のギャルゲーみたいだ。 私がそうやって下着を見ようと四苦八苦している内に、斎藤ヨシヱはソックスを履き終えてしまった。非常に残念だ。 72 :私は人がわからない ◆lSx6T.AFVo :2010/06/28(月) 14 36 49 ID Gejk2pPM 「それじゃ、片付けお願いね」 彼女はそう言って立ち上がる。 私のお茶を飲む飲まぬに関わらず、片付けに関しては私の仕事だった。 「わかりました」 私も立ち上がり、紫座布団を元の場所に戻してから、片付けを始める。 斎藤ヨシヱは、そんな私の横を通り抜けて、茶道室を出て行った。 私がせっせと湯呑みや急須を盆の上に乗せて、片付けに勤しんでいる時。 それは風に乗って、私の耳に届いた。 「それでもあたしは、タロウ君のことが大好きよ」 後ろを振りむく。 しかし、斎藤ヨシヱの姿は既に無く、パタリとしまる扉が見えるだけだった。 私はしばらく扉を見つめた後、ぽつりと呟いた。 「大好き、か……」 下手な嘘だな、と思った。 彼女が私に好意を抱くなど、万が一にも有り得ないことだった。 斎藤ヨシヱがこうやって私と会っているのは、彼女が私に興味があるからに過ぎない。 飽きてしまえば、何の未練や惜別の念も無く、さっさと棄てられてしまうだろう。 「それは嫌だな……」 私としても、たった一人の友人を失うことは非常に惜しいことだった。 彼女とはまだ、友達でいたい。そう思った。 けど、今はそれよりも考えることがあるか。 斎藤ヨシヱは私の疑問をひとつ解消してくれたが、そのおかげで再び、新たな疑問がまたひとつ生まれてしまった。 ――あなたみたいな人間が誰かに好かれるなんて、不可能よ。 彼女は、そう断言した。 別に斎藤ヨシヱの言っていることを全面的に肯定した訳ではないが、私が人に好かれ難いと言う点については同意出来る。自分のことは、自分が一番よくわかっていた。 しかし私は、現在進行形で私のことを好いてくれている少女を、一人知っている。 田中キリエ。 彼女はどうして、私のことを好きになったのだろうか。 畳に伸びる自身の影を眺めながら、しばらく考えてみたが、私にはやっぱりわからなかった。
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105 :私は人がわからない ◆lSx6T.AFVo :2010/05/12(水) 14 44 47 ID +7NZkhJf カタンカタンと、電車は一定のリズムを刻んで進んで行く。 夕方時の静かな車内は、凍てついた外界とは対照的に暖かい。 ふくらはぎを撫でる温風が、私の冷えた足を温めようと躍起になっていた。 車内の席は全て埋まっていた。 帰宅途中の学生、うたた寝している老人、くたびれたスーツを着た中年サラリーマン。みんな、どこか疲れた顔をしていた。窓から差し込む夕日が、顔に影をつくっているからかもしれない。 私は、心地良く振動する座席に身を預けて、ぼんやりとそれらを眺めていた。 一瞬、自分が何をしているのかわからなくなる。 いきなり違う世界に放り込まれたような、そんな感覚。 けれど、まだ咥内に残る鉄の味と右側頭部の疼痛が、そんな私を叱咤した。忘れるな、と。 そこで思い出す。 そうだ。私は今田中キリエの所に向かっているのだった。 水面に浮かび上がっていく気泡のように、じんわりと思い出されていく記憶。 まず思い浮かんだのは、昼休みに見た、マエダカンコの穿いていた下着だった。意外と子供っぽいデザインだったのをよく覚えている。 次に思い出したのは、彼女から喰らった回し蹴りだ。あれは痛かった。気絶するかと思った。 そんなことを回想しながら、私はハーっと息を吐いて、さらに深く座席にもたれかかった。 油断するとそのまま眠りに落ちてしまいそうだった。私は昔から乗り物に乗ると眠くなる癖がある。そして、未だにその癖は治っていない。 私は靄がかかった思考で、ゆっくりと今日の放課後のことを回顧した。 マエダカンコとのちょっとしたやりとりを。 106 :私は人がわからない ◆lSx6T.AFVo :2010/05/12(水) 14 45 22 ID +7NZkhJf 今日の放課後のことだ。 「鳥島タロウ居るか?」 突如、教室内に響き渡ったハスキーボイスはクラスの和やかムードを一瞬で瓦解させた。 同時に、教室の時間をも止まらせた。 時間を止まらせた、というのは決して比喩などではない。文字通り本当に止まったのだ。 机に座って談笑していた生徒も、教科書やノートを鞄の中に詰め込んでいた生徒も、今から部活に行こうと意気込んでいた生徒も、みんなピタリと、まるで蝋人形のように固まってしまった。凍り付いたと換言してもいいだろう。 教室の温度も一気に下がった気がした。もしかしたら暖房も止まってしまったのかもしれない。 そんな、一気に大氷河期にへとタイムリープしてしまった教室の中。当の私は机の下に隠れていた。 咄嗟の判断である。彼女の声を聞いた瞬間に身体が自然に動いていた。これは手を抜かずに真面目にやってきた防災訓練の賜物だと思う。 私は机の脚を両手で握りしめ、少しだけ顔を上げてみた。 ハスキーボイスの発生源、マエダカンコはギラついた目で教室を一周させた。しかし、私に気付いた風ではない。 どうやら、この瞬時の機転により彼女の位置からでは私が見えないようだった。 これは千載一遇のチャンスだ。 私は机の下から、こっそりと机上の鞄を持ち込むと、彼女のいない方のドアまで、腰を屈めて歩いて行こうとした。 「おい、そこのお前。鳥島タロウの席はどこだ」 疑問形なのか命令形なのかイマイチわからない口調で、マエダカンコは近くの女子に尋ねていた。 女子生徒はヒッと軽い悲鳴を上げてから、震える声で言った。 「あ……あそこに……」 と、指を指すその先には当然の如く私が居た。 隠れているものもピンポイントで見られては見つかってしまうものだ。 「鳥島タロウ、来い」 今度は間違いなく命令形だった。 「……はい」 私は立ち上がって、のろのろと彼女のもとへと歩いていく。 クラスメイト達は固まりながらも視線だけは私に向けていた。 尋問されていた女子が申し訳なさそうに私を見ている。彼女を責める気は毛頭ない、あんな風に聞かれては誰だって答えてしまうだろう。 なので、私は安心させるように、にこりと微笑んでやった。 こうして私は、赤紙を出された次男坊のような心持ちで、マエダカンコに再び拉致されていったのだった。 107 :私は人がわからない ◆lSx6T.AFVo :2010/05/12(水) 14 46 32 ID +7NZkhJf 彼女に連れて来られたのは、私が昨日、田中キリエの恋文を読んだ場所でもある非常階段であった。 また自販機前だろうと思っていた私は少々拍子抜けをした。 「言い忘れたことがあった」 と、マエダカンコは切り出す。 「昼休みのこと、キリエには黙っていろ」 簡潔に出された彼女の勅令に、私は「はあ」と曖昧な返事をした。そして、一応助言してやる。 「それは構いませんが、仮に私が黙っていたとしても、結局は田中さんに伝わっちゃうと思いますよ。私とマエダさんが昼休みに会っていたことは、それなりに広まってるみたいですし」 さっきの教室での級友達の態度を見ればわかるだろう。 しかし彼女はあっけらかんな態度で続けた。 「違う。私が言ってるのは昼休みにお前と会ったことじゃない。昼休みにお前と話した会話の内容だ」 「会話の内容?」 私は問い直す。 「ああ。キリエに関する会話全てだ。後それとお前、私のことをマエダさんとか馴れ馴れしく呼ぶんじゃない」 「わかりました。それじゃあ、カンコさ――ごぐぁっ」 無言で腹パンされた。 「次、その名で呼んだら殺すからな。と、話を戻すが、要は私がお前にキリエと付き合えと指示したことをキリエには言うなってことだ」 あれは指示じゃなくて脅迫ではなかろうか。なんてことは言えない。 「あくまでキリエに告白し直すのはお前が自分で考え、自分で判断した、全くの独断ということにしろ。私のことを聞かれても一切合切話すな。わかったな」 マエダカンコはそう念を押したが、私には彼女の言いたいことがイマイチわからなかった。 「どうして話しちゃいけないんですか?」 「はあ?」 彼女は呆れた目で私を見た。出来の悪い生徒を見るような目だった。 「何言い出すかと思ったら……。あのなぁ、今日いまからお前がしに行く告白がお前の意思じゃなく、私の指示によるものだってことをキリエが知ったら、私が無理矢理お前に告白させたみたいでキリエも素直に喜べないだろうが。そんなこともわかんないのか?」 「なるほど」 私はポンと手を打った。実を言うと、よくわかっていない。 108 :私は人がわからない ◆lSx6T.AFVo :2010/05/12(水) 14 47 10 ID +7NZkhJf 「わかりました。つまり、昼休みのことを田中さんには話すなということですね。ですが、それでは昼休みの逢い引きはどう説明――ぐごぁっ」 「逢い引きじゃねえだろーが。さっきから思ってんだが、わざと言ってんのかテメェ。そうだとしたらマジで殺すぞ。 「昼休みのことは、もしキリエがそのことを知ったら、私から適当に話しておく。お前のことがムカついたから殴った、とでも言うさ」 「……わかりました」 ムカつくから殴った、で彼女は納得するのだろうか。 「話はこれで終わりだ。わかったんならさっさとキリエのとこ行ってこいよ。それじゃあな」 そう言い残して、彼女は台風のように去っていったという訳だ。 とまあこんな感じのことがあって、私は今のように、いつも利用する路線とは別のものに乗り込んで、殊勝にも田中キリエのもとへと向かっているのだった。 電車の速度が徐々に落ちていき、噴出音と共に扉が開いた。 ご老齢の方が乗り込んできたので、私は席を譲った。 ありがとうございます、と礼をされ、それに笑顔で返した。 そのまま扉近くまで移動し、高速で変化していく光景を眺める。 今まで告白云々と色々語ってきたが、正直、田中キリエが告白を受け入れてくれるかどうかも、私にはまだわからなかった。 なにせ、私は昨日一度彼女の告白にノーと言っている。 そんな男が昨日の今日で、やっぱ付き合ってください、なんて言っても彼女からしたら、今更なんだと思わざるを得ないだろう。断られる可能性だって決して低くはない。 まあ、自分としては今後のことを考えると、断ってもらったほうがいいのだけれど。正直、マエダカンコのことを考えるとこの先気が重い。 でも、仕方がない。 私は思う。 これが青天の霹靂であるにしろ、ともかく、私はもう約束してしまったのだ。こうなれば、もう乗りかかった船だ。与えられた任務は最後まで遂行しようと思う。 そう私が決意した時、ちょうど電車は踏み切りの前を過ぎった。 カーンカーンと情けなくなっていく電子音が、しばらく耳の中で反響していた。 109 :私は人がわからない ◆lSx6T.AFVo :2010/05/12(水) 14 47 44 ID +7NZkhJf 目的の駅に着き、私は駅を出た。 あまりの寒さに思わず身が震える。 初めて来る街だった。私の住んでいる街より、幾らかグレードが高いように感じた。高級とまではいかない、中級住宅街といったところか。 マエダカンコから聞いた住所はまだ覚えている。田中キリエは何処かのマンションかアパートの三○一号室に住んでいるらしい。 見馴れない街並みではあるが、適当に電柱に印された住所でも見ながら歩いてれば、じきに辿り着けるだろう。 そんな楽観的な考えを持って、私はのんびりと街の中へと歩き始めた。 結果から言おう。どうにもならなかった。 理由は三つある。 一つ、土地勘が全くないこと。 二つ、郊外のベッドタウンだけあってマンションもアパートも異様に数が多いこと。 三つ、彼女の苗字の“田中”だ。 全国でも多数存在するその姓名は思ったより私を悩ませた。 田中と書かれた表札を見る度に、田中キリエとは違う田中さんだと理解しているのに、身体が一々反応してしまうため、頭が疲れるのだ。 そんなこんなで十二軒目の田中さんを発見した頃、私は駅前まで帰還してしまうという摩訶不思議な現象に陥ってしまった。 「迷いの森か何かなのか此処は……」 今現在、私は駅前の精悍な顔つきをした男性の石像の前に座り、疲れた足を休めていた。 気分はまるで青い鳥を求める少年だ。まだ青い鳥すら見ていないけれど。 おもむろに空を見上げる。 太陽はもうすっかり傾いてしまって、水平線の向こうからゆっくりと黒が侵食し始めていた。 夜間に人の家を訪ねるのが失礼なことくらい、さすがの私でも心得ている。 「これじゃあ今日は無理かな……」 そんな弱音を吐いていると、不意に金髪が脳裏を過ぎった。 私はがっくりと肩を下ろした。 やっぱり今日中にやんなくちゃダメだよなあ。殺されるんだもんなあ。 けれど、このまま闇雲に歩いてても徒労に終わるのは目にみえている。果たしてどうするべきか。 幾らかの逡巡の後、私は疲れた足をバンと叩き、いきなり立ち上がってみた。 こんなとこで座ってたって何も始まらない。闇雲でもいいからとにかく歩こう。 と、珍しくやる気を出したところで私は、あっと悲鳴を漏らす。 なぜ今まで気づかなかったのだろうか。 私の目の前には駅前交番があった。 110 :私は人がわからない ◆lSx6T.AFVo :2010/05/12(水) 14 48 17 ID +7NZkhJf 目の前には、建てられて間もないだろうマンションがあった。 その建造物は、全体的に四角い形をしていて、備えられている窓や扉も全て真四角だった。階数もきっかり四つだ。今風の小洒落たデザインで、白の漆食で塗られた壁には汚れひとつない。 私はまじまじとそのマンションを見上げた。 サイコロみたいな形をしているな、と思った。 エントランスに足を踏み入れる。 外の壁の真っ白さとは対照的に、中の壁は全て黒めの剥き出しのコンクリートブロックで埋められていた。 世間ではこういうのがお洒落なのだと言うのだろうけど、季節が季節なのだけに、今の私にはただ寒々しいだけだった。夏にはちょうどいいかもしれない。 最新のマンションにも関わらず、オートロックは常備されていなかった。そういえば監視カメラも見当たらない。意外とセキュリティ関係には手を抜いているみたいだった。 エレベーターを使わずに、横に備え付けられた階段を使って三階まで上る。 三階の角部屋に田中キリエの家はあった。 私は、その真四角の扉の前に立ち表札を見る。 表札の“三○一”の番号の下には“田中”とポップ体で書かれた名前があった。 やっと辿り着いたんだなあと、感慨深いものが込み上げてきた。気分はまるで母を求めて三千里、だ。 夕日は既に落ちてしまっている。 腕時計を見ると、時刻はもう既に七時を越す頃だった。思っていたよりも時間が経っている。 善は急げだ、と私は表札の下に設置されていた呼び鈴を押した。 ピンポーン、と間のぬけた音が扉越しに聞こえる。 確かに、聞こえたのだけれど 「…………?」 誰も出ない。 気づかなかったのだろうかと思い、念のためもう一度だけ鳴らしてみる。 ピンポーン。 再び呼び鈴が鳴るが、やはり何の反応も返ってこなかった。 呼び鈴はちゃんと鳴っているし、室内に居て気づかないということはさすがにないだろう。ということは、何処かに出かけてしまっているのだろうか。 111 :私は人がわからない ◆lSx6T.AFVo :2010/05/12(水) 14 49 04 ID +7NZkhJf うーん、と唸りながら私は頬をかいた。 どうやら、家内が留守なのは間違いないようだった。 このまま此処で待機していてもいいのだが、近隣住民に変質者と思われる可能性もある。果たしてどうするべきか。 私は扉の前でうーん、うーんと唸りながらくるくると回った。 後で思えば、その姿は言うまでもなく変質者だったのだろう。 「仕方ないか……」 私はピタリと立ち止まった。 出直そう、と心に決めた。 二、三十分も経てば帰ってくるだろうと思い、私は出直そうと、その場を去ろうとした。 すると、ぱたぱたと廊下を駆ける音が、扉越しに微かに聞こえてきた。 どうやらやっと来訪者に気付いたらしい。 ガチャリ、と鍵の開く音がして扉が開く。 「すいません、遅くなっちゃって。どなたでしょうか?」 そう言って出てきた田中キリエは、寝巻姿であった。子供っぽい水色のパジャマの上には桃色のカーディガンを羽織っている。あの大きな黒縁眼鏡をかけていなかった。 「……んー?」 彼女は目を細めながら私に顔を寄せていく。眼鏡をかけていないため、よく見えないのだろう。彼女の赤く腫れぼった目が眼前に迫ってきた。 ちょっと手を伸ばしてみれば、彼女の細い首に手をかけれそうだ、なんて想像をしていると、田中キリエが突然大きく目を剥いた。 心中を悟られた気がして、私はハッと息を呑む。 「…………」 しかし、彼女はそのまま無言で、パタリと扉を閉めた。 「……えっ?」 拒絶された、とまず思った。やはり今更私の顔など見たくないのだろうかと。 そう思った時だった。 「きゃあああああああっ!」 扉の向こうから、もの凄い叫び声が上がった。 「えっえっ、なんで、なぜ、どうしてっ。どうして鳥島くんが居るのッ!?なんでなんでなんでーっ!ハッ、ていうか私まだパジャマだし、顔も洗ってないし、髪もボサボサだしぃ、きゃあーっ!ああ、どうしようどうしようどうしよう見られた見られたー!」 「あのー、田中さん」 「ちょっ、ちょっとだけ待っててっ!」 そう言い残して、彼女はバタバタと駆け出し始めたようだった。 扉の向こう側からは何やら騒がしい音が聞こえてくる。おそらく、私を出迎えるの準備をしているのだろう。 元気な人だなあ、と思わず頬が緩んだ。 私は元気な人は好きだった。 112 :私は人がわからない ◆lSx6T.AFVo :2010/05/12(水) 14 49 44 ID +7NZkhJf それから約二十分後。 「おっ、お待たせ」 田中キリエは、黒のネックセーターに白の長いフレアスカートという落ち着いた服装で出て来た。その小さな顔には、いつもの黒縁眼鏡が掛けられている。 「さっきはゴメンね……なんか取り乱しちゃって」 先程の失態が余程恥ずかしかったのか、彼女の顔は真っ赤になっていた。 いえいえ大丈夫ですよ、と私はフォローをいれる。 「でも、少しびっくりしました。田中さんってあんなに大きな声出せるんですね」 「うー。……もう忘れて」 そんなやりとりの後、彼女は私を玄関へと迎い入れた。 「それじゃ、とりあえず中に入ってください」 勧められるがままに、私は綺麗に整頓された玄関に足を踏み入れた。 ガチャリ。ジャラジャラ。 と、施錠音がして後ろを振り向くと、当然のことながら田中キリエが鍵を閉めているところだった。ご丁寧にチェーンロックまでつけている。 私なんかは普段、自宅に居る時は鍵を閉めないタチなので、そこのところはやはり女の子なんだな、と感心した。 「こっちです」 と、案内された彼女の自室は、私の想像と違わない、いかにも女の子らしい部屋だった。 なんか、全体的にピンクっぽい。 カーテンも絨毯もベッドも全部ピンク色だ。彼女には悪いが、長時間居ると目が疲れそうだな、と思った。 部屋の中央に丸テーブルとクッションが置いてあったので、とりあえずそこに腰を下ろす。 「適当にくつろいでてください。私、お茶持ってくるんで」 田中キリエはそう言って、部屋を出て行こうとする。 「そんな。そこまでお気遣いしなくてもいいですよ」 と、一応遠慮してみるが、やはり田中キリエはお茶を用意しに出て行ってしまった。 急に所在無げになってしまったので、とりあえずキョロキョロと部屋を見渡してみることにした。 そういえば、女の子の部屋に入るのは初めてだ。 妹を女性としてカウントするならば話は別だが、彼女の部屋に入ったのだってもう十数年も前だし、初めてと言っても過言ではないだろう。 114 :私は人がわからない ◆lSx6T.AFVo :2010/05/12(水) 14 50 13 ID +7NZkhJf やはり少し緊張するな、と急にそわそわし始めてしまった。 家内の様子からして、どうやら田中キリエの親は不在なようだ。 ということは、ひとつ屋根の下に男女がふたりきりということになる。 そういうシチュエーションにいかがわしい妄想を抱いてしまうのが男の性なのだが、生憎私はまだ彼女の恋人ではない。今日はそういう事には至らないだろう。 ガチャリ。 と、再び施錠音がして、私は反射的にドアを見た。 「お待たせしました」 そう言いながら、田中キリエがお茶をお盆の上に乗せて持ってきた。 いや、それよりも。 私は思った。 なぜ、彼女は部屋の鍵を閉めたのだろうか。 この家には私と彼女しか居ないのだから、部屋の鍵まで閉める必要性はあまり感じられない。それなのに、何故わざわざ施錠をしたのか。 しかし私は、多少不思議には感じたものの、いつもの癖なのかな、と大して気にとめなかった。 田中キリエはお盆を丸テーブルの上に乗せて、カップにお茶を注いだ。 匂いと色からして、それが紅茶であることがわかった。 「お砂糖はどうします」 「じゃあ、少し」 シュガーポットから砂糖をひとさじ掬い、カップの中へ入れた。 そして、私と向かい合うようにして彼女もクッションの上に腰を下ろす。 「それにしても、びっくりしちゃったよ」 田中キリエが言った。 「いきなり鳥島くんが訪ねてくるんだもん。前もって言ってくれれば、もっと準備とか出来たのに」 「すいません。事前に連絡もなく突然訪ねてしまって。なるべく早く帰るようにするんで」 「そんな、いいよいいよ気にしなくて」 田中キリエはバタバタと手を振る。 「私の両親、共働きだからいつも帰ってくるの遅いし、時間のこととかは全然気にしなくて大丈夫だから」 「そうなんですか。それじゃあお言葉に甘えさせてもらおうかな」 「うん」 彼女がニコニコ顔で頷いた。 そこで会話が途切れてしまったので、今度は私から切り出してみることにする。 ひとつ気になることがあった。 「ところで、田中さん。ひとつ聞きたいことがあるんですけど、いいですか?」 「ん?何かな?」 「さっきから後ろ手隠している物は、何ですか?」 115 :私は人がわからない ◆lSx6T.AFVo :2010/05/12(水) 14 50 53 ID +7NZkhJf 「後ろ手に?」 彼女は首をかしげる。 「別に、何も隠してないけど……」 「あれ?でも今確かに――」 「それよりもっ!」 田中キリエは強引に話題を変えた。 「鳥島くんは今日なんで私の家に来たのかな?何か、用があって来たんでしょう?」 「あっ」 そこで私は、自分が肝心の本題を話していなかったことに気付いた。本題を先に話さないなんて、話しの順序としては最悪だろう。 「すいません。言われてみれば言ってませんでしたね」 私は苦笑し、頭をかいた。 「今日は、田中さんに告白しにきたんですよ」 「へっ?」 「あっ」 やべっ。つい、話しの流れで言ってしまった。もっとそれらしい雰囲気を出してから言い出そうと思っていたのに。 まあ、仕方がないか。 せっかくなので、私はそのまま続けることにした。 「あれから――ずっと考えていたんですよ」 私は紅茶を飲んで、舌を湿らせた。 「私が田中さんの告白を断ったのは正しかったのかってことを。ずっとずっと悩んでいました。そして、わかったんです。結局は私のエゴに過ぎなかったと」 田中キリエは黙って聞いている。 「要は、私は田中さんを傷つけるのが恐かったんです。田中さんは知らないでしょうが、私は結構、不完全な人間なんですよ。もし付き合えば、絶対にあなたを傷つけることが私にはわかっていた」 即興にしては中々の滑り出しだな、と私は思った。意外と演説上手な自分に驚く。 「けれど、結局それはただの逃避でしかない。私には田中さんと付き合っていけるわけがないと、自分勝手な理論を振りかざして、あなたを拒絶した。でも私は、田中さんの気持ちをこれっぽっちも考えていなかったことに気付いたんです 「告白というのはそれなりに勇気のいる行動だと思います。田中さんだって、何日も何日も想い続けて、漸くそれに至った筈です。私は、仮に断るにしても、そういう相手の想いを考慮してから答えを出すのが誠実だと思いました。 「それから、今度は田中さんの気持ちを考慮に入れてから、考えてみたんです。そして、答えが出ました。だから今、私はあなたにあの時の告白の返事をします。 「田中さん――よかったら私とお付き合いしていただけませんか?」 そうして、私は口を閉ざした。 116 :私は人がわからない ◆lSx6T.AFVo :2010/05/12(水) 14 51 26 ID +7NZkhJf 完璧だ。まずそう思った。 脳内では、私の演説を聞いた観客が総立ちになって喝采をおくっている。 多少キザっぽくなってしまったが、そこはご愛敬ということでいいだろう。 そんな充足感に包まれながら、私はしたり顔で彼女を見た。 「ひっく……えぐ……っえぐ」 泣いていた。 ええー。そこで、泣いちゃう? 想定外の出来事に混乱してしまう。 結構それらしく言えたはずなのだけれど……。 「あのー。もしかして不快でした?」 耐え切れなくなった私は、直接聞いてみることにした。 すると、田中キリエはぶんぶんとかぶりを振った。 「ちっ、が……ひっく……違うの、ただ……私嬉しくて」 彼女は嗚咽混じりでそう言った。 なんだよ、紛らしいな。 私はイラついた目で彼女を見た。 田中キリエは零れ落ちる涙を手で拭いながら、静かに泣いている。 彼女の物言いからして、どうやら私の告白は成功したみたいだし、これで晴れて私は田中キリエの恋人になったというわけか。 こういう時は彼氏らしく宥めてやるのが正解なのだろうか?無言で抱きしめてやったりしたらカッコイイかもしれない。 なんて考えていると、いつの間にか田中キリエは泣き止んでいた。 「あの……それじゃあ、これからよろしくお願いします」 と、彼女は深々とお辞儀した。 「いえいえ、こちらこそ」 なんとなく、こちらもお辞儀で返す。 こうして、私の告白は見事成功し、ここに一組のカップルが成立したのであった。 それから他愛の無い世間話を少しして、私は彼女の家を出た。 田中キリエはわざわざマンションの前まで付き添ってくれて、私の姿が見えなくなるまで手を振っていた。 駅のホーム。 私は電車を待つ列の最後尾に立って、ぼんやりと今日のことを思い返していた。 妙な達成感が胸の中にあった。 これで私は、めでたいことに、彼女いない歴イコール年齢じゃなくなったのだ。思うものもあるだろう。なんだか、男の階段をひとつ登った気がした。 電車が到着し、人々は車内に乗り込んでいく。私も同じように乗り込んだ。 その時になって思いだした。 ――そういえば。 私は部屋での田中キリエの姿を思い浮かべる。 どうして彼女は、私が帰るまでの間ずっと、金づちなんかを隠し持っていたのだろう? 117 :私は人がわからない ◆lSx6T.AFVo :2010/05/12(水) 14 51 57 ID +7NZkhJf 住んでいる街の最寄り駅に着いた時には、時刻はもう既に九時を通り越していた。 帰宅部の私は普段、こんなに遅くまで出歩かない。 斎藤ヨシヱと会った日だって、せいぜい七時前には帰宅していた。 なので、こんな遅くに道を歩くのは滅多にない。ちょっと新鮮な感じがする。 私は自宅を目指して歩き始めた。 寒さから守るようにポケットに手を入れ、空気中に残留する白い息を顔で受け止めながら、冷たい路地を歩いた。 いつの間にか、ひとりになっている事に気づく。 さっきまでは、何人かがぽつぽつと周りで一緒に歩いていたのだが、目的地に着いたのか、道中で道を曲がってしまったのか、とにかく今はもう消えてしまっていた。 コツコツ、と自身の歩く靴音しか、周囲には聞こえない。街灯の少ない路地なので、辺りはまるで暗幕を張ったかのように暗かった。 そんな闇の中だ。 二個先の街灯の下。まるでスポットライトのように照らし出されている人物を、私の目が捉えた。 目を細めてみる。 その人物は、大きい青のスポーツバックを肩に背負い、背筋をしゃんと伸ばし、毅然とした態度で前へ前へと歩を進めていた。 髪型は短めのポニーテールで、身長はやや高め。後ろ姿でもわかる、その凛とした態度には、どこか惹かれるものがあった。 その背中には見覚えがある。 私はたまらず駆け出していた。 「リンちゃんっ」 その人物の名前を呼びながら、小走りで彼女の横に並んだ。 暗闇でもしっかりとわかる、その整った顔立ちの少女は、間違いなく私の実の妹である鳥島リンだった。 「奇遇だね、帰り道が一緒になるなんて。リンちゃんは部活の帰り?」 気さくな感じで談話を始めてみるが、妹は刹那でも私を見ようとはしなかった。それもいつものことなので、気にしないようにする。 「部活は、確かバレーボールだったよね?母さんから聞いたよ。大変だね、こんな遅くまで練習だなんて。帰宅部の僕からしたら考えられないな」 妹は何も言わない。私のことなど見ない。 118 :私は人がわからない ◆lSx6T.AFVo :2010/05/12(水) 14 52 29 ID +7NZkhJf 「でも、気をつけなくちゃダメだよ。この辺はそんなに物騒でもないけど、リンちゃんは可愛いからね、変な人に目をつけられるかもしれないし。そうだ。なんなら僕が送り迎えしようか?」 妹は何も言わない。 「あー……」 会話のキャッチボールは全く成立しなかった。 これじゃあ、まるで壁に向かってボールを投げているようなものだ。しかも、壁は壁でもゼリーの壁だ。ボールを投げても、それが私の元に返ってくることは無い。 妹はまるで私が居ないかのように、黙々と自宅を目指した。 彼女のその態度に、突然怖くなる。 妹と接していると、本当に私はこの世に居るのだろうかと奇妙な不安に陥るのだ。 無論、そんなのは馬鹿げた幻想だ。そうわかっているのに、なぜかそれを一笑することが出来ない。 額には、ぽつぽつと脂汗が浮かび始めていた。 何か、何か話をしないと。 私は何かに急かされるように、とにかく口を開いてみる。 「あっ、あのさ」 けれど、何か話のネタを考えていた訳ではない。焦った私の口は、取り繕うように今日のことを喋りだしていた。 「そっ、そういえば今日、遂に僕に彼女が出来たんだよっ。その人は、田中さんっていうちっちゃい眼鏡の人なんだけど――」 しどろもどろになりながら、そうまくし立てていると、ドサッと何かが落ちた音がした。 ふと隣を見ると、妹がいつの間にか消えていたことに気付いた。 視線をさらに後ろにずらす。 妹は私の数歩後ろで、呆けたように私を見ていた。目の焦点が合っておらず、持っていたスポーツバックは地面に転がっている。 「今……なんて……」 妹は譫言のように呟いた。 「なんて言ったの……兄さん?」 兄さん。 久しぶりに呼ばれた古称に、胸が震えた。 妹から話し掛けてもらうのは、もう十数年ぶりくらいだった。それに加え、再び兄さんと呼んでもらえるなんて。 歓喜を隠しきれずに、思わずわなわなと身体が震えてしまう。 「なんて言ったの、兄さん?」 今度は幾分かはっきりした声。 冷静さを取り戻したのか、彼女の目はしっかりと私を見据えていた。 このまま、ずっと兄さんと呼ばれていたい衝動に駆られる。妹の問に答えるのを躊躇ってしまう。けれど、それを無視するわけにもいかない。 119 :私は人がわからない ◆lSx6T.AFVo :2010/05/12(水) 14 53 03 ID +7NZkhJf 私は、緩む頬を引き締めてから言った。 「だから、今日、僕に田中キリエさんっていう恋人が出来たんだよ」 言い終わったのと、妹が口を開くのはほぼ同時だった。 「別れてっ!」 唐突に叫んだ彼女のその迫力に、思わずたじろいだ。 妹は私の近くまで歩み寄ってくると、再び言う。 「今の話が本当なら、すぐに別れてっ!」 訳がわからなかった。 どうして、妹は私に別れろと言うのだろう。別に祝福されるとも思っていなかったが、いきなりそういう事を言われるとも思っていなかった。 ――もしや。 私の頭の中に、愚鈍な考えが浮かぶ。 もしかして、田中キリエに嫉妬してるのかしら。と、そんなふざけた幻想を抱いた。 しかし、そのくだらない幻想は、次に発せられた妹の言葉によって、一瞬で砕かれた。 「兄さんみたいな人間が、誰かと付き合えるはずがないじゃない」 その言葉を聞いた途端、ニヤついていた顔は一瞬で凍り付き、さっきまでの幸福感が急速に萎んでいった。 そんな私に構わず、妹は続ける。 「兄さんだって薄々気づいているんでしょう?自分が所謂“普通”じゃないって、他の人からは一線を画した場所に居るってことを」 私は何も言えない。 「彼女さんのことを想うのなら、今すぐに別れて。兄さんはきっと、いえ絶対、彼女のことを不幸にするわ」 私は何も言えない。 「だって、兄さんは――」 「そんな」 妹の言葉を遮って、私は言う。 「そんな――まるで僕のことを、化け物みたいに言わないでくれよ」 「――ッ」 妹は何かを言いかけたが、やがてその口を閉ざした。 二人の間に気まずい沈黙が流れる。 妹は、私のことを哀れむような、恐れるような、何とも形容しがたい複雑な表情をしていた。 「兄さんには、無理よ」 そう言い残して、妹は走り出した。 私は小さくなっていく彼女の姿を見つめていた。 そして、見えなくなった。 私はしばらくの間、動く気になれず、その場に立ち尽くしていた。 それから、どのくらいたったのかはわからない。腕時計を見る気にもなれなかった。 「帰ろう」 ひとり呟いてから、地面に落ちたままのスポーツバックを拾い上げ、私はゆっくりと、家に着くのを躊躇うように、ゆっくりと歩いて行った。
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【検索用 いきてるいみかわからない 登録タグ VOCALOID い しろくろ 初音ミク 曲 曲あ 神様うさぎ】 + 目次 目次 曲紹介 歌詞 コメント 作詞:神様うさぎ 作曲:神様うさぎ 編曲:神様うさぎ 絵:しろくろ(Twitter) 唄:初音ミク 曲紹介 曲名:『生きてる意味がわからない』(いきてるいみがわからない) ボカコレ2022秋TOP100ランキングにて69位を獲得した。 歌詞 (配布テキストファイルより転載) ボカロ曲のせいで 人としてだめになりそうだよ 繰り返すGIFの海 脳死したままで踊る 嗚呼、画面の端から流れるpngに 明るい未来を重ねてみるけど 黄熱のように今夜も疼いてる君の笑顔が 痛いよ あの時の下書きが 笑って 生きてる意味がわからない ねえだれか 愛したって ばいばい ばいばいですか? さみしくって さみしくって さみしくって 今日も今日も同じ笑顔にさようなら 生きてる意味がわからない ねえだれか 信じたって ばいばい ばいんばいですか? かなしくって かなしくって かなしくって 今日も今日も同じ笑顔に”さようなら” 左スワイプで 性格も人生も再起動 刹那の快楽に作り笑いをコピペしてる Q,“ユメ” はありますか? A,あるともないとも言えません 今日も 勇気ないくせに かまってもらいたくて シニタイってつぶやいてる 生きる意味がわからない ねえだれか 愛したって ばいばい ばいばいですか? さみしくって さみしくって さみしくって 今日も今日も同じ画面に溺れてく 生きてる意味がわからない ねえだれか 信じたって いいの? いいのですか? かなしくって かなしくって かなしくって 今日も明日も同じ笑顔にさようなら コメント 名前 コメント